俺が消防士だった頃の話 (40)



現在25歳、無職童貞、高卒フリーター、彼女いない歴=年齢。

クソみたいに落ちぶれた、お先真っ暗の、元消防士の俺の話だ。


それはもう、年を数えると、指を数本折るくらいに前の話。

思い出しながらになるけど、聞きたい奴だけ聞いてくれ。


こんな、何にもない平日の真昼間からネットを見ていることに、無性に罪悪感を感じてしまったんだよ。

贖罪にも、言い訳にもならないって事は分かってる。

ただひたすら、馬鹿な自分を慰めるためだけに書き記していこうと思う。


暇なときにでも上げていくよ。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1493590641



消防士だった……つまり俺は、数年前に消防を退職したんだ。


消防士と言えば、世間から見れば勝ち組に映るんだろうし、実際そうだとも思う。


給料はいいし、安定してる。休みだって多い。


ボーナスの額にも、最初は驚いた。


傍から見れば、どうして辞めるのか不思議でたまらないだろう。


実際、消防士の退職率は低い。公務員だからな。


ただ、当時の俺は軽く鬱っぽくなっていたんだ。


もちろん、鬱なんて言い訳でしかない。


続けようと、本当に消防の仕事を続けたいと。

この仕事に誇りを感じているんだと、本気でそう思っているなら、きっと今も俺は続けていたに違いない。


あるいは、ただ単純に何も考えず、消防にいれば安心なんだから、

生きていけるんだからと自分をだまし続けて、しがみついていれば、今でも続けていたのかもしれない。


世の中の大人は、誰だってそうしているんだから。


ただ当時の俺は、そこまで頭が回らなかった。


ただ純粋に、この仕事から逃げたい。

この職場に二度と来たくないって、それしか頭に無かったんだ。



だったら、早く辞めればいいんじゃねえの?と思う人もいるだろう。

そもそも、そんな中途半端な人間に、消防なんていう社会で重要な役割を引き受けて欲しくないって、そう思う人もいるかもしれない。


俺が消防をやっていたのは、大体1年ちょっと。

それは消防学校で学んだ時間も含んでいて、消防署に出てからの期間に限定すると、10ヵ月に満たないくらいだ。


職に就いていた期間としては、世間的にも本当に短い。


だったらそもそも、消防に入ってんじゃねーよと、そういう話になるんじゃないか?


入る前から、そういう過酷な職場なんだということは薄々分かっていたし、世間にも広く知られている事でもある。


俺の中の選択肢には確かに、消防以外の道があったんだ。


普通に大学に進学して、普通に就職して、世間に認められた、普通の生活を送る。


そんな道も、確かに俺の頭には存在した。


そりゃあ、世の中そんなに上手くはいかないさ。

一度や二度、あるいはもっと、挫折することだってあるに違いない。


ただ、その時の自分が、普通に進学する道さえ選んでおけば、今の俺の状況は有り得なかった。


だってそうだろ?

世にいう三流でもいいから、とにかくどこか入れる大学に入って、卒業して。

その後に消防に入っていれば、俺は間違いなく、消防なんて安定した、恵まれた仕事を手放さなかった。


だって、辞めたら後がないからな。


なまじ、そこそこ勉強できる高校を卒業して。

なまじ、名の知れた仕事にストレートで内定もらって。

なまじ、自信だけはあった。


そんな阿呆が導いた、当然訪れる未来の帰結が、今の俺。


これから語るのは、そんな、どうでもいい底辺の物語だ。



まずしておかなきゃいけないのが、高校の時の俺の話。


小学校の時からずっとバスケ部で、高3の時点で10年もバスケを続けていた俺は、ちょっと調子に乗っていた。

実を言うと俺は、小学校で1回、高校で2回、部活を辞めそうになった。

理由は、単純についていけなくなって、嫌になったから。

別にデブってわけじゃなくて、寧ろ俺は痩せてる方だ。

つまり、典型的なヒョロガリ体型。

体力もそうだが、とにかく運動神経が悪かった。


それでも、10年も続けてたんだ。


小学校と中学校でレギュラーとしてプレイしていた俺は、

高校3年間で、自身のスキルに更に磨きがかかっている、自分は強いって、勝手に勘違いしてた。

俗にいう、意識高い系だ。


バスケで生きていけるなら、何だってやってやる。


俺は、高校の3年間でレギュラーにすらなれなかったのに、本気でそう思ってたんだ。


ユニフォームすら与えられなかったわけじゃない。

一応、15番の背番号は貰っていた。

ユニフォームは、4番から18番まで。その中で、15番。

それでも俺が試合に出たのは、高総体の一回戦、相手チームの人数の少ない弱小校と、大差がついてからの数分間。


3年間で、たったそれだけだ。


更に言うと、後輩の次期エース達はバリバリ試合に出ていた。

その時に気付くべきだった。

俺には、体育会系は向いてない。


馬鹿な俺は、そんな単純なことにすら気がついていなかった。



加えて、勉強面においても盛大な勘違いをしていて。


前述で、俺が入った高校はそこそこ勉強ができる進学校だったと言ったな。

だが、あくまでそこそこのレベル。

高校の偏差値は、69。それだけ見れば、大分高い数値だ。


……そこに一言付け足さなければならない。


その偏差値は、県内での数値。

つまり69というのは、県内という狭い世界での話。

全国のそれには、到底及ばない。せいぜい58とかそのくらいだろう。


そんなことも知らず、高い偏差値を誇る進高校に通っているのだというプライドが胸の奥にあった俺。

学校でも、俺は成績を奮うことも無く。

学年の240人中、割と常に200番台だった。ふざけてんのか。


もう1つ。

「運動神経悪い」「勉強できない」以外にも、俺を構成する重要な要素が存在する。


俺には幼い頃から、典型的なサボリ癖があった。


親に無理やり続けさせられていた進研ゼミは、ほぼ空白のまま赤ペン先生を提出。テキストなんてまっさらだ。


スイミングでは、脇に設置されている温かいプールにぬくぬくと浸かり、ろくに練習もせず。

なんとか初心者レベルは脱し、割と評価される黒いゴム帽まで取ったものの、小3でバスケを始めた事で辞めた。


サッカー教室も、お腹にボールが当たるのが怖くて、ボールから逃げてばかり。結果、同上。


習字教室はサボりまくり、サボっていたことが親にバレ、盛大に怒られて辞めさせられた。



そして、小6の頃から通い出した、個人指導の塾。

通信教育で失敗した分、個人指導なら嫌でも勉強をするに違いない。

俺の親は、そんなゴリ押しの教育法だった。

田舎にありがちというか、情報に疎い分、その道のスペシャリストに丸投げしようという、世間では褒められた一般常識。


そんなこんなで、無理やり勉強させられていた俺は、中学1年までは校内トップレベルの学力を誇っていた。


そこで、例のサボり癖が発動。


――どうせ勉強しなくたって点数とれんだから、塾とか行かなくてよくね?めんどくせーし。


そう。塾に行かされていたおかげで勉強ができていただけにも関わらず、俺はそれを俺自身の学力だと勝手に勘違いし、面倒な塾通いをサボり始めたのだ。


具体的な方法について。


その塾は、俺の家から徒歩20分くらい。

地方田舎だが、商店街は栄えていて、本屋やゲームセンターが立ち並ぶ。

俺は、塾に通うはずの時間、ただひたすらそこで時間を潰した。


そのうち、塾の先生によって俺を心配する電話が家にかけられ、

塾をサボっていた事実が親にバレ、塾の先生と母親の二人から、俺は盛大に叱られた。


そんな事があったのが、中学三年の秋だった。


成績も大分落ち始めていたんだが、そこからようやく巻き返し、

第一志望の県内トップレベルである、偏差値74(県内)の進学校には届かなかったものの、

1つランクの落ちた、辛うじて進学校である高校に合格。


勉強面に関しても、俺はクズだったわけだ。



バスケも、何ら変わらない。

辛い練習、先輩との上下関係、友人との喧嘩。色々とあって。


今考えると、当時の俺は相当なガイジだったんじゃないかと思う。

まあ、社会のゴミ同然の今の俺が言えた事じゃないが。


とにかく、バスケを10年間も続けられたのは、親とか友達とか、周りの人間のおかげだった。


つまり俺は、自分自身の力で何かを遂げた、達成したことが一度も無かったのだ。


そんな、俯瞰してみるとどうしようも無いクズでしかなかった俺だが、

学生時代、特に高校生までは、その問題点なんて中々表面に出てこない。


今、こうしてニートにならないと、その問題が問題だった事にすら気づきもしないんだ。


問題は、表面化する前から始まっている。



――さて。一体俺が、ここまでで何を言いたかったのかというとだ。


スポーツで推薦なんて無理。

不真面目で成績も悪い。

大学も、ロクに名前も知られていない三流大学くらいしか受からない。


そんなどうしようもなかった俺が、進学校において、ただ一つ体裁を保つ方法。


それが、公務員試験だ。


高卒の公務員試験は、はっきり言ってクソみたいに簡単だ。

特に、それまで常識レベルの勉強を重ねてきた者なら、最低限の努力で合格してしまう。


俺が目を付けたのは、それだった。


だが、市役所みたいな、地味な座り仕事は御免だ。

高校の俺は、そう思っていて。


でも、警察や自衛隊のように、

世間から良く思われていない(最近の自衛隊はそうでもないのか?)仕事も御免だ。


だったら、消防士いいやん。


世間の風当たりもいいし、給料もいいらしいし、休みも多いって聞く。

それに……何より、消防士ってだけでモテるらしい!

これ、最高やんけ! 俺、消防士になるわ!



……それが、当時の俺の思考パターンだ。


大学の学費だって馬鹿にならないんだから、ある意味それも正解と言えば正解だ。

……あくまで、世間ではな。


親に迷惑かけず、負担もかけず、公務員の中でも高給取りと言われる消防士になった俺。

やべえwww俺天才かよwwwしかもメッチャ親孝行www


――もしも今、あの時の自分と会えたなら。

真っ先にその鼻っ面を、思いっきりぶん殴ってやりたいと思う。


そんな浮ついた適当な気持ちで選んでいい仕事じゃねえ。


思えば、バスケットボールを始めた理由もそれだった。

ある日、姉が俺に言ったのだ。

「バスケやってる男子は、モテるよ」

まあ、実際モテてたらしいよ、俺。中学校までは。

高校では、陰口ばかり言われていた非モテ陰キャラ男子だったわけだが。

今でも彼女いない歴=年齢で、童貞なわけだが。


――閑話休題。一々話がズレてすまんな。


で、担任にそのことを打ち明けた。

俺、公務員試験受けます、ってな。

今日はこの辺にしておこうと思う。また明日書くよ。

消防士 暴力で検索すると結構いじめ被害が出てくる

>>12
パワハラが完全に0って胸を張って言える職場は、世の中に存在しないんじゃないかな?
それに、パワハラ受けたからって全部が全部摘発されるような社会は、社会として成り立たないと思う。

パワハラって、受けた側の考え次第で、指導にも、暴力にも、愛にも、先輩後輩の友情にも、何にだって変わるんだ。

少なくとも、俺が消防を退職した原因はパワハラじゃないよ。

確かに少し、語り口調が過ぎたかもしれん。消防時代の事を話すと、どうしてもそんな口調になってしまう。

書き始めた時は、SSを書こうとしていたんだ。実際の体験を基にしたSSをな。


つまり、俺はガチの元消防士だ。疑っても構わない。

自慢する気なんて更々無いし、そもそも俺という存在自体が世の中に必要ないのもまた事実だからな。

ちょっと自分を出し過ぎてしまった、申し訳ない。


これからはSSとして気持ちよく読んでもらえるように気を付けるよ。



俺「公務員試験受けたいと思います!」


そりゃあもう、元気いっぱいに言ったよ。

だって公務員試験だぞ。

言い出したのは、6月上旬くらい。

丁度、高総体が終わってすぐの時だった。


担任「……は?」


ちな、担任は女性。そんな可愛くない。つーか三十路超えてる。


担任「いつから考えてたの?」


俺「いつからって……4月くらいからです」


担任「どうしてもっと早く言わなかったの!?」


どういうわけか、ものっすごい怒られた。


ここで解説を入れよう。

公務員試験を受けるっていうと、当たり前だが、大学受験とは全然違う。

公務員試験はクソみたいに簡単だといったな。

それは、あくまで記述試験の話。


面接、論文、消防なら体力試験、exc……

指導者と綿密な対策を練るのがセオリー。


……それなのに俺は、教師に相談もせず、記述試験の勉強だけしてれば合格すると、勝手に勘違いしたんだ。


結局、担任と口論になってしまい。


担任「アンタ、いつも突拍子もないこと言い出すよね」


担任「今まで、何かに本気で取り組んだことある?」


とまあ、色々とグサリと刺さるような言葉を次々と言われた俺。


結論を言うと、俺は合格した。


合格してしまったんだ。



消防学校時代の話をしても、多分面白くない。


いや、一部のマニアとか、消防経験者ならきっと、わかるーそうだよねって共感できるんだろう。


でも……実際の現状は、消防学校で経験するものとはわけが違う。

全く意味がないとは言わない。

寧ろ、消防学校で学んだ全てが消防署の基礎になっているんだから、

消防学生の誰もが死に物狂いで勉強、訓練している。


ただ、一般人がその話を聞いても、大半の人はきっと面白いとは思わないんじゃないかな。


というわけで、俺が消防署に出てからのことを話そうと思う。


消防学校は全寮制。まるで刑務所のようだった。

入って3日目で、部屋の中で泣いていた俺だったが、ようやくその日々から解放されたんだ。


――俺は自由だ!ようやく好き勝手できるぜ、キャッホーイ!



……なんて思ってた時代が俺にもありました。


ハッキリ言わせてもらう。


消防署に出てからの方が自由なんてない。


いや、確かに休み自体は多いんだ。


朝の8時30分から次の日の8時30分まで勤務して、次の日は非番日。その次の日は週休。

消防署っていうのは当番制で、24時間勤務で一日中働いているってよくテレビで報道されてるし、みんな知ってると思う。

でも、多分ほとんどの人がこう思ってるんじゃないかな?


――結局、夜は寝てるんだろ?それって24時間勤務じゃなくね?


勿論、消防士と言っても人間だ。夜は寝て体を休めるのは当たり前。

出動が掛かったら、当然みんなすぐに起きて走って車庫に降りる。

ただ夜はみんな、仮眠室で仮眠をとるんだ。

その時間を勤務していないと言えばそう映るだろうし、実際その時間は勤務時間として設定されていない。


……新人以外はな。



夜になったら、新人は訓練するんだ。


もちろん、出動がない時間はほとんど訓練してる。

朝は毎当番出動訓練するし、午後も1時から5時まで新人はずっと訓練だ。

ただ、山のように報告書等の書類作成があるから、訓練ばかりしていられないのも事実。


それでも、新人は経験どころか、技術と知識自体が全く足りていないんだ。

だから先輩に混ざって訓練するだけじゃなく、

防火衣の着装訓練とか、結索の訓練とか、投光器発発の訓練

(出火地点に侵入するとき、内部を照らすために投光器と発動発電機が必要。

どちらも火災現状では新人が用意する)とか、

一人でできる訓練を積極的にしていかないと使い物にならない。


ところが、午前も午後も、先輩に混ざって訓練するし、

毎日勤務の上司(8時出勤で17時に勤務終了の人の事。

大体予防課とか、総務課のお偉いさん達)との書類のやり取りもあるから、

昼間は中々自主訓練する時間が取れないんだ。


そんな中で、新人が先輩に追いつくために、どの時間帯なら自主練習の時間をたっぷりとれるのか。

それこそが、先輩上司みんなが寝静まった頃、深夜の1時から6時の時間帯だ。

結局ほとんど自分語りになってる件。どこで修正入れようか迷ってる。

今日はここで終わらせとく。明日までに修正入れるよ。

>>20 >>22
修正。「現状」と「現場」を間違えた。

明日更新するとか言いながら、気がついたら3日も経っていた。
別にエタったわけではないから安心してくれ。どーせニートだからな。
とにかく遅くなってすまない、更新するよ。



まさか俺も、物理的に24時間勤務を強いられることになるだなんて、だ夢にも思っていなかった。

だから、先輩に言われた時はビビったよ。


先輩A「君、これから夜は寝れないと思って」


俺「……あ、ハイ」(どゆこと??)


先輩A「とにかく、まずは置いた状態の着装で50秒切ること」


防火衣の着装は2種類。


上衣、下衣、防火帽、防火マスク、ケプラー(手袋)、

呼吸器(背中に背負う酸素ボンベ)を全て地面に置き、その状態から着装始め。


もう一つは、全ての個人装備(上記の物)を車両(いわゆる消防車、赤いやつ)に積載した状態から、

今度は防火衣だけでなく強力ライトや簡易縛帯も装備して、2分後に車両外へ出て着装終わり。

この場合は上衣と下衣だけ1度車両外に出して着装その後車両に乗り込んで完全着装という流れだ。


先輩に言われたのは前者で、まずはそこからできるようになれと。



先輩A「ていうか君、朝の出動訓練、相当酷かったね」


俺「出動訓練……ですか」


今日で俺は2当番目だ。つまり、二日目の出勤日。

朝のことなんて、緊張しすぎてまともに覚えていなかった。


出動訓練っていうのは、さっき説明した着装の、車両に積載した状態からスタートする方法だ。

出火報(火災の通報)があった時には、予め車両に積載していた防火衣をドアを開けて取り出し、

上衣と下衣を着装して乗り込む。ほとんど説明した通りで、それを当番員全員で行う。

第一小隊、第二小隊4~5名ずつ、梯子隊員3名の、総勢11~13名といったところか。

その消防署に救助隊があれば、彼らも行う。


先輩A「君、学校では最高何秒?」


俺「えーっと……1分10秒でした」


嘘だ。

本当は1分27秒で、学校でクリアするべき1分30秒をギリギリセーフでクリアできるくらい。

つまりは最低レベルだった。


先輩A「うっわー、それはヤバイ。君、これからメッチャ苦労するよ」


言いながら、先輩Aは爆笑した。


……結構盛ったんですけど、マジすか。



その日、俺は先輩Aから着装について様々な指導を受けた。

時刻は既に、2時を回っている。つまりは深夜。

俺は眠気と戦いながら、先輩Aに言われるがまま、ひたすら着装を繰り返した。


先輩A「……56秒か。ようやく1分切れたねー、何回くらいやった?

 1時前に始めたから、1回5分として……10回くらいかー、今日はこの辺でやめとく?」


俺「……はい、お願いします」


当然だが、それだけ着装訓練を繰り返せば汗もかく。

眠気も相まって、俺は学校では経験したことのない種類の疲労感を感じていた。


勿論、学校のグラウンドで日々行った検索訓練(燃えてる建物の中に侵入し、

消火活動しつつ逃げ遅れがいないか検索する訓練)の方が、体力的には倍はキツイ。


だが、深夜独特の脱力感とでもいえばいいのだろうか。

精神的に、相当な苦痛を伴っていた。


先輩A「まあ、まだまだだけどね。俺は最高32秒だから」


32秒って……化け物かよ。

防火衣を離脱しながら、先輩に畏怖の眼差しを向ける。


俺「自分も、もっと訓練します。ただ、今日はもう……」


――その時だった。



プ―、プー、プー、プー、プー、プー


頭に直接響いてくるような、甲高い警報。

短い音が6回、消防署中に鳴り響いた。


『〇〇区出火報……○○区、南○○三丁目、4番11号、建物出火……』


俺「え、これって……」


突然の警報に呆然と立ち尽くす俺に、先輩Aは切迫した声を浴びせる。


先輩A「火災! 俺達出るよ!!」

当時の事を思い出すためようつべを漁ってたら、
こんなふざけたスレを立てた事に、非常に罪悪感を感じてきた。
なるはやで完結させるつもりだが、もし不快感を感じたらすぐに言ってくれ。
ちな、youtubeには消防に関する情報が豊富だから、興味を持ったら覗いてみるといい。



俺達が訓練していたのは、幸運にも車庫の中。

最悪、出遅れることはない。


脱ぎかけた防火衣を、再び着装する。

防火帽の額の辺りが汗でびっしょりと濡れていて気持ち悪いが、

それを気にしている余裕なんて微塵もない。


先輩A「とにかく落ち着いて!完全着装を心がけて!」


俺「りょっ……了解!!」


高校の時までは、『了解』なんてドラマのようなセリフを、

まさか自分が発することになるだなんて、夢にも思わなかった。


ーー俺、本当に消防士になったんだな。



そう思っていた時だ。


「"俺"はいるか!?」


若干太く低い声が、車庫の中に響いた。


先輩A「あそこで着装してます!」


「そうか!ならよし!」


車庫の隅で着装途中の俺を、ガタイのいい男性が一瞥する。

小隊長だった。


加えて、機関員(ポンプ車両を運転する隊員)が走って車庫へ降りてきて、

司令番地を確認するため、通信室へと駆け込んだ。


俺がようやく着装を終えて車両に乗り込むと、

先輩Aはもちろん、俺よりも遅れてきたはずの小隊長までもが、

既に完全着装して車両へ乗り込んでいた。


先輩A「焦るなよ、落ち着いて!」


きっと、慌てて乗り込んだ俺を見かねて言ってくれたんだろう。


だが俺は、先輩の「慌てるな」という言葉すらも頭に入っておらず。

それほどまでに、俺は焦りまくっていた。


十数秒の後に、機関員が乗り込んできて。

サイレンが、けたたましく鳴り響き。

俺を乗せた消防車が、深夜の火災現場へと出動した。

短いし中途半端だけど、今日はここまで。



嘘だろ……こんな夜遅くまで訓練してたのに、最悪なタイミングで出動がかかってしまった。

しかも……火災だって?


前回と今回の当番で、出動が無かったのでは決してない。


救急隊と連携してポンプ隊が救急活動をする、PA連携というものがあるんだが、

都心であるこの消防署は件数が半端じゃない。

多い時は1日7回出動なんてのもザラだ。


救急隊の単独出動も合わせると、都心の救急事案の数なんて、両手両足合わせたって数えられるものではない。

そんな事案が前回と今回の当番で合わせて10件くらいあったんだが、その中で出火報は初めてのことだった。



言いようのない緊張と戦う中、俺含め4人を乗せたポンプ車は、猛スピードで道路を走る。

途中で反対車線へと入りつつ、小隊長がマイクを使って注意を促す。

かと思えば、隣では先輩Aが無線の音を注意深く聞きながら、現場について車両内の隊員全員に呼びかけ続ける。

その間、延々と鳴り続ける甲高いサイレン。

車両が加速する度に、全身にかかる圧力。まるで、ジェットコースターにでも乗っているかのように大きなGだ。


これが……出動。



現場に到着すると、既に数台のポンプ車が現場近くの道路に駐車しており、点滅する光が周囲を赤く照らしていた。


小隊長「ホースカー出しといて」


先輩A「了解!」


車両が道路脇に停車した瞬間、先輩Aや小隊長が素早く下車した。

俺も、彼らに従って車両を下りるが……頭が真っ白になって、何をすればいいのか分からない。


――そうだ、発発と投光器。


車両側面のボックス(資機材が色々と積載されている)の中にある、二つの資機材を用意すべく取っ手に手をかける。


先輩A「俺! それいらない!」


俺「え?」


ボックスのドアを既に開いていた俺は、先輩の一言に酷く動揺した。


先輩A「小隊長についてって!」


……小隊長に?

見ると、小隊長は既に10メートル程先を歩いていて。

俺は、急いで彼の後ろへと駆けて行った。

>>39
トリップ忘れてた。今日はここまでにする。
なんだか最近、執筆が遅くなってきた。飽きたのもあるが、単純にプライベートの問題もある。
とりあえず、明日のうちに今回の当番の終了までは書くつもり。それで完結するかも。

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