モバP「鼓動が聴きたいなあ」飛鳥「やれやれ」 (64)

モバマスSSです

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飛鳥「ボクだけわざわざ居残らせた理由はそれかい?」

P「ああ。みんなの前じゃさすがにな」

飛鳥「別段今のボクの鼓動はキミに聴かせたくなるほど高鳴ったりはしていないが。いや、むしろその申し出にこそ高鳴らせるべきなのかな? 警鐘のための早鐘をさ」

P「うっ……やっぱり駄目か」

飛鳥「フフッ、冗談だよ。神妙な顔をして何かと思えばそんなことだったとはね」

P「ははは……なんか、どうしても聴きたくてさ。いてもたってもいられないんだ」

飛鳥「そこまでキミの記憶に刻み込まれていたのか。ボクの鼓動……あるいは、その過程の何かを」

P「なっ、何かって何だよ。俺は……その」

飛鳥「なるほど、取り繕う余裕も無いみたいだね。まぁいいさ。そんなに聴きたいというなら聴かせてあげてもいいよ」

P「本当か!? 出来れば直接耳元で聴きたいんだけど」

飛鳥「ほぅ……その前に、一つだけ。一応聞いておくが、ボクにしか頼んだりしていないだろうな? ボクにだけ、ボクだからこそ、というか」

P「当たり前だろう? こんな事、他の誰にも頼んだりしないよ」

飛鳥「そうかい。解ったよ、ボクにしか満たせてやれない欲求だというなら、満たせてやろうじゃないか。……おいで」

P「飛鳥……ありがとう」

飛鳥「…………。聴こえているかな」

P「ああ、聴こえてるよ……」

飛鳥(ふ、ふふふ……。ボクをこんな形で求めてくるなんてね、可愛いヤツだよまったく)

P(あああぁぁぁぁ…………落ち着く。心音がこんなに心地良いとは……)

飛鳥(しかし難しいな、ここで鼓動を高鳴らせてはこの状況にボクが何か思うことがあると露呈してるようなものじゃないか。胸元に耳を押し当てられて、何も感じないというのもどうかとは思うが)

P(これなら眠れそうだ……ヤバい、最近不眠症で寝れなかった分もあって眠くなってきた。飛鳥に悪いし、この感覚だけでも焼き付けておいて眠れるかどうかこの後仮眠室で試してこよう……)

飛鳥(……まだ解放させてもらえないのかな。頭でも撫でてあげた方がいいんだろうか? この大きな甘えん坊への適切な対処方法……誰か教えてくれないか)

P(……………………………っ、やべっ、立ったままだってのに落ちそう。寝落ちする前に……でも心地良すぎて身体が……)


 ガチャッ

ありす「失礼します。忘れ物を取りに来ただけですので…………えっ」

飛鳥「ん?」

P「え?」

ありす「な、な、なにしてるんですかあなた達は!!」

飛鳥(さて、面倒なことになったな) ムギュッ

P「んー! んー!?(ちょっ、飛鳥! どうしてそこで俺の頭を抱き締めるんだ、放せって!?) 」

ありす「Pさん、早く飛鳥さんから離れて……ってあれ? 飛鳥さん、Pさんを放してください!」

飛鳥「どうしてだい? 何か問題があるとでも?」

ありす「あ、あるに決まってるじゃないですか! 誰もいない事務所でこ、こんなこと……!」

飛鳥「ありす、キミは勘違いをしているようだ。いいかい、これはPが望んだことなんだよ」

ありす「えっ……Pさんが?」

P「んー!(口を挟みたいのにガッツリ締められてて声にならない!)」

飛鳥「そう、そしてボクは受け入れた。だからありす、キミが思い描いているような状況ではないから安心してくれ」

ありす「そうでしたか、それは良かった……訳がないでしょう!? 合意があったとしても、こんな不埒な行いを見過ごせません!」

飛鳥「おっと、不埒ときたか。そう見えるのもやむなしではあるが、彼の沽券にも関わるしね。そこは否定しておこう。Pはそんな低俗な大人じゃない、ありすも解ってるだろう?」

ありす「それは……そうだと、信じたい、です……。飛鳥さん、Pさんを離してくれませんか? 何を思ってこんな事を望んだのか、Pさんの言葉で聞かせてほしくて」

飛鳥「あぁ、いいとも。Pがボクを求めた理由なんてボクにとっては言葉にする必要もないが、言葉にしないと解り合えない場合もある。ありすのためにも聞かせてやってくれ」 スッ

P「いてててて……思いっきり締め付けるんだもんなあ……。えっと、俺が飛鳥にこんなこと頼んだ理由でいいんだな、ありす?」

ありす「……はい。どうして飛鳥さんの胸元に、顔を埋めるような真似を?」

P「うわ、冷静に事実だけ述べられるとただの変態だな……俺。あー、ありす。実はな――」

飛鳥(言ってやるといい、P。ボク達の、秘匿されるべき関係性を!)

P「――寝不足、なんだ」

ありす「はい?」

飛鳥「?」

P「なんだか不眠症で薬も効かなくってさ、目を瞑ってても全然落ち着けないんだよ。だから、落ち着ける方法を調べて人の心音を聴くと良いってあったから、ダメ元で試させてもらってたんだ」

飛鳥「」

ありす「そ、そうだったんですか……大変なんですね。でもどうして飛鳥さんに?」

P「それは」

飛鳥「こんなことを頼めるのはボクしかいなかったから、に決まっている! そうだったね、P?」

P「え、あ、まあそうだけど……飛鳥、怒ってる?」

飛鳥「怒ってない!」

P「ひっ!」

飛鳥「まったく……本当にボクを楽しませてくれるヤツだなキミは」

P「飛鳥さん、目が笑ってないです。目が」

飛鳥「とにかく、ボクにしかこなせない仕事を与えられたとでも思ってくれればいい。事情が事情だったし、これでありすが気にすることは何もないはずだが」

ありす「……」

P「ありす?」

ありす「気にすることなら、あります」

飛鳥「……敢えて聞こう。ありす、キミは今何を考えている?」

ありす「そういう事情があるのなら、仕方ない……んですよね。いえ、それなら何も飛鳥さんにしか出来ない仕事ではありません」

P「え、どういうことだ?」

ありす「Pさんが困ってて、解決方が見つかりそうなら、私も力になりたいです。その……私の心音で良ければ、聴いて……ください」

飛鳥(やはりそう来るか……だがありす、ボクよりも心音の聴きやすそうな身体のキミではPもきっと満たされないはず。その役目はボクだけで充分だ。そうだろう、P?) チラッ

P「ありすぅぅーーーー!!」 ピョーン

飛鳥「エンドレスライジングクラッシャー!!」 バキィッ

P「ぐはああああっ!?」

ありす「Pさん!? 大丈夫ですか、しっかりしてください!?」

勢いだけで書いてはいけない(戒め)

続きを思いつき次第書き殴ります

P「え、なんで俺殴られたの……」

飛鳥「節操が無さすぎるからさ。性犯罪者の烙印を押される前に、その身に刻んでおかないとね」

P「大丈夫だって、飛鳥の時も許可を取ってからしただろう?」

飛鳥「それはそうだが……では何故キミは今、ナチュラルにありすの膝に頭を乗せているんだ?」

P「? あれ、ほんとだ。ルパンダイブを撃ち落とされたまでは覚えているんだが。ありす、いつの間に?」

ありす「いえ、思いの外痛そうだったのでつい。……大丈夫そうなら起きてください」

P「……。あー痛い痛い全身に雷が迸るかのようだーもうちょっとこのままがいいなー」

飛鳥「ほらみろ、ありすも満更でも無さそうな顔してないで彼を甘やかさないでくれ」

ありす「そんな顔してません! ほら、Pさんも起きて、また飛鳥さんに何されるか分かりませんよ?」

P「うっ、それは困るな。さーて起きるかー」

飛鳥「……言うようになったじゃないか、ありす」

ありす「事実を述べただけですが? それよりも、あの……どうします?」

P「どうするって、何が?」

ありす「思わぬ邪魔が入りましたが、本題に戻りましょう。Pさんは心音を聴けば眠りにつけるかを検証してたんですよね?」

P「そういうことになるな」

飛鳥「……フム、つまりキミはあのままボクに寄りすがる形で意識を闇に落とすつもりだったのか?」

P「さすがに悪いってレベルじゃないしそのまま寝ようとは考えてなかったぞ。つっても危うく寝落ちしかけたけど」

ありす「では効果はあった、と」

飛鳥「なるほどね。ボクの元に還りさえすれば、Pは安息を得られるというわけだ」

ありす「でも飛鳥さんでなければいけない、とは決まってないですよね?」

飛鳥「なに、それだけ解を導いていれば充分さ。Pが必要とあればボクは駆け付けよう、普段キミがそうしてくれているように、ね。等価交換だ」

ありす「むぅ……」

飛鳥「フフ……子供は帰る時間だよ、ありす」

ありす「飛鳥さんには言われたくありません!」

P(どうしてこうなった)

P「と、とりあえず今日はお前らもう帰れって。送るから」

ありす「……そうですね。日も傾いてしまいましたし、お願いします」

飛鳥「しかしいいのかい? せっかく検証が済んだというのに、これでは意味がないじゃないか」

P「しょうがないだろ、お前らを俺の部屋まで連れ込んで寝るまで付き添って貰うなんて頼めるはずがないんだから」

ありす(Pさんの部屋まで連れ込んで……)

飛鳥(寝るまで付き添う……?)

P「ほらいくぞー、鍵閉めるから出ろ出ろ。っとありすは忘れ物は取ったかー?」

P(心音の音声ファイルさえ手に入れば何とかなるよな? さてどこで手に入れるか、最悪自作かなあ)


ありす「…………」

飛鳥「ありす。なぁ、ありす?」

ありす「……何ですか?」

飛鳥「おっと、そう身構えないでくれ。キミと今この場で敵対することに何のメリットがあるっていうんだ」

ありす「……手短にお願いします。Pさんの車が来ちゃいますよ」

飛鳥「では単刀直入に。ボクはPの部屋に行ってみたい、単純に興味がある。潜り込む口実も手の届きそうなところにある、が、このままでは少し足りない」

ありす「私に協力してほしいってことですか?」

飛鳥「そういうことさ。だがボク達だけではまだ全てのピースは揃わない。それはありすも気付いているはずだ」

ありす「そう、ですね……。当然といえば当然ですが、子供の私達だけでは……」

飛鳥「だから少なくとももう一人、協力者が必要になる。ある程度オトナで、ボク達に理解があり、Pの悩みにも力になろうとしてくれそうな人材が望ましい」

ありす「そんな人、いるんでしょうか?」

飛鳥「考える時間はいくらでもあるさ。候補はだいぶ限られていると思うけどね――おっと、Pが来たようだ。今日のところはここまでにしよう」


 翌日

飛鳥「やぁ、昨日の件だが候補は思いついたかい?」

ありす「えぇ、まあ。飛鳥さんは?」

飛鳥「もちろん準備は出来ているよ。満場一致なら、早速訪ねようと思うんだが」

ありす「それがいいですね。Pさんの眠れない日々も続いているのでしょうし……。私から候補を挙げましょうか?」

飛鳥「いや、同時に声にしよう。ボクの勘に過ぎないが、意見はきっと一致しているはずだ」

ありす「では……せーの、で言いましょうか。……せーのっ」

文香「――それで、私に助力を……」

飛鳥「文香さんならボク達にとっても、Pにとっても好ましいと判断したんだ」

文香「……そうでしょうか? 頼って頂けるのは光栄ですが、私もまだ未成年なので大人とは言い難いですし……いざという時にお二人の力になれる自信も私には……」

ありす「そ、そんなことないです! 文香さんは大人っぽいし、知的なところがとても頼もしい方だと思います!」

文香「ありすちゃん……」

飛鳥「どうかな、文香さん。もし貴女がPのために一肌脱ごうという気持ちが少しでもあるのなら、たった一度でもいい。協力してくれないか」

文香「……。プロデューサーさんの不眠症は、そこまで深刻なんですね?」

飛鳥「みたいだね。なりふり構わずボクに泣きついてきたくらいだから」

ありす「飛鳥さんでなければいけないことはないと思いますが?」

飛鳥「その話は後にしようか、ありす?」

文香「……飛鳥さん、それとありすちゃんにも、ということでよいのでしょうか……お二人は人を眠りへ誘う程の安らぎを与える何かを心得ているのですね」

飛鳥「まぁ、ね。フフ……ん?」 ツンツン

ありす(Pさんは心音を聴かせれば眠れそうだ、という部分を伏せる必要はあるんですか?) ヒソヒソ

飛鳥(全てを最初から話してしまってはつまらないじゃないか。それにボク達でなければいけない、とまずは思わせておかないとボク達の出る幕が無くなってしまう) ヒソヒソ

ありす(それはそうですけど……騙しているみたいで気が引けるというか……) ヒソヒソ

飛鳥(それに、理由はそれだけじゃない。あの節操のないPがボク達を受け入れたとして、心音を聴くために誰か一人を選ぶことになれば……どうなるだろう) ヒソヒソ

ありす(68)「……」ジーッ

飛鳥(75)「……」ジーッ

文香(84)「……?」

ありす(……文香さんがいろんな意味で危険です!) ヒソヒソ!

飛鳥(そう、まずは様子見といこうじゃないか。ボクの読みでは杞憂だと思うけど、念には念を入れておこう) ヒソヒソ

文香「あの……何をするにしても、まずはプロデューサーさんにお伺いを立てる必要があると思うのですが」

飛鳥「あ、あぁ、丁度そのことについてありすと話していたところさ。今日のスケジュールを完遂し次第、三人でPの元に向かおう」

ありす「文香さんは何か異存はありますか?」

文香「私も、それで構いません。……プロデューサーさんの手助けになろうというお二人の熱意に応えられるよう、精一杯努力しますね」

ありす(…………)

飛鳥(堪えるんだ、ありす。言いたい事はボクもよく『理解』っているつもりだから。文香さんには必ず埋め合わせをしよう、な?) ヒソヒソ

文香「?」

今日はここまで

文香をあまり書いたことないのですがこんな感じで違和感なさそう?

P「暗くなる前に帰れよー。大人組も明日早い人はほどほどにお願いしますねー」


ありす「そろそろですね」

飛鳥「ボクらも一度出ようか。残っていたら誰かに怪しまれるリスクを負いかねない」

文香「他のアイドルの方達にはくれぐれも内密に……ということでしたね」

飛鳥「現段階では、だね。さぁ、往こう」


P「はー……日中眠くて敵わんな。集中出来なくて書類が片付かん……あれ? お前らどうしたんだ、文香まで連れて」

飛鳥「何てことはないさ。昨日の件、覚えているだろう?」

P「昨日の? それでどうして文香が出てくる?」

ありす「確認しますが、Pさんから見れば文香さんは大人ですよね?」

P「んー? そりゃまあ小学生と中学生よりかは、酒やら何やらはまだ駄目だとはいえ大学生だしな。それがどうかしたか」

文香「……プロデューサーさんが不眠症に苦しんでいると聞きました。私でお役に立てることがあるみたいなので、微力ながらお力になれれば、と……」

P「文香に? 話が見えないぞ飛鳥、ありす」

飛鳥「昨日キミは確かにこんな風なことを云ったはずだ。部屋まで連れ込んで寝るまで付き添わせるわけにはいかない、と」

P「ああ、そんなこと言ったような」

飛鳥「それはつまり、キミが眠りに就いてしまえばボク達の帰る際に保護者がいなくなってしまうことを危惧して、だろう?」

P「そりゃあな、それなりの時間になってるはずだし。ってそれだけが部屋に来させられない理由じゃないぞ? 一々説明するまでもないけどさ」

飛鳥「だからキミの不安要素を取り除くべく保護者を連れてきたんだ」

P「スルーしやがった!? 保護者……文香がねえ」

文香「……やはり私では……」

P「車に乗れるならまだ安心出来るけど、文香は免許持ってて自由に使える車があったとしても移動手段としてガンガン使うタイプじゃあないよな」

ありす「あの、Pさんのお住まいの付近ってそんなに危ない所なのでしょうか?」

P「いや? 駅も近いし人通りもそれなりだからその道中に何かあるってことは滅多に……あっ」

飛鳥「ほぅ、なら文香さんの引率で何も困ることはないようだ」

P「待て待て! 夜道に人気がないならないで問題だし、あるならあるで問題なんだよアイドルは!」

飛鳥「早速今夜にでも世話になろうか。いや、世話をするのはむしろボク達の方か……フフ」

P「都合よく無視するなって、オイコラ!!」

文香「ここが……」

飛鳥「プロデューサーのハウスか」

ありす「お、お邪魔しますっ」

P(押し切られてしまった……。いや、どうせ興味本位に一度覗きにきただけだろうし、早めにこっちが折れてさっさと飽きてもらえばいいよな)

飛鳥「予想はしていたがこの人数では少々手狭だね。それに随分散らかっているみたいだが」

P「いつでも誰かを呼べるようにしてられるかってんだ。文句があるなら帰れ帰れ」

ありす「お掃除くらいなら私がやっておきましょうか? 日頃お世話になってますし、今日だって無理に押し掛けたようなものですから」

P「んー、これでも頻繁に使うものがどこにあるかは把握してるから勝手に片付けられるのもそれはそれで困る」

飛鳥「フッ、やはりキミはそちら側のヒトだったか」

P「どちらに対してのそちら側だよ。文香だって大量の本に囲まれても何がどこにあるか覚えてるもんだろ?」

文香「そう……ですね。私の場合は適度に片付けているはずなのに、積まれた本の数が変わっていないことがよくあります……」

飛鳥「容易に想像できる画だな……大方片付ける際に目移りした本を取って席へ戻るせいだろう」

ありす「お掃除が駄目なら……お、お洗濯、とか……?」

P「いいからいいから、というかありす洗濯出来るのか?」

ありす「それぐらい出来ます。家事はよく家で手伝っていますし、料理だって少しずつ勉強してるんですよ?」

P「おっ、偉いなあ。飛鳥よりいろいろ出来そうだな」

飛鳥「聞き捨てならないな。ボクを何だと思っているんだ、P?」

文香「……ありすちゃんはしっかりしていますし、同じ年頃だった私よりも余程手際が良さそうですね」

P「文香に手伝って欲しくても、本に熱中してて声掛けたところで聞こえ無さそうだもんなあ」

飛鳥「よし、じゃあこうしよう。今からボク達3人でこの部屋を片付けるんだ。このまま黙って家事の一つも出来ないような、堕落した人間だと思われてたまるか」

P「だからいいっつの、こっちはお前らに早く帰って欲しいんだから」

飛鳥「へぇ、そこまで頑なに拒むところをみると、何かボク達に見せたくない物が転がってるんじゃないか? そういうことならやめておくよ、ボクも鬼ではないからね」

ありす「……Pさん、そうなんですか?」ジトッ

P「そんな目で見るな! 冤罪だ! くそー……わかったよ、好きにしろ!」

飛鳥「決まったな。まぁ、部屋を好き勝手弄られたくない気持ちはよく理解る。どこまでなら手を加えていいかな?」

P「足場を確保するだけなら押し入れとかクローゼットに触る必要はないだろ? そういうことだ」

ありす「では私はこの辺から、あ、ゴミ袋はどこにありますか?」

文香「……ここにありました。使わせていただきますね」

飛鳥「Pはボク達が片付けている間に風呂なりシャワーなり浴びてくるといい。いつでも眠れる準備だけはしておいてくれ」

P(さっさと帰すつもりだったのにどうしてこうなった)


P「ふぅ、3人もいるとすぐ終わるな」

飛鳥「それより意外だったんだが……文香さん、その細腕の何処に力を隠していたんだい?」

文香「本を一度に持ち運ぼうとすると、それなりの重さになるので……自ずと腕力だけは人並みになれたようです。運動神経までカバー出来ていたら良かったのですが……」

ありす「なるほど……紙の媒体ならではの利点ですね」

P「とにかくお疲れ様、それじゃ今日のところは解散ってことで」

飛鳥「おいおい、キミはボク達に部屋の掃除をさせるため連れてきたとでも言うのかい?」

P「そもそも連れてくるつもりなかったんだけどな……」

文香「……ずっと気になっていたのですが、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」

P「ん? なんだ」

文香「飛鳥さんとありすちゃん……お二人はどの様にして、不眠症であるプロデューサーさんを眠らせられるのでしょう……?」

P「あれ、てっきり文香も知ってるのかと思ってたけどなあ。教えてなかったのか?」

飛鳥「説明し忘れていただけさ。それに、どうせ此処まで来ればその目で確かめられるしね」

ありす「飛鳥さん、あの時は邪魔されましたが今回は私が検証する番です。飛鳥さんでなくてはいけないのか、はっきりさせましょう」

飛鳥「いいだろう。まぁ見ていてくれ文香さん、その気になれば貴女にも可能なことだよ」

文香「はぁ……分かりました」

P「なんか見られてると恥ずかしいんだが……やるの? ありすもいいのか?」

ありす「覚悟は昨日の時点でしていますので。……あ、私もシャワー借りた方がいいのでしょうか? 掃除の際に多少汗をかいているかもしれません、ちょっと待ってください!」

P「じゃあやめとくか。でも俺、別に多少の汗ぐらい気にしないぞ」

ありす「私が気にするんです!」

飛鳥「なかなか微笑ましいじゃないか、ありす?」

文香「……? ありすちゃんは今から何を……」

ありす「で、出来ました。応急処置に過ぎませんが、Pさんに不快な思いをさせることはこれでないはず……」

P「本当にやるんだな……。ええい、こうなったら自棄だ! いくぞありす!」

ありす「は、はい! どうぞ、来てください!」

文香「? ……っ!?!?」

飛鳥「やれやれ、そんなに精神を昂らせては眠れるものも――」

P「zzz...」スヤァ

ありす「……えっ、もうですか? Pさん?」

飛鳥「」

文香「これは……一体……?」

文香「……確かに、赤ちゃんを泣き止ませる方法として母親の心音を聴かせるといい、とは聞いたことがあります」

飛鳥「まだ物心もつかないような始まりの記憶を、身体はずっと憶えているのかも知れないね。それにしても安らぎ過ぎだが」

ありす「何でしょう、複雑な気分です……。でもこれで飛鳥さんでなければいけないことも無さそうですね」

飛鳥「……ボクも複雑な気分になってきたよ」

文香「……プロデューサーさんも無事に眠れたようですし、私達も帰りましょうか」

飛鳥「そうだね。でもその前に、文香さんはどうだい? 正直なところ文香さんがアレに心音を聴かせる役をこなせてしまうと、ボクとありすは用済みになる」

文香「私が……プロデューサーさんに……ですか」

ありす「それはそうですが、帰りがてら話しませんか? せっかく眠ってるのにPさんが起きてしまうかも」

飛鳥「今この場で証明してもらった方が都合が良いと思ってね。どうせ一瞬で夢の中なら、起きてもすぐ続きを見れるさ。P、悪いが起きてくれ」 ユッサユッサ

文香「あ、待ってくださ……」

P「……うん? 何で俺の部屋にお前らが……あれ?」

飛鳥「さぁ文香さん、どうする? 無理強いはしないよ、覚悟が出来ているならその胸にPを包み込むといい」

文香「…………」

ありす「無理はしないでくださいね、文香さん……」

P「起こすなよー……飛鳥でいいから鼓動を聴かせてくれー」

飛鳥「む……雑に扱ってくれるものだね、P?」

文香「……やります。……日頃の恩を少しでもプロデューサーさんに返せるのなら、私にも……出来るはず」

P「ん……文香か?」

文香「失礼します……。……あ、私もありすちゃんのように身を清潔にさせてからの方が」

P「おやすみー……」 ポフッ

文香「!?!?」

P「……」

文香「……っ」

P「………………………。……文香、ごめん。1つ言っていい?」

文香「な……何でしょうか……?」

P「心拍数高過ぎて落ち着けない……」

文香「……すみません、すぐ、離れます……ので」

P「あ、これはこれで幸せだから俺はこのままでも」

飛鳥「そこまでだ、P」

ありす「文香さんから離れてください!」

P「いででで、冗談だって冗談! 悪かった、悪かったって!」

ありす「……飛鳥さん、もしかしてこうなるのを予想してたんですか?」

飛鳥「まぁね。ここまで綺麗にオチが着くとは思わなかったが」

P「落ち着かないだけに? あ、すみません……」

ありす「文香さんも気にしなくていいんですよ? だからそんなに落ち込まなくても……」

文香「…………」

飛鳥「いや、どちらかと言えば多方面からの恥ずかしさがせめぎ合って声にならない、んじゃないか?」

文香「……うぅ、お役に立てなかったばかりか、その……」

P「あー、普通の反応だと思うぞ? いきなり男の頭を胸に抱いて平常心でいられる方がおかしいって」チラッ

飛鳥「で、どうしてそこでボクの方を見るんだい」

P「だって、なあ?」

飛鳥「……ボクだって、平常心と呼べるほど穏やかでいたつもりはないのに」 ボソッ

ありす「……えっと、私の時はどうでしたか?」

P「ありすの時は一瞬過ぎてなあ。よく覚えてないけどまあありすは」

ありす「私だけ子供扱いするのは無しですよ?」

P「…………。そろそろお時間も遅くなって参りましたので、速やかに俺を寝かしつけて頂けますでしょうか」

飛鳥「……誰に?」

P「え?」

飛鳥「誰にその役を頼みたいか、さ。今はまだ文香さんを除外するとして、ボクかありすのどちらを選ぶのかを聞いているんだよ」

文香「お力になれず……すみません」

ありす「……本当に気にしないでくださいね、文香さん。私もそこまで平常心でいられたかは自信ありませんし」

飛鳥「しかしありすの時はの○太君もかくやという早さで眠っていたな……試行回数が足りていないから、何が条件なのかは断定出来ないが」

P「あんまりドキドキされると俺も落ち着いて眠れない、ってのは確かだな」

飛鳥「P、あまり追い討ちをかけないでやってくれ。火事になっても知らないぞ」

文香「…………」カァァッ

P「あー、すまん。ついな、つい」

ありす「つい、じゃないです! もう……それでどうするんですか? 私なら構いませんけど」

飛鳥「右に同じ、いや……どうもボクだけ軽く見られてる気がしてならないのが癪だが……時間も押しているし今は我慢しよう」

P「嫌なら別に名乗りを上げなくていいんだぞ飛鳥?」

飛鳥「何か言ったかい?」

P「あ、いえ、はい。……うーん」

ルート分岐します


P「俺は――>>24

①何だかんだ飛鳥がいい
②ありすかな。一番落ち着ける気がする
③それでも俺は文香を選びたい

もう一度文香を試す

③でいいのだろうか

余力が残ってたら他ルートも書きますがまずは文香ルートでいきますね

P「それでも俺は文香を選びたい!」

飛鳥「……」

ありす「……」

文香「私……ですか?」

P「ここで挽回のチャンスを与えないと、文香だけ出来なかった~って引きずりそうだし?」

飛鳥「とか何とか言って、ただ文香さんの胸元に顔を埋めたいだけなんじゃないのか?」

ありす「セクハラです! 断固抗議します!」

P「ちょ、ちが、もちろん文香さえ良ければ、だよ! ……どうだ? やってみるか?」

文香「…………」

飛鳥「答えるまでも無い、ってことかな」

P「そうかー、ってそりゃそうか。ごめんな文香、でも嫌なら嫌って自分で言わなきゃ駄目だぞ?」

文香「……えっ? あの……」

ありす「それより、どうしてセクハラ紛いだと分かっていながら飛鳥さんにお願いしたんですか?」

P「ん、ちょっとな。飛鳥ならもしかしたらっtむぐぐ?」

飛鳥「ボクを真っ先に頼りにした判断は間違いではなかったね。まぁ、ここで何故ボクなのかについてを詳らかに話すのは野暮ってものさ、そうだろう? P?」

P(逆らったらいけない気がする……) コクコク

ありす「むー……お二人の間に何かあったんですか? 飛鳥さんがPさんを誑かした……とか」

飛鳥「さぁて、ね。どうだったかな……ん? ありす、疑うなら逆だろう? なぁP?」

P「ぷはっ、あー……そうだなあ。ひと夏のアバンチュールってことにしておこうか?」

ありす「私にも伝わるように話してください! ……もしかして、からかってます?」


文香「……」

文香(……嫌だった、のかしら。私……Pさんを?)

文香(人との触れ合いに慣れてなくて……わからない)

文香(あの時の……Pさんを間近で感じて、抑え切れなくなる程に湧き上がった高揚感は……一体……?)

文香(……その後、お二人のどちらがPさんを眠りへ導いたかも思い出せない程に心の浮つくまま、気が付くと家に着いていました)

文香(少し前に着信していたありすちゃんからのメールによれば、どうやら私は無事お二人を家の近くまで送り届けられたようです……あまりよく覚えてはいませんが)

文香(……気を配る余裕も無くずっと考えていたのは、Pさんの言葉)

文香(…………)

文香(……恥ずかしくはありましたが、拒絶したいとまでは感じませんでした。何度思い返しても……嫌だった訳ではないのです)

文香(Pさんになら、と……。それは献身の心から来るものなのか、それとも……)

文香(…………今日のところはここまでにしましょう。寝物語にするには少々、刺激が……強いかもしれませんので)

P「」カタカタカタカタカタ

飛鳥「……一心不乱にキーボードを叩いてるよ。コーヒーでも淹れてやろうと思ったが邪魔しちゃ悪いな」

ありす「出社するなりずっとこの調子だそうですよ、ちひろさんから聞きましたが」

飛鳥「充分な睡眠も取れて頭がクリアな内にこなしてしまおうって魂胆か。よほど仕事が溜まっていたと見える」

ありす「私、Pさんが不眠症に悩まされていたなんて少しも気がつきませんでした……」

飛鳥「これぐらい一目で察せられるようだったらね。文香さん、船を漕いでどこへ行くつもりかな」

文香「…………はっ」

ありす「船を漕ぐ?」

文香「……座った姿勢で身体を揺らしながら眠っている様が、船を漕いでいるように見えることから……あ、私……すみません」

飛鳥「解説出来るようなら大丈夫だとは思うが、昨夜は眠れなかったのかい?」

文香「……。気になる物語を読み解きたくて……なかなか寝付けませんでした」

ありす「……ふ、文香さん! まだ少しならレッスンまで時間ありますし、もしよろしければ……その、試してみませんか?」

文香「試す……とは?」

ありす「不眠症のPさんがあれだけ早く眠れたのなら、他の方にも何らかの効果があるのかもしれません……。その実験も兼ねて、文香さんもPさんみたく私の…………時間になるまで、どうでしょう?」

飛鳥「フッ、相変わらず素直じゃないなキミは」

ありす「何のことですか!」

飛鳥「いや、文香さんも随分懐かれているようだ。ここはありすに甘えてみたらどうだい? それに、あるいはPが安らぐ理由も『理解』るかもね」

文香「…………では、そのご厚意に……ありすちゃん、少しの間だけいいでしょうか?」

ありす「勿論です! 文香さんなら、いつでもどうぞ」

文香「……お邪魔、します」 ポフッ

飛鳥「一見逆だろうとも思えるこの構図……しかしなかなか画になるな。なるほど……」

ありす「……どうですか? Pさん程ではないにしても、落ち着きますか?」

文香「……これは…………」

文香(一定の緩やかなリズムが生み出す安堵感……これが心音が安らぎをもたらすと謳われる所以……?)

文香(それに加えて、ありすちゃんから申し出てくれたこと……心を許してもらえているようで……この安らかな場所に居ていいのだと思わせてくれる安心感……)

文香(柔らかく、そして優しく包まれて……自然と身も心も委ねてしまいたくなる……)

文香(……Pさんが求めていたのは、こんなにも暖かな……)

今日はここまで

書いてて尊い図だなと思いました まる

P「……何してんだ?」

飛鳥「新たな可能性の模索、といったところかな」

P「ほう……」パシャパシャ

文香「…………?」

ありす「あっ、シャッター音で起きちゃったじゃないですか。それ以前に許可なく撮らないでください」

P「いや、ついな。それよりもうすぐレッスン始まるだろ?」

ありす「え、もうそんな……本当ですね。いつの間に……」

飛鳥「文香さん、目は覚めたかい?」

文香「……? 私……眠ってましたか?」

P「俺だけでなく文香まで夢の中とは、ありす……恐ろしい子!」

飛鳥「心音の効果が絶大なのか、ありすに秘められた能力なのか、いずれにせよ興味深いね」

ありす「考察は後にしましょう、遅れちゃいますよ!」

P「はいはいいってらっしゃい。……ん、俺の顔に何かついてるか文香?」

文香「……いえ、何も。……いってきます」

飛鳥「――さて、今日はどうする?」

ありす「今日はって、Pさんのところへですか?」

飛鳥「あぁ。Pの不眠症は対症療法が見つかっただけだからね、ボク達がいなきゃまた眠れぬ夜を過ごすだろう」

ありす「その可能性は高そうではありますけど、だからといって毎晩お邪魔するのも気が引けますね……。それに私と飛鳥さんの都合だけで片付く話でもありませんし」

文香「……。プロデューサーさんのお宅に訪問する件ですが、すみません。今日はちょっと……」

文香(昨日の事を思い出してしまって……合わせる顔が……)

飛鳥「おや、何か用事でもあるのかい?」

ありす「飛鳥さん、文香さんの負担も考えてください。だいたい私達の保護者といっても、文香さんだってまだ未成年の女性なんですよ?」

文香「……ふふ。お気遣いありがとうございます、ありすちゃん」

ありす「これぐらい、普通です。文香さんを巻き込んだのは私達なんですから、Pさんのことは気になりますが……文香さんは文香さんの事情を優先してくださいね」

飛鳥「それについてはボクも同意見だ。ボクだって弁えているさ」

ありす「残念でしたね、飛鳥さん」

飛鳥「……どういう意味かな、ありす?」

ありす「だって、ずっとPさんの部屋に行きたがってるじゃないですか?」

飛鳥「なっ……! べ、別に一度訪れさえすればもうPの部屋なんて興味ないね。後はただの作業感だ、寝不足の頭で車を運転されでもしたら乗りたいとは思わないだろう?」

ありす「……私もあまり人のことは言えませんが、飛鳥さんも素直な方ではないですよね」

飛鳥「ありす……ボクを理解した気になっているなら、それは些か早計だぞ?」

ありす「なら、今日こそ飛鳥さんについていろいろ教えてくれますか?」

飛鳥「む……ボクは自分のことを懇切丁寧に説明してやるほど、優しい人間じゃあないんでね」

ありす「ではどうしたらいいんですか? 言葉にしてくれなきゃ分からないことだってありますよ」

文香(言葉にしなきゃ……分からない……?)

飛鳥「そうだな、まずはその見解の相違についてを話し合おうじゃないか。言葉を交わし、互いに響かせれば、少しは本質に近付けるかもしれないよ」

文香(……私も、まだPさんに触れられるのを嫌がったと思われたまま……)

ありす「望むところ――ですが、そろそろ休憩終わりですね。レッスンが終わってからでもいいですか?」

飛鳥「やれやれ、仕方ないな。ボクはボクで橘ありすという人間を観察させてもらうが、構わないかい?」

ありす「むしろそう来てもらわなくては困ります。決まり、ですね」

文香(……ありすちゃんと飛鳥さんのように、Pさんと話し合えたら私も……あの高揚感の正体を掴めるかしら……?)

今日はここまで

次回で文香ルート終わらせる予定です

ちょっと書く余裕がありませんでした(小声)

続きいきます

P(ふぅ、溜まってた分は片付いたか)

P(やっぱ睡眠って大事だよなあ、あいつらには感謝しないと。今日はうち来ないっつってたし、拾った心音の音声をちひろさんがいるうちに試聴しておこう)

P(こんなでも寝れるといいんだが、駄目だった時のことは考えたくない……ちひろさん早く戻ってこないかな)

コンコン

P(お、戻ってきたか)

文香「……」

P「あれ? なんで文香が、今日は用事あるって聞いてたけど。忘れ物か?」

文香「……用事は、特には……強いていえば、プロデューサーさんに一人でお会いしたくて……」

P「へ、へぇ、改まってどうしたんだ。飛鳥やありすの前では都合が悪いってことだろ?」

文香「……お二人には後で謝罪しようと思います。二人とも、プロデューサーさんのお役に立とうとしておりましたから……」

P「気持ちはありがたいが俺としてはあんまり来てほしくないんだけどさ――そうだ文香、ちょっと手伝ってくれないか?」

文香「何を……でしょうか?」

P「本当はこれからちひろさんに頼もうと思ってたんだが、文香なら事情も知ってるし余計な説明もいらないよな」

文香「……ええと」

P「ん、ああ悪い悪い。毎日押し掛けられても何だからさ、心音の音声データを拾ったからそれで眠れるか試したいんだよ」

文香「……っ」

P「これから実験して俺が寝ちまったらすぐ叩き起こして欲しいんだ。簡単だろ?」

文香「…………そう、ですね」

P「? なんか元気ないな、嫌なら別に」

文香「いえ、その……やります。お手伝い……させてください」

P「そうか? じゃあ今からイヤホンで聴くから、もし寝たら起こしてくれ。頼んだぞ」

文香「……はい」

P「……」

文香(……Pさん、眠れたのかしら。心音を聴くだけなら、直接胸元に耳を当てる必要なんてなかったわね。どうして気付かなかったのだろう……)

文香(それに……どうして私、気を落としてるの? これでPさんの不眠症が改善されるなら……それは良いことのはず)

文香(…………そうだ、私……Pさんに伝えたくてここに居るんだ。これじゃ……私、Pさんを拒絶したことになったまま……)

文香(……恥ずかしさは誤魔化しようがないけれど、決して嫌だった訳じゃない……それを伝えに、ここに来たのに)

文香(…………)

P「……」

文香「……起きてますか?」

P「……」

文香「……あの」

P「……」

文香(……。伝えたいこと、あったのに。また……見てるだけ。本当は……もっと、沢山、あるのに……いつも)

P「………………、だめだー」

文香「っ!?」

P「心音だけじゃ足りないのかなあ、人肌がないと駄目なのか? 文香の時を考えれば人肌だけでも駄目だし……うーん」

文香(……い、言わないと……言葉にしなきゃ……!)

文香「あ、あの、あにょ……!」

P「……にょ?」

文香「……! ……すぅ、……ふぅ…………その、プロデューサーさん……そのまま、イヤホンをしたままでいいので……動かないでもらえますか?」

P「お、おう……」

文香「……それと、もし眠くなるようでしたら……少しの間だけでいいので、我慢して聞いていてください……失礼します」

P「それはいいけど、どうしt……っ!?!?」 ムギュッ

P(なんだ!? 突然柔らかくて温かくて良い香りのするものに包まれたぞ!?)

文香「……心拍数の高さが眠りを誘えなかった要因なら、これで……眠れそうですか?」

P(……文香?)

文香「……私、プロデューサーさんにこうすること……恥ずかしくはありますが、嫌だとか、そんな風には思ってません……」

P「……?」

文香「私がプロデューサーさんを、拒絶したように……思っていてほしくなかったから……」

P「……」

文香「……」

P「…………」

文香「……眠ってしまいましたか?」

P(……はっ、いかんいかん。文香が何か思い詰めてるみたいなのに、のん気に寝てられるか)

P「…………寝ちまう前に離れとく」 スッ

文香「あっ……」

P(どうしたものか……。文香にここまで言わせといて、俺が黙ってたら文香を不安がらせるだろ……!)

P「……っと、勝手に勘違いしてすまなかったな」

文香「……いえ、私がはっきりしなかったばかりに……」

P「嫌じゃないって言ってくれたけど、それって――」

文香「……っ」 ピクッ

P「……うーん、そうだな。なあ文香、ちょっとだけ俺の心音聴いてみないか?」

文香「? プロデューサーさんの、ですか……?」

P「うまく言葉が出て来なくてさ。どうだ?」

文香「…………。不束者ですが、よろしくお願いします……」

P「そんな堅くなることもないんだけど……多分、口で説明するより早いと思うから」

文香「……。……、…………、……?」

P「どうだ、聴こえたか?」

文香「……心拍数が…………高い、ような……」

P「ああ。文香と同じくらいかもな」

文香「私と……?」

P「先に断っとくと、俺も文香とこうしてるの嫌じゃないぞ。それどころかむしろ……」

文香「……」

P「……なんてな。もしかしたら文香と俺、同じ気持ちだったりしたのかな、ってさ」

文香「……同じ、気持ち……ですか」

P「飛鳥やありす、他の誰でもこうなる訳じゃない。文香だから俺は今こんなんなってる……と思う」

文香「……」

P「文香も俺と同じだったらいいな、ってだけさ。はい、お終い。こんなとこちひろさんに見られたら何されたものか」

文香「……。その先は、言葉に……していただけないのですか?」

P「え?」

文香「私とプロデューサーさんが、共に抱えているのかもしれない……心臓が高鳴るこの気持ちについて……」

P「んー、言わなきゃ駄目か?」

文香「……言葉にしないと伝わらないことも、あると思います」

P「ほう。……じゃあ、文香も言葉にしてくれるならいいよ」

文香「……えっ?」

P「もし同じ感情を抱えていたとして、俺だけに先に話させるのは不公平じゃないか?」

文香「そうかもしれませんが……あっ」

P「納得したな? じゃ、文香も素直に話してくれよ?」

文香「…………」

P(あ、あっぶねー。珍しく押しが強いもんだから流されるとこだった! こんなん告白待ったなしじゃないか!)

P(いや、俺のただの思い上がりかもしれんし、その場合俺は赤っ恥なだけでなく文香のプロデューサーでいられなくなるだろうな……いろんな意味で)

P(まあ両想いだったらだったで立場的に問題なんだけどさ。それでも文香は俺から聞き出そうとするのか?) チラッ

文香「…………、…………っ!?」

P(耳まで真っ赤にしながら頭抱えて目がぐるぐるしとる。かわいい、じゃなくて文香も俺と同じ結論に至ったのか?)

文香「……あ、あの……プロデューサーさん……?」

P「ん?」

文香「発言を……撤回させてください……!」

P(そりゃそうくるよな、文香が文香のままでよかった)

文香「……すみません。私、どうかしていたのだと思います……」 シュン

P「そんなことないぞ、グイグイ押されて文香もやる時はやれる娘なんだなーって思ったし」

文香「そ、そんな風に見えていたのですか? うぅ……」

P「あれ、誉めたつもりなんだが。……なあ文香、俺の不眠症が治るまで文香が俺を寝かしつけてくれないか?」

文香「……? 私が、ですか? ……お言葉ですが、私ではありすちゃんや飛鳥さんに比べてお役に立てないかと存じますが……」

P「さっきのイヤホンつけてのやり方なら眠くはなれたんだ。どうしてもって時は最終手段としてそれを使えばいいし」

文香「……そう、ですか」

P「ただな? ただ……そんなことしなくても、文香の心音だけで眠れるようになったその時には、ここで言葉にしなかった気持ちの正体がはっきりするんじゃないかな」

文香「……?」

P「言葉にしなきゃ伝わらないこともある、文香の言う通りだ。でも俺は……文香にはこの気持ちを言葉にしなくても伝えられるような関係になりたい」

文香「……!」

P「……ってのは都合のいい言い訳に過ぎないか。ごめんな、これ以上にうまい言い訳が出来そうにない」

文香「いえ……それだけで、充分です。行間を読むことには慣れています。読み違えないよう……じっくりと、何度も読み直す必要はありそうですが」

P「それでいいさ。……文香、これから世話になるだろうし、改めてよろしくな」

文香「……はい。こちらこそ、末永く……お願いします」







ちひろ(もう、何なんですかあの空気は! 戻るに戻れないじゃないですか!)

P「――それにしても、ちひろさん遅いな。何してるんだろう、何か知ってるか?」

文香「いえ、私は何も聞いておりませんが……」

ちひろ(あなた達のせいですよ!)


そして……


 ピンポーン

P「入ってくれー」

文香「……お邪魔します」

P「悪いないつもいつも。なあ、このやり取りもいい加減不毛だしそろそろうちのスペアの鍵渡しとこうか?」

文香「それは……ちょっと。用がなくとも、足が向いてしまうかもしれませんから」

P「俺は文香ならいつでも歓迎だけどなあ」

文香「……ふふっ。以前のPさんなら、極力ここへは来ないよう促していたはずですが」

P「まあな。文香だけならほら、最悪うちに泊まってけばいいし」

文香「そうですか……では次から着替えも用意して伺いますね」

P「……うーん、これぐらいじゃ照れてくれなくなったか。たまには顔を紅くしてうつむいてる文香も見たいなあ」

文香「……ご期待に添えず申し訳ありません」

P「あ、いや真面目に謝るところでもないんだけどさ」

文香「……Pさんは、今の私はお嫌いですか?」

P「ん? そんなの言わなくてもわかってるだろ?」

文香「……ええ。でも、時には言葉にしていただけると、私は……嬉しいです」

P「……ああもう可愛いなあ! 今の文香も俺は好きだよ!」

文香「……ありがとうございます。私も……お慕い申しております、Pさん」

P「ははは、俺の方が照れるなこりゃ」

文香「……。ところで、明日は大事なお仕事が入っていると伺いましたが」

P「そうだった! 文香とゆっくり話していたいけど、そういうことなんだ。ごめんな……睡眠不足の頭でこなす訳にはいかなくてさ」

文香「私のことはお気になさらず……きっと私達の為でもあるのでしょうから」

P「早く治ってくれないものかね、俺の不眠症。だいぶマシにはなってきたけどさ」

文香「……」

P「ま、さっきも言ったけど文香ならいつでも歓迎するぞ。用なんかなくたってここに来てくれていいからな?」

文香「……それを聞いて安心しました。では、Pさん……どうぞこちらへ」

P「助かる。…………ああ、やっぱり落ち着くよ……文香とこうしてると」

文香「私も……書を開く時間と同様に尊いひと時です。おやすみなさいPさん。安らかな眠りと良い夢が見られるよう、祈っています……」

P(……………………>>42)

①飛鳥の夢(ルート)を見る
②ありすの夢(ルート)を見る

1

P「……………………」

??「起きてくれ、P」ユサユサ

P「……んん? 飛鳥……?」

飛鳥「何度もすまないが、まぁすぐに寝かしつけられるのだから我慢してくれ。しばらく文香さんの都合が良い日にボクかありすが同伴することになったからね」

P「うん…………うん……? あれ、文香は……?」

飛鳥「文香さんならほら、そこだよ」



文香「……ありすちゃん、どうですか?」

ありす「はい……とても柔らか、じゃなくて、温かくて……Pさんが心安らかに眠れる理由も分かるような気がします……」



P「…………何でありすを胸に抱いてるんだ?」

飛鳥「キミを寝かしつけられるようになりたいというから、練習にどうかってね。文香さんとはボクよりも長いありすの方が適役だろう?」

P「……? あれ、俺、文香に寝かせて貰ってた気がしたんだが。それはもうぐっすりと」

飛鳥「寝ぼけてるのかい? あぁそれと、大事な仕事が入ってる日とか今の内に予定を教えておいてくれないか。毎日は無理でも、キミにとって外せない大事な日ぐらいはボクらとしても万全に臨んで欲しいしね」

P「うーん、しばらくは大丈夫だったような」

飛鳥「ふむ、では聞くことも聞けたし今日のところはお暇するとしよう。さぁP、おいで」

P「? なんで?」

飛鳥「なんでって、キミを寝かしつける前に帰ったらボクらが此処に来た意味がないだろう?」

P「ああ、そうか。でもありすの方が一瞬だった気がするし」

飛鳥「……ボクじゃ不満だと云いたいのかな?」

P「そうじゃないけど、俺だってむぐうううーー!?」 ギューッ

飛鳥「ほら、どうだい? これだけきつく締めればボクの心音もよく聴こえるだろう? 一瞬で片を付けてやるさ」 グイグイ

P「むぐぐ、固い、痛い! 寝れるかこんなもん!」

飛鳥「か、固いとはなんだ!」

P「骨っぽいのが当たるんだよ! もっと肉付けろ肉、ちゃんと飯食ってるのか?」

飛鳥「仮にもアイドルにかける言葉なのか!? キミのボクへの認識が如何なものか、是非一度とことん話し合おうじゃないか……!」 ギューッ

P「だから、寝れねっつの、ふぐうぅ!? ギブ、ギブ!!」 パンパン



ありす「はぁ……起きなきゃ……でも、なんだか癖になっちゃいそうです……」

文香(どうしよう……飛鳥さんを落ち着かせにいった方が良さそうだけど、こんなにリラックスしてるありすちゃんもこのままにしてあげたい…………どうすれば……)


ありす「安眠というより気絶に近かったように見えましたが、Pさんに何をしたんですか?」

飛鳥「ふん……変わった事はしてないよ。心音を聴かせてやった、ただそれだけさ」

文香「……飛鳥さんは、プロデューサーさんと仲が良いのですね」

ありす「えっ、そ、そうなんですか?」

飛鳥「うん? 文香さんともあろうものが、どこを読み違えたらその結論に至るんだ?」

文香「なんだか……お互いに遠慮が無いように見えたので……。気の置けない仲、とでも言うのでしょうか」

飛鳥「どうだかね……ぞんざいに扱われているような気はしていたが、物は言い様か」

ありす「それって飛鳥さんがPさんに敬意を払っていないからじゃないんですか?」

飛鳥「敬意?」

ありす「飛鳥さんの態度は目上の方にするものではないと思います。だからPさんも飛鳥さんにはおざなりなのでは?」

飛鳥「……いや、それは……そんなはずない! ボクがこういうヤツなのはボクをスカウトした時から承知のはずだ、今になって気に入らないから邪険にしようなんて……!」

文香「……プロデューサーさんは、そんな方ではないと私も思います」

飛鳥「そ、そうだろう? Pに限って、そんなはずは」

文香「あの方は……私達の個性を尊重して下さって、それぞれに適した距離感を保っているような……上手く説明出来ませんが」

ありす「そう言われると……そうかもしれませんね。出会って間もない頃、名前で呼ばれたくなかった私に気を悪くするでもなく苗字呼びにしてくれましたし」

飛鳥「今や名前で呼んでほしいと言わせるまで落とし込むんだから、Pは良く立ち回ったものだね」

ありす「わ、私のことはいいんです! つまりPさんは飛鳥さんとの付き合い方を今ぐらいでちょうどいい、と判断していることになりますが」

飛鳥「……そう、だね。ボクにしてはオトナと接しているとは思えないほど彼との居心地は悪くない、それは事実だ」

飛鳥(そう、居心地は決して悪くないんだ。悪くないのに、何かが引っ掛かっている……どうして?)

寮・飛鳥の自室


飛鳥「……むぅ」

飛鳥(それぞれに適した距離、か…………文香さんの言わんとするコトは、理解る。それはボクのようなヤツですら彼を悪く思っていないことが何よりの証左だ)

飛鳥(時に先生であり、時に友であり、時に親友であり、時に豚……これはいいか。ボクらアイドルにとってのプロデューサーに留まらず、アイドルが望む関係を自然に受け入れている)

飛鳥(……ならばボクは彼に何を望んでいる? あるいは、現状でその望んだ関係とどれだけの齟齬がある? 引っ掛かりがあるならこの辺のはずなんだが)

飛鳥(整理しよう。ボクが彼に望むのは…………望んでいるのは…………無理に言葉に収める必要はない、か)

飛鳥(つまりボクが今の距離感に満足しているかどうかだ。その観点から解を導くなら――)

飛鳥(……。少々物足りない、と感じているらしい。……どういうことだ?)

飛鳥(くっ…………考えても埒があかない、ここは発想を逆転してみるとしようか。Pからすればボクはどういうヤツなのだろう)

飛鳥(例えば――心音を直に聴かせてくれだなんて、セクハラ以外の何物でもない事を大勢のアイドルの中から真っ先にボクへ懇願した理由は?)

飛鳥(ハワイでの一件によるところが大きそうだが、それにしても許可してからは遠慮が無かった……遠慮が無い、文香さんにも言われたっけ)

飛鳥(何というか、目的が他にあったとはいえ少女の胸元なんてのは有り難がるシーンなんじゃないのか? ありすには飛びついていたくせに)

飛鳥(……む? ボクは有り難がられたいのか? そもそもボクだってPだから許してやったんだ、この身も心も安売りなんてするつもりはない)

飛鳥(その辺をPには勘違いして欲しくないものだな。――あぁ、そういう事だったんだ)

飛鳥(……いや、でも……それって……)

飛鳥(もしその感情を真とするなら……ボクは彼からもっと、遠慮というか――少女らしく扱って欲しい、という事になる……のか? このボクが?)

飛鳥(まさか………………えっ?)

飛鳥(~~~~~~)

今日はここまで。なんだか飛鳥が思春期の女子中学生みたいになってしまった(すっとぼけ

飛鳥「…………夜明け、か」

飛鳥(頭の中を整理するつもりが……はぁ。それにしても、陽が昇るのも早くなったものだ)

飛鳥(Pはあのまま眠れているだろうか。不眠症とはいうが明け方には眠れていたんだっけ?)

飛鳥(もどかしいな……夜はボクの時間だというのに、一人では力になることを許されないなんて。彼の言い分も理解はしているが)

飛鳥(地元とは違って夜でもそれなりに明るい、交通機関も多少は動いている。住所だって寮からそう遠くなかった)

飛鳥(……駄目だな。いくら言い訳を用意しても彼は納得しない。コドモは夜遅くに出歩くな、で片付けられてしまう)

飛鳥(せめてもっと外が明るければ、東京といえど住宅街では無理か。……明かるければ?)

飛鳥(今――薄明かりではあるが外を歩こうと思えば苦もなく歩ける。夜は明けたとみていい。夜明けともなれば、つまり朝だ。随分な早朝だけど立派な朝といえる)

飛鳥(朝なら……夜じゃない)

飛鳥(この時間にはもう眠れているのかも知れないが、彼の部屋に赴くための障害はないはずだ。強いていえば交通機関が動いているか怪しいところか)

飛鳥(いずれにせよ彼の部屋に向かうなら徹夜は避けたい、となれば夜更かしではなく早寝早起きをする必要があるな)

飛鳥「……ボクが早寝早起き、ねぇ。ふふっ」

飛鳥(参ったな、これではまるでボクのセカイが彼を中心に廻っているみたいじゃないか――)

P「何時に眠れてるか? そんなの聞いてどうすんだ」

飛鳥「キミの不眠症がどれほどの症状なのか聞いていなかったからね。まぁ、参考程度に」

P「言ってなかったっけ。そうだな……日付が変わる前に横になってから、気がつけば朝日を拝んでることもあるな」

飛鳥「それって、文字通り不眠のまま出勤してるということかい?」

P「いや、身体に限界が近づくとフッと意識が無くなる。寝坊しないよう何とか1時間ぐらいで起きて、オフならそのまま浅い眠りを繰り返してる、ってところか」

飛鳥「ふぅん……いつから発症したんだ?」

P「最近ではあるんだが、原因もよく分からんしほんといつの間にかなんだよなあ。何でこんな寝れなくなったんだろう」

飛鳥「病院には、ってその様子では聞くまでもないか」

P「忙しいからな……つってもこんな状態でお前ら乗せて車なんて運転するわけにいかないし、困ったもんだ」

飛鳥「幸い特効薬に代わるものはあるんだ。それを使わない手はないんじゃないかな」

P「まあな、それに関しちゃ秘策も用意してる。早いうちに試さないと」

飛鳥「? 何の話だい?」

P「お前らがいなくても何とかなるよう、俺なりに代替案を考えたんだよ」

飛鳥「……。キミの次のオフはいつ?」

P「明後日だけど? その時にでも試すつもりだ、駄目なら駄目でオフなら問題ないしな」

飛鳥(くっ……Pが誰の手も借りず眠りに就けるようになってしまえば、部屋に訪れる理由がなくなる……! 残された猶予は明日の朝、か……)

飛鳥(いや、それも今夜Pを寝かしつけに行かないことが条件になる。文香さんとありすの都合によるな……)

飛鳥「……それじゃあボクは文香さんとありすに今夜どうするか尋ねてくるよ」

P「あー、あいつらなら今日はそっとしといてやれ」

飛鳥「ん? 二人がどうかしたのか?」

P「俺もよく分からないんだが……とにかく今日は俺の部屋にこようとするんじゃあないぞ? 飛鳥が思ってる以上に夜出歩くのは危ないんだからな」

飛鳥「了解だ。――夜は、ね」

今日はここまで。次で飛鳥編終わりまでいきたい……


P「…………んん」

P(今何時だ……ってもう外が明るくなりつつあるのか。一時間は眠れたけど二度寝が微妙なやつだこれ)

P(まあ、そもそも寝入れるかどうかも怪しいしアラームだけはしっかりして、後はなるようになれだな)

 コンコン

P(……幻聴? こんな時間にノック音のような音が聴こえたぞ。俺ももう駄目なのか)

 コンコン コンコン

P(幻聴じゃなかった! いやむしろ幻聴であってほしかった! こんな時間に誰だよ怖いなあ……警察とか?)

P(確認しない訳にはいかんな……どれどれ)

P(…………)

P(制服着た可愛い子がいる……。中学生、か? 何で俺のとこなんかに、部屋間違えてるのかな)

P(……間違えてるなら間違えてるでこんな時間に、まさか朝帰り? おいおい親は何してんだよ……もしくは何かしてこうなった? とりあえず保護するべきか?)

P(うーん……面倒ごとには巻き込まれたくないけど、可愛いしなあ。こんな場面でもなきゃスカウトしたくなるところだ)

P(しょうがない、部屋番間違ってるだけかもしれないし一応出るか。何にせよ放っておくのはまずいよな)

 ガチャ...

P「あのー……部屋間違えてませんか?」

??「? あぁ、寝ぼけているのか。ということは多少は眠れていたのかな、それとも起こしてしまったかい?」

P「え? いや、あの、どちら様で……」

??「……。冗談を云っているように見えないのは気のせい、でもなさそうだ。敢えて問おう、ボクが理解らないのか?」

P「ボク? ……あれ、その声……あ、もしかして……飛鳥か?」

飛鳥「確かにこんな恰好してはいるが、少々薄情だと思うよ。P?」

P(気付かんかった……。制服だし、エクステないし、こんな普通の格好してる飛鳥は初めて見たぞ)

P「って、何でこんな時間に? いや、いい。とりあえず上がれ、話ぐらいは聞いてやろう。それから……覚悟しとけよ?」

飛鳥「ボクのことを認識した途端にそれかい。やれやれ、まぁ立ち話するつもりは毛頭ないしいいだろう」

P(あれほど夜遅くに出歩くなって言ったのに、さてどうしてくれようかこの不良娘……?)

P「――で、どうしてこんな時間に、しかも1人で来たんだよ。それにその格好は?」

飛鳥「そう急かさなくても順に答えるさ。こんな時間とは云うが、もう夜は明けてきている。今はむしろ朝に部類される時間だと思わないか?」

P「ほーう。夜遅くが駄目でも朝早くなら問題ないと、そんな屁理屈を思いついた訳だな?」

飛鳥「実際この時間帯はちらほら早朝ランニングに勤しむ人達がいてね、道を選べば人目に付かないということはなさそうだったよ」

P「歩いてきた、んだろうなその言い草……」

飛鳥「寮からはそう遠くなかったしね、マップアプリもあるし。体力をつけるには良い運動になったかな」

P「そこまでしてここに来られても、どうして来たんだよ。わざわざ俺の不眠症のために?」

飛鳥「……いや、まぁ……今日しかなくなる可能性があった、というのが大きな要因か」

P「ん? はあ……それで、その格好は?」

飛鳥「また寮に戻って支度し直すのもどうかと思ってさ、中学生には学校があるんだよ。そういえばキミにこんな恰好を晒すのは初めてだね」

P(普段の自己主張の強い格好しか見たことなかったもんな……なんというか、いつもとは違う可愛さが――っていかんいかん!)

P「あのな、飛鳥。少なからず俺のために来てくれたのはあるんだろうけど、やっぱり女の子が1人でこんな所まで来るのはいただけない。預かる身としては親御さんに申し訳が立たないぞ」

飛鳥「それは……コドモ扱い、か? キミがそう云うだろうと思案して、危ない橋を渡ってきたつもりはないよ。訪ねるには非常識な時間だというのは謝罪するけれど」

P「子供扱い……もそうだし、そうだな……」

P(もっと自分が年相応の女の子、それも美少女の部類に入ってることを自覚してほしいもんだ。危険は何も外だけとは限らな――って待てよ?)

P(これもいい機会か……ちょっと脅かして自覚を促してやるとしよう。頭が働かないのもあって、今なら際どいことも出来そうだ)

P「この話は……あー、ひとまず置いといてだな。俺を少しでも眠らせにきてくれたんだろう? 来ちまったもんはしょうがない、時間が勿体ないから早く済ませよう」

飛鳥「そう、だね。時間を浪費していては本末転倒もいいところだ。じゃあボクは枕側にでも――」

 ドサッ

飛鳥「――、え?」

P(さすがの飛鳥もベッドに押し倒されりゃ平然としてられないだろう。さあ、ここからどうしてやろうか)

近い内に飛鳥編終わらせますので、今回はとりあえずここまでということでどうか一つ

飛鳥「……」

P「……」

飛鳥「ら、乱暴に扱ってくれるじゃないか……どういうつもりだい?」

P「言っても聞かない飛鳥には、身体に直接教えてやる必要があると思ってな」

飛鳥「なっ……ふ、ふふっ。キミにはあまり似合つかわしくないなその台詞は。さぁ退いてくれ、制服もシワになるじゃないか」

P「あのな飛鳥。一人暮らしの男のところに女の子がたった一人で来ることの意味……お前なら少し考えれば分かるんじゃないか?」

飛鳥「……それは、キミがボクを一人の少女として認識していることが前提の話だ」

P「俺がお前を女の子と見なしていない、とでも?」

飛鳥「……違うの?」

P「じゃなきゃこんな事、したいとも思わないぞ」

P(さすがにお触りはアウトだから、唇奪うフリでもしてギリギリまで迫ってみるか)

飛鳥「うぅ……」

P(お? 借りてきた猫みたいに縮こまっちゃってまあ、こういうところがまだまだ子供なんだよな……実際子供だから仕方ないけど)

飛鳥「……くっ」

P(大人の男の力に敵うはずもなく、自分の力だけじゃどうにもならない事があるのをこれで体感してくれたか?)

飛鳥「ま、待ってくれ! 本気なの――ひゃっ!?」

P(頬を撫でただけで良い反応だな。……やばいやばい、そろそろ音を上げてくれないと俺も引き際を誤りそうだ)

飛鳥「あ……う…………っ」

P(まだか? いざとなったら首筋にでも不時着して、それからネタばらしかな)

飛鳥「……やっ」

P(お、やっとか?)

飛鳥「やめっ――ま、まだ……心の準備がっ……!」

P「…………、ん?」

P(今、なんて言った?)

飛鳥「…………っ」

P(目を瞑ったまま体も縮こませてるし、もういいよな。……とはいえ)

P「あー、その。ちょっといいか?」

飛鳥「……?」

P「さっきの、飛鳥に心の準備とやらが出来てたら、俺は飛鳥にこういうことしていいの?」

飛鳥「……。ボク……そんなこと言った?」

P「言った言った」

飛鳥「本当に?」

P「ほんとほんと」

飛鳥「……………………………………」

P「飛鳥?」

飛鳥「…………いだろう」

P「え?」

飛鳥「そ、そんなワケ……ないに、決まってる、だろう……」

P「お、おう」

P(こんだけ顔が真っ赤だと自分が何を口走ったのか理解したらしいな。あ、なんかめっちゃ可愛く見えてきた――じゃなくて)

P「えっと……すまん。これぐらいやらなきゃきかないと思って、今までのはただのフリだ。ほら、離れてやるから」

飛鳥「…………フリ?」

P「本気で襲ったりするはずがないだろ? いや、正直なところ魔が差しそうにならなくもなかったけど、俺はまだまだお前らのプロデューサーでいたいからな」

飛鳥「……。なんだ、そういうことか……」

P「ともあれ、見舞いに行った相手が狼に成り代わってることもあるんだ。飛鳥は女の子なんだから、用心するようにしてくれ」

飛鳥「フッ……女の子、か。ボクの目指すべきが灰かぶりなのなら、赤ずきんになりきっている場合ではない。そうだね?」

P「ま、そういうことだ」

飛鳥「だがキミは、少なくとも狼ではなかった。狼の皮を被った面倒見のいいお婆さんといったところか」

P「一周して変な役回りになってるな俺」

飛鳥「ああ、でも確か……魔が差しそうになったとか言ってたよね。それについては追及する余地があると思うが」

P「えっ、あれえ? そんなこと言ったっけなあ?」

飛鳥「とぼけても無駄さ。何だい、自分の役柄も忘れてボクを味見でもしたくなった?」

P「ま、まあいいじゃないか。俺はこの通り手出さなかったんだから」

飛鳥「よくない! 演じていただけとはいえ、その一瞬の間キミはボクを……は、辱めようとしていたことには変わらないんだからな!」

P「それを言われると……怖い思いさせたのは、謝るよ。やりすぎた。すまなかった」

飛鳥「だ、だから……今回はこれで幕引きにしてあげようと、提案をしているんだ。ボクにそういう気を起こしかけたのか、正直に答えてほしい。いや、キミは答えなければならない」

P「えー……どう答えても飛鳥に嫌われるんじゃないかこれ」

飛鳥「いいから答えるんだ。それにボクはそこまで狭量じゃない。嘘さえ吐かなければ、あるいは寛容な処遇を得られるかもね。その逆もあり得るが、どうする?」

P「……わかったよ。正直に答えるさ、じゃなきゃ許してくれそうもないしな。あー、っとだな。俺はさっき、飛鳥のことを――」


そして


コンコン ガチャガチャ

P「ーー何だ、今日も来たのか」

飛鳥「そっちこそ、起きてたんだ」

P「まあな。……はあ、アテさえ外れなきゃご足労願うことも無かったろうよ。……心音だけじゃ眠れないなんてなあ」

飛鳥「ふふ、それはどうも。まぁ今更どうなろうとこの部屋の鍵はまだ借りておくつもりだけどね」

P「好きにしろい。止めたって聞きゃあしないなら、俺が眠れてようと中入って匿えるようにしといた方がマシだ」

飛鳥「……」

P「ん、どうした?」

飛鳥「いや……キミ、少し汗をかいているようだね」

P「そりゃ暑いからな。年中スーツの俺には地獄の季節だ、ははは」

飛鳥「……冷房が効いた部屋で? それに寝間着とも取れるがそのジャージ姿、玄関には運動靴……ボクが来ることを予見していたような応対の早さ」

P「……なんだよ、何が言いたい?」

飛鳥「別に……ふふっ、やはり面倒見が良いなキミは」

P「何のことだか。軽く運動して疲れた方が少しは眠れそうってだけだ。ついでに俺が何をしてたとしても、それはついでに過ぎない」

飛鳥「はいはい、それじゃボクはシャワーを借りようかな。たまには一緒に浴びるかい?」

P「狭いからいいよ、浴びたいならさっさと浴びとけ」

飛鳥「ちぇっ、つまらない返事だな。すぐに戻るからそれまでに寝ないでくれよ?」

P「俺としては寝れるに越したことないんだが……わかったよ」

P(んー、今日あたり来そうだと思って様子見しに行ったのバレたか。そりゃ夜中よりマシな明るさだけどマシってだけだ、心配なものは心配なんだから仕方ないだろ?)




飛鳥「お待たせ。起きてる?」

P「これで眠れてるなら苦労はしないさ。……あー、俺もシャワー浴びとこうか」

飛鳥「ボクを気にしてのことなら、それには及ばないよ。その様子なら最低限は対処してるみたいだし、キミのことだからいつもは起きた後で眠気覚ましも兼ねて浴びればいいや、って感じだろう?」

P「何度も入るの面倒だしな。……まあ飛鳥がいいならいいんだけど。今からなら2~3時間は眠れるか……? じゃあ、頼む」

飛鳥「うん…………その前に、P。たまにはボクもキミの鼓動を聴いてみたいんだけど、いいかな?」

P「は? 今? いやいや、だとしてもそれこそ」

飛鳥「すぐ終わるから。……やっと準備も、出来たことだし」

P「? うーん……別にいいけど、何でまた?」

飛鳥「いいから、早く済ませよう。ほら横になって」

P「わかったわかった、これでいいのか?」

飛鳥「うん。……へぇ、結構聴こえるものなんだ」

P(くっ……平常心平常心。うちに通い詰めるようになって、外では見せない飛鳥の女の子らしいとこが目に付くようになってから自制心が鍛えられて困る)

飛鳥「? 特に鼓動を早めている様子ではないね。ボクがこうしてるっていうのに」

P「このぐらいで俺が緊張あるいは興奮するとでも思ったか?」

飛鳥「ふぅん……気に入らないな。まぁいいさ、足りないのなら足すまでの事だ」

P「えっ? 何を――」

飛鳥「んっ……」

P「――――!?!?!?!?」

飛鳥「…………ふ、ふふ。どうしたんだい、こんなに鼓動を早めたりして」

P「ばっ……お、お前なあ!? 飛鳥の方こそそんなに顔紅くして、お前の鼓動も聴かせてみろ!」

飛鳥「なっ、そ、そんなにボクの胸元に顔を埋めたいのか?」

P「言い方ぁー! こんな時だけ、あーくそ!」

飛鳥「……だんだん理解ってきたよ、キミを手玉に取る方法が。ふふっ♪」

P「ぐぬぬ……。あんまり大人をからかうもんじゃあないぞ、ん?」

飛鳥「おやおや、こんな時だけコドモ扱いするのかい?」

P「まあな。俺は悪い大人なんだ。参ったか」

飛鳥「年の差を笠に着るキミじゃないくせに。それに、確かにボクはキミより長くは生きていないが、キミよりずっと少女としてこのセカイで生きてきたんだ。年の差だけでボクをやり込めるとは思わないことさ」

P「んー?? わかるようなわからないような理屈を並べおって……はあ。もういいから、そろそろ寝かせてもらえませんでしょうか」

飛鳥「む、少々遊び過ぎたか……やはり夜も明けてからでは時間が足りないな。午前0時に魔法が解けるよりはいいかとも思ったが、せっかく同じ時を刻めてもすぐに夢の中へ誘う案内人にならなくてはならないとは何とも」

P「今度オフにどこか連れてってやろう、うん。それでいいか?」

飛鳥「♪ っ……ゴホン、ところで文香さんとありすはどうしたんだ? ボクのようにここへ通っている形跡もないみたいだが」

P「あー……それなんだが、聞く限りではどうもありすはあの時文香が心音を聞かせる練習に付き合って以来、文香の安らぎが忘れられなくなり」

飛鳥「……ん?」

P「文香は文香でそんなありすを胸に抱くことが心の平穏をもたらすようで、互いに互いの存在が不可欠になったらしい」

飛鳥「は?」

P「だもんで、そうしないと眠れなくなったみたいだから最近は夜をありす宅で過ごして一緒に寝てる……んだそうな。元々ありすから話は聞いてたせいか親御さんの信頼を文香も得られてるみたいだし、ならいいかなって」

飛鳥「……あの日からやけに親密な関係を築いているなと思っていたら……いや、何も云うまい。ボクらも他人のことをとやかくいえないな」

P「ふあぁ……あ、俺はこの不眠症を絶対治すからな。いつまでも誰かさんに頼ってられるかってんだ」

飛鳥「……鍵、返さないよ?」

P「その話は――また後でしよう、うん。それじゃあ、いいか?」

飛鳥「あぁ、おいで。……おやすみ、P」



いつ終わるとも分からなくなってきたので、一旦ここで終わります

ありす編及びハーレム編は気が向いたらまた改めてスレ立てます……本当はちゃっちゃとこなして各属性で似たような感じにやってみたかったけど仕方ないね

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