ほたる「誰かを不幸にするためには、まず手を繋ぎます」 (21)


これは「世界がもし100人の村だったら」という本を読んだときのはなしです。

当時、私はまだ背の低い女の子でした。
だから、この世界には何十億人もの人がいたり、
食べ物がなくって今にも死んでしまう人がいたり、
他人のとは違う神さまを信じる人がいたり、
肌の色が違う人がいたりするということも知らない幼い子供でした。

それでも、ただひとつ。
私は“不幸”については他の誰よりもずっと敏感な子でした。

そんなわけで、私はこの本を読んだとき、こんなことを考えたのです。

「もしもこの世界が100人の村だったら、
そのなかで不幸な人はどれくらいいるんだろう?」



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私には、不思議なちからがありました。
それは「誰かと手を繋ぐと、その相手を不幸にできる」というものでした。

私はこれを自分で“不幸が伝染した”と言っていたのですが、
とにかく、私は他人と触れ合うことで無条件に、
その人を不幸に陥れることが出来たのです。

だから、もしもこの世界が100人の村だったら、
たとえすべての人が生きることに幸せを感じていたとしても、
私がいるだけで、数日もすればみんな不幸にすることが出来たはずです。

疫病神とでも言うんでしょうね。
私は産まれながらにして、大きな大きな業を背負っていたのです。


「白菊ほたるに近づくと、死んでしまうらしいよ」
そんな噂が流れ出したのは、たしか、小学五年生のことだったと思います。

きっかけは、クラスで行われたフォークダンスでした。
その日、私はペアになっていた男の子と手を繋いだのですが、
不幸なことに、その子は次の日に病気で倒れ、そのまま入院してしまったのです。

それを皮切りに、周囲のクラスメイトは口々に叫びました。
「白菊さんの知り合いって前に事故にあったらしいよ……」
「携帯にも不幸のメールばっかり届くんだって」
「俺、あいつの頭に植木鉢が落ちてきたの見たぞ」

これまでの出来事もあり、瞬く間に話には尾ひれがつきました。
それで、気が付いたころにはそんな根も葉もない噂が流れていたのです。


廊下を歩けば、ひそひそと何かを囁かれ、
教室に居れば、私を見る目が明らかにおかしい人たちが一杯いました。

私は、それも仕方のないことだと半分諦めてはいたのですが、
幼い私にとって、友達からも見放されてしまうということは、やはり辛いことでした。

誰も近づこうとせず、まるで腫れもののような扱いを受けた私は、自分の体質を恨みました。

――どうして私はこんな不幸に見舞われてしまうのだろう。

私の心は、苦しさで満たされていました。
深い深い苦しみのなかで、息をしようともがいていたのです。


しかし、中学生にあがって、私を待っていたのは大きな転機でした。

「すいません、少しお時間よろしいですか」

落ち着いた声の男性が、道端で歩いていた私に声をかけてきたのは、
春を超え桜が散りだした季節でした。

「……あの、私になにか」おそるおそる私は尋ねました。
するとスーツの男性は胸ポケットから名刺を出し、こう言ったのです。

「失礼しました。私はこういうものです」

そう。なんと彼は、アイドル事務所のプロデューサーだったのです。


「えっと……あの、わ、私がアイドル……ですか?」

「はい。差支えなければ、お話だけでも」

スーツを着た男性は、小さく笑みを浮かべていました。

「えっと……あの……」

私はずいぶんと戸惑っていました。
こんな私がアイドルになってもいいのだろうか。
そんなことばかりが頭の中を駆け巡っていました。

私がアイドルになって、それで、何ができるのだろうと。


ひとまず話だけでも聞こうと、私たちは近くのベンチに腰を下ろしました。
アイドルがどんな仕事をするのか、一頻り説明してくれた男性は、私の方を向いて瞳を輝かせていました。

「アイドルという仕事がどんなものか、今のあなたにはまだ分からないことばかりかもしれません」

私は、男性の言葉にちいさく頷きました。

「ですが、あなたには素質があります。トップアイドルになれる、そんな大器を持っていると、私は思います」

「私が、ですか……?」

男性は「ええ」とほほ笑むと、話をつづけました。


「これまで私も、数々のアイドルを見送ってきました。その中でも、あなたはどこか違った空気を纏っていると感じました」

「……そんなこと」

私は否定しながらも、どこか男性の言葉に惹かれていました。
これまでの不遇を思い返してみても、こんな夢のような誘いはなかったはずです。

「どうでしょうか。私と一緒に、新たな一歩を踏み出してみませんか」

男性は私に向けて、その手を差し伸べてくれたのです。
その真摯な姿勢に胸を打たれた私は、彼の手を取り、そして決心しました。

「……はい。私、アイドルとして頑張ります……っ!」


――その会社が倒産してしまったのは、私が事務所に配属された三日後のことでした。


つづきは後ほど。

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