月「地獄通信?」 (94)

・デスノート×地獄少女

・今更感満載かつ何番煎じか分からないとか言わない

・時系列的にはデスノは月とミサ接触後、地獄少女は二籠中盤あたり

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【帝東ホテル内・キラ事件特別捜査本部】

L「月君、地獄通信って知ってますか?」

月「……?」

月「知ってるよ。最近流行ってる都市伝説だろ」

月「確か、インターネット上のサイトで憎い相手の名前を書き込むと」

月「地獄少女が代わりに怨みを晴らしてくれる……だっけ?」

月「どうせキラ事件から派生した他愛もない噂話だ」

L「いえ、確かに再び噂が広まったのはキラ事件の影響でしょうが」

L「噂自体はそれ以前からあったようです」

月「何だ、竜崎。お前、まさかそんな噂信じてるのか?」

月「世界一の探偵も意外に子供っぽいんだな」

L「いえ、信じているというわけではありませんが」

L「ですが、実際にキラという直接手を下さず人を殺せる者が存在しているんです」

L「100%ありえないとも言いきれないのでは?」

月「まあ……それはそうかもしれないが。お前、何が言いたいんだ?」

L「試してみませんか? 私達で」

Lが月に見せたノートパソコンのモニタには有名検索エンジンの検索結果が映し出されていた。
検索ワードは「地獄通信」。最上位には同名のサイトが表示されている。

月「……こんな事してていいのか?」

月「僕達がこうしている間にも、皆はキラ事件の捜査をしているというのに」

L「そんなに時間はかかりませんよ」

L「それに、噂が真実だとすれば、キラと関係がある可能性もあります」

月「……なるほどね」

月「だが、試してみてもし地獄通信が本物だとしたらどうする?」

月「人が一人死ぬ事になるんだぞ」

L「そうですね」

L「ですが、試してもいい人物で、我々が共通して怨んでいる相手……」

L「一人だけいるじゃないですか」

月「キラ……」

月(……やはりそうくるか)

月(となると、竜崎の目的は僕の反応を見る事)

月(だが、こんな子供騙しに反応すると本気で思っているのか?)

月(それとも、まさか……地獄通信について、本気で信じてるのか?)

L「どうします? やめますか?」

月「……やるよ」

月「ここで断れば、僕がキラで死にたくないから断った……とか言い出すんだろ?」

L「さあ、どうでしょう?」

Lを押しのけるようにノートパソコンの前に座ると、サイト名をクリックする。
しかし、表示されたサイトには「Not Found」の文字があるだけだった。

月「……おい、これはどういう事だ?」

L「やはり噂は噂でしたか」

月「おい……」

L「さ、我々も捜査に戻るとしましょう」

月「おい! ……ったく」

月(地獄通信に地獄少女……か。まったく、くだらない……)

【夜 月の部屋】

リューク「クククッ。ライト、地獄少女に殺されずにすんでよかったなぁ」

月「フン、地獄少女なんてただの都市伝説だ。本当に殺されるはずがない」

リューク「それにしては、そんな本まで買って熱心に調べてるじゃないか」

リューク「『真実の地獄少女』……だったか?」

月「フン……」

リューク「で、読んでみて何か分かったか?」

月「まあね。とりあえず、僕の知っている噂は完全なものじゃなかったらしい」

『真実の地獄少女』に書かれていた地獄通信に関する噂には、
本筋こそ月の知る話と同じだが、三つの情報が付け加えられていた。

・地獄通信は、深夜0時ちょうどに、強い怨みを持つ者だけがアクセス出来る。
・依頼者は地獄少女から赤い糸のついた藁人形を渡され、その糸を解く事で依頼は遂行される。
・地獄少女に依頼した本人も、死後地獄へと流される。

月「まあ、理には適ってると思うよ」

月「誰でもサイトにアクセス出来るとなると、すぐに地獄少女なんて嘘だとバレてしまう」

月「アクセスを制限する為に深夜0時に限定し、さらに依頼者にもペナルティが課せられる」

月「それでも繋がらなかった場合は、強い怨みがなかったからとなるわけだ」

リューク「じゃ、やっぱり噂は噂か」

月「多分ね。だが……デスノートがあれば、不可能ではない」

月「ただの噂であればそれでいいが、もし僕以外のノートの所有者の仕業なら……」

月「放っておくわけにはいかない」

リューク「なるほどな。でもよ、ノートを使うには大事な物が足りないぜ」

月「……ああ」

月「ネットでも簡単に調べてみたが、地獄少女への依頼に顔写真等が必要との情報は出て来ない」

月「仮に地獄少女がノートの所有者だとすれば」

月「名前を受け取った後、名前以外に何の情報もない中でその人物を探し出す必要がある」

月「そこまでして地獄少女に何のメリットがあるのかが分からない」

月「地獄少女がノートを手に入れた人間でなく、死神そのものである可能性もあるが……」

リューク「少なくとも俺はそんな面倒な事、わざわざやる死神なんて見た事ねえなぁ」

月「まあいい。どの道、真実はもうすぐ分かるさ」

月は先程地獄通信について調べてから電源を入れたままのパソコンのブラウザを立ち上げ、
検索サイトのサーチボックスに『地獄通信』と打ち込む。

月「竜崎と試した時は深夜0時じゃなかった」

月「後5秒……4……3……2……1……」

パソコンの画面右下の時計が0時ちょうどを示すと同時に、月はサイト名をクリックした。
瞬間、まるで電源が落ちたかのように、画面が黒く染まる。
真っ黒の画面の中に橙色の炎が揺らめいた。

月「……見てみろよ、リューク」

一瞬の後に表示されたのは、余りにも簡素な作りのサイトだった。
黒一色の画面に、白文字で一行だけ「あなたの怨み、晴らします。」の文字。
その下に入力用のウィンドウと「送信」と書かれたボタンが設置してある。

リューク「ククッ、まさか本当に出て来るとはな」

月「いや、まだよく出来たイタズラという可能性も……」

月(だが……この感覚、デスノートを初めて手にした時と似ている)

月(一度は試してみたくなる、魔力とでも言うべきもの……)

月(まさか……本物なのか?)

リューク「で、どうすんだ?」

月「…………」

月はウィンドウにたった一文字、「L」と打ち込むと、送信をクリックする。

リューク「ウホッ! お前、何の躊躇いもなしかよ」

月「噂の内容が本当なら、名前を送信して即契約が成立するわけじゃない」

月「だから何の問題もない……はずだが……」

リューク「……何も起こらねえな」

月「ああ……あのサイトからは何かを感じたんだがな」

リューク「何かって?」

月「いや、何でもない。やっぱり噂は噂って事か……」

諦めてブラウザを閉じようとした瞬間、静寂を破るように鈴の音が響いた。



「―――呼んだでしょ?」



鈴の音と同時に聞こえた微かな声に、月は思わず振り返る。
そこには見た事もない一人の少女が佇んでいた。

月(この女、いつの間に……?)

月(僕の部屋は二階にあり、ドアには鍵がかかっている)

月(人間が音もなく侵入する事は不可能……という事は……)

月「まさか、お前が……?」

あい「私は閻魔あい」

月「地獄少女……か」

月「……想像していたのと違うな。てっきり、こんな奴が来るのかと思ったが」

ふと思い付き、月はリュークへと視線を送る。
あいは月の視線を辿り、そして無言のまま小首を傾げた。

月(リュークが見えていない……? 死神ではないのか?)

月(いや、演技という事も……だが、そんな事をして何の意味がある?)

あい「受け取りなさい」

あいが差し出した右手には、黒色の藁人形が握られていた。
人形の首には赤い糸が蝶結びにされている。

あい「あなたが本当に怨みを晴らしたいと思うなら、その赤い糸を解けばいい」

あい「糸を解けば、私と正式に契約を交わした事になる」

あい「怨みの相手は速やかに地獄に流されるわ」

月「ま、待て」

月「僕はLとしか書いていない。それで本当に怨みの相手が分かるのか?」

あい「ええ」

月「っ……!」

月(本当に顔だけでなく本名が分からない相手でも殺す事が出来るのか……!?)

月「だが……Lというのがどんな人物か、君は知っているのか?」

月「本当に怨まれるに足る悪人かどうかだって――」

あい「それはあなたが決める事よ」

あい「私は依頼があれば受ける、それだけの事」

月「怨みさえあれば、依頼が正当な物かどうかは考慮しないという事か……」

あい「ただし、怨みを晴らしたら、あなた自身にも代償を支払ってもらう」

月「代償?」

あい「人を呪わば穴二つ……あなたが死んだら、その魂は地獄に堕ちる」

あい「極楽浄土には行けず、あなたの魂は痛みと苦しみを味わいながら永遠に彷徨う事になる」

月「……天国や地獄なんて現実には存在しないんじゃないのか?」

月「生前何をしようと人の行きつく所は同じ……死は平等のはずだ」

あい「いいえ」

あい「地獄は、あるわ」

瞬間、月の足元から青白い炎が噴き出した。

月「な、何が……!?」

状況を整理する間もなく、月の視界は炎に遮られる。
同時に、炎の壁を突き破り現れた無数の手が月の体中を掴み、引き裂かんとばかりに力を籠める。

月「う、うわぁぁぁぁぁっ……!!」

リューク「――――おい、ライト。ライトってば」

月「え……?」

月(何だ、今のは……?)

月(僕の体には傷一つついていないし、何かが燃えたような痕跡もない)

リューク「ククッ、どうした? 地獄でも見えたか?」

月「地獄……」

月「……今のが、地獄で味わう苦痛って事か?」

あい「そうね。ほんの一部だけど」

月「なるほどね……はは、たまったものじゃないな」

月「悪いが、僕にはその藁人形は必要ないようだ」

あい「そう」

相変わらず何の感情も感じられない口調で短くそう呟くと同時に、
あいの姿は暗闇へと溶けていった。

月「消えた……」

月「地獄少女……どう考えても、普通の人間ではない」

月「だが、死神ならば、その死神の所有するノートに触らなければ姿は見えないはず」

月「つまり、人間とも死神とも異なる存在……そうだな、リューク」

リューク「ああ、俺もあいつが何なのかはよく分からねえが」

リューク「人間でも死神でもないって事だけは確かだ」

月「となると、おそらく人間を地獄に流す……殺せるというのも本当だろうな……」

リューク「そこまで分かってるなら、Lを流しちまえばよかったじゃねえか」

リューク「それとも、地獄にビビッちまったか?」

月「……幻覚を見せられたからといって、それが地獄が存在する証明になるわけではない」

月「僕はそんなあるかどうかも分からないものを恐れたりはしないよ」

月「ただ、僕にはデスノートがある」

月「こいつで試せる事が残っているうちは、地獄少女に頼るつもりはない」

月「それに、Lを流すのはリュークが思うより簡単じゃない」

リューク「あん? どういう事だ?」

月「多分そのうち分かるよ」

月「それよりも問題は、僕が地獄少女の標的となった場合だ」

月「地獄少女への依頼に本名が必要でないのなら……」

月「キラと書かれただけで僕は殺される可能性がある」

リューク「ククッ、確かにな」

月「リュークは僕の味方でもLの味方でもないと以前言っていたが」

月「これはL以外にキラを追う者が現れた場合でも、リュークはどちらの味方もしない……」

月「そう理解していいな?」

リューク「ああ」

月「なら、相手が人間じゃなければどうだ?」

リューク「あん?」

月「何処の誰とも分からない奴が、キラが僕だとも知らず、地獄通信にキラと書き込む」

月「そんな形でのキラとLとの決着を、リュークは望んでいるのかって事だよ」

リューク「おいおい。まさかお前、俺に地獄少女を殺せっていうんじゃないだろうな」

月「いや、流石にそこまでしてもらうつもりはないよ」

月「リュークに頼みたいのは、監視カメラを見つけるよりも簡単な事だ」

リューク「でもよ、誰かがキラって書き込むだけでアウトなのに、防ぎようなんてないだろ?」

月「いや、そうでもない」

月「『真実の地獄少女』のこのページを見てくれ」

リューク「なになに……」

リューク「地獄少女は三人の僕を使い、依頼者やターゲットの身辺の調査をする場合もある……」

月「おかしいと思わないか?」

月「地獄少女は依頼が正当な物かどうかは考慮しない」

月「ならば、この身辺調査は何の為にある?」

リューク「そいつは、確かにそうだな」

月「この身辺調査に意味があるとすれば……」

月「その目的は調査している人物が依頼人の怨みの対象に間違いないかを確認する為」

月「そうとしか考えられない」

月「つまり、誰かがキラと書き込んだとしても、地獄少女側が僕がキラだと特定出来なければ」

月「僕は地獄に流される事はない」

リューク「そりゃあそうかもしれないが……」

リューク「でもよ、その本の内容がどこまで本当かも分からねえぜ」

リューク「三人の僕って、漫画やアニメじゃないんだからよ」

月「へえ、リュークでもやっぱりそう思うか」

月「確かにこの本、真実と銘打ってはあるが、ノンフィクションとはとても思えない内容だ」

月「リュークの言う通り、子供向けの漫画かアニメの設定を読まされている気分だよ」

リューク「だったら……」

月「そう、あまりにリアリティがなさすぎるんだ」

月「ネットで調べてみたら、著者の柴田一は元は有名な経済誌の記者だったらしい」

月「それにしては、この『真実の地獄少女』の内容はあまりにお粗末だ」

月「これもネットの情報にすぎないが、この本が柴田一の自費出版らしいというのも気にかかる」

リューク「つまり……どういう事だ?」

月「あまりに嘘っぽいからこそ、本物かもしれないって事さ」

月「あのふざけた態度の竜崎が、どうやら本物のLらしいのと同様にね」

月「何にせよ、内容が嘘ならリュークの言う通り防ぎようがないんだ」

月「信じてみる価値はあるさ」

リューク「ふーん……」

リューク「つまりは、やる事はこれまでと変わらないって事か」

月「ああ。相手がLか地獄少女か……それだけだよ」

リューク(ククッ、そう簡単にいくのかねぇ。相手は人間じゃないんだぜ?)

リューク(何にせよ、退屈しのぎにはちょうどいいかもな)

リューク「いいだろう。俺に出来る事なら協力してやる」

月「助かるよ、リューク」

リューク「ライト対地獄少女……これもまた面白! だ!!」

【翌日 キラ事件特別捜査本部】

L(地獄通信……そして、地獄少女……)

L(私がその存在に気付いたのは、数日前……)

L(警察庁次長・北村是良から受けた電話が始まりだった)



【数日前】

北村『L……キラは人を消す事が出来るのだろうか?』

L「……?」

L「消す、とはどういう意味でしょうか?」

北村『……言葉通りの意味だ』

北村『取調中の容疑者が捜査官の目の前で消滅――』

北村『文字通り、一瞬のうちに跡形もなく消えてなくなったのだ』

L「取調室にカメラ等は?」

北村『いや……映像等の証拠は何もない……』

L「……確かに、そのような事が起きればキラの仕業と考えるのも不思議ではありませんが」

L「しかし、心臓麻痺ではなく“消えた”という点が引っかかりますね」

L「仮にキラにそのような力があったとして……」

L「心臓麻痺ですむ所を、わざわざ捜査官の目の前でその能力を披露するメリットがない」

北村『うむ……』

北村『実はキラについて騒がれ始めた頃から、警察がマークしていた容疑者の中で』

北村『行方の分からなくなった者が増加している』

北村『日本警察の威信に関わるので、公表はしていなかったのだが……』

L「それに関してはこちらも把握しています」

L「単にキラに裁かれたが遺体が見つかっていないとしか考えていませんでしたが……」

L(しかし、もしキラとは別に手をくださずとも人間を“消せる”者が存在するとしたら……)

L「分かりました。私の方でも調べてみましょう」

【現在 キラ事件特別捜査本部】

L(そうして調べを進めるうちに辿り着いたのが……)

L(同時期より再び広まり始めた地獄通信の噂だった)

L(一応夜神月にもカマをかけてみたが、深夜0時にアクセスするという事すら知らない様子だった)

L(演技の可能性もなくはないが……)

総一郎「竜崎」

総一郎「息子が来たようだが……」

L「そうですか。では皆を集めて下さい」

大学を終え捜査本部に訪れた月は、目の前の光景に少々面食らったような表情を浮かべた。
いつもなら各々Lに指示された捜査を行っている捜査員達が、
月を待っていたかのようにリビングに会している。

月「何かあったんですか?」

L「まずは月君も座ってください」

月「ああ……」

Lに促されるままに着席する。

L「昨日月君が帰った後、皆と話したのですが……」

L「我々捜査本部は、キラ事件と並行して地獄通信、地獄少女についての捜査も行う事となりました」

月「ああ、そうなんだ」

L「驚かないんですか?」

月「はは、昨日地獄通信の話をされた時点で何となくそんな気はしてたよ」

月「竜崎は意味もなく雑談をしてくるようなタイプじゃないからね」

L「では今後は真意を悟られ難くする為に、意味のない雑談も織り交ぜる事にします」

月「ああ、そう……」

その後、Lは捜査に至る経緯として、北村次長から聞いた話や
近年の行方不明者の増加に関するデータ等を月に伝えた。

月(なるほど。消える……か)

月(そういえば“地獄に流す”が何を指すのか地獄少女に聞くのを忘れていたな)

相沢「一ついいだろうか?」

L「何でしょう」

相沢「そこまでは我々も昨日聞いたが……」

相沢「そもそも地獄少女なんて実在するのか?」

松田「何言ってるんですか、相沢さん! 北村次長が嘘を吐いてるって言うんですか?」

相沢「ば、馬鹿! そうは言ってないだろ!」

相沢「だが、例えば何かの勘違いとか……証拠はないわけだろう?」

L「そうですね。日本は取調べの可視化が遅れてますから」

相沢「それに、地獄少女というのも結局キラと同一人物の可能性も……」

L「それはないでしょう」

L「少なくとも、我々がこれまで追って来たキラではない」

相沢「それは何故だ?」

L「我々が追ってきたキラは殺しに顔と名前が必要……これは99%間違いない」

L「しかし、地獄通信で分かるのは名前だけです」

L「まあ報道されないような軽犯罪も含めると、キラも全ての犯罪を把握するのは難しいでしょうから」

L「情報収集のツールとして地獄通信を使っているというのもなくはないですが……」

L「それでも、キラならばもっと上手くやりますよ」

月「まあ、そうだろうね」

月「名前だけではそいつが悪人かどうか、そもそも実在するかどうかも分からない」

月「そんな情報貰っても、キラも困るんじゃないかな」

相沢「な、なるほどな」

総一郎「では、我々がまずやらねばならない事は、地獄少女の存在を証明する事だな」

松田「そうですね。以前竜崎がキラの存在を証明したように……」

月「いや、そう簡単にはいかないと思うよ」

総一郎「どういう事だ、月?」

月「これから話す話は、地獄通信の噂が真実ならという前提だが……」

月「キラ事件の場合は犯罪者への裁きはキラという個人の意思で行われる」

月「だが、地獄通信は違う」

月「その人間を消すかどうか決めるのは地獄少女ではなく、あくまで地獄少女に依頼した者だ」

月「つまり、キラと違って裁きの基準が一定じゃないんだ」

月「例えば犯罪者やLのダミーをテレビ出演させたとしても、基準を満たすかどうか分からない」

月「また、現在分かっている行方不明者の中から地獄少女の犠牲者を識別するのも」

月「同じ理由からほぼ不可能だと思われる」

月「逆怨みも含めれば、この世に絶対に怨まれる事のない人間なんていないからね」

L「まあ、月君の言う通りですね」

L「確実なのは我々の誰かが地獄少女に依頼をする事ですが……」

総一郎「そんな事が許されるはずがない」

L「……そう言われると思ってました」

L「となると、残る手はこれくらいですかね」

そう言うと、Lは一冊の本――『真実の地獄少女』――を取り出し、ページをめくる。

L「依頼者の胸には死後、自分も地獄に流される証として、刻印が刻まれる」

松田「えっと、その本は?」

L「参考資料です。皆さんも後で読んでみてください」

相沢「その内容が本当なら、胸に刻印がある奴を探せばいいって事か?」

月「でも、刻印のある人間は既に地獄少女に依頼を終えているんだろ?」

月「そいつを追った所で、地獄少女の新たな犯行の瞬間が見れるわけじゃない」

L「まあそれでも、情報は得られます」

L「間接的にとはいえ人を一人殺した話を隠さず話してくれるかは微妙ですが……」

L「とりあえずはこれまで通りキラ事件に重点を置きつつ」

L「地獄少女に関しては、刻印を持つ者や突然人が消えた等の情報を集める」

L「そして何か有効な手段が見つかれば試してみる……といった所ですか」

総一郎「うむ……」

L「それはそうと、月君」

月「ん?」

L「昨日の夜、地獄通信にアクセスしましたよね?」

総一郎「な、何!? 本当か、月!」

月「…………」

月「いや、してないけど? 何で?」

L「……そうですか」

L「すみません。月君は地獄通信に興味を持ってくれると思ったので」

L「昨日の話を聞いてアクセスしてみたかと思いまして」

月「はは、まあ確かに興味は持ったけどね」

月(フン、くだらないはったりだ。こいつもワンパターンだな)

月(いくらLでも何の痕跡も残さず僕のパソコンをハッキングする事は不可能)

月(もし僕の部屋に再び監視カメラがついているなら、地獄通信以前に、僕はキラだと自白している)

L(一日待ってみたが、私は消されなかった)

L(夜神月……本当にアクセスしていないのか、或いは……)

L「…………」

L「これは皆さんに話すかどうか迷ったのですが……」

L「私も生きたままキラを捕まえたいので、話す事にします」

相沢「? 何の話だ?」

L「もし私が突然消えるような事があれば……」

L「キラが地獄少女に私を消すよう依頼したと考えてください」

L「そして、その場合は――――」

L「月君がキラです」

月「…………」

総一郎「そ、それはどういう事だ竜崎!? 何故息子が……!」

月「落ち着いて、父さん。あくまで竜崎が消えたらの話だ」

松田「で、でもどうして月君が……」

L「まず私を怨んでいる人間でキラ以外で思い浮かぶのは、かつて私が解決した事件の関係者ですが」

L「基本的に私はFBI等捜査機関の人間を介して動きます」

L「今回のようにLが動いていると分かるケースはごく稀です」

L「また面白い事に、調べてみると地獄通信の噂が広まっているのは日本国内だけなんです」

L「サイトの内容が日本語である事からも、地獄少女は日本にいると思われる」

L「過去私が解決した事件の関係者はそのほとんどが国外の人間ですし」

L「仮に海外からでも地獄少女に依頼が可能だとしても」

L「もしそのような手で怨みを晴らす事が可能なら、とっくに私は消されているでしょう」

相沢「だが、キラが誰であれ、Lを怨んでいるんじゃないのか?」

相沢「だったらLを消そうとしてもおかしくは……」

松田「キラ信者がキラの為にって可能性もなくはないですよね」

L「それなのですが」

L「確かにLはキラが日本の関東地区にいる事を暴きましたが、それ以降目立った活躍はない」

L「そして、Lが現れてからも、キラの裁きは変わらず行われている」

L「分かりますか?」

L「世間から見れば、Lは口だけの無能な人間なんです」

L「また地獄通信の噂では依頼者にもペナルティが課されるみたいですし」

L「キラもキラ信者も、そんなどうでもいい人間を犠牲を払ってまで消そうとはしないでしょう」

L「後、当初から週刊誌等でキラとL同一人物説が流れている事もあって」

L「その真偽を知る術のないキラ信者は下手に動けない」

L「ですから、もしキラがLを消そうと考えるなら」

L「キラは我々の捜査が真相に近付いている事を知っているという事になる」

L「この捜査本部の中にいる人間しかありえません」

総一郎「で、では第二のキラはどうだ?」

総一郎「第二のキラはLを殺す為にテレビに出演させようとしていたじゃないか」

月「父さん、忘れたのか?」

月「第二のキラは僕達の流したキラからの偽メッセージを信じている」

月「『罪のない警察官等の命を奪うな』『勝手な行動は慎め』というメッセージをね」

月「ご丁寧に、言う事を聞くという返事まで送ってきてるんだ」

月「にも関わらず第二のキラが勝手な行動をとるとすれば……」

L「ええ。確実に第二のキラはキラと接触しているという事になります」

月「その時は僕か僕の周囲の人間を調べて刻印を探せばいいってわけだ」

月「いいね。地道にキラを探すよりよっぽど簡単だ」

L「そうですね」

L「だから実は昨日の時点で私が消えたら月君と月君の周囲を調べてもらうよう」

L「外部の捜査員に頼んでおいたのですが……」

L「このような形での事件解決は私の本意ではありませんので」

月「確かにね。キラの力を持つ者はどうやら一人じゃないようだし」

月「キラの殺しの手段が分からない限り、根本的な解決にはならない」

月「殺しの手段を知るには、自己顕示欲が強く挑発にも乗ってくれる今のキラが都合がいい」

L「はい」

L「他の人間は殺しの能力を得ても、ここまで大っぴらに動いてはくれないでしょうから」

月(裏を返せば、Lもまた地獄少女に頼んでキラを地獄に流すという事はしないという事か……)

月「まあ安心してくれ」

月「僕はキラじゃないし、仮にキラでもそんな手は使わないよ」

総一郎「月……たとえ話でも『自分がキラなら』なんて話はやめろ」

月「ああ、ごめん父さん」

L「先程月君も言った通り、あくまで私が消えればの話です」

L「私が消えてない以上、月君の疑いが濃くなったわけでも何でもありません」

総一郎「そ、そうか……そうだな」

L(やはり、キラ……少なくとも夜神月と地獄少女は無関係だと思われる)

L(いや……そもそも、この真実の地獄少女の内容が正しいとすれば)

L(まるで地獄少女は人間ではないかのような書かれ方だ)

L(もし本当にサイトから名前を送信するだけで人を消せるのであれば……)

L(キラと違い、地獄少女には人を消す為の制限がほとんどないという事になる)

L(地獄少女とはいったい……)

L(いや、地獄少女が何者であれ、一方的な怨みだけで人を裁くというのであれば)

L(それは許される事ではない)

L(お前が何を考え、このような事をしているのかは分からないが……)

L(このままにはしておけない)

【数日後 夕暮れの里】

彼岸花の咲き乱れる、永遠の夕暮れに包まれた里。
その中に一軒だけ建っている藁葺き屋根の家の中で、
閻魔あいは数少ない所有物の一つであるパソコンのモニタを
相変わらず感情の読み取り辛い表情でじっと見つめている。

そんな彼女の行動を不思議に思った地獄少女の遣いである三人の妖怪もまた
あいの小さな体越しにモニタを覗きこむ。

輪入道「お嬢、依頼が来たわけでもねえのに、何熱心に見てるんだい?」

あい「これ……」

そこには、彼等が普段見慣れているはずのサイトが表示されていた。

骨女「これって……地獄通信じゃないか」

あい「偽物よ」

骨女「偽物って、地獄通信のかい?」

あい「そう」

一目連「へえ、人間が地獄通信の偽物を作るってのは過去何回かあったが、今回のはよく出来てるな」

骨女「ちょっと一目連、感心してどうすんだい」

輪入道「俺達には関係ねえと思うが……お嬢が気になるなら、調べてみるかい?」

あい「いい。怨みの念は感じないから」

一目連「ただのイタズラ、か」

一目連「そうだ、偽物と言えば……」

そこまで呟き、一目連はチラリと横目であいを見る。
怨みの念を感じないと言った割には、モニタを熱心に眺めているあいに苦笑すると、
輪入道と骨女の二人に目配せし、家の外へと出ていった。
残された二人も不思議そうに互いの顔を見合わせた後、一目連に続く。

一目連「偽物と言えば、厄介な商売敵が出て来たもんだな」

骨女「ああ、あのキラって奴かい?」

一目連「ああ」

一目連「最近じゃ地獄少女がキラの仲間だとか、同一人物だなんて噂も広まってるらしいぜ」

輪入道「俺はそう悪い事じゃねえと思うがなぁ」

輪入道「悪い事すりゃバチが当たる。地獄に堕ちる」

輪入道「人間どもはいつの間にかそんな簡単な事を忘れちまった」

輪入道「たったそれだけの事で、人の世界は腐っていった」

輪入道「だが、キラって奴の行いは、人間どもにそいつを思い出させようとしてるように見える」

輪入道「現にキラが出て来てから、人の世の犯罪の数は減ってるわな」

一目連「へえ。輪入道、まさかあんたがキラ信者だったとはね」

輪入道「馬鹿言うない。どの道、俺達にゃ関係ねえ事だ」

一目連「ふぅん。で、骨女はどっち派だい?」

骨女「どっちでもいいけど、私はお嬢が心配だよ」

一目連「お嬢が?」

骨女「あんた達も分かってるだろ」

骨女「お嬢は何も好き好んで地獄流しをやってるわけじゃない」

骨女「辛い役目さ。気が遠くなるような時間、お嬢は人の生み出す怨みの果てを見つめてきた」

骨女「しかも、地獄に流される奴皆が皆、地獄へ堕ちるべき悪人とは限らないんだ」

輪入道「まあなぁ。怨みの形は人それぞれ。逆怨みだって怨みは怨み」

輪入道「俺達はただ、依頼を遂行する事しか出来ねえ」

輪入道「だが、そいつも含めてお嬢に与えられた罰なんだろう」

骨女「そうさ。でも、キラは違う」

骨女「あんたも言ってた通り、キラは殺す相手の選り好みが出来る」

骨女「お嬢だって一度は思った事があるはずだよ。それが出来ればどんなに楽かって」

骨女「お嬢がキラってのに変な影響受けなければいいけどねぇ……」

突然骨女は慌てた様子で口元を押さえる。
輪入道と一目連が彼女の視線を辿った先にいたのは、いつの間に出てきたのか
縁側に立っているあいだった。

骨女「お、お嬢。聞いてたのかい?」

あい「……? 何を?」

骨女「い、いや、聞いてないんならいいんだよ。たいした話じゃないからさ」

あい「そう」

輪入道「依頼か?」

あい「まだ地獄通信にアクセスがあったわけじゃないけど」

一目連「って事は、事前の身辺調査か。それで、ターゲットは?」



あい「――――キラ」



輪入道「……そいつぁ……噂をすればってやつかい」

骨女「そんな事ってあるんだねぇ……」

一目連「とりあえず、骨女の心配は杞憂に終わりそうだな」

デスノの方の時系列はミサが初めて月の家に押しかけて来た数日後。

ただ原作と違うのは、
・月はミサに接触後メッセージビデオを送らせていない。
 すなわちLはキラと第二のキラが繋がりを持った事を知らない。
・月はレムにLを殺すよう頼んではいない。
の二点です。

この二点があると普通に月が捕まるかLがあっさり死ぬので、
話の都合上仕方ないって事で……

【数時間前 月の部屋】

月「……ああ、うん。はは、そうなんだ……」

月は電話の相手である弥海砂に生返事を返しながら、時計を見た。
既に通話を開始してから二時間が経とうとしている。

ミサの所有物である携帯電話を譲り受けた為、会話内容を傍受される心配はないが、
ほぼ毎日のように取り留めのない話に時間を割かれるのは苦痛でしかない。

月「それはそうと、例の件は問題ないか」

ミサ『え? あ、うん。ちゃんとライトに言われたようにやってるよ』

月「大変だと思うが、引き続きよろしく頼むよ。全てが終わったら……」

ミサ『分かってる! ライトはミサを一生愛す……だよね?』

月「……ああ」

月「おっと、もうこんな時間か……これ以上遅くなるとミサの仕事に影響が出てもいけない」

月「名残惜しいけど、仕方ないな。じゃあまた明日……」

電話の向こうではまだミサが何やら喋っていたが、月は構わず通話終了を押した。
ようやく訪れた静寂に、溜息を吐く。

月「ふう……」

リューク「ククッ、一生愛す……か」

月「……仕方ないだろ。ああでも言わないと、あの女は何をしでかすか分からない」

月「明確なゴールを提示する事でやる気を起こさせ」

月「かつ、それまでの過程としてやるべき事を与える事で、僕に会う時間を極力作らせない」

月「それだけだと不満が溜まってはいけないから」

月「最大限の譲歩として、定期的に電話をし、優しい言葉をかけてやる」

月「ここまでやって、ようやく不完全ながらも行動を制御出来るんだ」

月「まったく、女ってのは厄介な生き物だよ……」

リューク「ククク……あのライトも女には手を焼くか」

リューク「だが、あいつがいて助かってる事もあるんだろ?」

月「……まあね」

月「実際、キラが地獄少女の標的となる前に彼女に会えたのは幸運だった」

月(そう……まずは地獄少女をどうにかしなければ)

月(奴に狙われる危険がある限り、僕は自由に動く事は出来ない)

月(Lを殺すどころではない……)

月(いや……考え方を変えるんだ。地獄通信を利用する事が出来れば……)

月(だが、地獄少女にLを殺させる事は……何か手は……)

【翌日 キラ事件特別捜査本部】

L(あれから数日……)

L(キラ事件、地獄通信双方ともに目立った進展はない)

L(第二のキラもこちらからの偽メッセージに対する返信後は沈黙を続けている)

L(そして、キラの裁きもこれまで通り……特に変わった点はない)

L(だが、地獄少女の方は相変わらず何も掴めずにいる)

相沢「竜崎、ネット上で地獄少女に依頼したと語っている人物と何人か接触したが」

相沢「正直、どれもこれも胡散臭いな」

L「胸に刻印はありましたか?」

相沢「全員確認出来たわけじゃないが、確認出来た者は皆、刻印はなかった」

L「そうですか……」

松田「まあ、本当に依頼した人の方が、そんなベラベラ喋ったりしないもんですよね」

相沢「…………」

相沢「なあ、話を蒸し返すようになってしまうが……本当に地獄少女など存在するのか?」

松田「でも、地獄通信ってサイトは実在してるんでしょ?」

相沢「だからといって、誰かのイタズラかもしれないだろ」

L「…………」

L「実は昨日の深夜0時、地獄通信にアクセスしてみました」

松田「出来たんですか!?」

相沢「まさか、誰かの名前を書き込んだのか!?」

L「いえ……本当はやってみたかったんですけどね」

L「ただ、地獄少女を追う私が直接地獄少女と接触するのは危険が大きすぎるのでやめました」

相沢「い、いや、そういう問題では……」

L「その代わりに、地獄通信をハッキングしてみました」

相沢「なっ……」

L「実に興味深かったですよ」

松田「ど、どうなったんです?」

L「結論から言うと、失敗しました」

L「というより、逆にこちらのパソコンが乗っ取られる危険があったので中断しました」

松田「ええと……」

相沢「それのどこが興味深いんだ?」

L「この私相手に少なくとも対等に渡り合ってみせたんです」

L「人間技じゃありませんよ」

相沢「だ、だから地獄少女は人間じゃないとか言い出さないよな?」

L「まあ今のは半分冗談ですが」

相沢(半分なのか……)

L「肝心なのは、相手が深夜0時のタイミングでこちらの侵入に気付けたという事です」

L「深夜0時のみアクセス可能なサイト……そして、その時間帯に待ち構えている相手」

松田「? それって当たり前なんじゃ……」

L「そう、当たり前です」

L「つまり、本当に人を消せるかはともかく、地獄通信は何か目的があって存在している」

L「まあ深夜0時にネットに繋いでいる人間はそう珍しくはないでしょうが……」

L「それだけの技術を持つ者が、意味のないイタズラでサイトを作ったとも考え難い」

松田「相手がパソコンに詳しいなら、個人情報の収集が目的とかどうですか?」

L「可能性はなくはないですが、効率が悪すぎる」

L「私に対抗出来る程の腕があれば、もっとやりようがあるはず……」

L「やはり誰かに怨みを持つ者の情報を欲しているとしか考えられない」

L「何にせよ、地獄通信というサイトを作った者は確実に存在しているんです」

L「その者を追えば、そこから何かが分かる可能性は高い」

そこに夜神総一郎が入って来た。
後ろにもう一人、見た事のない若い警察官を連れている。

総一郎「竜崎、石元を連れてきた」

L「石元……さんですか?」

総一郎に紹介され、石元と呼ばれた男は頭を下げる。
しかし、竜崎は怪訝な表情を崩さない。
捜査本部に部外者を入れてはいけない。そんな事を総一郎が分からないはずもない。

松田「どうしたんです、竜崎。今日から増員が来るって話だったじゃないですか」

相沢「ああ。宇生田があんな事になってしまったからな……」

L「……何の話です? 私はそんな話……」

石元「石元蓮です。よろしくお願いします」

そう微笑んだ石元と視線が交わった瞬間、
Lの頭の中にここ数日間の記憶が一気に呼び起される。

L「ああ、そう……でしたね。すみません、私とした事が」

石元「いえ、気にしないでください」

石元「地獄少女についてもいろいろと調べているようですし……お疲れなのでは?」

L(そうだ。石元蓮……私自ら身辺調査を行い、何も問題は見つからなかったじゃないか)

L(彼の言う通り、疲れているのかもしれないな……)

数時間後、捜査本部へと訪れた月は、当たり前のようにそこにいる見慣れない男性を見て
数時間前のLと似た様な表情を浮かべる。

月「……? その人は?」

松田「あれ、月君には言ってなかったっけ? 今日から捜査本部の一員になった石元君」

石元「石元です。夜神局長の息子さんだね。話は聞いてるよ」

月「あ、夜神月です。よろしくお願いします」

月(……妙だな)

月(はっきり聞いたわけではないが、確か第二のキラの一件で捜査員が犠牲になってる)

月(増員自体はおかしな事ではないが……)

月(しかし、この捜査本部にいるのは竜崎が信頼のおける者のみのはず)

月(一人いなくなったからといって、こんな早く後任が見つかるものだろうか)

月(何より、竜崎らしくない……)

月(竜崎なら、新しい捜査員が入れば僕が知らないという事を最大限利用しようとするはず)

月「あの……」

石元「――――何か?」

月「あ、いえ……」

月(いや、増員はあらかじめ候補がいたのかもしれないし)

月(それに、増員が一人とは限らない。僕の知らない別の者もいるのかも……)

月(実際にここで活動する捜査員が足りてないのは事実だし……)

月(そうだ……何もおかしくは、ない……)

月「すみません、ぼうっとしてて。最近大学の勉強で徹夜続きなもので」

松田「あ、勉強なら石元君に教えてもらうといいよ」

松田「彼、東応大学のOBで月君の先輩だから」

石元「え゛っ……」

月「そうなんですか?」

石元「あ、あー……まあね。ただほら、警察に入ってからは全然勉強してないし」

石元「月君は首席合格なんだって? 俺じゃちょっと荷が重いかな……はは」

月「はは……やっぱり何事も使わないと忘れるものですよね」

石元「そ、そうだね」

石元(やれやれ……余計な設定盛るんじゃなかったな)

内心で苦笑しつつ、石元蓮――一目連は額の冷や汗を拭った。
東応大学のOBなんて、捜査本部に忍び込む際に適当に作った設定だ。
もともと刀の九十九神である一目連に人間の勉強……
それも日本最高レベルの大学の勉強なんて聞かれても教えられるはずがない。

一目連(まあ本当に聞かれたとしても、いくらでも誤魔化せるんだけど)

一目連(現に捜査本部内の人間は誰も俺を疑っていない)

一目連(後はキラの正体を突き止めれば、一丁上がりってね)

一目連(といっても、Lを流そうとした事と、その際Lを調査した時の内容から)

一目連(夜神月がキラなのはほぼ間違いない)

一目連(ただ、お嬢の仕事は万に一つのミスも許されないからな)

一目連(そこで俺達の出番ってわけだ)

一目連(俺の『目』で覗かせてもらうぜ、夜神月。あんたが殺しを行う決定的瞬間をね)

地獄少女の遣い、一目連の能力は、その『目』を使い
どんな場所でも対象に気付かれずに覗き見ることが可能というものだ。
一目連は捜査本部で最新の情報を入手しつつ、
その能力を用い、常に月の行動を監視し続けていた。

しかし――――

【帝東ホテル 廊下】

一目連(……おいおい、どうなってる?)

一目連(あれから三日間、四六時中監視を続けてるが、夜神月に変わった動きは何もない)

一目連(どころか……大学での成績もトップにいながら、毎日のように捜査本部に顔を出し)

一目連(家でも空いた時間でキラ事件を独自に推理している)

一目連(真面目を絵に描いたような学生さんだぜ)

一目連(唯一欠点っぽいのは、電話魔の彼女に毎晩拘束されてるくらいか)

一目連(こんな調査すぐに終わると思ってたが、ハズしちまったか?)

ぶつぶつと呟きながら廊下を歩く一目連に声を掛ける者がいる。
ホテルの清掃員の制服に身を包んだその男は、見覚えのある顔をしていた。

一目連「……何だ、誰かと思えば輪入道か」

一目連「あんた、そういう格好ほんと似合うよな」

輪入道「うるせえや」

輪入道「それより、どうだい探偵ごっこは?」

一目連「どうもこうもねえよ。風呂から便所まで監視してるってのに、怪しい動きはなしだ」

一目連「ったく、出来れば変わって欲しいぜ」

輪入道「ははは、残念だが俺にはそんな力はねえからなぁ」

輪入道「だがよ、もうあんまり時間がねえぜ」

一目連「送信があったのか?」

輪入道「ああ。ちょうどお前さんがこっちに来てから、毎日のようにアクセスしてる」

一目連「そいつは急がねえとな……」

一目連「っていうか、そんなに言うならあんたらも手伝ってくれよ」

輪入道「そうしてえのはやまやまだが……こっちはこっちで忙しいのよ」

一目連「ああ、またあの町かよ」

輪入道「お前さんにも一刻も早く戻ってきてもらいてえくらいさ」

一目連「分かってるよ。ま、もうちょっと待ってな」

【キラ事件特別捜査本部】

L「石元さん、戻られましたか」

一目連「ええ」

一目連「……? ところで、他の皆さんは?」

L「それぞれ理由をつけて帰ってもらいました」

L「今この部屋にいるのは私と石元さんだけです」

一目連「……えーと」

一目連「何かたまに勘違いされるんですけど、俺、そっちの気はないですよ?」

L「面白い冗談ですね」

一目連「はは、いやいや……」

L「それはそうと」

L「石元さん、あなたはキラの一派ですか? 地獄少女の一派ですか?」

一目連「…………」

一目連「ええと……すみません、何の話か……」

一目連「それとも、面白い冗談ですねと返すところでしたか?」

L「おかしいんですよね」

L「調べてみると、日本警察に石元蓮なんて人間は存在しない」

一目連「…………」

一目連(……馬鹿な)

一目連(確かに、日本警察にそんな人間は存在していない)

一目連(だが、俺の術中にある人間はそもそもそんな疑いすら抱かないはず)

一目連(術が解けたのか? いや、しかし他の人間は俺の事を信じたままだ)

L「まあ、キラがそんな洗脳じみた力まで持っているなら、とっくに私は殺されているでしょうし」

L「私が地獄通信にハッキングを試みた直後にあなたが来た事から」

L「地獄少女……あるいは地獄少女の僕だと思うのですが」

一目連「…………」

一目連「ハッキングの件は偶然だよ」

L「?」

一目連「過去にもハッキングしようとした人間はいるけど、あれは誰かが対応してるわけじゃない」

一目連「生き物みたいなものでね。自動的に異物を排除しようとするんだ」

一目連「だから放っといても地獄通信が乗っ取られる事はないし」

一目連「俺達もわざわざ相手を探すなんて無駄な事はしない」

一目連「だいたい、お嬢がパソコンで出来るのはせいぜいサイトを見るのとメールくらいさ」

L「お嬢……地獄少女の事ですか」

一目連「ああ」

L「随分簡単に口を割るんですね」

一目連「キラと違って、俺達は別にコソコソする必要もないしな」

一目連「それより、興味があるのさ」

一目連「どこで俺が怪しいと? ただの人間に俺の術が見破れるとは思えないんだが」

L「そうですね。私一人では無理でした」

L「ですが、私は自分に何かあった場合を想定し、常に捜査本部の外にも捜査員を置いています」

一目連「そいつは別件で調査済みだ」

一目連「だからこそ、俺はあんたに命令したはずだぜ」

一目連「外部の捜査員に『石元蓮という捜査員の素性に問題はない』と伝えるように」

L「石元さんもここ数日捜査員として働いていたのだから知っているでしょうが」

L「キラはおそらく、殺す人間の死の前の行動を操れます」

L「ですので、皆には私が妙な行動をしたら怪しむよう、事前に伝えていました」

L「急に私が自ら動いて身辺調査をした人間を捜査本部に入れると言えば……」

一目連「……なるほどね」

一目連「キラが捜査本部に侵入する為にLを操ってる可能性が大ってわけだ」

L「そうです」

L「キラ対策の保険の一つでしたが、かかったのは地獄少女側でしたね」

L「下僕に調査をさせている時点で、地獄少女も万能ではない」

L「捜査本部に来ても、捜査本部の外にいるのが誰かまでは分からない……という事でしょう」

一目連「……隠しても仕方なさそうだな。そうだ。それを調べる為に俺達がいる」

一目連「にしても、随分用意周到なんだな」

L「そうでもしないと死んでしまいますからね」

L「私はあなた方と違ってただの人間ですので」

一目連「俺達の正体まで知ってるわけだ……」

L「……いえ」

一目連「え?」

L「今のはカマをかけてみたんですが……」

L「本当に……人間ではないんですね……」

L「正直、驚いています」

一目連「…………」

一目連はLの机の上に置かれている本に気付く。
『真実の地獄少女』。その著者は一目連もよく知る人物だった。

一目連「その本に書いてある事は、基本的に全部本当だよ」

一目連「俺達もその本の著者、柴田一とは因縁浅からぬ仲ってやつでね」

L(地獄少女……そんなものの存在を認めろというのか……)

一目連「で、あんたは結局、何が目的だ?」

一目連「言っておくが、俺達を止めようなんて無駄な事だぜ?」

一目連「俺は今ここで再びあんたの記憶をいじる事も出来るし」

一目連「仮に百人の捜査員が突入して来ても逃げおおせてみせる」

一目連「そもそも、人の手じゃ俺達は殺せない」

L「…………」

L「逆に聞きたいのですが……あなた方の目的は何です?」

L「何の為に復讐の代行のような真似事を?」

一目連「何の為に……か。俺達の方が聞きたいくらいさ」

一目連「分かってるのは、それがお嬢に課せられた罰だって事だけだ」

L「罰……」

一目連「ま、詳しくはその本を読めば分かる」

一目連「何にせよ、俺達はともかく、お嬢はキラのように好きでやってるわけじゃない」

L「あなたは好きでやっていると?」

一目連「それがお嬢の為になるなら、喜んでやるさ」

L「……なるほど」

一目連「こっちは答えたぜ。それで、あんたの目的は――」

L「その前に。あなた達が地獄に流そうとしているのは、キラですね?」

一目連「…………」

L「もっともこれは、この捜査本部に関係のある者で三日経っても素性の分からない者」

L「そう考えれば、他に存在しないのですが」

L「そしてあなたは、未だにキラが誰か掴めていない」

一目連「……だったら?」

L「私と手を組みませんか?」

一目連「あんたは地獄少女の行いを止めようとしている」

一目連「つまりは、俺達の敵だ」

一目連「そんな奴と俺が手を組むと思うかい?」

L「我々人間の世界では“敵の敵は味方”といいますが」

L「何より、あなたが地獄少女の事を思うなら、そうすべきでは?」

一目連(確かに……俺がここでLの味方をしたとして、お嬢に何か不利益があるわけじゃない)

一目連(むしろ、キラを一刻も早く見つける方が……だが……)

一目連「……断れば、この捜査本部から俺を追い出すのか?」

L「いいえ」

L「ただ……その場合は一つお願いが」

一目連「お願い?」

L「今キラを消されると、困るんです」

L「ですから、キラを地獄に流す場合は、せめて殺しの手段を教えてもらいたい」

一目連「それが交換条件か」

一目連「だが、もし俺がここにいてキラを見つける事が出来たとして」

一目連「素直にキラの殺しの手段を教えるとは限らない」

L「そこは石元さんを信じるしかありませんね」

一目連「信じる? 俺を?」

L「はい」

L「……? 何かおかしな事を言いましたか?」

一目連「……いや」

一目連「少し、考えさせてくれ」

捜査本部内で一目連は複数のモニタに映し出された映像を見せられていた。
Lが夜神家に監視カメラを仕掛けた際の映像だ。

一目連「あのさ、俺まだ協力するとは言ってないんだけど」

L「別に構いませんよ。石元さんは捜査本部の一員ですし」

L「捜査資料を見せるのは、特におかしな事ではないでしょう」

一目連「じゃあまあ……遠慮なく」

一目連「っていうか、これ……カメラ何個つけてるんだ?」

L「夜神月の部屋の中だけで64個。夜神家全体だと……何個か忘れました」

一目連「……それじゃ一個くらい見つかってもおかしくないな」

L「そう。問題はそこなんです」

L「もともと短期でケリをつけるつもりの策ではありましたが、気付かれた可能性もある」

L「バレているなら、怪しい行動はとらない」

L「夜神月が外にいる際は尾行はつけていましたが、あくまで遠くから見ているだけなので」

L「外で殺しに必要な何かをしていても、見逃している可能性が高い」

一目連「なるほど」

L「ただ、初日に夜神月が家の中にいる時に報道された犯罪者が」

L「夜神月が家にいる間、かつ彼がテレビ等で情報を得る前に心臓麻痺で死亡している」

L「それも事実なんですが……さて、どう思いますか?」

一目連「…………」

一目連「当然と言えば当然だが……64個カメラをつけた所で、死角がまったくないわけじゃない」

一目連「そして、カメラが仕掛けられる場所はある程度限定されるから」

一目連「カメラを仕掛けた事に気付いているなら、バレずに何かをする事は不可能ではない」

L「そうです。しかし、少なくとも盗撮盗聴に関してはこれが我々の限界です」

L「石元さんなら、どうしますか?」

一目連「これ以上の事が出来なければ、そもそも組むメリットがないって事ね」

L「まあ石元さんの能力が分からないので何とも言えませんが」

L「少なくとも、自白をさせたりするような事は出来ないようですので」

一目連「まあ、そうだな」

一目連「例えば俺が夜神月にとって凄く仲のいい人物だと思わせる事は可能だけど」

一目連「どれだけ仲がいい相手にだって『私がキラです』なんて普通は言わない」

一目連「あんたは俺の能力も薄々感付いてるようだし」

一目連「その気になれば忘れさせる事も出来るから話してやるけど……」

一目連「俺の能力はその監視カメラに近いものだ」

一目連「ただし、どんな場所でも関係なく覗けるし、何の証拠も残らず、絶対に相手には気付かれない」

一目連「この映像みたいに記録に残す事は出来ないけどね」

L「なるほど。便利ですね」

L「では……」

Lは手を体の後ろに回し、一目連から見えないようにする。

L「私は今、指で数字を表しています。さて何でしょう?」

一目連「…………」

一目連「銃は数字じゃないと思うぜ。まあ、それを2だと言えなくもないけど」

L「不正解です」

一目連「は?」

Lは背後から親指と人差し指を立てた右手を一目連へと突き出す。
ただし、人差し指は一目連ではなく、天井を向いている。

L「正解はLでした」

一目連「……ああ、そう」

L「冗談はさて置き、そこまで監視をしても夜神月に怪しい動きはないと」

一目連「ああ。外出中もチェックしてるが、今の所は何もなしだ」

L「……では、現在裁きを行っているのは別の者かもしれませんね」

一目連「第二のキラ……って奴か?」

L「はい。問題は、それがキラの指示なのかどうか」

L「第二のキラはキラの行いに共感している」

L「自ら裁きを行ってもおかしくはないし、キラもそれを利用しているなら……」

一目連「お手上げだな」

L「ただ、第二のキラはキラの力になる事よりも、キラに会いたいが為に行動していたように思える」

L「そして、最後のメッセージで、第二のキラは『キラを見つけた』と言っている」

L「その時点で接触があったかは分かりませんが、第二のキラなら接触したがると思うんです」

一目連「いずれにせよ、キラに辿り着く為には第二のキラを探さないといけないって事か」

L「もし夜神月がキラなら、ここ最近のうちに接触した者の中に第二のキラがいる可能性が高い」

L「そうは思うのですが……タイミングが大学に入ってすぐですからね」

L「大学内も含めると、可能性がある者が多すぎる」

一目連「そこまで考えて、あえていろんな奴と接触してる可能性もある……か」

一目連「……そういえば」

L「どうしました?」

一目連「いや、この監視カメラをつけてた頃は、まだ彼女はいなかったんだな」

L「彼女? 月君の、ですか?」

一目連「ああ。毎日のように電話してくる女がいるんだが」

L「……聞いてないですね」

一目連「まあ、わざわざ話すような事でもないだろ」

L「いえ、月君を尾行している者からも特定の彼女がいるような報告は聞いていません」

L「だとすれば、接触したのは最近か?」

L「可能性はある……」

一目連「ただ、会話の内容は本当に取り留めのないものだぜ?」

L「二人だけに分かる暗号という事もあります」

L「彼女の名前など、分かりますか?」

一目連「確か、ミサって呼んでたな。モデルみたいな仕事をしてるとか」

L「モデルでミサですか。調べさせましょう」

数十分後、『W』と表示されているパソコンから通信が入る。

L「どうやら、分かったみたいです」

一目連「随分と早いな」

L「さて、改めて聞きますが、私に協力して頂けますか?」

L「もし協力してくれるなら、ミサという女性の情報を教えます」

一目連「その代わり、そいつを監視して情報をよこせって事か」

L「はい」

一目連「……仕方ないな。俺達に時間がないのも事実だ」

一目連「手を組んでやるよ」

L「ありがとうございます」

Lがパソコンを操作すると、複数の女性の情報が表示される。
「ミサ」と呼ばれるモデルは数人いたらしいが、
年齢や住所等から月と関係がありそうな人物は一人だった。

L「弥海砂……ティーン誌やファッション誌等でモデルとして活動している」

一目連「へえ、そこそこ可愛いじゃないか」

L「彼女、両親を強盗に殺害されているそうです。さらに、その強盗はキラに裁かれている」

一目連「そいつは……もうほぼ決まりじゃないか?」

L「……とも限りません。本当に偶然という事もある」

L「とにかく、石元さんは彼女の監視をお願いします」

L「こちらが本日の彼女のスケジュールとなりますので」

一目連「こんなのまで調べたのか……外部の捜査員ってのは相当優秀なんだな」

L「そろそろ皆が戻ってくる頃ですので、私も捜査に戻ります」

L「報告はまた夜にでも」

一目連「OK。ま、楽しみにしてなよ」

その後、他の捜査員や月が捜査本部にやって来たが、特に目立った事はなかった。
月が帰宅した後、タイミングを見計らい、Lは一目連を別室へと呼び出した。

L「どうでしたか?」

一目連「とりあえずは怪しい動きはなしだな」

一目連「もっとも監視を始めた時間帯が遅かったから、今日の裁きはもう終えてる可能性もあるが」

L「もしくは、家に帰ってから裁きをするか、ですね」

一目連「確かに、仕事の合間に何かするとも考え難いか」

L「ちなみに、監視はどこまで行っていますか?」

一目連「……流石にトイレや着替えの最中まではやっていない」

L「では、そこまでやってください。監視の意味がなくなりますので」

一目連「ま、あんたがそう言うならやってやるけどね」

L「そういえば、あなたが見ている映像ですが」

L「私も見る事は出来ませんか?」

一目連「…………」

L「勘違いしないでください」

一目連「何も言ってないだろ」

L「単純に二人で監視した方が気付ける事も多いだろうというだけです」

L「それに、石元さんが見ている物を一々報告をしたり」

L「私の細かな問いに全て答えるのも大変でしょうから」

一目連「まあ、そりゃそうかもしれないが……」

一目連「でも、多分しばらくはこの調子だぜ?」

一目連が指を鳴らすと、近くのモニターの画面がミサの部屋を映したものに切り替わった。
画面の向こうにいるミサは楽しそうに電話をしている。
会話の内容から、相手は月だろう。
とはいえ、ミサが一方的に話し掛ける形で、しかも内容のない話が延々と続けられている。

一目連「夜神月の方も見てみるかい? 多分、死にそうな面してるぜ」

L「……ちょうど今の私のような顔ですか?」

一目連「ああ」

L(あまりに内容のない会話なので何かの暗号かとも思ったが、そういうわけでもなさそうだ)

L(しかし、キラと第二のキラでないとなると、夜神月は何が悲しくてこんな女性と……)

それでもそこからさらに一時間後、ミサは通話を終了した。
不満気な表情から、月に一方的に終了させられたという方が正しいのかもしれない。

その後、しばらくは何をするでもなくベッドに横になっていたミサだが、
ある時間になると、何かを思い出したように起き上がり、パソコンを立ち上げる。

――――深夜0時。

L「……動きましたね」

一目連「ああ。だが、こいつは……!」

ミサのパソコンの画面に映し出されていたのは――――

L「地獄通信……ですか」

一目連「いや、こいつは地獄通信の偽物だ」

L「偽物?」

一目連「ああ。ここ最近誰かが作ったらしい」

一目連「お嬢が怨みの念を感じないっていうんで、ただのイタズラと思ってたんだが……」

L(地獄通信の偽物……)

L(弥は誰かを流そうとして、偶然偽物に辿り着いたのか?)

L(それとも、偽物だと知っていてアクセスしたのか……?)

L「…………」

L(間に合うか……!?)

Lは無言のまま、手早く複数のパソコンで地獄通信を検索する。

L「弥が見ている偽地獄通信はどれですか?」

一目連「ええと……これだな」

一目連が指さした地獄通信に『キラ』と打ち込み、送信を押す。

L「……なるほど」

一目連「どうしたんだ?」

L「送信を押す事で、その端末はウィルスに感染するようです」

L「おそらくは、個人情報を抜き取るタイプ」

L「注意していなければ、感染した事にさえ気付かないでしょうが……」

一目連「おいおい、大ピンチじゃないか」

L「大丈夫ですよ。抜き取られたのは架空の人物、『竜崎ルエ』の個人情報ですから」

L「それよりも、弥の様子は?」

ミサの見ているパソコンの画面には、複数の文字や写真が映っている。
しかし、遠すぎて詳しくは分からない。

L「石元さん」

一目連「OK」

Lの見ているモニターの映像がズームされる。
そこに映っていたのは複数の人間の個人情報と思われる物。中には竜崎ルエの名も見える。

一目連「……ビンゴだな」

一目連「だが、何だって弥海砂はこんな事を?」

L「手に入る情報は怨みの相手ではなく、依頼した人間の個人情報……」

L「そんな使い道の限られる情報をわざわざ集めている理由がある……」

L「私の考えが正しければ、弥海砂が第二のキラで決まりです」

一目連「!」

L「彼女の行動を見逃さないでください」

ミサはバッグから小さく切ったノートの切れ端のような物を取り出し、
そこに何かを書き込んでいく。
そこに書かれていたのは、二つの人名だった。

一目連「こいつは……!」

L(竜崎ルエではない……!?)

一目連(一つは地獄通信に依頼した奴の名前……という事は……)

一目連「弥海砂の目的はキラを流そうとしている奴の情報……か?」

L「少なくとも、私はそう考えます」

L「第二のキラは顔だけで人を殺せる」

L「それが、顔を見る事で名前が分かるという意味であれば……」

L「竜崎ルエの名が書かれていない事にも納得がいく」

一目連に話し掛けながら、Lはミサが映っている物とは別のパソコンを操作する。
モニターに『W』の文字が表示されると同時に、端末に繋がっているマイクに語りかける。

L「ワタリ、竜崎ルエの写真、確か死刑囚のものだったな」

L「至急、名前を調べてくれ」

ワタリ『分かりました』

再びミサを映したモニターへと視線を向ける。
ちょうど画面の向こうではミサが立ち上がり、部屋から出ていく所だった。

L(名前をメモした……これから殺しに必要な行動をとるのか?)

L「石元さん」

一目連「ああ」

モニターの映像はミサを追うように移動していく。
監視されている事に気付くはずのないミサはトイレへと歩いて行き、
そして――――

L「メモを流した……?」

L(どういう事だ……キラではなかったのか?)

L(或いは、名前を書く事が殺しに必要な行動……?)

L(……まずは名前を書かれた二人の生死を確認する方が先か)

L(死んでいれば、弥を確保……)

L(いや、この映像は記録には残らない。皆を動かすには、確実な証拠がなければ)

L(そもそも殺しの手段もはっきりと分かったわけではない)

L(ならば、もう少し監視を続け――)

その瞬間、ミサの様子を映していたモニターが黒に染まった。
Lは反射的に周囲を見回す。
室内にいるはずの男の姿が見当たらず、慌てて部屋の扉を開いた。

L「皆さん、石元さんを見ませんでしたか!?」

松田「石元……?」

相沢「誰だ?」

L「……!」

L「いえ……何でもありません」

松田「?」

呆気にとられる皆を置いて、Lは一人部屋へと戻る。
部屋の中にはやはり自分の他には誰もいない。

L(弥海砂がキラだと判断したから、石元蓮は消えた……と考えるべきか?)

L(もしくは、依頼人が死んだ事で、依頼は無効になったか……)

L(だが、あの時書かれた名のどちらかが地獄少女へ依頼した者とも限らない)

L(もし前者であれば……おそらく数日のうちに弥は行方不明となる)

L(そうなってはマズい……)

L(皆に納得してもらえるだけの証拠はないが……ここは賭けだ)

ワタリ『竜崎、死刑囚の名が分かりました。しかし、その死刑囚は……』

L「先程心臓麻痺で死亡した……」

ワタリ『……はい』

L(やはり……)

L「もう一人、生死を確認して欲しい者がいます」

L「そして、もしその者が心臓麻痺により死亡していれば――――」

L「第二のキラの容疑で、弥海砂の身柄を拘束してください」

【夕暮れの里】

輪入道「よう、帰ったか。お疲れさん」

一目連「ああ」

骨女「何とも……すっきりしない終わり方だねぇ」

一目連「…………」

一目連「そういえば、依頼人は何でキラを怨んでたんだ?」

骨女「確か、親がキラに殺されたって話だよ」

輪入道「まあその親もそれだけの事をしてたって事なんだろうが……」

一目連「キラ信者の輪入道としては、気に入らないか?」

輪入道「だからそんなんじゃ……ったく、随分突っ掛るじゃねえか」

一目連「悪い」

一目連「……だが、それが家族ってもんなんだろ」

骨女「そ、そういえば、あの探偵さんには黙って出て来てよかったのかい?」

骨女「キラの事だって、はっきり分かったわけじゃないんだろう?」

一目連「いや、前に輪入道が言ってた事が正しかった」

一目連「キラが右を向こうが左を向こうが、俺達の仕事には関係ないさ」

骨女「そうかい?」

骨女「ま、あんたがいいならいいんだけどさ……」

一目連「……悪い、お嬢。ヘマしちまった」

一目連の視線の先には、いつの間に来たのか、あいが立っていた。

あい「……別に。一目連のせいじゃない」

あい「今回は依頼が無効になった。ただそれだけの事」

一目連「…………」

あい「それより、次の仕事よ」

輪入道「また……かい?」

あい「うん」

あい「……行くよ、一目連」

一目連「――OK、お嬢」

【朝 月の部屋】

月「……ん?」

いつも通り準備を終え、大学に向かおうとしていた月は妙な物に気付く。
日頃からこまめに掃除をしているはずの部屋の床に、小さく折りたたんだ紙のような物が落ちている。

月「ノート……か? 何でこんな物が……」

不思議に思いながらも、それを拾い上げる。



その瞬間――――月は全てを思い出した。



【数日前 月が地獄通信にアクセスした後】

リューク「……で? どうやって地獄少女と戦うんだ?」

月「別に戦うわけじゃない」

月「これから僕はネット等を介し、キラと地獄少女が同一人物、もしくは仲間であるよう噂を流す」

月「そういう噂は現在でもないわけではない。上手くやれば広まるまでそう時間はかからないはずだ」

リューク「ククッ、なるほどなぁ」

リューク「その噂が広まれば、キラかキラの仲間にキラを殺すよう頼む奴はいなくなる、か」

リューク「だが、そう上手くいくのか?」

リューク「それに、広まるまでにキラを殺すよう誰かが依頼したらどうする?」

月「……まあ、リュークにも協力してもらわないといけないからな」

月「順を追って説明しよう」

月「これから僕はミサに電話をし、レムを僕の部屋まで来させる」

月「そして、レムに僕のノートと僕が預かっているミサのノートを渡す」

月「ただし、所有権は僕のままだ」

リューク「今とは逆に、今度はライトのノートの隠し場所がミサになるって事か」

月「そして、今後の裁きはミサに任せる」

月「ミサには今後、常に監視されているくらいの気持ちで動くよう念を押す」

月「レムとも極力話をしないようにさせ、裁きを行うのは外出時、それもトイレなどでだ」

月「ノートは携帯せず、切れ端を持ち歩かせ、名前を書いた後は切れ端も処分させる」

リューク「まあ、それなら簡単にはバレないだろうな」

リューク「で、俺は何をすればいいんだ?」

月「まず一つ、リュークには僕の近くに死神以外で人間ではない存在を確認したら教えて欲しい」

月「死神の目なら可能だろ?」

月「それが誰かまでは教える必要はない。そこまで頼むと断られそうだしね」

リューク「ふうん。まあそのくらいならいいぜ」

月「そして、次に僕が『忘れる』と言った時、文脈に関係なく、僕はノートの所有権を放棄する」

リューク「えっ!?」

月「裁きさえしていなければバレる事はないと思うが……」

月「相手が人間でない以上、どのような手を使ってくるか分からない」

月「出来ればやりたくはなかったが……こうしておいた方が確実だろう」

リューク「そりゃあそうかもしれないけどよ……」

リューク「じゃあ、今後はミサにキラの後を継がせるって事か?」

月「まさか。危険が去れば、僕は再びキラに戻る」

月「その為のこいつだ」

リューク「さっきからせっせと作ってた地獄通信の偽物か」

リューク「でも、そんなもん何に使うんだ?」

月「まず一つは、先程話したキラと地獄少女が同一人物だという説に信憑性を持たせる為」

月「送られて来た怨みの対象が簡単に調べられ、かつ本当に悪人である場合はデスノートで殺す」

月「送信した人物が心臓麻痺で死んだとなれば……」

リューク「ククク、少なくともそいつは地獄少女=キラだと信じるってわけか」

リューク「そいつが噂を広げていけば……って事だな?」

月「ああ。だが、それはあくまでも副次的な効果にすぎない」

月「本当の目的はこっち」

月「この送信ボタンを押した端末はウィルスに感染し、個人情報を抜き取る事が出来る」

月「そして、その個人情報はミサのパソコンに送られるようにする」

リューク「それで、どうするんだ?」

月「地獄少女にキラを流させようとした人間から見れば」

月「地獄通信にアクセスし、キラを流すよう依頼したものの、その後もキラによる裁きは続いている」

月「しかし、アクセス可能なまでにキラを怨んでいるなら、そこで諦めたりはしないだろう」

月「再度アクセスを試みるはず」

月「そして、もしこの偽地獄通信にアクセスしたら……」

リューク「キラを流そうとしてる奴の情報がミサに届くってわけか」

月「そうだ。そして、そいつを殺させる」

月「その後、数日時間を置き、再度のアクセスがないのを確かめ」

月「予め切り取らせておいた僕のノートのページを、ミサから僕に渡させる」

月「それで、僕の記憶は戻る」

リューク「ノートのページ? ノート本体じゃないのか?」

月「ああ」

月「僕が所有権を放棄したら、リュークは僕のノートを別の人間に渡してくれ」

月「これから僕が言う二つの条件にあった人間にね」

月「それがリュークへの二つ目の頼みだ」

リューク「何だってそんな事を?」

リューク「ミサにライトが所有権を放棄した事を気付かせる為か?」

月「どうせ僕が所有権を放棄すれば、リュークはミサに憑く事になる」

月「それだけなら、わざわざそんな面倒な事をする必要はないよ」

月「リュークには、ノートの表紙に嘘のルールを書き加えて欲しい」

――このノートに名前を書き込んだ人間は最も新しく名前を書いた時から
13日以内に次の名前を書き込み人を殺し続けなければ自分が死ぬ。

リューク「だから、何の為だよ?」

月「念の為だよ」

月「簡単に言えば、依頼人が偽地獄通信にアクセスしなかった時の為」

月「まあ、他にも理由はあるが……それは後でのお楽しみだ」

リューク「……よく分からねーが」

リューク「それをすれば、俺は面白い物が見れるんだな?」

月「ああ」

月「キラ対地獄少女……いや、それ以上の物を見せる事を約束するよ」

リューク「ほう、それ以上か」

リューク「クククッ、そう言われちゃあやるしかねえな」

月「リュークならそう言ってくれると思ってたよ」

リューク「だが、もしミサを動かす事でLに見つかったらどうすんだ?」

月(確かに、それこそが最も懸念される事だが……)

月「その場合も、少なくとも僕は記憶を取り戻す事は出来るはずだ」

【現在 月の部屋】

月(――そう。ミサが捕まった場合は、お前は僕を頼らざるをえない)

月はノートを拾った体制から、顔を上げる。
目の前には月もよく知る白い死神の姿があった。

月「……久しぶりだな、レム」

レム「その様子だと分かっているようだが……ミサがLに捕まった」

月「地獄通信は?」

レム「キラと書き込んだ者は始末している」

レム「もっとも、Lに気付かれたのはその時の行動が原因のようだが……」

月(よし……これで大丈夫だと決まったわけではないが、一応キラとして動く事は出来る)

月(レムとの会話も気を遣う必要はない)

月「安心しろ。ミサは僕が助け出す」

レム「当たり前だ。ミサはお前の言う事を聞いた為に捕まった」

月(くそ、勝手な事を……)

月(そもそもあの女が僕に近付いて来たのが発端だろうに……)

月「とにかく、何があったのかを教えてくれ」

レム「つい先程、ミサが家を出たタイミングで顔を隠した男が接触してきた」

レム「そして、第二のキラ容疑と言い、ミサを拘束した」

月「ノートの切れ端はどうした?」

レム「ミサのバッグの中だ」

レム「それに触れられては、私の姿が見えてしまう」

レム「だからそうなる前に、ミサに所有権の放棄を持ちかけた」

レム「ミサは頷き、所有権は私に……」

レム「そして、奴等に気付かれる前にミサのノート本体とお前のノートのページを回収し、ここに来たのだ」

月「……よくやってくれた、レム」

月「ノートを奴等に回収されていたら、全てが終わりだった」

月(パソコンは回収され、偽地獄通信については調べられているだろうが……仕方がない)

月(少なくとも、偽地獄通信から僕には辿り着けないようにしてある)

月(問題は、ミサのノートの切れ端……これがLの手に渡った事だ)

月(ただのノートと思ってくれればいいが……)

月(……いや、Lも何か確証があってミサを拘束したんだ)

月(ここはノートの使い方についても、ある程度気付かれている前提で動くべきだろう)

月「レム、お前はそのノートを持ったまま死神界へ帰れ」

レム「言われなくても、そうするつもりだ」

レム「Lは間違いなくミサのノートの切れ端に触れる。そうなれば、私の姿が見えるからな」

月「ただ、その前にお前のノートを何ページかもらいたい。出来るか?」

レム「……いいだろう。それでミサが助かるなら」

レム「ただし、お前にやれるのは1ページだけだ」

月「ああ、それで構わない」

レム「死神界からでも、私はお前とミサの事は見ている。約束は守れよ」

ノートを1ページ月に渡すと、レムは翼を広げ、飛び去っていった。

月(これで僕の手元にあるノートは僕の物とミサの物……2ページだけか)

月(状況は決してよくはないが……このような事態も想定していなかったわけではない)

月(仮にその力を知っていても、おそらくLはまだノートを試してはいないはず)

月(地獄通信と同じく、ノートの使用にも何らかのペナルティがあるかもしれない……)

月(そう考えると、簡単にノートを使えるとは思えない)

月(死刑囚や犯罪者に使わせるにも、手続きに時間がかかるはず)

月(いや……どちらにせよ、試すとすればミサの尋問を終えた後だ)

月(ならば……まだ間に合う)

月(勝負だ――――L)

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