軍師「挑発だ! 挑発して、敵軍を城の外におびき出すのだ!」 (19)


軍師のもとに伝令が駆けつける。


「申し上げます! 敵軍はここより西にある城に入り、籠城する模様です!」

「よし……ならば我々は城を囲み、四方から城を攻撃する!
 これで我が軍の勝利間違いなしだ!」

「はっ!」


しかし、そううまくはいかなかった。


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敵の城は城壁は高く、堀は深く、いくら攻めてもビクともしない。

軍師はあれこれ策を練り、連日城攻めを試みるが、いたずらに犠牲者が増えるばかりであった。


「軍師殿、今日も攻めきれませんでした!」

「うむう、あの城を落とすのは容易ではないな。
 どうにかして、敵軍が城の外に出てくるようにせねば……」


軍師はしばらく考えてから、こう命じた。


「よし、挑発だ! 挑発して、敵軍を城の外におびき出すのだ!」


さっそく兵士たちにより、城に立てこもる敵軍への挑発が行われた。


「やーいやーい、臆病者ども! そんなに俺たちが怖いのか!」

「いつまで城にひきこもってるんだ! 腰抜けどもが!」

「お前らの大将はとんだヘタレだな! 一戦交えようという勇気さえないのか!」


しかし、敵軍は一向に出てこようとはしなかった。


挑発は毎日のように続けられたが、効果は無かった。


「ダメです! 出てきません!」

「まずいな……このままにらみ合いが続くと、兵力が多いこちらの兵糧が危うくなってしまう。
 司令官から指揮権を委任されておきながら、あんな城も落とせぬとなると、申し訳が立たぬ……」


いくら頭をひねっても策は思いつかない。

その後も軍師は兵士たちに挑発を続けるよう命じた。


一方、城内では敵の将軍が高笑いしていた。


「ハッハッハッハッハ、あんな見え見えの挑発に乗るものか!
 このまま籠城していれば、奴らの食糧が尽きるのは分かりきっている!
 そうなれば撤退するしかあるまい! 皆の者、ここは我慢の時だ!」

「はっ!」


敵将は軍師の狙いを完璧に読み切っていた。


数日後、軍師は兵士たちの中に、敵将を知る者がいないかどうか呼びかけた。

すると、運よく敵将のことを知っている兵士がいた。


「敵将について、知っていることをなんでも聞かせてくれ」

「分かりました」


敵将になにかしらの“キズ”があれば、そこを突き、搦め手を仕掛けることができる。

たとえば「部下を大切にしない将」だった場合、
城内に恩賞を約束する手紙などを送り部下を寝返らせ、城門を開けさせるという具合にだ。


ところが、兵士からは敵将のキズらしいキズの情報は得られなかった。

敵将は勇猛果敢にして品行方正、君主に忠誠を誓い、部下を大事にしている。
分不相応な野心なども持ち合わせてはいない。
敵ながらあっぱれ、というべき将であった。


「――という具合ですね」

「う~ん……弱点らしい弱点はなさそうだ」


やはり、このままこの城は諦めるしかないのか……という思いがよぎる。


「そういえば、敵将ってどんな外見をしているんだ?」

「ああ、たしか――」


次の瞬間、軍師は妙案を閃いた。


「これだ!」


軍師は兵士に命令を下す。


「今すぐ黒くて細い糸をかき集めてくれ。なるべく沢山」

「はあ……分かりました」


とても戦争中とは思えない命令に困惑しながらも、兵士は命令を忠実にこなした。
軍師は集められた大量の糸を前にして微笑む。


「これで……我が軍の勝利だ!」


翌日、城の前に軍師が姿をさらす。

そして――


頭にくっつけた大量の黒い糸をこれ見よがしに、手でかき上げる。


「あー、つれーわー! 長髪だとすぐ髪が目や耳にかぶさってうっとうしいわー!」



これを見た敵将は顔を真っ赤にし、目を血走らせて激怒した。


「全軍出撃だっ!」

「し、しかし……」

「あのロン毛野郎を討ち取るのだぁっ! 絶対に!」


挑発に乗り城を飛び出した敵軍は、すでに軍師に動きを指示されていた兵士たちによって、
逆に叩き潰される結果となり、まもなく降伏した。

長髪による挑発が功を奏したのである。


なお、余談ではあるが、敵将は非常に頭髪が薄い男であったと伝えられている――






― 終 ―

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