【GE】アリサ「最近リーダの声を聞いていない」 (73)

SS初投稿です。至らないところがあるでしょうがよろしくお願いします。

・時系列はGE2RBの後。
・GE~GEBとGE2~GE2RBのオリ主が二人出てきます。
・二人とも女隊長で、設定をそこそこ盛ってます。

中の人はゲームしかやってないです。それでも良ければどうぞ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1479738725

 その事件は、どこかの誰かが言った『先代第一部隊隊長の声を聞いたことがない』という一言から始まった。

 いや、聞いたことがない、というのは少々の語弊がある。共に戦った者の皆が、戦闘中の指示や無線での会話では彼女の声は聞いたことがあるし、それが確かなのは通信ログなどを確認すればすぐにわかる。

 しかし、戦闘以外で、つまり移動中や休憩中などに加えプライベートで彼女の声を聴いた覚えがないのだ。

 そのため、『隊長の声を聞いたことがない』なのだ。

「最近、リーダーの声を聞いたことがないという人が増えている気がする。いいえ増えているんです」

「……それがどうした」

 人がそれなりに行き交うラウンジで通常よりラフな格好をしたアリサと、いつものようにクレイドルの制服に身を包んだソーマが、ここにはいない元第一部隊隊長で今はクレイドルの一員である友の話をしている。

 二人の顔は、服の印象とは真逆。片や真面目な顔、片や呆れた顔をしていた。

「では、一つ聞きましょう」

 アリサが指を一つたてる。

「最後に会話したのはいつですか?」

 手に持ったコーヒーを一口飲みながらソーマは何を言っているんだ、という顔をする。

「そりゃあ、お前――」

「任務中、通信、定期連絡を除いてください」

 アリサが二つ目の指を立てる。

 条件を足されて、面倒なことになったなとソーマは小さくため息をつき、コーヒーカップを揺らして少し考え込む。

 10秒

 20秒

 30秒を過ぎ、彼はカップから手を放し、そのままあごに指をあてて考え込み始めた。

「まて、今思い出す」

 所謂プライベートな、気の置けない会話です。とアリサが三つ目の指をたてる。

「コウターちょっとこっちにきなさい」

 アリサが、ラウンジに備え付けられたテレビを見ていた、今の第一部隊を率いる男であるコウタを呼ぶ。呼ばれたコウタがアリサの方を向き、その隣で唸るソーマを認めた瞬間顔を強張らせる。

――俺、何かやったかな?

 そうつぶやきながら、その場で一緒にテレビを見ていたエリナとエーミールに一言断りを入れてからアリサの元に向かう。

「俺、何か不味いことした?」

 何かやましいことがあるのか、未だ頭を悩ませるソーマを挟んで椅子に座る。

「何?やましいことでも――」

「無い!!」

 食い気味に否定するコウタを少し胡乱気な目で見つめながらも、ソーマと同じ質問を投げかける。最後に会話したのはいつか、と。

 悩むソーマに対して、コウタは心当たりがあったらしく、すぐにその質問に応じることができた。

「ええと、貸したバガラリーの録画を返してもらったとき……」

 その場面を思い出しながらしゃべっていたようだが、その記憶が鮮明になるにつれてゆっくりとトーンダウンしていく。

「……してない」

 顔が固まったコウタ、未だ唸るソーマ、その二人を見てやれやれと首を振りながらため息をつくアリサ。事態は混沌としていた。

「あった。あったぞ」

 目をつぶり、眉間にしわを寄せ、唸りながら声を絞り出すソーマ。

「『アラガミってどうやったら食べられるんだろう』ってあいつが言ったんだ、それで、俺が『馬鹿かお前は、食えねぇよ』って返した。ああ、した、そういう会話をした」

 アリサが紅茶で口を湿らせ、一言。

「いつ」

「……半年?いや、一年と半年前だ」

 幾分かすっきりした顔をしたソーマだが、次は違う理由で顔を険しくする。

「こんなに話してなかったか?」

 三人が三人とも、異口同音にそれぞれの言葉で同じ言葉をつぶやく。

 任務中では言葉を交わしている。なぜなら、そうしなければいくら長年共に戦ってきた仲間でも、まともに任務を遂行することができないからだ。

 しかし、ひとたび戦場を離れれば、彼女とほとんど言葉を交わしてはいないではないか。

「確かにリーダーは口数が少なくて、身振りで意思を表示することが多いです。こちらが会話を振れば、大げさなほど身振りで応えてくれます。でも、私たちは彼女自身の言葉を、聞いていないんです」

 アリサが少し寂し気な、悲し気な顔をする。

「声を聞いたことがない、と小耳にはさんだ時ハッとしたんです。私たちは、彼女のことを何も知らない、と」

 ソーマが元から厳めしい顔をさらに険しくし、コウタはショックに口を少し開いたまま固まっていた。

 そんな、いかにも深刻そうな雰囲気を醸し出す三人に、ラウンジにいた人々は何事かとざわつき始める。

 何か痛ましい事件でも起こったのだろうか、もしそうなのだとしたら三人が話してくれるまで待つほうがいいのか、それとも今多少強引にでも聞いたほうがいいのだろうか。

 触れがたい、近寄りがたい三人に、声をかける者は一人を除いていなかった。

「おうおう、どうしたどうしたそんな辛気臭い顔をして」

 その一人は、彼もまた第一部隊の隊長だったリンドウであった。



書き貯めを放出したところで今日はここまで。

話の都合上クレイドルのメンバーが集結してますが、そこはまぁ、大丈夫なんでしょうきっと。

感想もよければ、書き込んでいってください。



書き込みを見るまで完全にエーミールだと思っていた私を殴ってくれエミール。
思い込みの力ってすごい。あと、長音に縁があるのかスレタイもミスってる始末。

今日から独自解釈オリジナル要素が増えるとともに公式との齟齬が増えていくと思います。
それでも良ければ、今日の更新もよろしくお願いします。

(ぶっちゃけキャラの口調とか一人称二人称自信ない)


 何を言われるか不明なため、内心身構えていたリンドウに告げられた言葉は拍子抜けするものであったが、ある意味で心にくるものがあったらしく、ばつが悪い顔をして頭を書き始める。

 そして、一時期とはいえ元第一部隊隊長と共に希少なアラガミ捜索の遠征に出ていた彼なら、自分たちが知らない何かを知っているかもしれない。この場にいる三人が皆、淡い期待を抱く。

「えっと~。リンドウさんはあいつと遠征に出てましたよね、何かあいつと喋ってないかなぁ?なんて・・・」

 コウタが代表して聞く。

「すまねぇ。あいつと一緒とは言っても常に行動を共にしてたわけじゃねえんだ」

 リンドウはそう言ってから、ラウンジにいる皆に仲間の訃報などではないことを伝える。それを聞いたラウンジにいた面々はほっと息をつき、表面上はいつもの様子へと戻っていく。

「ああ、心配させてしまっていたみたいで、すみません」

 そう言いながら頭を下げるアリサに、謝らなくてもいいと言いながらリンドウがその横に座る。これで、クレイドルの中心核となるメンバーが件の人物以外集結したことになる。

「で、あいつの話だったな」

 リンドウがそう切り出し、他のメンバーに話していなかった遠征の時の様子を語り始める。

「確かに、俺達は世界中を共に回ったさ。だが、一緒にいたのは移動とか、挨拶回りとか、そういう時だけで。現地について、調査とか戦闘の時とかはそれぞれ単独行動だったんだ」

 そう語ってから、ラウンジの中央にいるムツミにコーヒーを持ってくるように頼む。ビール等の酒類でないのは、まじめな話をするからであろう。

「知っての通りあいつは強い。いろいろな意味でだ。だから、別々に行動して、あー今もそうだな、効率を上げる意味があったんだ」

 今現在も世界各地を回っているはずの彼女を思い出しながら、右腕の籠手をさすり始める。

「で、結構忙しかったからあいつとは、俺もあまり腰を据えて話せてない。すまん、力になれんで」

 期待をさせてしまった自らの後輩へ、そしてここにはいない恩人に対して謝り、頭を下げる。

「頭を上げてくれ、リンドウさん。あんたより長く一緒だった俺たちがしっかりと話せてないのが元々の発端なんだ」

 相変わらず険しい顔だったが、それでもどこか柔らかな顔でソーマがリンドウの頭に声をかける。この時、リンドウはこいつも随分と丸くなったなと思ったが、口には出さなかった。

「で、だ。なんで急にあいつの話なんだ」

 リンドウが頭を上げるとすぐさまそのようなことを言う。この切り替えの早さはこの男の美徳であるが、ともすればそれで要らぬ諍いを起こしかねないほどの早さでもある。

 その言葉にアリサが過敏に反応する。

「それは、アリサが『リーダーの事よく知らない人が増えてる』って言ったから?」

 リンドウのその問いに、コウタがなぜか疑問形で答え、アリサの様子を間近で見たソーマが得心が言ったという表情になる。

「アリサ、何を隠している」

 目を細め、追及の視線を送るソーマにアリサは渋々と白状する。

「リーダーが数年ぶりに極東支部に帰ってくるそうなんです」

 クレイドルのメンバーとしてアナグラ以外で会うことはままあったが、極東支部には出ていったっきり帰ってくることがなかった人物が帰ってくるというのは、この場にいる全員にとって衝撃をもって迎え入れられた。

「な、何で隠してたんだよ!!」

「あいつが帰ってくるだと!!」

「あー、なんだ?大事件だなこりゃ」

 コウタが大声を上げるのはいつもの事とラウンジにいた皆はスルーした。しかし、普段冷静なソーマが声を大きくして、それも半ば腰を上げたのにはラウンジにいた皆の目を引くこととなった。

 各人の反応を見たアリサは、やましいことをした言い訳ではないが、隠していた理由を告げる。

「サプライズをですね、したかったんです。リーダーが帰ってくるのは皆が非番の時に調整してもらって、それで――」

「いい、皆まで言わなくていい」

「ああ、なんだ。そういうこと・・・」

 サプライズと聞いて三人が納得し、その内容をすべて聞かないようにソーマが途中でアリサの口を閉じさせる。アリサは支部長ほか、伝えなければいけない人々にはしっかりと帰還の旨を伝えていることをしっかりと宣言する。

 そして、アリサは帰還の旨を職員たちに伝えたときに『声を聞いたことがない』と多くの人が言っていて、それでこのようなことになったのだということも説明した。

「フライアの人員と、クレイドルに引き抜いた穴、か・・・」

 リンドウが真面目な顔をして、そう言ったであろう者たちを推理する。

「そうか、ブラッドもあいつのことは知らないのか」

「エリナとエミールも会ったこと、あったかな」

 クレイドルを発足するときに極東支部から引き抜いた人員は少なからずおり、その穴埋めとしてアナグラに勤めるようになった人間。そして、先日起こった一連の事件の後、この極東部付きになった元フライアにいた人間。

 これらの者が、今まであったことがない人に対してそういう反応をするのは無理もない、むしろ当然と言える。

 そして、ただならぬ雰囲気の四人に、不幸にも話しかけねばならない人物がやってきた。

「あ、あのう・・・コーヒー」

 先ほどリンドウにコーヒーを頼まれたムツミである。

「?お、すまん。ありがとう」

 先ほどの衝撃でコーヒーの事をすっかりと忘れていたリンドウ。そんな男におずおずとコーヒーを受け渡したムツミに、アリサが真剣な目で問いかける。

「ムツミちゃん。坂上シズカって人知ってる?」



リアルタイムで書くことの練習でもあった今回はここまで。

誤字や矛盾が怖くて気が気がじゃなったから今度からはある程度書き貯めることにします。

今回最後にGE~GEBの主人公の名前が出てきました。

坂上静さんです。文字通り静かな人です。

感想もよければ、書き込んでいってください。

では、おやすみなさい。


よくよく考えたら、初代主人公の目の前でエリックが死んでるんだし、彼の葬式か何か出てると思うのです。その時にたぶんだけどエリナだけでなくその両親とも顔見知りの可能性があるんですよね。そうでなくとも彼の最期の様子を両親に伝えた可能性もありますしね。
 あの時のソーマが素直に両親に語るかな?どうだろう。でも、エリナのキャラエピではソーマがいたこと知らない風だったし・・・難しい。
でもエリナが一番周りの人物に恵まれてる気がする。初代主人公と知り合いで二代目主人公に加えてコウタの元戦ってるんだし、ソーマに目をかけられてる風だし。

とここまで書いておいて調べてみたらRESSURECTIONでエリナに関するイベントがあるみたいじゃないか。あれって、ただのバーストのリメイクだったんじゃなかったのか・・・。追加エピソードがあるなんて知らなかったよ。

そんな情弱の私ですが今日もよろしくお願いします。


「コウタさんの前の第一部隊の隊長で今はここを離れてる方、ですよね」

 話を振られたムツミは一切のよどみなく答える。大型のアラガミを討伐する目的で編成運用されている、アナグラにおける主戦力である第一部隊の隊長であった人物。名前だけなら知らぬものなどいないほどの有名人である。

「じゃあ、会って話したことは?」

「すみません。面識はないんです」

 アリサの質問にまじめに答えると、まだ仕事があるらしく、パタパタとかわいい足取りでラウンジの中央に戻っていくムツミ。四人はそれを黙って見送る。

「あいつがいたときはまだラウンジがなかったもんなー。知らないのも不思議じゃないね。」

 コウタが、ついでに自分の分の飲み物も頼めばよかったと少し後悔しながら言葉を発する。

「確かに、あいつが遠征に出てからアナグラも様変わりしたからな」

 今のアナグラの現状を見れば彼女はどういう反応をするのだろう。昔のように少ない人数で回していた頃しか知らない彼女は、ブラッドも増え第一部隊にも入った新入りにどういった感想を抱くのだろう。

「今度こそ、ゆっくりしてほしいんですけどね」

 ここで初めてアリサが帰還の理由を話す。それは単純な理由で、感応種に対する術を得るためと言うものだ。

 ブラッド隊長の血の力「喚起」による、さらなる戦力増強を見込まれての帰還であり、それが意味するのはこれまで以上に強いアラガミとの戦闘を強いられるということ。

「そういえば、少佐にも殆ど特例で昇進したみたいだし、上はもっとあいつに戦わせたいんだろうな」

 リンドウが思い出したように、コーヒーを飲んだことから生まれたのではない苦い顔をしながら言う。

「リッカさんが聞いたら激高しそうですね」

 神機の整備をする時に、いつもいつも口すっぱく『無茶をするな』と注意をしていた冷やしカレードリンクが好物の整備士を皆が思い浮かべる。

「ただ帰ってくるだけでもいろいろ言われてたのになー」

 コウタが、過去のリッカの言葉を思い出しながら、嬉しそうな色を下に隠しながらうんざりした顔をする。

 それを契機に、四人で昔話に花を咲かせ始める。

 いつ、どんな無茶をしたのか。その時どんなアラガミを前にしていたのか、どんな事件に巻き込まれていたのか。入隊からアーク計画、そしてリンドウの事から、クレイドル結成まで。

 皆がそれぞれの視点からその時を振り返る。

「ただ・・・、あいつはどう思ってたんだろうな」

 ソーマが飲み終わったコーヒーカップを弄びながら、窓の外を見る。

「どうって、なんだ?」

 リンドウがよくわからないという顔をする。それには、他の二人も同調し頷いている。

「親父の計画の時、あいつは自分がどっちなのか言っていないんだ」

 他の人間に聞かれては少しまずい事なので、少し婉曲的に表現する。

 どっちというのは、つまり賛成だったのか反対だったのか、ということである。

「それは、反対だったから一緒に戦ってくれたんじゃ・・・」

 アリサは、そんなこと考えたこともないという顔で、客観的には正しそうな意見を言う。コウタはよくわかっていないようで、リンドウはそもそもその場にいなかったので、我関せずというスタンスでコーヒーを飲みほしている。

「えーっと・・・それは、あいつがもしかしたら賛成だった、ってこと?」

 コウタが、遅ればせながら状況を理解し、明確に言葉にして確認をとる。

「あくまで可能性の話だ」

 そして、とソーマが言葉を続ける。

「リンドウの時も自分だけの意思で動いていたというより“何か”に導かれて、という印象があった」

 それに、とさらに続ける。

「あいつは、クレイドルを作るとき、それで遠征に行くと決まった時、あいつは――」

「ソーマは!!」

 アリサが鋭い声で言葉を遮る。

「ソーマは何が言いたいの」

 隠しきれない怒気を孕んだ、静かな声をアリサがつぶやく。

 鋭い声に、リンドウがカップを落としかけ、コウタがビビってソーマの陰に隠れ、ラウンジが今度こそ完全な静寂に包まれる。

「俺は可能性の話をしているだけだ」

 ともすれば、ダチといって憚らない人間の事を貶めることになる考えを、ソーマが臆面もなく言うことにアリサは怒っていた。そして、可能性の話と言ってはぐらかすことも、彼女の癪にさわっていた。

 そして、はっきり言えと目に意志を宿し、ソーマと目を合わせる。

「あいつは何も意見を言わなかった。最後までだ。あいつは、戦うことだけで、それだけだった。あいつには、何の考えも思想もありゃしない。ただ、周りに流されてるだけってことだ」

「っ!!」

 立ち上がり、拳を握り、わなわなとそれを震わせるアリサ。そんな彼女からコウタが少し距離を取り、リンドウが落ち着けと声をかける。

「あくまで、可能性の話だ。周りに流されてるだけと言っても、ここまでする理由が無いしな」

 空のコーヒーカップを持ってソーマが立ち上がる。

「仕事がまだ残ってるんでな」

 そう言い残し、ラウンジから騒動の中心人物が出ていくのを、ラウンジの人々が見送る。

 そして、ドアが閉まった瞬間。

 拳を叩き付ける音がラウンジに響いた。



今回はここまで。

このSSを書こうと思った、結局初代主人公って流されてるだけじゃね?と言うテーマがようやく出せました。

GE2では他のキャラとの交流があったからか、皆のために頑張ろうと言う感じがあったんですけど、初代は上に言われたから、仲間に言われたから、レンに言われたから、という印象(言われた、と言うより頼まれたのほうが近いかも)がどうしても強いんですよね。

これは私の解釈なので他の人がどう思うかは分かりませんし、不快に思われる方もいるかもしれません。それでも良ければ次回もよろしくお願いします。

感想もよければ、書き込んでいってください。




一応昨日で第一話的な区切りができたけど、最初と最後で若干矛盾を起こしてて自分の力不足を痛感・・・。

いつかまとめて修正したいなーと思いつつ、フィーリングで書いてるからしょうがないよねと自己擁護もしてみたり。

そんなSS初心者の私ですが、今日もよろしければどうぞ


 ソーマがラウンジから去り、しばらく経っても残された二人の男がなだめても、アリサの仏頂面は変わらない。

 二人がと言うよりクレイドルが人目もはばからず言い合いをしているのを初めて見る面々は、一見興味なさそうにふるまってはいるが、ちらりちらりと残されたクレイドルの三人を見ていた。

 一方で、昔の高慢だった頃のアリサと、人を避け突っ張っていた頃のソーマを知っている人間は、ある意味懐かしいものを見たという雰囲気を醸し出していた。

「二人が言い合いしてるの、初めて見た」

「ふむ、この不肖エミール。お二方の諍いの原因を聞いてこよう」

 僕にも何かできることはあるはずだと、優雅に立ち上がるエミール。ただ立ち上がるだけでも、彼の育ちの良さ、自分が騎士であろうと高潔で強くあろうとするその姿勢が見て取れる。

 しかし、容赦なく彼の向う脛を蹴ってもう一度座らせるエリナ。

「ああ!!痛い!!何をするんだエリナ」

 エミールが蹴られた部分をさすりながら、エリナに追及の目を向ける。その目を向けられたエリナは一切悪びれることなく、むしろ当然という面持ちでエミールにきつい言葉を浴びせる。

 曰く、付き合いがそれなりにあり、その上戦友として背を預けあう者同士があそこまで大きな声を出して言い合うのはきっと重大な理由に違いない。それに、理由を聞いたとして、その理由を正しく理解することができるのか、できたとして新米に対処することができる可能性は低いのだ。

「う・・・そうかもしれない」

 エリナの熱弁を聞き、沈痛な面持ちになるエミール。しかし、次の瞬間には決意を新たに、洗練された所作で立ち上がる。

「しかし、騎士を目ざ――」

「まぁまぁ、あの二人の事は二人に任せようぜ」

 しかし、立ち上がった所をとある男が肩に手を置き、押しとどめる。防衛班を率いる大森タツミである。彼はクレイドルが結成される前の人間関係をそれなりに知っていたし、二人の過去や、それに関しての前第一部隊長のこともある程度知っているので、四人の様子からある程度状況は察していた。伊達に長い間このアナグラを守ってきてはいないのだ。察している内容が正しいのかどうかはともかくとして。

「タツミさんは何か知ってるんですか?」

 エリナがエミールを半ば強制的に座らせながら、真剣な目で理由を問う。しかし、タツミはエミールの天使の輪を抱く髪をいじり、何も知らないと少し笑いながら答える。

 こちらは真剣なのに、まじめに答えようとしないタツミにエリナが冷ややかな目を向ける。

「でも、きっとあいつ関係だろ」

「あいつとはどいつですかな!?このエミールめが話をつけてきてみせよう!!」

 義憤にかられたエミールが、その育ちの良さをうかがわせる所作で立ち上がろうとするも、頭を押さえられていて、立ち上がることはかなわない。

「あいつはあいつ。楽しみにしとくんだな」

 エミールの頭を少し弾いて、タツミがラウンジから出ていこうと背を向ける。

「あいつって?」

 エリナがその背に声をかけるも、タツミは手を振るだけで答えを示さない。

 結局タツミは答えを示さないままラウンジから防衛班の面々を伴って出ていき、それを追うように、目尻にどういう意味かの涙をたたえたアリサもラウンジから出ていく。

 残されたのは、状況が何もわからない者たちと、度合いは違えど頭を抱え込む二人の男。

 極東最強の神機使いが帰ってくる直前。

 アナグラは、その本来憩いの場であるはずのラウンジは、混沌に包まれていた。



エミール書くの超楽しかった。
エリナ書くの超難しかった。

今日は短めだけどここまで。エリナの違和感がすごい、あのかわいさは私には書き上げられない。

次はブラッド。ぶっちゃけロミオとリヴィのキャラがつかめてない。いっそのこと、出撃中とかにしてしまおうか。

感想もよければ、書き込んでいってください。




ただいま。

繁忙期を切り抜けたので更新を再開します。

再開すると言っても、まずはリハビリで、本筋から半歩ほどズレた話を投下します。

ブラッド編なんてなかったんや

 歪に崩壊し、時折不気味な悲鳴を上げながら朽ちるコンクリートの森を抜けたところ。大きな湖の横にある広場に、数台のトレーラーがエンジンをつけた状態で止まっていた。
 時刻は夕方で、少し遠くに見える灰色の人類の英知は、その人類の血で濡れたように赤に染まっている。
 俺は、その一番先頭のトレーラーの上で携帯端末を弄繰り回していた。
「あと、一週間ほどかな」
 昔は東京大阪間は6時間もあれば消化できる距離だったらしい。今は、物資を満載している状態で、そしてそれらを守り安全に行こうと思えば10日ほどかかってしまう。今はいろいろ物騒なのだ。

 とりあえずの仕事を終わらせ、ここは昔何という名前の土地だったか、と手元の端末で古い地図を呼び出す。
 知らない、聞いたこともない土地であった。
 それなりに高度な教育を受けたはずの自分でも知らない土地。こう言えばどれほどマイナーな土地なのだと思われてしまいそうだが、人の生存権が狭められて久しい中、人が全く住んでいない土地の名前など憶えている余裕などないのだ。

「滋賀県――何て読むんだ?これ」

 たまたま隣にいた女。きっと同僚だろう人物に、その顔も確認せずに声をかける。

「野洲(やす)」

 聞きなれたような、聞きなれないような声に、その答えを提示した女の顔をここでようやく見る。

 顔を確認し、誰か認識し、どう言う人物かを思い出す。

「しょ、少佐!!失礼しました!!」

 大慌てで自分より階級の高い人物に敬礼する。それに対し少佐――坂上シズカ――が軽い敬礼を返し、特に叱責などはせずにこちらから目を離す。
 ここにきてようやく少佐の姿を確認すれば、今からトレーラーの周辺を歩くためなのだろう動きやすい服装をしていた。
 動きやすい服装とはいっても、何度も着てくたびれたクレイドルの服装なのだが。

「これから警邏でありますか?」

 彼女はその言葉に頷き、トレーラーの上から周りを軽く確認した後、自分の神機を取りに別のトレーラーへと向かっていった。

 大きくため息をつく。
 彼女はあまりしゃべらない。最低限のことと通信機越しではそれなりに喋るが、いざ対面すると頷くか顔を振るかで返答することが多い。このコミュニケーション方法には苦労させられることが多い。
 先ほどのように端末に目を通したまま会話をすれば少佐と別の人間を間違えるし、そもそも相手がボディランゲージで返事するということはこちらが慣れなければまともに意思疎通ができないということだ。
 つまり、端的に言えば、疲れる。
 彼女とのコミュニケーションはとても疲れるのだ。

「おーい。どうしたの?」

 聞きなれた同僚の女の声に少しホッとする。声の方を見れば、今まさにトレーラーの上に登ろうとしているところであった。

「いや、少佐がな…」

 先ほどあったことを軽く話し、そのまま愚痴へと移行する。当の人物は愚痴に移行する直前に神機をもって、遠くの方へ走っていったのを確認している。

「今日の通信手は二番トレーラーだったよな」

「昨日は私が通信手だったから間違いないよ」

 なら、心置きなく愚痴らせてもらう。

「あの人って、良くあんなんで今までやってこれたよな」

 人が作り出した最大の発明は言葉だと俺は思うのだ。人が猿と区別される最大の要因は言葉なのだ。しかし、それを彼女は放棄している。それにより『サルだ!!』とは言わないが、果たして社会的動物としてやっていけるのかどうかは疑わしい。

「まー。一理あるね」

 苦しい笑顔で同僚が同意してくる。このそこそこ優秀な通信手も心当たりがあるようだ。

「そもそもさ、親交を深めようとしないよな。あの人。そんなんだから一人で行動させられるんだよ」

 愚痴を通り越して悪口になっている気がしないでもないが、一度すべてを吐き出しておきたい。そうしなければ、彼女に直接言ってしまいそうだ。そうなれば出世の道は閉ざされ、安全な内地勤務と言う夢が断たれてしまう。

「一人で遠征してるのは強いからじゃないの?」

 同僚が今回は純粋な疑問を返してくる。確かに、彼女は極東最強だの、最強の神機使いだのと言われているのは知っている。しかしだ、

「強いって言っても、半分以上プロパガンダだろ」

 適合率が高ければ、低くてもひたすらに努力すれば、努力の途中心が折れてもよき仲間に恵まれれば、

「誰でも英雄になれるってな」

 そんなわけあるかと吐き捨てれば、端末に『北側は異常なし』という旨の報告が件の英雄様からもたらされる。彼女はこれから時計回りに移動を開始するだろう。

「プロパガンダねぇ」

 納得したようなしてないような曖昧な表情の同僚を差し置いて、言葉を続ける。

「でもあれだ。今極東にいるブラッドってのは本物だな。ありゃすごかった」

 少し前に所用で極東支部に一度帰った時に見た部隊を思い出す。高い技術と、それを使いこなすほどの練度、そして血の力ときた。まさしくゴッドイーターの花形部隊と言えるだろう。

「俺がアナグラに戻った時、ディアウス・ピターとプリティヴィ・マータが出たんだけどな、それに部隊を二つに分けて対処したのよ。二人ずつな。それで、ほとんど同時にその二体をあっさり倒しちまった」

 あれはすごかった。そして、戦闘の記録を見てこれが精鋭ブラッドなのかと驚いたものだ。

 朗々と語っていると、またもや通信が入る。『北東にて中型のアラガミ二体と交戦中』

「ブラッドって強いんだね」

 そう言いながら、同僚が北東の方へ双眼鏡を向けながらこちらに質問をしてくる。興味は完全にブラッドに向いているようだ。

「ブラッドアーツ?って確認できた?」

「アナグラの戦闘ログ漁ればいくらでも見れる」

 自分たち二人とも、それなりの地位にいるために記録はいくらでも閲覧することができる。伊達に士官学校は出ていないのだ。

「見えないなぁ」

 戦闘音もかなり遠く、その詳細を聞き分けることができない。どのような敵と戦っているのか、優勢なのか劣勢なのかをうかがい知ることはできない。

「まぁ、大丈夫だろ」

 しかし、『中型アラガミ』と特に名前を限定していない以上、ヴァジュラか何かだろう。さすがにヴァジュラ二体くらいなら問題なく倒すことができるはずだ。その程度には少佐の事は信頼している。
 やはり、数分経てば無事に戦闘を終えた旨の通信が入った。



半歩外れた番外編はここまで

とりあえずリハビリもできたので次の日か明後日か、近いうちに本編を進めようと思います。

後地味に一言喋りました。

感想もよければ、書き込んでいってください。

生きてはいますが、ちょっと大変なことになりまして、まだしばらく更新は難しいと思います。

後一か月もすれば確実に時間は取れるようになるんですが、それまでの更新はあまり期待はしないでください。

本当に申し訳ございません

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