【艦これ】少年「式典のパートナー探し?」老提督「うむ」青葉「はい!」【SS】 (103)

地の文SSです。主人公の少年はラバウル老提督の弟子みたいな感じで。

今回は導入、少年がパートナー探しに出かけるまでと、ちょこっと青葉の予定です。
パートナーに選ぶ相手は飛鷹を考えていますが、それは次スレになるかもしれません。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1477313154

もうすぐ初夏を迎える南半球の日差しが、ラバウルに広がる大海原に反射して輝いている。

その輝きが執務室の大窓にめいっぱい降り注いでいるため、部屋の主に対面しているぼくには眩しくて仕方がない。


額に手をかざすのに気を取られていたせいか、意識が散漫になっていたようだ。

発せられたことばが上手く聞き取れず、問い返すことになる。



「じーさ……いや、提督。いまなんて言いました?」

「やれやれ、耳が遠くなるのはワシのような年寄りの方が先じゃろて」

老人特有の甲高い声には、朗らかさと老獪さが同居している。深い経験を積んだものにしか出せない声だ。

水分が枯れて痩せた身体を包んだ、ぼくと同じ白い軍服は、彼が帝国海軍に所属する人間であることを語っていた。


よいしょ、という実にジジ臭い掛け声とともに執務机に体重を載せ立ち上がると、それに合わせて胸の勲章がじゃらりと音を鳴らす。

皺が刻まれた目尻を細めて、まっすぐにぼくを見据えて、言った。


「おぬし、ワシの名代として本土の式典に出席してくれ」

海外艦の帝国海軍着任。

ぼくたちラバウル鎮守府のような、本土を遠く離れた鎮守府・泊地を任地とする各地の責任者を呼び寄せるような式典といえば、決まって大がかりなものばかりだ。

今度の式典は、旧大陸某国との協力体制の確立と、その証としてかの国の少女が帝国鎮守府に着任することを祝うものらしい。


「ワシが出れば箔が付くからと頼まれるのは、悪い気もせんがのう」


なるほど、それならばこのじーさんを招きたいという本土の思惑も分かる。

帝国軍の盛況さを内外にアピールするのに、ラバウルという南洋の一大拠点を治める提督であり、

現役軍人随一の功績を誇るこの老黄忠の出席ほどふさわしいものはないだろう。

問題はそう、深海棲艦との戦いの最前線を司るこの拠点の責任者がかなりの間、出ずっぱりになってしまうことか。

ここから本土への往復となれば、二三日という訳にもいかないだろう。


それならば、じーさんの弟子であるぼくに白羽の矢が立つというのも納得できる。

……ぼくなんかで面目が立つだろうかという心配は残るけれども、まあそこは本土の人間も理解してくれるだろう。


「じーさんも忙しいのは分るから、ぼくで良ければ頑張るよ」


そんな愛弟子の理解を、目の前の老人はあっさりと否定した。

「ああ、違わい違わい。鎮守府を空けるくらいどうとも思っておらんよ」

「おぬしと艦娘たちが留守を守ってくれれば、そう大きな心配はいらんじゃろ」

「はあ。信頼してくれるのは嬉しいけど……じゃあ何が問題なの?」

「ふむ、それはの……」


ぼくの問いかけに対してじーさんが口を開きかけた、まさにその時。


「説明しましょう!」

「うわあ!?」


突然背後から元気な女の子の声がして、ぼくは飛び上がった。

パシャリ。ぼくの驚いた顔をめがけて、太陽の日差しとは違う人口の光がまぶたを襲う。

「ちょ、まぶしっ……って、青葉っ。キミいまどこから現れたの!?」

「記者の秘密ですっ。おかげで少年のレアな表情を一枚ゲット」

一眼レフのカメラを抱えてイタズラっぽく笑っているのは、重巡洋艦青葉。

取材と称したプライバシー侵害はお手の物で、彼女が手がける『鎮守府新聞』にぼくも何度無いこと無いこと記事を書かれたことだろう。

いまだってぼくの写真を撮るためにずっとこの部屋に隠れていたに違いない。



「気づいてなかったとは、まだまだ修行が足りんのう」

呵々と笑うじーさんを見るに、最初から青葉の存在を知っていたらしい。おのれ。

この二人がコンビを組んでいる時は、たいてい(ぼくにとって)ロクな結果にならないのだ。

「ぼくの驚き顔なんて撮ってどうするのさ」

「あれれ、知らないんですかー。少年の写真ってば、けっこう需要あるんですよぉ?」

「え」


……それはつまり、ぼくの写真を見て喜ぶ人がいるということか。

そういえば時々青葉にこうした写真を撮られることがあったけれど、彼女の新聞にそれが掲載されることはあまり無かった気がする。

それに、カメラを小脇に抱えた青葉の、空いた手の親指と人差し指をくっつけたあの仕草はどう見ても円のマークだ。

まさかとは思うけれど聞いてみる。


「ひょっとして青葉、ぼくの写真を誰かに売ってるの?」

「けっこうイイ値段がつくんですよねー」

「悪びれずに言うなっ!!」

全力で突っ込むも、いいじゃないですかとかわされてそれ以上何も言えない。

青葉の方がぼくより2,3歳上なこともあってか、完全に舐められているのだ。


「誰が買ったか知りたいですか?」

「え」

「少年の新作写真を毎回、楽しみにしているのが誰か、です」


おまけにおちょくられている。


「……教えてくれるの?」

「…………………………」

「そこで黙らないでよ!」

青葉の、うわコイツチョロいなーとでも言いたげな笑い方に腹が立つが、気になるものは気になってしまうから仕方がない。

だって写真を欲しがるということは、ぼくのことを憎からず思ってくれているという訳で。

一人前の提督として将来師匠であるじーさんの後を継ぐためにも、部下の気持ちを知っておくのは上官の心得とも言えなくないかもしれない訳で。


「それにまあ、そういう相手がいた方が今回の場合好都合じゃしのう」

「? それってどーいう」

「じゃあ発表しますねー」

お前はもうちょっとタイミングを弁えろと思う。

青葉が胸ポケットから紙を取り出す。いわゆる顧客リストというヤツだろうか?

没収してしまいたいところだけれど、今はやめておこう。


「ええっと、そうですねぇ――」


ゴクリ。


鎮守府の、いったい誰がぼくに思いを寄せているというのか。

ああ、でもそれを知っちゃったら今後その子とどういう気持ちで接すればいいんだろう!?


聞きたくないような、やっぱり聞いておきたいような……。

そんなふうにドギマギしながら、ぼくの視線は青葉の唇の動きにくぎ付けになる。

「まずは、下士官の――」

「おっけー分かった。それじゃあ本題に戻ろうかじーさん」



言うまでもないが、ここラバウル鎮守府にいるのは提督や艦娘だけじゃない。

帝国海軍に所属する軍人もいるわけで、当然ながら女性の下士官なんてものはいない。



ぼくの写真の流通先が気になるところだけれど、この話は聞かなかったことにしてしまおう。

そして、このことはなるべく早く忘れてしまおう。

「それから艦載機整備士の――」

「青葉っ、ほんとっ、頼むからやめてっ!?」


これ以上聞いてしまうともう一人で鎮守府を歩けなくなる!


「お前ら見てると退屈せんのう」


いまのおぞましいやり取りを他人事の気楽さで笑うじーさんを睨みながら、これが青葉の趣味の悪い冗談だという事を願うぼくだった。

今日はこれまで、次の投稿で導入部が終わると思います。
青葉は自分がいやらしい身体つきをしているといい加減気づいて欲しいですね。
まったくけしからん!


【艦これ】 艦娘小話集
【艦これ】 艦娘小話集  - SSまとめ速報
(ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1459947573/)

前の投稿から随分と間が開いてしまいました。




熱でぶったおれたため更新をちょっとずつにします。
鳳翔さんがつきっきりで看病してくれるし響が添い寝してくれるから幸せです(現実)

「夫婦げんか中ぅ!?」

「ふん」


青葉のせいでそれてしまった話を戻すと、じーさんが式典に行けない――

正確には行きたくない理由をぽつぽつと(嫌そうに)話した。


だけれども、夫婦喧嘩が式典の出席とどう繋がるか見当もつかない。

ぼくが首を傾げていると、それを察した青葉が説明してくれた。

「こうした公的な催し物はふつう、異性のパートナーを連れていくものなんです」


ははあ、そうすると、招待通りじーさんが出席する場合は。


「既婚者の場合は奥さんですねー。あとは娘さんなんかがいる場合は別ですけど」

「じーさんちは子供いないしなあ。そうすると、連れていく相手がいないわけか」



要するにじーさんが何かやらかして秋子夫人――ボランティアで目の前の老人の妻をやっている女性だ

――を怒らせてしまった。だけどじーさんは自分からは謝りたくない、と。

ゆえに式典の日までに仲直りだなんて到底望めず、出席が出来ない……か。

やれやれ、まったく子供みたいな人だな。相手が上官だから言わないけれど。


「子供みたいな人だな」

「うるさいわい!」


おっと、あまりに馬鹿らしくて口に出ていたらしい。

「だいたい、あいつが勝手にむくれているだけで「何やらかしたのさ、じーさん」」

「そもそもなぜワシが悪いと一方的に決めつけられ「おじいちゃんが悪いんでしょ、どうせ」」

「…………ぐすん」



弟子と部下に普段どんな目で見られているのか突きつけられてじーさんが泣き出すが、

本当に泣きたいのはこんなジジイに師事してしまったぼくと、じーさんの軍服についている勲章のほうだろう。

まあでも、全く事情も聞かずに決めつけるのも良くないか。

青葉も少し反省したようで、じーさんに何があったのか話すよう水を向けた。



「ちょっと飲み屋のねーちゃんの尻を触ったぐらいでなんじゃ、あの怒りようは」

「ちょっとでも反省したぼくたちに謝れ」

訂正。このエロジジイが100%悪いに決まってた。

隣を見ると、女性である分ぼくよりも軽蔑しきった表情を浮かべた青葉がいた。


「……青葉、判定は?」

「チェンジです」


満面の笑みで親指を立て、そのまま右手をぐりんと下へ向ける青葉。

アウト3つか、妥当な判断だと僕も思う。


というかぼく、こんな情けない理由で名代を務めるのかあ。

やだなあ、こんなエロジジイの名前を背負って出かけるの……。

オチはどうしてもやりたかったのです。某ラノベリスペクトということで許してください。
水橋かおり艦来ないかなあ。

続きはまた今度。

飛鷹さんの部分は実はおおむね書き上げているのです。
投稿するのは満足できるかたちに修正重ねないといけないのでスローペースですが。

ちょこっとだけ投稿

「ま、そんな訳での、今回はおぬしに任せようかと思う」


どこをどう持ち直したらそんな偉そうなことをほざけるのか分からないけれど、

じーさんはもうぼくに名代を押し付ける気マンマンである。

とうとう色々な説明を端折りまくって決定事項にしてしまった。


あれ、でも。

別にぼくが行かなくても、じーさんが出席出来る方法もあると思うんだけれども。

「じーさん、奥さんに謝りたくないなら部下の艦娘を連れて行けばって、な、何!?」


何故だかじーさんと青葉の二人があきれ顔でこちらをにらんでいる。


「はぁ、こやつの鈍感もここまでとは。うちの娘っ子たちの苦労も分かるのう」

「少年はほんっと、女心が分かっていませんからねえ。その通りですおじーちゃん」

「なんでそんな風に言われるんだよ……あと会話を同時進行しないでくれる?」


なにか変なことでも言っただろうか。さっぱり意味が分からない。


「兵法以外も教えておくべきだったか……でもまだ未成年だしのう。ああいった店に連れていくのは流石に」

「おじーちゃん提督。それやったら艦娘一同許しませんからねー」


半眼でじーさんを脅す青葉と、相変わらず置いてけぼりで混乱するぼく。

いったい何がまずかったんだろう?

相変わらず戸惑うぼくに、青葉が仕方なくといったかたちで口を開いた。


「奥さんを怒らせてるおじーちゃん提督が、部下とはいえ他の女の子と出席すれば」

「あ…………」


女心ってそういうことか。

確かに、それじゃあ秋子夫人は自分が蔑ろにされたと感じてますます怒るだろう。

どうもぼくは男女のそういったことにまだ疎いのだ。

「これ以上あやつを怒らせたら、わしがどんな目にあわされるか分からんじゃろが!」


もう三行半でも何でも叩きつけられればいいのにね。


「あれ?でもなんでいまの話でうちの艦娘たちが苦労してるの?」


浮かんだ疑問を口に出すと、またしても二人から大げさなため息を頂戴したぼくである。

「そうと決まれば、おぬしのパートナーを決めなくてはいかんのう」

「あれ、でもこれやっぱじーさんが素直に謝れば済む話なんじゃ」

「そうと決まれば、おぬしのパートナーを決めなくてはいかんのう」


どうやらごめんなさいするつもりは微塵もないらしい。

白いひげをいじりながら、じーさんがぼくを品定めするように聞いてくる。


「誰ぞ、一緒に出席してくれそうな相手はいるのか?」


鎮守府勤めのぼくからみた異性といえば、必然、相手は艦娘ということになるけれど……。

いったいだれを連れていくのが適任なんだろう?

今日はここまで。明日投稿して少年が執務室を出ていけたらいいかなあと思います。

三国志大戦のロケテ行ける人いいなあ。
3までは流星小喬が一番可愛いと思います。

いかんせん、今までに経験のないことだ。

どうしたらいいか分からず固まっていると、青葉がそうですねえと人差し指を立てる。

どうやら助け船を出してくれるらしい。


「少年みたいに独身の男の人なら、フィアンセとか」

「ふぃ、フィアンセ!? 」

「そうじゃなくても、恋人とか」

「こ、恋人!?」

「その反応を見るに、どうやらいないみたいですねー」


ぜったい分かってるくせに聞いただろ、こいつ……。


「まったく情けない。ワシが若い頃には彼女の一人や二人や三人同時に」

「その結果として奥さんブチ切れさせたんでしょ!」


この人もほんと、反省しないなあ!

――式典に伴う相手が、ぼくの恋人や将来の結婚相手と見られる。

一緒に出席してくれたがために、パートナーが“そういう”誤解を受けたら申し訳ない。

そう考えると、安易に誘うのはどうしたものか……といったぼくの心配事は、じーさんと青葉にあっさりと否定された。


「おぬしの年齢ならまあ、そんな風に見られる心配はないじゃろ」

「今回はおじーちゃんの代役として行くんですし、大丈夫ですっ!」

「そんなもんなの?」

「そんなもんです!」

「ほんとに?」

「絶っっっ対、大丈夫です!」

「うーん」


なるほど、確かにぼくはじーさんの名代として急きょ出席するわけだから……

あくまでもその『仕事』の補佐として部下を連れてきました、ということで通せるのか。

それなら良かった……のかな?

「幸いこの鎮守府には、青葉をはじめとして20人ばかしの艦娘がいます!」

「パートナーと聞いて思いつく女の子がいれば、声をかけてみてはどうでしょう」


うーん、それしかないか。


フィアンセだの恋人だのと言われた時はびっくりしたけれど、

ただ一緒に出席するだけであれば、そんなにしゃちほこばることでもないだろう。

なにも恋人になってくれと頼むわけでもないんだし、気軽に頼んでみよう。

あとは誰にお願いするか、だけれども。


「ちょっと出て来るね」


ひとまず執務室をあとにすべく、ぼくはつま先をひとつしかない扉へと向けた。

なんだか青葉から声をかけられたような気がするけど、頭の中がいっぱいで、それどころじゃなかった。

冒頭終了、少年に声をかけられなくて拗ねた青葉をちょっと書いて飛鷹さんへ。
飛鷹は美少女揃いの艦娘の中でも圧倒的美少女設定がありそうですごい。
ガンスリのトリエラみたいな感じね。

乙です!
こういうシチュエーションもなかなか面白いなw
仕掛けた側次第だろうけど面白半分でからかいにきたり、ツンデレ組が空回って自爆したりとか

>>46
ちゃんとしたのは飛鷹しか考えてないのでバラエティに富んだのは出来るか不明ですが。

とりあえず投下。

俺のために秋刀魚を調理しようと頑張る磯風が可愛くて仕方ない

【青葉】


「かっかっか。まったく、からかい甲斐のある奴じゃのう」



少年が出て行ったあとの執務室に、老人の笑い声が響く。

年若い彼は確かに優秀だけれども、この老提督を相手にするとまだまだ赤子も同然だ。



秋子夫人との喧嘩?

そんなのこの老提督にとっては日常で、式典に出ると言えば夫人は当たり前のように隣に寄りそっただろう。

軍人の妻とはそういうものだ。

だからあれは少年を式典に出すことの方便。


少年がどんな艦娘を選ぶか予想して楽しむという趣向でしかないのだけれども、

人生経験のない15歳の少年にそれを見抜けというのはやはり無理な話だ。


ましてそう、あんな……あんな朴念仁には、うん。やっぱり無理というものだ。

自分に選ばれた女の子がそれをどう感じるのかなんて思いつきもしないだろう。

鈍感、朴念仁。いや、でも、それを差し引いたってすごい事なのかもしれない。

半世紀以上を戦場で過ごしたこの老提督に遊んでもらえる存在、ということなのだから。


「そうですねー」


基地の最高司令官に、気のない不愛想な返事を返す。どんな結果になるとしても、面白い記事が書けることは間違いない。

まさに狙い通りの、見事なマッチポンプだ。それでもいまの青葉の心境では、素直に企みの成功を喜ぶが出来ない。

“少年司令官の秘められた想い……将来のケッコン相手候補はだれだ!?”


執務室に来る前に配り終えた『青葉新聞』最新号の見出しを無言でなぞる。


少年には単なる式典のパートナー探しだと納得させたが、

この鎮守府の艦娘たちにはまったく別の――当初少年が危惧した通りの――含みを持たせた号外を出している。


気軽な気持ちで頼み事をしにくる少年と、自分に好意を持っているのではと期待してしまう乙女たちとのすれ違い。

青葉はそれを楽しみこそすれ、不機嫌になる要素などないはずだ。

「さあて、若いのははたして、誰を誘うと思うかね」

「…………」

本来は下馬評を嬉々として老提督と論ずるつもりだったのに。


「本命はそうじゃのう、あの軽空母が妥当というところか、それとも」

「…………」

「さあて楽しみじゃ。声をかけられた小娘は、どんな初心な反応をするのかのう」

「…………」


いまはちっともそんな気になれない。

だって自分いつもは弟をからかう姉のようなつもりでいて、少年とはけっこう親しいつもりでいたのに――

「誘われなかった艦娘は、面白くないものなのかのう?」

「…………っ!?」

「おお、こわいこわい」



言葉にするのを避けていた図星を突かれて、思わず老提督を睨む。

相手は飄々としていて、青葉がどんなに怖い顔をしようがどこ吹く風だ。諦める。

代わりにさっきから何度も心の中でしている反復を再び繰り返す。

元々、青葉の楽しみは少年や艦娘たちの戸惑う反応を見て、それを記事にすることな訳で。

ほんとうに、いままで一かけらも気にしたことなどなかったのだ。



”自分が少年に誘われるかどうか“など。



青葉をパートナーに、なんて思いつきもしないで出ていく少年を見送るまでは。


「…………」

いま、このラバウル鎮守府にいる艦娘はざっと二十隻程度。

青葉を入れて、二十隻程度。決して大所帯ではない、それ故に少年と艦娘たちの距離も近い。

青葉と少年の関係も、決して単なる上官と部下という簡単なものではなかったはずだ。



それならば誰を誘うにしろ、まずは目の前の青葉に一言聞いてみるのが筋ではないのか。

少年からすると青葉は異性として見られないと言われたに等しいと、勝手に決めつける自分がいて、それがまた面白くない。

まだそうした機微に疎い年下の少年に抱くには、あまりにも大人げない苛立ち。

そんな苛立ちを、吸い込んだ息とともに大きく吐き出して、青葉は顔を上げた。

老提督に曇り一つないいつもの笑みを向ける。いつもの、新聞記者の笑み。



「さあて、どんな騒ぎになるか、楽しみですねー!」

「そっちの顔の方が、さっきよりもこわいのう」



少年と艦娘たちの認識の違いがどんな齟齬をうむのだろう?

なるべく大変な目に会ってくれるといい。出来ればその困り顔を写真に収めたいものだ。

女心が分かってない少年には、それくらいの罰があって丁度いい。

次の投稿から飛鷹になります。
このまま続けるか区切りとして立て直すか考えておきます。

青葉は能天気キャラではなく、自分の立ち位置を見極めている賢いキャラとしても映えると思います。
改二になってもセーラーが胸部装甲で盛り上がっていると嬉しいです。(直球)

今更ながら東京ザナドゥをプレイしました。
ええ、空三部作と零碧は大好きです。陽炎が好きな方はエステルが合うんじゃないかなあって。


今日はとりあえずのビスマルクです。のちに投稿する飛鷹とはパラレルワールドで。
珍しく一発書きなので、日本語がおかしかったらご指摘下さい。

【ビスマルク】


「ちょっと、そこのあなた」


すれ違いざまに声をかけられたぼくは、ため息とともにいま歩いてきたばかりの方向を振り返った。

また面倒くさいことになりそうだという予感は次の瞬間、見事に的中することになる。




「なんで私を誘わないのよ!」



それだけで用件は伝わるでしょうと言わんばかりのこの態度。

ドイツにも仁王立ちということばがあるのだろうか?

偉そうにぼくを見据えるビスマルクには、上官がいったいどちらなのかから確かめる必要がありそうだ。

「ビ、ビスマルク姉さま、それじゃあ伝わらないですよぅ」



お供のプリンツ・オイゲンが慌てた口ぶりで窘める(そういえばこの二人、いつも一緒にいるなあ)。

ビスマルクさんだけではなにを怒っているのかイマイチ伝わらなかったものの、

逐一挟まれるプリンツの補足で朧気にことの次第が見えてきた。

「要するに、ぼくがビスマルクさんを式典に誘ってないのがいけないってこと?」

「さっきからそう言ってるじゃない!!」



言ってない。



「お姉さま、言ってないですよぅ……」


プリンツさんからはぼくと同じ苦労人のにおいがするなあ。

誰をパートナーに誘っていいか、そしてオーケーを貰えるか分からないこの状況。

名乗りを上げて貰えるなんて本来なら願ってもない話だけれど、それがビスマルクさんとなると話は別だ。



正直、見た目だけならもの凄く綺麗な人だし、艦娘としても頼りになるんだけれど……

たぶん、連れて行くとロクな結果にならないんじゃないかなあと思うんだ。



そして、こういう時のぼくの予感はだいたい当たる。ここは慎重になろう。

「そもそも、なんで出席したいの?」

「だって、この鎮守府で一番優秀なのは私じゃない」

「ビスマルク姉さまの実力はオリガーミ(?)ツキーです!!」



ほら、これである。

ぼくの危機感知センサーが赤ランプを灯しだした。

「ほんとはもう一つ理由があるのだけれど……」

「何?」

「えっと……あ、あなたには教えられないわ!」



なら言うなよ。となりでプリンツも苦笑している。こんなんが姉さまでいいのか。

それに、優秀な艦娘だからといった理由で選んでしまったら問題が残りそうだ。


何故ならこのラバウル鎮守府、実力もプライドも高い艦娘がたくさんいるのである。

後で知られたら喧嘩になってしまうだろう。

ビスマルクさんを起用するのはちょっと……という理由はもう一つある。

というか、ぼくにはこっちの理由のほうが気になって仕方がない。


「今回の式典の開催は英国艦の着任を祝うものなんだけれど」


プリンツは違うかもしれないけれど、ビスマルクさんは祖国への誇りがすごい。

かつて争った旧大陸の覇者……その国が生んだ艦娘との間に確執は無いのだろうか?

「そんなの大丈夫よ」


あれ、意外にもアッサリした返事だな。


「それじゃあ心配いらな――」

「ドイツ帝国の威信を知らしめてあげるから」

「だからそれじゃ駄目だろ!! 主役じゃないんだから!!」

「流石です、ビスマルク姉さまかっこいい」

「きみも煽るなっ」



それにドイツが帝国だったのはビスマルク(宰相)の時代であって、

ビスマルク(戦艦)が活躍した時のドイツは正確にはってややこしいなあ、もう!

やっぱり駄目だ。ありがたい話だけれど、この人を連れて行くとたぶん国際問題になる。

けれども、普通に断ってしまうとビスマルクさんの誇りを傷つけてしまいそうだ。

ぼくのパートナー選びは艦娘としての実力や国籍を基準にするつもりはないと伝えなくちゃ。



「やっぱりぼくは、ぼくと一緒に行きたいって人を誘いたいなあ」

「……なっ!!」

「わ、わぁぁ」


だから気づけばそんな青臭いことを口に出していた。

そんな人がいるかなんて見当も付いてないんだけど。

あまりに恥ずかしい台詞だったからか、二人とも顔を赤くしてこっちを見ていた。

「ビスマルクさんは別に、ぼくと一緒に行きたいって訳じゃないんだよね?」

「…………当たり前じゃない!」



そこで言い切らないで欲しいんだけど。

念のため確認しただけで、そんな都合のいいことを考えてたわけじゃないんだから。

「私を誘わなかったこと、後悔しないでよね!」

「後でやっぱりなんて頼って来ても知らないんだから!!」


「ビ、ビスマルク姉さま~、待ってくださいっ」

「あ、アトミラールさんっ、失礼しますっ」



まだ何か言いたそうにしばらく佇んでいたビスマルクさんだけど、

結局プリンツを従えて不機嫌そうに去って行った。

「いったい何だったんだろう……」



いつにもましてビスマルクさんの態度が不可解だった気がする。

ほんとは式典に出たかったり?

これを機に英国艦と仲良くなりたかったとか……そんな訳ないか。



「って、ぼくが理不尽に怒られただけじゃないかっ」



結局パートナーも見つからず仕舞い。

残された廊下にぼつんと一人立ちすくむぼくであった。

終わりです、次回はプリンツ・オイゲンをちょこっとの予定。たぶん1,000字行きません。
ドイツ第三帝国っていわゆる神聖ローマやプロイセン主導の「帝国」とは違う感覚なんですけど、どうなんでしょうね。

ビスマルク以降の話は少年が飛鷹のほうへ直行しなかった(飛鷹に頼むという案を思いつかなかった)場合ということで。
エロゲでいう選択肢ですかね、そうご認識下さい。そうしないと話の都合つけるのに色々メンドクさいので。

【プリンツ・オイゲン】


舌足らずな声に呼び止められて振り返ると、先ほどのコンビの片割れが息を切らしていた。


「えへへ。やっと追いつきました、アトミラールさん」

「そんなに急いでどうしたの、プリンツ」


輝く麦のような金髪と、サファイア・ブルーの瞳はお姉さま(ビスマルク)と同じもの。

なのにそこから受ける印象は穏やかで人懐こい、まったく別のものだ。

「どうしたの、ビスマルクさんの姿が見えないけれど」

「あの、先に行ってもらいました。忘れ物をしたって……」


プリンツが、いつも姉の様に慕っているビスマルクさんにそんなあからさまな嘘を言うなんて。

よっぽど聞かれたくない話でもしに来たんだろうか。


「あ、あの……わたし、アトミラールさんにお願いがあって来ました」

「へ? ぼ、ぼくに?」


するとプリンツはいつにない真剣な表情で、


「はい。もう一度、ビスマルク姉さまを式典に誘ってあげてくれませんか」


姉と同じく、まったく意味の分からないことを口走りだした。

「む、無理だよ、さっき断られたじゃないか」


流石にこんな状態からリベンジ出来るほど、ぼくの心臓は強くない。


「でもきっとお姉さまはアトミラールさんに誘って欲しいって思ってるはずなんです!」

「そうかなあ」

「お姉さま、素直じゃないところがあるから……」


割と感情的というか、直情的なほうだと思うんだけどなあ。

「それに、一度言い出した手前、ほんとは一緒に行きたくてもお姉さまからは言い出さないと思うんです」



まあ、その点は同感かな。プライドとか高そうだし。

それにしても、流石妹分だけあって姉のことを良く分かっている。

こういう娘が下にいたらやりやすいだろうなあ、色々と。

断られた相手をもう一度誘う(正確には誘ってないんだけど)なんて、そんなこと考えもしなかった。

それに、ビスマルクさんが誘って欲しがってるだって?


「でもめちゃくちゃ怒ってたような気が」

「あ、ビスマルク姉さまの機嫌はすぐに直るから放っておいても大丈夫です」

「意外と身も蓋もないこというんだね、きみって」


見た目ほど純真じゃないのか、純真だからこその発言なのか。うーん、謎な娘だ。

「とにかく、もうお相手を決めていなければって……あああ!?」

「どうしたの?」


突然何かを思いついたかと思いきや、頬をピンク色にしておそるおそる聞いてくる。


「あ、アトミラールさん、も、もしかして、実はお相手が決まってたりとか……う、うぁ~」

「どうしようどうしよう、わ、わたしっ……そんなの思いつきもしなかったからっ」


何だか見てて面白くなるほど一人で頭を抱えだしてしまった。

ちょっと暴走癖がありそうなのは、しっかりお姉さまに似たのかもしれない。

「いまのとこ相手はいないよ。誰を誘えばいいかも分からないくらいだから」

「そ、そうなんですか!? よかったです」


いや、良くはないと思うんだけれど……。

だからこうして苦労している訳なのであって。




「なら、やっぱりもう一度、お姉さまを誘ってあげてください」

「うーん」


結局のところ、返事が煮え切らないのは断られるのがこわいからなんだろう。

まして先ほど(おそらくぼくの落ち度で)怒らせてしまった相手なのだから。

「アトミラールさん」

「えっ……わ、わ!」


そんなぼくの迷いを察したんだろう、プリンツが半歩だけ距離を詰めてきた。

そして、両手を差し出したかと思うと、そのままぼくの手を包み込んだ。


「勇気、出してみてください」

「な、な……」

まるで神に祈る聖女のような美しさを目の前に、上手く言葉が出せない。

プリンツが何を言ってるのかなんて、緊張のあまりまったく耳に入らなかった。


「きっと大丈夫、ビスマルク姉さまは受けてくれますけれど……」


最後のことばだけがぼくの脳裏にしっかりと焼き付く。


「もし……もし駄目だったらその時は、式典、おわびにわたしがお付き合いしますから」


お願いしますね、と去っていった彼女の姿が見えなくなってもまだ、心臓が収まらない。

「えっと……」


結局ぼくは間抜けにも、ビスマルクさんの時と同じく廊下に立ちすくんでいる。

違いはといえば、その顔が自分でもわかるくらいに熱くなっていることだろうか。


「……この場合、断られないほうと断られたほう、どっちが良いの?」


そんな間抜けな問いに、どう答えを出せと言うのだろう。

終わりです。

純真無垢系のキャラってなかなか妄想が出来ないんだよなあ。
プリンツと金剛の二人はなんだか邪な目で見れない。

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