騎士「…………」 後輩騎士「暇っすねー」 (293)

騎士「無駄口をするな。我々はなん時に備えて門を守らねばならないんだ。気を抜くんじゃない」

後輩騎士「でも、来日も来日もこうして突っ立ってるだけじゃないっすか。魔物だってこの辺までは来ませんし」

騎士「我々の暇は即ち平和ということだ」

後輩騎士「先輩だって剣振り回してる方が性にあってるでしょう? 皆には隠してるみたいっすけど、俺知ってんすよ先輩の腕」

騎士「……黙ってろよ?」

後輩騎士「隠してることわざわざ言うほど性格悪くないっすから。あーあ、あんな奴らじゃなくて先輩が旅に出れば良いのに」

騎士「俺は街を守るためにここにいる。世界を守るのは、勇者の宿命だ。俺は勇者の血筋ではない」

後輩騎士「変な話っすよね、勇者じゃないと魔王は倒せないって。勇者なんて結局血だけで腕は先輩には及ばないってのに」

騎士「………………」

後輩騎士「ま、先輩が不満ないってんなら挟む口もないっすけど。俺だって剣もってかっこ良く戦いたいっすよ」

騎士「平穏無事日が過ぎる。それ以上望むことはない」

後輩騎士「夢がないっすねぇ」

騎士「俺たちが戦っているのは現実だからな」

後輩騎士「はいはい……」

騎士「………………」

後輩騎士「お、勇者一行か。これから旅立つみたいっすね」

騎士「そのようだな」

後輩騎士「国をあげてのお見送りって羨ましいなぁ。にしても女ばっかりで。あんなんに世界任してほんと大丈夫なんすかね?」

騎士「さぁな。託すのみだろう」

後輩騎士「あいつらがダメだったらそんときは先輩とか俺らに声がかかったり?」

騎士「あり得んな。国王が自己を守る為の戦力を減らすとは思えん。本当なら勇者一行も手もとに置いておきたいだろうさ」

後輩騎士「ははっ、確かに。おっと……」

ザッザッザ

女勇者「……それでは! 行ってきます!」

わーわー!

騎士「………………」

後輩騎士「………………」

ザッザッザ

後輩騎士「行きましたね。あーあ、俺も旅に出てぇなぁ」

騎士「勝手に出てろ」

後輩騎士「先輩は冷たいしなぁ」

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後輩騎士「暇っすねぇ」

騎士「お前は毎日暇だろ」

後輩騎士「それはそうなんすけど。そうじゃなくてぇ……あ、そういや勇者一行が隣町の荒くれ者集団を倒したみたいっすよ」

騎士「聞いてるよ」

後輩騎士「俺らがやっても褒められねーってのに、勇者一行がやると「流石勇者!」だもんなぁ。血って大事っすねぇ?」

騎士「興味ないな。誰かに褒められたくて騎士になったつもりもない」

後輩騎士「うげー、先輩って化石っすか? まだ若いのに大丈夫っすか?」

騎士「うるさい」

後輩騎士「なーにが勇者なんすかねぇ。荒くれ者なんて先輩なら五分で片付けられるっての」

騎士「持ち上げすぎだ。勇者たちはまだ駆け出し、最初は小さなことから始めるものだろう。お前もそうじゃなかったか?」

後輩騎士「あー……俺は初出撃はキングベアー討伐だったんすよねー」

騎士「………………負傷者が多数出たあれか……」

後輩騎士「先輩は?」

騎士「……。陛下の一人娘が拐われ、その救出隊の一人としての出撃が初めだな」

後輩騎士「え? 五年前の? マジっすか?」

騎士「あぁ」

後輩騎士「うっそマジっすか!? あれって選りすぐりの精鋭が選出されたって聞いてたんすけど!?」

騎士「殉職された先輩に才能を見出だされてな。強引ぎみだったが、連れていかれた」

後輩騎士「ど、どうだったんすか?」

騎士「どうってことも。電撃戦だったからな、あっという間だったよ。姫も少し顔を殴られていたが、無事だったよ」

後輩騎士「先輩が姫様助けたんすか!?」

騎士「…………さぁな」

後輩騎士「その反応ってそうってことっすよね!? うげーマジっすか! あの話聞いて俺も騎士になったんすよ!」

騎士「ふっ……そうか」

後輩騎士「で、なった途端にキングベアーが暴れてるって駆り出されたんす。マジ怖かったっす」

騎士「その時ちょうど遠い所に派遣されていたからな……。悪いな」

後輩騎士「あぁいや、海の魔物討伐しにいってたんすよね? どう考えてもそっちのが怖いんで大丈夫っす」

騎士「俺の乗っていた船が持ち上げられた時は流石に死を覚悟したんだがな。運良く生き延びた」

後輩騎士「………………船ごと魔物が真っ二つにされたけど誰がやったのかは分からない……って話を聞いたことがあるんすけど……もしかして?」

騎士「…………………………。咄嗟にな」

後輩騎士「咄嗟にやれることじゃないような気が……」

騎士「気にするな」

後輩騎士「気にしますって……。お?」

騎士「エアハンターか。数は二匹……近づいてきたら一気に仕留めるぞ」スチャ

後輩騎士「りょーかい」カチャ

騎士「ん?」

女勇者「はぁぁぁ!!!」ザシュ!

女騎士「でやぁぁぁ!!!」ゾシュウッ!

女魔法使い「燃えろ……!」ボンッ!

女盗賊「おっと、お宝お宝」カチャカチャ

エアハンター「キュウウアアアア!! ……アアァ……」ドサッ

女勇者「ふぅ、危なかった……大丈夫ですか?」

騎士「ハッ! 助けていただき、感謝申し上げます!」

後輩騎士「ありがとうございます、勇者様!」

女騎士「まったく、あの程度の魔物相手に手も出せないなど、弛んでいるのではないか?」

女勇者「そんな風に言ってはダメだよ。ごめんなさい、日常的に魔物に触れてないと難しいですよね」

騎士「いえ! 皆さま方の叱咤を真摯に受け止め、日々精進致します!」

後輩騎士「勇者様のご活躍を聞き、いっそう奮起します!」

女勇者「ふふ、ありがとう。それじゃあ失礼します」

女盗賊「今度は金くれよな金♪」

女勇者「コラ! もう……」

ザッザッザ

騎士「………………」

後輩騎士「………………」

騎士「……なんだ?」

後輩騎士「すっげー納得いかねーんすけど」

騎士「気にするな。気に食わないことなど、世の中には溢れかえっているさ。試しに自分の守る国の王を思い出してみろ」

後輩騎士「そーっすけど! エアハンターごときに手も出せないって、そっちが勝手に横やり入れてきたんだろ! っつーの!」

騎士「喚くな見苦しい。我々のへりくだった態度で勇者一行が気を良くしてくれるなら、いくらでもしてやれば良いだろ?」

後輩騎士「くっそ! 女騎士め……勇者一行に選抜されたからって調子乗りやがって……! あいつ剣の腕なら俺より下なんすからね!」

騎士「見事な太刀筋だったよ、彼女は」

後輩騎士「先輩のことも見下したような目で見てましたよ!? ムカつかないんすか!?」

騎士「気にしすぎだ。仮にそうだったにせよ、国を離れ各地で魔物や悪党を退治する彼女らに怒りを向けるのは我々国民のやることではない」

後輩騎士「……チッ! へーへー、俺たちゃ門番、誰の相手にもされねーかなしい生き物っすよ」

騎士「拗ねるな」

後輩騎士「他の奴ら、門番なんて役に立たないやつの仕事だとか抜かしやがってんすからね!」

騎士「…………ま、気にするな。ここの重要性に気づけない奴は、何れ命を落とす。覚えておけ」

後輩騎士「……え? なんすかそれ?」

騎士「仮に敵がいきなり大勢で攻め寄せて来たときに、ここや上の見張りに役に立たない奴が立ってみろ。情報が錯綜してあっという間に攻め滅ぼされる」

後輩騎士「………………」

騎士「ここから逃げて国王に報告する時、敵は何人だと聞かれ「いっぱい!」と答えるような奴をここに配置するなって話だ。門の上に立ってみろ奴らも普段は頼り無さそうに見えるかもしれんが、あいつは風の音に敏感だし、そこのはとにかく目が良い」

後輩騎士「へぇ……知らなかった……」

騎士「それに、俺は剣の腕がたつ。だろう?」

後輩騎士「少しでも足止めをするってことっすか?」

騎士「壁を壊すにも時間はかかるし、この門を通らせないだけなら俺でもかなりの時間を稼げるさ」

後輩騎士「……そう考えると、先輩以外の人がここにいたときにそんなやばい状況になったら、やばいっすね……」

騎士「お前も、頼りにしているよ後輩騎士」

後輩騎士「お、う、うっす!」

後輩騎士「暇っすねぇ」

騎士「暇じゃない日も無さそうだな。………………ん」

ガラガラガラ

騎士「止まれ。通行証はあるか」

商人「へぇ……これで」スッ

騎士「…………。荷物を検めさせてもらっても?」

商人「……へぇ、どうぞ」

騎士「ふむ……これはなんだ?」

商人「それはトウガラシというやつで」

騎士「そうじゃない。この下に隠れている奴らはなんだ、と聞いている」

商人「……!? チッ!」

バッ! ガラ!

忍者「バレては仕方あるまい。斬り捨て御免!」ガッ!

忍者2「イヤァァ!!」ギッ!

騎士「チッ……」ガンッ! キンッ!

後輩騎士「おっと、逃がさないぜテメェ」ボコッ!

商人「へぶぅ!」

忍者「……! ハァッ!」シュ!

ボンッ!

後輩騎士「煙幕! 先輩!?」

ガンッ!! ドンッ!! ボゴッ!!

後輩騎士「……チッ! 視界が悪い! こいつだけでも……!」

騎士「何してる?」

後輩騎士「え? ってあれ!?」

ドサッ、ドサッ

騎士「二人とも捕まえた。大丈夫だ! 兵士を何人か寄越してくれ!」

上の騎士「あいよー」

後輩騎士「あの悪い視界のなかで倒したんすか?」

騎士「見れば分かるだろ」

後輩騎士「流石ってか……」

騎士「お前も、しっかりやったみたいだな。煙幕のなかに飛び込んできたら三時間説教コースだったぞ」

後輩騎士「んなことしてやられて偽商人まで逃がしたらマジヤベーッすからね」

騎士「そうだ。俺だったからなんとかなったが、あの状況ではなかなか上手くいかないものだ」ゴソゴソ

後輩騎士「まぁ単純にビビったってのもあるんすけどね!」

騎士「その臆病さは時に武器だ。大事にしろ」ゴソゴソ

後輩騎士「なにしてんすか?」

騎士「他に怪しいものがないかをな…………ん?」

「斬り捨て御免!」ザッ!

騎士「っと! まだ隠れ……」

後輩騎士「って、ガキじゃねーっすか! 」

子供忍者「は、離せ!」

騎士「………………」バッ

子供忍者「あっ……か、返せ!」

騎士「落ち着け。暴れない限り危害は加えん。お前らの目的は?」

子供忍者「話すもんか!」

騎士「そうか、どこぞの国の諜報隊か。こんな子供まで使う国なんて少ないもんだが」

子供忍者「………………」

後輩騎士「ったく、黙りかよ。十中八九、アーシア帝国っすね」

騎士「だろうな。ま、ここから先は管轄外だ」

ガヤガヤ

兵士「ご苦労様です! こちらで預かります! おや……子供?」

騎士「これも忍だ。子供の諜報員は警戒されにくい分優秀だからな……アーシア帝国からだろうが、まぁあまりやり過ぎないように」

兵士「はい! それでは!」

ガラガラ……

騎士「………………子供も殺しを覚える時代か。……さっさと魔王を倒してもらわなければな」

後輩騎士「なんつーか、嫌っすね。ああいうガキって、それ以外生きる術知らないんすよ」

騎士「…………俺たちはここを守るだけだ。私情は持ち込むな、剣が鈍る」

後輩騎士「うっす」

後輩騎士「暇っすねー」

騎士「………………」

後輩騎士「ん? 今日は反応してくれないんすか」

騎士「毎日言ってるだろ。毎日返すのも疲れる」

後輩騎士「冷たい先輩だなー」

騎士「そうか」

後輩騎士「うげー……。え?」

騎士「どうした?」スッ

姫「こんにちは。お疲れ様」

騎士「……………………。姫、ここは姫がお一人で来て良い場所ではありません。お戻りください」

姫「そう言わないでください。私ももう16ですよ? いつまでも子供ではないんですから」

騎士「せめて警護を……姫が一人ですと、逃がしてしまった兵が処罰を受けてしまわれます」

姫「でしたら、あなたが私の近衛騎士になればよろしいのに。それならここまで来ることもありませんし」

騎士「無茶を仰られる。一介の兵士を騎士にしていただいただけでもありがたいというのに、その上近衛騎士など。嫉妬で殺されますよ」

姫「私もお父様も良いと言っているのに……お堅い人」

騎士「それでは、今兵をお呼びしますのでお待ちを。後輩騎士、姫を頼む」ザッザッ

後輩騎士「ハッ!」

姫「……………………」

後輩騎士「あ、あの……何故姫はここに……?」

姫「え? ……騎士を、私の近くに置いておきたいの。もう何度もお願いしてるのに、いっつも断るから……」

後輩騎士「ええと……それはつまり、先輩に助けられたからってことっすか?」

姫「ええ。貴方からもお願いしてくれないかしら?」

後輩騎士「あー……やー……先輩には先輩で考えてることがあるんで、許してあげてください。ほら、ここに先輩がいてこそ、街の人たちは安心できるので」

姫「むー……」

兵士「ひ、姫! お探ししておりました! さ、さ! お戻りください!」

姫「騎士、私は諦めていませんから。それでは」

騎士「……ふぅ……。まったく……」

後輩騎士「…にしても。なんで断ってるんすか? 大出世じゃないっすか」

騎士「ん? あぁ……今日の行動でも分かるだろ? じゃじゃ馬なんだよ姫は。それに甘やかされて育ってるから、割りとワガママでな」

後輩騎士「ははぁ……なるほど。気苦労も多そうっすねぇ」

騎士「実際にな」

後輩騎士「そういえば前に、騎士としての初出撃は姫の救出作戦だったって言ってたっすよね? その時に騎士になったってことっすか?」

騎士「あぁ。そういうことだ」

後輩騎士「なるほどなぁ……苦労してるんすねぇ」

後輩騎士「あーーー……暇ですねぇ……」

騎士「………………」

後輩騎士「それに暑い……」

騎士「小まめに水を飲んでおけよ。ん?」

ザッザッザ

女勇者「やぁ、お疲れ様」

騎士「はい! 勇者様のご活躍、噂でお聞きしております!」

女騎士「お前たちが倒したと言う忍び達の話を聞きに来た。通っても?」

後輩騎士「ハッ! どうぞ!」サッ

女勇者「ありがとう。ただ忍びは色んな小細工をしてくるから、気をつけてね」

騎士「ご心配、ありがとうございます!」

女勇者「うん。これからも頑張ってね。それじゃあ」

女騎士「…………ふん」

ザッザッザ

騎士「………………」

後輩騎士「けっ、偉そうに」

騎士「言うなって。それに彼女たちも頑張ってるみたいじゃないか?」

後輩騎士「そりゃ、まぁ……」

騎士「彼女たちも俺たちの知らないところでは苦労しているんだろう。邪険にしてやるな」

後輩騎士「でもなぁ! 先輩がとっちめた奴らだってのに、あいつらが手柄取るってのもむかつく話っすよ!」

騎士「誰の手柄になったかではなく、その問題が解決したか、だ。あいつらが終わらせてくれるなら別に構わん」

後輩騎士「先輩ってマジ欲とかないっすよね。なんか欲しいもんないんすか?」

騎士「平穏な日々だな。なんなら、こうしてここを守る必要もないくらい平和になってくれれば良い」

後輩騎士「なんなんすかもー……まだ20後半なんすから色々楽しめば良いのに! 嫁さんとか作らないんすか!?」

騎士「何かあったときに悲しませる相手を作りたいとは思わん」

後輩騎士「人生捧げすぎでしょ……なんならいいこ紹介しますよ?」

騎士「いらんよ」

後輩騎士「これだもんなぁ……」

騎士「考えてもみろ。仮に俺が嫁をとって子供を作ったとしよう。その後他国と戦争をしたとして、戦争に負けたとする。その時、俺が活躍してしまっていたら、どうなると思う?」

後輩騎士「憎き敵……?」

騎士「そうして嫁と子供を辱しめを受けたり、殺されたりしてもみろ。死んでも死にきれん」

後輩騎士「でもほら、逃がすなりなんなり……」

騎士「そんな苦労をかけてまで俺の嫁にしたいとは思わん」

後輩騎士「……うーん……」

騎士「平和になったら、考えてみるさ」

後輩騎士「…………ほんっと、頑固者つーか頭固いっすよねー」

騎士「人間に背負えるものなんて、そう数は多くない。国の守備という重すぎるものを背負っているんだ、家庭という重たいものまで背負えん。そういうのは器用な人間に任せるさ」

後輩騎士「……まぁ、先輩のいう平和な世界が訪れるまで。勇者一行には頑張ってもらわないとっすね」

後輩騎士「……あー……暇は嫌いっすけど、面倒はもっと嫌いっすわー」

騎士「やる気のないことをいうな。気を引き締めろ」

後輩騎士「たってなぁ……。勇者一行様の護衛だって。なんだそりゃって話っすよ」

騎士「正確には忍びたちの見張りだ」

後輩騎士「そんなことくらいで俺たちを使わんでほしいっすよほんと」

騎士「これも仕事だ」

後輩騎士「ちぇー……」

タタッ

女勇者「二人とも、大丈夫かい?」

騎士「はい? 何がでしょうか?」

女勇者「いや、言い合っていたようだからさ」

騎士「いえ、おきになさらず!」

女勇者「そうかい? 分かったよ」

タタッ

後輩騎士「……はぁ……」

騎士「そんな顔するな。勇者に俺たちの顔色窺わせるようなことはするもんじゃない」

後輩騎士「分かってるすけど……」

騎士「分かってないな。ったく」ガシッ

後輩騎士「わっ、先輩!? なんすか!? ホモっすか!?」

騎士「仮にホモだったとしてもこんなところで肩を組むほど常識知らずじゃない。聞け、この仕事が終わったら飲みに行くぞ」

後輩騎士「え?」

騎士「俺の行きつけだ。中央の……」

後輩騎士「うぇぇ!? マジっすか!?」

騎士「馬鹿、声を抑えろ。……だからやる気出せ」

後輩騎士「そりゃもう! あそこって完全会員制で、一般人どころか貴族でも一見さんお断りの店じゃないっすかぁ!」

騎士「言っておくが、会員になったとしても無用に他のやつ連れていったりはするなよ?」

後輩騎士「もちろんっすよ! うぇーい!」

騎士「ほら、シャキッとしろ」

後輩騎士「うっす!」

女勇者「それじゃあ、二人はここで待っていてくれ。私たちは三人を連れていく」

騎士「分かりました、お気をつけて!」

ザッザッザ

後輩騎士「……アーシア帝国。まぁ散々な国っすよねぇ」

騎士「そうだな。貧富の差が激しく、向こうの方は貧民街として有名。荒くれものたちの巣窟にもなってるみたいだ」

後輩騎士「並みの強さじゃないからこっちでも手を焼いてるとは聞いてるっすけど、情けない話っすよね」

騎士「貧民には貧民の生活があるさ。例え貧民だろうと国民は国民だ」

後輩騎士「なるほど…。それにしても、なんで忍びたちの身代を引き渡したりなんてするんすかね?」

騎士「……一応、ここの国民が勝手に侵入しようとしたから、アーシア帝国で裁判にかけるって話にはなったらしい。あくまで知らぬ存ぜぬを突き通すつもりだろうな」

後輩騎士「きったねぇ……」

騎士「その辺り有耶無耶にしないために勇者たちが来たんだろ。勇者一行が来たら、下手に強気にも出れんだろうさ」

後輩騎士「あー、そうなんすね」

騎士「まぁでも、そういう駆け引きの経験が浅そうだからな……どうなるやら」

ドスッ! ドスッ!

女騎士「なんだあの男は!!」

女盗賊「ほんとほんと! ナメた口ききやがってぇ!」

女勇者「二人とも落ち着いて。私たちが未熟なのは確かなんだから仕方ないさ」

騎士「こうなるわけだ……」

後輩騎士「してやられたみたいっすね……」

女騎士「チッ! おいお前たち!」

騎士「はい?」

女騎士「あの忍びたちは盗みや何かをするために忍び込もうとしたように見えたか!?」

騎士「……いえ。商人自体は本物だったので、大金が動いているような気がします。なので、もっと大きな……」

女騎士「そうだ! そうだろう! クソッ!」

女勇者「やめろ、みっともないぞ。私たちに出きることはもうなにもない。ほら、帰ろう?」

女騎士「……っ、すまん……」

騎士「ふむ……勇者様、我々はここで失礼してよろしいでしょうか?」

女勇者「ん?」

騎士「勇者様の旅の邪魔をするわけにはいきませんので。我々のことは気にせず旅をお続けください!」

女勇者「そうか……すまない、そういってもらえると助かるよ。気をつけてね」

騎士「ハッ! そちらも!」

ザッザッザ

後輩騎士「どうしたんすか?」

騎士「いや。どうせなら……な」

後輩騎士「んんん?」

騎士「…………」

後輩騎士「あー……本当なら今日も一日だらーっとあそこで突っ立ってるだけの仕事なんすけどねぇ」

騎士「気を抜くな。魔物にいきなり襲われるかもしれんぞ?」

後輩騎士「こんな開けたところで魔物が出てきてもすぐ気づけますって」

騎士「魔物なら、な」

シュッ!

パシッ!

騎士「……クナイか」

後輩騎士「…………マジっすか?」スッ

騎士「無事に帰す気は無いだろうな」スッ

忍者「世話になったなぁ旦那?」

騎士「楽しかったか?」

忍者「あぁ存分に。だから俺らも旦那に返すもん返しておこうと思ってな」

騎士「あの世への極楽ツアーか?」

忍者「冥土の土産だ!!」ヒュンヒュン‼

カキキキン!!

ダッ、ダッ、ダッ!

後輩騎士「っとぁ! 囲まれてますよ!」

騎士「数およそ16! 飛び道具に気を付けろ!」

後輩騎士「あいよっ!」

ヒュン!! キキッン!

騎士「ッ!!」ザンッ!

忍者3「は―――」ドサッ

忍者「チッ! 一斉射撃よーい! はなてっ!」

後輩騎士「っととおお!!!」ズザァ

騎士「っら!」ザンッ!

忍者4「うぐぉぁ!!」ドサッ


ここまで

忍者「何をしている!? たった二人相手に!」

ヒュン! ヒュヒュヒュッ!

騎士「ん……隊列・川!」

後輩騎士「うっす!」

カキィ! キィン!

騎士「背中は預けた!」キキン!

後輩騎士「りょーかい!」ガキキン!

忍者「このっ!!」ブンッ!

騎士「煙幕、貰った!」パシッ

忍者「な……!?」

騎士「返すぞ!」ヒュンッ、ボンッ!

忍者「くっ!」

キィン! カキキン! ズバッ!
ぐぁぁ!
ボンッ! ドガァン! ザシュ! ザザシュッ!
うぐぉあ!!

忍者「な、何が起こっている!? ……うぐぁぁ!!!」ドザァ!!

後輩騎士「……チッ」

騎士「………………。感謝いたします、勇者様!」

女勇者「いや……遅れてごめん、大丈夫かい?」

後輩騎士「ハッ! 我々は問題ありません! 賊を引っ捕らえましょう!」

忍者「ば、馬鹿な……何故…………ぐ」ガクッ

女盗賊「へん、バーカ! 誰が教えるかっての!」ベー

騎士「ありがとうございます! 勇者様が来なければやられていたかも知れません!」

女勇者「……いや、こちらこそすまない。もしかしたら、と思って後をつけていたんだ」

騎士「…………もしかしたら、我々がアーシア帝国と繋がっているんじゃないか……ですか?」

女勇者・後輩騎士「えっ!?」

騎士「いえ、問題ありませんよ。そのくらい疑う心を持っていてくれている方がこちらも安心できますし、それを利用した私も私ですから」

女騎士「どういうことだ?」

騎士「アーシア帝国の現国王はかなり我が強い方と伺っています。そして負けずぎらいとも。そんな人間が我々をただで帰すとは思っていませんでしたので。勇者様たちには手は出さずとも、私と、後輩騎士のことは排除しようとするだろうと」

女勇者「まさか、囮になる為に?」

騎士「はい。勇者様たちは以前、エアハンターに手を出さなかった我々を見ています。そんな我々にこう思ったんじゃないですか? あいつらに忍者を倒すことができたのか? 何か意図があったのでは? 仮に意図があったとして自分達で捕らえたと自演する意味は何だ?」

女勇者「……」

騎士「分からないなら、後をつける。それが貴女たちがここにいる理由でしょう?」

女魔法使い「……そう。忍びは素早く、冷静で、確実。到底あなたたちに勝てる相手ではない……筈だと思っていた」

騎士「あの人数相手では流石に難しかったかも知れませんね。さ、勇者様。裁きを受ける予定の忍びが襲ってきたという確かな証拠もありますから、もう一度アーシア帝国に行きましょう。数人は逃げ帰ってしまったようですが、6人もいれば十分でしょう」

女勇者「あ、あぁ……」

騎士「後輩騎士、縛り上げるぞ。荷車か何かあれば良いんだがな」

後輩騎士「引き摺っていきゃいいっすよ、こんな奴ら」

騎士「騎士道にあるまじきじゃないか?」

後輩騎士「面倒っすね、騎士道」


――アーシア帝国――

騎士「それではここで」

女勇者「……なぁ、提案なんだが。もしよければ君たちも着いてきてくれないだろうか?」

騎士「我々が? ですが、我々は一介の騎士ですが」

女勇者「良いさ。私の仲間ということにすれば、いくらでも都合はつく。頼めないか?」

騎士「勇者様にお願いされては、我々に断る言葉はありません。お付き合い致します」

後輩騎士「役立てるかは分かりませんが、お供致します!」

女盗賊「にゃはは、あたしみたいんがいるからへーきへーき! 楽しも♪」

ー国王の間ー

アーシア王「…………先程ぶりだな、勇者殿。今度はなに、私に手土産があるとのことだが?」

女勇者「私の仲間が、先程引き渡した忍びの者に襲撃されました。幸いにも追い払うことに成功しましたが……これはいったいどういうことでしょうか?」

アーシア王「おお、捕らえてくれたか! 実は今しがた逃げられてしまったと報告があってな。いやはや精鋭はこういうところが厄介だ。申し訳ないな、勇者殿」

女騎士「逃げられただと!? そんな言い訳が通用すると思っているのか!?」

アーシア王「事故はどこにでもある。そちたちの国にはまったく無いと申されるのか?」

女騎士「事故で済まない問題だろうが! 責任問題だぞ! 危うく我が国の大事な兵を失うところだった!」

アーシア王「幸いでしたな」

女騎士「なんだ、と……!?」

女勇者「あなた方の管理では不十分であることが露呈しました。忍びたちはこちらの国で預からせていただきますが、よろしいですね?」

アーシア王「まさか勇者殿、私が同じ過ちを繰り返す愚鈍な王だとでも?」

女勇者「そうは言わない。だが、一度のことで失われる信用もある。人の命が関わることから尚更だ」

アーシア王「ふとした……そんな信用の消失から多大な命が失われることもある。勇者殿はどうも、その辺りの言葉の重みを理解されていないようだ」

女勇者「……なに?」

アーシア王「いや、すまなかった。見張りの兵も増強し、牢も強固なものにすると約束しよう。……それでお引き取り願えますかな?」

女勇者「……………………」

騎士「なるほど。我らただの兵の命はその程度の口約束と引き替えにできる程度のものと、王はそう仰られるのですね?」

アーシア王「なんだ、お前は?」

騎士「は。あなたの国の忍び者を捕らえた門番にございます。そして先程襲われた兵でもあります」

アーシア王「貴様ごときの身の者が、誰が私への発言を許した?」

女勇者「私だ。今は私の仲間としている。私の仲間を無下にされるのか?」

アーシア王「……」

騎士「王は我々の命を些末なものとして扱い、更に当然の権利を主張する勇者様に脅しをかけた。これはどういうことですか?」

アーシア王「脅しなどとは人聞きの悪い。私は信用についての例え話をしただけだ」

騎士「それが多くの命が失われることもある、ですか」

アーシア王「私を信用できないと罵ったのはそちらが先ではないか?」

騎士「なるほど、そうですか」

アーシア王「納得いただけたようで幸いだ。それではお帰り願おうか」

騎士「ダメだな、これは。王たるモノを何も持っていない」シャキン

女勇者「おい、なにを!?」

アーシア王「……なんのつもりだ?」

騎士「お前は部下について、勝手に盗みやらを働くために侵入したとのたまったらしいな? つまりお前の部下の暴走で我が国が危険に晒されるかもしれなかった訳だ。それがどうにも許せない。怒りで我を忘れ、暴走してしまうのも仕方がないことだな。愛国心故だ」

アーシア王「なんだと? 民と一国の王で釣り合いが取れるとでも思っているのか!?」

騎士「釣り合いがどうとか、知ったことじゃないな。暴走して何をするか分かったもんじゃないから、悪いが死んでくれ」

後輩騎士「ちょ、先輩! 流石にまずいですって!」

近衛兵「剣を捨てろ! こんなことをしてどうなるか分かっているのか!?」

アーシア王「女勇者! このイカれた男をさっさと殺せ!」

騎士「その前にお前の頭が刎ね飛ぶさ」

タンッ! ブンッ!

近衛兵「な、はや……うぐぁ!?」ドンッ! ガクッ

近衛兵2「な、な」

騎士「邪魔だ!」ブンッ!

近衛兵2「おごっ……」ガクッ

アーシア王「な……!」

騎士「我が国の国民の命。それを預かるのが我が国の兵の仕事だ。それに俺は誇りを持っている。その俺の守るべきものを、何ともないゴミかなにかのように扱うその姿勢……死んで償え」ブンッ!

女勇者「ッ!!」ガキイィン!

アーシア王「ひ、ひぃ!!」

騎士「邪魔をするなよ。勇者様」

女勇者「こ、こんなことを目の前にして何もしないなんてことにはならないだろう! その怒りは分かるが退いてくれ!」

騎士「断る。ッラァ!」ガキィン!

女勇者「ぐっ! うおおお!!!」グググ

アーシア王「こ、こんな……戦争だ! これは戦争ものだぞ!?」

騎士「良かったな。あの世でしてろ。安心しろよ、事故で死んだことにしておいてやるから」

アーシア王「ふ、ふざけるなぁ!!」

女騎士「くっ!!」シャキン

後輩騎士「……おっとぉ! やらせねーぞ。俺ぁ先輩の言葉に一理見いだしたぜ。確かにこいつぁ相当のクソ野郎だ。生かしておくとロクなことにならねぇだろうよ」シャキン

女騎士「貴様も反逆者になるつもりか!」

女盗賊「あたしもそー思うんだけど。明らかに生きてても良いこと無いタイプの人間じゃん?」

女騎士「そういう問題じゃないだろうが! 女魔法使い!」

女魔法使い「………………」オロオロ

騎士「退け」

女勇者「退かん! こんなことは正義ではない!」

騎士「お前のなかではな、勇者様。だが俺の正義だ」カ……

キィン! ヒュンヒュン……ザク!

女勇者「な……あぐっ!」ドサッ

騎士「悪いな。……さてと」チャキ

アーシア王「な……あ……!」

騎士「最期の言葉くらい聞き届けてやるよ」

アーシア王「わ、わかった! そちらの言う通りにしよう! 忍びたちの身柄は引き渡す!」

騎士「そんなもの、お前が死んだ後で勝手にするよ」

アーシア王「ま、まてぇ! 今回のことは大事にはしない! 今後そちらの国とも関わらない! だから」

騎士「助けてくれ……。なぁ、もし俺が忍びたちに負け、命乞いをしたとして。助けるつもりはあったか?」

アーシア王「………………」

騎士「無いよな? 俺みたいな強い兵はさっさと殺しておいた方が得策だよな?」

アーシア王「………………」

騎士「そんなお前がどうして俺に助けてもらえると思ってるんだ? それが不思議で仕方がない」

アーシア王「わ、悪かった……謝る! 命だけは!」

騎士「そうだな……。一つだけ条件がある」

アーシア王「なんだ!?」

騎士「王の器にあらざる者は、潔くその座を空けろ」

アーシア王「…………………」

騎士「死ぬか? 生きるか? お前次第だ」

アーシア王「分かった! 約束する!」

騎士「………………ところで、確か息子と娘がいたよな?」

アーシア王「……まさか」

騎士「人質にさせてもらおうか。安心しろよ、あんたと違って危害は加えんし約束さえ守ればすぐに返す」

アーシア王「………………。分かった……」ガク

騎士「それでは、呼んでいただけますか? アーシア王」

アーシア王「……」

騎士「……申し訳ない勇者様。勝手な真似をしてしまい」

女勇者「……この事は国王に報告しておくよ」

騎士「ご自由にどうぞ。もっとも……我が国王は大いに喜ばれるでしょうが」スチャ

女勇者「否定できないところが嫌なところだ」スチャ

女盗賊「でも、なんかスッキリしたよ! ありがと♪」

女騎士「……こんな勝手、女勇者の責任になったらどうする気だ!?」

騎士「そうはなりませんよ。私を止めようとしたのは誰が見ても明らかです。仮にアーシア王が約束を反故にしたとしても、憎しみの対象は私に向くでしょう」

女騎士「それは……」

コンコン、ガチャ

アーシア王子「失礼します。父上、いかがいたしましたか?」

アーシア王女「あら……? 勇者様?」

アーシア王「…………すまん……」

騎士「初めまして、王子様に王女様。早速ではありますが、あなた方お二人を拘束させていただきます」

アーシア王子「え?」

騎士「後輩騎士」

後輩騎士「うぇ!? 俺っすか!? マジっすか!?」

騎士「いいからやれ」

後輩騎士「うげー……すいませんね、お二方とも。ちょっと立て込んでまして……いやほんっと、悪く思わないでくださいね!」

アーシア王子「ぶ、無礼だぞ!? 父上、これはいったい!?」

アーシア王「…………」

騎士「抵抗しないでいただけますか? 目の前で父親の首が刎ねられるところを見せるのは気が引けますので」

アーシア王子「な、なに?」

アーシア王女「お兄様……!」ギュッ

騎士「お早いご理解、感謝いたします」

ギュッ、ギュッ

後輩騎士「痛かったら言ってくださいねー。はい、完了っと」

騎士「ご苦労。……ではアーシア王、失礼致します」

アーシア王「く……」

騎士「怖かっただろ? それが、死の恐怖ってやつだ。あんたが見下している国民がよく味わってるもんだよ」

スタスタ……バタン

アーシア王「………………………くそっ!!」ドンッ!

後輩騎士「あー……暇っすねー……」

騎士「そうでもない」

後輩騎士「……ってーか、よく俺ら、また門番やってられるっすよね」

騎士「そうだな」

後輩騎士「絶対分かってたでしょ、先輩」

騎士「まぁな。アーシア帝国に有利に立てるような状況を作ったんだ、うちの王が機嫌を悪くする理由がない」

後輩騎士「ほんっと、見境なしの大立ち回りでしたっすね昨日は」

騎士「そうか? 個人的にはさっさと殺すべきだったような気もするんだが。あんな愚か者がトップでよく今まで持ったものだな」

後輩騎士「ま、それは確かに。うちも似たようなもんっすけどねー。にしても先輩ってキレる時は静かにキレるんすね」

騎士「…………」

後輩騎士「いつも「騎士たるもの、冷静さと忠誠心だけは無くすな」とか言ってる癖に」

騎士「良いことを教えておいてやる。冷静さを失った方が事態が好転することはたまにある。昨日がそれだ」

後輩騎士「ははぁ……」

騎士「それに、勇者の供になることにお前が憤っていなければ、昨日あの店に連れていくこともなかった。違うか?」

後輩騎士「……おお、それもそうっすね! 楽しかったっす!」

騎士「……ここに立つときにも、昨日くらいの緊張感を持ってくれれば、個人的には喜ばしいんだがな」

後輩騎士「酒の味とか覚えてないくらい緊張したっすからねー」

騎士「いい場所だったろ?」

後輩騎士「女の子が可愛すぎて緊張に拍車かかったっす!」

騎士「そうか」

後輩騎士「にしても先輩、よくいくんすよね? なんか行きなれてない雰囲気感じたんすけど」

騎士「いつもは一人で飲んでるからな」

後輩騎士「……何しに行ってるんすか?」

騎士「俺は静かに飲める場所が好きなんだ。その辺で飲んでると知りあいに出会う」

後輩騎士「そういえばびっくりしたんすけど、なんかかなり安くないっすか? もっとふっかけるイメージあったんすけど」

騎士「高い金取ると勘違いする客が出るかも知れないからな。まぁ、中には勝手に金ばらまいて好きなことさせろって奴もいたが」

後輩騎士「どうなったんすか?」

騎士「強制退店、入店永久拒否だ」

後輩騎士「うわー……」

騎士「あそこは女性に優しく、男に厳しく、がモットーだからな。気をつけろよ」

後輩騎士「そうするっす……」

騎士「滅多に無いらしいが、女の子が気に入った男に告白するのは大丈夫みたいだから、頑張って口説けばいいんじゃかいか?」

後輩騎士「マジすか! なんかやる気出てきたっす!」

騎士「ライバルはもれなく有名人ばかりだがな」

後輩騎士「………………」

ここまで

騎士「………………暇だな」

後輩騎士「うぇぇぇ!?」

騎士「なんだ?」

後輩騎士「人のアイデンティティー奪わないでくださいよ!! なにしてくれちゃってんすか!?」

騎士「いや。いつもお前がそう言うからたまには言う側の気持ちを理解しようと思ったんだが」

後輩騎士「えええ……それで、どうでした?」

騎士「もっと注意深く周りを見ようと言う気になった」

後輩騎士「げー仕事人間……」

騎士「悪いか?」

後輩騎士「悪くは無いっすけど……」

ザッザッザ

女勇者「やぁ。元気かい?」

騎士「ハッ! 大丈夫であります!」

女勇者「……あー……前、アーシア王と話してた時みたいに話してもらえないかい?」

騎士「……それがお望みならそのように。何か用か?」

女勇者「うん。率直に言うけれど、私と一緒に来てくれないかい?」

騎士「断る」

女騎士「……え?」

後輩騎士「はやっ! 考えるそぶりも見せねー! そこに憧れる!」

女勇者「ふむ……それは何故だい?」

騎士「そもそも俺に魔王討伐は不可能だ」

女騎士「ハッ! 何かと思えばただのビビりか」

騎士「何とでも言うが良い。とにかく俺に魔王を倒すことは、というより剣を向けることすら難しい」

女勇者「何故? 私やアーシア王の近衛をはね除けたその力があるなら、怖いものなんて無いはずだ」

騎士「何を言っても納得させることは難しいだろうな……」

女勇者「誤魔化すのは止めてくれ。ありのままを伝えてほしい」

騎士「………………。良いだろう、と言ってもそう難しいことではない」

女勇者「……それは?」

騎士「俺が、『魔王の騎士』……だからだ」

後輩騎士「は?」

女勇者「魔王の……」

女騎士「騎士だと!?」シャキン

騎士「あぁ。……といっても俺の両親は人間だしどこかに魔族の血が混じった訳でもない、俺自身は純正の人間だがな」

女魔法使い「なら、何故? 魔王の騎士を自称する? 意味不明」

騎士「それもそうだな。女勇者、お前は≪女神の声≫を聞いたんだよな?」

女勇者「あ、あぁ……『魔王を討ち果たし、人間の世に平和と平穏をもたらせ』……一言一句覚えているよ」

騎士「その魔王版が、俺が幼い頃より毎晩頭に響くと考えてくれ」

女魔法使い「……呪い?」

騎士「なのかもしれないな。分からん。幼い頃のいつの日か、いきなり聞こえてきたものだ。今も毎晩聞こえるよ」

女勇者「な……」

騎士「『勇者を殺せ! 人間を殺せ! 世界を壊せ! 貴様は我の騎士! 魔王の唯一忠臣にして最高の騎士だ!』。刷り込みってのは恐ろしいもんでね。俺が16になるまでは、勇者が現れるのを今か今かと待ちわびていたよ」

女勇者「……なら、なんで、今は?」

騎士「簡単な話だが、洗脳が解けた。…とても眩しくて、輝いていて、素晴らしい人たちに出会ったからだな」

女勇者「……」

騎士「守る価値の無い人間も多くいる。だが、それ以上に、俺の命をかけてでも守りたい人間も多くいたんだ。……最初は魔族を相手にするのにも、かなり勇気が必要だったんだぞ? 裏切り行為をするような葛藤がな。今はそうでもないが」

女勇者「………………すまない、無神経なことを聞いてしまって」

騎士「気にするな。俺の腕をみれば誰だってそう言うさ。お前が魔王を倒せ、ってな。でも無理だ。今でさえ、勇者を殺さなければ……と考えてしまっている俺に、魔王を倒すなんて。分かってくれるか?」

女盗賊「嘘の臭いは感じないよ。この人は本当のことを言ってると思う。……女勇者」

女勇者「元々疑ってもいないさ。貴方のその強靭な精神力に、敬意を表する。今まで……よく頑張ったな」

騎士「あぁ。ありがとう。そしてとっとと魔王を倒して俺の呪いを解いてくれ。喧しくて夜しか寝れない」

後輩騎士「夜に声が聞こえてるのに夜しか寝れないってけっこー余裕してないっすか!?」

騎士「眠くなったら勝手に寝られるからな。たまに朝まで付き合わされることもあるが。喧しくて敵わん」

後輩騎士「うへぇ……地獄……」

女騎士「……もし。もし仮に女勇者に手を出すつもりなら、容赦はしない」

騎士「ならもっと強くなれ。今のままならきっと手も足も出ないで死ぬぞ」

女騎士「言われんでも……だが、その心意気は素直に褒めたい。呪いを自力で解くなどと、しかも幼子の時からのものを、そんな話聞いたこともない。すぐにその呪縛を解き放ってやるから、ここで守ってろ」

騎士「……ふ、楽しみにしてる」

女騎士「それと、非礼を詫びたい。すまなかった。騎士殿は……私たちよりも以前から、魔王と戦っていたのだな」

騎士「気にするな。俺は気にしていない。良いもんだよ、これも。おかげで強くなれた。おかげで大切なものを守る力を得られた」

後輩騎士「先輩……」

騎士「俺が欲しいのは、見せびらかす力でも、褒められる力でもない。守りたいときに守り通せる力だ。魔王を憎むことは、残念ながらできないみたいだが、まぁでも、感謝はしているよ。期待通りの結果にはならなかったろうがな」

後輩騎士「……………………」

騎士「………………」

後輩騎士「……………………」

騎士「…………別に無理して真面目ぶらなくても良いぞ?」

後輩騎士「ぶるってなんっすかぁ! めっちゃ真面目っすよ真面目! あんな話聞いた次の日くらいぶらせてくださいっすよ!」

騎士「ぶってるんじゃないか」

後輩騎士「先輩が毎晩戦ってるってのに暇だ暇だ言ってられんでしょーが!」

騎士「まったく……それが三年くらい続いてくれるんならな」

後輩騎士「あ、無理っす。今も精一杯無理してるっす」

騎士「知ってるよ。無理しなくて良いから別に」

後輩騎士「……なんで先輩はそんなに平気なんすか?」

騎士「物心ついたときから聞こえてるものだぞ? 慣れるに決まってるだろ」

後輩騎士「今も勇者とか殺したいんすか?」

騎士「漠然とな。なんならお前のことも殺してしまいたいくらいだ」

後輩騎士「げぇー!? 先輩に襲われたら10秒ももたねーっすよ!?」

騎士「だが、それを自制する術を身に付けた。そっちも本心だが、お前や、国の民を守りたいと思っている俺も真の本心だ。あまり気にするな」

後輩騎士「強すぎっすよ先輩……いつになったら追い抜かせてくれるんすか……」

騎士「死んだあとにでも踏み越えてくれ」

後輩騎士「生きてる間譲る気ねー!!」

騎士「当たり前だろう」

後輩騎士「当たり前なんだ……」

騎士「…………それにしても、よく飽きもしないものだよな。魔王も」

後輩騎士「飽きるっすか?」

騎士「あぁ。毎晩毎晩俺に声をかけてくるんだから、よほどだよな。お前くらい飽き性なら楽なのに」

後輩騎士「へぁ? いや、え? 呪いなんすよね? なら毎晩そういう声が聞こえるようにされてるんじゃないんすか?」

騎士「呪いかどうかは分からんと言っただろ。最近は泣き言のように『どうか考え直してくれ。勇者を倒せるのはお前しかいない。早く我の元へ来てくれ』と言ってくる」

後輩騎士「バリエーションっ!? 同じこと言ってるんじゃなかったんすね!!」

騎士「そんなこと一言もいってないだろ」

後輩騎士「確かに言ってないっすけどぉ! つか、だいぶ弱ってないっすか?」

騎士「弱々しくなってるみたいだから、女勇者たちが頑張ってるんだろうさ」

後輩騎士「そうだと良いっすね」

騎士「信じるだけだ。俺にできることは」

後輩騎士「うっす! じゃあ平和が来ることを願って! 門番頑張りますかぁ……」ハァ

騎士「途端にやる気を無くすのもどうかと思うんだが、まぁいいか」

後輩騎士「そっすよそっすよ! 俺は俺なりに頑張ればいいんすよ。つー訳で、暇っすねぇ……」

騎士「………………」

ここまで
最後だけ上げるようにします

騎士「……………………」

後輩騎士「………………」

勇者「本当に本当なんだ! 僕たちは海の向こうのユーラ王国から旅立った勇者一行で、通行許可証は道中で落としてしまって!」

騎士「通行許可証を持っていない人間には例外はありません。お引き取りを」

剣士「埒があかねぇや。おいお前ら、俺と力比べしやがれ。勝ったら通る、負けたら帰る。分かりやすいだろうが?」

騎士「例外は、ありません」

剣士「負ける勝負はしねぇ主義か? 騎士どころか男ですらねぇな」

騎士「お引き取りを」

勇者「ダメだ……行こう、こんなところで時間を無駄にする訳にはいかない。僕たちには大義があるんだ、一刻も早く魔王を倒す。多少の回り道もこの際受け入れる覚悟をしよう」

僧侶「ですが、ここを抜けられないと大幅なタイムロスになってしまいますよ!?」

剣士「やっぱり無理矢理排除するしか無くねぇか?」

勇者「だからそれはしないと言っているだろ! ……すまない、迷惑をかけた。少しだけ時間をくれないか? 今、仲間が探しに行っているんだ」

騎士「門の外のことは、我々の管轄外です」

勇者「ありがとう」

後輩騎士「……先輩、多分こいつら本物の勇者一行すよ? いいんすか無下にして」

騎士「例外は無い」

後輩騎士「うへぇ……でも堅物だってんで国王にも小言言われる程度なんだから得してるよなぁ……」

騎士「俺にはお前の方こそ、得のある人生だと思うがな。楽しそうで羨ましいよ」ボソッ

後輩騎士「えっ!?」

騎士「……今のは忘れろ」

後輩騎士「なにいってんすか! 事件すよ事件! 先輩がそんな風に言うなんて!」

騎士「…………不覚」

姫「本当……驚いてしまいましたわ。騎士様が弱音を言われるなんて……得した気分ですわね」

後輩騎士「げぇー!? ひ、姫様ぁ!?」

騎士「……また抜け出して来たのですか?」

姫「暇でしたから、つい」

騎士「ついで抜け出されて同僚が処罰されるのは困るのですが」

姫「あら? あちらは、ユーラ王国の勇者一行ではないかしら。何かあったのですか?」

騎士「いえ、姫が気にされることでは。さ、お早く城へ」

姫「命令です、話してください」ニコッ

騎士「……。ハッ! ユーラ王国出身の勇者と名乗る者たちが通行許可証を落としてしまったと言ってきたので追い返しました! 今は通行許可証を探している仲間が戻ってくるのを待っているとのことであります!」

姫「まぁ……それは大変! 私が口添えますので、彼らを通してあげてはくれませんか?」

騎士「………………ハッ! 了解致しました!」

勇者「姫! 申し訳ありません、こんな情けないところをお見せしてしまって……」

姫「そんな……こんなところまでご苦労様です。通行許可証も見つかって良かったですね」

格闘家「勇者のドジは昔からだ」

勇者「こ、こら!」

姫「ふふ。それでは、城まで案内いたしますわ」

勇者「感謝します! あ、ご迷惑をかけました! ごめんなさい!」ペコリ

騎士「いえ、仕事ですから」

ザッザッザ

後輩騎士「…………はぁ、勇者ってずりぃっすよねぇ。あんなイケメンで、強くて魔法まで使えるんでしょ?」

騎士「その分、大変な仕事を押し付けられる。そもそも顔は自前だろう」

後輩騎士「っくぅ! 俺だってイケメン勇者になって持て囃されてーっすよ!」

騎士「使命は?」

後輩騎士「寝てます」

騎士「一生寝てろ」

後輩騎士「厳しいっ!」

騎士「俺たちには分からない苦悩があるんだろう。美味しいところだけを得られる訳じゃないのは、分かりきっている」

後輩騎士「まぁ、それは分かりますけど……」

騎士「まずお前は俺に勝つところを目標にしろ。話はそれからだ」

後輩騎士「うーっす……あ、ちなみになんすけど、あの四人と先輩一人なら、勝てますか?」

騎士「さぁな。やってみなけりゃ分からん」

後輩騎士「まぁそっすよねー」

騎士「頼まれてもやるつもりは無いけどな」

後輩騎士「言うと思ってましたっすわ。見てみたいっすけど」

ざわ、ざわ、ざわ

騎士「…………街が騒がしいな。何かあったか!?」

上の騎士「やー、それがなんともー。ん? ……はんめー、なんかうちの勇者様とさっき来た勇者様が親善試合するみたいよー」

騎士「親善試合? ……はっ、馬鹿げているな」

上の騎士「ねー。今狙われたら困るから警戒強めろってさー」

騎士「分かった! …………勇者の剣は民を喜ばせる為のものじゃない。嘆かわしいものだ」

後輩騎士「サービスは大事っしょ。皆に愛される勇者、ってのが大事なんだから」

騎士「魔王を討伐する為に旅に出した人間を人気取りとして扱う精神がまったく気に食わん。いっそ国王を切り捨てるか」

後輩騎士「無駄無駄。やるなら貴族連中も一掃しなきゃいけなくなるっすよ」

騎士「分かってる」

後輩騎士「そんな怒らんでくださいってばー。あ、どっちが勝つと思うっすか?」

騎士「…………ユーラ王国の勇者一行だ」

後輩騎士「はぁん……」

騎士「貴様の賭け事が発覚した瞬間、俺とのマンツーマン特訓一ヶ月が待ってると知れ」

後輩騎士「はい!!! 分かりました!!!! やめてください死んでしまいます!!!!」

騎士「死ねと言っているんだよ」

後輩騎士「うっす!!」

わーわー!!

上の騎士「あー……女勇者たち負けちゃったよー」

騎士「そうか」

後輩騎士「はー……うちの国王様が不機嫌になって鍛練一時間追加! とかされなきゃ良いけど……」

上の騎士「それやばいねー」

騎士「鍛練一時間追加するか?」

後輩騎士「やぶ蛇!」

上の騎士「んあー? ……騎士ー、なんか騎士来いってー」

騎士「何故だ?」

上の騎士「さー。王様が呼んでるらしいよー」

騎士「………………あの愚王めが」

後輩騎士「まーまー抑えて抑えて」

騎士「ここの守備は?」

上の騎士「あたしがそこ立てってさー。とぉー」タッ、タン

騎士「…………チッ」スタスタ

上の騎士「…………賭ける?」

後輩騎士「までもねーだろ」

上の騎士「いやいや、騎士の実力を知るものは少ないからさー、儲かるよー?」

後輩騎士「………………」

上の騎士「本気でやったら勝つし手加減したら負けるって感じになるけどねー、どするー?」

後輩騎士「逝ってらっしゃい」

上の騎士「ん?」

トントン

上の騎士「あっ」

騎士「後輩騎士より先に訓練を申し入れてくるなんて、大変けっこう。明日からよろしくな」ニコ、スタスタ

上の騎士「あ、はーい。終わった……」

後輩騎士「あぶねー……」

国王「おお、来たか騎士よ! 待っておったぞ!」

騎士「ハ。どうされましたか?」

国王「まぁ待て、ついてこい」

騎士「分かりました」

ザッザッザ

わーわーわー!

国王「待たせたな! この者が、我が国でもっとも強き兵だ! 名を騎士と言う!」

ざわ……しーん

騎士「王、これはいったい?」

勇者「あ、え!? 門番にいた!?」

国王「勇者殿、確かに今は女勇者は強くはない。だが、我らには頼れるものがいるのだ。この騎士を筆頭に、この国の騎士は強者が揃っている」

騎士「王。約束が違います。私は」

国王「頼む! 一生の頼みだ! ワシの顔を立ててくれ! お前がこの手の事を好いていないのは重々承知しておる! が、頼む!」グイッ

騎士「……分かりました。これっきりにしてください」

国王「おお! ありがとう!」

勇者「あなたが、女勇者さんの代わりに僕と?」

騎士「語る言葉はない」チラッ

女勇者「あ……」

騎士「……不様」

女騎士「……~ッ!」

勇者「な……女勇者さんは確かに僕たちには及びませんでしたが、でも!」

騎士「聞かん。……王、お願いします」

勇者「なっ!?」

国王「う、うむ。ルールは勇者殿と騎士の一対一の勝負だ。武器はこちらで用意するものを使ってもらう。相手の剣をはね飛ばすか、どちらかが参ったと言うまで続ける」

騎士「分かりました」

勇者「……はい!」

国王「それでは。正々堂々、互いに全力を尽くして戦ってくれ。合図を!」

ゴォォォン!!!

勇者「はぁぁぁぁ!!!!!」ブンッ!

サッ……タン、タン

勇者「せいっ! うぉぉぁぁ!!」ブンッ! ブォォン!

サッ……スッ……トン

勇者「な……何故打ってこない!? 馬鹿にしているのか!?」

騎士「斬りかかるだけの戦場がお好みか?」

勇者「なに? ……く!」ブンッ!

キィン!

騎士「やりにくそうにしているところを見ると……どうやら相手の剣にカウンターを入れるのが得意というところか」

勇者「な!?」

騎士「なら望み通りに……打ってやるよ!!」ブォォォォン!!!

ガギィィィィン!!! ズザザッ

勇者「っぁ!!?」

勇者「(強い上に……鋭い、速い!? 剣士の打ち方に似ているようで……こ、これは……?)」

騎士「……なにを呆けているんだ?」

勇者「…………斬りかかるだけの戦場がお好みですか?」

騎士「ふっ……好きにしろ」

勇者「……うぉぉぉ!!」ヒュンッ

カキ、カンッ!

勇者「ッ!」ヒュッヒュッヒュ

キンキン! カキキン!

勇者「(全てに対応されてしまってる! ……強い!)」

騎士「……速さを重視してきたのは偉いが、拘りすぎているようだな?」

勇者「……!(……落ち着け。相手は格上かも知れないが、でも、だ。そこまでの差は感じない。何かで埋められる筈だ……何かで……。……あ……)」

騎士「…………」チャキッ

勇者「う、ぉぉぉぉ!!!!」ブォォォンッ!!

ガッ……キィィン! ヒュンヒュン……ドサ

勇者「あ……!」

騎士「そうだ。俺は片手で剣を構えているからな、両手に比べれば握りは甘い。全力で打ち付ければ、弾くことはできる」スタスタ、ジャキ、カチャン

勇者「手加減を……何故っ」

騎士「馬鹿らしいからだ。良い遊びにはなったか?」

ザッザッ

国王「き、騎士……」

騎士「一介の騎士ごときに勇者を倒させてしまうのはどうかと思ったので、御容赦を」

国王「いや……よ、よくやってくれた。皆、盛大な拍手を!」

パチパチパチパチ!!!!!!

勇者「あ、待て!」

騎士「面を潰す気も、ましてや理由も無い。それで満足してろ」

勇者「ぐ…………」

後輩騎士「おっ、お疲れっす。どうでした?」

騎士「負けたよ」

後輩騎士「そっすか。ま、そうなる気はしてたっす」

騎士「女勇者も情けない限りだな。手も足も出なかったようだ」

後輩騎士「げー、マジっすか?」

騎士「鍛え方が足りんな」

ドスッ、ドスッ

後輩騎士「……あ?」

剣士「よぉ……待ってたぜ」

騎士「……なんだ?」

剣士「いやな。さっきのを見てたら抑えられねぇんだわ……俺と一戦相手してく」
ヒュンッ

騎士「…………あと少し力を込めれば死ぬな。今のが見えるようになってから出直せ」

剣士「ーーーは。ははははははははは!!!! やはり世の中にはまだ見ぬ強者が多い! 貴様もその一人だ! ……いずれまた」ドスッ、ドスッ

騎士「………………」

後輩騎士「…………ヤバイ奴っすね。できりゃ戦いたくねっす。無事じゃすまないっすね」

騎士「お前でも勝てるとは思う。殺すことが前提になるが」

後輩騎士「勘弁してくださいっすよー、マジめんどっちぃ」

ザッザッザ

後輩騎士「お。お疲れ様っす」

女勇者「………………」

騎士「……負けを刻め。状況が違えば、お前の負けが世界の崩壊だったかも知れん。それをよく考えろ」

女盗賊「たはは……お恥ずかしい……。二人とも元気無いみたいだから、今日はこの辺にしてちょ! またねー!」

女騎士「もう、もう二度と負けん! 二度と!」

女盗賊「わ、びっくりした!」

女騎士「……その為に、もっと強くなる……。今日の負けは、明日の糧にする!」

騎士「…ふ、頑張れ」

女勇者「……騎士さん。……もし、よければ……」

騎士「それは今じゃない。今はとにかく、周りをよく見てみろ。世界を知れ。そして本当にどうしようもなくなったら、また来い」

女勇者「あ…………。……うん、分かった……」

ザッザッザ

後輩騎士「そーとー来てますねぇ」

騎士「意味のある敗北になってくれれば良いんだがな」

後輩騎士「なんかかっけーすね」

騎士「お前みたいに俺に勝つことを諦める奴にはならないでほしいね」

後輩騎士「最難関っしょそこはぁ! もっと優しくして!」

騎士「寝惚けるな」

後輩騎士「容赦も慈悲もねぇ……」

ここまで

後輩騎士「あー……彼女ほしーっすねー」

騎士「…………いや、別に」

後輩騎士「知ってるっす」

騎士「なら言うな」

後輩騎士「あ、そういやヒノモト、って国知ってるっすか?」

騎士「聞いたことならある。周りを海に囲まれた島国で、近辺いったいは波が強くて近寄れないんだよな?」

後輩騎士「うっす。でもたまに波が落ち着くときがあって、その日を狙って行くことはできるんすよ」

騎士「そうか」

後輩騎士「んで、うちの騎士に旅行に行った奴がいるみたいで。なんでもヒノモトの国民は紙に描かれた女の子にしかよくじょーできねーらしいっす」

騎士「馬鹿な……衰退する一方じゃないか。子供ができん」

後輩騎士「でもマジらしいっすよ。って言ってたっす」

騎士「………………」

後輩騎士「あれじゃないっすか? 男も女も紙を見つめながらエロいことするとか」

騎士「愛情もなにも無いな。流石に嘘だろう、いき過ぎだ」

後輩騎士「俺も流石にありえねーとは思うんすけどね。てか、そういう人間はいるけど全員じゃないっしょ」

騎士「いったいそいつは何を見たんだろうな」

後輩騎士「さぁ……しきりにその辺にいる女性を馬鹿にしているのを見た、って言ってたっす。んで絵の中の女を褒め称えてたって」

騎士「ふむ……そこまで人を惹き付ける絵か。一度見てみたいものだな」

後輩騎士「お土産に買ったらしいんで、今度もらってくるっすよ」

騎士「お前も気を付けろよ? 仕事に支障を来すようなら斬るからな?」

後輩騎士「軽いノリで斬るとか言わんでくれないっすか!」

騎士「ヒノモト……業の深そうな国だな……」

後輩騎士「女がブサイクしかいないとか?」

騎士「分からんが、意識の問題じゃないか? 描かれた女はいつまでも不変的に美しいが、現実のはそうじゃない。描かれた女は話せない分己で好き勝手に妄想できるが、現実はしっかりと意思もあるし話もする。総合すると、自分にとって不都合なことをしない言わない、いつまでも可愛い女の子の方が例え絵でも良いってことだ」

後輩騎士「そんな女、現実にはいなくねっすか?」

騎士「いないだろ。いたら怖い。いないから求めるんだろ」

後輩騎士「いないから求めるんすか」

騎士「無い物ねだりだ。どんな力でも力なら欲しいって奴もいるが、俺からすれば得るべき力は選ぶべきだと思う。選べないなら仕方ないが選べるんなら選んだ方が良い」

後輩騎士「あー……」

騎士「脱線したな……とにかく、相手に自分の欲求を押し付けているうちは、一生縁なんて無いだろ。だがそれで幸せならそれでも良いんじゃないか?」

後輩騎士「いいんすか?」

騎士「一般的な幸せ、という概念を人に押し付けて間違っていると罵るのも大間違いだろ。一般的な幸せと呼ばれるものがその人間にとっての幸せというわけではない。貴族たちを見ろよ、周りから見れば幸せに見えても、ずいぶん窮屈そうに生きている」

後輩騎士「あー確かに」

騎士「何が幸せかを他人が決めることこそ、間違った考えだ。少なくとも俺はそう思う。だから仮にお前が描かれた女に一生を尽くすのが幸せだと言うなら、俺は見届けてやる」

後輩騎士「いやいやいやいや俺は触れる方が断然良いっす!!」

騎士「そうか」

後輩騎士「あー……暇っすねぇ……」

騎士「………………」

「あの……」

騎士「………………ん。アーシアの……」

アーシア王子「はい。……その節は、ご迷惑をおかけしました」

騎士「ふふ、普通仇にそんなことを言いますかね?」

アーシア王子「あ、いえ。父のことは伺いました。騎士さんが怒るのは当たり前ですし、以前から父のやり方に疑問視もしていたので……僕は良かったと思っています」

後輩騎士「普通に出歩けるようになったんすね」

アーシア王子「はい。逃げるつもりはありませんし、逃げようにも出られる気はしませんからね、はは。……ありがとうございました、父を止めてくれて」

騎士「私は自分の正義のためにやりました。感謝される必要はありません」

アーシア王子「父はまだ退位されてないのですね……騎士さん、お気をつけください。まだなにか……父は企んでいるかもしれません。……人間同士で争っている場合じゃないというのに……」

騎士「人間は皆愚かです。大局を見失う人が多い。目先の利益、欲望に支配されやすい生き物だ。あなたがそんな王にならないことを願います」

アーシア王子「ははは、頑張ります。あ、お仕事の邪魔をしてごめんなさい。失礼します」

後輩騎士「なんか、普通に良い奴っぽいっすねー。イケメンなのがムカつくけど」

騎士「幼さは残るが、道を踏み外さなければ立派な王になれそうだ。近くに反面教師もいたのも大きい」

後輩騎士「父親が反面教師ってのもあれっすね」

騎士「……肉親を殺すような結果にはなってほしくないものだがな」

後輩騎士「もしなにかあったら、やるつもりなんすか?」

騎士「当たり前だ。一度はチャンスを与えた、二度はない」

後輩騎士「そんときゃ手伝うっすよ。いつでもいってください」

騎士「……あぁ、頼らせてもらう」

後輩騎士「うーっす!」

ガラガラガラガラ

騎士「ん、止まれ!」

「む? なんだ?」

騎士「……通行許可証を提示してください。ここを通る場合はそういう決まりになっています」

「通行許可証……。ちっ、そんなものが必要だなんて聞いてないぞ……」

騎士「無いのでしたら、お戻りください。そういう決まりになっています」

「頼む! 怪我人がいるんだ! この国に腕の良い医者がいると聞いて来た! 中に入れてくれ!」

騎士「例外はありません。例え何人であろうと、許可証の無い者を通すことはありませんので、お引き取りを」

「な…………! 危険な状態なんだ! 嘘ではない! 後ろに乗っている!」

騎士「お引き取りを」

姫騎士「トラスル王国の姫騎士だ! 身分証もある! こんなものを偽造するなんて無理だろう!?」バッ

騎士「お帰りください」

姫騎士「き、貴様……! 姫が……姫がどうなっても良いということか!」

騎士「必要でしたら通行許可証を入手後にまた来てください。それでは失礼します」

姫騎士「待て! 通してくれるまで、譲る気は無いぞ!」

騎士「でしたら一生そこでそうしていてください」

姫騎士「~~~~~ッ!」

騎士「……………………俺を非道な人間だと思うか?」

後輩騎士「少し」

騎士「……ふ。甘さを見せるわけにはいかない。言葉に丸め込まれて、それで悲劇を産むわけにはいかないんだ。俺はこの国の人間の命を背負っている。ルールを簡単に曲げたり、間違っていると分かっていても甘くする訳にはいかない」

後輩騎士「俺も同じっすから、責めることなんてしないっすよ。例外はない、例外を作ると際限がなくなる。何回も聞いてますって」

騎士「損な仕事だろ?」

後輩騎士「人に恨まれ、身内からも笑われ、毎日毎日同じ場所に立っているだけの仕事。……でも、俺は今は誇り持ってますから大丈夫っす」

騎士「………………でも、ここを通すことはできんが、まぁやれることはあるさ。上の騎士! 頼む!」

上の騎士「もー手配したよー言うと思ったしー」

騎士「流石」

ドカドカッ

医者「急患だってな。どこにいんだ?」

騎士「あそこで怒ってる騎士の馬車の中かと」

医者「了解! あとは任しときな!」

騎士「いつもすまんな」

医者「きーにすんな、あんたらの役目はわかってらぁ。俺は俺の役目を果たすだけだって!」

ドカドカッ

後輩騎士「……ふは、先輩のそーいう最後まで非道になれねーところ、好きっすよ」

騎士「別に甘くした訳じゃない。ただ医者が必要なら、門の外まで連れてくれば良いし、医者なら通行許可証も持っているから余程問題があれば中に入ってくるだろ」

後輩騎士「厄介なもんっすね、通行許可証って」

騎士「俺だってあの姫騎士とやらがニセ者だとは思えなかったし、あの馬車の中には本当に危険な状態の人がいる、ってことは何となく分かってるんだ。それでも職務は忠実にこなさなければならない。……その上で出来ることがあるなら、してやりたいし、出来るならしてやればいい」

後輩騎士「…………そっすね」

ガラガラガラガラ!

医者「ちょっとやべーわ! 診療所まで連れてくぜ!」

騎士「あぁ。通行許可証を見せてくれ」

医者「おうっ! ……お?」ゴソゴソ

騎士「………………」

後輩騎士「………………」

医者「…………あり? ……お……おあああ!!! 診療所に忘れてきたぁー!!?」

騎士「お引き取りください」ニッコリ

後輩騎士「静かな怒りを感じるー! 気持ちは分かるし俺もそんな気持ちだけどー!!」

医者「いや診療所に忘れただけだってわかんだろおいぃ!」

騎士「冗談だ、流石にそこまで融通が利かない訳じゃない。ったく、気を付けろボケジジイ。ほら、早く入れ」

医者「驚くわ!」

騎士「常に持ち歩いてろって言われてるだろ。……すいません、意地悪した訳じゃないのは理解してください」

姫騎士「いや! 医者を連れてきてくれたのは貴方だろう!? 感謝している! 仕事なのに無茶を言ってすまなかった! 後で礼はする!」

ガラガラガラガラ

後輩騎士「………………なんか、きつい雰囲気あるのに可愛い感じの人っすね」

騎士「……中にいるの、トラスル王国の姫だぞ多分。厄介ごとにならなければ良いが……」

後輩騎士「……なんでそんなに冷静に分析してんすか?」

騎士「姫とは言っても見ようによっては自分一人じゃなにもできない人間、とも言える。肩書きに深く囚われすぎだ」

後輩騎士「肩書きを気にしなさ過ぎる先輩に言われても……」

騎士「トラスル王国……か……隣国のハバーヤ公国とにらみ合いが続いていると聞いているんだが、そんなときに姫とその護衛が医者を求めて、ね……」

ここまで
感想の一つ一つが喜びとなり、次への意欲となります
わざわざの感想、ありがとうございます

若干メアリ・スーっぽい気もする

>>61
メアリー・スーというものを初めて知りました
一応メアリー・スー診断というものを受けてみましたが、9点という結果に終わったので多分メアリー・スーではないと思います
色々調べてみましたがなかなか面白かったです、ありがとうございます

後輩騎士「あー……暇っすねぇ……」

騎士「お前だけだ」

後輩騎士「上のやつらもだらけてるじゃないっすかー」

騎士「あいつらはだらけてるように見えてしっかりと周囲を見てるから問題はない」

後輩騎士「うぇー……ほら、あそこの奴らなんて遊んでるっすよ?」

騎士「あいつらはもうダメだから諦めろ」

後輩騎士「けっーきょく俺を可愛がりたいだけじゃねーっすか!」

騎士「当たり前だろ。何年お前を教育してきたと思ってる?」

後輩騎士「望んだ通りにならなくて申し訳なかったっすねー!」

騎士「望んだ通りになる方が稀だし、お前はお前の良さを生かせ」

後輩騎士「なんすかいきなり……」

騎士「別に」

後輩騎士「そっすか。あ、最近街で流行ってるものがあるんすけど、知ってるっすか?」

騎士「流行ってるもの? いや、知らん」

後輩騎士「なんか、必殺技ってのが流行ってるらしいっすよ」

騎士「必殺技……?」

後輩騎士「演劇のなかで、主役や敵のボスとかが使うみたいっす。んで、ちびっ子が木の棒持って遊んでるみたいっすよ」

騎士「必殺技ねぇ……どんなものなんだ?」

後輩騎士「なんでも、最終奥義みたいっす。その攻撃に名前をつけて、叫びながら攻撃するみたいっすよ」

騎士「………………? 技に名前をつける理由と、それを叫ぶ理由は?」

後輩騎士「さぁ……気合っすかね?」

騎士「ますますわからん。戦場でいちいちそんなことをしていたら疲れるぞ」

後輩騎士「いやほら、そこは演劇っすから」

騎士「……まぁそうか」

後輩騎士「試しに先輩もやってみたらどっすか?」

騎士「断る。そんな無駄なことをする理由がない。それに仕事中だ」

後輩騎士「えー……先輩ならできると思うのに……」

姫「えぇそうですね。騎士、私が許可するからやってくれませんか?」

後輩騎士「のわぁ!? ひ、姫様!?」

騎士「またですか……」

姫「ふふ、楽しそうな話をしていたから……ごめんなさい。でも私、騎士の必殺技を見たいですわ」

騎士「…………………………」

姫「だめ?」ニコ

騎士「…………了解致しました」

後輩騎士「なんかすいませんっす……」

騎士「…………」

騎士「それで?」

後輩騎士「え?」

騎士「俺は必殺技のなんたるかなんぞ知らん。お前が教えろ」

後輩騎士「マジっすか! 俺だってそんな詳しくはねっすよ!」

騎士「俺より詳しいなら問題ない」

後輩騎士「適当すぎっすよ!」

姫「あ、私でしたら、お父様と演劇を見に行ったので教えられますよ?」

騎士「…………よろしくお願いします、姫」

姫「うふふ……分かりました。それでは騎士、あなたのなかで無駄だと思うような、仰々しい動きで剣を振るってみてください」

騎士「仰々しい動きですか?」

姫「端から見て格好いいと思えるような動きでしたら、何でも構いませんよ」

騎士「……分かりました。それでは……ウォォォ!!!」ザンッ!

後輩騎士「うぉぉ! 縦に一回転して斬った! すげぇ!」

騎士「これでどうでしょう?」

姫「ふふ、流石は騎士ですわ……それでは、その動きに合わせて、その技の名前を叫んでください」

騎士「……いや、技とかでは無いのですが……」

姫「ふぅ……後輩騎士、あなたは騎士のあの動きになんと名付けますか?」

後輩騎士「う、お、俺ですか……そのまま縦回転斬り! っすかね!」

姫「三点。事実をありのまま伝えてるだけじゃない」

後輩騎士「ぐはー!!」

姫「私なら……ふふ、雷落とし、とか」

後輩騎士「か、か、かっけー!!」

騎士「……(そうか?)」

姫「一ツ断チ、とか……」

後輩騎士「ウォォォ!!!」

騎士「………………」

姫「どうかしら!?」ドヤァ

騎士「……素晴らしいかと」

姫「うふふふふ!! そう言ってくださると信じておりましたわ! さぁ! 騎士、やってみてくださいませ!」

騎士「………………」

ヒュンヒュンヒュン!

騎士「雷……」

ズバンッ!

騎士「落とし!」

後輩騎士「うぎわぁぁ!! かっけぇーーー!!!」

姫「はぁ……はぁ……! き、騎士……!」

騎士「……(嘘だろ?)」

姫「さぁ! 次です!」

騎士「…………」

ブンッ! ダァーン!

後輩騎士「おおお!!! 素早く斬り下ろしてすぐに返し、そのまま切り上げた!」

姫「んはぁ!!」

後輩騎士「姫ェェェ!!」

騎士「……それで? これの名前は?」

後輩騎士「あ、ええと……上下斬り!」

姫「……あなた、もう帰って休んだ方が良いのではないかしら」

後輩騎士「厳しすぎでしょ!? 先輩の二段くらい上行ってますよ!?」

姫「そうね……私なら……餓狼撃……とか…………うふ、ふふふふ……」ニヤニヤ

騎士「双牙斬。とか如何でしょうか」ニッコリ

姫「そ……」

後輩騎士「そう……げざん…………!!! や、やってみてください!!」

ザンッ! ズバッ!

騎士「双牙斬!」

姫「キャー!!! 騎士ィー!!」

後輩騎士「愛してるぅー!!」

騎士「……(そこまでか? 本当か?)」

姫「騎士! 他には何かありませんの!?」

騎士「ほ、他ですか……それでは……」

タンッ……ヒュンッ!

騎士「残影剣!」

後輩騎士「ば、ば、ば……バックステップからの踏み込んで突きィィィ!!!」

姫「もう、死んでも悔いはありませんわ……」

後輩騎士「しかも先輩、最初から言ってきましたね!? 神っすか!」

騎士「なんと言えば良いかもう言葉が出てこない。とにかくこれで必殺技は完成か?」

後輩騎士「まだっすよ……まだまだっすよ!! 姫! 起きてください姫!」

姫「はっ! わ、私は何を……」

後輩騎士「これからっすよこれから! 最後まで見届けましょう姫!」

姫「え、えぇ! そうね! さぁ次です騎士!」

騎士「(まだ続くのか……)」ハァ

女勇者「ふぅ、今回の魔物は強敵だったけど、なんとかなって良かったね」

女騎士「そうだな。……もっと強くなる、四人でこれからも頑張ろう」

女盗賊「にゃはは、私あんま役に立ってないけどねぃ」

女勇者「そんなことないさ。道案内や、お金のことを任せられる女盗賊はいてくれないと困っていたよ」

女盗賊「あはっ、ありがとう!」

女勇者「ん? あれ? こんにちは」

上の騎士「おー勇者さまー」

女勇者「騎士さんは?」

上の騎士「あははー、ちょっとねー」

女魔法使い「……街が……騒がしい」

女勇者「え?」

ざわ、ざわ

女勇者「本当だ。何かあったのかな?」

女騎士「……襲撃か!?」

上の騎士「あーいやー、多分それじゃないよー」

女勇者「とにかくいってみるよ!」

ザッザッザ

女勇者「……ここか。すまない、通してくれ」

国民「おお、女勇者様!」

女勇者「この騒ぎは?」

国民「あぁ、見てもらえれば分かります! おーい、道開けてくれー! 女勇者様が通るぞー!」

ざわざわ!

女勇者「ありがとう」

女騎士「……あそこにいるのは騎士か? あと……姫もいるぞ!?」

女盗賊「何してるのかな……?」


騎士「双牙斬!」斬り下ろしからの斬り上げ

騎士「雷切り!」空中縦回転斬り

騎士「残影剣!」バックステップからの瞬即突き

騎士「瞬連撃!」高速連続突きからの斬り飛ばし

騎士「牙連撃!」突っ込んで上、下、上、下と剣を振るう

姫「そこよ騎士!」

騎士「これで決める!」カットイン(特に意味はなし)

騎士「悪いな」左右に二連撃

騎士「終わらせてもらう」突き、からの斬り上げ

騎士「うぉぉぉぉぉ!!!!」回転しながら三連斬

騎士「永遠に……眠ってろ!」踏み込んで、上から斬り落とす

騎士「永遠の闇に抱かれて眠れ」剣を無駄に振り、左手で顔を抑えて決め台詞

キャー!! 騎士ー!!

俺だー! 結婚してくれー!!

是非うちの劇団に来てくれー!!

女勇者「…………………………」

女騎士「…………な、な、な……!?」

女盗賊「うわぁ……なんか……うーん」

女魔法使い「恥ずかしいような……なんとも言えないような……?」

女勇者「…………か、か、かっこいい!!!」

女騎士「え!?」

女盗賊「お、女勇者……?」

女勇者「騎士ー!!!」

女盗賊「あぁ! 呑み込まれた!」

女騎士「女勇者! 頼む! 恥ずかしいから止めてくれぇぇ!!」

ざわ、ざわ!

騎士「………………これで満足していただけましたか?」

姫「抱いてください」

騎士「何をいってるんですか!?」

後輩騎士「その後で俺もお願いします」

騎士「寝てろ! いや二人とも目を覚ましてください!」

姫「はっ、あ、あまりのかっこよさについ……!」

後輩騎士「お、俺はホモじゃない……俺はホモじゃない……俺はぁぁ……」

騎士「こんなに注目を浴びることになるなんて……なんでこんなことに……仕事も放り出して……」ガクッ

姫「まぁ良いではないですか! ほら、女勇者様もアーシア王子もアーシア王女も、熱い視線を送っていますわよ!」

騎士「何故、それで慰めになると……?」

後輩騎士「だ、大丈夫ですって! 演劇も絶賛公演中ですし、みんな何かの宣伝だと思ってるっぽいっすから!」

騎士「そうか……いやでもやはり、必殺技など良いものでもなかったぞ……」

後輩騎士「え、ええ!? そ、そうっすか!?」

騎士「基本的に大振りがすぎるし、やはり体を動かしながら叫ぶと体力を多く消耗する。多少力強くなったかもしれないが誤差みたいなものだ。そもそも剣技は力強ければ良いというものではない」

後輩騎士「まぁ、確かにそうっすけど……」

騎士「こういうのは物語の中だけで十分だな……さ、戻るぞ後輩騎士。姫も、もうお戻りください」

姫「…………あら?」

騎士「ん……? あ? ……後輩騎士!! 姫を頼む!!」

後輩騎士「なんすかなんすか!?」

国民「騎士ー!! 今の技教えてくれー!!」

国民「俺も教えてくれー!!」

国民「俺が先だ!!」

子供「僕も僕も!!!」

ドドドドドドッッッッッ!!!!

騎士「うぐわっ!!! こ、後輩騎士!!! 姫を……頼んだぞおおおおぉぉぉぉぉ………………」

後輩騎士「せ、せんぱぁい!!!」

姫「騎士が……人の波に拐われてしまいましたわ!」

後輩騎士「うう……先輩……安らかに闇に抱かれて寝てくださいっす……」グスッ

姫「騎士……かっこ良かったばっかりに……」グスッ

女騎士「って言ってる場合か!!! 救出するぞ!!!」

後輩騎士「って雰囲気に呑まれてたや!! っとぉ、女魔法使いさんと女盗賊さんは姫をたのんます! 俺らで先輩助けにいくんで!!」

女騎士「しれっと女勇者と群衆に紛れたんだ! あの馬鹿を止めるぞ!!」

ここまで

後輩騎士「いやー。流行ったすねー」

騎士「なんだ? 言いたいことがあるならハッキリ言ったらどうだ?」

後輩騎士「そんな馬鹿にしてる訳じゃないっすよ! 一大ブームを巻き起こした先輩かっけーと思ってんすから。騎士隊のなかでも休日にコンボの練習をしてる奴もいるくらいなんすよ?」

騎士「恥だな。端から鍛え直してやろうか」

後輩騎士「あ、遊びっすから!」

騎士「いやそもそもコンボってなんだ?」

後輩騎士「コンボってのは、技と技を繋げることっす。先輩だったら、双牙斬からの雷切りがワンセット、残影剣からの瞬連撃がワンセット。牙連撃からの奥義がスーパーコンボって感じになるっすね」

騎士「…………?? ……訳がわからん」

後輩騎士「双牙斬で飛び上がって、雷切りで下に落ちますよね? その雷切りが双牙斬からの流れで勢いが乗って威力が上がるんすよ。瞬連撃は残影剣を前に入れた方が近付く手間を攻撃で補ってるんでコンボになるんす。んで牙連撃を入れて相手を怯ませた後に奥義を入れることで、効果的に攻撃を入れることができるっす」

騎士「もういい聞いてもちっともわからん。そんな訳のわからんものが流行るなんて世も末だな」

後輩騎士「創始者が何を言ってんすか? あのあと国民に教えてたくせに」

騎士「……そうか……創始者は俺と言うことになるのか……」

後輩騎士「俺も休みの日はコンボ練習しにいってんすよー? 広場奥とかでみんなやってんすから。先輩も来ないっす?」

騎士「行くわけが無いだろ」

後輩騎士「ですよねー」

パカッパカッ! ヒヒーン!

「おい。貴様ら」

騎士「……通行証はお持ちでしょうか?」

「ここにトラスル王国の姫がいるという情報を得たのだが、知っているか?」

騎士「いえ。そのような話を聞いた覚えはありませんが」

「隠し立てすると、ろくな結果にならんぞる」

騎士「隠してなどおりません」

「…………ふん」

騎士「それよりも。国の民が怯えてしまいます、このような人数で押し寄せて来るなど、あまりにも無礼では無いでしょうか?」

「弱小国の一兵士ごときが生意気な口を聞く。まぁ良い、中に入らせてもらおう。匿ってないと言うのならば、構わんよな?」

騎士「通行許可証を」

「ここにある。文句はないな?」

騎士「(黒騎士……ね)許可証一枚で入れる人数は五人と決まっています。それ以上はお控えください」

黒騎士「なに? ……チッ。お前ら、着いてこい」

「ハッ!」

黒騎士「もし、隠していたら……貴様らも相応の覚悟をしておくんだな」

騎士「…………」

後輩騎士「厄介ごとになりそっすねぇ……やだやだ」

騎士「…………………」

後輩騎士「……大丈夫っすかね?」

騎士「さぁな」

後輩騎士「アーシア王にしたみたいに滅茶苦茶できないんすか?」

騎士「やればできるかもな。ただ、あれはどうしようもないクズだったから粛清しようとしたが、基本的に俺は人間は殺したくない」

後輩騎士「…………なにかあっても助けないってことすか?」

騎士「我が国には関係のない話だ」

後輩騎士「それはそうすけど」

騎士「俺たちのやらなければならいことを忘れるな」

後輩騎士「なーんか……納得いかねーってか……」

騎士「……お前の優しさは好きだ。だが、自分の手でできることとできないことは弁えろ」

後輩騎士「え? 今俺のこと好きって言いました?」

騎士「国を相手にするとき、どれ程の覚悟が必要になるかをよく考え、自分一人で解決できるかを考えるんだ」

後輩騎士「ねぇねぇねぇ俺のこと好きって言いました?」

騎士「本当にやるつもりなら死ぬことも覚悟しろよ?」

後輩騎士「俺のこと好きなんすか? 好きなんうべらぁぁ!!!」ズザァ

騎士「静かにしろ。うるさいぞ」

後輩騎士「な、殴る前に……言ってほしかった……っす……」

騎士「……………………」

後輩騎士「ん?」


姫騎士「離せっ!」

黒騎士「抵抗すんなよ」

ドスッ、ドスッ!

後輩騎士「……………………」

騎士「……………………」

黒騎士「おー、やっぱり隠していたみたいだな。だと思ったぜ」

騎士「は? なんのことかは分かりませんが、揉め事はお止めください」

黒騎士「けっ……まぁ良い。おら行くぞ」

ドスッ、ドスッ

後輩騎士「…………」

騎士「…………」

姫騎士「っ!」ジッ

騎士「………………」ペコ

姫騎士「~~~ッ!」

後輩騎士「…………おい、待てよハゲ野郎」

黒騎士「……あぁ?」

騎士「………………」

後輩騎士「……うちの国でなに勝手なことしてやがるんだ?」

黒騎士「悪いがよ、こいつにはトラスル王国の姫を拐った罪がかけられている。あんたの出る幕じゃあねぇよ」

後輩騎士「関係ねぇな。泣いてる女ぁ囲んで無理矢理取っ捕まえる奴らに俺ぁ正義を感じねぇ」

黒騎士「………………ほお。で、どうすんだ?」

後輩騎士「決まってんだろ」チャキン

黒騎士「はっ! おう、遊んでやれ」

後輩騎士「(って啖呵切ったけど、先輩は助けてくんねぇよなぁ……頭かってぇーの! この四人ならなんとかなっけど……奥のあれ、先輩レベルっぺーな……あークソ! 張った意地は貫く!)」

ハバーヤ兵1「へへ……オラァ!」ザンッ!

カキッ! ドンッ!

ハバーヤ兵1「ってぇ!」

ハバーヤ兵2「オラ!」ブンッ

キィン! ジジジ……ジャキィ!

ハバーヤ兵2「ぐえっ!」ドサッ

後輩騎士「退け!」

ハバーヤ兵3「の野郎ォ!」ブンッ

ハバーヤ兵1「死ねェ!」ブンッ

ガキィン! ガッ……

ハバーヤ兵1「へ?」

ハバーヤ兵3「うおっ!?」

ゴンッ! ドサドサッ

ハバーヤ兵4「……え?」

後輩騎士「オオオラァ!」ブゥン!

ハバーヤ兵4「おっぐぅ!」ドサッ

黒騎士「ほー……門番の癖に錬度が高いじゃねぇか」

後輩騎士「逃げんなら今のうちだぜ、ハゲ」

黒騎士「ハッ!」ブゥゥン!

ドンッ!

黒騎士「この黒騎士を相手によく言ったなぁ! 格の違いを見せてやるよ!」

後輩騎士「(デケェ……なんだあの剣……! あんなもんで殴られたら骨バラバラになっちまうって……!)」

黒騎士「おおおおおらぁぁ!!!」ブンッ‼

後輩騎士「なっ、はや……ヂィィ!!」ガギギギ!!

黒騎士「オンラァ!!」バンッ!!

後輩騎士「あーーーぐ!!」ドサッ! ゴロゴロ!

黒騎士「ハハハ! どうした、終わりか!?」

後輩騎士「(……あー、ダメだ、立てねぇ……こりゃキツイって……くそ、情けねぇ……え?)」

黒騎士「……はっ。今度は貴様が相手か?」

騎士「仲間に手を出されたなら……見過ごす訳にはいかないな。明確に敵と判断する」

黒騎士「おいおい、こっちは被害者だぜぇ? あんたんとこのが手ぇ出してきたから仕方なく相手したんだろぉが?」

騎士「泣いてる女を見過ごせなかったゆえに起こしたことなら、俺はそれを断罪する気はない。そして俺は、目の前で仲間を転がされて見過ごすことはない」

黒騎士「最初からそのつもりだっただろ? へへ、まぁいい……暴れるのは嫌いじゃねぇからなぁ!」

ここまで
寝落ちしました、ごめんなさい

後輩騎士「先輩……うぐっ!」

騎士「分かってたことだろ。……お前が何を守るかは知らんが、俺はお前を守る。それが俺の騎士道だ。……ゆっくり休んでろ」

後輩騎士「すんません……」

ハバーヤ兵「隊長!」

黒騎士「お前らぁ手ぇ出すなよ!! ォォォオオオラァアアア!!!!」ブォン!

騎士「血の気の多い……」シュッ

ガッキィン! ギィィン! ガッ!

キィン! ズザァ……ドンッ! ガンッ!

ザザ……ヒュンッ! ガキィ!

黒騎士「……テメェ、なにもんだ?」

騎士「………………」

黒騎士「その観察するような視線が鬱陶しい!!」ブンッ‼

騎士「人の国の真ん前でこんな騒ぎを起こせる野蛮な奴に話すことは無いな」ガキィン! シュッ

黒騎士「(完全に受け流されてらぁ、へっへ……相手にする気はねぇって感じだな……そういうやつほど、本気にさせたくなるってもんだ……)」

黒騎士「オォラ!」ブンッ‼

後輩騎士「っ!?」

ガッ!

後輩騎士「………………先輩!」

騎士「…なるほどな。そのつもりなら、後悔するなよ」

黒騎士「俺は強い戦士と戦うことに生涯を捧げてきた! 今さら悔いの残ることはない!」

騎士「あぁそうかい。なら死ね」ザンッ

黒騎士「お……………………―――――」ドスンッ

ハバーヤ兵「な……た、隊長!?」

後輩騎士「……し、死んだんすか?」

騎士「…………近付くな。手応えが浅かった、まだ生きてる」

黒騎士「はっ……はははははは!!!! なんだ今の剣は!? 見えなかった、この俺が見たことのない剣技だったぞ!! 貴様、名は!?」

騎士「門番だ」

黒騎士「そうかそうか! ははっ! あぁ、貴様の剣は通ったぞ! 狙った位置が悪かったな、首は特別頑丈だ! 今日は貴様に免じてそいつとトラスルの姫は諦めてやるさ! はは、ははは! ふはははは!!! ……引き上げるぞ!」

ヒヒーン! パカッパカッパカッパカッ!

騎士「……………」

後輩騎士「なんだったんだ、あいつ……いつつ」

姫騎士「お、おい! ……な、なんで助けてくれたんだ……?」

騎士「俺は知らん」

後輩騎士「俺は……いやなんか、やっぱちげーなって……見過ごせなかったんす。ほら、早く中に入ってください」

姫騎士「……恩に着る!」タッタッタ

騎士「…………厄介者に目をつけられたな」

後輩騎士「……すんませんした! 勝手な行動しちまって……」

騎士「俺も利用したから、気にするな。口実が欲しかったんだ、悪い」

後輩騎士「先輩……」

騎士「お前が黙っていられない性格なのは理解していた。本当に止めるつもりだったなら、先に言っていたさ。お前が動き出すのを待っていたんだ。悪かった」

後輩騎士「はは、厄介な性格っすね」

騎士「一度曲げると、意思が弱くなる。……面倒は承知の上の生き方だ」

ここまで

騎士「………………」

後輩騎士「いや、それは別にそうでもなかったなぁ」

姫騎士「ふふ、そうなのか?」

騎士「………………」

後輩騎士「それでそこで俺は言ったんだよ、諦めないで前進しろって」

姫騎士「やはり、そうでないとな」

騎士「………………ふむ」

イチャイチャ、イチャイチャ

騎士「(やれやれ、姫騎士がよく来るようになって数日、後輩騎士に真面目にやれと叱るべきなのかも知れんが、個人的には後輩騎士に嫁ができることを歓迎したい。周囲の警戒は怠っていないみたいだしな。それに、いつまでもここの仕事をさせるべきではないとは常々思っていたし、良い機会なのかもしれない。だが……)」

姫騎士「それで私は剣を抜いたんだ」

後輩騎士「主人を馬鹿にされて抜かない奴は騎士じゃねぇからか!」

姫騎士「だろう!? なのに後で説教を―――」

騎士「(……ここに立って長いが、居づらいと感じたのは初めてだ……。夜は主人の付き添いで忙しいと言っていたから仲を深めるこのタイミングを邪魔したくはないんだがな……)」

姫騎士「おっと、すまない! もうこんな時間か、邪魔をした」

後輩騎士「あ、いや大丈夫だ。……それじゃ、またな」

姫騎士「あ、あぁ!」タタッ

騎士「………………」

後輩騎士「なんか、すんません先輩。ってか怒らないんすか?」

騎士「仕事の最中に話をするなとは言えん。警戒はしていたし、俺から叱る言葉はない」

後輩騎士「な、なんか先輩がそんなこと言うのが意外なんすけど……」

騎士「上の奴らが歯軋りしてお前を見ているから気をつけろよとだけ忠告しておいてやる」

後輩騎士「えっ、ってうわぁ!? いつから見てたんすか!? そんな怨み込めた視線向けんでくださいっすよ!!」

騎士「……お前、姫騎士に惚れたな?」

後輩騎士「先輩までいきなし何言っちゃってんすか!?」

騎士「姫騎士を見るお前の目を見れば分かる。姫騎士の方もな」

後輩騎士「う……」

騎士「何を躊躇ってるんだ?」

後輩騎士「いや……でも俺達、国違いの騎士っすし……それに向こうも大変みたいっすし……」

騎士「……そうか」

後輩騎士「……そりゃまぁ、恋仲になりたくないかって言われると、なりたいっすけど。でも、無理っすから。俺だって、普段こんなんすけど、そういうのは弁えてるっす」

騎士「お前がそう言うなら俺はなにも言わん。勇気の無い奴に何を言っても無駄だ」

後輩騎士「は!? な、なんすかそれ!? 俺は」

騎士「自分で考えろ」

後輩騎士「………………」

騎士「(……それに、仮に恋実っても、ハバーヤとトラスルがいつ戦争状態になるとも分からん。姫騎士がこのままここにいるかは分からんからな……今のうちに後輩騎士と姫騎士を引き離しておくのも、優しさなのかも知れないな……)」

後輩騎士「剣、抜けよ。先輩」

騎士「なに?」

後輩騎士「勇気ならある。俺はいつ死んでも良い。守りたいやつの為に死ぬんなら、怖くない」

騎士「それが何故俺に剣を抜かせることになるんだ?」

後輩騎士「どんな戦場に行くよりも、あんたと敵対するのが一番自殺行為だからな、俺にとっては」

騎士「…ふっ、そうか。なら抜くぞ?」

後輩騎士「わかったっす落ち着いてください今のは心意気の問題でいざとなったら先輩相手でも剣を抜くって覚悟はあるってことで今はいざって時じゃないっす生意気な口利いてすいません許してください」

騎士「まったく……。だが、気持ちは理解した。……俺としては、もっと近くにいる女を嫁に貰ってほしいもんだがな……トラスルになにかあったとき、姫騎士は多分ここを離れて国に戻るぞ。死ぬかも知れんな。面倒な奴に恋をしたもんだ」

後輩騎士「…………かぁー!! 俺どうしたらいいんすかね!? できるならここにずっといてほしいっす!」

騎士「それを伝えてみれば良いんじゃないか。お前の気持ちと一緒に」

後輩騎士「………………。そう、っすよね……」

騎士「(もし、仮に二国が戦争になって。後輩騎士が姫騎士を追いかけてしまったとき……俺はどうするだろう。……関係ない、門を守る仕事をするだけだ。……それが俺の正義だ)」

後輩騎士「………………やっぱ、止めときます。彼女は彼女の正義の為に動いてますから。俺がそこに介入すんのは、やっぱちげーと思うし」

騎士「そうか」

後輩騎士「……うっす」

騎士「(姫騎士と後輩騎士は似合いだと思うんだがな……出生ばかりはどうしようもない、か)」

騎士「元気出せ。良い女なら紹介してやる、任せておけ」

後輩騎士「はは、よろしくっす」

騎士「(……俺なら、どうしていただろうな。諦めて見送るか?)」


『大丈夫、またすぐ会える。だから、暫しの別れだ』

『例え死しても、何かのために戦えることを喜ぼう』


騎士「ぐっ!」ガクッ

後輩騎士「先輩!?」

騎士「い、いや……なんでもない、気にするな」

後輩騎士「ほ、ほんとっすか? 体調悪いんなら無理しないでくださいっすよ?」

騎士「(…………記憶、か)」

騎士「まったく、厄介な……」ボソッ

後輩騎士「え?」

騎士「なんでもない」

後輩騎士「………………ッ!」

姫騎士「世話になった。それでは、失礼する」

騎士「あぁ。幸運を」

姫騎士「…………」チラ

後輩騎士「…………気を付けて、な」

姫騎士「……あぁ」

ザッザッザ

騎士「………………」

後輩騎士「……くっ」

騎士「前にも言ったが、人が背負えるものは多くない。俺は国を背負って戦うが、お前が何を背負うかはお前次第だ」

後輩騎士「俺は、何のために強くなったんだっけ……? 最初は……すげー人たちに憧れてただけだった……」

騎士「…………」

後輩騎士「……訓練してくうちに、困ってる人を助けられるような兵士になりたいと思って……。でも、騎士になって、何にもできなくなって……」

騎士「…………」

後輩騎士「…………俺が今、何のためにここに立ってるかなんて、もう俺にはわかんねぇ……」

騎士「思い詰めるな。忘れろ。目的が無いなら、これから探せば良いさ」

後輩騎士「…………はい」

騎士「俺も、こんなに早く戦争が起こるとは思わなかった」

後輩騎士「…………先輩なら、戦争を終わらせることができるんでしょうね」

騎士「さぁな。やってみないと分からん。俺ですら何が起こるか分からないのが戦場だ」

後輩騎士「ははっ、そんなところに俺が行って役に立つ訳がない!」

騎士「………………そうかもな」

後輩騎士「大丈夫っすよ。もう忘れることにしたっすから。心配しないでくださいっす、立ち直りだけは早いんすから俺! なんせ女の子に振られまくっても寝たら復活しますし!」

騎士「そうだな」

ここまで、多分またあとできます

後輩騎士「………………。すいません、先輩。でも俺……ここで動かないと、絶対後悔します。だから……!」

タタタタッ!

……………………

ザッ

騎士「行ったか。……こうなる予感はしていた。まったく……こんなときにも助けてやれんとはな……後輩騎士、せめてその選択に後悔が無いことを……」

女勇者「本当に、良いのかい?」

騎士「ん…。戻っていたのか。あいつの意思はあいつのものだ、死んでも生きても、俺はあいつの意思を尊重する」

女騎士「馬鹿な……生き残れる筈がない! あいつは確かに腕は良い、だが戦場はそれだけで生き残れるような所ではないのは、貴様も知っているだろう!」

騎士「だからなんだ? 俺は誰にも俺の生き方に文句をつけさせない。だから、俺も誰かの生き方に文句は言わない」

女騎士「仲間じゃ……友じゃないのか!?」

騎士「友なら尚更だ。後輩騎士の選択が間違ってるかどうかなんて、周囲が決めることじゃない。あいつが、その選択に納得できるかどうかが、重要なことだ」

女勇者「…………騎士は、どうなることを望んでいるの?」

騎士「後輩騎士とまた共にここに立つ、その未来を望む」

女勇者「ならなんで」

騎士「だがそれは、俺の正義ではない」

女騎士「………………」

女盗賊「自分の願うことなのに、なんで正義じゃないの? わけわかんなー」

騎士「俺の正義はこの国を守ることだ。後輩騎士を助けに行けば、それが疎かになる」

女盗賊「あー……なるほどね」

騎士「さぁ、お前らにはお前らの正義があるだろ。さっさと魔王を倒してくれ」

女勇者「………………分かった」

女騎士「女勇者……」

女勇者「行こう。もうここに用は無い」

騎士「………………」

女勇者「それじゃ……」

ザッザッザ

騎士「……明日から、静かになるな。まったく、勝手な奴だ」

騎士「………………」

…………………………

騎士「静かだ。時の進みも遅い。まだ昼も過ぎていないのか」

「おい」

騎士「なんだ?」

トラスル姫「我はトラスル姫。貴様の名は騎士、で間違いないな?」

騎士「そうだが」

トラスル姫「……検討違いであったか。強き騎士がいると聞いて宛てにしていたのだが……本命は外したが、もう一人は上手くいったようだな」

騎士「あぁ。追いかけて行ったよ、あんたの騎士を」

トラスル姫「そうか。何故貴様はここにいる?」

騎士「ここが俺の居るべき場所だからだ」

トラスル姫「友を見捨て、保身に走ったか?」

騎士「―――――ハ」バッ

トラスル姫「っ!」

ガシッ!

騎士「無力な奴に何を言われても揺れすらしないと知れ。無様、その姿生まれたての赤子と相違無い。庇護なければ生きることすらままならん哀れさよ。試しに首を捩りきってしまおうか?」

トラスル姫「く、くく……友を見捨てたというのに、その友のことでここまでの憎悪、怒りを見せるとは。分からん人間だな。分かっているとは思うが、姫騎士を貴様の友に近付けさせたのは私だ」

騎士「そうだろうな」グググ

トラスル姫「ぐ……!! 戦力が少しでも欲しかったのでな……姫騎士が好意を抱いた男の心を奪い、その男に付き合う形で貴様も引き込むつもりだったが……なんだ、無駄死にか」

騎士「………………」

トラスル姫「気付いていたことだろう? 何故今さら怒る?」

騎士「チッ……」パッ

トラスル姫「ごほっ……。……戦争はまだ暫くは起こらないと判断していたのだろう? その間に貴様の友……後輩騎士といったか、そいつと姫騎士の仲を深めさせ、姫騎士を心変わりさせようとでも思っていたのか?」

騎士「…………」

トラスル姫「もしそこで心変わりが起こらなくても、自分で何かしらの行動をしようと思っていたんじゃないか? 違うか?」

騎士「そうだ。姫騎士は後輩騎士よりも弱い。身体だけじゃなく、心もだ。再起不能にでもしてこの国に閉じ込めるつもりだった」

トラスル姫「おお怖い……だがまぁ、私も予想外だったさ。貴様がここにそこまで縛られているとはな」

騎士「………………」

トラスル姫「………………ふ。まぁ良い。悪かったな、貴様の友を死なせる形になって。だが良いだろう? 愛した女と共に逝けるのだから」

騎士「その口を閉じろ。死にたくないのならな。次は本気だ」

トラスル姫「………………。全員が納得する結末を迎えるなら、貴様こそ戦地に赴くべきだ。貴様がいれば、不利な戦況を覆せる筈だ」

騎士「聞く耳持たん。俺は動く気は無い」

トラスル姫「…………そうか」

ザッザッザ

女勇者「騎士。理由があるなら、納得できるんだろう?」

騎士「女勇者……理由?」

トラスル姫「待っていたぞ、遅かったな」

女勇者「王を納得させるのに時間がかかってね。……騎士、これを」

騎士「…………………………おいおい。なんだこれは?」

女勇者「見て分かるだろ? 指令書だ。君と私たちは今からトラスル王国を助けに行く」

騎士「なんでだ? 同盟国でもないのに」

トラスル姫「トラスル王国を助けてもらった暁には、同盟国になる。私がこの国の貴族と結婚することになったのでな」

騎士「………………。任務なら仕方ないな。確かに拝見した、すぐに行けば良いか?」

女勇者「あぁ、一緒に来てもらう。女盗賊はトラスル姫を頼む」

女盗賊「あいあいー! 気を付けてね」

トラスル姫「あぁ。帰ってくるのを楽しみにしているぞ、騎士」

騎士「なに?」

トラスル姫「なんでもない。我が国を頼む」

騎士「………………」

女勇者「時間がない、行こう!」

ここまで

女騎士「私は同じ騎士として後輩騎士の行動は認めたくはない。だが、愛する女のために死地に赴く男を好ましくも思う」

騎士「いきなりなんだ」

女騎士「いやなに、世間話でもと思ってな。お前と話すとき、私たちはいつも争っていた気がするからな」

騎士「そうか? ……そうか」

女騎士「お前はどう思う?」

騎士「俺はあいつが、普段はやる気無さそうにしていてもやることをしっかりとやり、気に食わないことには全力で突っ込んで行く奴だと知っている。当然の結果だ」

女騎士「そうか……私は昔、あいつはやる気が無く、覚悟もないままに騎士になった類いの奴だと思っていたことがあった。だがこと剣においてあいつは常に1、2位を争う腕前でな……随分悔しい思いをさせられた。勇者の供として選ばれた時に、ようやく奴の一歩先に行ったつもりになっていたが、今回のことで、どこまでも引き離されていることを実感したよ」

騎士「………………」

女騎士「……あぁ、こうして旅を共にするのなら、少しくらい話をしても構わんよな?」

騎士「まぁ……構わんが」

女騎士「そうだ、気になっていたことがある。お前は何故国の兵士になることにしたんだ? 魔王の騎士として16になるまで洗脳されていたのだろう?」

騎士「大した話ではない。人助けをしたときに、国の騎士に兵士になるように勧められたから、やることにしただけだ。たまたま洗脳が解けた直後だったからな」

女騎士「人助け?」

騎士「あぁ。俺の生きてきた世界のなかで、もっとも美しかった人を助けようとな。見た目が、というわけではない。心だ。俺はあんなにも清らかで強く、そして優しい人間を初めて見た。その時に人間を憎む俺の心が分からなくなったんだ」

女騎士「その人は、今どこに?」

騎士「……この世界にはもういない」

女騎士「あ……すまん……」

騎士「いや、良い。そもそも、助けることにしたのも、突発的な事だったんだ。初めて心を動かされた。最初は見ているだけだったんだ。なんの感情も持たずに、俺は彼女を見ていた」

女騎士「いったい誰なんだ? それは?」

騎士「国の南に教会があるだろ? そこのシスターだ。捨てられたり、親が死んだりして孤児となった子供たちの面倒を見ていた教会が襲われた事件、記憶にないか?」

女騎士「え!?」

女魔法使い「…………………………」

騎士「知っていたか。……子供たちだけは助けることができた、だがシスターはあまりにも深い傷を負っていてな。……それで、その時に子供たちを救ったことで、兵士になることになったわけだ」

騎士「毎月教会に寄付したりと、らしいことをしてはいるが……未だに後悔するときがある。シスターが傷つけられて泣き叫ぶ子供たちを見ても、当然の報いと冷酷に考えた。今思い返しても吐き気がするほどに、あのときまでの俺は人道から外れていた。理由も分からずにな」

女魔法使い「…………あなたが……あなたほどの……」

騎士「……ん?」

女魔法使い「あなたほどの力があれば……あの時、お姉ちゃんが死ぬことは……!!」

騎士「おねえちゃん……?」

女騎士「お、おい!」

女魔法使い「……あなたが、あの時の……!! 覚えている! 教会に襲撃してきた魔物たち……窓の外から私たちを見つめる冷たい視線!! 助けてって……何度も叫んだのに……お姉ちゃんを助けてって!!」

騎士「……あそこにいたのか?」

女魔法使い「私の前に迫ってきた魔物……お姉ちゃんが、庇って………魔物の叫び声が聞こえ………どうして!? なんでもっと早く助けて、くれなかったの!?」

騎士「………………」

ザッザッザ!

女勇者「どうした!? 何かあった!?」

女騎士「あ、いやその……」

騎士「死ねば良いと、考えていたんだ。当然だろ。むしろ感謝してほしいくらいだ、シスターと、俺に。シスターの行動が、結果的に俺の人としての心を蘇らせてくれた。だからお前たちは助かることができた。たられば問答をする気は無い。どうやっても、シスターが助かることはなかったと言うのがただの事実だ」

女騎士「おい! 言い方を」

騎士「黙ってろ。隠し立てする気は毛頭無い。……女魔法使い、俺は今でもシスターの、あの言葉を記憶している」


『お願いします……神様……私の命と引き換えに……この子たちをお守りください……お願い、神様……お願い……ッ!』


騎士「涙を流し、ただ庇うことしかできず、祈りを……天に祈りを捧げることしかできない……弱い人間。俺はそんな弱い人間にどうしようもないくらいに敗北した。そして気が付いたら……俺はお前たちを連れて屋外に逃げていたんだ」

女魔法使い「…………」

騎士「あの救出劇は、シスターの強さと俺の強さがあって初めて行うことができた奇跡みたいなものだった……俺の言える真実はそれだけだ」

女魔法使い「…………っ」

騎士「恨むなら勝手に恨んでろ。殺したければ試せ。お前の好きにしろ。だがな……俺も、お前たちも、シスターに救われたことを忘れるな」

女魔法使い「忘れる訳、ない……絶対に」

騎士「俺もだ」

女魔法使い「ごめんなさい……私、勝手なことを……言った……」

騎士「俺も、口が過ぎた。悪い。シスターのことになると、どうにも感情的になってしまうな……」

女勇者「えー、と……とりあえず、仲直り……ってことで、良いのかな?」

騎士「さあな」テクテク

女勇者「ええっ!? ……女騎士、何があったの……?」

女騎士「……昔話だ」

女勇者「ここをまっすぐ行ったところが、トラスル王国だ。無事だと良いけど……」

騎士「……血の臭い……この辺りで一戦あったみたいだな」

女勇者「え? ……本当だ……!」スンスン

女騎士「気を引き締めよう。ここからはいつ襲われるか分からんぞ」

騎士「問題ない」

女魔法使い「…………ん」グッ

ザッザッザ

女勇者「……壁が、破壊されている……それに」

騎士「交戦中みたいだ。まっすぐ突っ切るぞ! 背後から不意討ちする!」シャキン‼

女騎士「分かった!!」シャキン‼

ダダダダダッ!!

ハバーヤ兵「な、なんだ!? 後ろ……ぎゃああああ!!」ドサッ

ハバーヤ兵「後ろから敵だー!!! ぐぁぁ!!」ドサァ

キィン! ザンッ!
ガキィン!! ザンザンッ!
ベキィ! ドサッ!

ハバーヤ兵「つ、強い!? な、なんだこいつら!? ぐおっ!」ドサッ

ハバーヤ兵「ま、魔法が来るぞ!! 全員避けろー!!」

女魔法使い「破滅のそんな炎よ……すべてを呑み込め!」

ドォォォン!!

騎士「活路! トラスルの軍隊と合流するぞ!」

タッタン! ガキィン!
ヒュンッ! キキキン!

騎士「っ!!」

ガキィン!! ヒュッ……

「後輩騎士!!!」

騎士「なにっ!?」ピタッ

後輩騎士「…………え!? 先輩!? な、なんでここに!? いやてか死ぬかと思いましたいきなしつえーのが突っ込んで来たからマジびびりって奴っす!!」

騎士「話はあとだ!! ハバーヤを追い返すぞ!! 女勇者たちも来ている!!」

後輩騎士「っそうだ! 先輩がきたら100万力だって! 突撃するぞぉぉぉ!!!」

トラスル兵達「おおおおおおおっ!!!」

ドドドドドドドッ!!!

ここまで

闇の炎に呑まれて失踪したくなりました
正しくは破滅の炎よ、です
アークザラッドのネタでした

後輩騎士「先輩」

騎士「なんだ」

後輩騎士「…………ありがとうございます」

騎士「仕事で来ただけだ。……礼なら、女勇者達にしてくれ。……俺は己の意思でここに来た訳じゃない」

後輩騎士「わかってるっすよ。先輩と何年やって来たと思ってんすか。規律は絶対、国民第一、そんな先輩が自分から門を離れるわけないじゃないっすか」

騎士「…………ふ。お互い様、か……」

後輩騎士「先輩が来てくれなかったら、あのまま押し込まれてたっす。今ここに俺がいることも、なかったっすね、多分」

騎士「お前も頑張っていたさ。俺に斬りかかって来るとは思わなかった」

後輩騎士「いや……なんかやたらつえーのが来たから、こっちの戦力削られる前に俺が抑えなきゃ、って……へへ」

騎士「まだ戦いは終わってない、気を抜くなよ?」

後輩騎士「当たり前っすよ!」

騎士「…………野暮と知りつつ聞くが、姫騎士とはどうだ?」

後輩騎士「うえっ!? 先輩がんなこと聞くなんて……いや、ええと……どうっていうか……まぁ、上々……?」

騎士「そうか。いや、それなら良い。まだわからんが、姫騎士も多分こちらの国に来ると思うから今のうちに離さないようにしとけ」

後輩騎士「え!? な、なんですかそれ!?」

騎士「全部終わってから教えてやる」

後輩騎士「そりゃないっすよぉ!」

ザッザッザ

女勇者「やぁ、こんなときも門番かい?」

トラスル女王「おお! そなたか、此度の英雄殿は! 感謝する、そなたがいなければトラスルの明日はなかった!」

騎士「いえ。仕事ですから。それよりも何故こんなにも早くハバーヤの進行が始まったのか、それが知りたいですね。私はあと一年、二年は余裕があると見ていたもので」

トラスル女王「ううむ……どうにも、我が娘を逃がしたことが琴線に触れたらしい」

騎士「娘……というと、トラスル姫様ですね」

トラスル女王「うむ。そなたの国で面倒を見てもらっているらしいの。感謝するぞ」

騎士「………………女勇者から、トラスル姫様のことは伺っていますか?」

トラスル女王「同盟の話か? 聞いておる。娘が国を守るために身を捧げたのならば、我がとやかく責めることはできんよ」

騎士「そうですか。それでは、同盟の為にも精一杯の努力をさせていただきます」

トラスル女王「期待しておるぞ。……後輩騎士も、また頼む」

後輩騎士「分かっています。全力で戦います」

ザッザッザ

女勇者「恐らく、夜か……もしくは明日にもまた攻めてくるだろう。二人も休んだ方が良い、見張りを変わるよ」

騎士「……後輩騎士、お前は休め。どうせしばらく休んでいないだろう。俺一人で十分だ」

後輩騎士「ん……分かったっす。んじゃ、ちょっと休ませてもらうっす」

女勇者「ふふ……」

騎士「なんだ?」

女勇者「いや……やはり君たちは二人でいた方が、良いなと思ってね。ごめん」

騎士「……?」

女勇者「いいや、気にしないでくれ。それより君も貴重な戦力なんだから、休んでほしいんだけどな」

騎士「……昔、三日三晩寝ずに警戒したこともある。大丈夫だ」

女勇者「相変わらずの頑固者なんだから」

騎士「………………」

女勇者「……大丈夫かな。勝てるかな? 私、魔物や盗賊としか戦ったことないから……こんな、戦争なんて経験したこと無くて、ちょっと不安なんだよね」ハハ

騎士「世界の命運を預かる勇者に、たかだか国同士の争いのために駆り出すのもどうかと思うがね」

女勇者「君と、君の友達の為さ。トラスル姫とも約束したしね」

騎士「……まったく……人間が一致団結して魔王と戦えば、もっと早くいろんなことが終わると言うのに……何度この愚痴を溢したかも忘れたよ」

女勇者「ごめん、私たちに力が足りなくて」

騎士「……いいや……まずは目の前の問題から終わらせよう」

女勇者「うん、そうだね」

騎士「……ん……」

女勇者「どうかした?」

騎士「いや、いつものが始まっただけだ」

女勇者「いつもの……あ、夜……魔王?」

騎士「……………………ッ!」

女勇者「………………」

騎士「俺のことは、気にしなくて良い。多分、もう、他の音が聞こえない」

女勇者「………………こんな身近に苦しんでる人がいるのに、なにもできない。……何が勇者だ……」

騎士「……………………」

魔王まで♀のパターンな気が

トラスル女王「ハバーヤの軍隊がいつ来るとも限らん! 皆、このままここで大人しくしていて良いのか!? 己の、仲間の屍を無惨に踏みつけられ、民が蹂躙され、国が消え去るのを黙って見ているのは嫌であろう!? さぁ! ハバーヤには散々と苦汁を飲まされて来た! 今度はこちらの番だ! 兵よ! 存分に舞い、奴らに刻み付けてやれ! 我らの生を!」

トラスル兵達「オォォォォ!!!」

トラスル女王「出撃する!」

ザッ! ザッ! ザッ!

騎士「……迎え撃つと、読んでいたのだがな……トラスルに関する読みは悉く外れる」

姫騎士「これ以上我が国を好きにさせたくないという想いです。どうか、ご理解ください」

騎士「……個人的には、慣れた場での戦いの方が余程良いと思うんだがね。なにせ、トラスルの兵はハバーヤの兵に錬度がまるで追い付いていない」

姫騎士「……それは、分かっています。ですが」

騎士「最善は尽くす。が、あまり俺と後輩騎士、女勇者たちの力をあてにするな、数の差で容易にひっくり返る戦況だ」

姫騎士「……はい。死ぬときまで、立派に戦います」

騎士「馬鹿が。仮にそれで勝利しても、なんの意味も無い。ハバーヤに打ち勝ったあと、どうする? 兵もいない国。そして他国はハバーヤだけではない。あっという間に様子を見ていた他国に漁夫の利を得られるだろうさ」

姫騎士「…………それは……」

騎士「他のにも言っておけ。死ぬな、と。自己満足する為だけに戦いたいのから好きにすれば良いが、一番大事なのは国を守ることだと」

姫騎士「……分かりました」

騎士「…少し先に行く。女勇者たちに伝えておいてくれ」タタッ

姫騎士「え!? 騎士さん!?」

タッタッタッタ

騎士「(偵察兵が……5。速攻で片付けるか)」

ダンッ!

ハバーヤ偵察兵「ん」ザンッ!

ハバーヤ偵察兵「ひっ!?」

ザンッ! タッ! ザンッ!

ハバーヤ偵察兵「て、てき」

ザンッ! トンッ! ザシュッ!

騎士「…………」ヒュ……ポタ

タタタッ!

ハバーヤ女騎士「貴様ッ!!」ブンッ!

キィン!

騎士「……女か……悪いが。仕事でね」

ガッ……ザシュ!

ハバーヤ女騎士「あぐっ!? ……ッ!!」ポタ……ポタ……

騎士「お互い、国の些事に命を使われて悲しいものだな。どうだ? 俺の物になるというんなら、助けてやるが」

ハバーヤ女騎士「…………ふ、ふざけるな! 私は、騎士だ!」

騎士「(若干の躊躇。それに騎士としての誇りを前面に出してきたか。ハバーヤ兵も今回の戦争にはあまりよく思ってないみたいだな)」

騎士「安心しろ、殺しはしてない。しばらく剣は持てないだろうがな」

ハバーヤ女騎士「なに……?」

騎士「無駄に殺すは獣のすること。俺は人として戦うために来た。あんたのことも殺す気はない。かかってくるならきてもいいが、実力差は交えただけで分かっただろ。逃がすわけにもいかんが、大人しく縛られてくれると無駄を省けて助かるね」

ハバーヤ女騎士「それでも……わ、私は……!!」ブンッ!

カキィ……カァン! ヒュンヒュン……

ハバーヤ女騎士「あ……!」

騎士「満足したか?」

ハバーヤ女騎士「く……」ガクッ

>>137
……………………


女勇者「…………おい」

騎士「なんだ」

女勇者「……はぁ……勝手な行動はしないでくれ……心配はあまりしてなかったが、驚くだろ」

騎士「気配を感じたから見に来ただけだ」

後輩騎士「あー先輩に関してはマジ気にしないでくださいっす。人に命の尊さを教えるわりに自分の命は省みないんすからこの人」

女勇者「みたいだね……」

騎士「なんだと? 俺は俺の命も大切にしているぞ」

後輩騎士「はいはい、そういうことにしておいてあげるっすよ。……お……」

ハバーヤ女騎士「ッ!!」

後輩騎士「…………………………せ、先輩……これはその、ちょっと……」

騎士「なにがだ?」

後輩騎士「いやなんてーか……縛り方に悪意を感じる気がするんですけど先輩のことだから何気ないんでしょうねぇ……」

姫騎士「……どこを……見ているんだ?」

後輩騎士「ひっ!? い、いや、だだだだってだって仕方ないっしょ男だし!! これは犯罪級ってやつで」

姫騎士「…………………………」グッ

後輩騎士「ぐえっ!!」

姫騎士「貧乳で……悪かった……なっ!」グググ

後輩騎士「じぬじぬじぬ!!! おぼぉぉ!!」ドサァ

騎士「後輩騎士は胸が大きければ大きいほど好きだと言っていたことがあるぞ。胸の無い女は女じゃないとも」

後輩騎士「なんで今言った!? なんで今言ったの!?」

姫騎士「ほう…………」ゴゴゴゴゴ

後輩騎士「言ったよ! 言ったさ! 言ったけど今はそういうのも悪くないかなって!」

ギャーギャー!

騎士「緊張感の無い奴らだ」

女勇者「誰のせいさ……」

騎士「さあな」フッ


『そんなに胸の大きな女子が良いなら溺れて死んでしまえー!!!』


騎士「ぐっ!? …………」ガクッ

後輩騎士「先輩!?」

女勇者「騎士!?」

騎士「…………気にしないでくれ。最近、たまにあることだ」

後輩騎士「調子、悪いんすか?」

騎士「いいや……魔王の呪いってやつだよ」

女勇者「魔王の……」

騎士「お喋りはここまでだ。早く終わらせて、国に戻ろう」

ここまで
またあとで来るかもしれません

騎士「後輩騎士、行けるか?」

後輩騎士「いつでも!」

騎士「……トラスル女王様、我々は二人で先陣を切り、前線を混乱させてきます。恐らく敵の陣形は崩れ、無闇に俺たちを追ってくる奴も出るでしょう。そこを迎え撃つ為、鶴翼にて待機してください。もし上手くいかずに敵の陣形が崩せなかった場合は、無理をせずに撤退してください」

トラスル女王「撤退……?」

騎士「はい。現在、士気は高く初めのうちは良い勝負ができるかもしれません。ですが、錬度の差は明らかであり、そもそも数からしてハバーヤに及びません。すぐに戦力差がハッキリしてくるでしょう、そうなってからでは遅い。ただでさえ多い数の差をこれ以上広げるのはあまりに無策なのは、ご理解いただけますね?」

トラスル女王「う……む」

女騎士「だがしかし二人だけというのは無茶ではないか!?」

騎士「その無茶を通すのが俺たちなんだよ。無茶でもやる、やらないとやられるからだ」

姫騎士「それなら私も!」

後輩騎士「悪い。足手まといを連れながら戦えるほど強くはないんだ、俺は。だから、ここに残ってくれ」

姫騎士「足手、まとい……」

女勇者「それでも二人なんか……私たちの魔法でぶっ飛ばせば!」

騎士「相手にも魔法使いはいるさ。無効化されたとき、結局は足手まといになる。これは俺たち二人だからやれる作戦なんだ。みんな分かってくれ。……準備を」

女魔法使い「私の魔法なら……無効化なんて……!」

騎士「高い確率でそれを約束できるのか? 女魔法使い、お前から魔法を取ったら邪魔者以外の何者でもないぞ?」

女魔法使い「…………」

騎士「悪いな」

トラスル女王「全兵に通達! これより騎士による陽動作戦が始まる! 全員、誘い出されてきた敵兵を迎え撃つ準備をせよ! ……頼んだぞ、騎士よ」

騎士「任せろ」

後輩騎士「姫騎士……辛いこと言ってごめんな。俺たちの無事を祈っててくれ」

姫騎士「……あぁ! 死んだら承知しないぞ!」

後輩騎士「余裕ッ!」

騎士「…………さて。と。死ぬ準備はできたか?」

後輩騎士「たりめーでしょ。騎士になったときから、その準備だけは怠ってないっすよ!」

騎士「ふっ……俺より先に死ぬことは
無いから安心しろ」

後輩騎士「ははっ! それってつまり、俺たち無事に帰れるってことっすね!」

騎士「来た…………数………………8万から10万! 弓兵多数、およそ2万! 魔法使い数十人が中央やや後ろ! おそらく魔法攻撃に対する防御壁を展開している!」

後輩騎士「魔法使い集団やや前方に黒騎士もいるっす!」

騎士「確認している! あそこまで食い込むのは必死、深追いはするなよ!」

後輩騎士「りょーかい!」

騎士「っ、空中……ドラゴン!? どこかに魔物使いがいるぞ! チッ、報告になかったぞ……!」

後輩騎士「昨日の戦いで負けたから、切り札投入してきたって感じっすね……」

騎士「なるべく綺麗なままトラスルが欲しかったんだろうさ。ドラゴンなんかに暴れさせたら、どんな被害が出るやら……まったく! トラスルに関わってからろくなことがない!」

後輩騎士「俺は恋人が出来たんでかなり満足してるっす!」

騎士「馬鹿野郎! ……おめでとう!」

後輩騎士「あざーっす!」

騎士「どうするか……一対一ならともかく、あの大軍団相手にドラゴンの面倒まで見れんぞ」

後輩騎士「むしろ一対一ならどうにかなるとか言ってる先輩かっけーっす!」

騎士「戦ったことがあるからな! 魔物使いさえ倒してしまえばドラゴンはその場で暴れるか逃げ去るかするが……」

後輩騎士「どうするっすか!? 死物狂いで魔物使い探すっすか!?」

騎士「……いや、良いことを考えた! 後輩騎士、一人で正面から突撃、頼めるか!?」

後輩騎士「うえええっ!? 無茶苦茶言いますね!」

騎士「無茶でもやる! わかりきってんだろ!」

後輩騎士「なら命令なりしてくださいっすよ! ま、やるっす! 先輩は!?」

騎士「ドラゴンと遊んでくる! 行動開始!」ダンッ!

後輩騎士「うげーマジっすかぁぁ!!! うーっす!!」ダンッ!

ここまで

ハバーヤ兵「敵襲ー!! ……え?」

ハバーヤ兵「敵は一人だ!!」

ハバーヤ兵「囲め囲めー!」

後輩騎士「ナメんじゃねぇぞ!! テメェらごときに殺されるくらいならとっくの昔に死んでらぁ! 邪魔……すんじゃねぇ!」キィン! ザシュッ!

ハバーヤ兵「ぐぁぁ!」ドサッ

ハバーヤ兵「この野郎!」ブンッ!

後輩騎士「おっと!」キキン!

カキィン! ズバッ!
ブンッ! ギィン!

カキカキキキン! ヒュンッ! ドンッ!
ズバンッ! ガキッ!

後輩騎士「チッ、囲まれたか……まだか先輩……!? ……んあ?」

ギャオオオオオン!!!!
ッボッ……ドドドドォオォォン!!!
ぎゃぁぁあ!! うわぁぁぁ!!

ハバーヤ兵「な、なんだ!? ドラゴンが暴れだしたぞ!?」

ハバーヤ兵「散開ーーー!!」

後輩騎士「うわぁ、なんだあの破壊力……地面が抉れてやがる……」

ハバーヤ兵「ど、ドラゴンが! ドラゴンが落ちてくるぞ!?」

ハバーヤ兵「どうなってんだ!?」

後輩騎士「ってこっち!? うぉぉぁ!」バッ!

ドォォン!! ゴロゴロゴロ!

スタッ!

騎士「作戦成功だな。よし、敵戦力も削げたか」

後輩騎士「いてて……な、なにしたんすか……?」

騎士「そこにいたのか後輩騎士。なに、難しいことじゃない。初めのうちはおとなしいだろうと踏んで飛び乗り、ドラゴンを刺激して破壊の息吹を出させる瞬間に軌道を曲げて攻撃、魔物使いの邪魔が入ったタイミングで落としただけだ」

後輩騎士「あっはいもうなんでもいいです」

騎士「そうか。よし、撤退戦だ。ドラゴンにだけは気をつけろよ」

後輩騎士「死んでないんすか……?」

騎士「あれくらいで死ぬならドラゴンなんて呼ばれんよ」

後輩騎士「……よくわかんねーっす!」

これだけ
またあとできます

ガキッ! キィン!

タタタタタッ!

トラスル女王「おお……敵を引き連れて戻ってきたぞ!! 総員、突撃せよ!!」

後輩騎士「待て待て待てちょっと待て! ドラゴンだ! ドラゴンが来る! 突撃はやめだ!」

トラスル女王「ドラゴンだと!?」

騎士「っと……あんなもんに攻撃されたら即死するだろうな」

トラスル女王「ええい! ここまで来て引き下がれるか! 騎士、ドラゴンの相手は任せるぞ!」

後輩騎士「えええ!?」

騎士「そうなるだろうと思った。仕方ない、やれるだけやってみよう……女勇者、女騎士、手伝ってくれ!」

女勇者「ようやく出番だね!」

女騎士「なんでもする、言ってくれ! どうすればいい?」

騎士「襲撃をかける。ドラゴンを完全に戦闘不能にするのは現状不可能だ、魔物使いを仕止めるぞ」

後輩騎士「あれ、でも魔物使いがどこにいんのかわかってるんすか!?」

騎士「正確にはわからん、がおおよその位置なら。多分黒騎士の近くにいるはずだ」

女勇者「魔物使いは基本的に魔物を使役している間無防備になる……だね?」

騎士「あぁ。それもあってなんとか魔法使いたちの方に破壊の息吹をぶつけたかったんだがな、上手くはいかなかった」

後輩騎士「危うく俺、消されかかったんすよ……」

騎士「悪かったな」

女騎士「もし、黒騎士の側にいなかったら……どうするんだ?」

騎士「その時は間違いなく最悪の展開になる」

女騎士「最悪……?」

騎士「逃げ帰る訳にもいかん、俺がやる。だから気にするな」

女勇者「それで、何を?」

騎士「女勇者、女騎士。あと後輩騎士も。三人でなんとかドラゴンを抑えてくれ」

後輩騎士「あぁ……やっぱりそうなるんですね……」

女勇者「三人で……か……」

女騎士「騎士は何をするんだ?」

騎士「黒騎士と遊んでくる」

後輩騎士「黒騎士……って敵陣中央に行くんすか!?」

騎士「なんとかなるさ。俺が黒騎士を倒して魔物使いを止めるから、その時まで時間を稼いでくれ」

女騎士「そんな、無茶な!」

騎士「議論している暇はない。あと数分もすれば前線が崩れるぞ。……良いか、ドラゴンをどうするかで戦局が変わる。俺たち次第だ。理解しろ、お前たちがどうなるかで、戦争の勝者も変わる」

女騎士「……分かった。やれるだけやってみる」

女勇者「騎士……気をつけて」

騎士「安心しろ。あの黒騎士は……大丈夫だ」

後輩騎士「そっすよね、一回勝ったんすもんね! うっす! んじゃまぁ……行きますか!」

これだけ
また夜に来ます

あと騎士と後輩騎士が二人で特攻するのはおかしい、というのは確かな意見ですので、
英雄勇者一行>魔王>>>>>上位の魔族>>>越えられない壁>>>上位の騎士>>>一般的な騎士>>高い壁>>下位の魔族>強い兵士>>一般的な兵士>雑魚魔族>>>一般人
を一般の力関係と明確にしておきます

騎士を魔王の2つ下
後輩騎士が上位の騎士と同等
黒騎士が上位の騎士の1つ上
ハバーヤ兵士の多数が強い兵士
トラスル兵士の半分以上は一般な兵士
ということで騎士と後輩騎士なら前線の雑魚くらいなら楽勝だと判断し、前線を撹乱して誘い出すことにしました

魔王と同じくらい強い騎士なら無双ゲー可能だろ、と思われるかもしれませんが、騎士は強さと言う点は確かにその位置付けなのですが、スタミナばかりは限界まで鍛えていたとしてもどうしようもありません
なのでスタミナ切れを考慮しての待ち伏せ作戦を提案した、という次第です

なかなか本編で明かすことが難しいことと判断し、本編外にて失礼させていただきます

あと皆さん、仲良く見ましょう。
SSは楽しく気楽に見るのが一番です。
後悔するのは、自分に合わない作品を見てしまって失った時間についてのみにしましょう。

女魔法使い「わ、私も……!」

女勇者「…………騎士の為にも失敗は許されないんだ。ごめん」

女魔法使い「で、でも……なにか、出来ることが」

後輩騎士「そもそもドラゴン相手に魔法は効きにくいってのは知ってるっすよね? 酷なこと言うっすけど、足手まといがいたんじゃ勝てるもんも勝てないんす。相手の魔法を無効化することに努めてください」

女魔法使い「………………」

女勇者「後ろは任せたよ、女魔法使い」

タタタッ!!

ギャオオオオオン!!!

女勇者「……二人とも、意識を引き付けるだけでいいんだ。無茶はしないでね」

後輩騎士「もちろん。敵に囲まれてるよかよっぽど気は楽っすよ」

女騎士「ふふ、確かに」

グルルルル……!!

女勇者「……天よ、唸れ! 雷光の柱!」

バチィン! ……ゴゴゴ……ドゴォォン!!
ギャオオオオオン!!!

後輩騎士「これが、勇者の魔法ってやつか。すげー派手だな」

女勇者「派手なだけなんだけどね」ハハ

後輩騎士「でも……十分だ」

バサッ……バサッ!

後輩騎士「来るぞ、破壊の息吹だ!」

女騎士「かわせーーー!!!」

チュ……ドドドドォオォォン!!!!!

後輩騎士「げぇぇ、マジ凄まじいつーか……飛んでる相手とまともにやりあえんでしょ! オオオオラァ!!」ブゥン!

ヒュ……ズザンッ!
ギュオオオン!!!

後輩騎士「効いてねぇ。固すぎっしょ……やっぱ近づけねーと!」

女騎士「でも苛立っているみたいだな」

後輩騎士「マジ? なら、連続だ! オオオオラ!! おまけだ!」ブン! ブン!

ズザンッ! ズザンッ!!

グルルル……ギュオオオン!!! ガァァ!!
ボンッ!

後輩騎士「体当たりか! 突っ込んでくるぞ!!」

女騎士「好機だ! 向こうから来てくれるなら丁度良いさ!」

女勇者「跳んで!!!」

タン!!!

ズドォォン!

ギャオオオオオン!!

女勇者「一気に行くよ!」

後輩騎士「せめて一撃でも通れば!! うぉぉぉ!!」

ガッ…………ギィン!!!

女騎士「ダメだ! 鱗が硬すぎる!」

女勇者「くっ! この剣じゃ……!」

ヒュンヒュン……

後輩騎士「ま、マジか……剣が折れた!」

女勇者「くっ、やっぱり無理か! 退くよ!」タンッ!

後輩騎士「ち……にゃろぉ!!」タンッ! ブンッ!

ザシュ……グチャッ!

……ゴガァァァァァ!!!!!??

後輩騎士「右目に直撃っ! 流石にそこまでは硬くなかったみてーだな! 最後に活躍できたんだ、恨むなよ相棒!」

グルルルル……ゴァァァァ!!!!

女騎士「……怒ってるみたいだな」

後輩騎士「しかも俺を狙ってるみたいだなぁ……」

女勇者「気は引けたよね!? に、逃げるよ!」

ギャオオオオオン!!!!

タンッ! タンッ!

ハバーヤ兵「うわぁ!?」ドサッ

ハバーヤ兵「と、止めろー!」

ハバーヤ兵「こ、の!」ブン!

タンッ! ズザァ

騎士「よっ、と……。踏み心地の悪い足場だったな。……で……よう、久しぶりだな」

黒騎士「ふ……そうだな。貴様と再び戦える日を楽しみにしていた」

騎士「それにしては重装だ。緊張したか?」

黒騎士「ふっはは! 前回の邂逅で、貴様に一目惚れしてしまったようでな。身を隠さんと会うこともままならん」

騎士「なるほど、気持ちが悪い。…………魔装か……」

黒騎士「我が最強の騎士と謳われる所以だ。此れを以て初めての逢引きを全力で楽しませてもらおう」

騎士「見せつける力も誉められる力も必要ない。俺がただ一つ欲しいものは、俺の守りたいものを守るために必要な力だ!」

黒騎士「連れない奴だ! だがそれが良い! 魔装『黒き死』、貴様の命を刈り取らせて貰う!! 貴様ら雑兵は手を出すな!!!」

騎士「……お前なら、そう言うと思っていた」

黒騎士「当たり前だ、横取りされては捌け口がなくなる」

騎士「そうかい……精々先に逝かないように踏ん張るんだな」

黒騎士「人生最高の瞬間にしよう!! ォォォォオオオオアアア!!!」

ギィン!!!

黒騎士「受け止めたか!? それは二人目だ!! フハハハハ!!!」

騎士「(あの魔装……どこかで……どこだ……?)」ヒュッ

ガキィン!

騎士「硬いっ……!」バッ!

黒騎士「生憎俺の守りは硬いぞ? 簡単に内に潜り込めるとは思わんことだ」

騎士「……―――上等!!」ブンッ!

フッ……

黒騎士「消えた―――」

ガギギギギン!!

黒騎士「ぬぁっ!?」

騎士「頭部から脚部に至るまで隙らしい隙が無い……まったく、境目すら丁寧だと手の施しようがないな」

黒騎士「後ろ!? 通り過ぎ様に斬ったのか!? 五度も! そうだ、それだ! 貴様は未見のものをいくつも持っている! 楽しいぞ、俺は! お前だけが俺の苦しみを知ってくれる恋人だ!! さぁ心行くまで貪りあおう!!」ブゥゥン!!

ドンッ!!

騎士「悪いが恋人は死ぬまで作らないつもりなんでな。っ!」トンッ!

黒騎士「逃げられれば逃げられる程に追いたくなるのが男心だろうがァァァァ!!!」ガガガガドドドドド!!!!!

騎士「(地面が捲れ!!)」タンッ!!

ハバーヤ兵「ぐぉぉぉあああ!!」ドサッ

ハバーヤ兵「うぎゃぁぁ!!」ドサッ

騎士「(見境なしか……!)」

黒騎士「落ちろォォォ!!」ブゥゥン!!

騎士「(本命は……上段!!)」ガッ

ギィィン!!!!

騎士「っ!!」タァン!

黒騎士「ふは……ははは……ハハハハハハ!!!!!!! 今の攻撃を完全に防いだのは貴様が初めてだ!!! 不敗の口説き文句であったが、流石に傷ついたぞ!!!」

騎士「傷つく、ねぇ……それにしてはご機嫌だな?」

黒騎士「手強ければ手強いほど燃え上がるんでな……だが、お前の剣は折れた。次の言葉をどうかわす?」

騎士「……(そもそも剣があろうと刃が届かないのでは意味がない……あんなものを振り回しておいて速さもあるんじゃ、どうしても反撃の隙がない……だが……)」

黒騎士「剣が折れたとて闘志揺るがず……まだ先があるんだな!? お前のすべてを見せてみろ!」ブゥゥン!!

タンッ、タンッ!

騎士「チッ……(俺は……あの魔装の破り方を……知っている……?)」


ドンッ!!

『が、え……? お、俺の、絶対防御が……武器も、魔法も……全てを防ぐ……は、はず……な、なぜ…………』

『…………よ、過信だ。この世に絶対などと言うものはない。覚えておけ、例えそれが最強であったとしても、常勝ではないということを』

『く…………が……』ドスンッ!

『……さぁ、騎士!! 傷を見せ』


騎士「(いやこれ以上は思い出さなくて良さそうだ……しかし、あの鎧は、黒騎士のものと同じか? あの技は……なんだった? 鎧の上から叩いたように見える。……あの技は……そう……)」

黒騎士「休む暇は無いぞ!! オオォラ!!」ブゥゥン!! ブゥゥン!!

タンッ! スゥ……

黒騎士「ぬ……ほう、ここまで来たか……やはり速さでは敵わん……が、どうする? ここまで来た、それで何が起こ」

ドンッ!!

騎士「痛打……」

黒騎士「……が……ぁ……? な、にが……!? ご……」ドスッ

騎士「……寝てろ。種明かしはしてやれんな」

黒騎士「……そう、言うな……貴様のことは……全て知りつくし……俺が……強く………………」ドスンッ!

騎士「……情けない、俺の知らん記憶に助けられるとは……さて……と」

ハバーヤ兵「ひっ!」

騎士「(チッ……無駄に消耗させられたな……左腕も、ヒビか……馬鹿力め……。だが、周囲が怯えきっているなら、十分だろう……)」

騎士「死にたいなら前に出ろ。そうでないなら黙ってろ」スタスタ

ハバーヤ兵「………………っ!!」

騎士「……こっちか……」

ハバーヤ魔法使い「と、止まれぇぇ!! 黒騎士を倒したからと調子に乗るなよ!!! 燃え盛る火炎よ、焼き尽くせ!」

騎士「下級の魔法で足止めなど、騎士をナメているのか貴様?」ボンッ!

ハバーヤ魔法使い「こ、拳で相殺した……!?」

騎士「前に出た貴様は死にたいということで良いな」ガシッ

ハバーヤ魔法使い「ひ、ひぃぃぃ!!!」

騎士「死にたくなければ吐け、魔物使いはどこだ?」

ハバーヤ魔法使い「あ、あそこ、あそこだ!! あの馬車の中だ!! た、たすけて……」

騎士「(近くにいるとは思っていたが、黒騎士の真後ろか……これなら馬車全部潰した方が、楽だったかもな)」

ガチャ!

騎士「ようやく…………」

女魔物使い「むふ……むふふ…………」

騎士「…………?」

女魔物使い「えへ……オラァ、俺の攻撃はどうだぁ騎士ぃ……。は、初めてのことなので、勝手が……。フハハハハ……貴様の初めてはこの黒騎士が貰ってやる……」ブツブツ

騎士「…………。おい」トントン

女魔物使い「うひゃぁぁはぃぃご命令とあればドラゴンちゃんでもゴーレムちゃんでも操りますぅぅぅこんなところで変な妄想してごめんなさぁぁいいい!!!!」

騎士「…………変な、妄想……」

女魔物使い「……あ、あれ? 黒騎士様じゃない……え!? き、騎士様!? 黒騎士様は果てられましたの!?」

騎士「いや死んじゃいないが。お前が魔物使いか?」

女魔物使い「そんな……攻め手が黒騎士様じゃないなんて……こ、これは……新境地……!!」ニヘラ

騎士「………………」ジッ

女魔物使い「はっ……ごごごごごめんなさいいぃぃ!! 命だけは助けてくださぃぃぃ!! 大人しくお縄につきますからぁぁ!!」

騎士「………………なんなんだ、こいつは……?」

騎士「いやそんなことより、早くドラゴンを止めろ。仲間が死にそうなんだ」

女魔物使い「え、ドラゴンちゃん? あはは、私には無理ですよぉ! 実はドラゴンちゃんには「身の危険を感じたら命を最優先にする」ように命令してあって、先ほどから操れなくなってるんですよぅ」

騎士「……なに?」

女魔物使い「やっぱりドラゴンちゃんも一つの命! こちらの都合で死んでほしくはないですからぁ。でもそれを言ったら怒られちゃって! んもぅ、やれって言われたからやってるのにやったら怒るなんて勝手なんだから!」

騎士「頭がいたい……もういい、分かった。とにかくお前にはついてきて貰うからな」

女魔物使い「お、男だけに飽きたらず……両刀なんて! そんな、ダメですぅ!」

騎士「痛打」トンッ

女魔物使い「はぐっ」ガクッ

騎士「よっと……戻るか」

トンッ

ハバーヤ兵「あぁ、女魔物使いさんが……」

トンッ、トンッ!

ここまで

見直して気づきましたが、痛打じゃなくて通打ですね
申し訳ない

女勇者「くっ、こんなこといつまでも続けてられない……! だが、退いたらトラスルの兵が……」

女騎士「ぐぁぁ!!! がふっ!」ドサァ!!

女勇者「女騎士!!」

後輩騎士「くそ……万事休すってやつか……足が震えて……」

グルルル……ガァァァァァ!!!

後輩騎士「あーったくそんなに俺が好きかよ……せめて俺が囮になってる間に逃げろ!!」

女勇者「そんな馬鹿な!!」

後輩騎士「いいから早くしろ! どっちみち誰か死ぬってんなら『勇者様』より名無しの騎士のが都合がいいんだよ!」

女勇者「ふざけるな!! こんなところで仲間を見捨てて何が勇者だ!! 裁きの雷よ!!」

後輩騎士「やめろ馬鹿野郎!! っぁ!!」

ガァァァァァ!!!
ドォォォン!!!
ズザァ……

後輩騎士「くっ……あんたは勇者だ! 勇者ってのはな、希望でなくちゃなんねーんだ! 俺たちただの騎士や兵士はな、希望にゃなれねーんだよ!! どんだけ頑張っても報われねぇ! どんだけ頑張っても認められねぇ! 騎士としてやるべきことをやってんのにいつも笑われて、しまいにゃ石を投げられる始末だ!」

女勇者「……そ、そんな……」

後輩騎士「だけど、そんなことに不満持ったこたぁねぇんだ!! 毎日暇だ暇だってボヤいてても、結局のところ平和が一番って気持ちしかねぇ! 何事もなく平穏無事に……くぁ!!」

チュ……ドドドドォオォォン!!!

女勇者「後輩騎士!!」

後輩騎士「はぁ……はぁ……来るな!! ……俺たちは、誰かを身を呈して守ることはできても、誰かの希望になってやることはできねぇ。お前らは違うんだ、少し活躍するだけで国民からは凄い凄いって褒められて、魔王を倒せるかもって希望になれる存在だろうが……むかつくさ!! ムカつくけど適材適所ってもんだろ! 仕方ねぇよ! 俺の方が強かったとしても、俺にゃ魔法なんて使えねぇ! 神の奇跡なんて起こせねぇ! 誰にも守ってもらえねぇ!!」

グルルァァァァ!!!!
ボンッ!!

ズザァ……ゴロゴロ……

後輩騎士「いっ……あーくそっ! ……ぜー……ぜー……何が言いたいのか分かんなくなってきた……今日ほど自分が馬鹿だったことを恨んだことも無いぜ……とにかくだ、勇者様ぁ! これだけは言っておく……生きろ!! あんたらは生きてなくちゃなんねぇ!! その為に俺ら国の兵士はいっぱい死んでるかもしんねぇけど、やっぱ象徴って必要なんだよ! お前らは俺らの為に俺らの屍を越えて行ってくれ!! 俺たちに死んででも助けて良かったって思わせるようなスゲーやつらになってくれ!! 後は頼んだ!!」

女勇者「く……そんな!!」

ガッ!

女勇者「女騎士!? 何を!?」

女騎士「離脱、する!! 馬鹿が命懸けで送り出してくれたんだ、無駄にするな!! このまま全員でトラスルまで引き返す! この戦場はここまでだ!!」ザッザッザッザ!!

女勇者「離せ!! 後輩騎士を助け」

女騎士「無理だ!! 諦めろ!! 後輩騎士の……男の勇気を無駄にしてやるな!!」

女勇者「そんな…………」

女騎士「……騎士が……いつもの調子で助けてくれる。それを……信じよう……」

女勇者「後輩騎士ぃぃぃぃ!!!!!」

ザッザッザッ…………

タッ! タン!

騎士「戻りました」

トラスル女王「おお、無事であったか!」

騎士「はい。何かありましたか?」

姫騎士「ドラゴンが手がつけられない状態になっているようで、全滅させられる前に一度退くことにしました! 騎士さんも撤退を!」

騎士「ハバーヤも退いていくみたいだな」

トラスル女王「だが今日の戦は我々の勝利だ! 数の差がひっくり返ったわ! ドラゴンがおらなければこのままハバーヤまで攻めたいところだ、口惜しい」

騎士「トラスルの兵も今は元気に見えるけど相当無理をしているでしょう。焦ると無駄な火傷を負うことになります」

トラスル女王「そうだな、そなたの言う通りだ。……それで、その女子は?」

騎士「ドラゴンを操ってた魔物使いです」

姫騎士「ええっ!?」
トラスル女王「なにっ!?」

騎士「もっとも、今は自分の手を離れてどうしようもないとかふざけたことを言っていましたが」

トラスル女王「チッ……使えん奴だ!」

騎士「言っても仕方ないですから。とにかく戻ろう、流石に疲れました」

姫騎士「……それであの、後輩騎士は?」

騎士「女勇者たちと一緒の筈だが?」

姫騎士「え? 女勇者さんたちの近くにはいませんでしたが……」

騎士「…………そうか。……きっと追っかけ回されて森にでも逃げ込んだんだろう」

姫騎士「ふふ、あり得ますね」

ザッザッザッ……

トラスル女王「皆のもの、本日はよう戦ってくれた!! 皆の働きにより、ハバーヤを打ち負かすことに成功したぞ! だが、多くの仲間を失った……その仲間たちの為にも! 必ずやハバーヤを討ち果たし、トラスルを復興させよう!!」

オオオオオオオオオォォォォ!!

女勇者「……騎士……」

騎士「お疲れ。ドラゴン相手に三人で行かせて悪かったな」

女勇者「後輩騎士が……」

騎士「……気にするな。あいつも分かっててここに来た筈だ。残念だが、あいつの無念を晴らす為にも、トラスルを守ろう」

女勇者「な……なんでお前はそんなに冷静なんだ!? 元々、ここには後輩騎士を助けるために」

騎士「なら今からハバーヤにいって一人残らず皆殺しにすれば良いのか?」

女勇者「そ、れは……」

騎士「お前が冷静になれ。後輩騎士が逝った以上、あとはあいつのためにもこの国を救うしか無いんだ。あいつが命を張って守ろうとしたもののために、俺は今命を張る」

女勇者「…………」

姫騎士「あの…………」

騎士「なんだ」

姫騎士「……暇、ですか?」

騎士「そうでもない」

姫騎士「……後輩騎士のこと、聞きました。……ごめんなさい……私たちの国のことに、巻き込んでしまって……」

騎士「…………気にするな。悪いのは弱いあいつだ」

姫騎士「なっ!?」

騎士「事実だ。俺ならそれ以上の交戦が無理と判断したら二人を連れて逃げられた。死んだのはあいつの弱さが原因だ」

姫騎士「そんなこと!!」

騎士「あるよ。……あの馬鹿が。死なないためにいろいろ教えてやったのに、無駄にしやがって。何のために鍛えてやったのか……分からんな……」

姫騎士「……ごめんなさい」

騎士「良い。……後輩騎士は、最後にやりたいことができて幸せだったろうさ。あんたのことが好きだったらしい。その為に国を捨てるなんて馬鹿のやることだ。……だがそれでも、それがあいつの幸せなら、俺は応援してやりたかった」

姫騎士「…………」

騎士「無力なのは……俺だ……。誰も守れない……結局いつも、俺だけが立っている……先輩騎士のときも、そうだった……本当に無力なのは……俺なんだ……」

姫騎士「……後輩騎士は……騎士さんのことを、一番尊敬する人だと。憧れていて、一生追い付けないだろうけどいつか追い付きたい人だと……自慢話のように話してくれました」

騎士「……そうか」

姫騎士「自分を無力だなんて思わないでください。後輩騎士がいなければ、かわりに多くのトラスルの兵が死んでいたかも知れません。私は、あなたと、あなたの鍛えた後輩騎士のことを、誰よりも強い人たちだと思います」

騎士「……ありがとう。さ、もう寝ろ。疲れを残していたら、次の戦いで後れを取るぞ?」

姫騎士「はい。騎士さんは……言っても聞かないでしょうけど、無理はしないでください」

スタスタ……

騎士「……………………。まったく、感傷にも浸らせてくれないのか? ……泣きたいのはこっちの方だってのに……ふ……はは! ハハハハハハ!!!!」

ここまで

姫騎士「ドラゴンの存在は確認できず。今が好機かと思われます」

トラスル女王「うむ……。皆のもの……決着の時が来た!」

オォォォォ!!


女勇者「……私たちは、何をしにここまで来たんだろうね」

騎士「国の戦争を終わらせる為にだろ」

女勇者「…………」

騎士「お前、ここに残れ。邪魔だ」

女勇者「え……」

騎士「今までに何度も戦意喪失した奴らを見てきた。そいつらが戦場で働いてくれたことなどただ一度も無い」

女勇者「わ、私は……」

騎士「チッ……こんな奴を守るために後輩騎士は死んだのか。無駄死にも良いところだな」

女勇者「!?」

女騎士「おいっ!!」

騎士「反論できるならしてみてくれ。後輩騎士の死が無駄じゃなかったという確たる証拠はあるんだろうな?」

女騎士「……それは」

騎士「お前も。ここに残れ。邪魔だ」

女騎士「なに!?」

騎士「くだらん。仲良し遊びなら勝手にやってろ。あの馬鹿が命懸けで何を守ったかと思えば腑抜けが二人。気構えも出来てないガキが口だけは達者と来た。お前たちが死んだ方が余程良かったんじゃ無いのか?」

女勇者「…………その通り……かも……知れない……勇者は……他にも……」

騎士「ッッッ!!!」ガッ!!

女勇者「あ―――ぐ……!」

騎士「なら今すぐここで死ね!!」グググ!!

女騎士「や……止めろ!!」シャキン!!

騎士「お前もだ、女騎士!! 己の剣で以て自害せよ、恥さらしが!!」

女騎士「っ!」ビクッ

騎士「あいつがお前たちに何を思ったのかなんて興味はない!! だがな……命を懸けて救った命が死にたがるなど、ヘドが出る!! お前らの命はそんなにも容易く軽いものだったのか!? お前らの背にいくつの命がいるか、考えたことはあるか!?」ググ

女勇者「……っ」

騎士「お前らが決意した時からお前らの命はお前らだけのものではないことを知れ!! そのお前らの背負った命のなかに俺たちの大事なものもあることを知れ!! その為に俺たちが命を張ってお前たちを助けることを知れ!!」バッ!

女勇者「あぐっ」ドサッ

騎士「……俺たちが……お前らの為に死んでもいいと思えるような、真の勇者になってくれ、女勇者」

女勇者「……あ……」

騎士「……女騎士、仲間は寄り添うだけが全てじゃない。時に突き放してでも、目を覚まさせてやらなければならない時がある。一緒に腑抜けてどうすんだ、馬鹿野郎」

女騎士「……すまん」

騎士「…………それじゃあな」

女魔法使い「待って。……私も着いていく」

騎士「……お前の魔法は」

女魔法使い「私は、自分から魔法というものを取り除いた時に何も残らないことを、理解している。相手に多くの魔法使いがいたときに、私は無力であることも。でも、最初から何も出来ないと諦めて、あなたの言葉に従った昨日の自分は間違いだったと思っている。私も、決意の日、皆のために魔王を倒すことを誓い、同時にその為に戦い力尽きて死ぬ覚悟もした」

騎士「魔王は関係ない、人間同士の戦いだ。こんなところで死んでは無念が残るぞ?」

女魔法使い「関係ない。私は好きな人たちを助けたいから、戦うんだ」

騎士「……は。いい覚悟だ。分かった、着いてこい。そうだ、お前にもやれることはある。安心しろ、失敗しても助けてやる。それが仲間ってものだからな」

女勇者「仲間……」

女騎士「私は……初めは覚悟なんて無かった……あいつの存在はいつも私の心を抉って、勇者一行に推薦されてようやく、勝った気になった。でも……私は、あの時……あいつの立場に立っていたら、同じことができたか、分からない。……いや、多分……醜く助けを求めただろうな……」

女勇者「…………」

女騎士「……でも、それももう終わりだ。今までは漠然としていてよく理解していなかったが、ようやく分かった。この、今溢れるこの想いが、覚悟だ! 私は私に託してくれた友の為に、剣が折れ、この命果てるまで戦い、人々の希望で在ることをここに誓うッ!!」

騎士「……その言葉、確かに聞き届けた」

女騎士「……ありがとう……。さぁ、女勇者! いつまでメソメソとしているつもりだ! 立て!! あの日の誓いの日、最も使命に燃えていたお前が一番遅れてどうする!!」シャキン!!

女勇者「…………私は、今まで守れるもの全てを守ってきた。と、思っていた。自分達の力で人々を守っていた気になっていたよ……でも、肝心なことを……忘れていた。私たちは、色んな人たちに助けられて、ここにいたんだったね。多くの人たちの想いを背負って、ここに立っていたんだね」

女魔法使い「…………」コクッ

女騎士「そうともだ!」

女勇者「ごめん、もう大丈夫。後輩騎士の言葉、ちゃんと伝わったよ。……行こう!」ザッ!

騎士「…………と、言うわけです。遅くなって申し訳ありません」

トラスル女王「ふふ……良い。青い……が、懐かしくも恥ずかしい気持ちだ。若いというのは素晴らしいものだな……」

ここまで

姫騎士が今井麻美さんの声で再生されるようになってきて、いよいよキャラが一人歩きを始めそうな悪寒です
迷走し始めた話ではありますが、最後まで楽しく、見守ってくださると嬉しいです

騎士が強気なことを言う

「な、何!?」

説教

「す、すまない…」

こればっかだなあ

>>207
真面目な異世界ものを書くとどうも説教臭くなるもので……
もう少しで終わるのでお待ちください

風邪ひいたみたいなので、今日はおやすみします……

説教がダメという意見が多いみたいですね
うーん、一度完結させてから新しく書き直す予定だったのですが、いったんここで区切って書き直してから、初めから投下し直すことにします
建て直すかここでやるかはまたあとで決めます
ここまでのお付き合い、ありがとうございました
しばらくお待ちください

最初が面白かった分を期待値が高かったな
後半の強引な展開についてけない読者もいたって事だ

>>1みたいなタイプは書き溜めてからの投下をオススメするよ
何かとレスに左右されることもないだろうしね

説教云々は別に関係ない。
それに至るまでの描写がされてないから不自然、キャラの性格も一貫してない。

門を守るなら、それで通せばいい。任務放棄して戦争に行くとか、騎士が騎士である必要を感じない。
名前が違うだけで、騎士の名が勇者でも違和感ない。設定は本文で出さないと意味ない。

主人公を持ち上げるためなのか分からんが、他のキャラが馬鹿に見える。

騎士は門を守って国を守りたいんだろ?
そして潜在的な脅威であるバハーヤを倒し、トラスルと同盟を結び国力を強化する事は国を守ることに繋がる

だから戦争に行ったんじゃないのか?

>>221
元々一度書き終えてから見返して、追加したり削減したりするタイプなのですが、一人で書いてると途中で飽きちゃうのでその場で思い付いた通りに書くのを投下するようにしているんですよね
似たような展開が出てくるのはプロットとかなく本当にその場の気分とノリだけで書いてしまうので、以前書いた内容をハッキリと覚えていない&見直さない(見直すと粗を気にして書き直したくなる=進まない)せいです

>>224
主人公格を持ち上げる為に周りが馬鹿になる現象にが起こってるのでしょうね……
申し訳ない、少々お待ちください
ただ任務放棄、という話はそもそも国王からの直々の命令という大義名分を得たので、騎士が後輩騎士を助けたかったというのもあって承諾したということになりますので、厳密には間違いです

>>225
騎士の思考は、もっとも自国の民を守る方々、に重きを置いています
そもそも騎士が門番に着いているのもそういう思考故ですね
今回の場合、そもそも戦争の引き金になりうるハバーヤを先に潰しておいた方が良いというのと、ついでに後輩騎士を助けられれば、というものです

多くのコメント、ありがとうございます
普段はあまり反応しないようにしてはいたのですが、明確に建て直して投下し直すことを宣言しておきますので、もしお暇でしたら色々と意見をしていただけると嬉しいです
自分もせっかく書いた作品なのでより面白くしたいという気持ちもありますので、よろしくお願いします

騎士「……………………これは、いったいなにが?」

女勇者「……ハバーヤ兵が……な、なんで?」

騎士「魔法の痕跡……にしても、これは……」

女騎士「どこかの国が介入して来たのか!?」

騎士「それにしては不自然だ。ハバーヤ兵だけを殲滅してこちらに手を出さない意味が分からない。やるならハバーヤとトラスルをぶつけた所で介入する。それにこの魔法の痕跡は、およそ人が出せる魔法とは考えられない」

トラスル女王「それは何故じゃ?」

女魔法使い「……魔法は一度しか使われていない」

トラスル女王「………………は?」

騎士「その通りだ。一撃で、ハバーヤの兵を全滅させた……ということになる。そんなこと、普通の人間が何人集まっても不可能だ」

女勇者「………………。……魔王軍!?」

騎士「分からん……いや……」

うぐ…………

騎士「生存者!」

タタタッ!

騎士「……黒騎士」

黒騎士「……よぉ………げほっ……ぐっ……」

騎士「何があった?」

黒騎士「分かるわけ、無いだろうが……一瞬光って……気が付いたら、地面に転がされたんだからよ……ぜー……ぜー……よ、鎧がなければ、俺も……死んでたな……」

騎士「……運が良かったな」

黒騎士「正に……。それより、は、早くここから、離れた方が良い……多分、まだ、近くに……いる」

騎士「…………あぁ、感じるよ。すぐ近くだ」

ガシッ

「……ようやく……会えたな。騎士……」

黒騎士「……な……?」

騎士「……………………触るな」

「そんな酷いことを言わないでくれ。なぁ、騎士。何故捨てたのだ。私を」

騎士「悪いが人違いをされているみたいだな。俺はお前を知らん」

「そうか。だがそんなことはどうでもいい。騎士は騎士だ」グッ!

騎士「やめろ……やめてくれ魔王……」

魔王「騎士の悲鳴が聞こえたのだ。確かに聞こえた。だからここに来た。我の騎士に仇なす虫ケラ共がわいていたので片付けたが……ゴミの山の上では感動の再会が台無しだな」

女勇者「騎士!! ……やはり、魔王……!! お前がこれを」

魔王「…………邪魔を、するな」スッ

騎士「止めろ!! 止めてくれ……頼む、殺さないでくれ……」

魔王「騎士……? 何故虫の命を哀れむ? なり損ないの出来損ないに、情でも?」

騎士「女勇者! ここから離れろ! 全員戻れ!! こいつは、魔王だ!!」

女勇者「……なら、なおさら逃げる訳には行かないよ!」

女騎士「世界の敵を見つけて、逃げ帰れる訳がない!」

魔王「なぁ……騎士。貴様、まさか……人間共にほだされたとでも言うのか?」

騎士「ッ!!」

魔王「人間共が、我らに何をしたのか忘れたのか!? 嘘だと言え騎士!!」

騎士「…………く、そっ!!」シャキン!

魔王「騎士…………」

騎士「……早く下がれ。今のお前らじゃ天地がひっくり返っても、勝てない」

女勇者「でも!」

騎士「分かっている! 悔しいのは分かる! だが分かるだろ!? こいつは俺よりも強い!! 一瞬で皆殺しにされる!」

女勇者「…………く」

騎士「魔王。俺が狙いなんだろ? 死ぬまで遊んでやるから、仲間たちには手を出さないでくれ。頼む」

魔王「……貴様……本当に……。……良いだろう。騎士以外には手を出さん。早く散れ、虫共」

騎士「………………女勇者……頼む……早くいってくれ……俺には……無理なんだ……」

女勇者「あ…………っ! ごめん……!」

バッ! タタタッ!

騎士「…………」

魔王「………………どうした? 斬りかからんのか?」

騎士「…………殺せ」

魔王「なに?」

ガランッ!

騎士「俺がお前を斬れる訳がないだろ。刃を向けることすらしたくなかった」

魔王「あぁ……あぁ! 騎士、やはり記憶が……!」

騎士「完全ではない。だが、お前と……お前たちと過ごした時間は、確実に記憶にある」

魔王「……騎士。我とまた来い。何故人間の味方をしているのかは分からん。だが、お前のいるべき場所はそちらではない。人間が、お前に何をしたのか……それは、忘れてはいないよな?」

騎士「………………」


『兄さん。……兄さん……ごめん、助けられなくて。でも悪いのは兄さんなんだよ。魔王の仲間になんか、なるから』


騎士「ぐっ!」

魔王「人間の何を見たのかは知らん。だが、人間は必ず滅ぼさねばならん。……騎士」

騎士「……俺には、無理だ……すまない……頼む、殺してくれ…………もう人間にも、魔王にも、味方することができない……」

魔王「……騎士。我がお前を殺せる訳がないのは、分かっているだろう。何も気にするな。すぐに目を覚ます」ザッザッ

騎士「なにを……」

ドンッ!

騎士「がっ……!」ガクッ

魔王「お前は優しい奴だ。だから、人間共に毒され過ぎたのだ。すぐに治る、安心しろ」

騎士「……魔王…………―――」

魔王「大丈夫。お前が寝てる間に悪夢は覚める。眠れ、騎士。お前を惑わせた奴等は、すぐにいなくなるから―――」

第一部 完

すいません、短縮しましたが書きたかったのはとりあえずここまでです

全三部構成の予定なので、書き直しが終わり次第建て直します
楽しみにしていたかたには申し訳ありませんが、しばらくお待ちください

後輩騎士「その反応ってそうってことっすよね!? うげーマジっすか! 誓いのキッスとかしたんすか!?」

騎士「…………。相手は姫だぞ? 何を言ってるんだお前は?」

後輩騎士「なんすか今の間?」

騎士「お前が何をいってるか分からんから微塵に砕けて死ね」

後輩騎士「そんな言われるほどのこと言ったっすか俺!? いやでも、その話を聞いて俺も騎士になったんすよ!」

騎士「そうだったのか」

後輩騎士「はい! そんな英雄みたいな人たちが騎士にはいるんだ! って思って! んで、なった途端にキングベアーが暴れてるって駆り出されたんす。マジ怖かったっす」

騎士「キングベアーか……その時ちょうどクラーケン討伐に派遣されていたな、俺は」

ミスった……

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