傭兵「教科書通りの剣術じゃオレには勝てねえよ」騎士「教科書をなめるな」 (36)

傭兵「へっ、この程度かよ」

騎士「ぐっ……!」

傭兵「エリート騎士サマの腕前ってのがどんなもんか試合を申し込んでみたが」

傭兵「そんな教科書通りの剣術じゃ、オレには勝てねえよ」

騎士「…………!」

騎士「教科書を……なめるな!」

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傭兵「教科書をなめるな? ――ハッ、笑わせやがる!」

傭兵「騎士どもが学校で習う剣術なんてのは、しょせんお坊ちゃん用に作られたキレイな剣術だ」

傭兵「オレみたいな奴が実戦で磨いてきた我流には遠く及ばねえんだよ!」

騎士「そんなことは……ない!」

騎士「教科書とは偉大なる先人たちの経験と試行錯誤の結晶!」

騎士「教科書通りとは“型にはまった”だの“パターン化されてる”ということではない!」

騎士「粗削りな我流に劣るなどということは断じてない!」

傭兵「さっきはオレに手も足も出なかったくせに、でかいクチ叩きやがって……」

傭兵「いいぜ、もう一度相手してやる。かかってきな」

傭兵「教科書通りの剣術ってもんがいかに無力か、オレがあらためて教えてやる!」

騎士「望むところだ!」

傭兵「オラァッ!」ヒュッ

騎士(こう来たら……こう受ける!)サッ

ギィンッ!

騎士(こう受けたら……こう反撃する!)シュバッ

傭兵「うわっと!」サッ

傭兵「へへ……なるほど……少し動きが変わったじゃねえか」

傭兵「だけどよ、いつまでもつかな?」

傭兵「騎士サマの教科書通りの剣術ってのは、概して“想定外”に弱いもんさ!」

傭兵「たとえば、こういう戦法とかな!」バババッ

騎士(無茶苦茶にフットワークを始めた……!)

傭兵「どうだい?」バババッ

傭兵「こんな戦法、騎士サマは習わねえし使わねえだろ?」バババッ

傭兵「オレがどういう攻撃をするか、いつ攻撃してくるか、予想もつかねえだろ?」バババッ

騎士「…………」

傭兵「なにだんまり決め込んでやがんだよ! 内心ビビりまくってるくせに!」バババッ

傭兵「どうした、どうした? 動けねえのか? この腰抜けがっ!」バババッ



騎士(挑発に乗るな……)

騎士(怒ってこちらから攻撃すれば、それこそ彼の思うツボ!)

騎士(このまま基本の構えを保って、彼が攻撃してくるのを待つんだ……!)チャキ…

傭兵「いつ攻撃しよっかなぁ~、10秒後かな? それとも10分後かな?」バババッ



騎士(たしかに私には彼が仕掛けてくるタイミングは読めない……)

騎士(だがこの構えであれば、どんな攻撃にも対処できる!)

騎士(過去の騎士たちが試行錯誤の末、たどり着いた構えがこれなのだから!)

傭兵「いい加減にしろよ、てめえ! 戦う気があんのかよ!」バババッ



騎士(じれてきたな……。だが私に焦りや迷いはない)

騎士(さっきまでの私は彼の我流剣術に対する侮りや恐れがあったが、今はちがう!)

騎士(私は私が習ってきた剣術を信じる!)

傭兵「くっ……そがぁっ!」ダッ

騎士(来た! この角度からの攻撃は、騎士団での鍛錬で散々受けてきた!)

傭兵「シィッ!」シュッ

騎士(こう受ける!)ギィンッ

傭兵「なっ!? ――受けやがった!」

騎士「今度はこっちから攻める番だ!」

騎士「はっ!」ヒュオッ

傭兵「ぐっ!」キンッ

騎士「でやっ!」シュッ

傭兵「くそっ!」キンッ

騎士「せいやっ!」ビュオッ ビュアッ

傭兵「ぐっ……!」キンッ ギンッ

騎士(思ったとおりだ……)

騎士(彼の剣術はたしかに奇抜で、次の行動を予想しにくい手強い剣術だ……)

騎士(もし彼のペースにハマってしまえば、実力を出し切れずに負けてしまうだろう)

騎士(だが、基礎という土台が出来ていないから、一度劣勢になると一気に崩れる!)

騎士(ならば、このまま一気に攻める!)シュバッ

傭兵「くそぉぉぉぉぉっ!」キンッ

傭兵「調子に乗んな!」バッ

騎士「!」

傭兵「どうだ!? オレの次の一手が分かるか!?」ブンブンブンッ

騎士(私を惑わせるために剣を無茶苦茶に振り回し始めたか……)

騎士(あいにく、もはや私に奇策は通用しない!)

騎士「そこだっ!」ビュオッ

ギィンッ!

傭兵「きゃあっ!」ドサッ…

騎士「どうやら……“教科書通り”の面目を保つことができたな」

傭兵「う、ぐっ……!」

傭兵「ちっ、やられたよ……騎士サマってのも結構やるもんなんだな」

騎士(む……尻餅をついた拍子に、彼の胸のアーマーがずれてしまったようだ)チラッ



騎士「!!!」

騎士(胸に……谷間!? まさか、この傭兵は――)

傭兵「きゃっ!」バッ

傭兵「み、見やがったな!」

騎士「す、すまん! わざとではないんだが……!」

傭兵「あ~……くそっ! バレちゃったか……!」

騎士「君はどうして、女性でありながら傭兵に……?」

傭兵「なんだよ、女じゃ傭兵になっちゃいけないってのかよ!」

騎士「い、いや……そんなことはないのだが……」

傭兵「オレみたいな貧しい家に生まれた女は、生き方なんて選べねえ」

傭兵「だからって野郎どものオモチャにされるのはゴメンだから」

傭兵「我流で剣を磨いて、傭兵にでもなるしかなかったんだよ……」

傭兵「つっても、結局あんたの“教科書通り”にゃ敵わなかったけどさ」

騎士「…………」

騎士「もし……」

傭兵「ん?」

騎士「もし君さえよければ、私が剣の手ほどきをしたいのだが、いかがだろうか?」

騎士「私も君から見習うべきことは多々あると思うし……」

傭兵「……いいのか? あんたみたいなエリートが、オレみたいな奴と剣の稽古なんて」

騎士「もちろんだとも」

騎士「それに君は、今までに私が出会ってきた女性とはちがう」

騎士「決して他人に頼らず、独自に磨いた流儀を貫くその姿……とても魅力的だよ」

傭兵「……あ、ありがとよ」

傭兵「あんたこそ……その……今までに出会った男とはちがう」

傭兵「騎士道をまっすぐ歩くあんた……とてもかっこよく見えるよ」

騎士「ありがとう」

騎士「それじゃ一休みしたら、訓練を再開しよう」

傭兵「うん、そうしよう」

騎士「その後よかったら、一緒にレストランでも……」

傭兵「……喜んで!」



傭兵(……まさか、ここまで上手くいくとは思わなかったな)

……

……

……

数日前――

傭兵「あ~あ、イケメンな騎士と知り合いたいなぁ。玉の輿に乗りたいなぁ」

女戦士「だったらこれでも読んで勉強したら?」

傭兵「なにこれ? 『キミも玉の輿に乗れる!恋愛必勝マニュアル』……?」

女戦士「いわば恋愛の教科書ね。あんたなら“男勝りのあなたへ”の章を読むといいわ」

傭兵「どれどれ……」ペラ…

傭兵「まず男口調と男装でお目当ての騎士に近づき、勝負を挑みましょう。
   勝負の最中は騎士のプライドを逆なでするような言動を繰り返すとよいでしょう。
   そして適当なタイミングで相手に自分の胸を見せ、女だとカミングアウト。
   カミングアウトした後は、多少口調を柔らかくしてかよわい自分をアピール。
   こうすれば温室育ちの騎士の心はイチコロ……」





おわり

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