ありす「文香さん引けませんでした……」 飛鳥「ああ……」 (28)


=事務所=

 ガチャッ

文香「皆さん、おはようござい…………」


ありす「……………………」ズーーーーーン…

飛鳥「……………………」ズーーーーーン…


文香「ま…………す…………?」

文香(お、お二人が凄く落ち込んで……事務所の空気が暗く澱んでいます……)

文香(ど……どうしたのでしょうか……)


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飛鳥「……あぁ。やあ、文香さん。おはよう……」

ありす「おはようございます……」

飛鳥・ありす「「…………」」ズーーーーーン…

文香「あ……あの……どうかされましたか……?」

飛鳥「えっ……?」

文香「目に見えて……気分が落ち込んでいるようでしたので……」

文香「何か相談できることでしたら……微力ながら、お力になれたら……と……」

飛鳥「……流石は文香さん、女神だね……」

ありす「女神ですね……」

文香「え、えぇ……??」///


飛鳥「本人の前でこんな話をするのは……あまり気が進まないが……」

ありす「そうですね……ただ……」

飛鳥「ああ……誰かに聞いてもらいたい、なんていう低俗な願望があるのも事実だ……」

ありす「私たちも、まだまだ子供なんですね……今回の件で思い知らされましたけど……」

飛鳥「ああ……まさしく、だね……」

文香(い、一体……お二人に何が……?)

ありす「……文香さん、これを」スッ

文香「タブレット……? ……あっ、これは……」

飛鳥「そう。ボクたちをモチーフにしたソーシャルゲーム『アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ』さ」


ありす「撮影に臨まれた文香さんなら知っていると思いますけど、8月31日から今日9月9日まで特別なガシャが行われていたんです」

文香「………………あっ」

飛鳥「気付いたようだね。――そう、キミの限定SSRが登場する期間限定ガシャさ」

ありす「私たちは……それを手に入れるために全力を尽くしました」

飛鳥「そろそろ限定が来るだろうと予想して前々月から有償スタージュエルを積み立て……」

ありす「いざ、回したのですが……」

飛鳥・ありす「「………………」」ズーーーーーン…

文香「出なかった……のですか」

飛鳥「フッ……ガシャなんて結局確率という名の悪魔の手のひらの上で踊らされているに過ぎないからね」

ありす「いくらできることをやったとしても……出ないものは……出ないんです……」

飛鳥・ありす「「あはは…………はは、は…………」」ズーーーーーン…

文香(だ、大丈夫でしょうか……)


飛鳥「だが、こういう挫折を経てボクらは大人になっていくのさ」

ありす「はい……。欲しいもの欲しいと言えば与えられる気がしていたあの頃……」

飛鳥「本能が叫ぶわ……」

ありす「購入制限されるばかりのコドモじゃないもう私……」

飛鳥「変わりたいと願う……」

ありす「引きたいもの引ける強さを手に入れたいのこの……」

飛鳥「iTunesカードで……」

飛鳥・ありす「「生き残れー…………」」ズーーーーーン…

文香「そ……そんな歌詞でしたでしょうか……」アセ


ありす「……実際、大人になりたいですね……」

飛鳥「ああ。購入制限5000円なんていう縛めから解き放たれて、ガシャの大空に翼を広げたい……」

文香「あ、ありすちゃんも飛鳥ちゃんも。過度な課金はよくありませんよ」

ありす「それだけ文香さんを引きたい気持ちが強かったんです……」

飛鳥「ああ。特に今回は……大人らしさを引き立てる黒と、文香さんの情調によく似合う空色のドレスに、精緻な刺繍が施された、素晴らしい衣装だったから……」

ありす「いいですよね……」

飛鳥「いい……」

文香「…………」///


飛鳥「それにしても……ガシャなんてものは得てしてこういうものだとは理解っているが、ブライダルガシャと同じ辛酸を味わわされたよ」

ありす「あの時も爆死してましたね飛鳥さん……」

飛鳥「……もうボクは限定SSRを引けない星の下に生まれたんじゃないかと疑ってしまうよ……」

ありす「元気出してください……プロデューサーさんなんて毎回のように爆死してます」

飛鳥「そうだったね……。それも購入制限がないから被害額はボクらの何十倍にも上るだろう」

ありす「悲劇ですね……」

飛鳥「ままならないものさ……ガシャなんて」

飛鳥・ありす「「はあ…………」」ズーーーーーン…

文香(あ、ああ……お二人がまた沈んで……)


文香「あ……あの」オズオズ

飛鳥「あぁ……済まないね、こんな陰惨な話を聞かせてしまって……」

文香「いえ、そうではなく…………あの…………」

ありす「? どうかしましたか?」

文香「ゲームの中で私を引けなくても……お二人のそばには現実の私がいますから……」

文香「それで、その哀しみを多少なりとも癒すことは……できないでしょうか……」

飛鳥「…………」
ありす「…………」

文香「あ……や、やはりそんなこと……私には身分不相応でしたでしょうか……わ、忘れてください今のは――」

飛鳥・ありす「「文香さぁん……っ!!」」ギュゥゥゥッ

文香「えっ、えっ……!?」///


飛鳥「文香さん……キミって人は……」グスッ

ありす「本当に天使ですね……うぅっ……」ウルウル

飛鳥「天使なんてものじゃないよ……聖母だ……」

ありす「間違いありませんね……」

飛鳥「慈愛に満ちた蒼い眼差し……」

ありす「まるで生命の揺り籠の海原のような……」

飛鳥「世界の夢を見る宝石のような……」

ありす「いいですよね……」

飛鳥「いい……」

ありす「教会を建てたいです……」

飛鳥「信奉したい……」

文香「あ……あの…………」カァァ…


飛鳥「文香さん、ちょっと膝を貸してもらっていいかな」

文香「えっ……膝枕ですか……? ど、どうぞ」

飛鳥「済まないね……」ゴロン

ありす「……!」

飛鳥「ああ、荒んでいた心が癒されていくのが理解るよ。まるで罅割れた大地に雨水が満ちていくようだ……」

文香「よ、喜んでいただけたなら……幸いです」ニコ

ありす「ま……全く、膝枕なんかで喜ぶなんて飛鳥さんは子供ですね!」ツンッ

飛鳥「それは否定しないが……大人だってこういう時はあるさ。甘い安らぎを得たくなる時がね」

ありす「む、むむむ……」

文香(ありすちゃんにも……何かした方がよいのでしょうか……?)


文香「あ、ありすちゃん」

ありす「はい?」

 そっ

ありす「ふえっ」

 なでなで……

ありす「ふ、文香さん……」///

文香「……え、ええと。ありすちゃんも落ち込んでいたようでしたから……元気が出れば、と……」ナデナデ

ありす「…………」///

文香「あ、あの。嫌でしたらやめますので……」

ありす「い、いえっ、もっと……。……お願いしても、いいですか……」///

文香「……はい」ニコ

飛鳥(聖母だ……)

ありす(聖母ですね……)


飛鳥「ふ……文香さん。その恵みを……ボクも享受して構わないだろうか」

文香「……はい。大丈夫ですよ」ナデナデ

飛鳥「~~……っ」///

飛鳥「……ああ、いいね。心安らぐよ……」

ありす「えへへ……」///

飛鳥「フフッ……」///

文香(…………)ナデナデ

文香(お二人とも……可愛くて、何だか妹が二人できたみたいです……)

文香(なんて言ったら、怒られてしまうでしょうか……ふふっ……)


 ガチャッ

奏「おはよう」

周子「みんなおはよー……って何じゃこりゃー」

飛鳥・ありす「「……っ!!」」ガバッ

文香「あ……もう、いいんですか……?」

飛鳥「あ、ああ。もう充分だよありがとう」

ありす「は、はい。そろそろいつもの完璧でクールな私に戻ります」キリッ

文香「そうですか……」

飛鳥・ありす(……でも、たまにはまたやってもらおう……)ドキドキ


おわり


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引けませんでした

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