お坊ちゃん「ぼくの執事とメイドは過保護すぎる」 (22)


ぼくのパパは日本有数のお金持ちだ。


だからパパはぼくが中学生になる時、お前には特別に上等な教育を受けさせてやるといってくれたんだけど、
ぼくはあえて普通の公立中学校に通うことを希望した。


だって立派なお金持ちになるには、庶民のことも知らなきゃいけないからね。





パパはそれだったらと、学校に行く時のために執事とメイドを用意してくれた。

まったくもう、心配性なんだから……。


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今日はぼくが中学に入学してから、三日目の朝。

学校の授業や設備に関するオリエンテーションも軒並み終わり、いよいよ本格的に授業が始まる日だ。



「行ってきます!」



ぼくが家を出ると、執事とメイドが金魚のフンみたいについてきた。



「ついてこなくていいよ」

「そうは参りません。ご主人様の命令ですから」

「お坊ちゃまの快適な学校生活は私たちが守りますわ」

「ま、いいけどさ」



うっとうしくはあるが、悪い気はしないのも事実だったりする。


ぼくの家から学校までは、およそ徒歩15分。


パパには運転手付きの自動車で通うよう勧められたが、ぼくはそれを断った。
ぼくは歩くのが好きなのだ。



通学路には、ぼくの家とは比べ物にならないほど小さな家がいっぱい立ち並んでいた。

だけど、窮屈そうな家だなぁ、などといってはならない。
イヤミになっちゃうもの。


通学路にある信号のない交差点に差しかかった時、ちょっとスリリングな事件が起こった。



ぼくの目の前を、トラックがものすごいスピードで通りすぎていったのだ。

もしぼくが走っていたら、もしかしたらひかれてたかもしれない。



「危ないなぁ……もう!」


ぼくをひきかけたトラックはすぐ近くにある信号につかまり、止まっていた。
ぼくはこれをチャンスだと思った。



「ようし、あのトラックに文句いってやろうかな」



すると、執事とメイドが猛スピードで駆け出した。



「お坊ちゃまの手はわずらわせませんよ」

「あの無礼なトラックの運転手、すぐさま引きずり出して参りますわ」


執事とメイドは停車しているトラックに肉薄すると、ムリヤリドアをこじ開け、
中にいた運転手を力ずくで引きずりおろした。

そして、ぼくのもとに連れてきてくれた。



「な、なにしやがる!」

「お前のせいでお坊ちゃまがお怪我をなさるところだった。謝れ」

「謝りなさい」



有無をいわさぬ迫力に、運転手はたちまち、



「ひいっ! す、すみません!」



と頭を下げた。

ぼくはスッキリした。同時にちょっとやりすぎじゃないかな、とも思ったけど。


学校に着いた。

ぼくはクラスメイトの一人に挨拶をしたけど、反応はなかった。
ぼくの声が小さすぎたようだ。

だけど、この様子を見ていた執事とメイドは即座に対応してくれた。



「そこの君、お坊ちゃまが挨拶しているのだ。すぐ挨拶を返しなさい」

「そうですわ、無礼ですわ」



おかげで、そのクラスメイトはぼくに挨拶を返してくれた。

ただし、二人の剣幕のせいでだいぶ怯えてはいたけども。


ホームルームが終わり、授業が始まった。

ぼくは一番後ろの席。ぼくの後ろには執事とメイドが立っている。
ぼくは目がいいし、身長もあるので、さほど問題はなかった。


だけど授業中、こんなことがあった。

ぼくが板書をノートに写してる最中に、先生が黒板の字を消してしまったのだ。
ぼくがまごついていると後ろの二人が動いた。



「先生、まだお坊ちゃまがノートに写し終わっておりません!」

「坊ちゃまを置き去りに、授業を進めないでいただけるかしら!」



先生は平謝りして、ぼくが写せてなかった箇所をもう一度書いてくれた。


授業と授業の間の短い休み時間。

ぼくが執事とメイドを引き連れ、廊下を歩いていると、イジメの現場に遭遇した。



いかにもワルって感じの子が、大人しそうな子の肩をバシバシ叩いて笑っている。
無視してもいいのだが、ここで見て見ぬふりするようでは、立派なお金持ちにはなれない。



勇気を振り絞って、ぼくはいじめっ子を止めようとした。

だけどぼくが動くより、執事とメイドが動く方が早かった。


執事とメイドはそれぞれ、いじめっ子の右腕と左腕を捻り上げると、
ぼくのもとに連れてきてくれた。


ぼくは時代劇に出てくるお奉行様にでもなった気分で、こういった。



「イジメなんかしちゃダメだよ!」

「いだだだ……! す、すみません! すみませんでしたぁっ!」



えっへん、これにて一件落着!


いくつかの授業が終わり、待ちに待った昼休み。

ぼくは朝、シェフに作ってもらった弁当を食べる。
栄養バランスが完璧に整えられ、味も一流の弁当に、ぼくは大満足した。

だけどすぐに食べ終わってしまったぼくが、



「もう少し食べたいなぁ」



とこぼすと、執事とメイドがすかさず追加の料理を持ってきてくれた。

きっと学校の外で買ってきてくれたのだろう。なんて気が利くんだろう。


ぼくは喜んでそれらを平らげた。


昼休みが終わると、体育の授業。

まずは100メートル走のタイム計測が行われた。
ぼくははっきりいって足の速さには自信がないのだが、体育の先生は媚びた笑顔でぼくを褒め称えてきた。



「さすがでございます。お坊ちゃまでしたら、オリンピック金メダル間違いなしです」



ぼくはすぐにお世辞だと分かった。
ぼくが気を悪くしたのを察した執事とメイドはあっという間に先生の腕を捻り上げ、警告してくれた。



「お坊ちゃまはお世辞がお嫌いなのだ」

「次は折りますわよ」



先生はお世辞のつもりはなかったんです、と謝ってくれた。


体育の授業の残り時間は自由時間となり、クラスのみんなでドッジボールをすることになった。

だけどここでも執事とメイドは過保護ぶりを発揮する。


ぼくに飛んできたボールを全部取ってしまうのだ。



「ここまでしなくていいよ」

「いいえ、万一にも坊ちゃまを怪我させるわけには参りませんから」

「坊ちゃまに対する攻撃は、全て私どもが迎撃致しますわ」



嬉しいけど、やっぱりちょっとやりすぎかも。


こうしてぼくの中学校での一日は無事終わった。

ぼくが家に到着すると、



「ではお坊ちゃま、私どもはこれにて」

「また明日、朝からご一緒いたしますわ」

「どうもありがとう」



執事とメイドは屋敷での通常業務に戻った。

やりすぎではあるけど、彼らのおかげでぼくが快適な生活を送れたのも事実だ。
感謝しなければならないだろう。



明日からもよろしくね、二人とも!


――

――


夜、坊ちゃんの父親、すなわち大富豪である主人が、執事とメイドを呼び出す。

美しい直立をする二人に、ソファにかけながら主人はいった。



「ご苦労だった。今日もあの子からみんなを守ってくれてありがとう」

「はい」

「はい」

「なにしろあの子ときたら、13歳にして身長は250cm、体重は190kgという超巨体。
 おそらくどんな猛獣でも軍隊でも核兵器でもあの子に傷一つつけることはかなわぬだろう」



主人はため息をつく。



「もし、あの子が何かの拍子に機嫌を損ねたり、怒ったり、力を振るったりしたら、
 それこそ死人が何十人、何百人も出る大惨事となるだろう。
 そうなれば、あの子の心はひどく傷つき、もはやどうなってしまうか分からない。
 これからも……どうかあの子の近くにいてやってくれ。
 それが世のため、人のため、あの子のため、なのだ」



執事とメイドは眉ひとつ動かすことなく、息ピッタリにこう答えた。



「かしこまりました、ご主人様」





おわり

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