山城「海の底から」扶桑「目蓋の裏へ」 (30)

注意書き

地の文あり。
ある程度固まっていますが基本的にはその場で書きます。
いいお話ではありません。

では書いていきます。

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いい話だった

私が腰のあたりまであった髪の毛を切ったのはいつの日のことだったろうか。
姉様に憧れて伸ばしていた髪の毛だ。
その髪の毛を、切った。
憧れだった姉様と、自分は違うのだと、ある意味当たり前なことに気付いた瞬間だったのだ。

「不幸だわ・・・。」

口癖のように呟く。事実口癖ではあるのだが。
私と姉様は似ていた。
姿形。高く聳え立つ艦橋。そして、不幸なところ。
けれど、違うところがあった。
髪の毛の長さ。たれ目とつり目。
そして何より、心が違った。
姉様の心は私と同じ不幸に蝕まれながらも、それでもなお気高かった。
私が不幸を嘆いている間に、姉様は不幸に打ち勝つ術を身に付けていた。
そして私にこう囁くのだ。

「山城、自分のことを不幸と嘆くのはおやめなさい。」

あなたは、強い子なのだから、と。

強くなんてなかった。
けれども、姉様のその一言で。
私は変わろうと決意したのだ。
姉様に憧れるだけではなく。
不幸に抗うことのできる強さを持つ、そんな艦になろうと。

本日、天気晴朗なれども波高し。
とは言えない日だ。
外は鈍色。今にも雨が零れ落ちそうだった。

「雨降って地固まるとは言うけれど・・・。」

今日は扶桑姉様の練度が最大になる日。
そして、提督がケッコンを申し込む日でもある。

「そうねえ・・・。今日の出撃、大丈夫かしら・・・。」

当の扶桑姉様には、まだ知らされていない。
いわゆるサプライズと言う奴だ。

相談を受けたのはひと月前、私が改二になったころ。

「山城、少し相談がある。提督室に来てくれ。」

演習を終えて帰ってきた私に、提督はひどく真面目な顔でそう告げた。
訝しむ私を尻目に、提督は歩き出した。
仕方なく私もついていく。

「まあ、座ってくれ。茶でも出そう。」

「いえ、別にお茶はいいんですけれど・・・。話とは?」

お茶を入れようとする提督を制し、話を切り出す。
簡単に済む話ならあの場でよかったものを、こうして呼び出されたのだ。

「ああ、というのも私も何から話したらよいか・・・。」

「何を躊躇っているんですか?」

煮え切らない態度に語気が強くなってしまった。少し反省。
しかし、その私の態度に意を決したのか。

「ケッコンを、申し込もうと思って、だな。」

「・・・はぁ?」

私の練度はまだケッコンできるほどではない。随分気の早い話である。

「いや、山城にではなく扶桑に、だ。」

ああ、なるほど。合点した。
私ではなかった。まあ、当たり前のことだ。
私の中の小さな乙女心はすこし痛んだが、扶桑姉様の幸せとべればどうってことはない。

「それで、なぜ私に?」

将を射るにはまず馬から、とでも考えているのだろうか。

「扶桑を喜ばせたい。妹の山城なら何かいい考えがあると思ってだな。」

「私に聞かれましても・・・。」

姉様に直接聞いてしまえばいいのに、と言ってしまうのは些か酷か。
恐らく提督もケッコンに対し緊張しているのだろうし、そして扶桑姉様を特別だと思っているのだろう。

「そう、ですね。女性はサプライズに喜ぶものですし、扶桑姉様も喜ぶのでは・・・?」

「そう、か・・・。成程。サプライズか・・・。考えておこう。」

「いえ、提督のお役に立てたのなら。」

幸いです。不幸だけれど。うふふ。

そんな話があっておよそひと月。
提督との相談会も日増しに増え、最終的には扶桑型の私たち、それに西村艦隊のみんなでお祝いすることになった。
流石にそのパーティー中にケッコンを申し込むという暴挙はやめさせておいた。色々危ない。それは片付けが終わってから、二人きりで。

「今日は北方海域への出撃だったかしら・・・。」

姉様が窓を眺めながらひとり呟く。

「ええ、慢心しないようにしましょう。」

「ふふ、まるで赤城さんみたい。」

今日という日は赤城さんよりも慢心してはいけない。
せっかく扶桑姉様が幸せになる日なのだから。

「今日の山城はあかしろです。慢心、だめ、ぜったい。」

「うふふ、面白い子。」

まあ、北方海域で私たちが不覚をとるような相手もいないのだけれど。
慢心、だめ。ぜったい。
ある意味、私の任務は海域攻略でもなければ、敵艦の撃破でもなく。
扶桑姉様が無事母港に帰ること、なのだった。

「はぁ・・・。」

提督室に、みっともないため息が落ちた。
我ながら、情けない姿と言えよう。
軍人である私が、たかがケッコンを申し込むだけのことに、これだけ緊張しているのだ。
軍人仲間が見たら大笑いするだろう。

「提督?入るよ。」

時雨の声が聞こえる。恐らく今日の準備のことだろう。

「ああ、入れ。」

声と同時にドアが開く。

「提督。準備はできてるよ。場所は間宮さんのところを借りてきた。」

「そうか、ありがとう。」

「いいよ、これも扶桑さんのためだからね。」

別に、提督の為じゃないよ?といじわるそうに笑う時雨。

「うむ、では扶桑にバレないよう、準備を進めてくれ。」

このままでは示しが付かないので、あえて仰々しく命じた。

「ふふ、了解しました。」

そういうと私に付き合ってくれたのか、頭を深く下げる時雨。
おかしくなって二人で笑う。

「はぁ、じゃあ提督も準備、よろしくね?」

そういって出ていく時雨の目は、夕立のいたずらな笑みと同じ色をしていた。

「ばれてる・・・のかもな。」

ひ、左胸に手を当てる。
早くなる鼓動の上に、四角い箱の感触。
どうやら、私の心臓が落ち着くには時間がかかるようだった。

「扶桑、出撃致します!」

「山城、出撃します!」

旗艦の姉様に続き、私が出る。
そして、長門さん、陸奥さん、綾波ちゃん、吹雪ちゃんも続く。
戦艦四隻に駆逐艦2隻。提督が万全を期しているのが伝わってくる。

「索敵を行いながら目標海域まで前進しましょう。山城、お願いできる?」

「はい、姉様」

艦載機を飛ばす。
今にも振り出しそうな空へと、艦載機が飛んでいく。

「行きましょう。」

「はい、姉様」

姉様の後ろ。私のいつもの場所だ。
海風にたなびく髪を眺めながら、昔の、髪が長かったころの私を思い出していた。

「艦載機が敵影を見つけました。距離およそ1万。戦艦3隻、軽巡3隻、駆逐艦2隻です!」

「了解。隊列を組み直します。吹雪ちゃん、綾波ちゃんは先行してください。会敵しても交戦はせず、敵をその場に引き付けてください。」

「「はい!」」

「私と長門さんは左から、山城と陸奥さんは右から、挟撃を仕掛けます。互いの弾幕が当たらないように気をつけて。」

「「「了解!」」

「交戦が始まったら吹雪ちゃんと綾波ちゃんは魚雷を放って私たちの部隊に合流してください。それでは本作戦を開始します!」

扶桑姉様の口元がきゅっと締められる。
陽は沈み始めていて、辺り一面が薄暗く、不鮮明に煙っていた。

「砲撃!」

会敵してから30分。
砲撃の成果は芳しくなかった。

「おかしいわね・・・。」

陸奥さんも敵を怪しんでいる。
いくら砲撃を行っても、敵からの反撃はまばらで、北へ、北へと逃げようとしているのだ。

「そうですね・・・。一度扶桑姉様と交信して判断を仰ぎましょう。」

「了解。敵は任せておいて。」

お願いします、と返事をして姉様と連絡を取る。

「姉様、敵の行動に違和感を覚えましたか?」

「ええ、なんだか嫌な予感がするわ。提督に打診して撤退しましょう。」

「わかりました。提督から指示が出たら無線をお願いします。」

そういって交信を終える。

「どうするの?追うの?それとも撤退?」

「撤退の予定です。」

「そう、じゃあ今のうちに一隻でも倒しておきましょうか♪」

そういって砲撃を始める陸奥さん。戦艦に被弾し、ダメージを与える。

「私も・・・てえい!」

空気がビリビリと震える。陸奥さんが捉えた戦艦に着弾させることができた。
これまでの交戦で大破、轟沈したのは2隻。
共に体力、防御力の高い戦艦である。

「まあ、戦果としては上々って所かしら・・・。」

相手が不審な動きを見せている以上、深追いは禁物だろう。

「山城、提督からも撤退の指示が出ました。駆逐艦の二人が先頭。長門型の二人を中盤に、私たちが殿を務めます。各自目視、電探、艦載機等を用いて敵影に注
意しながら撤退しましょう。」

陸奥さんが先行し、続いて弾幕を張っていた私が撤退する。
夜の帳が、下りそうになっていた。

「敵影発見です!」

先行していた吹雪ちゃんから連絡が入る。

「敵、左右に展開しており、こちらを挟撃する体勢です!このままの速度で進めば相手の攻撃範囲に入る前に間を抜けることができそうです!」

「了解。そのまま突っ切ります!」

「こんなとき、高速戦艦だったらよかったのに、と思ってしまいますね。」

姉様に話しかける。

「そうね、それでもやらなければならないのが私たち艦娘だもの。」

一瞬微笑んだ顔を引き締め直し、前を見つめる。
その凛々しい横顔に思わず見蕩れてしまう。
私もいつかは扶桑姉様のようになれるのだろうか。
強く、美しく。
私の髪の毛が、もう一度腰あたりまで伸びるころには。

「吹雪、綾波共に敵の包囲網を抜けました!」

「了解。私たちも続きます!」

無線での交信が入ってくる。どうやら二人は無事に抜けたようだ。
夜の海は不気味だ。
敵がどこにいるのか、目視ではほとんど判別がつかない。
とにかく、この包囲網を抜けてしまえばいいのだ。今は走るしかない。

「こちら長門だ。敵影を確認した。このまま突破できるかかなり怪しい位置だな。どうする?」

「吹雪ちゃんと綾波ちゃんはそのまま鎮守府まで撤退してください。残りの4人で包囲網が完成するまでに一点突破を目指します。」

長門さんからの通信に姉様が答える。
交戦は避けられないところまで来ていた。

「山城、大丈夫?」

「ええ、大丈夫です。行きましょう。」

今日は無事に姉様を鎮守府に送り届ける使命があるのだ。
不思議と、こんな状況でも不幸だとは思わなかった。

遠くから砲撃の音が聞こえた。
交戦が始まったのだ。

「交戦が始まった。敵は現在戦艦棲姫にヲ級が3隻だ。」

「わかりました。こちらも合流します。」

急ぎましょう、と姉様の声。
急いでも速くなるわけではないけれど、精一杯の速度で走る。

「こんな海域に戦艦棲姫・・・。」

確かに、いるとは予想していなかった。先ほどの敵の動きといい、妙な点が多い。

「提督に増援を頼みましょう。」

そういって提督と通信を始める扶桑姉様。
その横顔を見ていると、一瞬、光が瞬くのが見えた。
咄嗟に体が動く。姉様を守らなくては。

「姉様!」

後ろで、轟音が響いた。

「どうした!?」

急いで駆けつけると、海面に投げ出されている姿が見えた。

「おい、大丈夫か!」

そういって引っ張り上げる。どうやら小破程度で済んでいるようだ。
安心して顔を上げようとすると、その視線の先。
沈みかけている彼女の姿があった。

「あああああああああああああああああああ!!!!!」

私の腕の中が、大きく蠢いた。

「早く行って!逃げて!」

二人の悲痛な叫びが響き渡る。
沈んでいく彼女に、死という概念が纏わりついているのが見えた。
連合艦隊旗艦、ビッグセブン。頭の中を単語がよぎる。
仲間一人救うこともできないのか。

「長門!包囲空いたわよ!」

陸奥から通信。
どうするべきなのか?
沈みゆく彼女を見遣ると、彼女は微笑んでいた。
沈みそうな中、悠然と。
私はもう間に合わないから。
早く逃げて。

「・・・すまん!」

彼女の決意を見て、私は思わずその場から離れてしまった。
託された彼女を背負って。

長門の報告を聞いていた。
轟沈。
その単語が頭を巡っていた。

「わかった。すぐに入渠してくれ。」

長門がどのような返事をしたのかもわからなかった。
倒れこむようにして椅子に座った。
なぜ北方海域に戦艦棲姫が。
なぜ出撃させてしまったのか。
なぜ、どうして。
自責と後悔の念が脳を埋め尽くす。
立っていられなかった。
吐き気。
押さえ切れず、床に吐瀉物をまき散らしてしまった。
心臓の音は、もう聞こえなくなっていた。

轟沈。
私の、大切な、大切な、姉妹艦。
沈んでしまったのだ。
鏡の中の髪の短い女がこちらを見つめていた。

「扶桑姉様・・・。」

呟く。
一人の部屋には、大きすぎる呟きだった。
食事もまともにとっていない頭では、何も考えられなかった。
考えたくなかった。
涙など、とうに枯れ果てていた。

三日後。
私は扶桑型の部屋を訪れていた。
この三日間、彼女の姿を見たものはいない。

「私だ。いるか?」

返事はない。
意を決して扉を開く。
そこに、彼女はいた。
二段ベッドの下。
短い髪。

「起きているか?」

提督の声。目が覚める。

「・・・はい。」

私はこれからどうなるのだろう。
提督に合わせる顔がない。
扶桑姉様が、いなくなったのだ。
旗艦を務める、扶桑姉様が。
鎮守府としての被害はとても大きいだろう。
私が、庇うことができていたら。
あと一歩、間に合えば。
沈んでいった彼女の姿が脳裏に浮かんでくる。

「あなたは逝ってはだめよ。」

もう会えない、のだから。

彼女を連れて、私は鎮守府の外れにある灯台の元へと向かった。
先日、彼女に手向けの花束を投げた場所だ。

「提督、私を憎んでいないのですか?」

後ろから、声が飛んでくる。

「どうしてだ?」

平静に振舞う。

「私は、扶桑姉様を守れませんでした。」

「・・・そうか。」

どきりとした。
心臓が動く。

「どうして、私は生きているのでしょう?」

答えられない。

「どうして、私が沈まなかったのでしょう?」

言葉が出ない。

「どうして、私じゃなかったのでしょう?」

嗚咽。崩れかける彼女を抱きしめる。

倒れかけた私を、提督が抱きとめる。
本当に、この人は優しいのだ。
私に何も言わず。
ただ、受け止めてくれる。
だからこそ、好きになってしまったのだ。
本当に、もう。

抱きしめる。
細い彼女の体は、今にも折れそうだった。
いや、もう心は折れているのかもしれない。
言葉をどう紡いでいいのか、わからない。
しかし、言わなければならなかった。




「もう、いいんだ・・・。扶桑・・・。」


髪の短くなった彼女が顔を上げる。

「ち、違います・・・。私は山城で・・・。」

零れる涙を拭うこともせず、彼女は懇願する。
私は扶桑ではないのだと。
山城はここにいるのだと。

「いいんだ、扶桑。お前が一人で抱え込むことじゃないんだ。」

抱きしめる。

「っ、わあああああああああああああ!」

山城が、扶桑に戻った瞬間だった。
ボロボロに、痛めつけるように切られた髪の毛を優しく撫でる。
これほどまでに苦しんでいたのだ。

「・・・提督、失格だな。」

扶桑の心臓の音と、自分の鼓動が混ざり合って、不吉な音色を奏でていた。
左胸にある四角い箱は、渡せなかった。

終わりです。

元ネタはkokiaさんの

I believe ~海の底から~
https://www.youtube.com/watch?v=JGroFbSQSek&feature=player_embedded
大事なものは目蓋の裏
https://www.youtube.com/watch?v=LQrWe5_q6-A

からでした。

蛇足


「こんにちは、山城さん!」
目覚めると、明石さんの声が耳に響いた。
「ええ、最高に不幸な気分の目覚めだわ・・・。」
工廠で建造された私を出迎えたのは、工作艦の明石さん。
そして―
左手の薬指に指輪をした、髪の短い扶桑姉様と。
帽子を目深に被った、提督だった。

「「おかえりなさい。」」

ありがとうございました。html依頼出してきます。

蛇足が本当に蛇足だったけどよかった

ええやん、おつ

厳しいこと言うけどマジで蛇足だった

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