モバP「雨にも負けず」 (13)

アイドルマスターシンデレラガールズです。

地の文あります。

神谷奈緒「あたしの幸せ」
神谷奈緒「あたしの幸せ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1455882302/)

一応、これらと同じ世界観のような気がするお話ですが、読んでなくても大丈夫です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1466253289

「……雨、か」

 駅から出てみれば、雨が降ってきていた。

「参ったな……」

 事務所を出るときに天気が崩れそうだ、とは教えてもらったのだが、それまでに営業を終え戻れるつもりでいたので傘を持たずに出てきたのだ。

「……」

 このまま濡れながら帰るのも悪くはないな、と思う反面、もうそんな子供っぽい事をして許されるような年齢ではなくなっている事を改めて認識する。

 それに、せっかく取って来た仕事の契約書が入った鞄を持っているのだ。自分が濡れたとしてもこの書類だけは濡らすわけにはいかない。

「ひとっ走りして傘でも買ってくるかな」

 ここから最寄りのコンビニまでのルートを頭に思い描く。別に走れない距離ではないのでが、やはり書類が気になってしまう。

 どうしたもんか、と頭をひねっていると胸ポケットに入れていたスマホが震えた。

使いこなせている気が一切しないスマホだが、最近はアイドルのおかげでLINEというアプリを遣えるようになったのだ。

 胸ポケットからスマホを取り出し、通知を見てみると案の定、LINEのメッセージだった。

 どうやら傘の配達人が駅まで来てくれるらしい。

「……じゃあ待ってるかな」

 スマホの画面に表示されている、俺の担当アイドルの一人からのメッセージを確認して、短く簡潔に了解、とだけ返事をする。

 思わず出来たほんのわずかな空白の時間。最近は無駄な時間なんて無い位に忙しい毎日を送っているため、こういうふうにぽっかりと時間が空いてしまうとどうすれば良いかわからなくなってしまう。

「雨、か」

 昔は雨が降ると憂鬱になったものだ。

 昔は今よりももっと営業に四苦八苦しながらなんとか仕事を探し回っていた。丸一日歩き続けるなんて普通の事だったし、この仕事に就いてから何足靴をダメにしたかはわからない。

 そんな風に一日を外で過ごす事が多かった自分にしてみれば、雨はどうしても好きになれなかった。

 でも、ある日を境に雨も悪くないと思えるようになったのだ。

 あの日も今日と同じように天気が崩れそうにも関わらず、傘を持たずに営業に出たのだ。

 今日は雨が降るまでに帰るつもりだったからあえて持ってこなかったのだが、あの日は傘を手にする時間すらも惜しかった。

 それまでに散々行った営業の成果なのか、30分以内に来れるなら話を聞いてやるという電話をもらって大慌てで飛び出したのだ。

 結果はあまり良いものではなく、落胆しながら電車に乗り、駅に降りたときに丁度振り出したのだ。

「……ん」

 ぼんやりとあの日を思い出していると、あの日と同じように声をかけられた。

 声の方を見てみると、やはりあの日と同じ表情をしたポニーテールの女の子が立っていた。

「なんだ、迎えに来てくれたのか」

 なんとなくあの日と同じセリフを口にする。来るを知っていたから待っていたのだが、あの日とまったく同じシチュエーションだったからなんとなくだ。

「……誰かさんが大慌ててで出ていくからだろ」

 向こうも察してくれたのか、あの日とまったく同じセリフを返してきてくれた。

「……どうだった?」

 セリフだけではなく、表情までもあの日のままに更に続けられると、まるで今日までの出来事は夢だったのかと思えてしまう。

「ダメだったよ。着いたら37分経っててさ。時間通り来れないところには頼めないって断られたよ」

 自分でも驚くくらいにあの日と同じセリフがスラスラと出てくる。

「そっか……」

「待たせてごめんな」

 あの日もこうやって悲しそうなこの子に謝った。せっかく才能があるのに俺のせいで仕事が無く、輝く事が出来ない原石のままのこの子に。

「大丈夫だよ。プロデューサーさん」

 さっきまでのむすっとした顔をしていた子と同一人物とは思えない優しい笑顔を浮かべながら、あのセリフをもう一度聞かせてくれた。

「止まない雨はないっ!」

 そこまで言うと、今度は照れくさそうに、「だよな?」と、あの日には無かったセリフを付け足した。

「……だな!」

 やはり、今日までの出来事は夢ではないのだろう。今日はちゃんと仕事を取ってきてるし、あの日のように慌てて飛び出したわけでもない。

「で、実際はどうだったんだ?」

 一連のやり取りを終え、ようやく持ってきてくれた傘を受け取りながら、うまくいった事を報告する。

「詳しい話は事務所戻ってからだけどな。きっと満足できるぞ」

「そっかぁ。楽しみだなー」

 傘を開いて二人並んで歩き出す。ここから事務所までは歩いても5分ほど。それまでは少しの間だがゆっくり出来る。

「というか、覚えてたんだな」

 あの日のやりとりを丸々再現出来た事を今更に感心する。俺にとっては雨が嫌いではなくなった日のため印象的だったから覚えていたのだが。

「んー……あー……」

 歯切れの悪い返事が返ってくる。いや、返事とも呼べないうなり声みたいなものだったのだが。

「えっと……、あたし……さ」

「ん?」

 顔を見られたくないのか、持ってきた傘で顔を伏せながら隠すようにしているのだが、ビニール傘と言う事を忘れているのだろうか。

「Pさんとした会話はさ……忘れないようにしてるんだ」

 傘越しに見える顔はここ最近でも滅多に見せ無い位に真っ赤になりながらそう答えた。

 思いもよらない言葉に思わず足を止めて傘越しに顔をまじまじと眺めてしまう。

「……何か言ってよ。恥ずかし……い!?」

 俺の反応が無かったのが気になったのだろう。今まで伏していた顔を上げた瞬間、傘越しに目が合った。

「あ……あぁ……! ああー!!!」

 先ほどまでは真っ赤だった顔が、今まで以上に真っ赤に、それこそ絵具をぶちまけたくらい真っ赤になってしまった。

「そうだった……! これ、ビニール傘だった……! ああ、もう……!」

 空いている方の手で頭を掻きむしりながら盛大に自己嫌悪に陥っている。

「なぁ、奈緒」

 あの日も言った言葉をもう一度言う。

「待たせてごめんな」

 込めた気持ちはあの日とまったく違うものだが、あえて同じ言葉を選ぶ。

「やっと、奈緒に……お前らに虹色橋を架けてやれそうだ」

 まだ赤いままではあるが、きょとんとした表情でこちらを見てくる。

「正直、待たせ過ぎた気もするが、ようやくだ」

 今日取った仕事は今までにない大きな舞台への招待状になる。ずいぶん待たせてしまった気がするが。


「あたしさ……待つだけだったけど、待つのも嫌いじゃないよ」

 先ほどまでの赤い顔から打って変わって、まるでステージの上にいるかのような顔つきになって言葉を紡ぐ。

「Pさんの事、信じてたから。Pさんだから、待ってられたんだ」

「……ありがとな」

 この言葉を聞けるなら、雨も悪くはない。むしろ、好きになれるような気がする。

 これからも雨にも負けず、アイドルと一緒に進んでいこう。止まない雨はないし、雨の後には虹が架かるのだから。

End

以上です。

スカウトチケットのお陰でお迎え出来た喜びはひとしおでした。
ルームで奈緒をつんつんしていると一日が終わるんですよ。不思議ですね。

ちなみに私は雨が好きではありません。むしろ嫌いです。雨に打たれながら仕事するのは苦痛です。定時に終わりゃしねぇ。
しかし、仕事の時間がかかる事の利点は何かしらのネタを思いつくという喜ばしい事のようなそうでもないような、なんとも複雑なものです。おかげでしゅがはさんが免許取りに行ってますが。

とうとう奈緒を迎えた私にとって、後はいつになったらしゅがはさんが来るのか、奈緒の2週目はいつかという事だけに日々頭を悩ませております。

それでは、お読み頂ければ幸いです。依頼出してきます。

乙です
奈緒二枚目は限定の可能性が高い模様(死んだ魚の目)

>>11
やめてくれよ……覚悟するのにもうちょっと時間がかかるんだよ……。

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