鷺沢文香「貴方と私の言葉探し」 (16)


文香のSSです

地の分多め

鷺沢文香「言葉探し」
鷺沢文香「言葉探し」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1464655159/)
の続編です。

蛇足感を感じるかもしれないので、あれで完結だと思っている方は読まない方がいいかもしれません。

ではよろしくお願いします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1465197719

 私と貴方の言葉探しが始まりました。
 

「文香はコーヒー飲まないのか?」
「はい……苦いのは苦手で」
「そっか……こうしたらどうだ?」

 貴方は自分のコーヒーにミルクを入れ、私に差し出しました。

「……まろやかで美味しいです」
「だろ?これで文香もコーヒーを好きになってくれると嬉しいよ」


 コーヒーの甘さを思い出しながら、
 私は自分のページにコーヒーと書きました。

「文香この本、面白かったよ。貸してくれてありがとう」
「それはよかったです。……その作者の別の作品もお貸ししましょうか?」
「いいのか?なら、お言葉に甘えようかな」
 

 面白いと言ってくれたことに安堵しつつ、
 私は貴方のページに、本の作者の名前を書きました。

「おっ、きたきた。冷めないうちに食べよう」
「はい…… いただきます」
「この、噛むたびに肉汁が溢れる感じが堪らないよな」

 貴方は目を輝かせながら、ぺろりとハンバーグを食べ終えました。

「美味しかったな。また来ようか」
「はい…… ぜひお願いします」


 また来ようか、その一言に喜びを感じながら、
 私と貴方のページにハンバーグと書きました。

 貴方のページの言葉が私のページに生まれた時、
 貴方のことを一つ知った気がしました。

 私のページの言葉が貴方のページにも生まれた時、
 私のことが一つ伝わった気がしました。

 貴方と私のページに、同じ言葉が生まれた時、
 貴方と私の思いが一つ近づいた気がしました。

 ノートはどんどん黒くなっていき、
 貴方への思いもどんどん焦がれていきました。

 貴方と言葉探しを始めてから、半年ほど時間が流れました。


 貴方のページもなかなか立派に黒くなりました。
 
 私はノートを読み返しました。

 コーヒー、ハンバーグ、…………

 どれもありふれた言葉のように思えるかもしれませんが、
 私にとっては特別な言葉でした。

 読み返していくうちに、
 まるで一冊の本のようだと思いました。

 言葉自体はどれも短い言葉ですが、そこにはたくさんの思いが確かにありました。

 ミルク入りのコーヒーの甘さ
 好きな作家をおすすめするときの不安や恥ずかしさ
 ハンバーグを食べた時の溢れる喜び


 このノートの全てが私の言葉なのだ、と私は気づきました。


 そのことに気づいた途端、居ても立ってもいられなくなったので、
 私はノートを持って、貴方に会いに行きました。

「文香?今日はオフじゃなかったか?」
「はい……その……プロデューサーさんに用がありまして……
 ……読んでもらいたいものがあるのです」
「ん?なんだ?」


 私の言葉
 
 貴方への思い
 
 探してください
 
 伝わってください


 私はノートを渡しました。

 私は絵本作家になりました。

 言葉の世界に魅了された私は、
 
 言葉の魅力を多くの人に知ってもらおう
 少しでも言葉に触れるきっかけになったら

 そのような思いを言の葉に込め、今日も言葉を紡いでいます。

「先生、コーヒーをお淹れしましょうか?」
 一息つこうかと思ったら、貴方の声が聞こえました。

「プロデューサーさん…… 二人の時は、先生と呼ばないでくださいとあれほど……」
「文香だって俺のことをプロデューサーって呼んでいるじゃないか」

 甘いコーヒーを飲みながら、あなたと言葉を交わします。


 ゆっくりとですが、光り輝く。  
 そんな日々を私は過ごしています。

 私は今日もノートを開きます。

 見た目は普通ですが、たくさんの言葉で飾られた私のノート

「もっと読みたい」
 そう書かれた最初のページを見て、今までのことを少し思い出した後、
 一番新しいページを開きました。


 ずっと探していきましょうね

 思いを込め、私は言葉を飾っていきます。


 私と貴方の言葉探しはこれからも続いていきます。

以上です。

すごく短くて申し訳ないです

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