高峯のあ「アイドルになる」 (117)

 モバマスssです。
 地の文有ります。

 ファンアートです。

 誕生日おめでとう。

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 この世界で一体どれだけのひとが、運命の出会いというものを信じるだろうか。

 仮にそれが存在したとして、自分が巡り合える確率は、どれほどのものなのだろうか。


 それが天文学的な確率なのだろうことは、想像に容易い。


 しかしあの夜の出会いは、俺にとって、運命だと言い切ってしまえるほどのものだった。

 アイドル。それは、女の子が憧れるものの一つ。歌って踊って、ファンに夢を届ける、天使のような存在。

 前線で活躍するアイドルはもちろん、まだ表舞台に立ったこともないアイドルの卵達は、日々研鑽を積む。



 夢を叶えるためには、往々にして対価が必要となることがある。

 それは例えば、気の遠くなるような努力であったり、

 大切なものであったり。



 アイドルは、そうしてまでどうして夢を叶えようとするのだろうか。

 身体や精神を削ってまで昇りつめたい高みからは、果たしてなにが見えるのだろう。

 間近で指導する立場にいながら、時折そんなことを考えることがある。




 高峯のあ。

 俺は時折、彼女の瞳の奥を、そこに映る世界を覗いてみたくなることがある。

 あの夜のことは、いまでもはっきりと覚えている。

 せっかく自分の夢を叶えられる仕事に就いた、そのはずだった。


 人気のしない夜道をひとり帰りながら、自然に溜め息が漏れる。

 自分の感性が一般受けしないのか、それともただ単純に自分のプロデュースのやり方に難があるのか。

 どちらにしても、自分の思ったようにならないことに、苛立ちを通り越して疲れすら感じていた。

 大手芸能プロダクションに勤めて数年、プロデューサーとしての実力も漸く身についてきた。

 担当したアイドルも、B級にまでなら安定してランクを押し上げてやれるほどには、なった。

 ここに至るまでの過程で、自分なりのアイドル育成論のようなものも確立できたし、競争の激しい業界でも、少しは名前が通るようになった。



 しかし、現状には満足できていなかった。

 俺は、数多存在するアイドルの中で、頂点を取るアイドルを育ててみたかった。

 いわゆる、"トップアイドル"と称されるものだ。

 そのアイドルのプロデューサーとして、一番近い位置で、頂に君臨する瞬間に立ち会いたかった。


 そればかりを考え、寝る間を惜しんでアイドルの研究に努めた。


 「アイドル、とっても楽しかったんですけど、私じゃきっと、プロデューサーさんの意には沿えないから」

 数時間前に聞かされたセリフがフラッシュバックする。

 担当していたアイドルに話があるといって呼び出されて、聞いてみればこれだった。


 彼女は普段の明るさからは想像もつかないような声色で、俯きながら俺に話した。

 痛みに耐えるように何度か詰まりながら、もう、どうしようもないことだと言った。



 彼女は、ダンスの出来こそ申し分なかったが、歌の方に少し不安が残る、そんな娘だった。

 それでも、きらきらと光る笑顔に、俺はトップアイドルの素養を見出した。

 俺が彼女をトップアイドルにしてあげたいと言うと、彼女もトップを目指して一心に駆けるようになった。

 しかし、やはり歌声に難があった。


 ファーストシングルの発売にあたり、彼女のたっての希望もあり、ボーカルレッスンを繰り返した。

 彼女をプロデュースしながら、俺は不安になった。

 だけど、たった一人、傍で彼女を支えられる俺が逃げ腰になってはいけないと思い直し、弱音は飲み込んだ。

 普通なら中断させるほどのペースで、彼女はレッスンをこなした。

 この娘なら、トップを狙えるかもしれない。

 そう思えたからこそ、俺はすべてをかけて彼女を応援した。

 だから、止めに入るべき局面で、制止の声が遅れた。



 結果、彼女は喉の不調を訴えて暫く休むことになった。

 発売した彼女の、記念すべき一枚目のシングルは、努力の成果に反して売れなかった。

 このところ、出会った当初に見せてくれた、花のような笑顔を見ることがなくなっていた。

 嬉々として聞かせてくれた趣味の話も、ぱったりと途絶えていた。


 そして俺は彼女の、明らかにやつれた笑顔の裏に、隠しきれない疲労の存在を感じた。

 度重なるレッスンによる身体の疲れと、振るわない結果に対しての気疲れ。


 悩んだ末に下した決断だったのだと、ドロップアウトを選んだ彼女の涙が主張しているようだった。


 俺はというと、頷くこと以外になにもできなかった。

 行き場のない焦燥感が、身体中を駆け回っていた。

 自分の靴音だけがいやに響く路地を歩きながら、俺はさっきから同じことばかりを考え続けている。


 俺は彼女に、満足な指導やプロデュースを行えていたのか、ということ。


 彼女の望むようにレッスンも組んだし、可能な限りの時間を割いて練習に付き合った。

 トップアイドルを目指して、二人で頑張っていたはずだ。


 そう思った数瞬後、再び彼女の言葉がリフレインする。


 『私じゃきっと、プロデューサーさんの意には沿えないから』

 彼女はたしかにあのとき、俺の意に沿えないと、そう言った。

 暫く愕然として、思わず足まで止まってしまう。


 トップアイドルを目指して、二人で頑張っていた、か?


 彼女は俺の夢を叶えるためにアイドルをしていたはずではないのに。

 彼女は自分が輝くために、そしてファンに夢を与えるためにアイドルを始めたはずなのに。

 彼女は終ぞ、自分に甘かったことはなく、申し分ない努力を積み重ねていたのに。


 ただ、ほんのひとかけらだけ。才能と呼べるものが、足りなかっただけで。


 彼女は最後の最後まで、俺の夢のことを気遣っていたことに、今更になって気付いた。



 成功を焦る彼女の気持ちを、もう少しだけでも理解できていたなら。

 気持ちばかりが逸り、積み重なっていた負担に、もう少し早く気付けていたなら。

 彼女はあれほどまでに傷つく必要は、なかったんじゃないか。

 自分の脈拍が、急にうるさく聞こえてくる。

 時折顔を撫でるように吹く夜風が、背筋から急速に熱を奪う。


 再び歩を前に進めながら、ひたすら自分のことが嫌になった。

 どうしてこうなったんだろう。

 こんなことがしたかったわけでもないのに。

 その夜は、月が鮮明に見えた。


 環境音すらも闇夜に吸い込まれてしまったかのように、辺りは静かだった。

 その中を歩いていると、ふと数メートル先に、なにかの気配があることに気付いた。



 電信柱にもたれたその人影を注視していると、どうしてだか全身が粟立つような、落ち着かない気分に陥る。

 彼女は、僅かな月明かりと、明滅する電灯の頼りない瞬きにさらされていた。

 まるで精巧に創られたドールのようだと、そんな冗談みたいなことをつい考えてしまうぐらい、人間離れした造形がそこにはあった。

 物事を審美するときに、美しいという言葉を使うのは無粋であると、俺はそう思う。

 必要なのは、その美しさがどのような類のものなのかであり、それこそ美しいという言葉を用いずに、いかに美しいかを批評するかが有意であると、俺は考えていた。


 しかし夜空を見上げる彼女の横顔を見つめていて、無意識に俺が口にした言葉は、その主義に反するものだった。

 理性をはるかに凌駕した、もはや根源的な感情は、美しいという形容以外は相応しくない。


 俺の言葉を受けてか、彼女がこちらを振り向き、切れ長の瞳が、指を滑らせればさっくりと切れそうなほどに鋭い視線が、俺を突き刺す。

 銀色の髪が、静かになびく。

 のあ「……貴方」


 永遠とも感じられる沈黙を破って、彼女が口を開いた。温度を感じさせないその表情に見据えられて、我に返る。

 P「あ、その、俺は怪しいものじゃないんだ」

 慌てて取り繕ったが、彼女は全く意に介していないようで、一度だけ目を細めたかと思えば、


 のあ「どうして、涙を流しているのかしら」

 もたれていた柱から身体を離して、こちらへ一歩、また一歩と、歩み寄ってきた。

 反射的に手を目元に持っていくと、涙が一筋、頬を伝っている。

 実際に触って確かめるまでもなく、視界の滲みから泣いていることなんてわかりきっている。


 P「……取り返しのつかないことをしてしまったことに気付いたんだ」


 のあ「……そう」

 息を呑むような美しさを絶えず振り撒きながら、彼女は俺の目の前で立ち止まる。

 改めて彼女を近くで眺めると、想像以上に上背があり、佇まいは凛々しい。


 のあ「……私に、なにか?」

 彼女がそう言うまで、自分が彼女のことを眺め続けてしまっていることに気付けなかった。

 P「いや、なんでもないんだ」

 P「星でも見ていたんだろ? 邪魔して悪かったよ」


 そう言って彼女の隣を通り過ぎる。

 のあ「……貴方」

 後ろからの声に振り返ってみると、彼女がこちらを向いていて、なにを考えているのかもわからない瞳と視線が絡む。


 思えば、ここで彼女の呼び掛けに応じた時点で俺は彼女に惹かれ始めていたのかもしれない。


 なにも言わないで彼女を見つめ返すことで、言葉の続きを促す。

 のあ「ウイスキーはお好きかしら」 

 僅かに彼女の口角が上がったような気がして、気が付けば馬鹿みたいに俺は首肯してしまっている。

 ぼうっと橙の照明が一つ灯る外観の建物の、無骨な木製の扉を引くと、店内も橙の光に満ちていた。

 最初に彼女がカウンターに腰掛けて、遅れて俺がその隣に腰掛ける。

 店には、客はおろか、店員すらいないようだった。


 辺りを見回していると、カウンターを挟んで向こう側の扉から妙齢の男性が現れた。

 俺はシーバスリーガルを、彼女はジャックダニエルを頼んだ。

 男性は黙って頷くと、慣れた手つきで注文したものを作り始めた。


 決して広くはない店内は、額に入れられた油絵が数点、壁に掛けられている。

 控えめに流されているジャズの音色を聴きながら、俺と彼女は暫く黙りこくったままでいた。

 どうして彼女は、俺をここに連れてきたのか。

 P「なあ」

 海の底のような心地よさに沈む店で、二人。

 まるでこうなることが当然であるような彼女の振る舞いに、俺は尋ねる。

 P「どうしてあんたは――――」

 のあ「……無粋なことは、口にするものではないわ」

 言葉を投げかけようとした俺を視線だけで黙らせて、彼女は静かにグラスを傾けた。

 開きかけた口を閉じる。ブルーノート・スケールが耳に心地良い。

 P「……アイドルの、プロデューサーをしているんだ、俺」


 それは、俺が傷つけたアイドルの話だった。

 なぜ、それを彼女に話そうと思い立ったのかは、説明できない。

 自分の愚かさを誰かに聞いてほしかったのかもしれない。その相手が偶然彼女だっただけかもしれない。


 不用意に触れれば壊れてしまうような、脆いものを持ち上げるように、話し始める。

 P「誰よりも輝ける、一番に煌めけるアイドルをプロデュースしたくて。それだけの理由で」


 P「ずっと勉強して、色んなひとに頭下げて、必死だった。そこまでして頑張ったのは、そうすればいつかは叶うって、どこかで願っていたからかもしれない」

 P「本物のトップアイドルというものを、見てみたかった」

 P「失敗も沢山したし、肉体的にも、精神的にも辛かった。だけど少しずつでも夢には近付けていた」



 P「でも、実力がつけばつくほど、俺が目指していることがどれだけ難しいかがわかるんだ」

 P「ひょっとして、夢は叶わないんじゃないかって、それを認めてしまうのが怖くて、」

 喉の渇きを覚えて、一度グラスを煽った。

 隣に座る彼女は、なにも言おうとしない。


 P「……担当しているアイドルをトップアイドルにするために、無理を強い続けてしまった」

 なんとかそれは、声になった。

 P「その娘は、アイドルを辞めてしまった」

 P「俺は自分の夢のために、未来ある娘を犠牲にしてしまったんだ」

 のあ「……その彼女は、アイドルになることを自ら選んだのでしょう?」

 のあ「彼女自身、トップアイドルになりたいとも思っていたはず」

 グラスの中の氷を指でつつきながら、彼女は言った。

 P「それは……そうかもしれないけど」


 のあ「頂点に立つまでに折れてしまったのは、貴方だけの責任ではないと思うわ」

 その言葉は、静かでいて、暫く俺の耳にまとわりついて離れなかった。


 P「だけど、限界を超えて無理をさせたのは、俺の責任なんだ」

 P「トップアイドルでなくても、十分輝ける娘はいる」


 P「いまとなってはもう、どうしようもないことなんだけど」


 俺が夜道で涙を流した原因は、きっと今日会ったばかりの彼女が言ったことに、あるのかもしれない。


 彼女がトップを獲らずしてアイドルを続けることを諦めたのは、なにも無理をしすぎただけじゃないということには薄々勘付いていて、

 目指すべき頂点までの間に、信じられないほどの距離があっただけに過ぎないことを、痛感したのだと。

 決して言葉にはしなかった俺の不安を、嗅ぎ取ってしまったんじゃないかと。

 トップアイドル。

 文字通り、すべてのアイドルの最前線で輝く、大きな存在。

 最高の水準のパフォーマンスを維持し続け、ろくに休むことすらできない身。

 常に他のアイドル達にその座を追われ続け、自らは自分自身と闘い続ける、そんな存在。

 トップアイドルだからといって、よいことばかりが待ち受けているわけではないことは火を見るよりも明らかで、それでもなお、彼女達はそこに向かって邁進することをやめようとはしない。


 すべてをかなぐり捨ててまで、掴み取りたいなにかがそこにはあるのだろう。

 だから俺は、どれだけ辛くとも前へ突き進み続けるそんな彼女達に魅せられて、この業界を選んだのだ。

 P「こんな下らない話を聞かせてしまって、すまない」

 グラスの残りを飲み干して、立ち上がる。

 P「会計は俺が持つよ」



 のあ「……貴方は」

 座ったままの彼女が、会計を済ませて立ち去ろうとする俺を引き止める。

 のあ「これから、どうするつもりなの」


 P「わからない。でも、もうどうだっていい」

 俺がそう言うやいなや、彼女が立ち上がった。



 のあ「私は、納得していないわ」

 二メートルはあったお互いの距離を瞬時に縮めて、彼女が俺の手を強く掴んだ。


 のあ「私を、トップアイドルにしてみせて」

 P「……いま、なんて言った?」

 のあ「貴方の手で、私をトップアイドルにしてみせて、と言ったわ」


 どんな感情が湧き上がるよりもまず、呆気に取られてしまった。

 P「な、なぜまた急にそんなことを」

 気が動転しながらもなんとか尋ねると、真剣な表情をした彼女は答える。


 のあ「……私はただ、確認して、納得したいだけ」

 その言葉の重みに、思わず緊張する。


 納得とは一体、なにに対してのものなのだろう。

 のあ「そのためには、トップアイドルになる必要があるの」

 彼女が俺の瞳の奥を覗き込みながら、淡々と呟く。


 P「……理由がどうであれ、俺があんたをプロデュースする道理はないだろう」

 P「アイドルになりたいというのなら、プロダクションに行ってオーディションを受ければ済む話だ」

 苦々しい気持ちで呟く。


 のあ「それだと、意味が薄らいでしまうわ」

 彼女が一度だけ、目を伏せた。

 のあ「貴方でなければいけないの」

 俺には理解できなかった。

 P「なぜ」

 彼女を導いてやれなかった俺に固執する理由が。


 のあ「貴方が、卯月の担当をしていたから」

 この言葉を、彼女の口から聞くまでは。

 店を出て、特にどこという宛てもなく歩く。

 一日働き詰めた身体は弱々しく悲鳴を上げたが、立ち止まってしまうと次の一歩が二度と出ない気がした。

 俺の隣を歩く彼女は、のろのろとした俺の歩調に合わせてくれている。


 P「……あんたは」

 前を向いたまま、彼女に問いかける。

 P「卯月の知り合いだったのか」

 のあ「……深くはない、付き合いだったわ」


 皮肉にもその言葉は、俺の気を僅かながら軽くした。

 P「彼女が、アイドルをしていることは?」

 のあ「知っているわ」


 P「……実は、彼女はもう、アイドルではなくなったんだ」

 のあ「この前会ったとき、もうアイドルを諦めると言ったわ」


 アイドルを諦める。その言葉が胸に深くに刺さる。


 幾つか、片手で数えられるほどの数の星が瞬いているのが見える。

 依然として空は黒々とした夜に覆われていて、明ける気配はない。

 P「もしかして、彼女の代わりにトップアイドルになろうって、そういうことなのか」

 彼女は小さく、しかし確実に首を横に振った。

 そして、慈しむような優しい声で、囁いた。


 のあ「…………卯月は、心が折れてしまってもう動けなくなるその直前まで、ひたむきにトップアイドルを目指していたわ」

 のあ「……私は、彼女の抱くその輝きのようななにかに魅せられて、」

 のあ「……彼女の得たがった高みに到達できれば、私も同様に抱けるのかと思ったの」



 のあ「彼女は、担当してもらっていたプロデューサーのお陰で、本気でトップアイドルを目指すようになったとも言っていたわ」



 のあ「…………私は、貴方の下で確認して、納得したい」

 のあ「世界の輝きを。卯月が魅了されたという、その輝きの美しさを」



 乏しい月明かりだけがしんしんと俺と彼女を照らし、俺は足を止めて、彼女の方へ向き直る。

 P「……そもそもあんたは、どうして俺が卯月のプロデューサーだとわかったんだ」

 のあ「……」

 彼女は押し黙った。

 P「……彼女の苦しむ姿を見たのなら、どうしてその上で、俺にアイドルにしてくれなんて、言うんだ」


 逸れていた視線が再び俺を見据えて、大切な言葉を唱えるようにして、彼女は答えた。

 のあ「……初めて、彼女に」

 のあ「心を揺り動かされたから」

 彼女と卯月の間に、なにがあったのかは知らない。

 心を動かされたという、ただそれだけの、簡潔な答え。


 だけど、根拠もなく、いま彼女が抱えている感情は知っている気がした。

 P「あんた、名前はなんていうんだ」


 のあ「……高峯、のあ」


 P「……いい名前だ。俺はP」

 一度だけ空を仰ぎ見る。

 P「明日、改めてうちの会社に来てくれないか。プロデュースをするにあたって詳しい話がしたい」

 のあ「ええ、わかったわ」




 俺が彼女の担当になることを決めたのは、卯月のことが心に引っ掛かったとか、彼女に対する罪滅ぼしということもあったかもしれない。

 だけどただ単に、俺も確認して、納得したかった。


 卯月の求めた世界の輝きと、その正しさを。

 次の日の、午後九時ごろ。

 自分以外の全員が帰宅した事務所で、俺は彼女のステータスを確認していた。


 P「高峯のあ、二十四歳」

 P「奈良県出身、B型、右利き」

 P「趣味は天体観測、か」

 また、午前の内にプロダクションで測定した彼女のプロポーションも確認する。


 はっきりいって、化け物じみた数字だった。

 加えて、恵まれているのはプロポーションだけでもなかった。

 測定の後に、空いたスタジオを利用してダンスレッスンを行った。


 これからの方向性を決める参考のために、どれだけ身体が動くのかを確認するつもりだったが、結果は予想以上だった。


 レッスンを担当したトレーナーさんが自信を無くしてしまうほど、彼女には身体能力があったのだ。

 体幹にブレがなく、手足の先まできっちりと伸ばしきれていて、動きにはキレがある。

 ボーカルレッスンを行ったときも、俺は開いた口が塞がらなかった。

 彼女は突き抜けるようなハイトーンから、しっとりと艶のある歌声まで、自在に声色を変えることができた。

 声量も、音の伸びも、どれをとっても文句はなかった。


 なによりも凄いと感じたのは、彼女のその適応力だった。

 一度こうしろと指示したことが、次の瞬間にはもうカバーされていて、あまつさえ、指示した以上に良くなっている。

 こういうことが、少なからずあった。

 ひとたびモデルの仕事をこなせば、新人であるにも関わらず紙面一ページを丸ごとかっさらった。

 感情を表に出さず、含みを持たせた発言は、強烈な印象を周囲に振り撒いた。

 期待の新星として取りざたされた彼女に関する噂は、瞬く間に全国に広がった。


 そして、通例においては異例の速さで、彼女のファーストシングルの発売が決定された。

 世間は面白いように彼女に食いついた。

 信じられない数の仕事の依頼が彼女に舞い込み、その中には企業CMのオファーまであった。



 しかし、ことプロダクション内においては、彼女の存在は浮いていた。


 彼女が事務所内でくつろいでいる姿を見たという声はないし、まずもって彼女が俺やトレーナーさん以外と話すことは殆どなかった。

 遠巻きに彼女を窺う他のアイドル達の姿など、まるで眼中にないようだった。


 彼女は可能な限りの仕事を受け、それでも空いた時間は、レッスン室に籠もって鍛錬を積んだ。

 そんな出鱈目みたいなスケジュールを、彼女は平然とこなした。

 幾つかの色が混ざった感情を持て余しながら、ある日のこと。

 P「高峯」

 俺はレッスン室から出てきた彼女に声をかけた。



 ベテラントレーナーさんにみてもらってのレッスンを終えた彼女は、額に浮かべた汗をタオルで拭いながら、やはり泰然と構えていた。

 P「お前、少し張り切り過ぎじゃないか」


 その言葉の八割は、働き詰める彼女の身を案じる気持ちで、一割は、怒りに似た感情で、残りの一割は、遣りようのない疑問だった。

 恵まれた容姿に、恵まれた才覚。

 彼女は容易に世間に受け入れられ、彼女もまたそれに応じる。それはもう、成功と評して差し支えがないほどに。

 それでもまだ、時間を見つけては自主的にトレーニングを重ね、自らを厳しく律する。


 のあ「……トップアイドルに到達するには、まだたくさんのものが圧倒的に足りていないの」


 彼女のそのストイックさに、デジャビュのような、なにかを感じる。

 アイドルというものに、身をやつした少女の影が、重なる。

 のあ「……私なら大丈夫」

 凛と澄ました顔で、彼女が答える。そしてそれはきっと、見栄ではない。

 P「駄目だ」

 だけど俺は、無理やりにでも、仕事とレッスンの量を減らさせた。

 彼女は食い下がることもなく、素直にそれを受け入れた。



 二週間後には、シングル発売記念のデビューライブが控えている。

 あっという間に時間は過ぎ、ライブ当日に至る。


 観客の動員数は上々だった。

 今回のライブは、ライブバトル形式ということで、彼女とは別にもう一人アイドルがライブを行う。

 まずお互いにライブを行い、盛り上がり方などから、勝敗を決定する。

 勝ったからといって、なにかがあるということもないのだが、だからといって負ける理由にはならない。

 同じプロダクションのアイドルが相手だとは聞いていたが、それが誰かまでは把握していなかった。


 といっても、彼女ならまず負けることはないだろうと、そう思えるほどには仕上がっていた。

 控室で待機していると、誰かが扉をノックした。

 扉を開けると、その先にはまだ高校生ぐらいの女の子が緊張した面持ちで立っていた。

 少女の後ろには、彼女の担当プロデューサーらしき女性がにこにこと笑いながら控えている。


 みく「あ、あのっ、私、前川みくといいます! 挨拶に参りました!」

 不慣れな言葉を必死に覚えたのだろうか、たどたどしい口調で頭を下げる少女に、微笑ましく思いながら、部屋の中に通す。

 P「ごめんね、緊張したろ。こちらから向かわせるべきだったかな」


 いかにも業界に入り立てという様子の彼女を見て、少しだけ申し訳ない気持ちになった。

 みく「いえ、だ、大丈夫です……」

 彼女は謙遜しつつも、俺の言葉に幾ばくかは安心したようだった。

 P「そっか、まあとにかくありがとうね。おーい、高峯」

 部屋の奥に向かって声を投げかけると、すぐに彼女は現れた。

 前川と名乗った少女は、彼女の姿を見ただけで怯んでしまった。

 無理もないだろう。自分よりも二十センチほど背が高い、髪色が銀の美女が相手なのだから。


 みく「あ、ま、前川みくです! 今日は、よろしくお願いします」

 すぐにはっとした様子で挨拶をする少女を見つめながら、彼女は薄く微笑んだ。

 のあ「高峯、のあよ」

 そうとだけ言って、彼女は右手を少女の方に差し出した。

 少女はおずおずと握手に応えると、やっと緊張が解けてきたようだった。


 みく「ありがとうございます、精一杯楽しんで頑張ります!」

 失礼します、と言い残して、少女は帰っていった。


 結果だけいうなら、その日行われたライブに高峯のあは、惜敗した。

 その日、すべてを終えて事務所に帰りついたときには、午後十時をまわっていた。

 荷物を置くなり、普段は近寄ることさえしなかったソファに腰掛けた彼女を見て、どう声を掛けたものかと少し悩んだ。


 P「今日の結果だが」

 俺がそう話し始めると、彼女がぴくりと反応を示した。

 P「お前は客観的に、今日の自分の出来についてどう思う?」


 彼女は暫く考えて、慎重に答えた。

 のあ「……目立ったミスはなかったわ」

 彼女の言う通り、ライブの内容は文句無しだった。

 P「そうだな。俺も客席で見ていて、ミスはなかったと思う」

 P「それに、前川さん、だったか、彼女のライブも見たが、正直なところ完成度でいえばお前の方が上だった」


 P「でも、だ。どちらのライブが盛り上がったかと聞かれれば、俺も前川さんの方だと答える」

 彼女の瞳が、俺を捉える。理解に困るとでもいいたげな表情だった。


 P「一つ、聞きたいことがある」

 人差し指を立てて、彼女に問いかける。



 P「お前はアイドルをしていて、楽しいか?」

 のあ「……楽しい、とは、」

 P「言った通りの意味だ。楽しみながらアイドルができているか?」


 のあ「……そういった感情がまったくないといえば、嘘になるわ」

 のあ「……でも、仮にそういった感情が数量で数えられたとして、私のそれが、貴方の想定する楽しいという感情の閾値に達していないだろうことは、わかる」

 のあ「まさかそれが、今日の敗因だとでもいいたいわけなの」


 P「勝ち負けはどうでもいい。だがライブに勝った方が、より観客を沸かせたということだというのもまた、事実だ」

 その言葉を受けて、彼女は少しだけ俯いた。

 P「……俺はな、高峯。お前が心配なんだ」

 P「お前がトップアイドルになりたいという気持ちはわかる。そのために努力を欠かしていないことだって、」

 P「常に意識を強く、高く持ち続けているのは、たしかに評価するさ」


 P「……だけどな、どうしても、いまのままじゃ足りないものがあるんだよ」


 P「お前は、ビジュアルも歌声も、センスだって持ってる。でも、心の部分が足りてないと思うんだ」

 この言葉は、彼女にどう刺さってしまうのだろうか。

 P「心だなんて、非科学的なことを言うと思わないでくれよな」

 P「観客だって全員人間だ。人間的な、情緒的な部分に訴えかけることだって、十分効果的だとは思わないか」



 P「なによりお前が、卯月に惹かれたように」

 彼女の瞳が、少しだけ見開かれたような気がした。

 P「しかし、俺が楽しめと言ったからといってすぐに楽しめるようなら苦労はないが、恐らくそれは難しいだろう」

 P「俺がお前に願いたいのは、もう少し心を開いて、周りのみんなと接してほしいってことだ。そこからでいい」


 P「……まあ、お前だって言いたいこともあるだろうが、俺はお前の担当プロデューサーなんだ」

 P「お前がレッスン室に籠もってたり、息つく暇なく仕事をこなしている姿を見ていると、心配にもなる」


 P「たまには息抜きも兼ねて周りと交流をはかってみるのも、いいんじゃないか?」

 表ではそう言いながら、内心で俺は自分自身に吐き気がした。


 どの口がそんな綺麗事を抜かしやがる。

 心配になる? 息抜き? よくもまあそんなことが言える。


 そんなことを考えられないで、彼女を追いやったのは誰だ?

 お前が卯月を傷つけたんだ。

 お前が彼女の夢を、駄目にしたんだ。



 同じ轍を踏むまいと、卯月を思い出すたびに、自分というものがたまらなく嫌になる。

 それは遅効性の毒のように、長い時間をかけて俺の首を絞めるのだろう。

 彼女はまた暫く黙りこんで、やがて小さく頷いた。

 のあ「……努力してみる」

 P「うん、」


 P「ただ、負けたとはいえ今日のお前のライブは良かったぞ」

 のあ「……それは、本当かしら」

 P「嘘ついてどうするんだよ。本当のことだ。練習の成果もあって、かっこよかったと思う」

 俺がそう言うと、彼女は少しだけ、嬉しそうに微笑んだ。


 のあ「……感謝するわ」

 P「喉、乾かないか?」

 戸棚を開けながら声をかける。

 P「インスタントコーヒーでよければ、一緒に淹れてやろうか」

 こういうときに、こんな振る舞いしかできない自分が嫌になる。


 のあ「お願いできるかしら」



 彼女のデビューライブは、こうして終わりを告げた。

 それからのプロデュースは、怖いくらい順調に進んだ。

 ファーストシングルの売れ行きが想定していたよりも遥かに多く、音楽番組に出演する機会が増えた。


 いよいよ本格的にメディアに露出することが増えて、彼女の謎めいた魅力はあれよという間に広がる。

 番組中にしれっとプライベートなどを詮索されると、決まって難しい言葉を並べ立てて相手を煙に巻き、それが観衆には受けた。


 一方で、プロダクション内にいるときの彼女は、大きく変わったように思う。

 頑なに他人を、もっといえば人見さえ避けていた彼女が、それをやめた。

 最初に彼女に興味を示したのは、年少組のアイドル達だった。


 まず佐城雪美という少女が彼女に懐き、ぎこちなさはあれど二人がコミュニケーションをはかれているのを見た他の娘が、次々に彼女に話しかけ始めた。

 相も変わらず表情は乏しいままだったが、彼女もまた、戸惑いながらも少女達を受け入れたように思う。


 特に佐城雪美は彼女のことをいたく気に入ったようで、それ以来二人が一緒に行動している姿は何度も目撃されている。

 それをきっかけに、緩やかにではあるが高校生組や大人組との交流も深まっていった。

 彼女は別に、自発的に話そうとしないだけで、言葉も通じれば、冗談だって話すのだ。


 やがて、彼女のその交流の広まりは、彼女の仕事にも影響を及ぼし始め、以前よりも彼女の表現や印象に丸みがついた。

 ファンの数も加速度的に増え続け、彼女は通常では考えられないペースでアイドルのランクを上げていった。


 シングルを出せば飛ぶように売れ、モデルとして雑誌に乗れば書店で売り切れが相次ぎ、

 ミステリアスな、時としてユーモラスなそのキャラクターは、幅広いファン層を得た。

 いつだったか、俺が営業から帰ってきたときに、佐城雪美に影響を受けたのか、メイド服姿の彼女と鉢合わせたことがある。


 しかもそのメイド服というのが、ヴィクトリアンメイド型のしっかりとしたもので、ご丁寧にホワイトブリムまで揃えていた。

 驚きのあまりなんの言葉も発せない俺をよそに、彼女は事務所の床を掃除に給仕にと、完璧に家事をこなしてみせた。


 このとき、いっそこの姿で仕事に出してみると面白いかもしれないな、と思ったのが、ミステリアスメイドの誕生の瞬間である。


 また同時期に、ライブバトル以降なにかと親交のあったらしい前川みくと、もう一人アナスタシアという娘の三人で結成したユニットは、全員が猫耳を着けるというコンセプトがあったのだが、彼女は猫耳にメイド服姿という、なんとも欲張りな格好でライブに出場した。

 普通に考えれば、印象の強い要素が多すぎて衣装負けを起こしそうなものだが、彼女はなんとも見事に着こなしてみせた。

 彼女のポテンシャルのなせる技だった。

 それに味を占めたのか、またあるときの彼女は、網目の粗いバニーガール姿に身を包んでいた。

 デスクワークをしていたら唐突に事務所の扉が開いて、そこから真顔のバニーガールが入ってきたときの俺の気持ちも汲んでほしい。


 しかも、それについてなにかしらの反応を求めてくるでもなく、彼女は何食わぬ顔をしてソファに腰掛けて読書をしていた。

 後になって聞いてみれば、イベントのために衣装サイズの確認として着たバニーを着替えないまま、試着室から事務所に帰っていたらしかった。

 そのバニーガールのイベントも終わり、もう彼女がバニーコスをしないとわかったときに、ひどく安心したことを覚えている。


 いくら彼女とはいえ、いや、むしろ彼女であるがゆえに、あの際どい衣装は目のやり場に困ったからだ。


 だけど、もう少しだけ、兎の呪いは俺についてまわることになる。

 のあ「貴方からは私がなにに見える? ……ひと? ……兎?」


 ある雑誌の特集で、モデルが色んな動物の格好に扮して撮影するという企画があって、彼女にふられた動物は、兎だった。

 ……兎だった、はずなのだが。

 衣装決めの段階で、彼女が俺に見せてくれたその姿に、思わず目を奪われてしまった。


 いつものようなサイバーな模様もなく、牡丹雪が幾つも集まったような白色のベースに、要所に金色をあしらった彼女は、寒気を覚えるほど美しかった。

 異性に抱くような綺麗や美しいといった美辞麗句以上に、女神を象った彫像を目の前にしたような、絶対的に屈服させられてしまう感覚があった。


 偶像。形容するなら、まさしく彼女は偶像というべきだった。


 その後、出来上がった雑誌の本稿を見てみると、記事を担当したひとは、彼女を"トランセンドバニー"と形容していた。

 あの彼女をして、超越する兎とは、なるほどよく考えたものだと感心してしまった。


 人間を越えてしまったと思えるほどの美しさと、微かに紅色に色づいた頬の暖かみが眩しい。

 さらに季節は幾つも巡り、彼女の勢いは衰えることもなかった。


 あれだけ懊悩していた日々が、遠い過去に消えてしまったのではないかと思えるほどだった。

 彼女がトップアイドルになるのは、もはや時間の問題だった。


 あと一つ。なにか決定的なイベントをこなせば、恐らく世間すら彼女をトップアイドルだと認めるだろう。

 決して単純で簡単な道のりではなかったが、それでも彼女だったからこそ、ここまでこれたのだと感じる。

 それはまさに、心ここにあらずといった様子だった。

 P「高峯」

 のあ「…………」

 P「おい、高峯」

 彼女の顔の前で手を何度か降ってやると、ようやく彼女の意識がこちらを向いた。

 のあ「……なに、かしら」

 P「二人とはいえ、いまはミーティング中だから、話くらいは聞いてくれ」

 彼女が、どこか浮かない表情をしているのには気付いていた。


 のあ「…………善処するわ」

 P「……体調でも優れないのか?」


 それは、なんでもないある日のことだった。


 のあ「……ひとつ、わからないのだけど」

 のあ「……私は、ちゃんとアイドルになれているかしら」



 それは、プロデュース以来初めて耳にする、彼女の弱音だった。

 結局、それを言ったきり彼女は黙りこくってしまった。


 顔色も優れなかったので、今日のところは大事を取って早退させた。

 自分はアイドルになれているか。


 彼女のその言葉には、不安が滲み出ていた。

 P「仕事の出来や、仕事に向き合う姿勢を鑑みても、お前は立派にアイドルとして活躍できている」

 俺がそう言っても、彼女は曖昧に頷くだけだった。


 なにか、あったのだろうか。

 ミーティングを終えて、デスクに向かいながらも考えてはいるが、特にこれといって思い当たるものはなかった。


 するすると身体を這い上がって不安感が、また現れた。

 ふと、仕事用の携帯に着信が入る。



 こんなときに誰からだろうと思いながら、着信画面に記された番号を見て、なにかの間違いじゃないかと思った。

 思わず落としそうになった携帯を掴みなおして、改めて確認する。


 なにも間違えていることはなく、それは懐かしくも見慣れた番号だった。


 どうして、いまなのだろう。


 意図せず震えてしまいそうになる指で携帯の液晶をなぞり、電話を取る。


 「……もしもし」

 柔らかな声が、耳朶を打つ。

 「私のこと、覚えていますか」

 忘れられるはずがなかった。

 もう何年も入っていない喫茶店に入る。


 あまり広くもなければ、変に趣向を凝らしてあるわけでもないその店は、記憶の中の風景のままだった。

 直接話したいことがあると言われて、待ち合わせ場所を決める段になって、どうしてかここが思い浮かんだ。

 ここにしようと伝えると、彼女も同じところを考えていたと言って、笑った。


 いつも二人でミーティングをしていた席に、一直線に向かう。

 もう既に彼女は到着していて、俺に気付くと小さく手を振ってくれた。


 「プロデューサーさんは、全然変わっていませんね」

 そう言って微笑む卯月は、やけに大人びて見えた。

 時間が止まったんじゃないかと思うくらい静かな店内には、客が俺と彼女しかいなかった。


 卯月「のあさんのことなんです」

 注文したアップルティーを一口飲んで、彼女はそう言った。

 卯月「プロ……Pさんは、いま、のあさんの担当プロデューサーをしてらっしゃるんですよね?」


 卯月「いま、のあさんの様子がおかしくなったり、していませんか?」


 そう言われて思い浮かべるのは今日の昼間のことで、俺の反応で察した彼女が、心配そうな顔をした。

 卯月「やっぱり……」


 P「高峯と、なにかあったのか」

 俺がそう聞くと、気まずそうに彼女は頷いた。 

 そうして卯月は、まず、二人の関係性についてから、話し始めた。

 卯月「わたしがアイドルをしていたとき、自主練でジョギングしてたんです」

 卯月「いつも夜に、大きな公園の中を突っ切って走っていたんですけど、そこでのあさんと初めて会ったんです」


 卯月「のあさんはいつも星を見ていて、わたしと話してくれるようになってから、星の話をたくさん聞かせてくれました」

 卯月「わたしはお返しに、アイドルの話をのあさんにしました。それから暫く、星とアイドルの話をお互いにし合ってました」


 卯月「……わたしがアイドルを諦めるって決めたときも、のあさんは傍で相談に乗ってくれたっけ」

 卯月「それからすぐに、のあさんがアイドルとしてデビューしたのを知ったときは驚きましたけど」

 少しだけ、くすぐったそうに彼女は笑った。

 卯月「わたし、のあさんのこと、ファンとして応援してるんです。ライブにも何回も行きましたし」


 卯月「のあさんの歌声を聴いていると、元気になれるんです。前を向こうって、そう思えるんです」

 彼女が目を閉じて、小さく息を吐いた。


 そして、もう一度カップに口をつけてから、彼女は言った。

 卯月「Pさん、いまわたし、学校の先生になる勉強をしているんです」


 P「学校の、先生」


 卯月「はい。アイドルを諦めて、暫くなにもする気になれなかったんですけど」

 卯月「のあさんの歌を聴いたり、テレビでのあさんを観ていると、わたしも頑張らないとなって、そう思えるようになって」


 卯月「夢が、また見つかったんです」

 そう言う彼女の顔は、晴れやかだった。

 彼女のそういう表情を見ることができたのは、いつ以来だろうか。


 卯月「いっぱい頑張らなきゃいけないんですけど、その分だけやり甲斐もあって、楽しいんです」

 卯月「それでも挫けそうになったときは、のあさんの歌を聴いたりして、休憩したりして、えへへ、なんとか頑張れています」


 卯月「いつか、のあさんにお礼を言いたいと思ってました」


 卯月「でも、わたしがアイドルを辞めてから、ずっとのあさんとは会えませんでした」

 卯月「だから昨日、気まぐれに当時走ってた公園に散歩に出かけたとき、本当に驚きました」

 卯月「だって、あのときみたいにのあさんが、星を見ていたから」


 卯月「わたし、嬉しくって。のあさんといっぱい話しました」

 卯月「お互いのこととか、アイドルのこととか、いっぱい」


 卯月「でも、わたしがのあさんに、もうトップアイドルですねって言ったら、急にのあさんが黙っちゃって」


 卯月「そしたらのあさんが、おかしなことを言うんです」


 卯月「貴女に近付けたのかしらって。わたしに言うんですよ」


 卯月「わたしはもう、とっくの前に、その、辞めたじゃないですか」


 卯月「とっくに追い越してますよって、そう答えたら、どこかへ行ってしまったんです」

 卯月「あんまり様子がおかしかったから、どうしても気になったんです」

 卯月「わたしは、もしかしたら、とんでもないことを言ってしまったんじゃないかって」

 卯月「のあさんを傷つけてしまったんじゃないかって、それが怖くて……」




 高峯のあは、終ぞブレイクすることのなかった少女の輝きに魅せられて、シンデレラの舞台に躍り出た。

 彼女にとってアイドルとは、その少女が敷いてくれた下地の上に成り立っているといっても、誇張ではないのかもしれない。


 卯月は、いままさに頂点に限りなく近いアイドルと、数年越しに邂逅を果たした。

 彼女にとってそのアイドルは、ファンとして応援する相手であり、旧友であり、新しい夢に導いてくれた存在なのだ。

 よもや、そのアイドルが自分に憧れてアイドルを始めたことなど、露ほども思わないだろう。


 お互いに、お互いが大切な存在で、なくてはならない相手で、

 一番に輝く、アイドルなのだ。

 卯月「Pさん、のあさんにとってわたしって、なんなんでしょう」


 俺は、うまく伝えられるだろうか。


 P「彼女は、君に憧れてアイドルを始めたんだ」

 卯月「ええっ!?」


 高峯のあというアイドルが魅了された少女と、その世界の輝きを。

 すっかり夜が更けてから、俺は通い慣れた道を歩く。

 あの晩のように、空は黒々と広がっていて、懐かしい気分にさえなった。

 無骨な木製の扉を引くと、柔らかな光が暖かく迎え入れてくれる。

 グラスを磨いているマスターに「いつもの」と頼みながら、彼女の隣に腰掛けた。


 P「飲みすぎるなよ」

 茶化すように言うと、いつになく真剣な表情をした彼女に見つめ返されて、たじろいだ。


 のあ「卯月と会ったのね」



 P「お前という奴は、なんでそんなことまでわかるんだ」

 すると彼女は自分の携帯を俺に見せてきた。


 不在着信が十六件、すべて卯月によるものだった。

 P「出てやれよ、電話」

 不思議に思いながら携帯を突き返す。

 のあ「電話はあまり好きではないの」

 P「そうだったな」

 のあ「そうよ」

 彼女の仕事が本格的に立て込み始めるまでは、たまにこの店で二人で飲み明かしたものだった。

 P「お前、そういえば昨日外に出てたんだろ」

 のあ「……卯月と会ったって、貴方知ってるでしょう」

 P「ちゃんと変装とかしっかりして外出してるんだろうな?」

 のあ「言われるまでもなく、もちろんよ」


 P「……お前のいう変装って今日みたいな格好のことか」

 のあ「なにか問題があって?」

 しれっと言ってのける彼女に対して、俺は頭を抱えた。


 P「あのな、ジャンパー着て眼鏡掛けたところでお前だって丸わかりなんだよ」

 のあ「そうかしら」

 P「頼むから、もう少し用心してくれ」

 のあ「善処するわ」

 口ではそう言いながら、知らん顔で彼女はグラスを傾けた。


 P「お前のファンは、お前が想像する以上に多いんだ」

 のあ「そうかしら」


 P「お前はもう、トップアイドルなんだから」

 俺がそう言うと、彼女の表情が強張った。

 やがて締念の滲む目線が送られてきた。


 P「俺でよければ、聞かせてくれないか」

 そして、一度だけため息を吐いて、少しずつ話し始めた。

 のあ「……昨日、卯月に、尋ねたの」

 のあ「私は、貴女に近付けたのかしら、と」

 のあ「すると彼女は、とっくに追い越していると答えたわ」

 のあ「言われてみれば、そうよね。アイドルのランクからなにから、私の方が前に進んでいるもの」


 のあ「でも私は、納得できなかった」

 のあ「ここまで登りつめてなお、卯月は私の前を走っているような気がしたの」


 自分の感覚を、少しでも正しく表現しようとしてか、彼女は慎重に言葉を選んだ。

 言語には、どうしても乗り越えられない共感の限度が存在する。

 それでも、彼女の憧憬は、伝わったような気がした。

 のあ「そこで、ようやく気付かされたわ」

 のあ「私が、卯月の背中ばかりを見て、アイドルをしていたことを」

 のあ「信頼できる仲間に囲まれて、日々お互いを高め合いながら、それでもどこかで彼女に追い縋っていたことを」


 のあ「そうしたら、急に私というものがわからなくなったの。私が、きちんとアイドルをできているのかも」

 彼女の内側を、はじめて見ることができたと思う。

 どうしてだか俺は、プロデューサーとして、一人の友人として、彼女の苦しみや想いに対して、真摯に向き合えることが、嬉しくて仕方ない。



 P「今日、卯月と会って話してきたんだがな」

 P「あいつ、お前のファンだって、そう言うんだ」


 のあ「……卯月が」

 彼女が、伏せた瞳を俺に向ける。

 P「卯月な。お前のお陰で、また夢が見つかったって言って、喜んでいたんだ」

 P「学校の先生になるんだとさ」

 そう言いながら俺は、卯月の顔を思い浮かべる。

 晴れやかで、そうでいて寂しげな表情だった。

 のあ「学校の、先生に」


 P「俺、それ聞いて泣きそうになってさ」



 P「俺が駄目にしちゃった卯月の夢を、お前が見つけてくれたんだって、そう思うと本当に嬉しくって」

 P「俺からもお礼を言わせてほしい。……ありがとう、彼女の夢を見つけてくれて」

 そう言って、彼女に頭を下げた。

 P「お前の歌を聴くと、元気が出るんだそうだ」

 ちらりと窺った彼女の瞳に、涙がたたえられているような気がした。


 P「お前は立派にアイドルをできていると、俺は思う」

 P「だって、ファンに夢を与えられるって、これ以上ないってくらいアイドルらしいと思わないか?」

 短くはない期間にわたってこの仕事を続けてきて、確信を持っていえることがある。


 アイドルというものに貴賤は存在しない、ということだ。

 人気が出たか否か、ましてや売れたか否かでは、はかれないものがある。


 たとえ、たった少ししか活動できなかったアイドルだって、ずっとファンは覚えている。


 ひたむきに輝いたその瞬間を。

 P「なあ」

 のあ「……なにかしら」

 P「アイドル、楽しいか」

 いつかした質問をもう一度ぶつけてみた。


 彼女は呆れたように嘆息して、薄く笑いながら応えた。

 のあ「まあまあ、ね」


 なんだそれ、と返しながら、しかし彼女らしい返答に納得する。

 すっかり氷が融けきって、アルコールが薄まってしまったグラスを飲み干しながら、俺は数時間前のことを思い出していた。

 高峯のあが如何にしてアイドルを目指すようになったかを、なんとか説明し終えると、卯月は、かなり混乱しているようだった。


 卯月「のあさん……わたしのことを、そう思ってくれていたなんて、」

 P「アイドルとしての彼女の一番根っこの部分には、お前がいるんだと思う」


 卯月「……それなのに、わたし、のあさんにひどいことを言ってしまいました……」

 落ち込む卯月の気持ちも、十二分に理解できた。

 P「うん。そうかもしれないが、」

 しかし、これは彼女にとって、必要なことでもあったと思う。

 P「たとえば昨日、お前が高峯と会うことがなかったとしても、いつかはこのことに直面していたかもしれないんだ」

 P「そう考えると、彼女自身がアイドルというものをいま一度考える良い機会になったと思う」

 そう言うと、卯月はまだなにかを言いたげな顔をしながらも、頷いてくれた。


 P「今日は、電話くれてありがとう。高峯のことは、後は俺がカバーするから、任せてくれ」


 俺はそう言いながら、頭の中では彼女の向かいそうな場所を探っていた。

 きっと彼女のことだから、早退させたといっても大人しく寝込んでいるようなことはないだろう。

 まず思い当たるのは、彼女と初めて会ったときに入ったあのBARだった。

 卯月「……もう、行っちゃうんですか?」

 気が付けば、卯月がこちらをじっと見つめている。

 P「ああ。高峯のところに行かないと」

 その視線を浴び続けると、落ち着かない気分になる。

 席を立とうとすると、彼女に制された。


 卯月「もう少しだけ、お話しませんか?」

 俺はなにも言えず、座りなおす。

 卯月「きちんとご飯は食べてますか?」

 P「少しは自炊も覚えたよ」

 いつだったか、彼女がアイドルだったころは、なにも作れなかった。

 卯月「夜はちゃんと寝てますか?」

 P「ああ、眠る余裕はできてる」

 卯月「……ちゃんと、寝てますか?」

 P「……まあ、前よりは寝ているって」

 前みたいに、寝る時間を削って勉強することもなくなった。

 卯月「煙草はもうやめましたか?」

 P「もう何年も吸ってない」

 そう答えると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

 吸っていたころは、健康に悪いと、彼女に何度も注意されたものだった。

 卯月「……プロデューサーさんは」

 卯月「やっぱり、変わってませんね」

 もう彼女はアイドルではないし、もう俺は彼女の担当ではない。

 だから、その呼び方は恐らく適切ではない。

 だけど彼女のその呼び方が、あんまり懐かしくて、耳に心地が良かったから、俺は注意することができない。

 P「お前は、結構変わったな」

 P「綺麗になった」


 卯月「ほんとですか?」

 彼女は小さくガッツポーズをした。

 そして、潮が満ちてゆくように、緩やかに泣いた。

 卯月「プロデューサーさんの電話番号も、消すべきだったんです」


 両目の辺りをぐしぐしと擦りながら彼女は幼子のように話した。


 卯月「なにがあっても、もう会うべきじゃなかったんです」



 卯月「こうして、アイドルを諦めたことを、後悔してしまうから」


 一粒、また一粒と、涙の珠は流れ落ちていく。

 そして、また花のような笑顔を見せてくれた。

 彼女は、努めて明るく振る舞った。

 P「……ごめんな。お前をトップアイドルにしてやれなくて」

 彼女は大げさにかぶりを振った。

 卯月「プロデューサーさんは悪くないんです、無理をしたわたしが悪いんです」

 P「馬鹿、その無理を看過した俺に責任があるんだ」

 卯月「いいえ。プロデューサーさんは、わたしの傍で応援してくれていただけです。どこも悪くはありません」

 P「いいや、俺が」

 卯月「いえ、わたしが」


 暫く言い合って、不意にお互いに力が抜けて笑ってしまう。

 なんだか俺まで泣いてしまいそうだった。

 卯月「ねえ、プロデューサーさん」

 P「うん?」


 卯月「プロデューサーさんは、わたしをプロデュースしていて、楽しかったですか?」


 その言葉には、どれほどの重みがあるのだろうか。

 二人で頑張っていた日々を思い出しながら、俺は心から頷いた。


 すると彼女は、顔いっぱいに笑みを浮かべた。

 卯月「わたし、アイドルをしていて、嬉しいことも、そうでないこともたくさん経験しました」

 卯月「アイドルじゃなくなってからも、色んなものを嫌いになったり、信じられなくなったときもありました」


 卯月「でも、アイドルをしていて良かったって、思います」

 卯月「アイドルしていたころの歌は、いまでも歌えますよ」

 別れ際に、彼女がそう言った。

 P「S(mile)ING! か」

 卯月「はい! カラオケでもたまに歌っちゃいます」

 その曲は、俺にとっても思い出深いものだった。

 聴いていると、自然に頑張ろうと思えた。

 自分を奮い立たせてくれる、そんな曲だった。


 卯月「もっと、たくさんのひとに聴いてほしかったです」

 彼女のその言葉が、印象に残った。


 ひとひらの花弁が降り積もるようにして、それから、暫くの時間が流れた。

 ある日に、高峯のあを擁するうちのプロダクションは、とある発表を行った。

 多くは語らず、ただ開催する旨とその日取りを告げた。

 もはや、それだけでよかった。



 高峯のあの、全国ソロライブツアー。


 ここにきて、満を持しての全国ツアー発表に、ファンは沸いた。

 彼女はもう誰もが認めるトップアイドルだった。


 チケットはどこの会場もすぐに完売した。

 彼女はいままで以上に精力的に仕上げた。

 一切の妥協を許さず、常にベストパフォーマンスを心がけた。

 可能な限り俺も彼女の傍について、手助けをした。



 「再誕」というライブツアー名は、彼女がつけた。

 集大成を飾るライブで、アイドルとしての彼女は、再び生まれる。
 彼女はいままで以上に精力的に仕上げた。

 一切の妥協を許さず、常にベストパフォーマンスを心がけた。

 可能な限り俺も彼女の傍について、手助けをした。



 「再誕」というライブツアー名は、彼女がつけた。

 集大成を飾るライブで、アイドルとしての彼女は、再び生まれる。

 過去に類を見ないほどの過密なスケジュールに、流石の彼女も苦心しているようだった。

 それでも彼女は、折れることもなく歌い続けた。


 ステージで彼女が現れるだけで、会場は歓声で溢れた。


 どのステージでも、彼女は完璧に歌い上げた。

 パズルのピースを嵌めてゆくように自然に、あるべきところにあるべきものを収めてゆくように、彼女は歌った。

 ライブをこなすごとに勢いを増しながら、いよいよ残すところ、あと東京の一公演にまで辿り着いた。

 彼女は、心身ともに消耗が激しい状態だったが、逆にその状況を楽しんでいるようにも見えた。


 この公演が終われば、名実ともに彼女はアイドルの頂点に立つ。

 そして、トップアイドルとしての人生が始まる。


 彼女にとって終着点でもあり、出発点でもあった。

 ライブの始まりは、照明の落ちたステージに、ステージ中央の昇降するステップから彼女が登場することで始まる。

 P「高峯」

 ステージ裏で、彼女に声をかけた。閉じていた目を開けて、彼女は俺を見た。


 P「いよいよ、だな」

 のあ「そうね」

 煌びやかな衣装を着た彼女は、不敵に笑う。

 のあ「きっと、見逃すことのないようにね」

 のあ「貴方の担当するアイドルが、頂点に咲く瞬間を」


 そう言って、彼女はステップへと歩を進める。


 ライブが始まろうとしている。

 超満員の観客が、固唾をのんで待っているのが、気配でわかる。


 彼女を乗せたステップは、音もなく上昇した。

 暗闇に、しかし彼女の銀の髪は、完全に融けることなくなびいた。


 幾つものスポットが彼女にあてられる。


 そこには、たったひとり、アイドルが立っていた。


 歓声は鳴り止まない。

 予定されていた曲目が終わり、アンコール曲が終わってもなお、会場全体が沸いているようだった。

 そして、明かりが灯りきったステージに高峯のあが現れ、謝辞を述べた。


 のあ「今日は、感謝するわ」

 肩で息をするほど疲労しながら、しかし最後まで凛とした声だった。

 彼女は、たっぷりと時間をかけて、観客席を眺めた。

 数えきれない量のファンの声を浴びながら、彼女は世界を見つめた。


 のあ「明日からも私はアイドルとして生きてゆく」

 のあ「貴方達は、貴方達の人生を送る」


 のあ「そこに、あまり接点はないのかもしれない」

 のあ「だけど、今日はこうして、これだけの人数が集まれた」


 舞台の袖で俺は、彼女の瞳の奥を、そこに映る世界を覗いてみたくなった。

 きっとその光景は、世界で一番綺麗なはずだから。

 のあ「星が動く理由を知っているかしら」

 のあ「星々は、お互いに引力で引かれ合っているの」


 のあ「私達の出会いも、引力の巡り合わせではないかと、そう思うわ」


 のあ「最後に、一曲、聴いて頂戴」

 ノータイムでオーケストラが流れる。

 ラストを飾るのは、奮い立てる、そんな曲だった。



 伝説が、いままさに紡がれてゆく。


 以上になります。読んで下さった方は、ありがとうございます。

 それと、最後にもう一度。

 誕生日、おめでとう。

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