【モバマス】杏「役はこれだけ」【麻雀】 (29)


※モバマスキャラの杏、きらりが麻雀するSSです。
※プロデューサーが人間のクズです。
※コミカライズ版アイドルマスター(著:稍日向)のキャラクターである
西園寺プロ所属の小早川Pと小早川瑞樹が敵として出ます。
紗枝はんやkwsmさんのパチモンではありません。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1458336531

「プロデューサー、休みちょうだい」

底無しに柔らかく体に眠る怠惰を全て引き出すソファーに杏は、寝転がっていた。

その王座に君臨する彼女は、まさに怠惰の王と称するに相応しい。

「だめだ。向こう三か月、スケジュールに余裕はない」

杏の眼前で、プロデューサーはカタカタキーボードを

打ちながら山のような書類処理に追われていた。

「えー! そんなんじゃ杏死んじゃうよ。
 人間、働いてばかりだと腰が曲がるのが早くなるというしさ」

「労働をしないでいると心が曲がるとも言うぞ。
 仕方ないだろう、やっと人気が軌道に乗ってきたんだ。
 第一、仕事が沢山あるのは贅沢な事なんだぞ?」

「あたしは休みばかりの方が贅沢だよ」

「はぁ、少しは真面目なきらりを見習ってくれ……」

正直プロデューサーにとって杏は手に負えないアイドルだ。

しかしあんきらコンビは事務所代表アイドルデュオとも言うべき存在で

安定して人気があり、おいそれとリストラも出来ないのだ。

かと言ってそのままにしてても働こうとしないので

飴なり印税なり手替え品替えで働かせる舵取りが不可欠だ。

「杏ちゃん、きらりちゃん。麻雀しようよ」

かな子とちえりが麻雀卓の傍に立って二人を呼んでいる。

最近事務所では麻雀が流行っている。

早苗さんが自宅から雀卓を持ってきたのがきっかけで

アラサーアイドルから未成年アイドルまで流行り、一代ブームを起こしていた。

「あれ?」

ある日レストランで遅めの夕食を摂っていたプロデューサーは

レジで財布を忘れてしまった事に気がついた。

鞄をひっくり返して探していると、隣にいた女性が財布を出して立て替えた。

「あ、ありがとうございます」

「いえいえ、お困りのようでしたので」

見るとセミロングの赤茶色のヘアをしていて、中々の美人だ。

プロデューサーはこのまま別れるのも惜しいと

今度お礼をさせてくださいと、LINEを交換してしばしば会った。

もちろん一回お礼をした程度で別れるつもりはない。

出来れば付き合って突き合うような仲になりたいというゲスな思惑があった。

「あの……お願いがあるんですが、聞いていただけますか?」

彼女は少し躊躇うように切り出した。

「この前に出来た雀荘で麻雀を打ってみたいんですが
 一人では怖くて……よろしければ一緒に入っていただけたらと」

「なんだ、そんな事ですか。お安い御用ですよ!」

プロデューサーは二つ返事でOKした。

雀荘に貴方を入れた後、俺も貴方に入れさせてもらうよ

という考えがあったのは言うまでもない。

その雀荘は客足も多いらしく、来た時には若い男と

陰気な三十路女の卓が丁度空いているだけだった。

「よろしくお願いいたします」

プロデューサーはその卓に入り、瞬く間に三連トップを獲得した。

彼女の手前、実力を発揮出来て鼻高々だ。

「プロデューサーさん、お強いんですね」

「はっはっは、たまたまです。たまたま!」

「どうでしょう。このままでは私も家に帰れない。
 もっとレートを上げさせてもらって一勝負しませんか?」

対面の男が提案してきた。彼はトータルでマイナス七十八沈んでいる。

プロデューサーは二人の手の内を見るとてんで素人なので、二つ返事で承知した。

浮いた金で彼女にプレゼントすれば株も上がるというものだ。

オーラス。プロデューサーはトップを取っていた。

しかし陰気な女がリーチ後に引いた倍満を和了って

親かぶりでマイナスの三着になった。

「いやぁ……すみません」

面白くないプロデューサーはまぐれもあるさと、もう一勝負した。

しかし最後の最後で詰め寄られてマイナスに落とされる。

一度勝てば負けた分を取り返せると連続で打った。

しかし、その夜に彼が勝つ事はなかった。

「デカピンでこんだけ負けたら本気になるよね」

「デカ? テンピンのはずじゃ……」

「何言ってんの、テンピンじゃ返せないでしょう。負け分が」

男に言われてそのレートで打ったが、一向に穴は埋まらない。

結局その日から三日間プロデューサーは借金を返すために

最終的にはデカリャンピンのレートで打ったが、借金は膨らむ一方で減る気配はなかった。

金が払えない事を告げると、男から契約書のサインをするように言われた。

それは346プロが今年の一大イベントとして使用するドームの使用権譲渡の契約書だった。

「こ、こんなのは無効だっ!」

「いいのか? プロデューサーが賭け麻雀で借金背負ったらアイドルにも響くだろう?
 賭け麻雀の件公表してお偉いさんに泣きつくかい?」

プロデューサーはごねてごねてごね倒して、もう一度別の場所で

麻雀勝負をして勝ったら契約書を白紙に戻すという事で合意した。

相手はきらりと杏をおひきに指定した。

346プロには雀豪が数人いるから、それを見越しての事だろう。

プロデューサーもそれに同意した。

彼としても自身の恥を出来るだけ身内で留めたい思いがあったのだ。

勝負当日、プロデューサーは杏ときらりを引き連れて指定の雀荘に足を運んだ。

当日来たのはあの若い男と財布の女性の二人だけだ。

陰気なあの三十路女性はいなかった。

「はじめまして、西園寺プロダクションのプロデューサーで小早川と申します」

「西園寺プロだと!?」

プロデューサーは歯噛みした。

西園寺プロダクションは、かつては765プロの対抗馬

とも言うべき力を持った事務所だったが

今は346プロと315プロに大きく水をあけていた。

「くそ、まんまと嵌められたという訳か!」

「全く馬鹿よね、こんな手に引っ掛かるなんて」

財布の女性が言った。初めて会ったあの時と比べて随分と棘のある物言いになっている。

女性は赤茶色のウィッグを外した。

するとその下からキラキラとした金髪のロングヘアがさっと現れた。

「君は……!?」

「その妹でトップアイドルの小早川瑞樹よ」

金髪の女性を相手にプロデューサーは唸った。

そう、これは小早川Pの、ひいては彼の所属する

西園寺プロダクションの社長、西園寺美神が仕組んだ巧妙な罠だったのだ。

美神はああの日自分も変装して小早川兄妹と連携して

プロデューサーを負かしたのだった。

こうして315プロダクションと346プロダクションの非公開麻雀戦が開催された。

この戦いはプロデューサーとして決して負けられない。

観戦しか許されない立場というのが彼には歯痒くてならなかった。

東一局、親は小早川P。ドラは南

「お兄ちゃん、南が欲しい」

瑞樹が隣でそう言うと、小早川Pはドラの南をあっさりと捨てた。

瑞樹はそれを直ぐ様ポンして白を切った。

「三萬が欲しい」と言われれば三萬を

「八萬が欲しい」と言われれば八萬を鳴かせていく。

二二四六 八七九 三一二 南南南 ツモ五

「ツモ! ホンイツ南イッツードラ三! 三千・六千!」

六巡と経たないうちにツモ和了って瑞樹は得意顔になる。

東二局、親は瑞樹。ドラは五索

「お兄ちゃん、六筒が欲しい」

第一打をツモる前から瑞樹は兄に六筒を要求した。

小早川Pはそれに応えて所望の牌を切った。

「お兄ちゃん、四萬も欲しいの」

「はい」

「お兄ちゃん、中が欲しいの」

「はい」

こうして瑞樹は六巡目に次のような形になった。

■■■■ 中中中 四五六 645

七巡目に入り、瑞樹はツモった中をカンして嶺上牌を引いた。

めくったカンドラは中だった。

4666 中中中中 四五六 645 ツモ5

「――ツモ! リャンシャンツモ中三色ドラが四つのって六千オール!」

「鳴き麻雀なのはいいが……少しは自分で手作りとかしないのか?」

プロデューサーは唸った。数日前の雀荘ではもう一人の西園寺美神の

影に隠れて、この小早川兄妹は大人しくしていただけのようだ。

「ふっ、自慢じゃないが妹の瑞樹は欲しいものが手に入らないと駄々をこねるのだよ」

「いや、本当に自慢にならないぞ……」

とにかく東場は小早川兄妹の独壇場で、杏がチートイのみをやっと和了って事なきを得た。

南三局、四巡目。親は杏。ドラは五索

12356778257西白

四巡目のきらりの手牌である。文句なしのホンイツ手で清一色も狙えるものだ。

彼女はここから二、五、七索と切って、杏から一筒をポンした。

どんどんと筒子が集まっていって、最終的には筒子一色に仕上がった。

111  1235677789 ロン7

十一巡目に対面の瑞樹からポロリと四枚目の七筒が転がり出て、きらりは牌を倒した。

「ロンだにぃ☆」

「よし! きらりいいぞ!」

プロデューサーは相手から満貫直撃したきらりになら

己の命運を任せられると褒め称えた。しかし、これは危険な賭けだった。

南場のオーラス、一巡目。親はきらり。ドラは八索。

一一八九九782589西西

きらりの配牌である。

ドラが八索、七八九の三色もはっきりしているチャンタ手だったが

何を思ったのかきらりは七筒、八筒と切り捨てていった。

「おい、きらり。大物手を狙ってくれるのは嬉しいが
 無闇にチンイツ狙わなくてもいいんだぞ?」

「プロデューサーちゃん、きらり、これしか作れないにぃ」

きらりが指した指をプロデューサーは瞬きするのを忘れて凝視した。

そう、きらりは清一色しか作れないのだ。

「麻雀教えてくれプロの先生がね、
 こうすれば簡単に高得点できるよ☆って、優しく教えてくれたにぃ☆」

既に捨て牌には九筒やら七索やらが御仲間として泳いでいた。

こんなノーキン打法を教えたのはどこの麻雀プロだと

プロデューサーは憤ったが、型に入れば確かに強い事は間違いない。

結局その一局は仮テンをとってきらりは親の権利を維持して、連荘した。

次局、プロデューサーは隣の杏の手牌をちらりと覗いた。

三五七七七56722456

八巡目の手である。ダントツのラスである事を全く意識していない。

杏はあくびをしながら手なりにしか打っていなかった。

それでさっきからリーのみだの、タンヤオのみだの

ノミ手ばかり和了って無駄に局を進めている。

役作りしたり、複合役を狙ったりと得点を高くする気が毛頭ないらしい。

プロデューサーがきらりを頼るのも、無理はなかった。

1222234456789

オーラス一本場の九巡目、きらりがあのノーキン打法でようやく清一色を聴牌した。

「よし、一・三・四・七筒待ち、高めで一気通貫もついて親倍満だ!」

すると当然チンイツを警戒した向こうは他の二色の牌を切って降り出した。

まあ待ちが広ければツモるだろうと気を抜いていたら小早川瑞樹が四萬を振った。

「ロン。タンヤオのみ」

杏が対面の四萬でを和了った時、プロデューサーは立腹のあまりブッと屁を漏らした。

「プロデューサー、臭いよー」

「おいぃぃぃぃぃ――っ! 杏っ!
 そんなショボい手できらりの親倍満を潰すなよ!」

「えー、だってこの罠にかかったのはプロデューサーで、杏は関係ないもん。
 ドームのコンサートが出来なくなったって困らないしね」

「困る困る! あのコンサートは一大イベントで
 今後の仕事量にも影響を与える重要なものなんだ!
 おいそれと他の事務所に渡したら上層部が俺にどんな処罰を下すか……」

「杏、知らなーい。大体この御時世にあからさまな美人局に引っ掛かって
 会場の使用権を抵当に取られるプロデューサーこそ油断しすぎだよ。
 まあたまには干されて余暇を楽しむのも良いんじゃない?」

プロデューサーは悔しかったが、確かに杏たちが無償で彼を助ける理由はない。

というか杏はわざと安和了ばかりして着々と敗北を加速させている事に努めている。

敗北が濃厚になるにつれて彼の青くなっていく様を楽しんですらいる。

これが普段無理やり働かせている彼への当て付けである事は火を見るより明らかだ。

結局その半荘は小早川兄妹の圧勝に終わった。

二戦目に入って仕切り直しをしたが、またも小早川兄妹は

得意のコンビ打ちで大きくリードして東場はトップと二位を走っている。

きらりはマイナス十二、杏はマイナス六十二ほど沈んでいる。

敗色濃厚でプロデューサーはもう顔を涙でくしゃくしゃしていた。

断っておくと双葉杏は決して麻雀が下手なのではない。

ただ向上心とかがめつさとか、そう言ったものが欠如しているだけで

麻雀に関しては早苗さんやレナさんという雀豪たちと

渡り合えるほどの雀力はある。

彼はここまで沈んだらいつぞやのバラエティ番組で見せた

杏の轟運にかけるしかないと、わらにすがる思いで杏に頭を下げた。

「……頼む、杏! お前が欲しかった休み、検討してやるから真剣に打ってくれ!」

「検討? どうせ後で約束を反故にするつもりでしょう? その手には乗らないよ」

「ほ、本当だ! 有給休暇の届け出も出す!」

プロデューサーはカバンから休暇届けの用紙を出した。

以前杏が勝手に届け出を出して以来、彼女の休暇届は彼が管理するようになっていた。

「ほら、俺の印鑑もサインも書いた!
 後はこれに期間を書きこんで提出するだけだ!」

「……。どのくらい休みをくれるの?」

「み、三日でどうだ!」

プロデューサーは三本指を突き出して言った。

「たった三日? 一ヶ月半くらい欲しいよ」

「ふざけるなぁっ! そんなに休まれたら俺がクビになるわぁっっ!」

「じゃあ、残念だけどこの話はナシだね」

杏はニヤニヤして言った。

あんなに欲しがっていた休みの申し出をあっさり断ったのは何故か。

それは彼女が彼の様子を観察し、そのこすい性格を知り尽くしているからだ。

泥にまみれてしまった彼の足元を見て、もっとふっかけられると思っている。

「くっ……分かった! 二週間、二週間だけ連休をやるっ!
 それ以上は無理だ! その代わり、その連休中は好きなだけ小遣いをやる!
 好きな所に行って遊んで良い!! だから頼む!!!」

「……本当だね?」

「ああ!」

……そう言われた途端、杏の目が急に変わった。

南三局、九巡目。親は杏。ドラは四萬

三四五2445 四四四 345 ツモ4

瑞樹の手牌である。例の如く兄から必要牌を鳴いて

タンヤオドラ四の満貫一向聴の所に四索を持ってきた。

三色を狙えて跳満になるように、彼女は二萬を切った。

西西二二二22222234 ロン5

「ロン。三色同刻のみ。五十符だから四千八百」

杏は牌を倒して、高らかに叫ぶ。

狙うのが難しい割に自己満足な翻数しかない三色同刻を目にして

兄妹は、おっ、と一瞥する。

しかし親とはいえマイナス三万二千点の杏に五千点が入ろうがなかろうが

残り二局しかないのに逆転できる訳はないとタカをくくっていた。

南三局、四巡目、一本場。親は杏。ドラは六萬

「一萬ポンね」

杏は四巡目に一萬をポンした後に二筒を切った。

鳴かれたものの小早川Pは次のような三色手を聴牌した。

五六六六七七八5675678

(切るなら八筒か六萬……しかしあのTシャツの子は恐らく
 チャンタや萬子を絡めた混一色狙い……ならこれだ)

小早川Pは満貫聴牌を維持しながら、五筒を切った。

「ロン。三連刻のみ。六十符だからゴッパ、三百点もよろしく」

二二二三三三46西西 一一一 ロン5

例えば二・四・六筒の牌並びが出来た状態で聴牌した時

大抵の人間は六筒を切ってカン三筒の聴牌に取る。

良く使われる五の数牌よりもひっかけ筋になる三の数牌の方が

感覚的に出やすいと思う心理である。

(まさか、僕の手牌を全部読み取った?
 いや、そんなはずはない。そんな事があるはずがない……!)

南三局、十巡目、二本場。親は杏。ドラは一索

「ポン」

五巡目に杏は九筒をきらりからカンし、一筒を七巡目に暗カンした。

彼女は二回目にツモった嶺上牌を手牌に引き込み、ドラの一索を切った。

「ポンッ!」

堪え性のない瑞樹はそのドラをポンして三色ドラ三にして考え込む。

一4568 111 四五六 456 

(双葉杏はチャンタ手。筒子の真ん中が出過ぎているから
 筒子では染めてない……ギリギリまで持っていたドラを切るって事は
 他の牌が重なってトイトイに移った?
 それとも安い手ばかり和了っているから
 ドラを外して出やすい字牌単騎待ちに変えたとか?)

瑞樹は場に三枚出ている八索を切って聴牌に取ったが、杏がそれを許さなかった。

「ロン。純チャンのみ。六十符で親だからまたゴッパ、六百点も入れて六千四百点」

一一一7999 1■■1 9999

「そ、その手で何で一索を切るの!? ドラ持っていれば役満じゃないの!」

「ふふふ。杏は贅沢しないの」

後ろで観戦していたプロデューサーも最初は瑞樹と同じ考えをしていた。

だが洗牌前に小早川Pの手牌を一瞥した時、彼は杏の鋭い直感に舌を巻かざるを得なかった。

4467123456789

(ドラが使い切られている……一索で待っていたら和了れなかった……)

南三局、七巡目、三本場。親は杏。ドラは五筒

二四四五五六七八八八北北北

小早川Pの手牌である。彼は七巡目にここへドラの五筒を引いてきた。

彼は対面の杏の捨て牌を凝視した。

西南1發941

彼女は九筒を切ってからずっとツモ切りを続けていた。

どうもダマテンの匂いがしてならない。

(典型的なタンヤオ手……三四五、四五六辺りの三色もあるかもしれない。
 裏スジのドラ五筒はとても切れない……北で回す!)

しかし、小早川Pが暗刻の北を切った時、杏は牌を倒した。

ニニ三三四四778899北

「ロン。リャンペーコーのみ。七千七百の三本場だから八千六百」

南三局、五巡目、四本場。親は杏。ドラは八筒。

「チー」

以前として親の権利を離さない杏は二巡目できらりから四筒をチーした。

「早巡に両面チー……ホンイツ?」

瑞樹は杏を警戒して彼女の様子を観察していた。

杏はドラそばの七筒辺りを早めに切っていた。

生牌だった白と發は七、八巡にさっさと切っている。

南も東も場に三枚出ていた。

三三四四五3334567中 5

ここに三萬をつもった瑞樹は、杏の手をドラ暗刻の

タンヤオ手と読んで中を切った。

「リーチ!」

「ロン」

白白白發發發中一二三 345

「小三元だけー。四本場の親満は一万三千二百」

またも杏に和了られて瑞樹は下唇を噛んでいら立ちを隠せずにいた。

南三局、八巡目、五本場。親は杏。ドラは發。

「お兄ちゃん、發を! 早く!」

瑞樹は兄に催促して瞬く間に中と西も鳴き倒した。

何としてもこの杏の親は流してしまわないといけない。

一・二萬の二面待ちで倍満の手を完成させて待ち構えた。

一三三三 西西西 中中中 發發發

「カン」

杏のカンした牌を見ると、何と二萬である。

「何て事するのよ!」

「えー杏が何をカンしても勝手でしょ」

杏はブツブツ言って嶺上牌から引いてきた五萬をそのままツモ切りした。

めくった新ドラ表示牌は既に場に四枚切れている字牌だった。

次巡、瑞樹は負けずに西をツモり、カンをした。

一三三三 西西西西 中中中 發發發 ツモ白

嶺上牌からツモった牌は白だった。更に新ドラ表示牌が中だったので

これで混一色対々和小三元發中西ドラ五の確定数え役満を聴牌した事になる。

当然とばかりに彼女は一萬を叩き切った。

「二萬の壁!」

「ロン」

またも杏の悪魔の宣言が聞こえた。

一四四四六七七八八九 二■■二 

「チンイツのみ。五本場のオヤッパネは一万九千五百」

「何で一萬を切って五面待ちに受けないの!?
 それ以前にその手……元々一・三の二面待ち……!」

「ふふふ、勝てばよかろうなのだよ」

杏はもらった点棒を箱に納めてほくそ笑んだ。

既に彼女はマイナスから脱却して点棒は原点近くにまで浮上していた。

「くっ……三連刻、リャンペーコー、小三元、チンイツと
 段々ノミ手が高くなっていっている……。はっ、まさか、次は……!」

配牌を終えたその時、杏は破顔して口にアメを放り込んだ。

「いやぁ、この手、杏一番好き~」

第一打を待たずして、杏の手牌が倒れた。

八八八123678333東東

「天和のみ。親の役満だから一万六千六百オールね。あーラクチン、ラクチン」

次局、役満を喰らってボロボロの小早川Pはとにかく杏の親を

流そうと躍起になって妹に役牌を鳴かせて聴牌を急ぐ。

しかし、五巡目に杏は八萬をツモってタンヤオを和了し、千二百オールを得た。

(ふぅ……脅かせやがって。
 しかしそろそろ双葉杏の運気に陰りがさしてきたようだ。
 デカい手をあがって一息ついている今が狙い目……!)

そして次局――。

二三四五六六六666667 ツモ6

「よし、リーチだ!」

小早川Pは七索を切ってリーチをかけた。ドラは六索である。

高めツモで倍満、裏ドラ次第では数え役満にも届く勝負手だ。

ところが。

「きらりもリーチ☆」

「な、何っ……!? くっ……ツモれえっ……!」

小早川Pが額に汗をにじませて手繰り寄せた牌は、無慈悲にも八萬だった。

「ロンだにぃ☆ リーチ一発チンイツイーペーコー! うきゃ――☆」

一一一三三四四五五七七七八 ロン八

「ダブロンだよ。ピンフのみ」

12355六七234567 ロン八

「ふう、親の方は千五百か……だが次の局では返り討ちに……!」

「ちょっとお兄さん、これじゃ足らないよ」

杏が点棒を小早川Pの手元に返した。

「えっ、そんなはずはない……積み棒の分もしっかり払……
 はっ! まさかっ……!」

そのまさかだった。

ニヤニヤして杏の指した場所には、彼女の功績である「八本」の百点棒が積まれていた。

「八連荘……役満……」

「親だから五万千八百点。きらりの一万八千四百も加えて、七万二百払ってよ」

それから小早川兄妹は血眼になってこの杏の親を流そうと努めたが……。

「ロン。平和のみ。九本場は五万七百」

「ロン。中のみ。十本場は五万千点ね」

「ツモ。ツモのみ。十一本場は一万七千百オール」

「ロン。イーペーコーのみ。十二本場は五万千六百点」

杏は容赦なく十六本場も連荘をして小早川兄妹からむしるだけむしり取った。

十七本場は流石にかわいそうになったきらりが

瑞樹から清一色平和イーペーコー一気通貫ドラ二を和了って流した。

オーラスは杏の二巡目タンヤオのみが炸裂し

終わってみるとトータルは前半の負け分を上回る大勝だった。

素寒貧になった小早川兄妹はもう心身共に疲れ果てて

泣きべそをかきながら負け分のローンを組み、約束通り346プロから手を引くと言って

逃げるように雀荘を後にした。

「いやぁ、助かったよ二人共! 今日は杏たちが勝ったこの金で旨いもんを食いにいこう!」

「プロデューサーちゃん、約束……」

その時、プロデューサーは杏と交わしたあの約束をうやむやにしようと画策していた。

しかし、その点に関しては杏の方が一枚上手だった。

彼女はプロデューサーの上司や方々の業界関係者に有給休暇に入る旨をメールした。

そして、破られる前に休暇届けを彼のカバンからさっさと拝借して

途中で寄ったコンビニでファックスし、ちひろの所に送ってしまった。

プロデューサーは食事の席に着いた途端殺到してきた記者たちを前に慌てふためき

更には電話越しに上司やらレポーターやらの電話突撃を喰らって

何が何やら分からない内にすっかり退路を絶たれてしまっていた。

「相手が一人前の詐欺師なら、こっちは一人前半の詐欺師にならなきゃね」

杏の独り言は記者にもみくちゃにされているプロデューサーの耳には届かなかった。

「はぁ……すいません……せっかくの出演なんですが、当人は休暇中でして
 ……はい、休み明けには是非……あっ、間に合わないと……そうですか」

プロデューサーは肩を落として携帯電話を切った。これで十八件目だ。

どうして一番の稼ぎ頭が休暇中に限ってこれだけ仕事のオファーが来るのだろうか。

中にはめったに来ないという大手メーカーのCM出演などもあった。

どんどん大物の仕事が増えて無駄に断っていくもったいない毎日に

プロデューサーは悔し涙を流して机に突っ伏していた。


Ankira-P < 杏~~or2 頼むからちょっとだけ、一日だけでいいから仕事を~~(;人;)

 杏は今忙しいの m9っ`・ω・´) また今度ね ノシ >anzuchang

Ankira-P < あっ、ちょっと!? 杏ちゃん! 杏サマ~~! ウワァァ-----。゚(゚´Д`゚)゚。-----ン!!!!

杏はきらりのLINE、着信共にフィルターをかけてプロデューサーからの連絡を完全に拒否した。

見晴らしの良い一等地のホテルで彼女たちは旅行雑誌を見ている。

杏とデュオで活動しているきらりも杏の影響で有給休暇を取る事になったのだ。

「きらり、次はどこへ行く?」

「うーんとね、グルナビだとここの駅前に美味しいクレープ屋さんがあるそうだよぉ☆」

「よし、タクシーで行ってそれ食べようか。
 丁度近くに三ツ星ホテルがあるから今日はそこを拠点にして色々回ろうよ」

「いいのぉ? プロデューサーちゃんのお金、かなり使ってるけど」

「大丈夫、大丈夫。お小遣いはいくらでも使っていいって言ってたし
 ここは存分に甘えておこう。最近仕事忙しかったから、いっぱい遊ぼう。 
 この二週間で都内の観光スポットは軒並み制覇しちゃって
 時間が余ったら地方で美味しいものも一杯食べよう」

プロデューサーの嘆きなど脇に追いやって、二人はこの小旅行を楽しんでいる。

今回はムダヅモ風ではないですが以上です


ローカル役であがられてもなぁ
凄いことは凄いけど

勢いで描いたんですがローカル役はダメですかね
三連刻・八連荘・人和は知名度高くてあんまりローカルっぽくないんで
特に断りなく盛り込んだんですが

杏のキャラクターに似合ってるから問題ないさ

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