モバP「もしも年少組と結婚したら」 (152)


※ オリジナル設定、キャラ崩壊を含みます 
※ このssはまったくもって健全であり、決して特殊な性癖を奨励する物ではございません。
※ 短編形式。

===

「ねぇねぇ起きて! 朝ですよー!」
 
 心地よいまどろみに包まれていた俺は、自分を起こそうとする、可愛らしい声で目を覚ました。
 
 ベットの上に横になった俺を、ゆさゆさと揺り起こすその人物を伸ばした腕でそっと引き寄せる。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1456907218


 
 胸に加わる柔らかな重みと、鼻をくすぐるまるで陽だまりのような良い匂い。

「あぁ……おはよう。今起きるよ」

 ゆっくりと開いた瞼の先、俺の胸に顎を乗せる形で抱きしめられている、薫の頭にそっと手をやる。

「えへへっ。やっと起きた? せんせぇ」


――彼女、龍崎薫と結婚してから、そろそろ一ヶ月が経つ。


「……こら。もう『せんせい』じゃ、ないだろ?」

 指摘された薫は恥ずかしそうに顔を赤らめると、はにかんだ笑顔で言い直す。
 
「そうだった! えっとね、おはようございまー……あなた!」


 えらいえらいと、俺が髪を撫でてあげると、気持ちよさそうに薫が頬を緩める。
 
 そうやって、朝の余韻に浸っていると、しばらくして薫がゆっくりと上体を起こした。

 
「それじゃ、待っててね! すぐにご飯を用意するからっ!」

 抱き寄せられた事で乱れた衣服を整えながら、薫が台所へと歩いていく。
 
 狭い六畳間のアパート。つい最近まで、物置同然の使われ方をしていたこの部屋も、
 今ではそれなりに人の住めるように整理され、ところどころに可愛らしい小物なんかも置かれている。
 
 ベットから降りて部屋の中央に置かれたテーブルの横に座ると、
 俺は独身時代から使っている古いテレビの電源をつけ、流れるニュースに耳を傾けた。


『今日で、結婚における制限の一部緩和……いわゆる『幼妻法案』が可決されてから――』

 キャスターの紹介で、化粧の濃い、いかにもといった風体のおばさんコメンテーターがカメラに映し出される。
 
 その下にはテロップで女性の人権なんたらなどと、簡単な紹介が載せられていたが……。

 
「……ふん」

 彼女の話は、いわゆる「お決まり」を繰り返すだけの、中身のない物。
 俺は途中で見るのを止めて、薫の立つ小さな台所に視線を移す。

 
 廊下に併設された、お世辞にも使い勝手が良いとは言えないキッチンに向かって、料理をする薫。
 
 その足元には、台座代わりの小さな椅子が置かれ、それでもギリギリ届かないのか、
 時折ぴょこんと背伸びをしながら、彼女はフライパンを握っていた。

 
「もうちょっとで出来ますからねー!」

 視線に気が付いたのか、薫が顔だけをこちらに向けて言う。
 
 しばらくすると、テーブルの上に焦げ目のついたフレンチトーストと、少し形の崩れたハムエッグが並べられる。

 
「ちょっと失敗しちゃったけど……お、美味しいかな?」

 胡坐の上に座った薫が、不安げな顔で俺を見上げる。
 そんな彼女に、俺は焦げ目が好きなんだと返して、右手に持ったトーストに噛り付いた。


 見た目はともかく、普通に美味しい。少々甘みが強い気もしたが、そこは彼女の好みなのかもしれない。
 
 見ると、薫も自分の分のトーストに手を付けているところだった。
 二人してうまいうまいと食べ続け、食後のコーヒーを飲んで一息つく。

 
 時計を見ると、出勤まではまだ時間があった。
 
 俺がなんとなく、膝の上に座る、薫のお腹へと腕を回すと、
 彼女もお尻をずらして、背中をくっつけるように俺の方へ体を預けてくる。
 
 そんな仕草が可愛くて、いたずら心を刺激された俺は、
 そのままの姿勢で彼女のわき腹をこちょこちょとくすぐってみた。

 
「ひゃっ! ……んっ!」

 薫が体を捻ってくすぐりから逃げようとするが、俺が両腕でがっちり捕まえているので、簡単には逃げられない。
 
 顔を真っ赤にして堪える彼女の姿に調子にのって、俺も手の動きを早めていく。
 
「ふっ、う……だ、だめっ、だよ……くすぐったい……!」

 俺の腕に必死にしがみつきながら、苦しそうに呟く。
 彼女がひと際大きく体を跳ねさせたところで、俺もようやくくすぐっていた手を止めた。

 
 胡坐の上で、まだ腕をきつく抱きしめたまま、肩で息をする薫。
 少しやりすぎたかなと、少々涙目になっている彼女を優しく抱きしめて、俺はごめんなと声をかける。

「薫の反応があんまり可愛くってさ……つい、いたずらしたくなったんだ」

「うぅ……朝からこんなの、いじわるだよぉ」

 拗ねたように言う彼女も可愛くて、もう一度くすぐろうかとも考えたが、時計の針を見て思いなおす。

 
 薫の両脇に手を通して足の上から彼女をどけると、俺は立ち上がって洗面台へ。
 
 流しの隣に置かれたカップにささる、他よりも一つだけ大きい自分の歯ブラシを手に取ると、
 後からやって来た薫も隣に立って、二人で歯を磨き始める。
 
 しばらくの間、ブラシを擦るしゃかしゃかという音だけがその場に響く。

 
「やっふぁり、へんへーはほっきいね」

 口に歯ブラシを加えたまま、薫が鏡に映る二人の姿を見ながら言った。
 ここでも彼女は踏み台を使っていたが、それでも俺達の身長差は二十センチ以上はあるのだろうか。
 
「そりゃあ、薫に比べたら大人だからな」

 歯を磨き終わった俺がそう言って彼女の頭を撫でると、どうせ子供ですよーと薫が頬を膨らませたが、
 でも、すぐに大きくなるもんねといつもの元気な顔になって笑った。

 
「それじゃ、行って来るよ」

 靴で一杯の玄関に立って、俺は薫に声をかける。
 
「あ、まってまってっ!」

 そのまま家を出ようとする俺に、彼女がぱたぱたと手を振ってしゃがんむようにとジェスチャーで促す。

 
 それに従って、彼女の目線と同じ位置にくるまで膝を屈めると、薫が俺の顔を両手で挟み、その頬に優しく口をつけた。
 
「さっきの仕返しだよ……えへへっ♪」

 そうして素早く身を引くと、呆気にとられている俺に向かって、いたずらっぽく微笑む。
 

「それじゃ、いってらっしゃいまー! 薫、良い子でお留守番してるからねっ!」



 その一「もしも竜崎薫と結婚したら」編 おしまい

書き溜め終わったのでとりあえずここまで

信者の方に「新スレあったの気づかなかったけど荒らしてくれたから気がつけたわ」と感謝されたので今回も宣伝します!

荒らしその1「ターキーは鶏肉の丸焼きじゃなくて七面鳥の肉なんだが・・・・」

信者(荒らしその2)「じゃあターキーは鳥じゃ無いのか?
ターキーは鳥なんだから鶏肉でいいんだよ
いちいちターキー肉って言うのか?
鳥なんだから鶏肉だろ?自分が世界共通のルールだとかでも勘違いしてんのかよ」

鶏肉(とりにく、けいにく)とは、キジ科のニワトリの食肉のこと。
Wikipedia「鶏肉」より一部抜粋

信者「 慌ててウィキペディア先生に頼る知的障害者ちゃんマジワンパターンw
んな明確な区別はねえよご苦労様。
とりあえず鏡見てから自分の書き込み声に出して読んでみな、それでも自分の言動の異常性と矛盾が分からないならママに聞いて来いよw」

>>1「 ターキー話についてはただ一言
どーーでもいいよ」
※このスレは料理上手なキャラが料理の解説をしながら作った料理を美味しくみんなで食べるssです
こんなバ可愛い信者と>>1が見れるのはこのスレだけ!
ハート「チェイス、そこの福神漬けを取ってくれ」  【仮面ライダードライブSS】
ハート「チェイス、そこの福神漬けを取ってくれ」  【仮面ライダードライブSS】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1456676734/)


とりあえず
×竜崎薫
○龍崎薫
だよ。名前間違えないでね。

>>27
×「もしも竜崎薫と結婚したら」
○「もしも龍崎薫と結婚したら」

ですね。こんな単純なミスをするとは、申し訳ない。

 
「P……どうか……した?」

 隣に座っていた雪美が、俺の顔を覗きこむようにして言う。
 そのゆっくりとした動きに合わせて、彼女の長い髪が、さらさらと揺れて。

「なに……まだ、こういうのに慣れてなくってね」

 俺は照れたようにそう言うと、繋いでいた彼女の小さな手を握り直した。


――彼女、佐城雪見と結婚してから、もうすぐ二ヶ月になる。

 
 俺達はまだ少し肌寒い空気の中、家の近所にある公園のベンチに座り、のんびりとした時間を楽しんでいた。
 
 結婚を機に周囲の環境も変わり、ここ最近は何かとばたばた落ち着かなかったので、こうしてゆっくりと過ごすのも久しぶりだ。

 
「P……他の子の事……考えてる?」

 柔らかな感触が、俺の腕に密着する。見ると雪美が、繋いでいた手をほどいて俺の腕にしがみついていた。

 
「今は……ペロもいない……二人だけ……だから」

 そう言って少し、可愛らしい眉を吊り上げる。どうやら、彼女なりの嫉妬の表現らしかった。

 
「悪い悪い……そうだったな」

 腕を通して伝わってくる彼女の体温が、冷え始めた体を温めていく。
 日はまだ高く上っていたが、コートも着ていない格好のまま、ここに座り続けるのも考え物だ。
 
 なにより、雪美が風邪を引かないか心配する。
 そんな事を考えていると、公園を抜ける風を受けた俺は、思わず彼女の前でくしゃみをしてしまった。

 
 少々格好の悪いところを見せてしまったと照れ笑いする俺に、寒いのかと雪美が聞いてくる。

「……待ってて……私が……温めてあげる……」

 雪美はそう言うと、まるで猫が体をこすり付けるようにしながら、俺の膝の上まで体を移す。
 
 そして今度は俺の両手を掴むと、自分のお腹の方へ。

 
 されるがまま、気が付くと俺は雪美を膝に乗せ、彼女を抱きかかえるような格好になっていた。
 
「……こうしたら……二人ともあったかい」

 確かに、彼女の程よい重みと、少女特有の高い体温は心地よく。
 例えは悪いが、まるで湯たんぽを抱いて座っているようで。
 
 その時、離れた場所でこちらを向いて、ひそひそと話をしている主婦の集団が目に入った。

 
 瞬間、俺はしまったと顔を歪ませる。
 いくら法律が変わったとはいえ、俺達のような夫婦に対する世間の風当たりはまだまだ強い。
 
「雪美……そろそろ公園を出ないか?」

 突然の俺の言葉に、雪美は不思議そうな表情になったが、
 目線の先、主婦の集団を見つけて合点がいったのか、あぁと小さく呟く。
 
 結婚を決めた時、俺がなんと陰口を叩かれようと平気でいるつもりだったが、
 できる事なら、雪美にいらぬ思いはさせたくなかった。


「大丈夫……平気……だよ?」

 だが、彼女はそう言ってほどけかけた俺の両腕を、もう一度抱きしめる。
 
「Pと……私……他の人がなんて言っても……私達は、夫婦……だから」

 そう言って、くすくすと微笑む。

 
 噂好きな主婦達が去った後も、俺達は何をするでもなくベンチに座ったままで時間を過ごし、それは日が暮れ始めるまで続いた。
 
「あ……ペロ……」

 あまりに帰りの遅い主人を心配したのか、留守番をしていたはずのペロが、いつの間にか公園の入り口に座っていた。
 
 膝の上の雪美が手招きをすると、ゆっくりとこちらに近づいて来る。

 
「それじゃ、そろそろ帰ろうか」

 ベンチから立ち上がる頃には、体が固まって、足も少ししびれはしたが……その分、充実した時間を過ごしたと考える。

 
「手……つなご……?」

 ペロを抱えた雪美が、空いている方の手を俺に向かって差し出してくる。
 
 俺は彼女に、もちろんと笑顔で答えると、その手をぎゅっと握り返し、二人並んで公園を後にした。

 
 帰り道、夕日に照らされた町を見ながら、俺は雪美に話しかける。
 
「なぁ……」

「……何?」

「今日は、ありがとうな。その、少し楽になったよ」


 雪美が、繋いでいる手に力を込める。その顔が赤いのは、照れているのか夕日のせいか。
 
 俺が微笑みながらそんな彼女を見下ろすと、寡黙な主人に代わってか、ペロが一声、にゃんと鳴いた。

 

 その二「もしも佐城雪美と結婚したら」編 おしまい

書き溜め終わったのでとりあえずここまで
八割方書き終ってはいるので、推敲できしだい投下していこうかと思います

===
 
「Pさん。この後、どこかに寄るだけの時間はありますか?」

 仕事帰りの車の中、助手席に座るありすが、手に持ったタブレットから目を離さずに話しかけてくる。


「どうしたありす? 急にかしこまって」

「何度も言いますが私は――っ」

 タブレットを操作しながらだったからだろう。その時、ありすの口から『例のセリフ』が漏れそうになったが……
 すんでのところでそれを飲み込んだ彼女が、なんとも決まりの悪そうな顔をして俺を睨む。
 
 しまったという気持ちと、恥ずかしいという気持ち……その両方が混ざり合ったような顔を見て、
 俺はハンドルを握りながら、噴出しそうになるのを堪えるのが大変だった。


 それからのありすは、自分の不注意だったというのに、すっかりと機嫌を悪くしてしまって。
 
「それで、さっきの話なんですが」

 先ほどから窓の外を向いたままの彼女が、淡々と言葉を続ける。
 その素っ気なさに、俺は初めて彼女と出会った頃を思い出し、なんだか懐かしい気持ちになっていた。

 
――彼女、橘ありすと結婚してから、今日でちょうど三ヶ月目。


「……何をニヤついているんですか。気持ち悪いですね」

「いや……別になんでもないよ」

「そうですか? 実は、連れて行って欲しいお店があるんです」


 面倒なら、構いませんけどと付け加えるありすに、俺は快くいいよと返事をすると、彼女の指定した場所まで車を走らせる。

 
 ついた先は一軒の洋服店。俺は来た事がなかったが、
 人気のあるブランドのお店だという事は、テレビや雑誌で見て知っていた。

「あなたは、ここで待っていてください」

 一緒に降りようとシートベルトを外した俺に向かって、ありすが睨みつけるようにして言う。


「待ってろって……一人で行くのか?」

「子供じゃないんですから。買い物ぐらい、一人でもできます」


 絶対についてこないで下さいよと念を押す彼女に、俺はわかったわかったと相槌をうって車に残る。
 
 そうして店内に入ってゆく彼女の後姿を見送ってから、俺は車のラジオのボリュームを上げた。

 
『今週のヒットチャート。注目はなんと言っても現在人気上昇中のアイドルグループ――』
 
『――的場総理はこういった問題にもしっかりとした対応をしていきたいと発言し――』

『姫川ユッキの、今日の指名打者は誰だのコーナー! さぁて今夜のゲストは――』
 
『――地方の天気は全体的に雲が多く、ところによっては一部で雨が降ることも――』


 かちかちとラジオのチャンネルを回してみたものの、特にコレといって興味のある番組があるわけでもなく。
 
 ラジオの電源を切った俺はシートに深く座りなおすと、今度はここ数ヶ月の間に起きた出来事をあれこれ思い返してみる。

 
 半年前の出来事を機に前の事務所を辞めて、別の職場に移ったこと。
 一緒に連れてきた彼女達の願いどおり、活動を続けていけるよう親御さん達を説得して回った事。
 ちひろさんの提案により、奇妙な同棲生活がスタートした事。
 
 そして今、彼女達と一緒に暮らして、以前と変わらぬ笑顔を俺達に見せてくれるようになった事――。


「Pさん? どうしたんですか」

 突然声をかけられて、俺は回想から現実に引き戻される。
 
 見ると、買い物を終えたありすが、小さな包みを持って車に乗り込んでくるところだった。

 
「……もしかして、泣いてました?」

 彼女の言葉に、俺は慌てて目頭を拭う。
 
「な、泣いてたんじゃなくてな……その、あくびしたらさ、そう。あくびしたから涙がちょっとな」

 俺のへたくそな言い訳を黙って聞き流すと、ありすがそのまま助手席に腰を下ろす。

 
「ははは……そ、そうだ! それで、お目当ての物は買えたのか?」

 すると、彼女が持っていた包みを渡してきた。
 
 じっと俺を見つめるのは、ここで中身を確認しろという事なのだろう。
 
 促されるまま、包みを開くと、入っていたのは中が見えるようにラッピングされた細長い箱。

 
「……いつも私達のために頑張ってくれているので……その、プレゼントです」

 箱の中身は、中々におしゃれなネクタイ。それも、かなり上等な物なんじゃないだろうか?
 
 少なくとも普段俺が使っているような安い品ではない事は、簡単に見てとれた。


「嬉しいけど……どうしたんだ? 何かの記念日だったっけ?」

「――先日、ネクタイを一本、ダメにしてしまったので」

 そう言ってありすが、眉間にシワを寄せる。
 どうやら彼女は、この前の休日に洗濯機で皺だらけにしてしまったネクタイの事を言っているらしかった。


「でも……言っちゃあなんだが、高かったんじゃないか?」

 その言葉に、明らかに不機嫌な顔になるありす。


「お金の事なら、心配しないで下さい。大した金額ではないですから」

「……それと、あなたはそんな事を気にしなくたっていいんです。私が、似合うと思って贈るんですから」

「だからその気持ちに、値段をつけるような事は――――やめて」

 その時のありすの表情。そのなんともいえない雰囲気に、不覚にもドキリとさせられる俺。

 
 これ以上は話す事もないといった様子で窓の外を向く彼女に、ただ俺はありがとうと言ってから、車を発進させた。
 
 お互いに黙ったまま、二人を乗せた車は夜の街を走り続ける。
 
 そのうちに信号に引っかかり、何気なく通りを眺めていた時、俺はある事を思い出した。

 
「なぁ……今日って確か、一緒に暮らし始めてからちょうど三ヶ月目だったよな」

「……今頃、思い出したんですか」

 呆れたように返事をするありすの態度を見て、確信する。
 
 信号が変わった。俺はゆっくりとアクセルを踏むと、家に帰るのとは違う道に車を向かわせて。
 
 しばらくすると、さすがにありすも道が違う事に気が付いたのか、怪訝そうな顔をこちらに向けて言う。

 
「ちょっと……どこに向かってるんです?」

「あちゃ……気づかれちゃったか」

 悪びれることなく言う俺を見る、彼女の目つきがますますキツクなり。

 
「家に帰るなら、この道じゃないはずですよね?」

「それなんだけど……少し、寄って行きたい場所があってさ」

 ありすが嫌だって言うなら、今からでも引き返すよと付け加えると、彼女から皮肉を込めたセリフが返ってくる。

 
「それで……記念日を忘れるようなPさんは、一体どこに私を連れて行ってくれるんです?」

「うん。この先にね、美味しいケーキを出す喫茶店があるんだよ」

「喫茶店、ですか」

 ケーキという単語に、ありすがぴくりと反応を示す。


「まだ開いてると思うんだけど……凄いんだぞ、でっかい苺がごろごろ入ったケーキなんかもあってさ」

 俺の話を聞いているうちに、興味がわいたのだろう。
 徐々にありすが、そわそわと落ち着きを失くして行く様子をルームミラーで確認すると、俺はわざと残念そうに呟いた。
 
「でも、やっぱり今日は遅いし……ありすも疲れてたらいけない。喫茶店はまた今度にしようか?」


「――だ、ダメですっ!」

 食いつくように言った自分の言葉で、顔を真っ赤にして照れるありす。
 
 そうして、俺と顔を合わさないように、再び外を向く。
 
「ごめんごめん……冗談だよ、もうすぐつくからさ」

「……まったく、そういうところはいつまで経っても変わりませんね」

 不愉快ですと言ってため息をつくありすだったが、窓に映りこんだ彼女の顔、
 その口元が僅かに緩んでいるのを、俺は見逃したりはしなかった。


 
その三「もしも橘ありすと結婚したら」編 おしまい

書き溜め終わったのでとりあえずここまで


===

「あっ! 帰ってきたーっ!」

 元気なおかえりの声と共に、部屋の奥から玄関にいる俺めがけて、
 エプロン姿のみりあがぱたぱたと勢いよく駆けて来る。

 
「よっとっ! ただいま、みりあ」

 そのまま、靴を脱いでいる俺の腰に抱きつくようにして飛び込んできたみりあを受け止めると、
 俺は彼女のふわふわとした黒髪に手をやって。
 
「今日はね、私の番! 美味しいご飯作って待ってたから……一緒に食べよっ!」

 そう言って笑う彼女の笑顔を見ていると、仕事の疲れも吹き飛んでしまう、そんな気がしてくるから不思議なものだ。

 
――彼女、赤城みりあと結婚してから、早くも四ヶ月の時が流れようとしていた。


 小さなテーブルの上にはシチューの入った大きな鍋と、お子様ランチよろしく旗の刺さったオムライス。

 みりあが鼻歌を歌いながら、俺の分のオムライスにケチャップでハートを描くと、
 次はPさんの番と、持っていたケチャップを俺に手渡してくる。

 
「えっと……本当に描かないとダメか?」

「えぇー? ……Pさんはみりあの事、嫌いー?」

「い、いやいやいやっ! そんな事はないぞ? だから、その顔は止めようなー?」

 途端に悲しそうな顔になるみりあに、俺は慌ててそう言うと、
 今度は彼女の分のオムライスに、ハートマークを描いていく。

 
 すると、机に両肘をつき、体を覗き込むようにぴょこぴょこと揺らしながら、彼女がその様子をじっと見つめてくる。

 正直に言おう。かなり恥ずかしい。

 
「……っし! できたぞ」

「えへへっ、ありがとう!」

 少々いびつではあったが、完成したハート入りオムライスを見て、みりあが満足そうに頷いた。
 
 そうして今度は、二人の器にシチューをよそっていく。

 
「……ちょっとタレちゃった……拭くもの、あるかなぁ?」

 みりあが、手についたシチューを舐め取りながら聞いてくる。
 俺は箱に入ったティッシュを渡してやりながら、少々シチューがこぼれてしまった器を受け取った。
 
「あのね、今日はオムライスと……ハンバーグにしようと思ってたんだけど」

 二人そろっていただきますをした後で、みりあが今夜の献立について話し始める。
 これは彼女が初めて家でご飯を作った時から変わらない、一種の恒例行事といっていい。

 
「でもでも、今日は寒いってテレビで言っててね? それで、あったかい食べ物にしようって決めたの」

「それにねそれにね? なんとなくだけど、シチューって家族の料理って感じがして……するよね? Pさん」

 そうだなぁと相槌をうつと、彼女の話題は留まる事なく広がっていって。
 
 学校のこと、家での出来事、仕事の話に友達との遊びの様子、最近の気になったことや他の子達との関係……
 そういった事をひとつひとつ、身振り手振り、オーバーな表現を交えながら楽しそうに喋るみりあを見ていると、
 なんとも不思議な気分になるもので。

 
「――でね、それから莉嘉ちゃんが……って、どーしたの?」

 きょとんとした顔で、そう聞いてくる彼女。
 
「いや……幸せってのは、こういう事を言うのかなぁって」

 何気なく呟いたつもりの一言だったが、みりあは持っていたお皿を置くと、
 俺の隣まで近づいてきて、そのまま寄り添うように体をくっつけた。

 
「お仕事で、なにか困った事、あった?」

「……なんでさ?」

「だって、そんな顔してるもん」

 当然だよという顔で俺を見上げる彼女に、かなわないなぁと頭をかきながらぼやく。

 
「まぁ……ちょっと、落ち込む事があったんだけど」

「昔から懇意にしてもらってた仕事先にも、俺達の件で圧力がかかったみたいで……その、契約を切られちゃってさ」

「別にやましい事をしてるわけじゃないけど……こういう時に何にも出来ない、力のない自分が悔しいなって」


 俺の頭が、不意に引っ張られると、そのまま彼女のお腹に顔をうづめる形で、その柔らかい膝の上に乗せられる。
 
「……みりあはね、Pさんとこうして結婚して、良かったなって思ってるよ?」


 そうして、彼女の小さな手が、優しく頭を撫でていく。
 
「私達が困ってた時に、守ってくれたのはPさんだけだったよね」

「それに、事務所を移った後もパパやママにお願いして、アイドル、続けさせてくれて……」

「前よりはお仕事へっちゃったけど……それでも、みりあはアイドルできてるんだから」


 ぎゅっと、彼女の柔らかい腕で頭を包まれる。
 
「Pさんが頑張ってくれてるの、私達は知ってるよ? ……だから、自分には何も出来ないなんて、思わないでほしいな」


 いつの間にか、年甲斐もなく泣き出した俺の背中を、彼女がぽんぽんと優しく叩く。
 俺は、自分よりも一回りも二回りも小さな少女に慰められながら、ただ、ひたすらに涙を流していた。

 
「――どう? もう大丈夫?」

 どのくらいの時間が経ったのか。ようやく落ち着いた俺を見下ろしながらみりあが言う。
 
「……ありがとう」

 その言葉に、彼女は優しくうんうんと頷いて、膝の上から体を起こした俺の背中をぺちんとはたく。
 

 
「それじゃ、この話はおしまーい!」

「ごはん、食べよっ? シチューも冷めちゃったから、もう一度温めなおしてくるね!」

 そう言って鍋を持ち、台所に行こうとする彼女が、何かを思い出したように振り返って俺を見る。
 

「Pさん、あのねっ!」
 
「ど、どうした?」
 
 そんな彼女の表情はお日様のような、とびっきりの笑顔で。
 
「私ねっ! Pさんのこと――」

 
その四「もしも赤城みりあと結婚したら」編 おしまい


===

「……あっ。起こしちゃいましたか?」

 ふと目を覚ますと、目の前に横たわる千枝の顔。
 
 伸ばした俺の腕に頭を乗せて、二人仲良く畳の上に転がっていた。時計を見ると、夜の九時を回ったところ。

 
「俺、寝てたのか?」

「はい、晩御飯を食べた後ですぐに……よっぽど、疲れてたんですね」


 くすくすと可愛らしく千枝が笑って、言葉を続ける。
 
「それで、お風呂も準備できてますけど……入ります……よね?」

「あぁ……そうだな」


――彼女、佐々木千枝と結婚してから、もうすぐ五ヶ月になる。


 風呂で汗を流し、寝ぼけた頭と体をさっぱりとさせた俺は、
 部屋の中央、小さなテーブルに向かい、持って帰っていた仕事用の資料をまとめていた。
 
 その隣に、うさぎがプリントされたパジャマを着た千枝が、ちょこんと座る。

 
「……先に寝てていいんだぞ」

「大丈夫です。まだ、眠くありません」

 そうして、千枝が俺の肩に頭をもたれさせてくる。
 まだ乾ききってない洗い立ての髪から香る、シャンプーの匂いに鼻をくすぐられて。

 
「あの……お邪魔、ですか?」
 
 しばらくの間そうやって俺の作業を眺めていた千枝が、ぼそりと呟く。
 
 肩ぐらいなら大丈夫と答えると、彼女はいそいそと俺の腕をどかして、今度は胡坐の上に場所を移してきた。
 
 柔らかな感触と、風呂上りで火照った体温が、薄いパジャマの生地越しに感じられる。
 さらに、近くなった彼女の頭からは、シャンプーの香りがより一層強烈に俺を襲って。

 
「……千枝」

「はい。なんでしょう?」

「前が見えなくなるから、今は足から降りてくれないか」


 それは嘘だ。両手は自由に動かせるし、顔をずらせば机の上だって問題なく見ることが出来る。
 そして、彼女もそれを分かっているのか、黙ったまま動こうとはしない。


「千枝?」

 今度は少し強めの口調で、彼女の名前を呼ぶ。すると少し戸惑った後で、彼女が体を捻り、俺を見上げてくる。
 
「あの……怒ってます……よね?」

 だが、その顔は悪い事をしたという顔ではなく、何か別の物を期待している表情。

 
「あぁ、ちょっと怒ってるな」

「で、ですよね。Pさんのお仕事の、邪魔になってますし」

 しかし、その言葉とは裏腹に、千枝の顔は先ほどからどこか嬉しそうだ。
 その理由を容易に想像できる分、この子の場合は他の子よりもタチが悪い。


「それで……やっぱり怒られちゃいますか? 千枝が、悪い子だから……」

 憂いを帯びた、危うい笑顔。俺は大きく深呼吸をして心を落ち着かせると、ゆっくりと彼女の両脇に手を通す。
 
 そしてそのまま持ち上げると――彼女は特に抵抗もせず、足の上から降ろされる。

 
「はい。足の上はおしまいな」

 残念そうに肩を落とす千枝だったが、すぐにまた寄って来ると、今度は頭を膝の上に乗せてきた。

 
「これなら……いいですよね」

 見ると、いたずらっぽく俺を見上げる千枝の顔。その潤んだ表情に、俺は深いため息で返事をする。
 その後も資料をまとめている間、彼女は頭をお腹にこすり付けたり、その細い腕を腰に回してきたりしていたのだが……。

 
「……千枝?」

 そのうち、急に静かになったなと下を見ると、なんとも可愛らしい寝顔をした千枝の姿がそこに。
 
 時計を見れば、もう日付も変わろうとしていた。

 
「まったく……風邪でも引いたらどうする気なんだか」

 千枝の軽い体を持ち上げて、ゆっくりとベットの上に寝かせると、明日の準備を確認してから、俺は部屋の電気を消す。
 窓から入る月明かりの中、隣で寝息を立てる彼女の髪を優しく撫でる。すると、もぞもぞと体を動かして。


「ふぅ……P……さん……」

 寝ぼけたまま、枕元に横たえられた俺の腕を見つけると、その上に自分の頭を乗せ、再び可愛らしい寝息を立て始める。
 
 一体どんな夢を見ているのだか……その寝顔を眺めながら、いつしか俺の意識も深いまどろみの中へ溶けていった。


その五「もしも佐々木千枝と結婚したら」編 おしまい

書き溜め終わったのでとりあえずここまで

>>49訂正

 ×半年前の出来事を機に前の事務所を辞めて、別の職場に移ったこと。
 ○例の事件をきっかけに前の事務所を辞めて、別の職場に移ったこと。

===

「おら起きろっ! いつまで寝てる気だ、この寝ぼすけ!」

 随分と辛辣な言葉が飛んできたかと思うと、続いてやって来た肌寒さに、思わず体を丸めて目を覚ます。
 
 ベットの横には、先ほどまで俺の上にかかっていたであろう毛布を持った晴が立っていて。

 
「ぼさぼさしてないでさっさと起きろよ。休みだからってダラダラしてて良いわけじゃねーんだからな!」

 そう言って、俺の頭の上に、ぺちんと手刀が振り下ろされた。

――彼女、結城晴と結婚してから、はや半年。

 晴によって文字通り叩き起こされた俺は、寝巻きのままで畳の上に座り、テレビのニュースをぼぉっと眺めていた。
 台所からは、髪を後ろでまとめた晴が包丁でネギをきざむ、トントンという音が小気味よく聞こえてくる。

 
 台所では、髪を後ろでまとめた晴が、リズムよくネギを包丁で刻んでいてた。
 
「今日はゴミの日だから……さっさと顔洗って、着替えて、それからまとめてあるゴミを持ってって……」

 手元から目を逸らすこともなく、俺に向かって矢継ぎ早に指示が飛ぶ。
 だが、俺の頭は未だにもやのかかったような状態。そしてなにより、今日は久しぶりの休みである。

 
 だらだらとしていたい気持ちと、早く動かねばという気持ちが、今まさに熾烈な争いを繰り広げていて――。
 
「おい、まぁだ寝ぼけてんのか?」

 いつまでも動き出さない俺に業を煮やしたのか、気がつけば、両手を腰に当て、仁王立ちしている晴がすぐそこに。
 彼女のエプロン姿も随分と様になってきたものだ等と考えていると、俺はお玉で頭をこづかれた。


「お、起きてるって……ちゃんと」

 ヒリヒリと痛む頭を撫でながら見上げると、晴は随分と呆れた表情。

「だったら、すぐに動く! 明日は皆集まるんだし、今日片付けとかないと、この部屋、座る場所だってねーぜ」


 そう言うと、持っていたお玉を使って、晴がぐるりと部屋の中を指し示す。
 
 その動きに合わせて俺も視線を移動させると、なるほど、部屋の隅には洗濯物が溜まり、
 床にはごちゃごちゃと資料やファイル、雑誌なんかが無造作に積まれていて。


「大体な、他の連中はPを甘やかしすぎなんだよ。最初の頃は自分達で部屋の片付けだってやってたのに……」

「仕事で疲れてるだろうからって、いつの間にかオレらが日替わりで掃除する事になってるし」

「そのうえ綺麗にしたって、一日もたてばあっという間に汚すしよぉ」

「……晴?」

「なんだよ? 今な、お前らがどれだけオレ達にお世話されてるかって話をだな――」

「それも分かるけどな、後ろ見ろうしろ」


 俺の言葉に、晴がしまったという顔になって慌てて振り向く。
 その先には、コンロに載せられたフライパンと、そこから立ち上る黒い煙。
 
 結局、この日の朝食は強気に焼かれた焦げ魚と味噌汁と。

 
「――うん、魚はともかく味噌汁は美味い」

「ともかくは余計だよ。そもそもPに構ってなけりゃ、魚だって焦がしたりなんてしなかったのにさ」

 ひょいと手を伸ばすと、晴が何も聞かずに醤油を渡してくる。
 お椀を出せばご飯をついで、相手のコップが空になればお茶をそそぐ。


 半年も同じ食卓を囲んでいるのだ。特に何も言わなくても、ある程度の意思の疎通が出来ている気がしてくる。
 
「なんていうか、こういうのがお互い自然に出来るようになると、家族だなって気がするな」
 
「あ、見てみろよ。梨沙の奴がテレビに出てるぜ」

「……もうちょっと真面目に聞けよ、お前も」


 とはいえ、晴とのこうしたやりとりも毎度の事。
 
 元々男っぽい性格の彼女に対しては、男友達や兄弟と話すような……
 そんな風に気さくに会話が出来る分、他の子よりも気は楽だ。


「親バカっているけどさ、娘の為に法律まで変えたのはこのおっさんが初めてなんじゃねーの?」

 テレビを見ると、未だかつて前例がないであろう、総理夫人アイドルとなった的場梨沙と、その父親が映っていた。
 それを見た俺も、味噌汁をすすりながら同感だよと返事をする。


「最初にあの話を聞いた時は、何言ってんだコイツって感じだったけどさ」

「今となっちゃ、こういうのも悪くないのかもなって逆に感謝してたりしてよー」
 
「随分と勝手言ってるのは分かってるつもりだけど……それで、こうしてPと一緒にいられるようになったんだもんな」


 テーブルの上に肘をつき、その手の上に顎を乗せた晴が、軽く口の端を持ち上げて微笑む。

 その笑顔と雰囲気の柔らかさに、普段はさばさばとしている彼女も、
 少しづつではあるが一人の女性に成長しつつある事を実感させられた。

 こんなふうに、大人と子供、そんな距離感でいられるのも、後どのくらいの間の事か……。

 
「――よしっ、決めた!」

 勢いよくそう言った俺の顔を、食器を片付けていた途中の晴が不思議そうに見つめる。


「久しぶりに、サッカーで勝負しようぜ。場所はほら、そこの公園で!」

「自分から誘ってくるとか、珍しいじゃん。最近は疲れてるからって、オレが誘っても断ってたくせにさ」

 とはいえ、そう言う彼女の顔も嬉しそうで。

 
「でも、その前に――部屋の片付け、ちゃんと終わらしてからだぜ?」

「う、わ、忘れてなかったのか……」

 当たり前だろと笑って、食器を運ぶために立ち上がった彼女に、ぼやく。

 
「まったく、見た目や態度と違って、しっかりしてるよ、お前は」

「Pみたいにずぼらなヤツの世話してりゃ、嫌でもしっかりするようになっちまうよ」

「それにやっぱり、その……なんだ……」


 途端に、歯切れの悪くなる晴。しばらくその場で固まっていたが、
 やがて気合を入れるように息を吸うと、顔を赤らめながら、彼女が口を開く。

「――お、オレはお前の、その……嫁……なんだし……」


 そうして、二人の間におとずれる沈黙。

「や、やっぱ今の無しっ! わ、忘れろっ!」

「えぇ~? 可愛らしい晴ちゃんは、何を忘れて欲しいって~?」

「てめぇっ! それ以上おちょくると持ってる皿ぶん投げるからなっ!?」

 
 狭い部屋にやいやいと響く二人の騒ぎ声、だが、それもまたいつもの風景。
 この先二人の距離がどう変わって行くかはわからなかったが――今は、このぐらいで丁度いいのだ。
 

その六「もしも結城晴と結婚したら」編 おしまい

ご飯食べるので、ちょっと中断です

===

ここから先は、エピローグとなります。
少女達とのいちゃいちゃもないし、長いので、興味の無い方は読み飛ばしても問題ないです。

===

 あの日を境に、これまで考えられていた常識が、あっという間に過去の物に。
 
 結婚における制限の緩和。たったそれだけの事で、私達をとりまく環境は大きく変わってしまって。
 
 まるで戦国の世のように、政略結婚まがいの行いが、業界の中にはびこるようになりました。

 
 はっきりと言ってしまいましょう。一時期の間、この場所はまさに地獄の縮図。
 
 突きつけられる現実に、夢を諦め、去っていく者。
 
 混沌とした世界だからこそ、それを利用してのし上がった者。
 
 ほんの一握りではあったが、何事もなく、それまでの地位を維持する事ができた者。
 
 そして……自らの意思で、身の振り方さえも決める事が出来なかった者。


――それは初めて聞く、あの人の怒鳴り声でした。
 私の隣に立つ彼は、普段温厚な姿からは想像も出来ないような、憤怒の表情を向けていて。
 
「だから、決定だと言っている。悪い話じゃないだろう? 言ってみれば……そう、許婚みたいなもんだよ」

 そう言って、社長が集められた彼女達を見回します……みな一様に下を向き、それはまるで裁かれるのを待つ罪人のようでした。

 
 私を含めた三人の大人と、六人の少女達。それが、この事務所にいる全ての人間。

 当時、私達の働いていたアイドル事務所は規模も小さく、経営だって、お世辞にも順調とは言えない状況で。

 
 そんな時に持ち込まれた、ある「取引」の話。それは、特殊な嗜好を持った人達からの、甘い誘惑。

「それにねぇ、先方はキチンと彼女達の今後を保障すると言ってるし……近々、親御さんの所に挨拶に行くともね」

「実際、こんなチャンスに巡り合える者なんて、中々いないんだよ? そんなせっかくの『厚意』を無下に断ろうだなんて……」

 社長の言葉を、彼が鼻で笑って続けます。
 
「そんな話が聞きたいんじゃあないんですよ。
 結局のところ、それによってウチに入って来る金の事しか、あんたは興味がないんでしょう?」


 そう、これは確かに「取引」でした。事務所に所属していたジュニアアイドル達を使った、
 多額の現金と、業界においての強力な後ろ盾を得る事が出来る、今の社長にとって、逃す事の出来ない千載一遇のチャンス。
 
 でも、それは同時に、まだ年端も行かない少女達の今後の人生さえも決めてしまう、悪魔の契約。

 
「――ちひろさんは、この話に賛成なんですか?」

 急に話を振られ、私は何も言えず、口ごもる。
 許されていいはずはないと理解していても、部外者の私に、この問題の決定権など、そもそも最初からないわけで。
 
 その事を、彼だって理解しているはずです。でも、それでいてなお私に意見を求める、その理由。
 
「わ、私は……その……」

 部屋中の視線が、私に集まります。その中には、もちろん彼女達の物も含まれていて。


 言葉にはせずとも、その不安げな表情……自分を守ってくれるよう、すがる様なその瞳は、分かってはいたんです。
 
「……私には、決められません」

 搾り出すように言ったその一言は、一体どれ程の切れ味を持って彼女達の心を突き刺したのか。
 
 結局、その日のうちに彼は事務所を追い出され、残ったのは死んだような目をした少女達と、保身の為に彼女達を見捨てた、私。
 
 邪魔をする者がいなくなると、社長はすぐさま取引のための準備を始めました。
 いくら法律が変わったとは言え、結婚のためには双方の合意が必要です。
 きっと、話に出ていた、「挨拶」の段取りでもつけていたのでしょう。
 
――けれど、事務所を追われた彼は……彼女達を助ける事を、諦めてはいませんでした。

===

「……なんですか、ちひろさん。さっきから僕の方をじっと見つめて」

 彼が、持っていた書類から顔を上げて、不思議そうに私に言います。
 
「また、『ちひろさん』ですか。家にいるときぐらい、ちひろって呼んでくださいよ」

 小さなテーブルを挟み、対面に座る彼が苦笑いで誤魔化します。
 
――彼、Pさんとの同棲生活も、今年で三年目を迎えました。


「ちょっと、思い出してたんです。前の事務所と……この子達のこと」

 視線を移すと、ベットの上に仲良く並ぶ彼女達の姿。久々に全員が揃ったので、はしゃぎ過ぎたのでしょう。
 今はもうみんな、ぐっすりと眠ってしまっていて。
 
 晴ちゃんを挟むようにしてベットに転がるみりあちゃんと雪美ちゃん。その足元には、丸まるようにして薫ちゃんが。
 千枝ちゃんとありすちゃんは、Pさんの膝に頭を置いて。これは最初にお泊りした時から、今も変わってないですね。

 
「今だから言えますけど、ずっと、怖かったんです……あの時の私、本当に酷い事をしてしまって」

 手にしたマグカップの中、湯気を立てているコーヒーを見つめて、ぽつりぽつりとあの頃の気持ちを今更ながらに言葉にします。
 そんな私の告白を、Pさんは黙って聞いてくれて。
 
「……やっぱり、怒ってます……よね?」

 おずおずとそう言うと、Pさんが自分の分のコーヒーを一口飲んでから、口を開きました。

 
「それを聞くって事は、ちひろは、僕に怒って欲しいのかな?」
 
 意地悪そうな、含み笑い。普段は年下だからと言って、頑なに敬語を崩さないのに、
 こういう時にだけ、彼は砕けた喋り方をするんです。
 
「――正直言うと、あの時はがっかりしましたね」

 あぁ、やっぱり。肩を落とす私に、彼が「でも」と言葉を続けます。

 
「その後は別ですよ。ちひろさんが事務所に残ってくれていたお陰で、僕は彼女達と連絡を取り合えましたし、
 それがなかったら、あんなにスムーズに事務所を移す事なんて、できませんでした」

「今だって僕の代わりに、朝早くから夜遅くまで、慣れない社長業までやってくれて……僕の方こそ、どれだけ助けられている事か」

 そう、事務所を追われたPさんは、自分で新たに作った事務所に、「取引」の対象となっていた少女達を引き抜いた。
 
 正確に言うならば、一度前の事務所を辞めた彼女達を、新しい事務所にスカウトしなおしたんです。

 
「でも驚きましたよ。ちひろさんに、彼女達との結婚を勧められた時は」

「あ、あれは……その、今後もあの子達がアイドルをしていくための、苦肉の策と言いますか」

 私の考えた苦肉の策。それは、法律を逆手に取ったともいない程に、単純な物。
 
 政略結婚まがいの取引を求められるのならば、先に誰かと結婚してしまえば良いじゃないか。
 そう、例えば自分達の事を、本気で心配して、真剣に考えてくれる……そんな人物と。

 
 これに関しては、運もそれなりに良かったのだと思います。
 規制による結婚年齢の低下、近親婚を含む、一夫多妻制の適用……
 まるで誰かさんが、自分の父親と結婚するために作られたような緩い規制が、私達にとってはかえってプラスに働いたのです。
 
 その結果、既婚女性となった彼女達にたいする「取引」はそもそも成立させる事が出来なくなり、この話はなかった事に。
 さらには所属するアイドルがいなくなって活動を続けられるはずもなく、そのまま事務所は倒産。

 あの社長だった人物が今どこで何をしているのか……今となっては、それはもう知ることすら難しいのですが。

 
 こうして、新たな事務所での活動を始めたPさんと六人の少女達。
 最初はお仕事もろくになくって大変でしたが、それでも、経営は徐々に軌道に乗って、
 今ではそれなりに順調だと言ってもいいんじゃないでしょうか。
 
 でも、それで全ての問題が解決したワケでは、なかったのです。なぜなら、それは……。

 
「――ねぇPさん」

「どうしたんです? あらたまって」


「その……私達の結婚について、あなたの意見が聞きたいのですけれど」

 そう、あの出来事の後で、似たような問題が随所で表れたせいでしょう。
 
 異例といってもいいスピードで「幼妻法案」には細かい規制が敷かれ、業界における「取引」はその殆どが姿を消しました。

 
 こうして、少女達が「既婚」である必要は無くなったのですが。
 
『私達、離婚したくないです』

 私にとっては、まさかの伏兵でした。その頃には程度の差こそあれど、ほぼ全員がPさんに熱を上げている状態で。
 
 それもそうでしょう。彼女達にとって、彼は自分達を救ったヒーローなんですから。憧れが恋心に変わる……よくある話です。

 
 さらに厄介な事に、「取引」の一件によってその人柄を知られていたPさんに対し、
 無理に婚姻解消を迫る親御さんが出るはずもなく。
 
 『娘の目が自然に覚めるまで、このままでいいんじゃないでしょうか』
 
 それが、少女達の親が出した結論。なんとも馬鹿げてはいましたが、
 こうして三年も同棲生活を続けていた私よりも先に、親公認の婚姻状態になった少女達は、
 日替わりでこの家を訪れては、お泊りをしていくという奇妙な結婚生活をスタートさせたのです。

 
「それで、もう一度聞きますけど……私との結婚は、いつになったらしてくれるんですか?」

「ち、近いですよちひろさん……顔も、怒ってるみたいでちょっと怖いですし……」

「まさか、もうこの子達に手を出してたりなんて……しませんよね?」


 私の質問に、まさかまさかと物凄い速さで首を横に振るPさん。
 そんな彼の隣まで移動すると、本当ですか? と詰め寄ります。

 
「も、もちろん彼女達とは健全なままですよっ? 結婚できる年齢が下がったって言っても、
 規制通りお泊りは週に二回だけ! 手を出したら婚姻状態でも捕まるのは理解してますし!」

「だ、大体僕はろ、ロリコンじゃないですからっ……ちひろさんというちゃんとした大人の女性と付き合ってるじゃあないですか!」

「でも、晴ちゃんとありすちゃんはもうすぐ成人扱いで……
 そうなったら、お泊りの制限は無くなりますし、親の許可が出ればあもがっ!」

「そ、それ以上言っちゃいけませんよちひろさんっ!?」

 Pさんが、開きかけた私の口を慌てて塞ぎます。そうして、じたばたと暴れる私を彼がきつく抱きしめて。
 

 あ、ダメです。ここでこのお話はおしまいにしましょう。

 
――なんでですかって? そ、そんなの、聞かなくたって分かってるんじゃないですかっ!? 

 ああもうっ! お、おしまいったらおしまい! これでおーわーりーでーすーっ!!

 
 
エピローグ

 「もしも年少組と結婚したら」改め、「花嫁達の馴れ初め話」編 おしまい

===

※ このssはまったくもって健全であり、決して特殊な性癖を奨励する物ではございません。
  大事な事なので、もう一度繰り返しお伝え致します……健全でしたよね?
 
 描写不足な箇所や設定の甘い部分も多々あったとは思いますが、これにて本編は終了です。
 それでは、長々とお読みいただきまして、ありがとうございました。

 
 蛇足のおまけ
 
・年少組は9~12歳の子から選出。
 それ以上になると、どうしても微笑ましさよりもエロさが出てくる気がしたので。
 ちなみに境目は小学か中学かの違い。なので12歳でも莉嘉は対象外。
 
・メンバーについても、Pと「妻らしい」絡みが出来る子から選んでいった。
 なので動かしにくいこずえとか、考えていたシチュエーションが妻よりも恋人に
 近かったメアリーやちゃまは、日替わりの人数と踏まえて今回は見送りに。
 
・書き終わってからキュートの子が一人も出ていないことに気づく。
 CuPの方には申し訳ないことをしました。
 
・幼妻法案に関しては、デレステにおける梨沙の一コマからです。

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