一人カラオケで裏声の練習をする男の話 (81)




無機質な白の机、突っ伏す僕。

心地のよくない教授の声色。


鳴り響いたチャイムは、14時30分をお知らせした。





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授業終わりの訪れ。
今日もやることは決まっている。


まず、あらかじめ埋めておいた出席カードを提出箱に投げ入れた。

次に、ネットでオススメされて買った赤のノースフェイスのバッグを急いで背負う。

友達の誘いを断る。飲みは金曜日にしてくれよな。
そう思いながら、講義室を飛び出るんだ。


外に出た。愛車の白のルイガノに跨った。
街でよく見るし、なかなかかっこいい。

そして、そこにはいつもの警備員のおじさんがいた。
最終プロセス、それは彼との挨拶だ。






「君がこの時間に出て行くと、なんだか憂鬱になるよ」

「今日は“まだ火曜日”ですからね」

「日曜日が待ち遠しいねぇ」

彼に手を振り、僕は自由になった。


毎週火曜日、3コマ目終わりの午後。
人通りのまばらな今の時間こそ、僕の相棒だ。


そう、今日は“待ちに待った火曜日”なんだ。






運輸業者のトラックに煽られながら、路側帯の白線ギリギリを疾走。
そのまま、部屋を借りているアパートを通過。

踏切を越え、僕は街に出た。


向かう先は、いつものカラオケ屋。
僕は、誰にも言えない秘密の時間をここで過ごすんだ。






自動ドアが開くと、それは最近の歌なんだろうか。
聞いたことのないアイドルの曲が、程よい音量で流れている。


「いらっしゃいませ!」

「何名様でしょうか?」

「一人です」


このやりとりも、今なら怖くない。
カウンターにいる客は、僕一人だから。

でも、この店員さんは初めて会うなぁ。
今の僕は、どう思われてるんだろうか。






「ご利用時間はお決まりですかー?」

「1時間半で」


一時間じゃ、とても足りない。
でも二時間だと、喉に限界が来る。

一時間半という時間には、とても重要な意味があるんだ。






「機種の方はどちらにされますか?」

「DAMで」


友達と行くと、いつも“JOY”がいいと言われる。
でも……僕の歌いたい曲はこっちにしか入ってないんだよな。



「今、期間限定でイチゴのスウィーツフェアを実施していますが、いか」

「あ、結構です」


店員が言い切るのを待たず、断りを入れた。
この瞬間だけ、申し訳ない気持ちになった。






「では、お部屋が304号室になります」

「ドリンクバーは3階にもございますので、そちらをご利用ください」

「はい、ありがとうございます」

「ごゆっくりどうぞ!」


“304”と書かれたプラスチックのプレート。
これを持って、僕はエレベーターを待った。

上から降りてきたおばちゃんの集団をかわし、入れ替わりで中へ。






エレベーターを出ると、どこかの部屋から漏れる甲高い歌声が耳をつんざく。
おそらく彼も、一人だろう。部屋の向こうでも、なんとなく分かる。

「同業者かぁ」

僕はふざけて独り言を言ってみた。


部屋に入る前に、僕はドリンクバーで乳酸菌飲料をカップに注いだ。
後ろに綺麗な女の人が並んだので、少し急いでその場を離れる。

僕はあたかも、友達と来ているかのように見られたかったんだ。






304号室のドアを開く。
あざやかな黄緑色の壁が見え、中には簡素な机とそれを囲う固いフェイクレザー張りの椅子。
DAMを選ぶと、3回に一回はここが割り当てられる。

煙草の臭いがかえって落ち着く。吸いはしないけど。
煙草のひと箱分の値段でカラオケが一度できるなら、僕はそっちを選びたかった。


ここに来ると、僕は決まって先にマイクテストを行う。
バッグを奥に放って、早速マイクを手に取りスイッチオン。


『あーっ、あーーーーーーっ』

キイイイイイイイイン!


早速ハウりやがった。
鼓膜が破ける前に、急いで機械のツマミでボリュームを絞る。

誰なんだ、こんな大音量にして帰ったのは。






音量を整え、僕はもう一度マイクに向かった。


『あーっ、あーっ』


……オーケー、今度は完璧だ。
これでようやく、デンモクを手にできる。


カラオケに来た時、曲の選び方には二通りの方法がある。

友達と来たときは明るくて心地のよい、無難なヒット曲を。



そして一人で来たときは、僕が本当に歌いたいと思った曲を。





女の子がゲストと話す番組を流していた液晶画面に、一曲目○○というテロップが映った。

少しの間をあけ、曲のイントロが流れ出す。

僕は、マイクのヘッドケースに近い方を持った。
はたから見たら“ガチ”を意識しているように見えて気持ち悪いかも。


でも、そんなことはないよ。
なぜなら……







『げしでえええええええええええええ……』

『リライっ……ゴホッ!!』

『ゴフッ!!ゴフッ!!オゥエッ!!』



僕は音痴だったからだ。




今からお仕事逝きます

今日か明日には書ききりたいです
よろしくお願い致します




「はぁ……」


“一人カラオケ”と言う言葉が巷で流行ったのは、そう昔の話ではないと思う。
だけど、その一人カラオケを始めるためには結構なエネルギーを消費するんだ。


まずカラオケ自体、「皆でワイワイ」のイメージがついて離れないもの。
だから、一人で来たと言うだけでも、周囲にとってその人はイレギュラーになってしまう。

店側からしても、同じ時間で一人分の料金しか取れないから“ありがたいお客様”でないのは確かだ。
受付のお姉さんに、「うわ、また一人で来たよ」なんて思われたら嫌だなって気持ちも起こる。


でも、裏を返せばそれは“人目を気にせず自由に歌える”、“二人の時の二倍歌える”ということだ。
だから一人で歌いたい理由があるなら、一人カラオケはおかしくない……と僕は思うよ。






問題はその理由。
一人になってまでカラオケ屋に来る理由は、人それぞれだと思う。


一緒に行ける友達のいない人、一人で歌うのがただ好きな人。
ドン引き必須のえげつない歌が好きな人、静かな歌が好きな人。
中にはドリンクバーだけでいいなんて人もいる。


僕のように、歌が上手くなりたいと思う人も。






半年前、大学デビューに合わせて行われた人生初のカラオケ。
それは完敗に終わった。


僕の渾身の一曲が終わった後……みんな僕を馬鹿にするでもなく、怒るでもなく。

ただひきつった笑いだけがそこに起こったんだ。



「下手くそ」と言われる方がまだましだったね。
僕はそれがトラウマになりかけた。

でも、持ち前のポジティブさがここで生きる。
僕は、皆を見返すべく行動に出たんだ。






奥隣の部屋にも、“同業者”がいるみたいだ。
女の子の声だけど、一人の声しか聞こえないし……。

なにより、僕と同じくらい音痴だ。
だから、この子も練習だろう。

一人の理由は本人にしか分からないけど、僕は勝手にそう思った。

そんな中、腕時計が、残り時間が30分もないことを教えてくれた。
一通り好きな歌を歌ったあとだし、いつものノルマをこなすことにする。




それは、「モノノケヒメ」を歌うことだった。

裏声で。






響き渡る、とても気持ちの悪い裏声。
はりつめた弓が粉みじんになるような。

弦のふるえは、打ち上がった魚のような音程のせい。

本当のモノノケは、まさにその時の僕だったに違いない。


でも、これはやらなくちゃいけない。
皆ができない裏声で歌うことができれば、みんなを見返すことができるから。

単純な発想だった。
その練習法がこれで正しいかは分からないけど。



ケータイからすみません
ネット繋がらなくなりました

少し、はなれます




何より可哀想なのは、隣で歌ってる“同業者”の女の子だね。
僕は声だけは大きいから、壁越しによく聞こえるのだろうな。

せっかく勇気を出して来た一人カラオケで、受ける洗礼がえげつなすぎる。

でも仕方ないよ。
一人カラオケは戦いだもの。



結局、その日は練習を3回繰り返して満足した。

会計の折、声の出なくなった僕を見て、店員のお姉さんが何を思ったかは分からない。






………………
…………
……



毎週火曜日は、大学の授業が3限目に終わる唯一の曜日だ。
僕は、一人カラオケにはこの火曜日しか行かない。

休日に差し掛かると値段は上がるし、知り合いとも会いやすい。
何より、忙しい時に僕のような一人利用者が部屋を埋めてしまうのは抵抗があったからだ。


それだけに、はじめは練習目的で通っていたここも、今では週一の楽しみとなりつつあった。
学生の今しかできないことだ。
母さんごめんよ、ちゃんと授業は受けてるよ。






その日は、道中で愛車がパンクした。
だから、いつもより遅めの到着だ。

あまり遅くなると、出るときに受付で他の客と出くわしやすいからよろしくない。
そう思っていると、僕は今日もまた304号室へ案内された。

ガチャ

プレートとカップで埋まった両手を使って、頑張ってドアを開ける。
そしてそのまま、ヤニ臭い部屋のソファに腰掛ける。

その背中越しに、聞き覚えのある声が聞こえた。


同業者の子、今日も来ているらしい。






先週の僕の裏声で逃げださなかったらしい。
なんというか、鋼鉄のメンタルだな。
まぁ今日もやるんだけど。




「頑張ってるなぁ」

でもその日、僕は素直にそう思った。
一人カラオケ人口も、今日では少なくない。
それでも、こうやって僕と同じ気持ちで頑張っている人がいるのは嬉しいことだ。


……なんて思っていた矢先、突然隣の部屋から声が消えた。






理由はすぐに分かった。



「下手すぎやろ隣!」

「マジでない!あれは、ない!!」

「へひゃははははははっ」



廊下の連中が、中の僕たちにも聞こえる声でそう言っていた。
まだ僕は歌っていない。


……となると、言われたのは彼女だ。






先日言ったことを繰り返すけど、一人カラオケに来るのは結構エネルギーを使うことなんだ。
僕みたいなバカならまだしも、そこであんな心無い言葉をかけられて、どんな気持ちになるか……。

想像に難くない。


黙りこくってしまった彼女の姿を想像する。
そうすると、心が張り裂けそうになった。

それはただの同情心か、一種の仲間意識か、それは定かじゃない。




その時、僕は馬鹿になることにした。






『ぢゃらりいいぃぃぃぃぃ!!』

『ハナがら牛乳ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!』


子供の頃、これのカセットテープを繰り返し聞いていた覚えがある。
この人の歌はとにかくこんな曲ばかりだったなぁ。


そんなことを考えながら、僕は叫ぶように歌った。
音の止んだ隣室の同業者に聞こえるように。

辛い気持ちは馬鹿馬鹿しい歌で書き消すのが一番だと思ったから。






僕の歌をしっかり聞いてもらえたかどうかは分からない。

でも、もうこの子は来ないだろうなとは思った。
あんな目にあったら、来るのは嫌になるよな。

ただ、少しでも楽になってもらえればそれでいい。
カラオケで嫌な気持ちになるのは、僕だってもうたくさんだ。


隣の部屋から、ガチャンという音が聞こえた。

……何か歌って忘れよう。






しかし翌週の事。
同業者の彼女はまたもやってきた。


聞こえてくるのはいつもの声、いつもの歌。
驚くと同時に、僕は安堵した。


「僕でも、力になれたのかな」


一人ごちて、デンモクを手に取った。

嬉しい時は、幸せな歌を歌おう。






この辺りで僕は裏声の出し方よりも、オク下というやつを治そうと思いはじめていた。


僕の声は、そのままじゃどうしても低くなってしまう。
そこで、昔嫌々やった合唱コンクールの練習を思い出す。
ピアノに合わせて、どんどん声の高さを上げていくあれ。

ネットで調べたところ、あれはキーを上げるための声出しらしい。
そのキーが12下がった状態がオクターブ下、略してオク下なんだって。
カラオケで下手だと思われる人の9割が常にこのオク下なんだとか……これは20へぇ。


機械で伴奏のキーは変えられるけど、オク下はそれを一回り下回るので意味がない、とのことだ。






その日から、僕は色々な歌を練習することにした。
自分の出せる音域で歌える歌を確かめてみるために。

同業者の彼女は、あれからよく来ていた。
毎週ではないけど、ほぼ毎回だ。



そんな中、不思議なことが起こった。

僕が歌うとき、隣室の彼女は何も歌わなかった。
いや、それ自体は別に不思議なことじゃないな。

何が不思議かというと、僕の歌が終わると彼女はまた歌いだす。
その歌が、僕の歌となぜか“合う”んだ。






僕がウズラの歌を歌った時、彼女は猫になりたいと願う歌を。

僕が京都の学生の歌を歌うと、彼女は東京の喫茶に行く歌を。

僕が予報外れの雨に打たれた歌を歌った時、彼女は雨に唄う歌を。



こんな具合だ。
偶然か、はたまた意図したものか……はっきりとは分からない。






それに気づいた時、はじめ僕は「平安貴族の遊びかよ」と思った。

でも悪い気はしなかったので、僕も乗ってみることにしたんだ。


彼女がサヨナラは悲しい言葉ではないと歌うと、僕は稲作中心になった日本で涙を拭う縄文人の歌を歌った。

隣からマイク越しにプッと吹く音が聞こえた。


音痴同士のひどい歌の応酬だなぁ。

でも、これは少し楽しいなとも思った。






それから少なくとも半年は、そんな感じで一人カラオケを続けていた。
実質、一人カラオケとは言えない有様だけど……。

ここに至るまで、未だに彼女の姿を見たことはない。
そして、逆もまた然り。


ただ、回数を重ねていく毎に、僕自身の歌が上手くなっていくのが分かった。

それ以上に、彼女の歌の上達が顕著なことも。


息遣いや声の乗せ方に、無理な感じや違和感を感じなくなっている。
元々の声が良かったのもあるけど、今ではそれが十分生かされていると思った。



今日はここまでにします。
明日が休みなので、朝に残りを書くつもりです。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。




レポートに行き詰まった、息抜きと現実逃避の日。

僕はレポートに縛られない、葉っぱ一枚の素晴らしい人生の歌を歌ってみた。
すると、背中の方から負けないでとエールをもらった。もちろん歌で。

嬉しいような、悲しいような、何とも言えない感情が心でぐるぐるした。


でもまぁこんなことしてる場合じゃないな、さっそく家で書くか。






踏切近くのソメイヨシノが艶やかな花を咲かせた日。

彼女は桜を歌った。僕も、別の歌手の桜を歌った。
すると、彼女は更に別の桜を歌った。負けじと僕も、去年流行った方の桜を……。

桜って曲、たくさんあるんだなぁ。


カラオケボックスの304と305では、もう花が満開に咲いてるよ。






大学で、小さい時に流行ったアニメの話になった。

それを思い出して、夕方やってたロボットアニメの歌を歌った。
押し迫る時を越えて行く僕らの歌。

返ってきた歌は、朝にやっていた少女アニメの歌だったと思う。
このシリーズって、今もやってるんじゃなかったけ。


時を越えてるな、すごいや。






この流れを作るのは、決まって彼女の方だ。僕はいつでも後攻。
たまにはと思って、彼女が歌うのを待った日があった。

しばらく沈黙が続いたのち……今日はもう来ないのかな。
そんな可愛らしくも悲しげな歌が、背中越しに聞こえた。

己はここにいると歌ってやった。
戦国の武将、はたまた格闘家のような、しっぶい声で。


仕方ない、明日からまた後攻めだなぁ。






無事に学年は上がっても、火曜日は例によって三限目までしか埋めなかった。
はじめ僕だけだったらどうしようかと思ったけど、彼女は変わらず同じ時間にやってきた。


そもそも、この子が普段何をしている人なのか。
歳がいくつなのか、どんな子なのか、僕には分からない。


背中の壁越しに伝わる僕たちの声。

それだけが北風にさらされたクモの糸のような、繊細な繋がりを持たせていた。






踏切近くの淡いピンク色は、やがて青々とした元気な緑となった。

間をおいて、その向かいに植えられていた楓が赤を主張しだした頃のこと。

少し変わったことが起こった。


この日の僕は、スシが食べたいと歌った。
今日はどんな飯ネタで返ってくるだろうか、そんなことを考えていた時だ。






返ってきたのは、昔の自分に手紙を宛てる歌。
その時の彼女が、何を思っていたのかは分からない。
それは、未来の自分を見つめる歌だった。


僕は無視されたかなと思ったけど、どうもそうではないらしい。

だから、僕は与えられた今を精一杯生きると歌ってはぐらかした。






その次の週も、彼女の迷いは続いた。


居なくていい存在にはなりたくないと漏らした。
僕は、正解はないんだと答えてみた。


彼女は風が吹く度生き急いでいると歌った。
それに僕は、回り道もたまにはいいと歌を返した。


その次も、その次も。
彼女の迷いを、僕はかわすように答えていった。






とにかく僕がはぐらかし続けたのは、他でもない。


その迷いに僕がまっすぐに答えること。
それが、彼女との別れを予感させたからだ。






次第に、彼女の声が弱弱しくなっていくのが分かった。

その可憐で綺麗な声は、常に震えを持っていた。



なにがあったかを聞くつもりはない。
僕は壁を隔てた、ただの同業者にすぎないんだ。





だから、僕は意を決した。

彼女は、旅立たなけばいけない。






自分が嫌いな理由を背負っても

成し遂げなきゃだめだ

向こう見ずでいいから


僕は君の物語を讃えるよ






今まで人前で歌うことのなかった、少し重たい歌だ。

でも、これが僕の彼女に送る、精一杯のエールだった。




それ以来、ここで彼女の声を聞くことはなくなった。

その後の僕が304号室に入る機会も、また二度となかった。







………………
…………
……


あのカラオケ屋が潰れたという話は、勤め先の同僚から聞かされたことだ。


今日は日曜日だけど、今から得意先へのルート営業。今そんな話は、どうでもよかった。
僕は契約書の入ったカバン、パンフレットの一式を営業車のトランクに詰め込む。

パワーウインドウに映る僕の姿。
相変わらず、スーツは似合わないなぁ。


パパパっとエンジンがかかる。
それが温まった頃合いを見て、僕はアクセルペダルをやさしく踏んだ。






左正面を、ロードバイクに跨った若い男が走る。
今日は授業がないはずだから学生ではないかもね。


次第に、訪問先のビルが見えてきた。

それは桜と楓の並ぶ、踏切のそばだ。


狭い営業車の中で、僕は一人ごちた。


「火曜日が待ち遠しいなぁ」






午後3時を迎えた。

契約は一件、今日の営業はここまでにしよう。
適当な駐車場で茶でもしばこう。

この先僕は、サボる気満々だった。


入ったのは、最近新しくできたカラオケ屋だった。






「…………」


スーツ姿で来てしまった。
久しぶりの一人カラオケだ。

新しいはずなのに、部屋はヤニの臭いがする。
落ち着き払った木目調の壁。無機質な机も白じゃない。


あのときのように、機種はDAMにした。
液晶画面では、以前と違うタレントがゲストと話をしている。

今も続いているんだな、この番組。






今でも、裏声って出るのかな。

僕はあのときのように、モノノケヒメを思いっきり歌ってみた。


歌がうまくなっても、裏声のひどさだけは変わらなかった。






偶然か必然か。

隣から歌が聞こえた。

驚くことに、液晶の中のタレントと同じ声なんだ。


そして、“あの時”と同じ声だった。



『変わらないね』




――――――――fin――――――――――



このお話は、これで終わりになります。


お話の中くらい、素敵なことは起こるべきなんだよなぁ(迫真)
僕もまた、ヒトカラ行きたいです。

ここまで読んでくださった方、楽しく書かせていただきありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年02月18日 (木) 16:42:37   ID: ElPsH8Kc

イイハナシダナー( ;∀;)

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