勇者「お母さんが恋しい」 (806)

勇者「ぼく、ここで死んじゃうんだ」

勇者「お母さん、ごめんね。帰れそうにないや……」

勇者「……最初からわかってた。王様達が、ぼくを……魔族に殺させようとしてたって」

傷だらけの幼い勇者は、故郷で待つ母を想いながら意識を失った。



※朝チュンレベルだが後に凌辱要素有、R-15

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Section 1 旅立ち

――五ヶ月前、ブレイズウォリア城・謁見の間

国王「勇者エミル・スターマイカよ。お前が旅立つことが決定された」

勇者「え?」

国王「お前の兄である次期真の勇者・リヒトが試練を終えるまであと五ヶ月はかかる」

国王「その間に少しでも魔属の戦力を削ぎ落すのだ」

一般的に、魔に属するものを一纏めに魔属と呼び、
その内知能の高い者は魔族、動物程度の知能の者は魔物と呼ばれることが多い。

勇者「え? え?」

勇者の一族の中でも最も勇者に相応しい者が、聖域で行われる試練を終えることで真の勇者となる。

真の勇者として認められると、光の大精霊により光の力の結晶である光の珠を与えられる。
真の勇者としての役目を終えるか、もしくは次期真の勇者が試練を終えると、
光の珠は一度大精霊に返還され、次世代へ受け継がれるのである。

勇者「でも王様、ぼくはまだ12歳で……」

勇者「光の力だって、ほんの少ししか受け継ぐことができませんでした」

勇者の血を引く者は生まれつき魔を滅する光の力を持っている。

光の力は魔属にとっては猛毒。勇者は攻撃に光の力を上乗せすることで魔属を葬る。
更に、通常であれば真の勇者の子供は生まれながらにして強い光の力を持つ。
勇者エミルとその兄リヒトの父親は真の勇者であるが、何故だかエミルの持つ光の力は微弱であった。

勇者「その上弱虫なぼくが旅立っても……」

国王「お前には強大な魔力があるではないか。兄の負担を軽減しようとは思わぬのか」

勇者「…………」

光の力をあまり受け継げなかったこととは対照的に、
エミルには異常なほど大きな魔力容量があった。

国王「その力があれば一人でもやっていけるであろう」

勇者「そんな」

神官「陛下、恐れながら……こんな小さな子に一人旅だなんて残酷すぎますわ」

神官「処世術も知らないでしょう」

国王「ならば神官ユダス、お主が勇者に同行するがよい」

国王「ただし、同行を許すのはこれより二ヶ月のみとする」

国王「他の同行者は認めぬ」

勇者「…………」

国王「お前の旅立ちは平和協会の決定なのだよ。逆らうことは許されぬ」

平和協会――大陸中の治安を司る組織であり、大陸内部の人間の国や近辺の島国はすべて加盟している。
真の勇者の子供には平和協会から養育費が強制的に給付され、戦う人生を義務付けられる。
例え、本人が戦いを好まない性格であっても。

勇者母「ごめんね、あなたの養育費を全て返すから旅立ちを取り消してほしいって頼んだのだけれど」

勇者母「返却できる制度は存在しないから、って……取り合ってもらえなかった」

勇者「お母さんがぼくを守るために協会といつも喧嘩してたことは知ってるよ」

勇者「今まで育ててくれてありがとうね」

勇者母「……あなたは、お父さんとお母さんの子供だから、絶対に大丈夫」

勇者母「この家に……お母さんのところに、帰ってきてね」

勇者「うん」

勇者「……行ってくるね!」

勇者母「ああ……世界は、あんなに優しい子になんて残酷なことを強いるのでしょう」

勇者母(エミルは、幼い頃からお料理とお勉強が好きで、平和を愛する子でした)

勇者母(一般的な道徳観念を魔属にも適用してしまうほど、心根の優しい子)

勇者母(この旅でも、きっと一匹も魔物を殺さないでしょう)

勇者母(そんな勇者が、世界にどう思われることか……)

勇者母(神様、どうかあの子にご加護を……)

武闘家「わりぃな、一緒に行ってやれなくて」

勇者「王様の命令だもん。仕方ないよ。見送りありがとうね」

神官「ご友人ですか?」

勇者「うん。幼馴染のコハク君。遠い親戚なんだ」

コハクと呼ばれた少年は、わずかであるが勇者の一族の血を引いている。
真の勇者とその実子は直系と呼ばれ、その他の勇者の一族の者は傍系と呼ばれる。
真の勇者の実子であっても、本人が真の勇者に選ばれなければ、次の代からは傍系となる。
直系から離れるほど、持って生まれる光の力は小さくなる傾向がある。

武闘家「俺、多分お前のにーちゃんと一緒に旅立つから」

勇者「そうなの!? お兄ちゃんのこと、よろしくね」

勇者と神官は村を出た。

武闘家(あいつ本人には何の罪もないってのにな)

神官(なんて綺麗な緑色の瞳……まるで、日に照らされた木の葉のよう)

神官「魔物を殺したことがないのですか?」

勇者「うん。大抵懐かれちゃうから、あんまり襲われたことないし」

勇者「誰かが魔物に襲われてる時も、防護魔法で凌げば剣を抜かずに済むし……」

勇者「本当に命が平等なら、魔物だってそんな簡単に殺しちゃだめなはずなんだ」

勇者「こんなこと言ったら怒られちゃうし、誰もわかってくれないけど……」

神官「あなたは……」

神官は勇者を抱きしめた。

神官「戦いになんて、向いていないのでしょうね」

勇者(ぼくは幸せだったな。今までいろいろあったけど、)

勇者(お母さんやお父さん、お兄ちゃんにいっぱい可愛がってもらえて)

勇者(もう、二度と会えないのかな……)

勇者「既に気が立ってる魔物にはどうしても攻撃されちゃうけどね」

勇者「でも最後には仲良くなれるんだよ」

神官(魔物に懐かれるだなんて……不思議な子)

神官(それにしても、あまりにも不自然だわ。この子を一人で旅立させようとするなんて)

神官(もっと強い光の力を受け継ぐ者は何人もいる上に、)

神官(我が国には、優秀な戦士や魔術師が大勢いる)

神官(平和協会は、どんな理由があってこの子を旅立たせたのでしょう……)

勇者「あ、村が見えたよ! 今日はあそこで泊まろうよ」

村長「おお、よくぞいらした勇者様」

勇者「こんにちは!」

村長「しばらく見ない間に大きくなられましたのう」

勇者「えへへ、まだまだちっちゃいけどね」

村長の孫「誰か来たと思ったら泣き虫勇者さんじゃねえか」

勇者「あ、えっと……こんにちは」

神官「……」

村長の孫「何でお前が旅してんだ? リヒトさんはどうした」

村長「これこれ、エミル様に助けていただいた恩があるというのになんという態度じゃ」

村長の孫「けっ」

神官「この村に訪れたことがあるのですか?」

勇者「うん。三年くらい前かな」

勇者「お兄ちゃんと、お父さんと一緒にね」

勇者「この辺りで採れる木の実がどうしても欲しくって、連れてきてもらったんだ」


――三年前

村長の孫「あっちの洞窟にモンスターが出るらしいぜ!」

子分1「それほんとっすか!?」

村長の孫「ちょっと肝試しに行ってみないか?」

村長の孫「この辺は平和すぎて全然モンスターなんて出ないしさ」

村長の孫「魔物がどんな生き物なのか気になるだろ」

子分2「退治できたら親分はこの村のヒーローですぜ!」

勇者「だめだよ、危ないよ」

村長の孫「あ? 誰だてめえ」

子分1「真の勇者様の子供ですぜ」

勇者「洞窟の方から感じる魔力、ちょっと大きいよ」

勇者「子供だけで行っちゃだめ、大人でも危ないよ」

村長の孫「勇者の子供だろうがなんだろうが俺に口答えする奴は許さねえぞ」

村長の孫「俺はこの村の村長の孫なんだぞ!」

子分1・2「「そうだそうだー」」

勇者「あうう……」

村長の孫「ついてくるなよ!」

勇者「だって……心配だから……」

村長の孫「年下のチビなんかに心配される筋合いねえっつーの! 失せろ!!」

勇者「うぅっ……ぐすっ……」

子分1「泣き出しやがりましたぜこいつ」

子分2「勇者の一族のくせに泣き虫ー!」

村長の孫「泣き虫勇者ー! 父親譲りの黒髪は飾り物かぁあ?」

勇者「ふええぇぇぇええええええん」

子分1「こんな奴勇者の血を引いてるかも怪しいですぜ!」

子分2「やっとついてこなくなりましたねーあいつ」

村長の孫「出てこい化け物! この俺様が退治してやるぜ!」

?「ガルルル……」

子分1「こ、こいつ……」

?「ギァアアアアア!!!!」

村長の孫「ド、ドラゴンだと……!?」

子分2「や、やばいですぜ親分……ににににににげないと」

村長の孫「つっても子供じゃねえか! 臆するな! こいつ怪我してるし!」

ドラゴンの背には矢が刺さっている。

村長の孫「お前なんてヒノキの棒で充分だ!」ブンッ

ドラゴンはヒノキの棒を噛み砕いた。

村長の孫「ひっ」

村長の孫は腰を抜かしてしまった。

そのドラゴンは子供だが、尾を含め全長2メートルはある。
ドラゴンは右腕を振り上げた。

勇者「だめー!」

ドラゴンの鋭い爪が引き裂いたのは、村長の孫ではなく、勇者の背だった。

村長の孫「あ……ぁ……」

勇者「っ……」

勇者「ガイアドラゴンさん、落ちついて……びっくりさせちゃってごめんね」

勇者「……そっか、お母さんとはぐれちゃったところを、人間に襲われたんだね」

勇者「怪我、治してあげる」

ドラゴン「きゅぅ……」

勇者「だいじょうぶ、だよ……ここから、西の方に、君とよく似た魔力があるよ」

勇者「ほら、あっち……お母さんも君のこと探してる。わかるでしょ?」

勇者「もう飛べるよ。元気でね」

勇者「は、ぁ……」

子分2「た、助かった……」

子分1「こいつ、血が……大人を呼ばなきゃ」

村長の孫「お、お前……」

勇者「大丈夫? 怪我、してない……?」

村長の孫「何で魔物と話ができるんだよ……?」

勇者「え……」

村長の孫「化け物!!」

勇者「…………」

勇者兄「エミル!! そこにいるのか!?」

勇者兄「目を離した隙に勝手にどっか行くのやめろっつってんだろ!!」

勇者兄「ドラゴンの子供が飛んでくのを見たぞ!」

勇者兄「お前また魔物を助けただろ! 殺せって何度言えば……」

勇者「おに……ちゃ…………」

勇者兄「なんて酷い怪我してんだよ……!」

勇者には自分の傷を治す集中力が残されていなかった。

勇者兄「今止血してやるからな!」

――村長の家

エミルは寝息を立てて眠っている。

勇者兄「俺のエミルがあぁ……傷痕が残っちまったら兄ちゃん悲しいぞ……」

勇者父「残らないよう丁寧に魔法かけといたから安心しろ」

勇者父「あとお前も剣の修行ばっかやってないで魔法の勉強しろよな」

勇者兄「へーい……」

村長「孫がご迷惑をかけてしまったようで……」

村長「なんとお礼を申し上げればいいのやら…………」

勇者父「気にしないでくれ村長。こいつは勇者の務めを果たしただけなんだからよ」



勇者(ばけ、もの……)

――――――
――

村長「あの時の恩は返しても返しきれませぬ」

村長「この村の食を存分に楽しんでいきなされ」

勇者「うん!」

村長「勇者様は料理を嗜んでおられましたな。保存の利く食材を用意いたしましょう」

村長「オリヴァの実も持っていきなされ」

勇者「ほんと? やったあ!」

村長の孫「じーちゃん! そんな奴歓迎する必要なんてないぜ!」

村長の孫「魔物を殺せない勇者なんて勇者じゃねえ!」

村長の孫「魔物の意思がわかる化け物だしよ!!」

村長「お前はまだそんなことを言うのか! しばらく黙っとれ!」

勇者「いいんだよ、村長さん」

勇者「ほんとは、勇者は……魔物を、魔族を倒さなきゃいけない存在なんだから」

翌日

勇者「ありがとうございました」

村長「よかったらまた来てくだされ」

村長「その頃までには、孫をもう少し教育しておきますゆえ……」

勇者「えっと、気にしなくていいからね! ぼく、全然平気だから」

神官「お世話になりました」


神官(この子といると、不思議と魔物から襲われないわ)

神官(一体どうして……)

勇者「お父さん、元気かなあ」

勇者「たまにふらっと帰ってくるんだけど、普段は行方不明でさ」

勇者「これからたまたま会えたりしたら嬉しいなって思うんだ」

勇者「あ、でもユダスさんはお父さんに近づいちゃだめだよ!」

勇者「すっごい女好きでさ、女の人が近付いたら危ないんだって」

神官「彼は、勇者としての素質は随一だったのに、その……」

神官「下半身が自由奔放であったのが玉に傷だと聞き及んでおります。」

勇者「そうそう。ぼくにはあちこちにお母さん違いの兄弟がいるんだって」

勇者「旅の途中で兄弟に会っちゃったりして……うーん心配だなあ」

勇者「今も兄弟増やしてるのかも……」

神官「一応、あなたが生まれて以降は自粛しておられる……という話を」

神官「平和協会の方から聞いたことがあります」

勇者「ほんとだといいなあ」

神官「尤も、近年は平和協会も彼の動向を把握しきれていないそうですが……」

勇者「そうなの?」

神官「12年前の魔王との闘い以来、各地を巡って人々を助けてはいるそうですが」

神官「神出鬼没なのだそうです」

勇者「そういえば瞬間転移魔法覚えたって言ってた気がする」

勇者「自分しか転移できないみたいだけど」

神官「ええっ!? あの魔法のアルゴリズムは解明されていないはず」

神官「今現在瞬間転移魔法を扱える人間はいないのですよ」

神官「使えるのは相当高位の魔族のみだと言われています」

勇者「んー……お父さんのことだから、魔王と闘った時とかに術を盗んだりしたのかも」

勇者(昔は、今よりも魔族と人間の争いが激しかった)

勇者(当時の魔王、ネグルオニクスは、とても残酷だったらしい)

勇者(12年前……ぼくが生まれた頃の闘いで、お父さんは魔王に大きな傷を負わせた)

勇者(それ以来、魔族の軍勢が攻めてくることはなくなった)

勇者(数年前に代替わりしたそうだけど、状況はほとんど変わっていない)

勇者(今でも小さな争いはあるけど、人間の方から攻め入ることがほとんど)

勇者(下級の魔物が人間を襲うのは、肉食獣が人間を襲うのと同じようなものだし、)

勇者(魔王自ら戦いを起こすような様子はない)

勇者「今の魔王って、どんな魔族なんだろうね」

勇者「平和主義者だったらいいなあ……」

宰相「陛下、あれでよろしかったのですか」

宰相「次期真の勇者の覚醒前に、魔王が沈黙を保っている現状で下手に刺激を加えては」

国王「問題ない。万が一向こうから攻め入られることがあったとしても、」

国王「老いているとはいえ真の勇者は存命しておる」

国王「何を目的に大陸中を飛び回っておるのかは不明だが、いざという時は奴が動くだろう」

宰相「し、しかし……」

国王「あやつは不穏分子。しかしながら、人の形をしている以上処刑もできぬ」

国王「魔族に殺してもらうのが最良だ」

国王「相手が魔王であれば更に良い」

国王「エミルが魔王に殺された時、兄のリヒトは魔王を深く憎むであろう」

国王「憎しみは人の強さを引き出す」

国王「リヒトの魔王討伐を成功させる足がかりとなるだろう」

勇者「村でもらったオリヴァの実でスープ作ったんだよ!」

神官「あら……おいしそうな香り」

勇者「実は具になるし、種は砕いたらすっごくおいしい香辛料になるんだよ」

勇者「あと、お漬物にしたら長持ちするんだー」


――――――
――

神官(エミルさんと旅立って一週間)

神官(エミルさんは一向に魔物と戦わない)

神官(三年前の出来事と同様、剣を抜くことなく、争いを鎮めている)

神官(魔法を使って、時には自分の体を張って……)

勇者「魔王がいい人だったとしても戦わなきゃいけないのかなー」

勇者「……それが勇者の宿命だもんね」

勇者「理想を描くだけじゃ何にもならないって、いつもお兄ちゃんが言ってた」

勇者「でも、ぼくは…………」


Now loading……

kokomade

――魔王城

執事「魔王陛下、人間側に動きがありました」

執事「次期真の勇者リヒトが覚醒する前に、その妹エミルを送り出したようです」

魔王「……愚かな人間共め」

魔王「沈黙の時も終わりが近いな」

魔王「やはり、彼奴では荷が重かったか――――」

Section 2 旅路

勇者「旅立ってからもうすぐ一ヶ月かあ。あっという間だね」

神官「ええ」

勇者「……ごめんね」

勇者「ぼくが魔物を殺さないせいで、協会からの援助金がちょっとしか入らなくて」

神官「お気になさらないでください。最低限生きていける額はあります」

大陸中に平和協会の支部が点在しており、
勇者とその仲間は協会から支援金を受け取ることで旅を続けることができる。

勇者(食費でほとんど消えてしまう金額しかもらえないなんて)

勇者(これじゃ、馬車にも乗れるかどうか……)

勇者「あ! あの掲示板見て!」

勇者「この先の谷間の道を塞いでる魔物を退治できたら80万Gだって!」

勇者「ぼく達がこれから通る道だし、やってみようよ」

神官「でもエミルさん、あなたは……」

勇者「……退治はしないよ。ちょっと遠くへ行ってもらうだけ」

勇者「話せばきっとわかってくれるから」

神官「…………」

神官「エミルさん、あなたが殺さなかった魔物が、いつか人を襲うとは考えないのですか?」

神官「目の前の人と魔物を助けても、あなたの知らないところで誰かが犠牲になるかもしれません」

勇者「………………」

勇者「神官さんの言う通りかもしれない」

勇者「でも、肉食の動物は、人間から怖がられることはあっても忌み嫌われたりはしてない」

勇者「魔族ならともかく、魔物を目の敵にする理由がぼくにはわからないんだ」

神官「それは……魔属の持つ気が我々には有害ですから」

魔属は魔のオーラを纏っており、それは魔の気や魔気と呼ばれている。

人間や動物が魔気に長時間当てられると身体に異常をきたし、最悪の場合死に至るのである。
魔属同士であっても、相性によっては相手の魔気が有害となる場合がある。

勇者「でも、それはわざとじゃないし、お守りや魔法で防ぐ方法だってあるし……」

神官「貧しい者は魔気避けのタリスマンを買うことが困難でしょう」

神官「魔法を使用しても、長時間魔気を防ぐには相当な魔力と精神力が必要となります」

神官「身を守るために敵の命を奪うのはやむを得ないことなのです」

勇者「…………」

神官「あなたは綺麗事で誰かを犠牲にするおつもりですか」

神官「……ご自分の手を汚すのが怖いだけなのではないですか!」

勇者「そんなわけじゃ……」

神官「ならば、勇者として魔物を退治なさい」

勇者「……………………」

神官(ここでエミルさんを勇者として成長させないと)

神官(現実をお教えしなければ、この子はいつまで経っても甘ったれた子供のまま……)

勇者(同じような説教は、小さい頃から何度もされてる)

勇者(それに対して、ぼくはずっと答えを出せないまま)

勇者(みんな仲良く生きていけたらいいなって)

勇者(平和な世界を、創る方法はないのかなって……)

勇者(そんなぼくの価値観をわかってくれた人もいない)


『僕も、そう思うよ』

『魔族と人間の仲が良かったなら、きっと、今頃――』


勇者(ううん、一人だけいたはずなんだ)

勇者(名前も顔も、思い出せないけど……)

勇者「あれは……レオトルス! 図鑑で見たことあるよ!」

神官「あんなに恐ろしい魔獣の群れがこんなところにいるなんて」

レオトルス――獅子に近い体型を持つ、雷属性の魔物である。
魔物の中でも上位とされ、知能は高い方である。
通常は荒野や山奥に生息し、人間の街道沿いに姿を現すことは滅多にない。

勇者「すっごく怒ってる……」

勇者「人間に敵意を剥きだしにしてるよ」

神官「いくらなんでも危険すぎです!」

神官「歴戦の戦士と、勇者の一族の者を大勢呼ばなければ」

勇者「……なんとか、してみせるから。ここでバリアを張って待ってて」

勇者「どうして君達はこんなところにいるの!?」

レオトルス「ガアァ!」

一体のレオトルスが勇者に襲いかかった。

勇者「んっ!」

神官「エミルさん!」

勇者「大丈夫だよ! そこにいて!」

勇者「こんな異常事態には、何か必ず原因があるはずなんだ……!」

勇者「教えて! 君達がここへ来た理由を!」

怒り狂った雷獣達がエミルの言葉に耳を貸す様子はない。

100体近くの雷獣が代わる代わるエミルに襲いかかる。

神官(あれほどの攻撃を防護壁で防ぎ続けることができるなんて……)

神官(あの子は一体どれほどの魔力を持っているというの!?)

勇者(これじゃ埒が明かない……!)

勇者「――リベレイトマジック」

神官(あの子の魔力が膨れ上がった……今まで力の半分以上を隠していたというの……?)

勇者「ごめんね、一回寝てね!」

勇者「スリーピングミスト!」

優しい霧が辺りを満たした。
怒り狂った雷獣達は次々と微睡み、地に伏し始めた。

神官「嘘でしょう……?」

神官「凶暴な魔物達を……こんなに簡単に……一気に眠らせるだなんて……」

神官(こんなの……人間の魔力容量じゃないわ……)

神官(大魔導師クラスを軽く超えてるじゃない……!)

勇者「君が、この群れのリーダーなんだね」

一体だけ、最も体が大きいレオトルスは微睡みながらも意識を保っていた。

勇者「そっか。やっぱり、元の棲み処を人間に襲われたんだね」

勇者「魔王の命令で、人間を襲うのを控えていたのに……」

勇者(この子達の心は、魔王への不満と、人間への怒りで満たされている)

勇者「ここはだめだよ。近い内に、君達を討伐しに大人の人がいっぱい来るから」

エミルは感覚を研ぎ澄まし、魔力で辺りを探索した。

勇者「ずっと南西の方の荒野……今は人間も上位の魔物の群れもいないみたい」

勇者「君達が住むのに適してると思うよ。そこへお行き」

勇者「ユダスさん! 倒さなくっても、なんとかなったよ!」

勇者「人間の方から危害を加えなければ、あの子達は人間を襲わないんだって」

エミルが戻ると、神官は腰を抜かしていた。

勇者「これでこの辺りは平和になったし、当分お金には困らないよ!」

神官「ひっ…………」

勇者「ユダスさん……?」

神官「来ないで」

勇者「え……」

神官「化け物」

勇者「! ……」

勇者「ごめんなさい。びっくりしたよね」

勇者「今までありがとうございました」

勇者「これからは、ぼく一人で旅を続けます」

神官「…………」

勇者「……さようなら」

勇者は一度町へ戻り、半分だけ報酬を受け取った。

勇者「もう半分は、ぼくと一緒に来てた神官さんに渡してください」

町長「いいのかね……君の手柄だろう」

勇者「はい。神官さんがいなかったら、ぼくはここまで来るのにもっと苦労してました」

勇者(……大丈夫。ぼくはもう宿の泊まり方も、馬車の借り方も知ってる)

勇者(ユダスさんが教えてくれたから)

勇者(一人でだってやっていけるよね)

Now loading......

勇者(今まで旅をしてきて、わかったことがある)

勇者(魔王の命令を理解することができるくらい知能が高い魔物は、)

勇者(自衛のためを除いて、人間を攻撃することは禁じられている)

勇者(人間から争いを起こした方が危険なんだ)

勇者(でも、そんな命令を下す魔王を良く思わない魔属はたくさんいる)

勇者(いつまでこの状況が続くのかはわからない)

小さな勇者は、谷間の道へと歩を進めた。
たった、独りで。

勇者(お母さん、どうしてるかな)

勇者(会いたいよ…………)

谷間の道を抜けると、一件の小屋があった。
エミルは古びた戸を叩いた。

勇者「誰かいますか?」

少女「……はい」

扉を開けずに少女が答えた。

勇者「ここで泊めていただきたいんです」

少女「……ごめんなさい。ここはだめなんです。げほっ……」

勇者「どうしてですか?」

少女「こほっ……わたしが、病気だか、ら……うっ」

少女「がはっごほっ」

勇者(助けなくちゃ!)

勇者「ごめんなさい、開けます!」

少女「だめ、移っちゃう……」

勇者「!」

勇者(体中に青い斑点……)

勇者「大丈夫。これ、移らない病気だよ。本に載ってた」

少女「えっ……」

勇者「ちゃんと町のお医者さんに診てもらって、お薬をもらえば治る病気なんだ」

勇者(それなのに、ここまで悪化するまで放っておくなんて……)

勇者「ここに一人で住んでるの?」

少女「うん……」

少女「私はこの先の村で生まれ育ったのだけど、」

少女「呪いだとか、伝染性の奇病かもしれないとかで、みんな私を怖がるようになったの」

勇者「そんな……」

少女「お父さんとお母さんが、たまにこの家の外に食べ物を置いていってくれるの」

少女「それでなんとか生きてこられたのだけど……」

少女「このまま一人で死んじゃうのかなって、寂しくて……」

少女は泣き出した。

勇者「……大丈夫だよ。君はぼくが町まで連れていく。絶対死なせたりなんてしないから」

勇者(武芸者や術師じゃなければ、少しの間くらい誰かと一緒にいても問題ないはずだし)

勇者(人助けをしなきゃ勇者じゃないもん)

勇者(となると、ここの近くの村には行きづらいな)

勇者(この子と足場の悪い谷間の道を戻るのは無理だろうし、もっと西の大きな港町に向かおう)

勇者「ぼくはエミル。君、名前は?」

少女「……リラ」

勇者「リラ、綺麗な名前だね」

少女「っ!」

少女は頬を赤らめた。

少女(エミル君、か……)

翌日

少女(お父さんとお母さんにわかるように、扉に手紙を貼っておこう)

【病気を治してもらいにマリンの町へ向かいます、心配しないでね】

勇者(昨晩は暗くて気が付かなかったけど、この辺りはライラックが咲き乱れてるんだ)

勇者(綺麗だな……)

勇者「丸一日歩くことになるけど、がんばってね」

少女「うん!」

少女(病気になって以来、両親以外の人から優しくしてもらえるなんて初めてだわ)

勇者(人間でも、害があると思われたらあっさり迫害されてしまうんだ)

勇者(……この子だけじゃない。病気になった人が差別されるなんてよくあること)

勇者(どうしてそんな簡単に忌み嫌うことができるのだろう)

勇者(好きで病気になったわけじゃないのに。踏んだり蹴ったりだ)

平原

少女「うっ……」

勇者「この辺りで休もうか」

少女「けほっけほっ……ごめんなさい、足を引っ張ってしまって」

勇者「気にしないで。ゆっくり行こう」

勇者「あ、馬車だ! 待ってください!」

御者「へい」

勇者「マリンの町まで乗せてほしいんです」

御者「500Gかかるけどいいか……!? 何だいその子の肌は!」

御者「悪いけどお断りだよ!」

馬車は行ってしまった。

勇者「あう……」

少女「…………」

勇者「病院まで行けたら、もう大丈夫だから」

少女「ごめんなさい、もう歩けないわ」

勇者「じゃあ、ぼくの背に乗りなよ」

少女「え、でも」

勇者「こう見えて、ぼく力持ちなんだよ!」

エミルは軽々とリラを背負った。

少女(すごい……私と大して背も変わらないのに)

少女(優しくて、強くて、暖かい……私の勇者様)

――港町の門

勇者「よかったね、日の入りまでに着いたよ」

少女「でも……この見た目じゃ、町の人達に怖がられてしまうわ」

勇者「えっと……あ! ぼくのマント貸してあげる」

勇者「さっきもこれ被っておけばよかったね、気が付かなくてごめんね」

少女「いいえ……あり、がとう」

医者「!? かなり病気が進行しているじゃないか!」

医者「何故ご両親がもっと早くここまで連れてきてくれなかったんだい」

医者「珍しい病気だが、今からでも手遅れではない」

少女「ほんとですか!?」

医者「だがね……入院費込みで、治療費が最低でも15万Gほどかかってしまう」

医者「君達に払えるかい……?」

少女「そんな……!」

少女「そんな大金、うちにはないわ……」

勇者「ぼくが20万G置いていきます。どうかリラを助けてあげてください」

医者「な、なんと」

少女「どうして……」

少女「どうして出会ったばかりの私にそこまでしてくれるの……?」

勇者「困ってる人を見捨てるなんて、ぼくにはできないから」

勇者(誰かが困っていたら、それが人であっても、動物であっても、)

勇者(……魔属であっても、ぼくは……助けたいと思う)

少女「ごめんなさい、ありがとう、ありがとう…………」


翌日

少女「あなたと出会えなかったら、私……一人で寂しく死んでいたわ」

リラはエミルの頬にキスをした。

少女「生きて帰ってきてね」

勇者「……うん」

少女「また会える日が来るのを、私、ずっと待ってるから」

少女「その頃には、病気を治して元気になってるわ!」

勇者「うん」

少女「約束よ!」

勇者「……うん。約束する」


勇者(この約束を守れる可能性は、ほとんどないだろうけど)

勇者(……リラにぼくは女の子だって伝えそびれちゃったな)

勇者(ぼく、男の子からは全然モテないのに、女の子からはモテるんだよなあ)

勇者(男の子の格好してるせいかなあ)

勇者(縛ってる髪の毛、解いちゃおうかな)

勇者(……うっとうしい。無理だ)

勇者(もう男の子からモテる必要もないし、いっそバッサリしちゃおうかな)

勇者(でも、切っちゃったらお母さん怒るだろうなあ)

――――

勇者母『エミル、はやく素敵なお婿さんを連れてきてね』

勇者『えーなんでー?』

勇者母『真の勇者の子供でも、女の子は結婚しちゃえば戦いの義務が免除されるのよ』

勇者母『素敵な恋愛をして、幸せな結婚をして、可愛い孫の顔をお母さんに見せてね!』

勇者『うん!』

勇者母『そのために、お洒落よ! 髪を伸ばして、可愛いお洋服を着て……』

勇者『女の子らしい服なんてぼくには似合わないよー』

――――

勇者「まさか、結婚できる年齢になる前に旅立つことになるなんてね」

勇者「お母さん……」


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kokomade

国王「この頃、地震や火山の噴火、豪雨などの異常気象が多いのう」

国王「ところで、勇者エミルの様子はどうだ」

宰相「順調に魔王城のある西へ向かっているそうでございます」

宰相「しかし、相変わらず魔属を一体も殺さずに事件を解決しているとかで……」

国王「勇者らしくない勇者もいたものだ」

Section 3 邂逅
勇者(旅立ってからもう二ヶ月半かあ)

勇者(一人旅もだいぶ慣れたな)

勇者(……オリヴァの実、食べ尽くしちゃった)

協会職員「よくぞセントラルの町へいらっしゃいました、勇者様」

協会職員「こちらが支給金です」

勇者「いらないよ。自力でお金を稼ぐ方法をいくつか身に着けたもん」

勇者「それに、どうせお小遣い程度しかくれないんでしょ」

協会職員「ええ。戦わない勇者にお給料を出すなんてもったいないですから」

勇者(ゆっくり進もうにも、監視があるしなあ)

勇者(逃げたりしたらお母さんが国から何されるかわからないし、)

勇者(このまま旅を続けるしか……ないんだろうな)

勇者(ぼくのことを優しい勇者だって褒めてくれる人もいるけど)

勇者(腰抜けだって非難する人の方が多い)

勇者(この旅で、人間と魔族が仲良くなれる方法でも見つかったら嬉しいけど)

勇者(そんな簡単に見つかるわけ、ないもんな)

勇者(勇者が魔王城に向かっていたら、たくさんの刺客に襲われるのが普通なのに)

勇者(ぼくのところには全く魔族が襲いに来ない)

勇者(それは、魔王の命令なのか、ぼくが一体も魔物を殺していないせいなのか、)

勇者(わざわざ殺す必要もないと判断されるほど、重要視されていないからなのかはわからない)

勇者(やっぱり、大して光の力を持っていない勇者なんて……)

――――
――

七年前

国王『お前は本当にシュトラール・スターマイカの子供なのか?』

大魔導師『魔力検査・遺伝子検査共にシュトラールの実子で間違いないとの結果が出ております』

勇者兄『こんだけ似てるんだから疑いの余地ねえだろうがぁぁあああ』

勇者『お兄ちゃん落ち着いて!!』

――――――

勇者(それでも、ぼくはお父さんの子供なんだ)

勇者(自信持たなくっちゃ)

勇者(大陸の中央の国なだけあって、いろんな商品が並んでるなあ)

勇者(大陸中の物が集まってくるもんね)

勇者(あ、あのワンピースきれいだな)

白地の布に、木や花を模った刺繍が施されている。

勇者(あんな服着てみたいな……)

勇者(そんなことより、食料買い込んで装備を整えないと)

商人「君、この服が気になるのかい?」

勇者「は、はい」

商人「この服は大陸南西部のシルヴァ地方の民族衣装でね」

商人「僕もシルヴァのとある村出身なんだがね、まあ良いところだよ」

商人「美しい森が広がっていてね、滅多に争いの起こらない平和な土地さ」

勇者「へえー……」

商人「……君、お母さんの名前は?」

勇者「? カトレアだけど……」

商人「そうか……」

勇者「どうかしましたか?」

商人「いいや……君と似た女性を知っていたというだけだよ」

商人「姿形は似ていないが、雰囲気がよく似ているんだ。オーラとでも言うべきかな」

商人「僕の初恋の人だったんだがねえ、二十年程前に魔王に攫われてしまったんだ」

商人「綺麗な人だったからねえ……そして優しかった」

勇者「そうなんですか……」

商人「おっとすまない、話が長くなってしまったね。僕の悪い癖だ」

商人「お詫びにこれをあげよう」

勇者「髪留め?」

商人「オリヴァの枝を彫ってデザインされたものだ。お洒落だろう?」

商人「紐よりは楽に髪の毛を結えるはずだよ」

勇者「わあ、ありがとう!」

商人(! なんて彼女に似た笑い方をするんだ)

勇者「ぼく、魔王城に向かっているんです。攫われた女の人の名前を教えてください」

勇者「もしかしたら、その女の人のことについて調べられるかも」

商人「こんなに小さいのに……彼女の名はエリヤ。エリヤ・ヒューレーだ」

勇者「エリヤ・ヒューレーさん……はい、覚えました!」

勇者「あ、ぼくはエミルっていいます。あなたの名前は?」

商人「……僕はラウルスだよ」

商人(ああ、君は今でも生きているのかい? それとも……)

勇者(まだお昼なのに曇ってるせいで妙に暗いなあ)

勇者(早めに宿屋で休んじゃおうかな)

娘「きゃああ! 何するのよ!」

チンピラ1「騒ぐなって~ちょっと付き合ってくれるだけでいいんだからよお~」

チンピラ2「お前ほんとガキが好きだよなぁ。こんなちんちくりんのどこがいいんだよ」

チンピラ1「ガキなのがいいんじゃねえか~こいつは顔も綺麗だしよ」

娘「気持ち悪い! 近寄らないで!」

娘「パパが来たらアンタたちなんて肉片になっちゃうんだから!」

チンピラ1「そのパパは今どこにいるんだ? ん?」

娘「それは…………」

勇者「何してるんですか」

チンピラ1「あ゛?」

勇者「彼女、嫌がってますよ」

チンピラ2「何だ? このガキ」

勇者「その子を解放してあげてください」

チンピラ1「ガキはすっこんでろ!」

チンピラ1はエミルに殴り掛かった。
エミルはチンピラ1の攻撃を軽くかわし、
チンピラ1のバランスが崩れたところで足元を蹴った。

チンピラ1「がはっ」

チンピラ2「おるぁあ!」

チンピラ2は鋭く拳を打ち出したが、エミルはその勢いを利用し、チンピラ2の腕を手前に引いた。
二人のチンピラはあっけなく地に伏した。

娘「うそ……」

勇者「ぼくはエミル。勇者です。乱暴は許しませんよ」

チンピラ2「勇者だと? ……こいつスターマイカ家の顔付きだぜ」

チンピラ1「まさか……シュトラールのガキか!?」

チンピラ2「よく見たら奴そっくりだ! シュトラールのガキが現れた!」

町人A「なんだって!?」

町人B「女は全員避難しろ!! 微笑みかけられただけで妊娠するぞ!」

チンピラ達だけでなく、周囲にいた女性は襲われていた娘以外全員逃げ去った。
男達も警戒してエミルの様子を窺っている。

勇者「今まで通った村や町でも似たようなことはあったけどこれはひどい」

勇者(お父さん…………)

娘「あの……」

勇者「大丈夫? あ、妊娠しないから安心して。ぼく女の子だし」

勇者「あ、君……光の力を持ってるんだね。それじゃあ親戚だ」

娘「ええ……ほとんど役に立たないくらい、ほんの少ししかないけれど」

娘(この子、本当にシュトラールの子供なのかしら)

娘(光の力、私よりちょっと多いくらいしかないわ)

娘「私はミモザ。助けてくれてありがとう、エミル」

娘祖父「おお……孫を助けてくださったのですな」

娘祖父「今晩はうちに泊まってゆきなされ」

娘祖父の家

娘祖父「わしの娘の夫――この子の父親バーントが勇者の一族の血を引いておっての」

娘祖父「普段は南の村に住んでおるのじゃが、」

娘祖父「たまに家族でわしの家に泊まりに来てくれるのじゃよ」

勇者「そうなんですか」

娘祖父「お主は父親の小さい頃によく似ておるのう……」

娘祖父「あやつはもう少し面長であったが」

勇者「お父さんの子供の頃を知ってるんですか?」

娘祖父「うむ」

娘祖父「シュトラールは幼い頃から父親に連れられ、旅をしながら修行を積んでおった」

娘祖父「この町にも度々訪れておったよ」

娘祖父「現れる度に女性を口説くのが上手くなっておったのう……」

勇者「…………」

勇者「この家には本がいっぱいあるんですね」

娘祖父「町の者からは図書館扱いされておるよ」

娘祖父「奥の部屋にはとても古くて珍しい本もある」

勇者「!」

エミルは目を輝かせた。

娘祖父「普段、奥の部屋は人に見せぬのじゃが、興味があるのなら読んでおゆきなさい」

娘祖父「孫を助けていただいた礼じゃ」

勇者「ありがとう、おじいさん!」

娘父「ただいま。買い出し終わったぞー」

娘母「お父さん、ただいま」

娘「おかえりなさい。丁度今晩ご飯ができたところよ!」

娘父「おい、その子供は……」

勇者「こんばんは。ぼくはエミル・スターマイカです」

娘父「……歳はいくつだ」

勇者「12です」

娘父「…………」

娘母「あなた……」

勇者「…………?」

娘父「ブレイズウォリアから勇者が一人旅立ったとは聞いていたが……」

娘「ほら、はやく手を洗って席について! ごはんよ、ご・は・ん!」

娘「この頃涼しいわりに湧き水があったかいから助かるわ」

娘「薪を節約できるもの」

勇者「おいしい! どんな香辛料使ったの?」

娘「ココの種と、バジルルの葉っぱの粉末よ」

娘「コンブソウの出汁も取ったわ」

娘「キャロの根からも味がしみ出してるはずよ」

勇者「すごい! 今度ぼくも作ってみよ」

娘「ずいぶん家庭的な勇者様ね」

娘父「……男だったら切り倒してた」

ぼそりと娘の父親が呟いた。

勇者「えっと……お父さんがご迷惑をかけたり……していましたか?」

娘父「あの男! 俺の嫁さんに何度も言い寄りやがって!」

娘父「その上あの時は」

娘母「落ち着いて、あなた」

娘父「今度会ったらあの面ブン殴ってやる……」

勇者「お父さんの代わりに謝ります。ごめんなさい」

娘「もー!食事時の空気を悪くしないでよ! ごはんが不味くなっちゃうじゃない!」

娘父「す、すまん」

娘祖父「明日にはみな帰ってしまうのかの?」

娘父「いや、俺は帰れなくなった」

娘「え? 何で!?」

娘父「平和協会からの伝令だ。ここから北西の方角の山岳へ戦いに出る」

娘「嘘でしょ!? そんな……」

娘父「仕方ないさ。俺は平和協会の金で育ったんだから」

真の勇者の子供でなくとも、平和協会に申請すれば養育費の援助を受けることができる。

そのため、貧しくとも飢えることはないが、戦士として戦うことが義務付けられる。
バーントが育った家庭は貧しく、平和協会の援助なしでは子供を育てることができなかった。

娘父「ここ数ヶ月、異常気象や災害が多いのは知ってるだろ?」

娘父「この間の地震以来、山岳の魔物達が狂暴になってるらしくてな」

勇者「退治するんですか!?」

娘父「ああ。当然だろ」

勇者「でも、地震が原因だとしたら、しばらく様子を見れば元通りになる可能性も……」

娘父「その間に誰かが食い殺されるかもしれない」

娘父「お前は勇者でありながら魔物の肩を持つのか?」

勇者「そういうわけじゃありません!」

勇者「進んで戦っても、かえって犠牲が大きくなるかもしれないんです」

勇者「ぼくはそういった例を旅の中でいくつか見てきました」

勇者「防衛に徹し、攻撃は控えるべきです」

娘父「……お前の言うことが正しかったとしても、協会の命令には逆らえない」

娘父「俺が稼がなかったら、俺の家族は飢え死にするか協会の援助を受けるかの二択になる」

娘父「俺は、娘を戦場にやりたくはないんだ」

勇者「…………」

勇者「ぼくも行きます」

勇者「誰も死なずに解決できる方法が見つかるかもしれません」

娘父「……勝手にしろ」

娘父「幸いこういった突発の仕事は給料が前払いだからな」

娘父「俺自身が自ら逃げ出したりしない限り、お前に邪魔されたところで生活には響かない」

娘父(協会は何故こんな子供を旅立たせたんだ)

娘父(……まあ、大体察しはつくんだがな)

娘父(シュトラールは一体何をやっている)

夕食後

勇者(二万五千年前の大戦の本がある!)

勇者(この時代の歴史書って、ほとんど残ってないんだよなあ)

勇者(神話レベルになってるし)

――――

二人の勇者は、大精霊からそれぞれ力の結晶を授かり、

大いなる破壊の意思を封印した。

勇者の内一人は東にある故郷へ帰還し、

もう一人の勇者はいずこかへ姿を消した。

時を同じくして、大陸の生命の半分は魔に侵された。

――――

勇者「勇者が二人いた……?」

娘祖父「うむ。東へ帰った勇者の子孫は、勇者の一族として今でも現存しておる」

娘祖父「もう一つの力は、一体何処にあるのやら……」

娘祖父「今でも、正しき心を持つ者が受け継いでおると信じたいものじゃ」

勇者(大いなる破壊の意思が封印された直後に魔属が現れた)

勇者(魔属はその時新たに生まれた生命なのか、)

勇者(それとも、元いた生物が魔属に変化したのか……うーん)

勇者(争いの根本的な原因を知りたい)

勇者(人は同じ過ちを繰り返さないために歴史を学ぶ)

勇者(過去を知ることが、より良い未来を作るためには重要なことなんだ)

娘「お風呂上がったわよ。入ってきなさい」

勇者「ありがとう、じゃあお借りするよ」

娘「はあ……あなたが男の子だったらなあ」

勇者「あはは。実はそれよく言われるんだ」



娘父「あの時の赤ん坊と再会するとはな」

娘母「ええ……とても良い子に育っているみたいね」

娘父「ああ。余程あいつの嫁さんの教育が良かったのだろう」

娘父「とても優しい子だ……気味が悪いほど」


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yoru ni saikai shimasu

tori misutteta

翌日。

勇者「ぼくは基本的に一人旅を義務付けられています」

勇者「今回の戦いに参加する許可をください」

協会職員「少々お待ちを」

娘父「おい、一人旅を義務付けられてるってどういうことだ」

協会職員「ええと、それは……極秘事項となっております」

娘父(……酷なことを。うちの娘と大して年も変わらんというのに)

協会職員「許可が下りました。討伐隊に加盟します」

勇者「ありがとうございます」

娘父(シュトラール……お前が命がけで護った娘は、世界に殺されようとしている)

勇者(狂暴な魔物であっても、魔王の命令を理解する知能のない子は人間を襲う)

勇者(仮に知能が高かったとしても、錯乱すればどうなるかわからない)

勇者(魔物達を説得することも困難かもしれない)

――北西の山岳地帯

いくつもの雷鳴が轟いている。

勇者(……寒いなあ。今の季節、この辺りの気候はもう少し温暖なはず)

娘父「風邪引くんじゃねえぞ。足を引っ張られたら困るからな」

勇者「はい」

隊員A「出たぞ! スノウジャガーだ!」

隊員B「スノウアウルまでいるぞ!」

勇者(普段は雪原か山奥の標高の高い所に生息している魔物が不自然に多い)

勇者(まるで、元の棲み処から避難してきたかのような……)

――――

娘『この頃涼しいわりに湧き水があったかいから助かるわ』

――――

勇者(! 頻発する地震、温かくなった地下水……)

勇者(これが、噴火の前兆現象だったとしたら……)

勇者「戦っている場合じゃない! 今すぐ遠くへ避難しなきゃみんな死んでしまう!」

娘父「いきなり何を言い出すんだ!?」

勇者「火山が噴火するかもしれません!!」

隊員A「知るか! 俺達の仕事はあいつらの始末だ!」

隊員A「進めー!!」

雪魔族「させるものか!」

冷たい突風に討伐隊の隊員達は吹き飛ばされた。

勇者「ま、魔族……!」

雪魔族「その小僧の言う通りだ。もうじきこの山岳地帯はマグマに包まれる」

雪魔族「そうなれば、この子達は焼け死んでしまう。東の山脈へ逃れなければならない」

勇者「寒い気候を好む魔属と避難するために、この辺りの気温を下げていたんですね」

雪魔族「その通りだ。我々の邪魔をするならば消えてもらおう!」

風竜「ガァアアア!!」

雪魔族と共にいる巨大なドラゴンが威嚇を行った。

勇者「みんな逃げて!!」

隊員の半数近くは逃げ出した。
残りは臨戦態勢を保っている。

雪魔族「ずいぶん勇敢な人間達だな」

雪魔族「やれ!」

勇者「待って!!」

勇者「みんな生きようとしてるのに、殺し合うなんて間違ってる!!」

勇者「人間も魔属も両方今すぐ避難しなきゃいけないんだ!!!!」

雪魔族「子供の綺麗事を聞いている暇はない!」

隊員C「魔属のために人間の領域が侵されかけているんだぞ!!」

勇者(何で……)

勇者(どうして逃げてくれないの……!?)

隊員A「くっ……突撃しろー!」

隊員達「「「「「うおおおおおおお!!」」」」」

娘父「子供はどうしても発言力が弱いからな」

娘父「真の勇者でもないのに、そんな簡単に人を動かせると思うな」

勇者「!」

隊員L「こいつらが安全な土地へ逃れるまでには、」

隊員L「いくつか人間の集落の近くも通ることになるだろう」

隊員L「こいつらはあまりにも危険なんだよ」

隊員P「はやめに駆除しなければならない。わかってくれ、小さな勇者さん」

勇者「そんな……そんなの、認めない!」

娘父「おい待て!!」

勇者は駆け出した。

勇者(高位の魔族がいるから、おそらくスリーピングミストは通用しない)

勇者(一つ一つ潰していかなきゃ)

勇者「バリア! フェイント! バリア! フェイント!!」

勇者は力の及ぶ限り、視界に入った者達を防護壁で包み、気絶させていった。

雪魔族と風竜による遠距離攻撃からあらゆる者達を守るため、
一度張った防護壁を解くこともしようとしない。

雪魔族(奴め、なんという魔法技術だ! 子供とは思えん)

雪魔族「だが」

勇者「!?」

エミルの脇腹を氷柱が裂いた。

勇者「あ……ぐ……」

娘父(まずい!)

雪魔族「他者を守ることに集中しすぎたな」

雪魔族「己の防護壁が薄くなっていたぞ」

勇者「くっ……」

雪魔族「これがお前の最期だ」

風竜「待て。魔王陛下の命令を忘れたのか」

風竜「エミル・スターマイカを殺してはならない」

雪魔族「腰抜け魔王の命令なんぞこれ以上守ってはおれぬ!」

雪魔族「私はこの子達を守るために戦う! 例え、魔王の命令に逆らうこととなっても!」

雪魔族「人間なぞ全員蹴散らしてくれるわ!!」

勇者「だめ……戦っちゃだめ!!」

雪魔族「あやつ、もうあの傷を治したというのか!?」

娘父「くそっ、数が多すぎる」

バーントは戦いながらエミルの様子を窺っている。

娘父(あいつ、何枚防護壁を貼ってやがるんだ!?)

勇者「お願い……殺さないで!」

勇者「うぐっ……」

エミルは時折流れ弾を受けつつも争いを鎮めようと走り続ける。

勇者「はあ、はあっ」

娘父「人間と魔物両方の九割方を気絶させやがった……!」

雪魔族「あ、ありえない……」

勇者(もう、これ以上魔法を使う余裕がない……)

魔力は尽きていないが、発動している魔法に対して身体の負担が大きすぎる。

勇者「通り道にある集落に、魔属に近付かず、防衛に徹するようお願いするから……」

勇者「お願い、殺さないで……戦わないで……!」

勇者(あ……意識が……)

雪魔族「……残念だが、お前の理想通りにはならないだろう」

雪魔族「人は己に害を及ぼす存在を許しはしない」

雪魔族「そして、それは我等とて同じこと」

雪魔族「恐るるに足らぬ大きさとはいえ、光の力を持つ勇者……貴様には死んでもらう」

風竜「待てフロスティ!」

雪魔族「止めてくれるなアネモス!」

雪魔族「今は理想ばかり述べる子供であっても、」

雪魔族「いつかは我々に剣を向けるようになるだろう! 所詮人間の勇者なのだ!」

雪魔族は風竜の静止を振り払い、エミルに突進した。

勇者「ぼく、ここで死んじゃうんだ」

エミルは茫然と迫りくる攻撃を眺めた。

勇者「お母さん、ごめんね。帰れそうにないや……」

そして一筋の涙を流す。

勇者「……最初からわかってた。王様達が、ぼくを……魔族に殺させようとしてたって」

傷だらけの幼い勇者は、故郷で待つ母を想いながら意識を失った。



雪魔族「!?」

雪魔族は既の所で攻撃を止めた。

雪魔族「こいつは…………!」

力無く倒れ行くエミルの身体を受け止めたのは、


魔王「…………」

雪魔族「へ、陛下……!?」


西の最果ての城で待ち構えているはずの、魔王であった。

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kokomade

Section 4 喪失

雪魔族が攻撃を止めたその瞬間、魔王が姿を現した。

魔王「サンダードラゴンの群れを手配した。明日には避難が完了するだろう」

雪魔族「は、ははっ」

娘父(おいおいこりゃ冗談だろう?)

娘父(はは、こりゃまた随分若い魔王様だ)

娘父(父親とよく似てやがる)

魔王「……エミルは殺すなと命じたはずだ」

雪魔族「も、申し訳ございません」

雪魔族は跪いて小刻みに震えている。

魔王「こちらも手配が遅れたからな。今回だけは見逃してやろう」

魔王「だが……次は無いぞ」

雪魔族「ひっ」

雪魔族「き、き、肝に銘じ、ます」



雪魔族(魂の奥深くに封印されていたが、わずかに見えた)

雪魔族(あの子供は…………!)

隊員Y(な、なんて威圧感だ……)

隊員Z(もうおしまいだ…………!)

娘父(まさか魔王様直々にお出迎えなんてなあ)

娘父(……エミルは確かに人間から処分されて当然の存在だ)

娘父(だが、平和協会はエミルの正体を確信しきることができなかった)

娘父(だから魔族に殺させそうとした)

娘父(しかし……魔王がエミルの正体を知っているとしたら)

娘父(エミルを仲間として引き入れる可能性は充分すぎるほどある……!)

魔王「アネモス、ご苦労であった」

魔王「我はこの者を連れて城に帰る。後は任せたぞ」

風竜「はっ」

魔王は瞬間転移魔法<テレポーション>を使用した。

魔王「エミル……」

魔王の瞳は憂いに満ちていた。

魔王「もう二度と相見えることはないはずだった」

勇者(誰……?)

勇者(力強い腕に、抱かれている気がする…………)

執事「お帰りなさいませ、ヴェルディウス陛下」

メイド長「お帰りなさいませ」

魔王「コバルト、エミルに施されている封印術を解読してくれ」

執事「はい」

コバルトと呼ばれた執事姿の青年が魔法陣を展開すると、
魔王はエミルを魔法陣の中に浮かせた。

執事「魔法解読<ディコード・マジック>」

エミルの胸元から小さな魔法陣が浮き上がり、そして文字の羅列となって流れ出した。

執事「くっ」

しかし、途中でバチバチと光が破裂し、魔法陣は収縮してしまった。

執事「封印の後半部分に、真の勇者の物と思われる光の力が纏わりついています」

執事「封印の解除方法を全て解読することは……我々には不可能です」

魔王「読み取れたところまででいい」

執事「それが、その……」


魔王「……」

メイド長「まあ……」

コバルトの言葉を聞き、魔王は眉をひそめ、メイド長は目を丸くした。

魔王「……あの男の考えそうなことだ」

『魔物を守る裏切り者ー!』

『すぐ泣く弱虫勇者ー!』

『魔力でっかちー!』

『『『ばーけーもの! ばーけーもの!』』』

『くぉらおまえらあああああ!』

『やっべーリヒトだ! 逃げろ!』

ぼくは、ばけものなんかじゃない……。

勇者「う……」

勇者(ここ、どこ? お城? 豪華な部屋……)

エミルは柔らかい寝台に寝かされていた。

魔王「目を覚ましたか」

勇者「!?」

勇者「あ……」

勇者(心臓と闇の力が同化してるのが見える。この魔族は……魔王)

魔王「…………」

勇者「…………」

魔王「………………」

勇者「………………」

魔王「……………………」

勇者「……………………」

魔王(何から話せばいいんだ)

勇者(何でぼく生きてるんだろ)

魔王「……水でも飲むか?」

勇者(敵から出された飲み物を飲むなんてぼく一体何やってんだろ)

勇者(でも、生きてるってことは生かされたってことだし、敵意は感じられないし……)

勇者(……寂しそうな目。氷の裂け目みたいな、冷たい青緑)

勇者(髪の毛は不思議な色してるなあ)

勇者(光の当たり具合で灰色の髪に薄く虹色が混じったりしてる)

勇者(遊色効果、っていうんだっけ、こういうの。オパールみたい)

勇者(魔王ってもっと怖い見た目なのかなって思ってたけど、)

勇者(肌が土気色なのと、髪の毛が不思議な色なのと、ツノが生えてるところ以外は)

勇者(ほとんど人間と同じ……)

魔王「……あまりじろじろ見ないでくれ」

勇者「! ごごごめんなさい」

魔王「…………」

勇者(怖い、けど……話せばもしかしたら分かり合えるかもしれない)

勇者「えっと……雪の魔物達は……」

魔王「今頃サンダードラゴンの背に乗って移動している。心配する必要はない」

勇者(サンダードラゴン……とっても飛ぶのが速くて、)

勇者(標高の高いところでも平気でいられる、上位の竜)

勇者「そう、ですか……ありがとうございます」

魔王「…………」

勇者(魔王なら濃い魔気を纏ってて当然のはずなのに、体内に収めてるみたいだ)

勇者「……魔気、抑えることって……できるんですか?」

魔王「ああ。多少肩はこるがな……」

勇者(ぼくのためにしてくれてるのかな……)

勇者「あ、ぼくの怪我、治してくださったんですか?」

魔王「……ああ」

勇者「えっと……ありがとう、ございます」

勇者「…………どうして助けてくれたんですか?」

勇者「ぼくは、魔族を倒すよう命じられた、勇者、なのに……」

魔王「…………」

魔王「………………落ち着いて聞いてくれ」

魔王「お前は、魔族だ」

勇者「え…………」

魔王「エミル、お前は魔族の血を引いている」

勇者「…………」

勇者(ぼくが、まぞく……?)

勇者「うそ……」

勇者「うそでしょ……」

勇者「だって、ぼくは、お父さんも、お母さんも、人間だもの……」

魔王「……父親は人間だが、お前の母親は」

勇者「うそだ!!」

勇者「何かの間違いだ!! 人違いに決まってる!!!!」

勇者「ぼくはお母さんの子だもの!!」

魔王は勇者を寝台に押し付けた。

魔王「お前の魔族としての血は封印されている!」

魔王「そして、その封印を解くには……」

――――

執事『それが、その……』

執事『魔族と……情を交わすこと、と』

メイド長『まあ……』

魔王『……あの男の考えそうなことだ』

執事『彼女を人間の元へ帰しましょう。これではエミル様を深く傷つけることになります』

魔王『帰したところで何になるというのだ!』

魔王『人間共は再びエミルを処分しようとするだろう』

執事『しかし、この土地には魔気が濃く染みついています』

執事『エミル様の封印を解かない限り、エミル様の体は魔の気に蝕まれてしまうでしょう』

執事『長くは持ちませんよ』

魔王『…………』

魔王はエミルを抱え、その場に背を向けた。

執事『エミル様を何処へお連れするおつもりですか』

魔王『……メルナリア、エミルのために東の空き部屋を整えておいてくれ』

魔王『私は自室へ戻る』

メイド長『承りました』

執事『完全に解読できたわけじゃないんですよ!』

魔王『……他にできることもないだろう』

執事『お待ちください魔王陛下!』

執事『陛下ったらー!』

――――

魔王「……お前を守るためにはこうするしかないんだ」

勇者「何するの? い、いや! はな、して」

恐怖のあまり、エミルの体は強張ってしまい自由に動けない。

勇者(お母さん、助けて……お母さん!)

「すまない」と、魔王はエミルの耳元で小さく囁いた。

――セントラルの町

娘「パパ、お帰りなさい! よかったわ、無事に帰ってきてくれて」

娘父「ああ……」

娘「ねえ、町中が避難避難って騒いでるけどどうしたの? エミルは?」

娘父「…………」

娘「ねえ……エミルは!? 何で一緒じゃないの!? パパ!!」

娘父「……あいつは頑張ったよ。あいつのおかげで死者が一人も出なかった」

娘父「大した勇者だ」

――ブレイズウォリア・平和協会本部

協会幹部1「エミル・スターマイカが魔王に捉われたそうだ」

協会幹部2「……死んだことにしよう。リヒトの怒りを駆り立てるために」

国王「うむ、それがよかろう」

協会幹部3「だがあの魔力は驚異。魔王に利用される可能性がある」

協会幹部3「本当に殺されていることを願いたいものだな」


――ブレイズウォリア北・聖域の森

勇者兄(試練もこれで残り半分弱か)

法術師「久しぶり、リヒト君」

勇者兄「よう、セレナじゃないか。どうしてここに……」

勇者兄「あ、そういや聖職者だったな」

法術師「コネを利用してこっそり様子を見にきちゃった」

聖域は真の勇者・真の勇者候補、

そして彼等の世話をする最低限の聖職者以外立ち入ることは許されていない。
また、試練に集中するため、外界の情報はほとんど遮断される。

勇者兄「飯持ってきてくれたのか? そこ置いといてくれ」

法術師「ええ」

勇者兄「ここで出される食いもんはあっさりしたものばっかりでよ、」

勇者兄「そろそろごっつい物も食べたいぜ」

法術師「……実は、悪い知らせがあるの」

――――――
――

勇者(……天井、じゃない。ベッドの天蓋だ)

勇者(さっきとは違う部屋みたい)

勇者(ぼく、泣き疲れて寝ちゃったんだ)

エミルは上体を起こした。

勇者「っ!」

勇者(おなか、チクチクする)

勇者(ぼく、男の人に汚されちゃったんだ)

勇者(本当は、両想いの人と結婚してからすること、されちゃった)

勇者(せっかくお母さんがくれた体なのに、傷付けられちゃった)

勇者(……お母さん、ごめんなさい、ごめんなさい)

勇者「あ……ぁ……」

エミルの手は毛布を握りしめ、震えている。涙は枯れていた。

勇者(ぼくとお母さんが親子じゃないなんて、うそだよね……?)

勇者(ぼくはお母さんから生まれたんだよね? そうだよね?)

勇者(ぼく、人間のままだもの)

誰かが部屋の戸を叩いた。

勇者「だ、れ…………?」

メイド長「失礼します」

メイド長「エミル様の世話係に任命されました、メイド長のメル=ルナリアと申します」

メイド長「親しい者からはくっつけてメルナリアと呼ばれておりますわ」

勇者「メル……海。海と、月の花。綺麗な名前」

メイド長「ありがとうございます、エミル様」

勇者(どうして、様付けなんだろう)

メイド長(虚ろな目……お可哀想に)

勇者(藍色の髪。蜂蜜みたいな目の色。海上に浮かぶ月みたい)

勇者(この魔族も、魔気を抑えているみたい)

勇者「……かなり高位のドラゴン……二つの種類が混ざってる」

メイド長「! よくお気付きで……」

メイド長「仰る通り、私はゴールドドラゴンとマリンドラゴンのハーフでございます」

勇者「魔力で、わかるんです……」

勇者「なれるんだ……人型……」

メイド長「ええ」

メイド長「こちらをどうぞ。魔気避けの強力なアミュレットでございます」

勇者「…………」

勇者「あれ……この服……」

メイド長「ヴェルディウス陛下が、そのお召し物をエミル様にと」

エミルは眠っている間に着替えさせられていた。

勇者(ラウルスさんが売っていた……南西の服とよく似てる)

勇者(偶然かな)

メイド長「……ふう」

執事「どうでした? エミル様のご様子は」

メイド長「しばらく男の人は近寄らない方がいいでしょうね」

執事「だそうですよ魔王陛下ー」

魔王「…………」

執事「成果はどうだったんですかー」

魔王「……わずかに魔族化の兆候が見られた程度だった」

魔王は頭を抱えている。

魔王「……私は床に就く。お前らも休め」

魔王の姿は回廊の闇へ融け込んだ。

執事「はあ、まったく……一度本気の目になったら止まらないんだから」

執事「そしていつも後悔する」

メイド長「しばらく気苦労が増えそうね」


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kokomade

ただただ素晴らしいとしか言い様がない
どうやって書いたんだ?

勇者父「……ついに代替わりか」

光の大精霊「ええ……」

勇者父「長かったなあ、俺の真の勇者人生も」

光の大精霊「…………」

勇者父「心配すんなよ、俺には生まれ持った光の力だってある」

勇者父「そんなすぐに死にゃあしないさ」

女勇者「シュトラールー! 母さんがご飯できたってー!」

勇者父「娘が呼んでる。じゃあな、美人の大精霊さん」

勇者父「パパって呼んでくれよ~」

女勇者「い・や!!」


Section 5 味

エミルが死んだと広報されて二日が経った。
平和協会には優秀な情報魔術師が多く所属しているため、情報の伝達は非常に速い。

気功師「……」

気功師は胡坐をかき、床に広げた地図に意識を集中している。

気功師「……勇者エミルは生きておる」

武闘家「本当なんだな、師匠」

国王「あと二ヶ月以上かかると予想された試練をたった二日で乗り越えるとは」

国王「流石稀代の勇者シュトラールの長男だ」

国王「西へ旅立ち、妹の仇を討つがよい」

勇者兄「はっ」

国王「うむ、よい面構えだ」

勇者兄「……ところでよ」

国王「む」

勇者兄「エミルを旅立たせたったぁどういうことなんだよぉ国王陛下サマァ?」

宰相「へ、陛下に剣を向けるなんてとんでもない無礼じゃぞ!!」

法術師「無礼どころじゃないわね。あと、陛下に様は重複してるわ」

魔法使い「ああ、もう……普段は好青年なのに妹のこととなるとこれなんだから」

国王「は、反逆罪で極刑ものであるぞ!!」

勇者兄「やれるもんならやってみろよ。魔王を倒せる人材はいなくなるけどな」

国王「ひっ」

勇者兄「エミルはお前等に殺されたようなもんじゃねえか!!」

武闘家「それくらいにしとけよリヒトさん」

武闘家「平和協会に歯向かったら大陸中を敵に回すことになる」

武闘家「めんどくせえだろそんなん」

勇者兄「ふん」

勇者兄「ちくしょう……エミル……俺が聖域に籠っている間に……」

魔法使い(せっかく久しぶりに会えたのに、妹のことばっかり……)

勇者母「…………」

勇者兄「母さん、行ってくるよ」

勇者母「私、あの子を助けてあげられなかった……」

勇者母「リヒト……あなたまでいなくなったら、私……」

武闘家「エミルは生きてるよ」

勇者兄「なんだと!?」

勇者母「!?」

魔法使い「何ですって!?」

法術師「本当に!?」

武闘家「死んだなんてのは平和協会が流したデマだ」

武闘家「俺の師匠がエミルの居場所を念術で探ってくれた」

武闘家「あいつは魔王城で生きてる」

勇者兄「本当なんだな!!!!」

武闘家「あいつらはエミルを死んだことにしてリヒトさんと世間を怒らせ、」

武闘家「魔属を殲滅しようと思ってるんだろうな」

勇者兄「っ……」

勇者兄「ちくしょう…………俺は奴等の手駒なんかにはなりたくねえ」

勇者兄「いつか打っ潰してやる」

勇者兄「だが面倒なことは後だ! エミルを助けに行くぞ!」

気功・念術は東の大陸から入ってきた技術であり、神秘の力を秘めている。
しかし、魔術や癒しの力である法術が発達しているこの大陸ではほとんど浸透していない。
扱っている者のほとんどは東の大陸からの移民の血を引く者達である。

勇者兄「あいつが旅立ったのは、俺が聖域に入った一ヶ月後……」

勇者兄「俺が父さん並みの早さで試練を突破してさえいればこんなことには……!」

武闘家「試練の突破にかかる期間は平均六ヶ月だっけか」

魔法使い「リヒトは三ヶ月半くらいよね。充分すごいじゃない」

勇者兄「父さんは一週間だ」

魔法使い「え!?」

勇者兄「試練を終えたら母さんと結婚する約束をしていたらしい」

武闘家「周囲に女がいない環境に耐えきれず勢いで終わらせたって聞いたことあるんだが」

勇者兄「……それも真実のような気がする」

気功師「……助けに行くのだな」

武闘家「ああ。あんな奴でも一応ダチだからな」

気功師「お前は私の一番弟子だ。必ず帰ってこい」

武闘家「死ぬつもりはねえよ」

女子1「絶対帰ってきてね!」

女子2「パン焼いて待ってるから!」

女子3「コハク君が帰ってくるまでにはもっともっと美人になってるから!!」

女子4「旅先で女の子作ったら許さないんだから!」

女子5「絶対、エミル君のっ仇をっ討ってきてねっ……ぐすっ」

武闘家「おう」

気功師「こんなに大勢のおなごを誑かしていたとは!」

気功師「お前なんぞ私の弟子に相応しくない! 一生帰ってくるな!!」

武闘家「ひでえ」

勇者兄「……お前も親父の隠し子だったりしないよな?」

武闘家「しねえよ!!」

法術師「エミルちゃんもちょくちょく女の子に人気だったわね」

勇者兄「父さんは意識的に女を口説いてたが、あいつは天然ジゴロだったからな……」

武闘家「ナンパする時あいつ連れてったら便利だったな~」

勇者兄「ナンパって……お前何歳だよ」

武闘家「もうすぐ十三」

法術師「最近の子って進んでるのね」

勇者兄「エミルを変なことに使うんじゃない」

魔法使い「……真の勇者の不貞って罪にならないのよね」

法術師「強い光の力を持った子供がたくさんいるに越したことはないからね」

魔法使い「…………」

法術師「んもう、まだリヒト君と付き合ってすらないのに心配しちゃってるなんて~」

魔法使い「なっ」

法術師「アイオったらか~わいい~」

魔法使い「や、やめてよ。男二人に聞こえたらどうすんのよ」

法術師「せっかく久々にリヒト君と会えたのに、」

法術師「こっちを見てもらえなくて寂しいんだよね~うんうん」

魔法使い「やめてよ!! もう!!」

勇者兄「何喧嘩してるんだー行くぞ~」

法術師「は~い」

魔法使い「セレナったら……」

大魔導師「リヒトには見えていなかったのであろうか……エミルの魂に眠る黒き何かを」

国王「相当の術師であっても漸く微かに感ぜられる程度のものなのであろう?」

国王「その上、リヒトは盲目的に妹を愛している。気が付かないのも無理はない」

大神官「しかし、国王陛下に剣を向けるとは……」

国王「いざという時は母親を人質に取ればよい」

国王「非人道的なことではあるが、平和のためだ」

協会幹部1「不穏分子を尽く取り除くことで平和は保たれる」

協会幹部2「大陸の平和は、我等平和協会の名の元に」

――魔王城

勇者「ぼくが怖くないんですか」

勇者「小さいとはいえ、光の力を持っています」

勇者「魔属にとっては猛毒です」

メイド長「あなたが魔属に危害を加えないことは、よく承知しておりますから」

勇者「…………」

メイド長「こちらへ。髪を整えましょう」

勇者「…………」

メイド長「豊かな髪……いじり甲斐がありますわ」

勇者「……結ったって、可愛くなんてなりません」

勇者「ぼく……男の子みたいだし……」

メイド長「そんなことはございません。可愛らしくしてみせます」

勇者「でも……可愛くなる必要なんて……」

エミルは泣き出した。

勇者「ぼく……もう、お嫁さんにだって……なれないのに……」

メイド長「あ…………」

勇者「こんな綺麗な服着てたって……何の意味もない……」

勇者「ぼくの服……返してください……」

メイド長「…………」

勇者(誰も……恨んだり、憎んだりしたくないのに)

勇者(どんなにいじめられたって、相手を憎んだことはなかったのに)

勇者(男の人が……怖くて仕方がないんだ)

勇者(お母さん、どうしてるかな)

勇者(お父さんは滅多に帰ってこないし、お兄ちゃんもぼくもいなくなって、)

勇者(おうちでひとりぼっち)

勇者(寂しいだろうな)

勇者(おうちに……帰りたい)

――――――
――

勇者母『エミル、おかゆできたわよ』

勇者『ん……』

勇者母『ふーふーしてあげるから、ちゃんと食べるのよ』

勇者『うん』

――――――

勇者「お母さんのおかゆ……食べたい……」

勇者「調理場……貸して……」

勇者(魔王城で食べるご飯は、おいしい)

勇者(でも、魔族の味付け)

勇者(人間の……お母さんの味が恋しい)

メイド長(大丈夫かしら……あんなにぼうっとしてらっしゃるのに、お料理だなんて)

メイド「きゃっ……人間!?」

調理師「魔王様が飼っておられる女の子だ。害はないらしい」

メイド「あら……そうなの」

調理師「丁重に扱えってよ。魔王様も物好きだよなあ」

メイド長「お手伝いいたします」

勇者「よかった……知ってる食材、いっぱいある……」

メイド長「魔王陛下がエミル様のためにお取り寄せなさったそうです」

勇者「ぼくの、ため……?」

メイド長「ええ。東の地方まで超特急でドラゴンを飛ばしてまで」

執事「東へ往復させられたドラゴンでーす。あはは……」

勇者「メルナリアと半分同じ……ゴールドドラゴン……竜族最上位……五大魔族の一柱」

勇者「サンダードラゴンより飛ぶのが速い……はず」

メイド長「ええ。彼は純血のゴールドドラゴンです」

メイド長「人型に化けるのも私より得意なので、」

メイド長「人間の集落での買い物にはうってつけというわけです」

メイド長「頑張れば私だってもっと人間に近付けるんですけどね!」

執事「魔族の領域にいる時は完全に化ける必要もないですからね」

執事「コバルトと申します。以後、お見知りおきを」

メルナリアは人型となっていても二本のツノがあり、目元などに魔族らしさが残っている。
それに対し、コバルトと名乗った執事は人間の少年とほとんど変わらない姿をしていた。

勇者(柔和な笑顔……)

勇者(青空の様な瞳。純金の様な深い色の髪……綺麗)

勇者(男の魔族、だけど……女の人みたいに雰囲気が柔らかい)

勇者(……平気、かな)

勇者「二人は……いとこ……かな……」

勇者「魔力、似てる、から……」

メイド長「ええ、その通りでございます」

勇者「……どうして今も、そこまで人間の姿に似せてるんですか」

執事「この姿の方がエミル様と親しみやすいかと思いまして」

勇者「……そっか」

執事「とはいっても、人型の姿の方が僕達の本当の姿なのかもしれないんですけどね」

勇者「?」

執事「僕達の種族には人型魔族の遺伝子と、竜族の遺伝子の両方があるんです」

執事「どちらが本当なのか、どちらとも本当なのか、僕達ですら知らないのですよ」

勇者「本では読んだことなかった……不思議……」

メイド長(右腕のコバルトを短期間であっても城から離すなんて、)

メイド長(陛下はそれほどこの子が大事なのね……)


勇者「お母さんの味……出ない……」

勇者「お母さんが作ってた通りにしてるはず……なのに……」

メイド長「エミル様……」

魔王「おい、飯はまだか」

勇者「っ!」

魔王「……この雑炊は誰が作ったんだ。味見するぞ」

魔王「…………旨いな。はじめて食べる味だが」

勇者「ぁ……」

魔王「あ……」

エミルはその場でガタガタ震え出し、魔王は気まずそうに目を逸らした。

メルナリアは優しくエミルの肩を抱いた。

メイド長「エミル様がお作りになったんです」

魔王「その……よい料理の腕を持っているようだな」

勇者「…………」

魔王「………………」

執事「あーもう! 僕がすぐに運びますから部屋に戻っててください!」

魔王「う、うむ」

――――――
――

国王『お前は本当にシュトラール・スターマイカの子供なのか?』

大魔導師『魔力検査・遺伝子検査共にシュトラールの実子で間違いないとの結果が出ております』

勇者兄『こんだけ似てるんだから疑いの余地ねえだろうがぁぁあああ』

勇者『お兄ちゃん落ち着いて!!』

大神官『二人を自宅へ帰せ!』

勇者兄『エミルに何かしたら王様でも許さないんだからな!』

勇者『王様にそういうこと言うのやめてよお!』

国王『……ふう。静かになったな』

大魔導師『しかしながら……極端にシュトラールの遺伝が強すぎるのです』

大魔導師『まるで、母親の遺伝を隠したかのような……』

国王『奴め、一体何処の女と子供を作りおったのだ』

――――――


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kokomade

>>137
koukousei no koro ni tocyuude zasetsu shita
ERO syousetu wo remake shiteru dake da YO (ero youso ha katsuai shita

nantonaku
SS no soto de ningen kusasa dashitaku naishi

勇者兄『おいエミル、また魔物と遊んでるのか!?』

勇者『魔物さんだけじゃないよ、動物さんも一緒だよ』

勇者兄『動物はいいが魔物は駄目だ!』

勇者『なんで!? 魔物さんも動物さんもおんなじだよ!』

勇者『おんなじ命なんだよ!』

勇者兄『違うんだって!! そんなんだからいじめられるんだよ!!』

勇者兄『魔属にはあらゆる道徳は適用されないし殺して当然の敵なんだ』

勇者『お兄ちゃん何するの? やめて! 剣しまってよ!!』

勇者『いやあああああ!!!!!』

――
――――――

勇者「ぁぁああああっ!」

勇者「はあ、はあっ……嫌な夢」


Section 6 記憶

勇者「綺麗な朝日だなあ」

勇者(魔王城に連れてこられて数日が経った)

勇者(メルナリアさんの付き添いがあれば城内をわりと自由に移動できる)

勇者(おなかの痛みも治まった)

勇者(図書室の本は読み放題で、退屈はしていない)

勇者(でも、心が休まる時は……ない)

勇者(バーントさん達はどうしてるだろう)

勇者(お兄ちゃんはどこまで試練を進めたのかな)

勇者(お父さん、どうして助けに来てくれないの)

勇者(アミュレットがあったって完全に魔気からの影響を遮断できるわけじゃない)

勇者(このままじゃ、ぼく……少しずつ弱って……)

勇者「二十年前、エリヤ・ヒューレーさんって人間の女の人が魔王城に攫われたんだって」

勇者「何か知っていることはありませんか」

メイド長「二十年前……? エリヤ……聞いたことはございませんわ」

メイド長「現在、この城に人間はおりませんし……」

勇者「そう、ですか」

勇者(人間はいない、か……)

勇者「図書館……行きたいです」

――魔王城・図書室

魔王「……有益な文献は見つからないな」

勇者「あ……」

勇者(魔王がいる……入れない……)

執事「かなり高等な魔術ですからね……地下の書庫も当たってみましょう」

魔王「知恵の一族出身の賢者達はどうしている」

執事「この頃の異常気象から各地の魔物達を守るので精いっぱいらしく」

執事「しばらく城に戻るのは無理だそうです」

魔王「そうか……」

勇者(知恵の一族……聞いたことある)

勇者(五大魔族の一柱だけど、随分前の争いでかなり数が減ってしまったらしい)

執事「陛下は公務にお戻りください」

魔王「…………」

執事「ただでさえ人望ないのに最低限の仕事も放ったらまともに統治できなくなりますよ」

魔王「……うむ」

勇者(人望ないんだ……)

勇者(人間と戦争をしようとしないからって、不満が高まってたな)

勇者(そういえば、雪の魔族も、魔王のこと腰抜けって……)

勇者(ぼくと、おんなじだ。ぼくも、腰抜け勇者ってよく言われてた)

魔王「! エミル……」

勇者「…………」

魔王「その……腹はまだ痛むか」

勇者「………………」

メイド長「早く書斎へお戻りください。書類にサインをし終えたら謁見の間へ」

メイド長「仕事はたんまりあるんですからね!」

魔王「あ、ああ」

勇者(ぼくにかけられた封印を解く方法を探していたんだ……)

勇者(本当にそんな魔法、かけられてるのかな、ぼく)

執事「彼は、あなたを助けたいだけなんですよ」

勇者「…………」

執事「信じられないかも、しれませんが」

勇者「……わかります。魔王……陛下の魔力は、とっても澄んでて、綺麗」

勇者「ぼくに敵意や悪意を向けているようには感じられません」

勇者「でも……」

勇者(あんなこと、されて……許せるはずないもの……)

村に立てられた掲示板を見て、村長の孫は目を丸くした。

村長の孫「あいつが、死んだ……?」

村長「優しい子であったのに、残念じゃのう」

村長の孫「……」

勇者兄「お前、エミルをいじめてただろう」

勇者兄「あいつを化け物呼ばわりしといて何今更ショック受けてんだよ」

村長の孫「本当は……本当は、年下の女の子に助けられて情けなかっただけなんだ!」

村長の孫「そりゃ魔物と喋れるのには驚いたけどよ……」

村長の孫「こんなことになるなら……意地なんて張らなけりゃよかった……」

勇者兄「改心するのが遅すぎたな」

勇者兄(胸糞わりぃ)

協会職員「心優しき勇者エミルを葬った魔族を許すなー!」

協会職員「魔属を殺せえええ!!」

武闘家「散々エミルのことを腰抜けだの弱虫だと馬鹿にしていたくせに、」

武闘家「魔属を根絶やしにするために今度はあいつの名前を利用してやがる」

勇者兄「あいつら自身がエミルを殺そうとしたようなもんだってのに……ちくしょう」

ガヤガヤ

勇者兄「広場の方が騒がしいな」

魔法使い「演劇をやってるみたいね」

法術師「アベルとリリィの物語……魔王に捕らわれたお姫様を勇者が助けに行くお話だわ」

町娘1「ねえねえ聞いた?」

町娘1「今の魔王って、この世の者とは思えないほどの美形らしいわよ!」

町娘2「きゃー!」

町娘3「一度でいいから見てみたいわよね!」

町娘2「私も魔王に見初められて捕らわれてみたいわぁ」

町娘1「あんたじゃ無理よ」

町娘2「何ですってー!」

武闘家「暢気なやつらもいるもんだな」

勇者兄「捕らわれのお姫様ねえ」

武闘家「そういやあいつも一応女だったな。お姫様じゃねえけど」

勇者兄「!!」

勇者兄「魔王に見初められて誘拐された可能性が……」

武闘家「いや、ない」

勇者兄「エミルは可愛いし!」

武闘家「いやいや女としてはイケてな」

勇者兄「今兄ちゃんが助けに行ってやるからな!!!!」

魔法使い「……昔から、あいつは妹のことばっかり」

魔法使い(最上級魔族並みの魔力容量を持った化け物の一体どこが可愛いのよ)

――魔王城

魔王「…………」

勇者(何で同じテーブルでご飯食べてるんだろ)

勇者(緊張してお料理の味わかんないよ)

勇者(……何メートルあるのかな、このテーブル)

魔王「……一度、話を……しようと思ってな……」

勇者「…………」

魔王「謝って済むことではないとはわかっているつもりだが……」

魔騎士「魔王陛下!」

魔王「何事だ」

魔騎士「新たな真の勇者が旅立ったとの報告が入りました!」

勇者「!」

魔王「……そうか」

勇者(お兄ちゃん、もう試練を終わらせたんだ)

勇者(助けに来てくれるのかな)

勇者(でも、大陸の東から西まで横断するには、どう頑張っても五ヶ月くらいかかる)

勇者(ぼくの体が……そこまで持つとは思えない)

魔王「何者も真の勇者と戦ってはならない。犠牲が増えるだけだからな」

魔王「真の勇者と出会った場合には即刻退避するよう全魔属に伝えるのだ」

魔騎士「はっ」

勇者「……ぼくが旅をしていた間も、刺客から襲われることはありませんでした」

勇者「あなたの命令だったのですか」

魔王「……ああ」

魔王「お前を戦わせたくなかった」

勇者「…………」

魔王「………………」

勇者「ぼくが本当に魔族だったとしても」

勇者「ぼくを魔族にしたところで、あなたにどのような利益があるのですか」

勇者「ぼくは人間として育ちました。魔族だけの味方にはなりませんよ」

魔王「……利益だとかそのような問題ではない」

勇者「ならばなぜぼくを守ろうとしているのですか!」

魔王「っ……………………」

勇者「……………………」

魔王「………………………………」

勇者「…………………………………………」

執事(この沈黙苦手なんだよなあ)

メイド長「料理が冷めますよ」

勇者(綺麗な魔力。でも、寂しくて、胸が張り裂けそうなくらい切なくて、)

勇者(何かに飢えているような、悲しい色をしてる)

勇者(魔王の本当の目的は……一体何なのだろう)

勇者(お兄ちゃんはぼく以上にお父さんそっくりだから、)

勇者(行く先々で苦労してるかもしれないなあ)



町人1「真の勇者様がいらっしゃったぞ! 丁重に持て成せ!」

町人2「奴の若い頃と瓜二つだ……」

町人1「かみさんと娘を避難させるのを忘れるなよ!」

町人3「おう!」

勇者兄「あらゆる村や町でこんな扱いをされるんだが」

勇者兄「父さんはどれだけ節操なしだったんだ」

町人4「女性は全員避難したか?」

勇者兄「俺は!! 父さんと違って硬派だから!!!!」

勇者兄「女の人口説いたりとかしないから!!!!!!」

村娘1「あの……」

勇者兄「ん?」

村娘1「エミル君が……死んじゃったって……本当なんですか……?」

武闘家「ここだけの話、それデマ」

村娘1「ほんと!?」

勇者兄「ああ」

村娘1「あの、もしエミル君に会ったら……この手紙を渡してほしいんです……」

法術師「あら、ラブレターかしら」

村娘1「……」

村娘は頬を赤らめた。

村娘1「足を挫いてたところを助けてもらったのに、ちゃんとお礼、言えなくて……」

村娘1「出す宛てもないのにこんなの書いちゃったんです」

勇者兄「ああ、必ず渡すよ」

村娘2「実は私も……」

村娘3「私も……」

幼女「えみるかえってくるよね?」

村娘4「エミル君にこの種を……」

老女「わたしの荷物を運んでくれたのに、何のお礼もしてやれなかったのう……」

法術師「あらあら」

勇者兄「あいつも何人たらしこみやがったんだ!!」

町人1「こらお前達!! すぐに家へ帰るんだ!!」

勇者兄「先が思いやられるな……」

魔法使い(あんただってわりとモテるくせに)

勇者兄「あいつはそこそこ顔が良くて、」

武闘家(少年としてならな)

勇者兄「人一番他人の心の痛みに敏感だからな」

勇者兄「…………男にモテるよりはマシか。変な奴に言い寄られてたりしたらと思うと」

武闘家「魔物退治はやらなくても人助けはかなりやってたみたいだな」

勇者兄「あいつ……頑張ってたんだな」

勇者兄(旅をしている間、あいつは一度も魔属を殺さなかった)

勇者兄(小さい頃からの信念を曲げなかったんだ)



勇者兄『魔属にはあらゆる道徳は適用されないし殺して当然の敵なんだ』

勇者『お兄ちゃん何するの? やめて! 剣しまってよ!!』

勇者『いやあああああ!!!!!』

  『やめろ!!』

一人の少年がリヒトを突き飛ばした。

  『エミルを泣かせる奴は許さない!!』

勇者『 『   』! 』

勇者兄『何すんだよ!! 俺はこいつに現実を教えなきゃいけないんだ!!』

  『エミルの気持ちをわかってやれない奴がこの子の兄だなんてぼくは認めない!!』

勇者兄『いつもいつも俺の邪魔しやがって!!』

  『この!!』

勇者兄『今日こそ決着つけてやる!!』

勇者『ケンカしないで!』

勇者『やめてよ!! お兄ちゃん! 『   』! 』

勇者『 『   』!! 』


勇者兄「っ……」

武闘家「どうしたんだ、怖い顔してるぞリヒトさん」

勇者兄「いや……嫌なことを思い出しただけだ」

魔王「こちらから争いを起こしてはならぬ」

重臣「しかし陛下! 若き真の勇者が旅立ったのですぞ!」

重臣「これを機に全面戦争をしかけるべきです!」

重臣「人間に舐められたままで屈辱ではないのですか!?」

魔王「自衛以外の攻撃は認めぬ。以上だ」

重臣「魔王陛下!」

魔王「我に逆らうのか」

重臣「くっ……」



魔王「……はあ」

執事「お疲れ様です。紅茶を淹れましょう」

魔王「即位してから五年が経ったが……魔王らしく振る舞うのはいまだに疲れる」


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kokomade

>>185
×人一番
○人一倍


勇者【エミル・スターマイカ】
12歳 動物や魔物に好かれる不思議な少女(見た目は少年)。

魔王【ヴェルディウス】
17歳 平和主義のせいで支持率が低い。

執事【コバルト】
16歳 魔王がポンコツ気味であるため苦労している。

メイド長【メル=ルナリア(メルナリア)】
15歳 年齢の割に何故か地位が高いが、
     高位の種族であるため本来メイドをやっていること自体ありえない。

勇者兄【リヒト・スターマイカ】
17歳 根はまともなのだがエミルのこととなると暴走してしまう。

魔法使い【アイオ・アメシスティ】
16歳 リヒトに想いを寄せているが、リヒトがシスコンであるためエミルを疎ましく思っている。
     エミルの方が自分より魔翌力が大きいことも気に入らない。

法術師【セレナ・シトリニィ】
17歳 恋する者の味方。人の恋路を邪魔する者の敵。

武闘家【コハク・トウオウ】
12歳 足りない腕力を気功で補っている。モテる。

勇者「あの」

調理師「ん?」

勇者「魔王陛下は……あなた方にとって、どんな王様ですか」

調理師「俺等にとってねえ。まあいい王様だよ」

調理師「先代までの魔王様はおっかなくてねえ、ビクビクしながら従ってたもんだが」

コック「ヴェルディウス陛下は多少ミスっても怒らないからなあ」

調理師「安心して働けるんだ」

コック「おもむろに逆らった奴でさえ追放処分で済んでるんだぜ、ありえないだろ」

調理師「優しすぎてお偉いさん方からはあんまり好かれてないみたいだがね」

コック「平和好きの魔王様なんて、好戦的な連中からは邪魔者以外の何者でもないしな」

勇者「そう……ですか。ありがとうございます」


Section 7 接近

勇者(あんまり魔術の勉強をしていない下級魔族には、)

勇者(ぼくの光の力を感知する能力がほとんどないみたいだ)

勇者(おかげで情報を収集できる)

勇者(ぼくの願望通り、今の魔王は争いを好まない優しい魔族だった)

勇者(極力犠牲者が出ないよう最大限頑張っているみたい)

勇者(でも、不思議だ。先代魔王は残酷だったのに、)

勇者(その息子である今の魔王が平和を好んでるなんて)

勇者(一体どうしてそんな風になったんだろう)

勇者(きっと生育環境か何かにその原因が……)

メイド長「エミル様! 何処へ行っておられたのですか!」

勇者「あ……ごめんなさい」

勇者「たまには一人で散歩したくて」

メイド長「私は常にエミル様のおそばについているよう命じられているのです!」

メイド長「お気持ちはわかりますが、お一人で何処かへ行かれるのはお控えください」

メイド長「城内には人間嫌いの魔族もたくさんいるのです。何が起きるかわかりませんわ」

勇者「……はい」

勇者(あんまり探りを入れてるところ、見られたくないんだけどな)

勇者(……お兄ちゃんからも同じようなことでよく怒られてたなあ)

勇者(今となっては懐かしい)

――魔王城・謁見の間

魔王「隠居したというのに駆り出してすまなかったな」

老賢者「いえ、このような老いぼれを使っていただき光栄です、魔王陛下」

老賢者「北の魔物達には落ち着きが見られるようになりました」

老賢者「しかし天災は当分静まらないでしょう」

魔王「うむ、ご苦労。後は現地の魔族に任せて隠遁生活に戻るがよい」

老賢者「はい」

魔王「……個人的な話がある。後で書斎に来てはくれぬか」

勇者「…………」

魔王(……この頃やけに観察されているようだ)

勇者は柱の影から魔王の様子を窺っている。

老賢者「あの子のことですかの」

魔王「……ああ」

勇者「魔王陛下ってどんな子供だったんですか」

執事「え? うーん、僕がこの城に来たのは五年ほど前ですので、」

執事「それ以前のことは存じませんが」

執事「綺麗な女の子だなあ、っていうのが第一印象でしたよ」

勇者「!?」

執事「まあ、男性だったんですけどね。あはは」

勇者(びっくりした……)

執事「ここ二、三年で随分男らしくなられたものです」

メイド長「私も四年前から奉公に来ましたので、あまり昔のことはわかりません」

メイド長「私の知る限り、今も昔も、陛下は寂しそうな方です」

勇者「そういえば、魔王陛下の年齢って……」

メイド長「この間十七歳になられました」

勇者「随分若いんですね」

勇者(お兄ちゃんとおんなじだ)

老司書「ヴェルディウス様の子供時代ねえ」

老司書「勝手に喋っちゃだめかもしれないから、ナイショだよ」

老司書「剣や攻撃魔術の稽古がお嫌いでねえ、」

老司書「いつもこの図書室に籠って本を読んでおられたよ」

勇者(ぼくとよく似てる……)

老司書「魔王族にしてはお体も小さい方だし、気が弱くて顔も女の子のようだしで、」

老司書「こんな王子が次期魔王で大丈夫なのかってよく心配されてたねぇ」

勇者「そう、なんですか……ありがとうございます」

勇者「あ、そうだ。エリヤって人間の女の人を知りませんか?」

老司書「エリヤ……? わたしゃここに長いこと勤めてるが、聞いたことないねえ」

老司書「人間なんて、嬢ちゃんが来るまで一度も見たことなかったしねえ」

勇者「そうですか……」

――魔王の書斎

老賢者「……ふむ」

魔王「一刻も早く彼女の封印を解かなければ、彼女は死んでしまいます」

魔王「大賢者の力を以ってしても、解くことはできないのでしょうか」

老賢者「知恵の一族の封印術と光の力」

老賢者「その二つが重なっては、」

老賢者「魔族にも人間にも術式の全てを解読することは不可能じゃろう」

魔王「……」

魔王「曾爺様……私は父上と同じ道を歩んでしまいそうです」

老賢者「お前は相手の痛みを感じられる優しい心を持っておる」

老賢者「慈しみを持てば同じ結果にはならぬじゃろう」

老賢者「未来を信じるのじゃ」

――城門

老賢者「テレポーションは老体に堪えるからのう」

老賢者「ゆっくり馬車で帰ることにするよ」

魔王「ありがとうございました」

老賢者「私も、久々に可愛い曾孫の顔を見れて嬉しかった」

勇者「…………」

エミルは城の窓から外の様子を窺っている。

魔王(また視線が)

勇者(やっば見てるのバレた)

魔王「……」

老賢者(その悲しみに満ちた瞳が喜びに満たされる日が来るのを祈っておるよ)

老賢者(オリーヴィアもそう望んでおるじゃろう)

勇者「さっきのお爺さん、すごく優しそう……」

勇者(狂暴な魔族もいるけど、みんながみんなじゃない)

勇者(それなのに憎しみあってるなんて、悲しい)

勇者(何でわざわざ殺し合わなくちゃいけないんだろう)

勇者(……ぼくがこんなことを考えたところで、何になるんだろう)

勇者(何の力も持っちゃいないのに)

娘父『真の勇者でもないのに、そんな簡単に人を動かせると思うな』

勇者「…………」

勇者(真の勇者であるお兄ちゃんは、魔属を殺して当然だと思ってる)

勇者(あの日だって、ぼくの目の前で魔物を殺した)

勇者(……あれ? でもその時ぼくは魔物の血を見ていない)

勇者(…………そうだ。あの後、誰かが止めに入って未遂に終わったんだ)

勇者(誰だったかな)

勇者(思い……出せない……)

魔貴族1「メル=ルナリア、そやつは魔王陛下が飼っておられるという噂の人間か」

メイド長「ええ、そうでございます」

魔貴族1「随分人間に優しい魔王だとは思っておったが、」

魔貴族1「まさかこんな趣味までお持ちとは」

勇者「…………」

魔貴族1「……! こやつ、小さいが光の力を持っておるぞ!!」

勇者「あ……」

魔貴族2「何!?」

魔貴族1「ヴェルディウスは何という化け物を飼っているのだ!」

魔貴族2「事故で死んだことにして殺してしまおう!!」

魔貴族1「やれ!」

魔兵士1・2・3「「「はっ!」」」

メイド長「なりません!」

メイド長「このわたくしがいることをお忘れですか!?」

魔貴族1「ゴールドドラゴンの血を引くとはいえ、所詮半端物の雑用係」

魔貴族2「我等貴族に牙を剥くというのか! そこを退け!」

メイド長「わたくしは魔王陛下直属の部下です。陛下以外の命令は聞きませんわ」

メイド長は魔兵士達を軽やかに薙ぎ倒した。

勇者(つ、つよい)

魔貴族1「覚悟するがよい!!」

魔貴族2「葬ってくれる!」

勇者(! 柱の影にもう一人いる!!)

魔貴族3「焼け朽ちろ! シェイディブレイズ!!」

メイド長「!?」

メイド長「く…………」

勇者「メルナリアさん!」

魔貴族3「水属性のドラゴンに炎は痛かろう」

魔貴族1「ふん。人型の状態で何ができる」

魔貴族2「ドラゴンの姿に戻ってから出直すのだな、田舎者めが」

魔貴族3「さて……」

勇者(自分の身くらい自分で守ってみせる)

魔貴族1「一撃であの世に送ってくれるわ!!」

勇者「っ!」

勇者(……あれ?)

勇者(魔術が……発動しない!?)

体内の魔力に流れを作ろうとすると、体中に痛みが走った。

勇者「あ…………」

メイド長「エミル……様……!」

魔王「何をしている」

魔貴族1「!?」

魔貴族2「魔王陛下!?」

魔王「妙な魔力を感じて来てみれば……」

周囲の空気は凍るように張り詰めた。

魔貴族3「こ、これは」

魔王「………………」

魔王「……貴様等は全員大陸外へ追放する」

魔王「もう二度とこの大陸の土を踏めると思うな」

勇者(腰が抜けて動けない……)

魔王「エミル! 怪我はないか!?」

勇者「ぼくは無傷です……。でも、メルナリアさんが……」

執事「ちょっと陛下ー! 仕事中に突然走り去るなんて一体何事ですか!」

メイド長「陛下……私がついていながら……申し訳ございません」

執事「! ……これは酷い。すぐに治療します」

魔王「……メルナリアを頼む」

魔王はエミルを抱きかかえてその場を去った。

魔王「エミル……間に合って良かった……」

勇者(このぎゅっとされてる感じ……あの時とおんなじだ)

勇者(雪の魔族に殺されそうになった時と、おんなじ)

魔王「エミル……エミル……」

魔王はエミルを横抱きのまま強く抱きしめた。

勇者(何で……何で、こんなにぼくのこと大事そうにしてるんだろう)

勇者(ぼくにあんなことしたくせに)

魔王「私が普段から貴族共の忠誠心を得られていないせいだ」

魔王「すまなかった」

勇者「…………」

魔王「……魔術を発動できなかったのだな」

勇者「……はい」

――魔王城・テラス

日は沈みかけている。

魔王「……前の戦いで、お前は魔術を使いすぎた」

魔王「魔族の血が封印された今の体は、強大な魔力を扱えるほど丈夫ではない」

勇者「…………」

魔王「負担をかけすぎたのだ。数ヶ月は小さな魔法も発動してはならない」

勇者「…………」

魔王「当分私の傍を離れるな」

勇者「………………」

魔王「嫌、かも、しれないが…………」

勇者「………………」

魔王「……………………」

魔王「……私が聞くべきことではないかもしれないが」

魔王「お前は、人間が憎くはないのか」

魔王「人間の社会はお前を拒絶したのだぞ」

勇者「……何の負の感情も持っていないと言えば、嘘になります」

勇者「でも、ぼくのこと、認めてくれた人もいっぱいいました」

勇者「仲良くしてくれた人も、いっぱいいました」

勇者「だから、憎んだりする暇があるなら、もっと、他にできること、あるはずなんです」

魔王「…………そうか」

勇者「……ぼくのこと、化け物呼ばわりする人は、魔族にだっています」

勇者「人間からも、魔族からも拒絶されるのなら、ぼくは一体何処に行けばいいの……?」

勇者「ぼく……生きてちゃいけないの?」

魔王「…………!」

勇者「死にたくなんて、ないのに」

勇者「死にたいって、この頃ふとした瞬間に思ってしまうんです」

勇者「せっかくお母さんが育ててくれた命なのに……」

勇者「お母さんがくれた命、いろんな生き物から命をもらって生きてきた命なのに、」

勇者「やだ……ぼく……生きていたいのに…………」

エミルの涙に夕陽が反射した。

魔王「……私がお前の居場所を作ってやる!」

魔王「私が一生お前を守って……」

魔王「…………私にこのようなことを言う資格はないな」

魔王「お前を守りたいのに……傷付けることしかできていない」

魔王(あの夜は一度挿れるだけで精一杯だった)

魔王(最後まで終えることができたなら、あるいは……)

勇者「っ……!」

勇者「待って!」

魔王「……」

勇者「お願い……キスだけは、許して……」

勇者「キス……だけは……好きな人と、したいんです……」

魔王「想い人がいるのか……?」

エミルは頷いた。

勇者「顔も、名前も……何も、思い出せないけど……」

勇者「初恋の男の子……いたはず、なんです…………」

勇者「思い出したくて思い出したくて仕方がなくて、とっても会いたいのに……」

魔王「っ……!」

魔王「…………そうか」


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kokomade

勇者『お母さん』

勇者母『どうしたの、エミル』

勇者母『また眠れないの?』

勇者『一人じゃさみしくてねれないの』

勇者母『もう、仕方のない子ね。もう七歳でしょ?』

勇者『むぅ』

勇者母『おいで。一緒に寝てあげるわ』

勇者『わあい!』

勇者母『エミルは本当に甘えん坊ね』

勇者(お母さんにあたまなでなでしてもらうと、とってもあんしんできるの)

勇者『お母さん、あったかあい』


Section 8 温もり

翌朝

勇者(……あったかい)

魔王はエミルの頭を愛おしそうに撫でている。

勇者(お母さんに撫でてもらってるみたい)

――――――
――

魔王『痛いか? ……苦しいか?』

魔王『……すまない。ごめんな、ごめんな』

――――――

勇者(魔王は何回も謝ってた)

勇者(謝ったところで、ぼくの体が元通りになるわけでもないのに)

勇者(……途中で、胸の奥の方がとても熱くなった)

勇者(魂が弾け飛んじゃうのかなってくらい)

勇者(ぼくの魂に何かが封印されていることは確かみたいだった)

勇者(でも…………)

魔王「…………」

魔王はまたしても頭を抱えている。

執事「……どうだったんですか」

魔王「……ぁ……った…………」

執事「聞こえませんよ」

魔王「駄目、だっ……た…………」

魔王「前の時……よりは……封印が解けかける兆候が……強く見られたが…………」

執事「終われば元通りと」

魔王「結局……エミルを……更に深く傷付けた……だけ……だった…………」

魔王「わた、しは…………彼女を…………傷付けることしかできない…………」

執事「やはり何か他に条件があるのでしょう」

魔王「一体……何が足りないというのだ……」

執事「とりあえず紅茶でも飲んで落ち着いてください」

魔王「死にたいと、この頃ふとした瞬間に思ってしまうんだ……」

執事「何言ってるんですか。しっかりしてください」

――浴場

勇者(やっぱりぼく本当に魔族なのかなあ)

メイド長「背中をお流しいたしますわ」

勇者「メルナリアさん……」

勇者「あんなに酷い火傷をしてたのに……もう、大丈夫なんですか?」

メイド長「ええ! 優秀な治療師のおかげで傷痕一つ残っておりませんわ!」

勇者「……ごめんなさい。ぼくのせいで、痛い思いをさせてしまって」

メイド長「私の力不足が招いた事態です。決してエミル様のせいではございませんわ!」

メイド長(少しずつ光を取り戻していらっしゃったというのに、)

メイド長(また……エミル様の緑色の瞳は曇ってしまわれた)

勇者(……本当に魔族になったところで、ぼくはどんな人生を歩めばいいんだろう)

勇者(素敵な恋愛をして、幸せな結婚をして、可愛い孫の顔をお母さんに見せる)

勇者(そんな将来の夢だって、もう叶えられないのに)

――魔王の書斎

勇者(本当に一日中一緒にいるつもりなのかな……)

執事「あとこの書類五百枚にサインをお願いします」

魔王「……そんなにあるのか」

執事「昨日サボった分も含まれていますから」

魔王「…………」

勇者(一人になりたい)

勇者(幸いこの部屋にも本がたくさんあるし読書に集中しよう)

魔王「……肩を揉んでくれ」

執事「はい」

勇者(魔気を抑えてたら肩がこるんだっけ)

勇者(……メルナリアさんやコバルトさんもずっと抑えてるし、大変だろうな)

メイド長「紅茶と焼き菓子をお持ちいたしました」

メイド長「少し休憩を取られてはいかがですか」

魔王「……ああ」

勇者「このお菓子……人間のとよく似た味付けで食べやすい……」

勇者「このお城で作ってるんですか?」

メイド長「ええ」

勇者「今度作りたいな……」

魔王「……母上がこの焼き菓子を好んでいた」

勇者「そう、なんですか……」

勇者「…………お母さんに会いたい」

エミルの目から涙が溢れ出した。

勇者「お母さん……お母さん…………」

魔王「っ……」

魔王の手は小刻みに震えている。

執事(今日も捗らなさそうだなあ)

――大陸東側・谷を抜けた先の村

勇者兄「エミルがこの村に来なかった?」

村人「ええ」

武闘家「妙だな」

武闘家「あの谷を抜けたのならこの村に一泊するのが西に向かう者の定番だってのに」

法術師「あら、いい香りの香水を売ってるのね」

魔法使い「一ついただこうかしら」

村人「ああ、ライラックの花を原料にした香水がこの村の名産でね」

勇者兄「父さんが母さんへの土産として持ち帰ってきたことがあったな」

勇者兄「笛も名産品じゃなかったっけか?」

勇者兄「父さんが俺とエミルに一個ずつくれたんだ」

村人「ああ、そいつもライラックの木から作って売ってるんだ」

村人「あそこの谷でライラックが群生しているからね」

勇者兄「そういや生えてたな」

村人「一ヶ月くらい前までなら満開で綺麗だったよ」

村人「ライラックのおかげでマリンの町から魚を輸入できて助かってるんだ」

勇者兄「エミルがこの村で作られた笛をよく吹いていたんだ」

勇者兄「あいつが森で演奏してると次々と動物や魔物が寄ってきて、一緒に遊んでいた」

法術師「不思議な子だったわね」

勇者兄「あいつの優しさに惹かれてやってきていたんだろうな」

勇者兄「本当に楽しそうに遊んでいた……」

武闘家「同年代の子供と遊ぶより森の中で動物とかと遊ぶことの方が多かったなあいつ」

村人「勇者さん達はこれからマリンの町へ行くのかい?」

勇者兄「ああ」

村人「なら、マリンの町の診療所で働いている私の娘に手紙を届けてくれないかい?」

村人「郵便に頼むとお金がかかりすぎてね……うちは貧乏なんだ」

勇者兄「ああ、いいぜ」

村人妻「本当はあの子に帰ってきてほしいのだけどねえ……」

勇者(魔王城に連れてこられてからもう一ヶ月弱かあ)

勇者(お兄ちゃんはもう谷を抜けたかなあ)

勇者(魔王が過保護であんまり自由はないけど、)

魔王「……エミル、その……空き時間ができた」

魔王「お前は本が好きだろう。図書室に……行かないか」

勇者(不器用な優しさが見え隠れして、ぼくは彼を憎めなくなってきている)

勇者(どうしてそこまでぼくを大切にしてくれるのだろう)

勇者(……妊娠しないようにちゃんと魔法もかけてくれてるし)

勇者「うっ……」

勇者(死んじゃう前に、わかったらいいな)

――マリンの町・診療所

少女「ちゃんとした仕送りもしてやれなくてすまない、か……」

法術師「御両親が心配していたわ」

少女「そう……でも私、立派な医者になれるまでは村に帰るつもりはないわ」

少女「肌が青くなる病気にかかって、私あの村の人達に村を追い出されたの」

少女「そんなことになった原因は、村にまともなお医者さんがいなかったことよ」

少女「だから、ここで働かせてもらいながら勉強しているの」

少女「エミル君に会ったら伝えて。リラは頑張ってるって」

勇者兄「船に乗れない?」

船乗り1「ああ、この頃やけに沖の方が荒れてるんだ」

船乗り2「ドラゴン達が喧嘩しているらしい」

船乗り1「俺等とは不戦条約を結んでいるから襲ってはこないが」

船乗り1「おっかなくて仕方がない」

船乗り2「とても大陸西側まで船を渡せる状態じゃないんだ」

勇者兄「北の陸路を行くしかないのか」

勇者兄「くそっ、急ぎの旅だってのに」

――マリンの町付近の丘

青年「…………」

勇者兄「こんな所で何やってるんだ?」

青年「…………ほっといてくれ」

漁師「おーいヒルギ! また海を眺めてるのか!」

漁師「親父さんが心配してたぞー!」

青年「ここにいさせてくれ……」

法術師「この憂いに満ちた瞳……間違いないわ! 恋の病ね!!」

青年「えっ……」

青年「まあ、そう言えるかな……」

勇者兄「また始まった……おい、置いてくぞ」

法術師「先に行ってて! 後で追いかけるから!」

勇者兄「はあ……麓で待ってるから手短に終わらせろよ」

法術師「私はセレナ。あなたの恋の悩み、私に話していただけないかしら」

青年「……君も月の名前を持っているんだね。」

青年「好きな女の子がいたんだ。この丘や、周辺の砂浜でよく遊んだものだったよ」

法術師「うんうん」

青年「でも、もう会えないんだ」

青年「思い出の中でしか、俺は彼女に会うことができない」

青年「だから暇さえあればこうして海を眺めているんだよ」

法術師「あら、どうして会えないのかしら」

青年「禁断の恋だったんだ」

法術師「身分違い……とか?」

青年「そんな感じかなあ」

武闘家「おい、波が荒れてきてないか?」

青年「あれは……!」

海面から巨大な蒼いドラゴンが姿を現した。

海竜長「真の勇者…………!」

勇者兄「海竜!?」

魔法使い「なんて大きいの……!!」

青年「う、嘘だろ!?」

青年「五年前に不戦条約を結んだじゃないか!!」

海竜長「条約を結んだのはあの町だけだ」

海竜長「そこの勇者はあの町の住人ではない」

青年「でもこの辺で人間を襲っちゃあ町の連中が黙っちゃいない!」

海竜長「知ったことか! 魔王城へ辿り着く前に消し去ってくれる!!」

海竜1「族長、おやめください!」

海竜2「光の力に殺されてしまいます!」

海竜3「仮に助かったとしても、」

海竜3「魔王陛下の命令に背いたらどんな処分が下されることか……!」

海竜長「ええい邪魔するでない!」

海竜長「我は何としても真の勇者を葬らねばならぬのだ!!」

海竜4「族長を全力で止めろおおおおお!」

勇者兄「揉めてる内に逃げるぞ」

海竜長「この間の小さな勇者とは訳が違う!!」

海竜長「その勇者は容赦なく魔属を殺す真の勇者!! 黙っておれるか!!」

青年「落ち着いてくれ!! 何でわざわざ襲おうとするんだよ!!」

青年「隠れてりゃ殺されずに済むじゃないか!!」

海竜長「あの子が今魔王城にいるのだ!!」

青年「!?」

青年「悪いがここで死んでくれ!」

勇者兄「え?」


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atode saikai shimasu

勇者兄「ちょっと待ってくれ」

勇者兄「どういうことだ」

青年「俺は愛する女の子のためなら世界を敵に回す覚悟だってできているんだ!!」

法術師「まあ!」

勇者兄「関心している場合か! わけがわからんぞ!!」

青年「ぅぉぉおおおお!!」

武闘家「一般人に負けるかよ」

コハクは関節技で青年を組み伏せた。

青年「うぐっ」

セレナは二人を追い越し、リヒトの元に合流した。

海竜長「ええい邪魔だ!!」

海竜の長は竜達を薙ぎ払った。

魔法使い「来るわよ!!」


法術師「光の守護壁<シャインバリア>!」

勇者「……高位の魔族の方々って、人間嫌いが多くて、」

勇者「魔王陛下を支持している方は少ないですよね」

メイド長「ええ。好戦的な方が多くおられます」

メイド長「先代までは人間と争うのが常識でしたし」

勇者「メルナリアさんは、どうして魔王陛下に忠誠を誓っているんですか?」

メイド長「私も……志が同じなんです」

メイド長「私の恋の相手は、人間の男の子でした」

勇者「!」

メイド長「人間と魔族が仲良くしている世の中だったら、」

メイド長「私達が引き裂かれることはなかったでしょう」

――五年前・海底洞窟

少女『お母さま~見て見て! 人間みたいな姿になれたの!』

海竜長『! お父さまの能力が遺伝したのね』

海竜長『お父さまはゴールドドラゴンだから、人型魔族の遺伝子も持っていたのよ』

弟1『お姉ちゃんいいなあ』

弟2『ぼくもー! ぼくもー!』

海竜長『あなたたちは純粋なマリンドラゴンだから無理よ』

海竜長『たくさんお勉強して、人身変化の術を覚えない限りこのような姿にはなれないわ』

少女『お母さま! ちょっとお散歩してくるね!』

海竜長『あんまり遠くへ行ってはだめよ』

少年『だ、だれかったすけっ』

少女(人間が溺れてるわ!)

少女『つかまって!』


少年『あ、ありがとう……』

少年『俺はヒルギ。君は?』

少女『私は……ルナリア』

――――

メイド長「私と彼は不思議と惹かれあい、すぐに仲良くなりました」

メイド長「でも……」

大人1『ヒルギ! わかっているのか!? その子は魔族なんだぞ!』

大人2『離れなさい!!』

少年『いやだ!!!!』

少女『あ……ぁ……』

大人3『これ以上一緒にいると魔の気を受けて死んでしまう!!』

少女『抑えてるもん! 魔気出さないようにしてるもん!』

大人4『どけ!! 魔族は殺さなければ!!』

少年『ルナに手を出すな!!』

その時、海から竜の群れが現れた。

海竜長『人間共……!!』

大人1『ま、マリンドラゴン……!?』

海竜長『ルナリア、この頃妙に出かけることが増えたと思ったら』

海竜長『人間の小僧に現を抜かしておったのか』

少女『お母さま……』

海竜長『お仕置きは後だ。お前から魔族の誇りを奪ったその小僧と』

海竜長『お前に武器を向けた人間共を葬ってやる』

少女『やめてお母さま! お母さまだって種族違いの恋をしたじゃない!』

少女『私と彼の仲を否定するのなら、』

少女『それは私が生まれてきたこと否定するのと同じだわ!』

海竜長『な、何を言うのだルナリア……』

大人2(なんてでかい竜だ! もうおしまいだ)

大人2(だがただで死んでたまるか! この隙に)

大人2『うおおおおお!!』

少女『っ!!』

少年『ルナリアー!』

――――――
――

メイド長「彼は私を庇って大怪我を負いました」

メイド長「私の母は彼に敬意を払い、マリンの町の住人とは互いに接触を避け、」

メイド長「争いをしないという協約を結んだのです」

メイド長「以後、私も彼と会うことはできなくなりました」

勇者「そんなことが…………」

メイド長「そのしばらく後、争いを好まないヴェルディウス陛下の噂を聞き、」

メイド長「お仕えすることとなった――というわけですわ」

勇者兄「魔術で反撃だ!」

魔法使い「ええ!」

青年「お義母さんに手を出すなあああああ!!」

武闘家「動くんじゃねえ!」

勇者兄「そう言われてもな……何だよお義母さんって」

勇者兄(エミルならこんな時どうすんだろうなあ)

勇者兄(意地でも攻撃せず和解を目指すんだろうが)

勇者兄(一体どうやって争いを鎮めていたんだろうか)

勇者兄「…………」

リヒトはヒルギの元へ駆け寄った。

勇者兄「そのまま攻撃を続けてみろ! この男にも当たっちまうぞ!」

勇者兄「それでもいいのか!?」

海竜長「くっ……」

勇者兄「魔王城に着いてもお前の言う『あの子』にだけは手を出さない!」

勇者兄「それでいいだろ!?」

海竜長「信じられるか!!!!」

勇者兄「くっ……やはり倒すしかないか」

勇者兄(俺にエミルの真似はできそうにない)

執事「やれやれ、マリンドラゴンに落ち着きが見られないと聞いて様子を見にきたら」

執事「案の定戦闘ですか」

法術師「人間の男の子……? いえ、魔族ね」

海竜長「ゴールドドラゴン……」

海竜長(似ている……彼と……)

執事「お初にお目にかかります、伯母上様。そして真の勇者御一行様」

執事「魔王ヴェルディウス陛下の側近を務めさせていただいております、」

執事「ゴールドドラゴンのコバルトと申します。以後、お見知りおきを」

勇者兄「魔王の……側近だと!?」

魔法使い「ゴールドドラゴンですって!?」

法術師「全ての竜の頂点に立つ、伝説レベルのドラゴンじゃないの」

武闘家「その神々しさから、」

武闘家「魔族でありながら人間から崇拝の対象とされることさえあるとかいう」

勇者兄「人間の姿に化けてるのか」

執事「真の勇者を葬りに行こうとしていた族長メル=スクテラリアを、」

執事「海竜達が必死に止めようとしていたため海が荒れていた……」

執事「といったところでしょうか」

海竜長「ぐぬ……」

執事「御安心ください」

執事「魔王陛下は真の勇者が訪れる際、全ての魔属を避難させるご予定です」

執事「メル=ルナリアを決して真の勇者には殺させません」

海竜長「……本当だな」

執事「ええ」

執事(この間大火傷を負ったなんて言ったら怒るだろうなあ)

執事「このまま引き下がれば不問としましょう」

海竜達((((良かった……))))

執事「そして、真の勇者様」

勇者兄「!」

執事「おっと、構えないでください。僕は戦いに来たわけではないのです」

勇者兄「……」

執事「魔王陛下から伝言を預かっております」

執事「『エミルを守ることができなかった者に兄を名乗る資格はない』と」

勇者兄「!?!?!?」

執事「では」

コバルトは黄金に輝く竜の姿に変化し、瞬く間に飛び去っていった。

――――――
――

武闘家「なんやかんやで船に乗れてよかったな」

法術師「人間と魔族の禁断の恋……ああ、素晴らしいわ!」

法術師「愛は種族をも超越するのね!」

勇者兄「あほか」

勇者兄「子供でも生まれてみろ、人間からも魔族からも迫害されて不憫だろ」

法術師「それはそうだけど……」

勇者兄「種族違いの恋は前例がないわけでもないが」

勇者兄「女性が人間だった場合なんて悲惨だったらしいぞ」

勇者兄「妊娠したものの、腹の中の子の魔気にやられて出産前に母子共々死んじまったり」

法術師「いやあああ!!」

魔法使い「そんなエグい話女の子の前でしないでよ!! 最っ低!!」

勇者兄「わ、悪かったって」

勇者兄「『エミルを守ることができなかった者に兄を名乗る資格はない』か……」

勇者兄「魔王……ヴェルディウス……」


  『エミルの気持ちをわかってやれない奴がこの子の兄だなんてぼくは認めない!!』

勇者『 『   』!! 』


勇者兄(まさか……なあ)


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kokomade

勇者『きみ、だあれ?』

  『えっと……』

勇者『えみるはねえ、エミル・スターマイカ!』

勇者『エミルは、お母さんがつけてくれた名前なんだって!』

  『ぼくは……』

  『ぼくの名前は――――』


Section 9 名前

魔王「『魔導工学の実践と応用』か……随分難しい本を読むのだな」

勇者「……はい。ちょっと、難しすぎます、けど……」

魔王「先にこの本を読んでおくといい」

魔王「魔族の癖の強い書体だから読みづらいかもしれないが、お前なら問題ないだろう」

勇者「ありがとう、ございます……」

魔王「…………」

勇者「…………」

魔王「……用語集も携えておくといい」

勇者「は、はい」

魔王「…………」

勇者「…………」

勇者(魔王とぼくは似ている)

勇者(違う形で出会っていたら、きっと仲良くなれたんだと思う)

魔王「……エミル、その」

勇者「っ!」

魔王「わ、悪い……近付き過ぎたな」

魔王(エミルは私個人を恨んではいないようだ)

魔王(しかし、当然ながら私が斬り付けた心の傷が癒えたわけではない)

魔王(一生、私には心を閉ざしたままとなるだろう)

魔王(……体はこれほど近くにあるというのに、心は……)

勇者「あっ……ちょうちょ……」

魔王「……オオグロバタフライだな」

勇者「キラキラしてて綺麗……」

魔王「その美しい姿から、観賞用に飼う魔族も少なくない」

魔王「お前が望むのなら捕まえるが」

勇者「そんなの、可哀想です」

勇者「必死に生きているのに、カゴに入れるなんて、可哀想」

魔王「……お前なら、そう答えると思っていた」

  『あの蝶、捕まえる?』

勇者『かわいそうだから、だめ』

  『……君は優しい子だね。そう言うと思ったよ』


勇者(あれ? 前にもこんなこと……)

勇者(このごろ既視感が激しいなあ)

勇者(既視感を覚える時は、決まって胸が熱くなる)

勇者(体を重ねていた時みたいな、まるで、魂を抉じ開けられるかのような痛み)

法術師「ねえねえ、コハク君」

武闘家「ん?」

法術師「コハク君とエミルちゃんってよく一緒にいたよね」

武闘家「おう、ちょくちょくつるんでたな」

法術師「……なんにもなかったの?」

武闘家「ん?」

法術師「エミルちゃんは一応女の子でしょ?」

法術師「ほら、ドキッとした瞬間とか、いい雰囲気になったりとか……」

武闘家「ま っ た く な か っ た」

勇者兄「そんな仲になりそうだったら俺が友達付き合いするのを許してないしな」

武闘家「俺あいつのこと男だと思ってるし」

法術師「えーほんとにぃ?」

武闘家「女として見る方が難しい。遠縁とはいえ血も繋がってるから余計にな」

法術師「そっかぁ」

武闘家「はやくあいつを連れ帰ってナンパしてえなあ」

魔法使い「あんたね……」

勇者兄「親父と同じ遺伝子を感じる」

武闘家「俺ってイケメンには違いないが、目が垂れててちょっと崩れてるだろ?」

魔法使い「それが何よ」

武闘家「綺麗すぎるよりもちょっと崩れてるくらいの方が親しみやすいんだよ」

武闘家「ほどよいイケメンでコミュ力も優れたこの俺と」

武闘家「綺麗な顔付きだが不器用なあいつ」

武闘家「二人が一緒にいれば女の子が寄ってくるのなんの」

魔法使い「子供の台詞とは思えないわね……」

法術師「チャラすぎるわ……不純よ! 不純!」

武闘家「まああいつはナンパしてるつもりはなかったみたいだがな」

勇者兄「そりゃそうだ」

武闘家「動物や魔物とばかり遊んでいたり、勇者としての訓練で忙しかったり」

武闘家「図書館に籠ってばっかだったりで、人間の友達が少なかったからな」

武闘家「女と仲良くなりたい俺と、純粋に友達が欲しかったあいつ」

武闘家「利害が一致していたわけだ」

武闘家(もっとも、あいつが元の姿で帰ってこられる可能性は低い気もするんだがな)

執事「はあ、テレポーションの適正があったらなあ」

執事「ま、いいか。たまには翼を広げたいし。……ちょっと飛距離が長すぎたけど」

メイド長「お疲れさま、コバルト」

執事「信頼のおける数少ない仲間は異常気象のおかげで散らばっているし」

執事「同僚が増えてくれたらいいんだけどね」

メイド長「そうねえ……どうしても高位の魔族は人間嫌いが多いものね」

メイド長「お母さま達の様子はどうだったかしら」

執事「すぐに落ち着いたよ。君の身を案じていた」

執事「ついでにマリンの町で買い物もしてきたんだ」

メイド長「あら、懐かしい海藻類や魚介類がいっぱい……」

メイド長「故郷にいた頃はよく食べていたわ」

執事「喜んでもらえたようでよかった」

執事「陛下達はどうだい」

メイド長「相変わらずよ。でも、エミル様が……」

勇者「ぅ……けほっ……」

魔王「エミル!」

勇者「……平気です」

魔王「顔色が悪い。すぐに休まなければ」

魔王(確実に……エミルは弱ってきている)

勇者(グラグラする……体が上手く動かない)

勇者(どこか懐かしい温もり。この人にお姫様抱っこされるのは、これで何回目かな)

勇者(……綺麗な横顔。氷の裂け目のような色の瞳。寂しそうにひそめた眉)

勇者(…………魂が、割れそう)


勇者『――っていうんだ!』

勇者『綺麗な名前だね!』

勇者『えっとね、たしか、西の地方の古い言葉で、』

勇者『『緑』って意味だって本に書いてあったよ!』

勇者『えみるの目の色とおんなじだねえ』

  『…………』

勇者『『   』の目も、アイスグリーンだね!』

勇者『いっしょにあそぼうよ!』

  『え……あ……』

勇者(そうだ、あの人の目は、いつも悲しそうで)

勇者(遊びに誘っても、戸惑ったような顔をしていた)

メイド長「酷い熱だわ!」

メイド長「氷水を用意いたします」

魔王「……頼む」

執事「魔気の影響で免疫力が下がっているのでしょう」

執事「思っていたより早く限界が近付いています」

魔王「…………」

執事「極力平和な人間の土地にエミル様をお送りしましょう」

魔王「だが……」

執事「ここで死なせてしまうよりは時間を稼げます」

魔王「そうするしか……ないのか……」

魔王(エミルは光の力を持っている限り、平和協会の監視網から逃れられない)

魔王(一体……どうすれば……)

魔王(どうすればエミルを救うことができるというんだ……)

勇者『『   』は、自分のこと『ぼく』って言ってるんだね』

勇者『じゃあ、えみるもこれから『ぼく』って言うー!』

  『…………』

勇者『そろそろ自分の名前で自分を呼ぶのそつぎょうしなきゃ』

勇者(あんまり喋るのが得意じゃないみたいで、ぼくばっかり喋ってた)



勇者『いっしょにおかし食べよ? お母さんが焼いてくれたんだあ』

  『…………』

  『君は、お母さんのこと、好き?』

勇者『うん! ぼくのお母さんはねえ、とっても美人でねえ、』

勇者『やさしくって、料理が上手で、いっつもなでなでしてくれるんだよ』

  『……そっか』

勇者(そう答えたら、あの人は更に悲しそうな顔をした)

勇者(どうしてあんなに残念そうだったんだろう)

  『その』

  『君の、お母さんは……』

勇者兄『おいお前!』

勇者『あ、お兄ちゃん!』

  『お兄さん……?』

勇者兄『見ない顔だな。どこの子だ?』

  『…………』

勇者兄『俺の妹に変なことしたら許さないんだからな!』

勇者『お兄ちゃん、失礼でしょ! それに、そういうの『かほご』って言うんだよ!』

  『………………』

勇者(お兄ちゃんと、あの人は、とても仲が悪かった)

勇者『おそくなってごめんね! 剣のおけいこが長引いちゃったの』

勇者『あんまり剣をふるの好きじゃないんだけど、ゆうしゃのぎむだから仕方ないんだあ』

  『……ぼくも、剣は持ちたくない』

  『勉強をしている時の方が、よっぽど楽しい』

勇者『ぼくもだよ! おんなじだねえ!』

勇者『おべんきょうが好きな子なんてあんまりいないから、うれしいな』

勇者『こんどいっしょにとしょかん行こうよ!』

  『……その、あんまり、人が多い所は……人込み、苦手、だし』

勇者『じゃあ明日面白そうな本もってくるね!』

  『……うん。……ありがとう』

勇者(ぼく達はよく似ていた)

勇者(……ぼくの家の近くの森や広場で、よく一緒に遊んだな)

勇者『みんな、魔属は殺せって言う』

勇者『なんでかな? 人間や動物に対しては、『命は平等』って言ってるのにさあ』

  『………………』

勇者『人間と魔族が仲良くできたらいいのに』

勇者『そしたらみんな幸せでしょ?』

勇者『……ってぼくが言っても、だれもわかってくれないの』

  『ぼくも、そう思うよ』

  『魔族と人間の仲が良かったなら、きっと、今頃……』

  『父上と母上の仲も、良かっただろうから…………』

勇者(彼の両親は、仲が悪いようだった)

勇者(だから、それが元で、いつも悲しそうな顔をしていたんだと思う)

魔王「エミル……」

魔王「シュトラールの行方は」

執事「いまだ、不明です」

魔王「奴に解術条件を吐かせることも叶わなかったか」

魔王「……夜が明けたらエミルを西南の森の村へ送り届ける」

勇者「……はあ、……う…………」

メイド長「エミル様……」

魔王「……これでは彼奴と同じではないか!」

魔王「私も……エミルを守ることができなかった」

執事「まだ終わったわけではありません」

執事「調査を続けましょう。解術する手段が見つかるかもしれません」

魔王「……特定の解除方法が指定されている以上、他の手段で強制解術するのは危険だ」

魔王「対象の命が失われる可能性もある」

執事「…………」

執事「シュトラールはテレポーションにより各地を飛び回ってはいるようですが、」

執事「目撃情報がないわけではありません」

執事「いずれ捕まえることも」

魔王「それまでにエミルが生きていればいいのだがな」

魔王「……今のエミルは一切魔法の類を発動することができない」

魔王「己の身を守る手段がないんだ」

魔王「いつどのような手段で殺されてしまうか……」

魔王「私は……また失うのか……」

魔王「愛する者を……不幸の深潭から救えぬまま…………」

執事「……ああもう!!!!」

執事「ヴェルディウス!! 君は本当に昔から変わらないね!!!?」

魔王「!?」

メイド長「ちょっとコバルト」

執事「負の感情にばかり囚われて!! 眉間にしわを寄せっぱなしで後ろ向きで!!!!」

執事「口下手だし自信は持っていないし感情表現は下手だし酷く不器用だ!!!!」

執事「子供の頃から何も変わっちゃいない!!」

執事「君は今でも肉親の愛情に餓えた子供のままじゃないか!!!!」

魔王「こ、コバルト」

執事「僕は友人としてそんな君が心配で心配で仕方がないんだよ!!!!」

魔王「…………」

執事「……はあ」

執事「失礼いたしました。とんだご無礼を働いたことを深くお詫び申し上げます」

魔王「いや……いつも苦労をかけてすまない」

魔王「今日はもう休め」

執事「……僕は、陛下の忠実なるしもべとして、そして一人の友人として」

執事「陛下の幸福を願っております」

魔王「メルナリア、お前もだ」

メイド長「し、しかし陛下」

魔王「……エミルと二人にしてほしいんだ」

勇者『『   』は、将来の夢なあに?』

  『将来の、夢……?』

  『……わからない。ぼくは、一体どうしたいんだろう……』

勇者『ぼくはねぇ、お嫁さん!』

勇者『大好きな人と結婚して、元気な赤ちゃんを産んで、お母さんに見せてあげるんだあ』

  『……………………』

  『……好きな人、いるの?』

勇者『あ……えっとね、えっとね』

勇者『ぼくの、好きな人はね…………』

  『…………』

幼いエミルは隣に座っている少年の手に自分の手を重ねた。

勇者(そうだ、ぼく、あの子のことが好きだった)

勇者「う……」

魔王「…………エミル」

ヴェルディウスは病床に伏しているエミルの手を握っている。


勇者『え?』

  『…………』

勇者『もう会えないの?』

  『……うん』

勇者『……何で? 遠くに行っちゃうの?』

  『……うん。母上が、心配してるから』

勇者『やだ……やだよ…………』

  『………………』


勇者「…………やだ……」

魔王(熱は多少落ち着いたが……まだうなされている)

魔王(悪い夢でも見ているのか)

勇者『……いつか、また会いに来てくれるよね?』

  『…………ごめん。だめなんだ』

  『もう二度と、会っちゃだめなんだ』

  『君がこの町で幸せになるためには、ぼくはもうここに来ちゃいけない』

勇者『ど……して…………』

  『……君が幸せになれるように』

  『君が寂しい思いをしないように、魔法をかける』

  『ぼくのことは、忘れて生きていくんだ』

勇者『やだ……やめて…………』

勇者「やめて……」

  『目を閉じて』


勇者「…………たくない」

勇者「わす……れ……たくないよ…………」

勇者「やめて……ヴェル!」

魔王「……!?」

――――――

  『ぼくは……』

  『ぼくの名前は……ヴェル』

――――――

勇者「ヴェル……そこにいるの?」

魔王「馬鹿な……!」

魔王「あの記憶を思い出したというのか!?」

魔王「あの記憶は……私が、エミルの脳から消去したはずだ」

魔王「思い出せるはずがない……!」

勇者「……魂からは、記憶、消せないもの」

勇者「会いたかったよ……ヴェル……」

魔王「エミル……エミル…………!」

勇者「抱いて……胸が痛いの」

勇者「あなたに抱いてもらえたら、きっと、この痛みが治まる……そんな気がするから」


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kokomade

gensaku ha boukenn youso kaimu no maou ga yuusya wo okashiteita dakeno ero syousetsu dattanoni
nanikore nagai

※しばらく後のことになりますが早めに注意書きしておきます
数話後の過去編で同性愛描写有(片方は男の娘ショタ、18歳未満お断りになってしまうシーンは描写しません)
見たくない人はその時何レスほど飛ばすべきかあらかじめ予告する予定です

話面白いと言っていただけてありがたいです

原作はリアル16歳の頃に書いていた上に、
自分は当時も今もロリコン大好き(ただし二次元のイケメンに限る、三次は論外)なロリコンコンなので色々と察していただきたい
ロリエロに限らず歪んだ性愛描写はこれから増えていくのでご注意。最初の方に書いておくべきでした。申し訳ない
マニアックめな性的嗜好に耐性のない方は閉じた方が安全です

Section 10 お母さん


勇者「ん……」

勇者(朝だ。……気持ち良く起きれたのは久しぶり)

魔王「……エミル、目が覚めたか」

魔王「…………鏡を見てみろ」

勇者「……」

勇者「…………!」

勇者「これ……ぼく……?」

魔王「それがお前の本当の姿だ」

面影は残っているものの、
少年のようだったエミルの面貌は、少女らしい顔付きに変貌していた。
髪色も漆黒から茶褐色となっており、光の当たり具合により豊かな色彩変化を見せている。
また、元が直毛気味だったのに対し、柔らかな髪質に変化していた。

勇者(魔王とおんなじ、遊色の髪。オリーブ色になったり、オレンジ色になったりしてる)

瞳の色だけは変わらず鮮やかな緑であった。

勇者(……そっか。魔王はヴェルだったんだ)

勇者(ヴェル……ヴェルディウス)

勇者(昔会っていた頃は、ツノを消して、髪を単色の灰色にして、)

勇者(人間の姿を装っていたのかな)

勇者(でも、悲しそうな表情、白緑色の目は、そのまま)

魔王「エミル……愛している」

ヴェルディウスは後ろからエミルを抱きしめた。

勇者「ヴェル…………」

勇者(もう、触れられても怖くない)

勇者「ずっと、ずっと会いたかった」

魔王「…………」

勇者「……ぼくの本当のお母さんのこと、教えて」

勇者「そして、幼い頃、あなたがぼくのところに現れた理由も」

魔王「……ああ」

――回廊

歴代の魔王やその后の肖像画が並んでいる。

勇者(一番端っこの魔王の肖像画……先代さんかな。ヴェルとちょっと似てる)

勇者(その隣……とても綺麗な、線の細い人。)

勇者(ヴェルと……今のぼくに、よく似てる)

勇者(! 今のぼくと、ヴェルの魔力……波動が似てる……)

勇者「ねえ、ヴェル…………」

魔王「……先代魔王ネグルオニクス。私の父親だ」

魔王「先代魔王妃オリーヴィア。私の母親であり、そして」

勇者「…………」

魔王「……お前の、母親だ」

勇者「…………!」


ぼく達は、昔からよく似ていた。

勇者「ぼく達……兄妹……なの…………?」

魔王「……ああ」

魔王「母上は知恵の一族出身の魔族だった」

魔王「……幼い頃から剣よりも勉学を好むというのは、」

魔王「知恵の一族の子供によく見られる特徴だ」

勇者「…………」

魔王「……もっと早く伝えるつもりだったのだが、」

魔王「お前が育ての母親を強く慕っていたため、言い出せなかった」

勇者「っ……ぁ……」

魔王(……相当ショックを受けているようだ)

魔王「残りはおいおい話そう。ゆっくり受け止めればいい」

執事「あれ、陛下……朝早くからこんなところに」

執事「もうそろそろ夜明けですが……って」

執事「……え?」

勇者「コバルトさん……」

執事「! ……おめでとうございます」

魔王「エミルは我が眷属として目覚めた。もう心配はない」

魔王「紅茶を淹れてくれ」

魔王「不完全ではあったが、条件に基づき魂にかけられた封印を解こうとした影響と」

魔王「病により意識レベルが低下したこと、そして」

魔王「お前が私に関する記憶を思い出したいという強い願いにより、」

魔王「魂に眠っていた記憶と接触することができたのだろう」

勇者「…………」

魔王「結局正しい解術条件は不明のままだが……封印が解けてよかった」

勇者「…………」

勇者「…………きょう、だい……」

魔王「………………」

――中継地点の島

勇者兄「エミル……」

勇者兄「魔王は、一体何のためにエミルを攫ったんだろうな」

法術師「普通に考えたら、エミルちゃんの魔力を利用するためかなってなるけど」

法術師「妙だったわね、あの伝言」

勇者兄「…………」

法術師「まるで、魔王がエミルちゃんを大切に思っているかのような内容だったわ」

勇者兄「やっぱ見初められたんじゃ……」

法術師「ハッ……勇者と魔王の禁断の恋…………」

勇者兄「うわあああ!! お兄ちゃん魔族の旦那さんなんて認めませんからね!!!!」

武闘家「あんな奴見初めるなんてどんな物好きだよ……」

魔法使い「案外もうお嫁さんになってたりしてね」

勇者兄「いやだああああああああああ」

魔法使い「もう!! あんたこそ一体なんなのよ!!」

魔法使い「いつもいつも妹のことばっかり!!!!」

魔法使い「世界と妹、どっちのために戦ってるのよ!?!?」

勇者兄「えっそんなこと言われてもな」

魔法使い「そんなにあの子が大事ならあんたこそあの子と結婚しなさいよ!!」

法術師「まあまあ落ち着いて」

魔法使い「妹以外の女の子に一切興味持ってない変態なんじゃないの!?!?」

勇者兄「そんなことねえよ!!!!」

武闘家「怒りのあまりわけのわからないこと口走ってるぞ」

法術師「そういえばリヒト君って好きな女の子いないの?」

勇者兄「言われてみればまともに恋したことないな……」

魔法使い「やっぱり妹にしか興味がない変態じゃない!」

勇者兄「何でそうなるんだよ!!!!」

勇者兄「……父さんが自由奔放すぎたから怖くて恋愛できねえんだよ」

勇者兄「近所の綺麗なお姉さんに憧れたくらいはあったが」

勇者兄「本来、恋愛して結婚したら、責任とかいろいろついてくるだろ?」

勇者兄「俺はその辺母さんからきっちり教育されてるから重みも理解しているつもりだし」

勇者兄「その上、勇者の子供なんて平和協会の目とかいろいろあって面倒だしさ」

勇者兄「恋愛するとしたら、俺がもうちょっと大人になってからかなって思ってるんだ」

魔法使い「そ、そう……」

魔法使い(でも、こうして女の子がすぐそばにいるんだから、)

魔法使い(ちょっとくらい意識してくれたって……)

勇者兄「……ああでも、エミルの旦那になる奴は幸せだろうな」

勇者兄「毎日旨い飯を食える」

勇者兄「この旅にエミルが同行してくれてたらなあ……」

魔法使い「私やセレナの料理に不満があるっていうの!?」

勇者兄「そうじゃねえ!! あいつの味が恋しいだけだ!!!!」

武闘家(学習しねえ……)

勇者(光の力、無くなってる。……というより、ぼくの魔気と相殺しあって、)

勇者(常に0の状態になってるみたい)

メイド長「エミル様! 良かったですわ……」

勇者「メルナリアさん……」

メイド長「ああ、なんてお綺麗になられたのでしょう!」

メイド長「元々お顔立ちは整っておられましたが、これほど女の子らしく……」

メイド長「ドレスや装飾品をたんまりご用意いたしましょう!」

メイド長「陛下、いいですよね!?」

魔王「ああ。魔貴族らしくしてやってくれ」

勇者(足腰立たなくてずっとお姫様抱っこなの恥ずかしいな)

勇者(いつも女の子をお姫様抱っこする側だったのになあ)

勇者「ねえ、ヴェル」

魔王「どうした」

勇者「……ぼくのこと、どういう意味で好きなの?」

勇者「妹として? 女の子として?」

魔王「……最初は妹として見ていた」

魔王「共に育ったわけではなくとも、出会ってすぐ血の繋がりを実感した」

魔王「だが……何度も会っている内に、異性として惹かれていくようになった」

魔王「肉親としても、恋の相手としても愛していた……はずだった」

勇者「…………?」

魔王「……しかし、お前に別れを告げた後、」

魔王「私の人格形成に大きく影響を与える出来事があってな」

魔王「今の私は……家族愛と恋慕の区別がつかないんだ」

勇者「……!?」

魔王「だがお前を愛していることに変わりはない!」

魔王「愛して……いるんだ……誰よりも…………」

勇者「ヴェル……」

魔王「母上がまだ幼かった頃、知恵の一族の本家は人間からの襲撃を受けた」

魔王「襲ってきた人間達の中には、勇者の一族の者も多く含まれていたそうだ」

勇者「…………」

魔王「その際、知恵の一族の者達は、父上の許婚である母上を守るため」

魔王「母上の記憶を封じ、人間に変化(へんげ)させた」

魔王「……母上は人間に保護され、人間として育てられたんだ」

魔王「母上を深く愛していた父上は、死に物狂いで母上を探した」

魔王「しかし……」

執事「陛下ー公務の時間ですよー」

魔王「……続きはまた今度な」

勇者(本当のお母さん、オリーヴィア……)

勇者(どんな人だったんだろう)

勇者(ヴェルがとっても優しいから、きっと、優しい人だったんだろうな……)

勇者(カトレアお母さんは、一体どんな気持ちでぼくを育てたのだろう)

勇者(血の繋がらない、このぼくを……)

勇者(会いたい。両方の、お母さんに)

臣下「四天王を設けないとは本気なのですか陛下」

臣下「少しでも真の勇者一行を疲弊させるべきでございます」

魔王「戦うのは我だけでよい」

勇者「四天王? お父さんから聞いたことあるような」

執事「魔王を守護する戦士達のことですね」

執事「知恵の一族が繁栄していた先々代の頃までは、」

執事「五大魔族から一人ずつ選んで五芒星とすることも多かったそうです」

執事「真の勇者と戦わせるかどうかはともかく、」

執事「選ぶだけ選んでおくのも楽しいかもしれませんよ」

執事(人手増やしたいし)

執事「黄金の一族代表は僕として、空の一族代表は疾風のフォーコン、」

執事「地底の一族代表は柔靭のテール=ベーリーオルクス、」

執事「そしてやはり力の一族代表は豪炎のヴォ」

魔王「っ……」

執事「あ゛っ、失礼いたしました。この話はなかったことにしましょう」

勇者(ヴォ……?)

臣下「ところで陛下、そちらのご令嬢は」

魔王「我が后となる者だ」

勇者「は、はじめまして」

勇者(兄妹なのにいいのかなあ……)

臣下「見たところ知恵の一族の血を引く者の様ですが……」

魔王「ああ。その通りだが」

臣下「陛下御自身知恵の一族の血を濃く引いておられます」

臣下「他の五大魔族の女性と子を成すべきでは……」

魔王族はあらゆる魔族のサラブレッドであり、

ここ数千年は五大魔族の血をバランスよく受け継いだ者が優秀な魔王族とされている。

魔王「我はエミル以外の女性を娶るつもりはない」

臣下「は、はあ……」

臣下(妙なところが先代によく似ておられる……)

臣下(先代も、生きているかどうかすらわからなかった許嫁一筋だった)

臣下(どんなに薦めても妾一人抱かれなかったな……)

調理師「おやまあ嬢ちゃん魔族だったのかい」

調理師「それも知恵の一族ねえ、そりゃ陛下が大事になさるわけだ」

コック「貴重な知恵の一族なら多少人間の血を引いてたって大事にされ……るでしょう」

コック「プライドの高い貴魔族さん方はちょっとうるさいかもしれませんがねえ」

調理師「あ、やっべ敬語」

勇者「今まで通りに話してほしいです」

勇者「敬語だと、その……距離感離れちゃう感じがして寂しいから」

調理師「おう、そうかい良かった良かった」

勇者(先代の魔王妃が人間と作った子供だっていうのに)

勇者(今のところ待遇は悪くない)

勇者(それだけ、知恵の一族が魔族にとって重要な血筋だってことなのかな)

――エミル達の家

勇者母「エミル……」


勇者父『頼む! 一生のお願い!! もう二度と浮気しないから!!』

勇者父『この子を……エミルを育ててくれ!!』


勇者母(あの人が突然あの子を連れてきた時は、驚いたけれど)

勇者母(母親恋しさに泣いているあの子を見たら、もう放っておけなかった)


勇者『お母さん、あったかあい』


勇者母(誰が産んだ子であれ、あの子は)

勇者母(あの子は、私の子…………!)


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kokomade

ヴェルディウスの目の色が青緑だったり白緑だったりしてますが、
これはアイスグリーンの定義が「氷山の裂け目に見える緑とも青ともいえない色」(福田邦夫、色の名前507、主婦の友社より)で、
和名が白緑色であるためです

あ、書き溜めに追いついたのでこれからはゆっくりやります

あまり深く考えずその場のノリで書き進めてるから自分自信にもわからんです(プロット立ててすらない
番外編にするか本編に組み込むか迷ってるエピソードも含めれば第一部の後半あたりかと
どんなに長引いたとしても3月中には終了します

   『ネグルのためにお菓子を焼いてきたのよ!』

   『今度お城に来る時には、もっとおいしいのを作ってくるわ!』

オリーヴィア……。

   『嫌! 来ないで!!』

   『お父さんとお母さんを返して!!』

我は最期までお前を理解することができなかった。

   『……あなたのことだけは、思い出すつもりはないわ』

   『シュトラールさん……エミル……』

オリーヴィア…………!

   『………………』

愛して……いたのに…………。


Section 11 集諦

賢者クリスタロスは、知恵の一族の末裔が魔王の婚約者となったという知らせを聞き、

魔王城に訪れていた。

老賢者「……私も死期が近付いてきたようですな」

老賢者「お久しゅうございます、ネグルオニクス様」

知恵の一族の中には、寿命が近付くと同時に霊体との会話が可能となる者がいる。

魔王父「……クリスタロス」

魔王父「…………我はあの世には行けなかった」

魔王父「オリーヴィアと再会することは叶わぬようだ」

魔王父「教えてくれ……これは……罰なのか?」

先代魔王ネグルオニクスの魂は、死してなお魔王城に留まり続けていた。

我等は許婚同士だった。

親同士が決めた婚約であったが、幼いながら互いに想い合っていた。

魔王母『ネグルのためにお菓子を焼いてきたのよ!』

魔王母『おいしい? ねえ、おいしい?』

魔王父『……ああ』

魔王母『今度お城に来る時には、もっとおいしいのを作ってくるわ!』

彼女の笑顔が何よりも好きだった。

知恵の一族らしい細い体を、優しい心を、護りたかった。

しかし、彼女が再び焼き菓子を携えてくることはなかった。

魔王父『知恵の一族が……奇襲を受けただと……?』

屋敷の焼け跡に残されていたのは、多くの人間共と、知恵の一族の亡骸だった。

彼女の両親も斬り殺されていた。

彼女の遺体は見つからなかった。

魔王父『……オリーヴィアは生きている。探せ!』

何年経っても、彼女は見つからなかった。

臣下『殿下……これだけ捜索してもオリーヴィア様の魔力は探知できませぬ』

臣下『もう諦めて、他の女性を……』

魔王父『ならぬ』

魔王父『見つかるまで探し続けるのだ!』

我は彼女が生きていると信じ、いくつもの人間の集落を焼き払い、彼女を探し続けた。

勇者父『この村には可愛い女の子がいっぱいいるんだぞ!』

勇者父『残虐な魔族の王子め、成敗してやる!!』

魔王父『なんだ貴様は』

勇者父『俺はシュトラール・スターマイカ』

勇者父『大陸中……いや、世界中の女の子は俺の嫁!』

魔王父『は?』

勇者父『この世界の女の子を守るために俺は戦う! ちなみに次期真の勇者候補だ!』

奴とは若き日から因縁があった。幾度剣を交えたであろうか。
我とは対照的に気の多い男のようであった。奴の何もかもが気に食わぬ。

――
――――――

魔王「母上はいつもお前の身を案じていた」

魔王「お前が見に纏っているその服は……母上がお前を想いながら縫ったものだ」

勇者「……!」

魔王「お前の部屋は母上が生前使っていた部屋だ」

魔王「収納庫を開けば、もっとサイズの小さいものから、」

魔王「お前が大人になっても着られるものまで数着見つけられるだろう」

勇者(いつもメルナリアさんが服を持ってきてくれてたから知らなかった……)

勇者(お母さんが縫ってくれた服……)

勇者(! シルヴァ地方の民族衣装とよく似たこの服……)

勇者(そして、お母さんは人間として育った……)

勇者「もしかして、エリヤ・ヒューレーさんって……」

魔王「その名を知っているのか!?」

魔王「それは……母上が人間として生きていた頃の名だ」

――――――
――

魔王に即位した後、漸く彼女が見つかった。

人間の姿となっていたが、間違いなくオリーヴィアであった。

魔王父『探したぞ……オリーヴィア』

魔王母『ま、魔族……!?』

男性『エリヤ、逃げなさい!』

女性『さあはやく!!』

オリーヴィアのすぐそばにいた中年の夫婦を斬り捨てた。
彼女の育ての両親だったらしく、彼女は何やら叫んでいた。
人間なぞ虫けら以下の存在であるというのに。

魔王母『お父さん!? お母さん!!』

魔王母『いやあああああ!!!!!!!!』

彼女は魔族であった頃の記憶を封じられていたらしい。
ならば、記憶の封印を解けば正気に返るであろう。そう思った。
彼女の本当の肉親は、人間共に殺されたのだから。

すぐに彼女を城に連れ帰り、封印解除の条件を部下に調べさせた。

魔術師『許婚である陛下の接吻により封印は解かれるでしょう』

魔法陣に捕らわれた彼女は、酷く怯えた表情をしていた。
だが、ただ怯えていただけではなかった。
その目には鋭い敵意が込められていた。

魔王母『嫌! 来ないで!!』

抵抗する彼女に無理矢理口付けると、すぐに封印は解かれた。

魔王母『私はオリーヴィアじゃない……』

魔王母『私はエリヤよ!』

魔王父(まだ錯乱しているようだが、しばらく経てば落ち着くであろう)

魔王母『嘘……こんなの……悪い夢に決まって…………』

彼女の封印を解いてから数日。

魔王母『本当のお父様とお母様のこと』

魔王母『人間から襲撃を受けた日のこと』

魔王母『封印されていたほとんどの記憶を取り戻したわ』

魔王母『……でも』

魔王母『……あなたのことだけは、思い出すつもりはないわ』

魔王母『このまま思い出せなくていい…………』

もう全ての封印が解けているはずだった。
なのに、彼女は我との記憶だけは思い出さなかった。

魔王父『…………!』

魔王母『あなたは目の前でお父さんとお母さんを殺したんですもの!!』

魔王母『あなたは命の大切さをちっともわかっていない!』

魔王母『……私、彼等に育てられて……あの村で育って幸せだったわ!』

魔王母『お父さんとお母さん、村のみんなを殺したあなたを』

魔王母『私は一生許しはしない』

魔王父『だが人間に襲われなければ、お前は本当の両親と暮らすことができたのだぞ!』

魔王父『憎むべきは人間であろう!!』

魔王母『彼等が知恵の一族を襲ったわけではなかったもの!!』

何故彼女は人間でなくこの我を……愛し合っていたはずの我を憎んだのだろうか。

やがて息子ヴェルディウスが生まれたが、彼女の気持ちが変わることはなかった。

魔王『ははうえ?』

魔王『ははうえ、どこへいかれるのですか?』

魔王母『ヴェルディウス……ごめんなさい』

ヴェルディウスが齢四つに達した頃、彼女はいずこかへ姿を消した。
そして、あろうことか

魔王母『シュトラールさん!』

勇者父『エリヤ……君は俺が護る』

彼女は再び人の姿となり、真の勇者として目覚めたあの憎き男と逃亡していた。
誰よりも愛している女を、誰よりも気に食わぬ男に奪われていた。

魔王父『奴等め、今度は何処へ逃げおった……!』

何度か逃げられたが、彼女が姿を消して一年程経った頃に尻尾を掴んだ。
だが、

魔王父『産んだというのか……その男との子を…………!』

我と奴は互いに深い傷を負った。

魔王父『……だが、その赤子を殺す力くらいは……残っておる』

勇者父『やめ……ろ……!』

魔王母『……………………』

魔王母『……私、あなたの所へ行きます』

魔王母『だから、この子を……助けて……』

オリーヴィアはシュトラールに赤子を託し、我の元へ帰ってきた。
……体だけは。

魔王母『シュトラールさん……エミル……』

心は……遠いままであった。
どれほど愛しても、振り向いてくれることはなく…………。
やがて、彼女は無気力となっていった。

魔王母『………………』

虚ろな瞳で、会えもせぬ娘のために服を縫うことしかしなくなった。

――
――――――

魔王父「息子と我とでは何が違ったというのだ」

魔王父「ヴェルディウスは奇跡を起こした」

魔王父「幼い頃に想い合っていた少女を迎えに行き、」

魔王父「蘇らぬはずの記憶を蘇らせ、再び愛し合っている」

魔王父「何故だ……息子にできて、何故我にできなかった…………」

老賢者「…………」

――――――
――

老賢者『やあ、オリーヴィア。可愛い我が孫娘よ』

魔王母『お爺様……』

魔王母『私は……もう、何を憎めばいいのかわからないのです』

魔王母『私の生みの両親を……一族の者達を奪ったのは人間』

魔王母『でも、私の育ての両親と、村のみんなを殺したのは紛れもなくあの魔王』

魔王母『憎むことそのものに疲れ果ててしまいました』

魔王母『疲れたのです……何もかも……』

老賢者『争いは怒りと憎しみ、そして悲しみを生むもの』

老賢者『誰かを憎んでも、何の解決にもならないことにはもう気が付いているだろう?』

魔王母『…………』

老賢者『しかし、愛する者を奪われた以上憎しみは沸き溢れてしまうもの』

老賢者『お前は長い争いの歴史の被害者なのだよ』

老賢者『私とて、最初に人魔の争いを起こした者が何者なのか知ることは叶わなかった』

老賢者『愛しなさい、今愛せるものを』

老賢者『憎しみは憎しみの連鎖を生むが、愛もまた愛の連鎖を生むだろうて』

魔王母『今、愛せるもの……』

魔王母『ヴェル…………』

――
――――――

魔王父(ヴェルディウスが十一になった頃、彼女は病で亡くなった)

魔王父(彼女の死後、我は一年程生きていたはずなのだが……)

魔王父(その時期の記憶は断片的にしか残っておらぬ)

魔王父(酷く心を壊してしまっていたらしい)

魔王父(微かな記憶……だが、我が更に罪を重ねてしまったことは事実だった)

魔王父(あの世に逝ったオリーヴィアに顔向けできないほどの罪を犯した)

魔王父「我は……このまま永遠にこの世を彷徨うのか……?」

魔王父「ヴェルディウスにあって我に無かったもの……それは一体……」

老賢者「その答えがわかった時が、きっとオリーヴィアと再会する時なのでしょう」

勇者「そっか、この服、お母さんが……」

エミルは熱くなってゆく胸を押さえた。
再会することなく死に別れてしまった母を想い、涙を流す。

魔王「もしあの時お前が人間を憎んでいると答えていたら、」

魔王「私は母上の遺言を破ってでも人間を攻撃することを考えていた」

勇者「!」

魔王「……母上は最期に、人間と魔族の争いを鎮めるよう私に言い遺したんだ」

魔王「だがお前は憎まなかった」

勇者「…………」

勇者「そういえば、先代魔王の死因は……」

魔王「シュトラールとの闘いの傷に因るものだ」

魔王「魔属が負った深い光の傷は癒えることがない」

魔王「傷を負って七年程、闇の珠の力でどうにか持ち堪えていたが」

魔王「私に力を譲ることで命が尽きた」

勇者「じゃあ、ぼくのお父さんは、ヴェルのお父さんの仇……」

魔王「憎んではいない。シュトラールがいなければ母上は男女の愛を知ることなく死に、」

魔王「お前も生まれることはなかったのだから」

勇者「ヴェル……」

魔王(……尤も、シュトラールも寿命が近付いているはずなのだがな)

魔王(死ぬ前にエミルと再会できればいいのだが)

老賢者「おお、これはこれは……」

魔王「……曾爺様」

勇者「ひいおじいさま?」

勇者(前お城に来てた優しそうなおじいさんだ)

魔王「知恵の一族の大賢者だ。母上の祖父にあたる」

老賢者「無事封印が解けたようで安心したよ」

老賢者「これでいつでも心置きなくあの世に逝ける」

魔王「曾爺様……御冗談を」

勇者「…………」

老賢者(オリーヴィアとよく似た娘だ)

老賢者(エミル……煌めく翠玉の瞳……輝かしき平和の色)

老賢者(ヴェルディウス……儚き翡翠の瞳……安寧たる平和の色)

老賢者(この二人なら、きっと新たな時代を築けるだろうて)


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kokomade

majime na hanashi no hazu nanoni
roukenja ga Jimang de saisei sarete waraeteshimau......tsurai

エミルはくだけた口調でメルナリアやコバルトと話すようになっていた。

勇者「コバルトさん」

執事「はい」

勇者「ヴェルって、この頃はたまに笑ってくれるようになったけど」

執事「相変わらず仏頂面ですね、基本的に」

勇者「喜んでもらえること、何かできないかな」

執事「それなら、とっておきの秘策がありますよ」

勇者「ほんと?」


Section 11 渇愛

――
――――――

父上は母上ばかり見てる。

母上は、もう会えない人達のことばかり考えてる。

誰もぼくを見てくれない。


ぼくは母上に捨てられた。

母上がいなくなってから一年くらい経った頃、父上が母上を連れて帰ってきた。

でも、母上は父上じゃない男の名と、誰かの名前を呟いてばかりだった。

ぼくは父上と母上に褒めてもらいたくて、必死に勉学と稽古をこなした。

教師『おお、わずか齢十にしてテレポーションを習得なさるとは』

教師『さらに、コードを改良して発動速度を速めたとは……流石でございます』

父上も母上も褒めてくれた。
でも、その言葉に感情がこもっているとはとても思えなかった。
すごいことをしたはずなのに、どうして喜んでもらえなかったのだろう。

魔王父『まだわからぬのか!』

魔王父『人間なぞゴミ未満。この大地から排除すべき害虫なのだぞ!』

魔王母『そんなことないわ!』

魔王母『あなたには一生わからないでしょうね!』

魔王母『人間の優しさが! 命の温もりが!!』

両親は気が付けば喧嘩をしていた。

ぼくは二人に仲良くしてほしかった。

ぼくは、偉大な魔属の王である父上を尊敬していたし、
とても綺麗な母上のことも大好きだった。

どれだけがんばっても、二人は振り向いてくれなかった。
その上に、

家臣1『陛下、ヴェルディウス殿下は魔術の才能こそあれ、魔王の器ではございませぬ』

家臣2『お体も小さく、剣を振るう力も足りず、』

家臣3『人間を葬る魔王となるには御心の冷酷さも足りませぬ』

家臣4『知恵の一族の血を濃く受け継ぎ過ぎておられるのです』

家臣5『ヴェルディウス殿下は賢者として育て、やはり後継者は――』

ぼくには魔王となるための能力が足りなかった。

魔王父『……ならぬ。次期魔王はヴェルディウスだ』

それでも父上はぼくにこだわっていた。
母上との間に生まれたぼくに、どうしても王位を継がせたかったらしい。

……ぼくは、自分が立派な魔王になれるとはとても思えなかった。
母上がいつも『命は大切だ』と言っていたから、
その命を闇へ葬る魔王となることは、到底無理だと思った。

魔王父『人間の姿をしていても、お前は魔族だ』

魔王父『あの村に住み続け、他の男と結ばれていたとしても、生まれる子は半魔』

魔王父『さすればお前は人間から迫害されていたであろう』

魔王父『何故そこまで考えが及ばぬのだ! 所詮人間は敵だ!!』

魔王母『何を言おうと私はあなたを憎み続けるでしょう』

魔王母『そのようなこと……私があなたを許し人間を嫌う理由になんてならないもの』


魔子『ねえお父さま、お母さま。わたし、今度海へ行きたいわ』

魔男『よし、今度休暇を願い出て旅行にでも行くか!』

魔女『あら、いいわね。せっかくですし南の海に行きましょう』

魔子『わあい!』

仲の良い親子を見る度、胸が苦しくなった。

魔王母『エメラルドの瞳……エミル……』

魔王母『今、あなたはどのくらい大きくなったかしら……』

すぐ隣にぼくがいても、母上はその子のことばかり。

魔王母『東の果ての地……ブレイズウォリア……』

窓からいつも東を見ていた。

魔王母『きっとそこまで逃げ切って、元気に……成長してくれているはず……』

どうしてこっちを見てくれないの?

魔王母『あなたは半分人間だから、魔の血を封印すれば、』

魔王母『きっと生まれる子も人間の子……』

エミル……その名前だけでは、男の子か女の子かわからない。
でも、母上がいつも可愛らしい洋服を縫っていたから、
きっとその子は女の子なのだろう。

魔王母『人間として、幸せに生きて…………』

魔王母(……でも、もし魔族の男の人と愛し合うことがあったら…………)

魔王『母上……その子の様子を見てきたら、ぼくを褒めてくださいますか……?』

ぼくの魔力容量なら、なんとかテレポーションで大陸を横断することができた。

東の果ての地、ブレイズウォリア。

ぼくは人間に化け、その子を探すことにした。
時間がかかるだろうと思っていたけれど、案外あっさり見つけることができた。

町のすぐそばの森の中から聞こえてくる笛の音を追うと、
驚くことに、その子は動物や魔物と一緒に遊んでいたんだ。

勇者『きみ、だあれ?』

綺麗なエメラルドの瞳を輝かせていたから、すぐにぼくの妹だとわかった。

ぼくは人見知りが激しいから、緊張して胸が苦しくなったけど、

その子のことを、とても可愛いなって思った。
その子は、母上と身にまとう雰囲気がよく似ていた。

勇者『えみるはねえ、エミル・スターマイカ!』

勇者『エミルは、お母さんがつけてくれた名前なんだって!』

エミルは、育てのお母さんを本当のお母さんだと思っていたし、

自分の名前はそのお母さんがくれたものだのだと思い込んでいた。

……ぼくらのお母さんが名付けたんだなんて、とても言える雰囲気ではなかった。

勇者『いっしょにあそぼうよ!』

こっそり様子を見るだけのつもりだったのに、一緒に遊ぶことになってしまった。

勇者『ヴェルってふしぎな子だね!』

勇者『魔物さんたちが逃げ出さないもの』

そりゃ魔族だから……だなんて言い出せなかった。


――――――
――

魔王『……夕方だし、もう帰るよ』

勇者『また来てくれる? 来てくれるよね?』

魔王『えっと…………』

勇者『んー…………』

魔王『…………会いたいの? ぼくに……』

勇者『うん』

魔王『……じゃあ、来週のこの日に、また来るよ』

勇者『やったあ! 来てね! 待ってるからね!』

つぶらな瞳に見つめられたら、断れなかった。
ぼくを求めてくれたことが、ぼくは嬉しかったのかもしれない。

大陸の端から端まで往復すると、流石に魔力が空になった。

魔王『……母上』

魔王『エミル・スターマイカの様子を見て参りました』

魔王母『……!?』

魔王『彼女は……元気に育っているようです』

魔王母『ヴェルディウス……何を言っているの!?』

魔王母『あの子は……本当に元気なのね…………?』

魔王『はい』

ぼくがそう答えると、母上はぼくを抱きしめてくれた。
嬉しかった。
それから、午前までで稽古が終わる月の日には、ぼくはあの子に会いに行くようになった。

エミルは、リヒトとかいうぼくと同い年の男を兄と呼んだ。
ぼくの胸に、黒くもやっとした感情が沸き溢れた。
ぼく以外の男を兄と呼び慕っていることが非常に気に食わなかった。

リヒトとはよく喧嘩になった。


会う度に、妹への感情は強くなっていった。
兄だと名乗り、一緒に暮らしたいと思った。

母上はあれほどエミルを心配しているのに、エミルはそんなことを露知らず、
カトレアというリヒトの母親を愛している。

ぼくは悲しくなった。

妹に会いに来るのは何度目だろうか。
テレポーションによる長距離移動にも少しずつ慣れてきた。

エミルが坂から転げ落ちそうになったから、
助けようとしたらぼくまで一緒に落ちてしまった。

エミルが怪我をしていないかすごく心配になったけど、彼女は笑い出した。

勇者『今のすごかったねえ! ごろごろ~~って!』

面白かったらしい。草が生い茂っていて、大きな石も無かったことが幸いした。

魔王『……大丈夫? どこも痛くない?』

勇者『ゆうしゃの子だから丈夫なんだあ。このくらい大丈夫だよ!』

勇者『ヴェルこそおけがなあい?』

妹の笑顔を見て、胸が痛くなった。
初めて会った時もドキッとしたけど、その時とはなんだかちょっと違っていた気がする。

だいぶエミルと馴染みもできてきた。

エミルに好きな人はいるのかと聞いた時、とても緊張した。
他に好きな人がいるって、答えられたらと思うととても怖くなった。

勇者『ぼくの、好きな人はね…………』

でも、エミルはぼくのことが好きなようだった。

すごく安心すると同時に、胸が高鳴った。

魔王『ぼくも、君のこと……』

恥ずかしくて全部は言えなかった。でも、伝わったみたいだった。
ぼくはエミルに重ねられた手を握り返した。

魔王族にとって、近親婚は珍しいことじゃない。
もしエミルがこっちに来てくれるのなら、結婚したいなって……そう思った。

魔王『今度、母上が縫っている服をぼくがエミルに届けましょう』

魔王『きっと喜んでくれます』

魔王母『ヴェル……ごめんね、もういいのよ』

魔王『母……上……?』

魔王母『私が間違っていたわ……』

魔王母『あなたも私の大切な子供なのに……ごめんね、ごめんね』

母上はぼくを抱きしめた。泣いているみたいだった。

魔王母『もうこんな危険なことはやめて……』

やっと母上がぼくを見てくれるようになったけれど、あんまり嬉しくはなかった。
母上のためとかじゃなく、もうぼくはただただ純粋にエミルに会いたかった。

数日後の夕刻、時間が空いたのでエミルに別れを告げに行った。

しとしとと雨が降っていた。

妹はぼくを見つけると、笑顔で駆け寄ってきた。

勇者『水の日に来るなんて珍しいね!』

魔王『……………………』

勇者『……どうしたの? またお父さんとお母さんが喧嘩してたの?』

言葉が喉に引っかかってなかなか出てこなかった。

魔王『……今日で、最後なんだ。ここに来るの』

やっとの思いでそう吐き出すと、妹は酷く悲しい表情をした。
目頭が熱くなったけど、どうにか涙をこらえた。

ぼくは、エミルが人間の……一人の女の子として幸せになるための、障害でしかないから。
地下の書庫にあった禁書に記されていた、記憶消去の術を発動しようと思った。
ぼくに関する記憶だけを、対象者の脳から消す秘術を。
でも、あの術は対象が目を閉じていないと発動できない。

勇者『やだ……やめて…………』

エミルはなかなか目を閉じてくれなかった。

魔王『……スリーピング』

エミルに眠りの術をかけ、倒れかけた体を抱きかかえた。

魔王『…………ごめんね』


エミルを横抱きにして、彼女の家の方向へ向かうと、リヒトが現れた。

時間的に、夕方になっても帰ってこないエミルを迎えに行こうとしていたのだろう。

勇者兄『おい! 何やってんだよ!』

魔王『…………』

魔王『……目が覚めたら、この子はもうぼくのことを憶えていない』

勇者兄『は……? 何言って』

魔王『この子を何としても守って』

勇者兄『お前に言われるまでもねえよ』

魔王『……でも、もし君がエミルを守りきれなかったら、その時は』

魔王『その時は……ぼくがエミルを迎えに行く』

エミルをリヒトに渡し、ぼくはその場を去った。

押し潰されそうな虚しさを抱えて城に帰ると、父上が激怒していた。

魔王父『この頃不自然に姿を消すようになったと思ったら人間の町へ行っていたのか!』

魔王父『魔族の王子がなんたる行為を!!』

城下町に出向いているのだと誤魔化していたが、最後の最後で見破られてしまった。
殺されてしまうのではと感じたくらい、怒りに満ちた父上は恐ろしかった。

真の勇者に負わされた光の傷で、まともに動ける体ではなくなっているはずなのに、
父上はぼくを拷問部屋まで引きずっていこうとした。

ぼくには抵抗する気力も残されていなかった。
ここで死んでしまうならそれでもいいと思った。

魔王母『やめて!!』

母上も、長年抱えた悲しみが元でお体を壊し、走る体力なんてないはずだったのに、
止めに入ってくれた。

魔王母『……私が悪いのです……私が、娘の心配ばかりしていたから……』

魔王母『私のために、この子があの子のところまで……あなたに秘密で…………』

母上がそう言うと、父上は放心してしまって、何処かへ行ってしまった。

間もなく母上は亡くなった。
ごく僅かな期間だけだったけれど、エミルだけじゃなく、ぼくの心配もしてくださった。

魔王母『お願いヴェルディウス……この世から争いを無くして』

それが母上の最期の言葉だった。
最期まで、母上の橄欖の実色の瞳が父上をとらえるはなかった。

人間と魔族、どちらが悪いとかじゃない。
争いそのものがなければ、きっと父上と母上は幸せになることができていただろう。

そして……両方の血を引くエミルは、人間の姿をしていても、
何かの拍子で人間からも魔族からも迫害されてしまうかもしれない。

――――――

勇者『ヴェルは、将来の夢なあに?』

魔王『将来の、夢……?』

魔王『……わからない。ぼくは、一体どうしたいんだろう……』

――――――


魔王『エミル……ぼくの夢が決まったよ』

ぼくは……君が幸せに暮らせる世界を創る。

そのために、ぼくは魔王となる。


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zenhan kokomade
kouhan ha mata tomorrow ka day after tomorrow ni yaretara iina

Emilという名前にエメラルドの意味はありませんが、作中では響きの似た名前を付けたorもじったということで
本来は「努力すること」、「優れていること」、もしくは「ライバル」という意味の名前らしいです

以下のエピソードには同性愛要素が含まれます。
見た目女の子だからセーフ or BL平気 or 客観的に読み流せる 方のみお読みください。
それ以外の方は11レス飛ばしてください。
専ブラ使ってるとレス数わかりやすいですね。

……しかし、このエピソードを読まないと話がわかりづらくなる可能性があるので、
投下後に簡潔に説明書きをします。
結論だけわかればおkな方も飛ばし、最後の2レス(説明含めて3レス)お読みください。

魔王(……エミルは、私を見捨てずにいてくれるだろうか)
魔王(壊れたまま治らない、この私を…………)

――
――――――

母上の死後、父上の心と体は更に弱まり、滅多に寝台を降りることはなくなった。

家臣達は王位継承の準備をしなければと忙しそうだった。

重臣『おなごの様に細いヴェルディウス様に王位継承はさせられませぬ』

重臣『陛下、どうかヴォルケイトス殿下をお世継ぎに』

魔王父『ならぬと言っている』

重臣『殿下からもどうか』

   『知るかよ。俺は王位なんて継がねえぞ』

ある時、父上の私室から、父上と鼻筋のよく似た魔王族の男が現れた。

   『あ? お前もしかしてヴェルディウス?』

   『噂通り女そのものじゃねえか! ははっ!』

失礼な奴だと思う前に、その男の正体が気になった。
魔王族には違いないが、ぼくはその男を見たことがなかった。

    『知ってるぞ? 『魔性の美少年』って呼ばれてんだろ?』

    『ま、お世継ぎとして精々がんばれよ』

彼はぼくを嗤って去っていった。

魔王『今のは……』

老執事『ヴォルケイトス様でございます。殿下の異母兄にあたるお方です』

魔王『えっ……』

信じられなかった。
父上には一人も妾はいないはずだし、兄がいるだなんて聞いたこともなかった。

だけど、その名には聞き覚えがあった。
家臣達がぼくに隠れてこそこそ何かを話していた時に、たまに聞こえていた名だ。

魔王『でも、父上が母上以外の女性と子を成すはずが……』

老執事『……少々事情がございまして』

城の者は皆母上は死んだものと思っていたが、父上は断固として他の女性を娶らなかった。

でも、世継ぎがいないのは非常にまずいこと。
重臣達が拒否する父上を無理矢理受胎の魔法陣に押し込み、
后候補だった力の一族の女性との子供を作ったそうだ。
かなり大がかりな作業だったらしい。

人間として生きていた母上が見つかり、ぼくが生まれたことで用済みとなった彼等は、
力の一族の本家がある南の地で暮らすようになった。

しかし、ぼくがあまりにもひ弱なので、
ヴォルケイトスを後継者として支持する者が非常に多いという状態になっていた。

……ぼくには幼少時より「魔性の美少年」などという不名誉な二つ名があった。
同年代の女の子から好かれるには身長が足りなかったが、
そこらの女の子よりも遙かに女の子らしい容姿だったため、
妙な趣味に目覚めそうになる男性が後を絶たなかったのである。

真に遺憾であるがそのようなことはどうでもいい。
ぼくは王位を継承し、どうすれば平和な世を築けるのかを考えなければならない。

父上と同じく、高位の魔族のほとんどは人間を害虫だと考えている。
厳しい戦いになるだろう。

魔王父『オリーヴィア……』

魔王父『オリーヴィア……そこに……いるのか……?』

父上は母上の死を受け入れることができず、
しばしばぼくを母上だと認識するようになった。

魔王『父上……何をなさるのですか!?』

ある時、寝台の中へ引きずり込まれてしまった。
キスなんてエミルともしたことなかったのに。

でも、ぼくはそこまで壊れてしまった父上が心配でたまらなくて、
父上の私室に通うのをやめる気にはなれなかった。
まともに会話ができる日もあったから。

父上の胸には、大きな白い傷が刻まれていた。癒えることのない光の傷だった。


悍ましい行為が繰り返されていく内に、ぼくは肉親への情と性愛の区別が付かなくなっていった。

魔王(おかしいな……ぼくは、エミルに対して二つの心を持っているはずだった)

魔王(妹として大切に思う気持ちと、異性として愛する気持ちを)

魔王(その二つが混ざって……もうどっちがどっちだかわからない……)

エミルへの気持ちが穢れてしまったような気がして、妙な罪悪感に駆られた。

母上が亡くなってから一年程経った。
ついに戴冠式が行われることとなった。

父上から闇の力を受け継ぐことは父上の死を意味していたから、
貴魔族達が随分揉めていたがようやくこの日が訪れた。

しかし、ぼくはまだ十二歳になったばかり。
闇の珠と心臓を融合させたとはいえ、実権を握ることができるはずがなかった。

父上の腹違いの弟である叔父上がぼくの摂政を務めることとなった。
母上をいやらしい目で見ていたから、ぼくはこの男が大嫌いだった。

魔政客『人間を襲うなですと? ははは、御冗談を』

その上叔父上は人間嫌いだ。敵以外の何者でもない。
はやく大人になって邪魔者を排除したくてたまらない。

魔従妹『男のくせに私より可愛いとかなんなのよ!!』

娘もうるさかった。ぼくだって好きでこんな細いわけじゃない。
鍛えても鍛えてもなかなか筋肉がつかないんだ。

父上も母上も亡くなり、エミルは大陸の反対側でぼくのことを忘れて生きている。
孤独感に襲われる日々が始まると思っていた。

魔王兄『あーかったるかった。式典とか堅っ苦しいのマジめんどくせぇ』

魔王(あ……)

魔王『あに、うえ』

魔王兄『は? 兄と呼ばれる義理なんてねえぞ』

魔王『もう、帰ってしまわれるのですか……?』

魔王兄『ったりめーだろ、好きで来てたわけじゃねえし』

魔王『…………』

魔王兄『な、なんだよ』

魔王兄(こいつ……ほんとに男か? 女が男物の服着てるようにしか見えねえ)

魔王『その……お願いがあります』

魔王『今でも兄上を魔王にしたがっている者は多くおります』

魔王『兄上が傍についていてくだされば、少しは静かになると思うのです』

魔王『だから……』

魔王兄『助けてやる理由がねえな』

魔王『……父上とぼくを憎んでおられるのですか』

魔王兄『いいやまったく』

魔王兄『自由に過ごせねえ魔王の座になんて何の興味もねえ』

魔王兄『俺は自由に生きてえ。それだけだ。じゃあな』

魔王『ぁ……っ…………』

魔王『う……ぅ……』

魔王兄『いや泣くとかお前そりゃねえだろ』

魔王『だっ、て……』

魔王兄(こいつ……魔性の美少年とか言われてるだけあるな)

魔王兄(なんかこう…………クるものがある)

魔王『兄上…………!』

魔王兄『ったく、仕方ねえな。少しの間だけだぞ』

魔王『本当ですか!? ありがとうございます!』

小うるさかった兄上派の家臣達も、兄上にぼくの意見を代弁してもらったら大人しくなった。
助けてもらう代償……かどうかはわからないが、ぼくは兄上に体を捧げた。

魔王兄『……俺は女にしか興味ないはずなんだがな』

魔王兄『お前、ほんと何者だよ……男に生まれて損したな』

家族への愛情と恋愛感情の区別がつかなくなっていたから、抱かれることは苦でなかった。

魔王兄『……まあ、孕まねえ分気軽に犯せていいんだがな』

王侯貴族が女性の代わりに容姿の整った少年を性欲処理に使用するのは珍しいことじゃない。

ただ、妹の笑顔を思い出しては罪悪感を覚えた。
もうあの子には会えないというのに。

魔王『……どうしたら兄上のような逞しい体を手に入れることができるのでしょう』

兄上は力の一族の血を濃く引いているだけあって、背が高く筋骨隆々だった。

魔王兄『お前、あんまり飯食ってねえだろ』

魔王『!』

魔王兄『食わねえとどんだけ鍛えても筋肉つかねえだろ』

魔王『そ、それもそうですね』

魔王兄『まあ、お前が男らしい体になったら抱けなくなるだろうがな』

細い体は劣等感の原因だったが、兄上に見捨てられたくなかった。
兄上に捨てられてしまうくらいなら、一生女の様な容姿のままでいいと思った。
ぼくにはもう傍にいる肉親が兄上しかいないのだから。

――
――――――

即位して二年程経った。

兄上は気まぐれだから、時折姿を消しては城に戻ってくるという生活を送っていた。
まだぼくの容姿は女の様だった。変声すらしていなかった。

魔王兄『……もう終わりにしよう』

突然、兄上はぼくにそう告げた。

魔王『何故ですか!?』

魔王兄『こんな関係だって家臣どもにバレたら笑いもんだろ』

魔王『しかし…………』

魔王兄『このままじゃお前駄目になっちまうんだよ』

魔王兄『一生自立できねえ』

魔王『兄上……』

魔王兄『じゃあな』

母上が城を去っていった時のことを思い出した。
ぼくは、また肉親に捨てられてしまった。酷く虚しくなった。

一晩泣き明かし、翌日から必死に食事を腹に詰め込んで体を鍛えた。

執事『どうしたんだい、急に』

魔王『…………筋トレに付き合ってくれ』

ぼくが兄上に強く依存してしまっていたのは確かだった。
でも、愛情に餓えたこの精神は何かに執着しなければ生きていけない。

魔王(エミルは今どうしているだろうか)

もうエミルとの幸せだった日々に依存するしか心を保つ手段は残されていなかった。
きっと、一生この虚しさを埋めることはできないのだろう。

そう、永遠に――――。


――――――
――

魔王(今でも私は、肉親への愛情と性愛の区別が付かないままだ)

魔王(彼女は……エミルは、私をどう思っているのだろうか)

魔王(……落ちてゆく夕陽がなんとも物悲しい)

勇者「ヴェルー!」

魔王「エミル…………」

勇者「えっとね、あのね」

エミルは何かを言い出そうとした。

勇者「……ぁ…………あ、」

軽く微笑み、だが俯いていた。

勇者「あ、ぁ……ぅ…………ぇ……」

夕陽に照らされていたが、頬が紅く染まっているのがわかった。

勇者「あに、うえ……」

上目づかいで、確かにエミルは私を兄と呼んだ。

魔王「えみ、る……」

長年見つけられずにいたパズルのピースが見つかったかのような、
熱い情が胸を襲った。

勇者「えへへ、コバルトさんがね、こう言ったらきっとよろこふぐぅっ!?」

思わず膝をつき彼女を抱きしめた。

魔王「エミル、エミル……!」

魔王「お前に兄と呼ばれる日が来るのをどれほど待ち望んでいたことか……!」

勇者「ん……兄上、だいすき」




魔王父(羨ましい…………)


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【読み飛ばした人に】

后を亡くしたことで魔王父は精神崩壊を起こした。
魔王は父親から性的虐待を受けるようになり、それが原因で家族愛と性愛の区別がつかなくなる。

魔王には異母兄ヴォルケイトス(オリーヴィア発見前に世継ぎの心配をした重臣達によって魔術で無理矢理作られた子、当時魔王父は童貞を死守)がおり、
愛情に餓えた魔王(当時美少女のような容姿)は、父親死亡後異母兄に依存するようになった。
このままではいかんと思った魔王兄は魔王の元を去り、魔王は再び肉親の愛に餓えるようになる。


という内容でした。丸々カットしてもよかったかもしれない……

母親と異母兄に捨てられたこと、父親から性的虐待を受けていたことで、
肉親に対して捨てられることを極端に恐れると同時に恋慕を抱いてしまうようになり、
依存心・独占欲が強いという魔王の人格ができあがったって感じです。
叔父や従妹は肉親として認識していないようですね。

コバルトの過去も織り交ぜるつもりでしたが、今回の内容がアレなのでまたいずれやることにしました。
ちなみに本編が原作より真面目要素を大量投入されているのに対し、
Section 11も含めて過去編は原作ほぼそのままです。Naanikoree。

sumimasensumimasenn arigatougozaimasu
RORI ERO ha tomokaku nande HOMO ERO kaiteta noka touji no jibun ni kiite mitai
girl ni shika mienai otokonoko tte dokutoku no iroke arimasenka......

勇者「あ……」

エミルは魔王を見かけると走り去っていった。

魔王「この頃エミルの様子がおかしいんだ」

執事「どうされたんでしょうね」


Section 13 慕情

魔王「私は彼女に避けられているらしい」

メイド長「あら」

魔王「気づかない内に嫌われるようなことを言ってしまったのかもしれない」

執事「陛下口下手ですしね」

魔王「……」

魔王「だが向こうから甘えてくることもあるのだ」

執事「ふむ」

メイド長「話を聞いて参りますわ」

魔王「頼む」

魔王「エミルまで離れていってしまったら……私はもう生きていけぬ……」

執事「もっとどっしり構えたらいかがですか」

勇者「はあ……」

メイド長「エミル様っ!」

勇者「ひぐっ! メルナリア……」

メイド長「この頃お顔の色が優れないようなので心配ですわ」

メイド長「何かお悩みでも?」

勇者「い、いや……その……大したことじゃ……」

メイド長「女同士なのですから、小さなお悩みでもなんでも話していただきたいですわ」

勇者「ん……でも……」

メイド長「エ・ミ・ル・さ・ま」

勇者「…………」

メイド長「もしかして……恋のお悩みですか?」

勇者「あぐっ……」

メイド長「そんなことだろうと思いましたわぁ」

勇者「う……」

メイド長「恋バナ! 恋バナしましょう!!」

勇者「ぼく、その……」

勇者「友達と恋愛の話とか……したこともなくって……」

勇者「ど、どう話せばいいのかとかわからないし…………」

メイド長「ゆっくり、ちょっとずつお話してくださいな」

勇者「ん……」

メイド長「そうだ、紅茶とお茶菓子をご用意いたしましょう!」

メイド長「甘い物をつまみながらが楽しくて良いですわ!」

勇者「……ヴェルって、ほら、魔王だし、綺麗な顔してるし……」

勇者「不器用だけど優しいし、けっこうモテたりとか……するのかな……」

メイド長「そうですわね……幼い頃はそれはそれは可愛らしかったので、」

メイド長「年上のメイド達から小動物のように可愛がられていたそうですが、」

メイド長「今でも高位の魔族にしては少し低身長ですので、あまりモテませんわ」

勇者「えっ……そういえば魔貴族の方々って人間より大柄な人がほとんどだ」

勇者「ヴェル充分おっきいのに……185くらいあるよね?」

メイド長「あ、コンプレックスですので陛下の前で身長の話は禁句です」

勇者「じゃあ……ぼくがいない間に恋人がいたりとかは……」

勇者「ぼくには他に好きな人できたりしたことなかったし、」

勇者「ヴェルに昔の恋人がいたりしたらやだなって……この頃胸が痛くって……」

執事「彼女ができたことはありませんよ」

勇者「ほんと?」

メイド長「あらあなたいつの間に」

執事「すみません、気になって様子を見に来てしましました」

メイド長「ガールズトークの邪魔をしないでいただけるかしら?」

勇者「いいよ……別に……」

執事「陛下のことなら僕の方が詳しいですし」

執事「今のところ、僕の知る限り陛下のことを慕っている女性は一人だけいらっしゃるのですが」

勇者「!?」

執事「陛下は彼女を好いておられませんし、安心して大丈夫ですよ」

勇者「ん……」

勇者(もやもやする……)

メイド長「お悩みのきっかけはございますの?

勇者「そ、その……こんなこと言うの恥ずかしいんだけど……」

勇者「ヴェル……キスがすごく上手だし……」

勇者「ぼ、ぼくは他の人とキスなんてしたことないから、」

勇者「あんなものなのかもしれないけど、慣れてる感じがして……心配になっちゃって」

執事「……なるほど」

メイド長(ああもう可愛らしいですわ! 恋に悩むお姿って素敵!)


執事「決して陛下のことが嫌いになったから避けているというわけではないのでしょう?」

勇者「初めて会った時から、ヴェルのことは好きだったけど……」

勇者「この頃、好き過ぎて胸が苦しくて、不安で仕方がなくて…………」

勇者「一緒にいたいのに……」

執事「陛下はエミル様のことを心配しておられましたよ」

執事「彼が最も恐れていることは、エミル様が遠くへ行ってしまわれることなのです」

執事「陛下を信じて、もっと甘えてもいいと思いますよ」

勇者「……そっか」

メイド長「いつかその激しい感情は深き慈愛になりますわ」

魔王「……エミルはどうだった」

執事「心配には及ばないと思いますよ」

執事「いわゆる好き避けってやつです」

魔王「…………」

執事「感情が昂りすぎて落ち着かなかったようなんです」

執事「しばらく生暖かく見守ればいずれ落ち着きを取り戻されるでしょう」

魔王「そ、そうか」

執事(照れてる)

執事「そろそろ大魔族会議の準備に取り掛かりましょう」

魔王「……そういえばそろそろその時期だったな」

執事「頭痛薬持ってきますね」

魔王「……頼む」


――魔王城・中庭

勇者「大魔族会議?」

メイド長「ええ。魔王陛下と、魔王族や五大魔族の代表者が出席する会議です」

メイド長「年に一度定期的に行われる他、必要に応じて開催されることもございます」

メイド長「エミル様もご出席なさるようにとのことですわ」

魔従妹「ちょっとあなた!」

勇者「……ぼく?」

魔従妹「ヴェルディウスの婚約者ってあなた?」

勇者「あ……はい……」

勇者(ツインテール美少女だ)

メイド長「エミル様、こちらは魔王陛下の従妹であらせられる……」

魔従妹「マゼンティアよ」

勇者(こ、怖い……)

魔従妹「あんたみたいなちんちくりんにヴェルディウスは渡さないんだから!!」

勇者「ひっ」


勇者「う……うぁぁぁ……」

メイド長「昔はヴェルディウス陛下をライバル視しておられたのですが」

メイド長「陛下が男性らしくなられてから心境の変化があったらしく……」

勇者(ぼくは女の嫉妬の怖さを知っている)

――――

魔法使い『あんたさえいなければ…………!』

――――

勇者「……図書室行きたいな…………」


勇者(ええと……元の姿になれそうな術……)


――魔王城・大会議室

魔王「……何故エミルは少年のようだった頃の姿になっているのだ」

執事「あの服は陛下のお下がりですね……」

勇者「…………」

メイド長「まあまあ」

執事「では、初めてご出席された方も二……いえ、三名いらっしゃいますので、」

執事「お一人ずつご紹介いたしましょう」

執事「こちらは、ヴェルディウス様の婚約者であらせられるエミル様でございます」

勇者「ど、どうも……」

魔従妹(…………)

執事「えー、力の一族代表、フラム=エカルラーティア様」

力族長「はぁい?」

力族長「炎を象徴とする力の一族の現族長、エカルラーティアよぉ」

勇者(色っぽい女の人だなあ)

力族長「コバルト君ったら相変わらずかわいいわねぇ、十年後が楽しみだわぁ」

執事「はは……」

力族長「陛下もお父上に似ていい男になってきたわねえ、五年後くらいが収穫時かしらぁ」

魔王「っ……」

勇者(女豹だ……)


執事「え、えぇと、知恵の一族代表、ロゴス=スキエンティウス様」

知恵族長「……エミル様は知恵の一族と聞いていたが」

知恵族長「とても我が一族の者には見えぬな」

勇者「あ、いや、その……」

メイド長「普段はオリーヴィア様そっくりですのよ」

魔政客「何っ!?」

魔王(エミルが人間の姿をしていて正解だったな……)

魔王(母上とよく似た姿では伯父上に卑猥な目で見られてしまっていただろう)

知恵族長「……失礼。確かに身に纏っている魔力は我等が眷属のものだ」

勇者(ふう……ちょっと堅苦しい)

執事「空の一族代表、ヴァン=ミラン様」

執事「本日は疾風のフォーコン様もご一緒のようで」

空族長「娘との結婚が決まったのでな。後継ぎとして連れてきたのだよ」

執事「それはおめでとうございます」

おぉ~パチパチパチ

隼青年「……感謝する」

勇者(二人とも真面目そうだなあ)


執事「地底の一族代表、テール=ベーリーオルクス様」

地底族長「族長となって日が浅いのでな。お手柔らかに頼む」

執事「地底の一族はその名の通り地下で生活しており、」

執事「地の魔術の他、闇の魔術を得意とする者も多くおります」

勇者(強そう)

執事「では、黄金の一族代表、オール=パイライトス様」

金竜頭領「族長代理のパイライトスだ」

執事「もう族長名乗っていいんじゃないですか?」

金竜頭領「族長となるはずだったのは我が弟だ! 私なぞ……」

メイド長「もう、お父さまったら」

勇者「えっお父さん?」


魔政客「私が最後とはどういうことだね」

執事「えっあっすみません」

執事「魔王族代表、先代魔王の弟君であらせられるストゥルトゥス様」

執事「……と、そのご息女、マゼンティア様です」

魔政客「どうしても出席したいといって聞かなかったものでね」

魔政客「連れてきてしまったよ」

魔従妹「ふんっ」

勇者「ひっ」

執事「では本題に」

力族長「あなた、うちの息子に大恥かかされて摂政の座を失ったっていうのに」

力族長「よく平気でこの場に顔出せるわねぇ」

執事「ふっ……くすっ…………おっと失礼」

魔政客「おのれ……」

魔王「……本題に入るぞ」


執事「えー、まずは人間を襲おうとする者が後を絶たない問題についてですが」

魔政客「それの一体どこが問題なのだね」

魔王「黙れ」

魔政客「ぐっ」

知恵族長「我々五大魔族は平和を目指すということで意見が一致している」

執事(ここまでこぎつけるのに苦労したなあ……)

知恵族長「貴公はいまだに人間を害虫だと思っているようだが」

知恵族長「古臭い固定観念はいい加減捨てたらどうなのだ」

金竜頭領「うむ。人間に恨みはあるが、人間も同じく我等を憎んでおる」

金竜頭領「争いそのものを無くさぬ限り犠牲は増え続けるであろう」

地底族長「同じく」

空族長「同意だ」

力族長「そもそも人魔の争いに興味ないわぁ~」

力族長「でもこの頃人間のオトコにも興味あるのよねぇ」

魔政客「…………」

魔従妹「お父様……情けないわ」


執事「皆様方のご協力によりどうにか沈黙を保つことができていることに感謝いたします」

執事「今後も引き続きご協力いただきたい」

執事「ご意見のある方は」

執事「異論が無いようですので、次の議題に移りましょう」

執事「真の勇者に関してですが」

勇者「…………」

執事「光の珠の力は非常に危険であり、」

執事「魔王陛下の闇の珠の力しか対抗手段がございませんので」

執事「くれぐれも接触しないようお願いいたします。異論はございますでしょうか」

魔政客「こちらからは一切攻撃を仕掛けないということかね」

執事「ええ」

魔政客「兄者も父上も自ら出向いて真の勇者と戦っておったが」

魔政客「現在の魔王陛下はただ待ち構えるだけなのかね」

魔王「我はデスクワークが多すぎて城から離れる暇がないのでな」

魔王「それに、わざわざ出向く必要もないであろう」


魔政客「命令違反が絶えないのはヴェルディウス陛下の威厳が足りないからであろう!」

魔王「っ……」

執事「陛下、こらえてください」

魔政客「今すぐにでも真の勇者と闘い力を示したらどうなのだ!!」

魔政客(その結果戦死すれば政権は我が手に……)

魔政客「ただ待っているだけのこの低身長が!!」

魔王「貴様ァ!」

力族長「奥さんが戻ってきてくれるのをただ待っているだけのあなたに他人のこと言えるのかしらぁ」

魔政客「っ!?」

一同「「「「「…………ふっ」」」」

魔王「私はまだ伸びる!!」

執事「陛下、素が出てます」

魔王「はっ」

力族長「あら、無理に魔王ぶらなくてもいいのよぉ、たった数人しかいないんだからぁ」

一同「「「「「……ふっ……はっ……クスクス」」」」

力族長「まだ若いのに大変よねぇ……頑張ってお父上の真似をしてるのよねぇ」

力族長「微笑ましいわぁ」

魔王「お……のれ…………」

勇者(怒りでプルプルしてる……)


執事「くふっ……次の議題に移りましょう」

執事「ふふっ……災害の多発に関してですが……はっ……」

魔王「笑うな」

執事「すみませ……現在、賢者達が原因を究明しているのですが」

執事「いまだ原因は不明です」

執事「賢者の方以外もご協力お願いいたします……ふっ……」

執事「ご意見が無ければ、これにて本会議を終了させて……いただきま……」

魔政客「待て」

魔王「何だ」

魔政客「人間の血を引く女を后にするとは本気なのかね」

魔王「ああ」


魔政客「汚らわしいとは思わんのか!」

勇者「…………」

魔王「全く」

魔政客「うちの娘の方が魔王妃に相応しい!」

魔従妹「お、お父様……」

空族長「娘を嫁がせることにより自分が権力を得たいだけではないのか」

魔政客「うっ」

知恵族長「貴公の方が遙かに汚らわしい」

地底族長「何故このような者が魔王族代表なのだ」

力族長「汚いことばっかやって権力だけはちょこっと持ってるものぉ、こいつ」

金竜頭領「種族違いの恋には障壁がつきものだが……」

メイド長「…………」

金竜頭領「人間の血を引く者との婚姻は新たな時代の礎となろう」

地底族長「うむ」

魔政客「ぐぬぬ……」

執事「では、これにて大魔族会議を終了させていただきます」


執事「やあ、久しぶりだねフォーコン。結婚おめでとう」

隼青年「ありがとう」

執事「やっぱりお相手はシーニュかい?」

隼青年「ああ」

執事「今度久々に手合わせしないかい? 1kmほど空を競走しよう」

勇者「親しいんだね、コバルトさんとフォーコンさん」

メイド長「ええ。彼等は生息地が近いので、幼い時分より交遊があったそうですわ」

魔政客「散々娘の前で恥をかかせおってこの年増が!」

力族長「あぁんらぁ、ごめんなさいねぇ」

魔政客「ふん、これだから力の一族は……」

力族長「知ってるわよぉ、あなた、数年前うちの息子に奥さん寝取られかけたんですってぇ?」

力族長「うちの息子も隅に置けないわねえ! あぁははは!」

魔政客「があぁぁぁ!!!!!!!!」



魔王「疲れた……」

魔王「エミル、その格好は一体どうしたんだ」

勇者「兄上……その、あの子の視線が怖かったら」

勇者「男の子の格好をすれば、少しマシにならないかなって……」

魔従妹「…………」

勇者「意味なかったけど……」

魔王「はあ、まったく……」

魔王「マゼンティア」

魔従妹「…………」

魔従妹「何なのよ! もう!!」

魔従妹「ポッと出のちんちくりんの男か女かいまいちよくわかんないやつと」

魔従妹「結婚するなんて認めないんだから!!」

魔王「ちんちくりんはお前もだろう……」

魔従妹「ヴェルディウスみたいな低身長のこと好きになる女の子なんて私くらいだったのに!」

魔王「てい……しん…………」

メイド長「陛下、しっかり」

魔従妹「バカ!!」

マゼンティアは何処かへ走り去っていった。


勇者「ただでさえぼく兄上の胸くらいまでしかないのに」

勇者「これ以上体格差が大きくなったら………………壊れちゃうよ……」

魔王「……お前もまだ伸びるから問題ない」

勇者「そうだといいんだけどなあ」

メイド長「しかし大丈夫でしょうか、マゼンティア様」

メイド長「護衛も付けずに城の中を走り回るのは危険ですわ」

メイド長「いろいろな思想の者がおりますので……」


魔従妹「ヴェルディウスの……ばか……」

魔従妹「…………ぐすっ」

魔豪族1「あやつ、ストゥルトゥスの娘ではないか」

魔豪族2「奴には恨みが積もり重なっておる」

魔豪族2「少し悪戯して憂さ晴らしでもするか」


魔従妹「ちょ、ちょっと何するのよ!」

魔豪族1「少々お付き合い願いたい」

魔豪族2「はっ、あいつの娘の癖に顔だけはよいではないか、胸は小さいがな」

魔従妹「い、いやあああ!! 魔王族にこんなことして許されると思ってるの!?」

魔豪族1「魔王族なのに辱めを受けただなどと他人に言えるのか? こっちへ来るがよい」

魔従妹「う……」

魔豪族2「お前の父親に恥をかかされた分めいっぱい辱めてやろう」

勇者「――ウォーターピストル」

魔豪族1「ぐはっ!」

魔豪族2「あだっ!」

勇者「子供に復讐するのは流石に卑怯だと思うんですよ」

魔従妹「っ…………」


勇者「えっと……大丈夫?」

魔従妹「あ、あんた……」

勇者「…………」

魔従妹「助けるなんてバカじゃないの!?」

魔従妹「私は……あんたに……」

勇者「だって、どんな人であっても、酷い目に遭ってたりしたら後味悪いでしょ」

勇者「ほら、手を取って」

魔従妹「ん…………」

魔従妹(お人好しにもほどがあるわ)


メイド長「エミル様ーっ! もう、走るのがお早い……」

メイド長「……あら?」


勇者「あ、あはは……」

魔従妹「…………」

メイド長(マゼンティア様がエミル様にぴったりくっついておられるなんて……)

魔従妹「……人間育ちのあなたに教えてあげるわ」

魔従妹「魔族は人間の多くの国と違って同性婚が認められているのよ」

勇者「えっ」

メイド長「あらまあ」

魔従妹「もう離さないから」

勇者「ちょっと待って!」

勇者「待って! ぼくには兄上が……ヴェルがいるから!!」

勇者「助けてえええええ!!!!」


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kokomade


Section 14 混血


勇者「お城の裏にお庭があったなんて……」

魔王「母上がこの庭によく訪れていた」

勇者「いろんなお花があって綺麗だね!」

勇者「このバラいい香り……」

   「くぅ~ん」

勇者「あれ?」

勇者「この辺りから子犬の鳴き声が……」

勇者「この子、弱ってる! すぐに助けなきゃ」


――魔王城・エミルの部屋

狼犬「すぁ~ふぐぐぐ……すぁ~ふぐぐぐ……」

勇者「この子、真珠みたいな毛色……綺麗……」

勇者「ふわふわだぁ」

魔王「……魔狼と動物の犬の混血だな」

魔王「動物も魔の気を恐れるため、このようなことは滅多にないのだが」

勇者「……この子、ぼくとおんなじなんだ」

狼犬「すぅ~……わふ?」

狼犬「アンアン! アン!」

勇者「よかったぁ~元気になったみたい!」


狼犬「くぅ~くぅ~! くぅ~ん!」

勇者「懐かれちゃった」

勇者「この子もお城に住んでいい?」

魔王「構わんが」

勇者「やったあ!」

勇者「……よし、決めた! 君の名前はパルルだよ!」

狼犬「ワン!」

勇者「かわいいなぁ~も~~」

勇者(……あれ? どうして今まで気が付かなかったんだろう)

勇者(普通、同じ種族か、ごく近い近縁種でしか子供は作れない)

勇者(魔属と動物の間に子供ができたってことは、元は両方同じ種族……)

勇者(ということは、魔族と人間も祖先は同じ)

勇者(大昔、元いた人間や動物が後天的に魔属化したんだ……!)


商人「セントラルの町? 今は行かない方がいいよ」

商人「避難勧告が解除されたばかりでバタバタしてるらしいし、」

商人「ちょっと火山灰が積もっちゃってるらしくてね」

勇者兄「そうですか……」

商人「僕もしばらくまではあそこで商売してたんだがねえ……」

勇者兄「エミル・スターマイカって少女に会いませんでしたか? 俺の妹なんです」

商人「……ああ、似てると思ったよ。黒髪の小さな勇者さんだろう?」

勇者兄「はい!」

商人「一度しか話さなかったが、とても印象に残っているよ……」

商人「巷じゃ死んだなんて噂になってるが、僕は討伐隊の人から直接聞いたよ」

商人「魔王に連れ去られてしまった、ってね……」

勇者兄「討伐隊……? 詳しく聞かせてください!」


――魔王城・魔王の書斎

勇者「パルルーおいで!」

狼犬「わんっ!」

勇者「あはは! こっちこっちー!」

メイド長「うふふ」

魔王「……楽しそうで何よりだ」

執事「……犬に嫉妬してるなんてことないですよね?」

魔王「そこまで私の器は小さくない」

狼犬「アン! わぉぉん!」

魔王「こ、こら、くっつくな! 舐めるな! 毛が服に付く!」

勇者「兄上にも懐いたね! よかったー!」

魔王「くすぐったいぞ……まったく……」


――セントラルの南の村

武闘家「今日はここで一泊か」

魔法使い「小さな村ね……宿屋も無さそうだわ」

勇者兄「確かこの村に親戚が住んでるはずなんだ。訪ねてみよう」

法術師「~♪」

魔法使い「さっきの商人から買ったイヤリング、気に入ってるのね」

法術師「婚約者の分まで買っちゃった! おそろい~」

魔法使い「いいわよね……将来の相手がいる人は……」



勇者兄「すみません、バーント・シェンナさんですか?」

娘父「宿なら他を当たってくれ」

バーントはリヒトの顔を確認した瞬間戸を閉じた。

娘父「その憎たらしいツラを二度と俺に見せるな」

勇者兄「ぁ……ぁ……」

武闘家「ちょっと待ってくれよ」


武闘家「調べはついてるんだぜ? バーント・シェンナさん」

武闘家「いたんだろ、エミルがいた討伐隊の中に」

武闘家「ちょっと話を聞かせてほしいんだ」

娘父「……入れ」

法術師「あなたいつの間にそんなこと調べてたの?」

武闘家「さっきの町で平和協会の支部に行った時にちょこっと気功催眠で」


娘祖父「本は……わしの本は無事かのう……」

娘母「お父さん、シールド張ってきたでしょ」

娘母「幸い溶岩は町まで流れてこなかったそうよ」

娘祖父「早く帰りたいのぉ……」


娘父「悪いがそいつの顔を紙袋で隠してくれないか」

娘父「胸糞が悪くなって仕方がない」

法術師「仕方ないわね」

娘母「ごめんなさいね、この人若い頃からシュトラールさん絡みで色々あったものだから」

勇者兄(紙袋)「親父は一体何をやらかしたんだ……」


娘父「……ああ。エミルは俺の目の前で魔王に攫われた」

娘父「恐ろしかったな……今こうして生きているのが不思議なくらいだ」

武闘家「魔王が美形ってほんとか?」

娘父「ああ、遠目でも綺麗な顔立ちだってわかったな。先代よりも多少小柄だったが」

勇者兄(紙袋)「よし、戦う時はチビと罵倒して激怒させ、隙ができた瞬間に倒そう」

娘父「それでもそこら辺の人間の男よりは高身長だぞ」

勇者兄(紙袋)「えっ俺より?」

魔法使い「真面目に話しなさいよ」


法術師「先代の魔王を見たことがあるんですか?」

娘父「……ああ」

娘父「俺は若い頃、協会からの命令でほんの数年だがシュトラールと旅をしていたからな」

娘父「何度か戦ったことがある」

勇者兄(紙袋)「そうなんですか! 大変だったでしょう、あの親父と旅をするのは」

娘父「俺がいなかったらあいつの子供の人数は数十倍に膨れ上がっていただろうな」

娘父「避妊魔法も絶対じゃないしな……」

勇者兄(紙袋)「ああ……苦労している様子が容易に想像できる……」

魔法使い「もうそろそろ本題に入ったら……?」


――
――――――

娘父「……とまあ、こういうことがあったわけだ」

娘父「お偉いさん方に迫害されていたにも関わらず、あいつはめげずによく頑張ったよ」

勇者兄(紙袋)「エミル…………」

娘「お茶、入ったわよ」

娘父「……本気であいつを助けるつもりなんだな?」

勇者兄(紙袋)「ああ」

娘父「あいつは世界に殺されそうになったんだ」

娘父「もし無事連れ帰ることができたとしても、」

娘父「平和協会の連中はなんやかんやで理由を付けて再びエミルを殺そうとするだろう」

勇者兄(紙袋)「……その時こそ、俺はあいつを守ってみせます」

娘父「世界に迫害されるってのは、それだけの理由があるってことだ」

娘父「不当に思えたとしてもな」

娘父「……あいつの身に何が起こっていたとしても、絶対に助けるんだな」

勇者兄(紙袋)「当たり前だろ! 大切な妹なんだ!」

娘父「…………そうか」


――――――
――

十二年と数ヶ月前

勇者父『くっ……』

娘父『お前! 行方不明だって聞いてたが何処行ってやがったんだ!?』

勇者父『おっぱいくれよ』

娘父『は!? いきなり何を!! 地獄に堕ちろ!!』

勇者父『いや俺にじゃなくて……この子にさ』

娘父『まさかお前が抱えてるのって……』

勇者父『ああうん俺の赤ちゃん』

勇者父『おまえんとこにも赤ん坊いるだろ?』

娘父『…………ミントの母乳はミモザのもんだ』

勇者父『頼むよ! またいとこのよしみで助けてくれ!!』

勇者父『母親と離れ離れになってこのままじゃ飢え死にしちまうんだ』


娘母『よしよし……』

娘父『……どこの女との子だ』

勇者父『西南の森の村出身の美人さん』

娘父『どんな事情で離れ離れになった』

勇者父『ああ、ええっと……』

娘父『あの赤ん坊、何かの魔法を施したばかりだろう。妙な魔力の残り香がするぞ』

娘父『答えろ。あの赤ん坊の母親は何者だ』

勇者父『……驚くなよ。魔王の嫁さんだ』

娘父『はっ…………』

勇者父『魔王の奥さん寝取っちゃった』

娘父『…………眩暈がする』

勇者父『安心してくれ、今日だけ休ませてくれたらもう迷惑かけねえから』

勇者父『魔力が回復したら故郷までバヒューンと飛んで帰るよ』

娘父『は?』

勇者父『俺、魔王の嫁さんからテレポーションのコツ教えてもらっちゃった』

勇者父『目的地の障害物判定が不安だから基本的に自分一人しか飛べねえけど、』

勇者父『赤ん坊くらいの大きさなら多分大丈夫だ。あいたたた……』

娘父『頭痛がする……』


――――――
――

娘父「なあお前、自分の母親の腹が膨れているのを見たことあるか?」

勇者兄(紙袋)「いや……覚えてません。エミルが生まれた頃、俺もまだ小さかったし」

勇者兄(紙袋)「まあエミルの時はあんまり腹が膨らまなくて、」

勇者兄(紙袋)「妊娠に気付かなかったって母さんは言ってましたが」

勇者兄(紙袋)「いきなり何ですか」

娘父「いや、何でもないさ」

娘父「生憎狭い家なんでな」

娘父「悪いが全員この部屋で雑魚寝してくれ」


魔法使い「ねえリヒト」

勇者兄「ん?」

魔法使い「もうエミルが攫われてから二ヶ月以上経ったわ」

魔法使い「今でも無事だと思う?」

勇者兄「そう信じないとやってらんねえよ」

魔法使い「魔族の領地、それも魔王の直轄管理地は大地に魔気が染みついているらしいわ」

魔法使い「常人なら死んでいる濃度だそうよ」

魔法使い「普通の真の勇者の子供であれば、光の力で浄化できるけど」

魔法使い「あの子は無理でしょうね」

勇者兄「…………お前、俺をどうしたいんだよ」

魔法使い「どうって……」

魔法使い「私はただ、エミルが死んでいた場合、」

魔法使い「あなたが戦意喪失してしまわないか心配なだけよ」

勇者兄「……もう寝かせてくれ」

魔法使い「…………」


翌朝

娘父「何が起きても現実として受け止めろよ」

勇者兄「はい」

法術師「お世話になりました」

魔法使い「あなたの料理、おいしかったわ」

娘「ありがとう」

武闘家「ありがとうございました」

娘「……私、エミルの身に何が起きていたとしても、帰ってきてほしいわ」

娘「あの子を絶対に助けて」

勇者兄「ああ、もちろんだ」


勇者(お兄ちゃん達、今頃どのあたりだろ)

勇者(多分、ぼくと同じように真っ直ぐ西に向かってるんだろうな)

勇者(お父さんやおじいちゃんの頃は、魔王自ら出向いてくることが多かったし、)

勇者(各地で争いがあったから、すぐには魔王城に向かわずあちこち旅をしていたらしい)

勇者(おじいちゃんは先々代の魔王と相討ち)

勇者(お父さんは先代魔王に大怪我を負わせて、結果的に死に追いやった)

勇者(お兄ちゃんと兄上は……どうなるんだろう)

勇者(……二人とも死なせはしない。絶対に)


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kokomade

>>80
娘父「その上あの時は」
は、魔王妃との子供を連れてきた時のことです

nagai......wasuu ooi......
mou sankai kuraide daiichibu owarasetai


魔王「エミル、私の上に乗ってくれないか」

勇者「はい」

魔王「くっ……」

勇者「……大丈夫? 苦しくない?」

魔王「問題ない。……動くぞ。そのままじっとしていてくれ」

勇者「うん」

魔王「5401……5402っ…………」

勇者「そんなに腕立て伏せしなくっても、筋力なら魔術で強化できるんじゃ」

魔王「体型をっ……作るためにやってるんだっ……5405っ……」


Section 15 誘拐


魔王「私の不在時にエミルが消えたとは一体どういうことだ」

バンッ、と机を叩く音が響いた。

魔王が一時間ほど城を離れている間に、城からエミルの魔力が消え去っていた。

メイド長「私も仕事から手を放せず、上級騎士達に護衛を頼んでいたのですが」

メイド長「一瞬でいなくなられていたそうです」

魔王「くっ……エミルも連れていくべきだった」

執事「妙ですね……一瞬で姿を消したということは」

執事「テレポーションで誘拐された可能性が非常に高い」

執事「しかし、魔王城でテレポーションを使用できるのはごく限られた者のみ」

魔王城には目に見えないシールドが張られており、

魔王城に出入りするためにテレポーションを使用できるのは魔王族の血を濃く引く者か、

許可されたほんの数名のみである。

ただし、許可された者がテレポーションを使用すれば、同行者も同様に出入りできる。

メイド長「ストゥルトゥス様は」

魔王「テレポーションを習得してすらいない。念のためブロックをかけてはいるが」


上級騎士1「も……申し訳ございません……」

上級騎士2「どのような罰でも受ける所存でございます……」

魔王「…………」

上級騎士達「「「「…………」」」」

魔王「……エミルが消えた際、妙な魔力は感じなかったか」

上級騎士3「ひっ……一瞬ですが、炎の魔力を感知しました」

上級騎士4「こう、激しく噴火する火山の様な……」

上級騎士2「探知されぬよう魔力を最小限に抑えているようでした」

上級騎士1「しかし確かに暑苦しい気でございました」

魔王「……下がってよいぞ。犯人の目星がついた」

魔王「相手が悪過ぎたな。今回は減給だけで済ましてやる」

上級騎士1「な、なんと寛大な……」

上級騎士2「我等は何処までも陛下についてゆきます!」


――
――――――

勇者「う……」

勇者(図書室でうとうとしてる内に何処かに連れ去られてしまったらしい)

勇者「えっと……」

    「まあ座れや」

勇者「は、はあ」

――――――
――


魔王「あやつ……今更何のつもりだ」

魔王「殺してくれる」

執事「陛下!?」

魔王はテレポーションを発動した。

執事「陛下! 僕もお供します! ……あーもう!!!!」

メイド長「陛下があれほど憤っておられるのを見たのは初めてよ、私」

執事「はあ……どうなることやら」


――遙か南の地・力の一族本家

魔王兄「――ってことがあってな」

勇者「えっそれほんとですか」

魔王「ヴォルケイトス!!」

魔王兄「マジなんだよ」

勇者「ふっふふっあははははははは!」

勇者「あ、兄上!」

魔王兄「よう! 三年ぶり」

魔王「……一体何をやっている」

勇者「ねえねえ、小さい頃メイドさん達から女装させられそうになって逃げ回ったってほんと?」

魔王「っ…………」

魔王兄「『ぼくはおとこなのに』ってぷるぷる震えててな! ははははは!!」

勇者「やばい! かわいい! くっふふふふふふ」

魔王「エミルに……何を吹き込んでいる……」

魔王兄「昔話に花を咲かせてるだけだぜ? がぁははは!」


魔王「……出でよ! フリージング・メテオ!」

魔王兄「おいおい怒んなよ! ヴォルカニック・ウォール!」

勇者「喧嘩しなくても」

魔王「エミル、今すぐその男から離れろ」

魔王「そやつの活火山の悪質さはシュトラールに匹敵する」

魔王「我が氷の息吹で死火山にしてくれるわ!」

魔王兄「参ったなこりゃ! はは!」

魔王兄「漸くお前に恋人ができたって聞いたからちょっとちょっかいかけただけじゃねえか」

魔王「黙れ変態色魔」

魔王兄「いやーまさかこんなちみっこい娘っ子と婚約するなんてなあ」

魔王「……ブリザード・サイク」

勇者「待って! 何もされてないから! 談笑してただけだから!! 暴力反対!!」


勇者「突然連れてこられた時はびっくりしたんだけど」

勇者「別に危害を加えられたわけじゃないし」

勇者「話してみたら楽しかったから、」

勇者「早く帰してもらわなきゃと思いつつ話に夢中になっちゃって」

勇者「ごめんなさい」

魔王「…………」

魔王兄「流石に弟の嫁候補に噴火しねえよ! がははは!」

魔王「……何故エミルを連れ去る必要があった」

魔王兄「あ? なんとなく誘拐しただけだ。面白そうだったからな! ははは!」

魔王「きまぐれもほどほどにしろ! ……帰るぞ、エミル」

勇者「お茶おいしかったです。ごちそうさまでした」

魔王兄「また来いよ」

勇者「はい、兄上の兄上!」

魔王「やめておけ!!!!」

力族長「あら陛下いらっしゃってたの? 一晩いかがかしらぁ」

勇者「だ、だめー!」

力族長「かわいいわねぇ、婚約者ごと食べちゃおうかしら」

勇者「ひぃっ」


魔王兄「お袋、誘っても無駄だぜ」

魔王兄「そいつ親兄弟にしか勃たねえんだよ」

力族長「あらぁ」

勇者「え、そうなの?」

魔王「っぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛」

魔王兄「世の中にはいいオンナが山ほどいるってのに可哀想な奴だよなあ」

魔王兄「五歳下の妹しか抱けるオンナがいないんだぜ」

力族長「不憫ねぇ……。オリーヴィア妃亡き今、」

力族長「あたくしを本当の母上だと思ってくださって構いませんのよ?」
魔王「 や め ろ ! ! 」

魔王「私はエミルさえいれば充分だ! 他の女を抱く必要なんぞ存在せん!!」

魔王兄「お前が『私』っつってても女っぽいだけだぞ」

魔王「ぅ゛……」

勇者「そ、そんなことないよ、大人っぽくてかっこいいよ」

魔王「……………………」


魔王「表に出ろ、絶対零度の氷山が貴様の棺となる」

魔王兄「お、この頃骨のある奴と戦ってなくて退屈してたんだ」

魔王兄「仕方ねえからどれほど腕を上げたか確かめてやるぜ」

魔王「我が凍てつく波動よ、穢れ果てた色情魔を滅せよ! ブリザード・サイクロン!」

魔王兄「相変わらずチビだな! 紅蓮の炎<ローリング・フレイム>!」

魔王「漁色家は失せろ! 不滅の氷山<インディストラクティブル・アイスバーグ>!」

魔王兄「よく噛まずに言えるなそれ! 溶岩の針<ラーヴァ・ニードル>!」

勇者「あぁ……喧嘩はやめてってば……」

力族長「仲良いわねぇ」

勇者「え?」

魔王「くっ、雹の大嵐<ヘイル・テンペスト>!」

魔王兄「おおっと! ただの物理殴打!!」

魔王「ぐはっ」

勇者「あっ兄上が負けた」


――
――――――

魔王「……この魔王が色情狂に敗れるとは……恥だ……」

勇者「ねえ兄上、さっきの話ほんとなの?」

魔王「……どの話だ」

勇者「その……親兄弟にしか……って……」

魔王「…………」

魔王「……確かに俺は身内に執着するあまり二親等以内の者にしか欲情できなくなったが」

魔王「問題でもあるのか……!?」

勇者「あ、いや、引いてるわけじゃないよ!?」

勇者(さっきのこと気にして一人称変わっちゃってる……)

勇者「ぼく、ヴェルが他の人のこと好きになっちゃったりとかしたらどうしようって、」

勇者「たまに不安になっちゃうんだけど、それなら心配する必要ないかなって」

魔王「……」

勇者「逆に安心できるなって思ったんだ」

魔王「……そうか」

魔王(体術を極めねば真の勇者に負けてしまうな……)


勇者「そういえば、さっき何処行ってたの?」

魔王「……知恵の一族の本家跡地だ」

魔王「魔属が生まれた原因についての有益な情報を得られる書物でも焼け残ってないかと思ってな」

魔王「興味があるのだろう?」

勇者「うん!」

魔王「残念ながら核心的な情報を得ることはできなかったが、」

魔王「魔物と動物の生態に関する古い書物と、」

魔王「ちょっとした魔法具を拾ってきた」

勇者「……? 綺麗なネックレス……」

円形の透明な石は、玉から尾が出たような二つの形に分かれた。
それぞれに紐がくくられている。

魔王「魔力を注いでみろ」

勇者「ん……」

勇者「あ、緑色になった。兄上のも、兄上の目とおんなじ白緑になったね」

魔王「これを交換し、互いに身に着けていれば、」

魔王「相手が何処にいるのか瞬時に知ることができる」

魔王「もし何かあった時のために、な」

魔王「……渡す前に誘拐されるとは思っていなかったがな」

勇者「わあ、ありがとう!」

勇者「ヴェルの石、パライバトルマリンみたい……綺麗……」

魔王「お前の魔力が注がれたこの石は……エメラルドそのものだな」


――大陸南西・シルヴァ地方

森長老「よくぞいらっしゃいました、真の勇者様」

勇者父「『元』だけどな」

森長老「このような平和な森に勇者様が訪れるとは珍しい」

勇者父「この辺は魔物の気性も穏やかだしな」

森長老「どのようなご用件でいらっしゃったのでしょうか」

勇者父「この土地には、人や魔物の心を穏やかにする力がある。そうだろ?」

勇者父「その力の結晶を少々分けていただきたくてな」

森長老「……こちらへ」


――洞窟

暗闇の中、黄緑色の鉱物があちらこちらで輝いている。

森長老「二十年ほど前、我が村は魔王の襲撃を受け、多くの犠牲者が出ました」

森長老「わずかな生存者と近隣の村の協力によりどうにか再興し、」

森長老「どうにか元の平和を取り戻すことができましたが」

森長老「それも、この石の輝きが皆の心を癒してくれたからです」

森長老「この石の名はオリヴィン、宝石としてはペリドットと呼ばれておりますな」

勇者父「ほぉう、こりゃ綺麗だ」

勇者父「じゃ、このでかいのを一つもらってくか。金はいくらだ」

森長老「お金など要りませぬ」

勇者父「いいのか? あの村の財源だろ、これ」

森長老「あの恐ろしい魔王を倒してくださった勇者様には返しきれぬ恩があります故」

勇者父「そうかい、ありがとさん」


森長老「魔王に連れ去られてしまった美しい娘がおったのですが」

森長老「彼女も、この石のような瞳を持っておりました」

勇者父「……エリヤ・ヒューレー、だろ?」

森長老「な、なんと」

森長老「彼女を助けてくださったのですか!?」

勇者父「……守りきってやれなかった。風の噂じゃもう死んじまったらしい」

森長老「……そうでございましたか」

勇者父「でも、彼女の遺志は継ぐつもりだ」

勇者父「きっと、次世代の奴等も彼女の願いを叶えるため奮闘してくれるだろう」


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おまけ

勇者「ねえねえ、ヴェルの昔のこと教えて!」

執事「そうですね……数十代ぶりに女性の魔王が誕生したって噂が流れたりしてましたね」

勇者「ふふっ……」

執事「いやあ、初対面の男性から突然求婚された時は面白かったですよ」

執事「陛下は男性ですよって伝えた時の相手の顔ったらもう」

勇者「さぞ残念そうな顔したんだろうね!」

執事「そりゃあもう、この世の終わりだって表情でしたよ」

勇者「っははははは」

魔王「貴様等何の話をしている」

勇者「あっごめん何でもない!」

魔王「……コバルト、あまり余計なことを言うと解雇するぞ」

執事「すみません! 慎みますから!」

魔王「鍛錬に付き合え」

執事「打たれ弱いですもんね陛下。今行きますよ」

執事「…………僕がいなかったら今頃権力持ってなかったくせに」

kokomade
ヴェルディウスは物理防御力低そう


魔王母『ネグルオニクスは憎いわ』

魔王母『でも、もし争いのない世界だったら……って、よく思うの』

魔王母『エミル……自ら産んでおいて、』

魔王母『私はあなたの体を作り替えることでしかあなたを守ることができない』

魔王母『お母さんの身勝手さと無力さをどうか許して……』


Section 16 対決


勇者(平和協会の命令がある限り、お兄ちゃんは魔王と闘わざるをえない)

勇者(そして、ヴェルはお兄ちゃんを迎え撃つつもりでいる)

勇者(ぼくはどっちも死んでほしくない)

勇者(二人とも大切な人だもの)

勇者(ぼくには何ができるだろう)

狼犬「わんわん!」

勇者「パルル……ぼく、どうすればいいのかな」

勇者「お兄ちゃんは、魔族になったぼくのこと、妹だって思ってくれるのかな」


魔王「荒野で真の勇者と闘うことも考えたのだがな」

魔王「やはり、謁見の間の特殊防壁内で闘った場合が最も犠牲が出る可能性は低いだろう」

執事「勇者と闘うための設備が整ってますもんね」

執事「しかし、本当に【闇王の剣】で闘うおつもりですか?」

魔王「ああ」

執事「無理に代々魔王に受け継がれている魔剣を使わなくても、」

執事「その……体格に合った剣を使われた方がいいと思いますよ」

魔王「……闇王の剣は闇の力の伝導率があらゆる武具の中で最も高い」

魔王「この剣を使いこなせてこそ一人前の魔王だ」

執事「でも、代々受け継がれているとはいっても、開発されたのたったの数百代前ですし」

執事「陛下用の新しい闇の剣でもこしらえておけばよかったですね」

魔王「…………」

執事「いえ、あの」

執事「決して陛下の体格では闇王の剣をまともに振るえないと言っているわけでは」

魔王「俺より低身長の者にどうこう言われたくはない!!」

執事「僕達竜族は成長がゆっくりですからね」

執事「十五年後くらいには陛下より長身になってる自信がありますよ」

魔王「…………」

執事「……そろそろ一人称戻したらどうです?」

魔王「ほっといてくれ」


勇者「そういえば、真の勇者が死んだら光の珠は光の大精霊様に回収されるけど」

勇者「闇の珠はどうなるの?」

メイド長「所有者が生前に後継者と認めていた人物の元へ自動的に受け継がれます」

メイド長「また、後継者を指定していなかった場合、」

メイド長「最も近しい血縁者が新たな魔王となりますわ」

勇者「なるほど」

メイド長「陛下はまだ後継者を指定しておられないはずですので」

メイド長「陛下が敗れた場合はおそらくヴォルケイトス様が魔王となられるでしょうね」

執事「彼は政治に無関心ですからね~……揉めるでしょうね」

メイド長「ヴェルディウス陛下が負けるはずありませんもの」

メイド長「心配には及びませんわ」

執事「本当にそう思うかい?」

メイド長「……不安ですわ」

勇者「……」

メイド長「だ、大丈夫です! コバルトもおりますしきっと真の勇者を…………あっ」

勇者「…………どっちも助かる方法、ないのかな……」




勇者(お兄ちゃんは着実にこっちに向かっている)

勇者「ねえ、兄上」

勇者「ぎゅうってして」

魔王「……」

勇者「頭撫でて」

魔王「……眠れないのか」

勇者「ん…………」

魔王(不安なのだろう。当然だ)

勇者「ヴェル……」


翌日

魔王「……真の勇者を倒せば、エミルは俺を恨むだろうな」

執事「手加減すれば陛下が死んじゃいますしね」

執事「どちらにしろ悲しませることになるでしょう」

魔王「だが闘わぬ道はなかろう」

執事「……真の勇者は、魔族となったエミル様を自分の妹とわからず、」

執事「殺してしまう可能性も否めません」

魔王「どのような結果になったとしても、エミルは守り通せ。いいな」

執事「はい」


勇者兄「もうじき魔王の領地だな……食料は充分あるか?」

法術師「ええ。亜空間携帯袋にたっぷり入ってるわ」

武闘家「盗賊か雑魚敵としか戦ってこなかったおかげで実戦経験が乏しいな」

勇者兄「だが退くわけにもいかない」

魔法使い「ここまで襲われなかったんだし、本当に魔王と闘う必要なんてあるのかしら」

勇者兄「俺達を油断させようとしているのかもしれない」

勇者兄「何より、エミルは絶対に取り戻さなければならない」

勇者兄「…………行くぞ」

――
――――――

数週間後

魔団長「陛下、真の勇者が間近まで近付いているとの報告が入りました」

魔王「城にいる者は全員北へ避難させよ」

魔王「軍は城下町の警護にあたれ」

魔王「賢者、魔術師は町にシールドを張れ」

魔王「真の勇者が通るべき道は、この魔王城に繋がる大通りだけだ」

魔王「絶対に犠牲者を出すな」


勇者「ぼくも城に残ります」

魔王「ならぬ」

勇者「お兄ちゃんと話をさせて!」

魔王「危険だ」

勇者「お願い! おねが――」

魔王「……しばらく眠っていてくれ。すまないな、お前の思いを無碍にしてしまって」

魔王「メルナリア、エミルを北の離宮へ」

メイド長「……はい」

執事「いいんですか、これで」

魔王「彼女を守るためだ」


勇者兄「俺は……エミルを助ける!」

魔王「私は……エミルを守ってみせる」


勇者(やめ……て……)

勇者(たたかわな……いで…………)


リヒト達が城下町の門に訪れると、大街道の両端に青い障壁が伸びた。

勇者兄「真っ直ぐ来いってか」

リヒトは、焔の様な橙色の瞳で黒くそびえ立つ魔王城を見据えた。

勇者兄「……全員、覚悟はできているな」

法術師「ええ」

魔法使い「まあね」

武闘家「一応な」

法術師「みんな、生きて帰りましょうね」


魔王「お前は逃げないのか」

執事「お供しますとも」

執事「じゃなきゃ、あなたが負けた時誰が真の勇者を足止めするんですか」

魔王「……ふん」

執事「ちなみに、陛下が戦闘不能になったら僕が雷撃で離宮に合図を送り、」

執事「賢者がテレポーションでエミル様を遠くへお送りする手筈となっております」

魔王「…………いつもすまないな」

執事「今更水臭いね。親友じゃないか」



勇者兄「魔王ヴェルディウス……!」

魔王「来たか、真の勇者リヒト・スターマイカ」

勇者兄「エミルを返せ!」

魔王「彼女は我が眷属となった」

魔王「二度と貴様の元には行かせぬ」

勇者兄「なら力づくで取り戻すまでだ!」


魔王「人間がエミルに何をした?」

勇者兄「…………」

魔王「孤独な旅へ追いやり、命を奪おうとした」

魔王「人間の元へ帰ったところでエミルは幸せになどなれはしない!」

勇者兄「ああ、俺が聖域なんて安全地帯で腑抜けている間に、」

勇者兄「エミルが散々な目に遭わされていたことは事実だ」

勇者兄「だが俺は真の勇者として目覚めた! クソうるさい世間なんて変えてみせる!」

魔王「ふん。大言壮語もほどほどにするがよい」

魔王「言ったはずだ、貴様がエミルを守りきれなかったら我が迎えに行くとな」

勇者兄「はっ、やっぱりお前あん時の男か!」

勇者兄「決着をつける時が来たようだな!」


魔王「コバルト、手を出すな。我一人で充分だ」

執事「はいはい」

勇者兄「みんな、俺一人でやらせてくれ」

魔法使い「ちょっと本気!?」

勇者兄「俺の兄としてのプライドをかけた闘いなんだ」

魔法使い「で、でも」

法術師「アイオ」

魔法使い「…………」

勇者兄「――いくぜ、光焔の砕破<シャインスパーク・クラッシュ>!」

魔王「闇氷の障壁<ダークアイス・ウォール>!」


勇者兄(……胸が熱い)

勇者兄(光の珠が激しく振動している)

魔王「光の珠と闇の珠が最も力を発揮するのは共に在る時だというのは本当だったようだな」

勇者兄「そう……敵を倒すため、俺の光の力は闇を前にして最高に輝きを増す!」

魔王「どれほど輝こうと目晦ましにもならぬわ!」

魔王「我が闇で覆い尽くしてやる」

魔王は体に闇を纏った。

勇者兄「はっ、闇は光に叶わねえって相場が決まってんだよ」

真の勇者も同じく光を纏い、光の聖剣で魔王に斬りかかった。

魔術を交えた激しい剣戟が繰り広げられる。


武闘家「一撃一撃が大振りだな、魔王」

勇者兄「はっ、剣に振られてるぜ!」

魔王「くっ!」

リヒトの鋭い剣捌きに魔王の黒き大剣が弾き飛ばされた。

執事「あーあ、言わんこっちゃない」

勇者兄「残念だったな!」

魔王「甘いな。――出でよ、我が愛剣・氷柱の孤独【ソリトゥス・スティーリアエ】」

魔王の手元に新たな剣が現れ、リヒトの攻撃を跳ね返した。

勇者兄「なっ!?」

執事「最初からあれ使えばよかったのに」

魔王「驕るな愚か者!」

勇者兄「はっ、くっ!!」

勇者兄(スピードが上がりやがった!)


魔法使い「リヒト! ああもう見てらんないわ!」

執事「おっと」

アイオ達の目の前に小さな雷撃が落とされた。

執事「邪魔はさせませんよ」

魔法使い「くっ……」

魔王「エミルの兄は我だけで充分だ!」

勇者兄「そんなにっ、兄妹ごっこっ、したいのかよっ!」

魔王「『ごっこ』? ふん、エミルは我が同腹の妹だ!」

勇者兄「な、何言ってやがる!?」


勇者「う……」

勇者「! お兄ちゃんとヴェルは……」

メイド長「現在、闘っておられます」

勇者「止めなくちゃ!」

メイド長「エミル様、お待ちください!」

勇者(光の力は魔属にとって猛毒)

勇者(同様に、闇の力で傷を負わされた人間も無事ではいられない)

勇者「お願い、二人とも……まだ無事でいて!」


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光と闇が拮抗し、激しく衝撃音を立てている。

勇者兄「うぉぉおおおおおお!!」

魔王「ぐっ…………!」

勇者「兄上! お兄ちゃん!」

魔王「エミル!?」

勇者兄「エミル……だと……!?」

勇者「よかった、間に合った……」

法術師「エミル……ちゃん……?」

魔法使い「あれ、どう見ても魔族じゃない」

武闘家「…………」


メイド長「エミル様ーっ! ひっ、真の勇者……」

狼犬「くぅ~ん」

勇者兄(顔も、髪の色も、声色も違う)

勇者兄(でも、変質してはいるが確かにあの魔力はエミルの物)

勇者兄(何より、あれは……エミルの瞳だ)

勇者兄「嘘……だろ……」

魔王「何故此処に来た」

勇者「だって」

勇者「皆で考えれば、もしかしたら血を流さずに済む方法が見つかるかもしれないもの」

勇者「ぼくは、誰にも傷ついてほしくない!」

魔王「エミル……」

勇者兄「……魔王! エミルを人間に戻せ!!」

勇者兄「よくも俺の妹を魔族なんかに……!」

魔王「まだわからぬのか! エミルは元より魔族として生まれついた」

魔王「人間の姿こそ偽りのものだ!」


勇者兄「ふざけるな!!!!」

勇者「やめて! 闘わないで!!」

勇者「いやああああああああああ!!!!!!!!」

その瞬間、凄まじい衝撃波が弾けた。










魔王「う……」

勇者「はぁ…………」

勇者「っ…………」

勇者(力が暴発するなんて……)

魔王「え、み……る……」

勇者「兄上! ごめんね! 大丈夫!?」

エミルは真っ先に魔王の元へ駆け寄った。

勇者兄「えみ、る……」

執事「はは、魔力の衝撃で一時的に体が麻痺しているだけです」

執事「おそらく全員ダメージがあるわけではありません」

地面に這いつくばったままでコバルトが言った。

魔王「……傷はない」

勇者「はあ、よかった……」


勇者兄「エミル、なあ、そいつに洗脳されてるだけなんだよな……?」

リヒトはどうにか立ち上がりながらエミルに語りかけた。

勇者「……ごめんね、お兄ちゃん。ぼくは正気だよ」

法術師「嘘……」

魔法使い(やっぱり、あいつ化け物じゃない!)

武闘家「体中ピリピリする」

勇者兄「くっ……」

勇者兄「魔王……ブッ倒す……!」

勇者「待って!」

エミルはヴェルディウスを庇うように両手を広げ、リヒトの前に立ちはだかった。

勇者兄「そこをどけエミル!」

勇者「お兄ちゃん。お兄ちゃんにとって、魔属は殺して当然の敵。そうでしょ?」

魔王「エミル、逃げろ……!」

メイド長「危険です! 早くこちらへ」

勇者「ぼく、魔族なんだよ。ぼくのこと、殺せる?」

勇者兄「っ――――」


勇者兄「……ちくしょう」

手から剣が滑り落ち、リヒトは両膝を着いてうなだれた。

勇者「……お兄ちゃん、ぼくのこと、心配してここまで来てくれたんだよね」

勇者「ありがとうね」

勇者兄「…………」

勇者「ぼく、お兄ちゃんとお母さんが違ってたんだ」

勇者「ぼくの本当のお母さんは、先代の魔王の后。今の魔王のお母さんだったの」

勇者兄「…………」

勇者「だから、本当に……半分は、魔王と同じ血が流れてるんだ」

勇者兄「ぁ……あ……」

勇者兄「俺は……俺は……どうしたら……」

勇者兄「っぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!」

勇者父「おまえら何やってんの?」

勇者兄「あああ!? あ?」

勇者「え?」

魔王「っ――」

魔法使い「は!?」

法術師「あらまあ!」

狼犬「わふ?」

魔王父(死ね)

執事「わお」

メイド長「!?」


武闘家(気配近付いてたのに誰も気づかなかったのかよ)

勇者「お……父……さん?」

勇者父「平和協会の支部が襲撃を受けて魔王討伐どころじゃないってのに――」

勇者父「あ、そうかそうか! 魔族の領地にいておまえらには情報入らなかったのか!」

勇者父「それなら仕方ないよなあ!」

  「「「「「「「「……………………」」」」」」」」

勇者父「おっエミル! 久しぶりだなあ! おまえ魔族に戻ったのか~」

勇者「…………」

勇者父「はっ……ってことは! おまえ早いなぁ~流石お父さんの子だ!」

勇者父「したんだろ? セックス」

勇者「……え?」

勇者父「だから、魔族の彼氏とラブラブセッ」

勇者「わあああああああああああ!!!!!!!!!!」

勇者兄「は?」


勇者父「相手は誰なんだ? お父さんよりイケメンか!?」

魔王「私だ」

勇者兄「は?」

執事(一人称安定しないなあ)

勇者父「おお! こりゃ綺麗な顔だわ! でもおまえら兄妹じゃなかったっけ?」

魔王「近親婚なぞ珍しいことではない」

勇者父「お、そうか! なら問題ないな!」

勇者兄「…………は!?」

勇者「……………………」

勇者兄「魔王テメェやっぱブッ殺す!!!!」

魔王「ふん。返り討ちにしてやる」

勇者「やーめーて!!」


魔王「何用で我が城に参った」

勇者父「あーまあ、一つずつ説明するわ」

勇者父「二万五千年前に大いなる破壊の意思、別名破壊神が封印されたのは知ってるだろ?」

勇者父「そいつが復活しかけてる」

勇者兄「何だと……」

勇者父「この頃の異常気象や災害もそいつが原因だ」

勇者父「人魔の争いなんてやってる場合じゃない。協力しあわなきゃ全員お陀仏だ」

勇者父「というわけで、魔王の協力を仰ぎにここまで来たわけだ」

魔王「ふむ」

勇者「今までお父さん一体何やってたの?」

勇者父「十二年前、エミルをカトレアに預けた頃に光の大精霊さんから助けてーって言われてなあ」

勇者父「東奔西走、二万五千年前の資料を探しに旅をしてたってわけだ」

勇者父「彼女も五千年前に代替わりしたばっかで、当時のことは詳しくな」

勇者兄「十二年前!?」


勇者兄「そんな前から助けを求められていたなら、何で俺は魔王討伐の旅なんてしてたんだよ」

勇者兄「平和協会の連中は一言もそんなこと言ってなかったぞ」

勇者父「おまえ、光の大精霊さんの声聞いたことあるか?」

勇者兄「い、いや……」

勇者父「差別意識が強いと彼女の声は聞こえないんだとよ」

勇者父「あと、魔族も彼女の声を聞くことはできない」

勇者父「魔属ってのは、破壊神の呪いを受けて生まれたらしいからな」

勇者「!」

勇者父「光があれば闇があるように、正反対の属性を持つ物があらゆる物に対して存在する」

勇者父「創造神がこの世界を創った時に破壊の意思が生まれた」

勇者父「そして、光の大精霊は創造神の子供みてえなもんだ」

勇者父「相反する者との接触は困難を極める」

勇者父「あ、光の大精霊さんに限らず、大精霊はみんな創造神の欠片らしい」

勇者父「ちなみに、闇の大精霊さんもな」


勇者父「というわけで、大精霊さん方の声を聞ける勇者は俺しかいなかったわけだ」

勇者父「なんせ魔族の女の子と子供作っちゃうような人間だし! ははは!」

勇者兄「…………」

勇者父「……が、あんまり破壊神云々言って民衆の不安を仰ぐのはよくないし、」

勇者父「そんな神話レベルの話を信じる奴もそういない」

勇者父「平和協会には一応訴えたが無駄だった」

勇者父「あいつら利益第一で動いてるし、」

勇者父「俺、一時期とある女の子と行方晦ましたりしてたから信用なかったわけよ」

勇者(母上のことだ……)

勇者父「だから俺はギリギリまで一人で行動してたってわけだ」

勇者父「いやあ苦労したわ、破壊神に関する情報集めるの」

勇者父「破壊神を封印するために戦った二人の勇者の内、一人は姿を消した」

勇者父「お父さんはその勇者の力を受け継ぐ者を探さなきゃいけなかったわけよ!」

勇者父「二万五千年前に行方不明になった力なんだぞ!! この苦労わかる!?!?」

勇者父「けほっ……ずっと喋ってたら喉乾いた。水ない?」

魔王「コバルト」

執事「はい」

メイド長「あ、私が用意いたします」


勇者父「あんがと」

勇者父「んでまあ、ついに破壊神の封印が本格的に緩んできちまった」

勇者父「数日前、破壊神に操られた人間により、平和協会の支部が破壊されたんだ」

勇者父「漸くお父さんの言ったことを信じた平和協会は、魔王討伐を取りやめ、」

勇者父「対破壊神の体勢を整えるという決断を下したわけよ」

勇者兄「…………」

勇者父「だからおまえらが争う理由なんてないわけよ!」

勇者父「手を組んで仲良くやろうぜ!」

法術師「突然のことすぎて頭に入ってこないわ……」

勇者父「要するに、共通の敵が現れたから共闘しようぜってことだ」

勇者「あ、で……その、見つかったの? もう一つの力」

勇者父「大陸中探しても見つからなかった……が、一つ閃いたことがある」

勇者父「光の珠と闇の珠って共鳴するだろ?」

魔王「ああ」

勇者兄「めっちゃ力が増幅した」

勇者父「あれ、相手を倒すために強くなってるわけじゃないんじゃね? って」

勇者兄「何だと!?」

二人の勇者は、大精霊からそれぞれ力の結晶を授かり、
大いなる破壊の意思を封印した。
勇者の内一人は東にある故郷へ帰還し、
もう一人の勇者はいずこかへ姿を消した。
時を同じくして、大陸の生命の半分は魔に侵された。


勇者父「二人の勇者は、光の大精霊と闇の大精霊からそれぞれ一個ずつ力を授かったんだ」

勇者父「俺の仮説だけどな」

勇者父「確かめようにも今の闇の大精霊さんは寝てばっかだし、」

勇者父「多分当時のことは把握してないだろう。悠々自適だからなー彼女」

法術師「でも、闇の力は人間や動物にとって猛毒……」

勇者父「呪いで変質したんだろう、おそらく」


魔王「我が祖先もまた勇者だったかもしれないというわけか」

勇者「破壊神の呪いを受けて、魔族になってしまったから姿を消したのかも……」

勇者父「ふぅ~疲れた。今日泊めてもらっていい?」

魔王「構わんが、一つ聞きたいことがある」

勇者父「ん?」

魔王「……エミルに施されていた封印の解術条件。あれは一体何だ……!?」

魔王「あれのおかげで……どれほどの苦難を強いられたことか……!!」

勇者父「いやでもあの条件考えたのエリヤだぞ?」

魔王「な……ん、だと……」


勇者父「エミルには人間として幸せになってほしかった」

勇者父「だが、もし魔族の男と恋に落ちたら……」

勇者父「人間の体のままじゃ子供を産むなんて不可能だ」

勇者父「だから、両想いの魔族の男と交わったら封印が解けるようにしよう」

勇者父「……っていう、親の真心だったわけよ」

魔王「…………」

勇者「…………」

勇者父「何で『苦難を強いられた』のか聞いていい?」

勇者「やめて」

魔王「………………………………」

勇者兄「……ぐすっ……俺のっエミルがっ……こんな男にっ……」

勇者兄「うわあああああああああん!!!!」

狼犬「?」

狼犬「あおおおおおおおおおおん!!!!」

勇者「パルル、あれ遠吠えじゃないよ」


第一部 完
DISC 2 に取り換えてください。


夜の闇の中、炎が全てを焼き尽くそうと燃え上がっている。

――響け 滅びの唄 純然たる破滅の意思よ 

少女は唄いながら、刀を振るった。

――私と、私達の命を奪った人間を、私は決して許しはしない

血飛沫を浴びても尚、少女は笑顔を崩さなかった。

――ねえ、私、生まれ変わったのよ。

瞳に宿った破壊の神気に駆り立てられるがまま、彼女は憎しみに身を任せた。

――もう一度、あなたに会うために

思い出の地を目指して、少女は歩を進める。

kokomade
第二部はちゃんと骨組み作ってからやりたいので、開始するまでちょっと時間かかるかもしれません
先日申し上げました通り、三月中には完結させます
じゃないと忙しくなってエタるので


勇者兄「まさか敵の本拠地で一泊することになるとは……」

魔法使い「魔気濃いわね……うっぷ」

勇者兄「俺の近くに寄れよ、光の力で結界張るから」

魔法使い「あ、ありがと」

勇者「よかった……誰も死なずに済んで……」

勇者「でも、戦いはもう始まってるんだね」

勇者父「お前の夢を叶えるチャンスだぞ?」

勇者「え?」

勇者父「仲が悪かった者同士が最も仲良くなりやすい時って、どんな時か知ってるか?」

勇者父「共通の敵ができた時だよ」


Section 17 里帰り


勇者「でも……」

勇者父「相手は神様ってか、破壊衝動そのものだ。生命を持たない」

勇者父「それどころか人間を操って攻撃してくるやっかいな奴だ」

勇者父「ためらうことはないぞ」

勇者父「話し合いが通じる奴でもない。戦うしかないんだ」

勇者「……わかった。ぼくのこの魔力を活かす時が来たのかもしれない」

勇者「戦うよ、ぼく」

勇者父「よしよし」

勇者「ん……」

勇者父「一人でよくがんばったな」

勇者「……何で助けに来てくれなかったの?」

勇者「結果的にヴェルのこと思い出せたからよかったけど……」


勇者父「昔、今の魔王と一緒に遊んでただろ?」

勇者「えっ知ってたの?」

勇者父「まあな」

勇者父「ガキの頃のあいつを見てすぐに正体を見破ったさ」

勇者父「あいつがお前を殺すはずがないと信じてた」

勇者「……そっか」

勇者父「何より、お前の人生はお前のもんだ」

勇者父「お前がどう生きるかはお前と周囲の奴等次第」

勇者父「赤ん坊のお前を守るために魔族の血を封印せざるを得なかったが、」

勇者父「お前はもう赤ん坊じゃない。自分の意思を持って生きてるだろ?」

勇者父「生命の危機にでも晒されようもんなら助けるが、」

勇者父「お父さんは必要以上に子供の人生に介入しない主義なんだ」

勇者兄「いやふざけんな!!!!」

勇者父「下手に乗り込んで騒ぎを起こせば戦争になりかねんだろう」

勇者父「そもそもお父さんもう肉体衰えてるし魔王に歯向かうなんて無理無理無理」

勇者兄「エミルがどんなに怖い思いをしたのか想像できねえのかよ!?」

勇者「お兄ちゃん落ち着いて」


勇者兄「ああエミル!」

勇者「ふぎゃっ」

リヒトはエミルを抱きしめた。

勇者兄「どんな姿をしていてもお前は俺の妹だ!」

勇者兄「すぐに助けてやれなくてごめんな、ごめんな」

勇者「お兄ちゃん……」

勇者兄「これからは絶対守るからな」

魔法使い「…………」

魔王「今すぐ我が妹から離れろ下郎」

勇者兄「んだとぉ!?」

勇者「お願いだからケンカしないで」


魔兵士1「ひっ真の勇者一行だぞ」

魔兵士2「殺される! 魔王陛下は何故避難勧告を解除されたんだ……」

法術師「こう恐れられると傷付くわね……当然のことなのだけれども」

武闘家「戦わなさすぎて旅立つ前より腕なまってる気がするんだよな」

勇者「じゃあ久しぶりに打ち合いやろうよ」

武闘家「そうするか」

魔法使い「あんた剣なんて使えたの?」

武闘家「エミル達とは流派違うけど少しはな」

勇者「……ぼくのこと、まだ友達だと思ってくれてるの?」

武闘家「そもそもお前が魔族だって知ってたし俺」

勇者「え!?」

勇者兄「は!?」

魔法使い「何ですって!?」

武闘家「俺と俺の師匠だけは気付いてた。気功のおかげでな」

勇者「じゃあ……ぼくが魔族だって知った上で友達になってくれたの……?」

武闘家「ナンパに利用できさえすればそれでいい」

勇者「…………」

勇者「……あ、ありがとう」

武闘家「そんなドレスじゃ剣振れねえだろ。さっさと着替えてこいよ」

勇者「うん」

魔王「奴は……一体エミルとどのような関係なのだ……」

執事「ただのご友人らしいですから落ち着いてください」


魔貴族A「まさか真の勇者と手を組むとは……そもそも破壊神なぞ実在するのか?」

魔貴族B「どうにかして王位を剥奪したいものだが……」

魔貴族A「逆らえばヴォルケイトスに妻を寝取られてしまうからな」

魔貴族B「何人の女が奴に骨抜きにされてしまったことか……」

魔貴族A「我等に抗う術はないな。大人しくしておくとしよう」

執事「おや、賢明な判断をなさったようで」

魔貴族A「ひぃっ!」

執事「悪いことは言いません。邪な考えは捨てた方がいいですよ」

魔貴族B「だ、だが、真の勇者を城に泊めるとは危険にもほどがあるだろう」

執事「先程伝令があったと思いますが、」

執事「彼等はそちらから襲わない限り魔族に危害を加えることはありません」

執事「見張りもついています。どうかご安心を」

魔貴族A「よく人間を信用できたものだな……」

魔貴族A「……コバルト。お前は人間が憎くはないのか」

魔貴族A「お前の群れは……」

執事「あなた方には関係のないことです」


魔王「これを機に和平交渉を行いたい」

勇者父「ほう」

魔王「沈黙を保つだけでは進展しないからな。ずっと機会を伺っていた」

魔王「私個人が戦うだけでは何かと不都合だ」

魔王「争いの混乱の中で人魔の争いが起こる可能性もある」

魔王「古の神話では、破壊神は人間を操った他、」

魔王「心を持たぬ人形により大地を血で染めたと言い伝えられている」

魔王「魔の気がある以上融和は困難であろうが、共同戦線を張るべきだ」

勇者父「俺も同じことを考えていた」

勇者父「各国の王様集めて会議でも開きたいもんだな」

魔王「ああ」

魔王父『我の可愛い息子に近付くなこの汚らわしい色情魔』

勇者父「……お前さん、俺を恨んでないのか?」

魔王「恨んだところで何になる。母上が悲しむだけだ」

魔王父『何故許せる!? お前の母親を我から奪ったのだぞ!!』

勇者父「そうかい。随分心の広い魔王様だな」

魔王父『死ね、死ね、体の端から少しずつゴキブリに噛み千切られて生き延びたことを後悔するがよい』

勇者父(悪寒が)


魔法使い「くっ……」

魔法使い「何なのよもう!」

魔法使い「あいつ魔族だったのにそれでも妹だなんてありえないありえないありえない」

魔法使い「許せない……何で死んでなかったのよ……!」

魔法使い「もういや――――うっ」

法術師「アイオ!? どうしたの!?」

魔法使い「一瞬、頭が痛くて……」

法術師「大丈夫? 今治療を」

魔法使い「……平気よ」


魔王城・食堂

勇者父「うめえ」

魔法使い「よく抵抗なく魔族のごはん食べられるわね……」

勇者「そっか……ぼく、死んだことになってるんだ」

武闘家「死んだままにしとけばお前は自由だ」

勇者「…………」

勇者「でも、お母さんに会いたい。町のみんなや、旅の途中で出会った人達とも」

武闘家「会いに行けば生存していることが確実に平和協会にバレるな」

勇者「ぼく、王様や平和協会に嫌われてるから、人間の社会に戻るのは怖いけど……」

勇者「でも、一生会わないままだなんてやだよ」

勇者兄「何かしらの交渉をして自由を確保してやりたいもんだが」

勇者父「破壊神対策に協力しますっつっとけば当分大丈夫だろ」

勇者父「卑怯な手で貶められたりしなけりゃの話だがな」

魔王「エミル……やはり、母親に会いたいか」

勇者「……うん」


魔王「……私も挨拶に伺わねばと思っていた」

勇者「え!?」

勇者兄「は!?」

魔王「明日、テレポーションで全員ブレイズウォリアまで送り届けよう」

魔王「破壊神の話をするにしても、平和協会の支部よりは本部の方がいいだろう」

勇者兄「お前……マジでうち来るのかよ?」

魔王「人間に化ける術なら心得ている」

執事「ちょっと陛下。仕事はどうするんですか」

魔王「……適当に戻る」

執事「魔王だってバレたら騒ぎになりますよ」

魔王「我が魔術の腕を疑っているのか」

執事「……はあ」


翌日

勇者「じゃあ行ってくるね!」

執事「はい。お気をつけて」

メイド長「絶対帰ってきてくださいね! ううっ」

執事「今生の別れじゃないんだから……」

執事「……テレポーション使った時点で高位の魔族だってバレませんかね?」

魔王「適当に誤魔化すまでだ」

執事(不安過ぎる……)

勇者父「こんな大人数一気に移動できるなんてすげえな。流石エリヤの息子だ」

魔王「……ふん」

勇者「元の姿に変身できてるかな」

武闘家「おっけ」


――東の果ての国ブレイズウォリア

勇者兄「久々の故郷だ。変わんねえな」

勇者「……帰ってこられたんだ」

勇者「お母さーん!」

勇者母「……エミル? エミルなの!?」

勇者「ぼく帰ってきたよ!!」

勇者母「ああエミル! 夢じゃないのね?」

勇者母「よかった……よかった……」

勇者「お母さん……会いたかったよ…………」


エミル達の家

アイオとセレナ、コハクはそれぞれ自分の実家に戻っている。

勇者母「そう……大変だったのね」

勇者兄「一休みしたら国王陛下に会ってくるよ」

勇者兄「あれ父さんは」

勇者「あっちで寝てる」

勇者母「そちらの方は」

勇者「あ、えっとね、ヴェルっていうんだよ」

魔王「……私はエミルの婚約者だ」

勇者母「まあ!」

勇者兄「…………」

勇者母「こ、こ、婚約者だなんて!」

勇者母「ごめんなさいねちゃんとしたおもてなしもできなくて」

勇者母「ええと、どこの国のどんな方なのかしら」

魔王「かなり西の方の国の王族だ」

勇者(嘘ではない……)

勇者母「お、王族……」

カトレアはよろめいた。

勇者「わー! お母さんしっかり!」


勇者母「そんな高貴な方が……うちの娘と……」

魔王「エミルは我が眷属だ。身分の差の問題はな」

勇者「待って! いきなり話してもややこしくなるから!」

勇者母「うう…………」

勇者「えっと……夜にまたゆっくり話そうか」




魔王「では私は城に戻る」

勇者「えっもう帰っちゃうの?」

魔王「城を長時間空けるわけにはいかないからな」

魔王「お母上には、お前から説明しておいてくれ」

勇者「うん」

魔王(上手く話せる自信がない……コバルト並みの会話力が欲しいものだ)

勇者兄(二度とくんなし)

魔王「……お前思いの良い母親のようだな」

勇者「!」

勇者「うん!」


ブレイズウォリア城・謁見の間

国王「ほう。シュトラールの術で魔王城からここまで一瞬で移動したと」

勇者父「魔王の協力も得られることとなりました」

勇者父「これを機に、魔王は和平を結ぶことを望んでおります」

国王「ふむ……」

協会代表「信用できぬな……所詮魔族の言ったことだ」

協会代表「裏切られる可能性も充分にある」

勇者父「今の魔王は先代までとは違います。彼は平和を望んでいるのです」

大魔導師「騙されているとは思わぬのか」

勇者父「魔力見りゃ相手がどんな奴か大体わかるだろ?」

勇者父「大魔導師さんなら、」

勇者父「実際に魔王に会えば信用に足る奴だってわかると思うんだけどな~」

大魔導師「…………」

勇者父「というわけで、人間魔族合同会議を開きたい」

国王「……検討しておこう。全生命の危機だからな」

協会代表「……ところで」


協会代表「エミル・スターマイカ。お前は光の力を失っているようだが」

勇者「ぼくは長い間、ぼくを憐れんだ魔王に『保護』されていましたが、その……」

勇者(魔族だってバレないバレない! フィルターかけまくってるもん!)

勇者父「魔王城の魔気に光の力やられちまったんだよな」

大神官「そのようなことは聞いたこともないが……」

国王「ううむ……」

勇者兄「何疑ってんだよ」

国王「ヒッ!」

協会代表(幼い子供を一人で旅立たせるなど頭がおかしいと苦情が殺到している)

協会代表(表立ってこやつを処分すれば、協会の名が落ちてしまう)

協会代表「……まあよかろう。破壊神の攻撃に備えて体を休めよ」

協会代表(しばらくは様子見だ)


勇者「き、緊張した……」

勇者父「お前嘘吐くの下手っぴだもんなあ」

勇者父「明日からは忙しくなるだろう。今日はしっかり寝とけ」

勇者「うん……」

女子1「エミルあんた生きてたのね!」

女子2「キャーコハク君お帰りなさい!!」

女子3「意外と早かったじゃない!」

女子4「彼女作ったりしてないよね!?」

武闘家「うん」

女子5「エミルくぅぅぅぅぅん!!」

勇者「みんな……ただいま!」




勇者母「みんなが無事に帰ってきてくれたお祝いよ」

勇者兄「こりゃまた豪華だな。ありがと母さん」

勇者母「リヒトの好物もいっぱい作ったんだから」

勇者「お母さんのごはんだあ!」

勇者「ヴェルにも食べてほしかったなあ」

勇者母「うちに泊まっていかれたらよかったのに」

勇者「あ、あはは……お兄ちゃんが許さないよそれ」

勇者兄「ったりめーだろ」

勇者父「おー久々のカトレアの料理だ」

勇者母「あんた、もうちょっと頻繁に帰ってきなさいよ」

勇者父「あ、うん、ごめん」

勇者「おいしい……おいしいよ……」

エミルは涙をこぼし始めた。

勇者「も……食べれないって……ぐすっ……思ってた……」

勇者「どんなに頑張ってもっ……お母さんとおんなじ味に作れなくてっ……」

勇者母「エミル……」


――
――――――

勇者父「ぐごご……」

勇者「お母さん、一緒に寝ていい?」

勇者母「……いいわよ。おいで」

勇者「んー」

勇者母「よくがんばったわね……」

勇者「お母さん……」

勇者「あのね、お母さん」

勇者母「どうしたの?」

勇者「ぼくを、本当の子供みたいに大事に育ててくれて、ありがとう」

勇者母「い、いきなり何言い出すの!?」

勇者「旅してたらね、知っちゃったんだ、本当のお母さんのこと」

勇者母「…………」


勇者「でもね、ぼくも、お母さんのことお母さんだと思ってるし、大好きだから」

勇者母「そう……」

勇者母「本当のお母さんには、会えたの?」

勇者「……何年も前に、死んじゃってた」

勇者母「…………そっか」

勇者「ヴェルがね、本当のお母さんの……その、関係者の人で」

勇者「ぼくのことほんとに大事にしてくれてるんだ」

勇者「だから、心配要らないよ」

勇者母「そう……良い人に巡り合えたのね」

勇者母「彼、悲しい目をした人だったわ。支え合って生きていくのよ」

勇者「……うん」


Now loading......

>>520下三行抜けてた

勇者兄「ただいま、母さん」

勇者父「帰ったぞカトレアー!」

勇者母「みんな……お帰りなさい」


kokomade
難産だ……

>>519
執事「はい。お気をつけて」

メイド長「絶対帰ってきてくださいね! ううっ」



執事「はい。お気をつけて」

勇者「パルルのお世話、お願いします」

メイド長「はい! 絶対帰ってきてくださいね! ううっ」

に加筆修正shimasu

兄さん案外ブラコンか


『君の歌には、不思議な力があるんだね』

『この村に伝わる、神様の歌なのよ』

『枯れかけた花だって、また綺麗に咲くわ』

『聞かせて、くれるかな』

『聞きたいんだ。君の歌を』


Section 18 少女


協会職員「現在大陸中に呼びかけているのですが」

協会職員「怒りや憎しみ等の、破壊衝動の元となる感情を継続して持っていると、」

協会職員「破壊神に操られてしまうので、できる限り穏やかな精神状態を保ってください」

勇者兄「で、俺等は具体的に何やればいいんだ?」

協会職員「とある少女を追っていただいきたいのです」

勇者兄「少女?」

協会職員「破壊神に操られた者……『破壊者』のほとんどは、」

協会職員「捕獲してしばらくすれば正気を取り戻すのですが、」

協会職員「一人だけ、あまりにも力が強くて手が付けられない者がいるのです」

勇者兄「そいつは今どのあたりにいるんだ」

協会職員「それが、突然姿を消してしまうものですから、正確な位置はわかりません」

協会職員「ただ、少しずつ北に向かっているようなのです」

協会職員「現在は大陸中央部のやや北側にいるものと思われます」

協会職員「しかし、その……」

勇者兄「ん?」


協会職員「通常、破壊者は無差別に破壊と殺戮を繰り返すのですが、」

協会職員「その少女だけは平和協会の支部のみを攻撃しているのです」

勇者兄「破壊神とは無関係の、協会に恨みのある奴の犯行じゃねえのか?」

協会職員「それが、目撃者の証言によると、」

協会職員「破壊神の下僕である人形を従えていたそうなのです」

協会職員「奇妙な力を使っていたことからも、破壊者で間違いないかと」

勇者「奇妙な力?」

協会職員「魔術とも法術とも異なる、未知の力の波動です」

協会職員「また、彼女が歌うと、周囲の物が崩れ去ったり、絶望的な気分になったりするとか」

勇者「うーん……」

武闘家「気功とも違うな」

勇者兄「話はわかった」

協会職員「彼女は15歳程の美しい少女だそうです」

協会職員「なんでも、黒髪が部分的に金に輝いたりする不思議な頭髪だとか」

勇者「魔族……ではないんですか?」

協会職員「確かに人間だと報告が入っています」

協会職員「では、シュトラール様、テレポーションを習得なさっているのですよね?」

協会職員「一行を連れて大陸中央部辺りまで飛んでいただきたい」

勇者父「あ゛っ、うん」


勇者父「どうしよう。多分また魔王来るよな? エミルに会いに」

勇者「あ、ぼくごく最近テレポーション覚えたよ」

勇者「まだちょっと不安だから、自分含めて5、6人くらいが限界かな」

勇者兄「ギリギリいけるか?」

勇者「やってみる」

勇者「……瞬間転移<テレポーション>!」


――大陸中央付近

勇者「うっ……疲れた……」

勇者兄「大丈夫か!?」

勇者「力が入らない……慣れの問題だと思うけど」

勇者「すごい量の魔力消費した……」

勇者父「必要な魔力量がばかでかいからな……こんな人数運んだのなら尚更だ」

勇者兄「近くの村までちょっと距離があるな。おんぶしてやるよ」

勇者「ありがとう、お兄ちゃ」

魔法使い「っ!」

勇者「!?」

勇者「う、ううん、歩いてくから大丈夫」

勇者兄「遠慮すんなって」

勇者「あわわ」

魔法使い「…………」

法術師「嫉妬しないの!」

武闘家(リヒトさんが鈍感なのがなあ……問題なんだよな)


勇者兄「昔はよくエミルをおんぶしてやったもんだなあ」

勇者兄「転んでひざ擦り剥いたり、寝ちまったりした時とかにさ」

勇者「……そうだったね。懐かしいな」

勇者兄「でかくなっちまったもんだよなあ」

勇者兄「少し会わない間に旅に出てるわ俺以外の奴を兄と呼んでるわ恋人はできてるわで」

勇者兄「うっ……なんか……ざびじ……」

勇者「泣かないで」

勇者「……ぼくにとってのお兄ちゃんはお兄ちゃんだけだよ」

勇者「ヴェルのこと、お兄ちゃんだと感じたこと、実はあんまりないんだ」

勇者兄「えっマジか!?」

勇者「ヴェルは初恋の相手で、誰よりも大好きな恋人で……」

勇者「喜んでもらえるから『兄上』って呼んでるけど、」

勇者「ほんとは兄妹だって実感沸いてないの。ぼくのお兄ちゃんは、お兄ちゃんだけ」

勇者兄「……ぅ……ぐずっ……」

勇者父「泣き虫なところそっくりだよなお前等」


少女『ちょっと、あんた達何やってんのよ!』

ガキ1『あ?』

ガキ2『あんだよ』

ガキ3『カトレアじゃん』

いじめられっ子『うう……いたいよ……』

少女『大勢で一人に暴力振るうなんて卑怯よ! ケンカなら一対一でやれば!?』

ガキ1『お前も殴られてえのか』

ガキ2『てめえみてえなガサツな女、女じゃねえ!』

少女『あ、んた達……許さないんだからっ……ぅ……』

ガキ3『こいつ泣きやがったぞー!』

ガキ『『『なーきーむし! なーきーむし!』』』

少年『おまえらまーたいじめかよカッコ悪いぞ』

ガキ2『げっシュト何とかだ!』

少年『勇者様の名前くらい覚えろよ……』


勇者父(あいつ、負けん気が強いわりに、感情が昂るとすぐ泣くんだよなあ)

勇者「ほら鼻水拭いて。村に着いちゃうよ」

勇者兄「ふぐっ……ずずっ……」

勇者父(二人とも、あいつに育てられたんだもんなあ。そりゃ似るわ)


――村

勇者兄「黒髪と金髪が混じった、15歳くらいの女の子を見かけませんでしたか?」

村人「うーん、そんな変わった頭の子は見てないねえ」

村人「4歳くらいの、迷子の女の子なら保護してるんだがねえ」

勇者兄「ありがとうございます」


勇者兄「目撃情報は全然無かった」

武闘家「同じく」

魔法使い「何の手がかりも無しよ」

勇者父「眠い……宿行こうぜ宿」

勇者兄「……おい、その子どこの子だ」

幼女「…………」

法術師「迷子らしくて……この村にはご両親らしき人はいないそうなんです」

勇者「懐かれちゃったね」

幼女「きがついたらひとりだったの」

勇者「魔力で一応探したんだけど、見つけられなかったんだ」

勇者兄「参ったな……」


幼女「いっしょにつれてって! さみしいの!」

法術師「か、かわいぃ……」

法術師「ねえ、リヒト君……」

勇者兄「危険な旅なんだ。連れていくのは無理だぞ」

勇者父「いいんじゃねえの? こんだけ人数いるし」

勇者兄「考えが甘いんだよ!」

幼女「んぅ……おねがい」

勇者兄「うっ……」

勇者「引きはがしてもついてきそうだよ」

勇者兄「しゃーねえな……セレナ、しっかり面倒見ろよ」

法術師「うん! あなた、お名前は?」

幼女「イリス!」

法術師「あら、可愛いお名前ね」

勇者「虹かあ。綺麗な名前だね!」

幼女「えへへ~」


勇者父「あれ、お前この村に帰ってきてたのか」

少年勇者「あっ父さん!」

勇者「えっ……?」

勇者兄「は……?」

勇者父「あ、こいつ俺の息子の内の一人」

少年勇者「僕の兄さんと……弟……かな? はじめまして」

勇者「あっ、うん。妹です。エミルです」

勇者兄「……リヒトだ」

少年勇者「僕はブラット。趣味は農業です」

勇者父「暇ありゃ畑いじってるような奴だ」

勇者父「普段はセントラルの平和協会支部で訓練受けてるんだが」

少年勇者「謎の少女の襲撃により訓練どころじゃなくなったんで」

少年勇者「村に破壊者が現れないか警戒しつつ、」

少年勇者「こうして大好きな野菜を育てているんです」

少年勇者「剣を振るより鍬で土を耕す方がずっと好きですね」


勇者「この畑からすごい生命のエネルギーを感じる……」

勇者父「こいつが育てた作物はうまいぞ」

少年勇者「たまにしか帰ってこられないんで、」

少年勇者「普段は母さんや弟達が面倒をみてくれているんですけどね」

勇者兄「その弟達って……」

勇者父「いや、俺の子じゃないぞ」

少年勇者「母さんは僕を産んだ後に結婚してるんです。父親違いの兄弟ですね」

勇者兄「頭が痛い……」

勇者「あ、あはは……」

少年勇者「なんなら、今日採れた野菜を少し差し上げましょう」

勇者「え、いいの?」

少年勇者「兄弟のよしみです」

勇者「やったあ! ぼくお料理大好きなんだ。大切に調理するね!」

少年勇者「喜んでもらえてよかったです」

武闘家「複雑な関係なのに心の広い奴だな」


勇者「……お母さんは、どうしてこんな浮気者のお父さんと結婚したんだろう」

勇者「美人だし優しいししっかりしてるし絶対他に貰い手あったよね……」

勇者兄「若い頃けっこうモテてたらしいが全員振って父さんと結婚したらしい」

勇者「何でだろ……」

勇者兄「全く理解できん」



妻「離婚してやる!! この浮気者!!」

夫「だから誤解なんだって!!」

妻「もう許さないんだから!! うっ――――」

妻「――――」

夫「お、おい、どうした?」

妻「ホロベ    コノヨニ ホロビヲ」


勇者「あっちから妙な力の波動が!」

妻「ホロベ  ワタシハ スベテヲ     コワス」

夫「うわあああああ!!」

勇者兄「様子がおかしいぞ!」

夫「助けてくれ!!!!」

勇者(これが破壊の波動……)

勇者「クリスタルバリア!」

エミルは水晶状のバリアで破壊者と化した女性を囲んだ。

妻「コワセ  コワセ」

夫「ひぃぃぃぃ」

幼女「こわい」

勇者兄「これが破壊者か。目が逝ってるな」

勇者父「何があったんだ?」

女性はガンガンバリアを叩いている。

夫「た、ただちょっと痴話喧嘩をですね」

勇者父「ただの痴話喧嘩程度じゃあ破壊者化しねえよ」

勇者父「普段から不満溜めてたんじゃないのか?」


夫「……俺には幼馴染の女性がいるんだ」

夫「お互い姉弟みたいに思っていたから、恋仲にはならず別の人と結婚したんだが」

夫「ずっと妻が彼女に嫉妬していてね……」

夫「さっきも幼馴染と俺が喋っているところを見られてしまって」

勇者兄「……断じて浮気じゃないんだな?」

夫「そうだ! 愛しているのは妻だけだ!!」

妻「――――――!」

勇者「反応した?」

勇者父「よし、そのまま愛を叫べ」

夫「えっこんな人前で」

勇者父「そうしなきゃ、奥さんはお前さんだけじゃなく誰でも殺す殺人鬼になっちまうぞ」

夫「う……」

妻「コワ ス  コ ロ セ 」

夫「愛してるぞ嫁さん! この世の誰よりも!!」

妻「っ――――――」

夫「俺が愛してるのはお前だけだ! 一生お前だけを愛し続ける!!」

妻「――――」

夫「戻ってこい!!」

妻「……」


妻「あら? 私、一体……」

夫「ああ、よかった……」

妻「あなた……」

夫「ちょっと、悪い夢を見ていただけなんだよ」

シュトラールは魔力でペリドットの塊から小さな欠片を切り落とした。

勇者父「一応、これ持ってけ」

勇者兄「何だ? それ」

勇者父「人の心を落ち着かせる効果のある石だ」

夫「ありがとうございます……」


勇者父「まだ力の弱い破壊者でよかったな」

勇者父「人形も出現しなかったし、旦那に愛を叫ばせるだけで落ち着いた」

勇者父「人としての意識がまだ残ってたんだな」

勇者父「沸き上がった破壊衝動が強ければ強いほど破壊者の力も強くなり、」

勇者父「正気を取り戻させるのも困難になるらしい。最悪の場合、殺さなきゃならねえ」

勇者父「誰でも破壊者になってしまう可能性はあるが、」

勇者父「嫉妬深い奴や不満を溜めこむタイプの奴は要注意だな」

勇者兄「…………」

勇者父「ん?」


勇者兄「いや、母さんはよく父さんの浮気を許せるなと思って」

勇者父「あーまあ、幼馴染だから俺の性格よく知ってるしあいつ」

勇者兄「……ほんと、何で父さんなんかと結婚したんだ?」

勇者父「……何でだろうな? 他の男と幸せになれたはずなのに」

勇者父「何でわざわざ俺なんかを選んだんだろうな……」

勇者「その石、綺麗だね」

勇者父「だろ?」

勇者父「今、協会がそこら中にこの石を設置している最中だ」

勇者父「完全に破壊者の出現を防ぎきることはできないかもしれないが」

勇者父「ないよりマシだろ」

勇者(肖像画に描かれた母上の瞳と同じ色だ)


勇者(産んでくれた母上と、育ててくれたお母さん)

勇者(ぼくには、二人のお母さんがいる。二人とも、大事なお母さん)

勇者(死んでしまった母上の願いを叶えるため、今生きているお母さんを守るため、)

勇者(この世界を守りたい)


幼女「セレナお姉ちゃーん!」

法術師「ああんもうほんと可愛いわね!」

魔法使い「あんたは将来いいお母さんになれそうね」

法術師「アイオだって、いいお母さんになれるわよ!」

法術師「あははくすぐったーい!」

幼女「あははぁ!」


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Section 19 美の都


勇者「住んでた村の名前、憶えてない?」

幼女「わかんない……」

勇者「うーん……」

勇者兄「平和協会に話は通しておいた」

勇者兄「親御さんの名前は幸い憶えてたんだし、すぐ見つかるだろ」

勇者「ありがと、お兄ちゃん」

勇者兄「情報魔術師のおかげで話の伝達だけは早いからなあそこ」


数日後

魔王「……」

執事「作業効率落ちてますよ」

魔王「…………」

執事「そんなにエミル様の不在が辛いんですか」

魔王「………………」

狼犬「わふぅわふぅ」

メイド長「陛下の頭に貼り付いちゃだーめ!」

執事「……この書類の束が片付いたらエミル様の元へ行っていいですよ」

魔王「!」

メイド長「あらすごいスピード」

執事「最近いつもこうなんだから」


――美の都ヴァナディース

勇者父「おっ、そうだそうだ。もう美女コンテストの時期か」

勇者兄「そんなことやってる場合なのか?」

勇者父「世界の危機だからって、なあんにも楽しいこと無かったら気が滅入るだろ」

勇者父「おー流石美の都。美人がいっぱい」

勇者兄「派手にめかし込んでるだけだろ」

勇者兄「……いや、彫りの深い天然の美女だらけだ……」

法術師「あらほんと」

魔法使い「むぅ……」

武闘家「よしエミル、ナンパしに行こうぜ」

勇者「いいよ」

勇者兄「あっこら! エミル、ナンパの意味わかってんのか!?」

勇者「お友達づくりのことでしょ?」

勇者兄「あ、あのなあ」

勇者父「夕刻にコンテスト会場前で集合な!」


勇者父「よし、俺もコンテストの席取りをしに」

勇者兄「おい」

勇者父「いやもちろん破壊者探しもするから!」

勇者兄「……はあ」

勇者兄「どいつもこいつも鼻の下伸ばしやがって……女性陣、頼んだぞ」

法術師「はーい!」

魔法使い「まあがんばるわ」

幼女「はぁい!」


幼女「このお花きれえ!」

法術師「植木も凝ってるわねー……」

魔法使い「黒と金の髪色の女の人……けっこういるわね……」

法術師「この町は髪の色を抜いたり、染めたりする技術が発達してるみたいだからね」

法術師「見た目で探すより、あの破壊の波動を探ったがよさそうね」

法術師「あ、ここのアクセサリー綺麗ね! アミュレット機能もあるみたい」

魔法使い「凝ってるわね……あっ、値段が……」

法術師「なんてお高い……」

幼女「これかわいいー!」

法術師「あら、これなら買えそうね。買ってあげちゃうわ!」

幼女「ほんと?」

法術師「ええ!」

幼女「わあ! ありがとうおねえちゃん!」

法術師「うふふ……イリスの黒い髪の毛によく似合ってるわ」


武闘家「何の手がかりも見つかんねえ」

勇者「ねー……」

美少女1「破壊者騒ぎは時々あるんだけどねぇ」

美少女2「なんせここは美の都。より美しくなろうとするが故に、」

美少女2「自分より美しい者に嫉妬する者が絶えないのよ」

勇者(より嫉妬心を煽るようなコンテストをやっちゃあ危険なんじゃ……)

美少女1「でも、そんな強い破壊者が出たなんて聞いたことないわ」

勇者「捕獲された破壊者達は、今どこにいるのかな」

美少女1「王立研究所の地下らしいわよ」

武闘家「そうか。ありがとよ。お礼にここのケーキとお茶は俺等のおごりだ」

美少女1「きゃっ、ありがと」

美少女2「うれしー!」

勇者(流石美の都……スイーツのデザインも凝ってる……)


魔王(素晴らしい景観だな……芸術的な彫刻が至る所に設置されている)

魔王(エミルがいるのはこの辺りか)

魔王(……美少女に囲まれて一体何をしているんだ……?)

魔王(ま、まさかそういう趣味が)

狼犬「?」

魔王(いや、エミルに限ってそんなことは)

魔王(しかし……元から男の装いをしていたし……)

魔王(……冷静になれ。頭を冷やそう)

――――

美女1「キャーあの人素敵じゃなーい!?」

美女2「でも大きいわね……2メートルくらいありそうよ」

――――

魔王(ん……あれは……)

魔王兄「よう」

魔王「貴様……ここで一体何をやっている……」


魔王兄「あ? 美女見に来たに決まってんだろ」

魔王兄「お前こそ頭に犬ひっつけて何やってんだ」

魔王「……」

魔王兄「この国は素晴らしいな! 乳のでかい女が山ほどいるんだぜ!」

魔王「貴様が人の姿に化ける術を扱えるとはな」

魔王「流石、夜這いに便利だからという理由だけでテレポーションを身に付けただけのことはある」

魔王兄「おうよ」

魔王「間違っても人間の女を抱くんじゃないぞ」

魔王兄「あんでだよ」

魔王「貴様、大剣で女の内臓を切り裂くつもりか?」

魔王兄「あー確かに人間の女は小柄だよなあ。脆そうだし」

魔王兄「連れ込むんなら身長高くて丈夫そうな奴じゃねえと……」

魔王「……くだらん」


魔王「わた……俺はエミルの元に行くぞ」

魔王兄「お前まだ俺が言ったこと気にしてんのかよ! がはは!!」

魔王「くっ……」

魔王兄「まあ待てって」

美女1「あの彼も素敵! 兄弟かしらね?」

美女2「声かけちゃおうかしら」

魔王兄「な? 付き合えよ」

魔王「断る!!」

魔王兄「そこのお姉さんがた~ちょっとお茶しようぜ」

魔王「ふっ触れるな! 放せ! 放さぬか!!」

美女1「あら、ぜひともお願いいたしますわ」

美女2「うっふ」


――王立研究所

研究員「一度破壊者となった者は、性格上再び破壊者となる可能性が高いのです」

研究員「よって、この牢屋に隔離し、平静を保てるようにしているのです」

元破壊者「おうち……帰りたい……」

破壊者「ウー! ウー! ウー ――」

勇者「これじゃ、まるで囚人だ……悪いのは破壊神なのに」

研究員「解放したところで、彼女達が元の生活に戻るのは困難でしょう」

研究員「操られていたとはいえ、周囲に危害を加えたことには変わりません」

研究員「人を殺してしまった者もいます」

研究員「どのように法で裁くべきか、裁判所の議論も終わっておりません」

勇者「はやく……どうにかしなきゃ……」

武闘家「しかし、すぐに再封印できるわけでもないからな」

武闘家「封印がもっと緩まないとこっちからも干渉できないんだろ」

勇者「…………くやしい」


美女1「破壊神が復活するなんて物騒よねえ」

美女2「ほんと、怖いわぁ」

魔王兄「んなもん俺が蹴散らしてやらぁ」

美女1「あら、頼もしいのね!」

魔王(戯れ言を)

魔王兄「おい、お前その仏頂面どうにかしろよ」

魔王「…………」

魔王兄「わりぃな、こいつ照れ屋でよ」

美女1「あら、可愛いのねぇ」

美女2「はあ……伝説の五つの宝珠でもあれば心強いのだけどねぇ」

魔王「! ……何だ、それは」

美女2「やっとこっちを見てくれたのね! 可愛いわ~教えてあげちゃう」


勇者兄(美男美女だらけで……なんかこう、場違い感が……)

美女A「キャー見て見て! この子シュトラール様にそっくり~!!」

美女B「なんて凛々しいお顔立ちなの~!」

美女C「勇者様なのね!!」

勇者兄「え」

勇者兄(な、なんて豊満な胸……)

美女A「ちょっとご一緒していただけないかしら?」

勇者兄「い、いやあの」

勇者兄(うわああああいい眺めだけど俺は父さんとは違う!!)

美女B「赤くなっちゃってぇ可愛いわねぇ」

勇者兄「ひぃん」

勇者兄(いやいや俺はいつか出会い結婚する嫁さんのために操を立てねば)

美女C「こ っ ち 、 行きましょ?」

勇者兄「ちょっあっ! だ、誰か助けてくれえええええええ!!」


――
――――――

司会「えー、今年も美女コンテストを開始いたします!」

勇者父(最前列ゲットできて良かったぁ~……!)

司会「厳しい予選を戦い抜いた美女達の入場です!」

勇者父「くぅ~!!」

司会「さあ、今年のミス・ヴァナディースに選ばれるのは一体誰なのでしょうか~!!」

魔王兄「後列からだと流石に遠いな……」

魔王兄「なあそこのエレクタイルディスファンクション」

魔王「何だオールウェイズエレクション」

魔王兄「…………一番抱き心地の良さそうな女はどいつだと思うか?」

魔王「俺に聞くなセクシュアルパヴェート」

魔王兄「おい何処行くんだよショートファイモシス」

魔王「……俺の心の病のことは知っているだろう」

魔王「ゲルディングにされたくなくばもう俺に近付くなスタリオン」

魔王兄「お前ほんと重症だよなあファミリーコンプレックス」

魔王「ふん……」


弟「待ってよにいさま~!」

兄「こらこら、走ったら危ないぞ」

弟「帰ったらチェスやろうよ!」

兄「ああ、いいよ」

魔王(兄を純粋に兄として慕うことができたら……楽しいのだろうな)

魔王(心の病が更にこの精神を蝕んでいく)

少年時代の自分の声が、己に語りかけてくる。

魔王『こっちから欲情すれば、父上から姦淫を受けたって苦しくないもの』

魔王(……父上はもうこの世にはいない。それなのに何故いまだに……)

魔王(ただエミルだけを愛していたい……彼女だけを……)

魔王(……私は、エミルを……愛することができているのだろうか……?)


魔王(兄妹だから、条件反射的に情を欲してしまっているだけではないのか?)

魔王『だから強姦なんてできたんだ』

魔王(そんなはずはない……そんなはずは……)

魔王『本当に愛しているなら、泣き叫んでいたあの子にあんなことできるはずないよ』

魔王『姦淫される苦痛は知っていたはずなのに』

魔王「っ…………」

狼犬「?」

魔王『ぼくは、家族を身体で縛りつけることしかできないんだ』

魔王(私は、穢れている)

狼犬「! ワンワン!」

勇者「あ、パルル! 兄上!」


魔王「……」

勇者「どしたの? 悩み事?」

魔王「いや、頭の上の犬が重くてな」

勇者「んもー、すっかり定位置になっちゃってる」

魔王「どうしても寂しがってな……連れてきてしまった」

狼犬「わふぅ」

勇者「全然会いに帰ってなかったもんね。ごめんね、寂しい思いさせちゃって」

狼犬「わふ!」

勇者「宿、動物OKだといいな」


魔王「エミル、目を見せてくれ」

勇者「?」

魔王「……綺麗な色だ」

勇者「あっ、だ、だめだよこんな人が多いところでくっついちゃ」

勇者「はしたないよ」

魔王「…………」

勇者「……?」

魔王(……エミルは特別なんだ)

魔王(私の心が壊れる前に私が恋をした、唯一の相手なのだから)

美幼女「ままー何であそこの人達男同士で抱き合ってるの」

美母「シッ! 見ちゃいけません!」

勇者(誤解だああ!!)


優勝者「みんな、ありがとぉ~!」

司会「優勝はアフロディータだー!」

ワァァァアアアアアアアアアアア

勇者父「おめでとぅぅぅ!」

準優勝者「私が二番のはずないわ……この世界で最も美しいのはこの私……!」

準優勝者「あの女……いつも私の邪魔ばかり……」

準優勝者「憎い……あの女も……あの女を選んだこの会場の連中もみんな……!」

準優勝者「全部……ぶちコワシテ ヤ リ タ イ 」

準優勝者「―――― コワス ゼンブ 」

勇者父「あ、やばい」

準優勝者の周囲に衝撃波が生じた。


会場から人が雪崩のように逃げ出している。

勇者「破壊者だ! 行かなきゃ!」

魔法使い「酷い騒ぎね」

法術師「怪我人が出てるわ!」

勇者兄「エミル! みんな!」

魔法使い「ちょ、あんた何でキスマークだらけなのよ!」

勇者兄「好きで付けられたんじゃない!!」

法術師「イリスちゃん、ここで待ってるのよ!」

幼女「うん……」

勇者兄「会場に乗り込むぞ!!」


勇者「お父さん!」

勇者父「こいつ、やべえぞ!」

勇者父「破壊の人形まで召喚しやがった!」

破壊者と化した女性の周囲を、箱がいくつか組み合わさったような形の人形が飛んでいる。

魔王兄「女の嫉妬ってこえーな! ははは!!」

勇者「あれ? 兄上の兄上だ」

人形1「カタカタ カタカタタタ」

人形2「ガタタタッ タタタタタッ」

勇者兄「来るぞ!」

勇者「クリスタルバリア!」

人形1・2「「コオォォォォ」」

バヒューン!

人形は力を溜め、光線を放った。
ピシピシと水晶状のバリアにヒビが入り、あっさり割られてしまった。

勇者「嘘でしょ……あれ破られたことなんてなかったのに」


魔賢者「過保護じゃないですか? わざわざ陛下を追いかけるだなんて」

執事「いやぁ、でも心配ですよ……陛下ですし……」

警備兵はまだかー!

はやく、はやく魔術師様を!!

魔賢者「なんだか騒がしいですね……」

幼女「ふあぁぁ……こわいよぉ……おねえちゃーん! どこー!?」

幼女「あ……――――ニク、イ」

幼女「ミギメノキズ――――」

幼女「…………」

執事「君、どうしたんだい? 迷子かな?」

幼女「ん……セレナおねえちゃんまってるの」

執事「セレナ……その人は今どこに?」

幼女「あっちいっちゃったの」


武闘家「俺怪我人運ぶわ!」

魔法使い「気高き焔の翼――我に立ちはだかる者を滅せよ!」

魔法使い「高貴なる紅焔<ノーブル・プロミネンス>!」

魔王兄「おお、なかなか綺麗な火ぃ出すじゃねえかあの姉ちゃん」

魔王「暢気に観戦なぞしおって……闇氷の障壁<ダークアイス・ウォール>!」

勇者兄「突き刺せ! 閃光の白雨<シャイン・エッジ・レイン>!」

人形1・2「「ヒキャアアァァァ」」

勇者兄「よし、人形は倒したぞ!」

勇者「でもあの人はどうすれば」

準優勝者「アァァァァァアァァ」

武闘家「衝撃波やべえ! 鋭すぎ!」

魔法使い「セレナ、あの術試すわよ!」

法術師「ええ!」


魔法使い・法術師「「始祖アメトリーナの名の下に――かの者に乗り移りし意思を浄化する」」

魔法使い・法術師「「――アウフェリムス アニムム マリー――」」

準優勝者「アァー ァ ア……」

準優勝者「…………う……わた、しは……」

魔法使い「成功したみたいね!」

法術師「ふう……よかったわ」

勇者兄「おまえら、今の術何だ?」

法術師「私達の祖先の術で、役立ちそうなものがないか調べた結果よ」

セレナのシトリニィ家とアイオのアメシスティ家は、共にアメトリーナという女性を始祖としている。
彼女は魔術・法術の双方に精通し、それらを大いに発展させたと言われる大賢者である。


勇者「あの人も、研究所の牢屋から出られなくなるんだ……」

法術師「死者が出なくてよかったわ」

法術師「でも、何人か治しきれなかった……あれじゃ、元通りの生活なんて……」

勇者兄「できるだけのことはやったろ」

勇者父「眠い……」

勇者兄「父さんって歳のわりに老けてるよな」

勇者父「心は若いぞ」

勇者兄「あっそ」

勇者父「それにしてもお前キスマークだらけじゃねえか! モッテモテだな!」

勇者兄「親父の弊害を受けたんだよ!! 逃げるの大変だったんだからな!!」

勇者兄「はあ、気の多い奴が身内にいると苦労するな……」

魔王(不本意だが同意せざるを得ない)

法術師「イリスちゃん? どこ?」

幼女「おねえちゃん!」

法術師「ああ、よかった……」

執事「やっぱりセレナさんを待っていたんですね、この子」


法術師「あら、コバルト」

執事「陛下が心配だったので後を追っていたところ、この子と出会いまして」

魔王(信頼されていないのだろうか……)

法術師「一人で置いてけぼりにしちゃったから、とても心配だったの……ありがとう」

幼女「あのね、イリスね、こころがどっかいっちゃいそうになってね、」

幼女「そしたらこのおにいちゃんがたすけてくれたんだよ」

法術師「心が、どこかに?」

執事「酷く不安を感じていたようです」

執事「では陛下、帰りますよ」

魔王「ああ」

幼女「ねえねえ、またあえる?」

執事「……ええ、機会があれば」

執事(笑い方が……そっくりだ、あの子に)

執事(アリア……)


メイド長「お帰りなさいませ陛下、コバルト。パルルはエミル様の元に?」

魔王「ああ」

魔王「人魔会議の日取りが決まった」

魔王「だが、その前に大魔族会議を開かねばな」

魔王「すぐに伝令を送ってくれ」

執事「はい」

魔王「かなり有益な情報を得ることができた。もしかすれば、上手くいくかもしれん」

魔王「調べ物を頼みたい」

執事「わかりました」

魔王「……頼んだぞ」


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『すごいすごーい! 風が気持ちいいわ!』

『こんなに高く飛べるのね!』

彼女は、この山が好きだった。

僕は、彼女を背に乗せて飛ぶのが好きだった。

実るはずのない想いだったけど、一緒に遊べるだけで……幸せだった。


Section 20 宝珠


魔王「……推測した通りでよかった」

執事「族長達の了承を取れたなんて奇跡ですよ、ほんと」

――
――――――

美女2『やっとこっちを見てくれたのね! 可愛いわ~教えてあげちゃう』

美女2『昔、大精霊達様は、人間に守護の力を持つ五つの宝珠を授けてくださったのよ』

美女2『それぞれ、赤、青、銅、緑、金の色に輝いていたらしいわ』

美女2『激しい争いがない間は各地の神殿に納められていたらしいのだけど』

美女2『魔族に奪われて、今はもうどこにあるのかわからないって言われてるわ』

美女2『取り戻せたら、人類の大きな希望になるでしょうね』

魔王『……まさか』

魔王兄『こんな感じの珠か?』

美女2『あら、綺麗に赤く輝いてるわね。きっとこんな感じよ』


魔王『何故貴様が力の珠を持っている』

魔王兄『お袋が、これ持ってたら男がビビッて逃げてくからってよく俺に預けてくんだよ』


――――――
――

勇者父「大会議の会場はセントラルか」

勇者「テレポーションを使う魔族達の負担を考えたらそうなるだろうね」

勇者兄「魔族が伝説級の術で迎えに来るなんて、王様達ビビるだろうなあ」

勇者「絶対罠だって疑うだろうね……集まってくれたらいいんだけど」

勇者父「だがテレポーションを使わないと、」

勇者父「世界中のお偉いさんとすぐに話をするなんて無理だしなあ」

エミル達は国王達を安心させるため、各国の国王を迎えに行く賢者達に各々同行した。


執事「皆さんのご協力により、どうにか人間の方々をお迎えすることができました」

勇者「会議、上手くいくといいね」

執事「ええ」

執事「やあ、イリス」

幼女「ん……こんにちは」

法術師「あら、照れてるのかしら」

イリスはセレナの背に隠れている。

執事「会議が終わるまで、部屋の外で待っててね」

法術師「いい子にして待てるわよね? お姉ちゃんも一緒にいてあげるから」

幼女「うん」

勇者「パルルもね」

狼犬「……がふぅ」

勇者(無理矢理魔法で魔気抑えてるからこの頃機嫌悪いんだよなあ。ごめんね……)

幼女「……あのね、あのね、あとでね、イリスのおうたきいてほしいの」

幼女「イリスね、おうたうたうのじょうずなんだよ!」

執事「そっか。じゃあ、終わったら聞かせてもらうよ。楽しみにしてるからね」

幼女「うん!」

勇者(紳士だなあ)


セントラル城・大会議室

そこら中に魔気避けが設置されている。
人間の国や平和協会の代表達、高位の魔族達が一堂に会している様は正に異様であった。

国王達を守護するため、彼等の傍には最上級の術者や勇者の血を引く者が控えている。
魔族達は皆、完全に魔気を抑え込んでいる。

国王「……私はブレイズウォリアの国王だ」

国王「急に召集を呼びかけ、魔族の迎えを送ることとなったにも関わらず、」

国王「この場に集まっていただけたことに感謝しよう」

勇者(空気が張り詰めている……)

勇者父(俺こういうお堅い雰囲気苦手なんだよなあ)

執事「こちらは、第885代魔王ヴェルディウス陛下です」

魔王「…………」

大魔導師(確かに、邪悪な者には見えぬな……魔力が澄んでいる)


魔王「……破壊神の封印が更に弱まれば、いずれ人形の軍勢が攻めてくると予測される」

魔王「争いの混乱の中、人と魔族が剣を交え、無駄な血を流すようなことがあってはならぬ」

魔王「よって、我は和平を申し出る」

執事(よかった、噛まずに話せてる……)

執事(あーヒヤヒヤするなあ)

魔王「下位の魔族は魔気の制御が不得手な者が多い。そのため、融和は困難であろうが、」

魔王「新たな人魔の争いが起きぬよう、規律と秩序の確立が必要である」

魔王「協力体制を築くことができれば、破壊神による被害者の増加も抑えられるであろう」

国王α「うむ……」

国王β「魔族の口からこのような言葉が出るとは……」

勇者父「彼は平和な時代を築くため、これまで最大限尽力してきたのです」

勇者父「その上、勇者である我が娘エミルを憐れみ匿っていた」

勇者父「どうか信じていただきたい」


魔王「憎んでいる種族を、ただで信用することが困難なのは当然だ」

魔王「だがもし、和平への同意を得られたならば……」

魔王「我等魔族は『伝説の五つの宝珠』を人間に明け渡そう」

国王θ「な、なんだと……!?」

国王ρ「伝説の五つの宝珠だと!?」

魔王(大精霊から人類に授けられた物であれば、)

魔王(我々魔属には光の珠と同様拒絶反応が出るはず)

魔王(だが、闇の珠と同様、人間にも魔族にも扱える物に変質した可能性は否めなかった)

魔王「大陸各地に散らばる神殿の遺跡や歴史を調査した結果、」

魔王「現在五大魔族の族長の証となっている珠が、伝説の五つの宝珠であると断定できた」

魔王「これを相応しい者が所持すれば、人間であっても強大な魔術の使用が可能となる」

魔王「ここに集っている代表者全員の署名と引き換えだ。悪い話ではないだろう」

国王Ψ「願ってもない話だ……問題は、どの国の誰が所有するかであるが……」

会場がどよめく中、突如荒々しく扉が開かれた。

魔王兄「おいファミコンいるかー?」


魔王「な、何だその呼称は」

魔王兄「あ? ファミリーコンプレックスの略に決まってんだろ」

魔王「何をしにきた!? ここは貴様が来るような場所ではない!!」

魔王兄「お袋から力の珠預かりっぱなしだったから返しに来たんだよ。要るんだろ?」

魔王「…………」

力族長「あぁんらぁごめんなさいねぇ。うっかりしてたわぁ」

魔王「……………………」

魔王兄「なんか大変そうだけど頑張れよ! どもらないようにな! はは!!」

魔王「帰れ!!!!!!」

魔王兄「泣くこたないだろお前」

魔王「泣いてなどおらぬわ!!!!!!」

執事「あっちゃー……」

力族長「ごめんなさいねぇみなさん。うちの長男いっつもこんな不作法なのよぉ」

勇者(ヴェル…………)

国王δ「魔族も……意外と人間臭いのぅ……」

国王ι「あの魔王、案外同族から舐められとるのでは……」

国王γ「魔王が恥かかされて涙目になっておるぞ…………」


魔王「……………………」

執事「陛下、しっかり」

執事「いやあ、場を和ませるネタをいくつか考えてたんですけど必要ありませんでしたね!」

魔王「お前も……一体何を考えて……」

執事「あんまり空気が堅くなるよりは、ゆる~くした方が親しみやすいかなって……」

魔王兄「あ、もう一つ」

魔王兄「おまえんとこのメイドのカメリアちゃんによろしく言っといてくれ! じゃあな!」

魔王「…………………………………………」

武闘家「嵐のようだったな」

執事「えー、気を取り直しまして」

執事「族長の皆さん、宝珠の提示を」

知恵族長「人間の言う、青の宝珠だ」

力族長「赤の宝珠よ。綺麗でしょぉん?」

地底族長「銅の宝珠だ。正しき心の持ち主に使っていただきたいものだな」

空族長「うむ。緑の宝珠だ」

金竜頭領「…………」

力族長「あぁ、あんた族長じゃなかったわねえ」

執事「そして、金の宝珠は……」

執事「亡くなった族長の孫である、このわたくしめが管理しております」


協会北幹部「で、では、お主は……あの群れの生き残りか!?」

協会元帥「…………!」

執事「……ええ。わたくしの群れの竜は、五年前の襲撃によりほとんどが殺されました」

勇者「!?」

執事「我が祖父は、わたくしが生き延びられるよう、わたくしにこの珠を託しました」

執事「そして、珠の力無しに戦った祖父と、後継者であった我が父は……討たれました」

協会北幹部「…………」

執事「以来、我がゴールドドラゴンの族長は空席となっておりますが」

執事「金の宝珠はここにあります」

協会元帥(あの、時の……幼竜だと……いうのか……)

執事「人間が魔属に大切なものを奪われ、憎んでいるのと同様、」

執事「我々も多くのものを失っています」

執事「しかしまあ、だからといってより多くの血を流しても大地が穢れるだけです」

執事「わたくし自身争いを好まない質でしてね。是非とも和平を結んでいただきたい」


国王α「信じても……よいのではないだろうか」

協会代表「魔族の少年に心を動かされるとは、な……」

大神官「我等を騙そうとしている魔力の波動は感じられませぬ」

国王λ「世界の危機だ。いつまでもいがみ合っていては、共倒れになるだけであろう」

国王「和平に意義のある者はおるか」

協会南幹部「不安ではあるが……迷っている暇はないだろう」

協会南幹部「世界崩壊の危機はすぐ目の前に迫っている」

国王「――我等人類は、魔族と和平を築くことを誓おう」


勇者「よかったね! 和平を締結できたなんて歴史上はじめてだよ!」

魔王「…………」

勇者「元気出してヴェル」

魔王「………………」


協会元帥「お主、私が憎くはないのか」

元帥は兜を取った。

協会元帥「私は五年前、お主の群れと……あの村を襲い、」

協会元帥「ゴールドドラゴンの族長を討った功績により元帥の地位を手に入れた」

執事「……ええ、忘れませんよ。その右目の傷」

勇者「あ……」

執事「憎いに決まっているじゃありませんか」

執事「あなたは僕の目の前で、彼女を……アリアを殺しました」

執事「そして、家族を奪いました」

執事「復讐を願った時だってもちろんありましたよ」


執事「『憎しみは新たな憎しみの連鎖を生むだけ。復讐なんて無意味だ』」

執事「そんな綺麗事で、憎しみを消せるほど心は単純にできていません」

協会元帥「…………ならば、私を」

執事「僕だってギリギリのところで抑えているんです」

執事「刺激しないでいただきたい」

協会元帥「っ……」

幼女「おにいちゃーん!」

執事「イリス」

幼女「イリスね、いいこにしてまってた……」

協会元帥「…………」

幼女「あ……」

幼女「みぎめ……」

執事「? どうしたんだい」

幼女「この人、知ってル……」

幼女「平和協会……右目ノ傷……」

白い揺らめきがイリスを包み、彼女の姿を変化させた。

執事「き、みは……」

歌唱者「見つけた……私を殺した人!」


勇者「破壊の波動!?」

法術師「嘘でしょ……」

狼犬「がるるるるる……」

勇者兄「なんだこのピリピリする馬鹿でかい波動は!!」

魔王「人間をただちに避難させよ!」

イリスの姿は十五歳ほどの少女に成長しており、顔付きも変化していた。

黒髪を侵食するように、少しずつ明るい金が揺らめきを増している。

法術師「嘘……嘘よ……」

協会元帥「な……」

歌唱者「――響け 滅びの唄 純然たる破滅の意思よ」

少女の歌声が響き、石造りの壁や天井にひびが入った。ところどころが崩れ落ちている。

術者達は主人を守るため、咄嗟に防御魔術を発動した。

歌唱者「――憎き者に苦しみを」

協会元帥「ぐっ……」

少女は、細い刀を元帥の腹に突き刺した。

歌唱者「すぐには殺さないわ。殺されたみんなの痛み、竜達の痛み、味わってもらうわよ」

法術師「だめえ!!」


歌唱者「邪魔をするなら、あなたも殺すわ」

法術師「きゃあっ!」

執事「ア……リ、ア……?」

執事「アリア……なのかい……?」

歌唱者「え……」

歌唱者「コバルト…………?」

歌唱者「あなた生きていたのね!」

執事「……!」

勇者兄「何が起きてるんだ」

歌唱者「私が殺された後、あなたまで殺されてしまったんじゃないかって……」

歌唱者「よかった……また会えるって信じてたわ」

歌唱者「あなたの魂をずっと探していたのよ!」

歌唱者「さあ、一緒に復讐の旅に出ましょう!」

歌唱者「憎き平和協会を……みんなの仇を討つのよ!」

執事「……アリア」


協会元帥「はっ……あ……」

法術師(ち、治療を!)

執事「僕は、復讐なんて望んでいない」

執事「殺したいほどこの男は憎いさ。でも、これからは新たな時代を築かなきゃいけない」

執事「築いていきたいんだ」

歌唱者「…………」

歌唱者「どう……して……」

執事「君は、破壊神に操られているんだ!」

勇者兄「おい、今の内に例の術使えないのか」

魔法使い「無理よ、とてもセレナと連携をとれる状態じゃないわ」

魔法使い「……仮にできたとしても、あの子の力が強すぎて効かないでしょうね」


歌唱者「どうしてそんなことを言うの!?」

歌唱者「……そうよ、私は破壊神のしもべ。復讐のため、死の間際に契約を交わしたわ」

執事「…………」

歌唱者「そうね、あなたは優しいもの」

歌唱者「私が一人で復讐を遂げてあげるわ。その後はずっと一緒にいてくれるよね?」

執事「待って! アリア!」

歌唱者「私は許さない。私達を殺した人間を」

歌唱者「う……もう時間が……」

歌唱者「少しの間だけ、またさよならよ……コバルト」

そう言い残すと、少女は姿を消した。


勇者(何もできなかった……)

勇者(なんて鋭い、恨みの力…………)

武闘家「……おっそろしい」

誰も強大な破壊の力に手を出せなかった。

執事「は、はは。ありえない。彼女にまた会えただなんて」

勇者「コバルトさん……」

執事「…………北の大山脈に住んでいた頃、僕には好きな女の子がいました」

執事「でも、彼女は僕の目の前で人間に殺されました」

勇者「……」

執事「そりゃあもう、憎みましたよ、人間を。その男を」

勇者「でも、人間全てを憎んでるわけじゃ、ないんでしょ?」

勇者「普段のコバルトさんは、とてもそんな風には……」

執事「……その女の子も、人間だったんですよ」


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Section 21 理想郷


勇者「平和協会の人間が人間を襲った……?」

執事「今にも建物が崩れそうですね……場所を移しましょう」

魔王「……立てるか」

執事「すみません、腰が抜けてしまいました」

魔王「肩を貸そう」

法術師「そんな……イリスちゃんが……」

魔法使い「セレナ……」

勇者「すっかり気配が消えてる……魔力の探知もできないや」

勇者兄「何者なんだ、一体」


執事「……北の大山脈に、小規模ですが古くから続くハルモニアという村がありました」

執事「その村は、僕達ゴールドドラゴンを神の使いとして崇めていました」

執事「僕が属していた群れとも親交がありましてね。仲良くしてもらっていましたよ」

勇者「人間と魔族が、仲良く……」

執事「その村に、アリアという少女が住んでいました」

執事「彼女は、村に伝わる不思議な歌の力を継承していました」

執事「綺麗な歌声でしたよ……聴く者全ての心を浄化する、癒しの力がありました」

執事「僕と彼女は仲が良くて、よく彼女を僕の背に乗せて空を散歩したものでした」

執事「しかし、魔族を崇拝する村を、他の人間達がよく思うはずがなかった」

勇者「……」

執事「また、ゴールドドラゴンはいくつかの群れに分かれて生息しているのですが、」

執事「僕の群れは族長の群れ。討伐に成功すれば魔族の戦力を大きく削ることができる」

執事「五年程前、僕の群れと彼女の村は平和協会から襲撃を受けました」


執事「僕達の飛翔能力と魔力容量であれば、人間の軍隊から逃げるだけなら容易いことでした」

執事「しかし、僕達はハルモニアの村を見捨てることができなかった」

執事「僕達は彼等を守るために戦いましたが、結果はほぼ相討ちでした」

執事「両親も、兄弟も、殺されました」

執事「生き残ったのは、僕と、放浪癖のあったメルナリアの父親を含むごく数名だけです」

執事「そして、その戦いの中で……アリアも、僕の目の前で斬り殺されました」

執事「先程の平和協会の男に」

勇者「…………」

執事「仲間達から逃げるよう促された僕は、傷を負いつつもどうにか飛び続け、」

執事「魔王城に流れ着き、以来陛下の下で働いているというわけです」

勇者「そんなことが……」

執事「……本当は、彼女は復讐を望むような子ではないんです」

執事「風を愛し、生命を慈しみ、動物の死に涙を流す、とても優しい子でした」


執事「彼女が、武器を持つはずがない……!」

執事「一体どうして…………」

法術師「…………」

法術師「……イリスちゃんは、その子に……いえ、破壊神に操られているのかしら」

法術師「殺されたアリアさんの魂がイリスちゃんの中に入り、」

法術師「時折アリアさんが目覚め、破壊活動を行っていた……」

魔法使い「他の破壊者も、長時間操られることはないみたいだし、」

魔法使い「あまり長い間は戦えないのかもしれないわね」

武闘家「不安定なんだろうな」

勇者兄「北に向かってたってのは」

執事「僕等を襲った平和協会北支部に向かっていたか、」

執事「……もしかしたら、故郷に帰ろうとしていたのかもしれません」

執事「彼女を探しましょう。あまり遠くへは飛べなかったはずです」

法術師「そうね。今頃イリスちゃんの姿に戻ってまた迷子になってるかもしれないわ」

執事「…………陛下」

魔王「……破壊者の少女を探しに行け。命令だ」

執事「!」

魔王「城のことはメルナリアに任せておけばよい」

執事「ありがとうございます」


勇者「そういえば、メルナリアって何でメイド長やってるの?」

勇者「種族的にも年齢的にもしっくりきてなかったんだけど……」

魔王「ああ、あいつなら高位の役職の見習いくらいにはなれたのだが」

魔王「地位が高ければ高いほど、権力がある分責任が重くなり、自由もなくなるからな」

魔王「あいつは自ら地位を得ることを放棄した」

魔王「だから名目上メイドということにしておき、私の元で働いていたのだが、」

魔王「メルナリアは若いながら小間使い達からの人望を得ていた」

魔王「そのため、先代のメイド長がメルナリアを後任にすべく仕事を教えていたのだが、」

魔王「急に先代のメイド長が田舎に帰ることになってな」

魔王「だからあの年齢でメイドを取り仕切ることとなったのだ」

勇者「ああ、なるべくしてなったんだ」

魔王「他者を惹き付ける能力はコバルトと共通している」

魔王(……羨ましい)


勇者兄「そんなことがあったのに、よく人間嫌いにならなかったな」

執事「ヴェルディウス陛下との出会いがありましたからね」

執事「もう、五年か…………」

――
――――――

ある夜、一体の幼竜が魔王城に逃げ込んだ。

魔王『なんて酷い怪我を……』

魔王『すぐに治療師を!』

幼竜『…………』

魔王『大丈夫かい?』

体だけでなく心にも深い傷を負っているのか、酷く虚しい目をしていた。

他者からの呼びかけに応じる余裕もないようだ。

幼竜は、エネルギーの消耗の少ない人型へと姿を変え、力尽きるように気を失った


幼竜(ここは……)

魔王『……よかった、気が付いたんだね』

魔王『えっと、君、ゴールドドラゴン……だよね……』

幼竜(綺麗な女の子……。でも、男物の服……)

幼竜『…………』

魔王『何が、あったの』

幼竜『…………』

魔王『……そ、その……名前、なんて、いうの?』

魔王『ぼくは、ヴェルディウス』

幼竜『…………コバルト』

魔王『……えっと、き、きれいな名前だね?』

幼竜『……?』

魔王『コバルトブルーは、とても綺麗な色だから……』

幼竜『………………』

魔王『へ、変なこと言っちゃったかな……』

魔王『妹が、初めて会った人には、』

魔王『とりあえず名前を褒めるようにしてるって、言っていたから……』

幼竜『…………君、男?』

魔王『………………うん』


魔王『き、君は、きょうだい、いる?』

幼竜『……殺された。人間に』

魔王『あ…………』

魔王『ごめん…………』

幼竜『………………』

魔王『……人間に、襲われたの?』

幼竜『……』

魔王『そっか…………』

魔王『……黄金の一族の、族長の証、持ってるんだね』

幼竜『じいさまが、これを持って……ここまで逃げろ、って……』

魔王『そっか…………』


――――

数日後、ゴールドドラゴンの族長の群れが壊滅したとの知らせが魔王城に入った。

幼竜(じいさまも、父さんも……死んでしまったんだ)

幼竜(おかしいな……悲しいはずなのに、実感がわかない)

幼竜(北に帰ったら、みんな元通り暮らしているんじゃないだろうか)

幼竜(そんな気さえ感じる)

魔王『歩けるようになったんだね、よかった』

幼竜『……先日は王太子殿下とは露知らず、ご無礼を働いたことを』

魔王『い、いや、普通に喋ってほしいんだ』

幼竜『……そう』

魔王『えっと……』

幼竜『君に、本当に妹なんているのかい』

幼竜『ネグルオニクス陛下に姫君がいるなんて聞かなかったけど』


魔王『その……妹は、母上と、父上じゃない、別の男の人との子供で……』

魔王『すごく遠くにいて、もう二度と会えないんだ』

幼竜『……そう』

魔王『……君は、これからどうするの?』

幼竜『…………人間を、潰す』

魔王『!』

幼竜『あいつら、人間でありながら人間を……ハルモニアのみんなを襲った!』

幼竜『僕達は人間を守るために戦った』

幼竜『あの連中は……竜も人も皆殺しにしたんだ……』

魔王『に、人間を守るために戦ったって、どういうこと?』

幼竜『馬鹿にするかい?』

幼竜『五大魔族の一柱、ゴールドドラゴンの……それも族長の群れが、人間のために壊滅したなんて』

魔王『馬鹿になんてしないよ!』

魔王『君の話、聞かせてほしいんだ……』


魔王『人間の集落と親交が……そんなことが……』

幼竜『君は、人間が好きなのかい』

魔王『好きっていうか……争いをなくしたいんだ』

魔王『それが母上の願いだったし、ぼくの妹は、人間として暮らしているから』

魔王『妹が、安心して過ごせる世界を創りたいんだ』

幼竜『…………そんなこと、できるのかい』

魔王『すっごく難しいことだとは思うけど、やりたいんだ!』

幼竜『…………』

魔王『ぼくはもうじき魔王となる』

魔王『でも、王位を継いでも、ぼくだけじゃみんなの常識を変えることはできない』

魔王『仲間が欲しいんだ』

魔王『……友達になってほしい』


幼竜『…………』

幼竜『僕はもう何もかもを失った』

幼竜『これからこの世界がどうなったって知ったことじゃない』

魔王『放っておけば、同じような争いがまた起きる!』

魔王『このままじゃだめなんだ!』

幼竜『……悪いけど、お断りだね』

幼竜『あの連中がのうのうと生きている世界なんて、許せるはずがない』

魔王『…………』

幼竜『君はまだお父上も妹君も生きているじゃないか』

幼竜『大切な人の命を奪われたわけでもない君に、僕の気持ちがわかるはずがない』

幼竜(所詮、一番安全なこの城でぬくぬく育ったお坊ちゃんの夢物語)


――――

幼竜(時折、あの夜の地獄のような風景が脳裏をよぎる。その度に憎悪が沸き溢れる)

幼竜(……虚しい)

魔王『あ……怪我、もうすっかりいいの?』

幼竜『うん。……助けてもらったことには感謝するよ』

幼竜(命を救ってもらったのに、何の恩返しもしないのはな……・)

幼竜『君に協力するつもりはない、けど……友達くらいなら……』

魔王『ほんと?』

魔王『ぼく、友達なんて、できたことなくって……嬉しいな……』

幼竜『え……?』

幼竜(友達ができたことないなんて……大丈夫なのかな、この王太子)

魔王『じゃあ、これからは一緒にこの城で勉強して、一緒に修行を受けようよ!』

幼竜『同年代の話し相手くらいなら普通にいるだろう?』

魔王『……』

幼竜(とても魔王の器とは思えないな……)


――――

魔王『すごいね、頭良いんだね!』

幼竜『君ほどじゃないよ』

教官『この調子ならば、将来は優秀な魔術師となることも夢ではございませぬ』

魔王『剣の扱いも、すぐ覚えたんですよ!』

教官『ふむ……有望ですね。いずれは師団長か、それ以上か……』

幼竜『…………』


魔王『まだ、人間に復讐したいって、思ってる?』

幼竜『……』

魔王『仲が良かった人間も、いっぱいいたんでしょ?』

幼竜『…………』

魔王『一部から酷いことをされても、その種族全体を憎むのは、間違ってると思うんだ』

幼竜『……ハルモニアの村が特殊だっただけだ』

幼竜『人間の大多数は僕達魔属を敵だと思ってる』

魔王『そうじゃない人間だって、ごくわずかだけど存在してるんだ!』

魔王『ぼくの妹は、自分が魔族だって知らないけど、魔物と仲が良くて……』

幼竜『憎しみは、正論や綺麗事でどうにかできる感情じゃないんだ……!』

魔王『…………』


――――

魔王『……』

幼竜『ふっらふらじゃないか』

魔王『…………』

幼竜『あれ、首、虫にでも刺されたのかい』

魔王『あ、う、うん……』

魔王『…………うっ……』

幼竜『!? どうしたんだい、その手首……』

幼竜(何かで縛られた跡が痛々しく残っている……)

魔王『見ないで』

幼竜『君は陛下の部屋に行っていたはずだろう? 何があったんだい』

魔王『……何でもない』

幼竜『血のにおい……どこか怪我をしたんじゃ』

魔王『ぼくの血じゃない』

幼竜『待って!』

魔王『触らないで!』

幼竜『っ……』


魔王『ご、ごめん……君のこと、いやってわけじゃなくて……』

魔王『今は、駄目なんだ……』

幼竜『…………』

魔王『今は、放っておいて……お願い……』

幼竜『で、でも……』

魔王『…………』

幼竜『……傷ついてる友達を放っておけるわけないじゃないか!』

魔王『…………ぼくのこと、嫌いにならない?』

魔王『……今日も父上はぼくのことを思い出してくださらなかった。それだけだよ』

魔王『ああ、でも、今日は、いつもよりちょっと痛かったな……』

幼竜『…………?』

魔王『父上は、時々時間が巻き戻ってしまわれるんだ』

幼竜『……』

魔王『争いさえなければ、父上はあんなに大きな怪我を負うことはなかったし、』

魔王『心を壊してしまうこともなかったんだ!!』

魔王『母上だって、もっと長生きしたはずなんだ!!』

幼竜『…………!』

魔王『人間と仲が良かったら、父上と母上は幸せになれたはずなのに!』

魔王『全部全部歴史が悪いんだ! 戦争を繰り返す歴史が!!』

魔王『ちくしょう! ちくしょう! ああああああ!!』


幼竜(知らなかった。彼は彼で、苦しみを背負っていたんだ)

幼竜(決して、甘やかされて育ったお坊ちゃんの理想論では、なかったんだ)

幼竜(もし、争いのない世界が実現できたら)

幼竜(もう、アリアのような犠牲が生まれない、)

幼竜(誰もが笑顔で生きられる理想郷を実現できたとしたら……)

幼竜(来世でなら、きっと幸せになれるだろうか)


執事『第885代魔王ヴェルディウス陛下、即位おめでとう』

魔王『……ああ』

執事(味方はいない。0から始めるんだ)

金竜『コバルト、生きていたのか!』

金竜『空の一族の協力を得られた。人間共に報復するぞ』

執事『お待ちください伯父上』

執事『お話があります』


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Section 22 不穏


勇者兄「イリスの両親が見つかったって連絡があった」

勇者兄「大陸の南の方にある、小さな村に住んでいるらしい」

勇者兄「イリスを心配しているそうだ」

法術師「なんとかして、イリスちゃんを取り戻さなきゃ」

勇者兄「体を乗っとられていても、あの子自身には何の罪もない」

武闘家「とりあえずは探し回るしかなさそうだな……」

勇者兄「そういや、お前の師匠の人探しの秘術使えないのか?」

武闘家「よく知ってる相手じゃないと探せねえんだよあれ」

勇者父「眠い……」


魔賢者「こ、この度、皆さんに同行することとなった、賢者のフローライティアです」

魔賢者「皆さんとは、先日、一度美の都で顔を合わせております……」

執事「テレポーション・連絡要員として陛下が派遣してくださいました」

執事「僕もいつ魔王城に用事ができるかわかりませんし、」

執事「城とすぐ連絡を取れないと困りますからね」

魔賢者「と、得意な魔術は情報魔術です。よろしくお願いします」

勇者兄「お、俺はリヒト。よろしく頼む」

魔賢者「は、はい!」

勇者兄(可愛いな……)

魔法使い(リヒト、あんなに魔属を嫌っていたのに……)

武闘家(嫌な予感がする)


勇者兄「名前、長いよな」

魔賢者「ご、ごめんなさい」

勇者兄「いやいやいや責めてるわけじゃなくてさ。愛称あったら呼びやすくていいなって」

魔賢者「よく、フロルと呼ばれております」

勇者(お兄ちゃんの様子が……)

勇者父(お?)

勇者兄「そっか、フロルか。俺のことは呼び捨てで構わないからな」

魔法使い「ちょ、ちょっと! 破壊者探し真剣にやりなさいよ!」

勇者兄「新しい仲間と親しんでおくのも重要な仕事の一つだろ」

魔法使い「…………」

魔賢者「あ、あの、私のことは空気だと思ってくださって大丈夫ですから……」


武闘家「そもそもなあ」

法術師「うん?」

武闘家「アイオさんはリヒトさんの好みからはかけ離れている」

法術師「何でわかるの?」

武闘家「リヒトさんを見てればわかる」

武闘家「あの人の好みは『ちょっとおどおどしてるが根が頑張り屋のうぶい子』だ」

武闘家「きつめの女よりは保護欲掻き立ててくる女の子が好きなんだろうな」

法術師「うーん、確かにそんな感じはするけど……突然こんな話するなんてどうしたの」

武闘家「リヒトさんがついに……って感じがバリバリするんだよ」

法術師「そこはかとなーく感じてはいたけど……やっぱり?」


法術師「私としては、アイオを応援したいんだけど……」

法術師「小さい頃からずっとそうしてきたし、」

法術師「あの子がリヒト君に振り向いてほしくて頑張ってたの、よく手伝ったから……」

武闘家「見事に全部空回りしてたけどな」

法術師「うぅ……」

法術師「この頃は、旅が終わるまで恋愛は自粛しようって、普通に過ごしていたのだけど」

法術師「その隙にいきなり現れた女の子に取られたら……」

武闘家「確実に破壊者化しそうだな」

法術師「なんとかリヒト君を振り向かせなくちゃ」

武闘家「だが俺はアイオさんを応援する気はない」

法術師「えーなんでー?」

武闘家「想い人の妹に嫉妬するような女は正直好かねえ」

法術師「た、確かに焼きもちを焼いちゃう子ではあるけど……」

武闘家「ガキの頃は、他人に見えないところでエミルをいじめてたりもしたんだ」

法術師「えっ……」

武闘家「リヒトさんとはくっつかない方向で破壊者化を防ぎたい」

法術師「で、でも……私は……」


魔法使い「人数多いと宿代かさむわね……」

勇者兄「金なら平和協会から充分支給されてるんだから問題ないだろ」

宿主「八名様ですか……」

宿主「すみません、一部屋空いてはいるのですが、ベッドが二台足りません」

魔法使い「……どうすんの?」

勇者父「あ、じゃあ俺娘の家に行くわ。この村に住んでるんだ」

勇者兄「えっ……あ、そう……」

勇者兄(俺には一体何人きょうだいがいるのだろうか……)

勇者「ぼく城に帰るよ。パルルの魔気解放したいし、たまには帰りたいから」

勇者「長時間この姿保つのも大変なんだ」

勇者「フロル、情報交換用のパスコード教えて」

勇者「最近、簡単な遠隔会話くらいならできるようになってきたんだ」

魔賢者「は、はい」

勇者「よし、じゃあ何かあったらすぐ連絡してね」

勇者兄「お前は情報魔術使えないのか?」

魔法使い「私の専門とは系統が違いすぎるのよ。悪かったわね使えなくて」

勇者兄「別に責めてはないだろ」

勇者(アイオさんがピリピリしてて怖い……)

狼犬「くぅーん……」

勇者「お母さんが恋しい」

セナ糞アニメ化変換の奴や負い減ちゃんボイス

脳内ネタアレルギー

DMM無課金厨の悪夢

ダンジョン×プリンセス【終了】課金厨←何

ロード永遠ダークネスンゴ終了ンゴ打ち切り確定☜ネロ

ひつじ×クロニクル【婦女子シネ】←何本来の目的ラム寝だと

チャトラーの精通流せよな

図太く生きる邪魔に生きる山ね豊根その一方でアンマリダヨ本名は妙高( ˘ω˘ )ダヨ


メイド長「うっ……うぅっ……」

勇者「メルナリアどうしたの!?」

メイド長「陛下がっ……陛下がぁっ……」

勇者「兄上に何かあったの?」

メイド長「コバルト無しでもちゃんと仕事できてるんです!!」

勇者「!?」

メイド長「私っ……陛下のご成長に感動してしまってっ……」

魔王「……泣くな」

魔王「いつまでもあいつに頼りっきりではいかんからな……」

勇者(すごい。あ、ちょっと目の下に隈できてる)

魔王「メルナリア、お前に朗報があるぞ」

魔王「マリンの町とマリンドラゴンが協力体制を取ることとなった」

メイド長「!?」

魔王「つまり、接触禁止令が解かれたというわけだ」

魔王「想い人に会えるぞ」

メイド長「まあ!」

メイド長「ああ、ああ、今日はなんてすばらしい日なのでしょう!」

メイド長「ううぅぅぅぅぅぅぅ」

勇者「よかったね!」

勇者「お母さんが恋しい」

↑デタヨ

増産の無関係雷太君此奴未だ連載してたんだ

アノ例のSS御褒美ビームヤサシイ王様何食い物電線市内の☜無理ゲー【思い出は思い出と】

ネタはネタで涎出たらネロ?


魔王「エミル、今日は怪我をしなかったか。どこか悪いところはないか」

勇者「大丈夫だよ。兄上こそ疲れてるね……肩揉もうか」

魔王「すまないな。頼む」

勇者「細かいルールとかいろいろ考えなきゃいけないんでしょ?」

勇者「大変だね」

魔王「ああ……人間も魔族も納得できるようにせねばならないからな」

魔王「……これを身に着けておけ」

勇者「ペリドットの腕輪?」

木で作られた輪にペリドットがはめ込まれている。

魔王「母上の形見だ。破壊者の増加を防ぐために、現在その石が利用されているのだろう?」

魔王「お守りになるかと思ってな」

勇者「わあ、ありがとう!」


魔王「日に日に封印は弱まっている。戦いは険しくなっていくだろう」

魔王「私も暇があれば一行に加わる」

勇者「うん。兄上がいてくれたら心強いよ。なんたって魔王だもん」

魔王「…………」

勇者(照れてる)

魔王父『…………』

魔王父『我に足りなかった物……それは……』

メイド長「あら……今、誰かの気配がしませんでしたか?」

魔王「……わずかだが私も感じた」

勇者「幽霊かな?」

メイド長「や、やめてくださいよ! 怖いじゃありませんか!」

魔王父『……』

カタッ

勇者「誰も触ってないのにペンが動いたような……」

魔王「除霊師でも呼んだ方がいいかもしれんな」

魔王父(一瞬物体に触れることができたような……何が起こっているというのだ)


勇者兄「なあ、魔王族もゴールドドラゴンの血を引いてるんだろ?」

勇者兄「魔王も竜になれたりすんのか?」

執事「いいえ」

執事「他の人型魔族との間に子を成しても、子供に竜族の遺伝子は受け継がれません」

執事「ただし、ゴールドドラゴンが持つ雷の力は受け継がれます」

勇者兄「なるほど」

魔賢者「閣下、私、ちゃんと人間に擬態できているでしょうか……」

執事「大丈夫ですよ」

執事「それに、僕等は平和協会公認ですから万が一民間人にバレてもなんとかなります」

執事「あと、僕の方が年下なんですからかしこまらなくていいですよ」

魔賢者「もうこの話し方で慣れてしまいましたし……」

勇者兄「な、何歳なんだ?」

魔賢者「今年で17になりました」

勇者兄「あ、じゃあ同い年だ!」

魔法使い「…………」


勇者兄「……ちょっと外の空気吸ってくるわ」

魔法使い「よ、夜中に一人でうろついちゃ危険よ」

勇者兄「俺を誰だと思ってんだ? へーきへーき」


勇者兄「はー……」

勇者兄(星が綺麗だな)

勇者兄(……どうしちまったんだろうなあ、俺)

勇者兄(こんなことに現を抜かしてる場合じゃないんだけどな)

勇者兄(……いや、守りたいものが増えたってだけだ)

勇者兄(あの家、なんか騒がしいな)

女勇者「ほんといつもいつもいきなり来るんだから!」

勇者父「ごめんってぇ」

女勇者母「まあまあ、落ち着きなさい」

女勇者「母さん、こんな男泊めることないわよ!」

勇者父「あんま怒るとせっかくの綺麗な肌が荒れちゃうぞ~ライカ」

女勇者「黙りなさい!」

勇者兄(うわ……なんだか……イライラするような……複雑な心境だ)

勇者兄(父さんは母さんの気持ちを考えたことがあるのか?)

勇者兄(俺には複数の女性と関係を持つなんて無理だな)


魔法使い(いっそのこと、はっきり告白してしまった方がいいのかしら)

魔法使い(でも、今はあまりリヒトの精神を乱すようなことを言うのは躊躇われるわ)

魔法使い(だからといって、このまま放っておいたら、もしかしたらあの女に……)

魔賢者「……?」

魔賢者(歓迎されていないのでしょうか)

魔賢者(そりゃそうですよね、魔族ですもの……)

武闘家「なあ、寝る前に駄洒落大会しようぜ」

執事「あ、いいですね」

武闘家(シュトラールさんが置いてった石が無かったらもっと空気悪かったかもしれんな)

法術師(私は一体どうすれば……)

法術師(ああ、イリスちゃんのぬくもりが恋しい)


――
――――――

法術師「ふっふふっはははははは!」

武闘家「くっ……お前笑いとるの上手いな!」

執事「ははは、得意分野ですから」

魔賢者(すごい、人間とあんなに打ち解けているなんて)

魔賢者(高位貴魔族の方々を次々と説き伏せた伝説の持ち主だものね……いいなあ)

勇者兄「俺がいない間に随分と楽しそうな空気になってるじゃないか~混ぜてくれよ」

魔法使い「あら、意外と早かったわね」

勇者兄「仲間も増えたことだし、人数分飲み物買ってきたぜ」

勇者兄「当然酒じゃなくジュースだがな! ほらよ」

武闘家「おっ流石リヒトさん」

魔賢者「あ、ありがとうございます」

執事「どうも」

法術師「やったあ」

魔法使い(リヒト……どうして……)

魔法使い(破壊神がいなくなったら、どうせまた魔族と敵対するかもしれないのに)

魔法使い(魔族なんて……魔属なんて敵なのに)

勇者死んだオニイサマのイケイ

俺達

俺タワー【メンテナンス】

ダンジョン×プリンセス【終了】課金厨←

ハーレムカンパニー【何】空気【知名度死】例のSS死

ようこそ画面黒い【全アイテムカンスト】要求ンゴ【何もない】

艦これ370万人以外プリキュアも妄想もストック消えた

曖昧看―美化嘘妄言涎シャカダッケ?


翌日

法術師「……アイオ、やっぱりもうそろそろはっきりさせた方がいいと思うの」

魔法使い「…………」

魔法使い「リヒトが魔族なんかに惹かれるわけない」

魔法使い「この旅が終わるまで、この気持ちは封印するわ」

法術師「そう言って、いつも先延ばしにしてばかりじゃない!」

魔法使い「……」

女勇者「もう来ないでよね!!」

勇者父「えー」

魔賢者「!」

魔賢者「平和協会からメッセージを受信しました」

魔賢者「ここからすぐ北北西の町に、破壊者の少女が現れているそうです」

勇者兄「すぐに飛べるか!?」

魔賢者「はい! エミル殿下にもすぐに連絡を転送します」

勇者兄「頼む」


歌唱者(破壊神からの力の供給が安定しつつあるわ)

歌唱者(力を消費しすぎなければ、この姿を保てるはず)

歌唱者(私、生きてさえいれば、今頃このくらいに成長していたわ)

歌唱者(復讐を遂げて、あの山でまた暮らすの)

歌唱者(そのための滅びの力――――)


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【0:647】 勇者「お母さんが恋しい」
1 名前:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[saga]:2016/02/10(水) 18:53:19.23 ID:Xi7uubKoo

勇者「ぼく、ここで死んじゃうんだ」

勇者「お母さん、ごめんね。帰れそうにないや……」

勇者「……最初からわかってた。王様達が、ぼくを……魔族に殺させようとしてたって」

傷だらけの幼い勇者は、故郷で待つ母を想いながら意識を失った。



※朝チュンレベルだが後に凌辱要素有、R-15

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1455097999

↑断髪声優

髪の毛ネタ

何だか一名のDMM

課金厨←運営終了

艦これ370万人

ようこそ画面黒い【全アイテムカンスト】要求ンゴ【アイテムで避妊だ】

強も恭子ちゃんのネタだ☜此処でヨウヤク悼んだ摸歩紫痣ちゃん

名前牛乳の痣ちゃん


Section 23 滅びの唄


執事「アリア!」

歌唱者「……コバルト」

少女の足元には血で塗れた瓦礫が転がっている。

執事「…………やめるんだ、こんなこと」

執事「僕は、君に罪を犯してほしくない」

歌唱者「罪? 私は罪を犯した者をただ罰しているだけよ」

法術師「無関係の人だって大勢巻き込んでいるわ!」

法術師「イリスちゃんを返して!」

歌唱者「……邪魔をするなら、コバルト以外全員消すわよ」

武闘家「消耗させるしかなさそうだな!」


勇者父「おい、しっかりしろ! 立てるか!?」

協会兵「う……」

歌唱者「――揺らめく光」

勇者兄「聖光の大刃<シャイン・ブレード>!」

魔法使い「劫火の華<サイクリックペタル・コンフラグレイション>!」

武闘家「気流砲!」

勇者父「人形兵が沸き出てきたぞ!」

歌唱者「――舞い踊る闇」

武闘家「やべえ……」

法術師「聖なる盾<ホーリィ・シールド>!」

魔賢者「鋼の鮫牙<メタル・シャーク・クラッシュ>!」

執事「……君に雷を放ちたくはなかった。叫びの雷光<ロアリング・ライトニング>」

歌唱者「――虚空の旋律――」

滅びの波動が刃となり、ありとあらゆるものを切り刻んでいく。


勇者兄「つええ……」

勇者「もう始まってる!? 大いなる水の流れ<カタストロフィック・フロッド>!」

勇者兄「魔王は来ねえのか!?」

勇者「政治で忙しくてとても来られる状態じゃないんだ!」

どれほど大規模な魔術を叩きこんでもアリアには届かない。

執事「思い出すんだ! 君は誰かを憎んだりするような子じゃない!!」

執事「誰よりも平和を愛していたじゃないか!!」

歌唱者「あなたこそ忘れてしまったの?」

歌唱者「あの夜の地獄を、みんなの痛みを、死を!!」

執事「アリア……」

武闘家「なあ、人形以外にもなんか変な奴出現してないか……?」

法術師「これは……魂? 怨念?」

魔法使い「死者を操ってるっていうの!?」


歌唱者「この世に強い未練を残した者は成仏することもままならない」

歌唱者「破壊神は死者にも力を与えるのよ!」

歌唱者「――生への執着」

勇者「……アリアさんの魔力に、違和感があるんだ」

勇者「まるで、不純物がいっぱい混じっているような感じ」

勇者「ぐちゃぐちゃに混ざって、ぐるぐる渦巻いてる」

執事「……何かが、混ざっている」

歌唱者「――死への嘆き」

執事「アリア、思い出して! 君の優しさを!」

執事「君は、そんな歌を歌う子じゃなかったはずだ!」

歌唱者「――悔恨の唄――」

癒しの歌は、滅びの唄へと変わってしまっていた。


法術師「いやあああ! お化けえぇぇ!!」

魔法使い「きゃああ!」

勇者兄「埒が明かねえ……いつになったらエネルギー切れ起こすんだ……」

武闘家「幽霊は俺の気功に任せろっ!」

執事(……僕だけは攻撃されていない。こうなったら)

勇者兄「おい!」

コバルトはアリアの下へ走った。

執事「これ以上みんなを攻撃するなら、先に僕を殺せ!」

刀を握っているアリアの右手を掴み、刃を自らの首に添えた。

歌唱者「な、何をするの!?」

執事「君が誰かを傷付けているところを、これ以上見たくないんだ」

執事「さあ、殺せるものなら殺してみろ!!」

歌唱者「そんな……」

歌唱者「そんなこと、できるわけないじゃない……」

執事「……アリア」

歌唱者「っ……」

コバルトはアリアを抱きしめ、

執事「……」

歌唱者「…………!」

彼女の唇を奪った。


法術師「まあ!」

勇者兄「ななななな何やってんだあいつ」

執事「僕の魔気を彼女の体内に送り込んで気絶させました」

執事「しばらくは目を覚まさないでしょう」

魔賢者「な、なんとかなったんですね……」

執事「しかし、イリスの姿には戻っていません」

執事「目を覚ましたら何をするかわかりません。厳重に拘束しなければ」

勇者「……大丈夫じゃないかな。コバルトさんがキ、キスした瞬間、」

勇者「アリアさんから、毒素のような何かが抜けていくのが見えたから……」

法術師「王子様のキスで呪いは解けるのよ!」

魔法使い「あんたはいつでも平常運転ね……」

勇者兄「よし、雑魚一掃しつつ怪我人助けるぞ」


魔王「幽霊が攻撃を仕掛けてきただと?」

魔団長「各地で被害が相次いでおります」

魔王「……破壊神の影響かもしれぬ。警備を怠るな」

魔団長「はっ」

魔王兄「カメリアちゃーん」

メイド「きゃっ、殿下ったら」

魔王父『ふしだらな!』

ドンッ、と石壁を叩く音が響いた。

魔王父(今までは何度壁に八つ当たりしてもすり抜けておったというのに……)

魔王兄「誰だよ壁叩いたの」

魔王「貴様に腹を立てている幽霊でもいるのだろう。この頃出るらしいからな」

魔王兄「マジかよ……」

魔王「この城では淫らな行為を慎むのだな」

魔王兄「でも幽霊に性行為見せつけると除霊できるらしいぜ?」

魔王兄「生の波動にやられるらしい」

魔王「……どうだか」

魔王父(確かに近付けなくなるな)

メイド長「あんまり私の部下の腰を砕かないでくださいよ?」

メイド長「人手が減ると困りますので」


歌唱者「ここは……」

執事「アリア……僕がわかるかい」

歌唱者「コバルト……? 私、一体……」

歌唱者「あ……ああ……」

歌唱者「私、人を殺したのね……たくさん……血にまみれて……」

歌唱者「い、や……いや…………そんな……」

執事「落ち着いて。……君は悪くない。君を操っていた者がやったことだ」

歌唱者「うぅ……う…………」


歌唱者「思い出したわ……私が、破壊神と契約を交わした時のことを」

歌唱者「私は、復讐なんて望んでなかった。そんなことを考える余裕もなかった」

歌唱者「殺される瞬間だったもの」

執事「……」

歌唱者「コバルト、私、私…………」

執事「…………」

歌唱者「私、ただ、あなたに会いたかった。あれでお別れだなんて嫌だった」

歌唱者「また会いたい。そう願った瞬間、私の中に破壊の意思が入ってきて……」

歌唱者「気が付いたら、殺された人達の怨念に侵蝕されていたの」

勇者「じゃあ、やっぱり、アリアさんの中に入っていたのは……」

歌唱者「殺された村のみんなや、竜達の憎しみ……」

歌唱者「破壊神は、私の歌と、みんなの苦しみを利用して…………」

歌唱者「いや……あ……」

執事「もう大丈夫だ。君は自分を取り戻したんだから」

歌唱者「…………」


法術師「……イリスちゃんは……」

法術師「イリスちゃんは、今どうなっているの?」

歌唱者「……私の中で眠っています」

歌唱者「この体、彼女に返します」

武闘家「じゃあ、お前は成仏するのか?」

歌唱者「いいえ。彼女の魂は私のもの。イリスは、私の生まれ変わりなんです」

歌唱者「私は破壊神の呪縛から解き放たれました」

歌唱者「破壊神から力を供給されることもありません」

歌唱者「もうじき、私は彼女の中で永遠の眠りにつきます」

歌唱者「……みなさん、ご迷惑をおかけしました」

歌唱者「ごめんなさい……ごめんなさい…………」

執事「……少し、アリアと二人で外を歩いてきていいですか」


執事「……行こうか、僕達の故郷へ」

歌唱者「え?」

執事「僕の背に乗って。一瞬で着くよ。ちょっと、息苦しいかもしれないけど」


――北の大山脈

白い満月が夜を明るく照らしている。

背後にそびえる雪に覆われた山々が、さらに闇を輝かせていた。

歌唱者「もう、何もないのね……。建物の跡が、少し残っているだけ」

歌唱者「でも、自然はそのままだわ」

涼しい風が、柔らかく草を撫でている。

執事「君のことを思い出さなかった日は無かったよ」

執事「君のような犠牲者が出ないような世界を創ることだけを考えてきた」

歌唱者「……」

執事「……君の歌が好きだった。君の笑顔が好きだった。今でも大好きだ」

執事「君が好きだ」

歌唱者「…………!」


執事「……そう、伝えられなかったのが心残りだった」

執事「こんな形だけれど、正直会えて嬉しいんだ」

歌唱者「……私も、あなたのこと、好きだった」

歌唱者「あなたと語らうことが、あなたの背に乗って一緒に風を感じることが、」

歌唱者「大好きだった」

執事「もう一度、聞きたいな。君の歌を」

短い草が茂った丘の上で、二人は肩を並べて座っている。

執事(ずっとこの時が続いてくれたらな……なんて)

少女の歌声は澄んだ空気に響いてゆき、やがて小さくなっていった。

歌唱者「生命の輝きを……ひかり、の……結晶…………」

歌唱者「…………」

少女は少年の肩に頭を乗せ、眠りについた。

執事「……おやすみ、アリア」


翌朝

幼女「おはよーおねえちゃん!」

法術師「イリスちゃん!? もう大丈夫なの!?」

幼女「イリスげんきだよ?」

幼女「いつのまにねてたのかなあ……かいぎおわったんだよね?」

法術師「ああ……」

執事「…………」

勇者「大丈夫?」

執事「いやあ、ちょっと寝不足なだけですよ」

幼女「あ、おにいちゃん! やくそく!」

執事「……」

幼女「イリスのおうたきいて!」

執事「……ああ、そうだったね」

執事「宿の中で歌っちゃだめだから、外に出てから聞かせてもらおうかな」


――大陸南部の小さな村

幼女「ぱぱー! ままー!」

幼女母「ああイリス! よかったわ……」

幼女父「ありがとうございます! ありがとうございます!」

法術師「イリスちゃん、元気でね……」

幼女「うん! おねえちゃんにかってもらったかみどめだいじにするね!」

法術師「うっううっ……いつかまた会いに来るからね」

幼女「ぜったいきてね!」

幼女「おにいちゃん! おにいちゃんもあいにきてね!」

執事「僕、も?」

幼女「またおうたきいてほしいの!」

幼女「いっぱいいっぱいれんしゅうして、もっとじょうずになるから!」

執事「……ああ、楽しみにしているよ」

執事「また、暇を見つけて会いに来るから」

幼女「うん! やくそくだよ!」

執事「君の歌には、みんなを元気にする力がある」

執事(彼女とは違った歌声)

執事(でも、耳を傾ける者に喜びを与えていることには変わりない)

幼女「またね~!」


勇者「……アリアさんだった時の記憶、全く無いんだね」

執事「これでよかったんです」

執事「操られていたとはいえ、彼女は生命を殺め、罪悪感に苛まれていました」

執事「そんな記憶、忘れた方が幸せなんです」

執事「前世の行いで来世が苦しむ必要なんてありません」

執事「あの子には、未来を見て生きていてほしいんです」


勇者父「げほっ……」

勇者父(……もうそろそろ限界か)


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kokomade
gensaku demo dai2bu ha ero syousetsu janakute warito kenzen deshita


勇者兄「北北西の町の協会支部の立て直しが終わるまで防衛手伝えってさ」

勇者兄「あと、フロルにはこのまま仲間に加わっていてほしいそうだ」

魔賢者「え……」

魔法使い「……!?」

勇者兄「魔族が無害であることを証明するため、人間に協力したという実績を作るためだってさ」

勇者兄「だから擬態を解いて、魔気だけ抑えておいてほしいんだ」

勇者兄「しばらくつらいかもしれないけど、よろしくお願い……したい」

魔賢者「は、はい、頑張ります!」

勇者兄「よし、引き続きよろしくな!」

魔法使い(もうコバルトと魔王城に帰るのかと思っていたのに……)


Section 24 嫉妬


勇者兄「罪の無い人に罪を犯させる破壊神……許せねえ」

勇者「そうだね」

勇者兄「日を増すごとに人形も幽霊も強くなってるな」

勇者「小さめの町とはいえ、ずっとバリア維持するのも疲れるね……」

勇者兄「ここ数日、ずっと人身変化を維持しながらバリア張ってるんだろ?」

勇者兄「もうそろそろ魔王城に行って休んだらどうだ」

勇者「お、お兄ちゃんが自ら魔王城に行くことを勧めるなんて……」

勇者兄「あのなあ! 俺は妹にとって何が一番いいことなのか考えただけ!」

勇者兄「……俺、エミルに自分の信念を押し付けてばっかで、」

勇者兄「お前の気持ちを大事にできてなかったからな」

勇者兄「あいつ……魔王の方が、ずっとエミルの心を大切にしてるって気が付いて、」

勇者兄「兄としてどうあるべきなのか考え直したんだよ!」

勇者「お兄ちゃん……!」

勇者「嬉しいからもうしばらくここにいるよ」


町人1「あの魔族、本当に何もしてこないのう……」

町人2「それどころか協会の指示通りに俺達を守ってくれてるぞ」

町人3「美人さんだしな……」

魔賢者「あ、こ、こんにちは……」

町人4「魔族ってのは、リンゴの実は食べるのかい?」

魔賢者「ええ」

町人4「じゃあやるよ。先日助けてもらったお礼だ」

魔賢者「あ、ありがとうございます!」

武闘家「少しずつだけど受け入れてもらえつつあるな」

魔賢者「はい、安心いたしました」

魔賢者「こんなによくしていただけるなんて思ってもみませんでしたもの」

武闘家(最初は町の人達から怖がられていたが、)

武闘家(フロルさんの純朴な人柄が伝わったのか警戒を解かれつつある)

武闘家(良いことではあるんだが)

魔法使い「…………」


勇者「マフィンもらっちゃった。一緒に食べよ」

勇者兄「お、さんきゅ」

勇者「お父さんも……ってあれ、木によしかかってお昼寝しちゃってる」

勇者「疲れてるのかなあ」

勇者兄「エミルのが負担でかいってのに」

勇者「お父さんにはお父さんの苦労があるんだよ」

勇者兄(昨晩ハッスルしたとかじゃないよなあ……)

勇者兄「お、フロル! おまえもこれ食べないか」

魔賢者「よ、よろしいのですか? では、いただきます」

魔賢者「お二人はとても仲が良いのですね」

勇者兄「まあな。フロルには、兄弟いるのか?」

魔賢者「故郷に、小さな弟や妹がおります」

勇者兄「故郷……どんなところなんだ?」

魔賢者「城下町近くの、小さな村です」

勇者兄「エミルと同じ知恵の一族って奴ではないのか?」

魔賢者「私、その……平民出身なんです」

勇者「フロルはね、魔貴族出身の賢者達と同じくらいの実力持ってるんだよ!」

勇者兄「実力で出世したって感じか? すごいんだな!」

魔賢者「い、いえ……そんな……ありがとうございます」


魔賢者「これ、おいしいですね……」

魔賢者「確か、エミル殿下の本にこのようなお菓子の作り方が載っていませんでしたっけ」

勇者「あ、書いたよ」

勇者兄「エミルの本?」

勇者「魔王城にいる時にね、お料理の本書いて出版したらかなり売れちゃって」

勇者兄「えっすごいな」

魔賢者「私達平民の魔族に大好評なんですよ」

勇者「おかげで税金使わなくてもお買い物できるから気が楽だよ」

勇者「魔族のお金だからこっちでは使えないんだけどね」


魔法使い「あいつら……どうしてあんなに仲良く……」

魔法使い「………………」


――夜 野外

魔賢者「夜の警備、大変ですね」

勇者兄「ああ。……散歩か? 今休憩だろそっち」

魔賢者「一人で警備をするの、寂しくはありませんか……?」

勇者兄「そ、それもそうだが」

勇者兄(心配して来てくれたのかな……嬉しいな)

勇者兄「魔族なのに人間の町で過ごすってのも、大変だろ」

勇者兄「俺、魔王城に泊まった時さ、魔族達から怖がられて……気疲れ半端なかったんだ」

魔賢者「だいぶ、慣れましたから」

勇者兄「そっか……そりゃよかった」

勇者兄「……魔族ってのも、人間と大して変わらねえんだな」

勇者兄「そりゃそうか。元は同じ人間だったんだもんな」


勇者兄「……俺、小さい頃からずっと魔属は敵だって教えられてて、」

勇者兄「魔属は倒すべき敵だとしか認識してなかった」

魔賢者「…………」

勇者兄「でも、妹が魔族だったって判明してさ」

勇者兄「自分の価値観がいかに残酷なものだったのか、その時漸くわかって」

勇者兄「頭が真っ白になった」

勇者兄「今までの人生がひっくり返ったような感じがしたよ」

勇者兄「……俺は駄目な兄貴だった」

勇者兄「魔物と仲良くしてるあいつの気持ちを量ってやれてなかった」

勇者兄「そういえば、旅の途中で、魔族の女の子に恋をしてる男に出会ったんだ」

勇者兄「あの時はそいつの気持ちなんて全くわからなかったけど、」

勇者兄「今なら少しわかる気がする」

魔賢者「リヒトさん……」

勇者兄「あ、あはは、何語ってんだろうな俺」

勇者兄「聞き流してくれ」

勇者兄「……星、綺麗だな」

魔賢者「ええ」


――宿

勇者兄「ただいまー」

魔賢者「……」

武闘家(二人で帰ってきただと……)

法術師「あ、あら、外でたまたま一緒になったのかしら」

勇者兄「ま、まあな」

魔法使い「…………!」

武闘家(これはまずい。これはまずい。どうにかして気を紛らわせないと)

勇者(ぼくが下手に介入しても悪化するだけだし寝たふりするしかない……)

勇者(恋って難しい)

勇者父「すこー……」

武闘家(失恋なんて別に珍しいことじゃない。人はそれを乗り越えて強くなるもんだ)

武闘家(しかし今はタイミングが悪すぎる)

武闘家(ここ数日気分を変えられそうな話題を振ったりはしてたが……)

法術師「もう夜も更けてるわ。みんな、もう寝ましょう」

法術師(……明日、フロルさんと話をしましょう)

法術師(人の恋路を邪魔したくはないけれど、私は……アイオの友達だもの)


――翌朝

武闘家「もう限界だ。決着つけてすっきりするしかない」

法術師「そうね……でも」

法術師「フロルさん、ちょっと来てくれるかしら」

魔賢者「は、はい……」


法術師「……リヒト君のこと、どう思ってる?」

魔賢者「ええと……優しい人だなって、思っています」

法術師「……好き?」

魔賢者「え!? い、いえ……その……知り合ったばかりですので、まだ何とも……」

法術師「気になってはいる?」

魔賢者「……」

フロルは小さく頷いた。

法術師「……あなたの気持ちを否定するつもりはないわ」

法術師「でも、この旅が終わるまでは、あまりリヒト君と二人になってほしくないの」

法術師「アイオが、このままじゃ……」

魔賢者「っ……そう、ですか」

魔賢者「私、魔族だから邪険にされているのかとばかり……ごめんなさい」


勇者「そういえばお兄ちゃんどこ行ったんだろ」

勇者「夜勤があった分朝はお休みのはずだよね?」

武闘家「欠員が出て東門の警備に呼び出されたらしい。……ってあれ」

武闘家「東門って今はアイオさんともう一人での警備のはずだよな」

勇者「あ」


勇者兄「おまえと二人か~」

魔法使い「悪かったわね」

勇者兄「おまえこの頃何ピリピリしてんだよ」

魔法使い「……別に」

  ――――
武闘家「二人っきりになったのが吉と出るか凶と出るか……」

勇者「心配だ……」
  ――――


勇者兄「おまえとも長い付き合いだよな」

魔法使い「そ、そうね」

勇者兄「ガキの頃からずっとだもんなあ」

魔法使い「……あんた、あの子のことどう思ってるの」

  ――――
武闘家「あぁっそれ聞くのかよ」
  ――――

勇者兄「えっ……」

勇者兄「ええ~っと……その…………」

魔法使い「……その態度で答え出てるじゃない」

勇者兄「あ、うん……まあ……」

魔法使い「…………何で?」


魔法使い「あんた、あんなに魔族を嫌ってたじゃない」

勇者兄「昔の話だろ」

魔法使い「私はずっとずっと前からあんたのこと好きだったのに」

勇者兄「えっ」

  ――――
武闘家「ああー」

勇者「覗いてることに罪悪感出てきたんだけど」

武闘家「安全のためだ仕方ない」
  ――――

勇者兄「……マジ?」

魔法使い「マジよ」


魔法使い「それなのにあの女!!」

魔法使い「いきなり沸いて出てきてあんたを奪ってった!!!!」

勇者兄「おおおおお落ち着け」

魔法使い「許さない許さない許さないユルサナイ ユ ル サ ナ イ 」

武闘家「あぁ……」

勇者「この破壊の波動……やばいよ!!」

勇者兄「わー! ごめん!!」

勇者兄「でも俺あの子と出会ってても出会ってなくてもおまえとは無理だったから!!!」

武闘家「リヒトさんもう刺激すんな!!!!」

魔法使い「コワシテヤルゼンブコワシテヤル コ ワ セ コ ワ セ コ ワ セ」

勇者父「おいどうしたんだこれ!」

法術師「うそ……」

法術師「動くのが……一足遅かった……」

魔賢者「そんな……私のせいで……」


勇者父「おまえなあ! 惚れられたんなら両方もらっとけばいいだろ!!」

勇者父「そしたら誰も泣かずに済むだろ!?!?」

勇者兄「あのなあ!!!!」

勇者「アイオさん戻ってきて!」

魔法使い「エ、ミル……」

魔法使い「元はと言えば……あんたさえ……あんたさえいなければ」

魔法使い「あんたさえいなければリヒトは私を見てくれたのに!!!!」

勇者「うぐっ!」

勇者兄「エミル!!」

勇者「がはっ……う……」

勇者父「まだ人としての意識が残ってる! 何か呼びかけろ!」

勇者兄「何言えばいいんだよ!?」

魔法使い「コ ロ シ テ ヤ ル 」

勇者「ひっ……」

法術師「だめえええ!」


勇者「!?」

勇者(母上の腕輪が光ってる……)

魔法使い「うっ……」

勇者兄「隙ができたぞ!」

法術師「今の内に……キャアッ!」

武闘家「攻撃対象がこっちに移ったぞ」

魔法使い「こんな世界―――― イ ラ ナ イ 」

勇者兄「まだ若いんだから俺より良い人見つかるって!!」

勇者父「仕方ねえな……あいつを止めるぞ!」


執事「…………」

メイド長「この頃ぼうっとしがちじゃない。大丈夫?」

執事「ああ、心配いらないよ」

執事「すぐ仕事に戻るから」

メイド長「…………」

魔王「そっとしておいてやれ」

メイド長「ええ……」

魔王「規定の内容もだいぶまとまってきた」

魔王「このまま順調に話が進めばいいのだが」


――
――――――

勇者兄「ぐっ……アイオ……」

勇者兄(魔王がいたら力が増幅して余裕で倒せるってのに……)

勇者兄(……いや、そしたら強力になりすぎてアイオを殺しちまうかもしれねえ)

勇者兄(両方の力が揃ってると手加減が難しくなるんだよな)

勇者兄(少しでもミスると町一個余裕で吹っ飛ぶ)

法術師「……う…………」

女勇者「あら……真の勇者御一行様と平和協会職員の方々」

女勇者「破壊者一人に対してボロボロじゃない」

武闘家「殺さねえ程度に手加減するのむずいんだよ……あだだだ」

女勇者「……あの女、とんでもない破壊の波動出してるわね」

女勇者「よっぽどつらいことでもあったのかしら」

勇者兄「お、お前は……」

勇者父「ようライカ……」

魔法使い「コ ワ セ  ハ カ イ ノ カ  ミ 」

女勇者「あいつもだいぶ消耗してるみたいね。あたしがカタを付けてあげるわ」

勇者兄「待て! あいつは仲間なんだ! 殺さないでくれ!!」

女勇者「そんなこと言ったら死人が出るわよ」

女勇者「流星の駿馬<シューティングスター・ギャロップ>」

勇者兄(あれは……身体強化魔術)

ライカは流れる星のように駆け出し、一瞬でアイオの元へ辿り着いた。


女勇者「っはぁぁあああああああああ!!」

勇者「だ、め……待って!」

ライカは剣に光を纏わせてアイオに剣を振りかざしたが、
エミルがギリギリのところで障壁を張った。
しかしその障壁は脆く、剣戟を防ぎきることはできなかった。

魔法使い「あぐっ……!」

女勇者「斬れなかったけど、相当のダメージは入ったようね」

女勇者「……自分達が殺されそうだったのに邪魔するなんて、何考えてんだか」

法術師「助かったの……?」

魔賢者「よかった……」

勇者父「おまえ、どうしてこの町に……」

女勇者「平和協会のお使いよ。この戦いに加勢するよう呼び出されて走ってきたの」

女勇者「現真の勇者と前真の勇者がいるってのに情けないわね」

女勇者「あの女、何で破壊者化しちゃったわけ?」

勇者父「失恋」

女勇者「……そんな理由で破壊者化するなんて、今頃大陸中破壊者だらけだわ」

女勇者「世も末ね」


勇者兄「アイオ……」

魔法使い「…………」

勇者兄「ごめんな、おまえの気持ちに気付いてやれなくて」

勇者兄「俺じゃ、おまえの気持ちに応えてやれないんだ」

魔法使い「ぅ…………」

勇者兄「おまえがエミルのこと嫌いなんだろうなとは肌で感じてたよ」

勇者兄「俺が原因だってことまではわからなかったけどな」

勇者兄「俺の家族と仲良くできないんじゃ、仮に付き合ってもうまくやっていけないだろ?」

勇者兄「……仲間としては大切に思ってるよ」

勇者兄「ごめん」

魔法使い「…………」


勇者兄「エミル、大丈夫か?」

勇者兄「あ……」


勇者「う……」

協会兵1「こ、この勇者……魔族だぞ!」

協会兵2「協会を騙していたというのか!?」

勇者兄「こ、これにはわけが」

協会魔術師「上部に知らせろ!」

勇者兄(人身変化を維持しつつバリアで町を守り続けていた上での戦闘だった)

勇者兄(もう限界だったんだ……!)

協会僧侶「捕らえよ!!」

勇者父「待て! 待ってくれ! うっ……」

女勇者「ちょ、ちょっとシュトラール何寝てんのよ! 今何が起きてるの!?」


協会魔術師「真の勇者一行に種族を偽っている者がおったとは」

勇者兄「……」

協会魔術師「貴様等は知っていたのか?」

勇者兄「魔族に生まれてきて何が悪いんだよ! そいつは俺の妹なんだ!! 放せ!!」

協会魔術師「そなたらも裁判にかけねばならぬ」

協会僧侶「おまえはテレポーションを使用できたな」

協会僧侶「ブレイズウォリアの協会本部まで我々を送れ」

魔賢者「し、しかし……」

協会僧侶「逆らえば魔族そのものが再び敵と見做されるぞ」

協会魔術師「一行を全員連行しろ!」


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――牢屋

勇者(よかった、ヴェルの石と、母上の腕輪は取り上げられなかった)

勇者「……はあ」

勇者(せっかくうまくいってたのに、これで和平が無くなったりしたらどうしよう)

兵士「あなた方はこちらに入ってください」

勇者兄「けっ」

武闘家「……」

法術師「こんなことって……」

勇者父「いてて」

魔賢者「…………」

兵士「くれぐれも脱獄なんてしないでくださいね……罪が増えてしまいますから」

勇者「みんなー」

勇者兄「エミル、無事か!?」

勇者「ちょっと離れた牢屋にいるよー……」

Section 25 半魔


看守「このエリアの牢には、魔術・法術の発動を無効にする術がかけられています」

勇者兄「それじゃ傷の治療もできないだろ。エミル、大丈夫か?」

勇者「大丈夫だよ。致命傷は負ってないし。お兄ちゃん達だって怪我してるでしょ」

勇者兄「……この封術、本気出せば破れないこともないが」

看守「ひいい、やめてください」

勇者「……アイオさんはどうなったの」

勇者兄「破壊者の収容所に連れていかれた」

勇者兄「破壊神の再封印が完了するまでは出られないだろうな」

勇者「……そっか」

法術師「アイオ……」

法術師「友達なのに、助けてあげられなかった……ごめんね、ごめんね……」

魔賢者「…………」

勇者兄「…………」


国王「やはりエミル・スターマイカは半魔であったか……」

協会幹部1「もっと早い段階で何かしらの罪を着せて極刑にしておくべきだったな……」

協会幹部2「光の力が無くなったのも、魔気と相殺されているためだろう」

大神官「今からでも遅くはございません。魔族の血を引いていることが判明した以上、」

大神官「生かしておく術はありません」

大神官「魔族でありながら人間と偽った者は極刑だと大陸法で定められております」

協会代表「先日特例を出した魔族とは状況も異なるしな」

大魔導師「しかし、今下手に魔族を殺して魔王が黙っているとは限りませぬ」

大魔導師「和平の決裂は人間としても痛手となります」

女勇者「んで、あたしは何で連れてこられてるんです?」

大神官「……リヒトが駄目だった場合、次の真の勇者は」

女勇者「ああそうでしたわね、あたしは真の勇者第一候補」


大魔導師「しかし、ライカ・ディアマンテは先日真の勇者の最低条件に達したばかり」

大魔導師「破壊神との闘いにはやはりリヒト・スターマイカの方が適任だと思われます」

大神官「されど魔族の人間生活幇助を行った人間も同じく極刑となります」

大神官「勇者といえど、国を欺くことは重罪でございます」

国王「ぐぬ……」

協会代表「……法は秩序を守るための物。遵守せねば規律が乱れる」

大魔導師「今は非常事態でございます」

大魔導師「法のために自ら更なる危機に陥るのも馬鹿らしくはありませぬか」

国王「しかしこのような時だからこそ、」

国王「人間と偽っていた半魔の存在は民の不安を煽りかねない」

大神官「うむ、和平決裂の原因となりかねませぬ」

大神官「しかしながら、リヒト達を失うのは致命的であることも確かに明らかですな……」

国王「どうするべきなのだ……」


武闘家「……これでよし」

勇者兄「今おまえ何かやったのか?」

武闘家「封じられているのは魔術と法術だけだ。俺の術は好き放題使える」

武闘家「俺等の会話が他人に認識されないよう催眠術をかけた」

勇者父「おまえ器用だな」

勇者「……ぼくが魔族だってこと、知らなかったことにすれば釈放してもらえるよ」

勇者兄「何言ってんだよ!」

勇者兄「言っただろ、これからは絶対守るって!」

勇者兄「法律に背くことになろうが関係ない、俺はおまえを絶対に見捨てはしないからな!」

魔賢者「殿下を見捨てて生き延びることなどできません!」

勇者「お兄ちゃん……」

勇者兄「……やっぱこの牢打っ壊して」

勇者「待って! 今下手に動けば和平の交渉が決裂しちゃうかもしれない!」

勇者「しばらく待とうよ」

勇者兄「ちくしょう……」


魔王「エミルが投獄されたとはどういうことだ!」

ヴェルディウスは机を叩いた。

魔王「……今すぐ連れ戻しに行ってやる」

執事「お待ちください」

執事「魔王陛下がいきなりエミル様を助けに行ったら大変なことになりますよ」

魔王「くっ……」

メイド長「エミル様……」


兵士「……リヒト様達は無罪となりました」

勇者兄「エミルは? エミルはどうなるんだ!?」

兵士「エミル様は……人間の国及び平和協会、あなた方を欺いて人間として生活し、」

兵士「勇者を騙った罪で極刑となりました」

勇者兄「なんだと!?」

勇者兄「ふっざけんな!!!!」

勇者「…………!」

兵士「刑を速やかに執行するため、夕刻まであなた方を引き続き拘束させていただきます」

法術師「そんな……!」

勇者父「おいそりゃねえだろ!」

勇者父「エミルを人間の姿に変えたのは俺なんだ!」

勇者父「エミルに罪はない。殺すなら俺を殺せ!!」

協会代表「先代魔王を倒した稀代の勇者・シュトラールを処刑しては、」

協会代表「大陸の民が嘆き、協会の運営に支障をきたします故」

勇者父「んなこたどうでもいい! エミルは助けてくれ! 俺の娘なんだ!」

勇者兄「……エミルが殺されそうになって俺が黙ってるとでも思ったのか?」

協会幹部1「母親がどうなっても構わないと言うのか」

勇者兄「きたねえぞ!!」

協会幹部2「『おまえ達はエミルが魔族であるとは知らなかった』良いな」

勇者兄「ちくしょう……ちくしょう!!」

協会代表「……エミル・スターマイカを特別拘束室へ移送しろ」


執事「大使を通して交渉を行ったのですが」

執事「『人間の法に則って極刑を処するだけだ。内政干渉は許されない』と」

執事「下手をすればまた戦争になります」

魔王「おのれ……」


武闘家「執行まであと数時間ある」

武闘家「隙を見てエミルを助け出すぞ」

武闘家「カトレアさんも助け出せば良い」

勇者兄「……ああ」


兵士1「真の勇者一行が逃げ出したぞー!」

兵士2「探せぇ!」

勇者兄(執行される寸前、エミルにかけられている拘束術が緩まるはず)

勇者兄(その瞬間に絶対に助け出す!)

法術師「これ以上仲間を失ってたまるもんですか!」

武闘家「おまえは俺達を見なかったことにな~る~見なかったことにな~る~」

兵士3「ふぁ……」

女勇者「あら楽しそうね。私も手伝ってあげるわ」

勇者兄「お、おまえ……」

女勇者「……ほとんど会ったことがないとはいえ、」

女勇者「きょうだいが死ぬのは寝覚めが悪いもの」


――エミル達の家

勇者父「カトレア!」

勇者母「あなた!」

協会兵1「何!?」

協会兵2「ひっ!!」

勇者父「おまえら俺の嫁さん拘束しやがって!」

勇者父「逃げるぞ!!」



大神官「何やら騒がしいな……」

協会幹部1「極刑は厳粛に行われなければならぬというのに」

神官(エミルさんの魔力容量が大きかったのは、やはり最上級魔族から生まれたから)

神官(でも、彼女の優しさは本物のはず)

神官(それなのに私は、恐れをなして彼女を一人にしてしまった……)

勇者(このまま殺されるなんて……絶対嫌だ!)

勇者(信じよう。助かるって)


協会代表(法は遵守しなければならないもの)

協会代表(だが、世界のために特例を出すこともある)

協会代表(世界の破滅を防ぐため、リヒト達は無罪としたが……)

協会代表(これで正しかったのか……?)

協会幹部1「もちろん、エミル・スターマイカの死刑は内密にしてあるだろうな」

協会幹部2「ああ。世間が何と言うか想像もつかぬからな」

協会代表(……私は、その世間の反応を知りたくてたまらなかった)

協会代表(『心優しき勇者エミルは半魔であったため処刑される』)

協会代表(そう民に伝わったら、民がどう思うか……)

協会兵「報告があります!」


村長「あの心優しき子が極刑とは……なんと嘆かわしい……」

少女「そんな……エミル君……」

少女「半魔だろうが関係ない……エミル君はエミル君」

少女「まるで魔族のように迫害されていた私を助けてくれたもの……!」

娘「エミル……」

娘父「ついに来ちまったか、この時が」

村娘1「嘘でしょ……」

村娘2「魔族と仲良くしようって呼びかけておいてエミル君殺すっておかしくない?」

村娘3「矛盾してるにもほどがあるわ!」

村娘4「魔族だったなんて……でも、これから魔族と協力する時代になるはずよね?」

商人「あの子が……」


協会兵「どこからかエミル・スターマイカの処刑に関する情報が漏洩してしまい、」

協会兵「大陸中……特に大陸横断線東部からの苦情が殺到しております!」

大陸横断線……東のブレイズウォリアから魔王城のある西にかけて広がる地区。

協会幹部1「何だと!?」

協会兵「一部では暴動も起きております!」

協会幹部2「そんな馬鹿な」

協会兵「エミル・スターマイカは、魔属を殺しはしなかったものの、」

協会兵「道中で多くの人々を救っており、その功績を評価している民が非常に多く、」

協会兵「また、魔族と和平を結んだことも相俟った結果だと思われます」

協会幹部2「あ、ありえぬ……」

協会代表「ふむ……」

協会代表(こやつらに黙って情報魔術師に大陸中へ情報を流させたが)

協会代表(このような結果になるとはな)


――極刑の時刻

大神官「魔導封じの術は施してあるな」

僧侶1「はい」

エミルは特別拘束室から野外の斬首の間へ移送された。

大神官「……エミル・スターマイカ。前へ進め」

勇者「……」

勇者(やっぱりぼくは生きてちゃいけない存在なんじゃ)

勇者(……なんてね。そんなこともう思わないよ)

勇者(ぼくのことを大切に思ってくれる人だってたくさんいるんだから)

神官(! 何者かが潜んでいる)

女勇者「術が緩まったわ、今よ!」

勇者兄「エミルを放せ!!」

僧侶1「うぐっ!」

僧侶2「ぐはっ!」

勇者「お兄ちゃん!」

神官「……!」

大神官「な、なんだと!?」

大神官「法術者達、拘束術を!」

魔王「――させるか!!」

勇者「兄上!?」

勇者兄「は、来ると思ってたぜ」

魔王「エミルのいない世界で和平を実現させても何の意味もないからな」


魔王「ほう。この空間では魔術の発動が封じられているようだな」

魔王(無理に破れば爆発が起きる)

魔王「……真の勇者、エミルを連れて逃げろ」

勇者兄「おまえが俺にそんなことを言うなんてな」

勇者兄「行くぞエミル!」

勇者「うん!」

魔賢者「殿下をお守りいたします!」

大魔導師「おお、なんと……魔王が来るとは……」

大神官「なんということだ……!」

勇者兄「城から出ればテレポーションを使える!」

勇者「!」

勇者「大勢……すごくたくさんの人がこの城に押し寄せてきてるよ!」


エミルを解放しろー!

この国は和平を台無しにする気かー!

エミルを散々利用しておいて処刑するってどういうことだ平和協会!!

平和協会がある限り平和にならねえ!! 本部打っ壊しちまえ!!

女子5「魔族とか関係ない! エミル君を返して!!」

ガイアドラゴンまで俺達に加勢してくれてるぞ!?

勇者父「おお、すごいことになってんな」

勇者母「ああ、エミル……」

国王「……国民がこう言っておる」

国王「我等の頭が固すぎたようだ」

協会代表「……新たな時代を築こうという時に、愚かな決定を下してしまった」

協会代表「鎮まれ!」

協会代表「今までの法ではエミル・スターマイカは間違いなく極刑であり、」

協会代表「そのことを知っていながら黙っていた者も同罪であった」

協会代表「だが、時に、古い法律は新たな時代の幕開けを妨げる」

国王「……エミル・スターマイカを無罪とする」


国王「エミル……今まですまなかったな」

勇者「王様……」

国王「おまえを死なせるために無理な命令を下し、そして極刑に処そうとした」

国王「おまえの働きを軽視しておったよ」

国王「これほどおまえが民から愛されておるとは……」

国王「もはや、わしは王の器ではなくなった」

国王「頭の凝り固まった老人が引退する時が来たようだ」

国王「わしは王位を王子に譲るが、邪魔なだけの古い法を廃止し、」

国王「魔族と友好関係を築けるような新たな法を作らせることを約束しよう」

協会代表「うむ……新たな条約の制定に伴い、」

協会代表「大陸法の内容の改正が必要だ」

武闘家「ってことは、助かったんだな」

法術師「はあ……」

武闘家「まったく、年をくったお偉いさんは頭の切り替えが遅くて困るぜ」


魔王「エミル!」

勇者「ヴェル!」

魔王「……和平の更なる証として、我はこの人間の血を引く少女を后として迎え入れる」

勇者「あわわ」

魔王「よいな」

国王「な、なんと」


魔賢者「ああ、よかった……本当によかったです……」

女勇者「あたしを村に帰してもらえないかしら」

勇者父「まあまあ、パパの故郷見てけよ」

女勇者「興味ないわ。あんたのこと父親だと思ったことないもの」

勇者母「あなた、この子……」

勇者父「あっ……」


勇者「おかーさーん!」

勇者母「エミル! ああエミル!!」

勇者「……ぼくのこと、まだお母さんの子だって思ってくれてるの?」

勇者母「当り前じゃない!」

勇者母「この人のことだからどんな女の人と子供こしらえてきてもおかしくないもの」

女勇者「……魔族と子供作ってたなんて、あんたほんと見境ないのね」

勇者父「いやあの、相手を選んではいるぞ? 一応……」

勇者兄「あ、えっと、ライカだっけ?」

勇者兄「助けてくれてありがとな」

女勇者「ふん」

協会兵「ら、ライカ様!」

女勇者「何よ」

協会兵「その、先程の暴動で怪我をした協会兵がおりまして」

協会兵「一晩だけでいいので、防衛に手を貸していただきたいのです」

女勇者「ちょっと、帰れないじゃない……母さんが心配してるってのに」


勇者母「あなた……魔王だったのね」

魔王「……」

勇者母「エミルを助けてくださったんだもの。感謝してるわ」

勇者母「今晩はぜひうちに泊まっていってくださいな」

魔王「!?」

勇者兄「母さん、正気か?」

勇者兄「……まあいいか」


魔王「……美味い」

勇者「ね? お母さんのお料理おいしいでしょ?」

魔王「ああ。エミルの味とよく似ている」

勇者母「喜んでもらえたようでよかったわぁ」

勇者兄「……」

女勇者(……何であたしも一緒にご飯食べてんのかしら)

勇者父(この状況でも普段通りでいられるカトレアはすごい。ほんとすごい)

勇者父(……美味いなあ。ほんと美味いなあ)

勇者(お父さん……泣いてる?)




勇者「ベッド狭くてごめんね」

魔王「構わん。こう密着して寝るのも久々だな」

勇者「……ヴェル、今日来てくれてありがとね」

勇者「嬉しかった」

魔王「私にとって一番大切なのはおまえだからな」

勇者「……ありがと。和平が無かったことにならなくてよかった……」

魔王「おまえまで失ったら私はもう生きてはいけぬ」

勇者兄(聞こえてんだよちくしょう!!)

勇者兄(フロルは今……壊れかけの平和協会本部か)

勇者兄(アイオ…………)

勇者兄(複数人余裕で愛せる親父が少し羨ましい)


勇者父「なあ、おまえ何で俺と結婚してくれたんだ?」

勇者母「どうしたのよ今更」

勇者父「どうしても気になってさ。酷い女好きの浮気者じゃねえか、俺」

勇者母「そりゃあなた、この町の誰かがあなたと結婚しなきゃ、」

勇者母「あなたこの町に帰ってきてくれないでしょ」

勇者母「あなたが生まれ育ったこの家を廃屋にする気?」

勇者母「……なんてね。そんなの建前よ」

勇者母「あんたがどうしようもない女好きでも、あたし、あんたのこと好きだもの」

勇者母「どうしても他の男に興味沸かなかった。それだけよ」

勇者父「カトレア……」

勇者父「おまえは、俺が生まれて一番初めに愛した女だ」

勇者父「苦労かけたな」

勇者母「なんなのよ、おかしいわよ今日のあんた」

勇者父「……今日で、最後なんだ。来れるの」

勇者母「…………そう」


翌朝

勇者兄「急に破壊神の封印が緩まったから、すぐ北に行けってさ」

勇者「そっか。お母さん、行ってくるね!」

魔王「世話になったな」

女勇者「ご飯、おいしかったわ」

勇者父「……じゃあな」

勇者母「…………行ってらっしゃい」

法術師「絶対、絶対帰ってくるからね!」

騎士「気をつけてな」

武闘家「父さん、母さん、師匠、俺も手伝いに行ってくるよ」

魔賢者「では、みなさん……行きましょうか」

魔賢者「瞬間転移<テレポーション>!」


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Section 26 争乱


女勇者「あたしも一行に加われですって?」

協会職員「はい、どうかご協力願いたい」

勇者兄「戦力が増えるのは助かるな」

法術師「そうね……アイオが離脱した以上、もう破壊の意思を追い出す術も使えないし」

法術師「強い光の力を持った勇者が仲間になってくれたら助かるわ」

女勇者「仕方ないわね。母さんにしばらく帰れなさそうって連絡送っといてもらえるかしら?」

勇者父「おお~心強いなあ」

女勇者「あんたのために協力するわけじゃないんだからね!」

勇者(話し方はきついけど悪い人ではなさそう……)

勇者「お姉ちゃん、よろしくね」

女勇者「お、おねっ…………」

勇者兄(ああ……そういやこの子も妹か……)


協会職員「観測者達の報告によると、もうじき破壊神に干渉できるようになるそうです」

勇者兄「えっそんなに急なのかよ」

協会職員「封印が弱まるのに伴い、地中に埋まっていた封印の神殿も出現しました」

協会職員「しかし、神殿の扉を開けるために必要な暗号が解読できておりません」

勇者兄「破壊神の封印が解けても入れないのか?」

協会職員「おそらく、破壊神の力が利用されるのを防ぐため、外部からの侵入を防ぐ必要があったのでしょう」

協会職員「もうしばし待機してください」

武闘家「ゆっくり休みたいところだな……」

勇者兄「神様相手に戦うんだよな、俺等……」

魔王「怖気づいたか?」

勇者兄「そんなわけねえだろ!」

魔王「ほう、頼もしいものだな。私は正直不安だぞ」

勇者兄「なっ……」

魔王(封印するだけで平和をもたらせたらよいのだがな)


勇者兄「……そういや、他の大陸ってどうなってるんだ? 魔族はいないのか?」

魔王「ああ。他の大陸に生息しているのは主に亜人種だな」

魔王「我等魔族は他の大陸に移住すると、体の強靭さと膨大な魔力容量を失い、」

魔王「姿形こそほぼ変わらないが魔族特有の強さは失われる」

勇者「追放された魔族達は、そっちじゃ悪いことできないんだ」

魔王「できるなら追放処分など行っておらぬ」

魔王「追放先の大陸の住民に面倒を押し付けることになるからな」

魔王「追放された魔族は、優れた身体能力を持つ亜人種に従って生きるしかないのだ」


勇者兄「なあ、フロル……一緒に見回り行かないか」

魔賢者「……ごめんなさい」

勇者兄「あ…………」

勇者兄「……やっぱ、責任感じてんのかな」

勇者兄「はあ……」

武闘家「あんま気にしなくていいと思うんだがなあ」

勇者兄「おまえ……あんなことがあったんだぞ?」

武闘家「タイミングが悪くて破壊者化しちまったとはいえ、」

武闘家「失恋なんて珍しくもなんともない」

武闘家「振った相手のこと気にしてたら誰とも付き合えねえじゃん」

勇者兄「そりゃそうかもしれないけどさ……」

勇者兄「きっと、自分のせいでエミルが魔族だってバレたんだと思ってるんだろう」

格闘家「時間が必要なのかもな」

勇者兄「…………」


魔王「仕事が入った。数時間だけ城に戻る」

魔賢者「お送りいたします。今、陛下は魔力を温存すべきです」

魔王「頼む。エミル、おまえも来い」

勇者「ぼくも?」

魔王「おまえの人間としての戸籍に少々手続きが必要となってな」

勇者「はーい」

勇者兄「……はあ」

法術師「…………」

女勇者「じめじめしてるわね」


勇者(大勢の前でプロポーズされるとは……嬉しかったけどね)

魔賢者「…………」

勇者「フロル、この前のこと、気にしなくていいからね」

勇者「フロルは何も悪くないんだから」

勇者「アイオさん、どっちかというとぼくのことを憎み続けてたし……」

勇者「誰も悪くない。ただ、ちょっと歯車が噛み合わなかっただけ」

魔賢者「……お気遣いありがとうございます、殿下」

魔賢者「しかし、私のせいで、殿下が危険な目に……」

勇者「ぼくが種族を偽っていたことは事実だもん」

勇者「そんなぼくでも助けようとしてくれる人がたくさんいるってわかって嬉しかったよ」

魔賢者「…………」

魔王「自分を責めるな。悪い結果にはならなかったのだからな」

魔王「……エミル、この書類に署名を」

勇者「はい」

勇者「……あのね、アイオさんに殺されそうになった時、母上の腕輪が護ってくれたんだ」

魔王「! ……そうか」

勇者「きっと、見守ってくれてるんだよね」

魔王「ああ」

魔王父『この娘がこの城に訪れてから随分経ったな……』

魔王父『我もオリーヴィアとの間に娘が欲しかったが、叶わなかった』

魔王父『あの男の子供だと思うと少々憎たらしいが、』

魔王父『この娘は本当にオリーヴィアとよく似ている』

魔王父『誰かを殺さなくて良かったと思ったのはこれが初めてだ』

魔王父『……死んで以来独り言が増えたな』


勇者「アイオさん、破壊神に憎悪を利用されて、好きな人まで殺しそうになったんだ」

勇者「もしぼくが破壊の意思に取り憑かれて兄上を殺しちゃったりしたら、耐えられない」

勇者「ううん、兄上じゃなくても、もし誰かの命を奪ってしまったら……」

魔王「…………」

勇者「今、操られて誰かを殺してしまって苦しんでいる人が大陸中に溢れているんだ」

勇者「ぼくは、そのことがとても悲しい」

勇者「命は何よりも大切なものなんだ」

魔王「……私が破壊神を倒してみせる。おまえは安心して待っているといい」

勇者「お手伝いくらいするよ」

魔王父『命は大切、か……』

魔王父『オリーヴィアも同じようなことを何度も言っていた』

魔王父『もし我がヴェルディウスを誰かに殺されたら……とても許すことはできぬ』

魔王父『この娘は他人の立場に立って考えることができる。彼女もそうであった』

魔王父『我は、生前……そのようなことを考えたこともなかったな』

調理師「うわあああ! 人間の悪霊だああああ!!」

コック「ひいいいいいいい!!」

魔王「嘆かわしいことに、この城には数多の血が染みついている」

魔王「地縛霊の百体や千体出るだろうな」


勇者父「まだ解読できねえのか?」

協会職員「ええ……申し訳ございません。あなたに発見していただいたというのに」

勇者「ただいまー、どうしたの?」

勇者(あれ? お父さんまた老けたような)

勇者父「おまえこれ読めるか?」

勇者「ああ、大陸最北端の超古代文字だよ。パズルみたいになってるね……」

勇者「文法は北の古語とほとんど一緒だし、辞典があれば解けるかも」

魔王「辞典なら我が城の図書室にあるぞ」

協会職員「な……んですと……」

勇者父「おぉ、流石お父さんとオリーヴィアの娘だな!」

勇者「フロル、もう魔力切れだよね? ぼく取ってくるよ」

勇者父「お父さんは優秀な娘を持ったもんだなあ……」

女勇者「……ふん」

魔王父『…………』

魔王父『今までは城から離れることはできなかったというのに』

魔王父『何故だか共にここまで飛ぶことができてしまった』


勇者「せめて普通の文章になってたらな……謎かけみたいになってるから難しい」

勇者「むむ……」

魔王「詰まったか? 見せてみろ」

勇者「ここ辞典引いてもわからなくて」

魔王「ああ、この動詞は不規則だからな」

魔王「……熟語も複雑な物が使われているな」

勇者「詳しいんだね」

魔王「この言語でないとコードを組みづらい術があってな。少々かじっている」

勇者兄「次元が違う……ちょっと寂しい」

勇者父「まああいつらは母親が同じだからなあ」

勇者父「おまえだってエミルと似てるところあるだろ」

勇者兄「……例えば?」

勇者父「すぐ泣くところとか、真っ直ぐなところとか」

女勇者「あら、あたしはそのあたり似てないわね」

女勇者「はあ……あたしの異母妹に魔王の異父妹がいるなんて信じられないわ」

女勇者「流石稀代の女好きシュトラールね」

勇者父「……おまえのきついところは誰に似たんだ? 直さないと嫁の貰い手に困るぞ」

女勇者「大きなお世話よ」

勇者父「うう」

勇者兄「そりゃ父親がこれじゃあ捻くれもするだろ……」


勇者「…………解けたー!」

勇者「この結果を基に扉の前で術を発動すれば神殿の中に入れるはずだよ」

勇者父「よくやった!!」

勇者父「よーしよーしいい子だぞ~!!」

勇者「えへへ。兄上がいてくれたから解けたんだよ」

魔王「……」

勇者父「おまえも頭撫でてやろうか?」

魔王「い、いらぬ」

魔王父『我が息子に近付くな』

勇者父「ご褒美に小遣いやるから二人で喫茶店でも行ってこいよ」

勇者「え、でも……」

勇者父「街中の監視も必要だろ? 丁度昼飯時だし行ってこい行ってこい」

勇者「ん……じゃあ行ってくるよ。ありがとう、お父さん」

魔王「騒ぎにならぬ協会に許可を取って人間に擬態せねばな」


勇者「このお店の紅茶おいしいね」

魔王「この味ははじめてだな……茶葉を買って城に持ち帰りたい」

魔王「……流石にこの地方は冷えるな」

勇者「そだね。野外でお茶飲むのにはちょっと寒すぎるかも」

勇者「現地の人は平気そうだけど」

女性1「ねえねえ、あの人かっこよくない?」

女性2「あんなに綺麗な男の人がいるなんて……」

勇者「…………」

勇者「ヴェル!! 顔隠して!! ローブ被って!!」

魔王「ど、どうした」

勇者「ヴェルはね、魔族の基準では身長低くても、」

勇者「人間の価値観だったら高身長の美形なの!!!!」

勇者「だから、あんまり人目についたら……その……」

魔王(……妬いてるのか)


魔王「……おまえは可愛いな」

勇者「えっ!? あ、う……うぅ…………」

勇者(……もうすぐ世界を壊そうとしている神様と戦うだなんて、信じられないな)


魔王「なあエミル」

魔王「この戦いを終えたら、婚姻の義を行わないか」

勇者「婚姻の義って……つまり、結婚式?」

魔王「ああ」

勇者「で、でも、ぼくまだ年齢が……」

魔王「魔族の婚姻に年齢制限はない」

勇者「ん……花嫁さんかあ。思ってたより早いけど……兄上がやりたいならいいよ」


勇者父「なあライカ」

女勇者「何よ」

勇者父「好きな男とか、いないのか」

女勇者「いないわよ! 悪かったわね!!」

勇者父「怒るこたないだろ……」

女勇者「勇者業なんてやってるおかげで誰も寄ってこないのよ」

女勇者「そこらへんの男よりも腕が立っちゃうもの、あたし」

勇者父「そうかぁ」

勇者父「まあ世界は広い。おまえを好きになってくれる男はきっといるって」

女勇者「馬鹿にしにきたの?」

勇者父「はあ、父親が娘と話したがるのは別におかしいことじゃないだろ?」

女勇者「鬱陶しいわ。あんたが父親であることがあたしの人生の最大の汚点なのよ」

女勇者「話しかけないでちょうだい」

勇者父「ふぅ、辛辣ぅ」


勇者「!」

勇者「すごく強い破壊の波動が大地を駆け抜けていったよ」

魔王「……来たな。人形の軍勢だ」

勇者父「町を守れ!」

法術師「なんて大軍なの……!」

魔賢者「恐ろしい……」

武闘家「こりゃひでえ」

勇者兄「これじゃ大陸中戦争になるだろうな……」

協会元帥「人形の進軍を止めろおおお!」

魔王父『……力が沸いてくる』

魔王父『破壊神とやらは霊に力を与えているらしいからな』

魔王父『我にも力の供給があるということか』


勇者「轟く大滝<サンダー・カタラクト>!」

魔王「絶望の如く押し寄せる雪の流動……落ちろ! <アーヴァランシュ>!」

勇者「キリが無い……」

魔王「エミル!」

勇者(背後にもう敵が!)

魔王父『……雑魚めが』

人形『ゴガァッ』

勇者「人形が魔力の衝撃で吹っ飛んだ……?」

魔王(今の波動は……)

魔王父『……息子の后となる者を死なせるわけにはいかぬからな』

魔王父『この力、利用させてもらおう』

勇者(姿は見えないけど……誰かがいる)


執事「この魔王城にまで攻め入ってくるなんて……」

執事「全軍、人形と全力で戦ってください」

執事「ああ、気を昂らせすぎると破壊者化しかねないので気をつけて」

魔団長「はっ」

執事「さて、僕も敵を一掃しに行くとするか」

メイド長「私も戦うわ」

執事「生き残るんだよ。君はまだ想い人が生きているのだから」

メイド長「あら、自分は死んでもいいみたいな言い方はやめてほしいわね」

メイド長「お互い生き延びるのよ」

執事「……そうだね。仕事はまだまだたくさんあるんだ」

執事「魔王陛下不在のこの城を守り通します」

メイド長「全てを呑み込む海嘯、<ハイドロウリック・ウェーブ>!」

執事「暗雲を照らす雷轟電撃、我等に仇なす者全てに鉄槌を――神の雷霆<ケラウノス>!」


勇者父「ライカッ!」

女勇者「きゃっ!」

勇者父「怪我すんじゃねえぞ!」

女勇者「ふんっ、あんたなんかに助けてもらう必要なんてなかったわ!」

女勇者「流星の剣戟<メテオ・アームス>!」

勇者父「はあ……ほんと素直じゃねえんだから」

勇者兄「気を抜いてる暇はねえぞ!」


雪魔族「……人間と手を組むのは不本意だが、命令であれば仕方ない」

雪魔族「魔の気にやられたくなくば、あまり私に近付かぬことだな」

風竜「そう言うでない。力を合わせねば魔物達も死ぬこととなる」

娘父「ふん……」

魔王兄「最南端はろくに強い奴が現れないから加勢に来てやったぜ!」

雪魔族「!?」

雪魔族「貴公の魔の気は私には有害だ! 近付くな!」

魔王兄「せっかくの美人だってのになあ」

雪魔族「く、来るな!! 融ける!!」

雪魔族「魔族の魔気を恐れる人間はこのような気持ちなのだろうか……」


青年「この戦いが終わったらルナリアとまた会えるはずなんだ」

青年「死んでたまるか!」

海竜長長男「姉さんのためだ。僕達は君と君の町を守るよ」

海竜長次男「姉さん……無事でいて」


魔王「交渉通りであれば今頃大陸中の人間と魔族が協力して戦っているはずだ」

魔王「互いが互いの戦力を削るようなことをしていなければいいのだがな」

勇者「信じよう。上手くいってるって」

勇者「この戦いをきっかけに、分かり合えるようになる人間と魔族がきっといるはず」


白鳥娘「フォーコン!」

隼青年「シーニュ、おまえは妹達と一緒に隠れているんだ」

白鳥娘「でも……」

隼青年「安心しろ、私は必ず生きて帰る」

白鳥娘「……わかったわ」

隼青年「地上は任せたぞ、人間達」

隼青年「鳥獣の戦士達よ、空を守り通せ!!」


――ブレイズウォリア近辺・破壊者収容所

兵士「収容所が破壊されたぞ!」

人形「 カタカタ 」

魔法使い「ああ……私、ここで死ぬのかしら」

魔法使い「死んだっていいわ。もう何の希望もないんですもの」

魔法使い「十数年、想い続けてたのに……リヒト……」

人形「 キュォォォオオオ 」

魔法使い(惨めな最後ね……)

魔騎士「はっ!」

人形「 ッ ――――」

魔騎士「無事か!?」

魔法使い「っ……!?」

魔法使い(何で魔族がこんなところに)

魔騎士「おまえ、そこそこ魔力持ってるな!?」

魔騎士「拘束具破壊してやるから戦うんだ!」

魔法使い「ちょっと何すんのよ!」

魔騎士「少しでも戦力が欲しいんだ! 戦え!!」


法術師「一体一体は大したことないけど、数が多すぎる!」

武闘家「あ! フロルさん、足元足元!!」

勇者兄「フロル!」

魔賢者「!?」

魔賢者「あ、ありがとうございます」

勇者兄「よかった、助けられて」

勇者兄「……俺等、中途半端なまま気まずくなっちゃったけどさ」

勇者兄「はっきりしないままじゃ後悔しそうだから言っとく!」

リヒトは敵への攻撃を続けながら言った。

勇者兄「俺、君が好きだ! 君のために戦う!」

魔賢者「リヒトさん……」

魔賢者「私、あなたとは出会ったばかりで……」

魔賢者「でも、あなたとなら良い関係を築けるような気がしていました!」

魔賢者「もう少し、時間をください!」

勇者兄「待ってる!! ずっと!!」


勇者「……殲滅、できたみたいだね」

魔王「ああ」

勇者「大気から破壊の波動が消えていってる」

勇者「……まだ夕方にすらなってないのに、ずいぶん長い間戦っていたような気がするよ」

魔王「もう襲ってくる気配はない。今晩は休もう」

勇者「うん」

勇者兄「みんな生きてるかー!?」

勇者「……あれ、お父さんは?」

勇者「おとーさーん! どこー!?」


勇者父「……」

勇者「お父さん!」

シュトラールは木に寄りかかっている。

勇者「どうしたの? 怪我したの?」

勇者父「新しく傷を負ったわけじゃあないんだけどな」

勇者兄「父さん!」

女勇者「ちょっとシュトラール、いつの間に消えてたのよ!」

女勇者「歳のわりに体力……無さすぎじゃ……」

女勇者「…………」

勇者父「いやあ、寿命が来たみたいだ」

勇者兄「寿命、って……」

勇者兄「胸から血が流れてるじゃないか!」


勇者「治んない! 治んないよ!!」

魔王「……父上との闘いで負った傷であろう」

勇者父「そうそう」

勇者兄「そんな……それじゃあ、歳のわりに老けてたり、」

勇者兄「この頃やたら眠そうだったのって……」

魔王「闇の力の毒素を抑えるために力を使っていた結果だろうな」

勇者「お父さん……」

勇者「やだ……死んじゃやだよ……ぼくの結婚式来てよ……」

勇者父「あの世から見てるから」

女勇者「…………」

勇者父「ライカ……お母さんによろしくな……」

女勇者「……と、うさん」

女勇者「父さん…………」

勇者父「最期に、そう呼んでもらえて……嬉しいよ……」


勇者「お父さん!!」

勇者兄「おい!! 死ぬなよ!! 死ぬんじゃねえ!!」

勇者父「じゃ、あな…………おまえらは長生きしろよ」

勇者父「おまえらの顔見ながら逝けるなんて、お父さんは幸せもんだよ…………」

勇者父(もう、あいつの料理……食えねえんだな…………)

勇者「うっ……ぅぁあ……あああああああああ!!!!」

魔王「…………」

ヴェルディウスは無言でエミルの肩に手を乗せた。

勇者兄「光の珠持ってれば……もっと生きられたはずなのに……ちくしょう」

女勇者「…………」

ライカは黙って去っていく。


魔王父『ふん、遂に死んだか』

魔王父『……妙に釈然としないな』

魔王父『こやつには、命を落とせば涙を流す者が大勢いる。妬ましいものだな』

魔王父『何故これほど不誠実な者が慕われるのか理解できぬ』

魔王父『我が死んだ時は……』

魔王父『ああ、そうだ。オリーヴィアが死に、気が付けば我が魂は身体から抜け出で、』

魔王父『隣でヴェルディウスが力無く泣いていたな』

魔王父『命の重みとは一体何なのだ? 泣いてくれる者の人数で決まるのか?』

魔王父『それとも、そんなことは関係なく、その重さは平等にあるものなのだろうか』

勇者父『おまえ独り言多くね?』

魔王父『聞いていたのか。死ね』

勇者父『もう死んでる! そんな言葉使っちゃエリヤに怒られるぞ!』


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kokomade

勇者【エミル・スターマイカ】
職業:勇者
光の力:20 → 0 (常に自身の魔気と相殺されているため)
剣の腕:7500 (剣自体はあまり好きじゃないが父親から才能は受け継いでいた)
物理攻撃力:4500
物理防御力:800
魔力容量:58468
魔技術:8000

魔王【ヴェルディウス】
職業:魔王
闇の力:100000
剣の腕:9999
物理攻撃力:9000
物理防御力:2000
魔力容量:50000
魔技術:9999

勇者兄【リヒト・スターマイカ】
職業:真の勇者
光の力:100000(光の珠装備時、装備していなければ999)
剣の腕:9999
物理攻撃力:8500
物理防御力:8500
魔力容量:9999 (通常の人間は9999でMAX)
魔技術:5000

女勇者【ライカ・ディアマンテ】
職業:勇者
光の力:999
剣の腕:7500
物理攻撃力:6500
物理防御力:6500
魔力容量:7500
魔技術:6000

法術師【セレナ・シトリニィ】
職業:法術師
物理攻撃力:200
物理防御力:100
法力容量:8000
法技術:8000

武闘家【コハク・トウオウ】
職業:武闘家・気功師
光の力:10
剣の腕:2000
物理攻撃力:2500
物理防御力:2000
気功技術:8000

魔法使い【アイオ・アメシスティ】
職業:魔術師
物理攻撃力:200
物理防御力:200
魔力容量:7500
魔技術:7500

執事【コバルト】
職業:側近
剣の腕:8900
物理攻撃力:8800 (ドラゴン化時:80000)
物理防御力:8800 (ドラゴン化時:80000)
魔力容量:45000
魔技術:9988

メイド長【メル=ルナリア】
職業:メイド長、実質側近その2
物理攻撃力:4000 (ドラゴン化時:30000)
物理防御力:2000 (ドラゴン化時:60000)
魔力容量:40000
魔技術:8000


Section 27 平和の礎


翌日

魔賢者「……破壊神との戦いが終わり次第、ブレイズウォリアで葬儀が行われるそうです」

魔賢者「そして、明日……封印の神殿に向かうようにとのことです」

勇者兄「連絡ありがとな」

勇者「……」

勇者兄「……死にかけてるんだったら、そう言って休んでくれたらよかったのによ」

勇者「お父さん、ぼく達に心配かけたくなかったんだよ」

勇者兄「……………………」

勇者兄「悲しんでる暇はないな!」

勇者兄「みんな、今日は軽い運動だけやってしっかり休むぞ!」

武闘家「りょーかい」

法術師「……ええ」


勇者兄「闇の力って、闇の珠の所有者しか持ってないのか?」

魔王「ああ。光の珠と違い、伝播性は無い」

魔王「後天的に差異が生じたのかもしれんな」

魔王「魔族の方が人間よりも平均魔力容量が大きく、体も頑丈だ」

魔王「魔族に対抗するため、多くの者が光の力を持てるよう伝播性を付与したのだろう」

勇者兄「ふーん」

魔王「尤も、最初から差異があった可能性もあるがな」

魔王「授けた大精霊は別の個体だったわけだからな」

魔王「本当にこの力が大精霊から古の勇者にもたらされた物であるとすれば、の話だが」

勇者兄「今更不安になるようなこと言うなよ」

勇者兄「他にそれらしき物は見つからなかったんだ。力の性質的にも確定だろ」

勇者兄「防御以外の魔術の使用一切無しで打ち合いしようぜ」

魔王「よかろう」


武闘家「破壊神本体への対抗手段は光の珠と闇の珠しか存在しないから、」

武闘家「無理に同行する必要は無いってよ。ライカさんは例外的に護衛を命じられてるが」

武闘家「おまえらはどうすんだ?」

法術師「もうアイオのような破壊者を出したくない」

法術師「そのために私もリヒト君達と一緒に戦うわ。少しでも彼等の負担を減らしたいの」

武闘家「俺もついていくとすっかな」

武闘家「破壊神本体に辿り着くまでは一緒に戦う」

魔賢者「封印の神殿へは私の術で皆さんをお送りいたします」

武闘家「おーいエミル」

勇者「…………」

武闘家「大丈夫か?」

勇者「あ、ぼくなら平気だよ」

勇者「この世界を守るために、がんばらなくちゃね」

勇者(ぼくの魔力容量は、最上級魔族の中でもかなり大きい)

勇者(きっと役に立つはず)


勇者(お兄ちゃん達どこにいるんだろ)

キィン キィン

勇者「あっ」

勇者兄「なかなかやるじゃないか!」

魔王「ふん、貴様もな!」

勇者(お互い自分に超防御魔術かけながら打ち合ってる)

勇者(ケンカしてるわけじゃないみたいだ。よかった)

魔王「貴様、生殖細胞の大きさの差を知っているか!?」

勇者兄「知るかよ! 習ったけど忘れたわそんなもん!」

魔王「精子が約0.0025mmであるのに対し、卵子は約0.2mm!」

魔王「つまり、私の方が貴様よりエミルに近いということだ!!」

勇者兄「だ か ら な ん だ よ !」

勇者(百年の恋も冷めそう)


勇者兄「あ、エミル! 来てたのか!」

勇者「うん」

魔王(今の会話……聞かれていたのだろうか……)

勇者「二人ともぼくの大事な人なんだからさ、張り合っても意味ないよ」

魔王「…………」

勇者「明日の戦いのためにがんばってごはん作ったから食べに来て」

勇者兄「やったぜ! エミルのメシだ!」

勇者「いっぱい食べてね! 食べなきゃ力出せないでしょ」


――夜 宿

母上、父上、兄上――

みんな私から離れていく……

魔王「はっ……」

魔王(……決戦前夜に悪夢を見るとは)

勇者「すー……」

魔王(エミル……いつの間に潜り込んでいたんだ)

魔王(私から離れていかぬよう……刻み付けなければ)

ヴェルディウスは横向きに寝ていたエミルの肩を押さえ、天を向かせ、

覆い被さる姿勢を取った。

勇者「んー……ヴェルー……だいすき」

エミルは寝ぼけてヴェルディウスに抱き付いた。

魔王「…………!」

魔王(……夢のせいでどうかしていた)

魔王(父親を亡くしたばかりのエミルに対し、私は何を……最低だ)


魔王「……このような兄ですまないな」

勇者「……どしたの?」

魔王「おまえに……歪んだ愛情を向けてしまっている自分を許せないのだ」

魔王「おまえを深く傷付け、幼き日のように純粋な愛情を向けることもできず……」

魔王「さまざまな医学書を読み漁っても我が病を治すことはいまだ叶わない」

勇者「ん……」

魔王「私は、親兄弟であれば誰に対しても歪んだ愛情をいだいてしまう」

魔王「穢れているんだ……私は……」

勇者「……」

勇者「昔何があったのかはわからないけど、」

勇者「そうなっちゃうくらいつらいことがあったんでしょ?」

勇者「そうならないと、もっと兄上の心が壊れちゃってたんだよ」

勇者「無理に治そうとしなくていいんだよ」

勇者「ぼくの他に姉妹がいるわけでもないんだからさ」

魔王「エミル……」

魔王「すまないな……ありがとう」

魔王父『…………ああ、そうであった』

魔王父『我が精神はオリーヴィアを亡くしたと同時に崩壊し、そして……』

魔王父『謝罪の言葉の一つも届けられぬとは』

魔王父『なんとも……もどかしいものよ』

魔王「喉が渇いた。水を飲んでくる」

勇者「あ、二段ベッドだから体起こすとあぶ」

ゴッ

魔王「うっ」

勇者「ふっ……くすっ」

魔王「……どうせ私は間抜けだ」

勇者「そんなところも好きだよ」


――翌朝

勇者兄「みんな、準備は万端か?」

魔王「愚問だな」

武闘家「いつでもおっけ」

法術師「大丈夫よ」

魔賢者「はい」

勇者「生きて帰ろうね」

魔賢者「では皆さん、参りましょうか」

女勇者「あたし達にこの世界の未来がかかっているのね」

女勇者「覚悟は決まってるわよ」


勇者兄「これが、封印の神殿……」

法術師「二万五千年前に建てられたにしてはきれいに残ってるわね」

勇者「封印の力がかけられてるからだろうね」

勇者兄「ああ。エミル、扉を開けられるか」

勇者「うん。手順通りにやれば開くはず」

破壊神の力が悪用されないよう、外部からの侵入を防ぐ術が施されていた。

勇者「魔光放出!」

勇者兄「おい、かなり魔力を消費してないか」

勇者「そう簡単に解けたら苦労しないからね……」

ゴゴゴゴゴ

勇者兄「よくやった!」

魔王「大丈夫か」

勇者「うん。まだ魔力残ってるよ。戦える」


勇者「この空間、破壊の波動が満ちてる……空気が重いよ」

武闘家「おお、雑魚が沸いてきたぞ」

法術師「幽霊を見るのにも慣れてきたわね!」

法術師「リヒト君とヴェルディウス君はできるだけ力を温存して!」

魔王(君付け……)

勇者兄「すまないな」

女勇者「道を拓くわよ!」

勇者「はっ! たあっ!」

武闘家「ていっ! 獅子怒昂!」

法術師「聖なる矢<セイクリッド・アロー>!」


勇者兄「この扉の奥に、破壊神がいるんだな」

勇者兄「……開けるぞ」

――我は破壊の神

――純然たる破壊の意思

――創造神の対たる存在

勇者兄「何だ……これは」

広い空間の中央部に大きな光の塊があり、幾つもの輪で囲まれている。


魔王「あの輪で封印されているようだな」
破壊神は輪の隙間から波動弾を撃った。

法術師「なんて力なの……!」

魔王「あの輪を消滅させねばこちらからの攻撃も困難だ」

勇者兄「あの輪に俺達が封印を上乗せするんじゃ駄目なのか?」

魔王「見ろ、輪が減った。破壊神を弱らせねば再封印を行っても長くはもたぬ」

魔王「残っている封印も既に脆くなっている」

勇者兄「ならあの輪っかを打っ壊して即行で倒すぞ!!」


勇者「封印を完全に解くことは、世界を危険にさらすのと同じ」

勇者「でも、放っておいてもどちらにしろ封印は解けてしまう」

勇者「はやく終わらせなくちゃ」

勇者「お兄ちゃん達はあんまり力を使わないで! ぼくが封印を破壊する!」

勇者「――――」

勇者(忌み嫌われていたぼくの魔力で、世界を救う手助けができるんだ)

勇者「――――――生命の結晶、輝き散れ! クリスタル・エクスプロージョン!!」

武闘家「す、すげえ」

法術師「綺麗だわ……」

勇者兄「封印が砕け散った……」

女勇者「やるじゃない」


魔王「だが魔力容量にまかせて一気に力を放出すれば体が持たない」

魔王「フローライティア、まだおまえの魔力は残っているな」

魔王「私とリヒト以外の者を全て連れて飛べ」

魔賢者「し、しかし陛下」

魔王「はやくしろ! 封印が解けた以上、戦力となるのは私と真の勇者だけだ」

魔賢者「……わかりました。ご健闘をお祈りいたします」

法術師「リヒト君達なら勝てるって信じてるから!」

武闘家「死ぬんじゃねえぞ!」

女勇者「帰ってきなさいよね、兄さん!」

勇者「う……」

勇者「お兄ちゃん……ヴェル……」

勇者「ごはん作って、待ってるからね…………」

勇者兄「ああ、楽しみにしてる」

魔王「必ず生きて帰る」

魔賢者「瞬間転移<テレポーション>」


勇者兄「あいつらが頑張ってくれたおかげで力が有り余ってるぜ」

魔王「よし、やるぞ」

破壊神は無数の波動弾を放ち始めた。

勇者兄・魔王「「制限解除<リミット・ブレイク>」」

勇者兄「この光の力を最大限ぶっぱなって世界を守ってやる!」

魔王「我が闇の力、とくと味わうがよい!」


魔賢者「殿下、大丈夫ですか!?」

勇者「命を落としちゃうようなことはしないよ」

女勇者「あんまり心配させないでよね」

勇者「ちょっと休めば大丈夫」

勇者「人間だった頃と違って、この体丈夫だもん……産んでくれた母上に感謝しなきゃ」

武闘家「体中負担かかりまくりじゃねえか」

武闘家「今治療してやる」

勇者「ありがと、コハク君」

法術師「私も鎮痛を」


勇者(ぼくにはお母さんが二人いる)

勇者(そして、たくさんいるかもしれないお兄さんの内の二人は、)

勇者(同じお母さんに育てられたお兄ちゃんと、同じ母上から産まれた兄上)

勇者(片方は勇者で、片方は魔王)

勇者(対極に立つ二人が、今、世界のために共闘している)

勇者(どっちにも死んでほしくない)

勇者(生きて帰ってきてほしい)

勇者(どっちが欠けたってだめなんだ)


――滅 び を

勇者兄「はっ、なかなかしぶとかったがだいぶ小さくなったじゃねえか」

魔王「おまえもだいぶバテてるがな」

勇者兄「おまえもだろっ!」

――全てを 無に 返す

勇者兄「そんな力、もう残ってねえだろ?」

――再び我を封印するというのならば

――この世に更なる厄災を

魔王「ふん、やはりな」

勇者兄「どういうことだよ」

魔王「破壊神は二万五千年前、封印される間際にこの大陸に呪いをかけた」

魔王「再封印を行ったとしても、新たな呪詛が生まれる可能性があったのだ」

魔王「完全に滅しなければこの世に平和は訪れぬ」

魔王「しかし、ただ戦うだけでこやつを滅することができるのならば、」

魔王「古の勇者達がやっているだろう」

――混沌の時代の幕開けだ

勇者兄「……仲間のおかげで、幸い俺達にはまだ余力が残されている」

魔王「だがこやつを消し去ろうとすれば……」

勇者兄「珠ごと俺達の体は消し飛ぶだろうな。きれいに相殺されるってわけだ」

魔王「我等が贄とならねば平和な世は訪れぬ」

勇者兄「……まいったな。またエミルのメシ食いたかったってのに」

魔王「……同感だ」


勇者「神殿があった場所が爆発してる……」

封印の神殿がそびえていた地から、天へ向かって光が伸びていた。

勇者「封印術の波動は感じられない……」

法術師「……!」

武闘家「…………」

魔賢者「………………」

女勇者「嘘でしょ……」

勇者「そんな……お兄ちゃん……ヴェル……」

勇者「いやああああああ!!」


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Section 28 未来へ


女勇者「あたしの中から光の力が消えた……」

勇者「……ぼくの中からも光の力が消えた。魔の気もだ」

勇者「光の珠は消失して、破壊神の呪いも解けたんだ」

武闘家「相討ちか」

魔賢者「魔王陛下……リヒトさん……」

法術師「…………っ……」

勇者「…………………………」

猛威を振るっていた人形兵や悪霊達は完全に姿を消した。


封印の神殿が消失してから数時間が経過した。

宿屋で、フローライティアは茫然自失としたエミルを優しく抱きしめている。

勇者の一族はただの人間となり、また、

魔属からも魔の気は消失し、もはや魔属ではなくなった。

人間と魔族が融和できない理由は無くなったのである。

勇者(これからは、きっと平和な世界を目指しやすくなる)

勇者(でも、お兄ちゃんも、ヴェルもいない世界で)

勇者(どうやって生きていけばいいの)

法術師「外が騒がしくなったわね。何かあったのかしら」



勇者兄「たっだいまぁ~!」

魔王「エミル、帰ったぞ!」

勇者「え……?」


――
――――――

勇者兄「俺、ずっとおまえのこと嫌いだった」

魔王「奇遇だな。私もだ」

勇者兄「はは、まさか魔王と肩並べて協力し合うことになるなんてな」

魔王「このようなことになるは、シュトラールが現れるまでは思ってもみなかったな」

勇者兄「おまえを倒してエミルを取り戻すことしか考えてなかったのにさ」

魔王「ああ。私もおまえからエミルを守ることしか考えていなかった」

魔王「……だが、おまえを慕うエミルを見て、彼女を独占する気も少しずつ減っていった」

魔王「おまえは正しいと思ったことを貫き通す、真っ直ぐな良い兄貴だ」

勇者兄「俺こそ、エミルにとってどんな兄貴であるべきか、」

勇者兄「おまえからいろいろ教えてもらったよ。悔しいけどな」

勇者兄「……つかれたな」

魔王「……ああ」

魔王「あいつを悲しませてしまうな」

勇者兄「ほんと、それが心残りだよ」

勇者兄「とどめ、刺しに行くか」

勇者父「まあ待てよ」

魔王父「……」


疲れ果て、床に座り込んでいた二人の前に現れたのは、

死んだはずの先代真の勇者と先代魔王だった。

勇者兄「父さん!?」

魔王「父、上……?」

勇者兄「ど、うして…………」

勇者父「この世に留まっている霊なら、」

勇者父「悪霊じゃなくても実体化できる程、この空間に破壊神の力が満ちているんだ」

勇者父「ま、ここで息子に死なれちゃ俺まで成仏できなくなりそうだしな」

魔王父「ヴェルディウス……」

魔王「父上……父上……!」

魔王父「我は成仏することができず、ずっとおまえを見守っていたのだ」

魔王父「……すまなかったな。我はおまえの心に癒えぬ傷をつけてしまった」

魔王「……それでも、お会いしとうございました」

勇者父「ほら、光の力よこせよ。とどめを刺してやるくらいの力ならある」

魔王父「おまえはあの娘と幸せになれ」

魔王父「……我が息子よ。我はいつでもおまえの幸福を願っている」

――――――
――


勇者「生きて、たんだ……二人とも……」

魔王「父上達が助けてくれた」

魔賢者「リヒトさん!」

勇者兄「おっと」

勇者「ふっ……う……うぅぅぁあぁぁあああ」

魔王「!」

魔王「……」

魔王「エミル、顔を見せてくれ」

勇者「でも、ぼく、今ぐちゃぐちゃ……」

魔王「……感情の区別ができるんだ」

魔王「あの頃のように、肉親としての愛情と、異性としての愛情の二つがはっきり存在しているんだ」

魔王「ああエミル、愛している!」

勇者「ふぐっ」

勇者「……よかったね、ヴェル」

勇者(もう、ヴェルの目から寂しさは感じられない)

勇者兄「エミル~腹が減った」

勇者「あ! ごめんね、今お料理作ってくるよ!」


――
――――――――

魔王母「ネグル……」

魔王父「オリーヴィア……?」

魔王母「ああ、やっと会えたのね」

彼女の背後には、二組の男女が立っていた。

漸く成仏できた男の魂は、しばらく立ち上がらず懺悔し続けた。

勇者父「やれやれ……俺も親父とお袋に会いに行くとするかな」


――
――――――――

――セントラル中央広場

勇者兄「エミルの結婚式だなんて……早過ぎるだろ……ううっ」

勇者「ただの婚約祝いだから! 半ば和平記念兼破壊神討伐祝いみたいなものだし!」

魔王「やはり、正式な婚姻はエミルの故郷の法に従い、」

魔王「エミルが16になってからにしようと思ってな」

勇者母「綺麗よ、エミル」

勇者「ありがとう、お母さん」

狼犬「わふ! わふ!」

勇者(お父さん、見てくれてるかな)

女勇者「良い旦那見つけたわね」

武闘家「よかったな」

少女「おめでとう、エミル君」

娘「処刑騒ぎの時は心底心配したんだから」

女子5「ぐすっ……ぅぅ……幸せになってね……」

村長「めでたいことですな」

村長の孫「……けっ。あの時は悪かったな」

勇者「みんな……ありがとう」

商人「これはお祝いの品だ。良かったら受け取ってほしい」

勇者「わあ、ありがとうラウルスさん!」

法術師「いいなあ……私も早く結婚したいなあ」

騎士「じゃあ、帰国したらすぐにでも式を挙げよう」


魔王兄「おまえそれ人間の正装か? 似合ってるじゃねえか!」

魔王「ありがとうございます、兄上」

魔王兄「……おまえ、どうしたんだ? 新しい病気でも患ったか?」

魔王「失敬な……むしろ快気を祝っていただきたい」

執事「いやあ、めでたいですねえ」

魔従妹「……はあ。仕方ないから祝ってあげるわ」

老賢者「このめでたい日までこの体が持ち堪えてくれて嬉しいよ」

老賢者(ネグルオニクス様……どうか安らかな眠りを)

メイド長「ヒルギー!」

青年「ルナリア! ああ、会いたかったよ!」

青年「一日たりとも君のことを忘れた日はなかった!」

魔属は破壊神の呪いから解き放たれ、魔力容量も人間・動物並みとなった。

また、姿形の変化はほとんどないが、魔族の土気色の肌は赤味を帯び人間らしい血色となっていた。

そのため魔族は人類として分類されることとなり、

同じく魔物も動物の一形態として扱われるようになったのである。

ただし、神聖な生物であるゴールドドラゴンだけはその高い魔力を保持している。


執事「では真の勇者様、魔王陛下、エミル殿下」

執事「新たな時代に向けてお言葉をお願いいたします」

勇者兄「うっぐすっ」

勇者「ほらハンカチ」

勇者兄「ふぐっ……」

勇者兄「俺は、かつて魔王討伐の象徴であり、人類の希望として戦っていた!」

勇者兄「しかし人魔の戦いは終わりを告げ、俺は光の力を失った」

勇者兄「だが、俺はこれからも人類の希望で在り続けたい」

勇者兄「人間だけじゃない、魔族も人類なんだ!」

勇者兄「最早魔族と人間の区別をつける必要さえ無くなった」

勇者兄「人間だろうが魔族だろうがその中間の奴だろうが構わない」

勇者兄「困った時は俺を頼ってくれ! 以上!」


魔王「我は人類滅亡の象徴であっただろう」

魔王「だが我は平和を、この世の安寧を望んでいる」

魔王「誰もが心穏やかに暮らせる世界を実現するための努力は惜しまぬ」

魔王「破壊神という名の脅威により、この大陸の民には甚大な被害がもたらされた」

魔王「亡くした命は取り戻せぬ。心に傷を負った者も多いであろう」

魔王「このような時だからこそ、手と手を取り合い、」

魔王「共に新時代を築こうではないか」

執事「では、エミル殿下」

勇者(緊張するなあ)

勇者「……私は、真の勇者であった父と、魔族の母から生まれた半人半魔です」

勇者「私は人間として育ち、自らの正体を知らされた時は信じられませんでした」

勇者「しかし、今は狭間の存在として生まれたことを誇りに思っています」


勇者「まだ、大切な人を奪った魔族を、人間を、許せない人はたくさんいると思います」

勇者「憎しみはそう簡単に消せるものではありません」

勇者「ですが、憎しみに身を任せれば、自らの手で大切なものを更に壊しかねません」

勇者「誰かが嫌いなら、できるだけ距離を取ればいいのです」

勇者「怒りの対象から遠ざかり、穏やかに過ごせば、それ以上何かを失うことはありません」

勇者「でも、どうしても近くにいざるを得ない場合もあるでしょう」

勇者「そして、種族が違っていても、仲良くすることを望んでいる人間と魔族もいます」

勇者「私は、そういった人達のお手伝いができたらいいな、と」

勇者「そう、思います」

勇者「誰かを憎むより、誰かを愛している方が遙かに幸せです」

勇者「私はこの大陸に生きる全ての生命の繁栄と平和を願い、」

勇者「実現に向けて力を尽くします!」

少しずつ拍手の音は重なりを増し、やがて喝采が沸き起こった。


勇者「人間と魔族は、それぞれ異なった文化を持っている」

勇者「お互い良いところを学べば、きっと文明が栄えて、豊かな暮らしができる」

勇者「そのために、いっぱい勉強して、より良い世界を作りたいんだ!」

魔王「おまえならできるさ」

魔王「私も手伝おう」

勇者「うん!」


この時代を境に、この大陸の住人の生活は大きく変容した。
新たな時代の到来には混乱が付き物だが、彼等なら乗り越えてゆけるだろう。

輝かしき未来へと……


THE END

読んでくださった方々、ありがとうございました


・もし転載する場合は……
安価でミスを指摘したところは修正しておいていただけると助かります
ただ、>>2の「五ヶ月前」は「二ヶ月半前」じゃなく「旅立ちの日」に修正していただけると非常に嬉しいです
あとできれは>>35の『僕も、そう思うよ』を『ぼくも、そう思うよ』に

また、最初の注意書きに
「ショタホモ要素有、注意」
と足しておいていただきたいです
私の意向で改変を加えたことを最初に明記しておくと安全かもしれません……

>>536に関してですが、ブラコンではなさそうです
男の娘を抱けたのは、五年前(当時十五歳)は性欲が昂りすぎてとにかく捌け口がほしかったためであり、
また、政治に協力していたのも、当時反抗期真っ盛りで性格が捻くれており、
政治家達をぎゃふんを言わせて議会を引っ掻き回すことが楽しかったからです
弟のことは、だめだめ過ぎてほっとけない奴くらいには思っていたかと思います

番外編にしようか迷っていた話はほとんど本編に組み込みました

原作から新たに追加した要素はたくさんありますが、
逆に削ったキャラやエピソードもありますし(勇者に横恋慕する少年とかいました)、
いずれ他所に修正版投下するかもしれません。しないかもしれません
場所は未定ですがやるとしたらおそらくpixivかなろうです

エロを省いたのは、エロを書くとエロ以外の部分を書く気力が無くなるからだったんですが、
情事書かないとリアルタイムでの絶望感とか幸福感とか出せなかったので少し後悔してます……

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