【艦これ】色んな艦娘と提督のお話 (370)


スレタイそのままで色々な艦娘と提督のお話をネタが尽きない限り投下します


・基本的に艦娘と提督のお話です。艦娘同士のやり取りは少ないです
・ほぼ全て艦娘と提督がイチャイチャしてるだけのお話です(仕事しろって無粋な事は言うな……)
・割と平気でえっちぃ(R-18)な描写が出てきます。ご注意ください

安価は多分ありませんが、雑談やネタ提供なんかは大歓迎です!


色々と緩いスレですが、どうぞお楽しみくだされば幸いです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1454240309



書きためを二本投下します



『Z3と普通な一日』




紳士提督
何でもそつなくこなすが、難儀な趣味を持つ少し変な提督
誰にでも敬語で、常に紳士的な態度を崩さない
自分が好きすぎること以外は完璧な20代後半の男性
Z3(以後マックス)とケッコンカッコカリを結んでいる
マックスから告白してきたと思っている



Z3(マックス・シュルツ)
ドイツから来たクールな駆逐艦
誰であろうとクールに接するが、提督にはペースを乱されることが多い
コーヒーとバウムクーヘンが好き
提督に迫られてケッコンしたと主張する




提督の朝は早い
5:20頃に微かな物音で目を覚ます
ゆっくりと体を起こして目を開くと、目の前で着替えをしているマックスが居た

マックス「おはよう、あなた」

提督「はい、おはよございます。いつも早いですね」

マックスの朝はさらに早い
毎朝5:00に起き、歯磨きをして顔を洗って寝間着を着替える
着替えている姿を見られても動揺はしない、お互いのもっと恥ずかしい部分を晒し合った仲だ。これくらいで恥ずかしがることは無い

提督は寝ぼけ眼で洗面所に向かい歯磨きをして目を覚ます

提督「では、行ってきます」

マックス「ええ、いってらっしゃい」

提督は動きやすい服装に着替え外に出る
日課であるランニングの為だった
コースはその日によってまちまちだが、時間はきっかり一時間と決めている



マックス「おかえりなさい」

ランニングから帰った提督を迎えるのも勿論マックスだ
提督はマックスから手渡されたタオルで軽く汗を拭う

マックス「ご飯、もうすぐできるわ」

マックスはエプロン姿だった
朝食を作るのは彼女の役目だからだ
ケッコン当初は当番制にしようと提督が提案したのだが、彼女自身の強い要望で朝食だけは彼女が必ず担当している

提督「わかりました、直ぐにシャワーを浴びてきますね」

その言葉を聞いてマックスは背を向ける
提督がふと、その背中を呼び止める

提督「そのエプロン…」

マックス「………」

提督「この前買ったものですね。とても似合っていますよ」

マックス「………Danke(ありがとう)」


提督はこういった小さな変化に聡い人間だった
淡白なように聞えるマックスの返事だが、その表情には小さな笑みが確かにあった


しっかりとシャワーで汗を流し、予め用意してもらっていたバスタオルで体を拭き、丁寧にたたまれた仕事着に袖を通す
ダイニングに近づくと香ばしい香りが漂っており、食卓には朝食が用意されていた
マックスに向かって正面に座り、二人は手を合わせる


「「いただきます」」


とお互いへの感謝を示し、食事を始める
パンと温かい野菜のスープとソーセージ、そしてリンゴやバナナなどの果物
彼女の故郷では朝食は手早く済ませて間食で補うらしいが、ここは提督の要望でしっかり量を食べる

お互いあまり口数が多い方ではなく、静かに時間は過ぎていく

食後のコーヒーを飲んでいた時、提督はある疑問を口にした

提督「…そういえば、どうして朝食だけは私が作る。と強く主張してきたのですか?」

マックス「……急にどうしたの?」

提督「いえ、なんとなく気になっただけです。マックスさんは自己主張が少ない方ですから、拘りがあるのでは?と」

マックスは右上に軽く目線を動かした
この仕草は嘘や言い訳を考えているときの仕草だった
マックスは直ぐに正面に向き直り、一口コーヒーを飲んで軽く息を吐いて言葉をだす

マックス「私の故郷の味に親しんでもらおうと思って」

提督「本当は?」

マックス「あなたに任せると日本食しか出してこないんですもの。朝はパンじゃないとやる気が出ないわ」

提督「ふふっ…で、その裏は?」

マックス「………あなたって何でも自分でこなして手際が良いから悔しいのよ。私だけの役目も欲しかったの」

提督「なるほど」

提督は満足げな笑みを浮かべてコーヒーに口をつける
その顔をムスッとした顔でマックスが睨む


マックス「あなたのその『何でも御見通しですよ』って顔、厭味な感じで嫌いだわ」

提督「ふふふっ、私はマックスさんの拗ねた顔も好きですよ」

マックス「私って表情に出ない方だと思ってたけれど、意外とそうでもないのかしら?」

提督「いえ、マックスさんは表情に乏しい方ですよ」

マックス「……もしかして、考えが読めているというの?」

提督「半分正解です。私はマックスさんと連れ添う仲なのですから、仕草なんかである程度は予想はできます」

マックス「それじゃあもう半分は?」

マックスの問いに答えるように提督は表情を作る
『その裏は?』と聞いてきた、真剣でまっすぐな瞳だ


提督「こうして『何でも御見通しですよ』って風に聞くと、マックスさんは素直に答えてくれますから」

マックス「……やっぱりその顔嫌いだわ」

提督「ふふっ素直じゃないですね。夜はあんなに素直なのに」

マックス「下品なのも嫌い」

提督「私は好きですよ。どんなマックスさんでも」

マックス「………hassen(嫌い)」

提督「知っていますよ、それ『嫌じゃない』の嫌いですよね。そういう素直じゃないところも好きですよ」

マックス「…Sagen Sie nicht mehr(バカ)」

マックスは一息でコーヒーを飲み干し、席を立つ
提督は席を立つマックスに笑顔で声をかける

提督「おかわり、頂けますか?」

マックス「………」

無言でカップを受け取り、マックスは二杯目のコーヒーを注ぐ
その姿を愛おしそうに提督は微笑んでいた


一時間以上かけて朝食をとり、身支度を整えて執務室に向かう
秘書艦はマックスではなく筑摩であった
勤勉な民族性ゆえか、お互い仕事に私情を挟むことなく淡々とこなす

13:00ころ
仕事も一段落付き、提督が大きく伸びをしたところ
その瞬間を見計らったかのように執務室をノックする音

筑摩「ふふ、お迎えが来ましたね」

提督「ええ…丁度いい時間ですね。筑摩さんもお疲れさまです、休息をとって午後もまたよろしくお願いします」

少し早口でそう伝え、提督は執務室の扉を叩いた主に早足で会いに行く
扉をノックした主はマックスだ

マックス「昼食に行きましょう」

提督「はい、参りましょうか」

マックスが秘書艦ではない時はいつもこうして迎えに来る
二人が向かう先は食堂
お互いの仕事の事もあり、休みの日を除いて昼食だけは手作りではなく食堂で食べる

他の艦娘たちもいる騒がしい食堂
二人きりの朝食のような静けさは無いが、相変わらず言葉を交わすことは少ない
しかし、二人が向かい合って座る机に相席する者はおらず、自然と二人独特の空気感が出来ていた

距離を置かれているわけではなく、話しかけられればどちらも普通に返事を返す
だが、口を閉ざせば再び二人の空間が出来上がる
そこだけが一つの絵画のような、くっきりと浮き上がるようにさえ感じる不思議な光景がそこにはあった


14:00
鎮守府内がシンと静まり返る
昼食後のこの時間はシエスタの時間であった
『異国の文化に歩み寄る形にしたい』と考えた提督が作った制度だが、実はマックスの故郷ではそこまでシエスタを取るわけでは無い
しかし全くしないというわけでもないため、否定することもできず甘んじてこの制度を受け入れている

特設仮眠室……という名の夫婦の寝室
マックスと提督は一つの大きなベッドで身を寄せ合う
夫婦が一つの布団の中…ではあるが昼間の仕事の合間に事に及ぶなんてことは無い
シエスタでは静かにするのが暗黙のルールでもあるからだ

向かい合う形で眠っており、提督の深い寝息がマックスの髪に軽くかかる
提督は眠りに落ちるのが早い方だ
規則正しい呼吸を繰り返し五分ほどで意識を落とす

その意識を落としたことを確認したマックスは、視線を気にするような仕草を見せ提督の胸に顔を埋めた
当然、夫婦の寝室に足を踏み入れている者など存在しない
素直に甘えるのが苦手だからこそ、誰も見ていないと分かっていても気恥ずかしいのかもしれない


マックスは提督の心音が好きだった
ゆっくりと、とくん…とくん…と響く音を目を瞑って堪能する

その心音と自分の呼吸の速度が重なり合う感覚が好きだった
自分の呼吸も深くなり、意識が遠く遠くなっていく

……どさっ

マックスの体の上に何かが被さりビクリと体を震わせる
何てことは無い、提督の腕が動いただけだ

情けなく跳ねあがる心臓を押さえつけるように体を丸まらせる
先ほどより強く服が皺になりそうなほど提督の胸板を掴み、顔を擦りつけた
もう一度心音を聞いて、心を落ち着かせて漸くマックスは眠りについたのだった


16:00までがシエスタの時間だが、その時間までにほぼ全ての者たちが起き出し活動を始めていた
提督もその例にもれず、執務室で仕事に戻っていた

その日は18:30ころに余裕をもって仕事を終えて自室に帰る

まだマックスは帰って来ておらず、提督は堅苦しい服を着替えながら冷蔵庫を開く
夕食の献立を考えながら、足りなくなりそうなものをメモする

提督「……うん、こんなところですかね。明日…いえ明後日は早めに切り上げて買い物に行きましょうか」

マックス「ただいま」

提督「あ、おかえりなさい。すみません気づきませんでした」

マックス「別にいいわ。で、今日の夕食は何にするの?」

提督「そうですね……」

台所にやって来たマックスは慣れた手つきでエプロンをつけて提督の隣に立つ
提督もそれに倣ってエプロンを着る

夕食は2人で作るのが恒例だ
夕食の準備も元々は交代制だったのだが、どちらともなく手伝いに来るために二人で作るのが当たり前になっていった


提督「明後日に買い物に行こうと思っているんですが、一緒に行きませんか?」

マックス「そうね…時間の都合がつくなら」

提督「なるべく早く切り上げますから」

マックス「あなたの調整に任せるわ」

日常の会話を交えながら、慣れた手つきで料理をする二人
『今日はどうでしたか?』なんて、つまらない普通の会話を繰り広げながら黙々と料理は完成に近づいていく



完成された料理は続々と食卓に並び整列する
お互いが席について、食事の前に手を合わせる

「「いただきます」」

夕食は大根と油揚げの味噌汁と白いご飯、冷奴と白菜の漬物、主菜は和風ハンバーグと和食であった


マックスは冷奴に醤油をかける提督に目を細める

提督「……?ポン酢の方がお好きでしたか?」

マックス「その醤油って調味料。原材料は大豆だったわよね?」

提督「はい」

マックス「豆腐も大豆からできていたんじゃなかったかしら?」

提督「そうですよ」

マックス「大豆からできた副菜に大豆のソースをかけるのって、なんだか一周周って来たような変な感じだわ」

提督「味噌も大豆からできていますし、油揚げも元は豆腐です。ハンバーグに混ぜたおからも豆腐…つまりは大豆が元です」

マックス「そ、そうだったの?並べられているおかずの殆どが大豆じゃない」

提督「言われてみれば、そうなりますね」

マックス「日本食って大豆を活用し過ぎじゃないかしら?」

提督「いえいえ、これは日本食のほんの一部ですから」

マックス「それにしたってこのバリエーションの豊富さと味の変化……日本人の大豆に対する情熱は凄いのね」

提督「大豆の加工品はまだまだありますよ、例えば……」

それから提督から大豆の事を聞いた
色々と聞いた中でマックスの中での結論は『日本の食生活は大豆で支えられているのね』であった


夕食の後は入浴の時間だ
夫婦で自室にある浴場を使うこともあるが、マックスは他の艦娘との共用の大浴場の方が好きだったため、提督と一緒に入る機会は少ない
日本人は基本的にほぼ毎日お風呂に入る
マックスもすっかりその文化に毒され、この入浴の時間がひそかな楽しみであった
提督は艦娘たちの大浴場を使うことは当然なく、自室にある小さな浴室で一人で入る

22:00頃
就寝まで完全に自由な時間となる
マックスの自由時間の過ごし方は実に様々だ
同郷のZ1やビスマルクと話をしたり、提督と共に夫婦の時間を過ごしたりする

その日は提督と共に自室に居た
寝室で本を読んでいた提督にそっと身を寄せる
提督はチラリと視線を向け、布団を開いてスペースを作りマックスをそこにすっぽりと収めた


提督は読んでいた本をそっと閉じ、眼鏡を外した


提督「したくなったんですか?」

マックス「そんな気分じゃないわ」

提督「そうですか」

マックスの言葉と行動にさして気にする様子も無く、提督は再び本を開いて眼鏡をかけ直した


マックス「眼鏡…どうして文字を読むときだけつけるの?年より臭いわ」

提督「ははは…少し耳が痛い話ですね。日に日にどうにも目が疲れやすくって、眼鏡が無いと文字を読んでいられないんです」

マックス「ふぅん……眼鏡、ずっとつけていたらどうかしら?」

提督「日常生活ではちょっと邪魔かな、と。今のところ支障はないですし」

そう言いながら項をめくる


マックスは提督の眼鏡を奪い、自分にかけてみた
度は弱い方で、眼の奥がくらくらするようなことは無い

提督「眼鏡、気に入ったんですか?」

マックス「まぁ……嫌いじゃない。それくらいです」

マックス「……似合うかしら?」

提督「ええ、とても可愛らしいです。ですが、私の眼鏡ですのでちょっと大きいですね」

提督は眼鏡を奪い返し、自分にかけ直す

提督「装飾品としての眼鏡、なんて見てみるのも面白いかもしれませんね」

マックス「伊達眼鏡という奴かしら。なんかそれはいやね」

提督「ふぅむ?よく分かりませんが、拘りでもあるんでしょうか…」


提督は首を傾げるも、直ぐに目線を手元の本に移し読み進める
マックスは本を読む提督にちょっかいをかけたり、話しかけたりした
提督はそれを嫌がる様子も無く、声をかけられれば返事を返し甘んじてちょっかいを受け入れていた

提督が読んでいた本は『鏡に映った自分が酷く醜く思える男と、日に日に女らしくなっていく自分の体を憎む少女』の官能小説であった
相変わらず変な本を読んでいるなとマックスは思った


00:00ころ
日付が変わる前くらい
提督は自分にかかる重みに気がつく

マックスは眠っていた

提督「……そろそろ私も寝ましょうか」

本にしおりを挟んで眼鏡を外して閉じた本の上に置いた
マックスを起こさないように、そっと抱き上げて体制を整えてあげる
明かりを消して布団にもぐる

すやすやと安らかな吐息を立てるマックスの顔に手を添える
優しく指で撫で、髪を払う

提督「おやすみなさい」

額に優しく唇をつけ、彼女の頭を胸で抱きしめて深く息を吐いた
深く深く息を吐き、深く深く呼吸をする
数分もしない内に、スッと意識が消えていく


こうして彼女たちの一日は終わる
既に何度も繰り返した穏やかな日常
これが彼女と提督の普通の一日だ

しかし、そんな彼女たちでも喧嘩をすることもあるし言い合いになってしまうこともある


寝室で二人、夫婦の夜
そこで繰り広げられる譲れない戦い
それはまた、別のお話だ



『島風とケッコンカッコカリの決断』


普通提督
若い青年の提督。20代前半
主体性が弱く流されやすい。基本的に自分に自信がない。滅多に人を疑わない普通の提督
島風に一度将棋で負けたことがあり、本気で落ち込んだ
初心で童貞でありケッコンカッコカリ指輪を使う事なんてないと思っていたが、知り合いの提督が普通に使っていると知り、自分が間違っているのではと悩み始める


島風
速さが足りてる艦娘
提督と遊ぶのが好き
提督との勝負事で一度も負けたことが無い
提督から何故か相談を受けることになった
服装の趣味が悪い


これ一人の提督のところじゃないんか


提督「………………」

俺は自らの執務机の上にある小さな箱を眺めていた
秘書艦の島風は、その隣でつまらなそうにして足をぶらぶらさせていた

提督「………………」

小さな箱をそっと開ける
箱の中には煌びやかな指輪、所謂『ケッコン指輪』であった

島風「おおぅ…!」

島風は首を伸ばして提督の手元を覗き込み、その箱の中身に目を輝かせる

提督「………………」

パタリと箱を閉じる

島風「おぅっ?」

島風はオットセイのような泣き声をあげて首を傾げる
じっと、曇りなき眼で提督の顔を見つめた


眉をひそめて目を瞑る
俺は深く息を吐き、覚悟を決めて声をかけた

提督「なあ島風」

島風「なんですか?」

提督「俺と……ケッコンしたいと思うか?」

島風「う~ん……分かりません!」

元気よく答えた島風の頭を優しく撫でてやった
『んんぅ?』と納得できていない様子だったが、褒められていると思ったのか島風は目を細めて笑った

提督「ふふっ、良い返事だ」

提督「そうだろうさ、そんなこと聞かれても困るよな」

島風「はい!」

また褒めてくれると思ったのか、さっきよりも大きな声で元気よく返事をする島風
頭をこちらに差し出し、チラチラとこちらの様子を窺っている

島風「わわっ!?」

俺は島風の両脇に手を差し込み体を持ち上げた
島風は驚きの声をあげるが、お構いなしに自分の膝の上にその体を降ろした

俺の突然の行動に戸惑い、初めは所在なさげに視線を動かしていたが、お腹と頭を撫でてやると直ぐに落ち着いた
目の前にある指輪の入った箱に興味は移り、開けたり閉じたりして遊び始めた


提督「いやな、こんな質問をしたのにも理由があってだな。結構真面目に悩んでいるんだ」

島風「へぇ~……」

気の無い返事をする島風
手の中の玩具に夢中になっているようだったが、俺は構わず話をつづけた

提督「ケッコンカッコカリという制度を知っているか?」

島風「う~ん……知ってます!」

提督「その返事は聞いたことはあるけど内容は知らないの知ってますだな」

島風「はい!」

提督「一度教えたはずなんだがな……」

『えへへ…』と惚けた顔を見せた島風の頬を抓んで伸ばす
戒めの意味を込めて、そのままで改めてケッコンカッコカリについて説明をした


提督「……とまあ、一般的な結婚と大きく違う点は相手の同意が必要ない点だな」

提督「それと、このケッコンカッコカリ契約にはお前たち艦娘を更に強くする力があるらしい。…今度は覚えたか?」

抓んでいた頬を離し、島風の顔を覗き込む
言われたことを頭で反復しているのか、うんうんと何度か大きく頷いている

島風は幼い容姿の者が多い駆逐艦の中でも子供っぽい方だが、俺に敬語も使えるしキチンと話せばわかる子だ


島風「ふんふん…わっかりました!それで、提督は何を悩んでるんですか?渡す相手?」

提督「いや、まぁ…それも悩みの内なんだが……」


そこで、俺は漸く悩みの本題を打ち明ける


提督「仮とは言えケッコンと名の付く契約だ。おいそれと簡単に渡そうと思える物でもないだろう?」

提督「そうとなれば深い関係を持った艦娘にでも渡すべきかと思ったが、俺にはイマイチ浮いた話に縁がない」

提督「俺以外の提督はどうしているんだろうと知り合いの話を聞かせてもらったことがあるんだが、そいつはなんと強くするという理由で色んな艦娘に配っていたんだ」

提督「んなドライな考え方アリかと最初は思ったんだが、こう簡単に使っている話を聞くと使わずに腐らせるのももったいない気がしてきたんだ」

提督「だが結局深い仲の相手はいないし、俺自身奥手でな…無理を言って渡そうともできず」

提督「ここでこの指輪を腐らせているというわけだ」


そう打ち明けて、改めて箱から指輪を取り出し天にかざす
島風もつられてそれに目を向ける

一定以上の練度を誇る艦を所有する提督に送られる任務報酬でもらったんだったかな
こういった光物に縁の無い人間だ、審美眼など持ち合わせてはいないが綺麗だと素直に感じる
いつか愛する女性にこのような指輪を送ることになるのだろうかと夢想したこともあるが、いつしかそんな呑気な事を言っていられない年になってきている
だからだろうか、心のどこかで焦りがあったから島風に『俺とケッコンしたいか?』なんて零してしまったんだろう
その質問の答えも『わからない』ときた

………なんだか自分がアホらしくなってきたな


提督「……はぁ…こいつを欲しがってくれる奴が居ればいいんだがな…」

島風「それじゃあ私にくれませんか!」

提督「……は?」


何気なく零したその言葉に対する島風の反応は、あまりにも予想に反するモノだった


島風「え~ダメですか?」

提督「いやいやいやいや、島風。自分が言った言葉の意味を解ってるのか?」

島風「はい!提督のこの指輪欲しいです!」

島風「だってとっても綺麗だもん!」

島風「それに、強くなるって事はもっと速くなれるって事ですよね!!」

提督「…ああ……なるほどな」

一瞬ドキッとしてしまったが、島風の思想は至ってシンプルだった
島風にとっての優先順位は、それが一番だという事は分かりきっていたことではないか


島風「あ、それに提督の事も大好きだもん!!」

提督「それを最初に言えていたら満点だったろうにな…」

思わず苦笑し、島風の頭を撫でる
島風は『ねえねえ!』と俺の返答をねだる

欲しいものは欲しい、好きなものは好き。素直な事だ
子供だからこそ言える、幼さゆえの特権
だが、それでいい…いや、本来はそれを求められているはずだ

恋とか愛とか、好きとか嫌いとか、その一瞬の感情のままが全てな筈だ

いつの間にか愛や恋に利益や損得勘定、見栄を挟むようになってしまったのだろう
実感は全くないが、俺も大人になってしまったのかもしれない

ともあれ、これでいいのかもしれない。どうせ渡す相手の居なかった指輪だ
島風に、俺に対する期待は無いが邪な考えもありはしない
そもそも俺も、こういう展開を望んでいなかったと言えばうそになる
島風なら、素直に喜んでくれそうだと思っていたからこうして悩みを打ち明けたのだ

やっぱり俺は保障や計算が無ければ動けない、卑怯な大人なんだろうな
それくらい奥手でなければ提督などやっていけない、と良い方向に考えておこう


提督「…じゃあ、俺からの指輪。受け取ってくれ」

島風「わーいわーい!やったね連装砲ちゃん!しまかぜもっと速くなれるよ!!」

島風は嬉しそうに指輪を連装砲ちゃんに見せる
心なしか、連装砲ちゃんも嬉しそうだ

島風「つけてもいいですか!?」

提督「ん、いいぞ」

島風「よ~し…んんぅ…!んん?」

提督「おいおい、それじゃあ入らないだろう」

手袋の上から指輪をはめようとした島風を止める
一旦指輪を受け取り、丁寧に右手の手袋を脱がせてやる

いつも長手袋をしている島風の生の手を見るのは何時振りだろうか?
もしかすると初めてかもしれない
子供特有の高い体温の所為か、蒸れて熱を持ち白い肌に赤みが差していた


優しく手を取り薬指に指輪をはめようとすると、島風はこそばゆそうに笑った

島風「本当に結婚するみたいだね提督!」

提督「仮ではあるが…確かにな。……よし、いいぞ」

島風「うわぁ…ありがとうございます!!」

キラキラとした純真なまなざしで、自らの指にはめられた指輪を見ている島風
鼻息も荒く興奮している様子だ


提督「お前の指より少し大きい、あんまりはしゃいで無くすなよ」

島風「そんな事しないったら!」


島風は俺の膝の上から飛び降り、意味も無く駆けまわっている
そのあまりのはしゃぎように、俺も自然と笑みが零れた

成り行きというか、流されたと言った形になってしまったが
島風の姿を見ていると、これで良かったのだと強く思えた




後日、俺のこの軽はずみな行動で説教を喰らう事になるのは、また別のお話……


書きため投下終了


>>20
大体4人くらいの提督と色んな艦娘でのお話を想定しています
こんな提督とこの艦娘っておいしい!くらいの緩さで話を考えているので一度しか出てこない提督もいるかもしれない
各提督ごとに居る艦娘は決まっているので『A提督と島風はケッコンカッコカリしてるけど、B提督とも島風がケッコンカッコカリする』何てことは無いです




次回


『加賀さんと好き好き大好き!』

『大和とすれ違い』

『Z3と夫婦の寝室』

の3本立てを予定しております


ではでは、今しばらくお待ちください


うっひょう!想像以上に反応があって嬉しいっす!!

それでは一本完成したので投下


『加賀さんと好きが嫌い』



小悪魔提督
甘えたがりな小悪魔な提督
年齢は10代前半
加賀さんが好きで好きで仕方がない
日々積極的なアプローチをしては軽くあしらわれる日々を送る
好きな人とそうじゃない人への態度が露骨
自分から迫って来るくせに押されると弱い



加賀さん
一見クールなようで直ぐ熱くなる一航戦のむっつりしてる方
提督の積極的すぎるアプローチに少しウンザリしているが、あしらいには慣れたモノ
提督が自分に言う好きも、誰にでも言う好きと一緒のモノだと思っている
深刻なコミュニケーション能力不全を患っている
意外と嫉妬深く、独占欲が強い



瑞鶴
サバサバした性格の五航戦のすぐカッとなる方
提督のセクハラまがいの行動を嫌っていたが、行き過ぎたことは絶対にしないと気付き可愛いものだと思い始める
それでも変な提督だなと常々思っているが、悪戯をし返す位には仲がいい
甘え上手だが、頼られたいという複雑な乙女心を持っているらしい
加賀さんと提督の3人で会話していても、加賀さんとの会話の糸口が掴めない位には加賀さんと仲が良くないが嫌っているわけではない


私の提督は困ったところが多々ある



提督「あ!加賀さーん!おっはよ~!」

どさっ、と軽い衝撃が体を襲う
私の体に腕を回す美少年の姿がそこにあった
あたかも偶然見つけたかのような口ぶりだが、毎朝こうして抱き付いてくれば嫌でも偶然じゃないと理解できる

加賀「………」

無言で少年を引き剥がす
腕の拘束は意外なほどアッサリと解ける

提督「むふふ、おはよう加賀さん」

私に満面の笑みを向けるこの少年が、私の提督だった

加賀「……はい、おはようございます」

提督「加賀さんは今日も可愛いね!いや、いつにもまして素敵だよ!!今日はきっと素敵な日になるに違いないよ!!!」

加賀「はぁ……」

私は特別機嫌がいいというわけでもなく、返答に困り適当な返事をしてしまう
そんな気の抜けた返事でも、提督は楽しそうにニコニコと笑顔を絶やさない


提督「ねぇ~、加賀さん。ほらほら~おいでおいで!」

提督は両腕を広げ上目遣いで此方を見る
抱きしめ返せという事なのだろう、私は無視してその横を素通りしようとする

提督「ああ!もうどこ行くのさ~冷たいなぁ…。ふふっ、でもそんな加賀さんも大好きだよ!」

加賀「そう……」

この少年は私が何を言っても、どんな態度を取ってもそう返してくる
こんな不愛想な私を相手にして、何が楽しいのかが分からない

提督「じゃあじゃあ!い・つ・も・の。ちょ~だい?」

加賀「…いつもの?」

提督「うんうん!ほら、ちゅ~って…ね?」

可愛らしく首を傾げた後、顔を突き出し目を瞑る
接吻を誘っているのだろう、当然私は提督とそう言ったことはしたことが無い

無言でその横を通過する
冗談は得意な方ではなかった
冗談だと分かっていても、平気で嘘をつく提督のその言葉と行動も苦手に思う要員の一つだった

今日の朝食は何だろうかと、頭を切り替え思いを馳せる


瑞鶴「…提督さん、何やってんの?」

提督「……ん?あれ?加賀さんは?」

後ろの方でそんな会話が聞こえてきた
振り向きはせず、廊下に響く音だけが耳に入り込んでくる


瑞鶴「ふふっ、提督さんってば廊下のど真ん中でキス顔で突っ立ってぷっ…変なの」

提督「笑うなよな、加賀さんからキスしてもらおうとしてただけだし」

瑞鶴「あの人が提督さんにする筈ないじゃない」

提督「はー?そんなのしてもらうまで分かんないしー、加賀さんてば照れ屋さんだから瑞鶴が来てるのに気づいてやめちゃったんだよ」

瑞鶴「何よそれ、私の所為なの?」


そんな会話が聞こえてくる
もやもやとした何だか嫌な気分が心で騒めく


提督「ああー!!!!」


提督の大きな声が廊下に響き渡る


瑞鶴「もう!そんなにでっかい声出さないでよ」

提督「もう!はこっちのセリフだよ馬鹿!!何!?何なの!?何でキスしたの!?」

瑞鶴「だってして欲しかったんでしょ?」

提督「ボクは加賀さんにしてほしかったの!!うげぇ…口にするなんてさぁ……」

瑞鶴「うげぇってことは無いでしょ。それに初対面で頬にチュ~ってしてきたのどこの誰だったっけ?」

提督「頬はセーフだけど口はアウトだよ!それに、あの時はまだ瑞鶴がどんな人か分かんなかったし」

瑞鶴「どんな人か分からなかったらキスするって言うのもどうかと思うわよ…」


この二人…というよりは私以外と提督の関係性
それも私が提督を苦手に思う理由の一つだった

明らかに私とは違う接し方
私に対するそれより気安いというか、自然な態度
五航戦のあの子や赤城さんなんかと話すときの明け透けな物言いをする提督が、本来の提督の姿のように思える

私に対するそれは猫を被っている
提督のあの言動は、初めて会った艦娘や大人しそうな艦娘に向けるからかう時の態度だ

私はからかわれているのだと分かる
不愛想だからだろうか?あそこまでしつこい理由はよく分からない
けれど、私に向けられている好きは本当の好きじゃないと分かればもうそれでいい

だから、提督への対応はあれでいいんだ
自分はあの五航戦や赤城さんとは違うのだから

そう、納得したつもりでも後ろから聞こえる2人のやり取りは気持ちの良いものではなかった


私の歩みが遅いのか、あの二人の歩みが早いのか
いつの間にか二人に追いつかれる


提督「は~あ、ボクと加賀さんの朝だったはずなのに、いつの間にか余計な鳥がくっついてきちゃった」

瑞鶴「置いて行かれた人が何言ってんのよ」

提督「加賀さんってシャイだから、ボクと二人っきりじゃないと甘えられないんだよ。ね?」

自然な成り行きで私に会話が振られる
冗談は得意じゃない
そこの五航戦のような軽口を言えるタイプでもない

だから

加賀「………なんのことですか?」

なんてつまらない言葉しか返せない
白々しく聞いていなかったふりをした


提督はその言葉にしょんぼりした顔を見せたが、直ぐに笑顔に戻った

提督「…もう、聞こえて無かったのかな?ま、そういうドライなところも大好きだけどね!」

提督「さっき瑞鶴がさ……」

そうして提督は先ほどのやり取りを一から説明し始めた

さして離れているわけでもない距離、声が響く廊下
ちょっと考えれば私が白を切っていることにすぐ気づくはずだ
天然なのかもしれないが、少し罪悪感が湧く

提督「……でさ、加賀さんって照れ屋さんだから、瑞鶴に気が付いてキスできなかったんでしょってね」

加賀「…どうしてそうなるの?理解できないわ」

少しキツめに突き放してみる
構わなくていいからと暗に言う


提督「ね、照れてる照れてる」

やはりめげない
こんなやり取りも何度見たことだろう


瑞鶴「提督さんのその呆れる位な前向きさ加減だけは素直に凄いと思うわよ」

提督「褒めてるって事にしといてあげる」


提督は突然私の手を取った
私は困惑し、眉を顰める

提督「ボクお腹空いちゃった、早く食堂いこっ!」

そう言って強く私の手を引く
私はその行動が理解できなかった
食堂が開放されている時間は決まっている、今から歩いていってもたっぷり余裕があるくらいだ
だが、拒絶するほどの理由も無いため、大人しく手を引かれる

瑞鶴「ちょっと置いてかないでよ!私も引っ張ってくれてもいいじゃない!」

提督「しっしっ、ボクの両手は加賀さんの為にあるの。鶴野郎はお呼びじゃなーい!」

瑞鶴「ちょっと!鶴野郎って何よ!!」

提督「ふふっ、怒った怒った。最近の瑞鶴は余裕ぶってて生意気だったからね」

瑞鶴「生意気はどっちよ!!」

提督「ほら、追いつかれないように加賀さんも走って!」


意味も無く走らされる
提督にいつもこうして振り回される
私を相手にしても楽しくないだろうに

私はただ、不愛想に眉を下げ手を引っ張られるだけだった



「「「いただきます」」」


成り行きで3人でテーブルを囲むことになった

苦手な事が多々ある提督だが、例外的にこの時の提督は素直に好きだった

提督「これとこれとこれ、あげる」

提督は自分の皿に盛られたおかずのいくつかを、私の皿においた
提督は食が細いらしく、いつもこうして私におかずを分けてくれる
我ながら現金だと思う


提督「加賀さん、食べるの好きでしょ?」

加賀「そうね…………ありがとう」

気恥ずかしくなって俯いて黙々と食事を口に運ぶ
そんな私の姿に満足そうに提督は微笑む


ひょい、と提督の皿に箸が伸びる

瑞鶴「あむ」

提督「ッ!?」

提督は信じられないと言わんばかりに目を見開いている

瑞鶴「おいしっ♪」

提督「美味しいじゃないし!何やってんの!?」

瑞鶴「え、要らないんじゃなかったの?」

提督「いやまぁ、駄目なわけじゃないけどさ。何だかなぁ、当然って感じで取られるとムカつく」

瑞鶴「じゃあもう一個ちょーだい♪」

提督「さすがに駄目だよ、ボクの分なくなるし」

提督は料理を手で隠すように保護する

それからも、やいのやいのと二人は言い合っていた
騒がしい食事だ


私は食べながら、目の前の提督を観察する
この提督の周りには人が集まりやすい気がする
通りかかる艦娘にちょっかいをかけたり、逆に悪戯を仕掛けられたり

その中で、提督は様々な表情を見せた

私には笑顔しか見せないのに


行儀が悪いと思う気持ちもあるが、それ以上に楽しそうな風景だった

私はその輪に入れていない
ただ近くに居るだけで、そこに私は居ない

なんとなく出来心で、提督が後ろに座っていた鈴谷と話をしている隙にお皿に箸を伸ばす

大切そうに一つだけ残っていた唐揚げを箸で突き刺し、口に運んだ

その流れるシーンは不自然なほど喧騒が遠く感じ、視線が自分に集まっている感覚があった
提督は目を見開き、五航戦なんかは間抜けに口をあんぐり開けていた



加賀「……もぐもぐ。…美味しいです」

提督「か、加賀さん?食べちゃったの?」

提督は声が裏がっていた
それほど私の行動がショックだったのだろうか

加賀「いけなかったかしら?」

提督「む、むむ…む……加賀さんって案外お茶目だなぁ…。いや、お茶目で済ましていいのか…許すんだけどね……でも、でもなぁ…最後の一つ…加賀さんには半分以上あげたのに……」

提督は不満げに口を尖らせ、ぶつぶつと未練を垂れ流している
そういえば、私に対してこんな態度を取る提督は初めて見たかもしれない
してやったりと思うと、自然に頬が緩んだ

加賀「ふふっ…」

提督「あ、笑った」

そう指摘されて、直ぐに真顔に戻した

提督「クールな加賀さんもいいけど、さっきの加賀さんもよかったなぁ」

提督は結局、私にいつも向ける顔になった
なんだか少し、残念な気分になった


瑞鶴「加賀さんも笑うんだ……」

あまりにも突然に爆弾は投下された
私の目の前のその子は、ハッとしたように口を押さえるがもう遅い

加賀「失礼な子。私だって笑う時は笑います」

それが、今日初めての瑞鶴との会話だった


提督が苦手な人間だとすれば
この瑞鶴は、嫌いな相手だ


提督「やっと交わした会話がそれ…?」

提督は頭を押さえて、呆れたと言わんばかりに首を振った



私は提督の事をよく知らない
提督と、その人間関係を何も知らない

それを少しずつ知っていくのは、また別のお話……


と、言うわけで今日はこの一本

目標は一日一本ですね


何?予告していたモノと題名が違う?それは予定が想定通りに進むと思っているからそう思ってしまうんだ
逆に考えるんだ。未来は絶え間なく変化していくもので、予定と想定は食い違っていくものなんだと……

自分が考えていた内容と実際に出来上がった内容の違いによって起こる題名変更。あるあるだと思う


改めて読み返すと普通提督の自分語りくどすぎるなと思いますねぇ…
一人称視点はやってて楽しいですけど、まだまだうまく書けなくて研究中っす

これからも実験的(気分)で一人称だったり三人称だったり視点がゴロゴロ変わると思いますけどご了承ください



次回は

『大和と何か違う』

『Z3と夫婦の寝室』


を予定しております


一日一本が目標と言った翌日に一本も投下しないスタイル
遅筆な私を許してくれ……

乙って言うコメント一つ一つに返信したいけれどさすがに鬱陶しいかなと思う
自分が何処まで雑談に興じていいのか分からない、分からないんだ…


とまあ前書きはこれくらいで、一本完成したので投下


『大和と何か違う』



生真面目提督
真っ直ぐ真面目で頑張り屋な提督
年齢は10代前半
頼られたがりだが、先走る傾向にあり上手くいかないことが多い
最近大和の様子が少しおかしいことに気付いているが、どうしていいか分かっていない



大和
奥ゆかしく慎ましい大和撫子な大和型の姉っぽく見えない方
提督の事が好きだが、如何にもそれを上手く伝えられない
童貞メンタルな処女だが耳年増なためいかがわしい妄想に耽って周りが見えなくなることがよくある
提督との身長差が50cm以上な事がここ一番の悩み



足柄さん
勝利と戦場と提督に呼ばれる妙高型の声が一番大きい方
提督の初期艦で一番長くそばにいる
提督の事を熟知しており、姉弟と言ってもいいほど深い関係
非常に押しが強く先走る傾向があり、提督と似た者同士である



私は提督が好き……だと思います
小さいけれど、真面目で頑張り屋さんで…

提督「大和さんっ♪」

私にこうやって眩しいくらいの可愛い笑顔を見せてくれます
それに、とっても優しくて…私の事をいつも気にかけてくれて、でも……

私と提督は何故だか上手くいきません

私と提督は、た、多分両想いの筈なんですけど……


そんな私と提督と何かが違う、そんなお話



大和は決意した
今日こそはお互いの気持ちをはっきりさせようと

大丈夫よ大和、自信をもって!
武蔵だって『ん?ああ、いいんじゃないか』って言ってたじゃない!
背中を押してくれた妹の為にも、この告白を何としても成功させるわ!!

グッと強く拳を握り気合を入れ直す

大和はこれから告白をします
するとどうです?初心な提督は頬を朱に染め照れくさそうに『ボクも、ずっと言おうと思っていました』て返します
そんなカウンターは想定通りよ、少量の鼻血を犠牲にするでしょうけれど些細な問題です
でもそこで満足しては駄目、私はそのカウンターに臆さず懐深くに潜り込むわ
『本当?嬉しいわ提督…私……』その言葉で一気に距離を詰め『ねぇ、ずっと我慢してきたんですよ…』とすかさず追撃です
その時の私はきっとなんか艶っぽい息を提督の耳に吹きかけながら、体を押し付けてるわ
流石の提督も理性が崩れそうになるけれど真面目で誠実な提督の事よ、なけなしの理性で『ま、待ってください、僕たちにはまだ…』と来るでしょうね
そこですかさず接吻よ!この一撃で提督の理性を溶かし切ります!
だけどこれは諸刃の攻め、また股間から伝う液体で絨毯を汚してしまうかもしれなけれど、それから起こる事を考えれば安い代償です
もうここまで来たら提督の取る行動は一つだけです、『ちょっと待ってください』そう決意を固めた目をした提督は机の引き出しを開きます
その奥には小さな箱が仕舞ってあるの、『ずっと渡すべきか迷っていました…でも、覚悟が出来ました。受け取って下さい』そう、いつになく凛々しい顔つきで言う
当然その箱の中身はケッコン指輪。おませな提督さんは私の為にずっと指輪を用意していたんです
その指輪を受け取った先には楽園が広がっているわ、心が通じ合い、笑い合い、愛し合い、触れあい、一線を超え、破瓜、着床妊娠出産…

大和「そ、そんな…提督!一姫二太郎が良いよねだなんて……!そんなに求められたら大和…推して孕みます!!」

提督「大和さん?聞こえていますか?」

大和「ハッ!?」

提督が心配そうに私の顔を覗き込みます
い、いけないわ大和…今は秘書艦として提督のお仕事を補佐していたんだったわ


大和「ご、ごめんなさい、ちょっと考え事を…」

提督「そうだったんですね。……大和さん、なんだか最近思い詰めていませんか?何かあったらいつでも言ってくださいね!」

大和「は、はいぃっ!?」

つ、つまりいつでも告白を受ける準備はできていると!?
い、いいいい今が…今がその時なんですね!

大和「て、ててて…提督!!」

提督「なんですか?」

大和「わ、私…好きです!!!」

提督「…?はい、ボクも好きですよ」

大和「…………………」

提督「…………………?」


あ、あれ?何だか予想と違います
提督は私の告白を受け入れてくださいました。でも、何か…違うような……


大和「あ、あの…私、提督の事好きです」

提督「はい!ボクも大和さんの事が好きですよ!」

大和「…………」

提督「…………?」


あんまり照れていません
というか困った顔をしています
い、イメージとは違いましたが受け入れてくれていることには変わりありません
つ、次の段階に移行しなくてはなりません

つつつつつ…

すり足で提督ににじり寄る
提督は不思議そうに顔を傾げる

大和「か、かわいい……はっ!?」

つい、心の声が漏れる
えっとえと…確か、か、体を寄せるんでしたっけ?

提督に手を伸ばす
その指先はプルプルと震えていた


提督「えい」

提督は伸ばされた手を両手を包むこむ

提督「ボクの手よりおっきいです。でも、ちょっと冷たいですね……はぁ~…」

私の指先に温かい息がかかる
か、かかか…可愛すぎます!反則です!!
そんなあざとすぎる行動の対策なんて考えていませんよ!!!

だ、駄目よ大和ここで陥落しては駄目!
なんとかこっちのペースに持って行かなければ!!

大和「も、もう大丈夫…です」

名残惜しい気持ちを振り切り、温もりに包まれている両手を引き抜く
見事に私の声は裏返っている

提督「なら、良かったです。えへへ」

提督のあざとさは留まることを知りません
落ち着け、落ち着くのよ大和、主導権を奪い返すのよ


大和「ふぅー……ふぅー………」

提督「本当に大丈夫ですか?息が荒いですよ?」

大和「へ、平気です……」

提督「顔もなんだか赤いです。もしかして体調が……」

提督の顔がグッと近づく
こ、ここしかない!!

そう思った私は決死の覚悟で提督の体を抱きしめました


提督「や、大和さん?」

大和「あ、あのあの…えと……そのぅ……」

だ、駄目だ
頭が回りません
ですが視界はグルグルと回ります

あっ…提督、優しい匂いがする
男の子の匂いなのに…汗っぽい感じじゃなくて、なんだか温かくなるような心地のいい……じゃない!!

危うくトリップしそうになった頭を無理やり回転させる
つ、次はどうするんでしたっけ?艶?なんか取り敢えず色っぽい感じを…
……色っぽいってどうすればああ!!


想像以上の自分の許容範囲の狭さにどうすることもできず、混乱している私の頭が優しく撫でられる

大和「ふゎ…?」

提督「よしよし…大丈夫です。落ち着いてください」

大和「あ、あ…あの……」

動揺する私と違い、提督は努めて落ち着いた声で話す

提督「大和さん…寂しかったんですよね?」

大和「え、ええ…?」

提督「大和さんには資材消費量を理由にお留守番してもらうことも多かったですからね」

提督「だから、こうやって誰かに慰めて欲しかったんですよね?」

幼い子供に語り掛けるように私の耳元に囁く
ギュッと、私を抱きしめ返す力が強くなり背中をポンポンと優しく叩く


凄い勘違いをされている
そう気づいてはいたが、この温もりを手放すは惜しい
年不相応な無上の包容力に包まれた私は、もうこれでいいかもしれないと満足感に浸る

大和「お母さん……」

提督「あはは…はい、今だけはお母さんですっ!大和をい~っぱい甘えさせてあげます!」

私のとんでも無く気持ち悪い発言にも提督は嫌がる素振りを一切見せず、逆にノリノリで答えてくれた

こんな事がしたいんじゃなかったのにな…
そう思いつつも、提督の優しさに溺れる私だった

その日は結局もう一度告白し直すこともできず、提督に好きなだけ甘やかされました


………いや、さすがの私でもこんな事がよくあるわけではありません
私の許容限界と提督の包容力が真っ正面からぶつかった結果、こうなってしまっただけなんです

今日だって提督を癒してあげようと

『膝枕…どうですか?』

なんて勇気を出して誘ってみました
そのはずなのに……


大和「うひゃうっ!」

足柄「こら、あんまり動くと耳の中に突き刺さっちゃうわよ?」

大和「怖いこと言わないで下さいっ!」

何故か足柄に膝枕をされていた。剰え耳かきをしてもらっていた
おかしい…こんなはずじゃあ……

確かに私は提督に行ったはずです
提督も分かりましたって言ったはずです
でも、何故かその直後提督が足柄を呼んで、あれよあれよとこんな状況に……

大和「ううぅ…なんか違う……」

因みにこれは提督自室の出来事で、提督は机に向かって勉強をしていました

足柄「次は右耳をやるから反対向いて」

大和「は~い……」

だが、足柄の膝枕と耳かきの気持ちよさは本物で
結局また、これはこれでもいいかと思ってしまうのでした


提督「大和さん、気持ちいいですか?」

大和「あ、はい」

提督「いきなり膝枕をしたいって言われたときには驚きましたけど、喜んでくれるなら良かったです」

大和「『したい』とは言ってませんよっ!?」

足柄「こんな状態でそんなこと言っても説得力ないわよ」

大和「うぅ…そうなんですけどね……」

提督「足柄さんの耳かきって気持ちいいですよね、ボクも昔はしてもらいました」

足柄「昔って、一昨日にしてあげたばっかりじゃなかったかしら」

提督「む、昔って事にしておいてください!」

私の前では無限の包容力を発揮する提督でも、足柄の前では年相応に幼い振る舞いです
このお二人はとっても仲がいい


……予定と全く違いますけど、お二人の事をちょっと聞いてみましょう


大和「ほ、他に提督にしてあげてることってあるんですか?」

足柄「ん~そうねぇ、ご飯を作ってあげたり、朝起こしてあげたり」

大和「何だかお母さんみたいですねぇ」

足柄「せめてお姉さんって言いなさい」

大和「痛たた!ご、ごめんなさい!」

『よろしい』と言って耳を引っ張った手を離し、また耳かきを再開した
こういうちょっと厳しいところも含めて、お母さんみたいだと思います
提督のあの母性も、足柄譲りなのかもしれません


足柄「あ~、そういえば一緒に寝たこともあったかしら」

大和「一緒に寝た!?」

足柄「……な~にを想像しているのかしら?」

大和「あ、あはは…あは……ジョウダンデス」

提督「最後に一緒に寝たのは2年位前ですかね」

足柄「もうそんなに経ったの?月日の流れって恐ろしい……」

お二人の様子を鑑みるに健全な意味で一緒に寝た事があるらしい
つまり、添い寝という意味です
提督も昔を懐かしんでいるようで、添い寝に関してはそこまで恥ずかしくないらしいです
耳かきは恥ずかしくて添い寝が恥ずかしくないという違いはさっぱり分かりませんが、これは良い事を聞きました


足柄「はい、おしまい」

大和「あ、ありがとうございました」

足柄「どういたしまして。提督もする?」

提督「遠慮しておきます」

足柄「一昨日したばっかりだものね」

提督「もう、蒸し返さなくってもいいじゃないですか……」

提督は頬を膨らませて不満顔だ
可愛い……じゃなくって!

大和「あ、あの!提督!」

提督「なんですか?」

大和「今日、私も一緒に寝たいです!」

大和「さっき、足柄さんと一緒に寝たという話を聞いて、その羨ましいと思いましてですね…」

足柄が居る中で言うのは少し恥ずかしかったが、私としては珍しく直球に思いを伝えることに成功しました

大和「そのぅ…どうでしょうか?」

提督「ふふ、大和さんはやっぱり甘えん坊ですね。いいですよ」

提督は優しげに微笑んで了承してくれた
私は『直ぐに用意してきます!』と部屋を飛び出して自分の部屋に戻りました
寝間着に着替え、そしてどんな間違いが起きてもいいように、寧ろ間違いを起こす気満々でお気に入りの下着を準備しました


そして深夜


大和「……結局こうなるんですね…」

やはりというべきか、私の予想は裏切られた
何故か私は足柄と提督に挟まれて川の字で寝ていた

私の中では
提督と添い寝した話を聞いた→私もしたいと言った→提督と添い寝

という方程式が成り立っていたのですが

提督の中では
自分と足柄が添い寝した話をした→それを羨ましい、私も一緒にと言った→3人で一緒に寝よう

に、なってしまっていたのでした

今回ばっかりは私の言い方に責があったとしか言いようがりません
大人しく二人に挟まれる


足柄「電気消すわよ~」

返事も待たず明かりが消される
私と向かい合っていた提督が、私のお腹辺りをギュッと掴む

これ!これなんです!私はこれを望んでいたんです!!
嬉しい!…のだけれど……

後ろから足柄の安らかな吐息が聞こえる

足柄が居るから素直に喜べないっ…

足柄も私の体の方に手を回し、ポンポンと優しく腕の辺りを叩く
その何気ない行動に、やっぱり提督は足柄に似ているんだなと確信する

いつもと違う暑苦しいくらいぬくぬくとした布団
予定と違うけど、これはこれでいいかもしれません

でも……

大和「やっぱりなんか違うんですよぉ……」

悲しい呟きは、誰の耳にも届かず消えていきます


何か違う
そう思っても

やっぱりこれも悪くない
そう思い直してしまう

真っ直ぐすぎる提督と、なんだかうまくかみ合わない艦娘の、その繰り返しのお話


このお話を書いた後に、一番最初の注意書きに『キャラ崩壊注意』と入れ忘れる痛恨のミスに気付きました


どうしてか大和は無性に童貞臭く書きたくなります
微妙にポンコツな感じがそうさせるんだと思う

今までの4つのお話は所謂プロローグに当たる感じのお話です
それぞれの鎮守府の雰囲気が伝わるように書いたつもりです

生真面目提督の話は基本的にギャグ色強めですね


上手く筆が乗れば次の話は今日中に投下できる…かもです

あえてつっこむけど一姫二太郎の意味違うからな
日本人の3割間違えて認識してるらしいけど
初子が女の方が育てやすいんよ 男はXYの半分しか持ってないから遺伝的に病気しやすく弱いのさ
だから子育ての経験値積ませる為と女が育つと次の男の面倒も見てくれるわで育てやすくオススメって話


>>73
ほうほう、そうだったんですね
どちらの意味(間違っていると指摘された方と正しい方の意味)でも使っていい、二つの意味がある慣用句だと勝手に思ってましたね
つまり今回のを『一姫二太郎』を使って書き直すのなら

×『一姫二太郎が良いよね』
      ↓
○『一姫二太郎だといいね』

で、いいの……かな?
結局どちらともとれるような気もする

取り敢えずご指摘ありがとうございます


ぐおおおおおおおおおおお!!!

ぎりぎり間に合いませんでしたが、一本完成したので投下します


一応R-18注意です


『Z3と夫婦の寝室』※R-18注意



紳士提督
立ち振る舞いが上品で礼儀正しい提督
しかし、その性的趣向はおおよそ一般人には理解しがたいものを持つ
謙虚な言動を好むが、その実自信家である
夜の夫婦生活も楽しんではいるが、自分の趣味でZ3に少し不満を持たれていることも知っている
マックスの一番好きなところは、色んな意味で反応が可愛いところ



Z3
クールな振る舞いで冗談が嫌いなZ1型の喜びが伝わりにくい方
提督との生活に慣れたはずだが、未だによく弄ばれる
提督に負けず劣らず少々変わった性的趣向を持つが、普通なのも普通に好き
夜の夫婦生活で提督に対して色々と不満に思っている
提督の一番好きなところは、細かな気遣い心遣い


夫婦の寝室
それは、部外者の存在を許さない二人だけの世界

一つの大きなベッドで身を寄せ合い、何気ない事を話し、体に触れあい、そして…愛し合う

そんな蜜月の夜を過ごすための空間


………しかし、この夫婦にとってそこは戦いの場であった
お互いが譲ることが出来ないプライドをかけた戦い

今宵、二人の拘りが衝突する……



提督「あ、あははは…」

常に余裕のある振る舞いを善しとする提督にしては珍しく、ひきつった笑みを浮かべていた

マックス「あははじゃないわ、さっさとしなさい」

常にクールでそっけない態度のマックスも、その時ばかりは顔を赤くし提督を強く睨みつける

二人はベッドで裸で向かい合う
『しましょう』というマックスのシンプルな提案により始まった伽
提督のリードによりいつものように前戯が始まり、いつものように終わるかと思われていた

提督「き、今日はいつになく頑なですね」

マックス「当たり前じゃない、こんなのじゃあ満足できないわ」

そういうマックスの息は荒く、顔は赤い
その様子は明らかにいつもとは違うものだった


提督は焦っていた
『おかしい…いつもはここで終わっているはずなのに』と

マックスの様子から明らかであるように、既に行為を始めてからいくらか時間が経っていた

提督は自分の性経験にいくらか自信があった
自分の出自、振る舞い、立場、そして容姿
これらの要因で自分に性交渉を求めてくる人間は多かった
そして、何を目当てにしてきたかに関係なく相手を満足させて、切り抜けてきたつもりだった

マックスに対してもそうだ
今までのそれと違い、お互いが求め合っての性交渉ではあるが
相手を満足させるという目的に相違は無い

事実、マックスは既に2度の絶頂を迎えていた

となれば満足していないという彼女の言は痩せ我慢の可能性も考えたのだが

マックス「ふぅ…!ふぅ…!」

獣のような眼光から彼女の本気を感じ、『もう満足でしょう?』なんて安易に言い出せない状況であった


提督「ふふっ…困った子です。分かりました、もっと満足させてあげます」

本当に困ってはいたが、ここで下手に出てはいけないと感じた提督は努めて余裕を含んで返す
押して駄目でももっと押せ、とは彼なりの流儀であった
先に攻めて押し込んだ以上、ここで少しでも引いてしまえば恐ろしい反動がやって来るであろうことを経験的に知っていたからだ

マックス「もう私はいいから、次はあなたの番」

マックスは即座に冷たく切り返す
提督は軽く察していた、『アレ』を求めているのだと

しかし、マックスが頑なにここで引くことを善しとしないように
提督側にも前戯で相手を満足させたい理由が存在したのだ


提督(陰核による刺激でオーガズムを迎えたことは間違いありません)

提督(つまり、性感帯は少女期から大きく変化したわけではない)

提督(更にマックスさんの性経験は私との行為のみ、その間に膣内への刺激はなるべく避けてきました)

提督(しかし、夫婦であるという自覚から精神的に成長し、膣内への刺激を求め始めているのかもしれない)

提督(マックスさんの反応の可愛さから少しやり過ぎた、という私の落ち度ですか…)

提督(……いつかはやってくることだったのかもしれません、次からは攻め手を増やしておかないといけませんね)


そんな事を考えながらマックスに覆いかぶさろうとするが、胸を強く押されて拒絶される


提督「ど、どうされましたか?」

マックス「どうしたもこうしたも無いわ、さっさとこれを勃起させなさいよ」

マックスは乱暴に提督の性器を握りしめる
強い刺激に一瞬硬さが宿るが、直ぐに萎えてしまう

マックス「ああもう!なんでなの!?この変態!!」

提督「この状況で私がそれを言われるんですか!?」

マックス「こんな子供みたいな姿の相手とケッコンした時点であなたは少女趣味のド変態よ!」

提督「それはそれ、これはこれです。マックスさんを愛していることと性的興奮を昂らせるのは別問題です!」

マックス「ケッコンした相手に勃起するのは普通でしょう!?いいから勃起しなさいよ!!」

最早愛撫の域を超えて性器が扱かれる
強く握り激しく動かされ、爪で掻かれ歯を立てられる

提督「痛たたた!ちょっと!これ内臓みたいなものなんですよ!?もうちょっと優しく!」

マックス「こんなのであなたの余裕を崩せても楽しくないわ!早く勃起させなさい!!」


性器に血が集まることはあってもそれも短時間の事で、勃起状態にまでは至らない
業を煮やしたマックスは手近にあったハサミを性器にあてがう

マックス「息子とお別れしたくないなら勃たせなさい!」

提督「脅迫!?私じゃなくっても萎えますよ!!」

マックス「それならいっそ死後硬直を使って…」

提督「やめて下さい死んでしまいます!!」

マックス「ああもう!どうすればいいのよこの変態!!」

提督「おごぅッ!?」

おもむろに立ち上がったマックスの蹴りが露出した性器に突き刺さる
提督の眼の奥に火花が散り、呼吸困難に陥りかける


提督「もっと…や、やさしく………」

マックス「はぁ……うまくいかないわね…」

マックスは溜息をついて座り込む
流石にそれ以上追撃を入れてくることは無く、その間に提督はなんとか息を整えた


提督「あのですね、マックスさん。勃起も射精も、やれと言われて出来ないわけではないんですよ」

そう言って提督は自らの性器を扱くと、正常に勃起する

提督「ほら、ね?だから…」

マックス「もう騙されないわよ」

その場を収めようとするも、食い気味に言葉を遮られる

提督は別に勃起不全という訳ではない
人並みの性欲は当然ある

今までのマックスとの性交渉でも、何度か射精まで至ったことがある

そうでなければ、いくらマックスの性経験が無いといっても怪しまれるだろう


提督「な、何を言って…」

もう見抜かれている、そう察してしまったが、一縷の望みをかけて白を切る

マックス「その手、離してみて」

マックスの剣呑とした気迫に負け、提督は性器を扱いていた手を離す
するすると、性器はあっけなく力を無くす

マックス「で、言い訳はあるかしら?」

提督「……ありません。…あの、何時から気づいていたんですか」

マックス「ついこの前、かしら」

マックス「今まで挿入まで至ることが無かったのは、あなたが前戯趣味というわけでなく、慣れていない私に気をつかっているわけでもなく、『挿入まで勃起を持続させられないから』」

マックス「あなたは自分でなければ勃起まで至らない」

マックス「薄々感づいていたけど…ここまで筋金入りの自己性愛者<ナルシスト>だったなんて」

提督「あはは……お見事です」

提督は完敗だと言ったような雰囲気で、苦笑いを浮かべた
そう、マックスの言った通り彼は極度の自己性愛者だったのだ


マックス「ふぅん、それで、何を笑ってるの?」

提督「ごめんなさい…」

いつになく提督は弱気で、下手に出ていた
彼の予想通り、一度引いてしまってから一気に押し戻されてしまった
もうここから攻めに戻すのは至難の業であった


マックス「はぁ……私、そんなに魅力がないかしら?」

提督「そんな、マックスさんはとても魅力的な女性です」

マックス「じゃあ勃起させなさいよ」

提督「それとこれとは話が別です」

マックス「どうして?私が子供だから?」

提督「私の目の前にどんな絶世の美女を持ってこようと勃ちませんよ。かのクレオパトラにだって私を勃起させることはできません」

マックス「無駄すぎる自信ね…」

額を押さえため息を吐くが、彼女はそれでもめげずに質問を繰り返す


マックス「…もしかして、ゲイ?」

提督「ふふっ、よく言われます。違いますけどね」

マックス「私の事…本当に愛してる?」

提督「当たり前です」

彼の語気には強く思いがこもっていた
情けない空気が一瞬でシンと張りつめるほどに真剣な声色だったのだ

提督「冗談でも…そんな事を言わないでください。とても、辛くなりますから」

マックス「…ごめんなさい、失言でした」

マックス「でも、そう思うなら私で勃起させなさいよ」

提督「それとこれは違うお話です」

提督はにこやかな笑顔でそう答える
マックスはその笑顔も今だけは忌々しく感じた


マックス「……はぁ、どうすればあなたとセックスできるのかしら?」

提督「今まで通りでは駄目ですか?」

マックス「あれは前戯です。……そういえば、あなたって私以前に女性経験はありますよね?」

提督「ええ、まあそれなりに」

マックス「その時も、私と同じような誤魔化し方を?」

提督「ええ、ひたすら満足させてうやむやにしていました。最後に挿入直前で射精しておけば相手の自尊心も守れますし、相手も疲れているので終わってくれますね」

提督「まあ私と既成事実を作ろうと強引に膣内射精に持ち込もうとする人もいましたけれど…」

マックス「そ、そう…思ったより苦労しているのね」

提督の遠い目に若干の同情を覚える
しかし、マックスはその言葉の中である事実を確信した

マックス「と、いうことは挿入までは至ったことが無いのね?」

提督「いえ、何度か」

マックス「嘘でしょう!?どうして!?どうやったの!?私と何が違うの!?」

予想外な提督の発言に今まで見たことないほど食いつくマックス
その様子に引き気味になりつつも、提督は答える


提督「えっと、その…初めては親戚の小母さん…とか……」

マックス「……やっぱり、私の体が幼いから」

提督「違います違います!子供の頃です。今とは考え方や感性も丸っきり別物です」

提督「更にいえばさせられたという言い方の方が正しいです」

マックス「え?」

提督「数日間監禁されましたし、三日目位にはもう私は勃起しなくなって、小母さんも身代金要求に切り替えていましたし」

マックス「あなたってたまに、とんでもない修羅場をサラッと告白するわね……」

提督「まあ、昔の事ですから」

マックス「よくそれで女性恐怖症に陥りませんでしたね」

提督「う~ん…言われてみればそうですね。寧ろ女性は好きですし、女性との性行為に強い抵抗もありませんし」

提督「当時の心境はもうほとんど覚えていませんけど、今ではいい経験だったと思いますよ。滅多に経験できるものじゃありませんから」

マックス「普通は二度と経験したくないっていう所だと思うわよ」

提督のその常軌を逸した精神構造に改めて大きな壁を感じた
しかし、提督は意識できていないのか定かではないが、その時の経験が原因で今のようになってしまったのではないかとマックスは推察した


チャンスはいくらでもある
付け入る隙も全くないわけではなさそうだった

しかし、それでもその壁は高い

性経験の少ないマックスには尚更難しい問題だった

マックス「……ふぅ、あなたの事を知って更にことの難しさを実感したわ」

提督「出来なくはないと思いますよ」

そんな悩みをよそに、提督はそつなく返答する

マックス「ふぅん、どうやって?」

提督「浴場に行きましょう」

言われるがままに、マックスは浴場に向かった


浴場に全身が写るほどの鏡があり、その目の前に椅子を置いて提督は座った

提督「では、どうぞ」

提督は腕と足を広げて待ち構える
マックスは向かい合う形で提督と抱き合う
所謂『座位』と呼ばれる体位だった

提督のそれは触れるまでも無くガチガチに昂っていた

自分に向けられた初めての肉欲を前に、マックスはその大きさに胸が跳ねあがった
初めて見た、初めて触れた、恐ろしくも思うが気恥ずかしくもあり、そして期待してしまう


提督「心の準備が出来たらいつでも構いませんよ」

マックスは息を整えて、意を決して挿入を始めようとする
その時、彼女はあることに気付いてしまった

マックス「……こっちを向いて」

提督「え?あっ…んむっ……」

挿入はせずに顔を掴んで強引に口づけをした
まだ提督の性器は勃起していたが、チラチラと視線を鏡に向けていたのだ

マックス「………」

提督「痛っ、あ…あの?」

マックスは不機嫌そうに頬を膨らませ、無言で提督の乳首を抓った


提督「…っ!そうですよね、マックスさんは挿入は初めてです。此方からするべきでした」

提督「では、いきますよ」

提督はマックスの腰を持ち上げ挿入しようとする
マックスは強引に顔を掴んで目を合わさせる

マックス「このまま……私を見ながらじゃないと嫌」

提督「……………」

提督は悲しそうに目を伏せると、徐々にその剛直は硬さを失っていった

マックス「…やっぱり」

提督「これじゃあ、嫌ですか?」

マックス「いや」

マックスはきっぱりとそう言い切った

提督が勃起を持続させられていた理由は鏡だった
鏡に映る自分の姿、ひいては鏡に映るセックスをしようとする自分の姿に勃起させていたのだ


マックス「これじゃああなたはアダルトビデオを見ながら自慰しているのと一緒じゃない」

提督「それは言い過ぎでは…」

マックス「私は!あなたが好きなの。あなたを愛しているの」

マックスは自分でも少し驚くほどの大きな声が出るが、構わず続けた
真っ直ぐに提督の眼を見て言う
決して目を背けたりしない

マックス「だからあなたに見てもらわないと嫌、あなたに愛してもらわないと嫌、私はあなたとしたいから」

マックス「いつも私だけが満足させてもらってばかり、私の手であなたを射精まで導けていないでしょ?」

マックス「カッコカリですけど夫婦ですから、仕事以外の場所では対等でいたい。我儘ですか?」

提督「…いえ、その考え方は当然です。お互いが納得できる形でなければ意味がありません」


『では』と、そう言いながら提督はマックスの体を持ち上げて反対側を向かせた
背面座位という体位となり、お互いの姿が鏡に映った


提督「こうすれば私だけじゃなくって、お互いがお互いの姿を見ていられる」

提督「少し卑怯かもしれませんが、これならどうでしょう?」

マックス「……っ…!」

鏡に映る自分の姿に驚く
こんなあられもなく、情けない、蕩けた顔をしていることを初めて知ったのだ

顔がカーッと熱くなり、羞恥で顔を覆う

提督「ふふふ、どう…ですか?」

長い男の指が、幼さの残るぷっくりとした下腹部に指を這わす
つつつっ、と指を動かすたびにお腹の奥が切なくなるような快感を生んだ

少し、『いいかもしれない』とマックスは考えそうになる
顔を覆う指の間から鏡に映る自分の姿と相手の姿を見て、やはりこれでは駄目だと思い直す


マックス「イイかもって思ったけど、やっぱり嫌」

マックス「ここまで来たらとことん拘りたい」

提督「そうですか。では、このままだと寒いですし布団に戻りましょうか」

提督も相手のその返答を予想していたようで、そのままマックスを抱き上げて浴場を出た
裸のまま二人で向かい合って布団の中で抱き合う


提督「いい方法だと思ったんですが…」

マックス「……確かに、かなり良かったわ。あなたも意識的に私を見ているようにしてたけど、やっぱり自分を見ていた」

提督「それでは、これからどうしましょうか?」

マックス「一先ず、当面の目標が決まったわ。あなたを私で勃起させてみせます」

提督「あ、あはは……私が言うのもなんですけれど、大変だと思いますよ?」

マックス「だって、悔しいじゃない」

提督の胸板に顔を寄せ、マックスは言葉を零す


マックス「あなたがいつも私と対等に立とうとしているけど、それはいつもあなたの歩み寄り」

マックス「いつもあなたが上だから、あなたに合わせてもらっているから」

提督「そんなことは無いですよ。私だって貴女にたくさんのモノを貰っています」

マックス「ほら、そういうところ。そうやって私を立たせてくれる」

マックス「嫌いなわけじゃないわ。私のご機嫌取りじゃなくって、あなたの立ち振る舞いだから」

マックス「あなたって相手を立てるのが上手だから、ある意味癖なのかもしれないけど、私はそれに気づいたから」

マックス「生意気かもしれないけれど、私が上に立ってみたいと思ったんです」

マックス「あなたに、甘えて欲しい…から……」

マックスは途端に声を小さくし、頭から布団を被る
マックスの頭の中では『何言ってるの?』とか『結局私の我儘じゃない!』とか『やっぱり私が甘えてる』なんて思考が渦巻いてしまっていた
自分から言い始めて、自分で恥ずかしくなってしまったのだ


提督「……どうしましたか?」

マックス「……解ってて言ってるでしょう?」

提督「ふふふ、可愛い」

マックス「……やっぱり嫌い」

提督「可愛いです。好きです。愛おしいと思います。あなたじゃなければ私は絶対にケッコンなんてしませんでした」

提督「そんな想いやりのあるあなただから、私は何でもしてあげたくなるんです」

提督「あなたに喜んでほしい、あなたの可愛い姿を見たい、あなたに愛してほしい」

提督「いつも、そんな事ばっかりを考えています」

提督「全部全部、私の我儘なんです」

提督「あなたの全てを愛したいと思う、私のあなたへの甘えなんです」

マックス「……Sagen Sie nicht mehr(それ以上言わないで)」
 
提督はマックスの顔を此方に向かせる
顔は羞恥に染まり、涙目になっていた

提督は堪らなくなり強引に口づけをする
何度も優しく唇をはみ、舌を滑り込ませて口腔内で唾液を絡ませ合う



マックス「んっ!ふぅ…!……はぁ………やっぱりあなたが主導権を持っていく」

提督「こればっかりはそう簡単に譲れません。ふふ、積み重ねが違いますから」

提督の指が隠す布の無い股間に滑り込む
体が小さく震え、これから起こる事への期待にじんわりと熱くなるのを感じた

提督「でも、楽しみに思っているんです。あなたにこの関係を逆転されるかもしれないって事に」

提督「私から主導権を取り返すことができるのはきっと貴女だけです」

提督「いつかあの鏡に映る私から、私を奪ってくださいね」

そう言って再びキスをした
今度はマックスからも提督の首に腕を回し、激しく求めあった

改めてマックスは理解した
この男から主導権を奪うのは容易な事ではないと
この生粋の女誑しの上に立つには生半可な事ではないと

だけど、今だけは、最後の言葉を引き出せただけでも此方の勝利と思ってもいいかもしれない

そう思いこみ、一時の快楽を享受した



後日、珍しく二人は寝坊したというのはまた別のお話


と、いうわけでマックスと提督夫婦の夜の真剣勝負のお話でした
性感帯云々とか適当なこと言っているので鵜呑みにしちゃあだめですよ

夫婦関係はよくSとMに例えられると思います
主従関係とも言うかもしれません

与える側と与えられる側
奉仕する側とされる側

どちらが上で、どちらが主導権を握っているかはその振る舞いによって変わってくるというのが、私の持論です

この提督は奉仕することによって相手を支配、相手の主導権を握ろうとするドSです


まあ何が言いたいかって言うとマックス可愛いって事ですよ
マックスの可愛さを伝えるためにこのスレを立てたと言っても過言ではありません!!

書いててもマックスと小悪魔提督がぶっちぎりで動かしやすいです



では次回は


『赤城と戦況報告』
『大淀と辛い事』
『叢雲と後腐れ』
『摩耶様ともやもやする心』


を予定しております。ではでは


ぐぬぬぬ、またもや今回も毎日更新にぎりぎり間に合わなかった…
もう二日に一回の更新でいい気がしてきた


というわけで一本完成したので投下します


『赤城と戦況報告』




小悪魔提督
一途で乙女な恋に恋する小悪魔な提督
好きな人には粉骨砕身尽くす性格で、見た目だけなら絶世の美少年。当然言動で幻滅されることが多い
基本的に一途だが、それはそれとして女の子が大好きでいつもからかって遊んでいる
赤城の事は大型犬みたいだと常々思っている
セクハラはするのもされるのも好き


赤城
一見お淑やかに見えるが何だか変に抜けている一航戦のドライな方
優しげな雰囲気を持つが、それはそれとして真面目で厳しく、やっぱり何処かほんわかしている
提督の初期艦であり、色んな意味でお互い気安い関係
一応提督の恋を応援しているが正直どうでもいいと思っている
提督からのセクハラは慣れからかどうとも思わない


加賀さん
一見冷たく見られがちだが存外お茶目な一航戦のよく勘違いされる方
見た目以上にノリが良いいが、表現方法が不器用すぎて楽しんでいることが相手に伝わらないことが多い
色々と器用な赤城に全幅の信頼を寄せている
提督のような嘘つきで不誠実な人間が苦手
提督からのセクハラは何故注意してもやめないんだろうと思っている


提督「…………はぁ~」

提督はがっくりと肩を落とし、深く息を吐いた
赤城にとってはよく見る姿だった

提督「………………」

赤城「………………」

赤城は素知らぬ顔でお茶を飲む
ふぅ、と焼けた餅のようなふっくらと顔を綻ばせる

提督「……どうしたんですかって聞きなよ」

赤城「どうしたんですか?」

提督「もう聞いてよ赤城ー!!」

待ってましたとばかりに提督は赤城の腰回りに抱き付く
赤城も慣れた様子で提督の背中を優しく撫でる



提督は自分勝手で自由に見えるが、かなり人に気を遣う人間だった
相手が本当に嫌がることはしないし、常に視野を広く多くの事を観察している。事実、喧嘩や騒ぎの仲裁を真っ先に行うのは提督だ
新しく入ってきた艦娘に対して積極的にコミュニケーションをとるのは周りの艦娘と話題を作りやすいように配慮しているのだ
それはそれとして女の子をからかうのは趣味だが

これらの事から艦娘との距離が近く、よく会話もする
そして提督はどちらかと言えば聞き上手な分類の人間だった
事実、面倒くさそうに相談事をよく引き受けている
それはそれとして会話中にセクハラを挟むのは趣味だ

以上の事から、提督が逆に愚痴を吐きだす相手というのは数少ない
その数少ないうちの一人が赤城だった

なんだか苦労しているように見えるが、気を遣ったり人の愚痴を聞くのは彼の趣味と実益を兼ねた行動だ
自由に振る舞っているのも間違った認識ではないし、艦娘にちょっかいをかけてはストレスを解消しているのも嘘ではない

どれも、見た目よりは色々考えているだけで、寧ろその生活を楽しんでいるくらいだ

そんなストレスフリーな提督の愚痴と言えば……


提督「加賀さんがね~…ボクの事嫌いって!」

そう、これである
赤城に泣きついて二言目には必ず『加賀さんが~』と言って来る
赤城にとっては何百回も見た、いつもの光景であった

提督「でねでね!もう酷いんだよ!ちょっと加賀さんのおっぱい触っただけなのにぶん殴られたんだよ!!」

赤城「そうなんですか」

提督「いやね、下心満々だったよ?寧ろ下心しかなかったよ?でも毎朝ハグだけじゃあ寂しいかなって、ボクなりのサプライズだったのに!」

赤城「あらあら」

提督「加賀さんってば顔真っ赤にしてボクに腹パンかまして『嫌いです』って!もう酷いよね?平手打ちとかじゃなくって腹パンなの!わかる?」

赤城「そうですね」

提督「ああでも加賀さんの怒った顔も可愛かったなぁ…。いっつものしかめっ面もいいけど、照れて怒った顔もいいよねぇ…」

赤城「私もそう思いますよ」

こうして結局惚気話に移行していくのもお約束だった


提督「……ちゃんと聞いてた?」

赤城「はい、聞いていましたよ。朝は白米もいいですけど偶にはパンもいいですよね」

提督「もう完全に聞いてないじゃん!?部分的に拾ってるようでパンしかあってないし!実際は腹パンだし!」

『赤城も冷たいなぁ』なんて言いながら提督は赤城のお腹に顔を擦りつける
結局この提督は『~でも、○○な加賀さんも可愛いかったなぁ』に帰ってくることも赤城は知っていた
真面目に聞く必要などない、提督自身が言いたかっただけで、それを形だけでも聞いている人物がいればそれで満足なのだ

どんな愚痴を言おうとも、最終的にこの提督は加賀さんが好きなだけなのだから


提督「…………おりゃ」

赤城の体に回していた手を離し、胸を掴む

赤城「…なんでしょうか?」

提督「赤城はおっぱいくらいじゃあ怒らないよね」

赤城「私と提督の仲ですし」

提督「それもそっか。ボクのも揉んどく?」

赤城「じゃあ失礼して……」

赤城は提督の服をまくり上げて、中に手をツッコんだ

提督「……直で触っていいなんて言ってないのに…。赤城のそゆとこ、ちょっとどうかと思うな…」

提督は少し恥ずかしそうに顔を逸らし、『好きだけど』と付け足した

赤城「お互い様だと思いますよ」

提督「むぅ…加賀さんも赤城くらい遠慮が無かったらなぁ」

提督は赤城の腕を引き抜いてから、膝の上に腰を掛ける
赤城は座って来た提督の両脇に腕を差し込み抱きかかえる形になって、顎を頭の上にのせた
いつからか、二人が話し込むときはこういった形になるのが定番だった


赤城「そういえば、あの作戦はどうなったんですか?」

提督「ああ、判子作戦の事?ダメだったけど、中々面白い結果だったよ」

そして、提督はその時の様子を語る


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



加賀と提督、二人はその時仕事中だった
簡単な書類の確認と整理、加賀は秘書艦として隣に控えていた

提督「ここ、判子と名前」

加賀「……はい」

提督の判子だけでなく、その時の秘書艦の判子が必要な時もあるからだ

何気ない仕事風景
しかし、既に提督はここに策を仕込んでいたのだ

作業的に、決して異変を悟られてはいけない
努めて事務的に、かつ臆せず大胆にその作戦は実行された


提督「…ここ、判子」

加賀「はい」

提督「ふぅ…お茶ちょーだい」

加賀「はい……切れていますね。淹れてきます」

丁度急須のお茶が切れて、加賀が給湯室に向かったその瞬間
提督は引き出しの奥にしまっておいた紙を一枚取り出す
そして何食わぬ顔で書類に目を通し、その取り出した紙を確認した書類の間に挟んだ


暫くして加賀が戻ってくる

加賀「…どうぞ」

提督「ん、あんがと。ふふ、加賀さんのお茶は特別美味しいよ」

加賀「……普通です」

普通を崩さず、いつもの態度で返す

提督「そこの書類、上から判子、判子と名前、判子でいいから」

判子を押す場所を指で指し示し、再び書類の確認に戻った
この日の為に仕事をサボって秘書艦の確認が必要な書類を溜め続けたのだ
何としても、書類に仕込んだ『婚約届』に判子とサインをしてもらう

加賀「…はい」

加賀は無表情でそう答え判子を押す
提督は何とか意識を書類に向けるが、加賀の事が気になって仕方がなく、チラチラと視線を送る


ピタリと加賀の手が止まる

ドキリ、と提督は胸が跳ねた

『気付かれたか?』と提督の脳内に謝罪と誤魔化しの言葉が溢れ出て、思わず顔を逸らす
しかし、加賀が手を止めたのはほんの一瞬であった

加賀「提督」

提督「ん?」

加賀「判子はここでしたよね」

提督「あー…うん、そうそう」

そして加賀は判子を押した

提督「…………!!」

思わず歯を噛みしめ、グッと心の中でガッツポーズをした
確かに見たのだ、判子を押した瞬間を

鼻歌でも歌いたい気分であったが、なんとか感情を抑え込み、上機嫌で黙々と書類を片付けた


提督「ふぃ~、お~しまい!加賀さんもお疲れさま」

加賀「お疲れさまでした」

提督「肩凝ってない?おっぱい揉んであげよっか?」

加賀「必要ありません」

提督「労いのチュウとかいらない?」

加賀「…必要ないわ。提督、今後はこんな事二度としないようにしてくれるかしら」

提督「え?ああ確かにちょっと溜め込み過ぎちゃってたね。まぁまぁ、期限内に片づけたからそう目くじら立てないでよね」

加賀「……では、失礼します」

提督「は~い、また明日もよろしくね~」

加賀はいつものように冷たく返事をし、その場を去って行った
いつもなら提督はその後をつけていったのだが、今日という日だけは他に優先したいことがあった


加賀が執務室の扉を閉めたことを確認し、即座に書類の山を漁り目当ての書類を引っ張り出す


その書類には加賀の名前と、判子が確かに押されていた


提督「いよっし!!かなり卑怯だけどこれで既成事実が………ん?」

勝利報告を赤城にしに行こうかと思っていた矢先、ある違和感に気が付いた
判子がいつもより大きく、なぜか青い朱肉が使われていたのだ

そしてその判子は加賀の名前ではなく『もう少し頑張りましょう』という文字が描かれていた



提督「って言う事があったんだよ~」

赤城「ふふっ、加賀さんらしいですね」

提督「だよねだよね!加賀さんって意外と洒落がきくって言うか、お茶目だよね」

提督「それにしても、あんな判子なんで持ってたのかな?」

赤城「加賀さんはよく駆逐艦の子達の勉強を見てあげているんですよ。だからじゃないでしょうか」

提督「ふぅん…そっかそっか、まだまだ知らないことありそうだなぁ……」

提督「そんな意外な所も加賀さんの魅力だよね~」

赤城「そうですね」

こればっかりは、赤城も素直に賛同した
提督は赤城の首に腕を回し、顔をあげて赤城の方を見た


提督「ねね、加賀さんって嫌いな人いる?」

赤城「提督ではないでしょうか」

提督「そんなわけないでしょ」

赤城「今朝嫌いだと言われた人の発言とは思えませんね」

提督「むむむ……ってかそうじゃなくて、嫌いな性格?とかそんなの聞いてるの」

赤城「そうですねぇ…嘘つきと不誠実な人が嫌いと言ってましたよ」

提督「ほら、やっぱりボクじゃない」

赤城「え?」

提督「は?なんで?何その信じられない馬鹿を見るような顔?」

提督はムッと眉を顰める
しかし、この場合は赤城の反応が当然だろう


提督「だってボク加賀さんの事大好きだし、常に愛してるし、可愛いといつ見ても思ってるよ?」

赤城「『うそうそ、冗談だよ』が人生で一番多く言った言葉の提督の評価として妥当なものかと」

提督「ええ~、あれって嘘だけど嘘の範疇じゃないし」

赤城「提督は立派に嘘つきですよ。先ほどのエピソードも不誠実そのものですし」

提督「むぅ、まあボクって目的のために手段を択ばないから仕方ないか」

赤城「あと反省せずに開き直る人と、セクハラをしてくる男の人も嫌いです」

提督「じゃあ女の子になればセクハラし放題って事じゃん!!」

赤城「どうしてそうなるんですか…」

提督「ま、どうせボクのこの溢れ出る愛を止めれるわけないし、そもそもボクって追う恋の方が燃えるし!全然今まで通りで問題なさそうだね!!」

自分から聞いておいて、自分の行動を改善するつもりは無いようだった
しかし、無暗に落ち込まず常に前向きな事は悪い事ではないと赤城は思っていた


提督「じゃ、次から何しよっかな~。加賀さんって何が好きかな?」

赤城「子供ですかね」

提督「う~ん、でも子作りしよって言ったら怒られたしなぁ…」

赤城「それならもういっそ物で釣るのはどうですか?」

提督「例えば?」

赤城「食べ物です!あ、味見とか手伝いますよ!もうお任せください!!」

赤城は目を輝かせてそう答えた
『コイツ、自分の欲望を満たそうとしてないか?』なんて思いながらも、良い考えだと提督も納得する


提督「やっぱシンプルにそれがよさそうだね。でも、ボク料理とかしたことないんだよね~」

赤城「尚更この赤城の味見が必要になりそうですね!!あ、勿論提督の為を想ってですよ。決して役得だなんて思っていませんよ」

提督「………やっぱりなんか釈然としないけど、まあ次はそれで行こうかな。味見も…まあ頼むよ」

赤城「はい!!」

提督「良い返事だね…おい」

提督は呆れたように首を振った
膝から降りようとしたとき、赤城が自分を離そうとしない
不思議に思ったが、直ぐに疑問の答えが出た


提督「ああ、あれか……。そうだ、最後にもう一つ質問してもいい?」

赤城「なんですか?」

提督「赤城はボクの事好き?」

赤城「普通ですね。問題も多くありますが、良い所もたくさん知っていますから」

提督「そこは嘘でも好きっていう所だよ?」

提督「まあいいや、情報提供ありがとね。いっつも愚痴聞いてもらってるし、本当に感謝してるよ」

赤城「それでは…」

提督「はいはい、約束通り今日の夕食は僕のおごりで好きなだけ食べていいよ」

赤城「やったぁ!提督、ありがとうございます!!大好きです!!」

提督「掌返し早いよ……」

ものすごい力で抱きしめられ、まるでペットを可愛がるように激しく頬ずりをされてうんざりしながらも
『食欲旺盛な懐っこい大型犬ってこんな感じかな』なんて事を考えていた



そして後日

提督「…………」

赤城「…………♪」

赤城が提督の背中に張り付いて離れようとしない
提督は台所に立ち、加賀さんの為にカレーを作っていた

提督「……邪魔なんだけど」

赤城「いえいえ、お構いなく」

提督「構ってくるのそっちなんだけど」

赤城「あ、その切れ端食べましょうか?」

提督「聞いてる?ねえ、聞いてないでしょ?」

赤城「あ、具は大きめでお願いしますね」

提督「ボク騙されてる気がしてきたんだけど…」

そう言いながらも、付け合わせの野菜の切れ端を赤城に差し出す
赤城は物足りなさそうにそれを咀嚼した


キョロキョロと台所を見回した赤城は、目敏くあるモノを見つけた

赤城「提督、そのカツも美味しそうですね」

提督「…………」

赤城「提督?美味しそうですよね?」

提督「…………」

赤城「それ、ください。ね、提督?」

提督「鈴谷ぁ!!味見役代わってー!!!」

赤城「そ、そんな!いけません提督!私じゃないと、ね!!」

提督「ね、じゃないよ。邪魔しないでってば!!」

赤城「ほら私、加賀さんの好みの味付けとか知っていますよ」

提督「……もう、一つだけだよ」

赤城「んふふ♪」

提督はできあいのトンカツを一切れ差し出す
赤城は指をしゃぶる勢いでそれに食いついた


提督「あ~あ…ボクも単純な男だなぁ………」

赤城「ふふふ、提督さんもう一切れ」

提督「調子に乗らない」

しつこく絡みついて来る赤城にチョップをかまし、料理をつづけた
それでも赤城は料理中、提督の後ろを離れることは無かった

つくづく犬みたいな人だなと、提督はボンヤリと思った


結局このカレーは目を放している隙に赤城に食べられ、加賀さんに食べてもらうことはできなかった

カレーの味は赤城いわく『味が薄い』とお玉をしゃぶりながら言ったそうな


と、いうわけで小悪魔提督と赤城さんの話でした

小悪魔提督は基本的に振り回す側なんですが、赤城と瑞鶴には逆に振り回される感じです
振り回されるのは得意じゃないので、扱いとか口調とかかなり雑です

鈴谷とは仲のいい友達ってな感じです
これからもチョイチョイ出てきます



というわけで次回は


『大淀と辛い事』
『叢雲と後腐れ』
『摩耶様ともやもやする心』


を予定しております。ではでは



2,3本同時に投下するつもりなので書き溜めております
明日には投下するので、気長にお待ちください


すまないいいいいいいいいいいいいいい!!!
微妙にスランプ患いかけてて何度も修正していたらこんな時間になっていた私ですまない!!!

かなり遅れましたがお許しください!!


それでは2本投下します


『叢雲と後腐れ』



普通提督
自分に自信が無く臆病だが、貞操観念だけは一人前な普通な提督
周りに感化されやすく後先考えず行動する性格
その性格からか、何かと下手を打つが後悔はあまりしない
叢雲とは浅はかならぬ関係だと思っている



叢雲
勝気で世話焼きでツンデレな吹雪型の絵柄が違う方
提督の初期艦であり長い付き合いである
その為か提督から病的なほど重い信頼を寄せられている
提督の事を面倒くさい男だと思っているが、仕方なく世話をしてあげている


俺は島風に指輪を渡した

特に隠していたつもりはないが、誰にも言ったつもりも無い
いつしか鎮守府内にその話が広まるのはそう遠くない未来だろう

別に知られて困る事ではない、そもそも事実である
しかし、その事実が多少なりとも今までの関係を変えることは想像に難くない

すんなりと事が進んで、後に引けない状況になるだろうと分かっていた
分かっていて島風に渡したのだ

全てが丸く収まるなどと考えてはいなかった

後腐れは必ず残る
その後腐れを解消するのは、時間と行動だけだろう…


提督「そういうことなんだ、すまない叢雲」

叢雲「……はぁ?」

信じられない馬鹿を見るような顔で叢雲が心底呆れた声を出す

提督「お前の気持ちも分かる。だが、俺は…お前との関係を壊したくなかったんだ……本当にすまない」

叢雲「順序だって説明しなさいよ。いきなり執務室に呼び出したと思ったら即謝罪なんて気味が悪いわよ」

叢雲は普段通りを装っているようだった
こうして分かっていないフリまでして、どうやら俺の口から事実を打ち明けて欲しいらしい
ならば、俺もそれに応えよう

提督「俺は…島風とケッコンしたんだ」

叢雲「へ~……そうなの。ま、一応おめでとうって言ってあげるわ」

提督「ああ、すまないな…お前の気持ちを踏みにじる気はなかったんだ」

叢雲「は?」

提督「だけどな、俺はお前との今の関係が…」

叢雲「ちょっと待ちなさいよ。アンタ、何言ってるの?私の気持ちがなに?」

提督「む?」

叢雲「何よ?」

叢雲からは動揺を感じ取れない


……おかしい、予想と何だか違うな
俺の予想では叢雲は……

提督「お前、俺の事好きなんじゃないのか?」

叢雲「バッッッッッッッカじゃないの!!!??」

全否定されてしまった

叢雲「アンタ、私のなにを見てそう思ったわけ?」

提督「初期艦だろ?」

叢雲「それだけ!?」

提督「何か変か?」

叢雲「アンタは初期艦ってだけで私が好き?それが答えよ」

提督「勿論だ。初期艦ってだけで特別だ。それはそれとして信頼を築いた実感もあるが、初期艦ってだけで俺はお前が好きだ」

叢雲「…アンタがそういうと否定しづらいでしょうが……はぁ」

『私も嫌いって訳じゃないけど…』と呆れた声で付け足した


叢雲は俺の事が好きだったらしい
どうやら俺の予想は間違っていなかったようだ

叢雲「大間違いよ」

提督「心を読むのは止めよう」

叢雲「アンタが分かりやすすぎるのよ」

流石は俺の初期艦だと感心する
初対面の人間殻の第一印象の9割が『何を考えているのかわからない』な俺の思考を一瞬で読み取るとは
そんな事が出来るのは、世界中探しても死んだ婆ちゃんか、叢雲だけだろう

提督「つまり実質お前が世界唯一の存在だな」

叢雲「意味わかんないから本題に戻すわよ」


叢雲「……で、アンタは私が自分の事が好きだろうから先手を打って謝った。と」

提督「そういうことだ」

叢雲「バカじゃない?」

提督「馬鹿ではあるが、そうだろう?」

叢雲「そうだろうじゃないわよ、何よその意味不明な自信は!」

提督「初期艦だし、俺の事を一番よく分かってるし、何より俺の世話を焼きたがるだろう?」

叢雲「それはアンタがあんまりにも頼りないからに決まってるでしょ。ほんっと、アンタは馬鹿ねぇ」

提督「ほらそれ」

叢雲「何よ?人の揚げ足取ったみたいに」

叢雲は明らかな嫌悪感を顔に出す
しかし、その裏にある感情を俺は知っている


提督「ツンデレという奴だろ」

叢雲「はぁ!?」

提督「嫌よ嫌よも好きの内。『べ、別にアンタの為じゃないんだからね』とはお前の弁だ。ほら見ろ、ツンデレだろう?」

叢雲「どんだけ前向きなのよアンタは!!私はツンデレじゃないから!!!」

提督「ははは、愛い奴」

叢雲「死ねッ!!」

叢雲が放った拳を反射的に受け止める

叢雲「空気読みなさいよ!!」

提督「む、そうか。では」

ここは殴られる所なんだなと理解し、左頬を差し出す

パーン!!!!

と強烈な音を立てて、右頬をはり倒された


提督「ムラクモ…ツンデレ…チガウ……テイトク…ワカッタ…」

叢雲「よろしい」

真っ赤に腫れ上がった頬をさする
俺に勘違いされたことに相当腹を立てていたらしい
申し訳ないことをしてしまった

提督「しかし…俺はお前に嫌われていたのか」

叢雲「ホンット!アンタは!面倒くさいわね!!」

提督「それはお前が…」

叢雲「友達の好きと結婚の好きは違うでしょ!!わかる!?」

提督「理解した」

叢雲「はぁ…ならいいけ―」

提督「やっぱりお前はツンデレなんだな」

パーン!!!!

と、本日2度目の強烈な破裂音が鳴り響く


提督「冗談だ…さすがの俺もそこまで馬鹿じゃない」

叢雲「どーだかねぇ…」

叢雲は疲れた息を吐く
俺は新しく腫れた左頬をさすった


提督「しかし、だ。もし俺から指輪を渡されたら、お前は喜んだか?」

叢雲「はー?そんなのこっちから願い下げよ。質屋にでも売り飛ばしなさい」

提督「そうか…なら、島風に渡して正解だったな」

叢雲「…なに?もしかして私にも渡そうと思ったの?」

提督「ああ。お前か島風、もしくは蒼龍あたりか。嫌がらずに受け取ってくれそうだと思ってな」

叢雲「ふ~ん…そう。…そういえば、どうして突然ケッコンなんかしたわけ?」

提督「知り合いがしてたから」

叢雲「理由が浅すぎるわよ!!そんな理由で渡そうと思ったわけ!?」

提督「使わないのももったいないだろう?」

叢雲「つくづく理由が薄っぺら過ぎよ!!ホント、そういう行き当たりばったりなところ何とかしなさいよね…」

提督「まあ、いいだろう。なるようにしかならない、きっとあの時はああするしかなかったんだろう」

叢雲「言ってることだけは大物っぽいわね……」

本音を言っただけなのに、大物っぽいと言われてしまった
もしかすると、俺の本質は大物なのかもしれない
…それ以前の行動理由が小物すぎるか


叢雲「だけど、島風もよく引き受けたわね。アンタなんかのケッコン指輪」

提督「む、何だその言い方は。少しカチンとくるぞ」

叢雲「これこそ事実じゃない。恋愛の好きだとか分かんない島風だから受け取ってくれたんでしょ?」

提督「まあな。もし断られたら一週間は立ち直れなかっただろうしな、安全策を狙った」

叢雲「アンタ…繊細なうえにクズいこと言ってるわよ」

提督「その確信があるほどの信頼関係と言い換えれば問題あるまい。それに、島風以外にも勝算はあった」

叢雲「私と蒼龍以外に?」

提督「他にも居るぞ、羽黒とか」

叢雲「………島風を選んでよかったわね」

提督「いや、俺と羽黒は仲良いぞ?知らなかったか?」

叢雲「何を賭けてもいいわよ。絶対に失敗したわ」

提督「言ったな。じゃあ俺も賭けようか、何でも一つ言う事を聞けよ」

叢雲「はいはい、いいわよ。確かめてらっしゃい」

流れるように決まった賭け
叢雲は如何にも余裕そうだったが、どうやらアイツは俺と羽黒の幾度にもわたる逢瀬を知らないらしい
さてさて、どんな命令をしてやろうかと考えながら羽黒を探した


提督「…………」

俺は羽黒からの返答を貰い、執務室に戻って来た
どうしてか肩が異様に重かった

叢雲「言わなくっても分かるけど、一応聞いてあげるわ」

提督「……好きかどうかを聞くと、好きと返してくれた。小さな声で、恥ずかしそうに」

叢雲「で?」

提督「もし指輪を受け取って欲しいと言われたら?と聞くと、『司令官さんと私はそういうんじゃない…ですよね?』って」

叢雲「…まあ、概ね予想通りね」

提督「怯えた目だった…俺を犯罪者か何かを見るような、まるで人に懐いていない野良子犬のような、そんな怯えた目だったよ…」

叢雲「……それは…まぁ、ご愁傷さまね」

叢雲がぽんぽんと肩を叩いて慰めてくれる
少しだけ、気が楽になった気がしたが気のせいだった


叢雲「でもこれでわかったでしょ?友情と恋愛の好きは全くの別物だって」

提督「ああ…痛いほどに痛感した。これからの俺の人生の戒めとして胸に刻んでおく…」

叢雲「アンタって言動によらず繊細よね……今回は仕方ないけど」

俺と羽黒は友達だ。それ以上でも以下でもない
という事を強く胸に刻み、話を元に戻す


提督「それはそうと、賭けは俺の負けだ。何かしてほしい事でもあるか?」

叢雲「………そうねぇ…あ、アンタって指輪してないの?」

提督「ん?してないが」

叢雲「ケッコン指輪渡したんでしょ?それと対になる指輪があるんじゃない?」

提督「あ~、アレか。風呂入る時も外し忘れそうなのでずっと保管したままだな」

どこにしまったかな、と思いながら机や棚の中を漁る
そう深くない場所に少し埃をかぶったそれを発見した

提督「あったあった。ほら」

そう言って叢雲にその指輪を見せた
島風に渡した物と同じ物だと思う

叢雲も興味深そうにそれを見つめた


叢雲「……それ、使わない?」

提督「ん?まぁ…そうだなそうそう使わんだろうな」

叢雲「……欲しいって言ったら?」

提督「それは駄目だろう、多分。一応ケッコンしたんだからな」

叢雲「………言ってみただけよ、バカ」

そう言って叢雲は背を向ける

提督「おいおい、それだけか?何かして欲しい事は――」

叢雲「適当に考えておくわ」

提督「ちょっと待て!」

出ていこうとする叢雲を呼び止める
その瞬間は、目的があるわけではなかった
だが、呼び止めるべきだと思ったのだ。理由は今から考える


叢雲「今度はなに?」

提督「ちょっと待っててくれ、30分くらいで戻る」

叢雲「は?なに?何なの!?」

提督「お願いだから待っててくれ!渡したいものが出来た!!」

俺は上着を羽織って外に飛び出した
目指した場所は近くの商店街の貴金属専門店
目的の物に近いものを探し、再び走って帰って来た

時間にして実に25分

予告通りの時間だった


提督「はぁ…!はぁ…!」

叢雲「…おかえりなさい」

提督「おう…ただいま……」

息を整えて、前を向く

提督「さっきの賭けとは別に、お前に渡したいものが出来たんだ」

叢雲「そう言ってたわね」

提督「コイツがそれだ」

買い物袋の中から、小奇麗な箱を取り出して開く
その中には二つのネックレスチェーンと小さな宝石の入った指輪が二つ

提督はチェーンと指輪を一つづつ叢雲に差し出した


叢雲「…何の真似かしら?」

提督「お前は俺の特別だ。だから、その証としてそれを贈りたい」

叢雲「本当に意味分からないわ……ケッコン指輪じゃないし、これは何なの?」

提督「俺が渡したくなったんだ」

ついさっき思いついたこと
その思いつきで買ってきた物の事を話す

提督「俺はお前が好きだけど、お前とキスがしたいわけじゃない」

提督「俺とお前の関係は、そういう好きじゃないと思ったんだ。だからケッコン指輪を渡さなかった」

提督「だけど、お前は俺の特別だ。特別頼りにしているお前だ」

提督「だからこの指輪を、俺とお前の親友カッコカリ指輪としないか?」

俺は自分の考えを伝えきる
叢雲が放った第一声は…

叢雲「……親友なら、カッコカリはいらないんじゃない?」

という、何とも冷静な指摘だった


提督「じゃあ親友指輪だ。受け取っておけ」

叢雲「…別にいいけど、なんで突然そんな事を?」

提督「あのままお前を見送ったら、後腐れを残しそうだと思ってな。それがどうしても嫌だったんだ」

叢雲「アンタって…人の気持ちが分からないくせに、嫌な所で鋭いわよね」

指輪を受けとりながら、叢雲は目を閉じて首を振った

叢雲「何だかもやっとしてたけど、アンタのおかげでスッキリしたわ」

叢雲「私の中でアンタは特別で、私はアンタの特別なのに、島風はもっと特別みたいで羨ましかったのよ」

叢雲「でもアンタとキスしたいとは思わないから、これが丁度良さそうね」

叢雲は満足げに微笑み、チェーンに指輪を通して服の中にしまった


提督「首につけないのか?」

叢雲「邪魔になりそうだから遠慮するわ」

提督「それもそうか」

俺も納得して、服の中にしまい込んだ


叢雲「しっかしアンタも思い付きで凄い事するわね。いくら掛かったの?」

提督「それほどではない、この指輪もダイヤモンド……のように見えるガラス細工だからな」

叢雲「あ、ガラスなのね」

提督「本当はダイヤモンドが良かったが、持ち合わせが足りなくてな」

叢雲「ふぅん…ダイヤモンドに拘りでもあるの?」

提督「宝石言葉というモノがあるだろう?俺はそれしか知らないんだが」

提督「ダイヤモンドの宝石言葉の一つに『永遠の絆』というモノがある。どうだ?俺にしては洒落てるだろう?」

叢雲「75点くらいね。結局ガラスだし」

そう、茶化すように言う叢雲だったがその表情に先ほどまでの曇りは無かった
どうやらこれで後腐れは無くなったようだ

特別にも色々ある
好きにも色々ある

その中でこの親友という響きが丁度良いと、心にしっくりときた


後日

この話を蒼龍にすると
『この甲斐性なし!!』と説教を喰らってしまった

蒼龍いわく、あの場面で新しいケッコン指輪を持ってくるくらいの甲斐性が無ければいけないらしい

自分なりに丸く収めたつもりだったが、人間関係の落としどころはなかなか難しい


続いて二本目投下です


『摩耶様ともやもやする心』



生真面目提督
真っ直ぐ真面目で素直な提督
年齢は10代前半
自分には愛だ恋だと言うのはまだ早いと思っている
摩耶様を見ていると何だかもやもやしてしまう


摩耶様
勝気で強気で男勝りな高雄型の一番健全な方
思ったことが口に出やすくその上口が悪いが、決して悪い子ではない
面倒見がいい方だが、面倒を見られることの方が多い
愛だ恋だと言うのを全く意識したことが無い


大和
奥ゆかしく大和撫子のように見える大和型の妄想逞しい方
想像する自分と現実のギャップに涙する夜が多い
日夜提督との新婚生活を夢想する恋する乙女である
摩耶を見る提督の視線にただならぬものを感じ取った


武蔵
ハッキリとした性格の威風堂々たる大和型の威厳がある方
落ち着いて読書する夜が少なくなったのが最近の悩み
突如興奮する姉の対応に手を焼いている
頼りがいのある為、提督からとても慕われている



恐ろしい事に気づいてしまったかもしれません

大和は恐怖していた
あり得ない…いや、あり得てはいけない…いや、あり得ては困るその可能性に

真っ青な顔でご飯のお茶わんにカチカチと箸が当たる

武蔵「大和、行儀が悪いぞ」

そんな妹の言葉も聞こえぬ大和の目の前に広がる光景とは…


提督「摩耶様、ご飯粒ついていますよ」

摩耶「ああん?別にいいだろ」

提督「駄目ですよ、取ってあげますね」

摩耶「いいって!やめろよ!自分で取るよ!!」

そう言って見当違いの場所をさする摩耶と、『そっちじゃないですよ』と結局ご飯粒を取ってあげる提督

提督「ほら、取れました」

摩耶「やらなくていいっつってんのによ。ったく、ありがとな」

そう言って摩耶はまた食事に戻った
提督は指先にあるご飯粒を、迷う仕草を見せながらも自分の口に運んだ

恥ずかしそうに赤くなり、提督は自分のご飯をかきこんだのだった


場所は食堂
大和はそんな提督から右斜め前の机に陣取っていた

大和「み!みみみ!見ましたか武蔵!!」

武蔵「何がだ…」

突然興奮する姉に、ウンザリと言った風に返す武蔵

大和は本当は提督と食事をするつもりだったのだ
食堂の机は基本的に4人がけ
隣には常に足柄が居る

となれば提督の正面に座りたかったのだが、正面には摩耶がすでに居た
あまり話したことが無い摩耶の隣に座るのはなんだか気が引けたので、この日は諦めて提督の観察に従事しようと、提督を見えやすい位置に陣取った

まさかそこが公開処刑台だと大和には見抜けなかったのだ

提督と摩耶の声や、行動や、提督の表情さえも見えてしまうのだ
しかもなんだか自分がされたことのない様なイチャイチャした光景が繰り広げられているのだ
これで興奮しなければ乙女心が廃るというモノ


大和「『ご飯粒取ってあげる』なんて、私そんなベタベタなことしてもらったことありませんよ!?」

武蔵「大和は食べ方が綺麗だからな。正に大和撫子。その名に偽りなしと言ったところか」

大和「えっ!?やだ、武蔵…提督にも聞こえる位置だからってそんなよいしょしなくてもいいわよ。事実ですけど!」

武蔵は話題変更に成功したことに安堵し、チョロイ姉を放って食事を再開した
しかし、そんな事で燃え尽きる乙女心ではないのだ

大和「ってそうじゃないわ!提督はもしかしたらドジな子が好きなのかもしれないわよね!」

武蔵「う~ん…そうか?」

大和「ほら、私って清楚な頼りになるお姉さんだから、上手くいかないことが多かったのよ!」

武蔵「ははは、安心しろ。大和は十分にドジっ子だぞ」

大和「そ、そんなことありませんよ!!」

武蔵「いやいや、大和はドジっ子大和撫子だ。凄いなハイブリットだぞ?この欲張りさんめ。さぁ飯を食おう」

大和「ちょっと扱いがぞんざいになってるわよ武蔵!?」

大和と武蔵が言い合っている間にも、あの二人のやり取りは続いている


提督「そういえば摩耶様、お箸の持ち方上手になりましたね」

摩耶「あん?ああ…お前が一々うるせーからなぁ。かっこ悪ぃのはアタシも嫌だしよ」

提督「ふふふ、そうですか」

摩耶「お前もさぁ、いい加減そのアタシの事を摩耶様って呼ぶの止めろよな」

提督「でも自分から摩耶様だって言ってたじゃないですか」

摩耶「言って欲しい場面とそうじゃない時があるだろ!ほら!」

提督「う~ん…でももう摩耶様で慣れたので、摩耶様は摩耶様って感じです!」

摩耶「アタシが言わせてるみたいで恥ずかしいんだよなぁ……。ま、思わず様付したくなるって気持ちも分かるぜ!」

そう言って爽やかに笑いあう二人


大和の乙女心は再び燃え上がる

大和「聞きましたか武蔵!?」

武蔵「ああ聞いてるぞ」

大和「私だって様付で呼ばれたことがありませんよ!!」

武蔵「そこなのか?様付で呼んでもらわなくたっていいだろう」

大和「私もあんな風に慕われたいです!!」

武蔵「うん、まあそこだな。然しもの大和も様付で呼ばれたがることなんてないか」

武蔵もうんうんと軽く頷く
どうやら今回は大和の意見に賛同してくれたようだ


武蔵「確かに提督は摩耶の事を慕っているようだな」

大和「ですよね!なんだか特別慕ってるみたいで…もしかすると提督は……」

武蔵「私も慕われているぞ」

大和「ふぇ?」

突然の裏切りだった


武蔵「私も提督から慕われているぞ」

大和「な、何で!?」

武蔵「多分だが、提督は私や摩耶のような人が好きなんじゃないか?」

大和「ぐふっ!?」

直球の言葉の鉾が大和の胸を無慈悲に貫く


しかし、そこで折れては乙女の名折れ
ここで立ち上がってこそ真の乙女というモノだ

大和「大和はそこでへこたれません!そこから更に上を目指して慕われる私になって見せます!!」

武蔵「おお、前向きだな大和。いいぞ、何をするんだ?」

大和「一先ず、摩耶と武蔵の共通点って何かあるのかしら?」

武蔵「共通点か……」

大和「褐色…は違うし、眼鏡…も違う、う~ん…もう特徴が無いですねぇ」

武蔵「それは私だけの特徴じゃないか。それと私をサラッと特徴が無いと言ったな、喧嘩なら買うぞ」

大和「私、摩耶の事よく知らないんですよね」

武蔵「聞いてみればどうだ?」

大和「そうしてみます!」




大和「と、いうわけで聞きに来ましたよ摩耶!!」

摩耶「何がというわけなんだ……」

大和は食事の後、自室に帰っていた摩耶を訪ねてやってきていた
摩耶は当然の訪問に驚いているようだ

大和「うちの妹の武蔵と摩耶の共通店を探してまして」

摩耶「お、おう…そう言われてもなぁ…アタシも武蔵の事何にも知らないぜ?」

大和「はっ!そうですよね…」

それもそのはず大和は失念していた
武蔵も知らないのに相手も知っているはずがなかったのだ


大和「困りました…」

摩耶「そんな事を聞いて、一体何に困ってんだ?」

大和「私も提督に慕われたいんです!!」

摩耶「慕われてるぅ…っつうか、アイツが勝手にアタシに構ってくるって感じだけどなぁ」

大和「それでいいんです!寧ろそれが良いんです!!」

摩耶「別に楽しいもんでもねえぞ?アイツ口うるせーしよ」

大和「楽しいです!絶対に楽しいです!!何でもいいから提督とのことを教えてください!!」

摩耶「わ、分かったよ…」

大和の気迫に押され、思いつく限り自分と提督の事を話しはじめる


摩耶「切欠とかは思い出せねーけど、妙にアイツはアタシの世話を焼きたがるんだよ」

摩耶「朝寝坊したら起こしに来るし、寝癖なんてほっとけって言っても直したがるし」

摩耶「飯食ってても箸の持ち方とか口煩く言って来るし、好き嫌いすると怒るしよ」

摩耶「他にも風呂入るのめんどくさがると無理にでも入れようとして来るし、何が心配なのか一緒に入ろうともしてくる事もあるなぁ」

摩耶「あとそうだ!歯磨きも一緒にしたがるんだぜ?さすがにアタシも飯食ったら歯くらい磨くって!」

摩耶「まあウザいところもあるけど、アイツはアタシが凄いってことを良く分かってるし、可愛い弟分って感じだな!」

大和「………」

摩耶「あん?どうした?こういうのが聞きて―んじゃなかったのか?」

大和「あ、はい!そうです!」

大和はその発言に唖然としてしまっていた
そして、提督の行動の理由も理解できた
この麻耶という人物は、放っておけない性格をしている
あの世話焼きな提督からすればなおさらだろう


どうやらあの行動の数々に、恋とか愛だとかは関係なさそうだと分かり心の底から安堵した


大和「摩耶が慕われてる理由、分かった気がします」

摩耶「お、そうか?へへっ照れるな」

大和「突然押しかけたのにこうしてお話をして下さってありがとうございます」

摩耶「お、おお…。本当に突然押しかけてきた割に、意外と礼儀正しいんだな」

大和「それではここで失礼します」

摩耶「おう!何か困ったことがあったらこの摩耶様に何でも言えよ!!」

自分が心配していたことが杞憂と分かり、大和は満足して帰っていった
暫くして、他にも言ってなかったことがあったなと摩耶は思い返す

摩耶「そういや、あたしから風呂入ろうぜって誘ったりすると顔真っ赤にして逃げ出すんだよな…」

摩耶「起こしに来るのウザいから一緒に寝て起こしてくれって言っても嫌がってたし、そういう所はよく分かんねぇんだよなぁ」

摩耶の独り言は誰にも聞かれることは無い


大和「って感じで、武蔵が慕われている理由とはまた別の理由だと思うわ」

武蔵「なるほどな。確かに私はそんな慕われ方ではないな」

大和「私としては今の清楚で頼れるお姉さん、という提督の印象を崩したくないから武蔵の振る舞いを参考にしたいの」

武蔵「…まあいいか、私が提督に慕われている理由か…そうだな」

武蔵は腕を組んで考え込む
そして、思いついたように手を打った

武蔵「かっこよさじゃないか?」

大和「かっこよさ…?」

武蔵「提督はまだ少年だ。少年が憧れる対象となるのは、強さや行動を伴ったカッコよさではないだろうか?」

大和「むぅ…確かに武蔵は女の私が見てもかっこよさが溢れてますからね。おっぱいあるのに男前です」

武蔵「悪気が無いのは分かるが大和、妹に対して少し無神経じゃないか?ん?本当に褒めているんだな?」

そんな武蔵の言葉も悩む乙女の耳には届かない


大和「でも、おっぱいも強さも私は武蔵に負けてませんよ?」

武蔵「そうなれば足りないのは雰囲気ではないか?滲みだすカッコよさとでも言おうか」

大和「と、なれば難しい問題ですね。私にはない魅力です」

武蔵のようにはいかないというのには、確かにそれ相応の理由があった
悔しいと思うが大和には武蔵のような『男前』な魅力がない


武蔵「私と大和は違う、ともなれば違う魅力があるという事だ」

武蔵「無理に私に寄せるより、自分の魅力を生かした方がいいのではないか?」

大和「結局そこに帰って来るんですね」

武蔵「近道なんてないという事だ。大和は十分魅力的だ、それを存分に魅せてやればいい」

大和「そういう事をサラッと言ってのけるから、武蔵はカッコいいんでしょうね」

『早速提督の所に行ってきます!』と大和は気合を入れて走っていった



武蔵「…………ふむ、意外と気づかないモノなのだな」

武蔵「提督が大和の気持ちに気付いていないのは子供だからまだいいが、提督の気持ちを摩耶も大和も分かっていないとは」

武蔵「二人の方がよほど子供かもしれないな…ふふっ…」

武蔵はそれとなくな察していた、提督のモヤモヤしている心の事を
そのモヤモヤする心の正体も
それをあえて大和に言わなかったのは優しさだろうか

武蔵「見ていて飽きないな、大和も提督も」

武蔵はそう言って、ふっと笑う
その心境はうかがい知れない

提督の心も、大和の心も、摩耶の心も、武蔵の本心も
結局はその当人にしか分かりえない


と、いうわけでかなり遅れましたが予告の2本でした

今回は地の文少な目で、会話が多めでしたが読みにくくなかったか少し心配です


大淀の話は何度書き直してもしっくりこなかったので、ちょっと保留とします
大淀は艦これで一番好きなキャラなのでいつかは絶対に書きたいです

次からの更新速度は二日に一本位を予定しています(結局遅れることもありそう)
バレンタイン物も数本書きたいなと思ってますね


これからもお付き合いください、ではでは


今日は23時頃に一本投下する予定です
なるべく日をまたがない内に書き終えたい


おっしゃああああ!間に合いました!!!

それでは一本投下します


『葛城で遊ぼう』




小悪魔提督
一途でちょっぴり意地悪な提督。自称純情少年
黙ってさえいれば美少年だが、おしゃべりが大好き
最近は葛城にちょっぴり意地悪するのが好き
よく勘違いされるが童貞である。当然加賀さんに自分の全てを捧げるため
しかし、ファーストキスは瑞鶴に取られて冷たく当たった時期がある


葛城
見栄っ張りでのせられやすい雲龍型の未成熟な方
提督によくからかわれ怒ったりもするが、褒められるとすぐ許してしまう
なので提督の玩具…元い、よく遊ぶ相手。けっして遊ばれてるわけではない。弄ばれているが
提督の事は好きじゃないと言っているが、いつもドキドキさせられている
提督が瑞鶴先輩と仲がいいのを少しだけ羨ましがっている


瑞鶴先輩
キリッとしてカッコイイと葛城から思われている五航戦の妹の方
葛城からの評価は過剰だとも思うが、悪い気分じゃないと思っている
巨乳だらけの空母の中で葛城の存在は自分にとっての癒し。団栗の背比べレベルの差異だが
提督と出会って直ぐは葛城と同じくらい反発していたが、直ぐに反撃できるレベルにまで成長した


提督「ん、食べてみて」

葛城「あ~ん……うん♪美味しい!」

提督は今日も今日とて料理の勉強をしていた

赤城を味見役にしていては良い料理が出来た時に加賀さんに渡せなくなったことに気が付き、味見役からリストラした
それから色々な艦娘の意見を聞いてみようと、味見役を日によって変えていった

今日この日は葛城に頼んだのだが…


提督「……人選間違ったな」

葛城「なんで!?褒めてるんだし喜んだら!」

提督「じゃあこっち食べてみて」

葛城「んん?んぐ……ちょっと独特の香りがあるけど、美味しいよ」

提督「やっぱり…」

予想通りの反応に提督は溜息を吐く
理由の分からない葛城は困惑しながらも怒りをあらわにしていた


葛城「どうして褒めてるのに馬鹿にされてるみたいなの!?」

提督「だって今食べたの失敗作だよ?」

葛城「うえぇ!?何食べさせてるの!?」

提督「だってこれ料理の勉強であって、美味しい料理を食べさせてあげる会とかじゃないんだよ?」

提督「失敗作でも美味しくなくても、それならそれで何処が駄目なのか言って貰わないと」

提督「葛城さっきから何食べても美味しいって言うじゃん」

葛城「じゃあ、やっぱり美味しくない!!」

提督「うん、もう遅いからね?一回美味しいって言っちゃったし」

『やれやれ』と提督は首を振りながらエプロンを脱いだ


葛城「えっ?もう止めちゃうの?」

提督「だって葛城がダメな子なんだもん」

葛城「だ、駄目な子なんかじゃないから!」

提督「味音痴」

葛城「むぐぅ…だ、だってホントに美味しいなって思ったんだもん…」

葛城はツンと口を尖らせる
葛城は熱しやすく冷めやすい、言うなればちょっとチョロイ子だった
分かりやすく表情が変化する葛城に提督は悪戯っぽく微笑んだ


提督「ふふふっ、ちょっと意地悪言っちゃった。ゴメンね」

葛城「今更言っても遅いんだから」

提督「大丈夫だよ、ボクは葛城のいいところいっぱい知ってるから。誰にだって苦手はあるよ」

葛城「…分かればいいのよ。分かれば」

提督「やっぱり葛城はダメな子だなぁ」

葛城「また言った!もう知らないんだから!!」

提督「うそうそ、冗談だって。出来たお菓子食べよっか」

葛城「また言ったら許さないからね」

『一人でお湯沸かせる?』なんて冗談を言われながらも、紅茶を用意し二人でお菓子を食べ始める


葛城「やっぱり美味しいけどなぁ…」

提督「ぷっ…そっちは成功した奴だって。美味しくていいんだよ」

葛城「は、初めて食べたからよく分かんないの!」

葛城は初めて口にしたソレをまじまじと見つめる
それは菓子パンのようなしっとりフワフワとした生地に、シロップが程よく染み込んでいる
中央はくり抜かれた様な窪みになっており、中に生クリームと数種類の果物、その上からジャムが乗せられているお菓子だった

葛城「…コレ、なんていうお菓子なの?」

提督「サヴァラン」

葛城「初めて聞いたかも」

提督「どんな味がする?」

葛城「生地が結構甘いけど、色んな果物の味がしてその甘酸っぱさがイイ感じに合ってる」

提督「…何かいい香りとか風味がしない?」

葛城「んん?」

葛城は唸りをあげてこれでもかと眉を顰めながら咀嚼する


しかし、やはりこれというモノが思い浮かばず思ったことをそのまま言う

葛城「お、大人っぽい味がするかも」

葛城は自分で言っておきながら恥ずかしくなってくる
こんな抽象的な答えでは提督に味音痴とバカにされても仕方のないものがあるかもしれない

恐る恐る提督の顔を窺うと、やはり楽しそうに笑っていた

葛城「ま、また馬鹿にしてるんでしょ」

提督「そんなことないよ。大人っぽいって言うその感想が正解だからね」

提督「正解は洋酒がかかっているのでした」

葛城「洋酒ってえっと…ぶ、ぶらんでー?とか?」

提督「いや、今回はラム酒。その口振りはお酒飲まなさそうだね。ま、一口食べて分かんないなら当然か」

葛城「し、仕方ないでしょ!洋酒なんて飲まないもん!」

提督「別にムキにならなくってもいいのに」

葛城「だって絶対バカにされた…」

不機嫌に言いながらも、葛城の食べるスピードが遅くなってはいなかった
その様子に提督も自分も料理の腕が上がったなと嬉しく思いながら食べ進めた


葛城「ねえ、失敗したって言ってた奴は捨てたの?」

提督「ん?勿体ないからボクが今食べてる」

葛城「あ、それなの?」

提督「食べたいの?」

葛城「今なら味の違いが分かる気がするから」

提督「んじゃ、あ~ん…」

葛城「うえぇ!?」

提督は躊躇なく自分が使っていたフォークの上に切り分けたモノを乗せて食べさせようとして来る

葛城「あの…その…じ、自分で取るから」

提督「零れちゃうから早くして、ほらほらあ~ん」

提督はまるで子供にお手本を見せるようにあ~んと口を開けて見せる


葛城は戸惑っていたが諦めて口を開いた

葛城「あ、あ~ん…」

かなり照れ臭かったが、提督が差し出してきたそれは少し大きかったため頑張って大きく口を開いた
なるべくフォークに唇に触れないようにしながら、それを口に受け取った

提督「間接キスしちゃったね?」

してやったりと提督は楽しげに笑みを作る
直ぐに言い返そうとしたが口にはお菓子が入ったまま
少し噛んでから紅茶で押し流して漸く口を開く

葛城「――っ!バカ!なんでわざわざ言うのよ!!それに、なるべく唇つけないようにしてたし…」

提督「ふ~ん…意識してたんだ?」

葛城「は、はぁ!?違うからね!そんなんじゃないからね!」

提督「ふふふっ……で、お味はどうでした?」

葛城「あなたがバカなこと言うからちゃんと味わえなかったわよ!」

提督「じゃ、もう一口いる?」

葛城「自分で食べます!」

少し乱暴にフォークを突き刺して食べる
提督はそんな様子を見ながらクスクスと艶っぽく笑っていた

年下の癖に生意気だ、と思いながらそれを味わう


葛城「…やっぱり匂いがちょっと違う?」

提督「そうそう。試しに梅酒をかけてみたんだけど、あんまり合わないなって」

葛城「そうなんだ…私は別に嫌いじゃないけどなぁ」

提督「加賀さんの為に和風にしてみたかったんだけど、もうちょっと工夫が必要そうだね」

葛城「それなら和菓子の勉強すればいいじゃないの?」

提督「ボクは色々作ってみたいの。それに、それだと教科書読んでお手本通り作っただけになるんだもん」

提督「ボクの作ったボクなりの料理で加賀さんを満足させてあげたいなぁって思うからさ」

葛城「結構本気で頑張ってるんだ…」

加賀さんに対してだけは真摯な態度の提督
その思い遣りが少しでも自分にも向けば嫌いじゃないのに
なんて事を思っていたとき…


提督「んっ…」

提督の指が葛城の口元を撫でる

葛城「な、なに!?なに!?」

提督「そんなに驚くこと?」

そう言って指の先を見せる提督
そこには生クリームがついていた

考え事をしていたからか、と反省し一応礼を言う

葛城「自分でも取れたけど。まあ、ありがと」

提督「どういたしまして。ん」

提督は自分の指についた生クリームを舐めとった


葛城「んなぁっ!?」

自分の口の端についていたモノを目の前で食べられ顔がカーッと熱くなる

提督「甘い」

葛城「甘いじゃないでしょ!ちゃんと拭き取りなさいよね!!」

提督「どうして?」

葛城「どうしてって…ほら、普通はそうするでしょ!」

提督「自分の口の端についてたものが、ボクの口に入っちゃったって事が気になってるんじゃないの?」

葛城「~~~~ッ!わざわざ言うなぁ!!」

提督「やっぱりボクの事意識してる」

提督はにやにやとムカつく顔をしていた
葛城はその顔を見て、いつ自分の口の端にクリームがついていたかに気が付いた
ワザとこうなるように仕組んでいたのだ


そうと分かってますます腹が立ってきた
それを知ってか知らずか、提督が止めの一言を放つ

提督「ボクの事好きなの?」

葛城「嫌いよ!バカ!ご馳走様!!」

グイッと一息に紅茶を飲み干し、ぷりぷりと怒りながらどこかに行ってしまった


その様子に提督は満足してはぁーっと息を吐く


提督「相変わらず葛城は叩けば鳴るから可愛いなぁ…」

提督「ちょっと前までは瑞鶴もアレくらい照れてくれたのに、最近はボクにセクハラしてくるくらいだからなぁ…分からないもんだね」

と、言ったとき
勢いよく扉が開かれ葛城が帰って来た

葛城「あんた…晩御飯はどうするの?」

提督「まだ考えてないけど」

葛城「ま、まあ…そのぅ…お礼……って訳でもないけど」

葛城「お菓子…美味しかったから。わ、私も何か食べさせてあげてもいいわよ?」

頬を薄く染め下を向きながらも、此方の反応を窺うようにチラチラと視線を向けてくる
あんなことを言って去って行ったが、結局は葛城も提督の事が本当に嫌いで言ったわけではない
それを言ってもいい関係という事なのだ


提督「ふふっ…うん、じゃあお願いするね」

葛城「っ!」

満面の笑みでそう答えると、葛城は顔をパーッと輝かせる

葛城「ふ、ふんっ!先に言っておくけど、私だって料理できるんだからね!!」

提督「へぇ、楽しみだなぁ」

葛城「そうやって余裕ぶっていられるのも今の内だから!」

そう言い残し、再び出ていった
こっそりその後ろ姿を見送ると、足取り軽くスキップしているようだった


そうして晩御飯

提督「………」

お出しされたのは握り飯と味噌汁だった

提督「………おかずは?」

葛城「あっ!忘れてた、ちょっと待ってて…」

提督「ほっ…」

安心して息を吐いたのも束の間
おかずと言って持ってきたのは陶器の小さな壺
その中にあるのは沢庵

葛城「これ、天城姉の沢庵なんだ♪」

と自慢げにそう言った

提督「これだけなの!?」

提督は思わずツッコまずにはいられなかった
あれだけ自信ありげにしていた娘の料理が握り飯とお味噌汁だけ
おかずは料理が上手な姉のモノときたら、流石にこうも言いたくなる


葛城「何よ!文句ある?」

提督「いや、寧ろなんでこれであんなに自信満々だったの!?」

葛城「私のおにぎりバカにしないでよね!天城姉にだって褒めてもらったことあるんだから!!」

提督「問題そこじゃないよ!?こう…せめて、卵焼きとかお魚とか主菜は無かったの?」

葛城「それは…その……」

少し躊躇い、言い淀んだが

葛城「…あなた、あんまりお肉とか食べないでしょ?小食って聞いてたし、お野菜中心の方がいいかなって…」

そう、葛城は理由を話した
本当は料理が出来ないからという見栄ではなく、提督の事を考えての献立だったようだ
それが分かった瞬間、心がじんわり温かくなり自然に笑みが零れた


提督「なんだかんだボクの事ちゃんと知ってるんだね」

葛城「あ、赤城さんに聞いただけだから!私があなたの事意識してるとかそんなんじゃないからね!分かってる!?」

先手を打とうと葛城はそう言った
そういう事によって意識していると言ったようなものだと分かっていないようだ

提督「ボクは葛城のそういうとこ好きだよ」

葛城「~~~~ッ!!」

そんな温い牽制では容易く反撃を喰らう
葛城は怒りと羞恥で顔を真っ赤にし『いただきます!』と乱暴に行って先に食べ始めた
提督もそれを追うように『いただきます』と丁寧に手を合わせた


一口握り飯を齧る

提督「…ホントに美味しい」

そう、声が漏れるほどだった
軽く感動を覚えるほど美味しい握り飯だった

葛城「そうでしょうそうでしょう?ふっふーんだ」

提督「ちょっと本当にすごいかも。これお塩だけだよね?」

葛城「そうよ。塩の握り飯。お塩の加減が絶妙でしょ?」

提督「……いっつも味に工夫を加えることしか考えてなかったけど、こんなシンプルな食べ物でも違いが出るんだね」

葛城「ちょっとは葛城の事尊敬した?」

提督「………悔しいけどね」

葛城「ふふふん♪うん、お~いし♪」

提督のその言葉に上機嫌で握り飯を食べる
本当はそれくらいしか作れないとは言わなかった
それを言ったらまた負けだと思ったからだ

偶にはこうして提督に勝ってる気分に浸らせてもらってもいいだろう

提督が言った言葉は全て本心だった
しかし、お味噌汁を飲んでしょっぱいなと思ったのは内緒にしておいた
上機嫌な葛城がたまらなく可愛かったからだ

偶にはこうして優越感に浸らせてあげてもいいだろう


二人はそんな事を思いながら、楽しい夕食を過ごした


食事を終えて、二人は熱いお茶を飲みながらゆっくりと過ごす
提督は葛城の正面に座っていたが、隣に移動した

葛城「……なにかよくないこと考えてるでしょ」

提督「ぜんぜ~ん」

葛城「絶対に私をからかうきでしょ」

提督「しないしな~い」

そう言いながら葛城を背中側から抱きしめた

葛城「ひぅっ!?な、なにするの?」

提督「何もしないよ?」

葛城「じゃ、じゃあ離してよ」

提督「本当にそうしてほしい?」

葛城「あ、当たり前よ。どうしてこんな事するの…」

提督「なんでだろうね~」

ワザとらしくとぼけて返す


左手をそっと首元に添えて優しく撫でる
グッと体を近づけて耳元で囁いた…

提督「しちゃおっか?」

葛城「ッ!!!??」

ボン、という効果音が相応しいほど葛城の体が熱く火照る
葛城はなけなしの勇気でいやいやと首を振った

提督「ふ~ん…どうして?」

あくまで提督はとぼけて葛城の言葉を誘った

葛城「…だって提督は加賀さんが好きなんでしょ?だから…その、そういうのは嫌だから」

提督「加賀さんは勿論大好きだよ。でも、葛城の事も好きだよ」

葛城「ええ!?あ、あうあぅ……」

餌をはむ金魚のように口をパクパクさせて狼狽する葛城


提督はさらに追い打ちをかけた

提督「ねぇ…ダメ?」

甘ったるい猫なで声で媚びるように葛城を誘う

葛城「い、いや…」

か細い声で葛城はそれでも拒絶した
あまりにも弱弱しい声だったが

提督「本当に嫌なの?」

葛城「…うん」

提督「ふ~ん…おりゃ!」

葛城「うわっ!?」

提督は葛城の体をそのまま後ろに引っ張った
葛城は仰向けになり、頭は提督の膝の上で顔を覗き込まれる形になった


提督「これでも、いや?」

葛城「だ、だから嫌って言ってるでしょ!」

提督「じゃあ、しないよ」

葛城「えっ?」

提督はアッサリと身を引いた
葛城は思わず声を出してしまった
その声は、どう聴いても嫌がる女のそれではなかった

提督「本当に嫌なら、ボクは絶対にしないよ。だった葛城が好きだもん」

提督「でも、そうじゃないなら……眼、瞑って」

葛城「――――」

葛城は頭の中が混乱していた


何故こんな状況になってしまったのか
何故こんなにも提督が私の事を求めてくるのか
何故それなら今まであんな意地悪をしてきたのか
何故自分は嫌だと拒否しないのか
何故自分はあの時少しだけ残念だと思ってしまったのか

本当は自分も提督の事が好きなのではないのか?

色々な事が頭に周り何も考えがまとまらなかった

その間にも提督の顔が近づいて来て……

葛城「~~~~~ッ!!」

思わずギュッと目を瞑ってしまった
どうにでもなれと言わんばかりに目を瞑った




















カシャッ

と無機物の音が鳴る

恐る恐る葛城は目を開けると
笑いを必死にこらえる提督の顔と、その手にはカメラが握られていた


提督「葛城、渾身のキス待ち顔。いただきました」

そう言った後、提督は耐えきれず吹き出してしまった

提督「あははは、いやぁ…葛城ってばホントに可愛いなぁ。ちょっと信じられないくらいだよ」

提督「あんな見え見えの芝居に乗っちゃ駄目だよ?悪い男に引っかかっちゃうよ?」

葛城「えっ?なに?なんなの?」

色々な事が起こり、考えの纏まらなかった葛城の頭だが
あまりも先ほどまでとは雰囲気も態度も違う提督に、また馬鹿にされたという事だけは明確に理解した



提督「ふふふっ、ごめんごめん。今回は本当にボクが全部悪かったよ」

提督「葛城があんまりにもちょろ…じゃなくって、可愛いから。調子に乗っちゃったんだ」

提督「本当にゴメンね?」

提督「ふふっ、『しちゃおっか?』な~んてぷふっ…自分で言っててちょっと恥ずかしいかも」

提督「あ、折角だしなんかして遊ぶ?花札とか麻雀とか、囲碁とかもあるよ?」

提督「それともやっぱり添い寝でも…」

そう言おうとしたときには葛城の拳が顎を正確にとらえていた

葛城「バカ!最低!!もう二度と口きいてあげない!!今度という今度は絶対に許さないから!!!」

『バカ!バカ!!バカ!!!』と再三繰り返し罵倒してどこかに行ってしまう
提督は一撃で意識が飛びかけ、朧げな意識の中でその罵倒だけがガンガンと頭に鳴り響いていた


提督「………ってことがあったんだよ~」

ウキウキとした表情で語る提督をジトッとした目で見る瑞鶴

瑞鶴「珍しく提督さんが加賀さん以外の話をしたと思ったら、私の可愛い後輩に何してくれちゃってるの?」

提督「いやぁ、最近あんまり小悪魔なことしてないなぁって思って張り切っちゃった」

瑞鶴「やり過ぎよ馬鹿。で?仲直りはできたの?」

提督「三日口きいてくれなかったけど、必死で謝って目の前でカメラの写真消してあげたら許してくれた」(バックアップが無いとは言ってない)

提督「あ、後ついでに一週間部屋の掃除とおやつ献上を条件にね」

瑞鶴「はぁ……もう仲直りできたんならいいけれど…」

『流石にやり過ぎよ』と提督を強く戒める
提督もちょっとやり過ぎたと、本気で反省しているようだった

しかし、それはそれとして本当に楽しそうにその時の様子を語っていた


提督「葛城と遊んでると昔の瑞鶴を思い出すよ。あの押した分だけ跳ね返ってくる感じ」

瑞鶴「昔は私もそんな感じだったけど、提督って押し返せば何とかなるって分かっちゃったし」

提督「むぅ、瑞鶴にもあの時みたいな可愛げが戻ればなぁ」

瑞鶴「もう一回キスしたげよっか?」

提督「もう二度とゴメンです。瑞鶴ってばもうしないって言いつつこの前だってしてきたし、キスの価値が薄くなるからやめてよね」

瑞鶴「…それくらいしないと奪えそうにも無いし」

提督「ボクの心は絶対に加賀さんから揺るがないよ」

瑞鶴「今のは聞こえなくてもいい部分!!」

提督「ふふっ、怒った怒った」

提督は『そんな反応の方が好きだよ』と楽しげに笑う

悪い男に目をつけられたなと、瑞鶴は自分を慕ってくれる後輩を心の底から同情した
そして、次にもし何かあったら私が相談に乗ってあげようと心に誓った


葛城「あ、瑞鶴先輩!それに提督も」

葛城が此方に駆け寄ってくる
仲直りしたというのは本当のようで、瑞鶴は少し安心した

葛城「瑞鶴先輩と提督って仲良いですよね?」

提督「そう?」

葛城「先輩、この提督本当に性格が悪いので縁を切った方がいいですよ」

瑞鶴「あはは、言われてるね提督さん。日頃の行いを見直したら?」

提督「加賀さん以外にならどう思われても平気だし…」

瑞鶴「これでも提督さん、可愛いところもあるのよ?例えば…」

提督「えっ!待って!?どれ話すの?ねえ!?あの寝ぼけてた時の話とか本当にやめてよ!!」

瑞鶴「じゃあそれを話してあげようかな♪」

葛城は自分の前では見たことも無いくらい狼狽える提督と
楽しげにそれをあしらう瑞鶴先輩の姿に、『瑞鶴先輩カッコイイ』と改めて深い尊敬の念を抱いた


提督の恥ずかしい裏話を聞き、ほんの少し提督の事が好きになった葛城であった


と、いうわけでひたすら葛城が可愛い可愛いされるだけのお話でした
つい最近この子の可愛さに目覚めました


そういえばイベントが始まりましたね
自分は攻略情報とかドロップ情報が出てからゆっくりと掘るタイプなのでまだ様子見中です
今回こそは磯風が落ちればいいのだけれど……


次回はリア充たちのバレンタイン祭りを予定しております、ではでは


バレンタインのお話が今日にすら間に合わない!!
一日やそこらで4本仕上げるのは無理があったか……


取り敢えずバレンタイン特集前半をお送りします


変わっても変わらない人たちのバレンタイン



普通提督
流されやすく受動的な、人生で一度もモテたためしの無い普通の提督
幼少期のバレンタインは祖母からしかもらった記憶がない


島風
速さが足りてる駆逐艦であり、提督とケッコンしている
子供らしくお菓子が大好き


叢雲
勝気で世話焼きでちょっぴり口が悪い吹雪型の一人だけソワソワしている方
あの提督にチョコを渡すモノ好きは居るんだろうかと思っている


蒼龍
苦労性で女性らしい二航戦のマメな方
あの提督にチョコをあげるのは私だけなんだろうなと思っている


その他大勢



島風「てーとくー!ハイこれ!!」

早朝5時、島風に叩き起こされた俺は島風から何かを手渡される
寝ぼけ眼を見開いてなんとかそれを認識する

提督「こんな時間に…何故…板チョコ?」

擦れた死にそうな声で疑問を口にした

島風「あー!提督知らないんだ!バレンタインだよバレンタイン!!」

提督「バレン…タイン…?」

島風「大切な人にチョコをあげる日なんだよ!!」

提督「……自分と縁遠いイベントすぎてすっかり失念してしまっていた…」


今日この日はバレンタインであった


徐々に目覚めてくる意識と共に、喜びの炎が燃え上がる
自分はチョコレートを貰ったという事実

しかも女の子にだ

昔、鼻息の荒い男に囲まれてチョコを渡された暗い過去を思い出したが、頭を振って現在の喜びをかみしめた

島風「ねえ!島風早い!?島風が一番!?」

提督「そうだな…こんな時間に俺を叩き起こしてチョコを渡しに来てくれたのはお前が一番だ」

島風「やったぁ!!島風がいっちばーん!!」

連装砲君を抱きかかえてクルクルと周る島風を抱き寄せ、頭を撫でてやる
『おぅ!』と膃肭臍のような声をあげ、島風は嬉しそうに目を細めた

一応ケッコンカッコカリしているのに板チョコかと思わなくも無かったが、貰ったという事実だけで全てが許せた

どう考えていたとしても、一番に渡そうとしに来てくれた
その行動もグッと心に染みた
例え残業で疲れて寝ていた体を叩き起こされたとしてもだ


島風「それじゃあ皆からチョコ貰ってくるね!」

そう言って島風は忙しなく去って行った
何だか趣旨を勘違いしているようだったが、ツッコまないであげた

友チョコなるものが女子の中では存在すると聞く、きっとそれだろうと納得する

朝食として島風の板チョコを食す
至って普通な市販のチョコだったが、無性においしく感じた

提督「今日はいい日になるな」

いつになく爽やかな寝覚めで、いい気分のまま仕事に向かった



蒼龍「はい、提督。チョコあげますね」

提督「ん、ありがとう」

その日の秘書艦であった蒼龍からチョコを貰う
既にチョコは貰った身、余裕な態度でそれを受け取る

どうやらそれがおかしいと思ったのか

蒼龍「一応言っておきますけど義理ですよ」

そう念押ししてきた

提督「知ってるさ」

蒼龍「あんまり喜ばないんですね」

提督「ふっ、俺は大人だぞ?チョコ如きでそうそう喜ぶか」

蒼龍「どうせ私以外に貰えないのにない言ってるんですか…」

提督「はっはっは!もう貰ったさ」

蒼龍「ええっ!?そんな…嘘でしょう!?」

信じられないとばかりに蒼龍は顔を青くした
あまりの驚き様に、軽くショックを受ける
モテない自覚はあったがここまで驚かれるほどだっただなんて


蒼龍「提督、夢の中でもらったチョコはカウントしちゃ駄目なんですよ?」

提督「実体貰ったからな。朝ごはんとして食べたからな」

蒼龍「ええっ!?本当に!?確かに食堂に来ませんでしたけど…まさか誰かからチョコを貰っていたなんて…」

蒼龍「一体誰ですかそんなおかしなことをする人は!?」

提督「少し俺に遠慮を覚えた方がいいぞ蒼龍。いくら俺でも心は傷つく」

蒼龍「す、すみません。でも、本当に誰なんですか?」

提督「島風だよ。朝5時に叩き起こされてな」

蒼龍「ああ……」

腑に落ちたという表情で蒼龍は頷いた


蒼龍「あの子にも夫婦としての自覚が出てきたんでしょうかね」

提督「そんなんじゃ無かった気がするぞ」

蒼龍「はぁ…提督はそんなんだからチョコが貰えないんですよ」

提督「むぅ……」

もう既にチョコは二つ貰っていると言い返したかったが
モテないという事も、気遣いが出来る性格ではないことも事実

かつて温厚なおばあちゃんに『アンタは無神経だね』と一度だけ怒らせたことがあったことも思い出し、何も言い返せなかった
あの時の俺が何を言っていたかはイマイチ覚えていない
たしか『婆ちゃんくらいになるともう何歳でも婆ちゃん以外に見えないよ』みたいなことを言った気がする

提督「…女性に年齢の話題はいくつになっても禁忌という事だな」

蒼龍「確かにそうですけど、突然どうしました?」

提督「いや、己の罪を戒めていた」

そうしていつものように仕事をつづけた


秋雲「は~い、提督ぅ。おつかれちゃ~ん」

仕事中のピリピリした執務室
そんなものもお構いなしに軽いノリで入って来たのは秋雲

秋雲「そ~んなお疲れな提督にぃ、これあ~げる」

そう言って手を差し出す
何かを握っているようで、その下に自分の手を受け皿として出す

秋雲の手が開かれた中からは…

提督「………チロルチョコ」

秋雲「そうそう♪如何にも冴えない提督にチョコレートをあげる秋雲さんなのでした」

提督「なんだ賄賂か?言っておくが俺はこんなものに屈しないぞ?ヌードモデルでもしてほしいか?仕方がないな…」

秋雲「いやいや違うってば、しかも賄賂に屈してるし…」

秋雲「バレンタインでしょ~もう!」

提督「それでチロルチョコ一個なのもどうかと思うぞ」

とはいえチョコはチョコ
有り難く提督は口に含んだ


秋雲「お返し期待してるからね~ん」

提督「任せておけ、モテない男のせめてもの矜持で3倍にして返してやる」

秋雲「うほっ!提督太っ腹ぁ~、よっ!アンタが大将!!」

提督「ブラックサンダーをやろう」

秋雲「言った傍からケチくさっ!?」

提督「10円のチロルチョコのお返しは当然30円のブラックサンダーだ」

秋雲「キッチリ3倍…でも残念でした、それは20円のチロルチョコだから」

提督「つまりブラックサンダー3つだな。任せておけ」

秋雲「提督のブラックサンダーへの信頼感が篤い……」

『まあブラックサンダー好きだけどね』と言い残し、秋雲は去って行く

手元に二つ無いが、既にチョコの戦果は三つ
勝ち組と言っても差支えなかった


それから数時間もしない内に執務室には続々と艦娘(主に駆逐艦)が押し寄せる
どうやら秋雲が提督が3倍でお返ししてくれると言いふらしたらしい

現金な子供達だった

提督「まあ駆逐艦と言えど、女の子からチョコを貰うのは嬉しいものだな」

龍驤「誰の胸が駆逐艦やて」

提督「いややわぁ、誰もそないなこと言うてはりませんよ」

龍驤「なんでエセ関西弁やねんな」

『自分もやろ』と心の中でツッコんでおく
どうでもいいが、地元は京都だったので似非というわけでもない


龍驤「しっかし、家族だけにしかチョコを貰ったことがなさそうなキミに、この龍驤ちゃんがチョコ恵んだろ思てたんに」

龍驤「結構な量もろてるやんかぁ」

龍驤が言った通り机には見たことも無いほどチョコレートの箱が重なっていた
ほぼ半数以上が市販のチョコの上ラッピングすらされていなかったが

龍驤「キミ、案外スケコマシやったん?」

提督「だと、良かったんだがな。3倍にして返すという噂が広まってこの様だ」

龍驤「アハハハ!キミもアホやなぁ」

提督「なぁに、駆逐艦から貰ったものくらいなら全てブラックサンダー換金できる。殆どが10ブラックサンダー前後だ」

龍驤「ブラックサンダーが単位なんやな…」

提督「恐ろしいのは香取と鹿島から貰ったなんだか綺麗なラッピングのチョコと、蒼龍飛龍と夕雲の手作りチョコだな」

提督「一体いくらなんだ……100ブラックサンダーで足りるだろうか…」

龍驤「ブラックサンダー換金では大変そうなんはウチにもわかるで……」

ドンマイと言わんばかりに、悲しそうに首を振りながら肩を叩かれた
近くの駄菓子屋さんのブラックサンダーを在庫ごと買い占めるのはそう遠くない未来だろう


龍驤「ふふっ…でも、キミも律儀やなぁ。キッチリ3倍以上で返さんでもええねんで?」

提督「何を言うか。俺が宣言したことだ、嘘偽りなく3倍で返すさ」

龍驤「そういう所が、皆からチョコ貰える理由なんやろなぁ」

提督「まあ、皆3倍目当てだろうしな」

龍驤「そのちょっと鈍いところも今は高ポイントやな」

龍驤「ウチは手作りやけど、5ブラックサンダーでええからね」

提督「ん?そんなものでいいのか?12ブラックサンダーくらいでもいいんだぞ?」

龍驤「阿呆、そんなブラックサンダーばっかり食えへんわ」

龍驤「そもそも大した値段やあらへんのよ、ちょこ~っとチョコ溶かして卵とか混ぜたり焼いたりしただけやから」

提督「チョコだけに、お礼はチョコっとでええねん。とな?」

龍驤「やかましわ!」

綺麗にオチが付き龍驤は執務室を出て行った
龍驤には5ブラックサンダーと3キットカットをオマケしてあげようと決めた


羽黒「あ、あの!司令官さんに…その…チョコ…です。受け取って下さい!!」

顔を赤くしもういっぱいいっぱいと言った様子で羽黒がチョコを差し出す
これで私と司令官さんは友達ですよね?なんて言うのだから恐ろしい女だ

提督「…ああ、ありがとう」

羽黒「え、えへへ…私のお散歩に付き合ってくれるのって…司令官さんだけですから」

羽黒「こ、これからも、お…お友達でいてくださいね!」

提督「…羽黒も罪な女だな」

羽黒「ええ!?ど…どういう意味ですか?」

提督「いや、なんでもないさ。また雨でも降ったら遊びに行こうか」

羽黒「はい!じゃ、じゃあ…お仕事中に失礼しました!!」

そうして羽黒は去って行く
俺と羽黒はよく遊ぶ仲だった

羽黒はちょっと珍しい趣味を持っていて、それに付き合ってやっているのが俺だけという話だ
あんなナリで中々ロックというか破天荒な趣味をしている
そりゃあ女の子はあれに付き合うことは無いだろうと思うような趣味だ

俺としてはかなり楽しんではいるので問題は無い

そんな諸々の理由で、羽黒とは友達としてよくしてもらっている


時刻は夕方、仕事も終わって執務室でチョコを眺めながら満足感に浸っていた時

叢雲「そろそろ仕事終わったかしら?仕方がないから私が…」

ノックも無しに執務室に入って来たかと思えば、叢雲が俺の姿を見て固まる
今朝の蒼龍のように青ざめた顔だった

ここまでの反応をしてくれると、最早誇らしい気分になりどや顔をしてやった

叢雲「あ、アンタ……」

提督「どうした叢雲?俺に贈られてきたチョコの山を見て固まっているな?」

叢雲「いくら惨めな思いはしたくないからって、自分にチョコを買ってもバレンタインチョコには換算されないのよ!」

提督「どれだけ俺はモテない男だと認識されているんだ……」

叢雲「な、何でアンタみたいな男がこんなにチョコ貰ってるの!?おかしいわ!!絶対にカラクリがあるはずよ!!脅し!?脅迫?それとも買収!?」

提督「チョコの為にそこまでするか…」

かくかくしかじかと、3倍返しの話を叢雲にもしてやると
『おかしいと思ったわ』と安堵の息を吐いた
そんな事で安心されても傷つくが……


叢雲「しっかしアンタも馬鹿ね、どうせ去年みたいにブラックサンダー配布会になるのは目に見えてるじゃない」

提督「去年もそうだったか?」

叢雲「そうだったわよ。去年も似たようなこと言って、駆逐艦たちにブラックサンダーあげてたでしょ」

叢雲「ホワイトデーだっていうのに最早ブラックサンダーの日だったじゃない」

提督「……何だか思い出してきた」

そういえば去年も同じ過ちを繰り返した気がする
近くの駄菓子屋やスーパーからブラックサンダーを買い占め、ブラックサンダーを手づかみであげた記憶がある
あれはあれで駆逐艦の子供に喜んでもらえたが、叢雲や蒼龍に苦言を呈された覚えがある

提督「両手で持てるだけという制限を曲解した雪風が、箱ごと持ち去ろうとして止めたりしたな」

叢雲「思い出したかしら?」

提督「思い出してきた」

そう考えると、俺は結局去年と同じバレンタインを過ごしているようだ
去年とは少し違う人間関係を気付いてきたつもりだったが、あまり違いは無いらしい


叢雲「ま、一応持ってきてあげたから。私からもチョコレートよ」

提督「ありがとう。何ブラックサンダーくらいだ?」

叢雲「いい加減懲りなさいっての。私はブラックサンダー以外なら何でもいいわよ」

提督「むぅ…となればきなこ棒で代用するか…」

叢雲「ああもう!普通にもっと何かあるでしょう!アクセサリーとか!気が利かないわね!!」

提督「なるほどな…」

そう選択肢を提示してくれればいくらか考えようがある


提督「それならば指輪を買ってこよう。俺とお前のペアリング」

叢雲「また指輪?」

提督「そう、また指輪だ。あのネックレスに一つ増やすといい。どうだ?いい案じゃないか?」

叢雲「……まあ、アンタにしてはね」

合格点を頂いたようだ


叢雲「でも、もし毎年貰っちゃったりしたら困るわね」

提督「なに?毎年贈る気満々だったんだが」

叢雲「あんまりチェーンに通し過ぎると指輪で出来た首輪みたいになっちゃって趣味悪いじゃない」

提督「それは……善処しよう」

叢雲「ふふっ、まあ精々工夫して私を喜ばせることね」

叢雲「期待してるから」

提督「任せておけ」

そうしてその日最後のチョコを貰い、俺のバレンタインは終わりを告げる





と思っていたが、この日はちょっと続きがあった


その日の夜
もう寝ようかと布団に入った時

島風がやって来たのだった


島風「提督提督!」

提督「どうした、こんな夜に。そろそろ寝る時間だぞ?」

島風「だって明日になる前に渡しておきたかったんだもん!」

提督「んん?」

俺は思わず頭を捻る
既に島風から一番チョコを貰っていた
これ以上何も貰うものは思い当たらない

島風「提督!だーい好き!!」

提督「お゛ぅ!?」

島風のヘッドダイブが鳩尾に突き刺さる
俺は思わず膃肭臍のような鳴き声をあげてしまった


提督「と、突然どうした?」

島風「蒼龍がね、大好きだってこと伝えないと駄目だよって言ってたんです!」

島風「チョコをあげるだけじゃなくって、感謝も伝えなくちゃ駄目って」

島風「私、提督にいーっぱい大好きを言いたいって思ったんです!」

提督「なるほどな…ありがとうな、島風」

島風「えへへ…」

提督「今日は楽しかったか?」

島風「はい!」

島風は寝間着に着替えていたため、良かれと思い自分の布団の中に招いた
島風も抵抗なく布団の中に入って来た

それから、今日あったことをたくさん聞かされた
子供らしく、このイベントを友達と楽しんでいたようだ
島風には他の駆逐艦と違ってしまいも居ない、だからこうやって話せる相手というのは貴重だったのだろう

何時になく饒舌に楽しそうに、疲れて眠ってしまうまで話してくれた


その日は去年と同じようなバレンタインだった
だが、その日の最後には去年と違うものが確かに傍にあった

変わったようで変わっていない、ちょっと変わったバレンタイン


ブラックサンダーは神が与えたもうた嗜好品


ここから2本目です


やっぱりすれ違う人たちのバレンタイン



生真面目提督
真っ直ぐ真面目で頑張り屋な提督
子供らしく楽しいイベントではしゃいでいる


大和                        バレンタイン   
奥ゆかしいと自分では思っている大和型の『決戦の日』と読む方
本気なチョコを作り、本気のメッセージカードと告白も考えてきた


足柄
戦場と勝利と提督と今日はチョコにも呼ばれる妙高型の実は妹キャラな方
姉妹と提督のみならず、駆逐艦の子達にもチョコを用意するという圧倒的女子力


摩耶様
勝気で強気で男勝りな高雄型の女子力が危うい方
こんなイベントにアタシが参加するわけねーだろと言っているが…


その他大勢



提督「ハッピーバレンタインです!足柄さん!!」

足柄「うわぁ!ありがとう提督!じゃあこれ、私からもチョコレートよ!」

提督「えへへ、ありがとうございます!」

今日この日はバレンタイン
隣人や家族、はたまた気になる異性に、愛と感謝の気持ちを伝える日
世間はいつもと違う、浮ついた空気に包まれていた

この鎮守府とて例外ではない

日本では女性が男性にチョコレートを贈る人して広く認知されている
しかしこの鎮守府では提督からも艦娘にチョコレートを贈っており、友好を深めるチョコレート交換会のようになっていた


提督「あの、メッセージカードも入ってますから、チョコを食べる前に読んでくださいね!」

足柄「提督ったら張り切って準備してたものね」

提督「はい!皆さんの分のチョコとカードをご用意しましたよ!!」

足柄「ぜ、全員分?」

提督「勿論です!仲間外れはよくありませんから!!じゃあ配りに行ってきますね!」

そう言って提督は重そうな袋を引っ提げて、嬉々として部屋を飛び出していった
最早それはバレンタインではなくてクリスマスのようね、と足柄はその姿を見て微笑ましくなった

足柄「自分にも子供が出来たらこんな感じなのかしら…」

那智「ははは、その前にまず相手を見つけないとな」

足柄「那智姉さん!ってもう食べてるし!?」

那智「もらったら普通食べるだろう?」

那智は提督から貰ったカードを眺めながらチョコを齧っていた
渡す相手が居ないと言って、那智はチョコレートを用意していなかったが大量のチョコを貰っていた
男前と言えば聞こえはいいが、自分の姉の女子力の無さに軽い危機感を覚える足柄だった


那智「しかし提督は気が利くな。お酒に合うだろうとビターな苦いチョコを用意してくれていた」

足柄「あんなに大量に用意してたけど、相手の好みも考慮してくれているのね」

那智「まあ私は結局甘いチョコでも酒を飲むんだがな!」

足柄「那智姉さんはそればっかりね……」

今日は飲むぞと、朝の内から酒を開けていた姉を尻目に足柄も提督から貰ったチョコレートの包装を解く
かなり大きめの容器であり、中々の重量だった
同梱されていた封筒からカードを取り出し文字を読んだ




『足柄さんへ

いつもいつも、ボクの事を支えてくれてありがとうございます

まだまだ勉強中の身でありますが、いつかは貴女を守れるくらいの男になって見せます

たくさんのモノを貰った感謝を、チョコレートとこのメッセージに込めました!

大好きです!これからも一緒に居てくださいね!!

                                     提督より』


手書きのメッセージカード
丁寧な字で、漢字もちゃんと使っている
辞書を引きながらこのメッセージを書いていた姿を想像し、心がほっこりとする


足柄「はぁ……なんていい子なのかしら…」

那智「母親臭い事をいうな。婚期を逃すぞ」

足柄「ちょっと那智姉さん!勝手に覗かないでよ!」

那智「まあそう言うな。ちょっと気になってな」

那智「やはり提督は、人によってメッセージもチョコも全く違うようだ」

そう言いながら那智は自分のカードを見せてくる
那智のメッセージカードには、感謝の言葉とお酒を飲み過ぎないようにという心配の言葉が綴られていた
続いて見せられた那智のチョコの箱と自分の容器は全く大きさも形も違っていた


足柄「……このメッセージの内容と、好みに合わせたチョコ選び…末恐ろしいわね」

那智「プレイボーイになりそうだな。今のうちに唾をつけておけよ」

足柄「子供相手にそんな事しないわよ!」

そう足柄は照れ隠しで言ったものの、『ゆくゆくは…』なんて考えていたことは嘘ではなかった

那智「それにしても、そのチョコやけに大きいな」

足柄「ふふ、まあ私は提督の世話をずっとしてきたから愛の差かしらね♪」

ウキウキとした気分で深めの丸い容器のふたを取るとその中には…


那智「………カツ丼だな」

足柄「………カツ丼ね」


カツ丼だった

どこからどう見てもカツ丼だった
控えめに見てカツ丼だった
バレンタインだと言うのにカツ丼だった


足柄は何かがおかしいと、改めて提督のメッセージカードを見返し裏面に追伸と書かれいることに気が付いた

『足柄さんへのチョコはなんとカツ丼チョコです!!
見た目はカツ丼ですが、ホワイトチョコとかカスタードで出来ているそうです
こんなものも売っているんですね、世間は広いです』

と書かれており、どうやらこれはチョコレートらしいという事を理解した

那智「………良かったな、カツ丼。好きだろ?」

足柄「……チョコ選び手伝ってあげるんだったわ…」

提督の何かがおかしいセンスに、一抹の不満を覚えた足柄だった
因みにカツ丼チョコは見た目以上に美味しかったが、尋常じゃない量だったらしい


そんな足柄の不安をよそに、提督はチョコを配り歩く

提督「ハッピーバレンタインです!」

隼鷹「え?あたしにか?いやぁ悪いねぇ、な~んも用意してなかったよ」

提督「えへへ、大丈夫ですよ!ボクが隼鷹さんに感謝を伝えたかっただけですから!」

隼鷹「くぅ、カワイイ事言うじゃんかよぅ!じゃ、チョコじゃないけどあたしからも感謝の気持ちだ」

隼鷹は提督の顔を両手で包み、額にキスをした
不意打ちのキスに驚き提督は顔を赤くするが、柔らかく笑う

提督「ちゃんと気持ち、伝わりましたよ!ホワイトデーのお返しにも期待しててくださいね!!」

隼鷹「こんなんでお返し貰っちまっていいのかね?アタシばっかり貰って悪いねぇ」

提督「いえいえ、ちゃんとボクも貰いましたから!」

『カァワイイなぁコイツぅ!』と隼鷹は提督の肩を抱いてグリグリと頬ずりをした


隼鷹「中身、見てもいいかい?」

提督「あ、はい。メッセージカードも入ってますからちゃんと見てくださいね」

隼鷹「かぁ…マメだねぇ……」

包装を解くとその中には封筒と少し小さめの正方形の箱
その箱を開いた中に……

提督「隼鷹さんにはお猪口の形のチョコレートです!お酒を注いで最後には食べられる器だそうですよ!!」

隼鷹「あ~っはっはっは!良いセンスしてるよ提督!コイツは飲まなきゃねぇ!!」

提督「飲み過ぎは駄目ですよ」

隼鷹「うんうん、気を付けるって。ちょっくら那智にでも自慢してくるよ!」

提督の頭をクシャクシャと撫で隼鷹は那智の所に向かった


提督「隼鷹さん、あんなに喜んでくれた…ふへへ……」

提督「よし!次はっと……」

袋を開いて中身を確認していた時

北上「おぅい提督ぅ~」

提督「あ、北上様!」

北上「いえ~す、北上様だよ~」

手に持つ赤い箱をふりふりと見せる北上と

提督「それに大井っちさんも」

大井「いい加減その呼び方止めないと代わりに魚雷打ち込みますよ?」

流れるように提督にデコピンをする大井がやってきた


北上「ほいチョコ。バレンタインっしょ」

提督「うわーい!ありがとうございます!!ボクからもハッピーバレンタインです!」

北上「おお、そのおっきい袋には貰ったものじゃなくてあげる物が入ってるのか」

北上「へへっ、ありがとね。これはアレだね、ホワイトデーも頑張んないといけない奴だね」

提督「ボクもお返し頑張りますね!あ、大井っちさんにもありますよ!!」

大井「そ、そう…別に私は北上さんのだけで満足だったんだけど。まあ、貰ってあげますね」

不満を言いながらもチョコを受け取る大井
北上と違い、大井はチョコを持っている様子ではなかった

大井「北上さんからチョコを貰えるなんて幸せ者ですね。じゃあ行きましょうか北上さん」

北上「…………」

大井「北上さん?」

北上は呆れた風に息を吐く


北上「いやぁ実はさぁ、さっき提督の部屋に言ってきた帰りだったんだよ」

提督「そうだったんですね。すみません、今日は忙しくって」

北上「いやいや、それはいいんだよ~。それがさ、大井っちってば直接渡せばいいのに部屋にチョコ置いてきたんだよ」

大井「ちょ、ちょっと北上さん!」

チョイチョイと北上の服の裾をひき、何かを耳打ちする
しかし北上は堂々と提督に聞こえるように返す

北上「何で隠すのさ~?一緒にチョコ選びに行ったじゃん」

大井「うふふふ、違うのよ提督。私は北上さん以外には渡すつもりなんてないですから」

何処となく威圧感を与えるような笑みで大井は提督に釘をさした


提督「え、えっと…どっちの言ってることが……」

北上「大井っちってば『普段冷たくしてるし、受け取ってもらえるかな』な~んて可愛いこと言ってたんだよ?」

大井「言ってません!!いいですか提督!自分の机に差出人不明のチョコが置かれていても、私からではないですからね!!」

北上「こんな具合に照れ屋だけどさ、結構悩んで選んでたから。イイ感じのお返しよろしくね~」

大井「もう!照れてなんかいません!」

北上「私達だってお返しはしないとさ、そうでしょ?」

大井「ま、まぁ…私が提督にチョコを渡したかはともかく、貰ったのは事実ですから。その借りは返します」

北上「頑張って選んでくるってさ」

そう言った北上にまた大井はぷりぷりと可愛らしく怒る
二人の様子を見ていればどちらが本当の事を言ってるかなんて明白であった


提督「ふふふ、ホワイトデーも楽しみです!ボクも頑張ってイイ物お返ししますから!!」

そう無邪気に笑った提督は、まだまだ渡す相手がたくさんいるようで袋を提げて行ってしまう
その背中を見送る北上と大井
北上は安心したように息を吐く大井を訝しげに見つめていた

北上「どうして素直に言えないのさぁ?」

大井「だからそんなのじゃありませんったら!私は北上さん一筋です!」

北上「そんなんってどんなのさ?大体私はチョコ置いてくの見てるしさぁ」

大井「そ、それは…そうなんですけど……」

北上「お、メッセージカードも入ってるんだ。私も書けばよかったかなぁ」

大井「メッセージカード……」

北上「…普段優しくしてないからなんて書いてるんだろうって顔してる」

大井「してません!」

北上「ま、いいけどさぁ。それじゃあチョコ食べながらホワイトデーの計画でも立てよっか」

大井「そうですね」

そうして二人は北上の部屋に向いて歩く
道中、メッセージカードを読んで嬉しそうな顔をする大井が目撃されたとかされていないとか


提督「あ、妙高姉さん!ハッピーバレンタインです!」

妙高「あら、提督。ありがとうございます」

提督「妙高姉さんにはなんと手作りです!えへへ、教えて頂いた通りに頑張りました!!」

妙高「うふふ、嬉しいです。一人でしたが、上手に出来ましたか?」

提督「あ、あんまり…上手じゃない…ですけど。でもでも!気持ちは込めました!!」

妙高「なら大丈夫そうですね。それじゃあ私からも手作りチョコのお返しです」

提督「やったぁ!大事に食べますね!!」

年相応に天真爛漫にはしゃぐ提督
それを母親のような慈しみの笑顔で頭を撫でる妙高

嬉しさのあまり提督が抱き付く、少し困った顔をしたが優しく抱き返す妙高

実に健全で美しい光景だった


提督はまだ子供
本気の愛を伝える相手も、逆にそれを伝えてようとする相手も居ない

そう、一人を除いて………


大和「はぁ…!はぁ…!」

荒い息で物陰から少年の様子を窺う淑女
これが実の姉で無かったならば通報していただろうと武蔵は思った

大和「ついに…ついに来たんですね!私と提督が結ばれる日が!!」

武蔵「大和」

大和「うふふっ!あぁ、いけません提督!チョコじゃなくって私を食べたいだなんて!」

武蔵「おい、大和」

大和「私の体にチョコを塗って同時に頂きたいですって!?いやです、提督…そんな…大和……一か月早いホワイトなお返しいただきます!!」

武蔵「こらっ」

大和「あいたっ!」

妊娠出産幸せな家庭といつものパターンに入ろうとしていた頭を、武蔵のチョップが止めに入った


大和「なにするんですか!」

武蔵「暴走し過ぎだぞ。妄想するのもほどほどにしていい加減渡せばどうだ?」

大和「だ、だってまだ心の整理が…」

武蔵「今日しないでいつ心の整理をつけるんだ……」

相変わらず大事なところで日寄ってしまっている姉に呆れてしまう


大和「そういう武蔵はどうやって渡しましたか?」

武蔵「普通にもらって普通に渡したさ」

大和「私の場合は本命だから普通にとはいかないのよね…」

武蔵「因みに提督のチョコを一番にもらったのは私だ」

大和「何でそんな羨ましいことしてるんですか!!!」

突然の妹のカミングアウトに大和は涙目でガクガクと揺さぶる


武蔵「ハハハ。なぁに、偶々配りに行こうとした提督の部屋の前に居ただけだ」

大和「出待ち!?その手がありましたか…!」

武蔵「当然提督に一番にチョコを渡したのも私だ」

大和「う゛ら゛や゛ま゛じぃ~!」

武蔵「恨むのなら自分の行動力を恨むといい」

大和「だ、だって……」

武蔵「慎ましいのは悪い事ではないが、ここぞという時に動けなければ何も意味がない。本気ならば一歩踏み出せ。…ではな」

大和「え、ちょっと武蔵せめて一緒に…」

提督「大和さ~ん!!」

提督はブンブンと元気よく手を振りながら此方に近づいてくる
武蔵はそれに気が付いてどこかに行ってしまったようだ

自分に気をつかってくれたのは嬉しかったが、酷く心細くなる大和だった



提督「ハッピーバレンタインです!大和さん!!」

大和「あ、ありがとうございます提督」

提督「ずっと探してたんですけど、やっと捕まえました」

大和「え、えと…あの…わ、私からも……そのぅ…」

後ろに隠した手に汗がにじむ
酷くどもり、上手く言葉が発せられない

どうして想像の自分と違って現実の自分はこんなにも何もできないんだと情けなくなる

提督は首を傾げて大和の言葉を待っている

言わなくては

提督を待たせているという事実に、半ば強迫的なほどその思いに駆られる
ずっとずっと決めていたことだ
今日この日の為にチョコレート料理の事たくさん勉強した
何度も試行錯誤を重ねて美味しいマカロンを用意した
何度も書き直したけれど、メッセージカードも作った

そして、これを渡すとき提督に自分の想いを伝えようと決めていた


大和「……っ!」

しかし、それでも声が出ない
逃げ出したいくらいだった

色々な事が頭をよぎる

うまくいかなかったら、提督に他に好きな人が居たら、この思いが拒絶されてしまったら

今日この日の為の努力が無駄になってしまうのが怖かった

大和「そ、そのぅ…!」

顔だけは羞恥で赤い
あまりの自分のヘタレ具合に涙が出てきた

だが、今この場で何も言わずにその努力を無駄にしてしまいそうなのが何よりも嫌だった


大和「受け取って下さい!!」


大和は自分を奮い立たせ、後ろ手に隠していたモノを渡した
言おうとしていた言葉とは違うが、それでも渡せたのだ
大和にとって大きな前進だった



提督「えへへ、とっても嬉しいです!だから安心してください、大和さん」

提督は必至で背伸びをし大和の体を抱きしめ、宥めるように背中を撫でた
そのお返しは予想を超え、容易に大和の許容範囲を超える

大和「て、て、提督?そ、そのあの!」

提督「こういうのを渡す時って緊張しますよね。本気の気持ちが伝わらなかったらって思うと、尻込みしちゃいます」

まるで今さっきまでの大和を見透かしているかのような言葉

提督「でも、大和さんの気持ちはボクに届きましたよ!だから泣かなくっていいんですよ」

大和「ふぇ?あ、あれ…ホントだ…」

泣けてきたと冗談で言ったつもりが、大和は本当に涙を流していた
恥ずかしくなり大和は提督の肩に顔を埋める


提督「えらいえらい、頑張りましたね大和さん」

大和「ふぐぅ…頑張りましたよ提督……いえ、ママ……!」

提督「うわわっ!」

緊張の緩みが堰を切ったように溢れだし、大和は涙を流して提督を強く抱きしめた
力の差と体格差に押されて提督は苦しむも、大和がこうして甘えてくれたことが何よりも嬉しく思え、なんとか手を動かして背中を撫でた

一頻り泣いた後、提督からハンカチを貰った大和
提督はまだ渡す人が居ると言ってどこかに行ってしまった

肝心な事を言い忘れたことに大和は気が付いたが
『あれだけ勇気を出して渡せたんだ、それに泣き疲れたし今日はもういいだろう』
と、ここぞという所で結局妥協してしまった

そんなところで甘えてしまうから、いつも上手くいかないんだ
と、陰から見守っていた妹は頭を抱えたという


提督「ハッピーバレンタインです!愛宕さん!」

愛宕「は~い、ありがとね。提督。私からもハッピーバレンタインよ!」

提督「ありがとうございます!!」

提督のたくさんのチョコが詰まっていた袋は軽くなり、ついには後残すところ一つだけだった

愛宕「あの子だったら自分の部屋で寝てるんじゃないかしら?」

提督「っ!わざわざありがとうございます!行ってきますね!!」

愛宕「いってらっしゃ~い、頑張ってね~♪」

たくさんの場所を周り、たくさんの人にチョコをあげた
提督が最後に訪ねた部屋は…


提督「ハッピーバレンタインです!摩耶様!!」

摩耶「ん?なんだよ男のお前がアタシに渡すのか?」

提督「愛と感謝を伝える日ですから!」

摩耶「はいはい、ありがとよ。ったく通りで今日は騒がしいと思ったぜ」

そう興味が無いように装う摩耶だったが、部屋にはいくつかチョコの箱があり知っていたことは隠せていない

提督「摩耶様には手作りです!妙高姉さんに教えてもらって頑張りました!!」

摩耶「手作りってチョコのか?」

提督「はい!形は悪いですけど、ブラウニーというモノを作りました!」

摩耶「ま、マジか?…マジかぁ……」

摩耶は渋い顔で提督から貰ったチョコの箱と、机に置かれている箱を交互に見た


提督「…………」

提督はジッと箱を見つめていた摩耶を見つめる

摩耶「な、なんだよ」

提督「あ、えへへ…何でもないですよ」

そういうが、物欲しそうに摩耶が見ていた箱をじっと見る

摩耶「あ、アタシのチョコ…欲しいのかよ?」

提督「貰えるんですか!!」

待ってましたとばかりに目を輝かせ、摩耶に詰め寄る
摩耶は鬱陶しそうにしながらも、その見つめていたチョコを手に取った


摩耶「しっかたねぇなぁ。この麻耶様がチョコを恵んでやるよ!」

摩耶「お前が欲しがるだろうなぁ、と思って買ってきたチョコなんだけどさ」

摩耶「まあなんだ、弟分にご褒美をあげるのも姉としての役目だしな!」

摩耶「おらっ!ありがたく貰っとけ!」

照れくさそうに摩耶はチョコレートを投げ渡す

提督「わーいわーい!摩耶様から貰えるなんて夢みたいです!!」

摩耶「おいおい、それは言いすぎだろ」

提督「嘘じゃないです!本当です!摩耶様から貰ったのが一番うれしいです!!」

摩耶「た、ただの市販のチョコだぜ?手作りとかじゃないんだぜ?」

提督「それでも摩耶様が一番です!!」

摩耶「ったく…調子狂うぜ……」

摩耶から貰ったチョコレートを掲げ回ったりキスをしたり、全力で喜びを表現する提督に摩耶も満更ではない気分になる

摩耶は知らない、手作りのチョコを貰ったのが自分と妙高だけという事を
だから、メッセージカードに書かれた大好きですの意味も、ハート型に切り抜かれたブラウニーの意味も
正しくは理解していない



提督はその日、部屋に帰ると布団に倒れ込んだ
たくさんの感謝の気持ちを贈るために走り回った
それと同じくらいの感謝と愛を貰った
これほどの幸福な日は無いと提督は強く思った

また来年も…こんな幸せな日がやってくる

そう思い、提督は…艦娘たちはそれぞれの幸せをかみしめた

その幸せはほんのり苦く、とろける様に甘かった


と、いうわけでバレンタイン前半戦です

後半戦は明日(今日)に投下予定です


自分には縁遠いイベントすぎてつい一昨日まで2/15がバレンタインだと思っていたのはここだけの秘密です
我ながらバレンタインの日間違えて覚えてる奴初めて見ました


ではでは、後半戦まで少々お待ちください


かなり難産で予定より遅れましたが、今日の内に投下できると思います

それとちょっとした修正

>>219
提督「恐ろしいのは香取と鹿島から貰ったなんだか綺麗なラッピングのチョコと、蒼龍飛龍と夕雲の手作りチョコだな」

というセリフから鹿島をなかったことにしておいてください
鹿島は別の所で使いたくなったので


それでは、今しばらくお待ちください


他所に誤爆して心が破壊しかけるというアクシデントもありましたが、私は元気です

本当は昨日の内に出来ていたのですが寝落ちしてしまってこんな時間になりました
やはり寝起きで何かをするのはいけませんね


ではでは、後半戦再開でございます


心中穏やかじゃない人たちのバレンタイン



紳士提督
振る舞いが上品で礼儀正しい紳士な提督
どんな時でも愛する人たちへの感謝を忘れない


Z3
ドイツから来たクールな駆逐艦
この国に来て初めてのバレンタイン


天龍
とっても怖い天龍型の世界水準軽く超えてる方
バレンタインの楽しみ方が完全に男のそれ


春雨
真面目で照れ屋な白露型の頑張って敬語を使ってる方
異性にチョコをあげるのは初めてなようだ


その他大勢


バレンタインデー
愛する人への感謝と愛の気持ちを伝える日

日本では女性から男性にチョコレートを贈る日として広く認知されている

送るチョコレートに込められた意味は実に様々で
友愛を示すモノであったり
親睦を深めるためのモノであったり
新たな切欠の芽生えの為であったり

たくさんの愛と勇気が込められている

男性も女性もちょっと異性を意識してしまう
そんなちょっぴり浮ついた非日常の中で、心中穏やかならぬ人たちのお話


提督「…♪」

マックス「……楽しそうね」

提督「ええ、とっても楽しいですよ」

その日、提督とマックスは2人で朝食を作っていた
日課のランニングもせずにエプロンに着替えて二人で台所に立つ

いつになく楽しそうに鼻歌交じりで料理を作る提督に、マックスはいつもの調子で話しかける


提督「今日はバレンタインですから。日本人はバレンタインが大好きなんですよ」

マックス「ふぅん…そうなの。あなたもこんなイベントではしゃいだりするんですね」

提督「バレンタインは特別です。何より今年はアナタが傍に居ますから」

マックス「…ふぅん…そう」

ほんのりとマックスは頬を染める
湯煎しているチョコレートよりも熱く甘い空間がそこに出来上がっていた


マックス「日本のバレンタインは女性から男性に贈り物をする日と聞いていたのだけれど、アレは間違った知識だったのかしら?」

手際よく料理を作りながら、ふとした疑問を口にする

提督「いえ、普通はそうです。バレンタインデーに女性が、一ヶ月後のホワイトデーに男性が貰った相手に贈り物をします」

マックス「じゃあ、あなたは何故こうして料理を手伝っているのかしら?」

提督「アナタに日頃の感謝を込めて…です。そうしなければならないという決まりではありませんから」

マックス「ふぅん……そうなのね…」

マックスは異国の文化観の違いを実感していた

実を言うと、その日のマックスは日本の文化に倣ってバレンタインの為に朝食にチョコレート料理を作ろうと計画していた
それを見抜かれていたのか、はたまた計画が被ってしまったのか
いつの間にか二人でチョコレート料理を作ることになってしまっていた

しかし、こんな事は一緒に暮らす夫婦だからこその行動に思える
予定とは違ってしまったが、お互いを思って料理を作りあうのも素敵な事だと思ったのだった


その日の朝食はチョコレートソースのかかったホットケーキに、ホットココアと生の果物数種類
湯煎して余ってしまったチョコレートは果物につけて食べることにした

かなりチョコレート尽くめだったが、偶にはこんな食事も悪くなかった
なにより、愛を伝え合うというイベントの昂揚感がそれを楽しみに変えてくれていた

マックス「ほら、食べて」

そう言いながらチョコレートにくぐらせた苺を口に咥える

普段のマックスならば絶対にしない行動だ
熱に浮かれてしまっているのだろうか、抵抗なくできてしまう

提督「ふふっ…珍しく大胆なんですね」

提督もその行動に少し戸惑ったが、大き目に口を開けて咥えられている苺を歯で挟んだ
マックスはそれに少しむっとして強引に唇を押し付ける

苺を奪うように齧り取り、唇を押し付けた事により口の周りにチョコレートが滴る
それを貪るように舐めとった


提督「マックスさんも、はしゃいでいませんか?」

マックス「そうね…少しだけ」

マックスは口にココアを含んで椅子の上に立ち、見下ろした提督の顔を両手で挟んで固定する
即座に唇を押し付けて相手の口腔内へ液体を流し込んだ

流石の提督も驚き、ココアが口の端から溢れて喉を伝う
立ち上がろうとするがそれを抑え込むようにマックスは口を押し付ける
舌を侵入させ、己の唾液と絡ませ合う

提督は屈服し、甘んじてその蹂躙を受け入れた
喉を鳴らし流し込まれたそれを体内に飲み込む

ココアを全てのみ込んだ後も、暫くお互いの口を貪りあった
胃が凭れそうなほど甘ったるい香りを漂わせ、そのキスは数分以上にわたって続いた


マックス「クス…口の周り、ベトベトよ」

提督「アナタに汚されたのですよ。やっぱり、浮かれていますね?」

マックス「そうかもしれないわ」

マックスは自分の行動に驚いていた
思った以上に自分は興奮すると行動が抑えられないようだ

そんな事を考えている間にも、べとべとに汚れた口周りを丁寧に舐る

次はどうしようかしらと、目に入ったのは湯煎したチョコレート
スプーンでそれを掬い、自らの頬に垂らした
その上からハンカチで拭い取られる

提督「食べ物で遊んではいけませんよ」

至極真っ当に怒られてしまい、途端に頭の中が冷静になった
こんな朝早くから発情して馬鹿なことをしてしまう自分が無償に恥ずかしくなり、椅子に座り直して縮こまる


提督「甘えてくれるのは嬉しいですが、まだこれから仕事があるので程々にして下さいね」

マックス「…はい」

提督「ふふっ……夜になればいくらでも時間はありますから」

提督は自分の口周りも綺麗にハンカチで拭い、普通の食事に戻った
食後に提督が新しい仕事着に着替え直している姿を見て、マックスは自分の行いを改めて反省した


マックスにとってはバレンタインはここで一区切りしたつもりであった
しかし、日本のバレンタインはここからが本番なのだ

マックスにとっては気が気でない一日が、幕を開ける


レーベ「Guten Morgen.提督」

まずマックス一つ目の驚きはレーベが部屋の前で待っていたこと

提督「はい、おはようございます。レーベさん」

にこやかに挨拶を返す夫
これは問題ない

レーベ「これ、バレンタインだから。受け取って…欲しいな」

はにかんで頬を染めながら可愛らしくラッピングされたお菓子を渡すレーベ
これが二つ目の驚き

提督「ありがとうございますレーベさん。大事にいただきますね」

優し気な笑みを作ってそれを受け取る夫
完全に有罪であった


レーベ「マックス?怖い顔してるよ?」

マックス「…レーベ…どうして提督にそんな贈り物を?」

レーベ「えっ?だってバレンタインだから」

マックス「あなた…マックスと付き合っていたの?」

提督「え?いえ、そんな事ありませんよ」

提督はマックスからの痛い視線にただただ当惑するばかり
そこでマックスが何かを察したようだ

レーベ「マックス、日本のバレンタインは恋人じゃなくても贈り物をしていいんだよ」

マックス「どういう事?バレンタインでしょう?」

レーベはかくかくしかじかと説明を始める

どうやらマックスの故郷ではバレンタインとは『恋人の日』らしく、恋人以外から贈り物をされることは無いようだ
だからこそ、レーベがチョコを贈ったこととそれを平然と受け取った提督に衝撃を受けていたようだ


マックス「そうだったのね……」

レーベ「僕も初めて来たときは驚いたよ。だけど、安心していいからね」

マックス「ふぅん………」

そうレーベに宥められていくらか気分は落ち着いた
しかし、同時にどれだけの艦娘が提督にチョコを渡すのかが気になり始めた
楽しいものではないと分かっていながらも、今日は提督の事を観察することに決めたのだった


イタリア「提督、Buon giorno!」

まず提督にチョコを会いに来たのはイタリアだった

提督「はい、おはようございます」

イタリア「今日は愛する人たちにチョコを渡す日と聞きました」

提督「そうですね。概ね間違っていません」

イタリア「だから、イタリアから提督にチョコレートをお贈りしますね」

提督「これはこれは、ありがとうございます」

ニコニコと朗らかな笑みで提督にチョコを渡す
その笑顔のまま、両手を提督に差し出したままだ


イタリア「………♪」

提督「…どうされました?」

イタリア「?提督はイタリアにチョコを下さらないんですか?」

どうやらイタリアも日本のバレンタインを間違って認識しているらしい
異国との文化交流はやはり大変だと提督は改めて思った

とはいえ、このような事態も一応想定していた
このようにバレンタインチョコをねだってきた駆逐艦の子達の為に用意していたお菓子があったのだ

まさか大人の戦艦に渡す事になるとは想定していなかったが

提督「では私からも、粗品で恐縮ですが」

イタリア「ありがとうございます提督!えへへ…今日はお菓子をいっぱい食べていい日と決めていたんです」

提督「………」

いつも何か食べていませんかね?とは口に出して言わなかった
きっと明日には『体重が…』と言って落ち込んでいる姿がありありと思い浮かんだが、今日という日の楽しさに水を差すのは止めてあげた


天龍「おい!提督!」

次にやって来たのは天龍だった
覗き見ていたマックスにとって意外な人物だった

天龍「どれくらい貰ったよ?」

提督「まだ三つです」
                             ガキ
天龍「へへっ、オレの勝ちだな。オレは龍田と駆逐艦どもからの合計八つだ」

提督「勝ち負けのイベントではありませんよ」

天龍「負けてる奴は皆そう言うんだよなぁ」

提督「私は大本命を貰っていますから」

天龍「かーっ!熱いねぇ!」

グイグイと提督を肘でつつく
提督もどこか誇らしげに笑っている


提督「私は去年と違って既婚者ですので、少し不利かもしれませんね」

天龍「おっと言い訳か?」

提督「それでも勝ちますけどね」

天龍「へっへっへ、そうこなっくっちゃあなぁ!」

提督「私と天龍では日頃の行いに差がありますので。かたや高給取りの紳士、かたや眼帯の怖い方ですから」

天龍「おいおい、一番駆逐艦どもの世話をしてやってるのはオレだぜ?日頃の行いでも負けてねぇ」

提督「終わればわかる事です。どちらがこのバレンタインの勝利者であるかなど」

天龍「それもそうだな。ま、世界水準軽く超えてるオレが勝つだろうけどなぁ!」

男たちは火花を散らしていた
片方は女だったが、この変なノリと空気の中では些細な問題だ


提督「アナタから私には無いのですか?」

天龍「ライバルに塩を贈るような天龍様じゃないんでな」

提督「それなら、私からアナタに餞別です」

そう言って駆逐艦用のチョコを天龍に投げ渡す

天龍「随分余裕そうじゃねぇか?いいのか?」

提督「丁度いいハンデですよ」

二人は不敵な笑みを交わし、グッと拳を合わせた
天龍は提督に何も渡さず去って行く

マックスはその珍事にただただ狼狽していた
『天龍はチョコも渡さず何しに来たのかしら…』とか『一体何の世界基準を超えてるのかしら』とか『そもそも世界水準超えてるからなに?』とか疑問はいくらでも湧いて出た

彼女はまだ男心を完全に理解してはいなかったのだ

どれだけ礼儀正しく体裁を気にする人物であろうと
男にはなんだか馬鹿なことをしたくなる日があり、意味は無いけどカッコイイこと言ってみたくなる日があるという事を…


マックスはここまで提督を観察してきて一つ気付いたことがあった
バレンタインチョコを渡しに来た人物の殆どが戦艦や重巡洋艦、大人ばかりだったのだ

利根「ほれ提督、バレンタインチョコじゃ」

提督「ありがとうございます」

利根「相変わらずお主は伊達男じゃな」

提督「それほどでもありませんよ」

利根「ハハハ、謙遜しおってからに!」

時刻は夕方
既にたくさんの艦娘が提督の執務室を訪ねて来ており、贈り物がこんもりと山を作っていた
その山に新たに利根のチョコレートも追加される


利根「筑摩からはもう貰ったか?」

提督「ええ、貰いましたよ」

利根「そうかそうか。いやな、いつも世話居なっているからと言って張り切っていてな、無事渡せていたようで安心した」

提督「ふふっ、利根さんは良いお姉さんですね」

利根「当然じゃ!ではな、お返しも期待しているぞ!」

提督「はい、楽しみにしていてくださいね」

そうして利根は去って行った
また、提督は大人からのチョコが追加された

提督は自分にはない魅力を持つ人たちから好かれている
自分にはない魅力を持った人からの贈り物を笑顔で受け取って、喜んでいた
その事がなんだか心に雲を作った

そう思っていた時、利根とすれ違うようにある艦娘が執務室を訪ねてきた


春雨「し、しし…失礼します!!」

緊張した面持ちで、どもりながら春雨は入室する
ガチガチとロボットのような堅い動きで、提督の前に立つ

提督「どうされましたか?」

春雨「あ、あの…バ、バレンタイン!ですので!」

春雨「て、てづっ!手作りなチョコをお渡ししようかと!」

提督「手作りなんですか。わざわざありがとうございます」

春雨「い、いえ!司令官にはたくさんお世話になってますから!」

深々と頭を下げ包装されたチョコを差し出す
そのまま今まで通り受け取ると思われた提督は立ち上がり、わざわざ春雨の目の前に立った

その行動にマックスは目を見張る


春雨「あ、あの…?」

提督「嬉しいです」

春雨「うひゃうっ!?」

提督は何故か春雨の手を取った
チョコレートごと手を包み込むように掴む

腰を屈めて春雨に目線を合わせた
真剣な目つきで真っ直ぐに見つめられた春雨は、茹蛸のように顔を真っ赤にして顔を逸らす

提督「どうして目を背けるのですか?」

春雨「は、恥ずかしいです…!」

提督「クスッ……その顔、よく見せてください」

妖艶に笑う提督は顔を更に近づけ、鼻先が春雨の髪に触れる…

マックス「そこまで」

今までと明らかに違う艦娘の対応に正妻からストップが入った
提督は春雨から引き離され、春雨は緊張が解けたのかその場にへたり込んだ


ニコニコと笑う提督は突然飛び出して来たマックスに驚くことは無かった
見られていることは知っていたからだ
この先の事を考え、マックスの嫉妬を煽ろうと思っての行動だった

思惑が成功したが、その代わり春雨には少し可哀想な事をしてしまった
決して純情で初心な子供を苛めようだなどとゲスな考えは持っていない
春雨が選ばれたのは、ちょっと意地悪をしたくなる可愛さだったというだけだ

そんな思惑を知らないマックスは自分の旦那の行動を注意する
それと同時に薄々感じていたロリコン疑惑が本物であったと確信し、不安と安心が7:3の割合で渦巻いていた


何も知らない春雨は
提督の行動や言葉、自分の手を握っていた提督の手の温かさ、顔が近づいて来た時の匂いを思い出し、気絶していた


何とかマックスを宥めて部屋から追い出し、ついでに春雨も自室まで送ってあげた

時刻は18:30
もうそろそろやってくるだろうと丁度そう考えていた時、天龍が訪ねてきた

天龍「おーい!勝負といこう…ぜ…」

自信ありげな眩しい笑顔と共にチョコを抱えて執務室に入っている
しかし、入ってきた瞬間の笑顔は、執務室におかれているプレゼントの山を見て凍り付く

提督「おや、天龍さん。如何されましたか?」

勝利を確信した提督は余裕着々と天龍に歩み寄る

天龍「ま、マジかぁ……オレの負けか…」

提督「ふふふ、上司というのはそれだけでチョコを貰う理由になりますからね。既婚者の余裕も逆に良い方向に働きます」

天龍「既婚者は不利とか言ってやがったのに…腹黒い奴だぜ」

膝をつく天龍の手を取り、お互いの健闘をたたえ合う
そこでお互いの戦果を報告し合った

天龍はマックス以外の駆逐艦全員からチョコレートを貰うという快挙を成し遂げていたが、それでも提督の獲得数には及ばなかった


天龍「提督よぉ、こんだけ貰って逆に誰から貰ってないんだ?」

提督「天龍さんとあきつ丸さんと初雪さん、あとはビスマルクさんぐらいですね」

天龍「おお…逆に言えばそれ以外の奴らからは貰ってんのか……」

提督「あ、そういえば木曽さんからも貰っていませんね」

天龍「……ん?そういや今日アイツに会ってねぇな」

提督「遠征というわけでもなかったはずですが…」

いつもはこの二人に混ざって木曽もこうしたバカをしているのだが、その日は姿を見かけなかった
木曽に思いを巡らせていた時、執務室の扉がノックされよく通る声が室内に響く


木曽「遅れたな。木曽、今帰還した」

天龍「お!おせーぞ今まで何処…に……!?」

正に圧巻であった
両腕で抱えきれているのが奇跡と思うほどの山盛りのチョコレートの数
天龍が抱えていたそれや、執務室に置いてあった山が可愛く見えるほどの圧倒的物量差

真の勝利者がそこに居た

木曽「いやあ悪いな。これでも部屋に押し込んできたんだが、ここに来る途中にまたもらってな」

天龍「そ、そんな量どっから!?」

木曽「ちょっと外までチョコを買いに行ったらこの様さ」

木曽「他所の鎮守府からもたくさん贈り物が来ていてな。さすがに困ったよ」

提督「お、お疲れさまです」

それしか言う言葉が見当たらなかった
一切の嫌味なく力の差を見せつけられた二人は、敗北感に飲まれれゆく


木曽「遅くなったが」

木曽は手に持っていたチョコを二人に投げ渡す

木曽「ハッピーバレンタイン」

流し目とニヒルな笑みを見せ、後ろ手を振って背を向けた

颯爽と現れた貴公子は、去りゆく姿さえも優雅であった
敗北感に包まれていた二人の心は、真の漢への尊敬に変わっていた


天龍「まぁ…うん、チョコは…量じゃねえよな」

提督「ええ、誰から貰ったかが重要なんです」

ハハハ、と二人はお互いの傷をなめ合った


天龍「…っと、そうだ。終わったら渡そうと思ってたんだ。ほらよ」

天龍は隠し持っていた小さな包みを提督に投げ渡す
それは小さな可愛らしいカップケーキだった

提督「…!なんだか珍しいですね」

天龍「本当はオレが勝った後で、負けたお前を慰めるために用意してたんだけどよ」

天龍「こういうのは勝ち負けじゃねーなって思ったしな」

提督「ですね」

顔を見合わせてまた笑い合う
色々とあったが、二人の間の友情という名の絆が強まったようだ

天龍「じゃあな、あんま自分の嫁を寂しがらせんなよ」

提督「ええ、それはもう言われずとも分かっています」

そうして、二人の熱き戦いはほろ苦い結果に終わった


一方その頃マックスは、自室に戻って一人で夕食の準備を進めていた
夕食も特別なものを作ろうと思っていたが、怒りからかそんな事は忘れてしまっていた

マックス「……………」

改めて今日一日の事を思い返す

提督は鎮守府内の殆どの艦娘からチョコレートを貰っていた
気遣いの出来る男だとは思っていたが、これほど慕われていると理解したのは初めての事だった

そして何より、『恋人の日』に自分以外から贈り物をもらって喜んでいる姿に腹が立った

そう考えてまた、憂鬱な気分になった

この国では恋人の日ではなく、隣人や家族に愛と感謝を伝える日だという文化の違いなのだ
つまり、自分がこうして怒りを覚えてしまっていることは、わがままで見当違いな感情だ

マックス「………はぁ…」

マックスは改めて、自分はあの男を好きになっていたこと
望んでいない形だったが、嫌というほど実感してしまった

少しだけ焦がしてしまったが、いつもと大きく変わらない夕食を用意した


提督「ただいま帰りました」

示し合わせていたかのように、マックスが丁度準備を終えた時に待ち望んでいた男が帰って来た
今日という日は気のすむまで口に付き合わせてやろうと出迎える

マックス「おかえりなさ…!?」

目の前の視界に真っ赤なもので埋まる


提督「ハッピーバレンタイン。愛するアナタ」

提督が持っていた真っ赤なもの
それは、赤いバラの花束だった

提督「アナタの国ではこうして男性から贈り物をするものだと教えられまして」

提督の中で、どうすれば喜んでもらえるか考えた末の答えはサプライズ

だからあえてこの国の風習をきちんと教えず、かつ女性から男性にチョコを贈る日だと強く印象付ける
朝食を作るのを手伝い、それであたかも贈り物をしたようにも見せかけ
その日一日わざと嫉妬を煽り、マックスの頭からバレンタインとはどういう日だったかを意識の奥に押しやった

そう、全てはこの驚いた顔を見たいがために仕組んできたことだった


提督「喜んでいただけましたか?」

全てがうまくいったことに提督は安堵した
マックスは狼狽えながらも、徐々にその目を輝かせた

マックス「…あなたってズルいわ」

そう口で言っても喜びを隠しきれていない
差し出された花束を、大事そうに受け取った

提督「男は何時だって愛する人にカッコつけたいものなんです」

マックス「ふぅん…そう…」

嬉しそうにそう言って、マックスは悲しげに目を伏せた
何も知らず、嫉妬して怒っていた自分が恥ずかしくなったのだ

マックス「…ごめんなさい、私。もうなにも用意していないわ」

マックス「料理だっていつも通りの物を作ってしまったから…」

提督「私にとっては最高のご馳走です。それに、こんなものも用意しました」

そう言って提督が取り出したるはワインの瓶と、二つのワイングラス


マックス「…あなたって本当にズルいわね」

提督「お褒めにあずかり光栄でございます」

そうお道化て頭を下げる

提督は内心舞い上がっていた
ひた隠して準備をしてきたかいがあったと、心には充足感でいっぱいだったのだ
愛する人が喜んでくれた、それ以上の幸福は無いと

マックス「私って…自分が思っている以上に子供だったわ」

マックス「今日はずっともやもやしていた、愛想よく笑うあなたがちょっと嫌いになりそうだったの」

マックス「でも、こうしてあなたの笑顔が私に向くと全部許せてしまった」

マックス「私は思ってたよりも単純で、嫉妬深くって、想像以上にずっとあなたが好きだった」

マックスは語る
穏やかならぬ己の心中を

初めは焦りと怒りと罪悪感だった


マックス「だから…私以外の人の物にならないで…」

今燃えている自分の心を揺さぶる想いは、ひたむきな自分の愛情と独占欲だ

目線を合わせるために屈んでいた提督の顔をあげさせて、その唇にキスをした
今朝のような激しく貪るようなキスではなく、初々しい唇を合わせるだけのキス
性欲ではなく愛欲を満たすそのキスは、長いようで短く、今まで忘れそうになっていた懐かしい満足感で心を満たした

二人は名残惜しくもそのキスを終える

提督「堅く誓います。私は永遠にアナタの物だと」

真っ直ぐ目を見て提督はそう答えた


マックス「…夕食にしましょうか」

提督「ええ、そうですね」


『愛するアナタに』二人はそう言ってワインの入ったグラスを鳴らした
薔薇が飾られた食卓で、久方ぶりの酒は2人の心をほぐし、饒舌に愛を語らせた

その日はバレンタインデー
恋人たちが愛を語らう祝福の日であり
それ以上に、永遠の愛を誓い合った『夫婦の日』であった




マックス「ねえあなた~…ちゅ~!」

提督「の、飲み過ぎではないですか?」

マックス「ちゅーしなさいよ!」

提督「ああ…マックスさんが壊れた……」


記憶が飛んでしまうほど楽しい晩餐だったという



ここまでが後半戦一本目

ここからが二本目です


本気の想いをチョコに込めた人たちのバレンタイン



小悪魔提督
恋に恋する小悪魔な提督
愛する加賀さんの為ならばどんな苦労も惜しまない


加賀さん
表情に乏しい一航戦のむっつりな方
密かにこの日を楽しみにしていた


瑞鶴
サバサバした性格の五航戦のあんまりカッとならなくなった方
女子力が低め


葛城
喜怒哀楽の変化が分かりやすい雲龍型の直ぐボロを出す方
瑞鶴に負けず劣らずな女子力だが、料理は下手じゃない



その他大勢


明日はバレンタインデー
恋する人々の背中をそっと押す、告白をするには最適の日

この恋に恋する少年も明日に備えて最後の追い上げを始めていた

提督は愛する加賀さんと、それ以外の義理チョコを作るためにその日の食堂の厨房を貸し切っていた
補佐役として呼ばれたのは料理上手な瑞穂と天城

その二人に教えられながらチョコ菓子を作る予定だったのだが

提督「……だっていうのにさ」

赤城「……♪」

提督「赤城呼んだの誰~!」

招かれざる暴食の化身がそこに居た


瑞穂「赤城さんが物欲しそうに此方を見ていらしたから。駄目だったでしょうか?」

どうやら赤城を厨房に招いたのは瑞穂のようだった
この鎮守府に来て日が浅く、打たれ弱い瑞穂に提督は強く言い返せず言い淀む

提督「ダメって言うか……赤城もチョコ作りたいの?」

赤城「いえ、いい匂いがしたので貰おうかと思いまして」

提督「女子力ゼロか!ってか予想通り過ぎかっ!!」

提督の背中にベッタリと張り付く赤城
ギャンギャンと提督はその赤城を振り払おうとする

その姿に瑞穂は上品に口元を押さえて笑う
天城は苦笑いで準備をつづけた


提督「赤城はさぁ、明日が何の日か分かってるわけ?」

赤城「バレンタインですね、提督」

提督「分かってるならさぁ…どうして邪魔をするかなぁ……」

赤城「私こう見えてバレンタイン大好きですので!」

提督「どう見ても好きそうだよ!!女子として楽しみ方間違ってるけど!!」

赤城「あら、これはなんですか?一口頂いていいですか?」

提督「ダメだってば!加賀さんの為の奴なんだからそれに触るのは怒るよ!!」

赤城「どおりで一際おいしそうな筈です…」

提督にキツく注意され、赤城はしょんぼりと眉を下げる
その間にも提督の背中にベッタリだった


瑞穂「うふふ…赤城さんと提督はとっても仲がよろしいんですね」

提督「まぁ…ね……それは否定しないよ」

瑞穂「赤城さんは提督が大好きなんですね」

提督「それは……どうなの?」

赤城「好きですよ。美味しいもの沢山くれますし」

提督「……そのブレなさがボクは好きだよ。うん」

溜息を吐きながら自分の頭に顎を乗せている赤城の頬を引っ張る提督
その様子を見て、瑞穂はまた上品に笑った


赤城を引き剥がして好きにさせた方が危ないと感じた提督は、赤城を背中に装備したまま料理を再開しようとしたが…

鈴谷「やっほー提督!チョコ作ってるってぇ?冷やかしに来たげたよ~♪」

瑞鶴「明日バレンタインだもんね~、アタシもちょっと作ってみようかな」

葛城「わ、私は別に渡す人なんて居ないけど。手伝うくらいならしてあげても…いいかなって」

提督「うわぁ…ぞろぞろ増えてきた……」

招かれざる人々が厨房に押し寄せる
しかも一人は冷やかしだと宣言している、ある意味赤城以上に厄介そうな相手だった

だが、思わぬ上客もその場に誘われた

加賀「私もご一緒しても良いかしら」

エプロンと三角巾を装備した、やる気十分と言った様子の加賀がやって来たのだ
おまけにチョコと調理器具も持参している

提督「勿論だよ!!加賀さん、ボクが色々教えてあげるね!」

瑞鶴「ちょっと!私達と態度違い過ぎないかしら!!」

一気に騒がしくなった厨房
それぞれの想いの為にチョコレートは刻まれる


トントントントントン

と小気味良くチョコを包丁で刻む提督の隣で、ぎこちない手つきでチョコを刻んでいるのは瑞鶴だった

瑞鶴「ん、んん~!意外と固っ…!」

天城「ああっ!あんまり力み過ぎないでね!包丁を持っていない手は丸く猫の手にして押さえて」

瑞鶴「こ、こう…かしら?」

天城「う、う~ん…もうちょっと肩の力を抜いて。あとチョコを押さえ過ぎないようにね、体温で溶けて手が汚れるから」

瑞鶴の不器用さに天城は苦い顔で指示を出す
初心者に料理を教えるのは酷く神経を使うものだ

提督「瑞鶴ってばぶきっちょだね」

瑞鶴「は、初めてだから仕方ないでしょ!」

提督「無理しないで湯煎の番してたら?」

瑞鶴「バカにしないでよね!チョコを刻むくらい何よ!」

提督「もう怒らない怒らない。真面目に言ってるんだから」

提督「切るなんて誰でもできるみたいに思うかもだけど、一番怪我しやすいんだから。無理しないでいいんだよ?」

瑞鶴「だ、だって……」

瑞鶴が向けた視線の先では


葛城「ふ~んふふ~ん…♪」

鼻歌を歌いながら楽しそうにしている葛城
瑞鶴のようなぎこちなさは無く、華麗な包丁さばきだった

瑞鶴「あの子…料理できるのね……」

提督「確かにセンスはあるね。舌はちょっとバカだけど」

葛城「誰がバカですって!!」

褒め言葉は耳に届いていなかったが、悪口には敏感に反応する葛城だった

瑞鶴は葛城を自分と同類だと思っていたようで
その腕前の差に納得がいっていないようだった


提督「ま、向き不向きがあるし。素直にチョコ湯煎しときなって」

瑞鶴「むぅ…何よ、どうせ手作りチョコって言ったって、溶かして型ハメるだけなんでしょ?」

提督「はいはい素人さんは皆そういうんですよ~。天城さん何作ってるか教えてあげて」

天城「はい、え~っと今日はガトーショコラと二層のトリュフを作っています」

瑞鶴「と、とりゅふ?」

天城「はい、ちょっと難しいですけど、私が付いていますから困ったらいつでも聞いてくださいね!」

料理に心得の無い瑞鶴は、まず名前を聞いてもパッと完成品が頭に思い浮かばなかった
しかし、自分の想像以上に手が込んでいそうなことだけは理解できた

瑞鶴「えっと…お鍋を火にかければいいのね?」

変わり身だけは華麗な瑞鶴だった


提督「50度くらいのお湯を作ってその上に鉄のボウルを乗せるんだよ?直火は絶対ダメだよ」

湯煎くらい知っているだろうと思い、皮肉ったつもりで瑞鶴に言う

瑞鶴「えっなんで?どういうこと!?」

瑞鶴はあろうことか刻んだチョコをそのまま鍋の火にかけていた

提督「マジで直火でやってるの!?」

瑞鶴「直火じゃないわよ!?鍋を間に挟んでるじゃない!!それに50度に調整すれば一緒じゃないの?」

提督「火の時点で何度あると思ってるのさ!!ちょ、ちょっと天城さん見てあげて!!」

天城「ええっ!?ちょ、ちょっと待ってください今手がっ…!」

まさかのハプニングを救った人物は、これまたまさかの人だった

加賀は無言で鍋を取り上げ、チョコが焦げ付く前にゴムベラでボウルに移し替える
迅速な対応のかいあってかチョコは無駄にならずに済んだようだ


瑞鶴「あ、ありがとう…」

加賀「礼じゃなくて反省が欲しい所ね。次からは気を付けることよ」

瑞鶴「ごめんなさい……」

加賀「………じゃあ、今から湯煎の方法を教えます」

加賀は言葉こそ冷たかったが、瑞鶴に親切にやり方を教えていた
その姿に提督は目を見張った

提督「対応も早いし教え方も優しいし、加賀さんってもしかして料理上手?」

赤城「そうですね、知りませんでしたか?」

提督「うわぁ…赤城さんと姉妹だからって油断してた。ハードル上がっちゃったなぁ……」

赤城「ふふふ、ますます張り切らないといけませんね」

提督「気合入れないとっ!」

提督は改めて気持ちを引き締めた


葛城「う~ん!これ楽しいわね!」

提督「…………」

ガシュガシュガシュと音を立てて提督と葛城はメレンゲを作っていた

葛城「どうどう?イイ感じじゃないかしら?」

提督「マジでセンスあるかも……」

葛城「やったぁ!!ふふ~ん…お菓子作りってた~のしいわね♪」

何度か作ったことのある自分よりも綺麗なツノを立てる葛城に本音が零れ落ちる
葛城は握り飯くらいしか作れないことを突き止めていたが、あの感動するほどおいしい握り飯を作ったことも事実
自分よりも明らかに上達が早くセンスのある葛城が、少しだけ妬ましく思えた

鈴谷「はえ~…卵の白身がこんなになるんだ」

そんなところに、ただ厨房をうろうろしているだけの女がやって来た


提督「暇そうにしてるけど何かしないわけ?」

鈴谷「手を汚したりするのはちょっとね~」

提督「本当に冷やかしなんだね」

鈴谷「だってそう言ったし」

赤城でさえ今はオーブンの番をさせているというのに、鈴谷という女は本当に何もしようとしない

提督「洗いものとか手伝ってくれると楽なんだけどな~」

鈴谷「うげぇ、パスパス」

提督「でも暇でしょ?」

鈴谷「そうなんだけどさ~………あ、良い事思いついた」

そういうと鈴谷は厨房を出てどこかに行ってしまった
どこまでもマイペースに行動するようだ


瑞穂「それではトリュフの作り方を説明しますね」

ついに今回のメインのお菓子を作りはじめる

チョコレートと生クリームを混ぜ合わせて作った、冷やしたガナッシュというそのお菓子の種のようなものをスプーンで一口大に掬う
それに掌にまぶしたココアパウダーで掌にくっつかないように丸く形作る

一見簡単なようにも見えるが…

瑞鶴「と、溶けてきたんだけど!?これ大丈夫!?」

加賀「手で触り過ぎです。体温で簡単に溶けるほどですから、早さを最優先にして下さい」

瑞鶴「そう…!言われ…ても!!」

瑞鶴は掌に溶けてくっついたガナッシュと格闘している
このように、手際の悪い人間がやると丸く纏まらずにべちょべちょに溶けてしまうのだ

提督は既に何度か練習済みであり、問題なく工程をすませる
葛城も何度か失敗しかけたが、初めてにしては手際よく丸めていった
そして何の気まぐれか、赤城も真似して作り始めた


問題は次の工程だった
一度形を作ったトリュフを一度冷やし、その間に湯煎したミルクチョコレートを用意してこれもまた少し冷ます

瑞穂「では、さっきと同じ要領で丸めていきましょうね」

湯煎したミルクチョコを掌に塗り、トリュフをコーティングしていくのだ

ココアとチョコレート、たったこれだけの違いで難易度はグッと上がる
掌の温度よりも温かいチョコレート、厚くコーティングすると食感が悪くなり、時間をかけて馴染ませすぎるとトリュフの風味が死んでしまう

瑞鶴「む、無理無理無理無理溶けてるっ!?」

瑞鶴はもとより

葛城「ん、んぅ!?なんか形がっ!?」

抜群のセンスを見せていた葛城も苦戦していた

提督「………失敗した…」

提督もまた、そちら側の人間だった


天城「どうしても無理そうだったら私に言ってくださいね、代わりますから!」

加賀「あなた、もう止めて。チョコが勿体ないわ」

上手くいっているのは教えている側の天城と瑞穂
そして、料理上手な事が発覚した加賀

その中に混ざって……

赤城「…………そんなに難しいですかね?」

瑞穂「わぁ、お上手ですね。赤城さん」

何故か赤城が要領よく作り上げていた


提督「納得いかないんだけど!!!」

赤城「怒ると体温が上がりますよ?あむ…」

提督「分かってるけど!ってか食べるなよ!?」

赤城「これで完成ではないんですか?」

提督「冷やさないと折角コーティングしてパキッとした食感出そうとしてるのに、トロトロのままじゃん!!」

赤城「おいひぃでふよ?」

提督「問題そこじゃないし!!ああもう!ボクよりきれいに出来てるのに!!ムカつく!!」

天城「て、提督。どうどう…」

無自覚に提督を煽る赤城
世の不平等さに腹を立てる提督……を必死で宥める天城

見たことも無い提督の姿に、『赤城先輩ってすごい』と新たに葛城の中に尊敬する人のページが刻まれた


提督「ふぅ~……っと…!?」

トリュフも納得がいくものが出来上がり、後はガトーショコラが焼き上がるのを待つだけという所まで来た
焼き上がるまで食堂で休もうと思っていたが、そこには予想外な光景が広がっていた

四人掛けの机が繋ぎ合わされ、長い一つの机が出来上がっていた
更にはいたる所に、さながらクリスマスパーティのような華やかな飾りつけがなされていた

提督「ど、どいうこと…」

鈴谷「お、提督ぅ~!どうよどうよ!いい感じじゃん?」

提督「お前が主犯か…」

最上「僕も手伝ったんだ。提督もいい事を考えるね」

提督「最上まで…っていうか何?ボクが?何か言ったっけ?」

最上「バレンタインパーティをするんでしょ?あれ、違うのかな?」

提督「………なんだかボクが知らぬ間に凄い事になってんだけど。鈴谷…」

鈴谷「てへっ!」

舌を出して可愛らしく首を傾ける
提督にとっては悪魔の微笑みにしか見えなかった


鈴谷「こっちの方が絶対楽しいって!今まで逆に疑問だった、クリスマスパーティはあれどバレンタインパーティが無い事に!!」

提督「趣旨!イベントの趣旨!!」

鈴谷「チョコ食べる日っしょ?」

提督「愛を伝える日なんだけど」

鈴谷「似たようなもんだって」

『あははは』と大口開けて笑いながら提督の背中をバシバシと叩く

提督は頭痛がしてきた頭を押さえ、厨房に帰っていった
最早、あのバカの暴走を止めることはできないのだ

前代未聞のバレンタインが始まりそうな事に、提督の未来には不安しかなかった



天城「はい、では皆さんお疲れさまでした。片付けも終わりましたし、これで解散です」

「「お疲れさまでした」」

そんなこんなで大所帯となっていたチョコ菓子作りも終わった
その間にもどんどんにぎやかになって言っている食堂の事で、提督の頭はいっぱいだった

加賀さんのためのとっておきをコッソリと確認し、提督は食堂に戻る


提督「ああ…もう……」

食堂は大晦日がもう一度やって来たかと錯覚してしまうほど大賑わいだった
鎮守府内の艦娘たちがバレンタインの為のチョコを持ち寄り、日付が変わる瞬間を今か今かと待ち望んでいた

たくさんの飲み物も用意されており、正にクリスマスパーティもかくやと言った雰囲気だった
既に酒を開けて酔っぱらっている者も居た

提督「そこの瑞雲部。お酒開けるの早いって」

伊勢「そう言わないで下さいよ提督ぅ~!」

顔に頬を寄せてくる伊勢からは既にキツイ匂いが漂っていた

提督「もう出来上がってるし…」

日向「ふふっ……瑞雲はいいぞ。今年はチョコも瑞雲だ」

提督「意味わかんないし…」

日向「何だ提督?私からのチョコは受け取れないというのか?」

提督「んなこと言ってるんじゃないし。ってかまだバレンタインじゃないから、早いから」

提督は何とか酔っ払い共を引き剥がし、隅っこの方に陣取った


提督「ああ……ロマンチックなバレンタインは何処に…」

恐れていた以上の自体に提督は辟易してしまう
こんな予定じゃなかったんだけどなぁ……
そんな思いも他所に、時は過ぎて日をまたぐ


「「「ハッピーバレンタイン!!!」」」


2月14日、00:00丁度
鈴谷の音頭と共にバレンタインパーティなるものが開催された

もう意味不明だった

ただ一つ分かることは、コイツラは皆で騒ぎたいだけだという現実だった


提督「違う……絶対これバレンタインじゃない……」

天城「あはは、でも楽しいじゃありませんか」

提督「もっとしっとりして、甘~いバレンタインが良かったよ……」

提督は喧騒の中心から少し外れた場所で、天城の隣に座っていた
姦しく騒ぐ艦娘を尻目に、ちびちびとオレンジジュースを飲む

提督「はい、チョコ」

天城「あれ?ありがとうございます」

提督から無造作に渡されたチョコを、天城は意外そうに受け取った


提督「一番は天城へって決めてたから」

天城「そうなんですね。てっきり加賀さんだと思ってました」

提督「加賀さんは最後だね。今は五月蠅くてムードもへったくれも無いしさ」

天城「ふふっ、ですねぇ」

その肝心の加賀さんは伊勢や日向の酒飲み集団に交じり、チョコを肴にお酒を飲んでいた
果たして渡す機会が来るかどうか不安になってしまう

天城「私からも提督にチョコレートです」

提督「ん、いっつもありがとね。天城には貰ってばっかりだ」

天城「好きでしてることですから」

そう、天城は本心からの笑顔で答えた

提督の料理の師匠と言っても過言ではない天城
料理の勉強をしようと決めた次の日から、積極的に指導をしてくれていたのだ

さしもの提督も天城には頭が上がらない


だからこそ、提督はその天城に恩返しがしたかった

提督「お酒、飲んできなよ」

天城「え?でも…」

提督「天城っていつも騒いでる皆の世話して、倒れたり寝たりしてる人たちの介抱を進んでやってるでしょ」

提督「こうやって隅っこでニコニコ笑ってさ、皆を見ている…でしょ?」

天城「そう…ですね。しかし提督、よく見てますね」

提督「まぁね、ボクは皆見てるから」

あまり目立たない自分の動向を知っていた提督に驚く天城
提督はお見通しだよとカラカラ笑う

提督「ま、そんなお母さんみたいな天城だからこそ、皆チョコを渡したいはずだから」

提督「日頃の感謝を込めてさ。だから受け取りに行きなって、きっと待ってるよ?」

天城「…うふふ、それじゃあお言葉に甘えていってきますね」

天城は一瞬迷うように目を伏せたが、直ぐに笑顔で酒飲みの中に混ざりに行った

提督「うん。いってらっしゃい」

盛大に出迎えられている天城の背中を見て、提督は満足そうに笑った



瑞鶴「なんだかんだ優しいわよね」

提督「ボクはいっつも優しいよ」

瑞鶴「どうだかね」

酒飲み集団に揉まれていたはずの瑞鶴が、いつの間にか此方にやってきていた

瑞鶴「はいこれ、チョコね」

提督「おお、成功したやつ?」

瑞鶴「ひ、比較的形が良いやつを選んだつもり」

提督「ふふっ、ずいずいはお料理できないでちゅからね~」

瑞鶴「初めてだったから仕方ないでしょ!」

提督「そんな言い訳が通じる包丁捌きじゃなかったじゃん」

ラッピングを解き箱の中身を見る
その中には、凸凹とした不揃いのトリュフの粒が可愛らしく詰まっていた


提督「これ、形いいんだ?」

瑞鶴「意地悪言うならあげない」

奪い返そうとする腕をかいくぐり、一粒摘まんで口に放った

提督「ん、味は美味しいね」

瑞鶴「ホント?良かったぁ…」

提督「味は、ね」

瑞鶴「わざわざ強調しなくっていいから!」

提督にあげたモノを一粒摘まみ、瑞鶴も口に運ぶ
『うんっ!いい感じじゃない!』と、顔を綻ばせた



提督「それじゃあボクからも瑞鶴へ」

瑞鶴「あ、私にもくれるんだ。いいとこあるじゃない」

提督「開けていいよ?」

瑞鶴「どうせ嫌味言うつもりなんでしょ?」

提督のチョコも、瑞鶴と同じトリュフチョコ
一緒に同じ材料で作ったはずなのだが、味も形もまるで別物だった

提督「形が良いと味も違うっしょ?」

瑞鶴「悔しいけど…ね」

とても美味しいチョコレートだった


瑞鶴「………これも、加賀さんの為?」

提督「もっちろん」

つい最近まで料理をしたことも無かった提督
それが、ここまで上達している

ここまで来るためにどれ程努力したのだろうと瑞鶴は考える
それが全て加賀さんの為だと提督は言う
提督の想いに応える様子も無いあんな女に、どれ程提督が尽くしているのだろう

そう思えば酷く悔しく感じた
自分なら絶対にそんな事をしないのに、自分なら提督の愛に応えるのに、と


提督「…瑞鶴は瑞鶴だから。ボクの献身的な愛を受け取れるのは加賀さんだけだよ」

瑞鶴「……提督さんって偶にエスパーな時があるわよね」

提督「瑞鶴って表情に出過ぎなんだよ」

提督「…ボクの悔しさはボクだけのモノだから」

提督「届かなかったボクの気持ちは、ボクだけが慰めることができるんだ」

提督「ボクの加賀さんへの愛を瑞鶴が受け取ったとしても、ボクはちっとも嬉しくない」

瑞鶴「………」

提督「勘違いしないようにね」

提督は冷めた目でそう言った

瑞鶴は知っていた、提督は偶にこうして自分に釘をさすことを
自分の中ですらハッキリとしないモヤモヤした部分に、提督はいち早く察して抑え込む
きっと提督は分かっているからだ、『もし自分がそちら側なら耐えられないだろう』と
だから、恋だと自覚する前に私を突き放そうとするのだと

その冷たさは、優しさだった
それを知っている瑞鶴だからこそ、その行動が愛しく感じた
報われない孤独を共有している瑞鶴だからこそ、提督の気持ちが痛いほどに伝わった


そんな優しいあなただから、奪いたいと思うんだ

そう考えた時には行動していた
本能か何かなのかもしれないと瑞鶴は思った

いつからか、提督にこうすることに抵抗が薄くなってきたなと思う

提督「ああもう!なんでするかなぁ!?」

瑞鶴「隙を見せてるからでしょ?」

提督「酒臭いし、ボクお酒苦手なんだけど…」

瑞鶴「ふふっ、お子ちゃまなんだから」

瑞鶴はべっと舌を見せ片目を閉じてウインクした
ざまぁ見ろと心の中で毒づく


瑞鶴「絶対に奪ってやるから!」

提督「そう何度も許されると思わないでよ!!」

胃きりに口を拭う提督を置いて、再び酒飲みの中に混ざっていく

翔鶴「あら、どこ行ってたの瑞鶴?」

瑞鶴「う~ん、ちょっと…ね」

翔鶴「顔赤いわよ?飲み過ぎてない?」

瑞鶴「全然足りない位だから!」

瑞鶴はその顔の上気を、必死で酒で誤魔化した



提督「葛城ってば年いくつなのさ…」

葛城「年齢は関係ないでしょ!!」

パーティが始まってそれなりの時間が経った
丑三つ時と呼ばれる時間

パーティを抜け出した提督と葛城
そこだけ切り抜くとロマンチックな響きだが、トイレに行く葛城に付き添えと無理やり連れてこられたのだった

提督「ふわぁ……はぅ……ちょっと眠たくなってきた」

葛城「ちょっと!私がトイレし終わるまで寝ないでね!!勝手に戻ったりしたら許さないんだから!!」

提督「ええ~…大なの小なの?」

葛城「~~~~ッ!!馬鹿ぁ!!!」

誰も居ない長い廊下に、理不尽な暴力が振るわれた音が鳴り響く
おかげで提督の眠気は吹き飛んだ


トイレの前までたどり着いたとき、何故か中に入らず葛城はもじもじとし始めた

提督「……今度は何?」

葛城「えっと…その……べ、別に…あなたの為とかじゃなくってね」

葛城「初めて作って…その、結構うまくいったから作り過ぎちゃっただけなの」

葛城「その……だから…勘違いしないでね!!義理なんだから!!」

葛城はそう言って可愛らしい包みを渡す
そこで、提督は色々と察した


提督「いくら二人っきりになりたかったからって、トイレに誘うのはちょっとないと思うよ」

葛城「う、うっさい!トイレも本当なの!!」

提督「でも、ありがとね。チョコは食堂にあるからあとであげるとして……ちゅっ」

不意打ち気味に葛城の頬にキスをする

葛城「な、ななっ!?」

提督「これが本当のリップサービスってね♪」

葛城「バ、バカっ!!」

葛城は逃げるようにしてトイレの中に入った
相変わらず可愛いなぁと、提督は予想通り過ぎる葛城にほっこりしていた



時刻は04:00ころ

既に駆逐艦などの子供たちは部屋に戻り、酒飲み共も酔いつぶれて眠ってしまっていた
冷え込む夜に、今までの騒がしさのギャップからか酷く静かに感じられた

程々にお酒を飲んでいい気分になっていた加賀も、自室に帰ろうとした
その自室の前には待ち人が居た

提督「あ、へへっ…待ってたんだ」

不安げにしていた表情も、加賀を見つけて柔らかく綻ぶ
白い息を吐き、ちょこちょこと加賀に駆け寄った

その笑顔には照れが混じり、さながら恋する乙女のようであった


加賀「……私に用事ですか?」

提督「うん、ずっと待ってた。これ、バレンタインのチョコレート」

はにかみながら加賀に手渡されたそれは、他の艦娘にあげていたモノとは違う包装だった

提督「大好きな賀さんにだけ、特別なんだ。一緒にみんなで作ったやつじゃない、ボク一人で作ったチョコ」

加賀「いつの間にそんな物を……」

提督「へへへっ、開けてみてよ」

丁寧に包装を解き、箱を開く
その中には小さめで丸いチョコレートタルトが入っていた

提督「本当はもっと凝った奴作れればよかったんだけど…今のボクにはそれが限界」

提督「あ~あ、加賀さんが料理上手だって知ってればもうちょっと見た目も凝って作ったんだけどなぁ…」

提督「あ、チョコレートタルトなのはボクが好きだからなんだ。ボクの好きが、加賀さんの好きにもなって欲しくって」

提督はばつが悪そうに頬を掻き、それでも笑顔を見せた


加賀「やっぱりその顔なんですね」

提督「えっ?」

加賀はお酒が入っているからか、思ったことがそのまますらすらと口に出る

加賀「今日一日は、ずっと貴方を見ていました」

加賀「瑞鶴に見せる陰のある表情を、赤城さんに見せる安心した表情を、天城に見せる安心しきった表情を」

加賀「葛城に見せる悪戯っぽい意地悪な顔も知っています」

加賀「どうしてそれらを私には見せてくれないんでしょう?」

提督は饒舌な加賀に面食らう
思わず言い淀んでしまうが、加賀は語り続ける


加賀「ずっとそれが嫌で、ずっとその顔は嘘なんだと思っていました」

加賀「だけれど今日一日で、そうじゃないことが少しだけ理解できてきました」

加賀「貴方は様々な顔を持っています。それをもっと見せてほしい」

そう言いながら、加賀も薄く笑った

提督は思わず呆然としてしまう
突然の思いもよらぬ告白に、咄嗟に言葉が出てこなかった

笑顔が崩れ、狼狽える
加賀はそんな提督の姿に、目を細め口の端を持ち上げた

加賀「そんな顔もできるのね。勝手な言い分かもしれませんが、その顔…好きですよ」

提督「うええっ!?い、今なんて!!」

加賀「提督からのチョコ、嬉しかったです。私からもあとでお渡しします」

『おやすみなさい』そう言って加賀は、提督の傍を通り過ぎて自室に入った
提督は暫く、その場でボーっと立ちすくんでいた

ただひたすらに脳内を巡るのは、加賀の『好き』という言葉
その言葉が提督の頭の中をメチャメチャにしていた


何処を目指すわけでもなく歩き回る

提督「あ、あれ…な、何でだろ…何か予想と違うな……」

提督「好きな人に好きって言われたらさ…嬉しいと思ってたんだよ……」

提督「いやでも、これって嬉しいのかも…何か分かんないや…」

提督はたくさんの感情が混ざり合い、処理しきれず混乱してしまっていた
加賀さんにチョコを受けとって貰ったこと
加賀さんがたくさん喋ってくれたこと
加賀さんの思ってたことを初めて知ったこと
そして、加賀さんに好きだと言って貰ったこと

たくさんの嬉しさと驚きが流れ込み、喜びが降り切れてしまっていた

提督「はぁ…こんなにも…こんなにも……胸が嬉しいでいっぱいだと。胸が苦しくなるんだな…」

自分は心が強い人間だとずっと思っていた
しかし、こうもあっけなく自分の心は限界まで揺さぶられてしまったのだ

たった一言、短く小さな一声で


いつの間にか辿り着いたのは、ある艦娘の部屋
鍵はかかっておらず、すんなりと開いた

赤城「なんとなく来る気がしていましたよ。提督」

布団の上で上半身を起こした赤城は、両手を広げて提督を迎えた

提督「――ッ!赤城!!」

堪らなくなって赤城のその腕の中に飛び込んだ
提督の中のこみ上げていた全ての感情が爆発する

提督「ふわあああああああん!!」

まるで赤ん坊のようになりふり構わず泣き散らす


赤城「どうされましたか?」

提督「加賀さんがっ…!加賀さんがボクの事好きって!!」

赤城「それは良かったですね」

提督「夢じゃない…?」

赤城「ええ、夢じゃありませんよ」

提督「うええぇん!!…生きててよかった……諦めないでずっと好きでよかったよぉ…!!」

痛いほどに体を掴む提督の背中を優しく撫でる
それから暫く、提督のとめどなく溢れる感情の濁流を赤城は優しく抱き留め続けた



シンと静まり返った中、赤城はただ一人起きていた

泣き疲れ、己の胸の中で吐息を立てる少年
可愛らしい寝顔を見ながら、慈しむように髪を梳く

赤城は提督の事ならば何でも知っていた

提督が自分にしか愚痴を言わないことも
提督が自分にしか弱いとこを見せたがらないことも
提督が自分をどれだけ信頼しているのかを知っていた

だから、提督の加賀への想いがどれだけ本気かも知っていた
提督はきっと、この世の誰より加賀さんの事が好きだと言うだろう
その思いだけは誰にも負けないと思っているだろう

赤城「私だって、負けていないんですからね」

貴方をよく知る私だから
だからこそ、赤城にはその自信があった

言葉の真意は、誰にも届くことは無い


赤城「提督が苦しいとき、悲しいとき、胸が張り裂けそうになったとき」

赤城「私だけは、変わらずあなたの傍に居ますから」

胸にある愛しい人を優しく抱き留める
それは負けないようにと贈られた、労いの言葉だった


ふと、提督が言っていた夢の話を思い出す

自分が死んでしまう夢を見ると言っていた
棺桶に横たわる自分を見て、瑞鶴や葛城は泣いている
その泣いて縋る人たちから少し離れたところで、加賀さんが自分を見ていると
加賀さんはいつもと変わらないむっつりした顔で、そっと離れていってしまうらしい

そこで絶対に目が覚めると言っていた
その夢を見るたびに、今のままじゃ嫌だと思うそうだ


その夢の意味が、今の赤城には理解できた

加賀さんが泣いていないのは、お互いの心が通い合っていないからだ
お互いの事をきちんと知っていないから、自分の為に涙を流す姿が思い浮かばないのだろう
加賀もきっと、泣いている提督を想像できないのだろう

赤城は胸に手を当て考えた
自分の想像の中で、提督は涙を流して泣いていた

そのことが、少しだけ誇らしかった
涙を流すあなたを知っている者は、きっと自分だけだから

赤城「……貴方の夢の中で、私は泣けているでしょうか?」

その問いの答えは、なんとなく分かっていた
誰にも打ち明けたことのない、自分だけが知る秘密だ

赤城は机の上に置かれた二つの箱に目をやった

一つは大切な友人へ
そしてもう一つは、誰より信頼するアナタへ


その日はバレンタインデー
愛する人へ、自らの想いを贈る日だ

ある者は決意を口にした

ある者は達成感に涙を流した

そしてある者は言えない気持ちを閉じ込めた


その思いが通じるかどうかは分からない
甘くも苦いその気持ちは、チョコレートによく似ていた


と、言うわけで後半戦二本目も終了です
軽く前半戦の倍くらいの文章量ですね

初めてバレンタインといった季節ネタのお話を書きましたが、我ながらうまく書けたのではないかと思います


次回からは普段通りの更新に戻ります。ではでは


確かに小悪魔提督はあんまり小悪魔ではないかもしれない…
語彙の少ない私を許してくれ…

性格はそんなに小悪魔ではないですけど、小悪魔とつけることによって可愛らしい印象をつけたかったのも理由にありますのでね
普通提督も普通じゃないですし、紳士提督もナルシストですし、生真面目提督も子供ですし、あまり気にしないでいただけると幸いっす


随分と間が空いてしまいましたが、久しぶりの投下です

ちょいと重い話の後なので、今回は軽ーいお話を目指しました

それではどうぞ


龍驤とお酒は人を殺す




普通提督
他人の意見に流されやすい自称普通な提督
ケッコンしてからの生活の変化をあまり実感できていない
お酒を美味しいとは思わないが、お酒を飲んで気持ちよくなるのは好き


龍驤
なんちゃって関西弁を喋る龍驤型の一番艦
提督とはそれなりに長い付き合い
お酒は普通に飲むが、あまり酔うまで飲んだことは無い


浜風
真面目でお堅い陽炎型の冗談を聞き流せ無い方
着任して日が浅いため、提督の人となりをきちんと把握できていない
お酒は飲まない


提督「ふわぁ……っ…はぅ…帰りましたよ~」

蕩けた声で提督は執務室の扉を開けた
時刻は深夜前、普通ならば艦娘などいるはずも無いのだが…

龍驤「げぇっ!」

運悪く、明日の仕事の為に執務室で書類を整理していた龍驤が鉢合わせてしまった
嫌悪感丸出しの龍驤の姿に、提督は気持ち悪いくらい頬を歪ませた

龍驤は知っていた、この男がこうなっている原因を
魅力も甲斐性も無いダメ男な提督だが、パリッとした雰囲気だけは持ち合わせているこの男が緩み切っているその理由

それは

提督「げぇ~ぷっ……まだ起きていたか、丁度いいちょっと付き合え」

龍驤「酒くさっ!はぁ…これの相手ウチがやらなあかんの~?嫌やぁ…」

そう、お酒だった


その日の提督は久しぶりに知り合いと飲みに行くと言っていた
そうして出掛けたのが夕方ごろ
実に5時間以上飲んで騒いでを繰り返していたのだろう

酒とたばこの匂いが男の体に染みつき、完全に出来上がっていた

内心龍驤は泣き出したいくらいだった
いつもならばこの酔っ払いの世話をするのは蒼龍と叢雲
しかし、蒼龍は休暇を貰っていて飛龍と泊りがけで外に遊びに行っている
叢雲は遠征に出かけている

そもそも龍驤が執務室に来た理由も、いつもなら蒼龍がやっている仕事だった
つまりこの状況に陥るのは必然だったとも言える


適当にあしらって早く寝かせてしまおうと、龍驤は取り敢えずコップ一杯の水を提督に差し出す

提督「はぁ…ん…酒じゃないのか?」

龍驤「キミはもう飲み過ぎ。それ飲んだら寝るんだよ」

提督「はぁ…いけずやわぁ……」

そう言いながらも提督はちびちびとお水を飲む

龍驤がこの酔っ払いの相手をしたくない最大の理由
提督は酔うと人が変わるのだ

それもその筈この提督、別にお酒が好きなわけではない
お酒を飲んで気持ちよくなるのが好きなのだ

それすなわち、酔いつぶれるまで飲んで帰ってくる
世話をする立場からすれば、迷惑極まりない男だった


提督「ここはな、蒼龍やったら『一杯だけですよ』て付きおうてくれはるんですよ?」

龍驤「ウチは付き合いたくないんだけど…」

提督「叢雲やったら俺が疲れて眠るまで話に付きおうてくれはるのに、龍驤は『これ飲んでさっさと寝ろ』てちょっと冷たいんと違います?」

龍驤「もう…面倒くさいなぁ……」

早くも帰りたい気分になった龍驤だが、この酔っ払いを一人にした方が後々面倒な気がする
と思い直し、自分の身を尊い犠牲とする覚悟を決めた

どうせこの提督は明日になったら今日の事は綺麗さっぱり忘れている
適当に相槌だけ打って眠るまで待とうと、龍驤は自分も水を飲みながら提督の話を聞くことにした



提督「――て、言うから俺もな『いやいや、童貞かどうかは関係ないだろ』と言い返してな」

龍驤「………」

提督「そしたらな!アイツは『童貞なお前と俺とでは男の格が違う』って言わはるんよ」

龍驤「………」

提督「もうな、俺もカチンときてな『自分も泡姫で童貞捨てたっきりの素人童貞野郎じゃろうが!』って」

龍驤「………」

提督「それからはもう―――」

龍驤「ああああああああ!!!!我慢できへん!!!」

龍驤の我慢の限界はモノの数分で訪れた
突然いきり立つ龍驤にポカンと口を開ける

元々ツッコミ気質な龍驤に、ツッコミどころしかない酔っ払いの話など耐えられるはずも無く
怒涛のツッコミの波が溢れだす


龍驤「もうずっと気になってたけど!!なんっで京都弁!?」

提督「京都弁やのうて『京言葉』言うてくれます?」

龍驤「やかましわ!キャラが壊れてる!!戻しや!!誰か分からんやろ!!」

提督「そうか?ならそうするが」

龍驤「直せるんかいっ!」

提督「おいおい、そんなに興奮するなよ。まだこの話にはオチがあってだな…」

龍驤「オチなんてどうでもええねん!!なんでわざわざ帰ってきて話す事が猥談!?」

提督「いや、男6人集まって話すとなれば猥談しかないだろ」

龍驤「つまんなっ!男同士の飲み会の話題つまんなっ!!」

龍驤「しかもどっちとも程度が低い!!童貞と素人童貞の口喧嘩て、程度低いわっ!!」

提督「なにっ!?それならお前はいつ童貞卒業したんだ?」

龍驤「女のウチが童貞卒業できるかッ!!」

提督「ハッハッハ!それもそうか」

獣のような血走った眼の龍驤を見ても、提督はあっけらかんと笑って水を飲み干す
更には『おかわり』と空のコップを差し出してくる始末だ


荒っぽく水のおかわりを置いてからも、龍驤の説教は続いた

龍驤「だいたいねぇ、キミはキャラが渋滞してるんだよ」

提督「そうか?」

龍驤「そもそもが堅物な感じやのにどっかズレてる愉快な性格やゆうのに」

龍驤「酔ったら地元の方言が出るってあざといわぁ…」

龍驤「そもそも方言ってだけで立派なキャラ立ちしてるのに、それ以上積み重ねるってズルくない?」

龍驤「ウチを見てみい?この関西弁と何がある?」

提督「胸があるだろ?」

龍驤「ないわ。って何言わせてるんや!!」

提督「はっはっは」

龍驤「なに笑てんねん、どつきまわすぞ」

マジな脅し文句にも酔っ払いには通じない
『上手いこと言ったな』と自画自賛して水を呷る

龍驤は堪らず大きなため息を吐く
『こんな酔っ払いの相手をしていたのか』と蒼龍と叢雲というストッパーの存在の大切さを痛感した


そんな折、

浜風「大きな声が聞こえてきましたが、何かありましたか?」

何も知らない子羊がわざわざ餌食になりに来た
どうやら龍驤の怒涛のツッコミ劇を聞いて、心配になってやって来たようだ

龍驤「い、いやいや何でもないって。ここはウチにまかせとき?な?」

浜風「はぁ…そうなのですか?」

提督「そういうな龍驤。浜風、ちょっとこっち来なさい」

そんな無知な娘を提督が逃すわけも無く、浜風を隣に座らせる

提督「丁度いいところに来たな、さっきまでお前の話をしていたんだ」

浜風「そうでしたか。どんなお話を?」

龍驤「あ、アカーン!浜風、悪い事言わないから聞かない方がいいって」

浜風「いえ、問題があるのなら矯正するべきです。なんなりと申し付けてください」

浜風は毅然とした態度であくまでも真面目だ
どうやらこの娘は提督が酔っているという事に気が付いていないらしい


白々しくもお前の事を話していたなどと嘯いたこの男
視線は浜風のある一点に注がれていた

龍驤(確かにその話をしていたけども!!)

龍驤は浜風を無理にでも帰らせるべきか迷った

浜風はまだこの鎮守府に来て日が浅い
提督の事をよく知らないのだ

普段からそこそこ変な男ではあるが、仕事に関してだけ言えばかなり真面目な男だ
いや、プライベートが真面目ではないというわけでもないけれど、その真面目さが基本的におかしいのだけれども
今回はそこはどうだっていい

浜風にとっての提督の印象はその仕事をしている提督なのだ

任された仕事は絶対に期限以内に終わらせる
常に艦娘たちを気遣い、絶対に大破進軍はしない慎重さ
約束を破らない義理堅さ

これくらいしか浜風には見えていない

つまるところ、浜風は提督に幻想を抱いているのだ
真面目でキッチリとした仕事人間
浜風にとっての理想の提督だ……と思っている


しかし現実は目の前に居るこの男

幾らか酔いがさめたのか、顔こそいつもの仏頂面に戻ったが
視線は完全に浜風のある一点に集中していた

次に口から吐き出される言葉は容易に想像ができる

しかし、珍しく尊敬されているこの男
その幻想が本人が忘れてしまうであろうこの瞬間に破壊されてしまうのは少々可哀想にも思った
せっかく提督を好いていてくれている浜風に関しても少々忍びない

然りとて、思い返すは先ほどまでの自分に絡んできた提督
非常に鬱陶しかったという事に尽きる

更には自分が最も気にしていることをさらりと話のネタとして振って来た
とっとと幻滅されてしまえと思う気持ちはあった

つまるところ、龍驤は新入りの気持ちを優先するか自分の鬱憤を優先すべきかという板挟み状態だった


そんな迷いは現実時間でおおよそ一秒
龍驤の思惑など関係なく、酔った男は口を開く

提督「お前のその胸はなんだ」

直球だった
もうそれ以上考えられない位、包み隠さず直球にセクハラをした

『アカーン!!』と龍驤は心の中で絶叫した
この男は自ら己を殺しに来たのだ
微塵の躊躇も迷いも感じさせず、裸足で地雷を踏み抜いた

しかし、おろおろとしたのは龍驤だけであった

浜風「私の胸が何か問題が?」

この浜風という女は、呆れるほどに真面目だったのだ


提督「自分でおかしいとは思わないのか?」

浜風「はぁ…えっと、そうですね…同年代と比べて発育が良いのでは、と思います」

龍驤「真面目に答えなくてええんよ!?」

セクハラをセクハラとも思わず浜風は至極真面目に回答する

提督「そうだろうそうだろう。この龍驤を見てみろ、空母界の駆逐艦と呼ばれたこの女を」

龍驤「どういう意味やそれ!?おおん!?」

提督はうんうんと頷きながら、平気で人のコンプレックスを逆撫でる
そもそも自分はそんな呼ばれ方をしていたのかと怒りが沸騰し、ツッコミに熱が入る


浜風「そうです、どういう意味なんですか!龍驤さんは空母なのですよ?我々駆逐艦のような夜戦火力が期待できるのですか?」

龍驤「いやそこ!?」

この女もとことんズレている
いつまで真面目な会話をしていると思っているのだろう
胸の話題を振って龍驤を比較に出してきた時点で感づいてほしいと切に願う龍驤だ

提督「そうじゃない、駆逐艦のような未成熟な胸を持つという意味だ」

龍驤「キミも丁寧に説明するんじゃない!!」

この男もこの男で龍驤弄りに余念がない
これは自分のストレステストか何かかと龍驤は眩暈を覚える

提督「それがどうだ!お前のせいでこの弄り文句が使えないではないか!!」

提督「これでは龍驤は空母界のなんだ?飛行甲板か?独特なシルエットか?んん?」

龍驤「いい加減にせんとウチも暴力に訴えかけることもあるんやで!!」

浜風「そうです。取り消してください!」

漸く浜風が提督に食って掛かる


龍驤「おお!そうや、言ったれ!!」

浜風「人のコンプレックスを引き合いに出してそのような発言をするのは失礼ではありませんか?いくら私と龍驤さんの発育の差が明らかであったとしてもです!」

しかし、その援護射撃は完全に誤射
自分の背中を容赦なく殴りつける

龍驤「おうコラキミ、今の発言は誰に対して失礼か胸に手を当ててよう考えてみい?」

浜風「は?どうかされましたか?私は何か間違ったことを…」

提督「そうだぞ龍驤、浜風は何も間違っていない。その肩甲骨…じゃなかった胸に手を当ててよく考えてみろ」

龍驤「誰の胸が肩甲骨や!!ってかキミはウチの胸を弄るボキャブラリー多過ぎない!?」

 バカ     バカ
酔っ払いと堅物の噛み合わない会話は化学反応を引き起こし、何故か龍驤を殺しにかかった


龍驤は悟った
酒は飲んだ人のみならず、周囲の人間も殺してしまうと

龍驤「もういやや…蒼龍…早く帰ってきて……」

そう呟いて、龍驤は完全に思考を停止させた


後日

提督「……あぁ…頭痛い…龍驤…水をくれないか?」

龍驤「ふんっ!」

予想通り提督は昨日あったことをすっかり忘れていた
そしてこれまた予想通り、二日酔いに頭を悩ませていた

提督「おいおい…どうしてそんなに怒っているんだ?」

龍驤「昨日あったことを思い出すんだね」

提督「おお…そうか……昨日はお前に厄介になったのか。色々とすまないな」

どうやらいつも迷惑を掛けているという自覚はあるようだ
そう自覚があるのなら酒を飲むなと、龍驤は同時にそう思った


龍驤「…キミって酔うといつもああなのかな?」

提督「ああ、と言われてもよく分からないからな。とにかく次の日は叢雲も蒼龍も機嫌悪いから、きっと酒癖悪いんだろうな」

龍驤「同情で涙が出てくるよ…」

提督「そんなにか?まあ、あまり辛いようならお前も飲んで忘れるといい。俺も付き合うさ」

龍驤「…………次なんてなければいいんだけどねぇ…」

あの酔った提督相手にお酒に付き合う蒼龍の気持ちが少し理解できた
あんなもの、酔って無ければ相手をしていられない

酒は飲んでものまれるな、とよく言うが
既に呑まれた相手の対処は、それこそ自分ものまれた方がいいのでは?と龍驤は学んだ


龍驤「まあ、蒼龍からも言われてるだろうけど…お酒は程々にね」

提督「うむ…善処しよう。といつも言ってはいるんだがな…」

龍驤「そんなのでお仕事できるの?大事な書類に吐いたりしないでよ?」

提督「それこそ善処しよう。なに、俺は仕事をすっぽかすような男ではないのでな」

龍驤は心配していたが、提督は二日酔いながらも執務を一応は真面目にこなした
酷く辛そうだったが、こういう時ばかりは義理堅いというか堅物な男であった

余談だが、浜風は『また提督と熱く議論を交わし合いたい』と言っていた
やはり、どこかずれた堅物どうし話が合うのかもしれない


と、言うわけで酔っ払いと可哀想な龍驤ちゃんのお話でした

こう、やりすぎたかな?と思う所はありますが、龍驤ちゃんはリアクションが可愛いと常々思うのでついつい弄り倒してしまう


次は明日か明後日に投下すると思います。ではでは


ぐおおお…書くネタはまだまだあるのにやる気が出ない…
暫くは週一くらいの更新になると思います


艦これのイベは念願の磯風が掘れたので大満足です(*´ω`)
これで磯風の話も書けるぜ…!

後はゆっくり海風とか朝霜とかを掘って過ごす次第ですね

ではでは


このまま書く書く詐欺をしても仕方がないので、いったん凍結とさせていただきます
そう遠くない内に再開すると思うので、お待ちいただけると幸いです

今までお付き合いいただき、本当にありがとうございました

前みたいに安価もの書かないんか
艦これもオリジナルも


>>368
オリジナルの方の安価モノはそろそろ始められる算段が出来つつありますね
艦これの安価モノはイマイチネタが無いので今のところやる予定はないです
今回のような形であれば、艦これもそう遠くない内に再開するつもりです

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年03月04日 (金) 15:37:55   ID: 1bNphESu

子供とはいえ、男の小悪魔とか気持ち悪い。
ほとんどが、ショタかロリじゃねーか気持ち悪すぎる。

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom