李衣菜「突き指で全治二週間なんて……ロックじゃないなあ」 (48)

李衣菜「しかもよりによって利き手の人差し指なんて……」

李衣菜「あーあ。たかが体育のバレーボールに熱くなり過ぎちゃったなー」

李衣菜「まあでも、あそこで私があのボールを追ってなかったら確実に負けてたし」

李衣菜「あの私のダイビングレシーブがあったからこそ、次の攻撃につながったわけで」

李衣菜「……まあ、結局ブロックされて負けちゃったんだけどね」

李衣菜「そしてそのレシーブの代償がこの突き指……」

李衣菜「はぁ。やっぱりロックじゃないなぁ」



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李衣菜「まあ自らの指を犠牲にしてまでチームの為に尽くした、っていう見方をすればロックといえるのかもしれないけど……」

李衣菜「でも二週間もこの状態じゃねぇ……これじゃお箸もロクに持てやしない」

李衣菜「あーあ。ちょうどこの二週間はお仕事もあんまり無いから、昼も夜も忘れてロックにギターの練習に打ち込もうと思ってたのになー」

李衣菜「ホント、残念だよ」

みく「……よくもまあ、一人でそれだけペラペラ喋れるもんにゃ」

李衣菜「……みく。いたの」

みく「いたのも何も、ここはみくの部屋にゃ!」

李衣菜「あー」

みく「何その『言われてみればそうだった』みたいな顔! 『突き指してギターの練習できなくなって暇だから』っていきなりみくの部屋に遊びに来たのは李衣菜ちゃんでしょ!」

李衣菜「あはは。分かってるって。冗談だよ。みく」

みく「フシャーッ!」

李衣菜「あ、ホントに猫みたい」

みく「トーゼンにゃ! みくはかわいい猫ちゃんなんだもん!」

李衣菜「…………」

みく「? どうしたの? 李衣菜ちゃん」

李衣菜「いや、やっぱりみくはすごいなーって思ってさ」

みく「へっ?」

李衣菜「どんなときでも自分を曲げることなく、猫キャラを貫く……うん。やっぱりみくはロックだよ」

みく「は……はぁ? み、みくのこれは別にキャラじゃないにゃ! あと安易にみくの事をその曖昧な概念で形容しないでほしいにゃ!」

李衣菜「? 曖昧な概念って……何のこと?」

みく「その『ロック』っていう曖昧極まりない言葉の事に決まってるにゃ! なんでこの期に及んでそんな素朴な疑問が浮かぶのか甚だ疑問にゃ!」

李衣菜「へ? ロックが曖昧って……何で? ロックはロックじゃん」

みく「……そーやって、トートロジーでしか説明できないのがその証左にゃ……」

李衣菜「いいんだよ。難しい事考えなくて。猫キャラもロックには違いないんだから」

みく「だからキャラじゃないって言ってるでしょ! もう!」

李衣菜「でもいいよね。みくは猫キャラでさ」

みく「だからキャラじゃ……もういいにゃ。……いいって、何が?」

李衣菜「いや、だって猫耳さえ着けたらいつでも猫ちゃんになれるんだからさ。仮に突き指とかしても影響無いでしょ?」

みく「それはまあ……うん」

李衣菜「でしょ? でもそこいくと私の場合、指やっちゃったら大ダメージじゃない? 正直、我ながらもっと慎重になるべきだったと反省しきりだよ」

みく「? なんで大ダメージなの?」

李衣菜「いや、なんでって……最初に言ったじゃん。ギターの練習できないって」

みく「…………」

李衣菜「そりゃまあ、突き指さえ治ればまた練習できるようにはなるけどさ。でもロックなアイドルを目指す私としては、丸々二週間もの間、ギターに触れないのはやっぱりイタイよ」

みく「…………」

李衣菜「? みく?」

みく「…………」

李衣菜「ど、どうしたの? 急に黙っちゃって……」

みく「…………」

みく「いやあ……おかしいにゃあ」

李衣菜「え?」

みく「みくの耳、おかしくなっちゃったのかなあ」

李衣菜「……? 何の話?」

みく「いや、うん。あのね?」

みく「みくの聞き間違えだろうとは思うんだけど……」

李衣菜「…………」

みく「まるで今、李衣菜ちゃんが『突き指したせいでギターの練習ができなくなって残念だ』って言ってるように聞こえたにゃ」

李衣菜「……え?」

みく「いやあ、ごめんごめん。そんなわけないよね。李衣菜ちゃんがそんなこと言うわけないもんね」

李衣菜「……みく?」

みく「大丈夫。みく、ちゃんと分かってるよ」

李衣菜「…………」

みく「李衣菜ちゃん、本当はこう言いたかったんだよね」

みく「――『突き指した“おかげで”ギターの練習をしなくて済んで“よかった”』――って」

李衣菜「なっ……!?」

みく「…………」

李衣菜「……みく。いくら冗談でも、言っていい事と悪い事が――……」

みく「冗談? はん、今日の李衣菜ちゃんはまたおかしなことを言ってるにゃ」

李衣菜「何?」

みく「今みくが言ったのは、ただの事実にゃ」

李衣菜「――みく!」ガシッ

みく「そうやってムキになってるのがその証拠にゃ」

李衣菜「! …………」

みく「本当は、李衣菜ちゃんだって自分で気付いてるはずにゃ」

李衣菜「な、何が」

みく「暫くの間ギターが弾けなくなっても、自分はさほど悔しくも無ければ悲しくも無いということに」

李衣菜「! …………」

みく「手、放してほしいにゃ。息しづらいにゃ」

李衣菜「…………ッ!」バッ

李衣菜「…………」

みく「ねぇ、李衣菜ちゃん」

李衣菜「…………」

みく「李衣菜ちゃんがギターを弾くのは何の為なの?」

李衣菜「……何度も言ったでしょ。ロックなアイドルに……」

みく「木村夏樹チャン」

李衣菜「!」

みく「……みたいなアイドルになりたいから、ってこと?」

李衣菜「そ、そうだよ。なつきちみたいな、ロックでカッコイイアイドルに――……」

みく「嘘」

李衣菜「えっ」

みく「李衣菜ちゃんは、別に夏樹チャンみたいなアイドルになりたいわけじゃない。だから、そんなことの為にギターを弾いているわけがないにゃ」

李衣菜「! ……し、知った風なこと言わないでよ! 私は本当になつきちに憧れて……」

みく「憧れて?」

李衣菜「な、なつきちみたいな……ロックでカッコイイ、アイドルに……」

みく「…………」

李衣菜「……なりたく、て……」

みく「ほら。やっぱり自分でも分かってるにゃ」

李衣菜「…………」

みく「李衣菜ちゃんは、別に夏樹チャンみたいなアイドルになりたくてギターを弾いてるわけじゃない」

李衣菜「…………」

みく「ただ、認めてもらいたいだけ」

李衣菜「! …………」

みく「ギターを練習して、上手くなって……憧れのアイドルの夏樹チャンに、認めてもらいたいだけ」

李衣菜「…………」

みく「ただそれだけの……ちっぽけな承認欲求にゃ」

李衣菜「…………」

一旦ここまでにゃ

李衣菜「……確かに、そういう気持ちは……あるよ」

みく「…………」

李衣菜「ギター自体は前から持ってたけど、正直、ほとんどただのかっこつけで……本格的に練習するようになったのは、なつきちに出会ってからだった」

みく「…………」

李衣菜「ライブハウスでなつきちの演奏を聴いてから……『私もあんな風にカッコ良くギターを弾けたらな』って思って……ちゃんと練習するようになった」

李衣菜「そしたら段々、ギターが楽しくなってきて……いつかなつきちみたいなロックなアイドルになれたらいいなって……そう思うようになった」

李衣菜「その気持ちは……嘘じゃない」

みく「…………」

李衣菜「でも、確かにそれだけじゃなく……みくの言うように……『ギターを上手く弾けるようになって、なつきちに認めてもらいたい』っていう気持ちも、私の中にある」

李衣菜「でも、それっていけないこと?」

みく「…………」

李衣菜「自分の憧れた人に認めてもらいたいって思うことは、そんなにおかしなことなのかな?」

みく「別にみくは、李衣菜ちゃんがおかしいなんて一言も言ってないにゃ」

李衣菜「え?」

みく「ただ李衣菜ちゃんは、自分の本質を見誤ってる……そう言ってるだけにゃ」

李衣菜「私の、本質……?」

みく「うん」

李衣菜「な、何よ。それ……」

みく「……とっくに気付いてるもんだとばかり思ってたけど……もし分かってないようなら教えてあげるにゃ」

李衣菜「…………」

みく「李衣菜ちゃんはどんなに頑張っても、夏樹チャンみたいにはなれないにゃ」

李衣菜「! …………」

みく「才能が違う。センスが違う。技術も経験も努力の量も何もかもが違う」

李衣菜「なっ……!」

みく「そんな李衣菜ちゃんがどんなに頑張ったって、絶対に夏樹チャンみたいなロックなアイドルにはなれないにゃ」

李衣菜「そ、そんなこと……みくに決められたくない!」

みく「別にみくが決めてるわけじゃないよ。さっきも言ったけど、これはただの事実にゃ」

みく「大体、『憧れ』なんて言葉を使ってる時点で、李衣菜ちゃんは夏樹チャンを超えることは勿論……本当は肩を並べようとさえ思ってないのにゃ」

李衣菜「! …………」

みく「『自分が夏樹チャンに敵うはずが無い』……本当はそう思ってるんでしょ?」

李衣菜「そ、それはっ……」

みく「ギターの練習をすればするほど……李衣菜ちゃんは、自分と夏樹チャンとの間にはどうやったって越えられないほどの高い壁があることに気付いた」

李衣菜「…………」

みく「でも、諦める気にはなれなかった」

みく「いや……厳密に言うと少し違う」

みく「『諦める必要すらなかった』」

李衣菜「! …………」

みく「それはなぜか?」

李衣菜「…………」

みく「李衣菜ちゃんは気付いてしまったからにゃ」

みく「――『自分は元々、夏樹チャンみたいなアイドルになりたいわけじゃなかった』ってことに」

李衣菜「! …………」

みく「ねぇ、李衣菜ちゃん」

李衣菜「…………」

みく「利き手を突き指した時、どう思った?」

李衣菜「……え?」

みく「本当は、救われた気分だったんじゃない?」

みく「『ああ、これで暫くはギターの練習をしなくてもいい』って」

李衣菜「…………」

みく「本当は分かってるんでしょ?」

みく「音楽の知識もギターの技術も、何もかもが中途半端な今の自分がどんなに努力したところで……夏樹チャンみたいなロックなアイドルにはなれっこないって」

李衣菜「…………」

みく「それでもロックロックって吠え続けたのは……いつまでも夢の途中でいたかったからにゃ」

みく「『私はロックなアイドルを目指して日々頑張っている』……李衣菜ちゃんが欲しかったのは、そんな薄っぺらな自己満足だけにゃ」

みく「だからこれ以上、李衣菜ちゃんが望むものは何も無い」

みく「今の自分に満足してしまっているからにゃ」

李衣菜「…………」

みく「後はこのまま数年間自分を誤魔化して、それなりの歳になったらアイドルを引退して……」

みく「『あーあ、私ももっと早くギターに打ち込んでいたら、なつきちみたいなロックなアイドルになれたのにな』」

みく「その一言さえ言えれば、それで李衣菜ちゃんは何の後悔も無く次の人生に進めるはずにゃ」

李衣菜「…………」

みく「つまりそれが李衣菜ちゃんの―――本質にゃ」

みく「ああ、あとついでにもう一つだけ教えといてあげるにゃ」

李衣菜「……何?」

みく「さっきみくは李衣菜ちゃんのコト、『音楽の知識もギターの技術も、何もかもが中途半端』って言ったけど……一コだけ、李衣菜ちゃんにも良い所があるにゃ」

李衣菜「…………?」

みく「それはね」

みく「顔が可愛いってことにゃ」

李衣菜「……は?」

みく「こればっかりは、他にどんなに優れた才能があっても、あるいはどんなに努力をしたとしても、決して覆すことができない……絶対的な長所にゃ」

みく「またそれでいて、アイドルにとっては必要不可欠な要素でもあるにゃ」

みく「そして李衣菜ちゃんは……生まれながらにそれを持ってる」

みく「はっきり言って、ギターの才能なんかより遥かに優れた才能だと思うにゃ」

李衣菜「…………」

みく「だから、どうせファッションでロック目指してるくらいなら……潔くこっちの路線に切り替えた方が良いと思うにゃ」

李衣菜「……どういうこと?」

みく「そのまんまの意味にゃ。せっかくそんなに可愛い顔を持ってるんだから、それをもっと活かせる路線で売ればいいのにゃ」

みく「たとえば、そう……カワイイフリフリの衣装を着て、萌え萌え~ってカンジで」

みく「ちょっとおバカな方がバラエティ的にもウケが良いから、『りーな、九九の七の段分かりませ~ん。てへっ』とかってやればいいにゃ」

みく「間違い無く、今の百倍は売れるようになるにゃ」

みく「才能を活かすっていうのはそういうことにゃ」

李衣菜「…………」

みく「ねぇ、李衣菜ちゃん」

李衣菜「…………」

みく「いいじゃん、それで」

李衣菜「…………」

みく「別にここで投げたって、誰も李衣菜ちゃんを責めたりしないよ」

李衣菜「…………」

みく「『ロックなアイドル目指してた時期もありました』って、ただそう言えば済む話にゃ」

李衣菜「…………」

みく「だからもう、いいじゃない」

李衣菜「…………」

みく「『本当はそこまでロックに執着があったわけではありません』」

みく「『ただなんとなく、かっこつけでロックなアイドルを目指してるふりをしていただけです』」

みく「そうやって認めて、受け入れて……楽になればいいのにゃ」

李衣菜「…………」

李衣菜「……違う」

みく「え?」

李衣菜「違う」

みく「何が違うの? 何回も言っているように、みくはただの事実を……」

李衣菜「そうじゃない」

みく「えっ」

李衣菜「違うのは……あんただよ」

李衣菜「あんたは……みくじゃない」

みく「! …………」

みく「……何で、そう思うの?」

李衣菜「みくは何があっても……今の私を否定したりしないから」

みく「…………」

李衣菜「何があっても、どんな時でも……今の私を、あるがままの私を認めて、受け容れてくれる」

李衣菜「それが……みくなんだよ」

みく「…………」

李衣菜「だからあんたは……みくじゃない」

李衣菜「そして、今の私を……心のどこかで否定しようとしていたのは……他でもない、私自身だ」

みく「! …………」

李衣菜「そうでしょ? ……“私”」

みく?「……よく分かったね」

(みくの形をしていたものが李衣菜の形に変わる)

李衣菜「……あんたは、私の心の弱さ。今の自分を否定しようとしていた……私自身の心だ」

李衣菜『流石、自分のことだけあってよく分かってるじゃん。その通りだよ』

李衣菜「まったく、つくづくロックじゃないね。まさかこんなドッペルゲンガーみたいなのまで生み出しちゃうなんてさ」

李衣菜『別に、あんたに限った話じゃないよ。人は誰でも、心に弱さを抱えてる。完璧な人間なんて、この世にはいないからね』

李衣菜「まあ、そりゃそうか」

李衣菜『それで? これからどうするの?』

李衣菜「……何が?」

李衣菜『何回も言わせないで。このままでいいの? ってことだよ』

李衣菜「ああ。そんなのもう、一つしかないじゃん」

李衣菜『?』

李衣菜「あんたも“私”なら、分かるでしょ? 『自分がロックだと思ったら、それがロックなんだ』って」

李衣菜『! …………』

李衣菜「今の私にとっては、なつきちに憧れてギターの練習をすることも、みくとのユニットを全力で楽しむことも……全部含めてロックなんだよ」

李衣菜『…………』

李衣菜「だから私は、今の自分を曲げる気は無いよ」

李衣菜『…………』

李衣菜「ロックなアイドル、目指してるからね!」

李衣菜『…………』

李衣菜『……結局、答えになってない。トートロジーのままじゃん』

李衣菜「いいじゃん。それがロックなんだから」

李衣菜『……まあ、いいや。今は消えておいてあげるよ』

李衣菜『でも、気を抜かないでね』

李衣菜『――私は、いつでも現れるから』

(その瞬間、李衣菜の形をしていたものは跡形も無く消えた)

李衣菜「…………」

みく「李衣菜ちゃん。何ボーっとしてんの?」

李衣菜「! ……みく。いたの」

みく「いたのも何も、ここはみくの部屋にゃ!」

李衣菜「あー」

みく「何その『言われてみればそうだった』みたいな顔! 『突き指してギターの練習できなくなって暇だから』っていきなりみくの部屋に遊びに来たのは李衣菜ちゃんでしょ!」

李衣菜「…………」

みく「? な、何急に黙って……っていにゃああああ!?」ギュウウ

李衣菜「このほっぺたの柔らかさ……本物!」

みく「何ボケたこと言っとんにゃ!」スパンッ

李衣菜「痛い!」

みく「痛いのはこっちにゃ! なんで何もしてないのにいきなりほっぺた引っ張られなきゃいけないの!?」

李衣菜「いやあ、ごめんごめん。あはは」

みく「あははじゃないにゃ! もー!」

李衣菜「……みく」

みく「こ、今度は何?」

李衣菜「真面目な話、いい?」

みく「えっ。あ、ああ……うん」

李衣菜「あのさ」

みく「…………」

李衣菜「正直に答えてほしいんだけど――……」

みく「うん」

李衣菜「私の良い所って……『顔が可愛い』ってこと以外に、何があると思う?」

みく「…………へっ?」

李衣菜「…………」

みく(ど、どうしよう……李衣菜ちゃんめっちゃマジ顔にゃ)

李衣菜「……やっぱり、無い……かな?」

みく「えっ?」

李衣菜「所詮私なんて、『顔が可愛い』こと以外には何の取り柄も無い平凡なアイドルなのかな……」

みく「い、いや別にそんなことは無いと思うけど」

李衣菜「! ホント?」

みく「う、うん」

李衣菜「じゃあ何があると思う? 『顔が可愛い』ってこと以外で、私の良い所……」

みく「え、えっと……。(な、なんでそんなに顔の可愛さを強調するんだろう……いやまあ、確かに可愛いけどさ……)」

みく「……じ、自分に自信を持ってるところ……とか? あ、あはは……」

李衣菜「…………」

みく「り、李衣菜ちゃん?」

李衣菜「それだ!」

みく「にゃっ!?」

李衣菜「それだよ! みく! 才能とかセンスとか……そんなんじゃない! 『今の自分に自信を持っていること』……そうだよ、それが私の良さだったんだ!」

みく「な、なんかニュアンスがかなりねじ曲がって伝わったような気がするけど……李衣菜ちゃんが満足してくれたなら、みくはそれでいいにゃ……」

李衣菜「……そっか。それなのに、私……」

みく「?」

李衣菜(ギター、一生懸命練習してても……なかなか思うように上達しなくて)

李衣菜(それでちょっとくさってたところに、突き指までしちゃって)

李衣菜(でも)

李衣菜(正直言って……少しほっとしたのは事実だった)

李衣菜(でもそれは、自分を信じなくなりかけていたということ……)

李衣菜(自分に対する自信を、失いかけていたってことだ)

李衣菜(だから――……私の前に“あいつ”が現れた)

李衣菜(私に、自分の心の弱さと向き合わせるために)

李衣菜(……そういうことだったんだ)

みく「李衣菜ちゃん?」

李衣菜「みく。ごめん、あと一個だけ答えて」

みく「えっ? う、うん」

李衣菜「私にとっての『ロック』って……何だと思う?」

みく「はぁ? 何でまたいきなり」

李衣菜「いいから」

みく「……そんなの」

みく「『李衣菜ちゃんらしく生きてる事』以外に……何かあるの?」

李衣菜「! …………」

みく「?」

李衣菜「――――みく!」ガバッ

みく「ふにゃあ!?」

李衣菜「やっぱり……やっぱりみくは私のベストパートナーだよ!」ギュウウ

みく「! り、李衣菜ちゃん……」

李衣菜「…………」

みく「もう……今更何を言ってるにゃ」

李衣菜「えっ?」

みく「みくはずっと前から、そのつもりだったにゃ」

李衣菜「――――みくッ!!」ギュウウウウウ

みく「ふぎゃああ!!! い、いたいいたいいたいにゃ! これハグ通り越してサバ折りにゃ!」

李衣菜「あっ。ごめん」

みく「もう」

李衣菜「えへへ……」

みく「ま、まあでも」

李衣菜「え?」

みく「みくのこと、ベストパートナーって言ってくれたのは……嬉しかったよ」

李衣菜「……みく……」

みく「さーてっ。突き指してお箸もロクに持てない李衣菜ちゃんのために、今日はみくがお手製カレーを振る舞ってあげるにゃ!」

李衣菜「カレー?」

みく「うん。その手でもスプーンなら持てるでしょ?」

李衣菜「……ありがと。みく」

みく「別にいいにゃ。これくらい……パートナーなんだから」

李衣菜「じゃあ今度、お礼にカレイの煮付け作ってあげるよ」

みく「……『カレー』のお返しに『カレイ』ってこと? ……うわー。流石に引くにゃ」

李衣菜「ち、違うよ! ただの嫌がらせのつもりで言っただけだよ!」

みく「もっと最悪にゃ!」

李衣菜「あはは」

みく「もー!」

李衣菜「…………」





『――私は、いつでも現れるから』





李衣菜「…………」

みく「? どうしたの? 李衣菜ちゃん」

李衣菜「いや、なんでも。……それよりみく。私、お腹空いたんだけどー」

みく「はぁ? そ、それが人にご飯作ってもらう態度?」

李衣菜「あはは。ごめんごめん。冗談だよ」

みく「もう。じゃあ今から作って来るから、ちょっと待ってるにゃ」

李衣菜「はーい」

李衣菜「…………」

李衣菜(上等。いつでもかかってきなよ)

李衣菜(今度現れたらそのときは――……)

李衣菜(ロックに、猫パンチでもお見舞いしてやるよっ!)















以上となります。

最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

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