P「電脳世界からきた奴らが俺の命を狙ってるだって?」 (194)


P「……」カタカタ

P(朝、俺は一人デスクワークに勤しんでいた)

P(……今日も仕事頑張らなくちゃなあ)


P「うーむ、これを終わらせたら次は――」



ガチャリ



P(その時、事務所の扉が開かれた)



春香「プロデューサーさん! おはようございます!」

P「ああ、春香おはよう」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1450616411


P(扉の向こうから春香が元気よく笑顔を見せながら中へと入ってきた)


P(俺は笑みを見せると、春香に向き直る)


春香「今日も早いですね」


P「スケジュールチェックとかやることもたくさんあるからな」


春香「駄目ですよ、無理しちゃ」


P「……お前たちをプロデュースするんならこれくらい何のこともないさ」


春香「……あの」


P「ん? どうした?」

春香「これ……もしよかったら食べてくだ――」



ガチャリ


美希「ハニー、おはようなのー」


伊織「ちょっと美希! まだ話は済んでないわよ!」


真「それで、今度空手の稽古頼まれちゃって」


響「うーん、仕事もあるしほどほどにしないとダメだぞ?」



ガヤガヤ



P(美希を筆頭に、ぞろぞろと事務所内にアイドル達が顔を見せ始める)


P(……もう仕事へ向かう時間だな)


春香「あ、あの……」


P(何か言いたげな春香を見て、俺はポンと頭に手を乗せる)


P「お菓子、時間が開いた時にでも食わせてくれないか」


春香「あっ……は、はい!」


P(また満天の笑顔を見せると、春香は美希たちの元へと戻っていった)




P(……やれやれ)




律子「プロデューサー殿、今日のスケジュールについて何ですが」


P「ああ、ちょっと待っててくれ」


P(律子に呼ばれ、スケジュールの打ち合わせを始める)


P(今日も、大変な一日になりそうだ――その時の俺はその程度にしか考えていなかった)


P(いや、大変なんてもんじゃない……今日と言う一日は俺の人生を揺るがすものになるなんて――そう、思いもしなかったんだ)


P(……)




――――
――



律子「それじゃあその手はずでお願いします」


P「ああ分かった」


P(俺たちが打ち合わせを終えた時、すでに事務所にはアイドル達が全員そろっていた)


P「おーい、それじゃあそろそろ仕事へ向かう準備するぞー」


P(俺がそう声をかけると、皆はそれぞれ思い思いに返事をしつつ立ち上がりだす)


P(今日は久しぶりの全体での仕事だったからか、俺も肩に力が入っていた)


P(何もなければいいが……)




小鳥「気を付けていってきてくださいね」


P「ええ、ありがとうございます」


P(音無さんにそう言われながら、俺たちは事務所を飛び出た)


――――
――



真美「うあうあー、もうクタクタだよー」ガクリ


亜美「兄ちゃん! 亜美甘いもの希望!」


P「仕方ないなあ……」


P(仕事が終わり、事務所へ戻ってくるころには既に時刻は夕刻を示していた)


P(真美たちは不満を漏らしながら、俺を見つめてくる)


P(まあ、アイスとかでいいか……)




クイクイ


P(そのとき、誰かに袖を引かれそちらを眺めると――そこには貴音が申し訳なさそうな顔で俺の顔を覗いていた)


貴音「……貴方様、わたくしはらぁめんを希望します」


P「……了解だ」


P(なんで、そんなにしおらしく希望するのか)


あずさ「あらあら~、それじゃあ私も何か頼もうかしら」


律子「あずささん、甘いものは控えるって昨日言ってましたよね」


あずさ「あ、あらあら~」


P(……大丈夫なのだろうか)



P「まあ、適当にそこらで買ってきますよ」テクテク


P(俺は眉を下げながら、財布を片手に事務所を出ようと歩き出す)


千早「……」


P「千早、お前も何か欲しいものあるか?」


P(入り口付近で立っていた、千早にもそう声をかけた)



P(――そのはずだった)



千早「……」


P「……千早?」


P(返事のない千早に不審感を覚えた俺は、ぐっと顔を寄せる)


P(だが、その前にバチッと何かが弾ける音が俺の耳に響いた)


P(何の音だ? ――と、考える間もないほどの瞬間に、俺は千早の周囲から発せられた青白い光に目を眩まされる)




P「――な、なんだ?」




バチバチ


チハヤ「――サイバーリンク完了」



P「ち、千早……?」


P(青白い光の中から姿を現したのは、酷く冷徹な瞳を携えた如月千早だった)


P(これは……何が起きてるんだ?)



春香「千早ちゃん?」


チハヤ「……」



P(突如として現れた光、そして明らかに何かがおかしい千早の姿)


P(張り付いたような表情が無機質さを醸し出す――まるでそこにいる千早が別人であるかのように)



チハヤ「……」キョロキョロ


P(膠着する俺たちを傍目に千早は辺りを見回し――そして俺と目を合わせる)




チハヤ「あなた、”プロデューサー”?」



P(そう尋ねかける千早に対して、俺は一度だけ頷く)



P「……千早、一体どうし――」


チハヤ「――目的確認、速やかに回収作業に移るわ」



ザッザッザ



P「おい、何言って……」


伊織「ちょっと! 急にどうしたのよ千早、何言ってるか意味わからないわよ?」ズイッ


P(うろたえる俺の前に伊織が腕を組んで千早の前に立ちはだかる)


チハヤ「邪魔しないで」


伊織「なによ、私何も邪魔なんて――」


P(きわめて冷たい声で千早は囁く)


チハヤ「はあ……仕方ないわね」


P(だがそれに応じない伊織に向けて――千早は手を翳した)




チハヤ「――空間凍結」


ピシリ



伊織「……」


P「い、伊織?」


P(千早の一言に呼応するように、伊織はピクリとも動かなくなった――まるでその場で氷漬けされてしまったかのように)


チハヤ「案外うまくいくものね……、さて」チラッ


P(固まった伊織を眺めた後、千早は俺に目くばせした)


チハヤ「次はあなたの番よ」


P(背筋が凍るのを感じるとともに、俺は後ずさりしていた)



P「お前は……誰だ?」


チハヤ「あら、あなたもよく知っているでしょ?」


P(その時、千早は初めて笑みを見せる)


チハヤ「さあ、あなたもすぐに終わらせてあげる」


P(その微笑に怖気づいていた俺の前に二人の少女が割って入る)



響「千早、何があったかは知らないけどプロデューサーに何するつもりだ?」


真「残念だけど、その細腕じゃあボクたちは倒せないよ」


P(響と真は、どこか不穏な空気を感じ取ったのか明らかにいつもの千早に向ける好意を取っ払っているように思えた)


P「おい、お前ら……」


チハヤ「……面倒くさいわね」スッ


P(伊織の時と同様に、千早は手を翳す――そして)



チハヤ「コントロールが難しいから、当たらない子もいるかもしれないけど」



ピシリ



P「こ、これは――」


P(再び、空間内に氷が割れるような音が響き渡る)



響「……」


真「……」


P「響……? 真……?」


P(二人は既にピクリとも動かなくなっていた)


P「――!」


P(気が付けば、周りにいた他のアイドルもみなその場に凍り付いたように固まっていた)


P「……マジかよ」


P(未だに思考が追い付かないが、この状況はかなりヤバいのだけは伝わってきた)


チハヤ「さて、もう遊びは終わった?」


P(冷徹な千早の瞳が俺に突き刺さる)


P(意味の分からない状況、完全に頭が働いていない俺の背後から――二人の影が飛び出してきた)


亜美「真美!」


真美「分かってるよ!」


タッタッタッタ



チハヤ「……?」


P「おい、お前ら!」



亜美真美「「捨て身アターック!!!」」



P「あいつらなにやって――」グイッ


P(亜美と真美が千早に飛び込んでいく最中、俺の袖が誰かにひかれる)


やよい「プロデューサー! この隙に逃げましょう!」


P「や、やよい……? でも亜美たちが」


P(そう言う間もなく、やよいは俺の手を引いて事務所の扉を引く)



ピシリ


チハヤ「……」


P(事務所を出ていくとき、俺は亜美と真美を凍らせる光景を見た)


P(……なにがどうなってんだよ)


P(そんな悪態をつくまでもなく、俺は事務所を後にした)


――――
――



タッタッタ


P「はあ……はあ」


やよい「……だ、大丈夫ですか?」


P「ああ……久しぶりに走ると……しんどいな」


P(やよいと一緒に抜け出してきたものの、俺は未だ事務所での出来事が気になって仕方なかった)


P「……やよい、どうして俺を」


やよい「二人に頼まれて……それで」


P(亜美と真美は、俺たちを逃がすためにわざと千早に向かっていったとやよいは話してくれた)


P(ほんと……何がどうなってんだ?)


やよい「これからどうしましょうか……」ポツリ


P「……そうだな」


P(事務所から逃げてきたものの、依然として状況はつかめていないままだ)


P(千早の様子がおかしいということ、そして固まったアイドル達)


P(おおよそ俺の理解の範疇を超えている――そう、これは何かが)




チハヤ「あら、こんなところにいたのね」


P「!」バッ


P(振り返った先、そこには千早の姿があった)


P(もうこんなところまで来ていたのか……? 早すぎやしないか?)


チハヤ「統合率も低下してるし、そろそろそっちのプロデューサーを渡してほしいのだけど」チラッ


やよい「……っ」


P(千早は俺の方を眺めつつ、やよいを威圧するような目つきでそう言った)


P(だが、やよいは俺の前に立ちはだかりこういってのけた)


やよい「千早さん、どうしたんですか……? いつもとは違うみたいです」


P「……俺も、何がどうなってるのか説明してほしいんだが」


P(説明を求める俺たちをよそに、千早は鼻で笑う)



チハヤ「そんなことをあなた達に説明する必要があると思う?」


P「くそっ……」


チハヤ「もういいかしら? 私、仕事を長引かせるのが好きじゃないのよ」


やよい「――! プロデューサーこっちです!」グイッ


P「うぉっ! や、やよい!?」


P(再び俺はやよいに手を引かれ、路地裏へと逃げ込むことになった)


P(だが……”仕事”と言ったか――今の千早は何かの目的があると言うことなのか?)


P(俺の回収と言っていたが……それはどう意味なんだ?)


P(ぐるぐるとめぐる思考の端に、千早の微笑が見えた)


――――
――



やよい「はあ……はあ……」


やよい(私はプロデューサーの手を引いて、息を切らせて走っていた)


やよい(千早さんから逃げるためだなんて……そんなこと思いたくもないけど)


やよい「プロデューサー大丈夫ですか?」


P「ああ、俺は大丈夫だ……」


やよい「なら、もっとスピードを上げましょう!」


やよい(ただ一心不乱に、細い路地を駆けていく――だけど、その暗闇の向こうには誰かが立っていた)



やよい「――っ!」


チハヤ「どれだけ逃げても無駄よ」


P「千早……」


やよい(眉を寄せる私の後ろから、囁くようなプロデューサーの声が響く)


やよい(……なんで、こんな)


チハヤ「終わりね……」



やよい(千早さんがプロデューサーへ向けて手を翳す瞬間、私はさっきまでことを思い返していた)



亜美『やよいっち、いい? 兄ちゃんのことよろしく頼むかんね』



やよい(亜美……でも、もう私)



真美『ここは真美たちが食い止めるから』



やよい(こんな私じゃ、プロデューサーのこと守れないよ……真美)



亜美、真美『やよいっちなら出来るよ』



やよい(――だけど、やるしかないよね)




やよい「……」バッ


チハヤ「それは何のつもりかしら?」


やよい(無駄だってわかってる)


やよい(だけど、私だってプロデューサーのこと守りたいから)


やよい(だから――)




やよい「プロデューサーは渡しません――ッ!」





やよい(せめてもの悪あがきでもいい)


やよい(これは私の自己満足だってわかってる)


やよい(でも……)



P『あはは。やよいらしいな。ともあれ、本当に、よく頑張ってくれたよ』



やよい「プロデューサーは私たちの大切な人なんです!」



P『……よし、やよい。そろそろ本番の時間だ。ステージを、やよい色に染めてこい!』



やよい「いつだって笑顔で見守ってくれる――」



P『だから、自信を持っていこうな』



やよい「私のプロデューサーなんです!」



やよい(私は大きな声で叫んだ)



P「やよい……」


チハヤ「……そう、それは悪いことをしたわね」


やよい「だったら――」


チハヤ「だけど、私には関係ないわ」


チハヤ「――空間凍結」


ピシリ


やよい「あっ――」


やよい(私は千早さんの一言で、両足を凍結させられた)


やよい「あ、足が……」


チハヤ「これ以上統合率を減らせないわ……そこで黙ってみていなさい」



P「……」


やよい「……ぷ、プロデューサー逃げて!」


やよい(だけど、私の叫びに応じることはなかった)


P「俺を連れて行ったあと、あいつらはどうなるんだ?」


チハヤ「……そうね、元に戻るんじゃないかしら」


P「そうか」



やよい(私は何もすることが出来なかった)


やよい(何も……力になれない)


やよい(弱いままの私――そんなのは分かってる)


やよい(誰かを助ける力が欲しい)


やよい(この一瞬だけでいい――誰かがこの叫びを聞いてくれるなら)




――力が欲しいの?



やよい(そのとき、誰かの声が頭に響いた)




やよい(誰……?)


――少しだけなら、力を貸せるよ


やよい(……本当に?)


――リンクコードは分かる?


やよい(リンクコード?)


――コードの解除キーは……




やよい(私は声のままに、頭にその言葉を浮かばせる)


やよい(なんだっていい――今、この瞬間にプロデューサーを助けられるなら!)






バチバチ



チハヤ「……何?」



ヤヨイ「――サイバーリンク完了」




――――
――




P「やよい……?」


P(突如として、やよいから発せられた青白い光)


P(次の瞬間に、やよいは只ならぬ力で身を包まれていた)


P(何が起きてるんだ――?)


チハヤ「あなた……なんでサイバーリンクを?」


ヤヨイ「……」チラッ


P(やよいは千早の言葉に反応すると、瞼の半分下りた目を向ける)


ヤヨイ「この子を助けるため」


チハヤ「くっ――」


P(次の瞬間、千早はやよいへ手を翳していた――だが遅い)



ヤヨイ「遅い」


バギッ


チハヤ「ぐっ……」


P(圧倒的な力の差がそこにはあった)


P(千早を見下ろすやよいの瞳はやはり冷たかった)


ヤヨイ「――塊力」


ブォン


P(……やよいがそう呟くと、その空間にやよいの背丈の倍以上ある大きな剣が生み出された)




チハヤ「あなた……自分が何をしているのか分かってるの?」


ヤヨイ「……」


P(膝を折る千早は苦しそうにそう言葉を吐く)


P(それに対してやよいは何も答えない)


チハヤ「政府直属の第1課に手を出すなんてね――バカのすることよ」


P(何の話をしているんだ?)


P(俺は冷や汗を垂らしながら、様子を見守る)



ヤヨイ「……まだ続けるの?」


P(だが、やよいは何にも動じないようにその場で千早を見つめ続けていた)


チハヤ「くっ……一時撤退ね」


シュン


千早「……」バタリ


P(そう言うと、千早は魂が抜けたかのようにその場にひれ伏した)


P(俺は慌てて、千早を抱きかかえに行く)



P「……やよい」


ヤヨイ「……」


P(俺はその場に立ち尽くすやよいに目を向けた)


P(何も言わずに、彼女はじっとこっちを眺めていた)


P(冷たい風が、辺りに吹きこんだ)


――――
――






ヤヨイ「……」モソモソ


亜美「に、兄ちゃん……あれ本当にやよいっちなの?」


真美「とりあえず、真美たちのお菓子あげてみたけど……」


P「ううむ……」


P(あの後、俺は千早を抱えてやよいと共に事務所へ戻って来ていた)


P(想像の通り、事務所で固められていたアイドル達はみなもとの状態に戻っていた)


P(だが、未だやよいはあの姿のまま事務所の椅子にこじんまりと座ってお菓子を食べている)


P(……どうなってんだ、ほんと)


伊織「ちょっと、やよいはどうしたのよ! ちゃんと説明しなさいよ!」


ヤヨイ「……」チラッ


P「お、おい。伊織……」


伊織「アンタからもなんか言いなさいよね! ほら、アンタもお菓子ばっか食べてないで私の話を――」グイッ


ヤヨイ「……あっ」ポトリ


P(そのとき、伊織の引いたやよいの手からお菓子が床に零れ落ちた)



ヤヨイ「……」ジッ


P(やよいはじっとそのお菓子を眺める)


伊織「な、なによ……」


ヤヨイ「……うぅ」ポロポロ


P「泣いた……」


亜美「あー! いおりん、やよいっち泣かせたー!」


伊織「え、あ……」オロオロ


響「や、やよい? 大丈夫か?」


ヤヨイ「……うぅ」ポロポロ


P(泣き止まないやよいを見て、さっきまで傍から見ていたアイドル達がやよいの周りに集まりだす)



春香「これ、春香さんが焼いてきたクッキーだよ!」ズイッ


雪歩「わ、私お茶入れてくるね」タッタッタ


あずさ「お菓子、もう食べられないわね」ヨシヨシ


ヤヨイ「うぅ……」ポロポロ


伊織「や、やよい? わ、わざとじゃないのよ……? ご、ごめんね?」オロオロ


P(やよいが泣き止むまで、暫くの時間がかかった)


――――
――




ヤヨイ「……」モソモソ


P「で、泣き止んだはいいが」


真「結局、さっきのことも分からないままですね」


律子「うーん、何か話してくれればいいんだけど」


P(依然として何も話さないやよいに困っていた俺たちだったが――お菓子を食べ終わったやよいは、ちらっと俺の方を向いた)


ヤヨイ「……プロデューサー?」


P「え、ああ。俺はプロデューサーだが」


ヤヨイ「……」モソモソ


P「……なんなのなの」


P(わけわからん……と嘆く俺に、やよいは言葉を付け足す)



ヤヨイ「……私、説明苦手」モソモソ


P「え?」


ヤヨイ「代わりを呼ぶ」


P(その瞬間、再び事務所が青白い光に包まれる――そこに現れたのは)


アズサ「みなさん揃ってますかっ」キャピッ


P「あずささん……」


響「それは無理があるぞ……」


P(何かやけに若々しいあずささんの姿だった)


――――
――




アズサ「ヤヨイちゃん、お菓子は一日一個だけっていつも言ってるでしょ」スッ


ヤヨイ「……あ」


P「おいおい、完全に置いてけぼりなんだが」


貴音「面妖な……」


P(何だか若々しいあずささんに、元気のないやよい――おおよそいつもとは違う光景がそこにはあった)


P(……だが、これも中々)



アズサ「それじゃあ、そろそろ説明しましょうかね」


P(ひとしきり、やよいと戯れていたあずささんは人差し指を上げる)


P(なんだ?)


アズサ「みなさんは、電脳世界と言うものを知ってますか?」


律子「ええと……確か、仮想空間みたいなものでしたっけ?」


アズサ「おおー、ご明察ですよ律子さん!」


P「なんか……」


美希「テンション高いの」



アズサ「単刀直入に言いましょう――私や、ヤヨイちゃんはこことは別の電脳世界からやってきた、つまりこの世界の住民ではない存在です」


P「……え?」


律子「あー……えーと、もう少し分かりやすく説明してもらえますか?」


アズサ「そうですねえ……、もっとわかりやすく言うならば――サーバー198の住民とでも言いましょうかね」


春香「サーバー?」


アズサ「ええ、サーバーよ。ここはサーバー567の世界なの」


響「わけわかんないぞ……」



P「ちょっと待ってくれ、さっき別の電脳空間と言ったよな?」


アズサ「ええ」


P「だったら――俺たちの今いる世界も、仮想空間と言うことなのか?」


P(俺の仮説に周りはどよめく)


アズサ「ええ、その通りです」


P(だが、極めて平然とあずささんはそう言ってのけた)


アズサ「ここも、電脳空間の一つです――そしてサーバーは567サーバーと言われています」



千早「さっきから出てくる、サーバーとはどういう意味なのかしら?」


アズサ「電脳世界は、各所に広がっているの。それで、その一つ一つのユニットは――つまり、一つ一つの世界はサーバーと言われてるわ」


P「……にわかには信じがたいな」


P(俺は自らの顎に手を持ってくる)


P(俺たちは、電脳世界の住民で、サーバーという分けられた世界で過ごしてると言ったな)


P(それが本当だとすれば――俺の生きているこの世界は現実の物じゃないとでもいうのか?)



伊織「アンタ、それ本気で言ってるの?」


P(しかし、頭を悩ます俺を置いて伊織があずささんに食って掛かった)


アズサ「ええ、事実よ」


伊織「でも、そんなの信じられない――」


アズサ「伊織ちゃんも、千早ちゃんの変わった姿を見たでしょ?」


伊織「――っ」


千早「……」



P「……確かに千早はいつもの俺たちの知る千早とは違っていた。あれは、何が起きていたんだ?」


アズサ「……それを説明するには、私たちの世界――つまりサーバー198のことを説明しなくては駄目ですね」


P「……だったら」


アズサ「ですが、それを説明している暇はありません」


春香「どういうことですか?」


アズサ「……みんなも見た通り、千早ちゃんの姿が変化したのは――私たちの世界の住民が、今の私やヤヨイちゃんのようにこっちのサーバーの住民の人格を乗っ取ったから起きたの」


アズサ「その説明は後にするとして――とにかく、彼女たちの狙いはプロデューサーさんに他ならないということ」



P「やっぱり、俺が出てくるのか」


アズサ「ええ、そしてサーバー198の住民の人格乗っ取りは再び起こされると思うわ」


アズサ「だから……ひとまず、765プロのアイドルは私とヤヨイちゃんを除いてプロデューサーさんから離れることになります」


P「なるほど……って、ん?」


真美「ちょ、ど、どういうこと!?」


亜美「いみわかんないよー!」



アズサ「……仮にまた、人格乗っ取りが起きれば再びプロデューサーさんは危険にさらされます」


アズサ「サーバー198では、あなた達765プロのアイドルがプロデューサーを狙う刺客となるの」


アズサ「今、現状でプロデューサーさんを守れるのは、私とヤヨイちゃんだけよ」


貴音「一つ、いいでしょうか」


P(そのとき、貴音の手が上がった)



アズサ「何かしら」


貴音「先ほどから、貴方のおっしゃる話の中で"プロデューサーが狙われる"と言う理由が未だに不明確なのですが――それはどういった意味があるのでしょうか?」


アズサ「うーん……」


P「……確かに」


P(それほどまでに俺が外界の連中に固執される理由なんてあるのか?)


P(そう思っていた矢先、あずささんは鋭い目つきこうつぶやいた)





アズサ「第四の扉を開くこと――それがサーバー198の目的よ」





P「第四の扉……?」


貴音「それはどういったものなのでしょうか……?」


アズサ「そうね、一言で言うなら」




アズサ「――この電脳世界から抜け出すための鍵と言うところね」




貴音「……なるほど」


P(貴音は納得したかのように、頷くと一歩引きさがった)



アズサ「もう質問はないかしら?」


P(そう促すと、あずささんはもう一度口開いた)


アズサ「さっきの話に戻すと、今、現状でプロデューサーさんを守れるのは私とヤヨイちゃんだけです」


P「ああ、そう言ってたな」


アズサ「だから、いつ刺客が来てもいいように――プロデューサーさんには、この世界の三浦あずさと高槻やよいの二人と一緒に同棲してもらうことになります」



響「え」


真「ど、同棲?」


春香「……プロデューサーさんと」


伊織「やよいとあずさが……?」





「「「「「「「「「「「ええええええっ!??」」」」」」」」」」」




P「えーと……え?」ポリポリ




ヤヨイ「……よろしく」モソモソ



P(かくして、何が何だかわからない物語が少しずつ始まろうとしていた)


P(俺を狙う刺客――サーバー198の住民)


P(まだ分からないこともたくさんあるが……一先ずいえることがある)





P「二人とも、シャンプーどこのメーカーのものを使ってる?」




つづく!


なんとなく書き始めてしまった話だけど、完結はいつになるのか……。
とりあえず、ストーリーは元ネタ無しのオリジナルなんで、時間見つけてちょこちょこ書いていきます。
ではでは!



――プロデューサーさん? 起きてますか?


P「……」


――プロデューサー……もう時間ですよ……


P「……ん」


P(誰かの呼びかけに俺は瞼を開く)


P(まるで聖母と天使が呼びかけているかのような心地だ)


P(誰が――俺を呼んでるんだ?)




あずさ「朝ごはん、やよいちゃんと作ったんですけど……」


やよい「プロデューサー、全然起きてこないから呼びに来ちゃいましたぁ」



P「……あずささん、やよい」




P(ここどこだよ――って俺の家じゃねえか)


P(ないない、事務所の担当アイドルが俺の家にいるなんて)



P「……なんだ夢か」ゴソゴソ



P(俺は再び布団に入っ――)



やよい「もおー! 寝ちゃだめですよー!」ユサユサ


あずさ「あらあら~、お寝坊さんですね~」ユッサユッサ


P「――ってこれ夢じゃない!!!!」ガバァ



P(俺は目を覚まし、飛び起きた)


P(視界では、何かが揺れていた)


――――
――




P「いやぁ~、二人とも料理上手ですね」


あずさ「うふふ、たくさんありますからね」


やよい「たくさん食べましょー!」


P(なんだかんだ、俺は和やかな空間に身を委ねていた)


P(そりゃあ、最初は同棲とかびっくりしたさ)


P(やよいに至っては、まだ中学生だぞ?)


P(さすがにやよいは俺の家と高槻家を行き来することになるみたいだが――送り迎えをする俺も中々大変なもんだ)



やよい「どうかしましたか?」


P「いや、なんでもないよ」モグモグ


P(まあ、こんな生活も数日の内に終わるだろうし……今だけ楽しませてくれ)


P(一番の危険性はあずささんだ)


P(あずささんに至っては、成人だ)


P(故にこの大義名分の下で、俺の家に入り浸るつもりでいるらしい)


P(仮にもアイドルだ――俺とのスキャンダルなんて間違ってもあってはならない)


P(だが……)



あずさ「ご飯、おかわりしますか?」


P「ええ、ついでにあずささんも――って違う違う!」ブンブン


あずさ「……え?」キョトン


P(使う言葉を誤ってしまう程度にはこの生活はやばい)


P(やばいぞおい……)


やよい「プロデューサー、顔がにやけてます……」ジトー


P「面目ない」


P(やよいは俺をじとりとした目つきで見つめていた)


P(ふやけた顔を見せてしまったな……)



P「いやあ……俺の人生で、こんな生活が来ることになるなんて思いもしなかったからな」


やよい「そうなんですか?」


あずさ「うふふ、私も同じこと考えてました」


P(頭に疑問符を浮かべるやよいに、照れたような顔を見せるあずささん)


P「ここがサンクチュアリか……」ズズズ


P(味噌汁を啜りながら、俺はそう呟いた)


――――
――




小鳥「あー、昨日は風邪でお仕事早退しちゃうなんて我ながらやっちゃったなあ……」ガックリ


小鳥「もしかして……免疫下がってきてたり」ハッ


小鳥「……そんなわけ、ないよね?」


小鳥「そうよ、小鳥! 今日もアイドルの皆に元気をもらって事務仕事頑張らなきゃ!」グ



小鳥「っと、もう事務所ね。こほん――みんなおはようっ!」ガチャッ



春香「おはようございます」


美希「おはようなの」


真美「ピヨちゃん、おは」


亜美「左に同じ」


千早「……」


伊織「……おはよ」ボソリ




小鳥「……」




小鳥(なんだろう)



小鳥(そこはかとなく事務所の空気が重い)




小鳥「み、みんな……? 今日は何だか元気ないわ、ね?」チラッ


響「……」


貴音「……」





小鳥(奥の響ちゃんの貴音ちゃんが凄い見てきてるのが地味に怖いわね)





小鳥「……あ、そうそう! これ……みんなどう? 製菓堂のお菓子なんだけど――」


小鳥(すごくおいしいお菓子でも食べたら、みんないつもどおり戻ってくれるわよね)


小鳥(そう思っていた私がいました――でも、私の呼びかけに皆は一瞬のうちに凍り付いたのです)




雪歩「ど、同棲――っ!?」


真「もしかして……、こ、小鳥さんも?」


小鳥「えっ」


律子「……」ガシッ


小鳥「り、律子さん……?」




律子「……小鳥さん、あなたもですか」



小鳥「ちょっと、皆何言って――」


小鳥(そのとき私は感じました)


小鳥(ああ、愛っていうものは醜く歪んだ嫉妬からも感じられるのだと)




小鳥「――で、プロデューサーさんは今やよいちゃんとあずささんと同棲生活を送ってる、と」


美希「ミキ達は近づいちゃダメだって」


雪歩「うぅ……なんで私は選ばれなかったんだろう」


真「雪歩、大丈夫?」


響「でも良かったぞ、ぴよ子は同棲してなかったんだね」


小鳥「そ、そうね」


小鳥(仮にそうであったなら、私どうなってたのかしら――なんて考えて、私は寒気を感じた)




小鳥「でも……その話の中で出てきた、サーバー198っていうのは」


律子「小鳥さん、何か知ってるんですか?」


小鳥「いえ、私もそんなものを聞いたことはないんですけど……」


小鳥(日常に訪れた非日常――なんて少年漫画的展開かしら)


小鳥「……次の同人はこれで決まりね」ウンウン


真美「ピヨちゃんは、なんか安心できるよね」


亜美「分かるよ、真美」




小鳥(そんな妄想を繰り広げていた時でした)




バチバチ


小鳥「え――?」


小鳥(突如として、私たちの目の前は青白い光に包まれたのです)


小鳥(嘘、ほんとに――)


――――
――




P「やよい? もう着替え終わったかー?」


やよい「え……あっ、もうちょっと待ってください!」


P「あ……すまん」


P(もともと狭い俺の部屋は三人が住むだけのスペースなんて兼ね備えていなかった)


P(いくら刺客から俺を守るためだって言っても、着替えとかのために家主である俺を家から追い出すってのはどうなんだ……)



やよい「お待たせしましたっ」


P「おお、終わったか」


やよい「着替え、あんまり持ってきてなかったから上が昨日の服と同じなんですけど……匂いとか、しませんか?」チラッ


P「ああ、大丈夫だ」


P(やよいなら匂いなんてもんも吹き飛ばすだろう)


P(それはそうと、あずささんも遅いな……)





P「あずささん、着替え終わりましたかー?」


あずさ「きゃっ!」バタンバタン


P(そのとき、家の中にあずささんの声が響き渡った)


P(あずささんの身に何かあったのか――?)


P「だ、大丈夫ですか?」ガチャッ


あずさ「え……あ」


P「あ……」


P(しかし、俺が扉を開けた先には――あずささんが下着姿のままこちらを眺めていた光景が広がっていた)



あずさ「ちょっと……こけそうになっちゃいまして」


P「ご、ごめんなさい!」ガチャン


P(……心臓に悪いぞ)


P「なあ、やよい……みんなにはこのこと内緒に――」





バチバチ


P「やよい?」チラッ


ヤヨイ「敵が来る」



ガチャリ



アズサ「もう来ちゃったのね――少しだけ、予定よりも早いわ」



P(気が付けば、やよいもあずささんもサーバー198の人格に変わっていた)




ヤヨイ「……あと何秒?」


アズサ「およそ3.3秒ね」



P(あずささんがそう言ったと同時に、目の前の空間が歪みだす)



グニャリ




チハヤ「残念――1秒読み間違えてるわよ」



P「お前は――ッ」



P(そこから現れたのは、昨日俺たちを襲った千早だった)




チハヤ「……今度は、逃さないわ」チラッ


P(遠目に千早は俺の顔を窺ってきた)


ヤヨイ「……何度やっても同じ」


チハヤ「また私たちの邪魔をするのね――それに」チラッ


アズサ「……」


チハヤ「サーバー198の裏切り者は、二人ってことね」


アズサ「……ヤヨイちゃん」


ヤヨイ「……」コクリ


P(あずささんの呼びかけにやよいは応じると、すぐさま空間に向けて手を翳す)



ヤヨイ「――塊力」


ブォン


P(現れたのはあの大きな剣――やよいはそれを大きく弧を描きながら振り下ろす)


ヤヨイ「……」ブンッ


ガコォォォオン


チハヤ「くっ――空間凍結!」ザッ


ピシリ


ヤヨイ「……」スッ


チハヤ「……無駄にすばしっこいわね」



P「凄い攻防戦だ……」


アズサ「……そろそろね」


P「え?」


「チハヤ、まだてこずってるの?」




グニャリ



イオリ「アンタ、1課最弱の自覚をそろそろ持った方がいいんじゃない?」


チハヤ「……まだ出撃指令は出てないはずだけど」


P「い、伊織……?」



P(そこから現れたのは、伊織の姿だった――いやそれだけじゃない)


ユキホ「えへへ、あれが私たちのターゲット?」


マコト「……」コクリ


P「お前たち……」


P(ぞろぞろと現れる765プロのアイドル達――だが、それはいつもの姿とは違っていた)



アズサ「やっぱり、1課全員出撃するのね」


P「あずささん、これどうす――うわっ!」


アズサ「とりあえず、やれるだけのことはやりましょう」


P(あずささんは、俺を青白い四角い箱の中に閉じ込めると――そう言った)


アズサ「そこから出ないでくださいね」


P「……はい」



イオリ「あら、あんたもしかして――」


アズサ「外界特務1課――懐かしい響きね」


ユキホ「あー、もしかして”元”特務1課のミウラアズサさんですかあ?」


アズサ「元、ね……」


P(会話の中から垣間見えるあずささんの過去)


P(あずささんは……あの連中の仲間だったのか?)



ヤヨイ「……」ブンッ



チハヤ「くっ」



ズドォォォオオオン


イオリ「――もう、危ないわね!」


ヤヨイ「……スピードが違う」


P(そうしているうちに、やよいは千早に圧倒的な力の差を見せつけ、千早を床に叩き伏せていた)


イオリ「何やってるのよ……」



チハヤ「……」




ヤヨイ「次はだれ?」チラッ


イオリ「いいわ、私が相手してあげる」


P(こっちではやよいと伊織が対面し、睨み合う)


イオリ「あと――マコトもね」


マコト「……」


ヤヨイ「二人……」


P(加勢に入る真――それを見てやよいはやや顔を強張らせる)



ユキホ「いいんですか? お仲間さん、やられちゃいますよ?」


アズサ「やよいちゃんなら大丈夫よ……、それより――あなた自分の心配しなくてもいいの?」


ユキホ「えー? それどういう意味ですか?」



アズサ「――限界突破」



ゴゴゴゴゴゴゴ



アズサ「こういうことよ」



ユキホ「……へえ、それがあなたの”偶像”ですか」



P(偶像と呼ばれた、あの力――あずささんは周囲の物を浮かせながらこうつぶやく)


アズサ「すぐに方付けさせてもらうわ」


――――
――




ユキホ「それは何かの冗談ですか?」


シュン




アズサ「目で追えないスピードって、体感したことある?」




ユキホ「なっ……」


バギッ


ユキホ「かはっ……」ドッ


アズサ「うふふ」




ユキホ「そんな力があったなんて……」


アズサ「……これで終わりね」


ユキホ「くそっ――私も”偶像”を」


アズサ「ごめんなさいね、それはさせないわ」バギッ


ユキホ「ぐふっ――」


アズサ「うふふ――」


――――
――



P「あずささん――?」


P(限界突破という偶像を使ったあずささんは、その場から動こうとはしなかった)


P(それを見て、奥に佇む雪歩は高笑いを上げる)


ユキホ「アハハハハ――っ! 一体どんな夢、見てるんだろうね?」


P「お前、何を――」


ユキホ「……お前?」ジロリ


P「ぐっ……」


ユキホ「ユキホ様の間違いでしょ?」


P(俺は青い牢獄の中から、微かに雪歩の口が開くのを確かに見た)



ユキホ「――自由操作」ニヤリ


P(その瞬間――俺は意識を失った)


――――
――



ヤヨイ「……」ジッ


マコト「……」


イオリ「さて、さっさと片付けちゃいましょうかね」


ヤヨイ(……統合率はまだ申し分ないくらいある)


ヤヨイ(まだ、戦える――そう考えていた)



マコト「――部分掌握」


ガチン


ヤヨイ「なっ――」


ヤヨイ(その一言で、私の偶像は粉々に砕け散った)


ヤヨイ(一体――何をされた?)



イオリ「あら、お得意の偶像も使えないのね」


ヤヨイ「……」ギリッ


イオリ「やだ、怖い顔――そんな顔しても何も状況は変わらないわよ?」


ヤヨイ「……」ダッ


イオリ「――囚人」ニヤリ


ヤヨイ(私は駆けだしたはずだった……だけど、その前に放たれた偶像は私の過去を呼び起こした)


ヤヨイ「――っ!」


イオリ「いい気味ね」



ヤヨイ(鮮明によみがえる記憶)


――いやっ、やめて!


ヤヨイ(悪夢のような日々)


――この世界が憎い


ヤヨイ(消したい過去)


――笑顔なんて、私に入らない


ヤヨイ(そして……私は意識を手放した)



――――
――



――コードだけを抜き出して……、そうそう

――体はこのままサーバー567においておけばいい

――あとは帰って解析するだけね

――手間とらせたわね、ほんと

――でも、これで第四の扉が……

――ええ、そうね


――――
――




小鳥(昨日、皆の様子がおかしかったのもあり私は事務所の前で扉を開くかどうか悩んでいました)


小鳥「今日は……みんないつもの調子に戻ってくれてるかしら?」ウロウロ


小鳥「大丈夫よ、小鳥……勇気を出して」


小鳥「あの寒気の起きるようなことなんて、そうそうないんだから」



小鳥「ようし――みんな、おはよう!」ガチャリ



シーン


小鳥「……あ、もしかして今日も?」


小鳥(嫌な予感が当たってしまった――その時、私はそう思っていました)


小鳥(だけど、その静けさは別の原因があったのです)




春香「それって、どういう……」



アズサ「そのままの意味です――皆さんの力を貸してほしいんです」




小鳥(事務所には、凛としたあずささんの声が聞こえてきました)


小鳥(そして、もう一度あずささんは言葉を繰り返します)




アズサ「プロデューサーさんを取り戻すために」




つづく



一旦区切りです。
次はいつかけるのか分からないですけど、時間見つけて書き上げたいです。
ではでは。



小鳥「……どういうことですか?」


小鳥(事務所に来た私は、あずささんの言葉に反応するようにそう言葉にしました)


春香「小鳥さん……」


アズサ「……」


小鳥(あずささんは黙ったまま、ばつのわるそうに顔を俯かせていました)


小鳥(プロデューサーさんはどこに?)



小鳥「あの……プロデューサーさんは」


アズサ「……そこにいますよ」スッ



P「……」



小鳥「ぷ、プロデューサーさん!?」


小鳥(プロデューサーさんは何も言わないまま目を瞑り、じっと横たわった状態でいました)


小鳥(いったい何が……)




アズサ「今、プロデューサーさんは空っぽの状態なんです」


小鳥「空っぽ……?」


アズサ「ええ、つまり――”コード”が抜き取られた状態ということです」


小鳥「コード……?」


小鳥(私は繰り返し、口にしました――そのコードと言う言葉を)



アズサ「以前、私たちがここへ来た時に言ったサーバー198の話をしたと思います。……音無さんは不在でしたけどね」


ヤヨイ「……」


小鳥(私はみんなから聞いた話を思い出しながら、あずささんの続く言葉をじっと黙って聞いていました)


アズサ「私たちは、”コード”と呼ばれる――所謂、データを体に宿しています」


アズサ「このコードは、私たちを司る基礎情報であり、これがなくなった状態と言うのは……」


律子「死を意味する、でしたっけ」


小鳥「死――」


小鳥(私は絶句しました)



小鳥(だって、ここにいるプロデューサーさんはそのコードが……)


アズサ「死、とまではいきません。例えるならば、魂が抜け落ちたと存在とでも言いましょうか――自分の意志で何もできなくなるんです」


小鳥「そんな……」


美希「それで、ハニーがこんなことになったのもあずさたちのせいなんだよね?」


真「み、美希……」


小鳥(まるで敵に向けるかのような視線に私はたじろいでしまいました)



アズサ「……そうね、私たちの力では太刀打ちできなかったわ」


ヤヨイ「……」


貴音「それほど、敵が強大だった――ということだったのでしょうか」


アズサ「……ええ」


真「二人に勝てなかった相手に、ボク達が何かできるのかな……」


響「また、固められちゃうぞ」


亜美「これは、手詰まりですなあ」


真美「……だね」




ザワザワ


春香「あの――」


小鳥(みんながざわつく中、春香ちゃんの声はすごくよく通りました)



春香「私でも、何か力になれること……ありますか?」


千早「春香……」


アズサ「……今日は、それをみんなにお願いしに来たのよ」


小鳥(苦々しく、でも綺麗な表情であずささんは笑っていました)


アズサ「みんな、力になってくれないかしら?」



――――
――




律子「具体的には、それはどういうことになるんですか?」


小鳥(腕を組みながら、律子さんは眼鏡の奥の瞳を光らせていました)


アズサ「そうですね、やはりそれにはサーバー198の所有する力について説明しないとダメですね」


律子「なるほどね」


アズサ「ええ――まずは、サイバーリンクについて説明しましょう」


亜美「サイパン?」



アズサ「サイバーリンク、ね――これは、簡単に言えば人格乗っ取りなの」


雪歩「人格乗っ取りって……ちょっと怖いです」プルプル


アズサ「サーバーという、電脳空間の区分については説明したわよね。サイバーリンクと言うのは、サーバー間で『リンクコード』を介してその人格へ割り込むことなの」


響「んー? ちょっと難しいぞ」


小鳥(私も、頭が追い付かないわ……。歳かしら……)



千早「リンクコードというのは、どういうものなんですか?」


アズサ「リンクコード、これは『コード』に含まれる情報の一つよ。コードには自分を作り上げる情報のほかにも重要な情報が入っているの」


貴音「と言うことは、『さーばぁ』にいる人はみな『こーど』を持っていて、その中の『りんくこーど』の情報を読み取ることで『さいばぁりんく』出来るということでしょうか」


アズサ「その通りよ」



真美「お姫ちんが言うと、全部ひらがなに聞こえる不思議……」


亜美「亜美の頭も限界を迎えたようだ……」ガックリ


伊織「も、もうちょっと簡単に説明しなさいよ!」


美希「あふぅ……」zzz


春香「ち、千早ちゃん……」


千早「簡単に言えば、階段から転んで入れ替わるというある種コメディの一種にも似ているわね」


響「ああー、なんとなくわかったぞ」



アズサ「それと、サイバーリンクには『統合率』というものが存在するわ」


真「統合率、ですか?」


アズサ「……統合率は、サイバーリンクが保持できる割合のことよ」


律子「と、言うと?」


アズサ「統合率は、私たちがこっちの世界に留まるための指標でもあるの。……はじめ、統合率はおよそ80くらいから始まるわ。ここから別のサーバー内で活動することで統合率は徐々に下がっていく。統合率が下がればサイバーリンクも解けて、元の人格に戻るのよ」



真「また難しい話だ……」ガクリ


響「でも、自分はちょっとずつ分かってきたぞ。つまり、統合率って別のサーバーの人との相性ってことでしょ?」


アズサ「そうね、理論的に言えば――もともとの人格を抑え込んで体を借りているから、その人格が時間経過によって徐々にリンクを解こうとしてくるということになるかしら」


春香「うーん……?」


千早「統合率が下がるのは、時間経過だけということですか?」


小鳥(あっ、それ私も聞こうと思ってたのに……)



アズサ「いえ、それは違うわね。……普通の活動内ではそれで正しいんだけど、私たちの持つ『偶像』というものの使用には統合率を低下させる原因になるの」


雪歩「偶像……?」


アズサ「いわゆる、能力のことよ――私の偶像は『限界突破』。これは自分の力を底上げする能力よ。……最も、これは使うだけでかなり統合率を減らしちゃうのが難点だけどね」


ヤヨイ「……私のは『塊力』。自分の欲しい大きな塊を構築できる」


小鳥(塊力に限界突破――すごくそそられるわね。……私にも偶像ないかしら?)



アズサ「ここまで話してきたサイバーリンク、そして偶像の二つには――マスターコアと呼ばれる力の源が関係しているわ」


「「「「マスターコア?」」」」


小鳥(みんなの声がきれいにはもりました)


アズサ「ええ、このマスターコアというものがコード内に組み込まれているの――それが偶像や、サイバーリンクするのに必要なコアになるのよ」


小鳥(そこまで話して、一度あずささんは話を切る様にして皆の顔を見比べました)




アズサ「さて、ここまでは前説――これから話すことが本題よ」


小鳥(深刻そうな顔で、あずささんは言葉を続けます)





アズサ「この中からサーバー198に行く人を選びたいと思うの」





小鳥(みんなが目を丸くしました――もちろん私も)



つづく

説明だけで終わってしまった……。
次回はサーバー198編になります。
気長に待っていてください。
以下、用語説明入ります。


『用語解説』


・電脳空間:P達のいる世界のこと。電脳空間は種々に分かれており、各種『サーバー』と呼ばれる。P達はサーバー567、アズサ達はサーバー198の世界で過ごしている。


・コード:電脳世界に生きる住民たちが持つ固有の情報。『リンクコード』と呼ばれる、サイバーリンクに必要な情報も含まれている。


・サイバーリンク:意識を別のサーバーの人間にハックされること。


・統合率:サイバーリンクが保持できる割合のこと。統合率は時間経過などで徐々に落ちていく。また、偶像を出す場合にはその力に応じて統合率はさらに低下する。


・偶像:サーバー198での特殊能力のようなもの。P達の世界(サーバー567)では統合率を低下させて発現させる。


・マスターコア:サイバーリンク及び偶像を発現させる源となるエネルギー。


・第四の扉:サーバー198の目的であり、Pが攫われた原因でもある。現状の内容は不明。



小鳥「ちょっ、え? ど、どういうことですかそれ」ワタワタ


小鳥(つまりつまりになりながら私はそんなことを口走りました)


小鳥(話が飛びすぎて、よくわからないわ……)


亜美「ピヨちゃんの言う通りだよ! 亜美たちにも分かる様に説明してよね!」プンスコ


真美「そうだそうだー!」ブンブン


アズサ「……ちょっと早急すぎたかしら」


小鳥(あずささんは頭を抱える中で、伊織ちゃんがずいっと眉を寄せながらその姿に指さしました)



伊織「そもそも、アンタ達ってそのサーバー198とか言ったっけ? そいつらとどういう関係なのよ。普通、アンタ達もアイツのことを狙わないとおかしくない?」ビシッ


響「うーん、確かに……」


美希「なんでミキ達のこと助けてるの?」


千早「それに、私たち……また体を乗っ取られたりはしないんですか?」


雪歩「うぅ……私ノリノリで敵役してたなんて、そんなの信じたくないです」キュッ


真美「まあ……ゆきぴょん敵役わりと似合ってるよね」コソコソ


雪歩「そ、そんなあ!」


春香「私なら、そんなこときっとできないかなあ……」


貴音「春香、あまり嘘はつくものではありません」




ガヤガヤ





小鳥(伊織ちゃんを筆頭に、みんなが思い思いのことを言ったためか事務所はすぐに賑々しい空間に変わっていました)


小鳥(こんなとき、プロデューサーさんがいたら……)


律子「ちょっと、みんな落ち着いて――」


ヤヨイ「サーバー198の目的はサーバー全体に悪影響を与えようとしてる」


小鳥(律子さんがみんなを落ち着かせようとした矢先、やよいちゃんはそんなことを呟きました)


小鳥(悪影響……? どういうことかしら?)



真「それは……どういうこと?」キョトン


ヤヨイ「……」モソモソ


響「また食べてるぞ……」


美希「あー! それミキのおにぎりなのー! 食べちゃダメ―!」


千早「美希、あんまり怒ったら――」


やよい「……」チラッ


美希「やよい、いくらミキのおにぎりが美味しそうだからって食べちゃダメでしょ? やよいはもやしおにぎりでも食べてればいいの!!」ズビシッ


やよい「……うぅ」ポロポロ


亜美「あー! ミキミキ、やよいっち泣かせたー!」


伊織「またこのパターン……」ガクリ


千早「春香、もやしおにぎりって何かしら?」


春香「そこはあんまり触れない方がいいと思うよ……たぶん」

※すいません、間違えました。



真「それは……どういうこと?」キョトン


ヤヨイ「……」モソモソ


響「また食べてるぞ……」


美希「あー! それミキのおにぎりなのー! 食べちゃダメ―!」


千早「美希、あんまり怒ったら――」


ヤヨイ「……」チラッ


美希「やよい、いくらミキのおにぎりが美味しそうだからって食べちゃダメでしょ? やよいはもやしおにぎりでも食べてればいいの!!」ズビシッ


ヤヨイ「……うぅ」ポロポロ


亜美「あー! ミキミキ、やよいっち泣かせたー!」


伊織「またこのパターン……」ガクリ


千早「春香、もやしおにぎりって何かしら?」


春香「そこはあんまり触れない方がいいと思うよ……たぶん」



小鳥(また話が逸れてる……)


小鳥(と、私が思っていた時あずささんは極めて真剣な顔でこんなことを言いました)


アズサ「私たちは、サーバー198のやり方に疑問を抱いているの――上層部が何を考えているのかは分からないけど、本来なら別サーバーへの干渉は避けるべきなのに……今回の任務はあまりにも強引すぎるわ」


小鳥「それは、つまり……?」


アズサ「私たちは政府のやり方に反旗を翻す、いわゆる反逆者みたいなものよ」


貴音「反逆者、ですか」


アズサ「そうね――でも本来は198内で活動をするだけだったの。うーん、まあオブサーバ―みたいなものね、秘密裏に上層部の行動を監視してそれを裏ルートを介して情報を流す、そういう役割を担っているわ」



律子「……なんで、そんなことを?」


アズサ「……それが、ヤヨイちゃんの言葉の真意よ」


小鳥「……」



ヤヨイ『サーバー198の目的はサーバー全体に悪影響を与えようとしてる』



小鳥(さっき、やよいちゃんはこんなことを言っていました)


小鳥(でも、その言葉の意味はまだつかめていません)



アズサ「あんなにプロデューサーさんの『コード』を欲しがる理由、それが『第四の扉』に繋がる理由、それが私にはまだ分からない」


小鳥「……」


アズサ「今回、私たちが直接サーバー198を相手にしたのは初めてだったの」


律子「そうなんですか?」


アズサ「ええ、これまではあくまで身を隠して行動していたんです。……だけど、今回のこの動きは何か嫌な予感がすると思って――だから、こうやって身を挺してプロデューサーさんを守ろうと思ったんですけどね」


ヤヨイ「……」



伊織「思ったよりも敵が強くて、やられちゃったわけね」


律子「こら、伊織!」


亜美「いおりん、言いますなぁ」


アズサ「伊織ちゃんの言う通りよ。さっき、貴音さんにも言われたけどね」


貴音「……」


アズサ「私たちは自分たちの力を過信しすぎていた。そして、敵にコードが渡ってしまった。慢心が全ての原因ね――ほんと、何もできなかったわ」


春香「あずささん……」



アズサ「それと千早ちゃんがさっき言ってたこと――恐らく、敵はもうサイバーリンクをしてくることはないわ」


千早「それは……どうしてですか?」


貴音「……もう、する必要がないということでしょうか?」


アズサ「その通りよ。彼女たちの目的は既に達成した。だから、もうこっちへ来る用はないの」


響「でも、あずさ達をやっつけにきたりはしないのか?」


アズサ「私たちはもともと、198の住民だから。リンクが途切れて198へ戻ってきたときにでも適当な処分をするつもりだと思うわ」


真「なるほど……って、それ大変じゃないですか!」ワタワタ


アズサ「……そうね」



律子「何か対抗策は、ないんですか?」


小鳥(私も律子さんと同じ気持ちでした)


小鳥(だけど、この現状を打開できる策――そんなものが本当にあるの?)


アズサ「私がここへきて、最初に言ったこと覚えてる?」


小鳥(あずささんは、そう言うと人差し指を立てて笑いました)



アズサ「あなたたちの力を貸してほしいって」




亜美「亜美たちの力? どゆこと?」


アズサ「……そうね、簡単に言えば――サーバー198へ一緒に来てほしいの」


真美「えーと、誰が?」


アズサ「そうね、あなた達の中から5人ほどってところかしら」



「「「「「「「ええええええええっ!?」」」」」」」



響「そ、それどういうこと!?」


真「ボク達、ただのアイドルなんですよ!?」


アズサ「ええ、それは承知の上よ」コクリ


律子「……もう、何が何だか」クラリ


小鳥「り、律子さん、大丈夫ですか?」


貴音「面妖な……」



アズサ「プロデューサーさんのコードを取り戻すために、私たちには仲間が必要なの」


ヤヨイ「人手が足りてない」


春香「って、言われても……」


美希「ミキ達、何にもできないよ?」


雪歩「それに、私たちがどうやって他のサーバーへ、い、行くんですか?」


真「何か方法でも?」


アズサ「一応、その準備はしているわ」コクリ



小鳥「それは一体……」


アズサ「さっき私が言った5人と言う言葉、そこに意味があるの」


伊織「もうわけわかんないわね! もったいぶらずにさっさと言いなさいよ!」


アズサ「説明をするのはその5人だけで十分よ、まずは先に5人を選ばないと――」


「話は聞かせてもらったよ」


小鳥(そのとき、誰かの声が事務所内に響き渡りました)


小鳥(この声は……)


高木「5人を選出する方法は、私が取り決めさせてもらっても構わないかい?」


小鳥「社長……」


小鳥(私は自信満々に登場した社長を見て、軽くため息を吐きました)



つづく

話が先へ進まない……。
年内は多分これでラストなので、続きはまた年明けになると思います。
気長にお待ちください。
ではでは



高木「うぉっほん、三浦君の話では――確か我が765プロダクションから5人のアイドルを選出するということで間違いなかったかな?」


アズサ「ええ、その通りです」


真美「ゆきぴょん、なんで社長が取り仕切ってんの?」ボソボソ


雪歩「えっ……そ、そんなこと私に言われても」ボソボソ


亜美「自分、社長が今までどこで何していたのかの方がきになるぞー! なっ、ハム蔵」ポンポン


響「じ、自分ハム蔵じゃないぞー! っていうか、勝手にモノマネするなー!」ウガー


高木「まあまあ、そう言わないでくれたまえ。私はこれまで出張に出かけていたんだ、まさかこんな事態になるとは思いもしなかったがね……」


小鳥(そんなこと私一度も聞いていないんですが……)



小鳥(社長の言っていることが正しいかどうかはわかりませんが、ひとまず耳を傾けることにしました)


高木「私のことは、一旦忘れてくれたまえ。それよりも、だ。今は、早急に5人のアイドル達を選考しなければならない」


ヤヨイ「……」モソモソ


小鳥「どうやって決められるんですか?」




高木「無論――ここはくじ引きだろう」



小鳥(私は久しぶりに眉間にしわを寄せました。ダメよ小鳥、落ち着きなさい……皺が残っちゃうじゃない……)




律子「えーと……社長?」


高木「なあに、既に私が用意してきたくじ引きがそこに置いてある。迅速さを極めるこの状況で、素晴らしいと思わないかね?」


アズサ「ええと、ですね。実は私、既に――」


真美「くじ引きだー!」


亜美「今年の運勢占っちゃお!」


律子「こら! あんたたち勝手にひかないの!」




ガヤガヤ


小鳥(亜美ちゃん、真美ちゃんを筆頭に事務所内は再び騒がしくなろうとしていました)





ヤヨイ「緊張感が足りない」




小鳥(――ですが、それまでお菓子を食べていたやよいちゃんが立ち上がり、鋭い眼光で私たちを睨みつけました)





亜美「え、あ……」チラッ


真美「ご、ごめん……やよいっち」ペコリ


ヤヨイ「……そもそも、今は遊んでいるこの一秒も惜しい状況」


ヤヨイ「今もこの世界のプロデューサーのコードは解析されているかもしれない」


ヤヨイ「コードが解析されたら、そこから第四の扉に関する情報を手に入れる――そうなれば、この世界だけじゃない、各サーバー間への影響は計り知れない」


ヤヨイ「何が起こるかもわからない状況で、なんでそんなに悠長にしていられるのかが分からない」ジロリ


高木「……」


ヤヨイ「勝手な行動をとって、グループの統率を乱すことは戦いの中では死を意味する――そんなことも分からないの?」






高木「…………申し訳ない」ペコリ



小鳥(さっきまで、勢いづいていた社長はやよいちゃんに怒られるとしょんぼりと顔を俯かせて一度だけ頭を下げていました)


小鳥(中学生に本気で怒られてる会社の社長って……なんなのよ……)




アズサ「ええと……いいかしら?」


シーン



小鳥(完全にしゃべってはいけない空気になってしまった事務所内に、あずささんの声だけが鮮明に響いていました)


小鳥「どうかしましたか?」


アズサ「ええ、実はさっき言いそびれちゃったんですけど……、実は既に私の方で5人の候補を決めてきているんです」


小鳥「……それは」


小鳥(私は内心疑問を抱いていました)


小鳥(あずささんが既に候補を選んできていたとすれば――なぜ、初めから選出するということを言ったんだろう?)


小鳥(そんなことを思っていた矢先、先にあずささんのほうから補足の説明が入りました)



アズサ「候補、というのはあくまで私が決めた候補のこと。最終的な決断をするのは、その本人よ」


伊織「どうして、そんな回りくどい言い方するのよ。元々、連れていくつもりならそう言えばいいじゃない」


小鳥(伊織ちゃんの返答の後、あずささんは目を瞑りじっと押し黙った後、淡々とこう告げました)


アズサ「……あなた達がサーバー198へサイバーリンクをすることは、リスクがかなり高いかもしれないの」


春香「リスク……ですか?」


千早「それは、どんな――」


アズサ「コードが消失するかもしれない、ということよ」


小鳥(一瞬、時間が止まったかのように辺りは静まり返りました)




アズサ「サイバーリンク自体の危険性もあるけれど、サーバー198での刺客たちとの交戦があった場合、正直なところ私たちは何が起きるか予測もつかないわ」


真「それってどういう意味ですか……?」


アズサ「今回、あなたたちのプロデューサーがコードを抜き取られてしまったのと同様に、向こうのサーバーでもあなたたちのコードが抜き取られる可能性も十分に考えられる」


響「そ、そんな!」


真美「で、でもすぐに取り返せば――」


アズサ「残念ながら、今の私たちの技術では交戦中のコードの奪取は不可能に近いわ。向こうには、拘束系の偶像を持ったメンバーもいることがこの前の戦闘で分かっている……力や技術面で圧倒的に不利な位置に立たされているの」



アズサ「それに、今回サーバー567からの助力を受けると言うのはある種の賭けでもあるの。向こうは、確実に私たち二人しかいないと思って油断しているはず……そこに、あなたたちの中の5人の力を借りることで、その油断をつこうというのが大まかな作戦よ」


貴音「……成功の見込みはどれくらいを考えているのですか?」


アズサ「……およそ、10パーセントというところかしら」


美希「思ってたより少ないの……」


アズサ「それに、これは私の考えたメンバーであれば、という仮定での話よ」


千早「……それにそぐわない場合ではどうなるんですか?」


アズサ「3パーセント以上はありえないわね」


小鳥(具体的な数字を出され、私は即座にうろたえてしまいました)



真「その5人っていうのは……」


小鳥(真ちゃんの言葉を受けて、あずささんは指を指し名前を呼び出しました)


アズサ「まずは、美希ちゃん」


美希「み、ミキ?」


響「美希かあ……」


アズサ「それから、響ちゃん」


響「えっ!? じ、自分!?」


アズサ「……そして、貴音さん」


貴音「……なるほど」



アズサ「あとは……千早ちゃん」


千早「私、ですか?」


小鳥(千早ちゃんは少しだけうろたえるように目を見開いていました)





アズサ「最後の一人は――」





小鳥(固唾を飲み込んで、みんなあずささんの言葉を聞いていました)


小鳥(最後に選ばれたのは――)




アズサ「伊織ちゃんよ」




伊織「…………わ、私?」





小鳥(最後に選ばれた伊織ちゃんは、自分を指さしてその場で固まっていました)



小鳥(……ど、どうなるのこれ?)






つづく



新年あけましておめでとうございます。
ものの見事に選出メンバーを予想されていましたね。
そろそろ次の章へいきたいものですが……いつになるものやら。
ではでは、失礼します。



アズサ「話の続き、いいかしら?」


小鳥(あずささんは動揺もなく、凛とした声でそう告げました)


小鳥「どうして、このメンバーを?」


小鳥(私の疑問は、みんなも抱いていたらしく同様に頷いていました)


アズサ「そうね、こればかりは運としか言いようがないわ」


春香「運……ですか?」


アズサ「ええ、ヤヨイちゃんみんなにあのデータを見せてあげて」



ヤヨイ「分かった」コクリ


小鳥(あずささんがそう言うと、やよいちゃんは右手をかざす――すると、そこには四角い画面が飛び出してきた)



星井美希・・・82.1
如月千早・・・72.0
四条貴音・・・69.1
我那覇響・・・56.0
水瀬伊織・・・53.0



亜美「やよいっち、こんなこともできるんだ……」


真美「ちょっとかっこいいかも……」



千早「これは、何ですか?」


アズサ「これは……各人のマスターコアのデータよ」


響「どういうこと?」


小鳥(私もよくわからない……)


アズサ「簡潔に言えば――サイバーリンクの適正を示したデータということね」


伊織「なによそれ」



響「あっ! もしかして、この数値が大きいほどサイバーリンクしたときの統合率が高いってことじゃないか?」


アズサ「その通りよ、響ちゃん」ニコリ


雪歩「響ちゃん、よくわかるね……」


響「なんとなく、そんな気がしたんだ! 自分完璧だからな!」ヘヘーン


小鳥(すごくうれしそう……)



アズサ「さっき示したデータは、サイバーリンクでの統合率に直結する数値なの。つまり、名前の横にある数値がそのまま統合率に影響するのよ」


ヤヨイ「高ければ、高いほど長い間サイバーリンクできる」


真「あ、そっか。だから選ばれた五人っていうのは、長時間向こうで活動できるってことになるんですよね?」


アズサ「ええ、だからこその選抜なの――いくらサイバーリンクをしたとしても、短時間しか活動できなければ意味がないからね」



律子「ちなみに、一番数値の低いのは誰なんですか?」


ヤヨイ「……」ピッ




天海春香・・・4.3




「「「「「「…………」」」」」」


春香「……」


千早「春香……気を落とさないで」


美希「まあ、春香らしいの」


貴音「あまり、気にするものではありません」


春香「うん、みんなありがとう」


小鳥(なんだろう、すごく見てられない光景だわ……)




アズサ「とりあえず、私からの言葉はここまでよ。ここからは――あなた達に問いかけることになるわ」


小鳥(その言葉の真意、つまりそれは選ばれた五人がその意思があるのかということでした)


小鳥(まだ年端もいかない女の子たちにそんな決断は――)




美希「ミキやるよ」



小鳥(ですが――美希ちゃんの真っ直ぐな一言は、みんなをざわつかせました)



アズサ「向こうでは何が待っているかもわからない、何が起きるかもわからない――それでも?」


美希「うん」コクリ


小鳥(あずささんの揺さぶりにも動じることもなく、美希ちゃんはこう付け足しました)


美希「だって、ハニーを助けに行かなくちゃいけないんでしょ? だったら、ミキ行かなくちゃ」


小鳥「美希ちゃん……」


貴音「そうですね、私も美希と同じ気持ちです」


響「自分も、美希に賛成だねっ!」


小鳥「みんな……」


小鳥(三人は強い意志を示す様な瞳を携えていました)



千早「私も……行くわ」


小鳥「千早ちゃんも……?」


千早「ええ、プロデューサーのこと連れ戻しに行かないといけませんから」


小鳥(いつもは歌のことに一生懸命な千早ちゃんだけど、このときは確かにプロデューサーへの気持ちが彼女を動かしていたのかもしれません)


小鳥(そして――もう一人)



伊織「……」


亜美「いおりん、大丈夫?」


真美「ヤだったら、真美が代わりに行くよ?」


小鳥(いつもはからかってばかりの二人でしたが、伊織ちゃんを気遣ってかそんなことは微塵にも感じませんでした)


小鳥(でも、俯く伊織ちゃんは拳を握りしめるとこういってのけたのです)




伊織「……行くわよ、私も――アイツを連れ戻しにっ!」



小鳥(強がりでもなんでもない、この言葉は伊織ちゃんの心の声――)




アズサ「決まりね」


ヤヨイ「……それじゃあ、すぐに準備を」



小鳥(私は一抹の不安を感じていました)


小鳥(これから彼女たちに起こる何か――そして、不思議な胸騒ぎ)



バチバチ


ヤヨイ「すぐにサイバーリンクを始める――リンクコードは読み取った、あとは個々にコードへデータを送るからそれに従ってリンクして」


響「えっ、も、もう始めるの!?」


美希「意外とスムーズなの」


伊織「何の説明もないじゃないっ!!」


アズサ「ごめんなさいね、説明に時間を割きすぎたみたい――詳細は向こうで作業をしながら話すわ」



千早「あの、まだ疑問に思っていることがいくつかあるんですが――」


ヤヨイ「それも後、ひとまずすぐに始める」



バチバチバチバチ



小鳥「きゃっ!」


春香「こ、小鳥さん大丈夫ですかっ!?」


真「す、すごい衝撃波が……」


律子「ちょっと! なんで事務所で――」


ヤヨイ「リンク完了まで――3,2,1……」



小鳥(やよいちゃんのカウントダウンが0になった瞬間、私たちはまばゆい光に包まれました)



小鳥(すべてをかき消してしまうようなそんな光に――)





バチバチ


小鳥(しばらくして、光が収まったころその中心から聞きなれたイントネーションの声が聞こえてきました)



やよい「みなさん、なにしてるんですか?」


あずさ「あら~、なんだかずっと眠ってたみたいな感じねえ」



小鳥「二人とも――リンクが解かれて……あっ」



千早「……」


響「……」


美希「……」


貴音「……」


伊織「……」



小鳥(その傍らには、ピクリとも動かない五人の姿がありました)


小鳥(みんな……本当に別の世界に――)


小鳥(……こうなってしまった以上、私は祈るしかありませんでした)


小鳥(みんな、無事でいてね――そんな儚い祈りを)




つづく


ようやく、次回から198編に突入します。
次回までちょっと日数が空いてしまうかもしれませんが、ご了承ください。
ではでは。



――サイバーリンクは……高負荷技術……

――別サーバーの人間が行えば……


千早(誰かの声がおぼろげに聞こえてきた)


千早(何が起きたの? 薄れていた意識が少しずつ戻っていく感覚)


千早(――そうだ、あずささんと高槻さんに連れられて私は皆と別のサーバーへ向かったはず……)


千早(ゆっくりと、記憶が戻っていく)



千早「んん……」


千早(辺りを見渡すと、そこはベッドの上だった――私はキョロキョロと辺りを見渡す)


アズサ「千早ちゃん、目が覚めたのね」


千早「あずささん……?」


千早(私は酷く呆けた様な声を出した)


千早「……なんで黒い服を?」


アズサ「私たちはこっちではこれが標準服なのよ」


千早(おどけてみせたあずささんは襟元を掴んでそう言ってのけた)


千早(黒いコートに身を包んだあずささんは、やけに大人びて見えた)



千早「あの……もう、ここは別のサーバーなんですよね?」


千早(未だにあまり実感のない私は、そう尋ねかけた)


アズサ「ええ、そうね」


千早「……他の皆は」


アズサ「そこで寝ているわよ」


千早(あずささんがそう言って、指を指した先――私はそれを見て首をかしげる)


千早「あの……何もないですけど」


千早(そう、そこには何もなかった)





千早(ただ――ベッドの上に、『ガラクタのような人形』が置かれている以外は)





アズサ「もうすぐ起きるわ」


千早「え――?」


「ううん……あれ? ここって」


千早(その時、傍に置かれていた人形の内の一体が身を起こし――キョロキョロと私と同じく辺りを見渡していた)


千早「その声……もしかして、我那覇さん……?」


響「ん? 千早?」



千早(我那覇さんと思わしき声がその人形から届く――これは一体)



アズサ「……千早ちゃん、驚いているようだけどあなたもそうなのよ」


千早「!」


千早(私はあずささんにそう言われると、窓に映る自分の姿を見た)




アズサ「FTP1003型アンドロイドよ――最も、かなり古い型番だけど」




美希「う、うーん」ゴソゴソ


貴音「はて……?」キョトン


伊織「んん……」


千早(みんなが姿を起こす頃、私は驚きを隠せないでいた)


千早(なんでこんな姿に――)



――――
――




響「うがー! 自分達ロボットになっちゃったのか!?」


美希「あふう……なんだか動きづらいの」


貴音「メンヨウナ」


伊織「貴音、別にそれっぽく話さなくてもいいのよ」


千早「あの……これは、何が起こっているのですか?」


アズサ「そうね……まず、サイバーリンクの概念を覚えているかしら?」


響「えーっと、確かリンクコードを……なんだっけ?」


伊織「随分長い間経った気もするから忘れちゃったわね、三週間は経ったんじゃない?」



アズサ「……もう一度説明すると、サイバーリンクと言うのは簡単に言えば『別サーバーへリンクコードを介して訪れる』ことよ」


千早「567サーバーにいたときは『サーバー間で『リンクコード』を介してその人格へ割り込むこと』と言っていましたよね? 何か意味合いが違う気がするんですが」


アズサ「どちらも同じ意味あいよ。言い方に語弊があるみたいだけど、あくまでサイバーリンクは『そのサーバーにいる「誰か」のリンクコードさえわかれば、その「誰か」の中に入ることが出来る』」


響「だから、こっちの世界のチハヤ達が自分たちの世界に来たんだよね?」


貴音「ならば、本来ならば私たちがこちらの世界へ来るときに、わたくしならばこちらの「さーばぁ」の「シジョウタカネ」へと「さいばぁりんく」をするのでは?」


アズサ「それは誤りよ――サイバーリンクは、あくまでそのリンク先の「誰か」のリンクコードさえ分かればいいのだから」




伊織「ちょっと難しいわよ……!」


アズサ「ごめんなさいね、でも説明をするにはこれくらいしか言えないから」


千早「つまり、今回私たちがこちらの世界へ来るために用意された「器」というのが……このアンドロイドということになるんですか?」


アズサ「その通りよ、既にリンクコードを知りえているアンドロイドはこっちのサーバーでは敵勢への侵攻などで使われる技術なの」


伊織「でも自分の姿がロボットなんて……」


響「なんか嫌だぞ……」



アズサ「ごめんなさいね。それに、こっちで用意できる個体数が5体しかなかったから選別なんて形をすることになってしまって……」




千早(申し訳なさそうに俯くあずささんを傍に私は今の現状を飲み込もうと目を閉じた)


千早(アンドロイド……別サーバー……そして敵勢力との戦い)


千早(プロデューサーを取り戻すために、私たちはこっちの世界へと訪れた――そう、すべてはあの人のため。私は必ず取り戻してみせる)


千早(それまで……待っていてください、プロデューサー)




つづく


気が付いたら3週間以上放置してしまった……。
ようやく書きたいところに入ってきたので、読んでいる方が居ればまた気長にお待ちください。
ではでは。

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