男「タイムマシン?」 (23)

キーンコーンカーンコーン

男「もう下校時間か。そろそろ切り上げないとな」

幼「ーーところで君は、子育て三歳神話というものを知ってるか」

男「どうした急に。次はお前の番だろ早くしろよ」

幼「つれないな。いつもみたいにお喋りしてくれないの?」

男「賭けてる物が物だからな。ほらーー右と左、どっちを引くんだ?」

幼「次で勝負も決まる。このまま終わらせてしまうのも味気ないだろう。で、知ってるのか?」

男「聞いたこともないな」

幼「子育て三歳神話というのはね、三歳までの教育でその人の性格や思考パターンが粗方決まってしまうという胡散臭い説だ。三つ子の魂百までという奴だね」

男「へえ」

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幼「……さっきから返事が味気なさ過ぎるぞ」ムッ


男「こういう雑談に"揺さぶり"を混ぜてくるのがお前の常套手段だからな」

幼「ふふっ。勘繰るようになったか。君も成長したね」

男「ああ、もう引っ掛からないぞ」

幼「でもそれは誤解だ。今のは揺さぶりなんかじゃない。勝利宣言の前振りだよ」

男「もう勝ったつもりでいるのか。悪いが今回に限っては負ける気はないぜ。勝たせてもらう」

幼「大した自信だね。念の為に言っておくけど、泣きごとを言っても罰ゲームは実行するからそのつもりで」

男「当然だな」

幼「ーー左のカードがジョーカーなんだろう?」

男「……だからその手には乗らないって」

幼「私は子育て三歳神話には否定的なんだがね。どうも君を見てるとあながち間違ってないんじゃないかと思えてくるよ」

男「どういうことだ?」

幼「ほら。幼稚園の頃、君は私のりかちゃん人形を隠してしまったことがあっただろう」

男「あー。……あったな。そんなことも。すぐにお前に見つかってフルボッコにされたっけ」

幼「君が不自然なくらいに押入れを避けていたから、すぐにピンと来たんだよ。案の定、りかちゃん人形は押入れに隠されていた」

男「まさか」

幼「ふふっ。人の癖というものは変わらないものだね。さっきから君はそのカードだけ不自然なくらいに見ていない。これじゃ丸分かりだよ」

男「ま、待ったーー」

幼「泣き言は聞かないと言っただろう」ニヤリ

ーー帰り道

男「くっそぉー。あと少しだったのに」

幼「あと少しって……あれでか?」

男「ああ。もし調子が良ければ俺が勝ってたよ」

幼「潔く諦めなよ。今までだって、君が私に勝てたことなど一度もないじゃないか」

男「一度もないってーーお前と賭けをするのは今回が始めてだろう」

幼「賭けに限らず。あらゆる意味で、君は私に負け続けてるじゃないか」

男「酷いことをいうな」

幼「でも事実だろう」

男「事実だけど……」

幼「まあ負けからには、ここからーー買い物まで、とことん付き合ってもらあうよ」

男「……」

男「あっ」

幼「え? どうかしたの?」

男「料理なら勝ってる」

幼「はい?」

男「料理なら幼より俺の方が美味いぜ」

幼「……それは比較検討してみないと分からないだろう」

男「幼のなら昔、何度か食べたことがある」

幼「当時と今とじゃ訳が違う。料理の腕も上達しているかもしれなくはないじゃないか」

男「上達したの?」

幼「……」

幼「それにしても男とこうして二人っきりで帰るだなんて久しぶりだよね」

男「なにさらっと聞こえなかったフリしてんだ」

幼「相変わらず空気が読めないな。いい加減、流れを止めずに会話のキャッチボールが出来るようにならないと」

男「お前が話をむりに流そうとしてるだけだ」

幼「む」


幼「それにしても男とこうして二人っきりで帰るだなんて久しぶりだよね」

男「おい」

幼「それにしても男とこうして二人っきりで帰るのなんて久しぶりだよね」

男「幼が壊れたレコードになってしまった……」

幼「君が壊したんだ。責任取れ」

男「誤解を招く言い回しをするな」

幼「ふふーー本当に懐かしいな。君とこういうやりとりをするのは。君はそう思わないの?」

男「……いや。懐かしいし、感慨深くはあるよ。正直」

幼「だね」

男(結局上手く話を流されたな)

幼「……そういえば、今日はいないのか」

男「いないって?」

幼「昼となく夜となく君を追いかけ回している子だよ」

男「ああ。後輩のことか」

幼「そうそう。その子だ。いつもなら放課後もべったりだろうに」

男「確か野暮用があるとか言ってたな」

幼「野暮用、ね」

男「一応誘ってはみたんだがな。今日は幼もいるから一緒に帰ろうぜって。そしたら逃げやがった」

幼「む、なんだいそれは。何故私はそんなに怖れられているんだ」

男「決して怖れられてはいないと思うぞ」

幼「じゃあ嫌われてるって言いたいの?」

男「そうは言ってない」

幼「だって私、後輩ちゃんと一度も会話した記憶がない」

男「まあ学年が違うから接点も少ないのは当然だろう」

幼「君と一緒にいる時に何度か顔を合わせているのにも関わらず、だ」

男「そ、それは……」

幼「…………というか

幼「誘った、んだな」

男「え?」

幼「いやなに。君が誰かを誘うのは珍しいと思ってね」

男「そうでもないと思うが」

幼「幼馴染の私が言うんだから間違いない。君が誰かに積極的に関わる所なんて初めて見たぞ」

男「それは言い過ぎだろう」

幼「…………まあそれはともかく」

男「?」

幼「お幸せに」

幼「私は……二人のこと、お、応援してるから…………グスンっ」

男「いや違う違う違う! 違うんだって。お前は誤解してる」

幼「……何を誤解してるというんだ」

男「……後輩は俺のことなんて相手にしてないよ」

幼「なるほど宗教勧誘か」

男「どうしてそうなる!?」

幼「でないと後輩ちゃんのような可愛い美少女が、君をストーキングするわけない」

男「だからって宗教勧誘は酷いだろう。勧誘されたことなんて一度もないぞ」

幼「違うのか?」

男「違うに決まってる。宗教勧誘でもないし高価な壺を売りつけられたりもしない」

幼「なら遺産目当てだね」

男「遺産!? 流石に十代で死ぬ気はないぞ!?」

幼「十代でも結婚出来るし、新婚でも配偶者が死ねば遺産は相続出来る。これが後輩ちゃんの狙いなんだろう?」

男「それ俺絶対殺されちゃってるじゃん!」

幼「大丈夫。君が不審死したらちゃんと証言するから」

男「どうせなら不審死する前に助けてくれ……」


幼「おやおやどうしたんだいさっきから。君がそんなに取り乱すなんて珍しいじゃないか」

男「それはさっきお前が泣きそうにーーって、分かってて言ってるんだろ」

幼「さて、どうだろうね」

男「…………もしかして怒ってる?」

幼「何を言ってるのかよく分からないな。怒る? 何で私が君みたいなのに怒らなくちゃいけないんだ。時間と労力の無駄じゃないか」

男「言葉の節々に棘を感じる……」

男「……人脈作りだってさ。後輩は俺をダシにある人脈を作りたいんだと」

幼「それこそありえないだろう。友達が少ない君に構っていたらむしろ人が離れていく一方じゃないか」

男「さっきから酷い言われようだなおい」

幼「下手にオブラートに包まれるよりきっぱり言っ切られる方が楽なものだよ」

男「それは一理あるけども」

幼「ああ、そうか分かったぞ。"友"目当てか」

男「…………黙秘権を使わせてもらう」

幼「黙っている時点で答えを言っているようなものだよ。……だがそうか。すっかり忘れていたが、そういえば奴はかなりのイケメンだったね」

男「内面に目を瞑れば、な」

幼「……いや待て。後輩ちゃんの男へのつきまといっぷりは尋常じゃなかった。いくらなんでもそこまでするかな、普通」

男「そういう奴もいるって」

幼「そう、なのか? あまり納得がいかないが……」

男「まあ幼が俺にことある毎に付き合ってくれんのと似たようなもんだ」

幼「……はい?」


男(しまった、地雷を踏んでしまった)

幼「……え、いや、待って。ちょっと待ってて。今言いたいことをまとめてるから」

男「お、おう」

幼「……えっと、つまり君はあれか? 私がよく君を連れ出したり、こうして買い物に誘ったりしてる理由を"友目当て"と言いたいのか? 私があんなんを狙っていると?」

男「待て待て。そんなことは言ってない」

幼「ふむ。そうか、遺言があるなら早く言え」

男「遺言!? 言い訳すらさせてくれないのか!?」

幼「それが君の遺言か。もう思い残すことはないね」

男「あるよ!ありまくるからはやまるな!」

幼「君を殺して遺産を得る」

男「頼むから落ち着いてくれ!」

幼「じゃあ言い訳を聞くから三単語以内でどうぞ」

男「無理に決まってんだろ……」

男「ーーほら。中学の時はお前、毎日のように俺の家に来てたじゃん」

幼「ん? ああ、確かにそんな時期も……って、話題を切り替えようたってそうはいかないぞ」

男「そういうんじゃなくって」

男「あの頃学校帰りには必ず俺の家に寄ってただろ? だから聞いたんだよ。『何で毎日俺の家に来るんだ?』って。覚えてないか」

幼「覚えて……ないね。中学の頃の記憶はどうも曖昧で困る」

男「『妹ちゃんに会いたいだけよ! 男に構ってやってんのはついでだから。あんたはただのおまけなんだからね!』」

幼「!」

男「んで、そう言った放ったお前はその後ーー」

幼「お、思い出した! 思い出したからこれ以上黒歴史を掘り起こさないで!」

男「顔が真っ赤だぞ。何を今更恥ずかしがってんだ」

幼「これが慌てずにいられるか……」

男「まあ、あの頃のお前は何かと荒れてたからなあ」

幼「忘れてたのに……ようやく忘れかけてたのに……」

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