男「俺氏、SNSにより無事死亡」 (72)


はじまりは些細なことだった。

別に、ネットリテラシーが無かったとか、情弱だったとか、そういう話じゃない。

だいたい、俺が悪いわけじゃない。誰だってこうなる可能性はあったはずなんだ。

この社会は狂ってる。

なにがソーシャルだよ。なにがネットワークだよ。

手のひらサイズの画面の向こうに広がってるのは、社会<ソーシャル>なんかじゃない。

ただの画面でしかないはずだろ……




――――――――キキィィィィィィィィィィィッ



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1449128648


俺はどこにでもいる普通のサラリーマン。

B級大学を卒業した後、念願の独り暮らしを手に入れ今年で3年目になる。


お隣「あら~、男さん。おはようございます~」

男「お、おはようございます、となりのおばさん」


今日は木曜日、燃えるゴミの日。

電車の時間の都合で、俺のアパートのとなりに住んでるおばさんと鉢合わせすることになる日。


お隣「若いのに偉いわね~、ちゃんとゴミを分別して出すなんて」

男「あ、あはは。普通ですよ、こんなの」


実際ゴミ出しは面倒臭いが、ルールを守らないことで発生する住民トラブルのリスクの方が怖い。

世間話に持ち込まれると困るので、俺はそそくさとその場を後にする。

これが俺の日課だ。


上司「おう、お疲れさん」

男「それじゃ、お先に失礼します」


いつも通り仕事を終え、最寄りの駅へと向かう。

電車に乗ってすぐはスマホもいじれないほどの混雑だが、大きい駅を過ぎると人が減る。

もちろん空いた席には座らない。席を譲るトラブルに巻き込まれるのが怖いからだ。

俺はいつもと同じようにスマホを取り出し、新着通知を確認する。


男(リプライが3、LINEの方は特に無し、か)


大学時代に同人関係の趣味を持っていたため、ツイッターのフォロワーは1000近く居る。

まあ、実際コミケとかで会ったことのある人は100人にも満たないんだけど。


男(『おはありでした』、っと)


朝に何かしら呟いておくと、誰からともなく"おはようリプ"が送られている。

具体的な文面は『男さん、おはようございまーす』とか、他愛も無いもの。

別に返事をしなきゃいけないってわけじゃないけど、特にやることもないのでちゃんとリプを返す。

『どうして僕には返事くれないんですか!』みたいなことになったら面倒だし。


男(なにかリツイートネタは……)


左手でつり革をつかみながら右手の親指で画面をなでる。

今日は自分からつぶやくような出来事は特にないので他人のふんどしを借りよう。

何かしらつぶやいとかないとSNS上で死んだように思われるからな。

まあ、そんなことは無いってのは俺はわかってるけど、中にはそうじゃない奴もいるかもしれないし。


男(お、これなんかおもしろそうだな)


タイムラインを流し読みしていると、誰のRT<リツイート>ともわからないつぶやきが目に飛び込んできた。

『○○県の市議、バカッターで懲戒免職』という見出しのまとめサイトニュースのようだ。


男(ソースは……これは調べなくていいか)


RTやお気に入り<ファボ>数がやけに多かったり、タイトルが胡散臭いものに関してはソースをちゃんと調べてから拡散するのが常識だ。

だいたいそういうのは明らかな工作か、嘘情報を信じた情弱どもの祭りだったりするからな。

だけど、今日のこの記事は別に大丈夫でしょ。今まさに電車の中のトレインニュースでも流れてる。


男(『バカだなぁ。チラ裏にでも書いておけばいいのに、どうしてツイッターなんかでつぶやくんだろ。こんなのマスゴミのいい餌じゃん』っと)


RTをした後でこの記事への感想をツイートする。

RTに付随してコメントをしたりはしない。ましてや記事サイトのコメント欄に感想など書かない。

この方法なら、自分の意見を述べつつ、自分のフォロワーぐらいにしか目につかないのさ。

まあ、ネットの海に流してる時点で全世界にバラ撒いてるのはわかってるけど。


お隣「あら~、男さん。おはようございます~」

男「お、おはようございます、となりのおばさん」


一週間経って、また燃えるゴミの日がやってきた。


お隣「若いのに偉いわね~、ちゃんとゴミを分別して出すなんて」

俺「あ、あはは。普通ですよ、こんなの」


一週間前と寸分違わぬやり取りをする。

これが正攻法だと経験的にわかっているのだ。

……このおばさん、もしかしてボケが入ってるのか?


仕事帰り、今日も電車の中でスマホをいじる。

ツイッターのタイムラインを眺めていると、とあるつぶやきが目に入った。


俺(『ゴミ出し殺人――ご近所トラブルが生む傷害事件』、またまとめか)


このRTは昔のライバルサークルのメンバー、"てぃーさん"という人のものだった。

フォロワーこそ3000人程度だが、どういうわけかこの人のつぶやきには情報発信力がある。

事実、このRTは既に300RTを超えようとしていた。ツイート自体はまとめサイトへのリンクに過ぎないのだが。

確かにセンセーショナルな話だ。たかがゴミ出しで人が死んでしまうという事件。

どこかの地方都市で起こったものらしい。まったく、世も末だ。


男(『ゴミの分別くらいちゃんとしろwwwそんなんで殺されるとかひでえ人生www』っと)

当然、@もRTもつけずにツイートする。


てぃーさんのつぶやきをRTした後で、なんとなく、そのRTに寄せられているリプを眺めてみた。


『@hakureiya_Tsan 俺の知ってる近所のリーマンはちゃんと分別してる。何でも若者のせいにすんなよ』


男(……ん? この人、てぃーさんのフォロワーでもなんでもないな。偶然RTで回って来てリプしたのか)


アカウント名は"となりのとろろ@パズドラ"。見たことも聞いたことも無い名前だった。

『若者のせい』ってのは、たぶんリンク先でそういう話題があったんだろう。

RTに意見リプするなんてお門違いもいいところだ。誰に向かって文句を言ってるのだろう。

自分の思ったことをノータイムで発信する仕組みの弊害だな。相手もわからずに意見しちゃう男の人って。

匿名掲示板だろうが個人特定できようが、ネット弱者は半年ROMっていて欲しい。バカ発見器とはよく言ったもんだな。


男(『てぃーさんのRTについてるリプクソワロwww』)


俺は相変わらずRTと関連づけずにつぶやく。

俺のフォロワーで"てぃーさん"って言って誰かわかるのは30人もいないだろうけど、そいつらに気付いてもらえればいいかな。


翌日。昨日のつぶやきに対して"奴"からリプが届いていた。


『@Otoko45450721 これって俺のこと?』


男(うわあ……)


朝からげんなりした。変なやつに絡まれたもんだな、と。

もちろん無視。変に言い返してよかった試しなど無い。

ただただテンションが下がる。まったく、たったこれだけのことで俺の仕事に影響が出たらどうしてくれるんだよ。

なんて、電車の中では思ったけど、出社してしまえば"となりのとろろ"とかいうふざけたハンネのことなんてすぐに忘れているのであった。


今日も仕事が終わって満員電車に飛び乗る。

いつも通り、少し車内がすいてからスマホを取り出す……と、ここで朝の出来事を思い出した。


男(あの変なアカウントから何も来てませんように……)


さすがに気にしすぎだと思うが、朝の嫌な気分を思い出してちょっとした鬱になる。


男(……あれ。通知が、25? そんなにリプが来てるのか?)


と思ったがリプではなく、俺が過去につぶやいたツイートのRT通知だった。


男(なんで今更過去ツイートなんかが……)


『沖縄は修学旅行の時行ったけどマジ首里城ガッカリだったwwwアレ再建した奴バカじゃねwww』

『俺はぶっちゃけロリコンだけどさ、さすがにコレは萌えない ※R18-G注意!』

『東電○ね。全ての元凶だろ。東電社員は全員首吊って○ね』


男(何年前のツイートだよ……。どれも四、五年前、か)


最初は自分のツイートがRTされていて、少しドキドキした。いや、正直嬉しかった。

だけど、そのRTされたつぶやきの文面を読み返すと、なにか嫌な予感がした。

そもそも誰がこんなことをしたのか調べてみて、俺はコレを100%の悪意によるものと断定した。


男(こいつの仕業か……)


朝、リプを送ってきたアイツ。"となりのとろろ"。

なるほど、嫌がらせってわけね。

読む人が読めば叩かれそうなツイートだけをピックアップしてRT。こいつの考えていることは手に取るようにわかる。

こんなくだらないことに労力を割ける奴らの気が知れないわ。荒らしはスルーでお願いします。


当然、情報発信力皆無な俺や"とろろ"のツイート・RTなど世間は話題にするわけもなく、平和な時間が流れていった。

……のだったら良かったのだが、この時俺には全く別の問題が発生していた。

土曜日。たまの休日。

俺がスマホでツイッターを確認する前に、サークルの元後輩から事件を知らせるLINEが届いた。

なんでも、俺が元々所属していた同人サークルで作られたとある作品がまるっとパクられ、商業として値をつけて売られているらしい。

もう五年も前の話になるが、その作品には少なからず俺も手伝っている。いわゆる著作権者だ。

立場的には二次創作とオリジナルの間の微妙な作品だった。というのも、元ネタ側の作品が二次創作を全面的に許容することを発表しているものだったのだ。

それを全く関係ない第三者が自分のものと偽って、金で売っていた、というわけ。

こうなったのには俺たちが一時期作品を無料配布していたせいもある。

俺が休日を堪能している間に、現代表がパクリ先とツイッターで言い合っていた。その様子がTogetterでまとめられていた。

残りの休日をつぶして、俺はこの事件の全容を読み倒す羽目になった。


読めば読むほど馬鹿らしくなってくる話だ。

10:0であちらさんが悪い。盗作だと確認せずに商業に乗せた業者が悪い。

一応自分も当事者なので、ツイッターで意志を表明しておく。盗作、ダメ、絶対。

現代表が業者に販売停止の話をつけることで裁判沙汰にせずに済ませることになった。まあ、面倒ごとはどっちもイヤだもんな。

この事件は同人界隈の関心を集めたらしく、てぃーさんによる宣伝効果もあいまって、俺のアカウントで行ったツイートは500RTされる前代未聞の偉業を達成した。

その影響で俺のアカウントの元に、『男さん、大変ですね!』や、『男さんの作品、好きです!』などと、同情というか、話題に便乗したリプが届けられた。

もちろん、悪い気はしないけどさ。


24時間も経たないうちに事件は炎上した。

ニコニコ動画を見ていて、動画の真上に流れてくるニュース欄にソレが載っていたのでコーヒーを吹いた。

タイミングが悪かったらしい。

似たような事件が他の界隈でも起きていて、各種まとめサイトや大手ネット記事に関連事件としてまとめられてしまった。

気になってコメント欄やツイート先のつぶやきを見てみる。意外に関心を寄せている人が多い。

俺のアカウント名こそ出ていないが、俺は被害者として祭り上げられてしまったようだ。

とは言ってもすべてがすべて擁護コメントではなかった。


『パクられる方にも問題がある』

『そもそもあんまりいい作品じゃない』

『無名サークルがパクられてなんの損があるの? むしろこれだけ有名にしてくれた相手に感謝すべき』


実際五年前の俺たちのサークル運営に問題がないかっつーとそんなことはないが、素直に腹が立った。


男「『まとめサイトで批判コメしてる奴、なんなの? 言いたいことあるなら俺に直接言えよ』っと」


まあ、こんなことツイッターでつぶやいたって何かが変わるわけじゃないが。

これを鵜呑みにして俺に文句言うやつも居ないだろ。


『調子乗んなクズ』

『男さんは被害者だろ!いい加減にしろ!』

『信者きもい』

『男さんは裁判起こしたら勝てるから』

『男の他の作品も調べたけど総じてクオリティが低い』

『男さんはもっと有名になるべき』


男(な、なんだよこれ……)


翌日。いつも通り、会社に向かう電車の中で新着を確認したんだが……

どこから嗅ぎつけたのか、アンチも擁護も総じてリプ上で口論している。つーか誰だよお前ら。

アカウントを調べてみると、同人活動をしている人間が多いみたいだ。

所詮は同じ穴の貉ってわけだな。話題になってる奴を取りあえず叩いておけ精神ってやつか。

トレンドにも上がっていた。ハッシュタグを付けてパクリ問題に対する自分の意見を言いたがるやからが多いこと多いこと。

たぶん、大学時代の俺だったらこんな炎上も喜んでたかもしれない。

でもさすがに今は違う。

ネット上とは言え、俺の身近でトラブルが起こるのは避けたかったのだが。


男(『なんか炎上してるっぽいwww』……いや、やめとこう)


変に煽ったり、油を注ぐのは良くない。

打ち込んでいた文字を削除していく。

取りあえず3日も経てば落ち着くだろう、そう考えた俺はスマホをポケットにしまった。


『通知 296』


俺「は、はあっ!?」


久しぶりに社外で声を出したかもしれない。さすがにビックリした。

prrrr prrrr

丁度その時サークルの後輩からLINE通話がかかってきた。

帰宅ラッシュの人波から少し外れたホーム上で通話に出る。


後輩「もしもし、男さんですか? Facebook見ました?」

男「え、Facebook? ツイッターじゃなくて?」

後輩「なんでも、世界的に有名なデザイナーがうちの事件と男さんの作品を拡散させたらしいですよ」

男「マジかよ……」


なんで? どうして? 俺なんかが?

すかさずFacebookを開く。こっちは大学時代の友人や、高校の同期ぐらいとしか連絡を取り合っていないのだが……

誰だよお前ら、と突っ込まざるを得ない状況になっていた。

謎のリクエスト。謎のメッセージ。えっと、これって無視して大丈夫だよね?

どうやら最近話題になっているパクリ問題の引き合いとして紹介されたらしい。

だからって、俺のアカウントまで載せる必要はないだろ! 


『著作権について、皆さんに正しく考えてもらえればと思います』


その有名人の言葉は、この一文で締められていた。

正義ヅラしてんのか……全然嬉しくない……


その日の夜は全く眠れなかった。

分単位で増える通知、斜め上から襲ってくる匿名メッセージ。

もちろん、所詮スマホの画面の中の出来事だ。肉体的にダメージを食らっているわけじゃない。

だけど、とにかく俺は疲弊していた。

俺という人格がネット上で拡散され、人々の話題に次々に上っていく熱狂的ライブ感と。

俺のことを自分勝手に擁護したり批判するクソコメントへの苛立ちとの合わせ技にやられた。

2chのニュー速を開く。直接は関係ないが、関連スレがいくつか立っており、その中で俺の話題も上がっていた。


俺「『一躍有名人ワロスwww』っと……」


この程度の当たり障りのないことならツイ垢でつぶやいてもいいだろう。

勿論変なやつからリプは来ると思う。だが、俺はいちいち顔を真っ赤にするほどネット弱者ではない。


『@Otoko45450721 調子乗んなクズ』


ホント、俺に親でも殺されたかのような反応だな……


お隣「あら~、男さん。おはようございます~」

男「お、おはようございます、となりのおばさん」


今日は木曜日、燃えるゴミの日。

今週はずっと陰鬱な気分だったが、ちゃんとゴミを出す俺偉い。


お隣「若いのに偉いわね~、ちゃんとゴミを分別して出すなんて」

男「あ、あはは。ありがとうございます」

お隣「いいえ~、どういたしまして~」


つい感謝してしまった。別にこの痴呆おばさんに褒められても嬉しくはないが。


男(『毎朝声かけてくるババアが一言一句同じ挨拶しか言わないんだけど』……)

『なにそれウケるw』

『男さん、おはよーございます』

『もう元気になった?』

『タヒねよクソ垢』


俺の毎朝の日課は、なんだか毛色が変わってしまった。

もうこれ、一回アカウント消去して作り直した方がいいな……

それとも鍵掛けるか。でもそれは負けた気がする。

やるにしても、世間の熱が冷めてからだよな。

いつ? TPPが締結してから? オリンピックが終わってから?

……鬱だ。


『沖縄県民に謝れ!沖縄が唯一の地上戦だったって知らないの?』

『グロ画像バラまくなカス。通報しました』

『それ、殺害予告だよ? 犯罪だよ?』


同時に、"となりのとろろ"によって拡散されたRTが芽を出しつつあった。

クソ、著作権の話と全く関係ないだろ。

要は著作者である俺の人格を否定することで、パクリ擁護論の燃料にしたいらしい。

すべてRTで回ってきたものをRTした後の感想なんだから、そっちを関連づけずに拡散するんじゃねえよ。情報操作じゃねえか。

……あれか。自分の知りたい情報しか目に入らないってやつ。

あー、クソ。情弱どもが。


男(『沖縄は唯一の地上戦じゃねーよ。硫黄島知らないの?無知乙』)

男(『描いたの俺じゃねーし、俺はこの画像を否定してるわけだが』)

男(『当時はみんなそんなことつぶやいてただろ。つか何年前の話だよオワコン』)


……ネラーは卒業したはずだったんだけどな。

ここ一週間の鬱憤が堰を切ったように溢れ出した。

書いてみてもスッキリするはずもないんだけどな。

相手の顔が見えないからっていい気になりやがって。

日常生活じゃまともに人と会話もできないニートのくせに。

他にやること無いのかよこいつら。毎日毎日ツイッターにかじりつきやがって。

ホント、キモい。


『通知 1037』


男「なにかの冗談だろ……」


その日、仕事帰りの電車内でスマホを見る気にはなれなかった。

一日のご褒美である午後ティーを道端の自販機で買って、家で一息ついたとき。

そのとんでもない数字が目に飛び込んで来た。


男「で、なにをそんなに通知してるんだ。俺のスマホは」


『男は人格破綻者』


これはわかる。まだ許容範囲だ。


『今警察がお前を逮捕しようとしてるから』


これも問題ない。2chでは早々に俺の個人情報がFacebook経由で晒されてたが、さすがの警察もあんなツイートで動くとは思えない。


『男さんは間違ってない! パクリ犯はとっとと謝罪すべき。この垢がパクリ犯ね、マジムカつくから見てみ→ @shingen307』


こういうのが正直一番怖い。俺と関係ないところで何か起こったとして、俺は関知できないからな。

そういえば。

パクリ犯の方が俺なんかよりたくさん通知があるはずだ。

しかもその大半が罵詈雑言だろう。明確な悪役を引き受けてしまっているわけだからな。

見ず知らずの人間だが、ある意味で俺と同じ境遇に居る。

俺は少しシンゲン307とかいう人物のことが可哀想になった。


TV『さて、今週のネットニュースランキングです……』

男「ブフォ!? な、なんで!?」


例のパクリ事件は地上波で取り上げられるまでに至っていた。さすがに俺に関する情報はあまり出ていないが。


TV『最近こういう事件多いですねぇ。それだけ世間の関心があるということですよね』

男「事件って……。別に事件って言うほどのもんじゃないだろ」

TV『まあ、同人作品っていうのがそもそもグレーですからね。著作権的にどうなんでしょうか』

男「話をすり替えんなよ……。ってか、よく知らないならコメントすんなよな」


テレビを見ていて、いつもとは別の方向で腹が立ってきた。

こいつら、話のネタがないからって無理やり話題を作ってるだけだ。

俺の立場からしたらこんな話、日常生活にちょっと起こったイレギュラーみたいなレベルなのに、どうして話をでかくしたがるんだ?

そっか、視聴率か。金を稼ぐために話をでかくしてるんだよな……

あいつらも一生懸命働いてるわけだ。ううむ、そう考えると恨むに恨めないな……


prrrr prrrr

普段鳴る事の無い固定電話が鳴った。親が無理やり設置したものだ。


男「もしもし……」

記者「あ、もしもし? 男さんの御宅ですか? 私、○○テレビの記者と申しまして……」


まさかの取材だった。

話だけでも聞かせてほしいとのこと。インタビューの様子を放送したいのだとか。

そ、そんなに俺の話が聞きたいのか? 凡人たる俺の話だぞ?

てかどうやって電話番号調べたんだよ……。さすがにそこは怖くて聞き出せなかった。


記者「二時間程お話できればと思っております。ええ、それでは明日、駅前の喫茶店で」


……ついオッケーしてしまった。これ、大丈夫かな。


記者「いやあ、お会いして驚きましたよ。意外と普通の人なんですね」

男「はあ」


結局休日をつぶして取材を受けることにした。

単に好奇心のせいもあったが、自分の意見をまともに発信できる場が欲しいのも事実だった。


記者「いやね、ツイッターとか見る限り、ちょっとヤバイ人なのかな、と思ってまして」

男「あれは周りが騒いでるだけですよ……」


つーか、俺のツイートのどこをどう見ればヤバイ人に見えるんだよ。フツーだろフツー。

俺より二、三、年上のくせに、そんなこともわかんないのか。不安だな……


記者「それではさっそく、お話を聞かせてもらいますよ」

男「ええ、どうぞ」


記者「同人活動を始められたキッカケは?」

男「キッカケってほどじゃないんですが、元々ニコ生で生主をやってまして……」

記者「動画制作を見ず知らずの人たちとやってたんですね?」

男「まあ、スカイプで音声会議しながらですので、すぐ仲良くなりましたよ……」

記者「パクられた時、どう思いました?」

男「それを知らされたのは後輩からのLINEだったので、現実感がなかったですね……」

記者「創作に携わるものとして、パクリ行為に対してどのように思いますか?」

男「話題にされてる作品は100%俺が作ったものってわけじゃなくて、サークルのものなんで……」

記者「パクった本人であるシンゲンさんに対してなにかコメントは?」

男「ええと、純粋に迷惑でした。後輩たちも怒ってます……」

記者「ふむふむ。では、次に――」


・・・


記者「今日はありがとうございました。また何かあったらよろしくです。あ、ドリンク代は私が払っておきましたので!」

男「は、はあ」


このインタビューは明後日の夕方5時から放送される特集で使われるらしい。

……一応、録画しておくか。


TV『続いて特集です。昨今ネットで話題のパクリ問題、果たして現場では何が起こっているのか――』


仕事から帰って来て、録画していた番組を再生した。

この日ばかりは仕事終わりにスマホを確認しなかった。テレビの情報をネットから得ることは避けたかったからだ。

なんか変な気分だ。浮ついているわけじゃないんだけど、不安でいっぱい、というわけでもない。

胸の奥がむずがゆかった。


TV『同人活動を始めたキッカケは、ネット上の知人に勧められたことでした』


どうやら声優? ナレーター? が、俺の語った話を読み上げる形式になっているらしい。


TV『見ず知らずの人間が集まって一つのものを作るのは楽しいです。もちろん、二次創作は権利問題があるので、ニコニコ動画に投稿していくわけです』


テロップの後ろにある背景には『※参考映像』としてアニメイトらしき店内やらコミケ会場らしき風景などの映像がぼかして映っている。


TV『今回の騒動に巻き込まれて、現実感が無かった、というのが正直なところです。どうして僕が、と思いました』


なかなかうまい具合に改ざんされているが、たしかに自分の発言したことなので文句は無い。


TV『パクリ行為は純粋に迷惑です。僕たちは怒っています――』


そこでブイがスタジオに戻された。コメンテーターがわかってるんだかわかってないんだか適当なコメントをしていく。

一安心する。今度からマスゴミと呼ぶのはやめようと思った。

一息つくと、テレビに出たという単純な高揚感が湧き上がってきて、つい後輩にLINEをかけたくなった。


男「もしもし? 後輩? 今日の夕方のテレビ見た?」

後輩「あ、はい。ネットニュースの方で動画として見ましたけど、男さんすごいっすね! テレビ出るなんて」

男「いやあ、つっても声も姿も出てないけどさ」

後輩「でも、ツイッターとか大丈夫ですか? 前からかなり炎上してるみたいですけど」

男「ああ、あれね。まあ、人の噂も七十五日ってね。そのうちいつもの日常に戻るでしょ」

後輩「だといいんですけど……」

男「そもそも俺は被害者なんだから、俺のアカウントが炎上するのはおかしい話なんだよ」

男「これは陰謀の臭いがする。まるで誰かが俺を嵌めようとしている!」

後輩「あははっ。その心配はないっすよ、男さんに恨みがある人なんて居ないでしょうし」

男「まーな」


……冗談で言ったつもりだった、が。

もし、俺に私怨のあるやつが俺を嵌めるためにネットで暴れているとしたら?

いやいや。そんなわけないよな。ないない。


『通知 6021』


男「で、これどうするよ……」


えっと、今日の朝の通知を消化して、今の今まで、つまり午後十時ぐらいまで見てなかったわけだ。

十四時間ちょっとで6000越えの通知とか……引くわ……

そしてその内容はにわかに信じられないものばかりだった。


『姉が東電社員です。あなたは人の気持ちがわからないようですね』

男(だから、オワコンだって言ってんだろ……)

『なにがクソワロなのか言ってみろよ。あと近所のおばさんをババア呼ばわりとか、人格疑う』

男(これは"となりのとろろ"のフォロワーからだ。亀レスにもほどがあるだろ)

『この絵の絵師ですが、私は公開ツイートされる前提で描いていません』

『グロ画像を公共空間に置くとか普通に犯罪ですから!ざんね~ん』

男(……これは素直に申し訳なかった。絵師さんには悪いことをしてしまったな)

『私○○県の元市議ですが、どうしてバカ呼ばわりしたのですか?』

男(う、嘘だろ? どうやって特定したんだ? いや、特定自体は難しいことじゃないが、わざわざするか?)

『あなたは沖縄人の誇りを侮辱した』

『内閣府国営沖縄記念公園事務所ですが、法律に基づいて対処させて頂きます』

男(はあ!? 人権団体や内閣府があんなツイート真に受けるとか、どうなってんだ!?)


これだけわけのわからん誹謗中傷は初めてだった。どいつもこいつも、たかがツイッターに何マジになってんだ!?

これも炎上の影響か!? テレビに出たせいなのか!?

あるいは、あのいけすかない記者が話題作りのために炎上を煽ったとか?

……つか、こんだけ大量の通知があって、どうしてあいつからのリプがひとつも無いんだ。

"シンゲン"。パクリ犯からの、メッセージが。


ピンポーン

男「ひぃっ!? い、今何時だと思ってんだよ……」


突然家のチャイムが鳴った。

そもそもチャイムが鳴ること自体アマゾンで買い物した時くらいで滅多に無いのに、こんな遅くに誰が……


ピンポーン

男「…………」


なんだか怖い。居留守を使おう。


ピンポーン

男「…………」


気にしない気にしない。俺は気を逸らすためにスマホに視線を落とした。


『通知 1』


ものの数秒で通知が来ている。

急いでその通知を開く。



『@Otoko45450721 お前が家に居るのはわかってるんだよ。早く出ろ。さもないと殺す』



男「は……はあ……?」


リプは"となりのとろろ"からだ。もしかして、今チャイムを鳴らしているのは……


ピンポーン

男「嘘だろ……」


ど、どうする!? 確かに俺の住所は2chにさらされてたが、こいつは何の恨みで俺の家にわざわざ――


ピンポーン

男「……ゴクリ」


『早く出ろ。さもないと殺す』……頭の中でリフレインする。

一体誰なんだよ、"となりのとろろ"。もしかしてこいつ、シンゲンのサブ垢か?

どうする? 出るか? いやいや、出たら殺されるだろ普通。いや、でも……


『@Otoko45450721 鍵開いてるじゃねーか。今入るから待ってろ』


し、しまっ―――



ガチャ キィィ


嘘だろ……そんな……

俺は、俺はこんなくだらないことで殺されるのか!?

は、はは、笑える。ゴミ出し殺人が可愛く見えるぜ。

まとめサイトの見出しは、そうだな。

『俺氏、SNSにより無事死亡』―――


ヒタ、ヒタ、ヒタ……


男「あ、ああ、うわああああああああっ!!!!!!!!」




お隣「なに大声出してるのよ。夜中に迷惑じゃない」

男「は……はあああっ!?!?」


そこには。

毎週木曜の朝に定型文で挨拶を交わすお隣のおばさんが居た。


男「なんの用ですか!?」

お隣「いやね、あんたに用事があって」


いったい何の用があるってんだよ!? ってか、"となりのとろろ"の正体って……っ!?


お隣「それ、あたしのアカウントね。ババア呼ばわりはさすがにひどいんじゃない?」


そんな……そんなバカなことが……

ってことは、この人は隣の家から毎日俺のツイッターを確認してたってのか!?

瞬間、俺の脳裏に『ご近所トラブルが生む傷害事件』のニュースがよぎった。

俺に用事があるって……まさか、そういうことなのか?

―――『さもないと殺す』

終わった。俺、このおばさんに殺されて死ぬんだ……


男「ご、ごご、ごめんなさいっ! 許してくださいっ! もうしませんからぁっ!」

お隣「何も取って食おうってわけじゃないのよ。さっきのはオチャメな冗談。まあ、ちょっと話を聞きなさい」

男「はあ……?」


俺を殺す気はないのか? いや、あるわけないよな。何考えてんだ俺。

おばさんは我が物顔で俺のソファーにどっかりと腰をかけた。


お隣「あんた、時の人になってるみたいじゃない」

男「別になりたくてなってるわけじゃないです……」

お隣「おかしいと思わなかったの? こんなに世間の話題をさらうなんて」

男「お、思いましたよ! まるで、誰かが俺を陥れるために仕込んだ罠みたいで……」

お隣「まあ、それは半分正解ね」

男「は……?」

お隣「順を追って考えましょうか」


い、いやいや、てゆーかこんな時間にヒトん家来て何言ってんの!?


お隣「まず最初は四、五年前のツイートのRTだけど、これはあたしの仕業。あんたに少しでも警鐘を鳴らしたかったんだけど、失敗しちゃったみたいね」

男「警鐘……?」


お隣「パクリ事件自体は偶然のタイミングで起きたものだった。これを話題に仕立て上げたのは誰?」

男「えっと……最初はTogetterでまとめられて、拡散されました」

お隣「そう。きっとまとめた人は善意だったんでしょうね。拡散することで、パクリ許すまじ! みたいなメッセージを伝えたかった」

男「たぶん、そうでしょうね」

お隣「次は誰だったかしら」

男「まとめサイトとか、ニュースサイトです。でもこの時はただ引用って感じで、全面的じゃなかったですけど」

お隣「じゃあ、どうしてサイト管理人はわざわざ引用なんかしたのかしら」

男「話題性を高めるため……? いや、違うな。信憑性を増すため?」

お隣「記事としての魅力を高めるための理由はいくらかあるんでしょうけど、結局はアフィリエイトで"お金を稼ぐため"、でしょうね」

男「あ、はい。テレビも金のためだと思います」

お隣「その前に有名デザイナーによる紹介もあったわね」

男「あれはたぶん、悪意はなかったというか、むしろ正義のためにやった、みたいな感じでしたけど」

お隣「そう。結局、誰もが善意だったりお金稼ぎだったり、自分の生活の範疇で正しいことをしているだけなのよ」

男「で、でも、今日のツイートはさすがに異常でした。何かがおかしかった気がします」

お隣「きっとどっかのバカが本気で情報工作したのね。まんまと嵌められたわ」

男「え……?」


突然なんの話だ?


お隣「もちろんそいつも金稼ぎとか善意の範疇でやったことなんでしょうけど、さすがにやりすぎたわね。このあたしを怒らせたんだから」

男「ちょ、ちょっと待ってください! それじゃまるで、本当に世論を動かす情報屋が居るみたいな……」

お隣「まあ、居るのよ。あたしもどっちかというとそっちの人間。ネット風に言えば"工作員"ってやつ」

男「はあ!?」

お隣「真面目な話よ。政府にとって都合の悪い情報をもみ消したり、一か所だけに情報が偏らないように調整したり……」

お隣「情報ってのはね、一種の作品なのよ。あたしたちは芸術家ってわけ」

お隣「醜いものにするのも、美しいものにするのもあたしたち次第……なんてね、もちろん限界はあるわよ?」

お隣「まとめサイトなんかは、あたしたちの仕事の分を含めると半分が自演か工作だと言っても過言ではないわね。そういう意味ではサイト管理人も利用されてるだけ」

お隣「印象操作っていうの? FBも2chも似たようなものよ。最近はちょっとやそっとじゃコメントしてくれなくなってるから仕事のし甲斐があるわ」

お隣「テレビはまあ、ネットで流行ったことを放送する、っていう主題だったから、副次的な部分はあるんだけどね」


お隣「ともかく、あんたは利用されただけなのよ。色んな人たちの正しい行動にね」

男「俺個人を破滅させるためじゃなかった……?」

お隣「結果的にそうなる可能性はあったわけだけど、ね。さあ、破滅する前に火消しをするわよ」

男「火消し……?」


おばさんはおもむろにスマホを取り出し、どこかに電話を掛けた。


お隣「もしもし? あたしだけど。……そう。そういうこと。頼んだわよ」

お隣「多分明日になったら沈静化してるわ。世間は別の話題で持ち切りになってるはず」

男「何がなんだか……」


男「というか、どうして見ず知らずの俺なんかを助けてくれるんです? その、火消しってのも、無料ってわけじゃないでしょう?」

お隣「見ず知らずだなんて冷たいこと言うわね。毎週木曜日の朝に挨拶してるじゃない」

男「いや、挨拶しかしてないじゃないですか」


というか、未だに目の前の闖入者が、あのゴミ出しおばさんと同一人物だとは到底信じられない。


お隣「……ホントわね、嬉しかったのよ。あんたみたいな若造が隣に住んでて」

お隣「あたしにも息子が居てね、歳はあんたと同じくらいよ」

お隣「あの子ね、殺されたの。キッカケはとてもくだらないことだった」

男「え……」


もしかしてこのおばさん、殺された息子さんに俺を重ねてた、ってのか?


お隣「ホントにくだらない……ゴミの分別から始まったご近所トラブルが原因だった」

男「それって……、もしかしてっ!?」




『ゴミの分別くらいちゃんとしろwwwそんなんで殺されるとかひでえ人生www』




お隣「最近ニュースになってたわね」


当然この人は俺のツイートを見ていたはずだ。


男「あ……いや、その、悪気はなかった、というか、おばさんの息子さんだと知らなくて……」

お隣「まあ、そんなもんよ。あたしは別に気にしていないわ」

お隣「でも覚えておきなさい」

お隣「今日も地球のどこかで人が死んだニュースが流れてるわけだけど、その人にも家族が居る。友達も居るでしょう」

お隣「たとえそれが液晶の向こう側の世界の話だとしてもね」


そうか、この人はそれでオレに対して警告を……

結果としてはライバルの情報屋に利用されて裏目に出たらしいが。


男「……肝に銘じておきます」


猛省した。したところでどうなるわけじゃないけど。


お隣「もう遅いわね。それじゃ、おやすみなさい」

男「……はい」

お隣「また木曜日に」


お隣「あら~、男さん。おはようございます~」

男「お、おはようございます、となりのおばさん」


今日は木曜日、燃えるゴミの日。

ネット弱者だとバカにしていた"となりのとろろ"のつぶやきは、社会<ソーシャル>に対するやり場のない怒りをぶつけたものだった。


お隣「若いのに偉いわね~、ちゃんとゴミを分別して出すなんて」

男「あ、あはは。普通ですよ、こんなの」


正直、この人が怪しげな仕事をしてるというのは今でも信じられない。

その話を掘り返されても困るので、俺はそそくさとその場を立ち去った。

まあ、ここまで色々あったわけだが。

おかげさまで俺のスマホライフは日常を取り戻していた。


朝。電車の中で出勤前のスマホチェックをする。

ツイ垢には鍵を掛けた。フォロワーは100人程度になったけど、よく考えたらこれで十分なんだよな。

タイムラインをぼーっと眺めていると、都心の鉄道網が麻痺している、という情報ツイートを見つけた。

JR各線は大パニックになっているらしい。

案の定、俺が乗っている総武線も間もなくストップした。これは次の駅で京成か地下鉄に乗り換えないとマズイか……


男(『JRは配線を複雑にしたため敗戦。つか人身事故ひとつでパニくるとか終わってんな』……)


そこまで打って、自分のツイートの違和感に気付く。

いつもなら別に何も思わずツイートしてるわけだが……


男(それでも、人が死んでるんだよな……。自殺だろうが他殺だろうが、一朝一夕で語れない人間模様がそこにはあるはずなんだ)


なんだか恥ずかしくなって打ち込んだ文字を削除する。

無理にツイートする必要はない。義務もない。

そう思って、ひと呼吸置いてからスマホをポケットにしまった。


ホームは大混雑だった。

ツイッターの情報通り、快速も運転を見合わせているらしい。

とにもかくにもここから出ない事には会社へ向かえないのだが、この調子だと階段を下りるだけで何分もかかりそうだ。

たまったもんじゃないな、などとうんざりしながらも、この非日常的な喧騒に興奮を覚える。

今にも人があふれようとしている中で、下りの列車が入線してきた。

人波に押されて下り番線側へと歩み出た、そのとき―――


??「……ククク」


ドンッ


男「えっ―――」


ファーン 

キキィィィィィィィィィィィィッ





身体が宙を舞いながらも、俺は背中を押した人間の輪郭を眼に映した。

誰だこいつ? 人ごみのせいで起きた事故か? あるいは。

シンゲンか? 理由は、そう。逆恨みだ。

あいつは俺以上に世間から攻撃されていたはず。その一方で俺は日常を取り戻していた。

完全に逆恨みだ。悪いのは騒ぎ立てた世間だろ。

世間というか、世間という名のSNS依存者たちだ。

なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ。

はじまりは些細なことだった。

別に、ネットリテラシーが無かったとか、情弱だったとか、そういう話じゃない。

だいたい、俺が悪いわけじゃない。誰だってこうなる可能性はあったはずなんだ。

この社会は狂ってる。

なにがソーシャルだよ。なにがネットワークだよ。

手のひらサイズの画面の向こうに広がってるのは、社会<ソーシャル>なんかじゃない。

ただの画面でしかないはずだろ……




――――――キキィィィィィィィィィィッ




『JR高円寺駅で #人身事故 #中央線 など3万3千人影響』

『また中央線かよ。なんの対策もとらないJRいい加減にしろ』

『総武線→西船橋駅での人身事故で上下線ともに見合わせ←NEW!』

『朝から関東大荒れだなおいw』

『やべえ俺二日連続で人身事故のせいで遅刻とかww奇跡ww』

『最近こういう自殺が増えています。若年層の人口減に伴い自殺率自体は低下していますが……』

『中央線の人身事故のせいで西船橋でも人身事故www玉突き人身事故www』

『これだけ重なると陰謀の臭いがするな』

『死ぬのは勝手だが通勤時間帯に飛び込むのはバカなの? いつまで待たせる気だよ』

『JRの構造上の問題とも言えますね。人身事故で良かったものの、これがテロだった場合首都機能は今回以上に破壊され……』

『俺だって自殺したいの我慢してるのに人に迷惑かけて死ぬとかホントないわ』

『あぁ^~自殺志願者がぴょんぴょんするんじゃ^~』

『現場に居合わせちゃったよ……せめて俺の目の届かないところで安らかに自殺してください(怒)』

『飛び込みしたやつ絶対許さない』




『@Otoko45450721 ご冥福をお祈りします』






     男「俺氏、SNSにより無事死亡」 終わり

たまころも乙

乙乙
なんか気引き締まったわ

おつ

本当にありそうな話だから困る
引き込まれたよ

おつ

乙乙
面白かった

とても面白かった
誰でも身に起こりうる怖い話は読んでてゾクゾクするな


今日の真相が知れてよかった

乙。素晴らしかった
いやホント昨今のSNS事情は狂ってるよ

面白かった乙
ネットでの発言には気をつけなければ

国内最大級の炎上が原因ははめどり流失とか自分語りの末とかそんなくだらないことだならなあ
海外だともっとくだらないことで死人出たけど

Twitterの方でこのSSを紹介してもおk?
他の人にもこのSSを見てほしい

うまい

>>54
マジで?ありがとう

思ったよりレスもらえて嬉しい
自分の初オリSSでした。二次創作SS書きに戻ります

確かにこれはtwitterで拡散すべきかもしれない
警鐘になってSNSで爆死する人が少しは減るんじゃないかな

…減るかな

>>56 ありがとう
他の人にもこのSS見てもらってSNSで爆死しないよう努めてもらいたい

俺も良いかな…何より自分のために、このSS忘れたくない

三日連続遅刻wwwざけんなwww

とか言ってすまんかった

まあ何か下らない問題起こした人もその人なりの理由があってそうなっちゃった訳だからあまり言えないよね......

本当は

ゾクッとした乙です

また一つ引きこもり最強説が生まれてしまったな

>>63
煽った相手が自宅に凸もあるからなぁ
インターネッツってこわいね

リアルで怖かったわ
自分も気をつけなきゃな…

>>54
ツイカスが溢れて荒れる未来とアフィブロガーの食い物にされる末路が容易に想像出来る

気を引き締めてネットするわ

今リアルで電車止まってるから同じこと思ってたわ
怖い怖い

おぉ怖い怖い

パクリ犯が全ての黒幕かと思ってたら、全くの見当違いだった
男に非がないとは言わんが一番の悪党は殺人犯だろ

面白かった、なんかドラマ見た後みたいな気分だ
ついつい習慣化しちゃうけど、無理にツイートする必要はないんだよな
SNS人口が増えすぎて、これからも普通にありえる話だと思いました

乙。世にも奇妙な物語でありそうな話だった

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