猫耳メイド「オマエ、もっと自由に生きるニャ」奴隷娘「……自由?」 (76)


猫耳メイド「酒場の一日は早いニャ。お日様が沈みかけた頃から開店準備に入らなきゃいけないって言えば、どれだけココがブラックな職場か分かりそうなものニャ」

猫耳メイド「お昼寝をこよなく愛する猫耳族としては、日がとっぷり落ちるくらいまでは惰眠を貪っていたいところニャ……」ゴロゴロ

店長「こら猫耳! 何屋根でごろごろしてるんだい、しっかり働きな!」

猫耳メイド「げ、うるさい店長に見つかったニャ。こうニャったらワタシも労働しなくちゃいけないニャ。働かざるもの食うべからず、世知辛い世の中ニャ……」ピョンッ

店長「アンタね、制服着たまま屋根に登るな。飛び降りるな。変な虫がついたらどうするんだい」

猫耳メイド「ん? どんな虫がつくニャ」


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店長「ウチをお触り喫茶か何かと勘違いしたバカな虫だよ。全く、ここは清く正しき大衆酒場だ。私の目が黒いうちは、そういう輩は金輪際お断りなのさ」

猫耳メイド「ウ~ン、別にワタシは構わないニャ。どうせワタシと人間じゃ子供は出来ないし、そもそも人間風情が獣人を押し倒そうなんて万年早いのニャ」

店長「そりゃアンタみたいな怪力娘はいいかもしんないけどね、他の娘が困るだろ。虫ってのはね、一匹湧いたら3日で10倍に増えるんだよ」

猫耳メイド「そんなに早く卵が孵る虫なんて聞いたことないニャ。どこにいるニャ?」

店長「ものの例えだよ! ごたごた言ってないで、掃除でもしてきな!」

猫耳メイド「へいへいニャ」

猫耳メイド「今のがここの酒場の店長ニャ。亭主が死んでからは一人でここを切り盛りしてるやり手ニャ。本気を出せばワタシの方が強いけど、お金が欲しいから言うこと聞いてるニャ」


 酒場

エルフ娘「あ、猫耳さん! お疲れ様です、お使いですか?」

猫耳メイド「そんなワケないニャ。屋根でお昼寝してたところを店長に見つかったニャ」

エルフ娘「あはは、あんな分かりやすいところで寝てたら、店長も気づきますよ」

猫耳メイド「あそこはワタシの一等お気に入りの場所なのニャ。昼下がりは屋根で寝るって決めてるのニャ」

猫耳メイド「この娘はエルフ娘だニャ。樹海の奥地にしかいないはずのエルフ族の娘が何でここで働いているのかは知らないニャ。深入りしてもいいことはないニャ」

エルフ娘「ふふ、なら仕方ないですね」

猫耳メイド「仕方ないのニャ。猫耳族は三度の飯よりお昼寝が好きなのニャ」


猫耳メイド「今日はワタシとオマエだけなのかニャ?」

エルフ娘「いえ、新しい女の子が2人入ってくるそうなので、その娘込みで3人です」

猫耳メイド「新入りじゃあ戦力にならないのニャ。実質2人……キツい夜になりそうニャ」

エルフ娘「あ、そこは大丈夫です。給仕をしてたこともあるそうなので」

猫耳メイド「給仕? メイドでもしてたのかニャ?」

エルフ娘「メイドというか、元奴隷の娘だとか」


猫耳メイド「奴隷ニャー。アイツら卑屈な連中ばっかりで話してると気が滅入るニャ。恨むなら弱っちい自分を恨むべきニャ」

エルフ娘「そんなこと言ったらダメです! 人間さんたちは異族の私たちと違ってか弱いんですから、優しくしてあげないといけないって長老が言ってました」

エルフ娘「奴隷の人たちはいっぱい辛い思いをしてきてるんですから、なおさらですよ」

猫耳メイド「それはそれで上から目線で感じ悪いニャ。飼い主がペットに接してるみたいニャ」

エルフ娘「そ、そんなことないですよぅ!」

店長「こらアンタたち! おしゃべりしてないでキリキリ働きな!」

エルフ娘「す、すみません――!」

猫耳メイド「はいはいニャ」


 厨房裏

店長「この娘が今日からウチで働いてもらう奴隷娘だ。バシバシ仕事仕込んでやんな」

奴隷娘「…………よろしく、お願いします」

エルフ娘「私はエルフ娘! 奴隷娘さん、よろしくね!」

猫耳メイド「(うわ~……いかにも奴隷って感じの辛気臭い顔してるニャ)……あー、猫耳メイドニャ。よろしくニャ」

店長「何か聞きたいこととかあるかい? トイレなら裏手にあるから用足しならそこでしな」

奴隷娘「……ここの相場はいくらくらいなんですか?」

猫耳メイド・店長・エルフ娘「「「は?」」」


奴隷娘「この地域だと、娼館と酒場が一緒になったお店が多いと聞くので、先に聞いておこうかなと」

店長「安心しな。ウチじゃウリは一切ナシだよ。お触りも当然ノー。指一本でも触られたらあたしか猫耳に言いな。すぐに叩き出してやるから」

猫耳メイド「店長はこんなこと言ってるけど、小金稼ぎに内職してるウェイトレスもいるニャ。やるならこっそりやるニャ」

店長「淫魔のアレは、こいつが昼寝好きなのと同じで止めさせようがないからほっといてるけど、店の方針としてはナシってことだよ」

店長「アンタがやりたくないならやらんでよし。やりたきゃ好きにしな。それだけさ」


奴隷娘「……いえ、特に進んでしたいわけではないので、遠慮しておきます」

店長「そうかい。ならやめときな」

猫耳メイド「ここの給金ぶっちゃけ安いニャ。稼ぎたいならやった方がいいニャ」

店長「そそのかすようなこと言うんじゃないよ!」

猫耳メイド「ワタシは親切心で教えてやってるニャ。親心みたいなものニャ」

店長「アンタみたいなのが人の親になろうなんざ10年早いさね」


猫耳メイド「そういう店長にはお子さんいるのかニャ? いるならぜひ手伝いにきて欲しいニャ」

店長「あの子は都で頑張ってるんだ。邪魔しちゃいけないんだよ。仕送りも毎月送ってきてくれてるしね」

猫耳メイド「仕送りっていくらニャ? ワタシたちにも還元してほしいニャ」

店長「何言ってんだい。店の仕入れと維持費だけでもかつかつなのに、これ以上アンタたちへの給金まで増やせるわけないだろう」

猫耳メイド「その割には季節の節目ごとに限定制服なんて作ってるニャ。その分を給金に回すニャ」

店長「アレは必要経費だよ。アンタたちの制服姿目当てに来てる客だって少なくないんだから、いわば投資さね」

猫耳メイド「ものは言いようだニャ」


エルフ娘「あの、店長。もう表にお客さんいらしてますし、あまりお待たせしない方がいいかと」

店長「おっと、駄話で時間潰しちまったね。それじゃ、持ち場につきな」

猫耳メイド「はいニャ」

エルフ娘「はい、いってきます!」

奴隷娘「……かしこまりました」

店長「あ、言い忘れてたけどね、奴隷娘」

奴隷娘「……なんでしょう」

店長「客の前では笑顔。接客の基本だよ。ほら、笑ってみな」

奴隷娘「っ……失礼しました」ニッ


店長「何だ、普段からそうしてればいいじゃないか」

奴隷娘「……善処します」

猫耳メイド「(気味が悪いくらい作り笑顔が上手いニャ。まるで仮面でも被ってるみたいニャ)」

猫耳メイド「(ま、ワタシには関係のないことニャ)」

店長「あ、もう一つ忘れてた。猫耳。アンタ奴隷娘の教育係だから、よろしく頼むよ」

猫耳メイド「ニャッ!? 聞いてないニャ!」

店長「今言ったからね」


猫耳メイド「そういうことじゃないニャ! 接客ならエルフ娘の方が上手いニャ。教育係ならエルフ娘がやるべきニャ」

店長「……猫耳、ちょっとこっち来な」

猫耳メイド「な、何ニャ。いきなりマジになられると怖いニャ」

店長「いいから、ほら」

猫耳メイド「りょ、了解ニャ……」


 裏手

猫耳メイド「で、話って何ニャ。エルフ娘と奴隷娘だけじゃパンクするニャ」

店長「……あの娘、つい最近まで貴族に奴隷としてこき使われてたんだよ。それも、ずいぶんひどい扱い受けてたみたいだね」

猫耳メイド「エルフ娘から聞いてるニャ」

店長「それなら話が早い。アンタなら妙な色眼鏡通さずにあの娘についてやれるだろ」

猫耳メイド「まあそうかもしれないニャ」


店長「確かに境遇は普通の人間よりは大変だったろうけど、それはそれだ。優しくしてやることも大事だけど、甘やかしてばかりじゃいつまでたっても自立できない」

店長「一人前に扱ってやって、一人前の働きができるってことを自覚させなきゃ、あの娘はいつまで経っても元奴隷のままだからね」

猫耳メイド「小難しい話は分からないニャ。それより教育係ってボーナスは出るのかニャ?」

店長「何言ってんだい。新人を教育するのも先輩の仕事のうちだよ」

猫耳メイド「待遇に差がないのに新人も先輩もあったもんじゃないニャ」


店長「分かった分かった。考えといてやるから、さっさと仕事に行きな」

猫耳メイド「店長の『考えといてやる』は『なかったことにしとく』と変わらないニャ……」

店長「何か言ったかい?」

猫耳メイド「何も言ってないニャ。ワタシは勤勉な労働者ニャ。雇用主に口答えなんかしないのニャ」

店長「勤勉な労働者が聞いたらへそが茶を沸かすよ、まったく……」


 ホール


 わいわいがやがや


常連A「エルフ娘ちゃーん! 蜂蜜酒ジョッキ2杯!」

常連B「ついでに俺のほっぺにチューもお願い!」

エルフ娘「はい、蜂蜜酒ジョッキ2杯承りましたー!」

常連B「……つ、冷たいなあ」

客A「おーい、そこの猫耳ちゃん。注文頼むわ」

猫耳メイド「(さすがエルフ娘ニャ。くだらない茶々はガン無視ニャ)はーいただいま向かいますニャー」


常連B「エルフちゃんキツいよなぁ……」

常連A「でもそこがいいって言うんだろ?」

常連B「おうよ。あのひまわりみたいな笑顔から『ふ、人間風情が』って感じの冷たい本音が透けて見えるのがたまんねえぜ」

猫耳メイド「(そりゃオマエの妄想ニャ。エルフ娘はそんなこと思ってないニャ)」

客A「エールと黒パンで」

猫耳メイド「エールと黒パン承りましたニャー」


 厨房

猫耳メイド「店長、エールの樽はどこニャ」

店長「あん? いつものとこだよ」

猫耳メイド「そこにないからこうして聞きに来たニャ」

店長「あー、そういや切らしてたから新しく仕入れたんだっけね。倉庫だよ」

猫耳メイド「開店準備の時に言って欲しかったニャ……」

店長「悪い悪い。……奴隷娘の働きぶりはどうだい?」


猫耳メイド「んー、どうって言われても可もなく不可もなくニャ。今のところは特にトラブルも起こしてないニャ」

店長「そうかい。ならいいんだけどねえ」

猫耳メイド「…………ニャ?」ピクリ

店長「どうしたんだい?」

猫耳メイド「ホールの雰囲気がいつもと違うニャ」

店長「いつもと違う? どういうことだい」


猫耳メイド「ニャー、賑わい方がおかしいって言えば分かるかニャ? 有り体に言うと、盛りのついてる客がいるのニャ」

店長「そんなことまで分かるのかい?」

猫耳メイド「むしろ分からないことがワタシにとっては不思議だニャ」

店長「……となると、やっぱり奴隷娘絡みかね。猫耳、ちょっと行ってきてくれ」

猫耳メイド「言われるまでもないニャ」スタスタ


 ホール

猫耳メイド(さーて、おいたをしてるお客はどこかニャ―?)


客B『ミートパイとヤギのミルク』

奴隷娘『……承りました』

客B『どうしたんだよ、元気ないな~。そんなんじゃウェイトレス勤まんないよ?』

奴隷娘『……ご忠告、ありがたくいただいておきます』

客B『違う違う、もっとこう……』サワッ

奴隷娘『…………っ!』

客B『そうそう、そのくらい愛想よくしてかないとさ、ね?』


猫耳メイド(……あー、分かりやすいニャー)


猫耳メイド「失礼するニャ。お客様、当店ウェイトレスへのお触りはご遠慮いただいておりますニャ」

客B「ええ~、いいだろ別に。ほら、その娘だって喜んでるし、なぁ?」

猫耳メイド「そうなのかニャ?」

奴隷娘「……はい」

客B「ほら、誰も嫌な思いしてないんだから、堅いこと言いなさんな」

猫耳メイド「なら言い方を変えるニャ。他のお客様の健全なお食事とご歓談の妨げになりますので、今すぐご退店願いますニャ」

客B「しっつけぇな~。誰も文句なんか言ってこねえからいいだろぉ? 獣(けだもの)のくせにガタガタ言いやが」


 ガリガリガリッ!


客B「いっ――てぇええええああああ!!」ゴロゴロ

猫耳メイド「ワタシたちは誇り高き獣人ニャ。次は舌を引き抜くニャ」


客B「この――殺してや」


 ぱたり


客B「…………」Zzz

エルフ娘「この人、他のお店で飲み過ぎちゃってたみたいですね。猫耳さん、お外に運んであげましょう」

猫耳メイド「そうするニャ。酔い覚ましに近所の川にでも放り込んでくるニャ」

エルフ娘「あそこは水が汚いからダメです」

猫耳メイド「そういう問題かニャ?」


奴隷娘「…………」

常連A「命拾いしたな、あのバカ」

常連B「エルフちゃんが眠らせてくれなかったら、今頃顔の皮引っ剥がされてただろうぜ」

常連A「大丈夫か新入りちゃん? 何かあったら俺たちにも言ってくれよ。いつでも力になるぜ」

奴隷娘「……ありがとうございます」

今回の投下はここまでです
読了いただきありがとうございました
あと酉はつけ忘れてたので今つけました

温かいレスをありがとうございます
お待たせしました
今日の分の投下を次レスから開始します


猫耳メイド「ふいー、今日もたっぷり労働したニャ。明日は暇をいただくニャ」

店長「何言ってんだい、いつも何も言わずにサボってるくせに」

猫耳メイド「ワタシのおかげで奴隷娘の貞操は守られたニャ。あの手の手合いはまだエルフ娘には早いニャ。特別手当をもらいたいニャ」

店長「それはまたおいおい考えるとして、もうちょっと穏便にやれないもんかい? 血が飛び散ると掃除が面倒なんだよ」

猫耳メイド「そう言われてもニャー、獣人の誇りに唾を吐いた罪は重いニャ。五体満足で帰しただけ温情判決ニャ」


エルフ娘「猫耳さんは手が早過ぎるんですよ。カチーンときたら、心の中で5秒数える癖をつけないと」

猫耳メイド「数えても数えなくても結果は同じニャ。こればっかりは譲れないのニャ。お昼寝よりも大事なことニャ」

店長「そこまで言うんじゃ曲げそうにないねぇ……」

猫耳メイド「ニャ」

奴隷娘「…………」


奴隷娘「……あの」

猫耳メイド「何ニャ」

奴隷娘「さっきの方、お怒りになったのではないでしょうか」

猫耳メイド「そりゃー怒ってるだろうニャ。怒髪が天を衝いてるニャ?」

奴隷娘「……あんまり、お客様を怒らせるようなことは、しない方が」

猫耳メイド「怒ったらどうするニャ?」

奴隷娘「……え?」


猫耳メイド「人間がワタシに腹を立てるニャ。きっと健気に報復に来るニャ。ここで質問ニャ。どんな報復をしに来るニャ?」

奴隷娘「……えっと、店に乗り込んでくるとか、店に火をつけるとか」

猫耳メイド「ワタシは基本この店にいるニャ。よからぬことを考えてる輩が来れば絶対気づくニャ」

猫耳メイド「来たら来たで、そのときはもう容赦しないニャ。細切れにして川に流すニャ。簡単ニャ?」

奴隷娘「……そ、そこまでしなくても」

猫耳メイド「何でニャ?」

奴隷娘「何でって……」


猫耳メイド「ワタシはオマエたちほど博愛主義じゃないニャ。虫だろうと人間だろうと獣人だろうと、命の目方は同じニャ」

猫耳メイド「お昼寝してるときに、しつこく顔にたかろうとする虫がいたら潰すニャ。それと変わらないニャ」

奴隷娘「…………」

猫耳メイド「何ニャ? 言いたいことがあるならはっきり言うニャ」


奴隷娘「……獣人は、皆そうなんですか?」

猫耳メイド「ニャ?」

奴隷娘「……私は、村を襲った獣人たちに人買いに売られて奴隷になりました」

奴隷娘「そのとき、彼らは言ってました。『人間というのは、金になる虫のようなものだ』と」

猫耳メイド・店長・エルフ娘「「「…………」」」

奴隷娘「……アリの巣を潰すみたいに村を焼かれて、イナゴみたいに馬車に詰め込まれて、珍しいチョウか何かみたいに売り飛ばされて――ああ、私って本当に虫みたい、なんて」


奴隷娘「……でも、獣人だってそんな人たちばっかりじゃない。優しくて、平和主義で、ちゃんとした話のできる人たちだっているんだって、そう思いながら生きてきました」

奴隷娘「……だからその、少し気になりました。すいません、それだけです……」

店長・エルフ娘「「…………」」

猫耳メイド「そうだニャー、少なくとも猫耳族は皆そんな感じニャ。気に入らないことがあったらすぐ殴り合いニャ。でも、どっちも強いから殺し合いにはならないニャ」

猫耳メイド「他の獣人は知らないニャ。犬耳族とか鹿角族とかいろいろいるけど、基本没交渉ニャ」

猫耳メイド「ニャー、まあ猫耳族に比べれば他の獣人は温和な方だと思うニャ? で、それがどうかしたのかニャ」


奴隷娘「……いえ、その、何となく気になっただけで」

猫耳メイド「はっきり言うニャ。まどろっこしいのは嫌いニャ」

奴隷娘「……いや、もう、本当に、どうでもいいことなんで」

猫耳メイド「どうでもいいなら言ってもいいニャ」

奴隷娘「……えっと、その」

猫耳メイド「ニャー、もう面倒だニャ。もういいニャ」

奴隷娘「い、いいんですか!?」

猫耳メイド「問い詰める方も疲れるのニャ。無駄なことは嫌いだニャ。大したことじゃないならもう興味ないニャ」


奴隷娘「……は、はあ」

店長「あー、気にしないでやってくれ。こういう奴なんだ」

エルフ娘「いちいち言動を真に受けてると身が持ちませんよ?」

猫耳メイド「それどういう意味ニャ」

エルフ娘「そのままの意味です」


猫耳メイド「……オマエには一度、上下関係のなんたるかを教えてやった方がいいニャ?」

エルフ娘「ふーん、どっちが上なんです?」

猫耳メイド「それを今から文字通り身体に刻みつけてやるニャ」

店長「はいはいやめやめ、小競り合いは禁止だよ」


猫耳メイド「命拾いしたニャ。店長に感謝するニャ」

エルフ娘「それはこっちの台詞ですよーだ」

店長「……何だ、こんな連中だが、根はいい奴らなんだ。アンタも何かあったらすぐ頼るんだよ」

猫耳メイド「お昼寝してるときじゃなければ、まあ気が向いたら手を貸してやるニャ」

エルフ娘「わたしはいつでもオールタイムでウェルカムですから、気軽にお願いしてくださいね♪」

奴隷娘「……あ、はい。頼りにさせていただきます」

奴隷娘(困ったことがあったら、なるべく店長さんに頼ろう……)


 酒場 2階


猫耳メイド「本当は客が泊まるための部屋だけど、人手が足りなくて宿屋はやってないから下宿部屋として使えるニャ。適当に空いてるとこを使うニャ」

奴隷娘「……一人で部屋を使っていいんですか?」

猫耳メイド「何でこんなに空き部屋があるのに二人で使うニャ。当たり前ニャ」

奴隷娘「……そうですね、当たり前のことでした」

奴隷娘「……プライベートな空間を持つという習慣がなかったので、ちょっと驚きました」


猫耳メイド「そうなのかニャ。じゃあワタシは夜のお散歩に行くニャ。さっさと寝るがいいニャ」シュタッ

奴隷娘「……はい、おやすみなさい」


 ――――――

 ――――

 ――


 酒場 2階


猫耳メイド(さてと、そろそろちゃんと寝るとするかニャ)テクテク

猫耳メイド(ニャ? 奴隷娘の部屋のドアが空いてるニャ。何だか気になるニャ。閉めておくニャ)


奴隷娘「――――――」


猫耳メイド(ボーっと窓の外を見てるニャ。まさか、ワタシが出て行ったときからずっとああしてるのかニャ?)

猫耳メイド「何してるニャ」

奴隷娘「ひっ……!? ね、猫耳メイドさん、ですか。どうかされましたか?」


猫耳メイド「別にどうもしないニャ。こんな時間まで起きてると、明日の業務に差し障るニャ。ワタシの負担が増えるからさっさと寝るニャ」

奴隷娘「……えっと、静かすぎて、何だか落ち着かなくて」

猫耳メイド「静かすぎて落ち着かない? どういうことだニャ」

奴隷娘「……私が前いたところだと、夜でも館の中はざわついてて、いつもそれを聞きながら仮眠をとっていたので、あまり寝つけなかったんです」

猫耳メイド「贅沢な悩みだニャー」

奴隷娘「あはは……」


猫耳メイド「前いたところは何してたニャ」

奴隷娘「……ある貴族の館で、雑用などをしていました」

猫耳メイド「貴族の館なら、夜になれば静かになりそうなもんニャ」

奴隷娘「……その、ご主人様はとてもお盛んな方でして」

猫耳メイド「ははーん、納得いったニャ。ご主人様に抱かれないと眠れないニャ?」

奴隷娘「そ、そんなことないですっ。というか私は、あんまりご主人様のお眼鏡に適う容姿ではなかったので、その……」

猫耳メイド「そうかニャ。ワタシは好みの部類だニャ」

奴隷娘「あ、どうも……」


猫耳メイド「そうだニャ。一人じゃ寝られないならワタシもオマエのベッドで寝てやるニャ。そうすれば落ち着くニャ?」

奴隷娘「え、あ、どうでしょう。多分、そういうことになるのかも……」

猫耳メイド「そうと決まれば早く寝るニャ。何なら頭でもなでてやるニャ」

奴隷娘「いえ、そこまでしていただく必要は……きゃっ」ボフッ

猫耳メイド「オマエが寝ないとワタシも寝られないニャ。ごちゃごちゃ言ってる暇はないニャ」ギュッ

猫耳メイド「ニャー。オマエ、ちっこいから抱き心地がいいニャ。これから毎日寝るときはこうするニャ」

奴隷娘「……は、はい。分かりました」

猫耳メイド「――――」Zzz

奴隷娘「って、もう寝てる――!?」

奴隷娘(すごく温かい……まるで大きな猫みたい。……って言ったら怒るかな)

奴隷娘(いつぶりだろう、誰かに抱かれながら寝るなんて)


奴隷娘(暖炉のそばで、お母さんの膝に乗ったまま、絵本を読んでもらってたらそのまま眠っちゃって……たった3年前のことなのに、もう何十年も昔のことみたい)

奴隷娘(もう戻ってこないんだね。あの頃の暮らしも、あの頃の私も)

奴隷娘(――――)グスッ

奴隷娘(どうして……私ばっかりこんな目に……)

今日の分はここまでです
申し遅れましたがエロはありません
読了いただきありがとうございました


猫耳メイド「今日はこれから仕入れに行くニャ。問屋に引き合わせるからオマエも連れて行くニャ……ってさっき店長に命令されたニャ」

奴隷娘「……はい、分かりました」

猫耳メイド(目が真っ赤っ赤ニャ。寝ながら泣いてたニャ?)

猫耳メイド「店長からリストはもらってるから、これを問屋に渡すだけニャ。簡単ニャ」

奴隷娘「……えっと、お金は持って行かないんですか?」

猫耳メイド「アイツは人間からは金をとらないニャ。だからオマエを連れて行けばタダで買い物できるニャ」

奴隷娘「えっ!? そんな、いいんですか?」

猫耳メイド「アイツがいいって言ってるからいいニャ。ワタシは何も困らないニャ」


奴隷娘「……タダより高いものはないって言いますけど」

猫耳メイド「アイツは根っからの人間びいきなんだニャ。人間の助けになることが生き甲斐なんて言ってる変人だニャ。その分獣人……ていうか、異族全般にあたりがキツいニャ」

奴隷娘「その人、獣人なんですか?」

猫耳メイド「獣人だけど、限りなく人間に近い種族ニャ。でも力は獣人と遜色しないニャ。美味しいとこ取りだニャ」

奴隷娘「……はあ」

猫耳メイド「何ニャ。獣人は苦手かニャ?」

奴隷娘「いっ、いえ、そんなことはない、ですけど……」


猫耳メイド「安心するニャ。アイツは人間の可愛い女の子には特に優しいニャ」

奴隷娘「……あの、ますます不安なんですけど」

猫耳メイド「大丈夫ニャ。いざとなったらワタシがいるニャ」

奴隷娘「……はあ」

猫耳メイド「不服かニャ?」

奴隷娘「め、滅相もないです!」

猫耳メイド「なら行くニャ。早く帰ってお昼寝するニャ」

奴隷娘「は、はい!」


 裏通り


奴隷娘「……かなり奥まったところまで入るんですね」

猫耳メイド「あんまり人目につきたくないんだニャ。性分だニャ」

猫耳メイド「ここだニャ。ごめんくださいませニャー」ガチャ

???「あ? 誰かと思えば、姐さんとこの猫娘かい。悪いが、あんたからはしっかり銭もらうぜ」

猫耳メイド「ワタシはただの付き添いニャ。買いに来たのはこっちの奴隷娘ニャ」

奴隷娘「……よ、よろしくお願いします」

???「おぉ? こりゃあまた可愛こちゃん連れてきてくれたねぇ。猫娘、あんたもやりゃあできるじゃねえの」

猫耳メイド「別にオマエの役に立ったって嬉しくもなんともないニャ」


猿人問屋「おっと、自己紹介が遅れちまった。俺ぁ猿人問屋よ。オーク肉からドラゴンの尻尾まで、食えるもんなら何でも売るぜ」

猫耳メイド「オーク肉なんて買いに来る奴いるのかニャ? あんなの臭くて食えたもんじゃないニャ」

猿人問屋「世の中にゃトロールの糞だって喜んで買いつけたがる奴がいるんだ。何かしら使い道があるんだろうよ。興味もねえけどな」

猿人問屋「で? 今日は何の注文だい」

奴隷娘「……えっと、これに書いてあるものを全部お願いします」

猿人問屋「はーん、要するにいつものってこったな。了解了解、適当にそのへんぶらついててくれや。1時間くらいで揃うからよ」

猫耳メイド「こんなじめじめしたとこ1時間もぶらつきたくないニャ。ここで待たせてもらうニャ」


猿人問屋「倉庫の中は魔法で異界化させてるもんでな。あんまり他人に見られると構造を解析されちまってうまくねえ。悪いがどうしても出払ってもらうぜ」

猫耳メイド「そういうことなら仕方ないニャー。ほら、行くニャ」

奴隷娘「は、はい!」


 ――――――


 裏通り


奴隷娘「……猿人問屋さんって、魔法が使えるんですか?」

猫耳メイド「猿人だからニャ。原始的な呪術を使える獣人は珍しくないけど、人間用の魔術を習得できる獣人はそう多くないニャ」

奴隷娘「……じゃあ、猫耳メイドさんも何か使えるんですか?」

猫耳メイド「何で呪術なんてケチなもの覚える必要あるニャ。この身一つで十分だニャ」

奴隷娘「なるほど……」


 問屋


猫耳メイド「そろそろいい頃合いだニャ。これ以上待たせるなんて言わないニャ?」

猿人問屋「あー、へいへい。準備出来てやすよ。嬢ちゃんに免じてお代は取らねえ。ほら、持ってきな」

奴隷娘「ありがとうございます! ……すごい量ですね」

猫耳メイド「いつも店長はどうやって運んでるニャ?」

猿人問屋「あん? 俺っちが運んでるに決まってるべ」

猫耳メイド「なら今日も頼むニャ」

猿人問屋「何言ってんだ。ありゃ姐さんだけの特別サービスだよ。それにお前がいるなら十分だろ」

猫耳メイド「ニャ? こんなか弱い乙女に力仕事させる気なんて甲斐性がないニャ」

猿人問屋「嘘つけ。素手で熊だって解体できるクセに」


猫耳メイド「ならせめて小分けにして布で包むニャ。重さは苦じゃなくても往復するのは面倒ニャ」

猿人問屋「注文の多いお猫様だねぇ、まったく……」


 ――――――――


猿人問屋「おらよ。これで満足かい」

猫耳メイド「ご苦労ニャ。今度来たときにチップを弾むニャ」

猿人問屋「今弾めよ」

猫耳メイド「手持ちがないから無理ニャ」

猿人問屋「なら言うな」

奴隷娘「い、いろいろお世話になりました。これからも、末永くよろしくお願いいたします!」

猿人問屋「あいよ。あんたならいくらでも世話してやるぜ。いつでも来な」

奴隷娘「は、はい!」


猿人問屋「そうそう、余計なお世話かもしらんが、俺ぁ奴隷市界隈にもそれなりに顔利くんだわ」

奴隷娘「……!」

猿人問屋「だから、もし家族や知り合いのことが知りたきゃ俺に頼みな。力になってやるよ」

猫耳メイド「ちょうどいいニャ。親御さんの消息を調べてもらうニャ」

奴隷娘「……じゃあ、山の国出身で、うなじに刺青の入った人たちの話を聞いたら、ご一報お願いします」

猿人問屋「山の国出身でうなじに刺青ね。よし、任せとけ。次の仕入れのときまでには情報集めとくわ」

奴隷娘「……はい、よろしくお願いします」


猫耳メイド「フニャー、そろそろ午後のお昼寝の時間だニャ。早く帰りたいニャー」

奴隷娘「…………」

猫耳メイド「どうかしたのかニャ」

奴隷娘「……今、皆どうしてるんだろうって、考えてました」

猫耳メイド「生きてるか死んでるかどっちかニャ」

奴隷娘「……それはまあ、そうでしょうけど」

猫耳メイド「どうにもならないことを悩んだって時間の無駄ニャ。なるようになるニャ」

奴隷娘「……でも、今の私みたいに恵まれた職場でお仕事が出来ているとは限りませんし」

猫耳メイド「炭鉱にいようが娼館にいようが、今すぐ羽を生やして助けに行けるわけじゃないニャ」


奴隷娘「…………」

猫耳メイド「生きてさえいればなんとでもなるニャ。そんなに深く考えることないニャ」

奴隷娘「……はあ。そうかもしれませんね」

猫耳メイド「ニャ? 何か奥歯にものが挟まったような言い方ニャ」

奴隷娘「猫耳メイドさんは強いから、どんなところでも気ままに振る舞えるから、そんな楽観的な物の考え方が出来るんです」

奴隷娘「人間は……少なくとも私はそんなに強くないんです。だから」

猫耳メイド「そういう愚痴なら店長にでも言うニャ。ワタシは獣人で、オマエは人間ニャ。相容れないのは当然のことニャ」

奴隷娘「……!」


猫耳メイド「弱いヤツを庇ってやるっていうのは弱い生き物の発想ニャ。助け合わないと生きていけない生き物の発想ニャ。ワタシは生まれつき強い生き物ニャ。生まれたときから一人で大抵のことが出来てしまう生き物ニャ」

猫耳メイド「今のオマエが言おうとしてるのは、王族に奴隷の気持ちを考えろと言ってるようなものニャ」

奴隷娘「……もういいです」

猫耳メイド「ニャ?」

奴隷娘「猫耳メイドさんの言いたいことはよく分かりました。ですから、もう結構です」


猫耳メイド「そうかニャ。ならいいニャ」

奴隷娘「…………」

奴隷娘(猫耳メイドさんの考え方は正しい。どうしようもないことでくよくよ悩んだって何にもならない)

奴隷娘(でも、ちょっと慰めるくらいしてくれたっていいのに……)

奴隷娘(……甘えてたのかなあ。昨日、一緒に寝てもらったからって)

以上で今回の投下を終わります
読了いただきありがとうございました

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