らき☆すたSSスレ 〜そろそろ二期の噂はでないのかね〜 (580)

ここは「らき☆すた」のSSスレです。

・どんなジャンルでもどんどん投下したまへ~ by こなた
・でも、他所からの作品の無断転載は絶対ダメよ! by かがみ
・あとね、あんまりえっちなのはちょっと恥ずかしいから遠慮してほしいな by つかさ
・メール欄に「saga」と入力するとこの板特有のフィルターを回避できます。「sage」ではありませんよ。
 代表的な例が「高良」です……よろしくお願いしますね by みゆき
・長編作品はタイトルをつけてもらえるとまとめるときとかに助かります! by ゆたか
・それと、できればジャンルを明記するようにしてほしいの。
 特定のジャンルが苦手な人もいると思うから…… by あやの
・パロディとかクロスオーバーとかもおっけーだけど、
 あんまり度が過ぎると他の人に引かれっから気をつけろよなー by みさお
・シラない人へのハイリョがアればgoodネー byパティ
・初めてでもよっしゃーいっちょ書いたろかって人大歓迎するでー by ななこ
・まとめてくれる人募集中です……そして、現在のまとめ人には感謝してます…… by みなみ
・お題を出せば書いてくれる職人さんもいるっス。ネタのため……
 いや、いろんなお話を読んでみたいんで、いいお題があったら書いてみてください! by ひより
・そしてそして、SSだけじゃなくて自作の絵もOK!
 投下された絵は美術室に展示されるからジャンジャン描くべしっ! by こう
・注意! 荒らしへの反応は絶対ダメ。反応する悪い子は逮捕だ! by ゆい


(避難所)

 
 避難所は休止中(再開の見込みは今の所ありません) 

(まとめサイト)
 http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/

(SSスレ用画像掲示板)
 http://www.sweetnote.com/site/luckystar/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1360577276


前スレ続きです。

ゆたか「コンちゃんの教育係?」
私は頷いた。ゆーちゃんの話が終わると今度は私が今までの経緯を話した。ゆーちゃんは食い入るように私の話しを聞いていた。
ひより「昨日行ってきたけど……まぁ、子供と言うのか、笑っちゃうくらい」
ゆたか「そ、そうなんだ……」
ゆーちゃんは少し寂しそうな顔になった。
ひより「ん、どうしたの?」
ゆたか「え、あっ……佐々木さんは私にコンちゃんの話しはしなかったから……私ってまだ子供なのかな……」
ゆーちゃんがこんな事言うなんて……ゆーちゃんも教育係をしたかったのだろうか。
ひより「そうかな、佐々木さんは私にゆーちゃん程詳しく自分達の話しをしてくれなかったから……同じじゃないかな?」
ゆーちゃんはあまり納得していなかった様子だった。私は話しを続けた。
ひより「それで今度、柊家に彼を連れて行く」
やたか「えぇ、それって、正体を話しちゃうって事、だ、ダメだよ」
身を乗り出して迫ってきた。
ひより「い、いや、そうじゃなくて、まばぶさんがまつりさんにお礼を言いたいって言うから……勿論、正体なんかばらすつもりは無いよ、いきなりコンはお稲荷さんで、
    人間に化けて来ましたよ、なんて言ったって信じてくれるわけ無いから」
ゆーちゃんは私から離れてホッと胸を撫で下ろした。
ゆたか「そうした方が良いよ……まつりさんにお礼……もしかして、コンちゃんは……まつりさんの事……」
ひより「そうだね、愛している……とは言えないけど、少なくとも好意は持っていると思う、殆どまつりさんが世話をしたって言うから、当然と言えば当然だね」
ゆたか「……そ、そうなんだ……ねぇ、ひよりちゃん……」
今度は改まって私に迫ってきた。だけど目は私を見ていない。言い難い話しなのかな。
ゆたか「うんん、何でもない……なんでもない……まなぶさんとまつりさん……か……うまく行くと良いね」
何を言おうとしたのだろう。少し気になるけど……今は考えるのは止めよう。
ひより「ふふ、ダメダメ、きっとまつりさんの好みじゃないと思うよ」
ゆたか「そんな事ないよ、きっとうまくいくよ!!」
珍しく私のおふざけに食いついてきた。もちろんまつりさんの男性の好みなんて知らない。適当にふざけただけだった。それなのにこの食いつき様は……
これはゆーちゃんも私と同じような状況にあると思って良い。
『よし!』
頭の中で気合を入れた。
ひより「もしかして、ゆーちゃんも誰かと誰かをくっ付けたい、なんて思っていない?」
ゆたか「えっ!?」
ゆーちゃんの表情が固まった。図星だ。この状況から察するに答えは自ずと導き出される。
ひより「ズバリそれは、佐々木さんといのりさん……」
ゆたか「え、え~ど、ど、どうしてそれを……」
動揺してどもってしまうゆーちゃん、やっぱりゆーちゃんは嘘を付けない。ちょっとだけホッとした。
ひより「佐々木さんがコンを引き取りに来た時、佐々木さんといのりさんが良い雰囲気だったのを思い出したから、もしかしたらと思ったのだけどね」
暫くするとゆーちゃんは納得したように落ち着きを取り戻した。
ゆたか「ひよりちゃん凄い……あの時そこまで気が付かなかった、鋭い洞察力だね」
ゆーちゃんにまで同じ様に褒められるとは。流石に照れてしまう。
ひより「それで、お二人はどこまで進んでいるのかな~?」
調子に乗った私はまたちょっとふざけ気味になった。ゆーちゃんの顔が曇った。
ゆたか「私がいのりさんに整体院を教えてから何度か通うようになって……」
いのりさんが整体院に通う……見た所身体が悪そうに見えないけど……好きになると通いたくなるものなのかな~
整体師と巫女の恋物語……う~ん、ちょっといやらしいかな、いや、そう思う私がいやらしいのかもしれない……でも、もっと良い題名付けられないかな……
ゆたか「ひよりちゃん……聞いている?」
ゆーちゃんの声に我に返った。
ひより「は、はい、 なんでしょうか、佐々木さんが通うようになった……はい、次お願いします」
ゆーちゃんは頬を膨らませて怒った。
ゆたか「やっぱり聞いてない……」
やばい、やばい、妄想が止まらなくなってしまう。いつもの癖が出てしまった。私はゆーちゃんを見て集中した。
ゆたか「……いのりさんが佐々木さんに好意を持っているのは私もそこで分ったのだけど……佐々木さんの方がいのりさんを避けているような感じがする……
    何とかしたいのだけど、私の力ではどうする事も出来ない……何か良い考えがないかな……」

ひより「う~ん」
両手を組んで考え込んだ。これは難題だ。そもそも恋愛は私の得意分野ではない。いや、そもそもこうすればこうなるみたいな方程式なんか無い。
それが恋愛……
まなぶとまつりさんも同じ。それはつかさ先輩と相手のお稲荷さんも然り。
ひより「ごめん、私もそれに関しては全くのノーアイデア」
ゆーちゃんは沈んだ顔になった。もしかして、ゆーちゃんはこの恋愛の為に私の記憶を消したのかもしれない。
そうだ、そうに違いない。それしか考え付かない。自分だけで解決したい……そうか。無理しちゃって……
ひより「まなぶとまつりさんを会わせてそのまままつりさんがまなぶを好きになってくれれば私は何もする事がない、でもそう簡単にはいかないと私も思っている、
    こうして片足を突っ込んだからには何とかしないと、お互いにね、ゆーちゃんもそう思っているでしょ?」
ゆたか「それじゃ……ひよりちゃんも?」
ひより「恋って他人がどうこうするものじゃないって言うのは認識しているけど、相手がお稲荷さんだとやっぱり放っておけない」
ゆーちゃんは当然と言わんばかりに相槌を打った。
ゆたか「このまま私はいのりさんと佐々木さんを担当するから、ひよりちゃんはまつりさんとコンちゃんをお願い」
ひより「うん」
さて、ゆーちゃんと話してほぼ目的を果たした。でも、もう一つ決めておかないといけない事がある。
ひより「……みなみちゃんにはどうやって説明するか、それが問題だね」
突然ゆーちゃんの顔が豹変した。
ゆたか「みなみちゃ……みなみには話す必要なんかないよ」
ひより「へ?」
私は呆気にとられた。どう言うことなんだ?
ゆたか「ひよりちゃん、この話しはみなみに話したらダメだから、約束して」
いつになく強い口調だった。
ひより「……約束するのは構わないけど、みなみちゃんと何かあったの」
ゆたか「ひよりちゃんには関係ない事だから……」
言葉のトーンが少し下がった様な気がした。関係ないと言われても関係ないはずはない。
ひより「もしかして、喧嘩でもしたのかな」
ゆたか「もうその話しは止めて!」
ひより「う、うん、もう話さないよ」
また強い口調になった。どうやら喧嘩をしたのは確かなようだ……そういえば泉先輩を見送った後、かがみ先輩がそんな話しをしたっけ。
私には気が付かなかったけど、かがみ先輩の方が私より鋭い目を持っているのかもしれない。
喧嘩とはまた厄介な問題だ。
ゆーちゃんはああ見えて一途な面をもっている。みなみちゃんはちょっと言葉足らずな所があるから今まで喧嘩をしなかったのが不思議だったのかもしれない。
やれやれ、これも私がなんとかしないとならいみたいだ。
ゆたか「あっ、もうこんな時間、もう遅いし、夕ご飯を食べていかない?」
いつものゆーちゃんに戻った。
ひより「え、私は……」
ゆたか「遠慮しないで、いつも二人で寂しいから、おじさんもきっと喜ぶし、ね」
ひより「……それではお言葉に甘えまして……」
なんだろう、ゆーちゃんにこんな二面性があったなんて、これもツンデレの一種なのだろうか。いや、みなみちゃんと何があったからかもしれない。
でも喧嘩なんてどっちもどっちって落ちが殆どだし……
取り敢えずまなぶと会う前にみなみちゃんに会う必要がありそう。

 夕食はゆーちゃんとおじさんを含めた三人で食べた。おじさんは泉先輩の話しかしなかった。ゆーちゃんは何故かつかさ先輩の話しが中心になっていた。
その合間を縫うように私は雑談をした。やっぱりなんだかんだ言って泉先輩が抜けたのはこの家にとって大きな出来事だったのだろう。
そんな気がしてならなかった。
話しは長くなりすっかり夜も遅くなってしまった。おじさんの車でゆーちゃんが家まで送ってくれると言うので送ってもらう事になった。

ひより「家に連絡をとって兄に迎えに来てもらうよ」
ゆたか「うんん、引き止めたのは私だし、気にしないで」
ゆーちゃんは車のロックを解いた。
ゆたか「どうぞ」
私は助手席に乗った。そういえばゆーちゃんの車の運転は初めてだった。ゆーちゃんは運転席に乗りシートベルトを締めた。ゆーちゃんは私の方をじっと見つめた。
ひより「はい?」
ゆたか「シートベルト」
ひより「あ、そうだった」
私はシートベルトを締めた。その瞬間、ゆーちゃんの目つきが鋭くなった。道路の向こうの一点を凝視する目、獲物を狙う猛禽類そのものだった。
ひより「え、な、何?」
戸惑う私を尻目にゆーちゃんはサイドブレーキに手をかけた。
ゆたか「いくよ!!」
『ヴォン!!』
エンジンが爆音を上げた。
嗚呼……ゆーちゃんは成実さんと同じ血が流れているのを忘れていた。隣に座っているのは紛れもなく成実さんの妹であった。
その後の私はゆーちゃんのドライブテクニックを嫌と言うほど味わう事となった。

 数日後私はみなみちゃんに連絡を取った。するとみなみちゃんの方から私の家に出向くと言ってきた。私はすぐに了承をした。

 さて、みなみちゃんを呼んだのは良いけどどうやって話せば……
ゆーちゃんは昨日の話しはするなと言う。曲がりなりにも約束をしたからにはうかつには話せない。
みなみ「急用は何?」
ひより「え、えっと……」
ここに来て口篭る。みなみちゃんはゆーちゃんと一緒に居たから気兼ねなく話せたけど、こうして二人きりだと話しのペースが掴めない。
どうやって切り出すか。みなみちゃんはまごまごしている私を不思議そうに見ていた。ここ単刀直入にいくしかなさそうだ。
ひより「最近、ゆーちゃんと喧嘩していない?」
みなみ「ゆたかと……喧嘩」
復唱するとそのまま黙ってしまった。ゆーちゃんと違って表情からは何も分らない。
ひより「泉先輩の引越しの見送りに来なかったでしょ、泉先輩が出発した後ね、ゆーちゃんが……」
みなみ「あの時は用事があったから……」
私の話しに割り込んで来た。
ひより「みなみちゃんの話しはしたくないって……数日前だよ、本当はゆーちゃんもここに連れてきて一緒に話しをさせたいくらい」
みなみ「……その必要はない、あんな分らず屋といくら話しても結果は同じ」
ひより「ちょ……みなみちゃん……」
みなみちゃんとは思えないセリフだった。事態は思ったより深刻そうだ。
みなみ「ひよりは聞いたの、佐々木さんといのりさんの話しは……」
ひより「えっ!?」
まさかその言い方からするとみなみちゃんも話しを聞いているって事なの?
みなみ「お稲荷さん、あえてそう言わせてもらう、彼らはつかさ先輩、かがみ先輩の命を奪おうとした、そんな人達といのりさんを一緒にさせるなんて正気の沙汰とは思わない」
ひより「人間もいろいろ居るのと同じ、お稲荷さんだっていろいろ居る、佐々木さんは私が見た所普通の人と同じ思考だと思う、いや、普通の人より理性的、
    一緒に考えちゃダメだよ」
みなみちゃんはお稲荷さんの事を良く思っていない。つかさ先輩の話しを聞いていた時は感動している様にみえたのに……
みなみ「みゆきさんは言った、人は人意外愛せないって……まして彼らは他の星から来た者、愛し合うなんて出来るはずない、ゆたかのしようとしている事は悲劇しか生まない」
う、確信を付いてきた。確かに普通に考えるとそうかもしれない。でも、何故、みなみちゃんは心変わりしてしまったのかな。高良先輩の名前が出てきたけど……
そうか、高良先輩の影響をもろに受けてしまったみたい。高良先輩もお稲荷さんを良く思っていないって泉先輩が言っていたのを思い出した。
みなみ「ひよりからも止めるように言って欲しい……」
急に悲しい顔になった。喧嘩をしていてもゆーちゃんを心配している。そこは変わっていないみたい。なんかホっとした。
でも、みなみちゃんの言っている内容はそのまま私がしようとしている事に対しても止めろと言っている様に聞こえる。
ゆーちゃんはこうなるのを分っていて話しをするなって言ったのかな。
ひより「私は……止められない、正しいのか、間違っているのか、私には分らないけど、これだけは言える、好き合っているなら良いんじゃないの」
みなみちゃんは私を鋭い目で睨みつけた。
みなみ「……ゆたかはそんな不確かな感情で動いている、遊びで二人を弄んでいる、それこそ佐々木さんの怒りを招くだけ……」
ひより「あ、遊び……」
みなみちゃんは立ち上がって身支度をし始めた。
遊びだって……私はそんな浮ついた気持ちでまつりさんとまなぶを会わせようなんて思っていない。胸が熱くなった。込み上げる感情を抑えられなくなった。
ひより「違う、違うよみなみちゃん」
みなみちゃんは身支度を止めた。
みなみ「違う?」
ひより「そうだよ、私は命を懸けて佐々木さんの所に行った、それを遊びだなんて言わないで、私は……私は、少なくと私は間違っていないと思うから、二人を会わせて、
    その後は二人で決める、それだけだよ、無理強いなんかしないし、させない、切欠を与えるだけ、それでもダメなの?」
みなみ「な、なにを言っているのか分らない、私はゆたかに言っているのに、なぜひよりがムキになる……」
私は我に返った。しまった。思わず自分に言われているような気がしてしまった。そんな私を見てみなみちゃんは微笑んだ。
みなみ「ひよりが趣味以外で熱く語るのを初めて見た……ゆたかが羨ましい」
みなみちゃんは身支度を終えると部屋を出ようとした。
みなみ「私は手伝えない、だけどひよりが正しいと思うならゆたかを助けてあげて……お邪魔しました、帰ります」
みなみちゃんは部屋の扉に手を掛けた。
ひより「もし、真奈美さんが生きていたら、きっとつかさ先輩の友達……親友になっていたよね、うんん、もうとっくに親友だった、二人はお稲荷さんと人間だよ……
    だから私も同じ様に……」
一瞬動作が止まったけど、そのまま玄関の方に向かい、家を出て行ってしまった。
ゆーちゃんとみなみちゃんの仲直りすら誘導できないなんて……みなみなちゃんの言うように私達は間違っているのかな……
いや、成功させれば誰も文句は言わない。ゆーちゃんの為にも成功させてみせる。

 私達は柊家に向かっていた。
ひより「打ち合わせの通りお願いね、シミュレーションを忘れないように」
まがぶ「分った……」
それから一週間後、二回目のまつりさんの取材の日になった。今度はまなぶと一緒だ。まつりさんがどんな行動をするか事前にシミュレーションをしておいた。
万全には万全を、少しでもまなぶの好感度を上げておきたい。あれ、まなぶの表情が硬い。
ひより「まなぶさん、まだ会ってもいないのに緊張しちゃダメ」
まなぶ「分っている、分っているけど、人間として会うのは初めてだ、私を見てどう思うだろう?」
ひより「……私はまつりさんじゃないから分らない、あまり気取らないで自分らしくいくしかないと思う」
この程度のアドバイスしか出来ないとは我ながら情けなくなる。
まなぶ「……家が見えてきた」
ひより「まつりさんには私のアシスタントも同行するって言ってあるから」
まなぶは手の平に人と三回書いて飲んでいる……そんなおまじないで緊張が解けるわけ……まさかお稲荷さんがその起源?
確認をする間もなく柊家の玄関の前に着いた。
ひより「それでは行きます……」
私は呼び鈴を押した。暫くすると扉が開いた。
かがみ「いらっしゃい、待っていたわよ……」
私の隣にいるまなぶをかがみ先輩がじっと見た。かがみ先輩にはまなぶの正体はまだ言っていない。取材が終わったら話すつもりでいた。
かがみ「……貴方が田村さんのアシスタントね……」
ひより「はい、大学の同級生でまなぶと言います」
まなぶ「よろしくお願いします!」
まなぶは深々と頭を下げた。
かがみ「取り敢えず中に入って、まつり姉さんが買い物から帰ってこないのよ……」
ひより「はい」
私達は家の中に入った。
かがみ「居間で待っていて、直ぐに呼ぶから」
かがみ先輩は携帯電話を取り出した。
まなぶは何の迷いもなく居間に向かって歩き出した。しまった。まなぶはこの家は初めての筈、だ、だめだよ。私は小走りでまなぶの前になって居間に進んだ。
ひより「家に入ったら勝手に歩いたらダメって言ったでしょ?」
私は彼の耳元で囁いた。
まなぶ「あっ、そうだった、ごめん、狐の頃を思い出してしまった、今度から気を付けるよ」
まなぶも小声で囁いた。これじゃ先が思いやられる……
かがみ先輩は携帯電話でまつりさんと会話をしている。おそらくさっきは見られていない。
かがみ「そうなのよ、もう彼女達来ているわよ」
……
かがみ「忘れていたって……ちょ、姉さんしっかりしてよ、今どこに居るの?」
……
かがみ「それじゃ直ぐ戻ってきて……急いで!!」

 かがみ先輩は携帯電話を仕舞うと居間に来て私達の前に座った。
かがみ「ごめんね、姉さんすっかり忘れたみたい、急いで戻ってくるから少し待っていて」
ひより・まなぶ「はい」
かがみ先輩は私の隣に座っているまなぶをじっと見つめた。
かがみ「ふ~ん、成る程ね……」
かがみ先輩は腕を組み納得する様に二度頷いた。
ひより「なんでしょうか?」
かがみ先輩はまなぶを指差し言った。
かがみ「あんた、コンじゃない?」
ひより・まなぶ「ふえ?」
あまりに唐突で、的を射た発言に私達二人は奇声を上げるしかなかった。そんな私達を見てかがみ先輩は笑った。
かがみ「図星みなたいね」
ひより・まなぶ「ど、どうして分ったの?」
かがみ「コンは人の顔を見る時、二回瞬きをする、そのタイミングと間隔が全く同じだった」
まなぶは慌てて両手で目を隠した。それを見たかがみ先輩はまた笑った。
ひより「そ、それだけで、たったそれだけで分ったのですか?」
かがみ「勿論それだけじゃ分らない、田村さんのいままでの行動や、私の体験、つかさの話しとかを総合的に考えてね……今は私しか家に居ないから
    思い切って聞いてみたのよ、仮に違っていても彼にさんにとっては意味不明な会話になるから問題ない」
ひより「まいったなぁ~そこまで考えた上の質問だったっスか……私からはもう何も言う事はないっス」
まなぶ「ま、まずい、これじゃまつりさんにもバレしまう……は、早く帰ろう……」
慌て始めたまなぶを見てまたかがみ先輩は笑った。
かがみ「ふふ、まつり姉さんは分らないわよ、お稲荷さんの話しを知らない、仮に知っていたとしてもまなぶさんとお稲荷さんを結びつけるような思考はないと思う、
    田村さんみたいに想像力がある人じゃないと理解できないわよ」
ひより「そ、そうですか」
これって、褒められているのだろうか……
急にかがみ先輩は真面目な顔になった。
かがみ「それはいいとして……なぜ連れてきたの、コンの話しをするのに本人を連れてくるなんて……もっと相談くらいはして欲しかった」
私とまなぶは顔を見合わせた。
ひより「……これには人には話せない深い事情がありまして……」
かがみ「深いって……今更私に何を秘密にすると言うのよ、つかさ、こなた、みゆき、私はもう殆ど知っているのよ、貴女達だってつかさから聞いているでしょうに」
ひより「はい、ですから事情であります」
かがみ「事情……事情って何よ」
かがみ先輩はまなぶの方を見た。まなぶは俯いて少し顔が赤くなっている。
かがみ「……何よ、人に言えない様な恥かしい事なの……」
私達は黙った。
かがみ「……ちょっと待って、まさか、まつり姉さんを……た、田村さんちょっとこっちに来なさい」
かがみ先輩は立ち上がり居間を出た。
かがみ「まなぶさんはそこで少し待っていて下さい」
私は居間を出ると二階に上がりかがみ先輩の部屋に連れられた。部屋に入るとかがみ先輩は扉を閉めた。
かがみ「どう言う事なの、あんたまなぶさんを好きじゃなかったの」
ひより「いいえ、私は別に好きでもなんでもないです、あの時は否定するほどかがみ先輩が勘違いされるものですから……」
かがみ先輩は自分の間違えに気付いたせいか少し照れてしまっていた。
かがみ「そ、そうだったの……そ、それなら別に問題はないけど……それにしても、選りに選って……まつり姉さんなのか……」
私は頷いた。
かがみ「確かにまつり姉さんはコンの世話をしたかもしれないけど……それはあくまで犬として、狐として見ていただけでしょうに」
ひより「それは私も彼に言いました、それでもお礼を言いたいって……」
かがみ「……あんた、何故そんなに首を突っ込む、下手をするとつかさの二の舞になるわよ……」
みなみちゃんと同じような言い方だ。
ひより「もう突っ込んでしまっていますから、私が何もしなくてもまなぶさんはきっとまつりさんに会おうとする、それならお膳立てくらいはしても良いかなって……」
かがみ先輩は腕を組んで考え込んでしまった。ここまで話したのならもう一つの話しもするかな……
ひより「あの、もう一つついでに……いのりさんと佐々木さんも同じような事をゆーちゃんがしようとしています」
かがみ「はぁ……な、なんだと、つかさといい、姉さん達といい、あんな狐に化けるお稲荷さんのどこが良いのよ」
呆れ顔でお手上げのポーズのかがみ先輩。
ひより「つかさ先輩は置いておいて、お二人はまだお稲荷さんの正体を知らないから何とも言えないっス」
『ブルブルブル』
かがみ先輩のポケットから携帯のバイブ音が鳴った。かがみ先輩はポケットを手で押さえた。
かがみ「まつり姉さんが帰ってくる……あぁぁん、もう、こんな時に限って早いんだから……もうこうなったら自棄(やけ)よ、田村さんは居間に戻って、
    私もそれとなく手伝うから、どうなっても知らないわよ」
ひより「はい!!ありがとうございまス」
私は急いで居間に戻った。かがみ先輩が協力してくれるとは思わなかった。希望が湧いてきた。

 居間に戻るとまなぶが心配そうな顔をしていた。
まなぶ「な、何か悪い事でもしたかな?」
ひより「あ、ああ、何でもない、それよりまつりさんがそろそろ来るって、シミュレーション通りで行くから……」
まなぶ「分った」
言えるはずも無い、かがみ先輩が勘違いしていたなんて……わざわざかがみ先輩が部屋を移した意味がやっと分った。
まつり「ただいま~ごめん、ごめん、すっかり忘れてた~」
玄関の方からまつりさんの声がした。
かがみ「ごめんじゃないわよ、最低よ……文句は後ね、それより急いで、居間で待機しているわよ」
階段から降りてきたかがみ先輩。呆れた様子が声だけで分る。
まつり「サンキュー!」
まつりさんが居間に入ってきた。
ひより・まなぶ「こんにちは~」
まつり「こんにちは……」
部屋に入ったまつりさんは最初にまなぶに目線を向けた。
ひより「あ、紹介します、私の大学で、アシスタントをしている……」
まつり「宮本さんでしょ、話しはかがみから聞いてる」
聞いているって何を……まつりさんの顔が少しにやけているように見えた。
まつり「お似合いのカップルじゃない」
ひより・まなぶ「へ?」
居間の入り口から半身隠れてかがみ先輩が私の方を向いている。腕を顔まで上げてゴメンのポーズをしていた。ま、まさか、
『なんて事をしてくれたの!!!』
私は心の中で叫んだ。早とちり過ぎる。すんなり協力するなんて言ったのはこの為だったのか。
ひより「ち、違います、私達はそんなんじゃありません」
まつり「その必死に否定するのが余計に怪しい……」
まつりさんは笑いながら私達の前に座った。この誤解を解くのは並大抵のことじゃ出来ない……
まなぶが呆気にとられて放心状態になっている。まずい、まつりさんのペースに流されてはいけない。
ひより「あ、あのですね……」
まつり「ふふ、冗談はこれまでにして、取り敢えず自己紹介、私は柊まつり、この家の四人姉妹の次女、大学を卒業して現在は近所の工場の経理をしています」
まつりさんはまなぶの方を見ていた。さっきまでのふざけた姿とはもう違っていた。私は肘で軽く突いて合図をした。まつりさんの切り替えの早さには私も付いていけない。
まなぶ「私は宮本まなぶです、田村さんと同じ大学で学んでいます、家が遠いので佐々木整体院の佐々木さんの所に住み込させてもらっています」
まつり「佐々木整体院……佐々木さんの親戚なの?」
まなぶ「はい」
まつり「それじゃ、そこで飼っている犬のコンは知っているでしょ?」
『しめた!!』

私は心の中でガッツポーズをした。シミュレーション通りの反応だった。
嘘を付けばその嘘を誤魔化すためにまた嘘を付かなければならなくなる。嘘が嘘を呼び収拾がつかなくなり、重なっていくうちに辻褄が合わなくなりやがて嘘はバレてしまう。
私は考えた。嘘を付く必要なない。要はまなぶの正体だけを隠せば良い。
まなぶは実際に佐々木さんの家に住んでいる。居候であるのも事実。そこに何の間違えも無い。
そこで私は佐々木さんに頼んで苗字を付けてもらった。そして私の大学の学生になってもらった。佐々木さんの友人に戸籍や名簿の操作を出来る友人が居て、その人がしてくれた。
佐々木さんの友人なのだからやっぱりその人もお稲荷さんに違いない。

まなぶ「はい、コンは散歩が好きでよく佐々木さんと出かけていましたね」
まつり「ふふ、田村さん、取材なら私より宮本さんの方が詳しいかもよ」
本人なのだから彼ほどコンに精通している人はいない。
まなぶ「この度はコンの世話をしていただいてありがとうございました、遅ればせながらお礼を言わせて下さい」
まつり「どう致しまして……」
やった。お礼を言う事が出来た。これでまなぶの目的はほぼ達成された。私の目的もほぼ達成した。
まつりさんはまなぶをじっと見た。
まなぶ「何か?」
まつり「う~ん、何だろうね、初めて会うのに以前何処かで会ったような感覚……デジャビュって言うのかな」
まなぶ「私の様な人は沢山しますからね、他の人からも時より言われます」
まなぶとまつりさんの会話は私のシミュレーションでしていない領域に入った。あれほど緊張していたまなぶも自然体になっている。

 まなぶとまつりさんの会話は弾み、私は会話の中に入る事すら出来ない状態だった。そんな時、まなぶは時計をちらちらと見だした。
私も時計を見てみた。そうだった。忘れていた。そろそろまなぶの変身時間が切れてしまう。
まつり「どうしたの?」
まつりさんもそんなまなぶの表情に気が付いた。
まなぶ「す、すみません、そろそろ私は帰らないといけません……」
そこにお茶とお菓子を持ってかがみ先輩が入ってきた。
かがみ「折角お菓子なので食べてからでもいいでしょ?」
まなぶ「そうしたのですが、時間がないので」
まなぶは立ち上がった。私も立ち上がった。
かがみ「田村さんも帰るの、少し話がしたいけど良いかしら?」
時間はいくらでもある。だけどまなぶが少し心配だ。
ひより「お話ですか……」
まつり「おやおや、宮本さんと一緒じゃないと淋しいのかな~」
ひより「い、いえ、そのような事はありません、でス」
またぶり返してしまった。そんな気なんか全く無いに……
まつり「それなら、私ももう少し宮本さんと話したいから、宮本さんを駅まで送っていく」
ひより「それは……」
それはまずい、もし変身が解けてしまったら……
まつり「大丈夫、横恋慕なんかしないから」
うゎ、こんな台詞が出てくるとは。これ以上こだわると誤解が膨らむばかりだ。
ひより「それでは取材は終わりで解散します……」
まつり「それじゃ行きますかな」
まなぶ「はい」
二人は楽しそうに部屋を出て行った。
まなぶ「お邪魔しました」
玄関を二人は出て行った。

 かがみ先輩が居間に入ってきた。
かがみ「どうした、二人がこうなるのを望んでいたんじゃないの、それとも彼が好きだった?」
私の表情はそんな風にみえるのだろうか。
ひより「い、いいえ、彼はまだ人間に化けられる時間が短いので……それが心配なだけっス」
かがみ「……そうだったの、確かに途中で狐に戻られたら姉さん……気絶するかもしれないわね……私ってこうゆう所が分らないからダメなのよね……」
珍しく卑下するかがみ先輩。私の前にお茶とお菓子を置いた。
かがみ「悪いとは思ったけど宮本さんと姉さんの会話を聞かせてもらった……巧いわね……真実を話して核心を隠すなんて、私も宮本さんとコンが別人のような錯覚を
    してしまった、もしかして田村さんが考えたの?」
かがみ先輩からこんな風に言われるなんて。
ひより「隠したいのは宮本さんの正体がコンであるこの一点のみなので……そこだけを隠すだけを考えたらこうなったっス」
かがみ「……凄いわ、私の手伝いなんて要らなかった、いや、むしろ足を引っ張った……ごめんなさい……」
ひより「先輩から謝れると私も困りまス」
かがみ先輩が謝るなんて初めてみた。泉先輩と言い合いの喧嘩をよく見たけどかがみ先輩が謝る姿は一度もなかった。
ひより「ところで話しってなんでしょうか?」
かがみ「小早川さんといのり姉さんについてもっと詳しく聞きたい」
ひより「私も詳しく聞いたわけではありません、ゆーちゃんも私と同じようにいのりさんと佐々木さんをくっつけようとしているみたいで……」
かがみ「いのり姉さんが佐々木さんの整体に通っているのは知っていた、でも、それはゆたかちゃんの勧めだと思っていた」
ひより「それもあるかも知れませんが……いのりさんは佐々木さんが整体院を建築する時の地鎮祭でもう既に会っていたみだいっス」
かがみ先輩は私の話しを驚きながら聞いていた。
かがみ「運命……この言葉はあまり好きじゃない、だけど何かに導かれているようなそんな気になる、それはそれとして、田村さんとゆたかちゃんは何故人の恋愛の
    お節介なんかするの、普通は放っておくものよ、それにね、たとえ姉さん達が恋人になったとしてもあんた達に何のメリットもないわよ」
メリット……確かに何もないかもしれない。どうしてだろう。私は自分に問いかけた。
何も答えは出てこない
ゆーちゃんの場合は何か理由はあるのだろうか……私自身が分らないのに他人の理由が分る訳がない。
ひより「何ででしょうね?」
手を頭の後ろに回して苦笑いをした。
かがみ「……呆れた、分らないでそんな事しているの……でも……そうゆうの嫌いじゃない」
ひより「強いて言えば、つかさ先輩の影響かもしれません」
かがみ「つかさの……確かにつかさが此処に居たら田村さん達と同じ様な事をしていたかもね……」
この雰囲気なら……
ひより「ところでかがみ先輩はどこまで進んだっスか?」
かがみ「わ、私にそんなお節介は無用よ!!」
相変わらず分り易い反応だった。これは恋人が居るのを認めているようなもの。それに、今はまつりさんで精一杯、かがみ先輩までは手が回らない。
ひより「どんな人なんです?」
かがみ「……私の大学のOB……法律事務所の仕事をしているわ」
ひより「社会人なんですか、どうやって知り合ったっス?」
かがみ「え、どうだったからしら……確か……彼が何か書類を大学に取りに来た時……道を尋ねてきたから……」
え、大学OBなら道なんか聞かなくて分るはず、なぜわざわざ聞くような事をしたのだろう。
かがみ「田村さん、どうかしたの?」
ひより「え、ええ、いや、大学の卒業生なら道を聞くのは不自然だと思いまして……」
かがみ先輩は今、それに気付いたような素振りで驚いていた。コンの正体を見破った人物と同じとは思えないほどの鈍感ぶり。
かがみ「そういえばそうね、どうして道なんか聞いたのかしら……」
ひより「別に考えなくても分りますよ」
かがみ「え、分るの、それだけの情報で?」
身を乗り出して迫ってきた。
ひより「最初からかがみ先輩を目当てで話して来たのですよ……簡単に言えば軟派っスね」
かがみ「え?」
突然おどおどし始めるかがみ先輩。いままで軟派された経験がないみたいだ。かがみ先輩くらいの女性なら一度や二度くらいはあっても不思議ではないのに。
う~ん、男性を避けているようにも見えない。それは高良先輩にも言えるのだが、男性の方が敬遠してしまっていたのかな……
ひより「切欠は何にしても親しくされているのなら隠す必要はないのでは?」
この話しになってから既に赤く成っていた顔が更に赤くなった。
かがみ「だ、だめよ、恥かしいじゃない……」
泉先輩が言っていたけど。かがみ先輩は恥かしがり屋だって。話し以上だなこれは。これじゃ泉先輩にいじられるのも納得してしまう。
私もかがみ先輩が同じ歳なら同じ事をしていたかもしれない。
かがみ「それよりあんたはどうなのよ、彼氏くらい居るでしょ?」
私の場合は……
ひより「ご期待にそぐえませんで……」
かがみ「はぁ、これじゃ一方的じゃない……言っておくけど、こなたにだけは言ったらダメだから」
その泉先輩から受けたミッション。泉先輩はかがみ先輩に恋人がいるのを見抜いた。私が黙っていてももう遅いかも。でも、知らぬが仏とも言うし、ここは黙っておこう。
ひより「私が黙っていてもいずれ分っちゃいますよ?」
かがみ「それでも黙っていて」
ひより「はい……」
それから私達は雑談をして過ごした。

 私は一息入れてかがみ先輩が出してくれたお茶とお茶菓子を口に入れた。
ひより「ふぅ~」
やっぱり他人が淹れてくれたお茶は美味しい。
『ブ~ン、ブ~ン』
私のポケットの携帯電話が振動した。液晶画面を見ると……佐々木整体院からだ。
ひより「失礼します」
かがみ先輩に断りを入れて電話に出た。
ひより「もしもし」
すすむ『田村さんか……すまない、まなぶが失敗を……まつりさんの目の前で変身が解けてしまった、彼女はその場で倒れて私の診療所で眠っている……』
私が心配していたのが現実になってしまった。
ひより「私、そちらに行きます……何もしないで下さい、お願いします」
何もしてほしくない……私と同じように記憶を消されたら大変。万が一を考えて念を押した。
すすむ『何もしない、待っている……』
携帯を切り、ポケットに仕舞った。
かがみ「どうしたの、何かあったの?」
心配そうに私を見るかがみ先輩。事態は重大、黙っていられない。
ひより「まなぶさんがコンに戻ってしまったみたい……まつりさんの目の前で……」
かがみ「な、なんだと……そ、それで、姉さんはどうしたの」
かがみ先輩は立ち上がった。
ひより「佐々木さんの家で眠っているそうです」
かがみ先輩は両手を力いっぱいに握り締めていた。
かがみ「……私が田村さんを引き止めてしまったからだ……なんて事をしてしまったの……バカみたい……私は……つかさを助けられなかった……
    まつり姉さんまでも……」
つかさ先輩を助けられなかった。何かあったのだろうか。そういえばかがみ先輩は呪われたって言っていたけど、それと何か関係しているのであろうか。
ひより「かがみ先輩は何も知らなかったから、不可抗力っス」
かがみ「私は……私は……」
私の話しを聞いていない。私も急いで佐々木さんの所に行かないとならない。
ひより「あの、私、急ぎますので、お邪魔しました」
部屋を出て玄関に差し掛かった時だった。
かがみ「待って……私も行くわ……車の方が早く着くでしょ」
かがみ先輩の手には車のキーがあった。
ひより「は、はい……」
かがみ先輩は携帯電話を取り出しボタンを押した。
かがみ「あ、お父さん、かがみだけど、急用が出来て車を借りたくて……」
……
かがみ「うんん、近くよ、こなたの家の近くだから隣町」
……
かがみ「はい、はい、分った……」
かがみ先輩は携帯電話を仕舞った。
かがみ「急ぎましょ……」
ひより「はい」
私達は玄関を出た。

ひより「つささ先輩を助けられなかったって言っていましたけど、何ですか?」
かがみ先輩の用意した車に乗ると同時に私は聞いた。かがみ先輩はエンジン掛けてゆっくり車を出した。
かがみ「ごめんなさい、今は話したくない……」
話したくないのか、それではこれ以上私は何も聞けない。
その後佐々木さんの整体院まで私達は何も話さなかった。

 佐々木整体院の駐車場に車を止めると私達は玄関に向かった。整体院の入り口には休診の看板が立て掛けられていた。
呼び鈴を押すと佐々木さんが出てきた。佐々木さんは私の後ろに居るかがみ先輩に気付いた。
すすむ「君は……確か……」
かがみ「まつりの妹のかがみです」
ひより「彼女はお稲荷さんの事は知っていますので大丈夫です、入っても良いですか?」
佐々木さんはドアを開けて私達を入れてくれた。
かがみ「姉さんは大丈夫なの?」
玄関に入ると詰め寄るように佐々木さんの側に寄った。
すすむ「あまりのショックで気を失った様だ、今は静かに眠っている……診療所に行こう」
診療所に向かう途中の居間を通ると居間からゆーちゃんが出てきた。
ひより「ゆーちゃん」
かがみ「ゆたかちゃん、どうして此処に?」
ゆたか「丁度診療中だったから、突然受付の方から悲鳴が聞こえて……私と佐々木さんが受付に行ったら、まつりさんが倒れていて……そのすぐ横にコンちゃんが……」
私達は歩きながら話した。
すすむ「受付に人が居なくて幸いだった、すぐに休診にしてまつりさんを診療室に連れて行った」
佐々木さんは診療室のドアを開けた。
すすむ「どうぞ」
診療室のベッドでまつりさんは静かに眠っていた。そのベッドの直ぐ横に狐の姿になったまなぶがまつりさんを見守るように座っていた。
かがみ「まつり姉さん……」
かがみ先輩は駆け寄ってまつりさんに手を伸ばした。
すすむ「待ちなさい、起こしてはいけない……」
佐々木さんは小声だった。かがみ先輩はその言葉に反応して立ち止まった。そして、恨めしそうに佐々木さんを見た。
すすむ「今は落ち着いている、しかし起きた時、彼女が発狂するようなら……」
ゆたか「記憶を消すのですね……」
まなぶ「ク~ン」
まなぶは悲しそうな声を出した。
すすむ「残念ならそうじないと彼女の命が危ない」
かがみ「……それで記憶を消した場合、姉さんはどうなるの、まなぶさんや佐々木さん、コンの記憶まで消えるのか?」
すすむ「……それは分らない」
かがみ「分らないって、何よ、そんな不安定な術なんか……」
ゆたか「シー、かがみ先輩、声、大きい」
かがみ先輩は両手で自分の口を押さえて少し間を空けてから再び小声で話した。
かがみ「そんな不安定な術を姉さんに掛けさせないわよ」
すすむ「自分の見た現象が理解できず脳内が混乱し気を失った、今度目覚めた時、同じ事が起これば、彼女の脳内は飽和し、脳細胞が死んでしまう、それでも良いのか」
かがみ「姉さん……」
かがみ先輩はまつりさんの方を見てそれ以上何も言わず黙ってしまった。
まつり「う~ん」
まつりさんが唸り声を上げた。
すすむ「まなぶ、小早川さん、田村さんは此処にいるとまずい、更衣室へ……かがみさんはこのまま居て下さい、そして私に合わせて欲しい」
かがみ「は、はい……」
私達は更衣室に向かおうとしたけどまなぶさんは動こうとしなかった。
すすむ「気持ちは分るが今は隠れてくれ……」
まなぶ「ク~ン」
まなぶは動こうとしない。私が連れれにまなぶの所に向かおうとした時だった。ゆーちゃんが小走りにまなぶに駆け寄った。
ゆたか「コンちゃん、来て」
それでも動こうとしない。ゆーちゃんはまなぶを抱きかかえると小走りで更衣室に入った。私もその後を追うように更衣室に入った。
まなぶはゆーちゃんの腕の中でもがいて離れようとしていた。ゆーちゃんはそれを必死に放さまいと前足を握って押さえ付けていた。
ゆたか「ダメだよ、今、まつりさんがコンちゃんを見たら……お願い分って……」
まなぶ「フン、フン!!」
息が荒くなるまなぶ。しかしゆーちゃんの手はしっかりまなぶの前足を掴んでいた。
狐の姿になったまなぶはゆーちゃんの力でも容易に抑えられるみたいだった。もっとも変身が解けたばかりで力が出ないのかもしれないけどね。
ドアの隙間からベッドが見えた。まつりさんが動いたのが見えた。寝たまま大きく背伸びをしている。

まつり「ふぁ~~」
ひより「まつりさんが起きたよ……静かに……」
その声にまなぶは抵抗しなくなった。ゆーちゃんは静かに手を放した。ゆーちゃんとまなぶは私と同じようにドアの隙間からまつりさんの様子を見る。
まつり「う~ん、良く寝た……」
辺りを見回すまつりさん。かがみ先輩を見つける。
まつり「かがみじゃない、おはよ~」
かがみ「何が「おはよ~」よ」
まつりさんは暫くボーとしてから気が付いた。
まつり「あ、あれ、ここは……何処?」
すすむ「どうでしたか、私の整体は、途中で眠ってしまったので、ご家族の方をお呼びしました」
かがみ「まったく、迷惑掛けるのもいい加減にしろよな」
成る程、かがみ先輩はすすむさんに合わせている。
まつり「私って……あれ、確か宮本さんと一緒に……」
かがみ「どうせ此処まで来たから整体でもやっておこうと思ったのでしょ……」
まつりさんはベッドから起きて立った。
まつり「……そうだったかな……」
かがみ「帰るわよ……佐々木さん、どうもすみませんでした、姉さんも謝って」
まつりさんは戸惑いながらも佐々木さんにお辞儀をした。
すすむ「いいえ、また来て下さい、待っていますよ」
まつり「あれ……宮本さんは?」
一瞬、かがみ先輩と佐々木さんは怯んだ。まなぶも一瞬ピクリと動いた。
すすむ「あまりに気持ち良さそうに眠っているので……コンと一緒に散歩に行きました」
まつり「……そうですか、帰ってきたら今日はすみませんでしたと伝えて下さい……」
すすむ「伝えておきます、出口は玄関からどうぞ、履物はそちらにあります」
まつり「はい……」
かがみ先輩とまつりさんは居間の方に歩き出した。するとまつりさんは突然止まった。
まつり「フフフ~」
かがみ「なのよ、突然笑い始めて……」
まつり「夢を見ていた、それが面白くってね……コンが宮本さんに化けちゃう夢だった、笑っちゃうね、彼、何処となくコンに似ているから……そんな夢をみたのかな」
『バン!!』
私は心の中で『しまった』と叫んだ。
突然まなぶが隙間をこじ開けて飛び出してしまった。私も、ゆーちゃんも止める暇がなかった。
そしてまつりさんの目の前走り寄るとお座りをした。
まつり「コン、コンじゃない、久しぶり……」
まつりさんはまなぶの頭を軽く撫でた。
まつり「ダメじゃない、飼い主より先に帰って来ちゃ……そういえば家でもそうだったな……今日はこの家に迷惑をかけたから帰らなきゃ…」
まなぶ「ク~ン……」
まつり「そんなに悲しむな、また来るよ」
かがみ「駐車場に車があるからそこで待っていて……トイレ行ってから向かう」
かがみ先輩は車のキーをまつりさんに渡した。まつりさんはそのまま居間を出て玄関から外に出て行った。

 私とゆーちゃんは更衣室から出た。
かがみ「佐々木さん、これはどう言う事なの……」
ゆたか「佐々木さん、何故、記憶を消しちゃったの、何故……」
私が聞きたい質問を先に二人がしてしまった。佐々木さんは椅子にゆっくり座り目を閉じた。
すすむ「私は記憶を消していない……まつりさん自身がパニックを回避する為に無意識に記憶を歪めたのだ……脳を守るための自己防衛だ……」
ゆたか「そ、そんな事って、これじゃ……」
すすむ「そうだ、これが私達の正体を知った人間の反応だ……これがあるが故に私達は人間に正体を教えられない、私達を認めてくれない……認めると精神崩壊がおきる……
    君達の様に在りのままの私達を受け入れてくれるのは希だ……」
かがみ「現実主義で、オカルト、迷信、ジンクスなんか信じない……そんな私でもパニックなんか起こさなかった、何故、まつり姉さんと何が違うと言うの」
すすむ「感性の違いとしか言いようが無い、後は知識や経験もあるのかもしれない」
まなぶ「ウォー!!」
まなぶは遠吠えの様に吠えると更衣室に走りこんでしまった。
ゆたか「コンちゃん……」
すすむ「小早川さん、田村さん、これで分っただろう……もう私達に関わるのは止めてくれ……」
まさか……これを言いたい為にわざわざ私をまんぶの教育係にさせた訳じゃないでしょう。いくらなんでもあんまりだ。
ひより「私……」
かがみ「ちょっと、何よその言い草は……」
私の言い出したのを打ち消すようにかがみ先輩が猛烈な勢いで佐々木さんに詰め寄った。
かがみ「いきなり変身を見せれば誰だってああなるわよ、私や田村さん、ゆたかちゃんはね、事前に狐や、変身の話しを体験者から聞いているのよ、
    違いはそれ以上無いわ、まつり姉さんだって知っていればあんなに成らなかった」
佐々木さんは静かに立ち上がった。そしてかがみ先輩とは対照的に静かに、ゆっくりと話した。
すすむ「話しを聞いただけで正常でいられるなら貴女達はやはり特別だ、話からリアルに想像できる感性を持っている、私は……私達はこうして何度も
    人間と別れてきた……無二の親友になった者もいる、それでも、正体を見ると……もう分るだろう、
    何故殆どの仲間が人を避けるようになったのを……人間と争い、憎むだけが理由ではないのだよ」
かがみ「……う」
喉が詰まったように黙ってしまった。
いつも勢いで押し切るかがみ先輩が静かに話す佐々木さんに押されて言い返せないなんて。
『ピピピピ~』
沈黙を破るようにかがみ先輩のポケットから携帯電話の着信音が鳴り出した。かがみ先輩は相手も確認もせず透かさず耳に当てた。
かがみ「誰よ……」
鋭く尖った口調だった。
かがみ「遅くて悪かったな、詰まって出なかったのよ……」
うゎ、ちょっと下品すぎる。よっぽど佐々木さんとの言い合いで頭に来ているみたい……多分相手はまつりさんだろう。来るのが遅いから連絡したに違いない。
かがみ「今から出るから待ってろ!!」
話しの途中かもしれなかったけど強引に切りボタンを押して携帯を仕舞った。そして……佐々木さんを睨みつけた。
かがみ「ややこしいのよ、あんた達は、そんなに人間が嫌ならさっさと故郷の星に帰りなさい!!」
捨て台詞を吐くとそのまま玄関の方にドタドタと大きく足音をさせながら向かって外に出てしまった。

『ブォン』
かがみ先輩の乗ってきた車のエンジン音がした。そしてその音は小さくなっていく。かがみ先輩とまつりさんは整体院を離れていった。
佐々木さんは診療所の窓からその車を見えなくなるまで見ていた。
すすむ「ふふ……ややこしい……故郷の星に帰れ……か……ズケズケとはっきり言う娘だ」
微笑みかがみ先輩の言った言葉を噛み締めながら言った。
すすむ「柊かがみ……彼女は数年前に我々の使う拷問術に掛けられた形跡がある……」
拷問術……やけに穏やかじゃない名前……もしかして……
ひより「それってもしかして呪いですか?」
佐々木さんは頷いた。
すすむ「そうとも言うか、私達の間では禁じられているものだ……命令を強制させるもので、反抗すれば激しい苦痛を伴う……」
そういえばかがみ先輩自ら呪われたって言っていたっけ。
ひより「つかさ先輩を殺そうとしたお稲荷さん達ですか?」
すすむ「それしかあるまい……術が解けるまで耐えたのか……強い精神力だ……いったい何を彼女に命令したと言うのだ」
ひより「それならかがみ先輩の心の中を見れば良かったじゃないですか?」
佐々木さんは苦笑いをした。
すすむ「ふふ、全ての仲間が出来る訳じゃない、それぞれ得手不得手があるのだよ」
佐々木さんは人の心を読めないのか……
ひより「え、つかさ先輩と真奈美さんの話はどうやって知ったの?」
佐々木さんはゆーちゃんの方を見た。そうか……ゆーちゃんが話したのか……
そのゆーちゃんは肩を落とし項垂れていた。まつりさんの行動がショックだったに違いない。
私がゆーちゃんに声を掛けようとした時だった。
すすむ「田村さん、小早川さん、短い間だったがありがとう、もう私達は放っておいてくれ、それが私達、君達の為だ……」
かがみ先輩に言ったのは本気だったのか。まさか私達にも同じ事を言ってくるなんて。
ゆーちゃんの肩が震えはじめた。項垂れていて表情が分らないけど、きっと目にはいっぱいの涙が溜まっているに違いない。
すすむ「小早川さん、呼吸法は全て君に教えた、私は必要ない……」
ゆたか「う、う……ほ、本当……に」
声が上擦って聞き取れない。だけど何が言いたいのか私には分る。
ひより「あまりに一方的じゃないですか、それに、まつりさんだって……」
まつりさんだって、二度見れば理解出来る筈。
すすむ「これ以上悲劇を繰り返すと言うのか、もう一度変身を見ればどうなるか、さっき見たばかりだろう……今度は失神では済まないぞ」
真剣な目で語る佐々木さん。どうやら嘘を言ってはいない。
ゆーちゃんはゆっくりと立ち上がった。そして玄関の方にフラフラと歩き出した。ちょ……いくらなんでも簡単に諦めすぎる。
ひより「待ってゆーちゃん、帰るのはまだ早いよ」
私はゆーちゃんを呼び止めた。ゆーちゃんは立ち止まった。
ひより「佐々木さん、まなぶさんの教育、まだ終わっていないっス」
まなぶ「まなぶも、もう人間には興味ないだろう、かがみさんも私達を恨んでいる……それもそうだ、呪いを掛けたのだからな、私達は分かり合えないのだよ……」
だめだ。佐々木さんはもう私達を避けようとしている。どうしよう。
かがみ先輩がお稲荷さんを恨んでいる……確かに別れ際にあんな捨て台詞をしたら……
でも、かがみ先輩は私がまなぶを好きだと勘違いをした時、励ましてくれていた。恨んでいたとしたら応援なんかしないで反対していたと思う。
そうか……かがみ先輩はお稲荷さんとか人間とかそんなカテゴリーで物事を考えていないのかもしれない。問題は本人と相手の気持ち、この一点のみ。
そう考えれば今の佐々木さんにかがみ先輩が怒ったのも頷ける。
よし、かがみ先輩のその考えを取り入れよう。

ひより「いのりさんをどう思っているのですか?」
すすむ「どう思うとはどう言う意味だ」
ひより「そのままの意味です、好きか、嫌いか……私が見た所……少なくといのりさんは佐々木さんに好意をもっていると思います……」
ゆたか「ひ、ひよりちゃん……もう、もういいよ……これ以上は……」
力の無い弱弱しい声だった。私は構わず続けた。
ひより「どうですか?」
すすむ「それを聞いてどうする、もし、彼女が好きならまなぶの時の様にお節介をすると言うのか」
ひより「いいえ」
佐々木さんは気を悪くしたのか、少し眉毛が逆立った。
すすむ「なっ、バカにしているのか、遊んでいるのか」
ひより「好き合っているならお互いで決められる、かがみ先輩はそう言いたかった、過去に誰とどんな別れ方をしようが関係ないって……それに、さっきの怒り方、
    いのりさんを少なくとも嫌いじゃない、嫌いなら怒らない……でしょ?」
すすむ「……お節介だな……今日はもう帰ってくれ……」
佐々木さんはまつさんの寝ていたベッドのシートを畳み始めた。
私も帰り支度をてから更衣室の方を向いた。
ひより「来週の日曜日、確かまつりさんは何の用事もない筈、午前十時、駅で待っているいから……取材に行くよ、多分最後の取材になると思う」
『ゴト、ゴト』
更衣室の奥で何かが動いている音がした。多分まなぶは聞いている。
ひより「行こう、ゆーちゃん」
ゆたか「う、うん……お邪魔しました……」

 整体院を出てからゆーちゃんは一言も話してこない。私もいつ話そうかタイミングをうかがっていた。どうもそのタイミングは無さそうだ。
分かれ道が見えてきた。私は駅の方に、ゆーちゃんは泉家に向かう。そして、分かれ道に差し掛かった。
ひより「それじゃ、また……」
別れの挨拶が話すタイミングになってしまった。ゆーちゃんは俯いたままだった。私が駅の方に向かう道に身体を向けた。
ゆたか「待って……」
私は振り向いた。ゆーちゃんは悲しそうな顔をして私を見ていた。
ひより「何?」
ゆたか「……かがみ先輩が怒っていた理由って……ひよりちゃんが言っていた通りなの、かがみ先輩はお稲荷さんを恨んでいないの?」
ひより「うんん、分らない……私の推理と勘でそう思った」
ゆたか「分らない……そんな不確かな話しを平気で……」
ゆーちゃんの顔が険しくなった。
ひより「でも、それで佐々木さんの気持ちが少し分った、これは収穫だと思わない?」
ゆーちゃんはまた俯いてしまった。
ゆたか「……私が何度も試しても聞けなかったのに……コンちゃんとまつりさんを合わせて……佐々木さんの気持ちまで聞きだせちゃうなんて……」
ひより「まなぶさんとまつりさんは失敗だよ……佐々木さんだってはっきり「好き」と言った訳じゃないし……」
ゆたか「何故なの、ひよりちゃんは平気でいろいろな事が出来るの……私は佐々木さんやいのりさんがどうなるか……恐くて……先に進めない……
    整体院を出るとき、コンちゃんに会う約束までした……あんな悲しい事が起きたばかりなのに……」
そう言われるとそうなのかな……私は暫く考え込んだ。
ひより「別にたいした事じゃないよ……ぶっちゃけて言えば他人事だし……」
ゆちゃんは俯いた顔を持ち上げ、私を鋭く睨んだ。
ゆたか「た、他人事って、そんな言い方は無いよ」
表現が不謹慎だったかな。でも訂正する気はなかった。
ひより「私の人助けは生まれて初めてかもしれない、でもね、人助けなんて他人事じゃないと出来ないよ、いや、他人事だからこそ出来ると思うよ」
ゆーちゃんは納得出来ない様子だった。
ひより「溺れている人を助けようとして溺れている人の気持ちになったらどうなる?」
ゆたか「……それは……」
ひより「水か恐い、苦しい、もがいてももがいても浮かばない、下手をすれば自分が溺れちゃう……助けに行けないよね、他人事なら関係なく水に入れる、泳げなくても浮き輪を
投げられるし、周りを見れば助けを呼べるかもしれない」
そう、かがみ先輩は自分の恋愛に対しては放ってくれと言っているのに、私やまつりさんの事になると首を突っ込んでくる。それは他人事だから出来る事。
ゆーちゃんは目を大きく見開いていた。
ゆたか「私と全く逆なんだね……そんな考え方があるなんて」
ひより「うんん、私はまだ誰も助けていないから多分間違っているよ……こんな考え方、ゆーちゃんの方がきっと正しいね、忘れて」

 ゆーちゃんには私の捻くれた考えは教えない方が良かったかな。
ゆたか「そんな事ないよ、何か今までモヤモヤしているのが取れた感じがする」
確かにそんな目覚めの時の様な顔をしている。あんな考えでも少しは役に立つのかな?
ゆたか「そんな事より、コンちゃんとまつりさん、また会って大丈夫なの?」
ひより「変身を見なければね、人間に居られる時間がもっと欲しい」
ゆたか「佐々木さんは一週間位が限度だって言っていたよ」
一週間か。まばぶは一日持つかどうかって感じだな。でも、この前みたいに変身が解けてその場に倒れていないみたいだから成長している。
ゆたか「やっぱり、私達のしようとしている事って、無理があるのかな……もう関わらないで、なんて……」
ひより「どうかな、佐々木さんは心底そうは思っていないかも」
ゆたか「どうして?」
ゆーちゃんは疑いの眼で私を見ている。
ひより「佐々木さんは向こう側のお稲荷さんの所じゃなくて人間の町に住んでいる、だから心底人間が嫌いじゃないと思うよ、嫌いなら整体院なんか開業しないでしょ」
ゆーちゃんは黙って私を見ていた。これからどうするのか考えあぐねているのかもしれない。でもそれは私も同じ。
まなぶに帰り際、あんな事言ったけど実際どうして良いか分らない。
ひより「う~ん、困ったね、これは二人ではどうしようもないね、誰か応援を頼まないと」
一人、二人では出来ないけど、三人なら何とかなるかもしれない。
ゆたか「応援って、ひよりちゃん以外に誰を……つかさ先輩、お姉ちゃんは遠い所だし、かがみ先輩は怒っちゃったし……高良先輩は……ちょっと頼み難いよ……」
ひより「かがみ先輩は最初から協力してくれているよ……先輩達じゃなくて、居るよね、もっと身近な人が」
ゆーちゃんは首を傾げて考え込んだ。
ひより「やだな~みなみちゃんが居るでしょ」
ゆたか「みなみ……ちゃん」
ゆーちゃんの顔が曇った。そうなると思った。喧嘩の本当の理由を聞きたい。だけど普通に聞いても教えてくれないだろう。
ひより「みなみちゃんが関わらないのは、お稲荷さんがつかさ先輩やかがみ先輩を苦しめたら、でも佐々木さんやまんぶさんと会えばそんなイメージは無くなると思う」
ゆたか「違う、そんなんじゃない、私が遊び半分でしていると思っているから……だから手伝ってくれない」
やっぱり。そうだったのか。
ひより「ゆーちゃんとみなみちゃんが初めて会った時、ゆーちゃんは気持ち悪くて苦しんでいた、その時、手を貸してくれたのはみなみちゃんだったよね」
ゆたか「う、うん、そうだけど」
小さな声で頷いた。
ひより「それならもう一度苦しんで居る所を見せてやればいいよ、遊び半分じゃない、真面目で真剣な所を見せればきっと分ってくれる、それがみなみちゃんだよ」
ゆたか「でも、それをどうやって見せるの?」
私は腕を組んで考えた……
頭の中の電球が光らない……まなぶの時に出てきたようなアイデアが出ない。でも、あれは半分成功して半分失敗してしまった。
まつりさんと一緒に帰すのはすべきではなかった。ちがう、違う、今はそんなの事を考えて居る時じゃない。とは言っても今度失敗したらゆーちゃんとみなみちゃん、
絶交してしまうかもしれない。失敗は許されない。
ひより「う~ん」
頭を捻っても何も出てこない。
ゆたか「ひよりちゃん、もう良いよ、やっぱり人間とお稲荷さんは仲良くなれないよ、まして愛し合うなんて……地球の人じゃないから……しょうがないよね」
弱弱しく話すゆーちゃんだったけど、その言葉は私の胸にも深く突き刺さった。無理……つかさ先輩も愛し合っているのに別れた。無理なのか……
このままで良いのか、いや、良くない。何かが引っかかる。私のしている事が間違っているなんて思いたくない。
ひより「このままだと、みなみちゃんに「やっぱりこうなった」って笑われちゃうよ……みなみちゃんは結末が見えていた、だから手伝わなかった」
ゆたか「そうかもしれない……みなみちゃんに謝らないといけないね……」
謝る……何で、悪い事なんかしていない。
ひより「謝るのはまだ早いよ、まだ希望はある」
ゆたか「何、何で、この期に及んで何が出来るの」
ひより「まず一つ、まつりさんはコンとまなぶさんを夢の中で変身させていて精神を保った、まつりさんはコンがまなぶさんだったら良いなって思っている証拠、
    今はダメでも時間を掛ければきっと理解出来ると思う、それともう一つ、さっきも言ったけど佐々木さんも人間との係わり合いが嫌なら人間の社会に居ないでしょ、
    きっと心の何処かで人間が好きなんだよ、まだ諦められないと思わない?」
ゆたか「う、うん……」
力のない返事だった。

「小早川さんじゃない」
突然後ろから声がした。私達は振り返るといのりさんが居た。なんでこんな所にいのりさんがいるのか。
ゆたか「まつりさん、こんにちは、もしかして整体院に行くのですか?」
いのりさんは頷いた。そうか、それなら理解出来る。私はいのりさんに会釈をした。
いのり「最近まつりが手伝ってくれないから、巫女の仕事は全部私がやっている、そのせいで疲れが酷くて、佐々木さんのマッサージは効くからね」
ゆたか「あっ、今日は臨時休暇でしたよ」
いのり「え、そうなの……残念ね……でも教えてくれてありがとう」
いのりさんは駅の方に引き返そうとした。
ゆたか「あ、あの、いのりさん?」
いのりさんは立ち止まり、ゆーちゃんの方を向いた。
ゆたか「佐々木さんをどう思いますか?」
いのり「どう思うって……」
いのりさんは空を見上げて少し考えた。
いのり「とても上手い整体師だと思う、小早川さんも元気になったみたいだし」
ゆたか「い、いえ、そうではなくて、男性として……」
その言葉を聞いた途端いのりさんの顔が少し赤くなった。私の方をチラリと見た様な気がした。私が居ると気になるのだろうか。
いのり「か、彼は優しいし、話しも面白いから……やだ、なに言わせるの、年上をからかうものじゃない」
さらに顔が赤くなった。
ゆたか「すみませんでした、それは好きって事でいいですか?」
いのり「突然何を言っているの、もう帰る!!」
いのりさんは駅の方に足早に向かって行ってしまった。ゆーちゃんはその姿を見えなくなるまで見送った。
ゆたか「ふふ、かがみ先輩と同じような反応だった、やっぱり姉妹だよ、ひよりちゃんが居たから意識してたんだね」
久しぶりにゆーちゃんの笑顔を見た。
ひより「いのりさんを試したの?」
ゆたか「うん……今まで聞けなかった、だけど、ひよりちゃんが他人事じゃないとダメだって言うから、そう考えたら、自然に聞くことが出来た……いのりさんは
    佐々木さんが好き……それで良いよね、ひよりちゃん?」
ひより「う、うん、私もそう思う」
突然積極的になった。私のアドバイスが効いたのか、それとも自棄になったのか。いや、自棄ならあんな笑顔はしない。ゆーちゃんは思っていたよりも
柔軟な思考の持ち主なのかもしれない。
ゆたか「二人は愛し合っている、大袈裟かもしれないけど……何とかしたい、だけどどうして良いのか分らない、やっぱりみなみちゃんの考えを聞いてみたい」
別に小細工なんか必要ない。今のゆーちゃんをそのまま見せればいいのでは。私でも分るのだからみなみちゃんなら……よし!
ひより「それなら明日は空いているかな?」
私も来週の日曜までに方針を決めたい。みなみちゃんに会うのは早いほうがいい。
ゆたか「うん、明日は午後からなら空いているけど」
ひより「それなら、明日、みなみちゃんの家に行こう、私が連絡しておくから、もちろんゆーちゃんが行くのは伏せておく」
ゆたか「伏せるの?」
ひより「喧嘩している相手がいきなり訪問じゃ構えちゃうでしょ?」
ゆたか「……喧嘩……そうだった」
ゆーちゃんの顔がまた沈んだ。
ひより「それじゃ帰るよ、明日、駅で待ち合わせしよう、時間はメールで送るから」
ゆたか「うん、分った、それじゃ」
私達は別れた。

 私達は岩崎家の玄関の前に着いた。私は呼び鈴のボタンを押そうとした。
ゆたか「ちょっと、待って……私だけ追い出されたらどうしよう」
声が少し震えている。
ひより「普段通りでいけば大丈夫だよ……多分……」
自信がなかった。多分って、これでは不安を余計に助長してしまうではないか……ボタンを押すのを躊躇した。
ゆたか「うんん、大丈夫、いつかはこうやって会わないといけないから」
その力強い声に後押しされる様に私は呼び鈴を押した。いつもならおばさんがドアを開けて対応する。しかし今回はみなみちゃん自ら私達を出迎えた。
みなみちゃんは私を見ると少し隠れ気味にいたゆーちゃんを見た。何も言わずドアを全開にした。
そしてそのままみなみちゃんの部屋に案内された。おばさんは見えない、出かけたみたいだった。チェリーも外に出されている。何時になく静かに感じた。
ひより「ピアノの練習をしていたの?」
みなみちゃんは頷いた。家から微かに漏れてきたピアノの音、この家にはみなみちゃんしか居ない。聞くまでもなかった。でも、今はこんな事しか聞くことが出来ない。
やっぱりゆーちゃんとみなみちゃんは何時もとは違う雰囲気だ。
みなみ「もう少しで弾けるようになる曲を練習していた」
これが普通なら「聴いてみたい」とか「どんな曲なの」とか、ゆーちゃんは言うだろう。でもゆーちゃんは何も言わなかった。もちろん私も言えそうにない。
何か話す切欠でもと思ったのに……この沈黙。時間だけが過ぎていく。
みなみ「これ以上何も出来なくなった、だから二人は此処に来た」
見透かしたような眼差しで私達を見ていた。当たっているだけに反論できない。
みなみ「これで分ったと思う、恋愛に他人が口を出すなんて出来ない、ましてお稲荷さん、異星人と人間の恋だなんて……」
みなちゃんの言っている事は多分正しい。それじゃ私の、私達がしようとしているのは間違っているっているのか。
ゆたか「みなみちゃん、佐々木さんが人間なら、コンちゃんが犬だったら、私もみなみちゃんの言うように何もしないし、お節介なんかしない、だけど……
    佐々木さんもコンちゃんもお稲荷さんだから……放っておけないよ」
みなみ「放っておけない……」
放っておけない。確か私もそう思った。
ゆーちゃんはつかさ先輩の話しを聞く前からお稲荷さんを知っていた。みなみちゃんも同じ。
ゆーちゃんが言うには彼らは好き好んで狐の姿になっている訳じゃないらしい。彼等の母星の大気成分が地球と違っていて
素のままでは長い時間生きていけない。遭難して殆どの機械が壊れて、少ない機材を使い苦肉の策で近くに居た狐の遺伝子を使って地球の環境に合わせた。
そして、一時的なら他の動物にも化けられるようにしたらしい。
それから暫くしてから人類を発見したと言っていた。狐の姿だと何かと不便なので人間の遺伝子を取り込もうとした時に装置が壊れてしまって中途半端な
状態になってしまったらしい。
狐と人間の姿を繰り返しながら生きてきた。それがお稲荷さんの正体だ。
もし、狐よりも先に人間を見つけていたら動物に化ける必要はなかった。そのまま装置を直して母星に帰れたかもしてないし、人間の代わりに地球を支配していたかもしれない。
狐と人間を見つけた順番……これがお稲荷さんの運命を変えた。ほんの少し、少し違っただけで今とは違った世界に成っていたかもしれない。
そして、私も……
ひより「つかさ先輩の話しを聞かなければコンはすごく賢い犬で終わっていた、佐々木さんの整体院に調べに行ったりしなかった、記憶を消される事もなかった、
    佐々木さんの正体を知る事もなかった、勿論今日、こうして皆と会って話しをするなんて事もない、そして、なによりその出来事は私の想像をはるかに
    超えている……これは一生掛かっても体験できないと思う、そうでしょ?」
私はみなみちゃんとゆーちゃんを見ながら話した。
みなみちゃんは私が話すとは思っていなかったみたいだった。私を見ている。私は更に続けた。
ひより「惚れた腫れたは興味なんてないけど、いのりさんとまつりさんはそれとは違う何かを感じる……だからこうしてみなみちゃんに助けを求めているの」
みなみちゃんは溜め息をついて今度はゆーちゃんの方を向いた。
ゆたか「わ、私は、只、元気にしてもらったお礼がしたから、いのりさんも佐々木さんの事が好きだって分ったら……」
元気になったお礼か。確かに高校時代のゆーちゃんとは比べ物にならないくらい元気になった。顔色も良いし、体付きも大人びて見える。
その嬉しさは本人にしか分らないのかもしれない。
みなみちゃんはもう一度溜め息を付いた。
みなみ「二人の言い分は理解できる……それでも私は協力できない、出来たとしても……解決するだけの力も知識もない」
ゆーちゃんはガックリ肩を落とした。みなみちゃんを巻き込もうと言い出したのは私、言い出しっ屁としてはそう簡単に引き下がれない。
ひより「何故、それはお稲荷さんがつかさ先輩を殺そうとしたり、かがみ先輩を呪ったりしたから?」
みなみ「それは……」
言い訳をするつもり、言い訳はさせない。間、髪を容れずに話した。
ひより「みなみちゃんはお稲荷さんがした事を全てお稲荷さんのせいにしちゃうの、まずは佐々木さん、宮本さんに会ってからでも遅くはないでしょ」
みなみ「ち、違う」
否定をした。それなら私達の相談を断る理由はない。それなのに拒んでいるのは何故だ。その答えは一つしかない。
ひより「高良先輩がお稲荷さんを嫌いだからでしょ?」
みなみちゃんは黙ってしまった。図星みたいだ。
ゆたか「殺そうとしたお稲荷さんはつかさ先輩を救った、私を元気にしてくれた人もお稲荷さんだよ、高良先輩は忘れて、みなみちゃんの意思で決めてお願い」
悲痛の叫びのように聞こえた。
二人は喧嘩をしていると思っていたけど、これは喧嘩じゃない。ただ二人の意見が違うだけだったのか。喧嘩だったらゆーちゃんがこんなに親身にならない。
ひより「遊びかもしれない、余計なお世話かもしれないし、お節介かもしれない、だけど、こんな事が出来るのは学生の時くらいかもしれない、
    今なら失敗しても成功しても許されるよ、社会に出てしまったら成功しか許されなくなる……そうは思わない?」
みなみちゃんは黙ったままだった。私とゆーちゃんは顔を見合わせた。どうやら説得は無駄だったみたい。

 私は立ち上がった。
みなみ「どうしたの?」
ひより「ごめん、やっぱり無理強いはよくない、私達二人で何とかする」
ゆーちゃんも私に合わせる様に立ち上がった。
ゆたか「うん、こんな話しを持ち込んじゃってごめんね、頑張ってみるから……」
諦めて一度帰る素振りを見せる……これは泉先輩がかがみ先輩によくやると言っていた。何度も成功しているらしい。
私達は泉先輩ではないし、相手はかがみ先輩でもない。成功するかまったく未知数。勿論失敗したら後戻りが出来ない諸刃の剣。
それを知ってか知らずかゆーちゃんは私に合わせてくれた。実際、ゆーちゃんは本当に諦めたのかもしれない。内心、祈るような気持ちで部屋を出ようとした。
みなみ「そこまでして……分った、直接参加は出来ないけど、一緒に考えよう……」
ゆたか「本当に、高良先輩はいいの?」
みなみ「みゆきさんにはむしろ協力して欲しい、私から頼んでみる」
ゆたか「やったー!」
飛び跳ねて喜ぶゆーちゃん。私もホッと一息ついた。ゆーちゃんは早速みなみちゃんの近くに座ったが直ぐに立ち上がった。
ゆたか「嬉しくなったら緊張が取れたのか……ちょっとお手洗い借りるね……」
ゆーちゃんは小走りに部屋を出て行った。部屋を出て行くのを確認するとみなみちゃんは溜め息をついた。
ひより「ありがとう、高良先輩までも巻き込んでくれて」
みなみ「……ゆたか一人では何も出来ない、それにひよりも巻き込むなんて思わなかった、まさか記憶を奪うなんて、ひよりは怒っていないの?」
ひより「うんん」
みなみ「それは良かった」
みなみちゃんは笑顔を見せたのも束の間、急に悲しい顔になった。
みなみ「ゆたかを止めたのは失敗するとか成功するとかの問題ではなかった、それはひよりにも言える」
ひより「え、何それ、何が心配なの?」
みなみ「もう既にゆたかには話した……ゆたかから聞いて」
ひより「やだなぁ~そんな勿体ぶってさ、教えてくれてもいいじゃん、もう隠し事したって意味無いよ」
みなみ「もう、ゆたかには話したから……」
いったい何を話したというのだろうか。少し気になる。でもみなみちゃんは口を閉じてしまった。
ゆたか「おまたせ……」
扉を開けたゆーちゃんは私とみなみちゃんの表情を見て一瞬立ち止まった。
ゆたか「私がいない間に話しを進めちゃって、ずるいな~」
ゆーちゃんはさっき座った所に腰を下ろした。さっきみなみちゃんが言わなかった内容を聞きたいけど流石にみなみちゃんの目の前では聞けない。
みなみ「佐々木さんと宮本さん、二人をそれぞれゆたかとひよりで担当していたと聞いたけど、それで合っている?」
突然みなみちゃんは本題に入り始めた。私がゆーちゃんに質問をさせないためだろうか。
ゆたか「うん、そうだよね、ひよりちゃん」
ひより「う、うん、そうだったね、ちょっと競争っぽくなったのだけどね」
みなみ「一人では力が分散してしまうと思う、例えば誰か一人を重点的にしてみたらどうだろう、佐々木さんと宮本さん、どちらが危機的かにもよるけど」
どちらが危機的か、それはどう考えてもまつりさんとまなぶだろう。
ゆたか「やっぱりまつりさんとコンちゃんかもしれない……」
これはゆーちゃんと同意見だ。私は頷いた。
みなみ「一致したなら話しは早い、まつりさんと宮本さんを二人で担当してみれば?」
私とゆーちゃんは顔を見合わせた。
ゆたか「やってみようか」
ひより「そうだね」
ゆたか「今度の日曜日、取材するって言っていたよね、私もそれに同席しても良いかな?」
ひより「別に構わないと思う」
話しはスムーズに進行していく。みなみちゃんはそれをただ見守っていた。

 話しが終わり、帰りの時間が近づいてきた。私が玄関を出るとゆーちゃんはチェリーちゃんに挨拶すると言って庭の方に向かって行った。
そして玄関にはみなみちゃんと私が残った。
ひより「さて、どうなるかな、楽しくなってきた」
みなみ「……楽しくなってきたなんて、とても当事者の発言とは思えない」
ひより「うんん、当事者はいのりさん、まつりさんとお稲荷さんの二人、私とゆーちゃんはそれを傍観しているにすぎないよ」
みなみ「傍観者、まるで他人事の様に物事をとらえる、そんな考え方あるなんて、ひよりなら大丈夫かもしれない」
ひより「大丈夫って?」
ゆたか「おまたせ~」
みなみちゃんから何か聞けるような気がしたけど、丁度ゆーちゃんが戻ってきて聞けなくなってしまった。
ゆたか「チェリーちゃん、お散歩がしたいみたいだった」
みなみちゃんは腕時計を見た。
みなみ「もうこんな時間、支度しないと」
ゆたか「そうだね、私達も帰ろう」
ひより「うん、みなみちゃん、今日はありがとう」
私達は岩崎家を後にした。

ゆたか「ひよりちゃん、みなみちゃんを説得する時、つかさ先輩の話しを持ち出したけど……」
駅に向かう道を歩いている時だった。歩きながら話しかけてきた。
ひより「私からしてみればつかさ先輩の話しがこの一件の始まりであり、切欠だからね」
ゆーちゃんは立ち止まった。私は二、三歩歩いてから止まりゆーちゃんの方を振り向いた。
ゆたか「ごめんなさい……」
突然の謝罪、意味が分らなかった。
ひより「いきなり謝られても意味が分らないよ」
私は一歩ゆーちゃんに近づいた。
ゆたか「ひよりちゃんの記憶を奪ったのはひよりちゃんにお佐々木さんの正体を隠す為じゃなかったの」
ひより「え、それ以外に何があるの言うの?」
私は更に一歩近づいた。今更理由が違ったとしても何が変わるものでもない。だけど興味はあった。聞いてみたい。
ゆたか「私……一人で解決したかった、だから……」
ひより「一人で、解決?」
余計分らなくなった。私の復唱にゆーちゃんは頷いた。
ひより「詳しく話して……」
ゆーちゃんは近くの公園に歩いて行った。私はゆーちゃんの後に付いて行った。

 ゆーちゃんは公園のベンチに腰を下ろした。私はゆーちゃんの目の前に立ったまま話しを聞いた。
ゆたか「佐々木さんといのりさんを恋人にしてあげたい、そう思った、だけどそれは私一人で、私だけの力でしたかった、でも、ひよりちゃんはどんどん佐々木さんの正体に
    近づいてくるから、きっと正体を知れば私を手伝いたいって言うに違いない、そう思ったから、なるべくひよりちゃんを佐々木さんに近づけたくなかった……」
ゆーちゃんの推測は間違っていない。知れば私は手伝いに行く。現にまつりさんとまなぶに関してはゆーちゃんと同じ事をしている。
ひより「なんで、そんなに一人にこだわるの、こうゆうのは一人より二人、二人より三人で解決した方がいいに決まってる」
ゆたか「それは……つかさ先輩が一人で……一人で解決したから」
一人で、ゆーちゃんはつかさ先輩の話の事を言っているのか。
ひより「それはつかさ先輩と真奈美さんの話しを言っているの?」
ゆーちゃんは首を横に振った。
ゆたか「つかさ先輩は叩かれるのを覚悟してこなたお姉ちゃんを守った……凄いよ、」
ひより「確かに凄いと思った、いくらかがみ先輩とは言え、本気で殴りかかったからね、泉先輩も言っていたけど、一人旅をしたつかさ先輩は以前とは比べ物にならないね」
ゆたか「うんん、つかさ先輩は一人旅をする前からそうだった、私は知っていた、つかさ先輩の凄さ」
ひより「それはまた凄い評価だね……」
ゆたか「初めて会った時だった、つかさ先輩は私を見ると腰を下ろして同じ目線で話してきた、子供扱いされたと普通は思うけど、全然そうは感じなかった
   それどころかとても話し易くて、お姉ちゃんと話しているみたいだった、これはみなみちゃんでも感じなかった……」
ひより「つかさ先輩は誰とでもすぐに仲良くなれそうな感じはしていたけどね……でもそれはかがみ先輩、うんん、いのりさんやまつりさんの影響があったからだと思う」
最近、つかさ先輩の話しをすると思っていたけど、まさか憧れの対象だったとは……
そうか、ゆーちゃんは成実さんの運転の真似をしたのは成実さんへの憧れではなかった。つかさ先輩の真似をしたかったのか……
ゆたか「かがみ先輩が言っていたのを覚えてる、つかさ先輩の一歩先に居たかったって言っていたのを」
ひより「……そんなの言っていたね、一歩先どころか学年でもトップクラスだもんね、釣り合いが取れないよね」
ゆたか「うんん、かがみ先輩は知っていた、普通じゃつかさ先輩に勝てないって、学年でトップの成績くらい取らないとつかさ先輩と釣り合わない、つかさ先輩は
    数値や目に見えるものでは測れない物を持っていたから」
もしかしてそのつかさ先輩と同じようになりたいと思って今まで無理をしてきたって事なのだろうか。
ゆたか「でももうそれは敵わないのが分った、みなみちゃんの言うように私は一人じゃ何もできない」
そうか、みなみちゃんのアドバイスが裏目に出たのか、二人で解決するって今のゆーちゃんを否定しているのと同じだ。
ひより「みなみちゃんはゆーちゃんのその目的を知った上であんな事言ったのかな、それでもいいじゃない、ゆーちゃんはゆーちゃんだよ、別につかさ先輩になる必要はないし、
    かがみ先輩の様にする必要もないよ、ゆーちゃんだって数値や目に見えるものでは測れない物を持っているよ」
ゆたか「あるの、そんな物?」
潤んだ瞳で見上げて私を見ている。
ひより「つかさ先輩の隠れた才能を見抜くなんて誰もが出来ることじゃない、身内でもない、ましては高校になって初めて会ってそれが分るなら凄いと思うよ、それに、
    佐々木さんからお稲荷さんの秘密をいろいろ聞き出しているじゃない、まなぶさんも教えてくれなかったのも沢山あった」
ゆたか「そ、そうかな?」
ひより「そうだよ」
これは慰めでもなんでもない。私が思った事をそのまま話しただけ。笑顔が少し戻った。

「バゥ!!」
突然私の後ろから白い陰が横切りゆーちゃんの目の前に覆いかぶさる様に現れた。
ゆたか「ちぇ、チェリーちゃん!!」
ゆーちゃんのその声に反応するようにゆーちゃんの目の前でお座りをするチェリーちゃん。良く見るとリードが付いたままになっている。
ゆたか「どうしたの、だめじゃない、みなみちゃんを置いてきちゃ」
ゆーちゃんはチェリーちゃんの頭を軽く叩いた。耳を折り畳み、申し訳無さそうな態度をとるチェリーちゃん。まるでまつりさんとコンのやり取りを思い出させる光景だった。
みなみ「チェリー!!」
公園の入り口からみなみちゃんが駆け寄ってきた。息を切らしている。
みなみ「ひより……ゆたか……まだ帰っていなかったの?」
私は頷いた。ゆーちゃんはチェリーちゃんを構っていてみなみちゃんに気付いていない。
みなみ「この公園は散歩のコースに入っていない……チェリーが突然を振り切って走って行ったから……」
ゆーちゃんの匂いでも追ってきたのだろうか。でも、こうしてまた三人が集まった。これは偶然か。偶然だろう……だけど。
ひより「チェリーちゃん、お稲荷さんじゃないよね?」
みなみ「まさか、普通のハスキー犬、私が小さいとき……」
ひより「ふふふ、分っている、冗談だよ、冗談」
私が笑うと暫くしてみなみちゃんも笑った。そして、ゆーちゃんとチェリーちゃんを見た。
ひより「まるで飼っているみたいに仲が良いね、ゆーちゃんとチェリーちゃん」
みなみ「うん」
ひより「チェリーちゃんは私には何故か唸るだよね~」
みなみ「うん……」
ひより「ゆーちゃんはつかさ先輩に憧れていた、そしてつかさ先輩と同じようになろうとした、一人で人間とお稲荷さんの因縁を断ち切ろうとしていた」
みなみ「え……一人で……」
ひより「みなみちゃんには言わなかったみたいだね、考えてみれば言わない筈だよ、一人でしようとしたのだから」
みなみ「憧れは自分がそう成れないから憧れるもの、一人でなんて……はっ!!」
みなみちゃんは自分の言った事に気付いたみたいだった。
ひより「つかさ先輩はとんでもない事に巻き込んでくれた」
自分の世界に入っている。私の話しを聞いていない。やれやれ、それなら最初から喧嘩なんかしなければ良いのに。
みなみ「私は……ゆたかの真意を知らなかった……」
ひより「知らなかったじゃなくて、知られたくなかった、誰にも知られずに完結したかったんだね」
ゆーちゃんはみなみちゃんに気付いた。
ゆたか「みなみちゃん、いつの間に……」
みなみ「チェリーが迷惑をかけたみたい……」
ゆーちゃんはベンチから立ち上がった。そしてチェリーちゃんのリードをみなみちゃんに渡した。
ゆたか「ダメだよ、大型犬を放したら大変な事になっちゃうでしょ、小さい子にじゃれついたら大怪我だよ」
みなみ「確かに……」
みなみちゃんはリードを強く握り締めた。そんなみなみちゃんを見ながらゆーちゃんは話した。
ゆたか「人間になったり、狐になったり、遺伝子操作をしているのは分るけどそれ以上は分らない、遠い星から来るのくらいの文明をもっているのだから理解できなくて
    当然だよね、私達の知識や経験じゃ及びもしないよね、そんな彼らでも事故が起きてしまうなんて」
みなみ「今の私達より進んだ文明の技術、私達では理解出来ないくらい素晴らしいもの、でも、所詮人が使っている以上そんなものなのかもしれない」
ゆーちゃんは空を見上げた。
ゆたか「お稲荷さんの故郷……何故助けに来ないのかな……連絡はとれないの」
みなみ「みゆきさんが言っていた、お稲荷さんの故郷はおそらくとても遠い星、人間の技術で彼等の故郷と連絡はできないって」
ゆたか「そうなんだ……だから帰れないんだね」
ゆーちゃんは空を見上げるのを止め、みなみちゃんの方を見た。
ゆたか「帰れないのなら、やっぱり私達と一緒に暮らすのが一番」
みなみ「それが最善ならそうかもしれないけど……現実はそうではなかった、その原因は私達人間の方にあるのかもしれない……」
ゆたか「そうだね……難しいね」
ゆーちゃんとみなみちゃん、今まで話せなかった分を取り戻すように語り合っている。やっぱり二人はこうでなくてはならない。高校時代を彷彿とさせる。
私は二人の会話に入らず暫く見ていた。チェリーちゃんも静かに二人をみていた。

ゆたか「ねぇ、私達が来る前に弾いていた曲って何、今度聞いてみたいな……」
みなみ「いつでも来て、弾いてあげる」
ゆたか「ありがとう、今度聴きにいくから」
今頃に成ってそんなのを聞くなんて。
でも、もう完全に仲直りしたみたいだ。もっとも喧嘩と言うよりは意見の相違からくる意地の張り合いだったのかもしれない。それでお互い気まずくなってしまっていたに違いない。
ひより「さて、すっかり日も落ちたし、この辺りでお開きにしましょうか」
『ファ~~』
チェリーちゃんが大きな欠伸をし、前足を前に出して背伸びをした。公園を出るのを察知したみたい。
私達は辺りを見回し話しに夢中になっていたのに気が付いた。公園の街灯が点灯している。
みなみ「ゆたか、ひより、頑張って」
私とゆーちゃんは頷いた。みなみちゃんはチェリーちゃんを連れて公園を出た。私とゆーちゃんも公園を出て駅に向かう。
ゆーちゃんの決意が分った。みなみちゃんの想いも分った……いや、分っていない。みなみちゃんは私に何を忠告したかったのだろう。聞きそびれてしまった。
それにしてもつかさ先輩に憧れるなんて……私にはそれを完全に理解は出来なかった。
一人で旅をして、家を出て、全く新しい環境で、全く新しい人々の中でレストランを切り盛りしている。そこで出会った人達と共に……強さ、たくましさを感じる。
その辺りに憧れのだろうか。それとも……いや、今はまなぶとまつりさんの事を考えないと……
う~ん。頭がいっぱいになった。
帰って、お風呂に入りながら頭を整理しよう。

 その日曜日が来た。頭を整理どころか何の対策も思い浮かばないまま時間がすぎてしまった。
ゆたか「おはよ~」
待ち合わせの駅前に既にゆーちゃんは居た。私を見つけるとにっこり挨拶をした。
ひより「おはよ~」
挨拶を返した。
ゆたか「コンちゃん来るかな」
心配そうに駅の改札口を見るゆーちゃんだった。
ひより「どうかな、あの時の感じからするとどっちとも言えない」
ゆたか「私、いろいろ考えたのだけど、何も思い浮かばなくて」
ひより「それはこっちも同じだよ、ただ言えるのは小手先の作戦じゃダメだね、かと言ってあまり深く掘りすぎてもダメかも」
ゆたか「それじゃ何も出来ないよ」
ひより「そうだね、何もできない……でも、それが一番良いのかもしれない、自然の流れに合わすしかないよ」
無策の策と言うのだろうか。我ながら情けない。

 約束の時間を過ぎてもまなぶが現れる気配はなかった。
このまま待っていても仕方がない。
ひより「さて、行こうか」
ゆたか「え、待っていなくて良いの?」
私は頷いた。しかしゆーちゃんは納得出来ない様子だった。
ひより「まつりさんと会って、またまなぶさんが狐に戻った所を見られたらそれこそお仕舞いだよ、」
ゆたか「そうだよね、それだけは避けないとね」
ひより「だから来ないのも正解なのかもしれない」
ゆたか「それじゃ、私達だけで行こう……あ、あれ?」
ゆーちゃんは不意に建物の陰の方を向いた。
ひより「何?」
ゆたか「あれ、犬……うんん、狐だよ……さっき影が横切ったのが見えた」
私もゆーちゃんと同じ方向を見た。
ひより「何は見えないけど……」
ゆーちゃんはまた別の所に顔を向けた。
ゆたか「あ、まただ、きっとコンちゃんだよ」
ひより「どこ、どこ?」
私はキョロキョロと周りを見渡したが何も見つける事はできなった。
ゆーちゃんはゆっくりと歩き始めた。
ゆたか「今度はこっちだよ、私達を誘導しているのかも」
ひより「ゴメン、私にはさっぱり……」
私はゆーちゃんの後に付いていった。ゆーちゃんは影を追いながら歩いて行った。

ひより・ゆたか「ここは……」
影に導かれて来た所は、神社の奥にある倉庫。それは私達が最初にコンを連れてきた場所だった。
まなぶ「ごめん、街中で、人前で話したくなかったから此処に連れてきた、人気の無いここなら話が出来る」
私達の後ろからまなぶの声がする。私達は振り返った。
ひより「まなぶ……さん」
ゆたか「え、この人が?」
そうか、ゆーちゃんは人間になったコンを見ていないのか。まなぶは私達に歩いてきた。
まなぶ「結論から先に言う、今日は柊家に行かない」
ゆたか「ど、どうしてですか、正体さえ知られなければ大丈夫ですよ」
まなぶ「その正体が問題なんだ、私はまだ1日も人間で居られない、そんな不安定な状態でまつりさんと会うなんて出来ない」
ゆたか「で、でも」
まなぶ「せめてすすむと同じくらい、一週間は人間で居られるようにする、そらからだよ……一ヵ月後か、一年後か」
ゆたか「それならコンちゃんの姿で……」
まなぶは首を横に振った。
まなぶ「やっぱり犬じゃだめなんだ、人間として彼女と会いたい、そう思うようになった、それがどう言う意味かもね、私は彼女、柊まつりが好きだってこと」
ひより「す……き」
その言葉を聞いた瞬間なんとも言えない感情が込み上げてきた。
ゆたか「そうなんだ、それじゃしかがないね、ちゃんと変身できるようになってからでも遅くないかも、その時になったら手伝いを……」
まなぶ「いや、もういいよ、田村さんはもう充分に協力してくれた、あとは私だけでしたい」
そうだった。これ以上私の出る幕はない。
ひより「その通り、もう私の出来る事はここまで、後は二人の問題だよ」
ゆたか「ひよりちゃん、そんな中途半端でいいの?」
私は頷いた。
ひより「中途半端どころか、目的はそれだよ、これ以上の介入はそれこそ余計なお節介になるからね」
ゆたか「う~ん……」
ゆーちゃんは納得のいかないような表情をした。
まなぶ「それより、すすむが変な事を言い出して困っている」
ゆたか「変な事?」
まなぶ「ああ、整体院を閉めて遠くに引っ越すなんて言いだした」
私とゆーちゃんは顔を見合わせた。
ゆたか「どうして、いのりさんは諦めちゃうの」
まなぶは両手を広げてお手上げのポーズをした。
まなぶ「それは私も言った、だけどダンマリだったね、その代わりに、仕事をしすぎた様だって言っていた、そろそろ攻撃されるって……意味が分らん
    人間の君達なら何か分るのではないか?」
私とゆーちゃんはまた顔を見合わせた。分るはずもない。
まなぶ「すすむは大勢の人間を治してあげているのになぜ攻撃されなければならない、小早川さんなんか初診の時とは見違えるほど元気になったじゃないか」
その言葉にピンと来た。
ひより「それは、同業者とか、他の団体から圧力がかかるのかな、整体で出来る範囲を超えて治しちゃうと怪しまれるのかも、正当な治療をしなかった…違法な
    事をしたんじゃないかとか……」
まなぶ「それは、妬み、嫉妬って言いたいのか」
ひより「まぁ、そうとも言うね……」
まなぶ「人間って嫉妬深い生き物なんだな」
人間以外の人から言われると身につまされるような思いに駆りたたられる。何も言い返せなかった。
まなぶはメモ帳を取り出し書こうとしたけど止めた。
まなぶ「書き留める必要はないか、我々もまた嫉妬深いのかもしれないからな」
まなぶはメモ量を仕舞った。
まなぶ「さて、私は帰る、すすむには思い留まるよう説得してみるつもりだ、時間があったら君達も頼むよ、予定では二ヵ月後に引越しみたい」
ひより・ゆたか「はい」

まなぶは後ろを向くと狐の姿になった。そしてそのまま草むらに消えていった。狐に戻っても気を失わなくなっている。思ったよりも早くまつりさんの再会ができそうだ。
ひより「さて、私達も行きましょうか」
ゆたか「行くって、何処に?」
ひより「柊家だよ、約束しているしね」
私が歩き出してもゆーちゃんはその場に留まったままだった。
ゆたか「でも、コンちゃん、宮本さんは居ないし……」
肩を落とし落胆している様子が私にも分る。
ひより「かがみ先輩の様子もみないといけないから、泉先輩のミッション……あ」
しまった。これは内緒の話しだった。
ゆたか「……ひよりちゃん、この状況で別の依頼まで出来るの……私はそんなに頭が回らない、いのりさんと佐々木さん……私じゃ力不足だった」
ゆーちゃんは佐々木さんが引っ越すのを気にしているのか。そのおかげでミッションはスルーだ。良かった。
ひより「いや、優先順位を見誤っただけだよ、まつりさんはコンの時に基本的なコミュニケーションが取れていたからまなぶさんになっても手を掛ける必要は無かった、
    私なんか必要ない位だよ、問題なのはいのりさんと佐々木さん、人間同士だけの付き合いだから手を焼く必要があった、それだけだよ、ゆーちゃんのせいじゃない」
それでもゆーちゃんは動こうとしなかった。
ゆたか「ひよりちゃんは凄いね、そんな分析まで直ぐにできるなんて、なんでそんなに切り替えが早いの……まるで図書館でいくつもの小説を代わる代わる読んでいるような、
    週刊誌の漫画を好きな順番で観ているような……楽しんでいる、そんな感じにさえ見える……これも他人事だからできるの?」
ひより「え、えっと、それは~」
私ってそんなに気移りするように見えるのかな。私はまつりさんもいのりさんもかがみさんも別の物語だとは思っていない。
ひより「別の漫画とか小説とか、そんなんじゃないよ、この物語は一つ、全てはつかさ先輩の一人旅から始まった一つの物語、こう考えられない?」
ゆーちゃんは目を閉じて暫く考えた。そして目を開けて首を何度も横に振った。
ゆたか「だめ、ダメだよ、まつりさんはまつりさん、いのりさんはいのりさんだよ、それぞれ別だよ……ごめんなさい、少し考えたいの……ごめんなさい」
ゆーちゃんは走って倉庫を出て行ってしまった。そして私一人が残った。
私ってあまりに客観的に考えすぎるのだろうか。ネタを探すときとかは主観的に考えると詰まる場合が多い、だから一歩も二歩も引いて考える。
時には自分でさえも他人として考える……ゲームのプレーヤーとキャラクターと同じ関係、キャラクターを画面から操作しているからキャラクターがいくら危険な目に遭っても
悲しい出来事があっても進んでいける……泉先輩もそれに似ているように思っていたけど……従姉妹のゆーちゃんがあの反応じゃ違うのかな、やっぱり私は普通じゃないのかな……。
腕時計を見た。もう行かないと約束の時間に間に合わない。一回深呼吸をした。
それでも私は行くしかない。柊家に。

 柊家の玄関の前、ゆーちゃんは見当たらない。きっと帰ってしまったのだろう。気を取り直して私は呼び鈴を押した。出てきたのはかがみ先輩だった。
かがみ「いらっしゃい」
かがみ先輩は私を見てから周りを見渡した。
かがみ「ゆたかちゃんと宮本さんは、一緒だって聞いていたけど?」
ひより「はぁ、実は諸事情がありまして……」
かがみ先輩は溜め息をついた。
かがみ「そっちも大変ね、まつり姉さんも居なくてね、急に仕事が入ったとか言って出て行ったわ……連絡する時間もなくて、ごめんなさい」
これで私の目的は泉先輩のミッションだけになってしまった。これは今までの出来事に比べればお遊びみたいなもの。かがみ先輩は彼氏とうまく行っているいみたいだし、
私の出る幕はなさそうだ。ゆーちゃんも心配だし……
ひより「そうですか、それでは今日は無しと言う事で、お手数を掛けました」
私は会釈をして帰ろうとした。
かがみ「待って、興味があるわ諸事情に、良かったら聞かせて」
かがみ先輩はドアを開けた。かがみ先輩は笑顔で私を迎えた。
ひより「……お邪魔します……」
吸い込まれるように私は泉家に入った。そしてかがみ先輩の部屋に案内された。

かがみ「宮本さんがまつり姉さんを好きだって?」
〇ッキーを食べながら驚くかがみ先輩だった。私は今までの出来事をかがみ先輩に話した。
ひより「はい」
かがみ「まぁ、分らないではないわね、宮本さんの正体がコンならばね……人間としてか……彼は本気みたいね、私はその気持ちを大事にしたい、問題はまつり姉さんが
    どう思っているか、それだけだわ、私から見た感じではまんざらでも無さそうよ、他に彼氏もいなさそうだし」
ひより「本当ですか!?」
私は少し声を高くして聞き返した。かがみ先輩は食べかけた〇ッキーをお皿に置いた。
かがみ「あくまで私が見た感じよ、本人に直接聞いたわけじゃない、確証はないわ」
ひより「そ、そうでした、軽率でした」
かがみ「それより、いのり姉さんと佐々木さんが心配ね」
ひより「あの、佐々木さんが整体院を辞めて、引越しするのは……」
かがみ「そうね、これも本人聞かないと真意は分らないけど、大筋、田村さんの推理で合っていると思う、確かにあの整体院は評判が良すぎたかもしれない、
    そこに利害が出てきて、いろいろな事を考える族(やから)が出てくるのも確かよ……考えてみれば私達人間の方もややこしいわね……」
かがみ先輩はまたお皿に盛った〇ッキーを食べだした。
かがみ「田村さんも遠慮なく食べなさいよ、お茶も入れたし」
かがみ先輩はお菓子の盛られたお皿を私に差し出した。私はお皿を掴んだ……あれ、かがみ先輩はお皿を放そうとしない。私は少し力を入れた。しかしかがみ先輩は放そうとしない。
ひより「いゃ~、かがみ先輩、全部食べたいならそう言って下さいよ……」
かがみ先輩は何も言わなかった。しまった。禁句(タブー)を言ってしまったか。私は慌ててお皿を放した……
ひより「か、かがみ先輩?」
私の問い掛けにまったく反応しない。まるで人形の様に固まっている。
ひより「かがみ先輩、冗談はよしてください……」
全く反応がない。もっともかがみ先輩はこういった冗談はしないタイプだ。私はかがみ先輩の目の前で手を振った。反応なし。この時、事の重大さに気付いた。
ひより「かがみ先輩!!!」
ありったけの大声、そしてかがみ先輩の両肩を掴んで前後左右に激しく揺さぶった。かがみ先輩の全身が激しく揺れる。
ひより「しっかり、しっかりするっス、だめ、死んだらダメ、つかさ先輩が、ご両親が……私だって……私だって……」
なんだろう。目の前のかがみ先輩が歪んで見える。目頭が熱くなってきた。
こんな時は救急車を呼ぶのが先だっけ……
頭はそう思っていても手ははかがみ先輩から放れなかった。
泉先輩との漫才。時には怒って、時には笑って……そんな光景が頭の中を過ぎっていく。
冷静に。
早くかがみ先輩から離れて電話を……
別の私が私に語りかけてくる。私は我に返ってかがみ先輩を放した。そして携帯電話を取り出し119番に掛けようとした。
かがみ「ちょっと、お菓子が全部床に落ちちゃったじゃない……」
電話をする動作を止めてかがみ先輩の方を見た。かがみ先輩は何事も無かった様に床に落ちたお菓子を拾ってお皿に戻していた。
ひより「かがみ……先輩?」
かがみ先輩は私の方を見た。私の顔を見て驚いた。私の目から涙が出ていたのに気付いたのだろう。
かがみ「な、なによ、お菓子が落ちたくらいでそんな、泣くなんて……」
ひより「え、たった今、何が起きたのか分らなかったっスか?」
かがみ「何って、お皿からお菓子が落ちて……」
ひより「その前っス、よく思い出して下さい、かがみ先輩は人形みたいに動かなかった」
かがみ「あ、あぁ、そ、そうだったかしら、最近論文を書いていて徹夜続きだったから、疲れが出たのかも……」
思いついたような言い訳だった。私には嘘だと直ぐに分った。
ひより「そんな在り来りなもんじゃなかったっス、あれはどう見ても意識が飛んでいました」
かがみ先輩は残りのお菓子を全て拾うとお皿を机の上に置いた。
かがみ「田村さんには隠せないわ……最近、意識が飛ぶことがあってね……この前もゼミ途中で抗議の意味が分らなくなった……」
ひより「それは尋常じゃないっス、早くお医者さんに診てもらわないと……」
かがみ「大丈夫よ、高校受験の時もそんな事があったから、田村さん、もしかして心配して泣いてくれたの、嬉しいじゃない」
笑顔ではいるけど、いつもの笑顔とは違った。作っている。
ひより「以前、呪いにかかったって言っていましたけど、その後遺症とかじゃないっスか?」
かがみ「……そんなの、分るわけないじゃない、呪いの知識なんて全くないのよ」
やっと本音が出た。見栄っ張りもここまでくると頑固者って感じだ。皆に心配を掛けまいとしているのだろうか。
ひより「それは私も同じです」
かがみ「この事は、皆には内緒にして……」
力ない声だった。
やっぱりそう言う事だったのか。このまますんなり内緒にして良いのだろうか。呪いならお医者さんに診せても分らないだろう。仮に何かの病気だったら皆に分かってしまう。
皆に知られないように確認する方法……ある。あるじゃないか。
ひより「佐々木さんならそれが分かるかも、治療法も知っているいるかも」
かがみ「だから大丈夫だって、この話は止めましょう」
ここは折れてはだめだ。
ひより「他人の私ですら涙がでてしまった、これがつかさ先輩、ご家族、泉先輩、高良先輩だったらどうだっか想像できます?」
かがみ「つかさ……お母さん……こなた……」
さぁ、かがみ先輩、ここで想像力を使って下さい。かがみ先輩が亡くなったらどれだけの人が悲しむのか……
ひより「かがみ先輩の恋人はどうですか」
ここでダメ押しだ。
かがみ「わ、分かったわよ、白黒付けようじゃない、でも佐々木さんの所は休診中じゃないの」
やった。診てもらう気になってくれた。
ひより「それは問題ないっス」
私は携帯電話を取り出した。
かがみ「ま、まさか、今から?」
ひより「善は急げ、っス」
佐々木さんは快く引き受けてくれた。
私達はかがみ先輩の用意した車に乗って佐々木整体院に向かった。

すすむ「診て欲しいのは田村さんではないのか?」
ひより「はい、かがみ先輩です」
私は頷いた。かがみ先輩は私の後ろでやや緊張気味な様子だった。
すすむ「とりあえず診療室へ」
私達は診療室に案内された。佐々木さんは椅子を二つ用意し、私とかがみ先輩はその椅子に座った。そして佐々木さんも向かい合う形で椅子に座った。
すすむ「それで、彼女の何を診て欲しいと言うのだ?」
ひより「呪いの後遺症が無いかどうかです」
すすむ「な、なんだと?」
佐々木さんはかがみ先輩の方を見た。
ひより「時々意識が飛ぶ事があるそうです、ついさっき、一時間くらい前にも……」
佐々木さんは腕を組んで険しい顔になった。
すすむ「私は呪術に関しては専門ではない、詳しくは判らん、見た所呪いは完全に解かれているみたいだが……良いだろう、私の分かる範囲で調べてみよう」
ひより「ありがとう」
かがみ「お願いします……」
佐々木さんは立ちありかがみ先輩の目の前に立った。
すすむ「いや、そのまま、座ったままで良い、リラックスして」
かがみ先輩は目を軽く閉じた。佐々木さんはかがみ先輩の額に触れるか触れないかくらいまで手を近づけてかざした。そして佐々木さんも目を静かに閉じた。

 3、4分くらい経っただろうか。自分にはちょっと長く感じた時間だった。佐々木さんは静かに目を開けた。
すすむ「……呪いは完全に消えている、問題ない」
かがみ先輩は立ち上がり得意満面の態度で私を見た。
かがみ「ふふ、だから言ったじゃない、ひより!!」
ひより「そ、そうですね、でも、良かったじゃないですか」
ひより、かがみ先輩は私をそう呼んだ。泉先輩や高良先輩を呼ぶように名前で呼んだ……
かがみ「当たり前じゃない、こんな時に病気なんかしてられない」
すすむ「ただし疲労が溜まっているのは確かだ、どうだ、私の整体を受けるが良い、休診中だから御代はいらない」
ひより「良いんじゃないですか、これを期に受けてみたら?」
かがみ「ちょっと、痛いのは……」
すすむ「私の整体はそんなものじゃない」
かがみ「それじゃ、お言葉に甘えまして……」
私は立ち上がり診療室を出て受付室でかがみ先輩を待つことにした。

 かがみ先輩……泉先輩、高良先輩の親友、つかさ先輩の双子の姉、いのりさん、まつりさん、二人の姉がいる。努力家で高校時代には高良先輩に匹敵する成績までになっている。
抜け目ない性格と思いきや、泉先輩によくいじられたりするし、つかさ先輩みないなボケもたまにしたりする。裏表がはっきりした性格だ。
それゆえ、ツンデレといわれているのかも知らない。
初めて会ったのは泉先輩の紹介だった。『先輩』だったからか私とかがみ先輩は泉先輩を通してしか交流がなかった。今回だって泉先輩のミッションがなければ頻繁に会うなんてなかった。
私は何でかがみ先輩の分析をしているの。それは高校時代に既にしている。昔のネタノートを見れば書いてあるじゃない。
私は一呼吸を置いて考えた。
『ひより』なんてそんなに親しくなったのだろうか。どうして。頻繁に会っているから。それだけなら日下部先輩はかがみ先輩と私以上に会っているのに名前で呼んでいない。
何故……私を……?
それとも私の考えすぎだろうか……

かがみ「ありがとうございました」
診療室からかがみ先輩の声がした。整体が終わったみたいだった。あれこれ考えているうちに時間がすぎてしまったようだ。診療室からかがみ先輩が入ってきた。
かがみ先輩を見て驚いた。肌が艶々しているように見える。顔色も良いし、表情も温泉でも入っていたみたいにスッキリしていた。
かがみ「何だろう、体が軽くなったよう……ひよりもしてみたら、体の中か洗われた様よ」
笑顔で私に整体を勧めるかがみ先輩。
ひより「休診中なのに二人もしてもらったら佐々木さんに悪いような気が……」
診療室から佐々木さんも入ってきた。
すすむ「私は一向に構わない、田村さんも疲れが溜まっているぞ」
かがみ「ほらはら、遠慮しない、受けてきなさい」
私の手を取って引くかがみ先輩。あまり乗る気はしなかった。
まてよ、佐々木さんと話せるチャンスかもしれない。
ひより「それじゃ……お願いします……」
かがみ「終わるまで待っているから」
ひより「い、いえそんな、誘ったのは私なので待っていなくても良いです……」
かがみ「車だし、家まで送るわよ」
ひより「そこまでしてくれなくとも……」
すすむ「それなら私が送ろう、この後も特に用事はない、それに見たところかがみさんより疲れが酷い、時間が掛かる」
かがみ先輩は暫く考えている。
かがみ「分かりました、佐々木さん、済みませんが後をよろしくお願いします、今日はありがとうございました」
かがみ先輩は深々と頭を下げた。
かがみ「それじゃひより、またね」
私に手を振るとかがみ先輩は外へ出て行った。この前と違ってあっさりした感じがした。引越しの件で一言二言あるのかと思ったがそれはなかった。
でもそれはそれで良いのかもしれない。質問をする人が代わっただけ。それだけの話しだ。
すすむ「それでは田村さん、診療室へ……」
佐々木さんは診療室に体を向けた。
ひより「その前に一つ聞きたい事があります」
すすむ「何かね?」
佐々木さんは立ち止まり振り返った。
ひより「コン……いや、まなぶさんから聞きました、引越しされるようですね」
すすむ「あいつ……余計な事を……」
佐々木さんは私から目を逸らした。
ひより「この整体院は街にもやっと定着しようとしているのに、どうしてですか、評判を妬む人が居るからですか?」
佐々木さんは目を逸らしたまま黙っている。
ひより「いのりさんは……好きではなかったのですか、別れてもいいのですか?」
佐々木さんは何も言わない。そんな中途半端な態度に少し苛立ちを覚えた。
ひより「何故です、それだったら何故私をまなぶの講師役なんかさせたの、直ぐに引っ越しするなら最初から真奈美さん達の仲間と一緒に行動すればよかったじゃないですか」
私は少し声を荒げた。
すすむ「何も知らない小娘が、知った風に……好き嫌いで全てが決まるわけじゃない、もう良い、帰ってくれ」
ひより「だったら教えてください、それまで帰りません」
小娘だなんて、確かに彼等の十分の一も生きていないかもしらないけど。私はもう小娘じゃない。そんな言われ方をすれば怒りもする。
すすむ「全くどいつも、こいつも柊かがみのように強情なやつばかりだ」
かがみ先輩が強情ってどうゆう事?
ひより「何故かがみ先輩の名前をこんな場面でだすの、それに強情ってなんですか、佐々木さんはそんなにかがみ先輩と面識はないでしょ?」
すすむ「この前会った時、いろいろ言われたものでな……」
あの時は佐々木さんに意見を言っただけで強情とは違う。嘘を言っている。佐々木さんは何かを隠している。まさか。
ひより「まさか、かがみ先輩に何かあったの?」
そのとき佐々木さんの身体が少し揺れたように見えた。
ひより「診療室でかがみ先輩と何を話したの、私には会話が聞こえなかった、何を話話したの、呪いが完全に解けていなかったとか……」

 佐々木さんは暫くしてからゆっくり私の方に向いた。
すすむ「さすが私達の正体を見破っただけのことはある、感情に任せて言った失言からそこまで分かるとは」
ひより「呪いは解けていなかった……」
すすむ「呪いならまだましだ、彼女の脳に悪性新生物がある……」
ひより「あくせいしんせいぶつ……まさかそれって」
すすむ「そう、脳腫瘍だ、それもかなりの悪性だろう、場所もおそらく外科的には取り除けまい」
目の前が急に真っ白になった。
ひより「そ、それで、さっきの整体で綺麗スッキリ治しちゃったのでしょ?」
佐々木さんは首を横に振った。
すすむ「私の整体は今まで人間から得た知識や技術を私なりに統合、改良をしたものだ、残念ながら悪性新生物には対応していない」
ひより「で、でも、かがみ先輩、あんなに肌艶も綺麗になって、健康その物だった」
佐々木さんはまた首を横に振った。
すすむ「免疫を強めるようにしたが気休めだ、進行を遅らすくらいしかできない……あともって半年くら……」
ひより「やめてー!!!」
私は両耳を手で押さえて叫んだ。この先は聞きたくなかった。
ひより「何故です、何故、かがみ先輩がそんな病気にならないといけない、呪い……呪いのセイでしょ、」
すすむ「あの呪いは脳に直接働きかけるもの、全く影響がなかったとは言えない、しかし呪われなくとも何れは発病しただろう」
身体が熱い、怒りが込み上げてきた。
ひより「だったら責任を取って、かがみ先輩がお稲荷さんに何をした、何もしていないでしょ、勝手に呪って、かがみ先輩を病気にして」
佐々木さんには何も責任は無い。それは分かっていた。だけどこう言うしかなかった。
佐々木さんは私の顔をじっと見た。
すすむ「目から水が出ているな……泣いているのか、残念ながら私達は泣くと言う心理状況を理解していない、人間になっても頭の中までは変わらないのでね、
    大事な物を失った時、得た時に泣くと聞いたが……柊かがみは田村さんにとってそう言う存在なのか、親でも姉妹でもない赤の他人ではないか」
ひより「……そんな事はどうでもいいから、早く治して……」
すすむ「……治す方法はある、だが人類の技術では合成できない物質がいくつかあって……無理だ……」
ひより「もういい、何処にでも引っ越して、二度と私達の前に現れないで」
私は立ち上がった。
すすむ「彼女は自分でも分かっていたのだろう、病気の事を言ってもあまり驚かなかった、只、内緒にしてくれと言っていた……私は約束を破ってしまったな、すまない」
私はそのまま診療室を出た。
別れの言葉も何も言わない。
所詮人間とお稲荷さんはそんな関係。分かり合えるはずも無い。

 何もする気がしない。気が重くなるばかりだった。大学に行っても上の空。家に帰ってもボーとしているだけ。
ときよりかがみ先輩の事を思い出しては涙を流すだけだった。
佐々木さんと別れてから一週間、そんな事の繰り返し。
自分の部屋で机に向かってペンを取っても何も描けなかった。
『ピピピーピー』
私の携帯電話に着信が入った。泉先輩からだ。いつもはメールのやりとりだけだったのに。珍しい。携帯電話を手に取った。
ひより「もしもし……」
こなた『やふ~ひよりん』
まだ半年も経っていないのにとても懐かしい声に思えた。
ひより「先輩、久しぶりっス、どうしました」
こなた『いや~最近めっきり報告が途絶えちゃっているからどうしたのかなと思ってね、かがみんのミッションは行き詰まったかな?』
そういえば最近になって何も報告していなかった。そうだ。こんなミッションなんか関係ない。もっと大事な事を言わなければ。
ひより「そんな事よりもっと大事な話があります」
こなた『なんだい改まって……』
ひより「かがみ先輩は……」
『内緒にして』
かがみ先輩の声が私の頭の中に響いた。
ひより「かがみ先輩は……」
こなた『かがみがどうしたの?』
ひより「かがみ先輩には彼氏がいるっス」
病気なんて言えない……何故、いつもの私なら話しているのに……
こなた『お、おお、その断定的な言葉、それ、それだよ、それを待っていたんだ、まぁ、だいたい想像はしていたけど、これは面白く成ってきたぞ』
声が弾んでいる。楽しんでいるようだ。
こなた『しかし、どこでその情報を仕入れたの、かがみ自らそんなのは言わないはず』
ひより「実はかがみ先輩から「ひより」って呼ばれているっス」
こなた『なるほどねぇ~かがみの信頼を得たってことか、ひよりんもやるじゃん』
ひより「い、いえ、それほどでも……」
こなた『そうそう、かがみは親しくなると呼び捨てになるんだよね、高校時代初めて会った時なんかね……』
かがみ先輩の出会いの話しを長々話す泉先輩……ゲームの話しをしている時よりも活き活きとしていた。かがみ先輩が病気と分かったらどうなるのだろうか。
私と同じようになるのかな。いや、もっと悲しむかもしれない。つかさ先輩はどうなのだろう……ますます言えなくなってしまう。
やばい。また涙が出てきてしまった。これが電話でよかった……
こなた『ちょっと、ひよりん、聞いているの?』
やばい、上の空だった。
ひより「は、はい、聞いてるっス……それよりそっちの状況はどうなんですか、つかさ先輩達と上手くいっています、例の店長さんとは?」
こなた『ふ、ふ、ふ、聞いておどろけ、私はホール長になったのだよ』
ひより「え、それは凄いっすね、おめでとうございます」
こなた『声が棒読みだよ……まぁいいや、つかさとはシフト制になってからあまり会えなくてね、同じ部屋を借りているのにおかしいよね』
なぜか素直に喜びを表現できなかった。
こなた『最近松本店長とつかさが私達スタッフに内緒で何かしているみたいだけど、まぁ、つかさの腕も上がっているからもしかしたら副店長になる打ち合わせかもね』
ひより「二人揃って凄いですね、応援しています」
こなた『ありがとう……』
『ただいま~』
携帯からつかさ先輩の声が聞こえたとても小さい声、遠くからのようだ。
こなた『お、つかさが帰ってきた、やばい、今日は私が夕食当番だった、それじゃまた連絡よろしくね』
ひより『は、はい……』
二人は私が思っていた以上に成功している。すごいな。
携帯電話を切って机に置いた。結局話せなかった……

私は気が付いた。今までゆーちゃんに言っていたのは間違えだった。親しくなった人に対して
他人事なんて言えるはず無い。かがみ先輩の病気でそれが分かった。私はゆーちゃんの喜怒哀楽を観て弄んでいただけだった。
そう言われても反論できない。今までゆーちゃんに言ってどれほど傷ついたのだろう。バカ……私のバカ……コミケ事件からまったく私は変わっていない。

それから間もなく私は風邪をこじらせて寝込んでしまった。

もう私は何も出来ない……

『ピンポーン』
熱はは引いた。でもまだ体はダルイ。ここ数日大学にも行けなかった。たとえ私の風邪が治ってもかがみ先輩の病気は治らない。これからどうして良いかも分からない。
普段の私なら皆に事情を話してこれからどうするか決める。だけど……それすらも出来なくなってしまったなんて。
『コンコン』
ノックの音がした。お母さんかな……
ひより「は~い」
ドアが開くとそこにはゆーちゃんが居た。私と目が合うとにっこり微笑んだ。さっきの呼び鈴はゆーちゃんだったのか。
ゆたか「おはよ~風邪をこじらせたんだって?」
ひより「まぁね……それよりいいの、大学に行かなくて」
ゆたか「ふふ、今日は日曜日だよ」
そうか日曜日なのか。曜日の感覚がなくなってしまった。あの日以来時間がとってもゆっくりに進んでいるように感じる。
ゆたか「座ってもいい?」
ひより「良いけど、風邪……うつるかもよ?」
私の警告をよそにして私の寝ているベッドの横に腰を下ろした。そして私を優しく見下ろしてじっと見つめた。
ひより「な、何……私の顔に何か付いてる?」
ゆたか「うんん、昔からお見舞いをされてばっかりだったから、こうして誰かをお見舞いをしてみたいと思っていた、ひよりちゃんが初めてになったね」
もう少しすればもう一人お見舞いに行かなければならない人が居る……そして一度入院をすれば退院することはない。
ひより「それで、その初めてのお見舞いはどう?」
私をじっと見るゆーちゃん
ゆたか「ん~どうかな、分からない、もっと時間が経てば分かるかも」
ひより「そう……」
私はそれ以上聞かなかった。それ以降私は何も話さなかった。ゆーちゃんも自分から話そうとはしなかった。
朝日が窓から入ってきて部屋の温度が上がった。心地よい温度だ。このまま眠ってもいいくらいだった。そんな私の心境を知ってか知らずか、ゆーちゃんはゆっくりと立ち上がった。
ゆたか「長居すると悪いから帰るね」
ひより「うん……お構いもしませんで、ごめんね」
ゆたか「うんん、お大事にね……」
ゆーちゃんは私に後ろを向いてドアの所まで移動して止まった。
ゆたか「ひよりちゃん、話してくれないの?」
話してくれない……何のことかな……
ひより「話すって……あぁ、お見舞いされた気分だね……なんだか上から覗かれて、恥かしいような……」
ゆたか「違うよ、もっと大事な事、何故黙っているの……かがみ先輩の事」
ま、まさか、どうしてゆーちゃんが知っている。そんな筈はない、かがみ先輩は内緒にするって言っていた。
ひより「な、なんの話しか分からない……」
ゆーちゃんはゆっくり振り返った。
ゆたか「取材の途中でひよりちゃんと別れて思った、ひよりちゃんは一人で柊家に行ったのに私は逃げてしまったって、だから、もう一度佐々木さんの所にに行ってみようと、
    そう思って、行ったの……佐々木さんの整体院に、そこに佐々木さんは居なかった、でも、コンちゃん……宮本さんがいてね……全て話してくれた」
まなぶが話したのか。余計な事を……もう一人悲しむ人が増えるだけなのに。
ひより「全て聞いたのなら私から話す必要はないよ……もう私に出来る事は何もない」
ゆたか「ひよりちゃんらしくない、こんな時は、私に、みなみちゃんに、場合によっては高良先輩や泉先輩にだって話して相談するでしょ?」
ひより「だって……だって、かがみ先輩は内緒にしろって言うし、先輩の気持ちにを考えるともう何も出来ない」
また涙が出てきた。ゆーちゃんに見られないように布団で顔を隠した。足音が私に近づいてきた。
ゆたか「ひよりちゃん、溺れちゃったね……そう思ったから此処に来たの、ひよりちゃんが私を救ってくれたように」
ひより「溺れる、私が?」
ゆたか「他人事じゃないと人は救えない、そう言ったのは誰だっけ?」
私は布団を取り上半身を起こした。
ひより「救う、どうやって、お稲荷さんにだって治せない病だよ、何も出来ないよ……」
ゆたか「そうかな、私はそうは思わない、だって他人事だもん、なんでも出来る」
ゆーちゃんはにっこり微笑んだ。
ひより「え……」
ゆたか「やれるだけやって、それでダメなら……悲しいけど諦めるよ、でも、それまでは……諦めない、他人事ってこうゆう事ででしょ、ひ・よ・り」
ゆーちゃんは人差し指で私の額を突いた。
ゆたか「一人だけ、ありふれた物で化学物質を合成できるお稲荷さんが居るらしいの、今ね、コンちゃんとみなみちゃんでそのお稲荷さんを探してもらっている」
ひより「ゆ、ゆーちゃん……」
ゆたか「溺れるのはまだ早いよ、ひよりちゃん、かがみ先輩が亡くなるまではね、うんん、絶対に死なせない、そうだよね?」
ひより「そんな事言ったって……」
ゆたか「コンちゃんもみなみちゃんもひよりちゃんのおかげで手伝ってくれていると思ってる、私たちに任せて風邪を治すのに専念して……それから、
    かがみ先輩の病気も治るように祈っていて……奇跡は滅多に起きないけどね、祈りや願いがないと起きないって誰かが言っていた、私もそう思う」
ゆーちゃんは腕時計をみた。
ゆたか「あっ、いけない、もう約束の時間、それじゃ、ひよりちゃんお大事に」
ひより「待ってゆーちゃん、わたし、私……佐々木さんと喧嘩してしまった……引越しを止められなかった」
ゆたか「しょうがないよ、あの状態じゃ私も同じ事をしてたかも、でもね、別れても生きてさえいれば何とかなるよ、今はかがみ先輩が優先だね」
ゆーちゃんはにっこり微笑むと部屋を出て行った。

 教えたゆーちゃんに教えられるなんて……それに私がするはずだった事を先にするなんて。
ひより「ふふふ……ははは」
なぜか笑った。そしてさっきよりも大粒の涙が出てきた。この涙は大事な物を得たのか失ったのか……
私は涙を拭かずそのまま床に就いた。何故か涙を拭きたくなった。
熱っぽいせいか頭が回らない。考えるのを止めた。
今はただかがみ先輩の回復を祈った。

 私はゆーちゃんと待ち合わせをしていた。東京都内のとある駅前。
こんな所で待ち合わせは初めてだ。私もこの駅を降りるのは初めてだった。
風邪が治り私もかがみ先輩を救うために皆の手伝いに参加している。あれから何週間か経つけど目的のお稲荷さんは見つかっていない。まなぶは
以前住処だったつかさ先輩と泉先輩が住む町の神社に行ったがもぬけの殻だったと言う。お稲荷さん達は全員何処かに引っ越してしまったみたいだ。
そういえばつかさ先輩の彼氏もお稲荷さん。二人は別れたと聞いたがそれと関係あるのだろうか。
「おまたせ」
後ろから男性の声。まなぶの声。私は振り向いた。
ひより「まなぶさん……」
まなぶ「なんだい、私ではいけないような顔をして」
ひより「い、いや、ゆーちゃんと会う約束をしたものだから、意外だった」
まなぶ「小早川さんは岩崎さんと一緒に別行動してもっている、彼女達は彼の自宅に向かっている、私達は彼の仕事場に向かう、どちらかに居るはずだ」
ひより「彼って誰?」
まなぶ「もちろん私の仲間の……」
ひより「ほ、本当に、早く行こう……何処!?」
私はまなぶの手を掴み歩き出した。早くかがみ先輩の病気を治してもらいたった。逸る気持ちを抑えられなかった。

ひより「……法律事務所……」
まなぶ「そうだ、そこに私の仲間が居る、そこに居なければ小早川さんが向かっている自宅に居る」
私が思っていたのとはかけ離れた所に案内された。病院かどこかの研究所かと思っていた。
待てよ……法律事務所……って。確かかがみ先輩の彼氏も法律事務所で働いていたって言っていた。
ひより「ちょっと、かがみ先輩の彼氏も法律事務所で働いているって聞いたけど、これって偶然なのかな」
まなぶは法律事務所の玄関を見ながら答えた。
まなぶ「偶然もなにもない、かがみさんの彼氏だよ」
ひより「え……も、もしかして、かがみ先輩の彼氏もお稲荷さん……」
まなぶ「その様だな、すすむが彼女を呪いの診断をした時に微かに仲間を感じたそうだ」
かがみ先輩の彼氏もお稲荷さん……かがみ先輩はそれを知っているのだろうか。ややこしいとか言っている所から察するに知らないと考えた方がいいかもしれない。
まなぶ「かがみさんには悪いが尾行させてもらった、それでこの法律事務所と自宅を突き止めた」
まてよ、何故だ。何故そんなまどろっこしい事をする。
ひより「こんなコソコソしていないで直接頼めば済むでしょ、かがみ先輩の恋人なら直ぐにでも病気を治すはず」
まなぶ「いや、彼では病気は治せない、恐らく彼なら仲間の居場所を知っていると思ってね、かがみさんと一緒に居ない所を見計らって彼と会う作戦だ、
    事務所から出てきたら聞くつもりだから、しばらく張り込みをしよう」
ひより「え、あ、はい……分った」
そんなにうまい話はなかったか。

それにしても、つかさ先輩、かがみ先輩、いのりさんにまつりさん。ものの見事に四姉妹がお稲荷さんと関係している。良い意味でも、悪い意味でも。
偶然かもしれない。だけどそれだけでは片付けられない運命的な何かを感じてならい。
その運命の一端に参加している私、これもまた運命なのだろうか。
そもそも私は漫画のネタ探しから始まったのが切欠だ。それだったら……つかさ先輩にしても一人旅が切欠。どちらも世間一般に珍しいものじゃない。
不思議だな……私はまなぶを見ながら考えていた。
まなぶ「……私の顔に何か付いているのか?」
まなぶは事務所の出入り口を見ながら話した。私の目線に気付いたようだ。この状況なら聞けるかもしれない。前から聞きたい質問があった。
ひより「ちょっと二つ質問いいかな?」
まなぶ「なんだい?」
彼は事務所から目を離さなかった。
ひより「何故まなぶさんは真奈美さん達ではなく佐々木さんと住むのを選んだの」
まなぶ「……人間に興味があったから……と言っておこうかな、詳しく知るには人間と暮らすしかない……人間と共に暮らしている仲間は三人いるけど、すすむが一番
    一般の人間と接している人数が多いと聞いて、それで決めた、答えになったかな?」
私は頷いた。
ひより「うん……それで人間に接した感想はどうだった?」
その答えを聞くのが少し恐かった。
まなぶ「まだ調べ足りないけど……よく似ているよ私達に」
ひより「そ、そうなんだ……」
似ている……これはまた微妙な答えだな。そう言えば前にも同じような事を言っていた。
まなぶ「……それで、もう一つの質問って?」
ひより「え、ああ、まなぶさんは何故私達の手伝いをしてくれているの、嬉しいけど、そんなにかがみ先輩と親しかった訳じゃないのでは?」
まなぶ「好きな人の妹が死に瀕している……助けたいと思うのは当然じゃないのか?」
ひより「それは、そうだけど、それだけじゃないと思って」
好きな人……またこの言葉を聞くとは思わなかった。なぜかその言葉はあまり聞きたくなかった。
まなぶ「記憶を失って、コンとして飼われていた頃だった、まつりさんが仕事で散歩に行けない時などはかがみさんが代わりに散歩に連れて行ってくれた、
    私を擬人化してよく愚痴を言って面白かった、それにまつりさんとは違う道を行ってくれてね、飽きさせなかった、とても他人事じゃいられないよ」
かがみ先輩の愚痴の内容も聞きたかったけど、今はそんな雰囲気ではなかった。
まなぶ「それじゃ私から質問、何故君はかがみさんを助けようとする」
ひより「へ?」
まなぶ「見るからに私よりも動機は薄いような気がするが、出身高校が同じと言うだけで血縁関係もない」
ひより「う~ん」
そう言われると……なんて表現していいのだろうか。
まなぶ「なんだ、答えられないのか、好きだからじゃないのか」
わ、え、どう言う事……
ひより「す、好きって……わ、私もかがみ先輩も同姓だし……そ、そんな百合的な展開はな……」
まなぶ「ふ、ふふ……はははは」
まなぶは事務所の方を見たまま笑った。
まなぶ「君は自分の事になると何も答えられないみたいだな、分かったよ、多分田村さんも私と同じ理由だな」
彼はは百合って意味を知っているのかな。そんなのを確認なんかできっこない。
『ピピピ』
まなぶはポケットからスマホを取り出し操作しだ。
まなぶ「君の友人からメールだ、自宅は留守なのでこっちに向かうそうだ、合流しよう……すまない、事務所の入り口を見張っていて欲しい」
ひより「はい……」
まなぶがスマホを操作している間、私が事務所の入り口を見た。
時がゆっくりと流れているように思えた。

まなぶ「彼の名は小林ひとし、彼との交渉は全て私に任せて欲しい、かがみさんの意思を尊重して病状は伏せることになった」
ひより「ゆーちゃんとみなみちゃんもそれで良いのなら……」
まなぶ「もう既に打ち合わせ済」
私が風邪をひいている間に話しは進んでいたようだ。
確かにお稲荷さんとの交渉はお稲荷さんに任せた方が良いのかもしれない。
それに最初はあんなに反対していたみなみちゃんも手伝ってくれている。なによりあのゆーちゃんがあれほど積極的になるとは思わなかった。
その時、事務所の近くをゆーちゃんとみなみちゃんが通りかかった。私は携帯電話で二人を呼んだ。
みなみ「ここで張っていたの?」
私とまなぶは頷いた。
ゆたか「自宅は留守だったから多分この事務所だよ」
まなぶ「そろそろお昼だ、出てくると思う」
ゆたか「小林さん、コンちゃんは会ったことあるの?」
まなぶ「いや、会った事はない、向こうの仲間は真奈美さん以外殆ど知らない」
ゆーちゃんはまなぶをまだコンと呼んでいるのか。最初に狐の彼を見つけたのはゆーちゃんだった。あの時のイメージが強かったのか。
それにまなぶも否定していない。人間のときくらいは
みなみ「何人か事務所を出入りしているけど見逃したりしない?」
まなぶ「人間になっていようが、狐になっていようが、他のに化けて居ようが、仲間ならすぐに分かる……ん?」
まなぶの目が鋭く光った。
まなぶ「彼だ!!」
私達は学ぶの目線を追った。事務所の玄関を出てきた男性。その人だろうか??
まなぶ「私と彼が会っている時は出てこないように」
そう言い残すと小走りに彼の元に走っていった。私達はその場に留まりまなぶと男性の動向を見守った。
まなぶが話しかけると彼は立ち止まりしばらく何かを話してから二人は歩き出した。私達は彼等の後を気が付かれないように追いかけた。

ひより「こっち、こっち」
小声で二人を呼んだ。
ゆたか「で、でもこれ以上近づいたら……」
ゆーちゃんは更に小さな声で答える。
ひより「大丈夫だって、それに近づかないと会話が聞こえない」
まなぶと小林さんは近くの公園の隅で立ち止まった。私達はぎりぎりまで近づいて物陰から様子を覗う。
ひとし「まさかこんな所で仲間に会えるとは思わなかった……しかし君には一度も会った覚えが無い……」
まなぶ「私は宮本なまぶ」
ひとし「あぁ、思い出した、最近生まれた子じゃないか……大きくなったものだ」
二人の会話がよく聞こえる。小林さんはまなぶを知っているのか……
まなぶ「私より若い仲間は居ないと聞いた」
ひとし「そんな事より用事とはなんだ」
まなぶ「人を探している、化学物質を合成できる人」
ひとし「回りくどい言い方だな……たかしの事を言っているのか、呪術と錬金術で彼の右に出る者は……真奈美くらいだ」
たかし、たかしと言うお稲荷さんが薬を作れるみたいだ。
まなぶ「今何処に居る?」
ひとし「……会ってどうする?」
まなぶ「合成して欲しい物がある」
ひとし「……合成して欲しい物、我々にそんな物は必要ない筈だ、何に使う、人間に復讐でもするのか、武器や毒と言うのなら止めておけ……」
まなぶ「いや……薬を作ってもらおうと……」
ひとし「薬だと……」
まなぶ「治したい病気が……」
ひとし「病気……我々は病気にはならない筈だ」
まなぶ「助けたい……人間が居る」
不味いな、このままだと薬を誰に使うのか分かっていまうかもしれない。
ひとし「そうか……助けたい人間が居るのか、それは君にとって大事な人なのか」
まなぶ「そうだ」
小林さんは暫くまなぶを見て首を振った。
ひとし「彼にそれを頼むのは難しいだろう、彼の人間嫌いは仲間の中でも一、二を争う」
まなぶ「それでもしなければ、何処にいます?」
ひとし「住み慣れた地を離れしまったらしくてね、私でも彼等の住処は分からない……残念だが力にはなれない、それでは失礼させてもらうよ」
小林さんはまなぶに会釈をすると公園を出ようとした。
ゆたか「待ってください!!」
ゆーちゃんが飛び出した。その声に反応して小林さんが振り向いた。
まなぶ「ば、バカ……来たらダメって……」
ひより「まずい、みなみちゃん、ゆーちゃんを止めないと……」
あれ……みなみちゃんの反応がなかった。私は後ろを振り向いた……でも彼女の姿は見えなかった。
再びゆーちゃんに目線を戻すと……あろうことかゆーちゃんの隣にみなみちゃんも立っていた。
ひとし「な、なんだ君達は……何処かで見た顔だな……」
ゆたか「お願いです、どうしても助けたい人が居るの、居場所だけでも教えて頂けませんか」
ゆーちゃんが頭を下げるとみなみちゃんも頭を下げた。こうなったら自棄だ。私も物陰から出て二人の横に並び頭を下げた。
小林さんは私達を見ていた。
ひとし「この人間達はおまえの仲間なのか」
まなぶ「……そうです」
小林さんは私達に向かって話しだした。
ひとし「その様子から見ると私達の正体を知っているみたいだな……さっきも言ったように仲間は住処を離れてしまった、随時移動しているみたいで私でも
    把握しきれないのだよ……それに、本来人間を救うのは人間で行うべきだ、私達が介入する問題ではない」
その言葉は冷たく私達を貫いた。
まなぶ「それを承知で頼んでいるのが分からないのか……」
ひとし「悪いが時間がない」
小林さんは公園の出口に向かって歩き出した。ゆーちゃんは小走りで小林さんを追い抜き公園の出口に立ち塞がった。
ひとし「すまないがそこを退いてくれ……」
ゆーちゃんは首を横に振った。
ゆたか「……本当に……本当に助ける気はないの……貴方の愛ってそんなものなの?」
ひとし「藪から棒に何を言っている……」
ゆたか「私達が誰を助けたいのか知りたくないですか、知っても同じ事が言えますか……」
まさかゆーちゃんはかがみ先輩の名前を言うつもりなのか。
みなみ「ゆたか……」
みなみちゃんはゆーちゃんを見て首を横に振った。ゆーちゃんはみなみちゃんを見て躊躇したようだ。その後の言葉が出てこなかった。
ひとし「……助けたい人とは私の知っている人なのか……」
小林さんはゆーちゃんを見た後、振り返り私とみなみちゃんを見た。
ひとし「……君達は……私の知人と一緒に居た時があるな……まさか……」
ゆーちゃんの言葉で分かってしまったようだ。もう秘密にしている意味はない。
ひより「私達は、かがみ先輩、柊かがみの友人です」
ひとし「かがみ……かがみの何を助けようとしている、彼女に何があった、なぜ我々の力を必要とする……」
小林さんが急に動揺しだした。私はある意味これで少しホッとした気分になった。同じ態度であったならかがみ先輩の恋は終わっていたのかもしれない。
小林さんは辺りを見回した。
ひとし「話しを詳しく聞きたい、ここでは落ち着かないだろう、事務所に戻ろう……来てくれ」
まなぶ、小林さんとみなみちゃん達は公園を出た。
ひより「ゆーちゃん、小林さんにかがみ先輩の話しは内緒にするんじゃなかったの?」
私はゆーちゃんを呼び止めた。ゆーちゃんは立ち止まった。
ゆたか「うん……そう決めたし、かがみ先輩もそれを望んでいた」
ひより「でもそれを破った、どうして?」
ゆたか「かがみ先輩を助けたかったから……それだけしか頭になかった……それで助かるならかがみ先輩に怒られても良い、皆から責められても構わない……」
ひより「かがみ先輩は怒るかもしれないけど、私は責めたりはしないよ、みなみちゃんもね」
ゆたか「えっ?」
ひより「さて、行きますか、皆、先に行っちゃったよ、たかしってお稲荷さんに頼まないといけないからね、まだまだ困難はこれからだよ」
ゆたか「う、うん」
私とゆーちゃんは皆に追いつくために走った。

 小林さんの勤める法律事務所の会議室に通された。そこで私達は今まで経緯を小林さんに話した。
まなぶとの出会い、佐々木さんとの出会い、柊家との関係……そしてかがみ先輩の病気の事……
ひとし「脳腫瘍だと……」
私は頷いた。
ひとし「ば、ばかな、そんな気配は微塵も感じなかった」
ひより「秘密にしていたようです、多分家族や親友には知られたくなかったと思います、もちろん恋人の貴方にも……」
ひとし「彼女の心を読めなかったと言うのか、それは在り得ない」
まなぶ「かがみさんは以前呪われている、その時に呪術者と何度も接触しているはずだ、そうこうしているうちに心を読まれない術を身につけたのかもしれないな」
小林さんは何も言わず考え込んでしまった。
ゆたか「そんな事より公園で話していたたかしってお稲荷さんを探さないと、かがみ先輩の病気を治す薬を作れるのでしょ?」
小林さんは目を閉じて腕を組んた。
ゆたか「どこに居るのですか、協力して下さい……」
ひとし「……まなぶはたかしを知らないのか……」
まなぶ「初めて聞く名前……すすむも何も言わなかった……極度の人間嫌いだって言っていたね……」
小林さんは目を開け腕組みを解いた。
ひとし「幼かったまなぶでは覚えていなかったか……人間嫌いだけならまだ希望もあるがな……」
まなぶ「何が言いたい、こっちは急いでいる、こうしている間にも……」
小林さんはもったいぶった様に少し間を空けてから話した。
ひとし「かがみに禁呪をしたのが……そのたかしだ……」
まなぶは何も言い返せなかった。私たち三人は顔を見合わせて驚いた。
私達はかがみ先輩に呪いを掛けたおいなりさんにかがみ先輩の病気を治してもらわなければならない……気が遠くなるような事だった。
でも諦められない。諦めたらかがみ先輩はあと半年後には亡くなってしまう。
ひより「そのたかしってお稲荷さんは何故かがみ先輩に呪いをかけたのです?」
それならばたかしってお稲荷さんの情報をなるべく詳しく知る必要がある。
ひとし「私も直接彼から聞いたわけじゃないから真意はわからん……真奈美が亡くなったのをかがみの妹が原因と思っているらしい、
    その妹に彼と同じ境遇を味合わせてやりと思ったのだろう」
違う……確かにつかさ先輩が関係しているかもしれないけど、真奈美さんが亡くなったのはつかさ先輩のせいじゃない。誤解だ。
ひより「たかしって真奈美さんを好きだったのですか?」
ひとし「好きもなにも婚約者だった……」
ひより「こ、婚約者……」
好きな人……愛する人が亡くなれば何かのせいにしたくもなる。それはなんとなく理解できる。
ゆたか「でも、真奈美さんが亡くなったのはつかさ先輩のせいではありません」
珍しく断定的に言うゆーちゃんだった。それも私が思っていたのと同じ内容だった。
ひとし「……そうだな、そうの通り、真奈美が死んだのはむしろ我々側の問題だ……族に言う逆恨みと言うやつだろう」
ゆたか「お願いです、なんとかたかしさんを探し出せませんか……」
祈るように手を合わせて懇願するゆーちゃんだった。
ひとし「君達に頼まれるまでもない、私が直接彼に頼む……いや助けさせる、それが彼の責任だ」
小林さんは席を立ち上がった。そして会議室を出ようとした。
みなみ「何処に行くの?」
小林さんは立ち止まった。会議室に入って初めてみなみちゃんが口を開いた。
ひとし「たかしの所に会いに行く……」
みなみ「会う……何処に居るのか知っている?」
ひとし「草の根分けてでも探し出すまでだ……」
みなみ「会ってたかしさんが拒んだらどうする?」
ひとし「拒むだと、そんな事をすれば彼の命はない、悪いが急いでいる話はこれまでだ」
また小林さんは部屋を出ようとした。
みなみ「……かがみ先輩を第二の真奈美さんにしたいの?」
ドアのノブに手を掛けた所で小林さんは止まった。
ひとし「第二の真奈美……どう言う意味だ」
みなみ「怒りで話しかければ怒りで返ってくるだけ、誰も助からない、誰も救えない……」
小林さんは暫くノブを持ったまま動かなかった。そしてノブから手を放してから大きく深呼吸をした。
ひとし「……そうだな、その通りだ、岩崎さんと言ったな、私は危うく同じ過ちを仕出かすところだった」
小林さんはさっき座っていた椅子に戻り座った。
ひとし「私がたかしに会うとお互いに感情的になってしまう……どうしたものか……」
みなみ「たかしさんとの交渉は私達がします、だから彼を探し出して欲しい……」
そんな話は聞いていない。私には荷が重過ぎる。
ひより「ちょっと……」
ゆーちゃんと目が合った。そしてゆーちゃんは頷いた。その決意に私はその先の言葉を言えなかった。
ひとし「そうか……やってみるが良い、そのくらいの時間はまだある、しかし君達が失敗したら私が直接出向く、それで良いな?」
ゆたか・みなみ「はい!!」
ひより「は、はい……」
急に振って湧いたミッション。自信なんかない。でもやるしかないのか……

 さっきからゆーちゃんはモジモジして何かを言いたそうにしていた。少し間があったので決心がついたの小林さんに向かって話しだした。
ゆたか「あ、あの~、質問いいですか?」
ひとし「何か?」
ゆたか「かがみ先輩とはどうして知り合ったのですか、かがみ先輩は小林さんの正体を知っているの?」
ひとし「彼女に私からは話していない、多分私の正体は知らないだろう……彼女とどうして出会ったか……それは、
    たかしが再び彼女を呪うのを監視してくれ……そう友人に頼まれてね、それが切欠だ」
頼まれた……同じだ。私が泉先輩からかがみ先輩の様子を見てくれって言われたのと同じじゃないか。
ゆたか「その友人もお稲荷さんなんですね……」
小林さんは頷いた。
ひとし「……結局たかしは一度もかがみの前に現れていない、しばらくして友人がたかしを保護したと連絡があった、それで私の仕事は終わるはずだった」
ゆたか「筈だった?」
ひとし「たかしは何時現れるか分からない、彼女の監視は四六時中続いた……そういえば君達三人も何度かかがみと会っていたな……
監視していて、そのうちに、一度くらい直接会ってみたくなってね……声を掛けた……」
ひより「それでかがみ先輩を好きになった……ですか?」
小林さんは何も言わず、何も反応しなかった。でもそれが答えだった。
ひとし「さて、身の上話しはここまでだ、約束通り彼を、たかしを探しに行かないとな」
小林さんは立ち上がった。
ひとし「この事務所は好きなように使うと良い、所長には私から言っておく」
そう言うと小林さんは会議室を出て行った。

私は溜め息を一回つくとみなみちゃんに向かって話した。
ひより「たかしと交渉ね……そんな無茶振りをアドリブでしちゃうなんて……失敗は許されないよ……私、自信なんかない……」
みなみ「ご、ごめん……」
みなみちゃんは俯いてしまった。
ゆたか「で、でも、あの時みなみちゃんが小林さんを止めなかったら大変な事になっていたよ、私なんかあの時どうして良いか分からなかった……」
それは私も同じか。小林さんが出て行こうとした時、ただの傍観者になっていたのは事実だった。
ひより「こうなるのは必然だったのかな……それはそうとみなみちゃんは何故急に私達を手伝うようになったの」
みなみ「それは、みゆきさんがお稲荷さんを許したから……お稲荷さんの知識を知りたいって……」
ひより「みなみちゃんが説得したんだね、それは良かった」
みなみちゃんは首を横に振った。
ひより「え、それじゃどうして高良先輩はお稲荷さんを許したの?」
私はゆーちゃんの方を向いた。ゆーちゃんは慌てて首を横に振った。
みなみ「つかさ先輩は人間とお稲荷さんが一緒に暮らせるように何かしている、それに賛同するようになったと聞いた……」
ここでもつかさ先輩が出てきた。私の知らない所で、しらないうちに……何故……私の一歩も二歩も先に行っているような気がする。
ゆたか「流石だね……」
当然の事の様に言うゆーちゃん。つかさ先輩はそんな人だったのか。高校時代のつかさ先輩はもっと……もっとボーとしていて、いつも皆の後に付いている様な……
まなぶ「ところで、たかしとの交渉はどうするつもりなんだ?」
まなぶの声に一気に現実に戻された。私達は顔を見合わせるだけだった。
まなぶ「一度はかがみさんを呪った人だ、そんな人にかがみさんの病気を治す薬を作ってもらうように頼むなんて……出来るのか?」
ゆたか「出来る出来ないじゃない、しないとダメだよ……」
まなぶ「どうやって、行き当たりバッタリが通用する相手とも思えないが」
ゆーちゃんは言葉に詰まった。私もみなみちゃんも何も言えない。
ゆたか「頼むしかないよ、頼んで頼んで命乞いするの」
みなみ「私も頼む……」
ひより「それしかない……」
まなぶ「無策の策か、それも良いだろう」
まなぶは席を立った。
まなぶ「ひとし一人より二人で探したほうが早い、手伝ってくる」
まなぶは会議室を出て行った。
ゆーちゃんはまなぶの出たドアを見ていた。
ゆたか「コンちゃん……少し変わったかな」
ひより「変わった?」
ゆたか「うん、なんか少し頼もしくなった、それに人間になっているのに苦しそうじゃなくなってる」
ひより「人間としてまつりさんに会いたいって言ってからね……」
ゆかた「そ、そうだった、もうコンちゃんなんて言えないね……」
みなみちゃんは立ち上がった。
みなみ「こうして居ても仕方がない帰ろう、それで、それぞれがたかしに何を言うのか考えよう、宮本さんが言うように今の私達は無策、
    このままだとたかしはかがみ先輩を救ってくれない……」
ゆたか「そうだね……今はそれしか出来ないよね、帰ろう」
ゆーちゃんも立ち上がった。そして私も立ち上がった。
事務所を出るとき、所長さんに私達の携帯電話の番号と家の電話番号を小林さんに伝えて貰うように頼んでから帰宅した。

 帰宅して椅子に座る。
普段ならネタをまとめる作業をしている所。でもネタ帳もボイスレコーダーも最近は使っていない。かがみ先輩の病気の事で頭がいっぱいだ。私が悩んだ所で
先輩の病気が良くなる訳じゃない。そんなのは分かっている。分かっているけど悩まずには居られなかった。
たかしと会って何を言う。
『かがみ先輩を助けて下さい』
これじゃ何の捻りもない。
『貴方の呪ったかがみ先輩が死にそう、だから病気を治して……』
これじゃ当て付けがましい。
『お願いです……』
違う、違う……どんな言葉を繋げたって彼が人間を憎んでいる限りかがみ先輩を助けるなんて在り得ない。まずは彼の人間に対する憎しみを解くのが先……どうやって。
何千年も溜まりに溜まった恨みや憎しみをどうやって。それこそかがみ先輩の病気を治してもらうより難しいかもしれない。
そういえばつかさ先輩は真奈美さんと友達になった……とうやって。
一緒に泊まって一緒に話しただけ……たったそれだけ……それだけで……分からない。今更ながら分からない。つかさ先輩は何をしたのかな……
それならいっそのことつかさ先輩に頼んでしまおうか。かがみ先輩の一大事だから真っ先に駆けつけてくれる……つかさ先輩ならたかしの恨みも解いてくれるかも……
『内緒にして……』
また頭の中にかがみ先輩の声が響いた。
家族には教えたくないだろうな……特につかさ先輩には……
結局何も解決策は出てこなかった。

ふと携帯電話を見る。もしかしたら小林さん達がたかしを探したのかもしれない。
なんだ……何もないか……あれ、着信履歴がある。
履歴にかがみ先輩の携帯電話番号が載っていた。ここ数時間前の時間だ。なんの用だろう?
時計を見ると午後十時、電話をするにもそんなに迷惑のかかる時間ではなかった。私はそのままボタンを押して電話をかけた。
かがみ『もしもしひより?』
ひより「こ、こんばんは~」
そうだ。かがみ先輩に許可をとればなんの問題もない。
ひより「かがみ先輩、実ははつかさ先輩に……」
しまった。私はまだかがみ先輩の病気を知らない事になっている。佐々木さんとの口喧嘩で思わず佐々木さんが言ってしまったので分かった。
今ここで言ってしまったら佐々木さんが秘密を破ったのを教えるようなもの。言えない……
かがみ『つかさ、つかさがどうかしたのよ?』
ひより「い、いや、何でもないっス……」
かがみ『それより、佐々木さんといのり姉さんはどうなったのよ?』
ひより「それは……」
今は何も出来ない。その余裕がない。
かがみ『実ね、いのり姉さん、最近元気が無くて……整体院が休みになっているのと関係があると思って電話した、何か心当たりはないかしら?』
ひより「あるような、ないような……」
かがみ『何だ、その中途半端な回答は!!』
本当にかがみ先輩は病気なの。そう疑ってしまう程元気な声だった。
かがみ『電話じゃ埒が明かないわね、明日、時間空いていない、よければ相談に乗って欲しい』
後回しにするはずだった問題をかがみ先輩から依頼されるとは思わなかった。でも、断る理由は無いか……
ひより「空いていますけど……ゆーちゃんやみなみちゃんも呼びましょうか、人数が多い方がいろいろな意見が聞けますよ」
かがみ『いや、ひよりだけで来て』
ひより「は、はい……」
かがみ『時間は午後からなら何時でも良いわ』
ひより「わかりました……おやすみなさい」
かがみ『おやすみ』
電話を切った。
私一人で……何だろう?……。
ひより「ふわ~」
欠伸が出た。元気なかがみ先輩の声を聞いたせいなのか。急に眠くなった。今は眠るしかない。気が紛れる。少なくとも眠っている間は……

 次の日、私は午後一番でかがみ先輩の家に行った。
かがみ「いらっしゃい、待ってたわ、入って」
家に入り私は辺りを見回した。
かがみ「今日は私以外誰も居ないわよ、まつり姉さんは仕事、いのり姉さんはお父さんと地鎮祭、お母さんは遠くにお買い物……」
ひより「そ、そうですか……」
かがみ「何心配そうな顔してるのよ、別に襲ったりねじ伏せたりなんかしなから安心しなさい」
ひより「え、あ、心配な訳では……」
かがみ「ふふ、ささ、居間にぞうぞ」
かがみ先輩があんな冗談を言うのを初めて見た。普段と違うと対応に苦慮するもの。
居間に行くと既に飲み物とお菓子が用意されていた。
ひより「こんなにしてくれなくても」
かがみ「いいから、いいから」
私の背中を押して居間の中央まで進みかがみ先輩は腰を落とした。私も席に座った。
ひより「相変わらずお菓子が好きっスね」
かがみ「まぁね、否定はしない……さて、早速いのり姉さんについて話しましょ……」
ひより「……その前に一つ聞きたい事があります」
そう、双子の姉なら分かるかもしれない。それがヒントになるかもしれない。そして、この質問なら私がかがみ先輩の病気を知っているの悟らせない。
かがみ「聞きたい事……何よ改まって……」
お菓子をつまみながら私の質問を待つかがみ先輩だった。
ひより「つかさ先輩はどうやって真奈美さんと仲良くなったのかなって、お稲荷さんと人間の因縁を断ち切るなんてそう簡単に出来るとは思えない、
    つかさ先輩の話を聞いただけでは分からなくて……是非かがみ先輩の意見を聞きたいっス、佐々木さんといのりさんの今後の対応にも参考になるかな……」
かがみ先輩はお菓子を食べるのを止めてしばらく私の後ろ上の方をじっと見つめながら考えていた。
かがみ「真奈美さんね……彼女とは一度会ってみたかった……」
またしばらくかがみ先輩は私の後ろ上を見ながら考えた。
かがみ「真奈美さんが亡くなった今、当事者から話を聞けない、ただ言えるのはつかさの何かに真奈美さんは魅かれた」
ひより「そ、そうですか……」
かがみさん、貴女もそのお稲荷さんを魅了させる何かをもっている。心の中でそう突っ込みを入れた。
かがみ「その何かに一緒に暮らしていて気付かないなんて、私も相当鈍いわ……」
ひより「そうですね」
かがみ「そうそう、私は鈍い……ってこんな時だけ納得するな!」
私は笑った。少し遅れてかがみ先輩も笑った。へぇ、かがみさんってこんなノリツッコミもするのか……
その何かが分かれば全てが解決できるような気がする。
かがみ「ただ一ついえる事は、佐々木さんにしろコン、宮本さんにしろ真奈美さん達みたいに深い憎しみは人間に対して持っていない」
それは私も思っていた。彼らは人間と一体になって暮らしている。それは小林さんも同じなのかもしれない。
かがみ「最近、整体院が休診しているみたいだけど、何か心当たりはないの?」
ひより「引越しをするって言っていました……」
かがみ「なっ!! そう言うのは早く言いなさい」
どうも調子が狂う。普段通りに対応できない。かがみさんを怒らせてばかりいる。
ひより「す、すみません……お稲荷さんは百年に一回、自分の正体を隠すために引越しするって言っていましたけど……」
かがみ「あの整体院は百年も経っていないわよ、それが理由ではない……わね……」
かがみさんは腕組みをして考え込んだ。本来なら私もここでいろいろ考えるところ、でもそこまで深く考えられない。
かがみ「一度、いのり姉さんと佐々木さんを会わす必要があるわね……」
ひより「……はい……」
かがみさんは私をじっと見た。
かがみ「どうしたの、さっきから、いつもなら色々な意見を言うのに……らしくないわよ」
そんな、かがみさんを目の前にして普段通りにしろって言うのは無理があり過ぎる。
ひより「……はぁ、まぁ、頑張ります……」
かがみさんは立ち上がった。
かがみ「人と話すときは目を見るもの、あんた何か隠しているわね」
やばい、こんな時に限ってかがみさんの勘が冴えるなんて。やっぱり来るべきじゃ無かったか。私は慌ててかがみさんの目を見た。
ひより「何も隠してなんかいませんよ……」
かがみ「そうかしら」

 かがみさんが私に一歩近づいた時、急にかがみさんの体がふらついて私に向かって倒れかかってきた。私は中腰になり慌ててかがみさんを支えた。
ひより「だ、大丈夫っスか?」
かがみ「……大丈夫よ……ありがとう……」
またかがみさんが固まってしまったあの時の状況が頭に浮かんだ。かがみさんは姿勢を戻した。私は手を放すと自分の席に戻った。
ひより「また調子が悪くなったのですか?」
こんな質問しか出来ないなんて……
かがみ「大丈夫、なんて言えないわね」
ひより「言えない?」
これはもしかしたら病気を告白するかもしれない。私はグッとお腹に力を入れて聞く準備をした。
かがみ「そう、私……妊娠しているから……これはお母さんしか知らない……」
ひより「それはおめでたいですね……えぇっ?!!!」
私は慌ててかがみさんのお腹を見た。全然膨らんでいない。って事はまだ三ヶ月を越えていないと考えるのが……
まてまて、かがみさんの命は後半年……確か妊娠期間は……間に合わない……かがみさんは赤ちゃんが生まれる前に……すると赤ちゃんも……
かがみ「頭の中で計算しているわね、ひより……」
その言葉に私の思考は止まった。そのままかがみさんの目を見た。
かがみ「あんたの計算は正しいわよ、私は出産する前に亡くなる……」
かがみさんの顔は思いのほか冷静だった。むしろ微笑んで見えるくらいだった。
ひより「……な、何故です、どうして……」
かがみさんは俯いた。
かがみ「そうよね、ひよりもそう思うわね、余命幾許もない私が赤ちゃんなんて……一時の快楽の為に命を弄ぶと思って……」
私は立ち上がった。そして両手で強く机を叩いた。
ひより「違う、そんなんじゃない、何故そんな話を私にするの、他にもっと言わなきゃならない人が居るでしょ、泉先輩、高良先輩、日下部先輩、峰岸先輩……私よりも
    親しい人が居るでしょ……何故私なの、そんな……そんな話をいきなり聞かされて……私にどうしろと……」
かがみ「……峰岸は名前、変っているわよ……」
こんな時に突っ込みを入れるなんて……興奮している私とは対照に冷静すぎるかがみさんだった。私は返事をせずそのままかがみさんを見た。
かがみ「ごめん……ごめんなさい……話を聞いてもらいたかった……それだけ、理由はそれだけ」
「ごめんなさい」初めてかがみさんから聞いた言葉だった。泉先輩と喧嘩をした時でも自分からは謝らない人なのに。気持ちが冷静になっていくのを感じた。
私はゆっくり座った。
ひより「私がかがみさんの病気を知っているの、分かっていたのですね……」
かがみ「……ひよりには話しておきたかった、だから呼んだ……一方的なのは百も承知、それでも聞いて欲しかった……気に障るならこのまま帰っても良いわよ」
別に追い出す感じではなかった。口調は穏やか、私が感情任せに怒鳴ったのに反応していない。さっき怒鳴った私が恥かしくなった。
ひより「……さっきは怒鳴ってすみません……あまりにショッキングだったもので……先輩に対して失礼でした」
かがみ「先輩、後輩なんて関係ない……ありがとう、取り敢えず座って」
かがみさんはにっこり微笑んだ
ひより「はい」
私は座った。
ひより「でも……どうして……私なんか……」
かがみ「もう知っていると思った……あんた泣いてくれたじゃない、それともあの涙は嘘だったの?」
泣いた……かがみさんが固まってしまった時の事を言っているのか。
ひより「い、いいえ、嘘泣き出来る程器用でないです……」
かがみさんはまた微笑んだ。
かがみ「安心したわ……嬉しかった、嘘泣きだったとしても嬉しかった」
ひより「泉先輩達だって泣きますよ、私でなくても……」
かがみ「こなた、みさおがねぇ……あいつらが泣くかしら、みゆきくらいしか想像できない」
ひより「そうかなぁ~私なんか大泣きする泉先輩の姿が頭に浮かびますよ」
かがみさんは私の後ろを見ながら答えた。
かがみ「だから内緒にしてって言った」
ひより「どう言う事です?」
かがみ「私があと半年で死ぬなんて分かったらあいつら絶対に普段通りじゃなくなる」
それはそうだ普通で居られるはずは無い。
ひより「そうですよ、親しければあたりまえじゃないっスか」
かがみ「……私は普段通りのあいつらが良いのよ……急に優しくされたり、泣かれたりしてもそれは本当のあいつらじゃない……それは家族にしても同じ、
    普段通り、話して、笑って、喧嘩して……」
普段通り……か。私にはよく分らない。
ひより「病気が悪くなれば何れバレますよ?」
かがみ「その時までで良いわよ……」
それなら……
ひより「実は、ゆーちゃん、みなみちゃんも知っていますよ」
かがみさんは私の目を見た。
ひより「い、いや、私でなくて……まなぶさんが教えてしまったらしいっス」
かがみ「……別に怒ってなんかいないわよ、知られてしまったのはしょうがないわよ……ひよりも佐々木さんが口を滑らせてしまったって聞いたわよ……」
そうか、かがみさんは佐々木さんの所に行って整体治療をしてもらっているのか。だから私の事も知っているのか。
かがみ「記憶を消す事だって出来るのに、佐々木さんはしなかった、技術に頼らないのは評価に値する」
ひより「みなみちゃん……高良先輩に教えるんじゃないかって少し心配なんです」
かがみ「いまの所それは無いわね、みゆきはつかさの手伝いに夢中だし、かえって良かったわよ」
なんか少し肩の荷が下りた感じだ。でも小林さんが病気を知ってしまったのはかがみさんに教える気にはなれなかった。なぜなら小林さんの正体も知ってしまうから。

ひより「あの、妊娠の件なんですが……御相手は?」
かがみ「そう、この前言っていた彼、恋人、小林ひとしさん……」
すんなりだった。顔を赤らめる事もなくはっきりと言った。小林ひとし、初めて聞く名前ではない。もう既に会っている。
ひより「どうして……」
かがみ「私は彼が好き……だから彼を受け入れた、それだけよ、他に何か必要なの?」
そう正々堂々と言われると言い返せない。もうこの二人は恋人じゃない、愛し合っている。夫婦といってもいいくらい。あの時の小林さんの態度を見ても明らかだ。
ひより「い、いや、それだけで充分だと思います、だけど……」
かがみ「……だけど私には時間がない、私のした事は間違っている……そう言いたそうね」
いちいち私の先回りをするかがみさん。いや、まだ時間がないと決まった訳ではない。
ひより「私達はまなぶさんの協力を得てかがみさんの病気を治す方法を探しています、まだ諦めないで……」
かがみ「お稲荷さんの秘術、それとも知識を使うと言うの……嬉しいじゃない……その気持ちだけでおなか一杯」
ひより「絶対に成功させますから……」
かがみ先輩は目を閉じた。
かがみ「ひよりは後何年生きる、十年、二十年、五十年……もっとかしら、私は後何年生きる、半年、一年……もう少しかしら……期間の違いはあるけど必ず私達は
    死ぬのよ、どんな技術か秘術かしらなけれど、命を救うなんてそう簡単には出来ないわ、絶対なんて言わない方がいい」
かがみさんはもう諦めている……そんな気がしてきた。
ひより「そんな悲観的な……」
かがみ「ふふ、ひより達がしようとしている計画が失敗しても私は怒ったりしないわよ、てか、死んだら怒りようがないわね」
ひより「こんな時になにを冗談なんか……」
かがみ「私は何も特別な事を望んでなんかいない、只、普段通りにしたいだけ……食べて、飲んで、笑って、怒ってそして愛するだけ、一つ心残りなのは私が死ねばお腹の
    赤ちゃんも亡くなる……これくらいね」
私ににっこり微笑みかける。私は何も言えずにた。そしてかがみさんは目を開けた。
かがみ「私のつまらない話しを聞いてくれてありがとう、さて、これからいのり姉さんと佐々木さんをくっ付ける計画を話しましょ……」
ひより「は、はい……」
かがみ「私ね、いのり姉さんはささきさんの事が好きなのは確かだと思うの……それでね」
……
……
 かがみさんの話はいつもと同じ口調、ときより冗談を交えながら話していた。
かがみさんは諦めている。そう、もう自分は助からないと覚悟を決めている。だけど……何故だろう。そこからは悲しみや怒りとかは出てこない。
そして希望や絶望も感じさせない。
かがみさんを呪ったお稲荷さん、たかしは憎くないのだろうか。友達や家族と別れるのは辛くないのだろうか。
死ぬ前になにか遣り残した事はないのだろうか。何か欲しい物は……
幾らでも出てくる未練や無念……でもかがみさんからはそんなのは感じない。それでいて自分が死ぬと言う事実から逃避しようとしている訳でもない。
そう、まるで私達が普段何気なく暮らしている日々と一緒にの様な……
普段……かがみさんはそう言った。
そうか、かがみさん病気が治るのを諦めているけど生きるのは諦めていない。だから冗談を言ってふざけもするし、恋愛だってする。赤ちゃんだってその中の過程に過ぎない……
周りの人がかがみさんを気遣いするのは返ってかがみさんにとっては鬱陶しいだけ……だから内緒にする……そう言う事なのか。
……
……
かがみ「それでね、ひよりには佐々木さんの引越しを止めてもらいたい、いや、思い滞めさせるだけでも良いわ……方法は任せる、お稲荷さんの扱いはひよりの方が慣れているでしょ」
いやいや、かがみさん、貴女はそのお稲荷さんを恋人……いや、夫にしていますよ。心の中でそう呟いた。
もしかしたら、彼がお稲荷さんでも人間でもどちらでも関係ないのかもしれない。もう私が二人に関して何かする事はもうない。二人で解決するに違いない。
ひより「はい、任せて下さい」
かがみ「お、いつものひよりに戻ったわね」
ひより「私は何時でも私ですよ、かがみさんと同じです」
私はウィンクをして笑った。そして家族が誰も居ない日に私を呼んだ意味も分かった。
かがみ「……ひより、分かってくれた……うぅ」
かがみさんの目から光るものが零れ落ちた。
ひより「どうして泣くのですか、私はかがみさんを理解しましたよ」
かがみ「ひよりが大声で怒鳴った時、正直もうダメだって思った、理解者が一人も居なかったら私……もう……」
その場に泣き崩れてしまった。この時私も一緒に泣くところ。でもまだ泣けない。ゆーちゃんが言ったようにまだ助かる可能性があるのなら私はまだ諦めない……
私はかがみさんが泣き止むまで席を立たなかった。

かがみ「今日はありがとう、最後に醜態を見せてしまったわ」
ひより「いいえ、私もいろいろ至らぬ点もあったと思います……」
私達は両手でしっかりと握手をした。
かがみ「つかさとみゆきがしようとしている事が成功すれば私達人間の世界観や価値観を根底から変えてしまうような大きな事、羨ましい、私もその一員に入りたかった、
    だけど私には時間がない、せめて……いのり姉さんの手伝いくらいはしてやりたい……」
ひより「それは普段からしているじゃないですか」
かがみ「そうかしら」
ひより「はい」
私は微笑んだ。
かがみ「……それじゃまたね」
ひより「また……」
別れ際のかがみさんがとても淋しそうに見えた。

 かがみさん無理しちゃって……
帰り道心の中でそう呟いた。
でも、死期が近い身でありながら普段通りなんて誰でも出来る事じゃない。私だったらどうなんだろう……その時になってみないと分からないかな……
それにしてもかがみさんと小林さん……二人は愛し合っている……私もあんな恋愛をしてみたい…これが……憧れ……か。
ゆーちゃんがつかさ先輩なら私はかがみさんに憧れる。あんな生き様を見せ付けられたら……
「田村さん?」
後ろから声がした。私は振り向いた。
いのり「やっぱり田村さんだ、すれ違ったの気付かなかった?」
そこには巫女服姿のいのりさんが立っていた。その横に神主姿のおじさんも居た。
ひより「あ、こんにちは、す、すみません、気付きませんでした」
私は二人に向かって会釈した。
いのり「この姿で気付かなかったなんて、よっぽどな考え事をしていたみたいね」
確かに二人は巫女と神主姿、普通なら直ぐに目に付く。そう、よっぽどな考え事だったかもしれない。でもこの二人には話す訳にはいかない。
いのり「かがみと会っていたのかな、その帰り道ね」
ひより「はい……」
いのり「あ、丁度良かった、これから神社に持って行く物があるから手伝ってくれる?」
ひより「あ、良いですよ」
いのりさんはおじさんの方を向いた。
いのり「お父さん、神社にお払いもって行くから先に帰って」
だたお「だめじゃないか、かがみのお友達を利用するなんて失礼だろう」
私の顔を見て申し訳なさそうに礼をした。
ひより「いいえ、お構いなく、ここで会ったのも何かの縁ですよ、喜んで手伝わせていただきます」
なんだろう、ここでいのりさんに会うのは何か偶然では片付けられない何かを感じる。
ただお「すまないね、それじゃよろしく頼むよ」
おじさんはいのりさんにお払いを渡した。
いのり「それじゃ、行こうか」
私はおじさんに礼をするといのりさんと神社に向かった。

いのり「これでよしっと!!」
神社奥の倉庫、その中にいのりさんは恭しくお払いを納めた。いのりさんを巫女さんなんだなって思った瞬間だった。いのりさんは倉庫の鍵を閉めた。
いのり「ありがとう」
ひより「あの~私、何もしていませんが……」
私は何も渡させていなかった。持ち物は全ていのりさんが持っていた。私と一緒に行く必要は全く無い。そんな私を見ながらいのりさんは咳払いを一回すると真剣な顔になった。
いのり「私達に気付かないような考え事、それはかがみに関係することかしら、かがみと家で何を話したの?」
す、鋭い、流石は柊家の長女、私の表情で只事ではない何かを感じたのか。それでわざわざこんな所まで連れてきたのか。
どうする。「なんでもありません」で帰してくれるほど簡単ではなさそうだ。私が返答に困っていると透かさず話してきた。
いのり「話したくない、話せない……どっちにしても気になる、最近かがみの様子がおかしいから、何か知っていたら話して欲しい」
なんてこった。かがみさんと別れてすぐに秘密を暴かれる危機がくるなんて。安請け合いなんかするんじゃなかった。どうする。中途半端な嘘は通用しないしすぐにバレる。
いのり「田村さんが話せないならかがみに直接聞くか、ごめんなさい、こんな所まで連れてきて」
ま、まずい、直接なんて聞かれたらかがみさんは本当の事を言うしかなくなる。ここでなんとかしないと。考えろ、考えるんだ、ひより!!
ひより「此処、覚えています?」
いのり「え?」
いのりさんは周りを見回した。
いのり「覚えてるって……何?」
いのりさんは首を傾げた。
ひより「ここにコンを連れてきましたよね」
いのり「……あ、あぁ、そう、そうだった、最初は私が見つけたのにまつりに取られてしまった」
本当はゆーちゃんが最初に見つけたのだけどね。あ、そんな事考えている暇はなかった……
ひより「あの犬、狐にすごく似ていませんでしたか?」
いのり「似ている、私が狐に間違えるくらいだった、鳴き声も狐そっくり、だからコンって名付けた」
いいぞいいぞ、こっちの方に話題を掏り替える。
ひより「私、思ったのですよ、つかさ先輩の一人旅の出来事に似ているなって」
いのり「似ている……?」
いのりさんはまた首を傾げた。
ひより「実はつかさ先輩も旅先で狐に会っているのですよ」
暫く考え込んでいたいのりさんだが、急に手を叩いた。
いのり「あ、そういえば思い出した、つかさは夕食の度に度の話しをしていた、狐が、お稲荷さんがどうのこうのって……あんなの話し、作っているだけの絵空事だと思っていたから
    かがみ以外は聞き流していた……そ、それがどうかしたの?」
やっぱりつかさ先輩は家族に話していた。あまりに現実離れしているから普通なら聞き流してしまうのは当たり前。
ひより「つかさ先輩が今まで嘘を付いたり、作り話をしたりした事ってあります?」
いのり「……な、ない……」
ひより「でしょ」
私は微笑んだ。
いのり「つかさが嘘をつかないとしたら……あの話は……ちょっと、田村さん、詳しく教えて!!」
食いついた……このままやり過ごせるかもしれない。真実を話して核心を隠す……また使うとは思わなかった。
私はつかさ先輩の一人旅で起きた出来事を話した。

いのり「ま、真奈美さん……」
話が終わるといのりさんは袖で目を隠した。涙を拭っているように見えた。
ひより「もし、コンが真奈美さんの一族だとしたら……って考えいたらいのりさん達とすれ違った……」
いのり「かがみとそんな話しをしていた訳ね……ちょっと待って、もし、もしコンがお稲荷さんだとしたらその飼い主である佐々木さんはどうなの……」
私は両手を広げてお手上げのポーズをした。話すのはここまで。
ひより「そうなんです、想像だけが膨らむのですよ……」
いのり「……分かった、ごめんなさいね、変な疑惑をしてしまって」
ひより「いいえ、それでは帰らせてもらいますね、さようなら」
私は歩き始めた。
いのり「ちょっと待って」
ギクリとした。まだ何かあるのだろうか。私は振り向いた。
いのり「この話はあまり他言すべきでないと思う、つかさは喋り捲っているみたいだけど……大丈夫かしら?」
ひより「つかさ先輩もその辺りは分かっているみたいですよ、気の許した人にしか話していないみたいですから……」
私は内心ホッと胸を撫で下ろした。
いのり「そうね、私も話さないようにする……」
いのりさんは少し心配そうな顔をしていた。
ひより「いのりさん……佐々木さん、気になりますか?」
しまった。何を言っているのだ。さっさと帰ればいいものを。
いのり「……気にならない、なんて言えない、彼の整体院が連日休診しているから……」
もし、本当にいのりさんが佐々木さんを好きならばいつかは通る道。でもそれは私ではどうする事もできない。
ひより「私……まだ異性を本気に好きになった事がないから分からない、でも特別な人で無い限り誰もが一度は誰かを好きになるものでしょ?」
いのり「……まぁ、そうね……」
ひより「生まれて、成長して、誰かを好きになって、次に命を繋ぐ……そして亡くなる……生きているなら当たり前、生命が生まれてからずっと続いてきた営み……
    こんな当たり前な事なのに何故祝ったり悔やんだりするのが不思議に思っていました」
いのり「冠婚葬祭ね、私も巫女をやっていると何度もそう言う場面に出あうわね」
ひより「でも実は、当たり前の様でどれもが奇跡に近い出来事だったって……」
いのり「そうね、そうかもしれない……なぜそんな話しを?」
かがみさんを見てそう思った。何て言えない……
ひより「いえ、そう思っただけです……」
私は会釈をしてその場を離れた。いのりさんはこれ以上私を引き止めなかった。

 神社の入り口に差し掛かるとかがみさんが走って向かって来た。いのりさんの帰宅が遅いので心配になったのだろうか。かがみさんは私に気が付いて駆け寄ってきた。
かがみ「はぁ、はぁ、いのり姉さんは一緒じゃなかった?」
息が切れている。全速力だったみたい。
ひより「さっきまで一緒でした、まだ倉庫に居るかもしれません、それよりそんなに走って大丈夫なのですか?」
かがみ「ま、まさかひより、私の事を言ってしまったんじゃないでしょうね?」
私は首を横に振った。かがみさんがホッとした表情で中腰になった。
ひより「でも、いのりさんはかがみさんの異変に気付いていますよ、誤魔化すためにつかさ先輩の一人旅の話しをしました……ですから、まなぶさんや佐々木さんを
    お稲荷さんかもしれないと思っているかもしれません」
かがみ「私の異変に気付いているだって、そうか、それじゃ私はこのまま戻った方がよさそう……」
ひより「行ってあげて下さい、いのろさんも悩んでいるみたいだし……佐々木さんの事で」
かがみ「私が行っても姉さんの悩みなんか解決できっこないわよ」
ひより「それでも良いじゃないっスか、二人で話す機会なんてそうそう無いですよ」
かがみさんは暫く神社の奥を見ていた。
かがみ「……そうね、そうするわ」
ひより「それでは、私は帰ります」
かがみ「あんた、急に変わったわね……いつも外から覗き込んでいて介入なんかしない感じだった、こなたと一緒にいても行動するのはこなたの方だったでしょ、
    でも、今のひよりは……まぁ、良いわ、また会いましょ」
かがみさんは私の肩をポンと叩くと早歩きで神社の奥に入っていった。
二人は倉庫で何を話すのかな……お稲荷さん、佐々木さん、コン……それとも自分の病気を明かすのか……それはないか……戻ってみるのも良いけど二人の邪魔はしない方がいい。
ここは私、ひより流の想像で済ますとするか。
私は家路に向かった。

 私はかがみさんの言うように佐々木さんの整体院に行き引越しを止めてもらうように頼んだ。だけど答えはノーだった。
それでも私は時間があれば佐々木さんの所に行き続けた。佐々木さんの答えは変わらなかったけど私が来るのは拒まなかった。そして。
かがみさんが生きている間は整体の治療をしなければならないので居てくれると約束してくれた。また、私とかがみさんにゆーちゃんと同じ呼吸法を教えてくれると言った。
ゆーちゃんやみなみちゃん、まなぶの協力があったのは言うまでもない。それで、ここまで漕ぎ付けたのに一ヶ月近く掛かってしまった
それから間もなくだった。小林さんから連絡があったのは……

ひより「ワールドホテル本社……」
東京の一等地に聳えるビル。高級ホテルだ。私はビルを見上げた。
ひより「このビルにたかしが来るって……間違いないの?」
まなぶ「そうひとしは言った、私も仲間の気配を感じる……もうこのビルに居る」
ひより「間違いはない……だけど……どうしてこんな東京のど真ん中で……このビルなんだろう?」
私達三人とまなぶは小林さんの言った通りの日と場所に待ち合わせをして合流をした。小林さんはたかしがこのビルに用事があるのと分かったので私達に教えてくれた。
これが彼の行方を知る数少ないチャンスと言う事だ。
みなみ「ワールドホテル……会長は柊けいこ、ホテル以外に幾つも工場も経営している、しかも特許申請が数千に及びその全てを会長が申請したと……」
ひより「柊……」
何だろうこれは偶然なのかな……
ゆたか「……こなたお姉ちゃんから聞いたのだけど、レストランかえでがこのホテルの傘下に入るって聞いたの……なんか偶然にしては出来すぎているような……」
ひより「……そうだね、その通り出来すぎている……」
まなぶ「いや、偶然じゃない、もう一人仲間の気配を感じる……きっとこのホテルの関係者の中に我々の仲間が居る」
ここにもつかさ先輩が関係していると言うのだろうか?
ひより「それって、佐々木さんや小林さんみたいに人間と一緒に暮らしているお稲荷って事だよね、あと何人いるの?」
まなぶ「……それは分からない、すすむはそんなに詳しくは教えてくれない、只、その一人がこのホテルに居るのは確かだな」
ゆたか「小林さんも来れば良かったのに……」
ひより「それはダメだよ、私達がたかしと交渉しないといけないから……」
ゆたか「そ、そうだったね……」
まなぶ「たかしは真奈美さんの婚約者だった、だとすれば幼い頃の私を知っているかもしれない、最初に私が彼を呼び止める、その後は君達に任せるよ」
ゆーちゃんは俯いてしまった。
ゆたか「今日までに彼にどんな交渉をするか……皆、考えて来たの……私、何も思いつかなかった……ごめんなさい……」
みなみ「一ヶ月もあったのに、何故……真剣に考えたの?」
ゆたか「一ヶ月なんて短すぎる……そう言うみなみちゃんはどうなの」
みなみ「私は……」
みなみちゃんはおどおどし始めた。
ゆたか「みなみちゃんだって同じでしょ、自分が言い出したのだからもうとっくに案が出ていると思った」
まなぶ「おいおい……この期に及んで喧嘩かよ……もう計画は実行されている、後戻りは出来ない……それだけは忘れるな」
ゆたか・みなみ「あ、う、ごめんなさい……」
まなぶの一活で二人は静かになった。でも、二人の喧嘩はそれだけたかしとの交渉が難しい事を物語っている。はっきり言って私も二人同様になにか決め手を持っているわけじゃない。
だけど私はかがみさんと会った。話した……それだけはゆーちゃんとみなみちゃんと違う……
ひより「この東京のど真ん中、人間の住む世界の首都と呼ばれている場所にたかしが来た、これは私達に少しは都合がいいかもしれない」
ゆたか「何故?」
ひより「たかしは人間が嫌い、そんな人がわざわざこんな所に来るってことは彼の人間に対する考え方が変わったのかなって思う、だから話せば分かってくれるような気がする」
その考え方を変えたのは何だろうか。自然に変わるとは思えない。でも、今それを考えている余裕はない。
ゆたか・みなみ「それで……どうすれば……」
ひより「下手な芝居や、感情的に訴えるのは逆効果……単刀直入に私達の想いを伝える……」
ゆたか「それだと、私が最初に言った方法とそんなに変わらないよ……」
ひより「え、ははは……そうだね」
私は苦笑いをした。まさかゆーちゃんに突っ込まれるとは……
まなぶ「しかしそれが一番シンプルで良いのでは、それならたかしがどう出てきても柔軟に対応が取れる」
まなぶは私達三人を見回した。
まなぶ「三人一斉に出て来られると相手も警戒する、ここは一番冷静なひよりに担当してもらってはどうだ?」
うげ、まなぶは何を宣わっていらっしゃるのですか、いきなりそんな大役を……
私が断ろうとすると、ゆーちゃんとみなみちゃんは目を輝かせて私の手を取った。
ゆたか「そうだよ、ひよりちゃん、お願いします」
みなみ「私では多分何も言えないと思う、ひよりなら……」
皆は私を買い被り過ぎている。私だって何も出来ない……
ひより「私……そんなに自信ないよ、失敗するかもしれない、それでも良いの?」
ゆたか「そうかな、佐々木さんを取り敢えずでも留まらせたのはひよりちゃんだよ、大丈夫だよ」
みなみ「私をここまで連れて来たのはひより、大丈夫」
ひより「で、でも、人の命が懸かっているし……」
まなぶ「誰もひよりを責めたりはしない」
皆が私を励ましている……それにかがみさんも言っていたっけ、助けたいと思ってくれるだけで嬉しいって……それならば……
私は手の平に人の字を三度書いて飲んだ……
ひより「結果はどうなってもそれを受け止める、それで良いなら」
三人は頷いた。そしてこの言葉は自分自身にも言い聞かせた。
まなぶ「さて、彼を何処に呼ぶかが問題だ。飲食店だと騒がしくて話しに集中できない」
みなみ「皇居外苑の公園はどう、ここから歩いて行ける距離……」
まなぶ「分かった……彼が動いた……ひより達は公園に向かってくれ、私が彼を連れて行く」
ゆたか「私はここに残る、ひよりちゃん達と合流できるようにしないと」
まなぶ「そうしてくれ」
まなぶはワールドホテルの入り口に向かった。ゆーちゃんは此処に留まり、私とみなみちゃんは公園に向かった。
いよいよ本番だ……

 公園の一角に私達とみなみちゃんは場所を確保した。人通りが少なく思いのほか静かだったからだ。
ひより「此処なら問題なさそう」
みなみ「ごめん……私、ひよりに全部押し付けてしまった……」
みなみちゃんは私に深く頭を下げた。
ひより「ふふ、今更そんな事言われてもね……でも、今ならまだ代われるよ、代わってくれるなら喜んで代わるよ」
みなみちゃんは慌てて頭を上げ、驚いた表情をした。
ひより「ははは、じょうだん、冗談だってば」
みなみ「……こんな時に冗談が言えるなんて、やっぱりひよりが適任……」
みなみちゃんは驚いた表情のまま答えた。
ひより「冗談でも言わなきゃこんな事出来ないよ、かがみさんは覚悟を決めているみたいだけど、やっぱりそれでも生きたいと思っているに違いない、
    一人の体じゃないからね……」
みなみ「……ひより、今、何て……」
みなみちゃんの携帯電話が鳴った。私を見ながら携帯電話を手に持った。
みなみ「……そう、橋を抜けて暫く歩くと私達がいる……」
みなみちゃんは私に向かって頷いた。合図だ。彼が、たかしが来る……みなみちゃんは携帯体電話を耳に当てながら私から離れて迎えに行った。

私一人広い公園に立っている。
みなみちゃんにかがみさんの赤ちゃんの話しをするのは少しフライングだったかな。結果がどうであれたかしと会った後にみんなに話すつもりだった。
空を見上げると夏の青空が広がっている。さて、覚悟を決めるか……私の覚悟なんてかがみさんに比べたら取るに足らないものかもしれないけど……
みなみちゃんは随分遠くに迎えに行った。小さく見える。どんどんみなみちゃんが近づいてくるのが分かった。そのすぐ後ろにゆーちゃん。またその後ろにまなぶが居た。
まなぶの後ろに男性が付いて来ている。彼がたかしだろうか。人間と距離を置いて住んでいるお稲荷さんの一人。はたして彼はどんなお稲荷さんなのだろう。
まなぶや佐々木さん以外のお稲荷さんは話しに聞いた真奈美さんしか知らない。緊張とプレッシャーが私を襲う。
彼はまなぶと一緒にどんどん私に近づいてきた。ゆーちゃんとみなみちゃんは途中で止まり私を見ている。
男「……彼女か、俺に用があると言う人間は」
ぶっきらぼうな話し方、ここに来るのが余り良く思っていないみたい。
まなぶ「そうだ」
男「あまり時間がない、手短に頼む……俺はたかしだ」
まなぶは私達から離れてゆーちゃん達の所に移動した。自己紹介か。それなら私も。ただの自己紹介じゃ私が誰か分からない。
ひより「わ、私は田村ひより、柊かがみの友人と言えば分かってもらえるでしょうか……」
たかしは少し驚いた顔になった。
たかし「柊かがみの友人、それで、その友人が俺に何の用だ?」
ここからが勝負、お願い。うまく行って……
ひより「い、今、柊かがみは不治の病に侵されています……残念ながら私達人間の力では彼女を治す事ができません、はるか彼方の惑星の、進んだ文明の知識を貸していただけませんか、
    私にとって彼女は掛け替えのない友人です……お願いです」
私は深々と頭を下げた。たかしは暫く私を見て大きく息を吐いた。
たかし「……まなぶが居たとは言え、よく俺を探し当てたな……俺が彼女、柊かがみにした事を知っていて、それでも俺に救えと頼むのか……」
ひより「はい、救えるお稲荷さんは貴方しかいないと伺っています……」
たかし「彼女の病名は何だ」
ひより「悪性脳腫瘍……」
たかし「そうか、それは残念だ……その病気を治す薬に必要な物質はトカゲの尻尾……野草……更に二年の発酵期間が必要だ……」
ひより「に、二年……」
私の頭の中が真っ白になった。
ひより「かがみさんの余命はあと半年……間に合いません、ど、どうすれば良いですか、何でもします、お願いです……なんとかなりませんか……」
私の目から涙が出てきた。わたしはたかしの目を見ながら懇願した。たかしは私の目をじっとみていた。
たかし「不思議だな、ホテルの会議室で君と同じように頼んだ人間が二人いた……」
ひより「えっ?」
たかし「ふ、ふふふ、はははは、これは傑作だはははは……田村ひより、遅い、遅すぎるぞ……」
急に笑い出した……何故、それに私と同じって……誰……理解出来ない……
たかしは笑い終わると真面目な顔になった。
たかし「二年前……柊つかさと言う人間が既に薬を作っている……昨夜、もう柊かがみに飲ませた、もうその話は終わっている」
ひより「へ、あれ……ど、ど、どう言う事ですか……」
まさに狐につままれるとはこの事なのか。何がなんだか分からない。
たかし「二年前、俺は人間の銃に撃たれた、その時通りかかった柊つかさに助けられた……彼女は俺を恋人のひろしと勘違いしていたがな……俺は彼女を試した、
    彼女は寸分狂わず俺の指示通り薬を調合した、薬を俺に使いたいが為に……俺がたかしと分かっていても彼女は同じ事をした、違うか、田村ひより」
ひより「あ、は、はい……つかさ先輩ならしたと思います」
たかしは微笑んだ。
たかし「俺はもう必要ないだろう、帰るぞ……」
ひより「待ってください、ホテルに居た二人って、柊つかさと高良みゆきですか?」
たかし「……そんな名前だったか」
ひより「あ、ありがとうございます」
たかし「何故礼を言う、薬を作ったのも飲ませたのも柊つかさだ、礼は彼女に言え……」
ひより「でも、その方法を教えたのは……」
たかし「教えさせたのも柊つかさだ……」
たかしは私に背を向けてきた道を戻って行った。

 ゆーちゃん達が私に駆け寄ってきた。
ゆたか「いまのたかしさんの言った事本当かな……」
みなみ「もし嘘を言っていたらどうする、もう彼を探せなくなるかもしれない」
ひより「いや、嘘は言っていない、近くで話した感じでは嘘は言っていない」
まなぶ「私も態度や仕草からは嘘を感じなかった……」
そう、つかさ先輩を語るときのたかしの表情に嘘はない。ゆーちゃんは携帯電話を取り出してボタンを操作し始めた。
ゆたか「話していても何も分からない、確かめよう……こなたお姉ちゃんに……」
ゆーちゃんは携帯電話を耳に当てた。
ゆかた「もしもしお姉ちゃん……え今何処なの……え……そ、それでどうしたの……」
始めは驚いた表情だった。だけど次第に笑顔になってくゆーちゃんだった。内容は分からないけど結果はだいたい理解できた。
ゆーちゃんは満面の笑みで携帯電話をしまった。
ゆたか「昨日……かがみ先輩が倒れて緊急入院したって……それで、お姉ちゃんとつかさ先輩が病院に駆けつけると、柊家の家族がいて……病気がみんなにわかってしまった、
    今日、精密検査のはずだった、だけど……」
ひより・みなみ・まなぶ「だけど?」
思わず復唱した。ゆーちゃんは笑いながら言った。
ゆたか「何も無かった、誤診として退院したって!!!」
ひより・ゆたか・みなみ・まなぶ「やったー!!!!!」
私達は手を取り合って喜んだ。
つかさ先輩。柊つかさ。ゆーちゃんが憧れている先輩。高校時代ではいつもかがみさんと一緒に居て目立たない存在だった。自分から積極的に何かするような人ではなかった。
ただ、いつも笑顔でその場を和やかにしていただけの存在……そう思っていた。ゆーちゃんの過大評価だと思っていた。コミケ事件のつかさ先輩を見ても憧れの対象にはならなかった。
でもそれは私の過小評価だった。私や、ゆーちゃん、みなみちゃん、お稲荷さんのまなぶまでも動員しても出来なかった事をつかさ先輩はたった一人でしてしまった……
数値では表現できないって……この事なのかな……憧れのの対象がまた一人私の心に刻まれた。
お稲荷さんと人間と共存か……つかさ先輩なら出来るかもしれない。
ひより「これでお腹の赤ちゃんも安心だ……」
みなみ「それはどう言う意味、たかしさんが来る前にも言っていた」
皆が私に注目した。
ひより「じ、実ね、かがみさんには子供が……」
みなみちゃんは驚いた。
ゆたか「あっ、その事なんだけど……おばさん、みきさんの勘違いだって、病院で検査したけど妊娠はしていなかったって……」
ひより「へ、うそ……私はそれで……それで……」
それで何度泣いた事か。勘違いじゃ済まないよ……でも、さすがかがみさん、つかさ先輩のお母さんだ、勘違いもスケールが大きい。
まなぶ「妊娠はありえない、我々は変身しても卵巣、精巣とも変わる事はない、人間の子供ができるわけがない……完全に人間になれば別だ、ひとしは人間になっていない」
ひより「ふ~ん、避妊の必要がないわけだ……生でし放題だね……」
ゆたか「ひ、ひよりちゃんのエッチ!!」
みなみ「ひより、下品すぎる……」
まなぶ「私はそんな意味で言ってはいない……」
ぬぇ、みんな全否定ですか。
ひより「そんな、私はこの場を和やかにしようと……」
一瞬周りが凍りついたと思った。
ゆたか・みなみ・まなぶ「ぷっ、は、ははは、うははは」
三人は爆笑し始めた。私が浮いてしまった形になってしまった。三人の笑い顔を見て私も笑った。いままで圧し掛かった岩のような重いものが取れたような瞬間だった。

まなぶ「私は帰るとしよう、すすむが結果を気にしている……」
みなみ「私も帰る、みゆきさんに今までの事を話すつもり、ひより、ゆたか、構わないでしょ?」
私とゆーちゃんは頷いた。
ひより「さて、あとはまつりさんといのりさんだけだな……あっ、そういえば忘れていた、まつりさん、わたしとまなぶさんが付き合っていると思ったままだった……」
まなぶ「そんな誤解はすぐに解けるさ……もう私は自分の力でで解決する、いのりさんとすすむに集中してくれ」
ひより「う、うんそうだったね……」
誤解か……そうだ、誤解だった……
ゆたか「それじゃ、ここで解散だね」
ひより「そうしようか……お疲れ様」
みなみちゃんとまなぶは東京駅の方に歩いて行った。さて、私も帰るとするかな。
ゆたか「ひよりちゃん……」
後ろから私を呼ぶ声がした。私は振り向いた。
ひより「ゆーちゃん、そういえば帰り道が同じだったね、一緒に帰る?」
ゆたか「ひよりちゃん、宮本さんの事どう思っているの?」
ひより「どう思っている……彼はお稲荷さんで、私の弟子……みたいなものだけどそれがどうかしたの」
ゆたか「……さっき宮本さんが「誤解」って言った時、ひよりちゃんすごく淋しそうな顔になった」
私が淋しそうな顔に……まさか。
ひより「え……そうかな、そんな事無いよ」
ゆたか「宮本さんと一緒にいる時、ひよりちゃん凄く楽しそうだった、名前も下の方で呼んでいるし、いのりさんやかがみ先輩が誤解するのも分かるようなきがするの、
ひよりちゃんの気持ちは、好きじゃないの?」
ゆーちゃんの目が真剣だ。お稲荷さんはもともと苗字なんかないから名前で呼んでいるだけなんだけだけど……
ひより「彼はお稲荷さんだし、彼はまつさんが好きだから……」
ゆたか「違う、宮本さんやまつりさんは関係ない、ひよりちゃんの気持ちを聞いているの」
ひより「彼は友達でそれ以上でもそれ以下でもないよ……」
ゆーちゃんはガッカリしたような顔になり溜め息をついた。
ゆたか「そうなんだ……そうなんだね」
ひより「そうだよ、それがどうかしたの?」
ゆたか「あ、うん、何でもない、何でもないよ、ちょっと気になったから聞いただけ……なんでもない、一緒に帰ろう……」
ゆーちゃんは小走りに走っていった……ゆーちゃん何を知りたかったのだろう?
私は首を傾げた。
少し遅れてゆーちゃんの後を追った。
ゆたか「ねぇ、せっかく東京まで出てきたのだし、皆を呼び戻して食事でも食べていかない、かがみ先輩に会いたいけど、お姉ちゃん達が先に会っているから押し掛けるのも悪いし」
ひより「私は別に良いけど、みなみちゃんとまんぶさんは……」
ゆたか「私、みなみちゃんに連絡するね」
ゆーちゃんは携帯電話を取り出した。私も携帯電話を取り出した。当然のように携帯電話のメモリからまなぶの携帯電話の番号を選ぶ……そういえば
男性の携帯番号を登録しているなんて……友達なら当然だ。ゆーちゃんが変な事を言いだすものだから変に意識してしまう。
二人はまだ東京駅に居たので呼び戻すのはそんなに時間は掛からなかった。
ワールドホテルのレストランで私達四人は食事をした。そこで私達はかがみさんの無事を祝った……

 精神を集中させて……ゆっくりと、慌てず時間を忘れて、ゆっくりと……吸って……吐いて……静かな海の波のように……
ひより「ゴホ、ゴホ……」
すすむ「はい、止め……どうした、この前はうまくいったのに、今日は全然ダメだな」
ひより「……すみません、なんか調子が乗らなくて」
かがみ「確かにその呼吸法は難しいわね、私もこの前出来るようになったばかりよ、ゆたかちゃんがわずか一週間で一通りできるようになったのは驚きだわ」
かがみさんの病気が治って一週間を越えた頃、私は整体院でゆーちゃんと同じ呼吸法を学んでいた。ゆーちゃんが出来るくらいだから直ぐに物になると思ったがそれは大きな間違えだった。
一ヶ月以上経っても基本が出来ていないと言われる始末。
それでも呼吸法が成功すると身体が軽くなったような感じになり、頭もスッキリする、疲れも取れて何日でも徹夜で漫画を描けるような気になる位調子が良くなる。
ひより「でもこの呼吸法凄いですね、流石はお稲荷さんの秘術、知識ですね」
すすむ「いいや、前にも言ったかもしれないがこれは我々の物ではない、人間が独自に見つけ出したものだ」
ひより「そ、そうですか……こんな凄いのに……どうして広まらなかったのかな」
すすむ「確かに悪性新生物や感染症には効果が無いがそれ以外には絶大な効果を発揮する……物には適材適所があるものだ、そうした人間の捨てた技術や知識を私は
    拾って歩いた……その技術だけでも今の医術に引けを取らない、人間はこうした物を平気で捨てていく……」
なんか重い話しになってしまった。私はそこまで深く考えなんかいないのに。
かがみ「平気で捨てるのは進歩するからよ、貴方達の故郷でも同じ様にして来たんじゃないの、それが文明と言うものよ、それが良いか悪いかなんて今は分からない、
    失って初めてその価値に気付く、いや、捨てた事すら気付かない、違うかしら」
すすむ「……そうかもしれないな……」
ぬぅ、話しに入っていけない。あんな話しに突っ込むなんて。泉先輩の時の突っ込みとは大違いだ。かがみさんって人に合わせる事が出来るみたい。
かがみ「私の病気がこんなに容易く治るなんて、何故たかしと言うお稲荷さんにしか調合が出来ないのよ」
すすむ「我々はは母星での知識は全て共有で出来るようになっている、しかし、この地球に来てからの知識や技術は各々独自に身につけていて共有できないのだよ、
    たかしはこの地球の物から我々が使用する物を作れないかと日夜研究していた……」
かがみ「……それでトカゲの尻尾を使うのは納得がいかない、つかさのやつ、そんなのを平気で飲ませるのよ、まったく頭に来るわ」
すすむ「トカゲの尻尾……そんな物を使うのか、初めて聞いた」
佐々木さんは笑いながら答えた。
ひより「彼がそう言っていましたから……でも治ったから良かったじゃないですか、私達は何も出来ませんでしたけど」
やっぱり言わない方が良かったかな……でも、そう言うのも面白いでしょ、かがみさん。
かがみ「うんん、そんなこと無いわよ、あんた達が動いたからこそつかさの薬が成功したのよ……まだお礼を言っていなかったね、ありがとう」
ひより「そう言ってもらえると嬉しいっス」
かがみさんは真面目な顔になって佐々木さんの方を向いた。
かがみ「ところで、佐々木さん、いつまでこの整体院を休むつもりなの、引越しもいいけどせめてその時までは再開してもいんじゃない、
    男性の家に未婚の女性が何度も出入りすると何かと悪い噂が出るわよ」
すすむ「……またその話しか……」
うんざりする佐々木さん。
かがみ「いのり姉さんと会うのがそんなに辛いの、何がそうさせるの、私達に話せないの?」
ひより「微力ながら手伝いますよ」
すすむ「そう言ってくれるのは嬉しいが……もうその話は止してくれ……」
かがみさんは溜め息を付いた。
『ドンドンドン』
居間の入り口の扉から叩く音がした。
ひより「私が行くっス」
私は扉を開いた。あれ、誰も居ないと思って下を向くと狐の姿になったまなぶが立っていた。こんな状況にも全く驚かなくなった私……慣れすぎちゃっているな……
ひより「まなぶさん……そんな姿で何か用?」
まなぶ「フン、フン、フン!!」
興奮している息づかい。だけど彼が何を言いたいの理解出来ない。
ひより「どうしたの、人間にならないと分からないよ……」
すすむ「居間に来て欲しいと言っている……田村さん、かがみさんも……」
かがみ「私も……ですか」
私達は居間に移動した。

 居間に移動するとまなぶは居間の中央にお座りの姿勢になった。学ぶの視線を追うとテレビを見ている……テレビが映っている。ニュース番組か……あれ、
見た事ある風景……建物……それも極最近のはず……建物のエンブレムを見て直ぐに思い出した。ワールドホテル本社ビル……
その出入り口に警察の捜査員が入っていく様子が映されていた。
ひより「ワールドホテル……巨額の脱税容疑……なんですかこれは……」
まなぶ「フン、コン……ゥワン」
まなぶは興奮している。
かがみ「……な、何よ、これ、こんな事があって良いの……つかさ……こなた……みゆき……松本さん……」
急にかがみさんも動揺し始めた。
『柊けいこ容疑者が搬送さましたが共犯の木村めぐみの行方は一向につかめていません、これに対して国税局は特別手配を警視庁に……』
テレビのアナウンスが居間に響き渡る。
すすむ「一流企業の不祥事か……よくあることだな」
佐々木さんは冷静だった。
ひより「ワールドホテル……かがみさん何か知っているのですか、そういえばたかしに会ったのもあの場所、つかさ先輩、高良先輩もそこに居たみたいだし……なんでも
    そのホテルの傘下になるとか言っていましたけど……」
かがみ「佐々木さん、ひより、話しの途中で悪いわね、私……行かなきゃ……事務所に、法律事務所に行かないと……ダメよ、こんなのを許したら絶対にダメ」
かがみさんは急いで身支度をすると飛び出すように玄関を出て行った。
佐々木さんはテレビの電源を切ると近くの椅子に腰をおろして溜め息を付いた。まなぶは半開きになっていた扉を抜けて診療室の方に行ってしまった。
ひより「佐々木さん、かがみさんのあの慌て様、動揺していたし、何かご存知ですか?」
佐々木さんは座ったまま話しだした。
すすむ「彼女が何故動揺しているのかまでは分からない、だが一つ言えるのは捕まったホテルの会長、柊けいこ、逃走中の木村めぐみは我々の仲間だ」
ひより「仲間……お稲荷さん、それはまなぶさんから聞いた、だけど、あの時は一人だって……」
すすむ「けいこは人間になった、だからまなぶは分からなかったのだろう……人間にならなければこんな事はしなかっただろうに……」
ひより「どう言う事ですか……」
すすむ「知りたいのか……」
佐々木さんは悔しそうに両手に握り力を込めていた。
すすむ「けいこはあのホテルの前会長と結婚をして一緒になった」
ひより「……柊……けいこさんはその為に人間になったのですか……」
すすむ「……そうだ、そして彼女の夢が人間と我々の共存」
ひより「共存……それって、つかさ先輩と高良先輩がしようとしているのと同じ……」
すすむ「つかさんと利害が一致したのだろう、けいこがつかささんを利用したようなものだな」
ひより「……でも、それと脱税とどう関係するのか分からない……」
すすむ「……けいこの経営する工場や特許に目がくらんで事件を捏造したとしたらどうだ」
ひより「まさか、ありもしない犯罪を捏造なんか出来ない、ここは日本っスよ」
すすむ「けいこはホテルを、会社を大きくするために我々の知識を使いすぎた……人間の短すぎる寿命で焦ったのだろう、早過ぎる、早過ぎたのだ……あと百年いや千年……」
佐々木さんの拳に力が更に籠もった。
まさか、そんな事があって良いのか。かがみさんはそれを見抜いて外に出たのかな。
すすむ「たかしの憎しみを解いたつかささんは良くやった、それだけで仲間の殆どはつかささんの意見に賛成するだろう、問題は我々でなく人間側の方だ、けいこが捕まった
    時点で人間と共存に賛成する仲間は居ないだろう……私もその一人だ」
ひより「そ、そんな……」
すすむ「逃亡しているめぐみはこの地球を去る計画をしている、けいこに止められていたが、このままではめぐみの計画が実行されるかもしれないな」
ひより「そ、そんな事が出来るの、だったら何故もっと早く、一万年前でも千年前にでも出来たじゃないですか、何故今になって……」
すすむ「少なくとも高度な電波通信が出来る技術が必要だった……そう言えば分かるかな」
電波通信技術……なるほどね。
ひより「それで、佐々木さんは帰るつもりですか……」
すすむ「……そうなるだろう、知恵の付いてきた人間とこれ以上住むのは危険だ……」
一番聞きたくない答えだった。
ひより「本当に、いのりさんは諦めるの?」
すすむ「……彼女は別に好きでも何でもない」
ひより「佐々木さん……それは本心で言っているの?」
するとまなぶや小林さんも帰ってしまうのだろうか……
佐々木さんは黙ったままだった。帰る計画があったなんて、ここに来て全てが終わってまうのか。私が、皆がやってきた事が全て徒労に終わるとうのか。
まなぶ「なぜ今まで黙っていた……」
診療室から人間になったまなぶが入ってきた。

すすむ「……聞いていたのか、どうした、急に人間になって……」
まなぶ「……まつりさんと会う約束をしたからこれから出かける所だった」
すすむ「そうか……」
まなぶ「私は本星には行かない、ここに残る」
すすむ「おまえはこの星の生物ではない……」
まなぶ「いいや、この星で生まれてこの星で育った、見たこともない故郷に帰るつもりはない」
すすむ「まつりさんがおまえを受け入れるとは限らないぞ」
まなぶ「その為だけに残るわけじゃない……」
まなぶはそのまま飛び出すように玄関を出て行った。
すすむ「ふっ、今日はやけに慌しいな……二人も飛び出すように出て行った……」
苦笑いともとれるような微笑だった。
すすむ「田村さん、君に呼吸法を完全に伝授するのは出来そうにない……小早川さんやかがみさんから教わるといいだろう、特に小早川さんには呼吸法の他に
    いくつか整体法も教えてある……役に立ててくれ……」
ひより「……帰るのは何時になるのです、気が早いですね……」
佐々木さんは何も言い返してこなかった。皮肉のつもりで言ったのに。
ひより「でも、ちょっと嬉しいかな、少なくともお稲荷さんの一人はこの星を気に入ってくれたのだから、他に残るお稲荷さんもいるといいな……」
すすむ「まなぶは君の教育で完全に人間に染まってしまった……」
ひより「そうするように言ったのは佐々木さんでしょ?」
すすむ「そこまでしろとは言ってはいない……」
ひより「それに私はまなぶさんにそんな大した事は教えていませんよ、逆に彼から教えてもらった方が多いかも」
私は笑った。
すすむ「埒もない……」
呆れたような顔だった。
埒もないって、めちゃくちゃって意味だっけな、今じゃ余り使わなくなった言葉を言うなんて、改めて彼は永い間生きていたのを実感した。
佐々木さんは私を睨みつけてきた。
すすむ「もう私達を放っておいてくれ……お節介だ」
ひより「もう何度もその言葉聞いています、今更そんな事言っても放っておけない、コンの時もそうだったように……仲間じゃないっスか」
すすむ「仲間……か」
佐々木さんは私をみたけど何も言ってこない。やっぱり私じゃダメなのだな……今度いのりさんを連れてこないと。
ひより「すみません、お邪魔しました、ホテルの不祥事ともなれば「レストランかえで」も何らかの影響があるかもしれません、心配なので私も帰らせてもらいますね」
私は立ち上がった。
すすむ「仲間……我々をそう言うのか……君に時間のないのは分かっている……私の下らない話を聞いてくれるか……聞いて欲しい……」
何だろう、急に私を引き止めるなんて……
どうせ私が行っても何も出来ないし……話を聞く位なら私でも……私は席に着いた。
ひより「時間はあります……なんですか、その話って」

 佐々木さんの話し、それはこの日本に来た時の出来事だった。
すすむ「千年くらい前、私達がこの日本に来たのは……そう、夏、丁度このくらいの季節だった、大陸を離れ、この日本に流れ着いた……
    追われて逃げて来た私達を当時の人々は手厚く迎えてくれた……そのお礼に私達は彼らに少々の知識と技術を教えた、すると彼らは私達を
    お稲荷様と崇めてしまった、当時の仕来りだったのだろう、私達に生贄として生娘を私達に差し出した……私達は拒否したのだがな、
    拒否をすると彼女達は人柱にとして埋められてしまうと分かった、だから彼女達を保護する目的で受け入れた……
    その中に特に私の世話をしてくれた子がいてね……似ている……いや、容姿、声、仕草……性格までも同じだった……そして彼女は巫女だった……」
ひより「その似ている人っていのりさんですか?」
佐々木さんは頷いた。
千年前に会った人、勿論今生きているはずはないよね……その人といのりさんが瓜二つだった。ここまではよくあるお話。でも好きな人と瓜二つなら迷う必要はないような
気がするけど……
すすむ「いのりさんを見ると千年前が昨日のように思い出す……」
遠くを見ている様に居間の一番遠くを目が向いていた。
ひより「好きな人がいのりさんに似ているなら話しは早いっス、その人と同じように接すれば良いじゃないですか」
すすむ「彼女は柊いのり、千年前の巫女とは違う、偶然に遺伝的な一致が起きたに過ぎない……」
そうだろうね、千年も経てばそんな偶然は起きそう、かがみさんが言うようにお稲荷さんはややこしい。
ひより「私達人間ではそう言うのを生まれ変わりって言うのですよ」
佐々木さんは笑った。
すすむ「はは、生まれ変わりか、古典的で非科学的だな……」
なんだかその言い方が気に入らなかった。
ひより「非科学的、私から言わせて貰えば、呪いに錬金術、変身……挙げ句の果てには記憶消去まで、まるでファンタジーやゲームの世界に迷い込んだみたい、とても科学とは無縁っスよ」
すすむ「それは君がそれらを理解していなからだ」
ひより「だったら生まれ変わりも同じ、私達は何も理解していない、生まれて、死んでその先なんて分からない、理解出来ない、それともお稲荷さんは知っているの?」
佐々木さんの笑いが止まった。そして直ぐには答えなかった。
すすむ「私達もその答えを知らない……だから宇宙を旅してきた、その答えを探すために……君達も何れこの地球を飛び立つ時がくる、私達と同じ目的でな……」
気が付くつと佐々木さんの目が潤みだした。
すすむ「私は彼女を救えなかった……助ける方法を知っていても手段がなかった、あの時たかしは生まれたばかりだった、それでも私は必死で薬を作ろうとした……
    彼女は日に日に衰弱して行くばかり、これほどもどかしい事はない、分かるだろう、君なら私の気持ちが……」
そうか。私がかがみさんを救おうとしたように千年前の佐々木さんも……分かる、分かり過ぎるくらいに……
ひより「佐々木さん、今、貴方の目に出ているのが涙ってやつですよ」
佐々木さんは目頭を手でつまみ、その手を広げた。指に付いている水滴、涙をじっと見つめていた。
ひより「それが涙を流すときの感情……大切な物を失った時と得た時に出るものです……私には分かります、佐々木さんが故郷に帰ったらもう一度涙を流しますよ、
    大切な物を失う涙を、どうせ流すなら大切な物を得た涙の方がいいと思いませんか?」
佐々木さんは手についている涙を見たまま動かなかった。私もこれ以上何を言って良いのか分からない。
ひより「下らない話しなんてとんでない、とても素敵で悲しいな話でした……今度いのりさんを連れてきますね……私……失礼します、」
ただ自分の手を見ている佐々木さんに礼をして整体院を出た。

 お稲荷さんが涙を流すのを初めて見た。つかさ先輩やかがみさんはもう見たのだろうか。でも見たと言っても人間の姿だから特段珍しい光景ではない。
千年前の恋人か……私に同意を求めていて悲壮に満ちていたあの姿は流石にもらい泣きしてしまった。いのりさんと逢う度に懐かしさと悲しさが同時に来たに違いない。
逢いたいけど逢えないか……拒み続けていた理由が分った……解決できるだろうか……それにはいのりさんに佐々木さんの全てを話す必要があるような気がする。
そうでないといのりさんは決められない……
そんな事をしたらまつりさんの二の舞になるかも……それとも受け入れてくれるかな……どちらにしろいのりさん次第か……
そういえばまなぶはまつりさんと会う約束をしたって言っていた。まさか……告白する気なのだろうか。佐々木さんとまなぶの会話だとそう取れる言い方だった。
佐々木さんとの話しで気にていなかったけど、これはこれで凄い事かもしれない……成功するのだろうか……失敗しても故郷には帰らないって言っていたっけ。
それなら失敗したら私が……あれ、失敗したらどうすると……私ったら何を考えている。失敗を前提にしているなんて……
『ブーン、ブーン』
ポケットから振動を感じた。携帯電話だ。私は考えるの止めて携帯電話を手に取った。ゆーちゃんの名前が出ている。出る前から用件は分かるような気がした。
ひより「もしもし……」
ゆたか『あ、ひよりちゃん、今何処にいるの?』
ひより「整体院を出て駅に向かっている所……」
ゆたか『丁度良かった、今から家に来られないかな、相談したい事があるのだけど』
ひより「それってワールドホテルの脱税事件の話しかな……」
ゆたか『テレビのニュース見たの……つかさ先輩達大丈夫かなと思って……私達が心配してもしょうがないけど……』
やっぱりこの話しか。ゆーちゃんの所までなら歩いて行ける距離だ。
ひより「いや、心配するだけで意味はあると思うよ、分かった、そっちに行くから」
ゆたか『ありがとう、待っているね』
私は駅から泉家に進路を変えた。

泉家に付くとゆーちゃんが出迎えてくれた。
ゆたか「いらっしゃい、待っていたよ、私の部屋で話そう、あっ、そうそう、みなみちゃんと高良先輩もこっちに向かっているから」
ひより「高良先輩……」
ゆたか「そうだよ、高良先輩が来ると頼もしく感じるよね……」
そうか、みなみちゃんが今までの事を話してくれたのか。高良先輩からもいろいろ聞けそうだし。もしかしたら何か解決策が見つかるかもしれない。
ひより「そうだね……」
ゆたか「後、宮本さんにも携帯電話をかけたのだけど……マナーモードになっていて連絡取れなかった、整体院に行っていたでしょ、留守だったの?」
マナーモード……さては勝負をしているのか、それとも既に勝負が付いているのか……
ひより「彼は今まつりさんと会っている、邪魔したら悪いよ……」
ゆーちゃんは驚いた顔で私を見た。
ひより「人間に長時間居られるようになったし、この前のような失敗はないと思うよ……どうしたの、そんなに驚いて……」
ゆたか「う、うんん、急な話しだったから……」
今度は心配そうな顔で私を見た。
ひより「……私も急な話しだった」
ゆたか「大丈夫なの?」
ひより「大丈夫って何か?」
ゆたか「え、えっと、その、ひよりちゃんは宮本さんの事を……」
ひより「それはこの前話したと思ったけど」
ゆたか「あ、そ、そうだったね、ごめんね、蒸し返しちゃって……そ、それより、大変な事になっちゃったね」
ゆーちゃんは慌てて話題を変えた。謝るなんて、そんなに私怒っていたかな……
ひより「佐々木さんから聞いた情報だと……」
みなみちゃんと高良先輩が来るのか……
ひより「二度手間になるから二人が来てから話すよ……」
ゆーちゃんはまた心配そうな顔になった。
そして二人が来るのを待って私は整体院で佐々木さんと会話した内容を説明した。

みゆき「故郷……本星に帰ると言われるのですか……いささかそれに関しては疑問もありますがそう言われる理由も納得できます……私達の計画は失敗したのですから」
みなみ「疑問?」
みゆき「いいえ、技術的な疑問なので気にしないで下さい」
ひより「失敗って、お稲荷さんとの共存ですか?」
高良先輩は頷いた
みゆき「はい、狐に成っている間を私達人間が保護する代わりにお稲荷さんの持てる知識の全てを私達に提供する……しかし提案者であるけいこさんがああなってしまっては」
肩を落とす高良先輩。
みゆき「私は知りたかった、彼等の持つ知識が……まだ何一つ教わっていません……せめて、かがみさんを救ったあの薬の調合だけでも……知りたかった……」
ひより「あれはつかさ先輩が作ったのですよね、調合と言うよりレシピではないでしょうか?」
高良先輩は微笑んだ。
みゆき「そうかも知れませんね……つかささんは覚えているでしょうか……」
ひより「メモとか残っていればある程度わかるのではないでしょうか、私のネタ帳みたいに」
みゆき「そうですね……今度聞いてみましょう」
みなみ「これからどういたら……」
みゆき「帰りたいと言うお稲荷さんがいれば協力するのが良いと思います、留まるお稲荷さん……そういえば宮本さんが残ると言われましたね、そちらも協力すべきでしょう、
    しかし驚きました、かがみさんの婚約者、小林さんがお稲荷さんだったとは……彼は昨日、事務所の方に挨拶に行きました……恐らく彼も残るでしょう……」
ひより・みなみ・ゆたか「婚約ですか!!」
みゆき「はいそうですが……」
高良先輩は驚いて眼を丸くした。
みゆき「聞いていませんでしたか、とっくにご存知かとおもっていました」
恋人だったとは聞いているけど婚約したとまでは聞いていなかった。まったく……かがみさんは一番肝心な事を教えてくれないのだから……
ひより「するとあとは……佐々木さんをどうするか」
みゆき「そうですね、あとつかささんの恋人、ひろしさん……彼も意思をはっきりとしていません」
ひより「ひろしって真奈美さんの弟とか言っていましたよね……」
高良先輩は頷いた。
みゆき「つかささんのひろしさんの想いは確かです、出来れば彼には残って欲しい……いのりさんの方はまったく存じないですが……」
ひより「いのりさんもかがみさん同様奥手で……あまり表にだしません、つかさ先輩の方が積極的で驚きです……」
つかさ先輩はひろしに自分から告白したそうだ。もっとも高良先輩は直接本人から聞いたのではなく、泉先輩から聞いたと言っていた。その泉先輩も松本さんから聞いたらしい、
……ある意味恥かしがりやなのは柊姉妹の共通項なのかもしれない。だけど行動力からするとまつりさん、つかさ先輩、かがみさん、いのりさんの順番だろう。
最初に決まると思っていたいのりさんと佐々木さんが未だにぐずっているのはそのせいかもしれない。
みゆき「そうですね、人は見た目とは違いますね……私はつかささんとひろしさんのお手伝いを致します」
ひより「でも……人類の運命を変える計画が……柊四姉妹とお稲荷さんの恋愛手伝いになってしまったなんて……高良先輩も幻滅したのでは?」
高良先輩はにっこり微笑みながら話した。
みゆき「そうでもありません、誰かと誰かが好きなれば、その間に子供が生まれ、その子供が世界を変える……同じ事です」
ひより「物は考えようってことっスか……」
かがみさんに聖人君子と言わしめるだけのことはある。そんな考え方は私には出来ない……
みゆき「私はひろしさんの友人である小林さんと相談するつもりです、彼なら協力してくれるような気がします」
ひより「気をつけて下さい、今、かがみさんが小林さんの法律事務所に行っています、きっと頻繁に通うようになると思いますよ、かがみさんも法律でつかさ先輩達を助けようと
    しているみたいですから……かがみさんはまだ小林さんの正体を知りません」
みゆき「そうですね、むやみに小林さんと接触すればかがみさんに気付かれてしまいますね、分かりました、私も注意します」
みなみ「ゆたか、さっきから何も話していない、大丈夫、顔色もあまり良くない」
ゆたか「え、うんん、大丈夫だよ、でも、今日はちょっと気分が良くないかも」
みなみちゃんの言うようにさっきからまったく話していない。私が来た時はあんなに元気だったのに。高良先輩とみなみちゃんが来た辺りから静かになったような……
みゆき「長居は小早川さんに負担がかかりますね、話しは煮詰まりました。各々持てる力を尽くしましょう、小早川さん、お大事に」
高良先輩は帰り支度をし始めた。
みなみ「本当に大丈夫?」
ゆたか「うん、後で例の呼吸法をするから大丈夫……ありがとう」
呼吸法か……
ひより「その呼吸法、少し見学していいかな、全然上手くならなくて……」
ゆたか「良いけど……参考になるかな」
みなみ「ひよりが一緒なら安心、私もみゆきさんと帰る……お大事に……」
みなみちゃんも帰り支度をした。

ゆたか「ゴホ、ゴホ……あ、あれ……おかしいな……」
皆が帰った後、ゆーちゃんの呼吸法が始まった。でも……私と同じようなミスを連発……集中できないのだろうか。
ひより「私が居るからかな、私も帰った方が良さそうだね」
私は帰り支度を始めた。
ゆたか「ひゆりちゃん……皆は話題にもしなかったけど……佐々木さんが帰る理由って千年前の恋人を助けられなかったから?」
私は帰り支度を止めた。
ひより「それが全てではないと思うけど……理由の一つだと思う」
ゆたか「私にはそんな話し一度もしなかった……」
ひより「そうかな、佐々木さんはゆーちゃんに整体術まで教えている、かがみさんにも教えなかったのだから……」
ゆたか「うんん、そんなんじゃなくて……」
何が言いたいのかな……
ひより「そんなんじゃなくて?」
復唱して言い返した。
ゆたか「千年越しの恋なんて……敵わない」
ひより「そうだろうね、彼を地球に残ってもらうのは至難の業かもね」
ゆたか「ひよりちゃん、もう良いよ、帰って……」
ひより「へ、?」
あれ、急にどうしたのかな……
ひより「あ、弱気になっていた、私とした事が、高良先輩が言っていたね、持てる力を尽くすって」
ゆたか「何も分かっていない」
何も……何もって。それは何って聞くともっと怒りそう……ここは一先ず退散としますか。
ひより「分かった、帰るけど……いのりさんを佐々木さんに会わす日を決めないと、あまり時間がないみたいだから急がないと……」
ゆたか「……私はもう何もしない、ひよりだけですれば……」
な、何があった。私がいけないの。何故。分からない。
ひより「ちょ、ちょっと、かがみさんだって手伝ってくれているだから今更……お、落ち着いて」
ゆたか「ひよりのバカー!!」
ゆーちゃんは私の荷物を持つと私の背中を押して部屋からだ押し出した。そして、荷物を廊下に放り投げるとドアを閉めてしまった。
私はドアをノックした。だけど何も反応は返ってこない。
ひより「帰るけどまた連絡するから……」
私は放り投げられた荷物、鞄を取ると玄関に向かった。
そうじろう「何かあったのかい、騒いでいたけど……」
心配そうな顔でおじさんが出てきた。
ひより「い、いいえ何でもないっス、ゆーちゃん、しばらくそっとしておいて下さい」
そうじろう「あ、ああ……」
おじさんはゆーちゃんの部屋の方を見ていた。
ひより「お邪魔しました」
私は泉家を出た……

 追い出された理由が分からない。最後は呼び捨てにまでされてしまった。何も分かっていないって言われたって……それじゃ分からないよ……
私は歩きながらゆーちゃんが豹変してしまった原因を考えている。
いや、豹変したわけじゃない。気が付かなかっただけなのかもしれない。いつからだろう。思い当たらない。
それじゃゆーちゃんとの会話から読み取るしかない。どんな話しをしたかな……
みなみちゃんと高良先輩が来る前にまなぶの話しをした。それから二人が来てから佐々木さんの話しをした……佐々木さん……
ゆーちゃん千年前の恋人を教えてくれなかったって言ったな……あっ、前にもまなぶ、コンの話しをしなかったとか言っていた。そうか、佐々木さんが私ばかりに話すものだから
私に焼餅を焼いているのか。ふふ、やっぱりゆーちゃんだ。まだまだ子供だな~焼餅なんて、佐々木さんが好きならそう言ってくれれば……あれ?
……
……好き?
佐々木さんが好き、ゆーちゃんが?
私の歩みが止まった。
ゆーちゃんは佐々木さんが好き……え、なんでこんな結論が出る。佐々木さんはいのりさんが好き……ゆーちゃんは佐々木さんが好き、いのりさんは佐々木さん……三角関係……の成立……
ひより「えー!!」
思わず声に出して奇声を発した。
そういえばかがみさんの病気が治って直後だったかな、ゆーちゃんが変な質問をしてきたのは。私がまなぶを好きじゃないかって。だからさっきも……
私がまなぶが好きならゆーちゃんの立場を理解出来ると思った。だから私に相談したかった。だけど私はまなぶの恋を否定して、ゆーちゃんの気持ちも気付かなかった。だとしたら……
だとしたら、あの態度は理解出来る。
私は振り返り泉家に引き返した。ゆーちゃんもバカだな、それならそうとハッキリ言わないと分からないよ。戻ってゆーちゃんと話さないと……
再び足が止まった。
話す……何を。ゆーちゃんに何を話す。佐々木さんが好きならどうすれば良い……
私はその答えを持っていない。
三角関係なんて……まだ恋愛もろくにした事のない私がそんな高度な恋愛の手解きなんぞできるわけがない……
今頃になって。こんな差し迫った時期に突然そんな事を言われても……何で佐々木さんなんか好きになるの。私達はお稲荷さんと柊家四姉妹をくっ付けるキューピット役じゃなかなったの。
私はさっさとまなぶをまつりさんに会わせて……違う……会わせたのではなくまなぶが会いに行った……自分の意思で。
正直羨ましかった……うそ……そんな事って
……
……
力が抜けて持っていた鞄を落とした。
私もまた……まなぶを好きになっていたって事なのか……そんなバカな……

その後の事はよく覚えていない。気が付くと自分の部屋のベッドに寝ていた。そして落としたはずの鞄が机の上に置いてあった。自分で拾ったのも覚えていないのか…

 お稲荷さん……最初は好奇心から始まった。そして疑問は生じてそれが確認に変わった。私はそれらを遠目で見ていると思っていた。ゲームのプレーヤーで居ると思っていた。
気が付いた時、私はゲームのキャラクターになっていた。当事者になっていた。いつからだろう。
かがみさんの病気が分かった時辺りからか……いや、もっと前だったかもしれない。でも今それはどうでもいい。問題は私もゆーちゃんも柊姉妹と同じ立場になっている。
同じ位置なら持ち上げるられない。誰も助けられない、いや、自分を助けて欲しい。
私はいったいどうすれば……誰かに助けを求めるしかない。しかも当事者じゃない人に……そんな人は居るのか。
居る……それはみなみちゃんと高良先輩そして泉先輩……この三人は一連の話しを全て知っている。それでいて私やゆーちゃんみたに深く立ち入っていない。
でも泉先輩はレストランかえでの事で私達にかまっていられないし、距離が遠すぎる。する事は一つしかなかった。

 私は岩崎家の玄関の前に立っていた。アポは取っていない、しかもあれから一日しか経っていないしまだ自分の心の整理がついていなかった。しかし時間がない。
高良先輩の家が向かいで助かったかもしれない。もし、彼女が留守でもそっちに行ける。
私は呼び鈴を押した。おばさんが出てきた。
ひより「こんにちは……」
ほのか「あら、田村さん……いらっしゃい、みなみね……」
私を玄関に入れてくれた。と言う事は、みなみちゃんは居る。
ほのか「今ね、みゆきちゃんも見えているの」
ひより「そうですか……」
高良先輩も……
私はおばさんに居間の入り口まで案内された。おばささんは入り口の前で振り返り人差し指を立てて口元に近づけた。
ほのか「静かにね……」
囁くような小声で言うとおばさんは静かにドアを開けた。
私の耳にピアノの音色が入ってきた……
私は音を立てないように静かに居間に入った。おばさんはそのままゆっくりとドアを閉めてくれた。ピアノの方を見るとそこにはみなみちゃんが演奏していた。
演奏に集中しているのか私には気付かず静かにピアノを弾いている。そして、ピアノの前に椅子に座っているのは……高良先輩……。
私の気配に気付いたのか高良先輩は後ろを振り向いた。そして私の顔を見るとにっこり微笑み手招きをした。高良先輩の座って居る所にゆっくり移動すると
高良先輩は横に体を移動して私の座るスペースをつくってくれた。私はそこに導かれるように腰を下ろした。
みなみちゃんは演奏を続けている。目を下に向けているのか目を閉じて瞑想しながら弾いている様に見えた。
静かな曲……だけど聴いたことがない。クラッシックかなにかだろう。こんな曲を聴いている場合ではない……逸る気持ちを抑えながら演奏が終わるのを待った。

『パチパチパチ』
演奏がおわると高良先輩が拍手をした。
みゆき「素晴らしい演奏でした」
みなみ「ふぅ……」
集中していたのがほぐれたのかみなみちゃんは息を吐いた。そして頭を上げ私達が座っている方を向いた。
みなみ「ひより……いつから……」
演奏しているのを見られて恥かしかったのか少し顔を赤らめていた。
みゆき「ついさっき、ですね、田村さん」
ひより「は、はい……」
みゆき「どうでしたか、みなみさんの演奏……」
ひより「え、ええ、良かったっス……」
みなみ「ありがとう」
みなみちゃんは立ち上がり私達の席に近づいた。
みなみ「連絡もしないで……どうして……」
私の表情を見て只事ではないのを察したのかみなみちゃんの表情も険しくなった。そんな私達を見た高良先輩は……
みゆき「何か大事なお話のようですね、分かりました」
高良先輩は立ち上がった。帰るつもりなのか……
ひより「……待ってください、高良先輩も聞いて欲しいっス……私、どうして良いか分からない……」
みなみちゃんと高良先輩は顔を見合わせた。
みゆき「どうしたのですか、昨日はあんなに元気でしたのに……今日の田村さんは……」
みなみ「今日のひよりは昨日のゆたかみたい……」
みなみちゃん、間違ってはいない、多分昨日のゆーちゃんも同じような心境だったに違いない。それなのに私は……
みなみちゃんはピアノに戻り椅子に腰を下ろした。
みなみ「いったい、どうしたの?」
何て言えば……誤解されるのは嫌だ。恥かしいけど、ありのままを話そう。
ひより「まなぶと一緒に行動していくうちに、笑ったり怒ったりしていくうちに、……私、まなぶの事が好きになってしまった……
    何ででしょうね、こんなのは私も想像もしていなかった……昨日ゆーちゃんが怒り出して、その怒った理由を探っていたら気付いたのです……
    昨日、まなぶはまつりさんに会いに行った、告白をしているのか、それとも……そんなのを考えていると苦しくなる……もうこれから先の事も考えられなくなってしまった」
みゆき「田村さん……」
高良先輩は悲しい目で私を見ている。
ひより「ゆーちゃんも同じです、ゆーちゃんはまなぶが現れる前から佐々木さんと会っていました……だから彼女も、ゆーちゃんも佐々木さんを好きに……」
みゆき「よく話してくれました……これは凄く大事な事……ですけど、時間はそんなにありません……」
ひより「だかから、だから此処に来ました……」
高良先輩は何も言わず私を悲しい目で見ていた。
みなみ「……まさかひよりがそうなるなんて……どうして、ひよりは遠目でいつでも観察していた、感情を入れるなんてなかった……」
ひより「分からない……分からないよ」
みなみちゃんは立ち上がった。
みなみ「私はゆたかに警告した、人と人を繋げるのは危険って、繋げようとすればするほど相手を意識して、何時しか相手を好きになってしまうって、
    ラブレターの代書を依頼すると、書いた人が相手を好きになってしまう……そんな話しをして注意した、だから私はゆたかにあれほど……」
みゆき「みなみさん、もう過ぎてしまった事を言っても始まりません……それだけ田村さん達は真剣だったと言う事です……責められません」
興奮気味のみなみちゃんを諭すような優しい口調だった。
みなみ「は、はい……」
みなみちゃん……そんな警告をゆーちゃんにしていたのか……私はその警告を聞いていたら止めていただろうか……
みゆき「素晴らしいではありませんか、誰かを好きになるなんて……それは掛け替えない事です」
みなみ「でもそれは一対一の話し……人間は二人同時に愛するなんて……それはお稲荷さんでも同じはず……」
高良先輩は私を見ると眼鏡を掛けなおした。
みゆき「お稲荷さん達は一部を除いてこの地球を去ろうとしています、それもそんなに時間はありません、宮本さんが残るにしてもまつりさんと会っているのであれば時間はありません、
    選択肢は二つです……自分の気持ちを宮本さんに伝えるか、このまままつりさんと宮本さんの縁組を続けるかです……
どちらも強い決断が必要になります……そしてその結果はどうなるか分かりません」
ひより「二つ……」
みなみ「みゆきさん、それならひよりも分かっていると思います、選べないから相談しにきた……」
みゆき「それではみなみさん、貴女が選んであげて下さい……」
みなみ「え……それは……」
みなみちゃんはおどおどするばかりで答えなかった。そんなみなみちゃんを見て高良先輩はにっこり微笑んだ。
みゆき「実は私もどちらが良いのか分かりません」
ひより・みなみ「え?」
みゆき「結果が分からないので私は責任はれません……困りました、これでは決める事は出来ませんね」
……まるで私の心を弄んでいるような……そんな風にすら感じる高良先輩の発言だった。でも何故か怒るような気持ちにはならなかった。
まさに他人事……これは私が今までしてきた事……高良先輩は知ってか知らずかそれを私にしている。
みなみ「ふ、ふざけないでもっと真剣になって下さい」
みなみちゃんは少し怒鳴り気味になっていた。
みゆき「私は真剣です、真剣だからこそ選べない……選ぶのは田村さん、貴女なのだから」
ひより「私?」
高良先輩は頷いた。
みゆき「恋愛は自由です、二人の関係に他人は一切口を挟めません……でも、もう田村さんは選んでいます、ですよね?」
高良先輩は微笑んだ。
ひより「私は……まだ……」
みゆき「そうでしょうか……目を閉じて自分に問うてください……」

ひより「自分に……問う……」
私は目を閉じた。
私はまなぶが好きだった……これは変えようのない事実。それは誤魔化しようがない。このまままなぶとまつりさんを手伝っても自分が惨めになるだけ……
いや、手伝うも何も……まなぶが告白してもう二人は既に……そうだよ、これが私の目的だった。
気付くのが遅すぎた。私には何かをする時間なんかない……
私は目を開けた。
ひより「もう、なにもかも遅すぎでした、終わりです……私の目的は達しました、私はもういいです、ゆーちゃんを助けてあげてください、ゆーちゃんにならまだ時間がありそうだから」
高良先輩はがっかりした顔になり首を横に振った。
みゆき「なぜ小早川さんが登場するのです、田村さんの問題なのですよ……さぁ、もう一度目を閉じて」
私は目を閉じなかった。そしてどうでも良くなった。もう全てが終わった。
ひより「お手数を掛けました、」
私は立ち上がり部屋を出ようとした。
ドアの前に高良先輩が立ち塞がった。
ひより「あの、出られないのですが……」
高良先輩は何も言わず首を横に振った
みなみ「み、みゆきさん……」
高良先輩の意外な行動にみなみちゃんは驚いている。
ひより「……帰りたいのですが……退いてください」
みゆき「だめです、そのまま帰ってはいけません」
さっきまでの笑顔が嘘のように必死になっている……これはどこかで見た光景だ……
あれは……小林さんを引きとめようとしたゆーちゃん……いや、もっと前に見たことがある。コミケ事件の時、つかさ先輩が泉先輩を庇った時だ。
みゆき「私は田村さんにまつりさんと争えとは言っていません、ただ、本当に好きならば伝えて欲しい……」
なんださっきとはまるで違う、二つの選択肢と言っておいて今度はもうこれしかないって言わんばかりの言い様だ。
ひより「争うも何も……結果は見えています、私がバカでした、相談するまでもなかった……」
みゆき「かがみさんが死期を知りながら婚約をしました……結果は分かっているはずなのに、なぜ分かりますか」
……知っている。私は本人と話した。
ひより「分かります、でも、かがみさんと私とでは比べても……」
みゆき「同じです……結果が分かっていても構わない、好きなら相手にそれを伝える……それだけ、それで良いではありませんか」
ひより「……伝えて、その先に何があるのかな……」
みゆき「その先にある物……奇跡です」
奇跡なんて言葉を平気でつかうなんて。
ひより「奇跡はこの前起きたばかりっス……何度も起きますか?」
みゆき「起きますとも、今私達がこうして話しているのも奇跡なのですから」
……それ、いのりさんに似たような事を言ったかな……
高良先輩はドアを開けた。
みゆき「止めてすみませんでした、もう私の言う事はありません……」
ひより「……それは伝えたい事を言えたからですか」
みゆき「はい!」
さっきの笑顔が戻った。
ひより「失礼します」
お辞儀をすると私はドアを出た。

みなみ「待って」
岩崎家を出てしばらくするとみなみちゃんが走って私を追いかけてきた。私は立ち止まった。
ひより「みなみちゃん、どうしたの?」
みなみ「さっきはすまなかった、ひよりの気持ちも知らずに……」
ひより「それって、警告の事……ラブレターの代書を例にするなんて……リアリティがあったよ」
みなみ「私が警告したら止めた?」
それを今考えていた。
ひより「ゆーちゃんは止めなかった、だとするとやっぱり私も止めなかったかな」
みなみ「そう……」
ひより「そんなのを聞くためにわざわざ追いかけてきたの?」
みなみ「ちがう……みゆきさんの言った事……正しいと思う」
相談しに行って二人が同じ結論を出した。
ひより「踊らされているような気がするけど……気付いたら携帯電話を持っていたよ……」
みなみちゃんに携帯電話を見せた。
みなみ「ひより……」
ひより「さっき会う約束をした……やってみるさ、九分九厘ダメだだろうけどね……」
みなみ「まさか、告白を……」
ひより「ふふ、まつりさんには悪いけど、本気で行かせてうらう」
みなみ「ふふ、ひよりをその気にさせるなんて、みゆきさんは凄い」
みなみちゃんの笑いをみて私は我に返った。そうか、そう言うことだったのか
ひより「高良先輩はかがみさんとつかささんの好いとこ取りをした……やられた……」
みなみ「冷静で客観的に考え、更にひより自身の身になって考えないとできない……」
他人事で考えても、ただその人の身になって考えただけでもダメだって事か……高良先輩は私とゆーちゃん、二人でしてきた事を一人でしてしまった。
高良みゆき、ここにもう一人、憧れの先輩が私に加わった。
みなみ「邪魔をしてしまった……最後に、宮本さんに、どうやって想いを伝える?」
ひより「素直に率直に、そして簡潔に……好きです……」
みなみちゃんの顔が赤くなった。
ひより「な、なんでみなみちゃんが赤くなるの、まったく、告白するのは私の方だよ」
みなみちゃんは頷いた。そして赤くなった顔を元にもどして改まった。
みなみ「結果は私からは聞かない、いってらっしゃい」
ひより「そうさせてもらうね……行ってきます……」
私は歩き出した。約束した場所に向かって。

 約束の場所。それはそこしか考えられなかった。そう、彼と出会った町にある神社……
もちろんそこはまつりさんのテリトリーであるのは百も承知。でもそれはまつりさんに対しての当て付けでも宣戦布告でもない。そこが告白するに相応しいと思っただけだった。
移動時間を考慮したつもりだったけど約束の時間よりかなり早く来てしまった。日は西に傾いている。
風もなく人の気配もない。ここってこんなに静かだったかな……
一人で神社の倉庫なんて来るのは初めて、って言うよりゆーちゃんがまなぶを見つけなければ私はここに居なかった。
つかさ先輩の旅の話しを聞いたのはその後、切欠はつかさ先輩じゃない。私にとって、全てはここから始まった。
つかさ先輩は私達がしてきた事を知っているのだろうか。私がしよとしている事になんて言うのか。
四苦八苦したわりにはつかさ先輩に先を越されてしまったし、私もミイラ取りがミイラになってしまった。それに何一つ達成していない。
それどころか今までしてきた事を壊そうとしている。私っていったい何がしたかったのかな……
『ザッ、ザッ、ザッ……』
足音……こんな所に来るのは約束をしたまなぶ以外考えられない。慌てて時計を確認する。まだ時間ではない。
足音はどんどん私に近づいてきた。
ちょっと待って、まだ何も心の準備が出来ていない……
後ろを振り向いて確認する余裕すらない。身体が熱く成ってきた。胸の鼓動も速くなる、その鼓動が全身に伝わるのが分かるくらいに……こんな状況で告白出来るのか。
つかさ先輩はこんな状況で告白したと言うの。この場から逃げたくなってきた。
足音は私のすぐ後ろで止まった。
まなぶ「お、もう来ていたのか、私の方が早いと思ったのに……」
やっぱりまなぶだ。普段ならすぐに話すのになぜか後ろを振り返ることすら出来ない。
まなぶ「実は私も連絡を取ろうと思っていた、すすむの様子が少しおかしい、私と会おうとしない……言い合いをしたのがいけなかったのか、それとも私が出た後で
    何かあったのか、それが知りたかった……」
あった、あったけど……今はそれを話している余裕はない。
ひより「私は個人的に用があって……それで呼んだの」
まなぶ「個人的に……珍しいな、そんなの今まで無かった……それで個人的な用って何?」
なんだ、どうして、言えない。このままでは何も言えないで終わってしまう。ただ言うだけじゃないか。簡単じゃないか。
まなぶ「それに、さっきから後ろを向いているけど……何かそこにあるのか?」
そう、みなみちゃんには言えた。あれが練習だと思えば……
私はゆっくり振り返った。そこにはまなぶが立っている。いままで普通に接してきた。まつりさんが好きなお稲荷さん……宮本まなぶ……今までとそう変わる訳はない。
まなぶは私に何か言いたかったのかか口を開けたが私の顔を見た瞬間口が閉じた。そして私が話しだすのをじっと待っている。
ひより「今更かもしれない、もう遅いかもしれない、だけどやっと私自身の気持ちに気付いた……私は……私は……」
頭では分かっていてもその先が声にならない。手を突っ込んで喉の奥から引っ張り出したい……
ひより「まなぶの事が好き」

 力を振り絞って告白した。さぁ、もうあとは野となれ、山となれ!!
まなぶは一回溜め息を付いた。
まなぶ「……知っていた」
ひより「えっ!?」
思いもよらなかった返事……
ひより「……な、なんだ、知っていたの……か」
まなぶは頷いた。
私は苦笑いをするしかなかった。彼は知っていた……
まなぶ「私はすすむと違って人の感情を読める、強い感情ほど見つけるのは容易い……」
ひより「……何時から、何時から私は……」
まなぶ「それすらも気付かなかったのか……私が人間になって初めて会った時にそれを感じた」
そうだったのか……もう私はそんな時から……
まなぶ「君は自分の課した仕事のために自分の感情を抑えていたのかもしれない……何度か気付かせようとしたけど……気付かなかった」
ひより「はは、私って、自分の事になるとまるでダメダメだね……」
笑うしかない……
まなぶ「遅かった……」
ひより「……遅かった……の?」
まなぶ「私は彼女に、まつりさんに交際を申し込んだ……そこで彼女の気持ちが分かった……」
ひより「……あ、あ……まつりさん、受け入れた……」
まなぶは何も言わない……負けた……完全に負けてしまった……私はもう此処に居てはいけない。
ひより「そうですか、分かりました、幸せに成って下さいね……さようなら……」
まなぶ「待って、さようならって、まさか、二度と私と会わないつもりなのか……」
ひより「……私が居ると何かと誤解を生みますよ……今、こうして居るのを見つかったら……」
まなぶ「田村さんにはまだいろいろ教えてもらわないといけない……人間の事、先生だったでしょ……」
それに、好きな人が他の女性と会っている所なんか見たくない……
ひより「……先生……それは佐々木さんに頼まれて……それにならまつりさんだって教えられます」
まなぶ「……君じゃないと、田村ひよりじゃないとダメだよ、それにまだ君には最後の仕事が残っている、すすむを救ってくれ、帰るにしても、残るにしても、
    あのままだと彼は救われない、私も協力させてもらう」
ひより「……最後の、仕事……」
まなぶは頷いた。
まなぶ「田村さん、君とは好き嫌い関係なくこれからも付き合わせてもらうよ、先生だからね」
微笑むとそのまま帰って行った。

 静けさがまた戻った。もう日が暮れそう。
恋愛感情無しに異性と付き合えるだろうか……
出来るさ、ついこの間までそうだった。
そう思った時だった、僅かに涼しい風が私の頬を撫ぜた……もう夏が終わる…か。
なんだろう、思いっ切り深呼吸がしたくなった。失恋したはずなのにこの清清しさは……
まなぶの態度がよかったのもあったかもしれない。だけどそれだけじゃない。相手に想いを伝える……か
結果はどうでもよかったのかもしれない。高良先輩の言っていた奇跡ってこの事かな……
私はしばらく余韻に浸った。

 さて、まなぶの言うように私にはまだ仕事、ミッションがある。ゆーちゃんと佐々木さんを救わないと……
二人の気持ちは痛いほど分かる。だけどその感情に溺れてはいけない……いや、分かるからこそ他人事でいないといけない。
出来る、私も高良先輩のようになれる。つかさ先輩そして、かがみさん……力を貸して、もう一回……奇跡を。

もう時間もない。急ごう……最後のミッションへ……

『ピンポーン』
呼び鈴を鳴らした。もう日はすっかり暮れている。遅いのは分かっているけど、それでもゆーちゃんに会いたかったから。
そうじろう「お、田村さん……」
ドアを開けたのはおじさんだった。
ひより「こんばんは……夜分失礼します……ゆーちゃん、小早川さんはいますか?」
おじさんは険しい顔をした。
そうじろう「昨日から部屋から一歩も出ていなくてね、食事も食べようとしない……」
ひより「会えますか?」
そうじろう「……会えるとは思うが話しをしてくれるかどうか、さっきまで岩崎さんが居てくれたのだが効果はなかった……すれ違わなかったかい?」
みなみちゃん……みなみちゃんが来ても何も効果ないなんて……かなりの重症だ。
ひより「いいえ、きっと駅ですれ違ってしまったのかもしれません」
そうじろう「そうか、とりあえず上がってくれ」
私は家に入ると真っ直ぐゆーちゃんの部屋に向かった。
そうじろう「いったい何があったのだろう、知っているなら話してくれないか」
おじさんは私を呼び止めた。
ひより「誰もが一度は経験する事ですよ、恥かしくて誰にも話せない……苦しくて、切なくて……ここまで言えば分かるでしょうか」
そうじろう「そうか、それじゃ私の出る幕はなさそうだ……遅くなるようなら車を出すから時間は気にしないでくれ」
ひより「ありがとうございます」
おじさんはゆーちゃんの部屋を一度見るとそのまま居間の方に向かって行った。

『コンコン』
ドアをノックしても反応はなかった。三回ノックしても反応がなかったので私はドアを開けた。
ひより「ゆーちゃん入るよ……」
部屋が暗い……私はスイッチを入れて部屋を明るくした。ベッドの布団が膨らんでいる。布団を頭から被って寝ているようだ。私は部屋に入りゆっくりドアを閉めた。
ひより「こんばんは……」
ゆーちゃんは返事をしない。まだ怒っているのだろうか。
さてどうする。いや、どうするもこうするもない。する事は一つしかない。それもう決めてきた。
ひより「聞いているでしょ……そのままで聞いて……昨日ゆーちゃんから追い出されてから考えてね、それで分かった、私はまなぶが好きだった……
    ゆーちゃんの言った通りだったよ、自分自身に嘘を付いていた、だからその歪が一気に噴出した……それで……さっきまなぶに会って……告白した」
ゆたか「こ、こくはく……」
小さな声で言うと布団を払いゆっくり立ち上がった。私の目をじっとみつめるゆーちゃん。
ゆたか「そ、それで、どうなったの……」
ひより「いや~見事に振られた、空振り三振っスね」
私の笑顔を見るとゆーちゃんの目が潤み始めた。
ゆたか「……みなみちゃんの言っていたひよりちゃんの覚悟ってその事だったの……でも、なんで、なぜ笑うの……振られたのに悲しくないの、悔しくないの、切なくないの……」
ひより「多分その全てが正解……だけど何故かスッキリしたよ」
ゆたか「スッキリ……分からない」
ひより「相手に私が好きだって伝えられたから」
ゆたか「伝えられたから……それだけで……それだけでいいの?」
ひより「いいとは言わないけど、しょうがないじゃん」
ゆたか「しょうがない……」
ゆーちゃんは肩を落としてベッドに座った。
ひより「このまま此処に居ても何も変わらない、時間がけが過ぎて佐々木さんは故郷に帰ってしまう、どうする?」
ゆたか「どうするって言われても……」
ひより「告白もお別れも言えなくなっちゃうよ」
ゆたか「でも佐々木さんは……」
ひより「そう、佐々木さんは千年前の恋人を忘れられない……それをいのりさんに重ねている、でも考えようによっては重ねているだけでいのりさんを好きな訳ではないかも」
ゆたか「そ、それは……」
ひより「一日の恋が千年の恋に負ける理由はないよ、断ち切ってあげようよ千年前の恋人はもう居ないってね……その後はゆーちゃん次第」
ゆたか「どうやって、断ち切るの」
ひより「私と同じ事をすればいいよ、その後……どうなるか私にも分からないだけど、後悔はしないと思う」
ゆーちゃんは私を見た。
ゆたか「ひよりちゃんのその表情を見ていると少し落ち着いた……」
ゆーちゃんの顔色が少し良くなった。
ひより「みなみちゃんが来ていたって聞いたけど」
ゆたか「うん……私、悪い事しちゃった、寝たまま話しを聞くなんて……ひよりちゃんも昨日は追い出してごめんなさい……」
ひより「うんん、別に構わないよ、そのおかげで私はまなぶの恋に気付いたのだから、それよりみなみちゃんは何を話したの?」
ゆたか「昔の話の話し」
ひより「昔の話し?」
ゆたか「うん……ひよりちゃんにも話すって言っていたから……話すね」
ひより「うん……」
ゆたか「みなみちゃんが中学生の頃、お友達にラブレターの代筆をたのまれた、最初は断ったのだけど親友の頼みとあって断りきれなくて
    結局引き受けたって……文章を考える上で、恋人になったつもりで考えていくうちに……」
ひより「考えていくうちに、相手を好きになってしまった……私達と同じだ……」
ゆたか「うん……みなみちゃんは二通のラブレターを書いた、一通は代筆を頼まれた親友の分、もう一通は自分が書いた本当のラブレター……
    出すつもりはなかった、だけど親友にその手紙が見つかってしまって、それからは親友と話すこともなくなって……ラブレターも渡される事はなかった……」
あの話は本当にあった話だったのか……みなみちゃんがあまりのめり込まないのは自分の経験があったからなのか。
ひより「友情も恋も失っちゃったね」
ゆたか「自分の経験が活かせなかったって悔やんでいた、私もなんて言って返していいのか分からなかった……」
ひより「……みなみちゃんの場合は私達に当てはまらない、みなみちゃんは頼まれて代筆した、私とゆーちゃんは誰からも頼まれなかった、同じようで違うよね」
ゆーちゃんは黙ってしまった。話しを元に戻さないと。
ひより「お稲荷さん達が故郷に帰る日はそんなに遠くないみたい……どうするの」
ゆーちゃんは黙ってままだった。だけどさっきまでのゆーちゃんとは違う、顔色はもう元に戻っている。ただ踏ん切りがつかないだけ。なら背中を押してあげるだけだ。
ひより「ゆーちゃんはもう決めているんでしょ、」
ゆたか「で、でもそれが正解かどうか……」
ひより「高良先輩が言っていたよ、恋愛に正解はないって、やってみるといいよ」
ゆーちゃんは私を見上げた。
ゆたか「ひよりちゃんもそうやって決断したんだ……」
私は頷いた。
ゆたか「そうなんだ……凄いね……私も出来るかな……」
ひより「出来ると思うよ、私も出来たのだから」
ゆーちゃんは立ち上がった。
ゆたか「私……やってみる……でもひよりちゃんに手伝って欲しい」
ひより「私に出来る事なら」
ゆたか「それじゃね……」
『グ~~~』
私のお腹が鳴いた……
『グ~~~』
続いてゆーちゃんのお腹も鳴いた……私達二人の動きが止まった。
ひより「そういえば昨日から何も食べていない……」
ゆたか「私も……」
ひより「と、取り敢えず腹ごしらえしようか、腹が減っては軍はできないって言うし……兵法の基本だね」
ゆたか「別に戦いに行く訳じゃ……」
ひより「いいや、恋愛は戦いだよ、ささ、戦闘準備」
ゆーちゃんは笑った。
ゆたか「ふふ、台所見てくるね、少ししたら来て」
ひより「うん」
笑顔で足取りも軽くゆーちゃんは部屋を出て行った。元に戻った。でもこれは元に戻っただけ。さてこれからが本番、気を引き締めないと。

 軽食を食べて再びゆーちゃんの部屋に戻った。
ひより「話しの途中だったね、それで私は何を手伝えば?」
ゆたか「うん、神社の倉庫に佐々木さんを呼んでほしい……」
ひより「佐々木さんを呼ぶ……私が、何故、ゆーちゃんが呼べば良いじゃない?」
ゆたか「だって、恥かしいでしょ……」
顔を赤らめるるゆーちゃん。
ひより「恥かしいって……その先にもっと恥かしい事をするでしょ、それじゃ告白なんて出来ないよ」
ゆたか「……ひよりちゃん、私を手伝ってくれるって言ったでしょ、それとも手伝ってくれないの」
いつになく言い寄って来た。何かあるのだろうか。訳がありそうだけど……
ひより「分かった、手伝うよ……それで呼んだらどうするの」
ゆたか「呼んだら佐々木さんを置いてそのまま離れて……」
恥かしいからか……それなら最初から一人ですればいいような気がするけど……これが手伝いになるなのかな。
ひより「離れてもゆーちゃんと佐々木さんの行く末は見させてもらうよ」
ゆたか「分からないようにしていれば……いいよ」
いや、もう考えるのはよそう、ゆーちゃんはその気になったそれでよしとしよう。
ひより「OK、分かった、それで決行の日時は?」
ゆたか「今度の日曜、午後四時ぴったりで」
四日後か……
佐々木さんを確実に来てもらうようにしないといけない。明日整体院に行こう。私は帰り支度をした。
ひより「午後四時ね、分かった、食事ありがとう」
ゆたか「もう遅いよね、電車も少なくなるし車で送るね」
え、ま、またあの運転を……体験するのか……
ゆーちゃんは部屋を出た。
ゆたか「おじさん、車を貸して……」
結局、私の家はそんなに遠くないと言う事でおじさんに送って貰う事になった。

そうじろう「ありがとう……」
ひより「どうしてお礼なんか、何もしていませんけど」
車は私の家に向かっている。ドアを開けた時のおじさんの表情とはちがって明るい顔になっていた。
そうじろう「ゆーちゃんだよ、君が来てから明るくなった」
ひより「いえいえ、私の前にみなみちゃんが来てくれていましたから……」
そうじろう「どっちでもいい、良かった……」
ひより「いいえ、まだ終わってはいませんけどね」
車は赤信号で止まった。
そうじろう「ふふ、ゆーちゃんも、もう、そんな歳になったのか……早いものだな」
ひより「そ、そうかな、私達が遅いだけかも、他はもっと……」
おじさんは笑った。
そうじろう「ふふ、こなたにしてもそうだった、まさか友達の所に行くとは思わなかった、つかさちゃん……初めて見た時は一人で何かするような子には見えなかった、
      こなたを誘ってレストラン経営か……しかも上手くやっている、驚いているよ」
ひより「そうですか……私もゆーちゃんも憧れの先輩の一人ですよ」
そうじろう「これは失礼した」
信号は青になり車は再び走り出した。
ひより「あの、おじさんの時はどうだったのですか」
そうじろう「私か……私は悩んだりしたりしなかった、対象は一人しか居なかったから……君に語って聞かせるほど経験は豊富ではない」
ひより「奥さん一筋って事ですよね、素晴らしいじゃないですか」
そうじろう「ふ、そのかなたは去った……こなたも、そして今度はゆーちゃんも、皆私から去っていく……」
しまった、余計な事を言ってしまったか。
ひより「す、すみません、悲しい事を思い出させてしまって……」
そうじろう「いや、楽しいかった事も同時に思い出したよ……こなたやゆーちゃんが居なければ田村さんにも会えなかった……確か漫画を描いていると聞いたが、
      漫画で食べていく気はあるのかい?」
ひより「い、いえ……まだそこまでは考えていません……」
そうじろう「そうか……その信号を右だったな」
ひより「はい……」

 それからおじさんは家に着くまで何も話さなかった。
おばさん……かなたさんはもう亡くなっていたのをつい忘れていた。
もし、お稲荷さんの薬があったら、おばさんは救えただろうか……
もう二十年以上前の話じゃないか、私も生まれていないのにそんな事できるわけない。
もし、佐々木さん達が帰るとき、お稲荷さんの仲間が迎えに来るならかなたさんや真奈美さんくらい生き返らせてもらいたい。
その時佐々木さんとの会話を思い出した。人が亡くなった後どうなるかと聞いたら分からないと答えが返ってきた。
つまり死んだ者を生き返らせた事なんか一度もなかったって言っている。
かがみさんの病気を治し、この宇宙を自由に飛び回れる力をもってしても生き返らせるって無理なのか……
そもそもそんな事って可能なの……
結局お稲荷さんも私達人間と同じ、私達より進んでいるれけど、どんぐりの背比べなのかもしれない。この宇宙の謎に比べたら……

 次の日、私は整体院を訪れた。呼び鈴を押すとまなぶが出てきた。
まなぶ「いらっしゃい……すすむだね、診療室にいるからそのまま入って」
まなぶが居るのか、まなぶは知っているのだろうか、ゆーちゃんの恋を……ここなら佐々木さんに声は届かない。
ひより「一つ聞きたい事が……ゆーちゃんについて」
まなぶ「小早川さん……彼女がどうかしたの?」
ひより「い、いや、人の感情が分かるなら……何か読み取れるかなって」
まなぶ「大人しい子だけど、芯はしっかりしている……それがどうかした?」
ひより「い、いや、何でもない、佐々木さんに会わせて貰うね」
まなぶ「どうぞ」
まなぶはゆーちゃんの恋を知らない……あんなに悩んで苦しんでいるのに、私の場合は自分でも気付かなかった感情を読み取っていた。どうしてだろう……
かがみさんみたいに心を読み取られない方法を知っているのか……まさか。
『コンコン』
診療室のドアをノックする。
すすむ「どうぞ」
私の顔を見た佐々木さんはうんざりするような顔になっていた。私もこれ以上お節介を焼くつもりはない。これが最後。
ひより「こんにちは……実は折り入ってお願いがあって来ました、電話でもなんですので直接話したくて……」
すすむ「そろそろ来るとは思っていた……私の気持ちは変わらない」
あの時の涙は嘘だったの……そう言いたかったけどここは堪えた。
ひより「はい、ですから最後のお別れと言う事で……明後日の午後四時、神社の奥倉庫に来て頂けませんか」
すすむ「……それは私もしようと思っていた……分かったその時間に行くとしよう」
ひより「ありがとうございます、それでは失礼します」
そのまま診療室を出ようとした。
すすむ「そ、それだけなのか?」
ひより「はい、私の用は終わりました、佐々木さんは何かあるのですか?」
すすむ「い、いや、無い……いや、呼吸法を、最後に呼吸法を教えよう」
意外だなって感じだ。私が淡白だったから。それだけではないはず。
ひより「本当ですか、嬉しいです、ゆーちゃんも連れてくればよかったかな」
すすむ「いや、彼女はもうマスターしている、もう私の教える必要はない」
いのりさんではなくあえてゆーちゃんの名前を出したのに何の反応もない。恋愛は私同様かなり鈍い……でも、これは責められないか。
それから私は佐々木さんに一時間ほどの練習を受けた。

すすむ「今日は完璧だ……そのリズムを忘れないように」
ひより「はい……」
私は帰り支度をした。
すすむ「も、もう帰るのか……」
ひより「はい……」
すすむ「そうか……短い間だったが世話になった」
ひより「こちらこそ、この呼吸法は私達人間が見つけたって言いましたよね、でも、それを知っているのは、教えられるのは佐々木さんだけです、
    残ってくれれば何人も助けられますね」
すすむ「……そう、そうかもしれない」
すこし肩を落とした。
やっぱり……全くこの地球に未練がないって訳じゃなさそう。
ひより「最後に質問いいですか、死んだ人間を生き返らす方法ってあります?」
すすむ「……なぜそんな質問をする」
ひより「私には二人ほど生き返らせたい人がいるので、方法があるのかどうかくらい聞いてもいいですよね」
すすむ「分からない、だが少なくとも私達の知識にはそれは無い……だがこの知識はここに来てから変わってない、あれから四万年経過している……」
ひより「故郷の仲間が見つけているかも?」
佐々木さんは少し考えた
すすむ「……いや、それはない、四万年程度で理解できるほど生命は単純じゃなさそうだ」
ひより「ですよね、だから佐々木さんも帰ると決め付けないで最後まで考えて……私達の寿命は短いのですから……私が言えるのはそれだけです、それでは明後日……」
私はそのまま整体院を出た。

 日曜日の午後三時三十分。神社の入り口で待っていると佐々木さんがやってきた。
あれから誰とも連絡は取っていない。もう私の出来る事はし尽くした。
これで私の関わるミッションは全て終わる。小林さんとひろしさんは私が直接関わっていないから高良先輩にお任せだ。あとは時間が解決してくれる。
すすむ「場所は知っている……別に待っていなくても……」
ひより「もしもがありますからね……行きますか」
倉庫の広場に付いた。
ひより「私が居てはなにかとやり難いでしょ、私は帰りますね……」
すすむ「……何から何まで世話になったな……」
ひより「さよならは言いませんから……」
私は広場を出て茂みの中に入り回り道をして広場出口の反対側に出た。ここなら誰にも見つからない。
さて、ゆーちゃんの手伝いは終わった。この後の展開を見るだけ……そう、見るだけ……

 午後三時五十九分……そろそろ時間。
『ザッ、ザッ、ザッ』
出入り口の方から足音が聞こえる……来た、ゆーちゃんが来る……
すすむ「いのりさん……」
いのり「佐々木さん……」
えっ……そ、そんな……
そこに来ていたのはゆーちゃんではなくいのりさんだった。
ば、ばかな、ゆーちゃんが来ないと、ゆーちゃんを先に会わすのが私の目的だった。私の様な失敗はさせまいと思ってゆーちゃんを最優先にしたんだ。
これは何かの間違えだ。私は茂みを掻き分けようと前に出た。
「邪魔したらだめ」
後ろから小声で私を止める人がいる。後ろから手が伸び私の腕を掴むとグイグイと茂みの奥に引っ張り込まれた。すごい力だ……いや、後ろから引かれているから力が出ない。
いのりさんと佐々木さんが見えなくなるまで移動すると手を放した。後ろを振り向くとゆーちゃんが立っていた。
ひより「ゆーちゃん!!」
ゆたか「やっぱりひよりちゃんはこうすると思った、来て良かった」
ひより「良かったって……ま、まさか、最初からいのりさんを会わすつもりだったの……どうして……」
ゆたか「だって、そう言ったらひよりちゃん反対するでしょ」
笑顔で話すゆーちゃん……
ひより「当たり前じゃない、これじゃ私と同じじゃないか、バカ、ゆーちゃんのバカ……お人好しすぎだ……」
ゆたか「まだ、二人が結ばれるなんて決まっていない……私は確かめるの」
ひより「確かめるって……何を?」
ゆたか「いのりさん佐々木さんの恋人の生まれ変わりかどうか……そうなら二人は結ばれる、違っていれば私にもチャンスがある……」
ひより「そんなおとぎ話みたいな話なんてないよ……」
ゆたか「だから確かめるの……生まれ変わりだったら素敵でしょ……」
ゆーちゃんは目を輝かせて広場の方に歩いてった。

 ゆーちゃんは絵本を書いた事をあるのを思い出した。メルヘンやファンタジーはゆーちゃんの大好物。 
ゆーちゃんに千年越しの恋話はしてはいけなかった……でも、あの時はまさかゆーちゃんが佐々木さんを好きになっているなんて知らなかった。
遅い……そう、遅い。たかしが私に言った言葉を思い出す……
先読みしていたつもりだった。だけど現実はその先を進んでいる。所詮恋愛の手助けなんて……
ゆーちゃんは自分を犠牲にしてまつりさんと佐々木さんをくっ付けようとしたのか。
違う。
……ゆーちゃんのあんなに喜んでいる姿なんて久しぶりに見た。犠牲になるような人があんな嬉しそうな顔になるのか……
ゆーちゃんはそれを選んだ……私はそれをただ見守るしかない……それなら見させてもらう、いのりさんが生まれ変わりかどうか。
私はゆーちゃんの後を追った。


 ゆーちゃんの隣に並んだ。そしてゆーちゃんの目線を追った。そこには二人が居た。佐々木さんは立っている。いのりさんがしゃがんでいる。しゃがんでいる所は、
コンが入ったダインボールを置いた所だ。
すすむ「本当にあの時は助かりました、コンが行方不明になって、そのまま居なくなってしまったら……」
いのり「始めは私が世話をしました、途中から、コンの記憶が無くなっていたと分かった時からはまつりが主に世話をしました……まつりがあんなに世話焼きなんてすこし驚いた、
ところで今、コンはどうしています?」
コンの話しをしているのか……
すすむ「元気にしていますよ……」
いのりさんは立ち上がった。
いのり「そうですが、今度また会ってみたいですね、引越しされると聞きましが、どちらへ?」
すすむ「え、そ、それは……」
いえる筈はない。遠い星へ、故郷へ帰るなんて。
いのり「言えないのでしたら無理には……遠くに行くのですね」
すすむ「は、はい……」
小さな声で返事をした。
いのり「それなら一つ聞いていいですか、とても下らない質問です、笑っちゃうくらい……」
すすむ「それは何ですか……」
いのりさんは少し照れながら話し始めた。
いのり「私の妹が一人旅に出て不思議な体験をした……一匹の狐に化かされて、それを切欠に仲良くなった……そしてその狐に命を救われたと……自分の命を引き換えにね」
すすむ「……妹さんがそんな話しを……」
いのり「そんな話は誰も信じない、もちろん私も最初はそうだった……でもね、同じ話しを妹は田村さんにもしたらしく……田村さんご存知かしら……」
すすむ「知っています、私の患者でもありますから……確かあの時此処にも居ましたね……」
いのり「……その田村さんがコンをその狐に似ていると言い出しね……笑っちゃうでしょ」
すすむ「ふふ、大学生と言ってもまだまだ子供ですよ……」
いのり「そう、普通なら作り話で終わってしまう……でも、妹は、つかさは違う、今まで目で見た事、体験した事しか話さなかった、それに嘘を付いたり騙したりする様な事もしない」
これは……私が苦し紛れに言った話しをしている。
いのり「コンは賢かった……どこかの救助犬か警察犬と見間違うくらい、それ以上かもしれない……私も田村さん同様に私もつかさの会った狐と酷似していると思うのです」
この話は知らなかった。いのりさんもかがみさんと同じようにコンの正体を見抜いていた……
すすむ「只の賢い犬です……私が躾けましたから……」
いのり「それともう一つ、私のもう一人の妹が倒れて病院に担ぎ込まれた……検査の結果は脳腫瘍、それもかなり危険な種類のものと診断されました……
    それがたった一晩で何事もなかったように退院、誤診となったようですが……私はその後、病院で確認しました、倒れた時に撮影されたCTスキャンに、かがみの脳には
    しっかり病巣が移っていました……かがみが病気だったのは何となく分かっていた……奇跡が起きたとしか思えません」
いのりさんはそんな事まで調べたのか……いのりさんは気付き始めている。お稲荷さんの存在に……そのヒントを出したのは……私……
すすむ「それと、妹さんの狐の話しと何か関係あるのですか……私には荒唐無稽でさっぱりです」
いのり「かがみはコンに助けられた……」
すすむ「ふ、ふふ、はははは、い、いのりさん、傑作だ、お別れの余興にしては上手い話ですよ、一生忘れられそうにない……」
大笑いしている佐々木さんだった。
それにしても惜しい所までいっていた。でもいのりさんがたかしを知っている筈もない。それでホッとして佐々木さんは笑っているのか。
いのり「それとも、佐々木さん、貴方が治してくれた-」
すすむ「ふふ、治したのは私ではありませんよ……」
いのり「では誰ですか、お礼が言いたい……」
すすむ「それは、たか……」
佐々木さんの笑いが止まった。
『バカ!!』
心の中で私は叫んだ。ゆーちゃんはクスリと笑った。そしていのりさんもクスっと笑った。
ゆーちゃんは佐々木さんを好きじゃないのか。二人がああして仲良く話しているのを見ていて何とも思わないのかな。
私だったら……私ならそんな光景は見たくない。その場を離れてしまいたい気持ちになる。ゆーちゃんときたらまるでドラマを見ているように平然としている。
本当にゆーちゃんは佐々木なんが好きなのか……まなぶもゆーちゃんの感情を読み取っていないみたいだったし……
まさか、最初からゆーちゃんは佐々木さんが好きではなかった……
いのり「……今のはボケていない……ですよね」
いのりさんの声で現実に引き戻された。ゆーちゃんの気持ちはさて置き、この二人の動向に目が離せない。
佐々木さんはどう話そうか苦慮している。
いのり「かがみもつかさも助けられたようですね、最後に分かっただけでも良かったです」
すすむ「……君は何とも思わないのか……私がそうだったとして、恐れないのか……」
いのり「ふふ、これでも巫女のはしくれですよ、神社に祭られているものを恐れたりしません」
佐々木さんの目がやさしくいのりさんを見つめる。
すすむ「……その言葉、千年前にも聞いたことがある……」
いのり「はい?」
佐々木さんは三歩後ろに下がった。いのりさんは首を傾げて佐々木さんを見ている。
すすむ「これから起きる事を全て受けいれらるなら君に私の気持ちを全て話そう、拒絶するなら私は故郷に帰る」
いのり「な、何を?」
いのりさんは両手を口元に持ち上げて不安げな表情になった。
すすむ「その目で確かめて下さい、その後は君の好きなように……」

 佐々木さんの体が淡い光に包まれた……
佐々木さんは狐になる姿をいのりさんに見せるつもりなのか。そんな事をしたら……そんな事をしたら。
私はその姿を見て逃げ出した。まつりさんは気を失って自らの記憶を変えてしまうほどのショックを受けた……
まさか、佐々木さんは自分が故郷の星に帰る理由をつける為に……
腕が熱い……
気付くと私の腕を力強くゆーちゃんの手が握っていた。ゆーちゃんを見ると瞬きをする間も惜しむように佐々木さんを見ている。
いのりさんは……いのりさんは佐々木さんを見ている。逃げることなく、気を失う事もなく……ただ狐に変わっていく様子を見ていた。私とゆーちゃんと同じように。

 そこには狐の姿の佐々木さんが居た。この姿を見たのは記憶を消されたので覚えているのは夢の中だけ。その夢の中の狐と同じ姿がいのりさんの前に立っていた。
狐はゆっくり歩き出しいのりさんの目の前まで近づくとお座りをしていのりさんを見上げた。
いのりさんは狐を見ているだけだった。だけど逃げ出さない。そして気も失っていない。いや、そのどちらも出来ないほどの状態なのかも。
やはり早すぎた。もっと時間をかけてからこうすべきだった。ゆーちゃんの手が私の腕から放れた。ゆーちゃんも私と同じ様に考えているのかもしれない。
いのりさんと佐々木さんは数分間動かず沈黙が続いた。

『ク~ン』
佐々木さんは一回悲しげな鳴き声を上げた。しかしいのりさんは何も反応を見せなかった。佐々木さんの頭が項垂れた。そしてそのままの状態で立ち上がりいのりさんに背を向けた。
ゆたか「そ、そんな……」
小さな声でゆーちゃんが呟いた。佐々木さんは諦めたと思っている……私もそう思った。終わりだ……
佐々木さんはゆっくりと歩き出していのりさんから離れていく。
あれ、いのりさんは離れて行く佐々木さんを目で追っている……いのりさんにはまだ意識がある。
いのり「ま、待って……」
しかし佐々木さんは止まらなかった。
いのり「待って、佐々木さん、佐々木……すすむさん」
ささきさんは立ち止まった。そして振り向いた。
佐々木さんの名前を呼んだ。いのりさんはあの狐を佐々木さんだと認識している……
いのり「その姿のままで帰ると危ないですよ、車やいたずらっ子がいますから」
いのりさんはにっこり微笑んだ。
佐々木さんはゆっくりといのりさんに戻っていく。いのりさんはしゃがんだ。そして佐々木さんはいのりさんの目の前で止まった。
いのり「……元に戻れるまで此処にいますから……貴方の気持ちを聞かせて……」
その言葉を聞くと伏せてゆっくりと目を閉じた。その姿をいのりさんは見守っている。
ゆたか「ふぅ~」
ゆーちゃんは溜め息を付くとその場を離れて茂みの奥に行ってしまった。私もすぐにその後を追った。

 ゆーちゃんは私を引っ張り込んだ所で止まっていた。
ひより「いいの、最後まで見届けなくて……」
ゆたか「もう、あの二人は大丈夫……だからもう私は要らない……」
ゆーちゃんは大丈夫には見えない。
ひより「いのりさんに全て話したみたいだね、だから今日まで四日も間を空けた」
ゆーちゃんは首を横に振った。
ゆたか「うんん、いのりさんには今日、此処に佐々木さんが来るって……それしか言っていない」
するといのりさんは私の話した情報だけで佐々木さんを理解したのか……
ゆーちゃんには酷だけど、確かめなければならない事がある。
ひより「佐々木さんを好きだったの?」
ゆたか「もう……知っていると思ったけど……何でそんな事聞くの」
少し不満げで口を尖らしていた。
ひより「まなぶがゆーちゃんの心をまるっきり知らなかったから……彼の能力は知っているかな?」
ゆたか「……かがみ先輩の病気を宮本さんから教えてもらった時、彼から直接私に話があった、佐々木さんを好きなんでしょって……彼には嘘は言えない、見透かされている、
    だから彼と約束をした、佐々木さんには絶対に話さないようにって、私の気持ちは佐々木さんには知られないように……だからひよりちゃんに話さなかったと思う」
佐々木さんに知られないように、それだと余計にゆーちゃんの言っている事が矛盾する。
ひより「……それなら私を佐々木さんの出迎えをさせたのは何故、私が佐々木さんに言ってしまうって思わなかったの?」
ゆーちゃんは首を横に振った。
ゆたか「それはないよ、私が佐々木さんに告白をするって思っていたから、そう思っているかぎりひよりちゃんは佐々木さんに言わない、そうでしょ、ひよりちゃん?」
ひより「最初から決めていたの……か」
悩んでいたのは選択ではなく方法だった。
ゆたか「ひよりちゃんの勘違いを利用させてもらちゃった……」
ゆーちゃんは申し訳なさそうに俯いた。今更そんな表情をされても私は困るだけだ。
ひより「どちらにしてももう私達のミッションは終わった、あとはかがみさんとつかさ先輩だけど、それは高良先輩に任せるしかない……すっきりしたよ
    なんだかお腹減っちゃったね、何か食べに行こうよ」
私が行こうとした時だった。
ゆたか「まだ終わっていない……」
ひより「終わっていない……なんで、終わったでしょ……それとも未練ができちゃったなんて言うの……?」
ゆーちゃんは首を横に振った。
ゆたか「私……ひよりちゃんに謝らないと」
ひより「……さっきの事なら気にしないよ」
ゆたか「違うの、私……ひよりちゃんの記憶を奪った本当の理由を言わないといけない、それを言うまで私のミッションは終わらない」
ひより「ふふ……それも、もう終わった事でしょ、それで私が態度を変えるなんてないから」
私は笑って返した。
ゆたか「秘密にしたかった訳でもない、一人で解決したかった訳でもない……そんな事じゃないの……本当はね……
ひよりちゃんが佐々木さんを好きになるのが嫌だったから……これ以上ライバルを増やしたくなかったから……だから記憶を消した、そうだとしても変わらない?」
笑いが止まった。そしてはゆーちゃんを見た。高校時代から変わらないその姿……まだまだ子供だと思っていた。
今までゆーちゃんがやってきた事を総合すると、彼女は目的の為には手段を選ばない……そんな感じだ。
子供のようなあどけなさの影に小悪魔的な冷酷さが潜んでいる……
ゆたか「彼との恋が実らなかったのはきっと罰が当たったからだね……ごめんね……ひよりちゃん……」
でも人間はそんなもの。だから人間は面白い……その程度で私の気持ちは変わらない。
ひより「ゆーちゃんと同じ人を好きになるのは止めた方が良さそうだね~何をされるか分からないや……」
少し皮肉を込めて笑いながら話した。これが私の答え。
ゆーちゃんは私の顔を見ると目が潤み始めて、涙が零れだした。
ゆたか「何で、何でそんなに優しいの、もっと怒っていいのに、突き飛ばしてもいいのに……ひよりのバカ……ばか……」
ゆたかはその場に泣き崩れた。こんなに激しく泣く姿を見るのは初めて。
それもそのはず、ゆたかは大切な物を失い、同時に大切な物を得たのだから……
それは私も同じ……
同じだからゆたかの気持ちは分かる。分かるけど溺れない、溺れればきっとゆたかとの友情はなくなる、みなみちゃんの友人の時の様に。
落ち着いたら食事しに行こう、少しお酒も入れようか。
今は涙が涸れるまでゆたかを見守ろう。いのりさんの様に……
倉庫広場をいのりさん達が先に出たのか、私達が先に出たのかは分からない。だけど私達が神社を出たのはもう日が暮れて街灯が点く時間だった。

 それから暫くしてワールドホテル秘書、木村めぐみが自首した。つかさ先輩の家に匿われていたそうだ。もう一人、柊けいこを助けるためにそうしたと聞いた。
その木村めぐみさんに全てのお稲荷さんを故郷に帰す計画を託された泉先輩。
いろいろ四苦八苦したみたいだったけど無事任務を終えた。
そして、残ったお稲荷さんは……まなぶ、佐々木さん、小林さん……そして、最後につかさ先輩の恋人、ひろしも残る事になったそうだ。
柊四姉妹全てがお稲荷さんと結ばれる……これも何かの縁か運命なのだろうか。
だとしたら私とゆたかがどんなにもがいても叶うはずはない。

私とゆたかは大学を卒業すると同時に引越しをすることになった。それはにまつりさんやいのりさんに遠慮した訳じゃない。私はまなぶや佐々木さんに何回も会っている。
ゆたかも会っているみたいだけど、さすがに佐々木さんには会い難いと言っていた。
私達と入れ替わるようにつかさ先輩と泉先輩が戻ってきた。店ごとの引越しだそうだ。それを一番喜んだのは泉先輩の父、そうじろうさんなのは言うまでもない。
つかさ先輩は引っ越した店、レストランかえでの隣に洋菓子店を開いた。
それから間もなくいのりさんが結婚、あとは順番につぎつぎと結婚をした。

私とゆたかは同居している。そして同じ仕事をしている。
始めは違う仕事をしていた。ゆたかがふと思いついた物語が面白かったのでそれを私が漫画に描いてみてコミケに出してみたらたら意外とうけてしまった。
これが切欠となり私とゆたかはコンビで漫画界にデビューすることになった。まさかゆたかとこんな形でコンビになるとはは夢にも思わなかった。
それからは目まぐるしく時間が過ぎていく。学生時代がスローモーションに感じるほどに……




 十年後……

 私はつかさ先輩に呼ばれて洋菓子店つかさに来ていた。もちろんゆたかやみなみも一緒、いや……陸桜学園祭のチアリーディングメンバー全員が呼ばれた。
何でもつかさ先輩がピアノの演奏を皆に聞かせると言うのだ。皆が集まるのはあの時以来かもしれない。
私は約束の時間よりもかなり早く店に来ていた。あの出来事を直接つかさ先輩に話したかったから。
つかさ「……そんな事があったの、そこまでは知らなかった……」
私の恋、ゆたかの恋、そしてかがみさんの病気……そこで私達がしてきた事、つかさ先輩にはどれも初めて聞く話だったようだ。
ひより「ゆたかは話さないでって言っていたけど、もう時間も経っているし……」
つかさ「そうだね、もうあれから十年くらいかな……時間が経つのは早いね……でも不思議、ひよりちゃんとゆたかちゃんがコンビを組んでいるなんて、ゆたかちゃんは
    みなみちゃんと一緒に仕事をすると思っていたけど……」
ひより「それを言うなら私も同じですよ、泉先輩はかがみさんと一緒に何かすると思っていましたけど」
つかさ先輩は笑った。
つかさ「そうかもしれない、こなちゃんとお姉ちゃん、あんなに仲がよかったのに、私とと一緒に仕事をしているのはこなちゃんたよね、私の店と隣だし、
    お菓子もレストランに提供しているから毎日のように会っているよ」
私は辺りを見回した。
ひより「あの、旦那さんは?」
つかさ「あ、ひろしね、ひろしはお休み、同性だけで会う方が気兼ねしなくていいでしょって、子供を連れて実家に行くって」
ひろしさんは結婚式に会っているだけだった。一度いろいろ話してみたかった。
ひより「そうですか……そういえばつかさ先輩だけ柊の姓なんですよね……」
つかさ「そうなの、だからひろしにお父さんの仕事を引き継いで欲しいって……ふふ、面白いでしょ、お稲荷さんが神主をするかもしれないって」
ひより「そうですね、ふふ……」
私達は笑った。
つかさ「それでね、まつりお姉ちゃんはね……」
その時、私の表情を見たつかさ先輩は話すのを止めた。
つかさ「ご、ゴメン、今の話は止めておくね」
私はまだ諦めていないなのだろうか。つかさ先輩でも分かるほど表情に出たのか。もっとも今のつかさ先輩は昔とは違う。結婚もしているし一児の母でもある。
細かい表情の変化を見逃さないのかもしれない
そうだった。私はつかさ先輩に一番に会いに来たのを思い出した。今そのチャンス。この期を逃すわけにはいかない。
ひより「つかさ先輩、一つ聞いて良いですか」
つかさ「どうしたの、改まっちゃって?」
ひより「実は、このお稲荷さんの話しを漫画にしたのですが……私の話しをつかさ先輩が知らなかったと同じように私もつかさ先輩の話しを詳しく知りません、
    出来れば話して欲しいのですが……良いですか?」
つかさ「えっ、ま、漫画に……するの、私は構わないけど……皆が、特にお姉ちゃんが何て言うか、あの時の事、忘れていないでしょ?」
覚えている。
ひより「でも、この案を考えたのはゆたかです、」
つかさ「ゆたかちゃんが……」
ひより「それに事前に許可を得れば何も問題ない、皆が反対したら是非つかさ先輩に説得の手伝いをしてもらおうと思って……当事者の一人が賛成すれば説得力がでるでしょ?」
つかさ「でも……ひろしやすすむさん、ひとしさん、まなぶさんが何て言うか……だたでさえ正体を知られるのを嫌がっているし」
ひより「彼らはもう人間なのですよね、お稲荷さんじゃないでしょ」
つかさ「え、う、うん、そうだけど……」
困惑するつかさ先輩だった。

『ガチャ!!』
お店の玄関が開いた。今日は貸し切りって聞いていたけど……
こなた「やふ~、ひよりん、早いね……」
ひより「泉先輩……久しぶりです」
つかさ「いらっしゃい」
泉先輩は不機嫌な顔をした。
こなた「ひよりん、もう先輩は止そうよ、それにね、上の名前で呼ばれちゃ未婚だってバレちゃうでしょ」
ひより「へ~先輩もそんな事気にするようになったんだ」
こなた「う、うるさ~い、ひよりんには言われたくない!!」
今日呼ばれたメンバーで未婚なのは私、泉先輩…そしてゆたか……の三人だけ。
あのかえで店長も結婚をした。そのせいもあるのだろうか、最近は泉先輩も気にするようになったようだ。
つかさ「別に良いじゃない、結婚が全てじゃないよ」
こなた「結婚して幸せいっぱな人に言われても説得力ないよ……で、二人で何を話していたの?」
相変わらず切り替えの早い泉先輩。
つかさ「ひよりちゃんがね……お稲荷さんの話しを漫画にしたいって……プロになったのだし、あの時みたいな冗談じゃ済まないと思うの」
私よりも先に話されてしまった。つかさ先輩も切り替えが早くなったな……
泉先輩の目が輝き始めた。
こなた「私に内緒でそんな面白そうな企画をするなんて、つかさの話しなら私に聞くべきじゃないかな、つかさじゃ肝心な所が抜けるから」
つかさ「こ、こなちゃん……まだ決まった訳じゃなくて……」

『ガチャ!!』
ゆたか「こんにちは~お久しぶりです……えっ!?」
店の扉が開いた。ゆたかが入るな否や泉先輩が駆け寄った。ゆたかは驚いて一歩下がった。
こなた「ずるい、私に内緒で漫画を描くなんて、何で私をスタッフにしないのさ、私の大活躍の場面をいっぱい、いっぱい入れようよ」
ゆたか「え、ひ、ひより、もしかして、もう話しちゃったの?」
ゆたかは驚いた顔で私を見た。
ひより「い、いや、何て言うのか、タイミングが悪かった……本当はつかさ先輩だけに……」
つかさ「ゆたかちゃん、ひよりちゃん本当に良いの、お稲荷さんの話しを物語にするには二人の失恋を……あっ!!!」
慌てて両手で口を塞いだ。しかしもう遅かった。泉先輩が聞き逃すはずはない。
こなた「しつれん……失恋だって……」
益々目を輝かせてゆたかと私に駆け寄った。
こなた「そんな話は初耳だな……どう言う事かな……お二人さん」
つかさ「ご、ごめんなさい……つ、つい……」
顔の前で両手を合わせて謝るつかさ先輩。
ゆたか「別に構いませんよ、内緒にするつもりはありませんから」
あっけらかんと答えた。私はゆたかのその表情を見て愕然とした。どう言う事……
ゆたか「私……五年前に彼に会って、その時の気持ちを話した、彼、全く気付いていなかったって驚いた……でもね……彼はそれでもやっぱりいのりさんを選んでいたって……」
微笑みながら、恥じらいも無く淡々と話す。あの時のゆたかが嘘のようだ。
こなた「彼って誰……いのりさんが好を選んでいたって……え、え……ま、まさかゆーちゃんの好きだった人って……」
ゆたか「そう、佐々木すすむさん」
泉先輩は絶句した。
つかさ「ゆたかちゃん……」
ゆたか「一時は落ち込んで……苦しくて、泣いて、もがいていたけど、初恋の殆どは実らない……どうにもならない事がこの世にはあるって、そう割り切れた……」
ゆたかにとってあの時の出来事はもう過去の話し。ただの思い出になったと言うのか。
私はゆたかが結婚しないのはまだ失恋を引き摺っているのだと思っていた。違う……ただ縁がなかっただけ……
十年も一緒に仕事をしていて、同居して気付かなかった……
こなた「それで、ひよりんは……どうなの?」
ひより「私?」
……私が好きだったのは宮本まなぶ……い、言えない。ゆたかのように言えない。何故……
こなた「なにもったいぶっっちゃって、ひよりんらしくない」
ひより「い、いや、なんて言うのか、その、あの……」
だめだ、やっぱり言えない……どうして、あの時、私だって割り切れた。そうだったはず。

『ガチャ』
かがみ「オース……」
みゆき「こんにちは」
かがみさんとみゆき先輩……
みゆきさんはあれからお稲荷さんの薬を作ろうと日夜研究している。ところがつかさ先輩は作った方法を記録に残していなかったので全く研究が進んでいない。
でも、最近はすすむさんが手伝ってくれている。すすむさんは薬の化学式を知っている。それをみゆきさんに教えたそうだ。でも答えは分かっていても
どうやって合成するのかが見当もつかないらしい。ただつかさ先輩はたかしから教えてもらった材料だけは覚えていたのでそれをヒントに試作をしていると聞いた。
もし、あの薬が完成すればノーベル賞は確実。ガンバレみゆき先輩。
みゆき先輩は研究所で知り合った人と結婚した。
つかさ「ゆきちゃん、今日は来られないって聞いたのに……ありがとう」
みゆき「つかささんの初演ですものね、行かない訳にはいけません」
こなた「やふーかがみ、おひさ」
泉先輩はかがみさんのお腹をじっと見ている。
かがみ「な、何だよ、会うなり失礼だろ!!」
こなた「……三人目……だったかな」
かがみ「四人目よ、そ、それがどうかしたか」
こなた「お盛んですこと……ねぇ、みゆきさん」
みゆき先輩はクスリと笑った。
みゆき「羨ましいかぎりです」
かがみ「盛んで悪いか……って、みゆきまで……」
こなた「まぁ、かがみがエロいのは最初から分かっていたけどね」
かがみ「なんだと、さっきから聞いていれば、私が妊娠する度に同じ事を言っているじゃない……もう許さない」
泉先輩はお手上げのポーズをした。
こなた「懲りないね~」
かがみ「一回殴らないと気がすまない……」
かがみさんは拳を振り上げた。
こなた「あ、あ、そんなに怒ると、お腹の赤ちゃんに障るよ……」
かがみ「う・る・さ・い」
こなた「キャー」
ゆたか「かがみ先輩、危ないですよ」
みゆき「ふふ、泉さん……」
泉先輩は逃げ出した。それを追いかけるかがみさん。お店を所狭しと追いかけっこをし始めた。それを楽しそうにみゆき先輩とゆたかが見ている。
ふとつかさ先輩をみると目が潤んでいる。私が見ているに気付いたつかさ先輩は慌てて人差し指で目を拭った。
ひより「どうかしましたか?」
つかさ「うんん、何でもない……何時になっても私達って変わらないなって……真奈美さん……お稲荷さん達と出会っていなかったら、お姉ちゃんとこなちゃんは追いかけっこなんか
    していなかった……そう思ったら自然に涙が」
かがみさんは自分の旦那がお稲荷さんであるとことをもう既に知っている。驚くことも無く、恐れることも無く、ただ自然に受け入れたと……。
つかさ「私、今思ったのだけど、ゆたかちゃんはひよりちゃんの為に漫画の企画をしたかもね」
皆はかがみさんと泉先輩の死闘に夢中になっている。私とつかさ先輩だけで話している状態になっていた。
ひより「私の……為に……ですか」
つかさ「まなぶさんの正体を知らないのはまつりお姉ちゃんだけなの……こなちゃんの言うように私では伝わらない、どうかな、
ひよりちゃんからまつりお姉ちゃんに全てを話してもらえないかな……コンは亡くなったって事になっているし……」
ひより「それならかがみさん、いのりさんでも……泉先輩でも」
私は透かさず帰した。
つかさ「うんん、身内の話しは親身に聞いてくれない……それにこなちゃんはコンに一切関わっていないでしょ……恋の話しは話す、話さないはひよりちゃんの自由だよ」
ひより「で、でも……」
何故か素直に引き受ける気になれない。
つかさ「無理にとは言わない、まだ時間はあるからゆっくり決めて……」
そう言うとかがみさんと泉先輩の方に駆け寄っていった。
つかさ「お姉ちゃん、こなちゃん、もういい加減にして!!」
笑いと、怒号が飛び交う、何が何だか分からない締りのゆるい光景……確かにあの時のまま、何も変わらない……そして、私も……
いや、私は変わってしまった。もうこのゆるい空間には入れない……
私は皆に気付かれないように店を出た。

ひより「ふぅ~」
溜め息をついた。折角つかさ先輩が呼んでくれたけど、ピアノの演奏を聴ける状態じゃない。帰ろう。
「田村さん?」
駅に向かって歩き出して暫くして私を呼ぶ声がした。振り向くとかえでさんだった。
ひより「こ、こんにちは……お久しぶりです……」
かえで「久しぶりね、半年ぶりかしら……たまには私の店にも来てよね、っと言っても忙しそうね……漫画の連載をしているって聞いたわよ」
ひより「そんな事ないですよ、今度食べに来ますから……」
かえで「ところで、つかさに呼ばれたのよね、何故反対方向に?」
ひより「え、えっと……用事を思い出しましたので帰ろうかと……失礼します」
私はかえでさんに会釈をして立ち去ろうとした。
かえで「まちなさい……本当に失礼だわ」
叱り付ける様な厳しい声だった。背筋が伸びて立ち止まった。
かえで「貴女、つかさの友達でしょ、演奏を聞く前に帰るって……何の用事なの、親でも亡くなったか」
ひより「い、いいえ……」
かえで「それなら問題ない、戻りましょ」
ひより「……い、いいえ、戻れません、このまま帰ります……」
かえでさんは溜め息をついた。
かえで「つかさが何故演奏会をするのか知っているのか?」
ひより「知りません……」
かえで「別れた親友が好きだった曲……店を切り盛りして、しかも子育てをしながら練習した曲よ、それを聴かずに帰るのか?」
別れた親友……誰だろう。別れたって……少なくとも私の知っている人ではない。
ひより「親友って誰です、お店のスタッフの人ですか」
かえでさんは首を横に振った。そして空を見上げた。
かえで「彼女ははるか彼方……そしておそらくもう二度とつかさと会うことはない、生きている間はね……」
空を見つめて……はるか彼方……宇宙……そうか……
ひより「故郷に帰ったお稲荷さんですか……もう地球の事なんか忘れますよ……私達より遥かに進んだ世界、きっとパラダイスでしょうから」
かえでさんは首をまた横に振った。
かえで「彼等の故郷は災害に見舞われて危ないらしいわ……彼らは故郷を救おうと必死になっている」
ひより「まさか、お稲荷さんの知恵と技術があれば必死になる事なんかないですよ」
かえで「どんな災害かは聞いていない、例え聞いても私には理解できないかもしれない、それとも自らの過ちが招いた悲劇か、どちらにしても自然は計り知れないわ、
そして彼等も万能ではないって事……同じ災害が我々人類に来ない事をいのるばかりね……つかさはそんな友人を想いピアノを弾こうとしている……聴いてみる価値はあるわよ」
かえでさんってこんな感性を持っているのか……意外な一面を見た。料理人としてのかえでさんしか知らなかったので新鮮に感じた。
でも……答えは変わらない。
私は首を横に振った。
かえでさんは私をじっと見た。
かえで「よく似ている……私の古い友人もそうだった……その未練たっぷり表情がそっくりだわ……」
……私は顔を隠すように俯いた。
かえで「……その友人はもうこの世にはいない……自ら命を絶った」
辻さんの事を言っているのか
ひより「わ、私は……そんな事なんかしないです」
かえで「それなら行きましょう」
ひより「い、いいえ……」
かえでさんは店の方向を見た。
かえで「分からず屋ね、それじゃあの子に頼もうかしら」
私はかえでさんの見ている方向を見た。
ゆたか「ひより~」
ゆたかが私の名前を呼びながら走ってきた。息を切らしている。ずっと此処まで走ってきたのか……
ゆたか「ハァ、ハァ……どうしたの、急に居なくなっちゃって……つかさ先輩も心配しているよ」
かえで「演奏も聴かないで帰るってさ……」
ゆたかはかえでさんを見て会釈した。そして直ぐに私の方を向いた。
ゆたか「ど、どうして……」
私は何も言わない。言えなかった。
かえで「私じゃ手に負えない、後は頼むわ、先に行ってるわよ」
ゆたか「はい……」
かえでさんはゆたかの肩を軽く叩くとそのままつかさ先輩の店に向かって行った。

ゆたかは直ぐ近くの公園に私を連れて行った。
ゆたか「どうして?」
同じ質問をしてきた。
ひより「それは私が聞きたい、もう忘れかけていたいたのに……蒸し返すなんて酷いよ」
ゆたか「私は……」
ひより「可笑しいよね、完全に振り切った筈なのに……笑い話には出来ない、あの場所にいると惨めなだけだよ」
ゆたかは何も言わなくなった。慰めの言葉は今の私には辛く苦しめるだけ。
ひより「帰る、そろそろ演奏始まるよ……ゆたかも戻った方がいい」
私はゆたかから離れた。
ゆたか「人一倍の好奇心、どんな危険を冒してでも自分の好奇心を満たすために探求する」
私は立ち止まった。ゆたかは更に話した。
ゆかた「遠目でただ観察しているようで気が付くと自分からのめり込んでしまって身動きが取れなくなってしまう不器用な子」
ひより「な、いきなり何?」
ゆたか「高校時代、ひよりはよくこんな事を言っていたよねキャラの分析……でもね、一人だけ言っていない人が居るのを知っている?」
ひより「……いや、ネタ帳に私の知人は全て書いた……最近会った人は忙しくて書いていない」
ゆたかは歩いて私に近づいた。そして人差し指を私の胸に向けた。
ゆたか「ひより、自分の事は一言も言わなかったね」
ひより「自分の事……書く必要なんかないよ、私は私だよ……」
ゆたかは私に顔を近づけにっこり笑った。
ゆたか「……二年前にアシスタントなった小島さん、好きなんじゃないの?」
ひより「な、何をこんな時に……好きじゃない……彼とは仕事で付き合っているだけ」
ゆたかは首を横に振った。
ゆたか「やっぱり、何も分かっていないね……だからまりさんに先を越されちゃうの」
カチンと来た。
ひより「勝手にそう思ってればいい、お稲荷さんの話しはゆたか一人でやれば……私はもう協力しないから」
ゆたか「そうやって気付かない、自分が傷ついているのさえ気付かない、人一倍傷つき易いのに……かがみ先輩の時も、いのりさんの時もそうだった、そんなに傷だらけになって……」
ゆたかの目に光るものが……
ゆたか「かがみ先輩を救ったのはつかさ先輩じゃない、ひよりだよ、いのりさんとすすむさんを結んだのも、まつりさんとまなぶさんも……そして私も救ってくれた」
ひより「ゆたかを救った……私が?」
ゆたか「うん……ひよりの好奇心は全部外に向けられちゃって、自分には全く関心ないみたい、だから人が出来ないような無茶をする、
    普通は逆なのに、私にはそんな真似出来ない、うんん、つかさ先輩だってかがみ先輩だって出来ない……凄いよね、憧れの人は直ぐ側に、目の前に居た、
それに私に物語を作る才能があるのを見つけてくれたのもひより、私はひよりから沢山の物を貰った……」
私はそんな事をした覚えもつもりもない。でも、ゆたかの流している涙は嘘をついているようには見えなかった。
ゆたか「外に向けられた好奇心、それの十分の一、うんん、百分の一でも自分に向けてみて……そうすれば今、何をすべきかわかると思う」
自分に好奇心があるのは知っている。それに自分の分析は何度もしている……今更そんな事をしたって……
ひより「私はもう戻れない……」
ゆたかは目を拭うとにっこり微笑んだ。
ゆたか「そう、それも良いかもね」
ひより「それじゃ先に帰っているよ」
私は立ち上がった。
ゆたか「あっ、そうそう、つかさ先輩が演奏する音楽はラヴェル作曲、亡き王女のためのパヴァーヌ」
ひより「ラヴェル……クラッシック、難しそうだね」
ゆたか「うん、彼が若かった頃の作品……逸話があってね……彼は晩年、交通事故で記憶を失ってしまって作曲活動ができなくなってしまったの、ある日、たまたまこの曲を聴いた彼が
    素晴らしい曲だね、誰が作曲したのか……そう言ったって……ネタかもしれないけど……でもその曲はこの話しを納得させるだけの力があるよ、
    オーケストラ用にも編曲されているけど、私はピアノの方が好き」
ひより「……なんでそんな話しを?」
ゆたか「記憶を失っても自分の作曲した曲をすばらしいと言った……人の感性や好みや性格って記憶で決まるものじゃないって……私はひよりの記憶を奪った……だけどそれは
    私の目的にはまったく意味のない行為だった……それが分かったから、ひよりも聴けば何か分かると思って……話した」
ゆたかは腕時計を見た。
ゆたか「もうシナリオは出来ているよ、主人公はつかさ先輩とひよりがモデル……ひよりが手伝わないのは残念、私の話しをイメージ化して漫画に出来るのは
    ひよりだけだから……あ、もう戻らなきゃ」
ゆたかは走って公園を去っていった。もっと話しを聞きたかったのに……

 公園を出て私は分かれ道で止まった。
駅へと続く道……家に帰る道。もう一方はつかさ先輩のお店へと続く道……
何故立ち止まる。私はもう帰るって言ったのに。駅に向かえばいいじゃないか。でも、私の中のもう一人の私が帰るなと言っている。
かえでさんとゆたかの言葉が頭の中で何回も繰り返して再生される。
私は……どうすればいい……いや、私ならどうする。
自分に問うか……そういえばみゆき先輩もそんな事いっていたっけ。
もちろん面白い方を選ぶに決まっている。とっちが面白い……
このまま帰れば締め切りが近い漫画の仕上げをすることになるか……
亡き王女のためのパヴァーヌ。どんな曲なのだろう。そしてつかさ先輩はちゃんと弾けるのだろうか。興味が湧く……それを確かめるだけも……
ひより「ふふ、分かった、悩む必要なんか無かった、こんな時、私なら行く場所は決まっている」
年甲斐も無く独り言を呟いた。まだ間に合うかな……
私は走り出した。

 お店の入り口にゆたかが立っていた。
ひより「まだ……間に合うかな……」
ゆたか「待っていたよ、来ると思ってた」
笑顔で話すとゆたかはドアを開けた。
ゆたか「どうぞ、皆も待っているよ」
店に入るとテーブルは片付けられていた。そして椅子がピアノを囲むように並べられていた。そこに皆が座っている。そしてピアノの席にはつかさ先輩が座っている。
ピアノはこの日のために買ったそうだ。この演奏が終わった後はこのままこの店に置き定期的にみなみが来て演奏をするらしい。
みさお「これで全員だよな……早く始めようぜ」
気付くとみさお先輩、あやの先輩も来ている……私は空いている席をみつけて座った。かえでさんと目が合った。彼女は頷くとつかさ先輩の方を向いた。
ゆたかがつかさ先輩に合図を送った。
つかさ「今日は皆来てくれてありがとう……私がこの曲を弾くのは、別れた友人の為、亡くなった親友の為……そして、なによりひよりちゃんに聴いてもらいたい」
私……に
つかさ「まだ少しぎこちないかもしれないけど……聴いてください」
つかさ先輩はみなみ方を向いた。みなみはつかさ先輩に向かっておおきく頷いた。そしてつかさ先輩も頷く。
椅子に座って大きく深呼吸、そして目を閉じて精神集中……目を開けると両手をピアノの鍵盤に添えた……

 この曲……メロディ……聴いたことがある……静かな曲だった……
私がみなみの家に行った時に聴いた曲じゃないか……あの時の状況が……思い出が蘇って来る。
つかさ先輩はみなみと違って目を大きく見開いて鍵盤から一時も離さずに見ている。目を閉じる余裕がない。身体もすこし強ばって緊張しているのが私にも伝わるほどだ。
必死に弾いている。みなみの時の様な優雅さは感じなかった。必死に……静かな曲とは対照的……
そう、あの時の私も同じだった。必死に考えて、考えて……行動していた。
でも……何だろう、あの時は静かな曲のイメージしかなかったのにメロディが私の心に染み込んでいくような……そんな感じがした。
私の目が自然に閉じていく……
真奈美さん、故郷に帰ったお稲荷さん達……もう二度と逢えない……そんな切なさが……つかさ先輩の想いが伝わってくる。
私は考えるのを止めて音楽に、陶酔したい。

つかさ「片付けまでさせちゃって……もう良いから皆帰って……」
演奏会が終わり私、ゆたか、かがみさん、泉先輩、かえでさん、あやの先輩が残って店の片付けをしていた。
こなた「良い音楽聴かせてもらったからこのくらいはしないとね」
かがみ「こなたにしてはまともな事言うじゃない」
こなた「この後のスィーツが楽しみだな~」
つかさ「分かってる、ちゃんと皆の分もあるから」
かがみ「やっぱり、それが目当てだったか……あんたは昔から変わんないな」
呆れるかがみさんだった。
つかさ「お姉ちゃんももういいから、これ以上動くと赤ちゃんに障るから……」
かがみ「この位なら大丈夫、この後、佐々木さんの整体で体調を整えるから」
話しは遅れたが佐々木さんはお稲荷さんが故郷に帰った後、整体院を再開して今日に至っている。いのりさんはもちろんその助手として働いている。町でも評判のオシドリ夫婦だ。
秘術は普段見せないが、病気で苦しんでいる人を見ると惜しげもなく使っている。そのおかげで整体院は大盛況だ。
こなた「そんな事言って、かがみもつかさのスィーツが目当てなんでしょ?」
かがみ「な、何でそうなのよ」
泉先輩は笑った。
こなた「ふふ、その仕草、図星だね、かがみも昔から変わらないじゃん」
かがみ「か、変わらなくて悪かったな!!」
皆が笑った
あやの「でも……お稲荷さんだなんて……今でも信じられない」
かえで「そうね、夢の世界って感じ」
あやの先輩はワールドホテルに出店している喫茶店で働いていた。しかしけいこさんが逮捕、謎の失踪をしてからはレストランかえでで働くようになった。
泉先輩が引き抜いたそうだ。お稲荷さんの話しを最初は信じなかったが。すすむさんやひとしさんに会うと信じるようになった。
ひより「最後のテーブルの位置、ここでいいですか?」
つかさ「そこでいいよ……ありがとうこれで全部元通り、約束通りケーキをご馳走するね」
あやの「私はコーヒーを淹れる」
二人は厨房へ向かった。

 ケーキとコーヒーが皆に振舞われた。
こなた「ひより、演奏会前と違って元気があるじゃん」
ひより「……そうですか、あまり変わりませんよ」
かがみ「そうね、なにか吹っ切れたような清清しさがあるわね……つかさのピアノで何か変わった?」
変わった、確かに変わった。十年間のもやもやしていた雲が晴れた。
ひより「つかさ先輩、私、まつりさんに話しますよ……全て」
つかさ「ほ、ほんとに……」
ゆたか「ひより……」
つかさ先輩とゆたかの二人の表情を見て泉先輩が首を傾げた。
こなた「まつりさんに何を話すの」
ひより「まつりさんに、お稲荷さんの話しをする、そしてまなぶの正体を話す、彼は昔コンだった……って」
さらに泉先輩は首を傾げた。
こなた「その話しをするのに何故つかさとゆーちゃんが驚かなきゃならないの?」
ひより「それは……私がまなぶを好きだったから」
こなた「な~んだ、好きだったんだ……え」
かがみ「なっ!?」
かえで「え?」
あやの「うそ?」
四人は仰け反るように驚いた。
かがみ「ちょと、あの時言ったわよね、あれは間違いだって……なぜ、嘘をついたの……」
ひより「嘘はついていません、あの時点では……まつりさんとまなぶをくっ付けようとしているうちにまなぶの魅力に気付いてしまった、ミイラ取りがミイラっスね……
    十年前、私は彼に告白をした……それで終わったと思っていた、でも、それは思っていただけ、私未だ心の整理がついていなかった……」
私はゆたかの方を向いた。
ひより「つかさ先輩の演奏を聴いて分かったよ、私は確かに小島さんが好き、だけどまなぶのミッションを終わらせないと先に進めない……まだ途中だった」
ゆたかは何度も頷いた。
こなた「ま、まさかひよりんが恋愛を語るなんて……」
泉先輩はあんぐり口を開けて呆然と私を見ていた。
かがみ「い、いや、私がもっと早く気付いていれば、もっと違った展開があったかもしれない」
ひより「かがみさん、タラレバはもう止めて下さい、私は私なりに全力だったのですから……」
そう全力だった……
ひより「ゆたか、私の最後ミッションが終わった後、小島さんにアタックするつもりだけど」
ゆたか「何で私にそんな話しを私に?」
泉先輩は私とゆたかを交互に見てオロオロしだした。
ひより「い、いや、もしかしてゆたかも好き……なんて事はないよね?」
もう三角関係は嫌だ、ここははっきりしておく。
ゆたかはにやりと笑った。
ゆたか「ふふ……私が本当に好きだったら、愛していたら黙っているよ……ひよりに先を越されないようにね」
……そうだった、ゆたかは恋の為なら手段を選ばないのを忘れていた。要らない心配だった。
ひより「ふふ、そうだったね」
私も笑って帰した。
こなた「……ゆ、ゆーちゃん、なんか恐い……ど、どうしたの……なんかすごく挑戦的だよ……そんなのゆーちゃんじゃない……」
かがみ「それだけゆたかとひよりが成長したって事よ……あんたもいつまでも二次元に逃げていないで少しは現実に帰ってらどうなのよ、そうしないと何時までも独り者よ」
こなた「う、うぅ……」
唸り声を上げる泉先輩、言い返せない。こうなったらかがみさんの独壇場だ。
かがみさんは横目で泉先輩をじっと見る。
かがみ「そうやって黙って座っていればまずまずなのにね……ふぅ」
溜め息を付くかがみさん。
かえで「いやいや、どう見てもまだお子様でしょ……」
追い討ちをかけるかえでさん。
かがみ「もう三十路を超えているのにお子様なんて……こなたってお稲荷さんじゃないの、本当は幾つなの?」
ここぞとばかりに畳み掛けるかがみさん。
こなた「……う、うるさ~い、女は三十路からが良いんだよ!!」
叫ぶと目を潤ませて私とゆたかにに駆け寄ってきた。
こなた「私に彼氏を……愛のキューピット様……」
私とゆたかは顔を見合わせた。
ひより・ゆたか「お断りします!!」
こなた「そんな……」
かがみ「無理を言うな、彼氏が居ないのにどうやってくっつけるんだ」
皆、笑った……私も笑った。こんなに笑ったのは久しぶりかもしれない。

110こなた「うぅ……ひよりん……ひよりんだけは仲間だとおもっていたのに……」
ひより「あ、あの、まだ告白もしていないのに……気が早過ぎますよ……」
泉先輩はゆたかの方を向いた。
こなた「ゆーちゃんは、ゆーちゃんは居るの?」
ゆたか「……はい、心に決めた人ならば……」
泉先輩は絶句して硬直してしまった。
あやの「誰なの……その人は?」
ゆたか「出版社のマネージャの……」
ひより「え、まさか田所さん?」
ゆたかは顔を赤くして頷いた。
ひより「……あの人苦手だな……締め切り厳しいし……」
ゆたか「そんな事ないよ、とってもいい人だよ」
かえでさんが急に立ち上がった。
かえで「田村さん、小早川さんの恋が実るように、そしてこなたに彼氏ができるように……はなむけにワインを持ってくるわ、丁度三十年物が手に入ったのよ、皆であけましょ」
つかさ「え、手に入るの大変だったて言っていたけど、いいの?」
かえで「今出さずして何時だすのよ、グラス用意しておいて」
かえでさんは店を出て行った。隣のレストランに取りに行ったにちがいない。
つかさ「あのワイン、店で出すためじゃないのに……」
ワイングラスの準備しながら話すつかさ先輩。
あやの「え、出すためじゃないのなら何の為のに、私はてっきりお得意様のためかと……」
つかさ「旦那さんと一緒に飲むために買ったの、かえでさん忙しくて結婚式していないから……」
ゆたか「そんな大事なワイン飲めないよ……」
かがみ「それなら私は飲まないわ、お腹の赤ちゃんも居るしね、こなた達は分けてもらいなさい、かえでさんの結婚を祝うワイン……三人のはなむけにピッタリよ」
あやの「そうね、私も止めておく、車だしね」
つかさ「それじゃ二人は葡萄ジュースにしておくね、乾杯の時用に」
つかさ先輩は冷蔵庫からジュースの瓶を取り出した。それと同時にかえでさんが戻ってきた。
かえで「フランス、ボルドー産の三十年物よ」
こなた「……そんな事言われても分かんないよ、早くちょうだい」
かえで「こらこら、慌てるな、コルク栓を開けるところが良いのよ、見ていなさい」
かえでさんはコルク栓に栓抜きを慣れた手つきで差し込むと引っ張った。
『キュー シュポン!!!』
綺麗な音と共にコルク栓が取れた。つかさ先輩がグラスを持って来た。
かえで「いい香りね……」
ワインをグラスに注ぐ。三分一くらいの量だった。
こなた「けち臭いな~」
かえで「本来ワインは香りを楽しむものなのよ……足りなければまた注ぐわよ」
グラスをつかさ先輩が皆に配った。
かえで「つかさの演奏を聴いて思った事がある……私はつかさに会わなければ自分の店を持とうとは思わなかった、そしてこの町でまた店を開くなんて思いもしなかった、
    そして……ここに居る皆は知っているようにお稲荷さんとの出会い……不思議ね、田村さんと小早川さんもそうでしょ」
ゆたか「はい、彼らとの出会いが無ければひよりと同じ仕事をするなんて無かったかもしれません」
こなた「私もつかさと同じ仕事をするとはね……」
かがみ「私はひとしと一緒にはならなかった……」
かえで「一つの出来事が与える影響は大きい、本人が自覚していなくても何かをすれば水面に投げた石の波紋の様に広がっていく、これからもきっとそうなるわ、
    良い事も、悪い事もね……これまでの事に感謝しつつ、三人のこれからの門出に……乾杯」
皆『乾杯』
こなた「うげ~何この味……しぶい……これならボジョレーヌーボの方が飲み易いや……」
泉先輩が今にも吐き出しそうな顔をしている。
かがみ「バカね、その渋みが良いんじゃないの……まだまだお子ちゃまには分からない味ね」
かえで「こなた、もう少し味覚を鍛えなさい、それじゃホール長としては落第よ」
こなた「かがみとかえでさんが居るとやり難いよ~つかさ~何とかして~」
つかさ「ワインは料理にもお菓子にもつかうの……こなちゃん、私もそう思う……もう少し味覚を……」
こなた「えー」
泉先輩がいうように少し渋かった。大人の味と言われればそれまで。泉先輩は自分の気持ちに正直すぎる。それが子供と言われてしまうのかもしれない。
だけど……それが泉先輩の良い所でもある。同じ物が長所にも短所にもなるなんて。
面白い。やっぱり戻ってきて正解だった。私は久しぶりにネタ帳を手に取った。
シナリオはゆたかだけに書かせるのは勿体無い。私も参加させてもらう。
つかさ「それよりお姉ちゃん、独立するって聞いたけど」
かがみ「子供が生まれて落ち着いたら、ひとしが準備をしている」
かえで「それは初耳ね、よ~し、今日は前祝だ、店からお酒もってくるから」
つかさ「ちょ、今日は飲み会じゃ……」
制止する間もなくかえでさんは出て行った。
つかさ「しょうがない、おつまみも用意しないと……」
ひより「演奏会、良かったです、私の中が変わりました」
つかさ「ありがとう」
つかさ先輩は厨房へと向かって行った。
それから夜遅くなるまで下ネタから宇宙論までまったく何を話しているのか分からなく程いろいろな話しをした。

 数週間後……
まつりさんとまなぶ。まなぶは自分の能力を活かして通訳の仕事をしている。全世界を股に掛けて飛び回る……わけではなく、日本に来る外国人の通訳として働いている。
なんでもまつりさんが日本を出るのが好きじゃなかったらしい。彼らは何時も行動を共にしている。この時点で彼等の仲の良さがうかがい知ることが出来る。
実家の近くに住まいは在るけど在宅しているのは月に数日程度。二人を捕まえるのには一苦労した。
私は二人に会うために漫画の取材と言う事で約束をした。
ひより「すみません、お忙しい所を……」
まつり「別に構わないよ、それにしても久しぶりね、十年ぶりかしら……もしかしてコンの話し……もう亡くなって九年目かな……懐かしい……
    あ、感傷に浸っている場合じゃないね、何処まで話したか忘れた、どこまで話したっけ?」
ひより「コンの記憶が戻ってすすむさんが引取りに来るところまでですが……」
まつり「あ、あぁ、思い出した、よく覚えているね、そういえばボイスレコーダーで記録していたのを思い出した、今日は持ってきていないの?」
ひより「あれは帰って編集するのが思いのほか時間がかかるのですよ、だから最近はネタ帳に書くようにしています」
まつり「へぇ~プロになると色々大変ね……」
私は周りを見渡した。
ひより「あの、旦那さん、まなぶさんは……」
まつり「彼なら買い物に行った、直ぐに帰ってくると思うけど……何か用なの」
彼には事前に何を話すかを伝えてある。それでも居ないと言う事は……二人で話してくれと言う事か……。
ひより「いいえ、用はありません、話しを続けましょうか」
まつり「でもね~もう田村さんに全て話してしまったような気がして……もう取り立てて話すような出来事はないように思えるのだけど……」
ひより「本当ですか、亡くなった時の話とかはないのですか?」
まつりさんは暫く考え込んだ。
まつり「すすむさんから急に亡くなったと連絡が入った……」
その先をなかなか言おうとしない。
ひより「それだけですか……」
まつり「葬式をした訳でもない、すすむさんの所に行ったわけでもない……たった二年間育てただけだったから……ペットのと死なんてそんなものじゃないの……」
ひより「そうでしょうか、みなみの飼っていたチェリー、私の実家でも犬を飼っていましたけど、亡くなった時の喪失感は身内が死んだ時の様に……」
まつり「そう、そうなる筈、僅か二年でも柊家の一員として育てたつもりだった……それなのに、なぜか悲しくなかった、どうしてか分からない、
    失ったはずなのに、悲しくも淋しくもなかった……私って血も涙もないのかしら……」
まつりさんは理解していないだけで感じている。もう話しても大丈夫。そう確信した。
まつり「きっと子供が出来ないのはコンの呪いでもかかっているかもしれない……」
子供が出来ないって……まさかまなぶは人間になっていない……どうして……やっぱりお稲荷さんのままの方が長生きできるから……心底まつりさんを愛していない。
いや、人間になる事だけが愛じゃない……そんなのは分かっている。だけど……何故……
まつりさんのなんとも言えない表情を見て気付いた。
まなぶが人間にならないのは私のせいだ。私が告白して……でも私は未だに失恋を断ち切れていないから……だからまなぶが人間に成り切れない……
呪っているのは私だ……私は自分だけでなく二人の時間を止めてしまっていた。
その呪いを解くのは私でしか出来ない……ゆたか、つかさ先輩……そう言う事だったのか。
ひより「コンは亡くなっていませんよ」
まつり「私の心の中に生きているって言いたいの……そんなのは気休め……」
ひより「いいえ、コンは生きています、そして貴女の側にいつもいますよ」
まつり「え……な、何が言いたいの……」
ひより「思い出してください、まなぶさんと初めて会った時の事を、もうまつりさんは知っているはずです……心の奥底に封じてしまった記憶」
まつり「初めて会った時……記憶……」
まつりさんはじっと一点をみつめている。思い出そうとしている。
まつり「……あれは夢……夢だった……そんな事がある筈ない……おとぎ話じゃあるまいし……」
ひより「夢ではありません、まなぶさんが教えてくれますよ、もう真実を見ても倒れないですよね、そして今度ご家族に聞いてください、つかさ先輩、かがみさん、いのりさんのお話を」
まつり「つかさ、かがみ、姉さん……いったい何があると言うの……」
ひより「素晴らしい話ですよ……」
私は立ち上がった。
ひより「私の取材は終わりです、ありがとうございました」
私は礼をして部屋を出ようとした。
まつり「待って、……田村さん、もしかして貴女はまなぶを……」
まつりさんはそこで言うのを止めた。
ひより「もう十年も前ですよ、いままで私は何をしていたんでしょうね」
まつり「田村さん……」
ひより「止まっていた時間を動かしにきました……」
私は微笑んだ。
まつり「……ありがとう……」
私は礼をして部屋を出た。

 玄関を出るとまなぶが立っていた。
ひより「ごめん、もっと早くこうすべきだった」
まなぶ「いや、私にはいくらでも時間はあるけど彼女にそんなに時間はなかった……私からは頼めるものじゃなかった、ありがとう」
ひより「まつりさんに真実を見せるの……」
まなぶは頷いた。
最後に一つ聞きたかった。
ひより「それで、人間になるつもりなの……」
再び頷いた。
ひより「それではお幸せに……」
私は去ろうとした。
まなぶ「君から私ではない親しい人の感情を感じる……もしかして誰かを?」
ひより「分かっています……もう自分の心を誤魔化すのは止めました」
まなぶ「余計な質問だった、それなら安心だ、後から来る君の親友と共に幸運を……」
まなぶは玄関のドアを開けて家に入って行った。
後から来る親友……誰だろう。

 しばらく歩いていると向こうから人が近づいてきた。どんどん近づいてきた……ゆたか……
ゆたかは私の目の前で立ち止まった。
ゆたか「これで全てのミッションが終わったね」
笑顔で私に語りかけてきた。
急に目頭が熱くなってきた。涙が頬を伝わってきているのが分かる……この涙はあの時ゆたかが流した涙と同じもの……
私は十年も経ってやっとゆたかに追いついたというの……
結局私が一番鈍感で不器用だった……
ひより「いや、まだ終わっていない……ゆたかの企画、私も参加したい、いや、参加させて欲しい、演奏会の時は……手伝わないなんて言って……ゴメン……」
ゆたかは腕を組んで唸った。
ゆたか「どうしようかな~この企画に泉先輩とかがみ先輩も参加したいって言っているのだけど……」
かがみさんが参加したいって言っている……もうこの企画は通ったのも同じじゃないか。
ひより「どうしようかなって、漫画を描けるのは私だけなんだけど……」
ゆたか「漫画だけが選択肢じゃないよ、小説にすることもできるしね~かがみ先輩なら文章も上手だし、泉先輩は話しの展開が面白いよ」
ひより「い、意地悪……」
ニヤリと笑うゆたか。私にハンカチを差し出した。
ゆたか「取り敢えずその涙を拭いて、それから考えよう……連載を続けながらこの企画をこなすのはハードだよ、覚悟はいいの?」
ひより「二日や三日の徹夜ならいくらでも出来る……かな」
私はハンカチを受け取った。
ゆたか「それじゃ帰ろうか」
ひより「いやいや、このまま帰るなんて勿体無い、どこかで腹ごしらえしながら打ち合わせしようよ」
ゆたか「腹ごしらえって……どこが良いかな……」
ある。打ち合わせに打ってつけの場所が。
ひより・ゆたか「レストランかえで!!」
ゆたか「行こう、行こう、食べ終わったら隣のつかさ先輩の店でデザート……」
ひより「いいね……」
いつの間にか涙が止まっていた。
ゆたか「私ね、かえでさんの取材をしたかった」
私の失恋は過去の思い出の中に。
ひより「ちょっと、走らなくても」
さてこれからが私の本当の旅が始まる。
ゆたか「時間は待ってくれないからね、急ごう!!」
私達は駅まで走って向かった。




 終

 以上です。
2スレほど重複してしまいましたが本文は重複していないと思います。失礼しました。

ひよりとゆたか中心で書いてみました。恋愛のもつれを表現するのが難しく時間がかかってしまった。実は恋愛物は苦手で表現できたか疑問です。
それにつかさ編との辻褄合わせで無理矢理な所が多数あったかもしれない。
つかさ編の補足にならない様にはしたつもりです。毎度の事ですが誤字脱字は脳内修正お願いします……・

実はこの物語の続きがあるのです。あると言っても漠然としたイメージしかないので書くかどうかは分かりません。
この話しはらきすたを大きく逸脱しているので不評ならこれで終わります。
それでも読みたい人なんて居るのかな。もし居たらコメントして下さい。反響がよければもしかしたら書くかもしれません。

よろしくお願いします。

>>78は2レスの間違えですね。すみません。



遅れましたが新スレを立ち上げました。

>>1
随分前からあるスレです。今後ともよろしくお願いします。

2スレにまたがった作品があるので前スレを表示しておきます。
またシリーズ物なので過去作品を読みたい方はまとめサイトをご利用下さい。

前スレ↓

過疎スレですが地道に活動しています。
今後ともよろしくお願いします。


ここまでまとめた

今のところ避難所は要らないかな?

久しぶりに投下します。

>>77の続編 つかさの旅の終わり/ひよりの旅の続きです。

5レスほど使用します。



これは「つかさの旅の終わり」「ひよりの旅」の続編です

 レストランかえでが引越ししてから十年が過ぎた。
つかさ、かがみ……いのりさん、まつりさん……そしてひよりとゆーちゃん
お稲荷さんとの一件は四姉妹と結ばれることで終わった……

 終わった……本当に終わったの。
私にはいまひとつ釈然としないものを感じていた。何かは分からないけど、このままでは終わらないようなそんな気がして成らなかった。
私自身もこの件に絡んだせいなのかもしれない。確かにあの頃はワクワクしていた。面白かった。楽しかった。
ゲームの様な感覚が現実に起こった

……もしかしたらそんな思いが再び起こるのを心の奥底で望んでいただけなのかもしれない。


あやの「おはよう」
こなた「おはよ~」
あやのが私をじっと見ている。
こなた「顔に何か付いてる?」
あやの「うんん、最近ノリが悪いな……なんてね」
こなた「いやいや、いたって普通だよ……でもね~」
あやの「でもね?」
首を傾げて言い返してきた。
こなた「最近刺激がなくて、張り合いがなくなってきた」
あやのは目を上に向けて少し考えた。
あやの「そうかな、かえで店長が結婚してからお客様も増えたし、忙しくなってきたし……新メニューも続々と……」
こなた「うんん、仕事じゃなくてね……なんか物足りないと言うのか……なんだろうね……分からない」
あやの「なんだろうねって言われても本人が分からないのに私が分かるわけないじゃない?」
こなた「ふふ、そうだった、もうこの話は止めよう、着替えてくるね」
私は更衣室に向かおうとした。
あやの「ちょっと待って、最近ひーちゃんのお店行っていないでしょ、すぐ隣なんだしたまに覗きにでもいってみたら、ひーちゃん淋しがっていたよ」
あやのは最近になってコーヒーや紅茶の淹れ方をつかさの店にレクチャーしに行っている。
仕事が忙しくなってから、いや、そんなのは理由にならないか、演奏会が終わってからつかさには会っていない。
こなた「そうなんだ、今日、仕事が終わったら行ってみるよ」
『ガチャッ!』
更衣室からかえでさんが出てきた。
かえで「おはよう、今日も気合入れていくわよ!!」
こなた「そんな毎日気合入れていたら身が持たないよ~」
かえでさんは私を睨みつけた。
かえで「こなたは最近マンネリ化しているわよ、明日までに新しい企画を考えてくるように」
こなた「学生じゃあるまいし、宿題はお断りしますよ~」
私はそのまま更衣室に向かった。
かえで「相変わらずね……こなたは……」
あやのはクスクスと笑っていた。

更衣室で着替えながら考えた。
店長は結婚してからテンションが上がりまくっている。振られる身にもなって欲しいよ、まったく……
新しい企画か……
ホール長としてじゃなくてたまには料理の企画もしてみたいな……そうだ、つかさに相談してみるか。
今日は早番、仕事は夕方には終わる……

 

 仕事が終わり店の外に出ると直ぐ隣につかさの店はある。実家に戻ってからはつかさと同居はしていない。つかさに会うのは久しぶりだな。
夕方になるとスィーツを買い求めてくる客で賑わってくる。私が入っても大丈夫かな。
窓から店内の様子を見る。席は空いているようだ。私はつかさの店の扉を開けた。
ひろし「いらしゃいま………なんだ、お前か……」
私の顔を見るなり態度が変わった。ひろしは私を毛嫌いしているようだ。あの時、キスを邪魔したのをよほど根に持っているのだろうか。
こなた「今日はお客としてきたのに……その態度はないよ?」
ひろし「……いらっしゃいませ、奥にどうぞ」
感情がはいっていない。棒読みだ。
つかさ「こら、ダメじゃない、知り合いでもお客さんだよ……ごめんね」
私に気付いたつかさが厨房から出てきた。
こなた「うんん、別に構わないよ……」
つかさ「今度はちゃんと言って聞かせるから」
つかさはひろしを睨みつけた。するとひろしは肩をつぼめて私を席に案内した。
へぇ~つかさの方が強いのか……まぁそれだけ仲がいいって事なのかな。
つかさ「今日の分がもう少しで全部できるかちょっと待っていてね、そうすれば時間空くから」
つかさは忙しそうに厨房に戻って行った。

ひろし「どうぞ……」
注文もしていないのにコーヒーとケーキを持って来た。
こなた「頼んでいないよ?」
ひより「店長……つかさから、食べて待ってろってさ」
こなた「ありがとう」
ひろしはカウンターへ無愛想に戻って行った。
コーヒーを一口……この味は……スィーツに合う様に少し濃い目……それにコーヒーの温度……熱くもなく、温くもなく……丁度良い。
あやのの淹れるコーヒーと同じだった。なるほどね……スィーツは売れるけど喫茶店としては客が少ないのを気にしてあやのの技術を取り入れたのか……
ジャンルが違う店だからってこっちもうかうかして居られないか……
それにコーヒーを淹れたのはひろしか……

 ケーキを食べ終わる頃だったつかさが私の席に来た。私服に着替えている。仕事が終わったのか。
つかさ「おまたせ~」
こなた「仕事はいいの?」
つかさ「うん、もう明日の仕込みも終わったし、あとはスタッフにお任せだよ」
こなた「そう……」
ひろしがつかさにコーヒーとケーキを持って来た。でもケーキはこの店では売られていないものだった。
つかさ「ふふ、試作品なんだけど、食べてみる?」
私は返事をしていないけどつかさはフォークでケーキを半分にして私の食べ終わった皿にケーキを乗せた。
こなた「繁盛してるのに、研究熱心だね……」
つかさ「かえでさんの助言だよ、研究を怠るなって」
こなた「それはそれは……」
気のない受け答えをしてしまった。そして、徐にケーキを口に入れた。
こなた「……美味しい……マンゴーがアクセントになってる」
つかさ「ありがとう……それよりこなちゃん」
急につかさの顔が険しくなった。私は身構えた。急にどうしたの言うのか。
つかさ「なんで最近来てくれないの、かえでさん、あやちゃん、ゆきちゃん、お姉ちゃん達、ひよりちゃんやゆたかちゃんまでよく来てくれるに……」
別に特段の理由はない……敢えて言えば……
私は人差し指を立ててつかさの目の前に出した。
こなた・ひろし「だって、ゴールデンタイムのアニメに間に合わないじゃん……」
私の真後ろで全く同じタイミングだった。ひろしはニヤリと笑うとまたカウンターの方に行ってしまった。
つかさ「あははは、こなちゃん、相変わらずだね……でもね、さっきのはお稲荷さんの力を使わなくても……」
こなた「どうせ私は単純ですよ~」
少しすねた表情をみせるとつかさは大笑いをした。
こなた「どうもひろしと居ると調子狂うな~ 人間になってもお稲荷さんの力は無くならないのか……」
つかさ「うんん、徐々にだけどど力は弱くなっていくって……」
つかさの顔が悲しそうになった。
こなた「ご、ごめん、人間になったのはつかさが望んだわけじゃなかった……」
つかさ「うんん、これで良かったと思う……」
お稲荷さんの話しをするのはこのくらいにしておこうか。どのみちかがみと会っても同じような話しになる。
「こんにちは~」
話題を変えようとした時だった。店のドアから女の子が入ってきてつかさの所に近寄った。
女の子「お母さん、一緒に帰ろう」
すこし遅れて店のドアからみきさんが入ってきた。私と目が合うとみきさんは会釈をした。わたしも座ったまま会釈をした。
女の子はつかさの子供。小学2年生になった。名前はまなみ……
つかさ「今日は私の友達と会っているからおばあちゃんと先に帰って……」
まなみ「あ、泉のお姉ちゃんだ、こんどまたゲームを一緒にしようね」
こなた「あ、うん、容赦しないからね」
つかさの子供は私をお姉ちゃんと呼んでくれる、それに引き換えかがみの子供は……おばさんだもんな……
みきさんはひろしと話している。
こなた「何か約束でもしていたかな、何なら私は帰ってもいいけど……」
つかさ「うんん、別に気にしないで、そんなんじゃないから」
みき「まなみ……帰るよ」
まなみ「は~い それじゃお母さん、泉のお姉ちゃんバイバイ……」
まなみちゃんは私達に手を振るとみきさんと一緒に店を出て行った。
こなた「早いもんだ、もう小学生だよ……」
つかさ「そうだね……」
つかさは店のドアをじっと見ていた。
こなた「まなみって名前はやっぱり真奈美からとったの?」
つかさは黙って頷いた。
つかさ「今、私がこうしているのはみんなまなちゃんのおかげだから……」
こなた「それは私も同じ……直接会っていないけどね」
つかさ「私以外には誰も会っていない、かえでさんでさえ……」
つかさの目が潤み始めた。
 たった数日の出来事だった。その数日がつかさの人生まで変えてしまった。それに影響されてつかさに関わる人物の人生までて変わった。
私の知らない所でひよりとゆたかまで……

 つかさは立ち上がりピアノの前に座りあの曲を弾き始めた。亡き王女のためのパヴァーヌ
喫茶店に居る客は動作を止めてつかさの演奏するピアノに耳を傾けた。あの時の演奏会よりも上手くなっている。
弾ける曲はこの曲だけだって言っていた。ピアノが勿体無いと思ったけど定期的にみなみがこの店に来てピアノを演奏する。
この店はレストランかえでとは少し違った方向に向かっているのかもしれない。
演奏が終わると客が一斉に拍手をした。つかさは少し顔を赤くして照れながらお辞儀をした。そして席に戻った。
 
こなた「曲はよく分からないけど上手くなったのは分かるよ」
つかさ「ありがとう……ところで新作のケーキなんだけど」
こなた「直ぐにでもメニューに加えたら、私的には合格だね」
つかさは立ち上がって喜んだ。
つかさ「早速明日から加えるよ……」
私も立ち上がった。
こなた「それじゃ私は帰るよ」
つかさ「え、もう帰っちゃうの、もう少しゆっくりしていいのに」
こなた「いやいや、仕事が終わったなら早く帰ってまなみちゃんと一緒に居た方がいいよ、私は独り身だから自由だけど、つかさは違うでしょ」
なんて柄にもない事を言ってみたりする。何時に無く淋しそうなつかさだった。
こなた「職場もすぐ隣だし……今度から早番の時は何時も来るから」
私は身支度をした。
つかさ「こなちゃん……」
こなた「ん?」
つかさ「うんん、なんでもない……またね……」
なんだろう、つかさは何かを言いかけたような気がしたけど。途中で話しをやめるなんてつかさらしくないな。
こなた「またね」
その内容を聞いても良かった。聞くべきだった。そう思ったのは家に帰ってからだった。職場が近いから。いつでも会えるから。そんな思いがあったのかもしれない。
でも、実際は会おうとしなければ会えない。今日だって私が会おうと思わなければ会えなかった。
一期一会ってそう言うことなのかな?
おっと、私らしくもない事を考えてしまった。今度会ったら聞いてみよう。
『それじゃ一期一会じゃないだろ』
ふふ、かがみそう言うだろうな。そういえばかがみにも最近会っていない。仕事が忙しいとか言っていたな……そうか。
なるほどね、つかさが淋しがっていたのは私だけじゃない。かがみとも会っていないからか。
仕事に家庭に子育てか……それは忙しいな。
子育ては私にはないからその分余裕がある。だから……
「ふぁ~」
欠伸が出た。
こんな事考えていてもしょうがないや寝よう……



 そして数日後の事だった。遅番で出勤してきた私に突然の知らせが耳に入った。
こなた「え……雑誌の取材を受けるの?」
あやのの言葉に驚いた。あやのは頷くだけだった。
こなた「かえで店長が承知したの、どう言う気の変わり様だ」
あやの「私も今朝聞いたばかりだから……」
あやのは私の驚いた表情を見ると戸惑いはじめた。
こなた「取材を受けると客が増えて対応しきれなくなる、料理の質が落ちるから受けないって言っていたのに、最近は口コミで評判は上々のはずだよ、取材なんて要らないよ」
あやの「店長が取材を受けない理由ってそうだったの?」
こなた「うんん、直接聞いた訳じゃない、以前つかさから聞いた」
あやの「何か心境の変化でもあったんじゃないのかな、真相を知りたければ直接聞くしかないね……今事務室に居るから」
こなた「そうする」
私は事務室に向かった。
『コンコン』
ノックをして部屋に入った。
こなた「失礼します」
かえでさんは机に向かって何かの書類に目を通していた。私に気付いていないのか私の方を向かなかった。構わず話しかけた。
こなた「雑誌の取材を受けたって聞きましたけど、本当ですか?」
かえでさんは書類を見ながら答えた。
かえで「あやのから聞いたのか、その通り、来週の土曜日に決まった」
こなた「なぜです、取材拒否はポリシーじゃなかったの?」
かえでさんは書類を机に置いて私の方を向いた。
かえで「こなたは取材拒否については今まで何も言わなかったわね」
こなた「それはそうでしょ、記事を見てお客さんがいっぱい押し寄せたら忙しくてアニメやゲームが出来なくなる……」
かえで「ふふふ、こなたらしい、それで何も言わなかったのか、ふふふ」
しばらく笑った後、立ち上がって私に近づいた。
かえで「取材を受けると言っただけで記事を掲載するかどうかまでは許可していない、記者にはそう言ってあるわよ、それに、断りきれなかった……それだけよ」
こなた「断りきれなかった?」
かえで「確か来週の土曜、こなたは休暇だったわね、取材に参加しても良いわよ、それで、この話しはここまで」
かえでさんはそのまま更衣室に向かった。わたしも更衣室に向かった。
かえでさんが着替えを始めるのを見計らってから話しかけた。
こなた「かえでさん」
かえで「もう取材の話しは終わったはずよ」
少し怒り気味のかえでさん。まだ一度も聞いていなかった。この機会に聞こう。
こなた「いいえ、その話でなくて……」
かえで「なによ、急に改まって……」
私の表情を見てかえでさんは着替えるのを止めた。
こなた「つかさの洋菓子店を出している……かえでさんの夢はパテシエになる事って聞いたけど、独立して洋菓子店を出すのはかえでさんの方じゃなかったのかなって思って……」
かえでさんは一息深呼吸をすると着替えを始めながら話した。
かえで「そうよ、その通り、十年前、この町に引っ越す時にそう思った」
こなた「でも、そうなっていないよ?」
かえでさんは苦笑いをした。
かえで「私はつかさにこの店を全て譲るつもりだった……だけどつかさはそれを断った……それどころか独立したいと言いだした」
つかさに店を譲るつもりって……つかさってそこまで信頼されていたのか。今頃になって驚いてしまった。更にかえでさんの話しは続く。
かえで「つかさは思っていた以上に頑固ね、結局私が折れたわよ……それでつかさは洋菓子店を開いた、それも私の店の隣に……私の店もスィーツを出していると言うのに、
    これは私に対する挑戦よ……」
かえでさんは少し興奮気味だった。
こなた「ふふ、かえでさん、つかさにそんな意図はないよ、つかさはただ私達と一緒に居たいから……」
かえで「だから余計に頭に来るのよ、こっちは本気になっているのに、向こうはその気すらない……新作のケーキを出しているのにつかさの店の方が流行ってる」
なんだ、かえでさんはつかさに嫉妬している。こんなかえでさんを見たのは初めてだ。
こなた「まぁ、スィーツに関していえばつかさに勝てないでしょうね」
かえで「な、なにぃ!!」
かえでさんは私に襲い掛かるような勢いで近づいた。
こなた「だってみゆきさんでも未に作れないお稲荷さんの秘薬を料理の技術だけで作ったのだからね、誰でも出来るとは思わない」
かえでさんは立ち止まった。
こなた「それにつかさはかえでさんを今でも師匠として慕っている、この前会った時も、かえでさんの言い付けを守っていたよ、これもなかなか出来ることじゃないよね」
かえでさんは立ち止まった。
かえで「……そうね……」
かえでさんはまた着替えを始めた。そして私も着替えた。
かえで「こなた、あんたも変わったわね」
こなた「へ?」
かえで「十年前ならそんな話しなんかしなかった、仕事以外の事もしなかったわよね……今になってはこなたを目当てにくる客もいる、あやのをスカウトしたのも
    正解だった、コーヒーや紅茶のレベルが数段上がったわ……」
こなた「いやいや、そんなに褒めても何もでませんよ……」
かえで「……そうやってすぐ調子にのる所は変わらんな」
こなた「ははは……」
着替え終わったかえでさんが立っていた。料理長にしてレストランかえでの店長……コックの制服が映えてカッコいい……
かえで「さて、今日も頑張るわよ」
こなた「ほ~い」
かえで「その気が抜ける返事は止めなさい」
かえでさんは更衣室を出て行った。

 かえでさんはつかさに嫉妬していた。いや、ライバルだと思っている。これは逆に言うとつかさを対等の立場と認めているって事。
まさかあのつかさがね~
かがみもそれを幼い頃から知っていたからこそ学生時代は優等生でいなければならなかった……今になってそれが分かった……

 それにしても何故急にかえでさんは取材を受け入れたのだろう。つかさに対抗して……いや、そんな感じではなかった。あやのの言うように心境の変化なのだろうか。
結婚すると考え方も変わるって聞くけど……考えてもしょうがないか。
まぁいいや、さてと仕事、仕事っと……

 今日は私が最終退出者となった。いつものようにチェックシートに記入していた。
こなた「ガスの元栓OK、戸締りOK……っと」
最後に従業員用出入り口の扉を閉めて……
『ガチャ!!』
鍵の閉まる音、そしてノブを回して開かないのを確認。
これでやっと帰れる。
外は人通りも少なく夜も更けている。今日はちょっと遅かったな。
自分の車が停めてある駐車場に向かった。

 自分の車のドアを開けようとした時だった。
こなた「ん?」
駐車場に停めてある向かい側の車の陰から何かが出てくるのが見えた。街灯と街灯の間で暗くて見えない。小さい……犬?
いや野良犬は最近見ていない。狸かな……私は車の陰に隠れて小さな物を目で追った。
小さい物は駐車場の出口に動いたそして街灯の光が小さい物を照らし出す……
あれは……狐……そう狐だ間違いない。こんな町に狐……狸なら何度も見た事はある。だけど狐なんて……ま、まさかお稲荷さん……
狐は辺りをきょろきょろ見回して警戒している様にみえる。私は車に乗るのを止めてゆっくり音を立てないように移動した。

 お稲荷さんは柊四姉妹の夫になった四人を除いて全て故郷の星に帰った。そしてその残った者も全て人間になったはず。
つまり狐になれるお稲荷さんはこの地球には居ない。それじゃあそこに居る狐は何者。野生の狐が迷い込んだのか。いや。
引越しする前の町ならそれは在り得た。だけど此処はまがりなりにも都市郊外……だよね?
狐はゆっくり駐車場を出た。私もゆっくりその後を追った。狐は私の来た道を戻っていく……どこに行くつもりだろう。そして暫く付いて行くと狐は立ち止まった。
私は透かさず電信柱の陰に隠れた。狐は振り向いて私の隠れている電子柱の方を向いた。しまった、バレてしまったか?
狐は私の隠れている電信柱をじっと見ている。どうしよう。このまま駐車場に戻るか。
まてよ、もしあの狐が野生なら私が出て行けば逃げる。もしお稲荷さんなら何か別の反応をするかもしれない。私は電信柱の陰から出た。
こなた「や、やぁ」
狐は私と目が合うと後ろを向いて走り出した。
こなた「待って、お、お稲荷さんなんでしょ?」
狐は一瞬立ち止まったかと思うと直ぐに駆け出し暗闇に消えて行った。
この反応は……私の声に答えようとして止まったとも思えるし、声に驚いて止まったとも思える……微妙だ。暗くてよく見えなかったけどただの野犬なのかもしれないな……
こんな所で時間を食ってしまった。早く駐車場に戻るか……あれ、此処は……

 気付くと私はつかさの店『洋菓子店つかさ』の目の前に立っていた……これって
偶然なのかそれとも……地球に残った五人目のお稲荷さん……
久しぶりに昔の興奮が蘇ってきた。

『こなたの旅』


つづく

以上です。

今度はちまちまと連載形式で書いて行きたいと思います。
この続きは書いていないので次回の投下日は未定です。

このシリーズ。本当は「つかさの一人旅」で完結している話なのですが
何故か続きを書いてしまいました。
この作品に特に思い入れがあるわけじゃないのに不思議です。

この先どうなるか分かりませんが気長に付き合ってもらえると嬉しいです。



ここまでまとめた。


投稿します。>>92の続きです。

6レスくらい使います。

よろしくです。

つかさ「こなちゃん?」
突然、後ろからつかさの声、私は振り向いた。
こなた「つ、つかさ」
つかさ「どうしたの、そんな驚いた顔をして」
不思議そうに私の顔を見ている。
こなた「い、いや、さっきそこに……」
私はお稲荷さんが居た所を指差した。つかさは私の指の先を見た。
つかさ「そこに……何があるの?」
つかさは私の前に出て見回した。
こなた「きつね、狐だよ……」
つかさ「きつね?」
私は頷いた。
つかさ「……ふふ、こなちゃんったら、それは野良犬だよ」
つかさはクスリと笑う。
こなた「い、いや、野良犬じゃない、あの姿は間違えなく……」
つかさ「この町の自治会通信見なかったの、最近この町を徘徊している野良犬がいるからゴミ箱の管理をちゃんとしなさいって」
こなた「自治会……」
そういえば、かえでさんが朝礼でそんな事を言っていたっけ。野良犬対策でゴミ箱に鍵を付けたのを思い出した。
つかさ「それよりこんな遅い時間になにをしていたの?」
こなた「私……私は遅番で最終退出者だったから、つかさこそなんでこんな時間に?」
つかさ「私も最終退出者で、最後のゴミ捨てを終えて帰るところ」
お互い帰るところだったのか。
こなた「つかさの車も私と同じ駐車場だったよね」
つかさ「うん」
こなた「それじゃ一緒に帰ろうか」
つかさ「うん」
私達は駐車場にむかった。

 歩きながらつかさが話しかけてきた。
つかさ「ねぇ、こなちゃん、夕方あやちゃんが来てねいろいろ話したのだけど……」
つかさは少し溜めてから再び話した。話し難い内容なのかな。
つかさ「取材を受けるって聞いたのだけど本当なの?」
こなた「本当だよ、あやのが嘘をつくわけないじゃん」
つかさ「……本当なんだ」
つかさは俯いている。そして歩くペースが遅くなった。不服なのだろうか。
こなた「意外だったかな、むしろ遅すぎかもしれない、それにもう取材をしなくても充分知れ渡っているしねその辺りを考慮したんじゃないの?」
つかさ「そんなんじゃなくて……」
こなた「何が言いたいの?」
ハッキリしないつかさの態度にイラついて少し声を強くした。つかさは立ち止まってしまった。
つかさ「かえでさん……私を誘ってくれなかった」
こなた「はぁ?」
つかさ「お店のレイアウトの時、イベントが会った時、新メニューの発表……みんな呼んでくれたのに」
そうか取材に誘ってくれなかったのを気にしていたのか。あやのもそんな事を気にもしていなかったから話してしまったのかな。もちろん私だって。
こなた「別にハブられたわけじゃないと思うけど」
つかさ「こなちゃんもあやちゃんと同じ事を言って……」
ふと出勤した時のかえでさんとのやりとりを思い出した。
こなた「そういえばかえでさんつかさの事を頭にくるって怒ってた」
つかさ「えっ!?」
つかさは今にも泣き出しそうな顔になった。
こなた「つかさには敵わない、それなのに隣に店を構えるなんて私に対する挑戦ね……ってね」
つかさ「わ、私はそんなつもりで……」
こなた「そう、つかさにそのつもりがなくても結果的にかえでさんにはそうなってる……つかさは自分の力を過小評価しすぎてからね」
つかさ「私は……何もしていないよ」
こなた「いいや、凄いことをしたよ、かがみを救った、かえでさんも救った、お稲荷さんも救った……そして人類も救った」
つかさは黙ってしまった。
こなた「大袈裟だと思ってるでしょ、少なくともあのままだったらたかしってお稲荷さんが暴走してとんでもない事になっていた、日本が消し飛んでいたかも」
つかさ「そ、そうかな……」
こなた「もうつかさ自身が自分で考えて行動しても良いと思う、誘われなかったから自分から聞けばいいじゃん」
私は歩き始めた。つかさもゆっくり付いてきた。
つかさ「で、でも、私はまなちゃんを救えなかった……」
これか、これがつかさに自信を失わせているのは。真奈美……これはどうする事もできない。お稲荷さんの話しをしたのがまずかったか。
こなた「それともう一つ……私もつかさに救われたその一人、あの時誘ってくれなかったらニート街道マッシグラだったよ」
つかさは立ち止まり私をじっと見つめた。私も立ち止まった。
こなた「さぁさぁ、もうそんな顔しないで、家に帰れば可愛い娘と愛する夫が居るんでしょ、早く帰ってあげないと」
つかさ「そうだね、早く帰らないと……ふふ、ありがとう、こなちゃん」
つかさは微笑むと早歩きで私を追い越して駐車場に向かった。やれやれ、この辺りはまったく変わっていないな~
つかさ「こなちゃん、早く~」
こなた「ほいほい」
私も足早につかさを追った。駐車場で別れるとそれぞれの車に乗りそれぞれの家路に向かった。

 つかさは未だ真奈美を救えなかった事を後悔している。あれはどうする事もできなかった。誰もがあの場面に遭遇しても結果は同じだった。皆がそう言っている。
私もそう思っている。そもそもつかさでなかったら真奈美に殺されていたかもしれない。あの時あの場面でつかさでなければ今はなかった……
信号が赤になって車を止める。ふと我に返った。
私ったら何を考えている。もうこんな話は昔から何度もしてきたじゃないか。もう考える余地なんかない。でも何故考えている。
何故って……そう、つかさは即答で否定した。私が狐を見たと言って直ぐに違うって言った。これは昔のつかさなら在りえなかった。
『え、本当、きっとお稲荷さんだよ』って言うと思った。私自身それを期待していたのかもしれない。でも実際は違った。リアルとバーチャルを行ったり来たりして遊んでいる私と
結婚、子育て、店の経営とリアルを生きているつかさの違いなのか。それともつかさは何かを隠しているのか……
こなた「ふ、ふふふ……」
信号が青になり車を進めた。
笑っちゃうね、それこそつかさらしくないや。つかさが隠し事なんて。それにもしあの時見付けたのがお稲荷さんなら……
そう、四人の元お稲荷さんがとっくに気付いている。私が見間違えた。なんだかもやもやしていたのが晴れた。さて……帰って寝よう……

 そして数日後……
その取材の日が来た、私は休暇だったけどこれと言って用事もなかったので参加することにした。時間は午後1時、場所はレストランかえでの応接間。予約のお客様も
時折使う部屋だ。初めての取材……と言っていたが。取材という言葉だけで言えば初めてではなかった。
ひよりとゆたかが一度だけこのレストランの取材をしている。その時私とかがみも参加している。でもこれは店の紹介の取材じゃない。漫画を描くための取材だった。
商業用ではなくあくまで個人出版で出す。つまりコミケで少数出版する程度の作品の取材だ。これはかえでさんも快く受けてくれた。
でも今回は雑誌の記者が直々に出向く取材。一言一言が雑誌の記事に成りかねない。そしてその記事がどう評価されるかも未知数。スタッフ一同も緊張と不安で一杯だ。
もちろんかえでさんも例外ではない。取材を受けるのはかえでさん。そして副店長のあやの。見学でホール長の私。
こなた「スーツ姿のかえでさんも良いね……」
かえで「10年前のスーツだけど……なんとか着れたわ」
こなた「10年前……そんな昔?」
かえで「そうよ、あれは確かワールドホテルに呼ばれた時に……」
こなた「あぁ、あの時に着てたんだ……」
私は時計を見た。
あやの「まだ時間にはなっていないけど、どうしたの?」
こなた「い、いやね、つかさは来ないのかなって……」
かえでさんの顔が険しくなった。
かえで「あやの、彼女には言わないでって言ったのに」
あやの「ごめなさい、つい弾みで……」
こなた「え、何々」
あやのが珍しく謝っている。かえでさんは溜め息をつくと私の方を向いた。
かえで「昨日つかさから取材に参加したいって連絡が来た」
お、つかさが私の言うように自分から行動した。
こなた「つかさから聞いてくるなんて、よっぽど参加したかったんだね、早くしないと始まっちゃうよ」
かえで「いや、断った、来る必要はない」
こなた「断ったって、この店を出た時間の方がながいかもしれないけど、ちょっとそれは酷くない?」
かえでさんの表情がさらに険しくなった。
かえで「こなた、これは遊びじゃないのよ、内輪で和気藹々なんていかない、来られても迷惑なだけ」
こなた「う……う」
何時に無く厳しい態度だった。私がミスや間違いをしてもそこまで厳しくした事ないのに。その気迫に圧倒されて何も言えなかった。それだけこの取材に力を入れているって事なのか?
かえで「あやの、こなた、取材の応答は全て私がするからそのつもりで」
こなた・あやの「は、はい」
私とあやのは顔を見合わせた。あやのも私と同じ気持ちだだろう。かえでさんの緊張感が私達にも伝わってきた。

「店長、お客様がお見えです」
店内のインターホンから連絡が来た。時間ピッタリ午後1時だった。
かえで「応接間に通して」
私達は定位置に着いた。暫くするとドアがノックされた。
かえで「どうぞ」
ドアが開いた。
「失礼します」
部屋に入ってきたのは女性だった。女性記者なのだろうか。歳は二十歳代後半位か……髪は長く下ろしている。
彼女は鞄から名刺入れを取り出した。
「私、〇〇雑誌編集部の神埼あやめともうします」
神崎さんはかえでさんに名刺を渡した。かえでさんも神崎さんに名刺を渡した。
かえで「レストランかえで店長、田中かえでです」
そうそう、かえでさんは結婚したから名前が変わったのだった。二人は名刺交換すると席に着いた。そしてあやのの淹れたコーヒーを私が二人に持っていった。
こなた「どうぞ」
私は二人の前にコーヒーを置いた。
あやめ「お構いなく」
私は一礼して低位置に戻った。神崎さんは私達の方を見ている。
かえで「二人は私の店のスタッフです、副店長の日下部あやの、コーヒーを持って来たのがホール長の泉こなた」
私とあやのは神崎さんにお辞儀をした。神崎さんも私達に礼をした。
なんだろう。この人、どこかで見た事あるような……初めて会った感じがしない。何故だろう。
あやめ「取材は初めてと聞いています、どうぞ気を楽にして下さい」
かえで「そ、そう出来れば良いのですが……」
わぁ、かえでさんガチガチに緊張している。神崎さんがそう言うのも分かる。
かえで「それでは早速取材に入らせてもらいます、連絡した様に私はある事件の真相を調べるために取材をしてきました」
え、え、え、お店の取材じゃないの……どうして……私は自分の耳を疑った。あやのも少し驚いている。
かえで「はい、それは聞いています、ですが私達の店と何の関係があるのでしょうか、さっぱり検討がつきません、それに十年前の事件だけでは分かりません」
神崎さんは鞄から何か取り出し机の中央に置いた。あれは……ボイスレコーダー……
あやめ「十年前で分かると思ったのだけど……正確に言うと十一年前の9月〇日、旧ワールドホテル会長、柊けいこ、同秘書、木村めぐみ連続失踪事件……これだけ言えば分かるかしら」
かえで「それは知っています……」
あやめ「それは良かった、ワールドホテル会長の巨額脱税事件の取調べのため拘置所に拘留されていた二人が同じ日、同じ時間に何の痕跡も残さずに失踪した」
かえで「……当時大々的に報道されてましたね、未だに二人は見つからない様ですね」
神崎さんは鞄からファイルを数冊取り出すと広げて見せた。そこには彼女が取材したメモや写真、新聞や雑誌の記事の切り貼りがあった。かなり調べている。
あやめ「巨額脱税とは言え、有罪になったとしても抗わなければ大した刑にはならなかったはず、拘置所脱走という大きなリスクを冒してまで何故二人は失踪したのか、
    特に柊けいこはかなりの高齢、今生きていたとしたら90歳は超えている……見つからないのが不思議……そう思いませんか?」
かえで「……前置きはその位で、何が言いたいのですか?」
神崎さんはニヤリと笑った。
あやめ「私は二人が失踪前後に交流した人を取材して彼女達の足取りを追っているのです、確かこの店はホテルの店として出店契約を結んだ筈です」
この雰囲気、ボイスレコーダーを置く所、誰かに似ていると思ったけど、昔のひよりに似ているような気がする。容姿や話し方ではなく雰囲気が……そんな気がした。
かえで「確かに出店契約をしましたが白紙にしたはずです……彼女とはそれに関する事意外は話していませんが」
あやめ「そうでしょうか、レストランかえで……何故か日本全国数箇所で何度か会合をしていますね、逮捕前には本社で、この当時何店か同じ契約をしている記録があるのですが、
    貴女の店は圧倒的に会合回数が多い……何か特別な契約でも結ぶつもりだったのでは?」
あの会合はつかさ達とお稲荷さんとの会合だ。そんな記録が残っていたなんて……突然な出来事でめぐみさんは情報を消しきれなかったのかもしれない。
会合内容までは知られていない、知られていたら大変な事になっていた。
かえで「……移転前の店の土地が買収されてしまい、それについて協議していただけです」
あやめ「その土地とは名前もない神社じゃないですか、その神社は現在町の私有財産になっていますね」
この人……なんだろう。鋭い……
かえで「……そうです」
あやめ「大企業が小さな店に対してこれほど優遇するなんて、よっぽど何かがなければしない……どんな魔法をつかったのです?」
この人……神社の事まで調べている……かえでさんが応答は全て自分でするって言ってた意味がやっと分かった。下手な事は言えない……
かえで「魔法……ふふ、そんな物使っていません、店の料理が全てです……あやの、こなた、彼女にコース料理を」
こなた・あやの「は、はい……」
私達は応接室を出て厨房に移動した。そしてコース料理をオーダした。

あやの「私、お店の紹介の取材だと思っていた……」
あやのが少し震えている。
こなた「まるで取り調べみたいだった……さすがかえでさんしっかり受け答えしていたね」
あやの「ひいちゃんが来ていたら大変な事に成っていたかも」
そうか、かえでさんがつかさを来させなかったのはこの為か、つかさならお稲荷さんの話しをしてしまうかもしれない。
こなた「つかさもそうかもしれなけど私だったらおどおどして何も話せない」
あやの「そうだね……」
それにしても神埼あやめとか言う人。なんであの事件を調べているのだろうか。二人が消えた理由を知らない人にとってはミステリーなのは分かる。
でも、誰かが傷付いた訳じゃないし、亡くなった訳でもない。強いて言えばワールドホテルが買収された事くらい。それでワールドホテルの従業員が解雇されたとかって話しも
聞いていない。わかんないな~
かがみの法律事務所に何人か訪問したって話は聞いたけど、この店にまで取材に来た人はあの人が初めてだ。
あやの「泉ちゃん、料理が出来たから持って行って、私は紅茶を淹れて持っていくから」
考えても始まらないか。今はかえでさんに任すしかない。
こなた「OK、持って行く」
私は神崎さんとかえでさんの料理を持って応接室に戻った。

こなた「どうぞ……」
神崎さんの目の前に料理を置いた。すると神崎さんは机に置いてあったボイスレコーダーを鞄に入れ、その替わりにスマホを取り出して目の前の料理を撮り始めた。
あやめ「ふ~ん、私に料理の評価をさせようって魂胆ね、ワールドホテル会長に見込まれた味ってのを見せてもらいましょう」
神崎さんはスマホを机に置くとフォークとナイフを取った。
こなた「今日はロースとビーフの特製ソースです……」
神崎さんは料理を口に入れた。
あやめ「……なるほどね……」
そう言うと黙々と食事をし始めた。
かえで「あの事件に関しては先ほど話した事以外は知りません、それにこの店は食事を楽しむ所、料理の話題にして頂ければ幸いです」
あやめさんは食事を止めかえでさんをじっと見た。
あやめ「貴女、本当に取材を受けるの初めてなの……十年も前の話し、記憶だって曖昧になるし、緊張だってするでしょうに」
かえで「初めてです、それに、私達の料理を公に認めてくれた人ですから、忘れられる訳ないじゃないですか」
かえでさんは微笑んだ。
あやめ「それは、元会長、柊けいこの事を言っているの?」
かえでさんは頷いた。
あやめ「彼女は罪を犯した人ですよ、しかも逃げ出してしまった卑怯者」
かえで「全てにおいて完璧な人など居ませんよ……」
あやめ「……あの会長を悪く言わないなんて、貿易会社の取材と随分食い違う……これは収穫かもしれない……」
神崎さんは食事を再び撮り始めた。そしてかえでさんも食事をした。
かえで「質問されてばかりだから今度は私からの質問、失踪事件を何故調べているのですか?」
あやめ「何故……何故って……」
神崎さんは暫く考えている様子だった。
あやめ「貴女達が料理を作るように私は記事を書くのが仕事、そして真実を追い続けるのが宿命」
かえで「真実……」
かえでさんはポツリと復唱してそのまま用意した料理を口にした。
そして暫く時間が経つとあやのが入ってきて紅茶を二人の前に置いた。
あやめ「今日は挨拶程度って所かしら……なかなか興味をそそる店、料理も気に入ったし……また来ます」
かえで「それはありがとうございます、お客様として来てくださる分には一向に差し支えございません……しかし、先ほどの様な質問をされても我々としては何も申し上げられません」
かえでさんの言う事を聞いているのかいないのか、神崎さんは帰り支度をし始めた。
あやめ「最後に一つ、田中さんは料理を持って来いと言っただけのに何故二人分の料理を持って来たの」
かえでさんとあやのは私の方を見た。それに合わせる様にあやめさんも私を見た。そう、料理を二つ頼んだのは私。
私はかえでさんと目を合わせて発言の許可を取った。かえでさんは頷いた。
こなた「私の判断で二人分持って来ました。理由は……話し合うのに一方だけ食事をしていると何かと話し難いかなと思いまして、お昼、お弁当を食べて一人何も食べていない人が
    居るとそれが気になってお喋りができませんから……」
あやめ「ホール長としての判断と言う事ね……素晴らしい、柊けいこがこの店を気に入った理由が解った様な気がします」
神崎さんは支度を終えると立ち上がると財布を取り出した。
かえで「今回の御代は結構です……」
あやめ「それではお言葉に甘えまして」
かえで「私も最後に、ボイスレコーダーのスイッチが入ったままになっていましたのでお伝えしておきます」
あやめさんはボイスレコーダーの入っている鞄を押さえて少し動揺した表情を見せた。
あやめ「そ、それでは……」
部屋を出ようとしたので私は扉を開けた。神崎さんは逃げるように部屋を出て行った。

 神崎さんが部屋を出ると私は扉を閉めた。
かえで「ふぅ~」
かえでさんは深く深呼吸をした。
あやの「取材、お疲れ様でした、でも、取材って店の取材じゃなかったのですね……十年前の事件の取材だなんて」
かえで「そうよ、だから断れなかった、あの手の連中は断れば断る程付きまとうからね」
あやの「最後にボイスレコーダーのスイッチが入っていたって言われましたけど、それがどうかしたのですか?」
かえで「ちょっとけん制しただけよ、こなたが料理を持って来たとき彼女はボイスレコーダーを仕舞った、もう取材は終わった様な素振りを見せて私達を油断させたのよ、
    でも電源は入ったままだから録音はされている、私達の本音を聞き出そうとしたのね」
違う。神崎さんはひよりと似ていない。ひよりはそんな卑怯な手を使わない。
あやの「それも取材のテクニックってものなの?」
かえで「さぁね、私も取材を受けたのは初めてだから何とも言えない、でも彼女はまたやってくるわ、そてとかがみさんも心配ね」
こなた「かがみがが、どうして?」
突然かがみの話が出てきて私は驚いた。
かえで「彼女は柊けいこと木村めぐみと接触していた人物を調べている、こんな店まで調べているのだから、かがみさんの所の法律事務所もターゲットされていているに違いない、
    何せ二人の担当弁護を引き受けたのだから」
こなた「そうかな、でも、あの人の言っている事に間違えがあるよ、失踪した二人の罪状は脱税だけなんて言っていたけど、実際はいろいろな容疑が付いてきてとんでもない事に
    なった、だから、二人を宇宙船で逃がすって決まったじゃん」
かえで「わざと間違えて私達の出方を見ているのかもしれない、どちらにしても侮れないのは確かよ」
こなた「それじゃかがみに今度聞いておく」
かえで「いや、直接私が彼女と話すわ、今後の対策もあるし」
かえでさんは立ち上がった。
かえで「二人ともありがとう、居てくれたおかげで何とか冷静に対処できたと思う、あやのは持ち場に戻っても良いわよ、こなたも良く来てくれた、今日は出勤扱いで良いわ」
こなた・あやの「はい」
私とあやのは部屋を出ようとした。
かえで「こなたは残って、少し話があります」
こなた「え?」
あやのは部屋を出て行った。

こなた「あの、話って何ですか?」
かえでさんは心配そうな顔で私を見た。
かえで「こなたは神崎あやめをどう思う?」
改まった言い方。何故私にそんな事を聞くのだろう。
こなた「初めて会ったばかりで直接話していないから何とも……」
かえで「いや、第一印象でも構わない」
こなた「第一印象……強いて言えばひよりに似ていたような気がするけど、でもそれは私の間違え、ひよりと全然違う」
かえでさんは目を閉じた。
かえで「私もそう思った、性格は別にして感性は似ていると思う、そしてひよりは自分でお稲荷さんの存在に気付いた、これがどう言う意味かわかる?」
こなた「ん~、神崎って人もお稲荷さんに気付いているって言いたいの?」
かえで「いや、そうは思わない、だけど私達と接触していけば何れ気付く、そんな気がする」
こなた「どうかな、でも、そんなにお稲荷さんの秘密を知られるのがまずい事なの?」
かえで「まずいかどうかは彼女が真実をどう捉えるかによるわね、彼女の本心がつかめないわ、それで、彼女の本心が分かるまで彼女からつかさを遠ざけて欲しい」
こなた「遠ざけるって……すぐ隣の店で働いているんですけど……」
かえで「そうね、それが気がかり、あやのやスタッフにも協力してもらうわ、幸いなこ事につかさも取材拒否しているからつかさが私の店の出身とは知られていない、
    そう容易く彼女も調べられないはずよ」
こなた「それで、かえでさんはつかさに取材に来るなって言ったの?」
かえでさんは私から目を逸らした。
かえで「そうよ、ついカっとなって怒鳴ってしまった……理由を話せないから余計にイライラしちゃって」
こなた「あらら、つかさは末っ子で頭ごなしに怒られるのに慣れていないから今頃落ち込んじゃってるよ……」
かえで「だからフォロー頼むわ、こなたから私は怒っている訳じゃないって言ってくれるかな」
こなた「え、私が、かえでさんがすれば良いじゃん」
かえで「取材の内容を知らせずに収める方法を知らないのよ、こなたは学生時代からの親友でしょ、何とか出来るって」
こなた「私だってそれは同じだよ、そんな無茶振り……」
かえで「これは業務命令、くれぐれもつかさに取材の内容は話さないように、以上」
うぁ~やっちゃったよかえでさん、最近無茶振りが多い。これも結婚をしたせいなのかな。
こなた「はいはい、分かりましたよ、失敗しても怒らないで下さいよ」
私は扉に歩いて行った。
かえで「待ちなさい!!」
強い口調だった。私の受け答えが気に入らなかったのかな。私は振り返った。
かえで「さっきまでの話はあやのにも話す、だけど、これから話すのはあやのにも話さない、こなた、つかさよりも気を付けないといけないのは貴女よ」
こなた「私?」
あやのにも話さないってどう言う事なのかな。
かえで「「げんきだま作戦」……忘れたわけではないでしょ」
こなた「げんきだま……」
あれはめぐみさんの技術を応用してお金を集めた作戦だ。なぜそんな事を今頃になって。
かえで「あれは社会システムの盲点を突いた反則行為よ、言わばテロみたいなもの、それも私達では知りえない高度な技術を用いてしまっている、そうよ、お稲荷さんの技術でね」
こなた「反則かもしれないけどそうしなかったらあの神社は守れなかった、かえでさんもつかさも喜んだでしょ、かがみだって何も言わなかったし」
かえで「私が恐れているのはお稲荷さんの存在の知られることじゃない、お稲荷さんの知識と技術の存在が知られるのがまずいのよ、それが世間にしられればどうなるか、
    こなたになら分かるわよね」
それは柊けいこ会長を見れば分かる。私は頷いた。
こなた「それを欲しい人は沢山いるよね……良い人も、悪い人も」
かえで「せっかく残ってくれた四人の幸せが目茶目茶になるわよ、それだけは避けたい」
こなた「げんきだま作戦は十年前に停止しちゃってるからもう誰も分からない、心配ないよ、それに私は意外と口は堅いから」
私はウィンクをして親指を立てた。
かえで「私はこなたにげんきだま作戦をさせるべきじゃなかったかもしれない」
珍しく落ち込むかえでさん。
こなた「まるで私が犯罪者みたいな言い方、システムの脆弱を突くのはゲーマーとしての基本だから、集めたお金も私的には使ってないし、私は間違った事をしたとは思ってないから」
かえで「そう……それなら良いわ、ごめんなさい、十年も昔の話しを蒸し返して……」
あんな弱気なかえでさんを見るのは初めてだ。神崎あやめ。彼女がかえでさんを追い詰めたってことなのか。
……相当の食わせ者だ。
こなた「さてと、私はつかさの店に寄ってから帰りますよ」
かえで「あ、あぁ、よろしく、私も仕事に戻らないと……お疲れ様」
こなた「お疲れ様~」
 
げんきだま作戦か。なんか久しぶりだな。十年前の光景が鮮明に思い出される。
おっと。感傷に浸っているばあじゃない。つかさの店に行かないと。
「泉さん」
突然後ろから聞き覚えるある声……ついさっき聞いたばかりの声だ。
私はゆっくり後ろを向いた。そこには神崎あやめが立っていた。

つづく


以上です。

まとめはページを変えずにそのまま続けていきますのでよろしくです。

ここまでまとめた。

このスレ、殆ど自分のレスで埋まってしまっている。

他の方も是非書き込んでくださいね。

ってことで「このたの旅」の続きを投下します。8レスくらい使用します。

あやめ「やっぱり」
私が出てくるのを知っているような言い方だった。
あやめ「非番だったんでしょ、だから出てくるのを待ってた」
何故、何故私が今日休みだって知っていた。私は細めで彼女を見た。
あやめ「警戒しちゃって、もうボイスレコーダーのスイッチは切ってあるから安心して」
鞄を軽く叩きながらにっこり微笑む神崎さん。さっきまでの緊迫感とはまるで違う……とても穏やかな笑顔だった。
こなた「何で私が休みだったって……」
あやめ「知っていたか聞きたいんでしょ?」
私の聞きたい事を先に言われた。
あやめ「店を出るとき厨房を覗いてね、壁にシフト表が貼ってあるのを見たら今日は泉さんお休みのマークが付いていた、明日は遅番だった」
あの短い間でそんな所まで見ているなんて。かえでさんが言っていたのは間違えじゃなさそうだ。私じゃ手に負えない。
こなた「すみません、取材は店長にして下さい……」
私は歩き出して彼女を振り切ろうとした。神崎さんは素早く廻り込んで私の目の前に立ちはだかった。私は立ち止まった。
あやめ「まぁまぁ、そう堅い事言わないで、貴女には個人的な話があるの、取材とは関係ない」
こなた「個人的な話し?」
神崎さんは頷いた。取材とは関係ないって言っても信用できない。
こなた「これから用事があるので……」
あやめ「時間は取らせない、30分……いや15分でいいから」
これが取材って言うやつのか。ひよりやゆたかのは全く違う。ねっとりとからみつくようなしつこさ。このままだと家まで付いてきそうな勢いだ。
こなた「10分ならいいよ」
付きまとわれるならさっさと済ましちゃった方がいい。それともこれも彼女の手の内なのかな。でも、神崎さんが何を考えているのか分かるかもしれない。
あやめ「そうこなくっちゃ、それじゃ……」
神崎さんはつかさの店を見ながら話した。
あやめ「あの店で話しましょうか、また戻るのも何だしね、さっきスマホで調べたけど洋菓子店つかさだって、かなり評判はよさそう……ってすぐ隣の店だから泉さんは知ってるか」
こなた「たった10分なのに店に入るの」
あやめ「喫茶店でしょ、10分くらいなら丁度良いじゃない?」
それはまずい。つかさと会わすわけにはいかない。店に戻ってもらうか。
いや待て、ここで変に拒否すればつかさの店が怪しまれるかも。かえでさんに怒鳴られて落ち込んだつかさは家に帰っているかもしれない。
私の知っているつかさならそうするはず。でも結婚やお稲荷さんの件で成長したつかさだったら店に居るかもしれない。どうしよう……今それを確認することは出来ない。
あやめ「どうしたの、時間がないんじゃないの?」
やばい、考えている暇はない。こうなったらつかさの店に行くしかない。お願い、私の知っているつかさで居て……
私は心の中で祈った。そして神崎さんの後に付いて行った。

ひろし「いらっしゃいませ……」
店に入るとひろしが出迎えた。ひよりは神崎さんのすぐ後ろに私が居るのに気が付いた。まずい。彼が私に話しかければ店の関係が神崎さんに分かってしまうかもしれない。
ひろし「こちらへどうぞ」
しかしひろしは私達を普通の客としてテーブルに案内した。こんな事は初めての事だった。ひろしは私達にメニューを渡した。
あやめ「……このケーキとコーヒーを」
神崎さんはこの前つかさが考えた新メニューのケーキを指差した。この人は何の躊躇もなく初めて来た店で新メニューを頼むのか。私ならオーソドックスな物から攻めるけどね。
こなた「私はアイスコーヒーで……」
ひろし「少々お待ち下さい」
ひろしはそのまま厨房の方に向かって行った。助かった。これで私がこの店と関係があるのを知られなくて済んだ。つかさも来ない。いつもなら厨房から飛び出してくるのに。
これは私の思った通り落ち込んで帰ってしまったに違いない。そのおかげで何とかこの急場を凌げた。でもつかさはそれだけ落ち込んでしまっているって事。私に何とかできるかな~

②ひろしがオーダしたケーキを持って来た。
あれこれ考え込んでいた。気付くと神崎さんは何も話しをしないで私を観察するようにじっと見ていた。今はこっちの方に集中しないと。
こなた「あ、あの~何か私の顔に付いてます?」
あやめ「ふふ、貴女って歳は幾つなの?」
こなた「な、なんて失礼な!!」
あやめ「失礼なのは分かってる、見た目は高校生くらいかしら、でもお店で身に着けていた制服の着こなし方が少し古さを感じた、三十歳くらい?」
こなた「そんな話しをしにわざわざ私を呼び止めたの」
でもだいたい合っている。この人鋭いな。
あやめ「ごめんなさい、あの店で働いて随分永いように見えたけど、どうなの?」
こなた「その通りだけど……」
あやめ「この業界って人の出入りが激しいって聞いたけど、それでも貴女はあの店で働き続けている、多分廻りのスタッフや副店長さんの……」
こなた「日下部でしょ?」
あやめ「そうそう、日下部さんだった……永く勤められるなんて、店長の田中かえでさんの人柄がこれで分かった」
神崎さんは話しを止めるとコーヒーを飲んで間を空けた。
あやめ「ワールドホテルを潰した貿易会社、憎いとは思わない?」
突然何を言い出すと思ったら。
こなた「憎いも何もないかな、もう十年も昔の事だし……」
あやめ「その十年前、貴女の働く店以外にも同じような契約をした店がいくつもあった、その契約が無効になったせいで閉店しまった所もあるのに?」
こなた「私には関係ないかな」
神崎さんは少しがっかりしたような素振りを見せた。
あやめ「そう、残念、貴女だったら協力してくれると思ったのだけど……」
こなた「え、協力?」
『ピピー』
神崎さんの鞄から音がした。彼女は慌てて鞄をあけて中からスマホを取り出し画面を見た。
あやめ「バカ、まだ早いって言ったのに」
突然帰り支度を始めた。
こなた「どうしたの?」
あやめ「特種を他社に取られそうなの、悪いけど今日は終わりね」
神崎さんは鞄からメモ帳を取り出すと最後の頁を破りペンで何かを書き出した。
あやめ「これ、私のスマホと自宅の電話番号だから、何かあったら連絡して」
テーブルの上に紙を置くと小走りに店のレジの前に移動した。
あやめ「二人分の清算お願い」
ひろしがレジで清算をした。
あやめ「ケーキ、コーヒーとも凄く美味しかった」
ひろし「ありがとうございます」
清算が終わると神崎さんは走って店を出て行った。

 神埼あやめ、全く分からない。けいこさんやめぐみさんを卑怯者呼ばわりしたのに今度は貿易会社を憎くないのかって……彼女の目的は何だろう……
テーブルの上に置かれた紙を財布の中に仕舞った。
ひろし「見かけない顔だった、おまえの友達なのか」
気が付くとひろしが私の直ぐ近くに来ていた。
こなた「うんにゃ、私も今日会ったばかり、雑誌の記者だよ」
ひろし「慌しいやつだったな……友達にしてはおかしいとは思った、そうか、つかさの言う通り、本当に取材をしたのか」
こなた「それよりこんな所で油売ってて良いの、他のお客さんの対応をしなくて……」
辺りを見回すと客は誰一人居なかった。
ひろし「おまえ達が最後のお客様だ、つかさが突然帰るって言い出して、今日はもう終わりにするつもりだ」
こなた「つかさが……帰った……」
ひろし「ああ、あの落ち込み様は初めて見た、おまえの店の店長に一言言いたくて早く閉めることにしたのさ」
少し怒り気味だった。そうりゃそうだよ。つかさを落ち込ませた張本人なのだから。
でも、ひろしには話しておいた方がいいかもしれない。でもそれは私が話すよりかえでさんに話してもらおう。一言言いたいのなら丁度言い。
こなた「話があるなら私も行くけど」
ひろし「そうしてくれると在り難い、どうもあの店長は苦手だ」
こなた「ふ~ん、ひろしにも苦手があるんだ」
ひろし「おまえが一番苦手だ……泉こなた、つかさと親友なのが不思議なくらいだ」
こなた「そりゃどうも……」
こりゃ重症かな。でも嫌われるよりはましかな。もっとも好かれてもこまるからこの位で丁度良いくらいかもね。

 ひろしは早々に店を閉めると私と共にレストランに向かった。
かえでさんはひろしを見ると今までの経緯を話した。
ひろし「けいことめぐみの失踪事件を調べている……だと?」
珍しくひろしは驚いた。
かえで「そうよ、この事件で私の店を取材に来たのは彼女が初めて、かなりのやり手であるのは間違いないわ、だから彼女をつかさに合わせなかった」
こなた「店を出たら私を待ち伏せしてた、つかさの店に行こうって言った時は冷や汗ものだったよ」
かえでさんは私を睨みつけた。
かえで「こなた、別の店に行くとか機転が利かなかったの、もしつかさが居たらどうするのよ!」
こなた「つかさは家に帰ったと思ったから……懸けだったけど……でも思った通りつかさは帰った、後のフォローが大変だけどね」
かえでさんはそれ以上何も言わなかった。
こなた「それにしてもひろしは私を普通の客として扱ってくれた、だから神崎さんはつかさの店とこの店の関係に気付いていない、そっちの方が凄いよ」
ひろし「おまえが妙に緊張して入ってきたからな、すぐにもう一人の客のせいだと解った」
こなた「それもお稲荷さんの力なのかな、それじゃ神崎さんがどんな人なのかも解ったの?」
ひろし「人間になる前なら解ったかもしれないが、どうやらおまえほど単純じゃない」
こなた「……一言多いよ……素直に解らないって言えば良いのに……」
かえでさんはクスリと笑った。ひろしは私からかえでさんに顔を向けた。
ひろし「しかしつかさも軽く見られたものだな……」
かえで「私の対処に不服かしら」
ひろし「あの記者が只者ではないのは分かる、だがそれだけでつかさを除け者にするのはどうかしている、つかさは我々をここまで導いてくれた、それだけじゃない、
    人類も救った、それはおまえが一番知っている筈じゃないのか」
かえで「流石つかさの夫ね良く解ってるじゃない、でもそれは彼女の……神崎さんの意図がわかるまでの間よ、別に永遠に秘密にするつもりはない」
ひろし「それが分からん、説明しろ」
かえでさんは一回溜め息をついてから話し始めた。
かえで「神崎さんは策士よ、話術も巧みだわ、そんな人が話したらたちまちつかさは秘密を話してしまうわよ」
ひろし「話したって構わないじゃないか、どうせ誰も信じない、それに話せさせない用に僕がなんとかする」
かえで「それはどうかしらね、万が一それが真実だと分かった場合一番困るのは貴方達の方よ、それに話させないなんて出来るかしら」
ひろし「出来るさ」
かえで「それじゃあの記者を貴方の義理の兄、すすむさんに合わせてみようかしら」
ひろしは何も言わずかえでさんを見たままになった。
かえで「彼はいのりさんの簡単な誘導尋問に引っ掛かって自分の正体をバラした、そればかりかひよりにかがみさんの病気を話してしまった、さぞかしネタバレするでしょうね」
ひろし「そ、それは親しい人だからそうなった、見ず知らずの人に話す筈はない……」
かえでさんは人差し指をひろしに向けた。
かえで「それよ、それなのよ、つかさは誰とでも親しくなってしまう、だから心の内を直ぐに話すのよ、すすむさんと同じじゃない、だからまだ神崎さん会わす訳にはいかない」
ひろしはガックリと肩を落とした。
ひろし「そ、そうだな……僕も協力しよう……」
かえでさんはホッと胸を撫で下ろした。私は親指を立ててウインクをして『グッジョブ』のポーズを取った。かえでさんは苦笑いをした。
こなた「それじゃ私はつかさをフォローしに行ってくるから」
ひろし「ちょっと待ってくれ、僕も一緒に行こう、店の用事がまだ全て終わっていない少し待っていてくれ」
こなた「OK、待っているよ」
ひろしは店を出て行った。

 窓越しからひろしがつかさの店に入って行くのを確認した。
こなた「策士ねぇ~かえでさんも充分策士だと思うけど……すすむさんを引き合いに出すなんて……」
私はボソっと話した。
かえで「策士はあんたの方でしょ、ひろしの説得を私にさせるなんて……」
こなた「まっ、何とかなったから良いじゃん……後はつかさの機嫌がもどればとりあえず落ち着くね」
かえで「すまないわね、お願いするわ」
こなた「もう乗り掛かった船だし、それで、なぜつかさと話さないの」
覚悟を決めたように話すかえでさん。
かえで「私の言う事を聞かなかった、だから怒鳴ってしまった……初めてだった、今の私に彼女にかける言葉はない」
その台詞かがみもこの前言っていた様な気がする。
こなた「基本的にはつかさはつかさだよ、それは年齢とか状況は関係ないと思うけど、現につかさは私の思った通りに落ち込んで帰っちゃった」
かえで「学生の頃と同じって言いたいの……私は初めて会った頃のつかさが懐かしい……でも、そう言い切れるならやっぱりこなたに任せるわ」
つかさの店からひろしが出てきた。
こなた「さてと、それじゃ行って来ます」
かえで「待って……」
こなた「ん?」
私は立ち止まった。
かえで「お稲荷さんの話しはもう無かった事にしたい、他人に知られてはいけない、それだけは分かって欲しい」
こなた「大袈裟だな~この十年間だれも知られてないから平気だよ、これからもずっと、私達がお稲荷さんを受け入れられるようになるまで、そうだったね?」
もっとも受け入れられるようになるまで私達は生きていそうにないけどね。
かえで「そうよ……行ってらっしゃい」
私は店を出た。

 店を出て駐車場に入った時だった。
ひろし「ちょっと待て、僕達が揃って家に帰るのは不自然じゃないのか?」
こなた「ん、何が不自然なの……あぁ、私がひろしと仲良くつかさの前に現れたらそりゃ不自然だね、大丈夫、私、はそんな気は全くないし、つかさは鈍いから分からないよ」
ひろしは呆れ顔になった。
ひろし「バカかおまえは、閉店時間前なのに僕が居たらまずいだろって事だ、つかさには話していないからな」
こなた「……そうだね、それでどうしよう?」
しかしバカは余計だよ、バカは……冗談が通じないな、この辺りはつかさと同じだな。
ひろし「適当に時間をつぶしているからおまえは先に家に行ってつかさの相手をしてくれ」
こなた「あいよ」
私は車に乗り込もうとした。
ひろし「つかさが心配だ、くれぐれも頼む……」
私に「頼む」って言うなんて。
私は軽く返事をすると車に乗り柊家に向かった。

 車を近くの駐車場に停め、柊家の玄関の前に立ち呼び鈴を押そうとした時だった。玄関の扉が開いた。
みき「あら、泉さん?」
こなた「こんにちは……つかさはいますか?」
みきさんが出てきた。そしてすぐにただおさんも出てきた。
みき「つかさなら帰ってきて……」
みきさんとただおさんはとても困った顔をしていた。
みき「帰ってくるなり自分の部屋に入ったまま出て来なくて、もしかしてひろしさんと喧嘩でもしたのかしら……」
みきさんとただおさんは顔を見合わせていた。
こなた「つかさに会えますか?」
みき「どうぞ入って、私達はこれから買い物に出かけてしまうからおもてなしはできないけど……」
こなた「いいえ、お構いなく……」
私は家の中に入ろうとした。
みき「泉さん、つかさをよろしくお願いします……」
こなた「え、あ、はい」
みきさんはつかさの部屋の方を見ながらそう行った。そしてただおさんと駅の方に歩いて行った。
みきさんはつかさを心配している。幾つになってもつかさはみきさんにとって子供なのか……母と子か……羨ましいな……
って、私はこんな気持ちになるために来た訳じゃない。こんな歳になって……
家に入り二階のつかさの部屋に向かった。姉たち三人は全てこの家を出て行った。つかさだけがこの家に残っている。高校時代からつかさの部屋の位置は変わっていない。
かさの部屋の扉が人の入れる位の隙間があって半開きのままになっていた。廊下からつかさの部屋を見た。
カーテンを閉めて薄暗いままの部屋につかさが椅子に座っている。片手に何かを持ってそれをじっと見つめていた。よく見るとそれは木の葉っぱだった。
葉っぱの付け根を摘んで人差し指と親指をゆっくり動かしながら葉っぱをくるくる回転させてそれをじっと見ていた。なんで葉っぱなんか持っているのかな……
それに葉っぱを見つめるつかさの目ががこれまで見た事ないような悲しげな表情をしている。
つかさは私に気付いていない。私は一歩つかさの部屋に入り半開きの扉をノックした。
つかさ「はぅ!!」
音に驚いたつかさは慌てて葉っぱを財布に仕舞い私の方を向いた。
つかさ「こ、こなちゃん!?」
こなた「驚いちゃったかな、私に気付いていなかったみたいだから」
私は窓まで移動してカーテンを開けた。午後の日差しが入ってきてつかさに当たった。つかさは眩しそうに目を細めた。明るくなって気付いた。つかさの目が少し赤い。泣いていたのか。
つかさ「あ、い、いらっしゃい……気付かなかった、お母さんなんで教えてくれなかったのかな……」
こなた「おじさんもおばさんも買い物に出かけたよ、私と入れ替わりにね」
つかさ「そ、そうなんだ……こなちゃん、仕事はどうしたの?」
こなた「今日はおやすみ、つかさの方こそどうしたのさ、お店をほったらかしにして帰っちゃうなんて」
つかさ「う、うん……」
つかさは言葉を詰まらせて項垂れた。
まぁその理由は知っている。だけどつかさは落ち込んでいるからいきなり本題にはいると話し難いな。
こなた「さっき持ってた葉っぱは、何?」
つかさはゆっくり首を上げて私を見た。
つかさ「見てたんだ……こなちゃんはあれが葉っぱに見えたの?」
こなた「見えたも何も葉っぱ以外にには見えないよ」
つかさ「それなら前に一度見た事があるよ……覚えていない?」
こなた「一度見ているって……」
つかさ「最初見た時は一万円札に見えた……だけど一日経つと……」
……思い出した。それはお稲荷さんの真奈美がした悪戯の葉っぱだ。
こなた「まだ持っていたんだ……」
つかさ「まなちゃんの形見だから……婚約者のたかしさんが言ってくれた、これは私が持っていろって……辛いとき、悲しいとき、これを見ているとまなちゃんの事を思い出すの」
こなた「知らなかった……」
つかさと同居していた時もそうだったのかな。全く知らなかった。同居していたと言っても食事以外はそれぞれ自分の部屋で過ごしていたから細かい所までは分からない。
つかさ「こなちゃんは取材に参加したの?」
つかさの方から話しを持ってくるとは思わなかった。
こなた「うん、そりゃ店のスタッフだし、ホール長だから」
つかさ「そうだよね、うん、分かってる、私なんかもうレストランかえでのメンバーじゃない、関係者じゃない……だから怒られた……」
こなた「そ、そうだよ、分かってるジャン、それが分かっているならもう大丈夫だよ」
本当は違うけどね。
つかさ「こなちゃんはかえでさんが何故取材拒否してるか知ってるの?」
こなた「もちろん、店が混雑してお客様へのサービスが低下するのを防ぐため……」
つかさは私をじっと見ている。何か言いたげにしている。
つかさ「かえでさんね、ずっと昔取材を受けたことがあって……」
私は驚いた。かえでさんが取材を受けた事があるのに驚いた訳じゃない。神崎あやめがかえでさんに取材を受けるのが初めてなのかって聞いていた事に驚いた。
彼女はかえでさんの嘘を見破っていたのか。受け答えが慣れていたから。仕草からなのか。事前に調べていたのか……どちらにせよ彼女の洞察力は侮れない。
つかさは私の表情を見てからまた話し出した。
つかさ「知らなかったの?……辻さんが亡くなって、その一番の親友であるかえでさんに自殺した原因があるのではってしつこく嗅ぎ回れたの、辻さんの死を悼んでいる余裕もなかった
    って言ってた、かえでさんの心の中に土足で入ってくるような嫌らしさがあったって、だから記者を嫌いになったって……」
こなた「知らなかった……」
そっちの方が理由としては強かったのかもしれない。
つかさ「そんなかえでさんが何故急に取材を受けるなんて……私、分からないよ、こなちゃんなら何か聞いているでしょ」
理由は只一つ、つかさの側ににその記者を行かせない為、つかさを守る為。それは言えない。
こなた「え、えっと」
潤んだ目で訴えている。教えてくれって。だけどなんて言えば良いんだ。
こなた「昔の取材の話し、私は知らなかった、もしかしてかえでさんに内緒って言われていなかった?」
つかさ「えっ、うん、言われていたけど……」
こなた「つかさ、内緒って意味知ってる?」
つかさはおろおろし始めた。
つかさ「知ってる……よ」
こなた「それじゃどうして私に話したの」

つかさ「え、だって、こなちゃんは友達だし……」
理由になっていない。私の中の何かがプッっと切れた。
こなた「結婚もして子供もいるんだからもう少しその辺分かろうよ、それだからかえでさんに怒鳴られちゃうんだよ!!」
しまった。そう思った時には遅かった。私はつかさの目の前でかえでさんと同じように怒鳴っていた。
つかさ「ぐす……えぐっ、」
つかさの目から大粒の涙が出てきた。まずい。これじゃフォローどころか追い討ちを掛けてしまった。
こなた「ご、ごめん、これは……」
もう何を言ってもダメだった。つかさは机に顔を押し付けて泣きじゃくってしまった。なんてこった……思いの外つかさのダメージは大きかった。私は何も出来ないまま
泣きじゃくるつかさの前で立ち尽くしてしまった。
「つかさ、帰ったぞ」
後ろから声がした。この声はひろしだ。まだ帰ってくるには少し早いような気がする。不思議に思いつつ私は振り返った。
ひろし「やっぱりこうなっていたか……」
私にだけ聞こえるような小さな声だった。私は何も言えなかった。
ひろし「つかさ」
優しくつかさを呼んだ。
つかさはゆっくり立ち上がるとひろしに向かって跳びあがって抱きついた。そしてさらに激しく泣いた。
ひろし「僕は今のままのつかさで良いから……そんなつかさが好きだから」
ひろしはそっと両手をそえてつかさを支えた。
こなた「わ、私……」
ひろし「何も言うな、こうなったのも僕のせいだ……僕が先にくるべきだった……」
返す言葉がなかった。
ひろし「悪いが今日はそっとしといてくれないか」
こなた「う、うん……」
私はゆっくり部屋を出てそのまま家を出た。

 自信があった。これまでも高校時代からつかさを笑わせたり励ましたりを何度もしてきた。最後はいつも笑顔に戻っていた。でも……
蓋を開けてみればこの大失態。なんであんな事に……
つかさがひろしに抱きついた時にひろしが言った言葉……そのままのつかさが良い……その通りだ。
知らないうちに私も涙が出ていた。ひろしの取った態度に胸が熱くなった……これが愛ってやつなのか……
「泣いているの?」
はっと声のする方を見た。まなみちゃんが玄関の前に立っていた。ランドセルを背負っている。下校してきたのか。まなみちゃんはハンカチを私の前に差し出していた。
まなみ「どうしたの、お母さんと喧嘩したの?」
心配そうに私を見ている。
こなた「うんん、ちがうよ、大丈夫だよ」
私は自分のハンカチで涙を拭うと微笑んで見せた。
なまみ「お母さんまだお店だよ……」
まなみちゃんは玄関の扉を開けようとした。
こなた「ちょっと待って」
まなみ「な~に?」
まなみちゃんは開けるのを止めて私を見た。そういえばひろしはそっとしておいてと言っていた。もしかしたら……今まなみちゃんを家に入れるのはまずいかもしれない。
こなた「お母さんとお父さんは家で大事な仕事をしているから……邪魔しないように私の家でゲームでもしよう、ね?」
まなみ「うんいいよ……お父さんとお母さん……居るの?」
なんとか止めないと……子供の扱いは難しいな……
こなた「う、うん、」
まなみ「それじゃ、ランドセル置いてくるね」
あらら……止める間もなくドアを開けて入ってしまった……っと思ったら10秒もしないで開けて戻ってきた。ランドセルは背負ったままだった。すこし顔が青くなっている。
まなみ「……お母さんが変な声出してるの…」
まなみちゃんの声が震えていた。……やっぱり。
こなた「だ、大丈夫、問題ない……」
まだ本当の事を言うのは早過ぎる。
まなみ「……病気じゃないの?」
こなた「違うよ、お父さんと愛し合ってるから」
まなみ「ふ~ん」
まなみちゃんはじっと玄関を見たまま首を傾げていた。
こなた「それじゃ一緒に駐車場まで行こう」
まなみ「うん」
何とか誤魔化せたかな……

 家に帰ると自分の部屋でまなみちゃんとゲームをして遊んだ。
しかしまなみちゃんはつかさと違ってゲームの上達が早い。コツをすぐ掴んでしまう。格闘ゲームとかだと気を抜くと一気に畳み込まれるほどだった。
こなた「ふぅ……喉が渇いたね、ちょっと飲み物とって来るよ」
まなみ「うん」
台所に行くとお父さんが入ってきた。
そうじろう「まなみちゃんだったね……つかささんのお子さんだろう?」
こなた「そうだよ」
そうじろう「いいのか勝手に連れてきて……」
こなた「確かに黙って連れてきたけど、ちゃんとつかさにメール送っておいたし、大丈夫だよ」
そうじろう「いったい何があった、夫婦喧嘩でもしたのか?」
お父さんにはお稲荷さんの話しは一切していない。お父さんにとって二人は極普通の夫婦だろう。
こなた「違うよ、その逆だよ」
お父さんは笑った。
そうじろう「そうか……それでこなたは何時孫をみせてくれる?」
こなた「……何時だろうね、その前に相手を見つけないとね……」
そうじろう「居ないのか、職場にも男性の一人や二人居るだろう?」
こなた「職場結婚する気はないよ……」
お父さんはそれ以上何も言わなかった。
こなた「それじゃ部屋に戻るよ」
そうじろう「うむ……」
嫁には絶対にやらないなんて言っていたのに。いざとなると今度は孫の顔がみたいだなんて、どっちが本心なのか分からん。

こなた「ジュース持って来たよ、ついでにお菓子も」
まなみ「ありがとう……」
こなた「そういえばまだ宿題やってなかったね」
まなみ「……もう終わっちゃった……」
こなた「えっ!?」
終わったって、さっき台所に行ってお父さんと話して10分も経っていないのに。テーブルにノートが置いてあったのに気付いた。
私はそのノートを手にとって見てみた……全部終わっている……
こなた「す、凄いね……」
まなみ「学校のお勉強はつまんない……お父さんの方がいろいろ教えてくれる……」
まなみちゃんはジュースをおいしそうに飲み始めた。
こなた「それじゃ、何が一番楽しい?」
なまみちゃんはジュースを飲むのを止めて暫く考え込んだ。
まなみ「ん~と、佐藤先生が教えてくれるピアノかな~」
佐藤さんは旧姓岩崎みなみの事。まさかひよりとゆたかよりも先に結婚するとは思わなかった。
こなた「ピアノのお稽古してるんだ、今度私も聴いてみたいな」
まなみ「え~はずかしいよ」
まなみちゃんがピアノを習っているのは初めて聞いた。ゲームの上達の早さから推察するにつかさよりは上手な様な気がする。
まなみ「こなたお姉ちゃんもいろいろ教えてくれるから好き……」
こなた「そ、そりゃどうも……」
おべっかもするなんて、つかさとは随分ちがうな……これはお稲荷さんの血が入っているからなのかな。お稲荷さんの力も使えるとか。まさか……
まなみ「どうしたの?」
こなた「うんん、なんでもない、ゲームの続きやろうか」
まなみ「うん」
私達は夕方までゲームで遊んだ。

日が完全に落ちた頃だった。
そうじろう「おーいこなた、つかささんがお見えだぞ」
まなみちゃんを迎えにきたか。私は玄関に向かうとつかさが立っていた。あの時の様な暗く落ち込んだ雰囲気は一切ない。私の知っているつかさそのものだった。
こなた「さっきはゴメン……」
つかさ「うんんこっちこそ、泣いちゃったりして、もう取材の事は聞かないから」
こなた「それなら良いけど……」
まなみ「お母さん、お父さんとあいしあっていたんだよね?」
つかさ「えっ!?」
つかさは目を大きく見開いてまなみちゃんを見た。あらら、笑顔であっさり言う……あからさますぎ……子供は恐れをしらないな。
こなた「まなみちゃんランドセル取ってこないと」
まなみ「あ、忘れちゃった」
まなみちゃんは慌てて私の部屋の方に走っていった。
こなた「ノートと筆箱もちゃんと仕舞いなさいよ」
まなみ「はーい」
私は溜め息をついた。
つかさ「こ、こなちゃん、どう言うこと?」
つかさは動揺している。
こなた「慰めてもらうのは良いけど、もう少し時間を考えないとね、私が家を出てからすぐにまなみちゃんが帰ってきたんだよ……始まっちゃうとなかなか途中で止められないよね……
    だから適当に誤魔化して私の家に連れてきたって訳、まなみちゃんは意味を知らないで言っているだけだと思うから、でもね、子供は見ていない様で見てるから気をつけないと」
つかさは顔を真っ赤にして俯いた。
こなた「ふふ、何照れてるの、夫婦なんだから気にしない、気にしない」
つかさ「うん……ありがとう」
こなた「ありがとうはつかさの旦那に言って……私の出来る事はこんなことくらいだから」
まなみちゃんがランドセルを背負って走ってきた。
こなた「これから食事の用意をするけど、どう?」
つかさ「うんん、家で皆が待ってるから」
こなた「今度かがみの家族も連れて遊びにきなよ」
つかさ「うん、そうする……それじゃ帰ろうか」
まなみ「うん、バイバイ」
まなみちゃんは手を振った。私もそれに答えて手を振った。そして二人は家を出て行った。

 つかさが元に戻って良かった。
さてと……いつまでもこんな状態が続くと何かとやり難い。多分何度も取材に来るに違いない。
あの記者を追い出すことは出来ないかな。
それにはあの神崎あやめの目的を知らないとならない。なんでレストランかえでを取材にきたのか。
普通に考えればこの店はけいこさんとめぐみさんの失踪事件とあまりにもかけ離れているのに。私達が何を知っていると思っているのか。
それになぜ私に個人的な話しがあるとか言って近づいてきたのか。
わたしの秘密があるように向こうも何かを隠しているに違いない。それを突き止めてやる。
『グ~~』
腹の虫が鳴いた。
まぁ、ご飯を食べてからにしようっと。

つづく


以上です。


ここまでまとめた

こなたの旅の続きです。

7レスくらい使います。

 ご飯を食べて落ち着いた私は自分のパソコンに電源を入れた。神崎あやめ。まずは基本情報を知らないと話しにならない。
『神崎あやめ』と入力しした……
一発でヒットした。この人は業界では有名な人らしい。
〇〇雑誌の記者。〇〇年四月に入社……新卒なのか……ってことは私と同じ歳じゃないか。
出身大学はは〇〇県の〇〇大学……ん。この県って、まさか。
財布の中に仕舞ったメモ帳の切れ端を取り出した。彼女の携帯番号と自宅の電話番号が書かれている。この自宅の電話番号の市外局番……
レストランかえでがここに引っ越す前の町と同じ市外局番。この記者はあの町で生まれ育った……のかな。
でもこの記者はあんな遠くから雑誌社まで通っているのかな。いや、そんな筈はない。考えられるのは自宅勤務を許されているって事。だとしたら大した待遇だ。
どんな記事を書いているのかな。更に調べようとした時だった。
『ピピピ~』
携帯電話の着信音が鳴った。かがみからだ。直接電話してくるなんて珍しい。でもどんな内容なのかだいたい解った。
こなた「ハローかがみん」
かがみ『おっす、こなた、相変わらず間の抜けた声ね……』
第一声がこれかよ。
こなた「……そんな事を言う為に電話してきたの……」
かがみ『ごめん、そんな用じゃないわよ、ちょっと遅いから明日にしようかと思ったけど、こなたなら起きていると思って……かえでさんから聞いたわよ』
こなた「神崎あやめ……」
かがみ『そうよ、厄介な記者に目を付けられたわね』
かがみは彼女を知っているのか。
こなた「その記者を知ってるの?」
かがみ『いや、直接は会っていない』
こなた「あれ、取材を受けた事ないの……彼女はけいこさんとめぐみさんの失踪事件を調べている、だとしたら真っ先にかがみの所に行くんじゃないの?」
かがみ『私もかえでさんから聞くまで彼女がそんなのを調べているなんて知らなかった』
こなた「なんで私の店に取材に来たのかな……」
かがみ『私もさっぱり分からん、だけど、十年前、私達は散々取調べを受けたし、数多くの記者からも取材を受けた……それで何も出なかったから彼女も取材対象から外したのかも
    しれないわね、そうとしか考えられない』
こなた「どうしたらいいかな?」
かがみは暫く黙っていた。
かがみ『私にも分からないわ、下手な事をすれば勘繰られるし、私が出て行けば余計怪しまれるわよ』
こなた「そうだよね~」
かがみ『昔私も少し彼女を調べたた事があってね、彼女は刑事事件を中心活動している記者ね、彼女の記事を切欠に解決した事件は多数、それに多くの冤罪事件も手掛けている、
    一目置いた人物ではあるわね、弱きを助け、強きを挫く……そんな感じよ』
かがみのおかげでこれ以上調べなくても彼女の仕事ぶりは分かった。
こなた「それじゃ私なんかじゃ太刀打ちできないよ、かえでさんですらやっとだったのに……」
かがみ『私が言える事は只一つ、嘘はつかない事、それだけよ』
こなた「でも、もし、彼女がお稲荷さんの事に触れてきたらどうするの……」
かがみ『そ、それは……多分平気よ、そこまで分かるはずない』
声に自信がない。
こなた「私も少し調べたんだけど……彼女の出身が店を引っ越す前の町みたいだよ……卒業大学が同じ県だったからね、あの町ならお稲荷さんの伝説とか聞いているかもしれないし、  ちょっと心配……」
かがみ『お、同じ町……』
かがみも私も何も言わず沈黙が続いた。
かがみ『と、取り敢えず今は様子を見るしかないわ』
流石のかがみも打つ手なしか……
こなた「まだ一回しか会っていないのに大変だよ……」
かがみ『くれぐれもつかさをよろしくね、つかさを彼女に会わせたらとんでもない事になるわ』
かがみも同じ事を思っている……
こなた「かがみも同じなんだね」
かがみ『何よその言い草、あんたも同じだって聞いたわよ、これは皆の総意じゃなかったの、お稲荷さんの知識と技術の隠蔽、それこそあの記者にとっては格好のネタよ、
    私達が何故隠しているなんかお構い無しに決まってる』
こなた「う、うん……そうだけど」
かがみ『そうだけど?』
強い口調で言い返してきた。今の私にかがみの意見に反対するほどの正当性をもった反論は出来ない。
でもそのつかさがお稲荷さんの心を開いたのも事実。悲しげに葉っぱを見つめるつかさの顔が頭の中に浮かんだ。どうすればいいのかな……何も出てこない。
こなた「い、いや、かがみの言う通りだよ」
かがみ『頼むわよ……それじゃまた今度会いましょう』
こなた「ちょっと待って」
かがみ『何よ、他に何かあるの?』
つかさの話しになってちょっと思い出したことがあった。
こなた「かがみの子供って成績優秀なのかなって……」
かがみ『なにを急に……』
こなた「確か一番上の子が小4だったよね?」
かがみ『そうだけど……何故そんな事を聞くのよ』
こなた「いやね、まなみちゃんが頭よくってね、もしかしたらお稲荷さんの血が混ざってるんじゃないかなって……」
かがみ『私の子供達は普通よ……まつり姉さんは生まれたばかりで分からない、いのり姉さんはまだ子供は居ない……私の夫を含む皆は人間になった、お稲荷さんの遺伝を捨てた、
   その能力や知能は遺伝しないわよ……もっともつかさは小学校低学年の時は私よりも成績良かったからまなみちゃんの成績が良いのもつかさの遺伝じゃない』
こなた「ふ~ん、それでかがみは焦って一所懸命に勉強したんだね、なるほど」
かがみ『納得する所が違うぞ!!』
お、久々のかがみの突っ込みを聞けた。そうでないとね。
こなた「ふふ、それじゃまたね」
かがみ『おやすみ……』
電話を切った。
こなた「ふぅ~」
溜め息を一回。
そして時間を見る。寝るにはまだ少し早い……たまにはネトゲでもするかな……

 それから一ヶ月が経った。
彼女は週に2回から3回必ずお昼を食べにこのレストランを訪れていた。私達に何かインタビューする訳でもない。ただのお客として来ている。
つかさの店にもたまに行っているみたいだ。それはひろしが対応しているので特に問題があるわけではなかった。
でも問題はこの店。お客として来ているから無理に来るなとは言えない。それどころか友達なのか、同僚なのか分からないけど数人必ず連れてくるのだ。
その中には俳優やテレビでお馴染みの人なんかも混じっていた。
それでも店を出ると神崎さん一人だけ残り観察するような目つきで暫くレストランを見てから帰る。そんな日々が続いた。
あやの「また来てる……でも、あの隣に居る人……俳優の〇〇さんじゃないかな……サイン貰っちゃおうかな……」
厨房の陰からあやのが様子を伺っていた。
こなた「止めておきなよ、何を言い出すが分かったもんじゃないよ」
あやの「……こんなのが一ヶ月……何時まで続くの?」
こなた「分からない……」
あやの「ちょっと行ってくる……」
厨房を出ようとするあやのの腕を掴んで止めた。
こなた「だからダメだって……」
あやの「もう我慢できない……放して」
かえで「止めなさい、まったく見苦しいわよ」
私達の間にかえでさんが割って入ってきた。私は手を放し、あやのは冷静さを取り戻した。
あやの「あの記者……どうにかならないの、見えないプレッシャーがかかって仕事になりません……あれから全く進展がないじゃない」
かえでさんは何も言わず首を横に振った。何もするなとの指示だろう。
でもハッキリ言ってあやの言っているのは私の代弁でもあった。正直いってウザイの一言だ。
かえで「かがみさんが言っていた、彼女の取材は必ず話し手の方から真実を話すってね、そう言う事だったのか、彼女はああやって精神的に追い詰めて白状させるのよ、
    最初の取材で普通じゃ口を割らないと判断したに違いない、厄介だわ……何か迷惑を掛けている訳じゃないから追い返せない」
あやの「誰かが音を上げるのを待っている……」
待っている……私は財布に入っているメモ帳の切れ端を思い出した。まさか彼女は私の連絡を待っているんじゃ……
そうか……ホール長の私が接客をしているから客として来ている……彼女の目的は私なのかもしれない……
神崎さんが手を上げて呼んだ。
かえで「呼んでいるわよ、こなた」
こなた「あいよ……」
私は彼女の座っている席に近づいた。冷静に、冷静にっと。
こなた「はい、何でしょうか?」
あやめ「今日のおすすめランチは何?」
こなた「豚肉のしょうが焼きです……」
隣に座っている俳優さんと耳打ちで暫く何かを話した。
あやめ「それじゃそれを2つ」
こなた「はい……」
わたしが去ろうとした時だった。
あやめ「そろそろ分かってもいい頃じゃない?」
私は立ち止まり神崎さんの方を向いた。
こなた「メモ帳の事ですか?」
あやめ「察しが良いじゃない、どう?」
やっぱり……でも私一人でなんとか出来るだろうか。私の返事を待って神崎さんがじっと私を見ている。他のお客さんが私の方を見て手を上げた。ここで留まっている時間はない。
こなた「今晩、自宅に電話します……」
しまった。なんて事を言ってしまったのだ……
あやめ「待ってる……ほら、お客様が呼んでいる」
私は考える間もなくお客様の方に向かった。こんな所で交渉をしてくるなんて……これも彼女の作戦なのか……まずい。どんどん彼女のペースに乗ってしまいそうだ……
こなた「お昼のおすすめ2つに、ワイン2つ……」
あやの「どうしたの、顔色がよくない……」
こなた「な、なんでもないよ……」
私と神崎さんのやりとりを見ていなかったのかな。かえでさんも別の仕事をしていた。これも神崎さんの狙いなのか……
また別のお客様が手を上げた。
こなた「はい、只今伺います……」
今日はやけに忙しい……考える暇がないまま時間は過ぎていった。

 家に帰って自分の部屋で考えていた。
結局誰にも言わずに仕事が終わってしまった。このまま彼女と連絡して良いのであろうか。これからかえでさんに電話をして……いや、だめだ。
きっと電話するなって言われるに決まっている。でももし、電話をしなかったらどうなる。また新たな手を使って揺さぶりをかけてくるに違いない。
電話をするかなさそうだな。こうなった自棄だ。私は受話器を取ってメモの電話番号を押した。
あやめ『こんばんは、泉さんね、待っていた』
こなた「こんばんは……私に用事って何ですか……あの事件は何も知りません……」
あやめ『まぁ、まぁ、結論を急ぎなさるな、厨房のシフト表は見えない所に移したでしょ、なかなかやるじゃない、これで貴女の予定が分からなくなった』
こなた「ネタバレするから……誰でも注意されれば気をつけますよ……」
あやめ『ふふ、そうね、でも貴女達、私が来ると緊張している、何を恐れているの?』
やっぱり私から何かを聞き出そうとしている。
こなた「べつに……神崎さんがいろいろ有名なお客さんを連れてくるから……」
あやめ『あれは貴女の店が出す料理が美味しいから誘ったまで……さてと、もう腹の探りあいは止めましょう、私の家に来ない?』
こなた「家に……なんで私が……店長や副店長の方が……」
あやめ『いいえ、貴女でいい、泉こなたさん、それとも私の家が遠くて嫌かしら』
なんで私なんだろう。
こなた「そんな事は、そこは店が元にあった場所だから、でもなんで私なの?」
あやめ『それも来てくれれば話します、来てくれればもう貴女の店に頻繁に行く事はない』
交換条件ってやつか。これって交渉なのか……でも主導権は向こうが持っている。
こなた「約束は守ってもらうよ……」
あやめ『そうこなくっちゃ……で、何時にする?』
私は壁に掛けられているカレンダーを見た。来週の金曜がこの前の取材の振替休暇になっている、その次の日も休み……ならば
こなた「次の土曜日はどう?」
あやめ『分かった、電車でくる、車でくる?』
こなた「車で……」
あやめ『食事はアルコール抜きにしておくから』
こなた「……それはどうも」
あやめ『住所は〇〇町〇丁目〇番地だから』
こなた「分かった……」
あやめ『それじゃ楽しみにしているから』
電話を切った。何が楽しみなもんか……半ば強制的なくせに……
でも、わざわざ二連休の最後にしたのは訳がある。彼女の家に行く前に行きたい所があった。それはひよりの所だ。彼女はひよりと似たところがある。かえでさんもそう言っていた。
毒には毒を……何か対策が立てられるかもしれない。さて、そうと決まったらひよりに連絡だ。

ひより「とんでもない記者ですねそれは……」
こなた「かがみに言わせれば弱気を助け強きを挫く……だってさ、私に言わせればただの弱いものいじめだよ……」
土曜日、私はひよりの家に居る。家と言ってもマンションでゆたかと同居していて漫画の事務所も兼ねている。普段ならアシスタントも居て作業をしているはずだが今日は
仕事が休みでひよりとゆたかしか居なかった。かえって好都合だった。私は事の経緯を二人に話した。
ひより「それで、毒には毒をって……先輩そりゃないっスよ……」
こなた「まぁ、まぁ、そう言わずに助けてよ」
両手を前に出してひよりを落ち着かせた。
ひより「先輩が助けてなんて言うのですからよっぽどですね……」
ひよりは両手を組んで考え込んだ。
こなた「それで、神崎あやめをどう思う?」
ひより「う~ん、直接会った訳じゃないからなんとも言えないっス、それに私に似ているって……私……鋭い感性なんかもっていませんし……頭の回転も遅いし……
    かえでさんや先輩を翻弄させるような話術もありません」
こなた「またまた謙遜しちゃって、現にひよりはコンやすすむさんの正体を見抜いたじゃん?」
ひよりは暫く溜めてから話した。
ひより「それはつかさ先輩の話しを聞いたからっス……真奈美さんの話を聞かなければただの賢い犬で終わっていました」
つかさの話しを聞いて……ここでもつかさか。
こなた「でも、つかさの話しからコンやすすむさんを結び付けるなんて誰でもできることじゃないよ、でも多分あの記者なら出来ると思う」
私とひよりは腕を組んで考え込んだ。
その時ゆたかがお茶とお茶菓子を持って席に着いた。
ゆたか「神崎あやめ……私、以前に会ったことがある……」
こなた・ひより「えっ!?、い、いつ!!?」
私達はゆたかに詰め寄った。
ゆたか「は、半年くらい前かな……漫画の取材って言って、インタビューをね……」
こなた「漫画の取材って、ジャンルが全然ちがうのに……」
ひより「ど、どうしてゆたかだけ……」
ゆたか「……ご、ごめんなさい、ストーリ担当の私に取材を申し込まれたから、それに半年前のひよりは取材を受ける状態じゃなかったでしょ、4日連続の徹夜……」
ひより「……」
ひよりは黙って頷いた。顔色が少し青くなった。よっぽど過酷な仕事をしていたのだろう。
こなた「どんな取材だったの?」
ゆたか「う、うん……この作品についてなんだけど……」
ゆたかが見せたのは……私とかがみ、ひより、ゆたか共同で作った物語……つかさをモデルした漫画じゃないか。でもその漫画はひよりの出版社でボツになって、
自費出版にしてコミケで20冊しか出さなかった。人間と宇宙人の愛をテーマにしたんだっけな……でも内容はかがみの提案で実際とは大きく変えたのは覚えている。
こなた「い、いや、あの記者がコミケに参加しているなんて……」
ひより「そ、それで?」
ゆたか「う、うん……この物語の中で宇宙の過酷さがすごくリアルに描かれているって言われて……どうやってそこに至ったかを聞かれてね……」
ひより「宇宙の過酷さって……あれはすすむさんから聞いたやつかな」
ゆたかは頷いた。
こなた「何を聞いたって?」
ひより「宇宙戦争をするほど宇宙は優しくないって、それに地球の資源を狙うなら他の小さな惑星から発掘した方が良いって……」
こなた「なんでそれがリアルなの……」
ゆたか「どんなに進んでも地球の環境を完全に再現するのは難しいって、それは地球外文明も同じ、私達と同じ遺伝子で構成されている生命は宇宙空間では生きていけないから
    宇宙戦争なんかしたら共倒れだよ」
そいう物なのかな……確かに今まで見てきた漫画とは違うけど……憎ければ殴りたいのが心情ってもの、宇宙ってそれすら許されない所なのかな……
ひより「それで記者にはなんて答えたの?」
ゆたか「地球の大切さを表現したって言ったら……なんか妙に納得してくれた……」
ひより「流石ゆたか」
こなた「で、私が作ったギャグの所は何か言ってた?」
ひより「わ、私の画風はどうだった」
ゆたかは首を横に振った。ひよりは残念そうに指を鳴らしていた。
私は何を期待していたの。この記者の評価なんか私にとってはたいした意味はないのに。
ゆたか「何も言ってなかった、でも、複数の人員が関与しているって見抜いてた……でもね、雑誌社から掲載をボツにされちゃって……だから私、何も言わなかった」
ひより「そうなのか……わざわざ掲載ボツを知らせてくるなんて律儀だな」
こなた「それでね、明日の件なんだけど、どう振舞えばいいのかな」

 何も対策が出ないまま1時間が経過した。
ひより「彼女の最終的な目的ってなんですかね」
こなた「さぁね、それが分かれば苦労しないよ、私達が何かを隠してるってのはもう気付いているみたいだから厄介なんだよ」
ひより「全てを話したの時、彼女はどうするかですよね、普通に考えれば世間一般に公表するでしょうね、でも、頭が切れるならその後どうなるかって解る様な気がするけどな~
    つかさ先輩、みゆき先輩がそれで失敗して大半のお稲荷さんが帰る破目になってしまったのだから、説得して私達の仲間に引き入れるってできないかな?」
こなた「そうなれば良いけど、そうじゃなかったらもう取り返しがつかない……」
ゆたか「一つだけ方法があるよ……」
いままで黙っていたゆたかが急に割って入った。
こなた「それはどんな方法?」
ゆたか「神崎さんがもし、私達の制止を振り切って秘密を公表するのであれば、彼女の記憶を消してしまえば良いよ」
背筋が凍りついた。可愛い顔をしてそんな恐ろしい事を平然と言えるなんて……いや、もう既にゆたかはひよりの記憶を奪っている……
ひより「ゆ、ゆたか……」
ゆたか「確証はないけど人間成ったすすむさんはまだその術は使えると思うの、あくまで私達の意思に背くなら、選択肢の一つじゃない?」
こなた「そ、そうだけど……ちょっと、そこまでは……」
ゆたか「お姉ちゃん、言っておくけど私達の知っている秘密は大国の国家機密に匹敵する物だよ、かがみさんの病気を治せるし、その気になれば大量破壊兵器だって……
    もう一人の記者の意思とか私達の気持ちなんか超えているの、今は誰にも知られちゃいけない、お稲荷さんの本音はきっと私達の記憶だって消したいくらい……だよ」
目を潤ませて訴えるように話すゆたかだった。今の状況を一番理解しているのはもしかしたらゆたかなのかもしれない。
ひより「もういいよ、ゆたか……」
ゆたか「ご、ごめんなさい……ちょっと頭冷やしてくるね」
ゆたかは自分の部屋に入っていった。
ひより「先輩、実は私もゆたかと同じように記憶を消してしまえばって思っていたっス、だけど……これはあくまで最後の手段……先に言われてしまいました」
苦笑いをしている。
こなた「いいよ、ゆたかを庇うのは」
ひより「あれ、ばれちゃいましたか……」
手を頭に当てていた。
こなた「記憶を奪われた本人だもんね、ゆーちゃんって呼んでいた頃がなつかしいな……」
私はゆたかが入った部屋を見ながら話した。
ひより「すすむさんは絶対に記憶を奪わないって知っていて言っていると思うので、本心じゃないと思います……」
こなた「だと良いんだけどね……だけど、神崎さんの今後の行動によっては本当に考えないといけないかもしれない」
ひよりは一回大きく深呼吸をした。
ひより「ちょっと重い話になりましたね、ゆたかが戻ってくるまで小休止にしませんか」
こなた「いいね、そうしようか」
私達はゆたかの用意したお茶と菓子に手をつけた。

こなた「もしつかさが一人旅に出ていなかったらどうなっていたかな……少なくともかえでさんには出会っていないから私は未だにニートだったかもしれない」
ひより「……なんですか急に?」
ふと思った事を言ったのでひよりはお菓子を食べているのを止めて聞き返した。
こなた「つかさが一人旅に出る切欠になったのは多分私とつかさの言い合いだよ、私が出来っこないって言って、つかさがムキになって……絶対に行くなんて言ってね、
    まさか本当に行くとは思わなかった、」
ひより「へぇ~そんな事があったっスか……」
こなた「お稲荷さん……そう言われるの本人達は嫌がっていたね、宇宙人でいいのかな、彼らとも会っていないからかがみはこの世に居なかったかもしれない」
ひより「……そう言えばそうかもしれませんね、つかさ先輩との言い合いが私達の運命を変えた……っスか……」
ひよりは腕を組んで目を閉じた。
こなた「どうしたの、そんな意味深な事言ったかな?」
ひより「今思ったけど、ゆたかはつかさ先輩が一人旅に行く前に既にすすむさんに会っていましたよね、つかさ先輩が一人旅に行かなくてもお稲荷さんと何らかの関係は出来たかも
    しれませんよ?」
こなた「ゆたかはつかさと違って秘密は守る方だからね、どうなっていたか……」
ひより「あっ、そうでした……」
こなた「ゆたかは一人で抱え込むタイプだからね、ゆたかの暴走をつかさが止めたようなものかもしれない、あっ、止めたのはひよりか」
ひより「いいえ、つかさ先輩ですよ……いつでもつかさ先輩は私の前にいましたから……」
こんな台詞、高校時代のつかさなら絶対に言われなかっただろうな。
でも、私が怒って怒鳴りつけた時のあのつかさは紛れも無く高校時代のつかさそのものだった。だから今もこうやって友達で居られるのかもしれない。
ひより「どうしたんです、急に微笑んだりして……」
わたしの顔を覗き込んで首をかしげいた。
こなた「ちょっと昔を思い出してね、そういえばさ高校時代ゲーセンで何度も私に挑戦してきた後輩がいたけど……確かひよりの先輩だったよね?」
ひより「えっと……漫研の部長こーちゃん先輩のことっスか?」
こなた「今どうしてる?」
ひより「え、えっと~どうしてるかな~」
ひよりは天を仰いでいる。
こなた「卒業してから交流ないの?」
ひより「えっ、ま、まぁ、部活動では私、漫画家なんてならないよって言ってたもんで……なんて言うのか、会い難いというか……あはは、はははは」
こなた「……そりゃそうだ……」
ひよりはごそごそと机の裏から本を出した。
ひより「それより、先輩見てください、今度のコミケで出す予定の作品ッス」
こなた「なんで隠してなんか……あぁ、さては例のやつ?」
ひよりは目を輝かせて頷いた。
ひより「時間を見つけては書いていました、先輩のご希望に添えるように書きました」
私は頁を捲った。
こなた「……いいね……たまにはこういった物も描かないとね」
ひより「そうでしょ、自作ながら良くできたと……あ、あ、あ、」
こなた「だめだよひより、興奮してあえぎ声だしちゃ……」
ひよりの目線を追うとそこにはゆたかが仁王立ちで立っていた。ゆたかは透かさず私から本を取った。
ゆたか「お姉ちゃん、ひより、まだ懲りていないみたいだね……こいうの描くと出版社から仕事もらえなくなるでしょ……」
ひより「だ、だから内緒で……」
ゆたかの目が鋭くひよりを睨んだ。
ゆたか「これは没収するから……お姉ちゃんも、今度ここに来るときは持ち物検査するかね……」
私とひよりの暴走を止めるのはゆたかだった。

 明日、神崎さんの家に行くのにここからの方が近いので二人の勧めで泊まる事になった。
女性三人で話す事と言えば一つしかないだろう。
ひより「さすがレストランかえでのホール長っスね、味付けが違います」
せっかくなので夕ご飯は私が作った。
こなた「まぁ、泊めてもらうのにこのくらいしないとね、それに私が作るのは賄いくらいだよ、腕はあやの方が遥かに上だから」
ゆたか「それでも美味しいよね」
ゆたか「うん」
こなた「ところでお二人さん、つかさの演奏会の時に言ってた告白とらやらはもう済んだのかい、ご報告はまだ聞いていないよ」
二人の動作が止まった。
あらら、聞かなかった方が良かったかな……あの時やけに自信ありげだったけど……まぁここは私が気を紛らわせてあげるか。
そう思った時、ひよりがにやりと笑ってゆたかの方を見た。
ゆたか「そういえば一昨日もお泊りだったよね~」
ゆたか「えっ、あ、あれは実家に帰って……」
顔を赤くして首を激しく横に振った。
ひより「あれれ、昨日はみなみの家に遊びに行ったって言ってなかたっけ……」
ゆたか「ひ、ひよりこそ帰りの時間が遅くなる日が随分多くなったよね」
ひより「あ、あれはネタを考えていてね……公園で考え込んで……」
ゆたか「ふ~ん、ネタはお風呂に入って考えるって言わなかったっけ」
ひよりも顔を赤くしながら話している。なんだ。うまくいっているみたい。心配して損した。
こなた「はいはい、そこまで、それで式はいつになるのかな……」
ひより「……それは……」
こなた「二人は忙しいからね、かえでさんみたいに籍だけ入れるって方法もあるからさ」
二人は黙って俯いている。少しからかってやるか。
こなた「おやおや、恥かしがる歳じゃないでしょ……」
二人は黙ったままだった。かがみだったらもう少し面白い反応するのだけど……
ゆたか「お、お姉ちゃんは誰か好きな人居ないの……」
ゆたたが反撃に出たか。
こなた「残念でした、私の恋人はゲームの中なのだよ、私に死角はないよ」
ひより「先輩の初恋はいつごろでしたか」
こなた「え、は、初恋……」
ひより「あ、聞きたいなお姉ちゃんの初恋の話し、まだ一度も聞いてない」
こなた「さてと、明日は日が昇る前に出ないいけないから早く寝ないと」
私は席を立った。
ゆたか「あ、ずるい、お姉ちゃんが振ったはなしだよ、逃げないで」
まさかそんな話しになってしまうとは思わなかった。そんな話し……恥かしくて話せない。私はそのまま寝室に入って寝た。

 未だ日が昇る前の薄暗い早朝、携帯のタイマーで私は目覚めた。身支度をして居間に入るとゆたかが居た。
こなた「起きてたの?」
ゆたか「うん、眠れなくて……」
こなた「私が寝てからひよりとエッチな話しでもしてたとか、」
ゆたか「うんん……」
私のジョークに何も反応をしなかった。ゆたかは机に置いてある本を見ている。あれは没収された本だ。
こなた「その本は……」
ゆたか「……私のした事に比べればこんなのは軽いジョークだよ」
こなた「なんの話しを?」
ゆたかの言っている事がさっぱり解らない。
ゆたか「私はひよりの目の前で記憶を奪うなんて言ってしまった……懲りていないのは私の方だった」
こなた「昨夜の事を言っているの……本人はあまり気にしていないみたいだけど、変わったところも見当たらないし」
ゆたか「うんん、取材でボイスレコーダーを使わなくなったでしょ、あれは私のせい、必要以上の記憶が消えてしまったから」
こなた「そうかな……」
ゆたか「そうだよ、私には解るの、だから今でもこうして眠れない時が……どうしてあんな事をしたって……なんでまた同じ事をさせようとするのかって……」
こなた「……難しい事は分からない……よ」
ゆたか「そうだったね、これは私の問題だった、ごめんなさい」
こなた「でもひよりはゆたかを赦した、ゆたかが部屋に頭を冷やしに行った時もゆたかを庇っていたからね、それは私にも分かる」
ゆたか「ひより……」
ゆたかは机に置いてあった本をひよりが隠していた場所に戻した。
こなた「良いの?」
ゆたか「うん」
その時のゆたかの笑顔は印象に残った。
こなた「さてと、そろそろ行かないと」
ゆたか「あ、そうだ、眠れないからお弁当作っておいたよ、休憩の時に食べて」
こなた「ありがとう」
お弁当を受け取った。
ゆたか「確か、お姉ちゃんのお店が引っ越す前の町だよね……」
私はは頷いた。
ゆたか「これも何かの運命なのかな……」
こなた「つかさは一人旅に出る時、かがみからお弁当を受け取った……」
ゆたか「あっ……同じ……」
こなた「ははは、偶然だよ……それじゃ行って来ます」
ゆたか「行ってらっしゃい」
私は神崎めぐみの自宅へと向かった。

つづく

以上です。

さて、この記者、神崎あやめの本当の目的はなんでしょうか。
次回にご期待下さい。


このスレ自分の独占状態になってしまった。
いつもなら1レス物が入ってくるのだが。

それに読んでくれている人が居るのかどうかも心配。



ここまでまとめた

@WIKIモードがワープロモードと同じ容量で書き込めるようになったようですね。
予定ではこなたの旅⑤はページ2で編集します。

それでは投下します こなたの旅の続きです。

今回は短めで5レスほど使用します。

 車を走らせて数時間。もう目的地に着こうとしている。
結局ゆたかとひよりに会ったけどあの記者の対策はこれといって出なかったな~
こなた「ふぅ~」
思わず溜め息。
それにしても、あの町へ行くのは引っ越してから初めてかもしれない。つかさはあの神社に思い出がある。かえでさんは生まれ育った故郷。この二人は何度も行っている。
私は仕事であの町に引っ越して住んだだけ。特に思い入れもなければ親しい人が居るわけでもない。遠いし田舎だし……こんな事を言えばかえでさんが怒ってしまう。
そんな私がその町に行こうとしているなんて。
私の思い出と言えばお稲荷さんの出来事くらいか。
ふと車の時計を見た。約束の時間よりかなり前に到着しそうだった。そんなに飛ばして運転はしていないのに。
最近になって高速道路が整備されて近くにインターチェンジが出来た。それを計算に入れていなかったせいかもしれない。
みゆきさんが言っていたっけな。仕事関係以外で家を訪問する時は約束の時間より少し遅れて訪ねるのがエチケットだって。
まぁ、向こうもいろいろ準備があるだろうし。どうしたものかな……
こうなるのだったらもう少し遅く出ても良かった。そうすればゆたかからお弁当を受け取らなくても……あ、そうだったお弁当まだ食べてないや。
折角作ってくれたのだから食べないと悪いな……どこで食べよう。車の中で食べちゃおうか……
それだと時間が余りすぎちゃう。食べて一休みすると眠ってしまって今度は遅れ過ぎてしまうかもしれない。
あれこれ考えて……車を止めた所はあの神社の入り口の前だった。

あの時と変わっていない。それもそうだ。。それが条件で町に譲渡したのだったのだから。変わったといえばお参り用に駐車スペースが確保された所くかいかな。
その駐車スペースに停めて車から降りた。
こなた「う~ん」
背伸びをして座って固まっていた身体を伸ばした。
ここまで来たからには……
神社の入り口を見上げた。
やっぱり頂上で食べないと意味ないかな……つかさもあの時同じように思って登ったに違いない。
『わっ!!!』
こなた「ひぃ!!」
突然後ろから声を掛けられた。私は跳びあがって驚いた。振り向くとフルフェイスのヘルメットを被った人が立っていた。
「驚いちゃった?」
この声は……その人はヘルメットを取った。ヘルメットから長い髪がふわっと零れ出た。彼女はその髪を手でさっと梳かした。
神崎あやめ……
あやめ「どうしたの、こんな所で」
こなた「そ、そっちこそなんでこんな所に……」
まだ驚いて心臓がドキドキしている。
あやめ「私? 私は買い物の帰り、それにしてもバイクで近づいたのに全く気付かなかったから……どうしたの物思いに耽っちゃって……」
こなた「べ、別に何でもない……」
神崎さんは私をじっと見た。
あやめ「その手に持っているのは……お弁当?」
こなた「そうだけど」
神崎さんは私の見ていた神社の入り口を見た。
あやめ「……あぁ、なるほど、神社の頂上でお弁当を食べようとしていたのか……そうそう、この神社の頂上はねとっても景色が良いからね……」
神崎さんはバイクを私が停めた車の横に置いた。
あやめ「案内するよ、絶景のポイントがあるから」
彼女は微笑んで神社の入り口に歩き出した。
こなた「え、い、良いよ、私は一人で……」
あやめ「いいから、いいから」
私の腕を掴むと神社の入り口まで引っ張った。
こなた「分かった、案内してもらうからその手を放して……」
手を放した。
あやめ「そうこなくっちゃ……ちょっと頂上までは体力要るから覚悟して」
神崎さんは神社の入り口に入り階段を登り始めた。
まぁいいか。どうせ私も登るつもりだったし。私は彼女の後を追った。
 でも何だろう。さっきの彼女の笑顔……
取材に来た時や店に客として来た時だってあんな爽やかな笑顔は見た事ない。
どうもさっきから彼女のペースに押され気味。よーし、私がただのオタクじゃい所をみせてやる。一回大きく深呼吸した。
「3、2、1……」
こなた「ゴー!!」
全速力で階段を駆け登った。あっと言う間に神崎さんを追い抜いた。追ってくる気配はない。でも私はペースを落とさず頂上まで登った。

こなた「はぁ、はぁ、はぁ……」
さすがに息が切れた。両膝に手を掛けて休んだ。そして階段を見下ろした。はるか小さく彼女が登ってくるのが見える。彼女がどんな反応をするか楽しみだ。
彼女は数分遅れて頂上に着いた。彼女も少し息を切らせていた。
あやめ「……凄い……まるで陸上選手みたい」
私を見上げて驚きの表情を見せた……あれ?
思った反応とは違った態度を取った。負け惜しみの一つでも言うのかと思った。そうしたら私も透かさずドヤ顔で返してやったのに。拍子抜けだな。
彼女は呼吸を整えると階段から少し歩いて私を手招きした。
あやめ「お弁当を食べるなら此処が良い」
私は彼女の指差す切り株に腰を落とした。そしてお弁当と広げた。
ゆたかの作ったお弁当か……高校時代以来か。盛り付けが上手くなっている。あれだけ全力で走って振ったのに具が崩れていない。それに彩りも鮮やかだ。
一口食べた……味付けはあの時とあまり変わっていない。懐かしい味だった……
あ、そういえば神崎さんは何処だ……
神崎さんは階段から景色を見下ろしていた。もしかしてそこが絶景なのか。別に教えてくれるもなにも頂上に着けば誰でも見れらる景色じゃないか……
もしかして私が食べ終わるのを待っているのかな……しょうがないな……私だけ食べているのも気が引けるし……
私は食べるのを止めて神崎さんの立っている所に向かった。
こなた「もしかして、これが絶景?」
神崎さんは遠い目をして眺めている。私の声が聞こえていないみたい。それならそれでいいや、残りのお弁当を食べちゃおう。
あやめ「泉さん、貴女はこの町に住んでいる時、この神社を登った事はあるの?」
戻ろうとしたその時だった。私は立ち止まった。
こなた「あるけど……」
あやめ「町内の住民ですら滅多に来ないこの神社なのに、あの店長さんに付き合わされたのかしら?」
そうじゃない、そうじゃないけど……なんて言えば……
神崎さんは景色を見ながら話した。
あやめ「ふふ、話したくないなら、無理には聞かない」
引いた……ますますこの人がどんな人なのか分からなくなった。これも取材の一環なのか?
あやめ「私の住んでいる家、そしてこの神社、十年前の計画で取り壊される計画だった」
こなた「家が、壊される?」
あやめ「そう、この神社の一帯が都市計画になったのは貴女も知っているでしょ、私の家の廻りもその区画だったの」
さらに話しは続いた。
あやめ「確かにワールドホテルからの補償金額は家と土地を足しても余りあるものだった……私達家族は反対した、そうしたら向こう側から交渉しようと持ちかけてきてね、
    交渉は順調に進んで私達の区画を計画から外すと決まり掛けた時だった、あの事件が起きたのは……」
こなた「事件って、ワールドホテル会長の逮捕?」
神崎さんは頷いた。
あやめ「その後の交渉についたのは貿易会社、今までの交渉を無視して彼等は区画を変更しないで私達に退去を迫った、しかも保証金は半分にされてね……
    でも私達にはそれを覆す手段も力も無かった、私はまだ駆け出しの記者にすぎなかった……」
そんな過去があったのか。しかし重い話しだ。私はこう言う話は苦手だな。
あやめ「それが一変した、匿名の誰かが計画区画を全て買い上げて無償で寄贈した、匿名でそんな事をしても得にはならない、会社や組織ではないのは直ぐに分かる、
ワールド会社から私達家族に示された保証金から換算して土地買収に数十億、それを上回る金額……私の計算では数百億のお金が動いたと思う、
でも個人でそんな金額を動かせる人物は限られる、一体誰がそんな事をしたのか……政治家か資産家か……分からない」
誰かって……私の事じゃないか……まさか本人を目の前にそんな話しをしているなんて彼女は判って言っているのか……ま、まさか、あれは全部ネットでやった事、
足跡は残らないようにしたし分かるはずはない。
あやめ「それが私の追い続ける真実」
こなた「そ、それで私を呼び出してどうしろって……私はしがないレストランのウエートレスですよ」
神崎さんは振り返り私の方を向いた。そして手に持っているお弁当を見ると手掴みで卵焼きをつまみ自分の口に入れた。
あやめ「もぐもぐ……それは私の家で話す」
こなた「あっ!! そ、それは……」
それは私の一番好きな卵焼き、楽しみに取っておいたのに……
あやめ「お弁当を食べるときは一人で食べるとつまらないでしょ、そう言ってたじゃない?」
こなた「そ、それは……」
神崎さんはにっこり微笑んだ。
あやめ「ふふ、貴女の無事を祈り込めて作っている、美味しかった」
そう言うと神崎さんはハンカチを取り出した。
あやめ「私は幼少からこの神社で遊んでいてね、この階段を速く下りる方法があって……」
神崎さんは階段の手摺にハンカチを巻くとそこに腰を下ろし両足を上げた。体と足でバランスを取りながら滑ってく、みるみる速度が増していく。
あやめ「下で待ってから~」
あっと言う間に小さくなってしまった。

 登りのお返しか。それなら私だって……急いでお弁当を片付けて……ゆたかの作った卵焼きを食べるなんて信じられない……何が無事を祈ってだよ……あ、あれ?
神崎さんはなんでこのお弁当を私が作っていないのを知っていたのだろう……
私の無事を祈ってって……確かにゆたかならそうしたかもしれない。
こんな事が出来るのは……お稲荷さん……
 ん~、結論を急ぎすぎたかな。。彼女はかえでさんに策士と言わしめた人だ。お稲荷さんっぽく感じただけかもしれない。
地球に残ったのは四人だけ……もし彼女がお稲荷さんならひろしが気付くはず。
それにけいこさんやめぐみさんの失踪ならその真相を知っているはずだ。こんな回りくどいことをする必要はない。そう考えるとやっぱり神崎あやめは人間だ。
それじゃ彼女はこの神社を寄付した人を探してどうするつもりなのかな。
お礼をするつもり……
それだけなら私達は秘密にしている必要はない。彼女がつかさに会おうが会うまうが関係なくなる。そして私もこんなに悩まなくてもよくなる……
こなた「ふぅ~」
溜め息をついた。そんな単純じゃないよね……
気付くともう神崎さんの姿は見えない。もう下りてしまったのか。
あの記者はこの神社を寄付した本人に何を話すつもりなのか。少しそれも興味があるな。
ポケットからハンカチを出した。そして神崎さんと同じように手摺に巻きつけてその上に腰を下ろした。バランスを取りながら滑る……
こなた「うわ~」
落ちそうになった。だめだ。これは直ぐに出来ようなものじゃない。くやしいけど歩いて下りよう。

 神社の入り口に戻ると彼女はバイクに跨り私を待っていた。親指を立てて向かう方向を指している。私を案内してくれるのか。
私は車に乗りエンジンをかけた。彼女はゆっくりとすすみ始めた。そして私は彼女の後を付いていった。

 神社で5分もかからない所に彼女の家があった。なるほどこれなら駅も近いから電車でも苦にはならない。あの時電車か車って聞いたのはそのためだったのか。
あやめ「適当な場所に停めていいから」
彼女はバイクを降りた。私も彼女の言うように適当な場所に車を停めて降りた。
あやめ「家に入って待っていて、バイクを置いてから向かうから」
こなた「うん……」
彼女は家の裏の方にバイクを引いて入って行った。家に入るって家の鍵なんか持っていないのに……
玄関の前で待っているかな。
『ガチャ』
扉が開いた。
「あら、あやめの友達ね」
女性が中から出てきた。見た目の歳から判断すると神崎さんのお母さんかな。
こなた「こ、こんにちは……」
「あやめの母、正子と申します……」
正子さんは深々と頭を下げた。やっぱり思った通りだ。
こなた「あ、泉こなたと言います……」
私も思わず釣られて頭を下げた。
正子「どうぞ中へ」
こなた「お邪魔します……」
中に入り靴を脱いだときだった。
正子「あやめはまたオートバイにに乗って……幾つだと思っているのかしら」
心配そうに玄関を見ている。
こなた「買い物って言っていましたけど……」
正子「もうとっくに結婚して子供の一人や二人居てもいい頃なのに、仕事やオートバイばっかりで、事故でも起こされたら……」
正子さんの姿が早退したつかさを心配していたみきさんの姿と被って見えた。お母さんか……
正子さんは居間に私を通した。
正子「そこで待っていてね」
こなた「はい」
間もなく神崎さんが帰ってきた。
正子さんは玄関に向かった。
あやめ「ただいま、泉さんが来てるでしょ?」
正子「あやめ、オートバイは危ないって何度も言っているでしょ」
あやめ「別に良いじゃない、私の勝手でしょ」
正子「勝手って……あやめ」
あやめ「お客さんが来てるでしょ、みっともないから止めて、それに大事な話があるから部屋には来ないで」
玄関から怒鳴り合いの大声が私の耳に入ってくる。
どたどたと足音が近づいてきた。
あやめ「ごめんお待たせ、私の部屋で話しましょ」
こなた「う、うん」
あやめさんの後を付いて部屋に向かった。

 私が部屋に入ると神崎さんは扉を閉めた。
あやめ「ふぅ、まったく、煩くてしょうがない」
うんざりしたような表情だった。
こなた「帰ってくるなり親子喧嘩なんて……」
あやめ「恥かしい所を見られた、でも、悪いのは向こうの方だから」
こなた「うんん、正子さんは神崎さんを心配して」
あやめ「何が心配だ、知った風に、貴女も親子喧嘩くらいしてるでしょ、分からないの」
少し興奮気味だった。私は普段通りの口調で答えた。
こなた「お母さんは生まれて直ぐに亡くなった……喧嘩どころか話しすらした事ない」
あやめ「え……ご、ごめんなさい……」
驚いた。すぐに謝ってくるとは思わなかった。この人、見栄は張らないタイプなのか。かがみとは違うな。
こなた「別に気にしていないから、それより話しを聞きたいな、明日は仕事だから手短に」
あやめ「えっ、あっ、そ、そうだった」
神崎さんは私を椅子に座らすと立ったまま話し始めた。
あやめ「二人の失踪事件、未だに二人の消息は分かっていない、私も個人的に調べた限りでは拘置所から消えてからの足取りは全く分からない、まさに蒸発の文字通り
    気体にになって消えたとしか思えないほど見事に証拠がない、ここからは私の推測なんだけど、これはそうとう大きな組織が絡んでいる」
あらら、話が大きくなってしまっている。でも記者らしい推測かもしれない。
あやめ「これを見て」
本棚からA4サイズの数枚の紙を私に渡した。そこには表があり数字が書き込まれている。私にはさっぱり分からない。
こなた「何これ?」
あやめ「貿易会社で過去十年に取得した特許の数……もう一方はワールドホテルの会長が取得した十年分の特許数……
    どう、数がほぼ同じでしょ」
こなた「うん……」
あやめ「ワールドホテルの従業員は殆ど解雇されているのにも関わらずこの高水準を維持できるのは不自然、、私はね二人は貿易会社に誘拐されたと思っている、
    あのくらい大きな組織なら証拠を残さずに拉致することくらい簡単に出来ると思う」
私は書類を彼女に返した。
こなた「大胆な推理だね、でも……飛躍しすぎだよ……」
あやめ「そうかしら、あの会社は最近あまり良くない噂があってね、闇の商売……兵器の開発や売買に関与していると言う、それが明るみにできれば二人を救出できる
    私は二人を救い出したい、貴女もそう思うでしょ?」
まるで映画の世界のような話だ。
こなた「……それで、私にどうしろって言うの」
あやめ「貿易会社に潜入取材をする、それを手伝って欲しい」
こなた「ほぇ?」
何を言い出すと思えば私にスパイをしろってか。しかし彼女目は真剣そのものだった。
こなた「ちょ、ちょっと待って、いきなり潜入だななて、神崎さんはあの神社を取り戻した人を探しているんじゃないの?」
あやめ「そう、だからあの二人がそれをしたと思う、あの会社が簡単に一度取得した土地を手放すとは思えない、何か交渉したに違いない」
こなた「わ、私はスパイなんか出来ないよ」
あやめ「安心して、取材は全て私がする、貴女はサポートしてくれるだけで良いから」
私の手を握って来た。目がマジになっている。
この人本気だ、本気で私を巻き込もうとしている。ダメだよそんな事をしても意味ないよ……
こなた「実はね、あの神社を買収したのは私だから……」
あやめ「ん、なに?」
あっ、しまった。彼女の迫力に押されてつい言ってしまった。神崎さんは私をじっと観察するような目つきで見ている。
どうしよう。もうおしまいだ。バレてしまった

つづく

以上です。

こなたのピンチ。彼女はこの危機を乗り越えられるのでしょうか?

次回にご期待下さい。


ここまでまとめた。

それでは「こなたの旅」の続きです。
5レスくらい使います。

 神崎さんは黙って私を見ている。もう何を言ってもダメだろう。素直になるしかない。
あやめ「貴女が、神社を買収した?」
こなた「う、うん……」
私はもう頷くしかなかった。
あやめ「数百億のお金を動かし、貿易会社から土地を買ったって……」
こなた「う、うん……」
あやめ「プッ!!  ぎゃはははは、ふははははは~」
腹を抱えて笑い出した。私は呆然と彼女を見ていた。
あやめ「はははは、いくら手伝いが嫌でももっと上手な嘘を付きなよ、はは~」
彼女の笑いは数分間続いた。なんかこんなに笑われるとちょっと腹立たしい。私はちょっと頬を膨らませてそっぽを向いた。
あやめ「……貴女は大富豪や政治家の娘じゃないよね、見たところ普通の女性、貴女のどこにそんな金額を動かせる力があるの、そんな方法があるなら私が聞きたいくらい、
    もし、万が一、貴女がしたというなら魔法を使ったとしか考えられない……」
そう、私はその魔法を使った。お稲荷さんの知識を使った。優秀な記者でさえ私がそんな事をしたなんて見抜けない。
こなた「は、はは、そうだよね……ははは」
笑って誤魔化すしかなかった。
あまりにも現実離れしているからバレないで済んだ。これはラッキーだった。それと同時に激しい自己嫌悪を感じた。
私はつかさに怒鳴って怒った。内緒の意味を知っているのかって。意味を知らないは私の方だった。
ただ迫力に圧倒されただけで秘密を話してしまうなんて。秘密を守るのってこんなに難しいとは思わなかった。つかさに対して本当にすまないと思った。
あやめ「嫌なのは分かるけど、話は最後まで聞いて欲しい」
神崎さんが真剣な顔になった。今は反省している時じゃない。ここは話しを聞こう。
こなた「うん、此処まで来たのだし……」
神崎さんも腰を下ろし話し始めた。
あやめ「旧ワールドホテル本社改め、貿易会社日本総本店、そこにあるレストランに臨時求人があるの、そこに一ヶ月間働いてもらう、
    そこで、資料室から資料をいくつか写す、もちろんそれは私がする、貴女はその資料室の場所を探してもらいたい、私は少し有名になり過ぎて自由に行き来できない」
こなた「臨時って、それでも私はレストランかえでを辞めないといけないって事じゃん」
あやめ「まぁ、そうなる」
こなた「ちょ……簡単に言ってもらっちゃ困るよ、私は雇われの身、勝手にそんな事できないよ、それにホテルのレストランなんて……私……一回も働いた事ない、
    それに何で私なの?」
神崎さんはニヤリと笑った。
あやめ「初めての取材の時のあの発言は素晴らしかった、それに一ヶ月間、貴女を見てきたけど接客態度は賞賛に値する、一流のホテルでも充分通用する、問題ない、
    私はね柊けいこにスカウトされたレストランを全て見た、その中で貴女が一番適任だと判断した」
この人の言っている事は本当なのかな。私をおだててその気にさせる話術なのかもしれない。しかしそんな考えをする暇もく更に彼女は話し続けた。
あやめ「あの店長は……そうね、私が直接交渉しよう、取材が終わったらちゃんと復職できるようにする、それなら文句はないでしょ?」
こなた「……文句はないけど、そんな交渉できるの?」
あやめ「確かに難しい、だけどするしかない」
神崎さんも必死ってわけか。
こなた「で、そのレストランってどんな店なの?」
あやめ「コスプレ喫茶」
こなた「……こ、コスプレ……?」
あやめ「別に如何わしい店じゃない、貴女の経歴に傷がつくような事はないから、見た目は十代だから絶対に採用される」
成る程、コミケに参加しているだけあって私がその手の経験者だって見抜いたのか……適任か……
そういえば今の店じゃコスプレなんてできない。クリスマスの時サンタっぽい格好をするくらいだった。
あやめ「どう、興味でてきた?」
こなた「え、え~、ま、まぁ少し」
神崎さんの口車に乗るのも良いかな?
あやめ「よし、交渉成立!!」
私の手を握って握手をした。
こなた「ちょ、ちょっと、まだ早いよ」
あやめ「そうかな、さっきの貴女の顔、その気になった顔だった」
くっ、いちいち人の心を読む人だ……
こなた「やってみるよ……かえでさんの許可が出ないとどっちにしろダメだよ」
あやめ「そうこなくっちゃ!!、交渉は任せて」
自信ありげな口調だった。そして神崎さんは立ち上がった。
あやめ「それじゃ、私の手料理をご馳走してあげる、もちろん貴女の店よりは劣るけどね」
こなた「別にそんなことまでしなくたって……」
神崎さんは上着を脱ぎ始めた。どうやら着替えるようだ。確かにバイク用の服じゃ料理はし難い。
あやめ「取材の成功を願って祈りを込めて作る、いつもやっている事だし」
こなた「それじゃ、言葉に甘えようかな……」
神崎さんの動きが止まった。
こなた「どうしたの?」
あやめ「どうしたのって、これから着替えるから……」
顔が赤くなっている。まかか。
こなた「着替えるって、私女だよ、店じゃみんな更衣室でこうやって話しながら着替えている、同性だし恥かしくなんかないよ?」
あやめ「……いいからちょっと居間で待っていてくれるかな」
あらら、この人すごく恥かしがりやだな。だとしたらかがみ以上だ。まぁそこまで言われていたら出ないわけにはいかないか。
こなた「それじゃ出ますよ」
部屋を出て居間に向かった。

 居間に入ると正子さんが居た。私に気付くと席を立った。
こなた「神崎さんが此処で待って欲しいと言われまして……」
正子「そうですか、どうぞ座ってください」
こなた「はい……」
席に座った。なんか緊張するな。正子さんはそのまま台所の方に向かった。
正子「お茶を入れましょうね」
こなた「あ、ありがとうございます……」
正子「……部屋から聞こえましたよ、あの子があんなに笑うなんて……暫く聞いていなかった、あやめの笑い声」
お茶を入れながら話す正子さんだった。居間と台所は仕切りがないので様子が見える。
こなた「そんなに毎回喧嘩しているの?」
正子「ふふ、喧嘩も久しぶり、滅多に喧嘩なんかしない、よほど貴女が来るのが嬉しかったようね、子供の頃からそうだった、あやめは親しい友達がくると
   気持ちが高ぶるみたい」
こなた「そうなんですか~」
あんな喧嘩を毎回やっていたら大変だ。少し安心した。でも、神崎さんの話しをしている正子さんのあの顔はなんだろう。微笑んでいるようにも見えるし。安らかにも見える。
喧嘩していた時と違う。お母さん……か。
正子「どうぞ」
お茶を私の目の前に置いた。
こなた「あ、どうも……」
正子さんは私の目の前に座り私をじっと見つめた。ちょっと恥かしかった。
正子「ふふ、可愛らしいわね、こんな年下の友達なんて珍しい」
こなた「可愛らしいって、私、神崎さんと同じ歳です」
正子「え、あ、そうだったの、ごめんなさいね、あまりに……その、若く見えるものですから」
驚いて私を見ている。普通ならあまり良い気はしないのだけど。でも、何故か正子さんの言葉が自然に受け入れられる。
こなた「いいですよ、背も低いし、子供体形ですし、童顔ですし」
正子「本当にごめんなさい」
頭を深く下げてしまった。あ、少ししつこかったかな。
こなた「あ、あ、そそれより、あやめさんってどんな人なんですか、実は会ってからそんなに経っていなくて」
正子「あやめ……見たままの子ですよ、正義感が強いのか、あんな職業に就くなんて、何度か危険な目にも遭っているみたいで」
正子さんの顔が曇った。
こなた「……それは心配ですよね……」
正子「まさか、泉さんにも何か強要していないかしら」
私を心配そうに見ている。何だろうそんな目で見られるとこっちが心配になってしまう。
あやめ「おまたせ……母さん、泉さん、な、何を話していたの」
正子「さて、何かしらね」
私を見てにっこり微笑んだ。
こなた「さて」
これは正子さんに合わせよう。それしか思い浮かばなかった。
あやめ「まったく、二人して……話している内容は想像がついたよ」
呆れ顔で台所に向かう神崎さん。正子さんが立ち上がり台所に向かおうとした。
あやめ「私一人でするからいいよ、泉さんの相手をしていて」
正子さんは席に戻った。
正子「そういえばこの町は初めてではないって聞きましたけど」
こなた「はい、以前この近くに住んでいました、レストランかえでって知っています?」
正子「……あ、ああ、ありましたね、温泉宿と一緒だった」
こなた「はい、そうです、そこのホール長を務めてます」
正子「一度は行こうとしていたのですが……」
……
……
 神崎さんのお母さんか……
お母さんが生きていたらこの位の歳になっていたかもしれない。容姿も多分性格も違うのに何故かとても親近感が湧く。もちろん今までも他人の母親を見てきている。
つかさやかがみの母親みきさん。みゆきさんの母親ゆかりさん。みなみの母親ほのかさん……
その中でもみきさんが一番会う機会が多いかもしれない。それでもこんな感じになった事なんかなかった。
もしかして正子さんはお母さんに似ている所があるのかもしれない。そんな気がしてきた。幼い頃の僅かな記憶がそうさせているのかも……
 こうしているうちに神崎さんの料理が出来た。

あやめ「そろそろご感想を聞きたいな……」
こなた「え、あ、ああ、美味しいよ、うん、凄くおいしい」
神崎さんの料理が出来上がってもう殆ど食べ終わった頃だった。
あやめ「もっとプロらしい意見が欲しいね、それじゃだれでも言える感想」
こなた「プロって言ったって私は直接料理を作って出したりしないから……」
神崎さんはじっと私を見ている。もっと意見を聞きたそうにしている。
こなた「う~と、盛り付けが綺麗で心が籠もっている感じがよく出ていると思う……こんな感じでいい?」
あやめ「盛り付けね……まさかそっちの感想が出るとは思わなかった」
神崎さんは立ち上がった。
あやめ「それじゃそろそろ行きましょうか」
こなた「え、行くって何処に?」
あやめ「もちろん貴女のお店に決まってるでしょ、店長さんと交渉しないといけないし」
こなた「今から?」
あやめ「早くしないと向こうのレストランが募集を締め切るかもしれない、決まったら即実行」
正子「もう少し休んでからでも、ご飯を食べたばかりで」
こなた「今から行っても店の閉店時間を過ぎちゃうね……」
神崎さんは時計を見ながら考え込んだ。
あやめ「店長さんの自宅に行く手もあるけど……それだと流石に失礼かもね……それじゃ日が変わった頃此処を出ましょうか、そうすれば開店前に着くでしょ」
こなた「うんん、それだと忙しいからお昼を越えた頃が良いかも、私も遅番だし丁度いい」
あやめ「分かった、そうしましょう、それじゃそれまで休憩」
正子「またオートバイで……」
正子さんが心配そうな顔で神崎さんを見た。
あやめ「……それじゃ泉さんの車で同行する……」
こなた「うん、それで良いよ」
私は頷いた。

 車で移動中彼女とは何も話さないつもりでいた。あまり話すとお稲荷さんの話しをしてしまいそうだったから。だけど向こうの方から話しかけてきた。
あやめ「泉さんは母の肩を持つってばかりいる」
こなた「別にそんなつもりはなかったけど……不服?」
あやめ「不服って訳じゃないけど……本当はバイクで行きたかったのに」
こなた「そうやって喧嘩したり話したり出来るのだからいいじゃん、私は羨ましいよ」
成る程ね、意識したつもりはなかったけど神崎さんにはとう思ってしまうのか。
こなた「それよりさ、潜入取材だけど、神崎さん単独じゃできないの?」
あやめ「言わなかった、私は有名になりすぎたって……取材がバレたら意味ないでしょ」
こなた「コスプレだって神崎さんの体形なら問題ないよ、バイクを運転している時に来ていたぴっちりの服さ、ボン、キュッ、ボンってなかなかグラマーだった」
あやめ「いやらしい……表現がエロオヤジだ……」
目を細めて私を見た。
こなた「そうかな」
あやめ「同性とは思えない、どうやったらそんな表現が出来るんだ?」
こなた「う~ん、ギャルゲーとかしてるし、そのせいかな~」
あやめ「ギャルゲーって、あれは男性向けじゃないの、どうやったらそんなゲームをする気になるのか分からない」
こなた「そんな風には感じない……でも、まぁ男性視点かもしれないけどね……お父さんの影響かな」
あやめ「お父さん……」
急に神崎さんが黙ってしまった。これで少しは運転に集中できるかな……
あやめ「泉さんのお父さんって仕事は何かしているの?」
こなた「一応作家やってるけど……」
あやめ「作家……凄いじゃない」
こなた「凄いって、別に人気作家じゃないし……ね」
あやめ「同じ物書きとして尊敬する……今度会わせてよ」
こなた「あまり会わない方がいいと思うけど……」
あやめ「どうして?」
こなた「私と同じ趣味だよ、さっきエロオヤジとか言ってたじゃん」
あやめ「娘にそんな影響を与える父なんてそんなに居ない……それにね、私の父は生まれて直ぐに亡くなってしまったから父親がどんなものなのか知らない」
やっぱり、そんな気がしていた。家でも神崎さんのお父さんの話が一度も出なかったからおかしいと思っていた。
こなた「……なんか切なくなった」
あやめ「別に悲観することじゃない、お互い片親だったって分かった事だし、泉さんとならこれからうまくやっていけそうな気がする」
こなた「これからって、もう潜入取材なんてこれっきりだから……」
あやめ「そうかな、レストランの店員にしておくには惜しいと思うけど?」
こなた「まだかえでさんの承認ももらえていないし、承認がもらえたとしても採用してもらえるかどうかだって……」
あやめ「私に任せなさい……でもね、私達の取材の内容は他言無用だからそれは最初に言っておく」
こなた「う、うん……」
 こんな会話が延々と続いた。

 何度か休憩を挟み私達はレストランかえでの駐車場に着いた。そしてレストランに入った。
こなた「こんちは~」
あやの「こんにち……え、ど、どうしたの?」
私の後ろに居る神崎さんを見て驚いたようだ。
こなた「ちょっとね、いろいろ訳があって、かえでさん居るかな」
あやの「事務室に居るけど……一体どう言う事なの……」
こなた「とりあえず店長のところへ」
あやのは私と神崎さんを事務室に案内した。さすがのかえでさんも神崎さんの姿を見ると驚きを隠せなかった。神崎さんは私の前に出て話しだした。そして話しをし出した。
かえで「こなたを一ヶ月間貸してくれだと」
あやめ「そう、是非とも協力していただいたい」
あやの「私は反対です、取材の内容も話さないで、そんなの承知できると思っているの」
かえでさん、あやの顔が一瞬のうちに曇った。
あやめ「機密事項なので内容は話せません、ですが泉さんの力がどうしても必要なのです、一ヶ月以上の期間は無いと思って頂いて結構です」
かえで「私の店の店員を引き抜くなんて、こなたも随分高く見られたわね」
かえでさんは私を見た。
かえで「それで、こなたはどうなの、あんたはその取材とやらに行く気はあるの?」
こなた「私は……」
かえでさんは手を前に差し出して私の話しを止めた。
かえで「話さなくて良いわ、行く気がないなら神崎さんをここまで連れて来る訳ない」
今度は神崎さんの方を見た。
かえで「一ヶ月と言えど大事なスタッフが抜ける、私の店のダメージは免れない、それはどう補償してくれるの」
あやめ「取材の成功、不成功に関わらず対価として500万円補償します、それと一ヶ月分の泉さんの給料も私が支払います」
ちょ、ちょっと、そんな大金を平気で言ってくるなんて……
かえで「一ヶ月で500万とは大きく出たわね……まだあるわよ、どんな取材か知らないけど、こなたを危険に曝すことは許さないわよ」
あやめ「この件に関して責任は全て私が持ちます……それと私からも一言、一ヶ月後は元の役職で復職が私の条件です」
かえで「う~ん」
かえでさんは腕を組んで考え込んだ。
あやの「店長、私は反対です、泉ちゃ……泉さんが抜けたらお客様の対応をだれがするの」
今度は目を閉じて考え込んだ。そして……目を開けた。
かえで「良いでしょう、許可します、こなた、行くからにはちゃんと成功させなさい」
あやめ「ありがとうございます、それではこれを……」
鞄から封筒をかえでさんに渡した。その封筒は分厚くなっている。かえでさんはそれを受け取った。
かえで「これは?」
あやめ「さっき言った500万です、受け取ってください」
かえで「最初から用意していたのか……ふふ」
神崎さんは私を見た。
あやめ「さて、これで交渉成立、準備して、私は貴女の車で待っているから」
こなた「え、もう?」
あやめ「早くしないと間に合わないかもしれない、出来るだけ急いで」
神崎さんは事務所を出て行った。
あやのがかえでさんに詰め寄った。
あやの「どうして承知なんか、私は反対です」
かえでさんは封筒を金庫に仕舞うと立ち上がった。
かえで「そうね、実は私も心配、だけどこなたには私の店以外の世界を見て欲しい」
あやの「泉ちゃんの仕事は誰が引き継ぐの……」
かえで「あやのに頼むしかないわね、私も出来るだけ手伝う、一ヶ月の辛抱よ……さて、午後からの準備をするわよ」
かえでさんは事務室を出て行った。

 あやのはじっと私を見ている。
こなた「どうしたの?」
あやの「私……泉ちゃんのように出来る自信がない……」
こなた「簡単だよ、あやのだって前の店でホールの仕事してたじゃん」
あやの「そうだけど……」
自信なさげな声だった。
こなた「そうだ、こっち来て」
私は更衣室に向かった。
あやの「更衣室なんか連れてきてどうしたの」
更衣室の自分のロッカーからメモ帳を取り出してあやのに渡した。
あやの「なにこれ?」
こなた「私のマル秘お客様帳だよ」
あやのはメモ帳を受け取って開いた。
あやの「これは……」
こなた「お客さんはいろいろ居るからね、今まで来たお客さんの中で特に注意する人を書いておいたメモ帳、付箋が付いているのが特に注意する人、
    クレーマーに近い人、その次は店の味に文句を言ってきた人、その次が料理を褒めてくれた人、もちろん名前を聞くことなんか出来ないから
    お客さんの特徴を書いておいた、対応方法も書いておいたよ、料理に文句つけてきた人はね油の量を減らすように注文するといいよ……」
あやのはまじまじとメモ帳を見ていた。
あやの「こ、こんなのを作っていたの……」
こなた「私ってバカだから記憶力ないでしょ、だからこうやっておかないとね……取材中は要らないから持っていて良いよ」
あやの「……今までかえで店長が泉ちゃんを手放さなかった理由が分かったような気がする……」
こなた「……そうかな?」
あやのは手帳を見ながら話した。
あやの「長髪の黒い髪の女性、歳は私と同じくらい、なにかとしつこく付きまとう…………これってあの神崎さんじゃ?」
こなた「そうだよ」
あやの「ちゃんとチェックしてある、ありがとう、取材頑張って……」
あやのは笑った。さてとこっちもいろいろ忙しくなりそうだ。
こなた「あ、そうだ、準備しないと……」
私物を整理した。

つづく

以上です。

次回はこなたの潜入取材です。お楽しみに

次回投下は少し時間を下さい。もしかしたら一ヶ月以上かかるかも?


ここまでまとめた。

この辺りで投下を止めた方がいいかな
つかさの旅シリーズの打ち切りを考えています。
読んでいる人が居なさそうだし……投下する人も居ない。
なんか一人ではしゃいでいるだけの様な虚無感を最近感じ始めてきた。

それでは「こなたの旅」の続きを投下します。5レス使用します。

 私が私物を整理して店を出ようとした時だった。
かえで「あやのにアドバイスした様ね」
かえでさんが出口に居た。私を待っていたのだろうか。
こなた「アドバイスなのかなあれは……」
かえで「あやのは接客を全部こなたに任せてしまったからね、これで少しは気合をいれてくれると思う」
こなた「任せたのかな、私は結構面白かったかな」
かえで「トラブルを楽しんでいる……そういう所、ひよりに似ている、あんた気を付けなさい、余計なところまで首を突っ込むと怪我をするわよ」
こなた「ん~今度はそんな簡単じゃなさそうだから余計な事をする余裕ないかも……」
かえで「そう願うわ……神崎あやめか……こなたを使うなんて、さっき貰った補償金は使わないつもりだから安心しなさい」
こなた「そうだよね、多すぎだよ、まさか本当に渡すとは思わなかった」
かえで「こなた、あんたは自分を知らなさ過ぎだ、それはつかさに似ている」
こなた「へ?」
かえでさんは溜め息をついた。
かえで「ふぅ、私も私なりに神崎さんの事をいろいろ調べたわ、かがみさんに聞いたり、彼女の記事を読んだりしたね……思っていたほど分らず屋でもなさそうね、
    道理を弁えている、私達の秘密を話しても大丈夫なような気がする」
こなた「……げんき玉作戦をちょっと話してしまったけど……信じてくれなかった……」
かえでさんは目を大きくして驚いた。
かえで「話した……そんな話しをしたって事は、今しようとしている事ってそれに関係しているのか?」
それは言えない……私は黙って俯いた。
かえで「……口止めされているみたいね、それ以上聞くのは止めるわ……彼女が信じないのは彼女の常識や固定観念が邪魔しているからかもしれない、こなたに大金を動かせる
    力は常識じゃ考えられない、多分お稲荷さんの話しをしても同じ、彼女は作り話と考える、それならそれで私達には好都合よ、無理に秘密にする必要はない」
こなた「……そう言われると少し気が楽になった」
かえで「さぁ、神埼さんが待っているわよ、一ヶ月間、私達の事は忘れなさい」
こなた「う、うん」
私は店を出た。

 駐車場に行く途中つかさの店の横を通る。なんでもなければ挨拶をしに店に入る。だけど……それは出来ない。今つかさに会ったら神崎さんの取材の事を話してしまいそうだから。
秘密、内緒……か、
つかさ「こなちゃん?」
こなた「ひぃ~」
跳びあがって驚いた。
こなた「つ、つかさ、驚かさないで……ふぅ」
つかさ「え、普通に声を掛けただけど?」
不思議そうに首を傾げていた。
こなた「あ、そ、そうなの、で、でもね、後ろから急に声を掛けると驚くでしょ」
つかさ「ふふ、そうかも、ゴメンね」
まなみ「こんにちは~」
直ぐ後ろにまなみちゃんが居た。
こなた「今日はまなみちゃんと、何かあったっけ?」
つかさ「うん、近々ピアノの発表会があってね、まなみは上がり性だから私の店のピアノで克服しようってみなみちゃんが……」
こなた「ふ~ん、店のお客さんに聞かせてなるべく実際に近い状態で練習するって訳か」
私がまなみちゃんを見るとつかさの陰に隠れてしまう。あらら、普段はそんな子じゃないのに……この辺りはつかさの娘って感じがする。。
こなた「って、事はみなみも来るのかな?」
つかさ「うんそうだよ、こなちゃん、寄って行かない……あ、何か用事がありそう?」
私の姿を見てそう思ったのか。それもそのはず。私はスーツを着ているから。私は頷いた。
つかさ「それじゃ悪いね、まなみ、行こう、こなちゃんまたね」
つかさはまなみちゃんの手を引いた。私がまなみちゃんに手を振ると恥かしそうに小さく手を振った。
この件がなければ私はつかさの店に行っていたな……

 駐車場に着くと神崎さんが首を長くして待っていた。
あやめ「おそい!!……キー貸してくれるかな、私が運転するから」
こなた「私だって急ぐなら急ぐなりの運転できるけど……」
あやめ「泉さんには車で書いてもらいたい書類があるから、移動中に書いて」
こなた「書類?」
あやめ「履歴書、レストランかえでに就職する前の履歴を書いて欲しい」
神崎さんに車のキーを渡した。そして私は助手席に座った。。
あやめ「それじゃ行くよ」
神崎さんはゆっくりと車を走らせた。制限速度を守った模範的な運転だった。実はこれが結局一番早く着く、わかっているなこの人……
履歴書を書いている時だった。運転しながら話しかけてきた。
あやめ「駐車場に来る前、子連れの女性と話していたでしょ、随分親しそうだったけど誰なの?」
つかさと話していたのを見られていた。さすがにそつがない。
こなた「柊つかさ、高校時代からの親友」
なんの躊躇もなく答えた。かえでさんのアドバイスもあったかもしれない。それ以前につかさは私の友達だから……
あやめ「柊……つかさ……つかさ、貴女の店の隣にある洋菓子店の名前は確か……」
こなた「うん、洋菓子店つかさ、彼女が店主だよ」
あやめ「そ、そうだったの、私はてっきり店主は男性だとばかり思っていた、店の名と不一致でおかしいとは思っていたけど……」
こなた「彼はつかさの旦那でひろし」
神崎さんは暫く考え込んだ。
あやめ「最初あの店に行ったらやけに他人行儀だった、そんなに親しい仲なのに……不自然」
やっぱりこう来たか。いちいち勘が鋭いな。
こなた「そうそう、ひろしはその前まで私に無愛想だった、つかさがそれを注意したから、例え親しいくてもお客さんだよってね」
あやめ「ふふ、そ言う事なの、羨ましい、高校時代からの友人が近くに居て、店も競合していていいライバルじゃないの?」
こなた「まぁね、ちなみに副店長も高校時代の友達だよ」
あやめ「そうなの……」
何の疑いを抱いていない。自然な会話になった。実際に言っている事は本当だからかもしれない。かがみに嘘はつくなって言われたけどその通りだな。
 暫く履歴書を書いていて疑問が出てきた。
こなた「レストランかえでの私の履歴以外は何故空白なの、私の出身大学、生年月日、住所くらいなら調べられるんじゃないの?」
あやめ「私が他人のプライベートを調べる時はその人が大罪を犯したかその疑いがある人だけ、貴女はそんな疑いはない、自分のプライベートを覗かれるのは気持ち良いものじゃない、
    貴女もそう思うでしょ?」
こなた「う、うん、そうだね……履歴書全部書いたよ……」
あやめ「ありがとう、封筒に入れておいて……もう少しで着く、これから店の面接試験を受けてもらう、もちろん普段通りの泉さんで良い、結果は即日解るから、それとね……」
神崎さんは面接の中尉時点を話した。短期採用とは言えかえでさんの店以外で働くのはアルバイトの時以来になる。もちろん受かればの話しだけど。
 神崎さんは私を調べていないのに意外だと思った。この人は何でも徹底的に調べる人かと思ったけどプライベートに関しては慎重だった。
そういえば私がギャルゲーをしているのも否定していなかった。なんだかんだ言って私が彼女の言う事を聞いているのはそんな態度があったからかもしれない。
すると彼女はゆたかと私が従姉妹関係あるのを知らないのかもしれない。私を目当てに店に来た訳じゃないのか。
私の様な人を探していたのか。余計この記者が分からななった。
……でも悪い人じゃないってのは分かった。

 あれから一週間が経った。私は喫茶店のホール長をしている。
コスプレ喫茶と言っても店員がコスプレをしているだけで内容は普通の喫茶店だった。コスプレの内容は店員の趣味で自由に決めて良い。ただし、露出度の高いものは厳禁だ。
スタッフは私より若いのが殆ど。私は普段と同じようにしているつもりだったけどあっと言う間にホール長になってしまった。私自身も驚いてしまったほどだ。
正直言って面接試験で落とされると思っていたのに……
店で働くのは別にたいした事じゃなかった。それより難しいのがこのビルにあると言う貿易会社の資料室を探すこと。
このビルで働く人は全てIDカードを渡されて入退場を厳しくチェックされている。無闇に動き回れない。
幸いな事に私は材料の入庫管理も任されていたのでビルの倉庫までの通路なら何の制限もなく移動する事ができた。それでも各部屋の扉は部屋番号しか書いていないので
どんな部屋なのかは全く分からない。私が調べただけでも20の部屋があった。
私は自宅から通勤した。だってわざわざ一ヶ月のために引っ越したくなかったから。
神崎さんは近くビルの近くのホテルに泊まり私の報告を待っている。
仕事が終わると神崎さんの泊まっているホテルで待ち合わせをしている。報告のために。
彼女の部屋で作戦会議だ。
あやめ「番号だけの部屋が20……」
こなた「うん、扉の造りはみんな同じだし、中は覗けないし、もう調べようがないかな……」
あやめ「何言っているの、まだ一週間しか経っていないのに音を上げるのはまだ早い、それにこの期間でこれだけ調べられたのは評価に値する」
こなた「そうかな、部屋を数えただけなんだけど……」
神崎さんは腕を組んで考え込んだ。私は考えてもしょうがないのでテレビのスイッチを入れてテレビを見た。丁度夕方のアニメをやっていた。あ、懐かしいのをやっている。
暫くすると神崎さんはリモコンでテレビを消した。
こなた「あっ、いまいいところだったに~」
あやめ「泉さん、部屋に出入りする人物の特徴とか分からない?」
私の言う事なんてまったく聞いていない。目を輝かせている。何か思いついたのかな。
こなた「特徴って?」
あやめ「例えば貴女みたいに作業服を着ているとか、スーツ姿だったとか」
こなた「……スーツ姿の人なら何箇所が出入りしているのを見かけたけど……」
『バン!!』
両手で机を叩くと身を乗り出して私に近づいた。
あやめ「それ、それ、それだ……凄いじゃない、もう絞り込めたじゃない」
こなた「へ、意味が分からない、教えて?」
あやめ「泉さんの用な従業員の控え室なら作業服や制服を着た人が出入りする、資料室ならホワイトカラーが多く出入りする、そう思わない?」
こなた「え、でもずっとその扉で張っていた訳じゃないし……それに作業服を着た人だって資料室に入るじゃん、掃除とか……メンテナンスとか……」
神崎さんは微笑んだ。
あやめ「そうそう、そうやって注意深く考えながら観察して、例えば防犯カメラの数が多い所とかね」
こなた「そんな事出来ないよ」
あやめ「その調子で今後ともお願いって事、わずかか一週間でここまで進展するとは思わなかった」
こなた「明日は休みだけど……」
あやめ「そうだった……明日は何も出来ない……」
神崎さんは立ち上がった。
こなた「どうするの?」
あやめ「明日はビルの周りを調べる……その前に下準備をする」
この人は休むことを知らないのかな。
こなた「そんな事しても何も分からないよ、それより違うことをしたら?」
あやめ「違うこと、違うことって何?」
こなた「例えば家に帰るとか、もう一週間帰っていないでしょ」
あやめ「一週間くらい帰らないなんてザラ、珍しくもない」
こなた「それなら尚更帰らなきゃ」
あやめ「だから、どうして」
なんだ分からないのかな。洞察力と観察力が凄いと思ったのに。こう言うのはさっぱりだな。
こなた「神崎さんのお母さん、正子さんが心配してる」
あやめ「な、何を言い出すと思えば……子供じゃあるまいし、そんなんでいちいち帰って……」
私はちょっと悲しい顔をして見せた。
あやめ「……分かった、分かったからそんな顔をしないで」
こなた「そうそう、そうこなくちゃ」
あやめ「そのセリフは……ふふ、やられた……」
私達は笑った。
あやめ「泉さんはどうするの」
こなた「私はちょっと用があるから」
あやめ「そう、それなら明後日、同じ時間にここで会いましょう」
こなた「うん」
 明日はみゆきさんと会う約束をしている。本当は神崎さんと一緒に正子さんに会いたかったけど……

 次の日、私はみゆきさんの家を訪ねた。みゆきさんは結婚しても実家から出ていない。つかさと同じように婿養子みたい。と言っても近藤と姓を変えている。
何でも研究所が近いからと言う理由で家を出ていない。夫婦二人で研究に没頭している。もちろんその研究はつかさが作った万能薬の再現。
みゆきさんと会うのはつかさの演奏会以来。何年ぶりにかな~
久しぶりに電話をしたらすぐにOKを出してくれた。
みゆき「本当にひさしぶりですね、泉さんお変わり無いようですね」
こなた「みゆきさんこそ、全然変わっていないジャン」
私はみゆきさんのお腹をじっと見た。
みゆき「あ、あの、何か?」
こなた「赤ちゃんは未だなの?」
みゆきさんは首を横に振った。
こなた「研究も良いけど、たまには愛し合わないと……折角結婚したのに……」
みゆき「そうですね……でも、今までの苦労がそろそろ実が結びそうです」
こなた「もしかして、薬?」
みゆき「はい」
みゆきさんはにっこり微笑んだ。
こなた「凄い、いつ発表するの?」
みゆき「まだその段階ではないですけど……臨床試験とかいたしませんと……」
こなた「そうなんだ、ややこしいね」
みゆき「致し方ありません、それが現実です」
こなた「しかしつかさも罪だよ、作り方くらいメモっておけば良かったのにね」
みゆき「いいえ、つかささんはヒントを沢山頂きました……それにこれはお稲荷さんの知識、私達にとっては遥か未来の技術です、それを横取りするのですから……」
こなた「堅い事は言わない、言わない」
みゆきさんは笑いながら立ち上がった。
みゆき「所で、先日頼まれた件なのですが……」
こなた「どう、思い出せそう?」
私はみゆきさんに旧ワールドホテル本社ビルで資料室がありそうな場所がないかどうか前以て聞いていた。みゆきさんは以前あのビルに入ったことがある。
もちろんつかさやかえでさんもも入っている。つかさに聞くのも良いだろう。でもつかさは地図を読めるようにはなったけど一度や二度で場所を覚えられるまでには至っていない。
それにそんな質問をしたらつかさに取材の話しをしてしまいそうで恐かった。もちろんみゆきさんにも言ってしまうかもしれない。
只、みゆきさんは他の誰よりも口が堅い。それでみゆきさんを選んだ。
なんか私って二重スパイをしているみたい……お稲荷さんの秘密、げんき玉作戦、そして神崎さんの取材の秘密か、つかさと同じように旅をしたいなんて思っていたけど

⑤これじゃ冒険だな……
みゆき「……旧ワールドホテルの会長室くらいしか覚えていません……すみません」
会長室か、今はどんな部屋になっているのかな。もしかしたら……
こなた「うんん、謝らなくてもいいよ、10年以上前の事を思い出せなんてのが無茶だった……その会長室って何階なの?」
みゆき「……ごめんなさい……」
そうだよね。階数を覚えていたらもっと細かい所まで覚えているよね。
こなた「無理言っちゃったね、もういいや、折角久しぶりに会ったのだかからもっと楽しい話題にしよう」
みゆきさんは目を閉じて両手で頭を押さえて考えていた。
みゆき「ちょっと待って下さい……35……確か35階だったような気がします」
35階……働いている店のすぐ上、それによく通る階だ。これは調べてみる価値がありそう。
こなた「流石みゆきさん、ありがとう」
みゆきさんは私を不思議そうな顔をして見ていた。
みゆき「いったい何があったのですか、何故今になって旧ワールド本社ビルを調べているのですか?」
そう言われるとそうだ。どうやって言い訳するかな……考えているのになにも出てこない……これは予想できた事なのに、まったく……つくづくバカだな私って……
こなた「え、えっと、まぁ、なんて言うのか……ひよりが新しいネタをだね……」
ますますドツボにはまっていく……
みゆき「神崎あやめ記者と何か関係あるのですか?」
こなた「うぐ!!」
な、なぜ知っている。私は目を見開いて驚いた。
みゆき「……かがみさんから伺っています、取材に来られた様ですね」
かがみが教えたのか。
こなた「ご、ごめん……詳細は話せない……」
みゆき「話せない深い事情があるのですか……私に何か手伝いができれば良いのですが……」
こなた「あ、もう充分に役に立ったよ、うんうん、ありがとう……なんかお邪魔しちゃったからもう帰るね……」
私は帰りの支度をし始めた。
みゆき「待って下さい……」
帰り支度を止めた。
みゆき「今まで黙っていましたけど……そろそろ話しても良い頃だと思います」
急に厳しい顔つきになったみゆきさん。こんな表情を見るのは初めてだ。
こなた「急に改まってどうしたの?」
みゆき「旧ワールドホテル……今は貿易会社のビルになっています……数年前から私は独自に調べていました……どうも腑に落ちない点がありまして……」
こなた「腑に落ちない点?」
みゆきさんは立ち上がると本棚からファイルを取り出しA4サイズの紙を取り出し私に渡した。
そこには表が書いてある。これってどこかで見た事あるような……この数字は……数字自体は覚えていなけどなんとなく分かった。
こなた「貿易会社における過去十年間の特許取得数……」
みゆき「タイトルを書いて居ないのに……分かるのですか?」
こなた「あ……なんだろうね、今日はとっても勘がいいみたい……ははは」
まさか本当にその表だったとは。みゆきさんも神崎さんと同じように貿易会社を調べていたのか。何で?……
みゆき「その通りです……おかしいとは思いませんか、ワールドホテルと同じペースで特許を出し続けられるなんて……」
神崎さんと同じ所を調べている。みゆきさんは何故おかしいと思うのかな……さっぱりだ。
こなた「私に聞かれても……どこが変なの?」
みゆき「ワールドホテルはけいこさんがお稲荷さんの知識を小出しにして特許を得ていました……それと同じ事を貿易会社がしています」
こなた「貿易会社がお稲荷さんの知識を小出しに……って、え?」
みゆきさんは頷いた。
みゆき「貿易会社にお稲荷さんが居るとは思いませんか?」
こなた「ちょ、ちょっと待って、お稲荷さんは四人しか地球に居ないよ、まさか、あの四人があの会社に秘密を教えてるって言いたいの?」
みゆきさんは首を振った。
みゆき「いいえ、それは無いでしょう」

こなた「それじゃ五人目のお稲荷さんが居るって言いたいの、それはないよ、あの時私はめぐみさんに確認した、三人地球に残るって……パソコンにそう登録した
    最後に一人、ひろしが戻ってきて四人……残りの十六人はみんな故郷の星に帰った」
みゆき「……あの時の総数が間違えていたとしたらしたら、地球に二十一人のお稲荷さんが居たとしたら」
こなた「間違え?」
みゆきさんは頷いた。
みゆき「お稲荷さんは十数年前まで総数二十一人でした、つかささんが一人旅をする前までは……」
こなた「何が言いたいの、分からないよ、もったいぶらないで教えて」
みゆきさんはゆっくり口を開いた。
みゆき「真奈美さんです、真奈美さんが生きているのではないか、私はそう思っています、何らかの理由で彼女は貿易会社に囚われているのではないかと」
囚われている……神埼さんも同じ事を言っていた。
こなた「みゆきさん、推理が飛躍しすぎだよ、死んだ人を出したらだめだよ……」
みゆき「私もそう思います、でも本当に彼女は亡くなったのでしょうか、つかさんをはじめ誰一人彼女の遺体を見ていません、それにつかささんの財布に大切に仕舞ってあるあの
    葉っぱ……今でも術が施され衰えていません……私はそれをずっと頭の中で引っ掛かっていました」
こなた「で、でもね、ひろしはその真奈美さんの実の弟だよ、いくらなんでも生きていればその存在に気付くと思うけど……それにまなぶさんはつい最近までお稲荷さんだった、
    その力は現役そのもの、生きていれば分かりそうだけど……」
みゆき「そうですね……私もその矛盾がどうしても克服出来ません……私の心の中に生きていて欲しいと言う願望が抱いた空想にすぎないのかもしれません」
項垂れてしまった。
こなた「今の話しはつかさに絶対に言っちゃだめだよ、つかさは今でも真奈美が死んだのは自分のせいだと責めているから……
    話していい加減な期待をさせたらつかさが可愛そうだよ……結局死んでいるのが分かったら今度こそ再起不能になっちゃうかもしれない」
みゆき「は、はい……そうですね、確かにつかささんには酷な話しです……」
みゆきさんがまさか神崎さんと同じように貿易会社を調べていたなんて。それでほぼ同じような推理をしている。
貿易会社の特許の内容なんて私には難しすぎて分からない。でも、みゆきさんがお稲荷さんの知識と考えたのであれば……もしかしたら……真奈美じゃないとしても本当に
五人目のお稲荷さんが居るって事なのかな……私の見たあの狐に似た野良犬……これって偶然?
だとしたら何故ひろし達は気付かない。五人目のお稲荷さんが勘違いだとしたら、
お稲荷さんじゃないとしたら貿易会社に知識を提供している人って誰?
みゆき「どうか致しましたか?」
こなた「え、あ、ああ、なんでもない……」
私の足りない頭じゃ何も分からない……
みゆき「その件についてはもう少し深く調べてみます」
こなた「え、う、うん……」
私達はいったい何を調べようとしているのだろうか?

つつく

以上です。 予定レス数をオーバーしてしまいしまた。

次回は潜入取材後編です。

ペースが遅くてすみません。この先はまったく書いていないので(毎回だけど)
遅くなります。


此処までまとめた

前から宣言した「おすすめリスト」に「耳そうじ」を加えました。

追加要望は随時受け付けています。

>>151-152
タイトル消すのを忘れました。

それでは「こなたの旅」の続きを投下します 5レスくらい使用します。


 みゆきさんは死んだはずの真奈美と言い、神崎さんはもう地球に居ないけいこさんとめぐみさんだと言う。
貿易会社に知識を教えているのは一体誰なのだろう。二人の結論は違うもののお稲荷さんで共通している。神崎さんにいたってはお稲荷さんの存在を知らないのに。
二人が同じ結果を出したって事は……
五人目のお稲荷さん……もしかしたら本当に居るのかもしれない。
私もあの野良犬を見た時そう思った。まぁ、みゆきさんと神崎さんと比べれば説得力に欠けるかもしれないけど……現につかさに笑われちゃったし……それはさて置き……
ひろし達が何故気付かないのも置いておいて、取り敢えず五人目のお稲荷さんは居るのではないかと私は結論した。
神崎さんの取材は私にとっても重要になった。あの貿易会社は秘密がある、どうも胡散臭い。
取材をなんとしてでも成功させたいと思ったのであった。

 次の日、仕事を終えると神崎さんの泊まっているホテルに向かった。早速みゆきさんの思い出した会長室の話しをする。
あやめ「三十五階……」
私は頷いた。
あやめ「旧ワールドホテルの会長室が35階ってどうやって調べたの、ワールドホテルの時の見取り図はいくら探しても手に入らなかった」
どうやって……そう聞かれると言い難いな。
こなた「実際に中で働いていると分かることもあるんだよ」
神崎さんはじっと私を見る……この人に適当な返事をすると突っ込まれそうで恐い。かがみのツッコミと違ってカミソリみたいに尖っている。
あやめ「……昨日単独で調べたでしょ?」
そら来た、まったくその通りだから困ってしまう。
こなた「……う、うん……」
神崎さんの表情が険しくなった。やばい。
あやめ「私を母に会わせて置いて自分は一人で取材ですか……それを出し抜くって言うの」
こなた「別にそんなつもりは……」
あやめ「それに単独で行動して何かあったら私はあの店長に怒られてしまう、今度からは軽率な行動は止めて」
みゆきさんに会うのは別に危険な行動じゃないけど……でも、神崎さんから見ればそう見えてしまうのか……
こなた「分かった……ごめんなさい……」
神崎さんは一回溜め息を付いた。そしてニヤリと笑った。
あやめ「ふふ、凄い、凄いじゃない、私が何年も探している場所をたった一週間で探し当てるなんて、やっぱり私の目に狂いはなかった、よくやった泉さん」
こなた「え、でも、会長室が資料室になっている証拠はまだ何も……」
あやめ「いや、会長室が資料室になっている所までは私も突き止めていてね……そこまで見抜くなんて、取材の素質あるじゃない」
こなた「ぐ、偶然だよ……そう、全くの偶然……」
偶然にしては出来すぎている。この後の展開が恐い。
あやめ「さて、これからが本当の取材、私が部屋に潜入する機会を探して欲しい」
こなた「潜入してどうするの、もしかして何かを盗んだりするとか……」
あやめ「その言い方、人聞きが悪いよ」
神崎さんは鞄からUSBメモリーを取り出した。
あやめ「これでデータをコピーする」
こなた「それって、違法なんじゃないの?」
あやめ「取材の為なら少々の危険は覚悟の上、だから私がする」
この人……目的の為なら手段を選ばないタイプだ。ある意味ゆたかに似ている。それより神崎さんが心配だ。
こなた「……資料室のパソコンを使うのか……多分サーバーと直結しているからデータをコピーするのは簡単かもしれない、だけどね、あの手の施設は大抵履歴が残るように
    成っているから後でコピーしたのがバレちゃうよ」
神崎さんは私を不思議そうに見た。
あやめ「泉さん……ITに詳しいみたいね、見たところ理系じゃ無さそうなのに……どこでそんな知識を?」
う、しまった。やばい。
こなた「わ、私ってゲームが好きだから、それでね……」
あやめ「そう言えばそんな事言ってたっけ、実は私もゲームは好きでね……こういった知識は持っているから心配しないで、履歴を残さないで作業するくらいの事は出来る」
心配するのはそれだけじゃないけど……これ以上話すとやばそうだから止めておこう。
こなた「それなら良いけど……」
あやめ「それより、35階に行けそう?」
こなた「ん~、今は無理っぽい、一般人は入れないしね、何かイベントとかあればそれに紛れて入れるかもしれないけど」
神崎さんは壁に貼ってあるカレンダーを見た。
あやめ「あと四週間でそんなイベントがあるかしら……」
こなた「分からないけど、あれだけ大きなビルなら一つや二つはありそう」
あやめ「それじゃ私もそれを探す、泉さんはビルの中で探して」
こなた「うん」
今日の打ち合わせは終り、私は帰り支度をした。
あやめ「ところで泉さんはギャルゲーの他にどんなゲームをするの?」
こなた「RPG、シューティング、格闘、オンライン……何でも……かな」
あやめ「……オンラインはやったことがない、あれは無駄に時間を使うでしょ?」
こなた「あれを無駄とか思ってちゃったらプレイ出来ないよ」
あやめ「ふふ、そうね……ゲームの他には何か趣味はあるの?」
あれ、何で私の個人的な事を聞いているのだろう。
こなた「……漫画も見るかな……」
あやめ「まさか、少年誌とか?」
こなた「……少年誌、少女マンガ、同人……何でも、ちなみにアニメもよく観る」
あやめ「……同じような好みだ、ギャルゲーを除いてね……」
それはそうだろうね、コミケに参加するくらいならそんな気はしていた。
でも……ひとつ聞きたい事があった。今後の神崎さんの行動にも関わる重要な事。
こなた「それはそうと……今回の取材が成功したら雑誌に載せる?」
あやめ「そんなの聞くまでもない、それが私の仕事」
そうだよね、でも、その言葉はあまり聞きたくなかった。
こなた「神崎さんが記者じゃなかったから、良い友達になれたかも……」
あやめ「え、それはどういう意味?」
神崎さんは目を丸くして驚いた。どう言う意味か……それは言えない。言えばこの取材はその場で終わってしまう。
こなた「それじゃ、帰るね、また」
あやめ「え、ええ、また明日……」

 神崎さんじゃなくて私が資料室のパソコンを操作すれば難なくデータは手に入るだろう。だけど、そんな事をすれば私がITを使って巨額のお金を動かせるのが
彼女に分かってしまう。そうなったら、彼女は私をどう見るのだろう。この事を世間に公表しちゃうのかな。
そうなったら、私はどうなるのかな。逮捕されてしまうのかな……私のした事って正しかったのかな……
ふとゆたかが私にひよりの記憶を消した話しを思い出した。
机の奥に仕舞ったUSBメモリー……あの時以来触っていない。めぐみさんから貰ったものだ。
その気になれば公共機関データを改ざんしたりまったくでっち上げも作れたりする。ひろしに柊の姓を役所のデータに入れたのも私。
億万長者になれるし、誰かを陥れる事だってできる。その気になればだけど……
お稲荷さんの力か……ゾッとする。私達が安易に扱える代物じゃない。今頃になってその力の大きさに気付いてしまった。
ゆたかが眠れない日があるって言っていたけど。今、まさに私はその状態になっていた。

こなた「ふぁ~」
スタッフ「泉さんが仕事中に欠伸なんて……初めてみました、徹夜でもなされたのですか?」
こなた「え、ま、まぁね……最近眠れなくって……」
スタッフ「心配事でも?」
こなた「うんん、そんなんじゃないよ」
二週間目を超えると周りのスタッフも私に慣れてくる。私も慣れてくる。
日常会話も頻繁にするようになった。
さすがに資料室に潜入するのは難しい。大きなイベントを探しているが私が働いている間にはどうやら無さそう。作戦の立て直しが必要なのかもしれない。
丁度お昼ぐらいだろうか。数名のスタッフがコソコソしているのに気付いた。私がそこに近づいた。
こなた「どったの?」
スタッフ2「あの、あれを」
彼女が指差す方を向いた。店の入り口に一人佇んでいる。
長髪の髪を下ろしサングラスをかけている……
スタッフ3「怪しい……警備員……うんん、警察を呼ぼうかしら」
確かに怪しい。怪しいけど……あれは……かがみ、かがみじゃないか。
なんでこんな所に来ている。しかも一人で。挙動不審そのものじゃないか……辺りをきょろきょきょと見回している。
なんだあれは、あれで変装しているつもりなのか……やれやれ。
こなた「警察呼ぶのはまだ早い、私が対応するから……」
スタッフ達を別の仕事をさせておいて店の入り口に向かった。
こなた「よこそ……どうしましたか?」
かがみ「え、あ……」
私を見て硬直してしまった。私だと気付いていないみたいだ。コスプレをしているとは言え顔の方はほとんどいじっていないのに。相当テンパってるな……
こなた「ご来店ならどうぞ……」
私はドアを広く開けた。
かがみ「あ、ありがとう」
私はかがみを席に案内した。
こなた「ご注文が決まりましたら……」
かがみ「あ、アイスコーヒーを……」
あらら、ここのシステムを全然分かっていない。
こなた「……すぐに注文したらダメだよ、か・が・み」
かがみ「え?」
かがみは見上げて私の顔をじっと見た。
かがみ「こなた?」
かがみはサングラスを外した。
こなた「ふふ、それで変装したつもりなの、まったく……日本人がサングラスなんかしたら目立つに決まってるジャン?」
かがみ「う、うるさい……こなたこそなんでこんな所にいるのよ……」
小声で話すかがみ。やっぱりお忍びだったか。私も小声で話した。
こなた「話せば長くなるし、話せない……」
かがみ「……それなら放っておいてちょうだい……」
ここで長話をしているのも不自然だな。
こなた「はい、アイスコーヒーですね……」
かがみ「あ、待って……」
席を去ろうとするとまた小声で私を呼び止めた。私は立ち止まった。
かがみ「今日の夕方……空いている?」
こなた「うん……1時間くらいなら」
かがみ「昔あやのが働いていた喫茶店で待っているから……」
そういえばあやのもこのビルで働いていたっけ……すっかり忘れていた。
私は頷いて厨房に向かった。
ビルの内情ならみゆきさんじゃなくてあやのに聞いた方がよかったかな……ってか最初からあやのに潜入させれば良かったのでは……
否。
今更代われないよ。あやのは途中から入ってきた。それにお稲荷さんが関係しているし、やっぱり私がしないといけない。
それに神崎さんは指定をしたのは私なのだから私達から人員の変更なんて出来るわけがない。

 仕事が終わりあやのの働いていたいたと言う喫茶店に向かった。
店に入るとかがみの居場所は直ぐに分かった。サングラスは外してあるけど服装は変えられないか。黒尽くめのスーツにネクタイ。どうみてもマトリ〇クスだ。
こなた「クスッ!!、お待たせ」
かがみの目の前で思わず吹いて笑った。
かがみ「な、なによ」
不機嫌な顔のかがみ。私は席に座った。
こなた「それって変装、仮装、それとも趣味なの?」
かがみ「……変装よ、完璧だと思ったのに……あのビルだと私は知られ過ぎているから……あまり派手な格好は出来ない」
充分派手だけどね……そんな時は普通私服の普段着でいいのに。
こなた「その知られすぎている所にわざわざ出向くって事は何かの調査なの、かがみって探偵もしてるんだ?」
かがみは首を横に振った。
かがみ「そんな事なんてしていない、みゆきに頼まれたのよ……調べて欲しいってね……」
こなた「みゆきさんの個人依頼か……」
かがみ「こなたこそなんであの店に居たのよ、見たところ従業員みたいだけど、かえでさんのレストランはどうした、さては大失敗をして解雇されたか」
そうかかがみはまだ知らないのか。てかこれは秘密作戦だ。でも解雇されたってのはちょっとね……
こなた「……ちょっと一ヶ月間くらい研修でね……」
かがみは私をじっと細目で見た。
かがみ「研修ね……それにしてははまっていた……まさか神埼あやめと関係あるんじゃないでしょうね!?」
ぐ、鋭いな……かがみもいい加減な返答は出来ない。
こなた「ないない、全くないよ、うんうん、研修、研修」
かがみは更に目を細めて疑いの眼(まなこ)で睨んだ。
かがみ「そうやって必死に否定するのが怪しい」
こなた「そ、そんな事よりもさ、久しぶりに逢ったんだし、もっと楽しい話しをいしうよ、この前会ったのはつかさの演奏会だったよね」
かがみ「え、もうそんなに経ったかしら……」
こう言う時は話題を変える。それしかない。
こなた「経ったよ、お互い会う機会が減ったよね」
急にかがみの表情が悲しくなってしまった。
かがみ「そうね、こなた、みゆき、あやの……みさお……ひより……ゆたかちゃん……そして……つかさ……」
こなた「え、つかさって、お互いの家はそんな遠くもないのに会ってないの?」
かがみ「結婚してから急にね……何故かしらね、それまでは目覚めてから寝るまで気付くといつも隣に居たのに……今じゃ理由がないと会いにいけない……
    それは両親や姉さん達も同じよ……まるで他人になってしまったみたい……今じゃつかさはこなたの方が会う機会は多いわよね」
こなた「そんなに考え込む事じゃないよ、お互い家庭を持てばそうなるのは当たり前じゃん、私だって引っ越していた時はお父さんと会えなかったし」
かがみ「こなたは単純で羨ましいわ……」
単純ね、でも、複雑の方が優れているとは限らない。
こなた「それじゃ単純になればいい、妹に会いに行くのに理由なんかいらない、ゆい姉さんだって今でも週に一回は遊びにくるよ、そんなに会う理由があるとは思えないけどね……」
かがみ「成実さん……そうなの……」
こなた「会わない日が長引くとそれだけ会い難くなるから、会いたいなら会いに行けばいいだけ」
かがみは狐に摘まれた様な顔をして私を見た。
かがみ「フッ……こなたにしては良い事言うわね……その通りかもしれない」
こなた「「しては」は余計だよ!」
かがみが笑った。そういえばこんな笑顔を見るのも久しぶりかもしれない。学生時代の記憶が蘇ってきた。
それからの私達は学生時代の話題に花が咲いた。

 気付くとかがみに会ってから1時間が過ぎようとしていた。楽しい時間はあっと言う間に過ぎてしまうもの。神崎さんに報告する時間が近づいてきた。
こなた「ごめん、もうそろそろ時間……」
かがみ「本当だ、時間が経つのは早いわね……もう少し残れないの」
こなた「うん……」
かがみ「なによ、誰かと会う約束でも……あぁ、もしかして彼氏?」
こなた「いや、そんなんじゃない……」
かがみ「別に無理に否定なんかしなくても、恥かしがる歳でもないでしょうに……こなた、あんた結婚するきあるの?」
こなた「ん~~~分かんない」
かがみは溜め息をついた。
かがみ「ふぅ、あんたねぇ、もう少し自分の将来の事を……」
話すのを止めて暫く私をみてから微笑んだ。
かがみ「まぁ、それで良いのかも知れない、こなたらしくて良いわ、私も夫と……ひとしと出会っていなかったら……そう思うとこなたを責められない、こればっかりは
    縁だからどうしようもないわ」
こなた「そう言ってくれると私も気が楽だよ……かがみは稲荷さんの旦那だもんね、凄い縁だよ、つかさがくれた縁だよね」
私は帰り支度をした。それをかがみはじっと見ていた。
かがみ「こなた……もう少し時間いい?」
こなた「なあに?」
私は支度をしながら話した。
かがみ「みゆきの話しは聞いたと思うけど、あんたはどう思う?」
私は帰り支度を止めた。
こなた「話しって、真奈美が生きているかもしれないって?」
かがみは頷いた。
かがみ「みゆきに見せてもらったデータを見て驚愕した、パターンがワールドホテル時代と全く同じなのよ、もう既にある物を順番に出しているとしか思えないほどよ、
    これはどう考えてもお稲荷さんじゃないと出来ない、私もそれはみゆきと一致した……だけど、真奈美さんが生きているとなると……分からないわ」
こなた「データについてはさっぱりだから答えられないけど、真奈美に関していえばもしかしたら……なんて思う事もできそうだよね……他にお稲荷さんが残っていなければだけどね、
    かがみの旦那さんには話したの?」
かがみ「話したけど……データを見ただけでは何とも言えないって……」
こなた「……だからかがみは調べているの?」
かがみは頷いた。
かがみ「そうよ、もし、万が一、真奈美さんだったら助けなければならないでしょ、うんん、例え別のお稲荷さんだったとしてもね、そうじゃないとけいこさん達が
    地球を去った意味がなくなるじゃない」
こなた「そうかもしれない、だけど今は何も分からないよ……」
……私達は同じ目的で貿易会社を調べている訳か……
かがみ「そうね、もう少し調べないといけない、でも、私ではこれ以上調べられないわ」
かがみは暗く沈んだ表情をした。
こなた「35階の資料室にその答えがありそうなんだけど……なかなかセキュリティが厳しくてね、あのビルで大きなイベントとかないかな?」
かがみは目を大きく広げて驚いた。
かがみ「あんた、一体何をしようとしているの……35階ってこなたが働いていた店のすぐ上じゃない……」
こなた「それで、イベントは在りそうなの?」
秘密だから言えない。分かって欲しい……かがみ……私は目で訴えた。
かがみ「……話せないのは訳ありのようね……良いわ、調べてあげる、その代わり、後でちゃんと話してもらうわよ」
こなた「ありがとう……」
かがみ「分かっても分からなくても毎日今と同じ時間でこの店で待っているわよ、それで良い?」
こなた「うん、それでいい、最後に変装するなら普段着でね」
かがみ「分かってるわよ、いちいち五月蝿い!!」
私は伝票と鞄を持った。
こなた「ふふ、今日は私の奢りだよ、それじゃ明日ね」
私は足早に店を出た。時間に遅れると神崎さんに怪しまれる。

 ⑤神崎さんを35階に入る方法……かがみやみゆきさんの知恵を借りても難しい、それよりも資料室にどうやって入るのか。こっちの方が10倍くらい難しい。
資料室の場所は直ぐに分かった。防犯カメラが3つもその部屋の扉に向けられている。それに特別なカードか何かがないと鍵を開けられないようだ。
こなた「大企業の秘密を知ろうなんて、やっぱり無理がありすぎ、私もこれ以上調べたらバレそう……今朝警備員に呼び取れられたから怪しい怪しまれているかも」
あやめ「もう少し……もう少しなの、35階にさえ行ければ……」
こなた「35階に入れても資料室にどうやって……?」
神崎さんは鞄からカードを取り出した。そして不敵な微笑を浮かべる。
あやめ「ふふ……資料室のカードキー……」
こなた「え?」
あやめ「このカードキーがあれば資料室のドアを開けてしかもセキュリティを解除できる、しかも防犯カメラも停止する」
こなた「そんな物を何時の間に?」
あやめ「もう数年前から手に入れてある、あとは潜入するだけ、場所もある程度までは分かっていた、あとは潜入方法を探していた……
    入るチャンスは一回きり、このキーを使えば泉さんがこの前言った通り履歴が残る、だから二回目はない……泉さんが怪しまれているならもう
    無理はしなくていい、これ以上調べる必要はないから、あとは私が何とかする、残りの日数はそのままあの店で働くのもよし、レストランかえでに戻るのもいい、好きにして」
あの店と資料室が近かったのは偶然じゃなかったのか。この人は数年前から資料室の場所を調べていた。何故、この人はここまでして調べようとしているのかな。
囚われている人を助けるためだけでこんなに時間とお金を掛けるなんて。プロの記者だから……それだけなのかな……
うんん、それはどうでもいい。私も知りたい。囚われているのがお稲荷さんかどうか。そしてその人が真奈美なのかどうか。やっぱりここで止めるなんて出来ない。
こなた「ここまで私を使っておいてそれはないよ、最後までやらせて」
あやめ「……でも危険な事はさせない約束だから」
こなた「それは神崎さんとかえで店長の約束でしょ、私は安全じゃないと嫌だなんて一言も言ってないよ、それにそのカードキーがあるならもう35階を調べる必要はないよね、
    部屋に入れるチャンスだけ探せば危険はないよ」
神崎さんは考え込んだ。
あやめ「……そうね、確かにそれだけ探すなら危険はない、当初の約束通りの期間は続ける」
こなた「うん、それでいい」

 残り一週間。
お店は休日。特に用がなければつかさの店にでも遊びに行くのだが、半月以上も店に出ないでいきなり訪ねたら理由を聞かれるに決まっている。
それにかえでさんが終わるまで来るなって言っていたっけ。
でも……休日とは言えソワソワして何も手につかない。漫画を読んでもすぐに飽きるし、ゲームをする気にもなれなかった。
かと言って取材の続きなんて出来るわけない。もうこのまま一週間が過ぎてしまうのだろうか。
『コンコン!』
ドアのノックする音。
こなた「ほーい?」
そうじろう「かがみさんがお見えだが……」
かがみが私に……わざわざ家に来るなんて。なんの用だろう。アポも取らないなんて珍しいな。
こなた「部屋に通してくれるかな」
そうじろう「分かった」
暫くするとまたノックの音が聞こえた。
こなた「開いてるよ」
勢い良くドアが開いた。
かがみ「おっス、こなた!」
なんだ、珍しくテンションが高い。
こなた「連絡くらいしてよ、もし出かけていたらどうするの」
かがみ「どうせ出かける気もないくせに」
高校時代のノリそのままだな……かがみは私の座っている椅子の前に座った。
かがみ「どうなの、こなた、進展はあったの?」
こなた「そんな事話せる訳ないじゃん……まったく、何しに来たの、冷やかしなら帰ってよ……」
かがみ「そうね、機密事項だったわね、それなら尚更ぞんざいな態度はできない」
こなた「え?」
私が少し驚いた顔をすると不敵な笑みを浮かべ鞄から何かを出した。
かがみ「あんたの働いている店の同じ階に本屋さんがあるでしょ、そこでサイン会があるのよ」
こなた「サイン会……そんなの聞いてない、誰のサイン会なの、よっぽどマイナーなんだろうね……」
かがみ「……貞子麻衣子って言っても分からない?」
こなた「さだこまいこ……それって、ゆたかとひよりのペンネームじゃ……も、もしかして……」
かがみ「ふふ、灯台下暗しってこの事ね……招待状が私に届いてね……会場を見てビックリした、あんたも招待状着てない?」
しまった。郵便物はノーチェックだ。机の横に積まれた郵便物をひっくり返して調べるとかがみの持っている物と同じ郵便が出てきた。
こなた「テヘッ!!」
舌を出しててへぺろをした。かがみは呆れた様に溜め息をつく。
かがみ「ふぅ……やっぱりこんな事だろうと思った、電話で教えても渡せないから来たのよ」
かがみは招待状を私に差し出した。
こなた「え、何?」
かがみ「何、じゃないわよ、使いなさいよ、どうせ裏で神崎あやめが居るのは分かってるから、こなた一人であの店に雇ってもらえるとは思えない、履歴書とかどうやって書いた?」
こなた「ぐっ!」
何も反論出来なかった。
かがみ「私も貿易会社に興味がある、きっと何か大きな陰謀があるに違いない、それにお稲荷さん……真奈美さんが絡んでいるとしたら見過ごせない、何か証拠を掴めば
    ひとしも動いてくれる、きっとすすむさんやまなぶさん……ひろしもね」
私は招待状を受け取った。
用を終えるとかがみは忙しそうに帰って行った。きっと仕事に子育てに忙しいのだろう……

 かがみが帰ると部屋はし~んと静まり帰った。
招待状をじっと見た。神崎さんはゆたかを取材している。コミケで漫画を買うくらいなのに本屋さんでサイン会をするなんてすぐに調べられそうな気がするのに何故知らない?。
いや、ゆたかの事だから神崎さんに招待状を送ったかもしれない。郵便の消印は丁度二週間前になっている。神崎さんの家にも同じくらいの日に届いているに違いない。
神崎さんは家に帰っていない。だから知らないのかも。
すると神崎さんは正子さんに会っていない……嘘をついていたのか。どうして……。
こっちの方も問い質さないといけない。

つづく

以上です。

次回はどうなるのかな? 何も考えていない。


ここまで纏めた

保守
こなた「暇だね」
かがみ「そうね」
こなた「誰もこないね」
かがみ「そうね……」
こなた「静かだね……」
かがみ「……そうね」
こなた「あの、相槌ばかりしてないでたまには何か言ってよ」
かがみ「そうね……ん?」
こなた「ありゃらら、それだから誰も来なくなっちゃったんだよ」
かがみ「なんだと、全部私のせいかよ!!」
こなた「うん」」
かがみ「自分の事はたなにあげてなに言っているの」

保守でした。

それでは「こなたの旅」のつづきを投下します。

今回は4レス使用予定です。少し短めです。


あやめ「サイン会……?」
私は大きく頷いた。神崎さんは何も言わず目を大きく見開いたまま招待状を見ていた。
こなた「開催日は私の雇用期限日と同じ、しかもその日は休日で事実上もうあの店とは縁が切れるから私も自由に動けるよ、35階の資料室まで案内してあげる」
『ヒュ~♪』
神崎さんは口笛を吹いた。
あやめ「やるじゃない、私が見込んだ通りの仕事じゃない、非の打ち所がない、よくやってくれた」
こなた「……まだ終わっていないよ、それを言うなら全部終わってからにして……」
神崎さんは微笑んだ。
あやめ「ポーカーフェイスのその冷静さも良い、レストランのホールをさせるには勿体無いくらい」
これほど褒められるなんて。言われているこっちが恥かしくなるくらいだ。
さて、今度は私から言わせて貰うかかな。私はゆたかに聞いて裏をとった。やっぱりゆたかは招待状を神崎さんに送っていた。
こなた「貞子麻衣子ってそれほどマイナーな漫画家じゃないよ……なんで神崎あやめともあろう人が見落とすなんて……」
神崎さんの微笑が止まった。
あやめ「……まさかそんなイベントがあるとは思わなかったから……」
こなた「ところでこの三週間で三日の休暇があったけど、神崎さんちゃんと家に帰ってたの?」
あやめ「そ、それは……」
その先は何も言わない。この人って自分が責められると弱くなるタイプなのかな。言い訳が出来ないなんて……
こなた「私は言ったよね、帰ってねって……」
あやめ「あ、貴女には関係ない事でしょ、私が帰ろうが帰るまいが」
こなた「関係ないけど……私が何故帰って言ったか、その意味は分かったつもりでいたけど……どうして上京しないであんな遠くに住んでるの、
    お母さんを一人残せないからじゃないの、この取材ってお母さんをすっぽかしても良い程大事なの?」
神崎さんの体が震えはじめた。
あやめ「……さっきから母さん母さんって、いつから私の母は泉さんの母になった、一回しか会っていないくせに」
声を荒げて怒り始めた。
こなた「なんで嘘を付いたの、帰っていないならあの時そう言えば良かったのに……」
あやめ「はぁ、貴女からそんな台詞が出るとは思わなかった、嘘はそっちが先だったでしょ」
こなた「会ってから一度も嘘なんか付いていないもん」
あやめ「あんな大法螺吹いておいてよく言えたものね、それに何を根拠に私が帰っていないなんて言うの」
私も頭に血が上ってきた。
こなた「この招待状は神崎さんにも届いているはずだよ、二週間前、私が帰れって言った日だよ、帰っていれば気付いてた、私なんて必要なかった」
あやめ「……え、な、何故私に送られているなんて分かるの」
私は立ち上がった。
こなた「記者なんだから調べれば……もう知らない、あとは神崎さんで勝手にやって……さようなら……」
部屋を飛び出すように出た。

 あと少しだった。あと少しで一緒に資料室に潜入できたのに。
なぜあんなに怒ったのだろう。自分でも分からなかった。
私があの神社を寄付した本人だと気付いてくれなかったから。違う。気付いていないのは私にとっては好都合だよ。
神崎さんにお母さんがいるから羨ましかったから。違う。彼女も父親を早くから亡くしているから状況は似たようなもの。
帰ったなんて言わなければ私だってあんなに怒らなかった。
そういえば神崎さんも怒っていた。何故だろう……
もうそんなのどうでもいい。どうせあと三日でサイン会。
あの店も二日働けば契約が切れる。その後、彼女は勝手に潜入取材をする。
彼女の言うように潜入取材の手伝いを果たした。

そうじろう「こなた、明日のサイン会は行くのか?」
最後の仕事を終え帰るとお父さんが私を待ちわびるかのように話しかけてきた。
こなた「サイン会?」
そうじろう「もう忘れたのか、ゆーちゃんが送ってくれた招待状だよ、まさかまだ見てないなんてないよな?」
かがみが教えてくれなかったらそうだったかもしれない。
こなた「う、うん、お父さんも貰ったんだ……招待状……」
そうじろう「ああ、二人の活躍を陰ながら見守ってきた、完成記念のサイン会となれば出席しないわけにはいかないだろう」
こなた「……でも、かがみは出席しないし、つかさやみゆきさんも行けるかどうか分からないよ」
そうじろう「そうだな、皆家庭を持って仕事もあるだろう、それはあの二人も承知していると思う、でも、それはそれ、こなたはどうなんだ?」
行く気はない。ゆたかやひよりには悪いけど行けない。明日行けば神崎さんと会うかもしれない。
それに、あれ以降彼女から連絡がない。私が途中で出て行ったからきっと私に愛想を尽かしたに違いない。
嘘つきで途中で約束、契約を放り投げたと思っている。うんん、実際にそうだったかもしれない。
こなた「……明日は行かない……」
そうじろう「顔色が悪いぞ、気分でも良くないのか?」
こなた「うんん、大丈夫、何でもない……」
そうじろう「そういえば最近帰りも遅かったな、ゆっくり休んでいなさい、私はゆいと行ってくる」
結い姉さんも行くのか……実の姉だし当たり前と言えば当たり前か。私が招待されているくらいなのだから。
こなた「ゆたかとひよりに謝っておいて……」
そうじろう「うむ」

 神崎さんはちゃんと35階に行けるのだろうか。私の案内がないと警備員に見つかっちゃうかもしれない。
それとも私が行ったら怒って追い返されるかな。それならそれで割り切られるから気が楽になる。
それにしても……
帰った帰らないであれほど言い合いになるなんて。つかさやかがみがみきさんと親しげにしている時だって羨ましいとは思ったけど二人にその事で言い争いなった事なんてなかったのに。
神崎親子……何だろう。何かが引っ掛かる……特に母親の正子さん。子供と同居しているのに何故あんなに淋しそうにしていたのだろう……
突然部屋の扉が開いた。
ゆい「やふ~」
少し小さな声で入ってきた。お父さんに私が調子悪いと言われたのかもしれない。
こなた「いらっしゃい……」
ゆい「おやおや、寝ていなくていいのかな?」
少し心配そうな顔だった。
こなた「……なかなか眠れなくって……」
ゆい姉さんは手を私の額に触れた。
ゆい「う~ん、熱がある訳でもなさそうだね……」
手を額に……ゆい姉さんにが私にそんな事をしたのは初めてかもしれない。
そうかゆい姉さんも子供が出来たからそんな動作が出てくるのかもしれない。
ゆい「もしかして恋の病なのかな」
こなた「……ちょっと、からかわないでよ!」
ちょっと怒ってみた。
ゆい「ふふ、まぁ、何にしても普段のこなたじゃないね、もしかして明日の事で悩んでる?」
こなた「まぁ……そんなところ、ゆたかやひよりとは全く関係ないけどね……」
ゆい姉さんも行く。となれば神崎さんは潜入取材で不法侵入……ゆい姉さんには見つかって欲しくない……
ゆい「どったの?」
私の表情に不思議そうに首を傾げるゆい姉さん。
こなた「うんん……なんでもない」
神崎さんを心配しているというのだろうか。まさか
どうして、もうどうなっても関係ないでしょ。だから……明日は行かないって決めたはずじゃなかったの。
ゆい「おっと、調子が悪いのにこんなに長居したらダメだよね、それじゃおやすみ……」
普段と違う私なのか。そのまま静かに部屋を出て行ってしまった。そして私は眠れぬ夜を過ごすのだった。

 貿易会社本社ビル34階。開店前の書店。私は大幅に遅れて会場に入った。
会場には招待状で招かれた人達で賑わっていた。思ったより多くの人が居た。出版社の関係者やスポンサーや記者らしき人も見受けられる。
この中に神崎さんも居るのだろうか。この賑わいでは探すのは一苦労しそう。
こんな会に私なんかが呼ばれて良かったのだろうか。場違いなような気がした。会場の雰囲気に圧倒されて何から手をつけていいのか分からない。
「お姉ちゃん?」
後ろからゆたかの声がした。私は声のする方を向いた。ゆたかは私を見て驚いた顔をしていた。
こなた「いや~大盛況だね、思ったよりゆたかの作品は人気あるんだね……見直したよ」
今度は心配そうな顔になるゆたかだった。
ゆたか「おじさんが調子悪いって言っていたけど……大丈夫なの?」
こなた「大丈夫だよ、一日寝たらすっかりしたから、それよりお父さん達は?」
ゆたか「ゆいお姉ちゃんと一緒に帰ったけど」
帰ったのか。何故かほっとしたような気がした。
こなた「それでひよりはどうしているの?」
ゆたかは会場の奥の方に顔を向けた。奥にひよりの姿が見えた。数人の女性と楽しげに会話をしている。あれは見た事ある顔だな……そうか陸桜の漫研部の面々だ。
成る程ね。ちょっと話してみようと思ったけど邪魔になるだけかな。
こなた「かがみは来られないよ、つかさは来てる?」
ゆたかは首を横に振った。
ゆたか「うんん、来られないって……あやのさんやかえでさんも……」
あらら、この調子だとみゆきさんやみさきちも期待できそうにないかも。
こなた「私はレストランかえでと陸桜の先輩代表になっちゃったかな」
ゆかた「……」
何も言い返さないゆたか。まずいなせっかくのサイン会なのに。
こなた「え、えっと、もう一人いたじゃない、みなみも呼んだでしょ?
ゆたか「うん、さっきまで居た」
こなた「それは良かった」
ゆたか「うんん、大半が来られないのは分かっていたから、それでもお姉ちゃん達が来てくれて嬉しい」
こなた「ところでもうサインはしなくていいの?」
ゆたか「うん、大方は終わったから小休止、だけど本番はこれからだし」
そう、本屋さんの開店と同時に一般のサイン会になる。私は時計を見た。開店10分前……そろそろ時間か。
本屋さんを出ようとした時、男性がゆたかに近づいた。二人は目を合わすと親しげに本屋さんの奥に向かって行った。そうか彼がゆたかの彼氏か……
確か編集担当とかって言っていたっけ。
おっと、見ている時間なんかない。
さて、これで私の知人は全て私から遠ざかった。チャンス……

 本屋さんを出るとこの階は静まり返っている。それもそのはずまだどの店も開店していない。
私は自分の働いていた店の前で立ち止まった。ここは35階へ続く階段に一番近い。もし神崎さんが来るならここを通るはず。
時計を見た。開店5分前……
一般客がビルの下で行列になっている。ひよりとゆたかはこれほどまでに人気がある漫画家になったのだと思い知らされる。
でもこれがチャンスなのだ。警備員はこの行列を整理するために本屋さんに集中するから上の階は無人状態になる。でもそれは開店から3分くらいの間だけ。
喫茶店で働いた時に得た情報だ。でもこれは神崎さんに言っていない。はたして彼女はこの時間を分かってくれるだろうか。
あの時喧嘩をしなければ打ち合わせをしてここで待ち合わせが出来たのに。電話や携帯でも教える事が出来た。でもしなかった……バカだな……私って……
私はこの潜入取材を成功させる気があるのかな……
時間が刻々と過ぎていく……彼女は来ない。もう先に上に行ったのか。それとも諦めて来なかったのか。
もう少しだったのに。もう少しで真奈美の謎が解けたかもしれないのに。
「い、泉さん……」
突然後ろから神崎さんの声がした。私は声の方を向いた。そこに神崎さんが立っていた。目立たないリクルートスーツに眼鏡をかけている。多分伊達眼鏡だろう。
それに加えてポニーテールにしている。
声を聞かなければ一目では彼女だと気が付かない。かがみもこのくらいの変装をして欲しいものだ。
神崎さんは私を見て驚いていた。来るとは思わなかったのだろう。
あやめ「……まさか来てくれるなんて、でも、何故、何故私に招待状が来ていたのを知っていたの、それにこの渡された招待状は小林かがみ宛、
    小林かがみと言えば小林法律事務所の腕利き弁護士じゃない、何故貴女がそれを持っているの……小林かがみとなんの関係があるの……」
私は時計を見た。開店3分前。今はその話しをしている暇はない。
こなた「こっちだよ……」
私は歩いて階段に向かった。数歩歩き出すと彼女もその後を付いてきた。

 ④開店1分前。
こなた「あの角を右に曲がればすぐ資料室だよ、監視カメラに気をつけてね」
あやめ「ここから先は私がする、ありがとう」
神崎さんは私の手をとってにっこりと微笑んだ。眼鏡を取ると曲がり角を見た。彼女の顔が一変して厳しくなった。そして角に向かって歩き出した。
曲がり角を曲がると彼女は見えなくなった。さて。私は戻るかな。

 何だろう。この胸騒ぎ……
階段を下りている途中だった。何か嫌な予感がする。
神崎さんはちゃんと資料を集められるのか……
パソコンの操作は大丈夫なのか……
警備員は本当に居ないのか……
監視カメラは本当に止まるのか……
私は立ち止まった。そして上の階を見上げた。
彼女なら問題なく出来るさ、それに彼女自ら自分だけでするって言った。私がしゃしゃり出て手伝ったら今度こそ怒られそう。
下の階を見て下りようとした。
………
だめだ。やっぱり気になってこれ以上下りられない。かがみが自分の招待状を渡してまでして協力してくれた。本当は来たかったに違いない。
それに別れ際のあの笑顔。喧嘩をした相手にあんな表情なんか出来ない。
もし、警備員に捕まればあの貿易会社の事だ。どんな仕打ちがまっているか分からない。警察沙汰になるならまだましかもしれない。
そんな事になれば神崎さんのお母さん、正子さんが……
放っておけない。怒られても構わない。私の予感が外れていればそれで良い。

私は走って階段を駆け上った。そして神崎さんと別れた場所を過ぎ曲がり角を曲がった。扉は開けられたままになっていて静かだった。カードキーが正常に働いたみたい。
私はそのまま資料室に入った。神崎さんがパソコンの画面で何かを操作している。後ろを向いているのでどんな事をしているのか分からない。
入ってすぐに神崎さんは私に気付いたのか後ろを向いて私を見た。神崎さんの顔色が真っ青になっていた。
あやめ「ど、どうしよう」
かなり動揺している。
こなた「どうしたの?」
私は神崎さんの側に駆け寄ってパソコンの画面を見た。
「warning」
画面に大きくそう書かれていた。そして画面が赤く変色している。これは……
咄嗟にポケットからUSBメモリーを取り出しパソコンに挿した。「warning」画面がそのままの状態で止まった。
神崎さんは私を見た。
あやめ「な、何をしたの?」
こなた「パソコンの動作を一時的に止めた」
このUSBメモリーはめぐみさんがくれたもの。めぐみさんの作ったハッキングプログラムが入っている。私はそのままキーボードを打ち始めた。
あやめ「操作なんかして大丈夫なの?」
こなた「パソコンを完全にハッキングして外部から一度遮断して隔離するよ、そうじゃないと多分警備会社に連絡が行っちゃうかもしれないからね」
使う気はなかった。だけどあの状況では使うしかなかった。
私の悪い予感が当たっていた。それにUSBメモリーを持ってきておいてよかった。
10年ぶりに使うめぐみさんのプログラム。でも体が操作をまだ覚えていた。
こなた「完全にこのパソコンは私の手中に入ったよ……それで、どのフォルダーをコピーするの?」
あやめ「え、あ、えっと……」
神崎さんに言われる通りのフォルダーをUSBメモリーにコピーした。
 私は時計を見た。開店時間を1分過ぎていた。あと2分か……
こなた「このビルの管理サーバーにアクセスしてと……やっぱり防犯カメラはこのサーバーに一回記録される仕組みなっているね……
さっきのワーニングでカメラが起動したかもしれないから念のため今から3分前の画像データを消去するから、
    それからこれから3分間電源を切ってこのビルを停電にして、その隙にここから逃げよう」
あやめ「そのパソコンはどうなるの、ハッキングなんかしたらバレてしまう」
こなた「大丈夫、このUSBメモリーを抜けば履歴もなにも残らない」
あやめ「あ、貴女……プロのハッカーなの……いや、プロでもそんな事は出来ない……泉さん、貴女は何者なの……」
残り1分……
こなた「時間がないよ、行こう!!」
携帯電話を取り出し明りを付けた。そしてUSBメモリーを抜いた。部屋の照明が切れて停電になった。しかしパソコンの電源は入ったまま再起動になった。
やっぱりUPS機能が付いていた。
私は立ち上がり照明を部屋の出口に向けた。
こなた「行こう」
あやめ「あ、待って」
神崎さんは鞄からハンカチを取るとキーボードを拭きはじめた。指紋を消しているのか。まだ起動中だから問題ない。私は照明を神崎さんの手元に向けた。
拭き終わると神崎さんは私の後に付いた。
こなた「非常口から出て下に降りよう、走るよ」
あやめ「うん」
携帯の照明を頼りに非常口を出て下の階34階に下りた。

こなた「神崎さんはそのまま非常階段で下まで下りて、私はこのままサイン会に紛れて出るから」
神崎さんはじっと私を見ている。
あやめ「神社の寄贈は匿名で、しかもネット経由だったって聞いていた……泉さん……まさか、もしかして本当に……」
さすがにあそこまでネタバレしたら分かってしまうか。
こなた「……だから言ったじゃん、嘘はついてないって……」
あやめ「泉さん……私……」
こなた「時間がないよ、データは明日神崎さんに家で渡すから、それで良いでしょ」
あやめ「う、うん……明日の夕方で…」
神崎さんは何を言おうとしたのかな……それは明日分かるか……


 私達は別れた。神崎さんはそのまま非常階段で下りて行った。私は34階の非常口からビルに入った。
私がビルに入ると同時にビルの照明がついた。間に合った。
辺りは停電のせいでざわついていた。さてとこの隙に帰ろう。
「泉さん、泉さんじゃない!!」
後ろから突然私を呼び止める声。聞き覚えがある。私は後ろを振り向いた。そこにはコスプレ喫茶の店長が立っていた。
店長「泉さん、事務所まで来て欲しい」
え、なんで。もう喫茶店の契約期間は終わったし給料ももらったから私になんか用はないはず。
ま、まさか。35階に行ったのがバレたのか。
下手に断ると余計に怪しまれそうだ。私は店長の言う通りにするしかなかった。

つづく

以上です。

4レス目が容量をオーバーしてしまい5レスになりました。

いきなり声を掛けられたこなた。どうなってしまうでしょうか。

次回ご期待下さい。



ここまで纏めた。

作品投下します。

2レスほど使用します。


 梅雨も本格的なはずなのに雨ひとつ降らない今日この頃。
みゆき「誕生日のプレゼント、ですか?」
こなた「うん、もうそろそろかがみとつかさの誕生日でしょ、個人であれこれ悩むより二人共同で選べばいいかなと思って」
みゆき「そうですね、それも良いかもしれません」
こなた「それで、みゆきさんはもう宛てはあるの?」
みゆきさんは下を向いた。
みゆき「それが……なかなか思い当たるものがないのです」
こなた「そうだね、もう高校時代から何度も渡しているからネタ切れっぽいかな」
みゆき「なにか、年齢に相応しいものがあればいいのすが……泉さんは何かありますか?」
あらら、全部みゆきさんに振っちゃおうと思ったけど、さすがにそれは出来ないか……
こなた「年齢に相応しいものね~もうなんだかんだで二十歳だからね……大人のもの……ん~」
そう簡単に出るわけはない。そうでなければみゆきさんと共同なんてしなくてもよい。
こなた「二十歳になった祝いも兼ねてお酒を贈るのはどう、たとえば洋酒、ぶどう酒なんか」
みゆき「お酒ですか……」
みゆきさんの顔が曇った。
こなた「何か問題でもある?」
みゆき「い、いえ、別にありません、お酒を贈るのは祝い事で普通にしますから問題はないと思います」
こなた「それじゃ決定だね、さっそく何にするかお店に行こう」
みゆき「はい」

 っと思って店に来たのはいいけど。あまりにも種類が沢山ありすぎて何にするか決められなかった。
こなた「う~ん、どれにするかな、みゆきさん、かがみとつかさがどんなお酒が好きなのか分かる?」
みゆき「いいえ分かりません、それにお二人はまだ法律的には未だ飲めませんので好みはまだ無いと思いますが……」
こなた「ねぇ、このお酒は?」
適当に取った瓶をみゆきさんに見せた。
みゆき「すみません、私も10月までは二十歳ではありません、飲めませんので……分かりません」
こなた「そうだったね、でもさ、もう利き酒くらいならしてもいいんじゃないの」
みゆき「すみませんそれも出来ません」
こなた「みゆきさんは真面目だね……」
みゆき「すみません、何にするかが一番悩むと思ったので……その、は別の物にしませんか……」
これ以上無理強いできないか、するともう既に二十歳を過ぎた私が利き酒をするしかないか。
こなた「すみません~このお酒試飲できますか?」
店員に声をかけて小さなグラスを借りて試飲した。
こなた「ん~すこし匂いがきついかも~」
店員「それならばこれはいかがでしょうか?」
店員は店の奥の方から赤ワインを持って来た。グラスに少々ついでくれた。
こなた「ちょっと甘すぎない?」
店員「それではこちらはどうですか」
……
……

 誕生日当日、柊家。
かがみ「それで、店のど真ん中でへべれけになって倒れたのか……」
みゆきさんは頷いた。
こなた「いやぁ、もう最後の方は何がなんだか分からなくなっちゃって、気が付いたら家の居間のソファーで寝てた」
つかさ「大変だったね、でも、どうやって帰ったの?」
かがみ「それは全部みゆきが介抱してくれたってことでしょ、やれやれ、全く、なにをしに行ったのか」
みゆきさんは鞄から二つの箱を取り出した。そしてかがみとつかさに箱を渡した。
みゆき「かがみさん、つかささん、私と泉さんからの誕生日プレゼントです」
こなた「ハッピーバースデー、かがみ、つかさ」
つかさ「この箱って、もしかして……お酒?」
みゆき「はい」
かがみ「……みゆきありがとう」
つかさ「ゆきちゃん、こなちゃん、ありがとう」
こなた「かがみ、私にお礼は……」
かがみはみゆきさんと楽しげに話し始めてしまった。
つかさ「折角だからこのお酒今ここで開けちゃおうよ、おつまみ作ってくるから」
こなた「やめた方がいいよ」
つかさ「どうして?」
こなた「みゆきさんはまだ飲めないから」
つかさ「あっ、そうだった」
みゆき「かまいません、どうぞ」
かがみ「飲めなくとも乾杯くらいはできるでしょ」
みゆき「は、はい」
つかさの作ったおつまみと共に私達はプレゼントのお酒で乾杯した。

みゆき「すみませんでした」
帰り道の途中、みゆきさんが突然謝りだした。
こなた「どうしたの急に?」
みゆき「泉さんが酔いつぶれた話しはするべきではありませんでした、それに……あの時私も試飲していればあの様な事はおきませんでした」
こなた「別に良いよそんなの気にしなくて」
みゆき「かがみさんのお礼がなかったものですから、、私のせいで……」
みゆきさんは申し訳無さそうに頭を低く下げた。
こなた「あれ、あれはその逆だよ、かがみは素直じゃないから照れ隠しで言わなかっただけだよ」
みゆき「そうでしょうか?」
こなた「はいはい、もうその話はおしまい、頭を上げてよ、二人ともプレゼント気に入ったみたいだし、大成功って事でおしまいにしよ」
みゆき「は、はい……」
こなた「これからお酒とは長い付き合いになるからお互いに気をつけようね」
みゆき「泉さん、かがみさんとつかささんはさっきのが初めてのお酒だったのでしょうか?」
こなた「どうだろうね、神社は行事とかで何かとお酒が付きまとうから二人にとっては身近な物だけど、あれが初めてかどうかは分からないね」
みゆき「お二人ともほんのり顔が赤く、とても艶やかで大人になった……そう思いませんでしたか」
こなた「ん~そう言われるとそうだったかな」
みゆき「……試飲の時の泉さんも素晴らしかったです」
こなた「そ、そうかな……」
みゆき「あ、すみません、帰りが遅くなってしまいます、急ぎましょう」
みゆきさんは駅に向かって早歩きで歩き始めた。

 つかさとかがみが大人に見えたってみゆきさんは言った。お酒が二人を大人にしたのかな……分からないや。でも……
みゆきさんの誕生日に何を贈るか、もう決まったよ。




以上です。

つかさとかがみの誕生日ネタは3つ目になります。

誰も書きそうになかったので出ないネタを絞って書きました。


ここまでまとめた

それでは「こなたの旅」の続きを投下します

6レスくらい使用します。



こなた「今日は休業日のはずだけど……どうして?」
事務所に通された私は早速質問もぶつけた。
店長は鞄から色紙を出した。
こなた「サ、サイン会?」
店長「そうよ、特別招待された人も居たみたいだけど、私は漏れちゃってね、一番に並んだった訳、サインをもらったと同時にあの停電でしょ、嫌になるわ、泉さんは
   非常階段を使ったみたいだけど、他にも何人か非常階段から出た人が居たからそれで正解だったかもね」
こなた「え、え、そ、そうでしょ、そう思ったんですよ、はははは」
これは笑って誤魔化すしかない。どうやら35階の行ったのはバレていないようだ。張り詰めた緊張が一気に解けた。
店長「泉さんもサイン会が目当てだったんじゃないの、その状況じゃサインもらえなかったでしょ?」
こなた「え、ええ、そうですね」
店長はしばらく考え込んだ。
店長「お店に飾る分と自分の部屋にと思って二つ書いてもらったけど……自分の部屋は今度の機会かな、泉さんにあげるわ」
こなた「ど、どうも」
サインは家に帰ればいくつも持っている……と言っても断れる状況じゃない。そのまま色紙を貰った。
こなた「と、ところで、私を呼んだのは何の用ですか?」
店長の顔が真剣になった。
店長「昨日、私は留守で貴女に会えなかったから話せなかったけど、この店を辞めてどうするの、レストランかえでに戻るのかしら」
こなた「そのつもりですけど……それが何か?」
店長「……どう、このままこの店で働く気はない、貴女とならうまくやっていけそう、近々二号店を出す予定なの、その立ち上げを手伝ってもらいたい、
   それで、ゆくゆくはそこの店長を任せてもいいと思ってる」
こなた「え……?」
これってもしかして、誘われている?
こなた「無理ですよ、店長なんて……」
店長「貴女の仕事ぶりは見させてもらった、レストランで随分鍛えられたみたいね、見事だった、私は見ていないけど黒ずくめの恐いお姉さんにも眉一つ変えないで冷静に
   対処したって聞いたわよ」
黒ずくめの恐いお姉さん……かがみの事を言っているのか。かがみのバカ……
こなた「あれは……恰好だけで恐くもなんでもないです、ただのお客さんだったので……」
知り合いだなんて恥かしくて言えない。
店長「無用なトラブルを回避するのも必要な事……話しを戻すわよ、レストランの時の倍の給料でどう?」
倍って……普通に働いていただけなのに。気に入られてしまったようだ。でも私の答えはもう決まっている。
こなた「約束は一ヶ月なので……」
店長は溜め息を付いた。
店長「ふぅ~たった一ヶ月だけ私の店に来させるなんて、貴女の店長は私に見せびらかしたかったのかしらね……でも、即答したのなら私も諦めがついたわ、時間を取らせたわね、
   一ヶ月間ありがとう、向こうでも頑張って」
こなた「は、はい……」
店長と堅い握手をした。

 かえでさん以外の人に認められたって事か。悪い気がしなかった。いや、むしろ嬉しいくらい。神崎さんにげんき玉作戦を知られていなければもっと嬉しかったかもしれない。
彼女は記者、だから私の正体が分かれば記事に書くかもしれない。そうなれば……私、警察に捕まっちゃうのかな……どうしよう。
何も思い浮かばない。データと引き換えに記事を書かないように交渉するのも手かもしれない。だけど……そんな事できるかな。自信がない。

 このまま家に帰っても良かった。だけどいつの間にか私はレストランかえでの目の前に立っていた。一ヶ月ぶりだ。
従業員用の出入り口から入って事務室へ向かった。そして扉を開けた。
かえで「こなた、こなたじゃない、今日までが契約日じゃなかったの、タイミング悪かったわねあやのは休みよ」
数年会っていないかの様な喜びようだった。
こなた「そうだったけど、今日は休業日だったから……」
かえで「そうだったの……ん?」
かえでさんは私の顔をみて首を傾げた。
こなた「あの、二日くらい休暇をくれませんか……」
かえで「二日……それは別に構わないけど、二日と言わず一週間くらい休んだら、慣れない仕事で疲れたでしょ?」
神崎さんの家にデータを持って行かないといけない。でも休みはそんなに要らない。
こなた「いいえ、二日でいいです……それじゃ……」
私は部屋を出ようとした。
かえで「ちょっと待ちなさい、どうしたのよ、元気ないわね……」
こなた「いつもと同じだと思うけど?」
かえで「ふ~ん、さては向こうの店長から残って欲しいなんて言われたとか?」
こなた「え?」
かえでさんは微笑んだ。
かえで「図星みたいね、それは私も予想してた……」
こなた「予想してたって?」
かえで「そう言う事よ……」
こなた「そう言う事って?」
かえでさんは立ち上がった。
かえで「もうそろろろ店長になってもいい頃だと思っていた……」
こなた「へ、わ、私が、嘘でしょ?」
かえでさんは自分のお腹を片手で触った。
かえで「私は生まれ故郷に帰ろうと思ってね……赤ちゃんも出来たことだし」
こなた「ちょ、いきなり何をいっているの、分からないよ……」
かえで「やっぱりこの町は私には賑やか過ぎるわ、生まれ故郷でゆったりするのが性に合っていると思って、生まれ来る子供の為にも……」
こなた「今更そんな事言って、子供が出来たって……つかさだって子供が居るのに店長してるじゃん」
かえで「私はつかさほど強くない、こなたが嫌ならあやのを店長にすれば良い、彼女もその力はある、いっその事つかさを誘ってみたらどう、きっと戻って来てくれるわよ」
こなた「レストランかえでだから店長はかえでさんじゃないとダメだよ……帰るって……どうして……いきなりそんな事言われても……」
かえでさんは私をじっと見ていた。
かえで「いつも無表情で何も動じないと思っていたけど……あんたの今にも泣き出しそうな顔初めて見たわ……バカね、あんたがそんなんでどうするの、
    あやのやつかさにどうやって言えばいいの……」
かえでさんも悲しい表情になった。これって、どうやって取り繕うか……こうゆうのは苦手だよ……どうしよう。
こなた「私……げんき玉作戦の事……バレちゃった……」
何をやっているのかな、このタイミングでこんな事を言うなんて……でも他に何か別の言葉が思い浮かばなかった。
かえで「神崎あやめに?」
こなた「うん……私はもう此処に居られないかも……」
かえでさんは笑った。
かえで「どうして」
こなた「私の事を記事にされたら……」
かえで「そんな事をするような人ならその辺にいる普通の記者と変わらない最低だわ、それにそんな記者ならこなたを取材の協力なんか行かせない……」
こなた「で、でも……」
私は不安そうな表情を見せた。かえでさんの笑みが止まった。
かえで「そうね、私の見込み違いもあるかも……そうだったら私にはどうする事もできない、かがみさんに相談すると良いわ、今つかさの店に居るわよ、こなたが向こうに行ってから
頻繁に来るようになったわ」
頻繁にって。まさかこの前私の言ったのをそのまま実行しているなんて事はないよね。
こなた「そうする……」
私は振り返って部屋を出ようとした。
かえで「さっきの話しは皆には言わないで、私から皆に言いたいから……」
こなた「うん……でもね、皆はきっと私以上に悲しむよ、特につかさはね……」
かえで「……」
かえでさんは何も言い返してこなかった。
かえでさんは初めに私に言って反応を見たかったのか。無表情って……いきなり帰るって言えばいくら私だってあんな反応するに決まっている。
笑って「帰ればいいじゃん」なんて言うとでも思ったのかな……勝手すぎるよ……
私はそのまま何も言わず事務室を出た。そして更衣室にに入り用を済ませてからレストランを出た。

 レストランを出るとつかさの店からピアノの音が微かに聞こえる。つかさが弾いているのか。いや、いつも弾いている曲じゃない。そうか、みなみの定期演奏会だ。
みなみも来ているみたいだ。
 店の扉を開けた途端迫力のあるピアノの音が飛び込んで来た。真っ先にピアノを見た。ピアノを弾いているのはつかさでもみなみでもなかった。まなみちゃんだった。
聞いたことがない曲だ。でも凄いのは分かる。コントローラのボタンを連打しているみたい、うんん、まるで右手と左手が競争しているように鍵盤を縦横無尽に駆け回っている。
店の奥に行くのを忘れて聴き入っていた。
「ラフマニノフ習曲集音の絵、作品39第6番:イ短調……」
小声で私の耳元に囁く。振り向くとみなみだった。
こなた「すごいね……」
私も小声で囁いた。曲は3分もかからないで終わった。
「パチパチパチ」
来店のお客さんから拍手喝采の嵐だった。まなみちゃんは立ち上がり一礼すると厨房の方に小走りに走って行った。つかさの所に行ったのかな。
こなた「さっきの凄いの、ら、らふま……の練習曲?」
みなみ「うん……あれは私も弾けない難曲……」
こなた「弾けないって、それじゃどうやって教えたの?」
みなみ「教えていない、楽譜を見て弾いた」
こなた「楽譜を、見ただけで?」
みなみは頷いた。
みなみ「楽譜見ただけで演奏なら私は驚かない……まなみちゃんはそれだけじゃない、あの曲のサブタイトルは赤頭巾ちゃんと狼……タイトルも彼女はしらないはずなのに、曲の
    イメージを完全に理解して演奏している」
赤頭巾ちゃんと狼の追いかけっこ……確かにそんな感じの曲だった。
こなた「それって凄いの?」
みなみは頷いた。
みなみ「店の客を見て、ケーキやスィーツを食べに来た人達の殆どの食事を止めて演奏を聴いていた」
確かにその通りだ。客と言う客は皆聴き入っていたようだ。曲が終わった今は皆普通にお茶やコーヒーを飲みながら食べている。
みなみ「私のレベルを超えてしまった、もう彼女を教えられない、もしかしたらショパンコンクールやチャイコフスキーコンクールで上位が狙えるかも」
こなた「ん~~」
有名な作曲家の名前が付いているコンクールなのだからさぞかし由緒あるコンクールだと思うけど……
こなた「そんな大袈裟なのが必要なの?」
みなみ「分からない、まなみちゃんに聞かないと」
こなた「聞かないと言ってもさ、まなみちゃんはまだ小学生だよ」
みなみ「確かにそうだけど……今度の演奏会でスカウトが放っておかないと思う」
こなた「まぁ、ピアノで食べていけるくらいの実力はありそうなのは分かった、でもそれは演奏会が終わってから心配しようよ」
みなみは笑った。
みなみ「そうだった、気が早過ぎかもしれない……それでは失礼します」
みなみは厨房の方に向かって行った。きっとつかさやまなみちゃんの所に行ったに違いない。
ピアノも勉強もちょっと桁外れな子だな……まなみちゃん……

 つかさはまなみちゃんの事をちゃんと分かっているのかな。何を思って何を考えているのか……ん?
ふと店の奥を見るとかがみが座っているのが目に入った。
そうそう。今はそんな事を考えている暇はなかった。かがみの所に向かおうとした時、丁度かがみと目が合った。かがみは自分の座っている向かい側の席を指差した。
私はその席に座った。
こなた「やふ~」
かがみ「こなた、さっきのまなみちゃんの演奏聴いた?」
こなた「うん、ラフマノフノフの練習曲」
かがみ「それを言うならラフマニノフでしょ」
こなた「知ってるの?」
かがみ「作曲者は有名じゃない、でもあの曲は初めて聴いたわ、あれは練習曲なのか、凄い緊張感があったわね、子供の演奏じゃなかった」
かがみは暫く考え込んだまま黙ってしまった。
こなた「どうしたの?」
かがみ「以前こなたが言ってたじゃない、まなみちゃんはお稲荷さんの力を受け継いだんじゃないかって、なんか私もそんな気がしてきたわ
……柊家にあそまでの音楽の才能のある人なんか居ない」
こなた「そうでしょ」
私は何度も頷いた。
かがみ「でもね……お稲荷さんの故郷では音楽を楽しむ文化がないのよ……」
こなた「そうなの? でもつかさがいつも演奏している曲はけいこさんが好きだった曲じゃないの?」
かがみ「それはけいこさんが地球に来てからの話しだから……」
自然とお稲荷さんの話しになる。それもそうだよ、かがみの旦那はお稲荷さんなのだから。
こなた「そのお稲荷さんの故郷って何処にあるの?」
かがみ「ひとしから聞いたけどこの天の川銀河だそうよ、私達地球のあるのオリオン腕から銀河の中心を挟んで向こう側の腕の中、丁度反対側らしい、でもね、
その中心は星やガスが密集しているから地球からは観測できない……ちょっと残念ね……」
こなた「ふ~ん」
かがみ「ふ~んって、ちゃんと分かってるの?」
こなた「何となく……」
まるでSFみたいなだな、でもこれって現実なのだよね……それなのに違和感ないな……傍から私達の会話を聞くと
SF映画の会話をしていると思われそうだ……そういやかがみはSFなんかのラノベとかよく読んでいたっけな。だからかな。
ゲームや漫画で宇宙人なんかはよくあるシチュエーションだからね……私もすんなり受け入れられる。
でも……それが普通の人なら。神崎さんならどうだろう。
宇宙人と聞いただけでSFやオカルト扱いされるのが落ちだよ。かがみやかえでさん達が理解してくれているのはラッキーだったのかもしれない。
それとも私達が宇宙人を理解できるレベルになってきているって事なのかな……違うのかな。分からなくなって来ちゃった。
こなた「はぁ~」
かがみ「なによ、溜め息をするなんて、らしくないわね」
こなた「いろいろ考える事ができてね……」
かがみ「……こなたがそんな台詞を言うようになるなんて、時間が経つのが早いわね」
むむ、私を子供扱いしている。昔なら言い返してやるのだが。今はそんな気はない。
こなた「かがみ、もし……もしも、げんき玉作戦が世間にバレちゃったら……私ってどんな罪になるの?」
かがみ「はぁ、なにをいきなり……」
呆れた顔で私を見るがすぐに私が何故そんな質問をしたのか分かったようだ。表情が驚きの顔に変わった。
かがみ「まさかあんた、神崎あやめに知られてしまった……の?」
私は黙って頷いた。
かがみ「いったいどうして、分かってしまった?」
潜入取材は内緒だった。どうやって説明するかな。
こなた「……神崎さんを助けるために……パソコンをハッキングしていろいろ操作したから……」
これが私の精一杯の表現だった。
かがみ「ハッキング……やっぱり、潜入取材をしたな」
こなた「う、うんん、そんなんじゃなくて……」
やばい、もうバレちゃってる。でも、かがみには嘘はつけないか。オロオロして何もできない。そんな私を尻目にかがみはクスリと微笑んだ。
かがみ「安心しなさい、十中八九神崎は記事になんかしない」
こなた「な、なんで、彼女はあの神社を寄付した人を探していたから……もうだめだよ、おしまいだよ……」
更にかがみは笑った。
かがみ「ふふ、いつものこなたらしくないわよ、彼女は潜入取材をした、それはそれでかなりの罪になるわ、こなたを記事にすれば彼女にもその疑いが掛かる
    リスクを背負う事になるわよ、それに、協力してくれた人を売るような卑怯な事をするような人とは思えない」
会ってもいない神崎さんをそこまで自信ありげに話すなんて。かがみはそうとう彼女を調べたみたい。
かがみ「それにネット犯罪は立証が難しいからこなたが捕まるとは思えない……万が一捕まったとしても、この私が全力で弁護してあげる」
こなた「……なぜ私をそこまで……」
かがみ「めぐみさんの知識、技術……それをこなたは受け継いだ、それを使ってつかさを救ってくれた……自分の危険を顧みずにね……それが理由、なによそれだけじゃ不満なの?」
こなた「かがみ……」
かがみ「法律は人を裁くものではなく守るもの、私はそう信じている」
何でだろう、何かよく分からないけど目から涙が出てきた。
かがみ「まだ泣くのは早いわよ、神崎あやめの本当の目的を知るまではね……」
まるでつかさに言い聞かせるかのような言い方に私は我に返った。
こなた「そう言えば招待状なんだけど、あれがかがみ宛てだったのを神崎さんは気付いてしまったよ……」
かがみ「……いいのよ、むしろ気付いて欲しかった、これで私が一枚噛んでいるのが分かったはず」
こなた「え?」
かがみ「こなたばっかりに無茶はさせないわよ、お稲荷さんの事は私達の事でもあるのだから」
それを聞いて何か大きな錘が取れたような気がした。
神崎さんは他人には話すなと言った。だけど……確かにお稲荷さんはかがみ達にとっては家族と同じ。いや、家族なのだから。私は二重スパイって言われても構わない。
私は財布からSDカードを取り出しかがみに渡した。
かがみ「これは?」
こなた「貿易会社の資料室のパソコンからコピーしたデータだよ」
そう、USBメモリーからコピーした。私のノートパソコンを使うためにかえでさんの店に先に寄った。
かがみ「……データを分析するならこなたの方がいいと思うけど……」
こなた「データはコンピュータ関係じゃなさそう、アルファベットの羅列で訳が解らなかった、知っている単語が一つもなかったから英語じゃなさそう」
かがみ「そう……それじゃ預かっておくわ、みゆきにも見せるわ、丁度これから会う約束をしているから」
こなた「あっ、二つだけ注意して、このデータを開く時は必ず通信出来ないようにして、LANケーブルを抜くこと…」
かがみ「ワイヤレス通信も切っておくわ」

こなた「うん、そうして……それから一度使ったパソコンはもう仕事や私用で使わないでね」
かがみ「専用パソコンを用意すればいいのか、分かった」
急いでデータをコピーしただけだから何が仕込まれているか分からない。
かがみはSDカードを財布に仕舞った。

まなみ「あ、かがみ叔母さんとこなたお姉ちゃんだ」
かがみとの話が一段落した時だった。厨房から出てきたまなみちゃんが私達に気付いた。まなみちゃんは嬉しそうに私達に近づいてきた。それからみなみも少し遅れて出てきた。
こなた「やふ~、まなみちゃん、さっきの演奏凄かったね」
まなみ「え、聴いちゃったの?」
こなた「うん、聴いちゃった」
かがみ「私も聴いた、今度の演奏会楽しみにしているわよ」
急に顔が赤くなって何も言わなくなってしまった。さっきまであんなに堂々と演奏していたのに。知り合いが居ると緊張するタイプなのかな。
つかさ「こなちゃん!!」
まなみちゃんを呼ぶつもりだったのだろうか。コック姿のつかさが厨房から出てきた。私の顔を見るなりまるで何年も会っていないような勢いで飛んできた。
つかさ「どうして一ヶ月も来なかったの?」
神崎さんの話しはまだつかさに話さない方がいいかもしれない。もし話すならかがみやかえでさんがとっくに話している筈だ。
こなた「ちょっと研修に行っていて……なかなか帰る機会がなくって」
かがみ「こなた曰く……会いたい時に会うのが心情だそうだ、理由なんて要らないってね、つまり一ヶ月間会いたくなかったって事だろ、薄情ななつだな」
こなた「ちょ、か、かがみ、それは……」
あの時言ったのをそんな言い方されたら……いや、そうか。かがみは私のした事ををつかさに隠す為に……かがみに合すか。
こなた「だからこうして来たんじゃないの、会いたくなかったら来るわけないじゃん、それよりかがみさ、少し太くなったんじゃない?」
かがみの眉がピクリと動いた。
こなた「かがみはつかさの所に来過ぎじゃないの、ケーキとか食べまくっていない?」
かがみ「洋菓子店でお菓子を食べないで何をするのよ」
こなた「あらら、開き直っちゃったよ」
かがみの座っているテーブルに置いてあるお土産用の箱を私は見逃さなかった。
こなた「1、2、3、4……あれ、数が多くない?」
かがみ「みゆきのお土産と家族の分よ……」
こなた「本当に? 全部かがみのじゃないの?」
かがみ「う、うるさいわね、どっちでも良いでしょ」
私とかがみのやり取りを見てまなみちゃんが笑い始めた。そして、少し怒り気味だったつかさも笑った。
みなみ「懐かしい雰囲気……思い出しますね、あの頃の時代を……」
私とかがみは顔を見合わせた。まったくそう言う意識はなかった。私はただかがみに合わせただけだった。
それが高校時代によくやっていたのと同じような調子になってしまうなんて。
つかさ「はは、そうだね、なんか懐かしいね……お姉ちゃんとこなちゃん、もうそんな事しないと思ってた、またあの頃に戻りたいね……」
さっきまでグズっていたつかさが笑っている……
かがみ「つかさ、こなたに何か言いたいんじゃなかったっけ?」
つかさは上を向いて暫く考えた。
つかさ「ん~~無事に帰って来たし、もういいや……こちゃん、今度からちゃんと連絡して」
こなた「う、うん……」
かがみは私にウインクをした。なるほど。つかさを誤魔化したのか……確かに私だけだと誤魔化し切れなかったかもしれない。
たった一ヶ月来なかっただけでつかさはあの様になってしまう。かえでさんはつかさに何て言うのだろう……
みなみ「それじゃまなみちゃん、続きは私の家で練習しよう」
まなみ「うん……」
つかさ「みなみちゃん、お願いしますね……」
みなみとまなみちゃんは店を出ようとしている。そうだ。試してみるか。
こなた「まなみちゃん、さっきの練習曲もう一度聴きたいな……」
まなみちゃんを呼び止めた。個室で練習しても上がり症は治らない。まなみちゃんは立ち止まって振り向いた。表情を見る限りさっきの時のような覇気はなかった。
こなた「まなみちゃん、私とゲームしていた時を思い出して……」
まなみ「ゲーム?」
こなた「そうだよ、私が居てもちゃんと操作していたじゃん、ピアノもそれと同じだよ……」
まなみちゃんはピアノをじっと見つめた。
まなみ「やってみる……」
まなみちゃんはゆっくりピアノに向かってそっと席についた。大きく深呼吸をすると両手を鍵盤に置いてゆっくり目を閉じた。
私達も店の客も皆まなみちゃんに注目している。緊迫した沈黙が暫く続いた……
まなみちゃんは目を閉じたまま突然ピアノを弾き始めた。
最初に聴いた時よりも激しく、そして繊細だった……我を忘れて無我夢中って感じだな。
さて……どうもクラッシックは私の性に合わない。神崎さんの約束もあるし店を出るか。私が席を立っても皆はそれに気付かない。まなみちゃんの演奏に釘付けになっている。
邪魔にならないようにそっと店を出た。

 店を出てもピアノの音が漏れている。さっきの練習曲は終わったのに。そのまま別の曲を弾いているようだ。通り掛りの人も数人足を止めてピアノの音に耳を傾け居る。
確かにみなみの言う通りかもしれない。音楽で人の足を止めるなんて並の腕じゃ無理だ……
ピアノの音を背にして駐車場に向かった。
「ゲームとピアノを結びつけるなんて、やるじゃない」
駐車場に着き車のドアを開けようとした時だった。後ろから声を掛けられた。私は振り向いた。
こなた「かがみ……いいの、まなみちゃんの演奏を聴かなくて」
かがみ「つかさとみなみが居るから良いでしょ、私もどっちかって言うとクラッシックは苦手でね……」
こなた「そうなんだ……」
私は車のドアを開けた。
かがみ「神崎あやめにさっきのデータを渡しに行くのか?」
私は頷いた。
かがみ「彼女と私達、どちらが先に分析できるか競争になるかもね……」
競争か……かがみと神崎さんが会ったらどうなるかな……そういえばかえでさんとかがみが最初に会ったらいきなり喧嘩したっけ。でもあの時のかがみは呪われていて普通じゃなかった。
神崎さんもかがみの事を知っている感じだった。記者と弁護士だと立場によっては対立しちゃうかもしれない……
つかさと神崎さんはどうだろう。つかさの天然が炸裂したらどんな反応するのか少し興味がある……
いや、こんな事を考えるはまだ早いか。
こなた「私……これからどうすれば良いかな?」
かがみ「無責任な事は言えないわね、だから敢えて言う、私にも分からない」
こなた「ちょ……」
かがみ「だからこなたの思うようにしなさい、その結果がどうなっても誰も文句は言わないわよ、うんん、言わせはしない」
かがみが初めて私に全てを任せてくれた……
こなた「ふふ、まなみちゃんじゃないけど、少し自信が出てきた」
かがみ「それそれ、そうでないとこなたじゃない」
私は車に乗り込んだ。
こなた「それじゃちょこっと行ってくる」
かがみ「さっさと片付けて来なさい」
私は車を出した。

データを渡せば神崎さんの手伝いは全て終わる
……終わるのかな
何かもっと大きな何かが待っているような気がする。その何かが分からない。もしかしたら神崎さんはそれを知ろうとしているのかもしれない。
それは何だろう。私もそれを知りたい。
私は神崎さんに会いに行く。その何かを知るために。


つづく


以上です。




この後すぐまとめるので まとめ報告は省略します。

それでは「こなたの旅」の続きを投下します。

5レス位使用します。



 次の日のお昼過ぎ……私は神社の前に車を停めた。
神崎さんは夕方って言っていた。随分早く着いてしまった。サービスエリアでもう少し時間を潰してくればよかったかな。
この前の時みたいに待っている必要はない。もうさっさとデータを渡しちゃおう。
このやり場のない気持ちでずっといるのは耐えられない。神崎さんがこれからどんな態度に出るのか……白黒つけてやる。
私は再び車を走らせ神崎宅を目指した。
この前来た時と同じ場所に駐車して車を降りた。そして神崎さんの玄関前に立った。
呼び鈴が押し難い……何故、約束の時間より早いから。データを渡して彼女の態度が豹変するのが恐いから……
やっぱり時間まで待とうかな。いや、もうここまで来て戻るなんて。
「はぁ~」
溜め息が出た。
私の秘密がバレた。神崎さんは私を記事にするのだろうか。いっその事あの時何もしないで帰っちゃえばよかったかな。
いや、神崎さんを助けないであのまま見捨てて私だけ逃げるなんて出来なかった。
記事にするとかしないとかそんな事を考えていなった。そうだよ逆に考えていたら助けられない。つかさがお稲荷さんを助けた時もそんな感じだったのだろうか。
つかさはあれこれ深く考えないからなぁ……
とか言っているけどこの私だって深く考えている訳じゃない。つかさと似たり寄ったりだ。でも、つかさはお稲荷さんと仲良くなったからある意味つかさの方が上かな……
それに引き換え私なんか……
人差し指が呼び鈴のボタンの前で止まったままだ。かがみに励まされてここまで来たのに……
「あの、何かご用ですか?」
こなた「ふぇ?」
声のする方を向くと正子さん?
正子「貴女は……確か泉さん?」
こなた「は、はい……この前は失礼しました……」
正子さんか。レジ袋を持っている。買い物の帰りだったみたい。
正子「娘に、あやめに用ですか? さっきまで一緒だったのですが生憎別れてしまいまして……夕方頃までは戻らないと思いますけど」
そう、約束は夕方だった……
こなた「そうですよね、約束もその頃だったもので……ちょっと早過ぎました、出直します……」
車を停めてあった場所に向かおうとした。
正子「折角遠い所から来たのですから時間まで上がって待って下さいな」
私は立ち止まった。
こなた「いや、悪いですよ、お邪魔になるかと……」
正子「まぁ、そう言わずに、どうぞ」
正子さんはドアを開けてにっこり微笑んだ。
こなた「……お邪魔します……」
正子さんの笑顔に吸い込まれるように家に入った。
 あの笑顔には逆らえない。つかさやかがみのお母さん、みきさんにしてもそう、みゆきさんのお母さん、ゆかりさんはいつも笑顔だった。
神崎さんのお母さんも同じだった。
……母……か。

正子「ごめんないね、こんなものしか無くって……」
こなた「お構いなく……」
正子さんはお茶とお茶菓子を私の前に置いた。
正子「丁度一ヶ月くらい前かしら、貴女がここに来たのは」
正子さんは私の目の前に座った。
こなた「そ、そうですね、そのくらいになります」
もう一ヶ月経つのか。潜入取材が終わったからそのくらいの期間は経っている。
正子「あやめもそのくらい仕事で空けていましてね、もしかしてご一緒でしたか?」
こなた「え、ええ、そうですね、半分くらいは一緒でした」
正子「あやめはいろいろなお友達を連れてきますけど、学生時代からの友人の様み見える」
そうか、取材とかでいろいろな人を連れてくるのか。私もその中の一人。
こなた「そうですか、私って童顔だから……身体も小さいし」
正子「ごめんなさい、私はそんな意味で言ったのでは……」
卑屈になったのが悪かった。話が途切れてしまった。初対面の人と話すのは難しいな。正子さんは二回目だけど。同じようなものか。
正子「あやめと今日はお仕事の約束ですか?」
こなた「は、はい……」
正子「そうですか……」
話題を作らないと……そう思えば思うほど何も話題が出てこない。焦るばかりだった。
正子「一昨日、慌てて帰ってくるなり「私宛の郵便はどこ」って問い詰められて、泉さんが出したものではなかったのですか?」
こなた「郵便……いいえ、私は出していません」
正子「良かった、それなら安心」
サイン会の招待状を探しにきたのかな。そうか。神崎さんは私に言われて一度帰ったのか。それでサイン会の招待状を見つけたのか。
こなた「すみません、それで、それより前は帰ってこなかったのですか?」
正子さんは頷いた。
正子「一度も連絡もしないで、酷いでしょ?」
帰っていなかった。まさかとは思ったけど彼女は本当に帰っていなかったのか。一人で貿易会社を調べて居たのだろうか。
お母さんに連絡もしないで一体何を調べていたのか。いや、どんな大事な取材か知らないけどお母さんを放って置いて良いなんてないよ……
こなた「そんなに一人が良いなら引っ越せば良いのに……」
正子「そうね……本当はそれが一番良いのかもしれない、でもあやめは分かれて暮らすなんて一言も言わない、なんだかんだ言ってまだ親離れできていないのかもしれない、
   そう言う私も子離れ出来ていないのかも……」
こなた「ははは、実は私もまだお父さんと一緒に暮らしていたりして……」
正子「そうでしたか……こんな可愛い娘さんが居たら手放したくなるのも分かります」
こなた「はは、もう可愛いなんて言われる歳じゃ……それはないと思うけど………」
正子さんは照れている私を見て笑っていた。
こなた「あやめさんって子供の頃はどんな子だったの?」
正子さんは遠い目で私の向こう側を見た。
正子「そうね……学校から帰ってくると直ぐに遊びに出かけて、夕方になるまで帰ってこなかったかった……」
こなた「それって、遊びが仕事になっただだけで今と同じじゃないですか」
正子さんは笑った。
正子「ふふ、そうかもしれない……あの子は昔からそうだった、何にでも興味を持って……それでいて正義感は人一倍だった、
   いじめられっ子を庇って男の子と喧嘩もしたくらいだった」
こなた「へぇ…」
正子「それでもやっぱり女の子、半べそで帰ってきた……それでも男の子の方に怪我をさせたみたいで、後で学校に呼び出された……」
こなた「あらら……男勝りだったんだね……」
私はただ正子さんに合わせているだけでいい。それだけで話がどんどん進んでいった。
正子「曲がった事が嫌いだった、それでも女の子らしい所もあってね……あれは小学校に入学する少し前だったかしら……
   怪我をした狐を大事そうに抱えてきて、助けたいって……」
狐……怪我をした狐だって……私は身を乗り出した。正子さんは私の反応を見て嬉しかったのだろう、話しを続けた。
正子「野生の動物は無理だよって何度も言い聞かせても聞かなくってね、勝手にしなさいって怒った……だけどあやめは諦めないで看病したみたいね……
   一週間くらいでその狐は元気になってあやめのあげた餌なら食べるくらいまで懐いた……真奈美なんて名前をつけたくらいだからあやめもよっぽど気に入ったみただった」
こなた「ま、真奈美!?」
正子「え、ええ、そうですけど、何か?」
こなた「な、何でもありません、それで、その狐はその後どうしたの?」
傷付いた狐……真奈美……そして、神社のすぐ近くの家……これは偶然じゃない。その狐は、真奈美は……つかさを助けたあの真奈美に違いない。
正子「どんなに馴れても野生の動物は飼えない……別れの日が来ました、丁度あやめが小学校に入学する日だったかしら、狐を山に帰す時……あの子の悲しい顔が今でも忘れなれない
   まるで親友と別れる様だった……」
親友……彼女は狐の正体を、お稲荷さんの秘密を知っているのか。
神社とこんなに近い家だだから。たとえ別れたとしても再会できる機会は幾らでもあるよね
だとしたら……
まさか神崎さんがしようとしている事は。貿易会社に囚われている真奈美を助ける為。これはみゆきさんの推理と一致している……
真奈美は生きているのか……そういえば神崎さんと私達は少しちぐはぐだった。それは私達と同じように彼女にも秘密があるから。
共通の秘密ならもう隠す必要はない。真奈美を助けるなら皆で協力しないと。私達が今まで彼女に秘密にしていたのも無意味だ。
もしかして今一番必要なのは神崎さんとつかさを逢わす事なのかもしれない……
正子「どうかしましたか?」
こなた「え、い、いいえ、何でもありません、あやめさんに早く会いたくなりまして……」
正子「私のお話が役にたったのかしら……」
こなた「なりました、すっごく、あやめさんの事が分かりました」
正子「そうですか、泉さんのその、喜ぶ顔が見られてよかった……」
その後は私の話しを正子さんにした。高校時代、大学時代、もちろんつかさやかがみ、かえでさんの話しもした。
でも、お稲荷さんの話しと潜入取材の話しは出来なかった。

 夢中で話したせいか時間はあっと言う間に過ぎた。
正子「もうそろそろ帰ってきてもいい頃なのに……なにやっているのか、あの子ったら……」
日は西に傾いてそろそろ夕方だ。だけど彼女は帰ってこない。
正子「しょうがない」
正子さんは立ち上がり携帯電話を手にした。電話をするのか。
こなた「あ、もしかしてあやめさんに連絡を?」
正子さんは頷いた。
こなた「私、そろそろ行かないと、長い間お邪魔しました」
正子「え、で、でも、まだあやめは帰ってきていない、約束は?」
こなた「大丈夫です、彼女に会いに行きますので……当てがあるから連絡しなくてもいいです」
正子「そ、そうですか……」
連絡する必要はない。神崎さんは待っているに違いない。あの場所で……それに確かめたい。もし私の、うんん、みゆきさんの推理が正しければ
彼女はあの場所にいるに違いない。あの神社に……
私は帰り支度をした。
正子「……娘を……あやめをお願いします……」
こなた「え、それってまるで嫁に出すみたいな言い方ですよね……私、一応女なんですけど……」
正子「あらやだ、私ったら……」
私達は笑った。
正子「ふふ、泉さんはあやめと幼馴染みたいですね、どうかあやめの力になってやって下さい」
こなた「どうかな~ 力になってもらいたいのは私の方かもしれない」
正子さんは笑顔で私を見送ってくれた。

 車を走らせて5分も掛からない場所……神社の入り口。
駐車スペースには神崎さんのバイクが停めてあった。間違いない彼女は神社に居る。バイクのすぐ横に車を停めた。
私は入り口に入り階段を登った。
 つかさと真奈美の話で私は疑問に思っていた事が一つだけあった。それは誰にも言っていない。私だけの疑問として仕舞っていた。
それは真奈美が何故つかさを殺すのを躊躇ったのか。止めたのか。それがどうしても分からなかった。
真奈美は人間嫌いだった。それがたった一晩宿屋で一緒の部屋で過ごしただけで心変わりが起きるなんて、いくらつかさが誰でも仲良くなれるって言っても時間が短すぎる。
私が捻くれた考えだった。そう思った時もあったし、誰かに話せばそう言われるだけ。だけど心の奥では釈然としなかった。
そして、正子さんの話しを聞いてそれが解けた。
幼い頃の神崎さんが真奈美を助けたなら真奈美のつかさに対する行動が全て納得できる。だから会いたい。神崎さんに……
それを確かめたい。
頂上に向かう私の足が自然と速くなっていった。

こなた「はぁ、はぁ、はぁ」
 頂上に着くと息が切れていた。ちょっと飛ばしすぎたが……あれ?
周りを見渡しても彼女の姿が見受けられない。確かお弁当を食べていた時はこの辺りで景色を見ていたのに……
私が階段を登って来たのは神崎さんには見えていたはず。って事は……
なるほどね、この前と同じように私を驚かすつもりだな。そう何度も同じ手に引っ掛かるほど間抜けではないのだよ。この神社で隠れるとしたら森に入った奥だけ。
私だってこの神社には何度も来ているからそのくらいは解る。よ~し。逆に驚かしてやる。
木の陰に隠れながら森の奥へと足を進めた。中は薄暗くてよく解らない。
森の中……そこはひろしとかがみが言い合いをして私が飛び込んで行った場所だった。あの時、確かにお稲荷さんは嫌いだった……嫌いだったけど
今は特にそんな感情はないかな……そういえばみゆきさんも最初は……
『わー!!!』
こなた「ひぃ~」
後ろから突然の声にビックリして振り向こうとして足がもつれて尻餅をついてしまった。
あやめ「ふふ、私を驚かすつもりだったでしょ……それにね森の奥には行ったらダメだから、昔からの言い伝え」
私は立ち上がりお尻についた土埃を掃った。それを確認すると神崎さんは階段の方に向かって行った。私も暫くして彼女の後に付いて行った。
木の陰に隠れていたのか。そういえば私も木の陰に隠れてつかさを見張ったのを思い出した。
あの時はもう少しでキスシーンを見られる所だったけどひろしに気付かれて……あれ……
この神社に……こんなに思い出があったなんて……

神崎さんはこの前の時と同じ場所で町の景色を眺めていた。私は更に彼女に近づいた。
あやめ「この景色を今でもこうして見られるのは泉さん、貴女のおかげだったなんて……私は……」
これって、ビルで別れ際の時に言い掛けたのを言うつもりなのかな。私は何もしないでそれを待った。
あやめ「私は……貴女を見掛けだけで判断してしまった、「そんな事なんか出来るはずない」……そう思っていた、真実を見抜けなかった、
    曇った目では真実は見抜けない、記者失格ね……それに私は貴女を危険に曝してしまった……」
こなた「まぁ、誰も私がそんなのを出来るなんて思わないから、気にする必要なんかないよ……」
あやめ「……今の所潜入されたって報道はない、いや、停電の話しすら出ていない、きっと只の事故として処理された、完璧じゃない、どこでそんな技術を……」
ここで誤魔化しても意味ないかな。
こなた「木村めぐみ……さんから教えてもらった、あのUSBメモリーはめぐみさんから貰ったもの、もちろん中身の構造なんか全く分からない、でもそれを使う事はできる」
車の構造は知らなくても運転は出来る。それと同じようなものかもしれない。
私は財布からSDカードを取り出し神崎さんに差し出した。
あやめ「木村……めぐみ……」
神崎さんはSDカードを受け取とった。
あやめ「小林かがみ……貞子Y麻衣子、小早川ゆたか……貞子H麻衣子、田村ひより……この三人の共通点、調べてすぐに分かった、陸桜学園の卒業生……もしかして泉さん?」
こなた「ビンゴ、私も陸桜学園出身……でも今頃になってそんなのを調べるなんて……本当にプライベートは調べないないみたいだね……」
あやめ「それが私のポリシーだから、小早川さんは以前取材した事がある……ふふ、それにしてもどこにどんな接点が出来るなんて分からないものね……」
神崎さんは苦笑いをした。
こなた「これでミッション終了だね、結構楽しかった、こんなのはレストランで働いていたら味わえなかったよ」
あやめ「いや、まだ終わっていない、教えて、どうやってこの神社を寄付した、そして資金は?」
身を乗り出しで来た。これは記者としての好奇心なのか。それとも個人的に聞きたいのか。
こなた「話す前に……条件がある」
あやめ「条件って?」
こなた「私の事を記事にしないって約束して……」
あやめ「そうか、以前私はそんな話しをした……まさか貴女がその本人とは思わなかったから興味を持ってもらうように話しただけ、約束する、記事にはしない」
あっさり約束をしてくれた。かえでさんやかがみの言う通りだった。でも、……疑ってもどうしようもないか。彼女を信じるしかない。
こなた「げんき玉作戦、私はそう名付けた」
あやめ「げんき玉……それって〇〇〇〇ボールで、生き物の元気を少しずつもらって大きな力にする技……」
こなた「当たり、その通りだよ、お金の取引に出る端数を切り取ってスイス銀行に貯めていく」
あやめ「なるほどね、取られた本人はそれに気付かない……取られた量は少なくなくても塵も積もれば山となる……まさにげんき玉そのものじゃない、もしかして私も
    取られたのかしら……」
こなた「さぁね、取られたかもしれない、私自身も取られたかもね」
神崎さんは私の目を見て話し始めた。
あやめ「巨大な力に立ち向かい泉さんはこの神社を守った……誰の為にそんな事を」
こなた「誰の為にって……誰だろう……つかさの為かな」
あやめ「つかさ……あの洋菓子店の店長の?」
こなた「うん」
あやめ「私、闘う女性は好きだな……」
真顔で何を言ってるの……この人。まさか……
こなた「へ、な、なにをいきなり、私はそんな気なんか全くありませんよ……」
神崎さんは笑った。
あやめ「何勘違いしてるの、強い物に立ち向かっていく女性の事を言っている、泉さんはまさにその通りじゃない」
こなた「別に私は戦士とかじゃないけど……」
神崎さんは私に背を向けて景色を見出した。
あやめ「さて、これでスッキリした、泉さんの手伝いも全て終わり、もうこれで貴女は自由だから、もう私に関わらなくて済む」
こなた「関わらなくて済むって?」
あやめ「もう二度と会う事はないでしょうね、短い間だったけどありがとう」
な、何だって、そんなのってないよ、一方的すぎる。
こなた「ちょっと待った、まだ私の話しは終わっていないよ」
あやめ「これから先は私の仕事だから……これ以上貴女を巻き込みたくない」
こなた「もう充分巻き込んでいるよ……」
あやめ「泉さんを危険な目に遭わせたのは悪かった、店長さんにも謝っておいて、さようなら」
自分の話しはしないつもりなのか。そっちがその気なら私にも考えがあるよ。
神崎さんは階段を下りようとした。
こなた「さっき渡したSDカード、データを圧縮して保存していてね、その圧縮方法が特殊で私が持っているUSBメモリーが無いと解凍できないよ」
神崎さんの足が止まった。
こなた「無理に解凍しようものならたちまち自己破壊するようになってる……」
神崎さんは私の所に戻ってきた。
あやめ「とう言うつもり、私を脅そうなんて……」
こなた「もう、騙し合いはやめようよ」
あやめ「騙し合い?」
こなた「そうだよ、私も全てを話している訳じゃない、神崎さん、貴女もね」
あやめ「何を言っているのか分からない……」
さて、今までずっと神崎さんのペースだったけど今度からは私のターンだからね。

 夕日が差し込んで来た。もうそろそろ日が沈む。私はこの町の風景を初めてこの神社から眺めていた。
あやめ「データを加工するなんて卑怯じゃない、それに騙し合いって……私にそんな疾しいことなんか無い」
神崎さんがあんなにムキになっているのをはじめて見た。卑怯は合っているかもしれない。私はデータを人質にとったのだから。
こなた「木村めぐみ……この名前を出した、神崎さんはその後全くこの事について何も聞いてこなかったけど、行方を追っていたんじゃないの?」
あやめ「そうだけど……」
言葉が詰まっている。やっぱり、隠しているな。それなら……
こなた「柊けいこ、木村あやめはもう何処にも居ないよ」
あやめ「何処にも居ないって、それは亡くなったって意味?」
こなた「少なくとも地球には居ないって意味」
あやめ「な、そんな冗談に付き合って居られない、それより早く解凍する方法を教えて」
神崎さんの声が荒げてきた。
こなた「神崎さんが幼少の頃、一匹の傷付いた狐を拾ったでしょ?」
あやめ「突然何を言っているの、そんなの全く何の関係もない話しを……」
さて、次の話しを聞いてどんな反応をするかな。
こなた「正子さんから聞いた、その狐の名前は真奈美って名付けたんだってね、でも、その狐は最初から真奈美って名前だった……ちがう?」
あやめ「え、あ、う……」
何も反論してこない。そうか。私の勘が当たったみたいだ。
こなた「もし、その狐が真奈美なら私達にもとっても重要な事なんだけどね」
神崎さんは一歩後ろに下がった。そして口を開けて驚きの表情をしていいる。
あやめ「ま、まさか、貴女……その狐の正体を知っているの?」
神崎さんは私達と同じだ。もうそれは疑いの余地はない。
こなた「神崎さんは何て呼んでるのか知らないけど私達はお稲荷さんって呼んでる、知っているかもしれないけどUSBメモリーをくれためぐみさんもそう、けいこさんもね」
あやめ「ま、まさか、私の他にそれを知っている人が居たなんて……」
神崎さんはその場にしゃがみ込んでしまった。
こなた「悪いけど、神崎さんのデータをコピーさせてもらったから、私達にも必要なデータみたいだからね」
あやめ「いくら泉さんでもあのデータを解析なんか出来ない……待って、私達、さっき、達って言ってたでしょ?」
こなた「うん、少なくとも神崎さんが知っている私の知人は皆関係者だよ、勿論かがみ、ゆたか、ひよりもね」
神崎さんはゆっくりと立ち上がった。
あやめ「……これは偶然なの……まさか、私はその秘密を知っている人を探していた訳じゃない、いや、誰も知らないと思っていた」
こなた「どうだろうね、同じ秘密を持っているから自然と繋がったんじゃないの?」
あやめ「それで、貴方達は真奈美さんとどんな関係があるの?」
その話をするのははめんどくさいな。それにもうすぐ真っ暗になっちゃう。
こなた「私は直接そのお稲荷さんには会っていない……そうだね、つかさに会って直接聞くといいよ」
あやめ「つかさ……あの店長に、どうして?」
こなた「彼女が全ての始まりだから」
あやめ「え?」
私は階段の手摺にハンカチを巻いてその上に腰を下ろした。
こなた「下で待ってるよ~」
そのまま体重を手摺に預けた。滑ってどんどん加速していく。バランスを取りながら下がっていく。
私は休み時間とか暇を見つけて貿易会社のビルの階段で練習した。慣れれば簡単だった。

 神社の入り口に着いて自分の車の近くで待っていると神崎さんが私と同じように手摺を滑って降りてきた。見事に着地すると私の所に歩いて来た。
あやめ「やられた、この下り方が出来るなんて」
こなた「悔しいじゃん、リベンジだよ、リ・ベ・ン・ジ」
神崎さんは笑った。
あやめ「ふふ、分かった、そのつかささんに会いましょう、話しはそれからみたいね」
こなた「うん」
あやめ「その前にこれだけは教えて、柊けいこ会長と木村めぐみが地球に居ないって言ったけど……それはどう言う意味?」
これは言っても良いかな
こなた「お稲荷さんは殆ど故郷の星に帰った、宇宙船が迎えにきてね……どんな方法か分からないけど二人も連れて帰った、だからこの神社にお稲荷さんは居ないよ」
あやめ「帰った……そ、そんな……どうして……」
とても悲しそうな表情。意外な反応だった。
こなた「お稲荷さん個人個人で理由は違うと思うけど……あの二人は……今までの人間の仕打ちを見れば分かると思うけど……」
神崎さんは悲しみを振り払う様に笑顔になった。
あやめ「そう……今日は泊まっていきなさいよ、今から帰ったら日が変わってしまうでしょ、それに母が狐の話しをするなんて、そうとう気に入られたみたいね」
こなた「サービスエリアで泊まろうと思ったけど……お邪魔しちゃうよ?」
あやめ「ぜひそうして」

 私は一番遠ざけていたつかさに神崎さんを会わそうとしている。本当にこれでいいのか。もっと彼女を調べてからでも……
そう思ったりもしたけど。もう決めてしまった事だ。それに神崎さんはお稲荷さんを知っている。そしてつかさと同じように狐を助けている。
きっと私達の仲間になってくれる。そうすればあのデータだって直ぐに分かるに違いない。そう思ってそれに懸けた。
でもさっきのあの悲しい顔は何だろう。あまりに悲しそうだから聞けなかったけど……けいこさんとめぐみさんを知っているいるのかな。
神崎あやめ……まだ何か秘密があるのか。つかさと会って真奈美の話しを聞いて彼女はどうするのかな。
分からない。ただ期待と不安だけが交差するだけだった。



つづく

以上です。

一応作者的には重要な場面なので短いけど投下しました。

次の展開を楽しみにして下さい。

この後直ぐにまとめるので報告は省略します。

それでは「こなたの旅」の続きを投下します。
6レスくらい使用します。



こなた「ほい、これでよしっと……ちょっとフォルダー開いてみようか」
あやめ「お願い……」
神社から神崎家に移った私達は神崎さんの部屋でデータの解凍をした。彼女はこの為に専用パソコンを用意していた。彼女にかがみの時の様な忠告は不要みたい。
私はフォルダーをクリックしようとした。
あやめ「待って」
私は手を止めた。
こなた「なに?」
あやめ「泉さん、こんなに早く解凍して良いの?」
こなた「え、それってどう言う事?」
神崎さんの言っている意味が分からなかった。手順で何か間違っているとも思えない。
あやめ「私がいつ約束を破って泉さんを記事にするか、そう思わないの……軽々しく人を信じるものじゃない……」
なんだその事か。
こなた「早いかな、もう神崎さんとは一ヶ月の付き合いだし、それに傷付いた狐を救ったし……お稲荷さんの秘密も知っているからね、もう仲間だよ、
    それに約束破る人が態々そんなの言うわけないじゃん」
あやめ「……おめでたい思考だな……今時珍しい……」
こなた「そうかな、でも、そう言うのって神崎さんが一番嫌いなんじゃないの?」
私はそのままフォルダーをクリックした……アルファベットの羅列……コピーする時ちょっと見たのと同じようなデータ。まったく意味が分からない。
神崎さんはじっとデータを見ている。見ていると言うより……目で字を追っている。もしかして読んでいる?
こなた「何か分かるの?」
あやめ「……これは、ラテン語みたいね……」
こなた「ら、ラテン語?」
あやめ「ふ~ん……それにしても少し古い……ちょっと時間がかかりそう」
こなた「あ、あの、ラテン度って?」
あやめ「古代ローマ人が使っていた言語」
古代ローマって何時の話しなの。全く分からない。もう少し黒井先生の授業を聞いていればよかった。
こなた「うげ、そんなのを読めるの?」
あやめ「……辞書があればだけど」
こなた「そんなの近所の本屋さんじゃ売ってないよ……」
でも見ただけでラテン語だって分かるのは凄い。もしかしたらみゆきさんと同じくらいの頭脳があるかも。
あやめ「そうね、あとでゆっくり解読してみる」
こなた「神崎さん、いったいこのデータって何?」
神崎さんはディスプレーの電源を切ると立ち上がった。
あやめ「泉さん、お稲荷さんの話しは母には言わないで欲しい」
こなた「え、う、うん、別に言われなくてもそうするつもりだけど」
あやめ「それを聞いて安心した、夕ご飯の手伝いをしているから少し待ってて」
神崎さんはそのまま部屋を出て行った。何かはぐらかされたな。教えてくれなかった。
 ふと壁に貼ってある色紙を見つけた。これは貞子麻衣子のサイン……それも新しい。
なんだ神崎さん、ちゃっかりサイン貰っているじゃないか。
神崎さんの部屋を見回した……そのサイン意外は特に何もない。飾り気もあまりない。女の子部屋って感じはしないな。まだかがみの方が女の子らしい部屋かもしれない。
まぁ私も人の事は言えないか。本棚には専門書がずらりと並んでいる。
コミケに参加しているから薄い本があるかも……彼女の趣味が分かるかもしれない。本棚に手を伸ばした。だけど直ぐに手が止まった。
だめだめ、やめた。人の部屋を勝手に物色するのは止めよう。
私におめでたい思考だなんて言って置いて神崎さんだって他人を自分に部屋に一人だけにして無用心だよ。それとも私を信頼してくれたのかな。
まさか私を試しているって事は……
慌てて部屋を見回した……隠しカメラみたいな物は見えない。もっとも隠してあったとしてもすぐに見つかるような位置には置いていないだろうね……
それとも神崎さんのポリシーとやらが私にも移ってしまったかな。多分今までの私なら躊躇無く本棚を物色していた。
神崎さんか……かえでさんから策士と言われて、かがみからは弱気を助け強きを挫くなんて言われて……それでもって潜入取材。
私が居なかったら確実に捕まっていた。そこまでしてかえでさんは何をしようとしているのか。
幼少時代は活発な女の子。そして狐、お稲荷さんとの出逢い。いったいどんなタイミングで真奈美は神崎さんに正体を明かしたのかな。
かえで「食事が出来たから来て~」
台所の方から声が聞こえる。
こなた「ほ~い、今行くよ~」
まだまだ私は彼女を知らなさ過ぎる。さてこれから少しでもそれが分かるかな。
私は神崎さんの部屋を出た。

あやめ「ちょっと……母さん、そんな事まで話したの……」
子供時代の話しを聞いたと言うと神崎さんは不快な顔をして正子さんに話した。
正子「何言ってるの、そんな事くらいで……」
食事は終わってもお喋りは続く。女三人寄れば姦しいってやつかもしれない。自分の家でもここまでお喋りに夢中にはなれなかった。
あやめ「なんかしっくり来ない……泉さんの幼少のはなしが聞きたい」
こなた「ん~それは内緒」
あやめ「なにそれ、お母さんに話せて私には話せないって……それなら、泉さんのお父さんに聞かないと」
こなた「……お父さんに会うって……あまり推奨できないけど……」
あやめ「何言ってるの、私の母には散々会っているくせに、不公平だ」
こなた「……散々って、これで二回目なんですけど……」
あやめ「二回も会えば充分じゃない、私なんか……」
こなた「私なんか?」
あやめ「い、いいえ、なんでもない……」
私が聞き直すと慌てて訂正した。何だろう。正子さんが居間の置時計を見た。
正子「もうこんな時間、片付けしないと、あやめは泉さんの相手をして」
あやめ「あ、う、うん……」
正子さんは台所に向かった。それを確認すると台所に聞こえないほどの声の大きさで神崎さんが話しだした。
あやめ「明日は何時に出るの?」
私も神崎さんの声の大きさに合わせた。
こなた「日が昇った頃かな」
あやめ「それで、柊つかささんにいつ会わせてくれるの?」
こなた「う~ん、明日って言っても向こうにも都合があるだろうからね、神崎さんは?」
神崎さんは自分の部屋の方を見た。
あやめ「私はもう少しあのデータを解析したい」
調べるって資料がなくて調べられるのかな。まぁ、データに関して言えばまったく私はお手上げだ。もうお任せするしかない。
そういえばつかさの店は毎週水曜が定休日だったな。
こなた「確証はないけど、今度の水曜日はどうかな、つかさの店が休みの日だよ、私も早出の日だから夕方なら時間空くよ」
神崎さんは手帳を出して広げた。スケジュールでも見ているのだろうか。
あやめ「私は構わない、あとは柊さん次第ね」
こなた「早速帰ったら聞いてみるよ、変更があるようなら連絡するから」
あやめ「そうね……そういえば貴女の電話番号聞いていなかった、良かったら教えてくれる」
こなた「あらら、そうだったね、メンドクサイから携帯から電話するから」
私が携帯電話を操作しているのを見ながら彼女は話し始めた。
あやめ「泉さん、貴女って面倒な事は全部他人任せ……それでいて重要な場面では先頭を切って走り出す……」
私は手を止めた。
こなた「へ?何それ?」
あやめ「一ヶ月泉さんと接しての率直な感想よ」
感想か……他の皆からもそう思われているのかな。
こなた「神崎さんは……私から見るといまいち分からない、記者の仕事が邪魔してるのかな、捕らえどころがなくって」
あやめ「別に構える必要なんかない、そうだったしょ?」
こなた「ふふ、そうかも、でもね、かえでさんなんか「策士」なんて言って警戒しているけどね」
あやめ「彼女あは最初から私を警戒していた、記者として行くべきじゃなかったのかもしれない」
こなた「でも、記者じゃないと取材出来ないよ、かえでさんああ見えても忙しい人だから」
あやめ「……」
神崎さんは何も言わなかった。
こなた「送っておいたよ」
神崎さんは携帯電話を確認した。
あやめ「OK、ありがとう、お風呂が沸いているから、それから隣の部屋に布団を敷いておいたから」
こなた「どうも」
あやめ「帰る時、多分母はまだ寝ていると思う、私は多分起きていると思うけどそのまま帰っちゃって良いから、それとも朝食食べてから帰る?」
こなた「いいよ、サービスエリアで済ませるから、データの解析でもしていて」
あやめ「そうさせて頂く」
こなた「実はね、こっちにもブレーン役の知り合いが居てね、もしかしたら神崎さんよりも先に解析しちゃうかもしれないよ」
あやめ「ブレーン役って……貴女って思っていたより顔が広いようね、是非その人も会ってみたい」
こなた「その人も普段忙しいからね、一応誘ってみるよ」
あやめ「もしかして、げんき玉作戦ってその人の考案なの?」
こなた「うんん、あの人はそう言う洒落っ気はないから」
あやめ「誰にも気付かれず、そして誰も傷つけず……その考え方が気に入った、全てにそうありたいものね」
こなた「難しい話は分からないよ」
あやめ「ふふ、そうかもね、貴女はアニメやゲームの話しをするのが似合ってる」
その後は、その通りにゲームやアニメや漫画の話しで盛り上がった。

 次の日、神崎家を出て直接つかさの店に立ち寄った。時間は丁度お昼を過ぎたくらいだった。つかさの店はお昼の時間はさほど混まないから丁度良いかもしれない。
つかさの店の扉を開けた。
つかさ「いらっしゃいませ……あれ、こなちゃん」
つかさは私をカウンターに案内した。ここならつかさは作業しながら話せる。
こなた「どうも~あれ、いつもひろしが出迎えるのに?」
そういえばこの前もひろしが居なかったな。
つかさ「う、うん、ひろしさんはお父さんと一緒に神主のお仕事を手伝っているから……」
こなた「もしかして家業を継ぐの?」
つかさ「お父さんはその気満々みたい、本当に継ぐなら神道の学校に行かないと神主になれないけどね」
こなた「それで、本人はどんな感じなの?」
つかさ「どうかな~、なんだか少しその気になっているみたい」
お稲荷さんが神主か……それも悪くないかも。心の中ですこし笑った。
こなた「でもひろしが家業と継いだらこの店はどうなの、仕込みとか買出しとか大変になるでしょ、アルバイトさんも余計に雇わないといけないよね?」
つかさ「そうだけど、ひろしさんじゃないと出来ない仕事もあるから……」
さすが夫婦って所かな、ひろしって頼りにされているな。
こなた「それなら私の所に戻ってきちゃえば、スィーツの部門はまだ担当固定されていないし、スィーツ以外の料理だって出来るよ」
つかさ「え、ほんとに!?」
つかさは作業を止めてカウンターから身を乗り出してきた。驚きと喜びの表情だった。だけど直ぐに不安そうな顔になった。
つかさ「だけど、かえでさんが何て言うか……今頃になって戻るなんて……」
こなた「かえでさんなら心配ないよ……実はねかえで……あっ」
しまった。この話は止められていたのを忘れていた。やばい。
つかさ「実は?」
つかさが首を傾げた。
こなた「あえ、じ、実は私もつかさに戻ってきて欲しいな~なんて思っていたから、もしつかさがその気なら私からも頼んであげる、きっとあやのも賛成してくれるよ」
つかさ「ありがとう、こなちゃん、でもまだ決まっていないから、そうなったらお願いするかも」
ふぅ、危うかった。なんだかんだ言って私もつかさと同じだな。秘密を守るなんて出来そうにない。
こなた「まかせたまへ~」
つかさは笑顔で作業に戻った。そして私に軽食とコーヒーとケーキを用意してくれた。
つかさのあの様子だとかえでさんはまだ話していない。私はかえでさんに酷な事を言ってしまったかな。
こなた「今日はみなみの演奏はないの?」
つかさ「うん、まなみの強化練習でお休み」
こなた「へぇ、それで演奏会って何時なの?」
つかさ「再来週の日曜日だよ、こなちゃんも時間があったら聴きに来てね」
つかさは演奏会のパンフレット兼チケットを差し出した。私はそれを受け取った。
こなた「みなみが凄くまなみちゃんを買っていたけど、スカウトが来るとか、自分を超えたからもう教えられないとか言ってた」
つかさ「そういえばお姉ちゃんも驚いていた」
こなた「私もそう思うよ、あの練習曲が頭の中で今でも響いているくらいだから」
つかさ「ありがとう、」
つかさはそのまま厨房の奥に行こうとした。
こなた「もし、スカウトが来たらどうするの」
つかさの足が止まった。
つかさ「どうするのって?」
こなた「みなみが手に負えないくらいだから、もしかしたら本場に留学とかもあるかもしれないよ」
つかさ「留学って……どこに?」
こなた「分からないけど、クラッシックだと本場はどこだろう」
つかさ「その時になってみないと分からない……それにまなみはまだ一人じゃ何も出来ないし」
こなた「あ、つかさのその台詞、それは私がみなみに言った事だった、ごめん余計な話しだった忘れて」
不安を煽っただけだったか。余計な話しは止めて本題に入るかな。
こなた「そのままで聞いて、今日来たのはね、つかさに会わせたい人がいるからなんだ」
つかさ「え、私に、誰なの?」
こなた「記者の神埼あやめさんって人」
つかさは奥からカウンターに戻ってきた。
つかさ「記者……もしかしてこの前言っていた記者さん?」
こなた「そうだよ」
つかさ「私にインタビューでもするの、それともお店の紹介の取材なの?……私はそう言うの断ってるから……」
そうだった。記者を言うのは余計だった。どうも私って余計な事を言うな……
こなた「うんん、そうじゃない、記者としてじゃなくて、神崎あやめさんとしてつかさに会わせたい」
つかさ「そうなんだ、それなら、こなちゃんがそう言うなら会うよ」
さすがつかさだ、話が早い。
こなた「今度の水曜日ってお休みだよね、夕方は空いているかな?」
つかさ「うん、空いているよ……お客さんなら家より此処がいいかも、お料理も出せるし、お話も出来るし」
この店か。貸し切りと同じようなものか。その方が気兼ねなく話せるかも。
こなた「ついでって言ったらあれだけど、みゆきさんもも会わせたいからもしかしたら来るかも」
つかさ「本当に、嬉しいな、ゆきちゃん最近会っていないから……それならお姉ちゃんは呼ばなくて良いの?」
かがみか……かがみも関係者だよな。でもまったく考えていなかった。確かにみゆきさんに会わせておいてかがみを会わせない理由はないよね。
そこに気付くのはさすが妹と言うべきなのか。
こなた「かがみも呼ぶよ」
つかさ「わ~なんだか凄く楽しくなりそう、楽しみだな~♪」
鼻歌を歌いながら作業をし出した。何時に無く体が軽そうにテキパキと動いている。
つかさ「ところで何で神崎さんって人を私に会わせたいの?」
狐……いや、お稲荷さん、いや、真奈美の話は彼女が来てからの方がいいかもしれない。
こなた「それはお楽しみだよ」
つかさ「お楽しみ……そういえばこなちゃんから私に紹介なんて初めてかも、きっと良い人だね」
良い人か……つかさはかがみに私を紹介した時もそう言っていたってかがみが教えてくれたっけな。つかさは全く変わっていないな。
でも気付けば私より先に結婚して子供までいるから驚きだ。
 

 つかさが出してくれた料理を食べ終わった頃、続々とお客さんが入ってきた。用も済んだ事だし帰るかな。
こなた「ご馳走様、そろそろ帰るね、御代は此処に置いておくよ」
つかさ「あ、御代はいいのに……」
こなた「私もお客様だよ」
つかさ「ありがとうございました、またのお越しを……」
ふふ、つかさからそんな言葉を聞くなんて初めてだ。そこに一人のお客さんがつかさに寄ってきた。
お客「今日はピアノの演奏はないのかい?」
つかさ「すみません、今日はお休みです」
お客「それは残念、最近演奏している子供は貴女のお子さん?」
つかさ「はい、そうですけど?」
お客「素晴らしい演奏だった、将来が楽しみですな」
つかさ「ありがとうございます……良かったらどうぞ」
お客さんは演奏会のパンフレットを受け取るとそのままテーブル席に向かって行った。つかさはお客さんの注文を受けて忙くなった。私はそのまま店を出た。
隣にレストランかえでが見える……顔を出してみようかな。
明日からあの店で仕事か……面倒くさいな。
帰ろう……

 その水曜日が来た。
みゆきさんは仕事の関係でどうしても来られないと返事がきた。
かがみ「まさか神埼あやめを本当につかさに会わせるなんて」
かがみは二つ返事で返事が来た。私の思惑とは全く逆になった。しかも駐車場でばったりかがみと会うなんて。私はそこまで勘は冴えているわけじゃないからしょうがないか。
かがみ「向こうで神崎あやめと何を話したのよ?」
そして。この駐車場で会うのも何かの導きなのか。それともただの偶然なのか。駐車場に忘れ物を取りに来ただけなのに……
こなた「神崎さんは幼少の頃、傷付いた狐を助けてね、その狐の名前が真奈美と言うそうな」
かがみ「な、何だって!?」
驚くかがみ。本当は言うつもりは無かった。どうせつかさと神崎さんが会えば分かる事。
こなた「神崎さんの母親から聞いた話」
かがみ「真奈美って、まさか、嘘でしょ、すると神崎あやめって……」
こなた「そうだよ、彼女は狐の正体を知ってる、それでお稲荷さんの存在も知ってる」
つかさと神崎さんが会えばつかさが動揺してしまって何も話せないかもしれない。だからかがみには前もって話す必要がある。でも電話では話せなかった。
駐車場でかがみに会ったのはまるでそのチャンスを与えてくれたかの様だ。
かがみ「それじゃ貿易会社からもってきたあのデータって?」
こなた「多分それに関係する事だとは思うけど、神崎さんは教えてくれない、だけどつかさと会えばもしかしたら……」
かがみ「そ、そうね、確かにつかさの話しを聞けば彼女にとっても衝撃的なはず……分かった、私に出来る事なら協力する……」
かがみは直ぐにこの状況がどんな物なのか理解した。
こなた「みゆきさんが来られなかったのはちょっと痛いかな」
かがみ「みゆきも誘ったのか、仕事じゃしょうがないわよ、何か大きな山場に来たって言っていた……でもデータはとても興味深いって言っていたから」
こなた「ちゃんと渡したんだね、安心した」
かがみ「それよりかえでさんはちゃんと誘ったんでしょうね、彼女もつかさを理解している一人よ」
こなた「うんん、誘っていない……」
かがみ「何故よ、私やみゆきを誘っておいてあんなに近くに居るかえでさんを呼ばないなんて……」
かえでさんは妊娠しているから……と言えば済む話だけど。言えない。
そんな私の心境を知ってか知らずかかがみはそれ以上私を追及しなかった。
かがみ「つかさの店に行くわよ」
こなた「うん……」

 つかさの店の扉には定休日の看板が立て掛けられている。でも店の奥に灯りが見える。もうつかさが来ているのか。約束の時間はまだ随分先なのに。
かがみは扉を開けて店の中に入った。私はその後に続いた。
かがみ「入るわよ、つかさこんなに早くから来て……」
つかさ「あ、お姉ちゃん……こなちゃんも、いらっしゃい」
こなた「うぃ~す」
つかさ「初めて会う人だからおもてなししないといけないでしょ、だから準備をしていたの」
かがみ「お持て成しって、まだどんな人かも分からないのに、つかさ、あんたは「疑い」って言葉をしらないのか……」
こなた「そう言うかがみだって私を絶対に記事にしないって言ってたじゃん、」
かがみの言う通りだった。神崎さんは記事にしないって言った。こうして見るとつかさにしろかがみにしろ本質的には同じなのかもしれない。この件で初めてそれが解った。
つかさ「こなちゃんの記事って何?」
こなた・かがみ「何でもないよ」
つかさ「ふ~ん?」
つかさはちょっと首をかしげたけど直ぐに料理に夢中になった。
かがみは溜め息を付くと適当なテーブル席にに腰を下ろした。私もかがみと同じテーブルに座った。かがみは店内をぐるっと見回した。
かがみ「お客さんが居ないお店って言うのも静かで悪くないわね……」
こなた「かがみはお客さんとしてしか店に入っていないからそう思うだろうね、私は開店前、閉店後も店に居るからこんな状況はよくあるよ……
    でも、かがみがそう言うとそんな気がして来たよ、良くも悪くも思った事なんか無かったのに」
かがみ「私とこなたは業種が全く違うから、感覚が違うだけなのかもね……つかさとこなたは同じ業種だから私が新鮮に思った事でも当たり前だったりする訳よね」
こなた「私はあまりかがみの業種にお世話になりたくないよ……」
かがみは笑った。
かがみ「ふふ、飲食業と弁護士じゃ客の質が違いすぎる、でもね、正直言ってこなたとひよりが一緒に仕事をしていたら私の客になっていたと思う、
    ゆたかちゃんとひよりだから出来た仕事なのかもしれない」
こなた「はい、その点につきましては反省しております……」
かがみ「本当か?」
かがみは私の目を真剣な顔でみた。
かがみ「いや、やっぱりあんた達にはもう少し監視が必要ね、顔にそう書いてある」
こなた「え?」
自分の顔を両手で触った。
かがみ「あははは、何マジに成ってるのよ、ばっかじゃないの」
こなた「うぐ!」
かがみはたまにこんな事するよな……こんな時にしなくてもいいのに……
つかさ「お姉ちゃん、こなちゃん、ちょっと手伝って~」
こなた・かがみ「ほ~い」
私とかがみはつかさの作った料理をテーブルに運んだ。
つかさ「これでヨシ!!」
テーブルには色取り取りの料理が並んでいる。
こなた「ちょっと、つかさ……これ、作りすぎじゃない?」
かがみ「神崎あやめを入れても四人、余るわね」
つかさ「多かったかな?」
こなた「まぁ、余ったのはかがみが全部片付けてくれるから心配ないよ」
つかさ「そうだね、お願いね、お姉ちゃん」
かがみ「お願いって……二十代ならまだしも、幾らなんでも無理よ」
こなた「へぇ、若い頃なら問題なかったんだ?」
かがみ「こんな時に何を言っている」
マジになるかがみ、さっきのお返しだよ。
こなた「余ったらレストランのスタッフ呼んで食べてもらおう」
つかさ「あ、それが良いね」
かがみ「……最初からそうすれば良いだろう……」

 約束の時間近くなった頃だった。窓越しから一台のオートバイが駐車場に向かうのが見えた。
こなた「お、お客さんが来たようだよ」
かがみとつかさが私の目線を追って窓の外を見た。
かがみ・つかさ「どこ?」
こなた「ほら、大型バイクに乗っている人」
私は指を挿して見せた。
かがみ「大型なんて洒落たもの乗っているわね……神崎あやめか……面白そうな人ね」
つかさ「え、え、どこ、どこ?」
こなた「もう駐車場の方に行っちゃったよ」
つかさ「え~」
つかさは見逃したか。まぁお約束と言えばお約束だね……
こなた「そろそろ彼女が来るよ、つかさ、準備して」
つかさ「準備って、もう食事の用意は出来ているよ」
こなた「いや、そっちじゃなくて、心の準備だよ」
つかさ「え、そ、そんな事言われると緊張しちゃう」
こなた「いや、別に構える必要なんかないよ、普段のつかさのままで、普通に接すればいいから」
つかさ「うん、それなら出来る」
かがみは食事が用意されているテーブルより後ろに下がり椅子に座った。かがみは様子見って所だろうか。それに主役はあくまでつかさだからそれでいい。
つかさに彼女がお稲荷さんの事を知っているのは教えていない。つかさはそれでいい。予備知識なんか要らない。
つかさはそうやって乗り越えてきた。それに期待する。

 駐車場の方から神崎さんがこっちに向かってきた。ジーパンに皮ジャン姿だ。ヘルメットは取ってある。彼女は店の入り口前で皮ジャンを脱いだ。
定休日の看板があるせいなのか暫く彼女は入り口で何もしないできょろきょろとしていた。つかさがゆっくりと扉を開けた。
つかさ「い、いらっしゃい、こなちゃん……泉さんから聞きました、神崎さんですね……どうぞ」
あやめ「失礼します」
つかさは神崎さんを通した。
こなた「いらっしゃい待っていたよ、こちらが話していた柊つかさ」
二人は軽く会釈をした。
こなた「そんでもって、向こうに座っているのが小林かがみ」
かがみは立ち上がりその場で礼をしてすぐ座った。
あやめ「小林……かがみ……」
神崎さんはかがみをじっと見ていた。
つかさ「あ、あの、始めまして、柊つかさです、記者さんって聞いていますけど」
神崎さんは微笑んだ
あやめ「神崎あやめです、〇〇の記者をしています……」
つかさが手を神崎さんの前に出した。握手のつもりだろう。神崎さんも手を前に出して二人は握手をした。
つかさ「よろしくお願い……う」
ん、つかさの表情が変わった。握手した途端なんか急に苦しそうになった。どうした?
神崎さんの表情もなんかおかしい。無表情に握手した手をじっと見ている。つかさが腕を動かしている。引いている様に見えた。
つかさ「あ、あの……手が……い、痛い!!」
つかさが叫んだ。神崎さんはそれに反応して手を放した。つかさは握手されていた手を痛そうに擦っていた。神崎さんは思いっきり握っていたのか。緊張でもしていたのかな。
なんか変だ。ここは私が入って雰囲気を和らげるか。そう思った矢先だった。神崎さんはおもむろにポケットから何かを出した。
それは……ボイスレコーダだ。
神崎さんはボイスレコーダを操作しだした。そしてつかさの前に向けた。ば、ばかな。神崎さんはつかさを取材するのか。なぜ……私がそれを止めようとした時だった。
私よりも先にかがみがつかさの前に立った。
かがみ「神崎さん、どう言うつもり」
つかさ「お姉ちゃん?」
かがみの声に驚いたのか神崎さんは慌ててボイスレコーダをポケットに仕舞った。だけどもうそれは遅かった。かがみの表情は怒りに満ちていた。
あやめ「これは……ち、違う」
かがみ「何が違う、あんたさっきつかさを取材しようとしていたでしょ、許可も取らないで何様のつもり」
神崎さんは黙って何も言わない。
かがみ「ボイスレコーダの電源入ったままじゃない、帰って…」
つかさ「お姉ちゃん、ちょっと……」
かがみは扉を指差した。
かがみ「帰れ!!」
凄い……あんなに怒っているかがみを見たのは初めてだ。私もつかさも今のかがみを止められない。
神崎さんは手を擦るつかさを暫く見ると脱いでいた皮ジャンを羽織ると店を出て行った。
つかさ「お姉ちゃん……どうして?」
かがみ「あんたは少し黙っていなさい」
かがみは興奮状態だ。今は何を言ってもだめだろう。
 何故。ボイスレコーダを使うなら此処に来る前に操作しておけば気付かれない。それが分からないような人じゃないのに。
まるでわざとしたようだ。わざと……意図的に……どうして。聞かないと。
まだ間に合うかな。
私は店を飛び出し全速力で駐車場に向かった。

 
つづく



以上です。

この後すぐにまとめるので報告は省略します。

それで「こなたの旅」の続きを投下します。

5レスくらい使用します。



 私は走っている。私は間違えたのか。つかさを会わしちゃいけなかったのか。かがみにお稲荷さんの話しをしちゃいけなかったのか。分からない。
つかさと神崎さんはまだ挨拶しかしていない。何も話していないじゃないか。そもそもかがみがあんなに怒るなんて……どうして。
分からない事だらけだ。だから逃げるように店を出た神崎さんを呼び止めないと。駐車場について二輪専用の駐車スペースを見た。
居た!
バイクに跨ってヘルメットを着けようとしている。
こなた「神崎さ~ん!!」
私は叫んだ。ヘルメットを着けようとする神崎さんの手が止まった。待ってくれそうだ。私はスピードを上げて彼女に近づいた。
こなた「はぁ、はぁ、はぁ」
あやめ「泉さん、貴女って走るのが好きね……これで何度目かしら……」
微笑んで冗談を言う。でもその冗談に対応出来るほど余裕はない。
こなた「ど、どうして……」
息が切れてこれしか言えなかった。神崎さんは店の方を見ながら話した。
あやめ「この私が何も言い返せなかった……生死を潜り抜けたような凄まじい気迫、並の人が出来るものじゃない……柊つかさは彼女にとってどれほど大切なのか、二人の関係は?」
かがみは実際に二度も死にそうになっている。それに弁護士の職業のせいもあるかもしれない。私は呼吸を整えた。
こなた「かがみの旧姓は柊だよ、つかさの双子の姉、つかさがかがみをお姉ちゃんって言っていたの聞こえなかった?」
神崎さんは首を横に振った。
あやめ「あまりの気迫でそこまで気を配る余裕がなかった……双子の姉妹……全然似ていないじゃない、二卵性かしら……」
こなた「そんな事より何故商売道具なんか出したの、もしかしてわざとやったでしょ?」
あやめ「ふふ、そう見える?」
こなた「……まさか、本当にわざとなの」
微笑んだまま何も言わない。私もかがみと同じように頭に血が上ってきた。
こなた「ば、バカにするな~、私が何でつかさに会わそうとしたか分かっているの、つかさは、つかさはね……」
頭に血が上ってなかなか先が言えない。
あやめ「もう私にはこれ以上関わらないで」
『ヴォン!!』
キーを入れてバイクのエンジンをかけた。
関わるなって、ここまで私を巻き込んでおいてそれはないよ。
こなた「……私達と一緒じゃダメなの、お稲荷さんの秘密を知っている同士じゃん?」
あやめ「これは私の問題だから」
こなた「卑怯だ、ここまで私に協力させておいて……」
「神崎さ~ん、こなちゃ~ん!!」
駐車場の入り口からつかさが走って来た。
こなた「一緒に戻ろう、謝ればかがみだって許してくれるよ」
あやめ「それじゃ、さようなら」
『ヴォン、ヴォン!!』
神崎さんはヘルメットを被った。慌てたのか長髪がはみ出ている。アクセルを全開にして私の前から飛ぶように走り去った。
何だろう。つかさを避けるようにも見えたけど……
つかさが私の所に来た時には既に神崎さんの姿はなかった。バイクのエンジン音が微かに残って聞こえるだけだった。

つかさ「神崎さん帰っちゃったの?」
こなた「うん」
悲しそうな顔で駐車場の外をみるつかさ。
こなた「つかさ、手は大丈夫なの、すごく苦しそうだったけど」
つかさ「う、うん、すっごい力で握られちゃって……男の人かと思うぐらいだった、でも、もう痛みは消えたから」
つかさは私の目の前に握られた手を見せた。少し赤くなっている。
つかさ「私……何か神崎さんに気に障る事したのかな……」
つかさは俯いてしまった。
こなた「別に気にすることじゃないよ……それよりかがみは?」
つかさ「なんか急にしょぼんってなっちゃって……」
感情に身を任せた反動でしょげちゃったかな。
こなた「取り敢えず店にもどう」
私は歩き始めた。
つかさ「待って……何かおかしいよ、お姉ちゃん、あんなに怒った姿をみたの初めて、神崎さんも何もしないで帰っちゃうし……こなちゃん、何か知っているの?」
いくら鈍感なつかさでも気付いたか。もう隠してもしょうがない。
こなた「神崎さんはお稲荷さんを知っている……」
つかさ「え?」
つかさは立ち止まった。私も止まった。
こなた「神崎さんが幼少の頃傷付いた真奈美を助けた」
つかさ「そ、それで?」
こなた「……それしか知らない、神崎さんはそれ以上教えてくれない、だからつかさに会わせようとしたのだけど……開けてみれば大失敗……余計こじれちゃった」
つかさ「まなちゃんと逢った人が私意外に居たんだ……神埼あやめ……さん、まなちゃんの事聞きたかったな……」
私はつかさを見て驚いた。もっと悲しむと思った。真奈美の死を思い出して泣いてしまうのかと思った。
でもそれは間違いだった。つかさはもう真奈美の死を受け入れていた。つかさの安らかな笑顔を見て確信した。
それならもうこの話しをしても構わない。
こなた「それからね、これは憶測だけど、もしかしたら真奈美は生きているかもしれない……」
つかさ「ふふ、こなちゃんったら、こんな時に冗談なんか」
こなた「いや、これはみゆきさんが言った事だよ……」
つかさ「ゆきちゃんが……ほ、本当に?」
こなた「うん、そして神崎さんもそれについて何か知っているような気がするんだ」
つかさ「知っている……」
こなた「そう、そしてその鍵になるのが貿易会社から盗んだデータ、今、みゆきさんに解析してもらってる」
つかさ「盗んだって……ダメだよそんな事しちゃ」
こなた「もうしちゃったからね、この前一ヶ月の研修ってやつがね、実は神崎さんと貿易会社で潜入取材をした、そこの資料室からデータをコピーした」
つかさ「私が知らない間に……そんな事を……」
こなた「ごめん、真奈美の話は嫌がると思って伏せたんだよ……まだ憶測だけの話しで、間違っていたらつかさが傷付くと思って……」
つかさ「……生きていたら嬉しい……例えそれが間違っていても、生きているって思える時間があるから、それでもやっぱり嬉しいよ」
……涙ひとつ溢していない。それどころか昔を懐かしんでいるように見える。
葉っぱを見て泣いていたつかさ。私がちょっと詰め寄っただけで泣いてしまうつかさ。でもそれは弱さじゃなかった。
かえでさんの言っていたつかさの強さってこの事を言っているのか。
つかさはもう完全に真奈美の死を乗り越えていたのか。
それにつかさの口の軽さなんて私とあまり大差なんかなかった。いや、意識しても隠せなかった分私の方が酷いかもしれない。
神崎さんに最初に逢うべきだったのはつかさだった。
私は神崎さんと駆け引きだけで乗り過ごそうとしていただけだった。ゲームをしていたに過ぎなかった。
だから神崎さんは真実を話してくれなかった……
つかさ「どうしたの、こなちゃん?」
こなた「つかさには敵わないや……」
つかさ「え、何が?」
こなた「笑顔だけで私の考え方を変えてしまったから」
真奈美が一晩でつかさを殺すのを止めた理由が今分かった。そういえばゆたかとひよりはつかさが凄いって何度も言っていたっけな。
今頃になってそれが分かるなんて。共同生活までした事があるって言うのに……
つかさ「……わかんないよ」
分からなくていい。それがつかさだから。
こなた「さて、店に戻ろう、かがみが待ってる」
つかさ「うん」
私達は店に向かって歩き始めた。
つかさ「ねぇ、神崎さんってどんな人、握手しただけだからまったく分からない」
こなた「どんな人か……一ヶ月くらい見てきたけど、仕事の為なら何でもするような人かな……でも……」
つかさ「でも、良い人なんだね」
良い人か……
こなた「なんで分かるの?」
つかさ「こなちゃんの友人だからね」
こなた「友達だって、彼女が?」
つかさ「だって、お姉ちゃんに追い出された神崎さんを追いかけたでしょ、呼び止めに行ったんじゃないの?」
こなた「呼び止めに行った訳じゃないよ」
つかさ「それじゃ何しに行ったの?」
こなた「わざと私達を怒らせるような事をしたから、その訳を知りたかった」
つかさ「それで、教えてくれたの?」
こなた「つかさが来たら逃げるように帰った」
つかさ「私、嫌われちゃったかな……」
こなた「あれじゃ逆に私達に嫌われようとしているみたいだ」
つかさ「記者さんって難しいね……」
それから店に着くまでつかさは考え込んで何も話さなかった。

 店に戻ると椅子に座って項垂れているかがみの姿があった。
かがみ「つかさ、こなた……ごめん……台無しにしてしまった」
つかさは心配そうな顔でかがみの側に寄り添った。
こなた「謝らなくてもいいよ、かがみが出なかったから程度の違いはあったかもしれないけど私も同じ事をしていたから」
つかさ「恐くて何もできなかったよ……まつりお姉ちゃんと喧嘩していてもあんなに恐くなかったのに……」
かがみ「……そう、そんなだったの……そんなに怒っていた?」
こなた「まぁ、ボイスレコーダーを出されちゃね」
かがみ「ボイスレコーダー、違う、それだけならあんな事はしなかった、つかさが苦痛の表情をしているのに彼女は握手を止めようとはしなかった……だから思わず飛び出した
    その後後は何を言っているのか自分でもあまり覚えていない……」
そうか。だから私よりも先にかがみが飛び出したのか。これは身内と友人の感性の違いなのか……
つかさ「もう手は大丈夫だから……」
つかさは握られていた手を握ったり開いたりしてかがみに見せた。赤くなっていた所も殆ど分からなくなる位に元に戻っていた。
かがみ「そう……それは良かった……」
かがみはほっと一息つくと立ち上がり私の方を見た。
かがみ「それで、神崎を追い掛けて何か分かったのか?」
こなた「ん~、肯定も否定もしなかったけど……私の感じではわざとボイスレコーダーを出したみたい……」
かがみ「ふふ、だとしたら私はまんまと彼女の策にはまったってことなのか……こなたに神崎がなぜそんな事をするのか心当たりはあるのか?」
こなた「分からないけど……何度もこれからは私の仕事だって言っていたね」
かがみ「私達が居たら邪魔だって事なのか、こなたを散々引っ張りだしておいて……」
こなた「でも分からないのはあのデータを私が持っているに返せって一度も言わなかった、何故だろうね」
かがみ「それはデータなんてどうせ解析も分析も出来ないだろうって思っているのよ、頭に来るわ……完全に私達に対する挑戦だ」
つかさ「データっていったい何のことなの?」
私はつかさに何て言うのか迷っていると……
かがみ「もう秘密にしても意味はない、神崎とこなたが共同であの貿易会社の秘密データをPCから抜き取った」
つかさ「抜き取ったって……盗んだって事なの?」
つかさは私の方に向いて心配そうな顔になった。
こなた「盗む……人聞きが悪いけど……合ってる」
つかさ「そ、そんな事して大丈夫なの?」
更に心配そうな顔になるつかさ。返答に困った。
かがみ「今の所他人びバレた形跡はないわね」
つかさ「どうしてそんな危険は事をしたの……」
こなた「それは……」
私がまごまごしていると……
かがみ「真奈美さんが生きている証拠を探すためらしい……こんな事をしても無駄だとは思うけど……みゆきも罪な事をするわ」
つかさ「まなちゃんが……生きている、さっきもそれ言っていたよね、それって本当なの、ねぇ、こなちゃん!?」
つかさは私に詰め寄った。
こなた「分からない……」
かがみはつかさが用意した料理が置かれているテーブル席に腰を下ろした。
かがみ「みゆきも全く根拠がないなら私達にこんな話しを持ちかけてくるはずはない、それにみゆきやこなたとは違った意味で私はこのデータに興味があるわ、
    私もこのデータの解析をしてみる」
つかさ「お姉ちゃん」
こなた「かがみ……」
かがみ「だって悔しいじゃない、このまま神崎の策におめおめとはまっているのは……それにこなたをコケにして、つかさも傷つけた、挙げ句の果てに私達が解析できないと思っている、
こうなったらあのデータは絶対に解析してやる、解析してやるんだから!!」
かがみは目の前の料理を食べ始めた。自棄食いだな……これは。
つかさ「でも……私がこなちゃんを追いかけた時、神崎さんとこなちゃんが駐車場で何か話していたけど、言い争いをしている様に見えなかった……」
こなた「一ヶ月も一緒に仕事をすれば情も湧いてくるよ……私達と一緒にって言ったけど……ダメだった」
かがみ「モグモグ、神崎は群れるのが嫌いなようね、彼女の仕事ぶりからもそれが伺える……こなた、もう彼女と一緒に何かするのは諦めた方がいい」
こなた「でも……神崎さんはあのデータの解析の方法を知っているみたいだったから、先を越されちゃうよ」
かがみは食べるのを止めた。

かがみ「この前みゆきにデータを持っていったら早速パソコンを立ち上げて中身を見た、こなたの言っていた謎も直ぐに解けた、あの文字の羅列はラテン語よ、
    それもかなり初期のものらしい、それに粗方の内容も分かった、どこかの場所を説明している文だってね……みゆきは何時になく目を輝かせていたわ、
それにあのデータは英文もかなりある、そっちの方は私でも翻訳出来る……これでも神崎に引けを取ると?」
神崎さんはラテン語って言っていた。みゆきさんはそれ以上に内容にまで踏み込んでいる。かがみが手伝えば神崎さんより早く分かるかもしれない。
こなた「いいえ、引けを取っていません……そのままお続けください……」
かがみは気を良くしたのか食べるペースがまた上がった。
つかさ「私も……何か手伝える事はないの……」
かがみは何も言わず黙々と食べていた。つかさはしばらくかがみを見ていたけど返答してもらえそうにないと思ったのか今度は私の顔を見た。
つかさにはやってもらう事がある。これはつかさにしか出来ない。
こなた「あるある、つかさにはもう一度神崎さんに会ってもらわないと」
かがみは食べるのを止めた。
かがみ「……それは止めた方がいい、さっきの状況を見れば明らかだ」
そう、普通は誰もがそう思う。私も少し前ならかがみと同じだった。
こなた「つかさは駐車場に来たのは神崎さんに会いたかったからでしょ?」
つかさ「う、うん……まなちゃんの生前の話が聞きたくって……」
かがみ「あんな酷い目に遭わされてもなのか?」
つかさ「うん、私が痛いって言ったら直ぐに放してくれたからきっと大丈夫だよ」
かがみ「ふぅ、あんたはね少しは疑うって事を覚えた方が良いわ……」
こなた「うんん、あの人は駆け引きじゃなく真正面から行った方が良い、私はそう思う」
かがみ「真正面ってどう言う意味よ?」
かがみは首を傾げた。
こなた「つかさだよ、つかさ、裏も表もなくいつでも真正面だった、だから真奈美もひろしもつかさが好きになった、もう一回会う価値はあるよ」
かがみはしばらく考え込んだ。
かがみ「こなたがそう言うなら、一ヶ月神埼を見てそう言うなら……ただし、さっきみないな事があったら今度こそ許さない」
つかさ「何かよく分からないけど……やってみる」
つかさは両手を握って張り切っている。いいぞその調子だ。
かがみ「意気込みはいいけど、今日の明日って訳にもいかないでしょ」
つかさ「そ、そっか、どうしよう?」
こなた「それならまなみちゃんの演奏会が終わったら神崎さんに連絡とってみるよ、それならどう?」
つかさ「そうだね、その後の方がいいかも」
かがみ「後はあんた達に任せるわよ……」
つかさの表情を見て安心したのか今まで通りのかがみに戻ったようだ。かがみは再び料理を食べ出した。

こなた「かがみ、自棄食いはそこまでだよ」
かがみは自分の分の料理を殆ど食べ終えた所でナイフとフォークを置いた。
かがみ「別に自棄になってないわよ、丁度お腹一杯になった、ご馳走さま」
こなた「かがみでお腹一杯じゃ私とつかさじゃ食べきれないよ、それに神崎さんの分もあるし」
つかさ「ちょっと作りすぎたかな……」
こなた「まぁ、このまま残すのも勿体無いから私の店のスタッフ連れてくるよ、賄いを作る手間が省けて喜んでくれるよきっと」
つかさ「お願い~」
こなた「まぁ、この時間は向こうも忙しいから何人来られるか分からないけどね……」
私はレストランかえでに向かった。

 やっぱり私の思った通りディナータイムなので来たのはかえでさんとあやのだけだった。
かえで「こりゃまたシコタマ作ったわね……」
あやの「……何かのパーティでもしていたの、誰かの誕生日だったっけ?」
テーブルに並べられた料理を見てあぜんとする二人だった。
つかさ「誰かの誕生日じゃないけど、食べて行って」
私達は料理を食べ始めた。かがみも料理に手を出そうとした。
こなた「ちょっと、さっき一杯食べたでしょ……」
かがみ「なによ、別に良いじゃない、減るもんじゃなし」
こなた「いやいや、減るでしょ……」
かがみのテンションが高くなった。つかさが思ったよりもダメージがなかったからかもしれない。
でも、つかさが追いかけてくるとは思わなかった。そのつかさに謝罪の一言も言わないで逃げるように去った神崎さん。分からない……
つかさ「かえでさん、どうしたの?」
皆でわいわい食べている中、かえでさんだけが何もしないでテーブルの外で立っていた。
かえで「え、あ、別に何でもない……」
つかさ「ねぇ、かえでさんの好きな茄子の料理も作ったから食べて」
つかさは茄子料理を小皿に取ってかえでさんに差し出した。
かえで「あ、ありがとう……うっ!!」
急に口を手で押さえて苦しそうに屈んだ……
つかさ「か、かえでさん、どうしたの?」
かえで「ちょっと臭いがきつくて……」
つかさ「え、そうかな、普段と同じ味付けなんだけど……おかしいな……」
つかさは茄子料理を食べながらかえでさんをじっと見た。そして一瞬目を大きく日宅と一歩下がって小皿をテーブルに置き、しゃがんでかえでさんと同じ目線になった。
つかさ「……もしかして……悪阻じゃ?」
かがみ・あやの「えっ!?」
つかさの言葉に私達はかえでさんの方を向いた。かえでさんは慌てて立ち上がった。
さすがに経験者には隠し切れないか。
かえで「ちょ、ちょっと調子が悪いだけ、さて……店に戻らないと」
つかさ「あ、かえでさん、待って」
つかさとかえでさんは店を出て行った。
私は溜め息をついた。かがみとあやのはそんな私を見ていた。
かがみ「少しも動揺しないなんて……知っていたのか?」
こなた「うん」
あやの「なんで黙っていたの?」
こなた「本人から止められたから……」
かがみ「止めるって、止める必要なんかないじゃない、結婚したんだし妊娠したくらい隠すことじゃない、いや、むしろ祝うべきでしょ」
こなた「ん~妊娠自体を内緒にとは言っていないんだけどね……」
かがみ「はぁ、じゃ何を内緒にしているのよ?」
こなた「だから……内緒なの」
かがみが首を傾げているとあやのが席を立った。
あやの「私もかえでさんの所に行く……」
足早に店を出て行った。

 かがみは窓からあやのがレストランに入って行くのを確認した。
かがみ「……さて、私達二人きりになった、話してくれるわよね?」
私は話すのを躊躇った。
かがみ「私はあのレストランともこの洋菓子店とも利害関係のない部外者、しいて言えばつかさと姉妹関係であるだけ」
こなた「で、でも……」
かがみは真面目な顔になった。
かがみ「ここたがそこまで隠すなんて、かえでさんとの約束を優先したのか、それも良いかもしれない」
かがみは腕時計を見ると立ち上がった。
かがみ「……さっきのかえでさんの行動を見て思ったのだけど、つかさと握手をした時力いっぱいつかさの手を握ったのと似ているんじゃないかって」
こなた「似ているって?」
かがみ「かえでさんはつかさに真実を話すのを隠す為に誤魔化した、神崎もそれと同じって事よ」
こなた「誤魔化すって、つかさに隠すような事なんかないよ、初めて会うのだしさ……」
かがみは首を横に振った。
かがみ「神崎とつかさは以前会っているような気がする」
こなた「え、だってつかさが知っていたら私達がしていた事が無意味じゃん?」
かがみ「会うって言っても神崎の一方的な出会いかもしれない、例えばレストランが引っ越す前ならどう、彼女が客として入る可能性は?」
確かに彼女の実家とレストランが在った場所とはそんなに離れていない。
こなた「それはあるけど……でもそれで手を強く握る意味が分らない」
かがみ「そうね、かえでさんは悪阻の症状が出たから分かった、神崎は一体何故力いっぱい握ったのか、病気じゃなさそうだけど……それが分からない……ごめん、
私はもう時間だ、帰るわよ、皆によろしく言っておいて、そして、つかさの会合の邪魔をしてごめん……」
何故か凄い説得力だった。かがみの弁護士としての観察なのか推理なのか……かえでさんと神崎さんを比べるなんて……
かがみは店の扉に手を掛けた。
こなた「かえでさん……店を辞めて田舎に戻って……そう言っていた……」
かがみは扉を開けるのを止めた。
かがみ「……あの店を手放すって、店はどうするのよ?」
こなた「私かあやのに店長になれって……」
かがみは私に近寄り両手で私の肩を握った。
かがみ「凄いじゃない、かえでさんに実力を認められたのよ」
こなた「うんん、断った……そしたらあやのでもつかさでも良いなて言っちゃってさ……」
かがみは両手を放した。
かがみ「バカね、そう言う時はいやでも引き受けるのよ」
こなた「だってレストランかえででしょ、店長が変わったら可笑しいじゃん」
かがみは笑った。
かがみ「ふふふ、それなら店名を変えれば済むじゃない……ふふふ、でも、こなたらしい」
私は少し不機嫌な顔にした。私の顔を見てかがみは笑うのを止めた。
かがみ「分かっているわよ、かえでさんが居なくなるのが淋しいんでしょ」
こなた「え、べ、別にそんなんじゃ……」
かがみ「こなたがツンデレにならなくていいから、素直になりなさいよ」
まさか、かがみから言われるとは思わなかった。
こなた「う、うん」
かがみは窓からレストランの方を見た。
かがみ「だったら素直にそう言いなさいよ、つかさなら形振り構わず言っている……今頃、もう言っているかもね」
こなた「でも……」
私が言おうとするとかがみは割り込んで続きを言わせなかった。
かがみ「この店の留守番するくらいの時間ならまだあるわよ、行きなさいよ、丁度つかさとあやのも行っているし絶好の機会じゃない、それでもダメなら諦めなさい」
私が行くとつかさの店が留守になる。私はそう言うとしていた。ここはかがみに甘えるとしよう。
こなた「……それじゃ……行ってくる」
かがみ「私からも一言、かえでさんの料理が食べられなくなるのはとても耐え難いって……そう伝えて」
こなた「うん」
私はレストランに向かった。

 従業員用の出入り口から直接事務室に入った。そこにかえでさんは居た。かえでさんは椅子に座りそれを囲うようにつかさとあやのが立っていた。私はそこに割り込むように立った。
かえで「……何よ、三人とも雁首揃えて……」
あやの「さっきの、つかさちゃんの言っていたの本当なんですか?」
あやのが詰め寄った。
かえでさんは私の顔を見た。私は首を横に振った。
かえで「そうね、もう黙っていても無意味だ……そう、つかさの言う通り、私は妊娠している」
あやの「それで、泉ちゃんに何を内緒してって言ったのですか?」
かえで「……そうね、この機会に言うべきなのかもしれない」
かえでさんは一呼吸置いてから話し始めた。
かえで「私は店長を辞めて田舎に戻ろうと思うの、そこで小さな洋菓子店でもってね……」
あやの「ちょ、ちょっと待って下さい、店長を辞めるって……この店はどうするの、料理の味は、新しいメニューは……まだなだしなきゃいけない事がいっぱいあります、
    それに、店長の料理を目当てにくるお客さんも沢山います……」
かえで「ここ一年位、私が直接厨房で腕を振るっていない、専ら事務の仕事をしていた、私の技術、味は全て貴女達が引き継いでいる、新メニューも私は一切口出ししていない、
    貴方達だけで充分この店をやっていける、そう思った」
あやの「……赤ちゃんが出来たからからですか……」
かえで「いや、常々そう思っていた、妊娠はその切欠に過ぎない」
あやのは俯いた。私が潜入取材に行くときの姿と同じだ。
あやの「で、でも、私達だけじゃ……」
かえで「そうかしら、こなたは私以外の第三者にその力を認められた、神崎と言う記者にね、それに、あやのもこなたが居ない間の仕事の穴埋めも完璧だった、言う事はない」
私の力を認めた神崎さんか……記者嫌いのかえでさんが何故私に神崎さんの手伝いをさせたのか分かったような気がする。
かえでさんはつかさの方を向いた。
かえで「どう、つかさ、これを期に戻ってみたらどう、三人でこのレストランをもっと発展させてみる気はない、ここに高校時代からの友人が二人もいるし気兼ねなく仕事ができるわよ」
つかさは何も言わずかえでさんを見ている。やっぱり何も言えないか。しょうがない私が代弁するかな……そう思った時だった。
つかさ「私もね、赤ちゃんが出来た頃、お店を閉めようかな……なんて思ってた……不安で……恐くて……今のかえでさんの気持ち、すっごく分かるよ、だけどね、
    子供が生まれて、まなみが生まれてからはそんな気持ちは何処かに飛んで言ったよ、かえでさん、今はただ赤ちゃんを産むことだけを考えて、生まれたらまた考えが
    変わるかもしれないし、そうやって悩んだりすると身体に障るし、赤ちゃんにもよくないから」
それは私が代弁しようとしていた内容とは全く違っていた。
かえで「つかさ、私……私……」
かえでさんは今にも泣き出しそうなになった。
つかさ「だから、そんな顔になったらダメ……そんなかえでさんの顔は似合わないから……あっ、お店が留守になっちゃった、戻らなきゃ、また来るからね」
つかさは急いで自分の店に戻って行った。あやのはつかさが見えなくなるまでその姿を見ていた。
あやの「……つかさちゃん、やっぱりお母さんだね……かえでさん、さっきの話しは保留でお願いします……私も仕事に戻らなきゃ」
あやのも事務室を出て行った。私とかえでさんだけが事務室に残った。
こなた「……やられた、つかさがあんな事言うなんて……驚きだ、、かがみもそこまでは見抜けなかったか」
かえで「……母は強しって所ね……こなた、これから毎日は店に来られないかもしらないから、その時は頼むわよ」
こなた「はい! それは分かっております」
敬礼をしてウインクをした。
かえで「……確かにまだ決めるのは早いかもね……さて、こなた、向こうの料理の始末、私は行けないから行って来なさい、私の代わりに誰かスタッフを行かせるから」
こなた「ん~それは必要なかも」
かえで「なんで、まだ随分料理が残っていたわよ?」
こなた「かがみが留守番をしているからね、あれは猫に鰹節の番をさせるようなものだよ」
かえで「ふふ、まさか」
そのまさかだった。私がつかさの店に戻った時にはかがみが全ての料理を食べ終えていた。

つづく

以上です

頭の中ではもうラストまで出来ているのに……

頭の中のイメージを文章にするのに苦労しています。



この後すぐにまとめるのでまとめは報告は避難所のみにします。

「つかさのネタノート」の作者です。
まとめサイトでの感想ありがとうございます。
本スレを見てくれているかどうかはわかりませんが御礼をさせていただきます。
感想を書いてくれるのは嬉しいものです。関係ない人にはウザいだけかもしれませんがあまりにも嬉しいので1レスを使いました。

 かなり前にわざわざ感想ページにも書いてくれた人も居たのでこの場をかりて今更ながらお礼をさせて戴きます。
ハルヒの消失と比べているみたいですが自分はハルヒの消失をアニメも原作も見ていません。
ハルヒは2006年のアニメを見た位しか知りません。
「消失」と題名がから察するに共通する所があったのかもしれませんね。
逆にハルヒの消失を見ていたらこの作品は作らなかったかもしれない。


 何分物語を文章にするようになったのが最近なのでかなり下手なのはご了承下さい。
誤字脱字も多くて読みにくいかもしれません。それでも読んでくれる人がいたら幸いです。
これからもちまちまと書かさせていただきます。

以上です。








それでは「こなたの旅」の続きを投下します。

予定では7レスくらい使用します。



 あれから数週間が経った。かがみは私の店にもつかさの店にも来なくなった。仕事が終わるとみゆきさんと礼のデータ解析をしているらしい。
私も手伝いたいところ、つかさもそう言っていた。だけど、行っても足手まといどころか邪魔になるだけだろう。ここはじっとかがみ達の報告を待つしかない。
こうしている間にも神崎さんもデータ解析をしているに違いない。私はメールや電話で連絡を取ろうとしたけど音信不通。潜入取材の時に泊まっていたホテルにも居ないようだ。
私達から逃げるように居なくなった神崎あやめ……何故私達を避けているのだろう。
いったい彼女の目的は何だろう。何をするにしても複数の方が効率は良い。この私が分かるくらいだから神崎さんだってそのくらい分かるはずなのに。
こなた「ふぅ~」
あやの「珍しい、泉ちゃんが溜め息なんて……」
こなた「まぁ、いろいろありましてね、こんな私でも悩みの一つや二つはあるのですよ」
あやの「もしかして、かえでさんが店長を辞めるって言った件?」
こなた「そんなのもあったね……」
あやの「あれ、それじゃなかったの?」
不思議そうに首を傾げるあやの。
こなた「確かにそれもあるけど、つかさがかえでさんを励ましたおかげで現状維持はしているね、だけど、出産した後はどうなるか分からないよ」
あやの「そうね、でも、こればっかりは私達がどうこう出来るものじゃないでしょ、かえでさんの考えもあるし」
かえでさんの考えか。
こなた「ところでかえでさんの旦那さんは会ったことあるの?」
あやの「うん、何度か」
こなた「しかし、この店の関係者でもない人のによく結婚まで漕ぎつけたものだね、かえでさんが結婚するって言うまでまったく知らなかった」
あやの「何でも専門学校時代の知り合いだったって、在学中は特に恋人同士ってわけじゃなかったって言っていたけど……何が切欠になるか分からないね」
こなた「切欠ね……」
あやの「泉ちゃんだって何が切欠でそうなるか分からないよ」
こなた「そうかな~」
『パンパン』
突然手を打つ音がした。音のする方を見るとかえでさんが立っていた。
かえで「はいはい、無駄な話しは止めて用のない人は帰宅しなさい」
私は早番で帰り支度をしている途中だった。
こなた「もうタイムカードは押したから大丈夫ですよ、私達の話し、聞いていました?」
かえで「話し?」
聞いていなかったみたい。さっき入ってきたばかりなのか。
あやの「そうそう、かえでさんの旦那さんの話し」
かえで「えっ?」
こなた「かえでさんからあまりその話し聞いてないから」
かえで「べ、別に私的な事を話す必要なんかないじゃない」
私は人差し指を立てた。
こなた「ちっ、ちっ、ちっ、分かってないな、かえでさん、そう言う話が一番面白いんだよ」
かえで「面白い?」
こなた「うん、例えば何回目のデートで愛し合ったとか、週に何回愛し合っているとか」
『バン!!』
激しく壁を叩くかえでさん。
かえで「下らないこと言ってないでさっさと帰りなさい!!」
こなた「ひぃ~こわいよ~かがみより恐いよ~」
私は鞄を持って事務室の扉を開いた。
こなた「それではお先に失礼しま~す」
かえで「待ちなさい」
かえでさんがマジな顔になった。
こなた「あ、あれは冗談ですから、冗談、はは、元気な赤ちゃんが生まれると良いですね」
慌てて取り繕うが表情は変わらなかった。
かえで「神崎さんはお稲荷さんを知っていたらしいわね、しかも真奈美とも知り合いみたいじゃない」
こなた「え、あ……な、なんでそれを」
かえで「つかさとかがみさんから聞いた、何故私に話してくれなかった、私を軽く見ないで欲しい」
こなた「いや、普通なら話していたけど……なんて言うのか、ほ、ほら、妊娠しているでしょ?」
かえで「私の身体を気遣ってと言いたいのか、余計なお世話よ、お稲荷さんの真実を知っている人間は一握り、知っているだけでなく理解しているのはもっと少ない、
    あやのは理解者の一人、だけど、こなたの親友に全く理解できない人が居たわよね……確かみさおさんだったかしら」
こなた「みさきちは最初から物分りは良くない方だからしょうがないよ、今でも彼女は私達の話しをフィクションだと思ってるから」
みさきちは全く私やつかさの話しを信じてくれなかった。あやのが言ってもダメだから諦めていた。
かえでさんは首を横に振った。
かえで「物分り良し悪しや知識の量などは関係ない、お稲荷さんのを現実のものとして受け入れられるかどうかが問題、私達の様なのは特別で
    むしろみさおさんの様なのが世間一般の標準的な反応なの、神崎さんがお稲荷さんを受け入れているのなら数少ない協力者になるはず」
かえでさんは神崎さんをつかさに会わせるのを黙っていたのを怒っているようだ。
こなた「かえでさんなら仲間にできたの」
かえでさんはまた首を横に振った。
かえで「つかさの手を強く握ってかがみさんを怒らせた、私も彼女が何を考えているのか全く分からない、多分あの時居ても何も出来なかった、
だけど、私も理解者の一人だから、それだけは忘れないで」
こなた「う、うん」
かがみもそう言っていたっけ。
あやの「それなら私も同じ、私にも話して欲しかった……」
そういえばそうだった。あの時声をかたのがつかさ、みゆきさんだけだった。つかさの一言でかがみを追加した。
こなた「あれは私の思い付きだったから、あまり深い意味は無くって……本当はつかさだけの予定だった」
あやの「そうだったの……でも、でもかえでさんと同じで私が居てもあまり効果はなかったかもね、みさちゃんをお稲荷さんの仲間に出来ないのだから」
あやのは少し苦笑いになった。
こなた「まぁ、もう終わった事だし、これからは皆にも協力してもらうようにするよ、二人ともありがとう」
二人は大きく頷いた。
かえで・あやの「お疲れ様~」
 店を出ると直ぐ隣につかさの店……入り口には定休日の看板が立て掛けられていた。今日は水曜か……そういえばもうすぐまなみちゃんの演奏会か。
きっとみなみとの練習につきあっているに違いない。つかさの家に遊びに行くのも止めるかな。たまには何処にも寄らずに真っ直ぐ帰ろう。

 ②未だ空は薄暗く日の光が少し残っている。こんなに早く帰るのは久しぶりかもしれない。仕事が早く終わってもゲーマーズとかに行っちゃうからね
家の玄関の扉を開けた。
こなた「ただい……ん?」
『わはははは~』
開けると同時に笑い声が私の耳に飛び込んできた。お父さんの声だ。お父さんはテレビとかで大笑いするような人じゃない。ゆい姉さんかゆたかでも遊びに来たのかな。
声のする居間の方に向かった。そして居間に入った。
そうじろう「おかえり、こなたか、今日は早いな」
お父さんの正面に座っている人……あれ……ば、ばかな。
そうじろう「おっと紹介が遅れた、娘のこなたです」
あやめ「お邪魔して……あ、ああ~」
そうじろう「お、おや?」
そこに居たのは神崎あやめだった。神崎さんと目が合うと二人とも硬直したように動作が止まった。
そうじろう「何かありましたかな……」
お父さんは私と神崎さんを交互に見ながら戸惑ってしまった。神崎さんは自分の腕時計を見た。
あやめ「も、もうこんな時間……長居をしてしまいました、今日はこのくらいにします……ありがとう御座いました」
神崎さんは慌ててテーブルの中央に置いてあったボイスレコーダーを仕舞うと立ち上がった。
そうじろう「そうですか、お構いもしませんで……」
あやめ「失礼しました」
神崎さんは私をすり抜けて玄関の方に出て行った。
そうじろう「こなた、挨拶はどうした……おい?」
お父さんが何か言っているけど何も聞こえない。
何のために私の家に……ボイスレコーダーを使っていたって事は……取材……何の?
もう彼女に振り回されるのは沢山だ。考えても意味がない。直接聞くしかない。私は振り返り神崎さんを追った。
そうじろう「こなた?」
お父さんの呼びかけを他所に居間を出た。
神崎さんは玄関で靴を履いていた。
こなた「ちょっと待って」
靴を履き終えると私を見た。そして微笑んだ。
あやめ「……泉さんのお父さんだったの、苗字が同じだったね、泉さんと同じような所が沢山あった、とても面白い人だった、これで私も貴女の父親に会ってお相子になった」
またそんな事を言って誤魔化す。
こなた「今度はなんの取材なの、もう私は関係無いんじゃないの、どうして……」
あやめ「……同僚が急病になってね……私はその代理で来たにすぎない、もともと編集部にあった取材だった、まさかこの家が泉さんの家だったなんて……」
こなた「取材って、お父さんの取材?、この前の取材とは関係無いの?」
神崎さんは頷いた。これは全くの偶然だったのか。そのまま神崎さんの言葉を信じるとして、それならこうして再会できたは千載一遇のチャンスだ。
こなた「教えて、何でつかさの手を強く握ったの、ボイスレコーダーを出したの?」
神崎さんは溜め息をついた。
あやめ「二人には謝っておいて……」
こなた「謝るなら自分で謝ってよ……」
神崎さんは黙ってしまった。
こなた「どうして黙ってるの……何で教えてくれないの、お稲荷さんの関係なら私達だって……協力できるし、協力してもらいたい」
神崎さんは玄関の扉を向き私に背中を見せた。
あやめ「ふふ、私はあの時、捕まっている筈だった……」
こなた「捕まるって……潜入した時の話し?」
あやめ「そう、まさか貴女がお稲荷さんのハッキング技術を継承しているとはね……しかも助けに来るなんて、これで私の計画はやり直しになった、これも何かの運命かしらね」
こなた「でも、私が来た時、神崎さんは怯えていたよ……」
あやめ「……それは私の覚悟が足りなかったから……」
こなた「覚悟って……そこまでして何をしようとしているの」
神崎さんは扉に手を掛けた。
あやめ「知りたければあのデータを調べなさい……どうせ何も分からないだろうけどね……もう行かないと……」
こなた「ちょっとまだ話が……」
私が言おうとすると扉を開けて出て行ってしまった。
この前の様な駆け引きは止めて自分の気持ちをストレートに話したつもりだった。それでも彼女は真実を話してくれない。
このまま追いかけてもこれ以上の話しは聞けないような気がした。

そうじろう「こなた、神崎さんと知り合いなのか」
玄関にお父さんが来た。
こなた「まぁね、お店の常連客だった人だよ」
そうじろう「お稲荷さんだのデータだのってやけに深刻そうな話をしていたみたいだけど、何なんだ?」
お父さんにはまだお稲荷さんの話しはしていない。話して理解してくれるだろうか。みさきちみたいになる可能性もあるしあやのみたいになる可能性もある。
かえでさんが言っているようにこれは知識の量とか理解力とかは関係ないお父さんがお稲荷さんを受け入れられるかどうか。ただそれだけなんだ。
こなた「お父さんには関係ない事だよ」
そうじろう「そうか、話せない事ならそれもいい」
あまり興味がないのかすぐに引き下がった。でもそれでいいのかもしれない。
お父さんがもし、お稲荷さんを受け入れなかったら。そう思うと話せない。
こなた「それより何の取材なの、売れない作家さんなのにさ」
そうじろう「お、言ってくれるじゃないか、これでも食べていけるくらいは稼いでいるんだぞ」
こなた「私を大学まで育ててくれたしね……」
実際作家だけで食べていけるのだからそれなりの実力があるのは理解出来る。
そうじろう「まぁ、の作品に関しての取材だそうだ、出版社からも許可が出ているから私も受けたのだけど……三日の予定で今日はその二日目だった」
二日目、って事は昨日も来ていたのか。寄り道をしていたら今日も会えなかった。明日から遅番になるから今日しか会えるチャンスがなかったのか。
そうじろう「取材と言っても半分以上が雑談で終わってしまったけどな」
こなた「雑談って……そういえば私が帰って来た時笑っていたけど?」
そうじろう「ああ、話が面白くてね、彼女はコミケに参加しているそうだ、それから話がそっちの方に流れてしまった」
こなた「彼女はゲームも好きだよ」
そうじろう「そうなんだよ、ゲームだけじゃなくガ〇ダムも好きでね、しかもファースト、これは貴重すぎてたまらないじゃないか、知り合いならなぜもっと早く紹介してくれなかった!」
興奮するお父さん。確かに私意外でこんな話が出来るのは彼女しかいないかもしれない。
こなた「私だって知り合ってまだ二ヶ月目だよ、それに彼女は忙しいからね……」
そうじろう「明日が楽しみだ」
そう言うと居間の方に向かって行った。
こなた「ふぅ~」
溜め息が出た。やれやれお父さんがすっかり気に入ってしまった。
いや、まて、確か神崎さんのお母さんも私を気に入ったなんて神崎さんが言っていた。まさか本当に取材を理由に仕返しをしたのじゃないだろうか。
そんな風に思えるような事も帰りがけに言っていたし……
そうじろう「お~い、こなた、夕食の準備を手伝ってくれ」
こなた「ほ~い」
まぁいいや。今度は危害を加えたわけじゃないし……

 それから、まなみちゃんの演奏会の当日が来た。
クラッシックにはそんなに興味ないし、多分まなみちゃんの演奏意外は居眠りをしてしまうかもしれない。それでも何故か会場に来てしまった。
会場には意外と沢山の客が来ている。会場入り口で入場の列に並んで順番を待っていた。
私の順番が来てチケットを係員に渡した。
スタッフ「……演奏者のご関係の方ですね?」
こなた「え、まぁ、知り合いなので……」
スタッフ「それでは特別席へどうぞ、そから演奏10分前までなら控え室へも行けますので……」
係員はチケットの半券とプログラムを私に渡した。私はそれをを受け取って会場の中に入った。

特別席は最前列の数段か……私の席はA―12……あ、あった。
席を見つけて座った。辺りを見回した。特別席に座っているのは私だけだった。ちょっと来るのが早すぎたかな。それとも控え室に居るのだろうか。
もしかしたらかがみやみゆきさんも来ているかも。つかさはこのチケットを店で配っていたしね。
ここでボーっとしても暇なだけだちょっと控え室を覗いてみるかな。私は席を立ち控え室に向かった。
あれ、おかしいな~
案内の地図にはこの辺りに控え室があるはずだけど。私は辺りをきょろきょろと見回した。でもそれらしい部屋は無かった。
もしかしたら東西を逆に見たのかもしれない。元の場所に戻ってみるかな。
「神崎さん~」
私の後ろから男性の声がした。神崎だって、まさか。
私は声のする方に振り向いた。二十代前半くらいの男性が小走りに私の方に向かってきた。
男性「神崎さん~」
間違いないこの男性が神崎さんと言っている。ってことは……ゆっくりまた振り返った。少し先に長髪の女性の後姿が見えた。間違いない神崎さんだ。まずい振り向かれたら
私が居るのが分かってしまう。咄嗟に建物の柱の陰に身を隠した。男性は私を通り越して長髪の女性の方に走っていく。
男性「神崎さん、こっち、聞こえています?」
長髪の女性が男性の声に気付いて振り返った。顔が見えた。間違いない神崎あやめだ。あの男性が居なかったら彼女と鉢合わせになっていた。
あやめ「坂田さん、そんなに大声を出さなくても聞こえているよ」
あの男性は坂田って言うのか。誰だろう。神崎さんとどんな関係があるのかな。それに彼女が何故この会場に来ているのか。
坂田「そっちは違いますよ、逆方向、控え室はこっちですよ」
あやめ「そっちだったの、どうりで部屋がないはずだ」
坂田「インタビューはあと一人だけですよね」
神崎さんは頷いた。
坂田「演奏までまだまだありますからそこの喫茶店で休憩しませんか?」
男性が見ている方を見ると喫茶店があった。神崎さんは暫く喫茶店を見ると、
あやめ「それじゃ少し休もうか」
神崎さんと坂田は喫茶店に入っていった。どうも気になるな。見つからない様に私も入って見よう。

 二人が喫茶店に入って数分してから私は喫茶店に入った。この喫茶店はセルフサービスの店だ。席は自由に決められる。適当な飲み物を頼むと二人の座る席の横に
気付かれないように座った。
坂田「井上さんの代理お疲れ様です」
向こうの声も聞こえる。これはもしかしたら神崎さんの秘密が分かるかもしれない。私は聞き耳を立てた。
あやめ「彼女が病気じゃどうしようもない」
坂田「病状はどうなんですか、確か神崎さんと同期でしたよね」
あやめ「今日、精密検査をするって言っていた、今の時点ではなんとも言えない」
坂田「そうですか……ところで、井上さんの文化部の仕事はどうですか、神崎さんだと物足りないんじゃないですか?」
あやめ「物足りない?」
坂田「そうですよ、アーティストや作家さんの取材、時には今日みたいにお子様の取材ですよ、政治家や企業の不正を調べている方が神崎さんらしいと思って」
井上って人の代理で来ているのか。そういえばお父さんの時もそう言っていた。するとお父さんの時も今日も神崎さんの意思で来た訳じゃなかったのか。全くの偶然だった。
あやめ「ふふ、私はそんな大それた仕事なんかしたくなかった、井上さんの様な仕事の方が好き」
さかた「へぇ~そうは見えないな~」
坂田は手に持っていた物をテーブルに置いた。それはカメラだった。かなり高級そうなデジタルカメラだ。もしかしたら坂田はカメラマン?
あやめ「ところで次のインタビューは誰なの?」
坂田「えっと~」
坂田は鞄から紙を出して見た。
坂田「最後の演奏者で柊まなみちゃんですね……」
あやめ「柊……まなみ……ですって?」
柊まなみ……これからまなみちゃんの所に行こうとしていたのか。
坂田は持っていた紙を神崎さんに渡した。
坂田「小学三年生の女の子、初演だそうですよ、子供の初演にしては遅い方だとは思いますけど……なんでも今回の演奏会で最注目の子だそうです」
へぇ、やっぱりまなみちゃんは注目されているのか。ちょっと嬉しかったりするな。
神崎さんは渡された紙をじっと見ていた。
坂田「あれ、その子知っているのですか?」
あやめ「え、あ、いや、知っているだけで直接会ったわけじゃない……」
神崎さんは紙を坂田に返した。
坂田「演奏曲は……ショパンの舟歌だ、うぁ~」
坂田は感嘆の声を上げた。
あやめ「その曲って難しいの、私は音楽に疎いから分からない」
坂田「これをデビューでやるなんて……技術はもちろん表現力も試される大作ですよ……小学生がどんな演奏するのか楽しみだな」
神崎さんはテーブルに置いていあるコーヒーを飲み干した。
あやめ「最後まで居るつもりはない」
神崎さんは立ち上がった。
坂田「え、折角来たのに聴いていかないの、それで記事なんか書けるのですか?」
あやめ「行くよ!」
神崎さんは喫茶店を出た。
坂田「あ、ああ、ちょっと待ってくださいよ~」
坂田はテーブルに置いてあったカメラを大事そうに抱えると神崎さんの後を追った。私も少し時間を空けてから店を出た。

 ⑤神崎さんは井上さんの代わりにこの取材をしているのか。お父さんのもそうだった。神崎さんは嘘を付いていなかった。
井上さんって……神崎さんと同期って言っていたけど、仕事を代わりにするくらいだから親しい仲なのかもしれない。病気か……
坂田「す、すみません、ちょっとトイレに行きたくなったのですが……」
申し訳なさそうに神崎さんに言った。神崎さんは立ち止まった。
あやめ「しょうがない、行って来なさい、先にインタビューは進めているから、適当に来て写真を撮って」
坂田「はい……」
坂田は神崎さんと別れてトイレに向かった。そして神崎さんはそのまま歩き出した。私も神崎さんとの間隔を空けて付いて行った。
しばらく歩くと係員が立っている区域に入った。神崎さんは手帳の様な者を係員に見せている。許可証なのかな……
係員は神崎さんを通した。私は……暫く時間を置いて係員の所に向かった。
係員「何か御用ですか?」
どうする……そうだ。チケットの半券があった。私は半券を係員に見せた。
係員「どうぞ」
私はそのまま通路の奥に入った。
神崎さんは柊まなみと書かれた控え室の前に立ち止まった。私も壁際に立ち止まり神崎さんから見えないようにした。
『コンコン』
神崎さんはドアをノックした。
「はい、どうぞ」
部屋の中から声がした。この声はつかさだ。神崎さんはゆっくりドアを開けた。
つかさ「か、神崎さん?」
ドア越しから分かるほど目を大きく見開いて驚いているつかさが見える。
あやめ「柊さん……」
神崎さんも立ち止まりドアを開けたままの状態になっている。これなら二人の状況が分かる。私には好都合だ。
つかさは直ぐに普通の表情に戻り腕を神崎さんの前に出した。握手か……
神崎さんは立ったまま動こうとしなかった。するとつかさはにっこり微笑んで一歩前に出た。
つかさ「この前のやり直し」
つかさは神崎さんの目の前に手を出した。
あやめ「……ば、バカな、何も聞かずに何故そんな事が出来る、また同じ事をしたらどうするの」
つかさは首を横に振った。
つかさ「二度もそんな事はしないでしょ、だってまなちゃんを助けた人だもん」
あやめ「まなちゃん、まなちゃんって真奈美の事?」
つかさは頷いた。
つかさ「うん、それで、私はまなちゃんに助けられた……まなちゃんと会っている人がひろしさんの他に居たなんて、とっても嬉しくて……」
あやめ「ひろし……さん?」
つかさ「うん、私の夫で、まなちゃんの弟だよ……」
つかさの目が潤んでいる。真奈美を知っている人に出逢えてよっぽど嬉しいのだろう。神崎さんの手が自然に前に出てつかさと握手をした。
結局私もかがみも必要なかった。つかさと神崎さんだけで良かった。
私は余計な事をして遠回りをさせてしまった。この二人は逢うべきして逢ったんだ。
あやめ「ちょっと待って、貴女に子供が……まなみちゃんが居るってことはそのひろしってお稲荷さんは……」
つかさ「うん、人間になった、実はね私の三人のお姉ちゃんの旦那さんもね……」
神崎さんは両手をつかさの前に出してつかさを止めた
あやめ「そこまで……こんな所で話すような内容じゃない……」
つかさ「で、でも……」
あやめ「なるほどね、泉さんが私に柊さんを会わせたくなかった様ね、その意味が分かった……柊さん、もうその話は止めましょう」
つかさ「もっと、まなちゃんの事……聞きたい……」

神崎さんは首を横に振った。
あやめ「今は出来ない、私は記者として此処にいるの、分かって……」
つかさ「……で、でも……」
坂田「神崎さん~」
坂田が戻ってきたみたいだ。小走りに部屋に向かっている。私に気付かずそのまま素通りした。
あやめ「ほらほら、何も知らない人達に聞かれたら不味いでしょ、私と同行しているカメラマンの坂田って言う人だから私に合わせて」
つかさ「あ、う、うん……」
坂田「すみません遅れまして、あ、あれ……?」
坂田は左右きょろきょろと見回している。
坂田「柊まなみちゃんは……?」
坂田はカメラを握りいつでも撮れるような体勢になった。
あやめ「私もさっき来たばかりだから」
神崎さんはつかさをつんつん突いた。
つかさ「え、あ、ああ、先生と奥の部屋で練習中です……」
先生……みなみも来ているのか。教え子の初舞台だから当然と言えば当然か。
坂田「最終調整って訳ですね、撮影したのですがよろしいですか?」
あやめ「私もインタビューをしたい、時間は取らせません」
つかさは暫く考えた。
つかさ「まなみは……娘はちょっと上がり性なので、カメラとか向けられると戸惑ってしまうかも……」
坂田はカメラを仕舞った。
坂田「……どうします神崎さん、後一人だけなんですけどね……」
あやめ「……それなら演奏の後ならどうかしら?」
つかさ「それなら問題ないかも」
坂田「あれ、神崎さん、柊ちゃんの演奏は最後ですよ、そこまで残らないってさっき言っていたような……」
あやめ「坂田、井上から何を学んだ、相手に合わすのもの時には必要だ、特に子供はね」
神崎さんは坂田を嗜めるとつかさの方を向いた。
あやめ「どうせなら完璧な状態で演奏してもらいたいから……それじゃ演奏が終わったら此処で会いましょう」
つかさ「あっ……それなら特別席が空いているので……お姉ちゃんとゆきちゃんの分」
つかさは半券を二枚神崎さんに渡した。
あやめ「あら、お姉さんは来られないの?」
つかさは頷いた。
あやめ「それは残念、謝りたかった……また機会を改めましょう、それでは」
神崎さんは会釈すると部屋を出た。そして扉を閉めた。
坂田「謝るって何です、それにお姉さんって……あの人と知り合いだったのですか?」
あやめ「まぁね……」
坂田「まぁねって……知り合いならそう言ってくれればよかったのに……」
二人は私の隠れている壁を通り過ぎて行った。二人は話しているせいなのだろうか、私には気付いていない。
二人の気配が消えるのを確認して控え室の前に移動した。

『コンコン』
つかさ「は~い、どうぞ」
私は扉を開けた。
つかさ「こなちゃん、来てくれたんだ!!」
こなた「やふ~つかさ、暇だから来たよ」
つかさは私の手と取ると跳びあがって喜んだ。
つかさ「こなちゃん、さっきね神崎さんが来てね……」
早速さっき起きたばかりの出来事を私に楽しげに話しだした。秘密とか内緒とかそう言うのはつかさには関係ない。楽しい出来事があれば直ぐに誰かに話したがる。
そう、それがつかさ。
つかさ「どうしたの、こなちゃん?」
私は笑った。
こなた「神崎さんと仲良くなれたみたいだね」
つかさ「うん!」
あの時怒った自分がバカバカしく感じてきた。つかさは一人で真奈美に出逢って親友になった。そしてその弟のひろしと結婚までしている。私はそれに少ししか関わっていない。
ひろし言うように最初からつかさを参加させていればよかった。つかさの笑顔を見てそれを確信した。
こなた「それじゃ私は客席の方に行くね」
つかさ「え、まだ来たばかりなのに、まなみやみなみちゃんに会ったら、もう少しで来ると思うし」
こなた「うんん、神崎さんにの言うように演奏直前で上がり症が再発したら困るでしょ、演奏会が終わったら来るよ」
つかさ「そ、そうだね……こなちゃんの言う通りだね、またね」
こなた「また~」
私は控え室を出た。部屋を出る直前のつかさの淋しそうな表情が印象に残った。それは私が直ぐに部屋を出たからじゃない。きっとかがみやみゆきさんが来なかったからだ。
私はかがみ達がこなった理由を知っている。直接聞いたわけじゃないけど分かる。

 私が席に戻ると、その隣の席に神崎さんが座っていた。本来ならそこにかがみかみゆきさんが座る席。今までの私なら一般席に移動するところだけどそのまま自分の席に座った。
これはつかさがくれたチャンスだ。
こなた「ちわ~」
あやめ「泉さん……帽子を被っていたから声を掛けられるまで気付かなかった……こんにちは……」
目を大きく見開いて驚く神崎さん。
こなた「つかさの娘が参加している演奏会だから私が来ても不思議じゃないでしょ、お父さんの時と同じだよ」
あやめ「そ、そうだけど……」
そこで透かさず質問。
こなた「所でカメラマンの坂田さんはどうしたの、またトイレでも行った?」
あやめ「う、な、何故坂田を知っている?」
神崎さんは立ち上がった。
こなた「いやね、私も道を間違えて喫茶店の方に向かって歩いていたら神崎さんを見かけてね、ちょっと様子を見させてもらった」
神崎さんは呼吸を整えるとまた席に座った。
あやめ「……全く気付かなかった……貴女、探偵のセンスがあるのかもね……坂田はこの会場の写真を撮りに行っている……」
ってことは当分ここには来ないな。それならお稲荷さんの話しも出来る。
こなた「それは神崎さんが教えてくれた事だよ、それよりさ、つかさと会って分かったでしょ、もう神崎さんと私達は運命共同体みたいなももだって、
    こうして神崎さんの同僚の井上さんの病気の代理の仕事で私達に関わっているのも偶然じゃないと思う……それで……井上さんの病気って重いの?」
神崎さんは溜め息をついた。
あやめ「会った事もない人なのに心配までされるなんて……それにしても柊さんの関係者はまなみちゃんの先生と泉さんしか来ていないじゃない、それで運命共同体なんて……可笑しい」
神崎さんはさら苦笑いをした。
こなた「かがみやみゆきさんが来ないのは神崎さんのせいだよ」
あやめ「何故、私は何もしていない」
少し怒り気味の口調だった。
こなた「何も教えてくれないからだよ、かがみなんかムキになってデータを解析している、だから来られない」
あやめ「あのデータは解析できるはずはない、諦めなさい」
こなた「どうかな~ 神崎さんは何処まで調べたかは知らないけど、あのラテン語のデータ、あれは何処かの場所を説明している文だってかがみが言っていたけどどうなの?」
神崎さんはまた立ち上がった。そして私を見下ろした。
あやめ「……驚いた……貴女にはいろいろ驚ろかさせられる……データを渡さなければ良かった」
こなた「もう遅いよ、どうせ分かっちゃうなら秘密にする必要なんかないじゃん?」
あやめ「どうせ分かるも物……どうせ分かるものなら私が教える必要はない」
こなた「あらら、意外と強情さんだね、一人よりも私達と一緒の方が良いと思っただけなのに」
あやめ「もうその話はお仕舞い」
まだ話したい事があるのに。更に話しをしようとした時だった。
坂田「神崎さん~」
あの声は……坂田か。もう戻ってきたのか。
あやめ「貴女に協力をさせたのが間違いだった……」
神崎さんは小さな声でそう呟いた。
こなた「え?」
坂田が神崎さんの隣の席に近づいた。神崎さんは立ったまま神崎さんが来るまで待っていた。
あやめ「随分早いかったじゃない、もう撮影は終わったの?」
坂田「はい、おかげさまで……」
坂田は私が居るのに気が付いた。私の方を見た。そして席に着くと神崎さんの方を見た。
坂田「お知り合いで?」
あやめ「そう」
坂田は私に一礼をした。そして私も会釈した。確かにもうこれ以上話はできそうにない。
坂田「もうそろそろ最初のプログラムの時間ですよ」
気付くと辺りには観客が大勢席に座っていた。そして数段後ろの席にはいのりさん、まつりさんの姿もあった。
神崎さんは席に着いた。もう神崎さんと話しはできそうにない。
かと言っていのりさん達と会って話しをするには時間が短すぎる。これから最後のまなみちゃんの演奏の順番がくるまで退屈な時間になりそうだ……

データの内容が分かったから会いたいとかがみから連絡が来たのは演奏会から丁度一ヵ月後だった。

つづく

以上です。

投下が不定期になってしまいます。

まぁ、全く反応がないので読んでいる人は皆無でしょうからこっちのペースで書かせてもらいます。

恒例によりまとめ報告は避難所のみとさせていただきます。

時間系列がわからない~
『つかさの旅の終わり』から『こなたの旅』読んだら若干話が……

>>220

時間系列的には「つかさの旅の終わり」の続編です。

物語の順番は「つかさの旅」のページ http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1784.html

を見ると分かると思います。


「つかさの旅の終わり」ではつかさが妊娠した所で終わっている。そこから約十年後の話です。

「こなたの旅」は番外編の「ひよりの旅」の続きでもあるのでそっちも読んでみて下さい。

これからの話しは「ひよりの旅」の内容にも触れていく予定ですのでよろしくです。


正直長編を書くのは初めてなので正確な時系列と言う意味ではずれてしまっているのかもしれません。

すみません。



作者より

>>221

追記
「こなたの旅」は「ひよりの旅」の内容に既に触れています。

こなたがひよりとゆたかに会う場面は「ひよりの旅」を読んでいないと分からないですね。

かがみ「2020年のオリンピックが東京に決まったわね」
つかさ「そうみたいだね」
こなた「え~決まっちゃったの」
つかさ「え、こなちゃんは喜ばないの、一生に何度もある事じゃないよ?」
こなた「だって、これから日本には解決しなきゃいけない問題がいくつもあるでしょ」
かがみ「……その問題を言ってみなさい」
こなた「えっと、えっと、えっと……」
かがみ「どうせアニメ番組が削られるからそんな事言ってるんでしょ?」
こなた「うぐ!!」
かがみ「まったく……」

球磨川『僕は悪くない』

早朝HR
黒井「おーっし!今日は転校生を紹介すんぞー!」

つかさ「こなちゃん、転校生だって」
こなた「どんな人が来るんだろ?フラグたつかなぁ~♪」

黒井「入ってきていいで~」
       ガララッ
球磨川『はじめまして、週刊少年ジャンプから引っ越して来ました!よろしく仲良くしてください。』

クラス中………プッ…クスクス…ナンダヨソレッ

球磨川『笑うな』
球磨川の放った螺子がクラスのみんなを貫く。

球磨川『人の冗談を笑うなんて、人間として、生き物として最低だぞ。』

それでは「こなたの旅」の続きを投下します。8レスくらい使用します。

⑮ ここから「ひよりの旅」の登場人物が登場します。「ひよりの旅」を読んでいない人は読んでから続きを読む事をお奨めします。

 私はつかさの店の扉を開けた。
こなた「おひさ~」
つかさ「こなちゃん!!」
まるで数年会っていないような嬉しそうな声で出迎えるつかさ。
つかさと会うのは一ヶ月ぶりだろうか。職場がこんなに近いのに不思議なものだ。会おうとしないと会えないなんて。
かえでさんの体調が良くないのでその分忙しくなったせいなのかもしれない。
 今日は水曜日。つかさの店はお休みだ。かがみは店を待ち合わせ場所に指定した。かがみは既に居た。テーブルに座り軽食を食べている。つかさの店では出していない料理だった。
かがみは私に気が付かず夢中で食べている。かがみの姿がほっそりと見えた。あの大食いのかがみなのに……
つかさ「お姉ちゃん、こなちゃんが来たよ」
かがみ「ん?」
かがみは食べるのを止めて私の方を向いた。その顔を見ると目に隈ができている。頬も少し削げ落ちているような気がする。
かがみ「早いわね……ってすぐ隣だから当たり前か……」
こなた「な、なに……少しやつれた?」
かがみは溜め息をついた。
かがみ「あんたがもってきた宿題のせいよ……流石に疲れたわ……」
こなた「かがみがそんなにするなんて、よっぽどなんだね……」
かがみ「いや、6割以上はみゆきがした……ラテン語に歴史、地理に……物理学、工学まで幅広い知識が必要だった、この短期間でできたのはみゆきが居たおかげ」
こなた「ん~、難しい事はいいから、結果だけ教えてよ」
かがみは不敵な笑みを浮かべた。
かがみ「待ちなさい、皆が集まるまで」
こなた「みんな?」
かがみ「そうよ、お稲荷さんを知っている人は全て呼んだ、皆に聞いてほしい」
お稲荷さんを知っている人……あのデータってどんな内容なのだろう。
つかさ「ところで神崎さんは来てくれるの?」
こなた「分からない……」
電子メール、手紙、電話、いろいろなツールで連絡を試みたけど返事は貰えなかった。直接家に行ければよかったけど、その時間が取れなかった。
かがみ「分からないって、何よ、あいつから吹っかけて来たのよ、張本人が来ないでどうするのよ!!」
悔しそうにするかがみと残念そうな表情のつかさが対照的だった。私自身も来て欲しかった。
「こんにちは……」
いのりさん、まつりさんが入ってきた。
つかさ「あ、いらっしゃい……」
まつり「大事な話があるって言うから来たよ」
身内にも内容をまだ話していないのか。まつりさんといのりさんか。この二人はたまに店に来てくれるけど、学生時代から話したりはしていないな……
かがみ「すすむさんとまなぶさんはどうしたの、彼らにも来てって言ったはずだけど」
いのり「来るけど少し遅れるかも……」
お稲荷さん、いや、元お稲荷さんも呼んでいるのか。って事は結構大勢になるかも。
いのりさんが私が居るのに気が付いた。
いのり「こんにちは、久しぶり……泉さんだったかな、まなみちゃんの演奏会依頼ね」
こなた「こんちは~、どうもです」
つかさが店の奥から雑誌を持って来た。
つかさ「ねぇ、見て見て、まなみの演奏が記事になっているよ」
まつり「あぁ、そういえば、あの時の女性記者とカメラマンが取材に来ていた」
つかさはいのりさんに雑誌を渡した。その雑誌は来月号の見出しになっていた。
いのり「これって、わざわざ出版社から先行で送ってきたみたいね……」
つかさ「神崎さんが直接送ってくれたみたい……だから来てくれると思ったのに……」
まつり「え、あの記者と知り合いなの?」
つかさ「う、うん……」
いのり「へぇ、つかさって意外と顔がひろいんだ……演奏が終わってから取材だって二人が入ってきた、そう言えばあのカメラマン、まなみちゃんの演奏を絶賛していたのを覚えている」
そう、あの坂田ってカメラマンが取材の終始神崎さんと一緒に居たから立て込んだ話が出来なかった。だから私は途中で帰ってしまったので演奏後の取材の話しは知らない。
かがみ「お父さんとお母さんも来てくれたみたいね……来なかったのは私だけだった、ごめん」
つかさ「うんん、気にしていないから……」
気にしていないか……つかさはそんな風に言えるようになったのか。
こなた「あれ、ご両親、特別席には居なかったけど?」
つかさ「あまり前の席だとまなみに気付かれちゃうって、一般席に移動したって言ってた」
いのり「あった、あった、まなみちゃんの記事があったよ」
雑誌を開いたまま私達にそのページを見せた。まなみちゃんの姿が写った写真が掲載されている。あのカメラマンが撮ったものだ。
恥かしそうにはにかむ姿がまなみちゃんの特徴を捉えている。さすがプロのカメラマンって所かな。
いのりさんは雑誌を自分の方に向けた。
いのり「どれどれ……」
いのりさんはまなみちゃんの記事を読み出した。

いのり「舟歌、私自身その曲を聴くのは初めてだった、ショパンと言えば、子犬のワルツ、幻想即興曲、雨だれ、別れの曲、彼の残した曲は数知れないがこの曲を思い浮かべる人も
少なくないだろう、私はこの演奏を聴いてそう思った、
恥かしそうにピアノの前に座る柊まなみ、あどけない小学三年生、しかし鍵盤に手をかざすと表情が豹変した、
出だしの重い音の向こうから聞こえる舟歌のリズム、船出をする喜び、そして出発地を離れる不安と淋しさ、そして到着への期待と希望が次第に膨らんでいく様子が私の心に
染み渡ってきた、この子は一度船旅を経験した事があるのではないか、そう思わせる程の説得力があった演奏だった……」
いのりさんは雑誌を閉じた。
いのり「凄いじゃない、大絶賛だよ、こんなに褒められるなんて滅多にないよ」
まつり「そういえば周りで涙を流している人も居たよね」
こなた「へぇ、そんな演奏だったんだ?」
かがみ「へぇって、あんたも会場に行ったんじゃないの?」
こなた「えっと、最後の演奏だったもので……すっかり夢の世界に……」
かがみ「あんたは何しに行ったんだ!!」
皆は笑った。私も笑った。
「こんにちは」
みゆきさんが入ってきた。さて、そろそろ本題に入りそうだ。

 みゆきさんが来ると続々とかがみの呼んだ人達が入ってきた。最終的に
かがみ、つかさ、みゆきさん、あやの、いのりさん、まつりさん、ゆたか、ひより、みなみ、かえでさん、そして、ひろし、ひとしさん、すすむさん、まなぶさんの四人の元お稲荷さん
が集まった。
集合時間が過ぎても神崎さんが来る気配は感じられない。
かがみ「時間を過ぎたから始めさせてもらう、神崎さんにはどうしても来て欲しかったけどね……しょうがない、みゆき、後は頼むわよ」
みゆき「はい」
みゆきさんはピアノの前に立った。それを囲むように皆が座った。
みゆき「皆さん、お集まり頂きありがとうございます、貿易会社から入手したデータを解析しましたので皆さんのご意見を賜りたいと思います……それでは最初に、
    すすむさん、オーストリア北部の山岳地帯と聞いて何か思い出しませんか?」
私達はすすむさんの方を向いた。すすむさんは目を閉じた。
すすむ「あれは……忘れるはずもない、我々が最初に訪れた土地だ……」
ひより「え、最初に訪れたって……四万年前でしょ……それに船が故障したって……」
すすむ「そうだ、本来ならもっと南のアフリカ大陸辺りを目指したのだがね……」
そうか、確かすすむさんはけいこさんと同じくお稲荷さんがこの地球に来てからずっと生きていたって言ってたっけ。
みゆき「やはりそうでしたか、データの中にラテン語で書かれた文章がありました、それには「遥か昔に空から訪問者が訪れた」と書かれていました、事情を知らない人ならば
    これはただのおとぎ話や伝説で片付けられたかもしれません、でも私は直ぐに解りました、お稲荷さん達の宇宙船だったのではないかと」
すすむ「当時は氷河期で雪と氷だけの土地だった、お前達の先祖は少し攻撃的だったからネアンデルタールの人々の集落に身を寄せた、彼等は私達を温かく受け入れてくれた」
みゆき「……彼等は間もなく滅びたようですが?」
すすむ「彼等の頭脳は人類より発達していた、しかし声帯が人類ほど発達していなかったので意思の伝達が不自由だった、そのために次第に人類に追い詰められた」
みゆき「興味深い話ですね……それは後で聞きます……話を元に戻します」
つかさがつんつんと私の背中を突いた。私がつかさの近くに寄ると耳元でつかさが囁いた。
つかさ「ゆきちゃんとすすむさんの会話の意味がわかんないよ、声帯がどうのこうのってどうして?」
私も小声は話す。
こなた「ん~、言葉が話せないと困るって事じゃないの、身振り手振りだけじゃ相手に伝わらないからね……」
つかさは首を傾げてしまった。私もこれ以上の説明は出来なかった。
みゆき「文章は続きます、「その地で彼等は呪いを施した、決して地を掘ってはならぬ」と、これはもしかして宇宙船の残骸を発見されない為の忠告ですか?」
すすむ「そう、放射性物質があった、それに我々の技術をされたくなかった、当時の人類では全く理解は出来ない物だったがね、言い伝えだけが残ったのだろう」
みゆき「……この文献の通り、約40年前、遺跡が発見されました、そのスポンサーが貿易会社です、今でも発掘は続いていて、その発掘品の殆どはシークレットで
殆ど公開されていません、全ては謎です……結論から先に申し上げると、貿易会社は既にお稲荷さんの存在に気付いていると思います」
すすむ「……その可能性はあるが……現代でも我々の技術を分析はできまい、船は完全に破損してしまった、
残った装置も殆どが有機物質から構成されているものだ、とっくに土に還っている」
みゆき「これは何ですか?」
みゆきさんは一枚の写真を私達に見せた。それはガラスの様な、水晶の様な透明な板が写っている。
みゆき「これもデータの中にあった写真です、遺跡の一部だと思われますが?」
すすむ「……メモリー」
こなた「メモリーってpcで使うような?」
すすむ「そうだ……」
ひより「お稲荷さんって知識は忘れないって言ってなかった、そんなもの要らないような気がするけど?」
すすむ「人間になって知識は一割も覚えていない……この地球の様に知的生命体との接触を想定して我々の知識と歴史を記録した物だ、しかし未だ読めないだろう」
みゆき「それではこれはどうですか?」
みゆきさんは更にもう一枚の写真を出した。そこには見た事もない文字がぎっしり書いた紙が写っている。
すすむ「それは我々が使っていた言語だ……まさかあのメモリーの中身を読み取ったのか、ふふ、まだ忘れていない、読めるぞ、核融合における基本技術が書かれている」
みゆき「この言語は私にもさっぱり解読できませんでした、しかし貿易会社は40年も秘密でこれらを研究しています……それがどう言う意味が分かりますか?」
皆は黙って何も言わない。私も分からない。つかさがまた私の背中を突っつく。
つかさ「私何を言っているのかさっぱり、こなちゃん分かる?」
こなた「ん~、どうやら貿易会社がお稲荷さんの秘術を盗んでいるみたい……」
つかさ「ふ~ん?」
分かっていない様だ。
すすむ「貿易会社が我々の技術を使って儲けている、と言いたいのか?」
みゆき「そうです……」
すすむさんは笑った。
すすむ「なら放って置けば良い、我々の技術や知識は何れ人類も自ら得るだろう、知りたい者にはくれてやれ」
みゆき「いいえ、それならば一企業が独占しては……これは全世界に公開されるべきです」
みゆきさんとすすむさんの口論が始まった。私には難しくて分からなかった。多分つかさも分からないだろう。他の人達はどうだろう。みんな呆然と二人を見ているだけだな。
でも……この二人の口論。何れ分かるなら教える。教えないって話しだ。何処かで同じような……
そうだ。私と神崎さんだ。神崎さんがまなみちゃんの演奏会で言っていた……

かえで「二人とももう止めなさい」
かえでさんの言葉で二人の口論は止まった。
かえで「もうそれは終わった話よ、それはけいこさんがしようとした事じゃないの、結果がどうなったか……分かるでしょ?」
みゆき「……はいそうでした」
すすむ「……そうだったな……」
かえでさんは立ち上がった。
かえで「問題は貿易会社ね、みゆきさんの話しを聞くとけいこさんの正体をお稲荷さんって分かっていた様な気がする、つかさ覚えていない?」
つかさ「ふえ?」
いきなり振られてつかさは困惑してオロオロしている。私も話しに付いていけないのだからつかさも同じだろう。
かえで「まだレストランが引越しする少し前、二人で神社の頂上に登ったでしょ、二人で登るなんて何度もないから覚えている、そこの木の陰に黒ずくめの男が隠れていたでしょ、
つかさは観光客だなんて言っていたけどね」
つかさは頭を抱えて考え込んだ。
つかさ「あっ!!」
つかさはピンと立ち上がった。
かえで「思い出した?」
つかさ「うん……あの人って観光客じゃないの?」
かえで「あれが観光客だもんですか、貿易会社の差し金よ、あの神社がお稲荷さんの住処だったのを調べていたにちがいないわ」
かがみ「そんな事があったなんて知らなかった」
かえで「私も当時はそこまで根深いとは思わなかったからあまり気に留めておかなかった……国の権力を使ってけいこさんを拘束するなんて、フェアーじゃない」
ひとしさんがいきなり立ち上がった。
ひとし「話はそれで終わりか、4万年前の遺跡を掘り返しただけ、可愛いものじゃないか、もう私達には関係ない、」
かがみ「可愛い……それだけなら私は貴方達を呼ばないわよ」
ひとし「それじゃ何だって言うんだ……」
かえで「こらこら、夫婦喧嘩はやめなさい」
かがみが言い返そうとした時、良いタイミングでかえでさんが割り込んだ。
かえで「かがみさん、続きを聞かせて」
かがみ「は、はい……データの中に貿易会社の取引先の情報があって、その中に国際的に取引を中止されている国の名前が幾つもある、それだけじゃない、
    その取引の商品がこれ」
かがみは紙を鞄から出した。英語で書いている表だけど読めない。
ひとし「……兵器か……素粒子銃、レーザー砲……なんだこれは、こんな物今の時代に不釣合いな兵器だな」
かがみ「実験装置として売っている……密輸が発覚しただけでも企業の存亡に関わる大スキャンダルよ」
ひより「もしかして神崎って記者はそれを調べるために?」
かがみ「記者としてはそうかもしれない、でも、彼女もお稲荷さんの存在を知っている、しかも真奈美さんをね」
ひより「どう言う事です?」
かがみが話そうとした時だった。
ゆたか「その前に聞きたい事が……」
かがみ「どうぞ」
ゆたかはかがみではなくすすむさんの方を向いた。
ゆたか「お稲荷さんの知識で武器を作れるの、宇宙は戦争もできないほど過酷だって、そう言ったのは嘘だったの?」
すすむ「嘘じゃない……」
ゆかた「それじゃどうして武器が作れるの……」
ひろし「お前達も経験しているはずだ、火薬は爆弾にもなれば花火にもなる、簡単な事だよ」
ゆたか「私達次第って事……かがみさんごめんなさい、続きを話して下さい」
どうしたのかな、ムキになって
……ゆたかはすすむさんが好きだった……からかな。女心って分からないな……って私も女か。
かがみ「それはみゆきから話すわ」
みゆき「板に記録されている文字は標語文字ですよね?」
こなた「ひょうごもじ?」
みゆき「漢字の様に一つの文字で意味を成すものです」
すすむ「そう、私達が古代に使っていた文字を敢えて選んだ、無闇に解読されないように」
みゆき「貿易会社でもおそらく解読できていないでしょう、そのはずなのにこうしてお稲荷さんの知識を利用した兵器が作られている、膨大な量の文から必要な部分だけを選んで」
ひとし「誰かが翻訳をしている……」
みゆき「そうです、私の推測ですがその人が真奈美さんではないかと……」
つかさ「ま、まなちゃん……」
ひろし「姉が生きている、ばかな……」
ひろしは立ち上がった。
ひろし「生きているならとっくに僕が気付いている、それに翻訳する必要なんかない、メモリーの知識は脳の中に入っているのだから」
みゆき「真奈美さんが人間になっていたとしたらどうですか、人間になると使わない記憶は自然と消えていきます、すすむさんはさっきそう言いましたね」
ひろしは黙って立ち尽くしている。
かがみ「みゆきの推理に説得力あってね……私は支持するわ、おそらく真奈美さんは強制的に翻訳させられている、」

これがかがみとみゆきさんが分析した結果か……
ひとし「しかし……あくまで推測だ、証拠がない」
つかさ「でもお稲荷さんの文字が読める人が居るんでしょ、それじゃお稲荷さんしか居ない」
ひとしさんはつかさに何も言わなかった。単純、単純で何の捻りもない素直な答え。だからひとしさんは反論できない。
みゆき「……貿易会社本社25階、遺跡保管庫にメモリーの本体が保管されています……泉さんから頂いたデータから得た情報で、真奈美さんが居るとしたらその辺りのはずです」
25階……25階って確か……
ひとし「……真奈美ではないにしても仲間がいる可能性があるのか……」
すすむ「だとしたらこのまま何もしない選択は