ちょっと面白い話を思い出した。
うちの高校には「先生」って人がいて、校内を自由に歩いてたんだ。
こんな書き方すると馬鹿にしてんのか本物のバカなのか、って思うかもしれないけど、その人はうちの学校の先生じゃないんだ。
ただ我が家のように学校のいろんなとこに出没しては生徒と絡む、そんな変なオッサンだった。
今思えば違和感ありまくりだけど、当時は何も考えずに「せんせーせんせー」ってその人とよく遊んでた。
校内にいる大人だし、って事なのかな。先輩たちもそう呼んでて、入学当初からその人はずっと「先生」だった。
きっと週に一度も選択していないだろうくたびれた白衣を着て、無精ひげを生やして、いつも手は白衣のポケットに突っ込んでいた。
そういえば入学式とかも普通に先生たちと並んで立っていたな。
本当に存在が謎だ。
先生たちは先生たちで、よく「先生」に色々と聞きに行っていた。
あの机はどこにあるとか、数年前の体育祭がどんなだったとか。
先生たちにとっても生徒にとっても先生だったから、不審者としてつまみ出されずに学校に居座っていたのかもしれない。
校長とも何度も飲みに行ってたらしい。
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もちろん居ない日はあったけど、普段何の仕事をしてるかは知らなかった。
学校外で会ったことないし。
とにかく、先生がうちの学校の先生じゃなくて、エセ科学者みたいな恰好で、生徒とも先生とも仲が良い。
ここまではいいかな。
なんかGTOみたいな話だけど、鬼塚先生と違うのは、非常勤どころか先生じゃないってとこだ。
そう、今思い出したけど先生には校内に部屋と言うか住処があった。
屋上の入口の前にある踊り場をいっぱいに使って、ホームレスみたいにビニールシートで覆った簡易なやつ。
んでビニールシートには、よく見ると細かい字が沢山書いてある。
「先生大好き!」とか「俺の事忘れんなよ!」とか、卒業生が寄せ書きするのが毎年の恒例行事みたいになってた。
「人んちに落書きをするでないと毎年言っとるんじゃけどのう」
「いいじゃん先生、人気者で」
「お主、さては嫉妬しておるな?」
「いいもん、俺は卒業アルバムの方に書いてもらうし」
高校生的な思考で学校に退屈してる(俺カッコいい)と思っていた俺は、よく先生のとこに遊びにいっていた。
一回授業中に抜け出して行ったらめちゃくちゃ怒られたので、以来きちんと放課後とか、昼休みとかに行くようにはした。
頻度が尋常でなくても怒られたけど。
行けば先生はたいていタバコ吸いながら古いブラウン管のテレビでファミコンをずっとやってるから、隣に座って一緒にやる。
一度夜通しやりこんで、親にしこたま怒られた事がある。
「先生って普段何してんの?」
「さあのう。ワシにも分からんからてきとーに生きちょる」
「いいなー、俺も先生みたいになりたい」
「マジでやめちょけ。死ぬぞ」
「何で」
「暇すぎて」
「なんじゃそりゃ」
「……あ、そうそう。今から科学部を破壊しに行くんじゃが一緒に来るか?」
「……何ソレすごそう」
確か一年生の夏ごろだったと思う。
先生は突然思いついたみたいにそう言った。
先生が『こういう事をする人』というのはそれまでの2、3カ月でよく知っていたので、とりあえずついていくことにした。
「あー先生、今行こうと思ってたの」
廊下を歩いていると同じクラスの鳴海が声をかけてきた。
長い黒髪と元気な笑顔が印象的で、既に三年の先輩から告白されたという噂まである。
「おお鳴海ちゃん、どうしたかいの?」
「先生に聞いてほしいことがあってさ!」
鳴海はそう言ってくしゃっと笑った。
「ついでに神田も聞いてよ!」
「俺はついでか」
ようやく名前を書く機会に恵まれたから、俺について簡単に説明する。
名前は神田 晴(カンダ ハル)。
少しクセの付いた茶髪……だったと思う。今こそ黒いが、当時は何故か髪の色素が薄くて茶髪に見え、よく担任に怒られていた。
顔は自分では普通に思っていた。童顔を除けば大した特徴はない。
こんなもんでいいだろう。終了。
「あんねあんね、今日先輩から告白された!」
「ほう!!」
「マジか」
先生この手の話題大好きだから食いつくぞ、と思ったら案の定。
目がキラキラしている。
「てかそれ俺に言ってよかったんか?先生はともかくとして」
「あ!確かに!でもね、人生で初めて告白されたけん嬉しくて!誰かに聞いてほしくて!」
「ええのうええのう、青春かくあるべし!!はぁあああ!!」
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