アイドルマスターシンデレラガールズ REBOOT (274)

第一話

アイドル、それは遥か昔、特別な力を持った人々を表す言葉だった。

歌い、踊り、多くの人々を笑顔にしていたアイドルには不思議な力があると、多くの民衆は思っていた。

ある時、本当に不思議な力を備えたアイドルが世界に降り立った。

そのアイドルは空高く飛び、大地を風のように駆け、海を割り、
炎や風、天候さえも操ってしまうほどの強力な力を持っていた。

そのアイドルの出現を期に、多くのアイドルが不思議な力を持ち始め、
それは人々を驚かせ、楽しませ、そして何より魅了した。


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そんな超能力とも言える力をもっと役立たすことは出来ないかと考えた昔の科学者たちは、
アイドルに宿った力をシンデレラパワーと名付け、シンデレラグラスという特殊なガラスに
シンデレラパワーを留める技術開発に成功した。

アイドルたちはその力をシンデレラグラスに注入し、時には街を照らし、
空を飛ぶ力を与え、雨を降らす力を付与し、世界を平和へと導こうと尽力した。

しかし、そんな圧倒的ともいえる力は、ともすれば世界を破壊してしまう、
もしくは支配してしまう圧倒的な力になってしまうと恐れた科学者の男がいた。

その圧倒的な力を自分のものにすることが出来れば、
世界を支配することが可能であると心躍らせた科学者の女がいた。

彼と彼女考えた。この力はどのようにして使うのが良いのだろうか。

彼は考えた。この力を平和の為に使い、多くの人々を笑顔にし、
力を持って支配するという恐ろしい考えを排除しようと。

彼女は考えた。圧倒的な力を持って世界に均衡をもたらし、
自分がその頂点に立ち、誰もが力に平伏す世界を作ろうと。

彼と彼女の話し合いは平行線をたどった。
平和の為に力を使うのか、力を行使して平和を作るのか。
結局話し合いは決裂に終わり、彼と彼女は別々の道へ歩みを進めた。

彼は最後の最後まで戦わないで済む方法を探し続けていた。
彼女は圧倒的な力を持って彼らを屈服させる方法を探し続けた。


そして彼と彼女は『アイドルマスター』という巨大兵器を作り出してしまった。

シンデレラグラスの技術を応用し、搭乗したアイドルを動力源にした次世代兵器。

シンデレラグラスに偶然にも付与されてしまったシンデレラパワー増幅機能が、
巨大な躯体を動かすだけの力を与えてしまった。

彼は『アイドルマスター』を多くの困った人や災害に苦しむ人、
平和を保つために、そして多くの人を笑顔にするために使い始めた。

彼女は『アイドルマスター』の圧倒的な武力に物を言わせ、
多くの人を組み伏せ、そして傘下に収めていった。

徐々に世界の構造は二つの『アイドルマスター』勢力が分断する形になってしまった。

面白くないのは彼女だった。彼女にしてみれば彼の作る世界は、
いずれ自分たちに反旗を翻す反乱分子でしかない。

ついに彼と彼女の戦争の火ぶたが切って落とされてしまう。

彼はただ彼女の思想に巻き込まれてしまった形ではあるが、
彼には彼の守りたい世界があった。だから戦わざるを得なかった。

世界は『アイドルマスター』の戦火につつまれた。

戦争は日に日に激化し、多くのアイドルが戦禍に倒れていった。

しかしそれでも戦争の炎は小さくなることを望まず、
世界のなにもかもを飲み込み、燃やし終えるまで続くことになる。

彼と彼女の双方に有効な手立てはなく、世界は見る見るうちに衰弱していった。

それでも彼の『アイドルマスター』は多くの人を笑顔にしようと、
どれだけ戦火が広がろうと、多くの人々を守ろうとした。

彼は秘密裏にある研究を進めていた。
それはシンデレラパワーを完全に封印することは出来ないだろうかという、
力を放棄するための研究であった。

シンデレラパワーがあれば確かに世界は多くの面で利益や幸福を作り出すことが出来る。

しかしその幸福で作られた笑顔は本物の笑顔だろうかと。

アイドルは昔、歌い、踊り、そして笑顔を作ってきていた。
アイドルに不思議な力が無くても、そこには笑顔があったじゃないか。

彼は力を放棄する研究に明け暮れた。

そしてある一つの力にたどり着いた。

それが『歌』だった。

ある特殊な音が、シンデレラパワーの鎮静・減退・消滅へと導くと発見したのである。

全てのシンデレラパワーに効く音があるわけではなく、
アイドルの持つ特殊な心の色に反応し、その波長に合う音を紡ぎ合わせた音楽に
歌詞を乗せて作り上げた『歌』が効力を持つことが分かった。

彼は実験に実験を繰り返し、シンデレラパワーに効く何十パターンをも超える『歌』を作りだした。



そして。

???「何故分からない!アイドルのその力を持ってすれば、
世界を、その全てを手に入れられるというのが!!」

??P「私はそんな全て、いりません。ただ欲しいのは、心からの笑顔だけです。
貴女の作る世界では、誰も本当の笑顔は作れません」

???「ふん、くだらない。くだらない理想論だ。
君が作ろうとしている笑顔が本物かどうか、誰が分かるというのだ」

??P「…それは誰にも分からないかもしれません。
ですが、こんな力が無くとも、誰もが笑顔になれます。
それを作ってきたのがアイドルではありませんか?」

???「小賢しい。アイドルは力だ。そしてこの力で世界を理想のものとする。
笑顔など、私の理想の世界では必要ないのだ」

??P「もう…議論の余地もないのですね」

???「ああ。それは随分前からわかっていたことではないか」

??P「…では、私はこの力を放棄します。いえ、この世界から力を放棄させます」

???「どうすると言うのだ?力を持たない一般人が」

??P「もう世界の各地で、シンデレラパワーと『アイドルマスター』は石碑になり、封印されています」

???「何!?」

彼が進めていた研究は、シンデレラパワーの
鎮静・減退・消滅の作用をもたらすだけだと思われていた。

しかし、アイドルの波長と『歌』が合致し、鎮静・減退の効果を示した後、
シンデレラパワーと『アイドルマスター』は何故か『歌』の歌詞と譜面を記した
石碑へと姿を変えてしまったのだった。

??P「私たちは力を放棄することを選びました。
たとえどんな苦難が待ち受けようとも、大きな力に頼らず、
皆で手を取り合って生きていくことを決めたのです」

???「愚かな…」

??P「いえ、決して愚かな事ではありません。
それが人間の本来の生きる姿なのです。
そしてその中から生まれる笑顔こそが、本物なんだと、そう信じているのです」

???「…いずれの世でも、きっと大いなる力の前に、また争いが起こるだろう。
その時も君はそう言っていられるのか、見させてもらおう」



そう言い残すと、彼女は自らの心臓をシンデレラグラスで出来たナイフで突き刺した。

シンデレラグラスは彼女の全てを吸いつくし、彼女はシンデレラグラスの中に消えていった。

シンデレラグラスは彼女の持つ力に耐え切れず、音を立てて崩れ去り、風と共に散っていった。

そして世界からシンデレラパワーと巨大兵器『アイドルマスター』は石碑となって消え、
彼らは二度とそれらが地上に顔を出すことの無いように地中深くに埋めた。

このことは誰も記録も記憶もしないようにし、平和な世界を一から作ろうと誓ったのだった。

彼らの持っていたシンデレラパワーと『アイドルマスター』も同じように
世界各地で『歌』による封印を行い、そして地中深くに埋めていった。

??凛「最後の一機も地中に埋めたし、これで『ニュージェネレーション』の役目も終わりだね」

??未央「ありがとう、『ニュージェネレーション』。
沢山思い出があるから寂しいけど、でも、これでよかったんだよね」

??卯月「はい!沢山、たーくさん頑張りましたから、ゆっくり休ませてあげましょう!」

??P「本当に、最後の最後までありがとうございました。
三人がいてくれたからこそ、この戦争を終わらすことが出来ました」

??凛「いいよ、そんなかしこまらなくて」

??P「ですが…」

??未央「いいってことよ。誰にも語り継がれなくたって、
私たちの中にその思いがあるなら、それだけで十分だって」

??卯月「はい!それに、これからはシンデレラパワーの無い普通のアイドルとして
世界を笑顔にするお仕事が残っていますし、本業を頑張りましょう!」

??凛「だね」

??未央「よーし、がんばろー!!!」

??P「…本当にありがとうございます」

??凛「でも、出来れば最後は音源じゃなくて私たちの『歌』で封印してあげたいんだけと、
それぐらいのわがままはいいよね?」

??P「はい。お願いします」

??未央「よーし、それじゃあ『ニュージェネレーション』を送り出してあげますか!」

??卯月「はい!!」





『できたてEvo!Revo!Generation!』

世界からシンデレラパワーと『アイドルマスター』は消え去り、
一から世界を作り直す大きな仕事が始まった。

しかしそこにアイドルがいたから、辛い時でも苦しい時でも笑顔を忘れることなく過ごすことが出来、
そしていつの間にか、シンデレラパワーにも『アイドルマスター』にも頼らない、暖かい世界が作られた。




そんな暖かい日も数百年の後に壊されることになる。


彼女と、シンデレラパワー、そして『アイドルマスター』の封印が解かれてしまう、運命の日を境に。




第一話
「アイドル・REBOOT」

次回予告

幼き日の記憶。
あの日交わした友情の誓い。
しかし月日は流れ、時は少女を戦場へと誘う。
幼き日の約束は、世界の事情により破られることになる。



次回、アイドルマスターシンデレラガールズREBOOT

第二話


「遠い日の約束」


約束の光は今も輝いているか。

第二話

「遠い日の約束」


Side 本田未央


ザッザッザッザッザ


とある森の中

随分と森の奥深くに石碑を封印してくれたものだよ、過去のアイドルさん。

空を飛んでパーッと目的地まで行ければいいんだけど、
二人のシンデレラパワーはまだ不安定だし、石碑を奪還した後の事を考えると、
余分なパワーを使わないように努めなきゃいけない。

今ここはキュート共和国の占領下かぁ…しまむー、どうしてるかな…。

本田未央「…」

高森藍子「?未央ちゃん、どうかしましたか?」

日野茜「お腹が空きましたか!?」

未央「あー、いやー、ちょーっと昔の事を思い出しててさ」

藍子「昔ですか?」

未央「そうそう、十年前ぐらいかなー」

茜「十年前ですか!十年前はこんな大きいロボットの操縦者になるとは思ってもいませんでした!」

藍子「私もです。私にシンデレラパワーがあったなんて、思いもしませんでした」

茜「しかもこんな重大な任務に就くなんて、想像したこともありません!」

藍子「ほとんど訓練しか経験が無いのに、本当に大丈夫なんでしょうか」

未央「うーん、二人はまだ実戦経験浅いけど、パッション国では貴重な専用機持ちだからね。
国としては何とか今回目標の『We’re the friends!』の石碑を奪還して
『アイドルマスター』をリブートさせたいんだよ。それだけ切羽詰ってるとも言い換えられるけど」

藍子「…」

茜「せ、責任重大です…」

未央「そんなに気負わなくていいって。責任は隊長である私が全部負うから、二人はしっかり実戦経験を積んでね」

藍子・茜「はい!!」

未央(…とは言ったものの、『We’re the friends!』は先月キュート共和国が
クール王国から奪還したものだし、石碑を奪うとするとなるとキュート共和国の精鋭と
ドンパチやらなきゃいけないわけで。上層部はキュート共和国にも甚大な被害が
あったはずだから攻めるなら今だ!なんて言ってたけど…嫌な予感しかしないなー)

ここはとある国の山脈地帯。
遥か昔、『アイドルマスター』が封印された地。

『アイドルマスター』の石碑は、
その石碑に刻まれた譜面の『歌』を歌うことにより封印から解放される。

世界はそれをリブートと呼び、各国が挙って『アイドルマスター』をリブートし、
強大な力を持って他国を制圧しようとしている。

しかし、誰もが『アイドルマスター』をリブート出来るわけではない。
譜面の色という物があり、その色に呼応するシンデレラパワーを持った
アイドルの『歌』でしかリブート出来ない。

専用機といわれる『アイドルマスター』は、譜面の色とシンデレラパワー、
そしてそのアイドルが持つ波長が寸分たがわず合致して初めて封印が解かれる固有機体であり、
そのアイドルの為だけにある『アイドルマスター』という事にる。

本田未央専用機
『トリプルスター』
特殊機能 ミツボシ 連続三回の超高速移動が可能。
機動力は全『アイドルマスター』の中で随一。
操縦者にかなりの負担がかかる為、ミツボシの連続使用は不可。


高森藍子専用機
『陽だまり』
特殊機能 スロウ/クイック 自分の周囲の時間の流れを早くしたり、遅くしたりすることが出来る。
高森藍子のシンデレラパワーが少ないため、長時間・連続の使用は不可。


日野茜専用機
『ファイヤーバースト』
特殊機能 ボンバー 自分の周囲に炎を発生させる。
または自機に炎を纏わせ、攻撃にも守備にも、時には推進力にすることもできる。
彼女のシンデレラパワーにムラが多く、安定して使いにくい。

各国が石碑を欲しがるのは自分たちがリブート出来る石碑だけではない。

他国がその力を行使できないように石碑を支配し、戦力増強させないことも重要な軍事戦略の一つ。

現在はキュート共和国、クール王国、パッション国、そして中立軍という4つの力が鬩ぎ合っている状態である。

未央「さーて、そろそろ目標の石碑がある岩間が見えてくるんだけど…」

茜「あ!ありました!!」

未央「ちょっと下がって」チラッ

藍子「…敵兵の守りが緩いですね」

茜「これは単騎で突破しても何とかなりそうですね!」

未央「いや、待って。罠の可能性が高い」

藍子「罠ですか?」

未央「うん。流石にこれはあからさま過ぎる。
もしかしたらうちらが侵入してきたことが敵にばれた可能性がある」

茜「本当ですか!?」




????「見つけました♪」




嫌な予感というのはあたるもので。

そうだよね。クール王国の屈強な軍隊から石碑を奪うことが出来る人間なんて、君しかいないよね。



未央「いやー、しまむー。久しぶりだね」

島村卯月「はい♪お久しぶりです、未央ちゃん」

藍子「…お知り合いですか?」

未央「随分昔からね。戦場で会うのは半年ぶりぐらいかな。正直会いたくなかったよ」

卯月「私は会いたくて仕方ありませんでしたよ。
さあ、戦いましょう!今日は私の仲間も来ているんですから」

未央「それはとってもキュートで厄介だね」

卯月「それじゃあ美穂ちゃん、智絵里ちゃん、クールの軍隊を追っ払ったように、ガツンと一発頑張りましょう!!」

小日向美穂「は、はひぃ!!」

緒方智絵里「み、美穂ちゃん…おちちゅ…おちちゅきましょう!」

卯月「ふ、二人とも落ち着いてください!!」

…これは厄介だ。
しまむーだけでも厄介なのに、他の二人も専用機持ちとは。

美穂、智絵里…みほちーとちえりんでいこう。

しかもあの専用機三体、私たちポジティブパッションと同じユニットパワーがある。

この戦い、負けている部分が多すぎる。
情報戦争でまず負けている。あの二人の情報は一切パッション国には入ってきていない。

それと何よりまずいのは、クール軍から『We’re the friends!』の石碑を奪還した際に、
しまむーだけではなくあの二人もその場にいて、前線で活躍していると言うことだ。

あーちゃんも茜ちんも圧倒的に実戦経験が無いしシンデレラパワーも不安定だ。
この時点で戦力差はあまりにも開き過ぎている。
しかも相手さんは索敵に空を飛べるだけの余裕があるそうだ。シンデレラパワーも圧倒的差がある。

もう少し楽な現場だったら経験値を詰めたんだけど、
今回はあの二人の専用機の性能を知るのと無事に帰還するのが第一目標になりそう。

未央「さーて、じゃあ一つ行ってみようか!!」

藍子・茜「はい!!」

未央「茜ちん!でっかい炎の塊をぶん投げて!!」

茜「了解です!!いっけーーーー!!ボンバーーーーーーー!!!!」

まずは小手調べ。これでやられてくれるような軽い相手だったらいいんだけどね。

まあ茜ちんの炎が軽いとは思わないけど、どう出るしまむー。

卯月「いずれ情報は世に出てしまいます。出し惜しみは無しですね。
智絵里ちゃん!クローバーフィールド全開でお願いします!」

智絵里「は、はい!」


緒方智絵里専用機
『風色』
特殊機能 クローバーフィールド 風で四葉のクローバーを前方に作りだし、
様々な攻撃を防ぐことが出来る。風を操り攻撃をすることも可能。

しまむーとみほちーが地上に降りてきた。

未央「ずーっと空を飛んでパワー切れしてくれたらと思ってたんだけどなー」

卯月「美穂ちゃんは地上戦が得意なもので。
私は隊長として二人の成長を見守る役目がありますから、少し離れて見てますね」

そのままどこか遠くまで行ってくれればいいんだけどね。

未央「茜ちん、どんどん攻撃お願い。あーちゃん、みほちーに肉弾戦!練習通りやれば大丈夫!」

茜「はい!!!!」

藍子「はい!!」

しまむーはこの戦いを訓練の場所と考えてる。
私が『We’re the friends!』の石碑を奪う事を諦めているのもきっとばれている。
まあ、ここにキュート軍が大勢いるわけだし、無理をしても石碑が奪えないのは分かり切ったことだ。

余裕がある軍は羨ましい。うちらパッション国には戦力が少なすぎる。

しまむーも無理に部下の戦いに手は出してこないだろう。
でもそれは希望的観測だ。戦いはいつも非情で、不測の事態はいつでも起こる。

胸ポケットに入れてあるオレンジ色のガラス球を無意識に握っていた。

…もう十年も前なんだね。

藍子「はっ!はっ!!」

美穂「はあーーーー!!」

あーちゃんの動きはなかなかいい。
シンデレラパワーが限られているから特殊能力の連発はきついけど、
機体の動かし方がスムーズだ。
なるべく省エネルギーで組み伏せられる格闘方法を身に付けていれば戦場でも大きな力になる。

卯月「なかなかいい動きです。でも、圧倒的にパワーが足りません。美穂ちゃん!ビースト発動です!」

美穂「はい!!」

未央「!!」


小日向美穂専用機
『ネイキッド』
特殊能力 ビースト 一定のシンデレラパワーを籠めることで、
操縦不能に陥るが飛躍的にパワーを向上させることが出来る。
籠めたシンデレラパワーが切れると通常モードに戻る。

藍子「ぐっ…」

まずい、かなり機体が押され始めている。

未央「あーちゃん、スロウ解禁!!機体ダメージを最小限に!!」

藍子「は、はい!!」

みほちーの振り上げられた腕のスピードが落ちる。後ろに回り込み後方へぶん投げる。
よく相手を見ている。あの手合いの攻撃はとりあえず近寄らないのが一番だし、
時間が来ればあの超パワーも切れるだろうから、ああやって遠ざけるのは良い判断だ。

茜ちんの方を見てみると、今は安定してボンバーの能力が発動している。
内在するシンデレラパワーの量は多いから、それが安定して使えればこちらとしてもありがたい。

ちえりんの能力もかなり削られてきているみたいだし、飛行高度がどんどん落ちてきている。

これは…いけるか。


突如背筋が凍る。しまむーと戦場で交えると何度も経験するこの感覚。

卯月「美穂ちゃんをこっちに投げてくれてありがとうございます♪」

しまむーの機体がみほちーを抱えてちえりんの後ろに浮上している。


やばい…やばいやばいやばい!いつもよりも遥かにやばい!!!!!


未央「コードESバースト!!!」

藍子・茜「は、はい!!!!!」

卯月「逃がしません♪」

しまむーの機体からとんでもない量のシンデレラパワーが溢れている。


卯月「美穂ちゃん、シンデレラパワーの譲渡および三機の機体安定に従事。
智絵里ちゃん、クローバーフィールドを後方に最大展開。機体安定に従事。
並びに後方部隊への被害軽減に尽力お願いします」

美穂・智絵里「はい!!!」


島村卯月専用機
『ピース』
特殊機能 スマイル 数多の策略を捻り潰す一撃を繰り出す。
パワーの充填に時間がかかり、一機で使用する場合、機体が安定しにくく使い勝手が悪かったが、
ピンキーキュートのユニットパワーで能力が向上し、無類のパワーを発揮出来るようになった。

未央「しっかり掴まっててね!!!行くよ、ミツボシ!!!!」

茜「うーー、ボンバアアァァァァァァァ!!!!!!!」

藍子「クイック、前方方向に解放します!!」

茜ちんのボンバーを推進力に変え、
あーちゃんのクイックを逃げる方向へ直線展開、少しでも移動速度を上げる。
そして私のミツボシの高速移動でしまむーの攻撃射程から逃れる。
私たちポジティブパッション最高速の戦場離脱コード。

それでも背筋の寒気はぬぐえない。多分、あの攻撃はとんでもない。

『アイドルマスター』随一の力対速さの戦いだ。



卯月「島村卯月、頑張ります!!!!」



振り下ろされる両腕。



轟音と共に山脈地帯が地図から消え、渓谷地帯が出来上がった。


未央「…ぎ、ギリギリ射程から逃げれた…」

茜「な…な…なんですかあれは!!!」

藍子「山が…」

未央「いやー、前まではもーちょーっと威力が弱かったんだけど、
あの二人が後ろにいることでパワーが安定・向上して更なる力が発揮できるようになったみたいだね」

藍子「あんな攻撃当たったら…」

未央「ぺしゃんこで済めばいいぐらいだね」

茜「」

未央「でもまあ何とか三機とも無事生還できたから良しとしよう」

藍子「で、でも任務が!!」

未央「今回はしょうがない。専用機がただでさえ少ないのに、
三機ともスクラップになったら、それこそパッション国が大変なことになっちゃう」

茜「で、でもですね!!そうしたら未央ちゃんが…」

未央「いいのいいの、責任取るのが隊長の役目さ。
早く帰って、あのパワーに対抗できるよう、また訓練だね」

藍子「…はい」

未央(…あれは、本気の一撃だったよね)

胸ポケットのガラス球をまた強く握りしめる。





戦争。
それは友情も約束をも踏みにじる。

十年前


未央「どうしたの?」

卯月「い、いえ、大丈夫です」

未央「泣いてるのに?」

卯月「…」

未央「よーし、じゃあ優しい未央ちゃんがこのおいしー飴玉を君にプレゼントしよう!」

卯月「へ?」

未央「そしたら向こうに一緒に行かない?あっちの森の方にさ」

卯月「森に行きたいんですか!?」

未央「お、おう。何か無性にあっちの森に行きたいと思っててさあ」

卯月「実は私もなんです!」

未央「お、じゃあ私と一緒だね。名前は?」

卯月「島村卯月、七歳です!」

未央「私は本田未央、五歳だよ」

卯月「よろしくね、未央ちゃん」

未央「よろしく、しまむー!」

卯月「し、しまむー?」

未央「そう、しまむー!ここで会ったのは運命ってことで、これから私たちは友達ね」

卯月「と、友達ですか?」

未央「そうそう!行きたいところも同じだし、私たちは運命に導かれてここで出会ったんだよ!」

卯月「そ、そうなんでしょうか…」

未央「ま、細かいことは気にしないで、あっちの森へレッツゴー!」

卯月「は、はい!ゴー!」






数奇な運命は十年前から始まった。
彼女たちは出会い、そして離れる。
戦場で導かれるように出会い、そしてまた離れる。
戦い炎は、まだ産声を上げたばかりである。

次回予告

強大な力に翻弄され、大人たちの道具として操られ、
それでも彼女たちは戦場へと向かう。
大いなる力を求めて、人はその欲望を加速させる。



次回、アイドルマスターシンデレラガールズREBOOT

第三話


「中立軍のアイドルたち」


その強さ、人知を超える。


トランシングパルス聞いていたら書きたくなったので書いてみました。
アイドル×ロボットっていいよね。
気ままに更新できればと思います。

アイドルの機体名とか能力とか思い浮かんだら書き込んでくれると嬉しいです。
ちょいちょいパクらせてもらえればと思います。

胸焼けするぐらいコテコテのが書ければと思います。

おやすみなさい。

第三話
「中立軍のアイドルたち」


Side 渋谷凛


同時刻 雪原地帯上空

クール戦艦内ラウンジ


万年雪が吹き荒れる雪原地帯に今回目標の石碑がある。

石碑があるからこの地域は年中雪が吹き荒れているという噂もあるぐらい、
強力な『アイドルマスター』らしい。

この地域の民間伝承だそうだが、真偽のほどは分からない。

神谷奈緒「で、今回の目標が『Nation Blue』って石碑なのか」

渋谷凛「そう。『We’re the friends!』をキュート共和国に奪わせたのは、
パッション国は戦力不足だし、クール王国と一戦交えた後の
キュート共和国の被害も大きいって誤情報を流して、
パッション国が『We’re the friends!』奪いに行かせるため。
他国の戦力を分散させて『Nation Blue』を効率よく手に入れる為にね」

奈緒「でも『We’re the friends!』の『アイドルマスター』が
他国に渡るのは看過できないんじゃないか?」

凛「『We’re the friends!』はどの国のアイドルでもリブート出来る。
私も譜面を読めたし、卯月…キュート共和国の人間も読めていた」

奈緒「ん?」

凛「誰もが読める譜面からリブートされる『アイドルマスター』は
複数人が乗り込むタイプの機体が多いらしい。
誰もが読めるタイプの石碑のリブートには、特定の色の譜面に合致する石碑よりも
遥かに莫大なシンデレラパワーが必要になってくる」

奈緒「リブートにかかる時間とコストが見合わないってことか」

凛「そう。うちらの国の現存アイドルだけでは、
短時間であの『アイドルマスター』をリブートは出来ない」

奈緒「私もあの譜面を見たけど、どれだけリブートに時間とパワーがかかるかなんて分かんなかったな。
凛はそういうのが分かるのか?」

凛「何となくね。何となく、そうなんじゃないかなって」

奈緒「ふーん。パッション国はそれをわかっていたのか?」

凛「あの国は脳味噌が筋肉で出来てるような軍が国のトップだから、
アイドル、『アイドルマスター』、軍事力になるものなら何でも見境なく集めていく。
石碑の性質なんて二の次三の次」

奈緒「あのままうちらが『We’re the friends!』の石碑を護っていても、
いずれはどっかの国が向かってくるってことか」

凛「そ。それに、キュート共和国にあの石碑はキュートの色を持つ人しか読めないって
誤情報を流したのも、パッション国より先に来てもらうため。
キュート共和国ならパッション国ぐらい簡単に追っ払えるだろうから」

奈緒「軍国主義国家の割に、軍の力が弱いんだな」

凛「あの国はアイドルが少ないんだよ。アイドルが育ちにくいというのもあるし、国外に亡命する人間も多い。
でも軍拡していくしか国を維持していくことが出来ない。そうなった国なんだよ」

パッション国が片手間で追い払えるほど貧弱な国ではない。

未央もいる。未央の周りには新しいアイドルと専用機もある。

立派な人間が上に立てば、もっと厄介な国になっているはずだった。

でもそうならなかったのは、彼らの考える幸福がどこまでたっても
自分たちが第一に幸せになることを追及していたからだ。

奈緒「可哀想な国…」

凛「…それはその国にいないと分からないことだよ。
その国でも幸せに生きている人もいる。
うちらの国の思想も他国には分からないだろうし、
私たちが中立軍の考え方を理解できないように、立っている人の向きで全てが変わる」

奈緒「…」

凛「それにね、どの石碑も長く護るには相応のリスクがある」

奈緒「…中立軍か」

凛「そう。多分あのままあそこの石碑を護っていても、いずれ中立軍も侵攻してくる。
うちらの国からは遠いし、戦力を輸送するのにはコストがかかりすぎる。
あまり利益の無い場所だったってこと。『Nation Blue』の確保を最優先にした捨石の石碑って国は考えたみたい」

奈緒「中立軍には大部分の『アイドルマスター』をリブートされたし、
石碑もだいぶ奪われたけど、あいつらは何がしたいんだ?」

凛「中立軍の理想は戦力の放棄だね。『アイドルマスター』をリブートして、
それを基地に格納しているっていうのがもっぱらの噂。
戦場で見る中立軍の『アイドルマスター』はどれも同じ専用機だけだし」

中立軍のリブートに不可解な点が多くあるのは事実。

あの軍にはそれだけのアイドルがいるのだろうか。

リブートしている『アイドルマスター』の量が多すぎる。

奈緒「現存戦力だけであれだけの強さを誇ってるんだからたまったもんじゃないよな」

凛「だから何とか『Nation Blue』をリブートして戦力の増強を図りたいというのが上層部の願い」

奈緒「『Nation Blue』はうちらの色の譜面なんだっけ?」

凛「そうだって偵察部隊から報告があったでしょ。さっきの会議聞いてなかったの?」

奈緒「いやー、加蓮の手当てで出てないんだよ」

凛「そっか。加蓮は大丈夫?」

奈緒「今の所は安定してるよ。私が貯めておいたシンデレラパワーを外部ユニットで補充してる」

凛「ここ最近無理してたからね」

奈緒「病み上がりだったのと、加蓮も二人に負けてられないって言って気張ってたからなー」

凛「おかげで『薄荷』の石碑をリブートできたのはよかったけど」

…各隊員に告ぐ。
目標の石碑到着まで一時間。
各隊員、持ち場に戻れ。
繰り返す…

奈緒「おっ、そんなこんなで時間だな」

パタパタパタ

北条加蓮「おまたせー」

奈緒「お、やっとかー」

凛「体調はどう?」

加蓮「ばっちり!って言いたいところだけど、半分くらいかな」

奈緒「あんま無理すんなよ?」

加蓮「無理しなきゃいけない時もあるでしょ?」

奈緒「まあ、な」

凛「今回はかなり本格的なリブート作戦だからね。
私らトライアドプリムスにこの戦艦、他に二機の戦艦も後方に控えてる。
専用機持ちではないけれどアイドル八名にアイドル候補生七百名。
量産型『アイドルマスター・如月』も三百機積んでる」

奈緒「これだけあればどんな『アイドルマスター』が来ても大丈夫だろ」

今回は無理をしなければいけない作戦。

本来どの石碑をリブートするにもかなりの時間とパワーが必要になる。
それを一度の進行でリブートし、持ち帰ろうとしている。
それだけ国が他国の軍拡に危機感を抱いているという事だ。

軍拡の初動が遅かったため、他国に侵略されるという事に対して
非常に敏感になっているという面もある。
急速な軍拡を行ったために、国内でもかなりごたごたが起こった。

色々な人が出て行った。出て行ってしまった。


凛「そう上手くは行かないと思う」

加蓮「そうなの?」

凛「この石碑は他の『アイドルマスター』よりもうちの国にとって価値が高い。
主力が交戦中のキュート共和国とパッション国の介入は考えにくい」

奈緒「という事は…」

凛「戦力の放棄を謳う中立軍がうちらの軍拡を抑えるために出てくる」

奈緒「…」

加蓮「中立軍かー。実際に戦ったことないけど、そんなに強いの?」

凛「強いってもんじゃない。あれは化け物の類」

目障りな赤色の警告灯が艦内の空気を一変させる。

…警告!警告!警告!
前方に『アイドルマスター』の機影を確認。
中立軍、高垣楓の『アイドルマスター』『こいかぜ』と判別。
直ちにアイドル・アイドル候補生は如月に搭乗、即時戦闘開始。
トライアドプリムス、戦闘準備。如月での総攻撃の後、確実に仕留めよ。
警告!警告!警告!…


出て行った人がいる。

そして、戦場で再会する人がいる。

Side 島村卯月


山脈地帯 その後

少し、力を使いすぎました。
これだけのパワーを使っておいて、収穫は二人の実戦経験を積めたという事ぐらいでしょうか。

美穂「卯月ちゃん!大丈夫ですか!?」

卯月「はい…ちょっと疲れちゃいました。少し休んでから警備に戻りましょう」

戦いは、あまり好きじゃありません。その気持ちを隠すには、笑顔でいるしかありません。
嘘でも笑顔でいれば、いずれ嫌な事も好きになるかもしれません。

未央ちゃんは無事に逃げれたのでしょうか。

…いえ、敵の心配をしてはいけません。それがかつての友人だったとしても、
その感情が自分を殺す日が来てしまいます。

でも…このピンク色のガラス球だけは、今も捨てられずにいます。

智絵里「こ、今回の攻撃はどうでしたか?」

卯月「はい、ばっちりでした」

智絵里「よかった…」

卯月「課題としてはもっと攻撃にクローバーフィールドを使えるようになることですね」

智絵里「…はい」

美穂「私はどうでしたか?」

卯月「ユニット攻撃の際は安定していましたが、単機でもう少し戦えるよう、基礎をしっかり積み重ねましょう」

美穂「はい!」

こうして隊長として指示を出しているのは何だか不思議な気分です。

キュート共和国の中で一番に『アイドルマスター』の専用機乗りになってしまって、
戦場に出なければいけない身になり、いつの間にかこんな身分になっていました。

キュート共和国は貧しい国です。

資源は少なく、農作物も育ちにくい北方の土地で、南下はどうしても必須政策でした。

戦わなくていいのであればどれだけよいか。
それでもこの巨大兵器『アイドルマスター』を使用してしまった以上、もう引く事も出来ません。

この戦争を始めてしまったきっかけは、キュート共和国の南下政策も原因の一つでした。

戦争初期は『アイドルマスター』の存在は無く、ただの兵器のみの戦争でした。
『アイドルマスター』が戦争に加わった初期から乗っていた人たちは、
いつの間にか各国のエースパイロットと呼ばれています。

キュート共和国、私、島村卯月。
パッション国、本田未央ちゃん。
そしてクール王国、渋谷凛ちゃん。

エースパイロットを軸にして、領地や石碑の奪い合いが行われています。
十年前、不思議な運命に導かれてか、礎の島で出会った三人が、
こうして戦場で会いまみえることになるとは、誰が予想できたでしょうか。

この三名に加え、イレギュラーなのが中立軍。

エースパイロットは高垣楓さん。
中立軍はかなりの腕利きが多く在籍し、どれもみんな恐ろしく強く、中には…


「島村卯月隊長!!」

卯月「ひゃい!!?」

「こちら司令部。北西部より三機、未確認の『アイドルマスター』を確認」

卯月「…三機」

「はい。先ほどのパッション国の三機ではありません。迎撃の準備を始めます」

卯月「機影がどこの国か確認してから判断します。迎撃の指示は私に従ってください」

「承知しました」

未確認の機影…。答えは分かっています。

パッション国の三機が戻るはずはなく、クール王国が再びこの地に入ってくることは現実味がありません。

彼女らじゃない、中立軍の三機ではないという、甘い希望。












フフーン!







Side 渋谷凛


凛「…高垣楓。一番厄介なのが出てきたね」

加蓮「戦ったところは見たことないし、噂でしか聞いたことないけど、そんなに強いの?」

凛「強いよ。圧倒的。機動性能特化型の如月は装甲がかなり薄く作られてる。
アイドルと、候補生のシンデレラパワーでは防御にエネルギーを回すので手一杯だと思う」

奈緒「そんなにか!」

凛「専用機でも厳しい。近寄るのも難しいし、近寄ってもまずい」

加蓮「何それ!?何も出来ないじゃん!」

凛「出来るとすれば、高垣楓の能力が切れるまで攻撃を仕掛けるしか方法は無いんだけど」

奈緒「でも…」

凛「そうならないから、高垣楓は中立軍のエースパイロットとして君臨してる」


クール王国の元エースパイロット。
高垣楓の攻略法は、能力を使わせてパワー切れを起こさせるしかない。
でも、如月が三百機。
しかも専用機無しのアイドルとアイドル候補生の微力なシンデレラパワーでどこまで出来るのか。



…如月、全機発進!!高垣楓に能力を使わせ続けろ!!
トライアドプリムス、全力で高垣楓を討て!!

雪原地帯のせいか、座席シートが冷たい気がする。


凛「二人とも、準備はいい?」

奈緒「おう!」

加蓮「任せて!」

凛「シンデレラパワーを機体防御シールドとして膜状展開」

奈緒・加蓮「了解!」

凛「じゃあ行くよ」

凛・奈緒・加蓮「チョコ・レー・トー!!!!」

少しぐらい機体に傷があったり、大半の如月が残っていたりする、
多少なりとも考えられうる嬉しい事態を想像していた。

戦艦の外に出て、悲惨な現実に引き戻される。



高垣楓「チョコはちょこっとだけ食べるのが健康の秘訣です」



シートが冷たかったのは雪原地帯のせいじゃない。この人のせいだ。

楓「凛ちゃん、お久しぶりん」

凛「退いてください。貴女の後ろにある石碑はクール王国がリブートすべき石碑です」

楓「昔みたいに、楓さんって呼んでいいのよ?」

凛「裏切り者の名前なんて、呼びたくないので」

奈緒「何だこれ…如月が全機落ちてるぞ!?」

加蓮「しかも傷一つない…」

凛「それが『こいかぜ』の能力。ももう少し耐えられると思ってたんだけど、
能力が向上してるみたい。でも厄介なのはそれだけじゃない」



高垣楓専用機
『こいかぜ』
特殊能力 よいかぜ 広範囲に『アイドルマスター』の機体異常を起こさせる磁場を生成する。
また、こいかぜの手に触れられると『アイドルマスター』の機能が一定時間、完全に停止する。

楓「ふふっ、さあ凛ちゃん、どうしますか?」

凛「戦うよ。奈緒、加蓮、能力発動」

奈緒「おう!」

加蓮「よーし!」


神谷奈緒専用機
『セカンド』
特殊能力 ダブル 『セカンド』の分身を作り出すことが出来る。
機体性能をそのままコピーすることが出来、神谷奈緒の操縦技術、
シンデレラパワーの強さが直接ダブルの能力に反映される。
自機と分身の両機体を操作しなければいけないため、かなりの操作性が求められる。


楓「あら、一機増えました。お酒も『アイドルマスター』もいっきのみ、は危険ですからね」

北条加蓮専用機
『薄荷』
特殊能力 薄化粧 シンデレラパワーを消費し、自機を完全に透過させることが出来る。
レーダーにも映らないが、多量のシンデレラパワーを消費するため、多用することが難しい。


楓「と思ったら一機消えてしまいました。北条加蓮ちゃんの機体かしら。はっかないですねー」

凛「(情報は筒抜けか…)つまらない事言える余裕、なくしてあげるから」


渋谷凛専用機
『ネバーセイバー』
特殊能力 アイスソード シンデレラパワーを氷に変換できる。
『ネバーセイバー』に装備されている刀に纏わせることも、射出することもできる。
シンデレラパワーの量によって氷の威力が増減する。

楓「…出来れば戦いたくありませんが、仕方ないですね」

強烈な負荷が機体にかかる。
特殊能力よいかぜの威力を最大限まで高めたようだ。
氷の威力が弱まっている。

楓「消えた加蓮ちゃんみーつけた」

加蓮「なっ?!」

凛「加蓮!!」

強力な磁場のせいで機体性能がかき乱されている。
加蓮のステルスの能力がレーダーに感知されるぐらい弱体化された。

奈緒「させねえよ!!」

ダブルがこいかぜに攻撃を仕掛ける。でも動きが悪い。
本体の操縦もかなり厳しくなっているのに、もう一機動かしながらだといつもの精密な動きが崩れてしまっている。

凛「援護する!」

射出する余裕が無いほど磁場の力が強い。
私も攻撃に参加して、加蓮が停止させられるのを回避しなければ。

楓「じゃあまずは偽物から動きを止めさせてもらいましょう」

奈緒「なっ…くっそ!!」

本来はダブルを自機の近くで使い、二機で挟み込んで使用するのが
一番効率の良い能力の使い方だけど、高垣楓の能力の前ではダブルを単機で使用し、
なるべく彼女の能力を使わせる方が得策だ。

触れられないように何とか操縦をしていた奈緒のダブルも、
彼女の磁場の中では赤子の手を捻るよりも容易く、彼女の能力の餌食になってしまった。

凛「加蓮、逃げて!!」

奈緒が作ってくれた機会を無駄には出来ない。
彼女をけん制しつつ、加蓮を安全な位置まで引き離さなければ。


加蓮「…」

凛「加蓮!?応答して!!」

奈緒「やっぱりまだ搭乗は無理だったか!?」

加蓮「だ、大丈夫…ちょっとくらっと来ただけだから」

この磁場の中で『アイドルマスター』を動かすのはかなりのパワーを消費する。
完璧に回復しきっていなかった加蓮のシンデレラパワーではかなりきついだろう。

凛「加蓮、能力解除!全力で距離を保つようにして」

加蓮「了解!!」


楓「でも残念。手を高く伸ばして、はい、たっち」


奈緒「加蓮!!」

加蓮「お、落ちる!!」

シンデレラパワーが『アイドルマスター』に伝わらず、飛行に回していたエネルギーが切れてしまった。

凛・奈緒「加蓮!!!」

全てのシンデレラパワーを推進力に変えて、奈緒も私も加蓮を受け止めに行く。

楓「間に合いますか?色々な意味で」

奈緒「ま、間に合ええぇぇぇぇぇ!!!!」


奈緒のセカンドが加蓮の腕を掴んだ。

奈緒「よし!!」

間一髪。でも今度は奈緒のシンデレラパワーの残量がマズイ。
加蓮の機体を引き寄せられても、再度上昇できるだけのパワーが持つか分からない。

高垣楓は一体どれほどの磁場を発生させているのだろうか。
奈緒のシンデレラパワーはかなりの量がある方だ。しかしそれがこの削られ方。
私の残量もなかなか厳しいことになっている。

でもとりあえずは奈緒と加蓮の救出が最優先。二人そろって地面に激突なんて、本当に洒落にならない。


凛「届けぇぇぇぇぇ!!!」


何とか落ちる加蓮の機体に回り込めた。
あとはもうシンデレラパワーをフルで機体上昇エネルギーに回す。

凛「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

奈緒「上がれぇぇぇぇ!!!!」

地面ギリギリ、何とか激突は避けられた。
でも、もう二機ともシンデレラパワーが底を突く。

加蓮の機体もどれだけで回復するか分からない。
これだけ高垣楓の能力が強くなっていると考えると、
完全停止時間も以前より遥かに伸びているだろう。

楓「さあ、どうしますか?それに私の能力、クール王国にいる時よりも進化していますよ?」

凛「…どういうこと?」


高垣楓専用機
『こいかぜ』+
特殊能力 よいかぜ 広範囲に『アイドルマスター』の機体異常を起こさせる磁場を生成する
(同時に、その磁場内に存在するアイドルからシンデレラパワーを吸収する)。
また、こいかぜの手に触れられると『アイドルマスター』の機能が一定時間完全に停止させられる。


楓「この磁場内のアイドルのシンデレラパワーを吸収しているんです。
他のアイドルや候補生のシンデレラパワー、もうそろそろ活動限界値じゃないかしら。
この雪原地帯ですから、今頃みんな寒さでブルブル震えて顔色がブルーになっていますよ?」

凛「!?」

楓「どうしますか、凛ちゃん?大人しく全軍引いてくれるなら能力を解除しますし、
まだ戦うと言うのであれば、後方の石碑付近に控えている専用機四機を呼びます」

奈緒「…後方に更に専用機が四機だと!!?」

加蓮「専用機の数は最初から負けてたってことね…」

凛「…渋谷凛より本艦に通達。これ以上の戦闘は犠牲者を増やすことになります。本作戦は失敗。撤退を」

「どうにもならない状況か」

凛「どうにもなりません。石碑付近に専用機が四機控えているそうです。
また、こちらの現存勢力は『ネバーセイバー』と『セカンド』、機能停止中の『薄荷』のみ。
量産型『アイドルマスター』如月は無傷ですが、搭乗者のシンデレラパワーが底を突きます。
この雪原地帯の気温で生命維持活動もかなり危険な状態にあるようです。
高垣楓の能力がこれ以上長引けば、多数の死者が出ることが予想されます。
今引き返すのであれば高垣楓との交渉の余地あり」

「…撤退を承認。如月の回収後、速やかに本国へ帰還する。
本国への通達を行う。高垣楓との交渉を最優先に、全軍の無傷の帰還を」

凛「了解」

楓「さて、どうしますか?」

凛「撤退するよ。全軍無傷で返してもらえるとありがたいんだけど」

楓「それはあなた達次第です。少しでも攻撃の意志を見せた場合、
能力の使用と専用機四機の投入を行います」

凛「それは大丈夫。倒せる見込みもないし、シンデレラパワーももうそろそろ切れる。
軍はもう全機無事で帰ることを最優先してる」

楓「もしかしたら後ろに専用機四機もいないかもしれませんよ?」

凛「いてもいなくてもどちらでも判断は変わらないよ。今の貴女に勝てる見込みがないしね」

楓「それは残念です。私と戦うなら、もっと強くなるひつよーがありますね」

凛「敵に送る言葉じゃないよ。奈緒、加蓮を連れて帰艦しよう」

奈緒「了解。加蓮は…まだ動けないか」

加蓮「…ごめんね」

奈緒「加蓮のせいじゃないよ」

凛「それじゃあ行くよ」

残りのシンデレラパワーを振り絞って戦艦まで急ぐ。
既に高垣楓の特殊な磁場は解かれている。少し機体が軽くなった気もするが、
ほんの少しの戦闘でどれだけの体力が削られたのだろうか。計り知れない。
こんなにも私と彼女の間には力の差があるのか。

操縦桿にぶら下げてある青いガラス球の入った袋を指ではじく。
強くなったと思っていたのに、そんなこと無かったんだね。

振り向いて彼女の機体を見る。こちらを送り出すように、彼女は私たちをじっと見つめて佇んでいた。








楓(凛ちゃん…強くなってください。今よりもっと)

Side 島村卯月


輿水幸子「さあ、中立軍で一番カワイイボクが来ましたよ!
恐れ戦き、『We’re the friends!』の石碑を渡してください!!」

白坂小梅「そ、そうだー」

星輝子「お、おー」

幸子「ちょっと二人とも!もっと大きい声で言わなきゃ駄目じゃないですか!!」

小梅「で、でも幸子ちゃん…ここからじゃ遠くて何言ってるか聞こえないと思う…」

輝子「わ、私もそう思うぞ…フヒ」

幸子「いえ!こんなにカワイイボクですから、どんなに遠くても絶対に聞こえるはずです!!」

美穂「あれは…何でしょうか?」

「こちら司令部!未確認の『アイドルマスター』は中立軍の『142’s』と判明!!」

卯月「…一番相性の悪い相手が来てしまいました」

美穂「相性ですか?」

卯月「はい…」

智絵里「ど…どうしましょう?」

卯月「現状で彼女たちに対抗できるのは私たちだけです。
極力無駄な戦闘は避け、非戦闘員への被害を抑えること。
そして何より輿水幸子ちゃんへの攻撃をしないことです」

美穂・智絵里「?」

卯月「司令部の方、敵機『アイドルマスター』はピンキーキュートが対応します。
迫撃砲、並びに量産機AMMの投入は私の指示があるまで禁止とします。
また、最悪の事態を想定し、撤退行動に移れるよう指示をお願いします」

「て、撤退ですか?!」

卯月「はい」

「敵機はたった三機ですよ!?」

卯月「では私たちピンキーキュートと互角に渡り合える自信があなたにはあるんですか?」

「い、いえ…で、ですが!こちらには専用機が三機にこれだけの兵器がそろっています!
無様に逃げ出すわけには…それに、本国になんと報告すれば!!」

卯月「多くの戦力を失うのと、すぐにリブート出来ない『We’re the friends!』を失う事のどちらが重要か、
本国にはお伝えください」

「本国の最優先命令はどんなことをしても『We’re the friends!』の石碑を護れと!!」

卯月「では出来る限りの事をしますが、それなりの被害を計算してくださいと、本国にお伝えください」

「ちょっ…!!」

卯月「美穂ちゃん、智絵里ちゃん、出ます!!」

美穂・智絵里「はい!!」

小梅「あ…誰か来た」

輝子「フヒ…専用機三機みたいだ」

幸子「カワイイボクたちをたった三機で撃退出来るとでも思っているんでしょうか?」

輝子「で、でも、あの真ん中の機体、見たことある…ぞ」

小梅「…卯月ちゃんだ」

幸子「そうですかー、卯月さんですかー。流れはボクたちに来ているようですね!」


佐久間まゆちゃんがいてくれればどうにかしようもありますが、
今こちらの専用機は三機中二機がパワータイプ。
量産機のAMMも捕縛用というよりは攻撃用にチューニングされています。
機動性と拘束性能が高い機体が一つもないのはとてもまずいです。

卯月「こんにちは、幸子ちゃん。今日はどんなご予定でしょうか?」

幸子「お久しぶりですね!わざわざボクたちを迎えに来るなんて、気が利いてますね」

卯月「…」

幸子「目的は『We’re the friends!』の石碑の奪還、並びにリブートです」

卯月「やっぱりそうですよね」

幸子「もちろんです!それ以上もそれ以外もありません」

小梅「え…でも」

輝子「ち「小梅さん!!輝子さん!!」

小梅「は、はい!」

輝子「フヒ!」

幸子「…わかっていますね」

小梅「う、うん」

輝子「も、もう言わない…約束だからな」

幸子「それでいいんです。では卯月さん、
速やかにキュート共和国の全軍を速やかに引き払い、石碑を明け渡してください」

卯月「素直に退くと思いますか?」

幸子「戦場でボクたちと何度も戦ってきたあなたなら、
この状況がどれだけ絶望的か、分からないはずは無いですよね?」

美穂「で、でも!相手は三機、こちらも三機です!
後方には量産機AMMも、地上には迫撃砲の準備もあります!
司令部の言うように、現状の戦力ならなんとか!!」

幸子「あなたは初めて見る顔ですね。ではボクたち『142’s』の
圧倒的な力を知るといいんです。新人パイロットにはいい経験でしょう!」

幸子ちゃんのシンデレラパワーが溢れだしてきます。
それに呼応するように小梅ちゃん、輝子ちゃんの機体にシンデレラパワーが流れていきます。

三機だけと考えれば勝てないこともない相手かもしれない。
でも、それで終わらないから彼女たちはこうして戦場の最前線に出てきています。

智絵里「う、卯月ちゃん!後ろからAMMが!!」

卯月「へえぇ!!?司令部の方!!何を!!?」

「本国よりAMMを使用し『142’s』を撃退せよとの命令!
ピンキーキュートは砲撃に当たらないように一度後退!砲撃の後、追撃をされたし!!」

卯月「ば、馬鹿な事しないでください!!死者が出ます!!!」

「本国より、多少の死傷者はやむを得ない。何よりも『We’re the friends!』を死守せよ!!」

卯月「…美穂ちゃん、智絵里ちゃん、引きます。彼女たちの暴走を止める場合、
機体を捨てる覚悟で挑みます。最悪の事態を想定してください」

美穂「そ、そんなにですか!?」

智絵里「そんな風に、見えないけど…」

卯月「たった三機で『We’re the friends!』の石碑を奪還しに来た人たちですよ?」

智絵里「…」

卯月「この近くにいては彼女たちの攻撃に巻き込まれます。
中立軍が脅威であることを、しっかりと目に焼き付けてください」

幸子「あ、あれ?本当に引いちゃうんですか?!」

輝子「で、でも後ろからなんか来た」

小梅「…AMMだ」

幸子「たかが量産機でどうやってボクたち専用機に勝とうと言うのですか!全く、舐められたものです」

輝子「で、でもいっぱい、来てるぞ」

小梅「あの子だけじゃ捌ききれないかも…」

幸子「ふふーん、仕方ありません!私が先陣を切りましょう!」

小梅「で、でも幸子ちゃん一人じゃあの数は…」

幸子「いつも通り、二人ともフォローをお願いしますね」

輝子「フヒ…任せろ」

小梅「ら、らーじゃー」

それは、何も知らない人が見たら凄惨な戦場の姿のようにも見えます。

たった一機の『アイドルマスター』に対して、地上からの無数の砲撃、
そして百機ほどの量産機『アイドルマスター』による空中での砲撃、
そして死を恐れぬ特攻を仕掛ける量産機。

そう、ただその一面だけを見れば凄惨な現場です。
煙が風で流れ、攻撃の標的となった幸子ちゃんの機体が姿を現します。


幸子「全く、煙くて仕方ありませんね。カワイイボクの機体が見えなくなるのもマイナスです!」


「…輿水幸子の『アイドルマスター』、無傷です!!」


輿水幸子専用機
『カワイイ』
特殊能力 カワイイボク 物理攻撃無効。


それだけでも精神的ダメージが大きいのに、後ろに控える二人が更に厄介です。

小梅「何度見てもやっぱり、あの子が嫌だって…幸子ちゃんが攻撃されるの」


白坂小梅専用機
『大きいあの子』+
特殊能力 ゴースト 見えない何かを使役し、物理攻撃。
範囲は白坂小梅の目の届く範囲内。(あの子の怒りに触れると、見えない何かがさらに増えて辺り一帯を攻撃する)


宙に浮いていた量産機AMMが突如白煙を上げて地上に落ちていきます。
何もない所から攻撃され、パニックになる隊列。四方に逃げ惑うパイロットたち。


輝子「ヒャッハー!!お前ら幸子に手ー出しておいて逃げられると思うなよ!!?ゴートゥーヘール!!!」


星輝子専用機
『トモダチ』+
特殊能力 増殖 シンデレラパワーを籠めることで機体の偽物を大量に作ることが出来る。
主に目くらましや逃走に使用される。一発殴れば消える。
(気持ちが昂ると星輝子のシンデレラパワーが暴走し、
『トモダチ』が攻撃モードへと変わる。増殖した機体も危害を加えた対象に攻撃をする)


AMMが二機の『アイドルマスター』の能力によってどんどん地上へと落ちていきます。
四分の三はもう地上で残骸になってしまっています。

幸子「小梅さん、輝子さん、もうそれぐらいで大丈夫です」

小梅「も、もう怒らなくて大丈夫だって。みんな、ありがとう」

輝子「フ、フヒ…テンション、上がった」

幸子「まあ、ボクたちにかかればざっとこんなものです。さて、メインディッシュが残っていますね」

驚くところは、彼女たちのシンデレラパワーが全く底を突きそうにないという事。


卯月「司令部、聞こえますか」

「…こちら司令部」

卯月「どうしますか?これ以上無駄に犠牲者を出す前に撤退するか、
最後の最後まで徹底抗戦をして専用機三機とも失うことを選びますか?」

「…撤退を本国に進言します」

卯月「遅すぎますが、良い判断です。こちらは『142’s』と交渉を試みます」

「了解」

卯月「幸子ちゃん」

幸子「はい?」

卯月「私たちはこの場から撤退します。『We’re the friends!』の石碑、お譲りします」

幸子「随分遅い判断でしたね」

卯月「…だから」

幸子「だから何です?ボクはあれだけの攻撃を受けたんです。
被害が出過ぎたんです、申し訳ありません、
石碑を譲りますから現存勢力の安全を保障してくださいと言うのは、
あまりにも都合がよすぎませんか?腹の虫がおさまりません」

卯月「…であれば、全軍を護るためにピンキーキュート、全力で頑張ります」

先ほどのパッション国との戦闘でシンデレラパワーの消費が著しく、
フルパワーでの迎撃は厳しいかもしれません。

でも、それでもこれ以上の被害を出すわけにはいきません。

輝子「フヒ…物凄いシンデレラパワー…」

小梅「あの子もおびえてる…」

美穂・智絵里「フォローに回ります!」

卯月「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

小梅「ど…どうする、幸子ちゃん?」

幸子「別にどうすることもありません。彼女の攻撃はボクには効きませんし。
まあ全力で迎撃するのもいいですが、今回は残りの勢力の安全は保障しましょう」

卯月「えっ?」

幸子「あなたと無駄に戦闘を始める気はありません。
速やかに撤退していただければそれだけでもう十分です」

小梅「幸子ちゃん、優しい」

輝子「寛大…」

幸子「そ、それほどでもありませんけどね。ふふーん!」

卯月「それじゃあ…」

幸子「ボクの気分が変わる前に早く目の前から消えてください。それがあなた達が生き残る最善の策です」

卯月「美穂ちゃん、智絵里ちゃん、撤退作業に加わりましょう!」

美穂・智絵里「は、はい!」

大急ぎで急転換し、キュート軍の撤退作業を手伝います。
『We’re the friends!』の石碑は惜しいものですが、
これ以上の被害を抑えるためには仕方ありません。




幸子「…さて、ではボクたちは『始まりのシンデレラ』を待つとしましょう。
『Nation Blue』よりも先にこちらに来るはずです」

輝子「楓さんは、無事『Nation Blue』の石碑、奪還できたかな?」

幸子「あの人がしくじるわけないじゃないですか。仮にもボクを差し置いて中立軍のエールパイロットなんですから」

小梅「じゃ、じゃあ」

輝子「色々、準備しなくちゃ…な」

幸子「あの話が本当であるかどうかも、確かめなければいけません」

小梅「…あの子の力でどうにかなるの…かな?」

幸子「それは何とも分かりかねますが、出来ると信じましょう」

輝子「あ、あとは『輝く世界の魔法』と『Absolute NIne』を早く見つけなくちゃ」

幸子「ええ。本来の目的を果たすのがまず、ボクたちの第一の目標ですから」

輝子「だ、だな」

小梅「が、頑張る」


幸子(さて、あの話が本当ならなんとしても『輝く世界の魔法』と
『Absolute NIne』を見つけなければなりません。
まあ、まずはこの石碑で真偽のほどを確かめねばなりませんが。それに…)





石碑を巡る戦いが始まり、そして終わる。
何の為に石碑を求め、力を求めるのか。
各国の思惑が入り乱れ、その力に恐怖する。
時計の針が進んだ先に何が待ち受けているのか。
今はまだ誰も知る由もない。

次回予告

理不尽の嵐の中で耐え忍び燃える炎がある。
理想の為に静かに燃える炎がある。
暗き世界を照らすために燃える炎がある。




次回、アイドルマスターシンデレラガールズREBOOT

第三話


「戦う理由」


人はそれぞれの思いに、命の炎を灯す。

アイディアありがとうございます。
所々ぱくったり、参考にさせていただきます。

当方奈緒P、ガチャ更新で動悸が激しい一週間でしたが、13kで無事奈緒一人をお迎えしました。
SSどころの騒ぎではなかった一週間でした。

一週間ごとに更新出来たらなと思います。
おやすみなさい。

第三話


「戦う理由」


Side 本田未央


数年前のある日を境に、元気だった兄弟が突然衰弱し、
それから数日もしないうちに両親も同じような症状に陥った。

何かに苦しむように呻き、酷い時には吐血の症状も現れた。
私は国中の医者にこの症状は何なのかと聞いて回ったけれど、
誰もが原因不明の病気としか診断できなかった。

戦争で日に日に貧しくなっていく国。
小さかった私に頼れる存在は家族しかおらず、
灰色に染まっている空を見ては、何も出来ない自分の無力さを嘆くしかなかった。

そんな時、私に特別な力、シンデレラパワーが備わっていることが分かった。

時代は丁度、巨大兵器『アイドルマスター』が発見されたという情報が出始めたころ。

何の幸運かは分からないけれど、軍が特別な装置を使って
国中を探していたその時に、私のシンデレラパワーが顕現した。

それは、出来うる限りのことをしても、それでも何も出来ずにただ一人、
両親、兄弟を思って泣いている時だった。

大勢の軍人が私の家を取り囲み、私は泣くのを止める。


中将「…名前は?」

未央「…本田未央、七歳」

中将「…本田、みお」

未央「…?」

中将「…いや、なんでもない。そうか、本当だったんだな」

未央「お、お願いします!お父さん、お母さん、お兄ちゃん、弟を助けてください!」

中将「奥に寝ている四人か?」

未央「…国中のお医者さんに聞いても分からないって」

中将「…少し離れていてくれ」

未央「…うん」





中将「…シンデレラパワーの反応がある」

「この人たちもアイドルなんですか?」

中将「いや、シンデレラパワーを近くで浴び過ぎたのが原因だろう。
シンデレラパワーが内部に溜まって暴れているような状態かもしれん」

「…どうしますか?」

中将「…利用する」

「…利用?」

中将「ああ。これからの国力の為に、な」

中将「お嬢ちゃん」

未央「…何かわかりましたか?」

中将「原因は分かった」

未央「じゃ、じゃあ!!」

中将「でも、あの症状は軍の施設でしか治療が出来ないものだ」

未央「?」

中将「君の家族は、内部に多くのシンデレラパワーを貯めこんでしまっている」

未央「シンデレラパワー?」

中将「そう、それは無意識のうちに君が放出してしまっている特別な力だ」

未央「…私のせいで、みんなが…」

中将「本来その力は強力な兵器を動かすために使うためにある。
それが君の中から溢れている。軍の特殊設備の中でなら、君の家族を治療することが出来るが、
我が国は今戦争で非常に困難な状況にある。何の関係もない民間人を治療することははっきり言って難しい」

未央「…」

中将「しかし、君のその力を我が国の為に使うと言うのであれば、
君が我が国の軍人になると言うのであれば、責任を持って君の家族の治療を行うことを約束しよう」

未央「…なります」

中将「本当かい?とてもつらく、過酷なものになるぞ?」

未央「それしか家族が救われる方法が無いなら、
私のせいでみんなが苦しんでいるなら、私は、やります」

中将「…分かった。なら、必要な荷物をまとめておけ。明日また迎えに来る。
家族は危険な状態だ。これから軍施設に送る。いいな?」

未央「はい!」

中将「いい返事だ。ではまた明日」

未央「はい!!」

私の軍人生活は八年前から始まった。

この国最初の専用機をリブートしたのは私だ。
『トリプルスター』とはもう長い付き合いになる。

この国最初の量産『アイドルマスター』Mk-Hに乗って戦場に出たのも私だ。

辛い日々だったと思う。過酷な訓練も、懲罰も、戦場での出会いや別れも、
何もかもが幼い私には衝撃的で、でも、そんな日々も家族の無事があるから乗り越えられた。

シンデレラパワー安定装置なるものが軍設備の中にあり、
その中にいれば家族は内に貯めこんだシンデレラパワーを抑制することが出来、何とか生命活動が維持できる。

時には立ち上がって私と話すこともできる。

それでもその装置の中からは出ることが出来ない。

軍の説明によると、私の家族の体質はシンデレラパワーを放出することが出来ず、
装置の外に出るとまた症状が出てしまうとのことだ。

私は戦う。家族の為に。

それがどんな理不尽な作戦であろうとも、
どんな困難な戦場だったとしても、
たとえ一人だったとしても。

でも、今回の任務はそうはいかなかった。
戦場を駆けまわって、私生活なんて何一つなかった私にやっとできた二人の友達。
私はその二人を失いたくなかったのだ。

護るものが増えて、私は弱くなってしまった。






「これより、本田未央の率いる専用機部隊の失態、および軍規を著しく乱したことに対する懲罰を行う!!」





茜「は、離してください!!!」

藍子「何で、何で未央ちゃんだけが!!!」

未央「気にしない気にしない。これも隊長の役目ってことで」

茜「で、でも!!」

藍子「私たちにも責任はあります!!」

未央「二人の気持ちはありがたいけど、これは私が受けなきゃいけない罰なんだ。
二人は初めて見るかもしれないけど、絶対に声を出さないでね。長引いちゃうから」


何とか笑って見せて、少しでも悲壮感は漂わせないように。

私は何回も受けてきた懲罰も、初めて見る二人にはちょっと厳しいかもしれない。

「今回の任務は『We’re the friends!』の石碑を奪還し、
なんとしても我が国の軍事力を強化しなければならなかったのに、
この女、本田未央はキュート軍の圧倒的な軍事力の前に恐れをなし、
キュート軍に傷の一つもつけられずにおめおめと逃げ帰ったクズである!!!
何かあるか、本田未央!!」

未央「何もありません」

「貴様のその行動がどれだけ我が国、我が軍に多大な影響を与えたのか、
分からないわけはないだろう!!?」

未央「はい」

「貴様には前回同様、むち打ちの刑に処す。脱げ、本田未央」

未央「…はい」






茜(んーーーーー!!!)

藍子「…」ギュッ

「さて諸君、覚えているだろうか、前回の懲罰でもこの女はむち打ちの刑で裁かれたことを」

「しかしそれがどうだ!今この女の背中は!!陶器のような白い肌!!
この前のむち打ちが行われたのかどうかも疑わしい!!
この女はそれだけの驚異的な回復力、超人的な力があるというのに、
我が身可愛さに戦場を逃げ出し、おめおめと生き延びた!!
異論はあるか、本田未央!!!」

未央「…ありません」

「貴様にはむち打ち二十五打を行う!途中声を上げるようなことがあれば、
打った回数を間違えてしまうかもしれんから、気を付けるんだな」

未央「…はい」





茜(んーーーーー!!!んーーーーーー!!!!)

藍子「…」ギリギリ



「ではひとーつ!ふたーっつ!みーっつ!…」


理不尽は慣れている。
世界は理不尽だらけで、一向に上手くいかない。

でもそんな理不尽の中でも、救われる命がある。
ならその命の為に、私はこの命を燃やそう。
それが私に出来る唯一の事だから。

私は他の人から見たら不幸に見えるのだろうか。
私は幸福だと思っている。護る家族がいることも、友達がいることも、
それを護れる力があることも。




「にじゅーごー!!」



未央「はぁ…はぁ…」



「聞け、皆の者!!」

「前を向け!!前を向くことでしかこの国に明日は来ない!!
前を向けないのならこの鞭で、他の方法で前を向かせてやろう!!
それがこの国の軍人の在り方だ!!!分かったか!!!!」



はい!!!!!!




「よろしい。貴様らもこの女のようになりたくなければ、前を向くことだ。
以上!!全員持ち場に戻れ!!!」





はい!!!!!!



藍子・茜「未央ちゃん!!!!」

未央「…」

「ポジティブパッションの二人か」

藍子「い、今医務室に連れて行きますから!」

茜「藍子ちゃん、私の背中に!おぶって行きます!!」

未央「だ、大丈夫…か、肩だけかして…」

茜「で、でも!!」

「貴様ら二人もよく覚えておけ。戦場から逃げることは許されない。
貴様らが弱いままなら、これから先も本田は同じ刑罰を受け続けることになる。
これは見せしめだ。そしてその役目はこの女が常に引き受けてきた。これからもそうだ」

藍子「…」

「そんなに睨み付けても泣いても何も変わらんぞ、高森藍子。これは国の為、軍の為だ」

茜「…強くなりましょう!!国の為でも軍の為でもない、未央ちゃんの為に!!」

「誰の為でもいいさ。お前らの強さが国の為、軍の為になるからな」

未央「…失礼…します」





私はやっぱり、幸せ者だと思う。
私の為に泣いてくれる人が側にいるのがどれだけ心強いか。
二人の優しい温もりを感じながら、私の意識は深い暗闇の中に落ちていく。






茜「強く、強くなりましょう、藍子ちゃん!」

藍子「…うん、今よりも、誰よりも…何よりも強く!」

茜「泣くのは、未央ちゃんが目を覚ますまでにします!」

藍子「そうだね。未央ちゃんが目を覚ましたら、いつもの二人でいよう。
笑顔で、元気なポジティブパッションで!」

茜「はい!!」

Side 島村卯月


『We’re the friends!』の石碑に関わって以来、久しぶりにキュート共和国に帰国です。

中立軍との戦闘命令は若干の違和感を覚えます。
危険な状況でしたし、現場の、特に専用機部隊の命令はもっと尊重されるべきです。

司令部への作戦の詳細を確認しようと本国司令部に足を運びましたが、
そのような命令は出していないと言う返事が返ってきました。
ではその時命令を出した司令部の人はと尋ねましたが、
帰国後すぐに移動になったようで、どこにいるかが分からないとのこと。

司令官「本国はそのような命令を出してはおらず、彼が独断で判断した、という事だ」

卯月「えっ…」

司令官「本件については以上だ。それ以上は何もない。
それから、一週間の休暇が与えられるが、どうする?」

卯月「は、はい!AMMをお借りして実家に帰ろうかと思います。
今は丁度収穫の時期ですし、親孝行してきます」

司令官「『ピース』での帰省許可が出ている。
AMMの損傷が多く、一機でも多く動かせる機体を置いておきたいのだ」

卯月「分かりました。一週間の休暇を頂きます。失礼します」バタン



司令官「…」



軍は一人に責任を押し付けて今回の事を無かったことにしようとしているのかもしれません。

被害はかなり甚大で、AMMの修理、生産を急ピッチで行わなければなりません。
そんな中で休暇を与えられるのは心苦しい所ではありますが、
今回の戦闘でかなりのシンデレラパワーを消費してしまいました。

本国に帰るときにはもう動かすのも精一杯で、
しっかりと休まないとシンデレラパワーの回復が難しいという判断を下されたようです。

陸路を使って帰省をすると二日もかかるような辺鄙な場所に私の実家はありますが、
『ピース』で空を飛んでいけばすぐに着くので楽ちんです。

卯月「それじゃあ美穂ちゃん、智絵里ちゃん、私はちょっとお休みを頂いたので一週間のお別れです」

美穂「ゆっくり休んできてくださいね!」

智絵里「その間、しっかり守っています!」

卯月「訓練を怠らないようにしてくださいね」

美穂・智絵里「はい!」


専用機が増えたことで、少し私の負担も減りました。
纏まった休暇を頂いたのは随分久しぶりな気がします。


卯月「あ、まゆちゃん!」

佐久間まゆ「あら?卯月さん、こんにちは」

卯月「こんにちは!お疲れ様です!」

まゆ「お疲れ様です。これからお出かけですか?」

卯月「少し休暇を頂いたので、実家に帰省予定です」

まゆ「うふ、素敵ですね。ゆっくり休んできてください」

卯月「ありがとうございます!不在の間ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします」

まゆ「はい、お任せください♪」

卯月「では、失礼します!」



まゆ「はぁ…まゆもあの人とゆっくりお休みしたいです…」

身支度を済ませて、荷物を『ピース』に詰め込んで、いざ出発です!

戦場ではこんな悠長なことは言っていられませんが、
空から眺める景色は本当に綺麗で、いつまでも見ていたいと思います。

今は丁度木々も色づき、山林ばかり…もとい、自然の多いキュート共和国はとても素敵な季節です。

大きな山を二つ越えると、私の故郷が見えてきます。
この風景を空から眺めるのが私の毎年の楽しみで、
今年も私はここに帰ってこれたんだって。

もう収穫も始まっているようで、私の機体に気付いたのか、
遠くで手を振っている人たちが見えます。



卯月「ただいまー!!」



大きく手を振って家路を急ぎます。

北方のこの地でも、今はありがたい収穫の季節です。
そしてこれから来る厳しい冬に向けて今は耐える準備の期間です。

寒い冬が来る度に、私はこの『ピース』をリブートした時のことを思い出します。

冬にママと薪になる枝を探しに山に入っていた時、
激しい吹雪に見舞われ、命辛々逃げ込んだ岩の切れ目に、その石碑はありました。

ママは足をくじいてしまい動くのもままならず、徐々に外は暗くなり、
吹雪も弱まる気配が無く、二人ここで死んでしまうんだなと泣いてしまいました。

でもそんな時、胸のポケットにしまっていたピンク色のガラス球が
岩の切れ目の奥を照らすように光りはじめました。
その光に導かれるままに、私は足を進めました。

奥に進むと不思議に開けた空間があり、
その中心に二年前に礎の島で見たのと同じ石碑を見つけました。

石碑の周りはなぜか明るく、近寄ってみると、あの時と同じように頭の中にリズムが、
体は何かに憑りつかれたようにステップを踏み、そして目の前の石碑から巨大なロボットが現れたのです。

私を迎え入れるようにロボットはひざまずき、
ピンク色のガラス球は胸部部分のコクピットを照らしました。

何も考えなかった私は、ただその光の示すままにコクピットに乗り込み、
そしてそのまま意識を失いました。

気付いた時には自分のベッドの上にいて、ママとパパが手を握っていました。

意識を失っていた間、ロボットはママを抱えて家まで連れて帰り、
コクピットから私を出し、そのまま家の横で動かなくなったそうです。

この『アイドルマスター』が、キュート共和国最初の専用機となりました。

このロボットがなんなのか誰にもわからず、
冬の間は国の中央に行くこともままならないため、
春になったら報告しようと町の意見がだされました。

他の誰が乗っても動かず、私だけがこの大きなロボットを動かせるという事が分かりました。

長い冬の始まり頃で、大雪が続く珍しい冬だったので外で遊ぶことが出来ず、
暇を持て余した私はこの大きなロボットは何が出来るのか、乗って確かめていました。

まずは屋根の上に載っている雪を降ろす作業をしてみました。
少しも重さを感じず、あっという間にすっきり。

雪かきもしてみましたが、これも簡単に出来てしまいました。

あっという間に周りの家も含めて雪が綺麗に除けられ、
調子に乗って遠くの家までせっせと除雪作業をしてしました。
その反動からか、またしても二日間寝込んでしまいました。

これはとても便利でした。新しい農地の開拓も、治水も簡単に出来てしまいます。

ママもパパもロボットに乗った後私が寝込むことに胸を痛め、
乗ってほしくないと言っていましたが、私はみんなが喜んでくれることが何より嬉しくて、
みんなの為になることをしたいと強く訴えて、しぶしぶ許してくれました。

沢山の労働力があるわけでもない私たちの町は、
この大きなロボットの価値を見出し、国の中央への報告はやめて、
この町で隠し持っていようという意見に変わりました。

今は量産型の『アイドルマスター』が作られ、
アイドルやアイドル候補生がいれば動かすことが可能になりました。

でも、何で今までそんな存在は無かったのに、
急に量産型『アイドルマスター』という物が作られたのか、不思議でなりません。

『ピース』が国に見つかったのは、その冬が明けた春の事でした。

戦争が徐々にその戦火を広げ、噂ではキュート共和国が
『アイドルマスター』の力を使い、パッション国の領地に攻撃を仕掛けた、という疑惑がありました。

勿論その時キュート国には量産機は存在していませんでしたし、
私の『アイドルマスター』はずっと家のそばで作業をしていただけだったので、
なぜそんな噂が立ったのかはわかりません。

その噂が広まってすぐに国の軍隊が私たちの町に来て、『ピース』と私を拘束しました。

そう言えばあの時私を拘束しに来たのは、先ほどの司令官の方でした。
あの時はまだ名も無い一軍人だったと思っていましたが、
いつの間にか軍の上層部にいる人間になっていました。

『アイドルマスター』に関しての作戦は彼を中心に立てられ、
あらゆる功績を立て続けてきた、キュート共和国の頭脳と言っても過言ではありません。

そんな彼が今回のような作戦を指示することはあまり考えにくいことです。
ではあの指示は本当に司令部の誰かの勝手な判断だったのでしょうか。

考えても分からないことばかりです。

この『アイドルマスター』という存在も、なぜ軍事利用するしか他が無いのか、
私にはいまだに理解できません。

私の町のような、労働力の少ない所や、災害で困っている人たちの救援、
開墾や治水など、もっと人々の役に立つような使い方をどの国も出来ないものかと。

しかし、戦争の炎は日に日にその勢いを増し、
今は『アイドルマスター』を使わなければすぐに国が
潰れてしまうような状況になってしまっています。

それでも私はこの思いを決して忘れないようにしたいんです。

初めて『ピース』に乗った時、誰かを傷つける為ではなく、
助けるために力が使えることがこれほどまでに素敵で、そして何より輝かしいものだと感じました。

その思いは今も、そしてこれからも、どれだけ戦場に出て行ったとしても変わらず持ち続けています。

世界は理想を追い続けられるほど、生易しい状況ではありません。

それでも私はその理想が世界を包み込む日が来ると信じて、
まずはこの町で収穫と治水のお手伝いです!

Side 渋谷凛


その背中を追いかけていた。
大きくて、強くて、そして何よりも優しいその背中を。


世界はある日を境に大きく色を変えた。
パッション国とキュート共和国の戦闘地域で大きな爆音と共に、
パッション国側の領地が消し飛んだ。

クール王国は丁度巨大なロボットがパッション国の領地を攻撃した時の映像を捉えており、
そこで初めて巨大兵器『アイドルマスター』の存在が確認された。

その情報は一斉に世界中を駆け巡り、パッション国は報復として大量の軍隊を送り込み、
キュート共和国の領地を蹂躙していった。

キュート共和国はどうにか応戦しようとしていたが、
その時のパッション国の勢いを止められず、ひたすらに耐えるだけの戦いを強いられた。

厳しい冬が終わり、暖かい春が来るのと同時に、
キュート共和国は島村卯月が搭乗する『ピース』を戦場に投入し、
パッション国を撤退させることに成功した。

鮮明ではない映像からは、パッション国の領地を吹き飛ばした『アイドルマスター』が
卯月の乗っている『ピース』なのかどうかは判断できなかったが、
もしかしたら同じような兵器が他にもあるのではないかと各国がその大きな戦力に戦慄した。

各国があの『アイドルマスター』に対抗するべく、色々な兵器を開発してみたものの、
どれも『アイドルマスター』ほどの力は無く、キュート共和国の進撃が始まると恐怖していた。

そんな時に、私たちの国にも初めての『アイドルマスター』がリブートされた。

高垣楓の専用機『こいかぜ』。

この時初めて石碑から『アイドルマスター』がリブートされると言うことが分かり、
その情報は瞬く間に各国に広まってしまう。

それと同時期にパッション国も本田未央の専用機『トリプルスター』がリブートされ、
主要各国は一機ずつ専用機の『アイドルマスター』を保持することになった。

どういう仕組みで『アイドルマスター』は動くのか、
その動力源は何なのかの研究に各国は明け暮れることになる、
はずだった。

なぜか各国は簡単に答えを導いた。

シンデレラパワーと呼ばれる不思議な力があると言う結論を出し、
そのパワーを持っている人間が『アイドルマスター』を動かすことが出来ると言う答えを出した。

クール王国はすぐにシンデレラパワーを測定する装置を作り、一斉に国中の人間を調査した。

今はシンデレラパワーを計測する装置も精度が高くなり、
潜在的なパワーを秘めているアイドルまで発見することが出来るが、
大急ぎで作られた初期段階の計測器はより大きい力に反応するのみの簡素な造りの物だったため、
その装置に反応するシンデレラパワーを放っていたのは私だけだった。

各国挙って石碑を探すことになり、私の専用機『ネバーセイバー』の石碑も程なくして見つかり、
クール王国は二機の専用機を保持することになった。

シンデレラパワーの量が少なかった初期の私と『ネバーセイバー』は、
卯月の『ピース』、未央の『トリプルスター』の二機に太刀打ちできなかった。

それを護るように戦ってくれていたのが彼女だった。


楓「まずはしっかり機体を操ることを心がけましょう。期待しています」

凛「はい!」

楓「焦らず、リラックスして頑張りましょう」

凛「はい!!」


どれだけ迷惑を、手間をかけたか。

シンデレラパワーが少なければ、通常の強力な兵器でも
『アイドルマスター』を傷つけることが出来、何度も戦場で死にかけた。

その時彼女は何も言わずに私の手を引き、戦場を制圧していった。

どんなに困難な時でも彼女は常に微笑み、暗い戦争の世界を明るく照らしてくれた。

楓「平和な世界が来るように、いつも笑顔でいるように心がけましょう。
それが世界を平和にする第一歩かもしれません」

凛「でも…」

楓「出来ない理由を探すのは簡単ですが、出来る方法を考えた方が素敵でしょう?」

凛「…」

楓「今は暗い世界ですが、きっと世界はいい方に向かいます。そう信じて、笑顔でいましょう」



そういった彼女の顔を私は今も忘れずにいる。

そして、そう言っていた彼女がこの国を捨てた事を、
私は許すことが出来ない。

私は今も世界を平和に出来る方法を探している。

クール王国が掲げている理想は、私たちが世界を収めれば平和な世界が来るという事だ。

軍事力をどれだけ放棄しても、それを好機だと思い攻めてくる国もある。
南下政策の為に強引な策を仕掛けてくる国もある。

そんな国全てを技術と頭脳で繁栄してきた私たちの国が管理して世界を治める。

その理想が、正しい方法かどうかは分からない。
でも今はそうするしか、この国の人々を笑顔にする方法を知らない。

戦果をあげ、喜ぶ国の人たちの顔を見るのが好きだ。
日々戦争で疲弊している国を支えてくれるみんなの思いがあるから、
私はこうして戦場へ向かうことが出来る。

私が笑顔でなくても、国のみんなが笑顔ならそれでいい。
その為に私は力を使う。少しでも暗い世界を明るくすることが出来るなら。

Side 中立軍 輿水幸子


???「遅くなってごめんなさーいっ!」

幸子「やっと到着ですが、『始まりのシンデレラ』」

???「もーっ!幸子ちゃん、愛梨って呼んでくださいっ!」

幸子「分かりましたよ、愛梨さん」

十時愛梨「はい、よくできました♪」

小梅「あ、愛梨さん、お疲れ様です」

輝子「え、遠路はるばる、お疲れ様」

愛梨「三人ともお疲れ様ですっ!時間ももったいないですし、パッとやっちゃましょう!」

幸子「そうしましょう。小梅さん、輝子さん、準備をお願いします」

小梅・輝子「了解!」

『始まりのシンデレラ』。彼女が何故そう呼ばれているか。
彼女には不思議な力が備わっていました。

彼女にも専用機がありますが、その専用機の能力とは全く別の、
彼女自身の不思議な力が、そう呼ばれる所以になっています。

輝子「フヒ…トモダチ全方位に展開完了。石碑周辺を完全にカバー」

情報を外に漏らすわけにはいきません。どこで誰が見ているかわからないから、
こうして輝子さんの能力を石碑周辺に最大限展開してドームを作り、情報が誰からも見られないようにします。

小梅「あの子も、準備完了だよ」

複数人搭乗タイプ『アイドルマスター』のリブートを率先して行い、
他国に戦力を増やさないことがボクたちの使命です。
ボクたち『142’s』と愛梨さん、楓さん、
そして複数人搭乗タイプ『アイドルマスター』リブート作戦指揮官の千川ちひろさんの六名が、
現在のこの作戦に参加しているメンバーです。

幸子「それでは愛梨さん、お願いします」

愛梨「はーいっ!」

十時愛梨専用機
『クルセイダー』
特殊能力 アシッド 周囲の『アイドルマスター』や
兵器の装甲を溶かす空間を作り出す。シンデレラパワーの量により溶解速度が増減する。

十時愛梨
『始まりのシンデレラ』
操作することは出来ないが、全ての『アイドルマスター』をリブートすることが出来る。


愛梨「うん、大丈夫です。この機体もリブート出来そうです」

幸子「それは何よりです。シンデレラパワーの供給は大丈夫ですか?」

愛梨「はいっ!私一人で大丈夫そうです」

幸子「わかりました。ではボクは外で警備をしています。小梅さん、よろしくお願いします」

小梅「うん、まかせて」

幸子「輝子さん、もう一重、トモダチのドームを展開出来そうですか?」

輝子「な、何とかする、ぞ」

幸子「お願いします…周囲に『アイドルマスター』の反応はありませんね」

愛梨「もうリブートして大丈夫ですか?」

幸子「輝子さんの展開が終わり次第リブートをお願いします」

輝子「あと…一分で完了予定」

幸子「では一分後、リブートを開始してください」

愛梨「はーい♪」


さて、ちひろさんの言ったことは本当なのか、そしてそれが本当だとしたら、
ボクたちはとんでもない物を扱っているという事になります。
過去の超技術、そしてそれを使って行われているこの戦争、全てが真実だとすれば…


輝子「トモダチ、展開完了」

幸子「!…それではリブート開始です!」

愛梨「了解ですっ!」

・・・・・
・・・・
・・・
・・

小梅「…あっ!」

幸子「小梅さん?」

小梅「うん…見えた」

幸子「…そうですか」

そうですか…。そうなんですね。

ビーッ・ビーッ

???「そちらの状況はいかがですか?」

幸子「ちひろさん。お疲れ様です」

千川ちひろ「はい、お疲れ様です。リブートの方は順調ですか?」

幸子「小梅さん、リブート状況はいかがですか?」

小梅「今…終わったよ」

幸子「それで?」

小梅「うん…綺麗な蒼い色…。とかピンクとか、黄色とかの機体だよ」

ちひろ(…蒼い色)

幸子「そうですか。早くこの石碑を確保できてよかったですね」

小梅「うん…しっかり確保できてよかった」

ちひろ(…確保も完了)

幸子「ではちひろさん、次の作戦と『Nation Blue』のリブートに向かいましょう」

ちひろ「はい。今愛梨ちゃんを途中まで運んだ戦艦でそちらに向かっています。
合流後、すぐに雪原地帯に向かいましょう。楓さんから石碑の確保完了と報告もきています」

幸子「流石と言うかなんと言うか。分かりました。
では急ぐとしましょう。色々と話すこともありますし」

ちひろ「そうですね」







―――――――

???「…ふむ、怪しい会話は無し、か」

―――――――





何かを知る者があり、世界のうねりに逆らうように新たに燃え上がる炎になる。
何も知らない者があり、彼女らの炎は世界のうねりに呑まれて消されないように力強く燃える。
世界は少しずつ、しかし着実に昨日とは違う色に変わり始める。

次回予告

月夜に蠢く怪しき影。
崩壊の序曲が鳴り響き、
少女を優しい暗闇へと誘う。




次回、アイドルマスターシンデレラガールズREBOOT

第四話


「黒き影」


世界は少しずつ、その闇の姿を認識する。

また書きます!
おやすみなさい。

第四話

「黒き影」


??P「…さん」

????「んー?どしたの?」

??P「いえ…少し、その…」

????「なになにー。なんか言いにくい事?そんな間柄じゃないでしょ?」

??P「…」

????「んー、この戦いの事?」

??P「…はい」

??P「…私は貴女が輝けると思ってアイドルとしてスカウトしました。
それが、こうして戦いに巻き込んでしまう事になり、どう謝ればいいか」

????「気にしなくていいって。アイドルになっててもなってなくても戦いに巻き込まれたんだろうしさー」

??P「それに…貴女には他のアイドルとは違う特別な力が宿っています。
その力を義務や運命だと、思ってほしくないのです」

????「どういうこと?」

??P「力があるからこの戦いに参加しなければいけない、力を持っている自分が、
誰かの思いを背負って戦場に向かわなければいけない、
そんな思いを持っていたとしたら、少しでも貴女の思いに嘘を吐いて戦場に臨んでいるのであれば、
その思いに背を向けないで欲しいのです」

????「…」

??P「貴女は風のように自由で、何物にも囚われないその姿が一番貴女らしく輝いている、そう思うのです」

????「そうそう、…ちゃんは自由な女だからねー」

??P「貴女の心が、義務や逃れられない運命などと言う言葉で囚われてしまっているならば、
私はそんな姿で飛ばなくてはいけない貴女になんとお詫びをしていいのか、分からないのです」

????「…ありがと。でもねー、風は今戦場に向かって吹いてる。
そしてあたしもそっちに行きたいって思ってる。義務も運命も感じてない。ただそうしたいって思う」

??P「…」

????「んー、じゃあさ、帰ってきたら何か美味しい物でも奢ってよ。それで謝罪はおしまい!」

??P「ですが!」

????「返事は?」

??P「…はい」

????「よろしい♪じゃ、一つ頑張ってきますか。美味しいお店探しといてねー」

??P「…分かりました。御武運を」

????「いってきまーす」

??P「はい」

嘘を吐いた。勿論、運命や義務なんて、そんなことはこれっぽっちも思ってない。

戦場なんて怖いし、こんな力なければとも思う。逃げ出したいと思う。

でも、彼の思いを乗せて為に飛べる翼があること。

それはとても嬉しいものだ。

一番の優しい嘘。

とても幸せな時間だった。







ビー・ビー・ビー




研究員『こちら「白の花」!!』

???「…どうした?」

研究員『「白い花」のアイドルに覚醒反応あり!とんでもないシンデレラパワーです!!』

???「数値は?」

研究員『前回の覚醒反応時よりも遥かに高い数値です!』

???「彼女はまだ制御できない。外部ユニットを繋ぎ、シンデレラパワーを吐き出させろ。
なんとしても彼女を覚醒させるな。死にたくなければな」

研究員『了解!』




???(…まだだ。最低あと三つ)



???「「15」のアイドルの反応はどうだ?」

研究員『そちらは今の所安定しています。指示があれば覚醒させることも可能ですが、どうしますか?』

???「それはまだ大丈夫だ。しかし、四人が帰ったらすぐに起こせるよう準備してけ」

研究員『はっ!!』

???「引き続き警戒を怠るな」


ピッ






あれ?
色が少しずつ抜け落ちて、暗転、ころころころ。

崖の上の石碑


Side 双葉杏


双葉杏「ねえきらり?」

諸星きらり「うゆ?」

杏「何で杏はこんなリブートも出来ない石碑を護ってなきゃいけないの?」

きらり「んー、きらりにもよーく分かんないけど、杏ちゃんと一緒でうれすぃーよ?」

杏「そういう事じゃないって。まあ分かったところでどうなるって訳じゃないけどさ」

きらり「でもでもー、きーっとすっごく大事な石碑だから、きらりと杏ちゃんが護ってるんじゃないのかにぃ?」

杏「まあそうなんだろうけどさ。『シ』しか書いてないし、
杏にもきらりにも愛梨もリブート出来ないんだから、護る必要性を感じない」

きらり「うー、きらりにはむつかすぃー事はわかんないにぃ…」

杏「難しいと言うかなんというかって感じだけどね」

きらり「むつかすぃー事も嫌だけど、みんながあらそってる世界はもっともーっと嫌だって思うよ」

杏「…それは杏も同じだよ。はぁー、何で杏にこんな変な力があったんだろ。
ずーっとだらだらしてられたらどれだけ幸せか」

きらり「…うん」

杏「ま、ぐだぐだ考えても分からないものは分からない。諦めて何にもないことを願おうか」

きらり「しんでれらぱわーがあってもなくても杏ちゃんはあんましかわんない気がするにぃ☆」

杏「確かにねー。まあ、争ってる世界でぐだぐだするよりも、
平和な世界でぐだぐだする方が楽しいだろうし、
そんな世界が来るように、ほんのちょーーーーっとぐらいは頑張るとするかな」

きらり「そうそう☆平和な世界できらりといっしょにハピハピしようにぃ☆」

杏「は、ハピハピはちょっと…」

きらり「むー!あっ!!」

杏「な、なに?」

きらり「杏ちゃんもそろそろCPにはいろー?」

杏「嫌だ!あんな特殊部隊、絶対に嫌!!どれだけ働かされなきゃいけないのさ!!」

きらり「でもでも!CPに入ったら、きらりともーっと一緒に入れるよ?」

杏「これ以上働いたら杏、干からびる」

きらり「むぅー!!」

平和な世界はきっとすぐにはやってこない。
そんな事を望むのはただの現実逃避だ。

どれだけ頑張ったとしても、いや、頑張りたくないし、
杏の知らない所で世界が平和になってくれるに越したことはないんだけど、
世界が寝て起きたらひっくり返って平和になるなんて全くあり得ない事だ。

でもそんなあっという間の平和を望んでいる人間は多くいる。
きらりもその一人だろう。

シンデレラパワーの量も、きらりの乗る『アイドルマスター』も他のアイドルより大きい。
嫌でも戦場の前線に立たされ、羽虫を払いのけるように戦場を制圧することが出来る。

きらりはそんな自分を嫌っている。
戦う事なんて大嫌いだろうし、何で自分にこんな力が宿ってしまったんだろうって、
杏よりも強く思っていると思う。
それでもきらりは強いし、他を圧倒できる力がある。

誰よりも平和な世界を望んでいるであろうきらりが、
圧倒的な力を持って戦場に出ているというのは、
悲劇と言うほかに言葉が見つからない。

それでもきらりは戦場に出る。
力があるからじゃない。きっとシンデレラパワーが無くてもきらりは前に出ただろう。
勿論今とは違った形にはなったと思うけど、
平和な世界を望んできらり自分の力を出して平和を作ろうとするはずだ。

杏の知っている諸星きらりはそんなやつだ。
望んでも来ない世界でも、とりあえずはこうしてのんびりしている時間を楽しむしかない。

夜も深くなってきたのに月明かりが妙に眩しくて、ふと月に目を向ける。




平和な時間はそう長くは持ってくれない。





???「ミーツケタッ!」

????「…色々ナ所ニ、点在シテイルノデスネ」

???????「モー、ホント昔ノ人ハ面倒ナ事シテクレチャウヨネー♪」

???「フフッ、文句ヲ言ワナイノ。ソレガ私タチノ任務ナンダカラ」




杏「…上空に『アイドルマスター』の反応?」

きらり「…すっごいしんでれらぱわー」

月明かりに照らされて映し出される四つの影。どれも違う形をしている。

杏「きらり、本部に連絡と応援の要請。それが間に合わなそうなら石碑放棄の検討」

きらり「そ、そこまで?」

杏「うん。多分相当やばい。どこの国かわかんないけど、
見たことないタイプの『アイドルマスター』が四機いる。多分全部専用機っぽいね」

きらり「にげゆ?」

杏「そうしたいのは山々なんだけどさ、一応護れって言われてるし、
あんな馬鹿みたいなシンデレラパワーを持った奴らが来たってことは、
この石碑がかなり重要なんじゃないかと思う訳さ」

きらり「と、とにかく本部に連絡するね!」

杏「よろー。杏はとりあえず牽制してみるよ」

双葉杏専用機
『うさぎ』
特殊能力 だらける 自機周辺に睡眠効果を与える空間を作る。
空間を広げることは出来るが効力は落ちる。
範囲を狭め、シンデレラパワーの量を増やすと強力な睡眠効果を与えることが出来る。



杏「どやっ!」



?「ウッ…チョットクラット来チャッタ」フラ

?????「アリャ、?チャン大丈夫?」

?「専用機ニ乗ッテ戦場ニ出ルノハ今日ガ初メテダカラ、仕方ナイワ」

??「…双葉杏サンノ能力デショウカ」

?「情報通リデアレバソウデショウネ」

?????「便利ナ能力ダヨネー。スグ寝タイ時ニピッタリ!」

?「戦場デハ厄介ナ能力ダト思ウケド」

?「ココマデ届イチャウッテ、スゴイヨネー☆」

??「…二機トハイエ、油断ハ…禁物デスネ」

?「エエ。気ヲ引キ締メテイキマショウ。マズハ彼女ノ能力射程圏外ヘ退避。
ソレカラシンデレラパワーヲ膜状展開」

?「ハーイ」

一機怯んだのは見えたけど、それ以外はいたって普通、か。
これはかなりの機体性能と見た。

それに少し距離を取った…杏の能力の射程がばれてる?


杏「…」

きらり「杏ちゃん?」

杏「きらり!とにかく二人で能力バンバン使って迎撃!」

きらり「うきゃー!いっつもどおりー☆」

杏「正直作戦も何も無いって感じの相手っぽいからね」

きらり「きらりんぱわー全開☆あ、あとちひろさんの部隊が来てくれるって!」



諸星きらり専用機
『はぴはぴプリンセス』
特殊能力 きらりんぱわー 自機のみ、他『アイドルマスター』から受ける特殊能力を弱体化する。

?「当初ノ予定通リ、分断シマショウ」

?「エー、四人デ行ケバ余裕ソウジャナイ?」

?????「ソウソウ!四人デコテンパンニシチャオウ♪」

??「…二人一緒ニ相手ヲスルノハ危険デス。特ニ…双葉杏サンノ能力ハ
至近距離デ受ケテシマウト専用機デモ戦闘不能ニナルト情報ニアリマシタ」

?「デモデモデモー」

?「?、サッキノ特殊能力デフラツイタノヲモウ忘レタノカシラ?」

?「ウッ…」

?????「ソウダソウダー」

?「調子ガイインダカラ…」

?????「ン?」

?「イエ、何デモナイワ。ソレジャア、徹底的ニヤリマショウ。
?ハ石碑リブートノ為ニシンデレラパワーヲ温存。敵ノ攪乱ニ従事。
私ガ能力ヲ展開シテカラ、?????ノ能力発動。
二人ノ分断ニ成功シタラ私ガ二人ニ能力ヲ直接付与。
ソノ後??ノ能力デ諸星キラリヲ行動不能ニサセマス」

?????「上手クイクカナー?トイウカ何デキラリチャンダケ行動不能ニサセルノ?」

?「上手クイカセルノヨ。諸星キラリハ、今後ノ計画ニ支障ヲキタス可能性ガアル為、
早々ニ戦場カラ排除シテ欲シイッテ言ッテイタワ」

?「ヘー。トニカク朝マデニ何トカシナイトイケナイシ、チャチャットヤッチャオー☆」

?「エエ。作戦開始」

無暗に突っ込むのはあまり得策とは言えないけど、
杏の能力が届かない位置まで射程を綺麗に取ってくるとなると、
杏たちの細かい情報までもばれてる可能性も考えられる。

ま、そうなると無駄に策をこねくり回すよりも、力で制圧する方がシンプルで勝率は高い。

しかし…ある程度の能力や機体性能はばれていたとしても、
杏の能力に関しては戦場じゃあ味方を巻き込む可能性があるからかなり
しっかりと計算してデータも出されているんだけど、
それはどこにも漏れないように管理されている情報だ。

…考えられるのは内通者か。
まあ専用機四機がどの国の機体かも分からないのに、
内通者もくそもあったもんじゃないけどさ。



突っ込もうと思ったその瞬間、突然目の前に暗闇が広がる。
月明かりも四機の機体もその暗闇に呑まれた。

真ん中の機体からその暗闇が広がったように見えた。敵の能力だろう。



???専用機
『ムーンサイド』
特殊能力 嘘の夜 周辺に暗闇を作り出す。『アイドルマスター』やアイドル、
人間に直接触れた場合、触れた対象の周囲に暗闇が付き纏う。

杏「きらり!!」

きらりを掴もうと伸ばした手は、虚しくも空を切り、重い一撃が機体に響く。


きらり「あ…z…ちゃ……」


通信が途切れた?!レーダーも…駄目だ。計器が諸々狂ってる。
平衡感覚も…狂ってるみたいだ。これは暗闇だからとかそういう事じゃない。
『アイドルマスター』自体を狂わす能力か何かが働いている可能性がある。


???????専用機
『ラブリーエンジェル』
特殊能力 ガレット・ブルトンヌ 自機周辺に平衡感覚、時間、機器などの
様々なものを狂わせる空間を作り出す。直接触ると思考まで混乱させることが出来るが、
触った相手のシンデレラパワーを上回るシンデレラパワーを使わないと混乱させることは出来ない。


敵の特殊能力が多少強力であろうと、きらりは能力があるからある程度は
大丈夫だろうけど、問題は二人が分断されたことだ。

サポート役の杏と攻撃役のきらり、二人の能力を上手く使わせないようにするためにする
作戦が組まれてるとなると、この先も何か能力を使った作戦を遂行することは間違いない。

大きな目的は『シ』の石碑だろう。

その障害になる物を排除するのがまず一つ。
確実に仕留められるようにコンビネーションを断ち切るのは当然だ。

そこから考えられるのは、攻撃役のきらりの動きを止めることを何より最優先にするはずだ。

そうとなればまずは能力を最大限展開して誰も近寄れないようにするしかない。
まだきらりも遠くに離れているわけではないだろうし。



杏「っ痛いなーー!!」

能力を発動する前に攻撃された。攻撃は更に激しくなってきた。

でもおかしい。向こうはこの暗闇でもこっちの姿を認識することが出来ているみたいに攻撃を仕掛け続けてくる。

能力を発動しようにも、これだけ激しく攻撃されるとどうにもシンデレラパワーが安定しない。

打撃の感触からいくと今杏は二機に攻撃されているみたい。
基本はヒット&アウェー。前後左右上下のどの方向からも攻撃が来る。今はただ耐えるしかない。



?「フゥ…何トカ二人ニ直接触レルコトガ出来タ。
球体ノ暗闇ノ中ノ中心ニ必ズ標的ハイルカラ、タダソコニ向カッテ攻撃シテモラエレバソレデイイワ」

??「…ソレニシテモ、諸星キラリサンノ暗闇ノ球体ハ…ヤハリ通常ヨリモカナリ小サクナッテイマスネ」

?「エエ。流石ハ彼女ノ能力ト言ッタトコロネ」

??「…果タシテ私ノ能力ガ効クノカ…気ニナル所デス」

?「対象ニ強イ望ミガアレバアルホド、??ノ能力ハソノ深サヲ増ス。
実験デモシッカリト効果ガ出テイタデショウ?」

??「…ソレホドマデニ、彼女ノ思イハ強イノデショウカ」

?「サア、ドウカシラ。ソレバッカリハ情報ヲ信ジルシカナイケド」

??「…闇雲ニ動キ回ッテイル諸星キラリサンノ機体ニ…向カワナケレバイケナイノデスネ」

?「多分暗闇ノ中デ暴レテイルデショウネ」

??「…」

?「勝負ハ一瞬ヨ。最大限マデシンデレラパワーヲ高メテ、
触レタ瞬間ニ全テヲ能力トシテ流シ込ム。
?ト?????ガ双葉杏ノ能力ヲ止メテイル時間モソウ長クハ無イハズヨ」

??「…ハイ。イキマショウ」



攻撃の手数は増えたけど、計器類の狂いが無くなった。レーダーも反応するようになった。
暗闇とはいえ、レーダーに反応があれば何とか攻撃を予測してシンデレラパワーの安定と能力の発動が行える。

レーダーには予想通り二機杏の機体に攻撃を仕掛けてきているみたい。

杏「きらり!!聞こえる!?」

きらり「杏ちゃん!!」

杏「状況は?」

きらり「周りがまーっくらで何にも見えないにぃ…」

杏「了解。とりあえず、ウグッ…ひたすらに暴れまくって周りに敵が近づけないようにしてて!」

きらり「りょーかい☆」


レーダーを見る限り、きらりの機体とはだいぶ離れてしまったみたいだ。

二機が杏の所、そうなるともう二機はきらりの所か。

杏は攻撃型でもないし、かといって防御が強い機体という訳でもない。
きらりはもろに攻撃型だけど、それを攻撃型の『アイドルマスター』で
迎撃するのは理想の戦い方じゃない。

そうなると特殊型の『アイドルマスター』がきらりの所に向かっている可能性が高い。

…駄目だ。
全然攻撃が止まないし、考えも攻略法も全然思いつかない。

杏の方にはかなりの攻撃型とスピード型の『アイドルマスター』が対応してる。
杏の弱点がモロにばれてる。これは本格的に内通者がいることを考えなければいけないな。

というか、そうなるときらりの弱点もばれているという事になる。
それを踏まえたこの奇襲作戦だったとすると、きらりには精神的な攻撃を行えるタイプの
『アイドルマスター』が向かってることになる。



杏「きらり!!とにかく気を強く持って!!」

きらり「………」

杏「き、きらり?」

きらり「…フ…フフフ………」



ブツッ




通信が切れるのと同時に、轟音が鳴り響いた。
直感的に、きらりの機体が落下したんだと分かった。





杏「きらり!!!」

とにかくこの鬱陶しい暗闇をどうにかしなければ。

敵の攻撃もくそも関係ない。無理矢理にシンデレラパワーを開放する。
敵の能力だろうがなんだろうが、フルパワーのシンデレラパワーならどうにか払えるかもしれない。




杏「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」




力技は功を奏したけど、状況はあまりにも悲惨だった。

暗闇は晴れ、月明かりが杏のぼろぼろになった機体を照らした。
そして地面に大きなクレーターを作ったきらりの機体も平等に照らしていた。




?「アラ、能力ガヤブラレタ」

?????「モー、?チャン、努力ガ足リナインジャナイノ?」

?「ネー☆」

?「無理矢理シンデレラパワーデ能力ヲ壊サレタノ。マアモウイインダケドネ。
諸星キラリヲ行動不能ニ出来タシ、双葉杏モ虫ノ息。アトハユックリト石碑ノリブートヲ行ウダケ」

??「…上手クイッテ何ヨリデス。多少ノ恐怖モ、イザ足ヲ踏ミ出シテシマエバ何トイウ事ハ無イノデスネ」

?????「??ダケニー?」

??「…?」

杏「…お前ら、きらりに何をした」ハァ…ハァ…

?「アラ、マダ話ス気力ガアッタノネ?」

??「…諸星キラリサンニハ夢ヲ見テモラッテイマス」

杏「…夢?」

??「ハイ…彼女ガ望ム世界ニ私ノ能力デ連レテ行キマシタ」



????専用機
『ブライトブルー』
特殊能力 ストーリーテラー 触れた対象が望む世界の幻覚を見せる能力。
望みが強ければ強いほど、その世界に入り込む。



杏「…目的はなんだ、どこ…の国の人間…だ」

?「残念ダケドソレハ言エナイノ。サテ、石碑ノリブートニ移リマショウ」

杏「…どんな目的があるか…知らないけど、その石碑は…リブート出来ない」

?「エエ、普通ノ石碑ナラソウデショウ。タダ、コノ石碑ハ違ウ。
順番通リニヤラナケレバ決シテリブート出来ナイ特殊ナ石碑」

杏「…特殊な石碑?」

?「オシャベリハココマデ。サ、リブートシマショウ」

四機が一斉に『シ』の石碑にシンデレラパワーを籠める。
杏たちと戦っていたのにまだそれだけの余力があると言うのが信じられない。

月明かりに照らされた四機の機体の特徴が少しだけ分かった。
基本は黒ベースの機体だ。二機はそこに青い色のラインが入っているのが見える。
他の二機はそれぞれピンクと黄色のラインが入っている。
色の系統からいくと、クール王国・キュート共和国・パッション国を連想させられるが、
その三国が裏で手を組んでこの作戦を行っているのか。
いや、中立軍の内通者を含めたら四つの組織が関係した作戦になるか。


戦場では常に冷静でなければいけない。
それはきらりが安否不明の状態である今でもだ。

一か八か、最後の力を使って一機だけでも仕留めなきゃ、割に合わない。
リブートは止められそうにないし、それならリブートし終わって油断したところを狙うしかない。

一機、最初の牽制でふらついたのがいたはずだ。

この距離ならいける。シンデレラパワーがどこまでもつかわかんないけど、
やらなきゃいけない。頑張るのは性に合わないし、努力とかそういうのはキャラじゃない。
でもこのままみすみす逃がすわけにはいかない。

石碑は眩く輝きだし、夜の闇を切り裂き、
そしてその光はどこかを目指すように闇の中に消えて行った。
石碑も同じように崖から姿を消した。



?「サテ、ソレデハサヨウナラ、双葉杏。貴女タチノオカゲデ楽シイ夜ニナッタワ」

杏「…それは…どうも」

?「流石ノ中立軍専用機乗リ双葉杏デモ私タチノ攻撃ガダイブ効イタミタイネ。ユックリオヤスミナサイ」

?????「バイバーイ♪」

??「…良イ夢ヲ」

?「オヤスミー☆」



ふわりと夜の闇に機体を浮かせて飛び去る四機の機体。

杏の演技を見抜けない辺り、まだまだ戦場の経験が少ないんだろう。
安心して敵に背中を見せるなんて、戦場では自殺行為。

専用機だろうとなんだろうと、その一瞬の油断が命取りだ!






杏「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」






シンデレラパワーを絞り出して、広範囲・高濃度のだらける空間を作り出す。
こんなフルパワー初めてだ。

?「ア、アレr…」グラッ

一機かかった!一気に浮上してその機体を抱え込む。

?「唯!!」フラ

杏「さて、一緒に夢の底までデートと行こうじゃないか!」

大槻唯「ハ、h離sエェ…」ZZ…

?????「タ、助ケニ行ク?」フラ

?「…イエ、アノ空間カラ唯ヲ救出スルノハ無理。
今ノ私タチノシンデレラパワーデハアノ空間ニ近ヅケナイ。近ヅイタラ確実ニ眠ラサレル」フラ

??「…デスガ」フラ

?「夜ガ明ケレバ全ての記憶ハ無クナル。情報ガ漏レルコトハ無イト考エレバ、
私タチ三機ガ無事ニ帰還シタ方ガ遥カニイイワ」フラ

??「…指示ニ従イマス」フラ

?????「ハーイ」フラ




そのまま飛び去る三機。それはありがたい。長時間シンデレラパワーを出し続けないで済む。

崖に降り立って暫くだらける空間を周囲に展開し続ける。

どうやら本当にこの一機を置いて残りの三機は逃げたようだ。助かる。

杏の能力をこの至近距離で受ければ相当な時間眠りについてくれるはずだ。

池袋晶葉謹製の『アイドルマスター』専用捕獲ロープでこの機体を拘束してっと。

後はさっき呼んだちひろさんの部隊が来るのを待つ。



杏「…きらり」



機体から生体反応はあるものの、揺らしても声を掛けても何も反応が無い。
今は無理に『うさぎ』から降りるわけにもいかない。どこで奇襲がかかるかもわからない。

ちひろさんが来るまではうかつな行動も出来ない。

そうなると今は思考を整理する必要がある。
敵機の情報と今後の身の振り方だ。

この黄色いラインの入った黒い『アイドルマスター』。
近くで見れば見るほど異様な黒さを放っている。
流線型のフォルムに所々、棘のようなデザイン。

どの国にも無い形だし、戦場で見たこともない。
新しい『アイドルマスター』がリブートされれば遅かれ早かれ情報が出てくるはずだ。

でもこの機体、いや、残りの三機についても見たことの無い機体だ。

中立軍のほかにどこか新しい軍隊か思想を持った国が現れたのか…、もしくはどこかの国の秘密兵器か。
でも考えても分からないものは分からない。


杏やきらりの情報を流した人物にも注意が必要だ。
最悪の場合、内部から崩壊させられる可能性がある。
誰を信じて、何を信じて行動すればいいか、今一度考えなければいけない。




杏「…CPか」




夜を切り裂くような轟音と共にやっと艦隊が到着してくれた。
伝えることを伝えたら、少し休んでもいいよね。







少女たちは夢を見る。優しく儚い夢を。
世界は無情にもその夢を壊すように狂っていく。
黒き機体は何なのか。
謎の石碑はどんな秘密を持っているのだろうか。
姿は見えれども捉えることのできない闇が、世界を覆い尽くそうとしている。

次回予告

共に手を取り、支え合いながら歩いた。
幼き日、少女たちは誓い合った。
遠い未来を夢見て。




次回、アイドルマスターシンデレラガールズREBOOT

第五話


「少女たちの始まり」


幼き日の思い、それはいつか帰ってくる。

保守ありがとうございます。

また書ければと思います。

第五話

「少女たちの始まり」


Side本田未央

未央「病気の影響かな?…うん、少し色があるね」

『……………』

未央「うん…そっか」

『………………』

未央「私?大丈夫だよ。うん、そうそう」

『………………』

未央「うん、気を付けるよ。ありがと。じゃあ行くね」

『………』


バタン

この程度のガラスなら、『アイドルマスター』ですぐに壊すことが出来るのに、
どうしてこんなに遠いんだろう。

壊しても何も解決しないのに、その思いを時々抑えられなくなる時がある。

理不尽だと理解していても、完璧に消化出来ている訳じゃないんだ。




藍子「未央ちゃん♪」

茜「未央ちゃーん!」

未央「…あーちゃんと茜ちん?どしたの、医療区画に何か用?」

藍子「さっきお部屋に行ったらいなかったので、もしかしたらここかなって」

未央「うーん、良い観察力。感心感心。指令か何か?」

藍子「いえ、折角のお休みですし、お散歩にでもと思って」

茜「天気もいいですし、走るのにいい日です!」

未央「茜ちんはあんまり天候関係なく走ってる気がするけどねー」

茜「今日は一緒に走るのにいい日です!!」

未央「私らも一緒に走る予定!?」

藍子「散歩です、散歩!」

茜「まあ細かいことは良いじゃないですか!とにかく公園へ行きましょう!」

藍子「おー♪」

未央「あれ、私の意見は?」

藍子「さあさあ♪」

茜「そうです!」


ちょっとあーちゃんも強引になったよね。誰に似たんだか。
茜ちんは、まあ強引と言うか、前から所構わず引っ張りまわしてくれるけど。

でも、そうやって引っ張ってくれる手が、私に向けられた理不尽さから引き離してくれるみたいで。

平日のお昼前、公園には子供連れの親子が少しいるぐらいで、あとは随分がらんとしてる。
もとより今は厳戒態勢が敷かれている状況だし、
あまりのんびり公園で穏やかな午後を過ごそうとする人はいないのが現状。

でも、人が多いと私たちの周りは人だかりになるから、
これぐらいのんびりできるのはありがたいことかな。

パッション国の中でも数少ない専用機持ち、
そして戦果をあげているパイロットは、この国では英雄のようにもてはやされる。
まあ、この未央ちゃんがセクシーすぎるのも一つの要因として考えられる訳なのだが…



藍子「…未央ちゃん?」

未央「ん?何かな」

藍子「いえ、何かにやにやしていたので」

未央「自分の魅力について考えていたら、ね?」

茜「未央ちゃんはこの国のエースですからね!」

藍子「よっ、韋駄天の未央!」

未央「ご、ごめん…恥ずかしいからやめてくださぃ…」

藍子「怪我の具合はどうですか?」

未央「怪我?」

茜「はい!今日はその具合を見てもらっていたんじゃないんですか?」

未央「あー、いや、えっと」


この二人にはまだ家族の事は伝えてないけど、
言ってどうこうなる物でもないし、わざわざいう事じゃない。

言って何か勘ぐられてしまうのもあまりよろしくないだろう。

未央「うん、綺麗に治ってるかどうか見てもらってたんだ。もう少しで治りそうかな」

茜「そうですか!それは何よりです!」

藍子「…」

未央「あーちゃん?」

藍子「あ、いえ…」

未央「気にしなくていいからね?あれは昔からあったことだし、
誰のせいでも、ましてや二人のせいでもないしさ」

藍子「でも…あまりにも…」

未央「いいんだよ。傷なんてすぐ治っちゃうし、それで軍がいい方向に向かうならさ」

茜「未央ちゃんはなんでそんなに軍を肯定するんですか?」

未央「ん?」

藍子「それは前から私も思ってました。あり得ない作戦を押し付けられたり、
文句の一つでも言っていいような作戦を任されたり」



二人は私の事を大事にしてくれてるんだろうな。
だからこそ、私の家族の事はどうしても二人には伝えたくない。

二人に私の事を重荷だと思ってほしくないから。

未央「うーん、まあしょうがないかなって。
私はこの国で真っ先に『アイドルマスター』をリブートした人間だし、
それは全国民が知っていて、その功績も知ってる。
そして、色々な戦場で戦果をあげて、私が行動して結果を出すことによって、
国民の士気を上げる役割があるんだよ。
それは他の誰でもない私しか出来ない事。
そしてそんな英雄的な私ですら軍とこの国の為に戦い、
そしてその力を制御している国や軍がいかに偉大かを示すために、
ああいった処罰を加えることをする」

藍子「…」

未央「人にはその人にしか出来ない役割があるんだよ。それがたまたま私だったってだけ」


でも、私にその力があったからこそ護れるものがあった。
それは二人には分からなくてもいい。私だけにとっての幸せな事。


茜「で、でも!」

未央「ま、あとは人材不足もあるしね。
二人がリブートしてくれたおかげでかなり楽にはなったけど、
ゆいゆいは消息不明になっちゃったし、美嘉ねぇは捕まっちゃったし。
莉嘉ちーも頑張ってるけど、今は防衛で手一杯だし、
前線に出るのは経験がある私ってことになるよね」

藍子「まだ早苗さんは前線に出て戦うには不安定ですしね」

未央「莉嘉ちーには申し訳ないけど、
しっかり教育してもらわないと、戦場じゃ使い物にならないからねえ」

茜「仁奈ちゃんはもう少し年齢が上がるまで出撃は厳しいですかね」

未央「国の育成方針がどうかって所かな。
なかなか強力な『アイドルマスター』だけど、
それを上手くコントロールできるまでは無理はさせないと思うしね」

藍子「…」

未央「あーちゃん、気にしない」

藍子「もっと…もっと頑張りますから!だから…」

未央「?」

藍子「…いえ」

茜「…」


強引に連れまわしたかと思うと、なんだか歯切れが悪い。


藍子「あ!そういえば」

未央「どしたの?」

藍子「この前キュート共和国と対面した時、隊長の、えーっと」

未央「しまむー?」

藍子「はい!そのし、しまむー?さん?」

未央「島村卯月、あだ名はしまむー」

藍子「その卯月ちゃんと随分昔からお知り合いみたいでしたけど、どんな関係だったんですか?」

茜「気になります!」

未央「いやー、別にそんなに大したことじゃないんだけどさ」

茜「でも、国を跨いで人が知り合うって、凄いことです!」

藍子「そうです!どんな出会いだったのか、茜ちゃんと気になるねって」

未央「えーっと、ほんとにそんな大したことじゃないけど、何で?」

藍子「えーっと…それは…」

ちょっと恥ずかしそうにもじもじしてるあーちゃん、可愛いなあ。

茜「友達の事を知りたいと思うのはいけませんか?」


茜ちんはストレートだなあ。気持ちがいい。
でも、正面切って二人に友達だって言われるのは、嬉しくもあり、恥ずかしくもあり。


藍子「えっと…その…嫌、ですか?」

未央「ううん、大丈夫だよ。でも本当に大したことじゃなくて、
小さいころ、今から十年前ぐらいかな、礎の島で出会って、
そして友達になったんだよ。キュート共和国のしまむーと、
クール王国のエースパイロット、しぶりんこと渋谷凛とね」

藍子・茜「えっ!?」

未央「そうそう、もう十年も前なんだよね」

―――――――――――

十年前


未央「しまむー!こっちこっちー!!」

卯月「未央ちゃん早すぎですー!」

未央「もー、そんなんじゃちっとも前に進めないよー」

卯月「ごめんなさーい…て、未央ちゃん、前!前!!」

未央「前?ってちょっとどいてどいてー!!」

???「…ん?」


ドンガラガッシャーン


未央「あいてててっ…。ご、ごめんなさい!!」

???「ん、大丈夫。立てる?」

未央「あ、ありがとう!」

卯月「えっと、大丈夫でしたか?」

???「平気だよ」

未央「えーっと、お名前なんていうの?」

???「私?渋谷凛」

未央「渋谷凛…しぶりんだ!」

凛「へっ?」

卯月「ごめんなさい、未央ちゃん、人にあだ名付けるのが癖なんです」

未央「だってそっちの方が親しみやすいじゃん?」

凛「いきなり知らない人にあだ名をつけるのはどうかと思うよ?」

未央「えー」

卯月「もう、未央ちゃん?」

未央「よーし、じゃあ今知り合ったからそれでいいってことにしよう!」

凛「えっ」

未央「よろしくね、しぶりん。私は本田未央、五歳!」

凛「え、ちょ、ちょっと」

卯月「よろしくお願いします、凛ちゃん♪島村卯月、七歳です、ぶい!」

凛「え…え?」

未央「しぶりんはこんなところで何してたの?」

凛「もうしぶりんは決定なんだ…」

卯月「諦めも肝心ですよ。私も会ってまだちょっとしか経ってないのにしまむーってあだ名になっちゃいましたし」

凛「えっ?」

未央「時間は重要じゃないのさ。昔の人は言ったでしょ?一度会ったら友達だって」

凛「聞いたことないよ」

未央「え、そうなの?…うーん、でもせっかくこんなよく分かんない森の中で出会ったんだから、きっとこれは運命だよ!」

凛「運命って…」

卯月「あ、でもどうして凛ちゃんはこんな森の中に?」

凛「島村さんも順応早いね」

卯月「卯月って呼んでください♪」

凛「…卯月」

未央「私の事はせくちーだいなまいとって呼んでね」

凛「未央と卯月はどうしてこの森に?」

未央「うーん、綺麗なスルー!」

卯月「えーっと、私と未央ちゃんはさっき出会ったんですけど、
何か二人ともこっちに来たいなって思って、冒険しちゃいました」

未央「で、しぶりんは?」

凛「わかんない。でも、二人と一緒で、何となくこっちに来たいなって思ったから」

未央「そっかー。それで、しぶりんはどこまで行く予定?」

凛「多分、あの木がちょっとだけ傾いてるところまでかな」

未央「おー!!じゃあ私たちと一緒だ!!」

凛「そうなの?」

卯月「はい!森に入る前は分からなかったんですけど、多分あそこに行きたいなって二人とも思っていて」

未央「よーし、じゃあ旅は道ずれ世は助けーっていうし、一緒にいこー」

凛「世は情け、ね」

未央「まあまあ、細かいことは気にしない。レッツゴー!」

卯月「ごー!!」

凛「…ごー」


―――――――――――

藍子「あだ名癖はもう小さいころからなんですね」

未央「距離を縮めるにはいいきっかけになるでしょ?」

茜「確かに!」

未央「そう、三人で礎の島のちょっと傾いた木まで行こうって、ちょっとした大冒険をしたんだよ」

藍子「あの、先ほどから未央ちゃんが言ってるその…礎の島って?」

茜「初めて聞きますね!」

未央「そうか、今は神の島って名前になってたっけ?」

藍子「神の島なら知ってます」

茜「昔は礎の島って呼ばれてたんですか?」

未央「…あれ?いや、昔から神の島って呼ばれて…ん?」

藍子「昔から神の島って名前じゃありませんでしたっけ?」

未央「うーん…なんだろ」

茜「三人は神の島で出会ったんですね!」

未央「そうそう。小さかったからさ、少し進むのにも大変でさあ」

―――――――――――


未央「ほらしまむー、引っ張るからしっかり掴まって!」

卯月「ごめんなさーい」

凛「いくよ、せーの」

未央「よいしょ!」

凛「ふう。なかなかあの木まで近づけないね」

未央「しぶりん、前・前!」

凛「何?」

未央「ぶつかるって!」

凛「大丈夫、見えてるから。それより未央」

未央「ん?」

凛「水たまり」

未央「あ…」ビシャ

凛「人の心配するより自分の心配をした方がいいね」

未央「もっと早く言ってよー」ウウッ

卯月「すっかり二人も仲良しさんですね♪」

凛「だ、誰が」

未央「そうなる運命だったってことよ、私たち三人はさ」

凛「もう…」


―――――――――――

未央「崖を登ったり、川を渡ったり、時には動物に追っかけられたり、
蜂の巣を避けて進んだり、今となっては何ともない道を、三人で手を取りながら進んでいったんだ」

茜「なんだかワクワクしますね!」

藍子「それで、傾いた木があったところまではたどり着けたんですか?」

未央「勿論!」

茜「そこにはいったい何が!」

未央「次週、三人が見たものとは!」

藍子「乞うご期待♪」

未央・藍子・茜「…」

未央「あーちゃんがノリノリだ!」

茜「顔が真っ赤です!」

藍子「うぅ…」

未央「それで、三人は無事に傾いた木にたどり着くことが出来たのです」

―――――――――――


未央「やっと着いたー!」

卯月「結構遠かったですね!」

凛「…何でこんなところに来たかったんだろ?」

未央・卯月「…確かに」

凛「ちょっと探検してみる?」

未央「しぶりんがノリノリだ!」

卯月「探検しましょう♪」

凛「もう…」


―――――――――――

未央「木は結構大きかったんだけど、周りを探索してても何にもなくて、
三人でブーブー言いながらフラフラしててさ、そしたら急に雨が降って来て。
それで近くにあった洞窟に逃げ込んだわけですよ」

茜「それからそれから!?」

藍子「洞窟に何があったんですか?」

―――――――――――


未央「いやー、凄い雨だね!」

卯月「濡れなくてよかったです!」

凛「でも、咄嗟に逃げ込んだけど、動物とかいないよね?」

未央「いやー、いるかもねー。ちょっと奥まで行ってみよ?」

卯月「ええー!?」

凛「まあ、ここでじっとしてても仕方ないし、行こうか」

未央「おー、さっきからしぶりんがノリノリだ!」

凛「未央だけ一人で行く?」

未央「是非三人で行きましょう!」

凛「うん」

卯月「ちょっと怖いです…」

未央「じゃあ、しぶりん」

凛「ん?」

未央「しまむーを二人で挟んで」

凛「挟んで?」

卯月「?」

未央「手を繋いだら、ほら安心!」ギュッ

凛「ちょっと恥ずかしいけど」ギュッ

卯月「これなら大丈夫です♪」


―――――――――――

未央「そこでね、私たちは石碑を見つけたんだよ」

藍子・茜「石碑!?」

未央「そう」


オレンジ色のガラス球が少し熱を持ったみたい。
思い出を懐かしむような温もりを放っていた。


茜「そ、それで!」

藍子「その石碑は!?」

―――――――――――


未央「んー、何だろ、この石」

卯月「大きいですね!」

凛「…ん?」

未央「どしたの、しぶりん?」

凛「こっち来て」クイクイ

卯月「んーっと…これは?」

未央「なんか書いてあるね!」

凛「えーっと」

未央「読めるの?」

凛「読めない…けど」

未央「けど?」

卯月「…あれ?」

凛「なんか、入ってくる」

未央「?…って、えっ?」

卯月「何でしょうか、この感覚」


―――――――――――

未央「ほんとにね、何かが入ってくる感覚が三人にあったんだ」

藍子「入ってくる感覚ですか?」

未央「そう。似てるのはリブートした時と同じような感覚かな。
石碑なんて見たって読めるわけじゃないのに、何となく分かるっていうあの感覚」

茜「分かります!こう、何と言うか、胸が熱くなるようなそんな感じですね!」

藍子「私の時は熱くなると言うよりはポカポカしたような気がしますが」

未央「まあ感覚は人それぞれなんだろうけど、そんな感覚が三人にも表れたんだ」

―――――――――――


凛「えっ、何これ…」

未央「ね、ねえ」

卯月「は、はい!」

未央「この石の文字、何となく、読めない?」

凛「…うん」

卯月「読めます、ね」

未央「『心』」

凛「『もよ』」

卯月「『う』?」


―――――――――――

藍子「『心もよう』ですか?」

茜「聞いたことの無いフレーズです!」

未央「全くね。でも、その言葉を言った瞬間、
頭の中にリズムが鳴り響いて、体が突然踊りだして、
そして気付くと私たちは歌ってた」

―――――――――――


石碑の上から、どこからともなく淡い光が差し込んできて、石碑と私たちを照らすように降り注ぐ。

体は勝手に動いて、私たちの意志はそこに全く介在しない、操り人形みたいな、そんな感覚。
でも、それは不思議と気持ち悪くなくて、どこか懐かしいような、暖かい気持ちにつつまれてた。

頭の中のリズムが鳴り止むと自然と体も止まり、辺りはまた静かな洞窟の中に戻っていた。

一つ違っていたのは、石碑の前に先ほどまでは無かった三色のガラス球が現れたこと。


―――――――――――

未央「これがその一つ」


そう言って私はポケットからオレンジ色のガラス球を取り出す。
これを誰かに見せるのは、あーちゃんと茜ちんが初めてだ。


藍子「綺麗なオレンジ色…」

茜「なんだか見ているだけで元気になれそうな、そんな感じですね!」

未央「他には青色、ピンク色のガラス球があってね。
それぞれしぶりんとしまむーが青とピンクをもらっちゃおうと決めたんだ」

―――――――――――


凛「勝手に持ってっちゃ駄目だって」

未央「えー、でもさっきまでは無かったんだし、
きっと私たちの歌を聴いてこの石が喜んでくれたんだよ。そのお礼ってことじゃない?」

凛「都合よく考えすぎだよ。ね、卯月…卯月?」

卯月「…このピンク色の球、綺麗」

未央「これは多数決で二対一かな」フフン

凛「うぅ…」

未央「それにしぶりん、さっきからその青い球に興味がおありのようで」

凛「うっ…」

未央「じゃあさ、この三つの球それぞれ持ち帰って、
私たちがこの島で友情を誓ったという記念の品にしようじゃないか!」

凛「友情って…」

卯月「はい!私賛成です!」

未央「はい!未央ちゃんも賛成です!」

凛「…」

未央「きっとね、運命だと思うんだ。
こうして偶然今日この島で出会って、不思議な体験をして。
この島を出たらもう二度と会うこともないかもしれないじゃん?だから…」

凛「…分かった。私も賛成」

未央「よっしゃー!」

卯月「はい♪」

凛「ふふっ」


―――――――――――

未央「世界で一番最初に石碑をリブートしたのは、私たちだったのかもしれないんだ」

藍子「『アイドルマスター』は現れたんですか?」

未央「それがさあ、私の記憶はここで切れちゃった」

茜「えっ?」

未央「そのガラス球を三人で取って、もう一度石碑を見ようとしたら、
そこで意識がぷつりと切れてて、気付いたら家族のもとにいたんだ。
手にオレンジ色のガラス球が握られてたから、
夢じゃなかったんだって確信したけど、不思議な体験だったなー」

藍子「じゃ、じゃあもしかしたらその場所に『アイドルマスター』が存在してる可能性が?」

未央「んー、どうだろう。何となくだけど『トリプルスター』をリブートした時とは感覚が違ったから、
多分あれはまた違う意味を持つ石碑だったんじゃないかなって思うんだ」

茜「違う意味ですか?」

未央「意味と言うか、役割と言うのかな」


今でも本当は夢だったんじゃないかと思う事もある。

未央「きっと私たちがあそこであの石碑をリブートしたことに、きっと何か意味があるんだと思うんだ。
そんな三人が、今は敵対する国のエースって言うんだから、何とも皮肉な話だとは思うけどね」

藍子「…」

未央「あーちゃん?」

藍子「…いえ」

茜「…」

あーちゃんも茜ちんも何か言いたかったのかもしれない。
でも、その言葉が紡がれる前に、突如現れた女性によって遮られた。




????「…少し、いいかしら?」





長身に銀の長い髪を靡かせ、私たちの瞳を覗き込むように話しかける一人の女性。
あっけにとられている私たちをよそに、彼女は言葉を続けてきた。

????「…二匹の猫を探しているの」

藍子「猫ちゃん、ですか?」

????「…ええ。二匹の猫」

未央「えーっと、特徴とかはありますか?」

恐る恐る聞いてみる。

????「…混血の猫と魚を嫌う猫の二匹」

藍子「ミックスの猫ちゃんはまだわかりますが、
魚嫌いの猫ちゃんはあんまり見たことがありませんね」

茜「もっと外見の特徴とかはありませんか?走っている時に猫ちゃんはよく見ますが、
外見的な特徴があれば、見たことがある子がいるかもしれませんし!」

????「…とても特徴的。一人は人であり、猫であり、その姿を模している猫。それが特徴。
もう一人は美しい銀の毛と異邦の言葉を織り交ぜて話す猫」

茜「えっ?」

藍子「人であり、猫であり?銀の毛で…異邦の言葉?」

未央「…猫のコスプレをした人と銀髪で言葉使いが変な人?」

????「…見たことが無いのならいいわ。ありがとう」

未央「あっ、ちょっ!!」

銀髪の女性は振り返りもせず公園を去っていく。

未央「な、何だったんだろ、今の人」

藍子「あの人…」

茜「すっごいシンデレラパワーでしたね!」

未央「と言うより、シンデレラパワーの塊みたいな感じだったけど、あれは…人だったのかな?」



ビーッ・ビーッ・ビーッ



未央「ありゃ、緊急招集だ!」

藍子「何でしょうね?」

未央「多分新しい石碑がリブートされたって報告じゃないかな」

茜「おお!遂にですか!!」

未央「やっと適合者が見つかったんだー。これでもう少し楽になるかなー」

茜「それじゃあ基地まで競争と行きましょう!」

藍子「えーっ!」

未央「ほらほら、早く早く!」



少し気分は晴れたのかな。

あの時の友達の証がまだこの手に残っているのは、
また友達に戻れるという希望があるからなのかも。
今、神の島、あの島の石碑はどうなっているんだろう。


世界の中心に位置する神の島。
近づこうとするといつの間にか外に出されてしまうと言う不思議な島。

私たちがあの石碑を見つける十年前までは765の神を祀ったとされる
唯一世界中の誰でも行ける非戦闘地域の島だったのに、
あの日を境に誰も近づく事が出来なくなってしまった。

何かを護るように、あの島に不思議な力が宿ったのかもしれない。

いつか、あの石碑にたどり着ける日が来るんだろうか。

幼き日の記憶はどこまでも色鮮やかで、
そして今はもう遠い過去の時間。

昔繋いだ手、そして今繋ぐ手。

どちらも大切でかけがえのない物。

いつかは離れてしまうと分かっていても、
決してほどけないようにと願いを込める少女たち。

とある地下牢獄


ガチャ


????「いやいや、お疲れ様。捕虜はどこかな?」

衛兵A「はい!城ヶ崎美嘉は現在ハートの牢に拘束しています!」

????「目の前の部屋かな?」

衛兵B「はっ!」

????「そうかい。ありがとう。どうだい、飴はいるかい?」

衛兵A「はい!頂きます!」

????「どこにあったかな。お、あったあった。この飴が好きでね。ここは飲食OKかな?」

衛星B「はい!どうぞご自由に!!」

????「ありがとう。では一つ頂くとしよう。甘くておいしいんだ。ほら。君にもあげよう」

衛兵B「ありがとうございますっ!」

????「さて、少し外してもらってもいいかな?」

衛兵A・B「「はっ!!」」


バタン






城ヶ崎美嘉「…その声」

????「おや、私の声が聞こえていたかな?」

美嘉「…何で、何でアンタがここに!!」




次回予告

さらに目覚める新たな力。
動き始める様々な思惑。
何を求めて彼ら彼女らは動くのか。
先の見えぬ戦争のその先は何が待っているのだろうか。



次回、アイドルマスターシンデレラガールズREBOOT

第六話


「思い、動く」


誰もが思いを胸に、動き出す。

保守ありがとうございます。

また書きます。おやすみなさい。

第六話

「思い、動く」


Side 高垣楓

雪原地帯

安部菜々「いやー、それにしても流石としか言いようがないですね」

木村夏樹「だなー。一人であれだけの数と渡り合えるだから」

前川みく「みくもあんな『アイドルマスター』があれば余裕にゃ!」

多田李衣菜「いくらなんでもあれは無理じゃないかな」

夏樹「まああの人が規格外ってのは前々からわかってたことではあるけどな」

菜々「そうですねえ。今もほら…」

楓「みなさーん、お疲れ様でーす。ふふふ」

みく「もうお酒飲んでるの!?」

夏樹「…ロックだな、ほんとに」

李衣菜「!」

夏樹「やめとけだりー。うちらは未成年だ。な、菜々」

菜々「ソ、ソウデスネー」

みく「全く!戦場だってことちゃんと弁えてほしいにゃ!」

楓「まあまあ、お猪口にちょこっとしか飲んでませんから」ウフフ

夏樹「後はアタシらに任せて休んでてくれよ。っつっても、誰も来やしないと思うけどな」

楓「はーい。ではお言葉に甘えて、ゆっくりさせてもらいますね」

誰かが言いました。最強の『アイドルマスター』はどの機体かと。

誰もが私の名前を口にしました。

それはとても不名誉なことだと、私は感じずにはいられませんでした。
戦いが続く中、最強と言う言葉ほど悲しい称号などありません。

それでも日に日にその声は多くなり、戦場では畏怖を、王国では賞賛を何度も。
ただ一つの平和があればとあがき続けた結果が、最強と言う称号。

それでも、その称号一つで世界が平和になれば私の気持ちは安らいだでしょう。
世界はそうなりませんでした。

私は抑止力には成れず、戦争は日々激化の一途をたどります。
その重圧から逃げるようにクール王国を去ったと、国中の人はそう感じたでしょう。

でも真実は違います。

私は…。

ビーッ・ビーッ


ちひろ「楓さん、お疲れ様です」

楓「はい、お疲れ様です」

ちひろ「当初の計画通り、『We’re the friends!』の石碑のリブートは完了しました」

楓「無事で何よりです(当初の計画通り…という事は)」

ちひろ「今から愛梨ちゃんたちが向かいます。今後の計画についてはこちらに戻り次第」

楓「はい、お待ちしていますね」

ちひろ「…お身体、大丈夫ですか?」

楓「ふふふ、心配してくださるんですね」

ちひろ「…ええ」

楓「大丈夫ですよ。これぐらいの事で倒れては、何も成し遂げられませんから」

ちひろ「エナジードリンクの服用は?」

楓「…三本ほど」

ちひろ「量が…」

楓「仕方ありません」

ちひろ「急いで向かわせます。まずは安静にしていてください」

楓「はい、お待ちしています」

大きな力にはそれ相応の代償が必要になります。

シンデレラパワーも実際の所、万能な力ではありません。
勿論通常使用する場合であればそこまでの影響力はありませんが、
先ほどの戦闘のように、多量のシンデレラパワーを吸収してしまう場合、
シンデレラオーバーと言われる副作用が出てきてしまいます。

この吸収の能力は実は最初からこの『こいかぜ』に備わっていたようです。
それを十代の頃から知らず知らずのうちに使用し、酷使し続けてしまったこの身体は、
もう戻れないところまで来てしまっているのかもしれません。

人によってシンデレラオーバーの症状は異なるようですが、
私の場合、シンデレラオーバーは内臓器官に多大な影響を与えることが分かっています。

ちひろさんから処方されたエナジードリンクなる物を服用することにより、
何とか痛みを和らげられていますが、徐々に効きも悪くなってきています。

それでも成し遂げなければならない夢があります。
だから、私はこの中立軍にいるんです。

そして、本当に戦わなくてはならない相手を見据えながら。

中立軍基地


Side双葉杏

杏「一週間寝たけど、未だに疲れが取れないよ…」

ちひろ「相当無理がたたったみたいですね」

杏「で、あの『アイドルマスター』のパイロットから何か情報は得られたの?」

ちひろ「…いいえ」

杏「含みがあるみたいだけど?」

ちひろ「その話と、これからの話はこの部屋で話します」

杏「いいけど…ここって晶葉のラボじゃん」

ちひろ「はい」

ガチャ



ちひろ「晶葉ちゃん、お疲れ様です」

池袋晶葉「…ああ、ちひろか。それから杏も」

杏「おーっす。で、何で晶葉のラボで?」

ちひろ「会話を盗聴されている可能性があるので。
『アイドルマスター』の指令もこのラボで行っています」

晶葉「この部屋は私が常に盗聴や情報の漏えいをチェックしているからな」

杏「なるほど。それは確かに大切だね。内通者の目星はついてるの?」

ちひろ「いいえ。何か心当たりが?」

杏「別に無いよ。ただ、杏の能力の射程がこの前襲ってきた『アイドルマスター』の
パイロットには漏れてたみたいだから、内通者がいるんだろうなって」

ちひろ「こんな世界ですから、どの国にもどの軍にもスパイの一人や二人、いてもおかしくありません」

杏「という事は?」

ちひろ「勿論」

杏「そっか」

晶葉「そう言えば先ほど連絡が来た。可能性は否定できないとのこと」

ちひろ「そうですか…。ありがとうございます」

杏「何の話?」

ちひろ「また少し別の問題があるんです。まだ確証とは言えませんが、
それが真実であれば…。まあそれはまた後程。それで、本題ですが」

杏「尋問の結果、何も情報は得られなかった。随分相手も口が堅いんだね」

ちひろ「いいえ、そういう事じゃないんです」

杏「?」

一ノ瀬志希「あれは口が堅いとかそういうんじゃないねー」

杏「おーっす」

志希「やーやー」スンスン

杏「挨拶もよろしく、いきなり匂いを嗅ぐのはどうかと思うよ?」

志希「いやー。甘い匂いがしたからねー」ハスハス

ちひろ「晶葉ちゃんと志希ちゃんのおかげできらりちゃんの事と、
捕まえたアイドルについては大分わかってきました」

杏「へー」

志希「あー、信じてないなー」

杏「そんなことないよー」

志希「ま、それは置いといて」

杏「そうそう、口が堅いとかそういう事じゃないって言うのはどういう意味?」

志希「まあまあ百聞は一見にしかずってことで」

晶葉のラボの奥にはガラス張りの部屋。
特に拘束されている訳でもなく、
金髪の女の子が暇をもてあそぶようにベッドに腰掛けている。
不満げに足をフラフラさせている。

このガラス、多分シンデレラパワーでも壊せない特殊なガラスだろう。



大槻唯「おっ!初めて見る子だー!ちーっす!ゆいでーす!」

杏「…お、おー」

唯「っていうかー、もうそろそろここから出してー?ひーまー!」

杏「捕虜にされたとは全く思ってない感じだね」

ちひろ「彼女の個人情報はすでに分かっています。この資料をどうぞ」

杏「ありがと」

ふむふむ…パッション国のアイドル?身長から年齢、
リブートした時期まで。随分としっかりした情報だ事。
能力についてはまだ未記入。


ちひろ「そしてこれがこれまでの尋問の結果です」


Q・名前は?

A・大槻唯だよー

Q・今回の作戦について、知っていることを話してください。

A・作戦?

Q・『シ』の石碑リブートについてと言えば分りますか?

A・へ?えっと、何の話?

呼吸・脈拍・血圧など変化なし。

Q・ではこの『アイドルマスター』に見覚えはありますか?

写真・大槻唯が乗っていた黒い『アイドルマスター』を見せる。

A・知ってる…けど、アタシの『アイドルマスター』ってあんなとげとげしてなかったような…ってか色が全然違う!!

Q・ではどのような形状でしたか?

A・まず黒くない!あんなとげとげ無かった!!

Q・大槻唯さん、目が覚める前の記憶はありますか?

A・んー…あるけど、ぼやーっとしてるっぽい。

Q・もやがかかったような?

A・そうそう!…あっ!

Q・何か思い出しましたか?

A・そうそう!パッション国から美嘉ちゃんと一緒に出撃する時にハイタッチした!!

Q・そのあとは?

A・うーん、そっからの記憶が無い♪

杏「で、これ以上の情報は何にも聞き出せなかったと」

志希「そうなんだー」

晶葉「色々な可能性がある中で、ここまで非現実的な状態であると考えると、
残る可能性は『アイドルマスター』による特殊な洗脳が行われたのではないのかと言う事なんだが…」

杏「不可解なところがある?」

志希「そうそう。あたしの『アイドルマスター』は見たことあるでしょ?」

杏「香りを操る『アイドルマスター』だったね」

志希「あの香りの中にはシンデレラパワーが含まれててね、
そのシンデレラパワーの濃度によって香りの効果が増減する仕組みなのさ」

杏「杏の『うさぎ』の能力とあまり変わらない能力の性質でしょ」

志希「そうそう。で、あたしの能力は、香りをあたしのシンデレラパワーで
増幅させて香りの持つ力を最大限に高めて、吸った人に能力が発動する仕組みなんだけど、
それは結局あたしのシンデレラパワーが対象の中に入るってことを意味するわけで」

杏「ふんふん」

志希「そうなると、あたしの能力を吸引した対象には大なり小なりあたしのシンデレラパワーが検知されるんだ」

杏「証拠は?」

志希「晶葉ちゃんで♪」

晶葉「もうこりごり…」

杏「あー…、それはお疲れ様です」

晶葉「まあ、大変だったがそのおかげできらりの症状についても少し進展があったのだから、よしとしよう」

杏「その話はまた後で聞くよ。で、シンデレラパワーが
検知されたりするのは分かったけど、それがどうしたってのさ」

志希「もし特殊な『アイドルマスター』で洗脳されていたとしたら、
唯ちゃんの中にも彼女のものとは別のシンデレラパワーが検知されてもいいはずでしょ?」

杏「…出なかった?」

志希「御明察♪という事はもしかしたら全く関係ない所で唯ちゃんが操られてたのかもしれないし、
もしかしたら唯ちゃんはあたし達が想像もつかないような訓練を受けているのかもしれない」

杏「それが不可解な点って事でいいの?」

志希「そういうことー。そういった特殊な『アイドルマスター』だっているかもしれないけど、
断言できるわけじゃない。
質問に対しての反応が全く出ない訓練なんてあまりにも特殊すぎるし、それも現実的じゃない」

杏「検査から時間が経ったからシンデレラパワーが消えたと言うのは?」

志希「それも十分考えられるけど、人を操るほどのシンデレラパワーが
一日二日で完全に消え去るなんてことは考えにくくないかな?」

杏「んー、まあそうなのかなあ」

志希「それに杏ちゃんのシンデレラパワーはまだ彼女の中に残留してるんだよ。
大分影響力が落ちてるみたいだから、今は何ともないみたいだけど」

杏「?何で杏のシンデレラパワーが残留してるのに眠気を催さないの?」

晶葉「それが興味深くてな。きらりの症状の解明にも繋がるのではないかと考えている」

杏「?」

唯「ねー!暇なんだけどー!」

ちひろ「彼女の処遇についても考えなければいけませんが」

志希「それは上の人に任せるしかないけど、もう少し実験したいんだよねー」

唯「人体実験!?いーやー!!」

ちひろ「その件は今西部長に取りまとめてもらっています。
CPで優先的に扱える内容ではありますが、形式上、段階を踏まないといけないので」

唯「アタシに人権はないのかー!!」

ちひろ「貴女がパッション国の人間であることは判明していますが、
現在パッション国ではどの国が貴女を捉えたか不明のままです。
貴女が一週間前に同行していた『アイドルマスター』の集団もどこの組織の人間かわかりません。
貴女は今グレーな存在としてここにいるんです。そんな貴女に人権があると思いますか?」

唯「お…鬼、悪魔!!」

ちひろ「大丈夫、手荒なことはしませんし、
色々わかったらパッション国に通達も入れます。それまでの辛抱です」

唯「うぅ…」

杏「超絶独自理論」

ちひろ「身の安全は保障しますから♪」

唯「もういい…ふて寝する…」フイ

晶葉「まあ彼女についてはそう言ったところだ」

杏「で、きらりについては?」

志希「きらりちゃんの中にも確かに彼女のものとは別のシンデレラパワーが検出されたんだけど…」

晶葉「きらりは目覚めることが無いかもしれない」

杏「…時間によってシンデレラパワーは減退するんじゃないの?」

志希「そう、本来なら時間の経過か、自身のシンデレラパワーが異質なシンデレラパワーを排除するはずなんだけどね」

杏「そうなっていない状態だと」

晶葉「そうだ。一週間検査したが、きらりの中にある異種のシンデレラパワーの量は全く減っていない」

杏「…考えられるのは?」

志希「そういう特殊な能力を持ったシンデレラパワーであるとしか言いようがないかな」

杏「シンデレラパワーを抜き取るってことは可能なんじゃないの?」

晶葉「それもやってみたが、上手くいかない。
と言う事と、怪我が酷い状態で、今シンデレラパワーを抜き取ろうとすると
きらりの生命維持活動自体が危うくなる。
この状態でシンデレラロストの症状を引き起こした場合、最悪…死ぬ」

杏「じゃあきらりの怪我が良くなるまで待たないといけないのか」

志希「…そう言いたいんだけど、そういう事も言ってられないんだ」

杏「?」

志希「普通の人間は自然治癒力で怪我を治すというのは分かると思うけど
、あたし達アイドルと呼ばれる人種は、その自然治癒力が通常の人間よりもかなり弱いんだよ。何故だかわかる?」

杏「…シンデレラパワーがあるから?」

志希「その通り。あたし達に不思議な力が目覚めた時から、
シンデレラパワーが自然治癒力に変わってあたし達の体を治してきた。
それは当然で、膨大な力を扱っているせいで通常の体では耐え切れない負荷があたし達にはかかってるんだけど、
それを癒す為に必要な変化なんだよ」

杏「でも、きらりの中にはシンデレラパワーがあるんでしょ?それで治るんじゃないの?」

志希「そう思ってたよ。でもね、厄介なのがきらりちゃんの中に入ってる別のシンデレラパワー、
それが怪我を治すのを阻害しているんだよ。それがどうしてそうなっているのかは、現段階では…」

杏「…そっか。じゃあ今の所打つ手は無しってことか」

志希「ごめんね…」

杏「別に志希のせいじゃないでしょ。とりあえずはきらりを変にした
『アイドルマスター』を探して捕まえるしかないってことが分かったし」

ちひろ「CPへの参加、という事でいいですか?」

杏「まあ、もとよりそのつもりだったけど、
CPにいた方が作戦に自由がきくみたいだし、利害が一致してるなら問題ないよ」

ちひろ「はい。杏ちゃんには例の黒い『アイドルマスター』に関しての作戦に専念してもらおうと思います」

杏「はーい、よろしくね」



コンコン



ちひろ「!」

????『私だよ。開けてくれるかな?』

晶葉「モニター確認。今西部長で間違いない」

バタン


ちひろ「おかえりなさい。今回の遠征は大分かかりましたね」

今西部長「ただいま。ああ。戦争難民のチェックにかなりの時間がかかってね。
移動と会議を一緒にやるなんて、老体も枯れ果ててしまうよ」

ちひろ「それがお仕事ですからね。コーヒーでいいですか?」

今西部長「ああ。お願いするよ」

ちひろ「ミルクは入れますか?」

今西部長「いつも通りブラックでいいよ。とびっきり濃いので」

ちひろ「はい」

今西部長「おや、双葉君、君も遂にCPに参加かな?」

杏「一応ね」

今西部長「それは嬉しい限りだ」

ちひろ「それで、会議の結果は?」

今西部長「ああ、黒い『アイドルマスター』に関しては全てCP、
そして千川ちひろが権限を有するという事になったよ」

ちひろ「ありがとうございます」

今西部長「なに、これが私の仕事だからね。捕虜に関しても同様だ。
あとは黒い『アイドルマスター』への対抗策と、戦力の増強が目標になるね」

ちひろ「そしてあの一文字しか書いていない石碑の調査も」

今西部長「それも含め、国外に出ているCPメンバーをそろそろ集結させなければいけないかもしれないね」

杏「そう言えば、今CPメンバーって誰がいるの?」

ちひろ「現在CPメンバーとして私の権限で自由に動かせる人員は、
北方の楓さん率いるリブート部隊の内の二人、前川みくちゃんと多田李衣菜ちゃん、
防衛隊に赤城みりあちゃんと三村かな子ちゃん、遊撃部隊に神崎蘭子ちゃん、それから…」

Side ????



???「いえ、順調に進んでいます。はい。新しく見つかった石碑はリブート済みです」

???「ええ。そうですか。いえ、戦力的にはいいかと思いますが、
今の戦力を考えると、最悪国が潰れる可能性もあります」

???「おお、適合者がいましたか。いえ、では…」

???「いえ、まだしっぽはつかめていませんが、外部に情報が出た形跡もありませんし、
私に対しての内部からの圧力もありません。このままいけば…。はい。いえ、ではこれからも変わらずに、はい。では」

???「…ふぅ」




スゥ…

風の吹く丘



智絵里「…」

卯月「あ、智絵里ちゃん!こんなところでどうしたんですか?」

智絵里「あ、卯月ちゃん。う、ううん、何でもないよ。
風がタンポポの種を飛ばしてたから、私も手伝おうかなって」

卯月「智絵里ちゃんの能力を上手くコントロールする訓練に良さそうですね!
あんまり風が強すぎると根こそぎたんぽぽがとんでっちゃいそうですし」

智絵里「う、うん。コントロールは難しいから、失敗しないようにしなくちゃ。卯月ちゃんはどうしてここに?」

卯月「いえ、智絵里ちゃんの姿が見えたので何してるのかなーって」

智絵里「…卯月ちゃんは」

卯月「はい?」

智絵里「…卯月ちゃんは今のこの状況をどう思いますか?」

卯月「戦況ですか?」

智絵里「ううん、世界中で起こってる戦いについてと『アイドルマスター』についてです」

卯月「…智絵里ちゃんはどう思いますか?」

智絵里「…私には戦わなければいけない理由があるんです。
世界を平和にしたいっていう、大きな夢のためですけど。
そのためには、あまりにも大きい力の『アイドルマスター』は不要なんじゃないかなって」

卯月「私も同じです。世界を平和にしたくて。
本当は『アイドルマスター』だって平和活用が出来れば一番だって思ってますが」

智絵里「卯月ちゃんはやっぱり優しいね」

卯月「そうでしょうか?」

智絵里「世界はそんな風に考えている人だけじゃないんです。
欲の為だけに『アイドルマスター』を使おうとしている人たちがいます…」

卯月「私利私欲に見合う正当な理由をつけて大義を装い戦う。
それはどの国も同じです。クール王国も、パッション国も、キュート共和国も、中立軍も全部」

智絵里「…ぃぇ」

卯月「?」

智絵里「ううん、何でもない。でもね、卯月ちゃん」

卯月「はい?」

智絵里「信念無き力は脆く壊れやすいです。
卯月ちゃんの『アイドルマスター』を平和活用が出来ればという思いは、
卯月ちゃんの信念足り得る思いですか?」

卯月「…『アイドルマスター』に乗ってから今まで、
その思いはいつも私の心にあります。だからこうして私はここにいます」

智絵里「そっか…卯月ちゃん、その…ね」

卯月「?」

智絵里「ちゅ「卯月ちゃーんっ!!」」

卯月「あ!智絵里ちゃん!新しい『アイドルマスター』ですよ!おーい!!」

智絵里「美穂ちゃんと、もう一つは五十嵐響子ちゃんの機体だね」

卯月「もう一人、新しく発見した石碑が中野有香ちゃんと反応し合ったみたいで、
これからリブート作業です!これでキュート共和国も戦力増強でどうにかクール王国や中立軍と渡り合えそうです」

智絵里「パッション国は今戦力がかなり少なくなってるし、防戦一方で他国と競い合うって状況じゃないですね」

卯月「この前はかなり無理しての進軍みたいでしたが、
結局無駄になりましたし、今はかなり落ち目ですね。
だからこそ叩いておきたいところでもありますが、他の軍の動きも気になります。
中立軍も今はかなり外に出て動いてるみたいですし、各個撃破出来るように練度を」

智絵里「…うん」

????



コンコン

店員「はいよー」

????「失礼するよ。酒場のオヤジから教えてもらったんだが、
曰くつきの古文書を扱っている店って言うのはここであっているかい?」

店員「ああ、あんたが。聞いたよ。うちであってる」

????「それで、その古文書っていうのはどんな曰くがついているんだい?」

店員「読んだ人間は消し炭になって死ぬってだけの他愛もない曰くだよ」

????「なかなか穏やかじゃないねえ」

店員「信じてないな?」

????「そんなことないさ。ただ、あまりに馬鹿げていると思ってね」

店員「同じだよ。まあ誰に言ったって反応は同じだけどな」

????「何か証拠でもあるのかい?」

店員「証拠?そんなもん、俺の両目と記憶だけさ」

????「信じられる要素が全くないねえ」

店員「だろうね。まあ信じようが信じまいがどちらでもいいさ。死人に口なしだ。
どれだけ目撃者がいようが、本を開いただけで人が燃えちまうなんて話、到底信じられるもんでもない」

????「だろうね」

店員「だから信じようが信じまいがどうでもいいのさ。
親父も、そのまた親父も、そのまた親父の親父の親父の親父もみーんな同じように
その書を開いて死んだ人間を見てきたが、誰も信じちゃくれなかった。で、その古文書がこれだ」



バタン

????「なるほど…表紙のこれがタイトルかな?…G…IM…RE?」

店員「ああ。GRIMOIREだよ。グリモワール」

????「グリモワール…魔導書なのかい?」

店員「さあ?なんせ本を開いた連中みんな焼死んじまってるからな。
ま、そう考えりゃあ呪いが掛かった魔導書かもな」

????「さて、これはいくらかな?」

店員「ざっとこんなもんでどうよ?」

パチパチパチ

????「少しふっかけすぎじゃないかな?」

店員「お客様の死体処分の金額も含めてのこの金額よ」

????「死ぬかもしれない人間から金をふんだくろう言うのは、これまたいい商売だね」

店員「生きてる人間の為に死人が金を使えるなら、これほどいいことは無いんじゃないかい?」

????「ではその口車に乗っておくとするよ」

店員「毎度あり。出来れば火事にならないようなところでその古文書を読んでくれると、被害が少なくて助かる」

????「そう言えば、死体処分費は死ななかった場合どうなるんだい?」

店員「どうもしないよ。呪いの古文書が高く売れて万々歳ってだけさ」

????「呆れてものも言えないね」

店員「生きてるうちは何か言ったほうがいい。死人に口なしだって言っただろ」

????「ああ、そうだったね。それじゃあ貰っていくよ、クソ野郎」

店員「それでいい。本が戻ってこないことを祈ってるよ」

????「ああ。今晩中祈っていておくれ。そして明日の朝一の新聞を楽しみにしていてくれたまえ」

店員「毎度ありー」ヒラヒラ


もうかれこれ数百年以上は経っているだろう古文書、
いや、グリモワールと呼ばれるこの書は、それでも形をしっかりと維持したままの状態でここにある。
特殊な力が籠っていても不思議ではないし、
もしかしたら本当に開いた人間が燃える呪いが掛かっているのかもしれない。

恐怖と、それ以上の好奇心が私の手を動かしてしまう。
またこの書によって屍が積みあがるのか、それとも過去を読み解く何かの鍵になるのか。

目を閉じて、分厚い表紙をゆっくりと丁寧に開いていく。
汗が頬を伝い、机の上に落ちていく。

恐る恐る目を開き、表紙をめくった先に。









この禁断の魔導書《グリモワール》を開くものにイフリートの抱擁を!







しかし、何れかの世に、再び楽園に人と巨兵の災厄が降り注ぐ日が来るであろう。

巨兵の脈動が世界を震わす時、この禁断の魔導書《グリモワール》の封印を解かん。

我が名はブリュンヒルデ。

天も地も人も、我が名を褒め称え謳う。

我は刻む。

永劫の彼方に打ち捨てられた記憶を。

我が友との絆を。

さあ、「瞳」を持つ者よ。我と共に魂の共鳴を奏でん!!










????「ふぅ…どうやら、このグリモワールの封印は解かれたようだね」



思いが交錯し、人を動かしていく。
目に見えるもの、見えないもの。
そのどちらもが大切で、護るためには戦うしかない。
思いを遂げるまで、人は抗い続ける。

次回予告

過去を知り、今を作る者。
その思いを知り、思いを果たす者。
紡がれた記憶は何を明かすのか。


次回、アイドルマスターシンデレラガールズREBOOT

第七話


「過去を知る者たち」


今を作るのは、今を生きている者だ。

保守ありがとうございます。

また書きたいと思います。おやすみなさい。

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