てづま侍まかべえ (70)

いよぉぽんぽんぽんぽん

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歩「へいらっしゃい」

瑞希「お腹、ぺこぺこだぞ……ご主人、天ぷらそばです」

歩「へいわさび増し増し」

瑞希「ご主人、わさびの量は普通でお願いします」

歩「へい……」

瑞希「ふぅ、今日も町は平和で何より」

エミリー「きゃー!」

千鶴「ごめんあそばせ!」

瑞希「むむむ、波乱の予感」

エミリー「いや!おやめになってください!堪忍!」

千鶴「おーっほっほっほげほほん!……わたくしのシマで生意気な髪色ですわ!羨ましい!」

エミリー「地毛ですので!地毛ですので!」

千鶴「だまらっしゃい!わたくしより派手な恰好は許しませんわ!」

エミリー「離してください!」

千鶴「その黄金に輝く髪、切って差し上げます!」

瑞希「そこまでです……キリッ」

千鶴「!」

エミリー「ああ、まかべえ様!」

瑞希「嫌がっています、離してあげて下さい」

千鶴「なんですの貴方、わたくしを二階堂家次期当主と知ってのことかしら?」

瑞希「町の見回り侍、てづまのまかべえとは私のことです」

千鶴「しゃらくせえですわ!表に出やがってくださいまし!」

瑞希「……いいでしょう、ここでは他のお客さんの迷惑になります」

歩「天ぷらそばお待ちー」

瑞希「どこからでも来て下さい」

千鶴「ふふっ、その腰に差したものはお飾りかしら?」

瑞希「思い留まるなら今の内です。私は侍なので、刀を抜けば斬らなければなりませ」

千鶴「スキありですわ!この匕首でなますにして差し上げますわー!」

瑞希「わっ、危ない」

千鶴「外しましたか、次は必ず斬」

瑞希「えい」

千鶴「きゃあ!?い、石を投げるなんて卑怯な!」

瑞希「印地打ちは兵法の基本です、えい」

千鶴「せい!少々驚きましたが、飛んで来ると分かっていれば落とすのは容易いこと、距離を詰めさせていただきます!」

瑞希「えい、えい、えい」

千鶴「何度やっても同じこと、とうに見切りまし、だっ!?」

瑞希「見切っていても、見えない後ろからはどうにもならないみたいですね」

千鶴「ぐ、いったい、何、が……がくっ」

瑞希「最後の一投は糸付きでした、引けば手元に戻ります……びゅんびゅん」

エミリー「まかべえ様、役人の方々を連れてまいりました!」

瑞希「お疲れ様です、エミリーさん、役人さん。この方も若気の至りでしょうから、お灸を据える程度にお願いします」

ジュリア「任せときな、それじゃあばよ」

瑞希「さて、やっと天ぷらそばを食べられます。おや」

歩「お客さんいきなり外に出ちゃうんだもん、そばが伸びちゃったよ」

瑞希「二人前……ご主人、お心遣いありがとうございます。エミリーさん、ご一緒にどうですか」

エミリー「え?ええと、その」

歩「昼飯の休憩がまだだったよね、呼ばれちゃいなよエミリー」

エミリー「……はい!まかべえ様、ご馳走になります!」

瑞希「ふぅ、今日も町は平和で何より」

おわり


Pじゃない俺には開くまでなんのスレか判らなかったけど面白かったよ

瑞希「呼ばれて飛び出て、どどーん、ずばばばーん……まかべえです」

ジュリア「来たな。何だその掛け声?」

瑞希「いえ、お気になさらず。ジュリアさん、何のご用でしょうか」

ジュリア「近頃、町の風紀が乱れてるのは知ってるか?」

瑞希「さっぱりです、何かありましたか?」

ジュリア「いやな、ご禁制と知ってか知らずか、こういう物が出回っててな」

瑞希「これは……春画というやつですか」

ジュリア「そうだ。おい大丈夫か、茶か何か飲むか?」

瑞希「出来れば冷えたお水を……ぱたぱた」

ジュリア「ある程度は見逃すのもあたしらの仕事だが、流石にこれはエグすぎるぜ」

瑞希「はい、たしかに、ええ、はい。ジュリアさん、私はこの原本の作者を追えばいいのでしょうか」

ジュリア「いや、作者は割れてる。ただちょっと可哀想な事情もあってね、どうにかしょっ引かずに事を納めてやりたいんだ」

瑞希「なるほど。切った張ったは苦手ですが、説得なら私でも出来そうです」

ジュリア「頼もしいぜ。居所はここだ、頼んだぜ」

瑞希「そういえば、事情というのは?」

ジュリア「行きゃ分かる」

瑞希「そうですか、では行ってきます」

瑞希「ごめんください」

ロコ「誰ですか?今ロコはベリービジーなんです、デイビフォアイエスタデーにカムしてください」

瑞希「お邪魔します」

ロコ「ちょっとウェイト!何いきなりインしてますか!」

瑞希「よく聞き取れませんが、入ってはいけませんでしたが?」

ロコ「スピーディにリターンしてください!」

瑞希「帰れと言われている気がします。ロコさん、その前に一つだけ聞いてください」

ロコ「な、どこでロコのネームを……あなた何者ですか?」

瑞希「町の見回り侍、まかべえです。ロコさんの春画が風紀を乱しているとして目を付けられています。出来れば控えてください」

ロコ「……っ、ノープロブレムです。ボディはバインド出来てもパッションはキャノストップですから」

瑞希「ロコさん、分かるように話してください」

小鳥「ごほ、ごほ……ロコちゃん、誰か来ているの?」

ロコ「あわわ!寝てなくちゃダメです、ベッドにリターンしてください!」

小鳥「あら、こんにちはお侍さん。ロコちゃんのお友達?仲良くしてあげてね」

瑞希「町の見回り侍まかべえです、どうぞよろしく」

ロコ「もう、大人しくスリープしててくだいったら!あなたも二度とカムヒアしないでください!」

ジュリア「どうだった?」

瑞希「ダメだった気がします……がっくり」

ジュリア「あたしも説得に行ったけど、難しい言葉でまくし立てられてね。見たかい?」

瑞希「はい、病気のお母様の薬代を稼ぐために際どい絵を、といったところでしょうか」

ジュリア「らしい。あの子をしょっ引けばあの母親の面倒を見る奴がいなくなる。あたしもどうにかしてやりたいんだけど」

瑞希「版画……ジュリアさん、春画の問題になってる部分はここですか?」

ジュリア「ん?ああ、そことかこことかを描かれると流石に見逃せない」

瑞希「……なるほど。ジュリアさん、私はもう一度説得に行って来ます」

ジュリア「?行ってらっしゃい、まあ期待しないで待ってるよ」

瑞希「はい、期待して待っていてください」

ロコ「誰ですか?またさっきのガールですか?」

瑞希「町の見回り侍、まかべえです。お邪魔します」

ロコ「だからアービトレラリーにインしないでください!」

瑞希「ロコさん、このままでは捕まってしまいます。私の話を聞いてください」

ロコ「何をセイされても、ロコはハートの赴くままにブラシを走らせます!」

瑞希「これはあなたの春画ですが、斬らせてもらいます。えい」

ロコ「!?」

瑞希「そして白紙を一枚用意します。切り抜いた局部の絵を、白紙を挟んだ向こう側にこうして貼り付けて……」

ロコ「何を……」

瑞希「大事な部分は描かれていない、春画でもなんでもない浮世絵の完成です。ロコさん、日に透かしてみてください」

ロコ「な、こ、これは……!ホワイトだったセクシュアルアピールポイントが浮かび上がってきました!」

瑞希「局部のみを描いた絵と、局部のみが抜け落ちた絵。これを二枚別売りにすれば言い訳も立つでしょう。局部のみを描いた方は梅やウニを描いたとでも言ってください」

ロコ「これはすごいアイディアです!バット、このピクチャーはロコがペイントしたものではありませんよ?」

瑞希「……え?」

ジュリア「お手柄だったなまかべえ、あたしもあんな抜け道があるなんて思いつかなかったよ!」

瑞希「あの、お水をください。ジュリアさん、とびきり冷えたお水をください。ああ、恥ずかしい……」

ジュリア「あの春画は刺激が強すぎたか?ほら、仰いでやるよ」

瑞希「ありがとうございます……ジュリアさん、あの春画は伴田さんのものではないそうです」

ジュリア「ハンダ?誰だそれ」

瑞希「本名を伴田路子さんと言うそうです、あの後話してお友達になりました」

ジュリア「そりゃおめでとう、ってどういうことだ?あの原本の出所は間違いなくあそこだ、刷り元締め上げて確認したんだ!」

瑞希「はい、春画の原本はあの家から出たものですが、描いたのは伴田さんではありませんでした。過激なのは趣味ではない、と」

ジュリア「あの家から出たのにロコが描いたんじゃないって、まさか……病気の母親の方か?」

瑞希「はい。彼女が趣味で描いていた物が、伴田さんの提出する原本の中にいくつか混じっていたみたいです」

ジュリア「おい、おいおいおい」

瑞希「それと、病気ではなく昼夜が逆転しているだけだとも言っていました。お金には不自由していないそうです」

ジュリア「……誰だよ、病気の母親の為に仕方なくドギツいの描いて売ってる、それはそれは可哀想な女の子が居るって言った奴は!?」

瑞希「ああ、恥ずかしい……ぱたぱた」

ジュリア「何がなんとかしてやりたいだ、完っ全に勘違いじゃねえか。あたしも顔が熱くなってきた、火が出そうだ……おい」

瑞希「はい?」

ジュリア「舞浜に行くぞ、飲まなきゃやってられん」

瑞希「下戸ですが……付き合います」

おわり

環「くふふ、ねえねえおやぶん!環が見つけたこのお屋敷、どう?忍びこみやすそうでしょ!」

まつり「ほ……夜はお静かに、なのです」

環「わわ!ごめんなさいおやぶん!」

まつり「声を出さないこと、ね?」

環「もごっご!」

まつり「いい子いい子」

環「もごご、もががが?」

まつり「……小声なら喋ることを許すのです」

環「おやぶん、どうする?人の気配もないし、簡単そうだよ?」

まつり「まつりもそう思うのです、今夜はここでお仕事をします」

環「ふっふーん!環が見つけたお屋敷だから取り分は八対」

まつり「環ちゃん、ね?」

環「な、なーんて冗談!いつも通りおやぶんが好きなだけ取って残りが環の分、そうしようそうしよう」

まつり「いい子いい子、なのです」

環「くふふ、稼いじゃうぞー……!」

まつり「一、二の」

環「さんっ……おやぶん、手ー」

まつり「環ちゃん、いつも言ってる通りまずは確認なのです」

環「そうだったそうだった、えーと、大丈夫みたいだよ」

まつり「ではまつりも登るのです、よいしょ」

環「わ!おやぶん、跳ぶの上手!今度環にもやり方教えて!」

まつり「環ちゃん、お静かにね?……ね?」

環「も、もごごご」

まつり「大丈夫みたいなのです、降りますよ」

環「もごっ」

まつり「もう寝静まっているのか留守なのか、どちらにしても好都合なのです。環ちゃん、ついてくるのです」

環「がってん!」

まつり「本当に人の気配がない……?なんとなく、嫌な予感がするのです」

環「お仕事は素早く、丁寧にだよね、おやぶん」

まつり「環ちゃんも物音に気をつけるのですよ?見つかったらたいほー!なのです」

環「うん!環、耳も目もいいから誰か来たらすぐ分かるよ!」

まつり「ここから入れそうなのです……環ちゃん、何をしているのです?」

環「床が汚れちゃうから脱がないと」

まつり「泥棒さんは自分の城以外でそんなこと気にしないのです!」

環「お城?このお仕事が上手く行ったら環たちもお城に住めるの?」

まつり「……足はそのまま上がるのです。ね?」

環「わかった、おやぶんの言う通りにする」

まつり「くんくん、こっちの部屋からお金の匂いがするのです」

環「そんな匂いするかなあ?環わかんない、鉄臭い?」

まつり「もういいのです、行きますよ環ちゃん」

環「あい、おやぶん!……鉄臭いかなあ?」

まつり「む、環ちゃん。ゆっくり進むのです」

環「あ、これ蛙の」

まつり「鶯張り」

環「そう、鶯張り」

まつり「環ちゃんは雅さが足りないのです、壁に沿って行くのです」

環「おやぶんは細か、わ、わわ!」

まつり「環ちゃん!?いない、どうなって……出来の悪い弟子だったけれど今は進むしかないのです。草葉の陰から姫を見守ってて欲しいのです、ぐすん」

瑞希「すぅ、すぅ」

まつり「おそらく家主、なのです。眠っている、好都合なのです。今の内に他の部屋を……」

環「いてて……あれ、外に出ちゃった。この壁、さっきくるんって回ったよね?せーの、ぐぬぬ!」

環「動かないぞー……さっきのとこから入り直そう、待っててねおやぶん!すぐに環が助けてあげる!」

まつり「むう、どの部屋も金目の物が全然ないのです……ここ、本当にお侍のお屋敷なのです?」

瑞希「むにゃ、厠……」

まつり「!?家主が起きてきた、のです……」

瑞希「むにゃむにゃ、こっちじゃなかった、こっちは倉庫……」

まつり「倉庫?なるほど、お金やお宝は全部そっちなのですね」

瑞希「むにゃ、そこに誰か、いますか?」

まつり「……」

瑞希「……」

まつり「にゃー」

瑞希「なんだ、猫……ふわぁ、あ」

まつり「……ふぅ、危なかったのです」

環「ぐへっ!」

環「いてて、反対の壁もくるんってなってダメかー、ここ縁の下?また外に出ちゃった」

環「おやぶん、環がいなくて大丈夫かな……捕まっていじめられてないかな……うう、心配になってきちゃった」

環「こっちからは戻れそうにないし、あの廊下は通れないし、他の入り口探そう!」

環「おやぶん、環が行くまで早まっちゃダメだよ!」

環「ん?あ、この扉から入れそう!」

まつり「うーんうーん、もう少しで開きそうな感じなのですけれど」

環「開いた!あ、おやぶん!」

まつり「ほ!?た、環ちゃん、どうやって倉庫に?というか鍵は」

環「倉庫?ここ外だよ?鍵って何?」

まつり「ほ……この鍵、飾りなのです。最初から戸は開いていたのですね」

環「おやぶん、怪我してない?環がいなくて泣いてたよね、もう大丈夫だよ!」

まつり「ここまで姫をお馬鹿さんにして、もう許せないのです」

環「おやぶん?」

まつり「環ちゃん!」

環「は、はい!」

まつり「少々危険ですが、侍の魂を盗んでやるのです」

環「おー、刀取るんだね!環、刀大好き!」

まつり「絶対に絶対に盗み出してやるのです……!」

瑞希「むにゃ……くぅ、くぅ」

まつり「いましたね、刀もきっとこの部屋に……」

環「おやぶん、あれ、あれ」

瑞希「すう、すう……んん」

まつり「どれどれ、ほ……でかしたのです、環ちゃん。枕元のあの刀、今日はあれ一振り盗んでお仕事は終わりです」

環「環、全然お金稼げなかったよ。おやぶんは小判とかいっぱい見つけた?」

まつり「……行きますよ、環ちゃん」

環「あ、おやぶん待ってー」

瑞希「むにゃむにゃ……」

まつり「やった、やってやったのです……!びゅーてぃほー!な手際で盗み出してやったのです!」

環「やったねおやぶん、屋敷が変な形しててちょっと手こずったけど、これ売ったらお金になるよね!」

まつり「なのですなのです!さ、こんなとこ早くおさらばするのです環ちゃん!」

環「がってん!」

まつり「だから環ちゃん。夜はお静かに、ね?」

環「もごご」

まつり「罰としてこの刀は環ちゃんが運ぶのです、姫はお箸より重い物は持てませんから」

環「はい……あれ?おやぶん、この刀」

まつり「ここまで来ればあとは門から堂々と出て家まで帰るだけなので、ほ?どうしたのです環ちゃん?」

環「この刀、すっごく軽いよ?」

まつり「……ちょっと貸すのです」

環「ね?それ、竹光かなあ?」

まつり「抜いてみるので、ほ!?」

環「げほっげほ!ごほ、おやぶん何こ、ごほっごほ!」

まつり「けむ、げほげほ、環ちゃ、逃げるのですー!」

環「げほこほっ、ごほ!待っておやぶーん!」

瑞希「くあ……あふ、朝だぞ」

瑞希「あ、なくなってる。ということは」

瑞希「足跡がこんなに。やられてしまったぞ、瑞希。掃除が大変」

瑞希「金庫金庫……よかった、何も盗られてない」

瑞希「ん、玄関戸も開きっぱなし。それに外に落ちてるのは、特製煙玉の残骸」

瑞希「泥棒さん、ここで抜いちゃったかー」

ジュリア「よう、おはようさん。なんだこれ?」

瑞希「ジュリアさん、おはようございます。これは泥棒さんに盗まれそうになった物です」

ジュリア「泥棒!?大丈夫かよおい」

瑞希「はい、何も盗まれていません。立ち話もなんですから、散らかっていますが上がってください」

ジュリア「大丈夫って言うならそれでいいけど。あ、これ土産の舶来品だ。こおひいぜりい、とかいうらしい」

瑞希「舶来品ですか、楽しみです……わくわく」

おわり

ほんとにおしまい

>>6
分かりにくいスレタイにしちゃってすみません
以後気を付けます

おしまいって書いたけど一旦おしまいってことで
もうちょっと続くかもです

瑞希「ごくん。ふう、ごちそうさ……あ」

歩「?」

瑞希「いえ、お気になさらず」

歩「そう?あ、お茶か。へいお茶一丁」

瑞希「舞浜さん、ありがとうございます」

歩「いいってことよ、常連さんだからね。あ、へーいすぐご注文伺いますー!」

瑞希「ずずず……ふう」

瑞希(1文足りない、どうしよう)

エミリー「まかべえ様?お顔の色が優れないようですが」

瑞希「エミリーさん。いえ、実は……」

エミリー「あ、もしかして食べ過ぎたんですか?まかべえ様、食が細そうですし……」

瑞希「いえ、エミリーさん」

エミリー「騒がしい所ですが、お腹が落ち着くまでゆっくりして行ってくださいね」

瑞希「あの、はい」

エミリー「いらっしゃいませ、こちらのお席へどうぞ」

瑞希「……言い出せなかった」

瑞希(誰か知人がいれば、お金を貸してもらえるよう頼めるのに……困ったぞ、瑞希)

のり子「お、まかべえ!久しぶりだね、お昼?」

瑞希「こんにちは、福田さん。はい、もう食べ終わった所ですが」

のり子「えー、せめてアタシが食べ終わるまでもうちょっとゆっくりして行きなよ!色々積もる話もあるしさ、ね?歩ー、アタシかけそばー!」

歩「へい!」

瑞希「はい、それは構いません。その前に福田さん、一つ頼みが」

のり子「いやー負けた負けた!あそこで丁が来ると思ったんだけどねー、これ食べたらもう無一文だよ、あっはっは!」

瑞希「……そうですか」

のり子「どうしたの?まかべえは最近どう、景気はいいかい?」

瑞希「すっかり不景気です、首が回りません」

歩「へい、かけそばお待ち!」

のり子「ありがと歩、頂きます!珍しいね、あんたがそんなにお金に困るなんて」

瑞希「……はっ、福田さん。もう暫くここにいますか?その間に家に戻りお財布」

のり子「ずずず、あー美味しかった!ん、今何か言った?」

瑞希「いえ、何も」

のり子「そ?じゃあアタシもう行くね、この後も忙しくてさー。また今度ゆっくり話そう!歩、ごちそうさまー!」

歩「へい、いつもありがとねー」

瑞希(正直に言って、少しだけ待っててもらおう。うん、それがいい)

茜「ちょちょちょちょっち待ってよマイハマン!茜ちゃんの話も聞くべきだよ!」

歩「いーやもう我慢ならない!うちはツケはきかないって何度言ったら分かるんだ!」

茜「今日はたまたま持ち合わせが足りなかったんだって、明日になれば茜ちゃんの天才的な商才で稼いだお金が」

歩「明日の大金より今日の小銭!今すぐここで払わないなら役所に突き出す、さあどうすんの!」

エミリー「歩さん、落ち着いて!ここは足りない分を私が立て替えておきますから」

茜「エミリーちゅわーん!茜ちゃんにはやっぱりエミリーちゃんしかいないよう、鬼のようなマイハマンなんてもう知らない!」

歩「誰が鬼だって!?」

茜「ひゃー怖い怖い!お代はここ置いとくね、借りたお金はちゃんと返すから待っててねエミリーちゃん!そんじゃねー!」

歩「待て、この食い逃げー!刻んで天ぷらにしてやる!」

エミリー「落ち着いて下さい歩さん!お客様のご迷惑に……まかべえ様、すみません騒がしくて」

瑞希「いえ、お気になさらず」

歩「ったく……ツケなんてことやる奴にろくなのはいない、まかべえもそう思うだろ?」

瑞希「はい」

歩「そういえば今日は随分長っ尻だね、どっか具合が悪いの?」

瑞希「……恥ずかしい話ですが、その」

歩「あっはっは!いいよいいよ、まかべえは特別だ!明日も食べに来るんだろ?その時にまとめて払ってよ」

瑞希「すみません、持ち合わせの確認もしないままお店に入ってしまって」

エミリー「誰にもよくあるうっかりです、気になさらないで下さい」

歩「そうそう、アタシもお釣り間違えるなんてよくやるし」

エミリー「ふふ、それはちゃんと気にして下さい」

瑞希「お手数をおかけします。明日、必ず返すのでもうしばらく待ってください」

歩「へいへい」

エミリー「またのご来店をお待ちしております」

瑞希「ふう、ごちそうさまでした。エミリーさん、お勘定をお願いします」

エミリー「はい、かけそば一杯に昨日のと合わせて十七文頂戴いたします」

瑞希「はい。まずは十五文……」

エミリー「ありがとうございます、ひぃふぅみぃ、確かに十五文。ですが残りの二文は」

瑞希「さてお立ち会い、ここに取りいだしたる二枚の一文銭。これこのようにぴたりと重ね、親指と人指し指にて挟み摘みたりても変わらず二枚」

エミリー「?はい、二枚です」

瑞希「しからば刮目せよ、この手に念力を込め親指人指し指を素早く上下に擦り合わせたれば……」

エミリー「まかべえ様!お金が三枚に!」

瑞希「ではこれを代金にしましょう。エミリーさん、手を出してください」

エミリー「いえいえ!一枚多いのに受け取る訳に、は、え?あれ、二枚?」

瑞希「エミリーさん。つまらないてづまですが、一日待たせたお詫びにはなりましたか?」

エミリー「はい、とても不思議で面白かったです!」

瑞希「よかった。では、また来ます」

エミリー「はい!またのご来店をお待ちしております!」

おわり

今日はこの辺で

昴「ちくしょー!」

瑞希「もし、川に石なんて投げて、どうしたんですか?」

昴「オレ剣習ってんだけどさ、兄弟子に全然勝てないんだよ!思いっきり打ち込んでるのに涼しい顔しやがって!……っていうか、あんた誰だよ?」

瑞希「町の見廻り侍、てづまのまかべえと人は呼びます」

昴「侍か!なあ、オレに剣教えてくれよ!」

瑞希「名乗られたら自分も名乗るのが礼儀です、自分から名乗るとなお良いでしょう」

昴「あ、そっか、ごめんごめん。オレ昴、永吉昴!剣教えてくれ!」

瑞希「永吉さん。残念ですが、私は剣はあまり」

昴「もったいぶるなよー、腰に立派なの差してんじゃん!」

瑞希「これはお守りみたいなものです」

昴「ちぇ……あ、ははーん。なるほどそういうことか!」

瑞希「え?」

昴「ちぇすとー!」

瑞希「ぎゃんっ」

昴「習うより慣れろって奴だな!オレの師匠もよく言って……あれ、まかべえ?ちょっと、おい!」

瑞希「はっ」

昴「まかべえ、気が付いたか!?よかったー、死んじゃったのかと思ってオレ、オレ……!」

瑞希「ああ、たしか剣の稽古を。永吉さん、泣かないでください。そんなに簡単に涙を見せては、いけません」

昴「だってさ、オレ、だってさぁ……!」

瑞希「いてて。頭が割れるように痛いぞ、うーん死んでしまう。永吉さんが隠し持ってるお饅頭を分けてもらえれば治る、かも」

昴「大丈夫か!?やっぱりお医者呼んでおくんだった!くそっ、すぐに戻るからまかべえはここで」

瑞希「永吉さん、待ってください。その懐に隠したお饅頭さえあれば治ります」

昴「馬鹿、何言ってんだ!オレ饅頭なんて、おい、どこに手突っ込んで、え!?」

瑞希「甘くて、美味しい……もぐもぐ。頭の痛みも飛んでいくようです、永吉さんも食べますか?」

昴「え、は、え?その饅頭どこから、はあ!?」

瑞希「では半分こにしましょう、ぱかり。どうぞ、お茶はありませんが」

昴「う、ん」

瑞希「美味しいですか?」

昴「……あまい。うまい」

瑞希「よかった。これからは無闇に斬りかかってはいけませんよ、棒きれでも誤れば命に関わります。では」

昴「あっ、ちょ!ちょっと待ってくれよ、今のどうやったんだ!?オレにも教えてくれ!」

瑞希「どうやったも何も。永吉さんの懐から、お饅頭を取り出しました」

昴「だからそれだよ!オレ、饅頭なんて持ってなかったのに」

瑞希「む、懐に石ころも隠していますね?食べ物と一緒に入れておくのは、衛生によくありませんよ」

昴「石ころ?オレそんなもの、わっ、だから急に手を突っ込むなってば!ちょ、待、え?」

瑞希「永吉さん、嘘はよくありません。石ころはちゃんと、永吉さんの懐にありましたよ」

昴「うっそー!?なんで!?なんでなんで!?どうなってんだ、まかべえ!?」

瑞希「永吉さん、石ころを拾ってみてください」

昴「こうか!次は?」

瑞希「もう少し小さい方がいいでしょう、握りこぶしに隠れるぐらいの」

昴「これとかか!隠れた、どうだ?」

瑞希「はい、どこからどう見ても石は持っていません。ではその拳を左袖に入れてください、あっ、私のではなく、永吉さんの」

昴「おーごめんごめん、それでそれで?」

瑞希「今度は石が見えるようにして袖から出してください。これで、何もないところから石が現れました」

昴「?何言ってるんだ、これは今オレが拾って袖に入れたんじゃないか」

瑞希「永吉さん。もし永吉さんが拾うところも隠すところも私に見せていなければ、私にとっては突然現れたのと同じです」

昴「うーん、よくわかんないけど、なんかすげーな!」

瑞希「……つまり、私の剣はそういう剣なのです。真正面から斬り合う剣術は道場で習うとよいでしょう」

昴「うん、師匠とまかべえの二人に習えば二倍強くなれるもんな!」

瑞希「えっ」

昴「これからよろしく、まかべえ師匠!」

瑞希「いつの間にか永吉さんの師匠に……困ったぞ」

昴「あ、オレもう帰るな!明日も同じ時間にここにいるから!じゃあなー」

瑞希「……困ったぞ、瑞希」

昴「ちくしょー!」

瑞希「永吉さん、また石を投げているのですか」

昴「あ、まかべえ師匠!」

瑞希「師匠は、やめてください。また兄弟子に?」

昴「そうなんだよ、まかべえ師匠から教えてもらった必殺技見せてもやっぱり涼しい顔してさ!ムカついたから剣で挑んだらまた負けた!」

瑞希「負けることも大事なことです。敗北からしか学べないことも数多くあります」

昴「そういうのは勝った後で考える!」

瑞希「永吉さん、兄弟子も永吉さんと同じくらい、あるいはもっとずっと剣の道に励んできたはずです。中々覆せるものではありません」

昴「でも勝ちたいんだよ!」

瑞希「……では、必勝の剣術を教えましょうか?」

昴「お、そういうの待ってたんだ!頼む、教えてくれ!」

瑞希「種子島を撃ちます」

昴「あ?」

瑞希「鉄砲です、たちまち相手を死に至らしめるでしょう」

昴「ふ、ふざけんな!銃なんて卑怯だろ!それに死んじゃうかも知れないだろ!!」

瑞希「卑怯でも勝てます」

昴「勝てても卑怯だ!」

瑞希「永吉さん、覆せないものを覆すには卑怯なことでもしなければ」

昴「そんなのはずるいからダメだ!!」

瑞希「永吉さん、師匠の他から教えを受けるのはずるくないのですか?私のことを、永吉さんの兄弟子は知っていますか?」

昴「……知らない、と思う」

瑞希「戦場では相手がどんな手を使ってくるか分かりません、永吉さんの知らない卑怯な手を使うかも知れません」

昴「それは!……そんなの、武士道に反する……種子島なんて」

瑞希「絶対に勝たなければならない戦いで、勝ち方を選べるのは強い者だけです。永吉さんは弱い、手を選べません」

昴「……なんだよ、なんでそんなこと言うんだよ!?」

瑞希「私も弱いからです」

昴「まかべえ……?」

瑞希「私は弱い。女の体に生まれた為に男には腕力で敵いません、だから勝つ為に手は選びませんでした。永吉さんも勝つ為」

昴「お前、女だったのか?」

瑞希「えっ」

昴「胸もペタンコで、そういえば声が細いような」

瑞希「ぐすん」

昴「わー!ごめん、まさか女だとは思わなかったから!悪かった、この通りだ!」

瑞希「……そんな謝り方で許すおなごはいません、男ならもっとちゃんと誠意を見せてください」

昴「えっ」

瑞希「ぐすん」

昴「オレ、女だぞ?」

瑞希「えっ」

昴「は?」

瑞希「……」

昴「……」

昴「まかべえって言うから……ごめん」

瑞希「いえ、気にしないでください。私の胸が、胸が……ぐぬぬ」

昴「え、えーっと!話戻すと、オレは兄弟子には……勝てないのか?」

瑞希「男女は体格の差がありますから。つまり腕力の差にも繋がるので、そうやすやすとは」

昴「そっ、か」

瑞希「永吉さん、気を落とさな」

昴「じゃあ女のオレが勝ったらオレの剣術は本物ってことだよな!」

瑞希「……永吉さん」

昴「よーし、やるぞー!!ん、どうかしたかまかべえ?」

瑞希「いえ、剣の道を志し始めた頃のことを思い出しました。永吉さん、ありがとうございます」

昴「?よくわかんないけど、気にすんなって!あ、お礼ならなんか必殺技教えてくれよ!」

瑞希「必殺技……そんなものはありませんが、小手先のてづまなら」

昴「とりゃー!てやー!」

瑞希「永吉さん、また石を。負けたのですか?」

昴「いや、勝った!文句無しの一本勝ち!」

瑞希「そうですか、それはよかった」

昴「まかべえ、あれ、すごいな!綺麗に引っかかった!」

瑞希「人がよそ見をすれば気になるものです、それが目の前で剣を握る相手ならばなおさら」

昴「うん、同じように横見てたとこをバーンと叩いてやった!……でもさ」

瑞希「でも?」

昴「オレ、やっぱり真正面からやって勝ちたいんだって分かった。まかべえの剣も強いけど、オレ、師匠の剣が好きだからさ」

瑞希「はい。その方が、永吉さんには向いていると思います」

昴「だからさ、もう師匠って、呼ばないから」

瑞希「はい……もう会うことも」

昴「だから、まかべえ!友達になってくれよ!オレ、もっとまかべえのこと知りたいんだ!」

瑞希「友、達。永吉さんと」

昴「そう、友達!な、いいだろ?オレがまかべえの剣の稽古も付けてやるからさ!あ、変わりに卑怯な技の対処は教えてくれよな!」

瑞希「……はいっ」

おわり

できれば明日また

奈緒「おーまかべえやん!寄ってって寄ってってー!」

瑞希「横山さん、こんにちは」

奈緒「今日も活きええのん揃てるでー、見てって見てってー!」

瑞希「では、鮪を」

奈緒「鮪な、はいはいーっと。ちょっと待ってな、すぐ包むわ。一人で食べるんか?」

瑞希「以前、舞浜で迷惑をかけたので、そのお詫びです」

奈緒「舞浜かー、最近ご無沙汰やな。私も今日のお昼は舞浜行こかな」

瑞希「エミリーさんも、近頃横山さんを見ていないと気にしていました」

奈緒「そかそか、ほな顔出さんわけにいかんな。ほい、百文。小ぶりやけど重いから気をつけや」

瑞希「はい、お代です。むん……よいしょ」

奈緒「ほな、エミリーにもよろしゅう言うといてなー」

瑞希「はい……うんしょ、こらしょ」

瑞希「よいしょ、よいしょ。こんにちは」

歩「へい、いらっしゃい!お、鮪?」

瑞希「はい、舞浜さん。この間は長々と居座ってしまったので、そのお詫びです。お金も借りてしまいましたし」

歩「全然気にしなくていいのに。エミリー、手伝ってくれー!」

エミリー「はーい!」

のり子「まかべえは景気いいねえ、アタシはもうダメだよ……」

瑞希「福田さん。とても元気がないように見えます、どうかしましたか?」

のり子「聞いてくれる?昨日久々に釣りでもやってみようかと海に出たら、急にすごい波が立って舟がひっくり返ったんだ」

瑞希「それは、災難でしたね」

のり子「それぐらいならまだいいんだけど……落としちゃったんだよー、はあ」

瑞希「落とした?」

のり子「鍵」

瑞希「かぎ」

のり子「うちの店の旦那さんから預かってた蔵の鍵。まだバレてないと思うんだけど海の底じゃ探せっこないしさ……あーあ」

のり子「そうだ、まかべえ!得意のてづまで何とかならない!?親友を助けると思って、一つこうばばーんと!」

瑞希「ち、力になりたいのは山々ですが、そう言われても困ります。」

のり子「だよねえ……よし、さっさと正直に話して怒られるか!」

瑞希「それがいいと思います。景気付けになるか分かりませんが、先ほど買ってきた鮪を食べて元気を出してください」

歩「お待たせ、へい刺身ー。こっちはねぎま、と照り焼きね」

のり子「お、いいね!じゃあ折角だしご馳走になろうかな!」

歩「あとそれと、腹の中から出てきたんだけど、これどうする?」

のり子「んー、美味しい!やっぱり鮪は刺身だ!」

瑞希「これは……鍵ですね。餌と間違えて飲み込んだのかも知れません」

のり子「こっちも、うんうん美味しい!煮ても焼いても一番だ、鯛よりずっと偉いよ!」

歩「役所に届けようにも、落とした奴もまさか魚の腹から出てるとは思わないだろうね。捨てる?」

のり子「ふう、もう食べられないや。怒られるのは一服してからかな……え、それ」

瑞希「鮪のお腹から出てきたそうです。福田さん、どこの鍵か分かりますか?」

のり子「そ、そ、それー!!まかべえ、やってくれたねえ!やっぱりてづまは万能じゃん、助かった!」

瑞希「福田さん?何が、わぷっ」

のり子「あっはははは!やったー、鍵が見つかったー!怒られないで済むー!!」

瑞希「むぐぐ、おめでとうございま、あの、息が、むぐ」

のり子「おっとごめん!ありがとまかべえ、てづまのおかげで首の皮が繋がったよ!」

瑞希「いえ、てづまでは」

のり子「っとこうしちゃいられない、また落とさない内に旦那さんに返しちゃおう、じゃね!」

歩「へい毎度ー!」

瑞希「ないのですが……行ってしまいました」

歩「んー、いいんじゃない?」

瑞希「いいんでしょうか」

エミリー「終わり良ければ全て良し、とも申しますよ。まかべえ様のお料理お持ちしました」

瑞希「エミリーさん、ありがとうございます、頂きます。そうですね、終わり良ければ……うん、美味しい」

歩「そうそう、お味良ければ全て良し、だな。上手いこと言った、あはは!」

エミリー「まかべえ様、お茶はいかがですか?」

瑞希「お願いします」

歩「……あれ?」

おわり

奈緒「遊びに来たでまかべえー!って何してるん?」

瑞希「こんにちは、横山さん。これは玩具作りです……ぬりぬり」

奈緒「やじろべえに色塗ってるんか。ふふーん、面白そうやん」

瑞希「遊びではなくお仕事です、細かい作業は好きですが」

奈緒「私もやらしてもろていい?終わるのただ待ってるんも暇やし」

瑞希「いえ、これは私の仕事なので譲れません」

奈緒「お客さんやで?もうちょっと構ったってえな」

瑞希「むむむ……では、一つだけ」

奈緒「ありがと!ガサツガサツ言われてるけど、器用なとこ見せたるでー」

瑞希「ここに彫ってある線より上側を、はい、はみ出さないように」

奈緒「簡単なもんや、すっすっすーっと」

瑞希「横山さん、上手です。玩具職人さんですか?」

奈緒「せやなー魚売るん飽きたら玩具でも作ろかなー……へ、ぷぇ、へっくち!」

瑞希「あ」

奈緒「あ」

瑞希「こんなにはみ出しては、売り物になりません……」

奈緒「ほんまにごめんな、私が買い取るわ」

瑞希「すみませんが、お願いします」

奈緒「なんぼ?ふんふん、はいよっと。けど、なんで玩具なんか作ってるん?」

瑞希「もうじき、お祭りがありますから」

奈緒「はー、店でも出すんか」

瑞希「いえ、私は出しません。最近知り合った野々原さんという、町人の方が出すらしく、そのお手伝いです」

奈緒「お侍に手伝わすて、度胸あるんか頭足りてないんか分からんな……」

瑞希「子供達が喜ぶのは、私も嬉しいので、半分は自分から手伝っているようなものです」

奈緒「まかべえがそう言うんやったらええか。もうそろそろ乾いたかな?への、への、もへじの、やじろ、べえっと」

瑞希「キリもいいですし、お茶にしますか?」

奈緒「せやな、お願いするわー」

瑞希「横山さん、粗茶ですが」

奈緒「おおきに。りんごも剥いてくれたんか、いただきまーす」

瑞希「しゃくしゃく、もぐもぐ」

奈緒「まかべえ、それどないしたん?」

瑞希「はてな?」

奈緒「はてな、やあらへんがな。指指、赤いの滲んでるで」

瑞希「絵の具が付いたんでしょうか」

奈緒「見せてみ……あー切れてるなこれ、りんご剥いた時か?まかべえも結構不器用やな、あはは!」

瑞希「膿むといけませんね、向こうで手当てしてきます」

奈緒「ちょっと切ったくらいで大層やなあ、ツバ付けといたら治るやろ」

瑞希「いえ、万が一があってはいけません」

奈緒「真面目やなー」

奈緒「おかえり、手当てにえらい手間取っ、お?おお?」

瑞希「じゃじーん……ずらり」

奈緒「なんやこれ、どないしたん!?りんごの兎に、りんごのやじろべえ、こっちはこれ仏さんりんごで作ったんか?すごいやん!」

瑞希「えっへん」

奈緒「もしかして、さっきの不器用って言ったこと気にしてる?」

瑞希「どき」

奈緒「ぷっ……あはははは!そらごめんごめん、からかって悪かったなー!」

瑞希「いえ、気にしていません」

奈緒「ほんまに?」

瑞希「横山さん、本当です」

奈緒「口ちょっとわろてるで?」

瑞希「……えへ」

奈緒「かわいいやっちゃなー!もー、このこのー!うりうりー!」

瑞希「わっぷ、わわ、横山さん、困ります」

おわり

奈緒「おーやっとるなー! 聞いてた話やと……ここか?」

茜「らっしゃいらっしゃいらっしゃーいん!お客さん?お客さんだよね、たっぷり見ていってよ買っていってよ買い占めていっちゃってよ!」

奈緒「うわ、何や何や!」

茜「茜ちゃん的にはどれもオススメなんだけどあえて一つ選ぶなら全部だから端から端までまとめ買い大人買いしちゃうのがオススメかなー!」

奈緒「待って待って、私まかべえの顔見に来たんやけど」

茜「まかべえ?なーんだ知り合いなんだそれならそうと早く言ってよ茜ちゃん特別に全品1割引にしてあげちゃうよ今回だけだぞっ!」

奈緒「顔見に来ただけやっちゅーに!おらんの?」

茜「見ての通り小ちゃい屋台だからねえ一人いれば手は足りるしまかべえじゃ無口すぎてお客さん引き止められないもんやっぱり茜ちゃんぐらい可愛くて口も達者な」

奈緒「どこ行ったか分からん?」

茜「あれで賑やかなの好きみたいだしお祭り見て回ってるんじゃないかにゃーまあ賑やかさで言えば茜ちゃんがいるここより賑やかな場所なんてないし大好きな茜ちゃんのとこにすぐ帰ってくるよそれまで品物見ていってよ!」

奈緒「そか、ほな私も適当にブラつこっかなあ。ほなな」

茜ちゃん「あれあれ?あれあれあれ?手ぶらで行っちゃう感じ?どれもかわいい茜ちゃんのかわいいお顔が付けられたかわいい玩具だよ?一つ買っておくと仲間内でも尊敬されること間違いなしなってちょっとちょっとほんとに行っちゃうのー!?」

奈緒「おらへんなー、もう帰ったんやろか」

歩「とざいとーざーい!今これよりご覧頂くてづまは並大抵のものに非ず!これここに寝かせたる美女をば真っ二つに切り分けたるも尚生かしたりて!」

奈緒「なんやえらい物騒なこと言うてるなあ……って、あれは」

歩「またその傷口をば合わせたれば切れ目残らず元通りという代物だからさあお立ち会い!」

瑞希「切り分けます、どきどき……」

エミリー「切り分けられます、どきどき……」

奈緒「舞台の上立っとる……何してんねん」

ジュリア「奈緒、来てたんだな」

奈緒「あれ止めんでええんかー?人死に出るで、お役人やろ?」

ジュリア「大丈夫、まかべえのやる事なら心配いらないさ」

奈緒「ホンマかいな……」

歩「お待たせしました!準備万端整いて、これよりあっ、いざ!いざ!いーざー!」

ジュリア「ほら見ろよ、始まるぞ!」

奈緒「そういえばまかべえが抜いたとこ見たことないなあ」

瑞希「まずは、この妖刀の切れ味をご覧にいれます……すらり、あっ」

奈緒「ぷっ、あははは!なんやあの刀、錆び錆びのギザギザやん!」

ジュリア「あれじゃ刀って言うよりノコギリだな」

瑞希「手入れを忘れていました、少しお待ちください。こうして拭えば……じゃん」

奈緒「おお!?なあジュリア見た!?拭ったとこからホンマもんの刀出てきたで!」

ジュリア「見てるよ、あの錆は綺麗な刀身の上から振りかけただけの偽物なんだろ」

奈緒「……はー、なるほどな。そういうことか、簡単に取れる錆びの下にちゃんとした刀を」

瑞希「あっ」

奈緒「折れたで!?ちゃんとした刀、真ん中からポッキリいったで!?」

ジュリア「はははっ、ここからどうするんだろうな!」

瑞希「お見苦しい所を見せてしまい、すみません。すぐに替えの刀を用意します、チャキン」

ジュリア「納刀した。おい、ちゃんと見とけ」

奈緒「はあ?新しいの持って来るだけやろ、何がそんな」

瑞希「すらり……あ、間違えた」

奈緒「なんでやねん!今、今の見たかジュリア!?」

ジュリア「だから見てるって」

奈緒「だって今納めたのに今、抜いたら花束になってるやん!どうなってるん!?」

ジュリア「あははっ、あたしにも分かんないよ!ほーら、目を離すとまた何かやらかすぜ?」

瑞希「この花は差し上げます」

エミリー「まあ、よろしいんですか?」

瑞希「はい、冥土の土産です」

エミリー「冥土の土産!」

奈緒「不吉なこと言うてるなあ、ぷぷっ」

ジュリア「刃も花もなくなって柄だけ。今度こそ新しいのを持って来るか?」

瑞希「チャキン。むむ、今の冥土という言葉に惹かれて、鞘の中に妖気が集まって来ています……すらり」

奈緒「やりおった!今度こそホンマもんやジュリア!」

瑞希「切れ味は、えいやあ。この通り」

ジュリア「大根も巻藁も真っ二つ、正真正銘、本物の刀だ」

瑞希「これより美女、エミリーさんを切り分けて見せます」

エミリー「き、き、切り分けられ……はぅ」

歩「おおっとっと!倒れましたる美女は、種も仕掛けもなし、よいしょ!こちらの箱の中にてお休み頂きましょう!」

瑞希「……」

奈緒「……なあ、ほんまに大丈夫なんかこれ?」

ジュリア「心配ない……はずだ、多分」

奈緒「はずって!多分って!」

瑞希「……」

奈緒「さっきから固まってるやん、これ不味いんちゃう?失敗してるんちゃう?」

瑞希「……」

ジュリア「……やばいかも」

奈緒「やばいって」

ジュリア「見ろ、手震えてるぞあいつ。それに汗だって」

瑞希「どきどき、ブルブル……」

奈緒「あっ」

ジュリア「っ、止める!おいまかべえ、やめ」

瑞希「てい」

奈緒「ああ!」

ジュリア「クソ、あの馬鹿やっちまいやがった!」

歩「この通り真っ二つ!それが証拠にこの通り箱も二つに割れ、間で繋がるものは無し!あー、んんっ!エミリーエミリー、生きてるかー?」

ジュリア「おいどけ!御用だ、道開けろ御用だ!」

エミリー「ん、んん……はっ。ここが極楽浄土でしょうか」

ジュリア「あたしは役人だぞ、御用だ!御用、ご、ごよ……」

エミリー「なんだか恐ろしい夢を見ていました。そう、まかべえ様に胴から二つに切り分けられたような」

瑞希「エミリーさん、夢ではありません。おみ足はあちらで、元気に跳ねています」

エミリー「あちら?きゃあ!……はぅ」

ジュリア「……るせえよ、なんでもねえよ。んだよ、邪魔して悪かったよ!」

奈緒「赤っ恥やなあジュリア?」

ジュリア「うっせ!」

瑞希「エミリーさんが、またしても気を失ってしまいました。寝ている内にくっ付けて、夢ということにしておいた方が良さそうです。舞浜さん」

歩「合点!よいしょー!」

瑞希「この妖刀は、生かすも[ピーーー]も自在であるが故に妖刀。もう一度こうして刃を通せば、てい」

歩「いざ、箱を開けて見せて進ぜよう!いち、にの、さん!」

エミリー「はっ、私は胴から真っ二つに!……よかった、悪い夢だったようです。怪我一つありません」

瑞希「チャキン。妖刀もその力を示せて満足したようです、もう一度抜けば……この通り、柄だけになってしまいました」

歩「さあさ拍手とお捻りは今の内!お帰りはあちら、お代はザルへとお願いします!」

奈緒「すごいなー!すごいなジュリア、まかべえむっちゃすごいなー!」

ジュリア「ああ、あたしともあろうものがすっかり引き込まれちまった」

奈緒「だってズバーっとやってパカーっと割れてピターってやったらビシーってなってたもんな!」

ジュリア「……奈緒の説明じゃ、まかべえのてづまも値打ちが下がるな」

奈緒「なんやとー!」

瑞希「こんにちは、横山さん。ジュリアさん」

ジュリア「おう、お疲れさん。すごかったよ」

奈緒「見てたでまかべえ!あれすごいな、どうなってるん?」

瑞希「種も仕掛けもありません、えへん」

奈緒「またまたー!まあええわ、てづまの成功祝いに一杯やるで!今日は私が一杯奢ったるわ!」

ジュリア「お、いいねえ。まかべえ、あたしからも一杯と言わず奢らせてくれ」

瑞希「私は下戸なので、お酒は付き合えませんが、これから舞浜で宴会をしようという話になっています」

ジュリア「お供するよ!」

奈緒「付いてく付いてくー!あ、店着いたらさっきのもう一回見せてくれへん?もう一編だけ、な!?」

瑞希「はい。大掛かりな物は見せられませんが、余興程度なら」

奈緒「よっしゃー!ほな急ぐでー、実は私さっきからお腹ペコペコやねん!」

ジュリア「楽しみだな、今度はどんなのを見せてくれるんだ?」

瑞希「それは……見てのお楽しみ、です」

おわり

むかしむかしの、そのまたむかし

生涯にわたって、人を斬らなかったお侍がいました

ひとたび刀をすらりと抜けば

人々は大いに笑ってよろこんだそうです

そんなおかしなお侍、ほんとうにいたのか、いなかったのか……

すべて遠い、むかしむかしの、そのまたむかし

てづま侍まかべえ、これにて幕でございます

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