TPPで「攻めの農業」に転換するらしい(55)

リポーター「・・・はい、というわけで本日は首相の標榜する『攻めの農業』のモデルケース地区である地区に・・・って!ちょ、ちょっと!?あそこに人が倒れてる!?」

老人「フッ・・・ワシも焼きがまわったか・・・」コヒューッ、コヒューッ

リポーター「ちょ、ちょっとおじいさん!大丈夫ですか!?」

老人「よもや苗の成長に耐えられぬほど身体衰えていたとは・・・な・・・」ガクッ

リポーター「えっ、ちょ・・・し、死んでるゥー!!!!衝撃的すぎる第一村人発見!!」ガクガク

若者「くっ・・・今年もいい苗だった・・・」ボロボロ

リポーター「あ、あなたは・・・?」

若者「俺の名は与平。この村で百姓をしている」

リポーター「な、なんでそんなボロボロなんですか?」

与平「俺たちの農法は自然と戦う農法・・・毎年こうして苗の成長に耐え切れずに命を失う者が出る・・・」

リポーター「えっ」

与平「それより、アンタらが取材を申し込んできたテレビ局の人たちか?」

リポーター「は、はい・・・」

与平「ちょうど村長の屋敷が空いた。滞在中はそこに寝泊まりしてくれ」

リポーター「え、村長って?」

与平「そこに倒れてる爺様だ」

リポーター「」

与平「先に村へ向かっててくれ・・・俺は村長を弔ってからいく」

リポーター「え、あの・・・」

与平「村長・・・今年のアンタの苗、すごかったぜ・・・」

老人「」

リポーター(か、帰りてぇ・・・)

・・・

与平「・・・さて。大したもてなしもできなくてすまんが、茶でも飲んでくれ」

リポーター「ど、どうも・・・」

与平「ウチの村で獲れた茶だ・・・口に合うといいが」

リポーター「じゃ、じゃあいただきます」ズズー

与平「・・・収穫までに、8人が命を落とした」

リポーター「ぶっは!!」ブー

与平「俺たちは農業に命を懸けている・・・土と共に生き、その命尽きれば土に還る・・・」

リポーター「あ、あの・・・ごちそうさまでした」ゲンナリ

与平「今日はもう遅い。日が沈んだら屋敷の外には出ないように。熊やイノシシが出るからな」

リポーター(ほんと帰りたい)

<ズシャッ・・・

与平「ん?」

謎の男「・・・」

与平「・・・お、お前は!まさか!?」

リポーター「?」

与平「吾作!吾作じゃないか!?生きていたのか!!」

リポーター「吾作なにがあった」

与平「3年前の台風で用水路の様子を見に行ったっきり戻らないから、死んだものとばかり・・・!」

リポーター「」

与平「良く戻った吾作!皆お前のことを待って・・・」

吾作「ご、吾作・・・それが俺の名なのか・・・?」

与平「吾作・・・お前、まさか記憶が!?」

吾作「俺にはもう、何も見えぬ。何も思い出せぬ。ただ、風に導かれるがままに、たどり着いたのがこの村だった・・・」

与平「お前まさか光まで失ったのか・・・くっ、すまない!俺があの時一緒に行っていれば!!」

リポーター「あ、あの」

与平「とにかく、行こう・・・たとえ記憶を失っても、ここはお前の故郷、そう故郷なんだ!!」

吾作「俺の・・・故郷、か・・・」フッ

リポーター「この村おかしいよ」

翌日。

リポーター「はぁー・・・とんでもないところに来てしまった」

子供A「わー!テレビ局の人たちだー!!」

子供B「カメラだカメラだー!!」

リポーター「あ、おはよう・・・この村の子たち?」

子供A「うん!」

子供B「与平あんちゃんに言われて、姉ちゃんたちを案内しろって!!」

リポーター「そ、そうなの」

子供A「これから山に入るんだけど、姉ちゃんたちもついておいでよ!」

リポーター「えっ、うーん・・・」

・・・

子供A「こっちこっち!」

リポーター「はぁ、はぁ・・・もうちょっとゆっくり・・・」ゼェハァ

子供B「なんだよー、大人のくせに体力ないなー」

リポーター「ご、ごめんね・・・」

<ガサガサ

リポーター「ん?」

子供A「いた!!」

子供B「姉ちゃん、伏せて!!」

リポーター「えっ?あ、う、うん」

熊<ノッシノッシ

リポーター「」

子供A「ほら見て。あの熊は『朧月の三平太』っていう、この山の主だよ!」

リポーター「」

子供B「ひさしぶりのお客さんだから、捕まえて食べさせてあげる!!」

リポーター「そんな川で魚でも捕まえるようなテンションで!?」

熊「グオォォォォォ!!」

リポーター「ひいいいいい!!」

子供A「やべっ、見つかった」

子供B「あーもう、お前後ろ回れ後ろ!!」

熊「グアアァァァァアウウ!!!」

リポーター「」(失神)

子供A「ッシャオラアアアアアア!!」バキィ!!

熊「グオオォォォゥ・・・!!」ヨロヨロッ

子供B「よっしゃ!とどめとどめ!!」

熊「グオオオオオオゥ!!」ブォン!!

子供B「あぶねっ」ヒョイ

<ズガァン!!バキメキメキゴワシャア!!

子供A「あーあ、炭小屋壊れちゃったじゃん。じっちゃんに怒られるぞー」

子供B「やべっ」

リポーター「・・・う、うぅーん?私はいったい」

熊「グルルルルァァァァアア!!」

リポーター「」(失神)

子供A「あの姉ちゃん、もしかしていまだに熊に死んだふりが通じると思ってんのかな?」

子供B「マスコミ関係者のくせして古い情報に踊らされてるんだなぁ」

・・・

リポーター「・・・う、うぅーん」

子供A「あ、気が付いた?」

リポーター「ひっ!・・・あ、あれ?あの熊は?」キョロキョロ

子供B「今血抜きしてるとこー」ブシャアアアア

リポーター「ひいいいいいい!!」ガクガク

子供A「そろそろいいんでねえか?」

子供B「よっしゃ!持って帰ろ!姉ちゃんそっち持ってー」

リポーター「むむむむむむ無理!!」ガクブル

子供A「なんだよー、大人のくせにー」

<ガササッ

子供B「ん?」

熊「グオオオオオオオオオオッ!!」

リポーター「ひいいいいいい!!!?」

子供A「やべぇ!もう一匹いた!!」

子供B「あっ、こいつ朧月の三平太Vol.7だ!!」

リポーター「Vol.7!?一体全部で何匹いんの!?」

熊「グオオオオオオオオ!!!」ブォン

子供A「あ、やばいなこれ」

子供B「死んだわ」

リポーター「嫌あああああああああ!!」

<ガキィィン!!

リポーター「えっ」

老婆「全く・・・いつも1匹仕留めらくらいで気を抜くなって言ってるじゃろうに」

子供A「ばっちゃん!」

リポーター「」

老婆「やれやれ・・・2頭も持って帰っても食いきれんがね」

子供B「いいなー、ばっちゃん俺にもその鍬使わせてよー!!」

老婆「まだ早いわい。子供に持たせて万一怪我でもしたらあかん」

リポーター「こんなの絶対おかしいよ」

・・・

与平「昨夜はよく寝れたか?」

リポーター「いやもう・・・」ゲッソリ

与平「なんだ元気ねえな。ほれ、熊鍋食って精つけろ」

リポーター「食べたくない・・・」

与平「こうなっちまったら食ってやるのがせめてもの弔いだぞ」モグモグ

与平「よーし、腹も一杯になったことだしぼちぼち野良仕事でも始めっか」

リポーター「・・・」

与平「今日は種もみの選別と、苗箱洗いだ」

リポーター「あっ、はい」

与平「じゃまず種もみの選別はじめんぞ」

容器<チャプン

リポーター「これは?」

与平「中に入っているのは濃い塩水だ。ここに種もみを入れると、中身の入ってない悪い種もみだけが浮いてくるって寸法だ」

リポーター「なるほど」

与平「じゃ、せっかくだからアンタ入れてみるか?」

リポーター(なんか怖ぇなぁ・・・)

リポーター「これ、このまま入れちゃっていいんですか?」

与平「ああ、いいぞ」

リポーター「それでは・・・」ザバァ

容器<ビシッ・・・ビシビシ・・・

リポーター「えっ」

与平「よし、少し下がっててくれ」

容器<ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

リポーター「あ、あのなんか水面が禍々しい感じに波立って・・・」

与平「破アアアアアアァッ!!」

容器<ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!

http://i.imgur.com/kMVm9wX.jpg

リポーター「」

与平「ぐう・・・っ・・・今回の種もみは内臓にきたな・・・ぐはぁっ!」(吐血)

リポーター「」

与平「この水はただの水じゃない・・・死んでいった仲間たちの残していった、文字通り血と汗と涙の結晶なんだ」

リポーター「あっ、蝶々だーキレーイ」トテトテ

与平「よし!じゃあ次は苗箱を洗いに行くぞ」

リポーター「へーそうなんだぁ」

与平「今、蔵から軽トラに積む苗箱持ってくるから、ここで待っててくれ」

蔵<オギャアアアアアア!!キエエエエエエエエエエエ!!ウオオオオオオオオオオオオオオオン!!

リポーター「わー魑魅魍魎の音がするぅ」

・・・

与平「・・・お待たせ!さぁ乗ってくれ、ゲホッゲホッ」ボロッ

リポーター「一挙手一投足ごとにボロボロになるのやめてくださいよ」

与平「俺たちの農業は攻める農業だからな」

リポーター「一体何と戦っているんだ・・・」

与平「じゃ、出すぞ!」

https://www.youtube.com/watch?v=KxIlKtfnkBQ

リポーター「おぎゃああああああああああ!!!」

・・・

与平「さ、着いたぞ」

リポーター「アカン・・・出る・・・」ゴプッ

与平「はっはっは、砂利道ばっかで都会の人間にゃキツかったか?」

リポーター「そういう問題じゃねえ!!」

与平「ここに苗箱を置いて、と・・・」

リポーター「あれ?洗うっていっても、水とかはないんですね」

与平「これから降らすんだよ」

リポーター「はい?」

与平「まぁ見てな」

与平「・・・」

与平「勅硯神咒羅盛開新浪博客羅盛開玉帝有勅神硯四方金木水火土雷風雨電神・・・」ブツブツ

リポーター「あ、あの」

与平「硯輕磨霹靂電光芒急急如律・・・哈ッ!」

http://i.imgur.com/IfOAaif.jpg

リポーター「あっはっはっは!!」

与平「はぁっ・・・はぁっ・・・と、まぁ・・・こんなところだ」

リポーター「どんなところだよ」

与平「くっ・・・ちょっと念を使いすぎたか・・・」フラフラ

リポーター「少年誌だって最近はこんな無茶しねえよ」

与平「はは・・・俺たちの農業は攻めr」

リポーター「もう攻めるとかそういう次元の話じゃねえよ」

・・・

与平「今日はお疲れさん」

リポーター「うぅ・・・はやく取材を終えて帰りたい・・・」

<ドゴォォォォォォォン!!

リポーター「ひっ!!こ、今度は何!?」ビクッ

与平「八郎兵衛の家の方からだ!」

八郎兵衛「ぐっ・・・ぐぅぅ・・・」プスプス

与平「どうしたハチ!!何があった!?」

八郎兵衛「すまねぇ・・・裏の畑耕すのにしくじってな。力が、抑えきれなった・・・ゲホッゲホッ!!」

与平「無茶しやがって・・・」

リポーター「どういう風に無茶したらそうなるんですかねえ」

与平「俺たちの農業は、常にギリギリのところを攻めるからな・・・こうしたことは、日常茶飯事なのさ」

リポーター「ほんともうおたくら何と戦ってるんだよ。何と戦ってるんだよ」

・・・

あれから半年後。

我々取材班は、収穫の様子を見るために再びあの村へ向かうことになった。

リポーター「行きたくねぇなぁ・・・」

・・・

与平「腕の立つ奴を何人か集めろ!早く!!」

八郎兵衛「山の裏手にも人を集めるんだ!!」

魔法陣<オオオオオオオオオオ...

与平「くそっ!これ以上は大地の力を抑えきれねえぇーッ!!」グググ

八郎兵衛「へへっ・・・俺たちもこれで文字通り年貢の納め時、ってか・・・」ニヤリ

リポーター「ラスボス戦かな?」

<カッ!!

与平「しまった!!」

http://i.imgur.com/s6HxnNU.jpg

八郎兵衛「くそっ!このままじゃ山もろとも吹きとんじまうぞ!!」

与平「堪えろ!!オヤジたちの残した田畑だ!!俺たちが守るんだ!!」

リポーター「もうこれ農業じゃない」

吾作「・・・」

与平「ご、吾作!!?何をしている!こっちへ戻れ!!」

吾作「与平・・・八郎兵衛、それに皆・・・今まで、ありがとうな」

与平「吾作・・・お前、何を・・・?」

吾作「気にするな・・・こうなる運命だったんだ・・・」

八郎兵衛「与平!!吾作の奴、このままヤツを止めて死ぬ気だ!!」

与平「馬鹿野郎!2回も死ぬやつがあるか!戻れ吾作ッ!!」

吾作「いいんだ・・・俺が死んでも、俺の体は土となりお前らと共にある・・・今まで、楽しかったぜ」

http://i.imgur.com/rnFZfOa.jpg

与平郎兵衛「吾作ゥゥゥゥゥッ!!」

リポーター「なんだよこれ」

与平「くっ・・・大収穫だ・・・」ポロポロ

八郎兵衛「今年も豊作だ・・・あいつらが遺していってくれたんだ・・・」ポロポロ

リポーター「こいつら毎年こんなことやってんのか・・・」

与平「なぁ、リポーターさんよ・・・米には、こうやって八十八の手間と犠牲がかかってるんだ・・・余すところなく、伝えてくれよ・・・」

リポーター「こんなん公共の電波に載せらんねーよ!!」

おわり

昼休みに↓のニュース見てたらこういう発想に行き着いた。たぶん大体あってると思う。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151009-00000516-san-pol

http://i.imgur.com/06PNnGP.jpg
※村の近くで見られる野鳥

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom