役人「今日こそゴミ屋敷を片付けて下さい!」老人「絶対イヤじゃ!」 (29)

ゴチャゴチャ… グチャグチャ…



「あのゴミ屋敷、いつ見てもきったねーよな」

「たしか、おじいさんの一人暮らしでしょ?」

「もう四年以上、あの状態だよな……どうにかなんないの?」

「火災が発生したら怖いわ……」

「役所の対応が遅すぎんだよ! 何かあってからじゃ遅いっての!」



役人(市民の不満が高まってる……)

役人(今日こそ何とかしなくては……!)

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役人「家主さん」

老人「なんじゃ?」

役人「今日という今日こそ、このゴミ屋敷を片付けて下さい!」

老人「絶対イヤじゃ!」

役人「なぜですか?」

老人「ここはワシの家じゃ。ワシの家でワシがどうしようが、ワシの勝手じゃ!」

役人「しかし、周りの人はみんな不安がってるんですよ!」

役人「虫が湧くんじゃないかとか、火災が起こるんじゃないか、とか」

老人「ワシはそんなヘマはやらん。勝手に不安がらせておけばよい」

役人「じゃあ聞きますが、たとえばあの折れた傘、なんでちゃんと捨てないんです?」

老人「折れてるとはいえ、まだ使えるからのう。もったいないじゃろ」

役人「切れた電球を放置してる意味は?」

老人「感謝の気持ちのあらわれじゃ」

役人「あの積み上がったゴミ袋、どう見ても危ないですよね」

老人「ちょっとしたオブジェのようで、オツじゃろ?」

役人「はぁ……いくらいっても無駄なようですね」

老人「そうじゃ、とっとと帰れ」

役人「残念ながら、そうはいきません」

老人「なんじゃと?」

役人「実は先日、こんな条例ができたんです」

役人「ざっくりいうと“役所はゴミ屋敷を強制的に片付けていい条例”です」

老人「なにぃ!?」

役人「というわけで、今日という今日は覚悟してもらいます」

役人「強制執行させてもらいます!」

役人「まずはこのゴミ袋を片付けてしまいましょう!」ガシッ

老人「や、やめろぉっ!」

役人「やめるもんですか!」ポイッ

老人「あ、あああ……やってしもうた……」ガクッ

役人「なにを大げさな……」

ゴゴゴゴゴ……!



役人「…………!?」

役人「な、なんだこの揺れは!?」

老人「封印が……解けるのじゃ!」

役人「封印……? なんの?」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!

ズオッ!!!

魔神「フハハハハ……! 我、目覚めたり……!」



役人「なんだこいつは……!? まるでゲームに出てくる化け物じゃないか!」

老人「人類を滅ぼさんとする魔神じゃよ……」

役人「魔神!?」

役人「なんだって、そんなもんが出てきちゃったんですか!?」

老人「少し前の話になる」

老人「ワシは、人類を滅ぼさんとするあの魔神と戦った」

役人「へ……!?」

老人「しかし、実力では到底かなわず、どうにか封印するのが精一杯じゃった」

老人「しかも、その封印はある種の祭壇を作らねばすぐ破られてしまう」

老人「仕方ないので、ワシはあちこちから自宅にガラクタを集め、祭壇の役割を果たすよう組み立て」

老人「魔神を封印したのじゃ……」

役人「え、ちょっと待って下さい! じゃあもしかして、あのゴミ屋敷は……」

老人「うむ……魔神封印のため、ゴミを組み立てた結果、ああなってしまったのじゃ」

老人「だから、あの配置をいじるわけにはいかんかったんじゃ」

役人「なんですってえええええ!?」

老人「53ヶ月の間、魔神を封印すれば、魔神に人間界にとどまる力はなくなり」

老人「元いた魔界に送り返すことができる……はずだったんじゃが」

役人「53ヶ月……」

役人「たしかあなたが家をゴミ屋敷にしてから、四年以上経ってるんでしたよね?」

老人「うむ」

役人「一年は12ヶ月だから48ヶ月経ってたのか……って」

役人「あと少しだったじゃないですかぁぁぁぁぁぁ!!!」

老人「そうなんじゃよぉぉぉぉぉぉ!!!」

役人「なんで!? なんで説明してくれなかったんです!?」

役人「説明してくれれば我々だって――」

老人「では聞くが、“魔神を封印してるからゴミ屋敷はこのままにしてくれ”といったら」

老人「信じてくれたか?」

役人「う……ちょっと無理かも」

老人「絶対“頭のおかしいジジイ”と思われるじゃろうが!」

老人「“頑固なジジイ”ならまだしも“頭のおかしいジジイ”にされると」

老人「ゴミ屋敷を強制的に清掃されるおそれがある。だからいえなかったんじゃよ!」

役人「でも、でも……もっといいやり方絶対あったと思う!」

老人「あったとしても、もう遅いわぁぁぁ!」

魔神「おしゃべりはもういいか?」

魔神「そろそろ人類というゴミを、地球から掃除してやろう……!」ゴゴゴゴゴ…



役人「ひ、ひいい……!」

老人「こうなったらやるしかないわい!」

役人「やるって、まさか!?」

老人「もちろん戦うんじゃよ、魔神と。もう封印は通用せんじゃろうから、倒すしかないわい」

老人「久々に愛刀“狼刃”の出番じゃな」ジャキッ

役人「おおっ、すごそうな刀ですね!」

老人「ニホンオオカミの牙から作ったこの名刀……受けてみい、魔神よ!」

老人「老人奥義・“根他斬り”!!!」

ズバァッ!

魔神「…………」

役人「や、やったぁ!」

魔神「フン、この程度か」シュゥゥゥ…

老人「効いておらんじゃと!?」

魔神「かつて、実力でかなわぬから封印などという手段に走ったというのに」

魔神「今さら真正面から仕掛けてくるとはな……貴様、ボケているのか?」

老人「そういえば、このところ物忘れが激しく……」

魔神「ゴミめ! ゴミはゴミらしく、燃やしてくれよう! 魔神の火炎で燃え尽きよ!」


ゴワアァァァァァッ!!!


老人(こ、ここまでか……!)

役人「お役所仕事・“たらい回し”!」ズバババッ


ボワッ!


魔神「む……!? 炎が散らされた……!?」

役人「俺は大抵の攻撃なら、こうやって受け流すことができる……」

老人「お、お前さん……!」

役人「家主さん、魔神が復活してしまったのは俺の責任です。俺も手伝わせて下さい!」

老人「感謝する!」

魔神「愚かな! ゴミが二つになったところで、我に敵うわけなかろう!」

魔神「燃えないゴミならば、砕いてくれる!」

魔神「この鉄槌でなァ!」グオオオオッ

役人(こんな重量はさすがに受け流せない!)

老人「ワシに任せよ! “老頑強”!」カチンッ


ガキンッ!


役人「すごい! 体を硬化させて、あの鉄槌を受け止めた!」

老人「伊達に頭の固いジジイをやっとらんわい」

魔神「ぬう……!」

老人「今度はこっちの番じゃ! 武器はあるか!?」

役人「この最強のお役所武器・“杓子定規”があります!」ジャキッ

老人「よく斬れそうな定規じゃ……ゆくぞっ!」

役人「はいっ!」

老人「ぬおおおおおおおおおっ!!!」ズバババババッ

役人「でやああああああああっ!!!」ズバババババッ

魔神「ぐっ、ぐおおっ……!」

魔神「ゴミどもが……! 図に乗りおってぇぇぇ……!」

魔神「こうなれば……!」



ゴゴゴゴゴゴ……!



役人「じ、地面が!」

老人「盛り上がってゆく!」

魔神「まとめて埋め立ててくれるわぁぁぁっ!!!」



ドババババァァァァァァァッ!!!



役人「うわぁぁぁぁぁっ!」

老人「地面が高波となって……!」





――ズザァンッ!!!

シーン…





魔神「フン、終わった……」

魔神「しょせん人間はゴミなのだ!」

魔神「これから、そのゴミをこの地球上から根絶やしにしてくれるわぁぁぁぁぁっ!!!」

魔神「フハハハハハハハ……!!!」

ムクムク…



役人「ま、まだだ!」ボコッ

老人「まだ生きとるぞ!」ボコッ

魔神「……な!?」

魔神「なんとしつこいゴミどもだ! せっかく埋め立ててやったのに、這い出てくるとは!」

役人「さすが魔神……人間じゃ及びもつかない力を持っている……」

役人「だけど俺たちは……人間は……ゴミなんかじゃない!」

魔神「なんだと?」

魔神「人間はゴミじゃないだと!? ほざくな!」

魔神「自然を汚し、他の生き物を排除し、挙げ句、人間同士でも争い合う!」

魔神「こんな迷惑をかけまくる存在の、いったいどこがゴミじゃないというのだぁっ!」

老人「しかし、人は変わることができる!」

老人「自然を慈しみ、他の生き物を愛し、助け合う人間がいるのも事実じゃ!」

老人「ワシとともに戦ってくれた……この若者のようにな」

役人「家主さん……」

役人「そうだ! もし仮に俺たちがゴミだとしても――」

役人「俺たちはリサイクルできるんだぁぁぁぁぁっ!!!」

魔神「ぬ、ぬううう……!」

役人「だいたい、迷惑をかけまくる存在っていったら、あんたはどうなんだ!」

魔神「え」

役人「こんなに火やら土やらまき散らしやがって……どうすんだよ、これ!」

役人「世界中でこんなことするつもりだったんなら、あんたの方がよっぽど迷惑だろ!」



ワァァァァァ……!

「そうだそうだー!」

「迷惑なのはそっちじゃないかーっ! 大迷惑だーっ!」

「おじいちゃんと役所の人が正しい!」



魔神「ううう……」

魔神「あ、あの……」

役人「?」

魔神「ごみんなさい……」







こうして、魔神は魔界へと帰っていった――

役人「退散してくれましたね……」

老人「思ったより、心がヤワな魔神だったから助かったわい」

役人「このたびは……誠に申し訳ありませんでした!」

役人「俺のせいで魔神を復活させるはめになってしまって……!」

老人「いや、こちらこそすまなかった……」

老人「ワシがきちんとゴミ屋敷を作った理由を説明していれば、こんなことにはならなかったじゃろう」

役人「ですが、それは――」

老人「いや……君ならきっと、ワシを“頭のおかしいジジイ”と決めつけなかったじゃろう」

老人「今はそう確信できる」

役人「…………」ジーン…

老人「君のような立派な若者がいれば、魔神も再び姿を現すことはあるまい」

役人「……はいっ!」

役人「それじゃ、みんなで魔神が散らかした町をキレイにしましょうか!」

役人「もう二度と、魔神に人がゴミ呼ばわりされないように……!」

老人「そうじゃな!」


「やろうやろう!」

「魔神を追い払ってくれてありがとう! 私も掃除するわ!」

「俺も手伝うぜ!」


役人「皆さん、ありがとう!」

役人(そう、俺たちはたとえゴミを溜めたって、キレイにすることができるんだ……!)










おわり

以上で完結です

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