とある後日の幻想創話(イマジンストーリー)2 (1000)


※注意
>>1はSS初心者
・ジャンルは禁書×東方。苦手な方は注意
・幻想入りおよび学園都市入りではない。強いて言うなら禁書世界をベースにした世界観クロス
 具体的に言えば、東方キャラが禁書世界の住民として出てくる
・独自解釈、キャラ崩壊、設定改変が多数
 特に東方キャラについては、もはや別物と言ってもいいほど改変される可能性が大
・時系列は本編終了後。本編は開始から一年で終了している設定
・基本日曜更新。ただし不定期になることも無きにしも非ず


前スレ
とある後日の幻想創話(イマジンストーリー)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1360510325

前スレ
>>987
格ゲーじゃあ喘息はどこへやらといった具合にアグレッシブですからね
大切にしているはずの本で相手をぶっ叩いたりもするし

>>988
二人は至って真面目です(キリッ


これから投下を開始します






――――7月27日 AM11:10






パチュリー「さて、街には来てみたけど・・・・・・どうしようかしら?」


第7学区の大通りに一人、パチュリー・ノーレッジはこれからどこに行くか思案していた。
今回はただの観光ということで、普段のネグリジェのようなローブではなく、ロングのワンピースを着ている。
ただ、それですらも紫に統一されているのは彼女のこだわりなのだろうか。


ちなみにローブを着ているときはよくわからないが、実際はかなり豊満な体つきをしている。
殆ど引きこもりの生活をしているのにどうしてその体型を維持できるのか。
かの『最大主教の若作り』並の謎であると『必要悪の教会』の中では専らの噂だ。


そんな体でボディラインが見えやすいワンピースを着たものだから、通行人、特に男子の目線を強烈に引きつけていた。
思春期真っ盛りの男子がその姿を見たら、今晩の惣菜は決定したも同然だろう。
ただ、その脇に抱えられている辞書並みに分厚い本がその雰囲気を台無しにしている気もするが。



パチュリー(立っていると妙に視線が集まってる気がするわね。 別にいいんだけど)

パチュリー(それに行く当てもなく来ちゃったし。 彼も案内ぐらいしてくれたら良かったのにね)



今、パチュリーの側に土御門はいない。
もし当麻に出会ってしまったとき、それを説明するのに非常に苦労するからだ。最悪、これからの計画に支障が出る可能性がある。
その代わり土御門は、学園都市を練り歩く上での注意事項を彼女に伝えていた。


パチュリー(でも『幻想殺し』と『必要悪の教会』が対立することになるのは火を見るより明らかだし、心配するだけ無駄なのよね)

パチュリー(私にはあまり関係のないことだけど)



一応『必要悪の教会』に所属している彼女ではあるが、彼女自身それほど組織に執着しているわけではない。
『必要悪の教会』にいるのは単に彼女の父親がそうだったというだけであるし、
そもそも彼女の興味は『未知を既知にすること』に尽きる。
大英魔術図書館にある膨大な書物がなければ、彼女はイギリスにいることなく世界を旅して回っていただろう。


もちろん、その旅の目的は『世界中の図書館にある書物を網羅すること』になるであろうが。



パチュリー「とりあえず、適当に歩き回るくらいしかないかしら?」

パチュリー「・・・・・・いや、そういえばちょっと興味が沸いた場所があるのよね。 まずはそこに行ってみますか」


パチュリーは目的地への道順を調べるべく、情報収集を開始した。
彼女が目的とする『場所』。いや、『建物のようなもの』は――――











『窓のないビル』。前総括理事長、アレイスター=クロウリーのかつての根城である。















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






『窓のないビル』。
かつて、『魔術界のユダ』とも称された男が潜んでいた、入口どころか生物が通れる穴すら無い建物。
その中に入るためには『案内人』が必要であり、総括理事長が指名した人物以外は入ることは出来ないと言われていた。


窓もドアも廊下も階段も、さらには通気口すらも設けられておらず、建物内での生存に必要な物資は全て内部で補うことができる。
さらには銃弾、砲弾、ミサイル、爆薬、さらには核爆弾のような、ここら一体を消滅させかねない衝撃を受けても平然としていられる、
まさに『鉄壁』という言葉すら陳腐に見えるほどの強固な『建造物』だ。


いや、『建造物』と呼べるかどうかも怪しい。もしかしたら『宇宙船』かもしれない。
それ程までに謎に包まれていた建物『だった』のだ。



パチュリー「来てみたはいいけれど、もう殆ど残ってないわね」



だが、それはもう昔の話。
その建造物は所有者が失踪した後、即座に解体される方針となった。


理由は諸説ある。
その所有者の痕跡を完全に消し去り、後世に残さないためだとか、
建造物に用いられていたテクノロジーを解明するためだとか色々だ。
だがその真実を知っているのは、解体することを決定した現在の総括理事会だけだろう。


そして現在その建造物は、土台部分を僅かに残したままその姿を消している。


パチュリー「アレイスターの魔術とか欠片でも残ってないかと期待していたのだけれど、やっぱり無理だったかしら」



アレイスター=クロウリーは魔術界に反逆する以前は『世界最高最強の魔術師』であり、
同時に新約聖書に登場するような『伝説級の魔術師』であった。
なにせ過去数千年の魔術の歴史を、彼が現役だったわずか70年で塗り替えたと言われているのである。


そんな『怪物』が関わっている魔術。
それが片鱗でも手に入ることができれば自身の魔術をさらに進化させることが出来るのではないかと踏んだのだが、
やはりそう上手くはいかないようだ。


あの男のことだから、建造物だけでなくこの土地自体にも大規模な魔術がかけられていたはずだ。
だが、魔術の残滓は欠片も関知できなかった。規模が大きくなればそれだけ痕跡は残りやすくなるはずなのに。
ここまで完璧に魔術が消滅しているとなれば、おそらく『幻想殺し』がそれを破壊したのだろう。


『幻想殺し』による魔術の破壊は、魔術を用いて解呪するのとは訳が違う。
魔術で解呪した場合、必ず何処かに術式なり魔力なりの痕跡が残る。
どんなに入念に目的の魔術を消し去っても、それを消し去るのに用いた魔術の痕跡が残ってしまうのだ。
その反面、『幻想殺し』による魔術の破壊はそういった跡を残さない。


パチュリー(目的の物がない以上、ここに長居する意味はないわね)

パチュリー(もうお昼も近いし、何処かで昼食でもとろうかしら?)



目的の物を手に入れることをあっさりと放棄し、お昼に何を食べるかを考える。
だが、どこで食べればいいのか簡単には思いつかない。


パチュリーは今回初めて学園都市に来たのだ。
どんな店がどこにあるのか全く知らないし、地図を持っているとはいえ、この土地を完全に把握しているわけではない。
せっかく来たのだから、出来るだけ美味しいものを食べたいところなのだが。


仕方なく適当にそこら辺のレストランにでも入ろうかと考えていると――――











「あの、ここで何をしているんですか?」

パチュリー「?」











背後から女性の声が耳に届いた。
この都市には土御門以外の知り合いはいないので、この声の主は全くの他人のはずである。


そんな人間が一体自分に何の用なのか。
後ろを振り向くと、少し背が高めの眼鏡をかけた気弱そうな少女がこちらを見ていた。



パチュリー「あなたは?」

「風斬氷華、といいます」

パチュリー「カザキリ・・・・・・?」

風斬「はい。 あの、こんな所で何をしているんですか?」

パチュリー「ここにいては悪いのかしら?」

風斬「いえ、そういう訳じゃないんですけど・・・・・・ここに来る人なんて工事の人達だけだし・・・・・・・」

パチュリー「あなたは違うのかしら?」

風斬「え?」

パチュリー「ここには工事の人達しか来ないようだけど、あなた自身はとてもその関係者には見えないわね」


彼女の言葉を聞くに、ここには『窓の無いビル』の解体工事の関係者以外、近寄る人間はいないらしい。
確かにそれであれば、無関係に見える服装をしているパチュリーが不審な目で見られることは当然の結果だろう。


しかしそれは、風斬氷華と名乗る少女にとっても同じことだ。
彼女の服装はどこをどう見ても、この街でよく見かける『セーラー服』と呼ばれるものである。
明らかに工事の関係者が着るような服ではない。



風斬「・・・・・・他に行く当てがないので」

パチュリー「行く当てがないのなら、なおさらこんな所に来るはずがないでしょ」

風斬「うぅ・・・・・・」



相手が口にする苦しい言い訳を即座に論破するパチュリー。
彼女の興味は既に『窓の無いビル』から離れ、目の前の気弱な少女に向いていた。
何せ、この街に来てから初めて接した住人第一号なのである。好奇心旺盛な彼女が注目するのも無理からぬことであった。


パチュリー「・・・・・・そういえばあなた」

風斬「な、何でしょうか?」

パチュリー「何というか、『随分と存在が希薄』な気がするけど、それがあなたの能力?」

風斬「・・・・・・!」



目の前の少女を観察している内に気付いたことを、何気なしに口から漏らす。
口では表現し難いが、風斬氷華からは『陽炎』とも称する程度しか気配が感じられない。
目を離したら最後、そのまま消え去ってしまうかのような。そう思わざるを得ないほど、彼女の存在感は希薄であった。


『自身の存在を希薄にする能力』。
パチュリーは学園都市の超能力ことを詳細に知っているわけではないが、そのような能力もあるのだろうと最初は当たりを付けた。
しかし注意深く見て行くと、さらに別の違和感を見つけるに至る。


この感覚は、自分としては十分に慣れ親しんだ――――


パチュリー「いえ、違うわね。 僅かながら魔力のような物も感じる。 ・・・・・・あなた、何者?」

風斬「・・・・・・魔力を知っていると言うことは、あなたもあの人の仲間なんですか?」

パチュリー「あの人?」

風斬「ここに建っていた建物に住んでいた人のことです」

パチュリー「アレイスター=クロウリーのこと? 冗談は止してちょうだい」

パチュリー「確かに同じ魔術師ではあるけれど、アレと一緒にされるのはいい気がしないわ」

風斬「そうなんですか?」

パチュリー「あの男はある意味最悪の人間だったから。 ・・・・・・で、私の質問に答えてくれるかしら?」

パチュリー「アレイスターの名が出てきたと言うことは、ただの人間ではないわよね?」



『あの』アレイスターの関係者なのだ。普通の人間と言うことはあるまい。
もしかしたら自分の常識外の存在であることも十分に考えられる。
パチュリーは警戒しつつもその感情を表に出さず、あくまで自然な顔で彼女の言葉の続きを待った。


風斬「・・・・・・『人工天使』。 あの人は私のことをそう呼んでいました」

パチュリー「人工天使? もしかして、第三次世界大戦の最中に現れたっていう?」

風斬「はい、それが私です。 もうあの時のような力は出せませんが」

パチュリー「もし出せたら真っ先に逃げ出しているところね。 私ごときじゃ手に負えないし」



もし彼女が人工天使なのであれば、魔術師が一人で挑むという行為は無謀どころの話ではない。
その気になれば、大国の一軍隊をその腕一振りで消し飛ばすことも可能なのだ。
そんな存在を相手に喧嘩を売るなど、まさに自殺行為と言うべきだろう。



風斬「・・・・・・それにしても、私が人工天使だっていうことを簡単に信じるんですか?」

風斬「自分で言うのも何ですけど、結構胡散臭い話ですよ?」

パチュリー「そういうものを専門にしているからね。 完全に信じた訳じゃないけれど、言われてみればそんな気がするわ」

風斬「変な人ですね。 私のことを天使だと知って動揺しない人には久しぶりに会いました」

風斬「あなたのような人には何人か会いましたけれど、基本的に私のことを怖がったり、軽蔑した目で見てましたから」

パチュリー「魔術師の立場にしてみれば『人の手による天使の創造』なんてタブーもいいところだから」

パチュリー「私としては俄然興味が行くんだけどね。 再現は無理でしょうけど」

風斬「そうですね。 私を創ることが出来るのは、後にも先にもあの人だけでしょうから」


230万人の能力者が発する『AIM拡散力場』によって形作られる『虚数学区』。
その一部が一ヶ所に収束し、人型を作ることで『風斬氷華』は誕生した。
彼女は魔術理論を参考にした原理により、『ヒューズ=カザキリ』と呼ばれる人工天使に変貌することが出来る。


もちろん考案者はアレイスターであり、彼以外にその原理を知るものはいない。
科学により生み出された『材料』と魔術という名の『レシピ』で天使を形作る。
魔術師であり科学者でもある彼だからこそ出来た芸当だろう。



パチュリー「ま、再現したところで異端者になるのは確定だし、流石にそのリスクを背負う覚悟はないわね」

風斬「そうしてくれると嬉しいです」

パチュリー「ところで話は変わるけど、あなたって今暇だったりする?」

風斬「え? 私はこういう存在なので普段は学園都市の中をフラフラするのが日課ですけど」

風斬「お友達もいますけど、最近は会ってませんし」

パチュリー「ならいいわね。 あなた、私のガイド役になりなさい」

風斬「ど、どういう意味ですか?」


まるで当然とでも言うかのように話すパチュリーに対して風斬は動揺を隠せない。
赤の他人にこの街の案内を強要させられているのだ。驚くのは当たり前のことである。
人が人ならば『お前は何を言っているんだ』という目で見られた上で、丁重に『警備員』か『風紀委員』に通報されるだろう。



パチュリー「そのままの意味よ。 私は昨日学園都市に来たのだけれど、このあたりの地理には詳しくなくてね」

パチュリー「お昼を食べようにも、お店の場所すらよく知らないのよ」

パチュリー「だから、学園都市を歩き回っていて知識がありそうなあなたに案内を頼むわけ」

風斬「・・・・・・私は生きるための食事をする必要がありませんから、そういうことはよく知りませんけれど・・・・・・」

パチュリー「『よく知らない』ってことは『少しは知っている』ということね。 それでいいわ」

パチュリー「何も知らない私よりは遥かに良いでしょ」

パチュリー(それにまだ色々と聞きたいことがあるからね。 人工天使なんてもう見る機会はないでしょうし)


科学と魔術を用いて作られた人工天使。
そのような存在に出会うことは、普通ならば絶対にあり得ないことである。
『一緒に街を散歩する』ともなれば、それこそ天地がひっくり返りでもしない限り実現不可能だろう。


そんな機会を自ら手放すなどという愚かな行為を犯すパチュリーではない。



風斬「・・・・・・わかりました。 私も惰性でここにいるだけですし、あなたの頼みを受けようと思います」

風斬「私ももしかしたら友達にも会えるかもしれませんから」

パチュリー「恩に着るわ」



パチュリーは風斬を連れて元の道を引き返し始める。
目的の物は手に入らなかったが、この町の案内役を手に入れただけ良しとしよう。
人の手で生み出されたとはいえ、天使にそのような役目を任せるのは罰当たりな気もするが。


二人が去った後には、相変わらず『窓のないビル』を解体する工事音が周囲に響いていた。

今日はここまで
文章を見やすくするために行間をさらに開けてみた
べ、別に行数を稼ごうなんて考えがあるわけじゃ(ry

質問・感想があればどうぞ


黒髪の女性って風斬だったのかww今の今まで気付かんかった
そしてパチェと風斬に挟まれたいです。何にともナニがとも言いませんが

解体するという作業自体に、何らかの魔術が仕込まれてたりしないだろうな……

そこそこ楽しそうで良いね

奇妙な友情は芽生えるか?

>>23
大きいことはいいことだ。つるぺたもいいけど

>>24
親船さん厳選の土木事業部隊ですよ。魔術が入る隙間なんてたぶん無いです
解体前に起動してた魔術は、上条さんが全て完膚なきまでにそげぶしました

>>25
本筋そっちのけで日常生活ばかり書いているような気もするが、それでも楽しんでくれているのであれば幸い

>>26
引きこもりのパッチェさんに友達ができるといいですね

ん?誰か来たようだ・・・・・・

これから投下を開始します






――――7月27日 PM0:10






土御門「まさか、いきなりここに足を運ぶとはな。 早い段階でカミやんに魔術を破壊させて正解だったな」



とあるビルの屋上で、双眼鏡を覗き込みながら土御門は呟いた。
彼の瞳には『窓のないビル』の跡地を見つめているパチュリーの姿が映っている。


彼が現在ここにいる理由はパチュリー・ノーレッジの警護及び監視。
前者の主にスキルアウトから守るため。後者はパチュリーが自分勝手に変な場所へと入り込まないようにするのが目的だ。
それなら直接彼女の側にいた方が絶対に良いのだが、それをするともし上条当麻に会ったときに色々と面倒なことになる。


何故パチュリーという魔術師が学園都市にいるのか。
何故土御門は当麻との連絡を絶ったのか。
そして自分たちが何を始めようとしているのか。


いくら天の邪鬼である彼でも、続けざまに嘘をスラスラ並べ立てるのは苦労する。
そして何より付き合いの長い当麻が相手なのだ。
以前の彼であれば騙し通せたであろうが、今は自分が嘘つきであることが知られている。
彼の性格を考えればしつこく聞いてくることはないだろうが、
たとえ自分が信用されてもパチュリーも同様に、というわけにはいかないだろう。


そこで土御門は、パチュリーの側に着くことは止めて遠目から彼女を監視することにした。


パチュリーだけが当麻に会うのならば、ある程度ごまかしがきく。
一応彼女には『イギリス清教の親善大使』という立場がある。
その立場を使えば魔術師である彼女がここにいる理由を説明することが可能だ。
少なくとも、事が終わるまでは彼を騙しきることが出来るだろう。


土御門(それでもかなりシビアなんだがな。 彼女の我が儘には困ったもんだ)

土御門(だが、カミやんを事から引き離せる目処が付いたことは、良いことなのかもしれない)

土御門(事後処理に関する問題はまだ未解決なんだがな・・・・・・)



今回の作戦の大まかな概要は『標的』の捕獲ないし抹殺。
当麻は『標的』と関わってしまっているため、今後の彼とイギリス清教の関係を考えれば捕獲するのが望ましい。
しかし、仮に捕獲が成功したとしても両者の関係に亀裂が入ることになるのは確定的だ。



土御門(しかも今後は『奴等』からの干渉が起こる可能性がある)

土御門(何せあのアレイスターが居なくなったんだ。 『奴等』にしてみれば『幻想殺し』を手に入れるまたと無い機会が訪れたも同然だろう)

土御門(今後はインデックスだけじゃなく、カミやんの安全のことも視野に入れて動く必要があるな)

土御門(しかし今回の件でカミやんとイギリス清教が対立することになれば、禁書目録が召還されることも十分にありえる話だ)

土御門(そしてそれに伴ってイギリス清教の援助が受けられなくなることは確実)

土御門(そうなればオレも易々とカミやんに協力することは難しくなる)

土御門(『奴等』のことを考えれば、今の段階でカミやんにイギリス清教の加護が無くなるのは不味い)


アレイスターがいなくなったことで存在感を増し始めている『奴等』。
その正体は今現在日本で最大の規模を誇る『神仏道複合型魔術組織』。
この国が誕生してから現在に至るまで、国に大きな影響を及ぼし続けている集団だ。
江戸時代に行われた十字教弾圧も、彼らが裏で指示したのが原因と考えられている。
それ故にイギリス清教とあの集団の確執は、大きくはないが確実に存在するのだ。


第二次世界大戦における敗戦、近代化による科学の発達、そしてその集大成である学園都市の成立。
年代が進むにつれて日本国民の宗教に対する関心が薄れていくうちに、組織の影響力は目に見えて薄れていった。
しかし今でも目に見えない場所で活動が行われており、他宗教の浸透を許していない。


そして科学サイドの元締めであったアレイスターが倒れ、片や魔術サイド最大勢力である十字教が疲弊している今、
日本をかつての姿に戻すために行動を起こし始めているだろうと土御門は推測していた。



土御門(近い将来、オレはあの組織と話を付けるために派遣されることになるだろう)

土御門(イギリス清教としては、早めに牽制をかけておきたいだろうからな)

土御門(おそらく、『幻想殺し』についても話が出るかも知れない)

土御門(正直、オレがあそこに行くのは自殺しにいくようなものなんだけどにゃー)

土御門(でもオレ以外出来る奴はいないだろうし、スパイ家業も楽じゃないぜい)

土御門(ん? 誰か近づいてきてるな・・・・・・)



再び双眼鏡を覗き込むと、黒く長い髪で眼鏡をかけた少女がパチュリーに歩み寄って来るのが見えた。
土御門は直接会ったことはないが、その人物の正体を知識で知っている。


土御門「あれは・・・・・・ヒューズ=カザキリか?」



アレイスター=クロウリーが生み出した人工天使。
そして彼の計画の鍵を握っていた存在の一つである。


だが今の彼女の姿には、そのような気配は微塵も感じられない。
どこをどう見ても、少し気弱な女子学生にしか見えない。



土御門(先の戦いから行方が分からなくなっていたが、こんな所にいたのか)

土御門(姿に若干ブレが生じているのを見るに、どうやら力を失っているらしいな。 これなら接触したとしても問題ないだろう)

土御門(人工天使の製造法を知っているのはアレイスターだけだからな。
ヒューズ=カザキリからパチュリーにその方法が漏れるとは考えにくい)



もし人工天使が量産されるとなれば、魔術サイドは一種の恐慌状態に陥ることになるだろう。
しかし、人工天使を作るには科学と魔術の両方に精通している必要がある。
科学をよく知らないパチュリーがヒューズ=カザキリを解析したところで、人工天使の製造法に至ることは万に一つもあり得ない。



土御門(これだけでもアレイスターがどれだけ規格外な存在だったかわかるってもんだ)

土御門(今でも奴が斃れただなんて信じられないくらいだしな)

土御門(お、どうやら移動するみたいだな。 しかも人工天使を連れてか。 丁度昼時だから飯でも食いに行くのか?)

土御門(天使と一緒にランチタイムとは・・・・・・他の魔術師が見たら卒倒するだろうな)

土御門(まあいい。 見失わないうちにさっさと移動するか)






――――7月27日 PM2:47






風斬「・・・・・・と、まぁこんな所です」

パチュリー「なるほどね。 なかなか興味深いわ」



第7学区の公園のベンチで、パチュリーと風斬は談話をしていた。


あの後レストランで食事を終えたパチュリーは風斬の案内のもと、第7学区の主要な施設を見て回っていた。
ただ時間が限られていたため、食事をしたレストランの近場にある商店街や研究施設などを遠目から観察するくらいにとどまった。
ある程度見回った後休憩として側あった公園に入り、こうしてベンチに座って会話をしている。


話している内容は学園都市の話。


都市の成り立ち。
超能力者とはいかなる存在か。
研究者達が目指しているものとは。


風斬は自分が知っていることを、出来るだけわかりやすくパチュリーに説明した。


だが、風斬自身この学園都市について詳しく知っているわけではない。
彼女が彼女としての自我を確立したのは1年前のことだ。
彼女の知識は街の中を探索したり、本を読んだりしたことによって身につけた簡単なことでしかない。
言ってしまえば、学園都市の住民なら当たり前に知っている内容ばかりである。


しかし、それでもパチュリーにとっては新鮮な内容だったようで、彼女は興味津々になりながら風斬の話に聞き入っていた。


パチュリー「『低確率の超常現象を確実に認識することで世界を歪める』、か」

パチュリー「なんだか上手く言いくるめられているようで釈然としないけど、実際に起きているんだから事実なんでしょうね」

風斬「外の人にとって見れば信じられないですよね。 自分の認識次第で火を出したり他人の心を読めたりするなんて」

パチュリー「でも、私も魔術なんて言う物理法則の埒外の力を操っているし、それ程不思議なことでもないかもしれないわね」

風斬「・・・・・・思ったんですけど『魔術』なんて言葉、こんな簡単に口に出して良いのでしょうか?」

風斬「一応ここ、科学の街なんですけど」

パチュリー「別に魔術は積極的に隠蔽されているような物じゃないし、これくらいなら問題ないわ」

パチュリー「場所によっては一般人に認知されている場合もあるし、先の大戦の影響で世界的にも浸透してきているしね」

パチュリー「隠すとしたら、敵対する魔術師に自分の手の内を知られないようにする時くらいかしら」

パチュリー「言ってしまえば軍事機密みたいなものよ」

風斬「そうなんですか」

パチュリー「ええ。 イギリス清教の場合周辺の魔術組織を相手にしなきゃならないから色々と秘密も多いの」

パチュリー「それは最大宗派であるローマ正教も同じ。 あそこはイギリス清教よりも敵が多いんじゃないかしら?」


魔術は科学に例えれば一種の数式のような物である。
その数式を逆算し理解することが出来れば、その魔術の効能を打ち消したり逆に利用したりすることが出来る。


その際たる物が『禁書目録』だろう。
魔術の中和するためには、対象となる魔術を詳しく知っている必要がある。
つまりこの世の全ての魔術を知ることができれば、それら全てに対抗する術を身につけることができるのだ。
故に10万3000冊という膨大な魔道書を記憶し、あらゆる魔術知識を所蔵する『禁書目録』は、
イギリス清教の切り札であり、最高の防護壁となり得るのである。



風斬「でも、そんな重要なこと話して良いんですか? 何処で誰が聞いているかもわかりませんし」

風斬「ここには興味本位で他人を実験台にする人もいますから、もしかしたら連れ去られるかもしれませんよ?」

パチュリー「その心配はいらないわ。 私の記憶には魔術をかけて暗号化の上にロックを施してある」

パチュリー「例え私を攫って頭の中を解析しようとしてもそれを読み取ることは出来ないし、
ましてやその知識を悪用する事なんて出来やしないわ」

パチュリー「その代わり私は脳を弄られた結果として廃人になるかもしれないけどね」



大英魔術図書館、しかも『封印指定区域』を管理するパチュリーは『禁書目録』程ではないにしろ、
相当な魔術の知識が脳に刻み込まれている。
その中にはイギリス清教の防衛の要となる物も含まれているため、彼女の知識の漏洩はそのまま自軍の危機に繋がりかねない。


それを防ぐためにパチュリーは自分の記憶にトラップを仕掛け、
不当な方法で記憶を引き出そうとした場合には、引き出された情報が支離滅裂な物になるように細工を施した。
正確には『引き出された情報』ではなく、『引き出されようとしている情報』であるが。


もちろんそんなことをすれば、錯乱した情報が原因で彼女の人格にどんな影響を及ぼすかは分からない。
だが彼女は、そうなった場合は『捕まる自分が悪い』と思っているため、深刻には考えていないのだが。


風斬「魔術師のことはよく知りませんけど、あなたが相当な覚悟をしているのは分かりました」

パチュリー「覚悟って言うより立場上の義務みたいなものよ。 別に好きで自分の体を弄くり回してるわけじゃない」

パチュリー「最初はただ本が読みたくてこの立場に立候補したんだけど、いざやってみると色々事務的な処理が多いのよね」

パチュリー「その代わり好きなだけ本が読めるから釣り合いはとれてるんだけどね」

風斬「本を読むのが好きなんですか?」

パチュリー「ええ。 私の人生の大半が読書、つまり知識の収集に費やされていると言っても過言ではないわね」

風斬「勤勉なんですね」

パチュリー「勤勉と言うよりも、『識る』ことが単純に嬉しいのよ・・・・・・さて、十分休憩も挟んだしそろそろ行きましょうか」

風斬「大丈夫ですか? 休む前は結構ふらついてましたけど」

パチュリー「普段は余り出歩かないから、こういう真夏日には慣れてないのよ」

パチュリー「本当にこの体、何とかならない物かしらね。 魔術の反動もあるし・・・・・・」



魔力の生成には自身の生命力を必要とする。
生成を止めれば自然と生命力も回復するのだが、規模の大きい魔術を使用するようになると回復量が使用量に追いつかない。
例えばステイルの場合、『魔女狩りの王』の行使に必要となる膨大な魔力を生成する代償として、
自身の体力や接近戦の能力の殆どを犠牲にしている。


パチュリーの場合は生来からの虚弱体質に加えて持病まであるため、魔力生成による体力の低下は常日頃からの悩みの種だ。
持病の方は薬やら魔術やらで何とか抑えることは出来ているのだが、体力の方までは如何ともしがたい。
図書館内を歩き回ったりして多少体は動かしているが、その程度ではどうにもならないのが現実である。


パチュリー「よいしょっと。 さて、今度はどこに行こうかしら?」

風斬「そういえば、時間は大丈夫なんですか?」

パチュリー「5時にはホテルに戻るつもりよ。 第3学区だから少し余裕を持ったほうがいいかしら?」

風斬「今3時ですから・・・・・・4時前には駅に行ったほうがいいかもしれませんね」

パチュリー「時間的に見られるのは後一、二ヶ所くらいね。 どこかおすすめの場所はある?」

風斬「パチュリーさんが興味を持ちそうな施設はいくつかありますけど、ここからだと少し遠いですね」

風斬「駅周辺の探索をしながら、お土産でも買ったほうがいいかもしれません」

パチュリー「やっぱりそうなるのね・・・・・・時間がないのが恨めしいわね」

風斬「パチュリーさんが望むのなら、あなたを抱えて空を飛んでホテルに送り届けることも出来ますけど」

パチュリー「・・・・・・それはお断りするわ」



『天使と一緒に青空でランデヴー』と言えば聞こえは良いかもしれない。
しかし彼女は全盛期であれば、時速7000kmもの速さで飛行することが出来る。
もちろん加減はするであろうが、体が弱いパチュリーがそのような環境に晒されたとしたら、
ホテルに着く頃にはどうなってしまっているのか。


正直に言って、考えたくもなかった。

今日はここまで
質問・感想があればどうぞ


なんだか土御門がかわいそうに思えてきたww
この人たち上条さんと遭遇するもんなあ

>>1
乙です。
今更な感じの質問ですが、

「東方勢で科学サイドのキャラは一人を除いてレベル4以下」



「仮にレベル5勢とのバトル展開になった時に、真正面からではどうあがいても絶望」

になる、という解釈でよろしいでしょうか?


話が練り込んであり、とても面白いので、これからも頑張って下さい

>>1

日本の魔術組織ねえ

考えてみたら東方には魔法使いだけじゃなく
花咲爺「ポチの灰」とか正体不明「紫鏡」とか
魔術として成立しそうなスペルカードの使い手もいるなあ(おとぎ話や都市伝説をモチーフにした魔術師がとある側に居たかどうか覚えてないけど)

問題は組織の長
誰が彼女らを従えているのだろうか(候補が何人か居るおかげで逆に予想がつかない)
まあ‥組織名が出たらわかるか

>>41
つっちーは目に見えないところで苦労している人。まとめ役な立場になることが多い人ですしね

>>42
浜面vs麦野のように、低レベルであっても高レベルの能力者に勝つことは有ります
流石に真正面から戦いを挑んだり、一方通行を相手にするのは無謀ですけどね
後レベル5と言っても、あくまで『現在認知されているレベル5相当の能力者』というだけなので、
認知されずに上手く能力を隠して生きている能力者もいるかもしれません

ちなみに東方側の設定についてはあくまで構想の段階なので、あまり気にしなくてもいいです

>>43
組織の名前か・・・・・・考えてなかった
程良い中二病成分を含んだ名前って結構考えるのが難しい

これから投下を開始します






――――7月27日 PM3:29






パチュリー「こんなものかしらね」



パチュリーは小さな買い物袋の中身を見て呟いた。
中に入っているのは本屋で購入した書物が複数。その殆どが学園都市内で発行されている物である。


学園都市の製品は外部では滅多に手に入ることはないため、そういった物はかなり貴重な部類に入る。
もちろん、学園都市の技術に深く関わる物を持ち出そうとすると目を付けられるので、
土御門にはその辺を配慮するように釘を刺されているのだが。



風斬「いいんですか? もっと珍しい物もたくさんあるのに」

パチュリー「あまり学園都市の物を持ち出すと色々面倒なのよ」

パチュリー「一応立場があってここに来てるから、学園都市から出るときに色々揉めるもは不味いし。
それに機械の類は持って帰っても使うことはないだろうしね」

風斬「それでも本というのは・・・・・・もっと他にもあったんじゃないですか?」

パチュリー「別に良いでしょ。 私が欲しかったんだから」

風斬「パチュリーさんがそれで良いというのなら、これ以上は何も言いませんけど」

パチュリー「そうしなさい」



パチュリーはそう言って買い物袋から目を離した。


学園都市の中を観光し、自分の欲しい物を買った。だが彼女はまだ満足していない。
何故なら、こうしてこの場所に立つことになった本来の目的を完遂していないからだ。



パチュリー(やっぱり、1日歩き回った程度じゃ『幻想殺し』には会えないか)

パチュリー(一応『禁書目録』が感知できるように魔力を漏らしているんだけど、
どうやら感知できるほど近くにはいないみたいね)

パチュリー(一応予測はしてたけど、やっぱり徒労に終わるのは残念ね)



『幻想殺し』との邂逅。本当はそれを目的として第7学区にやって来た。
もちろん観光目的もあったが、科学と魔術の全面戦争を鎮静化させた男に少なからず興味を持っていたからだ。


まるで『物語(フィクション)』の中に出てくる『英雄(ヒーロー)』のような所業を成し遂げた存在。
魔術サイド、特に十字教の中ではもはや知る人などいない有名人に会いたいと彼女は思った。
自分から積極的に他人に関わろうとするなど、果たしていつ頃以来だろうか。
少なくともここ10年は無かった気がする。


そして『幻想殺し』が持つ、触れただけであらゆる神秘を霧散させる謎の右手。
その腕の前にしてあらゆる魔術師達が戦いを挑んだが、結局打ち破ることが出来なかった。
『幻想殺し』にはあのローマ正教も散々辛酸を舐めさせられたと聞く。


そしてその力が一体何なのか、今でも解明されていない。
知っているのは、全ての騒動の根源であったアレイスター・クロウリーだけだ。


あのアレイスター以外はついに知ることがなかった力を、自分こそ解明してみたい――――
知識というものに貪欲な彼女がそう思うようになったのは、ある意味必然だろう。


しかし『幻想殺し』は魔術とは対極にある科学、しかもその総本山である学園都市の住人である。
彼のことを耳にしたのは今から半年ほど前。科学と魔術が世界の主権を握ろうと血で血を洗う抗争を繰り広げていた時期だ。
己の損益をわきまえている彼女が学園都市に行くという無謀なことをするはずもなく、
若干名残惜しいと思いながら『幻想殺し』との接触を諦めていた。


だが、何の因果かこうして『幻想殺し』に会うチャンスが巡ってきた。
この機会をフイにしたらもう二度と会えないかも知れない。
もちろん彼に会うことを第一として学園都市に来ているわけでは決してないのだが、
自身の知識欲を抑えることなど出来るはずもなく、土御門を言いくるめてこうして出てきたわけだ。


だが、その努力も結局無意味に終わってしまいそうである。
『幻想殺し』に自分から関わる事が出来ない以上、『向こうが自分に気づく』という受け身な遭遇の仕方をしなければならない。
その時点で会えないかもしれないということは覚悟していたが、実際にその通りになると少し落胆してしまう。



パチュリー(ま、文句を言い並べても意味はないし、潔く諦めようかしらね。 ものすごく残念ではあるのだけど)



自分の用事以外にも『幻想殺し』に色々と告げることがあったのだが、これではその目的も果たせそうにない。


パチュリーは『幻想殺し』に会うのを諦めて帰路につこうとする。
これから重要な仕事が控えているのだ。それに備えて早めに準備をした方が良いと考えたのである。



だが――――











「ひょうか!」

「風斬!? 何でお前がここに・・・・・・」











パチュリー「何・・・・・・!?」



どうやら神は彼女の願いを叶えてくれたようだ。
こちらに走り込んできたのは小柄な修道女『禁書目録』。そして――――



上条「お前・・・・・・魔術師だな?」



『幻想殺し』をその右腕に持つ男、上条当麻。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






禁書「ひょうか、今までどこに行ってたの? すごく会いたかったのに!」

風斬「ごめんなさい。 最近になってやっと形を保てるようになったんです。 だからもう大丈夫」

禁書「また一緒に遊びに行きたいんだよ! 会わせたい人もたくさんいるし・・・・・・」



インデックスと風斬氷華は久々の再開を喜び合っている。
彼女は魔術師であろう人間をそっちのけで風斬に抱きついていた。
その様子から、彼女がどれだけ風斬に会いたかったのかがわかる。


先の事件以来、風斬氷華は現在に至るまで行方が殆どわからなくなっていた。
エイワスがこの世界に権現するための触媒となった彼女は、それが原因で自分の存在が崩壊する一歩手前にまで陥ってしまった。
当麻達のおかげで最悪を回避することは出来たが、崩れかけた自身の存在を修復するには相応の時間がかかるということが判明し、
しばらくは会えないだろうということのみを告げて一端消滅した。


その時の消え去り方があまりにも儚かったために、一時は本当にいなくなってしまったのではないのかと心配したのだが、
土御門や一方通行の協力で辛うじて学園都市にいることだけは付きとめることができていたのである。


上条当麻は目の前に立つ紫色の女性を見つめる。
インデックスが嗅ぎつけた魔力。それを発散しているのはこの女で間違いないだろう。
風斬が彼女に連れられている経緯はわからないが、風斬は人工天使だ。
この女が魔術師であるならば、碌でもない目的で接触してきた可能性が高い。



上条「お前・・・・・・魔術師だな?」

紫色の女「ええ、そうよ。 『幻想殺し』の上条当麻さん?」

上条「・・・・・・ッ!?」



目の前の女はあっさりと自分が魔術師であることを白状した。
しかもこの女は自分のことを知っている。魔術師であれば当然か。
『幻想殺し』は魔術サイドでは色々意味で有名な代物だ。少し調べれば簡単に情報を割り出すことができるだろう。


上条「俺のことを知っているのか?」

紫色の女「知らない方がおかしいわね。 『幻想殺し』の名前を知らない魔術師なんて、それこそもぐり扱いされかねないわ」

紫色の女「魔術と科学の戦争を治めた男。 あらゆる神秘を打ち消す右手、『幻想殺し』を持つ魔術の天敵」

紫色の女「そんな存在をマークしないなんて、馬鹿にも限度があるとしか言えないわね」

上条「・・・・・・」



『上条当麻』という存在が広く認知されてしまうのは覚悟していた。
なにせあれだけのことをやらかしたのだ。公の場であれば時の人として祭り上げられたに違いない。
だが、あの戦争は世間一般に知られることはなく終わった。彼の功績は誰にも称えられることはない。
彼にしてみれば別に名誉のために戦ったわけではないので、気になどしてはいないのだが。


自分の事が広まるのは別に良い。問題は『幻想殺し』までもが広く認知されてしまうことだ。
この右手のことは持ち主である上条当麻ですら完全に把握しきってはいない。これを熟知していた男も今では生死すら不明だ。
この謎だらけの能力を目当てに襲ってくる魔術師がいないとも限らなかった。


上条「・・・・・・てめぇの目的は何だ?」

紫色の女「私の名前は『てめぇ』じゃないわ。 パチュリー・ノーレッジよ」

上条「ならパチュリー。 一体何の目的でここに来たんだ?」

パチュリー「目的、ね。 色々あるけど、『今ここにいる理由』を挙げるならあなたに会うためかしら?」

上条「俺・・・・・・? 『幻想殺し』が目的なのか?」

パチュリー「それもあるけど、単純に『上条当麻』という存在に興味を持ったということもあるわね」

パチュリー「世界を個人で相手取ろうとする馬鹿なんて、そういないでしょ?」

上条「・・・・・・本当にそれだけか?」

パチュリー「『今ここにいる理由』ならね。 それと、言っておくけど『禁書目録』には興味ないわ。 身内だしね」

上条「身内? ってことは・・・・・・」

パチュリー「これが証拠」


パチュリーが取り出したのは一枚の羊用紙。
その紙にはパチュリー・ノーレッジの名と『最大主教』であるローラ=スチュアートのサインが記されていた。
『最大主教の名に於いて、この者の身の潔白を証明する』と英語で書かれている。



パチュリー「私はイギリス清教の人間よ。 自軍の要である『禁書目録』をどうにかする奴なんていないでしょ」

上条「・・・・・・なぁ、インデックス。 これって本物か?」

禁書「え? ・・・・・・うん、確かにこの筆跡は『最大主教』のものなんだよ」

禁書「ちゃんと偽物との判別用の魔術もかけられているみたい」

上条(・・・・・・インデックスがそう言うってことは、このサインは本物なんだろうな) 

パチュリー「信じてくれるかしら?」

上条「わかった。 色々疑問はあるけどとりあえず信じる」

パチュリー「まったく、疑り深いわね。 別に良いけど」



『最大主教』のお墨付きということはそれなりに信用に値する人間なのだろう。
彼女の許可を直々に得られる魔術師は、イギリス清教内でも限られてくる。



上条「でも、イギリス清教の魔術師が何でこんな所に? 土御門からは連絡は来てないぞ?」

パチュリー「それはそうでしょうね。 私がここに来ることになったのはつい先日のことだし、彼は今忙しいもの」

上条「土御門がどこにいるか知ってるのか!?」

パチュリー「ええ、知っているわ。 私と行動しているし」

上条「そうだったのか・・・・・・」



どうやっても連絡が取れないと思っていたら、パチュリーと一緒に行動していたようだ。
彼女のことにはまだ疑問が残るが、とりあえず土御門の身の安全がわかったことに安堵する。



上条「でもなんで連絡してくれないんだ? 結構心配してるんだぞ?」

パチュリー「言ったでしょ、彼は忙しいの。 それこそ、友人であるあなたを気にする暇もないほどにね」

上条「・・・・・・それって、今学園都市に侵入してきてる魔術師と関係があるのか?」

パチュリー「ええ、関係あるわ。 実はそのことについてあなたに言っておかなければならないことがあるの」

上条「?」


自分に言っておかなければならないこととは何だろうか?


インデックスを魔術師から守るための注意点か?
魔術師の正体や特徴を教えてくれるのか?
それとも渦中の人物であるスカーレット姉妹のことか?


いずれにせよ、インデックスやフラン達を守るためには情報は多いに越したことはない。
彼女の忠告はよく聞いておく必要がある。


耳を傾ける当麻にパチュリーが告げた言葉は――――











パチュリー「あなたには、この事件には一切手を出さないでもらいたいのよ」

上条「・・・・・・え?」










上条当麻の戦力外通告だった。


上条「ちょっと待てよ。 関わるなってどういうことだ?」

パチュリー「そのままの意味よ。 あなたにはこの案件からは手を引いてもらいたいの」

上条「だからなんで関わっちゃダメなんだよ?」

パチュリー「残念ながら、私からはその質問には答えられないわね」

パチュリー「敷いて言うのであれば、この問題は『幻想殺し』抜きで解決したいからかしら?」

上条「俺抜きで?」

パチュリー「今回の案件、あなたが関わってくると色々と収拾が付かなくなりそうなのよ」

パチュリー「それに今回の相手は『幻想殺し』が通じるような相手じゃない」

パチュリー「あなたが苦手とする魔術を使わない戦闘手段を持っている可能性もある」

パチュリー「『幻想殺し』は確かに優秀だけど、今回ばかりはあまり役に立ちそうにないわね」

パチュリー「言っておくけど、一度戦闘になったらあなたのフォローなんて出来ないわよ?」

上条「でも協力するくらいなら・・・・・・」

パチュリー「だめよ。 あなたが動くとそれだけインデックスの防備が薄くなる」

パチュリー「この案件に参加すれば短時間でも『禁書目録』から離れる必要があるし、
だからといって彼女を連れてくるのはナンセンス」

パチュリー「相手に協力者がいないとも限らないわ。 だから大人しくしてなさい。 これは土御門からの忠告でもあるわ」

上条「・・・・・・」


当麻は一見何の変哲もない右手を見る。
自分の右手は超能力や魔術といった超常的な力にはほぼ無敵だ。
規模が大きいと打ち消せずに押し負けてしまうが、そうでない物に関しては触れるだけで打ち消すことが出来る。


しかし裏を返せば超能力や魔術が関わっていないもの、例えば銃弾とかナイフとか人間の拳には全くの無力だ。
ここ一年近くの間、様々な荒事に巻き込まれたり首を突っ込んだりしたおかげで、危機察知だとか回避能力は相当鍛えられていたが、
さすがに銃弾を避けたり多人数を相手に殴り合いで勝ったりすることは出来ない。


もし彼女の言うとおり相手が魔術だけではなく、そういった攻撃手段を持ち合わせているとしたら・・・・・・
首謀者が魔術しか使わなかったとしても、その仲間もそうであるとは限らない。
戦場では自分の身は自分で守らなければならないのだ。
この事件に協力したとして万が一その状況になったとき、土御門やパチュリーの足を引っ張ることになる。


おそらくそうなることを見越して土御門はパチュリーを介して当麻に忠告したのだろう。


上条「・・・・・・わかった。 インデックスのことは任せろ。 ただ・・・・・・」

パチュリー「ただ・・・・・・?」

上条「フランとレミリアが心配だ。 二人のことは知ってるだろ?」

パチュリー「・・・・・・ええ、たしかこの事件に巻き込まれたかもしれない人達の事ね?」

上条「ああ、もしかしたら魔術師に操られてるかも知れない。 以前に会ったときはまだフランは無事だったみたいだけど」

禁書「フランは私の友達なんだよ。 だからお願い」

パチュリー「わかったわ。 その二人のことは任せなさい」

上条「ああ。 頼む」



自分が関われないのは心残りではあるが、パチュリーの忠告を了承した。


イギリス清教の考えに背いてしまうと、インデックスが学園都市にいられなくなる可能性がある。
当麻がイギリス清教の敵と判断されれば、彼女は強制的にイギリスへ連れ戻されるだろう。


土御門もいることだし大丈夫だろうと考え、今回は大人しく彼らに任せることにした。


パチュリー「用事も済んだことだし、私はホテルに帰るわね」

パチュリー「風斬さん、学園都市を案内してくれて感謝するわ。 何もお礼が出来ないのが残念だけど」

風斬「大丈夫です。 近頃人と話す機会がなかったので、とても楽しかったですよ」

パチュリー「それならいいわ。 もう会うことはないでしょうけど。 じゃあね」



パチュリーはそう言うと踵を返してこの場を去っていく。
彼女はこちらを振り返るような素振りは微塵も見せず、やがて人混みに紛れて見えなくなった。



上条(この事件には関わるな、か。 結局詳しくは教えてくれなかったな)

上条(できれば魔術師のことを教えてくれるとよかったんだけど)

上条(でも口止めされているようだし、仕方ないのかも知れない)

上条(・・・・・・そういえば、『自分からは言えない』って言ってたな。 家に帰ったらイギリス清教に電話してみようか)

上条(知ってるのはステイルか? あいつに聞くのは気が引けるんだけどな)

今日はここまで
質問・感想があればどうぞ

積極的に関わろうとする上条さんうぜーな



‥あれ?sage進行?

sage進行って普通じゃね?

確かにsage進行そのものはさして珍しくもないんですが
ここの作者様はsageを1度外して投下宣言、それから本文を投下する形式をずっと続けられていたので何かあったのかと

パチェさんは”右手”を試してみたりはしないのか
魔法とは言え精霊が消されたら可哀想だからか、魔翌力の無駄だからかは分からないが

>>68
上条さんは自分から危険に突っ込んでいく人ですし、自分が納得できないことにはとことん反発する人ですから
なまじ感情で動く性格であるだけに、人によっては煙たがられるのもしょうがないかも

>>69, >>70, >>71
sageと間違ってsagaを外して投下し、しかもそれに気付かなかったのが原因です
放置しても問題ないと思ったのですが、いらぬ心配をかけてしまったみたいで申し訳ありませんでした

>>72
理由その1:魔術を使って人の注目を集めたく無かったから
理由その2:パチュリーは一度没頭し始めると周りが見えなくなるタイプ+電車の時間が近かったので、
      乗り遅れる可能性を考えて引くことにしたから
理由その3:上条さんにまた問い詰められる前に退散することにしたから

きっとこのあたりが原因(後付け)

これから投下を開始します






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






パチュリー(さて、と)



駅に向かいながらパチュリーは懐から鉛筆と一枚の紙を取り出す。
その紙に何かの文字を書くと、再び懐の中にしまった。
すると、パチュリーの頭の中に一人の声が響いてくる。


パチュリー『土御門、聞こえてるかしら?』

土御門『あぁ、バッチリだ。 で、どうだった? 『幻想殺し』に会った感想は?』

パチュリー『どうと言われてもね。 大方予想通りだったかしら?』

土御門『予想通り、ね』



パチュリーは頭の中に響いてくる声に受け答えをする。
相手は土御門元春。先ほど紙に書いた文字は、多少離れたところからでも念話が出来るようになるルーンである。


パチュリー『正義感が強いのは知っていたけど、それに捕らわれすぎて大局的に物事を見られないのが玉に瑕ね』

パチュリー『自分が動けば『禁書目録』が危険にさらされやすくなるのはわかるでしょうに』

土御門『だがフランドールは『禁書目録』の友達だからな。 フランドールに何かあったせいで『禁書目録』が悲しむとなれば、
それを防ぐために関わろうするのは不思議じゃないだろう?』

パチュリー『・・・・・・その考えも一理あるわね。 その行動が意識的なものなのか、無意識なものなのかはわからないけど』

土御門『確実に無意識だろうさ。 あいつは自分の感情には素直だからな』

土御門『周りが制止しないとそのまま突っ走っちまう。 ま、それがあいつの魅力なんだが』

パチュリー『そう・・・・・・』



己の感情の赴くままに行動できる。
ある意味では子供のように純粋であり、別の意味では感情に流されやすい。
言葉一つで表すなら『愚直』というものが最も当てはまるだろう。


土御門『そういえば、『幻想殺し』は上手く説得できたか?』

パチュリー『遠目から一部始終を見てたでしょあなたは。 ・・・・・・あの反応だと少し不安だけど、
おそらく大人しくしてくれるでしょうね』

土御門『そうか。 これで一番の不安事項が消えた』

パチュリー『でも油断は出来ないわね。 いずれにせよ気づくでしょうし、早く終わらせないと』

パチュリー『いつ頃けしかけるつもりなのかしら?』

土御門『ああ、それについてなんだが、作戦の決行は明日の夜にしようと思っている』

パチュリー『・・・・・・早く終わらせようとは言ったけれど、随分と急ね』

土御門『面倒になる前に片を付けたいからな。 『標的』の事を考えれば早めに行動したほうがいい』

パチュリー『それもそうね。 あなたの方は準備できているのかしら?』

土御門『大方作戦の道筋は立ててある。 後はそれに相手が乗ってくれるかだが・・・・・・』

土御門『詳しいことは拠点で話そう。 俺は別ルートで帰るから、あんたも気をつけろよ』

パチュリー『わかったわ』






――――7月27日 PM6:32






芳川「・・・・・・」

番外個体「・・・・・・」ボー



黄泉川が住むマンションの一室。
芳川桔梗、番外個体、打ち止めの三人は、静かしながらそれぞれの椅子に座っていた。


番外個体は打ち止めが見ているテレビ番組をぼんやりと眺め、芳川はソファーに座ってコーヒーを飲みながら雑誌を黙読している。
ちなみに一方通行は、缶コーヒーを買うためにコンビニに行っているので部屋にはいない。



芳川(『○○研究所で従来よりもさらに高温の域で使用できる超電導物質が開発される。 商業化に期待』・・・・・・ふぅん)

芳川(材料工学は門外漢だけど、外の研究者も頑張ってるみたいね。 ここに比べればまだまだだけど)



芳川が読んでいる雑誌の内容は科学系のもの。
学園都市だけでなく外部から取り寄せた科学ジャーナルを読むのが彼女の最近の日課だ。


外部の科学技術は学園都市側から見れば一笑に付すようなレベルものが殆どであるが、
時たま学園都市でも考えつかないような、斬新なアイデアが紛れ込んでいることがある。
それ見ると、やはり学問というものは技術だけで一概に優劣を競えるものでは無いと改めて実感する。


芳川(それに一つの技術に頼り過ぎると、それが使えなくなったときに色々と問題が起こる)

芳川(『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』なんかは良い例ね)



以前の学園都市では、実験の結果は人工衛星の『おりひめ1号』に搭載された『樹形図の設計者』で完全に予測されていた。
そのため、『樹形図の設計者』から実験が無意味だと判断された場合は即座に中止したり、
シミュレーションを行って結果だけをはじき出したりして、実験を全く行わないような研究者まで存在したりしていたのだ。


科学の基本は複数の事象を定式化する『帰納』と、定式から新たな事象を推論する『演繹』である。
いずれの場合においても実験なり論証なりするのが普通なのだが、
『樹形図の設計者』を用いれば、それらの操作は不要なものとなる。
天候を『予言』出来てしまうほどの演算処理能力をもつその機械があれば、
大抵のことについては0か1の答えを提示することが出来てしまうのだ。


しかし一年前、『おりひめ1号』は正体不明の攻撃で撃墜。それと同時に『樹形図の設計者』も大破してしまった。
その後『樹形図の設計者』の中枢部品は『残骸(レムナント)』として学園都市に回収されたが、
外部の学園都市の技術を狙う組織がそれを手に入れんと、懐柔した能力者を用いてそれを奪取。
危うくそのまま学園都市の外まで持ち去られる所であったが、何者かの手により『残骸』は粉々に破壊され、
計画を企てた組織と能力者は『警備員』によって捕縛された。


最終的に技術の流出は防がれたが、『残骸』が破壊されたことによって『樹形図の設計者』の修復は不可能となり、
その高度な演算能力の上に胡座をかいていた多くの実験が凍結、または中止に追い込まれることになった。
嘗て芳川が関わっていた『絶対能力進化』もその一つである。


『樹形図の設計者』が無くなったおかげで学園都市の技術の進歩に多少の鈍りが生まれたが、
『研究者が研究に勤しむ』という当たり前のことをするようになったという点では、本来の姿に戻ったと言えるのかもしれない。


番外個体「ねぇヨシカワさぁ、聞きたいことがあるんだけど」

芳川「藪から棒にどうしたのかしら?」



テレビを眺めていた番外個体が、突然芳川に疑問を投げかける。芳川は雑誌から目を離さずに番外個体に返答した。



番外個体「RSP実験って知ってる?」

芳川「RSP? 聞いたことないわね」

番外個体「そっか。 じゃあいいや」

芳川「ごめんなさいね。 でも、何でそんなことを?」

番外個体「いやさ、今日その実験のことが話題になってね。 一方通行がその実験に関わってたって言うから、何か知らないかな~って」

芳川「一方通行の弱味でも知りたいのかしら?」

番外個体「それもあるけど、お姉さまが調べてることに関わってそうだからっていうのもあるよ」


芳川「お姉さま・・・・・・御坂美琴ね。 何を調べてるのかしら?」

番外個体「時間操作の能力。 一方通行が言うにはその能力を生み出したのがRSP実験なんだってさ」

芳川(一方通行が関わっていた実験ね・・・・・・確実に暗部が関わってるだろうし、少し調べておこうかしら)

番外個体「ヨシカワが知らないとなると、やっぱりヨミカワに聞くしかないか~」

芳川「どうして黄泉川に?」

番外個体「その実験をしてた研究所って『警備員』に潰されたんだって。 だからヨミカワも知ってるんじゃないかと思って」

芳川「なるほどね・・・・・・でも、聞かれても絶対話さないと思うわね」

番外個体「だよねー・・・・・・」

黄泉川「今帰ったじゃんよ~」


玄関先から黄泉川の声がした。噂をすれば何とやらである。
今日はいつもと比べて帰りが早い。平日にこれほど早く帰ってくるのは久方ぶりである。
最近は頻発している事件の対処に追われて、帰りが深夜近くになることがざらだったからだ。



打ち止め「ヨミカワが帰ってきた!」

芳川「今日は随分と早いわね。 また夕食の準備も出来てないわよ?」

番外個体「作るのはヨシカワじゃないけどね」

黄泉川「ん? 一方通行はどこにいるじゃん?」

打ち止め「あの人はコーヒーを買いに行ったよって、ミサカはミサカはあの人の行き先を教えてみる!」

黄泉川「またコーヒーを飲んでるのかい? このままだと病気になるじゃんよ」

番外個体「あの人なら能力でどうにでもなるんじゃない?」

黄泉川「それはいけないじゃん。 能力に頼りっきりになったら、いざという時に困るじゃん」

黄泉川「それに体の健康は毎日の食事と運動が根幹にある。
不健康な生活は早く止めさせないと、一方通行のためにならないじゃんよ」

番外個体「わーお、流石体育教師。 生徒の健康に対する思いはピカイチだね」

黄泉川「これくらい教師なら誰だって考えることさ。 生徒を蔑ろにする奴に教師の資格はないじゃんよ」

番外個体「おぉう、まさしく『教師の鏡』って奴?」


黄泉川の心構えに、番外個体も思わず感心する。
教育というものを受けたことはないが、黄泉川の生徒に対する思いやりは並大抵のものではないことだけは理解できたからだ。


そんな二人の会話をよそに、芳川は黄泉川が帰って来たということで夕飯の催促をし始めた。



芳川「黄泉川、今日の夕飯は何かしら?」

黄泉川「うーん、冷蔵庫に何が残ってる?」

打ち止め「ニンジンとタマネギとトマトと、後挽肉が残ってるよって、ミサカはミサカは冷蔵庫の中身を報告してみる!」ガチャッ

黄泉川「それなら今日はハンバーグじゃんよ」

打ち止め「やったー!」

番外個体「・・・・・・」スッ



打ち止めは今日の夕飯が自分の好物に決まったことに小躍りするが、
それを不審に思った番外個体が冷蔵庫の中を自分の目で確認する。


すると、打ち止めが苦手とする食材がまだ入っていることに気がついた。


番外個体「ちょっと最終信号、勝手に献立を誘導するんじゃないわよ」

番外個体「よく見たら、アンタが嫌いな食材もちゃんと冷蔵庫あるじゃない」

打ち止め「うっ・・・・・・」

黄泉川「んー? 好き嫌いするのはよくないじゃん」

芳川「最終信号の健康のためにも、好き嫌いは直さないといけないわね」

打ち止め「ヨシカワまでそんなこと言うのって、ミサカはミサカは自分が孤立無援なことに悲しんでみたり・・・・・・」

番外個体「ふふん、調子に乗るからそうなるんだよ」

芳川「あら、あなたも例外じゃないわよ番外個体」

番外個体「えっ?」

芳川「あなたたち二人の健康管理の責任は私にあるのよ? 当然あなたにも好き嫌いは克服してもらうわ」

番外個体「・・・・・・マジで?」

打ち止め「・・・・・・」ニヤニヤ

番外個体「笑うんじゃないわよ最終信号!」

打ち止め「それは八つ当たりだよって、ミサカはミサカは番外個体の暴挙を批判してみる!」


打ち止めだけが被害に遭うはずが、番外個体まで道連れになる形になってしまった。
打ち止めは自分を取り押さえようとする番外個体から逃げ回る。捕まったら痛い目を見ることは確実だ。


大人二人が少女二人の騒ぎを傍観していると、玄関のドアが開く音が聞こえてきた。



一方通行「今帰った・・・・・・一体何の騒ぎですかァ?」ガチャッ

芳川「あら、帰ってきたの? ・・・・・・また随分と買い込んだわね」

一方通行「何度もコンビニに行くのも面倒だからなァ。 買えるときに買っておく」

芳川「それならいっそのこと、箱買いした方がいいんじゃないかしら?」

一方通行「それもそうだな。 10箱くらい取り寄せるかァ」

番外個体「第一位、それ全部飲みきれんの?」

一方通行「大抵は1箱24本入りだから10箱で240本、一日最低3本飲むとして80日分か」

一方通行「二ヶ月あれば余裕で飲みきれるだろ」

番外個体「いや、一日3本飲む計算はいくら何でもおかしいから」

一方通行「朝、昼、晩で一本ずつだろ? 何もおかしい所はねェよ」


打ち止め「そんなに飲んだらあなた、コーヒーの色で黒く染まっちゃうかもって、ミサカはミサカはあなたの健康を心配してみたり・・・・・・」

番外個体「白もやしが黒もやしになっちゃうね。 ・・・・・・黒カビ?」

一方通行「シメるぞオマエ」

黄泉川「こら、一方通行! コーヒーばっかり飲むのは体に悪いじゃん!」

一方通行「何言ってンだ黄泉川。 俺がコーヒーの飲み過ぎくらいで体調崩すわけねェだろ」

番外個体「アンタのコーヒー好きはどう見ても依存症のレベルだと思うんだけど」

一方通行「別にコーヒーを飲まないと体がイカれるとかはねェよ」


黄泉川「でも能力に頼りっきりになるのは良くないじゃん。 たまには自分の体を労るじゃんよ」

黄泉川「それにアンタは偏食だから、打ち止めと番外個体と一緒に好き嫌いをなくすじゃん」

一方通行「別に俺には好き嫌いなンか無いンだが。 それに食いたい物を食って何が悪いンだ?」

黄泉川「そんなだからいつまで経っても病人みたいな体のままなのさ。 もうちょっと年相応の体になるように体力作りをするじゃん」

一方通行「それならなおさら肉を食う必要があるなァ」

黄泉川「タンパク質だけとってもダメじゃん。 健全な体を作るためには・・・・・・」クドクド

一方通行「うへェ・・・・・・」



一方通行に食事の大切さを演説する黄泉川。


一方通行にしてみれば食物に含まれる様々な栄養と、肉体に及ぼす影響の相互関係を全て暗記しているため、
黄泉川から教えられている知識は全て知っていることである。
だが話を途中で遮ると火に油を注ぐことになりかねないため、彼は黄泉川の言葉を嫌々ながら聞いていた。


番外個体「いつも思うんだけどさ、一方通行ってあれだけ肉ばっかり食べてるのにどうして体型が変わらないんだろ?」

番外個体「やっぱり能力のせいなのかな?」

芳川「さぁ? それもあるでしょうけど、彼って能力がなければ病人と一緒だから、
食物の養分をよく吸収できないんじゃないかしら?」

番外個体「あー、なるほど。 食べても体を素通りって訳ね」

黄泉川「」クドクド

一方通行「黄泉川・・・・・・説教は後で聞いてやるから早く飯にしねェか?」

黄泉川「ん? これからが良いところなんだけど?」

一方通行「早いとこ作らねェと打ち止めの奴が騒ぎ出すぞ?」

黄泉川「・・・・・・わかったじゃん。 みんなお腹が空いてるだろうし、ご飯にするじゃんよ」

芳川「やっと夕飯が食べられるわね。 待ちくたびれちゃったわ」

一方通行「そういうセリフは職に就いてからにしやがれニート」

今日はここまで
質問・感想があればどうぞ

そうか、そして被験者達の亡骸はバイオプラント「サイギョウアヤカシ」に……

ニートでゴメン……って言ったって、仕事なんて就こうと思えば就けるなんて簡単なものじゃないんでしょう?

細かいがコーヒーって基本的に缶コーヒーだから、1ケースは24本じゃなくて30本が基本だぜェ

防御機構「龍神」
働かず、平和なのが一番なんだろうがね

美鈴の居る学校まるごと絡まっちゃったら、いっきに事態が大荒れしそうだな

>>93
なにそれこわい

>>95
まぁ芳川さんは研究者としては二度と生きていけなくなってますから・・・・・・

そう言えばこの人、新約4巻で真面目に就職活動してるんですよね
禁書SSにおける彼女の立場と言えば、専らニートしてるのが現実
ということで、少しフォローしてみました

>>96
>>1は缶コーヒーなんて殆ど飲んだことがない故致し方なし
・・・・・・すいませんでしたorz

>>97
禁断の果実を食べたアダムには『労働の苦役』がもたらされたそうですが・・・・・・
労せずに生きていけるのが一番というのは同意しますね。まぁ夢物語でしょうけど

>>98
禁書原作の後日話という位置づけだし、あまり話を肥大化させるのはどうなのかなぁと思ってたりする
壮大な話が思い付かないというのもありますけど

これから投下を開始します
>>91からちょっと付け足し


芳川「ニートじゃないわ。 ちゃんと職は探してるわよ」

一方通行「そんなこと言いながら何ヶ月経ったと思ってンだ。 大学の臨時講師だか何だか知らねェが、
いつまで待たせるつもりなンだよ」

芳川「しょうがないじゃない。 私みたいな前科持ちを雇ってくれる所なんてそうそう無いのよ」



芳川はかつて『絶対能力進化』に携わっていた研究者だったが、
その研究が中止となったことで自分が居た研究所が潰れてしまい、今はほぼ無職の状態が続いている。
研究職に復職しようにも『一つの研究所を潰した』というレッテルは如何ともし難く、再び研究に従事することは不可能となった。
そこで第二の人生を歩むために、今度は昔の夢であり、そして諦めていた『先生』になろうと決心したのである。


しかし今から教員免許を取得して正規の教師になることは難しい。
そこで『落第防止(スチューデントキーパー)』と呼ばれる、不登校になった子供の学習を支援する職を目指すことにした。
『落第防止』は教員免許を持たずとも就職することができるからである。


芳川は夢に向けての第一ステップである『落第防止』の職業訓練を受けるための資金を集める手段として、
大学の臨時講師をすることを選んだ。
だがここで、再び大きな問題が立ちはだかることになる。
『一つの研究所を潰した』というレッテルが研究機関だけでなく、大学などの教育機関にまで伝播していたのだ。


大学は小学校、中学校、高等学校とは違い、より専門的な学問を学ぶ場である。
そして大学卒業するために科学的な『研究』を行うことも少なくない。
『研究を行う』ということは、『研究者が居る』ということ。
研究者が数多く居る大学に、芳川の噂が届くことは避けられないことであった。


結果として、芳川は臨時講師になることを願い出ても大学側から拒否される事態となってしまい、
現在に至るまで第二の人生の一歩を踏み出すことすらできていないのである。



一方通行「ハァ・・・・・・なら大学は諦めて、さっさと別の道を探した方が良いンじゃねェの?
金を集めるンならそっちの方が現実的だと思うぜェ」

芳川「でも、できれば早いうちから教育のコツは掴んでおきたいのよね。 良い案はないかしら?」

一方通行「なら家庭教師でもすればいいンじゃねェの? 大学講師程じゃあねェだろォが、足しにはなるだろ」

芳川「そうね・・・・・・それもありかもしれないわね。 良い案をありがとう」

一方通行「ケッ。 感謝するのはまだ早いっつゥの」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・






打ち止め「ごちそうさま・・・・・・」

黄泉川「食器はちゃんと片付けるじゃんよ」

芳川「いつもの元気はどこへやら、と言ったところかしら?」

番外個体「あれだけ自分の嫌いな食べ物を目の前に並べられたら、そりゃあはしゃぐ気も起きなくなるよね」



二人は食器を持ってフラフラと台所に歩いていく打ち止めを見る。
いつもの騒がしさの面影はどこにもなく、もの悲しそうな雰囲気を出しつつ力なく歩いていた。


その原因は、今日の夕食のメニューの大半が、打ち止めの嫌いな食材を用いて作られていたということだ。
目の前に並べられた大嫌いな料理群を見るやいなや、当然のように打ち止めは黄泉川に猛烈な抗議をした。
しかし、その直後に黄泉川の『無言の微笑み(デビルスマイル)』を受けた途端、兎のように大人しくなってしまった。


黄泉川は食育に関しては一切手を抜くつもりはないらしい。
おそらく次の番になるであろう番外個体は、その光景を見て少し暗鬱になった。


番外個体「私も覚悟したほうがいいかなぁ・・・・・・」

芳川「本来なら『妹達』には、食べ物の好き嫌いに関する感情はインプットされていないはずなのだけど・・・・・・」

芳川「これも自我が芽生えた影響かしら?」

番外個体「私の場合は特殊だと思うけどね。 他の個体の食べ物に対する負の感情が流れ込んでくるせいで、
食べたことのない食べ物にも拒否感が出るようになっちゃったんだ」

番外個体「しかも食べ物への負の感情って結構強烈な部類に入るんだよね。 さっきも最終信号の感情が流れ込んできて大変だったんだから」

芳川「それで食事中ずっと静かだったのね。 少し顔色が悪い気もしてたし」

番外個体「いい加減、この体何とかならないかなぁ・・・・・・」

一方通行「・・・・・・食後のコーヒーうめェ」ズズー

番外個体「第一位は結局コーヒー飲んでるし・・・・・・」

芳川「もう何を言っても無駄なんじゃないかしら?」

番外個体「ま、薄々わかってたけどね」

一方通行「わかってンならこれ以上俺の趣向に口を出すンじゃねェよ」


黄泉川「私はアンタの食生活が治るまで何度でも言うつもりじゃんよ」

一方通行「ご苦労なこったな。 直すつもりは毛頭ねェけど」

番外個体「本当に変なところで頑固だよねこの人」ヒソヒソ

芳川「彼なりの甘え方なんじゃないかしら? ああ見えて寂しがり屋だったりするのよ」ヒソヒソ

番外個体「でもウ○トラ○ンみたいな服着てることあるし、それはちょっと違うような気もするけど」ヒソヒソ

一方通行「オイ、聞こえてンぞ」

番外個体「おっと、さすがの地獄耳。 それも能力の産物?」

一方通行「こンな近くで喋って聞こえねェわけねェだろォが!」

番外個体「うん、知ってる。 もちろんわざとだよ☆」

一方通行「・・・・・・」プチッ

番外個体「・・・・・・あれ?」

一方通行「昼間の時といい、今といい、オマエはよっぽど俺を怒らせたいらしいなァ?」

一方通行「どうやら徹底的な教育指導がお望みのようだ・・・・・・」カチッ

番外個体「・・・・・・やり過ぎちゃった?」タラー



ゆらりと立ち上がり、口角を釣り上げて近寄ってくる一方通行を見てやり過ぎたことに気づくが後の祭り。
もはや謝ったところで到底許してくれそうにないオーラが漂っている。


一方通行「クカカカカ! 今更謝ってもおせェぞォ? オマエにはとっておきを食らわせてやらァ!」

番外個体「ちょっ! まっ・・・・・・!」

一方通行「ベクトル奥義ィ! 音速三連チョッp」バタン

番外個体「・・・・・・あれ?」

一方通行「」ガタガタ

打ち止め「それはいくら何でもやり過ぎなんだよって、ミサカはミサカは大人げないあなたにおしおきしてみる!」

黄泉川「子供の挑発はある程度聞き流すのが大人ってものじゃん。 もちろん度が過ぎる場合は別だけど」

芳川「彼、この状態じゃ何を言っても理解できないわよ?」

一方通行「」ガタガタ


番外個体「っていうか、露骨に子供扱いされたんだけど!?」

黄泉川「私から見れば一方通行も打ち止めも番外個体も、みーんな青臭いガキ同然じゃん」

黄泉川「ま、その青臭さが私の教師魂を擽るんだけどね」

番外個体「打ち止めはともかく、私は肉体的にはもう大人の部類のはずなんだけど」

芳川「外側ばっかり大人になったところで、内面も成長しなきゃ大人とは言えないわよ?」

打ち止め「ヨシカワが言っても全然説得力がないよって、ミサカはミサカはヨシカワの普段の生活を見た感想を言ってみる」

芳川「私は真面目なときはちゃん真面目よ。 今はその時じゃないだけ」

番外個体「いつになったら真面目になるのさ・・・・・・」

一方通行「」ガタガタ


芳川「・・・・・・そろそろ彼を戻したほうがいいんじゃないかしら? 暴走でもされたら厄介よ」

番外個体「それなら戻す前に眉間に『肉』と・・・・・・」

芳川「止めておきなさい。 流石にそこまでされたら私たちでも擁護できないわ」

番外個体「ちぇー」

打ち止め「それじゃ戻すよー」

一方通行「・・・・・・プハァッ!? オイ打ち止め! いきなり何しやがる!?」

芳川「あなたがこんな狭い部屋で音速なんて出そうとするからよ。 そんなことしたら大惨事確定よ?」

一方通行「ハァ? そンなン俺の能力でいくらでも抑えることが出来るだろ」

芳川「なら最初からそんなことしなければ能力を使う必要もないでしょう?」

芳川「あなた、普段から能力にかこつけて色々無茶しがちなのよ」

打ち止め「もっと平和な能力の使い方をして欲しいよって、ミサカはミサカは聡明なあなたにお願いしてみる!」

一方通行「・・・・・・チッ」

番外個体「やーい、怒られてやんのー☆」

一方通行「・・・・・・」イラッ

芳川「抑えて抑えて」


番外個体「ざまぁないね。 簡単に暴力ふるうからいけないんだよ?」

黄泉川「言っておくけど番外個体、お前は後でお仕置きじゃん。 少しは自分の行いを反省するじゃんよ」

番外個体「・・・・・・え?」

黄泉川「お前の口の悪さはちょっと問題じゃん。 いずれは社会で生きていかなきゃいけなくなるんだから、
早い段階で言葉使いを直す必要があるじゃんよ」

番外個体「ちょっ! これはミサカの本能見たいなもので・・・・・・」

黄泉川「本能を理性で押さえつけての人間じゃん。 私がちゃんと自制の仕方を手取り足取り教えてやるじゃん」

番外個体「ひぇぇ・・・・・・」



突然の教育指導の決定に番外個体は狼狽する。
黄泉川の教育指導は普通の学生なら軽いトラウマになるほどキツイものだ。
そのことは一部の学生の間で一種の噂にまで発展している。


しかし、そこまでしなければ彼女の口調は治ることはないだろう。むしろそこまでしても治らない可能性の方が高い。


一方通行「フン、ざまァねェな」

芳川「口の悪さはあなたも一緒よ?」

一方通行「別に俺は働かなくても収入があるンだから、直す必要なンかねェだろ」

芳川「・・・・・・正直、私よりも貴方の方がニートに見えるのだけど」

一方通行「何言ってンだ。 俺はまだ学生だっつゥの」

芳川「学校に通ってないのに学生と言えるのかしら?」

一方通行「うるせェよ。 ・・・・・・それよりもだ芳川」

芳川「何かしら?」

一方通行「お前、最近また訳のわかンねェ買い物してるだろ?」

芳川「・・・・・・何のことかしら?」

一方通行「とぼけてンじゃねェよ。 オマエの机の引き出しの上から三番目。 ベッドの下の冬服を仕舞ってる段ボールの中・・・・・・」

一方通行「そこに通販で買った機械を隠してることくらいお見通しなンだよ」

芳川「あ、そう言えば黄泉川、聞きたいことがあるから寝る前に私の部屋に来てくれないかしら?」

黄泉川「? わかったじゃんよ」

一方通行「オイ、さらっと無視すンな」

今日はここまで
質問・感想があればどうぞ

そろそろ紅魔館もしくは黒幕?の魔術師と衝突かねぇ?

そういやカブトムシさんは登場したりしないのかね?

RSPがLSPだったら

L ルナティックな
S シュートで
P プレイ実験

とも取れたんだろうがねー。なんつって?

>>113
本格的な戦闘にはもう少し時間がかかります。具体的には過去話二つ終わってから

>>114
カブトムシ05ですか。他のSSだと白垣根と呼ばれているみたいですね
だいぶ後にはなると思いますけど、出したいとは思っています

そう言えば前の垣根はどうなったんでしょうか?やっぱりあのまま完全に消滅してしまったんでしょうかね?

>>115
STGで能力開発。レベル5の条件は怒首領蜂大往生デスレーベル二週目クリアかな
一方さんなら一度と言わず何度でもクリアできそう

これから投下を開始します






――――7月27日 PM8:41






上条「・・・・・・」

禁書「ケータイをずっと見つめてどうしたの、とうま?」

上条「ん? あぁ・・・・・・」



心配そうに見つめてくるインデックスに当麻は生返事をした。
しかし、その後も携帯電話を難しい顔をして見つめ続けている。


何故彼が手に持っている携帯電話をずっと眺めていたかといえば、
イギリス清教にパチュリー達のことを聞くかどうかを迷っているからである。


パチュリーは今回の案件には関わるなと当麻に忠告してきた。
その理由は自分と魔術師の相性が悪いからだと言っていたが、
過去を振り返ってみると、自分の右手が十分に発揮できない状態での戦いはそう珍しくなかったりする。
それに自分が関わると『面倒なことになる』とも言っていたが、何が面倒なのかがわからない。
足手まといになるなら率直にそう言えばいいだけの話なのだから、そう考えると妙にあの発言が引っかかるのだ。


そのあたりを詳しく知るためにイギリス清教に電話しようとしているのだが、
その『面倒なことになる』という意味がイギリス清教の都合からくるものだった場合、果たして教えてくれるかどうか疑問が残る。



上条(それに話を聞くとなると相手は十中八九ステイルだろうからなぁ。 事情を話す前に電話を切られそうだ)

上条(できれば神裂から話を聞きたいんだけど、どうしたもんかな・・・・・・)

禁書「・・・・・・当麻が何に悩んでいるかは知らないけど」

上条「ん?」

禁書「あれこれ悩む前に行動しちゃうのがとうまだと思うんだよ。 そうやって難しい顔をしてるのはとうまらしくないかも」

上条「それだと上条さん、考えなしのおバカなように聞こえるんですが・・・・・・」

禁書「ちがうの?」

上条「ひどい!」



当麻は否定しているが、普段の行動を見れば考えなしで物事に首を突っ込んでいるように見られても仕方がない。
それが彼の性分なのだからどうしようもないのだが、周囲に人達にとっては冷や汗ものだ。


もちろんそれは短所であると同時に長所でもあり、その性格おかげで助けられた人は大勢いる。


上条「これでも上条さんは色々考えてるのですよ? そりゃあ昔は行き当たりばったりなところはあったけどさ」

上条「でもそれで危うく死にそうになったこともあるし、やっぱり頭を使わないと」

禁書「とうまは頭で考えるよりも先に行動した方が上手くいくと思うんだけど」

禁書「慣れないことすると、とんでもない失敗をしちゃうかも」

上条「こっちは一生懸命考えてるのにこの言われよう・・・・・・」

禁書「ふぁ・・・・・・私はもう寝るんだよ」

上条「まだ9時前だけど、もう寝るのか?」

禁書「早寝早起きは健康の基本だよ。 病気になってとうまに迷惑はかけたくないし・・・・・・」

上条(それならあのバカ食いを止めた方が、よっぽど健康にいいと思うんだけどな・・・・・・)

上条(食費の意味でもかなり楽になるんだけど)

禁書「それじゃとうま、おやすみ」

上条「ああ、おやすみ」



インデックスは部屋の明かりを小さくして布団の中に潜り込む。
それを見た当麻は、自分の寝床を作るために風呂場へと向かった。


作ると言っても浴槽の底に布団を敷くだけの簡素な物だ。
身の丈の4分の3ほどの大きさのスペースに、横になって身を丸めて眠るのが当麻の睡眠スタイルである。
足を伸ばせないのが不便ではあるが、下手に動くと浴槽の蛇口にぶつかり水が出て水浸しになる。
そうなるともはや睡眠どころではなくなるため我慢するしかない。


もちろん足を蛇口の方に向けないように寝るようにしているのだが、
当麻の『不幸体質』のせいなのか、それとも単純に彼の寝相が悪いせいなのかはわからないが、
いつの間にか体位が逆になっていて結局水浸しになったことがあった。


ここまで来ればもはや笑い話にしかならない。



上条(上条さんの不幸体験だけで一冊本が作れそうな勢いですよ)

上条(『体は不幸で出来ている』ってか? 似たようなフレーズをどっかで聞いたような気がするな)

上条(さて、お風呂は乾いてるかな~)


当麻は浴槽が濡れていないか確認する。しかしよく見ると、所々水滴が付いているのが見えた。
バスタオルで拭いたとしても、すぐに布団を敷いてしまえば湿気でじめじめになるかもしれない。


浴槽に布団を敷くために風呂場が乾くのを待たなくてはならないため、
当麻とインデックスは早めに風呂に入る習慣が身に付いている。
しかし今回は就寝時間がいつもよりも早かったせいか、風呂場はまだ乾ききっていなかった。



上条(まだ乾いてなかったか。 とりあえず拭いてっと・・・・・・)ゴシゴシ

上条(後は換気扇を回して湿気を飛ばして乾くのを待つだけなんだけど、待ってる間どうしようかね)

上条(インデックスはもう寝てるだろうから、部屋に戻って待つのは気が引けるし)

上条「・・・・・・少し散歩でもしてくるか」



マンションの周辺を一周してくれば乾いているだろうと考え、
当麻は風呂場から出てインデックスを起こさないように静かに部屋を後にした。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






点々と続く街灯の明かりの下を当麻は黙々と歩いていく。


教師達に言わせてみればこの時間帯では生徒はもう就寝しているはずなのだが、
一般の高校生が午後9時などという早い時間帯に就寝することなどまずあり得ない。
その証拠に近くのコンビニでは未だに学生がたむろしており、少々近寄り難い雰囲気を醸し出している。
おそらく不良かスキルアウトであろうが、こちらから何か因縁を付けない限りは多分大丈夫だ。


スキルアウト達も、些細な問題で『警備員』に厄介になりたくはない。
彼らの殆どが超能力のことで自分の自信をなくした者達である。
その自分の心の隙間を埋めるために犯罪を起こし、罪を犯しているという背徳感、
そしてそれを成功させたという愉悦感を得ようとするのだ。


犯罪の規模が大きさに比例して得られる充足感も大きくなるので、
余程の小物でなければ小さなことで諍いを起こすようなことはしない。
その代わり兵器や違法薬物の密売、さらには性犯罪といった洒落にならないことをしでかしたりするが。


上条(慣れちまったもんだけど、やっぱり治安が悪いってのは良くないことだよなぁ・・・・・・)

上条(『警備員』とか『風紀委員』が色々がんばってるみたいだけど、やっぱり一筋縄ではいかないみたいだ)

上条(俺も何か協力できればいいんだけど・・・・・・)

上条(・・・・・・そういえばもう将来の進路を考えなくちゃいけない時期か)

上条(あまり実感が沸かないけど、やっぱり早めに考えたほうがいいのか?)



高校二年生ともなれば、朧気ながらも自分の将来を見据えて行動をする時期である。
進学校と呼ばれる学校であれば、既に受験に向けて勉学に励む頃のはずだ。
それは半ば日本から独立している学園都市であっても変わらないことである。


何処かの企業に就職するのか、それとも大学に進学するのか。
学園都市ならば自身の能力を生かして研究職に就くという選択肢も挙げられるだろう。
しかしその選択肢の大半は、学園都市の内部で帰結されるものが殆どだ。
つまり就職するにしても進学するにしても、行き先は大抵学園都市のものに限られる。


もちろん学園都市の外に出て働くという人間がいないわけではない。
だがそれでも就職先の大半は学園都市が所有している、もしくは関わっている組織ばかりだ。


能力者の肉体には学園都市における能力開発のノウハウの欠片が宿っている。
それは全く能力を発現しないレベル0であっても例外ではない。
爪の一部や一本の毛髪からでさえも、能力開発に使われている薬物を解析できる可能性があるのだ。


そのような断片的な情報から能力の開発方法を割り出されないように、
能力開発を受けた者は大人になった後も、学園都市の過剰なまでの管理下に置かれるのが当たり前になっている。
ただ、最近は能力者を安定して供給できるようになったため、今後増加していくであろう大人の能力者を、
一体どのように処遇するべきなのかは未だに議論が続いている段階なのだが。



上条(就職か進学か・・・・・・俺はレベル0だから研究職というのはないな)

上条(この右腕じゃ自分の能力を生かした研究なんて出来そうもないし)

上条(進学するにしてもどこに行けばいいんだ? よくわかんねぇや)

上条(そもそも上条さんの頭でも入れる大学なんてあるのかね・・・・・・)

上条(いっそのこと適当に選んで就職するか? でもバイトと違ってこういうのは一生ものだし・・・・・・)

上条「・・・・・・ヤバイ、想像出来ん」


行き先の不透明な自分の将来に当麻は呻く。


よくよく考えてみれば、自分に合うような学問や職業が全くわからないことに気づく。
上条当麻は記憶喪失だ。ただしエピソード記憶が失われているだけなので、知識に関しては人並みにある。
しかしその知識が、果たして自分が興味を持って知った物なのか、ただ単に教えられたものなのかわからない。
自分が興味を持っていたものであるのなら、それを生かした職に就くなり勉学に励むなりするであろうが、
そういった記憶は残っていないため、その知識を自分はどうしたいのか見当も付かない。


『記憶を失う前の上条当麻』と『記憶を失った後の上条当麻』は別人だ。
赤の他人というわけではないが、『今の上条当麻』は『過去の上条当麻』がどんな人物だったのかを知らない。
ただ、記憶を失っても上条当麻の本質というものは変わらなかったようで、
そのおかげでインデックスや美琴に自分が『過去の上条当麻』の演技をしている事を気づかせなかった。
だが所詮それは偽りの人格であり、自分自身を欺き続けることにそれなりの苦痛があったことは否定できない。
例えそれが全くの無自覚であったとしてもだ。


正直、二人に記憶喪失のことを知られたときには嘘がばれたという強烈な罪悪感はあったが、
それと同時に自分を偽ることからの苦痛から解放されたというのも事実だ。
あの時初めて『上条当麻』の代替物ではない、『上条当麻』という個人に自分は成れたのだろう。


上条(今思えばあの時から俺は『上条当麻』を演じることを止めた気がするな)

上条(もちろん事情を知らない奴の前じゃ、これまで通りに演技するしかなかったけど)

上条(でも、あの二人のおかげで初めて自分の居場所が出来たような気もする)

上条(その居場所を守るために二人を危険から遠ざけようとして、自分一人で敵陣に乗り込んだこともあったっけ)

上条(無自覚だったんだけどな。 気づいたのは浜面のおかげだし)

上条(そういえば浜面の奴、上手くやってるかな・・・・・・)



浜面仕上。あの事件以降、親友とまではいかないにしてもそれなりに親しくなった不良。
初めての出会いこそ最悪だったが、後々会ってみると彼はそこら辺のスキルアウトとは違う強い芯を持った男だった。
彼と一方通行と協力してアレイスターに立ち向かった事が、もはや遠い昔のことのように思える。


浜面は打ち止めを介して接点のある一方通行とは違い街中で時々会って会話をするくらいで、
今のどのように生活しているのかはよく知らない。
彼自身が守った人達と一緒に何処かで仕事をしているようだが、詳しいことはわからなかった。
会うことが少ないのも、おそらくその仕事のためだろう。


上条(それにしても、あいつの周りって見事に女の子ばっかりだよなぁ)

上条(お姉さん系に幼なじみ系に妹系・・・・・・青ピが好きそうなシチュエーションだな)

上条「ハァ、上条さんとしては羨ましい限りですよ」



当麻はぼそりと愚痴をこぼす。もちろん彼は自分が同類だということなど全く気づいていない。



上条(ん・・・・・・もう半分も回ったか。 意外と早かったな)



そうこうしているうちに、通るべき道の半分ほどを回り終えた。
あと15分も歩けば自分の住むマンションに帰ることが出来るだろう。


コンビニのような人が集まる場所からだいぶ離れたため、今この通りを歩いている人間は自分一人だ。
いくら住宅街といえども、この時間帯に人を見かけないのは珍しい。
最近第7学区を中心として物騒な事件が度々起きているため、皆外出を控えているのが原因だろうか。


上条(そういえば・・・・・・どうしようか)



当麻は先送りしていた悩みを掘り起こす。
今回の魔術師の事件の詳細をイギリス清教に問い質すべきかどうか。


ポケットに入れていた自分の携帯電話を取り出してみる。
電話帳を探すと、すぐさまイギリス清教の第零聖堂区へと通じる電話番号を見つけた。
後は通話ボタンを押せば、そのままイギリス清教に電話を繋げることが出来る。


聞いた所でイギリス清教が教えてくれるかどうかなんてわからない。
だがここで行動を起こさなければ知ることすらできないのだ。



上条「・・・・・・まぁ、なんとかなるだろ」



悩みぬいた末、当麻は意を決して通話ボタンを押した。
こうなったら自分が納得できるまでしつこく話を聞いてみるとしよう。
一度決心したときの当麻の頑固さは折り紙付きである。イギリス清教もそこの所はよく知っているはずだ。
訊いて訊いて訊き倒せば、もしかしたら教えてくれるかもしれない。


受付嬢『・・・・・・はい、こちらイギリス清教第零聖堂区です』

上条「えっと、イギリス清教の方ですか? 俺、上条当麻っていいます。 神裂火織さんか
ステイル=マグヌスさんのどちらかにお取り次ぎ願いたいのですが?」

受付嬢『・・・・・・上条当麻様ですか。 確か『禁書目録』の守護をしてらっしゃる?』

上条「俺のこと知ってるんですか?」

受付嬢『ええ、一度会ったことがありますよ? 私、アニェーゼ隊に所属してますから』

上条「どうしてそんな娘が電話の受付嬢なんかを・・・・・・」

受付嬢『ちょっと仕事でヘマをしてしまいましてね。 今は療養中なんですよ』

上条「ああ、なるほど。 大丈夫なのか?」

受付嬢『その心配は無用ですよ・・・・・・あなたが会いたいのは神裂さん、もしくはステイルさんですね? 少々お待ちください』


上条(アニェーゼ達も頑張ってるみたいだな。 前に会った神裂の話だと、まだ色々とごたごたしているみたいだし)

上条(忙しいところに悪いことした気がするけど・・・・・・仕方ないか)

上条(さて、どっちが出るのか。 できれば神裂の方が・・・・・・)

『・・・・・・電話代わったぞ。 一体何の用だい? 上条当麻』

上条「・・・・・・ステイルか」

ステイル『他に誰がいるんだ。 君ともあろう者が僕の声を忘れたとでも?』

上条「忘れるわけねぇだろ。 と言うか忘れたくても忘れられないな」

ステイル『ふむ、それは僕も同じだ。 僕としては声のみならず君の存在自体を忘れたいところだがね』

上条「そうかよ」



嫌みに対して嫌みを返す言葉の応酬。この対応も随分と慣れたものだ。


上条当麻とステイル=マグヌスはわかりやすいほどの犬猿の仲である。
当麻は事あるごとに高圧的な態度をとるステイルのことを好きではないし、
ステイルはインデックスを救った当麻に対して若干ながらの嫉妬の感情を抱いている。
お互いに歩み寄るという発想が無いので、おそらく未来永劫彼らはいがみ合うことになるだろう。


ステイル『で、一体どんな用件かな? まさか僕に不満をぶつけるために電話してきたわけではないのだろう?』

上条「当たり前だろ。 いくら馬鹿な俺でもそんなことでお前に連絡なんてしねぇよ」

ステイル『そうか、安心した。 ならさっさと用件を言いたまえ。 こちらは夏休み中の君と違って多忙な身なんでね』

上条「言われなくてもわかってる。 ・・・・・・聞きたいのはパチュリー達のことだ」

ステイル『パチュリー? ああ、先日学園都市に派遣した魔術師のことか。 彼女がどうかしたか?』

上条「魔術師が来ているなんて俺は初耳だぞ。外部から魔術師が来る時は俺の所に連絡が来るはずなんだけど」

ステイル『土御門からは話を聞いていないのかい?』

上条「あいつ、一昨日から連絡が取れなくてさ。 パチュリーに聞いても上手いとこはぐらかされちまったし」

上条「それに正面から堂々と戦力外通告されちまった。 俺と魔術師の相性が悪いって言ってたけど・・・・・・正直腑に落ちないんだ」

上条「なぁ、今一体何が起きているんだ? ステイルは詳しいこと知っているか?」


ステイル『詳しいこと・・・・・・か。 土御門が話さなかったって事は何か理由があるんじゃないかい?』

ステイル『無理に知ろうとすることは彼の厚意を無為にすることになるぞ?』

上条「わかってるよ、そんなことくらい。 でも『知らないところで何もかも終わってた』なんてのは嫌なんだよ」

上条「他人に苦労をかけて自分だけのうのうと生きるなんて真っ平御免だ」

ステイル『・・・・・・解ってはいたが、やはり君は随分と損な性格をしているね』

上条「なんだよ、心配してくれるのか?」

ステイル『まさか。 僕としては君がどうなろうと知った事じゃない』

ステイル『でも君の身に何かあったらインデックスが悲しむからね。 僕が心配しているのはそこだよ』


上条「そうかい。 ・・・・・・で、教えてくれるのか?」

ステイル『・・・・・・教えるのはいいけど、知ったら後悔するかもしれないよ?』

上条「それでも知りたいんだ。 覚悟は出来てる」

ステイル『忠告はしたぞ。 さて、まずはどこから話すべきかな・・・・・・』



何故土御門達は今回の事件のことを詳しく話そうとしないのか。
どうして上条当麻を事件に関わらせようとしないのか。


土御門の優しさを無碍に扱ってしまうのは心苦しいが、このまま何も解らないまま終わってしまうのは納得できない。
ステイルから話を聞いて自分が納得できるのであればそれで良し。もしそうでないのなら・・・・・・



上条(なにがなんでも土御門に問い詰めてやる)



土御門が何と言おうと今回の事件に関わる。それで自分が傷ついてしまうことになったとしてもだ。
この自分が納得できないことにはとことん追求するのが彼の良いところであり、
それと同時にそれに固執しすぎて周りの事を顧みないことが彼の悪いところであるのだが。

今日はここまで
質問・感想があればどうぞ

悪垣根も15巻垣根の表面的な部分でしかないけど、
悪垣根はあくまで権限をはく奪されただけでまだ存在してるとは思うけどな
消えたとしても、いくらでも同様の垣根が復活する可能性はあるだろしな

上条さんが東方の吸血鬼やその側近に挑んで勝てる見込みなんざ無いってのに
(相手は素の身体能力1つあれば簡単に対応できる)

少なくとも
首つっこんでぶっ殺されても自業自得で片付いちまうってことを伝えてあげないと
教唆罪‥とまでは言えないけど禁書管理人の管理不備で責任を問われかねないよステイルくん

>>139
どうだろう?これが上条さんの幻想入りの物語だったら確かに勝つのは非常に難しい(能力はどうにかできても弾幕の物量作戦とかでいけるし)
けどこれは二つの世界が融合(?)したような世界だからさすがにそれは言い過ぎじゃない?どうなるかなんてわからんけど

何が言いたいかっていうと咲夜さんはまじ瀟洒

スカーレット姉妹がガチの吸血鬼なのかまだわからんしな

それに上条さんならなんとかしてくれる
主人公補正?万々歳よ。なんたって主人公なんだからな

>>1の書く融合系世界のロマン(物語)を見せてくれぇ!

>>138
なるほど・・・・・・これで一つネタが思い浮かんだわけですが、それをストーリーの組み込めるのは大分先の話
ネタはあるのに話にできない。これほどもどかしいことは無いです・・・・・・

>>139, >>140, >>141
このSSは禁書が土台となってるので、東方キャラは禁書の世界でありえる範囲にまで能力が補正されているのです
必ずしも弱体化されているというわけではありませんが

>>142
いいですとも!

これから投下を開始します






――――7月27日 PM11:33






人々の多くが床に就き、外の喧騒が鎮まる真夜中の時刻。
黄泉川は夕飯時に言われた通り、芳川の自室に足を運んでいた。


芳川の部屋は『自分に甘い性格』である彼女としては意外なことに、比較的綺麗に整頓されている。
もちろんこれは芳川が自主的に行ったことわけではなく、部屋が散らかっている状態は打ち止めの教育上良くないということで、
黄泉川から掃除して常に部屋を綺麗にしておくように言い含められていたからだ。
『打ち止めの教育』と言われたためか、芳川は真面目にその言葉を聞き入れたようである。



芳川「彼らはもう寝たかしら?」

黄泉川「打ち止めと番外個体は強制的に寝かしつけたじゃん。 一方通行はまだリビングでコーヒーを飲んでるけどね」

芳川「まぁ、彼も飲み次第寝るでしょうね」

黄泉川「あれだけカフェインを摂取して寝付けるというのも不思議なものじゃん」

芳川「大方、能力でカフェインを排出なり分解なりしてるんでしょ。 ベクトル操作でそこまで出来るかは知らないけど」

黄泉川「やっぱり能力に頼りっぱなしの生活は良くないじゃん。 どうにかして校正できないもんかね?」

芳川「さてね。 手段を選ばないなら冥土帰しにでも頼んでチョーカーに細工でもしてもらう?」

黄泉川「無理矢理縛り付けるのは良くないじゃん。 一方通行が自分から改めてくれるのが一番なんだけど」

芳川「それは望み薄な気がするけどね」

黄泉川「私は諦めるつもりはないじゃんよ・・・・・・それで? 夕食の時の話だけど、私に聞きたい事って何なんだい?」


黄泉川は芳川に自分を呼んだ理由を問い質す。


皆に聞かれないように夜中に、しかも自室で話を持ちかけてくるということは、
話の内容にそれだけのことをする理由があるということだ。


芳川は『絶対能力進化』に関わっていた研究者であり、黄泉川も少なからず学園都市の暗部を知っている人物である。
この二人が密談するとなれば、話の内容はおそらく・・・・・・



黄泉川「・・・・・・裏の話かい?」

芳川「勘がいいわね。 流石は『警備員』といった所かしら?」

黄泉川「これだけ露骨に話を振られれば想像つくじゃんよ」

芳川「まぁね。 実は今日、貴方が帰ってくる前に番外個体に聞かれたことがあってね」

黄泉川「あの子が?」

芳川「えぇ。 何でも一方通行の過去について知りたいことがあったらしいんだけど、私ではちょっと答えることが出来なかったのよね」

芳川「確かに私は彼の実験には関わってはいたけれど、彼の過去に事については具体的にはあまり知らないから」


黄泉川「でもどうしてそれが私に聞く理由になるんだい? 私だって一方通行の事はよく知らないじゃんよ?」

芳川「それは簡単な事よ。 番外個体が知りたがっていたのは一方通行が過去に関わっていた研究」

黄泉川「その研究は『警備員』に潰されたらしいから、貴方なら噂ぐらいは知ってるかと思ってね」

黄泉川「なるほどじゃん・・・・・・」



そういうことであれば、芳川が聞いてきたことにも納得できる。


『警備員』の主な仕事は学園都市の治安維持だ。普段は担当地区の巡回であるが、
暴走した能力者やスキルアウトの鎮圧等、荒事の解決を行うことも少なくない。
だが『警備員』には表の日常を守る以外にもう一つ、忘れてはならない役目がある。
それは『非合法の研究を行っている存在の撲滅』だ。


学園都市には様々な偽装を施して人権を無視した研究を行っている人間がいる。
過去には上層部、すなわち統轄理事が黙認しているものも多々存在していた。
そしてその研究の犠牲になるのは能力者、すなわち学園都市の子供達だ。
しかも大半が身寄りのない『置き去り(チャイルドエラー)』だというのだから始末に負えない。


研究者達は『置き去り』が親に捨てられた存在であり、学園都市の管理が届き難いことを利用して、
都合のいい使い捨ての『実験動物(モルモット)』として自身の研究に利用していた。
おそらくあの一方通行も犠牲になった子供の一人である。


黄泉川は過去に『警備員』として、数多くの非合法の研究を潰してきた。
それと同時に犠牲者の姿もその目にしっかりと焼き付けている。


もちろん自分の手で救い出せた子供がいないわけではない。
だが救えなかった子供達の末路は、いずれも筆舌に尽くしがたいものばかりだった。
五体満足を保っていればまだ良い方、中には体の一部が欠損していたり、変形していたりしたこともある。


その中で最悪だったのは『特力研』を制圧した時のことだろう。
そこの研究の犠牲になっていた子供達は、もはや人の形を保っておらずにただの肉塊と化し、
有用だと判断された『実験動物』は脳髄を取り出されて標本にされていた。
その光景はベテランの『警備員』も直視するのを避けたくなるほどの有様だった。
それでも一方通行をして曰く、まだマシであるというのだから恐ろしい。


暗部の深奥では一体どんな実験が繰り広げられていたのか?もはや常識から来る想像力では皆目見当もつかない。
思い描くことが出来るのは頭のネジが外れた狂人くらいのものだろう。


そして芳川が聞きたいのは一方通行が関わっていたであろう研究だ。
彼は暗部の深い場所にいた人間である。その彼が関係しているということは、研究の内容は相当なものであるに違いない。
それこそ『特力研』に匹敵するようなものであることは確かだろう。


黄泉川「で、どんな研究なんだい? 関わっていない可能性の方が高いと思うけど」

黄泉川「非合法の研究を潰しているのは私だけじゃないからね」

芳川「知らないならそれでも良いわ。 ものの試しに聞いているだけだしね」

芳川「番外個体には悪いけど、諦めるとするわ」

黄泉川「私としてはその方がありがたいんだけどね。 あの子達にはもう闇とは無縁に生活して欲しいんだ」

芳川「その心配はいらないわ。 番外個体に頼まれて聞いてるわけじゃないし、これは私の興味本位よ」

芳川「あなたが話して欲しくないというのであれば、私は彼女には話さない」

黄泉川「あぁ、そうしてくれると嬉しいじゃん。 ・・・・・・話を戻そうか」

芳川「そうね。 じゃあ・・・・・・RSP実験って知ってる?」

黄泉川「RSP実験・・・・・・随分と昔のことを聞くじゃん」

芳川「ということは知ってるのね? まさか本当にビンゴだとは思わなかったけど」


黄泉川「ああ、忘れもしないさ。 何せ、私が初めて学園都市の闇に関わった事件じゃん」

黄泉川「今でもあの時のことは鮮明に覚えているじゃんよ・・・・・・というか、その実験って一方通行が関わってたのかい?」

芳川「えぇ、直接的にではないけれど彼の影響を受けていたらしいわ」

黄泉川「そうか・・・・・・奇妙な縁じゃん」

芳川「そうね・・・・・・教えてくれるかしら?」

黄泉川「教える分には問題ないじゃん。 ただ私としては、当時はかなりトラウマになったからねぇ・・・・・・」

芳川「そう・・・・・・悪いわね」

黄泉川「まあいいさ。 もう終わったことじゃん」






9年前――――






その頃の学園都市と言えば、能力者を育成するカリキュラムが十数年の歳月をかけて完成し、
安定して能力者を量産できる体制が整った時期であった。


9年前ということは、今の第一世代に相当する能力者である高校生や大学生が丁度小中学生だった頃である。
学園都市に大人の能力者があまりいないのは、第一世代以前のカリキュラムでは能力が発現することが難しかっためだ。
能力を発現したとしても大なり小なり何らかの問題を抱えていることがあり、当時の研究者を深く悩ませていた。


そのため、当時の研究のテーマは『如何に安定して能力を生み出すか』が主眼であり、
それを解決するために多くの研究が行われたのだ。
能力者を研究しようにも『被験者(サンプル)』がなければどうしようもない。
当時の学園都市の計画では、『能力者を利用して技術力を高める』ことが目標だったために、
研究者達は『被験者』である能力者を確保するべく、日夜寝る間も惜しんで研究を続けていた。


その苦労が功を奏し、研究者達は能力者を安定に生み出せる方法を編み出すことに成功する。
現在行われている能力者育成のためのカリキュラムがそれだ。
その結果、超能力を持つ学生の数は以前と比べて爆発とも比喩される速度で増加していった。


これにより、研究者達にとっての共通の課題であった『被験者の安定的な供給』は解決された。
すると彼らは、これまでのテーマから『如何にしてより強い能力者を生み出すか』にシフトしていった。
能力者を生み出せたとしても、出力が弱いのではその価値は大幅に下落する。
研究をするのであれば、出来るだけ高出力かつ多様性に富む能力者を用いた方が良いからだ。
1から1を得るよりも、1から10得る方が遥かに理にかなっている。


だが当時は能力者そのものが少なく、現在の『書庫』に相当するシステムが確立していなかったために、
狙って強い能力者や目的の能力を持つ能力者を確保するのは困難を極めた。
そこで学園都市は、手始めに能力の『強度』を設けて能力者の力を明確に階級付けることにしたのだ。
能力者を仕分けて管理すれば、適した研究にスムーズに運用できると考えたためである。


しかしそれは結果として、力が弱い能力者を軽視する風潮に繋がるようになった。
強い能力者を生み出したいのなら、今いる強い能力者を研究してその発生原因を探る方が良いに決まっている。
効率を考えるのであれば、弱い能力者を研究するのは無駄の一言に尽きる。


もちろん弱い能力者を研究して方法を見出そうとする奇特な者がいなかったわけではない。
だが強い能力者は『能力者の製造の研究』以外にも『学園都市の技術向上』に一役買っていたため、
自然と研究対象はそちらに移動していったのである。


ここまでが9年前の学園都市で行われていた研究の概要であるが、
この他にも別のテーマを掲げて研究を行っていた研究者達がいた。
そのテーマとは、『如何にして稀少な能力を生み出すか』ということである。


超能力は念動系、火炎系、大気系、電子制御系、精神系などの比較的ありふれたものから、
移動系、肉体系、光学系、AIM系などの比較的数が少ない能力、
そして『未元物質(ダークマター)』や『視覚阻害(ダミーチェック)』のような、ただ一人しか持たない物まで様々だ。
数が多い能力というのは『被験者』が多くいるということであり、研究も早く進む。
しかし稀少な能力というのは得てして研究者の間で取り合いになることが多く、その争いで研究が大幅に遅れることも少なくない。


ましてや学園都市の闇である暗部がまだ健在だった時期である。
それを利用した『被験者』の奪い合いも頻繁に起こっていた。
ただその頃の暗部はまだ黎明期だったため、学園都市上層部が保有していたような統率のとれた物では無く、
学園都市で権力を持っている個人が保有する傭兵のような扱いであった。
だからこそ好き勝手に扱うことが出来るのであり、つい最近まであった抗争よりも被害が大きくなりやすかったのだが。


暗部の争いに巻き込まれて『被験者』が死ぬことにでもなれば、学園都市にとって大きな痛手になる。
そこで一部の研究者達は数に乏しい稀少な能力を量産できないかと考え、様々な試行錯誤を繰り返していった。
ところが最初の頃は穏便な研究を行っていたはずが、失敗を重ねるつれて正攻法では不可能であること気づいた途端、
彼らは目的を達成するために手段を選ばなくなってしまう。
そして人の尊厳を無視した研究は、ある能力を持つ子供が現れたことで一気に過激になっていった。


その能力の名は『一方通行』。
この世のあらゆるベクトルを操作することが出来る力である。
以前にもベクトル操作系の能力は存在していたが、『あらゆるベクトル』の方向変換、収束、分散が可能な能力者はいなかった。
もしこの能力を完成させることが出来れば、何者も触れることが出来ない『最強の能力者』が誕生する。
さらには学園都市の技術を飛躍的に向上させることも可能だろうと推測された。


それを知った研究者達は、こぞって『一方通行』の量産の可能性を模索し始めた。
何せこの能力は、学園都市の今後100年を左右すると言っても過言ではない能力なのである。
それはまさに『どのような犠牲を払ってでも』研究する価値がある物であり、
第二の『一方通行』を生みださんと、『ありとあらゆる手段』を用いて研究が行われたのだ。


そんな学園都市の暗部が肥大化していく真っ直中において『警備員』となった一人の新米教師がいた。


黄泉川愛穂。第7学区の支部に配属された『女性の警備員』である。
当時としては女性の『警備員』は珍しく、一部の人間の間では結構有名であった。


その頃は能力者の犯罪が今ほど頻繁に起こっていなかったこともあり、
『警備員』の普段の仕事は専ら路地裏にいるような不良を検挙するのが主であった。
もちろん強盗などに伴う人質事件のような凶悪犯罪に対処することが無かったわけではないが、
そのような事件は起こること自体が稀であり、そもそもそれだけのことを起こす度胸のある学生が殆どいなかったのだ。


現在のような犯罪が多発し始めたのは、能力者の数が増加し始めた時期と一致している。
不相応な力を手に入れたことにより、自信過剰になった学生が暴走し始めたのが原因だろう。


つまるところ、この頃の学園都市の犯罪の発生件数は現在と比べて格段に少なかったのである。
当時の『警備員』の仕事は、女性の手を借りなくとも男手だけで十分足りていたのだ。
つまり女性を『警備員』とする利点が無かったのである。


この他にも、女性に銃器を持たせることは良くないという風潮も『警備員』の内部にあった。
『警備員』は学園都市外の警察組織とは違い、銃器の携帯が許可されている。
もちろん普段は殺傷能力の無いゴム弾が込められているが、有事の際は実弾を使うことも可能なのだ。
単なる拳銃だけではなく、軍人が使うようなサブマシンガン等の重火器を使用することもある。
この街では能力者だけでなく最新鋭の兵器開発も行われているため、
その兵器を悪用した事件が起きた時に対処できるよう考えられた処置であった。


そんな訳で、黄泉川愛穂に対する先輩の『警備員』の反応はあまり芳しくなかった。
もちろん荒事に自分から飛び込もうとするその心意気を買った人間がいなかったわけではないのだが、
大半の人間、特に年配の男性は女性である彼女の扱いに困り、煙たがることが多かったのだ。


だがそんな周りの反応を一々気にするような黄泉川ではなく、
自分に課される『生徒を守る』という役割に俄然意欲を燃やしていた。

今日はここまで
黄泉川先生の過去編!はっじまーるよー!
でもあくまでも>>1の妄想だから、内容に突っ込み所が多かったとしても勘弁してね

質問・感想があればどうぞ

追記
来週は忙しくなりそうなのでお休みします
再来週に開始するので、しばらくお待ちください

あー、張り切ってる所でそんなエグい闇を知ったりしちゃえばなー……

どんな子達が居たのか非常に気になりますな~

邪仙とかも研究に関わってたり?

旧作のメガネさんとかは居たかも知れない

要らなくなった肉はソイレント……

>>161
原作の黄泉川さんと一方さんの会話を考えると、黄泉川さんが非合法の実験を行っている研究所を制圧したのは、
特力研が最初というわけではなさそう

>>162, >>163, >>164
眼鏡の人は物凄い腕前の魔法使いなのに、魔法が嫌いで科学信者なんですよね。結構ネタが作り易そう
邪仙の人はどうかな?狂科学者と狂魔術師どちらでもいけそうだけど。まぁ碌な設定にはならないかも

>>166
みんなのトラウマ。>>1はゼノギアスはやったこと無いけど、説明を見ただけで・・・・・・

これから投下を開始します






――――8月下旬 PM5:23






第7学区警備員第73活動支部――――



黄泉川「ふぅ、巡回終わりっと」



何の見栄えもない灰色の廊下を歩きながら、黄泉川は小さく独り言を漏らした。


彼女は先ほどまで相棒と共に学園都市の巡回警備の任についており、今漸くその仕事を終えた所である。
ただ巡回警備とは言っても、今回実際にしたことは迷子になった小さな子供への応対だったり、
学生が変な悪さをしていないかの監視だったりと、それほど難しくないものばかりだった。


つまり、今日は平和そのものの一日だったということだ。


黄泉川「帰ったじゃん」ガチャッ

先輩「おう、巡回お疲れ様。 どうだった、街の様子は?」カリカリ



黄泉川が部屋に入ると、そこには『警備員』の先輩が机の上に溜まった書類に対して悪戦苦闘をしている姿があった。
自分が巡回に出る前にも同じ仕事をしていたはずだが、その時よりも書類の山が高くなっているような気がする。
途中で追加でも入ったのだろうか?どちらにせよ、ご愁傷さまという奴である。


黄泉川は相棒が飲み物を買って来るのを待っている間、彼に巡回中の出来事を報告することにした。



黄泉川「今日は何も起こらなかったじゃん。 こんな日が毎日続いてくれれば良いんだけど」

先輩「それは理想的な話だが、無理な話だな。 学生が大半を占めてるこの街でやんちゃを起こさない奴がいないわけがない」

黄泉川「それはそれでやりがいがあるんだけどね」

先輩「ははっ、違いないな」カリカリ


今日のような何事も起こらない平和な日は珍しい。
大抵の場合は学生同士が揉め事を起こしたり、不良が器物損壊を引き起こしたりするのだが、
今日に限ってはそのようなことは一切無く、巡回ルートを一回りしただけで終わってしまった。
おそらく黄泉川が『警備員』に入って初めてのことではないのだろうか。



黄泉川「巡回が早く終わったせいで少し暇が出来たじゃん」

先輩「気は抜くなよ。 いつ不測の事態が起こるか判らないからな」カリカリ

黄泉川「わかってるじゃんよ、先輩」

先輩「だが、お前が手持ち無沙汰なのは事実だな。 ちょっと俺の書類片付けるの手伝え」

黄泉川「それって先輩が頼まれた仕事じゃん? 流石にそれは不味いんじゃ・・・・・・」

先輩「いいからいいから。 一人でやるよりも二人でやった方が効率良いだろ?」

黄泉川「仕方ないじゃん・・・・・・」


やれやれといった顔つきで黄泉川は先輩の『警備員』の書類の整理に参加する。


黄泉川はこの支部に来てまだ日が浅いため、こうして雑用を手伝わされることがよくある。
特に黄泉川の場合はなんだかんだ言って手伝ってくれるため、こういう機会が巡ってきやすい。
同じ新米も他にはいるが、彼女の場合は何かと鈍くさいところがあり、結局黄泉川が全てを請け負うことになっていた。


半ば便利屋のような扱いになってしまっているが、先輩の頼みを無碍にするのも気が引けるため、
黄泉川は渋々先輩の手伝いを始めようとするが・・・・・・



隊長「おい、それはお前一人に頼んだ仕事のはずなんだが?」ガチャッ



自分達を仕切っている隊長が会議を終えて帰ってきたことにより、黄泉川の手伝いは中止となった。


黄泉川「あ、隊長」

先輩「た、隊長!? どうしてここに!?」

隊長「どうもこうも、会議を終えて帰ってきただけだが?」

先輩「そ、そうですか・・・・・・じゃあ私は仕事に戻らせて・・・・・・」

隊長「お前、訓練の腕立てプラス1000回追加」

先輩「」



無慈悲な宣告にがっくりと膝をつく先輩。自業自得である。
一方の黄泉川はそんな先輩を放置し、隊長に今日の会議の内容を聞くことにした。


黄泉川「それで、どんな会議内容だったじゃんよ?」

隊長「ああ、今後の警備体制についてちょっとな。 学園都市が『超能力者育成カリキュラム』を完成させて数年、
学園都市の能力者の数が飛躍的に増加してきているのは知ってるだろう?」

黄泉川「えぇ、私が子供の頃に比べて随分と能力者を見ることが多くなったじゃん」

隊長「今後も能力者が増えていくのは当然だろうが、今上層部では『能力者による犯罪』にどう対処するかが議題に挙がっている」

隊長「これから街に居る不良が全員能力者になると考えたら、手を打たないわけにはいかないだろうからな」

黄泉川「能力者の犯罪・・・・・・」

隊長「今の所、このままの状態じゃあ能力者相手に立ち向かうのは難しいというのが上の判断だ」

隊長「火やら電気やらを飛ばしてくる奴相手に今の装備で立ち向かえると思うか?」



その問いに対して、いつの間にか復活して黄泉川の隣に立っていた先輩が返答した。


その問いに対して、いつの間にか復活して黄泉川の隣に立っていた先輩が返答した。



先輩「無理ですね。 俺達が普段使えるのは、精々犯罪者鎮圧用の麻酔銃と防弾盾ぐらいですから」

先輩「まさかテロ対策用の装備を使うわけにはいかないし、能力者と渡り合うなら専用の奴が必要になるんじゃないですか?」

隊長「ああ、一応上も対能力者用の装備の製造を検討しているみたいだが、それでもかなりキツイだろうな」

先輩「能力者を相手するとなると、かなり勝手が違いますからね。 今行っている訓練ではおそらく対応できないでしょうね」



超能力者の相手となると、普段とはまた違った行動が求められる。
犯罪者が持っている能力は千差万別だろうし、それに伴って対処の仕方も多種多様に変化する。
『発火能力者』や『電撃使い』ならまだ対応できるだろうが、『洗脳能力(マリオネッテ)』などの精神系の能力ともなれば、
その能力による干渉を防ぐための専用の装備が必要になるだろう。
操られて同士討ちにでもなってしまったら、大変なことになるからだ。


隊長「そうだ。 俺達だけじゃいずれ、増加する能力者の犯罪に対応しきれなくなる可能性がある」

隊長「ただでさえ学生が多いんだ。 人員を増やしたりやることはやるだろうが、焼け石に水だろうな」

先輩「上には何か策があるんですかい?」

隊長「今日の議題はそのことについてだ。 正直あの案に俺はあまり賛同したくはないんだが・・・・・・
お偉いさん方曰く、学生、もっと言えば能力者に対処させるつもりらしい」

黄泉川「・・・・・・え?」



良くない言葉を聞いた気がする。出来れば嘘であって欲しいような話。
だが、隊長の言葉を聞いて先輩が声を荒げたことでその言葉が確信に変わる。



先輩「ちょっと隊長! それってつまり・・・・・・」

隊長「そうだ。 『俺達の戦場に子供を立たせる』って事だよ」

黄泉川「・・・・・・!」


その話を聞いて黄泉川は絶句した。
『警備員』の大きな役割は『学園都市の治安維持』と『学園都市に住む子供達の守護』だ。
だというのに、守るべき子供を争いの渦中に巻き込もうとするとは一体どういう考えなのだろうか?


呆然とする黄泉川を尻目に、先輩と隊長が会話を続ける。



隊長「どうやらかなり大がかりな組織を作ろうとしているみたいでな。 能力者達を応募で募った後に、
適性検査をしてから数人のグループに分けて各地区に配属させるみたいだ」

隊長「組織体系としては俺達『警備員』と似たような形を採用するらしい」

先輩「それはもう殆ど確定している案件なんですか?」

隊長「いや、今の段階では賛成派は少数だから、今すぐに決まるという訳じゃない。 
この案にはまだ色々問題があるというのは、上も重々承知しているからな」

隊長「だがこのまま犯罪が増加していけば、いずれ賛成派が多数になるのは容易に想像がつくな」



能力者の数は以前と比べてかなり早いペースで増加してきている。
つまり超能力を持った犯罪者もそれと同じように増えていくのだ。


このまま手をこまねいていれば、いずれ取り返しの付かないことになるのは明白である。
それならば多少の無理を承知の上で対策を大まかに立てておき、
運用の時期が来るまでに問題箇所を順次修正していけば良いという魂胆なのだろう。


しかし・・・・・・



黄泉川「でも・・・・・・学生を私たちと同じ場に立たせるのは認められないじゃん」

隊長「だからといって、現状ではこれに変わるような案がないのも確かだ。 
あるというのであれば次の会議の時に提案してみるが・・・・・・正直当てもないだろう?」

黄泉川「それは・・・・・・そうだけど」



隊長「何、流石にいきなり俺達と四六時中行動を共にするようなことにはならないだろうさ」

隊長「能力者とはいえ素人だからな。 最初は基礎訓練やら組織のルールを覚えるための学習やらをさせるはずだ」

隊長「きちんと教育した上でのはずだから、いざという時の自己防衛くらいは出来るようになっているだろう」



いくら能力者とはいえ、大半の学生は戦闘経験が皆無であるはずだ。
そんな状態で戦場に送り込めば、その先には最悪の結末が待っている。


参加することを希望した学生達には気の毒だが、彼らには相当厳しい訓練が待ち受けているだろう。
実戦経験は仕事をしていく上で身につけていかなければならないが、最低限のことできるようになるまで徹底的に仕込まれるはずだ。
『警備員』の仕事は遊びではない。『警備員』と同じ立場に立つのであれば、相応の覚悟をしてもらわなければ。


隊長「それに、能力者の犯罪が発生した時はそっちの組織がメインになって行動することになるだろうが、
俺達がきっちりサポートすれば危険な目に遭わせなくて済むかも知れない」

隊長「その代わり、俺達にかかる責任はさらに重くなるだろうがな」

先輩「確かに、学生だけで運営が出来るようになるまでは『警備員』の協力が不可欠ですからねぇ」



訓練を受けたとしても彼らは学生。肉体的にも精神的にも未成熟である。
いつかは彼らだけでは解決できないような問題が発生することもあるだろう。
ならばその時は『警備員』が中心となって指示なり補助なりを行い、彼らの負担を減らす必要がある。
そうすれば学生達が危機に陥ることは遥かに少なくなるかもしれない。



黄泉川「・・・・・・」



だが、それでも彼らを危険に巻き込むということ変わらない。
黄泉川にとってその点は絶対に許容できないことであった。


そんな心情を察してか、先輩が黄泉川に納得させようとする。


先輩「黄泉川、気持ちはわかるがここは割り切った方が良い」

黄泉川「先輩・・・・・・」

先輩「俺だって子供達を危険にさらすことなんてしたくないさ。 でもこのままだと増え続ける犯罪に対処できなくなるのも事実だ」

先輩「何の落ち度もない一般の学生が突然犯罪に巻き込まれて傷つくことと、
犯罪に立ち向かう心構えを持った学生が自ら危険に飛び込んで傷つくこと。 お前ならどっちを許容する?」

黄泉川「・・・・・・」



先輩から投げかけられた問いに対して、黄泉川は返答に窮する。
子供達に火の粉が降りかかることを見過ごすか、それとも覚悟のある子供に火の粉の払い方を教えて他の子供を守らせるのか。
どちらも傷つく可能性があることは一緒だが、その意味合いは大きく変わってくる。


もしこの二択のどちらかを選べと言われたとするなら、どう考えても後者を選ぶのが最善だ。
力を持たない人間に災難が降りかかるよりも、災難に対抗する術を持った人間に対処させた方が、被害が少ないことは明らかである。
つまり、子供達に自衛組織を作らせて犯罪に対処させた方が良いということだ。


もちろんそんなことは黄泉川もわかっていた。
だが理屈の上では正しいことでも、それを納得できるかどうかは別問題である。
なまじ彼女は正義感が強いために、この事柄に対して簡単に妥協するということは出来なかった。


戸惑う黄泉川に先輩はさらに言葉を続ける。



先輩「お前の『絶対に子供を危険に会わせない』という考えは確かに素晴らしいことだと思う。 
それこそ『警備員』全体が掲げるべき信念だろう」

先輩「だけどその考えを何時までも押し通すのは現実として無理があるんだ。 
たまには少し考えを曲げないと、かえって被害を拡大させかねないのさ」

先輩「信念を通した結果誰かが不幸になってしまったとしたら、それはもう信念じゃなくてただのエゴでしかない」




どんなに崇高なものを掲げていたとしても、それで他人を不幸にしていては全くの無意味だ。
むしろ善意から来るものであるが故に、ただの悪よりも質の悪い物になりやすい。


『行き過ぎた正義』こそ、その際たる物だろう。
掲げた正義のためなら何をしてもかまわないという考えは、時に夥しい数の犠牲者を生み出すことになるのである。


その言葉を聞き、黄泉川は多少不満が残るものの無理矢理自分を納得させた。



黄泉川「・・・・・・ごめん、私が間違っていたみたいじゃん」

先輩「いや、気落ちする必要はねぇよ。 お前の考えはある意味正しいからな」

先輩「ただ、今回は信念をねじ曲げなくちゃいけない状況だったというだけさ」

先輩「俺としてはああいう考えを持ち続けているお前が羨ましいくらいなんだ」


そう口にしながら先輩は黄泉川を慰める。
例え信念を曲げるようなことになってしまったとしても、その信念を捨て去るようなことをしてはいけない。
黄泉川の信念は確かに崇高なものであり、守らなければならないものなのだから。


先輩の言葉を最後に三人がしんみりとした空気に浸っていると、飲み物を買いに行っていた黄泉川の相棒――――
紅美鈴が腕に缶ジュースやらペットボトルやらを大量に抱えて部屋に入ってきた。



相棒「黄泉川さ~ん、今日は新商品が入荷してましたよ~・・・・・・って、どうしたんですか?」ガチャッ

先輩「・・・・・・美鈴、少しは空気読めよ」



先輩は部屋の空気を崩壊させた美鈴に苦言を呈する。
美鈴は温厚で優しい性格なのだが、その反面空気を読まない行動を取ることが多い。
そのため支部の中では彼女を評価する人とそうでない人がきっぱりと分かれている。


ただ、彼女の体術に関する腕については満場一致で高評価が下されている。
肉弾戦の訓練においては、この支部において彼女の右に出る者はいないからだ。


黄泉川「あぁ、随分と遅かったじゃんよ美鈴。 一体何処まで買いに行ってたんだい?」

美鈴「近場の自販機が修理中だったので。 少し時間に余裕がありましたし、ちょっと遠出してきました」



そう言いながら美鈴は腕に抱えたペットボトルと缶ジュースを机の上に並べていく。
いつも買って飲んでいるお気に入りのものから、最近発売されたであろう真新しい製品まで様々だ。
中には一体誰に需要があるのかよくわからないものも紛れ込んでいる。



隊長「コイツは・・・・・・」



隊長はその内の一つである『久々美良のお茶』を苦々しい顔つきで手に取った。
相当嫌そうな顔をしているので、おそらくハズレの飲み物なのだろう。


美鈴「それは私の興味本位で買った物なんですけど、どうしました?」

隊長「これ、色合いからして普通のお茶かと思って飲んだら違ったんだよな」

黄泉川「緑茶じゃなくて他の茶葉を使ってたとか?」

隊長「それ以前の問題なんだよ黄泉川。 そもそもこれは茶葉なんて使っていない」

黄泉川「茶葉を使ってないのにお茶? それってもう詐欺なんじゃ・・・・・・」

美鈴「いや、そうでもありませんよ黄泉川さん」



黄泉川の指摘に美鈴が口を挟む。元は中国人ということもあってか、この手の話題には詳しいようだ。


美鈴「中国では茶葉を使わない飲み物も『茶』として分類することがあります」

美鈴「その場合は茶ではない茶を『茶外茶』、本来の茶を『茶葉茶』と呼びます」

美鈴「茶外茶の代表的なものは麦茶、ハトムギ茶、ドクダミ茶がありますね」

美鈴「後はそば茶とか椎茸茶、昆布茶もそうです。 ただこれらは一般に言う『茶』とは少し違う気もしますけど」

美鈴「まぁ、地域によっては白湯も『茶』に分類されることがあるので、結構何でもありのような感じですね」



白湯ですら『茶』に分類されるとは、まさに『何でもあり』である。
この他にも茶外茶には、有名処では柚子茶やハーブティー、珍しい物では竹茶やマタタビ茶が存在する。
もっと変な物になると虫糞茶、象糞茶と呼ばれる物がある。


何を材料としているかと聞かれれば・・・・・・そこはお察しください。


黄泉川「ってことはこれも立派な『茶』ってことかい?」

美鈴「はい。 どんな材料を使っているのかは気になりますけどね」

黄泉川「隊長が実際に飲んで後悔したような代物だし、きっと碌な物じゃないじゃんよ」

美鈴「ですよね。 興味はありますけど」

黄泉川「じゃあ飲んでみるかい?」

美鈴「いや、遠慮しておきます。 流石に隊長の話を聞いた後だと・・・・・・」



既に見えている地雷をわざわざ踏み抜くようなことをする人間は滅多にいないだろう。
『滅多に』ということは、自ら地雷を踏みにいく人種も僅かながらにいるのだが。
好奇心に突き動かされて飲む人間や、味覚が常人とは違う人間とかである。


先輩「だけど、このまま誰も飲まずに放置するのは良くないな」

美鈴「じゃあ先輩が飲んでくださいよ」

黄泉川「買ってきたのはお前だろ。 責任はちゃんと取れ」

美鈴「うへー・・・・・・」



そう言われてしまうと反論は出来ない。自分の物は自分できちんと処分しなければならないのだ。
間違っても他人に責任を押しつけてはいけないのである。


美鈴は渋々と『久々美良のお茶』のペットボトルの蓋を開ける。
すると、中から何とも表現しがたい植物の香りがあたりに漂い始めた。
その匂いに思わず一同は顔をしかめる。特に隊長の顔のシワの彫りがさらに深くなった。


何を材料にしたらこのような匂いが出せるのだろうか?
少なくとも茶に使用されるような代物ではないことは確かである。


隊長「あー、そういえばこんな匂いだったな・・・・・・思い出したくもなかったが」

黄泉川「一体何が入ってるじゃんよ・・・・・・? 何処かで嗅いだ事がある匂いだけど」

隊長「・・・・・・ニラだ」

黄泉川「・・・・・・・は?」

隊長「だからニラだよ」



『韮(ニラ)』。ネギ属の一種。多年草の緑黄色野菜である。
葉は加熱すると柔らかく、和食では汁の実や薬味、おひたしなどにする。
中華料理では単独や他の野菜や肉と合わせた炒め物、レバーと炒め合わせた物、
焼きそばや餃子の具、饅頭、春巻き、卵とじなどが有名な用途である。


このようにニラは有名な食材であるが、どう考えても茶葉への用途は考えられない。
ペットボトルの口から香る匂いを嗅ぎながら美鈴は溜息をついた。


美鈴「はぁ・・・・・・・色々なお茶を今まで飲んできましたけど、ニラを茶葉にするなんて初めて聞きましたよ」

黄泉川「一体何を考えて茶葉に選んだんだかねぇ・・・・・・」

先輩「そりゃあ黄泉川、ただのギャグじゃねぇか? 『紅茶→こう茶→ニラ茶』みたいな感じで」

黄泉川「まさかそんなことはないでしょ先輩。 もしそうだったら寒いなんてレベルじゃないじゃんよ」



実は先輩の言う通りなのは秘密である。もちろん過去に同じネタがあったことも。



黄泉川「はぁ・・・・・・ま、そんなことはどうでもいいじゃん。 それよりも美鈴、早く飲むじゃんよ」

美鈴「えぇ!? まだ心の準備が・・・・・・」

先輩「よし、みすず! 一気にいけ!」

美鈴「その呼び方は止めてくださいって言ってるじゃないですか先輩!」

先輩「だってそっちの方が呼びやすいし? 何なら『ほんみりん』とかにするか?」

美鈴「・・・・・・もうみすずでいいです」


最近、何故か美鈴のことを『みすず』と呼ぶ人が多い。
誰が始めに言い出したのかはわからないが、妙に親しみやすいネーミングにより、その呼び名は瞬く間に支部の人達に広がっていった。
それどころか他の支部の面々にまでその噂が広がっているようである。


おおらかな美鈴も流石に異議を申し立てたが、その時には既に遅く。
支部の隅々まで感染した『みすずウィルス』は、今現在も猛威をふるっている状況である。



美鈴「どうしてこんな事に・・・・・・」

黄泉川「まぁ美鈴、『人の噂も七十五日』って言うじゃん。 時間が経てばみんな飽きると思うじゃんよ」

美鈴「そうだと良いんですけどね・・・・・・」

黄泉川「それよりもそのお茶、早く飲まないのかい?」


美鈴「どうしてこんな事に・・・・・・」

黄泉川「まぁ美鈴、『人の噂も七十五日』って言うじゃん。 時間が経てばみんな飽きると思うじゃんよ」

美鈴「そうだと良いんですけどね・・・・・・」

黄泉川「それよりもそのお茶、早く飲まないのかい?」



黄泉川は美鈴が手に持っているお茶を指さす。
開封時よりはいくらか匂いは収まってきているが、未だにニラの匂いを周囲に拡散し続けている。
このままだと部屋に匂いが染み込んでしまう。その前に処分してしまった方が良い。



美鈴「・・・・・・わかりました。 この紅美鈴、一世一代の大勝負に出ます!」

黄泉川「いや、そんな大げさなものじゃないじゃんよ」

先輩「よっしゃ! 後で骨は拾ってやる!」

黄泉川「先輩も煽らないで欲しいじゃん・・・・・・」



その後『久々美良のお茶』を飲み下した美鈴は、猛烈な腹痛に襲われたことにより小一時間ほどトイレに籠もることになる。
黄泉川、先輩、隊長の三人も残された様々なゲテモノドリンクの処分に追われ、
終わる頃には疲労困憊で椅子に座り込んでいる様子が他の『警備員』に目撃された。
そして直後に出動命令が下され、彼らは思うように動かない体を引きずったまま仕事をする羽目になるのであった。

今日はここまで


『風紀委員』の設立の話を少々。当時の『警備員』の人達としては結構複雑な心境だったと思う
それとニラ茶のことだけど、ネタだと思ってたらマジで健康茶としてのレシピがあった。どういうことなの・・・・・・


質問・感想があればどうぞ

これから投下を開始します。






3日後――――






隊長「はい・・・・・・はい、わかりました。 すぐそちらに向かいます」ガチャッ

先輩「どうしたんですか隊長?」



眉間に皺を寄せながら電話を切った隊長を見て、先輩は書類を片付けながら問いかける。
退屈な書類整理の息抜きに声をかけてみただけなのだが、自分の想像以上に顔を顰めているのを見て、
『これってひょっとして、良くないことが起こるんじゃないか?』と思ってしまった。



隊長「ああ、さっき支部長に呼び出されたから行ってくる。 留守の間のことは頼んだぞ」

先輩「それはかまわないですけど・・・・・・一体何が?」

隊長「ただ早く来いと言われただけだから詳しいところは判らん」

隊長「ただ向こうの慌ただしさを考えると、きっと碌でもないことが転がってきたのかもな」

先輩「マジですか・・・・・・」



その言葉を聞き先輩は心の中で溜息をつく。どうしてこうも嫌な予感が的中するのだろうか。
いや、実はそんなことはなく嫌な思い出が強烈に残っていることで、悪いことが頻繁に起こっていると勘違いしているだけのはずだ。
例えばジャムを塗ったパンをカーペットに落としたときに、ジャムを塗った面が下になって落ちる事が多いと思うように。
嫌な記憶という物は得てして忘れにくい物なのだ。それこそ楽しい記憶なんかよりも。


隊長「一応黄泉川と美鈴を呼び戻しておいてくれ。 何が起こるか判らん。 確か訓練場にいたはずだよな?」

先輩「ええ。 久しぶりに組み手をしてみたいとかで柔道場に行ってますよ」

先輩「美鈴に負け続けているのが我慢できないんでしょうね」

隊長「そうか。 黄泉川が美鈴に勝てるとも思えんが。 まぁ、二人のことは頼んだぞ」

先輩「アイアイサー」



先輩は軽く手を振りながら隊長を見送った。
部屋に残されたのは彼一人。書類の最期の仕上げをしながら、隊長が去り際に漏らした言葉について考えていた。



先輩(黄泉川じゃ美鈴には勝てない、か。 というか支部の誰一人として勝ててないんだよね)

先輩(アイツの身体能力は他とは群を抜いているというか。 つーかあの中国拳法、一体何処で習ったんだか)

先輩(いくら何でも極めすぎだろ。 やっぱり生まれが中国だからか?)


美鈴が使う八極拳はどう考えても達人かそれに近いレベルの物にまで洗練されている。
何時訓練をしていたのかは判らない。だが、少なくとも彼女が『警備員』になる前から続けていたことは明らかである。
『警備員』の仕事の片手間ではあそこの域にまでは達しないだろう。



先輩(黄泉川の柔道もかなりの物だけど、結局は『警備員』を目指し始めたときに覚えたものだろうからなぁ)

先輩(もし美鈴が子供の時から八極拳に親しんでいたと考えれば、勝てる道理はないだろうな)

先輩(その代わり銃器の扱いに関しては黄泉川の方が腕は上だから、その点ではバランスがとれているとも言える)



確かに体術は美鈴の方が上だが、機械類、特に銃器に関しては黄泉川の方に分がある。
美鈴はまだ拳銃のメンテナンスの仕方を完全には把握してはおらず、拳銃を撃つ腕も黄泉川よりは悪い。
この二人を足して二で割れば丁度良いスペックになるだろう。
もちろんそんなことは出来ないので、二人セットで行動するように差し向けているのだが。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






『警備員』専用訓練場の一角。 柔道場――――



黄泉川「・・・・・・」ジリッ

美鈴「・・・・・・」



一面に畳が敷かれた空間の中心。そこに黄泉川愛穂と紅美鈴の二人が立っている。
黄泉川は両腕を前に突き出し、隙あらば懐には入って投げ飛ばそうとしている。
もちろん相手から仕掛けてきた場合はその腕を絡め取り、一本背負いをかます魂胆だ。


それに対して美鈴は直立。ただ突っ立っているように見えてその実、隙が全く見られない。
自然体と言えばいいのだろうか。そのおかげでどのような技を繰り出してくるのか判らなくなっている。


お互いにカウンターを狙ってしまっているためか、二人は睨み合ったまま微動だにしていない。
辺りに重苦しい雰囲気が流れる。現在柔道場を使っているのは彼女達だけということもあり、
場内には二人の呼吸以外の物音は何一つなかった。


黄泉川の顎から顔を伝った汗が滴る。夏の太陽が生み出した熱が道場に籠もり、蒸し暑いことこの上ない。
残念ながらこの道場に空調設備などという雰囲気を壊すような物は存在しない。
何でも暑さに耐えられる体作りを目的としているのだとか。
おかげで黄泉川は柔道の正装をしているのにも関わらず汗でびっしょりである。
もちろんそれは美鈴であっても例外ではなく、彼女も首筋から汗を流していた。



黄泉川「・・・・・・!」バッ



ついに我慢の限界が来たのか、黄泉川が美鈴に掴みにかかる。
美鈴は肩幅くらいの間隔で足を開き、その場に根を張るようにして立っている。
この状態から体勢を崩すのは非常に困難だ。


ついに我慢の限界が来たのか、黄泉川が美鈴に掴みにかかる。
美鈴は肩幅くらいの間隔で足を開き、その場に根を張るようにして立っている。
この状態から体勢を崩すのは非常に困難だ。


柔道において相手を崩す方法は二つある。
一つ目が相手の重心をずらす方法。
重心を基底面、つまりは安定して立つことが出来る範囲を超えて移すことにより、相手をよろめかせる。
この時に崩す方向を『八方の崩し』と呼ぶ。崩す方向でかける技が変わってくるのだ。


二つ目が相手を硬直させて姿勢を変化させない方法。
ギリギリのバランスで保っていられるような姿勢を作りだし、力んだ状態にする。
この状態で足払いでもかければ、相手は簡単に転倒するだろう。


この二つの方法で相手を崩し、そこに技をかけて倒すのが柔道の基本だ。
崩しがなければどんな技を使っても相手を転ばせることは出来ないのである。


しかし、生半可な崩しが美鈴に通用するとは思えない。
彼女の身体能力はずば抜けている。バランス感覚も相当な物だろう。
崩しを耐えられたあげく、代わりに手痛い反撃を受けることは目に見えている。
そこで黄泉川が起こした行動は――――


黄泉川(これならどうじゃん!)

美鈴「・・・・・・!」



『大内刈り』――――に見せかけた『体落とし』。
大内刈りとは相手の体を自分から見て右斜め前方に崩しつつ内股に足を差し込み、相手の左足を払って倒す技。
体落としとは相手を右前隅に崩し、右足を踏み出して相手の出足を止め、引き手と押し手をきかせて前方に投げ落とす技。
前者は後方に倒し、後者は前方に投げる。方向は全く逆だ。だがこの方法が棒立ちの相手には有効なのである。


重心が安定している人間をこちらの力のみで崩すのは難しい。ならば相手から崩れるように仕向けてしまえばいいのだ。
大内刈りをかけてくるように錯覚させることで、相手はそれに耐えようと重心の自分の前方に移す。
そこに体落としをかけてしまえば、自分の引き寄せる力に相手の重心を移す力が加算され、簡単に投げ飛ばすことが可能になる。


そう考えてこの技を繰り出したのだが・・・・・・


美鈴「・・・・・・フッ!」

黄泉川「うわ・・・・・・!?」



大内刈りの初めは『相手を右斜め前方に崩す』。実はその時に自分の重心も同じ方向にずれてしまうのだ。
その力を利用して前方に投げる技、例えば『内股』をかけてしまえば――――



ドタァン!!!



この通り。簡単に返されてしまうのである。


黄泉川「・・・・・・あっはっはっはっは!!! いや~完敗じゃん!」



自分のかけた技を綺麗に返されたことに思わず笑い声を上げる黄泉川。
ここまで完璧にやられると悔しいを通り越して清々しいくらいだ。
そんな彼女を見て美鈴は心配そうにこちらを覗き込んでいる。



美鈴「大丈夫ですか? 結構勢いよく叩きつけてしまったような気がしますけど」

黄泉川「いや、ちゃんと受け身を取ったから大丈夫じゃん。 ・・・・・・ちょっと痛かったけど」

美鈴「す、すいません・・・・・・」



投げた方は投げられた方があまり強く叩きつけられないように、腕を引っ張り上げて勢いを殺さなければならない。
それは相手が怪我をしないようにするための一つの心遣いである。
ただ今回に限っては勢いがつきすぎたために、完全に衝撃を打ち消すことは出来なかったようだ。


黄泉川「それにしてもいつの間に柔道の技を会得したんだい? アンタって確か八極拳が得意だったはずだろう?」

美鈴「たまには別のジャンルにも手を出してみたいと思いまして。 中国拳法には投げ技は少ないですし」

黄泉川「う~ん、今度こそ勝てると思ってたんだけどなぁ。 まさか投げ技まで会得してるとは・・・・・・」

黄泉川「このままだと永遠に勝てない気がするじゃんよ・・・・・・」

美鈴「銃器の扱いは黄泉川さんが上ですからね。 体術で負けてはいられないんですよ」

黄泉川「うーむ・・・・・・」



このまま勝てない状況が続いてしまうのは黄泉川としては避けたい。
別に特別な思惑があるわけではなく、ただ単純に負けっぱなしが気にくわないだけだ。
美鈴の鼻をへし折ろうとかそういう理由ではなく、敗北したまま腐っていくかもしれない自分を危惧しているだけである。


黄泉川「私も別の体術を研究してみるかねぇ・・・・・・」

先輩「お、いたいた! 探したぞ二人とも!」

美鈴「どうしたんですか先輩。 そんなに慌てて」

黄泉川「何かあったのかい?」



先輩が突然道場に入ってきたのを見て、黄泉川と美鈴は何事だろうと首をかしげる。
何か事件でも起こったのだろうか。もしそうならばさっさと着替えて準備をしなければならない。



先輩「隊長にお前らを呼び戻せって言われたんだよ。 さっさと着替えて来い」

黄泉川「隊長が・・・・・・? 一体何が起こったじゃんよ」

先輩「詳しくは知らん。 隊長が支部長に呼ばれて、もしかしたら必要かもしれないからってんで呼びに来ただけだ」

先輩「細かいことは戻ってきたら教えてくれるだろうさ。 だからさっさと着替えろ」

先輩「隊長が帰って来た時にお前らがいないと俺がどやされちまう」


黄泉川「わかったじゃんよ。 ちゃちゃっと着替えてくるから、先輩は入り口で待っててほしいじゃん」

美鈴「・・・・・・覗かないでくださいよ?」

先輩「アホか。 お前ら相手に覗きなんてしたら命がいくつあっても足りねぇよ」

先輩「そもそもお前らは外見だけで中身g」



バキィッ!



地雷を踏み抜いた先輩の顎に美鈴のアッパーカットが綺麗に直撃する。嫌な音が柔道場内にこだました。
彼はそのまま錐もみ状態で空中を舞った後、地面に叩きつけられて伸びてしまった。



先輩「」ピクピク

美鈴「ささ、この人は放っておいてさっさと着替えましょう黄泉川さん」

黄泉川「自業自得じゃん・・・・・・」

今日はここまで。
質問・感想があればどうぞ



ここの1と同じトリップを使ってss書いてる人がいましたよ
それも学園都市クロスssという点も同じで

それとも
あれも1様の作品ですか?


今の話とはあまり関係ないんだけど
早苗さんは空力使いって言うより風力使いじゃないですか?

>>216
いえ、>>1が書いているSSはこのスレだけです。トリップが被っただけですね

実は今使っているトリップの文字列ってかなり簡単なものなので、他の人と同じものになる可能性があったんですよね
実際過去にも>>1と同様のトリップを使っている人がいたようですし
これを機に変えちゃおうと思います

>>217
『空力使い(エアロハンド)』=空気の流れを操る、気流操作系の能力
『風力使い(エアロシューター)』=空気を操作する、念動力系の能力
この二つは空気を動かす力の源が念動力かそうでないかの違いだけで、あまり大きな差は無いように思えます。

前者は空気の流れを操るので、完全な無風の場所では能力を使えない
後者は空気そのものを動かすことができるので、風の無い所でも能力が使える
・・・・・・という設定も考えてみましたが、実際の所どうなんでしょうかね?

早苗さんを『空力使い』に設定したのは、原作で風雨の神=神奈子の力を借りて戦っているので、自然の風を操るイメージに近いこの能力にしました
『風力使い』は念動力で無理矢理風を生み出しているようなイメージがあって・・・・・・扇風機で風を起こすような感じ?
後、佐天さんと絡ませるためというのも理由の一つです

ちゃんとトリップ変わったかな?

これから投下を開始します






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






ガチャッ



先輩「あ、隊長戻ってたんですか? 早かったですね」

隊長「待ちくたびれたぞ。 今まで何をしていたんだ?」



扉を開けて部屋の中に入ると、隊長が腕組みをしながら自分の椅子に座っていた。
どうやらかなりの時間を待っていたようで、少し顔に皺を寄せてこちらを睨んでいる。



先輩「いくら何でも戻って来るの早すぎですよ。 支部長に呼ばれて出て行ってからそんなに時間経って無いじゃないですか」

隊長「簡単な要点だけ説明されて帰ってきた。 支部長にとっても突然の話だったみたいでな。
その対応に追われていて忙しいそうだ」

隊長「・・・・・・というか、その顔どうした? 随分と腫れ上がっているみたいだが?」

先輩「ハハハ、ちょっと転んで角にぶつけただけですよ」

美鈴「・・・・・・」


先輩の顔は片側部分が腫れ上がって熟れたトマトのような色になっている。
美鈴に殴り飛ばされて地面に叩きつけられた面が真っ赤になっていた。
ちなみに部屋に戻ってくるのが遅れたのも、彼が目を覚ますのに時間がかかったためである。



隊長「・・・・・・? まぁいい、さっさと湿布を貼ってこい」

先輩「へーい・・・・・・」



先輩は救急箱を取りに部屋を出て行ってしまった。
黄泉川と美鈴の二人はそんな彼を無表情で見送った後、再び隊長に向き直る。
そして彼に、どのような用件で支部長に呼び出されたのかを問うた。



黄泉川「で、隊長。 一体何の用事で支部長に呼び出されたじゃんよ?」

隊長「ん? あぁ、今夜行われる鎮圧作戦についての通知だよ。 しかも今回の作戦、かなり規模がでかい」

黄泉川「今夜・・・・・・? また随分と急な話じゃん」

美鈴「そのような話は全くなかったはずですよね? どうしていきなり・・・・・・」


隊長の口から告げられたことに対して二人は大いに首をかしげる。
大規模な作戦が事前に自分たちに連絡が来ることもなく、今日の夜に突然決行されようとしているのだ。
しかも『鎮圧』作戦。何処を鎮圧するのかは判らないが、かなり物騒な話になりそうである。


というよりも、鎮圧作戦自体が早々ある話ではない。
精々学園都市外部から誰かが集団で侵入でもしてきたときくらいであろうか。
新米である二人にとってはまだ遭遇したことのない事例だ。


そのような話が持ち上がっていたのであれば噂なりなんなり立つと思うのだが、今回に限っては完全に寝耳に水である。



隊長「確かに俺も驚いた。 事前の知らせも無しに作戦の決行が決まるのはそうそうあることじゃないからな」

隊長「だが、作戦の内容を考えればこれだけ急に決定したのも頷ける」

美鈴「内容? それって・・・・・・」

隊長「『非合法の研究を行っている研究施設の制圧および関係者の検挙』。 ぱっと見、大したものではないように見えるが・・・・・・」

黄泉川「非合法の研究・・・・・・つまりは・・・・・・」

隊長「学生を利用した人体実験と言ったところか。 久しぶりだな、こういう話は」

美鈴「・・・・・・!」


人体実験。しかも学園都市で認められていない物と来た。


人体実験自体はそれ程珍しい物では無い。
学園都市において、学生に対して行われている能力開発のカリキュラムそのものが既に人体実験なのだから。
しかしそれらの能力開発で行われる投薬や催眠は、幾重にも渡る臨床実験を行った上で安全であると立証された物だ。
何が起こるのかもわからない手段を使って博打のようなことをしていては、国際社会からの非難は避けられないであろうし、
何より学園都市外部から『被験者(学生たち)』を集めることが非常に困難となる。


それは効率的な話ではないし、今の学園都市はまだ発展途上だ。外部からの支援を完全に切断しつつ維持していけるほど成熟しきってはいない。
能力者が十分に揃うくらいの時間は必要であるため、土台が完全に安定するまでには後10年は必要だろう。
今の状況で自らのライフラインを断ち切るような真似をすれば、崩壊とまでは行かないにしても成長に鈍りが生まれることは確かだ。


このように、学園都市の先をきちんと見据えることが出来るまともな研究者であれば、
それを阻害する原因となりうるような研究は慎むはずなのだ。










――――『まとも』な研究者であれば。


――――『まとも』な研究者であれば。



隊長「最近はこの手の事件は形を潜めていたが、とうとうその段階に来たということだな」

隊長「能力者の数は増加の一途を辿っている。 研究者にしてみれば実験に使える人間が増えたと言うことだ」

隊長「数が増えりゃあ枯渇の心配は無くなる。 失敗して使い物にならなくなったとしても、
いくらでも補充が利くという訳だな」



超能力の研究には超能力を発現し、それを扱うことができる人間が必要不可欠である。


過去に於いては超能力を満足に扱うことができる子供の数が少なかったために、
貴重な被験者を失わないよう慎重に取り扱う必要があった。
しかし超能力者の数が増大し、今後も増加していくと考えられる今となっては、
そんな無駄な気遣いをする必要など全く無くなったということなのだろう。



美鈴「・・・・・・こういった作戦に隊長は参加したことあるんですか?」

隊長「あぁ、何度かある。 初めて参加したのは俺が『警備員』に入って1年くらい経ったときだったか」

隊長「今回と同じように非合法の実験が行われているって事で駆り出されたのさ」


隊長は当時のことを思い出し、苦々しげに顔を歪めながら語る。
相当酷いことがあったのだろう。でなければここまで不快の感情を表に出すことはあるまい。
黄泉川達が関わることになる作戦も、彼が経験したことと同じような物なのだろうか?



隊長「その時は俺も若かったからな。 子供達を犠牲にしようとする奴等に対して裁きの鉄槌を下そうと張り切っていたものさ」

黄泉川「・・・・・・」

隊長「だがな・・・・・・現場の光景を見た途端、そんなちっぽけな考えなんて簡単に消し飛んじまった」

隊長「正直に言うと、その作戦に関わってしまったことを心底後悔したよ。 
あんな物を見るくらいなら始末書を書く方がマシだと思うくらいにはね」

隊長「それからしばらくは碌に食事も喉を通らなかった」

美鈴「何を・・・・・・見たんですか?」

隊長「それは言えないな。 というよりも、あれは実際に見た方がお前達も十二分に理解できるだろうさ」



隊長はその作戦に参加して、一体何を見たのだろうか?
彼が拒食症になるほどの光景。それを自分たちも目にすることになるのだろうか?
それを前にして自分たちは・・・・・・正気を保っていられるのか?



隊長「・・・・・・怖いか?」



黙りこくっている二人を見て隊長は声をかけて様子を見る。
自分が話したことは本当のことなのだが、それが原因で怖じけ付いてしまったのではないか。
これからこの二人が立ち向かう試練を教えて、それに対する覚悟をしてもらおうと思っていたつもりが、
それがかえって彼女達の戦意を奪ってしまったのではないのかと心配したのだ。


しかし黄泉川と美鈴は『警備員』になってまだ日が浅い。
もし今回のことが原因で出来たトラウマが長引けば、彼女達の『警備員』としての芽を潰すことにもなりかねない。


幸い今回の作戦は、若手の『警備員』には参加に対する拒否権がある。
おそらく制圧する研究所で行われている実験の内容が、この処置を決定した要因になっているのだろう。
どんな実験なのかは詳しく知らされてはいないが、新人には荷が重いと判断できる内容であることは想像できる。
彼女達の今後を考えるのであれば、今回は一旦彼女達の参加を見送るのも一つの手だ。


隊長は今回の作戦に対して、参加を拒否できることを二人に教えようとするが・・・・・・


黄泉川「・・・・・・そんなことはないじゃんよ。 子供達を守るのが私達『警備員』の役目じゃん」

黄泉川「一々びびってたりなんかしたら、この役目は務まらないじゃん」

美鈴「そうですよ。 私達は何があっても子供達を守る覚悟をして『警備員』になったんです」

美鈴「何が起こったって受け入れてみせますよ」

隊長「そうか・・・・・・安心した」



彼女達の真っ直ぐな目を見るに、その心配は無用だったようだ。
それが彼女達の勇気から来る物なのか、それともあの惨状を知らない事による無知から来る物なのかは判らない。
だが今の所は弱腰になったりしている様子は見受けられないため、作戦に支障をきたすようなことはないだろう。



先輩「う~、まだ痛い・・・・・・」ガチャッ

隊長「ようやく戻ってきたか。 遅いぞ」

先輩「いや~ちょっと救急箱探すのに手間取っちまいましてね。 すんません」


腫れた顔の治療を終えた先輩が部屋に戻ってくる。
左の頬に大きな湿布が貼られており、全体の四分の一の面積を占めるほどだ。明らかに使いすぎである。
さらにはテープが不格好な形であちこちに貼り付けられているために、尚更痛々しい風貌になってしまっている。



黄泉川「その湿布の大きさはちょっと大げさ過ぎないかい?」

先輩「俺のすんばらしい顔を早く直すために必要なことだぜ?」

美鈴「自分で言いますか・・・・・・というか、そんなことをしても意味はないはずですよ?」

美鈴「それじゃあ湿布の無駄遣いじゃないですか」

先輩「気分の問題さ。 病は気からって言うだろ? こうやって余分に貼って早く治ると思い込めば・・・・・・」

美鈴「治るわけ無いでしょ!」

黄泉川「その理屈はいくら何でもおかしいじゃんよ・・・・・・」


独自の超理論を披露して自分の行いの正当性を主張する先輩。
確かに心と肉体には密接な繋がりがあり、心を強く保つことで癌などの重病も快方に向かいやすくなると言われているが、
果たして、ただの打撲にもその効用があるのかと言われると少し疑問である。
第一、学園都市製の医薬品を使えば大抵の負傷はものの数日で完治してしまうのだから、
民間療法のようなことをしなくても十分に足りることだと思うのだが。



隊長「コントはそこまでにしておけ。 黄泉川に美鈴、お前らはそろそろ巡回の時間だろう?」

隊長「支度をした方が良いんじゃないのか?」

黄泉川「そうだったじゃん。 ほら美鈴、早く一緒に準備しに行くじゃん」

美鈴「それもそうですね。 いい加減先輩のボケにもツッコミきれなくなってきたし」

先輩「なかなかのツッコミのキレだったぞ? お前の将来は有望だな!」

美鈴「そんなことで褒められても嬉しくありません!」


そう言い捨てて美鈴はスタスタと足早に部屋を出て行ってしまった。
その後に続いて黄泉川も一緒に部屋を去る。その様子を見て、先輩はやれやれといった感じで溜息を漏らした。



先輩「手厳しいねぇ。 まぁ、気を紛らわせることは出来たかな?」

隊長「その必要は元々無かったと思うぞ? 私の話を聞いても怖じ気づいたようには見えなかったしな」

先輩「げ、マジっすか? じゃあ俺の好感度がだだ下がりしただけって事かぁ・・・・・・」



彼としては隊長の過去話を聞いたことでブルーになっていた雰囲気を、ジョークをかますことで和ませようと画策していたようだが、
そもそもそんなことをする必要性は全くなかったのである。つまりは、彼の行動は自らの評価を引き下げただけだった。



隊長「で、今回の作戦の概要を聴くか?」

先輩「その必要はないですよ。 というか隊長、俺が部屋の外で聞き耳立ててたの知ってたでしょう?」

隊長「まぁな。 俺の位置からはお前の姿が丸見えだったからな」


隊長「何ですぐ中に入ってこなかったんだ? 俺が過去の話をする前にはもういただろ?」

先輩「いや、隊長の話を聞いてあの二人がどんな反応をするか興味があったんでね」

先輩「もっと怯えるのかと思ってたんですが、結果はごらんの通りというわけです」

隊長「俺達の会話が聞こえてたんならあんなギャグを飛ばす必要はなかったんじゃないか?」

先輩「そこはほら、もしかしたら強がってるだけかも知れないでしょ? 俺からは二人の顔は見えなかったし」

隊長「・・・・・・まぁ、そういうことにしておいてやる」



この男のことだから、例え二人が通常通りでもお構いなくネタに走るであろう。そういう性格の人間だ。
支部のムードメイカーのような存在ではあるが、その力を間違った場面で発揮しているようでならない。



先輩「にしても、こういう話って本当に久しぶりですよねぇ。 この前は半年以上前でしたっけ?」

隊長「そうだな。 あの時は俺達の支部の人員だけで済むくらいの規模だったが・・・・・・」


先輩「今回はどのくらい集まるんですか? あの時は確か20人くらいでしたよね?」

隊長「この支部を含めて4つ、人員にすれば80人くらいといったところか」

先輩「うへぇ、4倍ですか。 そんなに集まったら行動に支障が出るんじゃ・・・・・・」

隊長「別に一斉に突入する訳じゃない。 今回の施設はかなりでかいからな。 支部ごとに四方に分かれて突入する」

隊長「まぁ、細かい話は夜になればわかるだろうよ」

先輩「そうですか。 それじゃあもしもの時のために心構えでもしておきますかねぇ・・・・・・」

先輩「碌でもないものを見ちまったときに動揺しないようにね」

隊長「そうだな・・・・・・始めた参加した時のお前みたいにならないようにしないとな」

先輩「それは早く忘れて欲しいです・・・・・・」



攻略の対象となっている研究所でどのような実験が行われているのかの情報はないが、それ相応の心構えはしておいた方が無難だ。
非合法の人体実験という時点でかなりの精神的な損傷を被ることになるのは確実だ思うが、
心構えの有る無しで、それに対峙した時の精神状態は大きく変わるだろう。


しかし黄泉川と美鈴は今回のような作戦に参加したことが無いために経験が無い。
つまりどんな心構えをすればいいのかわからないまま、作戦に参加することになる。


そんな状態で現場の光景を目にした時、彼女達はどうなるのだろうか?
研究所で行われていた実験が『比較的まともな部類』に含まれるものであったのならまだ良い。
だが、もしその実験が悲惨極まりないような内容だったとしたら・・・・・・













あの二人はかつての隊長と同じように、この作戦に参加したことを後悔することになるだろう。










今日はここまで

質問・感想があればどうぞ

チルノ  →完全冷凍   ルーミア →暗黒空間
リグル  →蟲虫扇動   ミスティア→狂気伝歌
バカルテットはこんな感じか
字面だけ見るとめちゃくちゃ強そうだな
ジョジョネタが多いからルーミアの能力がヴァニラ・アイスに見える



・昔の咲夜さん(rspの関係者とは限らないけど)
・警備員にトラウマを残すレベルの悲惨な実験

何故だろうか
そういう同人は探せばありそうな気がしたよ

妖夢の能力がわかんなくて調べてみた

剣術を扱う程度の能力

能力じゃないし学園都市に登場したらただのスキルアウトじゃないですかコレ

>>236
大層な名前をしておきながら実際の所は大したことない・・・・・・のか?
まぁそんな風ならバカルテットらしいと言えますね

>>237
同人でも咲夜さんの過去話は暗いものが多い
記憶喪失だったり、能力を疎まれて人間から迫害を受けていたり、吸血鬼と殺し合いしてたり・・・・・・

>>238
そんな貴方に魔術サイド
・・・・・・実際の所、みょんは学園都市側に出すのは難しい
彼女の関係者の殆どが魔術寄りという理由もありますが、
剣術を扱えるというだけでは能力者としては・・・・・・

『幽体離脱(アストラルボディー)』とかにしますか?半霊的な意味で

これから投下を開始します






――――夜 PM7:00






支部長「・・・・・・全員集まったか?」

「確認作業終わりました。 全員揃っています」

支部長「そうか。 ・・・・・・これから今作戦の合同会議を始める!」



支部長が部屋にいる全員に届くように声を張り上げて宣言する。


ここは警備員第73活動支部の施設内に存在する大会議室。
その部屋で支部に駐在する『警備員』全員が参加する合同会議が始まろうとしていた。
一室は『警備員』達が発する熱気により気温が上がっており、さらには緊張による重苦しい雰囲気が漂っている。
年に一度あるかも判らないような大規模な制圧作戦だ。年配も若手も皆同様に張り詰めた顔をしていた。



美鈴(みんな緊張しているみたいですね。 ものすごい威圧感です)

黄泉川(普段おちゃらけてる先輩も真面目な顔をしてるじゃん。 私達も気を引き締めないと)



周りの様子を盗み見ながら、黄泉川と美鈴は今まで感じたことのない空気に圧倒されていた。
彼女達は『警備員』になってからそれ程時間は経っていない。故にこのような大規模な制圧戦に参加するのは初めてのことであり、
普段とは全く違う『警備員』達の雰囲気に気圧されてしまうのは当然のことだろう。


支部長「先日、とは言っても昨日のことだが、本部からこの第7学区内で未認可の実験を行っている研究所の存在が確認されたため、
直ちに対処するようにとの通達を受けた」

支部長「報告によると、第7学区○○番地に所在する××研究所で超能力の発現に関する研究が行われていたそうだが、
その研究の内容に不審な点が見られたことから調査を行ったところ、『置き去り』を用いた人体実験が行われていることが判明した」

支部長「そこで急遽、我々の支部と第76、第82、第93活動支部が協同して、該当する研究所の制圧作戦を展開することになった」

支部長「この作戦はかなり大規模になる。 気を引き締めてかかるように」



支部長の演説が終わると、入れ替わりで今度はこの作戦の指揮官が壇上に上がった。


彼はこの第73活動支部の中でもかなり年配の『警備員』である。
厳つい顔をしているので一見怖そうに見えるが、実際は面倒見が良いので若い『警備員』の中では好印象が持たれている。
今回のような制圧戦は何度も経験してきているので、自然と指揮官の白羽の矢が立ったのだろう。


指揮官「これから作戦内容を説明する。 時間の関係上、一度しか言わないから聞き逃さないように」

指揮官「今回の作戦は先ほど支部長が仰られたように、我々を含めた4つの支部が参加することになっている」

指揮官「何故複数の支部が参加することになったのかは、対象となっている研究所が、
学校が犇めくこ第7学区の中では比較的大きい敷地面積を持っていることが理由だ」

指揮官「そのため、安全かつ迅速な制圧のためには少なくとも100人規模の人員が必要だと判断した」

指揮官「他の支部と連絡を取り合ったところ、第76活動支部から23名、第82活動支部から28名、
第93活動支部から25名が参加できるとのことだ」

指揮官「そこに私達31名を合わせて、合計107名の人員でこの作戦は動くことになる」

黄泉川(107名か・・・・・・よく考えてみると異常な数じゃん)

美鈴(規模が大きいにしても、ちょっと多い気がしますね。 他に何かあるんでしょうか?)



研究所の敷地が広いというのは指揮官の話から十分わかるが、それでも100人という数は少し多い気がしないでもない。


学校施設が多い第7学区においては、超能力を扱う研究所が学校に付属している場合が多い。
超能力を研究に必要な学生を確保するのであれば、研究所と学校は比較に近くにあった方が余分な手間がかからなくて済むからだ。
さらには研究所を増築する際は学校の敷地の余った部分を使うことが出来るので、施設の規模を大きくしやすい。


だがそれ以外の研究所にとっては、建造物が乱立していて土地が少なくなっている学園都市では早々規模の拡大することは出来ない。
研究を目的とした施設が密集しているような区画であればある程度融通は利くが、ここは公共施設が多数存在する第7学区。
まさかそれらを潰すことなど易々とできるはずもないため、元の規模より大きくなりようがないのだ。


この作戦の対象となっている研究所は、そういったものに分類されている施設のはずだ。
その建物を制圧するのであれば多くても50名程度あれば十分のような気もする。



美鈴(『警備員』が100人も必要なほど厳重な管理がされているのでしょうか?)

黄泉川(可能性ならいくらでも考えられるじゃん。 とりあえず話を聞かないと・・・・・・)

指揮官「この人数は少し過剰であると思っている人は多いだろう。 だが、これにはちゃんとした理由がある」

指揮官「確かに、一般の研究所であればこの人員の半分以下で済む」

指揮官「数が増えると機動力が削がれる。 制圧するならできるだけ少人数で行動した方がいい」

指揮官「だが今回の場合、少人数では戦力が不足するであろうと判断できる情報が入っている」

指揮官「――――『駆動鎧(パワードスーツ)』の存在だ」


その言葉を聞いた『警備員』の間からどよめきが起こる。


『駆動鎧』は着衣型の身体補助装置であり、服のように着込むことで人間の腕力や脚力の強化、もしくは動作を精密化させることが出来る。
ここ最近急速に開発が進んでいる兵器の一つであり、将来的にも有望な産業になると想定されている代物だ。
似たような技術に『義体(サイボーグ)』があるが、こちらは構造上における耐久性が問題となっており、
『駆動鎧』の分野よりは積極的には研究が進められていない。


『駆動鎧』はまだ発展途上の兵器ではあるが、それを差し引いたとしても相当な脅威であることは確かだ。
人間に近い機動力を持ち、銃器、場合によっては対装甲車両用の機関銃が装備されている。
なにせ学園都市の最先端の技術を動員して制作されているのだ。そんじょそこらの重火器よりもかなり厄介な兵器である。


そんなものが何機も備え付けられていたとしたら・・・・・・最悪死者が出ることも覚悟しなければならない。



黄泉川(でもまだ実用段階には至ってないと聞いていたけど?)

美鈴(動かすには問題ないですけど、起動時間がまだ短いので普及にはもう少し時間がかかるとは言ってました)

黄泉川(多少の不便は承知の上なのかねぇ? どちらにせよ危険であることは確かじゃん)



現在の技術では『駆動鎧』用の装備を全て装着し、さらにフル稼働させることが出来るのは精々30分前後が限界。
それ以上動かしたいのであれば、一部の機能は取り外す他はない。
『駆動鎧』のポテンシャルを全て発揮できるようになるまでにはまだまだ時間がかかる。


指揮官「配置されている『駆動鎧』の数は8機。 出入り口に2機、その他は施設内を巡回しているものと考えられる」

指揮官「『駆動鎧』はかなりの脅威だ。 一ヶ所に集中されると制圧が困難になる」

指揮官「そのような事態を防ぐために、今回は4方向から同時に攻略を開始して『駆動鎧』の分散を図ることにした」

指揮官「そして『駆動鎧』を引きつけている間に別個の隊が内部に侵入して制圧することになっている」

指揮官「おそらく向こうの主力は8機の『駆動鎧』だ。 その他にも武装している人間はいるだろうが、
我々の装備であれば問題なく対処できるだろう」

指揮官「もちろん『問題なく』とは言っても想定外の事態は十分に考えられる。 逐次柔軟に対応していくように」

黄泉川(『駆動鎧』を如何に引きつけていられるのかがこの作戦の肝ってところかね)

美鈴(何処か一つでも破られればその分だけ他に負担がかかる。 最悪内部にいる隊が全滅して制圧戦の続行が不可能に・・・・・・責任重大ですね)



制圧班は身軽に動き回れるように、必要以上の装備は身につけないはずだ。
もしそこに『駆動鎧』が現れたりでもしたら、為す術無く蜂の巣にされてしまうだろう。
それを避けるためにも、『駆動鎧』の対処に当たる隊は絶対に全滅は許されない。


指揮官「では、これから各隊の役割を発表する」



指揮官は今作戦の役割を各部隊に割り当てていく。黄泉川と美鈴の隊は内部制圧の担当になった。
配属されたばかりの二人がいる隊では、『駆動鎧』の相手をするのは荷が重すぎると判断したのだろう。
その証拠に、他の内部制圧の担当になった隊にも必ず一人は新入りがいるようになっている。



美鈴(どうやら施設内部を制圧する担当になったみたいですね)

黄泉川(制圧もそうだけど、一番の目的は被害者の保護じゃん。 子供達を無傷で救えるかは私達にかかっているじゃんよ)



『駆動鎧』の相手よりは楽だと言うが、子供達を守りながら施設を制圧するのは難しい。
子供達は違法な研究の当事者なのだ。発見に手間取ると口封じのために殺される可能性もある。
例え発見したとしても、移動にもたついていると追っ手がやってくることになるだろう。
施設内に突入したら手早く彼らを見つけ出し、施設から連れ出さなければならない。


指揮官「各隊の役割については以上だ。 では各自、直ちに装備を調えて正門前に集合せよ」

一同「「「はいっ!」」」

黄泉川「行くよ、美鈴」

美鈴「わかってます」



作戦の準備をするために皆が一斉に部屋を後にしていく。
黄泉川と美鈴もその流れに乗り、装備を調えるために部屋へと向かっていった。


これから学園都市の闇が蠢く長い夜が始まろうとしている。
その結末が如何様なものになるのか、今はまだ誰も知らない。

今日はここまで
質問・感想があればどうぞ


咲夜さんって公式で十代前半なんだよね
能力のせいで大人びて見えるとか



昔話や回想シーン中に主人公達の出番がなくなるのはある意味当然なんだけど‥

とりあえず
これでやっと話が進むのか
待ちくたびれたぜ

あと‥このスレの主人公って誰だっけ?

>>251
二次創作では切り裂きジャックだったり月人だったり
遅くても近代(19世紀初頭)から生きている設定が多い
でもそう考えると、咲夜さんはパッチェさんと同じくらい歳を取っている計算になる

>>252
一応群像劇みたいなものなので、特定の主人公はいない・・・・・・のかな?
今やってる過去編の主人公は黄泉川さんですけどね

これから投下を開始します






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






第7学区 とある研究所――――



「うぅむ・・・・・・この方法では望み薄か・・・・・・」



とある研究所の一室。
その部屋で一人の研究者がパソコンのモニターに向かって座りながら呻いていた。
画面には実験で測定したデータがいくつも映し出されている。
一般人には理解できないような単語がずらりと並んでいるが、学園都市で研究に携わっている人間であれば、
当たり前のように用いているものなのだろう。


彼は暫くの間そうしていたが、やがて眠気を覚ましのコーヒーを飲むために席を立ち上がる。
徹夜の作業が珍しくない彼にとって、コーヒーは手放すことの出来ないアイテムである。
学園都市製のエナジードリンクを試したこともあるが、あちらは彼にとっては少し効果が強すぎる代物だった。
やはり昔から慣れ親しまれてきた物の方が人の体に良く合うらしい。


研究者(今日まで実験の被験者となった人間の総計は114人。 内68名は能力が発現することなく死亡)

研究者(39名は能力が発現したものの不安定な状態になり、能力が暴走し廃人化、ないし死亡した)

研究者(7名は安定するも、その内5名はいずれもありきたりの超能力、もしくはレベルが低いために目標に到達したとは言い難い)

研究者(残りの2名は一応成功例と言えるから、この実験が完全な無駄骨というわけではないが・・・・・・成功に対して失敗が多すぎる)

研究者(この調子では研究ノルマを達成するのは不可能だな。 どうしたものか・・・・・・)ズズー



研究者は一人、熱いコーヒーを口に含みながら考えを巡らせる。


この研究所で掲げている目標は『珍しい超能力を意図的に発現させる』こと。
稀少な能力を量産させることが出来れば、その能力自体に対する研究が捗るだけでなく、
研究成果を応用して新たな分野を開拓することも出来る。


さらに超能力とそれを発現するための方法との間に存在する因果関係を知ることが出来れば、
今まで観測されたことのない、全く新しい超能力を生み出すことが可能になるかもしれない。


そのような考えからこの研究が始まったのだが、結果はごらんの通り。
未だに大きな成果を出すことなく、無駄に『被験者』を消費するだけになっている。


『被験者』は『置き去り』から補充されているため、その気になればいくらでも代わりが利くが、
だからといって悪戯に大量消費をするのはあまりよろしくない。
このままの状態が続けば、研究方法に関する根本的な見直しが必要になるだろう。



研究者(やはり超能力開発というのは思い通りには事が運ばないものなのだな)

研究者(理論通りに行かないことが多すぎる。 やはり人の脳というのはまだまだ未知数ということか)

研究者(これが兵器の開発であれば、既に成果が出ているはずなのだがな・・・・・・)

助手「うぃーっす。 先生、保護観察対象になっているS-16番のデータ、記録し終わったッスよ」

研究者「ああ、ご苦労。 見せたまえ」



研究者の助手が紙束を持って部屋に入ってきた。つい先ほど頼んだデータ採取の仕事を終えたらしい。
助手から渡されたデータが記載された紙を片手に、コーヒーを飲み続けなから情報を整理していく。


保護観察対象となっているのは数少ない二つの成功例の内の片割れだ。
能力は安定しているのだが、精神面で未熟な傾向が見られるため、出来るだけ刺激しないように拘置所に入れて様子を見ている。
せっかくの成功例に何かトラブルが発生でもしたら、ただでさえ難航している研究がさらに遅れることになってしまう。



研究者「・・・・・・ふむ。 今の所変化は見られないようだな。 数値も安定しているようだ」

助手「この調子でいけば精神の不安定化による暴走の心配はなさそうッスね。 ようやく安心できるということですか」

助手「久しぶりに観察部屋の掃除をしなくて済みそうッス」

研究者「ああ、壁にこびりついた脳漿をはぎ落とす作業をしなくていいということだ。 喜びたまえ」

助手「あれ落とすの結構疲れるんッスよね。 そうでなくても床の血を洗い流すのに苦労してるんですけど」

研究者「床と壁紙を汚れが落ちやすいような素材に張り替えるように要請してみるか?」

助手「いや、そんな理由で経費は下りないでしょ。 出来るんだったらそうしてもらいたいッスけど・・・・・・」


能力の暴走の仕方は様々であるが、最も酷いのは能力が許容量を超えた出力で一気に解放されたときである。
その力に肉体が耐えることが出来ず、人体が欠損、もしくは爆散という結果になる。
爆散した場合は当然皮膚やら肉片やらが周囲の空間に飛び散ることになり、
ホラー映画も真っ青な、スプラッタな光景が辺り一面に広がることになるのだ。


だが彼らにとっては『その程度のこと』は日常茶飯事であるため、それを見たとしても動揺するようなことは無いのだが。



研究者「S-16番はこれで良いとして、U-09番はどうしている?」

助手「アイツですか? さっき見たときは部屋にいなかったんで、何処かほっつき歩いているんじゃないッスかね?」

研究者「またか・・・・・・未だにここの地理を把握できていないというのに、行動力だけはある奴だな」

助手「事あるごとに迷子になってますからねアイツは。 現状でもレベル4、もしかしたらレベル5になれるかもしれないなのに・・・・・・」

助手「今までいろんな能力者を見てきましたけど、あそこまで馬鹿な奴は見たことが無いッスよ?」

研究者「まぁ、それだけ制御しやすいとも言えるがね。 この実験に耐えられているのもそのおかげだと言える」

助手「それは言えてるッスね。 そうじゃなきゃ精神をまともに保ってなんかいられないっスよ」


能力発現のために行われる膨大な種類の薬剤投与と様々な洗脳。さらには外科手術による脳の加工。
これだけの過酷な環境に晒されながらも正気でいられるのは、彼女の元々の素質によるものなのか・・・・・・。
もしかしたら既に狂っていて、それが一周した結果、まるで正気であるかように見えているだけなのかもしれない。



研究者「ふむ・・・・・・能力のレベルと知能は比例するのが、超能力を開発する者達の間での定説だが、
U-09番を研究すればその定説を覆すことが出来るのかもしれんな」

助手「アレは例外中の例外って奴じゃないッスか? 調べた結果が一般に当てはなるのか甚だ疑問なんですけど」

研究者「新しい発見というのは、そういう例外や失敗などの既存の枠から外れた事象から導き出されるものなのだよ」

研究者「アレクサンダー・フレミングによるペニシリンの発見のようにね」

助手「まぁ・・・・・・それもそうッスけど・・・・・・」



ペニシリンはブドウ球菌の研究していた際に、培地に混入した青カビから発見された化学物質である。
青カビの周囲ではブドウ球菌が繁殖していなかったことを気にかけたフレミングがその原因を調査した結果、
青カビが産生する物質に細菌を溶解する作用があることを突き止めた。これがペニシリンの発見である。
もし彼が青カビの生えた培地を失敗作として処分してしまったとしたら、
ペニシリンは見つかることはなく、感染症の治療技術の進歩は大幅に遅れることになったはずだ。


研究における失敗は時として、大きな成功をつかみ取るチャンスにもなり得るのだ。
もちろんそれを嗅ぎ分ける嗅覚、つまりその事象に対する知識がなければどうしようもないのだが。


ビィーッ! ビィーッ! ビィーッ!



助手「うぉっ!? ビックリしたぁ!」

研究者「このサイレンは・・・・・・」



静かな室内に突如、警報のサイレンがけたたましく鳴り響く。
助手は突然のことに飛び上がるが、研究者は静かに机の上に飲みかけのコップを置いて周囲の警戒を始めた。


警報が発令される原因には主に二つの理由が挙げられる。
一つが施設内部において発生したトラブルによるもの。主に管理ミスによる生物災害や『被験者』の能力の暴走だ。
生物災害は言わずもがな、凶悪なウィルスや細菌が周囲に拡散することになり、大規模な損害を生じさせる。
能力者の暴走は規模にもよるが、運が悪いと施設が丸ごと吹っ飛ぶような事態になりかねない。
どちらの場合も早急な対処が必要とされる事例だ。


そしてもう一つが――――


研究者(超能力に関わる実験は、今日の分は予定通り終了している。 実験による能力者の暴走は考えにくい)

研究者(そしてこの研究所には細菌やウイルスを管理している場所は無い)

研究者(ならば・・・・・・外部から何者かが侵入したということか。 研究成果を掠め取ろうとする不届き者か? あるいは・・・・・・)



プルルルル、プルルルル・・・・・・



続いて部屋に備え付けてある電話が、まるでサイレンの音を打ち消すかのように鳴り始める。
研究者は不安そうにそれを眺める助手を尻目に、落ち着いた様子で受話器を取り上げた。



研究者「私だ」

『ああ、先生ですか! 大変です! 外部から侵入者が!』



電話の向こう側から憔悴しきった声が聞こえて来た。おそらく末端の研究員だろう。


研究者「そんなことは既に把握している。 この施設に押し入ろうする馬鹿は一体誰かね?」

末端『『警備員』です! 施設の四方から入り込んできています!』

助手「・・・・・・!」

研究者「ほう、『警備員』か。 一体どこから情報を嗅ぎつけたのか・・・・・・状況はどうなっている?」

末端『今『駆動鎧』が対応に当たっていますが、数が多すぎます! このままでは内部に入り込まれるのも時間の問題です!』

研究者「ふむ・・・・・・」

末端『どうしますか!?』

研究者「『駆動鎧』についてはそのままで良い。 君たちはデータの処分をしたまえ。 この研究所は破棄する」

末端『えぇ!?』

研究者「『警備員』に見つかった時点でアウトだ。 仮に殲滅したとしても、次は今以上の物量で押し潰されるのがオチだよ」

研究者「全てのデータを処分し終わったのなら逃げ出しても良いぞ。 では私はこれからやらねばならないことがあるので失礼する」

末端『でも逃げ出すにもそんな隙間なんて――――』プツッ


受話器から聞こえてくる声を無視して強制的に通話を終了する。
いまから重要なデータを本部に送り届けなければならないのだ。下っ端のことなど一々気にしてはいられない。



助手「いいんッスか? 全部のデータの処分なんかしてたら逃げ切れないんじゃ?」

研究者「彼らがどうなろうと知ったことではない。 あの程度の輩であれば代わりなどいくらでもいる」

研究者「それに大切な情報は全て私自身が保有しているからね。 そしてそのことを知っているのは私と君だけだ」

研究者「彼らを捕まえて得られるものなど高が知れているのだよ」

助手「ま、それもそうッスね」



本部の所在に繋がるような情報は全て、施設の統率者である彼が保有している。
つまり、彼さえ無事であれば他がどうなろうと大した問題では無いのだ。
ただ、貴重な『被験者』を捨て去ることになる事態だけは避けたい。


助手「で、どうするんスか? さっさと『被験者』達を連れて脱出しますか?」

研究者「いや、U-09番を至急呼び寄せろ。 『警備員』の相手をさせる。 奴の力を見る絶好の機会だろう」

研究者「それにデータを纏めるにも少々時間がかかるからな。 その間に奴等がここまでこないとも限らん」

助手「それはかまわないッスけど、『駆動鎧』を相手にした上でここまでたどり着けますかね?」

研究者「何を言っているんだ。 『駆動鎧』が相手している連中で全部だと思っているのか?」

研究者「別の部隊が既に入り込んできているかもしれん」

助手「・・・・・・な~るほど」

研究者「わかったなら早くしろ。 後、U-09番が危険になったら君も出たまえ。 みすみす失うのは避けたいのでね」

研究者「準備が終えたらこちらから連絡する。 地下から繋がっている58番大型下水道を利用して脱出するぞ」

助手「はいよ~。 まったく人使いが荒いんですから・・・・・・」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






『警備員』による研究所制圧作戦開始より少し前。 研究所のとある通路――――



「むぅ・・・・・・ここどこだろ?」



灰色の壁で囲まれた殺風景な道を一人の少女が歩いていた。人がいないために足音が周りに反響して遠くまで響いている。
黒のロングヘアーに大きなリボンを頭頂部に結んでいる彼女は、きょろきょろと挙動不審に辺りを見渡しながら歩を進めていく。


胸には『U-09番』と黒地で太く書かれた名札がピンで留められている。
彼女は時たま道を右へ曲がったり左に曲がったり、あるいは来た道を後戻りしたりして行動に一貫性がない。
そんなことをしているので同じ場所をぐるぐる回り続ける結果になってしまっている。


とどのつまり、彼女は迷子なのである。


彼女は最近、代わり映えのしない能力開発がずっと続いていることに少々嫌気が差してきていた。
なんでも能力や精神が安定しているかを検査するためらしいのだが、そんなことを言われても自分は一切体の不調を感じていない。
そのため彼女は研究者達の心配事はただの杞憂であり、全くのいらぬお節介だと思っていた。


それよりだったら、能力測定での自分の能力を使った実験の方が遥かに面白い。
その中でも特に、能力の出力の測定は彼女のお気に入りの項目だ。
用意された巨大なコンクリートの塊を跡形もなく吹き飛ばすあの快感は病みつきになる。
今まで粉砕することが出来たのは、縦、横、高さが10メートルの正方形のブロック塊だ。
これでもかなり力をセーブしているのだから、本気を出したらどうなるか想像も付かない。


だが、出力を全開にすると発生した爆発に能力者本人が巻き込まれてしまうことが既にわかっており、
研究者から能力を限界まで行使することは禁じられているため、本気を出したことは一度もない。
その決定は彼女の意志とは真逆のものであったため、さらに不満を蓄積させることになっていた。


U-09番(おもしろいことでもないかな~と思ったけど、結局何もなかった・・・・・・)



その結果、彼女は自身のフラストレーションを解消するために、自分に割り当てられた碌に遊べる道具もない退屈な部屋を抜け出し、
何か面白い出来事でも起こってはいないかと施設内の探索に乗り出したのだ。


しかし研究一筋の人間しかいないこの場所で娯楽になるような物などあるはずもなく、
見つけた部屋の中に入っては自分の興味を引く物でも転がっていないか探し回り、
何もないことに気づいて落胆しながら部屋を出るという行為を何遍にも渡って繰り返していた。


それに夢中になっている内に、自分がどのルートを通ってここまで来たのかわからなくなってしまい、
足りない脳みそに断片的に記憶された朧気な景色を頼りに歩き回った結果、完全な迷子となったというのが今の状況である。


U-09番(うぅ~・・・・・・早く戻らないと叱られちゃうよ・・・・・・)

U-09番(でも道を教えてもらいたくても近くには誰もいないし、歩いている内になんだか周りが暗くなってきたし・・・・・・どうしよう)



天井にLEDの蛍光灯が備え付けられてはいるが、今の時間帯は人も少ないために光度は控えめだ。
さらに彼女の知らないうちに化学薬品を一括保管している区画に入り込んでしまっているため、
人の往来がさらに少なくなり彼女の孤独感を尚更煽ることになっている。



U-09番「・・・・・・?」



ふと、左に現れた通路を見てみる。
その道にはもはや明かりすら付いてはおらず、先は闇で黒く塗りつぶされた空間が広がっている。
そこに入り込んでしまったらもう二度と戻っては来られないような、得体の知れない恐怖を少女に与えた。


U-09番(・・・・・・来た道を戻ればちゃんと帰れるよね?)



現在進行形で迷子になっているのに帰れるかどうかは甚だ疑問だが、
とにかくこの場から逃げ出したいというのが今の気持ちのようだ。
基本脳天気な彼女が何かを恐れることなどほとんど無いのだが、やはりそこは年相応の子供らしく、暗いところは苦手らしい。
自分の能力を使って明るくしても良いのだが、彼女の能力は力の加減が難しい能力である。
下手をすれば、この辺り一帯が火の海になってしまうかもしれなかった。


多少あの通路に後ろ髪を引かれているような気がしながら、踵を返して急いで立ち去ろうとすると、



ビィーッ! ビィーッ! ビィーッ!



U-09番「うにゅ!?」ビクゥ!



静寂の中にあった通路にサイレンの音が響き渡る。
初めて聞いたというわけではないが、静かなところに急に鳴り始めたために心臓が飛び出すかと思うほど驚いてしまった。


U-09番(・・・・・・このサイレンって、たしか危険な事件が起きたときに鳴るんだよね?)



少し落ち着きを取り戻した後、オーバーリアクション気味になった自分を少し恥ずかしく思いながら彼女は考える。
サイレンが鳴るのは確か能力者が暴走したときの場合が殆どであったはずだ。
他にも理由はあるらしいが、彼女は能力者の暴走以外でサイレンを聞いたことがないためそれ以外の理由は知らない。



U-09番(は、早く帰らなきゃ。 でも・・・・・・)



兎にも角にも事件が起こっているのであれば、急いで自分の部屋に戻らなくてはならない。
だがここが何処かも分からず、周りに人もいない状況で己の力だけで部屋にたどり着くことは出来るだろうか?



ヴゥー ヴゥー ヴゥー



U-09番「うひゃっ!? ・・・・・・そういえば忘れてた」


突然懐にあった何かが振動し始めたことで彼女はその場で飛び上がるが、すぐに自分が肝心なことを忘れていたことに気づいた。
もし何かあった場合すぐに連絡が取れるように、小型の携帯端末を渡されていたのである。
とは言ったもののそれを使うようなことは殆ど無かったため、そんな情報は物忘れの激しい彼女の頭の中には欠片も残っていなかった。



U-09番(早く電話に出ないと・・・・・・)ピッ

『おいU-09番!、この非常時に何処ほっつき歩いてんだ!』

U-09番「た、助かった~・・・・・・」



電話に答えたのは自分の能力開発を担当している研究者の助手だった。
何時も研究者の後ろについて研究の手伝いをしているので、流石の彼女でも顔を思い出すことが出来る。
語尾に『ッス』を付けて話すという変わった特徴があるが、自分に対しては普通に話す男だ。
どういう理由で使い分けているのかは知らない。


助手『・・・・・・その様子だとやっぱり迷子になってんのかお前は。 毎度毎度懲りない奴だな』

U-09番「だってぇ・・・・・・部屋にいてもつまんないんだもん」

助手『俺達に無断で部屋を出るなって何度言ったら分かるんだ。 端末に発信器が付いているから良いものの・・・・・・』

U-09番「じゃあ別にいいじゃん! 私が何処にいるか分かるんでしょ?」

助手『肝心な時にお前がいないことが問題なんだよ・・・・・・』



このやりとりは二人にとっては何度も繰り返している事柄である。
ただ、覚えているのは助手だけでU-09番は綺麗さっぱり忘れている。


助手としてはいい加減覚えて欲しいのだが、ここまでにもなると諦めの境地に達してしまいそうだ。
何もかも放り投げて彼女の思うままに行動させた方が良いような気もしてくる。
だが彼女の能力開発の担当をしている以上、職務放棄のようなことは出来るわけがない。


助手『はぁ・・・・・・お前、今どこにいる?』

U-09番「えーっと、近くの扉に大きく『5』って書かれてる。 後なんだろ、黒丸にバームクーヘンの欠片が三つ付いたマークがあるよ」

助手『黒丸にバームクーヘン? つーことは放射能マークだな。 数字の『5』ってことは『第5薬品管理庫』か』

助手『施設の外れじゃねぇか・・・・・・良くそこまで行けたな。 っていうか、扉はどうやって開けたんだ?』

助手『あのエリアに繋がる扉は認証コードがないと開かない仕組みになっているはずなんだが』

U-09番「にんしょうこーど? なんかよくわからないけど入れなかったから穴開けちゃった」

助手「おまっ・・・・・・いや、それなら何で騒ぎにならないんだ? 扉壊したら警報が鳴るはず・・・・・・」

U-09番「だってドア壊したらみんな騒ぐじゃん。 だから横の壁に穴を開けたんだよ?」

助手「・・・・・・そうですか、斜め上の回答をアリガトウ」


U-09番は色々と物を壊すことが多い。彼女の部屋に物があまりないのはそれが原因だ。
壊れた物が原因で怪我をしないように配慮したのだが、それが部屋を抜け出し、
さらには薬品管理区域にまで足を運ぶとは予想外だった。


しかもいらぬ知恵を働かせてその区域に入り込んでいる始末。
出来ればその頭の良さを普段から発揮してもらいたいものである。



助手『とにかくさっさと戻ってこい。 お前にやってもらわなきゃならないことがある』

U-09番「え~・・・・・・また実験とかやだよ? つまんないし」

助手『違うっつーの。 ・・・・・・この施設に侵入者が入り込んでいてな。 さっきのサイレンは聞いただろ?』

U-09番「え、アレってそういう奴だったの? てっきりまた誰か暴走したのかと」

助手『まぁそう思うのが普通か。 とにかく、お前には侵入者の迎撃を頼みたい』

助手『お前の力なら十分に足止めできるだろう。 それと、渡さなきゃならない物もあるから早く来い』

U-09番「でもどうやって帰ればいいかわかんないよ」

助手『んなことはわかってる。 俺がナビゲートするからその通りに進め。 こっちからも向かう』

U-09番「は~い」

今日はここまで
え?名前隠しても誰か丸わかりだって?

来週はお休みにします
質問・感想があればどうぞ

U-09ってそういう意味なのね
セリフで理解した

常時ジェイル・ハウス・ロック状態の超火力バカキター!
火力だけなら幻想郷でもトップクラスだからな
発火能力系統の頂点に立っててもおかしくない

9歳くらいのちっさいお空……うにゅほですな

S-16とU-09って、この研究所内で会った事あるの?
まぁ、会ってたとしても

U-09「ねぇ、あなたも能力者なんでしょ?どんな能力なの?」

S-16「……」パッ
仏頂面でチラ見した後、時間停止してスルー

こんな感じだっただろうけどね

>>279
U-09もS-16も東方ファンなら容易に正体を察せる名前である
少々安直過ぎた気もするけど

>>281
能力は一人に一つのみ(幻想御手除く)
つまり関係ないですね。化けてるとかじゃありません
ただのカラスです

>>285
十得制御棒うにゅほで検索。かわいい

>>286
S-16は研究所に来て直ぐに実験に使われ、能力が発現した後はそのまま拘置所に入れられています
なのでU-09とは面識はありません


これから投下を開始します






     *     *     *






隊長「……始まったみたいだな」

先輩「そうみたいですね」

黄泉川・美鈴「……」



研究所の周りに建てられた塀のすぐ近く。そこに黄泉川と美鈴の部隊が息を潜めていた。


遠くからは激しい銃撃戦の音が響いてきている。先発隊が研究所に配備された『駆動鎧』に応戦しているのだろう。
数ではこちらが圧倒しているが、相手は最新鋭の装備を搭載している兵器だ。全滅することは十分に考えられる。
自分たちは先発隊が力尽きる前に、この研究所を制圧しなければならない。



隊長「これから施設内に突入するが……内部の見取り図はしっかり頭に叩き込んだか?」

先輩「ちょっと時間がなかったので少し不安ですけど、たぶんいけると思います」

黄泉川「右に同じじゃん」

美鈴「私は少し朧気です……」

隊長「……まぁ、今回は急だったからな。 今回は俺が覚えているからいいが、次はしっかり記憶しろよ?」

先輩「さっすが隊長。 頼りになりますね」


隊長「馬鹿か。 本当ならお前は完璧に覚えてなきゃいけないんだよ。 少しは先輩らしいところを見せろ」

先輩「へーい」

隊長「ったく……じゃあそろそろ行くぞ」ガチャッ



隊長は手に突撃銃を抱えつつ、塀の影から研究所の搬出口をのぞき見る。
先発隊が注意を引きつけているおかげで、ここの周辺に人は見られない。
今ならば、容易に研究所の内部に侵入することが出来るだろう。



隊長「……黄泉川、美鈴。 お前達に一つだけ言っておく」

黄泉川「……?」

美鈴「何ですか?」

隊長「研究所の中で『何があろうとも』自分を見失うな。 これだけは絶対だ」

黄泉川「……わかったじゃん」

美鈴「……了解です」


黄泉川は隊長の忠告に静かにうなずく。


隊長の口から漏れた言葉からは、内部で目の当たりにする光景がどんなものなのかを容易に想像できる説得力を持っていた。
それを目の当たりにしたとき、万が一錯乱でもした場合、任務に大きな支障が出ることは間違いない。
それどころか、捕らわれている子供達を助けることもままならなくなるだろう。
だからこそ彼は、新米である黄泉川達に暗に忠告したのだ。『この先に待つものは生易しいものではない』と。


隊長は中の様子を見ながらカウントダウンを開始する。



隊長「3、2、1……GO!」

黄泉川・美鈴・先輩「……!」ダッ



隊長の号令と同時に3人は走り出す。


もう既に他の制圧班は中に入り込んでいるはずだ。途中の区画で合流することになっているため、遅れないようにしなければならない。
そこにたどり着くまでの部屋は全て調査し、施設関係者がいるのであれば確保、子供がいた場合は守りつつ一端引き上げる。
研究所全体を制圧するには時間がかかる方法であるが、今は人命の保護が最優先だ。


周りに気を配りながら搬出口に到着すると、隊長が内部に続く扉を蹴破り、4人は中へと入っていった。






     *     *     *






警備員1「……OK、大丈夫だ。 そっちはどうだ?」

警備員2「こっちも問題ないです」



黄泉川達とは別の部隊に所属している『警備員』の二人が、研究所のとある通路に蹲っている。
彼らは広範囲を効率よく探索するために、本隊とは一端分かれて別に行動をしていた。
同じ部隊に所属する他の『警備員』も、彼らと同様に二人組を組んで探索を続けている。


二人の内の一人が、進む先を曲がり角から様子を見つつ確認していく。
ここまで来る間に妨害の類は受けていないが、それでも警戒するに越したことはない。
ただ、ここまで警備が手薄だと少し拍子抜けだ。戦闘が少ないというのは良いことではあるが。



警備員2「それにしても誰もいませんね。 外にいる『駆動鎧』で全部だったんでしょうか?」

警備員1「そうだと良いんだがな。 だが、こういうときは決まって奥にラスボスみたいな奴がいるのが定番だ」

警備員2「調子に乗って進みすぎると、どうしようもない敵が現れて叩き潰されるってことですか」

警備員1「まぁ、漫画で良くある死亡フラグの定番だな」


警備員2「ですね。 ……そういえば、この任務が終わったらなに食べたいですか?」

警備員1「そうだな、おでんを肴に焼酎をクイッと……って何言わせるんだよ!
戦場で将来の話をするとか死亡フラグの代名詞じゃねぇか!」

警備員2「いや、フラグ立てまくれば逆に安全かもしれませんよ?」

警備員1「それが許されるのは主人公だけだ」

警備員2「人生の主人公は自分自身でしょ? あれ、この理論なら人類みんな主人公じゃね?」

警備員1「馬鹿言ってないでさっさと行くぞ」



意味に分からないことを言っている同僚を尻目に、通路の奥へと進んでいく。


途中の部屋も残さず見ていくが全てもぬけの殻であり、中には誰一人としていなかった。
既に逃げ出したのかもしれないが、外は『警備員』が蟻も通る隙間もないくらい厳重に囲んでいる。
彼らに見つからずにこの場所から脱出することは、到底不可能だろう。


施設の中に抜け道があるというのであれば話は変わってくるが。


警備員2「……ちょっと、こっちこっち」

警備員1「どうした? くだらない話だったら殴るぞ」

警備員2「そんなわけないでしょ。 ちゃんと真面目ですよ」

警備員1「だと良いんだがな……で、何だ?」

警備員2「この施設に地下のフロアってありましたっけ?」

警備員1「下水整備のための部屋ならあったはずだが……それがどうした?」

警備員2「あそこに見える階段、なんか怪しくないですか?」

警備員1「何……?」



彼が指さした方向を見ると、薄暗くて見づらいが大きな階段が見えた。
横幅は大体5メートル前後。人が横に5人並んでも余裕で入るスペースである。


一見不思議な所は無いように見えるが、そもそも見取り図にあのような大きな階段はあっただろうか。


警備員1「確かに、下水管理のためだけにしては、あの階段は広すぎる気がするが……」

警備員2「でしょ? なんか怪しいし行ってみませんか? このフロアは大体調べ終わりましたし」

警備員1「……少し待ってろ」



耳に付けたトランシーバーの周波数を合わせ、本隊に連絡を取る。
今この階段の所在を知っているのは、おそらく発見した自分たちだけだ。
何も報告もせずに地下に降りてしまったら、非常事態が起きたときに救援が来るのが遅くなる。



警備員1「こちら第3班。 聞こえているか?」

本隊『こちら本隊。 聞こえている。 何かあったか?』

警備員1「見取り図に記されていない階段を発見した。 おそらく後から増設されたものだと推察される」

警備員1『これから捜索を行うが、万が一のために救援をお願いしたい』

本隊『了解した。 これからそちらの近くにいる部隊に連絡を取り向かわせる。 そちらの正確な位置を知りたい』

警備員1「『第3能力測定室』の向かい側にある通路の突き当たりだ」


本隊『了解……今最も近場にいるのは第4班だ。 距離から考えると、到着に5分弱かかるだろう』

本隊『その他の班は上階の制圧がまだ完了していないため、しばらく向かわせることは出来ない』

警備員1「了解。 なら他の班にも制圧が終わり次第、こちらに来るように通達しておいてくれないか?」

本隊『了解した。 くれぐれも無茶はするな』

警備員1「わかっている。 通信終了だ」プツッ



本隊への報告を終えると地下へ続く階段に近付き、下を見下ろす。
階段には踊り場に小さな蛍光灯が付いているだけであり、とても見通しが悪い。
何処かのホラーゲームにでも出てきそうなシチュエーションだ。


警備員2「どうしたんですか? 早く行きましょうよ」

警備員1「いや、この階段を見てると昔遊んだゲームを思い出してな……」

警備員1「生物災害が起こって、部屋からゾンビなんかが飛び出してくるんだよ」

警備員2「C○PC○Mですね、わかります。 ……続編早く出ませんかねぇ?」

警備員1「最近学園都市のCG技術を使って何か作ろうとしているみたいだが、正直リアルなだけじゃ面白くないと思うんだよな」

警備員2「そうですかね? リアルな描写は現実味を増すのには一役買ってると思いますけど?」

警備員1「ゾンビがリアルになったところでただグロいだけだろ。 それよりも雰囲気が大事なんだよ」

警備員2「なるほど」

警備員1「っと、お喋りが過ぎたな。 じゃあ、行くとするか」

警備員2「ラジャ」

今日はここまで
質問・感想があればどうぞ

この隊員達結構軽いなww

いや、シリアスな空気を和ませる為の策なのか?



ハガレンの殲滅戦編みたいに複数視点(レミ咲、ステイル、黄泉川)で語られる過去編を期待してたんだけど

この分じゃあrspと魔術サイドは何の関係もないか

生き残りが複数いる以上
地底組の最高火力によるギャグ補正のないドリフみたいなオチだけはないみたいだけど
名もなきキャラに死亡フラグが建ってなくても大勢死ぬのはよくわかった

彼らの最期に合掌

フラグなんて関係ねぇ。死ぬときゃ死ぬんだ

この時期なら、どっかに空飛ぶ亀に乗った小さい巫女さんと、
その師匠的な立場である先代の巫女さんとかが居るんだろうか?

>>301, >>302, >>305
グロ描写とかハートフルボッコとか、そういう話はあまり期待しないでください
それを書き始めると多分、書いてる途中で>>1の心が折れるので

>>307
9年前の話ですから、確かに先代巫女がいる時代に相当しますね
空飛ぶ亀がいるかは知りませんが

これから投下を開始します






     *     *     *






警備員1「……静かだな」

警備員2「そうですね」



先ほどの階段を下りて数分。だいぶ奥まで進んできたためか、外の喧噪も殆ど聞こえなくなってきていた。


道の様子は歩を進めるにつれて変わってきている。地上では殆ど見られなかった電子制御式の扉が増えてきているのだ。
しかも、そのどれもが高度な認証システムで施錠が成されている。


残念ながら中を確認しようにも、その扉を開く術を自分たちは持ち合わせていない。
扉を爆破して強行突入したいが、生憎今はそを行うために必要な道具が手元になかった。
やりたいのであれば外に連絡して道具を持ってきてもらうしかない。



警備員1「この感じだと、地下の部屋の何処にも入れそうな気がしないな」

警備員2「全部鉄製の認証扉ですからね。 ただ人気は全く無いし、このフロアにはもう誰もいないんじゃないですか?」

警備員2「仮に誰かいたとしても入り口はあの階段だけみたいですし。 逃げられないと思うんですけど……」

警備員1「ここに来るまでの様子だと確かにそうだが……いや、待て」

警備員2「? どうしたんですか?」

警備員1「しっ! ……向こうから誰か近づいてくる」


カツーン、カツーン、カツーン……



耳を澄ますと進行方向にあるT字路から足音が聞こえてきている。
その音から推察するに、歩いて来る人間は一人。誰なのかは分からないが、このフロアにいるだけで十分怪しい。
それどころか『警備員』が来ているというのに無警戒にこちらに向かってきているようだ。


研究者であればこの非常事態に暢気に出歩いているはずがない。とすると、このフロアを警備している人間だろうか?
だが音から考えるに、その人間は大した装備をしていないようだ。
防弾チョッキがすれる音や銃器が揺れる際のガチャガチャした音が聞こえない。
それであれば自分たち二人だけでも取り押さえることが出来るかもしれない。


二人は音を殺して曲がり角の壁に張り付き、『誰か』がこちらに来るのを待つ。


警備員1「出来るだけ近づかせてから出るぞ。 いいな?」

警備員2「わかりました。 タイミングは任せます」



そうしている間にも『誰か』は一歩一歩こちらへと近づいてくる。
どうやらまだこちらの気配には感づいてはいないらしく、未だに軽快な足取りでリズム良く足音を鳴らしている。
こちらとしては願ってもないことだが、ここまで無警戒だと却って不気味だ。


やがて、地面に映し出された長い影が自分たちに近づいてきた。ここまで来れば捕まえることが出来る。
そう確信すると、二人は勢いよく曲がり角から飛び出し、銃を突きつけて叫んだ。


警備員1「『警備員』だ! 大人しくしろ!」ガチャッ!

「うにゅあ!?」ドテッ!

警備員2「……あり?」



こちらの登場に驚いて倒れた『誰か』を見てみると、それは黒く長い髪を持つ少女だった。
彼女は驚きのあまり放心状態でこちらを見続けている。


ついでに言うと、大きく股を開いて倒れ込んでいるためスカートの中が丸見えだ。



警備員1(こんな所に子供だと? まさか被害者か?)

警備員2(水色の縞パン……イケるッ!)

少女「いつつ……おじさん達誰? 見たことない人だけど」

警備員1「『警備員』だよ。 君を助けに来た」

少女「『警備員』? あなたたちが? ……そう」


少女はそう呟くと、ゆっくりとその場に立ち上がった。
転ばせてしまったので何処か怪我でもしていないか心配だったが、どうやら無傷のようだ。
救助対象を自分たちが怪我をさせてしまっては元も子もない。



警備員2「どうしましょうかこの子?」

警備員1「ここで被害者に会ったということは、この奥にもまだいる可能性があるな」

警備員1「おそらく救援もこちらに向かってきているだろうから、一端引き返してこの子を受け渡そう」

警備員1「それが終わったら救援部隊と一緒にこの奥を探索する」

警備員2「了解。 それじゃあお嬢さん、俺達と一緒にここを脱出しようか」

少女「脱出? 何で?」

警備員2「何でって、ここに捕らわれた君を助けるのが俺達の役目だからさ」

少女「ふーん……でもその必要はないと思うよ」

警備員1「何……?」

少女「だって――――」











少女「――――あなたたちをぶっ飛ばすのが私のお仕事なんだから」











警備員2「――――あ?」



ふと少女の右手を見ると、手の平の上に小さな光の球が浮かんでいる。
ビー玉ほどの大きさしかないというのに強烈な光を放ち、3人をまぶしく照らし出していた。



少女「最近は先生に止められてて、全力で能力を使えなかったんだよね」

少女「でも今回は好きなようにやって良いって言ってたから、やっと本気が出せるわ」

少女「あ、でもやり過ぎると天井が崩れて生き埋めになるかもしれないから、気をつけろって言ってたなぁ……」

警備員2「何を言って――――」

警備員1「くっ……!」


少女が話している間にも光の球はどんどん大きくなっていく。
やがて球の大きさが野球ボール程度になると少女はそのボールを投げる構えを取った。
すでに通路はまるで昼間であるかのように照らしだされ、それと同時に熱放射によって周囲の気温が上昇してきた。


ジリジリと、まるで日光に晒されているかのように、皮膚に熱が突き刺さる。
いや、自分たちは今紛れもなく太陽の光をその身に浴びているのだろう。


空気中に僅かに含まれる水素分子、もしくは水分子を分解して出来る水素原子をかき集め、
それらを衝突、原子核融合させることで生み出される『第二の太陽』。
学園都市の科学力でも未だに制御しきれていない『神の炎』の再現である。


その能力の名は『人工太陽(セカンドライト)』。天上に住まう『天照大御神(アマテラスオオミカミ)』の力。
この少女は神にも例えられる力を、断片的にでも扱うことが出来るのだ。


その光に照らされて見える、名札に書かれた「U-09」という文字。
それを見たとき、その少女が何者なのかを確信するに至る。


警備員1(この少女は……!)

U-09番「ねぇ、力加減がわからないから、ちょっと実験台になってくれない?」

警備員2「おい、何を……!」

警備員1「早く逃げるぞ!」



少女が光の球を投げつけようとするのを見て、彼は相棒を無理矢理引き連れて走り出す。
彼らが散歩足を進めたと同時に、少女の右手から造られた太陽が放たれた。


彼女の手から離れた球は少し間を置いた後に膨張を開始し、今まで以上に輝きを増していく。
そのまま元の大きさの数倍まで膨れ上がったかと思うと、今度は急速に点とも思える小ささまで収縮し、
そして――――











ドガァァァァン!!!



光の奔流と共に、爆音が地下に響き渡った。















     *     *     *















ドガァァァァン!!!



光の奔流と共に、爆音が地下に響き渡った。










ミスりました





     *     *     *






隊長「……そっちは大丈夫か?」

美鈴「はい、問題ありません」

黄泉川「こっちも誰も見あたらないじゃんよ」



通路を確認しつつ研究所の深部へと進んでいく黄泉川一行。
ここ来るまでに逃亡しそびれた研究員を何名か捕縛してきていたが、
未だにこの研究所捕らわれているであろう子供達を発見するには至っていない。
他の班が発見しているのかもしれないと思ったが、本部からの情報を考えるに、まだ誰も見つけてはいないようだ。


捕縛した研究者に対して尋問してみたが、いずれも知らないの一点張りだった。
どうやら末端の構成員には情報が行き届いていないらしい。
彼らが逃げ遅れたのは、おそらく上層の人間に見捨てられたからなのだろう。


先輩「それにしても見つかりませんね……後探していない場所と言ったら上の階ですかね?」

隊長「ここより上は既に他の班が捜査しているはずだ。 俺達が出る幕はないだろうな」

美鈴「でもそれでも見つからなかったとしたら、一体何処にいるんでしょうか?」



最初の班の突入から数十分。これだけ時間があれば、研究所内を調べ尽くすには十分であるはずだ。
それなのに見つからないということは、既に子供達はここから連れ出されてしまったのか、
それとも隠された場所に閉じ込められているのか。あるいは……


ズズンッ!!!



先輩「うおっと!? なんだなんだ!?」

黄泉川「一体何の揺れじゃん……?」

隊長「……」



突然研究所に走った大きな振動に、一同は思わず歩を止める。それはさながら小規模な地震が起こったかのようだ。
程なくして揺れは収まったが、その後も断続的に何処かから小さな振動が伝わってくるのが感じられた。
隊長は揺れの感覚からその発生源の大体の位置を掴もうとする。
下から突き上げられるかのような揺れ方。すなわち、揺れの発生源は地下にあるのだろうと思い立った。



隊長「コイツは……下からか?」

美鈴「下ですか? でも地図には地下室なんて物は……」

隊長「いや、もしかしたら……」


プルルルル、プルルルル……



すると、隊長の疑問に答えようとするかのようにトランシーバーの音が鳴る。
どうやら外で待機している司令部からの連絡のようだ。先ほど起こった揺れに関することに違いない。
隊長は急いで周波数を合わせて通信を開始する。



隊長「こちらD班!」

司令部『こちら司令部だ。 今研究所に大きな振動が走ったことは感知しているな?』

隊長「えぇ、これだけの揺れです。 感知できない方がおかしい。 一体何が原因なんですか?」

司令部『震源はおそらく、研究所の地下からだと考えられるが……ん? どうした?』

隊長「どうしました?」


司令部『……あぁ、そうか、わかった。 ……たった今、他の支部からの情報が入った』

司令部『どうやらこの研究所には、建設された後に増設された地下フロアが存在するらしい』

司令部『他の支部の部隊が地下に続く大きな階段を見つけたそうだ』

隊長「やはり、そうですか……」



自分の予想が当たってしまったことに隊長は溜息を漏らす。


おそらく地上の部分はカモフラージュであり、主要な研究施設は全て地下に集約されているのだろう。
表では普通の研究をしているように見せかけて、裏では公に出来ないような疚しいことをしていたに違いない。
とすると、その研究の被験者になった子供達は地下の研究施設にいるかもしれない。


隊長「地上では見つからないということは、保護対象は地下にいる可能性が高いですね」

司令部『地上の部分はほぼ全て制圧し終わったようだ。 上にいないということは下にいるということだろう』

司令部『すぐにでもお前達に向かってもらいたいが……どうやら厄介なことになっているらしい』

隊長「厄介?」

司令部『地下へと続く階段を発見した他の支部の隊員が先行して向かったみたいだが、つい先ほど通信が途絶えたそうだ』

司令部『途絶えたのは先ほどの揺れが発生した時刻と一致している。 何か関係があるのは間違いない』

司令部『だが、確認を取ろうにも地下に向かったのはその隊員達だけだ。 今、地下で何が起こっているのかを確かめる術はない』

司令部『本当であれば直ぐにでも確認に向かうべきなのだが……残念ながら本部には新たに部隊を派遣するほどの余裕は無いし、
    だからと言って『駆動鎧』の対処に当たっている部隊を回すこともできない』


隊長「つまり、我々が彼らの安否を確認する必要があるということですね?」

司令部『そうだ。 幸い、お前達D班は地下へ続く階段に最も近い位置に居る。 直ぐに向かえるはずだ』

隊長「わかりました。 直ぐに向かいます」

司令部「待て。 お前達は、機動力の観点から必要以上の装備を身に着けていない状態だ』

司令部『このままだと、非常時に対して装備が不十分のまま対応することになる』




制圧班が装備しているものは、ゴム弾が込められた突撃銃と拳銃、プレートキャリアに頭を守るためのヘルメットだ。
何が起こるかもわからない地下に行くにしては、かなり心許ない装備である。
元々身軽に動けるように考えられた捜索用の装備一式であり、危険な場所に向かう状況は想定していないのだから当然だ。


司令部『幸い物資をそちらに送るだけの人員は確保できる。 その場で5分前後待機すれば届けることができるだろう』

隊長「ですが、それでは……」

司令部『あぁ、その時間の分だけ先遣隊を危険に晒すことになる。 最悪、命を落とすことにもなりかねん』

司令部『つまり、お前達制圧班を危険に晒すことと、先遣隊を危険に晒すことを天秤にかける必要があるのだ』

司令部『そこでお前の意見を聞きたい。 直ぐに向かうか、この場に待機するかをだ』



研究所に走った振動と通信が途絶えた隊員。
先ほどの振動を起こした『何か』が人間であり、それ原因で先遣隊の通信が途絶えたとするならば、
先遣隊の安否を確認する自分たちも同様に、その『何か』に対峙することになるだろう。それは避けられないことだ。


ここでもし、自身の安全を考慮して本隊からの物資が来るまで待てば、
『何か』に遭遇したとしても自身の生存率は格段に上昇することになる。
しかしその代わり、支援を待っている時間だけ先遣隊の生命を危険に晒し続けることになる。
もしかしたら、それが原因で彼らが命を落とすことだって十分に考えられるのだ。


先発隊を危険の中に放置してでも十分に装備が整うまで待つか、装備が不十分のまま自身の危険を顧みずに地下に向かうか。



隊長「少し待ってください。 部下の意見を聞いてみます」

司令部『時間はあまり無い。 出来るだけ早く結論を出してくれ』

美鈴「どうしたんですか?」

隊長「あぁ……」



隊長は3人に『この研究所には後から増設された地下フロアが存在する』こと、
『地下へ続く階段を見つけて先に向かった隊員との連絡が取れなくなっている』こと、
『隊員との連絡が取れなくなった時刻は、先ほど研究所に走った振動が起きた時刻と一致している』こと、
そして『地下で何があったのか調べる術がないため、隊員の安否や地下の状況は不明である』ことを簡潔に伝えた。



美鈴「先に地下に潜った隊員が生死不明、ですか……」

黄泉川「しかも原因は今もってわからない……」

隊長「その通りだ。 そこでお前達には今すぐに地下に向かうか否かを聞きたいと思う」

隊長「言っておくが、しばらく待てば外で待機している隊が救援物資を届けてくれる。 それを考えた上で結論を出してくれ」


美鈴「……私は救援を待つべきだと思います。 何が起こるか分からない以上、準備も無しに向かうのは危険すぎます」

先輩「俺は行くべきだと思うな。 あの揺れを起こした原因が何かはわからんけど、もし仮に人為的な物だとしたら、
   まだ地下にはあの揺れを起こした奴がいるかもしれない」

先輩「隊長の話を聞くに、どうやら地下の施設は奴等にとっては本丸みたいなものらしいからな。 
もしかしたら、地下に居るそいつはかなり重要な情報を握っている可能性がある」

隊長「そうか。 黄泉川、お前はどうだ?」

黄泉川「……私も先輩の意見に賛成じゃんよ。 あの揺れが何かは私にもわからないけれど、
もしかしたら地下にはまだ見つかっていない子供達がいるかもしれないじゃん」

黄泉川「このままこの場で待ってたら子供達に危険が及ぶじゃん。 それだけは何としてでも避けないといけないじゃんよ」

隊長「……決まりだな」



2対1。多数決で今すぐ地下に向かうことに決まった。
自分の意見が通らなかった美鈴だが、それに対して不満を言うようなことはなく、むしろ他の二人の意見には賛成のようだ。
隊長は意見の食い違いによって生じる仲間割れの心配がないことに対して心から安堵する。
美鈴は比較的おおらかな人間だから良かったが、頭が堅い人間だったりしたらこの場で口論になってしまうことも十分にあり得る話だ。


『警備員』はあくまで教師達のボランティアによる組織であり、軍隊のような徹底的な規律が敷かれているというわけではない。
主義主張の相違で険悪な雰囲気になってしまうことも、稀にだがあることである。



司令部『決まったか?』

隊長「はい、行かせてもらいます。 十分に準備したとしても、
相手が何なのかわからなければ結局対処しようがないですから」

司令部『了解した。 こちらも出来るだけ早く出動できるように準備を急がせる。 
救援がそちらに付くまでは無茶をするな。 危険だと感じたら撤退しろ』

司令部『階段の場所は『第3能力測定室』の向かい側の通路の突き当りだ。 幸運を祈る』

隊長「了解」プツッ



『第3能力測定室』の場所は、記憶が確かならばここから直線で50メートル強。大体一分弱で辿り着くことができるだろう。
道順を頭の中に思い描くと、隊長は部下3人に号令をかける。



隊長「これから地下に向かい、先に向かった隊の安否の確認、及びさっきの揺れの原因を突き止める!」

隊長「俺に遅れずに付いてこい!」

先輩・黄泉川・美鈴「了解!」



4人は隊長を先頭にして、地下へと続く階段へ向けて走っていった。

今日はここまで
質問・感想があればどうぞ


そう言えば今日は例大祭でしたね。東方心綺楼と東方輝針城体験版が配布されました
>>1はド田舎に住んでるので行けませんでしたが

とりあえず某所で上がってた動画を見てわかったことは、
輝針城は咲夜さんがS夜さんになってたってことと、
心綺楼はひじりんと神子様のカリスマがすごくて、こいしちゃんが可愛いってことですかね


おくうの能力の読み方ニュークリアフュージョンだと予想してたわ

俺はセカンドライトも好きだぜ

たまたま見つけてやっと追いついたぜ
最初に比べてどんどん文章も読みやすくなってるし展開も面白くて期待大
紅魔編以降もやる予定はあるのかな?
あとちょっと気になったんだが美琴の舞夏に対するよび方は土御門呼びで
口調もなかなかフランクだった気が・・・
間違っていたら申し訳ない

セカンドライト?
セカンドサンじゃないんだ?

>>337, >>338, >>343, >>334
ニュークリアフュージョンだとなんだか長いし、セカンドサンだと直球過ぎる
というわけで、少し捻くれたネーミングになってます
本当は『原子融合(メルトダウン)』とかにしたかったんですけど、
それだと『原子崩し(メルトダウナー)』とかぶってしまうので止めました

>>341
一応妖々夢、永夜抄、地霊殿はストーリーの主軸に据えるつもり
花映塚、萃夢想、緋想天はメインから外れた番外編かな

問題は風神録、聖蓮船、神霊廟の宗教組。ぶっちゃけストーリーが全く思い付かん
心綺楼はキャラつながりで神霊廟に統合するかもしれない

輝針城はどうなるかわからないけど、これもかなり難しくなると思う
狼女はまだしも、人魚とかろくろ首とかどうキャラ付けすればいいんだ……



これから投下を開始します






     *     *     *






ドォン……ズズン……



研究者(どうやらU-09番は上手くやっているようだな。 この調子であれば間に合いそうだ)



遠くから聞こえてくる爆発音を尻目に、研究者はパソコンのキーボードを叩く。
ここはこの研究所で行われた実験データが纏められているサーバーが置かれている場所だ。
それと同時に研究データを本部へと転送する唯一のパイプにもなっている。



研究者(研究データは結果が出る毎に転送しているから、それを持ち出す必要はない)

研究者(『警備員』が残っているデータを見た所で、被験者達の末路を知ることになるだけだ)

研究者(問題は『特力研』との繋がりを示唆する資料だな。 これを残しては本部の存在を知られてしまう)

研究者(これだけは完全に消去しておかなければ……)


サーバーには本部である『特力研』から送られてくる指令や、研究に対する要望についての資料が収められている。
この資料から本部の所在を『警備員』に知られてしまうことだけは避けなければならない。


本部で行われている研究は、この研究所で行われているものとは比較も出来ないほどの凄惨な内容になっている。
しかもその研究は学園都市上層部にとっても重要な意味を持つ物であるため、
今の段階で『警備員』に潰されるわけにはいかないものなのだ。



研究者(しかし、残骸からも解析できないレベルにまで記録媒体を粉砕にすることは私には不可能だ)

研究者(U-09番の手を借りれば跡形もなく消し飛ばすことは可能だが……奴には『警備員』の足止めを任せているからな)



学園都市製のサーバーは多少のことでは壊れないように頑丈な設計がなされている。
破壊したいのであれば、爆発物を至近距離に置いて爆破するくらいはしなければならない。
それでも記録されている情報を完全に抹消するのは難しい。学園都市の解析技術は並大抵の物では無いからだ。


情報を解析できなくなるまでサーバーを徹底的に破壊できるのは、
能力者のU-09番か、彼女に万が一何かあったときのために武装している助手だけだろう。
つまり、彼らがここに来るまではサーバー内のデータを完全に消去することは出来ないということだ。


研究者(データをすぐに廃棄できないのは、情報の秘匿という点では問題だな)

研究者(今度からは迅速にデータを抹消できるような機構をサーバーに組み込む必要があるか)

研究者(方法とすれば、薬品による物理的な破壊か? 記録媒体さえ破壊できれば問題はないからな)

研究者(不正なアクセスがされたときに自動的に薬品を記録部分に噴出するようにすれば……っと、終わったか)



必要なデータを外部記録装置に転送し終えたことを確認すると、それを機器から取り外して懐にしまい込む。
これで、しなければならないことは終わった。後は『警備員』を足止めしている二人を呼び戻し、
彼らにサーバーを破壊させた上で拘置所にいるS-16番を連れ出して脱出するだけだ。



研究者(ただ、精神的に不安定な状態にあるS-16番を果たして連れて行くべきかどうか……)

研究者(脱出の途中で暴走でもされたら堪った物では無いからな。 最悪その場で処分するか……)

研究者(いや、それはその時に考えればいい。 今はあの二人を呼び戻すのが先だ)


携帯端末を取り出し、助手へと連絡を取る。
さっきから響いていた爆発音がいつの間にか聞こえなくなっていること気がかりだが、
仮にU-09番に何かあったとしても助手が彼女を回収しているはずだ。


ただ、その場合は『警備員』が地下に雪崩れ込んできているということ。
そうなると時間の関係上、S-16番を連れ出す時間はないだろう。
成功例をみすみす手放してしまうのは心苦しいが、仕方があるまい。


幸いS-16番は最近『被験者』としてこの研究所に送られてきた人間だ。
重要な情報を知っている訳ではないので、『警備員』の手に渡ったとしても問題は無い。



研究者(精神が安定しないことを理由に本来行うはずの調整をしなかったからな。 おそらく1週間以上は生きられまい)

研究者(『警備員』が助け出したところで、その先に待っているものは衰弱死だけだ)

研究者(S-16番の肉体を完全に把握し、調整に必要なものを揃えられるというのであれば話は別だがな……)






     *     *     *






隊長「こいつは……」

先輩「ひどい有様ですね……」

黄泉川「……っ!」

美鈴「うっ……」



四人は目に前に広がる光景に絶句した。


廊下のコンクリートの壁には所々大穴が開いており、天井もいくつかの箇所で崩落が起こっている。
鋼鉄で作られているドアは枠から吹き飛ばされて完全にひしゃげており、高温に晒されたかのように赤熱していた。


そして床一面に広がるのは、所々に残り火がある瓦礫の山。
今でこそ勢いは収まっているものの、この惨状が起きた直後は相当な火の手が上がっていただろう。
天井に備え付けられているはずのスプリンクラーは、破損していて本来の散水機能を失っており、
ホースの口から流れ出るかのように垂れている水が、その場に細い水柱を作り出していた。


隊長「とにかく、誰かいないか捜すぞ!」



四人はそれぞれ瓦礫の中に誰かが埋まっていないか探し始める。
もしかしたら通信が途絶えた隊員達が生き埋めになっているかもしれない。急いで掘り起こさなければ彼らの命に関わる。


しかし通路に煙が充満していて視界が非常に悪く、自分の足下の周り程度しか探すことが出来ない。
おまけに瓦礫のおかげで足場も不安定であり、注意して進まなければ転倒の危険がある。


早く隊員を見つけなければならないという焦りと、思うように身動きがとれないという苛立ち。
二つの大きな感情に一同は板挟みとなる。



黄泉川(くそっ。 こんな悪条件じゃ探せるものも探せないじゃん!)

黄泉川「おい! 誰か居ないか!?」


探し始めて早数分。大分奥に足を踏み入れた黄泉川は、灰色の視界の先に声を張り上げる。
しかし、それに答えるのは天井から滴る水の音だけだ。


せめて返事さえしてくれればその声を頼りに探すことが出来るのだが、これだけの惨劇に巻き込まれているのだ。
もはや声も出せないほどに衰弱していてもおかしくはない。
それに、例え声を出すことが出来ても、これだけの雑音があっては聞き取ることは出来ないかもしれない。


それでも彼女は地面を踏みしめて歩きながら、一途の望みをかけて周囲に声をかけ続ける。



黄泉川「頼む! 意識があるなら返事をしてほしいじゃん!」



黄泉川の声は煙の中へと吸い込まれていく。美鈴達も同じように声をかけているが、その成果は出ていない。


もはや手遅れなのか……
そんな諦めの感情が彼女の心の中に芽生えようとしたとき、


ガラガラ……



何かが崩れる音が耳に届いた。



黄泉川(!? 今の音は?)



咄嗟に音がした方角に振り向いて目をこらす。
相変わらず充満した煙が視界を遮り、水が滴る音は継続して聞こえ続けている。
少しの間耳を立てていたが、さっきの音はそれっきり耳には入って来なかった。



黄泉川(音がしたのは……こっちか?)



音が聞こえた方向へと歩みを進めていく。だが、歩いた距離はそれ程ではなかった。
付近の地面を見てみると、黒い手袋が落ちているのが目に入る。


黄泉川(あれは……『警備員』のグローブ!)



『警備員』に支給されている学園都市製のグローブ。頑丈で破れにくいのが売りの代物だ。
急いでその場に駆け寄ると、黄泉川はすぐにグローブは『落ちていたわけではない』ことに気づいた。


よく見るとグローブには肌色の何かが突っ込まれている。これは人の手だ。
そしてすぐ側には不自然に盛り上がった瓦礫の山があった。



黄泉川(これは……!)



黄泉川は急いで瓦礫の撤去を始める。瓦礫がいくらか細かくなっていたおかげで、あまり苦労せずに除けることが出来た。
コンクリートの塊を持ち上げて周囲に寄せていくと、その下から大柄な男が俯せに倒れ伏しているのが見えてきた。
群青色の服に黒の防弾チョッキ。頭には防護用のヘルメットを被っている。
ぴくりとも動かないので一瞬死んでいるのかと思ったが、よく見ると微かに息をしている。


黄泉川は彼の体勢を仰向けにして、意識があるかを確認した。


黄泉川「おい、大丈夫か!?」

警備員1「あ……ぐ……だれ、だ……?」

黄泉川「第73活動支部所属の黄泉川じゃん! アンタを助けに来たじゃんよ!」

警備員1「そう、か……ぐっ……!」

黄泉川「あまり動くんじゃない。 傷に障るじゃん」



無理に上体を起こそうとする彼を制止する。
彼の体を調べると、装備の所々にまるで至近距離で熱を受けたかのような焦げ跡が見られた。
流血のような明らかに危険な怪我は見当たらないが、装備の下はどうなっているかはわからない。
もしかしたら骨が何本か折れていることも考えられるため、無理に動かすのは危険だ。


黄泉川はトランシーバーを取り出し、他の三人に連絡を取る。


黄泉川「隊長! こちら黄泉川! 怪我人を一人発見したじゃんよ!」

隊長『! 今どこにいる!?』

黄泉川「さっき別れた十字路を来た方向から見て直進して、2番目の十字路を右に曲がったところじゃん!」

隊長『了解! 他の二人に連絡をとり次第すぐに向かう!』プツッ

黄泉川「……これでとりあえずは大丈夫じゃん」



3人が来てくれれば怪我人を安全な場所に運ぶことが出来る。
天井が大きく崩れている場所もあるため、ここにずっといると二次的な崩落に巻き込まれるかもしれない。
彼の治療のためにも、急いでこの場を離れなければ。


黄泉川「もうすぐ救援が来るじゃん。 それまでの辛抱じゃんよ」

警備員1「あぁ……そういえば、近くにもう一人いないか……?」

黄泉川「いや、私が見つけたのはアンタだけじゃんよ」

警備員1「そうか……実は俺と一緒にもう一人来てるんだ。 逃げてる途中で逸れて……」



ドン! ドン! ズズズ……



黄泉川(!? 今の音は……!)



通路の遥か向こうから大きな爆発音が響いてくる。これは彼の相棒が襲われている音に違いない。
恐らく、この惨状を引き起こした主犯からまだ逃げ続けているのだろう。
一刻も早くその場に向かい、彼と合流しなければならない。



黄泉川「……わかった。 救援はもうすぐ来ると思うから、ここで安静にしているじゃん」

黄泉川「私はアンタの相棒を捜してくるよ」


黄泉川は目の前の彼をこの場に残し、彼の相棒の元へ行くことを決心した。
男をその場に残して通路の奥へと走り去っていく。


通路の破壊跡を見るに、『相棒』を追いかけ回している『何か』は相当な火力の持ち主のようだ。
黄泉川一人でどうこうできるような存在ではないのかもしれない。出会い頭に吹き飛ばされてもおかしくはないだろう。
それであれば、この場で隊長達を待つのが賢明な判断だと言える。


だがこの場でじっとしていることは、『相棒』を見殺しにすることと同じ。
自分の身のかわいさに、誰かが犠牲になるのを見て見ぬふりするなどしたくない。


黄泉川はこれ以上犠牲者を増やしたくない一心で、不安定な足場の中で自分の足を必死に動かした。










しかしその時、黄泉川は一つの過ちを犯していた。
それは、走り去る直後に男が発した警告を聞き取れなかったことである。










警備員1「黒髪の子供に会ったら逃げろ……アイツは……危険だ……」

今日はここまで

ふと書き溜めを見てみると、話の大半が過去話になっているという現実。しかもさらに増える予定
少し省くべきか悩んでいる状態

それと咲夜さんの能力を自分風に解釈したらチートキャラになった
具体的には、初見であれば美琴を圧倒できるくらい強い。どうしてこうなった

質問・感想があればどうぞ


咲夜さんはレベル4最強クラスってことでいいんじゃない?
あわきんと同格ぐらいで
あの人もうまくやれば勝てるらしいし


あわきんもトラウマのせいで4どまりらしいからねぇ
トラウマを超えた先により強固な『自分だけの現実』があるって感じか

>>365, >>366, >>377
レベル5の条件は『一人で軍隊を相手にできる』こと
つまりどんなに強力な能力でも、多人数に対して優位に立てなければレベル5にはなれない
ということは、一対一ならレベル5も圧倒できる能力者がいる可能性も……?

>>378
地霊殿のキャラに出番が多いのは、他のキャラよりも今の話に関わらないモブとして出し易いからです
妖々夢、風神録、聖蓮船、神霊廟は魔術側の十字教等の既存勢力とはほぼ繋がりの無い形で出す予定で、
永夜抄は科学側ですが、今の紅魔郷編には一部を除いて全く関わってきません
地霊殿は『地霊殿編』という独立したストーリーを作らず、話全体に少しずつキャラが登場する形になりそうです
あくまでも予定ですが


そう言えば禁書には遺伝子操作した生物兵器とかそういう類のものは出てきてませんね
第十学区には験獣施設があって10メートル越えの蛇がいたりするそうですが
その内仮面ライダーみたいな改造人間が出てきたりするんでしょうか?

これから投下を開始します






     *     *     *






警備員2「ったく、ふざけんじゃねぇぞ!」



何の装飾も成されていない石の廊下を走り抜ける。


先ほどの爆発から既に10分近く。
彼は自分を狙う少女から逃げ切るために地下を走り回っていた。
10分と言ったが、本当にそれだけの時間が経っているかは時計を見ていないのでわからない。あくまで体感的なものだ。
しかし彼に蓄積された疲労は、それだけの時間が経っていると錯覚させるには十分なものである。


これが訓練ならまだマシなのだが、今は自分が死ぬか死なないかの瀬戸際なのだ。
その精神的なストレスも相まって、彼の体力はそろそろ限界を迎えようとしていた。


警備員2(逃げる途中の爆発でアイツとははぐれちまったし……無事だろうな?)



この場にいない自分の相棒の安否を思う。
彼は日頃から真面目に鍛えているおかげで相当タフのはずだ。ちっとやそっとでくたばるような男ではない。
だが能力者が引き起こした爆発に晒されて全く無傷ということはあり得ないだろう。


通路の角に隠れて少し休んでいると、件の少女が暢気にこちらに歩いて来るのが見えた。
それはいつでも殺すことが出来るという余裕の表れなのか、それとも追いかけることにそれ程興味がないからなのか。



U-09番「ちょっと~逃げないでよ。 当たらないじゃない」

警備員2「『はいそうですか』って自分から的になる奴がいるわけねぇだろ!」

U-09番「え~。 ケチぃ~」

警備員2「ケチもクソもあるか!」


緊張感のない発言をする少女に対してだんだん苛立ちが募ってくる。
こっちは必死になって逃げているというのに、彼女から全くそういった気概が感じられない。
これまでの決死の逃走劇が、まるでただ遊びであるかのように振る舞っている。正直に言って気分が悪い。


相手が子供でなかったのなら、遠慮無くゴム弾で動きを止めて拘束したいのだが、
あの子供がこの作戦の保護対象であるかもしれないために、易々と傷つけるような手段を執ることはできない。
その他にも能力者を対処するケースというもの自体が非常に稀であり、どう行動するべきなのか判断に困るというのも一つある。


彼女は能力を持たない一般人とは違う。
例え捕らえることに成功したとしても、その能力で逃げられてしまうことは十分に考えられるのだ。



警備員2(こっちが助けようとしている子供を手駒として使うとは……この作戦を考えた奴は相当なゲス野郎だな)

U-09番「やっと手加減のコツが解りかけてきたんだけど、まだ自信がないんだよね」

U-09番「だからもっと私の練習台になってよ。 たぶん大丈夫だからさ」


警備員2「手加減したところであんなもん直撃したら死ぬわ! つーか『たぶん』って何だよ!」

U-09番「もー、仕方ないなぁ……でも、射撃の練習をするのも悪くないかな?」

警備員2「……は?」

U-09番「追いかけっこはもう終わり。 今度は的当てごっこね! いっくよー!!!」

警備員2「待……!」



彼の抗議も空しく、少女は手を拳銃の形にしたかと思うと人差し指の先に小さな光の球を作り出す。
そしてその指先をこちらに向けたかと思うと、その球を銃弾のように打ち出した。


警備員2「うおっ!?」



その光の球を咄嗟に避けると背後から小規模の爆発が起きる。どうやら避けた光の球が破裂したようだ。
小さな爆発だったので爆風で吹き飛ばされるようなことはなかったが、
それでもかなりの風が背中に叩き付けられたことで少しよろめく。



U-09番「む、外した……」

警備員2「あっぶねぇ……」

U-09番「アレを避けるなんて流石『警備員』だね。 ビックリしたよ」

警備員2「褒められても嬉しくねぇよ……」

U-09番「でも、これならどうかな?」


すると彼女は、今度は両手を同じ形にして先ほどと同じように光の球を作り出す。
それはさながら二丁拳銃のようだ。少女はその腕を胸の前でクロスしてポーズを決めている。
再三言うが、全く持って緊張感が感じられない。



警備員2「なにポーズ決め込んでるんだよ……」

U-09番「ふふん、私のかっこよさに嫉妬しちゃった?」

警備員2「いや、全く。 思春期の心の病気はとっくの昔に治ったからな。 今のお前は痛い子にしか見えん」

U-09番「むっかー! これでも食らえ!」

警備員2(来た……!)



少女は馬鹿にされたことに怒り、両手の光の球を一気に撃ち出した。


意図したことではなかったが、これは逆に都合が良い。
一発一発を交互に連射されるよりも、一度に撃ってきてくれた方が対処しやすい。


これまでの観察からわかったことだが、どうやらあの光の球は再び射出できるようになるまで何秒かラグがあるらしい。
つまり一度に射出した場合、確実に隙ができるということだ。
それだけの時間があれば、目の前にある曲がり角に飛び込むことくらいは可能だろう。


ドンッ!



警備員2(……っ! 今!)

U-09番「あ! 逃げるな!」



逃走し始めた彼を見て慌ててもう一度光の球を作り出すが、その時には既に遅く。
彼は十字路を右に曲がり姿が見えなくなってしまった。


少女は慌ててその後を追いかけ始める。



U-09番「待て~!」



後ろを追いかけて来る少女は光の球を連射しているが、走っているために標準が合わず、こちらに当てることは出来ていない。
それどころか天井や壁にぶつけたり、光の球がこちらに届く前に爆発したりして制御もままならないようだ。
そして自分が起こした爆発に走りを遮られてだんだんと距離が開いている。


警備員2(このままなら何とか……)



ドォン!!!



警備員「おあぁぁっ!?」

U-09番「やったか!?」



突如背後で起こった爆発に大きく吹き飛ばされる。どうやらたまたま上手く光の球を破裂させることが出来たらしい。
直撃しなかったことは不幸中の幸いだが、それを差し引いても体に受けた衝撃は大きく、
吹き飛ばされた勢いのまま地面に強く叩きつけられた。



警備員2「がぁ……!」



体に走る激痛に小さく悲鳴を上げる。しかし、その痛みに構っている余裕はない。
すぐに立ち上がって走り出さなければあの少女に追いつかれてしまう。
だが頭では分かっていても、体が痛みで上手く動かすことが出来ない。


警備員2「ぐっ……そ……! 油断した……!」

U-09番「ようやく追いついたわ。 私を馬鹿にするからそうなるのよ」

警備員2「へっ……あんなドヤ顔で決めポーズなんて、頭が足りてないと見られても仕方ないと思うけどな……」

U-09番「……消し炭にするわよ?」

警備員2「お前の役目は……『警備員』の足止めじゃなかったのか?」

U-09番「別に殺すななんて言われてないし、これも立派な足止めでしょ?」

警備員2「その割には俺にばっかり執着しすぎじゃないか? 他の『警備員』が来てるかもしれないぞ……?」

U-09番「大丈夫よ。 私一人だけじゃないし」

警備員2「……そうかい」


少女が言うにはまだ他に誰かいるようだが、そのことを後からやって来るだろう仲間に伝える術は無い。
それどころか数秒後には灰になっているかも分からない状況である。
もちろんそんなことは真っ平御免だが、打開案があるわけでもなく、地面に這い蹲っているしかなかった。


やがて、少女がこちらに手を向けるのが目に入る。
あの光の球で自分を消し飛ばそうとしているのだろうか。



警備員2(俺もここで年貢の納め時かねぇ……)



痛みで良く回らない頭でそんなことを考えた時、












「お前達! そこで何をやってるじゃんよ!」



そんな声が聞こえたような気がした。










短めだけど今日はここまで
質問・感想があればどうぞ


なんか魔術サイドが多そうですね
>>1の好きに書いて欲しいけど科学サイド好きだからちょっと残念



>>370
地底組はゲスト枠か
そんな気がしてた
あと
レベル5第6位は多勢を相手取れる能力持ちか
…全然絞れないなあ…

戦闘中に漫才とは軽くて良いなw状況はピンチだけどもw

お空のしたポーズって、ビヨンド・ザ・グレイヴさんみたいなスタイリッシュなやつだろうか?


もともとが忘れ去られた幻想の存在だから魔術寄りになるのも致し方ないかね

その辺はどんな事件(異変)になるやらね~

>>385, >>386, >>389, >>390
まだこうしたいな~と考えてるだけなので
風神録三部作は、もしかしたら纏めてしまうかもしれません

>>387
まぁ、あの子がシリアスな雰囲気でドンパチやらかすとは思えませんしね






     *     *     *






黄泉川(……これは一体どういう状況じゃん!?)

警備員2「ぐっ……」

U-09番「……誰?」



爆発を聞きつけて駆けつけてみると、そこには仰向けになって倒れている『警備員』と、
それを見下ろす黒髪の少女の姿があった。


『警備員』の方は痛みで動けないらしく、自分で立つこともままならないようだ。
どの程度の傷なのかは診てみないとわからないが、早急な手当が必要であることは確かである。


黄泉川(彼の手当は隊長達を呼べば何とかなるじゃん。 でも……)



問題はこちらを見たまま立ち尽くしている少女。彼女は男に右手を突き出したままじっとこちらを見据えている。


――――彼女は一体何をしようとしていたのか?



黄泉川(いや、まさか……そんなことあるわけ……!)


頭によぎった考えを急いで振り払おうとする。
しかしいくらそれを否定しても、目の前にある光景が彼女の予想が正しいと訴えてくる。











もしかしたらこの子供は――――目の前の『警備員』を■そうとしていたのではないのかと。











「ねぇあなた、『警備員』よね?」

黄泉川「……!?」



気がつくと、少女はいつの間にかこちらの目の前に立っていた。
何の汚れもない硝子のような瞳。こんな目をした子供が人を■すなどとどうして思えようか。



「何か言ってよ」

黄泉川「……私は確かに『警備員』じゃん」

「……そう、じゃああなたも敵ね」

黄泉川「――――ッ!?」バッ!


身の危険を感じ、咄嗟に後ろに後退する。
そして少女を見やると、彼女は手の指先から小さな光の柱を出現させてこちらに突き出していた。
あの光の柱がどのようなものなのかはわからない。ただ、まともに食らっていたら碌でもないことになっていただろう。



黄泉川(この子……能力者!?)

「あれ、外しちゃった。 今度は大丈夫だと思ったのに……」



まるで料理に失敗してしまったかのような軽いノリでそんな言葉を呟く。
自分が行おうとしたことに対して全く気負いが感じられない。


ふと、胸のプレートに書かれた「U-09」の文字を見つけた。
憶測でしかないが、彼女はこの研究所で行われている実験の被害者なのではないか?
もしそうなら、自分は今『助けるべき存在に牙をむかれている』ことになる。


黄泉川「いきなり何をするじゃん!?」

U-09番「何って、侵入者の足止めだけど? それが私の役目だし」

黄泉川「……それは誰の命令だい?」

U-09番「私にこの力をくれた人の助手。 結構口うるさいんだよね、あの人って」

黄泉川「……」



『この力をくれた人の助手に侵入者の足止めを命令された』。
つまり彼女はこの研究所の誰かにあの能力を植え付けられ、『警備員』の侵入を阻止するために差し向けられたのだろう。
黄泉川の当たって欲しくない予想は、ものの見事に的中してしまった。


黄泉川「……どうしてそんな男の命令を聞くんだい? そいつはお前の体を好き勝手に弄ったんだろう?」

黄泉川「それを理不尽だとは思わなかったのかい? 他の子供達は平和に暮らしているのに」

U-09番「この町って超能力を研究しているんでしょ? ならあの人達は何も間違ったことはしてないと思うんだけど」

黄泉川「っ! だけど、子供を使って非合法の実験をしているのは許されることじゃないじゃん!」

U-09番「じゃあ合法なら何でも許されるの? そもそも、良いか悪いかを決めてるのはあなたたち大人でしょ?」

U-09番「ルールを決めるのは大人。 ルールを破るのも大人。
決めた本人が守らないんじゃ、そんなものは最初から無いのと一緒」

U-09番「だったらあの人達がやってることが悪いかどうかなんてどうでも良いじゃん」

黄泉川「……誰かが破ったからといってそのルールが無意味だということにはならないじゃんよ」

黄泉川「ルールは守られるためにある。 非合法の実験を放置したら、学園都市は『実験動物』の飼育施設に成り下がるじゃん」

黄泉川「そんなことは、教師として絶対に許さないじゃんよ……!」

U-09番「……」


自分が守るべき子供達を実験の道具になどさせてなるものか。
子供を人として扱わない人間は、自分の人生を賭けてでも駆逐してみせる。


それが教師として、そして子供を導く大人としての自分の責務であると黄泉川は考えている。



黄泉川「君は何が何でも私が連れて帰るじゃん。 それと、社会の仕組みってものを骨の髄まで教えてやるじゃんよ」

U-09番「余計なお世話よ。 そんなの聞いても退屈なだけだと思うし」

黄泉川「先生の話はとりあえず聞いておくものじゃん。 伊達に君よりは長生きしてないじゃんよ」

U-09番「……鬱陶しいなぁ。 ぶっ飛ばすよ?」

黄泉川「……おいたをする子には躾が必要じゃん」


どうやら少女との戦闘は避けられないようだ。この状況に黄泉川は心の底から嘆く。
彼女としてはあの少女を拘束する手段はいくらか考えてある。しかし、『無傷で』という条件が付くと、その方法は皆無に等しい。


少女を鎮圧するのに実弾を使用することはもちろん論外。
ゴム弾なら当たれば動きを止められるであろうが、相手を無傷で事を済ませられる方法とは言い難い。


とすれば、直接組み伏せるのが最良だと思えるが、その方法が使えるのは一般人が相手の時だけだ。
能力者相手にそんなことをしては、手痛い反撃を食らうことは想像に難くない。
それに能力の使用を強制的に中断させてしまうと、制御が出来なくなって何が起こるかわからない。
やはり相手を傷つけずに捕らえることは不可能のようだ。


しかし子供に銃を向けるなどとしても良いのだろうか?
例え敵意を向けられたとしても、彼女は救助すべき子供であるという点に変わりはないのである。


黄泉川「……そういえば名前を聞いてなかったじゃん」

U-09番「名前? 無いよそんなの。 まぁ、敷いて言うなら『U-09番』っていうのが今の私の名前かな」

黄泉川「なんだって……?」

U-09番「頭に電極ぶっ込まれてるのに、そんなこと覚えていられるわけ無いでしょ」

U-09番「あ、でも勘違いしないでよ? 私は自分の名前にこれっぽっちも未練なんか無いんだから」

黄泉川「……」



自分の名前を忘れたというのに、彼女は全く悲しくはないという。
それは元々の彼女の性格なのか、それとも実験でそういうものになってしまったのか。
ここで行われていた実験がどんなものだったのかは詳しく知らないが、
少女の発言から考えるに、やはり吐き気がするような内容なのだろう。


その犠牲者である彼女を見て、悲しみと同時に哀れみの感情が少しだけ湧き出した。


U-09番「……もういい。 あなたと話すことなんてないし、跡形もなく消えちゃえ!」

黄泉川「……っ!!!」



少女は手の平に光の球を作り出す。さっきの柱と比べれば、明らかに危険度が増している。
黄泉川にとっては初見であるが、これこそ彼女が持つ能力の本当の姿。
光の球を投げて爆発させ、広範囲に破壊をもたらす攻撃が彼女の戦い方だ。


超能力が争いの道具になってしまうのは、もはや避けられないことなのだろうか。
私達は子供に兵器を持たせるためにこの街を作ったのか?



黄泉川(いや、考えるのは後じゃん。 怪我人が近くにいるこの場所でドンパチやらかすのは不味い)

黄泉川(一端退いて怪我人から引き離すじゃんよ!)

U-09番「せーの!」

黄泉川「ちぃ!!!」


少女が大きく振りかぶるのを見て、全力で後ろに走り出す。


あの球がどのようなものなのかは今の黄泉川の知るところではないが、ここに来る前に見た通路の惨状、
そして倒れていた『警備員』。あれらは彼女の仕業である可能性が高い。
コンクリートに大穴を開け、通路を崩落させるだけの力を持っているとなれば、
自分が取るべき行動は相手の攻撃範囲外に逃げるか、接近して自爆を恐れて能力を使用できないようにするしかない。


後者は相手が既に予備動作を始めているため、行動する前に近づくのは難しい。
詰まる所、この場は逃げるしかない。



U-09番「あなたも逃げるの!? いい加減に……しろぉ!」

黄泉川(来た!)



光の球が黄泉川の背後に迫ってくる。
だがそれはこちらまで届くことはなく、二人の中間の位置で爆発した。


ズドン!



黄泉川「うわ!?」

U-09番「わっ! ……また失敗した」



そんな少女の言葉を聞く余裕もなく、黄泉川は背後からの爆風に吹き飛ばされつつ受け身を取る。
そのまま体に来る衝撃を緩和し、すぐに起き上がって再び走り始めた。


背後で少女が騒いでいる声が聞こえるが、それを無視して隊長達に連絡を取る。


黄泉川「隊長! こちら黄泉川じゃん!」

隊長『黄泉川か! こっちはお前が発見した『警備員』の保護が完了したが、一体今どこにいるんだ!?』

隊長『さっきから爆発音がこっちまで響いてきてるぞ!』

黄泉川「もう一人負傷者を発見したじゃん! その場所から東に進んで3番目の曲がり角、そこを北に曲がって直進した所じゃんよ!」

隊長『わかった、すぐに行く!』

黄泉川「それと、あの通路の惨状を引き起こした奴に出会ったじゃん! 
私が引きつけてるから、その内に救助して欲しいじゃんよ!」

隊長『馬鹿野郎! 死ぬ気かお前は!? さっさと逃げろ!』

黄泉川「……それは無理な相談じゃん。 そいつ、この研究所で行われていた実験の被害者じゃんよ!」

隊長『何……?』

黄泉川「つまり、ここの奴等は子供を私達に差し向けたってことじゃん!」

隊長『無視することは出来ないか……救助が終わり次第そちらの援護に行く! それまで何とか耐えろ!』

黄泉川「わかったじゃん!」



通信を切ると同時に再び背後で小さな爆発が起きる。
先ほどよりは大きくはないが、近くで起きたために衝撃は先ほどとは変わらない。
段々と能力の扱いが上手くなってきているようだ。



黄泉川(やっぱり……やるしかないのか!?)

U-09番「もういい加減追いかけっこは疲れてるのよ! さっさと吹っ飛べ!」

黄泉川「――――!?」



少女が放った光の球が今度は自分の脇を通って目の前を飛んでいく。
そして進む先にあったT字路の壁に当たると、大きな爆発を引き起こして壁を粉砕した。
その粉塵が黄泉川達の方向に向かい、一気に通路の視界が悪くなる。


黄泉川「くっ!」

U-09番「わっぷ!」



黄泉川はその煙の中に突っ込み、目を細めながらも走り続けた。すると、急に辺りが暗くなったことに気づく。
どうやら破壊された壁の向こうに入ってしまったらしい。このままでは袋の鼠である。
しかし戻ろうにも既に背後にはあの少女が近づいてきている。鉢合わせして的にされるのがオチだ。


とにかく入口から離れて身を隠さなければ。そう考えて部屋の奥へと走り出そうする。


そこで、この部屋に備え付けられたある物を見つけた。
それは直径が30センチメートル、高さが50センチメートル程の円筒型のアクリルガラス製の容器。
それがなにかの機械にはめ込まれていた。
その中には若干緑がかった透明な液体が満たされている。それ以外には何も入っていない。



黄泉川(これは……細胞培養用の培養槽? とすると、この部屋で何かを培養しているのか?)

黄泉川(それにしてもかなり大きいじゃん。 これなら臓器移植用の人工内臓も培養できるじゃんよ)

黄泉川(一体何をして――――!?!?!?)











粉塵がある程度収まり視界が良くなった部屋で、
黄泉川は自分の背後を振り返ったとき、見てはならないものを見た。











そこには黄泉川が見つけた培養槽が整然と部屋の隅々まで並んでいる。


10、20、30……いや、もっとあるかもしれない。
培養槽はぼんやりとした明かりに照らされながら、神秘的とも評せる光を周囲に漏らしている。
その光景は近未来的な美しさを感じさせた。



黄泉川「あ、あぁ……!」



だが、その培養槽の中に入っているものは何だろうか?
少しピンク色をした、表面に皺が彫られたメロンパンほどの大きさの物体が、培養槽の中をぷかぷかと浮かんでいる。
それはまるで、人の■のようではないか。


黄泉川「そ、んな……」



でも大人のそれと比べると少し小さい気もする。


それはそうだろう。子供の■は大人のものと比べて未発達だ。小さいのは当然である。


大人の大きさになるまで後5年、長いものでは10年は必要だろう。


ただしこれはもう■んでいるので、これから成長するということはない。


黄泉川「う、ぐ……!」



それにしても、どうして子供の■が培養槽の中に入っているのだろう?



そんなことは考えるまでもない。実験に使うために決まっている。







しかし実験で使うといっても、これそのものに手を加えるわけではない。これはただの標本だ。











実験の失敗を探るために、子供の頭を切り開けて取り出した――――











U-09番「そこでボーッとして、逃げないの?」

黄泉川「――――!?」



突然耳に入ってきた声に黄泉川は一気に現実へと引き戻される。どうやらいつの間にか蹲っていたらしい。
まるで酷い車酔いになったかのような吐き気がし、頭がぐらぐらして思考が定まらない。
そして、何か恐ろしい悪夢でも見た後のように体の震えが収まらなかった。



黄泉川「この、部屋は……」

U-09番「え? ここ? ここはただの標本室だよ。 『被験者』の脳を保管しているの」

黄泉川「子供達は……?」

U-09番「みんな死んじゃった。 まぁそれだけじゃなくて、心が壊れちゃった子もこの中にはいるけどね」

黄泉川「……っ! ここの奴等はどれだけ命を粗末に扱う気じゃんよ!!!」


全く関心がないかのように話す少女に対して、黄泉川は堪らず叫び声を上げる。
しかしその悲痛な声を聞いても彼女の表情は何も変わらない。むしろ何を言っているのだというような不思議な顔をしている。
黄泉川はそんな少女の姿が恐ろしかった。



U-09番「先生が言うには『実験に失敗はつきもの』。 だから誰かが死んでも不思議じゃないでしょ?」

黄泉川「そんな実験に人間を、子供を使うこと自体が間違ってるじゃん!」

U-09番「なら人間じゃなきゃいいの? 犬とか猫とか鳥とかなら好き勝手に使ってもいいのね?」

黄泉川「っ!」

黄泉川(一体この子は何なんだい!? 子供っぽいところがあったり、急に悟ったように言葉を話したり……)

黄泉川(……まさか、ここの奴等が教えた?)


ここまで会話してわかったことだが、この少女は見た目に比べて思考が少々大人過ぎる。
所々にあどけない部分はあるが、時折子供に似つかわしくない思考を見せるのだ。


この研究所の大人達に教育された結果なのだろうか。
もしそうだとしたら、ここの実験に否定的ではないことも頷ける。
彼女が逆らうことがないように、そして自分の立場に疑問を感じないように教え込んだのだろう。



黄泉川(本当に、反吐が出るじゃんよ!)

U-09番「……? 何も言わないなら、もう終わりにしましょ。 あなたも逃げられないし、丁度良いわね」



少女はそう呟くと、こちらに手の平を向けて光の球を作り始める。
今までのものより大きい。あれが爆発したら、おそらく部屋は甚大な被害を受けるだろう。


しかし今の黄泉川のコンディションは最悪だ。正直、立ち上がることも億劫な状態である。
なんとか這って動くことは出来そうだが、そんな方法でこの状況を脱することなど出来るはずもない。


もはや自分がとれる行動は――――


U-09番「じゃあね、バイバイ」

黄泉川「!!!」ガシャ!



少女は右手を突き出し手の平から小さな太陽を打ち出そうとする。


黄泉川はそれを見て腰の拳銃を抜き取り、少女に標準を定める。もはや遠慮してなどいられない。
この拳銃に込められている弾はゴム弾だ。相手の動きを止めるくらいは出来るだろう。


しかし、ここから少女まで結構な距離がある。加えて体勢は不安定で弾が当たるかどうかもわからない。
だがそれでも撃たなければ、自分は間違いなくここで死ぬ。


黄泉川(ごめんじゃんよ……!)



ダァン!!!



黄泉川は心の中で自分が銃口を向けている少女に謝罪しつつ、拳銃の引き金を引いた。


銃口から飛び出した弾丸は、若干ながらの放物線を描いて少女の元へと飛んでいく。
ゴム弾と言っても、その速度は実弾のものと遜色ない。避けることは不可能だ。


弾丸は若干中心から逸れながら進んでいき――――











ビスッ!


U-09番「ぎッ……!!!」


少女の右腕に命中した。










ちょっとキリが悪いですが、今日はここまで


黄泉川先生の過去編も終盤に差し掛かってきました
ちょっと長い気がしないでもありませんが、まだ同じくらいの長さの別キャラの過去編があと2つ、3つ程控えてます
過去話がやたら長い漫画のようになりかけてきていますが……削った方がいいんでしょうかね?


来週は野暮用で更新できなさそうなので、再来週に再開します

うーん……自分的には過去編も好きなんだけど、お忙しいだろうし完結までにすごく時間がかかるのもどうかと思うから……

ちょっとだけ分量を減らした方がいいかと

完結してくれるなら長くても書いて欲しい

あんま無責任なこと書くのもアレだが書きたいように書けばいいんじゃない?
>>1が書いていくなら俺は読み続けるyp



リアルが忙しいのも長い話が続くのも一向に構わんのだけど
>>421みたいなことは

その長い話が終わってから言うべき

だよ

>>422, >>423, >>424, >>426
温かい声援ありがとうございます
最近ちょっと筆が進みづらくて、モチベが下がり気味だったんですよ
でも、そんなことはここで書くことではありませんでしたね
何だか愚痴っぽいことを言ってしまってすいませんでした

では、気を取り直して
これから投下を開始します


ドォォォォン!!!



黄泉川「ぐっ!?」



そして引き起こされる爆発。
理由は考えるまでもない。痛みで能力が制御できなくなり、光の球が爆発したのだろう。
衝撃で壊れた培養槽の破片や中に入っていた液体、そしてピンク色をした何かが辺り一面に飛び散る。
咄嗟に前を庇って爆風を凌ぐが、飛び散った色々なものが黄泉川の体に降りかかった。
鼻腔に張り付くような生臭い匂いを振り払い、未だに煙が充満する室内を確認する。



黄泉川「ッ! あの子は!?」



爆発の中心地の向こうを見やると、少女が仰向けになって倒れていた。衝撃で吹き飛ばされ、そのまま気を失ってしまったようだ。
着ている服は爆発の熱で所々が焦げており、その下の肉体には焼け爛れた皮膚が見える。
幸いこの場で治療をしなければ危険というほどではない。ここから連れ出して十分な処置を施せば大丈夫だ。
培養槽の破片で切り傷も多少見られるが、これも大したことではない。『警備員』に支給されている救急キットでも十分治療可能である。


だが――――


黄泉川(右手首より先が……無い)



おそらく爆発で跡形もなく消し飛んでしまったのか。
光の球を生み出していた右手は肉片も残さず粉々となっており、その傷口からは赤黒い血液が垂れ流されていた。
熱で傷口が焼かれており、ある程度出血はマシになってはいるが、この状態が続けば少女の命が危険だ。



黄泉川(……)シュルシュル



黄泉川は何も言わずに少女の右腕に包帯を巻き、きつく縛り上げる。
とりあえず止血しなければ、出血多量に伴うショックで死んでしまう。
しかし、これだけでは十分に対処したとは言い難い。
傷が悪化する前に彼女を連れて脱出しなければ。


黄泉川(……本当にこれで良かったのかい? 私が撃たなければこの子は右手を失うなんてことは……)



黄泉川は心の中で自問自答する。
自分が撃った銃弾が原因で、この子は能力の制御が出来なくなり右手を失うことになった。


もしかしたらもっと他にやりようがあったのではないか?
その方法を見つけさえしていれば、彼女はこんな怪我をする必要はなかったのではないか?
だがあそこで撃つことに渋っていれば、この子供の右手のように自分の体は跡形もなく消し飛んでいたのかもしれない。
自分が生き残るためには、ああするしかなかったのも事実である。



黄泉川(クソッ!)



心に沸き上がる罪悪感に自分の唇を噛む。鈍い痛みが唇に走り、口の中に鉄の味が広がるがそんなことは関係ない。
こうしていなければ、自分の不甲斐なさにどうにかなってしまいそうだ。


自分はこの子を助けるためにここに来たというのに、これでは本末転倒ではないか。
守るべき子供を傷つけてしまうなど、どの面を下げて教師を名乗れというのだ。
しかもその理由が、『自分が死にたくなかったから』というもの。
それでは自分の保身のために子供を傷つけた卑怯者でしかない。



黄泉川(……早くこの子を連れて行かないと……)



頭に駆け巡る思考を強制的に断ち切る。
この少女は今重傷なのだ。自分が犯してしまったことに対する後悔など、少女を救助した後にいくらでもすればいい。


黄泉川は少女をおぶるために担ぎ上げようとして、











「そうは問屋が卸さないんッスよね~」










ガァン!!!



黄泉川「がぁッ!?」



何か大きな物で横に殴り飛ばされた。


黄泉川「あ……ぐっ!」



なぎられ田衝撃のまま、周囲にあった実験机に体を強く打ち付ける。
不意に強烈な衝撃を上半身に食らったことによって意識が飛びかけるが、辛うじて持ちこたえた。



「ありゃ。 一撃で沈めるつもりだったんだけど、まだ意識が残ってら」

黄泉川「お、前は……!?」



目の前に立っていたのは無機質な鋼鉄で表面を覆われた巨大な人形。
いや、ただ人形ではない。頭の部分と考えられるガラス張りの容器の中には人影のようなものが見える。
どうやら中には人が入っているらしい。


そして体中を覆う金属板もただの金属ではない。
生半可な銃弾では凹ませることすら出来ない、圧倒的な硬度を持つ特殊合金でできた鋼板。
おそらく『対戦車擲弾発射器(RPG)』の直撃を受けても耐えられるような代物だ。


それはまさしく、『歩く要塞』とも言えるだろう。


黄泉川「パ、『駆動鎧』!? なんでこんな所に……まさか外の部隊が!?」

「あー、それは違うっス。 外の『警備員』が全滅したわけじゃないッスよ」

黄泉川「何……!?」

「『警備員』は外にいる『駆動鎧』がこの研究所にある全てだと思ったみたいッスけど、実は違うんスよね」

「コイツは試作型の『駆動鎧』でね。 正規登録されてない代物なんスよ」

「ここでちょっとした試験をするために送られてきたって訳ッス」

「まぁ、あくまで試験のためだけだから、実戦用の調整はされてないんスけどね」



確かにこの『駆動鎧』は写真で見たものとは若干形が異なっている。
黄泉川が写真で見たものは寸胴の体型であり、耐久性を重視したようなデザインだったのだが、
それに比べて目の前に居る『駆動鎧』はスマートのように見える。
機動性を重視して動きやすいように設計されているのだろうか。


黄泉川「何者……?」

「俺? 俺はここで働いてる博士の助手ッスよ」

助手「もしU-09番が『警備員』の侵入の阻止に失敗した場合、俺が対処するように言われてたんス」

助手「いらないとは思ってたんスけど、まさか自分の能力で自爆しちまうとは予想外だったッス」

助手「まさか壊れたんじゃないかと内心ヒヤヒヤしてたんスよね」



助手名乗る男はそう言うと足下で転がっている少女を持ち上げ、腕に抱え込んだ。
少女はまだ気絶しており、当分の間は目覚めそうにない。



助手「あーあ、こんなんなっちゃって……先生になんて言われるか……」

黄泉川「彼女をどうする気じゃん!?」

助手「どうするって、回収するだけッスけど? コイツは研究における数少ない成功例なんスから」

助手「本当はもう一人いるんスけど、あっちはまだ調整不足なんスよね」

助手「でも研究所がこんな状態じゃあ調整は無理だし、あっちは廃棄でこいつだけを連れてくッス」

黄泉川「ま、待つじゃん!」

助手「テンプレだけど、『待てと言われて待つ馬鹿はいない』ッスよ」


助手が少し前屈みになると、足の裏からタイヤのようなものが現れた。
それはまるでローラースケート。この『駆動鎧』は足の車輪を使って移動するらしい。
確かに、普通に歩くよりは素早く動き回ることができるだろう。



助手「うーん、ローラースケートは一応やったことはあるんスけど、まさかこれを着てまでやるとは思わなかったッスね」

助手「ま、バランス調整は自動でやってくれるみたいだから、それ程問題はないッスね」

美鈴「黄泉川さん! 大丈夫ですか!?」

黄泉川「美鈴!?」

助手「おっと、新手か」



壊れた壁の奥から美鈴が駆け込んでくるのが見えた。どうやら隊長達とは一緒ではないらしい。
黄泉川は一途の望みをかけて美鈴に命令を飛ばす。


黄泉川「美鈴! この『駆動鎧』を早く止めるじゃん!」

美鈴「え? 『駆動鎧』……!?」

助手「遅いッスよ!」



『駆動鎧』の背中から小さなブースターが現れて点火される。
機体が急発進してそのまま壁に空いた穴に向かって直進していく。



美鈴「くっ!」ダンダン!

助手「そんなもん効くか! さっさと退くッス!」



美鈴は慌てて発砲するが、ただの銃弾が分厚い装甲を貫くということはなく、全く足止めの意味を成さない。
『駆動鎧』はそのまま減速することなく美鈴を撥ね飛ばし、左に急旋回して走り去っていった。


美鈴「きゃあ!」

黄泉川「待てぇっ!!!」



黄泉川は痛む体に鞭打って立ち上がり、急いで部屋を飛び出すが、
その時には既に『駆動鎧』の姿は見えず、遠くからブースターの音が聞こえるだけだった。
こうなってはもはや人の足では追いつくことは出来ない。



黄泉川「~~~っ!!!」ドン!



自分の拳を思いっきり壁に殴りつける。
子供を傷つけ、さらには攫われるのを目の前で見過ごすとは。本当に度し難い教師だ、自分は。
できるものなら、この場で自分自身を八つ裂きにしてしまいたい。


美鈴「うぅ……」

黄泉川「……! 美鈴! 大丈夫じゃんよ!?」

美鈴「黄泉川さん……? 一体何がどうなって……」

黄泉川「アンタはそこで安静にしてるじゃん。 ……隊長達はどうしたんだい?」

美鈴「隊長達は私と別れてあなたを捜しています。 たぶん近くにいると思いますが……」

黄泉川「……わかったじゃん」



隊長に連絡を取るために、トランシーバーの周波数を合わせる。


あの『駆動鎧』がここから逃げだそうとしているのなら、自分たちが降りてきた階段を使って地上に戻るはずだ。
階段には外の救援部隊が待機しているはずだ。もしかしたら、『駆動鎧』が来たときに何とか足止めしてもらえるかもしれない。
ただしこの地下の研究所のように、『警備員』が知らない逃げ道を確保しているというのであればお手上げだが。


隊長『こちらD班!』

黄泉川「隊長じゃん?」

隊長『黄泉川か! 今何処にいる!?』

黄泉川「正確な位置はわからないけど……隊長は最期の爆発音は聞こえたじゃんよ?」

隊長『ああ、今その音が聞こえた方向に向かっているところだが……』

黄泉川「そのまま来て欲しいじゃん。 美鈴はもう到着しているから」

隊長『そうか。 ならすぐ行く』

黄泉川「それと、いま美鈴は怪我で動けない状況じゃん。 出来るだけ急いで欲しいじゃんよ」

黄泉川「理由は会ってから説明するじゃん」

隊長『……わかった』プツッ


美鈴「……隊長の方はどうなりました?」

黄泉川「今こっちに向かってるそうじゃん」

黄泉川「そうですか……黄泉川さん」

黄泉川「どうした?」

美鈴「ここで何があったんですか? それに、あの部屋の惨状は……」

黄泉川「……あれは見ない方が良いじゃん。 何があったかは隊長達が来てから話すじゃんよ」

美鈴「……わかりました」



黄泉川は美鈴を介抱しながら隊長達が来るのを待つ。
半壊した部屋の中からは、未だに培養液と血肉の生臭い匂いが漏れ出していた。

今日はここまで
質問・感想があればどうぞ


これで無くなった右手首の先に制御棒を付けるアイデアが研究者から出るなら
それは狂気に陥ってるどころじゃねえ
そんな発想あってたまるか
それに左足の鉄塊と宇宙色(内側)マントと胸元の赤い石と羽が足りねえ

んな事より研究者一同跡形も無くなる展開はよ

ケンキュウシャ「U-09! おくうバスター ガ カンセイシタゾ! イマスグ ソウビ シタマエ!」

普通にサイボーグ化と違うの
「様々な」オプションが付く可能性はあるけど

昔は倒されたキャラが機械化(一部だけも含み)して復活するって、結構定番だったよなw

そこまで多かったかはアレだが、まぁあったな

>>444, >>445, >>446
U-09はどんなパワーアップを成し遂げるのか!? 乞うご期待!
……予定では次出るのはかなり先の話なんですけどね

>>447, >>448
シュトロハイム少佐とかフリーザとか、機械化で再登場は昔の漫画に多い感じ
強化した上で負けてしまう流れもよくあること

これから投下を開始します






     *     *     *






「……」



研究所の地下に存在する、数ある部屋の内の一つ。
四方を石の壁で囲まれた牢屋のような部屋の中に、一人の少女が蹲っている。


桃色をした患者衣を身に纏い、足に靴のようなものは履かされておらず裸足だ。
頭には包帯が分厚く巻かれているおり、傍から見ているだけでも痛々しい。
その様子は頭部の手術を終えた患者のそれと、非常によく似ていた。


包帯の隙間からは辛うじて白い髪が覗いている。この年ですでに白髪というのはかなり奇妙である。
それは生まれつきなのか、それとも生きているうちにそうなってしまったのか。
どちらにせよ、患者衣や頭部の包帯を抜きにしても人目を引く姿であるということは想像できる。


部屋の住人である少女は、天井を呆然と見上げながら何かを考えている。
いや、『考えているように見える』だけで、実の所『何も考えていない』。それどころか表情の変化すら見えない。
その理由は、彼女には『何もない』から。持っているはずの記憶、それこそ自分の名前ですら何一つ。


原因は彼女に対して行われた実験、そしてそれによって引き起こされた弊害によるものだ。
実験の過程で脳に直接電流を流されたことにより、少女の脳にはとても大きく、そして深い傷跡が残された。
今こうして心臓が動いて生きているのも不思議な位なのである。


『自分』を奪い去られた少女は人形のように、焦点の合わない視線を虚空に漂わせている。
彼女の頭には時折鈍痛が走るが、それに対してすらも何の反応も示さない。
何故なら慣れてしまっているからだ。自分がこの独房で目が覚めた時から、その痛みは続いているのだから。



白髪少女(……?)



ふと、意志を持たぬ人形だった少女の目に意志が宿る。それは部屋に起きた僅かな異変に感づいたからである。
何も変わらない部屋の中にずっといた彼女にとって、その異変は興味を引くには十分なことであった。


部屋が僅かに揺れているような気がする。それと、遠くから音が聞こえたような気がした。
少女は足がおぼつかないながらも立ち上がり、鉄の扉の前に立って外の様子を伺う。


通路の外には誰もおらず、足音すら聞こえない。完全に静まりかえっている。
そもそもこの付近は隔離されているので、人通りが少ないのは当たり前である。
彼女自身、食事を運んでくる大人と自分に機械を取り付けて何かをする大人以外には誰にも会ったことがない。



ガチャ……



ドアノブに手をかけて回すと、なめらかな動きで扉が開いた。
本来ならば、大人が部屋に入ってくるとき以外は鍵がかかっているはずなのに。
誰かが鍵を開けてくれたのか?もしそうだとしたら、それは何故なのか?
考えても何もわからない。元々この場所をよく知らない彼女が思考したところで、何か思いつくわけでもない。


白髪少女「……」



半開きになった扉を見て、少女は呆然と立ち尽くす。


彼女は誰かにこの部屋から出るなと言われているわけではない。
第一、この部屋に居ることに対して嫌悪感を持っていない。
目が覚めて自我を持った時からここで生活する彼女にとっては、この場所こそが自分の帰る家なのである。
無理をしてまでここを抜け出そうなどと、今まで考えたこともなかった。


だが、それでも外に興味を示してしまうのは彼女の幼さ故か。
少女は外に出る決心をするとゆっくりと扉を開け、裸足のまま自分の家を出て行った。






     *     *     *






白髪少女「……」ペタペタ



素足のまま、ぺたりぺたりと足音を鳴らしながら道を進んでいく。
コンクリートの床の冷たさが足の裏を伝わり、少し気持ちよかった。


遠くからは未だに何か音が聞こえてきている。少女はそちらに向かって歩き続けるが、いくら進んでも近づいた気がしない。
ただ、音が大きくなったり小さくなったりしているので、音がする場所が移動しているということだけはわかった。


しばらく歩き回って一番大きく音が聞こえた場所に着いたところで、どうやら音の源はここより上にあるということに気づく。
行ってみたいが、残念ながら少女はこの場所のことを詳しく知らない。
上へと続く階段を見つけたいのであれば、とにかく歩き回るしかなかった。


白髪少女「……」ペタペタ



再び当てもなく彷徨い続ける。何時までも変わることのない石の廊下をただ黙って歩き続ける。


頭に鈍痛が走る。心なしか、さっきよりも痛みが増してきたようだ。
しかし、それでも少女が歩みを止めることはない。
今までそうだったのだから、今更痛みが強くなったところで大した問題では無い。
もちろん痛みで身動きがとれなくなるほど酷くなってしまったら考え物だが。



白髪少女(……?)



気がつくと、さっきまで聞こえていた音がいつの間にか鳴り止んでいた。
音を頼りに歩いていた少女は、自分が部屋を出た最初の目的を見失ってしまう。
部屋に戻ろうにも、ここまでの道順を覚えているわけでもないためどうすることも出来ない。


完全な迷子であった。


白髪少女「……」ペタペタ



とは言っても、ただこの場所に立っていてどうにかなるわけでもないのも事実。


結局、少女に出来ることは歩くことのみ。
何処かで車が走り抜けるような音が聞こえたような気もしたが、少女は気づくことなく前へ進む。



白髪少女「……!」ピタッ



そして部屋を出てから大分時間が経ったとき、彼女は初めて自分以外の人間の気配を感じ取った。


背後から誰かが走ってくる音が聞こえる。
一人ではない。複数の人間が駆け足でこちらに向かってきている。


もしかしてここの建物で働いている人間なのだろうか?
とすると困ったことになった。自分が部屋から抜け出しているのが知られたら怒られるかもしれない。
その結末は、少女としてはあまりよろしくないものであった。
ただ、別の見方をすれば自分の部屋まで送ってくれるかもしれないとも考えられるが。


段々と走る音が近づいてくる。隠れようにもこの通路には身を隠せるようなものは置かれていないし、
周囲の部屋の中に入ろうにも、鍵がかかっているので扉を開けることすら出来ない。
つまりこのままだと、少女はその無防備な姿を人前に晒すことになる。


白髪少女(……!)オロオロ



ここから逃げだそうとするが、その時には既に遅く。黒っぽい服で身を包んだ人間達がこちらに向かって走ってきた。
人数は4人で男が2人と女が2人。全員が黒色の服にごつごつした上着を着ている。


手に持っているのは真っ黒な色をした水鉄砲。
いや、あれは水鉄砲なのか?それにしては随分と無骨な形をしているが。



黒服の女1「見つけた! 生存者です!」

白髪少女「……!」



いきなり大声を張り上げられたことにより、思わず竦み上がってしまう。


生存者。つまり私は生きている人間であるということ。
それと同時に自分以外の誰かが死んでしまっているということでもある。
誰がどんな理由で死んで、何から自分が生き残ったのかは知らない。
ただその女性の反応を見るに、自分が生き残っていることは非常に驚くべきことらしい。


黒服の男1「おい、大声出すな!」

黒服の女1「え? あ、すいません……」

黒服の男2「何をやってるんだお前は……」

白髪少女「……」



叫んだ女性に対して非難を浴びせる周囲の大人達。どうやら内輪揉めのようだ。


一体この人達は何をしに来たのだろうか?服装からして自分の知っているような人間ではないことは確かである。
自分が会ったことがあるのは、白い服を上着として着た大人達だけ。こんな黒ずくめの人を見るのは初めてだ。


黒服の女2「隊長、たぶんこの子が奴の言ってた子供に間違いないじゃんよ」

黒服の男2「あぁ。 話を聞くに、お前が相手した爆弾娘以外には一人しかいないようだからな」

黒服の男1「じゃあ早く保護しましょう。 ここの奴らに何されてるかわかりませんし、早く病院に連れて行かないと」

白髪少女「!」



大人達は全員こちらを見据える。どうやら自分を捕まえる気らしい。


彼らは少女を『保護』すると言っているが、当の少女にとってそれはあまり嬉しいことではなかった。
ここで素性のわからぬ彼らに捕まったら、自分の部屋に帰れなくなってしまうかもしれない。
それほど愛着があるわけでもないが、住み慣れた場所から引き離されるのは嫌だった。


黒服の男2「それじゃあ君、俺達と一緒に……」

白髪少女「……!」ダッ

黒服の女2「あ! 逃げたじゃん!」

黒服の男1「早く追うぞ!」



こちらが逃げ出すのを見た大人達が、少し遅れて追ってくる。


こんなことをしても無意味だということはわかっている。
どんなに最初に相手を引き離したとしても、所詮は子供の体。最終的に追い付かれてしまうのは自明の理。
しかし、それでも少女は自分の持つ力全てを振り絞って走り続ける。


だんだん息切れがしてくる。それと同時に頭痛もさらに酷くなっていく。
痛みで頭が割れそうだが、そんな状態になろうとも少女は足を止めようとはしなかった。


黒服の男1「逃げるんじゃねぇっての!」

黒服の男2「それにしてもあの子、体格の割には随分と足が速いな……!」

白髪少女「ハァ、ハァ……!」



だんだんと後ろから大人達の声が近付いてきた。
頭の痛みもそろそろ限界に達しそうだ。意識が朦朧としてきて、真っ直ぐに走れなくなってくる。


足がもつれて躓きそうになりながらも歩を進めるが、やがて頭の痛みに耐えられなくなり、その場に蹲ってしまった。
立ち上がろうとしても体に上手く力が入らない。それどころか、前向きに倒れ込んでしまいそうだ。
そうこうしているうちに、追いついた大人達が自分のすぐ背後に立ち止まるのがわかった。


白髪少女「……っ!」

黒服の男1「ふぅ、ようやく観念してくれたか?」

黒服の男2「……いや、様子がおかしい」

黒服の女1「何かに耐えているように見えます。 もし何かの病気だったとしたら大変ですよ!」

白髪少女「……ぁ」



大人達が何かを話しているが、もはや少女に周りを気にする余裕はない。
頭の痛みは万力で絞められているかのようになり、既に自分で立ち上がることも困難な状態である。


ズキン、ズキンと音が聞こえるような気がするほど脈動的に激痛が走る。その度に意識を手放してしまいそうだ。


白髪少女「うぅ……ぐっ……」

黒服の女1「隊長! 早く連れて行かないと……!」

黒服の男2「あぁ……ただ気をつけろ。 何が起こるかわからん」

黒服の女2「大丈夫じゃんよ? 私がおぶってあげるから――――」










ズキン!!!

白髪少女「――――!?!?!?」











大人達の一人が少女の肩に手をかけようとしたとき、眉間に釘を打ち込まれたかのような感覚が彼女を襲った。



白髪少女「っあぁぁぁああああぁあぁああぁあぁぁあ!!!」



今までとは比ぶべくもない痛みに、少女は頭を抱えて泣き叫ぶ。
激痛に自我が隅に追いやられ、自分が今、どこで、何をしているのかもわからなくなった。
このまま気絶できたらどれだけいいことか。しかし、痛みは意識を手放すことを許さず、彼女を混濁の海から引き上げる。


どのくらいそうしていただろうか。少女にとっては永遠と思えるほどの時間が経っているかのように感じた。
だが、永遠というものはどこにも存在しえない。少女を悩ませていたものは電灯が消えるかのように突然消失した。


白髪少女「――――あぁっ!」



その後に襲い来る強烈な疲労感。そのまま地面に倒れこみそうになる体を、辛うじて手をついて支える。
そして力が入らない体を引き摺るように動かし、背後にいる大人達から距離をとった。



白髪少女「ハッ、ハッ……?」



ふと、そこで一つ大きな疑問が生まれる。
何故自分は大人達から距離をとることができたのか。彼らにとっては自分を捕まえるための絶好に機会だったというのに。
どうしたのだろうと背後を振り返ると、そこには――――











「――――」 












死んでいる。


いや、そうではない。『止まっている』のだ。
4人の大人はそれぞれの体勢で石のように固まってしまっている。


先ほどの少女の泣き叫ぶ姿に驚いた顔をしている者。
少女の行動に警戒するかのように身構えている者。
少女を助けようと肩に手をかけようとしている者。
そして突然のことに対応が追い付かず、そのまま茫然と立っている者。


いずれも今にも動き出しそうな躍動感を醸し出しつつ、それでいて少しも身動きをする気配なく停止している。
とても精巧にできた人間の剥製を見ているかのようだ。


白髪少女「――――あ?」



突然の出来事に対して、少女の理解は全く追いつかない。
いったい何が起こったというのか。記憶を失っていることが原因で人生経験については幼子同然の彼女ではあるが、
それでも今目の前で起こっている事象は一般の常識の埒外のものであることは十分にわかった。


動くものがいなくなった廊下には、少女の呼吸音以外何ひとつ聞こえない。
すべてが死んだ世界に自分一人が取り残されたような感覚。静寂による耳鳴りが、少女の頭の中に聞こえ続ける。
頭痛直後の疲労感と相まって、強い寒気と吐き気が少女を襲った。


白髪少女「ぅぐ……」



そしてその静寂の中、少女の心を一つの感情が支配する。


その感情の名は『恐怖』。
痛みに対する本能的な逃避の欲求と、理解ができない事象に出会った時の未知への恐れ。
この二つの大きな感情がごちゃ混ぜとなって少女を追い詰める。



白髪少女「ぁ……」ドサッ



身体的な疲労と精神的な疲労の板挟みによって限界へと達した少女は、崩れ落ちるようにして地面に倒れこむ。
そしてコンクリートの冷たさを全身に感じ取りつつ、そのまま意識を手放した。

今日はここまで
質問・感想があればどうぞ


そういやこの人もいたんだったな

ゲスト枠らしい風神録組と地霊殿組のうちまだ出てない奴らの出番を考える

・風神録
秋姉妹‥出てきたとしてせいぜい店員?
雛‥魔術サイドならワンチャンあるか?
椛‥設定次第でいけるか?
守矢二柱‥見当もつかない

・地霊殿
キスメ‥相当特殊な設定でもつけない限りキツい(ssで無口キャラはなあ‥)
ヤマメ‥『原石』っぽいし普通に出て来そう
パルスィ‥魔術師ならイケるか?(「呪術師」とかの方が合ってそうだが)
勇儀‥素で強いキャラの必要性次第か
燐‥猫コスの霊感キャラor天井のスミを向き唸る黒猫

引きこもり気味な咲夜ちゃん素敵ですね

>>475
U-09のインパクトが強すぎて、S-18の影が薄くなる不具合

>>477, >>488
ゲスト枠というか、風神録や地霊殿単体で一つの纏まった話は作らないってことですね
守矢の二柱に関しては独自設定を考えていたり……

>>481
小さい頃はシャイだったんです。そのギャップが結構イケル

これから投下を開始します






     *     *     *






時間を少しだけ遡って、黄泉川達がどのような行動を取っていたのかを見てみよう。


黄泉川と美鈴は『駆動鎧』との戦闘の後、遅れてやってきた隊長と先輩に合流する。
そして黄泉川は、この場所に三人が到着するまでに起こった出来事を詳細に報告した。


能力者の少女が怪我をした『警備員』を殺そうとしていたところに出くわしたこと。
少女を『警備員』から引き離すために逃げ回っていたこと。
逃げ込んだ部屋が被験者の子供達の脳を保管する標本室だったこと。
部屋に追い詰められた黄泉川は、自分に対して能力を使用しようとする少女に対して止むを得なく発砲してしまったこと。
その銃弾が少女の腕に当たって能力が暴走した結果、少女の手首が吹き飛んでしまったこと。
少女の治療をしていた時に『駆動鎧』を着た研究員に出くわし、そのまま少女を連れ攫われてしまったこと。


彼女にとっては一生の心の傷になるであろう出来事を、襲い来る罪悪感を押し込めながら報告する。
美鈴はその話を聞いて顔が若干青ざめており、先輩は無表情でこちらを見据えていた。
そして黄泉川の話をすべて聞き終えると、隊長は黄泉川が無事であったことに対する安堵の言葉を述べ、
それ以外のことは何も言わずにこれからの行動を話し始めた。


黄泉川(隊長、どうして何も言わないじゃんよ……?)



勝手な行動を取った自分を咎めることもせずに話を進める隊長を見て、黄泉川は心の中で困惑する。


黄泉川にとってはその場で隊長に叱咤された方がよかったのかもしれない。
彼女は自分が少女に対して行ってしまった罪を裁いてほしいという、強烈な贖罪の願望に支配されていた。
しかしそれを知ってか知らずか、隊長は黄泉川を罵倒するようなことは全くしなかった。
自分の感情の行き所を失った黄泉川は、この作戦の間はその感情を奥底に仕舞い込むことにした。



隊長「黄泉川と交戦した研究員が言うには、連れ去られた子供以外にもまだ残された被害者が居る」

隊長「俺達の目的はその子供を見つけ出して保護することだ」


隊長が述べた事柄はこの施設に取り残されているだろう被害者の救助。
『駆動鎧』を着た研究員の言葉を考えるに、彼らが『廃棄』した子供がまだ施設内にいるらしい。
生死についてはわからないが、いずれにせよその子供を捜し出すことは急務であった。


その研究員は『調整ができなくなったから廃棄する』を言っていた。
例え被害者が生きていたとして、早い段階で見つけ出さなければ何らかの障害がその子供を襲う可能性がある。
そうなってしまったら、例え発見できてもそのまま子供の死に際を見届けることにもなりかねない。


4人は地上の施設よりは若干狭い広さの地下の探索を再開した。
幾つか部屋の中を捜索したが、そのほとんどが研究資料や科学論文を保管している部屋であり、
後は実験器具を纏めている倉庫のようなものだけであった。
黄泉川が入った標本室のような部屋に出くわさなかったことは、ある意味幸運だったと言えよう。
あのような部屋を何度も見せられては、絶対に気が触れてしまう。


そして捜索を初めて10分弱。4人はさらに下に降りる階段を見つけるに至る。


黄泉川「隊長、この階段は……」

隊長「あぁ、もっと下がありそうだな」



違法な研究を行っている施設のさらなる深部。
地下一階で既に脳の標本室があったのだ。これより下には何があるのか想像したくない。
自身の精神衛生のことを考えるならば、これ以上が進まないのが賢明な判断である。


しかし探さなければならない子供がこの先にいる可能性がある以上、ここで下に降りないわけにはいかない。
鍵が掛けられていて入れない部屋があったために、見つけた全ての部屋を捜索することは出来なかったのが心残りだが、
それらについては扉を破壊できる道具を持っているであろう後援部隊に任せることにした。


隊長「行くぞ……」

先輩「了解です」



階段を使って地下二階に下りると、そこには地下一階とはさほど変わらない景色が広がっていた。
違うことと言えば、一階よりも若干光量が少なくなったことだろうか。
廊下の壁に設置された足下灯の光の方が蛍光灯のそれよりも強いために、近未来の滑走路のような雰囲気が出ている。



美鈴「隊長、どうします? 散開して調べますか?」

隊長「いや、纏まって動こう。 あんなことがあったんだ、警戒するに越したことはない」



未だにこの施設を警備している人間がいないとも限らない。
先ほどは別々に行動してしまったために、黄泉川一人が能力者と『駆動鎧』を相手することになってしまっている。
同じ轍を踏まないためにも、今は一緒になって問題に対処する必要があった。


一同は足音を立てないようにして殺風景な廊下を進む。そして発見した部屋は、一つ一つ丹念に調べ上げていく。
地下一階とは打って変わって、地下二階は実際に実験を行うための研究室が多く存在していた。


しかし、研究室とは言ってもフラスコや試験管が所狭しと置かれているわけではない。
この施設は超能力の研究を行っている場所だ。そして超能力の研究は脳の研究でもある。
化学と言うよりも、むしろ医学に近い備品が数多く見られた。
綺麗に掃除がされた手術台。学園都市の技術が詰め込まれたMRI。脳波を測るためのものであろう測定機器など。
超能力研究のために必要な器具があちこちの部屋に設置されている。



隊長「ここにも居ないようだな」

美鈴「これで半分くらいでしょうか」



十ほどの部屋を探し終えた後、隊長はそんな言葉を漏らした。


地下二階に下りてから15分程。
今頃、後援の部隊が自分たちが入れなかった地下一階の部屋を捜索しているだろう。
もしかしたら既に終えてこちらに向かっているのかもしれない。


先輩「探していないのは降りてきた階段より東の区画か」

美鈴「半分調べるのに15分くらいかかりましたね」

隊長「ここまで来てまだ見つからないとは……残りの区画にいることを願うしかないな」

黄泉川「……」



一向に子供を見つけることが出来ない現状に、一行の表情には焦りが強く現れ始める。
研究者の『廃棄』という言葉。それが最悪の形で成されているのではないのかと、彼らの心に揺さぶりをかける。


よく考えてみれば、施設の奴等にとって足手まといになる子供を生かしておくメリットはない。
自分たちの痕跡を辿られる僅かな可能性をも潰すつもりであるのならば、この研究に関与した人間、
しかもその中枢とも言えるその子供を処分してしまった方が、後々都合が良いのではないのか。


黄泉川(何を考えているんだ私は!)



黄泉川は弱気になっている自分を叱咤する。
立て続けに精神を削る出来事に巡り会ってしまったためか、普段から考えれば別人とも言えるほど弱気になっていた。


この作戦に参加する前に自分は何と言っていた?
隊長の話を聞いて『その程度のことでびびっていては『警備員』は務まらない』とか話していた気がする。
なにが『その程度』だ。現在進行形で及び腰になっているではないか。


隊長が初めて作戦に参加した時に、食べ物が喉を通らなくなったという話も今ならよく理解できる。
彼がそこで何を見たのかは知らないが、自分が見たものと同等、もしくはそれ以上の光景を見たのだろう。
表に住んでいる人間からは想像も出来ないような学園都市の闇。
自分は今その一端に触れているのだと、彼女は今更ながら思い知らされていた。


美鈴「……隊長!」



残り半分の区画を捜索し始めてから数分、美鈴が周囲の異変を察知する。
美鈴が指さす方向を見ると、だれかが奥の道を横切っていくのが辛うじて見えた。
黄泉川はそれを見て弾けるように走り出す。他の三人も慌ててその後を追った。


見えた人物の年齢は背の高さを考えれば10歳前後。この施設にいる子供ということは実験の被験者かもしれない。
助けるべき子供を見つけたという安心感と手遅れになりはしないかという焦燥感。
二つの感情に突き動かされながら、4人はその子供の所に走っていく。


人影が見えた曲がり角を曲がると、すぐに件の子供を見つけることが出来た。
頭に包帯を巻いて青みがかった患者服を着た少女。その瞳孔は血に染まったかのように紅かった。
彼女は少しだけ驚いたような顔をしてこちらを見ている。
いきなり大人が集団で自分の元に向かってきたのだから、仕方のないことなのかもしれない。


美鈴「見つけた! 生存者です!」



少女の姿を確認した美鈴は突然大きな声を張り上げる
諦めの雰囲気が漂っていたところにやっと子供を見つけることが出来たのだ。
興奮してそんなことをしてしまったのかもしれない。


しかし、いきなり大声を出してしまったことで目の前の少女が少し身を竦めたのが見えた。
どうやら怖がらせてしまったようだ。



先輩「おい、大声出すな!」

美鈴「え? あ、すいません……」

隊長「何をやってるんだお前は……」


不用意な行動を取った美鈴に対し、隊長と先輩の二人は彼女に批難の目線を投げつける。
喜びの感情を理解できないというわけではないが、それに流されるままに行動してはならないということだ。
事実として彼女が感情にまかせて叫んだ結果、目の前の少女はこちらを警戒してしまっている。
若気の至りということなのかもしれないが、出来れば早急に改めて欲しいものだ。


一方何とか平静を保っていた黄泉川は、この場に流れた妙な空気を払拭するために隊長に対して話しかけた。



黄泉川「隊長、たぶんこの子が奴の言ってた子供に間違いないじゃんよ」

隊長「あぁ、話を聞くにお前が相手した能力者の子供以外には一人しかいないようだからな」

先輩「早く保護しましょう。 ここの奴らに何されてるかわかりませんし、早く病院に連れて行かないと」



少女に肉体にどのような手が加えられているのか、自分達では知りようもない。
手を加えたものがものなら、早急に手術する必要があるかもしれない。
もしそうなってしまった場合、『警備員』の自分達では完全にお手上げだ。
すぐに専門の医師に検査してもらい、的確な対処をしてもらわねばなるまい。


話を纏めた隊長は、少し怯えた顔つきをしている少女を説得するために近づいていく。


隊長「それじゃあ君、俺達と一緒に……」

白髪少女「……!」ダッ

黄泉川「あ! 逃げたじゃん!」

先輩「早く追うぞ!」



突然逃げ出した少女を見て、一瞬あっけにとられた4人はすぐにその後を追う。
美鈴が怖がらせたのが原因だろうか。それはともかく、早く少女を捕まえなければ。



先輩「逃げるんじゃねぇっての!」

隊長「それにしてもあの子、体格の割には随分と足が速いな……!」



前を走っていく少女を見て、その後を追いながら隊長はそんなことを呟いた。
自分たちと少女では、体格には倍近い差がある。本来ならば十秒と経たずに追いつくことが出来るはずなのだ。
しかし少女の走る速度は本来の常識からは考えられないほど速く、なかなか少女に迫ることが出来ない。


隊長(これは明らかにおかしい。 もしや……)



あの少女も能力者なのか?そうだとすれば、捕まえる時は警戒をする必要があるだろう。


しばらくすると、少女の動きに変化が見られた。足がふらついて走る速度も段々と落ちてくる。
能力者だとしてもやはり子供。しかも病人でもあるのだ。長々と走り続けていられるわけがなく、
少女はこめかみを押さえつつその場に座り込んでしまった。



先輩「ふぅ、ようやく観念してくれたか?」

隊長「……いや、様子がおかしい」

美鈴「何かに耐えているように見えます。 もし何かの病気だったとしたら大変ですよ!」

白髪少女「……ぁ」


少女は頭を抑えたまま俯いており、こちらの方を見向きもしない。
首筋からは汗が滝のように流れており、体の震えが止まらないらしい。
余程痛いのだろうか、早く彼女を連れて後援部隊と合流しなければ。



白髪少女「うぅ……ぐっ……」

美鈴「隊長! 早く連れて行かないと……!」

隊長「……あぁ、ただ気をつけろ。 何が起こるかわからん」

黄泉川「大丈夫じゃんよ? 私がおぶってあげるから……」



そして黄泉川が少女の肩に手を掛けようとしたとき、彼女の様子に異変が起こった。


白髪少女「っあぁぁぁああああぁあぁああぁあぁぁあ!!!」

黄泉川「!?」

先輩「何だ!?」



少女が突然頭を抱えて泣き叫び始めた。体が海老反りになってガクガクと痙攣している。
明らかに危険な状態だ。もしや実験の弊害が発現してしまったのか?


黄泉川は慌てて少女の体を掴もうとするが――――










黄泉川「……あれ?」



何の前触れもなく、少女の姿が忽然と目の前から消え去った。











先輩「消えた!?」

黄泉川「何が……」



黄泉川達は突然の出来事に困惑する。
突如頭を抱えて泣き叫び始めた白髪の少女を助けようとした途端、その少女が跡形もなく消えてしまったのだから。


何かを掴むわけでもなくただ突き出されている自分の右手を、黄泉川は呆然と見つめる。
自分の手の先には確かに少女が居たはずだ。少女の叫び声が未だに耳にこびりついているのが実感できる。
だというのに、直前までの出来事が自分の夢の中のことのようになってしまっているのは何故なのだろうか。



美鈴「……! あそこに!」

黄泉川「え……!?」



美鈴の叫び声を聞いて一気に現実に引き戻される。
そして通路の奥を見ると、消えたはずの少女が俯せに倒れ込んでいるのが確認できた。


何が起こったのかはよくわからないが、それは今気にしなければならない事柄ではない。
慌てて少女の元に駆け寄り、身体に起こっている異常を調べる。



隊長「不味いな……脈が弱い」

美鈴「そんな……早く治療しないと、この子の命が……!」

隊長「しかし俺達に出来るのは傷の応急手当だけだ。 体の内面についてはお手上げと言っていい」

隊長「それに、この体力の消耗具合……下手に動かせばそれだけでこの子の命を危険に晒すことになるかもしれん」

隊長「少なくともおぶって地上まで戻るのは危険だろうな」

先輩「ということは、後援部隊の到着を待つ必要がありますね。 彼らなら、いざという時の担架を持っているはずですし」

隊長「しかし、このまま待っていてはいつ来るかわからん。 連絡して早く来るように言わなければ……」


隊長はトランシーバーの周波数を合わせて連絡を試みる。
それに対して黄泉川と美鈴は、少女の体に負担がかからないよう姿勢を変え、少女の頭を美鈴の膝に添えて膝枕とした。
弱々しくも規則正しい呼吸をしている少女を見て、黄泉川はただ黙々と看病を続ける。



黄泉川(それにしてもこの子、異常なくらい肌が白いじゃん。 これは確か……『アルビノ』だったか?)



アルビノ。遺伝情報の欠損により先天的にメラニンが欠乏してしまう病気。
名前だけは知っていたが、実際にそれを煩っている人間に会うのは初めてだ。


この施設で実験に使われているのは『置き去り』の子供達である。おそらくこの少女もそうなのだろう。
彼女が『置き去り』になってしまったのはアルビノだったからなのだろうか。
それが原因で親から捨てられてしまったのか。真相は定かではない。


自分が腹を痛めて産んだ子供を、簡単に捨ててしまう親がこの世界には存在する。
その非情な現実に失望しながらも、黄泉川は後援部隊の到着を待ち続けた。

今日はここまで
質問・感想があればどうぞ



これでU-09が生き残ったら第6位確定か?
それとも「危険過ぎて封印された」ことにでもするか?

>>505
彼女の今後の扱いについての構想は練ってあります
実際に書くのはまだまだ先ですけど

これから投下を開始します






――――翌日 PM6:03






壮絶な制圧作戦が行われた次の日。
黄泉川はただ一人、屋上でフェンスにもたれかかっていた。


目の前に見えるのは学園都市の地平線に沈みゆく太陽。
夕日が蒼空に赤のインクを流し込み、色を橙から真紅へと変えていく。


科学的に説明するならば、夕日が紅く染まるのは『レイリー散乱』、
つまりは各光の波長における散乱の度合いの違いによるものらしい。
青や紫のような波長が短い光は赤や橙の光よりも強く散乱し、吸収されてその色を失う。
その結果、地表にまで届くのは波長が長い赤や橙の光だけとなり、夕焼けが赤く見えるそうだ。


こんな風に科学的に説明してしまうと情緒もへったくれもない。
昔は、日没時は『逢魔が時』と呼ばれて不吉な時間帯と思われていたそうだが、
夜でも煌々と明かりが付いている現代においては、迷信も甚だしい話である。
だが、犯罪が増加するのは決まって日没後であるため、そう言う意味では的を射ているのかもしれない。


黄泉川「……」



黄泉川はただ呆然と夕日を眺め続けている。
この時刻は休憩の時間帯であるため、ここで呆けていてもとやかく言われる心配はない。
それに今は、誰にも邪魔をされずに一人で過ごしたい気分だった。
中にいたら昨日の出来事がフラッシュバックして、気が滅入ってしまいそうになるからだ。


先日の作戦は最終的に、『警備員』が研究所を完全に制圧するという形で幕を閉じた。
しかし『警備員』一同は、その事実を手放しに喜ぶことはできなかった。


その理由の一つ目は、今作戦による『警備員』側の被害がかなりのものだったからだ。
『駆動鎧』の対処に当たった68名の内、およそ半分に当たる32名が怪我を負い、
その中の12名が重傷、3名が意識不明の重体に陥り、病院の集中治療室で今も手術を受けていると聞く。
手術中の3名は恐らく、二度と『警備員』として戦線に復帰することはできないだろう。


『警備員』が持つことを許される、最大限の装備を用いたにも拘らずのこの惨状。
未だに殉職者が出ていないのが不思議なくらいである。
実際にその戦場を目の当たりにした『警備員』が言うには、本来ならば倍以上の被害が出てもおかしくなかったそうだ。


被害が抑えられたその理由は、戦闘中に『駆動鎧』が突然前触れもなく自爆したからである。
何故自爆したのかは定かではないが、その時の様子を考えるに、
『駆動鎧』の搭乗者が自分の意思で行ったというわけではないらしい。
もしかしたら何者かが口封じのために、遠隔操作で自爆させたのかもしれない。
いずれにせよ、搭乗者はもの言わぬ肉塊になり果てたのであり、彼らを捕縛して情報を手に入れることはできなかった。


二つ目の理由は、研究所に居たであろう子供たちのことだ。
結局の所、あの施設から救助できたのは黄泉川達が見つけた少女ただ一人だけであった。
それ以外の子供は、おそらく『警備員』がこの場所の存在を知る以前に処分、もしく標本にされてしまっていた。
後日、彼らの遺体は身元確認をした上で丁重に墓地に埋葬されるそうだ。


もっと早く研究所の存在に気づいていれば、より多くの子供たちを助けることができたのではないかと思う。
だが、今更悔やんでも後の祭りだ。過去を変えることなど誰にも出来はしない。
あの研究所で数多くの子供達が犠牲となり、『警備員』は辛うじて一人の子供を救い出すことが出来た。それが事実である。
しかし無意味だとわかっていても、やはり『あり得たかもしれない最良の結末』を考えてしまうのだ。


例えば、攫われるのを目の前で見逃してしまった子供。
あの時皆と一緒に行動していれば、『駆動鎧』からあの子供を奪還できたのかもしれない。
いや、もっと早い段階で取り押さえることだって出来ただろうに。


黄泉川(そう言えば、病院に運ばれた子はどうなったのかね……)



自分が救い出した少女のことを考える。
彼女は後援部隊が持ってきた担架で施設の外に運び出された後、救急車に乗せられて早急に病院に搬送された。
その時点でかなり危険な状態であり、病院に辿り着くまでに死んでしまう可能性もあったそうだが、
どうやら無事に間に合ったようで、少女が命を落としたという連絡はここには来ていない。
彼女が搬送された病院は、その筋の人から言わせればかなり腕の立つ医者が居るようだし、もう心配する必要はないだろう。


ただ一つ気になることは、少女を助けようとした際に起きた不可解な現象だ。
隊長によれば、あれは少女の超能力であり、彼女が苦しんでいたのは能力の制御が上手く出来なくなっていたためらしい。


超能力の源は人間の脳で形作られる『自分だけの現実』である。
それが異常をきたしたとき、本人の脳には大きな負担がかかる。
つまり少女の頭痛の原因は、能力が制御不能になったことによる『自分だけの現実』の暴走だ。


あの施設では超能力の発現機構の研究をしていた。
少女の超能力はその実験で無理矢理発現させられたものであったために、暴走という結果を招いたのだろう。


隊長「黄泉川、ここにいたのか」

黄泉川「隊長ですか……」



屋上の扉から隊長が出てくるのを見て、黄泉川はただ無感情に返事をする。
隊長がここにやってくるのは珍しい。基本的に自分の部屋で忙しくしているのが普通なので、
こうして屋上で二人きりになるのは久しぶりだった。



隊長「気分はどうだ?」

黄泉川「……正直に言うと、あまり良くないじゃん」

隊長「……だろうな」



隊長はそう言うと、黄泉川の隣に同じようにしてフェンスにもたれかかる。
右手には飲みかけのコーヒー。それをチビチビと口に含みながら、紅色に染まる空を見上げた。


空は先ほどよりもさらに紅く染まり、夕日は半分以上沈んでいる。
もう少しすれば完全な日没を迎え、空は太陽が流す血に染まるだろう。
その光景は否が応にも黄泉川に、少女の失った右手から垂れ流される血液を連想させた。


隊長「黄泉川、お前はその手で子供を怪我させてしまった自分を責めているんだろう?」

黄泉川「……」

隊長「確かに子供を傷つけてしまったのは褒められたことではない。それが教師であれば尚更だ」

隊長「だがそうしなければお前は死んでいた。 それも事実だ」

黄泉川「それはそうだけど……」

隊長「……ならこう考えたらどうだ? 『そのおかげであの子を人殺しにせずに済んだ』ってな」



隊長の言う通り、あの時発砲しなければ自分は死に、少女は殺人者となっていただろう。
だが、だからといってそう簡単に割り切れるものでもない。


隊長の言う通り、あの時発砲しなければ自分は死に、少女は殺人者となっていただろう。
だが、だからといってそう簡単に割り切れるものでもない。



隊長「……俺が初めての制圧作戦で見たのはな」

黄泉川「……?」

隊長「子供のホルマリン漬けだった。 しかもご丁寧に解剖された後のやつだ。 まるで蛙の標本だったよ」

黄泉川「……っ!」

隊長「情けないことに俺はその場で吐いちまった。 まぁ、平静を保っていた先輩達も内心は同じ気持ちだったとは思うがな」

隊長「その後はこの前話した通り、飯も食えなくなるほど精神的なダメージを受けちまったわけだ」



隊長は淡々と己の過去を漏らしていく。彼は一体何を言わんとしているのだろうか。


隊長「……俺の時は誰一人助けることは出来なかった」

黄泉川「隊長……?」

隊長「駆けつけたときにはもう手遅れで、生存者を見つけることは出来なかったんだ」

隊長「本当のことを言うと、誰かを助けることが出来たお前が羨ましいよ」

黄泉川「……そうですか」



確かに自分は一人の子供を救い出すが出来た。
それは喜ぶべきことであり、誇るべきことである。


己が犯した罪は忘れてはならない。
しかし、それに固執して救い出した命に見向きもしないのは、決して褒められることではない。


隊長「あまり気に病みすぎるなよ? これからもこういう仕事をすることはあるんだ」

隊長「その度に陰鬱になってちゃあどうしようもない」

黄泉川「……わかってるじゃんよ」

隊長「それに、今回の失敗を繰り返したくなかったら経験を積むことだな」

隊長「後数年で超能力者の犯罪は激増するだろう。 俺達はそいつらと面に向かって張り合わなきゃならないんだ」

隊長「そうなったら、子供に発砲することが当たり前になってしまうかもしれない」

隊長「その時が来たときに覚悟が出来るようにしておくことだ」

黄泉川「重々承知してるじゃん」



学生達の犯罪は、超能力者の数が増加するに従ってこれから増えていくだろう。
彼らと対峙することになった時、自分達はその力に対抗するために武器を取らねばならなくなる。
それは避けられないことであり、受け入れなければならないことだ。


黄泉川「でも隊長、言っておきますけど」

隊長「なんだ?」

黄泉川「私は子供に銃口を向けるつもりなんて全くないじゃんよ。 もう絶対にあんなことを繰り返したりはしないじゃん」

隊長「ほぅ? だがそれじゃあ、能力者に対抗するには少しきつすぎるんじゃないか?」

黄泉川「不足した分は他で補えばいい。 体術だけで圧倒できるようになればいい話じゃんよ」

隊長「言うのは簡単だが、実際に行うのは難しいと思うが」

黄泉川「大丈夫じゃん。 うちには体術のスペシャリストが居る」

隊長「……美鈴のことか」

黄泉川「アイツに稽古つけてもらって互角にまで張り合えるようになれば、たぶん能力者を相手にしても大丈夫じゃんよ」

隊長「確かにそうかもしれんが……あのレベルまで行くとなると、生半可な訓練ではどうにもならんぞ?」

隊長「それこそ山籠もりをするくらいの気持ちで修行に打ち込まないとな」

黄泉川「それくらいの覚悟ならもう出来てるじゃん」

隊長「……まぁいい。 お前が納得できるまでやってみろ。 ただし、仕事に支障が出ない範囲でな」

黄泉川「了解じゃん」

今日はここまで。
黄泉川先生の過去編終わり。次から時間軸が元に戻ります

質問・感想があればどうぞ



芳川「(‥思ったより長かったわ‥)」

えっと、えーりん先生母親(みたいな立場)説?

助けられて良かったね。今はどこで何をしているんでしょうねぇ(すっとぼけ)

忘れかけてたけど、これ紅魔編の途中なのよねww

>>522
この後に同じくらいの長さの過去編が二つあるよ!(ゲス顔)

>>523
それについての話は後々

>>524
さぁ?元気にやってるんじゃないですか?(棒)

>>525
余りの過去編の長さに主旨がずれまくっている不具合
このままだと終わるまで後1、2年かかりそうだし、テンポ良く進めるために少し削るべきか?
でも、折角書いたのを削るのはもったいないと思ってしまう
>>1はダメな書き手ですね

これから投下を開始します






――――7月28日 AM0:12






黄泉川「――――とりあえず、ここまでが私が経験したことじゃん」

芳川「ふぅん、そんなことがあったのね……」



黄泉川の話を聞いた芳川はコーヒーを一口飲んだ後にそんな言葉を漏らした。


黄泉川が口にした過去の体験。それはある意味、芳川の予想を裏切るものであった。
最初はただの好奇心から聞いただけだったのだが、まさか黄泉川の行動原理の中核となる、
重要な話になるとは思っていなかったのだ。
黄泉川が掲げている『どんなことがあろうとも子供には銃を向けない』というポリシー。
その根元にあるのは、過去において『発砲した結果、子供が腕を失うことになった』ということに対する後悔なのだろう。


何故彼女が、ある意味では『教師の鏡』とも称せるほど高潔であり、
ある意味では現実を直視していない浅はかな理念を打ち立てたのか。
その切欠が、彼女が関わった『何か』にあることは前々から察していたが、
実際に彼女の口から話を聞いたのはこれが初めてである。
公に口に出して話すことでもないので、今まで聞く機会がなかったのは当然のことなのだが、
今回の話は『黄泉川愛穂』という女性の本質を知る良い機会だったと言えるだろう。


芳川「ところで、トラウマを穿り返すようで悪いのだけど、研究員に攫われた子供はどうなったのかしら?」

黄泉川「わからないじゃん。 別の研究所の制圧で助け出されたという噂も聞かないし、おそらくは……」

芳川「そう……」



言葉の声色から察した芳川は何を思うでもなく、ただ空気を吐くように応えた。


十中八九、その攫われた子供は生きてはいまい。それはわかりきったことだ。
どのような最期を迎えたのかはわからないが、おそらく『実験動物』として使い潰されたのだろう。
学園都市の暗部がどのような世界なのか、その只中に居た芳川は良く知っていた。
彼女が関わっていた『絶対能力進化』も同じ暗部の研究である。
実験の中で生み出された『実験動物』である『妹達』が、どのような扱いを受けていたのか。
その現実を彼女は実際に目の当たりにしていたのだから。


人の命をただの使い捨ての道具として扱う。使い終わったら実験廃棄物ごと纏めて焼却炉で処分。
そんな人の尊厳に泥を塗るどころか底なし沼に沈めるような所業を、何の感慨も抱かずに当たり前のように行う。
それが学園都市の持つ、もう一つの裏の顔だった。


しかしいつ頃からだろうか。
ある時期を境に、人道を無視した研究が行われているという噂を殆ど聞かなくなった。
黄泉川もそんな研究が行われている場所を制圧ために、深夜近くまで仕事することも少なくなった。
これが意味する所は、学園都市は以前と比べて健全な状態になったと言うことだろう。
それはこの街に住む一人の住人として、非常に喜ぶべきことである。


だが、何故急に噂を聞かなくなったのか?
学園都市の暗部は一朝一夕でどうにかなるほど浅いものではない。
一部を潰しても癌細胞のように増殖していく、厄介極まりないものだ。
それを駆除するためには、暗部の情報を迅速かつ多量に収集できる広い情報網と、
暗部をその根本ごと完全に排除出来る、相応の力が必要となる。


これら二つを持ちうる存在。それは自ずと限られてくる。
例えば統轄理事長の親船最中と貝積継敏。学園都市の全権を握る彼らであれば、
その権限を使って街に巣くう闇を見つけ出すことができるだろう。
戦力についても同様だ。『警備員』を動かせば大抵の物事は片付けることが出来る。


だが、『本当の闇』を排除するにはそれらの力だけでも心許ない。
情報網は兎にも角、『警備員』のような一般に公にされている戦力は役に立たないのだ。
『光』の住人である彼らを使うと、それから逃げるようにして『闇』は姿を隠してしまう。
故に奴等を潰すためには、同じ『闇』の住人である存在、
もしくは『闇』をよく知っている存在が必要になるわけなのだが……


黄泉川「どうしたじゃん、芳川?」

芳川「……何でもないわ」



黄泉川から投げかけられた疑問の声を聞き、芳川は思考を中断する。


統轄理事長に手を貸している闇の住人。
いや、闇の排斥を目指している点を考えれば、『元』闇の住人と表現した方が的確だろうか。
彼らの正体が何者なのか、芳川は何となく見当が付いていた。その人間の一人が自分の身近にいるだろうことも。
だが、それを直接本人に問い質すということはしない。ましてや感謝を述べたりなどするつもりもない。
何故なら、彼は他人の好意を受け止めることに慣れていないから。
せいぜい不機嫌そうな顔をしてそっぽを向くのが関の山だろう。


だから自分がするべきことは、『ただ彼に守られること』であると芳川は考える。
『自分から何かしようとは思わないのか』と指摘する人間がいるかもしれない。
だが彼女は『自分に甘い人間』なのだ。何かのために能動的に動くのは彼女の性格ではない。


彼が守ろうとしているのだから、自分は何もせずに守られる。それが彼女のスタンスだ。
ただし、何もしない代わりに危険な場所に飛び込むようなこともしない。
無闇に彼の負担を増やすことはしないという、最低限の線引きは心得ていた。


芳川「それとあと一つ、聞きたいことがあったわ」

黄泉川「何だい?」

芳川「あなたが助けた子供の方はどうなったの? 無事に今も生きているみたいだけど」

黄泉川「ああ、生きてる。 後遺症もなく健康体で退院できたじゃん」

芳川「へぇ。 そういうものは得てして後に引くものだけれど、よほど医者の腕がよかったんでしょうね」

黄泉川「ただ、その子も実験の影響で自分の名前すら忘れた状態だったよ」

黄泉川「戸籍も抹消されていたし、名前が何だったのかを知ることもできなかったじゃん」

黄泉川「それに自分の超能力についても何も教えられていなかったようだし、
入院中は力に怯えたりして大変だったそうじゃんよ」

黄泉川「まぁ、私が病院に見舞いに行ったときにはだいぶ落ち着いていたじゃん」

黄泉川「新しい名前ももらっていたし。 名前の由来を聞いたときは少し複雑だったけどね」

芳川「興味あるわね。 どんな名前なのかしら?」

黄泉川「えーっと、確か――――」











黄泉川「十六夜。 十六夜咲夜じゃん」















     *     *     *






一方通行(十六夜咲夜、ねェ……)



芳川の部屋から二つ隣の部屋。
一方通行は自分の部屋の壁に凭れかかりながら、黄泉川と芳川の会話に聞き耳を立てていた。


とは言っても、彼女たちの声が直接彼の耳に届いているわけではない。
黄泉川の部屋を間に挟んで尚その声が聞こえているのは、偏に彼の能力のおかげである。
部屋の壁、天井、床に衝突して拡散していく声のベクトルをかき集めて自分の部屋に持ってくることで、
あたかも自分の目の前で会話しているかのような音量で二入の会話を聞くことができる。
部屋にチョーカーの充電機もあるので、能力の使い過ぎによるバッテリー切れの心配もないのだ。



一方通行(コソコソしてやがったから何かと思えば……まさか昼間の話題を話し合ってたとはなァ)

一方通行(つゥか番外個体の奴、マジで黄泉川に聞こうとしてたのかァ?)

一方通行(相当俺の弱みを知りてェと見える。 毎度毎度ご苦労なこった)

一方通行(いつになったら無駄な努力だって気付くんだろォな)


確かに、二人の間には覆しがたい力の差が存在する。
片や学園都市180万人の能力者の頂点に君臨する『一方通行』の能力者であるのに対し、
もう片方は量産型の能力者にドーピングを施した上で、レベル4止まりの『欠陥電気(レディオノイズ)』。
この溝を埋めることなど天地を覆すようなことが起きたとしても不可能だ。


そして、社会的な立場においても一方通行の方が番外個体よりも格が上だ。
バイトを始めたとはいえ、未だに彼女は一方通行に扶養されている身である。
つまり一方通行は彼女の保護者であるため、彼と二人きりの場合ならまだしも、
教育に厳しい黄泉川がいる手前で彼に対し不遜な態度を働くのはあまりよろしくない。
彼女の性格を考えれば難しいことではあるが、自重しなかった結果があの説教である。


これらを加味するならば、番外個体が行っている『一方通行の欠点の粗探し』は無意味なことであり、
それどころか彼女にとって不利益を招くことにしかならない行動である。
しかしそれでも探してしまうのは、彼女が嘗て抱えていた存在意義から来る後遺症のせいなのだろう。


しかしそれ以前に、『そんな努力をする必要性が全くない』というのが本当のところだ。


一方通行は御坂美琴や『妹達』に強い負い目を感じている。
つまり『妹達』の一人である番外個体は、その存在そのものが彼の弱点なのだ。
もしも彼女が、『本気で』彼に詰め寄り要望を口にしたとするならば、
彼は渋々ながらも言うことを聞かざるを得なくなるだろう。


その事実を番外個体が気付いていないのかどうかは定かではない。
もしかしたら知っていて、あえてその手を使わないようにしているのかもしれない。


いずれにせよ、番外個体が一方通行の弱みを握ろうとあまり意味もない労力を使っているのは事実である。



一方通行(さっさと自分の立場を弁えりゃァいいものを……まァいい、それよりもだ)

一方通行(まさか黄泉川の奴があの研究所を潰していたとはなァ。 『特力研』のことといい、俺とは奇妙な縁で繋がっているらしいな)


かつて一方通行が所属していた『特力研』を解体したのは黄泉川である。
それに加えて間接的にとはいえ、一方通行が関わっていた研究所の制圧に参加していたのだ。
ただの偶然なのだろうが、何かしらの因果を感じざるを得ない。



一方通行(しかし、話の中に出てきた能力者……光の球を出す奴は知らねェが、
もう片方、十六夜が持つ能力は『時間操作』しか考えられねェ)

一方通行(生きていたのは俺の予想通りだが……そいつがその後に、
どういう過程を辿って現在まで生きてきたのかは興味があるな)

一方通行(『超電磁砲』の奴がなンで十六夜とやらのことを調べ回っているのか、
その理由を知ることができるかもしれねェな)



本来であれば御坂美琴が何か調べ物をしていたとしても、彼としては傍観に徹するつもりであった。
しかし、彼女が僅かでも暗部に関わる存在に近づこうとしているのであれば話は変わってくる。


そこで彼は『時間操作』のことを聞かれた時に、暗部のことを気取られないように話をはぐらかした。
だが、そんなことそしても焼け石に水であることは目に見えている。
いずれ彼女は『十六夜咲夜』の下に辿り着くだろう。


『十六夜咲夜』が現在、学園都市の闇とは全く無関係に生きているのであれば問題はないが、
もし再び関わってしまっているとしたら、非常に厄介なことになるかもしれない。
美琴であれば多少のことが起こっても大丈夫であろうが、彼女の友人も同じように調べ回っているとしたら、
巻き込まれる可能性も十分に考えられる。


友人の方は暗部のことなど全く知る由もないだろう。
そんな人間が不用意に闇に足を踏み入れたら、まさしく猛獣の巣に兎の子供が入り込むようなものだ。



一方通行(『超電磁砲』ならそうなる前に手を引かせるだろォが、もしかしたら向こうから接近してくるかもしれねェ)

一方通行(暗部のしつこさは折り紙つきだ。 最悪の事態が起こることは容易に想像出来るなァ)



何か良くないことが起こる前に手を打たなければなるまい。
幸いなことに、自分には『超電磁砲』よりも先に情報を集めるための手段がある。


土御門元春。彼の異常ともいえる情報収集能力を借りれば、十六夜咲夜の周辺を調べることは簡単だろう。
彼のように独自の情報網を持っていない自分が、一人だけで情報を集めるのは些か効率が悪い。
借りを作ってしまうのは気に食わないが、他に手がない以上仕方あるまい。


しかし、問題が一つある。それは『土御門と連絡がつくのかどうか』だ。
海原の話によれば、彼は今別件の用事をこなしているらしい。おそらく魔術関連の仕事なのだろう。



一方通行(魔術関連の話は門外漢だから何やっているのかはわからねェが、どうせクソみてェな仕事なんだろォな)

一方通行(いくら周りが平和になったとしても、俺達は常に泥の中で戦い続けなきゃならねェ)

一方通行(ま、以前と違うとしたら自分から進んで泥に塗れているってことか)


誰かを人質に取られていた暗部の頃とは違い、今は自分の意志で学園都市の闇を駆け回っている。


かつて『グループ』と呼ばれていた、一方通行、土御門元春、結標淡希、『海原』ことエツァリの四人。
一方通行とエツァリは御坂美琴と『妹達』を、土御門は自身の妹を、そして結標は仲間を。
彼らは自分が守るべきもののために、それぞれ闇へと堕ちてきた。
つまり、暗部に入った理由を考えるならば、全員似たような人間の集まりなのである。
だが、だからと言って互いの傷口を舐め合うような慣れ合い集団などではない。


あくまで利害の一致から行動を共にしている集団。それが『グループ』という存在だ。
その関係は、暗部が解体された現在においても続いている。さすがに以前よりは刺々しさが薄れてはきているが。



一方通行(さて、土御門の居場所を知っているのは海原の野郎だけだ。 サッサと聞き出してみるとするか)

一方通行(当然奴に拒否権はねェ。 守秘義務だろうがなンだろうが吐かせてやる)

一方通行(最近打ち止めの話題を口煩くしてきやがるし、いい加減黙らせねェとなァ)ケケケ



口が耳元まで裂けているのかと思わせるほど歪ませながら不気味に笑う一方通行。
何か楽しんでいるようにも見えるが、おそらく気のせいだろう。

今日はここまで。
質問・感想があればどうぞ


多少長くても好きに書いて欲しいです
ですからどうか完結してください


ところで、新作二つとキャラの扱いはどうなりそうですか?

エツァリェ……


過去編あと2つか

・レミリアお嬢が語る「血を集める理由」←ヘタすりゃ500年分!?
・ステイル主教補佐が語る「清教の対応とそこに至る過程」←携帯「電池切れ確定な件」

>>152から>>518、行間レスを引いて300弱って言うとそんなに長く感じないんだけどな

>>544
多少どころじゃ済まない気がしないでもない

>>545
今の所は保留中
出すとしても先の話ですし、話の繋がりというものもありますから、
今の段階で構想を練ってもしょうがないかなぁと

>>546
海原は犠牲になったのだ……

>>547
単純に>>1が遅筆なだけですね
とりあえず平日はWordで1ページ、休日は3ページで、
話の区切り(一週間の投下分)は大体10ページ、文字数で約5000字位のペースで書いています

これから投下を開始します






――――7月27日 ?:??






浅いまどろみの中、自分はただ一人広い公園の中心に呆然と立ち尽くしていた。
空に浮かぶのは真円の月。今宵は満月のようだ。
ただいつもと違うのは、その月が赤錆の色で染められているという所であろう。


公園の縁に建てられた街灯がチカチカと点滅している。
整備が不十分なのだろうか、その街灯の明滅は自分の精神を不安定にさせた。


この公園には自分以外誰一人としていない。それどころか、公園の外の道路にも人は見あたらなかった。
辺り一帯を包み込む静寂。不思議なことに虫の音すらも聞こえてこない。
いくら人工物が乱立している学園都市とはいえ、生物が全く居ないということは考えにくい。
あの街灯にしてもそうだ。この街では電球が切れかけている街灯を放置しておくような、粗末な管理は為されていないはず。
第19学区のように、この辺り一帯が寂れてしまっているのであればあり得るかもしれないが。


それにしても、どうして自分はここにいるのだろうか。
今日は確か身内と夕飯を食べて、その後一人でお風呂に入って、部屋で明日の仕事の準備をして……
そして就寝前のホットミルクを飲んで、自分のベッドに入り眠りについたはずだ。


そこでふと気づいた。
何のことはない、ここまで記憶を遡ればどうして自分がここにいるのか容易に想像が付く。











(――――私は今、夢を見ている)











その考えに至ったところで、頭の中に一つの疑問が沸き上がる。
何故、自分が夢を見ているとわかるのか?『明晰夢』と呼ばれるものはあるが、それとは全く別のもののようだ。


明晰夢は『これは夢であると自覚しながら見ている夢』である。
特に通常の夢と違うところは『自分である程度夢の内容をコントロールできる』というところだろう。
自分の見たい夢を投影したり、今まで見ていた悪夢を良い内容に変えたりと色々出来るらしい。
中にはそれを利用していかがわしいことを企む者もいるようだが……それはどうでも良いことだ。


では、今見ている夢と明晰夢の違いは何か。
それは単純、この夢は『自分の意志では内容を変えられない』ということである。
いくら『ケーキよ出てこい!』と念じても目の前にケーキが現れるようなことは断じてない。
それ以前に自分は何度もこの夢を見てきているので、そんなことをして判別する必要はないのだが。


この夢は自分の能力によって引き起こされたもの。
これから起こりうる未来を見通す『予知能力』。それと似た力を自分は持っている。
深い眠りについているときに能力が発動し、このような夢の形で未来を見ることが稀にある。
もちろん目が覚めているときに見ることも可能だが、就寝時の方がより鮮明に見ることが出来る。


(……それにしても、何も起こらないわね。 そういう未来だというのであれば仕方のないことなのだけれど)



ここで目が覚めてから(眠っているのにこの表現はおかしい気がするが)だいぶ時間が経つが、未だに何かが起きる気配はない。
せっかく能力が発動したのだから、出来れば有用な未来を見せて欲しいと思うのだが。



(……誰か来た)



どうやら何も起こらないかもしれないという心配は杞憂だったようで、誰かがこちらに向かって歩いて来るのが見える。
背の高さは一般的な女性の平均くらい。右手にはそのまま凶器になりそうな分厚い本を抱えている。
塾の帰りなのだろうか。本当にそうならばご苦労なことだが、こんな夜遅くに出歩くのは危険すぎると言ってもいいだろう。



(まったく、こんな時間まで外をほっつき歩いているなんて。 誰かに襲われても知らないわよ?)

(最近騒がれている『通り魔』とかね)クスクス


襲わせているのは自分なのだが、そのことを悪びれるつもりは一切無い。
血液を集めるのは自分にとって必要なこと。それも欠かすことの出来ないものだ。
全てが終わる前に止めてしまうことなど絶対にあり得ない。



(さて、こんな所で無防備に歩き回っているお馬鹿さんの顔は一体……!?!?!?)



薄暗がりで見えなかった人間が公園の街灯に照らし出され、その姿が露わとなる。
その人間は、性別でいえば女。一見パジャマのようにも見えるローブをたなびかせながら公園に入ってくる。
紫色の髪に少し気怠そうに感じられる紫色の瞳。そして被った帽子にあしらわれた特徴的な三日月の飾り。
街灯の光が反射し、その場に月が浮かんでいるように見える。


その風貌は明らかに、この学園都市に住んでいる人間のそれでは無い。


(魔術師……もしかしてイギリス清教の? いや、そんなことよりも……!)



自分にはその魔術師の姿に見覚えがあった。
見覚えがあると言っても、記憶の姿が今の姿に一致しているというわけではない。
彼女と最期に出会ったのは今から10年前。まだ自分がこの学園都市に来る前の話だ。
あの頃の彼女と言えば外に出歩くのも億劫なほどの病人だったというのに、今ではそのような雰囲気は全く見られない。


この10年で病気を完全に治療したのだろうか?
いや、あの病気は言わば持病のようなものであり、そう易々と治せるような代物ではない。
おそらく完治しているわけではなく、薬か何かで症状を抑えているのだろう。



(懐かしいわね。 あの頃とはまるで別人だわ。 まぁ、10年も時間が経てば当たり前か)

(……何も変わっていない私の方が異常なのだけれどね)


そう自虐しつつも、目の前にいる魔術師の行動を観察する。


魔術師は公園の中央に立つと何やらブツブツと呪文を唱え始めた。
夢の中だからなのか、口を動かしているのが見えるだけで声を聞き取ることは出来なかった。


10秒程の詠唱が終わると、突然周囲に僅かな異変が生じる。周囲の景色が一瞬歪んだように見えた。
それと同時に公園の周囲から人の気配が忽然と消え去る。



(どうやら認識を阻害するための魔術のようね。 範囲はこの公園全体か……)

(この公園に人を近づけさせないため? こんなことをするってことは……)


カチッ!



そんな風に考察していると、公園の時計が夜の10時を指し示した。
満月の明かりが公園を妖しく照らし出し、その光を見る者を幻惑する。


月の光は時として、人の精神に大きな影響を及ぼす。
満月や新月のときは殺人や放火といった事件が増加し、上弦や下弦のときは交通事故が多発し、
自殺を図る人間が多くなるそうだ。


そこに科学的な根拠は無い。
月の引力が人体に影響を及ぼしているという『バイオタイド理論』と呼ばれている理論があるが、それも眉唾物だ。
だが、統計や経験則としては何か関係があると考えられている。
そうでなければ、『狼男』や『竹取物語』といった伝承は生まれてはこないだろう。


(……空気が変わった?)



公園の雰囲気がガラリと変わる。空気が音を立てて冷え込んでいくような、そんな錯覚を覚えた。
魔術師の頬を大粒の汗が流れ落ちる。心なしか、手足が震えているようにも見える。
鉛の塊に押しつぶされるかのような重圧。これは夢であるはずなのに、その空気の重さには妙な現実感があった。


魔術師の視線の先を見ると、誰かがこの公園に向かって歩いてきているのが見えた。
この重圧はあの人間によるものなのだろうか。











――――いや、そもそも何故『この公園に向かって歩いてきている』のだろうか?











今この場は魔術師が用いた認識阻害の魔術により、人間は近づけないようになっている。
同じ魔術師だとしても、この魔術を突破するには相応の時間がかかるはずだ。
それなのに、ここに向かって来る人間は最初からそんなものなど無いかのように、真っ直ぐとこちらに向かってくる。



(何者……?)



人間は淀みない歩き方で公園の中に入り込んできた。――――子供だ。
ピンク色を基調としたドレスを身に纏い、頭にはリボンを結んだナイトキャップのような帽子を被っている。
顔は西洋人のそれであり、瞳は血のような紅色で染められていた。


その姿は――――






     *     *     *






レミリア「――――っあぁ!!!」



レミリアは全身汗だくになりながら眠りから覚醒し、ベッドから勢いよく起き上がった。
嫌な夢を見たためか体の震えが止まらない。加えて汗で湿ったパジャマが体にまとわりつき、寝起きの不快感を倍増させている。
あまりにもの気分の悪さにその場で嘔吐しそうになるが、辛うじてそれを無理矢理飲み込んだ。



レミリア「う、ぐぅぅ……!」



不快感を押さえつけるためにベッドの上で体を丸くする。
それでも胃から込み上げてものがあり、必死にそれを喉の奥に押し下げる行為が何度か続いた。


どのくらいそうしていただろうか。
一時間以上経ったような気もしたが、時計を見るとまだ10分そこらしか経過していなかった。
本人にとって不快な場面の時は、時間が流れるのが遅くなるというのは本当のことらしい。


力の入らない体を無理矢理動かし、ベッドから降りて何とか立ち上がる。
正直に言うと誰かに肩を貸して欲しいのだが、この時間はフランも咲夜も寝てしまっている。
彼女らが気持ちよく眠っているところを叩き起こすのは気が引けるし、何より心配を掛けたくないというのが本音だ。
それに加えて、『自分が弱っている姿を見せたくない』というプライドもある。
彼女はこの家の大黒柱のようなものだ。そんな人間が弱っているところを二人が見たら、色々と面倒なことになるだろう。


特に咲夜であれば尚更だ。彼女はレミリアに依存しきってしまっている。
自分の拠り所である主が倒れてしまったら一体どうなってしまうのか、皆目見当も付かない。


レミリア「すぅぅ……はぁぁ……」



大きく何度か深呼吸をする。それだけでだいぶ体調が良くなった。
体から倦怠感が完全に抜けたというわけではないが、なんとか一人で歩き回れるまでには回復した。
部屋で吐瀉物をぶちまけるという、色々な意味での最悪の事態を回避することが出来たようだ。



レミリア(……水を飲もう)



口の中に残る胃液の酸味や喉の奥のむかつきを取り除くべく、水を求めて台所に移動することにした。


寝ているフランと咲夜を起こさないように自室の扉を静かに開いて退室し、足音を立てないようにソロソロと歩いていく。
階段を下りた先、奥から2番目の部屋に入ると、そこがこの屋敷のダイニングルームである。
中に入ると部屋の端にある台所に向かい、そこに据えられている大きな冷蔵庫の前に立つ。
中世の洋風の部屋に置くにしては些か無骨すぎる銀色の箱の扉を開き、彼女は中から冷えた水を取り出した。


今度は木の棚からガラス製のコップを取り出し、その中に冷えた水を流し込む。
そして水の入ったコップを両手で持つと、口をつけて一気に呷った。


レミリア「んぐっ、んぐっ」



水が食道を通って胃に到達するのがわかる。その冷たさが、口の中や喉に残っていた不快感を洗い流していく。
冷水を飲み終わる頃には、眠気に犯されていた思考がはっきりとしてきた。



レミリア「……ふぅ」コトッ



空になったコップを台の上に置き、大きく溜息をつく。
普段の自分からは考えられない、品の欠片もない飲み方ではあるが、ここには誰もいないので問題はない。
本当のことを言うと、自分の身なりに気を配っていられるほどの余裕がなかったのだが。


部屋にあるソファーに腰を下ろし、カーテンの隙間から見える空に浮かぶ月をじっと眺める。
今夜は『幾望』。満月の前日の月が空に上る夜である。明日になれば真円の月が地上を明るく照らすだろう。



レミリア「……とうとう、あの日が来てしまうのね」



自身の能力で見た『運命』を思い返す。あの夢の中において、月は『紅い満月』であった。
ということはあの未来は早くて明日、もしくはその後の満月の日のいずれかに起こるということである。
後者ならまだ一ヶ月以上の猶予があるのでいくらでも対策がとれる。
しかし前者であった場合は、今から急いで準備をする必要があるということだ。


果たして間に合うのか。いや間に合うかどうかではなく、『間に合わせなければならない』。
出来なければ今までの苦労は全て気泡となって消えていくことになる。それどころか自分自身を含めて大切なものを失ってしまう。



レミリア(すぐにでも咲夜に動いてもらわないと。 せっかく休暇を与えたのだけれど……仕方ない)



自分で決めたことを早々に撤回してしまうのは気分が悪い。約束を反故するような人間など人の上に立つべきではないからだ。
だが例えそんなことをしてしまったとしても、自分の従者は不満を言わずに命令に従うであろうことは想像に難くない。
今の状況にとっては都合が良い存在であるが、それを利用するのは非常に憚られる。


レミリア(まったく、いきなりはっきり未来を見せられても困るのよね。 本当に使いづらい能力だわ)

レミリア(愚痴を言っても何もならないことはわかってるんだけど)



自分が見た未来は変えることが出来ない。
しかし裏を返せば、見ることは出来なかった未来は変えられるということでもある。
だが、見えない未来を変える必要性は何処にあるというのだろうか。
下手をすれば、良い方向に進んでいた未来を悪い方向にねじ曲げてしまうかもしれないのだ。



レミリア(だけど逆ももちろん考えられる。 何もしないままだと悪い方向に進んでしまうかもしれない)

レミリア(そもそも未来なんて見えないものなんだし、そう考えれば行動を起こす価値は十分にある)



確定した未来と見ることが出来ると言っても、それは全てというわけではない。その事実は非常に喜ばしいことだ。


古代ギリシア神話に描かれる、神々により地上に遣わされた『災厄の女(パンドラ)』。
そして彼女が持ち込んだ『決して開けてはいけない箱』。


その箱が解放され、世界に様々な災いがもたらされた際に最後まで箱の底に残ったものとは『予知の力』であるという説がある。
その力を箱の中に閉じ込めることが出来たことで、人類は未来を知ることなく希望を胸に生きることが出来るのだと言う。


パンドラの箱に残された最後の災厄である『予知の力』。
それを身に宿した『予知能力者』は、果たして人類の災厄となってしまうのであろうか?
幸か不幸か、今の所は未来の全てを知る事が出来るような能力者はいない。


レミリア(……ふん、来るが良いわイギリス清教。 私は絶対にお前達に屈したりはしない)

レミリア(私はもう『あの時』のような無力な子供じゃない。 また再び争うのであれば、全力で相手になってあげるわ)

レミリア(これ以上……私から何も奪わせてやるものか)



カーテンの隙間から差し込む月を睨みながら、レミリアはそう決意を固める。


月の光が彼女の白い肌を明るく照らし、雪のような輝きを醸し出す。
少女の紅い唇に重なって見えるものは、人間が持つにしては異様に長く尖った上顎の犬歯。
そして彼女の眼の瞳孔は、僅かにではあるが紅く濁っているように見えた。











暗闇に浮き上がるその姿は、まさしく――――












今日はここまで
質問・感想があればどうぞ


‥あら?これって「血を集める理由」の話をした後なの?

あと『運命観察』は使い勝手が悪そうだな

まどマギの織莉子さんの予知とどっちが不便かね

>>573
咲夜さんにはレミリアから既に説明済み。描写はしていませんが

>>575
まどマギの方はよく知りませんが、どうやら普通の『予知能力』みたいですね
ただしきちんと制御できないと常時発動状態で、魔力を常に消費しなければならない
使い勝手は悪そうですが、そもそも能力の性質が微妙に違うので何とも言えません
任意の時間を指定できないという点に関しては同じですが


ただし織莉子が予知できる未来は『変えることが出来る未来』であり、
レミリアが予知できる未来は『変えることが出来ない未来』なので、
そう言った意味では織莉子の方が救いがあると言えます

これから投下を開始します






――――7月28日 AM6:32






上条「ぅ……」ムクッ



いつもと何一つ変わらぬ朝。当麻は自室の浴槽から力なく起き上がった。


昨日とは違って顔に生気が無く、目は完全に据わっている。どうやら一睡も出来なかったらしい。
髪の毛は普段のツンツン頭を遥かに凌駕する、鳥の巣と称する事も出来そうな奇妙な形に仕上がっており、
現在の彼の陰鬱なオーラを倍増させているように見えた。



上条「飯、作らないと……」



疲れが取れていない体に活を入れながら、浴槽の縁に手を掛けて無理矢理立ち上がる。


本音を言えば今日一日動きたくはないのだが、インデックスのことを考えればそうも言っていられない。
彼女が目を覚まし次第、朝食の催促を初めとした慌ただしい一日が始まるだろう。
一応、昨日の料理の残りがあるが、流石にそれだけでは足りないかもしれない。
今のうちに追加で何かを作っておく必要がある。



上条(それに……こんな顔をインデックスに見せるわけにはいかないからな)



風呂場の鏡に映る、自分の疲れ切った顔を見る。
居候の目が覚める前に、早く顔を洗って普段通りを取り繕わなければ。
こんな姿を彼女に見られでもしたら、間違いなく何があったのかと追求を受けるに違いない。


しかし、彼女の質問に対して正直に答えることは出来ない。
昨日の夜にステイルから聞いた話は、とてもではないが彼女に聞かせることが出来るような内容ではなかったからだ。


あの話は当麻としてもかなり精神的に堪えるものだった。
ステイルから事情を聴くことで、自分の周りに今何が起こっているのかを知ることは出来たが、
それと同時に『自分では手に負えない状況にまで事が大きくなっている』という事実を突きつけられたのである。


もちろん、その事実を知った所で『はいそうですか』と簡単に引き下がる彼ではない。
だが、どんなに不屈の闘志を持っていたとしても、すぐさま解決の糸口を見つけられるというわけではないのだ。











上条「……一体、どうすればいいんだ」



昨日のステイルの話を思い返した当麻は風呂場で一人、そんな独り言をぽつりと漏らした。















――――7月27日 PM9:02






ステイル『単刀直入に言おう。 今土御門達は、学園都市に潜伏している魔術師を捕縛するために動いている』

上条「……やっぱりそうだったのか」



ステイルは開口一番で現在の状況を簡潔にそう述べた。それに対する当麻の反応に驚きの様子はない。
それは当たり前で、学園都市に魔術師が侵入している可能性を思い立ったのは、他でもない自分達がなのだから。


そして土御門が動いていると言うことは、イギリス清教は魔術師の正体を突き止めることに成功したということ。
インデックスの脳内にある10万3000冊の魔道書。その中の一冊である『ヴォルデンベルクの手記』。
その魔道書が今まで、どのように人の手を渡ってきたのかを調べた結果わかったのだろう。


本当は土御門の口から直接その話を聞きたかったのだが。


上条「随分と簡単に見つかったんだな。 一週間ぐらいはかかると思ってたんだけど」

ステイル『それは土御門にも言われたよ。 何、『最大主教』がその魔道書のことを詳しく知っていたというだけのことさ』

上条「『最大主教』……あの人か。 元気にやってるのか?」

ステイル『あぁ。 まだリハビリをしている状態だが、順調に快方に向かっているそうだ』

ステイル『僕としてはあのままでいて欲しいんだけどね」

上条「そんなこと言うなよ。 上司だろ?」

ステイル『確かに上司ではあるけど、僕は一度も彼女に対して心から敬意を払ったことなどないよ』

上条「……臆面もなく言うなぁ、お前」



ステイルの口から放たれた爆弾発言に、当麻は呆れた声を出す。


ステイルが自身の上司であるはずの『最大主教』を邪険に扱っているのは、インデックスに対して死に至る首輪を施し、
さらには彼女の友人だった彼と神裂を欺いて協力させたことに起因している。
それを鑑みれば、彼が『最大主教』を恨むのは当然のことと言えるだろう。
実際、『かつての当麻』もその事実を知った時は内心怒りに燃えていた。


だが、最後に『最大主教』に会った時にインデックスを二度と道具として扱わないこと、
『自動書記』の使用はあくまでもインデックスの防衛のためだけにすることなどの条件を提示し、それを確約させた。
魔術を用いた契約書も書かせたため、彼女の方から約束を反故することはないと当麻は考えている。
本人にも約束を反故する気は全くないように見えたので、彼に『最大主教』をこれ以上責めるつもりは毛頭なかった。


ステイルからは見通しが甘すぎると辛辣に言われたが、彼は基本的にお人好しなのだ。
相手が改心していると判断したら、それ以上は責め立てない。そういう人間なのである。


上条「それにしても、魔術師は一体どうやって侵入したんだ? 土御門も不思議がってたし……」

ステイル『『侵入した』というのは過ちだな。 そもそも奴は侵入してなどいない』

上条「どういうことだよ?」

ステイル『奴は極々普通に学園都市にやって来たんだよ。 学生としてね』

上条「なっ……」

ステイル『イギリス清教が土御門を学園都市へのスパイとして送り込んだのが、今から大体4年前のことだ』

ステイル『それに対して奴が学園都市に入り込んだのは10年前。 土御門がその魔術師を補足できるはずがない』

上条「魔術師なんだから、そっちの方でどんな風に行動してたのかわからなかったのか?」

ステイル『残念ながらこっちとしては死亡扱いになってたからね。 あぁ、その魔術師のことなんだけど、
そいつはかつてイギリス清教に反旗を翻した魔術師一族の残党だよ』

ステイル『全て駆逐したはずだったんだけど、どうやら生き残りがいたみたいなんだ』

ステイル『どうやって逃げ延びたのかは知らないけど、何故か学園都市に住み着いてしまったというわけさ』

上条「……」


やれやれといった感じで説明するステイルに対し、当麻は真剣な表情をしてステイルの話に聞き入っていた。


確かに最初から学園都市に、しかも学生として住んでしまっているのであれば、
いくら優秀なスパイである土御門といえども、その存在を感知するのは難しい。
その魔術師を見つけることが出来たのは、本当に運が良かったと言えるだろう。
もし相手が行動を起こさなければ、今でも気づいていなかったかもしれない。



上条「それにしても、何で今更動き出したんだ? インデックス目当てにしては……」

ステイル『さてね。 魔術師としての人生を簡単に棒に振る人間の考えなんてわからないよ』

ステイル『しかもよりによって、魔術の敵対勢力の総本山に身を売ってるんだからね』



学園都市の生徒になるということは即ち、超能力開発のカリキュラムを受けることと同義である。
そして超能力開発を受けた人間は二度と魔術を使うことが出来なくなるのだ。
生粋の魔術師であるステイルにしてみれば、まさに正気の沙汰とは思えない行動である。


上条「……なぁ、ステイル」

ステイル『なんだい?』

上条「どうしてその魔術師達はなんでイギリス清教に反抗したんだ?」

ステイル『何故そんなことを聞くんだい? 君には関係のないことだろう?』

上条「確かに魔術師のいざこざなんて俺には良くわかんねぇけどさ。 
でも一族が皆殺しになるのを覚悟してまで反抗するなんて、どう考えても普通じゃないと思うんだよな」

上条「一体そいつらは何してたんだよ?」

ステイル『……』

上条「……ステイル?」



突然黙ってしまったステイルに問いかける。
もしかしたら自分は不味いことを聞き出そうとしてしまったのではないか?そんな考えが一瞬頭を過ぎった。


だがそう思うもつかの間、電話の向こうから再びステイルの声が聞こえてきた。
ただしその声は、何処か困惑の感情を含むものだったが。



ステイル『正直に言って、今でも信じられないんだけどね……』

上条「何がだよ?」

ステイル『その一族がやっていたことさ。 あれはまさしく絵空事と言える探求だよ。 何せ――――』











ステイル「――――吸血鬼を自らの手で造ろうとしていたんだからね」










ステイル「いや、正確には吸血鬼になろうとしてたんだったかな……」

上条「……は?」



ステイルの言葉を聞き、当麻は気の抜けた返事を返す。
予想だにしない言葉が飛び出したが為に、理解が追いついていないのだ。


そんな彼の心情を無視するかのように、ステイルは言葉を続けていく。



ステイル『まぁどちらにせよ、『吸血殺し』の発見により奴等の探求は完全な絵空事とは言い切れなくなった。 
だから『最大主教』は奴等に魔術の廃棄を命令したんだろうな』

ステイル『そしてその判断に反抗した結果、あの一族は根絶やしとなったのさ』

上条「いや、ちょっと待てよ。 今吸血鬼を造るって言ったよな?」

ステイル『そうだけど? もしかして難聴でも患ったのかい?』

上条「ちげぇよ。 ……吸血鬼を造るなんて、本当にそんなことが出来るのか?」



ステイル『さぁ? 実際の所は何とも言えないな。 本当に吸血鬼になれたかどうかなんて、
比較対象となる本物がいなければ知りようもないからね』

ステイル『ただ、奴等の討伐に向かった『異端抹消』が壊滅状態に追い込まれたことを踏まえると、
それなりの効果があったと考えるのが妥当だろう』

上条「『異端抹消』? なんだそれ?」

ステイル『洗練された魔術師で構成された特殊部隊のようなものと思ってもらって構わない』

ステイル『その特殊部隊の殆どが殺されたということが何を意味するのか……いくら頭の悪い君でもわかるだろう?』

上条「ん~、まぁ、恐ろしく強い奴等だって事はわかる」

ステイル『奴等かどうやってその力を手に入れたのか、今となっては知る術はない』

ステイル『想像ならいくらでも出来るけど、術式が記されていただろう資料は一枚残さず全て灰になってしまったからね』

ステイル『残ったのは件の魔道書のみ。 しかも中身は単なるメモ帳。 それだけで再現するなんて不可能だ』


イギリス清教にとって見れば、吸血鬼が量産される事態など悪夢以外の何物でもない。
そう考えれば資料が燃えてしまったことは、清教側にとっては非常に都合の良い事だった。
それが他の魔術師の手に渡りでもしたなら、さらに厄介のことになっていたことは想像に難くない。


テロリストに原子爆弾の設計図が渡ってしまうようなものである。



ステイル『いや、あの魔道書を徹底的に調べればもしかしたら……』

上条「とりあえずは何が起こっているかはわかったよ。 ありがとな」

ステイル『ん? あぁ、感謝される筋合いはないよ。 いずれにせよ話す事にはなっただろうし』

上条「そうか……でもさっきから引っかかることがあるんだけど」

ステイル『何がだい?』

上条「その魔術師は学園都市の生徒になったんだよな?」

ステイル『そうだが?』

上条「ならどうやって魔術を使ったんだ? 絶対に学園都市の『時間割り(カリキュラム)』を受けていると思うんだけど」


ステイル『……上条、吸血鬼がどんな存在か覚えているか?』

上条「え? そりゃあ、人間の血を吸って、不老不死で……」

ステイル『そうだ。 『不老不死』なんだ。 吸血鬼はどんな傷を負ったとしても死ぬことはなく、
すぐ再生することができる……と言われている。 『吸血殺し』によるものを除いてね』

ステイル『もしその魔術師が吸血鬼に、もしくは吸血鬼に近い存在になっているとするなら……』

ステイル『魔術を使った時の弊害を気にする必要なんて無いんじゃないかい?』

上条「……確かにそうかもしれないな」



超能力開発を受けた人間が魔術を使うと、その反動として肉体が損傷してしまうことは関係者であれば誰でも知っている。
しかしそのデメリットを『吸血鬼の肉体』で補うことができたとするなら、それを気にする必要はなくなるかもしれない。


ステイル『まぁ、完全にというわけではないだろうから、絶対に死なないということは無いだろう』

ステイル『それでも土御門が魔術を使う場合よりは、リスクは格段に少ないはずだ』

上条「魔術、もしかしたら超能力も使えるかもしれない『吸血鬼もどき』か。 もしかしてかなりヤバい存在?」

ステイル『もしかしなくても危険な存在だよ。 『魔術を使える吸血鬼』という時点で、
魔術サイド全体がパニック状態になってもおかしくはないのだから』



ステイルが話を考えるに、問題の規模はかなりの大きさにまで拡大しているようだ。


実の所、当麻はステイルの話を聞くまでは、それほど魔術師の存在を危険視していなかった。
別に慢心しているわけではないが、少なくともアレイスターやら『神の力(ガブリエル)』やらといった、
ぶっ飛んだ奴等を相手にするよりは遥かにマシだろうと考えていたのだ。


しかし実際に蓋を開けてみると、その魔術師は魔術と超能力を操り、
しかも吸血鬼になっているかもしれない存在だというのである。
前記の存在ほどではないにしろ、人の枠を超えた存在であることは想像に難くない。
どうやら自分は、つくづく『怪物』に縁があるらしい。



上条(それにしても、どうして上条さんはそんな人達ばかりに会うんでせうか?)

上条(『右手が原因だ』って言われればそれまでなんだけど、『万国人間びっくりショー』も真っ青な方々と何度もやり合うなんて、
いくらなんでも不幸すぎでしょう?)

上条(この右腕、まさか幸運を打ち消すどころか『怪物』みたいな存在まで引き寄せてたりしないだろうな?)



当麻の右腕にはまだまだ謎が多い。
彼自身が知っていることと言えば、人為的に生み出された世界の歪みを正す、
すなわち魔術や超能力を打ち消す力を持っていることと、
その副作用として自分の幸運打ち消すため、不幸や災難が自分に降りかかり易いということくらいである。
専門家が言うにはもっと詳しい原理やら何やらがあるそうなのだが、いずれも推測の域を出ていない。


上条(まぁ知ろうにも方法がまるでわからないし、どうしようもないんだけどな)

上条(それはともかく、魔術師の姿と名前くらいは聞いておいた方が良いか。 万が一のこともあり得るし)



もしかしたらその魔術師がいきなり目の前に現れることがあるかもしれない。
その時に魔術師の姿を知っていなければ、確実に先手を取られてしまう。
それを防ぐためにも、最低限の情報は聞いておくべきであると当麻は考えたのだ。



上条「一つ聞きたいんだけど、そいつってどんな名前なんだ?」

ステイル『名前かい? 奴の名前は――――』











ステイル『――――レミリア・スカーレット。 土御門はそう言っていたな』










この状況で聞くはずのない名前が、ステイルの口から零れた。

途中だけど今日はここまで

上条さんの登場はおよそ4ヶ月半ぶり
主に>>1の筆の遅さが原因である

質問・感想があればどうぞ



吸血鬼の魔術かーどんな技を使うんだろうなー(棒)

それにしても
この分ならバカルテットや読心風紀委員はこのままフェードアウトか?

上条「裏で糸を引いている魔術師がいるかと思っていたが、そんな事は無かったぜ……」

魔術っつーか、魔翌力で殴る系?ww

>>601
紅魔郷以外のキャラは不足しがちな東方分を補うためのものですので、
基本的に名前は出さずに匂わせるだけです
ただし約1名の方は過去編でかなり本筋に食い込んできます
それでも名前は出しませんが

>>604
禁書側で吸血鬼に関係ありそうなのは姫神だけだし、
東方側でも黒幕に据えられそうな人物がいなかったので
そもそも紅魔郷編は単品で話を進めるつもりでしたからね

>>605
魔術(物理)

ところで東方の新作が出たわけですが、6ボスのスペカで草不可避
今回登場した人物は皆が皆キャラが濃すぎて困る

これから投下を開始します


上条「……は?」

ステイル『聞こえなかったのかい? 『レミリア・スカーレット』と言ったんだが?』



当麻はステイルの言葉に対して動揺の色を隠せない。
それは当然の反応と言えるだろう。


今までの会話におけるレミリアの立ち位置と言えば、『学園都市に侵入してきた魔術師の毒牙にかかった被害者』だったはずである。
それがいきなり『学園都市に侵入してきた魔術師本人』となったのだから、彼が困惑するのも無理からぬことだ。
第一レミリアが魔術師である根拠など、当麻が知る情報の中には何一つとして無いのだから。



上条「いや、なんでそこでフランのお姉さんの名前が出て来るんだよ? 関係なんて何も……」

ステイル『ああ、そんなことかい? それなら簡単だよ』

上条「え……?」


ステイル『『ヴォルデンベルクの手記』を最後に持っていた人間。 スカーレット家の元当主だそうだ』

ステイル『イギリス清教に対する抗争を起こして、一族郎党皆殺しになった輩のものと同じ性だよ』

上条「!!!」

ステイル『実は魔道書について調査した時に、その所有者の中に『スカーレット』が存在したことはわかってたんだ』

ステイル『だけど、彼らはイギリス清教自らが駆逐した存在。 生き残りがいるなんて普通考えるわけがない』

ステイル『だから、最初の時点で候補から真っ先に外したんだよ』

ステイル『だが、調査を報告した時に土御門から『レミリア・スカーレット』の名を聞いて、
まさかと思ってスカーレット家の家系図を調べたんだ』

ステイル『そうしたら、家系図の中に彼女の名前がしっかり記されていたよ』

ステイル『もはやレミリアが件の魔術師であることは、土御門やパチュリーも含めて全員が間違いないと考えている』



そしてステイルは言葉の最後に、『反証となる情報も全くないことだしね』と付け加えた。


それに対し当麻は、これまで知った情報を上手く働かない頭を使って纏める。


初めにスカーレット家は吸血鬼を生み出そうとする研究をしていて、それが原因でイギリス清教と争うことになってしまった。
その結果、スカーレット家は滅亡。イギリス清教の手を逃れたレミリアとフランは、
どうやって来たのかはわからないがこの極東の島国まで辿り着き、学園都市の住人となって魔術を捨てた。


その後彼女達は学園都市の中で普通に暮らしていたが、何を考えたのか突然レミリアが魔術を使用し、
その魔力の残滓を偶々出会ったインデックスが感じ取った。
不審に感じた当麻達から話を聞いた土御門が、その情報をイギリス清教に伝えて詳細を調べてもらった結果、
その魔術を使った人間がレミリアであることと同時に、彼女がスカーレット家の生き残りであることが判明。
吸血鬼の製法を知っている可能性がある彼女を捕まえるために、パチュリーが学園都市に派遣されてきた。


……これが事の顛末なのだろう。


上条「……イギリス清教はフランのお姉さんを捕まえてどうするつもりなんだ?」

ステイル『『最大主教』はレミリア・スカーレットから吸血鬼の製造法が漏れることを恐れている』

ステイル『例えそれが不完全なものであったとしても、使用することで得られる力は計り知れないものだ』

ステイル『万が一にでもイギリス清教に敵対している人間に流れでもしたら、
イギリス清教、いや、もしかしたら魔術サイド全体に大きな戦禍が巻き起こることになるだろう』

ステイル『それだけはどんな手を使ってでも阻止しろとの命令だ。 
……反抗するようであれば殺してしまっても構わないとも言っている』

上条「なっ……!?」

ステイル『何を驚いているんだい? そもそも彼女はイギリス清教から『異端者』の烙印を押されている』

ステイル『本来ならば見つかった時点で速やかに抹殺されなければならない存在なんだよ』

ステイル『むしろ、生かしてくれる可能性があることに感謝すべきだと思うね』

ステイル『ただ、『絶対に殺せ』と命令しなかったのはインデックスと君の影響が少なからずあると僕は思っている』

ステイル『『最大主教』としては、君を敵に回したくはないようだからね』



ステイルから告げられた言葉は、当麻の『穏便な方法で事を治める』という願いを無情にも投げ捨てるものだった。
しかし、『最大主教』の判断が正しいものであることも事実である。


世界に広まれば最悪の状況を齎しかねないスカーレット家の魔術。
それを多大な犠牲を払って排除したというのに、レミリアから漏れてしまっては元も子もない。
脅威となり得る芽は全て潰さなければならない。その魔術はそれ程までに危険な代物なのだ。


しかしインデックスと上条当麻、そしてレミリアはフランドールを仲介として既に繋がってしまっている。
何も予告せずにスカーレット姉妹を殺害してしまえば、当麻と敵対することになるのは明白だ。
それを避けるためにも、『殺害』以外の選択肢を用意する必要があると『最大主教』の考えたのだろう。



ステイル『まぁ、生かしてもらえたとしても『処刑塔』への幽閉は避けようがない確定事項だよ』

ステイル『彼女はスカーレット家当主の長女。 件の魔術の断片は絶対に所持しているはずだ』

ステイル『脳内の記憶から肉体の隅々に至るまで、徹底的に調べ上げられるだろうね』

ステイル『その過程でどのような仕打ちを受けるのか……まぁ、そこは想像に任せるよ』


上条「……フランはどうなる?」

ステイル『フラン……あぁ、レミリアの妹、フランドール・スカーレットのことか』

ステイル『彼女に関してはどうとも言えないな。 もしレミリアと同じようにあの魔術を知っているのであれば幽閉されるだろうね』

ステイル『だが知っていなくとも、イギリス清教の監視下に入るのは確実だろうな。 
おそらく彼女が学園都市の地を踏むことは二度と無いはずだ』

ステイル『どうやらインデックスと友達になったそうだけど、彼女とあの子が会うことも無くなるだろう』

上条「……」



当麻はステイルの言葉を聞き、暗澹たる思いとなった。
このままではレミリアとフランはイギリスに連行され、二人とも一生ここに帰ってくることはない。
折角インデックスとフランは友達になれたというのに、二度と会えなくなってしまうのか。


インデックスはその立場から学園都市で友人を作ることが難しく、
フランはレミリアに許可をもらわないと外出できないために、人と疎遠になりやすい。
もしかしたら互いが互いに、かけがえのない存在になれるかもしれないというのに。



上条(このままじゃあ絶対に不幸なことになるに決まってる。 何か手は……)

ステイル『上条当麻。 もし土御門達の邪魔をするというのであれば、やめておいた方が良い』

上条「っ! ステイル……!」

ステイル『君のことだ。 大方レミリアとフランドールをこちらに引き渡さないような手を考えていたんだろう?』

ステイル『しかし妨害なんて事をすれば、君はイギリス清教に対して反逆したと見なされ、
インデックスを守護する資格を失うことになる』

ステイル『こちらとしては吸血鬼製造法の漏洩を確実に阻止したいんだ。 下手な行動は慎むことだね』

上条「クソッ……!」



当麻は小さく悪態をつくが、ステイルの言い分も尤もだ。


もしフランとレミリアをイギリス清教に渡さないようにしたいのなら、必然的に土御門とパチュリーに敵対することになる。
彼らは既に二人を捕縛する方向で動いているはずだ。具体性を持たない説得では納得してくれない。
彼女達をイギリス清教に渡さなくても済むような、決定的な証拠を提示しなければならない。


ステイル『これで土御門が君にこの事件のことを教えなかった理由がわかっただろう?』

ステイル『この話を聞けば、君は間違いなく首を突っ込んでくる。
それが原因でレミリアの捕縛に失敗なんてことになれば、目にも当てられない事態になりかねない』

ステイル『君の博愛精神は立派だが、それが時には邪魔になることもあるということだ』

ステイル『今回ばかりは魔術サイド全てに関わる問題だ。 単なる感情論で片付けられる問題じゃないということくらい、
頭が足りない君でもわかるだろう?』

ステイル『おそらく明日にでも土御門達は捕縛に向けて動き出すはずだ。 くれぐれも自分勝手な行動はしないことだね。
……それじゃ、僕はこれで失礼するよ』

上条「おい、待てよ」

ステイル『……何だい?』

上条「もしフランがイギリスに連れて行かれることになったら、インデックスは絶対に悲しむ」

上条「ステイル、お前はそれで良いのか……?」

ステイル『……』


当麻の問いかけにステイルは口を噤んだ。二人の間に痛い沈黙が流れる。


上条当麻は『禁書目録』の当代の守護者として。ステイルはかつての友人として。
二人とも『インデックスを守る』という目的のために、それぞれの自分の立場で出来る限りのことをしてきた。
会うたびに棘のある会話を交わしていたが、インデックスに対する思いだけは同じだと当麻は思っていた。


しかしステイルは今、これから起こるであろうインデックスを悲しませる出来事に対して、傍観を決め込もうとしている。
当麻はそんな彼に対して怒りを覚えると同時に、なぜそれ見逃そうとしているのか不思議でならなかった。


ステイル『……僕はインデックスのためなら何でもする。 誰かを犠牲にする必要があるのなら、迷い無くそれを実行する』

ステイル『スカーレット姉妹を放置して魔術サイドに争乱を起こし、彼女を危険に晒すのか、
それとも二人を犠牲にして彼女の平和を守るのか……』

ステイル『そんなことは考えるまでもないことだよ。 じゃあ、今度こそ失礼する』

上条「おい、まっ……」



プツッ ツー、ツー、ツー



上条「……畜生」



通話が切断された携帯電話に、彼は再び小さく悪態をついた。


どうやらステイルは、レミリアとフランよりもインデックスを優先する腹積もりのようだ。
確かに世界規模で起こる被害のことを考えるならば、スカーレット姉妹を犠牲にした方が遥かに理に適っている。
そんなことは、その手に疎い素人でも至極簡単にたどり着ける結論だ。


だが、当麻はその結論をすんなりと受け入れることが出来ない。
他人の犠牲の上に成り立つ幸福など、本当の幸福と言えるのだろうか。
誰も不幸になることのない、それこそ御伽話のような最高のハッピーエンドを迎えることは出来ないのか。
それに至る方法を探しもしないで諦めるなど、彼には到底出来ないことである。


しかし、だからといって今の彼にこの現状を打開できるような案は無い。
口先で理想を並べることは誰にでも出来る。その理想を現実に出来なければ、ただの『絵に描いた餅』だ。



上条(どうすればいい? 一体どうすれば……)



迷える青年は一人、アスファルトの道の上で立ち尽くしていた。

今日はここまで
次回、次々回辺りに小休止として日常編を挟む予定
後、今後1、2ヶ月間は私用で更新が滞る可能性があります

質問・感想があればどうぞ

これから投下を開始します






――――7月28日 AM10:16






美琴「おはよう、初春さん。 咲夜さんの職場に訪問する許可はもう来てる?」



多少の雲が空に漂っている、少し暑さが控えめの朝。
黒子と共に風紀委員支部へとやって来た美琴は、初春に顔を合わせると開口一番に十六夜咲夜の職場訪問について切り出した。
もしかしたら許可が下りているかもしれないと、彼女は逸る気持ちを抑えながらここに来たのである。



初春「おはようございます、御坂さん。 残念ですけど、まだ来てませんよ」

美琴「そう……」



しかし抱いていた期待とは逆に、初春から返ってきた答えは芳しいものでは無かった。
物事というのはそう簡単に上手く運ぶものではないし、手早く進むものでもない。それが現実である。
むしろ、彼女の方が焦りすぎているとも言えよう。


美琴はがっくりと肩を落としながら、部屋に備え付けられた椅子にどっかりと座り込む。
あまりの品のない行動に、隣に立っていた黒子が眉をひそめた。



美琴「やっぱり1日じゃ許可は下りないかぁ」

固法「御坂さん、少し焦り過ぎよ。 いくら何でも、昨日の今日じゃ無理があるわ」

黒子「お姉様のお気持ちはわかりますが、少しは落ち着いて節度のある行動を……」

美琴「あーもう、わかったわよ黒子。 それ以上言わなくてもわかるから」

黒子「わかっておられないようですから、こうして注意しているんですの!」



うんざりしたように言葉を返す美琴に、黒子はいつもの如く小姑のような小言を漏らす。
この流れは毎日のように繰り返していることなので、対処の仕方も随分と慣れたものだ。
美琴は小言を適当に受け流しながら部屋の中を見回していると、佐天が支部にいないことに気づいた。


初春と佐天は常にセットで行動している。初春居るところに佐天有り。その逆もまた然り。
そんな二人が離れて行動しているのは珍しい。彼女は一体どうしたのだろうか。


美琴「そういえば佐天さん、今日も来てないの?」

初春「はい。 何でもお友達と何かを約束していたようで、今日は一日中その人と一緒にいるみたいです」

美琴「お友達? もしかして、よく話している『むーちゃん』とか『マコちん』とか?」

初春「いえ、たぶん違うと思います。 その二人は『アケミちゃん』と一緒に第6学区の遊園地に遊びに行くと言っていましたから」

美琴「ふ~ん。 なら一体誰かしら?」



佐天と知り合ってから一年程度経つが、彼女の同級生の友達についてはあまりよく知らない。
というより、初春と一緒にいる以外の佐天の姿を見ること自体があまりなかった。
美琴自身、佐天の交友関係にあまり興味がなかったのも原因の一つだろう。




初春「私もよくわからないんですよね。 でも、昨日の夜から異様に張り切っていたような気もします」

黒子「張り切る? 一体何をしようとしているんですの?」

初春「さぁ? 内緒の一点張りで教えてくれませんでした。 流石に無茶なことはしないと思いますけど……」

美琴「何も無いとも言い切れないのが佐天さんよね……」

固法(信用無いわねぇ。 まぁ、普段のはっちゃけ具合を見たら、心配になるのも当然かしら)



何気ないところでとんでもないサプライズを起こす。それが佐天クオリティ。
本人にその気はないだろうが、果たして今度はどんな厄介事をもたらしてくれるのだろうか。


少し長い沈黙が流れた後、固法が手を叩いて後輩三人を現実へと引き戻した。
残念ながら今は『風紀委員』の勤務中である。そればかりに気を取られて仕事を疎かにしてしまってはいけない。


固法「ほらほら、みんなボーッとしない。 仕事の手が止まってるわよ」

固法「佐天さんのことは心配でしょうけど、今は仕事中。 早く自分の持ち場に戻りなさい」

初春「はい、固法先輩」

美琴「黒子、固法先輩もああ言ってるし、早く席に着いたら?」

黒子「心配ですけど、仕方がありませんわね」

美琴「何なら私が様子を見てきてあげよっか? どうせこの後は暇だし……」



支部に来たのは初春から咲夜の職場への訪問の可否を訊くためである。
用が済んだ以上、ここに長居する理由もないため、適当に街に繰り出そうと考えていた。
それだけならば電話で済ませればいいと思うだろうが、いずれにせよ黒子と一緒のバスに乗ることにはなるので、
街へ行くついでに立ち寄ったということである。


それにしても、ここの所毎日支部を訪れていたので、たまには黒子達の仕事を邪魔しないようにしなければ。
佐天の様子を見てくるという格好の理由も出来たので、遠慮無く立ち去ることができる。
流石の黒子も、仕事を放り出してまで自分についてくることはないだろう。


そんなことを考えていると、突然固法が疑問をぶつけてきた。


固法「そういえば御坂さんってほぼ毎日ここに来てるけど、何かすること無いかしら?」

美琴「え?」

初春「そういえばそうですよね。 もう3年生なんだし、受験勉強とかすることあるんじゃないですか?」

美琴「えーっと、それは……」



初春の疑問はもっともである。
美琴は常盤台中学の三年生であり、来年の三月になれば卒業してしまう身だ。
そして高校に入るためには推薦入試の準備や受験勉強をしなければならないのは自明の理である。


中学3年生ともなれば誰であろうと、これから来る高校受験のために机に向かって勉学に励んでいるはずだ。
ましてや常盤台中学は名門中の名門。受験戦争の熾烈さは他と一線を画すだろう。
それだというのに、美琴にはそういった意識が希薄なように思える。


黒子「初春、受験のことであれば心配はいりませんわ」

初春「どうしてですか?」

黒子「レベル5のお姉様ともなれば、もはや学校の推薦でどのような高校にも入ることが出来てしまいますの」

黒子「むしろ高校側から入学して欲しいと懇願されることもありますわ」

初春「えぇ!? ってことは、御坂さんは勉強しなくてもいいって事ですか!?」

黒子「その表現は些か語弊があるような気もしますけれど、概ねその通りですわね」

初春「ふぇぇ~……すごいです……」



つまり、美琴は他の3年生が必死になって勉強しているのを尻目に、自分が入る高校をじっくりと吟味できるということである。
大半の人間が『自分の能力の限界』によって進むべき高校の取捨選択をするが、
彼女の場合は『自分が行きたいか否か』によって入学する高校を選び取ることが出来るのだ。
まさしく、天才にのみ与えられた特権と言えるだろう。


美琴「初春さん、勘違いしないでよ? 確かに高校からのお誘いは頻繁に来るから、
進学するのは簡単だろうけど、だからって全く勉強していない訳じゃないんだからね?」

初春「でも羨ましいですよ。 私もそろそろ進路を決める時期ですし、正直に言って不安で仕方ないです……」

固法「高校受験って人生の節目の一つだからね。 よく考えないと後で痛い目見るわよ?」

初春「固法先輩は受験の時どうしていたんですか?」

固法「私? そうね……偉そうなことを言っちゃったけれど、その頃は将来の事なんて漠然としかわからなかったわね」

固法「でも、しっかり勉強しないと後悔することになるのだけはわかってたし、とりあえず中堅の高校に入ろうとは思ってたわ」

固法「後は当時のクラスの友達の影響かしら? 私の目標と友達の目標が一致してたから、そのまま決めちゃったわ」

固法「だから、実はそんなに深く考えてはいなかったのよね」

初春「そうなんですか? 固法先輩って結構そういうことを考えてる人だと思ってたので意外です」

固法「でも明確な目標がある人は別よ? 高校の選び方でこれからの人生が大方決まっちゃうからね」

固法「そういう人は、自分が目指している目標にたどり着ける学校を選ばないとダメね」


学園都市の高校は学外のそれに比べて、特定のジャンルに特化したものが多い。
それは能力開発であったり、機械工学であったり、文芸美術であったりと様々だが、
いずれにせよ高校に入学した時点で本人の進むことが出来る未来は大幅に限定されてしまう。


もちろん上条当麻が通うような極々普通の高校も存在するわけだが、
そういった高校に進むと結局無難な人生(当麻は無難とは言い難いが)を歩むことになってしまう。
それが悪いとは言わないが、彼女達はまだまだ未知なる可能性が隠されているであろう年齢だ。
平凡な環境の中に置いて、そのまま才能を腐らせてしまうのは少々もったいない。
出来ることなら刺激のある体験をして、自身の才能を開花して欲しいものだ。



初春「将来の目標かぁ……」

黒子「初春はどうしたいんですの?」

初春「どうしたいって言われても……白井さんこそどうなんですか?」

黒子「そうですわね……『風紀委員』での経験を生かして『警備員』になるのも悪くはないですし、
まぁ、色々と道は考えることが出来ますわね」

黒子「初春はそのパソコンの扱いの上手さを生かせる分野に進んでみては?」

初春「そうですね……それもいいかも」

美琴(将来の夢……か。 考えたこともなかったわね)


美琴は自身がこの一年間、将来ことなど全く考えずに過ごしてきたことに気づく。
その一年の中で自分がどのような経験をしてきたのかを考えれば、それは至極当然のことと言えるだろう。


一昨年の事件により彼女の人生は大きな変化を迎えることになった。


始まりは『絶対能力進化』。実験を阻止するために学園都市の闇と対峙し、当麻と一緒に一方通行と死闘を繰り広げた。
その次は第三次世界大戦の最中、敵国のロシアまで出向いて核ミサイルの発射を阻止した。
さらには一人で背負い込もうとする当麻を見ていられずに一緒に行動し、
訪問先のハワイで『グレムリン』と名乗る魔術結社に挑んだりもした。


例を挙げるのであればまだいくらでも出てくるが、詰まるところ、
まともに落ち着いて自分の将来を考える時間など今まで無かったのである。
事件のほとぼりが冷めて自分の身の回りが落ち着き、平穏な学校生活を送れるようになったのはつい最近のことだ。
それまでは戦後処理や、海外遠征の間に蓄積された学校の宿題やら何やらに追われていた。


美琴(あの量には流石の私も吐きそうになったけどね。 各教科200ページの宿題に学術論文とか何考えてるのかしら)

美琴(しかも春休み中に完成させて提出しろとか。 おかげで危うく倒れるところだったわよ)

美琴(宿題に精神追い詰められるなんて、かなり久しぶりだったわ)

美琴(まぁ、ギリギリ何とかこなせたんだけどね)



レベル5の彼女であれば全て成し遂げられると思っていたからからこそ、ここまで過酷な試練を与えたのであろうが、
流石にやりすぎだと学校の先生方に声高に抗議したい美琴であった。
しかしそれでも完璧にこなしてしまう所に、彼女のスペックの高さが表れていると言える。
他の同年代の生徒であれば、間違いなくノイローゼで病院送りになっていただろう。


美琴「さてと、そろそろ佐天さんでも探しに行こうかしら」

初春「佐天さんの居場所、知ってるんですか?」

美琴「そういえばそうね……電話して確認するのも良いけど、教えてくれないだろうし」

黒子「初春なら佐天さんの携帯電話の発信履歴から場所を特定できるのではないですの?」

初春「出来なくはないですけど、そこまでする必要ってあります?」



初春の手にかかれば、携帯電話の電波から持ち主の場所を特定することなどお茶の子さいさいだろうが、
果たして『佐天の様子がが心配だ』という理由のためだけにそこまでする必要はあるのだろうか?


そもそも場所を特定する方法は電波塔へのハッキングであり、立派な犯罪行為だ。
罪を犯してまで通すべき大義名分が存在しない以上、その方法は避けるべきことのはずである。


美琴「あ~もういいわよ、適当に探し回るから。 佐天さんのことはすぐじゃなくてもいいでしょ?」

美琴「別に今暴かないと大変なことになるって訳じゃないんだからさ」

黒子「……それもそうですわね。 ちょっと過保護すぎたかもしれませんわ」

初春「でもそういう時に限って何かに巻き込まれる気も……」

美琴「この前巻き込まれたばっかりじゃない。 流石にそれは……」

固法(……これってフラグになったりしないかしら?)



流石にそんなフィクションのようなことは起こらないだろう。


……たぶん。

今日はここまで
質問・感想があればどうぞ

今回は番外編第二弾!
いつぞやの時に書いた佐天さんと早苗さんの話の続きになります
本編とは全く関係ない話がだらだら続きますのでご注意ください

それでは投下開始






――――7月28日 AM10:22






早苗「すいません、遅くなりました」

佐天「謝らなくてもいいよ。 そんなに待ってないし」



頭を下げて謝る早苗に対して佐天はそう言葉を告げた。


二人が現在いる場所は柵川中学校に付属しているグラウンド。
100メートルの直走路と一周400メートルの曲走路からなるオーソドックスなものであり、
彼女達の学校の野外授業は基本的にこの場で行われている。


ちなみにこのグラウンドは陸上部とサッカー部が兼用で使用しており、2週間毎に交代しながら利用している。
なので本来ならばどちらかの部活が使用しているのが常なのだが、
今日は両部活とも休みなのか、グラウンドには佐天と早苗の二人以外誰もいなかった。


早苗「それにしても暑いですね……ここに来るまでに熱中症になりそうでした」

佐天「夏真っ盛りだからね。 私も結構きつかった」

早苗「本当なら体育館とかでやりたいんですけど、今はバスケ部が利用しているみたいですし……」

佐天「ま、しょうがないよ」



二人が夏休み中にも関わらず学校に来ている理由。別に補習のために訪れたわけではない。
能力開発以外で考えれば佐天の学年成績は中の下。ギリギリ補習を受けなくて済むラインは保っている。
さらにレベル3の能力者である早苗ともなれば総合成績は上位に食い込んでいるのだ。
何処かで己の不幸を叫んでいる少年とは違うである。


では、どうして彼女達がここにいるのかというと……


早苗「『能力を使うコツを教えて欲しい』とのことですけど、私なんかでいいんですか?」

早苗「確かに同じ『空力使い』ですから、教えられることはあるかもしれませんが……」

早苗「もっと他に適任者が居るんじゃないでしょうか?」

佐天「確かに知り合いにレベル4の婚后さんがいるけどさ……あの人だとかえって参考にならないのよね」

佐天「なんて言うか、差が離れ過ぎちゃっててさ。 その点早苗さんなら私なんかでも大丈夫な気がするんだ」

早苗「暗にレベルが低いって言われてるみたいで、なんだか複雑な気分ですね」

佐天「えへへ、ごめんね。 お詫びにアイス奢ってあげるからさ! それで勘弁してくれない?」

早苗「そんなこと約束してもいいんですか? 私、デザートに関しては結構口うるさいですよ?」

佐天「その点は大丈夫! 甘い物好きな友達のせいで、しょっちゅうその手ものは食べてるから」

佐天「それなりに美味しいものならそこそこ知ってるよ?」

早苗「じゃあ期待しておきます」


親友の初春は甘いものに関してはとことん目がない。ファミレスに行くと決まってパフェを注文するし、
お金に余裕がある時は通常の倍の量である、ジャンボパフェを注文することも頻繁にある。
しかも完食できてしまうばかりか、それだけの量を食べてもあまり太らないという不思議な体までしている。


同じ女子として羨ましい限りだ。この世には体重を気にして好きなものが食べられない女子がごまんといるのだから。
ただ、『いちごおでん』のように甘ければ何でもいいというのはいかがなものだろうか。



早苗「それでは、能力開発の基本的なことからいきましょう」

佐天「はーい!」

早苗「佐天さん、能力がどのような仕組みで発現するのかわかりますか?」

佐天「えーっと確か、量子力学が基礎になってるとか、シュレディンガーの猫がどうとかは知ってるけど」

早苗「そうですか。 じゃあ、量子力学について詳しく説明する所から始めます」

佐天「うん」


早苗は手ごろな木の棒を持ってくると、地面の文字を書き始めた。
『古典力学』と『量子力学』の文字を最初に書き、続いてその下に『マクロ』と『ミクロ』の文字を書き込む。
そして『古典力学』と『マクロ』、『量子力学』と『ミクロ』をそれぞれ丸で囲んだ。



早苗「えっとまず、今私達が学校で習っている物理学は『古典力学』を中心として構成されています」

早苗「古典力学とは、私達が普段認識している『マクロの世界』の物理法則について纏めたものです」

早苗「マクロの世界においては、対象となる事象の初期条件や外的要因をあらかじめ正確に把握しておけば、
事象が最終的にどのような結果を齎すのかを予め予測することができます」

佐天「う、うん……」

早苗「一方、『量子力学』は極々微細なもの、つまり『ミクロの世界』で適用される物理法則です」

早苗「『ミクロの世界では私達が習っている古典力学の物理法則が適用できません」

早苗「量子力学では『観測されていない事象は確率でしか表す方法がない』とされていて、
観測して初めて事象は確定し、それが一体何なのかを知ることが出来ます」

早苗「ここまでは理解できましたか?」

佐天「……もうちょっとわかりやすく」


いきなり小難しい言い回しばかりになったので、佐天はもっと簡潔に説明することを要望した。
『ミクロ』だの『事象』だの、聞いたことはあるが普段使わない言葉を並べ立てられると頭の中がこんがらがってしまう。


佐天の要望を聞いた早苗は、少し離れた場所に『長方形の中に丸が描かれた図』を絵描く。



早苗「では量子力学について、私なりにわかりやすく説明しましょう。 ボールが入った箱を考えてみてください」

早苗「箱の中は見えないようになっていて、開けてみないと中がどうなっているかを知ることは出来ません」

佐天「ふむふむ」

早苗「それでは、箱の中央に仕切りをつけて二つの部屋に区切ってみましょう」カリカリ

早苗「さて、この時ボールは一体どちらの部屋に入っているでしょうか?」

佐天「そりゃあ右か左のどっちかでしょ? 中を見ればわかるだろうけど」


早苗「はい。 マクロの世界、つまり私達が見えるレベルではその通りですね。
片方にボールがあり、もう片方には何もありません」

早苗「マクロの世界では仕切りをつけた時点でボールの位置は決まってしまいます」

早苗「ですが、ミクロの世界ではどちらにあるのか決まっているわけではありません」

早苗「私達が箱の中身を確認して初めて、ボールがどちらにあるのかが決定されるんです」

佐天「へぇ~」



マクロの視点の場合は決まった事象が既にあり、私達はそれを観測しているに過ぎない。
しかしミクロの視点の場合は事象が決まってはおらず、私達が観測することでその事象が確定される。


つまり箱を開けるまでは、ボールは『左右どちらにも入っている可能性がある』のである。


佐天「すごいね早苗さん。 私も習ったはずなんだけど、もう全然覚えてないや」

早苗「いえ、これはあくまでも知識としての話ですので、能力を使うコツにはあまり関係ありませんよ」

早苗「ですが必要なことなので、しっかり話に付いてきてくださいね」

佐天「お、お手柔らかにお願いします」

早苗「先ほど話した通り、ミクロの世界においては私達が観測するまでボールがどの位置にあるのかは決まっていません」

早苗「右側に80%、左側に20%というように、確率でしか知りようがないのです」

早苗「観測すると80%の確率で右側にボールが出現し、残り20%の可能性は消えてしまいます」

佐天「なんだか不思議な感じがするね 実際見るまで文字通りどうなっているかわからないなんて」

早苗「えぇ不思議ですよね。 でも実は、マクロの世界でもこのようなことが起こり得ます」

佐天「え? さっきと言ってること違うじゃん」

早苗「そうですね。 ですがこれには立派な理由があるのです。 ボールを壁にぶつける例を取ってみましょう」


早苗「さて、この話を使って超能力の発生のメカニズムを説明しましょう」

佐天「お、ついに来たね」

早苗「例えば『何もない地面から火が燃え上がる』という現象が起こる確率は、
量子力学の観点からいえば限りなくゼロに近いですが、全くあり得ない話というわけではありません」

早苗「ですが、日常生活でその光景に出会うことは絶対にないでしょう。 
もしかしたら人類が存在する間に見ることすらできないかもしれません」

早苗「さっきお話しした『ボールが壁をすり抜ける』という確率であれば、
宇宙誕生から現在までに一回見られるか見られないかといったレベルです」

早苗「それではもはや『絶対に起きない』と言い換えても差し支えありません」

早苗「しかし、仮にその『限りなくゼロに近い現象』を自分の思うように観測できるとしたら……?」

佐天「どういうこと?」



早苗「事象を確定させるのは『人間の脳』です。 つまり、例え確率がゼロに近い現象でも、
私達が観測することさえ出来れば、あり得ない現象を無理矢理現出させることが出来るようになるのです」

早苗「その現象がミクロの世界におけるものでも構いません。 観測した時点で『バタフライ効果』により、
マクロな世界へと次々と伝播して私達が目に見えるレベルで超常現象が発生します」

早苗「この『限りなくゼロに近い現象』を観測できるようにするための方法――――それが『超能力開発』なのです」



世界の物理法則を決定付けているのは『人間の脳による観測』である。
つまり『何もないところで炎が発生する』という現象を人間の脳が知覚すれば、本当に何もないところから炎が発生するのだ。


しかし、普通の人間の脳では『常識的な現象』ばかりが観測され、『非常識な現象』が観測されるようなことはまず無い。
容易に観測できるのであれば、世の中は既に超能力者で溢れかえっているはずだからだ。
従って『非常識な現象』を観測するためには、人の手で脳を造り変えるしかないのである。


つまるところ、『超能力開発』とは『非常識な現象を容易に観測するために脳に手を加える』ことだ。
その結果として得ることができる『開発された脳が観測できる超能力の源となる何か』を、
超能力開発の専門の用語で『自分だけの現実』と呼ぶ。



早苗「超能力開発を受けた人間は大なり小なり『自分だけの現実』を手に入れることが出来ます」

早苗「そしてこの『自分だけの現実』が超能力のレベルに大きく関わってくるんです」

佐天「それは知ってる! それが強力な人ほど能力のレベルが高いんだよね?」

早苗「その通りです。 ただ能力の発動には『演算』が必要なので、頭の良さも多少影響してきますが」

佐天「うげ。 やっぱり?」

早苗「でも頭が良いのに能力が使えない人もいるので、あくまで一つの要素として考えるといいでしょう」

早苗「ですが、だからと言って勉強しなくてもいいということにはなりませんよ?」

佐天「は~い……」


早苗に釘を刺された佐天は力なく答えた。


学生の本分は勉学であることは紛れもない事実であるが、実際にそれをするのは非常に憂鬱になるものである。
自分が興味を持っている事柄以外の勉学については、『させられている』という感覚に陥りがちだ。
やりたくもないことを強要させられるのは、誰だって嫌に決まっている。


しかし悲しいことに、勉学は子供の義務であり、嫌でも勉強しなければならないというのもまた事実である。
こればかりは諦めて受け入れるしかないのだ。



早苗「では、超能力とは何なのかを粗方説明し終えたところで、能力をどうすれば上手に使えるようになるのか教えましょう」 

佐天「長かった~……」

早苗「確かに少し喋りすぎてしまったかもしれませんね。 ですが、能力開発をするためには必要な話なので仕方ありません」

佐天「早く本題に入ろうよ~」

早苗「では……佐天さん、超能力の源が『自分だけの現実』であることは話しましたよね?」

佐天「うん。 後、それって『信じる力』でもあるって友達が言ってたよ」



早苗「はい。 『自分だけの現実を観測している』というのは、『自分にしか見えない幻覚を見ている』ようなものです」

早苗「悪く言ってしまえば、精神障害にかかっているということ同じですね」

早苗「この幻覚を幻覚として捉えず、『現実であると信じる』ことこそが能力を発動する鍵になるのです」

佐天「なるほど。 で、『自分だけの現実』ってどうすれば強くできるの?」



佐天が一番聞きたいのがそこだ。
レベル0の現状から抜け出すためには『自分だけの現実』の強化が不可欠。
今までも自分なりに訓練はしてきたのだが、それだけではそろそろ頭打ちになってきていた。
何かしら切欠を見つけなければ、これ以上の成長は望めないだろう。


早苗「そうですね、先ほども話したように『自分だけの現実』とは『妄想する力』のことです」

早苗「『超常現象はあり得る』、『自分は能力を使える』と信じることが最も効果があります」

早苗「ところで佐天さん、貴方は普段どんな能力訓練をしているのですか?」

佐天「うーん、訓練って言っても友達から教えられたヒントを参考にして、
『幻想御手』で能力が使えた時のことをひたすら思い出してるだけだし……」

佐天「イメージトレーニングくらいしかやってないかな。 これだけじゃ足りない?」

早苗「いえ、イメージトレーニングはかなり有効な方法です。 今後も続けたほうがいいですよ」

佐天「そっか。 でもこれだけだとそろそろ限界な気もするんだよね」

早苗「佐天さん、もしかしたら貴方は心の何処かで『自分は能力を使えない』と思っているのではないでしょうか?」

佐天「え? そのつもりはないんだけど、やっぱりそうなのかなぁ……」

早苗「これは私の考えなんですけど、レベル0の判定を受けた人はそれ以外の人よりも能力が成長しにくいと思っています」

佐天「なんで?」


早苗「再三言うように、『自分だけの現実』は『信じる力』のことです」

早苗「何かしらの形で能力を発現できた人は超能力を使う感覚を実際に体感できたわけですから、
『自分は超能力を使える』と簡単に信じることが出来ます」

早苗「ですが、それを体感できなかったレベル0の人は、そう簡単に信じることは出来ません」

早苗「『百聞は一見に如かず』。 いくら周りが出来ると励ましても、やっぱり実感がわかないと思うんです」

佐天「じゃあ、私が能力をなかなか使えないのはレベル0の判定を受けちゃったからなのかな……?」



超能力の源は『信じる力』。自分自身を信じることが出来ない者に、能力など使えるはずもない。
自分の中では自虐なことは考えているつもりなど無かったのだが、やはり無意識下で思ってしまっているのだろうか。
もしそうだとするならば、これを矯正するのはかなり厄介だ。


レベル0の能力者が持つコンプレックスはかなり強力な部類に入る。
それが原因で悪行に走った学生の話は枚挙にいとまがない。スキルアウトによる犯罪はその最たるものである。
そして、人格というものは早々作り替えることの出来るような代物では無い。
身に染みついたコンプレックス拭い去ろうとするならば、一体どれだけの時間をかけることになるのだろうか。


早苗「佐天さんがなかなか能力を使えない原因にはそれも含まれているのかもしれません」

早苗「ですが、過去に一度能力を使えていますから、まだどうにかなると思います」

佐天「本当?」

早苗「はい。 とは言っても、これは心の問題なので出来ることは限られてきますが」



まだ可能性があるという言質を聞き、佐天は心の中で安堵する。
問題を解決するのは難しいようだが、全く望みが無いと言われるよりかは遥かにマシだろう。



佐天「でも具体的には何をすればいいんだろ?」

早苗「まずは私が能力を使うところを見てもらって、それから自分が能力を使う姿を明確にイメージする訓練をしましょう」

早苗「佐天さんはだいぶ昔の出来事を参考にしているみたいなので、かなりイメージが曖昧になってきていると思います」

早苗「ですからこの方法で再び感覚をしっかりと思い出してもらいましょう」


佐天「わかった! じゃあ、よろしくお願いします!」

早苗「あ、それと一つだけ言っておくことがあります」ズイッ

佐天「な、何ですか?」



いきなりやけに真剣な目で見つめてきた早苗に面食らう。
佐天としては早く特訓をしたいところなのだが、この顔を見るに余程伝えたいことがあるらしい。



早苗「佐天さん、能力開発においての一番の天敵は『固定観念』、つまりは『常識』です」

早苗「『自分だけの現実』は『信じる力』ですが、私達が知る『常識』を信じてしまっては意味がありません」

早苗「どうやって『非常識』を信じるか。 それが重要になってきます。 つまり……」

佐天「つまり……?」











早苗「この学園都市では常識に囚われてはいけないのです!」ドーン!











佐天「じょ、常識に囚われてはいけない……?」



佐天は突然人が変わったかのように胸を張って宣言する早苗に問い返す。
彼女はとりあえずその言葉の意味を理解することは出来たが、突然の発言だったために思わず聞き返してしまったのだ。



早苗「その通りです。 それに囚われている限り、能力を使うことは難しいと言ってもいいでしょう」

早苗「イメージトレーニングも大事ですが、佐天さんには常識を捨て去る訓練もしてもらいます」

佐天「常識が能力開発の天敵ってことはさっきの話を聞いてわかったし、
それをどうにかしなきゃいけないことも理解できるけどさ……具体的にはどうするのさ?」

早苗「常識とは『一般社会に通用する知識』のことです。 つまり、『一般社会に通用しない知識』を身につけるればいいのです」

早苗「簡単に言えば、誰も考えつかないような斬新な発想をするのが一番でしょう」


佐天「誰も考えつかないような発想……?」

早苗「そうです。 実はこれは能力発現のための『演算』にも関わってきます」

早苗「『演算』は自分だけの数式を使って超常現象を説明し、自分を納得させるためのものですからね」

早苗「『科学で説明される常識』ではなく、『自分だけの常識』を構築することが大切です」

佐天「むむむ……」



早苗の言葉を頼りに頭を捻らせてみるが、なかなか妙案は浮かんでは来ない。
『誰も考えつかないような発想』なのだから、簡単に思いつかないのは当然のことである。
しかし、常識を捨てなければ能力を開花させることは難しいというのは事実。佐天は必死に考えを巡らせる。


早苗「どうです? 思いつきました?」

佐天「誰も考えつかないようなことって言われても、そう簡単には……」

早苗「少し突拍子がなさ過ぎましたか。 まぁこれに関しては、今は置いておきましょう」

早苗「家に帰った後でも出来ますし、そうすぐに出来ることでもありませんから」

早苗「今はイメージトレーニングを優先します。 あそこにある葉っぱの山の所まで行きましょう。
あれを使えば風の流れがわかりやすくなると思うので」



早苗は佐天をグラウンドの整備で刈り取られた芝の葉の山の近くに連れて行く。


風は空気の流れであるため、視覚的にその動きを捕らえることは非常に難しい。
『視覚』は五感の中で最も情報量が多く、全体の約80%を占めていると言われている。
訓練を効率よく進めたいのであれば、『風の視覚化』は必要不可欠なことであった。


早苗「……では佐天さん、今から私が能力を使って風を起こしますので、
それを参考に自分が能力を使って風を起こしている姿をイメージしてみてください」

佐天「わかった!」



早苗は葉の山の前に立つと両手を前に掲げる。少しの間そうしていたかと思うと、突如青葉の山に異変が発生した。
連日の快晴により、乾燥して軽くなった葉から次々と舞い上がり始め、山の上を周回し始める。
やがて水分を含んだ重い葉も同じように舞い上がり、二人の遥か上空へと巻き上げられていった。



佐天「おぉ~……」

早苗「どうですか? イメージは出来ていますか?」



風の流れを維持しながら早苗は佐天の方向を振り向く。


青葉は相変わらず舞い続けているが、不思議なことに周りに広がることなくずっと同じ位置をくるくると回転し続けている。
それは早苗が舞い広がらないように、渦を生み出している上昇気流はとは別の気流を発生させているためだ。
上昇気流だけでは、葉が気流の影響を受けなくなるまで到達すると、そのまま自然の風に流されて何処かに飛んでいってしまう。
そうなると後片付けが大変なので、こうやって青葉の動きを制御しているのだ。


佐天「え~っと……何となく、かな? よくわかんない」

早苗「そうですか……」

佐天「私が能力を使えた時は手の平の上だけだったし、早苗さんみたいなことは出来ないよ」

早苗「ならば、その状況を再現してみましょうか」

佐天「どうすればいいの?」

早苗「佐天さんには手の平を広げてもらって、その上に私が気流を起こします。 そうすればイメージしやすいでしょう」

佐天「わかったよ」



そう言うと佐天は両手の平を早苗の前に差し出した。
早苗はその手に青葉の山から拝借した葉を数枚その上に乗せる。
そして佐天の手を包むように自分の手を掲げると、その直後ひらひらと葉が佐天の手の上を舞い始めた。


佐天「……」



自分の目の前を動き回る青葉をじっと見続ける。


そういえば、自分が初めて能力を使えた時もこんな感じに動いていたような気がする。
あの時は能力を使えたことに対する興奮で殆ど注意して見ることはなかったが、
こうして落ち着いて観察すると、葉がどのような風を受けて動き回っているのかが朧気ながらわかってきた。
そのイメージを土台にして、今度は頭の中で自分が能力を使っている時の感覚を想像する。



早苗「……どうでしょう?」

佐天「……うん、たぶん大丈夫」

早苗「わかりました。 では次は自力で能力を使う訓練をしましょう」

早苗「先ほどの感覚を頼りに、自分が能力を使っている姿を思い絵描いてみてください」

佐天「よし……!」


目を閉じて意識を集中させ、葉がどのような力を受けて浮き上がり、どのような軌道を描いて舞うのかを思い浮かべる。


自身の手の平の上にある空気がぐるぐると円を描くように回り始め、葉をその動きの中に巻き込んでいく。
巻き込まれた葉は遠心力によって渦の外に飛びだそうとするが、空気の塊に絡め取られてしまい、逃げ出すことは叶わない。
空気の塊に捕らえられた葉はそのまま上へと上昇し、渦の最上部で解放される――――こんな感じだろうか。


佐天にとって、風が一体どのような原理で生じるものなのかを理解するのはまだ難しい。
だが完全に把握する必要はない。足りない部分は自分の想像力で埋め合わせてしまえばいいのだ。
超能力を生み出すのは『自分の中の幻想』。そこに常識を介入させる必要はない。


佐天「……」

早苗「……」



二人の間に長い沈黙が続く。学校の体育館からはボールが床を跳ねる音が聞こえてくる。
空には少しばかり雲に隠れた太陽。それは時折雲から顔を出しながら、地上に光を降り注いでいた。



佐天「……」



どれほどそうしていただろうか。やがて二人の周りに風がそよぎ始める。
だがこれは佐天が起こしたものでは無く自然の風だ。まだ彼女は能力を使えてはいない。
風に黒のロングヘアーをなびかせながら、彼女はその場から身動きせずに瞑想を続ける。


そよ風を体に浴び、さらに風の流れというものに想像を膨らませていく。
扇風機やエアコンによって作り出された人工的なものではなく、自然現象によって生み出された風。
それは佐天の心に不思議な安心感を与え、能力を使おうと躍起になろうとする焦りの感情を鎮める。


佐天(風が気持ちいいなぁ……おかげでだいぶ落ち着いてきた)

佐天(こうしていると、扇風機の風と普通の風は全然違うってことがわかる)

佐天(扇風機の風って、なんて言うかただ空気をぶつけられているみたいだけど、
普通の風は優しく肌をなでてくれるような、そんな感じがするなぁ)

佐天(私ももしかしたらこんな風を……)

早苗「佐天さん! 目を開けてみてください!」

佐天「うぇ!? な、何!?」



佐天の呼びかけに慌てて目を見開いてみると、目の前を緑の物体が通り過ぎるのが見えた。
いきなり物体が絵の前に現れたことに肝を潰すが、気を取り直して早苗の方を見る。
しかし早苗は佐天の胸元をじっと見つめたままだ。その姿を不思議に思い、視点を自分の胸元に向けると――――











くるくると青葉が佐天の手の平を舞い踊っていた。











佐天「……っええぇぇぇぇ!?」



その様子に佐天が驚きの声を上げると風が一気に吹き上がり、葉は真上へと吹き飛ばされる。
風が収まると、吹き上げられた葉はそのままそよ風に流されて飛んで行ってしまった。



早苗「あ~、能力の制御が効かなくなっちゃったみたいですね」

佐天「早苗さん、私本当に……?」

早苗「ええ、あれは自然の風じゃありません。 紛れもなく貴方の力ですよ」

佐天「や、やった!」



その場で思いっきりガッツポーズをする佐天を見て、早苗は静かに微笑んだ。


今まで能力を全く使えていなかった分、その喜びは大きい。
早苗は学園都市に来てまもなく能力を使えるようになったが、目の前の彼女はレベル0の判定を貰い、
そのまま現在に至るまでずっと劣等感に苛まれてきたのである。


周りが前へ進んでいく姿を後ろから見ていることしかできない孤独。
理由は違えど、彼女も過去に同じ想いをしたことがあった。


早苗「佐天さん。 喜ぶのはまだ早いですよ。 今度はそれをいつでも自分の意志で出せるようにならないと」

佐天「あ、そうだね……早苗さん、今度はどうするの?」

早苗「これからはとにかくイメージトレーニングですね。 もっと強固な想像を作らないといけません」

佐天「そっか。 もっとがんばらないと……」

早苗「でも今日はここまでにしましょう。 少し頭がフラフラしてたりはしてませんか?」

佐天「そう言えば、さっきから頭がボーッとしてるような……」

早苗「それはさっき制御が効かなくなった時に、脳に負担がかかってしまったからです」

早苗「そのまま続けると体に悪影響があります。ですからゆっくりと体を休めたほうが良いです」

佐天「うん、そうする……」



急ぐあまり体を壊してしまっては意味がない。ここは早苗の言う通りにした方が賢明だ。


佐天「このままお昼にする? 街に行けば丁度良い時間だと思うし、何か食べられると思うけど」

早苗「あ、私お弁当作ってきましたよ?」

佐天「え? 本当?」

早苗「はい、もしかしたらと思って」

佐天「食べても良いの?」

早苗「いいですよ? ちょっと多めに作ってきましたから、あそこの木陰で食べましょうか」

佐天「ゴチになりま~す!」

\  /   この学園都市では常識に囚われては
●  ●   いけないのです!
" ▽ "


……うん、ごめん
早苗さんを佐天さんに絡ませたのはこの台詞を言わせたかったからなんだ。すまない


来週ですが、諸事情によりお休みさせていただきます
質問・感想があればどうぞ

>>653>>654の間が抜けていました。そこには以下の文が入ります


早苗「量子力学から考えると、『ボールが壁に跳ね返らずにすり抜ける可能性』はゼロではありません」

早苗「『限りなく100%に近い確率』でボールが跳ね返り、『限りなく0%に近い確率』でボールがすり抜けます」

早苗「そして実際にボールが壁にぶつかった様子を我々が観測した時に、すり抜けるのかそうでないのかが決定されるわけです」

佐天「なるほど」

早苗「ちなみにミクロの世界では、『ボールが壁をすり抜ける』という現象は頻繁に見られます」

早苗「これを量子力学では『トンネル効果』と言って、色々な電子機器に応用されていますね」

佐天「ふーん……」



『トンネル効果』は電子機器だけでなく、宇宙の誕生にも大きく関わっていると考えられる現象である。
例えば天文学に於いて、『宇宙は無から生まれた』というのが現在の定説であるが、
この『無から有への変化』はトンネル効果によって引き起こされたのだと言われている。

これら投下を開始します






――――7月28日 PM0:16






ファミリーレストラン。
『ファミレス』とも略されるそれは、主にファミリー客層を重点に置いた外食産業の一つである。


外食産業には食堂、レストラン、ファーストフード、喫茶店などがあるが、ファミレスは特に家族連れにの客に特化したものだ。
欧米において、基本的にレストランと呼ばれる場所には子供の入店は御法度となっている。
そのことから『子供が入ることが出来るレストラン』という意味で『ファミリー』の名が冠せられたのだ。


ファミレスに定義と呼べるようなはっきりとした基準はない。しかし一つの例として、


・客単価が500~2000円
・注文から料理の提供までの時間が3分以上
・座席数が80席以上


という条件が目安となっている。
老若男女様々な人々に受け入れられるように、料理のレパートリーが数多く揃えられており、
値段も家族連れを引き込めるような大衆的な価格に抑えられている。
『家族みんなで利用してもお財布に優しいレストラン』。それがファミリーレストランだ。


しかし学園都市では住人の殆どが学生であるために、このような場所に『家族で訪れる』という機会は非常に稀である。
兄弟姉妹を除けば、学校の友達や仕事の仲間と一緒に利用する客が殆どだろう。
寮のルームメイトを『家族』として捉えれば、ファミリーレストランの本来の役割を成し遂げていると言えるかもしれないが。


さて、以上のようにファミレスは、友達、家族、仕事仲間など、
様々なコミュニティにとっての憩いの場となっている場所である。
しかしとあるファミレスの一角に於いて、この場所には似つかわしくない、
周囲を問答無用で押しつぶしかねないほどの圧倒的な重圧を発散している一団があった。


美琴「……」ゴゴゴゴ

麦野「……」ゴゴゴゴ



御坂美琴と麦野沈利。
学園都市に存在する『電撃使い』の能力者の双璧を成す二人である。
二人は向かい合うようにして席に座っているが、お互いに決して目を合わせようとはしない。
その顔の眉間には深い皺が彫り込まれており、彼女らがどれだけ不機嫌なのかをそこから垣間見ることが出来る。
誰が見ても険悪な状態であり、非常に近寄りがたい、いや~な雰囲気が辺り一面に漂っていた。


本来であれば店内から丁重に追い出されるところであるが、ファミレスの従業員の皆が皆、
命の危険を本能的に感じ取っているようであり、彼女らに声を掛けるどころか近寄る素振りさえ見せない。
ここに食事をしに来た他の客も、二人の様子を伺うように時々盗み見るだけであり、誰も関わろうとはしない。
見た後は溜息をついて肩を落とし、この場に居合わせてしまった自分の不幸を嘆くばかりである。


絹旗「浜面、あの二人を超早くなんとかしてくださいよ!」

浜面「ちょっ、俺に死ねってのかよ!」

絹旗「浜面の命でこの状況を打開できるなら超安いです。 というかお釣りが来ます」

浜面「もしかして俺の命の値段って0円以下!?」



そんな中、ドリンクバーで二人に聞こえないように声を殺して会話をしている人物が二人。


男の名は浜面仕上。麦野が率いる学園都市直属の治安組織『アイテム』の構成員。役割は雑用。
女の名は絹旗最愛。浜面と同じく『アイテム』の一員であり、レベル4の『窒素装甲(オフェンスアーマー)』と呼ばれる能力を持つ。


二人は飲み物をおかわりすることを理由にあの場から逃げてきたわけだが、再びその重圧の中に舞い戻るような気は起きず、
かといってこのまま戻らないと麦野に何をされるかわからないという一種のジレンマに陥っていた。


ちなみに同じ『アイテム』一員である滝壺理后は、麦野の隣で呆けながらAIM拡散力場浴を楽しんでいた。
二人の険悪なムードなど全く意に介していないようである。


絹旗「ほら、滝壺さんがあそこで超平然と座っていられるんですから、ここで男を見せないと嫌われちゃいますよ?」

浜面「そ、それはそうだが……」

絹旗「全く、浜面は本当に馬鹿面ですね。 ここでウジウジしてても時間が超過ぎるだけです」

絹旗「そうしている間にも滝壺は貴方のことを超待ってるんですよ? このまま醜態を晒すつもりですか?」

浜面「わ、わかったよ……」



絹旗に言いくるめられた浜面は渋々と頷き、その手に熱々のコーヒーが入ったカップを持つ。


彼にとって滝壺とは強みでもあり弱みでもある。
滝壺のためなら己の限界を超えた力と勇気を発揮することが出来るが、
逆に滝壺を引き合いに出されてしまうと多少嫌な命令であっても聞いてしまうのだ。
それを利用されて『アイテム』のメンバー(特に絹旗)に言い様に使われているのだが、本人は気づいてはいないようだ。


絹旗(超ちょろいですね。 今回も浜面には犠牲になってもらいましょう)

絹旗(最近所構わず滝壺さんとイチャイチャしてて、超ウザいったらありゃしませんでしたからね)

絹旗(偶には超痛い目を見た方が良いです)

浜面「絹旗、そう言えば気づいたんだが……」

絹旗「?」



ふと立ち止まってこちらを振り向いた浜面に、絹旗は首をかしげる。
心なしか自分を見てニヤニヤいるように見えるのは気のせいだろうか。
どちらにせよものすごく不快に気分にされる顔つきをしているのは間違いない。



絹旗「何ですかその顔は。 超殴り飛ばしますよ」

浜面「いや、このまま俺が行ってもいいのかと思ってな……」

絹旗「超往生際が悪いですね。 さっさと行けばいいじゃないですか」

浜面「本当にいいのか? このまま俺が行けば――――」











浜面「ここに残った絹旗は俺以下のチキンということになるんだけどな」











絹旗「……ハァ!? 何言ってるンですかこの……むぐ!?」ガシッ!

浜面「おい! 静かにしろっての! 周りに迷惑だろうが!」

絹旗「んぐー! むー!」ジタバタ



一方通行口調で大声を出そうとする絹旗の口を、浜面は慌てて押さえつける。
店の中の何人かがこちらを向いたようだが、それ以上のことは何も起きなかった。


それにほっとしたのもつかの間、絹旗が浜面の手を無理矢理引きはがし今度は静かにもの申す。



絹旗「っぷぁ! いきなり何するんですかこの変態!」

浜面「人聞き悪いこと言うなよ。 お前が騒ごうとするから仕方なく……」

絹旗「浜面は存在自体が卑猥なんですから超自重してください」


浜面「何それ!? 俺は歩いてるだけで猥褻物陳列罪で捕まるの!?」

絹旗「当たり前でしょう。 というか超馬鹿面と滝壺さんじゃあ美女と野獣みたいなもんですよ」

絹旗「端から見ていたら犯罪以外の超何者でもないです」

絹旗「超うざったいので、さっさと痴漢で捕まって牢屋にでもぶちこまれてください」

浜面「ひでぇ……」



あまりの人格否定の連発に流石の浜面も凹む。
既に自分の性癖が『アイテム』のメンバー全員に御開帳されてしまっていることを考えれば、
これくらいはどうってことは無いはずのだが、どんなにダメージが少なくてもそれが積み重なれば結構きついのだ。


絹旗「というか浜面より私の方がチキンだなンて、いつからそんな生意気な口を利くようになったんですかァ?」

浜面「おい、口調が元に戻ってるんですけど!?」

絹旗「黙れよこのチンピラ。 毎回毎回目の前で超胸焼けするような雰囲気垂れ流しやがってよォ」

絹旗「それを見せつけられる人の気持ちを少しでも考えたことがあるンですかァ?」

絹旗「その超盛ってる猿並みの脳みそじゃァ、全然思いつきもしませンとでも仰りたいンですかねェ?」

浜面「盛ってるって……まぁ確かに滝壺は思わず襲いかかりたくなるほど可愛いけど……って違う!」

絹旗「どうやら超末期みたいですねェ。 一回その超粗末な×××を握りつぶされりゃァ少しはまともになりますかァ?」

浜面「一回って、俺の息子は一人しかいないんですけど!?」

絹旗「超うるせェよ。 さっさとそのソーセージ潰させろこらァ!」

浜面「ギャアァァァァ!!! お助けぇぇぇぇ!!!」






     *     *     *






美琴「……ねぇ」

麦野「なによ第三位?」

美琴「あの二人止めなくて良いの? 周りに迷惑になってると思うんだけど……」



美琴はドリンクバーでぎゃあぎゃあと騒ぎ立てている二人組を指さし、呆れたように口にした。


この場の険悪なムードに堪えかねて席を外したのだろうと思われる二人が、
何をどうしたのかは知らないが、突然大騒ぎして周りの客に迷惑をかけている。
子供ならまだしも、既に分別を弁えることができる年齢であるはずの人間があの醜態を晒しているのだ。


正直に言うとこのまま他人のふりをしてしまいたいのだが、そうは問屋が卸すまい。
故に美琴は状況の悪化を防ぐために、彼等の上司である麦野に対して止めるように言ったのだが……


あれだけ大騒ぎしても誰も文句を言わないのは、麦野の存在が非常に大きい。


『アイテム』は頻繁にこのファミレスを利用しており、店側にとっては常連の一団だ。
常連であるということは、『アイテム』の性格や言動をある程度詳しく知っているということである。
つまり麦野が切れると物騒で下品な単語を連発することも、滝壺が天然のおとぼけキャラであることも、
絹旗がB級映画を見ることが趣味であることも、浜面が彼女達のパシリであることも会話から知っているのだ。


そんな店の従業員らが超危険人物である麦野に関わろうとしないのは至極当然のことであり、
水や料理を運んでくる時と注文を受け付ける時、そしてレジで会計する時以外は近づこうともしない。
接客業を営む人間としてそれはどうなのかとは思うが、皆自分の命は惜しいのである。


一方の麦野も他人に避けられるのは慣れているため、この状況に苛つくようなことはなかった。
同伴している美琴としては堪った物では無いが。



麦野「……で、第三位? なんでアンタがここにいるのよ?」

美琴「何でって、ご飯を食べに来たに決まってるじゃない」

麦野「だ~か~ら~、何でこの席に座ってるのかって聞いてんだよこのノータリンが!」バン!

美琴「そりゃあ一応顔見知りだし、挨拶でもしておこうと思っただけだけど? それとも何、もしかして嫌だった?」

麦野「そもそも私とアンタはそんな間柄じゃないだろ。 いきなり礼儀正しくされても気持ち悪いんだよ」

美琴「そうね。 だからこれは、言ってしまえば社交辞令のようなものよ。 別にアンタのことを敬っている訳じゃないから」

麦野「チッ、そんなのこっちからも願い下げだっつーの。 変なところでお嬢様ぶりやがって……」



忌々しく舌打ちをしながらコップの水を呷る麦野。
彼女は美琴を温室育ちの子供であると認識しているのだが、その子供に負けているという事実が尚更彼女を苛立たせている。


麦野と美琴は過去に一度だけ、『アイテム』の任務の際に殺し合いを演じているが、
その時は物の見事に任務を妨害された上にまんまと逃げられてしまった。
本心ではリベンジをしたいが、もし美琴と再び殺し合うことになれば、間違いなく一方通行を敵に回すことになる。
かつて第二位に完全なる敗北を喫した彼女が、第一位に敵うなど万に一つもあり得ない。


美琴のように電波を操ることが出来るのであれば何とかなるであろうが、
麦野が持つ『原子崩し(メルトダウナー)』は『電子を曖昧なまま固定する』という一芸特化の能力だ。
破壊力という点であれば『超電磁砲』も上回るが、そのようなものが一方通行に通じるはずもない。
第二位の二の舞になるのはわかりきったことなので、結局彼女は美琴に対する敗北感を燻らせつつ現在に至るというわけである。


ただそれだけの遺恨を持っていながら、二人の会話にあまり棘が含まれていないのは、
学園都市が比較的平和になったおかげで人を殺す機会がなくなったこと、
そして自分の周囲にいる人間の影響を少なからず受けているためかもしれない。


麦野(ったく、私も随分と丸くなったものね。 少し前だったら水でもぶっかけてた所よね)

麦野(これも浜面とか滝壺の影響かしら? たぶん絹旗は関係ないと思うけど)

滝壺「ねぇ、みさか」

美琴「ん? どうかした?」

滝壺「南南東の方角から信号が来てる」

美琴「信号……?」

麦野「滝壺の能力のことよ。 アンタならもう知ってるでしょう?」

美琴「……あぁ、『能力追跡(AIMストーカー)』だっけ? でもあの能力って『体晶』が無いと使えないって聞いたけど」


滝壺が持つ『能力追跡』は『体晶』と呼ばれる薬物を使い、能力を暴走状態にすることで初めてその力を発揮するものだ。
本来ならば能力の暴走は能力者に大きな負荷がかかるため、いち早く対処する必要がある状態である。


しかし、稀に暴走状態になると能力のレベルが増大する者がいる。その中の一人が滝壺理后だ。
『能力追跡』は暴走するとレベル4相当の能力者専用の広大なレーダーとなり、
例え宇宙の果てまで逃げたとしてもその場所を特定することが出来る。
さらには相手のAIM拡散力場に干渉することも可能であり、それを用いた能力使用の妨害や能力の強化を行える。


ここまでだと良い事尽くめのように聞こえるが、能力の暴走を誘発するための『体晶』は劇物中の劇物だ。
基本的に何でもアリの学園都市暗部においても『禁忌』と評されていた代物である。
仮に『体晶』の使用で圧倒的な力を手に入れることができたとしても、それに伴う代償もまた大きい。
比較的負担が少ない滝壺であっても、使いすぎると『崩壊』の危険がある。
そんなものを他の人間が使えばどうなるのか、考えなくてもわかるだろう。


……実際の所、それを考えずに感情にまかせて使った結果、痛い目を見た人間がここに一人いたりするのだが。


麦野「……そこまで知ってるのね。 アンタの言う通り、能力をフルで使いたいのなら『体晶』は必須よ」

麦野「でもそこまでしなくても、今のこの子ならある程度使うことは出来る」

麦野「範囲は自身を中心とした50メートルの円といったところかしら」

美琴「ふーん」

滝壺「はまづらだけに苦労させるわけにはいかないから……」

麦野「『はまづらだけに』、ねぇ。 この子ったら毎日私達にハチミツをぶちまけたようなムードを見せつけてくんのよ?」

麦野「こっちとしたら堪ったもんじゃないっての」

美琴「浜面って、一緒にいた金髪の男のことよね?」

滝壺「うん。 私の命の恩人でとても大切な人。 そして私が守らなきゃいけない人」

滝壺「はまづらは私のために何時も無茶するから、私が支えててあげないといけないの」

麦野「あんなへたれ薄らトンカチの何処がいいんだかねぇ……」

滝壺「はまづらには色々と残念なところもあるけれど、それも含めて大好き」ホワーン

美琴「へ、へぇ~……」


自分から話していながら顔を赤らめる滝壺を見て、美琴は言い様のない罪悪感に囚われる。


滝壺は自分が浜面のことを好きであるということを臆面もなく豪語し、浜面を支えようと意気込んでいる。
それに対して自分はどうだろうか。自分は当麻に会った途端に攻撃を仕掛け、彼の後ろを追い回し続けるばかりだ。
そんなことを続けること1年。未だにそれ以上の進展は得られていない。
正確には進展は見られたものの、再び元に状態に戻ってしまったというのが正しいかもしれないが。



麦野「ったく相変わらずねぇ、この天然娘は。 もう×××も済ませてたりするの?」

美琴「ちょっと!?」

麦野「ん? おやぁ~? もしかしてこの電撃姫は経験無かったりするのかしら?」ニヤニヤ

美琴「あああ、あるわけないでしょ! 何考えてんの!?」////カァァ

麦野「あらあら、そんなに顔を赤くしちゃって。 お子様にはちょっと刺激が強すぎたかにゃーん?」

美琴「黙っていれば……! そう言うアンタこそどうなのよ!」

麦野「えっ、私? そりゃあ私は……」


そこで突然しどろもどろになる麦野。
よく考えてみれば、だいぶ幼い頃から学園都市の闇の中を生きてきた彼女にとって、
恋愛など最も縁の遠いイベントの一つである。


今まで関わってきた男と言えば、浜面を除けば『アイテム』の下部組織の連中か依頼の標的くらいだ。
彼女自身プライドが高い人間なので、『惚れた弱み』という言葉があるように、
他人に依存することを良しとしていない節もあるかもしれない。


どちらにしても、麦野沈利という女は今までの間まともに男性とお付き合いしたことがないのだった。



美琴「もしかしてアンタ、私を散々バカにしておきながら……?」

麦野「なっ! んな訳……・」

滝壺「大丈夫。 私はいつまでも純血を守り続けるむぎのを応援してる」

麦野「」

美琴「……」プッ


麦野「あァん!? テメェ今笑ったか第三位さんよォォォォ!?」

美琴「ちょ、声が大きいってば!」

麦野「関係ねえ! カァンケイねェェんだよォォォ!!! 別に男がいなくても私に魅力が無いなんてことにはならねェんだよ!」

麦野「クソジャリがいい気になってんじゃねぇぞ! 私が本気になれば男なんざ掃いて捨てるほど集めることができんだよォォォォ!」

美琴(うわぁ……)



女性として色々と言ってはいけないことを叫ぶ麦野。その姿に流石の美琴も少し引き気味だ。


麦野のプロポーションは学園都市においてもかなり上位に食い込むはずなのだが、
彼女自身の性格がその利点を台無しにしてしまっている。
その容姿に釣られて男が近づいてきたとしても、彼女の本性を前にすれば無残に砕け散ることになるだろう。


浜面「おい麦野! あんまり騒ぐと周りに迷惑だろ!?」

絹旗「浜面、私達も超人のこと言えないと思いますよ?」

麦野「うるせぇよ! テメェもどうせ私のことを影で笑ってるんだろこの粗○ン野郎が!」

浜面「粗○ンじゃねぇし! 健康的なのが自慢の立派な息子だし!?」

麦野「じゃあヤリ○ン野郎か!? その×××で滝壺をヒィヒィ言わせてんのかァァァァ!?」

絹旗「麦野止めてください! 周りが超見てますよ! ほら、二人も見てないで何とかしてください!」

美琴「いや、そんなことを言われてもねぇ……自業自得じゃない?」

滝壺「きぬはたなら大丈夫だよ。 骨は拾ってあげるから」

絹旗「この状況を作り出したのは滝壺さんじゃないですか! それと超不吉なことを言わないでください!」



浜面と絹旗が加わったことで、この場の混沌はさらにエスカレートしていく。
もはやこの状況を治めることが出来るのは、事の発端となった美琴と滝壺のみである。


だが肝心の二人に、そんなことをする気持ちは全くないようだ。



美琴「で、滝壺さん、だいぶ話が逸れちゃったけど信号がどうしたの?」

滝壺「うん、遠くからみさかと似た信号が来てたんだけど、もうすぐ近くに来てるよ」

美琴「え?」

「やはりいましたね。 と、ミサカは周りの騒ぎを華麗に無視してお姉さまに話しかけます」



後ろを振り向くと、そこには自分とそっくりな顔つきをした少女が一人。
言うまでもなく『妹達』の一人である。首にかけられたネックレス見るに……


美琴「アンタは10032号ね?」

御坂妹「はい。 将来あの人と一生を共にすることになる御坂妹こと、10032号です」

御坂妹「よりによってあの『原子崩し』と一緒にいるとは思いませんでした。 と、ミサカは……どうしました?」

美琴「ねぇ、念のために聞くけど『あの人』って誰のことかしら?」

御坂妹「それは言うまでもなく、お姉さまが夢中になっているツンツン頭の……むがっ!?」

美琴「言わせないわよ!?」

御坂妹「知りたいと言ったのはお姉さまではありませんか。 と、ミサカは理不尽なお姉さまに不満を言います」ムスッ



強制的に口を遮られたことに対して抗議をする御坂妹。
自分で聞いたのに、それを口に出そうとした途端に妨害するのだから何とも自分勝手な姉である。
そんなに取られたくなかったら、さっさと告白なり何なりすればいいのにと思う。


まぁそれができるならば、とうの昔に上条当麻と恋仲になっているはずである。
この恥ずかしがり屋な姉にそんなことをする度胸が無いことは、御坂妹のみならず関係者の中では周知の事実だった。



麦野「何? もしかして第三位、気になる男でもいるの?」



いつの間には平静に戻っていた麦野が、二人の遣り取りを見て質問をぶつける。
彼女の足下に転がっている死屍累々を見るに、それらを犠牲にすることで落ち着くことが出来たようだ。
『犠牲になった人達(絹旗と浜面)』には感謝しなければならないだろう。



美琴「え? そ、それはまぁ……その……」モジモジ

麦野「何テンプレみたいな反応してんのよアンタは。 見ててムカつくっつーの」

御坂妹「これがデフォです。 と、ミサカはお姉さまが未だに初心であることを告げます」


麦野「もう×××に毛が生える歳だってぇのにいつまでガキのつもりなのよ?」

麦野「少しは私みたいに堂々としてないと、その男に好き勝手にされちゃうわよ? いろんな意味で」

御坂妹(この人の場合は堂々とし過ぎているような気がしますが。 と、ミサカは命の危険を回避するために心の中で呟きます)

美琴「恋愛経験皆無のアンタに助言を受けたって何の役にも立たないんだけど?」

麦野「これでもアンタよりは男を悦ばせる方法は熟知しているつもりだけどねぇ」フフン

御坂妹(それは俗に言う『耳年増』と呼ばれるものなのではないのですか? と、ミサカは……)

麦野「オイ、そこのクローン。 今変なこと考えてなかった?」ギロッ

御坂妹「いえ、とんでもありません『原子崩し』」

麦野「……ならいいわ」

御坂妹(やべ~、これが『女の勘』という奴ですか。 と、ミサカは女性の鼻の鋭さに戦々恐々とします)


美琴「仕事? アンタ、また物騒なことしてるんじゃないでしょうね?」

麦野「それは教えられないわね。 まぁ、物騒と言ったら物騒かしら? 私からしたらなんてこと無い仕事だけど」

美琴「なっ……!?」

麦野「変な勘違いするんじゃないよこのガキ。 この仕事はちゃんと上にも認められてる代物よ」

麦野「一般人には絶対に知られることはないんだけどね」

美琴「……」

麦野「一応言っておくけど、絶対に首なんか突っ込むんじゃないわよ?
『表を生きてきた人間』には少々刺激が強すぎるかもしれないからね」

美琴「!!!」

麦野「この仕事は私達『アイテム』の物。 一般人はそのまま日の当たるところで何も知らずに生きてりゃいいのさ」

美琴「……アンタ、そんな性格だったっけ?」

浜面「麦野にしては随分と優しい発言だよな。 普段の暴君ぶりからは考えられな(ゴスッ!)ぐへぇ!?」

麦野「うるせぇよ黙ってろこの×××野郎が!」ゲシゲシ

美琴「……なるほどね」



麦野の言葉から、彼女が率いる『アイテム』がどんなことをしているのかを朧気ながら知ることが出来た。
彼らは『上』、即ち統轄理事会から仕事の依頼を受けているのだろう。
そしてその仕事は、一般人は絶対に関わることのない代物であると言うことだ。


そう言えば、あの一方通行も似たようなことをしていると聞いたことがある。
統轄理事会は元暗部の人間達を使って何をしているのだろうか?



麦野「ふぅ……スッキリしたわ」

浜面「」チーン

絹旗「浜面は何時も超一言多いんですよ。 いい加減学んだらどうです?」

浜面「いやだって、誰だってそう思うじゃん? そこのそっくりさんもそうだろ?」

御坂妹「ノーコメントです。 と、ミサカは貴方のような醜態はさらすまいと本音を隠します」

浜面「いや、隠せてないから。 ところで、誰か起き上がらせてくれないか? 痛くて体が動かないんだけど」

美琴「何言ってるのよ。 自業自得でしょ。 自分の力で起きなさいよ」

浜面「だよな~……」

滝壺「大丈夫。 私は自分から地雷を踏み抜くはまづらを応援してる」

浜面「滝壺さん、フォローになってないです……よっこらせっと」


滝壺に小さく突っ込みを入れながら、浜面は多少ふらつきながらも体を起こした。


なんだかんだ言って彼は、そこらの人間とは一線を画した体力の持ち主である。
スキルアウト時代の時点で一級アスリート並みの筋力トレーニングしていたことに加え、
暗部に入ってから幾度もなく修羅場を潜り抜けてきたため、そのタフネスはあの上条当麻と同等かそれ以上だ。
純粋な体力と腕力だけ