士郎「それで…誰も泣かずにすむのなら――」 (461)

※地の文あり、冒頭は多め


本来静かなはずの夜の学校――
友人の頼みを聞いて遅くまで学校に残っていた俺が見たものはそれとはかけ離れた物だった

吹き荒れる砂荒らし、鳴り響く数多の金属のぶつかる音――
赤い槍を持った青い男と金ぴかの鎧をまとった男が夜の校庭で戦っていた

士郎「何だよあれ…」

青い男がかまえると同時に凄まじい魔力が放たれる
殺される…あの金ぴかの男は殺される――


青い男「誰だ!!」

士郎「あ…」

青い男の体が沈むと同時に、それの標的は自分に切り替わったとわかった
足が勝手に走り出す――
走らなければ殺される、死を回避しようと人気のない校舎の中へと逃げ込む――

立ち止まり振り返ると追いかけてくる足音はない

士郎「ふう、逃げきれ――」

青い男「よう、わりと遠くまで走ったなお前」

誰もいないはずの後ろから声をかけられる

青い男「運がなかったな坊主。ま、見られたからには死んでくれや」

容赦もなく男の槍は衛宮士郎の心臓を貫いた
衛宮士郎は死んだのだ――

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士郎「ぐ……何が起きた?」

自分は殺されたはずだ
だが生きている

士郎「夢…だったのか?」

いやそんなことはない
制服には穴が開き、血がべっとりとついている

近くに赤い宝石が落ちている
わずかに魔力が入っている――
誰かが殺された自分を救ってくれたのだ――

朦朧とした意識の中、ふらつく足取りでなんとか家にたどり着き、床に倒れこむ

士郎「はあっ、はあ――いったい誰が――うぐっ!!」

痛みをこらえ息を整える
息を整えるとほとんど同時に侵入者用の結界が反応する

士郎「こんな時に泥棒か――同調、開始〈トレースオン〉」


自己暗示の言葉と共に、ポスターに強化の魔術をかける
そして天井から振り下ろされた銀光を避ける

青い男「あーあ、見えていたら痛かろうと俺なりの配慮だったんだがな」

士郎「お前は――」

青い男「一日に同じ人間を二度殺すはめになろうとは、いつになろうと人の世は血生臭いということか」

青い男「じゃあな、今度こそ迷うなよ坊主」

ギィンッ

士郎「あがっ!!」

反応できない速度で繰り出された男の槍が、身構えてた武器で軌道が剃らされ腕を掠めるだけに留める

青い男「へえ、変わった芸風だなおい。心臓を穿たれて生きてるってのはそういう事か」

男が振るった槍を間一髪庭に飛び出ることでかわす
だが男の回し蹴りをまともに食らい土蔵まで吹き飛ばされてしまう

士郎「がは――あ…」

壁に勢いよく叩きつけられた衝撃で肺の中の酸素が押し出される
追撃が来る前になんとか土蔵の中に…ここならまだマシな武器が――

青い男「これで終わりだ――!!」

士郎「こ―――のぉおおおお!!」

ポスターを広げ一度きりの盾にする
なんとか防いだがポスターは破れ、壁まで吹き飛ばされる

青い男「詰めだ。今のはわりと驚かされたぜ坊主」

男の腕がまるでスローモーションのように動いて見える
一秒後には殺されているだろう――ふざけるな

助けてもらったのに、こんなとこで簡単に殺されるわけにはいかない――!!

士郎「平気で人を殺す、お前みたいなヤツに――!!」

士郎「え…?なに……?」

眩い光の中、それは俺の背後から現れた
その騎士は現れるなり俺を貫こうとした槍を打ち弾き、躊躇なく男へと踏み込んだ

青い男「――本気か、七人目のサーヴァントだと…!?」

青い男の槍を幾度か弾き、青い男が離れたのを確認した騎士は振り向き――

「――問おう。貴方が、私のマスターか」

闇を弾く声で彼女はそう言った

「召喚に従い参上した。
これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。――ここに契約は完了した」

そう、契約は完了した
彼女がこの身を主と選んだように。きっと自分も彼女の助けになると誓ったのだ

おそらくは一秒とすらならなかった光景。
されどその姿ならば、たとえ地獄に落ちようと鮮明に思い返す事が出来るだろう

僅かに振り向く横顔。どこまでも穏やかな聖緑の瞳。
時間はこの瞬間のみ永遠となり、彼女を象徴する青い衣が風に揺れる。

――差し込むのは僅かな蒼光。金砂のような髪が、月の光に濡れていた。

セイバーと名乗る少女は土蔵の外に飛び出し、外で待ち構えていた青い男とぶつかり合う

青い男「くっ、卑怯者め!!自らの武器を隠すとは何事だ!!」

セイバー「どうしたランサー、止まっていては槍兵の泣こう。そちらが来ないのなら私が行くが」

ランサー「その前に一つ訊かせろ。貴様の宝具、それは剣か?」

セイバー「さあどうかな。斧かもしれぬし、槍かもしれん。いやもしや弓ということもあるかもしれんぞ」

ランサー「ぬかせっ剣使い!!」

青い男、ランサーが槍を構える

士郎「あの構えは――」

ランサー「ついでにもう一つ訊くがお互い初見だしよ。ここらで分けって気はないか」

セイバー「断る。貴方はここで倒れろ、ランサー」

ランサー「そうかよ…その心臓、貰い受ける!!」

ランサーから凄まじい魔力が溢れだす

ランサー「刺し穿つ――」

士郎「危ないセイバー!!」

ランサーはセイバーに魔槍を放とうと――
それの動作を変え何処からか飛んできた剣を弾き落とす

ランサー「くっ――何者だ!!」

金ぴか「数刻振りよな」

士郎「あれは学校にいた――」

ランサー「アーチャー…!!」

セイバー「バカな――何故貴方がここにいる、アーチャー!!」

アーチャー「その出立ち、セイバーのサーヴァントか」

セイバー「私を知らない…?まさか貴方も此度また召喚されたというのですか!?」

アーチャー「引けランサー。此度は特別に見逃してやろう」

ランサー「流石に二人同時に相手するのはきついしな。退かせてもらうぜ」

セイバー「待てランサー!!――っ!!」

セイバーは投げられた剣を見えない剣で弾き落とす

アーチャー「敵に向かって背を向けるとは、無謀にも程があるぞセイバー」

セイバー「……アーチャー、十年前の決着を今ここで果たすか」

士郎「待ってくれセイバー、ちゃんと説明をしてくれ。何が何だが……」

セイバー「敵を前にして何を言うのですかマスター」

士郎「マスターなんて呼ぶのはやめてくれ。俺は衛宮士郎だ」

セイバー「ではシロウ、指示を」

士郎「だから説明をだな」

アーチャー「どうしたセイバー、我はいつでもかまわんぞ。それとも抵抗せず我の処刑を受け入れるか」

金ぴかの男の背後に無数の剣が現れる

セイバー「まずい――」

凛「待ちなさいアーチャー」

アーチャー「雑種か」

凛「だから雑種じゃないっての!!ったく」

士郎「とお――さか――?」

凛「こんばんは素人のマスターさん」

アーチャー「雑種、どうするつもりだ」

凛「彼は聖杯戦争について何もわかってないみたいだからね。説明してあげるのよ」

アーチャー「くだらん。我は好きにさせてもらうぞ」スッ

凛「ったく、あれのどこが絶対服従なのよ。何はともあれ上がっていいかしら衛宮くん」

士郎「え…ああ」

セイバー「シロウ、敵のマスターを信用するつもりですか?」

士郎「遠坂は大丈夫だ、それに俺達を殺すつもりならさっきのヤツを止める必要はなかったはずだ」

セイバー「それはそうですが…いえ、シロウがそういうのなら今は受け入れましょう」


士郎「つまり聖杯戦争ってのは七人の魔術師とサーヴァントによる殺し合いってことか?」

凛「そうよ。詳しいことは聖杯戦争の監督者に聞くのが一番ね」

教会に行き、言峰神父の話を聞いた帰り道

凛「ここでお別れね。義理は果たしたし、これ以上一緒にいると何かと面倒でしょう」

士郎「なんだ。遠坂っていい奴なんだな」

凛「は?何よ突然。おだてたって手は抜かないわよ」

士郎「知ってる。けどできれば敵同士にはなりたくない。俺、お前みたいなヤツは好きだ」

凛「な―――と、とにかくサーヴァントがやられたらさっきの教会に逃げ込みなさい。そうすれば命だけは助かるから――」

士郎「遠坂?」

「ねえ、お話は終わり?」

幼い声が響き、視線が坂の上に引き寄せられる。そこには――

凛「――バーサーカー」

「こんばんはお兄ちゃん」

士郎「――――」

凛「――やば。あいつ桁違いだ」

「あれ?なんだ、あなたのサーヴァントはお休み?二匹一緒に潰してあげようと思ったのに」

坂の上から俺達を見下ろしながら少女は不満そうに言う

「はじめましてリン。わたしはイリヤ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと言えばわかるでしょ?」

凛「アインツベルン―――」

遠坂の反応が気にいったのか、少女は嬉しそうに笑みをこぼし

イリヤ「じゃあ殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」

歌うように、背後の異形に命令した。

巨体が飛ぶ、バーサーカーと呼ばれたモノが何十mという距離を一息で落下してくる

セイバー「――シロウ下がって!」

セイバーはバーサーカーの落下地点に走り、バーサーカーの斧を見えない剣で受け止める

セイバー「…くっ!!」

士郎「駄目だ、バーサーカーの方がセイバーより力も早さも上だ!!」

バーサーカーの猛攻を前にセイバーはどんどん押されてゆき――

凛「――Vier Stil Erschieβung!」

バーサーカーの背中に凄まじい威力の魔術の弾丸が襲いかかる、しかし

凛「っ…!?なんてでたらめな体してんのよこいつ!!」

襲いかかる魔術を意にも介さず、バーサーカーはセイバーに突進し――

士郎「逃げろセイバー!!」

バーサーカー「■■■■■■■―――ッ!!!!」

完全に防ぎに入ったセイバーは簡単に吹き飛ばされた

だん、と遠くに何かが落ちる音。

…鮮血が散っていく、もはや立ち上がる事などできない体で彼女は意識などないままで立ち上がる

そこにバーサーカーがとどめを刺そうと――

士郎「――え?」

どたんと倒れた、なんで……?
俺はセイバーを突き飛ばそうとしたはずなのに――

士郎「が――は―――」

イリヤ「――なんで?……もういい。こんなの、つまんない。バーサーカー」

バーサーカーは攻撃をやめ、イリヤの元へと戻っていく

イリヤ「――リン、次に会ったら殺すから」

少女は去っていく

凛「……あ、あんた何考えてるのよ!もう助ける事なんて出来ないってのに……!!」

それは五年前の冬の話――
月の綺麗な夜だった。自分は何をするでもなく父である衛宮切嗣と月見をしていた

切嗣「僕はね、正義の味方に憧れていたんだ」

士郎「何だよそれ。憧れてたって、諦めたのかよ」

切嗣「うん。ヒーローは大人になると名乗るのが難しくなるんだ。そんなこと、もっと早くに気がつけば良かった」

士郎「そっか。それじゃあ仕方ないな」

切嗣「そうだね。本当に、しょうがない」

士郎「うん、しょうがないから――俺が代わりになってやるよ」

切嗣「ん?」

士郎「爺さんは大人だからもう無理かもしれないけど俺なら大丈夫だろ。任せろって、爺さんの夢は――」

言い切る前に父は笑った。そして――

切嗣「そっか――安心した」

静かに目蓋を閉じて、その人生を終えていた

多めつうかパクってるだけやん

士郎「ぐ――あ……?」

凛「おはよう。勝手にあがらせてもらってるわ、衛宮くん」

士郎「そっか――遠坂が助けてくれたのか。ありがとう」

凛「これに懲りたら次からはもっと考えて動いてよね。それで本題に入るけど」

士郎「?」

凛「衛宮くん、これからどうするつもり?」

士郎「正直わからない。聖杯を奪いあうために殺し合うなんてバカげてる。正直俺は聖杯なんてものに興味はない」

凛「それ、セイバーの前で言ったら殺されるわよ」

士郎「な…殺されるってどうして!?」

凛「サーヴァントの目的も聖杯だからよ。彼らも聖杯に叶えたい願いがあるからこそ召喚に応じるのよ」

士郎「セイバーにも叶えたい願いがあるってのか…」

凛「それで昨日あったことは覚えてる?」

士郎「ああ、だけどどうして俺は助かったんだ?」

凛「勝手に治ったのよ。おそらくセイバーと契約したことでセイバーの治癒の力が流れ込んだんでしょうね」

士郎「そうだ、セイバーは無事なのか!?」

凛「ええ、道場の方にいるみたいよ」

士郎「そうか…良かった」

凛「それで昨日のマスターを覚えてる?あの子必ずわたし達を殺しにくるわ」

士郎「――」

凛「あの子のサーヴァント、バーサーカーは桁違いよ。未熟な貴方にはアレを撃退できないわ」

士郎「悪かったな。けどそういう遠坂だってアイツには勝てないんじゃないか?」

凛「正面からじゃ無理でしょうね。それで提案なんだけど、わたしと手を組まない?」

士郎「俺と遠坂が?」

凛「そう。わたしのアーチャーは今回の聖杯戦争に乗り気じゃないのよ」

士郎「乗り気じゃないって、さっきサーヴァントは願いを叶えるためにって――」

凛「わたしのアーチャーはちょっと特別なのよ。願いはないけど他のサーヴァントに聖杯を渡す気はないっていう」

士郎「なんだよそれ?」

凛「さあね。同盟の対価として、マスターとしての知識を教えてあげるし、暇があれば魔術の腕も見てあげるけどどう?」

士郎「……わかった。手を組もう」

アーチャー「物好きだな雑種、そのような下等なモノと協力するか」

士郎「うを!?いつの間に――」

凛「アーチャー、何か文句あるわけ?あと雑種って呼ぶな」

アーチャー「雑種は雑種だ。なに、別に口を出すつもりなどない」

凛「なら口を挟まないで。それで用もなく出てきたわけ?」

アーチャー「一応貴様は我のマスターだ。報告をしておこうと思ってな」

凛「報告?何よ」

アーチャー「貴様がここで怠けてる間に龍洞寺にいた二匹のサーヴァントを消しておいた」

凛「はあ!?龍洞寺ってことはキャスターよね?」

アーチャー「ああ。民を裁くのは王であるこの我の役目だ。勝手なことは許さん」

凛「それでもう一人のサーヴァントってのは?」

アーチャー「確か偽のアサシンだ。道の邪魔だったのでな、消えてもらった」

士郎「……俺いなくてもこいつ一人でバーサーカーを倒せるんじゃ――」

ザシュ

凛「ちょっとアーチャー!?」

アーチャー「貴様、不敬であるぞ。貴様が雑種の僕じゃなければ首をはねていたぞ?」

士郎「」コクコク

アーチャー「ふん、狂犬など我が相手をする価値などない。我と戦う資格があるのは真の英雄だけよな」

凛「ごめん衛宮くん。とにかくアーチャーはバーサーカーと戦う気がないのよ。こいつ令呪もはねのけるし…」

アーチャー「王の中の王であるこの我が何故雑種ごときに従ってやらねばならん」

士郎「……遠坂もなんだか大変そうだな」

アーチャー「我は喉が渇いたぞ。雑種、美味い酒を持ってこい」

凛「朝っぱらから飲酒しようとしてんじゃないわよ!!」

アーチャー「時間等関係ない。我が飲みたいと言えば用意するのが当然であろう」

士郎「家には酒なんてないぞ。お茶ならあるけど」

アーチャー「我に出すからには上等な物を用意せよ」

凛「そうだアーチャー、家から荷物とってきて」

アーチャー「雑種、我にそのような雑事をさせるつもりか?」

凛「良いじゃない。どうせアンタの宝物庫の中には移動用のもあるんでしょう?」

アーチャー「これで自分で取り出せ」つ取り寄せ○ッグ

士郎「これ別の作品じゃ――」

アーチャー「我の宝物庫には人間の作る物の全ての原典が入っているのだ」

凛「便利ねこれ」

士郎「おい遠坂、そんなたくさんの荷物どうするつもりだ?」

凛「今日からここに泊まるから」

士郎「は?」

凛「同盟組む以上一緒の家にいた方が色々と便利でしょ?別棟の客室の一番いい部屋借りるから」

士郎「え?」

アーチャー「雑種、食事は上等な物を用意せよ。我は食事にはうるさいぞ」

凛「言っとくけど拒否権はないからね」

士郎「なんでさ!?」

アーチャー「うるさい」シュッ

ザクッ

士郎「あ、はい」



凛「それじゃあやっぱり、当面は様子見かな」

セイバー「それについては提案が。アーチャーの目は鷹の目のそれと聞きます。彼に屋根の上から見張って貰うというのは」

凛「無理ね」

アーチャー「断る。我が何故そのような事をせなばならぬ」カチャカチャシュー

凛「さっきからアンタは何やってんのよ」

アーチャー「ぷらもでるとやらを組み立てているのだ。昨日散歩の途中で会ったワカメが持っていたのでな」

凛「ワカメ?まさかアンタそれ奪ったんじゃないでしょうね」

アーチャー「民の物は我の物、我の物は我の物だ」

凛「……流石史上最悪の暴君」

士郎「どうでもよくないけど家の中でスプレー塗装はやめてくれよな」

凛「それで学校以外出かけるときは常にセイバーを連れて歩きなさいよ衛宮くん」

セイバー「学校にいる間はどうするのですか?」

凛「アーチャーの道具があるし大丈夫よ」

アーチャー「待て雑種、何を勝手に我の宝物を使う気でいる」

凛「だってどうせアンタ側にいる気ないでしょ?だったら出しなさいよ」

アーチャー「……仕方あるまい。こいつを貸してやろう。常に脅威を自動で迎撃するすぐれ物だ」

凛「目立ち過ぎるから論外ね」

アーチャー「注文の多い…第一あと残っているサーヴァントはライダーとランサーだけであろう」

凛「そういやそうだったわね。イリヤスフィールとランサーは人目のつく時間は襲ってこないでしょうし」

士郎「ライダーにだけ気をつければいいってわけか。でもライダーがどんなヤツかわからないしな」

凛「それだけどライダーのマスターは学校の人間よ」

士郎「何だって!?」

凛「学校に結界が張られてるのに気がつかなかった?あれは多分ライダーのマスターの仕業よ」

士郎「あの違和感は結界だったのか。でも何でライダーのマスターってわかるんだ?」

凛「消去法よ。まずキャスターならあんな素人丸出しの結界を張らないし、アサシンがキャスター側だったって事はアサシンでもない」

士郎「それで?」

凛「バーサーカーとイリヤスフィールの実力ならあんなの必要ないし、ランサーでもなかった」

士郎「残るはライダーのみってわけか。それで結界ってのはどんなのなんだ」

凛「人の魂を吸い上げてサーヴァントの強化をするってヤツよ」

士郎「そんなの発動したら学校にいる皆が――」

凛「死ぬわね」

士郎「そんなことさせられない」

凛「だから止めるんじゃない」

士郎「どうやって?」

凛「発動させるのを待つしかないわね」

士郎「さっきと言ってる事が違うじゃないか」

凛「矛盾してるって?結界はもう張られちゃってるの。表に出てくるのは発動させるときしかないわ」

士郎「発動までにあとどのぐらいかかるんだ?」

凛「六日ってところね。それまでは大人しくしてなさい。自分から探し回って敵に知られるのもバカバカしいし」

士郎「六日か……」

凛「その間にみっちり教え込んであげるわ。バーサーカーとも近いうちに戦わなきゃいけないんだし」

士郎「ああ頼む。セイバーも剣の稽古を頼んでいいか?」

セイバー「もちろんです。その前にシロウ、一つ頼みが」

士郎「なんだ?」

セイバー「私はシロウからの魔力の提供が不十分です。なので普段は寝て魔力の温存をさせたいのです」

士郎「寝てると消費を抑えられるのか?」

セイバー「はい。それと食事でわずかばかり魔力を補給できます」

士郎「そっか、すまない」

セイバー「いえ。もし私が寝ている間に何かがあれば令呪で呼んでください」

士郎「わかった」

アーチャー「それよりセイバー、貴様は我を知っているようだったが?」

セイバー「……私は十年前に行われた聖杯戦争でもセイバーとして召喚されていました」

凛「嘘っ!?それってどんな確率よ!?」

セイバー「そのときにアーチャー、貴方もアーチャーとして呼ばれていた」

アーチャー「我には聖杯戦争に参加した等という記憶はないが…貴様は特別なサーヴァントのようだな」

士郎「どういう事だ?」

凛「召喚されたサーヴァントはあくまでもコピーなの。本体は英霊の座ってところにいるのよ」

士郎「それがセイバーが特別だってのはどう関係するんだ?

凛「本体には召喚されたという記録を知る事はできるけど、何が起きたかという記憶を知る事はできないのよ」

アーチャー「つまり我が参加していたという事を本来知る事は不可能なのよな」

セイバー「私はまだ死んでいません。それゆえ記憶も引き継げるのです」

凛「死んでない?それってどういうこと?」

セイバー「私は死ぬ前に聖杯を手に入れる事を条件に世界と契約しました。なので死の直前を永遠に繰り返しているのです」

凛「コピーじゃなくて本人が呼ばれてるって事ね?」

セイバー「はい、私が霊体化できないのもそれが理由です」

凛「ちょっと待って、アーチャーを知ってるってことはアーチャーと戦ったの?」

セイバー「はい、前回の聖杯戦争で最後に残ったサーヴァントが私とアーチャーでした」

凛「うそっ、アンタ達そんなに強かったの!?それでどっちが勝ったの?」

セイバー「決着は着いていません。聖杯を前にして私はマスターに裏切られました」

士郎「裏切られた?」

セイバー「私の前回のマスター……衛宮切嗣は令呪を二画使い私の手で聖杯を破壊させたのです」

士郎「おや…じ……?」

凛「衛宮君のお父さんって前回の聖杯戦争に参加してたの!?」

セイバー「この屋敷は聖杯戦争の拠点として使っていたものです。シロウが召喚に使った魔法陣はその時にアイリスフィールが描いた物でしょう」

士郎「あいりすふぃーる?」

セイバー「アイリスフィール・フォン・アインツベルン。前回の聖杯戦争の間、私と共に行動をしていたキリツグの妻です」

士郎「親父の奥さん?いやそれよりアインツベルンって遠坂」

凛「昨日のあの子ね。前回のアインツベルンは外部の魔術師を婿に迎え入れて聖杯戦争に参加させたとは聞いてはいたけれど」

アーチャー「人間と人形の混ざりものとは酔狂なモノを作ったと思ってはいたがそういうわけか」

士郎「?」

セイバー「まさか…ありえない。あれから十年の月日が経っているのですよ!?」

アーチャー「あの人形はあれ以上成長せんという事だ。貴様も似たようなものであろう」

セイバー「……」

凛「なるほどね、あの子が衛宮君を狙ってきたのはそれが理由か」

士郎「おい、それぞれで納得してないでわかるように説明してくれよ」

凛「あの子は多分あなたのお父さん、衛宮切嗣の娘よ」

士郎「親父の?」

凛「そうよ。切嗣って人はセイバーだけじゃなくて、奥さんやその家系のアインツベルン、そして実の娘のイリヤスフィールを裏切って聖杯を破壊した。つまりあなたは裏切り者の子供ってわけ」

士郎「……」

凛「もう遅いわね。お話は今日はここまでにしましょう」

翌朝

士郎「げ、もう6時か。朝飯の用意をしないと」

凛「おはよ――朝早いのねアンタ」

士郎「と…遠坂?どうした…何かあったのか!?目つきが尋常じゃないぞ」

凛「気にしないで、朝はいつもこんなんよ。顔でも洗えば目が覚めるわ」

士郎「顔を洗うだけなら玄関の廊下に洗面所がある」

凛「あーそういえばあったわね…そんなの……」

士郎「……ほんとに大丈夫なのかあいつ?」

ピンポーン

凛「士郎―――?誰か来たけど――――?」

士郎「ああ、気にしないでいい!!この時間に来るのは身内だからってまずい!!」

桜「―――え?」

凛「おはよう間桐さん。こんなところで顔を会わせるなんて以外だった?」

桜「遠坂…先輩……先輩…あの、これはどういう……」

士郎「ああ、それが話せば長くなるんだけど――」

凛「長くならないわよ。単にわたしがここに下宿することになっただけだもの」

桜「……先輩、本当なんですか」

士郎「要点だけ言えばな。ちょっとした事情があって遠坂にはしばらくうちに居てもらうことになった」

桜「今の話、本当に――」

凛「これはわたしと士郎で決めた事よ。家主である士郎が同意したんだからこれは決定事項。この意味わかるでしょう?」

桜「……わかるって、何がですか」

凛「今まで士郎の世話をしていたようだけど暫くは必要ないって事よ。来られても迷惑だし、来ない方が貴女の為だし」

桜「わかりません」

凛「はい?」

桜「……わたしには遠坂先輩のおっしゃることがわからないと言いました」

凛「ちょっ、ちょっと桜、アンタ――」

桜「お邪魔します。先輩、お台所お借りしまs――」

アーチャー「朝から何を騒いでいる雑種」

桜「え――どうして先輩の家に貴方が……」

アーチャー「誰の許可を得て我を見ている、女。失せよ」

アーチャーの背後から飛び出た一本の剣が桜に襲いかかる

桜「!!」

セイバー「はあっ!!」

それをセイバーが弾き、床の落ちる前に剣は消える

アーチャー「邪魔をする気かセイバー」

セイバー「貴方こそ何のつもりですかアーチャー」

アーチャー「邪魔をするというなら雑種もろとも散れ」

玄関という狭い空間にセイバー達を囲むように数えきれない程の剣が現れる

凛「いい加減にしなさいアーチャー!!」

アーチャー「……ふん、さっさと失せよ雑種。そして二度と我の前に姿を現すな」

士郎「さ、桜。外で話そう」

桜「……はい」

凛「……アーチャー、何でいきなり桜を殺そうとしたの。桜は何の関係もない一般人なのよ」

アーチャー「本気で言っているのか雑種、我はあれ程気色の悪いモノを見た事がない」

凛「それどういうこと?」

アーチャー「朝から気分が悪い。気晴らしに出かけるとしよう」スッ

凛「待ちなさいアーチャー!!……ったく、セイバー、アーチャーが言ってた意味わかる?」

セイバー「いえ…私には彼女はごく普通の女性に見えましたが……」

士郎「悪いな桜。あいつも悪気があったわけじゃないんだ」

桜「先輩……」

士郎「どうした?」

桜「あの男の人は先輩の知り合いなんですか?」

士郎「俺のってより遠坂の知り合いだな。あいつも暫く家に泊まるんだ、だからその――」

桜「ふふ…そうですか……遠坂先輩の……姉さんは――」

士郎「さく…ら……?」

桜「何でもないですよ先輩。ごめんなさい先輩、暫くご飯作りに行けません」

士郎「桜が謝ることじゃない。むしろ俺が謝らないと――」

桜「良いんです。先輩は何も悪くありません。悪いのは全部――ですから」

士郎「――え?」

桜「何でもありません。それじゃあ先輩、また学校で」

士郎「あ…ああ、またな桜」

桜「はい、それじゃあ失礼します」

士郎「……帰るか、あれ?何か忘れてる気が――」

「下宿ってどういうことよ――――!!!!」

士郎「やべっ、藤ねえ!!」


大河「へー、セイバーちゃんて切嗣さんと知り合いだったんだ」

セイバー「はい、10年前にキリツグの妻の護衛を」

大河「えっ、十年前ってことはもしかしてセイバーちゃんって私より年上!?」

セイバー「タイガの年は知りませんがおそらく」

大河「全然そんな風に見えないんだけどなー」

セイバー「私はわけあって15の頃から成長が止まっているので」

大河「何それ羨ましい」

士郎「藤ねえ、早くしないと遅刻するぞ」

大河「あ、もうこんな時間!?行ってくるわねえ、士郎も遠坂さんも遅刻したらダメよー」

凛「藤村先生、ここでも慌ただしいのね」

士郎「ははは……」

今日はここまで
>>11-12
冒頭部分だけはパクリというか、原作とほとんど同じ世界だという解釈で

慎二「おい衛宮」

士郎「なんだ慎二?」

慎二「何で今朝遠坂と一緒にいた」

士郎「あー偶然会って一緒に来たんだよ」

慎二「偶然?そんなわけあるもんか、遠坂は今まで誰とも一緒に登校したことがないんだよ」

士郎「そうなのか?どおりで朝からこっちを見てくるヤツが多いわけだ」

慎二「どういう事かしっかり説明しろよ」

士郎「そう言われたって困る。じゃあな、生徒会の手伝いがあるんだ」

慎二「待てよ!!」ガシッ

士郎「何だよ、もう話すことなんてないだろ」

慎二「いーや、きっちり説明してもら――これは令呪…?」

士郎「な――」

慎二「そうかそうだよなあ、どうりで遠坂とお前が一緒にいるわけだ。マスター同士だもんなあ」

士郎「慎二お前何でそれを――」

慎二「何で?そりゃ僕もマスターだからに決まってるだろう?」

士郎「お前も魔術師だったのか!?」

慎二「何にも知らないんだな衛宮は。間桐と遠坂は代々魔術師の家庭さ」

士郎「間桐が……?」

慎二「ここで魔術について話すのもなんだ、今から僕の家に来ないか?」

間桐宅

慎二「まあそんなに警戒すんなよ衛宮」

士郎「警戒するに決まってるだろう。これ見よがしにサーヴァントをいさせやがって」

慎二「ライダーのことかい?何もさせやしないよ、お前のサーヴァントがいきなり仕掛けてこないとは限らないからな」

士郎「ライダーのサーヴァント…ってことは学校の結界は――」

慎二「ああ、僕が張ったんだ」

士郎「お前、あれがどういうものかわかっているのか?」

慎二「当たり前だろ?」

士郎「慎二お前ッ!!」

慎二「そう騒ぐなよ、ただの保険だよ保険。僕は戦う気はないんだよ」

士郎「だったら何の保険なんだよ。戦う気がないならあんなもん必要ないだろ」

慎二「こっちに戦う気はなくても向こうはそうじゃないだろう?昨日だって明らかに人間じゃない金ぴかに……」ガクブル

士郎「金ぴか?あっ……」

慎二「あってまさか衛宮、あいつの事知ってるのか!?」

士郎「い、いや人違いの可能性もあるし……」

慎二「あんな金ぴかのヤツがそう何人もいてたまるか!!知ってるんだろ!?言えよ!!」

士郎「と、遠坂のサーヴァントだと思う」

慎二「遠坂のサーヴァントだと!?よし衛宮、僕と手を組んで遠坂を倒そう!!」

士郎「いやちょっとそれは無理というか」

慎二「何でだよ!?お前ああいうヤツ許せない人間だろう!?あんなヤツ野放しにしておけないだろう!?」

士郎「……慎二、それでもあんな結界を使おうとするヤツとは手を組めない。じゃあな」

慎二「おい待てよ、頼むから――あの金ぴかと青タイツに仕返しするまでは――」

士郎「青タイツ?とにかく――お前があの結界を発動させるっていうなら俺は容赦しないからな」

士郎「こんなもんかな。アーチャーは今夜は飯食うのか?…それより桜は大丈夫かな」

「お兄ちゃん、こんなところで何してるの?」

士郎「っ!?」

イリヤ「もう、そんなに驚かなくたっていいじゃない」

士郎「えっ、イリヤ…スフィール……?」

イリヤ「イリヤでいいよ、こんにちはお兄ちゃん」

士郎「あ、ああこんにちはイリヤ……今日はバーサーカーは連れてないのか?」

イリヤ「何言ってるのお兄ちゃん、今は夜じゃないよ?聖杯戦争は夜にするものでしょう?」

士郎「それじゃあ今は戦わなくていいんだな?」

イリヤ「うん、でも夜に会った時は殺すね?」

士郎「イリヤは…その、切嗣の――」

イリヤ「……」

士郎「いや、何でもない。イリヤはこの辺りに住んでるのか?」

イリヤ「ううん違うよ。郊外の森にね、お城が建ってるの。そこに住んでるんだ」

士郎「郊外の森の城?そこに一人で住んでるのか」

イリヤ「口うるさい使用人が二人いるわ。そろそろ帰らないと怒られちゃう」

士郎「帰るのか?」

イリヤ「うん、次会ったら殺すねお兄ちゃん」

士郎「昼間だったら殺さないんだろう?」

イリヤ「え?そうだけど――」

士郎「だったら俺はまたイリヤと話したいな」

イリヤ「――――、考えといてあげる。じゃあねお兄ちゃん」

士郎「ただいまー」

セイバー「随分と遅い帰りですねシロウ」

士郎「げっセイバー」

セイバー「げっとは何ですか。シロウ、貴方はマスターとしての自覚が足りません。サーヴァントも連れずに何を考えているのですか」

アーチャー「我の宝物がその雑種を守っているのだ問題はあるまい」

セイバー「アーチャー、口を挟まないでください。これは私とシロウの問題です」

アーチャー「雑種、我は腹が空いた早く馳走を用意せよ。我の飯の準備ができるのだ、光栄に思うがよい」

士郎「すぐに準備するよ。今日は豚肉が安かったんだ」

アーチャー「貴様ァ!!雑種の分際で我に安物の肉を食わせる気か!!」

士郎「仕方ないだろう!?衛宮家の財布はそんなに裕福じゃないんだ、ただでさえ急に三人も増えたのに」

アーチャー「畏れ多くも我に報酬を求める気か?」

凛「あら、住ませてもらうんだからそれぐらい当たり前でしょう?」

アーチャー「我が住んでやってるのだぞ?光栄には思えど――」

凛「あらぁ?アーチャーってば財宝財宝言ってるくせに食事代や宿代も出せないぐらい貧乏なの?」

アーチャー「何だと?」

凛「そうよねえー、そんな金ぴかの鎧作っちゃったらもう一文も残らないわよねえ」

アーチャー「良いだろう!!褒美を受け取るがいい!!」

士郎「うわあ!?どこに入れてたんだこの大量の宝石!?」

アーチャー「ふははは!!思い知ったか雑種、我が財宝の凄さを!!」

凛「ちょろいわー」

アーチャー「む?何か言ったか?」

凛「いいえ?うわあ流石英雄王様ー、態度だけじゃなくて懐も大きいのねー」

アーチャー「ふはははは!!我を敬う気になったか雑種!!」

士郎「赤いあくま…」

凛「何か言ったかしら衛宮君?」

士郎「い、いや何でも……」

短いけど今日はここまで

艦これのイベの堀で忙しくて更新できなかったすまない
今日グランドオーダーで一万課金したら英雄王、ランスロット、孔明、ウラド三世出てテンション高いから書きだめして明日多めに更新する

嘘じゃないんだすまない

士郎「取りあえず今日は買ってきた食材で我慢してくれ。無駄にはできないからな」

アーチャー「今の我は気分がいい。特別に許す!」

凛「ふ…ふふ……これだけあれば衛宮君と山分けしても100年…いや200年は遊んで――いえ魔術の研究を…うふふ」

士郎「……」

大河「たっだいまー!!って何このお宝の山!?」

アーチャー「我からの褒美だ、存分に受け取るがいい!!」

大河「本当に!?すっごーいアーチャーさんお金持ちなのねぇ…これなら新しいバイクを――」

アーチャー「バイク?」

大河「アーチャーさん知らないの?」

アーチャー「知識としては知っている。原典も我の宝物庫にあるはずだが――」

セイバー「昔切嗣に用意してもらったものを使っていましたが…あれは良いモノです」

アーチャー「ほう、セイバーが言うのなら間違いなさそうだ。雑種、明日我をそのバイクとやらを売ってる店に連れていけ」

大河「仕事あるから連れて行くのは無理ねー。お店の位置なら教えてあげられるけど」

アーチャー「では場所を教えろ」

セイバー「……」ソワソワ

士郎「セイバーも行って来たらどうだ?」

セイバー「で、ですが私にはシロウを護衛する任務が――」

凛「大丈夫よセイバー。私がついてるし、それにアーチャーの宝物もあるんだし」

セイバー「リンがついているのなら安心ですね。それでは私も――」

凛「今夜はちょっと出かけるから魔術を見てあげられないけど今のうちに聞いておきたい事ある?」

士郎「そうだな……そういや令呪って何ができるんだ?」

凛「サーヴァントを律する三回だけの命令権、サーヴァントに三回絶対に逆らえない命令をできるんだけど、中には効果の薄れる命令があるわ」

セイバー「例えば必ず聖杯を手に入れろ、必ずマスターの命を守りきれ等という命令はほとんど効果はありません」

アーチャー「マスターの命令に全て従え等というモノもな、なあ雑種」

凛「う、うるさいわね」

セイバー「サーヴァントに対しそのような命令をする事等あまり考えられませんが――リン?」

凛「な、何かしら」

セイバー「いえ、貴女の様子が少し変でしたから」

凛「そんなことないわよ?」

士郎「そういえば遠坂、前にアーチャーが令呪をはねのけたって言ってたよな?」

セイバー「私のように対魔力を持っているサーヴァントならばある程度は抗う事ができます」

アーチャー「この雑種は恐れ多くもこの我に、マスターに絶対服従等とふざけた命令をしたのだ」

セイバー「なるほど、リンは令呪を一つ無駄にしたのですね」

凛「」

士郎「ああ、だから令呪を無駄な命令に使うなって――」

アーチャー「本来ならそのような命令等令呪をもってしても不可能だ。第一雑種の分際でこの我を従わせよう等と万死に値するのだが――」

士郎「だが?」

士郎「だが?」

アーチャー「この雑種は特別だったようだ。不安定だがこの我をわずかばかり縛っている」

士郎「それってお前が――アーチャーが遠坂の命令に逆らえないってことか?」

凛「逆らいまくってるわよこいつ」

アーチャー「王であるこの我が雑種ごときの命に従う道理はなかろう」

士郎「じゃあ何でアーチャーは遠坂に何もしてないんだ?万死に値するんだろう?」

アーチャー「む――」

凛「どうかしたアーチャー?」

アーチャー「我の宝物庫を開けた盗人――いやこの感じは――」

凛「だからどうしたのよ、何かあったわけ?」

アーチャー「――くく、面白い事になりそうだぞ雑種」

凛「どういう事よ?」

アーチャー「今はまだ気にすることはない。お前はただいつも通り我の臣下として動いておればいい」

凛「もったいぶらずにさっさと言いなさいよ」

アーチャー「楽しみは後に取って置く方が良かろう?なに、心配せずとも直にわかるだろうさ、生き残ってさえおればな」

凛「へえ…やる気がなさそうだったあんたがそんな顔するなんてよっぽど良くない事なんでしょうね」

アーチャー「斯様な偶然、二度と巡り合えんぞ?此度の聖杯戦争、我が本気を出す価値となりそうだ」

夜中――

士郎「ふぅ、昨日と一昨日はやれなかったからな」

土蔵の中、二日ぶりに魔術の鍛錬を再開する

士郎「――同調、開始(トレース・オン)」

いつも通り、自分自身に対する暗示の言葉を述べある魔術を発動させる

士郎「――基本骨子、解明。――構成物質、解明」

ここまではいつも成功するが、ここから先で失敗する

士郎「――構成物質、補強」

だがあの日の晩、ランサーに襲われたときは成功した
あの時の感覚を思い出せ――

士郎「――っ、失敗か。……また気分転換でもするか、――投影、開始(トレース・オン)」

手元に思い浮かべた見た目の部品が落ちるのを感じる

士郎「……やっぱり中身のない空っぽか」

アーチャー「ほう、なかな面白い芸当をするではないか」

士郎「ッ!!アーチャー!?遠坂と一緒に出掛けたんじゃ――」

アーチャー「何故我が凛に付き合わねばならん」

士郎「お前、遠坂と一緒にいないときは遠坂の事名前で呼ぶんだな」

アーチャー「あれは雑種と呼んだときの反応が面白いのでな」

士郎「確かに雑種って呼ばれる度に変な顔を――」

アーチャー「ほう。ただの人形かと思うたが、愉悦はわかるようだな」

士郎「なんで俺が人形なのさ?」

アーチャー「お前は人間の真似事をしようとする人形といったところか」

士郎「なんでさ?」

アーチャー「ふむ、贋作か……これらも貴様が作ったものか?」

士郎「聞いてないし。…ああ、そうだけどそれがどうかしたのか?」

アーチャー「ただの贋作というわけではない…か」

士郎「何だよ、何か変か?」

アーチャー「投影魔術は本来長時間残るものではない、長くても数刻で完全に消え失せる」

士郎「そうなのか?でも俺が作ったヤツは全部残ってるぞ?」

アーチャー「多少貴様も特別なようだな」

士郎「どういう事だよ?」

アーチャー「贋作やその作成者は気に食わんが、我は貴様に興が湧いたぞ贋作者(フェイカー)。特別に誅さずにおいてやろう」

士郎「そりゃどうも、用がないなら気が散るからどこか別の場所に行ってくれないか?」

アーチャー「ふ、我に目が眩むは森羅万象の摂理であるから仕方あるまい、気をきかしてやろう。ふははははは!!」

士郎「……何しにきたんだあいつ?」

翌朝――

大河「新都でまたガス漏れだってさ、あんた達も気をつけなきゃダメよー?」

士郎「わかってる」

大河「それじゃあ行ってくるわねー」

凛「アーチャー」

アーチャー「ほう、あの攻撃で生き長らえたか」

士郎「何の話をしてるんだ?」

凛「気がついてなかったの?最近のガス漏れ事故、あれは全部キャスターのサーヴァントの仕業よ」

士郎「でもキャスターはアーチャーが倒したんじゃなかったのか?」

凛「何でちゃんと確認してこなかったのよ!!無駄に偉そうにして慢心してるからよ」

アーチャー「はっ、慢心せずして何が王か!」

凛「何が王か、じゃないわよ。ったく、昨日龍洞寺に行って魔力が残ってると思ったら」

士郎「龍洞寺…キャスターの本拠地に行ってたのか?それでキャスターはいなかったのか?」

凛「階段のところにアーチャーの攻撃の跡と着物の切れ端みたいなの。本殿の近くにもアーチャーの攻撃の跡が残ってたけど」

アーチャー「あの女狐は住処を移したというわけか」

凛「一時的なものでしょうね。あの土地はそう簡単に手放せるものじゃないもの」

士郎「キャスターが今どこにいるのかわからないのか?」

凛「わからないわ」

士郎「キャスターの居場所が龍洞寺ってわかった時と同じ方法で調べられないのか?」

凛「前はキャスターは同じ場所から街の人たちから魔力を集めていたの。それでその魔力の筋が龍洞寺に向かってたからわかったんだけど――」

士郎「今は違うのか?」

凛「さっきのニュースでやってたガス漏れ事故の現場、キャスターがいたであろう場所に行ったけど何の痕跡もなかったわ」


士郎「それじゃあ何の手がかりもないってわけか」


凛「そうとは言い切れないわ」

士郎「なんでさ?」

凛「龍洞寺は霊脈的に優れた土地なの。さっきも言ったけどそう簡単に手放せないほどにね」

士郎「すぐに戻るって事か?」

凛「それか同じぐらいの場所に行くかね」

士郎「そう何か所もあるものなのか?」

凛「龍洞寺程のものはないけれど――聖杯が召喚されるような場所は全部で四か所あるの」

士郎「一つが龍洞寺?」

凛「そう、そして前回聖杯が現れたと思われる新都の公園、私の家、そして教会よ」

士郎「隠れ家にできそうなのは――」

凛「敵陣営の私の家は考えられないし、教会だけってわけよ」

ちょっと急用で出かけてくる
早めに帰って来れたら今日更新するけど帰って来れなかったら明日更新する

ネット回線が昨日から繋がりにくくて更新できなかったすまない
今更ながら柳洞寺を龍洞寺って書いてたから訂正

放課後

士郎「なあ、本当にセイバーとアーチャーを連れてこなくてよかったのか?」

凛「今回はあくまで様子見よ。キャスターがここにいるとはまだ断定できないし、いたとしてもどんな罠を張ってるかわからないもの」

言峰「凛、こんなところで何をしている?まさか聖杯戦争を降りて教会に逃げ込みにでも来たのか」

凛「そんなわけないでしょ」

言峰「それじゃあ君が降りるのかね?衛宮士郎」

士郎「俺は自分で戦うって決めたんだ。途中で投げ出すなんてことするもんか」

言峰「両方降りる気はない…と。それでは何故お前達は中立の立場である私の元に来たのだ」

凛「散歩してたら偶然近くを通りかかっただけよ」

言峰「ほう、まだ7騎のサーヴァントが残ってる中、サーヴァントを連れずに散歩していたと?呑気なものだな」

凛「そんなの私の勝手でしょ……ってちょっと待って。今7騎って言った?」

言峰「今残ってるサーヴァントは7騎だ、まだ誰一人倒されていない」

凛「まさかあいつ、アサシンも倒し損ねていたの?でも……」

言峰「何か気になる事でもあるのか」

凛「別に……何でもないわよ」

言峰「7人目のサーヴァントが召喚されてから4日目だ。戦局が動き出すとしたらそろそろだろう」

士郎「悪いな、買い物に付き合わせちゃって」

凛「下宿させてもらってるもの、このぐらい当然でしょ?」

士郎「アサシンとキャスターは手を組んでいるんだろう?アサシン側の拠点に隠れてるとは考えられないか?」

凛「その可能性はないわね」

士郎「なんでさ?」

凛「道の邪魔ってアーチャーが言ってたことから階段にいたのはアサシンだと思うわ。そのアサシンは確実に倒されている可能性が高い」

士郎「何でわかるんだ?それに言峰はまだ七人のサーヴァントが残ってるって」

凛「アーチャーは『偽のアサシン』って言ってたわ。つまり――」

士郎「偽のアサシンとは別に本物のアサシンがいる――?」

凛「綺礼がどこまで把握してるのかはわからないけれど、綺礼が知ってるのが龍洞寺にいたアサシンじゃないのなら辻褄は合うわ」

士郎「それじゃあ8人のサーヴァントが聖杯戦争に参加してたってことか」

凛「でもわからないのはあの着物の切れ端ね、消えずに残ってたからサーヴァントの物じゃないと思うけど」

「おっそーいお兄ちゃん」

士郎「この声は――」

凛「イリヤスフィール!?」

イリヤ「もう、こんな時間まで何してたの?――私のこと放っておいてリンとデート?」

凛「まだ日も暮れないうちからやろうってわけ?」

イリヤ「なに、リンはもう殺されたいわけ?」

士郎「待ってくれ二人共。イリヤ、ひょっとして俺を待っててくれたのか?」

イリヤ「お兄ちゃんがまた話したいって言ったんじゃない。リンはいらないから帰っていいわよ」

凛「敵のマスターを信じて衛宮君と二人きりって?お生憎様、そんなわけにはいかないわ」

イリヤ「ねえお兄ちゃん、お兄ちゃんの名前教えてよ。そっちだけ知ってるなんて不公平だわ」

士郎「ああ、衛宮士郎だ」

イリヤ「エミヤシロ?変わった発音するのね」

士郎「それじゃあ笑み社じゃないか。衛宮は苗字で、士郎が名前だ」

イリヤ「シロウ、お兄ちゃんらしい良い名前ね。これからは私もシロウって呼ぶね」

凛「どういうつもりイリヤスフィール、裏切り者の子供の衛宮君とただ意味もなく呑気にお喋りってわけじゃないでしょうね」

イリヤ「それを何処で――そう、セイバーね?」

凛「ええ、セイバーに聞いたわ。あなたのお母さんのアイリスフィールの事もね」

イリヤ「やっぱりあの時のセイバーだったのね。じゃあシロウの中に聖遺物が入れられてるのかしら」

凛「聖遺物…衛宮君の中にセイバーとの縁の物が?」

イリヤ「それでバーサーカーの攻撃から生き延びる事ができたのね」

士郎「何を言ってるのかさっぱりなんだけど」

凛「サーヴァントを呼び出すにはその英霊に縁のあるものが必要なのよ」

イリヤ「私の場合は神殿の礎となっていた物、バーサーカーの斧剣よ。それで召喚されたのがヘラクレス」

士郎「真名を教えてしまっていいのか?」

イリヤ「バーサーカーが負けるはずないもの。それにシロウのセイバーの真名がアーサー王だってこっちだけが知ってるのって不公平だもの」

士郎「セイバーがアーサー王!?」

イリヤ「知らなかったの?」

凛「アーサー王の聖遺物で治療ができる…失われたはずの聖剣の鞘――」

イリヤ「そういえば私まだリンのサーヴァントを見たことないわ、アーチャーでしょう?」

凛「そっちのも聞いちゃったしね。王の中の王、英雄王ギルガメッシュよ」

イリヤ「古代ウルクの王…セイバーだけじゃなくアーチャーも前回と同じ物で召喚されたってことかしら」

凛「そうなるのかしらね。家の地下にあったものだし。こっちが教えたのも絶対に負けないって自信があるからよ」

辺りに幾度か甲高い音が鳴り響く

士郎達の周りに幾何学模様の装飾が施された数枚の円盤展開されが飛び周り、地面に数本の短剣が落ちる

士郎「な――」

凛「敵襲ね、こんな目立たない方法を取るってことは――」

「ギ……」

夕暮れの公園に白い髑髏が姿を現す

凛「本物のアサシン……」

イリヤ「嘘…こんなサーヴァント、私知らない――」

白い髑髏は何十という短剣を放つ――

が、それは全て士郎達を囲むように飛ぶ円盤に弾き落とされる

真アサシン「ギ……バカ、な……ダガ――」

白い髑髏の面をつけたアサシンが包帯の巻かれた右腕を振りかぶる

その右腕が何もない空間に伸びてゆき――

何処からともなく飛んできた剣に切り落とされた

真アサシン「ガ……ッ!!」

アーチャー「二人目の、真のアサシンというわけか。しかし正式な召喚をされたわけではないようだな」

凛「アーチャー!?」

アーチャー「その防御壁が展開されたのでな」

セイバー「シロウ、リン、怪我はありませんか?」

士郎「大丈夫だセイバー」

セイバー「何故イリヤスフィールと共にいるのかと聞きたい所ですが、まずは目の前の敵を」

真アサシン「ギギ……遂行、失敗…逃ゲ――」

アサシンの体を無数の剣や槍が貫く

アーチャー「我の前から去る事を誰が許した?」

真アサシン「ア…ガギャ――」

アーチャー「まだ生きているか、だがもう動けんようだな。ならばそのまま無残に散るがいい」

アーチャーの背後から大量の剣と槍が射出され――その全てが弾かれる

アーチャー「――ほう、どうやらあの攻撃を生き延びたというわけではなかったようだな」

凛「あれはキャスターのサーヴァント?」

アーチャー「中身は全く異なるようだがな。消える前の残骸を何者かに利用されたか」

「ふむ、此度の聖杯戦争ではエミヤともトオサカとも手を組んだようじゃな、アインツベルンの娘」

イリヤ「マキリ…」

凛「マキリ?まさか間桐臓硯!?」

臓硯「どうやらちゃんとした聖杯の器は用意できたらしいのぅ」

士郎「間桐ってもしかして慎二の爺さんか?」

臓硯「遠坂も衛宮も父親と同じサーヴァントか、今度は裏切られないといいのお?」

凛「どういう事?」

臓硯「それにしてもその若さでその力、やはり姉の方が良かったのお」

凛「その破れた着物の柄、柳洞寺にあったのはあんたのだったのね」

臓硯「死にぞこないの癖に健気に門番の役目を果たそうとしての」

アーチャー「いつまでもべらべらと悪臭をばらまきおって――さっさと消え失せるがいい」

臓硯「おお怖い怖い、騎士王と英雄王相手に今のままでは分が悪い。ここは退かせてもらおう」

臓硯はキャスターと真アサシンと共に公園の影に消えていく

アーチャー「……逃げたか。くだらん雑種の相手をしているうちにすっかり日が暮れたな」

イリヤ「ああ――っ!!」

士郎「どうしたんだイリヤ?」

イリヤ「日が暮れちゃった……セラに怒られる――そんな事より殺し合わなくちゃ」

アーチャー「サーヴァントも連れていないこのままでか?」

アーチャーの背後に一本の剣が現れる

士郎「ま、待ってくれ――」

士郎の静止等意に介さずそのまま剣はイリヤの頭目掛けて射出される

至近距離でくり出された一撃に凛や士郎はおろか、セイバーすらも反応できない

イリヤ「――!!」

甲高い音を立てて宙を舞った剣は公園の砂浜に突き刺さる

士郎「――へ?」

イリヤの周りには先ほど真アサシンの攻撃を弾いた円盤が飛び回っている

アーチャー「おおっと、我の宝物が勝手に攻撃を弾いてしまったか。だがこの数ならどうだ」

何十という数の伝説級の剣や槍がありとあらゆる方向からイリヤに襲い掛かるが全て円盤に弾かれる

アーチャー「ほう、これではいくら攻撃をしようとそこの小娘を殺す事等できんではないか」

イリヤ「え――?」

アーチャー「特別に見逃してやると言っているのだ。我の気が変わらぬうちにさっさとここから消えるんだな」

凛「素直じゃないわねアンタ」

イリヤ「でも――」

士郎「アーチャーもこう言ってるんだしさ。今日は休戦としようイリヤ」

イリヤ「……わかった、でも次に夜に会ったら容赦しないからねリン、シロウ」

アーチャー「待て」

イリヤ「なに?早く消えろと言ったのはそっちでしょう」

アーチャー「さっきの連中がいつ襲ってくるかもしれん、特別に我が送ってやろう。後ろに乗れ」

黄金のバイクが現れアーチャーがまたがる

凛「さっきから聞こうと思ってたけどその服装何なのよ」

アーチャー「らいだーすーつというヤツだ。店主が鎧では乗れんと言うのでな、さあ人形さっさと乗るがいい!!」

イリヤ「えっと……」

凛「イリヤ乗ってあげて、新車に早く乗りたくてたまらないのよ」

イリヤ「う、うん」

アーチャー「では行くぞ人形」

イリヤ「うん――え、何、はや――いやあぁああああああ!!」

アーチャー「振り落とされぬようしっかり掴まっておれよ、ふはははは―――!!」

凛「」

セイバー「シロウも後ろに乗ってください」

士郎「え」

凛「……セイバーはスーツ?」

セイバー「はい、バイクのお金はアーチャーが。さあシロウ」

士郎「いや…そうだ。ほらさ遠坂がいるし――そうだ遠坂が乗れよ。俺はあとから帰るからさ」

凛「私は家に用があるから先にセイバーと帰ってていいわよ」

セイバー「リンもこう言ってる事ですし」

士郎「いやでもさ、ほら買い物したヤツもあるし――」

凛「アーチャーの宝物でもう衛宮君の家の冷蔵庫に入れといたわ」

士郎「えっ」

セイバー「それでは何の気兼ねもなくいけますね」

士郎「いやちょっと待って――」

セイバー「シロウ、振り落とされないようにしっかり掴まっていてくださいね」

士郎「いやだ待ってく――うわあぁあああああああ!!」

セイバー「そんなに喜んでもえらえるとは――ではもっとスピードを上げましょう」

士郎「なんでさぁああああああああああ」

凛「……乗らなくてよかった」

凛「何で郊外の森までイリヤを送っていった筈のアンタが私と着くのがほとんど同じなのよ」

アーチャー「凛、バイクというヤツは凄いぞ?途中不遜にも止まれと我を追いかけてきた多数の赤い光をつけた四輪車がおったが全て振り切ってやったわ」

凛「何してんのよアンタは。イリヤは無事だったんでしょうね?」

アーチャー「我が送ってやったのだぞ?向こうに着いたときはその栄誉に泣いて喜んでいたわ」

凛「ごめんイリヤ、敵ながら同情するわ」

アーチャー「我は腹が減った、飯の準備はできているか雑種」

セイバー「アーチャー、シロウはバイクではしゃぎ疲れたのか眠っています」

アーチャー「あの程度でそこまではしゃぐとは、魔術師のはしくれといえど所詮まだ子供というわけか」

セイバー「そうですね、夢の中でもバイクに乗ってるみたいです」

士郎「ま…待って…許してくれセイバー……」

凛「一番はしゃいでるのはアンタらでしょうに」

セイバー「何か言いましたかリン」

凛「いいえ何にも」

セイバー「はっ!!シロウが寝ているという事は私の食事はどうなるのでしょう!?」

アーチャー「しょうがない、この我自ら食事を用意してやろう!!」

凛「アンタご飯作れるの?」

アーチャー「全自動調理器だ、シュメールの誇る超古代テクノロジーで作られた至高の食事を生み出す高性能なからくりだ」

今日はここまで

夜中

士郎「――っ!!」

手に持ったビーカーが砕け散る

凛「……はあ、これで36個目。割れてないのは16個、そのうち強化できてるのは3個で他は変化なし」

士郎「最近は成功率上がってたんだけど」

凛「これで?集中足りてないんじゃない?」

士郎「それは遠坂が――」

凛「私が?」

士郎「何でもない」

凛「何よ気になるじゃない。言いなさいよ」

言えるはずがない、遠坂がこんなに近くで見つめてくるからなんて――

遠坂は昔から憧れていた女の子なのだ。それが自分の家で、こんなに近くにいて緊張しないわけがない

凛「はあ、衛宮君やる気あるの?」

士郎「やる気はあるさ」

凛「……まあいいわ。さっきから気になってたんだけど、衛宮君毎回魔術回路を作ってるわよね?」

士郎「ああそうだけど――それって普通じゃないのか?」

凛「普通じゃないわよ、あなたそんなこと続けてると死ぬわよ。いい?衛宮君、既にある魔術回路に魔力を流すのよ」

士郎「今ある魔術回路に……同調、開始――構成物質、補強」

凛「へえ、今までで一番いい出来じゃない。今の感覚を忘れないでもう一度――」

士郎「ちょっ遠坂ちか――」

アーチャー「待て雑種」

士郎「うわぁああ!?」

アーチャー「何を慌てて立ち上がったのだ?」

凛「何アーチャー、アンタセイバーと飲み比べしてたんじゃなかった?」

アーチャー「セイバーが酔い潰れてしまったのでな。我は酔わなくなる宝物を使っていたが」

凛「だから何やってんのよアンタ。で、何で止めたわけ?」

アーチャー「その小僧の本質は強化等ではない」

凛「強化じゃないって、衛宮君は強化の魔術しか使えないのよ?」

アーチャー「これを模造してみろ雑種、一度その身に受けた槍だ。本質はよおく理解していよう?」

凛「ランサーの槍?模造してみろってどういう――」

士郎「――投影、開始(トレース・オン)」

理由はわからない。だけど何故か、その槍がどういう仕組みで出来ているのか、どのような効果を持つのかはすんなりと理解できた――

士郎「うぐ――」

全身が焼け付くような痛みが走る、それでも工程を続け――

士郎「――投影、完了(トレース・オフ)」

手にずっしりとした重みが握られるのを感じた

凛「うそ――」

アーチャー「ほう、もしやとは思ったが一発で成功したか」

士郎「はあ…はあ……」

アーチャー「質の悪い模造品だな、これでは実戦には到底使えまい」

凛「でもこれ中身がちゃんとある…いったいどういう事?」

士郎「俺もよくわからない。今まで投影したのは全部空っぽだっ――ぐ…ああっ――」

全身に凄まじい痛みが走り投影した槍が消える

激痛だけではなく左腕に力が入らない、むしろ左腕だけに感覚がない

凛「ちょ、衛宮君!?何これ、腕の皮膚の色がどんどん紫に――これ壊死していってる!?」

アーチャー「投影の反動か、いきなり宝具の投影には無理があったようだな」

凛「とにかく壊死を抑えないと――大丈夫衛宮君?」

士郎「……あ、ああ……腕も何とか動く」

凛「これで明日にはほとんど元通りに戻ると思うわ」

士郎「ありがとう遠坂」

凛「今日はもう休みましょう。詳しい事は明日聞くわ、痛むとこがあったらすぐ言う事」

士郎「わかった……」

翌朝

キッチンにて皿の割れる音が響く

大河「もうこれで四枚目よ?士郎、熱でもあるんじゃない?よそうの手伝おうか?」

士郎「大丈夫、少し寝違えただけだ。それに藤ねえが手伝った方が皿が割れるだろ」

大河「何おう?私だってそこまで割らないわよ、こんな時に桜ちゃんがいたら――そういえば何で最近桜ちゃん来てないの?」

士郎「それは――」

凛「わたしが断ったんです。三人も急に下宿させてもらっているのに間桐さんに食事を用意してもらうのは悪いですから」

大河「そうなんだー。あ、でも遠坂さんもセイバーちゃんも美人さんだから……桜ちゃん負けちゃう!!」

士郎「何に負けるんだよ。ほら、藤ねえ今日はいつもより早いんだろ?」

大河「そうなのよー、昨日からうちの生徒が一人行方不明で――あ」

士郎「行方不明?家出か?それで昨日の夜来なかったのか」

大河「士郎も遠坂さんも無関係じゃないから言うけど、家出したっていう生徒は美綴さんなのよ」

士郎「美綴が?って何で遠坂も無関係じゃないんだ?」

凛「わたしと綾子は同じクラスだし、結構仲良いのよわたし達。でも綾子が家出するとは思えないわね」

大河「でしょう?だから何かあったんじゃないかって昨日から警察にも相談して探してるんだけど」

士郎「最後に誰か見たりしてないのか?」

大河「学校で間桐君と揉めてるところを一年の子が見たらしいんだけど、間桐君は何も知らないらしいのよね。じゃあ行ってくるわね、道中にはちゃんと注意すること」

士郎「慎二がか――」

凛「気になるわね。慎二の家には間桐臓硯がいるし、キャスターかアサシンか……」

士郎「それともライダーか」

凛「何でライダー?」

士郎「何でって慎二のサーヴァントじゃないか」

凛「ライダーが慎二のサーヴァント!?」

士郎「知らなかったのか?学校の結界だって慎二が張ったヤツだぞ?」

凛「迂闊……慎二がマスターだなんて可能性全く考えてなかったわ」

士郎「間桐が魔術の家系だって遠坂は知ってたんだろう?聖杯戦争の御三家の一つだって」

凛「慎二に魔術回路はないのよ。だから慎二がマスターになれる可能性なんて考えられなかった」

士郎「慎二に魔術回路がない?」

凛「そうよだから桜が――とにかく慎二がマスターっていうなら考えを改めないと」

士郎「ちょっと待てなんで桜の名前が出るんだよ?それに遠坂と桜は知り合いなのか?」

凛「衛宮君に関係な――。…そうね、桜とわたしは姉妹なのよ」

士郎「へ?それってどういう――」

凛「魔術師の家系はね、長子にしか魔術を教えないの。だからどんなに才能があっても長子以外は魔術を教えないか、余所の魔術師の家に養子に出すの」

士郎「ちょっと待ってくれ。ってことは桜は間桐の魔術師なのか!?」

凛「魔術回路は持ってるわよ。でも間桐の魔術は学んでない」

士郎「何で言い切れるのさ?」

凛「多少は間桐の魔術教育を受けてるでしょうね、だってわたしと同じ色だった髪も目も変わってるもの」

士郎「なら魔術を使えるんじゃ?」

凛「だって慎二がマスターなんでしょう?桜にちゃんと魔術を教えてたら、何の才能もない慎二をマスターにする必要はないもの」

士郎「桜が召喚したけど令呪を慎二に譲ったってことは?」

凛「ありえないわ。令呪は人に譲れるものじゃないし」

士郎「良かった。それじゃあ桜と戦う必要はないんだな」

凛「そういうこと。慎二がライダーのマスターなら結界が完成する三日後まで何もしてこないと思うわ」

士郎「なら今気をつけなきゃならない敵は間桐臓硯とランサーか」

凛「イリヤを忘れてるわよ」

士郎「俺はイリヤとは話せばわかりあえると思うんだ」

凛「相変わらず甘いわね。衛宮君にその気はなくてもあの子は殺しにくるだろうし、それにいつかはわたしとも戦わないといけないわよ」

士郎「なんでさ、俺はお前みたいなヤツとは戦いたくないぞ?」

凛「衛宮君がその気じゃなくてもセイバーは違うわよ。聖杯を手に入れるまで闘い続けたアーサー王だもの」

今日はここまで

いつもより30分程早い、生徒もまだ登校してこないような時間

正門の前の道路で後ろから聞き覚えのある、あまり聞きたくない声がした

ランサー「おっ、いつぞやの小僧じゃねえか」

士郎「この声は――誰?」

振り返ると二月という肌寒い季節にも関わらず、季節感等気にしないアロハ服を着た男が立っていた

凛「まさか…ランサー!?」

ランサー「そういやこの恰好で会うのは初めてだったな」

前に戦った時とは想像できないような快活さで喋るランサーの後ろから見慣れた少女が出てくる

綾子「おっ遠坂、この人と知り合いなのか?」

凛「綾子!?アンタ行方不明だったはずじゃ!?」

綾子「いやあ昨日変な女の人に追いかけられててさあ、追い詰められたところをこの人に助けてもらったんだ」

凛「どういう風の吹き回し?」

ランサー「何、ライダーとは前にやり合った事もあったしな。何より一般人を襲うってことが俺の流儀に合わなかっただけだ。じゃあな」

綾子「あれ!?急に消えた!?やっぱりあの人は何かしらの達人だったのか!!」

凛「はあ、先生達にはわたしから報告しといてあげるからアンタはさっさと家に帰りなさい。親御さんが心配してるらしいわよ」

綾子「あー、さっき藤村先生に説明しといた……今日も衛宮と登校?まさかあの賭け…くっそう!!」

凛「何か盛大な勘違いをされた気がするわ」

士郎「何はともあれ無事で良かったじゃないか」

凛「良くないわよ。ライダーが襲ってたってランサーが言ったばかりじゃない」

士郎「やっぱり慎二が――」

慎二「僕には魔術回路がないんでね。お前らよりサーヴァントの繋がりは薄いんだよ」

凛「念話も通じてないってわけ?それなら――」

桜「先輩?それに兄さん、……遠坂先輩も。こんな朝早くに何を話されてるんですか?」

慎二「桜……」

士郎「おはよう桜」

凛「おはよう間桐さん」

桜「おはようございます先輩、遠坂先輩」

慎二「お前には関係ないからさっさとどっか行けよ。それに何で朝練もないのにこんな早くに登校してんだよ」

桜「ご、ごめんなさい。兄さんの姿がどこにも見えなかったから」

慎二「僕がどこで何をしてようがお前には関係ないだろ。さっさとどっか行けよ!!」

士郎「慎二、桜はお前を心配して――」

桜「良いんです先輩、兄さんは何も悪くありません。では失礼しますね」

頭を下げ桜は校舎に向かう、その際慎二の横で一瞬立ち止まり――

慎二「っ!!わかってるよ、一々鬱陶しいんだよ!!」

凛「ちょっと慎二待ちなさい!!まだ話は――」

士郎「遠坂、もうすぐ他の生徒たちも登校してくる」

凛「……そうね、また今度にしましょう」

昼休み終了後屋上

士郎「なあ、授業ほんとにサボっちまって良かったのか?」

凛「偶にはいいでしょう?何か引っかかるのよ」

士郎「何かってなんだよ?」

凛「ライダーの事よ。衛宮君が慎二がマスターって知った時はずっと慎二の後ろにいたんでしょう?なのに今は慎二と一緒に行動していない」

士郎「慎二が嘘をついてるだけか、この前は俺がマスターってわかってたから側に置いてただけなんじゃ」

凛「敵が誰かもわからない状況でサーヴァントを側に置かない方が変でしょう?」

士郎「遠坂が慎二がマスターってわからなかったように周りも気づかないって思ったんじゃないか?」

凛「それもそうかもしんないけどさ」

士郎「とにかく今は臓硯の事だろ?慎二は結界が完成するまで何もしてこないだろうし」

凛「気付いてないの?結界はもう――」

遠坂が言い終わる前にその異常は発現した

空が赤く染まり、その空気を吸っただけで魔術師じゃない人間は昏睡し死に至るだろう

士郎「遠坂――」

凛「わかってる、急ぐわよ衛宮君!!」

校舎は一面赤だった。血のように赤い空気と廊下

四階の階段に一番近い教室に飛び込む

凛「……っ!!」

士郎「――息はある。まだ間に合わないわけじゃない」

教室の中の人間は例外なく地面に倒れていた

大部分が意識を失い、全身を痙攣させ口から泡を吹き――、一部の人間は肌が溶け始めていた

士郎「――桜!!良かった息はある」

凛「倒れた時に引っかけたのね、包帯がほどけかけてる」

士郎「とにかく早く慎二を見つけて結界を解かさないと」

凛「この手首――」

士郎「多分慎二にやられたヤツだ、今は早く慎二を――」

凛「いえ、止めるのはライダーよ」

士郎「遠坂?」

凛「見て桜の手首、令呪よ」

士郎「ッ!?」

凛「魔術回路のない慎二はマスターになれない。もっと早くに気付くべきだったわ」

士郎「ライダーのマスターは桜だっていうのか!?」

凛「そうよ。そしてマスターの桜も巻き込むような結界を使ってる」

士郎「……セイバーを呼ぶ。令呪の使い方を教えてくれ」

数分前、商店街――

セイバー「たい焼きですか、これは先程のとどう違うのでしょう」

アーチャー「店主、全種類寄越せ」

店主「はいよ」

アーチャー「さあセイバー、存分に食うがよい!!」

セイバー「おお、これはなかなか――」

アーチャー「そうか美味いか!!では我の分も買うとしよう――む?」

セイバー「どうかしましたかアーチャー」

アーチャー「お前はマスターからの魔力提供と念話はできんのであったな。凛との繋がりが切れた、魔力提供もなく念話も通じん」

セイバー「リンの身に何かが起こったという事ですか」

アーチャー「我の宝物が発動しなかったという事は結界か、――っ!!」

セイバー「今度は何が?その方面はアインツベルンの――」

アーチャー「あの雑種、この我を倒すつもりか。良いだろう、その策に乗ってやろうではないか」

セイバー「アーチャー何処へ」

アーチャー「我は用ができた。貴様はいつ令呪で呼ばれてもいいように準備をしておけ」

セイバー「リンの元ではなく、イリヤスフィールのところへ?」

アーチャー「凛を頼むぞ騎士王、デートはまた今度だ」

セイバー「でえと?わかりました、この身に変えてもリンを守ります」

学校

目を閉じ左手の令呪に集中する

士郎「――頼む。来てくれ、セイバー!!」

躊躇うことなく一画目の令呪を使う

左手の甲が熱く焼けるような感覚と共に、銀色の騎士が出現した

セイバー「召喚に応じ参上しました。マスター、状況は」

士郎「見ての通りだ、サーヴァントに結界を張られた。一秒でも早くこいつを消したい」

セイバー「承知しました。確かに下のフロアからサーヴァントの気配を感じます」

凛「結界の基点と同じね。もうっアーチャーのヤツ何で返事しないのよ!!」

セイバー「先ほどまでアーチャーと同行していましたが、この結界はマスターとサーヴァントの繋がりも完全に遮断するようです」

凛「完全にって事は魔力提供も?それなら何であいつは来ないのよ、あいつの宝具ならすぐに――」

セイバー「アインツベルンが襲撃を受けているようです。アーチャーはそちらに向かい、私はリンを任されました」

士郎「イリヤが!?」

凛「昨日の今日だし、間桐臓硯……」

士郎「慎二の爺さん…ってことはまさかこの結界は――」

セイバー「アーチャーの魔力の枯渇と、私とアーチャーの分断が目的でしょう」

凛「急ぐわよ士郎、早くライダーを倒さないとアーチャーの魔力が尽きちゃう」

>>91の前に抜けてた

慎二「僕がどうかしたって」

士郎「慎二!!お前ライダーを使って美綴を襲わせただろう!!」

慎二「はあ?何で僕が美綴を襲わなきゃいけないのさ」

士郎「白をきるな。昨日お前と美綴が揉めてたって聞いたぞ」

慎二「お前は馬鹿か?いくら僕でも素人の美綴相手にサーヴァントをけしかけたりするもんか」

凛「学校にあんな結界を張っておいてよく言えるわね」

慎二「あの結界はあくまで保険だよ。それにもう代わりがいるらしいから必要ないみたいだし」

凛「代わり……キャスターのこと?」

士郎「とにかくお前がライダーに美綴を襲わせたのはわかってるんだ、目撃者もいる」

慎二「目撃者?誰だよ」

士郎「ランサーだ」

慎二「ランサーってあの青いヤツか……あの釣竿高かったのに……」ガクガク

士郎「慎二?」

凛「まさかライダーが勝手にやって知らないなんて言わないでしょうね?マスターならサーヴァントの動きを把握してるでしょう」

慎二「爺さんに聞いたけど遠坂のアーチャーだって勝手に動きまくってんだろ?それと同じさ」

凛「うっ。…まさか本当に知らなかったわけ?」

慎二「何を勝手に結界を作動させてんだよ!!」

ライダー「私に貴方の指示を仰ぐ必要がないのはよくご存知でしょう」

慎二「今のマスターはこの僕だぞ!!」

ライダー「それが?そのようなものいつでも破棄できます」

士郎「慎二!!今すぐ結界を解くんだ!!」

凛「痛い目にあいたくなかったらおとなしく言う事を聞きなさい」

ライダー「来ましたねアーチャーのマスター」

凛「ライダーのサーヴァント……」

ライダー「セイバーとそのマスターここは退いてください、あくまで私の目的はアーチャーのマスターです」

凛「あくまでアーチャーを倒すことが目的ってわけね」

ライダー「当然です。彼が本気を出されては敵うサーヴァント等いませんから」

凛「それにしては愚鈍な策ね。アーチャーがイリヤの方に向かわなかったらどうしたわけ?」

ライダー「アーチャーが確実にあちらに行くように餌はちゃんと撒いてありますから」

凛「餌?」

ライダー「ここで死ぬ貴女には関係のない事です」

セイバー「ここで倒れるのは貴女だ」

少し前。郊外の森、アインツベルンの城

巨大なサーヴァントと少女、そして少女を守るように立つ二人の女性を囲む大量の骨の化物と二つのサーヴァント

イリヤ「アサシンとキャスター、その程度でバーサーカーに勝てるとでも思ったの?」

臓硯「固いのう。大英雄ヘラクレス、Aランク未満の攻撃は全て弾くか、じゃが――」

イリヤ「影?キャスターの魔術…ッ違う!!避けてバーサーカー!!」

アサシンとキャスターの攻撃をことごとく弾いてきたバーサーカーの肉体が鋭利に伸びた影に貫かれる

臓硯「思ったよりあっけなかったの」

バーサーカー「■■■■■■■――ッ!!!」

臓硯「ほう、再生じゃなく蘇生か。じゃが――終わりじゃ」

イリヤに背後から無数の影が襲い掛かる

イリヤ「――っ」

イリヤの周りに現れた円盤が影を弾く、が何個かは砕け散る

イリヤ「これ、昨日の――」

臓硯「やはりあったか。これで来ないという事はないじゃろう?」

アーチャー「ああ、雑種の分際でこの我を呼び出そう等という愚行、死をもってして詫びるがいい」

イリヤ「……アーチャー?どうして――」

アーチャー「幼童ならば何も気にせず我の威光に目を輝かせておけ」

何十、何百という剣や槍が現れ地上に降り注ぎ、辺りの骨の化物達を一掃する

臓硯「これはこれは、最初からそのように飛ばして大丈夫かの?」

地面から新たに表れてくる先程以上の数の骨の化物達と揺らめく影に一瞬目をやり、その背後に立つ老人を不快そうに眺め――

アーチャー「あまり我を退屈させるなよ、雑種」

数千という数の武器が降り注いだ

それは戦闘とはとてもではないが言えない物であった

セイバーを無視して遠坂凛に襲い掛かったライダーは一瞬でセイバーに斬り伏せられた

凛「ライダー、あんたが桜のサーヴァントだってのはわかってんのよ。あんた桜を巻き込んでまでこの結界を張ったわね!!」

ライダー「……ばれてしまった以上あれはもう邪魔でしかありませんか」

凛「あれ?まさかあんた桜を――」

慎二「うわあっ!?」

慎二の持っていた一冊のノートが燃え落ちる

セイバー「くっ!?」

セイバーの見えない剣を押しのけライダーが起き上がる

仮初の契約を破り、本来のマスターを得たライダーは先程までとは比にならない物を秘めていた

ライダーの動きは完全に変化し、セイバーを押し始める

セイバー「この動き――はあッ!!」

ライダー「!!」

セイバーの剣に纏われていた風がライダーを弾き飛ばし、今まで隠れていた黄金の剣が露わになる

「聖剣…それもかの有名なエクスカリバー、アーサー王の剣か」

士郎「なっ!?」

凛「――桜?」

桜「「昨日は世話になったの。遠坂の娘と衛宮の小僧」

士郎「桜?何を言って――」

桜「昨日の様子からセイバーは聖剣を開放しないと思っていたが」

凛「まさか――間桐臓硯」

士郎「え?」

桜「理解が早いの遠坂の娘。このような形ですまないが今は他の用事があるのでな」

凛「アーチャーは単独スキルAがあるもの。わたしからの魔力供給がなくても一週間は戦えるわよ」

桜「それでもあれだけの宝具を使うからすぐにバテるとふんでおったがのぅ。まさか魔力をほとんど消費してないとは」

凛「残念だったわね。あれは単純にただ投げてるだけだもの、魔力の消費なんてないに等しいわ」

桜「消費がないのなら使わせればいい。その間マスターを隔離すればよいだけじゃがライダーでは騎士王を止められないじゃろうからな」

凛「それがわかっててどうしようっての?」

桜「アーチャーが倒れるまでおとなしくしてもらおう」

凛「そんなことに素直に従うとでも?」

桜「従う以外の選択はない。敵のイリヤを助ける程甘い人間じゃ、妹を死なせたくはないじゃろう」

凛「っ!!」

桜「抵抗しなければお前さんらも殺しはせん、学校の連中は保障できんがのう?」

今日はここまで、順番飛ばして投稿してすまぬ

アーチャー「ふはははは!!どうした雑種、もう茶番は終いか!!」

無数の骨の残骸の真ん中に串刺しとなったキャスターとバーサーカー

イリヤ「ちょっとアーチャー!!バーサーカーも巻き添え食らっちゃってるじゃない!!」

アーチャー「2回程死なせてしまったか?」

イリヤ「5回よ!!」

アーチャー「あの影にも3回殺されたか、狂犬となり衰えたな」

キャスターが消滅し串刺しにしていた剣が落ちると同時に骨の残骸も消える

アーチャー「あとはそこの影とアサシンだけか」

影「ア――、アア――」

影の中に人影のようなモノが現れる

イリヤ「あれは――」

アーチャー「ようやく姿を現したか、だがよもやそこまで成長しているとはな」

バーサーカー「■■■■■■――ッ!!」

イリヤ「ダメバーサーカー!!私の中に戻って!!」

イリヤの全身に巨大な令呪が浮かびあがるが――既に遅い

影に殴りかかったバーサーカーは影に縛られ暴れながらも飲み込まれていく

アーチャー「あの影に触れると有無を言わさず飲み込まれるか」

アーチャーの後ろから数本の鎖が伸びバーサーカーに巻きつくが、そのまま影に飲み込まれていく

アーチャー「鎖ごと飲み込む気か、だが生憎我は貴様と綱引する気等毛頭ない。手荒くなるぞ」

無数の剣がバーサーカーを巻きついている影ごと切断し、既に飲み込まれている腹から下を両断する

そして頭と胸だけとなったバーサーカーを上空に放り投げる

イリヤ「戻ってバーサーカー!!」

影と鎖から解放されたバーサーカーは今度こそイリヤの命令通りに消える

アーチャー「斯様な仕組みか。一度死なせてしまったようだがそうしていれば時期に回復するであろう」

イリヤ「あの影はサーヴァントを取り込む…アーチャー、絶対に触れちゃダメ」

アーチャー「わかっている。そこまで我に魔力を消費させたいか」

セラ「逃げてくださいお嬢様!!ここは我々が――」

アーチャー「お前らごときでは何もできん、犬死にしたいのか?」

イリヤ「影に囲まれた…何とかできないのアーチャー」

アーチャー「できなくもないが、このような雑種相手から逃げる事も本気を出す事も我のプライドが許さん」

セラ「そんな事言ってる場合ですか!?」

リズ「えーゆーおーのいいとこ見てみたい」

アーチャー「何?」

リズ「イリヤもえーゆーおーのカッコいいとこ見たい?」

イリヤ「え、ええ。私も英雄王の実力がどれほど素晴らしいものか見てみたいわ」

アーチャー「く、くくく、ふはーっはっは!!良いだろうそこまで言うのなら見せてやろう!!」

アーチャーの手に異様な形の剣が握られる

アーチャー「本来ならあのような雑種には拝謁する価値すらないが――、一掃せよエア!!」

桜「ぐ…やはり英雄王は別格か」

士郎「何だ?いきなりどうしたんだ!?」

凛「どうやら魔力を消費させようとして一瞬でやられたみたいね。本体がやられてしまえば桜を操る事ももうできない!!」

セイバー「はあっ!!」

凛の言葉を聞いたセイバーがライダーを斬りとばす

桜「確かにこれでは桜を死なせる程の動きはできんが――やはりアーチャーは邪魔じゃなのうライダー」

ライダーの鎖がセイバーに巻きつき、その一瞬の隙にライダーが凛に襲い掛かる

士郎「遠坂!!投影、開始!!」

いつかの夜にアーチャーが使っていた剣を投影し、ライダーの一撃を受ける

士郎「ぐ…あっ」

しかし力の差は大きく吹っ飛ばされる

セイバー「シロウ!!」

凛「士郎!!あんたまだ左腕治ってないのに――」

桜「投影魔術…時間がないのにめんどうくさいのぅ。ならライダー、令呪をもって命ずるアーチャーのマスターを殺せ」

ライダーが凛に向かって跳ぶ

セイバー「させると思いますか?」

それをセイバーが間に入って止める

桜「――令呪を重ねて命ずる、宝具を使ってセイバーもろとも殺せ」

ライダーは壁に巨大な穴を開け外に飛び出す

士郎「逃げた…?」

セイバー「違う、宝具を使う気です!!」

凛「まさか、私やセイバーだけじゃない。士郎や桜ごと吹き飛ばす気!?」

大きく開いた空間から見えるのは、神話の中でしか聞いた事のない伝説上の神秘――

士郎「――天、馬……?」

ライダー「ここは私の結界の中、誰にも見られる心配はない。それに今はキャスターが集めた魔力があります、消えなさいセイバーとアーチャーのマスター!!」

セイバー「自分のマスターをも巻き込む気ですか!!」

ライダー「そんなもの私には関係ありません。騎英の――手綱(ベルレフォーン)……!!!!!」

落雷のように光の奔流となり迫るライダー、このままでは自分達だけでなく学校の生徒も巻き込まれて死ぬだろう

士郎「頼む、ライダーを倒してくれセイバー!!」

左手の甲が熱くなり令呪が消費される

セイバー「了解しましたマスター。この結界の中、それに相手が上空なのだから地上を巻き込む心配はない」

セイバーの持つ黄金の聖剣に黄金の光が集まってゆき――

セイバー「約束された勝利の剣(エクスカリバー)―――!!!!!」

黄金の光と銀色の光が衝突する

黄金の光は銀色の光を飲み込んでゆき――結界を破壊して上空に消えていった

桜「ここまで…か、やはり今は――」

ライダーの消滅に呼応したかのように桜が倒れ、それを凛が受け止め腕を確認する

凛「令呪がない。全部使い果たしたのね」

士郎「おつかれセイバー、セイバー?」

セイバー「……」

セイバーは剣を振り降ろしたまま動かない

意識を失っているのだ、その額には大量の汗をかきかなり苦しそうに息をしている

士郎「おいセイバー!!セイバー!!」

凛「結界が完全に消えた、とにかく綺礼に連絡して――」

凛がふらつき床に座り込む

士郎「遠坂!?」

イリヤ「セイバーもリンも魔力切れね。リンったら情けないわね」

士郎「イリヤ!?」

アーチャー「少し張り切り過ぎたか、それにしてもあの程度でその様か雑種」

凛「うるさいわね、こっちだってライダーの結界で魔力もってかれてんのよ。とにかく今は家に帰りましょう」

アーチャー「む、そこの雑種――まだ生きているか」

凛「アーチャー、桜は私の妹よ。一緒に連れて行って」

アーチャー「……勝手に動かれるよりはマシか」

衛宮邸

凛「で、何でイリヤがここにいるのよ」

イリヤ「アーチャーが私のお城を壊しちゃったんだもの」

凛「アーチャーも宝具を使ったってことね、で、後ろの二人は誰?」

イリヤ「私のメイドのセラとリズよ」

セラ「ここがあの衛宮切嗣が住んでいた屋敷ですか」

リズ「セラ、ここ壊す?」

イリヤ「壊しちゃったら住めなくなるでしょ」

凛「待って、あんた達ここに住む気?」

イリヤ「リンのサーヴァントが家を潰したんだもの、責任は貴女が取るべきでしょう?」

士郎「ここの家主は俺なんだけど……」

凛「桜の様子はどう?」

士郎「今はまだ眠ってるけど、特に問題はなさそうだ。セイバーはどうなんだ?」

イリヤ「お世話になるお礼として私とリンが何とかしてあげるわシロウ」

士郎「なんとかできるのか!?」

イリヤ「ええ、セイバーは今魔力が足りてないだけだもの」

凛「そうだ士郎、人数が増えたから食材が足りないんじゃないかしら」

士郎「ああそうだな、買ってくるよ。ってさっきから気になってたけど士郎って――」

リズ「シロウだっけ?買い物、手伝う」

士郎「えっとリズ?助かるよ」

イリヤ「それじゃあシロウがいなくなったところで始めましょうか、リン」

凛「やるしかない、か」

士郎「ただいまー」

セイバー「ご心配をかけましたシロウ」

士郎「セイバー!!もう大丈夫なのか?」

セイバー「はい、その…り、リンのおかげで……」

士郎「そっかありがとな遠坂、でもどうやって」

凛「私とセイバーでパスを通したのよ、つまりセイバーは今私から魔力の提供を受けてるわけ」

士郎「マスターは俺なのにそんな事できるのか?」

イリヤ「普通より魔力の多いリンと私がいてできた芸当ね。中々良いモノを見せてもらったわ」

士郎「いいもの?」

凛「ああもうその話はいいでしょ!!」

イリヤ「そうね。さっシロウ、調理はセラに任せてシロウを治しましょうか」

士郎「えっ?」

イリヤ「何だ、眠っていた回路が起きただけなのね。これなら、はい終わり」

士郎「ちゃんと動く…それに痺れも――」

イリヤ「これで今日はもう魔力を使わずにいれば明日には完全に治ってるはずよ」

士郎「ありがとなイリヤ」

イリヤ「シロウの腕も治ったことだし、リンとセイバーのパスをどうやって繋げたか説明してあげる」

凛「その事はもういいでしょう!?士郎も帰ってきたんだから戦況を確認するわよ!!」

凛「状況を把握するために私の視点で聖杯戦争を振り返るわ。初日1/31アーチャー召喚、2/2ランサーと対決」

士郎「その日に俺がランサーに襲われてセイバーが来て、その後イリヤに襲われたんだっけ」

アーチャー「そして我が偽のアサシンとキャスターを誅した」

凛「2/3に士郎と同盟組んで、2/4にアーチャー奮発、昨日の2/5にアサシンとキャスターと戦って」

士郎「今日2/6、学校でライダーに仕掛けられてセイバーの聖剣で倒した」

イリヤ「私の城にアサシンとキャスター、臓硯が襲いかかってきたわ」

アーチャー「そして我がキャスターを倒し、バーサーカーが九度死んだか」

士郎「9回死んだ?」

イリヤ「バーサーカーの宝具、十二の試練、バーサーカーは十二回殺されないと死なないの」

凛「つまりあと3回殺さないといけないってわけ?」

イリヤ「残念ねリン、1日に3個回復するからリンと戦う時は全快してるかもしれないわ。もっとも6回はアーチャーにやられたのだけど」

アーチャー「あの程度避けれぬとは、狂犬となったことで技術が衰えたな」

凛「で、あんたが宝具を使わないといけない程の相手だったんでしょ?」

アーチャー「我の宝物は全部宝具だが?あの程度の雑種相手にエアを使う気等なかったが」」

イリヤ「私とリズが見たいって言ったら見せてくれたの。まさか城まで壊すとは思わなかったけど」

アーチャー「加減はしたぞ?それに真に解放はしておらん、まあいづれ真の力を見せる時は来るだろうがな」

凛「それって前に言ってた楽しみってこと?」

アーチャー「まあな。さて、今宵は祝杯をあげようではないかセイバー」

セイバー「ふぁい?」モキュモキュ

アーチャー「それは昼間に買ったたい焼きとやらか」

リズ「あーん」

セイバー「むぐ、これも中々、はい、食べ物を粗末にしてはいけま――はっ、ちゃんと話は聞いていましたよ!?」

今日はここまで

凛「待ちなさいアーチャー、話はまだ終わってないでしょう?」

アーチャー「終わっただろう」

凛「いいえ、あんたさっきキャスターを倒したって言ったけどアサシンは?」

アーチャー「マスターもろとも逃げよった。所詮逃げ足だけの雑種よな」

凛「あんたのそのエア?で倒したのはキャスターだけなのね?」

アーチャー「エアでは誰も倒しておらん、鬱陶しいあの影と城を払っただけよ」

凛「影?」

イリヤ「臓硯の吸収の魔術だと思うけど、触れたサーヴァントを吸収するバカみたいに巨大な影よ」

アーチャー「あまりに巨大すぎると思うたが逃げるための目くらましだったようだな」

凛「ってことは臓硯もアサシンも無傷なのね?祝杯なんてあげてる場合じゃないじゃない!!」

アーチャー「エアの威光を目の当たりにしたのだぞ?二度と出てこよう等と思わんだろう」

凛「エアってそんなに凄いの?」

アーチャー「当たり前だ。億をも超える我の宝物の中で一番のお気に入りだ」

イリヤ「あの光景は地獄だったわ……少しの解放であれだもの多分あれは対界宝具よ」

凛「対界!?そんなのありえるの!?」

アーチャー「世界を分けた覇者にのみ扱える剣だからな、我以外に扱える者などおらん」

士郎「タイカイ宝具ってどういうことだ?」

凛「そのまま世界相手用の規模の攻撃をできる宝具ってこと、セイバーのエクスカリバーは」

セイバー「対城宝具です。しかし私の聖剣は制約が多く、ライダーへ放った一撃は真の威力とは程遠い」

凛「セイバーってもしかして負けず嫌い?」

イリヤ「制約の一つに鞘があるかってのもあるのかしら?」

士郎「鞘?」

セイバー「私の聖剣の鞘です。確かにあれを私が所持していれば聖剣の威力も多少は上がりますし、通常の戦闘力も大幅に上がるでしょう」

士郎「でも聖剣の鞘って永遠に失われたんだろう?ないものの話をしたって意味ないんじゃないか?」

凛「あるわよ?昨日話してたじゃない」

イリヤ「もう昨日の話を忘れたちゃったのシロウ?」

セラ「可哀相に、その年でもうボケが……」

リズ「アハト翁と同じ」

士郎「皆して憐みの視線を向けるのはやめてくれないか!?」

セイバー「私の鞘があるとはどういう事ですか?鞘は今どこに?」

凛「士郎の体の中よ、士郎のあの回復力は聖剣のおかげってわけ」

セイバー「なるほど、でも何故シロウの中に?」

イリヤ「元々前回の聖杯戦争のためにアインツベルンが見つけてきたの、だからキリツグがシロウに渡したんじゃないかしら」

セイバー「前回の時既に?キリツグはそんな大事な事も黙ってたんですね……」

イリヤ「お母様を裏切るような男だもの」

セイバー「聖杯で生き返らせないでしょうか、聖剣の錆に――いえ聖剣が穢れる」

リズ「何回も生き返らせるのならアインツベルンの悲願達成?その場合私も」

セラ「お嬢様を裏切った報いを――ふふふ……」

イリヤ「殺して生き返らせて殺して生き返らせて、ふふ、楽しそうね」

凛「うわー何か衛宮君のお父さんに対する恨みで団結してるわねあの四人、衛宮君?」

士郎「…いや、何でもない。その鞘ってのは俺が持っていても意味がないんだろう?どうやってセイバーに返せばいいんだ?」

セイバー「その鞘は私の魔力で効果を発動します。今はシロウが持っているべきでしょう」

凛「学校は暫く休講だって」

士郎「セイバーとライダーの宝具のぶつかり合いで大分壊れちまったもんな」

セラ「おっといけない、衛宮切嗣をどのように殺すかに夢中で食事の支度が終わったと伝えるのを忘れていました」

セイバー「丁度100通り決まったところですし食事にしましょうか」

凛「アンタ達すっかり仲良しね、桜起こしてくるわ」

アーチャー「その必要はないだろう」

凛「え?」

桜「先輩?いつの間にか私お邪魔して寝てしまったみたいで――」

凛「おはよう桜、気分はどう?」

桜「え?あ、はい、大丈夫です」

凛「何があったか覚えてるかしら」

桜「えっと授業を受けていて――あ、ご、ごめんなさい。そこから先は何も覚えていなくて――」

凛「謝る必要はないわ、あなたはただ操られていただけだもの」

桜「え?」

凛「端的に言うわ。あなた今日から暫くここに住みなさい」

桜「へ?ええっ!?」

士郎「いきなり何を言い出すんだよ遠坂!!」

凛「臓硯は明確な敵、その本拠地に桜を置いとけって言うわけ?」

士郎「いや俺は全然かまわないんだけど…ほら、アーチャーが――」

アーチャー「我もかまわん。雑種が一匹増えたところでたいして変わらんからな」

桜「でも――」

凛「あなたがライダーのマスターだったって事は知ってるわ」

桜「ッ!!あれ、令呪が――」

凛「あなたは覚えてないようだけど、私達は臓硯に操られたあなたと既に戦ってライダーを倒してるわ」

桜「……それならなおさらここに置いとけないんじゃないですか」

凛「逆よ。あなたがまた操られたら面倒だからここで監視するって言ってるのよ」

士郎「おいそんな言い方――」

桜「わかりました、先輩が迷惑じゃないのなら……」

士郎「迷惑なんかじゃない、むしろ大歓迎だあいだぁ!?」

イリヤ「私がここに住むって言った時はうれしそうじゃなかったくせに」

士郎「そんなことないよ」

リズ「シロウ、誰が好き?」

士郎「いきなりなんだよ!?」

リズ「答えて、さもないと」

士郎「うわあっ!?どっから出したその斧!?」

リズ「はやく」

士郎「待って言う!!言うから!!」

リズ「そう、誰が好き?可愛い子ばかり、まさか選べない?」

士郎「そ、そりゃ可愛い子は誰でも好きだよ俺は」

凛「うわあ」

桜「先輩……」

イリヤ「さいってー」

リズ「さいてー」

セラ「屑ですね」

士郎「」

アーチャー「気が多いなあフェイカー。どうだセイバー、我のはんr」

セイバー「お断りします」

アーチャー「いやまだ言ってるt」

セイバー「寝言は寝て言ってください」

アーチャー「」

慎二「ライダーを勝手に使いやがって!!どういうつもりなんだよ!!」

薄暗い空間に慎二の怒声が響く

慎二「聞いてんのかジジイ!!聞こえてるならなんとか言えよ」

かれこれ一時間近く慎二は怒鳴り続けているか、間桐臓硯は微動だにしない

慎二「ライダーは僕のサーヴァントだぞ!!」

臓硯「……聖杯に選ばれもしん蛆虫は黙っておれ。いや、まだ命令をちゃんと達成できる虫の方がお前よりも賢いかもしれん」

慎二「なんだって?僕が虫よりも劣るって言うのか!?」

臓硯「比べることすら烏滸がましいかもしれんのぅ?」

慎二「ッ!!てっめえ――」

臓硯「間桐の血を繁殖させるぐらいには使えるかと思うたが――器官さえありゃ虫にでもできる」

慎二「おいジジイ何のつもりだよ――ひっおいやめろ!!やめろって言ってるだろ!!」

臓硯「サーヴァントでも魔術師でもない屑じゃが、少しは足しになるか?」

慎二「やめろって――グボッ!?」

這い上がってくる虫をはたき落としていた慎二は一瞬何が起きたかわからなかった

鼓動の音が聞こえない、変わりに胸元から大量の血が噴き出ている

アサシン「……技術の足しにはなりませんが少しの知識の足しにはなりましたな」

臓硯「そうか、少しは役に立ったようじゃな慎二っともう聞こえてはおらんんか」

このスレ時空のワカメの活躍
金ぴか(ギルガメッシュ)にプラモ奪われる
青タイツ(ランサー?)に何かされる
ライダーに結界を勝手に発動される
New真アサシンに心臓奪われる
New多分その後は虫に食われる

翌朝、道場

士郎「うおおお!!」

セイバー「甘い!!」

士郎「くそっ、なら――」

イリヤ「セイバーはすっかり元通りみたいね」

セイバー「隙あり!!」

セイバーの一撃をくらった士郎は壁に叩きつけられる

士郎「ぐあっ!!いつつ…セイバー、この前までと動きが違い過ぎないか?」

セイバー「そうですね、前よりも体が随分と軽い」

イリヤ「ちゃんとした魔力が提供されるようになってステータスが上がったみたいね」

士郎「ステータス?」

セイバー「サーヴァントのステータスは強い順にA~Eまでで表現されます、中にはEXという特殊なものもありますが」

イリヤ「前に戦った時のセイバーは筋力B耐久C敏性C魔力B幸運B宝具Cと、本来の能力より制限がかかってたわ」

士郎「い、今は?」

イリヤ「筋力B耐久B敏性B魔力A幸運A宝具A+ね。リンがマスターってわけじゃないからまだ制限はあるみたいだけど」

士郎「そんなに強くなったのにまだ本来とは違うのか」

イリヤ「リンが正式にマスターになればもう少しあがるでしょうけど、リンにはアーチャーがいるもの」

士郎「ちなみにアーチャーのステータスってどんなもんなんだ?」

イリヤ「筋力B耐久B敏性B魔力A+幸運A++宝具EX、全てにおいてセイバーと同等かそれ以上ね」

セイバー「私の剣技はアーチャーには負けて等いません」

イリヤ「単純な打ち合いの勝負ならセイバーの方が強いかもしれないわ。でも英雄王には私のバーサーカーを除いてサーヴァントじゃ絶対に敵わないわ」

士郎「宝具の数が違い過ぎるからか?」

イリヤ「間違ってはいないけど正解でもないわ。アーチャーの宝物庫には世界中全ての原典があるわ」

士郎「全て――つまりその英霊の弱点となる武器が全部あるってことか?」

イリヤ「そういうこと、偉いわねシロウ。お姉ちゃんが誉めてあげる」

イリヤが士郎の頭をなでる

士郎「や、やめろよ。それにお姉ちゃんってイリヤは俺よりも年下だろう?」

イリヤ「私、シロウより年上だよ?こうみえて18歳だもの」

士郎「流石に騙されないぞ。それに会ったばかりのころは俺のことお兄ちゃんって言ってたじゃないか」

セイバー「シロウ、イリヤスフィールの言ってる事は事実です」

士郎「セイバーまで何を言い出すんだよ」

セイバー「十年前の時点でイリヤスフィールは8歳でした」

士郎「……本当に?」

セイバー「はい、キリツグと舞弥が話しているのをキリツグを通して聞きました」

士郎「親父を通して?」

セイバー「サーヴァントとマスターは見てる映像や音声を共有することができます」

士郎「そうなのか、って――」

セイバー「そのシロウ、貴方は男性なのである程度そういう事は仕方がないと思いますが、魔術師のせ――」

士郎「うわあああっ!?セイバーそれ以上言わなくていい!!」

セイバー「?、わかっているのならばよいのですが――」

イリヤ「――ねえ、舞弥って誰?」

眠いから短いけどここまで
夕方ぐらいからまた更新する予定

セイバー「舞弥ですか?」

士郎「そういや俺も聞いたことないな」

セイバー「知らないのは無理もないでしょう、舞弥は前回の聖杯戦争の途中で命を落としましたから」

士郎「ってことはマスターだったのか?」

セイバー「いえ、彼女はマスターではなくキリツグの助手です。私とは誇りが違いましたが素晴らしい戦士でした」

イリヤ「そう、女の人だったんだ。キリツグとは仕事の関係だけだったのかしら」

セイバー「いえ、身体の関係もあったと思いますが。アイリスフィールも気づいていたようです」

イリヤ「そう…お母様を聖杯戦争の途中から裏切ってたのね……殺す!!キリツグ殺す!!」

士郎「落ち着けイリヤ、切嗣はもう死んでる!!」

イリヤ「何のための聖杯だと思ってるの!!」

士郎「アインツベルンは何か目的があって聖杯戦争やってたんじゃないのか!?」

イリヤ「失われた第三魔法、魂の物質化…つまりキリツグを生き返らせる事は第三魔法への到達と同じ事だわ」

士郎「それでいいのか…ってサーヴァントも聖杯で願いを叶えたいんだろう?そんないくつも叶えられるようなものなのか?」

イリヤ「……そうね、叶えられない願いなんてないぐらいたくさん叶えられるわ」

士郎「だったら戦わずに皆で願いを叶えちまえばいいんじゃないのか?」

セイバー「リンが言っていたでしょう。サーヴァントが残り一体になるまで聖杯は呼び出せないのです」

士郎「そういやそんなこと言ってたような」

セイバー「ところでシロウ、今日は朝からリンの姿が見えませんが。朝食の際にもいませんでしたし」

士郎「ああ、遠坂は桜と買い物に行ってるんだよ」

セイバー「買い物?」

士郎「桜の家は臓硯の本拠地だろう?うちに泊まるのに服とか必要だけど、桜の家に取りに帰らせるわけにはいかないからってさ」

イリヤ「セラとリズも一緒に行ってるわ。あの恰好はこのお屋敷には合わないもの」

士郎「聞こうとは思ってたけど、あの服装ってなんなのさ?」

イリヤ「アインツベルンのメイド服よ」

士郎「メイド服?メイド服って普通は――」

ミニスカメイド姿のセイバーを想像する

桜だったらロングスカートかな

遠坂ならどちらでも似合いそうだ――

イリヤ「……シロウ、鼻の下伸びてる」

士郎「はっ!?」

イリヤ「やらしーこと考えてたでしょ?」

士郎「そ、そんなことはないぞ?」

セイバー「シロウ、処理には十分注意を。知らぬうちに子供を作られる可能性もありますから」

士郎「流石にそんなことは――あっ」

イリヤ「そういえばセイバーは寝ている間に生やされた上に勝手に子供を作られて、その子供に国を滅ぼされたのだったかしら」

士郎「セイバーの息子…円卓の騎士の一人、モードレットだっけ」

セイバー「私は認めていませんが――それに正確には娘ですね。彼女も私と同じく男として生活していましたから」

イリヤ「へえ、他にも実際には女だった円卓の騎士とかいるのかしら」

セイバー「私の知る限りではいないと思いますが」

士郎「そういやセイバーとアーチャーは前回の聖杯戦争でも召喚されてたんだよな?」

セイバー「ええ、前回のアーチャーと今回のアーチャーでは多少性格が違うように感じますが」

士郎「知り合い同士の英霊が召喚されたりするってこともあり得るのか?」

セイバー「そうですね、確率はかなり低いでしょうがありえるでしょう。実際前回の聖杯戦争でも円卓の騎士がいましたし」

士郎「円卓の騎士がいたのか!?」

セイバー「ええ、宝具で姿を隠していたのとバーサーカーとなり狂化されていたので気づきませんでしたが……」

士郎「セイバー?」

セイバー「いえ、この話はもうやめましょうか。シロウお腹が空きました、ご飯にしましょう」

士郎「あっもう昼か。材料買いに行ってくるよ」

イリヤ「私も行くわ、家に居ても暇だもの」

セイバー「それでは私もお供しましょう。また間桐臓硯が襲ってこないとも限りませんし」

セイバー「さてシロウ、お腹も膨れたことですし午前中の続きといきましょうか」

士郎「ああ、頼むセイバー」

イリヤ「ところで何でシロウはセイバーと剣の打ち合いしているの?マスターが鍛えたところで何の意味もないじゃない」

セイバー「確かに魔術師がいくら体を鍛えたところでサーヴァントに勝つ事は不可能でしょう。でも自身の身を護ることはできます」

士郎「それに実戦のように打ち合う事で勘も鍛えられるしな」

イリヤ「ふうん、いくら勘や技術を磨いたところでバーサーカーの一撃で死んじゃうと思うけど」

セイバー「イリヤスフィールはシロウをどうしようと思っているのですか?」

イリヤ「わかんない」

セイバー「わからないとはどういう事ですか?」

イリヤ「最初は裏切り者のキリツグの息子だから殺そうと思ってたけど、シロウは優しいしそれにセイバーもキリツグの被害者だし」

士郎「イリヤ……」

イリヤ「でももし最後に残っているのがバーサーカーとセイバーだったらセイバーは殺さなくちゃいけないもの」

セイバー「そうでしょうね。私も私の目的のために貴女とバーサーカーを倒さなければいけない」

士郎「戦わなくちゃいけないのか?」

セイバー「ええ、例え貴方が戦う事を拒否しようと」

アーチャー「真実をフェイカーに教えなくてもいいのか人形」

イリヤ「聖杯戦争の仕組みに気付いたの?流石英雄王ね。シロウやセイバーに教えたところで意味ないもの」

アーチャー「ああ、確かにあの聖杯ならばどちらにせよ苦悩するだけだろうよ」

イリヤ「それよりアーチャーこそリンに言わないでいいの?あの間桐の黒い聖杯のこと」

アーチャー「キャスターもライダーも貴様が回収できたのであろう?」

イリヤ「ええ、キャスターは近かったし、ライダーが倒れた時は貴方の剣であっちは怯んでいたものね」

アーチャー「ならばまだ言う必要はない。無暗に不安を煽る事はないだろうよ」

イリヤ「暴君が甘くなったものね」

アーチャー「人が苦悩する姿も中々に面白いがな、此度はそれ以上の余興があるのでな」

イリヤ「余興?」

アーチャー「ああ、我には此度の聖杯戦争にもあの影にも興味はない。あるのはただ一つの余興よな」

イリヤ「私を助けたのもその余興のためかしら」

アーチャー「素晴らしい余興にはそれに見合った舞台を準備せねばな。それに――」

イリヤ「それに?」

アーチャー「我の庭を雑種に荒らされるのは癪であろう?特にあの己が目的さえ忘れたような者にはな」

イリヤ「マキリの目的?」

アーチャー「もっとも目的と手段が入れ替わってるようでは先はないだろうがな」

凛「随分と手荒いお迎えね」

服を買いに新都へと出かけた遠坂凛と間桐桜は教会の奥で縛られていた

綺礼「こうでもせんとお前は素直に話を聞かんと思ったのでな」

凛「で、いったい何の用なのかしら。それに後ろにいるそいつは何なのよ」

綺礼「彼女か、紹介しよう魔術協会から今回の聖杯戦争のために派遣されたバゼット君だ」」

バゼット「どうも、バゼット・フラガ・マクレミッツです。以後お見知りおきを」

凛「バゼット?あの封印指定の執行者!?何でそんなヤツが――」

綺礼「お前も話ぐらいは聞いたことがあるようだな、彼女は元ランサーのマスターだ」

凛「元?それどういう事?」

バゼット「私は冬木に来てすぐ言峰神父に協力を要請しました」

凛「中立の監督役と協力?不正もいいところじゃない、魔術師としての誇りはないわけ?って何で綺礼は笑っているのよ」

綺礼「いや、その言葉を前回の参加者の一人に聞かせてやりたいものだと思ってな」

バゼット「私は言峰神父との待ち合わせ場所に先に着きましたがそこで不意打ちを食らいました」

言峰「私が着いた時はサーヴァントと令呪を左腕ごと奪われてしまっていた」

凛「そう。それで?そんな話をするためだけにここに連れてきたわけじゃないんでしょう?」

綺礼「無論だ。間桐臓硯が動いていると聞いてな、おそらくランサーを奪ったのはあの老人だろう」

凛「何それ、つまり今臓硯はアサシンとランサーの二体のサーヴァントを連れてるってわけ?」

綺礼「現在残っているサーヴァントは五体だ。そしてそのうち二体をマキリが、残り三体はお前達というわけだ」

バゼット「魔術師殺しの衛宮と御三家の遠坂とアインツベルンが手を組んでるのでしょう?」

凛「悪いけど私はアインツベルンと手を組んだ覚えはないわ。それに衛宮君は魔術師殺しとしての技術は持ってないわ」

綺礼「しかし現在一つの場所に三体のサーヴァントが揃っているのは確かだ」

凛「それで?さっさと本題に入りなさいよ」

綺礼「監督役として指令を出そう、全マスター協力して間桐臓硯を討て」

凛「今度は何を企んでいるわけ?」

綺礼「間桐臓硯は民間人に多くの被害を出している」

凛「臓硯の操るキャスターは倒したはずよ」

綺礼「あの老人は今もな一般人から魔力を集めている、影を使ってな」

凛「影……アーチャーが言っていた吸収の魔術……」

綺礼「吸収の魔術を使って延命しているというのは本当だったか」

凛「で、協力してって言うけど具体的な作戦はあるわけ?」

綺礼「あの老人は数百年も生きていると聞く。戦術等練ってもあちらはその上を行くだろう」

凛「ならどうするのよ」

バゼット「簡単な話です。こまごまとした作戦が意味をなさないなら圧倒的な力でねじ伏せればいい」

凛「そう、ようはゴリ押しってわけね」

綺礼「そういうことだ。臓硯は虫の性質上昼間より夜に動く可能性が高い。今夜から手分けして探そうではないか」

今日はここまで



イリヤ「何で私がリンと一緒に行動しなきゃいけないわけ?」

凛「こんな街中じゃバーサーカー出したら大騒ぎになるでしょう」

セラ「安心してください、お嬢様の身は私達が守ります」

リズ「イリヤ、守る」

凛「士郎にはセイバーが着いてるから大丈夫でしょ、それより――」

バゼット「何か?」

凛「何か、じゃないわよ。何であんたが着いてくるのよ」

バゼット「サーヴァントを連れてる組と連れていない組にわかれたのだから私がこちらに着くのは当然でしょう」

凛「いつそんな風にわかれたかしら。それに執行者といえど片腕を失ったあなたに戦闘ができるのかしら」

バゼット「ご心配なく、片腕ぐらいなくても貴女達全員ぐらい簡単に相手できますよ」

セラ「なめられたものですね」

リズ「ここで倒す?」

イリヤ「放っておきなさい。あれにわざわざ相手をする価値なんてないもの」

バゼット「やれやれ、会ったばかりだというのに随分と嫌われたものですね」

凛「執行者とわかってて自分から近づく魔術師なんてよっぽどのバカか変人だけよ」

バゼット「それもそうでしょう。私も言峰神父の指示がなければ、遠坂やアインツベルンと手を組む等しないですから」

凛「随分あのエセ神父を信頼しているのね」

バゼット「当然です、彼ほど素晴らしい人材は他に存在しないでしょう」

数時間後――

士郎「この時間になると全く人が見当たらないな」

セイバー「シロウ、今日はここまでにしようとリンが」

士郎「そっか遠坂から魔力供給があるから遠坂と連絡が取れるのか」

セイバー「ええ、リン達は先に帰るそうです」

士郎「今日は収穫なしか、じゃあ俺達も帰るか――」

セイバー「どうかしましたか?」

士郎「今誰かがいたような……気のせいか?」

セイバー「シロウ?」

士郎「いや、多分気のせい――」

瞬間、全身に寒気が走る

目の前に黒い影が立っていた

知性もなく理性もなく、おそらく生物でさえないその黒い影が蜃気楼のように立ち続けるその光景を

何故、懐かしいとさえ、思ってしまったのか

士郎「あれが、イリヤやアーチャーが言っていた影……なのか?」

セイバー「間違いないでしょう。しかしあれはまるで――シロウ、私から離れないでください」

士郎「ダメだ…あの影には――」

サーヴァントでは絶対に敵わない、そう直感が告げていた

あの影にはサーヴァントは絶対に触れてはいけない

士郎「セイバー!!」

吐き気がする吐き気がする吐き気がする吐き気がする吐き気がする吐き気がする吐き気
がする吐き気がする吐き気がする吐き気がする吐き気がする吐き気がする吐き気がする
吐き気がする吐き気がする吐き気がする吐き気がする吐き気がする吐き気がする吐き気
がする気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ちが悪い気味が悪い気味が悪い

――体が溶ける、心が融ける

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

死ね――

士郎「う……あ?」

頭が痛い

枕元にある時計を見る

九時過ぎ――

士郎「まず――」

完全に寝坊した

慌てて立ち上がろうとしてふらつく

士郎「何だこれ……」

体が重い

セイバー「シロウ!!気がつきましたか!!リン、イリヤスフィール!!」

士郎「セイバー?一体どうしたんだ」

セイバー「覚えてないのですか?昨夜貴方は影に――」

士郎「影?あっ」

思い出した

伸びた影からセイバーを庇おうと突き飛ばして――

その後に感じた気持ち悪さを思い出し喉元まで来た吐き気を何とかこらえる

凛「その様子からするとあの影には呪いか何かの効果があったようね」

士郎「呪いの効果があるなんてそんな生易しいもんじゃない。あれは――」

呪いの塊

それ以外に当てはまる言葉など存在しない

士郎「そうだ、あの影はどうなったんだ?」

セイバー「影から伸びた触手のような影の上にシロウが立った途端に何処かに消えました」

士郎「そっか」

イリヤ「触手…バーサーカーを何度も貫いたあれね。本体に触れたわけじゃないから死ななかったってとこかしら」

凛「吸収の魔力があって、あのバーサーカーの肉体を何度も貫くような攻撃力、そして呪いでできてるかのような中身か」

士郎「あんなのどうやって倒せっていうんだ?何となくだけどあれにはサーヴァントじゃ勝てないと思うぞ」

イリヤ「シロウも気づいたんだ。そうあの呪いはサーヴァントに害を与えると思う」

凛「害?具体的には?」

イリヤ「キャスターを臓硯は操っていたでしょう?多分だけどあの影にサーヴァントが飲み込まれればそういう風になるわ」

凛「サーヴァントを奪う影ってわけか…じゃあやっぱり臓硯を直接叩くしかないわね」

士郎「でもどうやって?」

凛「影は臓硯の魔術なんだから絶対影の側にいるはずよ」

イリヤ「マキリはアーチャーを倒すための戦力としてセイバーかバーサーカーを狙ってくると思う」

凛「そこで私とイリヤ、そしてセイバーが囮として影を呼び出すわ」

イリヤ「シロウとリズとセラ、そしてあの執行者がその間にマキリを探し出して叩くの」

士郎「危険だ、囮なら俺が――」

凛「あの影は衛宮君を殺さなかった。つまり衛宮君には一切の興味がないってことよ」

イリヤ「シロウとセイバーが一緒に囮になったって昨夜の繰り返しになるだけよ、無駄に相手の戦力を増やすだけかもしれないわ」

セイバー「リンとイリヤスフィールの言う通りです、シロウはシロウに出来ることを」

士郎「わかった…それは今夜やるのか?」

凛「色々と準備が必要なの、それに衛宮君今は戦える状況じゃないでしょ?」

士郎「このぐらい大丈夫……うっ」

凛「ほら見なさい、あんたは今あの影の呪い受けた上に魔力も盗られた状態よ。今日はしっかり休んで魔力を回復させなさい」

士郎「……わかった、確かに今のままじゃ足手まといにしかならない」

凛「決行は明後日の昼間よ、夜だとあの影がどこから来るかわからないし」

士郎「昼間は臓硯は動かないんじゃなかったのか?」

凛「だからこそ準備するんじゃない、今夜と明日の夜に私とイリヤで餌を撒く。そうすれば必ず臓硯は現れるはずよ」

士郎「餌?」

凛「そう、間桐は慎重過ぎるけど動ける時は大胆に動く。それを利用させてもらうわ」

イリヤ「そういうわけで今日から私達とリンはここを出るわ」

士郎「俺はどうすればいいんだ?」

凛「今日と明日は家から一切出ないでちょうだい、そして明後日の12時過ぎぐらいにアインツベルンの城に来て」

士郎「待ってくれ、俺は場所を知らないぞ?」

イリヤ「後で暗示で場所を教えてあげるね」

凛「ちょっと痛いし明日の夜まで意識はろくに動けなくなるでしょうけど我慢してね」

士郎「ちょっと待て。明日の夜まで動けないってどういう事さ」

イリヤ「シロウの令呪はここね」

士郎「おいイリ――ぎっ―――!!」」

イリヤが手首を掴むと同時に激痛が走る

士郎「ぐ、づっ――――!?」

イリヤが手を離す、そこにあった筈のものがなくなっている

士郎「なっ――」

イリヤ「ごめんねシロウ、令呪もらっちゃった」

桜「先輩?今凄い声聞こえましたけど――」

イリヤ「衛宮も遠坂もちょろいものね、こんなに簡単にいくなんて」

凛「ようやく本性を現したわねこの性悪女!!」

イリヤ「あら、それは貴女の事じゃなくて?リン」

士郎「おい急にどうしたんだよ?」

凛「Neun,Acht,Sieben――――Stil,sciest,Beschiesen、ErscieSsung……!!」

凛が呪文と同時に宝石を投げ、その宝石が爆発する

士郎「くっ…遠坂いきなり何を――」

イリヤ「あらリン、遠坂の当主ともあろう者がその程度?」

イリヤの前には銀色の糸で出来た二羽の鳥――

その鳥が凛に向かって攻撃を放つ

その攻撃をアーチャーの宝具である円盤が弾く

凛「その程度の攻撃が効くと思ったかしら?」

イリヤ「その言葉そっくりそのまま返すわ」

リズ「イリヤ」

巨大な斧を持ったリズがイリヤを護るように立つ

そしてセラが放った魔術が円盤に辺り跳ね返る

桜「っ!?」

士郎「危ない桜!!」

桜「せ、先輩ありがとうございます。一体何が――」

士郎「おいお前らやり過ぎだぞ――」

凛「ここじゃ狭いわね、セイバー!!」

セイバー「了解しましたマスター」

セイバーが凛を抱きかかえ、窓を割りながら外に飛び出す

イリヤ「追うわよ、リズ」

リズ「わかった」

士郎「おい待て――」

追手のイリヤを狙ってか凛が放ったガンドは士郎の額に直撃し――

>>152訂正

凛「明日の夜まで意識はろくに動けなくなるでしょうけど」

凛「明日の夜ぐらいまではろくに動けなくなるでしょうけど」

士郎「う……」

桜「先輩!!良かった……」

士郎「桜…一体何が……」

桜「姉さんとイリヤさんが戦闘を始めたんです。そして姉さんが放ったガンドが先輩にあたって」

士郎「ガンド…呪いか……」

桜「はい、先輩はずっと寝てたんですよ?」

士郎「桜、今は何日の何時だ?」

桜「はい?えっと九日の夜の8時です。先輩は一日半ぐらいずっと寝てたんです」

士郎「夜までってそういう事か……くそ、あいつわざと俺に当てやがったな」

桜「わざとって姉さん達と喧嘩でもしたんですか」

士郎「いや……」

左手の甲を見る

そこにあったはずの令呪は見当たらない

士郎「セイバーは?」

桜「姉さんと一緒に出ていったきり帰ってきてませんけど……先輩令呪が――」

士郎「ああ、遠坂にセイバーを奪われたみたいだ」

桜「そう、つまり今は姉さんがアーチャーさんとセイバーさん両方のマスターを……」

士郎「くっ、まだ体は動きにくいか」

桜「あ、今ご飯を用意しますね?」

バーサーカー「■■■■■■――っ!!!」

巨人が咆哮える

無数の飛んでくる剣を叩き落としながら、接近してくる騎士の攻撃にも対応する

イリヤ「二体のサーヴァントを使ってその程度?期待外れにも程があるわリン」

凛「うっさいわね…やっぱり二体分に魔力を提供すると火力が落ちるか」

アーチャー「この我が支援してやってるのだ、もっと踊れよセイバー」

背後から襲い掛かる無数の剣を己の直感でセイバーは避け、そのまま剣はバーサーカーに突き刺さる

セイバー「私ごと狙っておきながら何が支援ですか!!」

動きが止まったバーサーカーに斬りかかろうとする

が、リズとセラの二人の攻撃がき、それを躱している間にバーサーカーは再び動き出す

アーチャー「その程度もいなせんようでは聖杯を手にする価値もない」

再びアーチャーはバーサーカーにセイバーごと攻撃を仕掛ける

かれこれこの三体のサーヴァントにおける戦闘は前日も含め十時間を超えている

日が変わるよりも前から始められた戦闘は日が昇った後も場所を変えながら続けられていた

凛「城の残骸…ここは郊外の森?まんまとアインツベルンの工房の地に引きずりこまれたってわけね」

イリヤ「二人もサーヴァントを使っていて魔力は大丈夫かしら?」

凛「お生憎様、あんたに心配される程軟じゃないのよ。あんたのバーサーカーこそ大丈夫かしら、もう何回も死んでるはずよね」

イリヤ「それこそ心配される必要はないわ。だってバーサーカーは誰よりも強いもの」

二人共強がってはいるが疲労を隠しきれていない

動きの鈍っている彼女達に影が迫る

一瞬の出来事だった

アーチャーの射出した剣によって、振りかぶったセイバーとバーサーカーが動きを止めた

その瞬間に木々の影から現れた影が三体のサーヴァントを飲み込もうとした

凛「今よセイバー!!」

セイバー「約束された勝利の剣(エクスカリバー)――!!」

セイバーはそのまま神々しい光で影を薙ぎ払い――

影に潜んでいたアサシンをバゼットが殴り飛ばし――

同じく側に潜んでいた臓硯を士郎が押さえつけ、リズがそれを切り裂こうと振りかぶった

そのまま臓硯を倒せばそれで全て終わるはずだった

想定外だったのはただ一つ

聖剣の斬撃、その魔力の塊さえその影は飲み込んでしまった

その光景に目を取られた一瞬のうちに臓硯は束縛から逃れ影の中に消え

聖剣の膨大な魔力を吸収した呪いの塊としか思えないその影は一気に膨張し

その光景がまるで水風船のようだと間抜けな事を考えているうちに

それは一気に広がり、

視界と知覚が黒一色に染め上げられた

今日はここまで

>>157の前に抜けてた

アーチャーが残していった宝具で郊外の森に一瞬で移動する

士郎「ここがアインツベルンの城があった場所か…確かにここなら人は来なさそうだ」

自分の風邪?(呪い)がうつったのか家で寝込んでる桜を置いてくるのには躊躇いがあったがここに来ないわけにはいかない

士郎「遠坂達は――あっちか」

金属音が響きわたる方向に木々に隠れながら近づく

士郎「――いた」

バーサーカーとセイバー・アーチャーが戦っている

士郎「餌ってこういう事か、臓硯とアサシンは――」

アーチャーの宝具でここに来たから遠坂はここに着いた事を気付いてるはずだ

イリヤも当然、自分の工房に侵入者がいたのだから気づいているはずだ

なら自分がすることは一つ

士郎「――いた」

協会から派遣されたというバゼットとかいう女と戦闘から離れたセラがアサシンの近くで気配を殺している

リズ「臓硯はあそこ、合図来たらシロウが押さえて私が斬る。」

士郎「わかった」

悪寒で影が現れた事を察知する

影がセイバー達に伸び――

凛「セイバー!!」

リズ「今!!」

黒く染まった視界が徐々に回復してゆく

力を使い果たしたのか黒い影は溶けて完全に消え去った

イリヤが叫んでいる

聴覚がいかれたのか何を言ってるのかが聞き取れない

感覚もいかれたのか自分の体がどうなったのかもわからない

ただ光の粒子となって消えてゆくバーサーカーと何かを叫んでるイリヤを見て何が起きたのかは理解できた

バーサーカーはイリヤを護る為に身を挺して盾となった

そしてあの攻撃はあのバーサーカーをすら一撃で葬り去った

なら何故……自分は生きている?

セイバー「あ…あ……無事で…かった……シロ……」

士郎「セイ、バー……?」

すぐ目の前の地面でボロボロになったセイバーと持ち主のいなくなった巨大な斧が倒れている

セイバーとリズが盾となってくれたのだ

サーヴァントのセイバーはかろうじて肉体を保ったが、生身のリズは耐えきれずに消滅した

あのバーサーカーさえ何度も死ぬ程の威力だったのだ、生身の人間が耐えきれるわけなど――

士郎「とお…さか――?」

辺りを見回す

影のいた場所を中心に自分とイリヤのいる場所を除いて大きく抉れた地面

自分の他には倒れたセイバーと遠くでへたり込んだイリヤ、他に人影どころか木々は消し飛び遮蔽物すら見当たらない

遠坂はイリヤやバーサーカーよりも影に近い位置にいた――

士郎「嘘だろ…?遠坂っ、遠坂―――!!!」

凛「遠坂遠坂うるさいわね」

士郎「遠坂っ、良かった無事だったんだな」

凛「ギリギリだったけどね。聖剣の魔力量に耐えきれず爆発四散したって感じかしら」

アーチャー「狂犬とあの二体の人形は死んだか」

士郎「でもどうやってあの距離から?」

凛「アーチャーの宝物で咄嗟に飛んだのよ、士郎は距離があったしセイバーは士郎とこに走りだしちゃったから間に合わなかったけど」

士郎「飛んだ?空にか?」

凛「転移したのよ、とはいってもそう遠くじゃなかったからもうちょっと爆発の範囲が広かったら危なかったわね」

アーチャー「……無様な格好だなセイバー」

セイバー「アー、チャー……リンは無事ですか……よかった……」

凛「酷い傷…核は何とか無事みたいだけど……これじゃあもう」

士郎「そんな……」

アーチャー「いや、まだ諦めるのは早いかもしれんぞ雑種」

凛「どういう事?」

アーチャー「狂犬が消滅する程の威力だというのに何故まだセイバーは生き長らえていると思っている」

凛「……セイバーの鞘!?」

アーチャー「真名を解放したわけではないから防御までとはいかなかっただろうが、フェイカーの側にいたことから多少の恩恵はあったのだろうよ」

凛「そっかそれだったら…衛宮君、今すぐ鞘をセイバーに返して。そうすればまだ助かるかもしれないわ」

ランサー「悪いがそれはさせられないな」

凛「ランサー!?このタイミングで出てくるって事は――」

ランサー「こういう弱ってるとこを狙うなんて真似は趣味じゃねえが令呪を使われてんだ、悪く思うな」

アーチャー「今のセイバーなら令呪等なくても楽に消せるだろうに、お前のマスターは随分慎重なようだな」

ランサー「ここでセイバーとアーチャーに消えてもらえばオレ達の勝利は確定するらしいんでな。あくまで保険ってわけだ」

アーチャー「ここでセイバーが消えようか我には関係ないが――」

凛「アーチャー、ランサーを近づけないで、できるならここで倒して」

アーチャー「――というわけだ。不本意ながらお互いマスターには逆らえんようだな」

ランサー「テメエも令呪を使われてるってわけか」

アーチャー「一度や二度の令呪ならはねのけるのだが――六度重ねられているのでな」

ランサー「六回だあ?何でそこの嬢ちゃんが六個も令呪をもってやがる」

アーチャー「令呪のストックならいくらでも我が持っている、バイクの免許の偽造と引き換えに渡すのではなかったがな」

ランサー「そんなのありかよ、まあオレのマスターも人のこと言えねえしな。お喋りは終いだ、前と違って邪魔はねえからな」

アーチャー「ほう、前回は実につまらぬ余興だったからな。此度はせいぜい我を楽しませるため踊るが良い」

ランサー「てめえを楽しませる気なんかさらさらねえよ。そういや前のあの趣味のわりい金ぴかの鎧はどうしたんだ?」

アーチャー「バイクに乗るには邪魔だったのでな、あれさえ着ていれば令呪を幾度重ねられようと関係なかったものを」

ランサー「ありゃ頑丈なだけじゃなく対魔力もあったってのか。まああれがないならオレの槍でてめえを簡単に貫ける」

アーチャー「ふん、鎧がないぐらいでは貴様ごときたいしたハンデにもならんな」

ランサー「なめるなよ」

跳躍したランサーの一撃をアーチャーは取り出した剣で受ける

そして両者は何度も武器を打ち合う

士郎「近接戦!?アーチャーはあんな戦い方もできたのか!?」

凛「衛宮君、今はセイバーを助ける事に集中して、体から鞘を出すのよ」

士郎「助けるって言ったってどうやって鞘を出せばいいんだ?」

セイバー「形は、私が形成…します……シロウは鞘の魔力を、一か所に――」

凛「セイバーはわかるのね。それじゃあ士郎とセイバーに任せるわ、私はイリヤを見てくる」

セイバー「…わかりました。準備はいいですか…シロウ」

士郎「ああ、遠慮なく始めてくれ」

セイバーの手が士郎の胸に沈み込む

心なしかセイバーの傷の治りが少しばかりか早くなったように感じた

いつの日か夢に見たセイバーの姿を思い描き、その時彼女が持っていた鞘の形をイメージする

戦場を行く騎士王に相応しい黄金の鞘――

……体が熱い、神経が焼かれるような感覚が襲い掛かる

それでも、寸分狂うことなく精密に鞘を再現する――

セイバー「っ―――!」

――体から、何か、長く自分を縛っていた物が抜けていくような感覚がした

セイバー「凄い…見事ですシロウ、こんな完全な姿に戻せるなんて――」

体の余熱にのぼせ地面に座り込む

鞘を取り戻したセイバーは一命を取り留めたのか、先程まで荒かった息も治まっている

士郎「傷は治ってないのか?」

セイバー「いくら聖剣の鞘といえど致命傷をすぐに治す事はできません、しかしこれでまた戦えます」

ランサー「だあっ!!」

アーチャー「ぐっ!!」

ランサーの一撃を受けたアーチャーが吹っ飛ばされ、士郎達の近くに着地する

アーチャー「敏性はヤツが上か」

アーチャーの後ろから追撃しようとするランサーに数十の武器が飛ぶが全て弾き落とされる

士郎「あの数を一瞬で!?」

アーチャー「矢避けの加護よ、あやつには宝具であろうと飛び道具は通用せん――数で圧倒すれば別だがな!!」

数百という武器が襲い掛かり、捌き切れずにランサーの体に傷が増えていく

ランサー「くっそ、相変わらずデタラメな数だなおいっ!!」

再び接近してきたランサーとアーチャーが再び打ち合いに入る

セイバー「アーチャー、貴方では接近戦は不利だ。私が――」

アーチャー「無理をするなセイバー、お前はまだろくに動けんだろう。それにようやく――体が温まって来たので…な!!」

アーチャーの一撃がランサーを吹っ飛ばす

ランサー「そう来なくっちゃな!!――あ?何だよ今いいとこ……ちっわかったわかった、やりゃあいいんだろやりゃあよ」

アーチャー「マスターからの念話か。我々の戦に横槍を入れるとは無粋なヤツよ」

ランサー「悪いなアーチャー、いつまでも遊んでずにさっさととどめを刺せってよ」

アーチャー「そうか、では散り際で我を愉しませよ!!」

ランサー「死ぬのはテメエだ。その心臓――貰い受ける!!」

バゼット「ふう、もう少し地面に掘った穴が浅ければ危なかった――あれは!!」

ランサー「――刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)!!」

凄まじい魔力をもって放たれた、確実に心臓を貫く槍は――

アーチャー「――螺旋剣(カラドボルグ)!!」

光の斬撃によってランサーもろとも吹き飛ばされた

その斬撃の威力はセイバーの聖剣と

ランサー「が――」

アーチャー「貴様は誓約によってこの剣に一度は敗れなければならぬのだろう?」

ランサー「ぐ――、てめ…そんなもんまで持ってやがったのかよ」

アーチャー「ほう、まだ動くか」

ランサー「ったくマジで嫌んなるよな――だが、その誓約は一度までだ。二度目はねえ」

アーチャー「先ほどの技はその距離からは撃てぬのだろう?範囲内に貴様が入るより我の剣が貴様を貫く方が早い」

ランサー「今度はさっきのと違うぜ?セイバーもろとも消えな――突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)!!」

刺し穿つ死棘の槍が一人に対する命中を重視した一撃ならば、突き穿つ死翔の槍は威力を重視した対軍への一撃

それがランサーの手から放たれようとするその一瞬に――

ランサーごと槍は鎖に絡め取られた

ランサー「なっ!?」

士郎「何だあの鎖――」

アーチャー「天の鎖!!我の無数ある宝物の中でも他とは比べようのない一番の鎖(とも)よ」

ランサー「くそっ、何だこりゃあ。全然動けねえ……」

アーチャー「その鎖は神性が高ければ高い程餌食となる、逃げよう等と思うな。より一層締まるだけだぞ?」

ランサー「くそっ、刺し穿つ死棘の槍ならとっくにてめえの息を止めれてたものを」

アーチャー「本来の使い方の方が因果への干渉は弱いようだな。喜べよ狗、我が鎖を使う程に貴様を認めてやったのだ」

ランサー「そりゃどうも……って誰が狗だ!!」

アーチャー「さてと、カラドボルグはもう使ってしまったし、貴様にはどのような最期が似合うか」

ランサー「さっさとやれよ、身動きを封じられた時点でオレの負けは決定したんだ」

アーチャー「そうだな、せめてもの情けだ自分の宝具で死ぬか?」

ランサー「なに?」

鎖で巻き取られていたランサーの槍がランサーの手元を離れ――

ランサー「かはっ――」

ランサーの心臓を貫き、そのまま鎖によって砕け散った

アーチャー「思っていたよりは愉しめたぞ雑種」

凛「終わったアーチャー?」

アーチャー「ふん、残っていた二個と追加でくれてやった三個の令呪を全て使って三日間絶対服従とかいうつまらん命令をしおって」

凛「あんたがやる気出さないからでしょうが」

ランサー「はっはっは!!期限切れでこいつに殺されるとか考えなかったのか?」

凛「ランサー!?」

ランサー「安心しな、オレはもう戦えねえよ。マスターの令呪ももう残ってねえしな、そのうち消える」

凛「臓硯は今日で倒せる予定だったしね。あとはセイバーを倒すだけなのに殺されたりしないと思ったのよ」

ランサー「はっやっぱりマスターにすんなら嬢ちゃんみてえのが良かったな、美人で強情で肝が据わってるときた」

士郎「遠坂に近づくなよ」

ランサー「いつぞやの小僧か、嫌われたもんだな」

士郎「当たり前だろ」

ランサー「生憎昔から良い女には縁がなくてな、少しぐらい良いじゃねえか」

バゼット「ランサー」

ランサー「あん?お前生きてたのかよ、ちゃんとお前がマスターのままならもうちっと戦いを楽しめたのによ――」

士郎「消えた…」

凛「これで残るサーヴァントはアーチャーとセイバーだけね」

士郎「あ――」

凛「でもどうしようかしらね。セイバーの魔力供給は私がしてるんだし」

セイバー「リンには悪いですが私は聖杯が欲しい。戦うのならば今からでも――」

凛「あなたまだ戦える体じゃないでしょう。戦うのはまた今度、あなたが完全に治ってからにしましょう。行くわよアーチャー」

士郎「おい遠坂――」

バゼット「私は教会で神父と共に聖杯戦争の結末を見届けましょう」

士郎「セイバー、どのくらいで治るんだ?」

セイバー「明日の昼までには治ると思います。シロウ、イリヤスフィールをどうするつもりですか?」

士郎「どうするって――」

バーサーカーだけじゃない。セラとリズも死んだ

士郎「イリヤにはもう俺しかいないんだ。切嗣の果たせなかった約束の代わりにも俺が最後までイリヤを護る」

セイバー「そうですか、……シロウが決めた事なら私は何も言いません」

士郎「助かる。さて帰るか…イリヤは気を失ったままだし俺がおぶらなきゃいけないけど、セイバー歩けるか?」

セイバー「はい、今日はもう戦闘の必要もないですし。私の事は心配しないでください」

士郎「あれ?」

セイバー「どうかしましたか?」

士郎「あそこに誰か――蟲!?」

こちらが気づいたことに気がついたのか人影は蟲を放ってくる

セイバー「はあっ」

その人影をセイバーが斬り伏せる

セイバー「これは――」

両断されて倒れた人影はよく知っている者だった

断面からは蟲が逃げようと足掻いている

士郎「慎二……中は蟲が詰まってるだけ――臓硯にやられたのか。桜に何ていや良いんだよ……」

セイバー「帰りましょうシロウ。貴方も疲れたでしょう」

今日はここまで

桜「おかえりなさい先輩、もう急にいなくなっちゃいましたから心配しましたよ」

士郎「ただいま桜、悪いな」

桜「まだ体調が良くなったばかりなのに――先輩?顔色悪いですよ…?ひょっとしてまだ体調悪いんじゃ」

士郎「いや、大丈夫だ。桜はもう大丈夫なのか?」

桜「はい、この通り」

士郎「そうか、良かった――セイバー!?」

セイバー「スゥ……スゥ……」

士郎「何だ寝てるだけか…桜、セイバーを布団に寝かせるのを手伝ってくれないか?」

桜「あ、はい」

イリヤ「シロウ」

士郎「イリヤ、気がついたのか」

イリヤ「うん、シロウ左手出して」

士郎「ん?こうか?」

イリヤ「えい」

士郎「がっ!?」

イリヤが手の甲の肉を引きちぎる

桜「先輩!?イリヤさん何を――」

士郎「あれ?ちぎられたはずなのにもう痛くない――って令呪!?」

イリヤ「魔力を通さない特殊な礼装を擬態させて令呪を隠してたの。驚いた?」

士郎「あのなあ、それならそうと初めから言ってくれよ」

イリヤ「だってシロウ顔に出るじゃない。さ、セイバーを寝かせたら食事にしましょう?」

士郎「さてすっかり遅くなっちまったな、桜用意しててくれたのか」

桜「はい、ところで姉さんとリズさんとセラさんはどうしたんです?」

イリヤ「セラとリズは死んだわ、わかってるでしょう?」

桜「え――?」

士郎「?、遠坂はもうここには来な――」

凛「ただいま、あら丁度食事の時間?」

士郎「遠――坂?何でここに――」

凛「何でって決まってるじゃない。イリヤスフィールがここにいるからよ」

士郎「まさかアインツベルンだからってここで殺す気なのか?そういう事なら――」

凛「違うわ、イリヤは聖杯を持ってる。私の狙いはあくまでもそれよ」

士郎「イリヤが?でもそんなもんどこにも――」

凛「セイバーの鞘と同じ。イリヤの身体の中にあるの」

士郎「イリヤの…?」

イリヤ「ええ、そのような物よ」

綺礼「ふむ、麻婆豆腐はないのかね?」

士郎「!?」

バゼット「丁度人数分ありますね、ありがたい」

桜「――えっと?」

士郎「何でお前らがここにいるんだ!?」

凛「私が連れてきたのよ、話は食事をしながらにしましょう」

綺礼「まずは報酬を渡そう。衛宮士郎、令呪のある方の腕を出したまえ」

士郎「なんだよ」

綺礼「報酬と言っただろう」

士郎「なっ!?令呪が一画増えた!?」

綺礼「過去の聖杯戦争で脱落した者の物だ。あの老人を倒した報酬としては丁度良かろう?」

アーチャー「雑種が何の躊躇いもなく令呪を使いきったのはこれがあると知っていたからか」

凛「そういう事、綺礼どうかした?」

綺礼「――いや、たいした事ではない。アインツベルンの娘はサーヴァントを失ったようだが」

イリヤ「報酬なんていらないわ。私もマキリとは色々あったもの」

綺礼「そうか。ところでイリヤスフィールよ、アサシンは君の中かね?」

イリヤ「違うわ。アサシンは死んでないのか、向こうに取られたかどっちかまではわからないけど」

バゼット「話はよくわかりませんが間違いなく死んでるかと、あの位置ではあの爆発は避けれなかったでしょう」

凛「あんた逃げ切ってたじゃない。ってアサシンよりあんたの方が身体能力高かったわね」

綺礼「凛とバゼット君の言うとおり影の中に隠れた臓硯は影の爆発に巻き込まれて跡形なく消し飛んだとなれば例え生き延びていたとしてもそう長くは保ちまい」

士郎「臓硯はまだ生きてると思う」

綺礼「何?」

凛「何でそう思うのよ?」

士郎「――慎二だったんだ」

凛「どういう事?何でそこで慎二の名前が出てくんのよ」

士郎「遠坂達が去った後、俺達は蟲を使う人影に襲われた。それをセイバーが斬ったら慎二だったんだ」

桜「っ!!」

凛「それって前の桜みたいに臓硯が慎二を操っていたってこと?それとも――」

士郎「慎二は中身は全部蟲だった。あれは死んだ後に中に蟲を詰め込まれたんだ」

桜「……やっぱり…兄さんはお爺様に逆らったから……」

綺礼「間桐慎二は蟲の皮にされ、その上に臓硯の皮を着せられていたということかね?」

士郎「……ああ、服装とかは臓硯だった。顔もセイバーが斬ったから臓硯の皮が捲れて慎二の顔が覗いてたんだ」

綺礼「あの老人は用心深いからな。身代わりで向かったのだろう。凛」

凛「何よ」

綺礼「父君と同じで詰めが甘いな。お前は肝心な場面ではいつもそうだ」

凛「うっさいわね、アーチャーが気付かない方が悪いのよ」

アーチャー「我は宝と人間の目利きはできるが、薄汚い蟲の違い等わからん」

凛「何開き直ってんのよ!!」

綺礼「お前も他人に責任を擦り付けているではないか」

凛「うっ」

アーチャー「第一我にあのような命令をしたのだ、首をはねられていないだけマシだと思え」

綺礼「ともかく間桐臓硯の討伐は失敗というわけだ。私は一度教会に戻り対応策を練るとしよう」

凛「臓硯を倒せてなかったって事はまた暫くは休戦ね」

士郎「そうなるか…って令呪貰ったままで良かったのか?」

凛「別にいいでしょ、そう何度も簡単に外せるもんでもないし」

士郎「臓硯はまたあんな風に魔力を集めるのか?」

凛「多分それはないわ、あの影は消し飛んだ。そうすぐにあんなとんでも魔術使えるはずがないわ」

士郎「それじゃあ臓硯が次にするとしたら――」

凛「聖杯、イリヤを狙ってくるでしょうね。どうする衛宮君?衛宮君が守るか、綺礼に任せるか」

士郎「俺が守る、あんなヤツに任せられるか」

凛「そ、取りあえず士郎はセイバーが治るまでは家でイリヤと大人しくしておいてもらおうかしら」

士郎「遠坂はどうするんだ?」

凛「私もセイバーが治るまでは動かないわ、近くにいた方が魔力供給しやすいし。イリヤがセイバーと契約した方が早くなると思うけど」

イリヤ「嫌、私のサーヴァントはバーサーカーだけだもん」

凛「そういうこと。で、桜は今まで通りここにいてちょうだい」

桜「……」

凛「桜?」

桜「あ、はい。……わかりました」

凛「安心して桜、あんたは何があっても私が守るわ。大事な……だし」

桜「――はい、姉さん。便りにしてますね」

凛「――っ、ああもう。お風呂入ってくる」

士郎「あの二人はもう完全に仲直りしたみたいだな」

翌朝――

凛「調子はどうセイバー」

セイバー「鞘があるにもかかわらず傷の完治が遅いですね。完治までまだ半日程かかるかと」

凛「そう、でも魔力量はだいぶ回復したというか上限が上がったわね」

セイバー「貴女の魔力供給のおかげと鞘の効果です。私の鞘には魔力量を上げる効果がある」

凛「今ならエクスカリバーを五回は撃っても大丈夫そうね、でも六回目はきついかも。それに鞘がどのぐらい魔力を消費するのかわからないわね」

セイバー「鞘の真名の開放にはそれ程魔力は必要ありませんから問題はないかと」

凛「そう、そういやセイバーは前に死んでないって言ってたけどそれってどういう事?」

セイバー「私はかつて聖杯を手に入れる事を条件に世界と契約しました」

凛「英雄になるために世界と契約したんじゃなくて、聖杯を手に入れるために?」

セイバー「私は英雄になるのに世界と契約する必要はありませんでしたから」

士郎「自力で英雄の座まで辿りついたってのか」

セイバー「はい、しかし死の間際となっても私は聖杯を手に入れる事はかなわなかった」

凛「それじゃあ矛盾が生じるじゃない」

セイバー「はい、なので私は死の間際で止まっているのです。そして聖杯を手に入れるまで何度もこうして繰り返す」

凛「死の間際で時間が止まってるってより、時間に止まってるって感じか」

士郎「ちょっと待て、それじゃあ聖杯を手に入れて元の時代に戻っても待ってるのは死だけじゃないか」


セイバー「そうですがそれが何か?」

凛「ちょっと待って。自分の時代に聖杯を持ち帰るって使うって事?」

セイバー「はい」

凛「それって時間の改竄じゃない、時間旅行にしても平行世界にしてもそれは魔法の域よ、そんなのできるわけ――」

セイバー「それを可能にするのが聖杯でしょう。そうして聖杯が使えるのなら死後を渡しても構わないと私は契約したのです。たとえそれでアルトリアが消えようとも」

――アルトリア・ペンドラゴン、騎士王、アーサー王と呼ばれたセイバーの本当の名前

どうしてそれが聖杯を使って消えるという事になるのか

士郎「セイバー、お前は自分を――自分を救うために聖杯を使うんじゃないのか?」

セイバー「?、何故そのような事を言うのですシロウ。私の望みは国を滅びから救う事だけですが」

士郎「な――なん、で?」

セイバー「何故も何もないでしょう。私は国を守るために王になったのにその債務を果たせなかった。
その時に思ったのです。――岩の剣は、間違えて私を選んでしまったのではないかと」


士郎「それはつまり――」

セイバー「私は聖杯で王の選定のやり直しがしたい」

士郎「ふざ――けるな!!」

そんなことをして過去を改変して過去のアルトリアが王にならなくても、目の前のセイバーは王であり続ける

セイバー「シロ…ウ?」

士郎「――そんなことに聖杯を使うな。聖杯はセイバーが戦って手に入れるんだから、セイバーは自分の為にその奇跡を使うべきだ」

セイバー「ですから自分のために使うと言ってるではありませんか。私――アルトリアは、王として――」

アーチャー「呼んだか?」

セイバー「アーチャー?」

士郎「誰もお前の事なんか呼んでない」

アーチャー「王と聞こえた気がしたが?王とはこの我だけよ、勝手に名乗る事は許さん」

凛「はあアンタちょっとは空気読みなさいよ」

アーチャー「何故我が空気を読んでやらなければならぬ?そういうのは貴様ら雑種の仕事であろう、王であるこの我を引き立てるた――」

凛「あーもううっさい!!」

凛の魔力で強化された蹴りがギルガメッシュの顔をとらえる

アーチャー「き、貴様女子の分際で男子を足蹴に!?おのれ、どうやら本気で死にたいようだな雑種ゥウウウウ!!!!」

凛「アーチャー四つ這いになりなさい」

アーチャー「な!?体が勝手に――!?」

凛「無様ねアーチャー!!私は令呪を5回使ってまでアンタに三日間絶対服従しろって命じたのよ、まだ72時間経過してないわ!!」

アーチャー「このような命令ごときにこの我が――」

凛「最初に期限なしで絶対服従って言った時は鎧もあったから全然効果なかったけど、期限ありで鎧もなしで五重ならほとんど逆らえないみたいね」

アーチャー「お…のれぇ…!!」

凛「折角の機会だからとことん主従関係について叩き込んでやるわ、期限が切れるまでのあと13時間そうして椅子になってなさい」

アーチャー「どういうつもりか知らんが、貴様こんな事をしてただで済むと思うなよ――」

凛「知ってるアーチャー?私自分が楽しいと思う事しかやらない主義なの。そういやあんた、蛇苦手だったわよね?」

アーチャー「待て貴様それをどうする気――や、やめ――」

士郎「あかい悪魔…」

セイバー「先ほどの話を続ける空気ではなくなりましたね」

アーチャー「くぅ…このような屈辱を受けたのは初めてだ……もうこんな茶番に付き合ってられん!!」

アーチャーは王の財宝から取り出した黄金の瓶の中の液体を一気飲みする

凛「え?」

「うわっ!!」

アーチャーが突然小さい子供に代わり、その上に座っていた凛ごと倒れる

士郎「えっと……大丈夫か遠坂」

凛「なんとか……」

「いたた…お姉さんおも――いや何でもない。早くどいてくれないかな?」

凛「あんた誰?」

「何言ってるのさマスター、僕だよ。ギルガメッシュだよ、正確には子供の頃のギルガメッシュだけどさ。まあギルって呼んでよ」

凛「――あんた本当にあのアーチャーの子供の頃なわけ?」

子ギル「信じられないのも無理ないけどねー。自分でもどうしてああなっちゃったのかわからないもん」

士郎「取りあえず服を着ないか?」

子ギル「大人の僕が急に変わるから。まあマスターが苛め過ぎるから、あれじゃあ暫く拗ねて出てこないよ」

凛「う…確かにやり過ぎたかも……ってあんた大人の頃の記憶あるわけ?」

子ギル「まあね、でも大人の僕を召喚するために縁として使った聖遺物を飲み込ませるなんてさ」

凛「だってあれもう壊れちゃってたし」

子ギル「確かにあれじゃあもう縁として使えないだろうけどさ」

今日はここまで、次の投下で聖杯戦争は終わる予定

凛「それでアーチャー……ギルは縮んだ今もサーヴァントなのよね?」

子ギル「当然さ、マスターとの繋がりは切れてないでしょ。それに令呪の縛りも今だ健在さ」

凛「そう、なら早く服を着なさい。何であんたは恥じらいもなく堂々としてんのよ」

子ギル「僕の身体に恥ずかしいとこなんて何処にもないからさ、この肉体はもはや芸術だと言っても――」

凛「良いから早く着なさい!!」

子ギル「いたっ、もう相変わらず乱暴なんだから。これでいいかい?」

凛「それであんたは戦えるの?」

子ギル「勿論さ、いつも慢心してる大人の僕より、今の僕の方が強いんじゃないかな」

凛「へえ、それじゃあ最後に一つ。あんたは私と一緒に戦う意思はあるわけ?」

子ギル「愚問だね、大人の僕と今の僕は正反対だけど根っこは同じさ、彼が認めた相手を僕が認めない理由はないさ。暴力は勘弁して欲しいけどね」

凛「そう、ならもう何も言う事はないわ。出かけるから付いて来なさい」

子ギル「セイバーが治るまでは動かないんじゃなかったのかい?」

凛「少し気になる事があるのよ。セイバーもここまで回復してたら今日一日一緒にいなくても明日の朝には完治してると思うわ」

イリヤ「リン、それは私も行った方がいいわけ?」

凛「イリヤはセイバーと一緒にいてちょうだい、明日の夜までには戻るつもりだけど――」

士郎「明日の夜?まだ昼間にもなってないってのに何処まで行くつもりなんだ?」

凛「色々回りたいとこがあるのよ。セイバー、くれぐれもイリヤの側を離れないで」

セイバー「イリヤスフィールのですか?そう言えば今日はイリヤスフィールはまだ起きてきてませんね」

凛「……ええ、ここは頼んだわよ。あと桜に気を付けて、無茶はしないようにね」

セイバー「わかりました。桜もイリヤスフィールもこの身を盾にしてでも守りましょう、凛も無茶はしないように」

士郎「……」

セイバー「……」

――気まずい、桜達がいた時はまだマシだったのだが

遠坂が家を出てから数時間経ち、日はすっかり暮れてしまった

桜は最近眠れなかったらしく既に寝にいっており、イリヤも昨日の疲れが取れていないのか夕食の後すぐに寝に行った

今朝の事もありセイバーは朝から一度もこちらを向こうとしない

士郎「――投影、開始」

気を紛らわすために投影の練習をする

昨日、聖剣の鞘を体から出してから投影の負担がわずかばかり減ったような気がする

聖剣の鞘を体の外に出すときにその仕組みにじっくりと触れたためだろうか――

士郎「それでもアーチャーの本物には遠く及ばないか…前にアーチャーに言われた通り実戦には使えないな。せめて遠坂の宝石みたいにこう……」

イリヤ「リンの宝石がどうかしたの?」

士郎「悪い起こしたか?いや、遠坂の宝石って爆発するじゃんか?俺もあーいう魔術を使えたらなーって」

イリヤ「爆発する宝石?ああ、あの魔弾ね。あれぐらいならシロウにも簡単にできると思うわ」

士郎「イリヤにとってはそうでも俺には簡単じゃない。あんな魔術どうやってるのかすらさっぱりだ」

イリヤ「爆発だけなら簡単よ、宝石に溜めこんだ魔力を爆発させてるだけだもの」

士郎「物に魔力を溜めるってのが難しいだろ」

イリヤ「宝石魔術は遠坂の得意魔術、シロウはシロウの得意な魔術でやれば良いの」

士郎「俺の得意な魔術って…投影と強化か?でも投影した武器なんてそう長く保てないぞ」

イリヤ「長く保つ必要はないじゃない、シロウには碌な魔力はないけど、シロウが投影した武器にはちゃんとした魔力が入ってるもの」

士郎「剣を爆発させろって言うのか?でもそんなのどうやってやるのさ」

イリヤ「イメージが崩れると投影したものも崩れるんでしょ?」

士郎「ああ、あと集中や魔力が切れた時かな」

イリヤ「意図的にわざとイメージを崩すの。そして形が崩れる瞬間に剣の魔力を一気に開放したら爆発するはずよ」

士郎「簡単に言うけどそれって難しくないか?」

イリヤ「そんなに簡単に新しい魔術を身に着けれるなら魔術師は探究なんてしないわ」

士郎「それもそうか、よし……イメージを崩して…魔力を一気に――解放する」

先程投影した剣を持ち、目を閉じ集中する

イリヤ「待ちなさいシロウ、家の中で、しかも手に持ったまま爆発させる気?」

士郎「そっか、どれぐらいの規模になるのかわからないし、俺は遠坂と違ってコントロールできないもんな」

イリヤ「今から練習しに行く?」

士郎「どこにさ?」

イリヤ「郊外の森、あそこなら人目を気にする必要はないわ」

士郎「こんな時間だともうタクシー乗せてもらえないぞ?今から歩いて行ったら着くのは朝になっちまう」

イリヤ「良いじゃない別に、リンも明日の夜まで帰って来ないらしいし、私にはもう時間がないもん」

士郎「時間がない?それってどういう――」

イリヤ「早く行こ?サクラには置手紙でも残しとけばいいわ」

>>188
イリヤが起きてないとかこれは俺がおかしいのかセイバーがおかしいのか

>>191
すまん>>188を少し訂正、イリヤさんは寝てます

凛「少し気になる事があるのよ。セイバーもここまで回復してたら今日一日一緒にいなくても明日の朝には完治してると思うわ」

士郎「遠坂、それは俺も行った方がいいのか?」

凛「士郎はセイバーと一緒に家にいてちょうだい、明日の夜までには戻るつもりだけど――」

士郎「明日の夜?まだ昼間にもなってないってのに何処まで行くつもりなんだ?」

凛「色々回りたいとこがあるのよ。セイバー、くれぐれもイリヤの側を離れないで」

セイバー「イリヤスフィールのですか?そう言えば今日はイリヤスフィールはまだ起きてきてませんね」

翌晩――

士郎「いつつ……」

セイバー「大丈夫ですかシロウ?」

士郎「ああ、全部かすり傷だ」

イリヤ「良いアイディアだと思ったんだけどな」

セイバー「確かに弓で剣を飛ばして爆発させるというのは良いアイディアでした。シロウは弓術だけは優れていますし」

士郎「だけで悪かったな。剣がと矢と形が違うから飛ばしにくいんだよなあ」

イリヤ「そんな少しで変わるものなの?全然飛ばずに爆発に巻き込まれてたけど」

士郎「全く違うさ。それに形だけじゃなくって重さも全然違うし、弓の強度も変えなきゃ弦も切れちまう」

セイバー「弓はともかく剣を矢の形に変えて撃つというのはできないのですか?」

イリヤ「投影は士郎のイメージで出来てるんだからできない事もなさそうだけど」

士郎「無理だ、投影だけでも精一杯なのにその上爆発も意識してるんだ。そこまで気を回す余裕なんてない」

イリヤ「やっぱり一日やそこらで使える程甘くはないようね」

セイバー「そもそも日々の精進を怠って必殺技を覚えようという考えが甘いのです」

士郎「良いじゃないか、必殺技を覚えて俺がサーヴァントと戦えるようになったらもうセイバーは戦わなくても済む」

セイバー「私が戦わなくて済む?何を馬鹿な事を」

士郎「だってセイバーは女の子じゃないか」

セイバー「撤回してください、その言葉は私を愚弄している」

「どうしたセイバー、そこの雑種が何かしたのか」

セイバー「アーチャー何の用ですか。これは私とマスターの問題だ」

アーチャー「十年振りだというのにつれないな、騎士王」

セイバー「っ!?貴様は――シロウ下がって!!」

士郎「どうしたんだいきなり――」

アーチャー相手に武装までして何をそんなに警戒をしているのだ――

セイバー「シロウ!!彼は――」

イリヤ「知らない…私はこんなヤツ知らない……」

士郎「アーチャー、いきなり何の用だ――」

アーチャー?「――馴れ馴れしいぞ雑種」

何処からともなく打ち出された一本の剣が目の前で円盤に弾かれる

士郎「な――」

アーチャー?「ここ数日畏れ多くも我の宝物庫から財宝を盗み出す不届者がいると思ってはいたが――貴様か!!」

体が吹き飛ぶ

いきなり現れた巨大な鉄槌が円盤ごと自分を殴り飛ばしたのだ

士郎「が――あ……」

イリヤ「シロウ!!」

セイバー「イリヤスフィール!!シロウを連れて逃げて!!」

アーチャー?「薄汚い盗人を庇うか騎士王、そこをどけ。どかぬと言うのなら貴様であろうと殺すぞ」

セイバー「何故貴方がここにいるアーチャー!!いや英雄王!!貴方は十年前に――」

英雄王「驚く事はない、ただ十年前から残っていたそれだけであろう?」

イリヤ「十年前?まさか――」

セイバー「くっ!!」

英雄王「我にかなわぬと知ってどかぬか、ならば疾くと消えるがよい!!」

全方向から無数の剣や槍が襲い掛かる、それが自分に突き刺さるのを気にせず士郎に当たりそうな物を全て弾く

士郎「セイバー!!」

何故アーチャーが襲いかかってくるのかはわからないがこのままではセイバーは死ぬ

士郎「くそっ――」

さっきの一撃のせいで体はほとんど動かない、それでも――

士郎「令呪をもって命ずる、逃げろセイバー!!」

セイバー「シロウ!?くっ――それはできな――があっ!!」

令呪に抗い動きが鈍くなったセイバーの体を無数の剣が貫く

士郎「セイバー!!」

英雄王「くだらん邪魔をするか雑種!!」

アーチャー…英雄王が掴んだ剣に魔力が集まっていく――

セイバー「ぐっ…約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

二つの光がぶつかり巨大な爆発を起こす

セイバー「バカな……相殺しただと――」

英雄王「それが風に聞く聖剣か、その聖剣に免じて少しだけ本気を見せてやろう――」

英雄王が空中から奇妙な剣を取り出す

視えない、あの不気味な剣の構造だけは視えない――

英雄王「起きろエア――」

英雄王の持つ剣が風を纏い周囲から魔力を集めてゆく

セイバー「約束された (エクス)――」

それに負けじとセイバーの聖剣にも魔力が収束されてゆき――

英雄王「天地乖離す、開闢の星(エヌマ・エリシュ)」

セイバー「――勝利の剣(カリバー)!!」

両者同時に剣を振り降ろした

巨大な光と光がぶつかり合う

しかしさっきとは違い、セイバーの聖剣の光はあっさりと飲み込まれた

どさっと背後に何かが落ちる音がする

士郎「せい……」

鎧の一部が砕け、腹部から大量の血を出しながらセイバーは立ち上がる

セイバー「敵から――目を離さ、ないでくだ…さいシロウ!!」

英雄王「加減したとは言え、エアの一撃を受けてなお立つか」

セイバーの傷が塞がり、再び黄金の剣に魔力が集まっていく

英雄王「ほう…そういう事か。溜める時間をくれてやる、全力で来い騎士王!!」

アーチャーの持つエアという剣が再び魔力の暴風を起こし始める

肌に当たる空気だけで、そのエアという剣が先程のとは比べものにならない程の魔力を溜めているのがわかる

そしてセイバーの聖剣も――

聖剣が放つ黄金の輝きはそれだけで辺りを焼き尽くしそうだ

アーチャー「存分に貯えたか?ならば採点の時間だ、名高き聖剣の真の力を見せてみよ!!」

セイバー「言われるまでもない!!」

アーチャー「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!」

セイバー「約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

再び光がぶつかり合う、しかし聖剣の斬撃は徐々に飲み込まれ――

英雄王「む?」

セイバーは剣を振るうと共に聖剣の斬撃の中を一直線に進む

英雄王「死ぬ気かセイバー!!」

セイバー「――全て遠き理想郷(アヴァロン)!!」

英雄王「何!?」

セイバーの目の前に出され、真名を開放されたそれは――

世界を切り裂いたという剣の斬撃を全て弾く――

英雄王「――!!」

英雄王の攻撃を無視しながら一気に近づき、そして――

セイバー「――約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

英雄王目掛けて一気に聖剣を振り降ろした

巨大な爆発と共に発生した煙で視界が隠れる

イリヤ「一回目の宝具はただの目くらましだったってこと……」

士郎「やった…か?」

煙が徐々に晴れてゆき、立っている金髪の人影がうっすらと見える

士郎「セイバー!!やった…な……?」

ジャラジャラという耳障りな音と共にセイバーが逆さまに吊り上げられる

士郎「セイバー!!」

英雄王「耳障りだ雑種、そこで大人しくこの女が我の物となるのを見ておけ」

士郎「バカな…あの距離で――」

――何故アーチャーは鎧に亀裂が入る程度で済んでいるのか

セイバー「な…ぜ……?」

英雄王「お前の傷がすぐに治ったのでな。鞘があることとカウンターを狙ったのはわかった、ならば対応するまでよ」

セイバー「なるほど…最初から勝ち目はなかったというわけか……」

英雄王「どうしたセイバー、もっと抵抗してみせよ。それではあまりに退屈だぞ?」

セイバー「く……」

聖剣を四回使って魔力をほとんど使い果たしたのかセイバーは鎧も消えている

士郎「令呪を以て命ず、逃げろセイバー!!」

先程はセイバーに拒まれたがこの状況なら――

士郎「なん…で……?」

英雄王「無駄だ、天の鎖!!この鎖から逃れる事のできる者等存在せん。令呪で逃げるなどこの我が許すものか」

士郎「くそっセイバー!!」

弓と剣を投影し――

イリヤ共々、手足を鎖で拘束された

士郎「ぐ…!!」

英雄王「我の宝物庫に入る盗人というだけでも万死に値するというのに、その上薄汚い贋作者だと?」

士郎「っ!!」

イリヤ「あ……」

殺気だけで人を殺せる程の英雄王の殺気――

英雄王「存分に苦しんで死ぬがいい雑種」

鎖が一気に締まり、全身の骨が砕かれてゆく――

士郎「があああああ!!」

イリヤ「シロウ!!」

セイバー「シロウ!!やめろ英雄王!!私を好きなようにするがいい!!だからシロウだけは――」

士郎「だ…めだ……せい…ば…ぁっ!!」

英雄王「ふん…」

鎖から解放され地面に落ちる

英雄王はセイバーに近づいてゆき――

士郎「や…やめ……」

セイバー「……」

英雄王「……つまらん」

辺りに大量の血が飛び散った

士郎「あ…ああ……セ、セイ――」

締め上げていた物を失っい血まみれの鎖は地面に落ちる

そこには人影など見当たらない

しかし、血に染まった僅かな青い布きれが金色の粒子となり消えてゆくのだけは見えた

士郎「セイバァアアアアアアッ!!!!」

英雄王「全身の骨を砕かれまだ立ち上がるか、その心意気は認めてやらんこともないが――」

士郎「が――ッ!?」

体に飛んできた剣が突き刺さりそのまま地面に張り付けられる

イリヤ「シロウ!!」

英雄王「何を呆けている、さっさと開け。折角の五人目なのだからな、あの汚らしい偽者に奪われるぞ」

イリヤ「あ――――や、だめっ――」

イリヤは大きく震えた後地面に倒れこんだ

士郎「イリ…ヤ、てめえイリヤに何をしやがった……」

英雄王「さて、次は貴様の番か。薄汚い贋作者め、疾く消えるがいい」

士郎「くそっイリヤ――」

せめてイリヤだけは守る、その思いに反して体は全く動かない

そんな中で、英雄王の背後から大量の剣と槍が射出された

大量に射出された英雄王の武器は、同じく大量に飛んできた武器によって撃ち落された

英雄王「……どうやら貴様の他に盗人がいたようだな」

子ギル「盗人?何を言ってるのさ、これは僕の財宝でもあるんだよ」

英雄王「な――!?」

子ギル「それにしても堕ちたものだね、この僕の存在に全く気付かないなんてさ」

英雄王「……」

士郎「アーチャーが…ふた……り?」

子ギル「セイバーさんは間に合わなかったか、まあ弱かったってことだし仕方ないよね」

英雄王「――く」

子ギル「ん?」

英雄王「くくく…ふふふ…ふはーっはっは!!なるほど、斯様な奇跡に巡り合うとはな。これも我が王である証というわけか!!」

子ギル「やれやれ、本当に何でそうなっちゃったんだろうね。でも残念だけど君の相手をするのは僕じゃない……この我だ」

光に包まれアーチャーは本来の、大人の姿に戻る

アーチャー「貴様も我ならばわかっていよう?」

英雄王「ああ、問うまでもない。我は我であり、貴様も我だ。聖杯も中々に良い趣味をしている」

アーチャー「我は我自信が好きだが――」

英雄王「――同時に我は我自信が嫌いだ」

アーチャー「己自身であるが故に殺す事はできなかったが――」

英雄王「――二度とないであろう今ならば存分に殺し合える。これぞ正に――」

「「愉悦よな。くくくくく、ふははははははは!!」」

凛「五月蠅いヤツが二人になってより五月蠅くなったわね……」

アーチャー「遅いぞ雑種!!」

凛「ただでさえ魔力ほとんど残ってなかったのに、セイバーの聖剣四発で魔力がすっからかんなのよ」

英雄王「そこの贋作者がマスターというによくあれ程聖剣を撃てたと思ったが、そやつが魔力を提供していたか」

アーチャー「そのおかげで今の我は本気で戦えんが……貴様もエアを数回使って魔力がほとんど残っておらぬのだろう?」

英雄王「ここはお互い一旦出直すとしようではないか。我らの戦いには相応しい場を用意せねばな」

英雄王は笑いながら立ち去ってゆく

士郎「ま、待て……」

アーチャー「やめておけ雑種、お前ごときに何ができる。セイバーが守ったその命、無駄に散らそうというのなら我が消すぞ」

凛「それで、あんたの言ってた楽しみってあいつの事だったのかしら」

アーチャー「雑種、我との戦だ。万全の準備を整えよ、地下に二晩埋まれば十分であろう?」

凛「そうね、そのぐらいしないとあいつには勝てないかもしれない。でも臓硯達はどうすんのよ」

アーチャー「あちらの我が場を用意すると言ったのだ。我らの戦に相応しいのは決戦だ、あやつが仕留めてくるだろう」

凛「他人任せってわけ?」

アーチャー「あれは我だ。それにあれと我の違いは受肉してるかどうかだ」

凛「あいつが前回の聖杯戦争で受肉したってわけ?」

アーチャー「そうだ、だからヤツは魔力供給なしで戦えるが、我は雑種の魔力がなければ話にならん。行くぞ雑種」

凛「ちょ、ちょっと。イリヤとシロウどうすんのよ」

アーチャー「案ずるな、家に転送しておく」

士郎「うぐ――」

全身に走る痛みで目を覚ます

イリヤ「良かった、気がついたんだ」

士郎「イリヤ…一体何が――そうだ…俺のせいでセイバーが……」

イリヤ「シロウのせいじゃない、セイバーはリンの魔力のおかげで本来に近い実力を出せてた。ただ相手が強すぎたの」

士郎「骨折が治ってる…そうだ、イリヤはもう大丈夫なのか?」

イリヤ「うん。アーチャーに薬貰ったから、シロウの怪我もアーチャーが治してくれたのよ」

士郎「――あいつは……何者なんだ?見た目も喋り方もアーチャーとうり二つだった。それにあの鎖だってアーチャーが使っていたのと同じだ」

イリヤ「当たり前よ、だってあいつもアーチャーだもの」

士郎「偽物とかじゃなくて、本当にアーチャーが二人だって言うのか?」

イリヤ「ええ、リン達の会話から察するに敵の英雄王は第四次聖杯戦争で召喚されたアーチャーが受肉したものよ」

士郎「それで遠坂のアーチャーは今回の聖杯戦争で召喚されたアーチャーだってか?でも同じ時空に同じ存在が存在できるはずがない」

イリヤ「本来ならありえない。でもこうして実際に存在してる、きっとあっちは受肉してるからもう違うものとして世界に捉えられてるのよ」

士郎「同じ存在なのに違うっていうのか?」

イリヤ「そうね、例えばシロウが将来英霊になったとするでしょう?そのシロウは今のシロウと同じかしら」

士郎「英霊ってのはセイバーみたいな規格外を除いて、世界と契約しないとなれないんだろう?だったら同じじゃないんじゃないか?」

イリヤ「正解。人間のシロウと英霊のシロウは同じ魂でも別の物として認識されるから理論上だけでは同じ空間に存在できるわ」

士郎「つまり俺がもしまた聖杯戦争みたいのに出くわしたら違う自分と会う可能性もあるってことか」

イリヤ「そうなる可能性は限りなく0に近いけどね」

桜「先輩、気がつかれたんですか?」

士郎「桜」

桜「先輩ずっと寝ていたんですよ?」

士郎「日が変わってもう夕方になったのか…何かこんなのばっかだな」

桜「あ、ご飯食べられますか?お腹空いてますよね?食べやすいようにお粥作っておきました」

士郎「ありがとな桜」

桜「い、いえ、お役に立てて光栄です」

士郎「うん、美味い」

イリヤ「シロウ、リン達は明日の午前三時ぐらいあっちのアーチャーと戦いに行くらしいわ」

士郎「戦いに行くってどこで戦う気なんだ?」

イリヤ「さあ?私が聞いたのは終わるまで家で大人しくしてろって事だけよ」

士郎「じっとなんてしてられない。俺はセイバーの仇を討たないと」

イリヤ「そうね、シロウはきっとそう言うんじゃないかなって思ってた」

士郎「……ごめんイリヤ」

イリヤ「謝らないでいいよ、シロウはそういう人間だって嫌って程知ってるもの。あれ…桜は?」

士郎「さっきまでここにいたはずなのに……何処行ったんだ?」

突如部屋の電気が消え真っ暗になる

士郎「停電?ブレーカーが落ちたのか?」

イリヤ「違う!!」

臓硯「久しぶりじゃのう、衛宮の小僧」

士郎「間桐臓硯――」

臓硯「アサシン」

アサシン「……」

士郎「――投影、開始(トレースオン)!!」

臓硯「ほう、投影魔術か」

アサシンの一撃を何とか受け流す

士郎「逃げろイリヤ!!」

イリヤ「でも――」

士郎「こいつの狙いはイリヤの持ってる聖杯だ!!遠坂の家まで走れ!!そうすれば絶対に助かる」

イリヤ「う、うん!!」

アサシン「私から逃げられると?」

士郎「今までのお前の戦闘を見てればわかる、お前は他のサーヴァントと比べると弱い!!」

アサシン「ギ――」

臓硯「確かにお前さんがアサシンの攻撃をいなすというのは名案だが――あの娘から離れるべきじゃなかったな」

士郎「何――?」

走って行ったはずのイリヤは数メートル程離れたところで息を切らして座り込んでいる

臓硯「あの娘は聖杯になるため作られたからの、運動などの余分な機能はついておらん」

士郎「くそ――」

そして臓硯に気を取られたうちに既にアサシンはイリヤの心臓をその体内から抜き取っていた

聖杯戦争終わらせる予定だったけど、眠いから寝る
明日の更新でこそ聖杯戦争終わらせる

士郎「イリヤ――!!」

セラとリズの代わりに最期まで側で守り続けるとあの日誓ったはずなのに――

何故、自分はイリヤの側を離れてしまったのか

アサシン「魔術師殿」

臓硯「これがアインツベルンの聖杯か、ちゃんと五体入っているのお」

士郎「くっそお!!な――」

臓硯に殴りかかった士郎の拳が受け止められる

士郎「慎二――?でもお前は――」

臓硯「真っ二つになったはずなのに、か?そやつはもう死んでおる、ただの蟲の入れ物よ」

士郎「お前自分の孫を…人の命を何だと思ってやがる!!」

臓硯「利用するにもたいして役に立たなかったゴミじゃ、こうして使ってもらえるだけ有難く思うべきじゃろう?」

士郎「てめえ――」

臓硯「さて、お前さんにもう用はないが――邪魔されると面倒だ。ここで――何?」

窓を二つの人影が突き破って飛び込んでくる

士郎「何だ!?」

バゼット「……間に合わなかったようですね」

臓硯「これはこれは綺礼」

綺礼「バゼット、アサシンは任せよう」

バゼット「承知しました」

綺礼「マキリ臓硯よ、最期に主に懺悔をする気はあるか?」

臓硯「執行者の娘か――アサシン宝具を使いさっさと倒せ――」

アサシン「御意――妄想心音(ザバーニーヤ)」

アサシンの長い右腕の包帯がほどけ

確実に心臓を掴みとる必殺の毒手が伸ばされる

バゼット「それを待っていた――斬り抉る戦神の剣(フラガラック)」

臓硯「バカな――」

確実に勝つはだったアサシンは光を散らしながら消えてゆく

必殺の一撃は必殺のカウンターを前に敗れ去った

綺礼「相手が悪かったな」

言峰綺礼は間桐臓硯の頭を掴み、床に叩きつけ全身の骨を砕く

臓硯「そうか、あの執行者の武器は宝具――」

綺礼「私が殺す。私が生かす。私が傷つけ私が癒す。我が手を逃れうる者は一人もいない。我が目の届かぬ者は一人もいない」

言峰は臓硯を引きずりながら詠唱を始める

臓硯「カカカ…数少ない現存する宝具の使い手があんな小娘か。しかし明らかに後で放ったというに何故死んでおらん」

バゼット「どうせ死ぬ身だ、私の宝具フラガラックは因果を歪ませ相手が攻撃する前に既に当たっているという結果を生み出す」

臓硯「なるほど、斯様な仕組みか――」

慎二の皮を被った蟲が言峰に襲い掛かるが言峰はあっさりそれを倒す

綺礼「――許しはここに。受肉した私が誓う。――“この魂に憐れみを(キリエ・エレイソン)”」

間桐臓硯は跡形もなく消えた

士郎「言峰、今のは――」

綺礼「洗礼詠唱だ、マキリ臓硯のような霊体を殺すための術だ」

士郎「じゃあ臓硯は」

綺礼「今度こそ完全に倒したと言えるだろう。これは――」

士郎「返せよ、それはイリヤの心臓だ」

綺礼「……アサシンは持って行かれたか。この状態では無理もないか

士郎「聞いてるのか言峰」

綺礼「これが聖杯だ衛宮」

士郎「何だと?イリヤの心臓が聖杯だっていうのか」

綺礼「そうだ、この小聖杯に大聖杯を降臨させるのがこの聖杯戦争の目的だ」

士郎「それがどうやったら聖杯に変わるっていうんだ。サーヴァントは後はアーチャーしか残ってないはずだ」

綺礼「聖杯の降臨は大聖杯の出現する場所でしかできん。最も回路から離れたこの状態では機能せんがな」

バゼット「回路?それを魔術回路に繋げるのですか?」

綺礼「そうだ、そして代わりの入れ物に君は選ばれた」

バゼット「が――」

言峰はバゼットの心臓を貫き、そこにイリヤの心臓を置く」

士郎「何を――」

綺礼「見てわからぬか?彼女に聖杯となってもらったのだ」

バゼットの肉体はその中から溢れ出た肉塊に埋もれてゆく

士郎「これが聖杯だっていうのか――」

綺礼「そうだ、正規の物ではないがな」

士郎「バゼットから手を離せ」

綺礼「彼女は既に死んでいる、これは聖杯だ」

士郎「それでも、聖杯はサーヴァントにしか触れられないんだろう。だったらそれは遠坂の物のはずだ」

綺礼「ふむ、いつ私にサーヴァントがいないと言った?」

士郎「いないはずだ、他にサーヴァントが召喚されてるはず――」

英雄王「聖杯を手に入れたか綺礼」

士郎「な――」

英雄王「また会ったな薄汚い贋作者」

綺礼「勝手に出歩いてるとは思っていたが、こやつらに会いに行ってたのか」

英雄王「勘違いするな、我はセイバーに会いに行っただけよ」

士郎「何で……」

綺礼「おや、紹介が遅れたな。これが私のサーヴァントだ」

士郎「前回の聖杯戦争の最後――」

綺礼「そうだ、私は衛宮切嗣と戦い敗れた。そして私は聖杯により蘇り、ヤツは聖杯によって殺された」

士郎「聖杯に殺された……?」

綺礼「そうだ、ヤツは聖杯を否定したのだ」

士郎「聖杯は願いを叶える願望器なんだろう、何でそれが切嗣を殺すんだ」

綺礼「確かにあれは純粋に人の願いを叶える願望器だった。だがこの肉塊を見ろ」

士郎「っ!!」

いつか感じた不快感

影の中で感じた呪いの塊――

士郎「まさか――」

綺礼「そうだ、あの影は臓硯が盗んだ聖杯の欠片から放たれた聖杯の中身の一部だ」

士郎「聖杯の中身は全部人を殺す呪いだってのか」

綺礼「そうだ、第三次聖杯戦争の最中にこの聖杯の中身は汚染された泥となった」

士郎「汚染された泥――」

十年前、衛宮士郎の人生を狂わせた厄災の映像が頭に浮かぶ

綺礼「気付いたか。そう汚染された聖杯が起こしたのがあの十年前の火災だ」

士郎「っ!!」

十年前に突如発生した消えない火災、500人以上もの人々が死んだあの厄災を――

綺礼「中身があの泥だと気付いた衛宮切嗣は聖杯をセイバーに破壊させたのだ」

士郎「それを知っていてお前は聖杯を呼ぶつもりなのか」

綺礼「今聖杯の中の物は産まれようとしている。それを見届けるのが私の役目だ」

士郎「それがどんな惨劇を産むかわかっているのか」

綺礼「無論だ、あれが産まれて生き残る事が出来るのはそこの英雄王ぐらいだ」

英雄王「これを大聖杯の元へと持ってゆくとしよう。いつまでもここで肥大されると面倒だ」

士郎「待て――」

英雄王の宝物庫から何か巨大な物が飛び出た

その衝撃で衛宮邸は吹き飛ぶ

士郎「ごほっ……何だあれ」

飛行艇のような物が肉体を吊るしながら山の方に飛んでゆく

綺礼「咄嗟の判断でイリヤスフィールの死体を護ったか…む?その宝石は――」

士郎「お前には関係ない」

綺礼「それは私の師、遠坂時臣が凛に遺したものだ」

士郎「遠坂の親父の形見?」

綺礼「どのような経緯を経てお前の手にあるのかは知らんが、それは一生肌身離さず持っておいた方が良い」

士郎「そんな事お前に言われたくない」

綺礼「柳洞寺は知っているな?」

士郎「当たり前だろう」

綺礼「聖杯の降霊の地はあそこだ。逃げると言うのなら止めはせんがな」」

言峰はそう言って瓦礫と化した衛宮邸を去っていく

士郎「悪いイリヤ、全部終わらせてくるから……だからそれまで待っててくれ」

土蔵に布を敷きその上に彼女を寝かせ、戦の地へと向かう

柳洞寺階段下

士郎「この上にギルガメッシュと言峰が……」

凛「士郎!?どうしてここに――って聞くまでもないか。聖杯があそこにあるって事はイリヤが攫われたのね」

士郎「いや、イリヤは臓硯に殺された。今の聖杯は言峰が臓硯から奪ってバゼットに埋め込んだ物だ」

凛「そう、やっぱり綺礼はあの女を裏切ってたのね」

士郎「やっぱりってお前気付いてたのか?」

凛「まあね、バゼットは片腕がなかったでしょう?傷跡を見せてもらったけど、綺礼のやり方にそっくりだったのよ」

士郎「って事はランサーを奪ったのは言峰だったのか」

凛「そういう事、そして私の父親を殺したのもね」

士郎「なっ――?」

凛「アーチャーの宝物庫ってね、本当に色んな道具があるのよ。過去の映像を見れる物とかね」

士郎「遠坂お前――」

凛「時間がないわ、早く上に行きましょう。士郎は綺礼を倒すのと聖杯の破壊を手伝って」

士郎「でも俺は――」

アーチャー「セイバーの仇等をほざいて我の戦を邪魔をするというのなら容赦はせんぞ」

士郎「――わかった、聖杯を壊す当てはあるのか?」

凛「ないわ、今打てる最大火力の攻撃を叩きこむだけよ」

士郎「わかった」

凛「綺礼は昔聖堂教会の代行者をやってた強敵よ、正攻法じゃまず勝てない」

士郎「じゃあどうするんだ?」

凛「私が接近戦を仕掛けるから士郎は綺礼に何とか作って」

英雄王「待っていたぞ…我、いやアーチャーと呼ぶべきか」

アーチャー「好きにしろ、では二度と起こり得ん神話となる戦いを始めようではないか」

英雄王「言峰は奥にいる、聖杯を止めたいのなら好きにするがいい」

凛「行くわよ士郎」

士郎「わかってる」

大量の金属のぶつかり合うが止むことなく響き渡る

後ろを振り向くと何千という武器がぶつかり合っている

その中には一つたりとも同じ物は存在しない

凛「士郎早く!!」

士郎「ああ」

アーチャー、ギルガメッシュは宝物庫に自身も覚えきれない程大量の財宝を持っている

しかし、英霊ギルガメッシュの宝具は宝物庫の中に入っている無数の宝具ではない

召喚されたギルガメッシュが持っている宝具はただ一つ

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)と呼ばれる、バビロニアにある黄金の宝物庫に繋げる鍵剣だけである

その鍵剣は持ち主の宝物庫に繋がるだけのもの

ギルガメッシュの戦い方は宝物庫に繋げ、そこから投げるか、手に取り使うか――

しかし鍵剣は二つあっても、その存在が同じであるが故に繋がる宝物庫は一つ

故に片方が使う武器はもう片方は使えない

宝物庫に入っている物はこの世に一つしか存在しない物なのだから――

アーチャー「剣を撃つだけでは埒があかぬな」

アーチャーは剣を射出しながら手に取った剣でギルガメッシュに斬りかかる

英雄王「我らは同じ宝物庫を使い、思考も能力も同じだ」

アーチャー「故にどちらが先に強力な武器を出すか、またその武器に相性の良い物を出せるかが勝敗を決めよう」

英雄王がアーチャーの剣を砕き、アーチャーがすぐに手に取った武器でギルガメッシュの剣を砕く

英雄王「だが、今の貴様では我には勝てん」

アーチャー「何?」

英雄王はアーチャーと距離を取り、アーチャーの背後、柳洞寺の奥目掛けて光の斬撃を放つ

アーチャー「ふん」

アーチャーは巨大な盾でそれを防ぐが――

英雄王「そう、今の貴様にはそれが致命となろうよ」

懐に入った英雄王の一撃を剣への相性が良いように鎧の種類を変える事で何とかダメージを減らす

アーチャー「ぐ……」

英雄王「我は言峰がどうなろうと、いやこの街がどうなろうと気にしはせん、だが貴様はどうだ?」

英雄王が指を鳴らすと同時に冬木の街の上空に現れた爆弾が爆発する

それをアーチャーが出した盾や障壁で爆風から街を守る

そして街の方に気を取られたアーチャーに英雄王の斬撃が直撃し吹き飛ぶ

英雄王「それが答えだ。自身だけでなく周りを気にした戦い方では我には到底勝てん。周りを守ろうとする等、堕ちたものだな」

凛「綺礼!!」

綺礼「来たか。見たまえ、これが聖杯だ」

中空に穿たれた『孔』と、捧げられた一部を肉塊に埋まった女性の姿

その孔からは大量の黒い泥が噴き出ている

士郎「お前、聖杯の中の物は産まれようとしてるって言ってたな。その泥がお前が見届けたかったものか」

綺礼「勘違いしてもらっては困る、この泥は産前の余興に過ぎん。この泥が全て零れ落ち、あの孔が完全な物となって初めてあれは誕生するのだ」

凛「そう、じゃああの孔が完成する前に壊してしまえば良いって事よね」

綺礼「あれを人の手で壊す等できるものか、アーチャーを先にこちらに連れてくるべきだったが――」

耳を劈くような爆音と共に一瞬視界が白に染まる

凛「今のは――」

綺礼「お前のギルガメッシュでは、あのギルガメッシュに勝つ事は出来ん」

言峰が腕を伸ばすと共に聖杯の泥が襲い掛かってくる

士郎「――投影、開始(トレースオン)」

それを投影した剣で何とか弾くが、次々と襲い掛かる泥の触手に対処しきれない

士郎「ぐ……」

綺礼「投影魔術か、中々変わった物を使う」

凛「この…うじゃうじゃと気持ち悪い」

綺礼「あまり無暗に動くな凛、マキリ臓硯が人を食わせ過ぎたためかこれは生物に中々に敏感でな」

凛「この――」

凛は数十の宝石を投げ泥を弾くが、またすぐに別の泥が襲い掛かる

眠いから寝る、また終わらなくてすまない
三連休中には絶対に終わらせる

凛「ああもうしつこいっ!!」

凛は宝石で泥を撃退しながら、言峰への攻撃もする

綺礼「随分大振舞だな凛、それほど多くの宝石を使ってしまって大丈夫か」

凛「お生憎様、魔力を込めた宝石の貯蔵は十分よ!!」

大量の宝石による爆撃の嵐が続く

凛「士郎!!」

士郎「わかってる――投影、開始」

持ってきた弓で投影した矢を放つ

綺礼「ふん――」

言峰がどこからか取り出した黒鍵で矢を弾いたのと同時に凛が懐に入り込む

凛「――Anfang、Gros zwei」

魔術で強化された拳を言峰に向けて放つが、あっさり受け止められる

綺礼「お前に体術を教えたのは私だ、勝てると思ってたのか」

言峰は片手で凛の打撃を、片手で士郎の矢を全て受けながら泥を操る

士郎「ぐああっ!?」

泥に触れた腕に焼けるような痛みが走る

凛「士郎!!」

綺礼「余所見をしている場合か?」

凛「まず――」

アーチャー「くくくくく、ふはーっはっはっ!!」

瓦礫の中から出てきたアーチャーは、鎧が壊れ体中のいたるとこから血を流しながら笑い続ける

英雄王「自分の姿がそれ程面白いか」

アーチャー「おかしいともよ、これ程の傷を負うのは友との戯び以来だ」

無数の槍が襲い掛かり英雄王は跳んで躱す

そこにアーチャーが剣を振り降ろし、大量の氷が地面から生えながら進み柳洞寺を破壊する

英雄王「どこを狙っているアーチャー、狙いとはこう付けるモノよ!!」

英雄王の振るった剣から出た炎の塊がアーチャーの肉体を焼く

アーチャー「……調子に乗るな雑種!!」

アーチャーは神々しく光る白い剣を取り出す

英雄王「聖剣か、ならばこちらは魔剣だ」

白と黒の光がぶつかり合い巨大な爆発が起こり、アーチャーは地面に叩きつけられる

英雄王「どうしたアーチャー、出力が落ちているぞ。その剣の威力はそんなものじゃあるまい」

アーチャー「貴様は常に慢心がある、本気を出していても心の隅の方にわずかにな」

英雄王「なに?ぐああ!?」

英雄王の鎧が砕け、全身に火傷の後ができ、全身から血が噴き出す

アーチャー「貴様は我だ、我とて宝物庫の中身全ては把握しておらん。ならば此度の余興で我が初めて知った道具は貴様は知らんのだろう?」

英雄王「ぐ……おのれ!!」

アーチャー「先ほどの聖剣はただの目眩ましよ」

英雄王「その武具……自分の受けたダメージをそのまま返すか」

アーチャー「発動がいつ起こるかわからん上に、同じ相手には二度使えんという扱い辛いものだがな」

アーチャー「さて仕切り直しといこうか」

英雄王「一度きりと言ったか、同じ傷となったところで我の有利は変わらん!!」

アーチャー「お前はあの聖杯がどのようなモノかよく知っているのだろう?」

英雄王「一度飲み込まれそのはらわたを見たのだからな」

アーチャー「ならばあの呪いの塊で何を企む」

英雄王「人間共の一掃よ。この世界は楽しいがな、同様に度し難い。我が治めていた頃と違い無価値な人間が増え過ぎた」

アーチャー「ふむ、確かに今の世は人間共に酷く優しい世界になったものだ」

英雄王「それを我自ら手引いてやろうと言うのだ。それをお前はつまらぬ雑種共のために戦おうだと?挙句に薄汚い雑種と贋作者の下に降るとはな」

英雄王は先程のアーチャーの攻撃の跡に一瞬目をやる

アーチャー「はっあまり我を笑わせるなよ雑種」

英雄王「ざ、雑種だと――」

アーチャー「それに勘違いしてもらっては困るな。我はこの街の人間がどうなろうと知った事ではない」

英雄王「雑種…」

アーチャー「この冬木は我が雑種の管理する地だ。つまりこの地は我の物だ、他の雑種が荒らす等許すはずがなかろう」

英雄王「貴様……一度ならず共二度もこの我を雑種呼ばわりしよったな!!」

アーチャー「それにな、この我が奴らに降るだと?そんな事あり得るわけなかろう」

英雄王とアーチャーが同時に鍵剣を展開し、宝物庫に手を伸ばす

そして英雄王のみが剣を手に掴む

英雄王「我の方が早かったなアーチャー、つまらぬ雑種共諸共消え失せるがいい――天地乖離す、開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!」

凛「まず――」

聖杯から伸びた触手が凛を捕らえる

綺礼「終わりだ凛、今の器では少し力不足なのでな。お前程の才能の塊であれば良い餌となるだろう」

言峰の黒鍵が凛の胴体を切断しようと襲い掛かる

――その時

綺礼「っ!?」

地面を裂きながら突き進む氷山が言峰に襲い掛かる

綺礼「ぐ――」

言峰が避けると共に氷塊は凛に巻き付いていた泥の塊を全て砕く

士郎「アーチャーの攻撃!?そうだ――投影、開始」

今までとは比較にならない速さで弓と剣を投影し

士郎「――同調、開始」

自分のイメージで作った物だ、構造なんてものは完全に把握している

それならば後は壊れないように変更するだけだ

弓は壊れないよう頑丈に、剣は矢として飛ばしやすい形にして放つ

士郎「偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)」

綺礼「これは――」

投影も強化も失敗した、言峰の実力なら簡単に弾き落とせるだろう

しかし投影が上手く行かなかったというのは幻想(イメージ)が既に壊れているという事

ならば簡単だ、修行の時と同じ――

士郎「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」

偽・螺旋剣に宿る魔力を利用した壊れた幻想の威力は凄まじかった

もし仮に投影が完璧な出来だったとしたら結果は変わっていただろう

しかし投影の強化に失敗した偽・螺旋剣には本来の十分の一の魔力すらなかった

士郎「ぐ…」

無茶な投影と強化による肉体への負担で地面に倒れこむ

綺礼「驚いたぞ衛宮士郎、まさか宝具にそのような使い道があったとはな。替えのきく投影品だからこその技か」

片腕が無くなった事を気にせずに言峰はさも愉しそうに言う

綺礼「見たまえ少年、先程の技で小聖杯が壊れ孔が閉じてゆく」

士郎「くそ……」

起き上がろうとするが、魔力を使い果たしたため体に力が入らない

綺礼「喜べ、君は見事聖杯による厄災を止めた」

倒れた士郎にとどめを刺すべく言峰は黒鍵を振りかざす

凛「läßt――!!」

綺礼「な――」

青白い火花と共に短剣が言峰の胸に突き刺さる

肉片は飛ばず、出血もない

だがそれで戦いは終わった

綺礼「この剣は――」

凛「アゾット剣、アンタが父さんを殺し、私にくれた剣よ」

綺礼「……そうか、あれから十年か。私も衰えるわけだ――」

宝物庫にある宝具で威力を最大にまで上げ、全魔力を込めたエアの一撃

その一撃で辺りは砂埃が立ち込め、人影等一切見えない

英雄王「跡形なく消えたか。聖杯と言峰はやられたか……贋作者と遠坂の娘を消しに行くとしよう――」

英雄王の手足に鎖が巻き付く

英雄王「な――どういうつもりだ鎖(とも)よ――いや、まさか――」

アーチャー「その慢心が命取りよ、慢心も王として必要だと思うがな」

英雄王「何故だ――何故全力のエアを受けて立っている」

アーチャー「お前も見覚えはあるだろう?」

英雄王「せ、セイバーの鞘――」

アーチャー「ただの贋作だがな、それなりの仕事はしたと言えよう」

アーチャーの手の中から鞘h崩れ去ってゆく

英雄王「あの贋作者――だがそれはセイバーの魔力がなければ発動せんはずだ!!」

アーチャー「我の雑種はセイバーの魔力の供給を行っていた。そしてあやつは本来保存できぬはずの魔力を宝石に移して保存ができる」

英雄王「――宝石にセイバーの魔力を遺していたというのか」

アーチャー「我の雑種とあの小僧は中々に優秀でな、見ていて飽きん。鎖(とも)よ、あれも我だからと加減する必要はないぞ」

英雄王「ぐ……はな…せ、鎖よ」

アーチャー「凛が言うには道を踏み外した友を殴ってでも戻すのがこの国のやり方だそうだぞ」

一瞬緩みかけた鎖が再びきつく締め上げる

英雄王「おの…れえ!!」

凛「アーチャー!!」

アーチャー「そちらも終わったか。雑種、二度と見れぬであろうエアの真の威力を見せてやろう――天地乖離す、開闢の星!!」

アーチャー「聖杯戦争もようやく終わりか……」

アーチャーの姿が薄くなり始める

士郎「アーチャーお前――」

アーチャー「一時的とはいえ聖杯は貴様が破壊したのであろう?褒めて遣わす」

士郎「そりゃどうも」

凛「アーチャー、もう戻っちゃうのね」

アーチャー「聖杯がなくなり契約も切れたのでな」

凛「……そう」

アーチャー「それにこの世界に我自信との戦に勝る余興は存在し得ぬだろう」

凛「そうでしょうね、じゃあ――」

アーチャー「だが、貴様がどうしてもというのなら条件付で契約して残ってやらん事もない」

凛「いや別に――」

アーチャー「残ってやらんこともない」

凛「ああもう!!そんぐらい残りたいから契約してくださいって素直に言いなさいよ!!」

アーチャー「誰もそんな事言っておらん!!」

凛「あっそ、それじゃあ――」

子ギル「ちょっと待ってよ」

凛「子供になってまで言いたくないわけ?」

子ギル「彼も素直じゃないので許してください」

子ギル「彼は主従関係なくアーチャーって呼ばないっていう条件なら契約して欲しいそうです」

凛「主従関係なく?」

子ギル「はい、つまりお姉さんを彼と対等の存在として認めるという事です」

凛「へえ、そんぐらい自分で言いなさいよ。女々しいわね」

アーチャー「ふん、この我と対等に話す事を赦すと言っているのだ。泣いて喜ぶがいい」

凛「いやそんなに嬉しくないし」

アーチャー「なっ!?」

凛「それよりアーチャーって呼ぶなってどういう事よ」

アーチャー「我はその呼び名が好きではないのでな。英雄王でも英雄王様でもギルガメッシュ様とでも好きに呼ぶがいい」

凛「じゃあギルで、子供のアンタもそう呼んでって言ってたし」

ギル「ふん、特別に赦す」

士郎「じゃあ俺は何て呼べばいいんだ?」

ギル「言っておくがふざけた呼び名だと即首をはねるぞ」

士郎「俺にだけ何か厳しくないか!?」

ギル「当たり前だ。凛は我が認めた人間だが、お前はそこらの雑種だ」

士郎「ぎ、ギルガメッシュで?」

ギル「……馴れ馴れしいが、聖杯を壊した褒美として許してやろう」

凛「ああもうくたくた…」

士郎「それじゃあ早く帰ろう、帰ってイリヤの墓を作ってやらなきゃ…」

凛「切嗣さんと同じ墓に入れてあげたら?親子なんだし」

士郎「イリヤも心の底では親父の事好きだったみたいだもんな……」

聖杯戦争が終わってから一か月

聖杯戦争の後は俺の家が潰れてたり、桜の家が跡形なく消え去ってたりしたけど
アーチャー、いやギルガメッシュの宝物で俺の家だけは直った

遠坂と桜は遠坂邸で一緒に住んでるみたいだけど頻繁に俺の家に来る

士郎「なあ遠坂、頼みがあるんだけど」

凛「無理」

士郎「はやっ!?」

桜「私に出来る事なら私がやりましょうか?」

士郎「いや、これは遠坂にしか頼めないんだ」

桜「――そうですか。姉さん、話だけでも聞いてあげたらどうですか?」

凛「桜が言うならしょうがないわね、で?」

士郎「俺を弟子にして欲しいんだ」

桜「」

凛「何で?」

士郎「俺はイリヤもセイバーも救う事ができなかった。俺はもっと強くなりたい」

凛「そう、無理」

士郎「なんでさ!?普通もう少し考えてくれても――」

凛「だって私明後日から日本にいなくなるもの」

士郎「――はい?」

士郎「いなくなるってどういうことだよ!?」

凛「そのまんまの意味よ。時計塔に行くの、知ってるでしょ?」

士郎「あの魔術の名門だよな?」

凛「そ、ほんとは中学卒業してすぐ行くつもりだったんだけど、聖杯戦争があったから延期してたのよ」

桜「ちなみに私も行きます」

士郎「桜も!?」

桜「はい、……間桐家の当主として」

士郎「あ――、でも桜は魔術を今まで教えてもらってないんだろう?」

桜「そうですけど――その…私は姉さんがいないと生きていけない体なので」

士郎「――へ?」

凛「確かにそうだけど誤解を招く言い方しないの!!桜は臓硯のせいで治療をしなきゃいけないのよ」

士郎「治療!?それってどんなのだ!?」

桜「それは…その……」

凛「そんなこと聞かない!!それで他の連中に任せるわけにもいかないし、私が付きっきりになるってわけ」

士郎「そうなのか…」

凛「あ、私の従者としてなら枠が空いてるけど、それで良いなら弟子にしてあげるわ」

桜「そんな、だったら私の従者でも――」

凛「あんたはまだ魔術使えないでしょ、で、どうするの?」

士郎「ああ、頼む遠坂」

凛「そ、よろしくね士郎。あ、時計塔に行く前に忠告、絶対に私と二人きりのとき以外魔術を使わない事。ホルマリン漬になるわよ」

士郎「笑えない冗談はよせよ……え?本気で?」

――三年後

時計塔で授業を受けながら、遠坂も空いてる時は遠坂の指導というのを繰り返し三年

たまにギルガメッシュに評価をしてもらったりとして投影の制度はかなり上がった

そして魔術の修行じゃない時間は――

「シェロー?紅茶お願いできるかしら」

士郎「どうぞ、ルヴィアさん」

ルヴィア「あら早いですわね」

士郎「そろそろ飲みたい頃じゃないかってさ」

こうして執事のバイトをしている

ルヴィア「もうシェロ!!私の事はなんでもお見通しなのですわね!!」

士郎「ちょルヴィアさん!?」

凛「アンタらは何やってんのよ!!」

ルヴィア「あらミス・トオサカ、水羊羹は見つかって?」

凛「ちゃんと買ってきたわよ!!来なさい士郎!!」

士郎「ちょっ遠坂!?」

ルヴィア「ちょっとミス・トオサカ!?まだ仕事中でしてよ!!」

凛「もうとっくに時間過ぎてるわよ!!」

ルヴィア「あら?本当ですわって待ちなさいミス・トオサカ!!シェロを置いていきなさい!!」

凛「シェロシェロうっさいわね!!置いていきなさいも何も士郎は私の弟子よ!!」

ルヴィア「全くもう何故シェロはこんな貧乏女を…」

凛「何よこの成金女!!」

士郎「落ち着け遠坂」

凛「全く、何で私があんな女の下でバイトしなきゃなんないのよ」

士郎「でも元はと言えば遠坂がルヴィアさんと喧嘩して何度も講堂潰したからじゃないか」

凛「うっさいわね。こうなる事がわかってたら綺礼相手に百個以上宝石使うんじゃなかったわ」

士郎「請求額が億を普通に超えてるのなんか初めて見た。ギルガメッシュも呆れ果ててたしな」

凛「あいつ株とか会社経営とかで儲けてるくせに金貸してくんないのよ」

士郎「ギルガメッシュの経営してる会社ってロンドンにもあるんだろう?そこ紹介してもらえば良かったんじゃないのか?」

凛「我らの関係はあくまで対等だ、我の僕になるような真似は許さんって」

士郎「だったらもうルヴィアさんのとこで働くしか返せないじゃないか。だいたいルヴィアさん良い人なのに何で喧嘩するんだよ」

凛「良い人?あの金髪縦ロールのどこに良いところあんのよ」

士郎「たくさんあるじゃないか。あ、同族嫌悪か?」

凛「あ?」

士郎「うわっ、何だこの縄!?」

凛「私の魔力を練りこんで作った物よ、私以外に絶対ほどけないわ。そこの川で頭を冷やしなさい」

士郎「ちょっと待て遠坂ここ橋の上ってか今冬!!洒落になんないから一旦おちつ――」

凛「うっさい!!」

士郎「うわぁあああああああ!?」

凛「人払いの結界張ったから誰も助けに来ないから、しばらくそうしてろっての」

ギル「でかいぞこれは……来たか川の主よ!!って何だお前か雑種」

士郎「た、助かった……へっくしゅん!!」

ギル「大方また口を滑らせて凛の機嫌を損ねたか、もう三年もの付き合いとなるのに学ばんヤツだ」

士郎「わわわ悪いギギルガメッシュ、ななにかあたたたかいものを……」

ギル「ふむ、そうして震えている貴様を見るのは実に愉快だ。断る」

士郎「そこをなんとか……」

ギル「そうだな…家に帰ってさっさと風呂に入れば良かろう」

士郎「ここ結構流されてるから遠いってゆうか、俺縛られてる」

ギル「手のかかる雑種だな、ほどけんのなら斬ればよかろう」

士郎「その手があったか――投影、開始」

縄の間に複数の刃を投影して縄を切断する

ギル「全く貴様のせいで折角の釣りが台無しだ、少し勝負しようではないか。貴様が勝ったらその服を乾かしてやる」

士郎「今雪積もってるんだけど!?釣りしてる間に凍え死ぬぞ!!」

ギル「人間とは何とももろい生物よ、では温泉としようではないか」

足元の地面がお湯と変わり服のまま落ちる

士郎「うわあ!?あつ!?」

ギル「なんだ今のうちに服を脱げなかったのか」

士郎「何公共の場で複を脱いでるんだよお前は!?」

ギル「凛の人避けがある、気にする必要はあるまい」

今日はここまで

翌朝

桜「38度7分、今日はゆっくりしてくださいね?」

士郎「すまない桜…」

桜「こちらこそごめんなさい、姉さんにはよく言い聞かせておきますから」

士郎「昨日の記憶がないんだけど――」

桜「先輩はびしょ濡れで玄関に倒れてたんですよ。それで姉さんに聞いたら川に投げたって」

士郎「何か意識を失う前にギルガメッシュがいたような気がするんだけど」

桜「ギルガメッシュさんなら警察に捕まったとかで姉さんが怒ってましたよ」

士郎「捕まった?そういや遠坂は今いないのか?」

桜「はい、姉さんは工房に行きましたよ」

士郎「あの宝石剣ってヤツか、だいたいの仕組みはわかったらしいけど」

桜「先輩は時計塔への入学を断ったんですよね?」

士郎「ああ、遠坂も今年で卒業だからな。あと数か月でここを出ないと」

桜「姉さんはここに残るそうですし別に出なくても姉さんの弟子は続ければいいんじゃないですか?」

士郎「俺は旅に出ようと思うんだ、親父がやってたように世界中を周って困ってる人を助けたい」

桜「そんな――」

士郎「桜は卒業した後どうするんだ?」

桜「冬木に戻るつもりです。やっぱりあそこが一番落ち着きますし、それに兄さんのお墓もありますから」

士郎「そっか、桜も今年卒業なんだろう?」

桜「はい、姉さんが在学の間だけの特別入学でしたから」

士郎「そっか。そういやあいつ主席卒業候補な上に時計塔の臨時講師に選ばれたんだっけ?」

桜「はい、それにあの魔道元帥ゼルレッチの直属の弟子入りが確定したらしいです」

士郎「ルヴィアさんとどちらか一人って言われてたからなあ、遠坂とルヴィアさんの大規模な喧嘩がなくなったのはそれでか」

桜「今度大規模な破壊をする喧嘩をしたら破門な上に時計塔を追い出されるらしいですよ」

「伝言を頼まれるとはな、大師父様もご自分で言いに行かれればよいものを――遠坂、いるか」

凛「ああもうふざけんな!!」

「?、遠坂、入るぞ」

凛「あんたはもう何で勝手にそういう事するわけ!?」

ギル「何故我が一々貴様に確認しなければならん」

凛「だからって外で全裸になってて警察の世話になるってどういう事よ!?」

「誰かと揉めているのか?あれは――英雄王!?」

ギル「本来なら我の裸体を拝謁できた事を光栄に思うべきなのだ、今の世の法はおかしいと思わんか?」

凛「おかしいのはアンタの頭の方よ!!」

ギル「やはりここは我が再び統治して全裸で外を歩くのを認めさせるべきか」

凛「そんなのを喜ぶのはあんたみたいな一部の変態だけよバカ!!」

ギル「ぐふっ…脇腹を――!!貴様最近手を出す頻度が増えてるぞ!!」

凛「あんたの言動がどんどん酷くなってるからでしょうが!!」

「いや、気のせいか。あのような者が英雄王のはずがない。あの征服バカが破れたあの英雄王があんなのであるはずがない――」

ギル「む?そこにいるのは誰だ」

凛「エルメロイ先生!?」

エルメロイ「あー、遠坂、工房に連れ込んでいるそれは何者だ?従者の少年とは違うようだが」

凛「あーこの人は私の親戚で――」

ギル「誤魔化す必要等ないぞ凛、そやつは我の正体を知っている上で問いかけている」

凛「え?」

凛「正体がわかってるって?」

ギル「我がサーヴァントだと気付いているという事だ」

エルメロイ「その魔力量と醸し出す雰囲気、人間ではありえんからな」

ギル「ふっ、いくら抑えようと我の溢れる王気(オーラ)は隠しきれんようだな」

エルメロイ「やはり英雄王であるようだな……」

ギル「貴様征服王の臣下であった少年か、あの情けない小童がよくもこう成長したものだ」

エルメロイ「お前は四次から残ったのか、それとも前回の記憶を引き継いだのかどちらだ」

ギル「それが我に問いかける態度か。あちらの我が成そうとしたこともあながち間違いではなかったようだな」

凛「ちょっと話が全く見えないんだけど?」

ギル「前に我の宝物で第四次の記録を見たであろう?こやつは前回のライダーのマスターだ」

凛「えっ、あの?四次のマスター…あ、こいつは私が召喚したサーヴァントです」

エルメロイ「五次のサーヴァントというわけか。では英雄王よ、四次の記録を見たとはどういう事か教えてはくれまいか」

ギル「我の宝物の中には我が見た物を保存する物があってな、第四次の我が見た物を全て知ったということよ」

凛「五次は四次のギルガメッシュが受肉していて、それで中身が同一だったんです」

エルメロイ「受肉、あの聖杯による災害の中で受肉を果たしたというのか!?やはりあの聖杯は早く解体するのが賢明か……」

凛「それにしても……うわあ…人って十三年でここまで変わるんだ……」

エルメロイ「待て、お前は何を見たんだ!?」

凛「そ、そんなことより先生?ここに来たって事は何か大切な御用があるんでしょう?」

エルメロイ「そんなこと!?ゴホン、大師父からの伝言だ。卒業後の弟子入りについての話なのだが――」

凛「ただいまー、士郎、もう熱は大丈夫?」

士郎「ああ、大分マシになったよ」

凛「やり過ぎたとは思ってないけど、あのバカに巻き込んで悪かったわね」

士郎「何かギルガメッシュが温泉出したとこまでは覚えてるんだけど」

凛「人避けの結界の効果が及ばないとこまで士郎は流されたの、そこでギルが全裸になったから通報されたのよ」

士郎「それで捕まったって桜が言ってたのか」

凛「そうよ、士郎は咄嗟に逃げ帰ったみたいだけど、あのバカは開き直ったから警察に持ち帰られたってわけ」

士郎「それ色々まずいんじゃ」

凛「ちゃんと警官達の記憶は改竄してきたわよ」

士郎「それはそれで問題な気もするけど」

凛「ところで桜は?」

士郎「今食材を買いに行ってるよ」

凛「そ、……桜から電話で聞いたけど世界を旅して周るんだって?」

士郎「……ああ」

凛「そ、気をつけなさいよ」

士郎「怒らないのか?」

凛「薄々そんな気はしてたし、止めたってどうせ無駄でしょうしね」

士郎「ごめん」

凛「謝る必要はないし、止める気もないけど――条件があるわ」

士郎「条件?」

凛「そ、無茶はしない事、時々冬木に戻って桜に顔を見せる事、必ず生きて冬木に帰る事」

士郎「……できるだけ努力する」

凛「あとたまに冬木に帰る時だけで良いから私の家の掃除しといてくれない?」

士郎「別にかまわないけど、桜は冬木に帰るんだから遠坂の家に住むんじゃないのか?」

凛「衛宮君の家は桜の家でもあるんでしょ。私の家より衛宮君の家にいた方があの子も居心地がいいでしょ」

士郎「そういうもんか?でも俺に頼むって遠坂はたまに冬木に戻ったりしないのか?」

凛「多分十年以上こっちの世界には戻ってこないんじゃないかしら」

士郎「こっちの世界?」

凛「私が弟子入りした大師父が第二魔法の使い手で、色んな平行世界を旅して回ってるの知ってるでしょ?」

士郎「ああ、遠坂が三年間ずっと研究してた宝石剣も平行世界がどうとか言ってたし」

凛「それで卒業したらすぐに大師父について平行世界の旅に出る事が決まったのよ」

士郎「それ大師父が魔術師の弟子としてやったら精神が狂うとか噂になってなかったか?」

凛「宝石剣の出来が大師父が作ったヤツに8割型近づいた私なら大丈夫だろうって感じね」

士郎「そこまで出来上がってたのか?」

凛「遠坂に伝わる宝箱とか、アーチャーの宝物の中にもそれに近いモノがあったしね」

士郎「宝箱?」

凛「大師父が第二魔法を応用して作った宝箱なんだけど、若干平行世界に繋がってるのよ」

ギル「我の宝物を一つ隠したから探してみるのも面白いかもしれんぞ」

凛「あんたの宝物?」

ギル「ああ、凛は絶対他人に見られたくないものだろうし、小僧はネタにできるだろうよ」

凛「ちょっ!?何よそれ!?」

ギル「まあ他の世界で機会があれば探してみるがいい」

士郎「何だよ他の世界って」

ギル「言ってしまえば楽しみが減るだろう?」

凛「楽しみ以前に私が見られたくないモノって何よ!?」

ギル「そう言えばカレイドステッキだったか?」

凛「」

ギル「あれとは中々趣味があいそうだった、あの老人に渡しておいたからこの先使う事になるかもしれんな」

凛「」

士郎「遠坂?何なんだそのカレイドステッキって」

凛「ちょっと大師父と話してくるわ」

士郎「飯はどうするんだ?」

凛「いらない」

士郎「何か嫌な事あったのか?」

ギル「さて、我もそろそろこの国を経つとするか――小僧」

士郎「何だ?」

ギル「もう会う事はないと思いたいが言っておく――お前が持っている凛の宝石、如何なる理由があろうと肌身離さず持っておけ」

士郎「何だよ急に、会う事はもうないって」

ギル「我も忙しい身なのでな。ではな小僧、自ら選ぶ苦行の道だ。存分に足掻くがよい」

士郎「何だったんだあいつ?」

時計塔を出てから七年の月日が経った

この冬木に戻ってくるのも実に十年ぶりだ

士郎「桜と藤ねえは元気にしてるかな、藤ねえは十年間一切帰らなかった事に文句を言うだろうけど」

この七年間、修行をするという事はなかったが実戦でかなり鍛えられた

困ってる人を助けるため、世界各地で魔術を使う相手だけでなく、銃や剣を使う相手とも戦ってきた結果だ

今回冬木に戻ってきたのも再開を楽しもうというわけではない

今度の敵の勢力が巨大過ぎるため、一時の休養と後悔のないよう別れの挨拶をしにきたのだ

士郎「遠坂もこっちに帰ってきてたら良いんだけどな……それにしても人が少ないな」

いくら平日の昼間だとしても通行人の数が少なすぎる

十年前はこの時間でも学生や休憩中の会社員でこの辺は混雑していたはずだ

自分の記憶違いだろうか、それとも十年の間に何かあったのか、急に不安が押し寄せてきて一人の通行人に訊ねる

士郎「すみません、久しぶりに帰ってきたんですけど、ここってこんなに人通りが少なかったですか?」

「ひっ!?……あ、ああ、君は暫くこの街を離れてたのかい?それなら知らないのも無理はない」

士郎「何かあったんですか?」

「連続殺人と神隠しだよ」

士郎「神隠し?」

「神隠しも同じ殺人鬼の仕業だって話だけどね、この5年でもう500人近くもの人が死体で発見されて、ここ数か月で150人程行方不明だ」

士郎「警察は調べてないんですか?」

「捜査してた警察はたくさん死んだよ、一時期自衛隊も投入されたが死人が多すぎて撤退したんだ」

士郎「自衛隊も?」

「悪い事は言わないから早くこの街から去った方がいい、冬木の外じゃこんな現象は起きてないらしいから」

士郎「――そうなんですか、ありがとうございました」

今日はここまで

家に着くまで結局他に誰とも出会わなかった

士郎「商店街はシャッターすら閉まってたな……ただいまー。……誰もいな――」

大河「し―――ろう!!」

士郎「うわあ!?」

大河「もう十年も連絡してこないんだから!!心配したんだからね!?」

士郎「ただいま藤ねえ、相変わらずだな」

大河「おかえり士郎、士郎はおっきくなったわねえ。それに筋肉も大分ついてるじゃない」

士郎「そういや桜は今出かけてるのか?」

大河「あ……」

士郎「――桜に何かあったのか?」

大河「……帰ってくる途中人が全然いなかったでしょ?」

士郎「ああ、連続殺人とかが起きて、行方不明者も多いって聞いた」

大河「その……桜ちゃんもね、二か月前から行方不明なのよ」

士郎「な――!?」

大河「三年ぐらい前から桜ちゃんずっと体調崩していてね?それで毎日看病に来てたんだけど、二か月前に朝来たら急にいなくなっちゃってたのよ」

士郎「藤ねえの料理が嫌で逃げ出したって事は?」

大河「失礼な!!ちゃんとうちのお弟子さんに料理は作ってもらってたわよ。それにいなくなったとき靴は残ってたのよ」

士郎「出かけてないのにいなくなったって事か?」

大河「そう、警察に連絡して調べてもらったんだけど、外部からの侵入の後はないから靴を履かずに出ていったか、例の行方不明事件じゃないかって」

士郎「行方不明になる人達って何か共通があるのか?」

大河「全員が夜中にいなくなるって事だけね。家にいるとか外にいるとか年齢性別は関係ないみたい」

士郎「夜か……」

大河「調べてみるの?」

士郎「ああ、こんなの知って放っておけない」



士郎「必ず夜って事は人目を避けている、そして警察や軍隊も対処できなかったって事は魔術師の可能性が高い」

そして何故魔術師がそのような事をしているかとなれば、十年前のキャスターと同じく、魔力を集めるためだろう

地面に手を付き周囲の魔力を探る

士郎「……やっぱり魔力の残滓は残ってないか、そんなもん残してたらとっくに片付けられてる」

そうとなればやはりここは地道に探すしかないだろう

士郎「なら――投影、開始」

鉱石で出来たフクロウを四つ投影する

これは遠坂が視察や探索によく使う使い魔を自分でも使えるように改造したものだ

遠坂の下で三年と旅に出てから七年で、魔力の消費量は増えるが剣以外の物も投影できるようになってる

士郎「頼むぞ」

鉱石の鳥達は四方に飛び去る

士郎「念のため厄除けの結界も張っておくか?いや、そんなことしても警戒されるだけか」

それにまだ初日だ

五年間も潜んで、教会や協会に見つかっていない相手をそう簡単に見つけれるはずがない

士郎「桜が攫われたってので気が逸ってるな」

焦って動いたところで状況を悪くしかしない事はこの七年で身に染みて思い知った

士郎「そうだ、教会に言峰の後に来た人がいるはず…話だけでも聞きに――」

柳洞寺の方面に放った使い魔が破壊された

士郎「まさかこんな早く――」

山の中

男「教授!!何か飛んでた怪しいの落としましたよ!!」

教授「怪しいの?」

男「はい!!使い魔っぽかったので!!」

自分が気付かなかったのにこの男は気付いたのかと相変わらず才能だけはあると思うが――

教授「馬鹿かお前は!?使い魔だったのなら術師にこちらの居場所がばれるだろう!!」

男「あ」

教授「お前は今年でいくつだ」

男「27ですよ?教授、もうボケ始めちゃったんですか?」

教授「馬鹿かお前!!そういう事を言ってるのではなくてな……はあ」

教授は不肖の弟子の馬鹿さに呆れ溜息をつく

男「教授もう疲れたんですか?やっぱり歳――」

教授「フラット!!」

男「は、はい!?」

フラットと呼ばれた男は姿勢を伸ばす

教授「術者がこちらに向かってるはずだ、早くこの場を去るぞ」

フラット「待ってくださいよ絶対領域マジシャン先生!!」

教授「死ね!!」

夜になるまでに改造を施しておいたバイクで柳洞寺のある山に辿りつく

士郎「まだ使い魔がやられてから5分程度だ、まだこの辺りにいるはず――」

「死ね!!」

山の中から出てきた年配の男が怒鳴る

そしてそのすぐ後ろの男から使い魔を倒した物と同じ魔力を感じる

士郎「あいつらがこの事件の犯人か!?」

男「敵襲!?教授お年なんだがら下がってください!!」

教授「おい待て――」

教授と呼ばれた男の静止を無視して男は魔弾を放つ

士郎「――投影、開始!!」

一瞬で短剣を投影して魔弾を弾き、組み伏せた男の喉元に押し当てる

男「な――」

教授「投影魔術だと…いや、あれは投影とは違い中身があるというのか……?」

士郎「動くな。大人しく誘拐した人達の居場所を教えろ、抵抗するなら今ここでその首をはねる」

教授「誘拐――待て、何か勘違いをしていないか?」

士郎「勘違い?」

教授「私はここで起きている事件を解決するために時計塔から派遣された者だ」

士郎「え?時計塔?」

教授「そこの者は私の不肖の弟子だ、離してやってくれ」

教授「私はロード・エルメロイⅡ世だ。こいつは弟子のフラットだ」

フラット「どうも、フラット・エスカルドスです。気軽にフラットで呼んでください」

士郎「エルメロイ?遠坂の先生だった人――」

エルメロイ「遠坂の知り合いか、いや待て。確か遠坂は従者を連れていたな」

士郎「はい、俺は遠坂と一緒に時計塔に行ってました」

フラット「そういや遠坂さんは基本魔術すらまともに使えない奴を何故か弟子にしてるって噂があったっすね」

エルメロイ「なるほどその投影魔術故にか」

士郎「エルメロイさんはこの山で何を?」

エルメロイ「此度の事件はこの地の聖杯によるものだ」

士郎「な――聖杯は十年前に破壊したはずだ!!」

エルメロイ「……君も聖杯戦争に参加していたらしいな。君が壊したのはあくまで小聖杯だ」

士郎「それはわかってる、でも小聖杯がなければ大聖杯の降霊はできない」

エルメロイ「そうだ。つまり、小聖杯が今この地に存在しているという事だ」

士郎「アインツベルンは潰れた、小聖杯を作る事ができる人は存在しない」

エルメロイ「一人だけ存在する。マキリ臓硯は知っているだろう」

士郎「臓硯は十年前に言峰が殺したはずだ」

エルメロイ「何?」

フラット「え?でも一昨日戦った魔術師は間桐臓硯って名乗ってましたよね?」

エルメロイ「言峰…言峰綺礼か、確か聖堂教会の代行者を務めていた事もあった程の実力者か」

士郎「臓硯は魂を蟲に移して生きてたとかでその魂を言峰が洗礼詠唱ってヤツで倒したんだ」

エルメロイ「洗礼詠唱、霊体に対して有効な数少ない術か。それから逃げ切れるとは到底思えんか」

フラット「それ一部だけじゃなかったんじゃないっすか?」

エルメロイ「何?」

フラット「魂の一部だけを入れた蟲を動かしといて、本人は安全な場所に隠れてたんじゃないですかね?」

エルメロイ「ふむ…君は間桐の工房の位置を知っているか?」

士郎「十年前の場所なら知ってますけど、そこは遠坂が完全に壊しましたよ」

エルメロイ「そこでいい、何かしら繋がる物が残ってるかもしれん」

士郎「わかりました、こっちです」

フラット「そうだ遠坂君」

士郎「へ?」

フラット「あれ?何か俺おかしな事言いましたか?」

エルメロイ「何故彼の名が遠坂だと思ったんだお前は」

フラット「え?だって遠坂さんと一緒に時計塔に来てたみたいだし、それにその首からかけてる宝石、遠坂さんのでしょ?」

士郎「確かにこれは遠坂の親父の形見だけど」

フラット「ほら、それにさっき遠坂さんと同じ偵察の魔術使ってたし、遠坂さんと結婚して当主になったんじゃ?」

士郎「勘違いだ。俺は遠坂と結婚してない、それに確かに今遠坂の家の管理を任せられてるけど別に当主ってわけじゃ――」

エルメロイ「代理の当主というわけか。では遠坂、間桐の工房まで案内してもらおうか」

士郎「いやだから……はあ、今はそんな事を話してる場合じゃないか」

エルメロイ「ここか、見事に何もないな」

フラット「大きい穴はありますけどね。うわっ、底が見えないっすよこれ」

士郎「間桐の家は地下を蟲蔵、工房として使っていたんだ」

エルメロイ「それで地下から根こそぎ消し去ったというわけか」

士郎「ここに残ってるのなんて遠坂の術式ぐらいだ」

エルメロイ「術式?何の術式だ」

士郎「詳しくは俺も知らないけど、確か人が近づかないようにするってのと地脈を弄るとかなんとか」

エルメロイ「地脈を弄る?二十年前と冬木の霊脈がずれているのはそれが原因か?」

士郎「二十年前?」

エルメロイ「私も君や遠坂凛と同じく聖杯戦争に参加していた事がある」

士郎「第四次聖杯戦争……まさかライダーのマスター!?」

エルメロイ「そうだ、よくわかったな。いや、そういえば遠坂が前に英雄王の宝物で見たと言っていたか」

士郎「ああ、それに四次で他に生き残ってるのはいないし」

エルメロイ「そういえばそうだったか。そんなことよりも遠坂の術式は何処に仕掛けてある?」

士郎「この穴の底だ。第五次の聖杯戦争が終わってからすぐに仕掛けた物だ」

エルメロイ「一度この穴に入ったか。深さはどのぐらいだ?何を目的としたものか一度この目で確かめたい」

士郎「30mぐらいだったと思う」

エルメロイ「そのぐらいなら何とか降りられるか」

士郎「俺も一緒に降りる。これが関係あるっていうなら俺も知らないと――」

「久しぶりですね。先輩」

士郎「桜!?良かった無事だったんだな、いったい今までどこに行ってたんだよ?」

桜「……」

士郎「藤ねえだって心配してたんだぞ――桜?」

桜「――Es erzählt」

エルメロイ「下がれ!!」

士郎「ぐ――」

後ろに飛び退きながら咄嗟に投影した短剣が砕け散る

桜「へえ、面白い芸当をするじゃないですか先輩」

士郎「お前は……誰だ?」

いつぞやの感覚を思い出し、鼓動が早くなる

桜「やだなあ先輩、間桐桜ですよ」

士郎「ふざけるな、お前が桜のはずがない。だって――」

桜「聖杯の泥や影と同じ感じがするから、ですか?」

桜の周りに黒い影の巨人が複数立ち上がる

士郎「っ!!」

エルメロイ「な――!?」

士郎「……十年前のあの影は臓硯の魔術なんかじゃなくて――お前…だったのか」

桜「ホント先輩は鈍いですね。ようやく気がついたんですか?」

士郎「ここ数年起きてるっていう殺人事件や誘拐事件は――」

桜「全部私がやった事ですよ先輩」

士郎「何でそんなことを――」

桜「魔力が足りなかったからですよ」

黒い影の巨人が地面に沈み、桜の周りの草木が枯れていく

エルメロイ「魔力を吸い取っているのか?このような場所でそれ程の魔術を使うとは……」

桜「魔術の秘匿、ですか?そんなの私には関係ないですし、第一もうこの辺りには人は残ってませんよ」

士郎「――残ってない?」

桜「ええ、さっき全部呑みましたから。見ますか?」

地面の影から生きた人間の手足や頭が一瞬だけで、助けを求めながら再び沈んでいく

士郎「――ッ」

桜「知ってますか先輩、魔力を一回で全部奪って殺すより、こうやって生きたまま徐々に魔力を吸った方がたくさんの魔力が手に入るんですよ?」

士郎「桜お前――」

桜「今は数百人の人が中にいるんですよ?勿論退屈はしないように目一杯可愛がってあげてますよ」

士郎「いったい何があったんだっていうんだ。何でそこまでして魔力を集める必要がある、早く街の皆を開放するんだ」

臓硯「何、ただ単に生贄が足りなかっただけの事よ」

士郎「臓硯…!!」

臓硯「それに説得しようなんて無駄じゃ。それに桜の心など残っておらんわ」

士郎「どういう事だ!?」

臓硯「聖杯の中はサーヴァント七体分の魂と言う魔力の塊よ。その偽の聖杯はアサシンしか正規の聖杯から取れなかった」

士郎「桜が聖杯だと!?」

臓硯「ああ、遠坂の娘はそれに気づいておったようじゃがな。だからアサシンの魂に意識を奪われないように鍛えた」

士郎「そのために時計塔に桜を連れて行ってたってのか」

臓硯「確かに一つの魂だけならそれで何とかなったじゃろうな」

士郎「どういうことだ?アサシン以外の、五人のサーヴァントはイリヤが持って行ったんだろ?」

臓硯「カ、カカカ、忘れたか小僧。あの聖杯戦争にはもう一人サーヴァントがいただろう!!」

士郎「まさか四次のギルガメッシュ!?」

臓硯「英霊の座に戻る前に、儂の魂のように英雄王の魂は蟲に入れて保管していたのだ。敗北した後じゃったから捕らえるのは楽じゃった」

士郎「保管?まさか――」

臓硯「そう、桜が時計塔から戻ってきた後に桜に入れたのだ。アインツベルンの小娘も自我を長時間保つのは四人が限界じゃった」

士郎「セイバーがやられた後にイリヤが眠ってばっかだったのは――」

臓硯「そう言う事よ。それにギルガメッシュの魂はサーヴァント千人分と同等じゃからな。もう中に桜の魂の入る場所等ない」

士郎「て…めえ!!」

臓硯「怒るのなら十年前の自分を怒るんじゃな。あの頃ならまだ助けられたじゃろうよ。行くぞ桜」

桜「はいお爺様」

士郎「待て――」

エルメロイ「深追いはやめろ」

士郎「でも――」

エルメロイ「相手は聖杯だ。今戦うには戦力が不足している、万全の準備をせねばただ無駄死にするだけだ」

士郎「くそ……」

ギルの魂って人間にして数十万人分
サーヴァントにして3人分じゃなかったっけ?

>>276
何か混ざってた、すまぬ。三人分に訂正

エルメロイ「おそらく間桐臓硯達がいるのは大聖杯の眠る円蔵山の大空洞だろう」

フラット「聖杯を壊せるかもしれない礼装を取り寄せて明後日の昼頃届くと思うので、動くのは明後日の夜にしましょう」

士郎「明日の夜まであのまま桜を放っておけっていうのか!?」

フラット「……残念ながら彼女は――」

エルメロイ「あれを助けるというのは無理だ。これ以上犠牲を出したくないのなら彼女ごと聖杯を壊すのが一番だ」

士郎「ふざけるな!!そんなことさせるものか」

エルメロイ「では君には他に何か良い案があるというのか?」

士郎「それは――」

フラット「まあ知り合いを殺すってのは気が引けるでしょうし、別に来なくて良いっすよ」

エルメロイ「元から我々二人で片づける予定ではあったからな」

士郎「ふざけるな、他人に任せて自分は安全なところになんて死んでもできるもんか」

エルメロイ「ならば明後日の夜にここに来い。邪魔をしないというのなら連れて行こう」

士郎「桜は殺させない」

フラット「でもどのみち彼女はそう長くないと思いますよ?」

士郎「何?」

フラット「だって間桐臓硯は不老不死を求めて魂を移しまくって生きながらえてるんでしょ?聖杯と一体化した肉体なんてほっよくわけないじゃないっすか」

士郎「なっ――」

エルメロイ「成程、あの老人の狙いは聖杯と一体化した朽ちぬ肉体か」

大空洞

臓硯「そろそろ頃合いか、いやまだ安定するまでは待つべきか……」

士郎「間桐臓硯!!」

臓硯「お?もう追って来たのか。一人で来たようじゃな」

士郎「お前に桜の体は渡さない。そして聖杯は破壊して、桜も街の皆も助ける!!」

臓硯「桜、あれは一応魔術師だ。そこらの人間よりはましな魔力を持っておるぞ」

桜「ふふふ、行きますよ先輩」

黒い影の巨人が現れ士郎に襲い掛かる

士郎「――投影、開始」

白い短剣を投影し弾き飛ばす

臓硯「ほう、単純な剣術だけなら綺礼を越えてるかもしれんの。じゃが――」

影の巨人がもう一体現れ、二体がかりで襲い掛かってくる

士郎「――投影、開始」

先程の白い短剣と同じ形の黒い短剣を投影する

――干将・莫耶

この二本の短剣は対となる夫婦剣である

旅をしている最中に寄った家で見せてもらったそれは、担い手のいない宝具である

とある刀匠夫婦が最高の作品として作り上げたそれは、自分の投影のあり方と同じである

そして投影にかかる負担が少なく、両方を装備している間は対魔力・対物理があがる

片方の巨人を斬り伏せ、もう片方の攻撃を受けた剣が砕ける

そして剣が砕けると同時に新しいものを投影する

臓硯「く…桜!!」

影の巨人が六体に増え襲い掛かってくる

臓硯「カカカカカ、これなら対処しようがないじゃろ?」

士郎「ふん――」

双剣を巨人目掛けて投げつけ、数体を倒し臓硯の元に走り寄る

臓硯「焦ったか?まだ二体残っておるぞ?終いじゃ」

士郎「ああ、そっちがな!!」

新たに投影した剣で影を斬りつけるのと同時に、引き寄せられるように戻ってきた双剣が臓硯を両断する

臓硯「がは――じゃが無駄じゃ。儂の本体は他の場所に――」

桜「そうか、お爺様がいるから影が思うように動かないんだ」

臓硯「な――やめろ桜!!」

桜は自分の胸に腕を突き刺し、体内から蟲を取り出す

士郎「桜の中に蟲?」

桜「さようならお爺様」

蟲「や、やめろさく――」

桜の手によって蟲が潰されるのと同時に士郎の前の臓硯の身体が崩れ散る

士郎「桜の中に本体を隠していたのか……」

桜「さあ先輩、これで邪魔者はいなくなりましたよ」

士郎「くっ――!?」

影が今まで以上の速さで突っ込んでき、防ぎきれずに脇腹を貫かれる

士郎「が――ああ」

体内に流れ込んでくる呪いが肉体に激痛を与える

動きが止まったところに影達の追撃がき、まるでボールのように跳ね回る

士郎「ぐ…あ……ごふっ!1」

桜「あははははは!!どうしたんですか先輩!!まだまだこっちは本気を出してないんですよ!!」

影の槍は簡単に投影した双剣ごと貫いてくる

士郎「はあ……はあ……」

桜「ねえ先輩、もっと楽しませてくださいよ」

士郎「――ッ!?」

無数の影の槍が襲い掛かる

桜「もっと耐えてくださいよ先輩」

士郎「ぎ――あ―――」

桜「私の痛みはこんなものじゃなかった私の苦しみはこんなものじゃなかったもっともっと辛かった!!」

影の槍が全身を切り刻む

士郎「さく……ら……」

桜「もう動けないんですか?それじゃあもういらないですね」

影が飲み込もうと伸びてくる

士郎「ここまで……なのか」

実力に差があり過ぎる

影に包まれたところで、視界が黄金に染まった

辺り一面の眩しいぐらいの黄金の光

影の表面とは違い、それは呪いの塊等微塵にも思えない

前に影に触れた時は嫌悪感と吐き気しか感じなかったが

全身を包む黄金の光は何処か安心感があった

このまま影に飲み込まれて死んでしまうとしてもこれなら別に――

――待て

闇じゃなく黄金?

「おい、いつまでぼさっとしてるつもりだ雑種」

聞き覚えのある声に完全に閉じた目は一気に開くが、闇の中に急に現れた光に目が眩む

桜「何で貴方がここに――」

黄金の光を纏いながら突如現れた男に忌々しそうに桜は呟く

それを無視して男は士郎に声を掛ける

「我に目が眩むのは当然の事だが、今はそのようなときではあるまい」

士郎「うるせえ、お前のその鎧が眩しすぎるんだよ」

ようやく目が慣れてきて、今度はゆっくり目を開ける

そこには十年前から変わらない男が不敵な笑みを浮かべて立っていた

士郎「何でお前がここにいるんだよ」

「できれば二度とその不出来な顔は見たくなかったがな。サーヴァントギルガメッシュ、召喚に応じて赴いてやったぞ」

ギル「無様な姿よな雑種、この七年何をしていたのだ?」

士郎「何でここに?お前遠坂と一緒に旅してたんじゃなかったのか?」

ギル「凛の頼みでな。臓硯を倒した報酬としての令呪が残っていただろう、お前が死にかけた場合に発動するようになっていた」

士郎「遠坂が?でもどうやってこの場所を――」

ギル「凛のペンダントだ、それに残っていた僅かな魔力が座標となるようにしてあった」

士郎「あ…魔力がもう残ってない」

桜「姉さんが先輩のために……?私の事は助けてくれなかったくせに!!」

黒い巨人が大量に現れ、それをギルガメッシュは無数の剣を飛ばし一掃する

士郎「ギルガメッシュ、桜を助けてくれ」

ギル「その様で他人の心配か、そのまま放っておくと死ぬぞ?」

士郎「俺はどうなってもいい。だから桜を――」

ギル「そうか。だがそれはできん」

士郎「何で――」

ギル「令呪の命令は貴様が死にかけたら助けて回収する事だからな。撤退するぞ」

士郎「撤退!?待ってくれ――」

桜「逃がすと思いますか?」

ギル「ふん、一掃しろエア」

今日はここまで

エアの暴風はあっさりと影の巨人をなぎ倒す

その姿に目を疑う

何故ギルガメッシュはあの乖離剣を使っているのか

ギル「走るぞ雑種」

ギルガメッシュは士郎を肩に担ぎ、士郎が入ってきた洞窟の入り口に走る

それを逃がすまいと影の槍が無数に襲い掛かり、ギルガメッシュの鎧に弾かれる

桜「逃げ切れるとでも?」

桜が新たに出した影の巨人が滑りながら形を変えて走って追ってくる

士郎「あれはまさか――」

ギル「ほう、四次と五次のランサーを模造したか」

士郎「あれがサーヴァントだっていうのか!?」

ギル「聖杯の中の記録から影に形を与えただけに過ぎん。影のサーヴァントとでも呼ぶべきか」

士郎「あいつら武器みたいなの持ってるぞ!?」」

ギル「宝具も模倣したか」

士郎「宝具だって!?今このトンネルで使われると避ける場所はないぞ!!」

ギル「この鎧はそう簡単に貫けん。放っておけ、立ち止まり追いつかれる方が厄介だ」

士郎「でも相手の方が早い、このままじゃ追いつかれる。一回攻撃を――」

ギルガメッシュは走りながらでも背後に攻撃をできるはずだ

いや、先程も乖離剣を使わなくても王の財宝で簡単に倒せたはずなのだ

それを何故ギルガメッシュはしないのか――

二つの影の槍兵は簡単にギルガメッシュに追いつく

無理もない、相手は敏性の高いランサーの上に、ギルガメッシュは大の男を担いでいるのだ

士郎「もう逃げるのは無理だ、ここで戦おう!!」

ギル「舌を噛みたくなければ黙っておけ」

槍兵の連続の攻撃を自身の頭と士郎にだけは当たらないように避けながらギルガメッシュは走り続ける

確かにギルガメッシュの鎧の強度は凄まじいらしい

二人の槍兵の攻撃を既に100以上受けて軋み一つ上げていない

それでも――

士郎「このまま走り続けたってこいつらもずっと着いてくる。次に広い場所に出た時に迎撃するべきだ」

ギル「この二匹を潰したところで無駄だとわからぬか?まだここは敵の腹の中よ。すぐにまた出てくるだけだ」

攻撃をし続けても無駄だと気付いたのか二体の槍兵は攻撃をやめ足を止める

ギル「チッ――フェイカー、まだ投影は使えるか!!」

士郎「え?ああ、一本ぐらいなら――」

ギル「螺旋剣は一度見せてやったな、今すぐ作れ」

士郎「本物を取り出した方がいいんじゃないか?」

ギル「早くせんか!!」

士郎「――投影、開始」

ギル「寄越せ」

投影した偽・螺旋剣を奪いとると同時にギルガメッシュは前方に士郎を投げる

士郎「な――」

そして鮮血が舞うのが見えた直後、巨大な爆発が起きた

士郎「ごほっ…何が――」

爆風に飛ばされ地面に転げ落ちる

出口まで直線となる場所まで辿りついていたのか、既に外に出ている

爆心地から数m程近かったためか自分より遠くに黄金の鎧が転がっている事に気付く

士郎「おいギルガメッシュ一体何が――ッ!?」

這いながらそれに近づくに連れてそれがどうなっているのかに気付く

鎧は無傷、いや爆風で傷ついてはいるが、鎧に収まりきらなかった大量の血が漏れ出ている

士郎「お前それ――」

黄金の鎧が光の粒子となり消えると同時に、ギルガメッシュの腕と大量の血が落ちる

ギル「偽物とはいえあれの宝具は魔力を無力化する効能があったようだ、鎧を透いて腕を斬り落とすとはな」

士郎「さっきの爆発は」

ギル「お前の贋作とヤツの偽物の宝具がぶつかった結果よ」

士郎「お前体が――!?」

ギルガメッシュの身体が透け始めている

腕を斬り落とされたとはいえ、サーヴァントは既に死んでる存在だ

核が破壊されたとはいえ、このぐらいのダメージでサーヴァントが消滅するはずがないはずなのに――

ギル「驚く事はなかろう?ただ単に魔力が尽きたというだけであろう」

士郎「魔力切れ!?お前は戦いにほとんど魔力を使ってなかったじゃないか!!」

ギル「戦う前から魔力の残りは少なかったからな」

士郎「なんでさ、お前は遠坂と一緒に平行世界に行ってたんだから」

ギル「単純な話だ、我は凛には付いていかなかった」

士郎「それじゃあ魔力供給は――」

ギル「宝石に移した凛の魔力で行っていた。もっともそのストックは先程の戦いで使い果たしたがな」

士郎「でもアーチャーには単独行動のスキルが与えられてるんだろ?こんなすぐに消えるはずは――」

ギル「あれは聖杯が与えるスキルだ、そんなもの今の我には残っていない、今の我はエアを使わなければあれから逃げられん程しか魔力がない」

士郎「じゃあ桜を助けるのが無理って言った本当の理由は――」

ギル「王の財宝を開くのもあと三度が限界だ。それではあれに我の魂を与え強化してしまうだけだっただろうよ」

士郎「ギルガメッシュ……」

ギル「そのような顔をするな。元々聖杯の力なくしてサーヴァントを留めさしておくことに無理があったのだ」

士郎「それでも――」

ギル「答えを決めろ雑種。このままあの娘を放っておくのか、それとも貴様が片づけるのか」

士郎「……少し考えさせてくれ」」

ギル「一時間以内に答えを出せ。我は凛の屋敷で最後を迎えるとしよう。もっとも――あと数年も経てばお前でもあれを倒せるぐらいになるかもしれんがな」

士郎「俺は……」

放っておくわけにはいかない

しかしそうすると犠牲者が増えてしまうし、いずれ桜は殺されるだろう

桜を、街の皆を救いたい

でも今の俺にはその力がない

桜を救うためにあの二人がいない内に桜の元へと行ったというのに――

士郎「俺は……桜を救うことができなかった……」

血まみれの、歩くことさえ辛い重体で夜でも明るい街を徘徊する

最もどれだけ明るく変わっていても士郎には暗くしか映っていないが――

士郎「俺は――」

何て無力なんだ――十年前にセイバーやイリヤを守れなかった頃から何も変わっていない

力が欲しい、自分ではなく誰かを護る為に、今の無力な自分を変えるために――

吐血し前のめりにビルの柵にもたれながら、強く願った

その時、目の前にその異常は現れた

神々しい光の玉、それの周りを回る玉と同じように光を発するリング

それらから伸びた神々しい糸が士郎のカラダに絡みつく

その得体の知れないモノは、十年前に、夢で見た――

士郎「セイバーが契約したのと同じ――」

その糸を通しそれは士郎に問いかけてくる

死後の魂と引き換えに願いを叶えようと――

その問いかけに、答えはもう決まっていた。何も迷うことはない

英雄王は数年か待てば力を得られると言っていたが、

士郎「そんなの待っていられない。その間に何人の命が失われるっていうんだ。俺は…今すぐ力が欲しい」

何処からか、その先は地獄だと聞こえた気がした

士郎「それでも構わない。それで…誰も泣かずにすむのなら――」

契約は完了した

これで無力な衛宮士郎ではなくなるはずだ

もう誰も悲しまなくてもすむ

ギル「そうか、それが貴様の答か。ならば我はもう何も口は出さん」

士郎「ギルガメッシュ……」

ギル「死後を投げ打つ覚悟の者に何を言ったところで意味をなさんからな、もう現界するのも限界か」

士郎「……」

ギル「どうしたAUOジョークだぞ?存分に笑うがいい――それとも我の最後をそのような見苦しい顔で見届ける気か?」

士郎「……えっと、ギルガメッシュ。お前には今まで――」

ギル「おっと我としたことが宝物庫の鍵を開けっ放しではないか、だがこの様ではどこぞの贋作者に宝物を盗み見されようと誅すこともできん」

士郎「え?」

ギル「我はもうすぐ消えるが、宝物庫の扉は10分程は開くようにしておく。それまでに出なければ二度と出れんくなるぞ?その目で真偽の違いをよく確かめるがいい」

士郎「すまない・・・いやありがとうギルガメッシュ」

ギル「ふん、時間がないのだ。急げフェイカー」

士郎「ああ、じゃあなギルガメッシュ」

ギル「凛にもし会うことがあったら伝えておけ、貴様といた歳月は悪くはなかったとな」

士郎はギルガメッシュの宝物庫に飛び込む

その姿を眺めながら最古の王は呟く

ギル「いずれ我と貴様がどこかで戦う事もあるかもしれん、その時の我が10年前のあれのように堕ちていたなら――お前が倒せ」

士郎の姿が完全に見えなくなった後英雄王は辺りを見回し――

ギル「姿を現さぬか。忠義とは程遠い雑種だ――だが、此度の余興は…中々に楽しめたぞ凛――」

満足げにこの世界を去って行った

桜「先輩、傷も治ってないのにもう来たんですか?」

士郎「桜、もうこんなことは終わりにしよう」

桜「ええ、いい加減私もちまちま殺すのにも飽きてきちゃいましたから」

士郎「――投影、開始」

桜「今度はどんな武器を出すつもりですか?まあ何を出そうとさっきと変わりませんよ」

黒い影が現れ、サーヴァントの形に変化する

士郎「―― 体は剣で出来ている。血潮は鉄で、心は硝子。幾度の戦場を越えて不敗」

全身に体の奥から焼けるような痛みが走る

桜「いきなり何を言ってるんですか?」

士郎「――ただの一度も敗走はなく、ただの一度も理解されない」

それでも詠唱はやめずに続ける

桜「馬鹿にしてるんですか!?」

襲いかかってくる六体の巨人を背後から射出した宝具で薙ぎ払う

桜「な――?」

士郎「彼の者は常に独り、剣の丘で勝利に酔う――ッ」

全身に先程とは比べられない程の激痛が走る

契約はこの先得るであろう魔術回路を先取りしただけ

肉体はポンコツのままだ

この魔術は衛宮士郎の肉体では耐えきれない

だから耐えられるように肉体が変化する、痛みはソレの副作用だ

腕の一部の肌の色が変色している

痛みから察するに顔も所々変色してしまっているのだろう

桜「まさか詠唱!?肉体を変化させるほどの大魔術――」

士郎「故にその生涯に意味はなく――」

桜「させない!!」

影のサーヴァント達が跳びかかってくる

士郎「――その体はきっと…剣で出来ていた」

空間が歪む

大空洞から永遠に続くような荒野へと景色は変わり、辺り一面に無数の剣が突き刺さっている

――固有結界

術者の心象風景をカタチにして現実世界を侵食する大禁呪

桜「ここは――何をしたんですか」

襲い掛かってくる影のサーヴァントを、そのサーヴァントの武器と同じ物を投影して斬り伏せる

桜「な――」

士郎「偽物と贋作、どちらの出来がいいか比べるか?」

桜「ふ――ざけないで!!」

剣を持った影のサーヴァントが襲い掛かってくる

桜「それは第三次聖杯戦争の時のセイバー!!白兵戦で先輩に勝てるわけが――」

それを同じ武器、同じ剣技で倒す

桜「な――!?」

士郎「この世界では俺は武器の本来の持ち主の技術ごと模倣できる、形だけの奴で勝てると思うな」

桜「く――」

大量の影のサーヴァントが現れる

これは過去において冬木の地で行われた聖杯戦争で呼び出された者達か――

士郎「うぉおお!!」

影のサーヴァント達と斬り合いながら、同時に投影した剣を背後から射出して戦う

武器の貯蔵はギルガメッシュの宝物庫のおかでげ十分だ

ならばギルガメッシュと同じような戦法が取れる

士郎「ぐ――」

皮膚の浸食が広がる

この固有結界は内からも自分を壊そうとしてくる

桜「どうやら先輩はまだそれを――制御しきれてないみたいですね」

影のサーヴァント達と共に影の槍も襲い掛かってくる

士郎「早くケリを着けないと俺が持たないか――是・射殺す百頭(ナインライブズ・ブレイドワークス)」

バーサーカーの技を巨大な斧ごとコピーする

辺りの影は全て倒した

士郎「桜――!!」

現れ始めた影を剣を飛ばして倒しながら桜に走り寄る

士郎「手荒くなるが我慢してくれよ」

桜「こ、来ないで――」

桜を救うには桜からあの汚染された聖杯を引き剥がすしかない

五次の小聖杯はイリヤの心臓だった

ということも桜を聖杯と結んでいるのも心臓なのだろう

それなら一度桜の心臓を破壊して、何か別のもので補うしかない

士郎「桜――うわっ!?」

足元の意思に躓きド派手に転ぶ

桜「ふ…ふ、ふふふふふ!!あわてさせないでくださいよ!!そうですよねえ?先輩は元々動けるはずがないんだから!!」

士郎「くそ…」

立ち上がれない

それもそのはずだ

先の戦闘で自力で歩けない程のダメージを負っていたのだ

限界等とうに超えていたのを気力だけで無理矢理動いていた

桜「今度は邪魔は入りませんよ先輩、安心してちゃんと死んでくださいね」

士郎「まだだ、まだやられるわけには――」

シロウ、何をぼさっとしているのですか。今がチャンスです

懐かしい声が聞こえた気がした

士郎「う、おおおおお!!」

桜「え――」

短剣で桜を貫く

桜「あ、ああ――」

士郎「さっきも言ったが手荒くなるぞ」

突き刺したままの剣で桜を切り裂く

桜「―――ッ!!」

声にならない叫びをあげて桜は仰け反る

素早く剣を消し、切れ目に腕を突っ込み桜の心臓をもぎ取る

そして反対の手に持った聖剣の鞘で桜の心臓を治そうとして

士郎「がはっ!?」

血が噴き出る

吐血しながら下を見ると、桜を斬ったのと同じ場所が同じ深さで斬られている

桜「偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)、俺が受けたダメージをそのまま共有する宝具だ。一回きりのだがな」

士郎「あ…あが――」

桜「まあ、心臓がなけりゃ生きていけないから心臓だけは治してあげましたがねえ?」

ガキンという音を立てて固有結界が崩れる

桜「時間切れかダメージ、これじゃあどっちで消えたかわかりませんね」

士郎「ぐ……心臓を破壊したってのに何で――」

桜「聖杯と私を切り離すって考えは良かったですよ?あと五年程早ければ、ですけど」

士郎「お前は…誰……だ」

桜「アンリマユっていうこの世全ての悪、聖杯そのものですよ」

世界と契約した今ならはっきりとわかる

先程まで微かにしか感じなかったサーヴァントの気配がはっきりと感じる

心臓を破壊したことによって完成したというより、隠れていたモノが出てきたという感じか

士郎「そうか…初めから桜はもういなかったんだ」

桜「初めからお爺様が言ってたでしょう?でも先輩にこの姿の私を斬れますか」

士郎「お前は桜の皮を勝手に被っただけの呪いの塊だ、それに見た目で騙すようなヤツは今まで嫌って程倒してきた」

桜「おお怖いですねえその目、――でもその傷で何が出来るんですか?」

聖剣の鞘があるのに傷がもう治らない

桜「共有って言ったでしょう?こちらの傷を治さない限りそれはどんな宝具を以てしても治りませんよ」

士郎「ならこちらが倒れる前にお前を倒せばいいだけだ」

桜「……それは五次のセイバーの鞘でしたっけ?」

影がセイバーの姿に変形する

桜「英雄王は不完全な模倣って言っていたがそれは少し違う。不完全な召喚といった方が正しいんですよ」

士郎「どうせ倒すんだ、どっちだろうと同じ事だ」

桜「セイバー、あの男を八つ裂きにしなさい」

士郎「――投影、開始!!」

影のセイバーの一撃を何とか防ぐ

桜「へえ、まだそんな力が残ってたんですか?でも――」

士郎「ぐ――」

攻撃を受け止めた衝撃で傷口が広がり出血が増える

士郎「早く終わらせないと、これ以上攻撃を受けるのはまずい……」

桜「早く終わらせる?接近戦に優れたセイバーにどうやって?現代の魔術じゃ傷一つつけられないのに?」

士郎「――体は剣で、ぐ――!?」

影のセイバーの突きをギリギリで躱す

桜「もう詠唱の隙なんて与えませんよ、厄介だってわかってるのに悠長に待つわけないじゃないですか」

士郎「くそ……」

必殺技は出すからには必ず倒さなければならない

当たり前の話だが、対策されてしまうため二度目はないからだ

固有結界の弱点は魔力消費が大きいということと、詠唱が長い事にある

魔術が強力になればなるほど、それを使うための詠唱は長くなる

固有結界は魔法の域に限りなく近く、本来人間が使えるような代物ではない

仮に死後の英雄となった自分であれば詠唱を短縮することはできるかもしれないが

生憎今の衛宮士郎は魔術師としてもポンコツな人間の身だ

片手間に詠唱したところで固有結界は発動しないし、第一集中せずにあの攻撃は避けれない

だが固有結界なしにあのアンリマユを倒すことなど到底できないだろう

ギルガメッシュの宝具を投影して詠唱の時間を稼ぐか――

いや、それは悪手だ。ギルガメッシュの宝具はあくまで原典であり螺旋剣等の一部の例外を除いて真名がない

真名がないという事は宝具としての真の威力を発揮できないという事だ

それでは時間稼ぎはできずに、無駄に魔力を消費してしまうだけだ

士郎「いったいどうすればいいってんだ……」

桜「セイバーだけじゃありませんよ」

無数の影のサーヴァントが再び現れる

士郎「――投影、開始」

投影の負担も魔力消費も少ない干将・莫耶を投影し投げる

桜「またそれですか?そんなものもう意味ありませんよ」

士郎「そうでもないさ、――投影、開ギ――ああッ――ぐっ!!」

肉体が軋みを上げると同時に、肉体を貫かれるような感覚に襲われ膝をつく

いや、実際に貫かれている。体の内側から

固有結界から漏れ出た剣が体内で投影されたのだ

桜「暴走?」

士郎「がはッ……」

吐血しながら激痛に耐え体の感覚を確かめる

大丈夫、内臓に致命的なダメージはない

むしろ投影されたモノと位置が良かった

全てを焼き尽くす剣の原典の投影品は共有によって開いた傷口を焼き、止血しながら肉同士を無理矢理縫い繋げた

桜「呪いをも焼く剣……でも、さっき以上にダメージを受けちゃいましたね先輩?」

桜、いやアンリマユは笑いながら近づいてくる

桜「せめてものの情けとして私自らとどめを刺してあげましょう。これで詰みです」

エルメロイ「――いや、まだだな」

桜「!?」

魔弾が降り注ぎ、桜は後ろに下がる

士郎「アンタ達、どうしてここに――」

エルメロイ「あれほど派手に戦っていて気付かない筈がなかろう」

フラット「もう、一人で突っ込むなんて無茶するんすかってええ!?何か体中焼けたみたいになってるっすよ!?」

それに目の色もうわっ剣が突き出てる!?、と騒ぐ弟子を押しのけながらエルメロイは桜を一瞥する

エルメロイ「成る程、あれは聖杯ではなくその中身だったというわけか」

フラット「本当は一戦目のときのもっと派手にぶつかってた時に来たかったんですけどね、撤退するみたいだったから次にあんたが動くの待ってた
んですよ」

エルメロイ「今回はすぐ来るつもりだったのだが我々が最初に見つけた入口は崩れていてな、他の入り口を見つけるのに手間どった」

桜「何先輩と楽しそうにお喋りしているんですか?」

士郎「アンタらは今ろくな武器がないんだろう?何で来たんだ」

フラット「遠坂さんを見殺しにしちゃうのも忍びないですし、もともと俺らの仕事ですしね」

エルメロイ「生憎武器はないが、少しぐらいなら戦える。伊達に時計塔で教授等しておらん」

士郎「だったらオレの詠唱の時間を稼いでくれ。あいつを倒せるのはオレだけ、いや俺があいつを倒さなきゃいけないんだ」

フラット「詠唱?」

エルメロイ「強力な魔術は詠唱が長い…良いだろう、フラット」

フラット「結界っすね?」

エルメロイ「違う。英霊に現代の人間が張った結界等意味がない」

フラット「ってことは戦うんすか!?」

二週間ぶりなのに短いけど今日はここまで
18連勤で書き溜めないんだすまない
再来週の三連休のうちどれか一日休めると思う(願望)からまた二週間後ぐらいに続き投下予定

フラット「サーヴァントって英霊ですよ!?わかってますか!?」

エルメロイ「当たり前だっ!!」

フラット「わかっていて英霊と戦おうなんて…やっぱりボケたんですか?」

エルメロイ「お前さっきから私を年寄扱いしていないか――ってやっぱりとは何だ!!」

フラット「だってこんな奴らと生身で戦うなんて正気の沙汰じゃないじゃないっすか」

エルメロイ「誰が生身で戦うと言った。我々は奴らの注意を彼から離すだけだ」

フラット「だからそんなのどうやって?」

エルメロイ「こうやってだ」

桜「ッ、影のサーヴァントが勝手に――!?」

フラット「こっちに向かってくる!?」

エルメロイ「あのバカに再び会うためにサーヴァントの研究は進めていてな。サーヴァントの好むフェロモンだ。泥を英霊に仕立て上げたのが失策だったな」

桜「だったら――!?何で私の体まで――」

エルメロイ「貴様は五次の英霊の魂をを体内に宿しているのだろう?そして一応はこの泥と同じ聖杯の中身でもある」

桜「だったらさっさと貴方達を殺して先輩を殺す」

フラット「うわっ泥のサーヴァントだけじゃなくて影まで!?影のサーヴァントもたくさん……どうするんですか教授!?」

エルメロイ「持ちこたえろ」

フラット「やっぱり戦うんじゃないですか!?」

エルメロイ「二体や三体ならば数分ぐらい何とか持ちこたえれると思ったのだが――」

フラット「二十体以上出てきてるじゃないっすか!!」

士郎「これを使ってくれ!!」

士郎が飛ばした巨大な二つの盾が二人の近くに落ちる

フラット「盾?おもっ――これ投げるってどんな腕力してるんすか!?」

エルメロイ「これは宝具――いや投影品なのか?しかしこれは前に見た短剣の投影品よりも――」

フラット「教授今はそんな事言ってる場合じゃないですよ!!」

影のサーヴァント達の攻撃を受けても盾は軋み一つ上げない

フラット「こんなの持ってるなら俺達いる意味ないんじゃ――」

エルメロイ「避けろフラット!!」

フラット「え?」

フラットが咄嗟に盾を手放して飛び退くと同時に盾が槍によって切り裂かれる

フラット「な――」

エルメロイ「四次のランサーの模造品か!!」

桜「そう言えば貴方は四次でライダーのマスターでしたね。奇遇ですね、元は私の体もライダーのマスターだったんですよ」

巨大な男の影が現れる

エルメロイ「まさか――」

そして男の影が笑みを浮かべると同時に周囲は砂漠へと景色を変え、無数のサーヴァントが出現する

エルメロイとフラットが影の相手をしてくれている

士郎「――I am the bone of my sword.」

詠唱の言語を変える

士郎「―― Steel is my body. and fire is my blood.」

本来、詠唱に使う言語を変える事になんて何の意味もない

士郎「――I have created over a thousand blades. 」

しかしこの固有結界だけは別だ

固有結界は己の心象風景をそのまま具現化する魔法に近い魔術

桜「何で…影が思い通りに動かない――」

エルメロイ「あの征服バカに会うためにサーヴァントについては一通り調べていてな、サーヴァントを惑わすフェロモンだ」

桜「だったら影のサーヴァントじゃなくただの影に――」

エルメロイ「無駄だアンリマユ、それがお前の一部である限り

士郎「――Unknown to Death. Nor known to Life.」

つまり、自分の精神状態によって発動するものが大きく変化する

士郎「――Have withstood pain to create many weapons.」

――投影、開始(トレース・オン)が普段の自分と魔術師の自分を切り替えるスイッチであるように

士郎「Yet, those hands will never hold anything.」

衛宮士郎という個体にとって、この言語は己を奮い立てるスイッチとなる

士郎「So as I play,――」

敵の固有結界が発動したのか景色が変わる

士郎「――unlimited blade works.」

一度砂漠に変わった景色が上書きされる

いや両者の心象風景が同時に存在しているのか

荒野と砂漠が対立するように広がり

両方の地に無数の剣が生え、両方の地に無数の影のサーヴァントが立っている

エルメロイ「固有結界!?人の身でまさか――いやそれよりも――やはりあれは征服バカの……」

フラット「教授?」

エルメロイ「いや何でもない、彼が魔術を発動させたのだ。我々には暫く出る幕はない」

士郎「桜、いやアンリマユ、十年前から続くこの戦いに決着を付けよう」

桜「ふふ……このサーヴァントはその男性対策だけじゃなく先輩の固有結界対策でもあるんですよ」

士郎「なに?」

桜「このサーヴァントの宝具の固有結界は宝具までは呼び出せないんですよ、でも――」

エルメロイ「そういうことか、まずい――!!」

無数の影のサーヴァント達が生えている剣を引き抜く

士郎「な――」

桜「自分の技で死んでください先輩」

影の剣達は引き抜いた剣を振るい――

ありとあらゆる斬撃があらゆる方向から襲いかかった

桜「あっけなかったですね先輩」

フラット「そんな――」

エルメロイ「いやまだだ」

フラット「え?」

エルメロイ「彼の固有結界は消えていない」

斬撃による砂埃の中から、無傷の士郎が現れる

桜「馬鹿な――あの攻撃で何故」

士郎「忘れたかこの世全ての悪。今のオレにはセイバーがついている」

桜「セイバーの鞘!?」

士郎「壊れた幻想」

影の英霊達が持っている剣も、地面に生えた剣も全て爆発し辺り一面を吹き飛ばす

桜「が――あ―――」

フラット「うわ、凄い威力……教授の方の最初に投げてもらった盾がなかったら俺らも危なかったっすよ」

エルメロイ「征服バカの固有結界が消えた――今ので全て倒したというのか」


桜「そんな…馬鹿――な……ごほ――」

士郎「相も変わらずしつこいな君は、でもこれで終わりだ。オレは四次の頃のセイバーと違うからな。中身(お前)ごと聖杯を破壊する」

桜「ま、待って――」

士郎「エクス…カリバァアアアアア!!!!」

士郎「ぐ…が…ああ……あ――」

「……ん、……や、ん……エミヤさん!!」

士郎「ぐ……あ?」

フラット「良かった、気がついたんですね。倒れてから全然起きないんで心配しましたよ」

士郎「ここは――」

フラット「遠坂さんの屋敷です。衛宮さん三日間ずっと眠っていたんですよ。魘されてたから生きてるのはわかってましたけど」

士郎「ぐ…ぅ……どうなった……?」

フラット「エミヤさんの一撃で聖杯は壊れました。けど外側となっていた人間は残念ながら」

士郎「街の人たちは――」

フラット「アンリマユに捕らわれていた街の人は数人を除いて助かりましたよ。酷く衰弱はしていますけど」

士郎「……そうか」

フラット「今は聖杯が二度と出現しないようにって教授と遠坂さんが地脈に色々手を加えてるっす」

士郎「……遠坂が帰ってきてるのか?」

フラット「ええ、聖杯が破壊された翌日に――何処行くんですか!?まだ安静にしてなきゃ――」

士郎「オレは桜を救えなかった。遠坂に頼まれてたのに、いやオレ自身が守るって決めていたのに――遠坂に合す顔がない」

遠坂「そうね、どの顔ぶら下げてるんだか」

士郎「遠坂……」

凛「そんな肌や髪の色が、目の色まで変わる程無茶して。その間抜け面がなかったら衛宮君って誰もわからないわよ」

士郎「すまない……」

凛「謝らないでよ。ギルガメッシュが遺して行った手紙に書いてあったわよ、世界と契約したって」

フラット「世界と!?本当ですか!?」

士郎「ああ……」

フラット「通りで固有結界が使えたわけだ……」

凛「桜の事を責める気はないわ。私だって妹の事なのに全く気付かなかったのだもの、私の責任よ」

士郎「でも――」

凛「私が怒ってるのはね、あんなに言ったのに衛宮君が自分を犠牲にしてる事よ!!」

士郎「聞いたのか?」

凛「ええ、全部聞いたわよ。人を助けるのだけじゃ飽きずに過激派テロリストに対するレジスタンスのリーダーやってるらしいじゃない」

士郎「……一人じゃあいつらが苦しめてる人達を全員救う事はできない」

凛「はあ、今の自分を苦しめるだけじゃ飽きたらずに、死後の自分を明け渡しただなんてね」

士郎「オレは目の前で助けを求めている人は全員助けたい。そのためなら何だってする、今力が足りずに救えなくても、守護者となれば全員救える筈だ」

凛「……はあ、今更何言ったってアンタが変わらないのは知ってるわ。止めても無駄って事もね」

士郎「……本当にすまない」

凛「ホントそうよ。だからもう破門よ、衛宮君」

フラット「ちょっと遠坂さん!?」

凛「衛宮君、今日で貴方は遠坂の魔術師の弟子として名乗る事は許さないし、遠坂の魔術を使う事も許さないわ」

士郎「……わかった」

フラット「ちょっと遠坂さん!!いくら何でもそれは――」

凛「口を挟まないでもらえるミスター・エスカルドス。これは遠坂の問題よ」

フラット「でも――」

士郎「いいんだ、オレは師匠の言いつけを破った。破門されて当然だ」

フラット「エミヤさんがそう言うなら……」

凛「殊勝な心がけね。地獄にでも何処でも好きなとこに行けばいいじゃない、貴方はもう引き戻せない場所まで行っちゃったんだから」

士郎「ああ、じゃあな遠坂」

フラット「ちょっとエミヤさん!?まだ傷が――」

士郎「傷なんてもう全部治ってる」

フラット「でもあんなに魘されて――」

士郎「これは無茶な魔術を使った代償だ。自滅して死んでいないだけ奇跡だ」

凛「さっさと出て行きなさい。貴方はもう遠坂の人間じゃないんだから、この家にいるのは筋違いよ」

士郎「そうだ、最期に一つだけ訊かせてくれないか」

凛「何?」

士郎「藤ねえは無事か?」

凛「……」

士郎「そっか……。じゃあな遠坂、今まで世話になった」

切嗣がいつも使っていた船場から密航して冬木の地を離れる

隠れて投影を試してみたが、聖剣もその鞘も投影できない

どうやら先の戦いで投影できたのは一時的にセイバーと繋がっていたからのようだ

聖杯が解体、破壊された事によってかろうじて繋がっていたパスは完全に切れたらしい

士郎「うぐ…ッ」

右半身が完全に麻痺している

無茶な投影を行った反動か

いつの日か初めて中身のある投影を行った時と同じ

身に余る魔術を使った事による代償ということか

鏡を見て自分の姿を確認する

士郎「誰かわからない、か。変色してない部分がないもんな」

声が変わっていない事がまだ幸いか

これなら声で気付いてもらえる可能性がある

それに片目もまだ変色していない

それと同時にまだ自分の肉体に衛宮士郎らしさが残っていると言えるかもしれない

ただ皮膚は日に焼けたで誤魔化せるかもしれないが、髪が急に変色していれば不自然な上に気付かれないかもしれない

ターバンでも巻いて髪を隠すとしよう

中央アジアにあるとある集落

テロ組織から逃げてきた人達が住む小さな集落だ

数年前、大怪我を負った際に世話になった場所だ

「お兄ちゃーん」

テントの中から様子を窺っていた数人の少年と少女がこちらに走ってくる

士郎「お、お前らか。大きくなったなあ」

少年「へっへへぇ、兄ちゃんは何か焼けた?」

少女「ほんとだ、私達とお揃いだあ」

士郎「ああ、お揃いだな」

日本から持ってきたお菓子を配りながら、子供たちの頭をなでる

女性「エミヤさん!!また寄ってくださったんですね」

男性「ああ、エミヤさん。お久しぶりです」

士郎「お久しぶりです」

女性「お元気でしたか?」

士郎「はい、そちらこそ何か変わりはありませんでしたか?」

女性「あ……」

男性「……」

士郎「……何かあったんですか?」

士郎「狩に森に行った男の人達が戻ってこない?」

女性「はい。それを探しに行った人達も……」

士郎「前にここで世話になったときにはあの森にはそこまで危険な生物はいなかったと思うが……」

女性「はい、あそこは子供たちの遊び場でもありましたから」

士郎「ということは外からはぐれて来たか、それとも誰かが放ったのか……俺が少し見て来よう」

男性「危険ですよ。あそこの動物達は今凶暴になっているんです」

士郎「凶暴?」

男性「はい、私も探索に一度森に入ったのですが、その時に襲われてこの様です」

士郎「噛み傷?包帯を巻いていたのはそのためだったか……だがその歯型は――」

男性「ええ、見ての通り草食動物のモノですよ。本来人を見れば逃げ出す程臆病なのですが」

女性「それにもうじき日が暮れます。森に行かれるなら朝まで待った方が――」

士郎「なら完全に日が落ちてから森に入るとしよう」

男性「な!?正気ですか!?」

士郎「ああ、昼間より夜に戦う方が慣れている。それに暗い方が色々と都合がいい」

男性「都合?」

士郎「こちらの話さ。弓と明かりを用意してもらってもかまわないだろうか?」

夜、森

士郎「ふむ、以前に入った時とそれ程変わらないように思えるが……」

目を閉じ、周囲の気配を探る

士郎「いや、ごく僅かだが魔力の残滓が――」

咄嗟に避けたソレが背後の木を貫通して地面に突き刺さる

士郎「黒鍵?くっ!?」

松明の火を消し、無数に飛んでくる黒鍵を避けながら敵の位置を探る

士郎「早い…だがセイバー程じゃない。そこだ!!」

矢を放とうとし、後ろから首筋に黒鍵が当てられる

士郎「な――」

「懺悔の時間を与えましょう、何か――残像?いえ、これは――」

士郎「やれやれ、手荒い歓迎だな。その服装、聖堂教会の者か」

「少しはできるようですね。しかし私が何者かを知ってまだ戦うつもりですか?」

士郎「ああ、俺はお前を見逃すつもりはない」

「それはこちらの台詞ですよ」

黒鍵を構えた女の姿が消える

士郎「――投影、開始!!」

「投影魔術ですか?そのような魔術で私に挑もう等とは――」

襲い掛かる黒鍵による攻撃を投影した双剣で捌く

士郎「流石代行者と言ったところか――だが」

「この剣は――まさか中身があるというのですか。ですが――」

「GRrrrr――!!」

士郎「な――!?」

「まだ生き残りがいましたか。おや?その反応、どうやら私はは勘違いをしていたようですね」

士郎「何なんだこれは!?」

「見ての通り死徒ですよ。吸血鬼のようなモノです」

士郎「何でそんなものがここに!?」

「私は貴方がこれを放った魔術師と思っていたのですが」

士郎「違う。俺は森から村の人が帰って来なくなった理由を探しに来ただけだ」

「そうでしたか。突然襲い掛かった事をお詫びいたしましょう」

士郎「こっちも勘違いをしてたようだ。アンタは一体?」

「私はあれを退治するために派遣された聖堂教会・埋葬機関の代行者です。それでは目的は近いようですし」

士郎「ああ、こいつらを一掃しよう」

「ふう、大方片付いたようですね。とはいえ大元を叩かなければ意味はありませんが」

士郎「この服は…それにこの時計――」

「知り合いでしたか?そうですよこれらは食屍鬼にされただけの元村の人間です」

士郎「くそ――」

「これ以上犠牲を増やさないためにも早期の解決をしたいところですが――」

士郎「む――何か近づいてくる」

暗闇から頭は獅子、身体は豹、背中から馬が生え、尾は鰐の奇妙な生き物が姿を現す

「今度はキメラですか。こっちは専門ではないんですけど――」

士郎「やることに変わりはない」

「そうですね。これから情報を得る事はできそうにないですし」

「――投影、開うぐっ!?」

右腕に激痛が走ると共に内側から剣が飛び出し鮮血が散る

「これは――固有結界の暴走!?」

士郎「ぐ、ああああああああああ!!」

両腕から肩の付け根までどんどん剣が生えていく

キメラはそのようなことお構いなしで襲い掛かって来るが――

「ああもう、邪魔です」

代行者の女が片手で仕留めるのを視界の片隅に、意識が途絶えた

今日ははここまで
一か月以上更新できなかったにも関わらず短くてすまない
明日80日ぶりの休日なので明日更新する予定

「気がつきましたか?」

士郎「あ…ああ?」

ぼやけた視界に眼鏡をかけた女性が写る

「あ、お腹減ってますよね?カレー食べますか?」

士郎「えっと、貴女は……」

「あ、自己紹介がまだでしたね。聖堂教会・埋葬機関代行者シエルです」

士郎「シエル…俺はエミヤだ。衛宮士郎」

シエル「エミヤ?何処かで聞いたことあるような…まあ思い出せないということは些末な問題でしょう」

両腕が動かない、腹筋のみで起き上がりながら腕を見ると剣ではなく赤い布が巻かれている

そして体にも赤い布が巻かれている

士郎「これは――?」

シエル「聖骸布です。貴方が眠ってる間襲われても大丈夫なように巻きました、外界からの攻撃に対して着用者を守る一級品です」

士郎「腕が動かないのはこの聖骸布の効果なのか?」

シエル「そっちはマルティーンの聖骸布です。魔力を封じて暴走を止めさせてもらいました、と言ってももう意味はありませんが」

士郎「意味がない?あっ」

腕に巻かれている布は既にボロボロになっている

剣が飛び出ていた腕に巻きつけたのだから当然の結果と言えるが――

シエル「あ、お気になさらずに。それ元々その状態ですから、意味がないというのはもう暴走しないだろうという意味です」

士郎「何でそんなことわかるんだ?」

シエル「私の攻撃の中に敵の魔力の流れを乱すものがあったんですよ。それで元々不安定だったところを更に乱してしまったようですから」

士郎「そういうことか…」

シエル「取りあえずもう必要ないでしょうから返してもらいますね?痛みとかありますか」

士郎「……問題ない、傷もないようだ」

シエル「それなら良かったです。あ、そっちはお譲りします」

士郎「こんな貴重なモノをか?それはできない」

シエル「良いんですよ。暴走させてしまったお詫びということで」

士郎「だが…、いや、わかった。有難く頂くとしよう」

シエル「しかし驚きましたね。まさか固有結界を使えるとは」

士郎「発動をさせていないというのに、あの短時間の攻防で気付いたのか」

シエル「まさか。流石にあの程度の攻防では普通の投影じゃないことぐらいしか気付けませんよ」

士郎「ってことは暴走からか」

シエル「はい。ただ魔力の流れが乱れただけであんな風に体内から剣が湧き出続けたりしませんから」

士郎「ところでここは何処なんだ?」

シエル「森にあった洞穴です。先ほどのキメラが住処にしてた場所みたいですね」

士郎「オレが倒れてからどのぐらいの時間が経った?」

シエル「一時間程ですかね。私は大元を探しに行きますが、貴方はどうしますか?」

士郎「勿論、オレも探しに行くさ。手分けして探そう」

シエル「そうですね」

士郎「さて、この聖骸布は外界から着用者を守ると言っていたな。早速使わせてもらうとしよう」

聖骸布に魔力を通し、外套の形に変える

士郎「この色遠坂を思い出すな。まあ、破門されてから日は浅いが」

双剣を投影し固有結界の暴走が起きない事を確かめる

士郎「この調子なら大丈夫か、投影に対する痛みもない。荒療治となったが先の暴走で完全に術が体に馴染んだか」

壁についた爪痕や、洞穴の奥に転がっている骨の量などを確認し

この洞穴がキメラの住処となっていたことを改めて確認する

士郎「ふむ、住み着いて二か月程。前は気付かなかったが、この森の何処かに魔術師の工房があったということか」

骨の中に人間のモノと思われる骨が混ざっている

士郎「村人のではなく魔術師のモノだな。ということは犯人がどうとかではなく、工房を持っていた魔術師が死に中のモノガ逃げたか」

そして前回工房に気付かなかったということは工房があったであろう位置も何となく掴めてくる

村人が聖域として村長以外の立ち入りを禁じていた場所

士郎「あそこに大元がいれば良いのだが――」

無数の羽音が聞こえ、洞穴の外に目をやる

士郎「あれは蚊か?キメラの死体に群がっているのか――!?」

首を落とされ死んでいた筈のキメラが動き出す

士郎「まさか…あの蚊が死徒のウイルスの持ち主だってのか」

士郎「まずいな、蚊が感染源だというであればどれほど被害が広がっているのか見当もつかん」

ここが島であったのであれば他の島に影響はまだ小さいのかもしれない

だが、ここは大陸の内陸地だ

下手をすれば大陸全体に死徒モドキが広がりかねない

士郎「だから代行者が派遣されてきたってわけか。蚊が相手だと剣戟は意味をなさん」

蚊の群れとキメラがこちらに気付いたのか集団で洞穴の入り口に向かってくる

士郎「こちらに来るか」

魔術で強化し、蚊の群れを飛び越え、食屍鬼と化したキメラを斬り伏せる

が、両断された状態でキメラは再び襲い掛かってくる

士郎「ちっ、死体を斬ったところでやはり無駄か。あの代行者と共に動いた方が賢明だったか」

空中に跳び上がり弓を下に構える

士郎「――I am the bone of my sword, ――“偽・螺旋剣”」

矢の形状として投影した宝具を放ち、ソレがキメラが弾こうとすると共に

士郎「“壊れた幻想”」

爆発させ蚊もろともキメラを完全に消しとばす

士郎「食屍鬼と化した後も蚊と統制された動きをしていた、ということは操る者がいるという事か」

爆発から逃れた蚊の飛んでいく方向を眺める

士郎「聖域の方角か、やはりあそこに大元がいると見て間違いはないようだ」

士郎「思った以上に簡単に片付いたな」

魔術師「く…クソが――」

士郎「本当に他に死徒のウイルスを持つ蚊はいないんだな?」

魔術師「ああ、だから……死ねええぐあっ!?」

シエル「これが悪を産む異端でしたか」

士郎に跳びかかろうとした魔術師は飛来した数本の黒鍵によって壁に貼り付けられる

士郎「シエル」

魔術師「な、代行者の――」

シエル「貴方には懺悔をする機会を与える必要はないようですね」

魔術師「ま、待って――」

シエル「ふう、これで今回の件は片付いたようですね。貴方の協力のおかげです」

士郎「森にいた村の人たちは?」

シエル「全員食屍鬼となっていたので排除しました。大元を叩いても彼らが残れば新たな禍の芽となりますから」

士郎「そうか……」

シエル「それでは私は教会への報告がありますのでこれで。衛宮さん、貴方はどうされますか?」

士郎「村に戻って村の皆に報告をしてくる」

シエル「そうですか。では衛宮さん、協力のお礼に別れの前に忠告を」

士郎「忠告?」

シエル「今の活動を続けると教会は貴方を異端と見なしますよ」

士郎「……肝に銘じておこう」

士郎「何だこれは――」

村が燃えている

村人達が血を流し倒れている

士郎「一体何が――」

少年「兄ちゃん……」

少女「お兄ちゃん」

士郎「お前達無事だったのか!!ってどうしたんだその傷!?」

少年「おっちゃんが急に倒れたと思ったら皆に襲い掛かり始めたんだ、それで襲われた人も他の人に襲い掛かり始めて……」

士郎「襲い掛かり始めただと?あっ――」

凶暴化した草食動物に噛まれたという男性を思い出す

士郎「凶暴化した動物…食屍鬼に感染した動物だったのかってことは――二人共噛まれたのか?」

少年「うん。助けてくれ兄ちゃん…俺あんな風になりたくない」

少女「私達まだ死にたくないよ……」

士郎「……」

二人共、いやこの村の人間全員死徒化は免れない

他の犠牲を出さないためには、この助けを求める少年達を――

俺は目の前で泣いてる人達を助けるために契約したのではなかったのか

――また俺は力が足りなかったのか

少年「兄ちゃん――?」

士郎「……ごめん」

あれから数年が経った

オレは誰かを助けるために殺して、殺して、殺し尽くした

あらゆる戦の場にかけつけ戦に参加した

殺した人間より多くの人を助けた

目の前で泣いてる人を助けるために他の願いを踏みにじった

その結果から目を逸らし今度こそ終わりだと戦い続けた

誰も死なせないようと願い、多くのために一人を殺した

自分が助けようとした者を救うために、敵対した者は速やかに皆殺しにした

裏切られることなんて多々あった、それでもかつての理想のために戦い続けた

争いを終わらせても、また新たな争いが起きた、それでも戦続けた

ようやく大きな戦いを終わらせたと思えば、救った筈の、共に戦い続けた男に争いの張本人として捕らえられた

別に感謝されたかったわけじゃない

英雄として扱われたかったわけでもない

ただ皆が幸福になって欲しかった

このような結果となったのはオレの力が足りなかったからだろう

だが、死ねば自分はかつての契約通り英霊の座に行き守護者となる

今は救えなかったが、今度こそ誰かを救える

そのような思いのまま、衛宮士郎は絞首台でその生涯を終えた

あれからどれだけの時が経ったのか

何億年経ったのかもしれないし、一秒も経っていないのかもしれない

輪廻の枠から外れ、時間の概念もない此処ではただそうであった記録だけが増えていく

それが過去に起きたことなのか、未来に起こることなのかはわからない

ただ、そういう記録だけが増えていく

殺して、殺して、殺して、

殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して――

善悪の区別なく、命じられるままに気が遠くなるほど殺して

絶望に嘆く人を救うのではなく排除して――

これでは生前とは何も変わらないのではないか

既に生前の記憶等、ほとんど覚えていない。既に魂は摩耗しきっている

覚えている事は誰も救えなかった事とかつて正義の味方を目指していた事

そしてどれほど魂が摩耗しようと、地獄に落ちようと忘れない一人の少女――

かつて抱いた人々を救いたいというただ一つの願いは、ただの一度も果たされることはない

救うのではなく、救われなかった人々の存在を無かった事にするだけの存在

こんなモノを望んだわけじゃない、そんなモノの為にオレは守護者になったのではない!!

だから憎んだ

争いを繰り返す人々と、それを救いたい等という愚かな願いを持った生前の自分という間違いを

この繰り返される輪から外れるにはただ一つ、自分という間違いを消す事

ただ一つの願いが自分という間違いを排除することに変わるのに時間はかからなかった

視界がぶれる

頭を揺さぶられる気持ち悪さと同時に背中を地面に叩きつけられた

理解できたのは自分が守護者としてではなく召喚されたこと

どうやら自分は聖杯戦争とやらのために、アーチャーのサーヴァントとして召喚されたらしい

雑な召喚で記憶に混乱が見られ、自分のことがアーチャーだということぐらいしかわからない

またくだらない争いかという苛立ちを抑えるためと、頭の整理のために瓦礫に腰掛ける

どうやら生前死の間際まで持ち続け、英霊の座にまで持ち運んだペンダントも持ってこさせられたらしい

守護者として召喚されるときはいつも持っていなかったはずなのだが――

一人の少女が戸を蹴破りながら入ってくる

こんな年端もいかない少女でさえ争いに参加するというのか

「それで。アンタ、なに?」

「開口一番それか」

どうやら完全に貧乏クジを引かされたらしい

マスターの証を見せろと言っても、三回きりの大魔術の結晶である令呪とやらを見せてくる

その後の会話からしてもこの少女は未熟な魔術師らしい

「あったまきたぁ――――!!」

少女が叫びながら構える

その腕にあるのは令呪

アーチャー「な―――まさか!?」

自分の契約者、マスターの少女は躊躇いなく令呪を使った

絶対服従等というくだらない命令に令呪を使ったマスターに令呪の説明をしつつ、
自分にかけられた本来効果等一切ないはずの令呪の効果を確認する

呆れた事に、いや彼女は優れた才能を持っているのだろう

令呪の効果がはっきりと感じられる。心変わりだけでなく、身体への制限もある

これなら戦いに巻き込むことを心配する必要はなさそうだ

それに何故か、この少女との会話に何処か懐かしい、心地のよいものを感じる

「貴方、何のサーヴァント?セイバーじゃないの?」

アーチャー「残念ながら剣は持っていない」

その返答に対し隠すことなく落ち込む彼女に対し何故かもやっとした感情が湧き上がる

アーチャー「悪かったなセイバーでなくて」

「え?そりゃ痛恨のミスだから残念だけど、悪いのはわたしなんだから――」

アーチャー「ああ、どうせアーチャーでは派手さにかけるだろうよ。後で今の発言を悔やませてやる。その時になって謝っても聞かないからな」

柄にもなく自分は彼女に期待をされていないことに拗ねているようだ

「そうね、じゃあ必ずわたしを後悔させてアーチャー。そうなったら素直に謝らせてもらうから」

アーチャー「ああ、忘れるなよマスター」

彼女の言動で一喜一憂するとは、まるで自分が昔に戻ったようだ

……昔?

「それでアンタ、何処の英霊なのよ」

アーチャー「――」

「アーチャー?」

少女は怪訝そうな顔で見上げてくる

その顔を見て確信する、自分は彼女と生前知り合いであると――

アーチャー「私がどのような者だったかは答えられない。何故かと言うと――」

「あのね、つまんない理由だったら怒るわよ」

そう言われても困る

何故なら彼女と親しい間柄だったということぐらいしか思い出せないからだ

アーチャー「何故かというと自分でもわからない」

「はああああ!?何よそれ、アンタわたしの事バカにしてるわけ!?」

アーチャー「マスターを侮辱するつもりはない。だがこれは君の不完全な召喚のツケだぞ」

記憶の混乱が見られると続けていくと、少女の唖然とした顔がどんどん落ち込んでいく

何故かわからないが、どうやら自分は彼女のああいう態度に弱いらしい

アーチャー「…まあさして重要な欠落ではないから気にすることはない」

一応フォローしたつもりだったのだが

「気にするわよそんなの!!アンタがどんな英霊か知らなきゃどのぐらい強いのか判らないじゃない!!」

アーチャー「些末な問題だよそれは」

「些末ってアンタね。相棒の強さが判らないんじゃ作戦の立てようがないでしょ!?」

アーチャー「何をいう。私は君が呼び出したサーヴァントだ、それが最強でない筈がない」

「それじゃあ暫く貴方の正体は不問にしましょう。それじゃあアーチャー、最初の仕事だけど」

アーチャー「早速か、好戦的だな君は。それで敵はどこだ――」

どうやら自分は彼女に頼ってもらえることが嬉しいらしい

守護者としての仕事が嫌になっていた自分は、彼女に与えられる仕事にかなり期待しているようだ――

アーチャー「――む?」

何故かホウキとチリトリを投げつけられた

「下の掃除お願い。アンタが散らかしたんだから責任もってキレイにしといてね」

アーチャー「――――」

何を言われたか理解できすに十数秒かたまる

期待をしていた矢先にこの仕打ちはない

アーチャー「待て、君はサーヴァントを何だと思っている」

「使い魔でしょ?ちょっと生意気で扱いに困るけど」

アーチャー「――――」

迷いなく言い切った少女に唖然すること数秒

文句を言おうと口を開きかけるが、自分は先程の令呪で逆らうと体が重くなることを思い出す

悔しいが掃除をするしかないようだ

アーチャー「了解した。地獄に落ちろマスター」

負け犬みたいだが、このぐらいの悪態は吐かせてもらおう

今日はここまで
>>344で終わろうと思ってたけど後味悪かったから、もう少しだけ続くんじゃ
五次アーチャーがエミヤって知ってると、プロローグの凛への悪態全部士郎になってるように感じるよね

朝九時過ぎになってもマスターの少女は起きてこない

サーヴァントはちゃんとした魔力の提供さえあれば、食事や睡眠を摂る必要はない

それ故に夜通し清掃を続け、自分が召喚された際に崩れた瓦礫を元に戻すだけでなく

元々よりも、そして他の場所も綺麗にし、少女の命令以上の仕事をしたというのに

ようやく起きてきた少女の一声に呆れる

「……うわ。見直したかも、これ」

アーチャー「日はとっくに昇っているぞ。また随分とだらしがないんだな、君は」

自分の仕事ぶりをこれで済まされた事に対する不満を込めて話しかける

それに対し嫌味で返され、皮肉で返す

少女はそれに返す事なく頭をかかえてるようだ

どうやら召喚の疲れが出てるらしい

アーチャー「――ふむ、紅茶で良ければご馳走しよう」

片づけの際に食器の位置は把握している

そして彼女が起きてくるタイミングを見計らって用意しておいた紅茶を注ぎ、彼女に手渡す

「あ、おいしい」

不機嫌そうだった少女の表情が幸福そうに変化する

アーチャー「ふむ」

それを見て思わず笑みがこぼれる

「なに笑ってんのよ、それよりアンタ自分の正体を思い出したの?」

アーチャー「いや」

正直に答える

この屋敷に見覚えはなかったし、思い出したのはこの紅茶が少女のお気に入りということぐらいか

「そう、貴方の記憶に関しては追々対策を考えとく。出かける支度をしてアーチャー、街を案内してあげるから」

アーチャー「その前にマスター。君、大切な事を忘れていないか?」

「え?大切なことってなに?」

アーチャー「……まったく。君、契約において最も重要な交換を、私たちはまだしていない」

「契約において最も重要な交換?」

少女は本気でわからないようで、考え込む

アーチャー「……君な。朝は弱いんだな、本当に」

相変わらずだと呆れながら言う自分に対し、彼女は苛立ちを見せ

「何よ君君って、――あ、しまった、名前」

アーチャー「思い当たったか。それでマスター、これからは何て呼べばいい?」

「わたし、遠坂凛よ。貴方の好きなように呼んでいいわ」

アーチャー「遠坂、凛…」

何処か懐かしいような、そして安心する響きだ

アーチャー「それでは凛と。……ああ、この響きは実に君に似合っている」

感じた事をそのまま伝えただけだが、咳き込んだ少女には勘違いされてしまったようだ

凛「どう?ここなら見通しがいいでしょ、アーチャー」

一日中、日が暮れるまで連れ回され、最後はここらで一番高いビルの屋上に連れてこられた

アーチャー「はあ。将来君と付き合う男に同情するな」

凛「え?何か言ったアーチャー?」

アーチャー「素直な感想を少し。確かに良い場所だ、始めからここに来れば歩き回る必要はなかったのだが」

少し会話をし、街の全貌を把握する

歩き回った時もそうだったが、自分はこの街に関する記憶はないようだ

凛「……」

アーチャー「凛、敵を見つけたのか?」

少女の殺気を感じ声をかける、苛立った返答から察するに彼女の苦手な相手なのだろうか


帰り道、急に凛が陰にしゃがみ込み

アーチャー「凛、何を隠れている」

凛「あそこにいるの知り合いなの。今日学校休んだからあんまり顔を会わせたくないの」

少女の視線の先を追うと金髪の男と少女が話している

あの金髪の男は――

アーチャー「凛、知り合いとは外国人の方か?」

凛「いいえ知らない。ねえ、あいつ、人間?」

アーチャー「さあ、実体はあるから人間なのだろう。少なくともサーヴァントではない」

自分はあの男を知っている、故に真実を話して警戒をさせるべきではないだろう

翌朝、学校に通うマスターに着いてきたが結界が張られていた

放課後まで待ち、少女と共に結界を調べてゆき屋上に基点を見つけ――

凛「まいったな。これ、わたしの手には負えない」

人間を溶解させ魂を奪う結界

自分達は霊体だ、それ故食事もそういうものになる

即ち、この結界を張ったのは自分達と同じサーヴァントだろう

凛「マスターから提供される魔力だけじゃ足りないって事?」

アーチャー「足りなくはないが多いに越したことはない。そういう意味で言えば、この結界は効率がいい」

凛「それ癪に障るわ。二度と口にしないでアーチャー」

アーチャー「同感だ。私も真似をするつもりはない」

どうやらこの少女とはとことん気が合うようだ

凛「さて、それじゃあ無駄だとは思うけど消そうか」

少女が消そうとするのと同時に何処からか声がかかる

「なんだよ。消しちまうのかよ、もったいねえ」

いつの間にか給水塔の上に男が立っている

この気配、それに相手は霊体と化している自分に気付いている

周囲を見渡し屋上では不利と判断した少女はフェンスを飛び越え屋上から飛び降りる

凛「アーチャー、着地任せた」

少女を抱きかかえ無事に着地させ、槍による追撃の一撃を短剣で弾く

貴方の力をここで見せて

マスターのその言葉に答えるように槍を持つ、ランサーのサーヴァントと攻撃を交える

ランサー「たわけ、弓兵風情が接近戦を挑んだな――!!」

接近戦で自分に勝てるはずがないと、ランサーは一気に攻め込む

ランサーの息もつかせぬ打突の連撃に、かろうじて後退をしながら弾く

一際高い剣戟と共に、打突から薙ぎ払いに変えられた槍を受け短剣が手から離される

ランサー「間抜け――」

剣を失った自分に対し、勝敗を決しにランサーの槍が急所を狙う

アーチャー「――投影、開始」

その攻撃を全て弾き、ランサーとの距離が開く

ランサー「ちい、二刀使いか……弓兵風情が剣士の真似事とはな――」

先程より早く、そして一撃一撃が更に早くなっていく槍を弾きながらこちらも攻める

撃ち合いは既に百を超え、何度も武器を砕かれるが、再び武器を手に用意しまた撃ち合う

武器が再び現れる度にランサーは後退してゆき、仕切り直しをするためかランサーは大きく間合いを離す

ランサー「二十七、それだけ弾き飛ばしてまだあるとはな」

アーチャー「どうしたランサー、様子見とは君らしくないな。先ほどの威勢は何処に行った」

ランサー「ちい、狸が。良いぜ訊いてやるよ、テメエ何処の英雄だ」

ランサー「二刀使いの弓兵なぞ聞いたことがない」

アーチャー「そういう君はわかりやすいな。これ程の槍手は世界に三人もいない」

加えて、獣の如き敏性さと言えば恐らく一人――言い切る前にランサーが遮る

ランサー「――ほう、よく言ったアーチャー」

そう言うと共にランサーから凄まじい殺気が湧く

ランサー「――ならば食らうか、我が必殺の一撃を」

彼の槍に凄まじい魔力を感じる

恐らく、いや確実に宝具を使用するつもりだろう

アーチャー「止めはしない。いずれ越えねばならぬ敵だ」

あれは間違いなく必殺の一撃――

あれに対抗する手段等生憎弓兵である自分は持ち合わせていない

ランサー「――誰だ!!」

ランサーの殺気が消える

走り去っていく足音

それを追うようにランサーも消える

アーチャー「やれやれ、命拾いしたな」

凛「ランサーはどうしたの?」

アーチャー「目撃者だからな。おそらく消しに行ったのだろう」

凛「追ってアーチャー!!わたしもすぐに追いつくから!!」

ランサーを追って校舎に入ってすぐ、廊下に倒れている生徒を見つける

アーチャー「遅かったようだな」

倒れた生徒から床に大量に血が広がっている

心臓を一突きされたといったところだろう

目撃者は消すのが魔術師のルール、気の毒だが――

倒れている生徒に近づこうとしてある事に気付き立ち止まる

心臓がうるさいぐらいに鳴っている

間に合わなかったからじゃない

この倒れている生徒は――

生前の記憶の一部がはっきりと蘇る

間違いない。ここに倒れている生徒は――

凛「アーチャー、ランサーを追い掛けて。せめてマスターの顔ぐらい把握しないと割が合わない」

いつの間にか近くにいた凛が呟く

その命令通りランサーを追うが既にランサーを追える痕跡がほとんど残っていない

しかしそんなことよりも今はある一つの事を頭が占めている

自分のマスターである彼女はあの倒れていた、殺された生徒を助けるのだろう

そして自分はあの生徒、少年のことを知っている

それも嫌となる程に、

かつての間違いである、ずっと憎んでいた存在を――

遠坂邸に帰り、ソファーに寝転んでるマスターに成果を報告する

彼女はかなり気落ちしているようだが、自分には確認しなければならないことがある

寝転んでる彼女の上に、懐から出したペンダントをかざす

凛「ああ、拾いに行ってくれたんだ」

彼女は何の疑問もなくそれを受け取る

それで確信した

アーチャー「……もう忘れるな。それは凛にしか似合わない」

凛「そう、じゃあありがとう」

やっぱ魔力は残ってないかという残念そうに言う彼女はある事に気付く

凛「って待った。ランサーのマスターが殺した筈の目撃者が死に損なったって知ったら……」

アーチャー「再びとどめを刺させるだろうなランサーに」


気が向かないままに凛と共に敵の気配を探す

凛「いる、ランサーのサーヴァント!!」

ランサーが忍び込んだのが見えた屋敷に向かって凛が走っていくのと同時にある事に気付く

アーチャー「待て凛!!サーヴァントの気配が一つではない!!」

凛「え?」

凛を斬ろうと高速で近づいた敵の攻撃を咄嗟に弾き、追撃をしようとして立ち尽くす

地獄に落ちようとも、決して忘れることのなかったその姿は――

凛「セイバーの…サーヴァント――」

せめて後ろにいる少女を守ろうと思うが彼女の姿を見て体が動かない

そんな自分を容赦なくその美しいセイバーのサーヴァントは斬りかかろうとし――

「やめろセイバー―――ッ!!!!」

セイバー「――ッ。正気ですかシロウ、今なら確実にアーチャーとそのマスターを倒せた。だというのに――」

士郎「待ってくれセイバー。こっちは全然わからないんだ、マスターだっていうのなら説明してくれ」

セイバー「敵を前にして何を――」

言い争いをする二人に、立ちあがった凛は近づいて行く

あの様子なら大丈夫だと、構えは解かずに自分のマスターを見守る

凛「つまりはそういうワケね。素人のマスターさん?」

彼女は何もわかっていない彼に聖杯戦争について説明するつもりらしい

その間屋根の上で見張りをしろと訴えてくる

セイバーも彼女のマスターが状況を理解するためにと攻撃を仕掛けてくるつもりはないようだ

アーチャー「凛、何故そのようなことをする必要が――」

凛「アーチャーはわたしが良いって言うまで口を挟まないで」

こう言われてしまえば、令呪の縛りがある自分にはもうどうしようもない

彼女は丁寧に彼に状況を説明した後、

その上教会にいる聖杯戦争の監督者にも会わせるつもりのようだ

相変わらず、何処まで行っても彼女はお人好しなのだろう

今日はここまで

教会の前で凛と少年が出てくるのをセイバーと待つ

セイバー「……アーチャー、貴方は霊体化出来るのですから中に入れば良いのではないですか」

アーチャー「なに、中立地帯のあそこに私が入るのもあれであろう。それとも私がここにいることがそんなに嫌か」

セイバー「いえ、そういうわけでは――。アーチャー、さっきから何をそんなにじろじろと見てくるのですか」

アーチャー「敵から目を離さないのは当然だろう?」

セイバー「それはそうですが……」

アーチャー「おっと、ようやく出てきたようだ」

どうやらあの少年はやはり戦う事を決めたようだ。しかし――

士郎「なんでさ。俺、遠坂と喧嘩するつもりはないぞ」

凛「やっぱりそう来たか。まいったな、これじゃあ連れてきた意味がないじゃない」

アーチャー「凛」

凛「なに。わたしが良いって言うまで口出ししない約束でしょアーチャー」

アーチャー「それは承知しているが。倒しやすい敵がいるのなら遠慮なく叩くべきだ」

凛「そんな事言われなくてもわかってるわよ」

アーチャー「判っているのなら行動に移せ。まさかとは思うがそういう事情ではあるまいな」

凛「そんなわけないでしょ!!ただその、こいつには借があるじゃない」

確かに先程あの少年が令呪でセイバーを止めていなければ自分も凛もセイバーに斬られていた

アーチャー「ふん、また難儀な。では借りとやらを返したのなら呼んでくれ」

ならば霊体化をして時期を待つとしよう。あの少年を殺すに相応しい時を――

どうやら今宵は戦うつもりがないようだ

凛はあっさりと衛宮士郎達と別れようとし、そして固まる

凛「バーサーカー」

先程まで一切感じなかった位置に巨大なサーヴァントの気配を感じる

凛「アーチャー、アレは力押しでなんとかなる相手じゃない。ここは貴方本来の戦いに徹するべきよ」

アーチャー「了解した。だが守りはどうする。凛ではアレの突進は防げまい」

凛「こっちは三人よ。凌ぐだけならなんとかなるわ」

それはセイバーと共闘するという意味か

確かにセイバーならこの状況で凛を襲う事はしないだろう

それならば凛の言う通り自分本来の戦い方

アーチャーに相応しい戦い方をさせてもらおう

バーサーカー達から一気に離れ、狙撃に適した場所

先日凛に案内されたここらで最も高いビルの屋上に向かう

自分が離れたと同時に少女が命じたのだろう

空中に跳び上がり回避が出来なくなった狂犬目掛けて八本の矢を放つ

しかしどうやら効いてないようだ

走りながら反対方向に打ってるのだから威力も精度も低いとはいえ家屋程度なら壊せたのだが――

『アーチャー援護!!』

凛の指示を受け、今度は正確に巨人のこめかみに打ち込む

しかし、その一撃でもバーサーカーには効かなかったようだ

セイバーを吹き飛ばし追撃しようとする狂犬の行動を止めようと三度矢を放つがやはり効かない

セイバーがどこかに行き、バーサーカーはそれを追っていく

アーチャー「場所を移すつもりか」

走りながら矢を撃ち続け、ようやく目的の位置に着く

自分がついたのと同時にセイバーも渾身の一撃をバーサーカーに撃ちこんだようだ

バーサーカーの体勢が大きく崩れる

アーチャー「見事だ、だがそれでは足りん。凛、そこから離れろ」

念話で遠く離れたマスターに伝える

凛「――え、離れろってどういうこと?」

アーチャー「――I am the bone of my sword.」

投影した剣を矢に変え、弓を引き絞る

衛宮士郎がこっちに振り向くのが見える

そうだ、この一撃の範囲はセイバーも含まれる

お前ならば間違いなくセイバーを守ろうとするのだろう?

矢を放つ

放たれた矢に気付いたバーサーカーは今まで通り無視しようとし――

その正体に気付き迎撃しようとする

アーチャー「流石は彼の大英雄か。だが遅い――"壊れた幻想"」

アーチャー「ぎりぎりで叩き折ったか」

バーサーカーの一撃によって直撃を逸らされたそれはバーサーカーを倒す事は出来なかった

セイバーも彼女のマスターに連れられ爆発に巻き込まれなかったようだ

衛宮士郎がこちらを見ている

あの人間の目ではこちらの姿を捕らえる事は不可能なはずだが、間違いなくこちらを見ている

いや、睨んでいるというのが正確だろう

彼は自分がセイバーを殺そうと狙ったと思い込んでいるのだから

そんな彼が愚か過ぎて思わず口角が上がる

少年が倒れる

どうやら爆発の衝撃は免れたものの、爆発した矢の破片が当たったようだ

凛「アーチャー、貴方は家に帰ってて」

アーチャー「その口ぶりだと君は帰らないのか?」

凛「衛宮君を家まで送ってくわ」

アーチャー「何故そんなことをする必要がある」

凛「今日のうちは見逃すって決めたもの」

アーチャー「君は本当に――いや、いい。勝手にしろ」

彼女が一度決めた事は曲げないというのは嫌という程知っている、口を出すだけ無駄というものだ

翌日の夜

マスターの少女と襲われた人達の手当をした後、倒れていた人達が運ばれるのを屋上から見届ける

アーチャー「それで?やはり流れは柳洞寺か?」

凛「そうね。こんなのは人間の手に余る。可能なのはキャスターのサーヴァントだけね」

アーチャー「柳洞寺に巣食う魔女か、――となると昨日は失態を演じたな」

凛「失態…?バーサーカーと引き分けた事?あれは最善だったと思うけど」

アーチャー「どうかな。バーサーカーを倒せず、セイバーを見逃し、こちらは手の内を晒してしまった」

皮肉を込めて言うが少女は答えない

アーチャー「それで今夜はこれからどうする。楽な敵から倒すのがベストだろう。そこから行くとセイバーの陣営か」

凛「……」

アーチャー「それに他のサーヴァントの拠点がわからない今、唯一わかっているセイバーの陣営を攻めに行くのが良いだろう――凛?」

凛「……」

アーチャー「凛聞いているのか?疲れているのなら今日は休むか?そして明日セイバー達のところに――凛」

凛「……」

アーチャー「凛――!!」

凛「っ!え、なに?ごめん、聞いてなかった」

アーチャー「……。今夜はこれからどうすると聞いたのだ。疲れているだろうし大事をとって戻らないかなと」

凛「キャスターを追うわ。尻尾ぐらいは掴めるだろうし、何より――」

アーチャー「喧嘩を売らなければ気がすまないか。やれやれ倒しやすい敵を放っておいて最も倒し難い相手を追うとは」

翌朝

アーチャー「やはり学校に行くのか?」

凛「当たり前でしょ」

アーチャー「衛宮士郎が来たらどうする」

凛「その時は殺すって言ったでしょ。まあセイバーを連れてこないのにそうのこのこと学校に来たりなんか――」

士郎「よっ」

凛「――」

アーチャー「のこのことやって来たようだが?」

凛にのみ聞こえるように呟く

士郎「遠坂?なんだよ、顔になんかついてるのか?」

凛「――ふん」

アーチャー「どうする凛、君がやれないなら私がやるが」

衛宮士郎から顔を背けそのまま歩き出した凛に問いかける

凛「わかってるわよ。あんなのわたし一人で十分よ、アーチャーは帰ってて」

アーチャー「本当にできるのか?」

凛「大丈夫って言ってるでしょう」

アーチャー「はあ。それで私に一人で家にいろと?」

凛「わかったわよ、何処ででも好きにしてたらいいわ」

アーチャー「そうか。ならば、私は君が衛宮士郎を殺すか、他のサーヴァントと戦うまでは自由行動させてもらおう」

凛「そんなに信じられないわけ?わかったからアンタの好きにしなさいよ」

自由行動とは言ったが凛ならば問題なく衛宮士郎を仕留めるだろう

いや彼女は甘いからせいぜい聖杯戦争の記憶を消し令呪を奪うくらいだろう

それでもいい。聖杯戦争にかかわらなければ衛宮士郎が世界と契約することはなくなるのだから

今日は遠坂邸を綺麗に片づけて凛が過ごしやすいように――と思っていたら家に連れて帰って来た

それどころか学校に結界を張ってるライダーを倒すまで一時休戦して共闘するだと?

士郎「じゃあ遠坂、マスター探しは学校でするんだな?」

凛「ええ、明日の放課後廊下で待ち合わせしましょう。あ、それと帰りはアーチャーを付けてあげる」

士郎「え――?」

どうやら衛宮士郎は凛の家というのに浮かれて自分の事を完全に忘れていたようだ

衛宮士郎の目の前に実体化し、睨みつける

衛宮士郎もこちらが気に食わないようでこちらを睨みつけている

凛「よろしくねアーチャー。彼とは協力関係になったから襲い掛かっちゃダメよ」

凛はこちらの敵意に気付いたのか念を押してくる

令呪の誓約もある今こう言われては仕方がない

アーチャー「――解っている。マスターの指示には従うさ」

実体化したままでは襲いかねないため再び霊体化する

それにこれは見極める最後の機会だ

彼が過ちを本当に起こしかねないのかを確かめねばならない

衛宮士郎がここまでで良いと言ったため引き返そうとする

が、彼に呼び止められ実体化する

アーチャー「呼びとめた用件は何だ。まさか親睦を深めよう等というふざけた理由ではあるまい」

士郎「その――そうだ、アーチャー。お前も聖杯が欲しいのか?」

アーチャー「聖杯――?ああ、人間の望みを叶えるという悪質な宝箱か。そんな物はいらん。私の望みはそんな物では叶えられん」

士郎「――なんだって?待ておかしいぞお前。なら何でサーヴァントになんてなってんだよ」

アーチャー「成り行き上仕方なく、だ。“英霊”というものに自由意思等ない。英霊となったモノは以後、ただ人間を守る力として置かれるものだ」

士郎「そんな筈はない。セイバーもお前もちゃんと意思があるじゃないか」

アーチャー「当然だろう、我々はサーヴァントだ。サーヴァントという殻を与えられた英霊はその時点で本来の人間性を取り戻せる」

かつての執念や無念と共に

アーチャー「故にサーヴァントは聖杯を求めるのだろうよ。聖杯を得れば叶わなかった無念を晴らせるだろうし、短い時間であれ人間としてこの世に留まれる」

士郎「なんでそこまでの物をお前は要らないっていうんだ。叶えられなかった願いを叶えられるのに」

アーチャー「単純な話だ。私には、叶えられない願い等なかった」

士郎「え――?」

アーチャー「私は望みを叶えて死に英霊となった。故に叶えたい望みはないし、人として留まる事にも興味はない。それはお前のサーヴァントも同じだろうさ」

士郎「バカを言うな。セイバーは聖杯が必要だって言ったんだ。お前みたいに目的がなくサーヴァントをやってるわけじゃない」

アーチャー「――私の、目的?……ふん、目的があろうとなかろうと同じことだ。セイバーは決して自分のために聖杯を使わない」

士郎「――え?」

アーチャー「―-そのことを。彼女のマスターであるのなら、決して忘れないことだ」

夢を見た

本来サーヴァントは夢など見ない

つまりこれはマスターの記憶だ

女性や幼い少女と遊ぶ、幼い凛

彼女の母親と妹だろうか――

そして泣いてる妹に泣きながらリボンを結ぶ幼い凛

幼い凛の頭に手を置く男性

恐らく彼女の父親なのだろう

そして車椅子に座った女性と共に墓参りをする幼い凛

そして少し成長した凛と持ち主のいなくなった車椅子

中学生ぐらいの凛が延々と高跳びを続ける少年を見続ける

少年が跳び続けるのを見ながら意識が覚醒していく

アーチャー「――む?」

凛「おはようアーチャー。貴方が寝てるなんて珍しいわね」

アーチャー「……起こさず見てるとは人が悪いな君は」

凛「起きてる時と違って素直そうな可愛い寝顔だったわよ」

アーチャー「――意地も悪いな君は」

凛「さ、学校に行くわよアーチャー」

嬉しそうに出かける少女を見て溜息を吐きながら後を追いかける



マスターの少女は疲れたのか今日は早くに寝たため散策に出かける

アーチャー「む?魔力の糸――キャスターか」

片方は柳洞寺、片方は衛宮士郎の家の方に繋がっている

どうやら柳洞寺の方で戦闘をしているらしい

ということはマスターが攫われセイバーが追ったか

アーチャー「未熟者が死ぬのはかまわんが――」

キャスターが衛宮士郎を攫ったのは間違いなく衛宮士郎の令呪を奪うため

つまりセイバーを自分の配下に置くためだろう

セイバーがキャスターの物となるのはまずい

あの未熟者と違い町中から魔力を集めたキャスターの元ならばセイバーは本来以上の力を発揮できるだろう

今の未熟なマスターのセイバーでも自分では勝てないのだ

そうなるとセイバーに勝てる者等一人もおらず必然的にキャスターが聖杯を得るだろう

それだけは絶対に避けねばならない

それにあのような輩にセイバーを渡すわけにはいかない

ならば、することはただ一つというわけだ

アーチャー「やれやれ、世話のかかる小僧だ」

セイバーとアサシンが戦っている上を通り柳洞寺に着く

丁度キャスターが令呪を奪おうとしているところか

無数の矢を放ちキャスターを離す

アーチャー「とうに命はないと思ったが、存外にしぶといのだな」

士郎「お前何で――」

アーチャー「何、ただの通りすがりだ。それで体はどうだ、今のでキャスターの糸なら今ので絶ったはずだが」

士郎「――動く」

アーチャー「それは結構。後は好きにしろ、と言いたいところだが、暫くそこを動かぬことだ。あまり考えなしに動くと――」

キャスター「アーチャーですって!?ええいアサシンめ、何をしていたの!!」

アーチャー「そら、見ての通り八つ当たりを食らうことになる。女の激情というのはなかなかに度し難い。やはり協力しあってるのか君達のマスターは」

士郎「協力し合っている?」

アーチャー「ああ、門の外を守るアサシンと門の内に潜むキャスター。両者が協力関係なのは明白だ」

キャスター「私があの狗と協力ですって?私の手ごまに過ぎないアサシンが?」

アーチャー「キャスター、貴様ルールを破ったな」

キャスター「魔術師の私がサーヴァントを召喚して何が悪いのですか。聖杯戦争に勝つのなんて簡単ですもの」

アーチャー「我々を倒すのは容易いと?逃げ回るだけが取り柄の魔女が」

敢えて挑発し戦闘に持ち込むことで相手の手の内を探る

キャスター「ええ、ここでなら掠り傷さえ負わせられない。私を魔女と呼んだ者には相応の罰を与えましょう」

アーチャー「掠り傷さえと言ったな、では一撃だけ」

キャスターが咄嗟に張った魔法陣を避け斬り伏せる

アーチャー「む?」

キャスター「残念ねアーチャー」

いつの間にか空中にいたキャスターの魔術が襲い掛かってくる

アーチャー「空間転異か固有自制御か、見直したよキャスター」

キャスター「私は見下げ果てたわアーチャー」

襲い掛かる無数の魔弾を避けながら出口を目指すが、魔弾の砲門の一つが別の方向に向いていることに気付く

アーチャー「あの間抜け」

士郎「やっべ」

咄嗟に体が動き少年を助ける

士郎「降ろせバカ!!何考えてんだお前」

アーチャー「知るものか。お前に言われると己の馬鹿さ加減に頭を痛めるわバカ」

士郎「バカ!?お前自分がバカだってわかってんのに人の事バカ呼ばわりすんのかこのバカ!!」

アーチャー「ガキか貴様。ガキでバカとは手をつけられんわ。どっちかにしておけこの戯け」

士郎「なんだと」

キャスターが再び攻撃してくるのを少年を掴んだまま避ける

士郎「いいから離せこのぐらい一人で何とかする」

アーチャー「そうか」

少年を蹴飛ばすのと同時に剣を投げる

体が動かない

キャスター「気分はどうかしらアーチャー、いかに三騎士とはいえ空間そのものを固定化されれば動けないのではなくて」

アーチャー「躱せ」

キャスター「何かしらアーチャー、命乞いなら――」

アーチャー「戯け、躱せと言ったのだキャスター」

先程投げた剣がキャスターを襲い、同時に体の縛りが取れる

アーチャー「――I am the bone of my sword.――“偽・螺旋剣”」

放った矢はキャスターの近くを通りその衝撃波だけでキャスターを墜落させる

キャスター「何故止めを刺さないのですアーチャー」

アーチャー「私の目的はこの男にあったからな。不必要な戦いは避けるのが私の主義だ」

キャスターはその発言が気にいったのか、自分と少年を勧誘してくるがそれを断る

この場所ではキャスターを仕留めることなど不可能だろう

そう判断しキャスターを逃がすが、それに怒った少年が突っかかってくる

危険だ、この男の考え方は――

アーチャー「キャスターを追うつもりか?折角助けてやった命を――」

士郎「うるさい!!お前の助けなんているもんか」

アーチャー「そうか、懐かれなくて何よりだ」

背を向けて歩き出す少年がすれ違う

その瞬間、その小さな背中を斬りつけた

士郎「お前……」

血まみれになりながら少年は這っていく

浅かったか

アーチャー「戦う意義のない衛宮士郎はここで死ね」

士郎「……?」

アーチャー「自分のためでなく誰かのために戦うなどただの偽善だ」

少年に、かつての自分に言い放つ

アーチャー「お前の望む物は勝利ではなくただの平和だ。そんなものこの世のどこにもありはしないというのにな」

いや、自分自身に言い聞かせているのではないか

士郎「なんだと?」

ただどうしようもないほどに怒りが湧いてくる

アーチャー「さらばだ、理想を抱いて溺死しろ!!」

横薙ぎに剣を振るうが少年が階段から転がり落ちたため掠るだけに終わる

体が重い、令呪の縛りに背いてるためか

そんなことは関係ない。今度こそ少年にとどめを――

アーチャー「邪魔をする気か、侍」

アサシン「貴様こそ見逃すと言った私の邪魔をする気か」

侍と撃ち合う

殺す事を邪魔された苛立ちと、自信への苛立ちを込めて――

戦いは比較的早く終わった

マスターの少女が目を覚ましてしまったからだ

魔力の消費から自分が戦っている事に気付いた少女は自分に戻るように命じた

そしてセイバー達を見逃すのが目的だったアサシンはあっさり自分を見逃した

凛「それでアンタは何処で誰と戦っていたのよ、隠す事無く全部話す事」

アーチャー「……」

凛「アーチャー?」

アーチャー「はあ……」

既に自分はあの男を殺そうとした事によって体がかなり重くなっている

何かを隠して話してしまえば、どのサーヴァントとも戦う事が出来ない程の制限を受けてしまうだろう

それ故に全て話した

凛「そう……令呪を以て命じる。協力関係にある限り絶対に衛宮君を襲うな」

アーチャー「何!?――くっ」

凛「それと、これ以上は自由行動を禁止するわ。明日私が学校行ってる間はずっと家にいなさい」

これは困る

この少女が自分のマスターである限り、自分は衛宮士郎を殺せない

ならばこの少女を自分のマスターから外す必要がある

その方法はただ一つ、この少女を殺すしかない――

凛「――アーチャー?」

今日はここまで

無理だ

自分の命の恩人であり、自分が昔からずっと憧れている存在であり、自分の魔術の師匠

自分のマスターだという点を除いても、遠坂凛というのは自分にとってかけがえのない存在なのだ

自分の唯一の願いであり、永久の願いである衛宮士郎の殺害のためだとしても

彼女を殺すなんてことは絶対に出来ない

彼女を死なせるなんてことは絶対にあってはならない

ならばどうする

契約を消せるモノ等自分は知らない

もし知っていればあの時契約等せずに済んだ

だがどんな契約をも、というのは宝具でもなければ存在しないだろうが

聖杯戦争のシステムに詳しい者ならばサーヴァントの主従契約の抜け道を知っているかもしれない

聖杯戦争のシステムに詳しい者といえばやはり始まりの御三家だろう

遠坂、マキリ、アインツベルン――

アーチャー「令呪のシステムを作り出したマキリの家が最適だが――」

生憎自分はあの老人を好いてはいない

彼とは決して相容れる事などありえないだろう

ならば自分が行く先は必然的に――

郊外の森、アインツベルンの城

イリヤ「待っていたわアーチャー、遅かったじゃない」

アーチャー「令呪に逆らっているのでね。体の制御が衰えている」

イリヤ「それを考慮して森に案内させたのに」

アーチャー「ふむ、どうやら私がここに来ることはわかっていたらしいな」

イリヤ「侵入者に気付けないなら結界の意味がないじゃない」

アーチャー「それもそうだがね、まさか君が私をすんなり中に招きいれるとはね。何かしらの罠を疑っていたんだが」

イリヤ「あら、そんなに不思議な事ではないでしょう?」

アーチャー「私は遠坂のサーヴァントだ。警戒するのは当たり前だろう?」

イリヤ「貴方に敵意がないのは前の戦いでわかったもの。貴方の殺気はずっとただ一人に向けられていたじゃない」

アーチャー「凛でさえ気付かなかったというのにな。だがその程度で事で君の二人の従者が納得するとは思わないが」

イリヤ「ええ、だからリズとセラをおつかいに行かせたのよ」

アーチャー「警戒心が薄いな君は、彼女ら無で私が君に襲い掛かったらどうするつもりだ」

イリヤ「そんな事貴方はしないわ、バーサーカーに勝てないってわかってるもの。それで貴方の時代の私は貴方を何て呼んでいたのかしら」

アーチャー「やれやれ…相変わらず君には隠し事ができそうにもないな。イリヤ」

イリヤ「当然でしょう?その口ぶりからして別の私と貴方は随分親しかったようね、シロウ」

アーチャー「ああ、――短い付き合いだったがね」

イリヤ「それで、何をしに来たのシロウ。お喋りのためだけにここに来たのではないのでしょう?」

アーチャー「そのシロウと呼ぶのをやめろイリヤスフィール、私は既に衛宮士郎ではない」

イリヤ「そうね、貴方は衛宮士郎であったかもしれないけど、衛宮士郎とは別人だもの」

アーチャー「ああ、でなければ私はここに召喚はされてなどいないだろう」

イリヤ「魂が随分と摩耗しているもの。話を聞きたかったけど、それじゃあほとんど覚えてないのかしら」

アーチャー「この時代に来たことで色々と思い出してはいるがな。残念ながら衛宮切嗣の事などほとんど覚えていない」

イリヤ「名前が出るって事は多少は覚えているのかしら?」

アーチャー「ヤツとの出会いと最期の言葉、そのヤツがオレに遺した二つの呪いぐらいか」

イリヤ「呪い?――そう、貴方の目的はわかったわ。でも残念ね、私はマスター殺し以外に契約破棄の方法は知らないわ」

アーチャー「む、やはりそうか」

イリヤ「サーヴァントから一方的に切れるのなら聖杯戦争が成り立たなくなるじゃない」

アーチャー「となるとやはり方法はないというわけか」

イリヤ「貴方を無理矢理私のサーヴァントにするという方法なら貴方とリンの契約を絶てるわ」

アーチャー「無理矢理?どのようにやるのだ?」

イリヤ「口に出すのも嫌な外道よ。やるとしたらあのマキリぐらいね、それに私のサーヴァントはバーサーカーだけだもの」

アーチャー「そうか。――む?」

イリヤ「どうしたのアーチャー?」

アーチャー「凛からの魔力の供給が途絶えた、応答もない。どうやら結界を動かされたようだ」

イリヤ「そう、なら早く行きなさい。話はまた明日しましょう」

凛がいるであろう学校に着いた時既に結界は消えていた

セイバー「シロウ」

アーチャー「セイバーがいるとは驚いたな」

凛「アーチャー!今更やってきて何のつもりよ!!」

アーチャー「決まっているだろう、主の異常を察してやってきたのだ。もっとも遅すぎたようだがな」

凛「ええ、もう済んじまったわよ!あんたがのんびりしてる間に何が起きたのか、一から聞かせてやるからそこに直れっての!!」

アーチャー「ッチ。どうやら最悪の間で到着してしまったか」

舌打ちしたが勝手な行動のため到着が遅れたのは事実なので素直に小言を聞く

アーチャー「――で、結局、脱落したのはどのサーヴァントだ?」

凛「ライダーのサーヴァントよ」

ライダーのサーヴァント、本来のマスターではない男と戦っていたサーヴァント

アーチャー「腑抜けめ、勝ち抜ける器ではないと思ったが、よもや一撃で倒されるとは。敵と相打つぐらいの気迫は見せろというのだ」

その発言に怒ったセイバーと言い争いになるが凛に窘められ互いに退く

そしてキャスターのマスター探しの話になり

凛「皆疲れてるでしょ?今日はここで解散」

士郎「え、今からでも――」

何かを言いかけた少年は凛によって黙らされる

凛「行くわよアーチャー、帰ったら本気でさっきの不始末を追及するからね」

アーチャー「やはりそうか、凛にしては口汚さが足りないと思っていた」

凛「アンタねえ、ほんっとに一度とことん白黒つけないとダメなわけ!?」

凛「それで、何で遅れたのか理由をきっかり話してもらおうじゃない」

アーチャー「はあ……」

凛「何よ!!」

アーチャー「君は昨夜私にした命令をもう忘れたのかい?」

凛「え?自由行動禁止と家にいろの二つでしょう?まさかそれに従って来なかったとか抜かすんじゃないでしょうね?」

アーチャー「――はあ…」

先程より大きめに溜息をつき、手を挙げ首を横に振る

つまり、わざと呆れているという事を動作で示す

凛「な、何よ?」

アーチャー「君は私と出会った日に令呪を使っただろう」

凛「それが何よ?――あ」

アーチャー「気付いたか。私は君の命令に逆らえば行動が制限される。君の元に向かうのは二つの命令に逆らった事になる」

凛「えっと…つまりは」

アーチャー「君の責任でもあるぞ。本来サーヴァントの行動に制限を付けるのは得策ではない」

凛「でも、それはあんたが衛宮君を――」

アーチャー「だから君を責めるつもりはない。私の要求としては今回の事の不問ぐらいか」

凛「……わかったわ、今日の事は不問にする」

アーチャー「それで明日はどうするのかね?」

凛「学校にいるキャスターのマスターを探すわ。アーチャーは自由にしてて、ただし衛宮君達には近づかないこと」

アーチャー「了解した」

イリヤ「あら、今日は早かったのね」

アーチャー「縛りがなくなったのでね」

セラ「アーチャー!?何故ここに――」

リズ「イリヤの敵、排除する――」

イリヤ「待ちなさい二人共、私の客人よ」

セラ「何を言っているんですかお嬢様、相手は――」

アーチャー「リズ、たい焼きだ。君はこういうのが好きだろう」

リズ「おー。ありがと、アーチャー。おいひい」モグモグ

セラ「リーゼリット!!敵から渡された物を何の警戒もなく――」

リズ「良いじゃん別に。セラ頭固すぎ」

イリヤ「そうそう、セラは融通がきかないんだから」

セラ「な!?」

アーチャー「そう彼女を悪く言うモノではない。敵陣営のサーヴァントを警戒するのは至極当然の事だ」

セラ「そうです――って何で私はアーチャーにフォローされているんでしょう…」

イリヤ「それでアーチャー、貴方は今日は何を聞きに来たのかしら」

セラ「今日はって前も来たのですか!?」

アーチャー「昨日聞いた強制的にサーヴァントにするというのどのようなものか訊きたくてね」

イリヤ「説明するだけなら簡単よ。サーヴァントは魔力の塊でしょう?その魔力を汚染すればいいのよ」

アーチャー「魔力を汚染だと?そのようなことできるのか?」

イリヤ「ええ、汚染された聖杯を用いればね」

アーチャー「――なるほど、そのような仕組みか」

イリヤ「詳しく話さないでも理解できたかしら」

アーチャー「ああ、しかしそうなると契約の破棄に他の方法はないということになるな」

イリヤ「あら、そんなことはないわ」

アーチャー「む?他に方法があるというのかね?」

イリヤ「こっちは確実とは言えないけど、貴方キャスターに誘われていたでしょう?」

アーチャー「あれを覗いていたのか。それがどうかしたのかね?」

イリヤ「キャスターはどうやって貴方を自分の軍門に入れるつもりだったのかしら」

アーチャー「あの小僧にやろうとしたように、凛を導いて令呪を剥ぎ取るのだろう」

イリヤ「あの場にリンはいなかったし、お兄ちゃんと違ってリンはそんな間抜けな罠にはまらないわ」

アーチャー「つまりキャスターは令呪を剥ぎ取る以外に契約を移せると?」

イリヤ「確証はないけど、アサシンを召喚するぐらいだもの。システムは把握してるだろうし、それに――」

アーチャー「裏切りの魔女というわけか。――ふむ、確かめてみる価値はあるというわけか」

イリヤ「もう行くの?」

アーチャー「ああ……これで君と会うのは最後になるだろう。近いうちにどちらかが消えるだろうしな」

イリヤ「どちらか?それは貴方でしょうアーチャー、貴方はセイバーに――行っちゃったか」

翌日の夕方

凛「アーチャー」

アーチャー「呼んだかね」

凛「キャスターのマスターに検討がついたわ」

アーチャー「ほう、ようやく戦闘というわけか。やれやれ、これでやっと私の仕事が――」

凛「貴方は家にいなさい」

アーチャー「何?まさか今朝の件を根に持ってるのかね?」

朝に協力するのはキャスターの方がマシだと言い口論になっている

凛「違うわ。セイバーを連れて行くのに貴方まで来たらフェアじゃなくなるわ」

アーチャー「――まさか君は聖杯戦争でフェアな戦いを挑むつもりか」

凛「ええ、遠坂たるもの常に余裕を持って優雅たれ――二対一なんて全然優雅じゃないわ」

アーチャー「――勝手にしたまえ。作戦がないというわけではないのだろう」

凛「ええ、柳洞寺に戻る前に叩くつもりよ」

アーチャー「そうか」

凛の事だ、想定外の事でキャスターを取り逃す可能性は高い

凛「何よその顔、まさか私が何の策も立てずに挑むとか思ってたんじゃないでしょうね」

アーチャー「君がそのように愚かじゃなくて安心しているよ」

凛「アンタねえ……絶対にキャスターを仕留めてくるから楽しみにしてなさい!!」

アーチャー「ああ、期待せず待っていようとも」

凛「――っ、ふん。今に見てなさいよ!!」

アーチャー「それで、言い訳を訊くとしようか」

凛「……まさか葛木があんな強いとは思わなかったのよ」

アーチャー「……ふっ」

凛「あ、あんた今鼻で笑ったわね!?」

アーチャー「それで、葛木が強いと言ったな。それはどういう事だね?」

凛「どういう事も言葉通りの意味よ。葛木が前で戦ってキャスターが後方支援」

アーチャー「セイバーにはあの女の魔術は効かないだろう」

凛「そう。キャスターの攻撃なんて何の動作もなしに全部無効にしてたわ。それでも葛木に負けたのよ」

アーチャー「待て、セイバーが負けたのか」

凛「そうよ。葛木の一撃をセイバーは避けたんだけど、その避けた筈の攻撃に掴まったのよ」

アーチャー「ふむ、初見殺しの技というわけか」

凛「どう、対応できそう?」

アーチャー「そのような技があると知っていればやられる心配はない。だが――」

凛「だが何よ?」

アーチャー「セイバーがやられてどうやって生き延びた」

凛「それは……衛宮君のおかげよ」

アーチャー「何?」

凛「衛宮君が貴方の剣を投影したの。それで葛木の攻撃を全部捌いたのよ。アーチャー?」」

アーチャー「――いや、何でもない。疲れただろう、今日はゆっくり休むことだ」

今日はここまで

イリヤ「アーチャー、昨日で会うのが最後だったんじゃなっかったかしら」

アーチャー「なに、事情が少し変わってね」

イリヤ「それはセイバーがキャスターを仕留めそこなったから?それともエミヤシロウが貴方の剣を投影したからかしら」

アーチャー「その両方とも言えるが、やはり違うな。キャスターの宝具らしきものが見えたのでな」

イリヤ「あら、貴方は昨日あの場にはいなかったでしょう?」

アーチャー「それは使い魔で覗き見していた君にも言えることだがな」

イリヤ「そういうのはいいわ」

アーチャー「私には覗き見に適した道具があるのでな」

イリヤ「へえー、それでキャスターの宝具がどうかしたの?」

アーチャー「あれはおそらく契約に何かしらの影響を与える類だろう、確証はないがな」

イリヤ「じゃあキャスターの軍門に降るのかしら」

アーチャー「冗談はよしたまえ。あの女狐とはウマが合わんよ、ただ利用させてもらうだけさ」

イリヤ「てっきり敵対関係になるからって宣戦布告かと思ったわ」

アーチャー「私が裏切ればきっと凛は君に助けを頼みに来るだろう。そのときは凛を一時的に拘束してもらいたい、無傷でな」

イリヤ「一時的?」

アーチャー「私が衛宮士郎を殺して、セイバーが凛と再契約するまでの間だ。その後ならばどうしてもかまわん」

イリヤ「凛と契約したセイバーならバーサーカーを倒せるって思ってるでしょう?……いいわ、その代わりに条件があるわ」

アーチャー「条件?」

イリヤ「貴方の話を聞かせて。覚えている限り全てを」

アーチャー「あまり楽しい話ではないが――まあそのぐらいなら良いだろう」

セラ「お嬢様、食事の準備が整いました」

イリヤ「あら、もうそんな時間?楽しい時間って過ぎるのが早いのね」

アーチャー「楽しんでもらえたようで何よりだ」

イリヤ「ええ、貴方が宿泊費のために三ツ星店のシェフと料理勝負をしたってところは傑作だったわ」

アーチャー「おかげで噂が噂を呼びあらゆる有名なホテルのシェフと色々あったがな」

イリヤ「アーチャーも食べて行きなさい。もっとお話したいわ」

アーチャー「私はサーヴァントだ、食事の必要など――」

イリヤ「摂る必要がないだけで別に食べれるんでしょう?お姉ちゃんのお誘いは断らないの」

アーチャー「今の私は君よりも年上なんだがな、そう言われると致し方がない」

リズ「――アーチャーってロリコン?それともシスコン?」

アーチャー「ゴホッ!?リズ、君はいったい何処でそんな言葉を覚えたのかね?」

リズ「買い物行ったとき、立ち読みしたお店の本に載ってた」

セラ「リーゼリット、貴方そんなことしていたのですか……」

アーチャー「む?凛か、どうした?」

リズ「アーチャーが遂に独り言を……」

セラ「え……」

アーチャー「人をそんな可哀想なモノを見る目で見るな!!これはただの念話だ――いやこちらの話だ。了解した」

イリヤ「どうかしたのアーチャー?」

アーチャー「凛に命令されたのでね。そろそろ帰るとしよう」

イリヤ「そう、今度こそ本当にお別れね。さようならアーチャー」

アーチャー「凛」

凛「あ、宿泊道具持ってきてくれた?」

アーチャー「ああ、だが正気かね?」

凛「勿論。あと明日は同行頼むわよ」

アーチャー「同行?何処に行くつもりだ」

凛「デートよ」

アーチャー「デートだと!?君とわた――」

凛「そ、衛宮君を存分に楽しませてやるんだから」

アーチャー「そうか……」

凛「アーチャー?どうかした?」

アーチャー「……なんでもない」

士郎「おーい遠坂ー。遠坂ー」

凛「あ、ちょっと行ってくるわね」

凛が声の主の元に行き、何かしら会話しているのが聞こえる

凛「お待たせ、あ、そうだアーチャー」

アーチャー「なんだね?」

凛「衛宮君昨日の投影から調子悪いのよ。貴方の剣のことだから力になれるならなってあげて」

アーチャー「……了解した」

凛「そ、頼んだわよ。本当にどうしたのよアンタ?」

アーチャー「別にどうもしていない」

衛宮士郎の居所なんてすぐにわかる

この時間なら土蔵で日課の魔術の鍛錬をしているだろう

セイバー「見たところ異常があるのは半身だけのようですが」

士郎「いや異常ってほどじゃない。ただ麻痺してるだけなんだから」

どうやら丁度その話をしていたらしい、ならば好都合だ

アーチャー「体の大部分が麻痺したままか。当然と言えば当然だな」

セイバー「アーチャー……!」

セイバーが少年を守るように立ち塞がる、そして当然だが彼女からは敵意が溢れている

セイバー「何用だアーチャー。我らは互いに不可侵の条約を結んでいるはずだ、己が主の命を守るのなら早々に立ち去るがいい」

セイバーの忠告を無視して進む。生憎マスターの命令は彼の助けとなることだ

セイバー「――止まれ、それ以上進むのならば相応の覚悟をしてもらおう」

セイバーの敵意が殺気に変わっていく

士郎「待つんだセイバー。あいつにその気はない」

セイバー「ですが――」

士郎「要件はなんだよアーチャー。お前の事だ、挨拶しにきたわけでもないんだろう」

アーチャー「投影したと凛から聞いていたがやはりそうか。半身の感覚がなく、動作が中よりに7センチ程ずれているのだろう?」

士郎「――」

言い当てられた事に驚いたのか少年が固まる

アーチャー「体を見せてみろ。力になれるかもしれん」

同調、開始――

心の中でだけ唱えて、背中を向ける少年の体に魔力を流し容態を調べる

アーチャー「運の良い男だ、壊死していると思ったが閉じていたモノを開いただけか」

士郎「閉じていたモノが開いた?」

アーチャー「お前の麻痺は一時的なモノだ。使われていなかった回路に全開で魔力を通した結果、回路そのものが驚いてる状態だろう」

少年の体に再び魔力を流す、それに痛みを感じた少年が一瞬呻き声を上げる

アーチャー「こんなところか、体を動く頃には以前よりマシな魔術師になってるだろう」

セイバー「詳しいのですねアーチャー」

アーチャー「似たような経験があってな。私も初めは片腕をもっていかれた」

最も自分の時は壊死してしまったが

少年達に背を向け立ち去ろうする

士郎「待てよ」

アーチャー「なんだ、セイバーに頼み込んでいつぞやの続きをするつもりか?」

士郎「訊きたいことがある、理想を抱いて溺死しろ、あれがどんな意味なのかってな」

アーチャー「言葉通りの意味だ。付け加えるモノ等何もないが」

士郎「――――!じゃあお前はなんだアーチャー!お前は何のために戦っているんだ」

アーチャー「――知れた事。私の戦う意義は、ただ己の為のみだ」

士郎「自分の為だけ、だと」

アーチャー「そうだ、お前の欲望が"誰も傷つけない"という理想ならば勝手にするがいい」

アーチャー「ただし――それが本当にお前自身の欲望ならばな」

士郎「――な」

アーチャー「戦いには理由がいる。だがそれは理想であってはならない」

そう理想を理由に戦い続けても悲劇しか呼び起こさない

アーチャー「理想のために戦うのなら、救えるのは理想だけだ。そこに、人を助ける道はない」

少年もセイバーも言葉が出ていない、反論が思い浮かばないのだろう

アーチャー「戦う意義とは何かを助けたいという願望だ。少なくともお前にとってはそうだろう、衛宮士郎」

士郎「――――」

アーチャー「だが他者による救いは救いではない。そんなもの金貨と同じだよ、使えば他人の手に渡ってしまう」

かつての過ちを思い出し、それに嫌悪を抱きながら話す

アーチャー「確かに誰かを救う等という望みは達成できるだろうが、そこにはお前自身を救うという望みがない」

士郎「――」

アーチャー「お前はお前の物ではない借り物の理想を抱いて、おそらくは死ぬまで繰り返す」

セイバー「――」

アーチャー「だから無意味なんだ、お前の理想は」

既に少年に言い聞かせるために話しているのではなくなっている

士郎「――――っ」

アーチャー「人助けの果てには何もない。結局他人も自分も救えない、偽りのような人生だ――」

そう言い残しその場を去る

そう自分の間違いでしかない人生は偽りしかなかったのだろう

翌日、同行を断り、凛、セイバー、衛宮士郎の三人が遊んでいるのを遠目に眺めるていた

何が悲しくて憧れ続けた少女と忘れられなかった少女が他の男と楽しくやっているのを近くで見なければならないのだ

そんな中午前中まで晴れ渡っていた空が曇り始めた

三人も雨のために帰るらしく、様子見もここまでで良いと先に帰宅した

彼女らが家にたどり着く頃には日も暮れ雨も本格的に降り始めているだろう

そう考え遠坂邸に先に帰り、風呂の用意をし、夕飯の支度に取り掛かったのが心配だった

アーチャー「遅かったな凛、とっくに夕飯の支度はできている――」

びしょ濡れとなったマスターは血まみれの少年と気を失った女性を抱えて帰ってきた

アーチャー「何があった凛――」

凛「説明はあと!!タオルと救急箱持ってきて!!あと着替え」

凛は少年と女性の手当てを終え、泥と血で汚れた体を洗うために風呂に入る

そして風呂に入っている少女に念話で何が起こったのかの説明を聞く

アーチャー「――そうか、セイバーが奪われたか」

やはりキャスターの宝具は契約を断つモノだったか

凛「随分無関心なのねアーチャー。貴方、セイバーに肩入れしてたんじゃないの?」

アーチャー「そんな素振りを見せたつもりはないが、何を以ってそう思う凛」

凛「そうね、女の勘、で納得できる?」

アーチャー「却下だ、女という歳か君は。まず色香が足りない。致命的なのが、とにかく可愛さが判り辛い」

凛「ふん。ようやく調子が出てきたわねアンタ」

嬉しそうに言う彼女を見て乗せられた事に気づく

凛「確証その一、貴方セイバーと会ったとき手を抜いてたでしょ」

アーチャー「む」

凛「いくらセイバーが強いっていっても、守り上手な貴方が一撃で倒されるとは思えないのよね」

アーチャー「あれは不意打ちだったからな。君と同じ、予想外の展開には弱いんだ」

実際あれはセイバーとの思わぬ再開に驚いたため隙ができてしまっただけで決して手を抜いたわけではない

凛「余計なお世話よ。確証その二、ライダーの一件の後セイバーを挑発してたでしょう。あれってどう考えてもアンタらしくないのよね」

凛「それで少し見方を変えたらわかっちゃった、貴方セイバーを叱ってたんでしょう」

アーチャー「…………」

凛「あ、正解?やっぱりねー、前世からの因縁にしろ何にせよ、アンタがあそこまで冷たい態度をとるなんて珍しいもの」

アーチャー「そうかな。私は誰に対してもああいった対応をしていると思うのだが」

凛「そうは思うは本人ばかりってね。で、そろそろ思い出した?自分がどこの英雄か。セイバーに近い時代の英雄なんでしょう?」

彼女の口ぶりは何かを試しているようだが、それは違うとわかっていて訊いているように思えた

アーチャー「――いや、だが君の言う通りあのセイバーには覚えがある。あちらは知らないようだから、あまり深い関係ではなかったようだが」

彼女は自分と共に戦い敗れたセイバーではなく、また異なる世界のセイバーなのだろう

凛「うーん、じゃあ友人とか恋人とかの関係じゃなかったのね。残念、そうだったらセイバーの正体がわかったのに」

やはり彼女はそのようなことを考えていないようだ

ただ、何か確かめたかった事に確信を持ったようだ

ミス
夕飯の支度に取り掛かったのが心配だった→夕飯の支度に取り掛かったのが失敗だった

このまま会話を続けるのはまずいと感じ話題を変える

アーチャー「連れ込んできた者の様子はどうだ。命に別状はないのか?」

凛「うん、何とか命は取り留めたわ。昨日まではケガを負っても勝手に治ってたのに――」

アーチャー「そっちじゃない。もう一人の方だ」

凛「あ、藤村先生?キャスターの眠りの魔術を受けてるみたいだけど、処置してきたから一週間眠り続けても支障はないわ」

アーチャー「――そうか。だがあの女のそれは魔術というより呪いだ、解呪するには本人を倒すのがてっとり早い」

凛「そうね、どの道聖杯戦争は長く続かない。まああの人ならひょっこり自力で起きてきそうだけど」

アーチャー「――違いない」

否定できないのが恐ろしいが、もしあのまま眠り続けることになってしまうのは困る

アーチャー「キャスター退治が最優先だな。マスターが減ったとはいえ、セイバーは建材だ。余裕はないぞ凛」

凛「わかってる。すぐに街に出るわ、セイバーが操られる前にキャスターを倒さないと」

アーチャー「了解だ。―――ではあの小僧との契約もここまでだな」

凛「え――?」

アーチャー「え?ではない。衛宮士郎はもうマスターではないのだろう。ならば君が使った二つ目の令呪はこれで解約だ」

これで彼女が頷いてくれれば自分は彼女を裏切らないで済む

アーチャー「まさか、共に戦ったよしみで面倒を見てやるなどと言うのではなかろうな」

凛「まさか、そこまでお人よしじゃないわ」

アーチャー「なら――」

凛「けどあいつが降りるっていうまでは約束は破らない。それが私の方針よ――文句あるアーチャー」

そう、彼女はそういう人間だ。ならば――

アーチャー「仕方あるまい。君がそういう人間だということは痛いほどわかっている」

キャスターが陣取っている教会に攻め込む

どうやらキャスターはここの主を襲撃し奪ったようだ

神父の死体を確認しなかったキャスターを挑発する彼女を見ていると懐かしい感覚を思い出す

キャスター「貴女、この状況で私たちに勝てるつもりなのかしら」

凛「やりようによってはね。葛木先生のことは事前にわかっていれば私のアーチャーの敵ではないわ」

凛の計画はこうだ

凛が秘策とやらでキャスターを倒し、自分が葛木を倒す

一見無謀に思える計画だが、彼女を見ていると乗ってみる価値はあると思った

アーチャー「魔術師ではキャスターにかなわないとわかっているのか、凛」

念のために確認する。自分が葛木を殺せてもその間に凛が殺されては意味がない

凛「安心して、勝ち目もない事は言い出さないわ。キャスターはここで倒す」

それを聞いて安心した。ならばここでキャスターを倒すために自分の本来の力を――

凛「そうすればセイバーは元に戻って、士郎と契約し直せるでしょ」

もしそのセリフがなければ、自分はここで全力を出し、キャスターとそのマスターをここで仕留めただろう

アーチャー「理想論だな、彼女をここで倒すというのは難しい。逃げるだけなら彼女は当代一だ、何せ逃亡のために実の弟を八つ裂きにする女だからな」

凛「アーチャー?ちょっと、何のつもりよ」

攻撃をしかけようと構えた凛とキャスターの間に割って入ったことに対する文句だろう

アーチャー「――恨むなよ小僧、こうなっては、こうする以外に道はなかろう?」

階段の上から隠れてる少年への言葉にキャスター達は首をかしげる

アーチャー「さて、キャスター。一つ訊ねるが、お前の許容量にまだ空きはあるのだろうな」

キャスターの宝具によって自分と凛の契約は断たれた

先ほどまで凛と繋がっていたパスは、今はキャスターと繋がっている

少女を殺そうと動き出したキャスターのマスターとの間に、全てを見ていた少年が割って入り攻撃を捌く

しかし見たところ既に少年は限界だろう

セイバーの剣で貫かれ、無茶な投影をし、殺人鬼の攻撃を受けたのだ

キャスター「そこまでのようね。ここでまとめて――」

アーチャー「待てキャスター」

キャスター「アーチャー、貴方にこの場での発言権がないことぐらい読み取っていると思ったけど」

アーチャー「言い忘れていたことが一つあった。君の軍門に降るには一つだけ条件をつけたい」

キャスター「条件ですって」

アーチャー「ああ、無抵抗でお前に自由を差し出したのだ、その代償にここの場では奴らを見逃してやれ」

キャスター「見逃せですって?……ふん、言動の割に随分と甘いのね」

アーチャー「さすがに裏切った瞬間に主を殺した、では後味が悪い」

キャスター「いいわ、今回は見逃してあげるわ。けれど次に目障りな真似をしたら誰が止めようと殺します。それでいいかしらアーチャー」

アーチャー「当然だ、この状況で戦いを挑むような愚か者ならば手早く死んだ方がいい」

キャスター「そういうことよお二人さん、敗者らしく逃げるように立ち去りなさい」

階段をのぼっていく少女が途中で足を止めこちらを見てくる

アーチャー「恨むなら筋違いだぞ凛。マスターとしてこの女の方が優れていただけの話だ、私は強い方をとる」

凛「そうね、けど私は絶対に降りないわよ。キャスターを倒してアンタを取り戻す。その時になって謝っても許さないんだから」

アーチャー「それは無駄骨だな。まあ自殺するというのなら止めはしないが」

外の見回りを命じられたが敵がいないため中に戻り、キャスターと雑談しまた外に戻る

そして日が変わる

恐らく凛達はイリヤに助けを求めるはずだ

そしてイリヤは約束通り凛を拘束し、おそらくここに来るのは衛宮士郎、イリヤとリズの三人だろう

正面で自分が衛宮士郎と戦い殺す

中に入ったイリヤ達はリズが葛木を倒し、中で開放されたバーサーカーがキャスターを倒す

仮にセイバーが動かされても問題はない

衛宮士郎を殺し次第中に戻りキャスターを始末する

そうすればイリヤ達とセイバーが戦う必要はなくなり、セイバーは自分を殺すために凛と契約するだろう

アインツベルンの城からの移動時間を考えると、攻め込んでくるとしたら夜明け前になるだろう

それまでどのようにして時間を潰すか

そうだ、葛木に話を聞きに行こう

以前の自分はマスターとしての葛木を知らず、いつの間にか彼は行方不明になっていた

キャスターの行動を認めているという点で彼には嫌悪感があるが、教師である彼の目的を知るのもまた一興かもしれない

葛木「なぜここに?罪人と咎められてもやむをえないぞ」

アーチャー「何、そういえば最期までアンタを知る機会はなかったと思ってね」

葛木「……良いだろう、外で話すか」

葛木との会話を終え外に戻る

ここに向かってる気配が二つ

バーサーカーの気配を感じないということはイリヤではない

だが想定内だ。彼女ならイリヤスフィールに助力を求めないことも十分ありえた

イリヤに監禁されない限り必ず彼女は来たのだろうから

アーチャー「君の事だ、必ず来ると思っていた。それで用意した策はなんだ、何の手出てもなしで勝負を挑む君ではあるまい」

ランサー「ああ、取りあえずテメエの相手はこのオレだ」

アーチャー「驚いたな、私を失い、数日と経たずに新しいサーヴァントと契約したか」

ランサーが教会に元いた人物のサーヴァントであることは知っていた

だから彼が近づいてくることに何の疑問も持たなかったがまさか凛と共にいるとは――

ランサー「前からテメエは気にくわないと思っていたが――テメエ、性根から腐っていたようだな」

アーチャー「ほう、裏切りは癪に障るかランサー。自分が裏切られたわけでもないのに律儀なことだ」

ランサー「別に嬢ちゃんに肩入れする気はねえよ。単に、テメエみたいなサーヴァントがいるってことが気にくわねえだけだ」

ランサーから殺気が放たれる

この調子では衛宮士郎達に気を一瞬でも向ければ自分は敗れるだろう

凛達はランサーに声をかけて教会に入っていく

ランサー「全く面倒なことになっちまったな。おいそれと主を裏切れない身としちゃあ少しばかり眩しいってもんだ」

アーチャー「随分と甘いモノだなランサー。君は隣の芝生は青いという言葉は知っているか」

ランサー「なーに言ってやがる。んなもん、オレが知ってるワケねえだろうが――――!!」

ランサーとの勝負はあっさりと終わった

彼の宝具を自分の宝具では受け止めきれなかった

キャスターの監視がなくなった以上、自分にランサーと戦う意義はない

あっさり降参し、それで全てを悟ったランサーは草むらに寝転がった

その場を離れキャスター達の元に辿り着く

葛木「セイバーを起こせ。甘くみていい相手ではなさそうだ」

キャスター「ええ、的確な判断ですわマスター」

アーチャー「――ああ、それがあと数秒程早ければな」

既に投影は完了している

魔力を察知したキャスターが上を見上げ、頭上に浮かぶ無数の剣に気づく

アーチャー「――投影、開始」

一斉に落下を始めた剣はキャスターとそのマスターに襲い掛かり、キャスターはマスターを庇い消滅した

凛「アーチャー、もしかしたらって思ってたけど、そういうコト?」

葛木「獅子心中の虫か、これを狙っていたなアーチャー」

アーチャー「ああ、だがどちらかといえばトロイの木馬だろう」

葛木「そうか、お前のような男を引き入れたキャスターの落度だったな」

アーチャー「続けるというのなら止めはしない」

葛木の攻撃をかわし、その心臓を貫く

葛木はあっけなくその生を終えた

士郎「セイバー!!」

倒れているセイバーに少年がかけよる

アーチャー「――投影、開始」

セイバー「シロウ!!」

セイバーが少年を押しのけ、射出された数本の剣は床に突き刺さる

アーチャー「――チ、外したか」

凛「アーチャー、何のつもり!?キャスターは倒したんだから、もう勝手な真似は許さないわよ!!」

マスターだった少女が詰め寄ってくる

アーチャー「許さない?なぜ私が許されなければならないのだ、マスターでもないオマエに」

凛「え?アーチャー……?」

アーチャー「オマエとの契約は切れている。何故自由となった私が、自ら進んで人間の手下になると思うのか?」

凛「まさか、アーチャー」

アーチャー「私は私の目的のためだけに行動する。だがそこにオマエがいては些か面倒だ」

凛の周りに投影した無数の巨大な剣を落とし檻を作る

アーチャー「ここまで来て邪魔はさせん。契約が切れた今、オマエにかけられた令呪の縛りも存在しない」

彼女の命令に服従と衛宮士郎を殺すなの二つの邪魔などもう存在しない

アーチャー「キャスターについた理由はそれだけだ。あの令呪を無効にするには契約を破棄するしかなかったからな」

凛「やっぱり――何でよアーチャー!!アンタまだ士郎を殺すつもりなの!?」

やはり彼女は自分の正体、真名に気づいてしまったようだ

アーチャー「そうだ、自らの手で衛宮士郎を殺す。それだけが守護者と成り果てたオレのただ一つの願望だ」

今日はここまで
残りは対士郎、聖杯戦争終わり、オマケをやって完結予定です
100レス以内で完結予定がいつの間にか400越えてしまった…

アーチャー「いつか言っていたなセイバー。オレには英雄としての誇りがないのかと。当然だ、オレには馬鹿げた後悔しかない」

そう、後悔しかない

アーチャー「オレはね、セイバー。英雄になど、ならなければ良かったんだ」

本気でそう思っているからこそ、つい素の自分が出た

セイバー「――――」

それでセイバーも悟ったのだろう、アーチャーの正体が英霊となった衛宮士郎なのだと――

セイバーから敵意が完全に消え去る

アーチャー「そういうことだ、退いているがいい騎士王。マスターがいない身で無茶をすればすぐに消えるぞ」

セイバー「そうはいかない。マスターでなくなったとしても、契約は消えない。彼を守り、剣となると誓った」

アーチャー「そうか。ならば偽りの主共々ここで消えろ」

キャスターの令呪に逆らい続けていた彼女に魔力は残っていない

数度の攻撃で彼女は膝をついた

彼女をここで斬る事に躊躇いはない。今まで守りたいと思ったモノをそうやって排除してきたのだから――

士郎「っあああああああ――――!!」

降り落した剣を割って入った少年に受け止められる

アーチャー「ほう、あと暫くは大人しくしていると思ったがな。流石に目の前で女が殺されるのは耐えられないか」

士郎「うるさい。お前が殺したがってるのは俺だろ。なら、相手を間違えるな」

少年が使っている武器も、その剣技も全て自分と同じだ

アーチャー「人真似もそこまでいけば本物だ。だが――お前の体は、その魔術行使に耐えられるかな」

士郎「――く」

アーチャー「分不相応の魔術は身を滅ぼす。お前をここまで生かしてきた魔術の代償、ここで支払うことになったな」

士郎「黙りやがれてめえ――」

相手は自分と同じ剣技で攻めてくる。だが、所詮借り物だ

いくら精巧に模倣したところで決して本物には敵わない

アーチャー「納得がいったか。それが衛宮士郎の限界だ。無理を積み重ねてきたお前には相応しい結末だろう」

もう少年は立ち上がれない、終わりだ

ようやく長かった時に終止符をうつことが――

凛「――告げる!汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に!聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら――」

アーチャー「――!」

セイバー「セイバーの名に懸け誓いを受ける。貴方を私の主として認めよう、凛――!!」

烈風が巻き起こる

正規のマスターを得、本来の力を取り戻したセイバーの姿

アーチャー「ち、元より凛と再契約させるつもりだったが、些か手順が違ってきたか」

あの底なしのような膨大な魔力であればあのバーサーカーさえ簡単に倒せるだろう

アーチャー「それで、どうするセイバー。凛と契約した以上、君は本当に衛宮士郎と無関係になったわけだが――」

セイバー「言ったはずですアーチャー、シロウとの誓いはなくならないと。貴方こそどうするのですアーチャー、今の私を相手して勝機があるとは思わないでしょう」

アーチャー「たかが魔力が戻った程度でよくもそこまで強気になる!!」

決着は一瞬でついた

セイバーの攻撃に自分は耐えられなかった

セイバー「ここまでですアーチャー。万全な貴方ならまだしも今の貴方の魔力ではこれ以上戦えない」

セイバーの言う通りだろう

ランサーとの戦いで半分以上の魔力を費やした上に、今の自分には魔力を供給するマスターがいない

セイバー「この世に留まるための依代もいない。魔力の供給もままならない、今の貴方に何ができる」

アーチャー「それこそ余計な世話だ。アーチャーのクラスには単独行動のスキルが与えられる。魔力の供給がなくても二日は存在できよう」

それだけあれば衛宮士郎を殺すには十分だ

セイバー「馬鹿な…貴方の望みは聖杯ではなく、シロウを殺す事だとでも!?貴方の望みは間違っている、そんなことしても貴方は――」

アーチャー「それはこちらの台詞だセイバー。君こそいつまで間違った望みを抱いている」

セイバー「アーチャー……」

セイバーから距離をとり武器を消す

セイバー「アーチャー、剣を捨てたということは戦いを納める気に――」

アーチャー「まさか、オレはアーチャーだぞ?元より剣で戦う者ではない」

最もその弓すら、借物の贋作だが――

“I am the bone of me sword”

セイバー「やめろアーチャー!私は貴方とは――」

アーチャー「セイバー、いつかお前を解き放つ者が現れる。おそらく次も、お前と関わるのは私なのだろうよ」

“Unknow to Death.Nor Known to Life”

アーチャー「だがそれはあくまで次の話。今のオレの目的は衛宮士郎を殺す事だけだ、それを阻むのなら、この世界はお前が相手でも容赦はせん」

“――Unlimited blade works.”

セイバー「これ、は――」

セイバーが戸惑いの声をあげる

凛「固有結界。心象世界を具現化して現実を侵食する大禁呪。つまりアンタは剣士でもなければ弓兵でもなくて」

アーチャー「そう、生前、英霊となる前は魔術師だったということだ」

セイバー「では貴方の宝具は――」

アーチャー「そんなものはない。宝具が英霊のシンボルだというのなら、この固有結界こそがオレの宝具」

セイバー「これが…貴方の世界だというのかアーチャー」

アーチャー「そうだ、なんなら試してみるかセイバー。お前の聖剣――確実に複製してみせよう」

セイバー「私の聖剣、その正体を知っていうのか」

アーチャー「勿論、あれほどのものになると完全な複製はできぬが、真に迫る事はできる」

普段ならば到底投影などできぬが、この世界の中にその実物があるのだから

アーチャー「となるとどうする?聖剣同士が衝突した時、周りの人間は生きていられるかな」

セイバー「な――アーチャー、貴方は……」

アーチャー「そういうことだ、間違っても聖剣を使うなセイバー。生き残るのは衛宮士郎だけ、それではあまりにも意味がない」

左手を上げると背後の地面刺さっていた剣が次々に浮遊していく

アーチャー「抵抗はするな。運が良ければ即死することもない。事が済んだ後お前のマスターに癒してもらえ」

背後の剣をセイバーと衛宮士郎の両方を貫ける位置に配置する

アーチャー「躱してもいいが、その場合、背後の男はあきらめろ」

士郎「――投影、開始。ふざけ――――てんじゃねえ、テメエ――――!!」

アーチャー「チ――」

固有結界は発動自体の魔力の消費は小さいが、展開後に世界の修正力が働くため維持に莫大な魔力を要する

つまり時間切れというわけだ

固有結界・無限の剣製がなければセイバーのいるこの場で衛宮士郎を殺す事はできない

凛「ちょ――アーチャー、アンタ―――!?」

凛の首筋に手をあて、魔力を流し込み意識を刈り取る

セイバー「どこに行く気ですアーチャー」

アーチャー「これ以上邪魔の入らないところだ。今のでオレは魔力切れだしな」

士郎「――郊外だ」

アーチャー「何?」

士郎「だから郊外の森だ。そこに使われていない城がある。あそこなら誰にも迷惑はかからない」

セイバー「シロウ!?」

郊外の森の城だと

あそこにはイリヤスフィールの、アインツベルンの城しかないはずだ

誰にも迷惑がかからないはずが――

アーチャー「そうか、アインツベルンの城があったな。確かにあそこなら邪魔は入るまい。良い覚悟じゃないか衛宮士郎」

士郎「それまで遠坂に手を出してみろ。その時はセイバーの手を借りてでもお前を殺してやる」

アーチャー「一日は安全を保障してやる。だが急げよ、オレとて時間がない。もしその前にお前を殺せないとなると腹いせに人質をバラしかねん」

アインツベルンの城に来たはいいが来客があった

慎二は凛が欲しいようだが関係ない

高笑いをする慎二とその後ろにいる金髪の男・英雄王ギルガメッシュを無視して外に出ようとする

ギルガメッシュ「――偽物」

それを無視して出て行き、城の広場に向かう

ギルガメッシュ「待てアーチャー」

アーチャー「何の用だギルガメッシュ。慎二の手前見過ごしたが、始末しにきたか」

ギルガメッシュ「お前のマスター、いや元マスターか。あの娘には我が合図をするまでは手を出さぬよう慎二に言っておいてやったぞ」

アーチャー「ふん、余計な真似を。あの少年がそう容易くそれを守るとは思えんがね」

ギルガメッシュ「あのような道化、手綱を握るのは容易いことよ」

アーチャー「何を考えているギルガメッシュ」

ギルガメッシュ「愉悦さ。貴様のような贋作は見るに堪えんが、貴様のやろうとしている事は実に興味深い」

アーチャー「私のやろうとしている事だと?」

ギルガメッシュ「我も昔の我に会えば同じ事をするだろうよ」

アーチャー「君は昔ではなく今の自分との遭遇でも喜んでするだろう。君はそういう男だ」

ギルガメッシュ「やはり貴様の贋作は我の宝物庫から盗み見たモノか」

アーチャー「そうだとしたらどうするのかね」

ギルガメッシュ「コトが済んだ後で我自ら裁定してやろう」

夜が明けてようやく到着した衛宮士郎と対峙する

アーチャー「オレは人間の後始末などまっぴらだ。だが守護者となった以上、それを抜け出す術はない、ただ一つの例外を除いて」

英雄となる筈の人間を、英雄になる前に殺してしまえば、その英雄は誕生しない。故に――」

セイバー「シロウを殺すというのですか。他でもない、貴方自身の手によって」

アーチャー「そうだ、その機会だけを待ち続けた。それだけを希望にして、オレは守護者などというものを続けてきた」

セイバー「それは無駄です。貴方はもう守護者として存在している。ならもう遅い、シロウを消滅させたところで貴方は消えはしない」

アーチャー「今更結果など求めていない。これはただの八つ当たりだ。くだらぬ理想の果てに道化になる衛宮士郎という小僧へのな」

士郎「アーチャー、お前、後悔しているのか」

アーチャー「無論だ。オレ、いやお前は正義の味方になぞなるべきではなかった」

士郎「そうか、それじゃあやっぱり俺たちは別人だ」

アーチャー「何?」

士郎「俺は後悔なんてしない。どんな事になったって後悔だけはしない。だから絶対にお前の事も認めない」

アーチャー「その考えがそもそもの元凶なのだ。お前もいずれオレに追いつく時が来る」

士郎「来ない、絶対に来るもんか」

アーチャー「わかっているのだろうな、オレと戦うという事は剣製を競い合うという事だと――投影、開始」

士郎「――投影、開始」

両者構えるのは、見た目が同じの双剣

アーチャー「オレの剣製についてこれるか。少しでも精度を落とせばそれがお前の死に際になろう!!」

何度も互いの剣はぶつかり合う

その度に衛宮士郎の剣は砕かれる

そして何度も少年の肉を斬りつける

アーチャー「投影による複製ではそろそろ限界だな。わざわざアレを見せてやったというのに、未だそんな勘違いをしているとはな」

そう、本来固有結界をあそこで使う必要はなかった

見せたのは衛宮士郎の矯正をするために――

いや、何を考えている。オレはあの男を――

打ち合う度に頭痛が襲い掛かる

これは同じ存在が同じ場所に存在するが故の――違う

いや無理矢理引き出されているというのが正確か

双剣をやめ一角剣を投影し貫きにかかるが、同じモノを投影され防がれる

アーチャー「計算違いか。前世の記憶を降霊、憑依させることでかつての技術を習得する魔術があると聞くが――」

少年の投影精度は先ほどまでとは比にならない

アーチャー「オレと打ち合う度にお前の技術は鍛えられていくようだな」

あの吐きそうな顔、投影技術や剣技だけでなく、あの地獄も引き出したのだろう

絶世の名剣(デュランダル)を投影し衛宮士郎を斬り飛ばす

アーチャー「オレにはもはやお前の記憶などない。だがそれでもあの光景だけは覚えている。絶望の中で助けを請い、衛宮切嗣という男のオレを助け出した時の安堵の顔を」

アーチャー「お前はただ衛宮切嗣に憧れただけだ。あの男のお前を助けた顔があまりにも幸せそうだったから、自分もそうなりたいと思っただけ」

――僕はね、正義の味方になりたかったんだ

――じいさんの夢は、俺が叶えてやるよ

アーチャー「お前の理想はただの借り物だ。衛宮切嗣という男がなりたかった、正しいと信じたモノを真似ているだけだ」

士郎「それ、は――」

アーチャー「正義の味方だと?笑わせるな。誰かの為になると繰り返し続けたお前の想いは、決して自分で生み出されたものではない」

少年と打ち合いながら罵倒する

アーチャー「そんな男が他人の助けになるなどと、思い上がりも甚だしい!!」

怒りのままに少年に剣をぶつける

アーチャー「誰かを助けたいという願いが綺麗だったから憧れた!!」

既に剣技も糞もない。ただ怒りのまま力任せに振るっているだけ

アーチャー「故に自身からこぼれ落ちた気持などない。これを偽善と言わずなんという!」

少年の剣が折れ曲がる

アーチャー「この身は誰かの為にならなければと強迫観念に突き動かされてきた。それが破綻していると気づく間もなく走り続けた」

彼の心を折るための罵倒ではなくなっている

アーチャー「だが所詮偽物だ。そんな偽善では何も救えない。もとより何を救うべきかも定まらない」

少年、かつての自分に対する怒りか

アーチャー「その理想は破綻している。そんな夢を抱いてしか生きられぬのであらば、抱いたまま溺死しろ!!」

士郎「ふさ――けんな!――体は――――I am the bone of my sword.」

アーチャー「貴様まだ――そうか、彼女の鞘――」

士郎「お前には負けられない。誰かに負けるのはいい。けど、自分には負けられない――!!」

アーチャー「ぬっ――――!!」

既に慢心創痍であるというのに、少年の一撃は自分の剣を弾いた

アーチャー「な――――に?」

少年の剣戟は今までより遥かに重く、今までの比ではないぐらい早かった

少年は息が上がり、既に死に体だ

それなのに何故――

士郎「……じゃない」

少年が何かを呟く

士郎「……なんか……じゃない」

少年の声は弱かった。しかしその剣戟は苛烈だった

アーチャー「チ――」

既に敵に意識はない。無意識に慢心創痍のまま剣を振るっているのだ

一歩下がればこの敵は前のめりに倒れ死体となるだろう

だが、何故かそれは許せなかった

あと二つ防げば敵は自滅する、そう読んでから何十回この打ち合いを続けている

士郎「……なんか、じゃない!!」

繰り返される剣戟に終わりはないのだと悟る

既に敵は指を骨折し、あらゆる場所を斬られている

それでもこの敵は止まらない

この敵は決して自分からは止まらない

勝てぬと知って、なお挑み続けるその姿に

その姿は自分が憎み続けた過ちに他ならない

だというのに――

アーチャー「そこまでだ、消えろ――」

敵がが今まで防げなかった渾身の一撃

それは容易く弾かれ、左胸ががら空きになる

しかしその衝撃で敵の腕と足が折れたのがわかる

折れていない方の攻撃が来るも、自分ならば簡単に防げる

そして切り返せば彼は死に、自分の勝ちと――

士郎「間違いなんかじゃない!」

――まっすぐなその視線

士郎「――決して、間違いなんかじゃないんだから!!」

間違いじゃない、その言葉を聞き、敵を殺そうとした必殺の一撃が止まる

そして、自分の胸に刃物が突き刺さる

何故今の攻撃が止まってしまったのかはわからない

ただ一つわかっているのは――

士郎「俺の勝ちだ、アーチャー」

アーチャー「――ああ。そして私の敗北だ」

自分はサーヴァントだ、貫かれたぐらいでは簡単に反撃できる

それをしようと思わないということは、自分は彼を認めてしまったのだろう

少年が剣を引き抜く

魔力が尽きかけているのか、自分の傷はもう治らない

セイバー「シロウ、大丈夫ですか?」

士郎「ああ、なんとか――あれ?傷が塞がってきてる」

アーチャー「セイバーの鞘のおかげだ。衛宮切嗣があの火災の際、お前を助けるために埋め込んだものだ」

士郎「セイバーの鞘?」

セイバー「なるほど、シロウの傷がすぐ治るのはそのためですか」

凛「士郎無事!?ってアーチャー、アンタその傷どうしちゃったのよ」

あんな目にあわしたというのに、彼女は未だパートナーとして自分を心配するというのか

アーチャー「――まったく、つくづく甘い。彼女がもう少し非道な人間なら、私もかつての自分に戻らなかったものを」

セイバーがついている、凛はもう大丈夫だろう

アーチャー「ともあれ決着はついた。お前を認めてしまった以上、エミヤなどと言う英雄はここにはいられん。――敗者はそうそうに立ち去るとしよう」

立ち去ろうとしてその気配に気づく

士郎「え?」

少年を何とか突き飛ばすが自分には無数の剣が突き刺さる

セイバーや現れた男が何かを言っているが聞き取れない

そんな中再び第二射が飛んでくる

さて、かつての約束通り自分が相手をするのもいいが

あの男と約束したのはかつての自分だ、ならば――

――お前が倒せ

アーチャー「く……」

何とか霊核の破壊は免れたらしい

とはいえ、実体化するほどの魔力は先ほどの攻撃で消え去った

自分にはもう目的がないのだから消えてしまっても良いのだが

やれやれ彼女のせいだ

どうやらお人好しなところが移った、いや元に戻ってしまったというべきか

彼女たちの結末を――

いや、この聖杯戦争の結末を見守らせてもらうとしよう

聖杯の降臨が行われているのは間違いなくあの場所だろう

しかしもし凛やあの少年が危機に陥った場合

いや、ないに越した事はないのだが――

ギルガメッシュには最後まで気づかれてはいけない

彼に勝てる可能性があるとすれば、彼が慢心して本気を出さない場合のみだ

セイバーの聖剣は聖杯を破壊するのに必要不可欠である

そうするとセイバーとギルガメッシュが戦うのは避けたい

つまりギルガメッシュが自分を警戒しないように援護する必要がある

ぎりぎりまで霊体で離れた位置で見守らせてもらうとしよう

なに、何もなければそのまま消えればいい

正面以外から山に入る

自分がここまで弱っていなければ結界を抜けるのは不可能だっただろう

ギルガメッシュの前に魔力の渦が発生している

それに対して衛宮士郎があらゆる武具を前方に展開している

だが、あの程度のものではあの英雄王の乖離剣の一撃を防ぐ事はできないだろう

聖杯の泥が溢れ出て周囲にサーヴァントの気配が溢れている現状だ

これならばヤツの視界に入らなければ気づかれる事はない

幸い乖離剣は威力が凄まじ過ぎるため、視界は良好とは言い難い

アーチャー「I am the bone of my sword――“熾天覆う七つの円環”」

乖離剣の一撃が直撃する寸前、何とか盾が間に合う

しかし、さすがのアイアスもあの一撃を完全に防ぐ事は叶わなかったか

吹き飛ばされ倒れていた衛宮士郎が立ち上がる

そしてその表情を見て察する

彼ならば暫く様子を見守る必要はないだろう

となると一旦凛の様子を見に行くべきか

彼女は衛宮士郎以上に心配だ

彼女は急な展開に弱い上、一番大事な場面ではやらかしてしまうからな

凛はどうやら聖杯の泥の中の肉塊の中にいるらしい

泥の前で立ち尽くしているセイバーの様子を見る限り念話で会話しているのだろう

かつて彼女達両方と契約をしていた名残か

彼女達のパスを通じて凛の様子を探ることができる

凛「……ごめんねセイバー。言う事きかないだろうから無理矢理聞かせる」

どうやら相当まずい状況のようだ

先ほどのアイアスの盾での消費で助け出せる程の魔力が残っているのかがギリギリなところだが

凛「あとアンタにも謝っとかないと。慎二、助けられなか――」

考えるまでもない

投影した無数の剣を射出すると同時に念話を送る

アーチャー「いいから走れ。そのような泣き言、聞く耳もたん」

凛「えっ――」

あの泥や肉は一度攻撃したところですぐに再生する

となれば、魔力の続く限り射出し続け道を創る他ないだろう

脱出した少女が令呪を用いてセイバーに叫ぶ

セイバー「約束された――勝利の剣」

黄金の光が聖杯の孔を破壊するのを見届け、少年の元に向かう

全く最期まで世話のかかる少年だ

ギルガメッシュに最期の力で投影した短剣をぶつけた後、光が差し始めた崖に立つ

凛「アー、チャー」

アーチャー「残念だったな。そういうわけだ、今回の聖杯は諦めろ凛」

凛「アーチャー」

少女は何かを言おうとしているが、言葉が見つからないようだ

相変わらずな少女の懐かしい姿に思わず笑みが浮かぶ

凛「なによ、こんな時だってのに、笑うことないじゃない」

アーチャー「いや失礼、君の姿があまりにもアレなものでね。お互いよくもここまでボロボロになったとあきれたのだ」

凛「アーチャー、もう一度わたしと契約して」

アーチャー「それはできない。私にその権利はない、それにもう目的がない。私の戦いはここで終わりだ」

凛「けど!それじゃあアンタが…いつまでも――」

アーチャー「まいったな、この世に未練はないが――凛」

涙を堪える少女の顔は可愛かった、もっと彼女といたいという気持ちが湧くがそれは自分の役目ではない

アーチャー「私を頼む。知っての通り頼りないヤツだからな。君が支えてくれ」

凛「アー…チャー……。わかった、私頑張るから、きっとアイツが自分を好きになれるように頑張るから。だからアンタも――」

その先の言葉は少女の表情を見ればすぐにわかった

ああ、自分は誰かに認めてほしかったわけではなかったが――やはりこの少女は別格なのだろう

その少女の姿をしっかり記憶に焼き付ける

アーチャー「答えは得た。大丈夫だよ遠坂。オレも、これから頑張っていくからさ」

輪廻の枠から外れ、時間の概念もない此処ではただそうであった記録だけが増えていく

それが過去に起きたことなのか、未来に起こることなのかはわからない

ただ、そういう記録だけが増えていく

殺して、殺して、殺して、

殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して――

善悪の区別なく、命じられるままに気が遠くなるほど殺して

絶望に嘆く人を救うのではなく排除して――

これでは生前とは何も変わらないのではないか

既に生前の記憶等、ほとんど覚えていない。既に魂は摩耗しきっている

だから憎んだ

争いを繰り返す人々と、それを救いたい等という愚かな願いを持った生前の自分という間違いを

この繰り返される輪から外れるにはただ一つ、自分という間違いを消す事を願っていた

ただ一つの願いが、自分という間違いを排除するということが達成できそうな時が一度だけあったらしい

しかしその時それは達成しなかった

ただ、答えは得た

後悔はある、何度やり直しを望んだかはわからない

この結末をエミヤは未来永劫呪い続けるだろう

だがそれでも、オレは間違えてなどいなかった

長かったこの話もこれにて完結です
ここまでこの長文に付き合ってくださった方ありがとうございます
あとオマケ短編(本編とほぼ無関係?)を明日か明後日に何個か投下してこのスレ終了となります

オマケ1
エミヤ「このオマケはこのスレの本編や、原作における補足や説明のようなものだ。例えば―」

士郎「お前のカラドボルグⅡって本物の螺旋剣と形状が離れ過ぎていないか?」

エミヤ「だから偽なのだ阿呆め。あれは偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)であって、虹霓剣(カラドボルグ)ではない」

士郎「どう違うってんだ?」

エミヤ「私は虹霓剣の贋作を投影しているというわけではないという事だ」

士郎「だからどういう事だよ?」

エミヤ「だがあの剣は神造兵器だ。セイバーの聖剣やギルガメッシュの乖離剣と同じで投影はできん――投影開始」

士郎「うわっ!?これが虹霓剣を投影したヤツか?」

エミヤ「ああ、見ての通り中身のない外側だけだがな。そしてこれを見ろ」

士郎「これはセイバーの剣?カリバーンだったっけ?」

エミヤ「そしてここに基本骨子から虹霓剣の螺旋の部分を抽出して付け加えると――」

士郎「偽・螺旋剣の出来上がりってわけか」

エミヤ「昔はどうせ爆発させるのだからと思っていたが、空っぽのものでは大して威力が出ないのでな」

士郎「それをさらに矢として放ちやすく形状を変えて放っているのか」

エミヤ「ああ、爆発させずともキャスターの防御を破れる程の威力はあるぞ」

士郎「でも何で聖剣は投影できるんだ?」

エミヤ「十年間聖剣はの鞘をその身に宿していたからな。もっとも鞘の投影は彼女とのパスがない今はできないがな」

オマケ2
凛「ねえアーチャー」

エミヤ「なんだね凛」

凛「貴方ってランサーやギルガメッシュと仲悪いじゃない」

エミヤ「それがどうかしたのかね?」

凛「でもギルガメッシュの事はそこまで嫌ってるように思えないんだけど」

エミヤ「それはランサーと比べてということかね?」

凛「まあそうね」

エミヤ「それは生前の部分が大きいな」

凛「生前?」

エミヤ「ああ、このスレの>>1>>294までが私の生前のギルガメッシュとの関係なわけだが」

凛「私のサーヴァント時代のギルガメッシュね」

エミヤ「ます私にとってのランサーだ。二度殺されかけ、弱ってるセイバーを狙われ、何故か凛と親しくなっている。ふむ、好む理由がないな」

凛「あー。でも仲良くってそれはアンタが裏切ったからじゃない」

エミヤ「次にだ。まず凛のサーヴァントだったころのギルガメッシュだ」

凛「話逸らしたわね」

エミヤ「何度も命を救ってもらい、何度か地雷を踏み殺されかけ、セイバーやイリヤスフィールを助けてもらい、頻繁に何かしら奢ってもらい、宝物庫の中身を見せてもらった」

凛「嫌う理由がそこまでないわね」

エミヤ「では次に四次からのギルガメッシュだ。生前セイバーを葬り、こちらではバーサカーを倒し、イリヤスフィールを殺し、私を殺しかけ、凛を殺そうとし、慎二を増えるワカメにし」

凛「最後以外悪いことしかしてないわね」

エミヤ「奴は味方だろうと敵だろうと嫌な部分と良い部分が両極端だからな。苦手で相性は悪いが、ランサーと比べるとマシだな」

士郎「そんなコト言ってたら俺はお前に良い感情はないぞ」

エミヤ「それはお互い様というヤツだ」

オマケ3
凛「そう言えばアーチャーは私とセイバーを契約させようとしてたけど、アンタの生前の私とセイバーも契約してたの?」

エミヤ「いや、魔力供給を肩代わりしてもらっていただけだ。もし英雄王との契約がなければ完璧な状態のセイバーになっただろうがな」

凛「それってどうやってパスを繋いだのかしら?」

エミヤ「確か英雄王がその時の様子を盗撮していてね。凛の部屋のあの宝箱の中でなら王の財宝が繋がるから見れるはずだ」

子ギル「というわけで取ってきたよ」

凛「何勝手に人の部屋入ってんのよ」

士郎「DVDってことはバックアップ作りまくってるのか」

子ギル「これがその様子さ」

セイバー『だ、ダメです凛。そこは、あっ……ん……』

凛「」

凛『ふ……ん、ぁ……どうセイバー』

セイバー『あ、ッ――――…だ、ダメです凛。そこは―――』

凛『……そこは、なに?だぁめ、はっきり言ってくれないとやめて――あぅっ』

セイバー『凛、次はこちらの番ですよ』

凛『だ、ダメセイバー、そんな急に――』

セイバー「そこで集まって何を見ているのですか?ってこれは――」

アーチャー「あ」

セイバー「約束された勝利の剣!!」

士郎「ぎゃぁああああああ!!」

子ギル「こういう時のためにバックアップって大事だよ――」

オルタ「全部出せ、さもなくば……」

子ギル「あ、はい」

オマケ4
イリヤ「アーチャーって摩耗して覚えていないっていう割に色々覚えているわよね?」

アーチャー「UBWで衛宮士郎と打ち合った際に、彼に私の記憶が流れこんだように私にも衛宮士郎の記憶が流れ込んだのだという説はどうかな」

イリヤ「えー。でもUBWルート以外にも私とかタイガとかセイバーとかリンとか桜のことは覚えてるらしき描写あるもんね」

リズ「むっつりスケベ」

アーチャー「む、リズやセラの事だって覚えてるぞ」

セラ「どちらにせよ女性じゃないですか」

アーチャー「いや、他にもバーサーカーやランサー、ギルガメッシュのことも覚えてはいた」

イリヤ「やっぱり覚えてるじゃない。キリツグのこととかワカメとかも覚えてたし、逆に何を覚えてないの?」

アーチャー「ではこの街に来たことで思い出したのだろう。実際凛も本人から名前を聞くまで忘れていた」

イリヤ「名前だけで好みの紅茶とか思い出すのかしら」

リズ「さー」

イリヤ「アーチャーが忘れてたのって諦めないとかそういう志的なモノだけじゃない?本当ダメなとこだけキリツグに似るんだから」

セラ「女癖の悪さとかもですね。色んな場所で恋人を作っていたそうですし」

リズ「あ、でも恋人いても、美味しい展開までいってない」

セラ「あと不敗って言っていますが結構負けてますよね」

リズ「見得張り過ぎ」

イリヤ「本当残念ね」

アーチャー「」

番外編

今日もまた守護者として召喚される。もっとも今回は一人ではないようだが――

エミヤ「まさか、また君と出会える時が来るとはねセイバー」

アルトリア「そうですねアーチャー、いや聖杯戦争ではないのですしアーチャーと呼ぶのはそぐわないですかね」

エミヤ「いやお互いクラス名で良いだろう。我々は、少なくともオレはその呼び方に慣れている」

アルトリア「そういえば貴方がシロウだった時も私が貴方のサーヴァントだったみたいですね」

エミヤ「ああ。しかし君は霊体の状態でここに現れたということは――」

アルトリア「ええ、英霊になったのです。聖杯に願いを叶えるのはやめましたが、やはりこれが私には合っている」

エミヤ「そうか。君は間違った望みではなく、ちゃんとした答えを得たのだな」

アルトリア「そういう貴方はどうなのですか?もう自分を殺すなんて事は――」

エミヤ「オレはあの時の結末を永遠に呪い続けるし、後悔を続けるだろう」

アルトリア「アーチャー、では貴方は――」

エミヤ「――だが答えは得た。オレは間違ってなどいなかった」

アルトリア「アーチャー……そうですか。それを聞いて安心しました。今の貴方はとても晴れやかな表情をしている」

エミヤ「ふ――さて、雑談もここまでだセイバー。お互い守護者となったのだ、しっかり仕事をせねばな」

アルトリア「ええ、行きますよアーチャー。ふふっ」

エミヤ「何がおかしい?」

アルトリア「まさか再び貴方と共に戦える時が来るなんて、と思っただけですよシロウ」

エミヤ「――ふん。私に着いてこられるか騎士王」

アルトリア「ふ――そちらこそ、遅れを取らないでくださいよ」

聖剣を構え走り出す

かつて掲げた理想を守るため、エミヤは今日も戦場に出る――

番外編・完

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年10月27日 (火) 09:37:45   ID: v8oRJSXZ

2 :  SS好きの774さん   2015年11月20日 (金) 13:53:41   ID: kJ2llSq5

何処から突っ込めばいいのか分からない設定の粗さ

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