女「たとえば、の話」(38)


例えば、の話だよ
君は醜いあひるの子
でも隣の子も、その隣の子も綺麗な白鳥の子供
鏡を見て落ち込む君に、まわりの子は君の肩に優しく手を添えて、声をそろえて言った
「あひるならあひるなりに自分を認めてやればいい」
吐き気がする、反吐が出る。理由なんてわからないけど
でも、君は彼らに怒れない
なぜ?
彼らは正しいから
強者に生まれながらも他者を気遣える彼らはとてもとても優しく、正しいから
だから君はうずくまる
どこにもぶつけられやしない棘棘したものを抱え込んだまま、泣きながら、傷だらけになりながらうずくまる
論理的にものを考えられる君は事態を解決するために、原因を探す
どうして僕はこんなになってしまったの?


歪な、優しさを装った悪魔の声が聞こえる
「努力だよ」
そう、努力。努力が足りないからこうなった。分かってる。じゃあ努力するには何が要る?
「意志だよ」
そう、意志。硬い意志があればどんなことでも向かっていける。分かってる。じゃあ意志はどこにある?
「君の中だよ」
嘘をつくな。こんな空っぽの入れ物に意志なんてない
「君がやる気を出せば済む話じゃないか、だれだってできるよ」
やる気はどこにあるの?
「やる気になるものを見つけなよ」
やる気になるものはどこにあるの?
「……」
こたえてよ


「自分で考えなよ、自分の人生だろ?」
ふざけるな、ここまで導いてきたのはお前じゃないか
「自己責任さ」
お前だ。お前だ。お前だ。お前が悪いんだ。
いつの間にか、君は立ち上がって叫んでいました
周りの人は眉を八の字に寄せながら、少しずつ遠ざかっていきます
君の恋人も、友達も、親さえも。
「体が醜くても、心まで醜くならなければ生きていけたのに」
同情にも似た侮蔑が大きな放物線を描いて君にぶつけられます
そのあまりの衝撃に君はよろめいて、倒れてしまいました


ちがうのです、ちがうのです。君は決して意図的に醜い心を持って生まれたのではありません
赤ん坊の頃から君は選択の連続に立たされ、どちらかを選んできました
嫌いなほうれん草を食べるかどうか。ハイハイをもう少し頑張るかどうか
結果は人それぞれでしょう。君はどっちを選びましたか?覚えてませんよね
でも、どちらかを必ず選んでいます。どちらかを選んだからこそ今ここに居るのです
しかし、赤ん坊の、まっさらな君に意志があるとも思えないでしょう?
ならば前提を疑うしかありません。君は最初からまっさらなどではなく、性格なんてものは最初から決まっていた、と
だって意志がないと選べないのに、赤ん坊の君は確かに選んでいるのだから
意志のもとになる性格は、最初から、君がその存在に気付く前からあったのです
そう、全ては君を取り囲む周りの事象たちが、君をそうさせたのです
ある時ある場所であるdna配列で生まれた瞬間に、君の哀れな運命は決まっていたのです
「これで、満足かい?悲劇の主役さん。君のために素敵な理論を作ってあげたよ。気に入ってくれたかな」


悪魔が口の端を吊り上げながら笑います
「矛盾はない。すべては他のせいさ。君は何にも悪くない、誰も悪くない。強いて言うなら世界が悪い。君は世界に捨てられた、ただの哀れな生命の一個体だ」
ちがう、ちがう、ちがう
「違わないね。君だって本当は気づいているはずだ。とっくの昔に垢まみれになった真っ黒なそれを、綺麗だと思い込みたいだけなんだ」
違う
「いいんだよ、君の周りにはもうひとっこ一人いやしない。ここなら善も悪も他人も社会もない。素直になっちゃえよ」
悪いのは、僕だ
「……へぇ」
そう、僕が悪いから、努力できないから、意志がないから、やる気になれるものがないから。他にも同じ境遇の人はいっぱいいるのに
「そうかい、それじゃあな」
悪魔は不機嫌そうに手を振り、いなくなりました
いなくなるまで、悪魔は少しも振り向きませんでした
君は一人になりました。不満をぶつけるための悪魔さえいなくなり、君は独りぼっちになりました


当然です。君は善意と悪意を否定し、自己嫌悪ですべてを塗りつぶし、自分自身の存在をも否定しました
もう、何もありません
こうして誰とも比べられることもなく、絶望することもなくなった君は静かに座ります
ただただ無感情に、死の瞬間を待ち続けました
それから日が経ち、年が経ち、星が巡り、世界が終わっても、一向に死はやってきません
それもそのはず、君は生きていないのです。生きてないものに、死は決して訪れないのです
君は分解と合成を繰り返しながら、どこまでもどこもでも広がっていきます
それは無限に至り、君の中に宇宙と星と、それに人が生まれました
そうして繰り返されてきたのです。そうして繰り返していくのです
君は何にも混ざることのできないまま、無限の一粒一粒に意識が広がり、一粒一粒に君が生まれます
全ての君は無感情のまま、滅びを迎えられないままどこまでも広がり続け、円環の中を漂うのでした


男「何だよこれ」

女「私の考えたポエム。どよ?」

男「2点」

女「そんなー」

男「ところで、だ」

女「はいはいー?」


男「これの内容が変な方向に行ってるのは、お前が変なことを考えたいからってことでいいのか?」

女「おーらい!」

男「それなら俺も、一つ議論したいことがある」

女「何々?」

男「二次元キャラは生きていないのか?だ」

女「道諦乙」

男「ブッティストちゃうて。……お前はどう思う?」


女「生きてないと思いまーす。妄想もほどほどにしてくださいー」

男「ふっ、大方そういうと思ってたよ。だが、俺たちはどうだ?生きているのか?」

女「……胡蝶の夢ってやつ?ちょっと古すぎやしない?」

男「まあ待て、最後まで聞けよ」

男「そもそも人間の認識における生きている状態、ってのは自由意思を持っていることだと思う。同意していただけますか?」

女「まぁ、一応。それが?」


男「その点でいうなら、かがみんだって生きてるじゃないか」

女「古っ。やっぱり古っ……で、なんでかがみんが自由意思を持ってるって言えるわけ?」

男「俺の頭の中にいるから」

女「それあんたの意志、もとい妄想ジャン」

男「待て待て、最後まで聞けと言ってるだろ。……確かにかがみんは俺の頭の中にしかいないが、必ずしも俺の意志によって動くわけじゃない」

女「?」


男「俺がヤりたい!と思ってかがみんを妄想内で犯そうとするだろ?でもかがみんはとてつもなく嫌がる。結局できないわけだ」

女「それは、あんたがかがみんに嫌がってほしいと思ってるだけじゃないの?」

男「いいや、俺はヤりたいと思っている。それが俺の脳内に映し出されたかがみんの「性格」によって阻止されるだけだ」

女「性格、ねぇ」

男「俺が作ったわけではない性格によって俺の意志が妨げられるアクションが起こせるのなら、かがみんはその「性格」にのっとった自由意思を持っていると言えるのではないか?」

女「異議あり。それなら、アンタの脳内に映し出されるかがみんは、その性格を作った作者の意志に従って行動することになるはずよ」


女「よってかがみんは作者の被造物であり、自由意思など持っていない。反論は?」

男「……」

女「……もしかして、もう終わり?」

男「……はい」

女「ほとほとあきれ返るわ」

男「すみません」


女「私のポエムは酷評しておいて、自分のはもっとボロボロとは」

男「かがみんに対する愛が抑えきれなくて、なんとか存在証明がしたいなと。でも駄目でした」

女「………………ばか。そこはそもそも私たちの自由意思を疑うことから議論を深めていくところなのに」

男「え?」

女「もういいっ!罰として、ラーメン食べにいくよ!代金は男持ち!」

男「えー……」


女「なに?なんか問題ある?」

男「だってお前紅ショウガかけまくってもはやラーメンじゃなくなるし、紅ショウガラーメン風味なるし。ラーメンとしての存在定義に歪みが生じるし」

女「いいじゃん、私はあの燃えたぎる匂いと味が好きなの」

男「炎の匂い、しみついて」

女「むせる」


男「俺のラーメンは赤く塗らないのかい?」

女「やってもいいのよ」

男「カオスの権化たるこの女」

女「神にだって従わないわ」

男「次回『流星』。僅かな麺に、全てをかけて」

女「それじゃいこっか!そらクソバイク、飛ばせー!」

男「りょうかーい」

こんな感じで、思いついたら書く


男「かがみんと放尿ぷれいしたい」

女「知らんがな」

男「でもかがみんがいないからできない。助けて女えもん!」

女「しょうがないなー、男君はー」

女「はい、この全知全能願望達成器マックスハートを君にあげるよ」

男「わーい!何もないや!世の中ってやっぱりクソだわ!」


女「おいおい、私はちゃんと渡しているよ?」

男「どこにあるんだよ、おう早く教えろよ」

女「……じゃあ私が実演してあげるよ、はーい今から手から火を出しまーす」

女「ほら出たー」

男「そこにはいつも通りの風景が広がっているだけだった」

女「やばいよー、そこらへんもう火の海だよー」


男「あーすいません、黄色い救急車一台……」

女「おい」

男「なぜ俺が怒られるのですか」

女「そんなに私の起こした現象が信じられないなら、ちゃんと論理的に否定してみなよ」

男「炎が見えません」

女「目がいかれてるだけです」


男「熱くも感じません」

女「感覚がいかれてるだけです」

男「温度計で火があるといってる場所を計っても23℃しかありません」

女「温度計が壊れているだけです、目もおかしいしね」

男「友達の彼も熱くないといってます」

女「気がくるってるだけです」


男「そもそも炎に包まれているのに死んでません」

女「実はあなたはもう死んでいます、気づいていないだけです」

男「どこの北斗神拳だよ」

女「……と、まぁこんな感じ。私が何を言いたいか分かった?」

男「まるでわからん」


女「私たちが生きている世界は、私たちの主観が基準になってるんだよ。観測できないものはないのと同じだから、観測者である私のいない世界は存在しないの」

男「はあ」

女「つまりこの世は思い込み。いないものが居たり、手から火が出たり。思い込むことによって、私の主観で作られているこの世界には、認識を変えることで好きに干渉することができる」

女「処理してる脳みそに「手から火が出てる」と認識させれば、私の中ではそれは現実になるし、私の目は手から出る火を映すからね」

女「よって、人類は自らの認識世界、つまりこの世界において、最初から全知全能であると言える!」


男「あー、すいません。それマッチ売りの少女が最高に幸せな結末になっちゃいますよ?」

女「そうだよ。彼女は自らの主観ではおいしい料理を食べ、暖かい暖炉に当たっているんだから。幸せ待ったなし!」

男「なんか、やだなぁ」

女「それは感情論だよー」

男「とりあえず、飯食べに行きません?」


女「そんなことしなくても、ほらここに私の認識した万感全席が……」

男「……じゃ、俺一人で行きますね。今日は得サブでも食べるか」

女「ああ!待って!バイク乗らないでよ!待ってったら!……待てやコラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

男「全知全能なんでしょー、追いついてくださいよ」

女「まだそこまでキマッちゃってないから!まだ無理だからー!」


男「女ー」

女「なーに?」

男「何かにつけて人それぞれを強調して人殺しすら正当化するソフィスト共がクソウザいよー、議論が進まないよー、助けてよー」

女「ムリー。議論ぶっ壊すのがアイツらの仕事だし、私もある意味ソフィストだし」

男「否定が早すぎるよ、もっと思考を楽しもうよ!」

女「そもそも思考する時点でアイツらの術中に嵌ってるわけだから」


男「まるで意味が分からんぞ!」

女「ヒント。主観世界の話をを思い出してみ?」

男「……じゃあソクラテスさんはどうやって勝ったん?」

女「勝ち負けってものじゃないけど……しいて言うなら死んで引き分けた」

男「へ?」


女「死人に口なしって言うでしょー。死体と議論したいなんて思っても出来ない。よってソクラテスは論破されない。0-0で引き分けー」

男「わーお」

女「つまりソフィスト共に議論で勝つのは無理。出来て引き分け、さらにそれをするためには何かの意味で死ななければならない。……やる?」

男「お断りします」

女「ん、そうしときな。それじゃ、受講料いただけますか」

男「ここにココナッツチョコレートがありますが」


女「私ゴールデンの落ちた粒粒を指でとって舐めあげるのが好きなのよ」

男「わかります。全人類共通の認識ですよね」

女「てことで、一緒にゴールデン買いに行こう」

男「ココナッツは?」

女「犬にでも食わせれば?それ行けしゅっぱーつ!」

男「なんとなくこみ上げる悔しさよ」


女「選民思想、虎の巻ー♪」

男「歌詞間違ってますよー」

女「さて、カラオケに来ている男君にクイズです。選民思想はどうやって生まれたと思いますか?」

男「……どうやってって、増長した市民が立ち上げたとか?」

女「おしい。抑圧された市民が立ち上げた、が正しいわね」


男「抑圧っすか」

女「抑圧っす。ほら、嫌なことが重なったら神様怨んじゃったりするでしょ?」

男「まぁ。それとこれとに何の関係が?」

女「あれのポジティブver。要は「神によって選ばれているから、悪魔(現世人)に虐められるのだ、でもいつか神に認められた俺らだけ助かるもんね」的な発想」

男「根暗の妄想乙!」


女「だがしかしその妄想によってパワーを得たユダヤ人はすげー頑張って自由とお金とついでにお国を手に入れた!」

男「パネェ!」

女「男ももう少し妄想を活かすことを考えれば?」

男「善処します」

女「やる気ないなあ」


男「かが民思想とかどうだろう」

女「かがみんを信仰してる奴だけ、って意味なら選民にはならないよ。かがみんはやろうと思えば誰でも信仰できるし、選民思想は救われる対象は固定されてるから」

男「つまり世界宗教になる可能性が微粒子レベルで?」

女「ワンチャンあるね、広げてみれば?」

男「うーん、微妙だ……制服派と巫女服原理主義派で抗争が起きそう」

女「……世界の宗教戦争が全部そんなのだったらきっともっと平和な世だったね」


男「きっともっと、ほっともっと」

女「お、奢ってくれるのね?」

男「選ばれた民だけな!」

女「私は?」

男「無理……痛い痛い、テーブルの下から蹴らんといて」

女「わ・た・し・は?noと言った瞬間に私の大根のような足がお前の股間を蹴りつぶすと思えッ!」

男「はい、奢ります、奢りますからァー!」


男「愛が愛をー」

女「重すぎると理解を拒みー」

男「愛、か……」

女「やけに遠い目ね」

男「俺ァ、誰からも愛されることはねぇ人間なのさ」

女「あら、アガペーをあまり舐めないほうがいいわよ」


男「あれは……キリスト!?」

女「神の愛は万人に平等!つまりあなたも愛の中!」

男「う、牛や豚は殺すのに……」

女「そんなうまい話が……あると思うのか?牛や豚のような人に食べられるために生まれた家畜風情に」

男「鬼畜や!コイツ神の皮を被った畜生や!」

女「家畜に神はいないっ!」

男「オルランドゥッ!?」


女「……でもまあ、ねぇ?食肉加工の動画見て可愛そうとか言っても3日後にはおいしく頂くわけで」

男「それを言っちゃあ動物愛護団体やら思想的ベジタリアンが泣きますよ」

女「アイツらは被害者としての家畜を植物に置き換えてるだけだから大したことないのよ。痛みを感じるとか意志の有無とか、都合のいい線引きをしてるに過ぎないわ」

男「おお、ズバッといいますね」

女「そもそも科学的に言えばすべての生命の目的は子孫繁栄であって、誰かに食べられることじゃないわ」

男「一理ある」

女「だから日本人はいただきます、と食材に感謝をするわけね」

男「うわー、ありがちなオチにまとめやがった」


女「まあせっかくだから、今日は野菜食べましょ」

男「これ何の天ぷらです?」

女「タラの芽のテンプーラ。おいしいから食べてみそ」

男「女……お前が料理をふるまってくれるなんて」

女「つっ、作りすぎただけなんだからねっ!」

男「オウ、テンプーレツンデレデスネー」

なんだこれ……

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