橘ありす「私とヒーローさんの七分半戦争」 (19)


光「待たせたな、ありすちゃん!」コトッコトッ

ありす「待ってないです。何で部屋の前に机を置いて、コーヒーなんか淹れてるんですか?」

光「守秘義務があるから……悪いけど答えられない!」

ありす「通して下さい」

光「せめてあと十分! ところで、ガムシロップとミルクは幾つ入れたい?」ガサゴソ

ありす「今、話逸らしましたよね」

光「アタシは一緒にコーヒー飲みたいだけだよ?」

ありす「はぁ……もう。足止めしたいなら、付き合ってあげます」

光「ありがとう!」

ありす「というか、光さんってコーヒー淹れられるんですね」

光「自分で淹れられたらカッコいいなってさ。特訓したんだ!」

ありす「あ、わかります。━━━で、光さんはどう飲むんですか」



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光(ここまでは順調。しかし、ここからが問題だ)

光(アタシがいる以上、ありすちゃんは意地を張ってブラックで飲みたがるだろう。余計なお世話かもだけど、それで苦い目に遭わせるのは嫌だ)




ありす(とか、いつもの光さんならきっと考えます。大きなお世話ですね)

ありす(かと言って強引にことを進めるんじゃ、たぶん光さんも嫌がります)

光(自分で決めるのが好きなありすちゃんだから、砂糖とかはまだ入れてない……でも、ありすちゃんにこのままブラックを飲ませたくない)

ありす(どうせコーヒーを飲むのなら……今日、私は大人なんだと証明したい)

光 ありす(ありすちゃん / 光さんをどうやって説得 / 論破しよう……!)


光「アタシはそれぞれ四つだな。甘いの好きでさ!」

光(ありすちゃんが意地を見せたいのなら、簡単な話だ。アタシが率先してミルクコーヒーを飲めばいい! そうすれば、砂糖を入れてもヘンじゃない流れになる!)

ありす(四つ!? 私、まだ六・六なのに……そうは見えないけど、一応年上だから、私より苦みに強いとでも……?)

ありす(仮にそうだとして……いえ、光さんが私にブラックじゃないのを飲ませたいのなら、砂糖を入れて恥ずかしく無い流れを作ろうとしてるんでしょうか)

ありす(……そんな気遣い、私にはもういりません。シロップ類が入る前に『気遣い無用です』と、先手を打ちましょう)

ありす(かといって直接言うのは、何だか嫌味な感じがするし、純粋に光さんの趣味の可能性も高いです。気遣ってくれてるか確認しましょう。一応)

ありす「二つで十分じゃないですか? 多すぎますよ」

光「いや、四つだな! ところで、ありすちゃんは二個なのか? すごいなぁ」

ありす「あ、いえ、そういうわけじゃ……。常識的には多いかな、と」

光「あはは、かもな?」サッーコクッ

光「……うん、美味しい!」


ありす(くっ……何だか美味しそうです……。私も喉も乾いてきたような……)

光「そうそう、コーヒーに牛乳を入れると胃に優しいらしいぞ!」

ありす「それは、そうでしょうね。脂肪が胃を守ってくれそうですし」

ありす(ここでウンチクを出して、揺さぶりを掛けてくるんですか!?)

光「ってことで、沢山あるから必要だったら使ってね!」

ありす(そして、一気に勝負をかけてくるなんて!)

ありす(ブラックが飲みたいだけなら、光さんが差し出して来るのを受け取らずに飲めばいい)

ありす(でも、それじゃ彼女の心配は無用なのだと、理論で論破したことにはなりません……)

ありす(……でも、ここで光さんが動いたのはミスです!)

ありす「お気遣いありがとうございます。でも、このまま飲んでいいですか?」

光「アタシ、ミルクコーヒーを飲んで欲しいなあ」

ありす「どうしてですか?」

光「その方がきっと美味しいからだ!」

光(遠慮が無くなった? 一気に勝負を決めに来た?)

ありす「光さんはそうかもしれないけど……今日を契機に、飲めるようになりたいんです。特訓ですよ」

光「とっても苦いよ?」

ありす「克服出来たときの感動も大きいでしょうね」

光「くっ、……わかった」

ありす(……これが私の切り札。日頃から特訓だとレッスンに過剰に励む光さんに、私のカードは返せません)


ありす「では、いただきます」

ありす(なんていうか、すてきな香りがします。オレンジみたいにフルーティーな酸味というか、それと、鼻をくすぐる焙煎臭が心地よくて、……あ、何だか飲めそうな気がします)

ありす(……いざ目の前にすると、興味と怖さが半々になって……)

ありす(……でも、すくんではいられないから!)ゴクッ

ありす「うんっ!?」

光「ありすちゃん!」

ありす「んっ、ん〜!」プルプルプルプル

ありす(この苦さはいったい!? もはや風邪薬のそれです!)

ありす(コーヒーはもともとお薬だったって話は聞いたことがあります。でも、そんなの関係無いくらい苦い!?)


光「だから言ったんだ。このコーヒー、とっても苦いんだって」

ありす「そ、それがどうして、こんな苦さに……!?」




光「このコーヒーさ……すっごく濃いめなんだ!」

ありす「そんな、シンプルな……!?」


光「最初からミルクとシロップを入れて飲むバランスだったんだ。だから聞いたんだよっ」

ありす「……くっ……」

光「……苦いままだと美味しくないかもだし、コーヒーの為にも、ミルクとか入れてくれないかな?」

ありす(そんな、ここで一気にカードを切ってくるなんて。私にはもう、打つ手が……いやしかし考えれば……う、でもこの苦さじゃ頭が……!)

光「うーん、それにしても苦くしすぎたなぁ。あと三つくらい入れちゃうか!」サッー

ありす「そんな!?」

光(これがアタシの二面作戦だ。アタシが砂糖をたっぷり入れることで、ありすちゃんがお砂糖を入れても恥ずかしくない流れを作り……一口目が防げなかった時も、アタシ以下の量なら格好がつく!)

光(……そうでなくても、普通に苦くしすぎたな! 超苦いぞ!)

ありす(そうか、光さんは私を気遣おうと思えば、いくらでもミルクとシロップを追加出来る。もともとゴーイングマイウェイな人だから、子供っぽいとかそんな対外的評価を、あまり気にしてない……だから出来る)

ありす(そして私は……一口目で、根を上げた)

ありす(……けど!)ゴクッ

光「動いた!?」


ありす(食道を通るコーヒーのトロリとした喉ごしすら、わかる……)ゴクゴクゴクゴクッ

ありす(私はコーヒーを飲めないと考えてる、光さんの思いこみを破壊するための……これが最後に残った道しるべ!)ゴクゴクゴクゴクッ!

光(やせ我慢……だって……!)

ありす「んく、んくっ……ごちそう、さまでした」プハッ

ありす「……んぅ……」モジモジ





光「……いい飲みっぷりだった。アタシの負けだ」スッ

ありす「いいえ。光さんを論破する目標が最後にどっか行っちゃったんだし、私の負けです。」スッ

ガシッ


光「ありすちゃんは試合に負けたかもだけど、勝負に勝ったんだよ。飲めるようになっただろ?」

ありす「今日が特別なだけですし、光さんがいたからここまでやれたんです。……またコーヒー、作ってもらっていいですか?」

光「へへっ、とびっきりのをご馳走するよ!」

ありす「あ、苦さは手加減してくださいね?」

光「やっぱり? ……ところで、ありすちゃん」

ありす「なんですか?」

光「シロップ直接飲んだりってする?」

ありす「いつもはしません」

光「今日は?」

ありす「……八つください」


ありす「それにしても、不思議なコーヒーでした。凄く複雑な香りがするというか……普通のコーヒー豆とは違うんじゃないですか?」

光「へへっ、当たり! 違いがわかるありすちゃんなんだな!」

ありす「そんな、これぐらい誰だってわかりますよ。とっても美味しいですから」

光「そこまで言われたら、譲ってくれたPさんもきっと喜ぶだろうなぁ。秘蔵の豆らしいし」

ありす「そうなんですか?」

光「ああ。ずいぶん高いらしく、なんでもコピルアックって言うらしいぞ!」

ありす「そうなんですか。今度調べてみますね」


ありす「さて、飲み終えたんだし、そもそもの問題に立ち戻らせてもらいますよ」

光「……な、なんの話?」ヒヤッ

ありす「何で部屋に入れさせてくれないんですか」

光「オールドホイッスルって番組、面白いよな!」

ありす「露骨に話題を逸らさないで下さい!」バンッ

机「ひっ」

光「ごめんごめん! 反省するから!」

ありす「あ……おほん。それとオールドホイッスルは漫才始めてから見てないです」

光「それもう止めてるはずだけど」

ありす「何時からですかっ!? ……ってそれより。光さんが邪魔するなら、自力で入ります」

光「後生だ、せめてあと三分!」

ありす「聞く耳持ちません。いい加減入らせてもらいます」ギィ

光「ああっ……!」




ぱんっ   ぱんっ





晴 梨沙 「「ありす、誕生日おめでとう!」」

ありす「……えっ?」


光「ごめんね晴ちゃん。せっかくの依頼を達成出来なくて……」

晴「いいって、準備はすんでたんだし」

梨沙「ほらほら、ありすは座って!」

ありす「あの、その、……これはいったい?」

晴「今日誕生日だろ?」

梨沙「ドッキリパーティーなんて子供っぽすぎるって言ったんだけどさ、晴が聞かなくって」

光「梨沙ちゃんが飾り付けに集中してくれたお陰だ!」b

梨沙「ちょ、今それ言うの!?」

晴「お陰でちょっとだけ用事が早く進んだんだぜ?」

ありす「そうでしたか。梨沙さん、ありがとうございます」

梨沙「どういたしまして♪って、何この流れ!?」

ありす「ふふっ……ほんとうに、三人とも子供っぽいんですね」

光「子供らしいことは、悪いことじゃないだろ?」

梨沙「アンタが言うの?」(身長143cm)

晴「い、いいんじゃねーか、別に?」(140cm)

ありす「何で晴さんが反応を?」(141cm)

光「言っちゃダメだった?」(140cm)


梨沙「そう言ってくれるなら……マキで準備した甲斐があるわ」

晴「ケーキの火は数字のやつにしといたからな。えっと、火、火……」

光「アタシがつけるよ! はい、離れて!」シュボッ

ありす「いつも思うんですけど、食べ物に蝋を刺すのって違和感ありませんか。すごい匂いですし」

梨沙「わからなくはないけど、まぁ飾りだし?」

ありす「蝋燭の香りは、食欲の妨げになる気がして」

晴「これがあるからバースデーケーキって感じしないか?」

光「よし、付いた。ささ、ふぅっとどうぞだ!」

ありす「あ、その前に電気を消してもらえますか」

晴「案外ロマンティックなんだな?」

梨沙「なんか以外……」

ありす「い、いけないことですか!?」

光「じゃー消すよー、さん、に、いちっ」パチン




ありす(三人のハッピー・バースデーの輪唱に囲まれながら、私は火を吹き消しました。当然部屋は真っ暗になり、照明を探そうと一悶着あったのは言うまでもありません)

ありす(……お陰で、泣いてたのには気付かれずにすんでるかもしれません……)

おわり

1日だけなら誤差かもしれない。ありす誕生日おめでとう!遅れまくりでごめんなさい!
本筋に関係無いので省略しましたが、
南条光「先生!」結城晴 的場梨沙「えっ?」と世界観を共有してます。依頼出してきます

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