咲「嶺上開花」 京太郎「In the sky」 (31)





短かい上に、ほぼ京ちゃんしかいないです。





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「暇だ……まじで暇だ……」








全国高等学校なんたらかんたら大会…通称インターハイ。略すと『インハイ』。
その麻雀大会に出場するために、俺たちは東京に来ていた。


とはいっても、俺はただの応援団。しかも一人。



インハイに出れない俺はアウトロー、とかいうネタを思い付いてみたけど、言う相手もいないので黙っておく。






清澄高校麻雀部は女子部員が5名に男が1。
俺以外はみんな、団体戦のメンバーだ。



当然、ほかのみんなと同じ部屋に泊まるわけにもいかず、わざわざ個室を用意してもらったわけだが…。









「暇すぎる……ホテルってマジでなんもねーのな…」





暇なんだ。
暇なんだ。


暇なんだ、本当に。






「昼間はまだしも、夜のこの時間だと外出すんのもあれだし。…咲辺りに電話でもしてみるか……いや、でも……」







俺と違って、みんなは真面目な理由で来てるわけだ。
きっと今も、対戦相手の研究やらなんやらで忙しいのだろう。




だから、メールや電話をするのも気が引ける。

お気楽なのは俺一人。それ以外はみんな真剣勝負に来ている。





「いっそ長野で留守番しとけばよかったなぁ…。でも、ハギヨシさんと仲良くなれたのは東京に来たからだし……」








同じ電車に乗っていても。同じ場所で飯食ってても。

どこか感じる、疎外感。
俺だけが感じる、疎外感。




みんなが俺の手の届かないところにいるような、そんな感覚。







「和はともかく、咲や優希まで遠い奴らになっちまったなぁ……」




劣等感や憧憬じゃない。
そんな感情は全くない。


ただ、遠い…そう思う。







「……それにしても…暇だ……」







物理的な距離じゃない。

意識が、遠い。






俺が理牌をする間、彼女たちは何を考えているのだろうか。
俺が河を見る間、彼女たちには何が見えているのだろうか。




きっと、認識している世界は違う。
おそらく、見えている景色は違う。





下から見上げる東京タワーと、スカイツリーから見下ろす東京タワーは、まったくの別物だ。





その景色の違いが、俺と彼女たちの距離。




だから、遠い。






かといって、何かできるわけでもなく。


することもなく、どうすることもできず。








考えても暗い気持ちになるだけなので、さっさと寝てしまおう。








……そう思い、布団を被った瞬間。




どぉん、という音が、微かに障子を揺らした。








「……花火?」







白い障子紙に映る、赤。緑。黄。青。
木の枠をずらすと、大輪の花。




時に重なり、時に連なり。
どぉんどぉんと空が鳴く。






「きれいだなぁ…」







考えず、意識すらせず、口からでた言葉。






「…やっぱ夏は花火だよなぁ……」






先ほどまでの憂鬱も忘れて、花火を眺める。






ふと気づくと、机が揺れる感覚。

花火とは違う、もっと別の振動。





「…電話。…咲から?」





それは、先ほど電話をしようとして、気が引けて結局掛けなかった相手の名前。





「もしもし、どうした?」



『もしもし!? 京ちゃん外見てる!? 花火だよ、花火!!』



「おう、こっからもよく見えるぞ」



『今日、花火大会だったんだって! ラッキーだね!!』



「夏だからな~。やっぱ夏は花火だよな」



『うんうん…あ!! 今の花火、花柄っ!!』



「そうだな。そっちはみんなで見てるのか?」



『うん! 和ちゃんが寝てたけど、さっき起きたよ。というか優希ちゃんが起こしてた。京ちゃんもこっち来なよ!!』








幼馴染からの魅力的な提案。

暇だ暇だと散々嘆いていた俺が出した答えは……。






「いや、いいや。俺は一人で見とくよ」





『え~? くればいいのに。部長や風越さんもいいって言ってるよ?』



「移動してる間に終わったら嫌だしな」



『あ…それもそっか』



「それに…そっちは優希が騒がしそうだ」



『ふふっ、よくわかったね。ずっとタマヤーって叫んでるよ』



「電話からこっちまで聞こえてきてるよ。花火の音よりでかいんじゃないか?」



『そうかもね』











電話で話す咲は、どこにでもいる、普通の女子高生で。


昔と変わらない、そう遠くもない、普通の女子高生で。





そうだ。





咲も、優希も、和も。
遠い場所にいるのかもしれない。

手の届かない場所にいるのかもしれない。





でも、ただの高校生だ。
でも、同じ麻雀部員だ。
でも、一般的な人間だ。





根本が変わってしまったわけじゃない。






届かなくても、同じ空の下にいる。
届かない、あの花火を見上げてる。






なら、寂しいことなんて何もない。





あいつらだって、上を見てる。

上を目指して、頑張っている。






立ってる場所は違っても。

見ている場所が同じなら。










「咲が見てる花火を、俺も見てるんだな」



『どうしたの? いきなり』



「いや、なんか不思議だなって。別の場所にいるのに、同じ景色を見てるって」



『? ロマンチスト京ちゃんの誕生?』



「……ロマンチストとロストマンって似てるよな」



『…へ? いきなりなんの話?』



「分かんねぇ。なんか、考えがまとまらない……ボーっとしてるっつうか……なのに変にドキドキしてるっつうか……」



『……変な京ちゃん』



「だな。…そろそろ通話料もアレだし、電話切るぞ」



『え? あ、うん。そだね』











「おやすみ」



『おやすみ』







そうだ。

きっと。 俺と咲は。 俺と優希は。 俺と和は。 そんなに違わない。


年齢だって一緒。学年だって一緒。学校だって一緒。生まれた国も、使う言葉も、住んでる県も。





どれだけ化け物みたいに思えても。
どれだけ遠い存在に感じても。



あいつらだって、俺みたいに。
空には、花火には、手は届かない。









なら、俺だってあいつらみたいになれる。



あいつらを抜かすことはできなくたって、追いかけることはできる。



あいつらと離されたって、同じ道を歩くことはできる。



あいつらに勝てなくたって、麻雀で強くなることはできる。



あいつらより弱くたって、麻雀を好きでいることはできる。





「…暇だなんて言ってる場合じゃないぞ。勉強しねえと」



「まずは牌効率か? オリ方か? いや、それ以前に向聴数の数え方を…」









とりあえずの目標。

再来年までに、自力でここに帰ってこよう。




そうと決まれば、花火なんて見てる場合じゃないな。



花火は来年か、再来年。
またここで見ればいい。









障子を閉めようと、木の枠に手をかけた、その刹那。












俺の決意を奮い立たせるように。







一際大きな火の花が。







高い高い、夜空に咲いた。







終わりです。

あ、あと咲日和のオープニングの京ちゃんかわいいですね。

スレタイは適当です。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年07月27日 (月) 02:03:16   ID: 8x_Z7JLq

こういうSS大好き

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