国王「勇者よ! 魔王を倒してくるのだ!」(66)

魔王「なんだと!? ならば黒騎士よ! 国王の首を取ってまいれ!」

勇者「ちょっと国王様。飲み過ぎですよ」

黒騎士「魔王様ももう少し控えてください。いくらお酒に強いからといっても飲み過ぎです」

国王「余に逆らうというのか! なんと、うっ……」ゲロゲロ

大臣「ややっ、これはいかん。誰か拭く物を持ってきてくれ」

給仕「は、はいっ! ただいま!」

魔王「ふはは、やはり人間。我はまだまだ飲めるぞ!」

側近「いやいや。魔王様ももうフラフラですぞ。どうかお水を飲んで少しお休みください」

魔王「む、そうか。どれ、水はどこか……。うっ……」ゲロゲロ

側近「ああ……。こちらも何か拭く物を頼む」

大臣「ああ、勇者はしばらく自由にしていてよいぞ。ここは私がやっておこう」

勇者「そうですか? じゃあお言葉に甘えます」

側近「黒騎士もここはよいから勇者殿と話してくるとよい。久しぶりに会ったのだ、色々と話したいこともあるだろう」

黒騎士「ありがとうございます」

勇者「さて、じゃあどうする?」

黒騎士「そうですね。中庭に行きませんか? 少し疲れてしまいました」

勇者「分かった。それじゃ飲み物でも少し持って行くか」

王宮・中庭

黒騎士「いつ見ても見事な庭ですね」

勇者「そうかな? 魔王城のもなかなかだと思うが」

黒騎士「まあ、隣の芝生は青いというやつですかね。それで、こうして会うのは久しぶりですが、特に変わったことはありませんか?」

勇者「そうだなあ。聞いてるかもしれないが、この前正式に近衛隊に入ったよ」

黒騎士「ああ、そうでしたね。おめでとうございます」

勇者「黒騎士は元々魔王様の護衛だったよなぁ。これでようやく対等というわけか」

黒騎士「いやいや、たしかに幼少の頃より魔王様の護衛を務めてきましたが、最近までは見習いのようなものでしたよ」

勇者「まあなんにせよ、俺もお前も立派になったというわけか」

黒騎士「私などまだまだですよ。四天王の方々にはまだ勝てませんし」

勇者「まあ、俺だって騎士団長にも近衛隊長にも勝てないけどな」

黒騎士「お互いまだまだということですね」

勇者「いや、いざとなれば勇者の力を使ってだな」

黒騎士「あ、ずるいです!」

勇者「まあまあ、落ち着けって。ところで、明日なんだが」

黒騎士「何ですか?」

勇者「明日国王様に話があるって呼ばれてるんだが、黒騎士も来てくれってさ」

黒騎士「国王様が? 分かりました」

次の日

王宮・国王の間

国王「昨日はすまなかったな勇者よ」

勇者「いえ、そんな」

国王「黒騎士もよく来てくれた。さて、勇者よ。近頃ある盗賊団が話題になっておるが知っているか?」

勇者「もしかして、ゴーレムを連れているとかいう盗賊団ですか?」

国王「そうだ。そやつらは盗みを働くが、いわゆる義賊というやつでな。今までは見て見ぬふりをしていたのだが……」

大臣「最近、その盗賊団を名乗り盗みを働く輩が増えているのだ」

黒騎士「なるほど。それは困りましたね」

国王「こうなっては放って置くわけにはいかんのでな。お前たちにはその盗賊団を捕らえてもらいたい」

勇者「分かりました。引き受けます」

黒騎士「私も問題ありません」

国王「それはよかった。大臣、例のものを」

大臣「はい。勇者、これを」

勇者「おお、なかなか重いですね」ジャラジャラ

国王「それで旅の支度をするとよい。報酬は別に用意しよう。では、頼んだぞ」

大臣「任務については騎士団の者から聞くと良い」

城下町・大通り

勇者「さて、これからどうするか」

黒騎士「食料などの調達でもしますか?」

勇者「いや、先に仲間集めといこう。まずは酒場だな」

黒騎士「あまり飲まないでくださいよ? 仲間集めが目的なんですから」

勇者「そうだな。ほどほどにするよ」

城下町・酒場

勇者「よし、到着」カランカラン

黒騎士「あいかわらず、昼間だというのに結構な人が飲んでいますね」

勇者「黒騎士はお堅いなぁ」

マスター「おや、勇者くんじゃないか。いらっしゃい」

勇者「どうも。お久しぶりです」

マスター「こんな昼間から彼女と飲みに来たのかい?」

黒騎士「い、いや。私は彼女とかでは……」

勇者「黒騎士が彼女か。それはそれでいいかも」

マスター「ひゅーひゅー熱いねー」

黒騎士「ま、全く勇者は……」

勇者「で、今日もまたいつもの用事です」ドサ

マスター「いやー、いつもありがとう。ほんとに君たちはいいお客さんだよ」

勇者「で、誰かいいのいます?」

マスター「あの席の二人はどうかな? かなりの実力だよ」

勇者「分かりました。ちょっと行ってきます」

エルフ「いやぁ。酒はうまいねぇ」

魔法使い「ちょっとペースが早くない? 急がなくてもお酒は逃げないよ」

勇者「そこのお嬢さん方。ちょっといいですか?」

エルフ「ああん? てめーナンパか?」

魔法使い「ナンパなら他を当たってくれないかな。」

黒騎士「いえ、ナンパではありません。少しお話がしたくて」

エルフ「女連れてナンパたぁふてぇヤローだ。表出な! アタシが根性叩き直してやらぁ!」

魔法使い「あ、ナンパじゃないんだ。……ちょっと待ってね」ポワン

エルフ「ん? アタシ酔ってたのか?」

勇者「お、今のは」

黒騎士「魔法ですね」

魔法使い「うん。今のは酔い覚ましの魔法だよ」

勇者「へぇ、便利な魔法だな」

魔法使い「そうだね。でも、おねーさんと一緒じゃなかったらこんな魔法覚えてないだろうけど」

エルフ「悪かったよ。アンタたちにも迷惑かけたみたいだね。すまなかった」

勇者「いや、俺も悪かったよ。勘違いさせるようなこと言って」

魔法使い「まあ座りなよ。いつまでも立ってたら疲れない?」

勇者「そうさせてもらうよ。おっと、自己紹介がまだだったな。俺は勇者。で、こっちが黒騎士だ」

黒騎士「黒騎士です。どうぞお見知りおきを」

エルフ「アタシはエルフ。で、こっちは魔法使いだ」

魔法使い「よろしくね。それで、話って」

勇者「それは――」

黒騎士「ちょっと待ってください」

勇者「どうした?」

黒騎士「いえ、失礼を承知で言いますが、このお二人の実力がどれほどか気になりまして」

勇者「マスターが言うからにはかなりの実力かと思うけどな。まあ気になるなら確かめてみるか?」

エルフ「ん? アタシらの実力が気になるのか?」

勇者「ああ。悪いんだがちょっとこいつと手合わせしてくれないか? 剣も持ってるようだし」

魔法使い「ぼくもやらないとだめ?」

勇者「いや、俺たちは見学でもしてようぜ」

黒騎士「では、行きましょうか」

エルフ「へっ、後で泣いても知らないぜ?」

魔法使い「あ、マスター。ちょっと外に行ってきます」

マスター「酔い覚ましかな? 食い逃げはだめだよー」

勇者「食い逃げなんて恐ろしくてできませんよ」

城下町・裏通り

黒騎士「ここなら人もほとんど通りませんし、少々暴れても平気ですね」

エルフ「ようし。じゃあやるとすっか!」

黒騎士「ではそちらからどうぞ」

エルフ「へっ、なめやがって。遠慮無くいくぜ!」

黒騎士「受けて立ちます!」

勇者「そうだ、今のうちに話をしておこう」

魔法使い「まだ決着ついてないけどいいの?」

勇者「結果はどうあれ俺はお前たちに頼むつもりだからな。マスターのお墨付きだし」

魔法使い「それで、実力が気になるってことは、やっぱり傭兵とか?」

勇者「まあ、そんなもんだな。そういうのは慣れてるのか?」

魔法使い「まあ、旅をしてると色々あるからね」

黒騎士「なるほど。なかなかやりますね」キンッキンッ

エルフ「くそっ。なめやがって」ブンッ

魔法使い「おねーさんなんだか押されてるねぇ」

勇者「そういえば、お前らって兄弟なのか?」

魔法使い「いや、そういうわけでじゃないよ。色々とあってね。二人で旅をしてるんだ」

勇者「なるほどな。それで、なんで女装なんかしてるんだ?」

魔法使い「あら、ばれちゃったか。えーと、女だけで旅してると盗賊とかに狙われやすいでしょ? それを返り討ちにして生活の足しにしてるんだ」

勇者「なんだ。そういう趣味なわけじゃなかったのか」

魔法使い「いや、だんだん悪くない気もしてるけどね。今じゃ半分は趣味みたいなものかな」

勇者「たしかに、言われたってそうそう分かんないくらいだしな。少し面白そうだ」

黒騎士「もう終わりですか? というか、魔法使いさんは男性だったんですね」

エルフ「ああ。……ていうかそこの二人! 見る気がないならどっか行ってろ!」

勇者「いやいや、ちゃんと見てたぜ?」

魔法使い「うんうん」

エルフ「くそーっ! こうなったら本気で行くぞ!」

魔法使い「ちょっとおねーさん!? あれは――」

エルフ「火炎斬!」ゴオオッ

黒騎士「なるほど。剣に火炎を纏わせた攻撃ですか」ガキィン!

エルフ「今のを止めただと? こんなの初めてだぜ」

魔法使い「あれを止めるなんて……。君たちは一体何者なんだい?」

勇者「それはだなあ――」

魔法使い「――勇者に黒騎士。なんか聞いたことあるなあ」

エルフ「国王と魔王の護衛かよ。そりゃ強いわけだ」

魔法使い「でも、なんで君たちみたいなのが傭兵を探してるの? そんな必要はないと思うんだけど」

勇者「いや、昔ちょっとあってな」

黒騎士「私が話しましょう。以前から私たちは二人で任務を請け負うことがあったのですが、それであるとき失敗してしまいましてね」

エルフ「失敗だって? 考えられねえな」

黒騎士「いえ、その任務というのが宝物庫から奪われた物の奪還だったのですが……」

勇者「盗賊を倒すとき勢い余って宝物も一緒にぶっ壊しちまったんだ。いやあ、あの時はこっぴどく叱られたなあ」

黒騎士「昨日の事のように思い出せますね……。とにかくその件があってから任務の際には傭兵を雇うように言われているんです」

魔法使い「でも、どうして傭兵を雇うことになるんだろう? 別に二人が気をつければいいんじゃないかな」

勇者「いや、どうも熱くなっちまうんでな。俺たちはあんまり前に出るなって言われてるんだ」

魔法使い「なるほど。じゃあ、僕たちの負担がすごいんだね。どうしようかなー」

勇者「けっこう報酬も出るんだけどなあ。ちょっと耳貸せ」コショコショ

魔法使い「ふむふむ……え、そんなに!? よし、おねーさん! この依頼受けよう!」

エルフ「ま、まあアタシはいいけど。そんなにすごいのか?」

黒騎士「ええと、耳貸してください」コショコショ

エルフ「ふむふむ……おお! 酒が浴びるほど飲めるじゃないか!」

魔法使い「おねーさん。お酒に使うなんてもったいないよ。そろそろ住むところを――」

勇者「まあちょっと待て。それは取らぬ狸の皮算用ってやつだ。それで、依頼は受けてくれるんだな?」

エルフ「ああ」

魔法使い「もちろんだよ」

勇者「よし。じゃあ説明は黒騎士に頼んだ」

黒騎士「やれやれ。こういうのはいつも私ですね。では説明しますね」

黒騎士「まず、あなたたちは知らないかもしれませんが、最近城下町に盗賊が現れているのです」

魔法使い「どこにでもいるもんだねえ」

黒騎士「そうですね。それで、その中にいわゆる義賊のようなものがいるのです。彼らに関しては王宮も黙認している所があったのですが、最近その盗賊団を名乗り盗みを働く物が出てきたのです」

エルフ「いわゆる便乗犯ってやつだな」

黒騎士「このまま放っておくわけにもいかなくなり、ついにその盗賊団を捕らえることになったというわけです」

勇者「ちなみに、騎士団じゃなくて俺たちが選ばれたのは、大勢で行くとすぐにアジトを捨てて逃げちまうからだそうだ。実際何度か逃げられたんだとよ」

魔法使い「つまりは、この四人で盗賊団を壊滅させろってことなんだね」

エルフ「戦闘ならけっこう自信があるぜ。その盗賊団ってのはどれくらい強いんだ?」

勇者「下っ端はたいしたことないそうだ。お前らなら軽く倒せると思う。ただ、その盗賊団がゴーレムを使ってるらしくてな」

魔法使い「ゴーレムだって!? 一体どこでそんなものを……」

エルフ「ゴーレムってそんなにすごいのか?」

魔法使い「すごいなんてもんじゃないよ。今では作ることはできないし、制御するのもかなり難しいんだ。それをどうして盗賊団が使えるんだろう」

黒騎士「実はそのことについても調査するように言われているのです」

勇者「ついでに、ゴーレムも捕まえてこいだとさ」

エルフ「なんだか大変そうだな」

勇者「ほんとだよ。……よし! メンバーも集まったことだし、酒場に戻って飲むか!」

エルフ「よし行こう!」

黒騎士「ま、まだ日が沈まないうちにですか? それにまだ支度が」

勇者「それなら心配ない。騎士団に頼んでおいた」

黒騎士「いつの間に……。あと、出発は明日ですけど」

魔法使い「酔ってもボクがなんとかするから」

エルフ「早く行こうぜ!」

酒場

マスター「あ、おかえり。話はついたかな?」

勇者「ええ。あ、これ紹介料の残りと今日の飲み代です」ドサッ

マスター「いつもありがとね。じゃあ席で待ってて。じゃんじゃん持ってくからね」

勇者「お願いします」

エルフ「ん? 勇者のおごりか?」

勇者「俺というか国のおごりかなあ」

魔法使い「なんだか飲みにくいような」

黒騎士「いえ、これは勇者の取り分から出すので安心して飲んでください」

エルフ「それなら遠慮なく飲めるな」

勇者「なぜそうなる……」

酒場・奥の部屋

勇者「さて。みんな酒は持ったか?」

黒騎士「ええ。今日は魔法使いさんがいますから安心して飲めそうですね」

魔法使い「あはは。あんまり期待されても困るかなあ」

エルフ「はやく乾杯しようぜ。料理が美味そうでよだれが垂れそうだ」

勇者「では、俺たちの出会いを祝して――」

みんな「乾杯!」カーン

エルフ「よし! もう食っていいんだな!」

魔法使い「おねーさんがっつきすぎだよ」

エルフ「でもこんな豪勢なのは久しぶりだろ?」モグモグ

魔法使い「たしかにそうだね。あ、このお肉おいしい」モグモグ

勇者「それはここの裏メニューなんだ」

魔法使い「へー。何の肉なの?」

勇者「オーク」

魔法使い「!?」ブーッ

黒騎士「いや、ただの豚肉ですから。ちょっと勇者! 言っていい冗談と悪い冗談がですね」

勇者「酒の席なんだしいいじゃねえか」

エルフ「あはは。魔法使いがからかわれるのはなんだか新鮮だな」

魔法使い「む。ボクおねーさんの恥ずかしい話とか色々話しちゃおうかなー」

エルフ「それはやめてくれ!」

しばらく後

エルフ「――そこでアタシは言ってやったのさ。『アタシは自分よりも弱いやつと付き合うつもりはねえ。どうしてもと言うならまとめてかかってきな。返り討ちにしてやる!』ってな」

勇者「よっ! アネゴ!」

エルフ「あんまり褒めると照れるじゃねえか。へへへ……」zzZ

黒騎士「おっと、寝てしまいましたか」

魔法使い「いつもよりハイペースだったからなあ。どうする? 魔法で起こそうか?」

勇者「しばらく寝かせておこうぜ。明日もあることだし」

魔法使い「そうだね。じゃあ今度は二人の話を聞かせてもらおうかな」

勇者「よーし。黒騎士の恥ずかしい話でもするか!」

黒騎士「そうはさせません!」ドスッ

勇者「グハッ! ちょ、ちょっと黒騎士さん? 今の本気で殴った?」

黒騎士「お酒のせいで加減が効かないんです! 私が話しますから勇者は黙っていてください!」

勇者「はい……」

魔法使い「あはは。二人は仲良しさんだねえ」

黒騎士「そうですか? ええと、どこから話しましょうか――」

しばらく後

黒騎士「――そこであなた何て言いましたか!? 勇者!」

勇者「た、たしか――」

黒騎士「『ここは俺に任せてお前は休んでろ』って! それで勝手に行ってしまって! どれだけ心配したと思ってるんですか!?」

勇者「いや、でも、ちゃんと帰ってきたじゃないか」

黒騎士「ほんとですよ! 無傷で何事も無かったかのように! 私の心配を返してくださいよ!」

勇者「だから悪かったって」

黒騎士「ほんとにあなたって人は……。うわーーーん!」

勇者「お、おい。泣くなって」

魔法使い「あー! 勇者くんが黒騎士さん泣かせた―」

マスター「魔王様に言っちゃおー」

勇者「それはやめて! ――ってなんでマスターがいるんですか!?」

マスター「追加のお酒持ってきただけじゃないかー。はい、黒騎士ちゃん」

黒騎士「ぐすん……。ありがとうございます」

勇者「お、おい。とりあえず酒置こうぜ?」

黒騎士「――っ!」

魔法使い「おー。一気飲み」

勇者「だ、大丈夫か? とりあえず座ってだな。いや、ジョッキ振りかぶってどうした?」

黒騎士「私分かりました」

マスター「何が分かったのかなー?」

黒騎士「みんなみんな勇者が悪いんです。だから勇者を殺して私も……」zzZ

勇者「あ、危なかったぜ……」

マスター「ジョッキキャッチー。じゃあ、私はそろそろ行くね」パシッ

勇者「さっさと仕事してください」

魔法使い「いやー。すごかったね」

勇者「あんなに飲んだのは久しぶりだろうしな。とりあえず寝かせとこう」

魔法使い「その方がいいね」

勇者「それにしても、酒強いんだな」

魔法使い「けっこう酔ってるけどね。次は、何話そうか」

マスター「恋バナなんてどうかな?」

勇者「だからなんでいるんですか!?」

マスター「いやー、あっちの方も荒れてたからねー。避難して来ちゃった」

魔法使い「あの。マスターさんと勇者くんってどういう関係なんですか? ずいぶん親しいみたいですけど」

マスター「勇者くんはこの店の常連さんだからねー。それより私は君の方が気になるかなあ。どうして女の子の格好してるの?」

魔法使い「あれ。ボク男だって言いましたっけ?」

マスター「言ってないけどね。私の目はごまかせないのだよ」

魔法使い「まいったなあ。勇者に続いてまたばれちゃったか」

勇者「俺が聞いた話だと、襲ってきたごろつきから金品を巻き上げるためだそうです」

魔法使い「なんだか語弊があるような……。まあだいたい合ってるんだけどねえ」

マスター「そういえば、二人で旅をしてたんだよね? 寝るときも一緒なの?」

魔法使い「ま、まあそうですけど」

勇者「エルフはそういうの気にしなそうだよな」

マスター「エルフちゃんスタイルいいし、ムラムラしたりしないの?」

魔法使い「いや、もうそういうのは慣れたっていうか」

マスター「へー。それにしては焦ってるのはなんでかなー?」

勇者「なんででしょうねー?」

マスター「ところで話は変わるけど。勇者くんは黒騎士ちゃんといつまで一緒に寝てたんだっけ?」

勇者「い、いきなり話を振らないでくださいよ」

マスター「二人とも照れてかわいいなあ」

しばらく後

マスター「さて。私は閉店の準備をしてくるね」

勇者「い、いってらっしゃい……」

魔法使い「なんだかすごかったね……」

勇者「お互い大変だったな……。なあ、顔赤いけど大丈夫か?」

魔法使い「そう? さすがに酔っちゃったかな。今魔法で……」zzZ

勇者「使う前に寝ちまったか。まあ、酔ったまま魔法を使われても困るけどな」

勇者「……しばらく一人で飲むか」コクッ

少しして

マスター「閉店したよー」

勇者「お疲れさまです。俺たちもそろそろ帰りましょうか?」

マスター「いやいや、私に付き合ってよ―。まだ飲み足りないでしょ?」

勇者「分かりました。付き合います」

マスター「そうこなくっちゃ。いやー、勇者くんと飲むのも久しぶりだなー」ゴトッ

勇者「それは?」

マスター「あの魔王様もひっくり返るというお酒。『魔王殺し』だよー」

勇者「魔王様も実際はそこまで強くないんですけどね。昨日もパーティーでやらかしてましたよ」

マスター「あの人も相変わらずだねー。はい、どうぞ」

勇者「ありがとうございます。なんだかマスターの方が多いですね」

マスター「ハンデだよー。はい、それじゃあ――」

二人「乾杯」カーン

深夜

勇者「…………」zzZ

マスター「ついに寝ちゃったかー」

マスター「勇者くんに黒騎士ちゃん。それに魔法使いくんとエルフちゃん」

マスター「人間と魔族がこんなに仲良しになるなんてねー」コクッ

マスター「それにしても、人間の王様と魔族の王様が飲み比べしてどっちもダウンしちゃったんだって。ほんと、笑っちゃうよね」

マスター「色々あったけど、みんなの願いは叶ったんだね」

次の日

酒場・二階の部屋

勇者「……あれ? ここは……。ん? この紙は」

マスター『みんな寝ちゃってたからとりあえず部屋にぶちこんどいたよー。何かあっても責任は取りません!』

勇者「どうやら俺も寝ちまったようだな。さて、みんなを起こすとするか」

黒騎士「おや? もう朝ですか?」

魔法使い「途中で寝ちゃったみたいだね」

エルフ「何にも覚えてねえ」

勇者「あはは。こりゃひでえ」

マスター「朝だよ―。あら、もう起きてるね。それじゃあ店の方に降りてきてねー。朝ご飯用意してあるから」ガチャッ

勇者「分かりました」

城下町・大通り

勇者「よし。じゃあ朝飯も食ったしそろそろ行くか」

黒騎士「マスター。色々とありがとうございます。お弁当まで貰ってしまって」

マスター「勇者くんにはたっぷり貰ってるから」

魔法使い「これから盗賊団の退治に行くとは思えないなあ」

エルフ「早く行こうぜ。そろそろ暴れたくなってきた」

勇者「じゃあ出発!」

マスター「いってらっしゃーい」

道中

黒騎士「そろそろ目的の洞窟ですね」

勇者「作戦でも確認しとくか?」

魔法使い「まずは、外の見張りをボクの魔法で眠らせて」

エルフ「洞窟で出くわした盗賊は速攻で黙らせる、と」

黒騎士「まあ、頭を押さえればなんとかなるでしょう」

勇者「それにしてもよくアジトの場所が分かったよな」

黒騎士「騎士団の方が方々探してようやく見つけたそうですよ。帰ったら感謝しないといけませんね。旅の準備もしてもらいましたし」

洞窟前

魔法使い「見張りは二人だけかな」

勇者「そのようだな」

魔法使い「じゃあ、いくよ。それっ」ポワッ

見張り1「……」zzZ

見張り2「……」zzZ

黒騎士「さすがですね。では縛っておきましょう」

エルフ「おう。きつく縛っとくぜ」ギュウウ

洞窟入り口付近

黒騎士「なかなか入り組んだ洞窟ですね」

勇者「身を隠すにはぴったりってわけだ」

盗賊A「ん? お前ら――」

エルフ「おりゃっ!」バキッ

盗賊A「ぐはっ」

魔法使い「入り口の方にはあんまりいないみたいだね」

盗賊B「誰だ――」

エルフ「うりゃっ!」ドカッ

盗賊B「ぶはっ」

エルフ「なんだか弱っちいなあ」

大空洞

盗賊G「大変ですお頭!」

お頭「そんなに慌ててどうした?」

盗賊G「侵入者が――」

エルフ「どりゃーっ!」ドコーン

黒騎士「なんだか広いところに出ましたね」

魔法使い「今お頭って言ってたよね?」

勇者「言ってたな」

幹部A「やれやれ、侵入者ですか。お頭、ここは私が」

お頭「いや、ゴーレムを出せ。あいつらなかなかできるぞ」

幹部B「りょ、了解しました!」

幹部A&B「出でよゴーレム!」

ゴーレムA&B「グオオオオオオッ!」ズズズ

魔法使い「壁から出てきたよ!」

エルフ「二体も出やがった!」

勇者「ゴーレムは俺たちが何とかする。お前らは頭の方を頼む!」

エルフ「任せろ!」

魔法使い「二人とも気をつけてね!」

黒騎士「あれがゴーレムですか。たしかに強力なようですが」

幹部A「今までゴーレムに勝てた者はいません。おとなしく帰りなさい」

幹部B「それともぺしゃんこになりますか?」

お頭「お嬢ちゃんたちも、俺に勝てると思うのか? おとなしく帰った方がいいぜ?」

エルフ「女だからってなめるんじゃねえ!」ブンッ

お頭「なるほど。なかなかの腕だ」スカッ

エルフ「よけられ――」

お頭「少しおとなしくしててもらうぜ!」ブンッ

魔法使い「そこだよっ!」シュッ

お頭「くっ――。なかなかのコンビネーションだな」

勇者「あっちはなんとかなってるようだな」

黒騎士「ええ。そのようですね」

幹部A「よそ見していていいんですか?」

幹部B「いけ! ゴーレム!」

ゴーレムA&B「グオオオオオオッ!」ブンッ

勇者「なかなか重い攻撃だな」ガキンッ

黒騎士「正面から受け止めなくてもいいでしょうに。それより、あのブレスレットが怪しいですね」

勇者「ゴーレムと同じ模様だしな。あれをぶっ壊して――」

黒騎士「駄目です! あれも持ち帰らないと!」

勇者「そうだった……。めんどくせーなー!」

幹部A「しゃべっている場合ではありませんよ?」

幹部B「挟み撃ちだ!」

勇者「俺がゴーレムをなんとかするから、あの二人を頼めるか?」

黒騎士「分かりました。私の剣も使ってください」

勇者「おう。久々の二刀流だ!」

ゴーレムA&B「グオオオオオオッ!」ブンッ

勇者「受け止める!」ガキンッ!

幹部A「それぞれのゴーレムの攻撃を剣1本で受け止めた!?」

幹部B「あれ? もう一人は――」ドサッ

幹部A「たしかに――」ドサッ

黒騎士「体術も訓練していたかいがありましたね」

勇者「お、ゴーレムも止まったな。さて、どうする?」

お頭「ゴーレム二体と互角だと?」

魔法使い「す、すごいね勇者くん」

エルフ「あ、ああ」

下っ端「お、お頭―! これを使ってください!」

お頭「ばかやろう! そんなもん出して来るんじゃねえ!」

下っ端「あっ!」コケッ

黒騎士「箱から黒い石が……? ――この気配は!」

勇者「おい! あれは何だ!」

お頭「ゴーレムと同じ所に封印してあったんだが、ゴーレムを強化するものだそうだ」

魔法使い「強化だって? でも、この邪悪な気配は」

お頭「そうだ! あれには強い呪いがかかっていたんだ!」

エルフ「ゴーレムが動き出したぞ!」

お頭「お前らも逃げろ! 以前少し箱を開けただけでしばらく制御できなくなったんだ! 今度はどうなるか分からねえ!」

ゴーレムA&B「グオオオオオオッ!」メキメキメキ

勇者「おいおい、マジかよ」

黒騎士「二体が合わさっていく……」

黒いゴーレム「ギャオオオオオオオッッ!!」

魔法使い「黒い、ゴーレム?」

エルフ「な、なんなんだありゃ……」

お頭「こうなったらこの洞窟ごと埋めるしかねえ! とにかく逃げ――」

ゴーレムたち「グオオオオオオッ!」ゾロゾロ

お頭「出口にゴーレムが!?」

魔法使い「たぶんあのゴーレムが生み出しんだ……」

エルフ「どこにも逃げ場は無いって事かよ……」

黒騎士「一体どうすれば……」

勇者「みんな一カ所に固まれ!」

黒騎士「何か策があるんですか!?」

勇者「ああ、とっておきだ」

下っ端「お、おいらのせいで……」ガタガタ

お頭「そもそもこんなもの持ち出さなきゃ――」

エルフ「何あきらめてやがるんだ!」

魔法使い「でも、もうどうしようも……。ボクに転移魔法が使えれば……!」

黒騎士「勇者。一体どんな策が? ……なぜそちらに行くんですか?」

勇者「これが策だ」スッ

黒騎士「その結晶は?」

勇者「ここは俺に任せて、先に外に行っててくれ」ヒョイッ

黒騎士「まさか――」シュウウウン

勇者「どうやらちゃんと使えたようだな」

黒いゴーレム「ギャオオオオオオオッッ!!」

ゴーレムたち「グオオオオオオッ!」

勇者「来いよ。相手になってやる!」

洞窟の外

黒騎士「――またあなた、は……」シュイン

エルフ「ここって……」

お頭「アジトの外だと?」

魔法使い「さっきのは魔法結晶? しかも転移魔法で、おまけにあんなに魔力が乱れた場所で……」

黒騎士「……勇者ッ!」

バリッ! バリバリバリバリッ!!

ズドオオオオオォォォォン……

お頭「ど、洞窟が!」

下っ端「消し飛んだっす!」

黒騎士「今の魔力は……まさか!」

魔法使い「ゆ、勇者くんの、だよね!」

エルフ「おい! 土煙の中に人影が!」

???「いやー、なんとかなったなー」

勇者「悪かったな。心配かけて」

黒騎士「勇者……!」ギュウウ

勇者「うおっ。そ、そんなに心配してくれてたとは」

黒騎士「当たり前じゃないですか! あなたはいつも心配ばかりかけて」ギュウウウウ

勇者「いてててててっ! 鎧が食い込んでる!」

お頭「さて、俺たちはずらかるとするか」コソコソ

魔法使い「おっと、そうはいかないよ」

下っ端「捕まっちまったすー!」

エルフ「へへへ。こいつがどうなってもいいのか?」カチャリ

お頭「……やれやれ、年貢の納め時ってやつか」

一週間後

酒場

マスター「久しぶりだねえ。みんな忙しかったのかな?」

勇者「報告書だの何だのと、色々ありまして」

黒騎士「やったのはほとんど私なんですが。まあ、今回は勇者が頑張ったのでよしとします」

マスター「それで、あの二人はまた旅に出ちゃったのかな?」

勇者「いや、それが――」

魔法使い「おーい。二人ともー」

エルフ「もう飲んでたりしないだろうな?」

マスター「よかった。二人ともまだいたんだね」

魔法使い「実はあの後騎士団の傭兵部隊にスカウトされましてね」

エルフ「そろそろ腰を落ち着けたかったからちょうどよかったぜ」

マスター「なるほど。じゃあ、これからも飲みに来てくれたらうれしいなー。私はちょっと失礼するよ」

魔法使い「あ、あの! 少し聞きたいことがあるんですが」

マスター「何かな?」

魔法使い「出発の時に勇者に何か渡していましたけど、あれって」

マスター「ああ、魔法結晶のことか。そりゃあ気になっちゃうだろうねー」

魔法使い「あんなものを作れるなんて、あなたは何者なんですか?」

マスター「えーと、私はもうそういうのは引退したんだけど、今回はちょっと思う所があってね。まあ、今の私はこの酒場のマスターってことで」

魔法使い「……分かりました」

マスター「じゃあ、ごゆっくりー」

エルフ「おい、マスターがどうかしたのか?」

魔法使い「……いや、なんでもないよ。それより早く飲も? のど乾いちゃったよ」

エルフ「そうだな。よし、じゃあ注文を」

黒騎士「注文なら終わっていますよ」

店員「お待たせしましたー」

勇者「お、来た来た。よーし、酒を持て!」

黒騎士「そういえば、任務の打ち上げがまだでしたね」

魔法使い「じゃあ、これがそうなるのかな」

エルフ「なら勇者のおごりだな!」

勇者「なぜそうなる……」

黒騎士「まあまあ。とりあえず乾杯しましょうよ」

魔法使い「これから長い付き合いになるわけだし、今回は勇者のおごりってことで。ね?」

エルフ「男がそんなにケチじゃいけないぜ?」

勇者「だな。よし、みんな任務お疲れ様。今日は俺のおごりで飲んでくれ!」

勇者「では、俺たちのこれからを祝して――」

みんな「乾杯!」カーン

終わりです

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