召喚士「豚しか召喚できねぇ……」 (177)

召喚士(世に暗雲をもたらす魔王を打ち倒す精鋭として、王国から直々に勇者に仕えるようお達しを頂いた)

召喚士(成績優秀で王国魔術師学校をトップで卒業する程の実力を持つ俺であれば、至極当然の事だ)

召喚士(だが…………)

勇者「今日は天気が良いのー」

メイド「お嬢様、あちらに綺麗な花が咲いていましたよ」

勇者「おおー」

召喚士(スローペースでそこら辺の町娘と見間違えてしまいそうな普通の女の子と、それに仕えていた世話係)

魔法使い「コラ!寄り道しないでちゃっちゃと歩きなさい!……あ、大きな声出したら目眩が……」フラフラ

召喚士(強気な性格の癖に
、チビで貧弱な魔法使い)

召喚士「……………」

召喚士「人選ミスってレベルじゃねぇだろ…………」

召喚士(とりあえず王国を出て、次の町へ向かってはいるが、正直この先やってける気がしねぇ)

魔法使い「しょ、召喚士!ヤツを出しなさい!今すぐ……に……」ドサ

勇者「あ、魔法使いが倒れた」

メイド「召喚士殿、これ以上魔法使いは歩けないようです」

召喚士「はぁ……大地を穿つ悪食の化身、我が名に従いその姿を現したまえ!」ゴゴゴゴゴ

召喚士(ここまで仲間の文句ばかり垂れてる俺だが、そんな俺も……)カッッ

豚「んぶ!!」フンス

召喚士(この通り、豚しか召喚できない残念な人間なのだ)

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魔法使い「わ、悪いわね……」ノソ

召喚士「いや、気にすんなって。困った時はお互い様だ」

豚「ぷぎぷぎ」

勇者「豚さんは可愛いなー」ナデナデ

メイド「申し訳ない、召喚士殿。私が魔法使い殿を運べれば良いのだが……」

召喚士「あー、メイドさんには旅の荷物持ってもらってるし、これぐらいどうって事はないよ」

勇者「豚さんー」ワシワシ

豚「ぷぎー」

魔法使い「く……私とした事が遅れを取ったわ……」ダラリ

召喚士(それは魔物とかと戦った時に言う台詞だ、魔法使いよ)

勇者「私、魔法使いの分まで頑張る」

メイド「その意気です、お嬢様」

召喚士(……俺がしっかりしないと、このパーティ駄目な気がする)

勇者「はぁ、召喚士は豚しか出せない豚野郎だから私が頑張なければ」

メイド「その意気です、お嬢様」

召喚士「あの、ナチュラルに貶すのやめてくれる?」

勇者「召喚士は頼りないの。私よりも背が低いし」

召喚士「勇者が女性にしては背が高すぎるんだよ、俺176はあるぞ」

魔法使い「……私だって負けてないわ。同じ女なのにこの格差は許されないもの……!」ギリ

召喚士(何一つ勝てる要素がないチビなのに何を言ってるんだ、コイツは)

魔法使い「ぐす……負けるもんですか……私だって去年からもう1ミリは伸びてるのよ……胸だって大きくなってるもの……きっと」ブツブツ

召喚士(それは誤差の範囲じゃないのか……)

メイド「……失念しておりました、お嬢様。魔物に囲まれました」

勇者「なんと」

召喚士「ちっ、初の戦闘でこの状況はマズいな……」

勇者「王様から貰った伝説の剣で応戦するの」ス

召喚士「それ王様の息子が庭で振り回してた木の枝だろ……」

メイド「私も王様から頂いた伝説の盾で応戦致します」ス

召喚士「メイドさん、それはただの鉄製トレイ」

魔法使い「私も……ゴフッ……」

召喚士「魔法使いは無理しなくていいから。あと右手に握ってるそれ、武器でもなんでもなくて豚の尻尾だから」

ゴブリン「ギャギャギャ」ワラワラ

召喚士「……6体か」

召喚士(上手く立ち回って前衛二人を援護しつつ、魔法使いを守らなきゃな)

召喚士「遠方より吹き下ろす風読みの冥主よ!我が名に従いその姿を現したまえ!」ゴゴゴゴゴ

豚2「ぶいっ!」カッッ

召喚士「…………やっぱり豚しか出せねぇ……」ズーン

勇者「……来る」

ゴブリン「キシャー!」

メイド「遅いっ!」ガッ ゴシャ 

召喚士(パワースラム……トレイ使ってないじゃん……)

勇者「ていっ」ズババッ

召喚士(木の枝で一気に3体切り伏せてる……)

メイド「召喚士殿!そっちに1体行きました!」

召喚士「おうっ!」

召喚士(魔術師ながらも、短剣の扱いには慣れてる。アイツらだけにいい格好させてたまるかよ!)スチャ

ゴブリン「シャー!」

召喚士「けっ、隙だらけなんだよ!」ヒュッ

豚2「ぷぎー!」ズドンッ

ゴブリン「ゴハァ」

召喚士「えっ」

ゴブリン「」

召喚士「えっ」

豚2「ぶい」フンス

召喚士「えっ……豚めっちゃ強い」

召喚士「…………」

メイド「どうやら最後の1体は勝てないと分かって逃げ出したようですね」

勇者「どうした召喚士。戦闘は終わったし先を急ぐの」

豚2「ぶいー」シュワワワワワ…

召喚士「なんか、すげーヘコむんだけど」

魔法使い「私なんて手も足も出なかったわ……流石勇者ね」

召喚士「お前最初から戦闘不能じゃん」

魔法使い「何よ!何か悪い?」

豚「ぶぶー」

召喚士「いや、俺が悪かった」

メイド「なかなかの働きであったぞ、召喚士殿」

召喚士「……ドラゴンとか召喚して一掃してればもっとすげーんだろうけどな」

勇者「召喚士、正直ただの豚野郎だと侮っていた。けど、見直した」

召喚士「いや、見直されても困るんだけど」

魔法使い「さっきから卑屈になりすぎよ、召喚士。あなたは十分な働きをしてるわ」

豚「んぶんぶ」

勇者「召喚士の仕事は果たしてるの。えらいえらい」ナデナデ

召喚士「おい、そっちは豚だ。」

豚「んひぃい……」

勇者「間違えた。よしよし……まったく欲しがりさんには困ったもんだ」ナデナデ

召喚士「別に欲しがってねぇよ撫でんな」

魔法使い「……」

メイド「召喚士殿、魔法使い殿が撫でて欲しそうです」

魔法使い「はっ、はぁ?べ、別に撫でて欲しいとか思ってないから!」

メイド「おやおや……勘違いのようでした」

魔法使い「………別に、いいもん……別に……」グス

召喚士「…………」ナデナデ

魔法使い「…………っ」ニヘラ

勇者「うわー、チョロい」

メイド「お嬢様、分かっていても時には言葉にせず黙って見守って差し上げるのが淑女の嗜みですよ」

魔法使い「うぐぐ……さぁ、さっさと次の町に向かうわよ、休んだら元気が出てきたわ」

召喚士(大丈夫かなぁ、このパーティ)

召喚士「やっと着いたか……」

勇者「おお、素敵な町並み。素朴でありながら素材の堅実さが見て取れるの」

メイド「お嬢様、それは家畜小屋です」

勇者「なんとまぁ」

魔法使い「うぅ……身体が重い……」

召喚士「勇者とメイドさんは町の散策を頼む。俺と魔法使いで宿取ってくるから」

メイド「承知しました」

勇者「オヤジ、そのお肉の串焼きを一つ」

召喚士「…………」

魔法使い「何ぼーっとしてんのよ……宿探すんでしょ?」

召喚士「結局情報収集も俺がしなきゃならん気がしてきた」

魔法使い「まったく……その時はこの私が手伝ってあげるから光栄に思いなさい」

召喚士「この辺りの医療関係の施設の情報網羅できそうだな……」

魔法使い「?……どういう事よ、それ」

召喚士(歩く先ですぐぶっ倒れてるから余計に手間になりそうなんだよなぁ……)

召喚士「とりあえず宿見つけたら適当に飯食って、お前は寝ててくれ、頼むから」

魔法使い「そ、そう?別にそんなに心配しなくても私は大丈夫よ!」

魔法使い「………う」サー

召喚士「もう大声出して意識朦朧するのやめてくれ……」



魔法使い「あの、宿を借りたいんだけど……」グラグラ

店主「お嬢ちゃん、顔色悪いけど大丈夫かい?お医者様呼ぶかい?」

魔法使い「き、気にする必要はないわ、私は勇者一行の天才魔法使……はぅぁ」ドサ

召喚士「…………すみません、部屋ありますか?」ヒョイ

店主「一応二人部屋が二つに、大部屋があるけど……その子、大丈夫なのか?」

召喚士「二人部屋二つで頼む。コイツは……まぁ、寝てれば問題ない」

店主「そうかい……い、一応ウチの置き薬サービスしとくから、使ってやんな」コト

召喚士「申し訳ない」

魔法使い「……降ろしなさい、召喚士。さもないと私の凍結魔法があなたをズタズタにするわよ……」ケホ

召喚士「もう歩けないだろ、黙って掴まってろ。部屋まで運んでやるから」

魔法使い「……うぅ……屈辱だわ……」

魔法使い「言っておくけどいつもはこんなんじゃないんだからね!たまたま調子が悪いだけなんだから!」ギャーギャー

店主「お、おう……安静にな」

召喚士「お前の調子が良い所、まともに見た事ないんだけど」

魔法使い「……召喚士、薬……気分が……」

召喚士「自爆すんのやめてくれよ……待ってろ、部屋着いたらすぐ準備してやるから」

勇者「たっだいまー」

メイド「散策は終了しました」

召喚士「おう、お疲れ」

勇者「魔法使いはー?」

召喚士「今寝た所だ。薬も飲ませたし、起きたら少しは良くなってるだろ」

メイド「旅の道中必要になるであろう物資の調達、及び魔王の根城についての情報の入手ができました」

召喚士「ああ、助かったよ」

勇者「ここから北西に進めば波止場があるらしいの」

メイド「どうやらこちらの地方に強力な魔物がいないのは、魔王の城から離れた大陸だからという話もありましたね」

召喚士「まぁ、何にせよすぐには着かねぇか」

勇者「それとこれを買った」ピラ

召喚士「…………なんだそれは」

勇者「下着なの。メイドのも魔法使いのもお揃いで買った」

召喚士「今その報告は必要なかっただろ……」

勇者「まったく、召喚士は女心が分かってないの」

メイド「腑抜けめ」

召喚士(なんで俺怒られなきゃならんの?)

召喚士「部屋割りは勇者と魔法使い、俺とメイドさんでいいな?」

勇者「それで構わない。メイド、召喚士が覗きをしないように頼むの」

メイド「承知しました」

召喚士「しねぇよ。本当だったら全員個室が良かったけど、そうもいかなかったし……」

勇者「一人ずつ美味しく頂くつもりとは鬼畜なの」

メイド「滅しましょうか、お嬢様」

召喚士「勇者、お前本当酷い人間だな」

勇者「……照れる」ポッ

召喚士「…………」

召喚士(コイツのツボがまったく理解できねぇ)

メイド「もし御用がありましたら何なりとお申し付け下さい、お嬢様」

勇者「おおー」

召喚士「じゃ、メイドさん、行きますか」

メイド「承知しました」



召喚士「勇者って、良いとこのお嬢さんなのか?」

メイド「その通りです。ですがそこまで大きな貴族ではなかったので」

召喚士「へー」

メイド「お嬢様は元々国王の近衛女騎士として仕えるはずだったのですが……どう転がるかは分からないのが人生ですね」

召喚士「ああ、だからあれだけ強いのね」

メイド「私も元はバトラーとしてお嬢様に従っていましたが……今ではこの通りです」フッ

召喚士「そう、なのか」

メイド「……召喚士殿は魔術師学校をトップで卒業されたと聞きましたが……」

召喚士「魔術師学校で卒業する者はほぼ実技試験で卒業を決める」

メイド「と、言う事は……実は豚だけではなく他の者も召喚できるのですか?」

召喚士「いや、豚しか召喚できないから筆記で満点を取った」

召喚士「卒業判定は実技100の筆記500……卒業するにはどちらかの点数が9割以上あれば良いから」

メイド「では…………」

召喚士「他のヤツは90から100点の間で卒業を決める中、俺だけ500点取って卒業すれば、そりゃあ名目上はトップになれるだろう」

召喚士「……本当は実技さえ出来れば卒業できるのにな、筆記で卒業したのは俺一人だ」ズーン

メイド「頭良いだけの使えないヤツ、という事ですね」

召喚士「…………やっぱり王国の人選っておかしいと思うんだけど。俺どう考えても事務仕事派じゃん」



召喚士「忘れ物はないな?」

勇者「ふっ、あの頃の思い出は忘れたんじゃなくて、置いてきたの」

メイド「お嬢様……」ホロリ

召喚士「何茶番してんだ。荷物に決まってんだろ」

魔法使い「あと、ごふん……にじゅっぷんでもいいわ……」

召喚士「お前に関しては寝過ぎだ。いい加減シャキッとしろ」

魔法使い「うぅ……低血圧なんだから仕方ないじゃない……」

勇者「魔法使い、そもそも血が通ってたの?」

召喚士「お前に人間の血が通ってるのか心配になってきた。下衆過ぎるだろ」

メイド「お嬢様は高貴なお方です。侮辱は許しませんよ」

召喚士「…………もういい、問答してるだけ無駄な気がしてきた」

魔法使い「召喚士、だっこぉ……」

召喚士「武器防具、自分の持ち物はしっかりまとめとけよ」

勇者「うわ、無視したの」

召喚士「寝ぼけてんだから放っとけば目が覚めるだろ」

魔法使い「…………zzz」カクン

勇者「また寝た」

召喚士「もういい加減にしてくれ!俺は世話係じゃねぇぞ!」

メイド「呼びましたか?」

召喚士「メイドさんはそうだろうけど、そういう意味じゃない!」

召喚士(結局豚を召喚して魔法使いを運ぶ羽目になった……)

豚「ぶっぶん」

魔法使い「…………べーこん……」

豚「!!??!???!!?」

勇者「食い意地は張ってるの」

メイド「私もベーコンが食べたいです」

召喚士「せめてコイツがいない所で肉の話をしてくれ。怯える」

勇者「ペガサスだのユニコーンだの出せたらお肉の話にはならないのに」

召喚士「それは正直にすまん」

メイド「馬刺や桜ユッケもいいですね」

召喚士「メイドさん、アンタも中々下衆いな」

メイド「ジョークです。とってもフランクで親しみやすいかと思ったのですが」

召喚士「真顔でジョーク言われても困るっつの……」

魔法使い「もう!うるしゃいわよ!……zzz」

勇者「…………」

召喚士「よし落ち着け、勇者。拳を握るな、それを振り下ろしたら魔法使いが死んでしまう」

勇者「寝耳に水、寝顔に鉄槌」

召喚士「寝耳に水だけでも風邪拗らせて死にそうだからやめてやれ」

勇者「まったく……」

メイド「前方にゴブリンの群れがいますね。どう致しましょう」

召喚士「またこのパターンか……前衛二人に俺は豚で援護するよ」

勇者「最後のもう一回言って」

召喚士「?……俺は豚で援護するよ」

勇者「はいもう一回」

召喚士「……俺は豚で……」

勇者「おーけー豚、サッサと支度しな」

召喚士「おいコラぶっ飛ばすぞ」

魔法使い「うるっさいわよアンタ達!

召喚士「………………」

勇者「…………」

魔法使い「もう……変に目が覚めちゃったじゃない!」

召喚士「おい、見たか?」ヒソ

勇者「見たの、アレは反則なの」ヒソヒソ

メイド「まさかあんな遠方にいるゴブリンの群れを一瞬で消し飛ばすとは思いませんでした」ヒソヒソヒソ

魔法使い「?何してんのよ、アンタ達」

勇者「いえ、なんでもないの」

召喚士「ちょっと待った、今ので明確に俺が一番使えないって分かっちゃったんだけど」

豚「ぷぎぃ……」

勇者「豚さんは悪くない、全てはこの召喚士のせい」ナデナデ

召喚士「腑に落ちねぇ……」

魔法使い「……起きてすぐに大声を出したら目眩が……」

召喚士(多分その目眩は大声が原因じゃないだろ……)

召喚士(魔術師学校にいた時、魔法使いの名前はちょくちょく聞いていたが、ここまで凄いとは思わなかった)

召喚士(なんせ、俺が図書室で勉強してる間はみんな訓練場で魔法合戦してたらしいからなぁ……)ホロリ

召喚士(あれ、凄くやるせない気分。涙腺がユルユルになってる)

豚「んぶ…」ポン

勇者「豚に慰められる召喚士、とっても哀愁が漂ってるの」

召喚士「いつまでもクヨクヨしてられんし、さっさと移動するか」

勇者「私は別にダラダラしてても構わないの」

召喚士「なんか俺責められてる」

メイド「クヨクヨする事はダラダラする事と同義ですので」

召喚士「………行くか」

勇者「その意気、召喚士」

魔法使い「えーと、地図によるとこの先に山があって、それを抜ける洞窟があるようね」

豚「んぶ」ノシノシ

召喚士「見晴らしの良い外と違って、急に襲われる可能性があるって事だな……」

勇者「私は襲われても良いタイプ」

召喚士「勇者は何か間違ってるぞ」

メイド「お嬢様は受け身ですからね」

勇者「ふふ……手を出した方が悪いの」

召喚士「うわぁ、相手にしたくねぇ」

魔法使い「私は襲われるなんて真っ平ごめんだわ。ただでさえボロボロなのに」

メイド「自分が虚弱体質だというのに自覚はあったのですね」

魔法使い「だから召喚士、私を守る役目はあなたに任せるわ!」ビシィ

召喚士(魔法使い程の魔力なら、俺が守るまでもないと思うのは間違いじゃないだろ)

魔法使い「」クタ

豚「ぶー」

召喚士「豚に乗ったままじゃないとまともに動けねぇな、コイツ」

召喚士「……洞窟に着いたのはいいが……」

魔法使い「いかにも、って感じね」

メイド「お目覚めになられたのですね」

魔法使い「まぁね」

召喚士「入り口に血痕……骨、動物の死骸……」

勇者「気にする事はないの。私達は戦士」スタスタ

召喚士「あ、おい!」

メイド「足踏みしてるだけではいつまで経っても進みませんよ。お嬢様に続きましょう」

召喚士「まぁ、そりゃそうだけどさ」

魔法使い「さぁ行くわよ豚さん!」

豚「ぶぅん!」



勇者「中は随分と広いの」

メイド「自然に出来た空洞を人の手によって整備。しかし魔物の巣と通じているため護衛は必須……」

召喚士「メイドさん、何読んでるんだ?」

メイド「新装版、ニアンの地の歩き方。と言うガイドブックです」

魔法使い「へー、頼りになるわね」

メイド「地図では分からない所もこれでバッチリです」

勇者「歩けば進めるのにー、なー」ブンブン

召喚士「何も起きないからって枝振り回すのやめろ」

メイド「例えばこのスイッチ。魔物に襲われた際に使う物で押すと地面に穴が空いて、魔物の巣にお帰り頂ける優れ物です」

召喚士「随分探索しやすいようになってるな」スタスタ

メイド「ここまで逃げなければ押せないですし、穴を超えられてしまっては意味がありませんがね」ポチ

ガコン

勇者「…………」

魔法使い「…………」

メイド「…………」

魔法使い「ねぇ、今スイッチ押したわよね?」

メイド「はい」

魔法使い「召喚士が落ちてったんだけど、見間違いじゃないわよね」

メイド「はい」

勇者「マズい事になったの……」パン

魔法使い「何呑気に手を合わせてんのよ!」

メイド「やれやれ、ですね」

魔法使い「どの口が言ってんの!?……あ、目眩が……」

豚「ぷぎー!!!」

召喚士「っく……何が……」

召喚士(穴に落ちた?でも穴なんてなかったぞ……)

召喚士「…………」ハッ

召喚士「あのクソメイドスイッチ押しやがったなちくしょう!!!」

召喚士「実演なんてしなくても聞きゃ分かるっつの……」

召喚士(とりあえず、上に戻る方法を考えねぇとな)

ゴト

召喚士「……物、音?」

召喚士「そう言えば……メイドさん、落ちた先は魔物の巣とかなんとか……」

召喚士「…………」

ギャァ ギャア

召喚士「マジかよ、勘弁してくれ!」

召喚士「炎を操る暴虐の主よ!我が名に従いその姿を顕現せよ!」ゴゴゴゴゴ

豚3「ぶこ」カッ

召喚士「詠唱変えてもこれだもんなぁ……詰んだ」

リザードマン「ギャオウ!!」

召喚士「よりにもよって肉食系のトカゲ野郎だしよぉ……」スチャ

召喚士(まだ2体……とにかく切り抜けなきゃあ、死ぬ)

豚3「ぶぶこぶこ」

召喚士「背中借りるぜ。突っ込んでこの場から離れるぞ!」バッ

豚3「ぶぶぶぶ!」フンス

豚3「ぶこっ!ぶー!」ドドドド

召喚士「走れ!風のように!」

リザードマン「キシャア!」バッ

豚3「ぶこ!!」ズドン

召喚士「おーおーおー、随分飛んでったなぁ……」

召喚士(豚の突進は柵を壊す程……って聞くし、家畜だからって侮れんな)

召喚士「とにかく出口を探さねぇと……」



魔法使い「……ええと……穴に落ちた時の対処法は……一番奥に梯子がかかってるからそれを登ればいい、と」

メイド「魔物は梯子を登れない奴らが多いらしいですからね」

勇者「まったく、迷惑なヤツだ」

魔法使い「うっぷ……豚に乗りながら何か読むと気持ち悪くなるわね……」

豚「んぶぅ……」

勇者「召喚士とのコネクトは切れてないから、まだ大丈夫そうなの」

魔法使い「豚さんが消えちゃったら、結構マズいわね……」

メイド「私は別に構いませんが……」

魔法使い「歩けなくなるとかそういう問題じゃないわよ。召喚士の命が危ないって事だからよ」

勇者「どちらにせよ、結構問題なの。あ、光るキノコ見つけた」

メイド「おやおや、コレは珍しい」

魔法使い「……頭が痛くなってきたわ……」

召喚士「はぁっ、はぁっ」

豚3「ぶこーっ、ぶこーっ」ドドドドド

召喚士「頑張れ豚!もう少しで撒けそうだ!」

豚3「ぶおおお」

召喚士(結構揺れるし、手綱も鞍もねぇと随分しんどいな、こりゃあ……)ゼェゼェ

召喚士(かといって………)チラ

リザードマン's「ギャオオオオオオ!!」

召喚士(無茶苦茶数が増えて10体ぐらいはいるし、止まるわけにはいかん)

召喚士「クッソ、どこに続いてんのか分からねぇし、勇者達は助けに来てくれんのか?」

豚3「ぶこ!?」キィイイイイ

召喚士「っ!?おわぁあああああ!」ドサ

召喚士「……ってぇ……止まってる場合じゃねぇぞおい!」

豚3「………ぶこ」

召喚士「……嘘だろ、陥落……道がねぇじゃねぇか」

召喚士(向こう岸まで道は続いちゃいるが、どう頑張っても俺のジャンプ力じゃ穴に飛び込むだけになっちまう)

召喚士(しかも……この穴がどこまで続いてんのかも分からねぇし)

ギャアアアオ

召喚士(ここまで……か?こんなあっけなく……)

召喚士(まだ王国を出て一月も経ってない。魔王に対して何か出来たってわけでもない)

召喚士「…………俺の人生は、豚を量産するだけの虚しい物だったのか……?」

豚3「ぶこー……」

召喚士「…………」

召喚士「けっ、どうせ死ぬなら少しぐらい立派に逝ってやんぜこんちくしょう!」スチャ

豚3「ぶこ!!」ガブ

召喚士「え?おい何服に噛み付いてやがる!!ってぇ!?」

ブゥンッ 

召喚士「う、わわわわわわ!!!」ヒュー

召喚士「ぐっ!」ドサ

召喚士「……て、めぇ豚!いきなりぶん投げるたぁ良い度胸じゃねぇか!」

召喚士(あれ?)

召喚士「ここ……穴の向こう側……?」

豚3「ぶぶ」フンス

召喚士「お前、まさか俺を逃がすために……」

豚3「…………」フッ

ギャオア ギャオア

召喚士「こんな……こんなのって」

リザードマン's「ギャギャギャギャ」

豚3「ぶごぉぉおおおおっ!!」ドドドドド

召喚士「豚……」

召喚士「豚ぁああああああああああ!!!!!!」

召喚士(まぁ、とにかく魔物もこっち側までは簡単には来られねぇだろ)

召喚士(豚は送還しちまえば問題ないし、あー助かった)

召喚士(……にしても、豚の癖に無茶苦茶イケメンなヤツが出たな)スタスタ

召喚士(あながち豚を使役出来るっていうのは悪くないのかもしれん)

召喚士(噛み付く力もしゃくり上げてぶん投げる力も馬鹿には出来んな)

召喚士「…………お?」

召喚士(は、梯子だ!これで上の階層まで戻れる!!)ヤッター

召喚士「はぁ、ったく。メイドさんには文句の3つや4つ言わねぇと気が済まんぞ……」ギシ

ヒュー キャアアアアア

召喚士「あ?」

ドスン

魔法使い「………ったた……豚さんがクッションになってくれなかったら死んでたわ……」クスン

豚「んぶぅうう」フシュー

メイド「おやおや、せっかちさんですね」ギシ ギシ

勇者「そんな慌てても意味無いの。こういう時こそ冷静に……あ、綺麗な石見つけた」ギシ ギシ

魔法使い「アンタねぇ!いきなり豚さん諸共蹴落とすなんておかしいんじゃないの!?」

勇者「いつまで経っても降りられない方がおかしいの。私の女神加護パワーで防御力は上げてたから怪我はしない」

メイド「流石お嬢様です」

魔法使い「驚いて私も私で減速魔法と浮遊魔法使っちゃったじゃない……う……耳鳴りが……頭痛もする……」グダ

勇者「さて……召喚士を探そうか……と思ったけど必要なかったの」

豚「??」

勇者「豚さん、下、下」

召喚士「」

豚「」

召喚士「で?何か言う事があるんじゃねぇか?」

メイド「申し訳ございませんでした」シレ

勇者「迷惑かけないで欲しいの、豚係」

召喚士「くっ……不遇な扱いに涙が出そうになる」

魔法使い「でも無事で良かったわ……心配したんだからね」ダラリ

豚「んぶー」

召喚士「おう、もうちょっと普通にしてくれたら優しさに触れられて嬉しかったんだけどな」

魔法使い「うぐ……胃がキリキリしてきたわ……もう動きたくない……」

勇者「元から動いてないだろ、っていうツッコミは野暮なの?」

メイド「野暮です、お嬢様」

召喚士「とにかく洞窟ももうすぐ抜けられるな」

メイド「もう迷惑はかけられませんようご注意下さいね」

召喚士「おいコラ、誰のせいでこんな目に合ったと思ってんだ」

勇者「こんなぐらいでくたばるようじゃ、やってけないの」

魔法使い「きゅう……」ガク

メイド「…………」

勇者「魔法使いは例外。既に死んでるようなもの」

召喚士「もうあんな事は御免だ……」

勇者「よしよし、怖かったねー」ナデナデ

召喚士「撫でんな!」バシ

メイド「おやおや?召喚士殿、何やら発光しておりますが」

召喚士「え?」キラキラ

勇者「おおー、レベルアップおめでとう」

召喚士「ま、まさかこれで豚以外の召喚が……!」

召喚士「おおおおおおッ」ゴゴゴゴ

カッ

豚「んぶ!」ムキッ

勇者「豚さんが強くなったよ、やったね」

召喚士(あんまり嬉しくねぇ)ズーン

とりあえず今日はここまでです。
明日辺りポチポチ思いつきで更新していくと思います。

正直書き込みする時間がバラバラなので、申し訳ありませんがその辺りはご理解頂きたいです。
それと……豚さんの生態や使用方法については頭の中だけで留めて頂けると幸いかな、と感じております。

豚は食べ物の好き嫌いが激しいので気を付けましょう。
豚肉を食べる際に栄養素を効率良く吸収するにはニラ等他の物と一緒に食べる事ですので、オススメしておきます。

では、またそのうち。

側近「魔王様ー!魔王様ー!!」

魔王「……なんだ?騒々しい」

側近「三丁目で美味しいピザ屋が開店しました!」

魔王「それは俺が知っておくべき情報なのか……?」

側近「メニューです!」サッ

魔王「いや、メニューを渡されても困るぞ…………マルゲリータで」

側近「かしこまりましたー!」ダダダダ

魔王「…………」

魔王(魔王としてこの地に君臨し、長い年月が経った)

魔王(多くの魔物を地に放し、ようやく半数近くの人間を滅ぼし、着々と魔物の数も増えている……が)

魔王(人間達もただではやられないように知恵を付け、力を蓄え、魔族に対抗する術を編み出してしまった)

魔王(まさかこんな中途半端な実績で、世界の均衡が保たれてしまう事になるとは)

魔王(増えもせず、減りもせず……俺の覇道は暗礁に乗り上げてしまったかのようだ)

魔王(魔族の奴らは怠惰で、策略も打ち立てる事なく遊び惚けているし、側近に至っては俺の世話係のような者に成り下がってしまった)

魔王(いかん……このままではいかん!)

魔王(こんな結果で満足など出来るわけが無い!俺は王だぞ!)

側近「魔王様!マリナーラピッツァを購入してきました!」バーッン

魔王「側近……すぐに幹部を集めろ。人間達に再び恐怖という物を教えてやらねばならん」

魔王「そして、俺が頼んだのはマルゲリータだ。買い直して来い」



側近「これより第4回人間撲滅会議を始めまーす!」

側近「主催者である魔王様から開会のお言葉です!どうぞー!」

魔王「これより会議を始める」

側近「えー、最近人間の統治している大きな国から四名の人間が、魔王様討伐のために出発したとのお便りが来ています!」

側近「お得な情報サンキュー!」ヘーイッ

魔王「………待て、その話はいつ聞いた」

側近「一週間ぐらい前に、ピザ屋が開店するという情報ともに仕入れました!」

魔王「…………」

「いよいよ魔王様も討伐対象ってかー」

「うかうかしてられないですね」

「正直人間達は今まで何してたんだって話」

魔王「人間撲滅のための第一歩だ。幹部諸君には俺の討伐に来る四人の抹殺を命じる」

魔王「これによって人間の細やかな希望を一息に踏みつぶし、輝かしき魔族の栄光を取り戻すのだ!」

側近「魔王様!」

魔王「……なんだ、やかましい」

側近「ピザのサイズがSMLとあります!」

魔王「お前はちょっと口を閉じろ」

魔王「とにかく、だ……俺たちは少々呑気に考え過ぎていた。さっさと人間達を滅ぼし、我々の安定した生活を守るのだ」

魔王「正直、これ以上クレーム対応で胃がキリキリするのは勘弁なのでな」

召喚士「渡航不可?冗談だろ?」

船乗り1「悪いねぇ、今停泊してる船だけじゃ海は渡れねぇんだわ」

船乗り2「護衛船がないと海の魔物に沈められちまうし、護衛船は少し前にここを出たばっかなんだ」

勇者「みてみてーメイドー。魚釣ったのー」

メイド「流石です、お嬢様」

召喚士「じゃあいつになったら出れるんだ?」

船乗り2「多分一月ぐらい先じゃないのかねぇ」

船乗り1「何が目的か知らねぇけど、のんびりこの港町を楽しんでくんな」

魔法使い「……波は……見るもんじゃないわね……吐きそう……」

召喚士「………」

勇者「話は終わったの?」

召喚士「ああ、ここで足止めだ」

勇者「はぁ……使えないの」

召喚士「呑気に魚釣りしてただけでよく言うぜ……」

メイド「仕方がありません、船が来るまでのんびり過ごしましょう」

召喚士「何言ってんだ。出来る限り早く魔王を倒すように言われてるのに、そんなんじゃ駄目じゃねぇか」

魔法使い「召喚士の……言う通りよ……」ゼェゼェ

召喚士「顔色悪いぞ。無理して喋るなって」

勇者「うーん……何か手立てを見つけなきゃいけないの」

メイド「私なら10……いや、2分で片をつけますが」スッ

召喚士「なんか威圧感凄いから構えるのやめてくれるか?あと穏便にいこうな」

勇者「海の魔物をぶち殺してバラバラにしてしまえば万事解決なの」

召喚士(なんでシンプルに倒すって言葉が出てこないのか分からねぇ)

メイド「魔物を圧殺して絞殺して撲殺できる力を示せば、船を出してくれるかもしれませんね」

召喚士「なんでそんな肉体言語で語ろうとするのか理解に苦しむよ、メイドさん」

魔法使い「ーーー」パクパク

勇者「魔法使いは、もはや喋る力も尽きたの」

召喚士「はぁ……思わぬアクシデントだな……」

勇者「…………妙案、ひらめいたの」

召喚士「あ?船を出させるためのか?」

勇者「任せるの。私の案は完璧」ブイ

メイド「流石お嬢様です」

召喚士「一番は実力を見せて……って話だろ?どうすんだ?」

召喚士「実力を見せようにも相手がいねーし」

勇者「まず、豚を出します」

召喚士「おい」

勇者「何なの?」

召喚士「俺の豚をむやみに攻撃しようとすんじゃねぇ。豚とのコネクトすら切れたら俺は荷物以下だぞ」

勇者「攻撃はしない。早くするの」

召喚士「……天空を割りし使い魔と、我が名に従いその姿を現したまえ」ゴゴゴゴ

豚「んぶー」カッ

勇者「出したね。よしメイド。連れてくの」

メイド「承知しました」ガシ

豚「ぶぶぶ!?」

召喚士「待て!何を……!」

勇者「手っ取り早く、海から魔物を釣り上げれば問題無しなの」

召喚士「あ……ああ、豚がみるみるチャーシューのようにタコ糸で……」

魔法使い「……その縛り方する意味あるわけ?」

メイド「おはようございます、魔法使い殿」バババババ

豚「んぶぶぶぶぶ!」

召喚士「豚ー!!!」

豚「」バーン

召喚士「………煮崩れしなさそうな完璧な縛り方だな」

メイド「メイドとして当然身に付けている知識ですので」

魔法使い「多分コックの仕事だと思うのだけれど……」

勇者「準備は整ったの」

豚「んぶー!!」バタバタ

勇者「釣り竿の先にタコ糸を付けて……」

召喚士「それ前にゴブリン倒してた伝説の剣じゃねぇか」

勇者「よし、メイド」

メイド「御意であります」ガシ

豚「んぶ!!!???!?」

勇者「グッドラック」ビシ

メイド「とりゃあああああ!!!」ブン

豚「ぶー!!!!!!」

魔法使い「豚さんを放り投げるなんて……大した怪力ね」

召喚士「木の枝で支えきれるわけねぇだろ!豚に呪われるぞこの悪魔!」

勇者「?……私は勇者だけど」

召喚士「知ってるよ!」

勇者「まぁ、私の釣り竿は豚ぐらいどうって事はないの」

召喚士(枝が光ってる……ゴブリンを倒した時もそうだったが……)

勇者「適当な媒体があれば、私が振るう物は全て伝説の剣」

勇者「延長、硬質化、範囲拡大、その他諸々」

豚「ぶぅうん!」プラーン

召喚士「とてつもねぇな……」

勇者「さーて、何が釣れるか楽しみなの」

召喚士「……沖に行かねぇと魔物釣れねぇんじゃないか?」

勇者「黙って」

魔法使い「あー、寝転がってるのが一番楽かもしれないわ……」グダー

メイド「お嬢様、お茶の準備はできております」

召喚士「ったく呑気にしてやがんぜ……」

豚「ぷいー」プラーン

勇者「…………来るの」

ザザザザザザザザザザ

召喚士「ま、マジか!」

豚「ぷぎぎー!!!」ジタバタ

勇者「引きつけて、引きつけて……」

メイド「ファイトです、お嬢様」

勇者「今ッ!」カッ

ザパァアアアアアアアン

豚「ぷぎゃああああああああああああああ!!」ポーン

シードラゴン「ギャアオオオオオオオ」

召喚士「シードラゴン!?」

豚「んぶっ」ボテッ

勇者「大物ゲットなの」

メイド「お嬢様、水に濡れますので傘をお持ちしました」バサ

勇者「うぬ」

召喚士「コイツ、どうすんだよ……」

シードラゴン「グルルルルルル……」

勇者「引きずり出す作業はメイドがやってくれるの」

召喚士「はぁ?」

メイド「お任せください……」ス

シードラゴン「ギャオオオ!!」ガブッ ガブッ

メイド「頭を近づけたのは、いけませんね」ゴッ

召喚士(うわぁ……グーで顎打ち抜いてる……)

魔法使い「あのデカ物相手に良くやるわね」

シードラゴン「ガアアアアアアアアアア!!!」

メイド「よっ」ガシ 

ザバァアアアアア  ズゥウウウウウン

メイド「………任務完了です」

勇者「良くやったの」

召喚士「陸地に引きずり出したのは良いけどよぉ……町中でこれはちょっとマズいんじゃ……」

豚「んぶぅうううう!」

「な、なんだアレは!」

「魔物だ!魔物がこの町に!」

「住民を退避させろ!急げー!」

召喚士「……とんでも無い事になってやがる……」

勇者「ま、調理すればオールオッケー問題無し、なの」

召喚士「大物相手にすんのは初めてだな」

勇者「私はよく魔物狩りをしてたから、別にどうってことはないの」

召喚士(なるほど、どうりで無垢でノッポなお嬢様は戦いに長けてるわけだ)

召喚士(無垢であっても、どす黒い腹を持ってるというのは矛盾か……?)

シードラゴン「ギャオオオオ!!!!」ブン

勇者「ただ困った事に、海の魔物は相手にした事が無いの」

召喚士「言ってる場合か尻尾が来てんぞちくしょう!!!」

バシュッ!!

メイド「いけない尻尾ですね」ギリギリ

召喚士「アンタ本当に人間かよ……」

メイド「お嬢様に降り掛かる火の粉を払うのも私の使命ですので」ドゴォ

勇者「よくやったの。ではここで新・伝説の剣で対抗するの」ブゥウウン

召喚士「おい、いつの間に武器調達してやがる。俺ナイフしか持ってねぇぞ」

勇者「残念、召喚士に鉄の剣は装備できないの」ズシャッ

シードラゴン「ギャアアアアア」

召喚士「鉄の剣って言っちまってるし……まぁいい、豚!転がってる魔法使いの援護は任せた!」

豚「んぶ!」

召喚士「海を裂き光る雷帝の使いよ、我が名に従いその姿を現したまえ!」ゴゴゴゴゴ

豚4「ひゅぶん!」カッ

召喚士「豚しか出ねぇ事はこの際どうでもいいや!切られて悶えてる今のうちに突っ込め!」

豚4「ひゅぶぶぶん!」ドドドドド

シードラゴン「ギャアアアアアアオオオオオオオオ!」ブン

ペシン

豚4「」

召喚士「豚ぁあああああああああ!!」

メイド「やはり大きく強い相手に豚は酷なようですね」シュ

勇者「とんだ鬼畜野郎なの」

召喚士「俺もいつかこうなるとは思ってたけど、序盤で使えなくなり過ぎやしませんかね!!」

シードラゴン「オオオオオオオオ!!!」

豚4「ひゅぶん……!」

召喚士「リベンジアタック、行くぜ相棒!」ダッ

豚4「ぶひゅぶぶぶん!!」ドドドド

ズドォッ!!

シードラゴン「ッ!ッ!!」

召喚士「いや、でも豚のしゃくり上げって馬鹿にはできねぇわ……攻撃したら距離を取るぞ!」ズバッ

豚4「ぶひゅん!」スタコラ

メイド「……様子がおかしいですね……」

シードラゴン「ガァアアアアアアアアア……」

召喚士「何が?」

勇者「何かの予備動作なの。防御姿勢をとって」ザザッ

シードラゴン「ゴァアアアアアアアアアアアアア!!!」チュドドドドドドド

召喚士「ウッソだろおい!」ダダダ

召喚士(ブレス!こんなヤツでもやっぱりドラゴンって事か?」

召喚士「やっべぇ、町が!!」

チュドドドドドドドド

勇者「気にするよりもまずは殲滅なの」ヒュ

メイド「これ以上被害は出させません」ヒュ

ズババ ズドォッ

シードラゴン「ッぎゃぁああああああ……」ズン

召喚士「その土手っ腹に重いのお見舞いしてやんよぉ!」

豚4「ぶぅうううう!!!!」ズダダダダダダ

ズガン!

シードラゴン「」

召喚士「豚を甘く見んじゃねぇ、でっけぇタツノオトシゴが」

豚4「ひゅぶん!」フンス

召喚士「………」

召喚士(自分たちで面倒事を引っ張り込んだ……って考えると、ちょっとマズくねぇか?)

勇者「被害状況、結構キてる感じなの?」

メイド「水のブレスだったとは言え、樽を破壊したりとなかなかの威力でしたからね」

召喚士「もう勘弁してくれ……怒られるのは嫌だぞ」

勇者「……でも大した事はないみたいなの」

召喚士「何その現実逃避チックな言い方!俺はこのまま海を眺めてたい。現実を直視したくない」ガタガタ

メイド「いい歳した男がガタガタ抜かしてんじゃねぇ。……ですよ。ちゃんと見てみなさい」

召喚士「今ちょっと素出てんじゃねぇか。ちくしょう……嫌だなぁ、怖いなぁ」チラ

召喚士「…………」

召喚士「本当だ、大した事ねぇな」

召喚士(水浸しになった地面、水たまり、壊れた樽一つ)

召喚士(普通に見て、特に問題と言った問題もないようで、少し安心する)

召喚士「にしても、そんな弱っちいブレスだったっけ?」

メイド「当たったら召喚士殿3人は貫けそうだったのですが……」

召喚士「なぜ俺を数値として使う。物騒だからやめろ」

魔法使い「……アンタ達ねぇ……少しは後先色々考えたらどうなの……」ビチャビチャ

勇者「うわ、魔法使い水浸しなの」

魔法使い「っくしゅ……うう……寒気が……それに頭痛も……」フラフラ

召喚士「こりゃ酷いな。とりあえず俺のローブと、タオル。ほら」

魔法使い「感謝なんてしないわよ……むしろ感謝しなさい、崇めなさい」パサ

魔法使い「…わ、私が障壁………きゅう……」ドサ

勇者「言いかけでくたばる辺り、しまらないの」

召喚士「あー、まぁ……とりあえず宿まで戻るか」

勇者「どう、メイド。魔法使いの容態は」

メイド「至って平常です」

魔法使い「……それは私がいつも体調崩してるってことかしら……?」

メイド「いえ、もはや立て直るもクソもないですから」

勇者「辛辣なの」

魔法使い「まぁいいわ。あなた達の口車に乗ってたら身が持たないもの」

勇者「懸命な判断」

ガチャ

召喚士「話つけて来たぞー。俺たちが護衛につくなら船出せるってよ」

勇者「ん、良くやったの。褒めてつかわす」

召喚士「魔法使い、調子はどうだ?動けそうか?」

魔法使い「私なら問題ないわ。今すぐにでも行動可能よ」タラー

召喚士「鼻血出てるから」

メイド「これは少々待機が必要ですかね」

魔法使い「これぐらい大した事ないわよ!船の中でも治せるわ!」ダラダラ

召喚士「大声出すなって……余計出てんじゃねぇか」

勇者「そのうち治癒魔法か何かを掛け続けないと命を落としかねないの……」

メイド「不憫です」

魔法使い「不憫って言わないでくれるかしら……不快だわ」グター

船長「諸君!準備はできただろうか!ワシはまだできていない!!」

船長「マストの状態はいかがだろうか!積み荷の確認は出来ただろうか!耳にタコ!口を酸っぱく!良いツマミ!」

勇者「随分やかましいの」

召喚士「別に気にする事はねぇだろ。放っとけ放っとけ」

メイド「船室に荷物を運び終わりました」

勇者「ご苦労。魔法使いは?」

メイド「船室に」

召喚士「ああ、魔法使いも荷物扱いなんだ」

勇者「召喚士、酷いの」

召喚士「……お前も結構酷い事頻繁に口にしてるけどな」

船乗り「客人さん、三十分程で出航しますんでー、どうぞよろしく」

船長「船体異常なし!」

召喚士「ご協力感謝します。必ずこの船を守ります」

メイド「自分は何も出来ないくせに、大口を叩くあたり凄まじいですね感服致します」

召喚士(正直何にも言い返せねぇ)

勇者「海の上では仕事がなさそうだから、船乗りの手伝いは頑張って」

召喚士「……あいあいさー」

船長「乗員諸君!我々は魔物の蔓延る大海原を渡ろうとしている!護衛船はいないぞ!後見人は立てたか!母ちゃんに挨拶は済んだか!」

船乗り「船長、火薬湿気ってるんすけどー」

船長「乾かせ!」

船乗り「船長!悪くなりかけの食料が……」

船長「乾かせ!」

船乗り「船長ー、服が生乾きで」

船長「乾かせ!乾かせば大抵の事はなんとかなる!!!」

召喚士「……正直ここのテンションにはついていける気がしねぇ」

船長「出航!係留ロープを外せ!帆を下ろせ!後はいつも通りやっちまえ!」

船乗り「イエスキャップ!」

勇者「召喚士、道具の整理は任せたの」

メイド「私たちは甲板で待機しておきます」

召喚士「はいよ。何かあったら呼んでくれ」

勇者「退屈凌ぎの召喚士を船から蹴落とそうゲームが始まったら呼ぶから安心するといいの」

召喚士「とんでもねぇ畜生だな」

メイド「ははは、召喚士殿はジョークが上手いですね」

召喚士「……正直、メイドさんの感性がいまいち理解出来ねぇよ」

勇者「それと、これからの旅で足手まといにならないように色々対策を考えておくように」

召喚士「分かってるよ」スタスタ

勇者「…………」

メイド「お嬢様、召喚士殿は国から選定された人材とはいえ、この旅は荷が重いように感じます」

勇者「分かってるの」

メイド「体力、武力、魔力。どれも一般男性程度で、唯一使える召喚魔法も豚しか呼べませんし……」

勇者「知識は持ってる。だから戦い方を教えれば問題ない」

メイド「……承知しました」

勇者「召喚士は伸びる子なの。ただポンコツなだけ」

メイド「あまりフォローになっていないですが、良しとしましょう。お茶の準備をしますので少々お待ちを」

勇者「砂糖は多めに頼むの」





「あれに魔王様の敵である勇者が……ククク……」

「恐怖と一緒に水底へ沈めてやろう。二度と魔王様に歯向かえぬように」

「クラーケンよ!進むのだ!あの船を沈めるぞ!」

イカ「ブモォオオオオオ」

召喚士「はぁ……足手まとい扱いはキツいもんだなぁ」

魔法使い「何か言われたの?」

召喚士「まぁな。でも事実だしどうしようもねぇよ」

魔法使い「私はあなたが足手まといなんて思ってないわ。むしろ私の方が迷惑かけてるもの」

召喚士「お前は……まぁ、それを補うだけの力があるからいいじゃん」

魔法使い「私は強くなりたくて魔法を学んだわ。でも、どうにもならなかった」

召喚士「…………」

魔法使い「山を削るような火を放てても、大きな湖を蒸発させるぐらいの雷を放てても、無駄だった」

魔法使い「体質というものは本当にどうしようもないわ!」

召喚士(いや、体質は置いといてそんな事まで出来ちゃうのかよ。この子怖い)

魔法使い「召喚士は健康体なんだから、恵まれてると思いなさい!」

召喚士「ああ、そうだな」

魔法使い「けほっ……大声出したら喉を痛めたわ……」

召喚士(虚弱ってレベルじゃねぇぞ……)

魔法使い「魔法の使い方なら私が教えてあげるわ。だから頑張りなさい」

召喚士「ありがとよ」

魔法使い「べ、別に感謝されたいわけじゃないから。仲間として協力して当然だからそうするだけよ」

召喚士「はいはい」

魔法使い「う……ゆ、揺れる……むり、吐きそう……」グタ

召喚士「調合した酔い止めやるから、飲んでしばらく寝てろ」

魔法使い「そ、そうするわ……魔物が出たら起こして……がんばる」

召喚士(頑張れそうにねぇなぁ……)

召喚士(召喚術式。契約の陣)カリカリ

召喚士(新しく契約出来れば、豚以外の召喚も可能なはずだ……)カリカリ

召喚士(普通の魔法陣じゃあ、術者の魔力に相応の使い魔しか召喚できねぇが……少し手を加えてやれば……)カリカリ

召喚士「これで良し、と」

召喚士(後は魔力を流し込みつつ……)コォオオオ

召喚士「我が魔力に呼応する魔の者よ。誓いを立て共に歩む魔の者よ。今一度姿を現したまえ」コォオオオオ

カッ

召喚士(……せ、成功か?)

光の玉「……なんや、自分。人間風情がワシを呼ぶなんて大したもんじゃのう」パァアアア

召喚士「……き、きた……」

光の玉「んん?ああ?」

召喚士「お前は、何者だ?」

光の玉「ワシはエレメントじゃ。精霊と言ってくれてもええぞ」

光の玉「で?なんの用じゃ?お喋りだけなら壁としてくれや」

召喚士(うわぁ、結構酷い)

召喚士「……俺と契約してくれないか?」

光の玉「別にええけど、ワシは実体がないし使い物にはならんぞ」

召喚士「はぁ?」

光の玉「もともとワシは武器や防具に宿るタイプで、召喚して使おうなんてヤツはどこにもおらん」

光の玉「出した所で眩しいだけの光の玉やからなぁ!」

召喚士(うっわ、豚より使えねぇ)

光の玉「不服そうな顔しとるのぉ……。そもそも、召喚術式でワシを呼び出した時点で間違っとるんじゃ」

光の玉「普通なら武器や防具に降りてきてもらうもんやで?それをまぁ何も無い所で引っぱり出してきよって」クドクド

召喚士「やっぱり失敗か……」

光の玉「失敗ってなんや!」

召喚士「俺は豚しか召喚できねぇから新しく他のヤツと契約しようと思ったのによぉ!こんな胡散臭い精霊とか冗談じゃねぇ!ちくしょう!」

光の玉「へー、ほー、ふーん……ワシを舐めとるな。自分」

召喚士「おう」

光の玉「ちょっと待っとれ」ムニュムニュ

召喚士(うねうねして気持ち悪い)



召喚士(あれ……心無しか、形が変わってきた?)

ポン

精霊「ふぅ、久々じゃのう。人型になるんは」

召喚士「………………」

精霊「なんや、ジロジロ見くさりおって。しばくぞ」

召喚士「いや…………女性だったんすね」

精霊「別にどうでもええやろ……。ほら、豚出してみい」

召喚士「何するつもりだよ」

精霊「ワシの力を見せたるんじゃ」

召喚士「でも眩しいだけなんだろ?いらねぇよ」

精霊「かー……契約して下さいってクビ切れかけの役人みたいに跪く準備しとけよ、青二才」

豚「んぶ!」ペカー

召喚士「……………」

精霊「どうや!」

召喚士「どうや、って言われてもなぁ……」

召喚士(豚が光ってるだけというのはどういう事なんだろうか)

精霊「精霊様の加護をなんやと思ってんのや!」

召喚士「知るか!」

豚「ぷー」ペカカー

精霊「はぁ、戦わんと意味が分からなさそうやな」

精霊「行け!豚さん!そこの若造捻り潰したれ!!」

豚「んぶー!」パァアアア

召喚士「っテメェ!人様の豚に勝手に命令すんじゃねぇ!」

精霊「さぁ、ワシの力で強化された豚さんが倒せるかのぉ!」

豚「ぶぅうううううう!!!!」ジャキンジャキン カシャン

召喚士「…………は?」

精霊「たかが豚と侮るなかれー」

召喚士「ちょっとタイム!タンマ!ストップ!」

精霊「時は無情にも過ぎて行くんじゃ。切ないのぉ」

豚「んぶー」コォオオオオオ

召喚士「あ、これは駄目だ」




召喚士「契約して下さい、お願いします」ボロ

精霊「それみたことか」

召喚士「まさかフルアーマー化されるなんて思わねぇだろ、ちくしょう……」

精霊「ま、身に染みたじゃろ?」

召喚士「ああ、嫌ってぐらいな」

精霊「ワシは時々様子見程度にしか姿は出さんが、召喚される豚さんにはワシの力を宿しておく」

精霊「せいぜい頑張って扱うんじゃな」ス

召喚士「結局豚しか出せないんだな」

精霊「……別にワシが戦ってやってもいいが、壁にもならんぞ」

召喚士「まな板のくせに」

精霊「やかましいわ。それよりも早く手を出さんかい」

召喚士「はいはい」ス

精霊「よろしく頼むで、若造」ギュ

召喚士「お力お借りしますよ、精霊様」

精霊「」スゥゥ

召喚士「…………」

召喚士「これは……成功と言っていいのかさっぱりだ」

メイド「……コイツが……海の魔物ですか」

勇者「船上は戦いにくいけど、仕方が無いの」

「魔王様に歯向かう愚か者め!海の藻屑と消えるがいい!!」

イカ「オオオオン!!」ブン

メイド「ハァアアッ!」ドシィ

勇者「メイド、船の守りは任せたの」ブゥウン

メイド「承知しました」

「く……人間風情が魔族の私に勝てると思うなよ!!」

勇者「イカを使って戦う間抜けに負ける気はサラサラないの」

「イカではない!全てを水底に引きずり込む魔物、クラーケンだ!」

イカ「ブモォオオオ!!!」

勇者「図体ばっかりデカくても、イカはイカなの」ズバッ

イカ「ギャオオオオオン!!!」

「ちっ、船さえ沈めればこっちのものだ!!」

メイド「船への攻撃は私が阻止しますので」

イカ「フシュルルルルル……」

「クラーケン!波を立てて船をひっくり返せ!!」

イカ「オオオオオオオオン!!」ザバァァアアアア

勇者「うわっととと……」ヨロ

メイド「小癪な真似を……」

「きゃははははは、そのまま転覆するのを見届けるがいい!!」

召喚士「随分揺れるな」

魔法使い「ぅううう……大丈夫、私は出来る子、大丈夫、私は出来る子」

召喚士「あんまり無理すんなよ?」

魔法使い「眠るのすら困難な揺れではどうしたらいいか分からないの」ゼェゼェ

召喚士「一応洗面器用意してるから、駄目だったら吐いていいからな」

魔法使い「そんな事あなたの前で出来るわけないじゃない!!!」

魔法使い「……………」サー

召喚士「お、おい……」

魔法使い「お……お願い……少し、部屋から……出てってくれないかしら……」

召喚士「分かった、分かったよ。良くなったら声掛けてくれよ」

召喚士(後始末もあるだろうし)

魔法使い「恩に着るわ……」

ガチャ パタン

魔法使い「…………」ゼェゼェ

魔法使い「無理、無理無理無理無理……」グタ

魔法使い「なんなのよ、急に揺れ出して……勘弁して欲しいわ……」

魔法使い「うう……けほっ……」

魔法使い「もう!!!!揺れが収まらなきゃ気持ち悪いままじゃない!!!」

魔法使い「全てをなだめ、収め、安定と静穏
の守りを……」パァアアアアアアア

魔法使い「…………初めからこうしてれば酔わなかったし、召喚士に変な所を見せる事もなかったじゃない……」ドンヨリ

「もういいかー?」

魔法使い「ええ、もう大丈夫よ……」

召喚士「揺れ、収まったみたいで良かったな」ガチャ

魔法使い「うっとおしいし止めたわ」

召喚士「止めたって……すげぇなおい」

魔法使い「うう……魔法使ったら頭が……」

召喚士「本末転倒じゃねぇか」

「………あ、あれ?クラーケン!もっと波を大きく立てるのだ!!!」

イカ「オオオオオオオオオオ!!!!」ザッバァアアアアアア

メイド「ふむ……」

勇者「魔法反応、恐らく魔法使いなの」

メイド「流石魔法使い殿ですね」

「波が駄目ならそのまま突っ込んでやれ!!」

イカ「グオオオオオオ!!!」

勇者「海ごと叩き割ってやるの」ゴォオオオオオ

勇者「一閃!!!!」ズドォオオオオオ

イカ「ォオオオオオオオオオオ………」ブクブクブク

「く、クラーケン!」

勇者「私を倒すならもっと強い魔物じゃないと駄目なの」

メイド「まぁ、魔物如きに遅れを取る事はないと思いますが」

「こうなったら魔王軍第三攻撃隊隊長の私が自ら相手してやる!」バッ

メイド「とう」ゲシ

「あっ」

ポチャン

勇者「メイド酷い、飛び移ってきた人を蹴落とすなんて」

メイド「人ならざる者でしたので」

勇者「なるほど」

「貴様らー!私はまだ負けてないぞー!!」ヨジヨジ

勇者「うわぁ、ロープもないのに良くやるの」

メイド「ふむ……」ゴトン

「な……その樽をどうするつもりだ!」

メイド「よっ」ポイ

「ぎゃんっ」ガン

勇者「仕事、完了なの?」

メイド「完了でございます、お嬢様。またお茶の準備でも致しましょうか?」

勇者「お願いするの」




勇者「やれやれなの」ガチャ

召喚士「見張りはいいのか?」

勇者「メイドがお茶の準備がてらやってるの」

召喚士「そんなんでいいのか」

勇者「さっきイカを倒した」

召喚士「随分楽な仕事だな……魔物は出てないのか?」

勇者「これといって困る魔物は出てないの」

召喚士「そうか……ならいいけど」

勇者「召喚士、海に蹴落とそうゲームはどうするの?」

召喚士「いや、やらねぇから」

勇者「メイドだけやってずるいの」

召喚士「一体誰を蹴落とした……頼むから変な事しないでくれ……」

勇者「ひまー」

召喚士「はいはい、船旅っつーのはそういうもんだろ」

勇者「召喚士の癖に生意気、死ぬ?」

召喚士「そんな理由で殺されたくはねぇよ」

勇者「メイドと相談した。召喚士は強くならないと使えない」

召喚士「そりゃあ重々承知してるよ」

勇者「だから海に蹴落とそうゲームを……」

召喚士「しねぇよ」

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召喚士「結局魔物、出なかったな」

魔法使い「足下がフワフワしてる……地面が揺れてる……」ヨロヨロ

メイド「一応出ましたが、敵ではありませんでしたね」

召喚士「へー……大した事無かったんだな」

勇者「魔王軍第三攻撃隊隊長とかいうヤツが来たけど」

召喚士「は?」

勇者「メイドが蹴落としたの。私も戦いたかった」

召喚士「おいおいおい、魔王の手先が来てんのに何にも言わなかったじゃねぇか」

勇者「だからイカと戦ったって言ったの」

召喚士「……はぁ……随分悠長だな」

メイド「安心してください、召喚士殿は間違いなく足手まといになっていただけですので」

召喚士「それを言われると悲しくなるからやめてくれ」

「貴様らー!私を倒したと思ったようだがそうはいかんぞー!!」ビチャビチャ

メイド「…………」

勇者「…………」

召喚士「………あれはどちら様で?」

勇者「アレが魔王の手先なの」

召喚士「倒せてねぇじゃねぇか!」バッ

「無情にも進む船を泳いで追いかけ一夜半、魔王様のためにも貴様らを逃がすわけにはいかん!!」ジャキン

召喚士「丁度良い、俺の新しい力を見せてやるよ」

勇者「へー」

召喚士「大地を穿つ、悪食の化身よ!我が名に従いその姿を現したまえ!」コォオオオオ

豚「んぶ!」カッ

「は……ははは!家畜ではないか!そんなもの私の敵ではない!」

召喚士「それは、コイツを見てから判断するんだな!」

豚「んぶぶぶぶぶ」ジャキンジャキン カシャン

メイド「……俺の、と言ったくせに豚さんが強化されてますね」

勇者「メイド、それは言ってはいけないの」

召喚士「うっせぇな!ちゃんと精霊と契約したのは俺だぞ!」

豚「んぶー」

召喚士「行け!突進だ!」

豚「んぶー!!」ドドドドド

「はっ、何をするかと思えば……」

豚「ぶぅうううううう!」ゴォオオオオオオ

「なっ!!?」ズドォオッ

召喚士「突進力を増大させる推進機構の搭載」

「くっ……突進しか能のない豚如きが!滅びろ!水魔法!!!」バシュシュシュシュ

豚「んぶぶぶぶ」シュバババババ

召喚士「速くなったのは突進だけじゃないんでな!」

「ぐぐぐぐ……ならば術者!貴様から殺してやる!!」バッ

召喚士「よそ見は厳禁だ!敵さんよぉ!」

豚「んぶぶ!」ヒュッ

「えっ」ガシュンッ

召喚士「下から上に突き上げるように特化した牙と角付きのしゃくり上げは甘く見ない方がいいぜ」

「く……かはっ……」

召喚士「トドメだ豚!」

豚「ぶぅううううん!!!」コォオオオオ

「ま、待て……!」

召喚士「発射!」

豚「んぶ!!!!」ズドン

「ぐぁあああああああああああ!!!」

召喚士「よし……やったぞ豚!」

豚「ぶー!!!」ピョンピョン

勇者「容赦ないの」

メイド「しかし、これでようやく召喚士殿もまともに戦闘に参加できるのでは?」

勇者「まぁ、これなら問題なさそうなの」

「く……魔王様に……お伝えせねば……豚は……強い、と……」ドサ

側近「魔王様ー!ピザ屋のクーポン付きチラシが届きましたー!」

魔王「もうピザはいい!何日連続で頼んでると思っている!」

側近「えー!ピザ美味しいじゃないですか!!!」

魔王「ええいやかましいわ!」

側近「あ、送り込んだ攻撃隊長が敗れたという報告もありまーす!」

魔王「……なんだと?」

側近「先程連絡がありましてー!」

魔王「ふむ……やはり捨て置くわけにはいかん敵だな」

側近「勇者一行よりもピザですよ!ピザ!」

魔王「お前、最近太ったぞ」

側近「なっ!?」ガーン

魔王「はぁ……一気に部隊を送り込んで殲滅させるか……」

側近「あ、それと魔王様!」

魔王「なんだ」

側近「倒された隊長は”豚は強い”と連絡を残しました!ピザの具ですかね!?」

魔王「お前といい隊長といい、少しは危機感を持てんのか」

側近「私が豚だなんて酷いです魔王様!!」

魔王「…………はぁ…そんな事は言っておらぬだろう……」

側近「決めました!私ダイエットします!」

魔王「勝手にしていろ」

側近「魔王様もお腹のお肉が気になります!」

魔王「やかましいぞ!俺の事は放っておけ!」

魔王「…………」

魔王「………………」プニプニ

魔王「マズいな……早急に手を打たねば……」

勇者「さて道案内役の召喚士くん、次はどっちに進むの?」

召喚士「いつから俺は道案内役に成り下がった……北西だ」

魔法使い「物資は前の港町で補給できてるわけだし、さっさと行きましょ」

召喚士「それもそうだな。勇者もそれでいいだろ?」

勇者「構わないの」

メイド「二三日歩けば小さな町に到着するようですので、そこで再び物資の補給をしましょう」

召喚士「情報収集もしねぇとな……魔王の住んでる場所すら曖昧じゃやってけねーぜ」

魔法使い「けほ……ねぇ、この辺り乾燥してない?私だけ?」

勇者「…………はぁ」

魔法使い「何よ、その当然だって言いたげな顔は」

召喚士「はいはい、マスク買っておいたから魔法使いはちゃんとつけてような」

魔法使い「召喚士まで何よ!」

メイド「魔法使い殿、お体に障ります」

魔法使い「むむむむむ……」



召喚士「こっちの地方はどっちかって言うと平野っぽいんだな」

魔法使い「歩きやすくていいじゃない」グター

豚「んぶ!」トコトコ

勇者「自分の足で歩いてない軟弱娘が何を言ってるのか理解しがたいの」グター

召喚士「そう言うお前もメイドさんにおぶってもらってんじゃねぇか」

メイド「ご褒美です」

召喚士「うわぁ」

勇者「甘えたくなる年頃。召喚士はもうちょっとそういうのに敏感になった方がいい」

召喚士「わがままに振り回されるぐらいなら鈍感なままでいいっつの……」

メイド「私は体力が余っておりますので……もしご希望であれば召喚士殿の顔を殴打しまくっても構いません」

召喚士「なんで俺にだけ当たりが辛辣なんだよ」

魔法使い「……見晴らしが良いと、敵がいつ来ても大丈夫そうね……」

召喚士「今にも意識飛びそうな顔色でその台詞は安心感もクソもないからやめてくれ」

召喚士(このパーティ、しんどい)

ズシン  ズシン

メイド「………お嬢様」

勇者「ん」ストッ

召喚士「なんだ?敵か?」

勇者「おそらく」

魔法使い「っく……私がこんな状態なのを狙ってくるとは……」

召喚士「いや、むしろその状態じゃない時を狙う方が難しいだろ」

ズシン ズシン

召喚士「………」

メイド「……………」

勇者「反応……消えたの」

召喚士「っかー、なんだよなんだよ。ビビらせやがって」

魔法使い「」

勇者「ただ今ので魔法使いが戦闘不能になった」

召喚士「あー、うん。もういいよ」

召喚士「今の音の原因がはっきりしない以上、野宿は危険だな」

勇者「うーん……」

メイド「危険を承知で休まなければ身が持ちませんよ」

召喚士「何か探査魔法みたいなのを使えれば良いんだけどな」

豚「んぶー」

勇者「豚さんが召喚士は寝なくても休まなくても平気だって」

豚「!!!!???!!??」

召喚士「勝手な事言ってんじゃねぇ、ぶっ飛ばすぞ」

メイド「あ?」

召喚士「…………」

召喚士(なんで俺が凄まれなきゃならんのだ……)

魔法使い「ふふふふ、私の自動迎撃魔法があれば心配なんて全くの無用だわ!」

メイド「あ、お目覚めになられたのですね」

魔法使い「もうバッチリよ!ちょっと目の前を星が飛んでるけど」

召喚士「それは大丈夫じゃないと思うんだが」

魔法使い「……ただ、コレ……私が元気な時じゃないと……」

召喚士「あ、もういいです」

勇者「揃いも揃って使えねーの」

召喚士「なんか霧まで出てきたし、多難ってレベルじゃねぇぞ」

勇者「召喚士、疫病神なの?死ぬ?」

召喚士「悪魔か、お前は」

勇者「勇者だけど何なの?豚野郎」

召喚士(……常識人もうちょっと増えて、お願い)

メイド「豚野郎殿、テントの準備をするので手伝って下さい」

召喚士「敬称か蔑称かはっきりしてくれ……」

魔法使い「さ、豚さん。私とババ抜きでもして暇をつぶしましょ」

豚「んぶぶぶ!」

召喚士「………早く魔王倒して終わりにしたいなあ……」

召喚士「メイドさん、こっちにつける部品ないんだけど」ガチャガチャ

召喚士「…………」ガチャガチャ

召喚士「………………」

召喚士「あのー、流石に無視までされるとこちらとしても結構堪えるんだけど」チラ

メイド「」ドロドロドロ

召喚士「へ?」

「勇者一行、貴様らはここで終わりだ」

召喚士「敵!?どこに!!」バッ

「魔王軍、霧と死者の使い、ミスティが貴様らを葬ってやろう」

召喚士「勇者!俺は豚で援護する!何か分からねーがメイドさんがやられた!」

勇者「」ドロリ

召喚士「はぁ!?」

「くくく……」

魔法使い「」ドロロロ

豚「」トロトロ

召喚士「な、何が起きて……」

「さぁ、貴様一人で何ができるかな?」

召喚士「くっ……天から舞い降りし、混沌の支配者よ!我が名に従いその姿を現したまえ!」カッ

豚5「」ウニュニュニュニュ

召喚士「……う、嘘だろ……」

「魔力に頼り過ぎるからそうなるのだ。俺の世界の中では貴様らは無力!」

ボコボコボコ ズシン

「さぁ、死者どもよ、コイツを自分たちと同じように地面に引きずり込んでやれ」

ゾンビ「あうあー」

召喚士「この状態でやるしかねぇ、のか……?」チャキ

ゾンビ「あうー」

召喚士「っの野郎が!!」シャッ

ゾンビ「うああー」ヒュバ

ゾンビ2「おおおお」ブン

召喚士「コイツら素早い!」バ

「くっく……うははははは!!」

召喚士(ゾンビの相手もそうだが、魔法攻撃をされてる時は術者を叩けば一番手っ取り早い)

召喚士(相手は魔族だし、どんだけ魔力抱えてんのかも分からねぇし、魔力切れまで持つかも分からねぇし……)

召喚士「このビビリ野郎!姿を現しやがれ!」

「ふん、誰がそんな安い挑発に乗るか!死ねい!」

ゾンビ3「ああうう」ズオッ

召喚士「うわっ」サッ

召喚士(ジリ貧だ……メイドさんも勇者も、魔法使いも知らねー間にやられてるし……)



__________________


メイド(……お嬢様も召喚士殿も魔法使い殿も、何を遊んでいるのでしょうか)

「ふはははは!恐怖しろ!我が力に!」

メイド(とりあえず、空気を読んで暴れ回った方がよろしいのでしょうか……)ウーン

「そう!そこだ!やってしまえ!」

召喚士「ぬおりゃああ!」バッ

勇者「腐った死体如きが生意気なの」ヒュバ

魔法使い「うあー……」ダラー

豚「んぶぶぶ!」ドドドド

豚5「ふぐぶぶぶ!」ブ-ンブ-ン

メイド(放出されている魔力を感染源のように、幻覚をみせる魔法ですか)

メイド(私にとってはただ視界が悪いだけなんですがね)

メイド「いつまで経ってもテントを建てられませんし、サッサと片付けますか」ゴキゴキ

「ぬはははははははは!」

メイド「ふむ……声の方向からしてこっちですか」ズンズン

召喚士「このゾンビ共が!」

ゾンビ「うああ」ヒュン

召喚士「しまっ……!」ドサ

ゾンビ「ああああ」

召喚士(馬乗りに……駄目だ……このまま食われちまうのか)

「ふは!ふはは!……あれ?え?ちょっと?」

ゾンビ「おおおあああ!!」ブン

召喚士「ぬおおお!!?ぶん殴ってきやがった!?」グッ

「ストーップ!ストーップ!!!そっちに腕は曲がらなああああああああ!!!!」メキャ

ゾンビ「うあああああああ!」ヒュッ ドカ ズド

召喚士「ぐはっ!ぶぁっ!」

召喚士(だ、駄目だ……マウント取られてパンチラッシュは……キッツ)

「あっ、あっ……落ち……落ちるから!降ろして降ろしてぇええ!!」

「グェッ!!!」ズドン



勇者「そのまま土にすり潰して還してあげるの」バババババ

召喚士「のおおおおおおお!テメェ勇者ぁああああ!!!?」ズドドドドド

魔法使い「」チーン

豚「んぶぶ??」

豚5「ふぐぶふ?」

メイド「やれやれです」パッパッ

「」

勇者「急に血色が戻るとは不可解なゾンビ、朽ちるといいの」ズド

召喚士「っ!」

勇者「………おやおや??」

メイド「お嬢様、敵襲でした」

勇者「……………こ、これは参ったの」

召喚士「て……てめ……信じられね……ぇ」ガク

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