希「嵐の中で」穂乃果「輝いて」 (39)
「止めるんや、穂乃果ちゃん……。そんなことしたって、何にもならないって分かっとるん?」
「そ、そうだよ、そんなこと止めよ?ねっ?」
憔悴した顔の穂乃果ちゃんに、ウチとことりちゃんが呼びかける。
でも……。
「うるさいっ!穂乃果がこうなっちゃったのは希ちゃんのせいでしょ!そうだ希ちゃんが悪いんだ……、
希ちゃんが穂乃果にあんな酷いことをしたから……」
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駄目や……、ウチ達の言葉に逆上して話を聞いてくれへん。このままじゃ……。
「……見てたんだよ、希ちゃんが穂乃果からお金を盗むところ」
「そ、それは……。し、仕方なかったんや、どうしても欲しい水晶があって……」
本当に仕方がなかった、あの時どうしてもその水晶が必要で、
でもお金を盗れるのは穂乃果ちゃんしかいなくて……。
「希ちゃんは仕方がなかったら誰かからお金を盗むの!?最低だよ!」
全部本当のことで返す言葉がなかった。さらに穂乃果ちゃんが続ける。
「他にも、陰で酷いあだ名を付けたり」
「それから、ことりちゃんを唆して穂乃果と喧嘩するように仕向けた、いったいどうやったのかな?
魔法でも使ったの?」
「ほ、穂乃果ちゃん、ことりは気にしてないから……」
「そうだよね、ことりちゃん穂乃果をいじめてる間、ずっと笑ってたもん。楽しかったんでしょ?
弱い穂乃果をいじめるのは?」
「そ、そんなこと……」
ことりちゃんの返す言葉も弱弱しい。あかん、穂乃果ちゃんどんどんヒートアップしてる。
「もう皆のことなんて信じない、仲間でも何でもないよっ!」
「はぁ、先ほどから煩いですよ穂乃果」
これまで黙ったままだった海未ちゃんが口を開いた。でもそれは、穂乃果ちゃんを激昂させるだけで……。
「だいたいさっきから聞いていれば何ですか、自分のことは棚に上げて。こうなったのは何の目標も持たず、
ただ遊び回っていたあなたにも原因があるんじゃないですか?」
「そもそも穂乃果は昔から適当な……」
「うるさあぁぁぁぁいっっ!」
そこまで言った時、穂乃果ちゃんが叫んだ。
「海未ちゃんは何なの!?昔から一人だけ安全な所から穂乃果達を見下ろして、人の顔色を窺って、最低の弱虫だよ!」
でも、海未ちゃんはそんな言葉に眉一つ動かすことなく、冷めた目で答えた。
「だから何なんです?少なくとも穂乃果のように落ちぶれるより、よほど賢い生き方ですよ」
「ツッ──」
穂乃果ちゃんが手を震わせる。
「もういいよ……。どうせこうするつもりだったんだし、ね?希ちゃん?」
その言葉にウチの肩が竦み上がった。本気や、本気でウチを……。
「希ちゃんを殺せるなら、悪魔にだって魂を売れるよ」
ドス黒い感情を隠そうともせず、どこから取り出したのか分からない刃物を手にして、穂乃果ちゃんがニコリと微笑んだ。
―――――――――――――――
ウチは逃げた、必死で。でも全てを捨てた穂乃果ちゃんは早くて。あっという間に追いつかれた。
その時。
「だ、駄目だよ穂乃果ちゃん。もし希ちゃんを傷付けるのなら、まずはことりからにして!」
ことりちゃんが立ち塞がっていた。
「あーあ、ことりちゃんは希ちゃんに無理やり指示されてただけだったから、邪魔しなかったら見逃してあげたのに。残念だよ」
「穂乃果ちゃん!」
「さよなら、ことりちゃん」
次の瞬間、穂乃果ちゃんの手にしていた刃がことりちゃんの体を切り裂いた。
衝撃を殺しきれず体は後ろに弾き飛ばされ、ことりちゃんはそのままピクリとも動かなくなった。
「あ、ああぁぁあ……、何で……」
「仕方ないよ、穂乃果の前に立ったんだから、逃げることなんてできないよ。」
形見のつもりだろうか、ことりちゃんのしていた指輪を外しながら、無表情の穂乃果ちゃんが言う。
「い、いやや!海未ちゃん!助けて、助けてっ!」
「はぁ、そうなった穂乃果はもうどうしようもありませんよ。第一、希自身が撒いた種でしょう?頑張ってください。
私は忙しいのです」
親友が親友を殺したというのに、何の感慨もないのか、先ほどと同じく冷めた目のままこう返してきた。
まさか海未ちゃんがこんなにも冷徹になるなんて、信じられなかった。
「鬼ごっこは終わりだよ。それじゃあね、希ちゃん」
気が付くと目の前には穂乃果ちゃん。もう、逃げられない……。
ウチはせめてもの足掻きに神様にお祈りをしたけど、そんな奇跡なんて起こるはずもなく。刃に切り裂かれ、そこで意識は途絶えた。
―――――――――――――――
「やった、やったよ!穂乃果のことをいじめるからこうなるんだ!はははははっ!」
「それで終わりですか、穂乃果?」
復讐を果たした。でも漏れるのは乾いた笑い声だけ、穂乃果の心は空っぽだ。
「ふん!次は海未ちゃんの番だよ、直ぐに二人と同じように……」
キッと海未ちゃんを睨み付ける。
「残念ですが、時間切れです」
「それにどの道、貴女では私に届きません。昔からそうでした」
何を……、と思った瞬間、穂乃果から何かが抜け出した。
ああ、終わっちゃったんだ。これで穂乃果にはもう何もない、あるのは親友と友達をこの手に掛けた事実だけ。
「これからどうしようかな……」
それに答えてくれる人は、誰もいなかった……。
―――――――――――――――
「さて、とりあえず、名前を変えようっと」
コントローラーを握り直し『うばうもの』から『なまえ』を選ぶ。
「ええっと、や、き、に、く、ガ、ー、ル、っと」
「ちょちょちょちょっと、待って穂乃果ちゃん!」
希ちゃんから抗議の声が上がるけど、気にせず決定。
「あぁぁあああ!何するん!?焼肉ガールって酷すぎるやん!?」
「最初に穂乃果の名前変えたのは希ちゃんでしょ!?なにさポンコツって!」
「そんなん可愛いもんやん?あながち間違ってもいないし」
「酷いよ!」
このゲーム、負けてアイテムを盗られるより名前を変えられるほうが悔しいんだよね……。
テレビの画面には世界地図のようなフィールド、穂乃果が押入れから見つけたドカポンだ。
「『懐かしいソフトが出てきたから、希ちゃん一緒にやろうよ』って言われたから来てみたんよ?それなのにこんなことするなんて。
大体、名前を変えさせる為だけにデビル化するなんて、執念深いわぁ」
もう最下位は決まってたような物だもん、それにそんなことを言うけれど、最初に魔法で妨害してきたのは希ちゃんの方なんだから。
それまでは穂乃果が一番だったんだよ?
ゲームを始める前は「のんびりやろうね」なんて皆で決めてたのに……。
「やっぱりマジシャンは禁止にするべきだったよ……」
「穂乃果ちゃんが職業はくじ引きで決めようって言い出したんやん?」
「完全に希ちゃんのくじ運の良さを忘れてて……、それより穂乃果に集中攻撃するのはどうなの!」
「穂乃果ちゃんだってウチを遠くに飛ばしたりしたやん」
お相子や~、なんて言っている。
「まあまあ、落ち着いて?二人とも。ことりは楽しかったよ♪」
希ちゃんの巻き添えになったことりちゃんが間に入る。虚弱の魔法を使われたりパペットを使われたりしたのに、
その張本人の希ちゃんを庇うなんて、ゲームでもなんていい子なんだろう。
希ちゃんに確実にトドメを刺す為にリングを盗っちゃったけど、悪いことしちゃったよ。
「ことりちゃん、うん。ちょっと落ち着いたよ」
「そりゃあ、あれだけ暴れたらそうやろね……」
希ちゃんの抗議の視線。ふーんだ。
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