【咲-Saki-】咲「お姉ちゃんまでプラマイゼロをやりだした」3 (1000)

まだ早いけど一応立てとく。

ドラを鳴くこともできないとすると、ドラの隣の二種の牌も来ない、あるいは上家もドラ来ないに巻き込まれることになります。
(ドラがないのでポンは不可能、チーだけ封じるならこの二通りのいずれかで大丈夫)

前者だとするとドラと赤ドラ3種で計4種、およびその周りの牌で最大12種が来なくなる能力になります。
真ん中の456がなくなるとはいえ、ツモる牌の種類が槓なしでも22~25種に減るので使いこなすと意外に強い気がします。
このスレの設定だと槓ドラや槓裏も来ない、つまりそれらの周りの牌も来なくなるのでなおさらですね。
先鋒後半の姫様みたいに四暗刻がほぼ標準装備の状態になります、ここまで行くとドラ切ったほうが明らかに強いです。

後者の「上家もドラが来ない」というのは、元々玄がドラを切らなければ他家にドラは行かないので、切った場合に上家が極端に不利になるというわけでもなく、こちらはデメリットと呼べる内容にとどまると思います。
ただ、上家に座ってる人が理不尽な目に遭うのでちょっと採用に抵抗があります(上家が理不尽な目に遭ってないとは言ってない)

というわけで、自分の中(及び当スレ)では「展開次第でドラは鳴ける、ただし鳴いても特に影響はない」ということになってます。

そして、「ドラを鳴けない」だけでこんなことになるわけですが、鳴けない能力という話をするとどうしても「透華の能力は具体的に何が起きるの?」という底なし沼が出てきます。考えたら負けだと思います。



淡「……亦野せんぱーい」

誠子「」ゾクッ

淡「お疲れ様でした。手こずったみたいですね」

誠子「……大星か」

淡「でも、二位で繋いでくれましたし、後は安心してお任せください」

誠子「……油断するなよ」

淡「あはっ」ゴゴゴゴゴ

誠子「」ビクッ

淡「誰に言ってるんですか? たとえ油断しても私が負けるとかあり得ませんって」

誠子「……そうか、なら、任せたぞ」

淡「はい。では行ってきます」

誠子(……これは、何の心配もいらなそうだな)


穏乃「なんであそこまで行ってまた控室に戻るのさ?」

憧「覗き見されたと分かったら気分良くないでしょ。事実が変わらなくても、知ってるかどうかで気分は全然違うのよ」

穏乃「あ、そうか。泣いてたのとか知られたくないだろうし」

憧「そういうこと。じゃ、ハルエが戻ってきたら出陣よ」


バタン


灼「ただいま」

玄「お疲れ様、灼ちゃん」

宥「凄い試合だったよ……分かる人には分かるはず」

憧「あとはシズがなんとかするでしょ。和と打ちたいって言って麻雀部作った言い出しっぺなんだから」

灼「うん、任せた……大将」

穏乃「はい! 絶対勝ちます!!」

晴絵「大星淡の注意点は分かるな?」

穏乃「配牌が悪くなることと、ダブリーです!」

晴絵「石戸霞」

穏乃「基本的には守備が固いだけですけど、未知数の能力を使う可能性があります!」

晴絵「姉帯豊音」

穏乃「リーチに対してほぼ確実に追っかけ、更に一発でアタリ牌を掴ませます。その他の能力もありそうなので注意!」

晴絵「よし! 大丈夫だ! 行って来い!!」

穏乃「はいっ!!」


小蒔「では、最後の仕上げ、お願いしますね」

春「霞さんなら安心」ポリ

初美「まあ、私の次に強いですしー、私が打つのと同じぐらいには安心ですねー」

霞「あらあら? いつから私より強くなったのかしらこの子は?」ゴゴゴ

初美「いつからかは覚えてないですがー、多分、初めて麻雀を打った時からですかねー?」ゴゴゴ

小蒔「ふ、ふたりとも、喧嘩はだめです……」オロオロ

巴「姫様、いつものじゃれ合いですから大丈夫ですよ」

霞「初美がプラスで帰って来たんだし、私がマイナスってわけにはいかないわよね?」

初美「霞ちゃんがマイナスになる分まで私が稼いできたからマイナスでもいいんですよー?」

霞「あらあら? 生意気言うのはこの口かしら?」ニョーン

初美「ひゃひふふへふはー!ほーひょふはふはーひ!(なにするですかー!ぼーりょくはんたーい!)」

春「霞さん、準備はしておきます」

霞「……そうね、多分使うことになりそうだから、お願いね」

巴「はいっ!!」


誠子「戻りました」

憩「お疲れさん、よかったでー」

尭深「凄かったね、鷺森さん」

菫「よくやってくれた。私や渋谷ではあの場は凌げなかっただろう」

誠子「……そんなことは」

監督「あるわ。あの卓でプラスで終われるのは、うちではあなたと憩と淡だけよ。かなりの部分は相性によるものだけど、自信を持っていい」

誠子「……はいっ!」

憩「ところで、淡ちゃんどうやった?」

誠子「……途中ですれ違ったが、冷たい方が出てたな」

憩「やっぱりか。なんや出てく時に敬語使いよったからそんな気はしとったけど、アレはうちと本気で打つ時ぐらいしか出さんのになー」

尭深「神代さん、松実姉妹、薄墨さん、新子さん、鷺森さん……淡ちゃんと勝負になりそうな人がたくさんいたから当てられたのかもね」

菫「そして、次の大将戦は各校が先鋒に次ぐ、あるいはそれ以上のエース格を投入している区間だ。三人寄れば憩一人には匹敵する相手だろうな。アレが出るのも必然か」

憩「ま、それでも淡ちゃんがあっちなら安心ですわ。アレはうちと小蒔ちゃん以外にどうにか出来るとは思えませんし」

尭深「けど、私は普段の淡ちゃんの方が好きかな。ちょっとおバカだけど」

憩「うちはどっちも好きやで? あっちは麻雀強いしな」

誠子「麻雀の強弱で好き嫌いを決めるなよ……私も普段のあいつのほうが好きだな」

菫「私にとっては普段のあいつはただの問題児だ。とはいえあれも対人関係に問題がありそうだから、足して二で割ればちょうどいい」

監督「なんでああなったのかしら? 私が見つけた時はあんなのなかったと思うのだけど」

憩「監督にわからんのやったらお手上げですわ」


起家 豊音「よろしくねー」

南家 淡「よろしくお願いします」

西家 霞「ふふ、よろしく」

北家 穏乃「よろしくお願いしますっ!!」


東一局 ドラ:8m


穏乃「うわっ!?」

穏乃(聞いてた以上だ……本当に酷い、バラバラ……)


147s258m369p東南西白


豊音(ちょー酷いよー……ここまでとは聞いてないってばー)


258s369m147p東南北発 ツモ:6s


霞(これはダメね……ここまで酷いなんて)


369s147m258p東西北中


淡「……」


478s34579m4469p白


照「これは酷い」

久「ここまできれいにゴミ手で統一されるとはね。地区予選ではここまでじゃなかったと思うんだけど」

優希「やる気なくすじょ……」

和「偶然にしてはひどすぎます、照さんの反応からしてこれは当然……」

照「うん、こういう能力。147、258、369を各色で、あと4枚はバラバラの字牌。最低最悪のクズ手を毎回送り込まれる」

透華「まごうことなく最悪の能力ですわね」

照「ツモは普通に伸びるから頑張ってとしか」

久「地区大会じゃ、他家にも5向聴ぐらいの手は来てたわよ? これは七対子無しじゃ8向聴じゃない、酷すぎよ」

照「七対子なら6向聴だけど、毎回七対子ってわけにもいかない」

まこ「こんなんどうしろっていうんじゃ?」

照「何かの能力で無理やりまともな配牌をもぎ取るか、この後のツモで頑張る」

優希「出来るなら苦労しないじょ……」


咲「荒川さんならあの配牌でも大して苦労せずに和了れるんだろうけど……数牌なら何ツモっても大丈夫な形だし」

京太郎「あの手で苦労しないって、あの人本当にチートなのな」

衣「本人の手の進みは並程度なのだな。それが救いではあるが、あの配牌で『並』を相手にするのは骨が折れる」

智紀「あれの相手は衣に任せた」

一「同じく」

純「つーかあんなのどうしようもねえだろ。あれこそ最強の盾だ」

咲「それを貫ける荒川さんは最強の矛ですね」

星夏「えっと、宮永さん、あまり動揺してないみたいですけど、アレどうにか出来るんですか?」

咲「ん~……多分なんとかなると思います」

衣「衣はどうせ海底まで持たせるからむしろやりやすいが、咲はどうするのだ? 連続和了が売りの咲には厳しかろう?」

咲「そうだね、あそこまで配牌が悪いと連続和了は厳しいと思う」

京太郎「なんとかなるんじゃないのかよ?」

咲「多分なんとかなるはずなんだけど、やってみないと確実なことは言えないよ」


淡「ツモ」


789s345789m4467p ツモ:赤5p


淡「1300、2600」


穏乃(12巡目か。早いわけじゃないけど、こっちが遅すぎて勝負にならない。けどまだ序盤。一歩ずつ……)

豊音(リーチしないんだ? これは困ったなー)

霞(これじゃ勝負にならないわね。早速だけど行かせてもらおうかしら?)ゴッ

豊音(あ、石戸さんからなんかヤバげな気配……)ゾワッ

霞「……さて、次、行きましょうか?」

豊音(……本気モードかなー? これはボヤボヤしてられないよー)

豊音(じゃあ、こっちも行こうかなー?)ゴッ

穏乃(うわわっ!? あっちこっちから天江さんみたいな気配!?)


東二局


淡「へえ……憩さん以外は眼中になかったけど、少しはやるんですね」

霞(少しは……ですって? 強がり? それとも、本当に余裕なの?)

豊音(……こんな酷い能力相手には出来れば仏滅を使いたいところだけど、この点差じゃそれは自殺に近い。試せるだけ試すよー)

穏乃(高い……そして険しい……これは登るのに時間がかかりそう。けど……)


霞(さて、肝心の手牌は……大分マシになったわね。筒子と字牌の一色支配……私の降ろしたモノの方があの子の力より上みたいね)


1334567p東南西白白発


霞(おそらく、彼女の能力によって147筒と字牌四種が送りこまれた。けど、258と369は私が降ろしたモノによって拒絶されて通常のツモになったのね)

霞(通常のツモなら私に入るのは特定の色の数牌と字牌のみ……それでもバラバラの字牌四枚が送り込まれるから手は遅くなるわね、大した子だわ)


豊音(先勝……有効みたいだねー。多分2萬、9萬、北のいずれかが第一ツモのはずだよー)


234s134569m西西西北 


豊音(……先勝はダブリー出来る手牌を引き込む力)

豊音(役なし愚形が玉に瑕だけど、ダブリーは誰にとっても脅威だよねー?)

豊音(この点差でこの相手、出し惜しみはなしでいくよー)


淡「……じゃあ、憩さんにも使ったことのない手を使わせてもらいます」ゴゴゴゴ

豊音(うっ!?)ビクッ

霞(なんで点棒を……まさか……!?)


淡「ダブリー」ゴッ

打:発


豊音(ええっ!? まさか、ダブリーとクズ手を送る力を同時に発動できるの!?)

霞(参ったわね……最強の盾と最強の矛、荒川憩だけじゃなくこの子も一人でその二つを持ってるっていうの? 白糸台っていうのは本当に……)


照「一度に色々ヤバいものが出てきてリアクションが追いつかない。とりあえず全部ヤバい」

久「一つずつ行きましょう。まず石戸さん」

照「今回は一色牌と字牌しか手牌に来なくなる能力だね。独占しない色の配牌が弾かれて、弾かれた分は彼女にとっての普通の配牌になったんじゃないかな?」

久「……酷い能力ね。ツモれる牌は16種。混一色確定、まともに打ったら勝てる気がしないわ」

照「多分、他にも何通りか能力があるね。そのなかでもアレは割と酷い方だと思うけど」

和「では、姉帯さんのアレは?」

照「ダブリー出来る手牌が来る能力じゃないかな? あれを使えば大星さんの能力を無効化出来るみたいだね」

久「ダブリー出来るってまた酷い能力……追っかけリーチだけじゃないのね」

照「多分、同時に二つ以上は使えないんじゃないかな? 使えるなら大星さんのダブリーを追っかけるはず」

久「……姉帯さん、西を切ってオリたわね」

照「多分、ダブリーするだけなんだろうね。その後は確率通りで、どこかでツモる保証すらないんだと思う。愚形で親のダブリーは相手に出来ない」

透華「で、大星淡のアレはなんなんですの? ダブリーをする能力ということでよろしいんですの?」

照「……多分それだけじゃない、アレは相当ヤバそう」


霞(地区予選でダブリーしていた一局があったわね……あの時は槓して槓裏が乗っていたけど)


113345678p東白白発 ツモ:発

打:東

霞(今の彼女は、配牌でほとんど全種……いえ、それぞれに違う数牌や字牌が送られるなら、全種の牌を配牌で相手に送り込むはず)

霞(だとすると、理論上は槓が出来ないはず、一体どうなるのかしら?)


憩「普段の淡ちゃんがダブリーを使うときは、槓して槓裏をモロ乗りさせる」

尭深「普段の絶対安全圏が不完全なのは、その槓のためだよね。あえて不完全にしてる」

誠子「完全な絶対安全圏を使う冷たい淡がダブリーするとどうなるかってのは私たちも知らない」

憩「なにせ、ダブリーしたことあらへんからな」

菫「というか、槓が出来ないからダブリーも出来ないものだと思っていた。しかし、現にダブリーをした。どういうことだ?」

憩「絶対安全圏を破ったからやと思います。破られたから、四枚送り込まれてない牌が生まれて槓が出来るようになったんやないかと」

誠子「今までは、アレが破られる状況がなかったからダブリーしなかっただけなのか?」

憩「破れるのは尭深ちゃんだけやけど、うちと本気で打つ時は尭深ちゃんを面子に入れんかったからな。オーラスの時の席順で勝敗ついたら嫌やったから」

監督「それより、ダブリーを使おうとした気配がなかったわね。おそらく、冷たい淡は絶対安全圏が破られたら……槓が出来るようになったら自動でダブリーが発動する」

誠子「……あいつ、まだ奥の手があったんだな。完全な絶対安全圏……最強の盾を持つ冷たい淡が最終兵器だと思ってたのに」

憩「……こっから先は、うちらも知らん淡ちゃんやな」

尭深「憩ちゃんと五分に打てる冷たい淡ちゃんが更に奥の手を出したんだから、まず負けはないよね?」

憩「多分な。ダブリーがいつもとおんなじやとしても、絶対安全圏の効果が強い分だけ普段より強い」


霞(……そういえば、他の人の配牌に筒子は行ったのかしら? 私が独占するから筒子は行かないはずなんだけど、三枚だけならあの子が送り込む方が優先されてもおかしくない)

霞(……色々と探りたいことが多いわね。さしあたって、この子のダブリーの詳細を知りたい)

霞(私に索子と萬子が送り込まれなかったから、槓をするのは不可能ではない。予選で見せたダブリーと同じことが起きるかどうか……)


淡「……槓」

暗槓:6666s


霞(くっ……やっぱり槓を……なら、この後は……)

豊音(押してればとっくに和了ってたよー! ミスったー!)


淡「ツモ」クルッ


13s23467899p 暗槓:6666s ツモ:2s


淡「槓裏表示牌は5索ですね。6000オール」


霞(強い……この子も、荒川憩と同様、ヒトならざる領域の住人)

豊音(槓裏モロ乗りとかちょーかっこいいけど、そんなこと言ってる場合じゃないよー)


胡桃「ダブリーした上に槓裏モロで跳満確定なの!? 先勝より酷くない!?」

トシ「不味いねえ……まさか先勝の上位互換と他の能力が同時に使えるとは。とんでもない子だよ」

塞「大安は守りを固める時に便利なドラを王牌に押し込める力だし、赤口は赤を独占する力だけど他の部分の配牌が悪いから多分ダメだし、仏滅は……この点差じゃねえ?」

トシ「あの配牌じゃそもそも鳴けないだろうから友引も使えない。先勝は、あっちのダブリーが跳満の和了りが約束されている上位互換だから勝ち目が薄い」

白望「となると、先負しかない」

胡桃「行けると思う?」

白望「ダメなら先勝で分の悪い勝負をし続けるか、仏滅を使うしかない」

トシ「行けるなら、先勝の上位互換として先負が使えるけど、こればかりはやってみないとねえ」


東二局一本場


淡「ダブリー」

霞(当然そう来るわよね……けど、裏ドラじゃなく槓裏を乗せるというなら、槓するまでは比較的安全ということ。ここは攻める)

穏乃(今ので白糸台がトップ……二位になった永水との差は変わらないけど、さっきまでの二位より遠くなった……けど、まだ私は動けない)

豊音「……試してみるもんだねー」

淡「……?」ピク


豊音「ダブリー、追っかけるよー!」


咲「ええっ!? そんなのありなの!?」

衣「先ほどのダブリーする能力でやけになって追いかけてる、というわけではないだろうな?」

智紀「それであの表情なら大した役者」

一「多分、先制リーチに一発で掴ませる例の力だろうね」

美穂子「……あんな非常識な能力に対抗できる力があるんですね」

咲「振ったね、ダブリー、一発。5500」

京太郎「ダブリーかけたらダブリーに一発で振り込むとか意味わかんねえ……下手すりゃ天和より珍しいんじゃねーか?」

咲「大星さんが自動的にダブリーをかける機械なら、ここから振り込み続けるだろうね」

衣「そんな愚図ではあるまい。相変わらずダブリーできる配牌だが、今回はかけないだろうな」

咲「で、大星さんがリーチしないと姉帯さんもおっかけられないから例のクズ手になるんだね」

衣「あやつにクズ手が来た時点で白糸台がリーチをしないのはほぼ確定だ」

咲「けど、大星さんがリーチをかけてこなくてクズ手になるぐらいなら、さっきのダブリーする能力で先手を取った方がいいよね?」

衣「そうすると当てが外れてダブリーされた場合に分が悪い」

咲「ダブリーしあうと分が悪い、追っかけリーチの方だとダブリーされなかった場合に場合にクズ手になる。読み合いだね」

智紀「追っかけリーチを出しておくのがリスクの少ない選択肢。この状況ではなにもしなければクズ手になるのだから、リスクは増えない」

衣「毎回それでは永水が漁夫の利を得そうだな。リスクが増えないと言っても、何もせずに和了れる状況ではない」

咲「白糸台はそれでも良さそうだけどね。永水に和了らせ続けて二位でもいい。そうすれば次は厄介な姉帯さんはいない」

一「宮守は大きく稼がなくちゃいけない、いつまでも安全策はとれないはず」

咲「我慢比べなら分が良いのは大星さんだね。最後までずっと我慢しててもいい」


京太郎「福路さん、あの、理解できます?」

美穂子「うーん……大星さんが途中で心変わりして三巡ぐらいでリーチしたらどうなるのかしら? 姉帯さんの手が入れ替わるのかしら?」

星夏「あ、やっぱりそこ気になりますよね?」

純「難しいことはどうでもいい。つまり、あいつらはお互いに牽制し合ってる状態なんだろ?」

一「純くんの単純さがたまにうらやましいよ。ざっくりいうならそういうことだね」

衣「なら、いずれ均衡は崩れる。あやつもいるしな」


『ツモ。面前ツモ、混一色、白、ドラ1で6000オール』


咲「永水が再逆転。上位二校がそれぞれ6000オールをツモってる」

衣「大将戦開始時と比べると下位にはかなり厳しくなったな」


和「穏乃……」

優希「だ、大丈夫だじょ、きっとなにか手はあるじぇ!」

照「咲か天江さんか荒川さんか神代さんを連れてこないと無理だと思うけど。あの三人の中だと妹尾さんでも辛そう」

久「配牌があの手で固定、一色独占、リーチ禁止の三重苦だものねえ……私もパスだわ」

まこ「配牌の時点でまともな人間にはどうしようもないわい」

照「あ、鶴田さんでもなんとかなるかも。白水さん次第で」

久「それも全国トップクラスの怪物なのよねえ……咲が他人を使ってようやくどうにかしたぐらいだし」

透華「大星淡に対抗出来る人間が卓上に二人居る時点で既におかしいのです、とんでもない卓ですわ」

久「全くだわ。私もあの配牌じゃお手上げよ、なんであんなのに対抗できる人間がゴロゴロ居るのかしら?」

優希「部長、気付くのが遅いじぇ。私たちはずっと前からおかしいと言い続けてるじぇ」

まこ「まったくじゃ」


靖子「とんでもない一年だな。咲とどっちが上か……」

健夜「石戸さんの絶一門に対応し始めたね。姉帯さんがダブリーを封じても、地力だけで石戸さんと戦えるレベルみたい」

貴子「姉帯だっていつまでもおとなしくダブリーを封じてるわけにはいきません。すぐにでも包囲は崩れるでしょうね」

健夜「姉帯さんは他にも切り札を持ってそうな感じだけど、相性が悪くて使えないのか、状況が悪くて使えないのか。いずれにしても使う気配がないね」

靖子「使えるならここで出し惜しみはしないでしょうね。あるいはもう諦めて個人戦に向けて温存しているのか?」

健夜「諦めたなら東二局のダブリーも見せないはずだよ。出し惜しみじゃなく、使っても効果が薄いから使わないだけだと思う」

貴子「……まだ切り札があるという姉帯も相当な化け物ですけど、それと全国区のエース格の石戸が共同戦線張っても押し込まれるわけですか」

健夜「一年生なのに面白い子だよね。それに、もう一人も」

靖子「もう一人の一年……阿知賀ですか?」

健夜「彼女は空を掴めるのかな? 山を登って雲の上には行けても、空はまだ遠いよ」

靖子「……人が住むのは陸地ですよ」

健夜「それもそうだね。けど……大星さんは言うなれば空そのものだから」

貴子(やべえ、ついていけねえ……何言ってんだこのひとら?)

恒子「すこやんが空がどうとか電波を発信し始めた……だれか助けて―!!」

健夜「ちょっ!? 119を押すのやめて!! 百歩譲って病気だとしても救急車呼ぶような病気じゃないでしょ!?」


南二局

淡(いくらなんでも、10万点以上の差でずっとカウンター狙いってことはないはず)

淡(前半最後の親も流れたし、そろそろ宮守は焦りが出る頃……一度仕掛けてみよう)

淡「ダブリー」


23456s444789m北西 ツモ:1s

打:西


霞(あらあら……)

穏乃(……)


豊音「ダブリー、追っかけるけどー」

打:3m


淡(……まだ動かないって、まさか心中する気? 私は二位だから一向にかまわないけど、そっちは困るはずじゃないの?)

打:中


豊音「ロン。6400」

11447799s2299m中 ロン:中


豊音(このままじゃダメなんだけど、正直、打つ手が思いつかないんだよねー)

豊音(地区予選ぐらいの配牌の悪さだったら先負に加えて友引も使って動きを制限しながら、たまに先勝も使ってどうにかなる予定だったんだけどー、今の状況は完全に計算外)

豊音(だから、この状況を逆手に取る。「いくらなんでももう動くはず」、そう思って動いてくれたところを地道に刺していく)

豊音(大星さんが最後まで動かなかったら負け確定だけど、一か八かの賭けに出ないと逆転なんか無理だし、とにかく熊倉先生に指示をもらうまで……前半いっぱいはこの方針でいくよー)


南三局


淡(……やりにくいな。絶対安全圏を破って来る人がいて、ダブリーを破って来る人が居て……オマケに絶一門。ちっともいつも通りに打てない)

淡(だけど、ただそれだけ。勝てないわけじゃない)

淡(ダブリーせずに未完成の塔子を落として手を組みなおせばいい。絶対安全圏も完全に無効化されたわけじゃないから、速度ではまだ有利)

淡(でも、さっきからそれ以外の違和感を感じる。おかしいことだらけで何がおかしいのかもわからなくなってるけど、確実に何かがおかしい)


淡「ツモ。500、1000」


234567p2345888m ツモ:2m


淡(……考えすぎかな? 河にも絶一門以外の異常はない……いや、それが異常過ぎて他の異常が見えないだけかもしれない)

淡(私の直感は、何かがおかしいと言っている。それを信じよう。警戒しなきゃ)


南四局


穏乃「ツモ、500オール」パタン


234678s35678m西西 ツモ:4m


淡「……あれ? あなたが和了ったの?」

霞(あの配牌から和了るのも、不可能ではない。私が独占するから一色は配牌から除かれてるみたいだし、ツモも圧縮されるからその分だけ和了りは近い。だけど、今更500オールじゃ焼け石に水よ)

豊音(……いや、大星さんの力もきっと無限じゃない。バテて来たのか、さっきから配牌が少しずつマシになってるよー、きっと高鴨さんもそのおかげで和了れたんだ。後半も回復しないようなら、友引も使って戦い方に幅が出せるかも)


南四局一本場


淡(……流石に宮守もそろそろ動くはず。前半の最後にもう一度行ってみよう)

淡(って、あれ? おかしいな……ダブリーできない?)


1357s234888p西南北 ツモ:6s

打:西


淡(……永水は相変わらず一色を支配してる。今回はおそらく萬子。なら、絶対安全圏は崩れてダブリーの条件は満たしてるはず)

淡(宮守は動いた形跡がない。この点差で動かないことも異常だけど、私の感じてる異常はそれじゃない)

淡(私のダブリーを止めるというのはそう簡単じゃない。何かが起きているのは間違いないのに、原因がわからない)

淡(いや、そうか、動かないことが異常って言うなら、一番おかしいのは阿知賀)

淡(あれだけ異常ぞろいの集団の大将が、ここまで何もしなかったのがおかしいんだ。多分、原因はそこで間違いない)

淡(私がここまで感じていた違和感の元凶。一体何をしてるのか興味はあるけど……現状すらわからずに挑むのは危険すぎる)


13567s234888p南北 ツモ:北 


淡「リーチ」

打:南


豊音(一巡待っても無駄だよー。先行リーチを追っかけて一発で掴ませる、それが先負。まあ、ダブリーじゃない分だけ傷は軽いから、様子見なら一巡待つ方が良さそうだけどね)


123666s344559p西 ツモ:6p


豊音「おっかけるけどー」

打:西


淡(知ってるよ。満貫ぐらいまでは許容範囲……とにかく一旦この半荘を終わらせる。牌譜を見れば何が起きてるかは分かるはず)

打:9p


豊音「ロン、リーチ一発。2900」


123666s3445569p


穏乃(……振り込んだのに大星さんに動揺がない。もしかして、姉帯さんを利用して流された? こんな早い巡目じゃ私にはどうにもならない)


大将戦前半終了


白糸台  130900(+ 7200)
永水   152400(+12900)
阿知賀   76700(ー13700)
宮守    40000(ー 3800)


照「ぶっちぎりの異常は大星さんだとして、実はあの場で二番目におかしいのは高鴨さんなんじゃないかと思う」

久「段々配牌がマシになって行ってたわよね。最後あたりは5シャンテンだったわ」

和「穏乃は特におかしな闘牌をする子ではないはずです。何かの間違いでは?」

照「じゃあ、あれをどう説明するの?」

和「石戸さんが大星さんの敷いたルールを捻じ曲げています。穏乃だけでなく姉帯さんも配牌が改善していますし、影響が徐々に拡大した結果では?」

照「普通にあり得そうな仮説を示された……原村さん、恐ろしい子」

久「で、あの子はどんな力を持ってるの?」

照「あ、うん、彼女は、山の深いところ……特に王牌あたりを支配するのに長けてる」


衣「調子が出て来たようだな。あやつの難点はある程度の局数を経ないと支配が発動せず、一局ごとでも山の深いところまで進まないと力が発揮できないことだ」

咲「けど、深いところでは強力な支配を発揮する、か……」

智紀「山の浅い部分は誰でも立ち入れる。どんなに局数を経てもそこを支配するのは無理らしい」

一「彼女が卓上を支配するのは大体7巡目あたりから。それも最初は影響が弱くて、衣並みの支配になるのは大体12巡目以降。その後も海底に近づくほどに強力になる」

衣「半荘一回を経て山の深いところを押さえた影響が、配牌にも徐々に現れている。このまま順調に支配が進めば後半はシズノの独壇場になろう」

咲「山の深いところ……王牌あたりがテリトリーか。それは強力そうだね」


京太郎「ん? 王牌なんか弄っても意味ないだろ? なんでそれが強力なんだ?」

美穂子「ですね。ちょっとよくわかりません」


咲「……ねえ京ちゃん、なんで王牌は常に14枚残すか知ってる?」

京太郎「ん? いや、知らん。そういうルールだと思ってたから気にしたこともない」

智紀「一説によれば、神様の手牌だからということになっている」

咲「だから、槓して嶺上牌を取ると海底が一枚ズレる。そうしないと神様が少牌しちゃうから」

一「そう、麻雀は神様と人間四人の五者で打つゲーム。王牌はその神様の手牌……なら、王牌を支配するっていうのは――」

京太郎「まさか――神様を支配するってこと……なんですか?」ゴクリ

一「まあ、ボクは麻雀の神様なんてオカルトを信じてるわけじゃないけどね。王牌を支配するのが強力な能力だって説明するならそのあたりでしょう?」

咲「私も嶺上牌は神様の手牌だって教えられたからそう信じてるだけなんですけど、実際、王牌に絡む能力って強力なんですよね」

衣「神の手牌である王牌を支配する深山幽谷の化身……言うなれば、山の神そのものだな。あやつは一寸やっかいだぞ」

智紀「王牌に近いほど支配が強力になる。大星淡のダブリーは、おそらく山のかなり奥まで進まないと和了れない。局数を経て支配を発動した高鴨穏乃の格好の餌食」

咲「深いところを抑えるせいで、序盤にも多少の影響が出る。配牌をいじるのも上手く行かないようになってきた。点差は開いちゃったけど、衣ちゃん、どう思う?」

衣「こうなった以上、シズノを止めることは難しい。阿知賀が決まりだとして、永水と白糸台のどちらが決勝に行くかだな。アワイとやらも、流石にもう奥の手はあるまい」

今回はここまでです。次回も一週間後の水曜を予定します。



白糸台  129300
永水   152400
阿知賀   76700
宮守    41600

とりあえず追っかけが満貫になった分の点数の修正。


淡「戻りました」

憩「お帰り、まだ奥の手あったんやな淡ちゃん」

淡「そう言ったはずです。憩さん対策の切り札があると」

誠子「マジだったのか……いつもの調子で適当言ってるだけだと思ってた」

淡「亦野先輩は私をなんだと思ってるんですか」

誠子「麻雀打ってないときはアホの子、打ってる時は頼りになるエース」

尭深「右に同じ」

淡「渋谷先輩まで……もういいです」

監督「さて、本題に入りましょう。どこが気になるの?」

淡「阿知賀」

菫「……だろうな」

誠子「リーチかけたのはわざとなんだろ?」

淡「当然。それで、何が起きていたんですか?」

憩「鋭意分析中で、詳細不明や。はっきり言えるのは後半に向かうにつれて調子を上げてくタイプってことだけやな」

尭深「今がピークなのか、それともこれから更に上のギアがあるのか……」

監督「更に上があると見た方が良いでしょうね」

誠子「自分の目でも確認したいだろ。ほれ、牌譜」

淡「ありがとうございます」


巴「じゃあ、払いますね」

霞「まだいいわ、次に強いモノを降ろせる保証もないし、このまま行く」

春「分かった」ポリ

巴「だ、ダメですよ!! そんなもの降ろしたままじゃ霞さんが……」

霞「準決勝を先に行う日程で良かったわ。一日休めるもの」

初美「一日休まなきゃいけないような無茶する馬鹿にはありがたいですねー」

霞「悪かったわね馬鹿で」

小蒔「け、けど、白糸台には首位を譲ってもいいわけですし、霞ちゃんなら普通に打っても二位には確実に……」

霞「そうとも言えないのよね。阿知賀の子、何かしてるでしょう?」

初美「配牌を良くしたりダブリーを止めたりですかー? あれは霞ちゃんが何かしてたんじゃー?」

霞「違うわ。そして、宮守の子は一度に複数の力を使えない、なら、あの子しかいないでしょう? 大星さんの力を根本から抑えるなんて私でも出来ないのに、それをやって見せた。危険だわ」

巴「け、けど、そんなに警戒しなくても……」

春「私も、阿知賀は危険だと思う」

初美「……はるる、巴、終わったらすぐに払えるように対局室の入り口で待機しとくですー。あんなヤバいものを長々と降ろしてたらどうなるか分かったもんじゃないですー」

春「了解」ポリ

巴「はっちゃんに言われるまでもないよ」

霞「……手間をかけるわね。ごめんなさい」


トシ「なんとかして二位の白糸台を引きずり降ろして、最後は仏滅でイチかバチかだね」

白望「……なんとかしての辺りを詳しく」

トシ「阿知賀の子が追い上げるはずだから、ここまでの通りにやってれば白糸台は焦ってリーチをかけてくるはずだよ」

塞「あ、なるほど、それを撃ち落せば……」

トシ「阿知賀にも好き放題させるわけにはいかないねえ。あの子には序盤で仕掛けるのが良さそうだから、白糸台への餌も兼ねて序盤に何度か先勝を使いな」

胡桃「追っかけが来ないこともあるって分かれば向こうもダブリーをかけやすくなるからね」

豊音「了解だよー」

塞「だけど、そんなことしてて局数は足りるんですか? 点差も点差だし……」

トシ「うちよりはマシといってもその辺は阿知賀も同じだし、お互いに二位を狙うためにサポートし合うしかないねえ」

豊音「鳴かせたり他への牽制をしたりして阿知賀の親番をサポート、阿知賀もうちの親番はサポートしてくれるんだねー」

トシ「そこでアテが外れたら、潔く諦めようかねえ。この老体にムチ打って、もっとあんたたちの特訓をしなきゃいけなかったってことさ」


起家 霞(……ちょっとしんどいわね。東二局で降ろして、休憩の間も降ろしたままだった。もうかなりの時間降ろしてるものね)

南家 豊音(第一印象が大事って本で読んだし、最初で戦法を変えたって印象づけに行くよー)

西家 淡(阿知賀女子、高鴨穏乃……他の二人の力量は見えたし、マークすべきはこいつ一人)

北家 穏乃(うん、大丈夫。このまま登りきる!!)


東一局


豊音(さ、いくよー)

豊音「ダブリー!」


345789s34678p西白 ツモ:5p

打:白


淡「なら、こっちもダブリー」


1113368p234568s ツモ:1s

打:8s


豊音(一瞬の思慮もなんの動揺もなく普通に追っかけられたー!? そりゃ、私が先にリーチしたらそっちも遠慮なくリーチ出来るのはその通りだけどさー!)


淡「槓」


1113368p234567s ツモ:1p

暗槓:1111p 槓ドラ:東


豊音(うー……リー棒一本損したよー。大星さんが和了った後で手牌見せればいいだけだったよー。大星さんならそれだけでも最初から張ってたのは分かるだろうし)

淡(これで、何もなければ私が次にツモ和了るはず)


次巡


淡(……あっさり止めてくれるね。これは予想以上かな)

淡「……」タン


打:東


穏乃「……」

淡「……なにしてるの? 早くツモったら?」

穏乃「いえ、ツモりません」

淡「……へえ?」

穏乃「ロン。東、白、ドラ3、赤3で16000です」


1234赤56s赤5赤5p東東白白白 ロン:東


淡「……やるね」

豊音(ちょっ……いきなり差を詰め過ぎだよー!? うちが追いつける程度のペースで詰めてくれないと困るよー)

霞(予想以上ね。私の勘は正しかったということかしら?)


衣「決まったな」

咲「……まだ逆転したわけじゃないよ。この局は、リー棒を入れて35000点分の差を詰めただけ」

衣「この一局でそれだけの力の差が示された。あと7局もあれば、シズノならたやすく逆転してみせるだろう。負けられぬ戦に臨み意気軒昂、今のあやつの力は衣と比べても遜色がないほどだ」

咲「だといいんだけど。私も、嶺上開花を狙わなければ、大星さんより穏乃ちゃんの方がやりやすいし」

衣「……咲、何が言いたいのだ?」

咲「それだけの力の差を見て、焦りが全くないんだよね、大星さん」

智紀「それは私も気になる。倍満直撃で涼しい顔をしてるのはおかしい」

衣「弱みを見せればそれを突かれる、そうさせまいと虚勢を張っているだけだろう。いくらなんでもこれ以上の奥の手があるはずがない」

咲「王牌の一つである槓裏がなければノミ手、そもそも槓するために山の深いところまで進まなきゃならないのが大星さんのダブリー、相性は絶望的に悪い」

一「それでも、動揺を見せない。ってことは、あるのかな、奥の手が?」

衣「一まで……そんなものあるはずがないと言っているだろう」

美穂子「だとすれば、一体何があるというんですか?」

咲「それは、見てみないと分かりません。けど、大星さんの様子からして、ダブリーや配牌操作以上の切り札なのは間違いないと思います」

衣「衣の話を聞けー!!」プンスカ


東二局


霞「……あら?」


1134赤556668m東西北


霞(何が起きているのかしら? さっきの直撃がそんなに痛手だった?)

霞(147も、258も、369の筋も揃ってないし、字牌も三枚しかない。大星さんの力が相当弱ってる? いえ……これはもしかしたら……)

豊音(これ、もしかして……大星さんの力が無効化されたのかな? 高鴨さんちょーすごいよー! って、感心してる場合じゃないよー!?)


2368s1156799p北白 ツモ:発


小蒔「配牌が……」

初美「霞ちゃんのせいで分かりにくいですがー、これは多分普通の配牌ですよー、配牌が普通になった分だけ今度はツモが悪くなるとかないですよねー?」

小蒔「なさそうですね。ツモも順調そのものです……来ました!」


『ツモ、混一色ドラ3、3000、6000』


小蒔「これなら、霞ちゃんの独壇場ですよ! 一色で手を進めてる霞ちゃんが普通に打って負けるはずがありません!」

初美「……だといいんですがー、私は嫌な予感がしますよー」

小蒔「……言わないでください。本当は私だってわかってます、そんな甘い相手じゃありません」

初美「それこそ言わないでほしかったですよー!? 姫様に肯定されたらどうしようもないですー!! 巴ー!! 巴はどこですかー!!? 出番ですよー、楽観的な意見を述べるです―!!」

小蒔「初美ちゃんの指示で、対局室の前に待機してますが……」

初美「それは知ってますよ――!! ああもう、姫様と二人きりだと会話のテンポがおかしいですー!!」



東三局


霞(今の跳満で、阿知賀に対しても白糸台に対しても差を広げた、残り6局、セーフティリードだと思いたいのだけど……この気配、まだ何かあるというの?)

穏乃(これは……まさか、そんなこと……)

豊音(大星さん、第一打で悩んでる? ダブリーをかけるかどうかかな? だと嬉しいんだけどなー)


淡「……」


一「うわ……冗談でしょ?」

純「二度目だと大して新鮮味がねえな」

京太郎「一試合で何回役満出す気だよってツッコミですらおかしいのに、役満の二文字をもっとおかしい二文字に変えなきゃいけないとは……」


『天和、16000オール』


咲「……」

衣「……」

星夏「こ、こんなの反則ですよ……どうしろって言うんですか?」

衣「……反則ではない。ルール上認められた役だ」

咲「……」

智紀「とはいえ、理論上、天和は止められない。やられた方にしてみれば認めがたい暴挙」

咲「……」

京太郎「洒落になんねえな。けど、これまでのパターンだと、前の局で配牌が普通だったのはこれのための条件ですか?」

衣「おそらくは、そうだ。であれば、二連続天和というのはないはず。奴の上家に座っていれば天和の前に大連荘で稼ぐことも出来るやもしれん」

美穂子「前の局で配牌操作をやめて条件を満たしていればいいというなら、連荘を止めるための地和というのもありえます。けど、それは鳴けば止められます」

京太郎「待って福路さん、その発言おかしい」

衣「ただ、連荘で稼げるというのは奴の上家に座っていればの話だ。席順が違えばそれは通じない」

智紀「チャンスになる天和の前の局に子で役満をツモっても出入りで40000、天和では64000。直撃は流石に望めないし24000は確実に差が詰まる」

純「地和なら止められるとか、配牌操作がなければ役満ツモれる、みたいなのを前提にするのもどうかと思うんだが」

衣「それぐらいのことが出来る相手でなければ、おそらく天和を使うことはないだろう。でなければこんな非常識な力はあり得ない、あれはそういうモノだと思う」


『おいおい……マジかよ……』

『あ、あの……三尋木プロ……先ほどの天和は……?』

『配牌は地からの実りじゃなく天から与えられるもんだってことか? てことは使えるのは親の時だけ?』

『み、三尋木プロ……?』

(普通に考えたら、配牌が大地の始まりで嶺上牌がその大地の行きつく先、頂上だ。けど、配牌になる牌は嶺上牌の先にあるという見方もできる。山の頂の更に上。そこにあるのは空だ、空には山の主の支配も及ばない……だとすると、あれはあの局の配牌じゃなくて、前の局の嶺上牌の続きってことかい? だとすると、前の局で配牌操作が止まるのも……いや、そう考えると、あれは下手すりゃ……けど、こういう弱点もあるかもしれないってか?)ブツブツ


『三尋木プロ、解説をお願いします! 今の天和は一体なんですか!? 三尋木プロ!!』グイッ


『ひゃうっ!? あ、ご、ごめんね。いやー、天和とかマジっすかー、ぱねー、マジぱねー』

『……ようやく正気に戻りましたか。 それで、これは一体なんですか?』

『……ノーコメント。この試合二度目の天和が出た、あたしが言えるのはそれだけだね』

『そ、それって……? つまり、そういうことですか!?』

『だからノーコメント。こんなのが居てもなお、優勝するのがどこになるかわかんないってのが一番驚くべき事実なのかもねぃ』


健夜「……」ウズ

靖子「小鍛治さん、若い芽を摘まないでくださいよ?」

健夜「摘めないと思うよ。負けないとは思うけど、芽を摘むって言えるほど圧勝できるとは思えない。だから打ってみたいんだし」

貴子「マジですか……高1にして小鍛治さんクラスってか、頭痛くなってきた」

靖子「現役の指導者は頭が痛いだろうな。荒川と大星……先鋒次鋒で並べられたら詰みだな」

健夜「大丈夫だと思うよ。普通に打ったら配牌が酷いことになるだけだと思う。下手に対抗出来ちゃうとこうなるんだね」

恒子「空がどうこう言ってたの、これ?」

健夜「うん。多分、一回の親番で連発は出来ないけど、このままなら次の親番も天和が来るね」

靖子「親番の度に天和ですか?」

健夜「ううん。条件はあるよ」

貴子「条件? 天和の前に配牌操作が止まる以外に、ですか?」

健夜「……うん、私の推測が正しければね。彼女はあと二年はインハイに出るだろうから、久保さんにこれ以上教えるのは無理だけど」

貴子「あ、そ、そうですよね。言えませんよね、失礼しました……」ズーン

靖子「小鍛治さんクラスの選手が高校生の試合に出てたら、対策なんかしても無意味だと思うんですがね。それでもダメですか?」

健夜「え、えっと……ほ、ほら、言わないってことは、私は久保さんの教え子なら彼女に対抗できるかもしれないって思ってるってことだから!」

靖子(目が泳いでますよ小鍛治さん……それ、今思いついたでしょ?)

貴子「……ありがとうございます。気休めだと分かっても、小鍛冶プロにそう言ってもらえると楽になります」

恒子「そんな気遣いができるならとっくに結婚してるはずだから、これは気休めとかじゃないと思うね!」

健夜「私どういう扱いなの!? 出会いがないだけだから!! 家でゴロゴロしてるせいで出会いがないだけだから!! 実はモテるから!」

恒子「……」ジト

健夜「……ごめんなさい、謝るから、そんな目で見ないで」

恒子「見栄も時には大事だけどさ、限度ってあるよね?」

健夜「限度低くないかな? 私、前人未到の九冠達成者だし、もう少し見栄はっても許されないかな?」

恒子「言っていいことと悪いことってあるよね? 優しい嘘も時には必要だけど、誰かを傷つける嘘はダメだよ?」

健夜「誰かを傷つけるような嘘じゃなかったよね!? その分類だと言っていい方に入る嘘だったよね!?」

恒子「うるさーい! さっきから麻雀の話ばっかで蚊帳の外に放り出された私はご機嫌斜めだー!!」

健夜「理不尽すぎる八つ当たりだった!?」



穏乃「嘘……そんな……天和なんて……」

淡「……」

霞(心が折れかけてるわね。無理もないわ、私だって、今はリードがあるから平静を保てているけど、もし同じ立場なら……)

豊音(……ダメだ、こんな人相手に能力勝負したら、どうやっても勝てない。絶望的だけど……0%よりは一億分の一でも可能性がある方がマシだよね?)


淡(……?)ピク

霞(あ、あら? 降ろしたモノが……勝手に?)シュウウン

穏乃(あ、あれ……おかしいな、山が見えない……まさか、今の天和で山の支配まで消されちゃった!?)


豊音(全ての能力を打ち消す力、仏滅。ここからは、能力一切なしの、ただの麻雀だよー!!)


トシ「仕方ないねえ。残り五局かそこらで10万点差をなんの能力もなしでひっくり返すなんてのは無謀だけど、それでもこうするしかない」

塞「……なんなのよ、あの一年? 豊音が手も足も出ないって、ありえないでしょーが」

トシ「五分の状況からなら、勝負になったと思うよ。それなら、どうにもならないとしても最初から仏滅を使えばいいしね」

エイスリン「ヤッパリ、ワタシガ……」

白望「エイスリン、ストップ。一番失点したのは私。そういうこと言うと私のせいになるからやめて」

胡桃「そうそう、全部シロが悪い」

白望「え? エイスリンに泣かれるのはダルいけど、だからって私に全部押し付けるの? それはそれでダルい……」

トシ「あんたら何言ってるんだい? まだ終わったわけじゃないんだよ。能力もなんもなしの勝負、親番で役満をたった二回ツモれば逆転さ、信じて見守ろうじゃないか」

塞「監督……」


豊音(あはははは、普段は力を使って打ってるから、この手で何すればいいのかわかんないよー)


1457s45p2348m西北白


霞(……大星さんの力も、私の力も、多分高鴨さんの力も消えてるわね。能力なしで普通に打ったら永水女子で一番強いのは私。この状況は望むところだけど……)

穏乃(……諦めるな。まだ逆転の可能性はある! 山が見えないからなんだ!? 能力なしの普通の麻雀、そんなの、小学生の頃からずっと打って来たじゃないか!! 諦める理由になんて全然ならない!!)

淡(永水の一色支配も、阿知賀のおかしな力も消えた……多分、全ての能力を無効化する力だね。私にとってはこれが一番厄介)


豊音(麻雀ってこんなに難しかったかなー? どう打てばいいのか全然わかんないよー)

豊音(仏滅は本当に滅多に使わないからねー。他に五つも能力があれば、大抵の状況ではそのどれかを使うほうが有効だし)

豊音(仏滅を使うのは本当にどうしようもない相手だけ。そんなの今まで居なかったからねー)

豊音(あはは、後で、サインもらわないと……このひとちょーすごい人だよー)ポロ

豊音(あ、あれー? なんでかなー? 涙が……試合中なのに……)ポロポロ

豊音(……ごめんね、ごめんねみんな……)


南4局 


ー18巡目ー


穏乃(ここでツモれないと……お願い!!)


12345s34赤5p23478m ツモ:北


穏乃「あ……ああ……そんな……」

打:北

霞(この子は、最後の最後まで諦めるような子じゃない。それがこの表情ということは……そう、終わったのね。それなら多分何を切っても同じだけど……一応こっちにしましょう)タン

打:北



淡「……テンパイ」パタン

霞「ノーテン」パタン

豊音「……テンパイ、です」パタン

穏乃「……」

霞「高鴨さん?」

穏乃「……ノーテン、です」パタン


『決着――!! 最後は高鴨選手の執念実らず、流局での幕切れとなりました』

『終わってみればシード二校が合わせて30万点を超える点棒をかき集めての圧勝だね』

『圧倒的な力を見せる王者白糸台高校、その白糸台から一時は首位を奪い僅差で試合を終えた永水女子、二日後に行われる決勝でも熱戦が期待されます』

『初出場の宮守女子と阿知賀も、結果は大差になったけど試合の各所でいい仕事してたね。選手の並びが違ったら勝機もあったんじゃないかな?』

『えっと、例えばどのような?』

『白糸台と永水の並びが同じだとして、この相手なら高鴨さんは先鋒の方が良さそうだし、それで先鋒の結果が変わって、更に臼沢さんが中堅なら相当展開が違ったと思うよ。まあ、その並びで準決勝まで来れたかどうかも考えなきゃいけないわけだけど』

『逆に、白糸台や永水にとっては良い組み合わせだったと?』

『そうだね。色々あったけど、勝った二校にとっては悪くない当たりだったんじゃね? 知らんけど』



大将戦終了


白糸台  159900(+30600)
永水   144600(ー 7800)
阿知賀   80300(+ 3600)
宮守    15200(ー26400)


照「……ん?」

久「どうしたの?」

照「ねえ、もしかして決勝に進んだのって、白糸台と永水?」

まこ「どっからどう見てもそうじゃろ」

和「何を今更?」

照「……私は、アレの相手するのは嫌だと言ったはず」

優希「はいはい、どうせいつもみたいに大げさに騒いでるだけだじょ」

和「全くです。文句言ってる暇があったら対策でも立ててください」

透華「対策と言っても、どうせ、力ずくで押しつぶすとかそういうのですわ」


照「なぜ、ここまで私の扱いが悪くなったのか……?」

和「主に昨日の二回戦のおおげさな解説のせいです、よって、自業自得です」

久「……」

まこ「ほれ、お菓子あげるから黙りんさい」ヒョイ

照「もぐもぐ……本当にアレは厳しいのに……もぐもぐ……」


咲「……」

京太郎「おい、咲、お前本当に大丈夫か? さっきから黙ったまんまで顔色も悪いし……」

咲「……」

衣「重症だな、あれを見た後では無理もないが」

純「おいおい、明日には臨海や千里山相手に準決勝だってのに大丈夫かよ?」

智紀「大丈夫ではなさそう」

衣「どうにかならないか智紀? 衣ではこういう時に力になれん」

智紀「手はある、ただ、人道的な問題が……」

一「人道って、ともきーってば何する気なのさ?」

智紀「ちょっと作戦タイム。はじめ」クイクイ

一「やれやれ、何を企んでるやら……ちょっと席を外すね」


小蒔「あ、あの、霞ちゃん! 疲れてませんか? 憑かれてませんか!? 随分長い間降ろしてましたから……」

霞「……それが、驚いたことに、何の影響も残ってないみたいなの」

春「宮守の大将は非常識、私たちが払ってもこうはいかない。待機してたけど無駄足だった」ポリ

巴「うう……霞さんが元気なのはいいんですけど、力になれなくて複雑です」

初美「疲れ切って動けない霞ちゃんをいじり倒す予定が狂いましたよー。宮守も余計なことしてくれたもんですー」

霞「……初美は今夜の夕食抜きね」

初美「ガーン!? 私、今回はまだ何もしてませんよー!?」

小蒔「でも、どうしましょう……あの力、私が神様を降ろす以外で対処できるとは思えません」

霞「なら、私には対処できるわよね?」

春「……霞さんは姫様に一番血が近い。ゆえに、姫様が降ろす神を代わりに宿すことが出来る」

巴「その中でも、まれに九面の神々を押しのけて出てくる恐ろしいモノ、それを宿し手馴けるのが石戸の役目……ですけど」

小蒔「ダメです! 今回降ろしたモノでも勝てない相手に対抗するとなるとアレしか……そもそも、アレを都合よく降ろせるかどうかも分かりませんし」

霞「首尾よく降ろせても、今の私じゃ危険すぎるわよね。おばあ様でも手を焼くぐらいだもの」

小蒔「そうです! だから絶対ダメです!!」

初美「とはいえ、天和を和了る化け物相手ですしー、そうなると霞ちゃんに回さず終わらせるしかないですかねー?」

小蒔「そ、そうです! 大将までに飛ばして終わらせればいいんです!! 霞ちゃんにそんな無茶なんて、絶対させませんから!!」

霞「あらあら、それじゃあ、お言葉に甘えて楽をさせてもらおうかしら?」

小蒔「はいっ! だから、無理しちゃだめですからね!!」

霞「ふふふ、私に回さず終わらされたら無理のしようがないわ。 だから安心して、ね?」


春「……次のお祓いは大変そう」ポリ

巴「……」


憩「お帰り淡ちゃん。今からエースの座をかけて打たん?」

淡「打つー!! 今日こそケイに勝ってエースになるよー!!」

憩「……は?」

淡「ん? どしたの?」

憩「淡ちゃん、冷たい方は? さっきまで打ってたのは?」

淡「ん? さっきはなんか急に頭がぼーっとして、気付いたら大将戦おわってたんだよねー! まあ、私ってば天才だから意識がなくても勝っちゃうんだけど!!」

憩「そっか、悪いけど、今の話、なかったことにしてな」

淡「うん! って、なにその変わり身!? せっかくやる気になってるのに酷くない!?」

憩「こっちのセリフや!! せっかくやる気になっとったのに勝手に引っ込みおって!!」

誠子「憩、落ち着け」

菫「……監督、どう見ます?」

監督「これは思わぬ拾い物ね。正面からぶつければ咲にも勝てるはず……淡がここまでの力を持っていたなんて」

尭深「淡ちゃんが安心となると……問題は私のところですよね?」

菫「先鋒は憩なら大丈夫、次鋒で当る可能性がある中で一番危険なのは臨海女子のハオだが、これは私がなんとか出来るはずだ」

監督「副将はやはり臨海のメガン=ダヴァンが一番の難敵。原村和も居るけど、どちらも亦野が勝負に徹すれば抑えられるはず」

尭深「けど、薄墨初美と竹井久、それに、臨海女子の風神……これに対抗するには、私では……」

監督「といっても、化け物同士で潰しあいをしてくれるでしょうし、守備を固めるのに徹してオーラス勝負、役満でなくても構わないから和了って点数を補充、上手く行けばプラスで抜けられるはずよ」

菫「この相手になるなら中堅が渋谷というのは最高のオーダーかもしれない。自信をもってくれ」

尭深「……はい」


智紀「須賀君、ちょっと」

京太郎「はい?」

一「ちょっとこっちに来てくれるかな? 聞かれると作戦が無駄になるから」

京太郎「あ、はい……」



智紀「はじめと相談した結果、人道上の問題には目をつぶることにした。作戦を決行する」

京太郎「あの、話が見えないんですが?」

智紀「作戦内容は――――」

京太郎「ちょっ!? いくらなんでもそれは――モゴッ!?」

一「はいはい、聞かれたら意味がないって言ったの聞こえてなかったのかなー?」ガシッ

京太郎「モゴモゴ!! モゴー!!」

智紀「あなたは命令に忠実な兵士、あなたは命令に忠実な兵士、あなたは……」グルグル

京太郎「モゴモゴ……モゴ……」

一「なんで五円玉振って囁きかけるとかいうお約束みたいな催眠が効くの? いや、効いた方が楽だけどさ」

智紀「五円玉はフェイク、実はハギヨシ流催眠術を使っている」

一「マジで!?」

智紀「……冗談かもしれない」

一「ハギヨシ流ってつけるだけでなんでも出来そうな気がするよ……」

智紀「では、須賀君、ゴ―」

京太郎「……サクセンヲ、ジッコウシマス」


トシ「エイスリンも弘世に封じ込まれたし、仕方ないとはいえ塞も勝った二校を利する動きを強いられたし、先鋒もあの二人が暴れすぎたしねえ……なかなか鋭いじゃないか、あのちびっこも成長したもんだ」

塞「……終わっちゃったか。もう少し続くと思ってたんだけどな」

白望「まだ個人戦がある。ダルい……」

塞「私と胡桃はこれで終わりなんだけど?」

胡桃「そこ、私に勝ったくせに文句言わない!」

白望「ダルい……」

エイスリン「……」

胡桃「エイちゃん? まだ泣いてる? シロ殴る?」

白望「なんで私を殴ったら泣き止むみたいな話になってるの?」

塞「基本的にシロのせいだからね。先鋒でズタボロにされ過ぎなの」

白望「塞が打ったら前半の東一局で意識飛んでると思うんだけど……」

塞「実際打ったのはシロだから言いたい放題言えるわね」

白望「……ダルい」

エイスリン「……」

胡桃「エイちゃん、本当に大丈夫? どしたの?」

エイスリン「」カキカキ

塞「木の枝から輪っかが下がってる絵? なにこれ?」

エイスリン「トヨネ、オソイ……シンパイ」

白望「……サインもらいに行ってるだけだと思うけど」

エイスリン「……タシカニ」


京太郎「咲……」

咲「……」


これで何度目だろう、この幼馴染が今の私を心配して声をかけてくれるのは。
さっきの天和を見て私がだまりこんでから、少なくとも10回は声をかけてくれたと思う。
この優しさ、人の良さが彼の一番の魅力。顔とか運動神経が悪かったとしても、私は彼を好きになっていたと確信している。
けど、今の私には彼の声に応える余裕がなかった。天和を和了る能力、それをどうやって破るかということに思考力のほとんどをつぎ込んでいるからだ。

答えは全く見つからない。手がかりすら思いつかない。
賽を振ってから和了るまでにそれを止めるための介入の余地がないのだから、止める手段などそもそもないのかもしれない。


京太郎「なあ、咲……」

咲「んっ……」


彼は私の反応がないので強硬手段に出たらしい。

肩を掴まれた。
デリカシーのない彼のことだから、このまま肩をゆするなりして無理やり私の意識をそちらに向かせる気なのだろう。

それはそれで構わない、答えの出ない問いをいつまでも続けていても仕方ないので、いいきっかけだと思う。

ただ、それで一時的に反応を得ても、私はすぐに同じことを考えて思考の迷路に入り、再び沈黙して彼を心配させてしまうだろう。
そう思うとなんだか申し訳なかった。


咲(って、あれ? なにもしてこないなあ……どうしたんだろ?)


違和感を感じて、意識を彼に向ける。
それとほぼ同時に、彼の右手が私の肩を離れて顎に伸びて来た。
顎を持ち上げられて、私の顔は上を向く。ちょうど、彼の顔と正対するぐらいの向きだ。


京太郎「なあ、咲……いいよな?」


言いながら、彼、須賀京太郎の顔が近づいてくる。
いいよな、と言われても、何の事だかさっぱりわからない。


咲(この状況から考えて……え? ええっ!? ま、まさかそういうことなの!?)


心臓が跳ねる。
「それ」を意識した瞬間に顔が熱を帯びて、体全体が火照ったような感覚に襲われる。
おそらく、鏡を見れば耳まで真っ赤になった自分の姿が見られるだろう。

何がどうなっているのかわからないが、今目の前で起きていることを自然に解釈すれば、彼がしようとしているのは「それ」しか思いつかない。


美穂子「す、須賀君、宮永さん、こんなところで……」


次の瞬間、耳に入って来たのは福路さんのそんな呟きだった。

今自分の居る場所を思い起こして、一瞬で血の気が引く。

右に視線をやれば、目を見開きながら口をパクパクさせてる衣ちゃん。
左に視線をやれば、両手で顔を覆いながら指の隙間からガッツリ見ている福路さん。
正面には、明らかに正気でない目をした幼馴染の姿が、それぞれ目に入る。


最後の映像が網膜に映ったと同時に、私の身体が、普段決して見せない性能を発揮して攻撃態勢に移る。


咲「てえええい!!」

京太郎「ごふっ!?」


鳩尾にひじ打ち。
状況を認識してから打撃が到達するまで、体感では0.1秒を切っていた。
まあ、私の運動神経だとそんな速度で行動するのは無理なんだろうけど、それぐらい私の行動は早かった。


咲「なにやってるの!? 乙女の唇を意識もないまま奪おうとか言語道断だよ! キスっていうのは、晴れた夜、星の見えるレストランか高台の公園か穏やかな海辺で、星を見ながら、愛の囁きを添えて、二人っきりでするものだよ!?」

京太郎「うう……お、俺は何を……?」


智紀「作戦は失敗。繰り返す、作戦は失敗」

一「作戦関係者は直ちに撤退せよ、繰り返す、作戦関係者は直ちに撤退せよ」

咲「沢村さん、国広さん、わかってますよね?」ゴゴゴゴゴ

智紀「分かっている、今は迅速に撤退作業を開始すべき時」

一「対象の戦力は想定以上に高い、さっきの動きは文学少女のものではなかったよ、ともきー」

智紀「大丈夫、対象は道に迷いやすい。少し距離を稼げば逃げ切るのは容易」

咲「」ゴゴゴゴゴ

一「で、なんでボク達はまだ部屋の中にいるのかなともきー? 早く扉を開けようよ」

智紀「そうしたいのはやまやまなのだけど……こんなことが、現実に起こるというの?」ガチャガチャ

一「……え?」

咲「偶然、かけた覚えのない鍵がかかって、偶然、それが外れなくなるなんて、私ってすごい幸運ですよね?」ゴゴゴゴゴ

一「ちょ、ちょっと、冗談やめてよともきー……嘘でしょ?」

智紀「敵の戦力を見誤った。我々は、作戦終了ではなく、作戦開始と同時に逃走すべきだった……」

一「そ、そんな……うわああああああ!?」


【一時間後】


一「と言っても、捕まったところでこうなるだけなんだけどね。マージャンッテタノシイナア」

咲「うー! もうちょっと悔しそうにしてくださいよ!!」

智紀「アリが象に負けて悔しがるのは、よほど傲慢な精神を持っていないと無理」

京太郎「一回も和了れねえ……」ズーン

一「てゆうか、咲ちゃんしか和了ってないからね? ボクたちも一回も和了れてないからね?」

咲「京ちゃんだけダメージ受けてるし!! こんなはずじゃなかったのにー!!」

智紀(とはいえ、本気で打って手も足も出ないというのは流石にこたえる)

一(だよね……いくらなんでもこれはへこむなあ……)


星夏「……国広さんや沢村さんが手も足も出ないなんて……」

美穂子「半荘三回打って無駄ヅモが一回もない……どうなってるの、彼女は……」


咲「槓! カン! かん! ツモ! 清一色対対嶺上開花三槓子三暗刻ドラ1! 16200オールです!!」

一「うげ、加槓からの三連槓でラストに赤5筒ツモるんだ……えげつないね」

智紀「満貫、倍満、役満。東一局で三人同時に飛ばした……私たち相手にここまでやるとは、頼もしい限り」

咲「少しはダメージ受けてくださいよ、もおおおお――!!」

京太郎「俺はガリガリMP削られてるぞー……もう戦闘不能だ……」

咲「京ちゃんにダメージ与えても意味ないの!! うわーん!!」

衣「仕置きをしている側が泣くというのも変な話だな」

智紀「……ちなみに、ここまでほぼ作戦通り」

一「ま、元気になったみたいでなにより」

咲「はっ!? 完全に掌の上だった!?」グスン

智紀「……鍵が閉まったのは計算外だったけど、結果は想定の範囲内」

京太郎「……あの、俺が受けた精神と肉体のダメージは?」

一「……尊い犠牲だね、敬意を払うよ。 ちなみに、最初に懸念した人道上の問題の大部分はそれ」


京太郎「俺の犠牲は織り込み済みかよちくしょおおおおお!!」

咲「うわああああああああああん!! 悔しいよぉおおお!!」

今回はここまでです。次回も一週間後の予定です。

ちなみに、阿智賀の大将が玄さんだと初手で絶対安全圏が破れる→破ったのはドラ収集が原因だから槓できる牌は玄に行って槓が出来ない→最初の淡の親で天和が出る

とかいう超ハードモードになる模様。

天和の阻止は大将の淡の親の時に64100点以上をつけて他の高校を15900点以下にしとくしかないのか?
まぁとにかく天和を上がったら負け状態にするか小鍛治プロがわかった条件を見抜くしかないか。
白糸台の人達よりかは長野勢の方が見抜く可能性が高いだろうし、監督(宮永母)が淡を把握しきれていないのがどう影響するかが楽しみだな。

ちょっと急な用事が入ったので、更新は深夜になりそうです。もしかしたら明日の早朝ぐらいになるかもしれません。
昼に投下しとけばよかったんですが、すみません。


やえ「おはよう」

紀子「おはよう。はい、牌譜」

やえ「……何も言わないということは、予想通りの結果になったか。とはいえ、私自身も個人戦に向けて姉帯や大星の実力を知っておく必要はあるから目を通すが」


周りを見渡してもこいつしかいないようだ。
大方、私を起こさないように人払いでもしたのだろう。
たかだか一日徹夜した程度で過保護とは思うが、その過保護に助けられたこともある。


やえ「……酷い配牌だな、これが奥の手か? 常に七対子で最速というわけにもいかないし、事実上、10巡程度は安全が確保されている」

紀子「この配牌なら鳴きを警戒する必要もほとんどない。おそらく大抵の相手は一方的に蹂躙できる」

やえ「こいつは、私にとっては荒川よりタチが悪いな。そして、この面子がこれを見て危機感を抱かずに様子見を続けるということもないだろう、動ける奴は次の局から動く」

紀子「この時点で他の対局者が動くのは穏乃にとっては好都合、手の内が見えてしまえば目測が狂うこともない」

やえ「そして次の局は……なるほど、石戸が動いたか。だが、これは……」

紀子「ダブリー可能な配牌が二人、目を疑う光景」

やえ「……まさか、リーチに対して追っかけリーチをする例の力か? いや、だとするとオリたことが説明できない、これは別の能力だな」

紀子「おそらくそう。根拠はすぐわかる」

やえ「槓裏を乗せて跳満。これは以前見せたダブリーと同じか? だとすると、配牌操作を破らないと発動しないことになるな」

紀子「……そうしないと槓材になる牌がない」

やえ「で、東三局。姉帯は大星のダブリーに対しても追っかけて一発で掴ませることが出来るのか。これが、先ほどの配牌は別の能力だとする根拠だな?」

紀子「そう。これが出来るならオリる理由がない」

やえ「リーチに対して追っかけて一発で掴ませる能力と、ダブリーする能力か。おそらく、まだ何かあるな」

紀子「もう一つは最後にお披露目」

やえ「……最後に? 使えば逆転の目があるほどに差が詰まるのか?」

紀子「……ノーコメント」

やえ「ここからはダブリーを封じられた大星と、リーチがかからないと大星の能力をモロに喰らう姉帯が足を引っ張り合う展開になるはずだ、それとも、大星が一位通過にこだわって墓穴を掘るか?」

紀子「大星は、ここで相手の能力を見切ってダブリーをかけないぐらいの洞察力と判断力がある」

やえ「……だな。さて、そうだとするならどうなって差が詰まる?」

紀子「牌譜を読み進めれば分かる」


やえ「絶一門に対応すれば石戸とも渡り合える、か。配牌操作のアドバンテージはあるが、元々の地力も相当なものだ」

紀子「配牌操作を破られなければ、相手の配牌を悪くした後は普通に打つことになる。なら、地力が高くて当然」

やえ「ただ、石戸の絶一門のせいで分かりにくいが……」

紀子「配牌で送り込まれるはずの牌が石戸の支配に引っかかって通常のツモになる、それが有効牌かどうかでシャンテン数にバラツキが出る」

やえ「石戸は6牌、他の二人は3牌だな。その分だけツモれない色の牌を切って他の牌をツモったのと同じになる。そのバラツキが局を進めるほど良い方に安定している」

紀子「ということは……」

やえ「高鴨の支配がはじまったということだ。前半でこれなら、後半には卓全体が奴のものになるだろう」

紀子「つまり、やえの読み通りの展開」

やえ「大星のダブリーはツモるのが遅い、それでは高鴨の餌食になる。石戸も、序盤でツモれなければ高鴨には対抗できない。姉帯がダブリーするのがあの卓で唯一の高鴨に届きうる攻撃手段だが、点差が点差だ」

紀子「ここから穏乃が逆転するのはほぼ既定事項。前半の南三局でもう反撃の火ぶたが切られる」

やえ「……前半のラストは異常を感じて流したか、大星はかなり頭の切れる打ち手だな。しかし、休憩の間に対策を立てても手遅れだ」

紀子「前半のラストでは高鴨が和了れるほどに支配が進んでいた。後半が始まれば、じきに槓裏や槓した後のツモも高鴨の支配下になる」

やえ「そうなれば、羽をもがれた鳥だな。ここで消えるには惜しいチームだが、相手が悪い」


やえ「さて、姉帯は後半に入って切り替えたか? 待ちの一手では届かんから当然だな」

紀子「けど、それでは大星がフリーになる」

やえ「姉帯のダブリーは愚形で安手。前半の東二局もそうだったな、そういう制約だろう」

紀子「これでは、穏乃は止められない」

やえ「まあ、この局では高鴨の狙いは大星だが、次以降もダブリーをするなら姉帯も餌食だろうな」

紀子「そして、倍満直撃。ここまでは完全にやえの予測通り、阿知賀が白糸台をまくって奈良県代表としては初の決勝に行く、というストーリーどおりに進んでいる」

やえ「その通りなんだが……まて、なんだこれは?」

紀子「なにかおかしいことでも?」

やえ「配牌がおかしい、いや、おかしくなくなった……わけでもないな、石戸のせいで相変わらずおかしいんだが……」

紀子「大星による配牌操作が止まったこと?」

やえ「そうだ。だが、それはおかしい。倍満直撃程度で戦意を喪失するようなタマか? いや、戦意を喪失したとして、大星は自分の意志で能力を解除できるのか?」

紀子「……ダブリーをかける気がなくてもダブリーの配牌が来ていた。自動で発動するものと推測される」

やえ「なら、これは何が起きているんだ?」

紀子「……次の一局を見れば分かる」



やえ「あ……」

紀子「……あ?」


やえ「アホかああああああああああああああああ!!!!!!!? 紀子、なんでここまで『コレ』のことを黙っていた!?」


紀子「理由は単純明快。その驚いた顔が見たかった」ニコッ

やえ「殴るぞ貴様!? 起こさないように気遣ってくれたものだと思っていたら、人払いはそれを漏らさせないのが目的か!? 滅多に見せない笑顔まで見せやがって!!」

紀子「私は今、とても満たされている……」ゾクゾク

やえ「もういい!! くそっ、どうしろっていうんだこんな化け物!?」

紀子「天和はどうしようもない。諦めるのが無難」

やえ「そうでもない、対策はある」

紀子「……は?」

やえ「……ん?」

紀子「……ごめん、理解できなかった。もう一度言って?」

やえ「そうでもない、対策はある」

紀子「ごめん、私、やえを見くびってた。対策がない天和に対して慌てふためくやえが見れると思ってた……まさか二秒で対策を思いつくとは」

やえ「しかし、こいつはどうしたものか……まず、第一にして、私にとっての唯一の対策は『大星の能力を破らないこと』になる」

紀子「……どういうこと?」 

やえ「考えをまとめながら話すから、メモを取ってくれると助かる」

紀子「大丈夫、天和を見たやえの反応を保存するためにカメラを回している。音声もバッチリ」

やえ「そうか、じゃあ話すぞ」


やえ「まず、大星の能力は、自動で発動すると推測される。この推測の根拠は面倒だから省略するが、ほぼ間違いない」

紀子「ふむふむ」

やえ「おそらく、任意に発動することは出来ない。配牌操作を破られたらダブリー、ダブリーを破られたら天和が発動するはずだ」

紀子「ということは、第一の対策というのは……」


やえ「配牌操作、あるいはその後に出てくるダブリーを無効化せずに対局を進めるということになるな」


紀子「なるほど、たしかにそれはやえに出来る唯一の対策。対策と呼べるのか疑問だけど」

やえ「これで大星を倒せるのは……まず思いつくのは荒川だな。あいつなら配牌操作を喰らっても普通に立て直してリーチ一発ツモを量産出来る。打点は文句なし、おそらく配牌操作を喰らった上で、普通に打つ大星相手に速度で互角以上に渡り合えるはずだ」

紀子「結果として、天和を出させず対局を制することが出来る」

やえ「だが、残念ながら石戸が今回と同じことをするとこれは不可能になる。どうせ宮永も出て来てなにかやらかすだろう、あれは卓上の歯向かうもの全てをへし折りに行っている節がある」

紀子「決勝の面子では、『能力を破らない』という天和対策は無理?」

やえ「そうなる。そこで、次の対策だ」

紀子「第一と言った時点で三つ以上あるのは予想していたけど、次があるとは……」


やえ「次の対策だが、個人戦では使えない。状況を作るのがそもそも無理だし、それが出来るなら既に試合が終わっているはずだからな」

紀子「……なるほど、察した。なかなか酷い対策」

やえ「天和そのものへの対策なんだから酷い内容になるのは当たり前だろうが」

紀子「それにしてもこれは……一言で言うと、『天和を和了ったら負ける状況に追い込む』ということで合ってる?」

やえ「まあ、そうだな。 具体的には、64100点以上のリードを作り、なおかつ対局者の一人が持ち点16000を切っていることが必要だ」

紀子「和了ったら負ける、ゆえに和了れない」

やえ「これの問題は、そこにこぎつけるまでに圧倒的な実力差が必要ということだな。大星淡が白糸台に所属していることを考えれば、可能性があるのは清澄ぐらいか」

紀子「つまり、実用性はない?」

やえ「一応使える可能性もなくはないが、まあそうだな。というわけで第三の対策だ」


やえ「大星と渡り合えるレベルの化け物ならこれを一番に考えるんだろうが……今回は私が使える可能性の高い順に並べているから三番目だな」

紀子「ということは、能力が前提の対策?」

やえ「そうだな。それも、かなり強い能力で他者にも効果が及ぶものでないといけない」

紀子「……」

やえ「一番手っ取り早いのは配牌を操作する能力、それをぶつけて奴の天和を他の配牌にしてしまう」

紀子「例えば?」

やえ「まず思いつくのは大星本人の配牌操作だな。6シャンテン確定のゴミ手を送り込む能力、これなら対抗できるだろう」

紀子「他には?」

やえ「高鴨は配牌にも干渉しうるが、実際に支配しているのは王牌だからダメだな、実際やられている。哩姫は自分の配牌への干渉が主だが、『絶対に和了る』力だから、大星の天和も防げるかもしれん」

紀子「穏乃でもダメで、哩姫でも出来るかもしれないという程度……」

やえ「直前の一局で配牌操作をやめるだけで使えるお手軽チートだ、他人の配牌に干渉出来るたぐいの能力をぶつければ案外脆いかもしれんが……」

紀子「しかし、その能力はかなり希少?」

やえ「というか、私の観測範囲だと、他人の配牌に干渉するのが主目的の能力は大星しか確認できてない。通常の場合、他人の手牌への干渉はあくまで目的のための手段でしかない」

紀子「……大星の天和を止める力を持つのは、大星だけ?」

やえ「……宮守の臼沢ならあるいは、といったところだな」

紀子「……」

やえ「……」


やえ「で、試合の続きだが……なるほど、姉帯の三つ目の能力はこれか。すべての能力の無効化といったところか?」

紀子「何一つまともな対策を示せなかった名ばかりの王者、話を逸らさないで」

やえ「やかましい!! そもそも普通の連中はあんなもん対策する必要はないんだ! ダブリーどころか配牌操作がそもそも破れないんだから!!」

紀子「話を天和対策に戻すけど、姉帯なら天和を防げる。とりあえず大星の親番だけこれを使えばいい」

やえ「そうしなかったのは、天和以上のものが出てくることを考えて警戒したからだろうな」

紀子「天和以上のものとか、麻雀にあるの?」

やえ「思いつく限りではない。が、あのレベルの奴らにとっての危険度というのは常識では測れん。それ以前の局で対策可能な天和よりも絶対に防げない1000点のほうが危険なのかもしれない」


やえ「……ところで、他の三人はどこに行った? 私の反応も見れたわけだし、いい加減に出てきてもいい頃だろう?」

紀子「それは、一足先に大阪の宿舎に」

やえ「大阪の連中との待ち合わせにはいくらなんでも時間がありすぎるし、私抜きで行っても意味がない。嘘だな」

紀子「少しは信じてくれてもいいのに」

やえ「……まさか、あいつらのところに行ったわけじゃないだろうな?」

紀子「ぎくっ」

やえ「……おいおい、除け者は酷いな。私だってあいつらには思うところがあるんだぞ? で、会場か? ホテルか?」

紀子「……ホテル。一週間も滞在してたら家みたいなもので、東京では一番落ち着くって」

やえ「そうか。では、私たちも奈良県代表の健闘を称えに行くとしよう」


【ホテルにて】


由華「あ、せんぱーい!! こっちですこっちです! 助けてくださーい!」

やえ「……助けが必要な状況が想像できんのだが」

紀子「上田がなにかやらかしたに違いない。そのまま見捨てれば解決」

良子「おい、泣くぞ? てゆうか目の前に居るのに見えてない扱いはやめてくれ」

日菜「……入れば分かるよ。ちょっと予想外の光景が広がってた」



ガチャ


やえ「ベスト8おめでとう、奈良県代表の名に恥じない内容だった……って、なんだこれは? 誰かの通夜か? 身内に不幸があったのか?」


穏乃「……やえさん……ごめんなさい」

玄「小走さん……せっかく色々協力していただいたのに、ごめんなさい」

灼「……」

宥「……私が頑張ってれば……」

晴絵「10年前のトラウマが……」

憧「誰かどうにかしてよこれ……」


やえ「なるほど……ベスト8でここまで沈んでいる連中は初めて見たな。確かに予想外の光景だよ」

晴絵「ふふふ……10年前はもっと沈んでたぞ。主に私が」

紀子「この老害から悪いところだけ学んだらしい」

晴絵「老害!? え? 私まだ20代だよ!?」

やえ「しかし、揃いも揃って酷い面だな。この世の終わりみたいな顔をしてる」

宥「私が稼げなかったから……みんなの夏が……」

やえ「区間トップが何を言ってるんだ、寒がりのくせに熱気で頭をやられたのか?」

紀子「やえ、多分、こいつは周りを気遣って冷房をかけてるのが原因」

由華「あ、道理で快適だと……阿知賀と一緒だと蒸し暑いイメージがあったのにおかしいとは思ってたんですよ」

やえ「……何故か都合よくそこにある毛布の山に埋めろ」

由華「了解です!」

紀子「……手伝う」

宥「ふえっ!? ちょ、ちょっと待って、言われたからって本気でやるの!?」

良子「待って、巻き込まれてる! あたしも巻き込まれてるぞ!?」

日菜「え? やえは埋める対象は指示してないよ?」

良子「指示してなきゃあたしが含まれるっていう風潮良くない! 晩成にはびこる悪しき風潮良くない!!」

やえ「上田は浅いとこに埋めてやってくれ、汗だくで出て来たらウザイ」

良子「温情措置の理由が酷すぎる!」


やえ「姉の方はこれでよし。で、鷺森……は戦犯だから後回しにして」

灼「ちょっ!? なっとくいかな……」

晴絵「そうだぞ! 灼が戦犯ってどういうことだ!!」

やえ「黙れアホ師弟!! 後回しにしてやると言ってるんだからおとなしくしてろ!! 死にたがりか? マゾか!?」

憧「あー……死にたがりは合ってるかもね。ほら、ハルエってば諦めて後ろに託せばいいのに『エースの私が勝たなきゃ』とか言って泥沼に沈んで行った過去があるから」

晴絵「グサッ」

やえ「マークが外れるまで大人しくしとけばいいのに暴れ続けた馬鹿の師匠だけはあるな」

灼「グサッ」

紀子「日本史上最強とさえ言われる格上のエース相手に無理して振り込み続けた師匠と、三対一の状況で力任せに暴れて沈んだ弟子、戦犯の系譜」

晴絵「グサグサッ」

憧「残りライフはもうゼロっぽいけど、どんどん蹴っちゃってー。死体蹴りのお時間だよー」

やえ「どうせアレだろ、インターバルでも「この体たらくじゃみんなに会わす顔がない」とか言って控室に戻らない系の戦犯だろ? アドバイス聞かないで傷を広げる系戦犯だろ?」

晴絵「ごふっ……それやめて、望にもそれで本気で殴られたからマジでやめて」

憧「戻って来たらアドバイスしよーって言って待ってるのにさ、暗い顔して座ったまま、休憩終わるまで動かないの。それをモニターで見てるの、あたしら」

灼「」ピクピク

晴絵「あの、憧さま……さっきから辛辣すぎませんか? いえ、その、私どもの不徳は重々承知しておりますが……」 

憧「さっきお姉ちゃんが『灼ちゃん見てたら嫌なもん思い出したから、晴絵シメといて』ってメールしてきたんだよねー」

晴絵「望いいいいい!? まだ根に持ってたの!? 思いっきりぶん殴って『あー、すっきりしたわー』って言ってたじゃん!?」

憧「その話は聞いてるけど、それ、立ち直って麻雀教室始める頃の話でしょ? インハイから三年経ってるその時点でもグーで全力なんだから、推して知るべし」

晴絵「おおうっ……言われてみれば根の深い恨みを感じる……」

由華「鷺森さん、天江さん相手にまともに打てる人があの面子を相手に打つなら、トップは義務ですよね? 何で打つ前より差が開いてるんですか?」

灼「」ブクブク

宥「もうやめたげてよぉ……オーバーキルしすぎて精神攻撃なのに物理ダメージ入ってるよぉ……」ニュッ

やえ「毛布の山から顔だけ出すな。なんか怖い」

紀子「次鋒は元気になったらしい、一安心」

宥「えへへ……毛布あったかーい」


やえ「そういえば、新子はこの中では元気そうだな」

憧「実力の倍は働いたからねー。締めもアレだったし、そりゃ完全燃焼よ。悔いなし、未練なし」

やえ「全員こうならねぎらう方もありがたいんだがな。ちなみに、アレは能力なのか? 能力だとして、松実と何かあったのか?」

憧「あー……実は自分でもわかってないんだよね。やえにはどう見えた?」

やえ「違和感があるが、データ上は能力だと断定していいだけの結果が出ている」

由華「違和感、ですか?」

やえ「原因はわからないから違和感としか言えない。だからこそ、牌譜を見れば明らかな、わざわざ聞くまでもないことを本人に尋ねている」

憧「……ちなみに、能力とかじゃないとしたら、アレはなに?」

やえ「別に、能力なしでも、非情に低い確率で起こり得ることだからな。今後起きないなら偶然ってことで片付けるさ」

憧「偶然、かあ……」

やえ「……ま、それじゃあんまりにも味気ない。あの試合、あの卓で起きたなら、たとえ偶然でも意味はあるだろう」

憧「……」

やえ「ついでに、意味のある偶然ってのは、また別の呼び方があるな。誰でも知ってる陳腐な言葉だが」

憧「え? なんかあるの?」


やえ「意味のある偶然はな、『運命』って呼ぶんだよ」


憧「……そっか、運命か」

やえ「私の予想を覆すような偶然には、それぐらいの言葉をくれてやってもいいだろう。お前の役満は予想してなかった、見事だったよ」


憧「ふふ、運命、かあ……」

やえ「さて、来年の不安要素が一つ消えてバカヅキ女のご機嫌も取れたところで、愛弟子に喝を入れるか」

憧「バカヅキって……まあ、確かにそうなんだけど」

玄「」ドヨーン

やえ「対局中の方がまだマシな面をしていたな。おい、起きろ」

玄「起きてますのだ……」

やえ「語尾が……重症だな。別にお前のせいで負けたわけでもあるまいに」

玄「そうは言っても一番失点したのは私で……」

やえ「新子が一通りの気休めは言った後だろうから言っても無駄か……なら、こうするか」スッ

玄「ふえっ!?」ドキッ

やえ「頑張ったな、玄」ギュッ

玄「あ、あわわわわわわ……」プシュー


紀子「こいつは、分かってやってるのか天然なのか……」

日菜「後輩はこうすると喜ぶっていう経験則だねあれは」

由華「むー……羨ましい」


やえ「……なんか、反応が予想と違うんだが。大丈夫かこれ?」

玄「あう……あう……はわわわ……」プシュー

紀子「……問題ない。次に行こう」

やえ「と言ってもなあ……」

由華「いいからさっさと穏乃を立ち直らせてください、松実さんはほっとけば治るんで」グイグイ

やえ「分かった分かった、分かったから押すな」


やえ「……で、こいつはどうしたものか」

穏乃「……」

憧「流石のシズも、今回は平然とはしてられないか……」

穏乃「……」

宥「もともと、穏乃ちゃんが和ちゃんと打ちたいって言って全国に行こうってことになったんだよね」

穏乃「……」

やえ「その言いだしっぺの自分が力及ばずこの結果、か。落ち込むのも分からんでもないが……なにか変だな?」

穏乃「……」

晴絵「なんだかんだで責任感も強いし、なによりあの天和を直に喰らったんだ。下手すりゃ私みたいに牌に触れなくなっててもおかしくない……」

穏乃「……」グー

やえ「……ん?」

穏乃「…………い」

憧「シズ? なんか言った?」


穏乃「ラーメン食べたい!!!!」グウウウー


やえ「……おい、どういうことだ?」

憧「……ごめん、忘れてたけど、こういう奴なの」

紀子「心配するだけ無駄だった……」


やえ「全員の処置は済んだな? では改めて……ベスト8おめでとう、そしてお疲れ様。同じ奈良県の麻雀部として、阿知賀女子の活躍を嬉しく思う」

憧「ありがとー」

紀子「あなた達の目標が優勝だということを考えたら不本意な結果かもしれないけど、これは立派な成績」

宥「うん、そうだよね……私たち、ベスト8まで残ったんだよね」

やえ「そうだ、あまり落ち込んでくれるな。ベスト8で落ち込まれたら私たちの立場がない」

灼「」

良子「なあ、鷺森が言葉のナイフに刺されて致命傷負ったままなんだが……」

紀子「誰が出てきていいって言ったの?」

良子「……毛布の山に戻ります」グスン

日菜「それにしても、この部屋に入った時はビックリしたよ、お通夜みたいになってたから」

憧「いやー、手は尽くしたんだけどね、みんなが来てくれて助かったわ」

由華「お役に立ててなによりです」


やえ「……おっと、もうこんな時間か」

紀子「お祝いの言葉をかけるだけの予定だったから時間が押してる」

憧「ん? 何か予定あるの?」

やえ「ああ、個人戦に向けた仕込みがあってな。すまないが、これで失礼するよ」

宥「忙しそうなのに来てくれてありがとー」

やえ「疲れているところに押しかけて悪かった、また今度改めて祝う機会を設けさせてくれ。では、また」

日菜「良子ちゃん、行くよー?」

良子「あったけえなあ……毛布、あったけえなあ……」

宥「えへへ……あったかいよね」ヌクヌク

紀子「……上田の扱いを、少し見直したほうが良いかもしれない」

由華「……ですね」


【姫松宿舎】


浩子「お待ちしてました。姫松の連中は中で待ってます」

やえ「で、千里山は総出でお出迎えか……聞くまでもないだろうが、試合は見たか?」

竜華「バッチリ見たでー……なんやアレ?」

セーラ「フナQが絶句しとったでー」

浩子「当たり前です。次鋒と副将はまだしも、先鋒、中堅、大将は頭おかしい連中しかおらんやないですか!!」

やえ「同感だ、あれの相手をしなければならんというのは気が滅入るな」

怜「私はどうすればええと思います? というか、荒川と神代って人間が打ってどうにかなるもんですか?」

やえ「あの化け物どもはとりあえず捨て置け。まずは明日の準決勝だ」

怜「はあ……」

やえ「チーム全体での戦略は愛宕監督が立てているだろうから私は口出ししない。対局者三人の分析と対策だけお前に伝える」

怜「……それを使って、どう立ち回るかですね?」

やえ「そういうことだな。園城寺に関しては昨日の時点で上々の仕上がりだった、多分、うまくやれるだろう」

浩子「……うちらは、一巡先が見えるっちゅうのにこだわって、本来の持ち味を殺してしまうような打ち方を強いてたんですね」

やえ「中学時代から江口や清水谷が近くに居たのが悪い方に作用したな。園城寺は元々こっちよりの選手だったらしい」

怜「小走やえの後継者と呼んでください」ドヤ

セーラ「俺たちの怜が、小走の色に染められてもうた……」

竜華「そ、そんな……怜……」

怜「うち、竜華より小走さんの方が相性ええんよ。ごめんな竜華」

竜華「い、いやや!! うちを捨てんといて!」


やえ「……話を進めていいか?」

セーラ「あ、はい」


やえ「園城寺に関しては方針も決まったし嬉しい誤算で成果も上々、あとは間に合うかどうかだな」

浩子「……うちらとしては団体戦の期間中に、小走さんは個人戦までに、ですね?」

やえ「荒川を止めてくれる駒は多い方がいい。他にも伏兵は用意しているがな」

セーラ「全国回って有望な選手を育てとるって聞いたで? わざわざ敵を鍛えるとか、物好きやなお前も」

紀子「やえは本気で優勝を狙っている、そのために必要な仕込み」

竜華「まあ、その一環として怜を鍛えてくれるんやから、うちらとしてはありがたいけどな」

浩子「……藤原さん、百鬼さん、霜崎さん、対木、他にも個人戦オンリーの強豪は大体小走さんの息がかかってますよね?」

やえ「なんのことやら? 私だけが対策を知っている強豪を個人戦に多数紛れ込ませることで優位に立とうなんて、これっぽっちも考えてないぞ?」

怜「これっぽっちとか言いながら両腕を広げられても……そんなことしとったんですか?」

紀子「どこから見つけてくるのか、妙な能力を持った打ち手を発掘しては能力を引き出す打ち方を授ける日々……対木に関しては大会参加の手続きまで徹底サポート」

セーラ「お前は天狗かなんかか? 仙人の類か?」

やえ「こっちだって必死なんだよ! お前らみたいなのを相手に凡人が優勝しようってんだからそれぐらいさせろ!」

由華「強豪への対策をするだけでなく、自分だけが対策出来ている強豪を全国の舞台に送り込んで他の強豪を削らせる、優位を築くための戦略的行動です」

浩子「だから、個人戦の代表であり、荒川に対抗できるレベルに大化けする可能性のある園城寺先輩を鍛えてくれるんですよね?」

やえ「そういうことだ、だから、代表になってないそっちの一年の方は気が乗らんのだが……」

泉「うう……」

日菜「とか言いながら面倒みるあたり、お人よしだよね?」

良子「松庵女子なんか、多治比だけのつもりで行って結局全員の面倒を見てたからな。おかげさまで西東京二位だ」

由華「阿知賀なんか誰一人として個人戦に出てないのにノコノコ出て行きましたからね。個人戦無関係ですからね」

やえ「阿知賀は良いだろ別に! 私たちを倒した奈良の代表に全国で恥を晒されたら困るだろ!」

紀子「『弟子が団体戦の一回戦で消えたら私の恥だ』と言って多治比以外の松庵メンバーの面倒を見ておきながら、自分が一回戦で消えている」

やえ「それは言うな。大会で多治比と顔を合わせるのが憂鬱に思える程度には気にしてる」

紀子「これだけ周到に準備をしているのに、去年はくじ一枚ですべてが水の泡に……」

やえ「それは本当にやめろおおおおおおお!!!!」


【清澄宿舎】


照「……竹井さん、二人きりで話がしたい」

久「え? ちょ、ちょっと待って、このタイミングで? それって死亡フラグじゃ……」

和「 !? ど、どういうことですか部長!?」

久「私だってわからないわよ! なんでこのタイミングなの!?」

照「何を言ってるか分からないけど、真面目な話だから」

久「……ま、そうよね。こっちも冗談よ。 まこ、少し外に出て来るから、あとよろしくね」

和「本当に真面目なお話なんですよね?」ジト

まこ「疑っても仕方ないじゃろ、ほれ、行ってきんさい」

優希「お土産にタコスを買ってきてほしいじぇ!」

久「そんな遠くまで行かないわよ……じゃあ、ちょっと行って来るわね」


【宿舎近くの公園】


照「短刀直入に聞くけど、竹井さん、私が神代さんに勝てると本気で思ってる?」

久「ええ、あなたが全力を出せば、確実に勝てると思ってるわよ」

照「……夢乃さんから、私の能力は聞いてるよね?」

久「……聞いたわ、枝葉じゃなく、核心のほうをね」

照「知らないなら買いかぶってるだけだと思えたけど、竹井さんは知ってもなお私を過信する……何故?」

久「知ったからこそ、あなたが私の知る限り最強の雀士だと確信を深めたわ」

照「……本当に、話にならないね。竹井さんの言ってることは理解できない」

久「あなた、一度自分を照魔鏡で見た方がいいわよ? 自分自身のことについて分かってなさすぎるもの」

照「……竹井さんの評価では、私が全力を出せば神代さんに勝てるって?」

久「全力を出したなら、負ける要素がないわね」

照「……わかった」

久「ようやく分かってくれたのね?」

照「違う、竹井さんが勘違いしてるのがわかった」

久「……頑固ね、あなたも」

照「あなたには言われたくない……これは、見せるしかない」

久「……見せるって、何を?」

照「私の全力。それを見れば、誤解も解けるはず」

久「え?」


照「明日の試合、私一人で終わらせる。竹井さんは、明日、私を会場に連れて行ってくれるだけでいい」

今回はここまでです、>>147で読まれてた……

小走先輩の工作のくだりは、インフレの理由が「照が出場してない」だけで片付けられなくなってきたので、その辺のフォロー程度で、ストーリー上あまり深い意味はありません。
次回はまた来週の水曜の予定です。


『さて、昨日の準決勝第一試合は大きな盛り上がりを見せましたね』

『役満連発!!』プンスコ

『本日これから始まる第二試合も同様の盛り上がりを期待したいところです。注目すべき点などありますか?』

『ぜんぶ』

『そういう綺麗事は要らないんで、ポイントをお願いします』

『……シード!』プンスコ

『ここまでの試合では様子見にも思える試合運びで勝ちあがってきた第二シードの臨海女子、ここでどう出るかが注目されます』

『伏兵!!』プンスコ

『第三シードの新道寺、それに比肩する強豪である南大阪代表の姫松、北大阪代表の千里山を圧倒的大差で下した初出場の伏兵、清澄高校』

『足元注意!!』プンスコ

『油断をすれば第二シードの臨海女子ですら足元をすくわれかねないほどの実力を秘めています。この二校が試合の鍵を握るわけですね?』

『みんな頑張る!!』プンスコ

『はい、各校ともに力を出し切ってほしいですね。では、選手紹介です!』


『まず姿をみせたのはこの人、北大阪代表の名門 千里山女子のシンデレラガール、園城寺怜!』

『春から!!』プンスコ

『昨年の春の大会からエースを務める園城寺選手ですが、チャンピオンを彷彿とさせる早い聴牌と高確率のリーチ一発ツモが特徴です。二回戦は不調でしたが、立て直せたでしょうか?』

『名門!』

『名門千里山高校、選手のケアもおそらく万全との野依プロの予想です。期待できるでしょう!』



咲「楽しみだなあ……久しぶりにお姉ちゃんが本気で打つ姿を見れるよ」

和「ご機嫌ですね、咲さん」

咲「だって、お姉ちゃん、プラマイゼロ始めてから一度も本気出してないんだもん。本当は私なんかよりずっと強いのに」

京太郎「昨日のあれより強いとか、もう俺のスカウターじゃ測れないんだが……」

まこ「ご機嫌ナナメの咲に『麻雀の楽しさを教えられた』んじゃったか?」

咲「楽しかったね、京ちゃん」

京太郎「そりゃ咲は楽しいだろうさ……無駄ヅモなしで全局和了ってんだから」

咲「えへへ」

京太郎「褒めてねえからな?」


『続いて、こちらも初出場になります有珠山高校。先鋒は二年生の本内成香選手です』

『珍しいオーダー!!』プンスコ

『そうですね。どうやら大将の獅子原選手がエースのようで、先鋒にエースを置いていないオーダーは今大会では非常に珍しいです』

『危ない!!』プンスコ

『はい、全国で本気で優勝を狙うチーム、すなわち優勝を狙えるレベルのチームは軒並みエースを先鋒にオーダーしています、それだけに……』

『当たりがキツい!!』プンスコ

『……ことになります。事実、全国ではここまで全ての試合で中堅まで苦しい展開を強いられています』

『副将と大将!!』

『はい、新道寺のような、後半で巻き返すオーダーですね。それだけ信頼できる選手が後に控えている、それは中堅までが点差を気にせず打てるということになります』

『よくあるオーダー!!』プンスコ

『昨年までは、エース級が二人いるチームなら、二人の配置は先鋒大将か副将大将が主流でした。それを先鋒大将の一択に変えてしまった白糸台の影響力はすさまじいですね』



雅枝「珍しいのかよくあるのかはっきりせえや!!」

浩子「ちゅうか、どっちが解説かわからんなこれ」

セーラ「エースが二人なら先鋒大将か副将大将が主流なんか? うちはエース三人おるけど、その場合はどうなん?」

浩子「トリプルエースは先鋒中堅大将が定石。うちもその例に漏れず、です。春の永水はやらかしてくれましたけど」

竜華「けど、白糸台のせいで今の定石は違う、これは定石外しやな。けど、あいつら大会慣れしとる様子もないし、案外なんも考えずにくじかなんかで決めたんちゃうか?」

浩子「あり得ますね。たまたま才能が集まっただけのなんも知らん新生チームにはありがち……それがここまで来るんは異常ですけど」

雅枝「戦力的には清澄や臨海ほどの脅威やあらへんけど、また妙なチームが勝ちあがって来たもんやな」

セーラ「今年はホンマにおかしな大会やな」

浩子「うちと姫松が揃ってシードじゃないって時点でおかしいんやから、いまさら何があっても……とは思ってましたけど、おかしなことしか起こりませんね今年は」


『二位!!』プンスコ

『はい、インターハイ第二シードの臨海女子、その先鋒は昨年度個人二位、頂に最も近い挑戦者、辻垣内智葉選手です』

『今回は全力!!』プンスコ

『清澄高校、千里山女子を相手に迎え、おそらく手加減なしで来るだろうとの予想です。昨年度の二位から更に成長したその力が、ついにその全容をみせるのでしょうか?』


アレクサンドラ「先鋒、ね。エースとは言ってくれないか」

明華「二回戦では、小鍛治プロはエースと言ってくれていましたが……」

ネリー「サトハは強いのに……」

ダヴァン「世界ランカーの明華が居るから、周りからは明華がエースに見られるのは仕方ないと本人は言ってマシタガ……くやしいデス」

ハオ「サトハが本気で打てば、評価も改まるでしょう」

アレクサンドラ「……だといいんだけど、いくらサトハでもあれはちょっと厳しいかな。トップは取れると思うけど」

ネリー「大丈夫だよー、確かにすごいけど、結局プラマイゼロにするだけでしょ?」

アレクサンドラ「……とは限らない。このルールの準決勝なら」

明華「……?」


『……あ』

『野依プロ? どうしました?』

『……ダメ』

『ダメ? 何がですか?』

『本気……終わる』

『え? あ、あの、打ち合わせにそんなのないですよ!? 何言ってるんですか野依プロ?』

『清澄……』


爽「ん? そっか、アレって事前に打ち合わせてたのか。出た単語に合わせて事前に決めていた解説を読み上げてたんだな?」

由暉子「そうみたいですね。二人は一言で繋がるぐらい深い絆があるものと思ってましたが」

爽「試合中は流石にアドリブ多めだろ、多分」

誓子「うっそ……」

揺杏「はい、打ち合わせしてましたー。夕食ゲットー」

爽「おい揺杏、賭けるなら私も入れろよ」

揺杏「そしたら取り分が減るだけなもんで」

誓子「あれ全部打ち合わせ済みって、どれだけ綿密に打ち合わせしてるのあの二人……」

爽「お前らの賭けはどうでもいいんだが、その綿密な打ち合わせからも漏れる異常事態……こりゃマズイかな?」

揺杏「いやー、流石に10万点あれば大丈夫っしょ?」

由暉子「10万点持ちを飛ばす……相手次第では出来そうな人が目の前に居るだけになんとも言えません」

爽「ちなみに、私の直感だとアウト。アレはヤバい」

揺杏「げっろ……」

誓子「な、なるか……大丈夫だよね?


久「……ここね。あとは任せたわよ」

照「……」

久「なんか言ってよ」

照「……決勝の相手だけど」

久「え?」

照「私が打ちやすい人を連れてくから」

久「え、ええ。良いわよ、あなたの好きなようにして」

照「じゃあ、行って来る」


バタン


久「打ちやすい相手を決勝に連れて行く、か……言われた方はたまったもんじゃないわね」

久「三年間努力して来て、決勝に行けるかどうかは照の気分次第」

久「……けど、あの子にはそれだけの力がある。それは私もそう思う」

久「先鋒で試合を終わらせて、なおかつ、連れて行く相手も選べる。インターハイの準決勝でも、ね」

久「けど、自分にそれが出来ると分かってるのに、私の評価は勘違いだって言い切るわけでしょ? 何を見せる気なの?」

久「……考えても仕方ないわね、見せてもらいましょう。 言っとくけど、大抵のことじゃ私の評価は揺らがないわよ?」



咲「お帰りなさい! お姉ちゃんってばやる気満々でしたね!」

久「そうね、決勝の相手は照が打ちやすい相手を連れてくって言ってたわよ」

咲「お姉ちゃんなら余裕ですね。楽しみだなあ……」

久「ええ、楽しみね」

和「その割に、部長は浮かない顔をしてますね?」

久「……応援団のみんなになんて言おうかなって思ってね」

まこ「確かに、先鋒で終わらせたら長野で応援してくれちょる連中に申し訳ないの……今日もあつまっとるんじゃろ?」

京太郎「あ、はい。今日も体育館で応援してくれてるそうで、100席用意したのが満席だって話です」

咲「あちゃ……でも、お姉ちゃんが本気出すなら先鋒で終わってもみんな大満足だと思うよ!」

優希「ぐぬぬ……私の雄姿を見せられないのが残念だじょ……」

まこ「優希は大将まで回っても出番ないじゃろ」


起家 怜「よろしくお願いします(起家……宮永が様子見するここで稼ぎたい。上手く行けばそのまますんなりトップになれる)」

南家 智葉「よろしくお願いします(相手が誰だろうと関係ない、私は自分の麻雀を打つだけだ)」

西家 成香「よ、よろしくお願いします……(全員なんかこわいです)」

北家 照「よろしくお願いします」


東一局


6巡目


怜(宮永さんも辻垣内さんも、東一局は大抵様子見するはず……有珠山は怖くない。てなわけで、ここは行かせてもらうで)


怜「リーチ!」


2234567m4赤56s567p ツモ:北 

打:北


智葉(ツモ切りリーチ……さて、本物かどうか、直に見せてもらおう)

打:発

成香(な、鳴けません……このままじゃ……)

打:1p

照「……」

打:発


怜(誰も動かず……ひとまず和了れたな)

怜「ツモ」

怜(手牌を倒してから、裏を確認。うわ……三枚乗ってるやん!? でも、動揺を見せずに、ここまで見えてましたよって顔で点数申告)

怜「リーチ・一発・ツモ・タンヤオ・平和・ドラ4。8000オール」


2234567m4赤56s567p ツモ:2m 裏ドラ:2m


怜(能力を解明されたくなかったら、予想外のことでも狙い通りですよって顔してハッタリかますのが基本やって小走さんが言っとったで)


智葉(……裏まで見えてるのか? この短期間に進化しているということになる、下手をすれば試合中にも……これは厄介だな)

成香(い、いきなり8000オールですか!? これが名門千里山のエース……こわ……ひっ!?)


照「……」ゴゴゴゴゴ


成香(い、今の何ですか!? 誰がやったんですか!? 怖いです……)

怜「……っと、宮永さんにはこれがあったな」

照(……ハッタリ、か。けど、こんなしたたかな人だったっけ?)

智葉(……今のは、なんだ? 園城寺の発言から察するに、宮永の仕業なのか?)


東一局 一本場


智葉(最後のアレが宮永の仕業で、園城寺も地区大会や二回戦より強くなっている……あまり様子見している余裕はないな)

怜(……宮永さんだけじゃなく、この人もセーラ達より格上やったっけ? 大抵の相手は小細工なしで行けるけど、この人には真正面から行ったら分が悪いやろな)

怜(と言っても使える駒は私自身と……あんまりサポートしたくない相手やな。けど仕方ないか。どうせこいつらがトップや、削らなアカンのは臨海、背に腹は代えられん)

怜(8000オールぐらいくれてやるって感じの余裕が怖いけど、私と勝負になるレベルじゃ、二人で組んでも宮永さんの相手は無理。上手く協力して清澄をここで仕留めようなんて考えは甘いやろな)


照(……地力はこの三人では一番上。自分の打ち方を貫くのは扱いやすいと言えば扱いやすいけど、あの二人を相手に自分勝手な動きをされると邪魔なだけ)

照(なにも出来ないのは論外だね。あの二人相手じゃ庇いきれない)

照(園城寺さんは理想的だけど、二回戦からここまでのたった二日で打ち方が変わっていて、イレギュラーになり得る)

照(……イレギュラーはむしろ望むところか。決まり)


智葉(リーチして出るような奴は本内だけか……とはいえ、こいつらがダマなら出すかと言われると……どうせツモるしかないなら――)

智葉「リーチ」


123456788m西西北北 ツモ:9m

打:8m


照「ポン」

ポン:888m 打:9m


怜(おいおい……なんであの萬子染めから8萬が出てきた直後に9萬が切れんねん? ありがたいんやけど……恐ろしいな、どこまで見えとるんやこの人)


9m2233446789s西西 ツモ:赤5s


怜(さて、この先の一巡、どうなる?)

****

怜「……」

打:9m


智葉「くっ……」

打:白


照「槓」


槓:白白白白 槓ドラ:9m


照「もいっこ、槓」


槓:中中中中 槓ドラ:西


打:東


怜「ツモ」


223344赤56789s西西 ツモ:1s


怜「面前ツモ・混一色・平和・一気通貫・ドラ3。8100オール」

****


怜「……は?」

怜(ツモれるのが分かったのはええけど……私がツモる前に槓してドラを増やす? どういうことや?)

照「……」

怜(これ、そういうことでええんか? なら、リーチしても同じことしてくれるか?)

怜(……わからんもんは確かめに行けってな。点数調整が狙いなのか、それとも……)



『リーチ』


爽「誰かを使ってリーチを止めるぐらいなら、自分でツモってリー棒いただき。エースってのはそうでないと」

揺杏「げっろ、親倍じゃ稼ぎ足りねーって? 名門ってのは欲張りだな」

誓子「な、なるか……」


『槓』


由暉子「……はい?」

爽「って、そういうことする? こりゃマジでヤバいかな」


『もいっこ、槓』


誓子「ちょ、ちょっと……それ、千里山にも臨海にもドラ増やして……」

揺杏「おいおい、爽、どうにかしろよ」

爽「無理。せめて指示が出せないと」

由暉子「な、なら前半が終わった休憩の時に……」


『もう一個、槓』


照「もう一個、槓」


暗槓:55赤5赤5p 槓ドラ:5p


怜(……は? なんやそれ? さっきはそんなんしいひんかったやろあんた!?) 

照「……」タン

打:東


怜(リーチをかけなきゃしなかったはずの三回目の槓で、槓ドラモロ乗り……けど、ツモは変わっとらん。見えた通りならここで私がツモるはず)


223344赤56789s西西 ツモ:1s


怜「ツモ」

怜(……流石に、見えた牌が変わるなんてことはないか。だとすると、あの槓は……そういうことやろな。三枚目の槓裏表示牌は……1索か)クルン


ドラ:1m 9m 西 5p

裏ドラ:7p 4m 中 2s


怜「リーチ・ツモ・混一色・平和・一気通貫・ドラ5。16100オール」

怜(リーチしたなら裏が私に乗る。そのための槓……私がリーチせんかったら槓しても意味がないから、リーチせん未来ではあの槓はなかった)

怜(つまり、私を押し上げる気っちゅうことやろ? その意図は……?)チラッ

照「……」

怜(何考えてるかわからん……自分で考えるしかないか)


京太郎「相変わらず無茶苦茶しますね……」

和「一局目は照魔鏡のために捨てているので、実質これが一局目。初っ端から役満とは……」

優希「連続和了は打点を上げなきゃいけないから自分が和了ると役満で打ち切りになるけど、他家にだったら何度でも和了らせられるじぇ」

まこ「本気出すにしても限度があるじゃろ……リーチした時点ではあの河は辻垣内が一発で上がる顔じゃったのに、無茶苦茶じゃ」

久「……」

咲「……え?」

優希「そして、決勝に連れてく相手は千里山ってことだな! 他の二校をギリギリまで削って千里山29万、うちが11万みたいな点数にする気に違いないじぇ!」

咲「あ、そうか、千里山を勝たせるために……けど、もう親倍をツモってるのに……」

京太郎「自分で20万稼ぐのもおかしいけど、他人に20万稼がせるってどういうことだよ……」

まこ「部長とか咲でも、他人を勝たせるなんてのはそうそう出来んからの。照さんがどれだけ化け物か良くわかるわい」

和「まったくもって非常識です。信じられません」


東一局 四本場


怜「……」ポチ


臨海   42400
清澄   43400
有珠山  43400
千里山 270800


怜「ツモ」


999s234m4567899p ツモ:9p

ドラ: 9p 北 中

裏ドラ: 9s 9s 9s


怜「リーチ・ツモ・ドラ12。16400オール」


智葉「くそっ……こんなことが……」

成香「こ、これが、千里山の……こわいです」

照「……ごめんね」

怜「……ええよ、弱いのが悪いんやから」

照「……」


成香「た、確かに私は園城寺さんと比べたら弱いですけど……そんな言い方……それに、全国二位の辻垣内さんにそれを言ったら、全国の皆さんが……」

智葉「……違うぞ本内。それは違う」

怜「……辻垣内さん」

智葉「園城寺と私の間に大差はない。むしろ、私の方が強い」

怜「……そらそうや、こないだまで三軍だった奴がこんな短期間で全国二位に勝てたら苦労せんわ」

成香「……え? で、でも……?」

怜「……弱いのは、私や」

智葉「……」

怜「こんなん気に食わんのに、止めたいのに……抗うことが出来ん。その上、これで決勝に行けるならそれでええって、誘惑にも負けた」

智葉「お前は悪くない。むしろ、この状況ならそれが正しい。それで負けが決まる私が止めるべきであって、それで勝てるお前が止める道理はない」

怜「……堪忍な、辻垣内さん」

智葉「……まだ終わったわけじゃない。むしろ、横並びのこの状況は宮永を蹴落とす最大のチャンスだ。全国二位は飾りじゃない」



照「……」


まこ「ちょうどプラマイゼロになるあたりでどこかが飛ぶ点数じゃのう」

優希「全国の準決勝でここまで一方的な展開に出来るって異常だじょ……」

和「全ては照さんの掌の上……あの場には昨年の個人戦で全国二位の辻垣内智葉がいるというのに……」

京太郎「全国二位ですら、照さん相手じゃ何もできないのか……そりゃ、部長や咲が強い強いって褒めちぎるわけだ」


咲「……違う」

久「そうよ。あの子があの程度のはずないでしょう」


まこ「……は?」

和「あ、あの程度って……あれ以上のなにがあるって言うんですか!? ここまで、様子見の一局を除いて全て役満なんですよ!?」

優希「そうだじょ!! いくらなんでも贔屓が過ぎるじぇ!!」

京太郎「……けど、咲の様子からして、冗談言ってるわけじゃなさそうだぜ?」

まこ「そうは言ってもな……おい久、なにが不満なんじゃ?」

久「あの卓のトップは誰よ? 照が本気で打ってるなら、照以外がトップになれるはずないでしょ」

咲「あれじゃいつもとおんなじだよ……あんなの、お姉ちゃんの全力のはずがない……」


『ツモ、1000・1500』
 


東二局


怜(親は安く流れた……まあ、この点数状況なら役満の親かぶりでも何の問題もあらへんけど)

智葉(聴牌気配? 馬鹿な、早すぎる……そして、園城寺と私はともかく、本内が止められるとは思えん。これは不味いぞ……)


照「ロン、2600」


成香「はうっ!? は、はい……」


成香(こわすぎます……さっきのお話からして、臨海の怖い人や千里山の怖い人より、このひとの方がずっと……)


まこ「……照さんには、あれより上があるとでも?」

久「……いえ、全力っていうのは本当でしょうね。もしあの子が嘘をついてたら私にはわかる」

咲「絶対にあり得ません!! お姉ちゃんの本気っていうのはあんなのじゃ……プラマイゼロなんかじゃない!!」

和「さ、咲さん、落ち着いて下さい!」


咲「落ち着いてられるわけないでしょ!!!!!」


優希「ひっ!?」ビクッ

京太郎「それでも落ち着け。悪いけど、俺らにはなんでお前が取り乱してるのかすらわかんねえ」

咲「……」


東三局


照「槓」


暗槓:白白白白

打:5s


怜(……60符と1翻は確定。一見高そうやけど、小走さん情報ではこの人は打点上昇の制約がある。だからおそらくまだ安い。無駄かもしれんけど、足掻けるだけ足掻く)


打:7s


智葉(……槓の直後だが、7索が通った。奴は自分で1索を切っている、4索は筋……ここは勝負すべきだ。私はこの打ち方で全国二位まで上り詰めた、ここは戦う)


233345677m4s発発発 ツモ:7m

打:4s


智葉「リーチ」


照「……それ、槓」

智葉「なっ!? 大明槓!?」


照「ツモ」


2346799p 暗槓:白白白白 明槓:4444s ツモ:8p


照「嶺上開花・白。大明槓の責任払い、70符2翻の直撃は4500。あと、リーチは成立してるからリー棒ももらう」

智葉「……まさか、狙ったのか? リー棒と、直撃を?」

照「……」


和「……リー棒が出ても苦にしない、いえ、これはむしろ……」

久「ここから親番。満貫、跳満、三倍満で、リー棒が入ってピッタリ105500になって終わるわね。狙い通りってところかしら?」


咲「……」


久「咲、落ち着いた?」

咲「はい……でも……」

久「認めましょう。これが現実なの。あの子は……」

咲「やめてください! 聞きたくないです!!」

久「今の照は、『プラマイゼロに出来る』だけじゃない……その代償として、『プラマイゼロにしか出来ない』のよ」 

咲「聞きたくない!! 聞きたくないよそんなの!!」

京太郎「おい、咲、落ち着け!! なんでそんなに嫌がるんだよ!?」

咲「そんなのっ!!! だって……それは……」


東四局


智葉(大明槓の責任払い……どこからでも和了って来る、一見安牌のように思えても信用できない)

怜(この状況はまずすぎる。竜華すら蹴散らした妹と同等の連続和了……それでピッタリプラマイゼロにしながら……)


照「ツモ。4000オール」ギュルギュル


345s34赤5p2345678m ツモ:2m


怜「三巡で満貫……」

智葉「この化け物が……荒川が可愛く見えてくるな」

成香「うう……点棒がもう全然ないです……」


京太郎「で、どうしたっていうんだよ? 話してくれ」

咲「……私、お姉ちゃんは、本気で麻雀が嫌いになっちゃったんだと思ってたんだ。ずっと……」

久「……」

京太郎「それ、今の話と関係あるのか?」

久「あるはずよ。続けて、咲」


東四局 一本場


怜(おそらく聴牌してるはずやけど、せめて、せめて一矢報いたい……通ってくれ!)

打:1m


智葉「……」

打:8m


成香「こ、この巡目で聴牌とかないですよね……?」

打:4m


照「ツモ。6100オール」ギュルンギュルン


2223456777m発発発 ツモ:赤5m


智葉(園城寺は見逃された……? くそっ、どこまで舐めた真似をする気だ!)

怜(……ここからプラマイゼロにするには次で三倍満、ツモか私以外に直撃が条件や。せやから、私は全力で前に出る)

成香「このままじゃ……私のせいで試合が終わっちゃいます……なんとか、なんとかしないと……」


咲「私は、お姉ちゃんは麻雀が嫌いになったと思ってた。けど、最近のお姉ちゃんは、誘わなきゃ打たないけど誘って断ることはなかった」

久「そうね。むしろ、打ってる時は誘えってオーラを出しながらこっち見てたもの。麻雀嫌いとかどの口がって感じよね」

咲「だから、お姉ちゃん、また麻雀を好きになってくれたんだと思ってたんです。でも、意地っ張りだから……」

和「……以前は、咲さんの入部を取り消させようとするほどの麻雀嫌いでしたからね」


咲「違うの……お姉ちゃん、麻雀を嫌いになんてなったことなかったんだよ……そうじゃないと説明できない……」


久「……順を追って話ましょう。照が麻雀を好きになってくれたと思って、その先は?」

咲「プラマイゼロは、拒絶のためにやってることのはずなんです。だったら、麻雀をまた好きになったのにプラマイゼロを続けるの、おかしいですよね?」

京太郎「……確かに。拒絶する気がないなら、普通に打ってもいいわけだよな」

まこ「たしかにのう……わしらは初めて会った時からあれじゃから違和感がないが、咲にとってはそうじゃないわけか」

和「しかし、照さんのあの性格ですから、それは別に不思議なことではないような……」

咲「うん。私も、お姉ちゃん意地っ張りだから素直になれないだけだって、不器用でいまさら引っ込みつかないから続けてるだけだって、そう思ってた……でも……」

優希「本気で打つって宣言した今回も、プラマイゼロにしようとしてるじょ……」

咲「本気で打つって宣言したんだから、プラマイゼロをやめるチャンスなんだから、プラマイゼロにするはずがない……なのに、それなのに……」

久「本気で打つと宣言しても、プラマイゼロをやめない。その理由は……一つよね?」

まこ「照さんのプラマイゼロは、狙ってやっとるもんじゃなく、どうやってもなってしまうものっちゅうことなんか?」

京太郎「……けど、なんでそれを隠してたんですか? それが分かってれば、咲や部長の過大評価もすぐ止んだでしょ?」

咲「私のためだよ。私には、お姉ちゃんはプラマイゼロ以外の結果にすることも出来ると思わせなきゃいけなかった」


東四局 二本場


怜(私だけは、たとえアタリ牌を切っても直撃されん。自分が和了れなくても、せめて盾になって辻垣内さんや本内さんの切りたい牌を通すんや!)

智葉(ありがたい……しかし、この巡目で危険牌かどうかを考慮しなければいけないという時点で……)

成香(ま、まずいです……この人を止めないと、チカちゃん達に回せないまま試合が終わっちゃいます)


照「槓」


暗槓:発発発発


怜「あ……」

智葉「くっ……」


照「ツモ」


123456789s北 暗槓:発発発発 ツモ:北 

ドラ:4m 発


照「面前ツモ・混一色・嶺上開花・発・一気通貫・ドラ4。12200オール」


智葉「……くそっ!!」

成香「あ、あわわ……点棒が、もう1100点しか……」

怜「……終わりやな。お疲れ様でした」

成香「え?」

智葉「……トビだ。私のな」


京太郎「咲に気付かせないため? なんでだ?」

久「……それは、言わせないであげて」

和「部長、分かるんですか?」

咲「……私がそれに気付いたら、私は自分を責めるから」

久「言わなくていいわ」

咲「いえ、言います……お姉ちゃんがプラマイゼロを始めたのは、私が始めたからなの……だから、私があんな打ち方しなければ、お姉ちゃんは普通に打てたはず」

京太郎「……それって」


咲「お姉ちゃんがプラマイゼロしか出来なくなったのは、私のせい」


久「咲、あなたのせいじゃない。それに、あなたが傷つくことを照は望んでないわ。だから、今まで隠してたんだから」

咲「分かってます。けど……やっぱり、私がプラマイゼロなんかしなければ、お姉ちゃんは、普通に打って、勝ててるはずで……」

和「プラマイゼロが自分の意志でなく呪いのようなものであることを咲さんに悟らせないように、麻雀が嫌いなフリをしていたということですか?」

京太郎「麻雀が嫌いだから本当は打ちたくない、仕方なく打ってるだけだからプラマイゼロにしてるんだって、咲に思わせておくためか……」

咲「……本当は麻雀が好きだから、しつこく誘ってくれる部長はありがたかったはずです。私には『しつこく付きまとわれてる』って説明できるから。それも、探しても滅多にいない、お姉ちゃんとまともに勝負できる人」

久「でしょうね。本当に麻雀が嫌いだったら100回も付き合ってくれるわけないもの」

まこ「おんし、わかっとったんか?」

久「私、本気で嫌がってる人間を100回も誘うほど自分勝手じゃないわよ? 照も咲も『本当は打ちたいんです』ってオーラ全開だったわ」

咲「麻雀を打っても必ずプラマイゼロになるのは、麻雀が嫌いだから拒絶してるだけって、そう言ってたけど、それは私に気付かせないためでしかなくて……本当は、お姉ちゃんはずっと麻雀が大好きで……」


『と、とんでもないことになりました』

『東風!!』プンスコ

『まさか、こんなことが起こり得るのでしょうか!? 先鋒戦前半、東場の終了を待たずして、準決勝第二試合が決着してしまいました!!』

『ルール変更!!』プンスコ

『そうですね……このような事態が起きるなら、やはり、各半荘25000点持ちでのポイント制を採用した方が……とはいえ、今からそれは出来ません』

『放送事故……』ジワ

『……流石にここから予定の時間まで解説と実況だけでどうにかするとか絶対ないから大丈夫です』

『本当?』グスッ

『局の方で代わりの番組を用意するまでは頑張ってくださいね?』

『が、頑張る!』プンスコ


咏「いやー、よりによってノヨリさんと村吉さんのコンビの時にこれやらかしてくれたかー」

えり「なんなんですかこれ……おかしいでしょう」

咏「今更だねぃ。昨日何を見たのか思い出してごらんって」

えり「確かにおかしいことだらけでしたが、昨日は大将戦まで勝負が続いたじゃないですか!?」

咏「あの四校だからかろうじてバランスが取れて試合が続いたんだよ。均衡が取れなきゃ一瞬で終わる」

えり「そんなこと言われても……」

咏「言っただろ? 松実さんも個人戦の二桁順位じゃ相手にならないほどの化け物、全国トップクラスの選手だって。それでもあの相手じゃ10万差がつくんだよ」

えり「し、しかし、それはチャンピオンと神代さんだからであって……」

咏「おいおい、その目は節穴かいアナウンサー? よく見ろって、あれはそれと同レベルの化け物。下手するともっと上」

えり「……結果を見れば同意せざるを得ませんが、しかし……」

咏「しかし、先鋒前半で終わったかー。大将まで見るつもりだったから、ほとんど丸一日予定が空いちゃったねー」

えり「……そうですね。予定が空いたなら、オフの日にいつまでもお邪魔するのも悪いですし、私はこのあたりで……」スクッ

咏「うん、じゃあ私は一人でゆっくりとオフを満喫……って、アホか――!!」ゲシッ

えり「うわわっ!?」ドテン

咏「私はこれから二人でどこ行こうかって話をしてんの! なに帰ろうとしてくれてんのさ!?」プンプン

えり「それは失礼しました。けど、転ばせなくてもいいじゃないですか」ジト

咏「う……それはその……ごめん」


久「咲、私ね、合宿の時マホちゃんに聞いたの。あの子の能力」

咲「……プラマイゼロ、ですよね? 点数調整じゃない方の」

久「そこまで分かってたのね」

咲「……お姉ちゃんのこと、一番知ってるのは私ですから」

まこ「どういうことじゃ? ついて行けんぞ?」


久「マホちゃんが照魔鏡をコピーしたところまでは、あなた達も居たわよね? 今から話すのは、あの後のことよ」

今回はここまでです。次回も一週間後の水曜日に。


~~回想~~


マホ「これは……マホ、驚きです!」


久「ちょーっと待った!! ストップストップ!!」ガバッ

マホ「むぐぐっ!? プハッ、なにするんですか!? 苦しいです!!」

久「照と咲の能力を大公開されたらたまらないわよ! 特に咲はまだ一年生なんだから、来年も再来年もあるのよ!?」

まこ「照さんの照魔鏡でうちだけが相手の能力を知ってるのはええんかのう?」

靖子「どうかとは思うが……部内の研究で他校の選手の能力を知るのと部外者が大公開するのは流石に話が別だからな」

優希「部長、マホは忘れっぽいからあんまり激しくすると今見たものを忘れるじぇ」

和「……マホ、今見たもの覚えてますか? 忘れてもいいんですよ?」

マホ「優希先輩も和先輩もマホをなんだと思ってるんですかー!? ちゃんと覚えてますー!!」

久「……ちっ、忘れてればいいものを」

照「……別に、咲はバラされても困ることなんか何もないと思うけど」

咲「お姉ちゃん、それは酷くない?」

照「なにか困ることでもあるの?」

咲「たしかに何も無いけど……」

久「とにかく、その話はここで話されちゃ困るわ! ついてきて!!」

マホ「ちょっ!? まだ対局中ですー!!」

久「この子借りるわよー!」

咲「あ、はい」

照「……いいのかな?」

衣「衣はお預けを喰らうのが嫌いなんだが……」

久「ごめんねー!」


【別室】


久「で、照の能力の何が驚きなの?」

マホ「へ? 照さんですか? まあ、確かにすごいと言えばすごいですけど……マホが驚いたのは咲先輩の方ですよ?」

久「え?」

マホ「咲先輩、オカルトっぽい能力を何も使ってないんですよ!! それであの強さとか憧れちゃいます!!」

久「……は?」

マホ「連続和了も、プラマイゼロも、嶺上開花も、全部実力なんですよ! 能力じゃなくて!! これはマホも驚きです!!」

久「……実力ってなんだったかしら? もはや哲学だわ……」

マホ「部長さんがそれを言うんですか? じゃあ、部長さんのあの異常な和了率はなんですか?」

久「……基本は正確な読み、そこから山に残ってる牌を推測して和了率重視で最大の牌効率で打ちつつ、大事なところは勘頼みね」

マホ「どこまで実力ですか?」

久「……全部実力と言えなくもないわね。結果がついてくるだけの運も含めて、これだけ安定してれば、もはや実力と言えるわ。私自身、ある程度は確信を持ってるし」

マホ「ですよね! 咲先輩のもそういうことです!!」

久「……私が相手のアタリ牌を察知するのと同じような感覚で嶺上牌を把握して、豪運で槓材を集めて、ただ和了るのと同じような感覚で打点を上げながら連続和了して、何事もなくプラマイゼロにしてみせる……まあ、照の妹だし、出来てもいいわね」

マホ「ですです! 咲先輩すごいです!!」

久「正確な読み、理外の豪運、異常なほどのオカルトへの対処の早さ……運もあれだけ安定していれば実力と言えるし、なるほど……実力か」

マホ「……それにしても、照さんですか? マホ的には微妙なんですが」

久「そういうセリフはあの子のプラマイゼロを破ってから言いなさいよ」

マホ「むー、そりゃ、あれは多分破れませんけど……けど、能力はどう考えても微妙ですよ」

久「……てゆうか、微妙? 照魔鏡とか、連続和了とか、プラマイゼロとか、どれも酷いチートだと思うんだけど」


マホ「えー? だって、メリットとデメリットが釣り合うようにすれば色んな能力が使える力って、結局メリットなくないですか? マホ的には微妙ですー」


久「……は?」


~~回想終了~~



久「最初に聞いたときの感想は『何言ってるのこの子?』よ。咲の方も驚きだったけど、照の方は理解に苦しんだわ」

まこ「……待て、いろいろおかしいじゃろ?」

久「まあ、私も聞いたときはおかしいと思ったからその辺はちゃんと答えるわよ。何から説明してほしい?」 


優希「まず、咲ちゃんのあれやこれが実力……読みとか純粋な運だったとして、マホはなんでそれをコピーできたんだじぇ?」

久「え? そっち? ……ごめん、それはわかんないわ。咲、お願い」

咲「……あの子、妹尾さんの豪運をコピーしてたよね? それ以上の説明が要るかな?」

和「……今更ながら、マホも大概ですね」

咲「こういう風に打ちたいって思ったらそういう結果が起こせるって感じだね。同じ結果を引き起こしてはいるけど、マホちゃんのは過程が別物」

久「コピーは、それを作るまでの過程はコピーしないってことね」

京太郎「高遠原中学は一体どうなってるんだ……」


まこ「じゃあ次じゃ、照さんの能力、おかしいじゃろ?」

咲「何かおかしいところありました?」

京太郎「いやいや、明らかにメリットとデメリットが釣り合ってないだろうが!?」

咲「そうかな?」

和「一局捨てるだけで相手の能力を全て見抜く照魔鏡、打点の制約はあるものの和了りを望む限り役満までほぼ絶対の和了が確定している連続和了、明らかにメリットの方が……」


久「はい、ここで問題。あの子が相手の能力を見抜くのに一局捨てる必要、あるのかしら?」


まこ「……は?」

咲「私やお姉ちゃんが相手の能力を見抜くために一局捨てる必要、あると思いますか?」

京太郎「……言われてみれば、ないな?」

優希「いっつもその局のうちに能力を大公開してるじぇ」

和「咲さんは実際にその局のうちに対応して和了ったりしますからね」

咲「より深く正確に見抜くメリット、その代償が一局。お姉ちゃんの素の実力を考慮すれば、釣り合ってる」


優希「じゃあ、連続和了は……?」

咲「下手すればデメリットの方が大きいんじゃないかな? 素の実力だけでも部長より強い……さっきは園城寺さんに連続で役満を和了らせてたけど、お姉ちゃんがその気になればそれを自分に使って役満和了り放題なんだよ?」

久「あの子なら、役満和了ったらそこで連荘が止まるっていうデメリットの方が大きいわね。逆にデメリットが大きすぎて釣り合ってないんじゃない?」

和「そんな馬鹿な話が……ありますね。照さんですし」

京太郎「あっさり非常識派に寝返った!?」

まこ「落ち着け京太郎、和は元々あっち側じゃけえ、当てにしちょらん」

咲「一人コンボとかも、お姉ちゃんなら行けると思うんだ。お姉ちゃんの和了率を考慮したら、和了れなかった場合に対応する局も和了れないデメリットで十分釣り合う」

和「……和了れないとしても親番の5本場とかなので、事実上デメリット皆無ですね」

京太郎「……けど、それは無理って言ってなかったか?」

咲「多分、打点が上がりすぎてプラマイゼロが出来なくなるのと、連続和了との兼ね合いだね。その制約が外れればお姉ちゃんなら出来ると思うよ」

優希「ま、待つんだじょ!! 一番大事なものが説明されてないじぇ!」

久「そうね。私も、今の今まで納得できてなかった。けど、釣り合ってるわね。いえ、デメリットが大きすぎて釣り合ってないぐらいよ」


咲「プラマイゼロ、ですね?」

和「プラマイゼロを狙う限り卓上のすべての牌を思うままに操作するような非常識な力に釣り合うデメリット、ちょっと考えつきませんが……」

咲「十分すぎるデメリットがあるよ。部長も言ったけど、これもデメリットの方が大きいんじゃないかな?」

和「何を言ってるんですか? 誰が打ってもプラマイゼロに……それこそ、咲さんと部長と天江さんが卓を囲んでもプラマイゼロになるんですよ?」

咲「……京ちゃん三人に囲まれてもプラマイゼロにしかならないけどね」

優希「……あ、もしかして、そういうことか?」

京太郎「その例に使われるのはいささか不満だが、そういうことか」

久「あの子が本気で打ったなら、最初の親番でトビ終了にならないとおかしいぐらいの実力差がある相手でもプラマイゼロにしかならない。大きなトップが欲しい局面でもプラマイゼロにしか出来ない」

和「それは……」

咲「メリットとデメリットをプラマイゼロにすればどんな能力でも使える力。その究極」

久「あまりにも本来の能力との相性が良すぎたのね。だからオフに出来ない」

咲「……はい。気付くべきでした。連続和了ですらオフに出来ないのに、それより相性がいいプラマイゼロがオフに出来ない可能性に」

久「メリットは、プラマイゼロに出来ること。デメリットは、プラマイゼロにしかならないこと。メリットとデメリットがともにプラマイゼロを強いてくる」

咲「だから、誰にも破れない。お母さんが本気を出しても、プロを連れてきても……どうやっても破れなかった、破れないはずだった」

久「事実、私が破ろうとして100回挑んでも破れなかった。私と咲が知る限り、たった一度を除いて誰にも破られてないわけね」

咲「そのたった一度が、目の前で起きましたけどね」チラッ

京太郎「それって……?」チラッ


和「……え?」キョトン


咲「油断はあったと思う。私がどれだけ本気かも量り損ねてたと思う。その結果がマイナス16000スタート、プラマイゼロのために21000点を稼がなきゃならない状況」

久「自惚れかもしれないけど、あの子の注意は私に向いていたはずで、和はノーマークに近かったと思うわ」

咲「けど、それでも、絶対に出来ないはずだったことをやって見せた。冗談だって言ってたけど、デジタルの神様がついてるっていうのもお姉ちゃんは本気でそう思ってるんじゃないかな?」

和「え、えっと……? も、もしかして私、とんでもないことをしてたんですか?」

咲「荒川さんがカンチャンをツモれない方がまだあり得ると思うよ」

久「100万点持ちを半荘一回で飛ばす方が簡単よね」


ガチャ


照「……ただいま」


久「えっ、照!? どうして……」

まこ「だ、誰も迎えにいっちょらんのに、なんで……」

照「……それ、堂々と言うことじゃないよね? 迎えに来てないって、大分酷いこと言ってるよね?」

和「し、しかし、照さんが自力で控室に戻ってくるなどありえません……一体何が……」

照「ちょっと本気を出せば楽勝。分かれ道が200回しかないんだから、200回正しい選択肢を選べばいいだけ」

久「覚えてる限りだと、対局室までの道で一本道じゃない場所は10箇所前後だったと思うのだけど、なんで200回も分岐があるのかしら?」

照「……散歩がしたい気分だった。迷ったわけではない」


咲(やっぱり迷ったんだね)

京太郎(迷ったけど豪運でむりやり修正して戻って来たのか)

和(出鱈目に道を選んで目的地にたどり着く確率がどれだけ低いと思ってるんですか、非常識な……)


照「で、竹井さん」

久「なにかしら?」

照「見てたと思うけど、これが私の全力……咲には隠しておきたかったけど」

咲「……神代さんや荒川さん相手に打ったら、どうせバレるってことかな?」


照(……あれ? 咲のリアクションが予想と違う……もしかして、私、思ったより咲から慕われてない?)ガーン

照「」ドヨーン


久「咲、試合中みたいなリアクションしてあげて。あなたの反応が薄くて落ち込んでるわこの子」

咲「嫌です。恥ずかしいです」


照(あ、そうか、咲なら試合中に気付くよね。竹井さんが慰めてくれた後なのか)ホッ


久「……ただバラしただけじゃないでしょ? 今それを私たちに教えたことには意味がある」

照「……うん、その通り。これは私にはどうにもできない、だから、あなたに頼りたい」

咲「どういうこと? 私じゃなくて部長なの? 私じゃダメなの?」

照「……実力的には、メンバーから咲が外れることはないと思う。けど、人選は竹井さんに任せる」

久「……そういうことか。ちなみに、私の中のあなたの評価は変わってないわよ」

照「正直、あれぐらいであなたが私の評価を変えるとは思ってない」

久「思わせぶりなこと言っといてこの子は……それはいいんだけど、本当に私でいいの? 100回やってダメだった奴に任せようって、正気?」

照「……あなたなら出来るって、信じてる」

久「……」

照「じゃあ、準備が出来たら呼んで」


バタン


和「どういうことですか? 話について行けませんでした、説明を求めます」

咲「……部長に何かさせたい、私がメンバーから外れることはないっていうなら、やらせたいことっていうのは麻雀ですよね?」

まこ「しかし、麻雀で何をさせる気なんじゃ?」

久「やらせたいことは分かるでしょ? お姫様にかけられた呪いを解くのよ」

京太郎「プラマイゼロの呪い、ですね?」

咲「……それだと、私が呪いをかけた魔女になるんですけど」

久「文句言わないの。あんたにも責任とってもらうわよ」

咲「言われなくてもやります。それで、何をすればいいんですか?」


久「何をするか、ね。簡単よ。あの子のプラマイゼロを破る、それだけ」


優希「なるほど、プラマイゼロを破れば呪いが……って、確かのどちゃんがもう破ってるはずだじょ?」

和「そ、そうですよ! あの時は役満をツモってトップを取っていたじゃないですか!?」

久「……そう。それが、プラマイゼロを破ればプラマイゼロの呪いが解けると考えた根拠」

久「あの時は、ただ和了ってプラマイゼロの呪縛を解くだけじゃつまらないから、久しぶりに思いっきりトップを取ろうって感じだったんじゃないかしら?」

咲「……そうか、大星さんの天和みたいに『破られたら必殺技で返す』みたいな感じだと思ってたけど……プラマイゼロが呪いだっていうならそういうことになるよね」

久「……あなたが靖子にやったのは、狙ってやったのよね?」

咲「えっと……ごめんなさい」

久「話を戻すけど、あの時、プラマイゼロを破って呪縛が一時的に解けた。役満はそれで思いっきり力を振るった結果ね」

咲「……あれがなければ、個人戦の辺りで気づけたと思うんですけどね。あそこまでプラマイゼロに固執するって、不自然すぎますから」

久「そうね。私も騙されてたわ。あの子の本気は、あの時の最後の一巡、あれが自在に出来るのだと思ってた。いえ、本当の本気はアレなのよね」


和「で、でも、プラマイゼロを破ってもダメなんじゃないですか!? 現に照さんは今もプラマイゼロにしか出来ないんですよね!?」

久「……照が言ってたこと、覚えてる?」

京太郎「なんか言ってましたっけ?」


久「『リー棒は小細工』『真正面から破るというのは、最後に和了ってプラマイゼロを崩すということ』」


和「……まさか、あれは負け惜しみではなく、呪縛を解くためにそれを実行してほしいというメッセージだったと?」

久「ほんっと、めんどくさいアピールの仕方するわよね」

咲「つまり、これからやるのは……」

久「小細工で破っても、一日程度しか効果が持たない。なら、真正面からぶち破って、呪いを完全に解く!」

まこ「……10万点持ちのインハイの準決勝を、東風で終わらす化け物相手に、か?」

京太郎「となると、面子が重要ですね。俺なんかが入るわきゃないとして、咲と部長と、あと一人」

和「そうですね、悔しいですが、私では……」



バーン!


透華「宮永照!! あなたという人は、どれだけ目立てば気が済みますの!?」ガー

衣「あんなものを見せられては大人しくしているなど無理だな、気が高ぶって仕方ない。責任を取って相手をしてもらうぞ、嫌とは言わせん」ゴゴゴゴゴ

咲「え? えっと……?」

純「ノックぐらいしろよ……わりいな、邪魔するぜ」

優希「ノッポ……てことは龍門渕と、鶴賀も居るじょ?」

一「それにしても、先鋒で終わらせるなんて竹井さんってば随分楽するじゃない? おかげで丸一日予定が空いちゃったよ」

智紀「酷い指示もあったもの。竹井さん、どういうつもり?」

久「え、えっと……ちょっと待ってね、頭が切り替わってないの」

ゆみ「臨海は危険だし、有珠山は手の内が読めない上に中堅までの力不足でトビの危険もある。決勝の相手としては千里山が理想的、そういうことだろう」

睦月「うむ」

智美「ワハハ、そのつもりなら臨海が暴れられないように先鋒のてるりんで決めるのが一番リスクが少ないからなー」

星夏「しかし、まさかあんなことが出来るなんて……全国二位の辻垣内智葉が相手だったんですよ?」

純代「……」

佳織「す、すごかったです……」

モモ「……あれ? 風越の部長さんはどこっすか? さっきまで居たっすよね?」

ゆみ「この人数で固まって行動するわけがないからな、確実に発生するであろう『部屋でゴロゴロして過ごす組』のための買い出しだ」


【インハイ会場の売店】


照「……かっこよく出て来たのはいいけど、道に迷った」

照「……そもそも、準備が出来たら呼んでとか言ってしまったせいで、今回は目的地自体が存在しない。迷うのも必然」

照「……竹井さん、準備が出来たら迎えに来てくれるかなあ?」


?「あら? み、宮永さん?」


照「む、この声は……福路さん?」クルッ

美穂子「ど、どうしたんですかこんなところで?」

照「……この後の用事まで、時間を潰してる。福路さんは?」

美穂子「わ、私は買い出しで……って、用事ですか? インハイの試合当日に?」

照「うん」

美穂子(そのために先鋒戦で試合を? いえ、時間を潰しているということは、先鋒戦が終わるぐらいの時間に予定を組んでいたのかしら?)

照(って、まずい……助けを求めないといけないのに、口が勝手に強がりを……)

美穂子「な、なら、インハイ当日に入れるぐらいの大事な用事の前にお邪魔するのも申し訳ないですし、私はこれで……」


照「ま、待って!!」ガシッ

美穂子「え? み、宮永さん?」ビクッ

照「た、助けて……」ウルッ

美穂子(助ける……? まさか、宮永さんは脅されてる? 今日の試合も、そのせいで……? いえ、もしかして、いつもプラマイゼロにしているのも……)

照「私、このままじゃ竹井さんに……(呼ばれても会いに行けない)」ウルウル

美穂子「……(久? 久が宮永さんの弱みを握っているの? なら、今日の試合も、長野の決勝も?)」

照「お願い、助けて……」グスン


美穂子(……となると、全ては久が……そんなはずは……けど、宮永さんが嘘をついている様子もないし……)

美穂子(久、一体何を考えているの? あなたの目的は何? 二年間も大会から遠ざかり、今年になって急に現れたのと関係があるの?)

美穂子(私に近づいたのも、何か目的があってのことなんですか? 四校合同合宿も?)

美穂子(そういえば、藤田プロはあの若さで麻雀協会の理事でもある……久は藤田プロと親しげにしていた。何か、大きな意思が動いている?)

美穂子(あれだけの面子が清澄に集まったのも異常と言えば異常……特に、原村さんの進学先はご両親の意向が働いた結果だったと聞く)

美穂子(原村さんのご両親は法曹、その実家も権力に近い、かなりの家柄だったはず……間違いない、何か大きな力が働いている)

美穂子(久、あなたたちの目的は、一万人の高校生が頂を目指すインターハイすら踏み台にするの? さっきの準決勝のように……)

美穂子(許せない……何が目的かは知らないけど、私たちの、華菜や文堂さんたちの想いを踏みにじるなんて)ゴゴゴ


照「(へ、返事がない……? 私、嫌われてる?)あ、あの、福路さん……?」

美穂子「宮永さん、私は、あなたに味方します」ニコッ

照「あ、ありがとう!(なんか様子が変だけど……まあいっか!)」

美穂子(久、あなたの思い通りにはさせません……私は、私たちはあなたの駒じゃない!!)

照(これで竹井さんのところに行ける。助かった)ホッ



久「……照は美穂子が保護したみたい。なんかすごく棘のある口調だったのが気になるけど」

ゆみ「美穂子が久に対して棘のある口調? おいおい、冗談だろう?」

久「私、悪意には敏感なの」

星夏「と言われても、キャプテンが他人に厳しく当たるなんて見たことないですよ? 何かの間違いでは?」

久「だといいんだけどねえ……まあ、照が見つからなくて打つことすら出来ないっていう最悪の展開は避けたわけだし、多少の問題は後回しにしましょう」

まこ「それは多少なんかのう……あの人が他人に辛く当たるってのは相当だと思うんじゃが」

衣「しかし、事情も分からんのでは手の打ちようもない、話題を変えよう……確認するが、今日の試合でやったことは、ヒサの指示ではないのだな?」

久「ええ、照の判断でやったことよ。 『本気で打つ、私一人で終わらせる』と事前に連絡は受けていたけど」

透華「プラマイゼロの呪縛……自分がそれに囚われていると伝えるためですか」

純「で、それを受けて呪縛を破る面子を選んでるところに俺らが来たと?」

智紀「……私たちというより、衣と佳織。なんというご都合主義」

京太郎「と言っても、都内に宿を取ってるわけだから呼ぶのは簡単ですけどね。予定もないはずですし」

智美「まあ、清澄の試合を観戦するために来てるんだから、早く終わったら予定は空くに決まってるなー」ワハハ

ゆみ「だが、話を聞く限り、大抵の人間では戦力にならないだろう」

モモ「照さんのプラマイゼロを破るなんて無理難題のプロジェクトチームには、うちからはかおりん先輩しか出せないっすね」

佳織「わ、私ですか!? わたしなんてそんな……」

咲「……協力してくれるかな?」

衣「衣は構わんぞ。なにせ、奴と打つためにここに来ているのだ。願ったり叶ったりといったところだな」

優希「順当に実力順に並べるなら、咲ちゃん、ちびっこ、部長の三人だじぇ!」

智紀「……しかし、その三人で何度か卓を囲んで破れていないのも事実」

和「それは対策が不十分だったからです、三人でしっかり対策をして臨めば結果は変わってくるはず」

一「そうかもしれないね。で、誰を選ぶの?」


久「そうね……実は、最初から決めてるのよ。照のプラマイゼロに挑む三人、自由に選べるなら他には考えられないわ」

今回は以上です。次回は火曜日の予定です。

そういえば県大会決勝で「和は清澄で二番目にオカルトじみてる」とか言ってたけどこの時点で>>1はこの展開を考えてたのか

解呪には咲さんいたらかおりんが出れないのがなぁ
ここはステルスももに期待

>>289
ちゃんと読めよ。 モモが鶴賀ではかおりんしか出せないって言ってるだろ。


咲と和は確定で残り1人は久or衣orかおりんのどれかだな。

>やえ「どうせ宮永も出て来てなにかやらかすだろう、あれは卓上の歯向かうもの全てをへし折りに行っている節がある」
咲「酷い風評被害を見た。」
京太郎「事実だろ。」

あ、妹尾さん同卓出来ないの忘れてた。セリフが変なことに……少々ネタバレになりますが、このミスによるストーリー上の深刻な障害はとりあえずないです。


【準決勝第二試合終了直後 晩成宿舎】


やえ「……どうやら、気付かない間に眠ってしまっているようだな。いくらなんでも夢に違いない」

紀子「現実逃避するやえ。今、私は完全に満たされている」

やえ「ああ、紀子か。すまんが、私は現実世界に戻るよ。夢の中まで付き合ってくれてありがとう」

由華「先輩、残念ですが現実です。受け入れてください」

やえ「……なんでこんな化け物が三年になるまで無名のまま潜伏してるんだよ!! 竹井といいこいつといい妹といい、完全に計算外だふざけるな!!!」

紀子「動揺して取り乱すやえ……私は、この瞬間のために今まで生きて来たのかもしれない」ゾクゾク

由華「うう……丸瀬先輩の愛が歪みすぎてる……」

日菜「犯罪だけはやめてね紀子ちゃん。やえ、これどうにかなる?」

やえ「……どうにもならん、こいつの気分次第だな」

由華「天和でも一瞬で対策を考えた先輩がさじを投げた!?」

やえ「なんでお前がそれを知ってる?」

由華「ビデオ見ました」

紀子「b」グッ

やえ「こいつら……」


やえ「さて、さじを投げはしたが、決勝ではこれは出来んだろうし見た目ほど万能でもない。私が余計なことをしていなければ辻垣内が選ばれていたかもしれないな」

紀子「どういうこと?」

やえ「決勝では出来ないというのは異論はないな? 二位抜けが出来る準決勝と一位を狙わないといけない決勝では話が違う」

紀子「それは分かる、見た目ほど万能ではないというのは?」

やえ「……例えばだが、紀子と巽と素人の卓で素人を勝たせるのは、いくらこいつでも楽じゃないはずだ。少なくとも、今回みたいに東風一回で終わりなんてのは無理だろう」

良子「そう考える根拠は? 辻垣内が何も出来ないってなると誰が打っても同じになりそうなんだけど」

やえ「園城寺を勝たせるために鳴きを入れているし、辻垣内だってリーチをかけるぐらいは出来ている。操作して意のままに操っているように見えるが、操作しなければいけないというのは、卓上のすべてが意のままということではない証拠だ」

日菜「なるほど確かに……でも、鳴いたりして操作すれば園城寺さんを辻垣内さんに勝たせたり出来るんでしょ?」

やえ「その通りだが、全てが意のままなら園城寺を勝たせることを決めた時点で辻垣内が何も出来なくなるはずだ。しかし、そうはならなかった、奴が園城寺を勝たせるためには、鳴きを入れ、ツモをズラす必要があったんだ」

紀子「といっても、園城寺が辻垣内に勝てるとなると、かなりの差があっても無駄ということに……」

やえ「そうでもない。あの二人の間に、それほど大きな差はない。仮にも清水谷や江口と並んで北大阪の代表になった奴が更に力をつけているんだ、今の園城寺はニワカでは相手にもならん」

由華「サポートも露骨でしたよね。園城寺さんの手の内の危険牌を通しながら一発消してズラして……あの一手だけでも相当酷いもんです」

日菜「あれを毎回やられたら、私たちレベルでも普通の人に勝てるかどうか怪しいよね」

やえ「その一手から、恐ろしく正確な読みだけでなく、山にある牌を把握する、あるいは勝負の流れのようなものを感じ取る力もあることがわかるな」

紀子「おそらく、山が見えてるほう。あそこまで的確だとそう考えるべき」

やえ「そうか……厄介だな。だが、奴が化け物だ化け物だと言っていても始まらん。奴の能力を分析するとしよう」


やえ「まず、園城寺に聞いたところ、奴は一局目の様子見の後で発動する『相手の手の内を見通す力』があるのではないかということだった」

紀子「それは園城寺の『全てを見られたような気がした』という感想しか根拠がない。断定すべきでない」

やえ「……そうだな。まあ、いずれにしろ、対局者にはっきり分かる異常が、東一局の様子見の後に訪れるというのは確実だ」

日菜「けど、詳細は不明。とりあえず、それがあるってことと、様子見と関係がありそうってことでいいかな?」

やえ「それでいい。次に、他に目を奪われて気付きにくいが、あいつ自身も妹と同じように連続和了と連続和了中の打点上昇の傾向がある」

由華「……あれだけ大暴れしながらそんなことやってるんですね」

やえ「それから、プラマイゼロと、異常な槓の成功率。ドラや裏ドラも把握しているらしい。これを、自分と他家の点数調整に使ってくる」

良子「槓の符とドラでいくらでも点数が調節できるのか……」

やえ「で、後は異常に鋭い読みと、山が見えてるんじゃないかってほどの勘の良さ……守備も完璧だな。調べた限りでは、放銃はあるが、全て狙っている節がある」

紀子「点数調整のための振り込み、つまり、相手のアタリ牌と打点が分かっていることになる」

やえ「複数の能力を使うというのはあまり例がないので、実は根を同じくした一つの能力なのではないかと考えていたんだが、そうでもないらしい」

由華「これが全部一つの能力ってどういうことですか……いくらなんでも無理がありますよ」

やえ「かなり滅茶苦茶ではあるものの一応説明できる仮説はあったんだが、大星や姉帯の例を見て複数の能力が発現することもあると前提を変えたよ」

紀子「それが自然。しかし、それでも複数の能力を使いこなす驚異の選手であることに変わりはない」

日菜「……ごめん、これ、本当に人間に対しての分析なの? 最強のプログラムとかじゃなくて?」

やえ「神代や荒川との違いは、打ち方自体には槓を多用することを除いて特徴はないということだな。打点や最終結果といった『結果』の部分に特徴がある」

紀子「むしろ、対戦相手やその時の手牌の状況などを見て、これ以上ないぐらい柔軟な打ち回しを見せる。対策は困難」

やえ「ああ、こいつ相手に打ち勝つのは非常に困難だ。だが、対策はある」

良子「え? 対策あんのかよ!?」


由華「流石先輩! で、どうするんですか!?」

やえ「ただ、対策の毛色が変わってくる。普通なら『字牌を切るな』とか『鳴きを見送れ』とか『8巡目以降は聴牌に警戒』とかなんだが……」

紀子「こいつの場合はそれは無理。強いて言えば槓に警戒だけど、これも槓材が特定の牌に偏ってるわけではない」

やえ「こいつへの対策は、『結果』を意識することになる」

由華「結果、ですか?」

やえ「その時点で宮永がどういう手恰好だろうと関係ない。プラマイゼロという結果になることを前提に、自分がトップにしてもらえる展開を考える」

良子「してもらうって、もう勝つ気ねえなそれ」

やえ「あんなもん、人間じゃなくて卓上の神みたいなもんだ。戦う相手はアレじゃなく、他の二人。神を味方につけて他の二人に勝つ方法を考えるのが手っ取り早い」

紀子「さわらぬ神に祟りなし。相手にしないのが吉……ということ?」

やえ「ああ。で、具体的な対策だが、基本的には奴が様子見に回る東一局で先制。その後はリーチをかけずに打ちまわして持ち点が四万点程度になるのを目指す」

良子「リーチしないのはなんでだ?」

やえ「こいつ相手にリーチをすると、こいつが引きずり下ろしたいと思っている対象になっていた場合にほぼ確実に落とされる。リーチをせずに全力で警戒して立ち回っていれば、あるいは引きずり落とすのを諦めてくれるかもしれん」

由華「リーチしたら即死ですか……酷い話ですね」

紀子「切る牌が選べないなら逃げようがない。誰かに追っかけさせて、槓して大量のドラを乗せてリーチドラ12なんてことになる可能性が高い」

やえ「園城寺は、こいつが押し上げたいと思ったから生かされたに過ぎない。普通ならリーチは厳禁、例外は荒川ぐらいだろう」

日菜「そうだね、荒川さんなら、次のツモさえ回ってくれば確実にツモれるもんね。それもおかしいんだけど」

やえ「あと、こいつはプラマイゼロにするわけだから上限がプラス5500点になる。なら、他家を使って自分を削らせなければ満貫を和了ることもままならんわけだ」

由華「あ、確かに」

やえ「昨日の副将戦のように、三人が意識して安手での差し込みを繰り返せば宮永を封じられる可能性がある」

紀子「ただし、安手でもリーチした瞬間に槓ドラと裏ドラで一気に点数が跳ね上がる」

やえ「それも含めてのリーチ禁止だな。ノミ手であってもリーチしたら何点にされるか分かったもんじゃない」


由華「しかし、なんでここまでのことが出来るのにプラマイゼロにこだわるんですかね? 普通に勝つ方が楽でしょうに」

紀子「連続和了と打点上昇も、プラマイゼロ狙いではハンデにしかならない」

やえ「……さあな。正直、このタイミングでこれだけ大暴れする理由もわからん。もしかしたら、呪いみたいなものなのかもな」

由華「呪い、ですか?」

やえ「こいつは、プラマイゼロを狙っているんじゃなく、プラマイゼロにしか出来ない……というのはどうだ?」

紀子「……流石にありえない。プラマイゼロにしたくないなら、振り込み続けるか和了り続ければいいだけ」

やえ「分からんぞ? プラマイゼロを拒むと頭のツノが絞まるとか、そういうペナルティがあるかもしれん」

由華「いやいや、真面目に考えてくださいよ」

やえ「こんな馬鹿げた力を馬鹿げた目的に使ってる奴のことなんか真面目に考えてられるか。それっぽい理由が欲しいなら、親の仇がプラマイゼロ使いで、自分が使うことで噂を聞きつけた相手がやって来るのを待ってるってことでもいいぞ?」

紀子「一子相伝のプラマイゼロ流麻雀の後継者で、自分が継がないと妹が継ぐことになるからやめられないというのはどう?」

やえ「いいな、それで行こう。妹思いの姉の泣かせるエピソードの出来上がりだ」

良子「お前ら……まあいいや、プラマイゼロにしてる理由がなんであれ、あいつがプラマイゼロにしてくるのは変わらないってことだな?」

やえ「その通り……ただ、こいつがプラマイゼロの制約を外して思う存分力を振るったら……」

紀子「振るったら?」


やえ「……いや、なんでもない。この馬鹿げた力の代償がプラマイゼロなんだろうから、仮定自体が無意味だ」


【同時刻 阿知賀宿舎】


憧「うっわ……さすが長野の裏番長。あの長野の上位陣がみんなで口を揃えて最強だって言い切るだけはあるってか」

灼「10万点を東場で削りきるとかとんでもな……」

晴絵「インタビューで和が言ってた通りだね。清澄はセオリー通りのオーダーだって」

玄「強い順に先鋒、大将、中堅、副将、次鋒……つまり、清澄で一番強いのは照さんってことだよね。これを見たら納得せざるを得ないのです」

宥「だけど……なんだか辛そう。あったかくないよ……」

憧「この人がいる限り、先鋒は誰を出しても同じ。最悪のエース殺しって話だったけど……」

玄「それどころじゃない……むしろ、エース殺しで済んで良かったぐらいだよ。プラマイゼロがなかったら、ここまで照さん以外が打つ機会すらなかったかもしれない」

穏乃「確かにすごいけど、こんなの……認めたくない。全国二位になるぐらい頑張っても結果がこれじゃ、あんまりだよ……」

晴絵「……本人も、望んでないんじゃないかな? 望んで打ってる奴はあんな辛そうな顔をしない」

穏乃「……望んでないなら、なんであんなことを?」

憧「竹井さんの指示ってわけでもなさそうだよね?」

宥「照ちゃんも竹井さんも、もっとあったかい人だったよ……命令されたってこんなことしないと思う」

灼「一回一緒に食事しただけではわからない。実はああいうことをする人だったのかもしれな……」

穏乃「和の仲間に限ってそんなことは……」

憧「……てゆうかさ、シズ?」

穏乃「なに、憧?」

憧「直接確かめれば良くない? あたしらも観戦の予定が無くなって暇だし、向こうだって流石に今日この後に予定は入れてないでしょ」

穏乃「へ?」

玄「あ、確かに。成り行きとはいえ同じ釜で焼いたタルトを食べた仲、連絡先も交換済みなのです」

宥「玄ちゃんは福路さんと和ちゃんと沢村さんの三人としか交換してなかったけどね」

憧「向こうから来るまでこっちもいかないとか言ったけど、もう会っちゃったわけだし」

穏乃「あ、言われてみれば……」

灼「でも、いきなり押しかけるのは……向こうは明日決勝だし……」

憧「アポは今からとればいいし、あたしらだって準決勝の前日の夜に引っ張り出されたわけだからおあいこ。問題なし!」

晴絵「決まりかな? じゃあ、車出すよ。みんな準備しなー」


【白糸台高校】


憩「監督、あれ……なんなんですか?」

監督「……憩、来てたの?」

憩「ミーティングの準備を監督だけに任せたら作りかけの資料だけ残して監督がおらんっちゅうのがいつものパターンですから」

監督「むー……一回だけちゃんと出来てたじゃない」

憩「その一回を除いて全滅やん。で、アレについて話してくれませんか? 資料作ろうにも、増えたデータなんかあらへんし、暇ですよね?」

監督「……そうね。あなたと淡には、いずれ話すつもりだったし」

憩「確認しますけど、アレ、監督の娘さんですよね?」

監督「……隠してたつもりだったけど、あなたにはバレちゃうか」

憩(いえ、うちだけやなくて、二軍にまで知れ渡ってます)

監督「そうよ。私が人生をかけて育てると決めた才能の塊。今はその片鱗しか見せていないけれど」

憩「片鱗ですか? アレが?」

監督「ええ、あの子は呪縛に囚われている。元を正せば私のせいなんだけどね」

憩「呪縛……プラマイゼロ、ですか? あれだけのことが出来て二位に甘んじる理由なんかないですし、あれは狙っとるんやなくて、そういう風になってしまう?」

監督「そう。あの子は、どんな相手に対してもプラマイゼロに出来る代わりに、プラマイゼロにしか出来ないという呪縛を背負ってしまった」

憩「……」

監督「……私があなたを育てたのは、あの子の呪縛を解くため。それが出来そうな人材を、この白糸台を拠点に全国駆けずり回って見つけたのが、あなたよ」

憩「このポンコツは……うちにだけはそれ言うたらあかんやろ。こっちはあんたに憧れてわざわざ大阪から来とるんやで? 娘のための駒やったって言うてもうたらダメやん」

監督「むっ……ポンコツじゃないもん!!」

憩「それ、ポンコツ以外は絶対言わんセリフですよ?」

監督「ぐぬぬっ」


憩「で、原因は監督って言いましたけど、何やらかしたんですか?」

監督「……あの子達の才能は、私の目を眩ませるには十分すぎた。今思えば、酷い教育をしたと思うわ」

憩「教育……?」

監督「まだ小学生だった照と咲に、お小遣いを賭けさせた上で、本気で打ってお小遣いを巻き上げたわ」

憩「うわ……」

監督「ただ楽しむだけじゃない、本気の麻雀を打って欲しかったの。後で巻き上げた分のお小遣いを補てんしたりしたら真剣にならないから、常に全力で打ったし、巻き上げたお小遣いは返さなかった」

憩「かつて白糸台の黄金時代を築いて三年目には団体で優勝まで成し遂げた絶対的エースが小学生相手に全力で打つとか、ドン引きですわ」

監督「けど、賭け麻雀を始めてすぐに、私はあの子達に負けたわ。流石に荒れてしまってね」

憩「……は? いやいや、あり得んでしょ? 監督が小学生に負ける? 指導対局でもうち相手に普通に勝つお人が?」

監督「流石に、才能に感動するよりも嫉妬や情けなさの方が強くなってしまったわ。あの頃の私はそれを制御できなかった」

憩「……」

監督「そうやって私が荒れてると、負けたらお小遣いを取られる、勝ったら私の機嫌が悪くなるという状況になる。そしたら、咲がプラマイゼロにし始めたのよ」

憩「うげ……監督に勝つだけでも信じられんのに、プラマイゼロて……」

監督「最初は、狙いに気付かず、勝てて喜んでいたわ。『私もまだまだ行けるじゃない!』ってね。最初に叱っていればすぐやめたんでしょうけど……ああ、本当に馬鹿だわ私」

憩「で、そのうち、妹に続いて姉までプラマイゼロにし始めたと?」

監督「……実力でプラマイゼロにしていた咲と違って、照は能力でプラマイゼロにしてしまった。その瞬間から、あの子は呪縛に囚われた」

憩「けったいな能力ですね……で、それを解こうとしてるっちゅうわけですか? 小学生の頃から高校三年になるまで?」


監督「全国を探し回ったわ。あの子の呪縛を解ける人間を探して、連れて行っては返り討ちに遭って……それでも挑み続けた」

監督「返り討ちにされるたびに、自分を責めたわ。自分の娘を呪縛から救ってあげられない自分と、そうさせてしまった自分を」

監督「知り合いのプロじゃ、歯が立たなかった。私自身がそこらのプロより遥かに強いんだもの、その私が歯が立たないあの子達が相手じゃ、そうなるのも当然よね」

憩「プロすら歯牙にもかけない化け物……トッププロでないと相手にもならないわけですね?」

監督「けど、流石にトッププロの知り合いは居なくてね。なんとか伝手を辿ってコンタクトを取ったけど、お願いしてもあっさり断られた」

監督「プラマイゼロにする方が難しいんだもの、プラマイゼロを破ってほしいなんて、しかも私から言われたら、『自分でやれよ』って返されるのがオチだったわね」

憩「うちでもそう思いますよ。監督相手にプラマイゼロとか、狙って出来るはずあらへんって」

監督「並の相手ならもちろんそうよ。だけど、あの子達相手じゃ……界さんとの子供なのが良くなかったわ、麻雀に関してはとんでもない子が生まれるに決まってるもの」

憩「ん? 界さんって旦那さんですか? 何者です?」


監督「最初に知り合ったのは、ネト麻だったわね。高校二年生の時に、地力の底上げのために始めて、私はどんどんレーティングを上げていったの」

憩「……ん? ネト麻で、『カイ』?」

監督「ランキングが上位100位ぐらいになった時かしら。桁が一つ違うレーティングの人と当ってね。ぼろ負けして、悔しくてチャットでやり取りしたのよ」

憩「100位から見て桁違いのレーティング? ちょっとちょっと……」

監督「『あんた何者よ!? 私は白糸台の宮永よ!』って送ったら、反応があってね。それからちょくちょく挑んでは負けて、仲良くなって、会って一目ぼれして……後で調べたら、チャットを返すのも私以外にはなかったらしいわね。これ、向こうも私のことを会う前から気にしてたってことよね? 私ってば当時から雑誌とかに載りまくってたし、自分で言うのもアレだけど可愛かったし」

憩「待った待った、界さんって、まさか、『kai』ですか!? ネト麻の伝説の!?」

監督「ええ、それよ。それが私の夫」フフン

憩「有名な漫画の最強の主人公から名前を取って運営が用意した不敗のプログラムやってのが定説ですけど?」

監督「残念ながら中の人が実在するわ。私の夫だけど」ドヤ

憩「」


監督「あの人も照達の味方だったのよねえ。オカルト否定派だから、照が呪縛に囚われてるって言っても聞く耳持たなくて……」

憩「いやいや、毎回プラマイゼロなんやからおかしいって思うでしょ!?」

監督「それは、あの子たちが本気で嫌がってるんだって信じてたわね。『プラマイゼロなんか狙えば簡単に出来る』って」

憩「出来るかボケ――!!!」

監督「それがね、『出来るに決まってるだろ』って言って、ネト麻で10連続プラマイゼロを目の前でやって見せてくれたのよね」

憩「なっ!?」

監督「『俺の首を取りに来る連中は全員本気で打ってるし、全員が相当の実力者だ。けど、俺はプラマイゼロに出来る』ってね、かっこよかったわ」ポッ

憩「なんで、そんな人がプロになってないんですか?」

監督「『リアルで打つと牌が見えないから苦手だ』って言ってたわね。多分、私たちがネト麻で打つみたいな感覚になるんじゃないかしら? 家族麻雀以外じゃネト麻しか打たないわよ、あの人」

憩「……アカン、無茶苦茶やこの家族」


監督「てことで界さんまで敵に回したわけだけど、それでもあれだけの才能を埋もれさせるわけにいかないじゃない? だから私は家族から孤立しても頑張ってたのよ! そしてあなたを見つけたの!」

憩「はあ……娘さんを救いたいのは分かりましたけど……そう言えば、先に始めたはずの妹さんの方は、もうプラマイゼロをしてる様子ないですよね?」

監督「賭け麻雀が嫌いなだけで、麻雀自体は嫌いじゃないはずだし、あの子は界さんと同じで実力でプラマイゼロにしてただけだしね」

憩「なら、味方にすれば大分楽になるんやないですか? 姉の方の事情を教えたら説得できませんか? 知ってて協力せんってことはないんと違います?」

監督「……あっ!?」

憩「……どんだけポンコツなんやこの人」

監督「ま、まあ、あなたでダメだったら試させてもらうわ……本命はあなたが照に勝つことよ」

憩「……ちなみに、うちならプラマイゼロを破れるっていうのは、確かなんですか?」

監督「あの子のプラマイゼロは、プラマイゼロにしかならないというデメリットと、自在に槓が出来ることで符や翻数を自在に調節し、プラマイゼロを容易に達成できるというメリットで成り立っているわ」

憩「……ん?」

監督「あの子のプラマイゼロの能力の本質は、槓による符とドラの調整なの。あなたなら、その大元である槓を防げる」

憩「……なんか色々説明を飛ばされた気がしますけど、つまり、うちなら槓を防げて、プラマイゼロを止める目があるってことですね?」

監督「そうよ。松実玄のドラも奪ってみせたしね。おそらく、照の槓材だって条件を満たせば奪えるはずよ」

監督「といっても、正直、今の時点では分の悪い賭け。あの子が本気なら、あなたに条件を満たさせないというのは難しくない。それでも、可能性があるのはあなただけなの」


憩「ちょっと質問ええですか?」

監督「なにかしら?」

憩「あの人、点数調整のために他人に役満和了らせたり、ずっと和了り続けたりしてますよね? あれは能力と違うんですか?」

監督「その辺は実力ね。他人の手にドラを乗せるのはプラマイゼロの主要素である槓によるものだけど、和了らせることや和了ることは実力よ」

憩「実力っておかしくないですか?」

監督「おかしいわよ? そのおかしい力を持ってる子だからこそ、私が固執するの」

憩「……てことは、うちの能力はプラマイゼロの天敵やけど、素の実力的に足元にも及ばん……ってことですか? 能力なしの読みとかの技術や研究だけでも全国上位やって自負しとるんですけど」

監督「残念ながら、あなたが能力なしでも稀有な打ち手であることも含めて完全にあなたの言う通りよ。だから、あなたを鍛える。あなたを鍛えて照と戦えるレベルに引き上げれば、あの子を呪縛から救える」

憩「……うわ、ショックや。能力さえあればうちじゃなくても良かったってことですか? 鍛えてどうにかするって?」

監督「この能力の持ち主があなたで良かったとは思ってる……たとえ能力が無くても白糸台には呼んだと思うし、この件については相談してたと思うわ」

憩「……もう一個質問していいですか?」

監督「ええ、私に答えられることなら」


憩「宮永照本人は、プラマイゼロを望んでるんやないですか? プラマイゼロなんか、本人が拒否すればいくらでも防げますやん?」

監督「……そうね、そう思うのが自然よね。でも、実は一度だけあの子が和了りを拒否してひたすら削られ続けたことがあるの」

憩「……あれ? プラマイゼロにするには5000点稼がなあかんのやから、本人が絶対に点数を稼がんつもりやったらプラマイゼロは破れますよね?」

監督「……そうはいかないのよ。本人の意思に反して点数を与える方法、あるでしょ?」

憩「……ノーテン罰符ですら本人がノーテン申告したらもらわずに済むわけやし、ちょっと思いつきませんね」

監督「……罰符よ、チョンボの」

憩「……は?」

監督「チョンボの罰符で、無理やりあの子に点数が入るようになってるのよ」

憩「いやいや、あり得んでしょ。罰符を払うチョンボって、素人でも滅多にやらんミスですやん」

監督「それを、私や界さんみたいなトップクラスの打ち手がやるのよ。意識にモヤがかかったみたいになってね、気付いたらチョンボしてるの。界さんは『やっぱりネト麻じゃないと調子が狂うな』なんて言ってたけど、いくらなんでもそんなミスするわけないわ」

憩「……マジですか?」

監督「だから言ってるでしょ。呪いなのよ。あの子自身にもどうすることも出来ないの」

憩「いやいや、チョンボを誘発させてまでプラマイゼロにするっちゅうなら、もう破りようないですって!」

監督「そうね、チョンボなんかさせたらもう麻雀にならない。けど、あの子は麻雀が好きだから、打つ以上はちゃんと打ちたい」

憩「……」

監督「だから、あの子自身は呪縛から逃れたがってるのに、プラマイゼロを目指して全力で打つのよ。皮肉よね」

憩「自分の意志でプラマイゼロを破ろうとするとおかしなことになる。誰かが実力で破ったらんといかんわけですか……難儀やなあ」

監督「……質問はもういいかしら?」

憩「……とりあえず、今のところはこんなもんです。またなんかあったら聞くかもしれませんけど」

監督「じゃあ、明日の話をさせてもらうわね」


監督「決勝戦は理想的な組み合わせになったわ。これであの子を救えなければ、あなたを鍛え上げるまではあの子を救うのを諦めるしかない。咲を説得出来ればまた別だけど」

憩「ヤバそうな呪いの対策は小蒔ちゃんが神様を降ろせば多分行ける、園城寺さんもサポート向きの能力やし、うちら三人との三対一ならあるいは、ですか?」

監督「しかも、直前にこれだけのことをしてくれた。共闘は容易なんじゃないかしら?」

憩「ですね、いくら小蒔ちゃんたちが打倒白糸台を目標にしとってもこれは警戒せざるを得んはずです」

監督「私の本当の願いは、連覇よりもあの子の呪縛を解くことにある。それさえ満たされるなら、清澄を勝たせても、永水を勝たせても、千里山を勝たせてもいい。けど……一つ問題があるのよね」

憩「ありますね。てゆうか、今、監督とは思えん台詞が聞こえてきましたね」

監督「……私の願いがどうあれ、実際に打つあなた達の想いは、それとは無関係なのよね」

憩「問題っちゅうのは、うちがどうするかですよね? あの人にプラマイゼロをさせておいて、うちらの連覇に有利な展開を目指すっちゅうのが普通ですから」

監督「……」

憩「てゆうか、監督失格ですよね。チームが負けてもええから娘の才能を引き出したいとか。千里山の愛宕監督の爪の垢でも煎じて飲ませたいわ」

監督「だって……」

憩「そんなに都合よく動くわけないでしょ。うちはチームの勝利を目指します。そうせんと、淡ちゃん、菫さん、尭深ちゃんに誠子ちゃんまで裏切ることになるんやから」

監督「そう、よね……」シュン

憩「でも、枷が外れたその化けもんと打ってみたい気はしますね。全力の淡ちゃんより面白そうや」

監督「え?」

憩「ま、卓についたときのうちの気分次第ですね。 知ってます? うち、意外と気分屋なんですよーぅ?」

今回は以上です。次回は来週の水曜になります。

>>285 その時点だと、一番のオカルトは久の悪待ちと言おうとしてた記憶が。もともとの構想と、すでに書いた内容に抵触しない後付・修正した設定の比率は、長野編以降は後者の方が大きいです。

キャップの暴走ですが、このssでは持ってる情報や分析力の違いで各校の認識が結構ズレてるというのを意識的にやってまして、その一番顕著な例としてやってます。
そして、キャップだけなら一過性のネタで済むんですが、メイン勢力と情報量が違いすぎるメンバーでのやりとりを書くと興醒めするレベルで話がかみ合わなくなってしまうという弊害が出てたりします。「そのメンバーが持ってる情報はこれだけだよなあ……」ってのを考慮して書くと、荒川さん・小走さん・プロ勢のいずれかを噛ませないと、現時点の読み手の持っている情報から考えるとまともな会話にならなくなってしまっているんです。
長野の居残り組の様子を全く書いてなかったり、新道寺や有珠山などの会話が少ないのもこの辺の事情です。


照「……先に来て待つって、負けフラグっぽくないかな?」

憧「巌流島?」

照「……新子さんって、見た目に反して物知りだよね。これ、2分ぐらい引っ張れるつもりだったんだけど」

玄「即答だったのです」

灼「……なんで照さんと私たちだけでくつろいで……ほかのみんなは?」

宥「清澄のみんなは誰も電話に出なかったんだよね?」

憧「そだね。照さんも出なかったし」

照「……私は試合だから電源切ってた」

晴絵「なあ、誰も電話に出ないから宿舎に直接行ってみようって、今更だけどおかしいよな?」

穏乃「え? 普通じゃないですか?」

憧「龍門渕と鶴賀も誰も出ないし、こりゃなんかやってるんじゃないかって思って、会場か宿舎に直接行こうってことになったのよね」

照「実際、みんな取り込み中なんだけどね」

憧「で、明日決勝なんだから遠出するような無茶はしないだろうし、鶴賀と龍門渕も一緒の大人数で固まって行動するわけないってことで、宿舎で待ってれば待機組が誰か来るんじゃないかってね」

玄「ということで宿舎のほうに向かってみたら、途中で照さんと福路さんがいたわけです」


憧「で、取り込み中ってどういうこと?」

照「まあ、色々あって……話すと長いんだけど、聞く?」

憧「うちらとしては、なんで今日の試合であんなことしたのかってのが気になってここに来てるんだけど、関係ある感じ?」

照「うん、関係あるというか、まさにそれそのもの」

玄「……えっと、聞かせてもらっていいんでしょうか?」

照「まあ、竹井さんが来るまで時間もありそうだし、私の麻雀の弱点の話も含まれてるけど、この後すぐに解決するはずだから聞いてもらって構わない」

灼「弱点……そんなのあるようにはみえな……」

照「……ううん、あるよ。とても大きな弱点が、一つ」


美穂子「……そこから先は、私が話します。自分で話すのも辛いでしょうし」


照(ん? 福路さん、いつ聞いたんだろう? 竹井さんに先に帰ってるって連絡した時はそんなに長話はしなかったし……)

穏乃「お願いします!」

宥「それで、なんで照ちゃんはあんなことを?」

晴絵「まあ、臨海や有珠山を決勝に残すと大星の天和を誘発しかねなくて危険だからじゃないかって仮説は立てたが、それにしてもやり方が露骨すぎる」

照(あ、確かに、大星さんのアレのこと考えてなかったけど、それを考えても千里山の方が良さそう)

憧「まあ、確かに照さんで終わらせるのが一番リスクは少ないんだけど、竹井さんってああいうのあんまりやりたがらなそうなイメージだからしっくりこなくてね。悪役は自分が引き受けそうだし」


照(……お腹すいた。たしか昨日買ったお菓子が残ってたはず。説明は福路さんに任せて、私は英気を養おう)


美穂子「いいえ、全て久の指示です。とはいえ、久も誰かの指示に従っているだけなのかもしれませんが」

灼「……福路さん? なんかこわ……」

美穂子「そもそも、清澄高校にこれだけのメンバーが揃ったこと、皆さんは疑問に思いませんか? 誰かの意思が働いたと考えたことはないですか?」

憧「……なんか急に雲行きが怪しくなってきたわね? メンバー集めから仕組まれてたって、随分スケールの大きい話になりそうじゃない?」


美穂子「宮永さんたちは、脅されているんです。照さんや咲ちゃんの、他人の心を折りに行くような麻雀は、強いられたもの」


照(お菓子お菓子……あった、これでわが軍はあと10分は戦える)


玄「お、脅されてるって、誰に……?」

美穂子「おそらく、藤田プロや、その背後に居る彼女の支援者」

灼「……そう言えば、藤田プロは麻雀協会の重鎮とつながっていて、後進の育成のために動き回っているって聞いたことが……」

憧「……」

穏乃「そ、そんな……じゃあ、和は……?」

美穂子「……お母様の勤務先が長野なのは、偶然だったんでしょうか? 中学までは麻雀を許していたのに、進学先を選ぶときには麻雀部が強い高校を避けさせたのは、何故でしょうか?」

玄「ま、まさか……全て仕組まれていたことなの?」

美穂子「麻雀部が弱い、あるいは存在しない高校で、清澄より偏差値が高い高校は県内にいくつかあります。勉強に集中させたいというなら、清澄に進学するのはおかしいと思いませんか?」

宥「た、確かに言われてみれば……」

憧「……」

美穂子「清澄への進学を認めることを疑問に思わせないため、あれだけの力を持つ久と照さんを擁しながら清澄は大会に出ずに無名校であり続けた。その甲斐あって、原村さんは何の疑問も抱かずにその力を振るっています」

穏乃「和は、騙されてるってことですか……?」

美穂子「照さんと咲ちゃん、久、そして、インターミドルチャンピオンである原村さんが一つのチームに集まった。染谷さんは少し力が劣るけど……彼女は実家が雀荘で、麻雀協会との接点がある。藤田プロは元々の常連らしいですから、彼女は他の四人より黒幕に近い位置に居るのでしょう」

玄「染谷さんは、四人の監視役……?」

宥「その四人を集めて、インターハイに出ることで何をしようとしてるんですか?」

美穂子「……協会の意に沿わない勢力の心を折ることが、当面の目的だと思います。ここまでの試合では、鶴田さん、辻垣内さん、愛宕さん……」

美穂子(加えるなら、長野予選で戦った田中さんや門松さんも県内では名の知れた強豪。そして……あれ以来宮永さんに怯えるようになった私も、心を折られた一人)

灼「二回戦でコンボを破ったのはそのため……確かに言われてみればあの時の妹さんは不自然すぎ……」

穏乃「そんな……和はそんなことに協力させられてるの!? 助けなきゃ!!」

美穂子「……そうです、そして、照さんと咲ちゃんも……助けなければいけません」


照「(もぐもぐ)もぐもぐ」

晴絵「思考と言動が完全に一致している……完全に心を無にしてお菓子と向き合っているんだ……こいつ、ただものじゃない」


コンコン


照「……」ピタ

晴絵(馬鹿な、無心にお菓子をむさぼっていた宮永照が、手を止めた!? それほど大事な相手だというのか? お菓子よりも?)


ガチャ


久「待たせたわね」

照「……早かったね。もういいの? 天江さんに対策を仕込むのに時間がかかると思ってたけど」

久「……仕込む必要なんかないわよ。むしろ、私が対策を教えてもらう側かもね」

照「……そっか。なるほど、それは予想してなかった。けど、確かにその方が良いかもしれない、実績もあるし」

美穂子「久……」

久「ありがとね、美穂子。照を探すのに半日かかるかなーとか思ってのよ。あなたが保護してくれて助かったわ」ニコッ

美穂子「くっ……まだ、私を惑わせるつもりですか……今更、笑顔を見せられたぐらいで騙されるとでも……」カアア


憧(……ん~、みんなは信じちゃってるけど、照さんの様子と竹井さんの様子、私が知ってる二人の人柄を考えると、福路さんの話の方が胡散臭いんだよね)

憧(一つ一つを見ると、そういうこともあるかなって思えなくもないけど、繋げると一貫性が全くない。出来の悪い陰謀論って感じかな)

憧(例えば、対立する勢力の心を折るのが目的なら照さんと竹井さんだけでも十分なんだから和を引き込む必要はない。てゆうか、和一人じゃ、あの二人を二年間遊ばせるデメリットに全然釣り合わない)

憧(二年間遊ばせるデメリットに釣り合わせるためには、和が一人であの二人の二年分以上の働きをしなくちゃいけない。そりゃ無理でしょ)

憧(脅されてるって話にも根拠がないし、どの話を見ても動機があいまいになってる。福路さんってば誰かに変なこと吹き込まれたんじゃないかな?)

憧(といっても、あの様子じゃ本気で信じてるっぽいし、矛盾を指摘しても揉め事になりそう。阿知賀のみんなの誤解は後で福路さんがいないところで解くとして、福路さん本人は放っておくしかないかな)


穏乃「の、和……」

和「……来てたんですか、みなさん。すみませんが少々取り込み中なので、しばらくお構いできません」ゴゴゴ

咲「ごめんね、これ、本当に大事な用件だから。せっかく来てくれたのに申し訳ないけど、終わるまで待っててください」ゴゴゴゴゴ

玄(す、すごいプレッシャー……インハイの会場で初めて会った時以上……)


久「さ、始めましょう」

照「……ずっと、待ってた」

久「……待たせたわね。これがお望みだったんでしょう?」

照「うん、咲の入部を賭けた時、あなた達にプラマイゼロを破られてから、ずっとこうなるのを待ってた」

久「分かりにくいのよあなたのアピールは。ついさっきまで気付かなかったわよ?」

照「む……私は簡潔に要点だけ伝えたはず。何故気付いてくれないの?」

咲「気付くわけないでしょ! てゆうか隠してたじゃん、思いっきり隠してたじゃん!」

照「個人戦とかでさりげなくアピールしてたはず」

和「確かにプラマイゼロしかしてないのに上位に食い込むのは不自然でしたけど……」

照「私は強くないと常日頃から言ってたし。確実に伝わるように、かつ、咲にバレないようにギリギリのラインで、出来る限り分かりやすくアピールしてたし」

久「そのアピールを私にしてたってのがねえ……私なら出来るって、本気で思ってるの? 100回失敗したのよ、私」

照「……あなたなら出来ると思ってるのも事実だけど、破られるなら竹井さんがいいっていう願望も含まれてる」

久「……嬉しくもあり、悲しくもあるわね、その発言。あなたに断言してもらえれば自分を信じられるんだけど、願望が入ってるってか」


照「……そろそろ始めようか。お客さんも待たせてるし」


咲「……そうだね、始めようか」

和「……そのふざけたオカルト、私が止めてみせます」

久「ルールはインハイルールじゃなくてまこのところの標準ルールね。私とあなたが一番多く打ったルールよ」

照「……わかった。西入なし、ダブル役満あり、トビ賞あり……ついでにローカル役満もいくつか採用されてたよね?」

久「ま、この勝負で役満なんか出さないでしょうから、そうなるとインハイルールとあんまり変わらないんだけどね。こういうのって気分が大事だから」

照「……うん。分かる」


起家 和
南家 久
西家 咲
北家 照



久「……さて、あまり歓迎出来ない席順になったわね」

咲「ラス親がお姉ちゃんですか。厳しいですね」

照「……真正面から破るには最適でもある。オーラスの私の連荘を止めればいい」

和(……上家で咲さんが絞って照さんを自由に打たせない、地力で劣る私は鳴いて照さんのツモを飛ばしつつ二人のサポートが出来ます。照さんがラス親であることを除けば理想的な席順)

咲(だから、原村さんは私に期待しすぎだから。私がお姉ちゃん相手に互角に打てると思ってない? 思ってるでしょ? 思ってる顔だよ)

久(……さて、前回は咲の退部を賭けてたから咲と和が主役だったけど、今回は私が主役よね? あなたもそれを望んでるんでしょう?)


東一局


咲(お姉ちゃんは照魔鏡を発動させるために当然様子見をしてくる……けど、いくらお姉ちゃんでも、一局で私や部長相手に「すべて」を見切るのは無理。それじゃ、メリットとデメリットが釣り合わない)

久(ということらしいんだけど、普段から打ってるせいで手の内は知られてる。慣れない打ち方が通用する相手でもないから、いつも通り打つしかない)

和(しかし、全てを見切ることが出来ないなら作戦を隠すことぐらいは出来るはずです……私だと見切られかねないから作戦自体は教えて頂けませんでしたが……それにしても、部長は何故私を選んだんでしょうか?)


咲「」タン

打:3s


久「それ、ポン」

打:2s


照「……」


咲「……」タン

打:赤5m


久「ロン、タンヤオドラ1。2000」


3466m456s678p ポン:333s ロン:赤5m


照「……」


ゴオオオオオ


咲「……」

久「……」

和「……」


照(……流石に咲や竹井さんが本気で隠すつもりのことを一局で見切るのは無理か。プラマイゼロ対策っていうのは特殊で読みにくいし)

照(でも、私がラス親なんだから大抵のことはどうにかなる。それでも有効な対策となると限られてくる)

照(……さて、何を仕掛けてくるのかな?)


東二局


咲(……作戦は至って簡単。このメンバーなら、いくらお姉ちゃんでも直撃はほとんど望めない)

久(直撃が出来ないなら、ツモるしかない。なら、ツモを封じてしまえばいい)

照(……やっぱり、何か作戦があるみたい。しかも、原村さんには伝えてないみたいだね。伝えてあれば時間をかければ原村さんの打ち方から気付けるはずなんだけど)

咲(とはいえ、あまり早く気付かれると阻止される。局数を進めるのも兼ねて、少しフェイクを混ぜる)


咲「ツモ。1000、2000」


123m12389s789p西西 ツモ:7s


和(……小場で回すつもりなんですか? それにしては少し大きいような気がしますし、そもそもプラマイゼロを阻止するために小場で回す意味がありません。それは先ほどの準決勝のような条件での、先鋒での飛び終了を避けるための対策です)

照(うーん、何を狙ってるのか分からない。分からないと阻止のしようがないんだけど。まさか、咲と竹井さんが無策ってことはないよね?)


東三局 ドラ:1m


久(……咲が味方っていうのは心強いわね。この手、読めてるわよね?)


2234p568s東東東発発発 ツモ:4s

打:8s


咲(……部長の手が進んだ。行けるかな?)

234赤5678m東南西西北北 ツモ:西

打:東


久(……は? なにそれ? 咲がやるなら意味はあるんでしょうけど……鳴けってことかしら?)


久「槓」


槓:東東東東 嶺上牌:5m 槓ドラ:6s


久(萬子染めみたいだから、咲の手牌にあるのはおそらく萬子。なら、あなたの狙いはこれかしら?)


打:2p


咲(ツモ切りでも大丈夫でしたけどね。これでツモがズレて、次の私のツモは赤5筒なので)


234赤5678m南西西西北北 ツモ:赤5p

打:赤5m


久「ロン。8000」

5m234p456s発発発 明槓:東東東東 ロン:赤5m ドラ:1m 6s


和(……さっぱり分かりませんね。咲さんが和了るのか部長が和了るのかすらはっきりしません)

照(プラマイゼロ対策となると、それが簡単に出来ない点数にするのが普通。けど、私がラス親だからそれは難しい。あと考えられる対策は……)


東四局


照(親番だけど……どうしようかな? 今の点数だと2000オールでプラマイゼロになるから動かない方が楽ではあるけど)

照(何を企んでるにしても、そう簡単に私のプラマイゼロは崩れない……変なのが発動する可能性もあるしね。原村さんはそれの対策になるから多少は安心できるけど、それでも私がわざとプラマイゼロを崩したり手を抜いたりしたら万が一ってことはある。竹井さんを信じて、私はプラマイゼロを目指す)


和(……照さんの親番、可能なら流すのが吉ですね。手も悪くないですし、少し攻めてみましょう)

223368s17p南南西中中 ツモ:9p

打:1p


久(……まあ、保険はかけておきたいわよね? ここは私の出番じゃない)

打:北


咲(……お姉ちゃんにはまだバレてないみたい。なら、多分この親では動いてこないはず……行けるよね)

打:南


和「ポン」

和(照さんのツモを飛ばして悪いことはないはずです、自風牌でもありますし、ここは鳴きましょう)


ポン:南南南 打:西


久(……ん~、とりあえず合わせときましょう。咲の邪魔しちゃ悪いしね)

打:西


咲「……」

打:2s


和「(照さんの手番は飛ばす、飛ばして悪いことはないはずです)ポン」

ポン:222s 打:9p


咲「……」

打:3s


和手牌

3368s7p中中 ポン:南南南 222s


和(先ほどの2索に続いての3索。いずれも手出し。手出しで両面落としということは、私に鳴かせようとしている?)

和「ポン」

ポン:333s 打:7p


久(……なんでこの巡目で手が正確に読めるのよ。今更だけど、咲ってば本当に手牌見えてんじゃないの?)

打:発


咲「……」

打:7s


和(……あれ? どういうことでしょうか?)

和(咲さんが私の聴牌を見落としたというのは考えにくい、照さんと並んで非常識の代表のような人ですからね。となれば、和了らせるつもりのはずです)

和(では、ここで私に5200を和了らせる意味は? 咲さん自身も和了る、私や部長へのサポートもする、しかし、照さんはプラマイゼロが容易な点数のまま)

和(小場で回すにしては点数が大きい、そもそもそれ自体に意味がない。一体何を狙っているのでしょう?)

和(さっぱり分かりませんが、とにかく和了っておきましょう。局数を進める事にもなりますし、何より咲さんが三度鳴かせた後に切ったのですから、和了らせるつもりに決まってます)


和「ロン、混一色・南。5200」

68s中中 ポン:南南南 222s 333s ロン:7s


照「……なるほど、ツモを封じたいんだね」

咲「あ、もうバレた。流石お姉ちゃん」

和「え?」

照「咲がトビ寸前になることで、私のツモを封じるつもりだね。咲達はもちろんのこと、本気で警戒すれば原村さんも振り込むことはないと」

咲「お姉ちゃんは現状で最低でも5600点稼がなきゃプラマイゼロに出来ない。直撃が出来ないなら、私が1800点以下になれば詰みだよ。ここから連続和了するなら、私がラス前の親だから親かぶりは一番大きくなるからね」


照「……で、今の咲の点数は13800。子の跳満か親の満貫に振り込めば条件達成……それだけじゃないね。トップが近すぎるから、竹井さんがもう少し削られると私は29600点でもトップになってしまう。咲が竹井さんを直撃しても、竹井さんが咲を直撃しても私はツモ和了りを続けてプラマイゼロにすることが出来なくなる」


和(……なるほど、咲さんが東二局で和了ったのは、狙いを読ませないためのフェイク。トビ賞ありというのも、飛ばしながらのプラマイゼロを防ぐため)

照「西入なしとトビ賞あり、気分なんかじゃないわけだね。それも私のプラマイゼロを崩すための戦略の一部」

久「ご明察。というか、最初からただの気分でルールを変えたなんて思ってないでしょ? なにか狙いがあると思ってるからこの時点で狙いに気付けた。違う?」

照「あなたがすることに無駄があるなんて思ってないからね。もちろん何かあると思ってた」

和(……作戦がバレたとはいえ、状況はかなり有利ですね。咲さんが私か部長の跳満に振り込めば、後は直撃さえ避ければ勝ち。それが出来なくてもプラマイゼロにするとトップになってしまうという保険があるので、部長が差し込むか咲さんか私が満貫でもツモればそちらでも勝利です)


南一局


点数状況

和 29200 
久 33000
咲 13800
照 24000


咲(……バレた以上、お姉ちゃんは本気で止めに来る。ここから全てツモなら1100(300・500)、1500(400・700)、1600(400・800)、2100(700オール)でプラマイゼロ達成。それ以外の和了りが許されない厳しい条件だけど、一応それも警戒しなきゃいけない)

咲(部長が33000点。今からお姉ちゃんが連続和了を達成すると部長は30900点になって、お姉ちゃんが30300点だから微差でトップを守ってしまう)

咲(連続和了を止めるのは難しい。できることなら、部長を削るか私が跳満に差し込むかで決着をつけたい)

咲(……で、そんな時にこの聴牌なんだけど……)


12345678s南南南北西 ツモ:9s


咲(……お姉ちゃんは一巡前に西を切ってる。北単騎に取って振り込むことはない)

咲「……」

打:西


照「ポン」

ポン:西西西 打:北


咲「!!?」


咲(え? ちょっと待って、どういうこと!?)

咲(一巡前に自分で切った西を鳴いた? 刻子から切ったの? 何のために?)

咲(あ、そうか、30符1翻以外アウトだから、明刻にして符を下げたい形なんだ? それで30符1翻ってことは、カンチャンかペンチャン待ちのチャンタのみ?)

咲(つまり、残った手牌は13m123789s99みたいな形だね? ここで西が暗刻だと、ツモると40符になっちゃう。あと、面前のままだと2翻になっちゃう)

咲(だから、西を切って鳴いて取り戻すことで符と翻数を下げた。なるほど、さすがお姉ちゃん……)


咲(って、そんなことどうでもいいよ!! お姉ちゃん何切ってるの!? それ、私のアタリ牌だよ!? 満貫だよ!?)

咲(それを私が和了ったらお姉ちゃんは16000点、13600点をツモだけで稼ぐと部長が4000点近く削られて29000点台前半になる。そしたらトップになっちゃってプラマイゼロにならないよ!?)

咲(で、でも、何を考えてるのかわからないけど、これで私たちの勝ち! あとは振り込まないように警戒すればいいだけ!)


咲「ろ、ロン!! 8000!」


照「はい」


咲(落ち着いてる……? これはお姉ちゃんの狙い通りなの? 詰んでるようにしか見えないけど、一体何を狙ってるの?)


南二局


照「……」

咲(お姉ちゃんに動きはない……そりゃそうだよね、ここから和了り続けてもプラマイゼロにする手段はないんだもん。私はお姉ちゃんの安牌を抱えていればそれでいい)

照「……」

咲(……このまま場を進めれば……あれ、場を進める? 場ってどうやって進むんだっけ?)

照「……」


咲(流局するか、誰かが和了るかする必要がある? あれ? 私、お姉ちゃんの安牌抱えるために手を崩してるから和了れないよ?)

咲(包囲が崩れるから部長が和了っちゃダメだよね? 原村さんならいいけど、それもあんまり高いとやっぱりお姉ちゃんがトップにならなくなっちゃう)

咲(なら、流局させればいいのかな? 部長と原村さんがノーテン罰符で平等に削られるなら状況は変わらない)

咲(そのままお姉ちゃんの親まで流れれば……あれ? お姉ちゃんの親?)

咲(普通なら、私が原村さんの手にある牌の中でお姉ちゃんに通る牌を切ればいい。それで原村さんは安全)

咲(けど、お姉ちゃんが親の時、下家の原村さんは最初の一巡はノーヒントで打たなきゃいけない。その時、原村さんは本当にお姉ちゃんの直撃を躱せるの?)

咲(染谷先輩の雀荘のルール、ローカル役満はいくつかあったけど、人和はない。 なら、点数は調節出来ちゃう。点数が調節できるなら、お姉ちゃんならプラマイゼロは簡単)


咲「あれ? もしかして、このままじゃまずい?」


照「……やってみないとわからないけど、私は諦めてないよ」

久「だから、あれはあくまで保険だって言ったでしょ。なんで満貫和了ってるのよ咲? おかげで予定が狂ったわ」


咲「部長まで!? い、いや、でも、それだったら私のトビで縛っても同じじゃ!?」


久「あら? 私、そのままあなたを飛ばして終わらせる気だったけど? それでも真正面から破ったことにはなるわよね?」

照「……なるほど、八百長で飛ばすのはいかがなものかと思うけど、咲がわざと振り込むわけじゃないただの不意打ちなら多分有効」

久「そもそも、真正面からぶち破るって言ってるでしょうが。つまり、私が和了ってプラマイゼロを破るのよ、小細工で勝ってどうすんの?」

咲「あうあう……」

和「……あの、お話の途中で申し訳ありませんが、早く切ってください」

久「分かってるわよ。はい」

打:4s


和「……それ、ロンです。タンヤオピンフドラ1、3900」


23456s345m67888p ロン:4s ドラ:3s


久「あちゃ、振り込んじゃったか」

和「どうせ全部読めてたくせに白々しいことを言わないでください」


咲(……大丈夫、状況は変わってない。お姉ちゃんはここからプラマイゼロにするなら最少でも29700、その場合、今トップの原村さんは29100点になる。それに、これでプラマイゼロの最低ラインの29600を超えてるのは原村さんだけになった。 原村さんを直撃してもお姉ちゃんはトップになってしまってプラマイゼロに出来ない。部長が振り込むことはないはずだから、むしろ状況は良くなったよ)


南三局


久「ロン、8000」

1p222345678s発発発 ロン:1p ドラ:発 


照「……ん」


咲「って、何やってくれてるんですか部長!!!?」

和「そうです! その手で1筒を残して9索切りなんて言語道断です!」

咲「それはどうでもいいよ!! 割と本気でどうでもいいよ!!」

久「……ん? だって、この状況で照に本気で狙われて、私が振り込まない保証なんかないでしょ?」

照「……というか、咲はまだ小細工で勝とうとしてる」

咲「なんのための作戦なんですか!? もうこれお姉ちゃん完全フリーじゃないですか!? 二、三回ツモってなんの障害もなくプラマイゼロじゃないですか!?」

久「二、三回ツモってプラマイゼロ。つまり、最低でも二回はチャンスがあるのよね。そのどっちかで私が和了ればいいんでしょ?」

咲「ここまでの7局は何だったんですかあああああああ!?」


照・久「……前座?」


和「咲さん、言っても無駄です。うすうすそうではないかと思っていましたが、この人達、二人だけで決着をつける気でいます。部長に至っては咲さんまで騙していたみたいですし」

咲「……うう……私の苦労が水の泡だよ……」


南四局 


咲(……こうなった以上は、小細工なしでとにかく和了るしかない。別に、止めるのは部長じゃなくてもいいんだから)

咲(そもそも、お姉ちゃんがプラマイゼロを始めたのは私のせいなんだから、私には止める責任がある)

咲(いくらお姉ちゃん相手でも、三回チャンスがあるなら一回ぐらい私が和了ることが出来てもいい。ううん、和了らなきゃいけない)


照(……咲が自分の和了りを目指すなら、むしろやりやすい。咲には他の二人のサポートに徹された方が困る)

照(とはいえ、いくら咲でも、この状況で冷静ではいられないか。竹井さんと原村さんはサポートなしだと私に追いつくのは無理な手だし、この局はもらった)



咲(張った……次でツモれるはずだけど……)


123567s36p北北西西西 ツモ:4p

打:6p


照「ツモ。面前ツモ・ドラ1、1000オール」 


123789s34p789m中中 ツモ:2p ドラ:8s


咲「……」

照「……私が親だから、一巡早い」

咲(和了る点数が限定されててもこれだもんなあ……やっぱりお姉ちゃんはすごい。けど、感心してる場合じゃない)


南四局 一本場


和(……まあ、こういうこともありますか)


和配牌

1112345678999p


照(私、今回はまだ何も悪いことしてないと思うんだけど……プラマイゼロをオカルトと認識して、それを達成しそうだからかな? 本当に原村さんはタチが悪い) 


照配牌

1112345678999s ツモ:1p


照(普通なら迷わず不要な1筒を切って直撃で終了なんだろうけど、私はプラマイゼロを狙ってるから、この手は最初から崩すものと決まってる)

打:1s


和(さて、役満でダブリーをかける意味もないでしょう。当然ダマです。この状況では役満よりも待ちの広さがありがたいですね、この手ならいずれツモるなり誰かが振り込むなりが期待できます)

ツモ:北 打:北


久(……ん~、和が嫌な感じなのよね。私の手も異常にいいし、例のデジタルの神様かしら?)


123456777m北北西西 ツモ:東

打:東


咲(……私と部長の手には筒子がない。悪いけど、自力でツモってもらわないと……)


123456789m3577s ツモ:6s

打:3s


照(さて、聴牌。点数も許容範囲)

ツモ:2p 打:1s


照「ツモ。2100オール」


12p12345678999s ツモ:3p


久「げっ!? あんたそれ配牌で九連だったの!?」

照「とても迷惑だった。手を下げないといけないし」

久「純正九連を崩すとか勿体ないわね……」

照「九連を蹴って他の色の単騎待ちにしそうな人に言われても困る」

久「……まあ、やったことはあるけど。流石に純正九連は素直にそのまま聴牌取るわよ、多分」

和(……常識的には第一打で私に振り込むところですが、照さんですからね。プラマイゼロ狙いならむしろ振り込むはずがない形です)

咲(……けど、この点数状況、意外と悪くない)


和 30000
久 34000
咲 18700
照 17300


咲(今、2100オール、つまり6300点を和了った。お姉ちゃんはプラマイゼロまでは12300~13200点。これを二回に分けて和了ることはもう出来ない。そのうえ西入なしの南四局、つまり、次が最後の一局)

咲(積み棒の600点を引くと、お姉ちゃんが和了れるのは11700~12600点。11600もダメで、和了れるのは3900オールか満貫だけ。かなりやりにくいはずだよ)


南四局 二本場


和(プラマイゼロを狙うなら、照さんはここで決着をつけなければいけません。30符4翻あるいは60符3翻。これだけ条件が限定されれば手は読みやすいはずです)

久(一応、跳満を和了ったり二回に分けて和了ってからその次の局で振り込むって選択肢もあるけどね。こっちが和了らなきゃいいだけなんだから、流石にそんなのは考慮しないわよ)


3457p345m5678s発発発 ツモ:6s

打:8s


久「……張ったけど、あんまりいい待ちじゃないわねえ」

照「悪い待ちなの? それは怖い」

久「逆よ逆、私にとっていい待ちじゃないの」

照「……紛らわしい言い方はやめてほしい」


久「けど、この状況、あんまり捨てたもんでもないのよね。あなたが和了れる点数が限定されてるもの」

照「……けど、道はある。道があるなら、私は辿り着いてみせる」

久「迷子センターの常連がよく言うわ」

照「迷子センターの世話になったことはない」

久「……迷子センターまで行けないものね。私も、あなたを探すなら「そこから動かないでください」って放送をかけるわ」

照「酷い……」


34赤567p34赤5888m68s ツモ:8s

打:6s


久「……そっちも張ったのね。このめくりあいは自信ないわ」


咲(……お姉ちゃんは和了れる点数に制限がある。だから、これは有効なはず)


咲「槓」

暗槓:8888p 槓ドラ:3m


照「……え?」

咲「……これで、少しぐらいは予定が狂うんじゃないかな? 出来れば、元々の元凶として責任とって私が和了って決めたいんだけど」

照「……咲のせいじゃない。私が勝手にやっただけ」

咲「私に今まで黙ってたってことは、私のせいだって言ってるようなものなんだけどなあ」

照「……うっ」

咲「……ごめんね、お姉ちゃん」

照「そこの部長さんが何とかしてくれるはずだから気にしなくていい。今までも、別に困るようなことはなかった」

咲「……嘘が下手なんだから。けど、これで私の手はバラバラだから、後は部長に任せるしかないね」

打:9p


照(さて、赤5筒とかツモると6翻になっちゃうわけだけど、2筒は全部あそこにあるしなあ……)

34赤567p34赤5888m88s ツモ:6m


照(新ドラの3萬を外して聴牌維持、かな。満貫も基本的にダメなわけだし)


和「……これも小細工なのかもしれませんが……槓!」


暗槓:2222p 槓ドラ:4m

打:1p


照「……え? そっちも?」

和「ドラが一枚でも乗れば、やりにくくなるでしょう?」

照(普通に乗ってるんだよね。5筒は赤が一枚と普通のが一枚しか残ってないし、とても困る)


久「さっきからどんどん待ちが薄くなってるのよねえ……あんたら槓するぐらいなら差し込みなさいよ」

照「そうするとダブロンになるから仕方ない」

和「え?」

久「槓された2ー8筒のどっちでもダブロンってことは、待ちの部分は完全に同形かしら? てことは、待ちは残り二枚ってことね。こんだけ待ちが薄けりゃツモれるでしょ」

照「日本語をしゃべってほしい。待ちが薄ければツモれるとか言ってることおかしい」

咲「それ、今更だよね」

和「ええ、今更ですね」

照「そこ、うるさい」


久「って、ツモれないか」

ツモ切り:白


咲「……」タン

打:7p


照「……」

34赤567p4赤56888m88s ツモ:7m

打:4m


和「あっ……」

3p223344s北北北西東 ツモ:5p


和(……おそらく照さんは30符4翻の手を作っているはず。部長と照さんは同じ2―5―8筒待ち……しかし、30符4翻の手を作っているなら差し込めば11600の二本場で12200、照さんは17300点なのでギリギリでー1に……なりませんね、面前なので40符になります)

和(これを切ればダブロン。照さんだけがロン宣言をしても部長とのダブロンでも、照さんはプラマイゼロになります)

和(……部長に差し込める牌は5筒のみ、しかし、差し込めばダブロンで照さんがプラマイゼロになってしまう)

和「……」

打:東


久(和の様子からして、5筒をツモったわね。てことは、残り一枚……私にとっては最高の待ちになった)


照「……震えてる?」

久「……そりゃね。これでダメなら私には打つ手がないわけだし、自信があっても怖いものは怖いわよ」

照「……別に、このツモで決まるってわけじゃないから」

久「これはただの勘なんだけど、このツモか次のあんたのツモで決まるわ。私がツモれなきゃ、あなたがツモって終わり」

照「……竹井さんが言うなら、そうなのかもね」

久「……さ、覚悟決めてツモるわよ」

照「……大丈夫、あなた達の勝ちだから」

久「そう言ってもらえると気が楽になるわね……じゃ、これで決めるわよ!」










『ツモ』











照「4200オール」


34赤567p赤567888m88s ツモ:赤5p


照「……」

久「……ねえ、照? あなたがさっき言ったセリフ、覚えてる?」

照「……『ツモ、4200オール』?」

久「その前よ、その前!」

照「『竹井さんが言うなら、そうなんだろうね』?」

久「その後でなんか言ったわよねえ!?」

照「『あなた達の勝ちだから』ってやつ?」

久「どういうことよこれ!? おかしいでしょ! 言ってることと違うでしょ!!」プンスカ

照「あの時点で詰んでた、嘘は言ってない」

咲「まあ、嘘は言ってないんだけど……あのセリフの後だと、部長がツモって綺麗に終わる流れじゃないかな?」

照「牌が見えてるわけでもないのにそんな都合よく先のことが分かるはずがない」

久「……てゆうか、勝ちか負けかで言うと負けじゃないのこれ?」

照「そんなことはない。プラマイゼロは破れた」

久「そりゃそうだけど……」



和 25800
久 29800
咲 14500
照 29900


久「で、久しぶりにトップを取った気分はどうかしら?」

照「三万点超えてないのにトップと言われても……」

咲「トップはトップだよ」

照「原村さんが赤じゃない方をツモった時点で詰んでたんだよね」

咲「赤5萬切って次巡で5萬をツモればいいんじゃないかな?」

照「それ、原村さんが竹井さんに差し込むでしょ。どうせ詰んでるから別にそっちでも良かったけど」

咲「」ピュー

照「誤魔化せてないからね? まったくもう……それにしても、原村さんは非常識だよね。あそこは赤の方ツモるとこでしょ?」

和「あなたから非常識とだけは言われたくありません。そして、そんなこと言われても知りません。私にどうしろって言うんですか!?」


久「で、プラマイゼロの呪いの方はどうなったの?」


照「今回も小細工っぽいからね……とりあえず今の時点では解けてるはずだけど、明日以降も解けてるかと言われるとわからない」

和「あれだけ人に苦労をかけさせておいて……」

咲「まあまあ……とりあえず打ってみようよ。トップ取り続けてれば消えるかもしれないし。前回はあの後打たなかったでしょ?」

照「それは名案」



バンッ


衣「話は全て聞かせてもらった!!」

純「いや、なんも聞いてねえだろ」

智紀「衣は耳が良いから」

一「ともきー、衣のカチューシャを見ながら『耳が良い』とか言うのはやめようよ」

衣「終わったなら衣と打て!! そもそも、今日はテルと打つために来たんだぞ!」


照「やれやれ……まあ、全力で打つのに並の相手じゃ困るし、ちょうどいいかもしれない」

久「……照と咲はいいとして、あと一人は誰が入るのよ?」

咲「え? 他に誰かいますか?」

久「全力で暴れるあんたらの相手は流石に荷が重いんだけど」

照「大丈夫大丈夫、行ける行ける」

久「あんたが本気で打つのが一番の懸念材料なんだけど……」

咲「まあまあ、とりあえず半荘一回だけ」

久「一回じゃすまないのが目に見えてるんだけど……明日は決勝だからほどほどにしましょうね?」

照「それは約束しかねる」


純「おーい、あの部屋に電子機器置いてる奴は今のうちに回収しろー」

智紀「私はPCを守るために風越のホテルに移動する。同じ建物では安全とは言えない」

一「流石に最上階のボク達の部屋は安全だと思うけど……」

ゆみ「分からんぞ。あいつらなら電波が入らないように処理された対局室の中から建物全体を停電にするぐらいのことはやりかねない」

智美「いやいや、麻雀打つだけでそんなこと起きないだろー」ワハハ

今回はここまでです。次回も一週間後の予定です。
九連ハメより、最後に赤じゃない方の5筒をツモるのが今回の和の仕事でした。
咲さんや照でも出来ないことを無自覚のまま普通のことのようにやらかすというのがこのSSでの和の強さで、プラマイゼロ破りの鍵になってます。



>>375
>3457p345m5678s発発発 ツモ:6s

間違ってない?

すみません、ちょっと体調崩してるんで今週の更新休みます。次回予定は来週の水曜です。


>>391 ご指摘感謝です。明らかにミスってます。

3457p345m5678s東東 ツモ:6p

打:8s

ぐらいでお願いします。

お待たせしました、投下始めます。


【千里山宿舎】


怜「……研究すればするほど『どうしようもない』ってことが分かるなあ……こいつらの相手せなアカンのか。しんどいなあ」

竜華「うちも、天和だけはどうしようもあらへんしなあ……」

怜「泉も小走さんの次鋒対策にぶーたれとったし、不安やなあ」


?「はやや~? 明日の試合に不安を抱えてるなら、練習あるのみだよっ☆」

?「……今更だが、練習試合禁止の趣旨を考えたら、個人戦の選手同士が指導し合うのは問題だと思うんだがな。あと、プロが拉致同然に高校生を連れまわすのも」

?「ノープロブレム。協会も将来を見据えて、インターハイよりその後の選手としての成長を重んじる方向に規約を改正してますから」

?「聞こえなかったか? 拉致同然に高校生を連れまわすのも問題だと言ってるんだが」

?「そのうち、インハイ期間中の練習試合禁止も全面解除される見通しだよ☆ 代表になったら強い相手と打てないなんてナンセンスだよねっ☆」

?「おい、話を聞け」


怜「小走さんに、瑞原プロと戒能プロ? 呼んでませんけど……」


はやり「呼ばれてなくても世話を焼きに来たの☆ どうせ準決勝が予定より早く終わって暇でしょ☆」

やえ「……と言いながら拉致同然に連行されたよ。いきなりですまんな」

良子「今のあなた達にとっては願ってもない話のはず、もちろん、無理にとは言いませんがね」


【永水宿舎】


霞「……あらあら、困ったわね」

巴「こんなことが出来るなんて……何故二回戦ではやらなかったんでしょうか?」

春「……哩姫がいたから、かもしれない。実力を見せつけるため」

初美「で、ここに来てのこれは、全国二位の辻垣内智葉を飛ばして終わらせるのが一番実力をアピールできるってことですかー?」

霞「でしょうね。大会を通しての印象だけど、清澄は力を示すためだけに打っているように見えるわ」

小蒔「……力を示すためだけに打つ。なにか事情があるのかもしれませんが、そのために他人を踏み台にするような打ち方……認めたくありません」

初美「当然ですよー! 決勝でケッチョンケチョンにしてやるですー!」

霞「けど、実力は確かよ。先鋒には全国二位が手も足も出ず、大将は哩姫を完全に打ち破り、中堅は一回戦をトビで終わらせた上に二回戦では全国区のエース二人を手玉に取った。たった一人で試合を終わらせるだけの力を持った人間を三人揃え、繋ぎもインターミドルチャンピオンと、二回戦の相手の名門三校のレギュラーを相手に軽々とトップを取って見せる実力者」

初美「うぐっ……で、でもでも! いくら力があってもあんなやり方許せませんよー!」

春「けど、あのチーム……特に先鋒は異常。姫様でもどうなるか……」

巴「……でも、やるしかない」

霞「初美、中堅は気を付けてね。準決勝の阿知賀と宮守の二人を合わせたような生き物よ」

初美「私のことより自分の心配をするですー。化け物二人に、千里山の清水谷も二回戦で何かおかしなことをやってましたよー」

霞「全く心配ないわ、秘策があります」

小蒔「ええっ!? すごいです霞ちゃん!」

春「……」

初美「……はあ、これだからこのおっぱいお化けは」

巴「……霞さん」

霞「大丈夫よ、無理はしないから。ね?」

初美「……宮守のデカいのでも呼んでおきましょうかねー。来てくれるかわかりませんけどー」

小蒔「???」


【白糸台寮 淡の部屋】


淡「えー? 練習なしー?」


部屋でゴロゴロしていたところで携帯に届いた一通のメール。
文面は「新たに得られたデータがないのでミーティング中止、練習もなしや。ゆっくり休んでなー」となっていて、差出人は憩。


淡「……ん? なんかおかしくない?」


このメールから強い違和感を感じる。
文面は……おかしくはない。憩が私に宛てたメールならこのぐらいの砕けた文体になりがち。
内容も、おかしいことは特にない。なにしろ、今日の準決勝で次鋒以降は出番すらなかったので新しいデータがあるはずもない。

けど、なにか引っかかる。何かがおかしい。自分の直感に従って、違和感の正体を探す。


淡「普通、こういう連絡ってスミレがするんじゃないの?」


見つけた、これだ。
こういった部活に関する連絡はスミレから来るのが常で、憩が連絡を寄こすということは滅多にない。

では、何故そうなったのか? そうなるためにはどんな条件が必要か?

この連絡をするにあたって、スミレより憩の方が適任だったということになる。

中止の決定をするのは監督だから、監督が連絡するのに憩の方が適任だったということになる。
条件が同じなら連絡は部長のスミレに行く、ということは条件が違うはず。

憩が監督にとって連絡しやすい位置に居る……つまり、憩は監督のところに居て、スミレはそこに居ないということだ。


淡「……むむ? これってつまり……」


先鋒である憩だけは、新たに取得したデータがある。
つまり、憩だけは対戦相手の分析と対策が出来る。

他の人間はミーティング中止ということで排除して、監督と憩が二人っきり……憩は監督と妙に仲がいいし……


淡「そ、そんなの邪魔してやるんだからー!!!」


ガバッと音を立てて起き上がり、お財布と携帯だけ持って慌てて飛び出す。

「どうせケイと監督だけでミヤナガテルの研究してたんでしょー? 面白そうだから私もやるー!!」

部室に飛び込んで最初に言うセリフを考えながら走り出す。
が、少し進んだところで全力でUターン。


淡「パジャマのままだったよ……ゴロゴロしてたから寝癖もついてそうだし……」


この格好で憩に会うのは無理だと判断して、戻ることにする。
部室に着くのは少し遅くなりそうだ。



【部室】


淡「とーちゃーく!!」


バンッ


誠子「あ、大星も来たのか」

尭深「中止の連絡したのに、これじゃ意味ないね」

憩「みんなして人のいうこと聞かんのやから困ったもんやな」


淡「……へ? タカミーと、セイコ? なんで?」


憩「メール見てな、どうせうちが監督と二人で明日の対策しとるやろって言って押しかけて来てん」

誠子「そりゃそうだ。部活関係のメールが弘世先輩じゃなく憩から来たって時点で、憩が監督と二人でなんかしてるのは確実だったし」

尭深「……私たちじゃ役には立たないかもしれないけど、お茶の用意ぐらいは出来るから」

憩「帰ろうとしたら二人で来るもんやから、帰れんようになってもうたわ。ちなみに、監督はもう帰ったで」

淡「……」ポカーン


憩「ま、せっかく四人揃ったんやから麻雀でも打つか。どうせ暇やろ?」

誠子「そうだな」

尭深「【休み=3人で麻雀して遊ぶ】って図式、いい加減どうにかならないかな?」

憩「うちら三人でそれは無理な相談やな。尭深ちゃんは釣り出来んし、誠子ちゃんは植物の扱いダメダメやし」

誠子「本当に今更過ぎるな。今日は三麻じゃないだけマシだろ」

尭深「理論上は三麻の方が憩ちゃんが弱くなるんだけどね」


淡「……えっと、いつも休みは三人で打ってるってこと?」


憩「休みっちゅうか、うちの予定が空いた時やな。一年の頃はボランティアとかも結構頻繁にやっとったし」

誠子「『今ちょっと暇やから誰か麻雀打たんー?』ってお誘いに、毎回律儀に来たのが私たちだけでな」

尭深「最初の頃はチーム編成で憩ちゃんを狙ってる先輩とか同級生が来てたんだけど、チームが決まってからはあんまり集まらなかったんだよね」

誠子「勝ち目がないから、よっぽどの物好き以外は好き好んで打ちには来ないからな。弘世先輩はいろいろ忙しそうだから呼べないし」

尭深「よく心折れずに毎回来たよね、誠子ちゃん」

誠子「こっちのセリフだっての」

尭深「私はいつも二位だったし」

誠子「それもこっちのセリフだっての」


淡「……ねえ、ケイ?」


憩「ん? どしたん?」

淡「私、それ、呼ばれてないんだけど?」ゴゴゴ

憩「……あっ!?」

誠子「ああ、そうか、大星を呼べば良かったのか。暇そうだしな」

尭深「秋ぐらいから三人で打つのが当たり前になってたから、淡ちゃんが入ったころにはもう『誰かを呼ぶ』っていう発想が全くなかったよね」



ガチャ


菫「すまん、大星は捕まらなかった……って、なんだ、先に来ていたのか」

憩「あ、お疲れ様ですー。先に始めてますよーぅ」タン

淡「へ? スミレ? なんで?」タン

菫「予定が空いたなら渋谷と亦野は憩のところに集まるだろう? 明日は決勝だし、顔合わせぐらいはしたほうがいいだろうと思ってな」

誠子「読まれてましたか」

尭深「やっぱり部長なんですよね、弘世先輩」

菫「まあな。流石に部員全員とはいかないが、虎姫のメンバーの行動ぐらいは把握出来るように努力している」

憩「淡ちゃんの行動は読めないみたいですけどね」

菫「どうせ部屋でグータラしてると思ったが、今日は嬉しい誤算だな」

淡「と、トーゼンだよっ!! 私はエースだからね!!」アセッ

菫「……ふむ、これはアレだな。憩と打ちたかっただけだな。メールを見て憩と監督だけしかいないと見て、真剣勝負が出来ると踏んだか」

淡(うっ、結構近い……)


憩「じゃ、これ終わったら二着抜けで菫さん入れよか」

菫「おい、何回打つ気だ? 私は長居する気はないぞ」

憩「そんなこと言わんと打ちましょうよーぅ」

菫「はあ……ところで、宮永照の対策はどうなってるんだ?」

憩「長くなりそうやし、打ちながら話しません?」

菫「どれだけ麻雀が打ちたいんだお前は。この面子とはいつも打ってるだろうに」

憩「うちの50%は麻雀で出来てますんで」

誠子「どこのバ○ァリンだよ」

憩「残り半分は優しさやで?」

尭深「完全に○ファリン……じゃないね、もっと禍々しい何かだね」

憩「尭深ちゃん、半分は優しさやって言うとるんに禍々しいって酷ない?」

菫「お前の優しさは獅子が我が子を谷底に突き落す系の優しさだろうが」

憩「菫さんまで……酷いわー」


監督「……迷った」


憩「お帰りなさい」

菫「珍しいな、監督が自力で帰って来るなんて」

誠子「あ、いえ、これは自宅に帰ろうとしたんだと思います」

尭深「それでここにたどり着くのも、それはそれで凄いんだけどね」

菫「……というか、一人で帰らせたのか?」

憩「自宅やったら大丈夫やと思ったんですけど……監督を舐めてましたね」

淡「……結局全員集合してるし」

菫「というか、集まるのが普通なんだ。データが増えてなくても話すことはあるだろうに」

監督「あら? あなた達なんでここに?」

憩「暇やから麻雀打とうってことになりまして」

監督「……それじゃ休養の意味がないわ」

菫「では、監督も止めてください、放っておいたらこいつら夜中まで打ちますよ」


監督「仕方ないわね……ゆっくり休ませるために、二度と牌が持てないようにしてあげるわ」ゴゴゴ


淡「え? 監督が本気出す感じ? やったー!!」

憩「上等……怪物相手の慣らしには怪物相手が一番ってな!」

誠子「おい、どっちから行く?」

菫「『どっちから行く?』じゃない、あの馬鹿どもを止めろ。事態が悪化してるじゃないか」

尭深「多分、止めても無駄かと……」

菫「はあ……どうしてこうなるんだこいつらは……」


美穂子「……申し訳ありませんでした」

ゆみ「ぷくくくくくくっ! く、苦しいっ!! 笑い死ぬっ!!」バンバン

久「……ゆみ、笑いすぎ」

照「宥、おかわり」

宥「照ちゃん食べるの早いねー」

照「それが自慢」

久「アホなこと自慢しないで。それにしても、美穂子ってば……」

美穂子「うう……ごめんなさい……」

ゆみ「ぷくくくくくっ!!」

久「ゆみ……どんだけツボってるのよ……」

ゆみ「あははははは、ひーっ、ひーっ、ぷくくくくく!!!」

美穂子「そ、そこまで笑わなくても……」

久「いや、まあ、ゆみからしたらツッコミどころが大渋滞を起こしてるだろうから気持ちはわかるけど……」

照「やはりカ○ルはチーズ味が至高」シャクシャク

久「照、今ちょっと取り込み中だからツッコミどころを無造作に放り込んでくるのやめてもらえないかしら?」

照「お構いなく」シャクシャク

久「構うっての……ツッコミ役を増やしてもらえないかしら? この状況、ツッコミ一人じゃキツいわ」


衣「わーい、また勝ったぞー! これで4勝2敗だ!」

咲「むー……なんであんな見え見えの北待ちに振り込むかな?」

和「あんなものを見え見えと言い張る咲さんがおかしいだけです。二巡目の字牌単騎待ちなんて誰が読めるんですか?」

咲「私が見えるんだから、お姉ちゃんなら見切れるよ」

和「すみません、人間を基準にしてください」

咲「千里山の園城寺さんなら振り込む未来を視て回避できるよ」

和「人間を基準にしろと言ってるでしょうが!!」バンッ

優希「……あんなの止めらんないじょ」ズーン

咲「……むー、もう一回! もう一回打つよ!!」

衣「望むところだ!!」

和「まだ打つんですか……」

優希「勘弁してくれだじょ……」


純「あいつら元気だなあ……まだ打ってやがる」

一「咲ちゃんと衣はさっきのアレの後なのにね」

玄「ロビーで終わるのを待ってたらいきなり停電して、何事かと思いましたよ……」

智美「まさか本当に停電を起こすとはなー」ワハハ

佳織「笑い事じゃないよ智美ちゃん。竹井さんがお菓子で釣って卓から引き離したからいいものの……」

憧「ペースメーカー入れてる人とか居ないでしょうね? 死ぬよマジで」

穏乃「うー……混ざりたかったなあ」

透華「アレを見てそう言えるというのは大物ですわ。それにしても非常識な麻雀を打ちますわね、あの二人は」

一「あのレベルの人間だけで卓を囲めばまともな勝負になるんだろうけどね。運の差って相対的なものだから」

灼「まともな人間があそこに紛れ込んだら一巡目で九連のダブロンとかあり得ると思……」

佳織「天江さんは九連があんまり好きじゃないからそれはないと思います」

桃子「私なら消えて難を逃れられるっすよ」

憧「そういう問題じゃないっての。てゆうかモモ、いつから居たの?」

桃子「最初から居たっすよ!!」ムキー


晴絵「ところで、蒲原さんは三年組に混ざらないのか?」

智美「ん~? なんか真面目な話っぽい雰囲気だったし、パスだなー」ワハハ

晴絵「部長としてそれはどうなんだ……?」

智美「そういうのはゆみちんにお任せだぞー。私は報告だけ聞いて『それは大変だなー』って笑うのが仕事だからなー」

晴絵「さいですか……」


【夕刻 関東某所】


咏「うひょー! 絶景絶景、見てみてえりちゃん!」ピョンピョン

えり「観覧車で跳ねないでください。咏さんは軽いからいいですけど」

咏「ちっこいって言うなー!」

えり「言ってません!」

咏「ふむ、今日一日で大分ノリが良くなったねぃ。しらんけど」

えり「丸一日ネタ振りされて、反応できなかった拗ねるというのを繰り返されれば、流石に……」

咏「個人戦の実況もこの調子で頼むよー」

えり「仕事とプライベートは別ですから。いつもどおりにやらせていただきます」

咏「ぶーぶー!」

えり「ごねてもダメです」

咏「まあ、お堅いえりちゃんが真面目に仕事してる中でポロッと見せる親しさっていうのも需要はありそうだねい……しらんけど」


えり「……」

咏「ん? どしたの?」

えり「明日の決勝、大丈夫なんでしょうか……?」

咏「……少なくとも、今日と同じことは起きないはずだよ。決勝じゃやった瞬間に負けだからね」

えり「……では、今日以上に選手の心を折るようなことが起きないと言えますか?」

咏「起きない、とは言えないね。何が起きるかなんてわかんないし」

えり「……咏さんに『起きない』と言ってもらえれば安心できるんですけどね」

咏「それは、あたしが嘘を言わないからこその信頼だろ。気休めのために嘘を言ったら次からその信頼が無くなるからね」

えり「……咏さんは、何が起きると思いますか?」

咏「さあねー。案外なんにも起きないで、普通にいい試合して終わりかもよ?」

えり「……本気で言ってます?」

咏「わりとマジ。ま、実際どうなるかはわかんないけどね」

えり「そうですか……」

咏「あともう一個、こっちは断言できるんだけど……仮に何か起きても、大事にはならないと思うよ」

えり「……え?」

咏「だって、あの大会を勝ち抜いて決勝まで来た連中だぜ? ちょっとやそっとじゃ折れやしないって」

えり「……」

咏「あの子たちを信じて見守ろうよ。 どうせ、それしか出来ないわけだしね」

えり「……そうですね、きっと、大丈夫ですよね」


【清澄高校】


マホ「照さんの必殺技が発動、相手は死ぬ! です!」

ムロ「死んではいないけど、これは酷いな……」

学食のおばちゃん「応援に来てる方のことも考えてほしいもんだね。先鋒の前半で終わらせるなんてさ」

ラーメン屋のおやじ「がっはっは、いいじゃねえか。飛ばして終わらせるなんて、俺は気に入ったがね」

おばちゃん「絶対にプラマイゼロになるって知ってなきゃヒヤヒヤもんだよ。しかし、こんなやり方があったんだねえ」


モブ「おーう、試合どうなってんだー!? そろそろ染谷さんとこのお嬢ちゃんの出番かー?」


ムロ「ああ、遅れて来る人もいるんだよな、当たり前だけど」

マホ「もう試合は終わりましたー!! 決勝進出ですよー!!!! また明日来てくださいー!!」

モブ「ああ!? もう終わっただあ!? ジョーダン言っちゃいけねえぜお嬢ちゃん!!」


モブ2「照ちゃんの試合まだやってるかー!?」

マホ「とっくに終わりましたよー!!」


一太「会長、もうちょっとこっちに気を使って下さいよ。どうするんですかこの状況……収拾つきませんって」

ムロ「あはは……頑張ってください」


マホ「愚痴ってないで、『祝・決勝進出』とかどっかに張り出して下さいです! 一々説明するの大変なんですよ!?」



【阿知賀宿舎 穏乃・憧の部屋】


憧「……明日、打ちたかったね」

穏乃「うん……」


生返事ってことは、なんか考え事してるのかな。
話しかけないでおいてあげますか。

とはいえ、暇だから話しかけたわけだし、話さないってことになると私が暇なんだよね。
なんか暇を潰せるようなものあったかなー?

勝ち進んでる間は、時間があるなら麻雀の勉強しようってことになっていくら時間があっても足りない感じだったけど、負けちゃうとね。

どうせならさっさと家に帰っちゃえば何でもあるわけだけど、どうやら個人戦の終わりまで滞在するみたいだし、なんか時間を潰すものを用意しないとね。
滞在費に関しては、準決勝まで進んだことでまた寄付が集まったらしくて個人戦まで観戦しても大丈夫って言ってた。
やっぱりインターハイの注目度っていうのは凄くて、学校のホームページのアクセスが増えてるとも。

……そうだ、個人戦が終わるまで滞在するなら、一日二日ぐらい遊びに費やしたっていい。
せっかく東京に来てるんだから、奈良にはないものを堪能してもいいじゃない。

となれば、予定を立てないとね。

さーて、とりあえず行きたい場所の候補を出して、そこを回るのに必要な時間を見積もって……


穏乃「ねえ、憧?」


……っと、中断かな。まあ、別に急ぎの用件じゃないし。


憧「ん? なに、シズ?」


ささっと思考を切り替えてシズと向き合う。
さて、どんな考え事してたのかな、こいつは?


穏乃「和を陰謀から救うためには、どうすればいいのかな?」


予想の斜め上の言葉が飛んできた。それは流石に全く予想してない。
私が矛盾を指摘しながら誤解をきっちり解いたはずなのに、まだ信じてたとは。

てゆうか、それを吹き込んだ福路さん本人ですら撤回して反省してたじゃん!?


憧「シズ、あんたが悩んでる間に私たちが助けたんだけど、気付いてなかった?」


もう誤解を解くのは不可能だと悟ったので『既に解決した』と刷り込むことにする。
ああもう、誰よ、この鳥のヒナみたいなやつに変なこと吹き込んだ奴は!?


穏乃「えっ!? も、もう大丈夫なの?」

憧「いや、あんた、咲や和があたしら待たせて何してたと思ってるの?」

穏乃「あ、と、取り込み中って、そのことだったのか……じゃあ、もう和は……」

憧「晴れて自由の身、陰謀なんてなかったみたいに元気に振る舞ってるわよ」

穏乃「良かったあ……」


まあ、勘違いだったわけだし、シズがトンチンカンなこと言ったらそのたびにフォローすれば大丈夫でしょ、多分。
マジもんのトラブルだったらちゃんと解決しないと後で地雷踏んだりするけどね。


穏乃「安心したらお腹空いて来た……」

憧「……あたしもう寝るわ、なんか一気に疲れが押し寄せて来た」ゲンナリ

穏乃「ラーメン食べたい! ラーメン!」

憧「一人で行ってk……って、そりゃ駄目か。我慢する気はない?」

穏乃「ない!!」キッパリ

憧「だよねえ。はあ……仕方ないなあ。太るからこの時間に食べたくないんだけど……」



【宥・玄部屋】


宥「照ちゃん凄かったねー」

玄「照さんと咲ちゃんと天江さん……あの卓には入りたくないなあ……」

宥「玄ちゃんなら大丈夫だよ」

玄「無理。というか、お姉ちゃん。いつの間に照さんと下の名前で呼び合う仲に?」

宥「だって、『松実さん』だとどっちのことか分からないから……」

玄「ああ……咲ちゃんと私もそんな会話をしたような……」

宥「えへへ、真似しちゃった」

玄「真似されました」


宥「……打ちたかったね、照ちゃん達と」

玄「私は打たなくて済んでほっとしてるけど……」

宥「玄ちゃん……?」

玄「正直、一日経っても、荒川さんと神代さん相手に何が出来るか考えつかないんだ。その上、照さんまで相手にするとなると……」

宥「……私たちが清澄と戦うなら、荒川さんと神代さんのどっちかは居なくなるよ」

玄「そうだけど……じゃあ何が出来るかって言うと……」

宥「何もしなくていいんじゃないかな?」

玄「……え?」

宥「もちろん、玄ちゃんはエースだから格下の相手には勝たなきゃダメだし、寺崎さんみたいな個人で全国上位の相手にも勝てちゃうからそういう発想はしにくいだろうけど……勝てない相手には勝たなくていいんだよ」

玄「勝たなくていい……? で、でも、それじゃ……」

宥「玄ちゃんは、負ける場合でも失点をすごく少なく出来るよね。ドラが、玄ちゃんの手牌以外には一枚も存在しないんだから」

玄「……荒川さんと神代さんはその限りではないけど」

宥「まあ、神代さんは反則だけど……荒川さんだってドラ暗刻が作れるわけじゃないし、照ちゃんも、玄ちゃん相手にドラを手に入れるのは無理だって言ってたよ」

玄「……」

宥「玄ちゃんが持ちこたえてくれれば、あとは私たちがどうにかする。そうすれば、戦えるんじゃないかな?」

玄「……」

宥「赤土先生の時もね、私は無理に勝とうとしなくても良かったと思うんだ。昨日の試合の灼ちゃんもそう」

玄「……」

宥「そう思うのは、昨日の試合の玄ちゃんを見たからなんだけどね」

玄「私……?」

宥「あれ? 分かっててやったんじゃないのかな? 勝てないなら、せめて失点を抑えようって思ってドラを切ったんだと思ってたんだけど……」

玄「あ、あれはそれ以外に手がないから仕方なく……」

宥「だから、勝てない相手には勝たないで最善を尽くせばいいんじゃないかと思うんだけど……『それ以外に手がないから』ね」

玄「……うう、反論出来ないけど、なんか納得いかない……」


宥「てことは、玄ちゃんは勝ちたいんだね。あの三人に」

玄「……え?」

宥「だって、私、間違ったこと言ってないよね? 玄ちゃんも反論出来ないって認めてるし。 それでも納得いかないのは、勝ちたいからじゃないかな? 勝たなくていいっていうのを受け入れられないんだよね?」

玄「……勝ちたい?」

宥「……違うかな?」

玄「けど、あの三人相手に勝ち目なんか……」

宥「……玄ちゃんは、『勝てない』のは分かってるけど、それでも『勝ちたい』んじゃないかな?」

玄「……」

宥「……」


玄「……そうかもしれない。 私は、荒川さんや神代さんに、勝ちたい」


宥「いつか、リベンジしなきゃだね」

玄「明日というわけにはいかないのが残念なのです」

宥「負けちゃったしね」

玄「なのです」


玄「それにしても、おねーちゃん、よくわかったね?」

宥「ふふ、だって私、おねーちゃんだから」

玄「……ずるいなあ、私はそこまでおねーちゃんのこと分からないのに」

宥「っていうのは半分嘘で、気付けたのは照ちゃんが言ってたからなんだよね」

玄「……?」

宥「『勝てない』って理解するのと『勝ちたい』って思って勝負するのは別だって」

玄「……一体なんの話でそんなセリフが出て来るのか気になりますが」

宥「物分りが良すぎるのも考えものっていう話、かな。玄ちゃんは物分りが悪くてお姉ちゃんは安心したけど」

玄「……やっぱり良くわからないけど」

宥「ところで、明日はどこを応援しようかな?」

玄「直接打った白糸台と永水、和ちゃんが居る上にここ数日やたらと縁がある清澄、大会前にSAで縁があって同じ関西勢の千里山……悩ましいのです」


【晴絵・灼部屋】


晴絵「特に私を貶める必要のない場面でdisられたような気がする」

灼「ハルちゃんも? 実は私もそんな気が……」

晴絵「宥め……いかにも人畜無害ですって顔をしてなんて酷いことを……」

灼「なんで宥さん……? 関係ないと思……」

晴絵「……お前も、そのうちなんとなく発言者がわかるようになるさ」

灼「ただの被害妄想じゃ……」

晴絵「くそおおおおおお!!! 宥うううううう!!!」


ガチャ


宥「よ、呼びましたか……?」ブルブル

玄「隣まで聞こえる大声だったのです」


灼「な、なんでもな……ハルちゃんちょっと具合が悪いみたいで……」アセアセ


ガチャ


憧「ハルエー、シズがラーメン食べたいってうるさいからちょっと近場の店行って来るねー」

穏乃「えー? みんな居るんだし一緒に食べよう!」

玄「この時間の間食、しかもラーメンとなると流石に……乙女として厳しいものが……」

宥「私はいいよー、ラーメンってあったかいよね」

灼「私も別にかまわな……」

玄(「胸だけに脂肪がつく人間」と「いくら食べても太らない人間」の二大乙女の敵が目の前に!? い、いや、前者は私にとっては保護すべき対象ですが、しかし……)

晴絵(宥は体温が高いからエネルギーの消費が激しいだけ、穏乃は走り回って消費してるだけだ。敵は憧と灼、やれるな玄?)

玄(やりませんからね!?)

本日はここまでです。次回は一週間後の予定です。

体調不良で二週間ぐらい執筆間隔が空いてて、微妙に作風が取り戻せてない感じが……とりあえず執筆再開して、現時点で次回分までは書き溜めてます。

霞「二回戦の相手の名門三校のレギュラーを相手に軽々とトップを取って見せる実力者」

久「・・・・・」
照「・・・・・」
咲「・・・・・」
和「・・・・・」
優希「・・・・・」
京太郎「・・・・・」

ワカメ メソラシ

やえ「その通り……ただ、こいつがプラマイゼロの制約を外して思う存分力を振るったら……」

紀子「振るったら?」


やえ「……いや、なんでもない。この馬鹿げた力の代償がプラマイゼロなんだろうから、仮定自体が無意味だ」

↑の科白が、ずっと気にかかってる
BAD ENDだけは辞めてくれ
HAPPY ENDを希望する

九連のダブロンはないですね。九連と国士あたり……だと妹尾さんのセリフがおかしくなるんでその辺見なかったことにしてください。



【控室】


まこ「到着、じゃな」

京太郎「相変わらず広い部屋ですね」

優希「これだけ広ければタコスの屋台を呼べるじぇ!!」

京太郎「屋内に屋台を呼んでどうする?」


優希「無論、食う!!」ドーン


咲「や、屋台を食べるの……?」

照「片岡さん、なかなかワイルド……」

和「優希、変なものを食べるとお腹を壊しますよ?」

優希「食べるのはタコスに決まってるじょ!? ポンコツ二人はともかくのどちゃんまで!?」

京太郎「順調に毒されてきてるな」


久「あんたらこんな日でもマイペースねえ。インハイの決勝なのよ? 少しは緊張とかしないわけ? 私は照を全面的に信頼してるから大丈夫だけど」

咲「どうせお姉ちゃんが一人で終わらせますし」

照「どうせ咲と竹井さんがどうにかするし」

まこ「おんしらが勝手にどうにかするじゃろ、わしはいつも通り打つだけじゃ」

和「私がやることはいつもと同じですから」

優希「皆なら大丈夫だじぇ!!」

京太郎「他人任せじゃないのが和しかいねえ……優希はまあいいとして、大丈夫なのかこいつら……」


久「じゃあ、行きましょうか。照、準備はいい?」

照「……着いたばかりなんだけど。流石にまだ早くない?」

久「少しぐらい、寄り道しましょうよ」

照「……ま、少しぐらいならいいか」


【千里山】


セーラ「大会前に、誰が決勝のこの組み合わせを予想できたやろな?」

怜「白糸台は鉄板やろ。永水も、うちらや姫松が来なければ順当。基本はシード四校。そこからうちらや姫松をどこに入れるかって形なら三校は予想できたやろな」

雅枝「大会の組み合わせが決まった時点でも、ほとんどの関係者が白糸台、永水、臨海の三校に、二回戦で当たったうちら三校のどこが食い込むかって予想やったな」

泉「……実際には、こっち側のブロックは全部あいつらに喰われましたけどね」

浩子「あっち側でもどうだったか。白糸台なんかは昨日も一軍が遅くまで集まってたそうや。相当警戒しとるんやろ」

雅枝「遅くまで集まってたってことは、対策が出来とらんってことや。あいつらが向こう側におったら、白糸台すら喰われてたかもしれん」

怜「ま、でも、うちらも負けに来たわけやない。あいつらと二回も手合せしとるんや、一番戦いやすいのはうちらやで」

セーラ「二回打ったんは怜だけやけどな」

怜「二回目は圧勝したったわ」

竜華「マジもんの圧勝やったからなあ……数字の上でも牌譜見ても。他人から見る限りでは、な」


怜「……ま、心配しなさんな。こちとらあいつらが小三の頃から北大阪代表やっとる名門や。ニワカは相手にならんよ」


セーラ「今年の春からレギュラー入りしたニワカエースが何か言っとるな?」

竜華「う、うちも小三の頃から怜に膝枕しとるんやで!! ニワカは相手にならんわ!!」

怜「いや、はじめて会ったの中学やろ」

竜華「じゃ、じゃあ中三の頃から膝枕しとるんや!! ニワカは相手にならんわ!!」

怜「それはそれで中学入ってから二年間なにしとったんや!? なんで三にこだわんねん!?」

セーラ「おれは高三の頃から怜のライバルやっててん。ニワカは引っ込んどれや」

怜「それごっつ最近やんな? まあ、私がセーラのライバルになれたんが最近ってだけやからセーラはニワカとちゃうけど」

泉「う、うちも高三の頃から園城寺先輩の後輩やってますんで!!」

怜「ついに未来まで来たか、感慨深いな。 そして今のお前はなんや? 後輩と違うんか?」

浩子「では、おばちゃん、締めてください」

雅枝「うちは四十三の頃から千里山の監督をしてる。 せやからお前らのことはみんな知っとる。 お前らなら勝てる。 自信を持って行って来い!!」

怜「洒落かどうか分かりにくいライン攻めんなや! っていうか40代でその顔も大概反則やんな!? どんだけ若作りやねん!?」


『今夜もお送りしております、ふくよかじゃない福与恒子と!!』

『すこやかじゃない……ちょっと待ってこーこちゃん!! これ、その番組じゃないよ!?』

『おっといけね、他局だった?』

『他局の番組ではないけど……』

『まあ、何はともあれ始まりました! 今日はインハイの会場からお伝えするぜー!!』

『今日は、じゃなくてインハイ特番だから!! これっきりだから!!』

『え? 個人戦もあるでしょ?』

『分かってて言ってるのって、すごく悪質じゃないかな!? てゆうかそれはそれで「今日は」っていうのおかしくない!?』

『さすがアラフォー、ツッコミが細かい!!』

『アラサーだよっ!!!! ってなに言わせるの!!?』

『っしゃあ!! すこやんの失言もバッチリ引き出したところで選手紹介だあああ!!!』

『毎回失言してるみたいな扱いやめてよ!! っていうか、失言引き出してテンションあげないで!!!』



『まずはこのひと、千里山女子の大エース、園城寺怜!! 準決勝ではまさかまさかの30万点近い点棒をかき集めました!!』

『圧倒的な展開でしたね。もっとも、園城寺選手の力だったのかどうかは疑問が残りますが』

『準決勝では隠されたその実力がついにベールを脱いだああああ!! 決勝ではチャンピオンをも蹂躙するのか!?』

『あの、こーこちゃん、話を聞いてね?』

『彼女の真の実力を目の当たりにして辛くも生き残った清澄高校宮永照選手、一夜でその対策を練ることを強いられたチャンピオンと神代選手!!』

『あ、あのね、こーこちゃん、準決勝では宮永さんがサポートをしていた節があってね……』

『突如現れた、東風で20万点を獲得する怪物!! 彼女に対して、他校は一体どう立ち向かうのか――――!!?』

『話を聞けええええええ!!!!!』


やえ「ま、数字だけ見たらそういう評価も出るだろうな」

紀子「それにしてもこの二人、急激に漫才コンビ化が進んでいる」

由華「丸瀬先輩がそれを言いますか……」

やえ「おい、巽。それは紀子と誰かしらが漫才コンビ化しているという意味だと思うが、相方は誰だと言うんだ?」

良子「そりゃ、他に居ないだろ?」

やえ「上田はその目障りな髪を切ってから発言しろ」

紀子「レアとミディアムとウェルダン、どれがいい?」

良子「ちょっ、それは酷くないかやえ!? そして何の話だ紀子!?」

紀子「……火葬場での焼き加減」

良子「髪切れって発言からなにもかも飛び越えて唐突に焼かれるの!? てゆうかそれでレアってダメだろ!? むしろミディアムもヤバいだろ!!」

紀子「骨を無事に残すか、骨も焦がすか、骨すら残さず焼き尽くすかだから大丈夫」

良子「死体がなければ完全犯罪も夢じゃないっ!! どこの火葬場でウェルダンのサービスやってるんですかねえええええ!!!?」


日菜「……この組み合わせは元々漫才コンビだけど」

由華「先輩とも漫才が増えてますからね」

やえ「心外だ、ツッコミとツッコミでは漫才は成立しないだろう」

良子「ノープロブレム、小走さんはボケもこなせます」

はやり「おはやや~☆」

やえ「戒能プロ、お願いですから帰ってください。瑞原プロはまだしも」

良子「ホワイっ!? 何ゆえはやりさんはオーケーで私はアウトなんですか!?」

日菜「良子ちゃんと区別がつかないので……」

良子「ノー!! 口調も見た目も全然似てないでしょう!?」

由華「メタ的な事情がありまして……」

はやり「てゆうか、来てることには突っ込まないんだ☆」

やえ「あんたら帰ってないだろうが。昨日はここに宿を取っただろう? 荷物を取りに行ってないということは、その前から居るな?」

はやり「あちゃ、バレたか☆」


『いつも二人で会場に向かう三年生の仲良し二人組!! 清澄高校の先鋒は宮永照うううう!!!』

『宮永選手への指示は試合を左右しますからね。宮永選手の調子や狙いの確認など、ギリギリまで話し合っているのではないでしょうか?』

『今日は最強の敵と再び相見える宮永選手!! 準決勝での経験を生かして、チャンピオンや神代選手を加えた面子でどのような戦略を持って挑むのか!?』

『いや、だからそれは……もういいや。非常に高い実力を持つ選手です、どんな相手でも一定以上の成果を残せるでしょう』

『すこやん相手でも?』

『……やってみないと分からない程度には、彼女は強いと思います』

『うおおおおお!! 小鍛冶プロから自分と同格との評価が出ました! これは期待できるぞ―――!!』

『同格とは言ってないよ!! 一定の成果を残すだけだから私は流石に勝つよ!!』

『あの小鍛治プロが若い選手に対してライバル心むき出し!! 何故、それほどの逸材がこの大会まで埋もれていたのか――!?』


久「で、どうなの、調子は?」

照「……まあ、悪くはないかな。調子自体はむしろいい方だと思う」

久「プラマイゼロのほうは?」

照「……多分だけど、制限つきでトップは取れると思う」

久「完全に解けたわけじゃないのね……で、制限って?」

照「プラマイゼロの時と同じ。自分の点数は29600~30500にしか出来ない。ただし、トップは取れる」

久「……改善はしてるってことか。しかし、また不便な話ねえ」

照「改善してて制約が残ってるってことは、完全に制約を除く時のハードルが上がったっていうことだね。今回使った手は使えないし」

久「次は飛ばして終わらせるわよ。首でも洗って待ってなさい」

照「……うん、待ってる」

久「嬉しそうに言っちゃってまあ……私にあんたを倒せってのは荷が重いんだけど」

照「でも、挑んでくれるでしょ?」

久「……下準備はさせてもらうけどね」

照「長い下準備だったよね。半年以上音沙汰なしだったし」

久「あれは挑む口実が無くなっただけよ。図書室も使わなくなるし、挑んでほしいならもう少し隙を見せてほしかったわね。変なとこだけしっかりして……」

照「毎回本を貸し切るのは大変だと思って気を利かせたのに……」

久「余計な気を回さなくていいの。こっちが勝手にやってるんだから」


『そして、挑戦者たちを一足先に対局室で待ち受けるのは、昨年度のインターハイチャンピオン!! 荒川憩!!』

『今日は随分と早いですね。比較的早めに対局室に来る選手ではありますが』

『何か理由が?』

『特になにかあるというわけではないと思います。性格的なものでしょう』

『ちなみに小鍛治プロはどうですか?』

『わ、私はギリギリに入るかな……』

『なるほど、真打は後から登場すると?』

『というわけでもなく、開始までの待ち時間が苦手で……』

『なるほど、人見知りのせいで婚期だけじゃなく対局室に入るのも遅いわけですね?』

『婚期の話はなんの関係もないでしょ!!! そろそろ怒るよ!?』

『お母様にも、たまには男を連れて来いって釘を刺されて……』

『プライベートの話をするなあああああああ!!!!』


憩「園城寺はん、お久です~」

怜「荒川さん、相変わらずけったいな麻雀打っとるらしいな~」

憩「そっちも相変わらず妙な手順連発しとるやないですか」

怜「うち、病弱やから……」

憩「園城寺さん……って、関係ないやろ!!」

怜「ナイスツッコミや」

憩「病弱ネタ卑怯ですわー」

怜「看護のアルバイトしとるんやったっけ?」

憩「最近は出来とらん上にボランティアですけどね。病弱設定と白衣の天使設定って相性完璧やん?」

怜「設定やなくて割とマジで体は弱いんやけどな。しょっちゅう検査入院しとったし」

憩「いやいや、それ引っ張らんでええんで」

怜「いや、これマジや」

憩「……失礼しました。そんな風には見えんかったんで」

怜「それは嬉しいな。みんなに色々してもらったから、病弱そうって言われるより、そうは見えんって言われる方が嬉しいわ」

憩「……そんなもんですかね?」


バタン

照「……結構早いつもりだったんだけど、もう二人も来てる」

怜「……どうも」

照「……昨日は、ごめんなさい」

怜「昨日も言ったけど、私が弱いのが悪いんやから仕方ない」

照「……今日は、あんなことにはならないと思うから」

憩「同じことやったら負けですからね、流石にやらんと信じてますよ」

照「……」

憩「ん? うちの顔になんかついてます?」

照「……荒川さんは、私のこと、何か聞いてる?」

憩「……それ、対局前に聞かれるとは思いませんでしたわ。うちの答え次第では変に動揺してしまうんやないですか?」

照「……てことは、何か聞いてるんだ?」

怜「ん? あ、そう言えば白糸台の監督って苗字が……」

憩「娘さんやってのは聞いてますよ。それ以上は終わってからってことでどうですかね?」

照「つまり、それ以上を聞いてるってことだよね……うん、それでいい」

怜「なーんか複雑な事情がありそうやなあ……ま、私は麻雀打つだけやけど」


『そして、最後に悠然と対局室に向かうのは永水女子のエース、神代小蒔選手です!』

『彼女はスイッチが入った時の神がかった闘牌が印象的ですね、かなりの特訓をしたのか、地力も春の大会の時よりかなり上げているようです』

『準決勝ではチャンピオン相手に一歩も引かない見事な闘牌を見せました!! 今回はどうか――!?』

『間違いなく、準決勝以上の闘牌を見せてくれるでしょう。期待していいと思います』

『最強のエース園城寺怜を筆頭に、その園城寺怜相手に準決勝をプラスの成績で戦い抜いた宮永照、インターハイチャンピオン荒川憩、そしてチャンピオンと互角の実力を持つ神代小蒔の三人が挑みます!! この決勝、エースの集う先鋒戦は非常にレベルの高い卓になりました!!』

『あのね、こーこちゃん、CM入ったらちょっとお話ししよう? これ結構重大なことだから』

『すこやん……私、アラフォー狙いの知り合いは居ないから、紹介はしてあげられないんだ』

『何の話だと思ってるの!?』


起家 小蒔「……」

南家 怜「よろしゅう」

西家 照「よろしくお願いします」

北家 憩「ほな、はじめましょ」



東一局


怜(この局、宮永さんも荒川も様子見や……しかし、様子見とかそんなの関係ないのが紛れとるな?)


怜手牌

134588m2467p北白中


小蒔「……」ゴゴゴゴ

怜(最初から全開は想定の範囲内として、なにをやって来るかやけど……小走さんの仮説が正しければ、アレが来るんやろな)

小蒔「……」タン

打:2s


怜(索子が出たか……それっぽいな。分かっててもどうしようもないっちゅうのは堪えるわ)

ツモ:2m 打:北


小蒔「ツモ。6000オール」

1223345678889s ツモ:9s


照「……」


ゴオオオオオ


憩(……宮永さんか。監督に聞いてはおったけど、実際にやられてみると気分のええもんやないな、これ)

怜(……さて、隠しとってもバレてしまうんやろか?)

小蒔「……」


照(……マジで? 神代さん、それは反則じゃない?)


久「今回の神代さんは、準決勝より大人しいのね?」

まこ「そうじゃの、もちろん非常識には変わりないが、準決勝のアレやコレよりはマシじゃ」

優希「流石にもうあれ以上はないみたいだじぇ」

京太郎「一安心、なのか?」

和「毎回役満確定、それもドラ20だったり、大三元か大四喜、最低でも四暗刻がつくなんてイカサマより上があってたまりますか」


咲「……残念ながら、あるみたいだよ?」


久「……どういうことかしら?」

咲「見れば分かると思いますけど、あれは多分、一種類の数牌を独占する能力です。つまり、準決勝のアレやコレより強い」

京太郎「『つまり』がその前と繋がってないんだが……」

咲「準決勝の能力、前半はドラ独占、後半は8種類の公九牌しか引かない能力だったよね?」

京太郎「ああ、どっちも事実上役満確定の酷い能力だったと記憶してる」

咲「少なくとも、守備面ではこっちの方が明らかに強いのは分かる?」

久「守備……ドラ独占は、相手の打点こそ下がるものの、守備は不自由よね」

まこ「後半の能力は守備もほぼ鉄壁じゃが、不要な端牌を切って直撃を喰らう恐れは一応あるのう」

咲「その点、これは完全に一色を独占してしまうので、直撃は絶対にありません。1と9を独占するので国士もないです」

京太郎「なるほど、絶対に破れない完全な防御ってわけか」


優希「けど、他の能力でも振り込みはほとんどなかったじぇ? もともと鉄壁なのを強化してもそんなに強くはならないじょ」

和「そうですね。もともと鉄壁なら期待値の上昇は微々たるもの、そこで攻撃力を見るとやはり……あれ?」

まこ「それに、一色を独占したら他家も染め手が作りやすい。下手すると周りの打点が上がる分だけ守備も弱くならんかの?」

咲「いえ、ある理由により、打点が上がっても他家の攻撃力は下がります。そして、同じ理由で攻撃力もこっちの方が高いんだよね。相手次第ではあるけど」

まこ「いやいや、意味が分からんぞ? 打点が上がって攻撃力が下がり、打点が下がって攻撃力が上がる? 哲学か?」

久「……まこ、攻撃力って何かしら? 平均打点=攻撃力なのかしら?」

まこ「そ、そりゃあ……お前さんを見れば和了率も重要なのは分かるが……」

咲「だから、『相手次第』。ドラ独占なんかは和了るのに10巡以上かかったりするけど、それでも和了れない相手なら、攻撃力はドラ独占の方が高い」

久「けど、照や荒川憩を相手にするなら、10巡もかかっていてはほとんど和了は望めない。この面子なら、この能力の方が攻撃力は高いわね」

京太郎「さらっと言ってますけど、10巡前後で絶対和了れるなら、大抵の局は和了れるはずですよね?」

和「(無視)……9種類の数牌をランダムに引いていく……これ、速度が恐ろしいことになりますね」

咲「四暗刻を目指すにしても、後半の能力と一種しか変わらないから役満は依然として作りやすい。そして、刻子以外使えなかったのが、順子も使えるようになる」

京太郎「(無視されても泣かない)当然、和了りは早くなるってか」

咲「しかも、常に清一色がついてくる。打点が下がったって言っても最低点が12000。ツモ以外の役が一つでもつけば倍満。ぶっちゃけるとリーチをかけた時点で倍満確定」

まこ「……独占しちょるけえ、鳴くこともない。そしたら鳴きで清一色が5翻になることもないんじゃな? なるほど、こりゃ大したもんじゃ」

咲「赤も使えますし、萬子がドラになればドラも使えます。さっき言った通り四暗刻もありますし、平均打点は相当高いはずです」

久「放銃率は0。和了率が高いからツモの失点もほぼゼロ。一局当たりの収支の期待値は20000点を少し超えるぐらいかしら?」

優希「……一局あたりっておかしくないか?」

咲「北家の薄墨さん相手に連荘するとその局の期待値がマイナスとかいう話もあったからね。一局あたりの期待値を考えるのはおかしくないよ」

京太郎「一局当たりの期待値そのものじゃなくて、それが20000を超えてるのがおかしいってことだと思うんだが……」

咲「アレを相手に周りが普通に打ったらそれぐらいになるよ。ただ、こっちも普通じゃないからそうはならないけど」

まこ「そうじゃのう。なにせ、あの卓には……」


『ツモ、400・600』


『宮永選手が神代選手の親倍を蹴り飛ばした――!! 伊達に修羅場はくぐってないぞ――!!』

『流石ですね、全体の状況をよく見ています。手を下げていますが、ミスではないでしょう』

『え? 打点下げてた?』

『ツモのみの和了りでしたが、5677の4ー7索待ちから7を引いて6切りでピンフを崩しています。ツモ切りなら次順で荒川さんから4索を直撃出来ていました。このような手牌で役なし聴牌に取るのは通常ありえない打ち方です』

『てことは?』

『おそらく、手を下げたのは他家への被害を最小限に留めるため。直撃を避けたのは、荒川さんからマークされるのを避けたのだと思います』

『その心は?』

『神代選手に対しての共闘を呼びかけているのだと思います。荒川選手も園城寺選手も高レベルな選手ですから、河を見ればそれに気付くでしょう』


雅枝「と、解説は言っとるが、園城寺は大丈夫か?」

浩子「気付きますね。一週間も前やったら怪しいもんですけど、今の園城寺先輩なら確実に気付きます」

セーラ「で、気付いたとして、怜はどう出るんや?」

浩子「『サポートするっちゅうならされてやる、サポートしろって言うならもうちょい様子見させてもらうで』ぐらいとちゃいますかね?」

泉「めっちゃわがままですやん」

浩子「勝負事は自分に有利に進めるもんやろ。自分にメリットのない取引には乗らん」

竜華「で、荒川は?」

浩子「無視でしょうね。宮永照が最優先のはずや」


『ツモ、500・1000』


セーラ「早っ!?」

浩子「今の神代小蒔より早く和了るってだけでも十分すぎるほど人外です。トビ終了アリでまともに打ったら半荘何回か打って誰かが一回和了れればいい方。それをあっさりやってのける」

雅枝「まさに規格外の化け物やな。最優先で警戒するのも当然か」

浩子「宮永が共闘のために動けば動くほど、ヤバいのは神代よりも宮永やっちゅうのが見えてしまう。ただ、ある条件を考慮に入れると、その化け物と共闘する選択肢が有力になるわけやけど」


東三局


怜(……まあ、結論から言うと、私は宮永さんと共闘するべきって話になるわな)

怜(今『視え』てしもたもんがあまりにもショックすぎて激萎えやけど、それはそれとして今やるべきことや)


照「……」

打:東


怜「ポン」

134466s228m西西 ポン:東東東 

打:8m


照「……」

打:2m


怜「ポン」

ポン:222m 打:1s


照「……」

打:6s


怜「ポン」

ポン:666s 打:3s


照「……」

打:西


怜「ロン。5200」

44s西西 ポン:東東東 222m 666s ロン:西



久「ん~、まあ、仕方ないのかしら?」

咲「……あの、これ、プラマイゼロでも狙ってるんですか? まさか、プラマイゼロの制約が残って……でも、これは?」

久「鋭いわね。実は、何か中途半端に制限が緩和されててね、トップは取れるけど25000持ちの半荘で見た場合に30600以上は取れないって」

咲「……それ、トップを取ろうとしたら自分以外誰も三万を超えないロースコアゲームにするしかないですよね? そうか、それで……」

久「最低でも跳満を和了る上に超高速で仕上げてくる化け物と最低5200で超高速で仕上げてくる化け物が同卓してるから、ちょっと厳しいのよね」

優希「……厳しいっていうか、絶望しかないじょ」

京太郎「てことは、照さんは全体の点数を平たくしようとしてるのか?」

咲「そう。そして京ちゃん、この状況から神代さんを三万未満まで引きずり下ろすってことがどういうことか分かる?」

京太郎「……なんかあるか? 神代さんは最初に親で跳満を和了って43000、そのあと少し削られて、今は41900だな。照さんなら親満直撃で簡単に……」

和「ダウト。咲さんの見立てでは神代さんは一色を独占するのらしいので、直撃は【不可能】です」

京太郎「……てことは?」

咲「ツモって削り落とすしかない。ただ、自分だけがツモって神代さんを削りきると今度は自分が30600を超えちゃう」

まこ「要するに、いつもやっちょる点数調整のための差し込みか」

咲「いえ、いつもならする必要のない差し込みです。これは、トップを取るための差し込み」

久「様子見のための一局で6000オールを和了られたのは痛かったわね。【直撃困難】なら無理やりにでも直撃するでしょうけど、【直撃不可能】だからね」

咲「別にトップにこだわらなければ神代さんにトップ取らせて終わってもいいんですけど……」

久「それはないわね、だってあの子……おっと」


『ロン、3900』


京太郎「二連続で園城寺さんに差し込み……」

咲「サポートする際の席順の都合もあるけど……荒川さんの親番、流しちゃうんだ?」

優希「インターハイチャンピオンだから流石に親番は危険ってことじゃないか?」

咲「今は大きくへこんでるんだから、親の荒川さんに和了ってもらう方がいいはずだよ。点数調整に使える局数は多いほうがいいし、なるべく全体を平らにしたいからへこんでる人に和了ってもらいたい。むしろ、お姉ちゃんがトップを取るためには、一度は満貫以上の手を和了ってもらわないと困る」

和「……あの、変なことを聞きますが……照さん、トップを取れるようになったせいで逆に制約が増えてませんか?」

咲「なかなか鋭いね和ちゃん。もちろん、トップを取ることにこだわらなければ制約は減りこそすれ決して増えてはいないんだけど……」

まこ「じゃが、トップを取ることにこだわっとるように見えるな」

京太郎「……なんでですかね?」

咲「理由なんか要るかな? 麻雀を打って、トップを取ることが出来て、それならトップを取りたいって思うのは、理由が必要なことかな?」

久「トップを諦めるのに理由は必要だけど、トップを狙うのに理由は要らないわよね。まあ、理由らしきものもなくはないけど」

京太郎「……その、理由らしきものっていうのは?」

久「あの子、ポンコツとかプラマイゼロとか変なとこばっか目立って気付かれにくいみたいだけど、これに関しては咲よりタチが悪いのよね」

咲「私がタチが悪いみたいな言い方はやめて下さい。で、なんだっていうんですか?」


久「簡単よ、あの子、死ぬほど負けず嫌いなの」



『ツモ、3000・6000』


まこ「跳満か、普通に考えたら大きな手なんじゃが……照さんじゃと物足りん感じがするの」

咲「……神代さんの親番で全力で削りに行ったはずですから、なるべく高い手を狙うのは当然です。でも、これが限界だったと考えると……」

京太郎「永水女子のエースは伊達じゃないってことか」

咲「……ううん、今回は神代さんじゃない。荒川さんが次で安手をツモるからここで和了るしかなかったんだと思う」

久「たしかに、ペンチャン待ちで役なし聴牌してるわね。珍しくリーチしなかったみたいだけど」

優希「なんでリーチしなかったんだじょ?」

和「……照さんの聴牌気配を感じて、リー棒が無駄になると思ったのでしょうか?」

優希「ああ、なるほどだじぇ!」

京太郎「聴牌気配を感じるとか、何気なく言ってるけどそれ十分オカルトだからな?」


まこ「ん? それは分かるじゃろ? 河がほっといたら和了る顔するけえ」


京太郎「清澄の唯一の良心が、今、死んだ」

優希「ま、まだ私が居るじぇ……」

京太郎「お前、さっき『なるほど』とか言って納得してたじゃねーか!!!」

優希「うぐっ!?」


やえ「……荒川がリーチをしなかった、か。さて、どんな狙いがあるやら」

はやり「リー棒が勿体ないってだけじゃないかな☆」

やえ「いや、どうだろうな? 宮永照は共闘を呼び掛けているんだ、リーチをかけたなら和了らせてもらえていたかもしれんぞ?」

由華「ですよね。ということは、あいつは共闘しようと差しのべられた手を払いのけているわけで……」

日菜「そうする理由は、何かあるかな?」

やえ「私が持ち合わせている情報に照らし合わせる限りでは、何もない」キッパリ

由華「断言ですか……」

やえ「宮永照は自身でトップを取ることが出来ない。そして、神代小蒔のトップを拒絶して園城寺と荒川のどちらかをトップにしようとしている。ここまでは荒川も分かっているはずだ」

良子「それは小走さんぐらいしか知り得ないインフォメーションでは? 白糸台は彼女の能力を分析出来ていない可能性もあります」

やえ「それもない。その程度の奴なら、いくらインチキくさい能力を使うとはいえあれだけ勝ち続けることは出来ん。奴は能力の研究と対策も一流だ、宮永の能力については私と同等程度の考察は出来ているはず」

由華「宮永さんを敵に回せば、神代と、宮永さんのサポートを受けた園城寺さんを敵に回すことになります。トップどころか二位や三位も厳しいですよ」

やえ「その通りだ。利用できるものは利用する程度にはしたたかな奴だったはずだが、何を考えている?」

はやり「てことは、監督さんが何か吹き込んだのかな☆ 小走さんも知らない何かを、荒川さんは知ってる☆」

やえ「だろうな、でなければ説明できん。 そうだとするなら、あれを正当化する何かがあることを前提にそれを推測することが出来る」

由華「ちなみに、何があり得そうですか?」

やえ「どうだろうな……園城寺が言っていた『相手の打ち方を見抜く能力』があると仮定して、それを外すために『普段なら絶対にやらない打ち方』をしている、ぐらいか?」


良子「中学時代は可愛げがあったのになあ……いつから紀子はこんな風になってしまったのか……」

紀子「……そういえば、まだ火加減を聞いてなかった。レアとミディアムとウェルダン、どれがいい?」

良子「まだ引っ張るのかそれ!? てゆうか、今はお前の中学時代の話で……」

紀子「それ以上口を開くとウェルダンに自動的に決定する」

良子「横暴だ――!!」


やえ「……それにしても、あいつらまだ漫才やってるのか。仲の良いことだが、気が散るから余所でやってはくれないものか」


南2局


照(……うーん、やりにくい。荒川さんは何がしたいんだろう?)

照(私の助力を拒否してメリットがあるとは思えないんだけど、なにか狙いがあるのかな?)

照(そして、園城寺さん。なにかやった?)

照(ツモが偏るとかそういう力じゃない。けど、途中から打ち方が明らかに変わった)

照(怖いなあ……成長速度が異常過ぎる。下手すると、この半荘の内にもう一度照魔鏡を使わないといけない)

照(荒川さんと園城寺さんで神代さんを抑えられるならそれもアリなんだけど……もう一度跳満でも和了られたらほとんど詰みだし、その余裕はないかな)

照(……今回は照魔鏡なしで打った方が良かったかなあ。神代さんが予想以上に酷かった、荒川さんまで様子見に回る東一局でフリーにしたのは大失敗)

照(それはそれとして、荒川さんにはそろそろ和了ってもらわないと……私が30500で神代さんと園城寺さんを揃って30400にするとしても、荒川さんには8700は持っててもらわないといけない。流石にそこまで調節するのは無理だから、現実的には10000点ぐらいは持っててほしいんだけど、荒川さんの点数は今の時点で15100……ツモでしか神代さんを削れない上に神代さんの親番はもうないから、ほとんど余裕はない)

照(……少し厳しいかな? せめて何を考えてるのか分かれば手が打てるかもしれないけど……)


雅枝「どう読む、浩子?」

浩子「さて? 今となってはうちより園城寺先輩の判断の方が信頼できますからね」

セーラ「それはないやろ。フナQはまだまだ健在や」

浩子「うちが健在なのはそうやと思いますけど、園城寺先輩がアレを使えるようになったってことは、園城寺先輩は素の実力でもうちと同格以上の分析と対策のエキスパートになったってことですからね」

竜華「……力の大元の怜が進化したなら、うちの能力も進化したりせんかな?」

浩子「そのチートにこれ以上何を求める気ですか、ええ加減にせえやホンマに」

泉「船久保先輩、台詞の後半で本音が漏れてます」

浩子「おっと」

雅枝「荒川は何のつもりなんや? 宮永はあっさり神代を抑えてるように見えるが、実際楽に抑えられてるのか? 分かるか?」

浩子「園城寺先輩には力関係まで分かってると思いますけど、うちには荒川の思惑ぐらいしか分かりませんね」

セーラ「あ、そこは分かるんや?」

浩子「……ちょっと飛躍した推理ですけどね。そこまでする動機が最大の謎です」

雅枝「事実妙なことをしとるんや、動機はさておき、何をしようとしてるのかは把握したほうがええ。話してくれ」


浩子「おそらくやけど……荒川の目的は、宮永照のプラマイゼロを破ることやと思われます」

雅枝「……は?」

浩子「少なくとも、この半荘での勝利を目指してはいません。 であれば、考えられる目的は神代小蒔の能力を打ち破ることか宮永照の能力を打ち破ること。打ち方からも人間関係からも、後者が有力と考えられます」

雅枝「……根拠を提示してもらおか」

浩子「勝利を目指していないというのは、さっきリーチをかけなかったことから明らかです。宮永が神代を削って他をトップにしようとしてるのは明らかなので、リーチをかけていれば和了らせてもらえた可能性が高い」

セーラ「ん? ちょっと良くわからんな? なんでリーチすると和了らせてもらえて、リーチせんとダメなんや?」

浩子「神代へのダメージです。自分で和了れば神代を6000削れる、荒川に和了らせれば場を平たくしながら親かぶりさせられますけど、リーチせんなら打点が期待出来ん。出来る事なら荒川に和了らせた方が良いとは言っても、500・1000とかで和了りを譲るぐらいなら自分で3000・6000を和了る方がええわけです。荒川はそれぐらいのことが分からん奴やない、分かっていてあえてそれをしなかったということになります」

雅枝「勝利を目指していないなら他に目的がある。しかし、それにしたって因縁のある神代小蒔との一騎打ちと考えるのが自然やけど……」

浩子「神代との一騎打ちにしては、おとなしすぎます。脇の二人を蚊帳の外に追いやって二人だけで勝負するみたいなんを目指すはずですけど、ここまで一切動きがありません。動きらしい動きがさっきの一局の『動かなかった』しかあらへん以上、それが目的とはちょっと考えにくい」

セーラ「……で、消去法で宮永照のプラマイゼロ破りが目的やって?」

浩子「実際、打ち方だけ見てもプラマイゼロ破りに思えます。ここまでの結果から察するに、今回宮永が望んどるのは、神代以外の誰かをトップにしての比較的僅差のプラマイゼロでしょうから、場を偏らせるために自分が沈むのはプラマイゼロ破りとしては悪くないでしょうね」

雅枝「……自分を犠牲にしてでも、プラマイゼロを破ることを優先しとるっちゅうわけか?」

浩子「まともな相手なら、思惑通りだろうとなんだろうと、自分を和了らせてくれるっちゅうなら和了ります。宮永照は今までそれを利用してプラマイゼロに向けた点数調整をしてきた。餌で釣って三人の対局者の誰かを動かし、餌を与える相手を変えたり、時には自ら和了ることでバランスを取っていたわけです」

竜華「けど、荒川はその餌を拒否したっちゅうことか……そうするとどうなるんや?」

浩子「これ、点棒を見れば宮永にダメージはないんですけど、プラマイゼロってことなら思惑が狂ってかなりのダメージになるんやないかと思います。荒川がリーチ一発ツモドラ1で2000・4000を和了れば宮永は2000点の点棒を失いますけど、プラマイゼロに向けた調整は予定通り進む。それを拒否して宮永に3000・6000を和了らせれば、点棒の収支は荒川が和了るより14000ほど宮永に有利ですけど、プラマイゼロを狙うに当たっては予定が狂って苦しくなっている」


雅枝「……なるほど。対策としては良く出来とるわけか……そんなら、仕込んだのはあいつやな」

セーラ「あいつ?」

雅枝「……娘相手に勝負捨ててまでこんなえげつない真似、ようするわ」

竜華「……監督、白糸台の監督と知り合いやったっけ?」

雅枝「小学生の頃から数えて、大会で何回当ったか覚えとらんぐらいには顔見知りや」

浩子「ちなみに対戦成績は……?」

雅枝「うっさい、聞くな!!! 洋榎と江口ぐらいや!!」

セーラ「それやったら怒らんでも……」


泉(調べたら8勝31敗とか出ました)

竜華(絶対口に出すんやないで。多分それ監督の最大の地雷や。打倒白糸台が目標やのに、一回も馴染みのはずの向こうの監督の話したことないんや、相当やで)

泉(中学二年あたりから大幅に負け越し始めて、高校時代は一回しか勝ってないです)

竜華(もうええ、黙れ泉! 監督に聞かれたら……)


雅枝「二条、麻雀の楽しさを忘れとらんか? 思い出せたろか?」ゴゴゴゴゴ


泉「ひっ!?」ビクッ

竜華「か、監督、泉はこれから次鋒戦が……」

雅枝「今見たものを忘れるか、記憶を全て失うぐらいのショックを受けるか、好きな方を選びや」

泉「わ、忘れます忘れます!! 忘れますんで勘弁してください!!」

中途半端なところですが、今回は以上です。
次回は一週間後の予定です。

能力が全部公開されてる状態で山場とかどんでん返しを作るのって思った以上に難しいですね。

見直し中に>>478のところがフリテンで直撃出来ないことに気づいて訂正と謝罪に参りました。そこのやり取りはなかったことにしていただければと思います。まことに申し訳ございません。
投下直前に思いつきで変なもの付け足すと大抵酷いことになります(戒め)

さっき書き終わって、少し時間をおいてからもう一度見直しするので、今日の更新は夕方の四時ぐらいになると思います。

すみません、見直したら怜と照が場所替わってるという怪現象が見つかったので修正してました。多分もう大丈夫なはず。


怜(相手の能力や打ち方を『視る』、小走さんから仕込まれた打ち方に対応した私の新たな能力……)

怜(進化したら前の能力は消えるのかとも思ったけど、使い分けは可能で、切り替えれば今まで通りの一巡先を視る力も使える。ちなみに、切り替えは一局ごとや。配牌もらうまでに能力見抜いて、打つ時は一巡先を視るっちゅう便利な使い方は、今のところ出来そうにない)

怜(この能力で視えるもんは多岐に渡る。能力の詳細はもちろん、打ち方のクセ、その時点で何を狙っとるかなんてのも視える。状況に応じて狙いを変えるっちゅうのはよくあるから、毎局こっちを使うのもアリや。フナQみたいな策士タイプが相手やと一巡先が視えるよりこっちの方が心強いやろな)

怜(……ただなあ、私が努力して開眼したこれとほぼ同等の能力をデフォで使えるっちゅう桁違いの化けもんが目の前におってなあ……生きるんて辛いなあ……)

怜(ま、ぼやいてもしゃーないから、出来ることをするんやけど)

怜(……私には視えとる、荒川の目的も、宮永さんの能力も、神代の能力も。この場の誰よりも正確にこの場の状況を把握しとるし、把握した状況を最大限生かす技術も、今の私にはある)

怜(その中で最大の鍵は宮永さん。今の彼女は、プラマイゼロ……とは言い難いが、30000点前後でしか半荘を終われん制約がある。その制約の中で、今回はトップを狙っとる)

怜(これは、私にとって都合がいい。こいつら相手にまともに打ったら何万差をつけられるか分かったもんやないけど、この状況なら宮永さんと共闘が出来る)

怜(なにせ、その制約の中で宮永さんがトップに立つなら、上三人を同点にしての同着トップで点数も上限一杯の30500だとしても、最下位は8500は残るんやからな。まともに打ったら10万差になりかねんところが絶対に22000差以内に収まるんや、明らかに弱い立場の私はそれに乗るべきや)

怜(宮永さんとしても、神代を相手に使える駒無しで真っ向勝負は厳しいから、私を使いたい。利害は完全に一致しとる)


怜(そして、荒川……こいつの目的は宮永さんのプラマイゼロを崩すことや。なんでそんなことしたいのかまでは視えんけど、目的はそれで間違いない)

怜(ただ、宮永さんは荒川の目的を知らない。私は、情報の差を生かして二人の思惑を利用しながら自分に有利なように立ち回る)

怜(目標はトップではなく、実現可能な最善の結果。勝てん相手には勝てん、せやからもっとも逆転しやすい形で次につなぐ)

怜(私を利用して先鋒で勝負を終わらせるためだろうと、トップを取るためだろうと、それで自分が有利になるならいくらでも思惑に乗ったる)

怜(せやから、頼むで? あんたの力は準決勝で嫌というほど思い知らされたからな、私はあんたを誰よりも高く買っとるんや)


怜手牌

34赤5p356778s白白東東


照「……」

打:白


怜「ポン」

ポン:白白白 


怜(私が鳴けば、それだけ宮永さんのツモは増えるし、私も手が進む。この席順は急造コンビで宮永さん頼りの私らにとって理想的。宮永さんなら私の鳴きたいところを見極めてくれるはずや)

打:3s


照「……」

打:東


怜「ポン」

ポン:東東東 打:8s


照「……」

打:3s


怜(……7索と8索を先に切っとったらそれを直撃やったって? 無茶言うなや、そんなもん読めんわ)

怜(いや、違うな、共闘が必要な状況でそんなあてつけみたいなことするはずがない。この人なら私に何が読めて何が読めんかまで分かるはずや)

怜(あてつけやなくて、切った理由があるか、でなければ保険はかけとるっちゅうアピール)

怜(そうや。この点数状況、残り局数、自分をギリギリまで削って親番だけで決めるっちゅうのも難しい。そこまで行ったら私が裏切る可能性もある)

怜(私に和了らせるのに、必ずしも自分が振り込む必要はない。つまり――――)


怜「――ツモ」


怜(今回は、私にツモらせて神代を削るっちゅうことやな)


34赤5p5677s ポン:白白白 東東東 ツモ:4s


怜「白・東・ドラ1。2000オール」


初美「うが――!!! どうなってるですかー!!! 最強の神様を降ろした姫様が和了れないとかあり得ないです――!!」

霞「……信じられない。こんなこと……あり得ない」

春「けど、実際に起きてる」ポリポリ

巴「……人間じゃない……こんなこと、人間に出来るはずがない」

春「準決勝の結果から考えればあり得ることだった。私たちは姫様を過信しすぎた」ポリ

霞「……あの子は、何者なの?」

春「知らない」ポリ

初美「ううっ……アレを降ろした姫様でダメならお手上げですよー! どうなってるですか―!!」

巴「な、なんとかならないの……?」

春「……焦っているようには見える」

霞「焦っている? どういうこと?」

春「分からない。けど、表情が曇ってる気がする」ポリ


『ツモ。1100オール』


霞「くっ、また……本人が和了るならともかく、手足として使っている他人を、姫様を相手にしてこうも簡単に和了らせるなんて」

春「……」

霞「……彼女たちの目的が力を誇示することだとするなら、姫様を完封するというのは、私たちに対してはこれ以上ないほど効果的ね」

巴「……姫様でも、ダメなの? そんなの、誰がやっても……」

初美「巴! シャンとするです! そうやって絶望したらあいつらの思うツボですよー!!」

春「……」

霞「そうね。初美の言うとおりだわ。たとえ勝てないとしても、彼女たちの思い通りにはならない」

初美「たとえ姫様が勝てなくても、こいつはあいつらの切り札のはずですー!! ほかの連中なら私たちでもなんとかなるはずですよー!!」

春「その『他の連中』が手ごわいから姫様に頼る算段になっていたような……」

初美「はるるは黙ってるですー!!」


南二局二本場 ドラ:東


怜(……しかし、この人マジでなんなん? いくらなんでもおかしいやろ)

怜(何がって? 神代を完封しとることに決まっとるやろ)

怜(今の神代がどんだけおかしいか、萬子だけで作った山から適当に配牌取った後、5回もツモったら分かるで。こんなのに勝てるわけないって確信する)

怜(正直、この人がおらんかったらお手上げや、荒川でもまず間違いなく大敗するやろ。本来なら10万持っててもトビ終了の心配をせなアカン)

怜(それがどういうわけか、実際には私と宮永さんだけが和了って神代は動けずにいる)

怜(ありがたいけどな、実際やられてみると怖いっちゅうのが先に来るでこれは)

怜(例えば、サバンナで腹ペコのライオンに襲われるとするやろ? 人間がライオンに勝てるはずもないし、逃げることも出来んから死を覚悟するやん? そこに、恐竜がやってきてライオンを蹴散らした)

怜(まあ、当面の危機は去ったわな。けど、その状況、目の前にはライオンよりヤバい生き物がおるんや)

怜(恐竜が食べるのは体の大きいライオンの方や、私を食っても腹は満たされん。せやから、私は当面安全ではある)

怜(けど、腹を減らした「そいつ」が、ライオンを食べて満腹にならなかったら? あるいは、人間が狩猟を楽しむように、そいつが空腹関係なく獲物を襲い始めたら?)

怜(自分の生死を握っとる存在を怖がるなってのは無理や。けど、今はそれを頼る以外に生き残る術はない)

怜(それしかないんやけど……そろそろ潮時か)


照「ツモ。2200・4200」

123666m89p東東東南南 ツモ:7p ドラ:東


怜(私に点棒を預けるのもそろそろ限界、これ以上は仕上げに私を削るのが厳しくなる。なにせ宮永さんの目的は30000前後でのトップやからな、プラマイゼロ狙いの時みたく私をトップにしてもええってわけにはいかん)

怜(目的の状態で半荘を終わらなあかん以上、親番で連荘するわけにもいかん。それに、今和了ったこの点数。連続和了の制約を考えると……)

怜(……あれ?)



咲「……あの、これって」

久「結構ヤバいんじゃない? どうする気なのかしら?」

優希「何がヤバイんだじぇ?」

京太郎「さっぱりわからん。なんだってんだ?」

和「……分かってない二人のために説明しますので、点数を見てください。現在の点数状況はこうです」


白糸台  84800
清澄  105800
千里山 103800
永水  105600


咲「お姉ちゃんは25000点持ちの半荘だとみなして打ってるから、分かりやすくするために個人の点数にして、更に席順通りに並べ直すとこうだね」


小蒔 30600
怜  28800
照  30800
憩   9800


京太郎「……これの何が問題なんだ?」

咲「ここから、神代さんと園城寺さんを抑えてお姉ちゃんが29600~30500点でトップで終えるためにはどうすればいい?」

京太郎「神代さんを削った上で自分も削られなきゃダメだな。神代さんへの直撃は不可能だから一回はツモるとして……」

咲「連続和了の制約でお姉ちゃんは親番で8700以上の手しか和了れない。もちろんこれを和了ったらダメで、今お姉ちゃんに協力してくれるのは園城寺さんだけだから、次は園城寺さんが和了るしかないよね?」

京太郎「そうだな」

咲「園城寺さんが連続で300・500で和了るとどうなる?」

優希「えっと、永水が30000と照さんが30000で……同点だじょ?」

和「千里山がトップになるのもお忘れなく。最低点は1000、それを連続で和了れば現状の園城寺さんの点数である28800からは、絶対に照さんの獲得できる上限である30500を超えます」

京太郎「次は園城寺さんが和了らなきゃいけないけど、園城寺さんを連続で和了らせるわけにはいかない。ってことは、次の一局は園城寺さん、最後は照さんが和了るんだな?」

咲「最後にお姉ちゃんが和了るってことは、園城寺さんの次の和了りでお姉ちゃんを1300以上削ってもらわないといけない。じゃないとお姉ちゃんが30500までに収まらないからね」

久「しかも、仮に園城寺さんに照が2000を振り込んでからオーラスで照が300・500を和了ると、照がトップにならないのよね。神代さんが30300、園城寺さんが30500なのに対して照は29900だもの」

咲「理想は、園城寺さんが700・1300をツモってからお姉ちゃんが1000点を園城寺さんに直撃すること。次善は、2000を振り込んでから400・800を和了ること。園城寺さんに1600を振り込んでから300・500っていうのもあるよ。いずれも同点トップにしかならないけどね」


京太郎「……同点?」

咲「うん。詰んでるんだ、この状況。もう同点トップしか狙えない」

京太郎「いやいや、照さんは100点単位で調節できるんだからなんとかなるだろ?」

久「園城寺さんへの差し込みは2000点が限度。それ以上は自分が30500以内に収まる手では園城寺さんに追いつけない」

咲「神代さんが30600点っていうのが痛い。園城寺さんに差し込んで園城寺さんに直撃っていうわけにいかなくて、どっちかはツモらなきゃいけない」

和「園城寺さん、照さんの順で和了るとして、ロンとツモの組み合わせで和了るパターンは四通り。そのうち差し込んで直撃は神代さんがトップを維持する。差し込んでツモでは単独トップは不可能。ツモらせて直撃、ツモらせて自分もツモはどうでしょうか?」

咲「ツモらせて直撃はさっき言ったのが最善。700・1300未満じゃお姉ちゃんはそもそも和了れない」

京太郎「……確かに」

咲「ツモらせて自分もツモるパターンには同点トップすら存在しないよ。お姉ちゃんと園城寺さんを合わせた点棒が61000を超えたら、二人の中でどう分けても片方が30600を超える。お姉ちゃんは30600以上は稼げないんだから、他から持って来る分が増えたら状況が悪くなるだけ」

久「その考え方で行くと、現時点で既に59600なのよね。二人の中での移動はともかく、脇の二人から奪う分が1400を超えたらアウト」

咲「お姉ちゃんが親の南三局の園城寺さんのツモでは700・1300、荒川さんが親のオーラスのお姉ちゃんのツモでは400・800が限界なんだよ」


京太郎「現状では単独トップが無理なのは分かった。けどな……」

まこ「そうじゃな、なんで照さんがここまで追い込まれとるんじゃ?」

久「……むしろ、私はあの子がここまでやったことに恐怖すら感じてるんだけど」

咲「そうですね。アレを相手にして本当にここまでのことをやるとは、流石に驚いてます」

優希「???」

咲「あのね、さっき言ったと思うけど、今の神代さんは絶対に崩せない完璧な防御と、10万点持ちを東風であっさり飛ばすぐらいの攻撃力を兼ね備えた最強クラスのモンスターなんだよ?」

和「あっ……確かに……」

京太郎「照さんがあっさり抑えてるから、大したことないのかと……」

咲「ちょっと卓についてもらおうかな? 配牌からずっと一色しかツモらないっていうのがどれだけ頭のおかしなチートか教えてあげるよ」

久「待ちなさい、どうやってそれを再現する気?」

咲「私がツモる時だけ萬子をツモるまで山を開けていけばいいんじゃないですか? ざっくり計算して四枚に一枚以上は萬子なんですし、牌がなくなる前には終わると思いますよ」


まこ(良かった……常識的なやり方じゃった)ホッ

優希(京太郎相手なら実力であの能力を再現出来るとか言われたらどうしようかと……)ホッ

咲(……なんで今ので安心されたんだろう?)

京太郎(ツモる時はそれでいいが、配牌はどうする気なんだこいつ?)


和(ところで、華麗にスルーされていますが……これ、荒川さんがツモれば全く問題ない話ですよね?)ヒソ

久(そうね。彼女が和了ってくれさえすれば何の問題もないわね)ヒソ

久(……だけど、あのチャンピオンは一体何を考えてるのかしら? 力の差がありすぎて何も出来ないってわけじゃないでしょう?)


照(……いくらなんでも、そろそろ動くはずだよね? このままだと私は単独トップになれない、団体戦だから同点トップを取っておけば上家取りで二位になるなんてことはないから、それでも構わないけれど……)

照(ここで彼女が動かないなら、それもやむなし。その場合は同率一位に甘んじるしかない)

照(けど……これで終わるような人ではないはず)


照手牌

222m34p東東東南南南白白


憩「リーチ」

24589m23467899p ツモ:7m

打:2m


照(――来た!!)


雅枝「動いたか、しかし、これは……?」

泉「……なんかおかしいところありますか?」

セーラ「おい、泉、お前の目は節穴か? どこ見とんねん?」

竜華「常識的には平和もつく2萬切りが正しい、けど、荒川に限ってはあり得んな」

泉「いやいや、ここで5萬切るのと2萬切るので次のツモが変わるとかオカルトにもほどがあるでしょ!? どうせ3萬をツモるなら2萬切りの一手ですって!」

浩子「(無視)ま、これではっきりしましたね。荒川憩の目的は間違いなく宮永照のプラマイゼロ崩しです。このリー棒一本で、更に状況は難しくなる……とはいえ、プラマイゼロを阻止するのに役に立つんかな? うちらが知らん他の制約があるんか?」

雅枝「おそらくな。例えば、30000前後の得点の人間が三人おったらトップを取れるとかの特例があって、今回はそれを狙うと読んで、狙える状況に誘導したっちゅうのはどうや?」

浩子「それを狙って綺麗にそろえた三人の点数に生じる、1000点のズレ……ラス前でのそれは致命的なズレになる。荒川がプラマイゼロ崩しを狙ってやってるなら、十分あり得ますね」

泉「(無視されて泣きそう)手の届くところまでたどり着いたら諦めきれんもんです、もし、それに固執して打ち方を変えるようなことがあれば……」


『槓』


雅枝「……槓だと? 何が狙いや? 荒川に和了らせたいのか、それとも……」


『槓』


京太郎「……え?」

咲「大明槓の責任払い。東、南、嶺上開花、赤1の40符で満貫。親の満貫は12000。リーチも成立するからリー棒も手に入るね」

和「……咲さん?」

咲「和了れないリーチに期待したりはしない。確実に単独トップを狙うにはこれが最善」


『ツモ。嶺上開花・東・南・ドラ1、大明槓の責任払いで12000』


久「ここで赤5をツモるわけね、流石というかなんというか……」

和「いえ、あの……ちょっと理解できないんですが……?」

咲「……ここで満貫を和了ったっていうことは、次できっと6100オールをツモる、その後、荒川さんに役満の32600を差し込む」

和「は?」

咲「それで29500。最後に1000点を和了れば30500で単独トップ。1000点限定だからツモが許されないのが難点だけどね。リーチを掛けられたのはちょっと痛かったかな? ここで満貫を和了らざるを得なかったのも苦しいのかもしれない」

和「……」

久「上手く行くと思う?」

咲「……やれると思ってるからやってるはずです。今のリーチにも荒川さんからは勝つ気が感じられませんけど、いくらなんでもトップからの役満直撃を見逃すことは出来ないでしょう」

久「用意できれば確実に食いつくはずの餌、か。それでも食いつかなかったら?」

咲「……流石に無意味な仮定だと思いますけど、仮に食いつかなかったなら、お姉ちゃんが断トツで終わるだけです」

久「断トツな上に後半ではプラマイゼロの制約も完全に消えて大暴れ、それは私たちにとって願ったり叶ったり。優勝が転がり込んでくるようなもの、か」


憩(……さて、監督の予想通りやったな。宮永照の呪いをどうにか出来る奴が清澄におるんやないかって)

憩(ここまでの結果やったら、うちを削りつつ永水・千里山を並べた状態にしてプラマイゼロで終わらせたいってことで説明がつく。地力からして清澄が一番警戒すべきはうちらや、戦略的におかしなことはない)

憩(けど、これはそれじゃ説明出来ん、プラマイゼロが大きく遠ざかるからな。今の宮永照はプラマイゼロの呪いを克服していて、それ以外の狙いがあるっちゅうことや。ここまではプラマイゼロの呪いが解けたのを隠していて、最後に出し抜きに来たか?)

憩(あり得る。しかし、それやと違和感がある。特に、さっきまで浮かべとった苦しげな表情、あれは演技やない)

憩(苦しかったんや、さっきまでの状況は)

憩(苦しいってことは、目標が達成できへん見込みが強かったってことやろ? うちらを削りつつ永水と千里山を平たくして5000前後の点棒を稼ぐ……それが目的ならさっきのは理想に近い形のはずや)

憩(出し抜きに来た? いやいや、それならこの親番でいつでも出し抜けた。苦しいと考える理由がないし、その理由が消える道理がない。おそらく、まだ何らかの制約が残っていて、その中での最善の結果を狙っとるんやろな)

憩(さっきの一手が作用して状況が好転したはず。ここから宮永照が狙っていたことを推測すると……)


照「ツモ。6100オール」

1234446677889p ツモ:6p


憩(……これもヒントや。今の点差、状況、さっきまでの状況では困難だったこと……それらから推察される宮永照の目的は……おそらく――)


【回想】


憩「……清澄の先鋒の対策を考え直す?」

監督「ええ、昨日帰ってから考えていたのだけど、色々と腑に落ちないことがあるの」

憩「腑に落ちんこと?」

監督「まず、あの子は咲に自分の呪いのことを隠しているはずなのよ。だから、それがバレることを避けて麻雀自体をあまり打たなくなった。それが大会に出て来たのには何か理由があるはず」

憩「恐ろしく前の段階まで戻りましたね。大会に出とること自体がおかしいってことですか?」

監督「そう。そして、昨日の試合の録画……あんな辛そうな表情で打ってたら、プラマイゼロにするのは呪いですって言ってるようなもの」

憩「……妹さんには隠しとるはずの呪いを、勘付かせようとしてたっちゅうことですか?」

監督「仮にそうでないとしても、辛いと思いながらも出された指示を実行するぐらいには信頼してる相手が居るってことよ。大会に出て来たこと自体を含めて、照から相当の信頼を得ないとあり得ないことだわ。あの子、めちゃくちゃ頑固だし」

憩「で、それがどうして対策の見直しって話に?」

監督「……多分だけど、あれは、照の独断でやったことだと思うのよ。これは親としての勘とあの子の性格からの推測なんだけど、あの子、他人から命令された嫌なことは基本的に『嫌』の一言で済ませてよほどのことがない限りやらないの。その照があんな辛そうな顔でやってたということは、自分の判断でやってるはず」

憩「……自分の独断で、呪いの存在を妹さんに気付かせるような真似をした。なるほど、つまり……」

監督「清澄には咲も居る。呪いの存在に気付けば、咲だってそれを解こうとするはずよ。そして、咲だけじゃなく、照が信頼してる子がいる」

憩「それをあてにして呪いの存在を気付かせ、決勝の前にそれを解こうとした。うちらより先に呪いが解かれとる可能性があるっちゅうことですか?」

監督「……だとすると、私の五年間は一体……」ズーン

憩「ま、まあ、呪いを解かな勝てん相手やって思って昨日のアレに踏み切って、その結果呪いが解けたんやったら、監督がそれだけの敵を用意したことが少なからず影響しとるわけで、無駄ではなかったっちゅうことになりませんか?」

監督「はっ!! 確かに、超えるべき壁を用意した功績があるわね! ということは、私は娘の役に立てたのね!?」

憩「変わり身早いなこの人」

監督「まあ、そういうわけだから、もしかしたら呪いが解けて全開の照が相手かもしれないから気を付けてね」

憩「……気をつけろと言われても、ただでさえ一番ヤバい時の小蒔ちゃんが相手なんですけ―――」


【対局室】


憩「――ど?」


怜(……冗談やろ、なんやそれ……)ゾワッ

照「はい、32600」チャラ

憩「……は?」

憩(何が起きた? 確か、ついさっき宮永さんが6100オールを和了って……そうや、狙いが29600~30500での「トップ」やって気付いて、次は役満をうちに差し込むはずやってとこまで考えて――それから、どうなった?)

照「……荒川さん?」

憩(なんで、うちは手牌倒しとるんや? というか、なんやこれ? いつ配牌とった? うちは打った覚えないで?)


憩手牌

222333444s東東東北 ロン:北


『ここまで鳴りを潜めていたチャンピオンが大技を出して来た――!!!』

『配牌で2索と4索と東の暗刻がありましたからね。それだけでも三暗刻確定のチャンス手ですが、荒川選手にとっては事実上四暗刻確定の大物手でした。神代選手や宮永選手とのスピード勝負の様相でしたが、見事に制しました』

『これで劣勢を一気に取り返して三位に浮上!! ラス親が回ってきたチャンピオンが反撃の狼煙を上げる――!!』

『……それにしても、これは……』

『すこやん? どったの?』

『……ん? あ、いや、なんでもないよ』


咲「あとはお姉ちゃんが1000点を和了れば終わりだね」

久「そうね。1000点以外なにも許されない厳しい状況だけど、照なら問題ないでしょう」

和「……そうでしょうか?」

咲「……少し懸念はあるよ。この面子のことだよね?」

和「はい。まず、神代さんからの直撃は不可能ですよね?」

咲「そうだね。ここは絶対に不可能だから放っておいた方がいいかな」

和「そして、以前聞いた能力が正しいとするなら、千里山の園城寺さんからの直撃もほぼ不可能ですよね?」

咲「……一巡先に誰かが和了る場合、その和了り形まで視えるらしいからね。そしたら手牌を入れ替えてもその前に見たものを手掛かりにして今の形が大体分かるから、直撃はほとんど無理だね。1000点限定だと符の関係があるから単騎待ちにもしにくいし」

和「そして荒川憩ですが、少なくとも現役の高校生では最も守備が固い選手です。『攻撃面では運に助けられただけの取るに足らない選手だが、彼女の真価は守備にある、プロまで含めてもトップクラスの鉄壁の守備が奇跡的な幸運と結びつき、チャンピオンの栄冠に輝いた』との評もあります」

優希「あの誰でも気付くオカルトを無視したその評価……間違いなく『週刊デジタル麻雀』の記事だじぇ。中学時代ののどちゃんの愛読書だじょ」

和「優希の私的は図星ですが、守備に関しては彼女は本物です。いくら照さんでも、この三人の誰かから直撃を取るのは厳しいのでは?」

咲「さっきは直撃してたから大丈夫じゃないかな?」

和「あれは大明槓の責任払いです、配牌からあった刻子が読み切れなかっただけで、おそらく待ちは読まれていたでしょう。もちろん、大明槓でも責任払い自体は再現できる可能性がありますが、槓をして1000点で済むでしょうか?」

咲「……理論上はあり得る。厳しいけどね」


11p45567789s 明槓:2222s 嶺上牌:3s


咲「例えばこんな形だね。これで嶺上開花のみ、明槓の8符とツモの2符で30符に収まる」

京太郎「これだと、嶺上開花でしか和了れねえな」

咲「流石に直撃は喰らってくれないだろうからね。園城寺さんは一巡先、つまり大明槓の責任払いまで視えるはずだから、荒川さん以外への直撃は不可能。どうせそれ以外の和了りが不可能ならこれで大明槓の責任払いを狙うしかないよ」

優希「あのおねーさん、大明槓にもそんなに簡単に振り込みそうには見えないじょ? 大丈夫なのか咲ちゃん」

咲「お姉ちゃんは、こういう時は絶対どうにかするから。大丈夫」


久「……というか、普通に差し込んで来る人がいると思うのだけど」

まこ「じゃのう。長引くと何が起こるかわからんけえ、一刻も早く終わらせたいと思っとるじゃろうな。わしもそうじゃからよくわかる」

久「じゃ、私、そろそろ迎えに行くから、あとお願いするわね」

まこ「おう、迷子のお姫様をちゃんと連れて来るんじゃぞ」


怜(……いやいやいや、それは完全に反則やろ!! 意識奪って操るとか、そんなんどうしようもないやん!!)

怜(プラマイゼロとかその気になったら簡単に破れるんやないかって思っとったけど、これが宮永さんの意思と無関係に起きるんやったら防ぎようがないな)

怜(和了る気がなくても、気付いたら勝手に和了っとる。これ、下手したら宮永さん本人に対しても同じことが起こるんやないか?)

怜(プラマイゼロを目指さんで普通にトップ狙おうとしたら、いつの間にか意識を失って差し込みしとる……ありえん話やない)

怜(意識を失わんように腿でもつねりながら打ったら……チョンボでもするんかな? 流石にそれはないか?)

怜(……ま、いずれにしてもプラマイゼロもどきに関しては崩すのは不可能と思ってええ。崩そうとしたら意識奪われて終わりや)

怜(それを踏まえてどうするか。後半のこともあるけど、さしあたって目の前の一局)

怜(前半最後の一局……正直、1000点払うだけで終わるなら協力してもええぐらいに思うところや)

怜(むしろ、協力せんかったら、この三人の中で千点に振り込む人間は誰もおらんやろな。神代は論外、荒川も、他に注目が集まって目立たんけど守備はトップクラス。誰も振らんなら私か荒川が意識飛ばされて差し込まされるのがオチや、二回も意識飛ばされるのは荒川が不憫やろ)

怜(なにより、差し込まずに長引かせた場合、神代が清一色をツモる可能性がある。神代なら宮永さんのプラマイゼロも破れてええしな。清一色ツモられたら最低3000の出費、それに比べたら1000点は全然問題にならん)

怜(……この中で一番弱いのは私、最下位は私が引くべきやろな)

怜(決まりや、1000点くれたるわ。さっさと聴牌しいや)


憩(……これが、監督の言ってたやつか。トップクラスの打ち手がチョンボをしでかすカラクリ。なるほど、完全に意識が飛んどったわ、予備知識なしやったら動揺して麻雀どころじゃなくなっとるやろな)

憩(自分がプラマイゼロを目指さんかったら誰かがこうなる。今回は目指しててもなったけどな)

憩(なるほど、不幸や。本当は思う存分力を振るってトップを目指して戦いたいのに、プラマイゼロを目指すしかない)

憩(妹さんなり監督なり、このひと相手でも勝負になる人間は存在する。その場合は協力してこの人を抑えながらの駆け引きになるやろな)

憩(けど、この人がトップを目指すことが出来ずにプラマイゼロを狙うとなると、どうやってそれを利用するかになる)

憩(このひと自身は駒として使われるだけで、戦いに加わることが出来んのや。今はちょっと違うみたいやけど、まだまだきっついハンデ付き)

憩(……今が、このひとを救う最大のチャンスやろな)

憩(1000点、つまり30符1翻のロン和了り限定。ツモ不可、振り込まずに時間を稼げば小蒔ちゃんが和了ってくれる。これだけ条件を整えてオーラスを迎えるのは難しい)

憩(こちとら最初からそのつもり、拾ってくれた監督への恩返しのつもりで打っとるんや、予定に変更はない。予定より損が少なくて済んだだけ)

憩(ここが正念場や、気張れや自分!!)


照手牌

234567m1235578p ツモ:北


照(1000点限定なのが意外に痛い。園城寺さんがその気みたいだから、後は園城寺さんが差し込んでくれるのを待つだけなんだけど……)


怜(後半もあるからここで裏切る気は毛頭ないんやけど、手牌がな……)

怜手牌

222333666m111p東


怜(流石にこれはツモったり河に出たりしたら和了らせてもらうで。いくらなんでもこれを和了らんかったら言い訳がきかん。もちろん、アタリ牌を引いて来た時に切る言い分は立つから引いたら差し込むけどな)

怜(役満に目がくらんで裏切ったら後半で袋叩きや。こいつら相手に半荘一回、32000のリードじゃ逃げ切れん。間違って東をツモらん限りは裏切る気はないから安心せえ)


照(北はアタマにも使えないから切るしかない。園城寺さんのツモ待ちか……厳しいかな?)

打:北


憩「…ポン」

ポン:北北北 打:8m


照(……え? その手で鳴いた? 何のために……)

怜(鳴くっちゅうことは、手の内にペンチャンやカンチャンがないってことや。そうじゃなきゃ、ツモっても必ず手が進むんやから上家の宮永さんから鳴く理由がない)


小蒔「……」

打:7m


怜「……は?」

照「?????」


霞「なっ!?」

巴「そんな……なんでこんな時に……」

初美「ま、まだ神様が抜けきってないうちに寝直すですよ――!!」

春「無駄。索子以外をツモった時点で神様が憑いてないのは明白」ポリ

霞「……」


巴「こんな時に、起きてしまうなんて……」


初美「二度寝しても、次に出てくる神様じゃこいつらには勝てそうにないです―! 打つ手なしですよ――!!」

巴「七番目の神様ですら荒川に打ち負けたのに、今は9番目の神様を完封した宮永照も居る。一番目の神様じゃどうやっても……」

春「……」

霞(何が起きたの? あの卓では小蒔ちゃんが起きるような何かが起きていたはず、でなければ、後半まで降ろし続けるつもりでいたのが解除されるはずがない)


照(……これは、ラッキー、なんだよね? この局では神代さんは索子しかツモらないはずだった、それが萬子をツモったということは、能力が解除されたということ)

照(相変わらず出和了り1000点しか許されない状況だけど、すぐにでも清一色をツモるという時間制限がなくなって少し楽になったはず)


怜(神代の独占が崩れて宮永さんにも索子が入るようになった。とはいえ、1000点しか和了れん以上、単騎待ちは符の関係で出来ん。とすると、ムダヅモの可能性が増えただけやな)

怜(独占が崩れたとはいえ、ほっといたら神代も清一色をツモるやろな。何せ配牌が索子一色でここまで3巡回しとるんや、聴牌はしているとみていい)

怜(だとすると状況は好転しとらん。むしろ、うちら二人に使いようがない索子の無駄ヅモが増えた分だけ状況は悪くなっとるんと違うか?)


ツモ:8s


怜(索子は要らんって言うとるやろが……って、神代が清一色を張っとると仮定するなら、これ切ってええんか? とりあえず一巡先を……)


****

怜「……」


打:8s


小蒔「ロン、32000です」パタン

1112345679999s

****


怜(あっかーん!! なんやねんそれ!!)

怜(こんなん東切る一手や。切る奴はおらんと思うけど、8索切ったら役満のダブロンやでー)

打:東



「ロン」



憩「東のみ、1500」パタン

99m123567p東東 ポン:北北北


怜「……あ、忘れとった。そっちも怪しい動きしとったな」

憩「……」

照「……」

小蒔「憩さん……」


憩「……和了りやめ、させてもらうわ。お疲れ様でした」


怜「……お疲れ様でした」

小蒔「あ……お、お疲れ様でした」

照「……お疲れ様でした」




先鋒戦前半終了


白糸台  99800
清澄  104500
千里山  96200
永水   99500

今回はここまでです。次回は一週間後の水曜を予定してます。


【休憩中】


霞「で、何があったのかしら? 神様が剥がされるほどの何かが起きていたんでしょう?」

小蒔「……夢を、見ていたんです」

初美「まあ、寝てれば夢ぐらい見ますけどー」

小蒔「夢の中で、私はとても大きな龍と対峙していました、龍……と呼ぶべきかどうかも分かりませんが、それはとてつもなく大きな力を持った存在でした」

霞「……」

小蒔「その龍を、私は遠巻きに眺めていました。夢の中では私自身も鳳凰の姿をしていましたが、龍は鳳凰となった私よりも一回り大きく、とても立ち向かえるものではありませんでした」

巴「それって……まさか……」

小蒔「その龍に、立ち向かう人間がいました。龍の身体にしがみつき、逆鱗を探り当て、ついには逆鱗に刃を突き立てようとしました」

初美「……さっきの卓、ですかねー」

小蒔「逆鱗に刃が届こうとしたその時、龍はその身を大地に押し当て、しがみついていた人間を大地との間で押し潰しました」

霞「……」

小蒔「押し潰され、瀕死となった人間は、それでもなお立ち向かおうとしました。ですが、それはあまりにも無謀。立ち上がることすらままならない彼女に、猛り狂う龍の爪が襲いかかろうとしていました」

春「……その人間を、鳳凰は身を挺して助けた?」

小蒔「……はい」

霞「……卓上には表れない駆け引きの結果、姫様の力の源である神様……鳳凰は龍に傷つけられ、その力を失った」

小蒔「彼女を庇い、龍の爪に切り裂かれたところで、私は目覚めました。8索待ちの九連宝燈、そこに萬子をツモったところでした。そこから先は現実の世界……後の顛末は皆が知る通りです」


霞「……なるほど、大体の事情は分かったわ」

巴「姫様の話を信じるなら、姫様がさっき降ろした神様より二回りほども大きな龍……どうしたものでしょう……まだ後半戦が残っているのに……」

春「触らぬ神に祟りなし。何もしなければ、少なくとも先鋒戦は平穏無事に終わるはず」

初美「はるるの言うことも一理ありますー。何と言ってもあの化け物の狙いはプラマイゼロ、逆らわなければ何事もなく終わるはずですよー」

霞「次に降ろす神様は順番だと一番弱い神様、それでは勝ち目はない。春の策に従うほかないわね」

小蒔「……そうですね」

春「ただ、そうなると次鋒以降が厳しい。ただでさえ前回は白糸台に競り負けたところ、今回は……」

巴「清澄が居るから更に厳しい戦いになる。それは間違いないけど……清澄が居るからこそ出し抜く隙もあるかもしれない」

霞「そうね、麻雀は四人で打つゲーム、単純に強いから勝てるというわけではない。強いからこそ他の三者に手を組まれて負けるということもある」

小蒔「弱いからこそ他の全員と協力することが出来て勝てるということもあります……ですが……」

春「……強いに越したことはない」ポリ

初美「つまり、六女仙最強の私にお任せってことです―!!」

霞「初美は頼りにならないから、私が一肌脱ぐしかないわね」

初美「老け顔の年寄りは引っ込んでるが良いですよー」

霞「あら? あらあら? 初美ったら、いつから死に急ぐようになったのかしら?」ピキ

初美「事実を述べたまでで……痛っ!? 頭をグリグリするのはやめるですー!!」

霞「グリグリじゃなく、ゴリゴリならいいのかしら?」ゴリゴリ

初美「あぎゃああああああ――!!!! ごめんなさいごめんなさい――!! もうしないからやめて―!!」


咲「……流石だね。能力に頼らず、園城寺さんからこぼれそうな牌を狙い撃ちにしてる。能力だけでチャンピオンになったわけじゃないんだね」

まこ「ん? ああ、そうか、北を鳴いた後の8萬……あれを手元に残せば899とあったわけで、荒川なら……」

咲「鳴かずにペンチャンの7萬をツモって東と北のシャンポンにしてもいいところ……むしろ、東以外でもツモなら和了れる可能性がある分だけそっちの方がいい。能力を前提に打つならあそこは鳴きを見送る一手。それをあえて鳴くことで自分がツモるはずの7萬を神代さんに押し付け、神代さんがツモるはずの8索を園城寺さんに押し付けて東を切らざるを得ないように追い込んだ」

まこ「神代のアレは、鳴いたぐらいでどうにかなるもんなんかの?」

和「あの……咲さん? なんでそんなに冷静なんですか?」

咲「この世に慌てるべきことなんか何一つないんだよ原村さん。穏やかな心さえあれば、たとえ死の淵に立たされても平静でいられる」

優希「咲ちゃんが悟りを開いてしまったじょ……」

京太郎「いや、これめちゃくちゃ動揺してるぞ。俺にはわかる。多分、今の解説もほとんど上の空で適当なこと言ってるはずだ」


咲「お姉ちゃんが負けるなんてありえないお姉ちゃんが負けるなんてありえないお姉ちゃんが……」


優希「唐突に壊れたじょ!? なんとかしろ京太郎!!」

京太郎「落ち着け咲、照さんはトップだ!! 負けてないぞ!!」

咲「……ん? はっ、確かに!!」

和「流石に手馴れてますね」

京太郎「まあ、なんだかんだで付き合いも長いしな。最近ポンコツに磨きがかかってる気がするけど」

まこ「しかし、おんしらが三人がかりで出来なかったことを、たった一人であっさりやってのけたのう。大したもんじゃ、流石はチャンピオンじゃな」

咲「むっ……私たちの時はプラマイゼロを破るっていう目的が最初からバレてましたから。まさかインターハイの団体戦で半荘一回丸ごと捨ててプラマイゼロを破りに来るなんて予想できませんし、私たちが負けたわけじゃありません」

京太郎「そこで変な意地張らなくても……」

咲「私は事実を述べただけだよ!!」プンスカ

和「酷い負けず嫌いですね……知ってましたけど」

まこ「哩姫のコンボを破りに行ったのもただの負けず嫌いじぇけえの」

咲「うぐっ……」

京太郎「で、これ、後半どうなるんだ?」


咲「……後半?」

和「あ、確かに」

優希「言われてみれば、まだ後半が残ってるじぇ」

まこ「これは、楽が出来そうじゃのう」

咲「……???」

京太郎「いや、これで、照さんのプラマイゼロ、完全に解除されただろ? 部長の仮説が正しいとするなら」

咲「あっ!?」

京太郎「つまり、後半は完全フリーの照さんが大暴れってことになるのか? ってことで聞いたんだが」

咲「……よほどのイレギュラーがなければ、間違いなくそうなるね。さっきの半荘を見て分かる通り、お姉ちゃんなら制約がなければ完封も可能なはず」

まこ「照さんがトップで昨日みたいなことをする可能性は?」

咲「十分あり得ます。ここで稼げば最多獲得点数……MVPの目も残ってますし、負けず嫌いのお姉ちゃんなら狙ってもおかしくない」

和「MVP……?」

咲「昨日のアレのせいで暫定MVPは園城寺さんだけど、ここで園城寺さんを削りながらトビ終了まで追い込めばお姉ちゃんがMVPなんだよね」

京太郎「……そんなもん気にしてるってことは、MVP狙ってたのか?」

咲「ギクッ……な、なんのことかな?」

優希「MVPの目ぼしい候補は?」

咲「荒川さんが186100……じゃなくて今200削られて185900、園城寺さんが215500、部長が173300、玄さんが196000、私が69800だからちょっと苦しいんだよね」

京太郎(細かい数字がスラスラ出てくるってことは、本気で狙ってたなこいつ)

和「苦しいのは仕方ありませんね、なんといっても出番が一試合しかありませんでしたから。ちなみに照さんは?」

咲「今、ピッタリ+30000だね。ちなみに、神代さんは55100」

京太郎「他の選手はどうなんだ?」

咲「玄さんの196000が壁になってるから、今挙げた人以外はそれを超えられないと思うよ」

優希「てゆうか咲ちゃん、阿知賀のドラ爆おねーさんが196000で固定ってことは、最低でも大将で126200稼ぐ気だったのか?」

咲「本気で狙うとなると厳しいよね……大星さんも居るし」



バタン


久「なんの話かしら?」

照「松実さんが196000って言ってるから、多分MVPの話じゃないかな?」

京太郎(あんたもなんでそれで分かるんだよ……狙ってたのか?)

咲「あっ、お帰りなさい!!」


照「かくなる上はMVPを取って憂さ晴らしを……」

久「憂さとか言わない。さっきからずっと言ってるけど、トップで前半を折り返して制約も無くなった、いいことずくめじゃない」

照「でも……」

久「そんな顔しないの」

照「……」

久「……」


まこ「えっと、照さんのプラマイゼロは完全に解けたってことかの?」

久「さっきからずっとそれで拗ねててね。まったく、何がご不満なのかしら」

照「……わかってるくせに」

咲「やっぱりそっか……最後にきっちり和了ってプラマイゼロを阻止してたもんね」

照「ぐぐぐ……」

久「計算を狂わせるための無理なリーチなら小細工ってことになるんだろうけど、あのリーチはそうじゃないからね。本人が一番分かってるみたいだけど」

照「あのリー棒さえなければ……」

咲「ツモが封じられたのは痛かったよね」

久「とはいえ、それを計算に入れて照が軌道修正したのを打ち破ったわけだから、文句はつけられないわね」

照「むうう……」


京太郎「で、照さん、どうするんですか?」

照「どうするって、もう一度プラマイゼロをやって今度こそ竹井さんに解いてもらう……っていうのは流石に怒られそうだし……」

久「……それは思いつきもしなかったわ、絶対やらないでね。本気で怒るわよ」

照「……はい」シュン

咲「で、どうするって、何のことを言ってるのかな京ちゃん?」

京太郎「いや、プラマイゼロをしなくていいなら、思う存分暴れられるわけですよね? さっき話してたけど、MVP狙うのかなって」

照「……当然狙う」

咲「……お姉ちゃんにMVPを狙われると、私の出番が回ってこないんだけど?」ゴゴゴ

照「……咲はまだこのあと二年もある、ここは私に譲るべき」ゴゴゴ

咲「三年連続MVPは、一年生から獲り続けないと達成できないんだよ?」ゴゴゴ

久「咲はもうMVP狙うのは厳しいでしょ。大人しく譲りなさいって」

照「竹井さんの言うとおり。MVPは六桁で勝負が決まる世界、獲得点数5桁のプレイヤーは引っ込んでいるべき」

咲「自分だってまだ5桁プレイヤーじゃん!! てゆうか、単純に一試合で69800稼げるとして計算すると、出番さえあれば私は20万点超えてるし!!」

和「そもそも、照さんも今から狙うのは厳しいでしょう。暫定MVPの園城寺さんは獲得点数が20万点を超えていますし……」

咲「原村さん、その20万点を東風一回で稼がせたのは誰だっけ?」

和「……失礼しました」


まこ(MVPがどうのと浮かれとるが、本当に大丈夫なんかのう?)ヒソ

京太郎(大丈夫なんじゃないですか? 照さんが全力で打てるってのは大きいですよ)ヒソ

優希(照さん自身が狙うって言ってるんだし、大丈夫だと思うじぇ。相手の実力も、今打ってきた照さんが一番分かってるはずだじょ)ヒソ

まこ(……どいつもこいつも浮かれてて、どうにも落ち着かんわい。仮にもプラマイゼロを破りよった連中が相手じゃけえ、命取りにならんとええがの)ヒソ

京太郎(気持ちは分かりますけど……やっぱりこの状況で負ける要素はないですよ)ヒソ

優希(だじぇ!)ヒソ

憩「……」

監督「……」

憩「……」

監督「……」

菫「で、なにか申し開きはあるか?」


監督「……えっと、そもそも、私はこのために五年間監督をしてきたわけで……」

菫「知ったことか。個人的な事情をチームに持ち込むな」

監督「はい……」シュン

尭深(威厳ってなんだっけ……?)ヒソ

誠子(弘世先輩が纏ってるあのオーラのことだ。間違っても監督が出してる情けない空気のことではない)ヒソ


憩「ほら、宮永さん個人戦に出とらんし、本気の宮永さんとやり合うためにはここで呪いを解かな……」

菫「そんなもん練習試合でいいだろうが!! 言い訳にもならんことを言うな!!!」

憩「はい……」シュン

菫「まったく、監督とエースがチームを売るとはな……」

監督「申し訳ありません」

憩「うちは監督に言われてむりやり……ホンマはみんなのために戦いたかったんや!! 信じてや!!」

菫「さっき言ってた言い訳と矛盾してるだろうが!! 茶化して誤魔化せると思うな!!」

憩「はい……」シュン


淡「これは、エースの座を返上して私に譲るしかないねー? 実力で奪いたかったけど仕方ないな―、エースの座、引き受けてあげようかなー」


菫「……大星、憩の横に座れ。正座で」

淡「え? あ、ケイにお仕置きするんだね! りょーかい!!」チョコン

菫「この状況で空気も読まずに茶々を入れるとはいい度胸だ、お察しの通り仕置きをくれてやろう」

淡「へ?」

憩(淡ちゃん、助かったわ。おかげで、矛先が淡ちゃんに行った)ヒソ

淡「え? え?」

菫「三年は夏が終わったら引退する。憩がエースでいるのは、ちょうど一年後のこの日までだ。つまり、あと一年したら大星がチームを背負って立つ柱にならなければいけない」

淡「は、はい……」

菫「監督がこのザマである以上、エースの責任は今まで以上に重くなる!! なのに大星、貴様はいつまでもふらふらへらへらと……!!!」


『まもなく先鋒後半戦を開始します、選手は対局室に集合してください。繰り返します……』


菫「ちっ……憩、行って来い」

憩「はい! 行ってまいります!!」ピュー

監督「あっ!? 逃げた!!」

淡「あー!! ケイ、ずるいー!!」

菫「おい、そこの二人、誰が立っていいと言った?」

監督「……申し訳ありません」チョコン

淡「横暴だよー!!」ガー

尭深「あ、淡ちゃん、今は逆らわない方が……」

誠子「手遅れだ、諦めろ尭深」


菫「さて、この不心得者にエースの心得を叩きこんでやるとするか」ゴゴゴ

淡「ひっ!?」ビクッ


怜「後半は、荒川と組んでどうにか凌がんとなあ……神代が手伝ってくれればええけど」

竜華「ん? 後半もプラマイゼロやったらアカンの?」

怜「無理や。宮永さんがプラマイゼロにしてくれんわ、多分三校まとめて飛ばす勢いで大暴れする。荒川のやつ、余計なことしおってからに……」

浩子「宮永照がプラマイゼロをやめるっちゅうことですか? またなんで?」

怜「あれ、そういう能力やから仕方なくやってたみたいでな。破られると普通に打てるようになるっぽいで」

セーラ「見て来たんと違うんか? なんで『みたい』とか『っぽい』とか言うんや?」

怜「信じたくないから間違っててほしいって思いが断言を避けさせるんや。あの人の怖さを一番知っとるんは私や、あの人が全力でトップ取りに来るとか考えたくもないわ」

雅枝「……勝算はあるんか?」

怜「『勝つ』算段なんか最初っからあらへん。どんぐらいのマイナスで抑えるかやけど……荒川と神代が包囲網に加わってくれたとして、マイナス50000で済めば御の字」

浩子「……マジですか? 荒川と神代と園城寺先輩で?」

怜「あの人は全国二位の辻垣内智葉を相手に半荘一回で10万削る化けもんやで? マイナス50000でも楽観的に見とるつもりや」

泉「それで楽観的って……」

怜「一番可能性が高いのは、昨日の準決勝の再現やな。ただし、今回はあの人が最初から最後まで和了り続ける」

竜華「だ、ダメやそんなん!! そんなことになったら姫松の連中に顔向け出来んやろ!!」

怜「せやから何とかしたい。神代も荒川もおるし、私だって宮永さん以外なら誰が相手でもそうそう負けへん。三対一なら半荘一回ぐらいはなんとかなる……と思いたいな」

浩子「……先輩がそこまで言うんやったら、覚悟だけはしときますわ」

怜「……さて、そろそろかな?」


『まもなく先鋒後半戦を開始します、選手は対局室に集合してください。繰り返します……』


怜「ほな、行ってきます」

セーラ「頑張ってな」

竜華「絶対、泉に繋いでや!!」

怜「約束は出来んなあ……けど、やれるだけのことはやらせてもらうわ」


起家 小蒔「……」

南家 怜「よろしくお願いします」

西家 照「……よろしく」

北家 憩「お手柔らかに~」


東一局


照(神代さんが寝てる……さっきの以上はないと思うけど、クセの強い能力だろうから見極めておきたい)

怜(……この状況、下手な能力使うよりは荒川か私のサポートに回ってほしいんやけどな。てゆうか、小走さんの仮説やと、さっきの能力の次に出てくるのは最弱のアレやろ? 普通の相手に使うなら十分強力な能力やけど、宮永さん相手には通用せんはず)

憩(さっきと同じ席順か……さて、本気の宮永さんのお手並み拝見や。どれぐらい力の差があるのか、見せてもらおうやないか)

小蒔(…………)


照(……神代さんはさっきのが最強の能力のはずだから、そんなに怖くない。荒川さんは、何の制約もなければ私なら抑えられる。園城寺さんは……一人だけなら問題ないけど、他人を使うのも他人に使われるのも上手い。昨日の試合とさっきの半荘でそれは思い知らされた)

照(味方なら心強いけど、敵に回すと一番厄介な人かもしれない。そして、今回は多分、敵に回る)

照(よほどのイレギュラー……私を圧倒するような能力を荒川さんがこの場で獲得したりとかしない限りは、彼女を敵に回して打つことになる。二対一、あるいは三対一の状況になって、その連携の要をおそらく園城寺さんが担う……)


怜「……」ガタガタ


照(……はずなんだけど、様子が変だね? 怯えてるみたいだけど……私、そんなに怖がられてる?)


小蒔「ツモ。500オール」


照(早い、そういう能力なのかな? ……って、あれ? 照魔鏡が使えない……?)

怜「……」

小蒔「……」


ゴオオオオオオ


照「!?」ビクッ

怜「……やっぱ、宮永さんでもアカンか」

照(……今の、マジで? 冗談だよね? インチキにも限度があるでしょ?)

怜(幸か不幸か、準決勝からずっと組んで打っとる……宮永さんとは共闘する縁があるらしいな。これ、宮永さんが隣におらんかったら逃げ出しとるで?)

照(……これは、MVPとか言ってる場合じゃない。園城寺さんが怯えてたのは私じゃなくてこっちか。園城寺さんが味方だと心強いけど……味方になるような状況にならないでほしかった)


咲「……は?」

和「咲さん、どうかしましたか?」

咲「いやいやいやいや、それは無しでしょ。反則でしょ。てゆうかそんなの使えるならさっき使ってよ」

京太郎「お約束の大げさリアクションか。今度は何だって言うんだ?」

優希「さっきのも結局照さんが何事もなくあっさり封じたから、もうなに言われても驚かないじょ」

久「というか、何も起きてないように見えるんだけど。むしろ様子見の一局が500オールで済んでラッキーってとこじゃない? 何をそんなに怯えてるのかしら」

まこ「そうじゃのう……で、一体どんなインチキを使って来たんじゃ今回は?」


咲「……落ち着いて聞いて下さい。本当にインチキですから、取り乱さないでください」


まこ「わかったからはよう言いんさい」


咲「卓についてる三人の能力を強化してコピーした上で、相手の能力を完全に無効化する能力です」


久「……は?」

咲「今の神代さんは、一局捨てる必要なく照魔鏡を使い、打点の制約なしで連続和了して、多分二~三巡先を常に視つつ、ペンチャンとカンチャンがあったら次巡で必ずツモります……強化されてるから下手すると両面も必ずツモるかも」

優希「……は?」

咲「また、能力を無効化されているので、お姉ちゃんも園城寺さんも荒川さんも、今は一切の能力なしで普通に打つしかありません」

京太郎「……は?」

咲「やっぱり、そういう反応になるよね? ついでに言っとくと、あらゆる能力を使いこなせるだけの地力も備えてるよ。能力によっては使いこなせないと逆にハンデになるからね」

和「……は?」

咲「あらゆる能力を使いこなせるぐらいの地力だから、私とか衣ちゃんぐらいじゃないと能力なしでも勝負にならないんじゃないかな。それに加えて能力を強化してコピーした上に相手の能力を無効化だから、まともにやったら絶対勝てない」

まこ「おいおいおい……あ、いや、分かったぞ。照さんなら素の実力だけでなんとかなるんじゃろ?」

久「あ、なるほど。慌てることなかったわね」

優希「心配して損したじぇ」

和「まったく、人騒がせな……」


京太郎「……染谷先輩、それ、『やったか!?』の類のフラグじゃ……」


咲「残念ながら、能力なしでも私が勝負になるかどうかぐらいなので、能力込みだとお姉ちゃんでも勝てないと思います。せめてプラマイゼロをコピーしてくれてれば少なくとも大敗はなかったんですけど……完全に裏目になりましたね」

まこ「」

京太郎「染谷先輩……あんた、あんたなんてことを……っ!!」

まこ「わ、わしのせいじゃなかろ!?」


『ツモ、1200オール』


やえ「荒川が能力を失って、神代が荒川の能力を使っているように見えるぞ。ついでに、打点が連続和了みたいな刻み方をしている。妹の方の印象が強いが、姉も同じ特徴をそなえていたはずだ……これは……」

はやり「……こりゃとんでもないねー。健夜ちゃんでも無理でしょこれ」

良子「アンビリーバボー……まだこんな力を隠していたとは……」

由華「先輩、これ、どうなってるんですか?」

やえ「『能力を奪う』が現段階での仮説だ。あまりに非常識すぎるが、それ以外で現状が説明できん」

紀子「それは見れば分かる、何が起きてそうなってるのかを解説するのがやえの仕事」

やえ「無茶言うな、そんなもん見ただけで分かるか!」

はやり「良子ちゃん分かる?」

良子「……ノー、春からも聞いていない能力です。 ただ、これはヒトが扱える力では……おそらく神代さんも扱えてはいない。力に使われています」

やえ「全く、あのインチキ巫女はどこまで非常識なんだ……さっきので一周して弱い能力に戻るはずじゃないのか?」

紀子「……で、あれに対してはどうやって対抗する?」

やえ「……園城寺と宮永がやってるのと同じことをするよ。いくら非常識な化け物でも、一度に手に持てる牌は13枚、ツモれるのは配牌を合わせても30枚程度だ。三人で協力して手牌の39枚とツモった牌をやりくりすれば、10万点が尽きるまでに親を二回流すぐらいはできるだろうさ」

由華「園城寺さんたちと同じって、あの二人、何かしてますか?」

やえ「気付かないようなら、あの卓に居たら100万点持っていようと確実に飛ぶ。よく見ろ巽。来年エースとして晩成を背負うお前は、これに自力で気付けなければいけない」

はやり「よく見ろって言われてもはやり全然わかんない☆ 教えてっ☆」

やえ「……困ったプロも居たものだな。これは解説だけじゃなく後輩の指導を兼ねてるからまだ言えん。巽が気付くまで待っていてくれ」



『ツモ、1600オール』


咲「荒川さん、早く気付いて……」

久「そうね、咲の口から照でも勝てないって言葉が出るなら本当にヤバいんでしょうから、三対一は大前提よね。早く神代さんの危険性に気付いてもらわないと……」

咲「そんなのとっくに気付いてるはずです。荒川さんの能力って分かりやすいので、無効化されたらその瞬間に気付きます」

和「確かに……だとすると、咲さんは何に気付けと言ってるんですか?」

咲「園城寺さんとお姉ちゃん、しっかり見せるように手牌を倒してから、山とかの牌を先に落として、手牌を最後に穴に落としてるの、分かるかな?」

京太郎「あ、本当だ。てことは、和了れなかった手牌を意図的に見せてるってことか? 何のためにそんなこと……」

咲「左から順に、萬子、筒子、索子、字牌……数牌は左から小さい順に、字牌は左から東南西北白発中の順になるように理牌してる」

和「……照さんは普段そういう並べ方はしませんよね?」

久「並べ方が規則的だと、切った牌がどこから出て来たかで手牌が読めるからね。普段はそういう読み方をしてくる相手に対しての対策として、意識して不規則な理牌をしてるわ」

まこ「……規則的だと読まれやすいのにあえてやっとるっちゅうことは、お互いの手牌を読みやすくするために理牌の仕方を統一しとるんじゃな?」

咲「その通りです。お姉ちゃんはともかく、他の二人はそうしないと手牌を完全に読むなんて不可能ですから。アレに対抗するなら三人分の手牌をフル活用しないといけません」

優希「けど、そしたら相手にも手牌を読まれるじぇ?」

咲「理牌しないで打っても読まれるから関係ないよ、どうせ読まれてるからデメリットは皆無、味方が読みやすくなるっていうメリットだけが残る」

和「……園城寺さんも照さんも、それを即座に実行しているわけですか」

咲「二局目が始まった時には理牌は統一してたね。以心伝心って感じ」


久「むー……」

まこ「なに変な顔しとるんじゃ?」

久「照と園城寺さん、なんかあの二人いい感じじゃない? さっきも目を合わせて微笑み合ってたし」

まこ「……連携が上手く行くのは悪いことじゃなかろ?」

久「そうなんだけど……」


東1局 6本場


憩(……間違いなさそうやな。左から順に萬子、筒子、索子。数字は小さい順、字牌も順番に並べとる。そんなら……さっき出て来た8萬と1筒の位置から察するに……)

打:9m


照「槓」

槓:9999m


憩(やっぱりそこに9萬の暗刻があるか。しかも、それを槓してくれるってことは……うちが気付いたのに気付いて、答え合わせのために一局捨ててるんか……ここまでの6局、無駄にさせてもうたな)

怜(気付いたみたいやな。ようやくスタートラインに立てた……けど、ここまでくれば荒川の読みは私より鋭い。次からが本番や)


小蒔「ツモ」パタン


23456m345s赤56788p ツモ:7m 


小蒔「3200オール」


怜(次はおそらく七対子で3900オール……もしくは30符4翻で4600オールやろな)

怜(満貫級の手やから少しは時間がかかってくれるはず……ってのは甘いな、宮永さんなら5巡もかけずに跳満ぐらいは仕上げてくる。こいつもその例に漏れず、やろな)

怜(わたしの仕事はとにかく鳴いてこいつのツモを飛ばし、宮永さんと荒川にツモを回すこと。可能なら鳴いた勢いで和了ってもいい)

怜(親さえ流せば連続和了は途切れて打点も大人しくなる。ここで止めるで!!)


東一局 七本場


怜手牌

1244m2256p11s南南北


憩「……」

打:南


怜「ポン」

ポン:南南南 打:北


怜(流石やな。からくりに気付きさえすれば、読みは全国トップクラス。あの化けもんを止めるにはあんたは欠かせん)

怜(欲を言えば小走さんがそこに座っててくれると最高なんやけどな。あの人なら二局目で私らに合わせてくれたやろうから)

怜(ま、あの人と私らが異常なだけで、普通なら10万点が尽きるまでなすすべなく削られる。その前に気付いて対応出来る人間が同卓しとるだけでもありがたい。しかも、気付いた途端にこの鋭さや。文句を言ったらバチが当たるわ)


照「……」タン

打:4m


怜「ポン」

ポン:444m 打:2m


照「……」

打:2m

憩「……」

打:1s


怜「ポン」

ポン:111s 打:1m


照「……」

打:7p


怜「ロン。南のみ、3100」


2256p ポン:南南南 444m 111s ロン:7p


怜(にしても、鳴いて二人にツモを回すのが役目やって言った途端に二人して私のサポートに回りおってからに)

憩(鳴けるもん全部鳴くし、鳴くために対子揃えとるし、二人分のツモをサポートに回せるから、手牌さえ読めれば園城寺さんにトスするのが一番楽なんよ)

照(とりあえず親番は凌げた、これで次の親番までは進む。けど、なにか嫌な予感が……)


東二局


小蒔「ツモ。2000・4000」


怜「……は? 満貫やって?」

憩(……さっきまで、小蒔ちゃんは連続和了をしとった。最後は2600オールに6本ついて3200オール、積み棒なしなら7800、ありなら9600……嫌な感じやな。連続和了の始点で満貫っちゅうのはあり得ん話やないけど……)

照(……ヤバい。これ多分すごくヤバいやつだ)



『ツモ。3000・6000』


咲「……げっ!?」

久「咲、女の子がそういう声を出しちゃダメよ」

京太郎「なあ、これ、まさか……?」

咲「ごめん、読み間違えたよ……神代さんがコピーした連続和了、『打点の制約がない』んじゃなくて、『他の人間が和了っても打点がリセットされない』みたい」

和「なんですかそのインチキ!? もはや連続してないじゃないですか!?」

咲「だから、最初にインチキだって言ったでしょ!!」

優希「流石の照さんも、今回ばかりは本気で苦しそうだじぇ……」

咲「止めても打点が上がったまま……これ、地獄だね。こうなると、荒川さんが気付くまでに六局……止めるまでに七局和了らせたのが悔やまれる」


『ツモ。4000・8000』


やえ「……能力を奪う、では説明がつかんな。奪った上で強化するのか」

紀子「これは流石に笑えない……」

由華「……宮永妹の連続和了、チートだと思ってましたけど、リセットかかる分だけまだ良心的だったんですね」


はやり(これ、マジで健夜ちゃんとあたしと咏ちゃんで挑んでも勝てないんじゃない? 能力を奪って強化コピーするっていうなら、むしろ強い能力を持ってる分だけ勝ち目は薄くなる。かと言って、能力なしでも実力は高そうだから、そこらの素人じゃ絶対勝てない……どうすれば勝てる……?)


良子「はやりさん、アイドルらしからぬ表情になってます。スマイル」

はやり「はややっ☆ はやりとしたことが呆気にとられちゃった☆ てへっ☆」


やえ「……無理するな」


はやり「……え?」

やえ「たとえトッププロでも、いや、トッププロだからこそ、自分が勝てそうにない相手が高校生の試合で出て来たら平静でいられないものだろう?」

はやり「……」

やえ「気休めを言うなら、アレは毎回使えるわけじゃない。半荘10回打てば、最後の二~三回は厳しいとしても、瑞原プロなら勝ち越せるはずだ」

はやり「……うん。ありがと」


紀子(由華、日菜。後で緊急会議を招集したい)

由華(了解です)

日菜(はあ……まったくもう、やえってば……)


良子「ん? どうしたお前ら? 急に黙って」

紀子「上田には関係ない」
由華「上田先輩には関係ありません」
日菜「良子ちゃんには関係ないから気にしなくていいよ」

良子「問答無用で仲間外れっ!? 酷くね!?」

やえ「上田、気が散るから騒ぐな」

良子「なんで一瞬であたしアウェーの空気作るのお前ら!? どこで打ち合わせしてんの!?」


紀子「上田は全人類の敵。打ち合わせなどせずとも、私たちが人間である限り、本能でアウェーの空気を形成する」

良子「紀子のセリフが冗談に聞こえないぐらい見事なチームワークですよね皆さん!!」


良子「……上田さん、苦労なされてますね。まさか小走さんにまでこのような扱いをされるとは……」

良子「か、戒能プロ……あなたは敵に回らないでいてくれるんですか!?」

良子「どうにもエアーを読むというのはあまり得意ではなく……」

良子「戒能プロおおお……」グスン

良子「よしよし」


南一局 


照(神代さんの親番……とてもマジですごくヤバい。ここが正念場!!)

怜(18000、24300、36600、48900……48900の後どうなるか知らんけど、それだけでもう試合は決まったようなもんやろな。24300辺りでもう致命傷や)

憩(子で三連続和了を許したとはいえ、なにも出来ずにただ和了られたわけやない。いい勝負は出来とる。苦しいながらも4:6ぐらいの形勢のはずや。あとは確率の問題、たまたま三回連続で向こうに針が振れただけ……)

照(実際、均衡は取れてるはず。一歩届かないのが力の差なのか、偶然が向こうに良いほうに転がり続けてるだけなのか……それすらも実力差なのかもしれないけど……)


怜(とりあえず、そろそろエースが仕事してや。こっちの手はバラバラやからな)

打:3m


照「チー」

チー:234m 打:白


憩(……まだ一巡目やし、読みも何もあったもんやない。なんで鳴かせられるんやあの人? うちにまで同じこと求められても流石に困るで?
……今切った牌の右に二枚あるな。どっちやろ?)

打:発


照「ポン」

ポン:発発発 打:8s


憩(またわっかりやすいヒントやなあ……?????8s??で、多分字牌ではない……索子の8より後ろにある牌は字牌を除けば一種類だけや)

打:9s


照「ポン」

ポン:999s 打:5p


憩(5p????8s……6筒から7索までやけど、6筒と7索なら5筒も8索も切らんやろうから、7筒から6索までの9種類やな)

怜「(神代のツモを飛ばすために鳴いとくか)ポン」

ポン:赤5赤55p


怜(……さて、私の手牌はこんな感じなんやけど)


46779m1136p東中


怜(こんなん6筒切るしかないやろ。他にサポートになる可能性がある牌があらへんし)

打:6p


照「ロン。発のみ、1300」


6688p ポン:発発発 999s チー:234m ロン:6p



憩(……って、6筒持っとるんかい!? なんでそれがわかんねん。凄いな、園城寺さん……もしかして、理牌以外にうちが気付いてないヒントがあるんやろか? しかし、まさか公式戦で通しなんかしとるわけないしな……やっぱり、監督みたいに感覚で牌が分かるんやろか?)


咲「……ふう。これで、最悪でも次鋒戦にはたどり着けますね」

久「そうね。ここから三連続でツモられても大丈夫……てゆうか、子の倍満の後だから次は三倍満だけど、役満の次はどうなるのかしら?」

咲「一周して1000点に戻ってくれればいいんですけど、多分そういう救済措置とは無縁の存在でしょうから、もう一度役満じゃないですかね?」

まこ「ダブル以上ありなら、最後には大四喜字一色四暗刻の天和を繰り返す鬼畜マシーンになるわけじゃな?」

咲「そこまで行くってことはトビなしでしょうから、永遠に続きますね。最悪すぎる……」

京太郎「いや、四槓子と四暗刻の単騎をつけた方が高いからそれは最終形じゃない」

咲「本当にどうでもいい気休めをありがとう……とにかく、今回はここから三連続で和了られても6000・12000と8000・16000二回だから、最悪のケースでもトビ終了はない。四位の白糸台でも今の時点で75000残ってるからね」

京太郎「それなんだが、咲よ」

咲「何かな京ちゃん?」


京太郎「24000、32000、32000って可能性はないのか?」


咲「……へ?」

まこ「それなら飛ぶのう……まあ、前半で照さんが直撃とるのに苦労したように、あの三人は守りに定評のある面子じゃけえ、流石にだいじょ……」


『ロン』


京太郎「染谷先輩!! さっきからなんでフラグばっか立てるんですか!? どんだけ旗立てるんですか? 新大陸を発見した探検隊か何かですか!?」

まこ「わ、わしのせいじゃなかろ!?」


『32000』


咲「って、ちょっと待って、なにそれ!? 三倍満は!?」

久「……役満を連発出来るなら、律儀に一個ずつ段階を踏んで上げる必要もないのよね。照もいきなり満貫に飛んだりするし」

咲「冷静に言ってる場合じゃないですよ! どこですか振り込んだのは!?」

和「……それが、その……私も自分の目が信じられないのですが……」

優希「照さんだじょ……ドラを差し込んで数え役満……」

咲「はあ!? なにやってるのお姉ちゃん!?」


照「……」

怜(冗談やろ……宮永さんがミスで役満を振り込む?)

憩(いや、あの場面でわざわざドラを切る理由がない……何が狙いや?)


照「……」


怜(浮かれんなってことか。私らが三倍満、役満、役満と直撃喰らったらトビ終了の可能性がある。それを確実に避けるためには、後で絶対に振り込みを避けられる自分が振り込んでおくのが確実)

憩(……そうか、ここで10万削りきられずに生き延びてもそれで終わりやない。次鋒以降は20万点以上持った永水を削らなアカンのや)

憩(つまり、うちらの気を引き締めるため。三回ツモられても逃げ切りやっていううちらの油断を消し去るために……自分が役満食らっても、後の二局でうちらがヌルイ打牌する方が困ると)

怜(三倍満、役満、役満と喰らったら、清澄は88000稼がれた分と30000削られるのを合わせて永水から118000差をつけられることになる。うちらの気を引き締めて後の二局を凌げれば32000を差し込んだ差引き64000だけの差で済む。大儲けや)

怜(三人がかりで最善の打牌をして止められるかどうか分からん相手や……気が緩んだら止められるはずがない。後の二局を考えれば合理的な判断……だからって、役満を差し込むなんて狂気の沙汰や)

怜(その狂気の沙汰をさせてしまったんやな……申し訳ない。完全に助かったって思って気ぃ緩めてたわ)

憩(それも、うちらがしっかり打てば残り二局を抑えられる可能性があると踏んどるからや。その期待、全力で応えましょ)

怜(役満狙いなら手牌も読みやすいし、いくらなんでも手作りに時間がかかるはずや。あと二局、凌げるはず)


照(……助かったと思って油断してた、マジで読めてなかった。どうしよう、咲と竹井さんに怒られるかも……)

照(……残り二局は気を引き締めて全力で打とう。油断よくない)


先鋒戦終了


白糸台  72500(-27300)
清澄   53000(-51500)
千里山  76200(-20000)
永水  198300(+99800)


照「ありがとうございました」

憩「お疲れさまでした……うち、焼き鳥とか多分5年ぶりぐらいですわ」

怜「あー、生きた心地がせんわ……お疲れ様でした」


小蒔「……くぅ……くぅ……」スヤスヤ


憩「……変なもんは出てったみたいやな。こうしてると普通に可愛い子なんやけど……」

照「正直、神代さんには恐怖しか感じない。出来れば二度と会いたくない」

憩「そないなこと言わんと仲よくしてあげてくださいな。起きてる時はええ子ですから」

怜「寝てれば天使ってのは分かるけど、起きてるとええ子で寝てると悪鬼羅刹ってのは斬新やな」

照「常識の破壊児と名付けよう」

憩「……確かに、常識は色々ぶっ壊されましたね」

怜「ダサいんで秩序の破壊者とかにしましょ、中二心をわしづかみや」

憩「それもそれでどうかと……」

照「ダサい……」ガーン


小蒔「んぁ……ふえっ!? お、おはようございます!!」ガバッ


照「ひっ!?」ビクッ

憩「起きてる時は安全なんで、怖がらんでも大丈夫ですって」

怜「と言われても……」


小蒔「え、えっと、試合は……?」


照「とても酷い目に遭った」

怜「まあ、それがなければ宮永さんにもっと酷い目に遭わされてた可能性があるから私は感謝しとるけど」

憩「せやな。清澄がぶっちぎりトップよりかはまだ希望がある展開やし」

照「うぐっ……」

怜「ところで、私以外はお迎えが来とるみたいやな」

照「へ?」クルッ


久(いつまでいちゃついてるのかしら? 終わったならさっさと来なさい)ゴゴゴ

照(……竹井さん、さっきの役満に振り込んだのを怒ってる……? どうしよう……)


菫(さて、憩、お前への説教はまだ済んでなかったな?)ゴゴゴ

憩(あらら……根に持つなあ……どうやって誤魔化したもんやろか)


霞(小蒔ちゃん、なんであんなモノ降ろしたのか聞かせてもらうわよ?)ゴゴゴ

小蒔「あ、霞ちゃんが迎えに来てくれました。きっと神様を連続で降ろした私を心配してくれたんですね。お心づかいに甘えさせてもらいましょう」

今回はここまでです。三回連続で30KB近く書いてるから次は20KBぐらいに収めたい……

次回も一週間後の水曜に更新予定です。

更新日\(^_^)/

×突っ込みが必要無い
○突っ込めないくらい速い展開での決着
かな( ̄▽ ̄;)

次鋒戦はどうせ染谷先輩がいる限りキンクリ確定なので下手に期待させるよりはサクッと投下した方が良いと思いました。

↑探すの苦労した( ̄▽ ̄;)


菫「さて、試合が始まる前の説教の続きをするとしようか?」

憩「まあまあ菫さん、次に試合を控えとるわけやし、説教は菫さんの試合の後にしましょ」

菫「……まあ、説教をしている場合でもないことだしな。この点差は想定外だぞ」

憩「と言っても、むしろ次鋒に繋げたことを褒めてほしいぐらいでして……」

菫「監督と大星が部屋の隅で怯えていたぐらいだからな。それについては良くやったと言っておこう」

憩「(怯えてたのは菫さんにやと思うけど……)ありがとうございます! ほな、尭深ちゃん達と優勝へ向けた善後策を練って来ます!」

菫「後半には間に合わせてくれよ。前半は私の判断で動く」

憩「りょーかい、何とかしますわ」


霞「小蒔ちゃん……プラマイゼロに抗わずに半荘一回流すって話だったはずよね?」

小蒔「それが、気付いたら眠ってしまっていて……でも、何があったんですか? 神様を降ろしたとしても、憩さんたちにここまでの大差で勝てるとはとても……」

霞「……」

春「ここまで姫様に起きたいろいろな異常、かなりの部分はアレが仕込んだのではないかと思う」

巴「え?」

春「そうでも考えないと腑に落ちないことが多い」

初美「???」

春「まず、卓上に神様の力を全て注ぐのはとても難しい。なのに、最近の姫様は易々とそれを成していた」

霞「……そうね、私が使っているモノだって、力を全て注げれば9面の神々のいずれにも劣ることはない怪物。それが出来ないのは私の未熟だと思っていたけど……」

春「姫様の力だとも思えない。そもそも、神様を降ろしている時の姫様は眠っている。姫様の制御と無関係なら、神様側に原因があるはず」

初美「神様の力を卓上に集中することが出来ていた理由が、アレがそうなるように仕向けていたからだとでも言う気ですかー?」

春「そう。そして、全てのお膳立てを整えて、決勝の舞台の最高の対戦相手を迎えて満を持してアレが直々に出て来た。姫様の意思とも関係なく」

霞「……神様たちは、元々小蒔ちゃんの意志とは無関係に降りてきているような気がするけど」

春「それでも、予兆はあった。姫様が眠そうにしている時に降りてくる。最近は意識がはっきりしてるのにいきなり降りてきていた」

初美「確かに、最近は強そうな相手と試合するといきなり寝てましたよー」

霞「だとすると、アレは自在に姫様に降りて来れる、姫様が眠くなくても任意のタイミングで降ろせる……ということになってしまうのだけど……」

春「多分、それぐらい出来る。9面様全てを退けたあの化け物三人を圧倒するほどの化け物」

巴「それって、マズイんじゃ……いつアレが降りてきてその力を麻雀以外に使うか分からないってことでしょ?」

小蒔「……」

春「……強い相手と麻雀を打つためにここまで手の込んだことをするようなモノだから危険はないと思う。ただの麻雀狂」

初美「そんな神様居るんですかねー? いくらはるるの言うことでも流石に眉唾ものですよー?」

春「あくまで仮説……けど、ここまで姫様に起きたことを総合すると、これが一番納得できる仮説だと思う」ポリ


怜「……」

照(隠れてる)

久「……」ピキ

怜「あの……宮永さん? 手ぇ引いて引っ張って来られても状況が全く分からんのやけど?」

照「多分怒られるから、私の弁護をしてほしい」

怜「……は?」

久「へえ……怒られる自覚はあるのね?」

照「……流石に役満に無警戒に振り込んだのは反省してる」

久「……は?」

怜「……は?」

照「……え?(なにこの反応?)」

久(何を言ってるのかしらこの子は……? いえ、冷静に考えましょう、この子は想像を絶するポンコツよ、何か私の想像を超えたところで勘違いしてるはず、考えなさい竹井久)

怜「……無警戒に振り込んだ?」

照「うん。流石に痛かった」

怜「生き残りが確定して気が抜けとる私らの目を覚まさせるためやなくて、素で無警戒に振り込んだ?」

照「……ん?」

怜「あのまま気が抜けた打ち方したら神代を止められんまま大差がつくから、それよりは私らの気を引き締めて役満一回で済む方がマシとか、そういう計算でやったんと違うんか?」

照(なるほど、その発想はなかった……これは行ける)

久「その言い訳があったか、って顔に出てるわよ?」

照「!?」ビクッ

怜「……」

照「なんのことか分からない。私は二人の気を引き締めるためにあえて役満に振り込んだ。結果として、振り込んだ後の二局では神代さんを抑えることに成功した」キリッ

怜「……あの、宮永さん?」

照「……なに?」

怜「聞きにくいんやけど……宮永さんって、結構抜けとるところあったりする?」

久「ええ、麻雀で大ボケかますのは初めて見たけど、私生活では基本的にずっとこれよ」

照「これとは失礼な」

怜「……なんか私の中の宮永さんのイメージが盛大に音を立てて崩れたわ。で、もう帰ってええかな?」

久「ええ、引きとめてしまって悪かったわね」

怜「ほな、またどこかで」


照「……他校にまで間違ったイメージが拡散された……今からでも園城寺さんに私の真の姿を教えてこないと」

久「真の姿が拡散されるだけだからやめときなさい。ほら、帰るわよ」


怜「ただいま」

セーラ「おう、お疲れさん」

竜華「遅かったやんな?」

怜「……意外な一面を見て来たわ。もう一人も、竜華に喧嘩売って来たっちゅうからどんな怖い人かと思ってたら別に普通の人やったしな」

浩子「……?」

雅枝「ま、他校と縁を繋いどくのはええことやで。二位で折り返したんやから多少の寄り道は大目に見よう」

怜「席順に助けられましたわ。親かぶりが一番安い席やったんで……そんで、泉は?」

雅枝「もう行ったで? 途中で会わんかったか?」

怜「あー……寄り道したせいで違う道通ってもうたんかな」

浩子「なんかアドバイスでも?」

怜「いや、ほら、小走さんに仕込まれた戦法に文句言ってたから不安でな」

浩子「あれに関してはうちも疑問なんですけどね。ホンマにあんなんで勝てるんですか?」

怜「泉がまともに打ったら弘世さんに蜂の巣にされるだけってのは私ら三人の共通見解やろ?」

浩子「そりゃそうですけど……他に手があるやろってことです」

怜「ないからアレになったんやろ」

浩子「……泉が常識に囚われない打ち方をすることが出来れば……」

怜「それが出来んからアレしかないって話になったんやろ。気持ちは分からんでもないが」

浩子「……先輩らが引退した後のことが急に不安になって来ました」

セーラ「まあ、俺ら三人は今年の北大阪のトップ3やからな、抜けたら痛いやろ」

雅枝「そういう問題と違うわ、ま、先のことは先のことや。今は目の前の試合に集中せえ」


『ロン、3900』

『げほっ!?』

『ツモじゃ、3000・6000!!』

『うげっ!? 親被り!?』

『……それ、頂きます。ロン、2000』

『ほおおおおおおっ!?』

『ロン、5800』

『うぎょおおおおお!?』



やえ「ったく、あのガキは本当に口だけ一人前で困る」

日菜「で、どうなの?」

やえ「ダメだな。染谷は弘世が攪乱するだろうし、狩宿は地力で五分。私が仕込んだ通りに打たないとしても弘世に気をつければ酷いことにはならんだろう……という読みだったんだが、点差に惑わされて普段通りにすら打てていない」

はやり「弘世さんだけ気をつければ大丈夫っていうのはどういうことかな☆ そういえば、昨日の特訓ではあの子ほったらかしだったよね☆」

紀子「それは……」

やえ「……染谷の牌譜を洗ったんだが、おそらく、奴は相当打ってる」

由華「ごくり……」

やえ「だが、初心者らしき相手と個人戦で当った時、妙に調子が悪そうだった。また、長野に何人か居る特殊な打ち手も苦手としていた」

紀子「……中級者以上の、特殊な能力を持たない相手に対して発動する能力?」

やえ「まあ、能力に近いがな。そうではなく、対局の経験がそういう相手に偏っているんだと推測した。街の雀荘の客を相手に長年打っている感じだな」

由華「特殊な能力を持ったプロ級の打ち手や、腕に自信の全くない初心者がいない環境での経験……雀荘のメンバー経験が長いってことですか?」

やえ「家の近くに雀荘があって、そこに入り浸っていたんじゃないかと思う。入り浸れるということは経営者は親戚か何かだろうな。そして、そのレベルの闘牌に関してのみ経験が豊富になっている」

紀子「雀荘のメンバー……なら、弘世のような異常に対しては経験がない?」

やえ「多分な。経験を積んだとしても、メインになってる部分に比べて少ない経験しか積めていないはずだ」

由華「ということは……」

やえ「染谷に関しては弘世が攪乱してくれるはずだ、それだけでは他の二人が普通に打てば大きく崩れることはないだろうが、弘世が居るだけで染谷の脅威は抑えられる。だから弘世にだけ気をつければ酷いことにはならん」

由華「なるほど……けど、それにとどまらず、勝つための策を授けたんですよね?」

やえ「ああ……今述べたように、普通に打っても弘世に気をつければ酷いことにはならんが、弘世に加えてもう一人が染谷の経験にない打ち方をすれば染谷はボロボロになるだろう。更に、染谷の経験にも存在しないその打ち方は弘世の読みも狂わせる。攻める気のない狩宿は無視していい。四人のうち二人がボロボロで一人が守りに徹するなら、勝つのは残った一人だ」

はやり「けど、染谷さんって新道寺の安河内さんにも対応してたよね☆ まともな打ち方じゃ何やっても経験の範疇なんじゃないかな☆ かと言って、染谷さんが対応出来なそうな特殊な能力前提の打ち方は特殊な能力を持たないあの子には真似出来ない☆」

やえ「そこで、奴の経験の範囲をおさらいだ。特殊な能力を持った打ち手と、もう一つ対象外があるだろう?」

由華「……まさか、二条さんに授けた対策って?」

やえ「今後の成長を度外視してこの決勝の次鋒戦を凌ぐだけなら、あいつは初心者のような打ち方に徹すればいい。そこで、『タンヤオと翻牌以外の役を忘れて四組と頭一組を集めろ。役なしでもいいからリーチしてツモれ』と指導した」

良子「いや、それは……二条じゃなくても反発するだろ。なんで上級者が初心者の打ち方しなきゃいけないんだよ」

やえ「それ以外に今から仕込んで間に合う戦法がないんだから仕方ないだろ。弘世と染谷を同時に凌げて今のあいつに実行可能な対策はそれしかない。あいつの豪運があれば初心者の打ち方でも十分勝てるはずだ」


次鋒戦前半終了


白糸台  85000(+12500)
清澄   76900(+23900)
千里山  46100(-30100)
永水  192000(ー 6300)


怜「振り込み、ツモられを繰り返して全局マイナス……ある意味天才やな。親番二回ともツモられとるし」

浩子「笑ってる場合じゃありません。しばいたろかあのガキ……」

竜華「これは流石に厳しいで……」

雅枝「……普段通りの打ち方すら出来とらんな。この点差じゃ逆転はもう厳しい……ここまでか……」

セーラ「……」

竜華「……セーラ?」


セーラ「……あいつはそんなヤワなやつやない。俺、行って来るわ」


怜「セーラがそう言う未来は視えとったで」

浩子「江口先輩はともかく、園城寺先輩なにを言い出すんですか?」

セーラ「……そんなもんまで視えるんか、便利やなそれ。ついでに、次鋒戦がどうなるかも見てやってくれ」

怜「私が視んでもわかるやろそんなもん、セーラに見えてるんと同じ未来が私にも視えとるよ」

セーラ「そっか。なら安心やな」

怜「せやから、はよ行ってやらんとな」

セーラ「おう、行って来る」


バタン


竜華「なあなあ怜、それホンマに未来みえるん? 麻雀以外でも?」

怜「見えるわけないやろ。セーラがどうするかってのは分かったし、次鋒戦がどうなるかも予想はつくけど、別に能力使って見たわけやない」

浩子「……江口先輩とは付き合い長いから、分かるでしょうね。うちだって分かりましたし」

竜華「え? うち分からんかったよ?」

怜「親友失格やな」

浩子「戦友としても失格ですね」

雅枝「薄情な部長やな、園城寺、代わりに部長やらんか?」

竜華「せやかて分からんもんは分からんって!」

浩子「(無視)で、次鋒戦、どうなると思います?」

怜「んなもん決まっとるやろ。うちらの次期エースが『エースの仕事』をするに決まっとる。言われた通りの打ち方さえできれば決して過度な期待やない」

浩子「次期エースはうちが務めるつもりなんですけど……まあ、それが出来たらあいつをエースに据えることを考えてやってもええな」


ガン! ガンッ!


セーラ「ん? なんの音やろ?」


ガンッ! ガンッ!!


セーラ「……おい、なにやっとるんや!?」


泉「ひゃははははは!!! うちが、うちが弱いから悪いんや!! うちなんて豆腐の角に頭ぶつけて死んだらええねん!!」ガンッ

セーラ「おい!! 落ち着け泉!! 額から血が出とるやないか!!」

泉「止めんなぁああ!!」

セーラ「止めるわ大ボケ!! なにやっとんねんこの馬鹿!!」

ゲシッ!


泉「痛っ!?」


セーラ「正気に戻ったか?」

泉「……一応」

セーラ「なにやっとんねんホンマに。アホなことしとらんと、後半どうするか考えろや」

泉「……考えて、頭を壁に打ち付けてるんです」

セーラ「……意味が分からんな。頭がおかしくなったんか?」

泉「変なプライド捨てて小走さんに言われた通り打とうって……前半もそう思いながら打ってたんですけどね」

セーラ「全く出来とらんかったな」

泉「……アホにならんといかんのです。牌効率なんかまったく分からんアホにならんと、言われた通りの打ち方が出来んのです……せやから……」

セーラ「……とりあえず、血、拭けや。ほれ」

泉「江口先輩、ハンカチとか持ち歩いてたんですね」

セーラ「ホンマはガラやないんやけど、試合の度に通路でシクシク泣いとる手のかかる後輩がおるからな。反省せえよ?」

泉「……ちょっとええ匂いしますね」クンクン

セーラ「か、嗅ぐなボケええええ!!!」ベシッ

泉「ほげっ!?」ガンッ


セーラ「あ……すまん、力入れすぎた。そこまで吹っ飛ぶとは……泉?」


泉「……」

セーラ「ま、まさか、打ち所が悪くて……そ、そんな……」ガタガタ

泉「……」


泉「……」

セーラ「おい、泉。いい加減悪ふざけが過ぎるで? 次に名前呼んで反応せんかったら人呼ぶからな?」

泉「……」ムクリ

セーラ「あ、起きたか……タメが長いわ!! 心配させんなやホンマに」

泉「ほきょ?」

セーラ「……泉?」

泉「ほけらえむ」

セーラ「……」タラ

泉「ふけっきょらー!!」


タッタッタ


セーラ「……ヤバい、本気で壊れた……アカン……どうすればいいんや……」


『もけっきょろー!! けっきょろけっきょらけっきょるー!!』


『つもっきょー!! 4000・8000!!』

『リーチ一発ツモ三暗刻裏三!? わしの親番に何ちゅうことを!?』


『ほきょ……? きょきょっ!! 2索ろんっほー!! 12000!!』

『な、なんだこいつの打ち筋は……私には確かにお前が将来4索を切るのが視えて4索待ちのカンチャンに寄せたのに、3334555s……23456索待ちの三面張だと? そこから4索を切るつもりだったというのか!?』


『リーチじゃと……? わけわからん捨て牌しおってからに……通れ!!』

『ろむぎょ! 12000っぽー!!』

『混一色三暗刻……しかもツモり四暗刻の形かい……親じゃから振った方が安いが、なんなんじゃこいつは!?』


『きょけーっけけ!! 8000・16000!!』

『……ここまでしのいだのに、最後の最後で役満の親被りか……姫様、申し訳ありません……』

『くっそお……妙な打ち方する連中が二人もおるせいで河が記憶と全然一致せん……』

『……ふがいない結果だな。これでは憩を叱ることも出来ん』


次鋒戦終了


白糸台  65600(ー19400)
清澄   41300(ー35600)
千里山 122100(+76000)
永水  171000(ー21000)


怜「……勝ったんはええ。それはなりよりや」

浩子「ええ、それは歓迎すべきことです」


『きょきょけー!!』


雅枝「江口、撫でてほしいみたいやで?」

セーラ「おー、よしよし」ナデナデ

『ほむるるるる』

竜華「嬉しいみたいやな。最初は面喰らったけど、慣れれば案外カワイイな」


怜「……勝利の代償に泉がアホに……とんでもないアホになってもうた……」

浩子「……おばちゃんが言語を理解できるようなので、飼育には問題ありません。不幸中の幸いですね」

怜「そうか……で、泉は後半できっちり荒川流の『エースの仕事』をして見せたわけやけど、次期エースの座は……確か、考えたるって言ってたやんな?」

浩子「猿をエースに据えたら千里山の恥です。次期エースは予定通りうちが背負いますんで」

怜「……せやろなあ……」


ゆみ「……染谷以外の清澄メンバーなら控えの片岡を含めて誰を出しても十分渡り合えただろうに、相性が最悪だったな。しかし、あんな手でくるとは……」

美穂子「初心者が大会に出て来るなんて想定外だったでしょうね。特殊な打ち方は牌譜を見て研究していたけど、初心者対策は全く出来てないはずです。本当の初心者ではなく初心者のような打ち方をする上級者ですが、結果として染谷さんの記憶にない打ち方をする人間が同卓者三人中二人になりました」

ゆみ「染谷の牌譜を、個人戦の物まで含めて相当研究しないとあの対策は考えつかない。染谷の対応力が豊富な対局経験に基づくものであること、更にその対局経験の穴まで見抜けないと……流石は千里山の北大阪連続代表を支える名将 愛宕雅枝と言ったところだな」

美穂子「上級者ゆえに二回戦では染谷さんに対応されましたが、決勝までに対策して見せた。これがシード常連の名門の力……見習わないといけませんね」

佳織「私も打ち始めた頃はさっきの二条さんみたいな感じだったんだろうなあ……」

智美「佳織の豪運で初心者みたいな打ち方したらああなるだろうなー。それはそれで咲への対策になるかもなー」

ゆみ「いや、一年生にして千里山のレギュラーまで上り詰めた上級者だから応用が出来るんだ。今の妹尾の腕で真似をしたらスタイルを崩すだけだろう」

モモ「腕によって何が幸運かってのは違うっすからね。かおりん先輩の運は今のかおりん先輩の腕に合わせた豪運っす」

透華「それにしても千里山……なりふり構わぬ手で目立ちに来ますわね。初心者のような打ち方に合わせてあのようなパフォーマンスを……」

ゆみ(お前じゃないんだからそんなことしないだろう)

智紀「来年は透華がそうすればいい、私は遠慮させてもらうけど」

一「あ、ともきー、おかえり。衣をお手洗いに連れて行くだけなのに随分遅かったね?」

純「おい、ちょっと待て、なんで智紀だけなんだ? 衣はどこだ? トイレに行ったんだろ?」

智紀「先鋒でのアレに当てられて落ち着きがなくなっていたから気をつけてはいたのだけど、ちょっと目を離した隙に逃げられた、見つからなかったから萩原さんに任せた」

純「んな無責任な……いやまあ、あの人に任せたなら無責任でもねえか」

智紀「迷衣レーダーがあるから大丈夫」

純「アレ、どんな技術で作ってんだろうな?」

智紀「それが分かるなら苦労はしない。服を着替えても有効だから、おそらくカチューシャに発信機をつけてるのではないかと推測しているけど……」

今回はここまでです。次回は一週間後に。

牌の描写はありませんが、一応、一局ごとの点数移動はちゃんと計算してます(良心)


ハギヨシ「……反応は控室のある区画。レーダーに誤差がないとすれば永水女子の控室ですか。困りましたね、あそこは特殊で選手はおろか学校にも連絡が取れませんし」

ハギヨシ「ここから行くのが一番近いようですし、何かあれば駆けつけられるよう、この近くで待機しておきましょう」

~~~~~~

巴「……戻りました。 あの、その子供は……まさか……?」

衣(小蒔に抱えられてる)「子供じゃない、衣だ!!」

小蒔(衣をだっこしてる)「あ、おかえりなさい……彼女はですね、さっきお手洗いに行ったときに出会いまして……」

衣「衣にかかれば探し人を見つけるなど造作もないということだ!!」

春「……昨年度団体戦MVP」ポリ

巴「天江衣……だよねやっぱり」

初美(139㎝)「はるる、いい加減デマをばらまくのはやめるですよー。他人の空似ですー、こんなチビガキと一緒にしたら天江選手に失礼ですよー」

衣(127㎝)「うるさいぞちびっこ!! 衣は高校二年生だ!! 子供じゃないぞ!!」プンスカ

初美「私は高三ですよー! 高二のガキンチョはお姉さんの言うこと聞いて大人しくおうちに帰るです―!」

衣「なっ!? 嘘をつくな!! こんなちっこい高校生三年生がいるものか!! 一年生のユーキよりも小さいくせに!!」ガー

初美「私ぐらいの身長は探せば他にもいるですー!! てゆうかお前が言うなですー!! そしてユーキってだれですかー!?」ギャーギャー


霞「見ての通り、小蒔ちゃんに懐いてしまって離れないの。さっきの試合を見ながら的確な指摘をしていたし、私たちには必要だと思うのだけど……」

春「多分、私より頼りになる」

初美「こんなちびっこが役に立つはずないですー!! 巴、私と一緒にこいつを追い出す側に回るですよー!! そもそも部外者の立ち入りは禁止ですー!! どうやって入ったですかー!?」

衣「普通に歩いて入ったに決まっているだろう!! 衣にとって立ち入り禁止など無きに等しい!!」

巴「霞さんが必要とおっしゃるなら、私は反対しませんけど……」

初美「なっ!? 巴、私を裏切るですかー!?」

衣「ふふん、貴様のようなちっこい生き物に賛同する人間などいないということだ!!」

初美「うるさいですよー!! 私はそんなにちっこくないですー!! 宮守の中堅だって私よりちっこかったですよー!」

小蒔「衣さん、初美ちゃん、喧嘩はダメですよ?」

衣「む……こまきが言うならやめておこう」

初美「うぐぐ……こんなアウェイには居られないです――!! 私はもう行くですよ――!!」

霞「あっ、待って初美ちゃん、作戦を……」

初美「そんなもんなくてもリードを広げて帰って来ますよー!! あとははるると霞ちゃんが完封すればうちの優勝ですー!!」


バタン!!


霞「……で、ああ言って出て行ったけど、初美ちゃんの言った通りになるかしら?」

衣「なるはずがなかろう。ののかはまだしも、貴様の相手は咲だし、ちびっこの相手はヒサだぞ」

小蒔「衣さん、貴様などと言ってはいけません。霞ちゃんにはちゃんと名前があるんですから」

衣「……カスミの相手は咲だし、ちびっこの相手はヒサだぞ」

小蒔「はい、よくできました」ナデナデ

衣「えへへー」テレテレ

巴(はっちゃんへのちびっこ呼びはスルー!?)

春(言ってもすぐ戻るから、姫様も諦めたみたい)ポリ


霞「……具体的にどうなるの?」

衣「ちびっこがまともに勝負できるのは北家の時だけだろう。他はヒサの独壇場だ、親が流れるまでは耐えるしかないだろうな」

巴「親が流れるまでって……流さなきゃ親は流れないよ?」

春「……そうでもない、渋谷尭深がいる」ポリ

衣「左様。あやつはそこまでの第一打を任意の時点で回収できる。ヒサが親を続ければ、遅くとも12本場では流せる」

霞「……は?」

春「一昨日見せた天和は、やはり能力……? けど、12本場?」

衣「咲が言うには、最後に捨てた二牌が次の局の第一ツモと第二ツモになるとのことだったな。それが正しいのは衣も確認した。第一打から12牌を回収し、二牌を前局から回収すれば14牌が揃う。そのために必要なのは12局、0本場から11本場まで凌げば12本場で必ず流せることになる。親番の前から第一打を仕込んでいればもっと早い」

霞「え? いや、ちょっと待って、ついて行けないのだけど? 渋谷尭深はオーラスで役満を和了る能力じゃ……?」

衣「(無視)ヒサの親番がちびっこの北家と重なれば良いがな。そうでなければ、ヒサが延々と連荘して白糸台が役満で流す、それを四回繰り返して中堅戦が終わるだろう。いや、その前に試合が終わるな」

春「……清澄の中堅のあれは能力で和了っているわけではない、運次第で連荘を止めることも可能」ポリ

衣「……確かにな。だが、運次第というのはどれだけの幸運なのだ? 10局に一度程度しか訪れぬ幸運を四度引き寄せるのか? それならちびっこが二度続けてヒサの上家に座る方が期待できるぞ」

春「……」ポリポリ

小蒔「そんな……なんとかなりませんか?」

衣「あのちびっこの代わりに衣を出せば良い。逆にこの中堅戦で勝負を決めてやろう!」ピョン

霞「……真面目にお願いするわね。次にふざけたら、お仕置きよ?」ニコッ

衣「ひっ!?」ビクッ

春「私からもお願いする。私たちが勝つにはどうすればいいか、教えてほしい」

小蒔「お願いします、衣さん」

衣「……中堅のヒサを乗り切ってもその後に咲やののかも控えている。確かに大きな点差はあるが、点差以上に戦力差が大きすぎて勝つ方法が見当たらん」

小蒔「そんな……」

春「……一人で試合を終わらせるだけの力を持った選手を相手にリードを守って終えなければならない。それを少なくとも二回。厳しいのは当然」

衣「……とはいえ、衣も負けるはずのない戦で負けた。その時、咲は一対一での勝負を避け、他家を使ってみせた。咲以外を侮った衣の慢心が敗因だが、うまく使えば衣を倒せるほどの駒が咲以外に二人もあの卓に居たのがなによりも大きい」

霞「……」

衣「今回も、三校で手を組めば清澄を倒せるだけの戦力が揃っている。他家を使う術を知らぬ今の衣には実際に勝ちに繋がる策は見出せんが、やり方次第ではどのチームにも優勝できる可能性があるのだろう。咲ならばどのチームに居ても勝機を見出すはずだ」

巴「三校で、手を組めば……」

霞「だとしても、最大の戦力を揃えている清澄が有利なのは変わらないわね」

衣「当然だ。四人の実力が拮抗しているなら勝利の可能性は等しく、誰かが抜きんでているなら他の三人はそれを警戒して協力しながら戦う。それでも一人で三人を倒せるなら必ず勝つだろう。勝利への道の広さは実力差に比例する」

春「……あの卓の勢力図はどうなっているの?」

衣「単純な戦力なら大雑把に5:2:2:2と言ったところだろうな。後は相性の問題だが、能力を持たず勝負どころがない千里山が如何にも苦しい」

霞「三人で協力してようやく止められる相手……しかし、渋谷尭深は清澄に協力する可能性が高い」

衣「単純に戦力を足し合わせたら絶望的だな。しかし、ヒサは他人を使うのが上手くはないし、白糸台の中堅も能力こそ強力だが地力はあの卓のレベルでは高いとはいえない……協力しても効果はほとんどなく、ヒサの戦力は5のままだ。ちびっこは他と手を組めば5対4で勝負にはなる。さっき話した通りの展開ならば、ちびっこと同様に千里山が苦しい立場だ。手を組むならそこだろうな」

巴「千里山との共闘……はっちゃん……作戦聞かずに行っちゃったけど、大丈夫かな……」


久「私の親番で薄墨さんが北家の場合は少し考えるとして、基本的に私は和了りまくればいいんでしょ?」

照「江口さんは火力重視で、速度で竹井さんに追いつくのは難しい。止めるとしたら薄墨さんだけど、新子さんとかに苦戦してたから竹井さんを止めるのは厳しいはず」

咲「渋谷さんは役満があるから部長が連荘するのを利用できます、よほど高い手を連発したり点差がつきすぎなければ無理に止めには来ないはずです」

和「連荘による荒稼ぎと、その連荘で第一打を溜めて舞い込む役満。大きくへこんでいる我々と白糸台の利害が一致しますね。上位二校を追い上げる形になります」

京太郎「部長に和了られまくった挙句、流すのも渋谷さんの役満ツモか……永水と千里山はやってらんねえな」

久「って言っても、私は無限に和了り続けるってわけじゃないからね。江口セーラや薄墨初美が相手ならあっさり流されるかもよ?」

照「……三対一とかにならなければ、親番の度に5~6本場は行けると思う」

咲「親番二回ともそれだけ積むと、渋谷さんの親が部長より後なら確実に一回は親役満が飛んで来ますから、最低16000は稼がないとマイナスですよ」

久「最低値の500オールを5回和了っただけだと仮定したって積み棒足して親番一回で10500稼げるんだから、親番二回で16000は余裕でしょ。トップを取るために64000差をつけておくほうが目標じゃないかしら?」

優希「あれ……16000って結構大きい点数だったような……64000差ってなんだじょ?」

京太郎「倍満は安手。ここはそういう世界なんだ、受け入れろ」

優希「人間界に帰りたいじょ……」

まこ「まったくじゃ、どいつもこいつも満貫ぐらいの頻度で役満をポンポン和了りおってからに。普通なら役満なんぞインハイ団体戦を通して一回出るかどうかじゃぞ?」

咲「役満どころか天和が二回出ましたから。非常識ですよね本当に」

まこ「非常識って単語がおんしの口から出よるんか!?」


憩「ま、あれは事故ですわな。半荘一回丸ごと事故です」

菫「面目ない……」

憩「ま、うちも人のこと言える立場やなし。先のことを考えましょ」

監督「そうね。あなた達は五人全員がどこに行ってもエースを張れる実力者。どんな状況からでも逆転は可能よ」

菫「くっ……チームを売った監督のくせに知ったような口を……私自身が次鋒で無様を晒していなければ永遠に発言権を奪っておくのに……」

淡「でもさー、これ真面目に危なくない? どうするのケイー? 大エース淡ちゃんに全てお任せしちゃう?」

憩「全部ってわけにはいかんけど、淡ちゃんには頑張ってもらわんとな。むしろ、この状況やと淡ちゃんがガチンコで妹さんに勝ってくれる前提やないと作戦が立たんわ」

淡「わーい!! 私、ついにエース昇格!!」

誠子「調子に乗るなって」コツン

淡「あいたっ」

尭深「……清澄が最下位、うちが三番手、千里山と永水は大差をつけて逃げている。厳しいね」

憩「ま、中堅は清澄に乗っかるしかないやろな。連荘してもらってゲージ溜めて親番で役満炸裂や」

監督「13牌フルに溜めこめば、薄墨の北家と被っても確実に勝てる。準決勝では少ない枚数で薄墨を止められるかを試すために東と北を抱えたからお互いの足を引っ張り合う形になった。けど、清澄の中堅のおかげで今回はフルチャージできるのだから、風牌を避けて確実に天和を和了ってしまえばいい」

尭深「けど、それだと清澄がうち以上に稼ぐのは避けられません……」

憩「今はうちが勝っとるんやから、多少稼ぎ負けたってええ。それより上を削るのが大事や。逃げ切りなんか狙われたら清澄封じの共闘すら出来ん」

菫「そうだな。特に永水との差はいかんともしがたい。追いつくために、今は清澄を利用させてもらおう」

憩「この中堅で清澄と協力して永水との差を詰める。その後、副将を五分に近い形で折り返せれば、後は淡ちゃんに任せてええやろ」

監督「……咲も一筋縄で何とかなる相手じゃないけど、仕方ないわね。この点差で勝機があるプランが存在してること自体が奇跡みたいなものだし」

菫「昨年なら、この時点で勝負は終わったと解説が言い出す点差だな。最下位の清澄は倍満にでも振ったらトビも見えてくる点数、対して盤石なリードを保ってトップを独走する永水」

憩「やられる側になるとは思いませんでしたわー」

誠子「随分とノリが軽いな、この状況で」

憩「いやー、あんなふざけたもん相手に打ったら10万点とかカスみたいなもんやって。照さんがおらんかったら間違いなくあそこで終わりやった」

尭深「どうせ終わっていた勝負なら、続いてるだけ儲けものってことかな?」

憩「そのとーり。しかも、どうやって止めるか頭を悩ませてた清澄が都合よく最下位に落ちてくれとる。むしろ、普通に予想しとったどの展開よりも勝機があるぐらいや」

監督「ここまでの実績から考えて、竹井久と咲は他校も警戒するはず。その分、普段ならあり得ないぐらいに私たちへのマークは緩むわ。憩と菫以外は徹底的にマークされた状況しか経験してないでしょう? ノーマークで打つ最初で最後の機会よ、思う存分暴れて来なさい」


怜「……っちゅうのが予想される展開やな。永水が共闘してくれればええけど、あそこは個々の実力が高いだけで状況を見通して手を打てる参謀がおらんようやから、そういう全体を見通した戦略的な動きについては期待薄や」

浩子「というか、化け物三人の特性を考えたらそうならざるを得ませんね。薄墨が竹井の上家に座ってくれるのを祈るばかりですわ」

セーラ「おい、二人して俺の存在は無視か」

泉「けっきょきょー!!」

浩子「現実見ましょ。二回戦で遊び半分の竹井を相手に手も足も出んかったやないですか」

セーラ「せやから竹井対策を聞いとるんやろが」

怜「悪待ちは防ぎようがないし、早和了りは実力やしなあ……対策って言っても『実力でねじ伏せろ』しかないで」

竜華「実力やったら仕方ないな……宮永妹の連続和了とかと違ってその場その場で対応してるわけやろ?」

怜「そうなるな」

セーラ「それやったら、俺も激戦区北大阪の個人戦代表やし、実力で……」

怜「……セーラなら何とかなると思いたいんやけどな」

浩子「せやから、現実見ましょ。永水と共闘出来たとしても厳しいところ、単独でどうにかしようっちゅうのは無理ですわ」

セーラ「……」

怜「負けるにしても白糸台にも清澄にもこれだけ点差をつけとる。負けを抑えられれば逃げ切りの目もある」

セーラ「永水の逃げ切りもどうにかせなアカンやろ。それはそれで大差や」

怜「微妙な立場になってもうたなあ……竹井さんがおらんかったらここでセーラにガツンと稼いでもらいたいとこなんやけど」

雅枝「……もう時間や。予想される展開はさっき園城寺が言った通り。最優先目標はあの化け物の連荘を止めること、そしたら渋谷の役満も妨害できる」

セーラ「その止め方がわからんから話し合っとるんですけど……」

雅枝「麻雀は運の要素が強いゲームや、チャンスを逃さんかったらなんとかなる。今まで打ってきた自分の打ち方をしっかり出しきるんや」

セーラ「……はい」


『まさかまさかの展開――!! 大差が付いたまま次鋒戦が決着!! けど、勝負はまだまだ分からない――!! ……よね?』

『トップの永水女子は三校からマークされる立場です。早和了りが得意な竹井選手も居ますし、薄墨選手といえども簡単には和了らせてもらえないでしょう。それに加えて、役満などの大物手を成就させることの多い渋谷選手も居ます。下手をすればこの中堅戦で順位が逆になるということもあり得ます』

『……トップの永水と最下位の清澄で10万点以上差がついてますけど?』

『それでも、です。席順も影響しますが、それだけの力を持った選手ですから』

『おおっと――!! 小鍛冶プロも大絶賛、わずか半荘二回でこの点差をひっくり返せるというのか――!!?』

『ここでひっくり返るようだと、他校には厳しい展開です。かと言って、白糸台も千里山も現状の点差では永水を削るのが最優先……竹井選手に警戒しながらも永水女子を狙う、難しい立ち回りを要求されます』

『どうやら小鍛治プロは本気で言ってるみたいだぞー!! 小鍛治プロも大絶賛の竹井選手が試合の鍵になりそうだー! そして他の三校はどう動くのか―――!?』


起家 初美「よろしくですよー」

南家 尭深「よろしくお願いします」

西家 セーラ「(……都合よく薄墨が竹井の上家に座ってはくれんか)よろしく」

北家 久「(薄墨さんの席順はクリア。無茶せず和了りやめすれば渋谷さんの役満も二回喰らうことはないわね。理想的な席順かしら?)よろしくね」


東一局


久(……まずは様子見。私が様子見したって照みたいに一局捨てれば全部見えるってわけじゃないけど、今回の鍵は親番でしっかり稼ぐことだもの、そのための情報は大事。情報は少しでも多いほうがいい)

久(薄墨初美が親で、渋谷尭深は東一局では何の能力も使えない素の状態になる、江口セーラは言わずもがな……地力だけの勝負になるこの状況で、誰が和了るのかしら?)

初美(……清澄からやる気が感じられませんよー。最初は様子見ってことですかー? この点差で余裕かましてくれるもんですー)

尭深(連荘以外では竹井さんに和了ってほしくないなあ……うちと清澄の点差は大きくないから逆転されちゃう。かと言って、他の二校も削らなきゃいけないし……そしたら私が和了るしかないよね。厳しいけど、やってみる)


セーラ(また様子見か。ええで、そうやって余裕かましてれば喰らいつく隙が出来るってもんや)


セーラ「ツモ。面前ツモ・混一色・一気通貫・白。3000・6000」

123456789s白白発発 ツモ:白 


久(……ま、この面子で私が様子見したらあなたが和了るわよね)

尭深(手数は少ないけど一発一発が大きい……けど、このメンバーだと火力でも脅威とは言えない。多分今までのスタイルじゃ大敗するだけ……だとしたら、このひとはどう動くんだろう? 何もせず終わりということはないはず、警戒しておかないと)

初美(うう……好きにすればいいですよー!! 次で耳揃えて返してもらうですー!!)


東二局 


久「……」

打:北


初美「ポンですよー」

ポン:北北北


尭深(竹井さん……なんで北をあっさり……? 確かに一枚目だけど、薄墨さんには暗槓もあるのに……)

セーラ(自分の手牌に東がなくて、東を切れんようにして他家の手を止めようってことか? いや……そんなセコい真似する奴やないな)

久「~♪」

打:東


初美「……は?」ヒクッ


久「あら? 鳴かないの?」


初美「……なんのつもりか知りませんけど上等ですよー。ほえ面かかせてやるですー……ポン!!」

ポン:東東東


咲「この局はもらったね」

照「こんな簡単に引っかかるとは……」

優希「……のどちゃん、解説頼むじょ」

和「いえ、私もわけがわからないのですが……」

京太郎「ここから南と西をツモって役満コースだろ? それを阻止するようなネタが仕込んであるのか?」

咲「……それ。南と西をツモって役満コースってところ。おかしいと思わない?」

まこ「……いんや、おかしくないじゃろ? そういう能力じゃけえ。能力ならここまでの試合でそれ以上のインチキがいくらでもあったしのう」

照「そういう話ではない。それに何巡かかるかという話」

和「……今からツモるところなので、5巡かかりますね」

咲「はい、問題です。お姉ちゃんに5巡与えたらどうなりますか?」

京太郎「……ほぼ確実に和了ることが確認されてるな」

照「ふふん」ドヤ

まこ「……なるほど、そういうことか」

咲「はい、そういうことです。部長はプラマイゼロがかかったオーラスでお姉ちゃんと速度勝負するために磨きをかけて来たわけですから、お姉ちゃんが和了れる大抵のケースでは部長も和了れる。更に、部長には点数に制限もない」

優希「つまり……どういうことだじょ?」

和「薄墨初美は、五巡後に役満を和了るだけの置物と化したということですね?」

照「正解。北と東を切る時に既に二巡手が進んでるわけだし、しめて七巡もあれば竹井さんなら余裕で和了れる。なんなら一回切ってフリテンにしても和了れる。その間、ツモるのが他家が一枚も持ってない、自分にしか使えない風牌のみというのはとても辛い」

京太郎「……えっと、能力で阻止するとかそういう話じゃなくて?」

咲「単純に、部長相手に五ターンクロックなんて間に合うはずないでしょ、って話だね。駆け引きも何もないゴリ押し」

京太郎「麻雀でクロックとか言うな。これ、ダブリーの三面張でも全員ベタオリなら2割は勝負つかずに流局するゲームだぞ」

咲「役満を諦めて混一色で手を打てばもう少し早いかもしれないけど、いずれにしても南と西しかツモれないから普通の手恰好からなら和了るのに三巡はかかるよ」


久(ま、単騎を南か西に変えて次で和了りって形なら東と北を鳴いてから二巡で和了れるけどね。5巡与えたら役満だし、早和了りに切り替えたなら大きなアドバンテージがあるし、北家の薄墨初美が脅威なのは間違いない。けど……どうやら今回は役満狙う気満々みたいだし、相手を舐めてるのはどっちなのかを教えてあげないとね)


久「ツモ。400・700」

23456s678p12399m ツモ:4s


初美「なっ!?」

初美(私が役満を和了るまでに自分が和了る……こんな、こんな力技で私の役満を潰すって言うんですかー!? こんなのって……)

尭深(そっか……役満が完成するまでに和了れる自信があるんだ。だとすれば、役満を狙いに行く5巡が隙になる。竹井さんが居るこの卓では薄墨さんは役満を狙えない)

セーラ(どうせ竹井に追いつけんから薄墨が役満を狙うことはないし、仮に狙っても竹井に阻止されて和了れん。つまり、卓に竹井久や宮永照みたいな異常な速度で和了る化け物がおる時点で薄墨初美の役満は全く警戒する必要がない。怜とフナQの読み通りやな)

セーラ(こういうのの結果全てをやる前からわかっとるんやから、そら立ち回りも上手くなるわ。んで、化け物相手には全部分かってても何も出来んってのもよくわかる。なるほど、あいつはいつもこんな感じでおれらと戦っとったんか)

セーラ(……小走の奴、オレと洋榎が小走と同じぐらい上手くやれば竹井は勝てん相手じゃないとか言ってたな)

セーラ(小走と同じぐらいってのは無理としても、怜やフナQにもらった知識に加えて竹井相手に一回打った経験、今は竹井を侮る気持ちなんかこれっぽっちもないし、立ち回りにはそれなりに自信がある。しかし、あいつは洋榎の代わりになるんかな? 渋谷は清澄の味方らしいから、手を組む相手は一人しかおらんのやけど……)


東三局


久「ツモ。1000・2000」


123m222345p4568s ツモ:8s ドラ:8s 


尭深(早い……)

セーラ(その手で6筒切りってのもおかしいけど、今更やろな)

初美(……うぐぐ……このままじゃマズイですよー……なにか手を打たないと……なにか……)

セーラ(さ、地獄の始まりや。こいつの連荘を止めんと試合が終わる。一応、あんまり続くようなら渋谷が役満で止めてくれることになっとるけど、そんなんで止めたら負けみたいなもん。なんとかして止めんと……)

尭深(今回は清澄がラス親。そこでの連荘は役満に繋がらない可能性が高い。東場の親は既に流れてしまったから、自分の親で役満を和了るにはここで連荘してもらうしかない。後半の清澄の親……オーラスは千里山と協力して流すけど、この親は続けてもらわないと困る)

セーラ(席順を考えると、渋谷は全力で清澄の味方をするやろな。ここはおれと薄墨で流すしかない……わかっとるか薄墨?)

初美(とにかく速攻ですよー、あいつの早和了りは能力じゃないからどっかで先を越すことも出来るはずですー。北家ばかりが目立つ私ですがー、普通に打ってもそこらの県代表のエース格ぐらいの力はあるんですよー!!)


衣「……あれはダメだな。周りが全く見えていない、独力であのちびっこがヒサに敵う道理もない。ボロボロになるぞ」

霞「そんなこと言わないでちょうだい」

衣「事実だ、受け入れろ。しかし、今回は席順に救われた」

小蒔「席順ですか……? 初美ちゃんが竹井さんの上家に座るのが理想なのでは?」

衣「それはそうだが、ヒサがラス親なのが大きい。ちびっこが木偶のままでも、南場のヒサの親は千里山と白糸台が協力して早い段階で止めるだろう」

春「……東場だけなら、連荘を止められずに渋谷尭深の役満で流すことになっても、まだ逆転には至らない?」ポリ

衣「左様。手酷くやられるとしても、勝ち目を持って後半につなげられよう。前半を凌いだなら、休憩中に作戦を伝えれば良い」

春「……」ポリ

小蒔「……初美ちゃん」

衣「後半、ちびっこがヒサの上家に座れば上手く行く。そうならずとも、千里山との共闘が成れば中堅戦は凌げよう。悲観することはないぞこまき」

中途半端なところですが、今回はここまでです。次回も一週間後の予定です。


久「ツモ、三色同刻・三暗刻、4500オール」


11p11145688s111m ツモ:1p


初美(うぐぐ……四巡でその手とか、こいつの運はどうなってるんですかー!?)

尭深(ここまでは早い分だけ安かったけど……塵も積もればなんとやらで、既に親倍以上には稼いでる。役満の親かぶりでもマイナスにはならない)

尭深(そもそも、役満を和了れるかどうか……薄墨さんが役満を狙えないのと同様、私も、配牌で大三元が確定していても、残りがバラバラだと当てに出来ない。確実に和了れるのは天和や地和だけ……空振りすれば、その後12局の間、竹井さんを止める手段を失う……)

尭深(仮に、次の六本場で空振りしたとしたら……7本場から12局……仮に全部500オールだとしても積み棒を入れて合計21000オール……今の時点でも逆転されてるんだし、そこからの21000オールは許容できない。次以降に竹井さんが大きな手を連発して清澄を止めなきゃいけない場面になったとしても、確実に和了れる時まで動くわけにはいかない。私が止められなかったら、確実に止める手段はなくなってしまうんだから……)


セーラ(……こいつ相手に「上手く立ち回る」って、なんやろな? 正直、勝てる方法なんか全く浮かばんのやけど……)

セーラ(勝てるっちゅうのは小走の発言が正しいことが前提や、けど、あいつにも見落としはある。勝てるっちゅうのは、もしかしたらこいつの力を読み誤ったのかもしれん。けど、勝てるって言ったわけやから、ここを凌ぐことぐらいは「上手く立ち回れば」出来るはずやんな?)

セーラ(考えろ……俺に出来ることはなんや? こいつ相手に通じる武器はなんや?)


久「次、6本場ね」ポチ


ガラガラガラ……



まこ「照さんがやられて、わしもしくじって、こりゃどうなることかと思ったが……流石にこいつは心配要らんかったな」

照「その気になれば一人で全部決められるからね。実際に予選と本選で一回ずつ一人で終わらせてるし。私、要らなかったんじゃないかな?」

和「人数は足りてましたしね。部長がこれほどの強さなら一人でも十分優勝を狙える、私や優希や染谷先輩がいて、更に咲さんが居れば常識的にはもはや盤石。照さんをスカウトするために咲さんの退部を賭けて勝負というのは、今思えば狂気の沙汰でしたね」

京太郎「まあ、結果としては、照さんが居なかったらこの決勝の先鋒で終わってたからそれは大英断だったんだが……」

優希「あの時点でそんなこと分かるはずもないわけだし、全国優勝が目的ならあの勝負を受けるのはおかしいじょ」

和「優希は怒っていいと思いますよ。あれがなければレギュラーだったわけですから」

咲「……まあ、そしたら今頃は表彰式が始まってるんだけどね。仮に私か部長が先鋒でも、あの神代さんを相手にして次鋒に繋ぐのは無理……っていうか、前半のでも他家を守りながら半荘二回凌ぐのは厳しいよ。お姉ちゃんだから普通に抑えてたけど、あれ、本当に化け物だから」

和「うっ……」

照「竹井さんは本気で未来が視えてるんじゃないかと疑うときがある。じゃないと私にこだわった理由が説明できない」

咲「ないない、流石にそれはないよお姉ちゃん」


まこ「ま、なんにせよ順調すぎるぐらいに順調。断トツで折り返すじゃろうし、そこから咲と和なら万が一もないじゃろ」


京太郎「……」

咲「……」

優希「……」

照「……どうしたのみんな?」

和「さあ? 三人とも、いきなり黙ってどうしたんですか?」

優希「苦戦フラグだじょ……」

咲「……さて、何が起きるかな?」

京太郎「ここまでの検討で何も出来ないって言われてる薄墨さんと江口さんが何かしでかすんじゃないか? まさか、渋谷さんが進化するのか?」

咲「……どっちも考えにくいけど……染谷先輩の立てた苦戦フラグ、何が起きても不思議じゃないよ」

和「染谷先輩の発言が戦局を左右するとか、そんなオカルトありえません」

咲「やめて! 原村さんまでフラグ強化しないで! てゆうかオカルト肯定派になったんじゃなかったの!?」

和「麻雀はともかく、それ以外でそんな非現実的なことあるはずないじゃないですか」

咲「かなりの部分が私のせいなのかもしれないけど、麻雀をこの世で唯一のオカルトが起きる場って認識するのはどうかと思うよ?」

照「……私が居ない間になにやったの染谷さん?」

京太郎「それが……その……」

まこ「あ、あれはわしのせいじゃなかろ!?」


久「ツモ。1300オールね」


23456p12345677s ツモ:1p


セーラ(積み棒がなければ700オールやろ……くそ、積み棒の点数が重くなってきおった)

尭深(……憩ちゃんが5本も積んだら大体誰かが飛んで終わるから、こういう風に積み棒の重みを感じるのは初めてかも)

初美(まずいですよー……インハイルールにアレは採用されてませんがー、こういうのは運気に大きな影響を与えますー。達成されたらそれなりの損害を覚悟しないといけませんよー)

尭深(これで七本場……けど、安手ならまだ泳がせておける。それに、出来ることなら、他人の親を流すためじゃなく自分の親で役満を和了りたい)


東四局7本場 ドラ:2p


初美(思えばー、さっきの満貫もルール次第……普通の決めでは八連荘が成立していましたー。そこまでの安手から一転して満貫級の手になっていたのも、八連荘に相当する和了で運気が膨れ上がっていたからと考えられますー)

初美(次の八本場は、どんなルールだろうと問答無用で八連荘ですー。さっきのでも満貫でしたしー、下手をすれば素で役満の手が入る可能性までありますよー)

初美(私の鬼門は運気の流れを利用した能力ですから私にとって運の流れというのは大事ですー、そういうの気にしなそうな他の二人はともかく、私には八連荘の成立は大きく影響してしまいますー)

初美(ここが正念場、ここで止めなければ今あるリードは消し飛ぶに違いないですよー)

初美(その大事な場面で、三巡でこの形、この手なら勝負になるはずですよー。二翻縛りを考慮して混一色に向かいますー)


1p3456777s東東白白白 ツモ:北

打:1p


久「ロン」


初美「……へ?」

久「三色ドラ1、7300」


23p12344666s123m ロン:1p


初美「あ……」ジワッ


小蒔「は、初美ちゃん……ダメです、気持ちまで負けては……心を強く持って……」

巴「はっちゃん……」

霞「不味いわね……この状態でまだ清澄の親が続くなんて……」


衣「ん? 何を言っているのだ、これ以上は続かぬぞ?」


霞「……は?」

小蒔「えっと、衣さん、それは気休めではなく……?」

衣「衣は嘘は言わない」

小蒔「ご、ごめんなさい……でも、なんで清澄の親がここで途切れると?」

衣「まあみていろ。ヒサの奴め、完全に忘れているようだ」

巴「忘れる……何をですか?」

春「……裏切るタイミング」ポリ

霞「……? よくわからないわ、どういうことなの、春?」

春「見れば分かる」


東四局 八本場


久(八本場って、やっぱり燃えるわねー。ルールにないってわかってても、誰だって意識するでしょ?)

久(さ、親が和了り続けての八本場、正真正銘の八連荘よ。インハイ決勝の大舞台で、大ピンチで迎えた中堅戦、チームの命運を託されたキャプテン、起死回生の八連荘を賭けた一局……これ以上燃えるシチュエーションを用意しろって方が無理ね。さあ、かかって来なさい!!)


照「『起死回生の八連荘』って色々おかしいでしょ」

咲「……? いきなり何言ってるのお姉ちゃん?」

照「……なんとなく、竹井さんがそんなことを言ってるような気がした」

和「あの人なら何を言ってもおかしくはないですが……流石にそんな意味不明な単語は言わないでしょう」

照「確かに……いやしかし……」

京太郎「いや、あの人なら何を言ってもおかしくない」

咲「京ちゃんまで……まあいいけど、部長、忘れてないかな?」

優希「……? 何をだじょ?」

まこ「あの顔は、絶対忘れとるぞ」

咲「……これだけ稼げば大丈夫だとは思うけど。さっきのフラグがこれの前フリなら、安心していいかな?」


尭深「……」

打:南


セーラ「ポン!」

ポン:南南南 打:発


久「……あら?」

久(……ひい、ふう、みい……そっか、今が12局目……ここで流して、次の南一局が13局目。渋谷尭深の親は、その次)

久(任意のタイミングでそこまでの局の第一打を回収する能力の他に、前の局の最後の捨て牌が第一ツモに、その前の捨て牌が第二ツモになる能力があるのよね? だとすると、大三元以外の部分で三面張でも作っておいて、前の局のラストで和了り牌を仕込めば天和ね……)

久(私の親を流すために使うよりは、自分の親番で使う方が16000点ほど稼ぎが多いものね。ここで私を止める側に回るのは的確な判断だわ)

久(それよりも、問題は……)


セーラ「ロン! 4400や!!」

1234678m ポン:西西西 南南南 ロン:1m


尭深「はい……」

久(積み棒がなければ2000点のバカホン……これ、江口セーラが和了ったのよね?)

初美(た、助かったんですかー……?)


南一局 ドラ:西


四巡目


久「リーチ」

打:西

初美「なっ!?」

尭深(……ここでリーチ? 私の天和の最後の一牌、この局の最後に捨てる牌を妨害する気……なのかな? 残念だけど、止まる気はないよ。むしろ、切る牌……和了牌が無くなるほうが怖かったから、決着が早まる見込みの強いあなたのリーチは大歓迎)

セーラ(……ちょっと変わった打ち方して希望を見出したと思ったら、すぐに叩き折りに来る……二回戦でもそんな打ち方やったな?)


セーラ「……」

2345s66789m5678p ツモ:6s

打:8p


久「へえ? 私のリーチの一発目にそれを切るの?」

セーラ「……あいにく、ブラフに騙されるほど臆病じゃなくてな」

久(……一応、張ってはいるんだけどねえ……しかもブラフじゃなくて先制好形高打点の本手……私、江口さんにどんなイメージ持たれてるのかしら?)

2223456789p北北北

久(まあ、本来の私なら3筒あたりを切ってドラ単騎に受けてるんでしょうけど……)

久(って、なんで来るのよ? 今は呼んでないっての)

ツモ切り:西


照「なにやってるんだか……」

咲「様子見でデジタル打ちに徹してる……のかな?」

和「デジタルなら間違いなくドラ切りでリーチしますね。照さんなら次のドラツモが見えてるから単騎に受けるのかもしれませんが」

照「竹井さんなら普通に打てばドラ単騎でリーチ一発ツモに仕上げる」

咲「つまり、普通に打ってないんだよね? なんでかな?」

照「分かったら苦労しない。けど、何かを恐れて様子見してる。注意を払うぐらいならともかく、恐れて打ち方を変える必要のある相手は居ないはずだけど……」


セーラ「ツモ、400・700」

23456s66789m567p ツモ:1s


久(リーチに危険牌を通して、和了ったのが20符2翻? 江口セーラの打ち方じゃないわね……私を止めるために打ち方を変えて来た?)

久(だとすると、ここからは楽をさせてはもらえないでしょうね。そうせざるを得なかったとはいえ、寝た子を起こしちゃったか)

初美(……竹井久に、素で打ち勝った? どうなって……あっ!?)

初美(まさか、破回八連荘ですかー!? 八連荘が採用されてない以上、当然そんなものが採用されてるはずもないんですがー、運の流れということでは無視できませんしー……江口セーラに運が流れ込んでるということですかー?)

初美(……いえ、だとしても関係ありませんー。次は私の北家ですー、さっきは力技で強引に押し切られましたがー、同じ手には二度もかかりませんー。混一色あたりできっちり差を広げて試合を進めてやりますー。オーラスは渋谷尭深の役満で流れるでしょうしー、まだまだ勝負はこれからですよー!)


南二局


尭深「天和・大三元。ダブルはないので16000オールです」

久「はい」

セーラ「ま、そうなるわな。ほれ」

初美「はああああああああああ!?」

久「じゃ、一本場ね」

セーラ「せやな」

尭深「あ……まだ薄墨さんから点棒を受け取ってません」

久「ちょっとー、はやくしてよー」

セーラ「最初から分かってたことやん。今更文句言いっこなしやで?」

初美「お前らはなんで落ち着いてるですかー!? 天和ですよー!? 私が喰らうのは二回目ですよー!? 普通にサマを疑うところですー!!」

久「ああ……研究不足なのね……」

セーラ「まあ、オレも自分で見抜いたわけやないしな。あんまりデカいことは言えんわ」


霞「……あ」

春「初美さんは何も聞かずに出て行ったから……」ポリ

巴「はっちゃん……」

小蒔「でも、天和は凄いですね。分かっていても驚きです」

衣「何をやっているのだあのちびっこは……まさか、北家で和了って一息ついて、オーラスは白糸台の役満で流せるなどと思っていたわけではあるまいな?」

霞「……渋谷さんの能力を知らなかったら、私もそう考えて試合を見守り、この天和を見て取り乱してたと思うわ」

巴「……私も」

春「長い説明は苦手……」ポリ

衣「……何も言うまい。さて、ヒサが様子見をしている間に前半を終わらせてしまいたいところだが」


『ツモ、500・800』


衣「……まあ、そもそも様子見を始めた理由も良くわからんことだし、さもありなん」

小蒔「……また、竹井さんの親番が回って来るんですね」

衣「とはいえ、白糸台は今回は流す側につくだろう。親が流れた後の自分の親番もなく、南二局で第一打を全て使ってしまったから次の天和までも遠い……というか、地和だから鳴きで潰される可能性がある、ヒサのサポートをして得るものは小さく、失うものは大きい。であれば、ちびっこも当然流す側だから三対一だ。そう長く連荘を重ねることはできまい」


『ツモ。700・1300』


照「さっきの話だけど……竹井さんは、自分が強いと思ってなかったんじゃないかな?」

咲「……どの話?」

照「なんで咲の退部を賭けた勝負を受けたのかって話」

京太郎「ああ、染谷先輩がフラグ立てる前の」

和「……あれだけのことを出来るくせに、自分が並の選手だと?」

照「……二回戦の中堅戦から戻って来た時、そんなことを言ってた」

優希「そんなこと言ってたか? 記憶にないじぇ?」

咲「確か……お姉ちゃんの勧誘に夢中で気付かなかったけど、私って強かったのね……みたいなことを言ってた気がするよ」

照「そう、それ」

和「……そういえば、中堅戦の前も、江口セーラと愛宕洋榎相手に終わらせる方が難しいとかなんとか……結局圧勝しておいて何をと思いましたが、もしかして……」

まこ「まあ、照さん以外とまともに打ってなかったからの……自信を持てと言うのが無理じゃろ」

照「長野でも一回戦でもあれだけ大暴れしといて、まだ自分の強さにちゃんと気付いてなかった竹井さんが、ようやく自分が本当に強いんだと気付いた相手。それだけ高く買ってる相手……私も、さっき竹井さんが様子見を始めたのを見て、今考えついたんだけど……」

咲「……なるほど、それで、江口さんが打ち方を変えて来たのを見て様子見なんか始めたんだ? それぐらい、相手を強いって思ってる」

照「たとえ自分の方が強くなってたとしても、評価はそう簡単に変えられない」

まこ「自分が大会に出ずに燻ってた間、一線で活躍しとった連中か……そこまで入れ込んどるとは気付かんかったわい」

優希「なんかよくわかんない話してるじょ……」

和「ゆーきはそういうのと無縁そうですからね」

京太郎「照さんに勝ったとしても、『我、天才だじぇ……ついに照さんをも追い越してしまったじょ』とか言いそうだからな」

咲「手加減されたとか本気で調子が悪かったとか疑わなそうだよね。心の底から自分が強くなったんだと思って喜びそう」

優希「……貴様ら、どうやって一字一句違わず私の心を読んだ!? さてはダークタコス派の刺客か!?」

京太郎「読み切られるぐらいお前が単細胞ってことだろ!?」

咲「ダークタコスもタコスなんだから平等に愛するのが真のタコスの使徒なんじゃないかな?」

優希「はっ!? ダークタコスに真理を説かれるとは……私も修行が足りなかったようだじぇ」

咲(……ここまで単純だと、優希ちゃんの将来が心配だよ)

京太郎(お前に心配されるとは相当だな。ちなみに、俺はお前の将来の方が不安だ)

咲(不安なら面倒を見てくれてもいいんだよ?)

京太郎(はいはい、「面倒見させてあげてる」みたいな台詞は一人で会場に行けるようになってからな)

咲(むー)プクー


南四局


久(……普段ならこの手は歓迎なんだけど……江口セーラがスタイルを変えて来た今となってはいつも以上に早い手が欲しいのよねえ……)


33344455s77p西北白 ツモ:7p


久(悪くても対対三暗刻で満貫、四暗刻だって見える。けど、軽く流そうとしてる人間が居る、しかも高校トップクラスの実力者が普段のスタイルを曲げて速攻を仕掛けてるって状況だと、いい結果は見えないわね)

打:北


セーラ「ポン!」

久(あっ……しまった、翻牌)

セーラ(……さっきからツイとる。和了れこそせんかったが、前の二局も聴牌まではこぎつけられた)

セーラ(こういうちまちました麻雀は性に合わんのやけど、出来んわけやない)

345s345m367p白白 ポン:北北北

打:3p

セーラ(和了るだけなら役一個あればええんや、高目を狙わんってのは楽なもんやで、案外、こっちの方があってるかもしれんな)


やえ「ったく、出来るなら最初からやればいいものを、あの馬鹿は……」

はやり「へー☆ 竹井さんに通用するレベルで早和了り出来るんだ☆ はやりもちょっと危ないかもっ☆」

紀子「白々しい……素直に『なんで竹井さんは手を抜いてるの?』と聞けばいいのに」

やえ「言われてみれば、竹井に通用しているのはおかしいな……何が起きてるんだ?」

由華「あれ? 先輩にもわかりませんか?」

やえ「私だってなんでも分かるわけじゃないんだぞ? 牌譜から分かるものなら何でも見抜くつもりではいるが」

日菜「愛宕さんたちには、二人で協力すれば勝てるみたいなこと言ってなかった? 江口さんの速攻とかが通用するって思ってたんじゃ……?」

やえ「……あいつら二人と私の三人で囲めば勝てるとは思う。あいつら二人が私並に上手く立ち回れば、というのはそういう意味だ。文字通りにとってしまうと若干の誇張があるな」

紀子「売り言葉に買い言葉、その場のノリで言っただけ」

やえ「……まあ、あいつら相手だとそういうこともあるということだ」

由華「うわあ……江口さん、多分それを真に受けてますよ?」

日菜「この会話を聞かれたらなんて言われるか……」

やえ「……愛宕が居る場所で言うとしよう。あいつがその場に居れば江口をからかって怒りの矛先があちらに向かうはずだ。うん、そうしよう」


紀子「で、江口が竹井と渡り合えてる理由は?」

やえ「竹井の不調が大きいな。どうも親を流されてからミスが目立つ、もちろん、牌が分かってるのでもない限りミスとは言えないようなミスだが……普段は牌が見えているような精度で打っているから、かなりブレーキがかかっていると言える。その原因はわからん」

やえ「竹井が不調なら速度で渡り合える程度の力は元々あるんだ。江口の奴は平均的な和了率で高打点が特徴だが、打点にこだわらなければ平均を大きく上回る和了率を叩き出すことも出来る。普段はやらないがな」

紀子「3900を三回和了っても12000一回でチャラ、どちらが正しいというわけでもない」

やえ「打点や速度に極端に偏るのも本来は間違いだ、1000点を5回和了っても3900の2回分にすら届かんし、麻雀は基本8局だから1000点5回と3900点3回で埋められてしまって12000を和了る機会がないかもしれん」

紀子「しかし、竹井久は1000点を8回和了って他家を一度も和了らせないようにする生き物」

やえ「それを止めるには、自分も1000点5回を目指す打ち方に切り替えて、8回の中にねじ込むしかない。この状況での最善だな」


『ツモ、300・500』


やえ「三回に一回程度しかないはずの勝ちを竹井の親番の一局目に持ってきた。上出来だ」

はやり「永水との差も詰まったし、下に対してはまだリードがある。私たちが肩入れしてる千里山に希望が持てる展開だね☆」


中堅戦前半終了

白糸台  92100(+26500)
清澄   68300(+27000)
千里山 111700(ー10400)
永水  127900(ー43100)


バタン

尭深「戻りました」

憩「お疲れさん、最高の結果やでー」

菫「清澄との差をほぼそのまま維持しながら、上位二校に大きく近づいた。これ以上ない結果だろう」

淡「まあ、タカミーとセーコがやられても私がなんとかしちゃうんだけど、いい感じだよね」

誠子「後半もこの調子で行こう」

尭深「うん……」コクリ

これだけ点差があればタカミーと二人で大暴れさせても大丈夫やろとか思ってたらあんまり大丈夫じゃなかったことに気づいてこの最終盤になっても未だに色々とプロットを修正してます。プロットの出来が悪いとも言えます。

10万点差って親役満ぶち当てると消えるんですね

次回も一週間後の予定なんですが、ちょっと予定が詰まってるので伸びるかもしれません。更新日は日曜の時点で進捗を見て再度報告します。

照覚醒で先鋒で終わらせるべきだった説が脳内で根強いです。話を畳むのって難しいですね。

進捗……ちょっと厳しいです。水曜だと当日に書いて見直しなしで上げるぐらいの日程になるので、更新予定日を金曜に伸ばします。申し訳ありません。



衣「おい、何をぼさっとしてる」

霞「へ?」

衣「あのちびっこ、戻って来ないつもりだぞ。捕まえて来い」

春「作戦を伝える必要もあるから、可及的速やかに」ポリ

霞「え? え? 私が行くの?」

巴「私だと無理やり連れてくるのは難しそうなので……霞さんにも来ていただかないと……」

小蒔「あ、それなら私も……」

巴「春と姫様はダメです。私たちだけで行きます」

春「心得てる」ポリ

小蒔「え? ええっ!?」

衣「いいからさっさと行け。ただ連れ帰って作戦を説明するだけではなかろう?」

小蒔「えっと……?」

巴「分かってます。行きましょう霞さん」

霞「……そういうことね。分かったわ、行きましょう」


初美「……」


霞「あ、いたいた……」

巴「……はっちゃん」

初美「……」チラ

巴「……私たちだけだよ。姫様も春も居ない」

初美「……気を使わせてしまいましたねー。デカい口叩いて出てきておきながらこのザマですー、流石にちょっと堪えてますよー」

霞「ちょっとじゃないでしょ。相当こたえてるように見えるけど?」

初美「……」グス

巴「はっちゃん……」

霞「意地っ張りね」ギュ

初美「うっ……うう……」グスン

霞「……」ギュ


霞「落ち着いたかしら?」

初美「私は最初から落ち着いてますよー」

巴「……じゃ、一旦戻ろうか。春が作戦を練ってくれてるから」

初美「……どうせあのちっこいのの入れ知恵ですよー」

霞「選り好みしてる場合じゃないでしょ」

初美「聞かないとは言ってませんー、気に喰わないだけですー」

巴「やれやれ……」

霞「時間もあまりないわ、聞く気があるなら急ぎましょう」

初美「はいですよー」


【清澄控室】


久「やっぱり試合前にバナナを食べないと調子が出ないわね」

照「話を逸らさない」

久「逸らしてないわよ、予定より稼げなかった原因でしょ?」

咲「逸らしてますよ。江口セーラを警戒しすぎって話をしようとしてるんです」

久「……バレた?」

照「当然」

久「仕方ないでしょ。中学の頃から雲の上の存在だったんだから」

まこ「それじゃったら他にも何人かおるじゃろ」

久「あいにく、憧れの選手は大半が先鋒なのよね」

照「……後半はちゃんと打って」

久「怒ると可愛い顔が台無しよ?」

照「その手には騙されない。とにかく、後半はちゃんと……」

久「わかってるって。そんなに信用ないかしら? 前半だって予定ほどじゃないけどちゃんと稼いで来たでしょ」

優希「というか、普通なら大勝って言えるレベルだじぇ」

和「その前に大暴れした人のせいでプラス27000のトップが霞んで見えますが、普通に考えて十分ですよね」

咲「まあ、そうなんだけど……私は今回ちょっと自信ないからトップでバトンを受けたいんだよね」

久「ちょっと、あなたのその発言が一番不安なんだけど……」

照「天和はどうやっても破れないからね」

咲「そうなんだよね……さっき部長がやったみたいに天和前提で稼ぎまくっても簡単に追いつかれちゃうし……64000は大きいよね……」

京太郎「稼げるのは前提なのか?」

和「そこは咲さんですし」


『後半戦を開始します、選手は対局室に集合してください』


久「あら、のんびりしてたらもう時間だわ、行かなきゃ」

照「頑張って」

久「任しといて」


起家 尭深「よろしくお願いします」

南家 初美「よろしくですよー」

西家 久「よろしくね」

北家 セーラ「おう、よろしくなー」



東一局 ドラ:3m


久(……いや、参ったわね。そりゃ、確率は三分の一だから、半荘二回打てば一回はこうなる確率の方が高いのだけど)

初美(……前半の北家は役満を阻止されたり天和で潰されて動揺してるうちに流されたりで散々でしたがー、今回はきっちり仕事させてもらいますよー)

尭深(起家だから、親番で役満を和了るのは厳しいかな……竹井さんの親で薄墨さんが北家だから、連荘も伸びる保証がない。この席順は厳しいかも)

セーラ(この席順、なんもしなくても大した被害が出ずに終わる見込みがある。理想的な席順や)

久(さて、どう出てくるのかしら? 私の大連荘は考えにくい、気付いてるかどうか知らないけど、私が連荘を伸ばさないなら渋谷さんも役満は厳しい。薄墨さんは私が止める……お互いに足を引っ張り合ってるわけだけど、一人だけ自由に打てる人が居るわよね?)

セーラ(なんもせんでも傷は浅い、なら、和了った分だけ稼ぎになるわけやろ? ボーナスステージってとこやな)

久(やる気満々ね……さて、こっちはどうしようかしら?)


久(張った……けど、このドラ、通るのかしら?)

34p23455s233344m ツモ:2m


セーラ「……」

1145677m ポン:南南南 西西西


久(萬子染め……おそらく聴牌はしているはずよね?)

久「……」

打:3p


『おっと、ここでオリたか―!? ドラを押せば通っていたぞ竹井久――!!』

『……どうも、いつもの切れがありませんね。不調の時にも大きく崩れないのは評価できますが』

『ふーん。ところで、小鍛治プロは不調の時はどういう打ち方をされていますか?』

『え? ここで振るの? ……そうですね、私は不調というものを感じたことがないので、ちょっと分かりません』

『調子を管理できないうちは二流、トッププロの厳しいお言葉だ――!!』

『二流だなんて言ってないでしょ!! 本当に不調とか感じたことないんだってば!!』

『不調だとしても圧倒的な力でねじ伏せれば問題ない、それが出来ない奴は二流!! 小鍛治プロが世界の全ての雀士に喧嘩を売ったぞ――!!』

『そんなこと言ってない―――!!!』


照「私、ちゃんと打てって言ったよね?」ゴゴゴゴゴ

優希「ひいっ!?」

咲「お姉ちゃん、ストップストップ、優希ちゃんが怯えてる」

照「……」ゴゴゴゴゴ

まこ「そ、そこまで怒らんでもええじゃろ?」

照「ああん?」ゴゴゴゴゴ

まこ「ひっ!?」

咲「お姉ちゃん、めっ!」

照「……」ゴゴゴ

和「なにをそんなに怒っているんですか照さん。どうせ後には咲さんが控えているのですから多少のことは問題ないでしょう?」

咲「原村さんは原村さんで黙らせなきゃダメかな? 私、今回は自信ないって言ったよね?」

照「試合はどうでもいい。私相手には怯えて手をひっこめたりしたことないのに、なんで江口さんだけ……」ムスー

咲「あ、そこなんだ」

まこ「めんどい人じゃのう」

照「竹井さんのバカー!! 負けちゃえー!!」

京太郎「いや、負けられたら困るんだが……」


セーラ「ツモ、700・1300」

1145677m ポン:南南南 西西西 ツモ:1m


久(あら……通ったのね、ドラ。しかも、染めてる割に安いし……照達の言ってた通り、私は警戒しすぎなのよね。分かってはいるんだけど……)

234567s2233344m


怜「あ、あのセーラが安手の早和了り……夢でも見とるんか?」

浩子「そのリアクション遅すぎません? 前半でやってましたよね?」

雅枝「チームのために、自分のスタイルを曲げとるんや……あの江口が……」

浩子「おい、乗っかんな」

泉「きょけっけけー!!」

浩子「お前は早いとこ正気に戻れや!?」

泉「きょー!!」

竜華「けど、いい感じやんな?」

怜「ああ、信念さえ曲げさせるほどの仲間への強い想いが、セーラを強くしとるんや」

浩子「え? そのノリまだ続けるんですか?」

雅枝「こればっかりは、私が教えてどうなるもんやない。三年間過ごしてきたお前らの力や」

怜「うちら三人の……力……」

浩子「本来ならうちも適度にボケに回ってこの役割は主に泉の役割なんやけどなあ……辛いなあ」

竜華「友情パワーか、なんかええやん」

浩子「友情より今はツッコミ役が欲しいわ。四対一ってバランス悪いやろ」

怜「セーラ……前半の無茶が祟って体はもうボロボロなんに……うちらのために……」

浩子「設定追加したやろ! 今、話続かなくて設定増やしよったやろ!?」

竜華「えっ!? セーラ怪我しとったん!? 元気そうやったけど……隠しとったんか?」

雅枝「江口……すまん。私は……私は教育者として失格や……お前を止められんかった」

浩子「この流れを止めへんことが一番の欠格事由な気がするけどな」


『ツモ、2「きょっけー!!!!」0、さあ、私の親ね』


浩子「泉いいいいいい!!!! 音声に被せんなああああああ!!!!」ドガッ

泉「きょきいいいいいい!?」

怜「ああっ!? フナQがキレた!?」

浩子「誰のせいやねん!? 最初にネタ振ったのあんたやろ!?」


東三局


セーラ(こんなもん抱えて打てるかって話やな。薄墨と竹井の出方も探れるし、こんなもんは切る!)

567s457m5567p白白中 ツモ:北

打:北


初美「ポンですよー」

打:7p

久(さて、二度も同じ手にかかるとは思えないけど、一応やっておきましょうか)

打:東


初美(……馬鹿にしてるですかー? 前半で痛い目見たばかりで同じ手を二度も喰らうと思うなですよー!)

2234s4567m東東 ポン:北北北


セーラ(スルーか。ま、そらそうやな)

ツモ:6m 打:中


尭深(……当然のスルー……役満が約束された鳴きをスルーするのが当然。これは、それだけ竹井さんの存在がこの面子に対して与える影響が大きいということなんだけどね。薄墨さんが役満を捨てて彼女を止めないと勝負にならない。高火力で有名な江口さんですら早和了りに徹している……彼女が面子に加わるだけで普段では絶対にやらない打ち方を強いられる、それほどの力を持っているということ)

尭深(私は、能力だけなら白糸台の全メンバーの中でも一番強力かもしれない。けど、ただ座っているだけで江口セーラや北家の薄墨初美をも抑えこむ相手に対して、能力を発動しないまま対抗する手段を持っていない……悔しい……)


久(ま、ダメもとだったから別にいいんだけど……こうなると、やっぱり連荘は伸ばせそうにないわね。だとすると、打ち方を変えるべきか)

久(って、席順見た時点でとっくに変えてるんだけどね。気付いてるかしら?)


初美「ツモ、北・ドラ1。500・1000ですー」

34589m赤567p東東 ポン:北北北 ツモ:7m


久「はい」

セーラ(あっさり流されたくせに、随分余裕そうやな?)

尭深(……あれ? 一度も連荘せずに流れたの? いくら北家の薄墨さんが早和了りに徹したからって言っても、竹井さんなら二~三本場までは積めると思ってたのに……)

初美(……あのちっこいの、「上家に座ったからと言ってヒサの親は簡単に止まるものではない、先んじることが出来るのはせいぜい三……いや、四局に一度だな」とか言ってましたねー。けど、あっさり止まりましたー……「もっとも、貴様が上家に座った場合に備えて何か手を打っているかもしれんがな」ってのが当たったか、それとも運良く三回か四回に一度の勝ちを最初に引いたのか……)

セーラ(ここまで三局のうち、竹井が和了ったのは一回のみ……前半の不調が尾を引いとるんか?)

セーラ(あの余裕がブラフなら、ここで畳み掛けんとな……ブラフなら、やけど)


東四局


セーラ「ロン、2900!」

2234s567p456789p ロン:赤5s


久「はい」

尭深(竹井さんが……振り込んだ? 一体何を考えて……)

初美(わけが分かりませんよー? 様子を見る限り、手を読めていて差し込んだように見えますー)

久(……ま、読めるものは読めるわよね。予想も出来ない手を作って来たりはしない。オーケー、もう大丈夫)

セーラ(差し込んで来た……俺の早和了りは見切ったってことやろか? それとも、うっかり振り込んだのを表に出さんようにしとるだけか?
……ダメやな、どうにもスッキリせんわ。やっぱりオレにはちまちました駆け引きは向いてないってことやな)



やえ「……マズイな。誰も気付いてないのか」

はやり「モニターを通して全員の手牌を見てる私たちには一目瞭然だけどね☆ 対局しながらだと厳しいんじゃないかな☆」

紀子「東二局で気付かないようでは話にならない」

由華「ですよね……満貫を和了ったのは偶然じゃないです。和了率が低くなっているのも偶然じゃない」

良子「えっと……どういうことだ?」

良子「スピードを火力に……席順を見た時点で連荘が出来ないと悟って、和了率重視から火力重視にチェンジしたんですよ」

やえ「積み棒がなければ、500オールを10回和了るよりも子の倍満1回の方が大きい。それは分かるな?」

はやり「15000点と16000点だもんね☆」

やえ「まあ、とはいえ500オールでも32回和了れば親役満と同等なんだがな。実際には積み棒もある。あいつは机上の空論じゃなく本当に32回和了りかねんし」

由華「実際、前半では親の役満ツモがあったのにトップでしたからね」

紀子「しかし、この席順ではそれは出来ない。親番で薄墨初美が北家になり、役満を狙わず早和了りに徹してくる可能性が高い」

やえ「連荘が出来なければ、300・500を子番全て……6回和了ったところで満貫にも届かん。それでは最下位の清澄としては都合が悪い。都合が悪いなら手を打つ。そして、打った手がこれだ」


『ツモ、3000・6000。さっきの2900にお釣りがついてきたわね?』


紀子「火力重視。1000点を6回和了るより、12000を1回和了るほうが高い」

やえ「普段の奴のスタイルは、連荘を考慮しないとして、八局全てを1000点で和了れば他家は一度も和了れないから必ずトップに立てるというものだ」

はやり「自分が和了った分だけ他家の手を潰せるからね☆ 単純に和了の期待値だけ見たら和了率重視は損に見えるけど、実際はそう単純でもないよ☆」

日菜「スピード重視のスタイルのトッププロが言うとそうなのかなって思えるよね」

やえ「しかし、全て和了るというのは出来ない状況だ。なら、普通に打たれているような打点と和了率のバランスが取れた打ち方が最も効率よく稼げる。1000点を6回よりも2000点を4回、それよりも3900を三回、更にそれよりも満貫二回……もう一歩進んで跳満一回になると効率が落ちるな」

紀子「相手次第でどれが実行可能かは変わる。竹井相手では薄墨は役満0回にされてしまうから2000点を選ぶしかなかった」

やえ「満貫や跳満程度の手作りなら半荘通して2~3回は和了れると踏んだのだろう。速度を犠牲に火力を上げても、もともとの速度が圧倒的だから通常程度の和了率を維持できる。江口や薄墨相手にな」

由華「連荘が望めない状況への対応であると同時に渋谷さんの役満対策でもあります。局数を減らして一局の打点を上げるのがこの卓では最善と判断したということ……ですよね?」

やえ「その通りだ。にしても、早和了りするだけでも厄介なのに火力重視の打ち方も出来るのか……本当に、なんで今まで大会に出てこなかったんだこいつは?」


憩「……なるほど、この席順じゃ役満食らった上でお釣りが出るほどには稼げんから、役満を止める方針やな」

誠子「あの人なら座ってるだけで薄墨の役満は潰せるもんなあ……局数を減らしに来たってことは尭深の能力もバレてるってことか」

憩「まさかの天和つきで盛大にお披露目してもうたからな、準決勝で」

監督「照なら見抜くでしょうね、咲でも同じ。二人とも居るんだから当然見抜かれてるはずよ」

菫「おい、チームの危機を嬉しそうに語るな売部奴」

淡「売国奴的な感じで言ったんだろうけどゴロがめちゃくちゃ悪いよスミレー」

菫「……」ゴン

淡「痛っ!?」

監督「それにしても、この子もなかなかよね。照を表舞台に引っ張り出しただけはあるわね」

憩「……まあ、尭深ちゃんも分が悪いのはわかっとるみたいで、方針を変えとるからオーラスは仕事してくれると思います。それより……」

誠子「副将、だな?」

憩「淡ちゃんにはガチンコで妹さんに勝ってもらうつもりなんで、そこは淡ちゃんに任せるとして、あとどこでリードを作るかっちゅうたらそこやんな?」

誠子「この点数状況、各校がどう考えてどう動くか、それをどう利用するか……何か策があるんだな?」

憩「策って言えるほどのもんやないな、少し淡ちゃんに楽してもらえるかなって程度や」

監督「もし百点を争うような……いえ、そこまで細かくなくとも、1翻の有無で決まるぐらいの接戦ならその「少し」は大きいわ。話してちょうだい」

憩「ほな、まず状況分析からなー……」


南一局 ドラ:北

セーラ(……なるほど、そう来たか。薄墨が上家に座ったのを見て、連荘頼みの速度重視をやめたってわけや)

セーラ(なるほどなー、それでも俺の速度重視の打ち方より早い自信があると)

セーラ(……)

2345678s234p34m北 ツモ:2m


セーラ( ナ メ ん な ! )


セーラ「リーチ!」

打:8s


久(……あら? なんか怒ってる? ……別にナメてるわけじゃないんだけどな。私は最善を尽くしてるだけ)


尭深(……江口さんのリーチ。さっきまでと雰囲気が違う……この手じゃ押せない……)

23567m12488899s ツモ:赤5p


尭深(……オリるなら8索の壁を頼って9索かな)

打:9s


久「ロン」

尭深「……えっ?」

久「8000」

1233445569s南南南 ロン:9s


尭深「……」

久(……咲が変なこと言ってたし、白糸台は削っておかないとね。現時点での最下位と三位で争うのは不毛に見えるかもしれないけど、最終結果の時点では効いてくるはず)


南2局


初美(親ですがー、親なんですがー……)

1189s13m6p東南北西白中 ツモ:4p


初美(……冷静に考えましょー、この手でこの面子相手に和了れる可能性はゼロですー。ちっこいのから聞いた渋谷尭深の能力から考えてー、『第一打を打たせない』ことの価値も決して小さくありませんー)

初美(私は北家以外で普通に打っても強いんですよー? しかし、この相手でこの手ではやむなしですー)

初美「……」パタン


久「あら? まさか天和じゃ……ないわね?」

初美「九種九牌ですー。最後の親番なのにこんな配牌が来てしまうとはついてませんねー」

尭深「……」

久(ナイスよ薄墨さん)

セーラ「国士狙ったらええやん」

初美「そんなもんを和了らせてくれる相手なら、東三局の東は鳴いてますねー」

セーラ「そらそうやな。しゃーない、次や次!」


南三局 



久「ポン」

ポン:777s 打:9s


セーラ(ナイスポン、やな)


3赤56s456m2345p白白白 ツモ:4s

打:6s


尭深「……」

打:4s


久「ポン」

ポン:444s 打:2p


セーラ「ロン。2600」

久「はい」

セーラ(……トップの永水よりはうちに和了ってもらって親を流したいってところか? 流したかった理由は一つやろな)チラ

尭深「くっ……」

久「……仕込めたのは7枚だけよね? 悪いけど、次は全力で流すわよ」

尭深「……清澄は、うちを警戒してるということですか?」

久「ノーコメント」


南四局


尭深(席順を見た時点で仕込める枚数が少なくなる可能性を考えて清一色の多面待ちを目指して索子を仕込んではいたけど……それ以外で翻牌の暗刻が来てくれたのはラッキーだね。自然に混一色に移行できる)

尭深(さっきのラストで4索を切ったからそれも回収して、その前に切った7索も面子に出来る)

尭深(ただ、上手く染まってくれればいいけど無理に染めに行くのはNG、竹井さんが本気で流すと言ってる以上、そんな余裕はない。他の色で面子が出来ちゃったら素直に発のみで和了る)

2333456s38m4p発発発


尭深(とはいえ、この配牌から4索と7索をツモることが確定してるから、ここまでは確実)

23334567s38m発発発 ツモ:4s


尭深(二巡でこれなら、竹井さんとも勝負になるよね?)


尭深「ツモです」


久「へ?」


尭深「2000・4000」

2333445678s発発発 ツモ:9s


久「……ランダムで引いた中に発の暗刻が出来てたって?」

尭深「ちょっとだけ、ツイてました」


久「……ま、ツキに見放されちゃ仕方ないか。お疲れ様でした」

尭深「お疲れ様でした」

初美「ううー……北家で一回しか和了れてませんよー」

セーラ「お疲れさん」


中堅戦終了

白糸台  85300(ー 6800)
清澄   88100(+19800)
千里山 106400(ー 5300)
永水  120200(ー 7700)

今回ここまでです。
次回は一週空けて28日の水曜を予定してます。

やえをここまでだしてくるなら、当然、個人戦もあるよね
期待してるぞ>>1

>>776 多分後日談でちょっと書くぐらいになります。組み合わせ考えるだけで気が遠くなります。


霞「おかえり」

初美「うぐぐ……面目ないですよー」

巴「大丈夫、まだトップだから!」

春「……副将は、何とかする」ポリ

初美「はるるなら安心ですねー……で、ちびっこはどこですかー?」キョロキョロ

衣「目の前にいるだろうが」

初美「あ、居たんですかー。小さすぎて見えませんでしたよー!」

衣「な、何をー!!?」ムキー

小蒔「あ、あの二人とも……喧嘩はだめですよ?」オロオロ


霞(私は準決勝で大星淡に負けている……宮永咲が大星淡と同格だとすれば、今の点差で二人を相手にしては到底逃げ切れない…)

霞(……春が頑張っても、清澄との点差は今より開くことはないでしょうね。つまり、今の点差のまま大将戦を迎える見込みになる)

霞(とすれば、この時点でほとんど詰んでいる)

霞(けど、アレさえ降ろせば……アレの力をもってすれば、たとえ相手が三校のエース三人だろうと圧倒出来ることは小蒔ちゃんが証明済み。大星淡は荒川憩と比べれば同格以下でしょうし、清水谷竜華も園城寺怜に及ばないはず……清澄も、セオリー通りのオーダーと公言しているのだから宮永咲が宮永照以上ということはないでしょう)

霞(……ただ、私が無事で済むかどうかね。姫様と違って私が神まがいのモノを降ろすのはリスクがある。今の私があれを長時間降ろせばどうなるか……とはいえ、私が制御できる程度のモノを降ろしたところで、大星淡一人を相手にしたとしても勝てる見込みはない)


衣「この戦犯チビがー!! 言うに事欠いてなんということをー!!」

初美「まだ負けてないから戦犯じゃないですー!! 部外者小学生は黙ってろですよー!!」

衣「こ、衣は子供じゃない―!!」


霞(ふふっ……初美ちゃんを戦犯にさせちゃ悪いからね。ちょっと無茶しようかしら)


久「ま、こんなもんでしょ」

照「足りない。私のライバルなら10万点は稼いでもらわないと」

久「無茶言わないでよ。あんたのライバルは私には荷が重すぎるわ」

咲「てゆうかお姉ちゃん、今大会トータルでマイナスのくせによくそのセリフが言えるね」

照「え?」

和「数字はしっかり出てますからね」

照「私、準決勝で大暴れしたから流石にまだプラスでしょ?」

京太郎「大暴れしても5000点しか稼いでないんで。見た目の派手さのわりに成績イマイチですよね照さんって」

照「なっ!?」

久「平均着順と平均素点は普通なら凄い数字なんだけど、あいにく、高校麻雀界には平均着順1位台とか平均素点で5万を超えるようなのがゴロゴロいるし、成績を見て強いと思える人間はそうそう居ないでしょうね。牌譜を見ても……それどころか直接打ってもあなたを強いと思えない人も多いはず」

照「うぐっ……」

咲「放銃率も高いし、数字だけ見るとあんまり凄そうに見えないよね、お姉ちゃん」

照「そ、それはプラマイゼロをしていたからであって……」

まこ「……プラマイゼロをやめてからの成績は? 半荘一回だけじゃが」

和「……言った方が良いですか?」

照「アレは事故でしょ!? むしろ私頑張ったよね?」

咲「うっかり役満に振り込むのを『頑張った』とは、普通は言わないんだよお姉ちゃん」

照「な、何故それを!? 竹井さんにしか言ってないのに……まさか!?」

久「え? 私は話してないわよ?」

咲「……やっぱりうっかりだったんだね? あれさえなければ今トップだったはずなのに、なにしてくれてるのお姉ちゃん!?」

照「ゆ、誘導尋問!? 咲、どこでそんな高度な技を…」



浩子「行ってまいります」

怜「任せたでー」

セーラ「頼んだでー」

泉「お願いします船久保先輩」

竜華「気張りやー」

雅枝「ま、浩子なら大丈夫やろ」

浩子「……アドバイスとかなんもなしですか。悲しいなあ」

怜「うちらがフナQにアドバイスなんか出来るわけないやん」

セーラ「せやせや」

浩子「園城寺先輩は出来てええと思いますけど」

怜「ほんなら……亦野の早和了りに気を付けるんやで」

浩子「言われんでも分かってます」

怜「滝見は高い手を潰す能力があるみたいやな。安手に差し込ませるのが特徴、奴が鳴いたら要注意や」

浩子「知ってます」

怜「どうも、原村はオカルトじみた相手に対して強運を発揮するみたいや。せやから原村には妙な能力は使わん方がええかもしれん、純粋な技量で勝負すべきやな」

浩子「そもそも、うち能力とか使えへんのやけど」

怜「……役に立ったか?」

浩子「いえ、全く役に立ちませんでしたね」

怜「せやろ、フナQに私のアドバイスなんて要らんねん」

浩子「微妙に納得しかねますが……もう時間なんで行きますわ。後半までにちゃんとしたアドバイスを用意しておいてください」

雅枝「前半が終わった後、またここに来るとええ。本当のアドバイスを聞かせたる」

浩子「あるなら今言えや!! ほな、マジで行きますんで」

怜「いてらー」


怜「さて、中堅戦後半で竹井さんの和了りシーンに音声被せて、ツッコミ負担の集中によるストレスと相まってついにキレたフナQからの暴行を受け、そのショックで正気に戻った泉」

泉「おっそろしく説明くさい台詞ありがとうございます。ご紹介にあずかりました二条泉です」

竜華「きょきょきょ言うてるのも面白かったんやけどなー」

セーラ「あっちの方が気が合いそうやったんやけどなー」

怜「もう二度とあっち側に行ったらアカンで。あいつらと一緒になってまうで」

泉「そっち側の人間の膝枕に頭乗せてる人が言うセリフじゃないですよね?」

怜「ええツッコミや。これならうちらが引退した後の千里山を任せられる」

セーラ「ま、泉があのままやったら勝っても後味悪いしな。正気に戻って良かったわ」

竜華「えー? おもろいからええやん」

雅枝「世の中には面白くてもやったらアカンことがあるんや、清水谷」

怜「……もう無茶したらアカンで。大会での勝ち負けより、人の命の方が大事なんやから。セーラに聞いた話やと、壁に頭打ち付けとったらしいやないか?」

泉「……はい、すんませんでした」

雅枝「本来なら決勝まで来ただけでも十分なんや。今年はノーシードやから、まずはシードを取り戻すのが目標。勝てんからって気に病むことでもないし、一年のお前が負けたからって自分を傷つけるなんてもってのほかや」

怜「いや、あんた目標は優勝やって言うとったやん」

雅枝「……」ギロッ

怜「ナンデモアリマセン」

雅枝「ええか、お前が負けても、お前を抜擢した私の責任、結果を出せるだけの指導をして来なかった私の責任なんや、少なくともうちの部員である間は、負けたり失敗したりしても必要以上に自分を責めたらアカンで」

泉「監督……はいっ!!」

雅枝「なにより、負けるより事故で部員が怪我する方が問題になる。実績もあるし代わりもおらんから、ちょっとやそっとの不振やったらうちの立場が揺らぐことはあらへんけど、部活動中に命に関わる怪我があったら即クビや。マジで勘弁してな」

泉「感動した後に大人の汚さ見せつけるのやめてくれませんか」

セーラ「照れ隠しやな」

怜「せやろな」

雅枝「うっさいそこ!」


憩「……また尭深ちゃんはおかしな真似しよったな。検証するでー」

尭深「ふえっ!? わ、私なにかしてた?」

憩「発の暗刻が偶然出来るわけないやろ……とは思うけど、一応偶然の可能性もあるからなー」

誠子「ん? どういうことだ?」

憩「あれな、多分、前半のラスト三局の第一打を回収したんやないかと」

菫「……冗談だろう? そんなことが出来たら、休憩中に麻雀を打っておけば天和や地和を仕込めてしまうじゃないか」

憩「せやから検証するって言っとるんですわ」

監督「確率は低いけど、偶然だと思うわよ」

憩「確率が低いんやから、能力の可能性を疑うのが自然ですって」

尭深「……検証はしておいた方が良いかもね。もし能力なら、それが影響するのは試合だけってわけにはいかないだろうから。前回の麻雀の捨て牌が次回に影響するのは、常にプラスってわけじゃない」

憩「前の日に遊びで打った麻雀で第一打に適当な牌捨てて、いざ試合の時に天和狙ったらそいつらが紛れ込みおった……なんてことになったら目も当てられんからな」

誠子「あ、そうか……そういうマイナスの影響もあるのか」

憩「あと、前の半荘からの持越しが出来るなら、第一打を貯めるのが面倒で検証してなかった『第一打のストックが14枚を超えたらどうなるか』の検証も出来るしな。15枚目は次回に持越しなのか、ところてん式に押し出されて古い牌が消えてくのか……」

淡「絶対それがメインでしょ。ケイってば本当に研究好きだよねー」

憩「分からんことはきっちり調べんと気が済まんタイプでな」

監督「でも、偶然だと思うけどね」

憩「夢を潰すようなこと言わんでくださいよーぅ」

誠子「ま、それはそっちで検証しておいてくれ。私は目の前の試合に集中させてもらうよ」

菫「頼んだぞ」

誠子「お任せあれ」


起家 誠子「よろしくお願いします」

南家 浩子「よろしくお願いします」

西家 和「よろしくお願いします」

北家 春「……よろしく」


東一局


浩子(ここまでの無茶苦茶な連中と違って、この面子ならそうそう妙なことは起こらん。普通にデジタルで最善の打牌をすればええ)

春(……)

和(照さんや咲さんは私はオカルト相手にぶつけた方が良いなどと言いますが……私はデジタルの場の方が得意です。妙な力が私にあるとしても、それを警戒してデジタルに徹して来たならばそれこそ私の望むところ)

誠子(……私の能力は分かりやすいから、研究は十分されているはず。原村はオカルトに対しておかしな力を使う、船久保は研究で能力への対策をする……この面子では能力で押し切ることは出来ないだろう)


浩子(と言っても、普通にデジタルで最善打ってたら運任せや。大勝ちする可能性もあれば大負けする可能性もある。期待値通りトントンで終わるとしても、それやと化け物三人相手にする清水谷先輩がろくなリードも持たんで戦うことになる……清澄の宮永は昨年度の団体戦で、荒川や神代を抑えてMVPになった天江を大差で下した正真正銘の化けもんや。大星もまともに相手してどうにかなるようには思えん。石戸も、清水谷先輩の能力には回数制限があることをを考えれば能力込みの清水谷先輩とおそらく五分の相手……せめてトップで折り返したいと思うやん?)

春(……宮永、大星はもちろんのこと、清水谷さんも能力を考慮すれば霞さんと五分以上の相手……せめてトップで繋ぎたい)

和(オカルトに対して発動するという私の能力も任意に発動できるわけではありませんし、私は普段通り打つだけです)

誠子(まともにやって押し切れないなら、押し切れる奴に任せればいい。うちの大将は淡だ、宮永以外は問題にならない)


浩子(かと言って、まともに勝負したら運任せになるのは既に述べた通り。そしたら、状況を利用するしかないわな。 白糸台は大将に自信があるから、うちと永水には構わず、とにかく清澄を逆転してあわよくばリードがほしい。永水はトップを守りたい。清澄は……ほっとけばデジタルで打つ原村や。永水とは利害が対立しとる、清澄は手を組むという発想がない、なら、手を組む相手はそこしかないやんな?)

春(普通に打てば目標は達成できない。千里山や清澄とは協力できない。けど……)

和(……咲さんは、大星さん相手に勝てる自信がないと言います。ならば、私がここで白糸台を突き放さないと……)

誠子(淡にとって宮永以外が問題にならないなら、清澄との差だけが問題になる。そして、宮永と大星に追われる二人の力はおそらく五分……化け物二人の起こす嵐を凌いで逃げ切りを狙う立場だ。凌いで逃げ切るなら、無理な攻めが必要な状況は望ましくないよな?)


誠子(つまり、永水と千里山はどちらもトップで繋ぎたいと思ってるはず。そのために、手を組めるならどこかと手を組みたい。この状況、一番利用する相手が多いのは……一番有利なのは、私だ。そうなんだよな、憩?)


誠子(……下手に鳴くと、原村の能力に引っかかるかもしれないからな……確証はないけど、能力を発動した相手に対して強運を発揮するんじゃないかって憩が言ってたし……)

春(……嫌な感じがする、力を使うと痛い目を見るような……デジタルでも普通に鳴くような場面以外では鳴かない方がいいかもしれない)


和「……」


2333456m678s西西西 ツモ:1p

打:1p


浩子「ロン。2000」

23赤567p33789s456m ロン:1p


和「はい」

誠子「……」

春「……」


東二局


誠子「ツモ。タンヤオ平和ツモ、700・1300」

23456m345s45688p ツモ:7m


浩子(……鳴かずに和了る、か。白糸台も原村のアレを能力の類やと考えとるってことか?)

春(……その三面張でもリーチしない……固い面子だから? それとも……親に被せた時の被害を軽減するため?)

和(……亦野誠子が鳴かずに和了る……どういうことでしょう?)


誠子「……」


ガラガラガラ……


純「東場が終わるまでリーチも鳴きもほとんどねえぞ。全員ダンマリ決め込んで地味ーな試合だなおい」

智紀「リーチをして出すような面子ではない。役なし聴牌以外でリーチがないのは当然」

純「だからって鳴きまで封印することねえだろ。亦野は鳴きがメインだし、滝見だって鳴いて安手をアピールして差し込みを誘発したり、安手に差し込んだりとかそういうスタイルだったはずだろ?」

智紀「能力を使うと船久保に隙を突かれると考えて警戒しているのだと思う。普段通りの打ち方をすれば、研究によって弱点を突くスタイルの船久保の餌食」

ゆみ「原村も、オカルトに対して強運を発揮するらしいからな。もしも白糸台や永水がそれに気付いているなら、オカルトを封印してデジタルに徹する判断は妥当だ」

一「その人が卓につくだけで普段と違う打ち方を強要される……嫌な相手だね。原村さんの方はボクには関係ないけど」

透華「それでこそ私の獲物に相応しいですわ。原村和の能力が知れ渡れば、次に打つ時は妙な能力で小細工をするような無粋な輩の邪魔を入れずに打てそうですわね」

モモ「誰も邪魔しようとしてないのに、自ら無粋な真似をして無茶苦茶な試合にした人が何か言ってるっすよ?」

ゆみ「モモ、決勝で何もさせてもらえなかったのを根に持ってるのか?」

モモ「当たり前っす。ツモ自体をおかしくする連中はみんな不慮の事故に遭って出場を辞退すればいいんすよ」

智美「ワハハー、モモ、不慮の事故を自らの手で起こすのはやめろよー? 相手に気付かれなくてもカメラには映るんだぞー」

モモ「……蒲原先輩は私をなんだと思ってるっすか?」

純「しかし、本当に地味な試合だな。さっきまでの飛び道具がブンブン飛び回ってる乱打戦が嘘みたいだぜ」

一「本来は麻雀ってこういうゲームなんだけどね。鳴きはもう少しあるだろうけど」

智紀「もし先鋒戦なら、この面子でもここまで地味にはならなかったかもしれない」

星夏「どういうことですか?」


智紀「前提が二つあって面倒な説明になるから、一つずつ確認する……この副将戦の後の大将戦、誰が勝つと思う?」

美穂子「宮永さんでしょうね。彼女が姉の方の宮永さん以外に負けるのはちょっと考えられません」

純「そうか? 確かに咲は色んな要素が噛み合えば衣にも勝てるぐらいだからそうそう負けねえだろうけど……大星って言ったか? あれの天和を随分気にしてたみたいだぜ、万が一ぐらいはあるんじゃねえか?」

ゆみ「おそらくない。個人的な格付けよりチームの勝利を優先すれば、だがな。話が逸れそうだから理由はあとで話す」

智紀「石戸さんや清水谷さんが勝つ可能性は?」

モモ「石戸さんは大星さんにボロ負けしてるし、清水谷さんは咲ちゃんにボロ負けしてるじゃないっすか。二人で手を組んでも片方に勝てるかも怪しいっす」

智紀「そう。つまり、大将戦の結果はある程度見えている」

星夏「清澄と白糸台がトップと二位、千里山と永水は三位とラスになるんですね?」

智紀「更に言えば、咲がトップで大星が二位、石戸さんと清水谷さんはその二人の争いでかなり削られての三位と四位というところまで、あの四人の中では共通認識になっていると思う。『各チームの大将同士の力関係』、これが一つ目の前提」

智美「ふむふむ……そうするとどうなるんだ先生?」

智紀「大将に繋ぐ際に、希望の持てる点数や順位というのが決まってくる。白糸台は、清澄に差をつけておけばどうにかなる。清澄は、よほどの大差をつけられていなければ、どんな状況でも咲がなんとかする。では、千里山と永水は?」

純「……その二校に大差をつけての、出来ればトップが欲しいな。二位だと、下から逃げるだけじゃなく上を叩かなきゃならねえ」

智紀「大将戦の結果が見通せてしまうと、この副将戦で許される結果も限定されてしまう。それから外れるような冒険は出来ない」

佳織「けど、結果が見通せているからこそ、勝負に出なきゃいけないってこともあるじゃないですか?」

智紀「ここで二つ目の前提。各チームの副将は大将を強く信頼している」

モモ「……? 信頼してるから地味な展開になるっすか?」

智紀「前提二つを合わせると千里山と永水から見れば『自分が強く信頼している大将ですら絶対に勝てない相手が出てくる』ということになる。白糸台はまだ勝負になる駒をぶつけられるからそうでもないけど……この時、千里山と永水の副将ならどうする? 大将を楽にするためにリスクを取って勝負?」

一「大将の衣でも勝てない相手……小鍛治プロとか照さんが出てくる状況で、副将を任されたらどうするか……ね。確かに、冒険は出来ないな」

純「今が五分なら、俺は勝負するかもしれねえな。けど、リードがあるってわけか。そのリードを自分のミスでなくすかもしれねえ……キツいな」

星夏「……理屈では、それでも最善を打つべきだと思うんですけど……」

一「そう割り切れたらいいんだけどね、インハイの決勝なんていうただでさえプレッシャーがかかる舞台で更に心理的な負荷をかけられたら、その『最善』を判断することすらまともに出来ないと思うよ。自分に判断できないから、信頼する大将に判断を任せる、今あるリードを使って何をするか、その判断をする機会を譲る」

智紀「清澄以外の三校は、一か八かでリターンを取るより、リスク……失点の可能性と相手の得点を潰す打ち方を強いられる。大将を信頼していて、勝機のある状況からならしっかり逃げ切ってくれると思っているからこそ、ミスが出来ない」

ゆみ「博打に出て勝てば良いが、仮に跳満にでも振り込んでしまえば致命傷になる……その決断を自分がしてしまうよりは大将に任せたい。大将を信頼するからこそ、な」

智紀「ここまで慎重になるということは、普段なら自分がどんなミスをしても大将が取り返してくれると考えるほどに信頼していることの証明でもある。その信頼する大将でも勝てない相手が出てくると分かっているから、大将より劣る自分の判断でリスクを取るという決断が出来ない」

美穂子「卓に座るだけで打ち方を変えるのも大概ですけど、後ろに控えるだけで卓上全体の勝負手を封じ込めているわけですね。宮永さん、恐ろしい人です……」

智紀「これが先鋒戦ならば、そこまで手が縮むことなく何らかの勝負手が出ると考えられるけど、直後に大将戦が控える副将ではそれも出来ない。ついでに、咲の発する威圧感の最大の根拠が、我らが大将を倒した実績だということを付け加えておく」

ゆみ「わざわざ言わなくてもわかってるさ。大した奴だよ天江は」

純「てゆうか、その大将はどこ行ったんだよ? ハギヨシさんからも連絡がねえし、流石に不安になって来たぞ?」

智紀「……? 先ほど、永水女子に保護されている可能性が高いと連絡があったけど?」

純「それを早く言えよ!?」

一「聞いてないの純くんだけだよ? 会場に出て来た原村さんを見て透華のテンション上がってる時に来た連絡だから、ツッコミ役してて聞き逃したんじゃない?」


南二局 ドラ:6p


和(……ここまで焼き鳥……確率的にはおかしなことではないのですが、なにかおかしいような……)


誠子(……三副露すれば数巡で確実に和了れる。これは、後付けなんかでも有効だ)

誠子(適当な面子を両面喰いでもなんでもいいから三つ鳴けば、数巡で和了れる。役がないなら、後から役牌がついてくる)

誠子(対対や混一色あたりの役を絡めたある程度の火力を備えた攻撃も、役牌一枚だけ残して後々付けの超速攻なんかも出来る。速攻でこそ生きる能力)

誠子(この能力は速攻用なんだ……だから、私は能力なしでも速度重視の打ち方を普段からしている)

春「……」

誠子(滝見も同じように、普段から安手を作るようにしているのだろう。安手で勝つためには、他家より多く和了らなきゃいけない。速度に優れているのは必然)

浩子「……」

誠子(こっちは正直意外だったが、速度特化もお手のものか。データに基づいて弱点を突くには、自分自身もいろんな打ち方が出来なきゃいけないってことかな? だとすると、速攻主体の私や滝見への対策か。速度で勝負出来なきゃ隙を突くことも出来ない)

誠子(期待値重視での最大効率が原村和のデジタル。それに対して、完全に牌効率に特化した三人が囲めば、よほどの不幸に見舞われなければ三人の誰かが速度で上に立てる)

誠子(うちも永水と千里山からは警戒される立場だけど、その二校が牽制し合っていて、協力者としてうちを求めているという状況ではマークが緩む。結果として、清澄は三校からの完全な包囲を受けるというわけだ)

誠子(憩の入れ知恵だけどな。どうやら思惑通りに行ってるらしい)


和(……能力などではないでしょう。亦野誠子も滝見春も鳴きを主体とした能力のはずです、鳴き自体がほとんどないこの状況は完全にデジタルの場と考えて良い)

和(完全にデジタルなのであれば、多少の偏りは運や偶然と言ってしまって構わないはず……私の打ち方にはミスはありませんし、ただの不運です。よりにもよってこの場面で不ヅキに見舞われるとは……しかし、嘆いても何も変わりません。デジタルの場であるならデジタルの最善を……)

234赤5s234567p中中中 ツモ:8p

打:2s


誠子(捉えたぞ、原村和!)

誠子「ロン! 平和ドラドラ、3900!」


123345m34s23466p ロン:2s


和「……はい」


久「……おかしいわね。緊張してるのかしら?」

咲「ダメだったら私任せにする気満々の原村さんが緊張ですか?」

照「……じゃなければかつてないレベルの絶不調」

京太郎「散々な言われようですね。そんなに酷いですか? 俺には、ミスなく打っててたまたま運が悪いだけって感じに見えますけど」

咲「自分の手牌だけ見るなら確かにノーミスだよ」

京太郎「……周りが見えてないってことか?」

咲「正解。普段の原村さんならあれは押さないね」

京太郎「いや、5200の三面張なら押すだろ? 待ち牌も9枚の内8枚は見えてないし」

久「和が期待値マイナス3900の選択をするわけないでしょ。中でオリるか、押すならツモ切り……いえ、8筒だとドラに近いから振り込んだ場合のマイナスが大きいと判断して2筒かしら? 細かいのよねあの子」

照「あのぐらいは読めるし止まる。原村さんが本調子なら読めてても止める必要がない形で聴牌するから、止めるのはあんまり見ないけどね」

優希「のどちゃん……どうしちゃったんだじょ……?」

まこ「あいつが緊張で打牌を乱すなんてことがあるとはのう……インハイの決勝になんか思い入れでもあるんじゃろうか?」

咲「私は聞いてないけど……お姉ちゃんなにか聞いてる?」

照「聞いてない」

優希「親友である私ですら聞いてないことをほんの数か月前に会ったばかりの咲ちゃん達が聞いているはずがなかろうだじぇ」

京太郎「なにドヤ顔で言ってんだ、親友なら聞いとけ」

久「……思い出せる限りで記憶を掘り返してみたけど、私も何も聞いてないわね。強いて言うなら、さっき咲が自信ないとか言ってたの聞いて青ざめてたかしら?」

咲「勝てない可能性を指摘されて青ざめるって……それ、思い入れどころか、この試合に勝たなきゃいけない理由があるってことになりません?」

久「なるわね」

咲「もう、なんでそういう大事そうなこと隠すかなあ……原村さんってば」

まこ「心配をかけたくない、とかじゃろうな。あいつはそういうのを一人で抱え込むタイプじゃろ」

咲「ああもう! 一人で抱え込む系はこれ以上要らないのに!!」


照「……? 他に誰か居たっけ? あっ、もしかして咲、何か悩んでる? 悩みがあるならお姉ちゃんに……」


京太郎「おーい優希、鏡あったら貸してくれ」

優希「そんなものはない!!」

京太郎「お前、一応女子高生なんだから鏡ぐらい持っとけよ……化粧しないにしても髪型とか服装とか色々気にする年頃だろ」

優希「姿見などタコスがあれば十分だじぇ!」

京太郎「姿見でタコスって、お前はなんなんだよ……タコスの化身か?」

咲「その質問、YESって答えが返って来ると思うよ京ちゃん。むしろそれ前提で言ってると思うよ」


南三局 ドラ:南


和(最後の親……ここまで焼き鳥。幸か不幸か他家は安手続きですが、放銃が多くて状況は芳しくありません。なんとか取り返したいところです)

和(だというのに……酷い配牌ですね)


1479s11m8p東西西北白発中


和(……いえ、こうなれば一か八かで……)


咲「えっ!? ちょっと、何してるの原村さん!?」

久「和ったら、らしくないわね。流す一手でしょうに」

まこ「親の期待値なんぞ、せいぜい子の1割増し程度なんじゃがな。あの配牌から和了る確率を考えたら、流す方が有利じゃ」

京太郎「親の期待値が一割増し……そうなんですか?」

咲「親特有の連荘して大逆転なんてのを無視して、一局ごとの期待値を見ればね」

まこ「単純に、それぞれの和了率が25%で、ツモとロンの比率が1:3じゃと仮定すると、親は32分の3だけ平均より有利で、子は32分の1だけ平均より不利になる。親と子の優劣は35:31じゃ」

咲「親を固定して、2000点の手を四人で四回ずつ……ツモと他三人からのロンを全通り、計16通り和了った場合、親はプラス3000点で子はマイナス1000点になるよ。実際にはオリとかもあって、ロンの比率がもう少し低くなるからその分有利が小さくなる」

久「この親と子の差って、直撃し合った場合の差なのよね、ツモだと期待値トントンだから。てことで、ロン和了りの比率が低い、固い面子だと親の価値は下がるわよ。あと、直撃し合ったら有利だから親の方が押しやすいとかのメリットはあるかもね」

京太郎「35:31、子に対しての有利は一割ちょっとか……親の有利ってそんなもんなのか……」

咲「単純計算だと一割以上、実際に打っても多分一割弱ぐらいの有利はあるから、多く打てば確実に差が出るぐらいには有利だよ。だけど、半荘一回や二回じゃ、明確な差が出るほど有利とはいえないよね」

照「配牌が悪くて和了れそうにないなら、さっさと流してしまう方がいい程度の有利。けど……今の原村さんはその判断が出来ていない」

優希「のどちゃん……」

咲「これは、ちょっとまずいよね?」

久「そうね……咲、何点差までなら行ける?」

咲「何点あっても不安ではありますけど……大星さんが天和を連発できたら親番を回した瞬間に終わりですし」

照「……」


春「ツモ。2000、4000」

234p56s南南南 チー:123m 678p ツモ:7s


浩子(げっ!? ドラのダブ南が暗刻かい……きっつー……むしろ満貫で済んで良かったわ)

誠子(清澄が親なら高い手のツモは歓迎だが……差が開いて千里山が無茶するのが怖いな。船久保なら大丈夫か?)

和(……結局、手牌はバラバラのまま満貫の親かぶり……私は、何をやっているんですか)


春「……オーラス。私の親番」


和「あ……」

和(オーラス? もう、オーラスなんですか? 私は、まだ、なにも……)


久「……それにしても、メンタル面で弱さをさらけ出してるわね。経験不足が祟ってると思わない?」

照「さっきの中堅戦で竹井さんも思いっきりやらかしてたもんね」

京太郎「……照さん、気付きませんか? 部長が何を言いたいのか」

照「……?」

咲「原村さん、団体戦はほとんど経験がないんだよね?」

優希「われわれ高遠原中学は安定の予選敗退だじぇ」

久「どっかの誰かがまわりくどいことしないでさっさと泣き付いてれば、準決勝は普通に打って経験を積めたはずなのよねえ?」

照「……あれ? もしかして、私アウェーの流れ?」

咲「とりあえず、準決勝のアレ、要らなかったよね? 普通に相談してくれてれば」

照「そ、それは咲のためを想う姉心で……傷つけないために隠してた的なアレで……」

まこ「一番妹が傷つくやり方でそこまで隠してた秘密をぶち明けたのが、なんじゃって?」

京太郎「咲、珍しく思いっきり泣いてたもんな。ポンコツのくせに意地っ張りだから人前じゃ大泣きはしないのに」

照「なっ!?」

久「戦犯を決めたいと思います。先鋒戦でうっかり役満に振り込んだ上に準決勝で経験を積むチャンスを吹っ飛ばした人が一番罪深いと思う方は挙手願います」


ノノノノノ<ハーイ


照「ま、まだ負けてないから戦犯じゃないし……」

咲「とりあえず、負けたらお姉ちゃんのせいね」

照「わ、私のせいじゃ……てゆうかむしろ私が居なかったら先鋒で終わって……」

咲「ん? 先鋒でうっかり役満振り込んだのが何だって?」ニッコリ

照「……すみませんでした」


久(咲までプレッシャーで調子が出ないなんてことになったらたまったもんじゃないからね。とりあえず負けたら照のせいってことにしとけば大丈夫でしょ)

まこ(あくどいのお……おんしがヘマやらかしたのをなかったことにしとるあたり、いかにもあくどい)

久(いや、二連続トップのプラス40000オーバーで戦犯扱いされたら困るんだけど)


浩子「ツモ。500・1000。お疲れ様でした」

333678s34赤556p北北 ツモ:7p


誠子「お疲れさま。また後半で」

春「お疲れ様」

和「……お疲れ様でした」


副将戦前半終了


白糸台  85800(+  500)
清澄   74400(-13700)
千里山 112900(+ 6500)
永水  126900(+ 6700)


和(……負ければ転校。お父さんとの約束は、『優勝できたら長野に残ることを考える』というものでした)

和(個人戦は、予選で敗退しました。だから、私にはもう個人戦での優勝の可能性はありません)

和(であれば、団体戦で優勝するしかない。照さんと咲さんが居て負ける可能性などないと思っていましたから、それでも大丈夫だと思っていましたが……)

和(咲さんは、大星淡に勝つ自信がないと言います。ですが、リードした状態でバトンを渡せばきっと……長野の決勝で、勝てるかどうか分からない、むしろ、まともにやれば負けるとまで言っていた衣さんとの勝負でも勝ってみせたように、他家まで使った駆け引きできっと勝ってくれます。大星さん以外の二人も加治木さんや池田さんに劣るとは思えませんから、大星さんが天江さん以上でなければ、いえ、天江さん以上であったとしても咲さんならきっと……)

和(であれば、私の役目は、部長が逆転してくれた勢いに乗ってリードを広げて咲さんに繋ぐことです。なのに……)


和「結果は、リードを広げるどころか逆転を許す始末……勝たなければいけないというのに、なんという……」


?「なんで『勝たなければいけない』のか、聞かせてもらっていいかな?」


和「えっ?」

咲「……聞く権利ぐらいは、あるよね?」

和「さ、咲さん……」

……saga入れ忘れてたのに今回の投下が終わってから気付くという。フィルターかかってないですよね?

次回は来週の水曜の予定です。
ただ、再来週がちょっと立て込んでるので、その次がまた一週空くかもしれません。あらかじめご連絡しておきます。


和「……なんのことでしょうか? 勝たなければいけないというのは、力関係から言って私は勝ちを期待されているということであって、それ以上の意味は……」

咲「その割には随分と打牌にミスが多かったみたいだけど? 私が自信ないって言ったのを聞いて動揺してるんじゃないの?」

和「そ、そんなことは……大体、打牌にミスはありません。私は期待値が最大になる最善の打牌を……」

咲「後から考えてもミスに気付かないぐらい不調なんだね。読めるはずの待ちに振り込むのが期待値最大の打ち方なの?」

和「……」

咲「言っとくけど、自信がないっていうのは、天和を破る自信がないっていうだけで、勝てる自信がないとは言ってないよ?」

和「……へ?」

咲「……」

和「ほ、本当ですか?」

咲「露骨に安心した顔してるよね。やっぱりなにか事情があるよね?」

和「うっ……」

咲「……話せない?」

和「え、えっと……今は時間もないですし……」

咲「特に事情がないなら、イチかバチかで天和破りに行っちゃおうかなー。安全策を取れば確実に五万点ぐらい差をつけて勝てるけど特に意味もなく勝負しちゃおっかなー?」

和「や、やめてください!! 勝てるならちゃんと勝って下さい! お願いですから!」

咲「事情も話してくれないような薄情な仲間のために頑張る気にはなれないなー。個人的な理由を優先させたいなー」

和「……咲さんの意地悪」

咲「むー、ここまで言っても話さない原村さんの方が問題なんじゃないかな?」

和「終わったら話しますから」

咲「約束だからね?」

和「はい」


京太郎「……結局、事情は話さねえのな?」

咲「……出て来るの早くない?」

和「……え? な、なんで須賀君が!?」

京太郎「そりゃお前、こいつが一人でここに来れるとでも思ったのか」

和「……あ」


【現在地:特設対局室入口】


和「……言われてみれば当たり前ですね」 

咲「が、頑張れば来れるもん!! 今は緊急事態だから時間と手間を節約しただけで……」

京太郎「へいへい」


誠子「ただいま」

尭深「おかえり」

憩「……」ションボリ

誠子「憩?」

憩「あ、誠子ちゃんか。お疲れさん」

誠子「どうしたんだこれ?」

尭深「あ……その、私の能力の検証をしたんだけど、やっぱり偶然だったみたいで……」

菫「ウキウキしながら検証を始めて、結果が出たらこれだ。こいつを先鋒から動かせない最大の理由だな」

監督「気になったら試合中でも検証を始めるし、そのくせ仮説が外れたらやる気なくすものね」

誠子「ああ、まあ良かったじゃないか。いつも次の半荘を意識して不完全燃焼ってのも嫌なもんだろ?」

尭深「そうだね」

淡「……」スヤスヤ

誠子「……あっちは?」

監督「憩が相手してくれないからふて寝し始めたのよ。横になったらすぐ寝ついたわね」

誠子「……緊張感のない奴だな。大物なのかアホなのか……」


浩子「……なんで誰もおらんねん!?」


ガラーン


浩子「……テーブルに書置きがあるな。どれ……」


『借金取りがここにまで押しかけて来た。うちらはほとぼりが冷めるまで身を隠す、お前も自力でなんとかせえ』


浩子「なんの借金やねん!?」

『団体戦に参加するための交通費と、うちらの宿泊費用や』

浩子「先読みすんな!! そして、それ借りたの早くてもせいぜい先月やんな? 返済期限短すぎやろ!」

『悪いな……私には、視えてしまうんや。お前の反応がな』

浩子「なんで借金取りが来ることは視えなかったんですかねえ?」

『手紙はここで終わっている』

浩子「おいこら……くっそ、これ以上は先が読めんからここで無理やり終わらせたってことやんな?」

浩子「つーか、手紙読み終わっても誰も出てこんのかい?」


バタン


浩子「お、来たか」

???「おうおう、借りたもんは耳揃えて返してもらうでー」

浩子「江口先輩、せめてサングラスなりヅラなりの小道具仕込んで下さい。普通に控室に帰って来たようにしか見えません」

セーラ「おう、ええ椅子やな。売ればそこそこの値段になりそうや」

浩子「会場の備品です」

セーラ「このテーブルもなかなかええな。早速質に入れたるわ」

浩子「せやから会場の備品です」

セーラ「しかし、これでもちと足りんなあ……うちの利子は高いでー? ちょっとでも元金が残ったら、あっという間に雪だるまや」

浩子「はあ……」

セーラ「……なんや、ノリ悪いな?」

浩子「わりかし堪えてるんですよ。永水には追いつけんし、原村は不調みたいやけどこの休憩で立ち直るやろうし。後半はどうなることか」


バタン


怜「ぐへへへ、若い女なら買いますよ旦那……って、なんや、そんな凹んどるんか?」

雅枝「そう悪くはない結果やったけどな」

浩子「ん……まあ、うち個人としてはそうなんですけど、後に宮永と大星が控えてると思うと……」

怜「んなもん気にしても無駄や。つーか、先鋒で終わらんかった時点で儲けもんやし、次鋒の泉が大爆発したからなんとかなってるだけで、普通にやったら最初から勝ち目ないしな」

セーラ「竹井も絶不調やったやろ。俺も内心では『確実に逆転されて下手したら中堅で飛ばされる』なんて心配しとったのが、リードしたまま終われたしな」

雅枝「どうせ負け戦や。思いっきり打って、経験を次に活かすしかないな」

浩子「おいこら監督」

怜「しゃあないやろ。実際、なんでリードしたままここまで来れてるか分からんわ。本来なら今の時点で清澄20万超、白糸台が10万ちょい、うちと永水はトビ寸前か、とっくに飛んでるはずやで?」

浩子「そうは言いますけどね……実際に優勝の目があるわけで……」

怜「んなもん気にせず普通に打ったらええねん。ダメでも、竜華がなんとかするやろ」

浩子「いや、相手は宮永ですよ? いくら清水谷先輩でも……」

怜「私もこの試合に限れば姉の方の宮永さんに勝てたからな、上手く行けばなんとかなるやろ」

浩子「上手く行けばって、そんな適当な……」

怜「てか、確実に逃げ切るならここで終わらせるしかないで? 妹が姉と同格やとしたら、親が一回あれば40万稼ぐからな」

雅枝「あれが大星と潰し合いをして、ドサクサ紛れに清水谷が能力使って和了って逃げ切る。元々他力本願や、浩子は普通に打って次につなぎさえすればええ」


『怜ー! うちらの出番まだー!?』


怜「……ほれ、まだのんきにネタの用意しとるで? 大物やろ、うちらの大将?」

浩子「……確かに、あんな人のために必死にリード作るのはアホらしいですね」

セーラ「調子戻ったみたいやな。んじゃ、続き行くでー」

浩子「……今から始めて、休憩中に終わるんですか?」

怜「……終わらんな。もともとギリギリの長さやし」

雅枝「清水谷、二条! 作戦は中止や、時間内に終わらん!!」


『えー!? せっかく練習したんにボツなん!?』


春「……」ポリポリ

霞「お疲れ様。流石ね」

春「……霞さん、お願いがあります」

霞「あら、何かしら?」

春「……次の半荘、私がトップで終えたら、考え直して下さい」

霞「……何を、かしら?」

春「大将戦の方針を」

霞「……」

春「……」

巴「えっと、春、なんの話?」

初美「さっぱりわからんですよー?」

霞「仕方ないわね、約束しましょう」

春「……ありがとうございます」

霞「礼を言うのは私の方な気がするけどね」

春「……そうかも」ポリ


小蒔「すう……すう……」

衣「くー……くー……」


初美「なんか話がまとまったみたいですけど、全く話が見えませんよー? 姫様とちびっこは寝てるし、誰か説明しろですー!」

巴「はっちゃん、騒ぐと姫様が起きちゃう……」


霞「で、勝算はあるのかしら?」

春「……気合で」ポリ

霞「……それは結構な作戦ね。あなたからそんな根性論を聞けるとは思わなかったわ」

春「……」


咲「戻りました」

京太郎「任務完了しました」

久「……あら? 和は?」

咲「会場で集中を高めたいって言ったので連れて来ませんでした。多分、大丈夫だと思います」

まこ「ならええが……事情は聞けたんか?」

京太郎「長くなるから、終わったら話すそうです。咲が余裕で勝てるってことで落ち着かせました」

久「そう。それで落ち着くってことはやっぱりなにかあるのかしらね?」

咲「……原村さん、中学一年生までは奈良に居たんですよね? 奈良の前はまた別のところにも……」

優希「うむ。奈良にも小6の時に引っ越したそうだじぇ!」

咲「……転校が多いってことだよね?」

優希「……む?」

咲「……高校生ぐらいなら、無理を言えば一人暮らしとかも許してもらえるかな?」

京太郎「あー……微妙だな。男ならともかく、女の子だと厳しくないか?」

咲「ん~……なら、お父さんだけ単身赴任してもらうとかかなあ……? いずれにしろ、インハイ優勝を条件に出されるぐらいには厳しいか」

京太郎「インハイで優勝出来るチームなら今後のためにも残ったほうがいい、みたいな話で親御さんに頼みこんだってのはあり得るな」

咲「奈良には二年間。それぐらいの期間で転勤するとして、前回の転勤が三年前なら、今回もそろそろだよね?」

京太郎「だろうな。その線で間違ってないんじゃないか」

まこ「つまり、和のやつの事情っちゅうのは……」

久「手元にある情報から一番無理なく導けるのは、それね」

咲「……優勝したらこっちに残れる、出来なかったら転勤について行くって感じかな。単身赴任することになるお父さんには申し訳ないけど」


照(……話が急展開過ぎてついて行けない。この場はわかったふりして、後で竹井さんに聞こう)


優希「……それはつまり」

咲「よっぽど優希ちゃんと離れたくないんだね。愛されてるよ優希ちゃん」

優希「なんと! やはりのどちゃんは我が嫁だったじぇ!」


京太郎(……つっても、今の時点で和が転校をそこまで嫌がるとも思えねえんだけどな。転校したって仲よくやれるってのは、三日前からの阿知賀との交流で証明されてるわけだし)

京太郎(とはいえ、今それを言っても咲を不安にさせるだけか。和の様子を見る限り、咲が勝てば良いだけの話っぽいしな。黙っとこう)

(途中で席順変わってた。直してきます)

(席順間違ったまま書いてたから次のレスの席順直すだけで大丈夫っぽい)


起家 和「よろしくお願いします」

南家 誠子「よろしくお願いします」

西家 浩子「(うちが来た時には卓についてた……もしかして、会場にずっと居たんか? だとしたら、不調から立ち直っとらん可能性もあるか?) よろしく」

北家 春「よろしく」


東一局


和「リーチ」

浩子「げっ!?」


浩子(四巡目の親リーとかやめろや……ん? リーチ?)

浩子(この面子でリーチして出るはずないってのはわかっとるはずや、いくら四巡目でもそれは変わらん。全員きっちりオリる)

浩子(てことは、それ、ツモれる手なんやろな?)

浩子(あるいは、前半の結果を見てやけっぱちになったか? いや、そんな奴ではないはず……やっぱり、手が入ったとみるべきやな。オリや)


誠子(振り込むよりはツモの方がマシ……だろうか? いや、面前ツモなら1翻がつく……ツモって30符の形だとして、面前ロンの10符がついて40符1翻の2000に振り込むのと30符2翻の1000オールのツモ……私にとって重要なのは清澄との点差だけだから、この場合、全く変わらないわけだ)

誠子(……放っておいてツモられるのを待つのと止められる可能性に賭けるのでは、後者の方がマシ……読みに自信がないわけでもない)

誠子(……しかし、他も二人も固い面子だし、きっちりオリれば原村が和了れずに流局する可能性も……)

誠子(……くそ、なんだこれ? どう打てばいいんだ?)

誠子(個人戦なら自分の収支を最大にすればいいから、振り込むリスクと和了れるメリットを比べればいい。ツモられるのは振り込むよりマシ)

誠子(けど、ツモられても振り込んでも同じって言うんじゃ、攻めるべき局面が増える……増えるよな?)

誠子(……となると、普段なら押さないような手で押さなきゃいけない場面が出てくる。どんな手まで押すべきなんだ?)


3468s455789m234p ツモ:5m


誠子(……5萬は安牌。ツモ切りでもイーシャンテンのまま。安牌が増えればまだ押せるし、オリるにしてもこれでいい。迷うことのない牌だ)

打:5m


和「聴牌」

13456s東東東南南南白白

浩子・誠子・春「ノーテン」


浩子(……四巡でその手か。マジでふざけんな)

誠子(……結局オリてしまった。しかし、カンチャン待ちの悪形でも四巡で親ならリーチか……前半の不調でやけになったのか?)


春(……これは、しんどそう)


東一局 一本場

和「……」

111999m19s1赤59p東南西


和「九種九牌」パタ


浩子(……ま、暗刻二つあるとはいえ、端牌じゃ使い勝手も悪い。四向聴で他の形が悪すぎる。親の一本場ということを考慮しても流すのが正解やろな)

誠子(ヤケなのか、それとも冷静なのか……前半で流せる手牌を流さずに痛い目に遭ったから臆病になっているようにも思える……)

春(……)


東二局 二本場


誠子(……前半とはうってかわって、原村が場の中心に居る感じがするな。いや、たった二局で何を弱気なことを言っているんだ私は……)

誠子(空振りのリーチと、親番を九種で流しただけだろう? 何を恐れることがある?)

誠子(四巡目でリーチしてもツモれない、仕切り直せば九種九牌。恐れる必要はない、むしろ不運に見舞われてるじゃないか)

誠子(大丈夫、行けるはずだ……)


誠子(って、なんだよこれ!? どうなってる!?)


199m19s789p東南北白発中


誠子(九種九牌で親が流れた後の親がまた九種九牌って……)


菫「憩、お前ならこの状況、どうする?」

憩「うち以外なら国士狙いをおすすめしますね。うちは流します」

尭深「憩ちゃんだと、カンチャンとかペンチャンが出来る度に国士と関係ない牌が来ちゃうからね。あの筒子の処理が出来ない」

憩「7切ったらペンチャンで7が来て、8切ったらカンチャンで8が来るやろ、9切って面子消してから改めて9をツモる必要がある。下手すりゃフリテンの9筒待ちや」

監督「不便よねえ……」

憩「そんな不便を帳消しにするぐらいのメリットはありますんで、気になりませんけどね。国士なんか和了れんでも満貫四回和了ったらええんやし」

菫「お前は本当に満貫を四回和了るから始末が悪いな」

尭深「それにしても、親が二回連続で九種九牌かあ……珍しいよね」

憩「このまま全員二回ずつ九種九牌で流してくれてもええんやけどな。今より状況が良くなる可能性は低そうや」

菫「……状況が良くなる見込みがない? それは、原村が調子を戻したということか?」

憩「いえ、原村とは関係なく、こっちの調子がイマイチですね。流してもうたんで」

菫「……11種12牌から流すのは、流石に看過できないと?」

憩「12牌ですよ? 配牌で役満の一向聴、狙わん理由はありません」

菫「……そうか。私なら迷ってしまうかもしれんな」

尭深「迷う……ですか?」

菫「現状のリードが広がる保証はない、前半は上手く行きすぎたぐらいだ。上手く行ってるうちに大将に繋いでしまいたい。ならば、次の局にノーリスクで進められるというのが魅力的に見えてもおかしくない」

憩「随分と弱気ですね。国士の一向聴ですよ?」

菫「そうだな、弱気だ。冷静に考えれば国士狙いで続行するのが正しいと思う。しかし、おそらく亦野も同じ考えで流したんじゃないか?」

監督「……あなた達に、負ける可能性のある試合を経験させて来なかった私の責任ね」

憩「いやいや、負ける可能性のある相手がおらんかったんやから、監督の責任と違いますって」

監督「チームを分けて打たせるなり、プロを呼ぶなり、手はあったわ……ごめんなさい」

尭深「監督……」

菫「今更言っても仕方ないさ。しかし、亦野が弱気の風に吹かれているとなると、憩の言うとおり、良くて現状維持だろうな」

憩「ま、現状維持なら、うちらの大将が何とかしてくれるやろうけど」


淡「むにゃむにゃ……ケイー、あそぼー……」


菫「これに頼るのは不本意なんだがな……」

憩「とはいえ、準決勝でも最後は淡ちゃん頼みやったからなあ……大会前のオーダー決めでは下手すると淡ちゃんの出番なしで大会終わるかもしれんとか言っとったけど、全くそんなことはなかったと」


東三局 三本場


浩子配牌

2445s1578p4赤56s東北白


浩子(……流石に三連続はあらへんか。誰も和了らんまま東三局の三本場……三本場か)

春(積み棒が三本と、リー棒が一本。1000点でも2900。おいしい)

誠子(……確率の低いことが二回続いたら能力を疑うって憩は言ってたけど……九種九牌が能力だとしたら、誰のだ?)

和「……」

浩子(ここから切るなら字牌か1筒やな。染まる手でなし、とりあえず北でええやろ)


打:北


春(……ん?)

129m11378p1237s中 ツモ:北

春(……二連続で九種九牌の後……いや、まさか……)

打:北


咲「なにあれ? 偶然だよね?」

照「偶然だけど……偶然起こるような確率じゃないと思う」

咲「けど、偶然だよね?」

照「多分」

久「ノータイムで北切りか、ま、和ならそうよね。流れたなら流れたで構わない手だし」

京太郎「……まさかこれって……」

まこ「亦野はクズ手じゃから、当然切るじゃろうな」


優希「四風連打だじぇ!」


咲「なんでこれが流れるルールなのか、昔から疑問なんだよね」

照「言われてみれば確かに。流れる理由がない」

久「麻雀は中国由来のゲームで、中国語だと『四』と『死』が同じ発音。だから。四がつくものは縁起が悪いってことで流れる、みたいな説を聞いたことがあるけど……」

照「四開槓とか四家立直もそれ?」

久「らしいわよ」

咲「そんな理由なら、なくしてもいいと思いますけど……」

久「あら? そんなに嫌なの?」

咲「嫌というか、四風連打の局面から続けたいんですよね。国士の可能性が無くなるから、安心して公九牌を槓出来るじゃないですか」

照「国士の暗槓和了りなんてレアなものを気にして四風連打を無くせと言われても……」

咲「国士の暗槓和了りはレアじゃないでしょ?」

照「レアだから。激レアだから。10万局打っても一度も起きない超レアだから」

咲「……確かに、最近だと加治木さんぐらいしか狙ってこなかったね」

久「あんたらの中じゃありきたりなのかもしれないけど、漫画とか小説のネタになるようなものは基本的に現実では起きないのよ?」

まこ「10万局で起きないなら100万局やればええと言いたくても、一人の人間が一生に打てる局数もたかが知れとるしのう」


東四局 四本場


春(……三回続いたら、もう偶然とは思えない。けれど、誰かが何かをした様子もない)


浩子(うちにもついに能力が……なんてことはあらへんやろな。となると、一番疑わしいのは永水……そもそも、場を進めて一番得するのはトップの永水や。疑うなら滝見を疑うのが自然やろな)

誠子(九種九牌の次は四風連打。『和了りを潰す』能力なら、その局自体を流してしまうのもあり得る……こいつは一杯喰わされたかな?)

和(……流すというならそれで構いません。四風連打を恐れて好配牌を崩したり、三家和を嫌ってロンを見送るよりマシです)


春(……ん? もしかして、私が疑われている?)

春(確かに私でも他の三人の立場なら私を疑うけれど……私は何もしていない)

春(……私を疑うということは、つまり、疑ってる人間は何もしていないということ)

春(この三局の流局が偶然だと分かっているのは私一人だけ……上手く使って出し抜ければ……)


234s14589m西西西白発 ツモ:西


春(……配牌でこれは、偶然にしては出来過ぎだけど……利用させてもらう)

春「槓」


憩「確定やな、滝見さんがなんかやっとるわ」

尭深「また目をキラキラさせて……憩ちゃんってば」

監督「ここまでの三局から推測されるのは流局させる能力。今の槓から警戒する流局は……四開槓ね。ということは、一枚も河に見えてなくて自分が対子以上で持ってない牌は迂闊に切れない」

菫「他の三人の配牌を見る限り、四開槓が起きる可能性はなさそうだが……」

監督「でしょうね。ここまでの三局の偶然を利用して他家の手を縛りに行っただけだと思うわ」

憩「え、いや、流石に滝見さんがなんかやっとるんと違います?」

監督「うーん……それらしい素振りは見せてないのよね。それに、四開槓を狙うなら最初に槓して警戒させるのも変だし」

憩「そう思わせて初牌を抱えさせて暗刻や槓子にさせようってことかもしれんやないですか?」

監督「……そもそも四開槓のためには他家が槓しないといけないからね。けど、他家に頼る能力っていうのも妙じゃない? そのまま使うなり、一枚外すなりされたら目論見が外れるし」

憩「……たしかに。配牌で不要牌になりやすい四風連打ならともかく、四家立直や四開槓となると……なんや、また偶然かい」

監督「まあ、九種九牌や四風連打は能力と考えられなくもないわ。能力の無駄遣いを避けながら、槓が出来る手牌を見てそれを意識させる立ち回りをしているのかもしれないし……」

憩「そうや! 九種は配牌に送り込むだけやから、淡ちゃんみたいな能力やと考えればあり得ん話やない。ちょっと滝見さんの過去の牌譜を漁って……」

菫「あいつの牌譜は今年の分だけ……県大会のものと一昨日の準決勝のものしかないぞ?」

憩「二回戦……は小蒔ちゃんと松実姉妹が暴れて次鋒で終わりやったな。県大会も決勝以外は中堅で終わりか……さっきの前半合わせても半荘五回しかデータないやん……あーもう、こんなんじゃ検証できんやろー!!」

菫「他校の人間の能力より試合を気にしてほしいんだが……」

憩「それやけど、誠子ちゃんも一年以上うちと麻雀打っといて今更あの面子にビビって手を引っ込めるようじゃ困るんやけど……」

尭深「それは同感。あの三人で手を組まれるよりも憩ちゃん一人を相手にする方が嫌だな、私は」

監督「憩と打ち続けたからこそ自信がないのかもしれないけどね……」


春「ツモ。6400オール」


12345789m白白 暗槓:西西西西 ツモ:6m


誠子「なっ!?」

誠子(槓子は最初の一つだけ……いきなり一面子を手出しで落としたのも染めに行っただけだと!?)

誠子(まんまとブラフに踊らされて足止め喰らって高目を成就された……船久保も悔しそうにしてるな)

誠子(原村は……全く表情が読めないな。動揺はないのか?)


和(私は染め手を警戒してオリましたからね。ツモられるのは仕方ありません)


浩子(……ブラフかい。さっきまでのが能力かどうかも分からんし……)

浩子(てゆうか、能力に引っかかるのがシャクで手え引っ込めたけど、能力だとしても流すだけっちゅうならノーリスクやん?)

浩子(大したことない能力やけど、三連続で使うことで薄気味悪さと派手さで過大に印象付けることが出来る。そして、自分の親番で他家を足止め。その隙に大物手を成就……完全に騙されたわ。ここまで温存してたことも含めて、大したタヌキやでこいつ)


春(……上手く出し抜けた。あとは親を安く落として南場を逃げ切れば……)


優希「そういえば、のどちゃんの転校話で聞きそびれたけど、咲ちゃんが大将戦で勝てるって言うのは本当なのか?」

咲「嘘に決まってるでしょ。あんなの相手に簡単に勝てる人なんか、お姉ちゃんと永水の先鋒さんだけだよ」

照「またそうやって過大評価を……いや、後者は正しいけど」

久「で、勝算はあるのかしら?」

咲「……打ってみないと分かりません」

まこ「展開が読めんほどに底の知れん相手っちゅうことか?」

咲「そういうわけでもないんですけど、不確定要素があって……」

京太郎「それ次第で展開が変わるってことか?」

久「どう変わるのかしら? 照の件で昨日は決勝への対策とか練ってる暇なかったから、詳しく聞かせてもらっていい? なにか対策が出せるかもしれないし」

咲「そうですね……じゃあ、順を追って説明するために大星さんの分析から行きましょう。
彼女の能力は確認されている限り三つ。他家の配牌を悪くする、ダブリーする、天和を和了る。基本的に配牌に絡む能力ですね。発動にも条件があって、多分、弱い方の能力を破ると次の能力が発動する……順番としては、配牌支配を破るとダブリーされます。で、ダブリーを破ると天和が出てきます」

照「『ダブリーを破る』の定義は、ダブリーをさせない、あるいは、槓裏モロ乗りをさせない」

咲「具体的に破る方法は、槓材をツモれないように順番をズラす、槓裏表示牌を槓材と違う牌にする、配牌でダブリー出来ない手を送り込む、三回以上槓して大星さんに槓させない……あたりだね」

京太郎「イカサマなしで人間に実行可能なものが一つもないんだが」

優希「ズラすだけならあるいは……だじぇ」

久「彼女が槓するのは最後の角を超えた巡目。そこで鳴いて四牌ズラせば私なんかでも行けそうね。やると天和が来るからやりたくないけど」

咲「ダブリーかかってる中で先に和了るのはセーフ。だから、私だけなら天和を使わせずに和了ることは可能だよ」

照「……やっぱりそこまで分かってるんだよね? そうすると、私には咲がなんで悩んでるのか分からないのだけど。『どうしても天和を使わせた上で勝ちたい』とかじゃないよね?」

咲「清水谷さんは最善の打牌をするだけで配牌やツモをおかしくさせたりはしないから大丈夫。なんだけど……」

久「清水谷さんと大星さん本人じゃないってことは、永水ね?」

咲「はい……多分、あの人、あれ以外にも能力が使えると思うんですよね。神代さんみたいに」


照「……あ」

咲「まあ、彼女にダブリー対策が出来ないというなら問題ないんですけど。ダブリー対策に使えるような能力があって、実際に対策して来た場合ですね」

久「……咲以外が破って天和を使われた場合でも、天和の被害は三人平等だものね」

咲「いくつか能力がありそうな中で、一昨日は自分に有利な一色独占を使ってましたけど……ダブリー対策で相手を不利にするような能力を使うかもしれません。そうなると、石戸さんがダブリーを破れた場合に天和前提で打たないといけなくて……」


照「……あり得る」


京太郎「なるほど、そりゃ、対策出来るなら永水だって対策しないわけがないからな」

優希「けど、破ると次の能力が出てくるから、あえて対策しないってこともあり得るじょ?」

咲「準決勝とかここまでの色んな人への対策を見る限り、そこまでは見破れないと思うんだよね、永水の人達。追い詰められたから使ったぐらいに思ってるだろうし、だとすると大星さんを抑え込むために何かしてくると思う」

まこ「なるほどのう……」

照「……そうなった場合、どうしようもない」

咲「天和はどうしようもないからね……けど、石戸さんがダブリーを破る前にどうにかするとか、天和前提で64000以上稼ぐとか」

照「そういう問題ではない。あんなものをどうにか出来るわけがない」

咲「天和以外はどうにかなるでしょ? てゆうか、さっきは『なんで咲が悩んでるのか分からない』とか言ってたのに、何を言ってるのお姉ちゃん?」

照「私が言ってるのは大星さんじゃない。石戸さん」

咲「……?」


照「石戸さんが神代さんと同じタイプの能力だった場合……神様っぽい何かの力を借りる能力だった場合……あり得るよね?」


咲「神代さんと同じ……あっ!?」

久「……ちょっと待ちなさい、それは反則でしょ? 照でも10万点差をつけられたのよ? そいつにトップでバトンを渡されたら……」

照「荒川さんと園城寺さんに比べて、他の面子も一段落ちる。サポート要員としては一段どころじゃなく落ちる。だから、どうしようもない」

咲「……そうだとしたら、今から原村さんがどこかを飛ばして終わらせるしかないじゃない!?」


優希「どうしたんだじょ?」

京太郎「……先鋒で永水が使ったアレを、大将戦で石戸さんが使えるかもしれねえってさ」

優希「それは大変だじぇ」

京太郎「台詞から危機感が感じられねえよ」

優希「打つのは私じゃないからな。もし仮にこの試合に負けてのどちゃんが転校したとしても我らの友情は永遠、少しのあいだ離れることになったとしてもプロの世界を目指せばいつかまた会えるはずだじぇ。それに、どうせ咲ちゃんは大げさに騒いでおいて最後にはどうにかするんだじぇ」

京太郎「薄情なのか信頼が厚いのか……」


和「ツモ。面前ツモ・チャンタ・東。2500・4500」

123999m789s東東白白 ツモ:東


春(一瞬で14000詰められた。あと四局、逃げ切れるかどうか……)

誠子(……原村が走るのは放置できないな。守りに入ってる場合じゃない、か)

浩子(つーか、なんでお前はそんなポンポン大物手が入るんや!! せめてチャンタ外せや! 孤立牌切っただけの自然な捨て牌でチャンタになるとかどんなイカサマやねん!)


南一局


浩子(大将戦のことは大将に任せる。うちの仕事は副将戦や)

浩子(……トップが親ッパネ、二位が子で満貫をそれぞれツモって、まあ状況は芳しくない)

浩子(着順で点数がつく個人戦やなく、純粋に収支のみで競うルール。どんな状況だろうと目指すものはトップ)

浩子(つまり、親ッパネの24000差をどうにかして逆転しろって話やな)

浩子(んで、出来たのがこの手)


7899m44567p3456s ツモ:7s


浩子(リーチかけたら出ん面子? 千点の手を二千点にするために千点を供託するのは割に合わん?)

浩子(知るかボケ!! ピンフのみでもリーチ一発ツモ裏裏なら跳満になるんや! 大差で負けとって、そんでも一位を狙う立場やったらリーチかけるに決まっとるやろ!!)

浩子「リーチ!!」

打:9m


春(……原村さんの親番でツモってくれるなら歓迎。チームとしてのトップではなく、今回はこの半荘のトップが目的。当然ベタオリ)

打:西


和(まだ一向聴、当然ベタオリです)

打:3m


誠子(安牌増やせよお前ら……くそ、現物を切るしかないか)

打:3m


怜「二巡後にツモるのにここでリーチするとは、詰めが甘いでフナQ」

セーラ「ツモれるならええやん」

泉「てゆうか、そんなん分かるの園城寺先輩だけですって」

竜華「えー、怜、他人の試合でも一巡先が視えるん?」

雅枝「二巡後って言うとるやろ。一巡先が視えてもそんなん分からん、つまりボケただけや。揃いも揃って空気の読めん奴らやな」

怜「わかりにくかったかもしれんな。ツッコミをフナQのレベルに合わせとるから、フナQがおらんとどうにも滑りやすくて困るわ」


『ツモ、赤5索ツモって裏裏乗ったわ、3000・6000や!』


怜「……は?」

竜華「おー、ホンマに二巡後にツモったで! すごいな怜、他人の試合の二巡先も視えるんやな!!」

セーラ「さすが千里山のエースや!」

泉「けど、これやったら一発ついても変わらなくないですか?」

怜「さっきのはボケただけやって……やるなあフナQ」

雅枝「いくら対策したって、凡人のツキで相手の隙を突けるような手が入るわけないんや。浩子も相当な強運持ち、というか、私の姪なんやから素質があって然るべきや」


南二局


浩子(……まさか赤ツモって裏裏とか……そりゃ、リーチ一発ツモ裏裏がどうのとは言ったけどマジでそうなるとはなあ)

浩子(ま、たまにはこんなことがあってもええか。原村のバカヅキに比べたら、たまに赤ツモって裏二枚乗せるぐらい可愛いもんやろ)

浩子(……ん?)


誠子「……」

23578s167p2479m東 ツモ:東

打:1p


浩子(……んん?)

23456p234678s22m


浩子(落ち着け、落ち着くんや、冷静に考えろ。人和がないからここで和了ると千点、一方、地和の32000のチャンスはまだ10牌残っていて、見えてない122牌のうち、次にツモる牌が和了れる牌である確率は……少なくとも期待値は1000より高いな)

浩子(……地和がツモれなくても、この手ならリーチしてツモれるやろ。上手く行けば一巡目で見逃した1筒で直撃が取れるかもしれん。ダブリー平和ツモでの5200か直撃での3900が八割程度の確率で和了れるとなれば、千点取っとくより明らかに得)

浩子(オーケー、スルーや。スルーして地和を狙う)

浩子(流石にツモれんか……)

浩子「リーチ」

ツモ切り:発


春「……九種九牌」パタ

124m139s赤59p東南北白発 ツモ:4m


浩子「んなっ!?」

浩子(千点の直撃取っとくのが正解やって、しらんわそんなん……って、そうか、滝見の能力があったなそう言えば……好手が流れる可能性は考えるべきやった……それでも期待値的にはスルーが正解やけどな)


春(……ダブリーが流せてしまった。これは誤解が深まりそう)


霞「春ったら、私たちにも隠してたのね。あんなことが出来るなら準決勝でも楽が出来たでしょうに」

巴「敵を騙すにはまず味方から、ですかね。副将が安全に流せるとなると打ち方が緩みそうですし」

初美「私にも教えないとはけしからんですよー!」


霞(……ここまでずっと、私たちにすら教えていなかった力を使ってまで、私に無理させまいとしているのね。これは、どうしたものかしら?)


小蒔「すう……すう……」

衣「くかー……」


霞(小蒔ちゃんや初美ちゃんの頑張りを無駄にもしたくないし……かといって、ここまでしてくれた春の頼みを無下にも出来ないし……困ったわね)


南三局 


誠子(……ここまで何も出来てない。色んなものに振り回されっぱなしだ)

誠子(……けど、今回は形になった。上手く和了れれば……)


1234赤56m赤567s南南中中


春「……」

打:南


誠子「ロン、5200!!」


春「……はい」

ーー

南四局


春(……元々、わずかながら勝算はあった。それがこのオーラス)ピシッ

和(……ん? 何か違和感が……)

誠子(清澄との点差は広げられなかったが、少なくともリードして淡につなげることは出来そうだ)

打:発


春「ポン」

ポン:発発発 打:中


和(これは……?)


怜「滝見の作戦勝ちやな」

セーラ「ん? どういうことや?」

怜「この後半戦のオーラスでは、原村を気にせず能力が使えるんや」

竜華「ん? どういうことなん?」

怜「原村はオカルトに対して強力なカウンターを使って来るけど、それは基本的にカウンターなんよ。最初の一発はちゃんと使える」

泉「あっ……ということは……」

怜「決勝戦の、前後半で二半荘打つうちの後半戦、そのオーラス。次がないこの場面でなら、能力を使って和了ってもカウンターは喰らわん」

雅枝「……なんでそれを浩子に言わんかった?」

怜「フナQにはそもそも使う能力がないやん。亦野と滝見が気付いとらんかったら無駄な知識やし、気付いてるかどうか分かるのはオーラスに入った後、手が進んでからやし、そこからじゃ対応出来んやろ」

竜華「あ、確かに」

怜「安手で高目を潰す、滝見の能力はさほど強力やないし、ここで使われても痛手にはならん。とはいえ、ここで使って和了りやめで逃げ切り確定。うまいことやりおったな」


泉「ん? あれ、ちょっと待って下さい。おかしくないですか?」

怜「なにがや?」

泉「滝見の奴、後半始まってからずっと能力つかってましたよね?」

怜「一度も鳴いとらんのにいつ使ったんや?」

泉「いや、あの、九種九牌とか四風連打とか……まさか、あんだけ続いて偶然とか言わんでしょう?」

怜「……泉、残念なお知らせやけどな、それ偶然なんや」

泉「は、はあああああ!?」

怜「天和だって、純正九連だって、四風連打で半荘一回全部流局することだって、三家和だけで半荘が終わることだって、麻雀にはおこり得るんよ」

雅枝「まずあらへんけど、絶対ないということはない。理論上あり得ることなら、麻雀にはおこり得るっちゅうことやな」

怜「能力として扱ってるけど、実は偶然かもしれん。たまたま麻雀打つ時に千回連続で起家になったとして、それが起家になる能力なのか、偶然そうなっただけか、わからんのや」

泉「いや、千回続いたら能力でしょう!?」

怜「四の千乗分の一の確率で、偶然起こる現象やで?」

泉「小数点の下にゼロがいくつつくと思ってるんですか?」

怜「二の10乗ごとにゼロ三つとして、600個ぐらいか? 書くのが大変そうやな」

泉「いやいや、流石にそれは偶然には起きんでしょう?」

怜「ま、そうやな。だから能力として扱う。けど、千が百なら? あるいは10なら? 5回ぐらいならお前も連続で起家になったことあるやろ?」

泉「そらまあ、ありますけど……今回の滝見はダブリー流したりしてましたやん」

怜「トッププロ三人相手にダブリー1回するまで麻雀打つのと九種九牌が3回来るまで麻雀打つのやったらどっち選ぶ?」

泉「よっぽどの麻雀好きで、打つのがご褒美ってんでもない限り後者ですね……」

怜「確率で言ったらフナQのダブリーの方が異常やろ?」

泉「けど、あれは一回こっきりやし……」

怜「九種九牌三回と四風連打一回ぐらいの間にダブリーの配牌が一回来るか?」

泉「来ませんけど……」

怜「そうやろ? あのダブリーが偶然なら、九種九牌も偶然や」

竜華「まあ、怜が言うなら偶然なんやろ」

セーラ「おかしなことばっか起こる卓やなー」

泉「納得いきません……」

怜「まあ、私も能力やと思いたいんやけど……原村に動きがないから偶然ってことにするしかないやろ。 今までの原村の実績を考えて、確率が高い方を偶然とするなら九種九牌が偶然ってことになる。確率で言えば、小数点の下のゼロの数がいくつか違うぐらいの差があるしな」


和「……」

234m2346s234赤5赤56p ツモ:7s

打:6p


誠子(原村がヤバそうだ……おそらく聴牌、ほうっておけば次にでも和了るかもしれない)

誠子(……滝見に差し込むしかないか。散々振り回されて、最後もしてやられるのは癪だが、それが最善)

打:8m


春「ロン。発のみ、1000点。終了します」


79m北北 チー:345m 789s ポン:発発発 ロン:8m


和「……お疲れ様でした」

浩子「お疲れさん」

誠子「お疲れ様でした」

春「お疲れ様でした」



副将戦前半終了


白糸台  78100(- 7700)
清澄   73500(-  900)
千里山 114000(+ 1100)
永水  134400(+ 7500)

親の九種は流れて一本積むことにしております。

今回はここまで、次回は18日の予定です。

乙です

照の本領が発揮されなかった以上、咲に蹂躙してもらわないとなんか残念に思える。

>>1の全国編のキャラの改造見て照がどんな風になるか楽しみにしてたから余計に

咲の更なる改造を楽しみにしてます(靴下脱いだVer)

多分書き間違いかコピペミスだろうけど副将戦の後半だよねこの試合。

ところで本当に副将戦の前半だった前提で話すけど、前半戦の半荘ラスで能力使われた場合、原村の能力は後半戦の東一局で発動するのかな
春の安手流しは技術であってオカルト能力じゃない説もあるけど

最後の春のあがりって親だから1500じゃない?

>>860
私はむしろ、脱靴下.verより全国編、vs.MAXおっぱいさん、泣き顔可愛い、カタカタさんの咲が最強じゃないか、と
照は持ち上げて残念な結果だったケド、咲無双を考えれば充分お釣はくるはず
>>1には読者さんの期待を、あまり裏切らないで欲しい
ドラゴンボールと言われようが、やはり>>1にも書きたいものもあると思うが、>>1が居て読者が居るのが作品だと思う
まぁ、出来れば>>1には照蹂躙.verを後々、書いて欲しいかなぁ
やっぱり持ち上げてからの、アレはかなり残念過ぎる結果です
何故ならば照は個人戦に出られないから
最強の実力の見せ場が、ちょっと勿体なかった
照→団体戦無双、咲→個人戦無双がbestだったと、今更ながら思っています
酷評はツライだろうが、諦めず書き終えて下さい
頑張れ>>1応援してます

追記
>>1
怜「後半は、荒川と組んでどうにか凌がんとなあ……神代が手伝ってくれればええけど」

怜「無理や。宮永さんがプラマイゼロにしてくれんわ、多分三校まとめて飛ばす勢いで大暴れする。荒川のやつ、余計なことしおってからに……」

怜「あれ、そういう能力やから仕方なくやってたみたいでな。破られると普通に打てるようになるっぽいで」

怜「信じたくないから間違っててほしいって思いが断言を避けさせるんや。あの人の怖さを一番知っとるんは私や、あの人が全力でトップ取りに来るとか考えたくもないわ」

怜「『勝つ』算段なんか最初っからあらへん。どんぐらいのマイナスで抑えるかやけど……荒川と神代が包囲網に加わってくれたとして、マイナス50000で済めば御の字」

怜「あの人は全国二位の辻垣内智葉を相手に半荘一回で10万削る化けもんやで? マイナス50000でも楽観的に見とるつもりや」

怜「一番可能性が高いのは、昨日の準決勝の再現やな。ただし、今回はあの人が最初から最後まで和了り続ける」

怜「せやから何とかしたい。神代も荒川もおるし、私だって宮永さん以外なら誰が相手でもそうそう負けへん。三対一なら半荘一回ぐらいはなんとかなる……と思いたいな」

↑これが照無双の理由かな
強化.ver怜にここまで言わせた科白が、ちょっと台無しになった感じでした

他にも理由があるとするならば、最強照vsエロナースの闘牌が見たかったから

>>865 前にもやらかしたのと同じコピペ後の修正忘れです。ありがとうございます。
>>867 やらかした……その通りです。ありがとうございます。直してきます。

当スレでは、九種九牌は第一ツモの時点で宣言するルールです。
チョンボは流れず罰符払って同じ局から再開……のつもりですけど、どっかでやらかしてるかもしれません。

で、予想より書いてる時間がなくて今回短いです。待たせた挙句文量少なめになって申し訳ありませんが、ご容赦ください。


>>857訂正


副将戦後半終了


白糸台  77600(- 8200)
清澄   73500(-  900)
千里山 114000(+ 1100)
永水  134900(+ 8000)


和(少なくとも白糸台との差は詰めました、咲さんならあとはなんとか……)

ガチャ


咲「ヤダヤダヤダ!! 無理、絶対無理、勝てるはずないじゃん!!」

照「大丈夫大丈夫、最悪でもトビで終わるだけだから。あ、ここから飛べばトータルマイナスでお揃いだよ咲」

咲「こんな姉と一緒になりたくないいいいいい!!!」

久「姉妹揃って同じ相手に負けてマイナスとか、仲良しね」

咲「いやあああああ!!!」


和「えっと……状況が把握できないのですが?」

優希「あ、のどちゃんお疲れさまだじぇ」

京太郎「お疲れさん、あれは気にするな。いつもの大げさ騒ぎだ、多分」

まこ「いや、話が本当なら今回はマジでやばいと思うんじゃが……」


和「……」


久「あ、おかえり和。お疲れ様」

和「はい……ところで、あの……」

久「ん~……聞きたい?」

和「当たり前です」

久「……先鋒の後半で神代さんが使った能力、覚えてる?」

和「……まさか」

久「石戸さんも、アレを使えるかもしれないって話になってね。照でも勝てないんだから、石戸さんが本当にあれを使えたら、その時はどうしようもないと思うわ。最悪なことに永水がトップだしね」

和「え? あ、あの……それは……」

久「とはいえ、使えるならなんで準決勝で使わなかったのかって疑問もあるわよね?」

照「……む? 確かに」

咲「……あれについては対策しても無駄ですからね。対策が無駄なら研究されても関係ないですし、それなら毎回使えばいいはず……」

まこ「バカ騒ぎしながら、なんか対策でも考えついたんかの?」

久「対策というか、あれが出て来たらなにしても無駄だから、出てこないんじゃないかってことにして気持ちを落ち着かせようと色々考えたのよね」

京太郎「出て来たら勝てないってのは確定なんですか?」

咲「お姉ちゃんとあの二人が三対一で打ってボロ負けするような相手には、誰が何やっても勝てないと思うよ。世界ランク一位から三位を揃えても勝てないんじゃないかな?」

京太郎「なんでそんな化け物が高校生の試合に出て来てるんだよ……」

照・咲「それはこっちが聞きたい」


和「で、石戸さんが準決勝でアレを使わなかった理由はなんですか?」

久「ま、一番単純で一番心安らぐのは『使えないから使わなかった』ね」

咲「……だといいんですけど」

久「神代さんはいくつかの能力を順番に使うんでしょう? つまり、任意にあの能力を使えるわけじゃない。けど、石戸さんは任意に能力を選べるわよね?」

咲「あの感じだと、多分選べると思います。私も任意に選べる前提で石戸さんを警戒してましたし」

久「任意にアレを使うようなチートが許されると思う?」

咲「断じて否ですね」

久「だとすれば、使えないか、使うと大きな代償を払うって感じなんじゃないかしら?」

照「そうであってほしいところ」

まこ「なるほどのう……確かに、準決勝は負けてもおかしくない展開じゃったから、それで使わんのもおかしな話じゃ。使えんっちゅうのはありそうじゃな」

久「でしょう?」

和「……つまり、大丈夫ということでしょうか?」

照「使えること前提で可能性を考えるなら、強い能力は使うのに厳しい条件があるのかもしれない。準決勝で使わなかったのは、既に別の能力を使っていたり、それ以外で何か必要な条件が満たせていなかったとか」

咲「……だとしたら、条件を満たさせないようにしなきゃいけないね。条件が分からないから、それも探りながら」

久「探りながらって……能力を発動される前に条件が分かるの?」

咲「……頑張ればなんとか」

優希「人のこと言えない程度には咲ちゃんもおかしいじょ……」

照「そうでもない。例えば、発動の条件が『風牌を鳴く』とかなら、それを狙った打ち方をするから、咲なら2~3局打てば一度も発動されなくてもそれがなんらかの能力の条件であることを見抜ける」

久「……それが出来るだけでも十分おかしいと思うのだけど。私から見てもおかしいわよ?」

和「発動してない能力の条件を察知出来る時点でおかしいですが、それも照さんなら一局で見抜けるわけですよね?」

照「また持ち上げようとしてる気配がするから先に釘を刺しておくけど、咲は自分で和了りながらでも見抜けるけど、私は一局完全に捨てるからね?」

咲「それは、照魔鏡を使わなければお姉ちゃんも出来るでしょ。選択肢がある分有利だよね」

京太郎「部長、こいつや照さんがおかしいのは、今まで一緒に試合を見て来て十分わかってるでしょう? 今更ですよ」

咲「むー……四人の手牌が見えてる観戦中と、自分の手牌しか見えない実戦は全然違うんだよ?」

照「そうそう」

和「……それ、実戦で出来るお二人がおかしいと強調してるだけでは?」

咲・照「……あ」



『大将戦を開始します、選手は対局室に集合してください』


咲「あっ!? もうこんな時間!?」

京太郎「やべっ!? 咲、トイレ大丈夫か!?」

咲「う、うん……」

京太郎「よしっ、じゃあ急ぐぞ!!」

咲「う、うんっ!」


ドタドタ……バタン


和「……あんな調子で大丈夫でしょうか?」

優希「のどちゃんがいつになく不安げだじぇ」

久「……そういえば、和の隠し事は何かしら?」

和「え?」

まこ「後で話すっちゅうて結局まだ聞いちょらんけえのう」

和「そ、それは咲さんが戻ってから……須賀君や咲さんがいない場で話すというのも気が引けますし……」

久「ま、それもそうか。話す方は二度手間だしね」

和「は、はい……」



誠子「ただいま」

憩「おかえりー」

尭深「お疲れ様……」

誠子「大星はまだ寝てるんですか?」

菫「そうだな、そろそろ起こすか。おい、起きろ大星」ユサユサ

淡「ん~……はっ!? おはよー! 出番? ついに淡ちゃんの出番!?」

監督「ええ、出番よ。しっかりね」

淡「はーい!!」


憩「……ん?」

誠子「……おいおい……」

尭深「いつもの淡ちゃんだね……」


淡「寝癖とかついてないかなー?」

監督「心なしか髪の毛がウネウネしてるような気がするわね」

淡「あわわわわ……寝癖なおさないと……」


菫「なあ、憩……」

憩「落ち着いて下さい菫さん、イレギュラーやからこそ冷静に、不可避の負傷でも、その傷を可能な限り浅く済ませるのが技術ってもんです」

誠子「確認するが、宮永にぶつける予定だったのは冷たい方だよな?」

憩「当たり前やろ」

尭深「……淡ちゃんを冷たくするための方法ってどうなってたっけ?」

憩「……あ」

菫「……いつも、なる時は勝手に冷たい方になってたからな」

憩「……必要条件は、うちとか監督みたいな同格以上の相手と打つこと。十分条件はなし、ですね」

誠子「つまり……」

尭深「確実に淡ちゃんを冷たい方にする方法はない……?」

憩「……(頷く)」

菫「……さて、どうしたものか」


淡「監督ー、変なとこないー?」

監督「ばっちり決まってるわよ」

淡「よしっ! じゃあ行ってきまーす!!」


バタン


菫「……素の大星のまま行ってしまったわけだが」

憩「落ち着きましょう、状況はそこまで変わりません。たとえ冷たいほうでなくても、淡ちゃんなら妹さん以外はどうにかしてくれるはずです」

誠子「そ、そうだな……なんだかんだで憩以外は素でも淡に勝てないからな」

憩「他家を5向聴以下にする絶対安全圏……これに関しては冷たい時の強化版と比べて、牌種とかの縛りが無くなる分柔軟になります。石戸さんの一色支配に対しては、むしろ有効……本気出した時のダブリーは健在ですし、今回の相手なら素のままの方が上手く立ち回れるかもしれません」


監督「ん? 何の話?」

尭深「淡ちゃんが冷たい方じゃなかったっていう話です」

監督「あっ!? ……由々しき事態ね」

菫(……これは役に立たなそうだから放っておこう)

憩「となると、やはり妹さんがどう出るか……派手に暴れてくれて三対一になれば、一番点数が少ないうちが清澄を止める役をもらえるはずや。千里山と永水は互いにサポートしたくないはずやしな」

誠子「……上手くそうなったとして、三対一であいつを止められるか?」

憩「……誠子ちゃん、そういうセリフは思っても黙ってて欲しかったんやけど」

菫「やはり、厳しいか……?」

尭深「け、けど淡ちゃんなら……ほら、試してなかったけど、もしかしたら冷たくなくても天和が使えるかもしれないし」

憩「……はっ!? 確かに……今すぐ淡ちゃんを連れ戻して時間ギリギリまで検証せな……」

菫「渋谷、憩に変な情報を吹き込むな。そして、もう時間だから諦めろ憩」

憩「いーえ! 今から追いかけて対局室前でギリギリまで検証します!! ほな!!」


バタン


菫「……牌も持たずに行って、なにを検証する気なんだあいつは?」

誠子「あはは……まあ、ああいうとこもあるから憎めないわけで」

尭深「飛びぬけて強い人ってどこか抜けてるよね。神代さんとかも」

監督「そんなことないでしょ? 私とかしっかりしてるし、デキる女って感じだし」

菫「……立ったまま寝てる大人がいるな?」

誠子「これの娘だと、清澄の二人も期待薄ですよね」

尭深「仮説が補強されたね」


春「……勝った」

霞「お疲れ様、春」

春「というわけで、霞さん……」

霞「そのことなんだけど……やっぱり小蒔ちゃんや初美ちゃんの頑張りを無駄にしたくないし……」

春「……」ゴゴゴ

霞「あ、あの……ちょっと無茶しようかな、なんて……」ビクッ

春「……ちょっとというのは、どのぐらい?」

霞「え、えっと……そ、そうね……その……」

春「姫様達の頑張りを無駄にしたくないと言うのは分かるけど、せめて後半のオーラスだけとか、10万差がついたらとか、制限ぐらいは設けてもらえないと、私の頑張りが無駄になる」

霞「え、えっと……」


衣「……ハルとカスミは何の話をしているんだ?」

小蒔「さあ……春はたまに難しいことを言うので……」

初美「はるるにしては珍しくグイグイ行きますねー」

巴「え、えっと……なんか雰囲気悪いし、止めた方がいいかな?」


霞「わ、わかったわ、なら……「トップから陥落したら降ろす」というのはどうかしら?」

春「……苦しいからと言って、わざと陥落して神様に頼るような真似をしないなら」

霞(あ、あら? 案外すんなり受け入れるのね? もっと厳しい条件を求めて粘られると思ったのだけど……)

春「霞さん……まさか、私が作ったリードをわざと捨てる気じゃ……?」

霞「い、いえ、もちろんよ、全力でトップを守るわ! 春が広げてくれたリードだもの、当然でしょう!?」

春「……なら、いい」


怜「ふむ、名残惜しいが、時間やな」

竜華「チャージ終了やな。ふとももに怜を感じるで」

浩子「つーか、さっきの小芝居とか思いっきり膝枕やめてましたよね? 良かったんですか?」

竜華「あ、確かに」

雅枝「浩子を元気づけるほうが優先っちゅうことやろ。なあ、園城寺?」

怜「いえ、単にとっくにチャージが完了しとるだけですわ。いくら竜華のふとももがむっちむちでも貯められるエネルギーには限界がありますよって」

セーラ「五回分が限界とか言っとったな、そういえば」

浩子「そんなことやろうとは思いましたけど……」

竜華「へ? チャージ終わっとったん?」

怜「ぶっちゃけると昨日の時点でフルチャージやったな」

雅枝「おいこら」

竜華「……それやったら、怜が進化した分うちの能力が強くなっとるか試したかったんやけど」


怜「……せやな」


浩子「せやな、とちゃいますわ。なにしとるんですか園城寺先輩!?」

怜「ふっ……私もまだまだってことやな。チームを導く器には程遠い……フナQや小走さんの領域には到底及ばんわ」

セーラ「怜……そんなことない、怜はエースとしてチームを引っ張って……」

雅枝「三文芝居で誤魔化せると思うなよ?」

怜「すんませんでした」

セーラ「いやー、竜華が進化しとる可能性には気付かんかったなー」


怜「けどほらまあ、どうせ怜ちゃんが説明するんやろ? なんとかなるなる」

泉「……清水谷先輩、チュートリアルでも一回分消費させられたとか愚痴ってませんでしたっけ?」

竜華「あ、そうや、説明の時にも一回分使ってまうんよ……ちょっともったいないなー」

雅枝「……さて、園城寺?」


セーラ「怜、準備はいいか?」

怜「すまんなセーラ、私の不始末に付き合わせて……」

セーラ「気にすんな、俺ら親友やろ?」

怜「……おおきに……3、2」

セーラ「……1、逃げるで!!」

怜「おうよ!!」


ダダダダッ


浩子「はあ……めんどいんで追っかけませんけど……」

泉「あんなんでも北大阪の二位と三位なんですよね……」

雅枝「仕方のない奴らやな。逃げても仕置きが先に延びるだけやっちゅうのに」

竜華「あはは……」

浩子「ま、園城寺先輩もおらんし、うちが授けられる策もありません。ここに居ても仕方ないんで、早めに会場に行って集中を高めたらええんと違いますか」

泉「え? 時間までゆっくりしたほうがええと思いますけど……」

雅枝「浩子の言う通りやな。はよ行って来い。うちらは休憩中のネタの仕込みもあるからな」

竜華「ん~、まあ、監督とフナQが言うならそうなんやろな。ほな、勝って帰って来ますんで!」

浩子「期待してます」

泉「頑張って下さい!!」

雅枝「悔いが残らんようにな、ここまで来たならどんな結果でも十分誇れるもんや。やりたいこと、出来ること、全部出し切って来い!」


竜華「はいっ!」


恒子「いやあ……青春だねえ……」

健夜「若いって良いよねえ……」

恒子「さあ、自らの老いを認めた小鍛治プロですが、若者たちは文字通り若い!! 永水以外の大将は会場に向かう通路でチームメイトの激励を受けているぞー!!」

健夜「千里山は三年生二人が声をかけてるみたいだね。この三人は中学時代からのチームメイトだそうです」

恒子「ということは、六年越しの誓い的な熱いものがあるのかー!? これこそ青春だあああ!!!」

健夜「ところで、園城寺さんたちは先に通路で待ってたよね。チームメイトなんだから一緒の部屋に居たはずだけど……」

恒子「最後の戦場に向かう途中で合流みたいな展開の方が燃えない?」

健夜「いや、燃える燃えないの話じゃなく、先に部屋を出て待ってるのってちょっと違和感あるなって話で……」

恒子「つまり、清澄のあの子らみたいに手を繋いで出て来いってこと!?」

健夜「うぐっ!? 精神にダメージ入るからあの子達のことは忘れさせて!!」

恒子「二人は中学からの同級生、ここまで全ての試合で、宮永咲選手にはマネージャーの彼が付き添っているぞー!!」

健夜「身長高いし、モニターだとよく見えないけど顔も悪くなさそうだよね……青春だよね」

恒子「姉は親友と連れ添い、妹は彼氏連れ、宮永姉妹のリア充っぷりに小鍛治プロの嫉妬の炎が燃え上がる―!」

健夜「割と本気で羨ましいよ……もう白糸台のほうに話を移そうよ」

恒子「対局室の入り口で立ちすくむ後輩、それを追いかけて駆け寄って来たエース。背中を押す最後の言葉はどんなのだー!?」

健夜「なんとなく、石戸さんを応援したい気分になってきたね」

恒子「解説が一校を贔屓すると高らかに宣言――!! 小鍛治プロの職業倫理はどうなってるのかー!?」

健夜「あなたにだけは言われたくないよ!! ああもう! さっさと対局室入って試合始めてよぉおおおお!!!」

恒子「さあ、いよいよ! もうすぐ!! 大将戦が始まるぞおおおお!!」

今回はここまでです。思ったよりも忙しくて時間が取れませんでした、ごめんなさい。

次回は一週間後、25日の水曜日を予定しております。


久「で、石戸さんは実際どうなの?」

照「……アレは、私の全力より危ない。自分の力ならともかく、借り物だとすると……」

久「石戸さんには使いこなせないってわけね?」

照「使いこなすことは出来る、というか、使うのではなく使われる感じだろうね。神代さんもそうだったし」

久「えっと……つまり、使えるの使えないの?」


照「……私と天江さんと咲が、真後ろで、全力でゴゴゴゴしながら、染谷さんとか片岡さんに次に切る牌を指示するような感じ。指示に従って麻雀を打つことは可能だけど……」


まこ「半荘終わるまでに心臓麻痺でお陀仏じゃな」

優希「一局も持たずに逃げ出す自信があるじぇ」

和「私は別にかまいませんが……」


久「それは私でもちょっとキツイわね。石戸さんは大丈夫なのかしら?」

照「原村さんみたいに鈍ければ大丈夫かもしれないけど、彼女はそうじゃないだろうから、大丈夫なはずがない。だから、使ってくるはずはないと思うけど……万が一がある」

久「試合中に倒れたら大会どころじゃないけれど、どうしても優勝しなきゃいけないって事情でもあれば万一はあると。なるほどね」

和「どうしても優勝しなければならない事情……心当たりがあるだけに否定できませんね」

照「本人もあれを使ったら自分の身体が持たないことは分かってると思うから、最初から使ってくるということはないはず。どこまで追い詰められたら使う気なのかを見極めて、使わせないように立ち回るのが大事」

和「え? ということは、さっきの会話は計算ずくだったんですか? 発動条件を意識させて送り出しましたよね?」

照「え? ……と、当然計算している。姉として妹のサポートは義務」

久「……後付けね。この子がそんな器用なはずないでしょ」

まこ「じゃろうな」


初美「で、霞ちゃんと何を話していたんですかー?」


春「……」ポリ

春「……」ポリ

春「……」ポリ


巴「あ、考え込んだ」

初美「……これは暗号を解読させられるパターンですよー」

衣「暗号? どういうことだ?」


春「……頑張った」ポリ


衣「うにゃっ!? 黒糖を食べながら考え込んだと思ったら、ようやく喋ったのが一言だけ!?」

初美「はるるー……私は霞ちゃんと何を話していたかを聞いたんですよー?」

巴「……春は口下手だから」

初美「いつものことですが、口下手ってレベルじゃないですよー!」

衣「うむ……智紀でももう少し喋ってくれるぞ……というか、さっきはもっと喋っていた」

小蒔「おそらく色々と説明しようとして要約しすぎてしまっているので、なんとか要約から読み取らないと……」

衣「……なるほど、暗号とはそういう」


春「説明は、苦手……」


起家 淡「よろしくー」

南家 咲「よろしくお願いします」

西家 竜華「よろしく」

北家 霞「よろしくお願いします」


東一局


咲(……あれ? 大星さんが、準決勝の時と違う? あれは様子見で今回は本気? それとも、あれが全力だけど能力の発動条件を満たせなかったのかな?)

咲(……清水谷さんも、勝算があるって顔だね。なにかしてくるつもりなのかな?)

咲(石戸さんは……今は普通に打ってるだけだね。このメンバーなら全力で打たないと簡単に追いつかれることぐらいは分かってるはずだけど、お姉ちゃんが言ってた通り、彼女にも神代さんが使ったアレが使えて、その条件を満たすために今は抑えてるのかもしれない……)

咲(……厳しいなあ……全員が全員、予想と違う出方をして来てるし、そもそもトップで回ってくると思ってたらなんでか知らないけど最下位だし……)

咲(……一つずつ、見極めていこう。半荘は二回あるんだし、焦る必要はない)

咲(で、配牌は……)


146s256m149p東東西北


咲(……大星さんの能力、けど、これは準決勝よりマシかな? 配牌5向聴にするだけで、高目を狙える配牌は来る)

淡「最初から飛ばして行くよー! ダブリー!!」

打:1s


咲(……嶺上牌は3索で、槓材は南……かな。振り込むことはなさそうだね)

ツモ:東 打:西


照「ん?」

久「あら、配牌が割とまともね」

和「あの、全然まともじゃないんですが……」

まこ「十三不塔が成立しとるような配牌よりマシじゃろ。準決の大星の能力より大分マシじゃ」

優希「基準がおかしいじょ……」

久「で、どうなってんの照?」

照「多分、準決勝の方が本気……というか、絶好調モードで、今回はそれになれなかったんだね。咲にとっては楽な展開なはず」

和「楽、ですか……」

照「準決勝の大星さんは、なんていうか、機械みたいな感じだったから、人によってはこっちの方が厄介かもしれないけど。咲にとっては楽だと思う」


バタン


京太郎「戻りましたー」


久「あら、旦那様のおかえりね」

照「妹はやらん、やらんぞ!!」ガルルルル

和「全国放送で咲さんと手を繋いでるのをバッチリ映された須賀君、おかえりなさい」

優希「おい! 京太郎、あれはどういうことだじぇ!?」


京太郎「……はい?」


優希「咲ちゃんと手を繋いでたのはどういうことだと聞いている!!」


京太郎「いや、あいつトロいから、急いでる時は手を繋がないとすぐはぐれるんだよ。今回は時間ギリギリだったから急いだだろ? 他も遅れてたから会場の前では余裕があったけど……」

久「でしょうね。照が相手なら私もそうするわ」

まこ「どうせそんなこったろうと思ったわい」


竜華「リーチ」

打:4s


霞(……リーチ? 大星さんがダブリーをしている中でも面前で聴牌に出来るの?)

打:6p


淡(あと二巡……大丈夫、あんなリーチただの悪あがきに決まって……)

打:2s


竜華「ロン、リーチ一発、2600」

13789s222567p白白 ロン:2s


淡「……へ?」

咲(清水谷さん……まさか、最初から? 回数制限があるはずじゃ……?)


竜華「さあ、次いくでー」


咲(……なるほど、甘く見てたかな。これ、思った以上に大変かもしれない)


『ツモ、500、1000や!』


セーラ「飛ばしてんなー」

怜「まあ、そういう作戦やからな」

浩子「……うち、聞いとらんのですけど? 気い利かせて三人だけの場を用意したんやから、教えてくれてもええでしょう?」

怜「フナQなら空気読んでくれると思ったで」

浩子「世辞はええんで、作戦の内容をですね」

雅枝「……作戦っちゅうことは、能力の進化とは関係ないんやろ? てことは、ブラフか」

怜「ご明察。まあ、それとは関係なく東一局は使いどころですけど」

浩子「……なるほど、自分を大きく見せるっちゅうことですか。実際、宮永は清水谷先輩の能力じゃ止められんのは二回戦で証明済みですし、せめて警戒させて他に任せようと」

セーラ「監督とフナQは流石やな。俺と竜華は説明されんと分からんかったで」

泉「……同じく説明されんと分からんので説明してほしいんですけど……」

怜「……んじゃ、説明するか。まず、私たちが竜華に授けた作戦は、能力が進化しとる可能性を一切考慮しとらん。確認されとる能力のままって前提や。そんなもん織り込んで作戦立てられたら神様かなんかやからな」

セーラ「もし能力が進化しててこの作戦より有効に使えそうなら、作戦は無視してええって伝えてあるで」

泉「ふむふむ……」

怜「で、前半東一局……ここは大抵の場合、全国区のエース連中は様子見する。妹さんと大星も例に漏れずや。だから、ここで使えば空振りに終わる可能性はほぼない」

浩子「回数制限のある能力です。潰される可能性がある以上、有効に使えるとわかっとる場面では使っておきたいですね」

怜「で、東二局で使った理由。これは、無制限に使えるのかもしれんって思わせるためのブラフ」

雅枝「二連続で使われたら、少なくとも回数制限はかなり緩いと思われるやろな」

怜「それが狙いですわ。で、親番は流させて、東四局でも使います」

浩子「……は? 全部で6回しか使えんのに、前半の東場で三回使うってことですか?」

怜「そう。そしたら、大星か宮永が本気出してくるやろ。南場以降の竜華はそれに止められてもうた風を装う」

浩子「……宮永や大星なら止められる以上、簡単に止められる清水谷先輩よりそっちを警戒する。東場で上手いこと稼ぎながら、警戒の対象は他になるんやな」

雅枝「……親番では、使わんのか?」

怜「そもそも、回数制限のある能力を親番で使うっちゅうのが筋が悪い考えでして」

泉「へ? 回数制限があるんやから有利な親番で使うのがええんじゃ……?」

怜「そしたら連荘するやろ?」

泉「……それの何が問題なんですか? ええことやないですか?」

怜「泉……8分の5と、26分の15、どっちが大きい? ちなみに、5×3は15で、8×3は24やで」

雅枝「……なるほど。親番で点数が五割増しになることを考えても、分母が増えるぶんだけ損なんか」

怜「点数で見てもそうですし、局数で見たらもっと顕著です。8分の5と13分の5ですから。実力だけで勝負せなあかん局が3局から8局に増える。2万点のリードで3局逃げるのと、その五割増しの3万点のリードで8局逃げるのと、相手が格上ならどっちが勝ちやすいと思います?」

泉「えっと……まあ、普通に考えて2万点で3局逃げる方が楽ですね」

怜「てなわけで、竜華の能力を使うなら基本的に子でっちゅうのが、小走さんの考えです。ただ、小走さんには言わんかったけどあれは配牌見てから使えるんで、親で高得点が期待できるならそれは別ですが」

セーラ「って、またあいつか!? 怜が考えたんと違うんか?」

怜「受け売りですまんな」


南一局 ドラ:2s


咲「……」

淡(なんで……なんで和了れないの!? 絶対安全圏も機能してる、ダブリーも出来てる、なのに一度も和了れない……なんなのこれ? ケイが相手でもこんなことないのに!!)

打:1p


咲「それ、ロン」

淡「ううっ……なんで和了れないの……?」

咲「……16000」

淡「……は?」

咲「……」パタン


23p123s11223399m ロン:1p


淡「な、なんで配牌で5向聴以下のはずなのにそんな手が出来て……」


憩「……淡ちゃんでも、ここまで差があるんか」

尭深「……山からツモってるとは思えないような進み方だったね。表になってる牌のなかから自由に選んだみたいなツモだった」

誠子「東一局からずっとそうだけど、『次にどの牌が欲しい?』って聞かれて普通の人間が『これ』って答えるような牌だけしかツモってないよな、あいつ」

菫「……というか、こいつら、ダブリーが怖くないのか? 東三局の石戸はまだしも、清水谷といい宮永といい、初牌ばかり切っているが」

監督「……清水谷さんも咲も、振り込まない自信があるはずよ。むしろ、ダブリーが狙い撃ちされてるわね。相手が相手だし、力押しは通じないわ」

憩「……5向聴から和了るまで、最低6巡。普通なら10巡以上、ダブリーを警戒すればもっと遅くなる……けど、妹さんなら最速の6巡で和了れる」

尭深「憩ちゃんでもそんなに早くはないよね。あの速度は異常だよ」

誠子「まあ、予想以上とはいえ妹さんが強いのは分かってたことだ。それより、清水谷や石戸が和了れているのが気になるな」

尭深「あ、『妹さん』って呼ぶんだ?」

誠子「……憩がそう呼んでるから、つい」

菫「『宮永』だといちいち反応する者がいるから、この際それで統一するか。姉の方とも混同しないし」

憩「……清水谷さんのは、二回戦で妙な手順で和了ってたアレでしょうね。配牌が悪いだけなら、その後の打ち方でどうにかするあの能力を使えばなんとかなります」

尭深「……じゃあ、石戸さんは?」

憩「妹さんがサポートしとったな。淡ちゃん相手に、他家を和了らせるだの、倍満の直撃だの、やりたい放題や」

誠子「……さっきの「ここまで差があるんか」っていうのは、それ込みだったのか?」

憩「そうやで。完全に手玉に取られとる、やっぱり冷たい方に出てもらわんと、妹さん相手じゃ話にならん」

菫「やはり、分が悪いということか」

憩「にしても、清水谷さん、飛ばして来るなあ……回数制限があると見込んでたんやけど、もう三回使って……いや、今回は妹さんが本気だったみたいやし、それで潰されたとするなら四回、下手すると東三局も使っとってここまで全部使っとるのかもしれん。回数制限を伸ばして来たか、あるいは無制限になったか……そう思わせる作戦かもしれんけど、気前よく使い過ぎやろ」


南二局


淡(……ふざけないでよ)ゴゴゴ

淡(私が、本気でやって、手も足も出ない? そんな相手、居るはずない!!)

淡(さっきまでのは調子が悪かっただけだもん!! 今度は本当に本気!!)

淡「……ダブリー!!」ゴゴゴゴゴ

35789s123777p発発


咲「……」

竜華(……うわ、キッツいなー……麻雀せえや。これ、プレッシャーで相手を威圧するゲームとちゃうで?)


淡「槓」

暗槓:7777p 槓ドラ:西 嶺上牌:4s


淡「ツモ。3000・6000」


竜華(……裏ドラめくれや。って、声出すのもキツいわ……誰か言ってやって……)

咲「……裏ドラ、めくってないけど?」

竜華(こいつもこいつで平然としとるしなあ……)

淡「めくらなくても分かるから」

竜華(見なくても分かるってなんやねん!? 分かるかボケ!!)

咲「……今回はちゃんと乗ってるけど、一応めくって」

竜華(って、お前も見なくてもわかんのかい!?)

淡「はーい」コロン

竜華(6筒……まあ、乗るとは聞いとったけど……宮永でも止められんのか?)


南三局


竜華(配牌は相変わらずグダグダ……回数制限のある能力を親番で使うのもなあ……)

霞(……宮永さんに和了らされた一局以外、何も出来てないわね。かといって、春との約束も破れないし、他のモノを降ろしてもおそらく通用しない……仕方ないわね、今は固く打って耐えましょう)

淡「まだまだ行くよー! ダブリー!!」

45679p234m西西西発白 ツモ:発  

打:白


咲「……」


憩「……つーか、リー棒だけでも結構な出費やなあ」

尭深「毎回リーチして、和了ったのがさっきの一回だけだからね。5000点かあ……」

誠子「けど、本気出したさっきの一局では和了れたわけだし……」

憩「それなんやけど……嫌な感じがするんよ」

監督「あら、勘がいいわね。お察しの通り、罠よ。いえ、餌と言った方が良いかしら?」

菫「餌……? まさか……」

監督「ダブリーを狙い撃ち出来るのは南一局で証明済み。他家を抑える意味でも、直撃を確実に取る意味でも、淡にはダブリーをし続けてもらう方が都合がいい……なにかおかしいかしら?」

憩「……さっきのは、和了れたんじゃなく、和了らせてもらっただけっちゅうことですか?」

尭深「そんな……跳満の親かぶりをなんのためらいもなく喰らってみせるっていうんですか?」

監督「通用しない武器には、通用するという希望を。有効な武器には、効かないかもしれないという疑念を……あの子はそうやって卓上の全てをコントロールする。駆け引きをさせたらあの子の右に出る者はいないわ。もっとも、あの子が駆け引きをする必要がある相手なんて滅多にいないけどね」

菫「……」


咲「ツモ。2000・4000」

123456789m34赤55s ツモ:2s


淡「……え?」

咲「……」

竜華(……大星のプレッシャーはさっきと同等……その中で和了れるっちゅうことは……さっきのは和了らせただけ? 何のために?)

竜華(……まさか、うちが能力を使っとるかどうかを見極めるため? だとしたら、ブラフは見抜かれたっちゅうことか?)


南四局


竜華(使ってないことがバレたなら、つまり、使いどころってことや。使ってないと思って油断したところで使う。回数制限があるからこそ、効果的な場面で惜しみなく使う。回数制限があることまで見抜かれたとして、その回数はバレとらんのや。ここでもう一度使うことで、また警戒させることが出来るはず……)

淡(…南二局では通じたはず。なら、今のはまた油断してどこかで手を抜いてたに決まってる! 私が勝てないなんてあるはずない!!)

霞(……嫌な感じね。親だけど、この面子に素の実力でまともに渡り合えるはずもなし。差し込みも視野にいれて打ちましょう)

咲「……」


照「この半荘はもらった」

久「あら? 言い切るのね」

照「多分、石戸さんはトップでいる間は例の力が使えないんだと思う。だから、今ぐらいの点数状況なら咲は石戸さんを気にせず思いっきり暴れられる」

久「……まあ、照がそれを看破したなら、咲も看破出来てる可能性が高いわね」

照「大星さんでは、咲は止められない」

和「南一局の倍満直撃や先ほどの南三局で証明されていますね」

照「清水谷さんも同様」

京太郎「二回戦で証明済みですね」

照「つまり、今のあの卓に、咲の障害たり得るものはない」

まこ「ということは……」

優希「……咲ちゃんの手が凄いことになってるじょ」


『槓』


京太郎「混一色、三暗刻、嶺上開花、ツモ、中……倍満になった……っておい!? 何やってんだお前!?」


『もいっこ、槓』


和「……照さんみたいに槓ドラでも乗せるんでしょうか?」

照「違うね、それなら一枚めくった時点でモロ乗りさせるはずだし、咲って槓ドラ滅多に使わないし……あと、石戸さんが親だから役満は流石にまずい」

まこ「……槓ドラじゃないなら、何をねらっとるんじゃ?」


『もいっこ、槓』


照「三槓子……と」

久「三槓子じゃ10翻で倍満のまま……なら、当然、嶺上牌は……」


咲「ツモ」

5678p 暗槓:中中中中 3333p 4444p ツモ:赤5p


咲「嶺上開花、面前ツモ、混一色、三暗刻、三槓子、中、ドラ1」


咲「6000、12000です」


淡「う、うそ……なんで……こんな……」

竜華(……おい、怜、これ洒落にならんで。怜ちゃんの能力な、和了れん場合でも失点が最小になるように道を示してくれるように進化しててな……つまり、使ってなかったら、これ、役満やったんちゃうかって……)

霞(……これは、後半が始まったら早々に降ろす羽目になりそうね。身体が持てばいいのだけど……)



大将戦前半終了

白糸台  52500(-25100)
清澄  116500(+42000)
千里山 105600(- 8400)
永水  126400(- 8500)


『圧倒的――!! 南場に入ってから大物手を連発、最下位から一気に二位へ、トップも射程圏に捉えたぞ――!!』

『宮永咲選手は、昨年度MVPの天江選手を県予選で下したのをはじめとして、出場したすべての試合で大差での勝利という結果を残しています。最下位からでも安心してバトンを渡せる選手が最後に控えているというのは副将までの各選手にとって精神的に大きいですが、最下位で託された側も、プレッシャーに負けずにしっかりと期待に応えていますね』

『なにそれ!? 全試合で圧勝とかマジで?』

『打ち合わせの時の資料に書いてあったでしょ……コホン、彼女に出番が回る前に竹井選手などが試合を終わらせることが多くて出場機会が極端に少なくなっていますが、彼女も、他校であればどこに行ってもエースを務められる選手だと思います』

『ここに来て清澄が隠し玉を出して来た――!! どこからそんな戦力を持ってきたんだ――!?』

『いや、隠し玉っていうか、予選が終わった時点では清澄の中で原村選手の次に注目されてたのが宮永咲選手で……』

『このまま清澄が初出場で優勝をかっさらうのか!? それとも名門とシードの三校が意地を見せるのか!? 私は断然清澄を推すぞおおおおお!! 初出場の無名校が優勝とかめっちゃ燃えるうううううう!!!』

『アナウンサーが特定の高校に肩入れしちゃダメ――!!』

今回はここまでです。次回は12月2日の予定です。
ただ、進み具合次第で延期するかもしれません。延期の場合は日曜夜までに報告します。

よく考えると単純に1.5倍掛けるとおかしなことになるな

単純化のために以下の条件で考える
・りゅーかは能力使用時以外は和了れない
・何もなければすべての局で子がツモ和了する

子で能力を使うと
収入:5局分 * 子補正1 = 5
支出:1局分 * 子ツモ補正1/4 + 2局分 * 親被り補正2/4 = 5/4
で収支+15/4(回の和了分の点数)

親で能力を使うと
収入:5局分 * 親補正1.5 = 7.5
支出:6局分 * 子ツモ補正1/4 + 2局分 * 親被り補正2/4 = 10/4
で収支+20/4(回の和了分の点数)

あれ…?

乙です
春「霞、トランザムは使うなよ」

霞「了解、トランザム!」

とかならずに済んで良かった
でも、条件を咲さんに知られたら点数調整の餌食にされそうで怖い……

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年11月14日 (月) 00:22:45   ID: fOCsXI57

先鋒後半の永水は白けるなホント

2 :  SS好きの774さん   2017年08月21日 (月) 05:24:41   ID: R7V5rDic

決勝の先鋒戦の後半からゴミみたいにつまらなくなった

3 :  SS好きの774さん   2021年10月19日 (火) 06:44:30   ID: S:rVRtOv

その展開はないわと思ったけど案の定コメントでも書かれてた
途中まで楽しんで読み進めたけど時間を無駄にした気分

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