【咲-Saki-】咲「お姉ちゃんまでプラマイゼロをやりだした」 (1000)


照「ツモ。2300、4500」

咲「…」

宮永母「…これで、五連続プラマイゼロ…しかも、姉妹揃って…」

界「別にコンビ打ちってわけでもなさそうなのにな」

母「もう一度よ!もう一度…今度こそ…」

界「やめとけ、無駄だ」

母「無駄って何よ!こんな勝つ気のない麻雀を打たれておめおめと引き下がれって言うの!?」

界「ああ、そもそも、家族で賭け麻雀なんて間違ってたんだよ」

母「分かったようなことを言わないで!負けられない真剣勝負でこそ培われる力があるのよ!」

界「…そうかな?」

母「この子たちの才能を伸ばさないといけないのよ!」

咲「…私、もう打ちたくないよ」

照「私も、麻雀は、あまり好きじゃない」

界「悪いな、俺も、正直言うとあまり乗り気じゃない」

母「あ、あなた達…もういいわ!勝手にしなさい!」


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それから、私たちが家族で麻雀を打つことはなくなった。
でも、お母さんとお父さんの喧嘩は日に日に増えて行って、私が中学に上がる頃には、お母さんが家に帰ることはほとんどなくなった。

喧嘩の原因は、いつも麻雀の話だった。
私とお姉ちゃんには才能がある、伸ばさなきゃいけない、だからお金を賭けて麻雀を打とう。

お母さんはそればっかりだった。

麻雀自体が嫌いになったわけではなかったけど、麻雀を打つことは苦痛だった。
お母さんに押し切られて麻雀を打つことはあったけど、私とお姉ちゃんは常にプラマイゼロで終わらせた。

そして、麻雀を打つこともなくなり、お姉ちゃんは麻雀部のない清澄高校に進学した。

部員を集めてる変な人がいるらしいけど、断り続けたら諦めてくれたらしい。

二年後、お姉ちゃんの後を追って、私も清澄高校に進学した。


清澄高校の敷地は広い。
少し裏手に回れば小川が流れるのどかな光景が広がっている。

川を超えてしばらく歩くと旧校舎があり、活動停止状態の部活動や同好会などの部室は旧校舎に割り当てられている。

私は、川のほとりで本を読むのが好きだ。

昼休みに私の姿が見えないときは、ここに来れば大体見つかる。


今日もいつも通りに、いつもの場所で本を読む。


咲「この本は今日が返却期限だから、早く読まないとね」


そう呟いて、本をカバンから取り出すと、視界に人影が映る。

何の気なしに人影に視線を移した私は、息をのんだ。


――そこには、モデルさんみたいな綺麗な少女がいた。


彼女は、私を気にかける様子もなく、旧校舎に向かって歩いて行った。

清澄高校では、女子は学年ごとに異なる色のスカーフを着けることになっている。
少女は、自分と同じ赤色のスカーフを巻いていた。


咲「あれで同じ一年生かあ…」


容姿にコンプレックスがあるわけではないが、同学年にあれだけの美少女が居ると流石に思うところがある。
宮永咲は、普通の女子高生なのだ。


?「咲ー!」

咲「京ちゃん…」

京太郎「よっ、学食行こうぜ」


彼は須賀京太郎、クラスメートだ。
昼休みに自分がここに居ることを知っているのは、彼と姉である宮永照ぐらいのものである。

中学時代からの友人でもあり、それなりに親しくしているため、彼との関係をからかわれることも多い。


咲「これ、今日が返却日だから読まないと…」

京太郎「学食でも読めますよ?」


…このとおり、多少図々しいところがある。
とりあえず、不満を顔に出して抗議する。
京太郎なら、これだけで、強引に誘った場合に自分がどの程度の抵抗をするか分かる。

今回は、彼の言うとおり学食でも本は読めるため、抵抗の度合いは弱め。
納得できる理由を提示できるなら付き合ってもいいと言ったところである。


京太郎「日替わりのレディースランチがめちゃくちゃ美味そうでさ、どうしても食べたいんだよね」


手を合わせて私を拝むようなしぐさをしながら理由を告げてくる。


咲「そのためだけに食事に誘うって、どうなの?」


不満を顔に出しつつ、学食に向かうために本をしまう。
ま、仕方ないから付き合ってあげますか。



咲「はい、レディースランチ」

京太郎と友人Aが待つテーブルへランチを運ぶ。
美味しそうではあるが、どうしても食べたいという品とは思えない。

ということは、自分と食事をするのが主な目的だったに違いない。

少しだけ顔をほころばせていると、友人Aから冷やかしの声がかかる。


A「咲ちゃんはいい嫁さんだなあ」


内心まんざらでもないが、とりあえず定番の反応を返す。


咲「中学で同じクラスなだけですから!嫁さん違います!」

京太郎「真っ向否定ですか…」


それを聞いた京太郎がわりとショックを受けてそうな顔をしているので満足である。
友人Aは「はいはい、ごちそうさま」とでも言いたげな顔で別の友人たちの輪に入って行った。


食事は、いつもの場所に向かうついでにパン一つで済ませたので、私は読書に耽ることになる。

時折京太郎の様子を伺うが、目があったりはしない。
もしかしたら、こいつは本当にレディースランチが食べたかっただけなのかもしれない。

本から目を離して注意深く見てみると、何やら携帯をいじりながら食事をしているように見える。
お行儀が悪いので注意しよう。


咲「…メール?」

京太郎「いや、違う」


まあ、それが何であれ、お行儀が悪いことに変わりはないので注意はするのだが。
京太郎が画面を見せて来たので、一応見てみることにする。

…嫌なものが見えた。


咲「…麻雀?京ちゃん、麻雀するんだ?」


まあ、他人に自分の麻雀嫌いを押し付けるつもりもない。
ともすれば嫌悪がにじみ出るのを抑えて、冷静に尋ねる。
これは、お行儀が悪いのを注意するどころではなさそうだ、おそらく、軽いじゃれ合いでは済まず、本気の嫌悪をぶつけてしまう。

軽く話を合わせるだけにしよう。


京太郎「まだ役もろくに知らないけど、麻雀っておもれーのな」

咲「…私、麻雀キライ」


しまった、ついつい言ってしまった。
何でも始めたばかりのうちは楽しいものだから、否定することなんてないのに。


京太郎「えっ?咲、お前麻雀出来んの?」


…出来る。それも、それなりに腕に自信があるであろうお母さんが全力で挑んでも揺るがない程度には強い。
けど、それを伝えても、麻雀を教えてくれと言われるだけだろう。

幸い、打てること自体を疑われている様子なので、誤魔化すことにした。
ついでに弱いことをアピールしておく。


咲「出来るっちゃ出来るけど、キライ。いっつも家族麻雀でお年玉巻き上げられたん…」

京太郎「ほーぅ」


…いや、しまった。打てることを教えた時点で失敗だったか?
お姉ちゃんが言っていた、麻雀部員を集めてる人。
もし、二年経っても諦めてなかったら?


京太郎「咲は何やらせてもダメだからなあ…でも、居ないよりはマシか、うん」

咲「なに一人で完結してるの?気持ち悪いよ」


おそらく、自分の予想は当っている。
お姉ちゃんがしつこく勧誘された相手は、当時一年生。
まだ、三年生として健在だ。


京太郎「ランチのついでにもう一つ付き合ってよ。面子が足りないんだ、麻雀部」


はあ…お姉ちゃんが諦めてもらえるまで何か月くらいかかったっけ?


京太郎「カモ連れて来たぞー!」

咲「!」

和「!」

咲「…さっきの…?」

和「先ほど、橋のところで本を読んでいた方ですね」

咲「見られてたんですか…」


…旧校舎に向かうぐらいだから変わり者かと思っていたけど、麻雀部とは思わなかった。


京太郎「和は去年の全国中学校大会(インターミドル)の優勝者なんだぜ」

咲「…それは凄いの?」


正直、目の前の少女から麻雀が強そうな気配は感じない。
多分、お母さんの方が強いぐらいじゃないかな?
その程度の強さで獲得できる肩書きなら、目の前の美少女ならば容姿の美しさを誇った方が良い気がする。


優希「凄いじょ!インターミドル優勝ってことは、最強の中学生だったわけで!」

咲「そ、そうなんだ…最強の中学生…」チラッ

和「お茶入れますね」


とてもそうは見えないけど…
家族以外と打ったことないから、もしかしたら強そうな気配がなくても強い人も居るのかもしれない。


咲「」タン

優希「ロン!2000だじぇ!」

咲「はい」チャラ

京太郎「おいおい、その見え見えの筒子染めに振り込むかあ?」

咲「あはは…ごめんごめん」

和(…それほど素人には見えないのですが?)

―――

オーラス

和  33000
優希 32000 
咲  29000
京太郎 6000


咲手牌

234s23m234556p北北 ツモ:4m

打:5p

優希「じぇ」タン

打:7p

咲「…」

京太郎「テンパれ~、テンパれ~…ならず」タン

打:2s

和「」タン

打:南(ツモ切り)

咲「」タン

打:6p(ツモ切り)

優希「」タン

打:1s

京太郎「よーし張った!」タン

打:1p

咲「ごめん、それロン」

京太郎「なんですとぉ!?」

パタン

咲「ピンフのみ、1000点」

234s234m23456p北北 ロン:1p


京太郎「三色捨ててそれってどうなのよ!?」

和(…三色確定のシャボに取るかはさて置くとして、1筒でも和了るつもりならリーチをかけるべきですが…?素人なんですかね?)

和「おかげさまで、私がトップですね」



一戦目

和 33000(+23)
優希32000(+ 2)
咲 30000(± 0)
京  5000(-25)


二戦目


和「…ツモ」

京太郎(和の勢いが止まらねえ…)

―――

和「ロン」

優希「じぇ!?」

―――

咲「あ、ツモです」

和「…」

―――

京太郎「今回も和の圧勝かー」

優希「ぎゃー」

和「ありがとうございます」

咲「…」


二戦目結果

和 +31
咲 ± 0
優希ー12
京 -19


三戦目

京太郎「しかし、咲の麻雀はパッとしませんなー」

優希「点数計算はできるみたいだけどねい」

和(…いえ、得体のしれない違和感を感じます。70符の点数申告を迷いなく出来る人間が、このような打ち筋をするものでしょうか?)


ゴロゴロゴロ…ザー


京太郎「お、雷」

和「…夕立、来ましたね」


『うそっ!?傘持って来てないわ!』


咲「えっ!?誰?」

久「んー?」

和「学生議会長の竹井先輩です、麻雀部のキャプテンでもあります」

咲(三年生…ってことは、このひとか。これ終わったら抜けないと…)

久「あなたが今日のゲストね?」

咲「…どうも」


久(綺麗な手張ってるじゃない…)


咲手牌

678m34678p22678s


久(2―5筒待ちのタンピン三色、リーチかけてもいい手だけど、親かリーチ者の捨て牌に2-5筒でもあるのかしら?)


久(和が断トツ…宮永咲…え?二連続プラマイゼロで、宮永?)


咲「ロン、1000点」


久(1000点!?どうやったらあの手が1000点になるのよ!?)


和了形

789m34678p22678s ロン:5p


久(…9萬をツモって6萬切り?なんでそんなわざわざ手を下げるような…いえ、もしこの子がそうなら、当たり前よね)

和(…その捨て牌…わざわざ手を下げたように見えますが…どういう手順だったら6萬が切れて9萬が残るのでしょうか?やはり、ただの素人?)

久「宮永さんのスコアは?」

優希「プラマイゼロっぽー」

久(三連続プラマイゼロ――――…その上、宮永でしょ?間違いないわね)


咲「あ、め、面子足りてるみたいなので帰りますね!」

京太郎「え?もう帰っちゃうの?」

咲「図書館に本返さなきゃ」

バタン

咲「…ふう、何とか逃げられた、かな?」


優希「しかし、やっぱりのどちゃんは強いじぇ!」

京太郎「圧勝って感じだね」


久「圧勝?なに甘いこと言ってんのよ」ククッ


京太郎・優希「え?」

和「…なにか、あるんですか?」

久「スコア見て気付かない?」

和「……宮永さんの三連続プラマイゼロが、故意だとでも言うんですか?」

京太郎「んな馬鹿な、たまたまっしょ?」

優希「そうだじょ。麻雀は運の要素があるから、プロでもトップ率三割行けば強い方――ましてやプラマイゼロなんて勝つことより難しい。それを毎回なんて―――」

久「不可能ってかい?でも――――」




――――圧倒的な力量差だったら?



和「…根拠は、あるんですか?」

久「二年前なら、私も偶然を疑ったかもしれない、けどね、残念ながら前例があるのよ」

京太郎「前例、ですか?」

久「100連続プラマイゼロ―――プラマイゼロを崩せたら入部してもらう約束で、私を相手に100回連続でプラマイゼロをやり遂げた子が居たの」

和「まさか…そんなことあるわけ…」

久「最初は疑ったわ、けどね、『プラマイゼロ、狙ってるの?』って聞いたら、なんて答えたと思う?」

優希「なんて答えたんだじょ?」

久「『うん、私は麻雀が嫌いだから』だってさ。理由になってないっつーの」

京太郎「でも、YESとは言ってるんですね…そんな凄い人いたんだ…」

久「まだ居るわよ、私と同い年だもの」


和「名前は!?その方の、名前は!?」


久「照よ、『宮永』照。偶然にも、今日のゲストと同じ苗字ね」

和「~~っ!!」ダッ

優希「のどちゃん!?」

バタン

久「」クスクス

京太郎「なに笑ってんすか気持ち悪い」

優希「キサマ、会長になんてことを」

久「いや、あの子が―――あの子たちが入部してくれないかなーと思ってさ。全国狙えるかもよ?」

京太郎・優希「え?」


雨の中を傘を差さずに走るなどというのは久しぶりですね。
しかも、傘を忘れた子供の頃ならまだしも、今日は傘を忘れたわけではありません。

…そういえば、穏乃は傘をほっぽり出して駆け出すことが多かった気がしますね。
あの子はいつもこんな衝動的に行動していたんでしょうか?
まあ、今の私に穏乃をたしなめる資格はありませんが。

見えました。
この時間にわざわざ雨の中を旧校舎から帰る物好きは基本的にいません。
違っていたらなかったことにして更に先に居るであろう宮永さんに追いつくまで走るのみです!


『宮永さんっ!!!!!』


…雨に濡れても綺麗なんだなあ。

呼びとめられて振り返った先には、今日三度目の美少女の姿があった。
傘も差さずに追いかけて来るなんて、よほど重要な用事なのだろうか?


和「三連続プラマイゼロ、わざとですか?」


…偶然だと答えることも出来る。
先のことを考えれば、偶然ということにした方が良いだろう。

けど、この少女に対して嘘をつくことがためらわれた。

結果、私は小さな嘘をつくことにした。


咲「私が打つと、いつもあんな風になっちゃうんです」


偶然であるとも、狙っているともとれる言い方。

もっとも、牌譜を見れば狙っていることは一目瞭然なのだが。
この少女はそれなりに他家の手牌や切り順を見ているように思えた。
おそらく、手を崩したこと、差し込み、安手での和了り、大体分かっているだろう。


和「な、なんで、そんな打ち方…してるんですか?」


…なんでだろう、この子には嘘を言いたくない。
けど、本当のことを言うべきなんだろうか?


咲「…風邪、引きますよ」


迷った結果、質問に答えず、背を向けて歩きだすことにした。


和「もう一回…もう一局打ってくれませんか!?」


必死で叫ぶ少女に対して、私は、振り返り、曖昧な笑顔を向ける。
そして、今度はちゃんとした答えを返すことにした。


咲「ごめんなさい、私は――麻雀、それほど好きじゃないんです」


この時私は、『麻雀は嫌い』だと、言うつもりだった。
なぜ、いつも言ってるとおり『嫌い』だと言えなかったのか、この時の私にはわからなかった。

今回は書き溜め終わってないのを見切り発車で投下してます。
週一ぐらいでは更新できるはず。

全国決勝まで書くならむしろ咲さんか照さんを抜かないとバランスが…(全国決勝まで書くとは言ってない)


和「難しい…」カチッ

『終局です』

家に帰ってから、何度か、プラマイゼロを狙って打ってみた。
その結果が画面に表示されている。

結論から言うと、インターミドルチャンピオン原村和をもってしても、狙ってプラマイゼロにすることは極めて困難であると証明された。

もちろん、和の打ち方はトップを狙うことに特化した打ち方であり、プラマイゼロを狙うという特殊な打ち方には対応していない。
そのせいというのも多分にあるだろうが、そもそも、プラマイゼロに特化した打ち方というのは一体なんだろう?

和了りたい時に和了りたい点で和了ることが出来る、点を取りすぎた時には安手に対して一点で読んで差し込みが出来る。


――――馬鹿げている。


和了りたい時に狙った点で和了れるというなら、勝とうと思えばいつでも勝てるのではないか?

差し込みにしても、和ですら特殊な状況を除いては一点で読むことなどまず出来ない。
もちろんアタリ牌をいくつかの筋に絞り込み、和了される確率や点数などの期待値を考えて最善の打牌をすることは高い精度で出来る。
しかし、一点読みとなると話は全く違う。

この二つは、いずれも、およそ人外の業である。

しかし、自分は今日、それを目の当たりにしている。


和「毎回プラマイゼロなんて…人間に出来ることなの――――?」


生徒「会長、おはようございます」

久「おー、おはよー」

まこ「相変わらず人気もんじゃのー」

久「お?まこー、おはー」

まこ「聞いたわー」

久「何がよ?」

まこ「毎回プラマイゼロにするやつがもう一人おるそうじゃね?」

久「ああ、それか」

まこ「和、もてあそばれたんか?」

久「あれはもてあそんでるって感じじゃないけどね。照の方もそうだけど」

まこ「しかし、あれは心にクルぞ」

久「まあねー、私も初めて見た時は心底驚いたわ」

まこ「で、どうする?」

久「照のことだって、諦めたつもりはないのよ?あんたはレギュラー落ちの心配をしなさい」

まこ「やる気満々じゃの。じゃ、ワシは期待して待っちょるけえ、頑張りんしゃい」


【図書室】

清澄に入学して以来、私はよくここを利用する。
お姉ちゃんはあまり近づきたがらないけど、蔵書も豊富で、私の好きなジャンルがこれだけの数置いてあるのはここ以外だと隣町の県立図書館ぐらいだ。
お姉ちゃんはわざわざ隣町まで行ってるけど、清澄に通ってるんだからここを利用すればいいのに。


図書委員「貸出中ですね…シリーズ丸ごと借りられてます」

咲「え?」


…おかしい、昨日返した時は全巻あったはずだ。
帰り際に次巻以降があることを確認したから間違いない。
雨にぬれるとまずいから借りるのは翌日にしようと思って借りないで帰ったのが失敗だったか。

しかし、全巻?
貸出制限は三冊までのはずだ。
全巻まとめて借りられているなんてことがあり得るのだろうか?


?「何が貸し出し中だって?」


…ああ、そうか、お姉ちゃんがここの図書館を利用しないのはこういうことか…


咲「…会長」

久「どれ…この本ならうちの部室にあるわよ、ついでに同じ作者の別のシリーズも」

咲「…で、条件はなんですか?」

久「あら、話が分かるじゃない。照から何か聞いてるのかしら?」

咲「お姉ちゃんがここの図書館を使わない理由、今分かりましたよ」

久「まあまあ、良いじゃない。学生議会長権限で議会用資料として借りてるから返却期限もなしよ、ゆっくり読んでくれていいわ」

咲「…麻雀部室で、ですよね?」

久「もちろん。ついでに麻雀を打ってもらいたい。ダメかしら?」


…正直、気乗りはしない。
お姉ちゃんと同じでしつこい勧誘を受けるのは目に見えている。
ただ、先ほどの発言からして、この誘いに乗らなければ、しばらくの間、目当ての本は読めないだろう。

先ほど会長は返却期限がないと言った。
ということは、私が応じるまで、私がこれから新しく読み始めるものも含めて、私の目当ての本すべてを無期限で麻雀部に留置することが出来るということだ。
残念なことに、県立図書館にも今読もうとしている本はない。
強行手段を取られた場合、私にとっての不利益は非常に大きい。

麻雀は嫌いだけど、家族麻雀でなければ打つこと自体は苦痛じゃない。
それに…あの子にまた会えるかもしれない。

リスクとメリットを天秤にかけて、私は誘いに乗ることを選択した。


咲「入部はしません、麻雀を打つだけです。あと、今回だけにしてください。次やったら私もここを使わなくなるだけですからね」


お姉ちゃんがいくら勧めてもこの作品を読もうとしなかったのは、ここにしかないってわかってたからなんだろうなあ…



ガチャ

久「待ち人きたるー」

和「え…」

咲「…ども」

久「須賀君、優希呼んできて」

京太郎「あ、はい」

まこ「お、その子が例のプラマイゼロ二号か?」

咲「二号って…」


『優希ー、面子揃ったぞー』

『あい、今行くじぇー』


久「宮永さん、まこ、和、優希…この四人で二回戦。ただし、東風赤入りでね」

京太郎「会長は?」

久「今回はお手並み拝見。照並みの怪物か、姉の真似をしているだけのひよこなのか、見極めたいの」

咲(二回戦…東風なら一時間もあれば終わる。そしたら読書の時間)

和(今回は本気で行きます)

優希「咲ちゃんはまたプラマイゼロにするのかー?」

まこ(普通に考えれば毎回プラマイゼロなんて無理じゃ…たとえアレの真似をしてるだけのひよこでも、狙って出来るってだけで十分化け物。手加減はせんぞ)


咲(東風赤入りか…)

優希「親リー行くじぇー!」ダン

咲(…え?)

まこ(こがあなん読めんわ、オリじゃ)タン

和(イヤな感じがしますね…)タン

咲「…」タン

優希「来たじぇ!リーチ一発ツモドラ3!裏2つ乗って親倍だじょ!」

13赤567m234赤5赤5p999s ツモ:2m 裏ドラ:5p

咲(…ツモのみが、リーチ一発赤3裏2で親倍か…)

和(まったく、東風だと元気になるんですから…)

まこ「おいおいおい…」


久「優希は東場では稼ぐけど、南場で失速するのよね」

優希「天才なんですけどねっ!集中力が持続しないのだ」

和「…飽きっぽいの間違いでは?」

優希「それだっ!」


咲(…マイナス8000。13000稼げばプラマイゼロか…)

久(焦った様子はない、か。初めて赤入りで挑んだ時の照もそうだったわね…この子にも期待していいのかしら?)


咲「ツモ、300・500は400・600」

和(…1400、ラス親の宮永さんは削られずに親満でプラマイゼロ…何とかしてツモで削りたいところです)

まこ(…ゴミ手か…嫌なもんを思い出すのお)

優希「あたしの親がー…」

―――

咲「ツモ、500・1000」

和(…2000。これでプラマイゼロまでは9000~9900…オーラスを和了って決めるために条件を満たすのは9600のみですか)

まこ(…ますます嫌な感じじゃの…こりゃ)

優希「ふふふ…あたしのトップが盤石になってきたじぇ」

和(そう、トップを取るならこの手はもっと高めを狙うべきです。しかし、宮永さんはあくまでプラマイゼロしか狙いにない)

久(…これは、参ったわ。ほんとに照の妹なのね、この子)

―――

咲「ツモ、1000・2000」

和(…これで宮永さんの点数は24400。プラマイゼロのためには5200~6100の和了り。親でそれを満たすのは30符3翻あるいは60符2翻、でなければ110符1翻しかありません)

まこ(110符1翻なんてのは、実家が雀荘のわしですら人生で一度もお目にかかったことがないトップレアじゃ。考慮する必要はありゃあせん。それよりは連荘で二回に分けて稼ぐのを警戒する方が良いかの、あの人と同じならここで決めてくるはずじゃが)

久(…照の妹だからって照と同じとは限らないしね。まこが照と打ったことがあるのを知ってのブラフかもしれないし…)

―――


咲「槓」

槓:白白白白

まこ「は?」

咲「もいっこ、槓」

槓:9999p

打:赤5p

和(公九牌の暗槓が二つ…これで、30符3翻も60符2翻も不可能…まさか!?)ゾクッ

久(呆れるわね…下手すると照以上の化け物だわ)


優希(…張ってしまったじぇ)


優希手牌

1234p234s2344m北北 ツモ:赤5m


優希「こんなもん1筒切りリーチしかないじょ!南無三!」ダンッ

打:1p


久(110符1翻は、ツモでは絶対に作れない。ゆえに、たとえ超人的な豪運をもってしても狙って作ることは不可能)

久(それを狙って作り、和了るとなると…他人の打牌すら支配する圧倒的な力が必要)

久(…運だけではたどり着けない領域。卓上のすべてを司る、神、あるいは悪魔――――)


咲「ロン…リー棒は要らないよ」

優希「ひうっ!?」


久(―――目の前に、それが居る。110符1翻を自らの意志で作り、自在に和了る、理外の存在が)


11456p東東 暗槓:白白白白 9999p ロン:1p


咲「白のみ、5300」


和「こ、こんな…110符1翻なんて…狙って作れるはずが…」

まこ「…わしは実家が雀荘でな、子供の頃から、それこそ万じゃきかないぐらいの対局を見て来た。天和を和了ったお客さんも知っちょる」

優希「…」

まこ「しかし、110符1翻を和了った人間はおんしが初めてじゃ。しかも、狙ってやったっちゅうんじゃからタチが悪い」

咲「えっと…?」

まこ「完敗じゃ、二号なんて言って悪かったの。おんしはおんしですごい打ち手じゃ」

優希「すごいじぇ!ホントに狙って作ったのか咲ちゃん!?」

京太郎「お前にも取り柄があったんだな」

咲「…京ちゃん、私をなんだと思ってたの?」


久「…ねえ、宮永さん。本を読むための条件、変えていいかしら?」

咲「…はい?」

久「麻雀を打つって条件だったけど、ちょっと変えてほしいの」

優希「じぇ?」

久「あなたが勝ったら、読ませてあげる」

咲「…ちょっとずるくないですか?」

久「勝てばいいだけでしょ?本、読みたくないの?」

咲「…勝てば、読ませていただけるんですね?」

久「ええ、約束するわ」

咲「…わかりました」


和「なっ!?」

優希「わかりましたって…」

まこ「うちらに確実に勝てるっちゅーんか!?」


咲「勝つって、トップってことですよね?…あ、でも…」

久「ん?」


咲「プラマイゼロじゃどうやってもトップにはならないですよ?」


和・優希・まこ「」ズルッ



久「あー、プラマイゼロにはする気なのね…じゃあ、自分は1000点、他のみんなは33000点持ってると思って打ってみて」

咲「…それをプラマイゼロにしたら勝ちということですね?分かりました」

和「…まさか、出来るとでも?東風ですよ?」

まこ「…さっきの『わかりました』よりこっちの『分かりました』の方が舐められた感じが強いのお…」

優希「確実に勝つなんてありえないじぇ!部長やのどちゃん相手だってたまには勝てるんだから!」

まこ(それよりありえんはずのプラマイゼロをする奴じゃがのう、流石に年下にそこまで舐められるわけにはいかんじゃろ!)


二戦目

咲配牌

112233p79s6789m東東東

咲「ダブリー」タン

打:6m


優希「はい!?」


咲「…ダブリー一発ツモ、東、チャンタ、イーペーコー…4000・8000」

優希「そそそ、そーゆーのうちのお株なんですケド!?てゆうか親かぶり!?」

和「…」

まこ「…さっきの対局で、こいつは…いや、まさかな…そんなはずは…」

京太郎「どうしたんですか、染谷先輩?」

まこ「いや、多分思い過ごしじゃけえ、気にせんでええ」

京太郎「はあ…」


東2局 

咲手牌

44赤5赤566p456s456m西 ツモ:4m

咲「ダブリー」

打:西


まこ「」ゾワッ

優希「二連続――――!?」

和「ダブリー!?」


咲「…ダブリー一発ツモ、タンヤオ三色ピンフイーペーコードラ2…6000、12000」


まこ「」ガタガタ

京太郎「染谷先輩?どうしたんですか?」

まこ「…まずい…役満が来る…」

京太郎「は?」

まこ「…照さんは、プラマイゼロに不要な和了はせんかったから、わしはあの人の満貫以上の和了を見たことがない…が、目の前に居る奴は違う…」

京太郎「いやいや、染谷先輩何言ってるんですか?」

まこ「…こいつは思った以上の化けもんじゃぞ、久」

久「今回は大丈夫だと思うわよ。照と同じで、あの子の狙いはあくまでプラマイゼロだもの」


東三局 親:和

和(運…それは努力ではどうしようもない要素です。しかし…そんなものは長続きしない。所詮偶然です!)

和「この親で稼ぐ―――リーチ!」

咲「」タン

和「ロン!12000!」

咲「はい」

―――

東三局一本場 

和(…やけにあっさり和了れましたね…?いえ、それが普通なんですが、宮永さんが振り込むなど、点数調整のための差し込み以外では初めて―――はっ!?)

和(…まさか、今のも、差し込みだというのですか?)

咲「リーチ」タン

まこ(…怪しい捨て牌じゃの。とりあえずオリ…)タン

優希「それロンだじぇ!16300!」

まこ「そっちか!?」

咲(…これで、28000点。1600~2500点の和了りでプラマイゼロ…)


咲「じゃあ、オーラスですね」

和「え?」

久「いやいや、まこのトビで終了よ?」

咲「へ?33000持ちだから、まだ700残ってますよね?」

まこ「なにを言うとるんじゃおんしは…25000持ちにきまっとるじゃろうが」

久「そう思って打てっていうだけで、実際は25000スタートよ?」

咲「えっ!?」


結果

咲  52000
和  27000
優希 28300
まこ -7300


久「まあ、勝ちには違いないわね。約束よ、部室にある本は自由に読んでいいわ」

咲「え、いや、あの…」

久「ん?どうしたの?」

咲「えっと…その、不完全燃焼というか、その…もう一局…」

久「…まあ、そうよね。照と違って、あなたは麻雀を打つの自体は嫌そうじゃないものねえ?」

咲「うう…」

久「けど、残念ながら、ここは麻雀部員が麻雀を打つための場所なのよ。大会も近いし、あまりゲストと遊んでばかりというわけにもいかないわ」

咲「え、えっと…」

久「もちろん、入部すればいくらでも打っていいけど…あ、部員なら合鍵も渡すわ。ここの本もいつでも読めるわよ」

咲「…卑怯じゃないですか?」

久「そうそう、読んでいいとは言ったけど、流石に活動時間中だけよ。部員が居ない時間帯には、部外者はここに入れてあげられないわ」

咲「…それ、保険かけてましたよね?私が勝って読めることになってもなんだかんだ言って本を読ませないつもりでしたよね?」

久「照と違って一年生なのに変な知恵が回るのね…その通りよ!」

咲「二年前、お姉ちゃんが竹井先輩のやり口のあくどさを日々愚痴ってましたから」

久「てなわけで、入部してくれないかしら?」

咲「嫌です」

久「仮入部でいいから」

咲「お断りします。打てないなら本を読みたいので話しかけないでください。今日はまだ活動するんですよね?」

久「残念。ま、約束だから仕方ないわね。じゃ、こっちはこっちで麻雀しましょうか」


優希「ローン!12000だじぇ!」

和「…はい」チャラッ

まこ「らしくないのお…そんな手で押したんか?」

久「どんな手よ…って、役なしの二向聴?須賀君でも降りるわよ?」

京太郎(…押しそうだけど黙ってよう)

和「…」チラッ

咲「…」黙々

和「…少し調子が悪いようです、すみません」

久「仕方ないわねえ…初日から使いたくはない手だけど…」チラッ

咲「…」パタン

久「あら?」

咲「いま、こっち見ましたよね?どうせ、何かしら理由をつけて打ってくれって言うんでしょう?」

久「その通りよ。照の時は苦労したけど、あなたは物分りが良くて助かるわ」

咲「お姉ちゃんほど麻雀が嫌いなわけじゃないですし。でも、一回だけですよ?」

久「オーケー。ちなみに、トップは狙うの?」

咲「…いつも通り打つだけです」

久「残念、勝つことの喜びは覚えてくれなかったか」

咲「あの不完全燃焼じゃ無理もないと思いませんか?」

久「三倍満とか和了るの気持ち良くなかった?」

咲「…まあ、それなりに」

久「トップ狙いで打ってみましょうよ、もう一回」

咲「さっきのがあるから、自分は1000点で他は33000っていうのはちょっと難しいですね。トビを考慮するとどうしても本来の点数が浮かぶので」

久「…そっか、じゃあ、また別の手を考えておくわ」

咲「そうしてください。今回はいつも通り打ちます」

和(…プラマイゼロ…崩して見せます)


和(先ほどの一局は、私にとっても不本意な終わり方でした。今度こそ…)

咲「…ツモ。300、500」パタン

12357p234s56799m ツモ:6p


和(早い…)ギリッ

―――

優希「ポン」

打:9p

優希手牌

???? チー:456p ポン:南南南 西西西


咲「」タン

打:2p

優希「ロン、2000」


1388p チー:456p ポン:南南南 西西西 ロン:2p


和(…一点で読んでの差し込み…なぜ、その待ちが分かるのですか?捨て牌は先ほどの9筒まで萬子と索子のバラ打ちばかりで染め気配であることしかわからないはずなのに…)

―――

咲「ツモ。4000オール」

和「…」

―――

まこ「ロン、5500」

咲「はい」チャラッ


東4局(オーラス)

優希 22500
和  20700
咲  30600
まこ 26200


咲「リーチ」

和(…これでプラマイゼロ…しかし、誰も和了らなかったり、ツモ和了ったりしたらどうするのでしょう?)


和手牌

222666888s赤5677m


和(タンヤオ三暗刻ドラ1…リーチ棒が出たから、ツモはもちろん、どこから和了ってもトップです。しかし、宮永さん以外から和了ると宮永さんがプラマイゼロ…)

優希「勝負!」タン

打:4m

和「あ…」

優希「ん?どうしたんだじぇ?」

和「…いえ…その…」


まこ「何もないならツモるぞ?」

咲「…」

和「…ロン、です。8000」パタン

咲「今の和了りで原村さんのトップですね」


優希 14500
和  29700
咲  29600
まこ 26200


優希「きっちりだじょ、流石のどちゃん!」


和「…どこから、狙い通りですか?」


咲「え?」

和「どこから狙っていたんですか!?この結果を!!」バンッ!

久「和、落ち着きなさい。卓を叩かないの」

和「…」ダッ!

優希「のどちゃん!?」


…どこから、か。

プラマイゼロについてなら最初からだし、この結果についてなら、私のプラマイゼロ以外は特に意図したものではない。
オーラスは全員満貫以上の手が入っていたはずで、私のリー棒が出れば誰がどこから出和了りしてもトップ。
トップが見える以上はみんな押す。
そしたら、振り込みあう。

そして、振り込んだ人がラスで、和了った人がトップ。
暫定一位だった私は二位に落ちてプラマイゼロ。
これは、想定してはいた。

百点差というのは偶然。原村さんが勝ったのも偶然。
けど、リー棒が出るか出ないかが勝負に影響するような僅差なら、百点差というのはそれなりに起きるんじゃないかな?

と、説明する前に原村さんは走り出してしまった。

私が追うべきなんだろうか?
私が行っても火に油ということがあり得るから、他に適任者が居ればそちらに任せるべきだと思う。
けど、誰一人として動きを見せない。


久「行ってきなさい。別に、本は逃げたりしないわよ」


他ならぬあなたが本を私の手の届かないところに遠ざけて、私をこの場所に引きずり込んだんじゃありませんでしたっけ?
しかし、今はそれを言っている場合ではない。

私は、原村和を追って走り出した。


咲「原村さん!」

和「…」プイッ

こちらに一瞥をくれて、すぐにそっぽを向いてしまった。
が、私を見て逃げ出すというわけでもなさそうだ。
話ぐらいは出来る。

そう判断して、私は彼女が座るベンチに腰かけた。


咲「…話してなかったね、私が、プラマイゼロをする理由」


おそらく、確実に食いつくであろう話題を振る。


和「昨日尋ねた時ははぐらかされましたね…何が、あったのですか?」


ほら、食いついた。
これで、少なくともこの話が終わるまでは、彼女と会話ができる。


咲「…私にも、普通にトップを目指していた時期はあったんだよ。思い出せないぐらい昔だけど」

和「ルールを覚えてすぐにプラマイゼロを目指すように仕向けたなら、あなたにルールを教えた人間を八つ裂きにします。これだけの才能を歪ませた責任は重いですよ」

咲「あはは、でね…私とお姉ちゃんには才能があるって言って、お母さんが賭け麻雀を始めたの」

和「…何故、賭け麻雀を?」

咲「真剣勝負で私たちの才能を伸ばすためだってさ。それだけなら良かったんだ、勝てばいいだけだから。傲慢に聞こえるかもしれないけど、私とお姉ちゃんなら、難しいことじゃなかった」

和「…」

咲「お母さん、麻雀のコーチでね。腕には自信があったの。だからかな、私たちに負けると機嫌が悪くなった」

和「…自分で賭け麻雀を提案しておきながら、身勝手すぎますね」

咲「でも、負けたらお小遣いを取られちゃうから、負けるわけにもいかない。それで、私はプラマイゼロを始めた」

和「…」

咲「まあ、プラマイゼロにしてもお母さんの機嫌は悪くなったんだけどね」

和「…でしょうね。腕に自信があって負けると機嫌が悪くなるというなら、プラマイゼロを狙って達成されて気分を害するのは当然です」

咲「…プラマイゼロはダメ、けど、勝ってもダメ、その頃になると、わざと負けても手を抜くなって言われて怒られた」

和「…」

咲「そのうち、私は、麻雀を打つこと自体を拒むようになった。けど、打たなければ打たないでお母さんの機嫌は悪くなる」

和「…打てばどういう結果でも機嫌が悪くなる、打たなくても機嫌が悪くなる…つまり、どうやってもダメというわけですか」

咲「…多分、勝つのが最善だったんだろうね。お母さんは、もとはと言えば、私たちの才能を伸ばしたかったんだから。けど、お姉ちゃんが小学生だった頃の話だから、それに気付くのは難しかったよ。お母さんが一番機嫌が悪くなるのは私たちが勝った時だったし」

和「…腕に覚えのある人間が小学生に完膚無きまでに負ければ、それも仕方ないでしょうね」

咲「いつからだったかな…お姉ちゃんまでプラマイゼロをするようになって、私たちは、拒絶の意志を込めて、二人でプラマイゼロを貫くようになった。それからは、麻雀は儀式みたいなものだったよ。お母さんが怒って席を立つまで、私とお姉ちゃんの二人がプラマイゼロになるようにし続けるだけのゲーム」

和「…」


咲「…だから、私は、麻雀が……『あんまり好きじゃない』んだ」

和「…あ」

咲「今となっては、普通に麻雀を打ってた頃の打ち方を思い出せない。わたしにとっての麻雀は、プラマイゼロに調整してお母さんが席を立つのを待つだけの作業なんだ」

和「ごめんなさい…あなたの事情も知らずに…私は…」

咲「…でも、今日は、少しだけ楽しかった」

和「…え?」

咲「多分、あなたが相手だったからだと思う。家族で打つ、嫌な作業じゃなくて、麻雀っていうゲームを、楽しめた気がする」

和「…」

咲「…私はこの打ち方しか出来ないと思うけど、それでも良ければ、また、一緒に打ってほしいな」

和「…ええ、こちらからお願いしたいぐらいです。あなたのプラマイゼロを崩す、新しい目標が出来ました」

咲「ふふ、ありがとう」ニコッ



和「戻りました」

咲「…日が暮れちゃいましたね」

久「おかえりー。あんたらが鞄置いたままだから帰るに帰れなくて困ってたのよー」

和「申し訳ありません」

咲「ごめんなさい」

久「じゃ、気を付けて帰りなさい」


咲「…麻雀、か」

界「何してるんだ?お前が自分から卓に近寄るなんて珍しい」

咲「あ、お父さん」

界「…売っちまうか、それ。卓が無ければあいつも麻雀打とうなんて言い出さないだろう?」

咲「…どうせ手積みで打とうって言い出すよ」

界「ま、そういう奴ではあるが」

咲「私が麻雀を楽しめていた頃は、喧嘩なんてしなかったのにね」

界「…そうだな」

パサッ

【ウイークリー麻雀TODAY】

咲「…?」

界「57ページ」

咲「…」



―――――

【昨年度優勝校監督に聞く、今年の抱負】

『最高の戦力を揃えました。今年も優勝狙います』

昨年度の個人戦優勝者――――をはじめとして強力な戦力を揃えた昨年の団体戦王者、白糸台高校。
そのチームを率いるのは、かつて母校を優勝に導き、監督として舞い戻った名キャプテン宮永―――

―――――



咲「お母さん…」ギュッ

【物陰】?「…」



【放課後】

?「失礼します」

ガチャ

久「あら?宮永さん?」

咲「…麻雀部(ここ)に入れて頂けませんか?」

まこ「おや?昨日は嫌がっちょったが…」

久「願ってもないことだけど…理由を聞いていいかしら?」

咲「…」

和「宮永さん…」

咲「…理由が無ければ、ダメでしょうか?」

久「もちろんオーケーよ?団体戦の人数すら足りないとこだったの、さっきも言ったけど願ってもない話。一応聞いてみたいってだけ」

咲「…どうせ勧誘が続くなら、入ってもいいかなって思いました。昨日は、久しぶりに麻雀を楽しめた気がしますし」

久「そう。あなたは照と違ってやりやすくて助かるわ」

咲「改めて、よろしくお願いします」ペコリ

まこ「よろしくな」

優希「これは全国が見えて来たんじゃないか?どうだ犬?」

京太郎「未だに咲がすげえってのが受け入れられないんだが…」


久(県予選まであと三週間か…さて、どう動くべきかしらね?)


原作展開から徐々に離れるつもりが、諸事情により予定より早く逸脱し始めました。

次回は金曜あたりには投下できるかと思います。

乙ー

>>37
11456p東東/暗カン9999p/暗カン白白白白
ロン1p
だとメンホン・白の110符4翻で親満貫、12000じゃ…

>>60
そこの暗槓は自分の脳内では9萬のはず…なんですが、思いっきり筒子になってますね。
よりにもよって一番ミスっちゃいけないとこでミスるとは…

ご指摘ありがとうございます。

シャープシュート(笑)
ハーベスト(笑)
亦野(笑)

なんすかこの流れ…

一応自分の解釈を述べますが、キャラの強さを客観的に示す作中の言葉を拾っていくと本編の世代が異常に強いって結論になるんですよね。

二巻のどっかで一ちゃんが「のどっちなら変なプロより強い」と言ってるので、プロ級と同格か明らかにそれより上の化け物がゴロゴロしてる長野の異常っぷりは群を抜いてます。一回戦負けの今宮女子ですら田中さんが「役満ぶち当ててやんよ」の宣言通りに(=狙って)役満を作ってたりしますし。
部長が直前に「私より早く終わらせてきなさい」と言ってるのも田中さんの異能を見抜いて早上がりを指示していたとするなら田中さんも相当な化け物ということに…先鋒の門松さんも誰かから最速と呼ばれているようですから、今宮女子も魔物の集まりかもしれません。

また、昨年の個人戦で二年生にして15位になった寺崎さん(三年生が居なくなったことを考慮すれば本編の代では全国10指に入るはずの選手)が二回戦以降いいとこなしの玄ちゃんに軽くやられてるあたりからも、本編世代の異常さがうかがえます。

おそらく菫さんや渋谷さん、亦野さんでも寺崎さんとはいい勝負か普通に勝つかぐらいだと思うので、白糸台は昨年の出場者の水準なら全国上位20人クラスの選手を五人そろえていたのではないかと思われます。

あと、当SS内では白糸台は「インターハイ二連覇中で三連覇を狙う王者」ではなく「昨年度優勝校」ということになってます。
とりあえずそういうことでお願いします。

では投下します。


照「咲、最近帰りが遅いみたいだけど、何してるの?」

咲「え、えっと…ちょっと穴場を見つけて、そこで本を読んでるの」

照「…そんなところあったの?今度教えてね」

咲「う、うん…」


ーー

?「原村さん!」


通学中、声をかけられる。
聞き覚えのあるような気がするが、思い出せない。
とりあえず姿を確認しよう―――私は声のした方に顔を向けた。


西田「お久しぶり、『ウイークリー麻雀TODAY』の西田です」


なるほど、聞き覚えがあって、思い出せないわけだ。
雑誌の記者。
昨年、インターミドルで優勝するまでは縁のなかった存在で、取材を受けた時の記憶はかなり印象が強い。

しかし、その時に聞いていた声は覚えていても、その相手が誰か、となると緊張のせいか記憶が飛んでしまっている。


和「お久しぶりです」

西田「取材、いいかしら?」


登校時間には余裕がある。
学校に間に合う程度で切り上げて下さいと念を押したうえで引き受けた。


西田「昨年の原村さんの記事が好評でねー。何せ全中優勝者がこんな美少女なんだもの」

和「…そんなことは…」///

西田「いやいや、謙遜しなくていいのよー、ホントに可愛いから。で、二週間後に県予選だけど、個人戦で注目している選手はいる?」

和「っ!」


…いる。
間違いなく、自分より強いと思える選手が、同じ高校、同じ部に。
しかし、彼女は…おそらく、個人戦で勝ちあがる選手ではない。

対戦したすべてにの相手に圧倒的な実力差を刻み込みながら、しかし、表舞台には決して出てこない。
彼女は…宮永咲は、そういう選手だ。


和「…いませんね、強豪校とか選手とか詳しくないですし」

和「自分のスタイルを守っていれば…誰が相手かなんて関係ありません!」


とは言うものの、最近は彼女のプラマイゼロを崩すためにスタイルを離れた打牌を繰り返しているのだが。
長く話していると隠し事をしているのが態度に出てしまいそうで、強く言い切った勢いで背を向けて歩き出す。


和「…遅刻はしたくありませんので、失礼します」


西田「今年の個人戦は荒れるかもしれないわね」


相棒である西田がそう呟く。
身内びいき抜きでも、西田は優秀な記者だ。
人脈づくりも上手いし、書く記事も読みやすい文体で、それでいて伝えたいことをしっかり伝える。

なにより、取材相手の真意を読み取ることに長けている。
僅かな表情の変化や言い回しから、言葉の裏にある本心を見抜く。

記者というのは、こいつにとって天職だろう。

その西田が、原村和の言葉から何かを読み取ったようだ。


西田「さっき、彼女は言いよどんだ。あの天才、原村和が意識する選手がいる」


確かに、言葉に詰まった感じではあったが…
いや、西田が言うのだ。おそらく、原村が意識する選手がいるのは間違いないだろう。


西田「…けど、自分より強いと認めつつも、大会では負けない確信があるのね。天江衣のように個人戦に出ない…あるいは、特殊な打ち手で、出ても成績が振るわないタイプなのかもしれない」

「特殊な打ち手?」

西田「たとえば、『和了しないけど絶対に点棒を減らさない』とかだったら?天才・原村和が万策尽くしても、原点から一歩も動かない相手…」

「…横浜あたりがのどから手が出るほど欲しがりそうだな。そんな奴が本当にいれば、三尋木咏の作るリードを守る、抑えの切り札になる」

西田「ま、それじゃ荒れないけどね。どんな打ち手かは会ってみてのお楽しみ。まあ、推測が当たっていたとしても追う価値はありそうね。原村和自身も価値が高いし」

「じゃ、今年は清澄に注目か?」

西田「龍門淵に注目しても当たり前すぎて売れなさそうだし、風越も目新しさがないしね。あと久保さん怖いし」

「決まりだな。写真は任せろ」

西田「オッケー、任せた」


照「おはよう」

モブ「あ、宮永さん、おはようございます」

照「ふふ、いつも言ってるけど、なんで敬語なの?」

モブ「うーん…宮永さんと会長は、なんか敬語になっちゃうんだよねー」

照「私、そんなに怖い?」

モブ「ちちちが…怖いとかじゃなくて、大人びてるし、代表挨拶とかハキハキしゃべるし…」

照「ふふっ、なんで慌ててるの?やっぱり怖いんじゃない?」クスクス

モブ「違うよー!もう!宮永さんの意地悪!」プイッ

照「あはは、ごめんごめん」

モブB「宮永さーん、お客さんだよー!」

照「…お客さん?誰?」

モブB「それがなんと、会長!なんの用かな!?」

照「…竹井さんか、なら、用事は大体分かるよ。行って来るね」


モブ「会長と宮永さんって、どんな話するんだろうね?」

モブB「気になるよねー」

モブ「立ち聞きしちゃおっか?」

モブB「会長はともかく、宮永さんってそういうの嫌がるからやめとこ。私、嫌われたくないし」

モブ「そっか、うん、私もやめとく」


人間、裏表というのはあるものだ。

私の場合、表だと思われているのは基本的に演技。
明るく頼りになるクラスのまとめ役、私がそういう人物であれば、人見知りしがちな妹でも周囲が勝手に気を使うので上手くやれるはず。

演技も板について来ればボロが出ないもので、今となっては誰も私の本性が天然で口下手な少女だとは疑わない。

本性を知っているのは、この高校だと二人だけ。

一人は最愛の妹。
家族として素の自分をさらけ出しているからこれは当然。

そしてもう一人は…今のところこの世で二番目に会いたくない人物。
そこまで悪い人間ではないので、これから先もっと嫌な人間に会えば順位は変わるだろうから、「今のところ」とつける。

というか、彼女が私に関わってくる際の唯一の用件さえなければ好ましい人物であるはずなのだが、いかんせんその用件が悪すぎる。


彼女が私に用があるということは―――そうか、今年もそんな時期か…


照「入部はしない」

久「話も聞かずに開幕からバッサリ切ってくれるわね」

照「あなたが私に話しかける用件はそれしかないから、聞くまでもない」

久「いやいや、他の用件かもしれないじゃない。愛の告白とか」

照「…」ジト

久「はいはい、お察しの通り勧誘よ。悪かったわね」

照「…告白なら慣れてる、あなたへの返事も用意してるよ」

久「その他大勢と違う返事なら聞いてみたいけど、今年は一応人数が揃ったから恋愛に現を抜かしていられないのよね」

照「そう、それは良かった。頑張って」

久「いやいや、私としてはあなたに頑張ってもらいたいのだけど?」

照「…何を頑張らせるつもりなの?人数は足りてるんでしょ」

久「あなた以上の打ち手を私は知らないもの。最後のチャンスだから最高の戦力で臨みたいの」

照「…人数が足りてるなら、私が入ったら誰かがレギュラーから外れる」

久「そうね。それがどうかした?」

照「かわいそうだと思わない?」

久「あなたが入ってくれるなら些細なことよ。あなたが思っている以上に、私はあなたを買っているの」

照「見込み違いだと思うけど…最初に言った通り、入部はしない」

久「もう、つれないわね」


モブ「あ、宮永さん、お帰りなさい!」

照「もしかして待ってたの?」

モブB「だって会長と宮永さんの会話とか気になるじゃないですかー」

照「大した話じゃないよ、竹井さんの、毎年お決まりのアレ」

モブ「ああ、麻雀部」

モブB「あれ?でも、今年は人数足りてるって聞きましたけど?」

照「そう言ってたんだけどね…入ったのが初心者なのかな?」

モブ「いえ、インターミドルチャンピオンと、その子の中学時代のチームメイトって聞いてますけど」

モブB「あと…あ、そうですよ!宮永さんの妹さんじゃないですか、最後の一人!」

照「…え?」

モブ「へ?知らないんですか?最近、妹さん旧校舎によく行ってて、麻雀部に勧誘されたって噂ですけど…」

照「…へえ…咲が?」ゴゴゴ

モブ・モブB「」ビクッ

照「教えてくれてありがとう。私、ちょっと用事が出来ちゃったから行くね」


咲「…」パラ

旧校舎に向かう途中にある、見晴しの良い丘。
そこに立つ木の下が最近のお気に入りの場所だ。

上手く嘘をつくコツは、真実を混ぜること。
そうすることで、自分を騙して上手く嘘をつくことが出来る。
今朝、最近帰りが遅い理由をお姉ちゃんに尋ねられた時、穴場を見つけたと答えた。それがここ。

嘘をつくコツなんて習得したくなかったけど、身についてしまったものは仕方ない。

宮永照の妹というのは、入学した時点でかなり注目される。

特に上級生は姉と同等の人間であるのではないかという期待、あるいは姉に近づこうとする下心を持って私に接することになる。
期待されるだけなら期待外れというだけで済むが、下心を持つ人間は上手くあしらわなければならない。
私は、発言の裏を読む能力や、相手の意図を読んでいなすことを覚えざるを得なかった。
それが無ければ私だってちょっと鈍いぐらいの純情な少女だっただろうに。

男子はまだいい。
ほとんどの場合、姉に好かれようとする下心だから、私が姉へのパイプにならないと分かれば掌を返す。

問題は、同性。
姉に嫉妬して、妹である私を使って貶めようとする人間がたまにいる。
幸い、そういう意図を読み取る能力が磨かれてしまった私はそれらを回避することが出来た。

優秀な姉(だと思われている人間)の妹ゆえの面倒な人付き合い。
嘘をつく技術なんていうものを身に着けてしまったのはそれが最大の要因だろう。

人目のない穴場で読書をするのも、人付き合いを避けるためだ。
私に用があるなら、私が居場所にしている穴場を知っている人間を通さなければならない。
悪意ある人間が簡単に近づけないようにするため、そういう状況を作った。

京太郎には、その際の仲介人の役目を押し付ける形になっている。
彼は姉目当てで自分に近づいたわけではない数少ない人間で、それに加えて、穴場の秘密を守ってくれる。

「静かに本を読みたくて探した穴場だから、出来れば他の人に知られたくない」

そう言って教えた場所の秘密を守ってくれたのは、中学時代の友人では彼だけだった。


『おーい、咲ー』


噂をすれば…今私が使っている穴場を知っている唯一の人間が、私を呼びに来たようだ。


京太郎「部活に入って一週間だけど、慣れたか?」

咲「うん、麻雀を打つのは楽しくなって来たよ。一応だけど、プラマイゼロ以外の打ち方も出来るようになったし」

京太郎「そっか、それは良かった」

咲「でも、やっぱり、自然に打つとプラマイゼロになっちゃうね…」

京太郎「そっか…まあ、団体戦ならプラマイゼロでも半荘一回で確実に5000点前後稼げるってことだから、それでも悪くないって部長は言ってたけど」

咲「部長も和ちゃんも居るし、私が無理に稼ぐ必要もない、か…それはそうかもしれないけど…」

京太郎「なんかあるのか?」

咲「…全国大会の優勝チームに勝つなら、私も稼がなきゃダメだよね?」

京太郎「おいおい、全国優勝する気か?そんなキャラだっけお前?」


?「そこの二人、止まれ」


咲「え?」

京太郎「あ、お久しぶりです」


照「…」


咲「お姉ちゃん…なんでここに…?」


【部室】


照「…」

和「…この方は?」

咲「私のお姉ちゃん」

優希「このひとも咲ちゃんみたいにプラマイゼロにしたりするのか?」

京太郎「部長と染谷先輩によるとそうらしいな」

照「…疑うなら実際にやってみせようか?」

和「ええ、見せて頂けますか?」

咲「…面子は?」

照「須賀君以外の四人で」

京太郎「俺を除外する理由は?」

照「…あんまり弱いとトバれるケアをしなきゃいけなくて面倒だから」

京太郎「…さいですか」ガクッ


起家 優希
南家  照
西家  咲
北家  和


照「…」タン

和(プラマイゼロにする人が二人同時に卓につく…それがどういうことか分かりますか?)

和(一人だけがプラマイゼロにするだけなら、まだいいのです。もちろん難しいことですが、まだ理解できます)

和(しかし、二人プラマイゼロというのは、今度こそ本当に人間業ではありません)

和(だってそうでしょう?ツモ和了りでもう一人の点数も変わるのですから、オーラスでツモ和了りするとき、相手の点数も考慮しなければいけません、あるいは、相方がすでにプラマイゼロなら、状況によってはオーラスでロン和了りしか出来ないことになります)

和(そして、プラマイゼロならトップを取ることも出来ない)

和(プラマイゼロ、すなわち30000点付近の者が二人いるなら、残り二人で合わせて4万点前後しかないことになる)

和(その四万点の中で、片方に30000点を明らかに超えるトップを取らせつつ、一万点を切るはずのもう一人のトビにも注意を払う…卓上の四人全員の点数を調整しなければいけないのです)

和(そのうえ、これは赤入り東風戦…)


和「プラマイゼロ、出来るものならやってみなさい!リーチ!」タン


和手牌

2344赤56p6789s477m ツモ:3m

打:9s


優希(のどちゃんがリーチかけて来たけど…これはオリるわけにはいかないじょ…)


優希手牌

東東東南南南北北北白白中中 ツモ:5m

ツモ切り:5m


和「ロン、メンタンピン赤1に一発がつきます…裏は乗らず。8000」

優希「じぇええ!?いや、だけどこんなのオリれないじょ」パタン


和「こ、これっ!?」ゾワッ

和(…私に振り込ませるために、オリられない手を送り込んだ?)

和(馬鹿げています…積み込みでもあるまいし、そんなことできるはずが…)ビクッ


ゴオオオオオ


和「」チラッ

和(…何もない、それはそうでしょうが、今、後ろに何かあったような…?)

咲(…家族相手には今更使わないから、私もこれを見るのは久しぶりだな…照魔鏡、相手の打ち方を見抜く、お姉ちゃんの力…)


照「ツモ、タンヤオドラ2、4000オール」パタン


55赤567p333678m3赤5s ツモ:4s


和(まだ4巡目ですよ?こんなの、止めようがありません…)

―――

照「」タン

打:6m

咲「ロン、面前混一色・白。8300」

1123478m北北北白白白

照「はい」

和(…これで、照さんは900~1800点でプラマイゼロ、宮永さんは…300~1200点でプラマイゼロですか)

和(二人とも一度ずつ和了らなければいけない状況、親の宮永さんはどうやっても1500以上の和了になるので、次は照さんを警戒すれば大丈夫でしょう)

―――

和「」タン

打:3m

咲「ロン、タンヤオのみ、1500」パタン

456s2344588m ポン:222s ロン:3m

和「…え?」

和(どういうことですか?これだと宮永さんは30800点…何時ぞやのようにリーチでもかけるつもりですか?いえ、それだと照さんが和了したら2000点以上になってしまいます)


東3局一本場 ドラ:1m

和(考えてみれば簡単なことでした、まだ宮永さんの親は続いています。つまり、ここで優希か私に安手をツモらせる、あるいは照さんにそれなりに大きい手をツモらせる気なのでしょう?)

和(そうはさせません、この手を和了りきってみせます)


和手牌

2234赤5p234赤56s白白白


優希手牌

1112244455578m ツモ:1s

優希(…清一色三暗刻ドラ3…三倍満確定の大物手、リーチはかけてないけど、オリるわけにはいかないじょ)

打:1s


和「ロンです、白ドラドラ。5200は5500」

優希「うう…ボロボロだじぇ…」


和(…やけにあっさり和了れましたね?何でしょう、この違和感は…)



オーラス前点数状況

優希  6000
咲    30800
照    28700
和    34500


和(あ…そうか、トップ…私か優希にトップを取らせなければならないのでしたね)

和(…今の一局、私に優希から和了らせることこそが狙い…いえ、優希も勝負手だったようですから、どちらでも良かったのかもしれませんが、いずれにしても私たちの間で点棒のやり取りが起きるようにされていた…)

和(冷静に点数を見てみれば、照さんがツモってプラマイゼロになる点数なら咲さんもプラマイゼロで収まります。すべて、計算通りなのでしょう)

和(難しいから、出来ないというわけではない…一人プラマイゼロより遥かに困難な二人プラマイゼロ、この人たちはそれを平然とやってのけるのですね)

―――

照「ツモ、300・500」

和「…完敗です。二人プラマイゼロ…こんな神業を平然とやってのけるとは…」

照「…トップはあなた、負けてはいない」


最終結果        (オーラス変動分)

優希  5700(ー  300)
咲    30500(ー  300)
照    29800(+1100)
和    34000(ー  500)


和「…この結果を狙って作ったと言われて勝ち誇れるほどマヌケじゃありません」

咲「…私たちの二人プラマイゼロは、いつものことだから」

和「え?」

咲「話さなかったっけ?私にとっての麻雀は『お母さんが怒って席を立つまで、【私とお姉ちゃんの二人がプラマイゼロになる】ようにし続けるだけのゲーム』だったって」

和「…あ、ああっ!?確かに!?」

優希「どうしたのどちゃん?咲ちゃんがプラマイゼロにして、そのおねーさんもプラマイゼロに出来るのはそんなにおかしなことじゃないじょ?」

和「…自分一人だけプラマイゼロにするのと、二人プラマイゼロは難易度が桁違いなんですよ」

優希「そうなのか?」


バタン

久「おー、やってるー?…って」

まこ「照…さん?」

照「…待ち人きたる。ちょうどいい暇つぶしになった」

和「…部長…」

久「あら、随分落ち込んでるわね?照にボコボコにされたのかしら?照が本気出してくれたなら、和には悪いけど私は嬉しいわね」

照「…いつも通り打っただけ」

久「いつも通りって、プラマイゼロなんか咲で慣れてるでしょうに…って、咲?まさか、咲も入ったの!?」

咲「はい」

久「結果は!?」

咲「『いつも通り』です」

久「…冗談でしょ?人間にそんなことできるの?」

まこ「どういうことじゃ?」

久「分かんない?二人が同時にプラマイゼロにするのは、一人でやるのとわけが違うのよ。もちろん、一人でやるのも神業だけどね」

まこ「…あ、ああっ!?確かに!?おんしら、なんちゅうことを平然とやっとるんじゃ!?」

優希「そんなに凄いのか?」

久「…いいわ、一から説明してあげる。まず…」


――――

優希「…言われてみれば、なかなかになかなかだじょ」

まこ「…照さんと咲、どっちもとんでもないと思ってはいたが…ここまでじゃとは思わんかったぞ」

和「…」

照「…話は終わった?」

久「ええ、あなたの凄さを伝えるのに成功したわ」

照「そう、で、今日ここにきた用件だけど…」


久「却下よ」


照「…まだ何も言ってない」

久「あなたが自分からここに来る用件なんか一つしか思いつかないわ。却下よ」

照「…もしかしたら入部しに来たのかもしれない」

久「さっき誘ったばっかりじゃない、あり得ないわね。もしそうならあなたの名前が書いてある入部届けは常に持ち歩いてるからいつでもオーケーよ?」

照「実物を確認しておきたいけど、そんなことをしている時間が勿体ないね。本題に移ろう」

久「だから却下よ、認めないわ」



照「咲を退部させるのにあなたの許可はいらない」

咲「…え?」

照「咲が自分から動くのは珍しいから、姉としては応援してあげたいけど、麻雀だけはダメ」

咲「お、お姉ちゃん?」

照「咲…」


照「麻雀部―――やめてくれないかな?」

今回は以上です。次回は15日に投下します。


久「だから却下だって言ってるでしょ。咲が抜けたら団体戦にも出られないし」

咲「…」

照「…じゃあ、私の入部と咲の退部を賭けて勝負しよう」

久「」ピク

まこ「いくら照さんでもなあ…うちは大会に出られるかどうかギリギリのとこじゃ、流石にリスクとリターンが釣り合わんけえ」

久「乗った」

まこ「おいっ!?」

久「…照にはそれだけの価値がある。私は、照が入ってくれれば、私以外の残り3人全員初心者でも全国に行けると本気で思ってるわよ」

照「…竹井さんは、相変わらず私を買いかぶりすぎ。けど、乗ってくれるのはありがたい」

久「で、条件は?どうなったら勝ちで、どうなったら負けなの?」

照「麻雀で勝負。私のプラマイゼロが崩されたら私の負け、でどうかな?」

久「それ以外のルールは?東風赤入りとかでもいいわけ?」

照「一局勝負とかだと流石に困るけど、それぐらいなら問題ない」


久(…さて、死ぬほど分の悪い勝負だけど…咲はどう思ってるのかしら?)

咲「…面子は?」

照「誰でもいい」

咲「なら、私は入るよ。自分のことだもん、いいよね?」

照「…咲は流石に…」

咲「いいよね?」

照「う、うん」

久(…とりあえず、手札にジョーカーが入った。勝負にはなるわね…あとは…)チラッ

まこ(無理無理、照さん相手にするならワシに期待されても困るけえ)ブンブン

久(まこはアウト…実際、変な打ち方するからまことは相性も悪いしね)

和(…宮永さんの退部を、私の関われないところで決めるなんて言いませんよね?)キッ

久(…最近の和は咲のプラマイゼロを崩すために色々試してるみたいだったわね、素も実力も申し分ない。ま、決まりね)

久「じゃあ、面子は私、照、咲、和で良いわね?」

照(…不味い、咲の気迫に流された…竹井さんと咲相手だと流石に分が悪いかもしれない…)

照「あ、あの、やっぱり咲はダメ―咲「じゃあ、始めようか?」」

照「…はい」

久(なるほど、分が悪いって自覚する程度には分が悪いのね。これはいいとこ引いたんじゃない?)

和(宮永さんは、部に残ることを望んでくれるはずです…宮永さんと同格の人外が相手であっても、宮永さんが味方ならきっと――)


照(冷静になろう。分は悪いけど、まだ負けると決まったわけじゃない。咲の打ち方を一番良く知ってるのは私。つまり咲は何とかなる)

照(そっちのピンクは、さっき鏡で見た、あれぐらいなら何とかなる)

照(となると、問題は竹井さん。もともと手ごわい相手なうえに一年ぶりだし、鏡で見ておかないとまずい気がする)

照(鏡のために一局目を捨てるなら、出来ればラス親を引きたい)

照(この場決めが勝負!)


カラカラカラ…


咲「あ、お姉ちゃんが起家だね」


照「…はい」シュン


照(…しかし、鏡は使わないと…ここは見の一手)



咲「ツモ」

19p19s199m東南西北白発 ツモ:中


咲「8000・16000」


照「…え?」

和(…これで、プラマイゼロのためには親番なしで21000点稼ぐ必要があります。私が考えていたプラマイゼロ対策の一つ、『一度の和了でプラマイゼロに出来る点数にさせない』あっさり実行されたのは悔しいですが、さすが宮永さんですね)

久(やりたくても出来ないプラマイゼロ対策よね。味方にするとホントに頼もしいわ)

咲(私の打ち方を一番理解してるのはお姉ちゃんだけど、お姉ちゃんの打ち方を一番理解してるのは私。お姉ちゃんは連続で和了る時に打点をあげないといけない。ここから三連続で和了するとして、21000前後を稼ぐ組み合わせはそう多くない…ついでに、この巡目で終わったら照魔鏡で三人を見るのも難しいんじゃないかな?)

照(…まだ慌てる時間じゃない、大丈夫、残り三局あるから5200、7700、8000で行ける)


ゴオオオオ(照魔鏡)


久「!?」ビクッ

照(咲は見なくても分かる、ピンクはさっき見た…だから、照魔鏡のターゲットはもともと竹井さん一人。竹井さんの今の打ち方も見えたし、まだいける!)


東二局 ドラ:1m

和「リーチ」


和手牌

13m223344s23488p


照(…え?ちょっと待って…さっきはその手でリーチする子じゃなかったはず…4萬引きでのタンピン三色がつく2~4翻アップの手変わりの存在に加えて、1000点払って1000点の役あり愚形聴牌を2000点にするような打ち方をするはずが…)

和(プラマイゼロ対策その2…リー棒を出して予定を狂わせる。平然と110符1翻を和了って見せるような人相手に有効かは怪しいですが、されて嫌な打ち方だと宮永さん本人から言質も取っています)

照(えっと…こうなると、5200が6200になるから…7700の予定を6400に変えて…最後に8000で29600、オーケー、行ける)

照「ツモ、タンピンツモドラ1。1300・2600」パタン


234赤56m55678s345p ツモ:7m


久(…リーチで少し動揺したわね。あなたの動揺した顔は、麻雀では初めて見るわ)


東3局 ドラ:1p


照(とりあえずチートイドラ1聴牌…あとはツモればいいだけ…)


照手牌

226677p赤5599s北北東


和「リーチ」

照(また!?千点の役あり聴牌を2000にするためにリー棒を出す子じゃないはずでしょ!なんなの!?)

照(…でも大丈夫、1000点なら最後の8000を7700にすればいいだけ、ここで和了っても問題ない)


照「ツモ、面前ツモ・チートイ・ドラ1。1600・3200」


咲(この一週間で、私相手にも何度か同じことしたよね、和ちゃん。私には打点の制約がないから私のプラマイゼロは崩れなかったけど…)

照(私は打点を下げられない…6400から7700の間の点数って何があったっけ?110符2翻の7100だけだよね?次もリー棒を出されると詰む。聴牌の前に和了らないと…)


オーラス


照手牌

33345m56s444p 暗槓:8888p ツモ:6s


照(来た…タンヤオ三暗刻、3-6萬で和了れば60符3翻で出和了り7700の手。なんとか間に合ったみたい)

打:5s


咲「リー…」

照「…咲、それ、本当に張ってるの?」

咲「…バレた?」

照「流石にノーテンリーチでは崩されたと認めないよ?」

咲「…なら、ノーテンリーチじゃなければいいのかな?」

照「まあ、それなら一応」

咲「だってさ、言質は取ったよ和ちゃん」

照「…え?」

和「…では遠慮なく、リーチです」

打:2p


照(…あれ?詰んだ?)


照(…悔しい。てゆうか、最初の一局を捨てないといけない状況で東風戦はずるい)

照(どうせプラマイゼロにならないなら、せめて…)

ツモ:3m

照「槓」


槓ドラ2:8p 嶺上ツモ:4p

45m66s444p 暗槓:8888p 3333m 


和「かっ、槓ドラが…!?」

照「もう一個、槓」


槓ドラ3:8p 嶺上ツモ:北

45m66s 暗槓:4444p 8888p 3333m 

打:北


和「二連続、槓?しかも、また槓ドラが…」ベタオリ

咲「槓するのはともかく、槓ドラモロとか卑怯だよね…」オリ

久「槓の時点でおかしいわよ、咲を基準にしないで」オリ


照「ツモ…面前ツモ・タンヤオ・三暗刻・三槓子・ドラ8。8000、16000」

45m66s 暗槓:4444p 8888p 3333m ツモ:6m


和「や、役満…?そんな…」


照「まくりトップ。私の勝ち」

久「勝手に条件変えるんじゃないわよ、約束通り入部してもらうわ」

照「わ、私の勝ち…」

久「往生際が悪いわよ、照」

照「か、勝ったもん!」

咲「これからよろしくね、お姉ちゃん!」

照「負けてない!負けてないから!だってトップだもん!」

まこ「照さん…こんなキャラじゃったか?」

久「さて、これから忙しくなるわよ?レギュラー決めから始めないとね」


和「…すみません、気分が優れないので今日はこれで失礼します」

優希「…のどちゃん?」

バタン

久「…鞄ぐらい持っていきなさいよ。気持ちは分かるけどね」

照「…ここに鞄を忘れると大変」

久「そうね。多分まだ近くに居るから届けてくれるかしら?」

照「なんで私が?」

久「届けてくれたら今日のところは入部を待ってあげるわ」

照「行ってきます」


バタン


咲「…相変わらず騙されやすいなあ…」

久「ねえ?」

まこ「今のあれじゃろ、『今日は待つ』ってだけで明日入部届け書かせるんじゃろ?」

久「当然」

京太郎「それは分かりますけど、なんで照さんを行かせたんですか?」

久「そりゃ…初対面で二人プラマイゼロに続けてあんなことされたらトラウマになるでしょ。せめて言いたいこと言った方が良いわ」

まこ「必死にプラマイゼロを崩したら、次の巡目には数え役満じゃからの。常識を疑うわ」

咲「…すみません、うちの姉、負けず嫌いで」

久「知ってるわよ。ほんとは麻雀好きだってこともね」

優希「そうなのか?」

久「じゃなきゃ100回も勝負しないでしょ。言ったわよね?100連続プラマイゼロをやられたって」

京太郎「…確かに」

久「今日、私たちが来る前に打ってたのだって、照から言いだしたんじゃない?」

咲「ええ、意地っ張りなので自分から打とうとは言いませんけど、挑発はしてましたね」

久「さて、私はあの二人の様子を見てくるから、あなた達四人で打っててもらえるかしら」

京太郎「了解っす」


…必死に打ったつもりだった。

確かに、プラマイゼロは崩せた。
リーチした時の彼女の表情をから察するに、それは本当に崩すことが出来たのだろう。

けれど、その後―――プラマイゼロを崩された後、あの人は平然と役満を和了ってみせた。

それに、打っている時は自分の力でプラマイゼロを崩した気になっていたが、いま振り返ってみれば、あの人を追い込んだのは最初の宮永さんの役満だ。
あれで、一度の和了りでプラマイゼロに出来ない上にそれなりに大きな手を作らないといけない状況になったから、リーチ棒を出すことでプラマイゼロを崩せたのだ。


あの人達は―――私とは別の次元に居る。
その証拠が、東風戦で二回の役満という異常に如実に示されている。

ついさっきまで、プラマイゼロを崩すことで、宮永さんに手が届くと思っていた。

しかし、それはとんだ思い違いだった。

かたや、勝つことより難しいプラマイゼロを、あの手この手で必死に崩しているだけ。しかも、それすら満足に出来ていない。
かたや、その気になればいつでも役満を自在に和了ることが出来る打ち手。

いつだったか、自分のトップを目指すことに特化した打ち方に対して、プラマイゼロに特化した打ち方とは何かと考えたことがある。
その時の結論は、『和了りたい時に和了りたい点数で和了でき、相手の手の点数と待ちを完全に一点で読んで差し込みが出来る』というものだった。
つまり、卓上のすべてを意のままに操るほどの実力、それがプラマイゼロを目指す打ち方だと結論付けた。

あの時馬鹿げていると切り捨てたそれは、おそらく正しい推測だったのだ。
分かっていたはずだ、狙ってプラマイゼロにすることは、勝つことよりずっと難しいと。

一度、麻雀ソフトの隠し機能を使って卓上の牌をすべて開けた状態で自分以外の三人をCPUに打たせてプラマイゼロを狙ったことがある。
打ちなれたCPU、どの手でどの牌を切るかも、どんな状況で鳴くかもすべて分かる相手…それを相手にすべての牌を開示して打った。
結果、私は卓上のすべての牌があらかじめ分かっていても狙ってプラマイゼロにすることなど出来なかった。

それを毎回狙って実現する人。
しかも、二人プラマイゼロという離れ業を日常的に行う人達…
自分が立っている場所が、どれほどあの人たちと離れているか思い知らされた。

部長だって今日の勝負を受ける時に言っていたじゃないか。
宮永照が居れば、自分以外の残り三人が全員初心者でも全国に行ける、と。

それは本心であり、事実なのだ。

インターミドル優勝、前年度の最強の中学生…そんなもの、あの人たちにとっては点棒を持ったカカシのようなものだろう。


積み上げてきた実績、努力、自信…それらが崩れていく。

あふれ出る涙を止めるだけの気力は、和には残っていなかった。


照「…どうしよう、声をかけにくい」

久「何やってんのあんた?」

照「あ、竹井さん、ちょうどいいところに…実は…」

久「…ふむふむ、なるほど…和が泣いてて声がかけられないと。様子見に来て正解だったわね」

照「具合が悪くて泣いてる泣き方ではない、それぐらいは分かる」

久「出来れば泣いてる理由まで分かって欲しいのだけど…あんたに負けたのが悔しくて泣いてるのよ?」

照「…負けたのは私の方。プラマイゼロを崩されて、麻雀部に入部までさせられることになって、泣きたいのはこっち」

久「それを言ってあげなさい。あんたが腹いせに和了った役満が、あの子には『お前にはいつでも勝てるけどプラマイゼロで遊んでやってるんだ』って言ってるみたいに見えたのよ」

照「…そんなつもりはない、あれは純粋な八つ当たり」

久「それ、あの子に言わないでね。八つ当たりで役満和了れるって普通におかしいから」

照「…うん」

久「ま、あんたの強さに惚れこんで二年も追っかけてる私とかなら、『やっぱり照は凄いな』で終わるけど」

照「…」

久「とりあえず、いつもの猫かぶりモードで行きなさい、あれならあんたボロ出さないから」

照「う、うん…」


照「原村さん、隣、いいかな?」

和「…グスッ、照…さん?」

照「…プラマイゼロを崩されたのは、あなたが初めてだよ」

和「…でも、勝とうと思えばいつでも勝てるんでしょう?プラマイゼロは勝つことより難しいんですから」

照「それはそうかもしれない、けど、私のプラマイゼロは、竹井さんが百回挑んでも崩せなかったものだよ。あなたはそれを崩した」

和「…それは、誇るようなものなのでしょうか?」

照「どうだろうね?それに満足できないなら、もっと強くなって今度は順位で勝てば良いんじゃないかな」

和「…簡単に言ってくれますね」

照「簡単だよ。原村さんなら出来る」

和「とてもそうは思えませんが?」

照「咲から、プラマイゼロを始めたあたりの話は聞いてるのかな?そんな話をしてたよね?」

和「…誤魔化さないでください」

照「私の母親は麻雀のコーチでね、客観的にみて相当上手い部類なんだ。今は昨年度インターハイ優勝の白糸台高校の監督をやってる」

和「…白糸台…」

照「その母さんが、100回どころか1000回挑んでも、私と咲のプラマイゼロは崩せない。何度でも言うけど、あなたはそれを崩した」

和「…」

照「あなたは強いよ。地力も高いし、プラマイゼロを崩すなんていうどうやればいいのかわからないような目的に対応して適切な打ち方もできる」

和「…それでも、今の私ではあなたには勝てません」

照「…」ナデナデ

和「なっ!?何をするんですか!子ども扱いしないでください!」カアア

照「私に負けて、悔しい?」

和「当たり前です!」

照「なら、原村さんはもっと強くなれるよ」

和「…」

照「今勝てないなら、強くなって挑めばいい」

和「そうさせて頂きます」

照「…頑張って、あと、これ」

和「…わたしの鞄?」

照「忘れ物、確かに渡したよ」


久「上手くやったわね」

照「…あれで良かったかな?」

久「十分でしょ。じゃ、戻りましょうか」

照「うん…いや、ちょっと待った」

久「なに?」

照「なんで私が普通に麻雀部室に戻るみたいな流れになってるの?」

久「ちっ…昔はこれで部室まで来てたのに」

照「まったく、油断も隙もない…」


【宮永家 麻雀部屋】


照「…麻雀、か」

界「照、どうした?」

照「お父さん…」

界「いつもと雰囲気が違うな。麻雀を打つ気になったのか?」

照「…麻雀はキライ」

界「そっか。咲が少しやる気になってるみたいだから久しぶりに三麻でも打とうかと思ったんだがな」

照「三麻…か。最後に私がプラマイゼロ以外で終わったのは三麻だったね」

界「俺の記憶にある範囲ではそうだな」

照「…お父さん」

界「なんだ?」

照「…夏は、咲と一緒に少し長い旅行に行くかもしれない」

界「…迷子にならないようにな」

照「うん」

今回は以上です。次回の更新は一週間後の予定です。

わかりにくいですが、照はちょくちょく卓のある部屋に来てて、咲はめったに来ないという設定になってます。
というわけで>>54の物陰で見てるのは照です。

リーチしてるから>>111の和はベタオリ出来ませんね。一巡だけなんで運よく掴まなかったことにしてください。



『原村さんはもっと強くなれるよ』

『今勝てないなら、強くなって挑めばいい』


随分無責任に言ってくれるものだと思う。
どう考えたって、勝てるはずなんかない。
実力差は、これ以上ないほど思い知った。


和「…なんで、あの人は気安く人の頭を撫でるんですか…」


しかし、本来ならその実力差を思い知って絶望にくれるはずの夜、原村和の心は弾んでいた。
照に撫でられた髪をいじりながら、照の手の感触を思い出す。

顔が熱くなる。

違う、これは、そう、きっと期待に違いない。

原村和は、検事の母と弁護士の父の間に生まれた。
両親は、和にも同様に法曹の道を歩んでほしいと願っており、和が麻雀に没頭することを快く思っていない。
そして、両親からは、この夏に実績を残せなければ麻雀をやめて都内の進学校に転校するように求められている。

麻雀部が活動休止状態の清澄高校に進学したのも、風越や龍門淵には行かせないという両親の方針によるところが大きい。
全国大会の常連である風越や昨年度全国ベスト8の龍門淵の環境では、和なら十分な実績を作ってしまうかもしれないという危惧を抱いたのだ。

それで仕方なく入った清澄高校に竹井久や染谷まこと言った高レベルの打ち手が居たのは奇跡のようなものだった。
更に、中学時代からの仲間である優希がついてきてくれた。

かなりの高レベルの卓で練習をすることが出来て、個人戦への備えは十分に出来る。
また、あと一人のメンバー次第では個人だけでなく団体でも実績を残せる目が出て来た。
来年以降も麻雀を続けることが出来るという期待は、自分の中でかなり大きなものになっていた。

そこへ来て、宮永姉妹である。

インターミドルチャンピオンである和を歯牙にもかけない圧倒的な力。
彼女たちがいれば、きっと、全国に行ける。両親が納得するような実績も作れる。

自分は、そういう期待を、宮永照に抱いているに違いないのだ。
絶望しか残らないような圧倒的敗北も、そのまま味方としての心強さになる。
だから、完膚無きまでに敗北して希望を奪われた夜でも、心躍る感情が湧きあがってくるのだ。


夜更かしをしても、朝は変わらずやってくる。
昨日は宮永照の顔が浮かんでは消え、そのたびに目が冴えて眠れなかった。

恵「和、昨日は随分と夜更かしをしていたみたいじゃないか」

父は、私がこれだけ眠たげにしていれば、その様子に気付かない人ではない。
私の寝不足は一目で看破された。

恵「分かっているとは思うが、遊びはほどほどにしておきなさい」

遊び、というのは麻雀のことだ。
昨日、私が夜更かしをした原因がなんであれ、麻雀をやめるように促している。

和「はい、お父さん。行ってまいります」

繋がっているようで繋がっていない会話。
父の言葉に形だけの返事を返して、そのまま家を出る。

そもそも、『ほどほど』というのはどれぐらいだろうか?
インターハイに出て、自分を無理やり引退させようとしたら両親が世間から批判される程度の実績を残すぐらいまでは、『ほどほど』に含まれるだろうか?

…含まれることにしておこう。
そういうわけで、私は今日も変わらず麻雀に打ちこむことにする。


『原村さんは、もっと強くなれるよ』

…昨日のやり取りが、先ほどから繰り返し頭に浮かぶ。
そもそも、これのせいで眠れなかったのだ。
一晩続いたものが、朝が来たら止むという保証は全くなく、事実、夜が明けても繰り返されていた。


照「あら、原村さん?」

咲「…お姉ちゃん、相変わらず他人に会った時の切り替え早いね」

和「」ビクッ


今まさに頭に思い浮かべていた人、その本人から現実で声をかけられる。
動揺して妙なことをしでかしはしないだろうか?


照「いつも、この道を通るの?今まで会わなかったのが不思議ね」

咲「私も登校中には会わなかったね。いつもと家を出た時間が違うとか?」

和「え、ええ、今日は少し寝坊してしまって」

照「そうなの?私と同じだね」ニコッ

咲「…寝坊はしてないでしょ、朝ご飯を失敗したから遅くなっただけで」


どうやら、宮永さんが料理を失敗するかなにかしたようです。
照さんも大変ですね。


和「お二人は、いつも一緒に登校されるのですか?」

咲「いつもはお姉ちゃんは先に行くんだよ。今日は流石に片づけを手伝ってもらった」

照「咲、そんなことは言わなくていいの」


宮永さんはそれなりに大きな失敗をしでかしたらしい。
照さんはその後始末を手伝わされて遅くなったようだ。


咲「…外面が良いって得だよね。和ちゃん、絶対誤解してるよ」

照「…?」

和「まあまあ、失敗は誰にでもありますから…」

咲「一応言っておくけど、やらかしたのはお姉ちゃんだからね?」

和「照さんは普段どれぐらいの時間に家を出られるのですか?」

照「普段は今日より30分ぐらい早いかな、原村さんは?」

和「いつもは今日より15分ほど早いですね」

照「じゃあ、普通に登校してたらまず会わないんだ。今日ここで会えたのって凄い偶然なんだね」ニコッ

和「え、ええ…」

咲「…スルーされた。多分私が失敗したと思われたままだよねこれ?」


宮永さんが何か言っているが、眠いせいであまり頭に入って来ない。
余談だが、翌日から私の登校時間が15分ほど早まった。


【放課後】

久「照ー、約束通り今日こそ入部してもらうわよー!」

モブ「あ、会長」

モブB「宮永さんならHRが終わってすぐどこかに行きましたよ?」

久「…あら?逃げるにしてもそこまで露骨な逃げ方する子じゃないと思ったんだけど?」

まこ「おらんもんは仕方ないじゃろ、探すか?」

久「ま、あの子なら目撃情報はすぐ集まるでしょ。私が探すからあなたは部室に行ってていいわよ。ついでに、これ部室のPCに入れといて」

まこ「了解じゃ」


和「…普段は私が一番乗りなのですが」

咲「朝の時点で私から合鍵借りて行ってたから」

照「…前から、このシリーズは読みたいと思っていた。どうせ入部させられるなら思う存分読ませてもらう」パラッ

咲「お姉ちゃん、素が出てるよ?」

照「はっ!?」

和(読書してる姿も様になりますね…)ポー

咲「…まあいっか、私も続き読もうかな。6巻ある?」

照「はい」

咲「ありがと」

和「すみません、少し仮眠をとりますね。面子が集まったら起こしてください」


【旧校舎入口】


久「…目撃情報を辿ったらここに行きついたのよねえ?自分から来てくれたってわけ?」

優希「おや、部長、どうしたんだじぇ?」

京太郎「今日は遅れるかもしれないって言ってませんでした?」

久「照の説得に時間がかかるかもしれないと思ってたんだけど、杞憂だったみたいでね」


バタン

久「揃ってるー?」

まこ「おお、久。食堂にタコスを買いに行った奴以外は一応そろっとるぞー」

照「…」パラッ

咲「あ、部長、お疲れ様です」

和「」スヤスヤ

久「ホントに居るのね。二年間この景色を待ち望んだ身としてはちょっと感慨深いものがあるわ」

照「…約束は約束だから」

久「優希と須賀君も下で会ったわ。タコス食べたらすぐ来るだろうから、そしたら大会に向けてルールその他の説明をするわね」


久「チームで10万点持ち、メンバーは五人、半荘一回で交代で、交代しても点数は持越し。赤入り、順位点は無し、今年は随分と単純で運要素が強いルールね」

照「…一戦ごとの着順でポイントをつけるんじゃなくて純粋な点数持越しか、そうなると、エースは先鋒に置くのが基本かな?」

咲「点差がつくと、高目を狙わないといけなかったりして自由に打てなくなりますからね。先鋒で大きく削られると辛くなりますから、先鋒にエースは基本でしょうね」

久「そうね、照は先鋒に置くのが既定路線ね」

照「…私はエースを先鋒に置くと言ったはずだけど?」

久「あなた以上の打ち手を私は知らないと、通算で百回は言ったはずだけど?」

咲「エースが誰かは置いておいて、オーダーの前に、一つ決めなきゃいけないことがありませんか?」

まこ「…そうじゃの」

優希「うう…京太郎はともかく、咲ちゃんとおねーさんは人外、のどちゃんには勝てない、部長も無理…出来れば考えたくないじぇ…」

まこ「わしと優希、どっちかがレギュラー落ちじゃな」

和「…そうなんですか?」

久「照と咲に関しては誰からも異論は出ないでしょ?和はインターミドルチャンピオン、レギュラーから外したらマスコミに何を書かれるかわかったもんじゃないわ」

優希「だじぇ」

久「というわけで、私とまこと優希で二つの椅子の取り合いになるわね」

まこ「あんたを降ろしてわしが出るっちゅうわけにもいかんじゃろ。そうなったらわしが身を引くからあんたも確定じゃ」

久「…まこ」

まこ「あんたがおらんかったら集まらんかったメンバーじゃ、あんただけは出ないといかん」

久「…じゃあ、お言葉に甘えるわね」


まこ「さて、というわけで…こいつで勝負じゃ!」


『二人麻雀「17歩」ルールブック』


久「そんなもんでレギュラー決められたら困るわよ!」スパーン

まこ「あいたっ!?」

優希「ちょっとやってみたいじぇ…」

久「やりたきゃ待ち時間にでもやってなさい、ちゃんと四人麻雀で決めるわよ」

まこ「ちっ…咲に通しを教えたのが無駄になったか」

優希「さ、咲ちゃん、裏切ったのか!?」

咲「教わってませんからね!?」

久「咲と照が入ったらある意味別のゲームになるから、面子は私と和ね。半荘五回打って平均順位が高かった方、同率の場合は素点が上だった方。オーケー?」

優希「了解だじぇ!」

まこ「…」

久「咲と照は、悪いけど今日は卓が埋まっちゃうから、まこん家の雀荘で打っててもらえるかしら?須賀君は案内ついでにそっちの見学してて。女同士の醜い争いを男の子に見せたくないしね」

京太郎「何言ってんですか。まあ、部長命令には従いますけど」


まこ(半荘五回の平均順位、一見、公平な基準のように見えるの?)

和(実に公平な基準ですね。半荘一回の結果では実力は量れませんので、五回。本当はもっと多い方が良いですが、期間も短いですしこれが限界でしょう)

まこ(しかし、わしと優希の勝負ということを考慮すると話は違ってくる)

まこ(優希は東風に強い。正確には、東場の実力が本来の力で、南場が弱い)

まこ(優希が南場に弱い理由は、集中力が続かんのが原因じゃ。まあ、南風戦とかやっても東風戦より弱いらしいけえ、東場に強いオカルトかもしれんが)

まこ(半荘一回でも後半で集中力が切れる…それが半荘五回打てば、最初はともかく後半はどうなるじゃろうな?)


まこ(それだけじゃない、平均順位を基準にしたのもポイントじゃ)

和(平均順位、麻雀の強さを語るのに最も適した指標です。部長は本当に公平な基準を設けましたね)

まこ(優希は勝つ時は東場で稼いだリードで逃げ切る。そうなると、南場をしっかりとオリ気味に打つだけで素点は大きくなりやすい。まあ、今の優希にはそれすら出来んかもしれんが、一戦目で大トップを取る可能性は十分にあるし、実際に8万近い大トップじゃった)

まこ(わしは手が来ないときは凌ぐしかないからの。東場で手が入る優希相手に素点で競うと、かなり運任せになる)

まこ(じゃが、勝負の基準が着順なら…仮に優希が一戦目や二戦目で大トップを取ってもただの一位。そして、集中力が切れた時…三戦目以降にこの面子に囲まれれば、優希は間違いなくラスを引くはずじゃ)

まこ(…久や和相手でも、わしは大崩れはせん。手が入ればトップも狙える。着順勝負で半荘五回を続けてやれば、よほどのバカヅキが優希に持続して来ない限り、勝負は見えとるんじゃ)

まこ(そもそも、インハイではレギュラー五人が打ったそれぞれの『着順』じゃのうて『持ち越した最終的な点数』で勝敗を決める。なら、本当は平均素点で決めるべきじゃ。和も優希も気付いちょらんが、部長はかなりわしに有利な条件を設定しちょる)

まこ(…すまんな優希、わしは、分かってて指摘せん卑怯もんじゃ)

優希(うーん…タコスぢからが切れてきたじぇ…)


久「ロン、7700」

優希「ううっ…」

まこ(二戦目でもう崩れ始めたか…悪いな優希。半荘二回で崩れる奴はいずれにしてもインハイには連れて行かれん)


結果

優希 一 三 四 四 四 平均 3.2位

まこ 三 二 二 三 三 平均 2.6位


久「…素点は見なくていいわね」

まこ「…平均2.5位に届かんでレギュラーっちゅうのも変な感じじゃな」

久「仕方ないでしょ。私と和が入ってるのよ?」

まこ「カッコいいこと言って譲ったが、あんたがレギュラー争いに入ってても結果は変わらんかったの」

和「…優希…」

優希「…ごめんな、のどちゃん。一緒にインハイに行けなくなったじぇ」

和「…優希」

久「和、ちょっと買い物頼んでいいかしら?まだ開いてるはずだから、学食までタコスを買いに行ってほしいの。閉まってたら戻ってきていいから」

和「それは…あ、いえ、分かりました」

まこ「…わしも行こう。定時制の連中に絡まれたらいかんからの」

タッタッタ バタン

久「…良く打ったわね、最後までどっちに転ぶかわからない、いい闘牌だったわよ」ナデナデ

優希「ヒック…う、うわああああん!」


まこ「…そういえば、あっちはどうなったかの?」

和「あっち?」

まこ「わしん家で打っとる連中じゃ」

和「…別に、あの二人なら難なくプラマイゼロを続けているんじゃないですか?」

まこ「それだと心強いが、困る」

和「…?」

まこ「少なくとも、ワシらに切れる最強の札を切ったわけじゃからな。せめてプラマイゼロぐらいは崩してくれないと困るんじゃ」

和「…おっしゃる意味が分かりませんが?」

まこ「あいつら二人に本気で勝ちを目指す打ち方を覚えてほしくてな…プロを呼んでぶつけてみたんじゃ」

和「…プロ、ですか?」

まこ「ああ、それも並のプロじゃありゃあせん、チームの中核になる中堅以上のプロじゃ。オールスターにも出ちょる」

和「…それは、気になりますね」

まこ「ああ、そろそろ結果が分かる頃じゃろ」


【雀荘 roof―top】


京太郎「…三人が三人とも意味わかんねえ打牌してる…」


南4局 

照 23200
咲 37400
靖 33400
客  6000


靖子(さっきの妹のリーチにノーテンリーチの追っかけでリー棒を差し込んだ結果、妹は37400…姉は23200…6400では妹が削りきれずにプラスになり、7700では姉がプラスになる。条件を満たすのは、110符2翻の7100のみ)

靖子(…オーラスでのまくりを得意としている私がオーラスで自分が和了れない事を前提にしているのがそもそも問題だが、いくら化け物でも110符を簡単に作れるものか?)

照「…槓」

靖子「って、槓だと!?まさか…」

照「もう一個、槓」

咲「…」タン

打:6p

照「ロン、三暗刻、7100」

7899p999s 暗槓:1111m 西西西西 ロン:6p


靖子(…これは、参ったな。手がつけられんぞ、この化け物ども…おそらく片方だけならプラマイゼロを崩すぐらいは出来るだろうが、二人セットになると、難易度が上がるはずなのに二人がかりの強力な支配を展開して確実にプラマイゼロにしてくる。こうなったら…)

靖子「…あんたら、組んでないか?コンビ打ちとか勘弁してほしいね」


照「…はい?」ビクッ

咲「…一人ずつ打ちたいならそう言えばいいと思いますよ?別に断ったりしませんから」

靖子「心でも読めるのかお前は?」

咲「…私たちを知ってるみたいですし、母か、でなければ部長の差し金でしょう?場所的に後者ですかね?」

靖子「見た目によらず鋭いんだな」

照(…咲がこういう雰囲気のときは難しい話をしてる、とりあえず理解してるふりを装って黙ってよう)

咲「部長にしても母にしても、こと麻雀に限っては私たちのためになることでしょうから、言うとおりにします」

靖子(…これで何も出来なかったらプロの沽券に関わるな…しかし、久の頼みだ、やるしかない)

靖子「後者だよ、とりあえず妹の方から打ってもらおうか」

咲「分かりました。お姉ちゃん、私が終わるまで他の卓で打ってて」

照「わかった、頑張ってね、咲」


南4局

咲 22400
客 12900
京 13200
靖 51500


靖子(…トップ、圧倒的トップでラス親だ…しかし、これはマズいな)

咲「…」

靖子(宮永妹は満貫でプラマイゼロ達成、それを止めなきゃならんのだが…あいにく、私は『まくりの女王』…地力は高いにしろ、勝ってる状況からだとオーラスでも特殊な力は持ってないんだな、これが)

靖子(だからってあっさりプラマイゼロを達成されちゃ困るわけで、ここはトップと100点差のつもりでまくる打ち方をしてみようか)

咲(…気配が変わった?おかしいな、私の見た限りでは負けてる状況から逆転する時に特殊な力を発揮するはずで、この状況ならただの上手い人になるはずだったんだけど)


咲(…張った。タンヤオ三暗刻ドラ1、ツモっても出和了りでも文句なく満貫)


咲手牌

222888s24赤566p44m ツモ:4m

打:2p


靖子(…一手遅れ…張ったはいいが、これはおそらく先にツモられる。さて、どうする?)


靖子手牌

123567m2346p西西西 ツモ:5p


靖子(とりあえずプラマイゼロぐらいは崩さないとプロ失格だろうな。となると、こうか)

靖子「リーチ」

打:西


靖子(待ちの広い三面張でツモを期待しつつ、リー棒を出してプラマイゼロを阻止。この感じだと向こうは次でツモるはずだが、和了りを見送れば勝負は分からんぞ?)


咲(…リー棒が出ちゃったか…で、ツモったけど、どうしよう?)


222888s4赤566p444m ツモ:6p


咲(別に、私は今プラマイゼロを本気で狙ってるわけじゃないから、これをツモって+1の浮き二着で終わってもいいんだけど…少し考えよう)

咲(私の今の点数は22400。リー棒が出たから、プラマイゼロにするためには6200~7100点、条件を満たすのは6400と7100だけだね)

咲(で、ここからプラマイゼロを目指すならツモ切りで公九牌を待って、そこで6筒切りで単騎待ちに変える)


想定図

222888s4赤566p444m ツモ:北 


咲(たとえば北をツモるとして、ここで6筒を切れば、タンヤオが消えて三暗刻ドラ1、出和了りなら50符3翻で6400。カツ丼さんが和了らなければ、、京ちゃん辺りが掴んでリーチへの安牌として出すはず)

咲(けど、残念ながら相手が悪い。多分、私が公九牌をツモるのは数巡後…ほぼ確実にカツ丼さんに先にツモられる。よって却下)

咲(あとは、もう一つの選択肢…どうせプラマイゼロを崩されるなら…)


打:赤5p


靖子(ちっ、隣だよ…って、そもそも振るような奴ではない、か。とりあえずツモったのは安牌っと)

打:西


京太郎「リーチかかってるからなあ…」タン

打:南


咲「ツモ」

靖子(うっ!?)ゾクッ

咲「今日はこれ、和了ってもいいんだよね?」パタン


222888s4666p444m ツモ:4p


咲「四暗刻単騎、雀荘ルールだとダブル役満ありだから、16000・32000」

靖子(…おいおい、プラマイゼロを崩したと思ったらダブル役満か…最後っ屁ってのはもうちょいささやかな抵抗にしてもらえないか?)



咲「…」ブルブル

京太郎「…どうした?」

咲「…いや、ちゃんと勝ったのって凄く久しぶりだから…役満も勝つために和了ったのは初めてだし」

京太郎「あんだけ非常識なことポンポンやってるくせに?」

咲「前に勝ったのはプラマイゼロ狙いだったし、昨日は役満和了ったけど結局負けたし」

京太郎「改めて考えると東1で役満だしてるのに東風で負けたっておかしいよな?」

咲「普通じゃないかな?役満ぐらいその気になればいつでも出せるし」

京太郎「…マジなのか冗談なのか分かんねえ」

咲「冗談に決まってるでしょ」

京太郎「お前は出来そうだから反応に困る」

咲「ふっふっふ、京ちゃんも私の凄さを認めたみたいだね」

京太郎「黙れへっぽこ、お前が凄いのは麻雀だけだ」

咲「うぐっ…酷いよ京ちゃん…」


靖子(…おーおー、無邪気にじゃれ合ってくれてまあ…こっちはプロの面子丸潰れだってのに)


最終結果

咲    87400
客   - 3100
京太郎 -18800 
靖子   34500



靖子(まあ、一応プラマイゼロを崩して、勝つことの喜びを教えたってことで、久の注文はクリアかな?)

靖子(となると、次は…)


照「…終わった?」

京太郎「ダブル役満の親かぶり喰らいましたよ」

照「そう」

咲「…手ごわいよ。私のプラマイゼロをまともに打って崩したのはこの人が初めてじゃないかな?」

照「…私は麻雀の勝ち負けに興味ないから」

咲「…まだそういうこと言うんだ、意地っ張り」

靖子(姉の方か…こっちの方がヤバそうなんだが、妹ですら今のアレだからな…どうにかなればいいんだが)


―――

照「ツモ、1000、2000」

靖子(…オーラスですら何も出来ないか。すまん、久、こいつは無理だ)

咲「さすがだね、お姉ちゃん」

照「…私はお姉ちゃんだから、咲の仇はとる」

咲「ありがとう」

京太郎「事情を知らない人間が見ると咲の仇ってなんだよってなりますけどね。さっきは普通にトップだったし」

靖子「参った、これでも一応プロなんだがな…」

咲「プロですか…道理で…」

靖子「いやいや、崩したと思ったら次の瞬間にダブル役満で軽くトップまくった奴に言われても慰めにならん」

咲「ごめんなさい…」

靖子「謝られても困る、しかし、とんでもない奴らだな。これなら、龍門淵とも『いい勝負』になるんじゃないか?」

咲「…え?」

靖子「これだけの才能を持った人間が衣以外に居るとは思わなかったよ」

咲「ちょっと待って下さい、『いい勝負』?」

靖子「ああ、お前たちと久が居れば、ぼろ負けってことはないだろう」

京太郎「龍門淵ってのはそんなにヤバいんですか?」

靖子「…去年、一年生だけのチームが、全国ベスト8まで上り詰めた。しかも、ベスト8はエースが出る前に他校が飛ばされて終わった結果であって、飛び終了ナシのルールなら、優勝もあり得た」

咲「『去年の時点で一年生だけ』、当然、当時のメンバーは全員健在で、昨年より経験を積んで強くなっているということですね?」

靖子「そう、そして、その龍門淵のエースである天江衣…あれは、私以外のプロや腕自慢の一般選手も参加したプロアマ戦で、高校生ながらに優勝していった化け物だ」

京太郎「プロより強い、高校生…」

靖子「…長居したな、私はそろそろ帰るよ。お疲れさん」



咲「というわけで、トップ取るのって楽しいですね」

まこ「狙って和了れそうな奴が言うと寒気がするの」

和「いや、『狙えそう』ではなく狙えるでしょう。宮永さんですよ?」

まこ「やめろ、洒落にならん」

照「本気で狙えば三回に一回は行けると思う」

まこ「聞きとうない!聞きとうないぞ!」

照「冗談、流石に狙って役満を和了るのはある程度条件が整ってないと無理」

まこ「あーあー!聞こえん聞こえん!」

京太郎「で、こっちの話はこんな感じですけど、そっちは?」

和「…部長が優希を慰めてくれています」

照「ということは、染谷さんがレギュラー?」

まこ「…一応、な」

咲「…優希ちゃん…あ、いや、おめでとうございます、染谷先輩」

まこ「ありがとさん。じゃが、そんな見え透いた世辞はいらんから、素直に優希の心配しちゃれ」

咲「ごめんなさい…」シュン

照「…で、終わってからどれぐらい経ってるの?」

まこ「30分ってとこじゃな。照さんたちが帰って来るほんの少し前に終わったとこじゃったけえ」

和「話し込んでしまいましたね。優希も落ち着いたでしょうし、戻りますか」


久「そう、あの子も崩された途端に役満をね…道が用意されてるってことは、多分、麻雀の神様が『普通に打て』ってあの子たちに言ってるんじゃない?」

久「ええ、大丈夫よ、照は私が何とかするわ。ありがとう、靖子」

ピッ

優希「…誰からだじぇ?」

久「…宮永姉妹を鍛えてもらうようにお願いしたプロよ。返り討ちに遭ったって」

優希「そっか、プロを返り討ちとかとんでもない人達だじょ」

久「来年には、あなたはそれと肩を並べて戦うのよ。今年の私の姿をしっかりみときなさい」

優希「うん、目に焼き付けるじぇ!」


コンコン


久「ノックするなんて珍しいわね。どうぞ―!」


ガチャ

和「戻りました。残念ながら食堂は閉まっていました」

まこ「すまんの」

咲「ただいまー」

照「…ただいま」

京太郎「お姫様たちのエスコート、完遂しました」


久「お帰り、そしてご苦労様。じゃあ、今日は解散しましょうか」


―――

藤田靖子、佐久フェレッターズ所属

個人としてもタイトル戦の準決勝に数回進出するなど、同世代では、圧倒的トップを走る三尋木咏に次ぐ実力者で若手の有望株。
オーラスでのまくりを得意としており、直撃で逆転出来るような状況ではほぼ確実にトップをまくる。

実業団で活躍してからのプロ入りだが、一年目でオールスターに出場。
以降毎年オールスター戦に出場しており、並みのプロとは一線を画する実力者とされる。

プロ麻雀せんべいのカードに書かれた称号は―――

―――

和「染谷先輩が今日呼んだと言っていた藤田靖子…データを見る限り、間違いなくプロの中でも上位の打ち手、それすら寄せ付けないほどの強さ――ですか。あの人の居る場所は、遠いですね…」


それでも、その高みを目指して、自分は進む。
他ならぬあの人が、自分はもっと強くなれると言ってくれたのだから。

東京の進学校に転校せず、長野に残って麻雀を続けるための条件は、全国大会優勝。

奈良で出来た友達、長野で出来た友達…
自分にとって友と呼べる人間は、麻雀を通じて繋がった人々である。

だから、麻雀を続けたい。

この長野に残って、あの人とともに歩むためにも―――


和「―――優勝、してみせようじゃないですか!!」ゴッ


【翌日 麻雀部室にて】

久「というわけで、合宿をしましょう」

まこ「どういうわけじゃ…まあ、親睦を深める意味でも何かしらイベントがあった方がいいタイミングじゃが」

照「…一日中麻雀漬けなんて吐き気がする。私はパス」

久「ちなみに、清澄高校の合宿所にはサウナ付きの露天風呂があるんだけど…」

照「行く」

咲「…露天風呂にあっさりつられるのはどうかと思うけど、まあ、来てくれるならいっか」

和「受験生用の資料ではかなり良さそうな施設でしたね」

優希「そうなのか?」

和「…優希は食堂のメニューにタコスがあるという理由だけで進学先を決めたんでしたっけ?」

優希「おう!」

咲「私は近所だからって言うのとお姉ちゃんがいるからって理由で決めたから、施設とかには目を通さなかったな。部活も入る気なかったし」

まこ「おんしらはホントに…」

京太郎「…俺は行っても大丈夫でしょうか?」

咲「まあ、京ちゃんなら間違いは起きないと思うけど…」

久「須賀君は家が近いから夜は帰ってもらえるかしら?」

京太郎「ですよねー…」

久「というのは冗談で、一応部屋は取ってあるわよ。ただ、洗濯とかが、ね」

京太郎「マジっすか!?大丈夫です、洗濯ぐらい何とかします!」

まこ「一応言っとくが、風呂を覗くなよ?」

京太郎「だだだ、大丈夫です!」

久「じゃあ、明後日からね。8日しかないから合宿でみっちり鍛えるわよ」

和「はいっ!」


久「さて、明日から合宿だけど、各自の問題点を確認しておくわ」

照「…私の『連続和了中は打点を下げられない』のは改善できないからね?」

久「あんたに関しては何の心配もしてないわよ。何度でも言うけど、あなたは私が知る限り最強の雀士だもの」

照「…何度でも言うけど、見込み違いだから」

咲「このやり取り、これから何回やるんですか?」

久「照が本気出すまで続くんじゃないかしら?」

照「竹井さんが諦めるまでは続くと思う」

咲「さいですか」


久「で、問題点だけど、まず和」

和「はい」

久「あなたはネット麻雀に比べて現実の麻雀ではミスが多いわ。プラマイゼロを崩すための手は除外するにしても、ネットではほぼ0のミスが、現実に牌を持つと散見されるようになる」

和「…それは…」

久「多分だけど、ネット麻雀と違う部分で思考が鈍っているのよね。たとえば、牌をツモって切る動作。ネット麻雀ではワンクリックで一秒以内に済むものにも、現実で麻雀を打つとそれなりに大きな動作が必要になる」

和「…」

久「それらに影響されず、ネット上と同様に打てるようになれば、ネット麻雀同様ミスがほぼ0の打牌が出来ると思うわ」

和「具体的に何をすれば?」

久「クリックと同じぐらいの感覚で無意識に打牌が出来るようになるまでツモ切り動作を繰り返す…ぐらいかしらね」

和「…わざわざ合宿でそんなことを?」

久「あなたは、ネットで最強と言われる『のどっち』なのだから、少なくとも高校生レベルでは地力を上げる練習は必要ないわね。如何に地力を引き出すかが課題よ」

和「分かりました」


久「次に、咲」

咲「はい」

久「あなたは気を抜くとプラマイゼロになるみたいだから、プラスにする打ち方を体に染み込ませてもらうわ。とにかく卓についてトップを意識して打つこと」

咲「はい」

久「で、まこ…あんたは次鋒でエントリーされてる相手の牌譜を片っ端から読んで行って」

まこ「打たんでええんか?」

久「あ…そうか、まこを入れないと咲と照と私と優希で固定されちゃうか。じゃあ、抜け番のときにってことで」

まこ「了解じゃ」

京太郎「あの…一応俺が…いや、なんでもないです」


久「最後に優希」

優希「へ?」

久「あなたは南場に集中力が途切れる傾向にある。それを持続できるようにしてもいいんだけど…どうせなら東場で大差をつけて逃げ切る打ち方を身につけましょうか」

優希「でも…あたしはレギュラーじゃ…」

久「んなこと関係ないわよ。これは麻雀部の合宿に参加するにあたってのあなたの課題」

優希「…」

久「それに、来年はレギュラーになるんだから、レギュラーじゃないからなんて言ってサボらせたりしないわよ」

優希「…うん!了解だじょ!」

久「というわけで、各自、自分の課題を意識して合宿に臨んでちょうだい!」

「「「「はいっ!」」」」


京太郎(…俺の課題は言ってくれないんだな…)

咲(京ちゃんは、現状だと課題しかないから)

京太郎(ひでえ…)


明日から、合宿。
正直、合宿どころか、大会への出場すら怪しかった。
それが、大会へ向けて…全国へ行くために合宿をしようとしている。


まこ「よかったのう、有望な一年が入ってくれて」


二年生の時に入って、部員もいない麻雀部に残ってくれた唯一の部員、染谷まこ。
この一年、苦楽を共にしてきた盟友だ。


久「この辺で麻雀する子はみんな風越か龍門淵に行くからね。今年も一年には期待してなかったんだけど…四人も入ってくれた。しかも、一人は照の妹よ」

まこ「…ベスト8ぐらいは行けるとええの」

久「何言ってるのよ?照と私とまこだけでも全国には行く予定だったのよ?」

まこ「…しっとるわ。ベスト8ってのは全国の話じゃ」

久「だから、それに対して何言ってるのって言ってんのよ」

まこ「…ちゅうと、あれか?」

久「さっき言った三人に加えて咲と和まで居るのよ?優勝以外はあり得ないわ。それとも、あなたは優希を蹴落としておいて自分はベスト8で満足する気なの?」

まこ「…それはあんたが仕組んだんじゃろ、ワシのせいにされても困る」

久「何のことかわからないわね。私は公平な基準を設けただけ、勝ったのはあなたの実力。で、どうなの?」

まこ「しゃあないの、付き合っちゃるか。あんたの夢に」

久「ずっと夢を見ていたの。照が入ってくれれば…って、この二年間、ずっとね」

まこ「今度は、夢を、現実にせんとな」

久「ええ、夢を見るだけでも満足しそうだったけど…叶えたいわね、全国優勝の、夢を」


【合宿中】


和「」ヒュン、パシッ

和「」ヒュン、パシッ

和「」ヒュン、パシッ


咲「…」

照「何見てるの?」

咲「…いや、綺麗だなって」

照「そうだね、動作に無駄がない。見とれるのも分かる」


久「そこ二人、サボらない!」

照「…と、言われても…」

咲「…ねえ?」

まこ「照さんが入ると別のゲームになるからの」

優希「咲ちゃんも大概だじょ。東場なのに焼き鳥にされるし…」

久「あれだけ集中してる和を入れるわけにもいかないし、どっちか入りなさい」

咲「だってさお姉ちゃん」

照「私は麻雀キライだから」

京太郎「あのー、俺は…?」

優希「犬が毎回トブから部長があの二人を呼んでるんだじぇ?」

京太郎「だよなー…とほほ」


照「…」パラ

久「にしても、あんたホントに本読んでばっかりね」

照「好きだから」

久「ま、それは知ってるけど」

照「…私も、打った方が良いかな?」

久「そうね、打つだけじゃなく、プラマイゼロをやめて私たちをボッコボコにしてくれていいのよ?」

照「…何度も言うけど、私はそこまで強くないよ」

久「私はあんたのプラマイゼロ以外の打ち方を見たことないからね。どこまでも期待させてもらうわよ」

照「私はプラマイゼロ以外の打ち方が出来ないから、それは期待外れだよ」

久「さあ、それはどうかな?あなた、本当にプラマイゼロ以外の打ち方出来ないの?」

照「…少なくとも、それ以外の打ち方は忘れた。小三の頃からこの打ち方だから」

久「そう。残念ね」

照「…だから、私に期待するのはやめて、片岡さんを…」

久「それはないわね。あなたのプラマイゼロはプロでも上位の靖子が崩せなかったのよ。全国のエース級が暴れる先鋒で、確実に5000前後稼いで帰って来るのは十分すぎるほどのメリット。たとえあなたがプラマイゼロに徹するとしても、あなたが先鋒なのは確定よ」

照「そう、残念」

久「これも何度も言ってるけど、私はあなたが思っている以上にあなたを買ってるの。私があなたを手放すなんてことは期待しないでほしいわ」

照「…今いる部員全員と引き換えでも?」

久「迷わずあなたを選ぶわ。分かってるでしょ?あなたが手に入る可能性が1%でもあるなら私はあなたを選ぶし、実際に咲を退部させに来た時は、強力な戦力を擁して確実に大会に出られる状況よりも、あなたが手に入る僅かな可能性を選んだわ。あの時の私に、迷いがあったかしら?」

照「…ホントに、買いかぶりすぎだよ」

久「さて、そろそろ寝ましょうか、明日も早いからね」

照「…うん」


和「…本当に、これで強くなれているのでしょうか?」

咲「どうだろうね。実際に打ってみる?」

優希「パワーアップしたのどちゃんがついにその牙をむくのか?」

まこ「そうじゃの、見た限り、ほとんど無意識にツモ切りできるようになっちょるけえ、そろそろ打ってみてもええじゃろ」

和「では…」

まこ「ネット麻雀最強の天使が、いよいよ現実世界にお目見え、かのう」


照「…いいお湯だった」

咲「そうだね。いいとこだね、ここ」

照「…明日で終わりか」

咲「県予選を抜けたら、全国大会の前にもう一度合宿があるみたいだよ」

照「…そう」

咲「私は、また来たいな、ここに」

照「なら、私は咲のために打つことにする」

咲「でも、プラマイゼロなんでしょ?」

照「それしか出来ないからね」

咲「プラマイゼロを始めたのは私の方が先のはずなんだけど?私の真似で始めたのに、私より強く染みついてるなんてことがあるのかな?」

照「…私がプラマイゼロしかしないとしても、少なくとも、県予選は大丈夫でしょ」

咲「カツ丼さんが言ってたよね?龍門淵は全国優勝の可能性もあった強豪だって」

照「…なら、プラマイゼロにしながら龍門淵を削ることにするよ」

咲「…頑固者」

テクテク…

和「咲さんに照さん?お二人も散歩ですか?」

咲「あ、原村さん」

照「ここはいいところだから、また来ようねってお話をしていたの」

和「…それは、つまり」

照「県予選を勝ち抜いて、またここに来よう」ニコッ

咲「…どの口でそのセリフを言うのかなあ…まあいいけど」

和「はいっ!」


合宿から5日――

楽しいことも辛いこともあったけど、私たちはこの日を迎えた。


【全国高等学校麻雀選手権大会長野県予選会場】


会場の前。
私たちは竹井さんの声に耳を傾けている。


久「…やるだけのことはやった、私は、あなた達となら全国優勝できると本気で思っている」


それは本当にそうだろう。
インターミドルチャンピオンと、それに勝ち越す竹井さん、五分に渡り合う染谷さん、東風なら勝ち越す片岡さんに、その全員相手に合宿以来平均着順1位台前半をキープしている咲。

つまり、中学王者と互角以上の打ち手が五人。
私が居なくても、十分優勝できるだけの人材がそろっている。
そして、竹井さんは私を、それらすべてと引き換えにしてもお釣りが来るほどの雀士だと思っている。
だとしたら、竹井さんにとっては優勝以外ありえないぐらいの圧倒的な戦力が揃っていることになるだろう。


久「後は勝つだけよ、さあ、行こうか!」


「「「「「はいっ!!」」」」」


『五人』の声が揃う。
竹井さん以外にこの場に居るのは六人だから、一人、揃ってない人が居る。

声を揃えなかった一人は、みんなが歩き出してもまだ会場を見上げるだけで、歩き出す様子はない。


久「照、まだ寝ぼけてるの?行くわよ」

照「…ねえ、本当に、私でいいの?」

久「…一年の頃から何度も言ってるわよね?私はあなた以上の雀士を知らないって」

照「こっちも何度も言ってるよ、買いかぶりすぎだって」

久「私は自分の目を信じるわ、だから、私の目の正しさを証明するためにも、あなたに来てもらわないと困るの」

照「…うん」


今、最後の一人も、会場へ向けて歩き始めた。


夏が、始まる――――

次回の更新は木曜日を予定してます。本日はこれにて失礼します。



京太郎「うーわー…人多いなー」

この会場には、長野県の団体戦出場校58校の関係者と報道陣が集まっている。
選手だけでも240人、そして、応援に来た部員やその家族。
おそらく、総数は2000人をゆうに超えるだろう。


まこ「年々増えるの。実家が雀荘な身としては麻雀人口が増えるのは嬉しい限りじゃ」


会場まで足を運ぶ人間がこれだけ居るということは、潜在的な麻雀人口はもっと多いということになる。

実際、染谷先輩の雀荘に行ったときはいろんな年代の人が楽しそうに打っていた。
もはや麻雀は賭博ではなく、将棋や囲碁などの昔から親しまれてきた知的遊戯と同等以上の地位を確立している。


優希「ん~?…照さんと部長が居ないじょー」

和「え……」

まこ「照さんと久じゃろ?うちの学校で一番しっかりしとる二人じゃけえ、ほっといても大丈夫じゃろ。どうせ敵情視察とか言ってふらついとるだけじゃ」


お姉ちゃん、やっぱりそのイメージづくりやめた方がいいよ。
迷子なのに探してもらえなくなるから。

まあ、今回は部長が一緒だから大丈夫だろうけど。


咲「とりあえず、どこか集合場所を決めましょう。探すにしてもその後の方が色々と都合がいいですし」

まこ「そうじゃの…」


ワアアアアア!!!


まこ「お?」


『風越女子だ!』『キャプテンの福路美穂子よ!』
『レギュラー四人にくっついてるあの細長いのは…まさか!?』
『文堂星夏!名門風越で一年生にしてレギュラーを勝ち取った新星か!?』
『部員80人を擁する強豪!昨年の県二位!やはり風格があるな』
『6年連続優勝を絶やした汚名を今年は返上できるのか?』


京太郎「説明臭い台詞がそこかしこから聞こえてきて助かりますね」

まこ「そうじゃな、人ごみの中に説明したがりが居るみたいじゃ」


ザワ…ザワ…


美穂子「あら」

咲「…ん?」


『龍門淵が来たぞー!!』『前年度県予選優勝校――!!』
『井上純!沢村智紀!国広一!龍門淵透華!昨年の四天王は今年も健在だ――!』
『昨年度全国ベスト8のフルメンバーがそのまま残っているわけだな』
『そのままじゃない、一年分の経験を積んでいるんだ』
『今年は全国的にも優勝候補の一角、県内は言わずもがなだな』


咲「…あれが龍門淵高校?」

和「どうかしましたか?」

咲「…ううん、カツ丼さんも人をおどかすのが好きだなと思っただけ」

優希「カツ丼よりタコスだじぇ!」


西田「…さて、取材対象はよりどりみどりだけど…」

?「天江が居ないな」

西田「え…藤田プロ!?」

靖子「こんにちは、久しぶりだな、西田さん」

西田「今日はなんでこちらに?」

靖子「解説プロとして呼ばれてる」


解説プロということは、参加校の資料は目を通しているはずだ。
プロの目で見た注目校を聞き出すのに一番都合のいい相手ということになる。

とりあえず、コメントを引き出しに行く。
藤田プロは意外と説明好きだから、説明したくなるような聞き方をするのが良い。


西田「団体戦は龍門淵か風越で決まりでしょうね」

靖子「どうかな、今年は予想もしないダークホースが出てくるかもしれない。それに、決勝以外はたったの半荘五回だ、実力差が結果に出ないこともある」

西田「プロとして見どころはどこでしょう?」

靖子「とりあえず、資料から見える範囲では龍門淵高校の天江衣」


ダークホースの存在を匂わせる発言に、『資料から見える範囲では』の条件付き発言。
この二つから推測できるのは、資料に見えていない大穴に心当たりがあるということだろうか?
オールスター出場者の藤田靖子の目から見て、昨年度MVPの天江衣以上に注目すべき、資料からうかがえない無名の選手がいる?


西田「天江衣ですか…牌譜を見ると運がいいだけの素人に見えますが?」

靖子「牌譜だけならな。しかし、映像つきで見たりその場で打ったりすると印象が変わる。見る者によっては牌譜からでも異常を感じ取るだろう」

西田「牌に愛された子―――ですか?」

靖子「奇跡のような闘牌を確信をもって行う理外の打ち手…今はそんな名で呼ぶのか」

西田「藤田さんの代では三尋木咏、少し上に行くと瑞原はやりと小鍛治健夜…下の代を見れば戒能良子などが居ますね」

靖子「数年に一度、出て来るんだ。明らかに常識を逸脱した化け物がな」

靖子「昨年の神代小蒔、天江衣、荒川憩…この三人はその部類だな」

西田「数年に一度の、三尋木咏に匹敵する怪物ですか…では、長野は龍門淵で決まりですか?」

靖子「数年に一度…だと思ってたんだがな。今年は去年以上に豊作かもしれない。そう―――」


―――今年も、『牌に愛された子』が、出てくるかもしれない。


西田「」ゾクッ


靖子「ま、出てきてほしくはないけどね。咏みたいなやつがゴロゴロ出て来たらこっちは商売あがったりだ」

西田「は、はは…」


この言い方、おそらく、確信があるのだ。

藤田靖子が、三尋木咏と同格に見るほどの化け物が、存在する。

それも、資料からうかがうことが出来ない、無名の打ち手。

存在するとしたら、やはり、そこが一番有力だろう。


清澄高校、私の取材対象は、決まった。


西田「原村和、発見!!」

靖子「」ビクッ

西田「失礼します!最優先取材対象なので!!」

靖子「…ああ、お仕事ご苦労さん」


藤田靖子はただの麻雀打ちではない。
後進の育成に力を入れており、麻雀界きっての情報通の側面も併せ持っている。

ただ情報を集めるだけでは情報通にはならない。
鋭く相手の表情を読み取り、言葉の裏の真実を見抜く、そうやって、正しく質の高い情報を集めるのが情報通だ。

その藤田靖子が、隠す気もない私の気配を見落とすはずがない。
おそらく、話の途中で私の眼の色が変わったのは気付いているだろう。
また、今の話を聞いて本気で私が原村和を最優先取材対象だと考えるとは思わないだろう。

藤田と自分の関係は良好、ならば、私の行動に何か一言、取材対象は的外れなのか、それとも正しいのか、ヒントをくれるはずだ。


靖子「灯台もと暗し、気を付けるんだな」


やっぱり、そうか!
清澄高校、ここに、藤田靖子が、原村和が、強く意識する怪物が居る―――!!


西田「清澄高校のメンバー、全員写真に撮っておきなさい!全員よ!いいわね!」

「おうっ!了解だ!!」


西田「あなたが入ったことで、清澄高校も有力候補の一角に挙げられているけど、実際のところどうかしら?」

和「目指すのは、全国優勝です!」

西田「全国では五人全員が強いチームが出てきます、圧倒的な強さの人間が一人いても全国優勝は難しいというのが大方の見方ですが、清澄は違うと?」

和「ええ」

西田「こちら、先ほど提出された清澄高校のオーダーです…原村さんは副将になっていますね。副将にエースを起用したオーダーは珍しいですが、これにはどういった意図が?」

和「…認めるのは悔しいですが、私は、清澄高校のエースではありませんから。…清澄高校のオーダーは、セオリー通りのオーダーです」

西田「」ゾクッ

和「虚言でも妄言でもなく、清澄高校は全国優勝を狙える戦力を揃えました、結果はその目でお確かめ下さい」


久「オーダー出したし、控室に行きましょうか。まこが席取ってるらしいわ」

照「…ねえ、本当に…」

久「出しちゃった後で言っても仕方ないでしょ、頑張ってね、清澄のエースさん」

照「…強引なんだから」


純「衣、遅せえなあ…」

透華「また目覚ましが壊れたりしてるんじゃありませんの?」

純「俺、昨日あいつん家行って目覚まし五つセットしたぞ」

一「うわあ…」

智紀「衣の場合、数ではなく衣に壊されない質の方が重よ…」ゾクッ

「「「「」」」」ゾゾゾ


照「ん?」

久「こら、あんたすぐ迷子になるんだから急に立ち止まらないでよ。見失ったらどうするの?」

照「ごめん」

久「仕方ないわね、手を繋ぎましょう」

照「こ、子供じゃないんだから」

久「迷子癖を治してから言ってね」ギュ

照「…恥ずかしい」


智紀「…清澄高校の制服…ブルーのスカーフは三年生」ボソッ

純「は?三年?」

一「清澄って…原村和は一年でしょ?じゃあ、アレは何?」

透華「…さっぱりですわ」


まこ「おーい、こっちじゃこっち!」ブンブン

久「あ、いたいた、オーダー出して来たわよ」

まこ「そんなこったろうと思ったわ。で、オーダーはどうなっった?」

和「私は先ほど西田さんに見せて頂きました」

照「…私が先鋒、咲が大将」

久「まこは次鋒、私が中堅、和は副将ね。こんなもんでしょ?」

まこ「こんなもんってのは、セオリー通りってことかの?」

咲「セオリーだと強い順に…先鋒、大将…次は中堅ですかね?」

久「一番大事な先鋒と、試合を決める重要なポジションである大将、エースは通常、このどちらかに据えるわ」

和「試合の折り返しである中堅には三番手を据えるのが一般的ですね。強い順に並べても弱い順に並べてもセオリー通りでも三番手が来ます」

久「安定して、順番じゃない意味での『中堅』が来る。試合の折り返しでもあり、ここでの勝利は先鋒以上に試合の勝利に近づきやすいということで、大阪の名門姫松はここにエースを据える伝統があるわ」

まこ「まあ、特殊なケースじゃな。どんなオーダーでも中堅はまず三番手じゃ」

咲「で、次鋒と副将だと…エースである先鋒の後な上に中堅以降でのフォローも利く次鋒の方が重要度が低いかな?」

久「ま、そうね。先鋒次鋒で勝負を決めるようなオーダーもあるけど、この大会なら五番手は次鋒がセオリーね」

照「つまり、強い順に先鋒、大将、中堅、副将、次鋒が標準オーダー」


久「それがセオリーとして、レギュラー個々の特性に応じて工夫するものなんでしょうけど、この戦力で小細工は要らない。セオリー通りの順番で並べたわ」

咲「まあ、はっきり分かる程度の実力差が五人それぞれの間にある場合の話ですけどね」

和「実力差が小さければ、どの順番で出してもあまり変わりませんからね」

久「ま、この五人の場合はあるんだけどね、実力差。上二人と下三人の間に」

まこ「そうじゃの。結局プラマイゼロすらほとんど破れんしな」

優希「五番手で染谷先輩ってのは普通に考えておかしいじょ…しかも四番手にインターミドルチャンピオンののどちゃんって…」

咲「うちは京ちゃん以外に穴がないからね」

京太郎「そもそも俺は女子の大会に出れねえから穴じゃねえっての」

優希「…それは反論になってるのか?」

京太郎「うっ…」

久「さあ、全国制覇へ向けて最初の試合よ、気合入れて行きましょう!」

「「「「おうっ!」」」」

「…うん」

短いですが、今回はこれにて。
次回は土曜日の予定です。

>>185は240人のほうが間違いで、正しくは290人です。
ご指摘ありがとうございます。



久「対局室には対局する四人だけが入り、携帯などの持ち込みは不可、電波も届かない」

まこ「複数のカメラが設置されて録画もされとる、卓は勿論自動卓。蛇でもなければサマは不可能じゃ」

久「蛇って何よ…で、カメラの映像をこの観戦室のモニターで見る。設備は変わるけど、全国でも基本的に同じよ」

照「ふむふむ…」


久「で、組み合わせだけど、今回の参加校は58校。昨年の実績から龍門淵と風越がシードになって単純な表になるわね」

まこ「半端な数じゃとややこしい表になるがの」

和「64校でのトーナメントのうち、一回戦二つ分がシード枠になって、残り14試合を56校で争う…確かに分かりやすい表になりましたね」

久「四校のうちトップの一校だけが抜ける、それを三回よ。今日の午前と午後、そして明日の決勝戦、それですべてが決まるわ」

照「ん?うーん…」

咲「とにかくトップになればいいんだよお姉ちゃん」

照「ふむふむ…」

まこ「58校でも、激戦区の大阪に比べりゃ三分の一もないがのう」

久「じゃあ、そろそろ始まるから対局室に行きましょうか」

照「うん」

和「頑張って下さい!」

久「とりあえず、最初に当たる三校の中で強いのは今宮女子ね」

照「分かった」


照「よろしくお願いします」ニコッ

葉子(うわっ、めっちゃ美人…でも、手加減はしないかんねー)


席について対局を待つ。
場決めの結果、私が起家になった。
欲を言えばラス親が一番楽なんだけど、まあ、この面子なら変わらないか。


係員「それでは、対局を始めて下さい」


スイッチを押して、サイコロを回す。
とりあえず東一局は鏡を使うので捨てる。
今宮女子が強いということは、今宮女子を削れという指示だ。
プラマイゼロの範囲で、今宮女子をラスに落とす。私にとっては難しくない作業。


葉子(最速と呼ばれた私のスピードに、ついてこれるかしら…!?)


この人は牌効率重視。とにかく最速の和了りを目指すタイプ。


由理「」タン

和子「」タン


この人達は、レベルの低いデジタル。
押し引きも優柔不断で、場の捨て牌も把握し切れてない。

…鏡で見なくても大体全部わかっちゃったし、鏡を使う必要もないかな。


照「」タン

打:白

由理「ポン!」

葉子(げっ!?なに翻牌鳴かしてくれてんの!?)

照「槓」

槓ドラ:白

葉子「うえっ!?」

葉子(こんなのベタオリっきゃねー…清澄の、素人すぎでしょ…)

由理「ツモ。2000・4000」

234s678p4556m ポン:白白白 ツモ:5m


照「はい」チャラ

葉子(親かぶりしてやんの。自業自得ってね)


―――

照「ツモ、300・500」

葉子(あたしより早い…?いやいや、たまたまついてただけっしょ?)

―――

照「ツモ。500・1000」

葉子(ちょっ…まだ三巡目…!?)

―――

照「ロン、3900」

葉子「はあああっ!?一巡目!?」

照「」ビクッ

葉子(人和がなくて助かった…って、なんなのこいつ!?最速と呼ばれた私が全くついていけないなんて…)


―――

和子「あ、ポンです」


ポン:6p


照「…槓」

葉子(待って、この展開、見覚えが…まさか…)


槓ドラ:6p


葉子(ま、まさか、まさかだけど、狙ってやってんの!?自分の親かぶりを!?)

照「」タン


打:3m


和子「それもポンです」

照「…槓」


槓ドラ2:3m 打:2筒


葉子「う…そ…」

和子「それもポン」

照「…槓」


槓ドラ3:6p 


葉子(タンヤオのみだとしてもドラ9…倍満確定。対対までついたら…ベタオリっきゃねー)


和子「あ、ツモです。タンヤオ・対対・ドラ10…8000、16000!」


22赤55s ポン:333m 222p 666p ツモ:2s ドラ: 北 6p 3m 6p


照「はい」チャラ

葉子(役満の親かぶりで涼しい顔してやがる…こいつ、マジでなんなんだよ…!?)


久「やりすぎでしょ…トラウマになるわよ門松さん」

まこ「おんしの指示じゃろ?」

久「ここまで本気で削るとは思わなかったわよ。ご丁寧に一番弱い東福寺に役満プレゼントしてるし」

咲「でも、門松さんがトラウマになるのはここからですよ」

和「え?」

咲「ここまでお姉ちゃんはマイナス13000、プラマイゼロにするために三連続直撃で18000点を回収するでしょうから」

京太郎「なんで直撃って分かるんだ?」

咲「…お姉ちゃんの私以外からの直撃って、珍しいんだよ。点数に制限がない状況で巡目が早ければ、見逃してツモる。東場で、しかも一巡目で直撃したってことは確実に狙ってる」

和「狙っているというのがイコールこれから三連続で直撃するという結論になりますか?」

咲「お姉ちゃんだよ?」

和「…それで納得できる自分が怖いです」

久(…)

咲「お姉ちゃんはこれから、三連続で今宮女子を直撃します」

和「…悪夢ですね」

優希「のどちゃん…のどちゃんだけはそんなオカルトありえませんって言ってくれると信じてたのに…」

和「咲さんが予言して、実行者が照さんですよ?実現するに決まってます」

久「本当にご愁傷様としか言いようがないわね…」


先鋒戦終了

清澄   105300
今宮女子  66800
千曲東   98700
東福寺  129200


照「ありがとうございました」ペコッ

葉子「」ガタガタ

和子「ありがとうございましたっ!」パアアッ

由理「ありがとうございました」


和子(やった、役満和了っちゃったよ!もしかしたら今宮女子に勝てるかも!)

由理(役満が出た割に被害は少ない。これが今宮女子なら無理だけど、東福寺ならまだ追える。大将までくらいついて行けば、うちには棟居もいる)

葉子(化けもんだ…あいつ、本物の化けもんだよ…なんであたしが切る牌が分かるんだよ…)


久「…プラマイ…ゼロ?」

和「それは今更驚きませんが…本当に馬鹿げてますね…三連続、親番を流すための南一局の役満サポートを除けば東四局から四連続で狙った相手から直撃とは…」

咲「門松さん大丈夫かな?」

まこ「ダメじゃろ、他の二人と違って打ってる途中で狙われてることに気づいてしもうちょる、あんなんトラウマになるわ」

京太郎「俺、いつも似たようなことされてますけど?」

優希「鋼のメンタルだじぇ」

久「じゃあ、まこ、分かってると思うけど」

まこ「わしは狙い撃ちとかできんけえ、トップ取ればええじゃろ?」

久「ええ、任せたわ」


次鋒戦終了

清澄   128300(+23000)
今宮女子  61800(― 5000)
千曲東   90700(― 8000)
東福寺  119200(―10000)


久「じゃあ、行って来るわね」

和「ご武運を」

まこ「これが終わったら和の高校デビュー戦じゃの」

久「別にどこか飛ばして来てもいいんだけど、慣らしは必要だからね。二人に獲物を残しておくわ」

優希「一番少ない今宮女子でも6万点以上残ってるじぇ?流石に飛ばすのは無理だじょ」

照「…」

和「とにかく、頑張ってください」

久「ええ、ちゃんと見てなさい、あなたの先輩の雄姿をね」

優希「ガッテンだじぇ!」


中堅戦終了

清澄   159400(+31100)
今宮女子  52900(― 8900)
千曲東   81500(― 9200)
東福寺  106200(―13000)


久「ただいま」

まこ「…親連荘二回を含めて10局で8回も和了りおったか」

久「親では和了るつもりなかったのよ?不正とか疑われても嫌だからツモったら和了ったけど」

照「…お疲れ様」

咲「流石ですね」

和「その気になれば飛ばせたというのもあながち、ホラでもなさそうです」

優希「さっすが部長だじぇ!」

久「じゃあ、次はあなたね、和」

和「はい」

久「インターミドルチャンプの力、見せつけて来なさい」


透華(ふふふ…インターミドルチャンプがどれほどの物か、見せて頂きますわよ、原村和)


久「…出たわね、例のクセ」

まこ「一打目に数秒考えるっちゅうやつか?」

久「ええ、二打目以降は何を引いても考えないくせに、一打目だけはどんなに迷いようのない手牌でも考える」

照「二打目以降のあれは、考えてないわけじゃない」

優希「ほえ?」

咲「一打目は、34種の牌全てに対して、最終形までの期待値を計算しなければいけない、だから、少し時間がかかる」

照「対して、二打目以降ではすでに算出された結果を河に出た牌を見て微修正するだけ、その所要時間は一打目の数十分の1」

咲「河を見ての修正は、牌をツモって見るまでの間に終わっている。だから、ツモった牌を見た瞬間には切る牌は決まっている」

久「結果、ノータイムで切る牌を選択することになる、か。まあ、知ってたけど、さっきのは言葉のあやってやつね」

透華(…それは…「のどっち」の特徴そのもの。そして、あの打牌…期待値で計算した場合にノーミスになる完全なデジタル…)


久「ネット麻雀界最強の天使『のどっち』が、現実世界に降臨したわ」

咲「ついでに、ノーミスのデジタルだけじゃないですよね、明らかに運がいい」

照「34種の牌のうち7種が有効牌だったとして、鳴きを考慮しなければ、手が進むまでに平均して5巡ほどかかる」

京太郎「そう聞くと、鳴きが強力なのが分かりますね。7種も有効牌があっても5巡かかるんだから、一巡で確実に進むのは凄いメリットです」

咲「その分だけ制約もあるし、鳴いた場合のデメリットも多いけど、やっぱり鳴きは強力だよ…話が逸れたね」

まこ「…ネット麻雀の『のどっち』はともかく、現実の和は期待値より明らかに少ないツモ数で手が進むのう。一回二回じゃなく、統計的に見ても明らかに少ない。しかも、高目に寄って行く。赤ナシでも毎度毎度12000とか8000とかを和了ってくれよる」

照「私がリー棒出させないようにしてるのに普通に聴牌してリーチかけるだけでも十分おかしい」

咲「普通はその発言の方がおかしいんだよ、お姉ちゃん」

優希「のどちゃんは勝つ確率が高い打ち方をしているから勝つだけって言ってるけど、のどちゃんも普通に確率の常識を逸脱した怪物だじぇ…」

久「東場の優希だって十分おかしいわよ。それすら寄せ付けないのだから、和の強運は言わずもがな」

咲「精度の高いデジタルに運が味方する、それが、インターミドルチャンピオン原村和…」

久「中学時代のミスのあるデジタルでも全国優勝を成し遂げる強運が、今は、プロ以上と言われる最強のデジタル雀士に味方する」

照「その結果が――――」


『ツモ、4000オール』


透華(南3局、プラス4万の大トップでなおも親番で連荘――――原村和、いえ、『のどっち』!相手にとって不足なしですわ!!!)


舞(…そんな簡単に終わらせてたまるかよ…あたしにとって最後のインターハイ…)


田中舞手牌

345m5578p白白中中中発 ツモ:発

打:7p

和「」ヒュン

打:白

舞「ポン」

打:8p

和「」ヒュン

打:5p

舞(それだが…小三元白中の8000を和了っても仕方ない。清澄は20万に迫る大トップ、うちは4万を割りそうな最下位…8000の直撃を10回やってようやく逆転だ、それはまず無理)

舞(けど、この手なら、見えるだろ?もう一つの和了牌、発で和了ればさ――――)


舞「ツモ」パタン

345m55p中中中発発 ポン:白白白 ツモ:発

舞「大三元、8100、16100。さあ、あたしの親でオーラスだ」


舞(―――逆転への、希望ってやつが)


―――

和「ツモ、1000、2000。終了ですね」



副将戦終了

清澄   188700(+29300)
今宮女子  73300(+20400)
千曲東   64100(―17400)
東福寺   73900(―32300)


―――

透華(10万点以上の差をつけて、下三校が横並び…決まりましたわね)

透華(原村和は「のどっち」でした。それがわかれば十分…あの先鋒は純に任せましてよ)


一「…透華、どこ行ったんだろうね?」

純「あいつに関しては、国広君に分かんなきゃ俺には分かんねえな」

一「いや、多分原村和の試合を見に行ったんだけどね」

純「分かってんなら聞くなよ」

一「…どう思う?」

純「原村和がのどっちかもしれないってやつか?正直、牌譜見る限りじゃ似ても似つかねえと思うんだがな」

一「基本がデジタルだから、牌譜は似てるはずでしょ」

智紀「…のどっちの特徴は、ミスのないデジタル。ミスをした時点で別物」

純「そういうこった」

一「それ以外にもあるよ。初手での小考と、以降のノータイム。時間さえかければボク達にも可能なただのノーミスデジタルとの差はそこにある」

智紀「…一は、原村和がのどっちだと思っている?」

一「さあ?ただ、透華が言ってるんだから、ボクは頭から疑ったりはしないよ」

純「つっても、のどっちねえ…あれ、運営が用意したプログラムじゃねえの?」

一「もしのどっちが実在するなら、変なプロよりよっぽど強いよ」

純「…たとえそうでも、うちら五人に負けはない」

智紀「…さっきすれ違った、清澄の三年」

純「…勘違いだろ、衣みたいなやつが県内に二人も居てたまるか」

一「そう思うかい?じゃあ、原村和が副将で出ている理由は?」

智紀「…エースは先鋒、もしくは大将に据えるもの。セオリー通りなら、強い順に先鋒、大将、中堅、副将、次鋒の並びになる」

純「…無名校が、インターミドルチャンピオンを四番手として使ってるってのか?それこそまさかだろ?」

一「あの二人とすれ違った時のボクの直感を信じれば、原村和が三番手以下なのは間違いないと思うけどね」

純「おいおい、清澄ってのはなんなんだよ…去年まで出場すらしてなかった無名校だろ?衣並みの化け物とインターミドルチャンプ以上の打ち手が二年間も隠れてたってのか?」

智紀「…そうなる、現段階では、それを否定する根拠は清澄は無名校という事実しかない」

純「やれやれ…まさか俺たちが県予選で頭を悩ませることになるとはなあ…」


透華「みなさん!一大事!いちだいじですわー!」

一「…透華?」

純「お前、どこ行ってたんだよ?」

透華「そんなことはどうでもよろしくってよ!それより一大事ですわ!」

一「…どうしたの?」

透華「原村和はのどっちでしたわ!中学時代とはまるで別人!あれは99%のどっちの打ち方でしたわ!」

一「間違いないの?」

透華「デジタルがノーミスであることは私が確認したのですから間違いありません、そして、その他の特徴も一致しました。これでは…」

純「?」

透華「これでは―――私が圧勝できませんわ!!!」

純「…大した自信だこと」

一「ねえ、透華…それ以外は?」

透華「…摩訶不思議な闘牌をする先鋒、安定感のある次鋒、和了率80%の中堅、そして、のどっち…手ごわいですわよ」

一「あー…やっぱり?」


ザワザワ…


参加者A「おい!アレ見たか!?」

B「アレ?」

A「清澄高校だよ!!!」

B「原村和だろ?さっき見たよ、役満の親かぶり喰らってたな」


透華(原村!私より目立つとは生意気な!!)キー


A「ちげーよ、原村の次に出て来た五人目―――」

C「大将?」

A「そいつがめちゃくちゃヤベーんだよ!!ずっと和了りっぱなしで一人で10万点以上稼いでやがる!このままじゃ東福寺がトビで終わるぞ!」


純「おい…マジか?」

一「あの手を引かれてた方の三年生かな?」

智紀「…大会HPでは、清澄高校の大将は一年生で登録されている」

透華「私も確認しましたが…私たちとすれ違った二人は、先鋒と中堅でしたわ」

純「嘘だろ?あれ以外に、半荘一回で10万点稼ぐ奴がいるってのか?」

一「…やれやれ、まだ県予選なのに、大変なことになってきたなあ」

智紀「言う割に、焦りが見られない」

一「…それはみんなもそうじゃない?」

透華「それは当然ですわ!なんといっても私たちの大将は…」

純「『あの』衣だからな」


ダダダッ バンッ


西田「すみません!週刊麻雀TODAYですが、取材をさせて頂いてよろしいでしょうか!?」

和「…西田さん」

久「あらあら、お目当ては和かしら?お昼ご飯の後にしてほしいのだけど…」

まこ「ないない、こがあ慌てて来るんじゃから、お目当ては別じゃろ」

咲「ですね」

久「え?」

西田「竹井さん!あなたほどの人がなんで三年生になるまで大会に出なかったんですか!?」

久「え?私?」

照「頑張って」

西田「そちらにおわすは先鋒の宮永さん!?あなたにも聞きたいことが―――」

照「へ?」


咲「…じゃあ、行きましょうか」

京太郎「いいのかあれ?」

和「食事ぐらいとらせてくれるでしょう、西田さんは常識のある方です」

まこ「んじゃ、行くか」

優希「じぇ」


ガシッ

咲「え?」クルッ


西田「食事代は出させて頂きますので、大将の宮永さんにも伺いたいことが…」ギュッ

咲「…えっと…その…」チラッ

照「咲、私たちは一心同体、咲だけ仲間外れになんてさせない…」ガシッ

久「旅は道連れってね」ガシッ

咲「」

久「てゆうか、一回戦で一番暴れてたのはあなたでしょ。なんで逃げられると思ったの?」


まこ「じゃ、また後でな」

和「取材、頑張って下さいね」

優希「頑張れ咲ちゃん」

咲「うう…みんなが冷たいよぉ…」

京太郎「すまん、その二人を敵に回す勇気は俺にはない。許せ」

咲「京ちゃんまで!?」

西田「じゃあ行きましょうか、お昼はおごるから、ね」

照「とりあえず、パフェを三つお願いします」

久「それは三人分なの?一人で食べる気なの?」

咲「京ちゃんの裏切り者おおおおおお―――!!!」ズルズル

照「何を言ってるの竹井さん、三人で三つなんだから三人分に決まってるでしょう?」

久「私も咲も甘いものはそこまで好きではないのだけど?」

照「あら、そうだったかしら?」

久「まあ、あんたが猫かぶってるなら取材は安心だけど、食べ過ぎないでね?」


うーらーぎーりーもーの――――!!!


京太郎「いや、他に三人も見捨てた奴が居るのになんで俺だけ裏切り者呼ばわりされなきゃならんのだ」

今回はここまでになります。
次回の更新は未定です。

少々立て込んでまして、年内は怪しいです。
多分エタることはないと思いますが、三が日明けるぐらいまで時間が取れないと思います。

次に更新するときは書き溜めてある短編をスレ立てて投下してから更新します。

【咲-Saki-】京太郎「カピが鹿になった」
【咲-Saki-】京太郎「カピが鹿になった」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420358396/)

最後の更新の際に次回の投下前に立てると予告してた短編です。
タイトルからはカオス感漂ってますが、中身は普通の京太郎SSだと思います。

てなわけでこちらも投下始めます。


西田「では、あの槓は意図してやったと?」

照「はい、他人から見れば愚策に見えるでしょうが、強敵である今宮女子を削るために、私にはこの打ち方しかできませんでした」スマイル

西田(冗談でしょ…あの試合で和了ったのは、宮永照が子で6回、親番の二回はいずれも槓でドラを乗せてから他家にツモで和了らせた…それが意図したものだとすれば、全ての和了はこの子の手によるものということになる。あの【最速】門松葉子が、何も出来ずに掌の上で踊らされたっていうの!?)

久「照はこちらの切り札ですので、なるべくオフレコでお願いしますね」

西田「はい…というか、書いても信じてもらえないでしょうから安心していいですよ。私はともかく、現段階の実績ではありのままを書いてもデスクが通しません」

西田「で、妹さんですけど…」

咲「うっ…」ビクッ

西田「あの点数が上昇していく連続和了は、偶然ではないですよね?」

咲「…私が一番強いと思っている打ち方です。家庭の事情で、私が自然に打つとプラマイゼロになってしまうので、他人の打ち方を真似させて頂いています」

西田(自然に打つとプラマイゼロになる家庭の事情ってなによ!?)

久「これもオフレコですね。この子もこっちのジョーカーなので、今の時点ではあまり情報を出したくないです」

西田「分かりました。一回戦の成績からして、こちらは何を書いてもデスクを通りそうですけど、私のところで止めておきます」

久「他に何かありますか?」

西田「竹井さんも、先ほどの一回戦では和了率80%という成績を残していますけど…」

久「飛ばさなかったのは和と咲に大会の空気に慣れてもらうためです。80%を100%にも出来ましたよ」ニコッ

西田「」ゾクッ

西田「…最後に、今大会の目標を伺ってもいいですか?」

久「…全国優勝」

西田「…原村さんの言っていたこと、事実だったんですね」

久「和は何と?」

西田「自分はエースではない、清澄高校は、全国優勝を狙える戦力を揃えた、と」

久「口の軽い子ね。それとも、手の内を教えても大丈夫だと思う程度には私たちを信頼しているということかしら?」

西田「上手く聞き出すのが記者の腕ってやつですよ」

久「ま、西田さんに免じてそういうことにしておきましょうか」

西田「本日は、取材にご協力いただきありがとうございました」


照「…竹井さんが強いのは知ってるけど、100%は無理でしょ?」

久「どうかしら?まあ、あんたらばっかり注目されても問題だし、ちょっとハッタリかましておかないとね」

咲「あうう…緊張しました…」

久「お疲れ様、まだ何か食べる?」

咲「えっと、私はいいです」

照「私はパフェ一つ追加」

久「…ランチも頼まずにパフェばっかり食べてこの子は…6つ目よ?」

照「昼食の代わり」

咲「もう、西田さんが居なくなった途端にいつも通りなんだから…」


靖子「やあ、二回戦進出おめでとう」

咲「あ、カツ丼さん…」

久「…上手く特徴を捉えた、いいネーミングね」

照(…誰だっけ?)

靖子「はあ…そんな呼び方で定着されたら困るよ…自分で言うのもアレだが藤田プロと呼んでくれ」

咲「はい、藤田プロですね、覚えました」

照(プロ…うーん…あ、そうだ、雀荘で打った人だ)ピコーン

久「名前、覚えてなかったのね?」

咲「…名乗られませんでしたから」

靖子「そうだったか?」

咲「そうですよ」

靖子「それはすまなかったな」


咲「それより、藤田プロも人が悪いですね。あんな脅しをかけて…」

靖子「ん?何のことだ?」

咲「龍門淵ですよ。あの人達、聞かせて頂いたお話ほど強いとは思えませんよ?」

靖子「会ったのか?」

咲「入口のあたりで四人で目立ってるのを見ただけですけど、分かります」

靖子「そうか、四人か…なら、期待していいぞ、大将…五人目は本物だ」

久「天江衣…牌譜を見る限り、照並みの人外よね」

咲「…今度は嘘じゃないですよね?」

靖子「最初から嘘をついたつもりはない。あれは本物だ、気をつけろ」

咲「…私とお姉ちゃんが居て、それでも勝てないかもしれない人が、居るんですね?」

靖子「…ああ」

咲「…」ギュ

照「…咲?」

久「そろそろ二回戦が始まるわ、まこたちはもう行ってるはずだから、私たちも行きましょう」

照「う、うん」


京太郎「うわ…ガラガラ…」

久「午後はうちの試合なんて誰も見に来ないわよ」

照「…なんで?自分で言うのも何だけど、結構活躍したから注目されてもいいと思うんだけど」

まこ「まあ、実際、お目が高い方々は観戦にきちょるがの。それでも、無名校より見ておきたいところがあるんじゃろ」

京太郎「あ、そうか、午後からは…」

咲「風越女子と、龍門淵高校…?」

久「そう。ほとんどの人は、二回戦からのシード校であるあの二校の試合を見に行っているの」


【四時間後】


モブA「も、もう麻雀やめる――――!!!」ダダッ


…軟弱ですわね。
と言っても、この結果では仕方ありませんか。



龍門淵   273800
南向     62400
篠ノ井西 -  6400
西原山林   71200


副将戦東3局2本場、大将に託すことすら出来ずにトビ終了。
負けたぐらいで麻雀をやめるような軟弱者を庇い立てする気はありませんが、気持ちは理解できますわ。

…何故ならば、私も、同じ目に遭いましたから。
自分が飛んだか他校が飛んだかは大した違いではありません。
自らの力が及ばず、大将に繋げなかったことは変わらないのですから。

もっとも、私はそれで麻雀をやめるなどとは思いもしませんでしたが。
有象無象と私の違いはそこにあります。

私は――私たちは昨年とは違います。
今年こそ、全国の頂に上りつめてみせますわ!


透華「戻りましたわ」

純「おー、お疲れ」

透華「衣はまだ来ませんの?」

一「萩原さん曰く、会場の近くには居るって」

智紀「透華が飛ばしてくれたから今日のところは問題ない」

透華「それで、他の卓の勝者はまだ決まっていませんの?」

智紀「…D卓は中堅で終わった。清澄高校。H卓は風越が10万点近く離して、少し前に大将戦に突入、ほぼ決まり」

一「…やっぱり出て来たね」

透華「…清澄高校、目立つために私より早く終わらせましたの!?」

純「いや、そりゃねえだろ、お前じゃあるまいし」

透華「しかし、残念でしたわね!この二回戦、観客数では我々龍門淵がトップですわ――!!!」

一「」クスッ

透華「何がおかしいんですの!?」

一「あはは、やっぱり、透華は透華だなって」

智紀「…清澄が出て来たという話をしているのに目立つことしか考えていない。頼もしいと言えなくもない」


【風越控室】

貴子「帰ったらきっちりミーティングだからな!!」

バンッ!!


未春「キャプテン!」タタッ


美穂子「…他の三校は………」

未春「え?」

美穂子「他の三校はもう決まった?」

未春「あ…はい。龍門淵は副将戦で篠ノ井西を飛ばして勝ってます。あと決勝に上がって来たのは鶴賀学園と…清澄高校というところです…」

美穂子「龍門淵は勝ったのね。良かった」

星夏「…」

未春「…良かった…?」

美穂子「ええ、良かったわ、だって―――」



――龍門淵が勝ちあがって来てくれないと、直接リベンジ出来ないでしょう?



未春「」ゾクッ

美穂子「コーチにも龍門淵にも、見せてあげましょう。私たちが―――最強だということを」


星夏(キャプテンはああいったけど…私は龍門淵より清澄が怖い)ペラッ

星夏(龍門淵は何度も牌譜を見たが、基本的にレベルの高いデジタルで、天江と井上以外はおかしい打牌はない。しかし、この清澄…明らかにおかしい…)ペラッ

星夏(先鋒…一回戦では今宮女子を3連続直撃…それにもまして異常なのが、自分が親番の時の相手に有利にしか働かない槓。結果として、東福寺が役満を和了っている)

星夏(…他の6局は効率の良い打ち方をしているのに、親番では全く和了る気がないように見える)

星夏(意図は分からないが、もし全てを狙ってやっているとしたら、こいつも天江衣のような…)ゾクッ

星夏(それに、この中堅…一回戦では80%、二回戦では91%の和了率を叩き出してる…それに、二回戦の最後の和了り…まるで次にツモる牌が分かっているかのような、多面張を捨てての地獄単騎一発ツモ…)

星夏(そして、何より、一回戦で今宮女子を飛ばしたこの大将…)ペラッ

星夏(キャプテン…敵は、龍門淵だけじゃないかもしれません―――)


久「私のおごりよ、決勝に備えてしっかり食べてね」

咲「いただきまーす」

照「…ところで、これは…?」

優希「ラーメンだじぇ!」

和「…らあめん?」

優希「のどちゃんはラーメン初めてかー?」

和「ら、らあめんぐらい知ってます!!」


絶対嘘だ。
まずラーメンの発音が怪しい。
そして、優希ちゃんが食べるのを横目でチラチラ見ている。

合宿でもマナーの良さそうな食べ方してたし、結構お嬢様育ちなんだよね、原村さん。


照「原村さん、食べ方が分かるなら教えてほしい」

和「えっ!?」


ラーメンを知らない人がもう一人、しかも身内に居た…
このままほっといて原村さんが慌てるのを見てるのも良いけど、助け船を出そうかな。


咲「原村さんに迷惑かけないで、私が教えるから」

和「」ホッ

照「…おかしい、咲は私と一緒に育ったはずなのに私が知らない料理を知っているはずが…」

咲「ラーメンは麺類だよ、おそばとかうどんみたいに箸で麺を掴んで食べてね。蓮華でスープを味わうのも忘れずに」

和「ふむふむ」チュルッ

和(美味しい…)

照「美味しい…これがラーメン…」

咲「てゆうか、お姉ちゃん、カップ麺とか食べてたでしょ?なんでラーメンを知らないの?」

照「…これは見た目からして何か違う。別の料理」

店主「分かってるねえ、お嬢ちゃん。うちのラーメンをそこらのカップ麺と一緒にされちゃ困るってもんだ、ガハハ」

優希「おやじ、おかわり!!」

咲「早っ!?優希ちゃんもう食べたの!?」


まこ「みんな、思うたより緊張しとらんのお…」

久「今はね、私は今夜あたり、緊張と興奮で寝られないかもしれないわ」

まこ「おいおい、柄にもない…」

久「…二年間待って、ようやく掴んだ一枚限りのチケットだもの、照までいるし、興奮は言わずもがな。緊張は…勝てるという確信があっても、怖いものは怖いの」

まこ「…わしじゃ力になれんかもしれんが、照さんも咲もおるけえ、あんたはどっしり構えててほしいの」

久「あんたもしっかりあてにさせてもらうわよ。四人で勝てるほどインハイは甘くないの」

まこ「照さんと二人だけでも全国には行くんじゃろ?」

久「それはそれ、今は私以外に六人居るんだから、全員あてにさせてもらうわ」

まこ「人使いが荒いのお…ま、期待されるのは嫌な気はせんが」


優希「おやじ!タコスラーメンを作れ!!」

店主「タコはねえなぁ」


和「ただいま、今日は無事に決勝に駒を進めることが出来ました」

家に帰っても、両親に大会の結果を報告することはない。
報告したところで、嫌な顔をされるだけでねぎらいの言葉など期待できない。
私に麻雀をやめてほしいと思っている両親にとっても、成果を褒めてほしい自分にとっても不愉快な結果にしかならない。

と言っても、誰かに語りたい。
宮永照の強さを、染谷まこの強さを、竹井久の強さを、宮永咲の強さを、そして、自分自身の頑張りを。

少し思案して、いつもの相手に聞いてもらうことにする。

エトペン…小学生の頃から私と寝食を共にする相棒であり、親友。

他人にとってはただのぬいぐるみですが、私にとってはとても大切な友人。


和「…明日は決勝です。私は自分のベストを尽くすだけですが…」


自分はともかく、あの人たちが負ける姿は、ちょっと想像できない。
たとえば、三尋木咏をはじめとした日本代表チーム相手でも、あの人達なら涼しい顔をしながらトップで私に繋いでくれそうだと本気で思ってしまう。

そもそも、チームで四番手の自分が、ネット上では最強と言われる雀士なのだ。
並のプロには負けないと目されていて、雑誌が勝手につけただけではあるが【天才】などという呼び名もついている。
その自分を歯牙にもかけない圧倒的な強さを持つ人間が五人のうち二人もいるのだ、高校生レベルで負ける方がおかしい。

それでも、緊張はする。
勝てば全国、あの人たちと肩を並べて、更に先のステージへと進むことが出来る。


―――だけど、もし、負ければ―――


和「」ブンブン


嫌な想像を頭から追い出すように首を振る。

勝てば良い。
勝つしかない。
きっと勝てる。

勝って、全国へ―――



咲「お休み、おとーさん」

照「おやすみ」

界「おーぅ」


お父さんに声をかけて、姉妹揃って寝室へ向かう。
明日も同じ時間に家を出るわけだから、寝る時間も一緒。


咲「…で、お姉ちゃん、本気で打つ気はないの?」

照「…本気と言われても、一回戦のあれが本気だよ」

咲「むー…ちょっと信じられない。あの面子でお姉ちゃんが本気なら三校トバして終われると思うんだけど」

照「咲まで竹井さんみたいなことを…」

咲「まあ、あれが全力だって言い張るならそれでもいいけど、目いっぱい削ってよね。藤田プロの話だと、龍門淵の大将は本当に強いみたいだから」

照「善処する」

咲「じゃあ、お休み、お姉ちゃん」

照「うん、お休み…」



照「…本気、か…」


全国高等学校麻雀選手権大会、長野県予選一日目、小望月の浮かぶ夜は更けてゆく

この夜が明ければ、決勝の幕が開く

県内58校から激戦を制して勝ち上がった4校、それぞれのメンバーは、不安と期待を胸に、夜明けを待つ

明日、日が沈み、満月が空に昇り始める頃に、全国への切符を手にする五人が決まる

勝利の女神は、果たして誰に微笑むのか


僅かに満ちぬ月は、高き山のそびえる長野の大地を照らす―――

今回はここまでです。
次回は6日に投下できると思います。


久「決勝は一人半荘二回ずつで、トータル半荘10回。点数は持越しで、やはり順位点はなし」

照「削る相手は?」

久「龍門淵、一応風越も警戒はしておいて」

照「もう一校は?」

久「…ノーマークで良いと思うわ。うちが11万点なら、龍門淵7万・風越9万・鶴賀13万ぐらいが理想かしら」

照「…分かった」

久「40万点とって全部飛ばしてくれるとなお良いのだけど」

照「何度も言ってるけど、買いかぶりだから」

久「でも、今言った通りの点数には出来るんでしょう?」

照「善処する」

咲「風越11万で龍門淵5万でもいいよ」

照「…咲はビビりすぎ」

久「あんまり削りすぎるとうちがトップじゃない時点でトブ可能性があるから、さっき言った通りで良いわ。頼んだわよ」

照「うん、じゃあ、行ってきます」

久「一人で行かせるわけないでしょ。私も対局室までついてくわ」

照「…ありがとう」

バタン


まこ「『打ち方』じゃのうて『結果』を指示するとか、冷静に考えたらおかしいんじゃがな」

和「…照さんの時だけ、相手の対策とか全くなしですからね」

咲「まあ、牌譜見て対策を立てるよりお姉ちゃんが鏡で見るほうが正確だし、それは仕方ないよね」

京太郎「半荘二回もあると、プラマイゼロ二回でもトップに立ったり出来るんですよね」

優希「そうなのか?」

咲「このルールだと順位点がないからね。一回目と二回目で違う人にトップ取らせればトータルトップは可能だよ」

優希「うむむ?」

咲「たとえばこんな感じだね」

―――――

一戦目

久 19600
和 36000
照 30400
京 14000

二戦目

久 34300
和 19000
照 29700
京 17000

トータル

久 53900
和 55000
照 60100
京 31000

―――――


咲「これでお姉ちゃんがプラマイゼロ二回でトップ」 

まこ「たとえじゃなくて、おんしらは本当にこれをやりよるからのう」

咲「面子次第ですけど。たとえば、部長と素人二人とかだと部長以外をトップにするのは難しいですね。一半荘だけで6万点を超えるトップを取られる可能性もありますし」

優希「難しいとは言っても出来ないとは言ってくれないんだじぇ…」

和「まあ、実際にお二人のプラマイゼロは何度も目の当たりにしてますし」

優希「でも、トップを取れるのに今回は鶴賀にトップを取らせるのか?」

まこ「まあ、鶴賀とは次鋒以降で差がつくじゃろうからな、目先のトップより龍門淵と風越の二強との点差じゃ」


起家 照「よろしくお願いします」ニコッ

南家 純「…よろしく」

西家 美穂子「よろしくお願いします」

北家 睦月「うむ」


純(…気のせい、だったのか?あの時感じた化け物みたいなプレッシャーが全くねえ…)ジー

照「」タン

美穂子(去年の私たちはこの子たちに惨敗…私も副将の龍門淵さんを抑えるので精いっぱいだった)

純(こいつが大したことないってんなら、敵は風越の片目瞑りか…)

美穂子(でも、今年は違うってことを見せてあげないとね…)


東一局 11巡目


美穂子(順調に手が進んでくれたわ…ミスが無くても手が入らないことがあるのが麻雀、運が味方した時は和了りきりたいわね)


美穂子手牌

12389s45688m236p ツモ:7s


美穂子(けど、確か、この子は妙な鳴きをするのよね…役ありで1000点の手、リーチはかけずにダマで行きましょう)タン

打:6p


純(風越の…聴牌か?安手のはずだが、出だしで調子づかせたくない…)


純手牌

445566s55赤5p23m南南


照「」タン

打:6s


純「ポン」

打:2m


咲「…ふーん、結構やるね、このひと。ほっといたら一発ツモだったと思うよ…ほら、鶴賀の人がアタリ牌掴んだ」

久「流れとかを感じてるのかしら?」

まこ「…わしにはド素人に見えたんじゃが…」

和「流れとか、非科学的です…」

優希「あのタイミングで鳴かれると絶対調子狂うじぇ…」

久「来年、先鋒であの子と当るのは優希よ。その時には、私も照もいない。しっかり見ておいてね」

優希「おうっ!」


美穂子(…ほら、鳴かれた。でも、これは想定内…そして、これはコーチに怒られそうだけど…)


美穂子手牌

123789s45688m23p ツモ:2p


美穂子「リーチ」

打:3p


純「なっ!?」

美穂子(ふふ、そちらにとっては想定外だったようね)

純(くそ、さっきのでリーチかけてたならこれで和了れない流れにハマるはずだったのに…しくった、ますます流れに乗せちまった!)

照「」タン

打:南


純(…生牌の南、鳴けば聴牌、オリるならリーチに対して安牌二枚が出来たことになる…どうする?)

純(どうせ一発でツモる流れだ、引いたら余計にケチがつく。どうせなら足掻いてやろうじゃねえか!)

純「ポン!」

打:3m


純(一発消しと、期待薄だが流れが変わってくれることを祈って鳴く!)


美穂子「ツモ。リーチツモ…裏が一枚乗って、1000・2000」パタン

純(鳴いてもダメだったか…だが、今の流れならどうせ一発ツモだ。一発消しただけでも鳴いて正解ってな)


ゴオオオオオ


純「うえっ!」ゾクッ

美穂子「くっ!?」ビクッ

睦月「…?」


照「…」ゴゴゴ


純(ヤバ…一局目は様子見か!?今の、こいつが何かしたに違いない、手の内を見せたのは失敗だったか!?)

美穂子(…今のは…井上さんが何かしたのかしら?なにか、深いところを見られたような…)

睦月「…??」


東二局 ドラ:2p

照「…槓」

美穂子(槓!?そういえば、このひとは、一回戦で、槓を多用して―――)


照手牌

34赤5p345s345m北 暗槓:2222p 嶺上牌:赤5m




照「…」タン

打:北 槓ドラ:2p


純(ヤバい…ヤバいが、どうしようもねえ…せめて鳴ければ…)タン

打:北

睦月(ドラの暗槓に…槓ドラがモロ乗り!?)

美穂子(これは不味い…井上さん、鳴いて!お願い!)タン

打:8p

純「(そいつだ!)ポン!!」

美穂子(鳴いた…ということは、押してくれるのね。私の手はまだ二向聴、押すわけにはいかない)

睦月(…五萬…本来の彼女のツモ…しかし、聴牌だ、倍満確定の手が相手だが、こちらも最低満貫、流すためにもここは押そう)


睦月手牌

11666789s東東東南南 ツモ:5m


睦月「リーチ」

打:5m


純(馬鹿か!?ツモ切りだと!?)

美穂子(信じられないことをするわね…けど、アタリじゃないのかしら?)


照「ツモ」


照手牌

34赤5p345s345赤5m 暗槓:2222p ツモ:2m ドラ:2p 槓ドラ:2p


照「面前ツモ・タンヤオ・ドラ10。6000・12000」


純「おいっ!?それっ…」

睦月「み、見逃し…なんで?」

美穂子(私たちを、削るため?確かに、無名校からの出和了りよりは私たちを削る方が良いでしょうけど…)

純(俺たちを削るのが目的だとしても、役満を見逃して三倍満かよ!?次にツモれる保証もねえんだぞ!?)


照「…」ゴゴゴ


純(いや…こいつが衣並みの化け物なら…まさか、次にツモる確信があったってのか!?)


久「初っ端から飛ばしてるわねー。これ、この後どうすんの?」

咲「鶴賀に差し込むんじゃないですかね。槓ドラ乗せて」

まこ「これが出来るなら普通に勝ちゃあええのに…」

優希「全くだじぇ」

和「あの人、実は本当に役満を自在に和了れるんじゃないですか?」

咲「流石に自在にってことはないと思うよ。私は無理だし」

和「照さんが退部を迫った時、咲さんは三巡で国士無双を和了っていましたが?」

咲「あれは…まあ、うん」

京太郎「答えになってねーぞ」

咲「まあまあ、それより、お姉ちゃんの応援をしようよ」


照「」タン


234567s44m北北 暗槓:1111p  ツモ:南

打:7s


睦月「ろ、ロン!タンヤオドラ6!12000!」


睦月手牌

23456s444p88m ポン:777m ドラ:7m 7m

照「はい」チャラ

睦月(よし、トップを直撃。龍門淵の井上と風越の福路相手に戦えているぞ)

照「…」

睦月(清澄の先鋒、不用意な槓が目立つ。さっきの三倍満も、たまたまついていただけだろう。さっきのはドラ槓子だからまあいいとして、やたらと槓をするなんて素人もいいところだ。今みたいに、こいつの槓を上手く利用できれば…)

美穂子(実際、一回戦では槓で痛い目に遭ってるのよね、この子。役満と満貫の親かぶり…それでも槓をやめないのは、ああいう大きな和了りの経験があるからかしら?)

照「…」

純(跳満直撃で涼しい顔してやがる…こいつ、ヤバイぞ…)


東4局

睦月(親番だ…大事にしたい)

純(どうにかしねえと…流れが完全に握られてる。しかも、意図がわからねえせいで崩し方が分からねえ…場が完全にこいつに支配されちまってる)

美穂子(…手が進まない。それ自体は珍しいことではないし、井上さんが何かした気配もない。ただの偶然かしら?それとも、まさか、清澄の仕業――?)

照「槓」

暗槓:1111p

美穂子(また――――!?)

純(槓子が出来る確率だけでももう明らかに異常だ!どうなってやがる!?)

睦月(し、しかし、それは――――)


照「…」シーン


純「おい…なんで嶺上牌を取らねえんだ?」

照「…搶槓」

美穂子「え?」

照「鶴賀の人が、和了れるはずです」

純「おい…何言ってんだ?暗槓を搶槓出来る役は、一つしかねえぞ?」

照「…一つ、ありますよね?」ニコッ

美穂子「…何を、何を言っているの?もしそうだとして、分かっていて意図的に振り込んだとでも言うの?」

照「…和了らないなら、嶺上牌を取ります」スッ

睦月「あ…その…ロン、です」パタン


99p19s19m東南西北白発中 ロン:1p


睦月「国士無双、48000…」


純「」ゾワッ

美穂子「なっ…えっ…どういうこと…?」フルフル

照「はい」チャラ

純(な、なに考えてやがるんだ!?本気でわけがわからねえ!役満を見逃して、その後で親の役満にわざと振り込んで、こいつは一体何がしたいんだよ!?)ジロッ

照「(…なんか見られてる?とりあえず笑顔で悪意がないアピールしておけば大体大丈夫なはず)」ニコッ

純「ひっ!?」ゾワッ

美穂子(この子…あの笑顔の裏に、どんな魔物を飼っているというの…?)ゾクッ


咲「振り込むだけなら搶槓じゃなくて普通に切れば良いのに…」

久「なんか、理由として思い当たることはある?」

咲「…ちょっと私にも分かりません。一応、嶺上牌は和了り牌だったと思います」

久「見逃してたら嶺上開花で和了ってたってこと?」

咲「多分。どっちにしろツモる前に役満の直撃を食らうわけですから、だからどうしたって話ですけど」


和「二人とも、見てない牌が分かることを前提にしないでください、非常識な…」

京太郎「和に言われるまで嶺上牌が分かることを普通に受け入れてた俺が居る…」

優希「安心しろ犬、お前は一人じゃない」

まこ「もう麻雀に関する限り、こいつらに何が出来ても驚かんわい」


『ロン、タンヤオドラドラ、3900』


久「風越に振り込んだわね。さっきの一本場を300・500の一本付けで流したから、今のところマイナス39500…どうやってひっくり返すのかしら?」

咲「…誰かリーチするのかなあ?随分危ない橋に見えるけど…」

まこ「リーチ?」

咲「あと三局で親番もないので、多分8000、12000、24000でトータルでプラス4500にするんだと思いますけど、それだと100点足りないんですよ」

和「他に目ぼしい組み合わせもないですね…あとは本場を足すぐらいですが…」

久「井上さんが削る対象だし、和了らせるとは考えにくいわね。何考えてるのかしら?」


『リーチ』


優希「言ってるそばから鶴賀がリーチしたじぇ」

咲「じゃあ、決まったかな?この面子にはわざわざプラマイゼロを崩す人も居ないし」

久「と言っても、ここから和了るのは満貫・跳満・三倍満…普通ならこの後もハラハラドキドキだけどね」

和「そこは照さんですから」

まこ「じゃのう。あの人のプラマイゼロは意識して崩そうとしても崩せんのじゃから、周りがトップ目指して普通に打ったらプラマイゼロになるに決まっちょる」

久「てゆうか、これ…照ったら加減を知らないのかしら?」

ーー

前半戦終了

清澄  105500
龍門淵  72600
風越   83500
鶴賀  138400


久「誰が半荘一回でオーダー通りの点差にしろって言ったのよ?」

照「最初に均した方が調整しやすい、これで大体予定通りの点差になる」

久「本当にとんでもないわねあんた…風越が予定よりへこんでるのは、次にトップ取らせるため?」

照「うん」

久「でも、随分危なっかしいプラマイゼロじゃない?リー棒出なかったらどうする気だったの?」

照「…リーチ棒が出るように頑張る」

久「ま、結果オーライね。気を抜かずにきっちり締めてよ、エースの宮永さん」

照「善処する」


『先鋒後半戦を開始します、選手の方は対局室に…』


久「じゃ、頑張って。期待してるから」

照「…今回のところは期待に添えられると思う」


照「ツモ。500、1000」

純(でかい手ばっかの前半戦とはうってかわって、地味で小さい和了りを連発…早すぎて止められねえ…ちょくちょく風越が間に入って来るが…)

美穂子(大きな動きがないままオーラス…宮永さんや津山さんから何度か直撃を取って、後半戦に限れば今のところ私がトップだけど…この違和感はなに?)

睦月(安い手で場を回してくれるのは正直ありがたい。この面子では、局数を重ねれば地力の差が出るだろう。浮いているうちに終わるのがベターだ)


【風越控室】


貴子「おいっ!!昨日、清澄の二回戦を偵察したのは誰だ!?」

部員A「わ、私たちです…」ビクッ

貴子「何見てやがった!?なんだこの『ただの素人』ってのは!?書いたのはどいつだアアアア!?」

部員B「ひっ!?わ、私です!」ビクッ

貴子「天江と同等以上の化けもんじゃねえか!マジで何見てやがったんだてめえらアアアアア!!」

華菜「こ、コーチ!落ち着くし!あんなのたまたまだしっ!たまたまツイてるだけだし!現にさっきは役満に振り込んだりしてたし!」

貴子「てめえも節穴か池田アアアア!?どう見たって全部計算してやってんだろうが!てめえ、これ見てもまだ気付かねえのか!?」バサッ

華菜「わぷっ!?な、なんだしこれ?」

貴子「さっきの半荘を含めた宮永照のここまで3戦の獲得点数だよ!これ見て気付かねえって言ったら試合前だろうとぶん殴るぞ!」

華菜「…何だ、これ…全部、5000~5500に収まってる?」

貴子「多分、4600までは含まれるんだろうが、データが3回分だからな。原点からの増加が4600~5500、これが通常の25000点持ちなら?」

星夏「プラマイ…ゼロ?」

純代「…プラマイゼロを…狙ってる?そんな馬鹿な…」

貴子「それ以外に、龍門淵の井上を半荘二回の間焼き鳥に出来るほどの奴が役満に振り込む理由があるなら言ってみろ!どうなんだ深堀!?」

純代「しかし、狙って出来ることとは思えません…」

貴子「プラマイゼロなんかよりもっとありえねえことが目の前で立て続けに起こってんだろがああああ!!!!役満を見逃して三倍満をツモった挙句、暗槓した後に嶺上牌をツモらずに国士無双の搶槓宣言を待ってやがったんだぞあいつは!」

未春「まさか…でも、そんなこと狙って出来るはずが…」

貴子「現にやってる奴が居るんだよ!出来るはずないとか出来るとは思えないとか、馬鹿かてめえらはああああ!!!」ガンッ

華菜「ひうっ!?」

貴子(…痛え…ここの椅子って結構重いのな…)


貴子「…ちっ、この分じゃ、他も数字通りの化けもんだろ…和了率90%と平均獲得点数20万点だったか?」

華菜「あ…はい、だし。でも、平均って言っても大将は一回戦しか出てないし」

貴子「…万が一にも負けはないと思った福路ですらあのザマだ、お前ら、腑抜けた打牌したら連続優勝が途切れるどころじゃない汚名を被ることになるぞ」

純代「それは…」


『ツモ。400、700』


貴子「…今回はプラス5500…きっちりきっかり、龍門淵の井上を焼き鳥にしてのプラマイゼロだ」

華菜「そんな…キャプテン…」

貴子「まあ、福路なら、プラマイゼロが目的だってわかってりゃリーチ棒出すなりなんなりして目論見を崩すことぐらいは出来ただろ。けど、そんなことしても仕方ねえ。あたしらの目的はなんだ?」

未春「…県大会、優勝です」

貴子「そうだ、たとえあの化け物が毎回プラマイゼロにしても、そんなのなんの役にも立たねえ。取らなきゃいけねえのはトップだ」

星夏「けど、圧倒的な力の差を見せつけられましたよ?」

貴子「そうだな、あれは下手すりゃ、この先鋒で30万点稼いで試合を終わらせかねないぐらいの化けもんだ。けど、試合はまだ終わってない。点差は何点だ池田アアアア!?」

華菜「に、21300点です!トップの鶴賀とは40400!」

貴子「逆転は可能か池田アアアア!?」

華菜「可能ですっ!」

貴子「よし、わかってんならいい!あの化けもんの出番は終わりだ!あれがどんだけ化けもんでも、もう出てこねえ!龍門淵はうち以上に沈んだ!こっから巻き返すぞ!」


「「「「はいっ!!!」」」」


先鋒戦終了

清澄  111000(+5500)
龍門淵  69200(-3400)
風越   89700(+6200)
鶴賀  130100(-8300)


ゆみ「良くやった津山、これ以上ない出来だ」

睦月「は、はいっ!」

智美「ワハハ、次は我らが秘密兵器の出番だなー」

ゆみ「ああ、出し惜しみする必要はないからな。清澄は我々を楽な相手と見たのだろうが、見込み違いだと教えてやろう」

智美「鶴賀のエースのお出ましだー、目ん玉かっぽじってよーくみとけー」ワハハ

?「…」


まこ「ほんじゃ、行って来るかの」

久「ええ、頑張ってね」

照「私は最善を尽くした、あとはみんなに任せる」

咲「お疲れ様、お姉ちゃん」

和「お疲れ様でした」

照「ありがとう」

京太郎「でも、鶴賀ってほとんど情報がないですよね。トップにさせて良かったんですか?」

久「だいじょうぶでしょ。無名校に照みたいなのが居る、なんてことが他に起きるとは思えないわ」

>>270

津山さんがリーチをかける直前に

睦月(これを切ったら押していること…つまり聴牌は丸わかりだろう。なら、ダマの意味はない。どうせ押すなら…)

が入ります。すみません。

てなわけで今回は以上です。次回は9日の金曜日に。


私が麻雀を始めたのは、10か月前。
たまたま見ていたインターハイで、私と同い年の人が、個人戦で優勝したのを見たのがきっかけだった。

当時は麻雀のことが良くわからなかったけど、解説によると、試合中に苦しい状況が何度もあったらしい。
けど、どんなに苦しいと言われていた状態でも、あの人は笑顔のままだった。
誰もが憧れるような素敵な笑顔を浮かべたまま、あの人は打ち続けた。


―――あの人みたいになりたい


そう思って、牌を手に取った。
もちろん、要領の悪い私は、あの人みたいに打つことなんてできなくて。

けど、あの人に憧れた私は、下手でも、不器用でも、あの人を目指して進み続けた。
ルールも覚えたし、役も覚えたし、今では牌効率のいい打ち方だってちゃんと分かるようになった。

そして、今年のインターハイに出て、あの人に会おうと思って、麻雀部の扉をノックした。


どうやら、私は運が良かったらしい。
その日が個人戦の受付締切で、ギリギリで登録することが出来た。

また、麻雀部は部員が四人しか居なくて大会に出られるかどうかの瀬戸際だったらしく、私は団体戦のメンバーとしても快く受け入れてもらえた。

あの人が居る高校は、きっと団体戦でもインターハイに出てくる。
これから出る個人戦で代表になれるとは限らないから、出来れば団体戦でも代表になりたい。
どんくさい私を受け入れてくれた麻雀部のみんなへの恩返しにもなるし、この試合は―――全力で勝ちに行く。


ゆみ「何せ入部したのが三日前だからな。妹尾がどれほど打てるか、昨日のエントリーの時点では分からなかった」

智美「打って見極めてる時間すらなかったから、何切る問題とかでテストしたんだったなー」

ゆみ「その結果だけを見れば津山より少し下手なぐらいだったから次鋒にオーダーした」

睦月「私はエース区間を何とか凌いで、基本的に五番手が出てくる次鋒もとにかく凌いで、中堅以降で挽回する方針でしたよね」

智美「私が出来るだけ自由に打って取り返して、エースのモモが全力でどうにかして、ゆみちんがきっちりまくるオーダーだな」

ゆみ「しかし、嬉しい誤算があった。基本的に五番手が出てくる次鋒という区間で、モモ以上の力を持つエースをぶつけられるという誤算がな」

モモ「エースから降ろされて悲しいっすよ」

睦月「あの人、強運が人並み外れてますもんね…」

智美「ああ、自分でもどんくさいって自覚するぐらいのんびり屋だけど、あいつは運だけはめちゃくちゃいいからなー」

ゆみ「人外の強運を、基本を押さえた打ち手が使いこなす…するとどうなるか?」

モモ「去年のインターミドルチャンプは、最強クラスのデジタルが強運を従えるって感じだったっす」

睦月「麻雀は、腕が三分に運七分…」

ゆみ「三割の部分を極めて七割がそれなりの打ち手がインターミドルチャンプなら…七割の部分を極めて三割がそれなりの打ち手はどうなるか?」

智美「結果はその目でご覧あれってなー」ワハハ


起家 佳織「よろしくおねがいしますっ!」

南家 まこ「よろしく」

西家 智紀「…よろしくお願いします」

北家 未春「よろしくお願いします」


まこ(沢村と吉留はデジタル派、鶴賀はデータがないから良くわからんが、打ちやすそうな面子じゃ)

智紀(…データ不足。とりあえず完全デジタル。少し時間を使えば私にだってノーミスのデジタルは出来る)

未春(…龍門淵は勿論警戒しなければいけない、清澄も、異常な中堅と大将、更に副将の原村の存在を考えればここで削らないと話にならない。私が頑張らないと…)


―――

佳織「ツモです!」パタン


まこ「…は?」

智紀「…早い」


佳織手牌

123456789m45赤56p ツモ:赤5p


佳織「ツモ・一気通貫・ドラドラ。4000オールです!」


智紀(仮テンだけどツモったなら和了る、か?)

まこ(いやな感じじゃな…この顔…バカヅキしてるお客さんが居る卓の顔じゃ…)

未春(清澄と龍門淵も気をつけなきゃだけど、現状のトップは鶴賀…どうしろって言うの?助けて華菜ちゃん…)


照「…他の無名校に私みたいなのが居るはずがない、だっけ?」

久「…」ダラダラ

咲「あれは不味いですね。下手するとここで終わりますよ。次鋒にあんなの持って来るなんて非常識な…」

和「えっと…ただ運が良かっただけで、それほど上手い打ち手には見えませんでしたけど」

咲「そうだね、『ただ運がいいだけ』で、『それほど上手くない』。その通りだと思うよ」

照「そう、それがあの人のすべてと思って差し支えない。そして、それが限りなく厄介」

優希「どういうことだじぇ?」

咲「そうだね。たとえば、この手、どう思う?」


123567m455s東北南西


優希「良い手だじぇ。二面子が確定してて良型の面子候補があるし、風牌切ってけば整理し終わる頃にはもう一つぐらい面子候補が出来るはずだじぇ」

咲「そうだね、この手で4索から切るようじゃなければ並以上の配牌だよね。この手が普通に配牌で来るのは運が良いと言えるはず」

照「更に、4萬、8萬、9萬の順でムダヅモなしでツモるなら?」

優希「ツモるってわかってるなら染めるかもだけど、普通に打ってツモったなら、字牌整理して索子周りで聴牌を目指すじぇ」

咲「そして、6索をツモって聴牌。3索なら迷わずリーチだけど、四巡目だし、6索ならリーチせず手変わりを待つのも悪くない。次巡、仮テンの和了り牌の赤5索をツモ」


優希「これがどうかしたのか咲ちゃん?」

照「これが、さっきの妹尾さんの手とほぼ同じ手」

咲「普通の打ち手なら間違いようのないツモで、ほっとくと5巡程度で順調に和了る。普通に打ったら止められないよね?」

優希「ムダヅモなしとかされたら次の局に行くしかないじぇ」

咲「けど、次でも同じようなことが起きるとしたら?」

優希「そ、その次に…」

照「当然、その次も同じ、どこまで行っても相手の幸運は続く」

優希「…諦めるじょ、い、いや、東場ならもしかしたらなんとかなるかも…」

和「…まさか」

咲「そのまさか。それほどうまくないけど、基本ぐらいは押さえてる。そして、異常に運がいい。それがあの人」

照「照魔鏡で見たわけじゃないから完全には言いきれないけど、私の見立ても咲と同じ。あれは手ごわい」

久「」ダラダラ


咲「腕はそれなりだから、私とお姉ちゃんなら真っ向勝負で行ける。和ちゃんも、分が悪いけど勝負にはなると思う」

照「竹井さんも必ずトップで帰って来てくれると思う。片岡さんは…東場は何とかなるかもしれないけど南場の親連荘で飛ぶ」

京太郎「染谷先輩は…?」

照「残念ながら…」

咲「限りなく分の悪い運任せ」

京太郎「分が悪いってどれぐらいだよ?」

咲「京ちゃんが私に勝つ確率ぐらい」

優希「それはゼロと同じじゃないのか?」

久「」ダラダラ


和「打つ手はないんですか?」

咲「うーん…普通の打ち手だと何やっても通じなそうなレベルで異常だよね、あの人」

照「私たちが協力して外からあの卓を支配すればあるいは…」

咲「対局室の前まで行けば何とかなるかな?」

京太郎「それ、他もやり出したら収集つかなくなるだろ?」

照「た、多分私たち二人に勝てる人は居ないからそれでも大丈夫…」

咲「でも、何かしらのペナルティを喰らいそうだよね…最悪、失格もあり得る。うーん…どうしよう…」


久「」スクッ

咲「部長?どうしたんですか、突然立ち上がって?」

久「あんたたち、まこが何もせずに負けるとでも思ってるの?」

優希「さっきまで脂汗かいて固まってた人にだけは言われたくないじぇ」

和「全くです。で、打つ手はあるのですか?」

久「あるもなにも、すでに実行してるじゃない。おしゃべりしてないで、モニターを見てまこの応援をしなさい」

咲「あれ…東、三局?」

照「鶴賀の親が終わってる。いつの間に…?」


『ロン!白のみ、1300!』


久「流石まこ、初心者とか打ち方自体が異常な打ち手が相手じゃなければなんとかしてくれると信じてたわよ!」

和「和了ったのは風越のようですが?」

久「化け物を止めるのに手段は選んでられないでしょ。とにかく鶴賀を抑えるのに必死なのよ」

照「…なるほど。そうか、腕自体は並程度…それなら、染谷さんだからこそ止められるということもあるか…」

和「…どういうことですか?」

久「次の一局を見ながら説明してあげるわ」


まこ(…いやいや、しんどいわい…普通のバカヅキじゃったらそろそろ流れが切れてくれるんじゃがな…)

智紀(この卓、流れを掴んだ時の純が居る卓に近い。ただし、偏りの強さはおそらく流れを掴んだ状態の純以上…データを集める余裕はない。見切り発車だけど、状況に対応した打ち方に切り替える)

未春(えっと…さっきから沢村さんと染谷さんが助けてくれてるように感じるんだけど…どういうこと?)


まこ(この顔、バカヅキしてる人が居る卓にそっくりじゃ。それも、東風で誰かを飛ばしてのトップを取るぐらいのバカヅキ)

智紀(流れを掴んだ純に対抗するには、衣でもない限りは卓上の三人…最低でも二人は協力しないと無理。それ以上の状態だから、三人で協力する必要がある)

まこ(必要なのは三対一…沢村の奴はわかっとるようじゃからの。分かっちょらん奴を二人でサポートするしかなかろ。うちは後ろに頼りになるのが居るから、少々の損は必要経費と割り切っちゃるわい)

智紀(幸い、清澄は理解しているらしい。なら、止められる。あとのことは、一と透華…そして、衣に任せる。わたしの役目は繋ぐこと)


佳織(うう…ツモは好調だと思うんですが…私、何かミスしてしまっているんでしょうか?)

1237789s99p1178m ツモ:9m

佳織「リーチです!」

打:7s


未春「ロンです!1000点」パタン

34568s22p チー:456p 234m ロン:7s


まこ(人外じみた豪運、じゃが、扱う人間は並程度の腕前…しかも、どうやら負けを知らんらしい。オリることも回ることもせずにまっすぐ和了りを目指すだけじゃ)

智紀(好配牌と迷うことのないツモを生かす程度の腕はある、しかし異常な進行に対応する柔軟さはない)

まこ(付け入る隙はそこにある。沢村と二人ならなんとかなりそうじゃ)

智紀(清澄の…染谷さん。敵としてはきっと手ごわいけど、共闘するなら心強い)

まこ(今だけは頼りにさせてもらうぞ)

智紀(今だけは、あなたを信頼させてもらう)


久「まこは、その記憶した膨大な局面から記憶を引き出して対応する。異常とは言っても、打ち方自体が常識的なら対応できる」

咲「龍門淵の沢村さんは、デジタルを基本としつつ、データに基づいて柔軟に対応する打ち手でしたっけ?」

照「引き出しの中身と開け方は違うけど、出てくる対応は同じ…『バカヅキした中級者を上級者三人で抑え込む』打ち方」

咲「もちろん、あの人のバカヅキは運じゃなくて実力の一部だから、普通なら流れを切れてるようなところでもまだバカヅキが続くけど…」

久「妹尾さんの能力は『必ず和了る』とかじゃないからね。『運が良い』だけだもの、腕が中級レベルなら、上級者が囲めば手の打ちようはある。むしろ、中級レベルだからこそ、まこが止められる」

優希「けど、さっきからちょこちょこデカいの和了られてるじぇ?」

和「『運が良い』というなら、どうやっても止められないこともありますよ」

咲「でも、二回に一回でも、三回に一回でも、とにかく止められるなら、親番で永遠に和了り続けられることはない」

照「親番四回を凌いでくれれば、竹井さんたちがどうにかする」

京太郎「つまり…?」

久「本気で打ってる照並みの化け物相手に、まこが生きて帰ってくれる見込みが高いってことよ」

咲「沢村さんが同卓していたのが救いでしたね。一人だったら流石に半荘二回は凌げなくてどこかが飛んでいたと思います」

久「それは龍門淵も同じでしょ。あー、心臓に悪いわ…」


次鋒戦終了 


清澄   83700(-27300)
龍門淵  48200(-21000)
風越   75400(-14300)
鶴賀  192700(+62600)


【龍門淵控室】


透華「と―――も―――き―――!!」クワッ


透華「なんって使えない子なのかしら!!まったくもう!!!」


理不尽だなあ…
対局中には

『鶴賀の次鋒…衣に近い打ち手かもしれません、智紀、どうか無事に帰ってきてくださいまし…』

なんて言ってたくせに…
まあ、マイナスで帰ってきて素直に褒めることも出来ないんだろうけど。

とりあえず助け船を出そうかな。


一「まあまあ、落ち着いてよ透華」

透華「これが落ち着いていられますか!!我々龍門淵がトップに10万点以上の差をつけられて最下位など、あってはならないことですわ――!!」

一「そうは言っても、ともきーとは相性が悪い相手だったし…」


相性とかそういう問題じゃない気がするけどね。
あれと相性が良さそうなのは…純くんなら流れを食いとったり出来るのかな?
真っ向勝負だと衣ぐらいしかぶつける駒がない気がする。
清澄の次鋒が居てくれることが前提だけど、むしろともきーで良かったぐらいだ。


透華「相性とかっ!!相手が誰であれ、勝つのが龍門淵の使命ですわっ!!」

一「はいはい」


この場を治めるには、やるしかないかな?
正直、和了率9割とかいう数字を出されると自信はないんだけど。


一「ま、ボクが何とかするから安心してよ」

透華「――――!!」


透華の表情が和らぐのが分かる。
けど、元々ともきーを本気で怒っていたわけでもないだろうし、これは言わなくてもよかったかもしれない。
正直、その期待が痛い。

応えてみせるつもりではあるけど、自信はない。
だって、和了率9割って、数字だけ見たら衣クラスだよ?


透華「大した自信のようですけど、ここから私たち二人だけで10万点以上離れた一位をまくって、その上でどこかを飛ばすというのは流石に不可能に近い」


その通り。
ということは、今日こそは『彼女』に来てもらわなければならない。
そして、どう考えても絶望的なこの状況でも、彼女が居れば大丈夫だと、ここに居る全員が思っている。


透華「今日ばかりは、五人目に来てもらわないと困りますわ!!」


龍門淵高校の絶対的エースにして大将、天江衣―――

全く、こんな時にどこをふらついているのやら。

染谷先輩のキンクリにはいつもお世話になってます。
次回は12日の予定です。

やりすぎ
馬鹿には闘牌描写書けないんだから背伸びすんな
さっさと京太郎活躍させろ

仮テンて両面じゃなきゃ仮テンなの?
和了れるのに?

>>322
「仮テン」という単語は「手替わり前提の聴牌」という意味で使用しています。
その意味でこれが仮テンなのは多分異論はないと思うのですが、手替わり以前にこの聴牌とるぐらいなら字牌単騎に受けろという話については…巡目が早いからピンフがつく形を目指したということにしつつ、とりあえず妹尾さんが6筒ツモった時点で持ってた余剰牌が三枚切れの字牌だったことにしてください。

初投下の頃から闘牌については自信ないと言い続けてるような人間なので、麻雀理論についてはこれからボロが…多分大量に出ます。
その都度ご指摘いただけると次以降の作品や未投下分のクオリティが(自分に理解できる範囲で)上がると思いますので、ご指導いただければ幸いです。

>>321
そうは言ってもここまで背伸びして書いてしまったので。
背伸びに無理が来て盛大にミスったら、その時は笑ってやってください。


佳織「うう…ごめんなさい…あんまり勝てませんでした…」

ゆみ「いや、十分すぎる収支だ。これに文句をつけるようではどうしようもない。良くやってくれた」

佳織「で、でも、エースは半荘一回で5万点差をつけるのが仕事だって…」

智美「どこの化けもんだ、そんなこと言った奴はー」ワハハ

睦月「チャンピオンが、こないだの雑誌のインタビューで似たようなこと言ってましたね」

モモ「そんな人外の言うことを真に受けちゃダメっすよ」

佳織「うう…半荘一回当たり3万点しか勝てませんでした…まだまだあの人には遠く及びません…」

ゆみ「まあ、安心してくれ、ここからの三人は、10万点差をひっくり返されるような面子ではない」

智美「一番弱いのが私だからなー、佳織は私が信用できないかー?」

佳織「ううん、智美ちゃんは頼りになるよっ!」

ゆみ「二位に10万点以上の大差をつけて受けたバトンだ、蒲原…」

智美「ワハハ、飛ばすつもりで打って来るさー」

睦月「本当なら、ここで負けてる状態でバトンを受け取ってひっくり返すオーダーですからね。お任せしました」

ゆみ「ああ、任された」


久「じゃあ、行って来るわね」

照「竹井さんには不安はない、頑張って」

咲「中堅の相手、牌譜を見た限りではみんな普通の打ち手だね」

まこ「ま、こいつならさっきのが相手でもどうにかするじゃろ」

和「出来ればトップでバトンを頂きたいですね」

久「あんた無茶言うわねー、3万差ぐらいに詰めるからトップは自分で取りなさいよ」

優希「それ、10万詰めるって言ってるようなもんだじぇ」

久「どっかのチャンピオンによると、半荘一回で5万差をつけるのがエースの仕事らしいからね。照と咲が居なけりゃ私がエースなんだから、やってやろうじゃないの」

和「どこのバカですか、そんな妄言を吐いたのは…」


貴子「よくやった方だ、お疲れさん」

華菜「コーチが優しいし…逆に怖いし…」

貴子「あんな化けもん見たら怒る気も失せるっつうの。なんなんだ今日は…化け物の展示会でも開いてるのか?」

未春「でも…清澄の中堅以降はデータからして明らかに異常な打ち手二人と原村です…ここで削れないと勝ち目は…」

華菜「大丈夫だしみはるん!あたしがひっくり返してやるし!」

未春「華菜ちゃん…」ウルウル


貴子「池田達はほっといて、文堂!」

星夏「は、はいっ!!」

貴子「この記事を見ろ」バサッ

星夏「えっと…【今年も優勝目指します】…?」

貴子「個人戦の現チャンピオン様によると、半荘一回で5万点勝つのがエースの役目だそうだ。お前は自称次期エースだよなあ、文堂?」

星夏「…つまり、ひっくり返して来いと?」

貴子「出来ねえなら別に良いぜ?だが、次期エースとして、来年も出てくるはずの現チャンピオン様と全国でやりあう予定の奴が、こいつが出来ることを出来ないってのはどうなのかって話になるなあ?」

星夏「…運が絡むゲームですから約束はできませんが、ご期待に添えてみたいと思います」


コンコン

美穂子「お昼ご飯の買い出し、行ってきました」

華菜「キャプテン!?いないと思ったら、まさか一人で?」

貴子「じゃあ昼休憩だ。あたしは外で食ってくるからゆっくり休め」

バタン

華菜「…あんなのコーチじゃないし」

未春「でも、私は優しい方がいいよ」

美穂子「吉留さん、お疲れ様でした。鶴賀が暴れたみたいだけど、よく凌いでくれましたね」

未春「あ、ありがとうございます!」


透華「…むう、落ち着いて食事も出来ませんわ」

?「何故だ?別に衆人環視にさらされているわけでもなかろう」

透華「この状況で、肝心の大将が一向に姿を見せないからに決まっているでしょう!!!」

?「そうか、それはすまなかった。その大将はここに居るから、ゆるりと昼餉に興じてくれ」

一「どこ行ってたのさ、衣?」

衣「退屈だったので外で季節の風を楽しんでいたよ。衣は、この季節が好きだ」

透華「って、衣!?いつの間に入って来ましたの!?」

純「ついさっきだな。気付かなかったのはお前だけだぞ透華」

智紀「…もしかしたら、季節の風より楽しいものが転がっていたかもしれない」

衣「…そのようだな。会場の外に居ても分かるほどの『モノ』が居るらしい。だから、時間には早いがこちらに来た」

ハギヨシ「お待たせしました、こちら、エビフライでございます」

衣「わーい!」


一「これで、不安は消えたかな?」

透華「…そうですわね、来ると分かっていても、その場に居ると居ないでは違うものです」

純「とりあえず飯にしようぜ、特に国広君はこの後すぐに試合なんだからな」


起家 久「よろしくお願いします」

南家 星夏「よろしくお願いします」

西家 智美「ワハハ、よろしく」

北家 一「よろしくお願いします」


優希「で、この試合、どうなると思う?」

咲「…下手すると、ここで終わるかもね」

まこ「は?」

照「そうだね、手加減する理由もない。何も変わったことがなければ大暴れすると思う」

京太郎「えっと、部長が、ですか?」

照「うん」

まこ「いやいや、あいつが強いんはようしっちょるが、そこまでじゃなかろ?」

咲「普段は手加減してますからね、部長。お姉ちゃんが入ると本気出しますけど、お姉ちゃんしか眼中にないから他の人には分からないかも…」


照「…竹井さんは、私のプラマイゼロに真正面から挑み続けて、私を苦しめた人だよ?強いに決まってる」


和「咲さんのプラマイゼロになら、私も挑みましたが…」

照「リー棒は小細工。真正面からというのは、最後に自分で和了ってプラマイゼロを阻止するということ」

優希「いや、無理だじぇそんなの。和了らなきゃプラマイゼロにならない局で照さん以外が和了ったことなんか一度もないじぇ」

咲「まあ、出来たらプラマイゼロが崩されるから、誰も和了れてないのは当たり前だね」

照「竹井さんは、それに挑み続けた…というか、今でも挑み続けてる。オーラスでの私とのスピード勝負に」

まこ「そういえばそうじゃの。久はリー棒出したりせんかったから、和がリー棒出してるのを見て、こがあやり方があったのかと感心したもんじゃ」

照「入部を賭けた時も、正直、竹井さんが一番厄介だった。あの人を抑えるのに力を裂いてなければ、リー棒が出る前に決められた自信がある」

咲「…あの時、和ちゃんがリーチした三局全部で聴牌してたよね、部長」

照「リー棒は出さなかったけどね。あの人にとってプラマイゼロを崩すっていうのは、私との真っ向勝負だから。咲の退部がかかった状況ですらそれが変わってなかったから、東一局が終わった時点では行けると思った」

和「あのとき、そんなことになってたんですか…」


京太郎「そうなると、照さんと部長の勝負って、実質的にオーラス一回のスピード勝負だったんですか?」

照「その前の局で和了らないとどうやってもプラマイゼロにならない局とかもあったけど、基本的にそうだね。そして、そう考えると私は百局全てを打点の制限つきで和了り続けたことになる」

咲「100連続和了…北家から始めても97連荘、最低点は…」

和「1000点が三回と1500点からの300ずつ増える97連荘…1500から始まる公差300の97項の等差数列の和に3000を加えて154万5300点が最低点ですね」

まこ「それを…いや、100連続で終わったのはそこでやめただけじゃから、久の奴を相手にそれ以上を確実に稼ぐ打ち手か…そりゃ、あれだけ入れ込むわけじゃ」

優希「実際には90符の5200とか100符の6400とかの変な和了りばっかに違いないじょ…」

照「多分だけど、それが竹井さんが私を買いかぶる理由。竹井久が速度に特化して全力で阻止しようとしても、ハンデ付きで100連続和了を成し遂げる打ち手。そんなの居るはずないのに」


咲「話が逸れたね。で、この試合の見通しだけど…」


『ツモ。タンヤオのみ、600・800』


優希「…おかしな点数申告が聞こえてきたじぇ」

咲「300・500が600・800か…3本場、部長が4連続和了してたんだね」

照「崩せなかったとはいえ、私のプラマイゼロに正面から挑み続けて、私を苦しめ続けた人。これぐらいは出来て当然」

京太郎「これ、まさかこのまま二回戦みたいに…?」

照「竹井さんは和了率100%ではないから、このレベルの面子で他家に十分な点数があれば終わりはしないと思う。実際、今も連荘は止まったし」

まこ「しかし、まだ東二局か」

照「竹井さんの親が流れたから、南一局まではすぐ進むはず」


南一局 四本場


一(不味いな…和了率90%…分かってはいたけど異常過ぎる…)タン

星夏(…むしろ、なんで東場の親を止められたんだ?)

智美(ご丁寧にどんな手でもツモるまで徹底してダマで私を狙い撃ちしてくれてるし、あったまくるなー…)

一(東一局、ボクは清澄の連荘を止めた…あの時、何が起きていたんだ?何故止まった?)

星夏(それがわかれば、あるいはこの親も…)


久「ツモ、2000オールは2400オール」


一(…からくりは、控室で見ている衣あたりが見抜いてくれるはず。今は、とにかくここを切り抜けないと…)


南1局 5本場


一(この手は和了りたい…けど…)

23344s345p2345m北 ツモ:2p

星夏(流さなきゃ、この親を…)

智美(ここで飛んで終わったりしたら佳織に顔向けが出来ないぞー)

一(この手は本当に和了れるのかな?まっすぐ和了りを目指して、それで勝てるのかな?)


久「~♪」


一(この人が衣並みの化け物だと仮定して、ボクは、どうすればいい?)

……

…………

………………


『それは衣の莫逆の友となるか、贄か供御となるか――――』


あの夜、ボクは、衣に手も足も出ずに点棒を吐きだし続けた…
鳴こうが面前だろうが、それこそ他家と手を組もうが衣の前には無力だった…

本当に何も出来ないなら、要らないはず。
要らないと判断されていれば、ボクは今ここにはいない。
だから、ボクには、衣が目に止めた何かがあるんだ。

あの夜、せめて一矢を報いるためにボクがやったことは、なんだった?
届かないなりに衣に噛みこうとした、ボクの牙は、なんだった?

それは…


一(そうだ…あの夜、衣がボクを認めた一局…ボクは無謀にも小細工抜きの真っ向勝負を挑んだ)

一(力の差は歴然、けど、小細工が通じる相手じゃない。なら、運に任せてまっすぐ行ってみよう。それなら、運次第でどうにかなるかもしれない、そう思って)

一(ま、どうにもならなかったけどね。でも、今ボクの前に居るこの人は、衣じゃない。分は悪いかもしれないけど、ボクの正攻法が通じる…そう、一局だけとはいえ、現に通じた相手)

一(…その連荘、ここで止めてみせる)キッ

打:北


久(…あら、残念。こっちをまっすぐ見つめて来たってことは、勝負しに来たのよね?小細工でどうにかしようとスタイルを曲げた打ち方をしていれば泥沼にはまってくれたかもしれないのに)


久手牌

135m789s4445678p ツモ:9s

打:1m


久(腹くくって真っ向勝負、一番嫌なのはそれよね)

久(龍門淵のレギュラー…有象無象じゃないでしょう。運も実力もある打ち手のはず、正攻法で来られたら完全に止めるのは困難)

久(風越の一年生レギュラーっていうのもそうよね、なにか人と違うもの…才能とか幸運とかいったものに恵まれた人間)

久(この面子なら、一つミスったら連荘は止まるでしょうね。私はミスなく打ち切れるのかしら?)


照「…止まるね、連荘」

和「9索を引いて1萬切りから…1萬1萬赤5萬5萬…なんですかこのツモ…」

咲「ここまでのツモだと、5面張の筒子に手をかけてないと和了れないね」

照「上手く打ってればここで満貫をツモってる。一牌ごとの意味を考える竹井さんなら、さっき9索を引いて1萬を切った時、筒子に手をかけていればツモれてたはず」

咲「これを『上手く打てる』人は、相当の下手くそか本物の化け物のどっちかだと思うよ。あそこで筒子を切るのはちょっと…」

照「…確かにこれをミスなく打てって言うのは無理。これがあるから竹井さんの和了率は100%にならない」

和「そもそも、この場合の正しい打ち方とやらがデジタル的にはミスそのものなのですが…」


『ツモ。リーチ・ツモ・タンヤオ・三色・平和・一盃口…3500・6500!』


まこ「まあ十分じゃろ。親かぶりは痛いが、鶴賀の背中も見えてきて、ツモで削られて2万を切りそうだった龍門淵のトビも遠くなった」

優希「ここからよっぽどのことがない限り、部長が宣言通りの大トップだじぇ!」


中堅戦前半終了


清澄  137300(+53600)
龍門淵  43600(- 4600)
風越   59000(-16400)
鶴賀  160100(-32600)


智美「ワハハ…ごめんなー」

ゆみ「…仕方あるまい、あれは少々常軌を逸している。この半荘も親番を流された局以外全て和了って17局中15局…和了率88%だ」

佳織「難しそうな手でも、魔法を使ったみたいにすらすらと和了りに向かってました。本当に凄いです」

智美「ワハハ…佳織なら勝てるか?」

佳織「うーん…うーん…」

智美「佳織が悩む時点で私には無理だなー。どうすればいい、ゆみちん?」

ゆみ「…他の二校と共闘するより他にないだろう。清澄はこの後の二人もインターミドルチャンプと20万点を稼ぐ怪物が出てくる、清澄を叩くための共闘は乗ってくれる見込みが大きい」

智美「具体的には?」

ゆみ「晒されている牌から安手にしかならないと分かる手で差し込みを強要する、翻牌を鳴かせる、席順にもよるが、下家なら無理鳴きしてでもツモを飛ばす、などだな。お互いの意志が確認できたら出来ることも増えるだろう」

智美「なるほどー」

睦月「麻雀は四人で打つもの、三人で協力すればどんな相手でも…」

ゆみ「そうだな、やり取りの手段に制約はあるが、三人で協力する場合は協力する三人で卓上の牌の四分の三を手に入れているんだ、残り四分の一の牌で打っている者に負ける道理はない」

モモ「かおりん先輩を止める時に清澄と龍門淵もやってたっす、私たちがやっちゃいけないなんて言わせないっすよ」

ゆみ「…後は、風越と龍門淵が乗ってくれるかだな。これは向こう次第だ。乗ってくれなければ前半同様に自力で止めるしかない、その場合は、私からは頑張ってくれとしか言えない」

智美「無責任だなー…ま、なんとかなるかー」


美穂子「…自分が負けたことで余裕を失って気付くのが遅れたけど、あれは間違いなく上埜さんだわ…」

華菜「ウエノ…?」

星夏「誰ですか、それ?」

美穂子「…三年前のインターミドルで、私を苦しめた人。三回戦から会場に来なくなって、高校でも名前を聞かなかったのだけど…」

未春「苦しめたって、キャプテンと互角ってことですか!?」

美穂子「三年前は…そうね、互角だったと思うわ」

華菜「…今は?」

美穂子「それは、打って来た文堂さんが知っているでしょう」

星夏「…」

美穂子「そうね、言いにくいわよね…今のあの人は、明らかに私より上よ」

華菜「そんな…」


美穂子「私でも、今のあの人は止められない。一人で正面から行ってはダメ」

星夏「…どういうことですか?」

美穂子「…おそらく、天江さんが後に控えている龍門淵は、繋ぎさえすれば何とかなると思っているはずだから、乗ってくるわ。トップの鶴賀も拒みはしないでしょう」

未春「まさか…他校と協力しろと?」

美穂子「それ以外ないわ…ここで飛んで終わるよりはマシでしょう?」

華菜「…」

純代「…」

貴子「ま、仕方ねえな。深堀と池田に任せて、ここは凌ぐか」

未春「コーチ!?」

貴子「それとも、福路以上の相手をお前がどうにかするか、文堂?」

星夏「…それは…」

貴子「全国区のエースには、たまにああいう化けもんが居る。それに勝てるならいいが、勝てないならせめて負けを抑えるべきだ。違うか?」

星夏「その通りです…」

貴子「来年、全国区のエースを抑えるのはお前なんだろ、文堂?なら、勝て、それが出来ないなら抑え方を勉強して来い!」

星夏「…はいっ!!」

華菜「…でも…」

貴子「シケた面すんな池田アアア!!お前が最後でひっくり返しゃあいいんだよっ!違うか!?」

華菜「は、はいっ!?」

美穂子「ごめんなさい…私が勝っていれば、あなた達に苦労をかけずに済んだのだけど…」

貴子「全くだ、全国ではちゃんと稼いで帰って来いよ」

美穂子「…はいっ!」


中堅戦後半


起家 久(…みんな嫌な感じね、明らかに私を警戒してる。前半で暴れすぎたかしら?)

南家 智美(下家に座ったかー…じゃあ、ポン材集めて鳴きまくるかー)

西家 星夏(対面…比較的自由に打てるけど、それは、基本的に私がこのひとを抑えるということ…協力する姿勢を見せる打ち方もやりにくい…鶴賀と龍門淵は共闘に乗ってくれるのか?)

北家 一(…まあ、仕方ないよね。ボクが何とかするとか言っておいてカッコ悪いけど、一局二局ならともかく、半荘一回通して正面からこのひとに当たるのは分が悪すぎる)


星夏「」タン

打:9s

智美「ワハハ、ポンだ」タン

星夏(…9索を一鳴き?もちろんチャンタや対対、混一色ということもあるけど…これは、そういうことだろうか?)タン

一(鶴賀はトップで逃げたいだろうからね。無理鳴きだとすれば手はバラバラだろうし、鶴賀のサポートよりは清澄に対して絞る方が良いかな)

久(あー…そういうことするわけね。まあ、私も照とかが相手でどうしても勝たなきゃいけないならやるかもしれないけど…)

星夏(…多分だけど、鶴賀との共闘は出来ている。龍門淵も牌を絞ってるような気がするから、こちらも期待できるかもしれない。ただ、実力差を考えればこれでやっと五分だろう)

一(そろそろ、この辺鳴けないかな?)タン

星夏「ぽ、ポン!」

一(翻牌を鳴いた。あとは和了りまで全力で走ってね。この局のボクの仕事はここまでだよ)


衣「む…一め、真っ向勝負で打ち貫けと言ったのに、怖気づいたか?」

透華「…」

純「仕方ねえだろ、ありゃ化けもんだ」

智紀「他家と組んでようやく五分、個人戦ならそれでも正面から行くだろうけど、これは団体戦。衣や透華に確実に繋ぐ方が勝率が高い」

衣「無難ではあるが、そのような一は好かんな。衣は小細工をせずに実直に自らを高める一を好ましいと思う」

智紀「それは同意する。一自身もそう思っているはず。しかし、一は衣に確実に繋ぐことを選んだ」

純「信頼されてるぞ、大将」

衣「まったく、仕方ない妹たちだ。おねーさんである衣が貴様らの不始末をぬぐってやろう」

『ロン!2000!』

純「鶴賀が差し込んだか、清澄の親が連荘なしで流れたのは大きいな」


久(まったく、舐められたもんね…そりゃ、徹底した三対一の中で8割和了れって言われたら無理だけど…)

24567p44477m678s ツモ:3p


久「ツモ!面前ツモ・タンヤオ。500、1000」

一(くっ…早い…)

星夏(やはり、格が違うのか…)

智美(安いのが救いだなー…うちがトップのまま場が進んでくれればありがたいけど…)


久(こっちはあんたら三人を足して10掛けたぐらいの怪物相手に100回以上修羅場くぐってんのよ。と言っても負けっぱなしだけど…とにかく、手を組んだからって簡単に抑えられると思ってもらっちゃ困るわ)


中堅戦終了


清澄  145900(+8600)
龍門淵  44400(+ 800)
風越   54600(-4400)
鶴賀  155100(-5000)


アナウンサー「清澄は中堅で一気にトップとの差を詰めましたね」

靖子「出番あったんだな、お前」

アナウンサー「はい?」

靖子「気にするな。そうだな…まあ、ここまでそれぞれの区間で圧倒的な強さの一人が暴れているな」

アナウンサー「先鋒はそうでもなかったと思いますけど…役満和了こそありましたが、津山は比較的おとなしい打ち筋で暴れるといった感じでは…」

靖子「…あれは打ってる人間以外には分からないか。風越は先鋒にエースを起用したのが仇になった。他の区間なら実力通りの結果を出したはずだが、非常に惜しいな」

アナウンサー「…良くわかりませんが、現状とここからの展開をどう読まれますか?」

靖子「普通に考えたら、点数だけ見れば清澄と鶴賀の一騎打ち、風越と龍門淵は終わったと判断する」

アナウンサー「終わったって…試合中にそんなことを言わないでください」

靖子「だが、実際には違う。龍門淵には絶対的なエースが居て、繋ぎさえすれば40万点差だろうと逆転出来ると、当人たちは思っているだろう」

アナウンサー「昨年度全国MVPの天江選手ですね」

靖子「それを考えれば、清澄と鶴賀のリードも危うい。点差と後に控える選手のポテンシャルを合わせて考えると、トップの鶴賀は点数ほど有利ではない」

アナウンサー「点差と後に控える選手のポテンシャルを総合的に見て、現在有利なのはどこでしょう?」

靖子「…たとえ現時点で最下位だろうと龍門淵、と言いたいが、この点差なら現状では清澄だろう。あの大将は普通じゃない。点差があれば十分天江から逃げ切れる力がある」

アナウンサー「確か、一回戦では20万点を稼いでいますよね?現在のところ本大会の最多獲得点数です」

靖子「それを考慮して、他校がどう立ち回るかだな」

アナウンサー「ちなみに、副将戦だけだとどこが有利ですか?」

靖子「牌譜を見る限り高レベルのデジタル四人だからなあ…原村か龍門淵が上手なんだろうが、何が起きるかはわからない。が、大きな波乱はないと思う」


【中堅戦終了前 清澄高校控室】


照「…多分竹井さんがこの手を和了って終局する。対局室に、竹井さんを迎えに行こう」

咲「…なんで私に言うの?私がついて行っても無駄だよ」

照「…確かに」

京太郎「偉そうに言うな。迷子」

咲「…一人で行動しなければ大丈夫だし」

京太郎「お供を毎回やらされる身にもなれ」

和「あの二人は放っておいて…副将戦に行くついでです、私が行きましょう」

照「ありがとう」

和「い、いえ…別に、大したことでは…」

佳織「智美ちゃん…」

ゆみ「行ってやれ、幼馴染の妹尾が行くのが一番だろう。あれで責任感の強い奴だから、フォローを頼む」

佳織「はいっ!」

モモ「私は後からこっそり行くっす。最初から認識されてない方が消えやすいっすからね」


美穂子「…迎えに行って来るわね」

未春「はい…」

華菜「あの化け物相手に文堂は良くやったし、帰ってきたら褒めてやるし!」


衣「して、透華」

透華「なんですの?」

衣「衣に回せば勝てると言っても、一の仇ぐらいは取りたくないか?」

透華「…」

純「おい、透華…?」

透華「…行ってまいりますわ」

バタン

智紀「…透華は、敵が強ければ強いほど燃える」

純「…そうだな。けど、それが一定以上に燃えると…」

衣「透華の中に居る獣が目を覚ます…といっても、そこまでの相手には滅多に出会えるものではないがな」

純「獣って言うには静かすぎねえか、アレは」

智紀「…」

衣「さて、楽しみだな。普段の透華も好きだが、衣はあの透華の方が自分に近い感じがして好きだ」


一「帰りにくいなあ…いいとこなしだよ。他はみんな迎えが来てるけど、ボクは透華に怒られる前に逃げたいね」


コツ、コツ…


美穂子「あなたはよくやったわ。あの上埜さんを抑えて深堀さんに繋いでくれたもの…」ギュッ

星夏「キャプテン…」グスッ


コツ、コツ…


照「三対一ぐらいで情けない、部長失格」

久「和がまくる分を残しておくって言っちゃったからね、逆転しようと思えばできたわよ?」

和「どう見ても全力だったでしょうに、まだ大口を叩きますかこの人は…」


コツ、コツ…


智美「おお、わざわざ来てくれたのか。ごめんな佳織、お前たちが作ってくれたリード、吐きだしてしまったぞー」

佳織「ううん!智美ちゃんだからトップを守れたんだよ!まだトップだから大丈夫!」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 


照「…っ!?」ビクッ

久「…聞いてないわよ、こんなの」ゾクッ

和「?」

美穂子「」ゾクッ

佳織「ふえっ!?」ビクッ

純代「?」

一「…とう…か?」ブルッ


透華「皆さま、ごきげんよう」ヒョオオ


次回は金曜日の予定です。

大将戦まで書き溜め終わりましたので、長野編はおそらく完結します。ひとまずご報告。

乙。
この作者の作品ってそんなに荒川さん出てたっけ?

>>387
短編はそうでもないですが長編だと6割にメインキャラ待遇で登場してるので、言われてみると多いような気はします。

理論的な部分に大きな不安が残ってるものの、本日分投下します。間違ってる部分とかは遠慮なくご指摘ください。


咲「…」ピク

まこ「咲、どうかしたか?」

咲「これは…ちょっと大変かな…?」

京太郎「分かるように言え」

咲「…鶴賀じゃなければいいけど」

優希「咲ちゃん、犬も言ってるけど、分かるように…」

咲「風越だと楽になるかなあ…」

京太郎「おーい、咲ー?」

咲「一番可能性が高いのは龍門淵か…嫌だなあ…大将も強いらしいし」

優希「完全に一人の世界に入ってるじぇ」

まこ「呟きが漏れてるのが救いじゃな。多分、なんか化け物がおるんじゃろ」

優希「照さんに咲ちゃんに鶴賀の次鋒に部長に…まだなんか居るのか…この大会はどうなってるんだじょ…」


照「ただいま」

久「いや~…半荘一回で五万のノルマは流石にキツイわねー。後半はボロボロだったわ」

まこ「トップ取っておいてボロボロとかよく言うわい、お疲れさん」

優希「二半荘連続トップ、さっすが部長だじぇ!」

咲「で、さっきのアレ、どこですか?」

久「見てれば分かるわよ」

照「あれはびっくりした。原村さんにはちょっときついかも」

久「照がそう言うなら、多分差は詰まるわね。頑張って、大将」

咲「…善処します」


起家 純代「よろしくお願いします」

南家 透華「よろしくお願いします」

西家 和「よろしくお願いします」

北家 モモ「よろしくお願いします」


アナウンサー「さて、現在二位の清澄高校、副将はエースの原村和、昨年度のインターミドルチャンピオンです」

靖子「…エースか?」

アナウンサー「エースでしょう?インターミドルチャンピオンですよ?」

靖子「まあ、普通に考えたらそうか」

アナウンサー「さあ、注目の原村和は5巡目で絶好の一向聴!どうですか藤田プロ?」

靖子「まず和了れないな。聴牌すら出来そうにない」

アナウンサー「へ?」

靖子「他家の手牌と河を見ろ。龍門淵以外、互いに順子の待ち牌が、河に切られるか他家に抱えられていて、有効牌が山に2~3枚しか残ってない。まだ5巡目だというのにな。それに、その数枚が自分のツモるところに居るかどうか…王牌にまとめてごっそり、なんてこともありうる」

アナウンサー「あ、ああ!?確かに!これはどうしたことでしょう!?」

靖子「気味の悪い場だな。配牌の時点では向聴数も良く好形で早い手に見えて、実質死んでいる」

アナウンサー「おっと、原村、ここで実質二枚しかない有効牌の一枚を引き寄せた―!!!」

靖子「…聴牌したのはなかなかだが、待ちは山に一枚しかないぞ。というか、ここで聴牌に取ると…」


咲「うわ、あれツモるんだ…原村さんも大概だよね」

照「彼女はうちで二番目にオカルトじみてる」モグモグ

まこ「一番のオカルトが照さんだとして、咲が抜けちょるぞ?」

優希「照さん、食べながら喋るのはお行儀が悪いじぇ」

咲「ごめんね、躾のなってない姉で」

照「…麻雀は頭脳ゲーム、糖分が必要」

久「あんたの出番は終わったでしょうが」

咲「解説役としての出番は残ってるけどね。なんだかんだでお姉ちゃんが照魔鏡で見るのが一番確実だし」

照「そう、咲の言うとおり。つまり、私には糖分が必要」モグモグ

咲「卓につかないと照魔鏡使えないから、モニター通して見る分には私でもほとんど変わらないけどね」ボソッ

照「?」モグモグ

京太郎「で、この際、行儀が悪いのは置いておくとして、これどうなってるんですか?」

照「私のプラマイゼロみたいなもの。あの人が自然に打つと、鳴きが発生しない場になるんじゃないかな」モグ

久「鳴けないだけならいいけど、どうせほっとくとアレが和了るとかのおまけつきでしょ…ちなみにリーチは出来るの?」

照「原村さんなら頑張れば出来るんじゃないかな?これも私のプラマイゼロを崩すみたいなものだからおすすめしないけど」

咲「で、一人だけ自由に打ててるあの人が仕掛け人だよね…龍門淵が浮いてくるのかあ…」

照「ご明察。大将戦頑張ってね、咲」


『リーチ』


『リーチ棒はいりませんわ。ロン、1300』


咲「普通に打ってリーチかけたら宣言牌で捕まるんだね…」

照「ダマならあるいはって感じだけど、デジタルは先制リーチ出来る局面は基本的にリーチかけるからね」

京太郎「デジタルが先制リーチしない状況って、どんなのですか?」

照「仕掛けが入ってる状況は『先制』から除外するとして…手変わりが豊富な悪形聴牌とか、跳満以上の高い手とか、ダマなら出るけどリーチすると出なくなる待ち…具体的には公九牌のドラ単騎とか」

久「聴牌してれば、フリテンじゃない限り他家の捨て牌も自分のツモと変わらないからね。役ありで聴牌したらツモが四倍に増えるようなもの」

咲「特に役なしで出和了りが利かない手牌ならリーチのメリットは大きいよ。ツモが四倍に増える理論で行くと期待値は四倍だから二翻相当…リーチ自体が一翻だから三翻相当だよね」

まこ「デメリットはあるが、1000点払って期待値が8倍になるメリットと比較したら無視できる程度じゃろ」

優希「となると、役なし聴牌なら、手変わりの可能性よりリーチの方が優先なのか?」

照「うん。手変わりがいつ来るか、そもそも来るかどうかすらわからないし、先制出来るなら役なし良形は基本的に即リー。特に役有りでドラを持ってるようなケースは大抵即リーだね」

京太郎「で、役ありだともともと出和了りが利く分だけリーチの価値が落ちるんですね?」

咲「でも、役なしで1300点のために1000点払うのに比べて、メリットが格段に大きくなる。和了れば得点が倍になるし、他家をオリさせて失点のリスクを減らす、一発や裏ドラ…1000点供託やベタオリが出来ない程度のリスクならリーチかけた方が期待値は高いよ。むしろ、役なしより役有りの場合の方がリーチ推奨かな」

照「捨て牌とかで相手の手が読めない人…オリる時に現物切ってベタオリしか出来ないレベルなら、どこかで安牌が切れることを考えればリーチして相手をオリさせた方がマシなことも多々あるから、リーチが防御にもなる」

久「照とか咲みたいに一点で読み切るようだと話が変わるわね。捨て牌を選べる限り、手牌全部がアタリ牌でもない限りは絶対振り込みそうもないもの。半荘100回以上打ってるけど、照は私相手には一回もリーチしたことないはずよ」

優希「んーと…照さんとか咲ちゃん以外はとりあえずリーチかけとけばいいんだな?」

咲「先制ならね。細かい状況判断は自分の中で基準を設けてね。リーチを多用しないダマ寄りの打ち方も立派な戦法だよ」


京太郎「ちなみに、デジタルってリーチに対して基本的にベタオリしますよね?」

まこ「デジタルであるほど先制リーチの強さが良くわかっとるからの」

咲「他家が振り込む分には自分はノーダメージだしね。順位無視で自分の点数の期待値だけ見たら、先制リーチに対して、大抵はベタオリが一番期待値が高い。自分も聴牌してるなら五分だけど、既に聴牌してる相手に対して一向聴以下から押すのは…やめておいた方がいいかな」


優希「質問だじぇ!リーチかけたら全員ベタオリするような固い面子だとリーチかけないでダマの方が良いのか?」


久「いえ、だからこそ先制リーチをかけるべきよ。全員ベタオリするのだから、自分だけが和了チャンスを持ってる状態になるもの」

まこ「リャンメン待ちをツモる確率は一巡あたり約6%じゃ。ベタオリの他家がツモってしまって和了牌を抱えたら確率は下がるが、それでも巡目の早いリーチなら流局までに30%程度はツモれる」

咲「全員ベタオリするならツモれる確率=和了れる確率になるね。実際には安牌だけ切って聴牌されるケースもあるけど」

照「流局したとしても、全員ベタオリなら四人聴牌ということは考えにくいので、ノーテン罰符で収支がプラスになる見込みも大きい」

咲「というわけで、固い面子だろうと関係なく先制リーチ出来るなら即リー」


優希「つまり、面前で先制聴牌したら常にリーチしろってことだな咲ちゃん!」


咲「言いすぎだけど、だいたいそれで合ってる。手牌次第では面子関係なくリーチしない場合もあるし、巡目とか点数状況でも話は変わるけどね」


京太郎「デジタルって、色々常識が吹っ飛びますね。ダマにして討ち取る方がいいと思ってましたよ」

久「それも正しい考え方よ?デジタルは期待値が一番高い打ち方でしかない。こういう大会みたいな場で、その一局をどうしても勝ちたいなら少しでも確率の高い方を選ぶのも正解…というか、麻雀に間違いなんてないのよね」

咲「チャンスが一回しかない時に、10%の確率の10万円と90%の確率の1万円、どっちを選ぶかと言われたら、期待値は低いってわかってても後者を選ぶ人は多いよね」

照「勝てば、どれだけ理論的におかしい打牌でもその対局に限れば全てが正解になる。デジタルもオカルトも、牌効率や捨て牌読みも、勝つための理論の一つでしかない」

まこ「素人がセオリー無視で刻子だけ集めて、リーチに対しても全ツッパで四暗刻を直撃…なんてこともあり得る。それで和了った場合は、その局に限れば、上級者が従うセオリーよりも素人の打牌が正解になるわけじゃな」

咲「状況によっては、アタリ牌を切るのが唯一の勝ち筋だったりするからね」

久「半荘単位で見ればね。一局単位ならアタリ牌を分かってて切るとかあり得な…ん?」

照「…咲」

咲「…ごめん」


優希「難しい話は良く分かんないじぇ…」

咲「どんな打牌してもとにかく勝てばいいって話だよ」

優希「なるほど…」

京太郎「…ここまで語ったのは何だったんだ?」

咲「勝つための理論の一つ…って、お姉ちゃんが言ってた」


東二局 一本場


和(さて、これで3連続でリーチ宣言牌でのロン…偶然と捉えることも出来ますが、照さんも注意しろと言っていましたし、彼女が何かしているのは間違いないでしょう)

透華「…」

純代(…場が異常に重い…龍門淵以外の全員がツモ切りを繰り返している。これは、何…?)

和(そしてこの手…役なしの両面…普通なら当然リーチですが…)


和手牌

112356m34赤556p南南 ツモ:7p

和(ダマだと聴牌出来るのでしょうか?試してみますか)

打:1m


透華「…」


一「…聴牌した?何が起きてるのさ。いや、あれで原村和が聴牌したら直撃できないな、とは思ってたけど」

純「おいおい…まさか…」

智紀「リーチをかける意思がない場合は、他家が聴牌しても直撃出来ない?」

衣「然り。あの『河の主』は、水面に波紋が立つことを一切許さん、が、それ以外は許される。リーチ宣言をしないなら聴牌も許されるだろう。むしろ、リーチ宣言やポンチーをしないなら出和了りは避ける傾向にある。自分の和了よりも河を平穏に保つことを優先しているようにすら思えるな」

一「いやいや、もし原村さんが心変わりしてリーチかけたらどうするのさ?」

衣「その時はリーチ宣言牌で討ち取る」

純「いや、おかしいだろ」


衣「?」キョトン


智紀「衣や透華に常識を説いても無駄」

純「…そうだったな」

衣「ハラムラノドカだったか、初めて透華にまみえてリーチを捨てるこの対応、普通に出来ることではない。妖異幻怪の気形と打ちなれていると見える」

一「間違いないだろうね。まず、清澄にはあの先鋒と中堅が居るし」

純「大将も相当おかしいだろ」

衣「清澄の大将…楽しみだ…今宵の獲物は暴虎か轟竜か…」ゴゴゴ

純「こんなウサギみたいな見た目の奴が虎やら龍やらを狩るつもりかよ…」グイッ

衣「わーん!?カチューシャを引っ張るなー!!純のバカー!!」ウエーン


靖子「…そもそも、聴牌出来るだけで大したもんなんだがな。今回も山に残り一枚しかない有効牌を引いて来た」

アナウンサー「さあ、ついに聴牌!!ここでインターミドルチャンプの実力を見せるのか、原村和ー!?」

靖子「解説ぐらい聞け。山に一枚しか残ってない有効牌を引いて聴牌したんだ。少なくともツモ和了りの可能性はない。普通なら何故リーチをかけないのか問い詰める手だ」

アナウンサー「え?」

靖子「この四局続けて、龍門淵以外の三人は異常に配牌が良い。そのせいで、有効牌の種類自体が少なく、形も良くて変化もする必要がない手だから捨て牌にも選択の余地がない。ツモった不要牌が早々と捨てられるが、捨てられていない有効牌が他家の手牌という見えない場所に暗刻で抱えられていたりするから、多少待ち牌が捨てられても面子を見切ることも出来ない」

アナウンサー「えっと、それは、どういうことでしょう?」

靖子「…あれも、『牌に愛された子』かもな。とりあえず、原村は現状では和了り目がない。良くて聴牌流局だな」

―――

和・透華「聴牌」

モモ・純代「ノーテン」


久「咲に挑み続けたのが生きてるわね。『のどっち』だったら泥沼にはまってたかもしれないわ」

咲「あの豪運も大概だから、デジタルでもなんとかしそうな気がしますけどね」

照「大抵のものは何とかしそうだけど、あれは流石に無理だと思う」

優希「でも、このまま流局を繰り返しても親の龍門淵が聴牌し続ける限り終わらないじぇ?」

咲「終わるよ、ノーテン罰符で。そしたら、多分うちが優勝」

京太郎「いつまで続ける気だよ…風越がトブとしても、ノーテン罰符だけでトブまで打ってたら日が暮れるぞ」

久「その辺は規定がないのよねえ…連荘が一定以上続いたら試合の進行のために次の局に進むとかないかしら?」

まこ「あるわけないじゃろ、そんなん想定しとらんわ」

咲「今回は実質カラテンでしたけど、有効牌が残ってれば原村さんはツモりますから、同じことしてればそのうち和了るんじゃないですか?」

照「それだけで終わると思う?」

咲「絶対に終わらない。原村さんはなにかしでかすよ」


優希「…言ってるそばからのどちゃんが配牌で来たリャンメン塔子を切り始めたじぇ…」

咲「なるほど、悪くなさそうだね…」

照「強制的にリャンシャンテン以上にして有効牌を狭めることで成立する河の支配、抜け出すには有効な手段かな。デジタル的にはあり得ないけど」

久「ここまで見てる限りだと、最初にある両面は大体死に面子だもの、孤立牌と同じとみなして捨ててるわけね」

咲「自分の両面が死に面子ってことを前提とすると、他家の手牌もある程度透けますよね」

優希「でも、のどちゃんは私たちと違って他家の手牌も死んでることとか、今までののどちゃんの手が死んでたこととかをしらないはずだじぇ」

照「原村さんは天才の部類に入る打ち手。異常が起きてることを前提に捨て牌を見ていれば、これだけの局数をこなせばどんな状況になっているか把握できるはず」

京太郎「そういえば、風越はここまで四局で一枚も手牌に入れてませんね」

久「多分、連続ツモ切りの大会記録ね。けど、別にデジタル的に間違った打牌はしてない、間違ってるのはあの卓の方よ」

照「さっきも言ったけど、正しい打牌というのは勝つ打牌のこと。勝ててないのだから、間違ってるのは打牌」

まこ「あんたに言われたら何も言い返せんの…」


和(さて、両面塔子を落としたらすんなり…とは言いませんが、なんとか手が進みました。おそらく、今私が居る位置は彼女の想定した範囲の外側…ならば、試してみましょう)

和「リーチ」

透華「…!?」


純代(清澄は普通にリーチをかけた…捨て牌もそれほどおかしな部分はない。なら、これは運が悪いだけなのか?)

和(…すんなり通ってしまいました。照さんはプラマイゼロを崩した時に本気で牙をむいてきましたが、大丈夫でしょうか?)タラリ

透華「」ゴゴゴゴ

和(…あ…通ったどころか和了ってしまいました)

和「…リーチ一発ツモ。1300・2600」

222456s3357p999m ツモ:6p


透華「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

和「…」タラリ


優希「やったじぇ!さっすがのどちゃん!」

咲「流石だね…ただ、和了りが勝つことにつながるとは限らない」

照「これは、河の主様の逆鱗に触れたかな?」

久「いやいや、河は乱してないからセーフでしょ」

咲「リーチしましたよ?」

久「あ…」

咲「とはいえ、どこかで和了らないと永遠に親が続きそうではあったけど。リーチせずにツモのみが原村さんにとっての最善だったかな」

まこ「和にとってのってのはどういうことじゃ?」

咲「アレは私でも無理そうですけど、お姉ちゃんなら真正面から潰せるでしょうから、お姉ちゃんの場合はあれでいいです」

照「咲まで私を買いかぶる…咲に無理なら私にも無理だって」

久「いやいや、あんたが真正面からぶち破れない相手なんてこの世どころか過去にも未来にも居ないから。咲を含めてね」

照「竹井さんはどうせそう言うからどうでもいいけど、咲まで言い出したのは由々しき事態」


『ツモ…発・面前混一色・一盃口・ドラドラ。4000・8000』


咲「うわ…これ…」

照「頭になってるドラの5索が6索と換わったら緑一色だね。見た感じでは緑一色は狙ってなかったと思うけど、怖いね」

まこ「良い手じゃのう」

咲「これで治まったかな?」

照「多分。リーチしただけだからこんなもんじゃないかな。親かぶりは痛いけど」


和(寿命が縮む思いでした。リーチされて激昂するぐらいならリーチ出来ないようにちゃんと封じてください。私だって和了るつもりでかけたリーチではなかったのですから)

和(…っと、相手をあてにしてはいけませんね。咲さんや部長と協力したとはいえ、照さんでも私にプラマイゼロを崩されることがあるのですから、それ以外の方に完璧を求めるのは酷というもの)

和(大体わかりました。この方は河に異変が起きないように支配しているのですね。だから、鳴きは発生しない、普通に打ったらリーチも出来ない。先ほどのように、予測の外側に出ればリーチは可能ですが、得策ではない。リーチを使えるのは後半戦のオーラス限定ですね)

和(どのようにそれを行っているかは重要ではありません、これは照さんが入った卓で照さんがプラマイゼロになるのと同様に、そういうルールだと割り切って打つゲーム)

和(配牌が良いのが救いですね。リャンメンを崩してシャンテン数を戻しても、まだ通常より良い配牌になっています。照さんと違ってオーラス付近で和了り自体が封じられることもありません)

和(出和了りは出来ない、リーチもかけられない、ポンチーカンはもってのほか、それが出来ないようなツモと捨て牌になる…と。万一鳴くことが出来ても鳴かないつもりで打っていれば、それなりの手が来る可能性もあります。適宜修正していくとして、それらのルールを前提に最善の手順を考えればいい…暫定的なルールの修正は終わりました。ここからは、全力でお相手します)


久「おっ、来た来た」

咲「第一打で小考…のどっちモードですね」

照「…合宿以来、プラマイゼロを崩しに来なくなって寂しい」

久「崩されたいの?なら、私がいくらでも相手するわよ。崩せるかは知らないけど」

照「そういうわけではない。前回の反省を踏まえてリーチ棒対策をしたから試したいだけ」

久「しかし、簡単にはいかないみたいね。あちらも初手で両面塔子を落とすことまで計算に入れ始めたかしら?」

咲「リーチをかけられた以上、その程度の修正はするでしょうけど…そもそも、あの人の支配下だと基本的に配牌が一向聴、悪くても二向聴で、複数の完成面子が最初からあるから何切っても立て直しが容易なんですよね。原村さんの場合、有効牌が存在すればツモリますから」

照「それに、あんまり制限をきつくすると、他家だけじゃなく自分の手も使って原村さんを縛らないといけなくなる」

咲「それよりは、原村さんには勝手にやらせて自分が和了っちゃう方が楽だよね」


京太郎「自分で和了るのって楽か?」

優希「楽なんだろ、化け物どもの間では」

まこ「おい、ワシもそっちに入れてくれ、こいつらの会話聞いとったら頭がおかしくなりそうじゃ」

優希「オカルトを語り始めた途端に人外しか理解できない会話になったじょ」


副将戦終了


清澄  161500(+15600)
龍門淵  94200(+49800)
風越   22700(-31900)
鶴賀  121600(-33500)


久「のどっちモード以降は互角だったけど、最初に直撃を連続で食らったのと、のどっちモードに入る直前の倍満が効いたわね」

咲「アレと互角とか、原村さんも明らかにおかしいですよね…後半は半荘でトップ取りましたし」

照「支配が強力で影響範囲も広い分だけ応用も利かないから、正しい対応をすれば勝負になる。でも、正しい対応を初見で出来るのは原村さんぐらいだと思う」

久「プラマイゼロ崩しなんてのを研究した和ならではの対応力よね。オカルト研究家に向いてるんじゃない?」

優希「本人は嫌がりそうだじぇ」

咲「…で、67300差か…流石に大丈夫だと思うけど」

まこ「龍門淵以外もちゃんと警戒せえよ?特に鶴賀はデータもないけえの」

咲「はい、大丈夫です。麻雀は四人で打つものだって、次鋒戦と中堅戦で再確認しましたから」

バタン

和「戻りました」

照「お疲れ様」

和「すみません、手こずりました」

久「いやいや、十分過ぎる戦果よ。マイナスでも悪くないと思えるぐらいの相手だもの。トップも取って来てくれたし、言うことなしね」

照「じゃあ、咲」

咲「うん、行ってきます…京ちゃん、お願い」

京太郎「対局場への道ぐらいいい加減覚えろっての」


モモ「…やっちまったっす…先輩に会わせる顔がないっすよ…」

ゆみ「おい!モモ!どこだ!?」

モモ「やばっ!?見つかるっす」スウッ

ゆみ「…そこか!?」

モモ「ひうっ!?な、なんでわかったっすか!?」ビクッ

ゆみ「お、そこに居たか」

モモ「…もしかして、見つかってないのにカマかけたっすか?」

ゆみ「悪いな、今の私にはそうでもしないとお前を見つけられない」

モモ「先輩の意地悪…そんなに戦犯を吊し上げたいっすか?」

ゆみ「休憩中に戻ってこなかったことについてなら後で説教はしたいが、アレを相手にこの結果なら上出来だ」

モモ「へ?」



ゆみ「モニターで見ていたから分かることだが、モモの手は全て有効牌が山に一枚か、良くても二枚しかない状態だった。おそらく龍門淵の仕業だ」

モモ「やけに配牌が良いとは思ってたんすよ…そんなことになってたっすか」

ゆみ「それに対していくつか策を練って授けようと思っていたんだが、対局室から出てこなかったからな」

モモ「二位に落ちたのが申し訳なくて顔出せなかったっすよ。焼き鳥でトップ陥落とか、エースが聞いて呆れるっす」

ゆみ「デジタル的に間違った打牌は一打もなかった。お前にミスはなかったよ、モモ」

モモ「そうは言っても、前半の東場から消えてたのに何の意味もなかったっすからね。敵さんはツモ和了りばっかな上に自分が聴牌すら出来なきゃ、ステルスもなんの役にも立たないっす」

ゆみ「そうだな、お前とは相性が悪い相手でもあった。だから、自分を責めるな。この決勝に来れたのはモモのおかげなんだ、モモを責める者などいない」

モモ「そりゃ、皆さん優しいっすからね…」


ゆみ「…お前がそれ以上自分を責めるなら、私はモモが作った以上のマイナスを作って控室に戻る。それで私が戦犯だ、モモに責任はなくなる」

モモ「…ずるいっすよ、それ」

ゆみ「…私はずるい人間だ、知らなかったか?」

モモ「…知ってるっす…そんな先輩が大好きっす」

ゆみ「じゃあ、行って来る。なに、もともと私がまくって勝つオーダーだ。ようやく本来の役割が回って来ただけ、大船に乗ったつもりでいてくれ」

モモ「先輩…」

ゆみ「なんだ、モモ?」

モモ「私を連れて行って下さい、全国へ」

ゆみ「ああ、任せろ!」


パタン

一「お帰り、透華」

透華「…はっ!?夢!?眠ってしまっていたとは不覚ですわ!!時間はまだ大丈夫ですの!?」

純「現実だ。おまえ、あの状態の時は意識ないのか?」

透華「…現実、ですか…意識は、ぼんやりとはありましたわ」

衣「…そうか。奇幻な手合いが増えて嬉しく思っていたが、まだ力を従えるには至らんようだな」

智紀「…衣」

衣「さて、出るか。たかが7万程度の差、衣にとっては無に等しい。安心して見ているが良い」

一「10万差をひっくり返してもらう予定だったんだ、心配は一切してないよ」

純「そうだな、任せたぞ」

透華「今宵は満月…衣が負けるとは思えません。後は任せましたわ」

saga入れ忘れたけどフィルター引っかかってないから大丈夫…のはず。
次回は土曜日の予定です。


アナウンサー「さあ、長野県大会もいよいよ大詰め。大将戦です!」

靖子「私はこの時点で風越の健闘を称えたいな。あれだけ怪物級の打ち手が暴れ回った後でまだ点棒を残していられるのは風越だからだろう。普通ならとっくに…下手すれば次鋒あたりで飛んでいる」

アナウンサー「副将戦前半は龍門淵透華が昨年度ベスト8の貫録を見せつけての大トップ! しかし、原村も後半で叩き合いを制してトップを分け合う形になりました!!」

靖子「後半は全てがツモ和了りだったな。叩き合いのあおりで風越は大きく削られ、鶴賀もトップから引きずりおろされた」

アナウンサー「トップを逆転した和了りは原村和の手によるものでした! そして、原村からトップでバトンを受け取るのは同じく一年生! 宮永咲!」

靖子「こいつには期待していい。天江衣と五分の闘牌を見せてくれるだろう」


アナウンサー「先鋒からトップを守り続けた鶴賀は副将戦でトップから陥落! 苦しい状況ながらチームの柱に全てを託します! 鶴賀学園、大将は三年生の加治木ゆみ!」

靖子「一、二回戦の牌譜を見る限りでは非情にレベルの高い打ち手だと思う。まだ底は見せていないが、この相手だとどうだろうな…」


アナウンサー「名門風越女子の大将を二年連続で務めるのはこの人! 池田華菜!!」

靖子「名門だろうと無名校だろうと、大将というポジションの責任は重い。それを名門風越で一年生から任される打ち手、相当の実力者だ。ただ、点差が重いな。相手も相手だし、本来の実力を発揮できるかどうか…」


アナウンサー「そして、その池田選手の因縁の相手が今年も龍門淵の大将を務めます!」

靖子「…」

アナウンサー「昨年度全国大会MVP、長野どころか全国でも最強のプレイヤーです! プロアマ交流戦でも優勝するなど、実績は枚挙に暇がありません!!!」

靖子「なあ、プロアマ戦の話はやめてもらえないか? 天江なら他にいくらでも実績あるだろ、なんでそれを選んだ?」

アナウンサー「全国大会最多獲得点数記録保持者! 歴史上最強の高校生が、今年初めて公式戦の舞台に現れます! 龍門淵高校、天江衣おおおおおお―――!!!!」

靖子「歴史上最強の高校生…数字の上では高校時代の三尋木咏や小鍛治健夜をも上回る、正真正銘の『牌に愛された子』だ。大将戦はこいつを中心に動くだろう。どんな状況でもこいつから目を離せないな(可愛いなあ、衣かわいい)」


アナウンサー「大将戦の幕が今、開こうとしています!!!」


北家 華菜「よろしくー」

南家 咲「よ、よろしくお願いします…」

ガチャ

西家 ゆみ「…あと一人か、よろしくな」

咲(…風越の人は普通…鶴賀の人は、ちょっと厄介かな。そして――)


【壁】耳 ピョコ


咲(…絶好調、って感じか…)ゾクッ

トコトコ

チョコン

衣「…よろしくな」

咲「私だけを見て言わないでほしいな……他に二人いるんだけど?」

衣「悪いが、眼中にない」

ゆみ(…眼中にない、か。それが隙になることもある。好きにすればいい)

華菜(こいつ…去年戦ったあたしすら眼中にないって言うのかよー!!)ニャー

咲「…そう、後悔しないようにね。よろしく」

衣「…?」


起家 衣「…まあいい、始めるぞ、衣が親だな」


美穂子「…異常な和了率と、和了るたびに点数が上昇する不思議な闘牌、だったかしら?」

未春「はい……あれが偶然じゃないなら……あの子は…」

星夏「一回戦でこいつに飛ばされた今宮女子……練習試合でうちといい勝負してたとこですよね」

美穂子「…天江さんだけじゃない。あるいはそれ以上かもしれない魔物が、あの卓に居る」

美穂子(華菜―――気を付けて―――)


東一局


咲「…槓」

暗槓:中中中中

ゆみ(公九牌を暗槓!? こいつは安手から始まる連続和了が売りではないのか? まさか、一回戦と打ち方が違う?)

華菜(トップが自ら槓ドラ増やしてくれたし! ラッキーだし!)

衣「…ほう」

ゆみ(いや、槓を多用する打ち手には覚えがある。同じ苗字の、清澄の先鋒…あれがこいつの姉なら、妹のこいつに同じことが出来てもおかしくはない)

咲「ツモ、嶺上開花・面前ツモ・中。2000・4000」


24555s789p南南 暗槓:中中中中 ツモ:3s


ゆみ(嶺上開花……か)


久「…あら? 普通に打ってるように見えるけど」

まこ「嶺上開花が普通のわけあるか」

照「そうだね……一応安全策ではあるかな」

久「どういうこと?」

まこ「無視か!?」


京太郎「先輩、こっちで凡人達の集いしましょうよ…」

優希「だじぇ」

まこ「そうさせてもらうわい」


和「咲さんなら……普通に打つとプラマイゼロになりますよね?」

照「そう、そして、咲の収支がプラマイゼロになってないときに他家が飛ぶことはない。大抵の場合最終局で調節するから、他家は飛ばないと言い切ってもいい」

久「…なるほど」

和「たしかに、それなら、67300の差があれば、かなり安全ですね。絶対ではありませんが」

照「いや、異常が発生しない限り、絶対だよ」

久「…あ、なるほど」

和「…これは…なるほど」


まこ「おい、京太郎、わかるか?」

京太郎「この三人だと染谷先輩に分からなきゃ誰も分かりませんって」

優希「だじぇ」


照「そっちの三人に理解してもらうために、現在の四校の点数状況を示す」


清澄  161500
龍門淵  94200
風越   22700
鶴賀  121600


久「うちと龍門淵の差は67300ね」

照「で、咲はプラマイゼロを目指す打ち方をしている。ここまでオーケー?」

京太郎「はい、そこまでは分かります」

照「そして、他家は飛ばない。つまり、25000持ちと仮定すれば、鶴賀からは半荘二回で5万点しか奪えない」

優希「でも、風越から27000取ったら追いつかれるじょ?」


照「どうやって?」


優希「じょ?」

久「風越には、27000の点棒はないわよ。大将戦が始まった時点で22700。それ以上奪ったら風越が飛ぶ」

照「鶴賀から25000、風越から22700、合計47700点。これが、咲が支配するあの卓で、半荘一回に鶴賀と風越から奪える点棒の全て」

和「更に、咲さんが最低でも4600稼ぐから龍門淵から見て獲得可能な点棒は43100しかない…点差だと38500しか詰まらないことになりますね」

照「『誰も飛ばない』という条件で誰かがプラマイゼロをやると、トップは最大で45400点しか点棒を増やせない。風越がトビそうだからそれが更に狭まる」

久「理論値で前半が38500、後半が15800、咲がプラマイゼロをする以上、この状況ではどうやっても54300点しか差を詰められないのよ」


まこ「理論上67300の差が詰まることはない、か。なるほどのう…咲のプラマイゼロなら安心じゃの」

京太郎「咲は確実に勝つためにプラマイゼロに切り替えたんですね」

照「いや、試合前から大分緊張してたし、余裕がなくて素の打ち方が出てるだけだと思う。天江さんは楽に勝てる相手じゃない」

久「…え?」

和「照さん、本気で言ってますか?」

照「じゃなければ、風越を飛ばせばいいだけ。むしろ、点差がある今はその方が安全」

優希「ってことは…?」

照「天江さんがプラマイゼロの縛りを打ち破って鶴賀から半荘で25000以上取ったりすると怪しい」

久「マジで?」

照「うん」


東2局


咲「…ポン」

ポン:222s

ゆみ(…姉は槓以外での副露は滅多にしなかったはずだ……加槓をすると決めつけて搶槓を狙ってみるか? …確証を得ている猶予はない。一か八か、やってみるとしよう)

ゆみ(もし、こいつが真に怪物なら……搶槓という恐怖を与えておくのは有効だ)

3456s345p567m南南南 ツモ:1s

打:南


衣「…ふむ」


咲「…槓」

ゆみ「ロン、搶槓のみ。1300点」

咲「…はい」

ゆみ(動揺はない……予測の範疇か? この程度の支出で親を流して場を進めるのは、トップの清澄からすれば歓迎ということなのか?)


アナウンサー「嶺上開花の次は搶槓だ――!!」

靖子「搶槓は狙ってさせたようにも思えるな。鶴賀がポンに対応することまで見切ったか?」

アナウンサー「いやいや、流石に偶然でしょう?」

靖子「少なくとも、鶴賀が搶槓を狙ったのは偶然ではないな。役を捨てて、ノベタン待ちを待ち牌が既に三枚見えてるカンチャン待ちにする道理はそれしかない」

アナウンサー「しかし、搶槓が発生したのは…」

靖子「偶然、だと思うようでは、よほどの強運の持ち主でなければ、あの場に居たら飛ばされるだけだな。しかし、鶴賀の部長は思い切りがいい。ひらめきに身を任せる大胆さと、正しい直感。予想以上の打ち手だ」

アナウンサー「鶴賀の部長は中堅の蒲原です」

靖子「え、マジで!?」


東3局


西西西西444赤56p2346s ツモ:6s

咲(…張った。そして、嶺上牌は4筒、7筒の順に並んでる。あとは…)チラッ

咲(国士狙いだろうけど…張ってないね)


咲「槓」


衣(!?)

華菜「にゃっ!?」

ゆみ(…国士狙いを隠す気もない捨て牌だが、この捨て牌を一瞥して西を槓……搶槓は完全にテリトリーの内側か……当てが外れたな。そして、この手は死んだ)


咲「もう一個、槓」


衣「くくく…」ゾクゾク

咲「面前ツモ、嶺上開花、赤1。80符3翻は2000・4000」


衣「あははははははははは!!!」

華菜「ひっ」ビクッ

咲「…」

衣「いいぞ!貴様は最高の獲物だ!!!」

ゆみ(天江衣…ここまでは様子見、ということか?)

衣「今の手、衣の感覚では安手、しかもまだ聴牌したばかりだった」

咲「…それが分かるだけでもおかしいんだけどね、普通は」

衣「それを、貴様は聴牌したその瞬間に満貫を和了って見せたのだ! こんな相手はかつて居なかった! 楽しいぞ…もっと衣を楽しませてみせろ!!!」

咲「…善処するよ」

衣「善処する、か…では、宴を始めよう」ゴゴゴゴ

咲「…」

ゆみ「くっ!?」ゾクッ


華菜「ごちゃごちゃ言ってないで早く点棒払え! 次はあたしの親だし!」


衣「…無粋な輩が紛れ込んでいるな。せっかくの宴で興が削げる。黙れ」

華菜「うっさい! 黙らせたかったらとっとと点棒払って進めろし!」

衣「…ふん」チャラ

咲「…」


東四局


華菜(まだ負けたわけじゃない! 点数状況次第だけど、10万点より100点でも多ければ優勝の可能性はあるんだし!
   だから、まずは10万点を目指す! 今の点数状況なら、清澄以外に対しては押しても大丈夫なはず!)

打:南

衣「ロン、16000」パタン


222赤5赤55p11s白白白南南 ロン:南


華菜「にゃっ!?」

ゆみ「お、おい、天江…?」

衣「衣は清澄との宴に興じる。貴様らはそこで縮こまっていろ」

咲「…」


アナウンサー「倍・満・直・撃―!!!!! 風越女子池田選手、昨年の悪夢が再びよみがえる―――!!!!」

靖子「天江はなにを考えているんだろうな? 見逃す一手だろうに」

アナウンサー「はい?」

靖子「まあ、このまま終わるなんてことはないだろう。騒がずに成り行きを見守るか」


南一局


咲「ロン、ダブ南のみ、2600」


123567p456s99m南南 ロン:南


華菜「うぎゃっ!?」

ゆみ(清澄は分かる…むしろ清澄は風越を狙うのが正しい。しかし、さっきの天江の倍満は…)

衣「…安手で衣の親を流したか、猪口才な…」

咲「あなたの親を流すのは目的じゃないよ」

衣「では、自らの親を引き寄せることか?」

咲「それも違う」

衣「…まさか、そ奴をトビ寸前にして衣の手を縛ったつもりではあるまいな?」

咲「…出来れば飛ばしたかったけどね。辛いんじゃないかな?」

衣「…その程度で衣を縛ったと思うということは、その程度で手を縛られたと感じる輩ということか……少々期待外れだよ」


透華「衣は何をしてくれてますのー!!!?」

一「いやいやいや……流石に不味いでしょ。衣が点棒状況を見てないなんてことはないと思うけど」

純「背水の陣にもほどがあるだろ……てゆうか、これじゃツモれねえじゃねえか」

智紀「となると、海底も使えない」

純「どうすんだこれ?」

一「どうするもこうするも…」


『ロンだし! 24000!』


智紀「…こうするしかない」

透華「点差がますます開いたではありませんか!!! 衣は何を考えていますの!!?」

純「まあ、衣がなんにもせずに終わるってこともねえだろ。俺らは信じて待つだけだ」

一「まあ、それはそうだけどさ…」


アナウンサー「三倍満直撃―――!!! 風越女子、池田選手! 悪夢の倍満に対して利子をつけて返した――!!!」

靖子「いや、差し込みだな。風越が飛び寸前ではツモ和了りが出来ない。天江はそれを回避したに過ぎない。ころたんかわええ」

アナウンサー「最後に心の声がもれてますよ」

靖子「おっと…まあ、三倍満ぐらいいつでも取り返せると思っているんだろうさ、だから易々と差し込みが出来る」

アナウンサー「しかし、ここまでの天江選手の収支はマイナス、悪手と思われる倍満ぐらいしか見せ場がないまま来ていますが…」

靖子「…その気になれば、親番一回で10万稼ぐ奴だ。最多獲得点数記録は飾りじゃない」


南三局


衣「ロン、12000」

ゆみ「くっ……地獄単騎だと…?」

衣「…地獄単騎かどうかは重要ではない。貴様が捨てるか捨てないかだ。衣は貴様が捨てる牌で待った」

ゆみ「…大した化け物だな」

衣「貴様も、衣を化け物と呼ぶか……まあ、仕方ないだろうな。衣と麻雀を打ったものは、皆そう感じるようだ」

ゆみ「…」


南4局


咲「」タン

打:1p

衣「なっ!?」

咲「どうしたの?」

衣「何を考えている、清澄? 貴様ほどの打ち手だ、分からなかったなどとは言わせんぞ?」

咲「…何を考えていると思う?」

衣「…っ、ロンだ。貴様の思惑がなんであれ、貴様から点棒を取って悪いことは一つもない」パタン


1p111789s999m南南南


衣「ダブ南・全帯公・三暗刻。12000」

咲「…前半戦終了だね。ありがとうございました」

華菜「…」

ゆみ「……ありがとうございました」パタン


ゆみ手牌

13赤5p345s3457888m


ゆみ(一筒か……手が進めば、私が振り込んでいたのだろうな……4筒をツモったら1筒を止める自信はない。
   たとえ止めても、あの手なら単騎の待ち替えをするだろう。後半は奴の直撃を掻い潜りながら6万以上の差を詰めなければならないのか)


大将戦前半終了

清澄  166800(+ 5300)
龍門淵 104200(+10000)
風越   24100(+ 1400)
鶴賀  104900(-16700)


――――

アナウンサー「天江選手、三倍満の振り込みを直後にきっちり取り返し、しかもオーラスでは清澄に跳満を直撃させて、半荘では貫録のトップです!!!」

靖子「しかし、トップの清澄の背中は依然として遠い。普通ならこの時点で勝負が決まったと判断するほどにな。さて、どうなる?」

アナウンサー「泣いても笑っても次が最後の半荘、激しい争いを繰り広げた長野県58校の頂点が決まろうとしています!!」

後半戦は明日投下します。


ゆみ「…まるで手牌が見えているかのような精度の天江の直撃を掻い潜りながら、6万差を逆転する……なかなかの無理難題だな」

智美「おーい、ゆみちん!」ワハハ

佳織「加治木先輩!」

睦月「うむ!」

モモ「遅いっすよみなさん」ギュッ

ゆみ「お前たち!? こらモモ! いきなり現れて抱きつくな!」

モモ「嫌っすー! 心ゆくまで先輩を堪能するっす!」

智美「対局室を出る時浮かない顔をしていたからなー。どうせ戻って来ないだろうと思ってこっちから来たわけだ」

睦月「うむ」

ゆみ「…何か、打つ手が見つかったのか?」

智美「んなもん、あるわけないだろー。ゆみちんが見つけられないものは私たちが全員で考えても無理だー」ワハハ

ゆみ「威張って言うことではないな。まあ、お前らしいか…」

智美「三日前まで全国なんて行けるとは夢にも思ってなかったんだ、負けてもともと、最後の試合にそんな顔で行かせるわけにはいかないってなー」

佳織「私は全国に行きたいですけど、加治木先輩が申し込みを頑張ってくれたおかげで、全国には個人でも行けますから!」

モモ「かおりん先輩は普通に行けそうっすよね」

ゆみ「…いいのか?それで」

睦月「うむ」

智美「無理して変な打牌して後悔するよりよっぽどいいだろー。お祭りは楽しんだもん勝ちだ」

佳織「です!」

モモ「っす!」


ゆみ「ふっ…」

智美「それそれ、ゆみちんはそうやってホントは熱いくせにニヒルを気取ってるのが一番似合う」

ゆみ「お前たちが許してくれるなら、思うとおりに打たせてもらうさ。怪物たちの宴、一足遅れたが私も混ざるとしよう」


衣「むう……清澄め、あの最後の振り込みは一体…」

靖子「よう、前半は随分大人しかったじゃないか」

衣「…フジタ? 何故貴様がここに?」

靖子「解説プロだ。しかし、お前が半荘で一万しか稼がないなんてのは記憶にも記録にもないな」

衣「あんな獲物は初めてだからな、遊びが過ぎた」

靖子「そうか? ならいいが、前半は清澄の掌の上で踊らされていたようにしか見えなかったな」

衣「…なんだと?」


靖子「プラマイゼロ、って言って分かるか?」


衣「…5300……そうか、最後の振り込みは、それが狙いか…」

靖子「お前ごときと普通に勝負してもつまらない、だから遊んだ……そうは考えられないか?」

衣「…」

靖子「ちなみに、私は破ったぞ、あいつのプラマイゼロ」

衣「…は」

靖子「どうだ、少しは真剣にやる気に…」


衣「…ははははははは!!!! あーっはっはっはっは!!!!!」


靖子「」ビクッ

衣「衣を玩具扱いか……どこまでも不遜! 奴こそ!!! 衣が永らく待ち望んだ金剛不壊なる贄だ!!!」

靖子(清澄が勝ちそうだったから、油断してるところを倒しても経験不足で全国で苦労すると思って煽ったんだが、発破かけすぎたか? すまんな久)

衣「くくく……楽しめそうだ……ふあっ!?」ビクッ

靖子「ころたんかわええ」ナデナデ

衣「なでるなー!!!!!! このゴミプロセクハラポンコツ雀士―――!!!!」


美穂子「華菜…」

華菜「キャプテン……ごめんなさい、あたし…」

美穂子「…差し込みだとしても、あの三倍満を作ったのは紛れもなく華菜よ、そんな顔しないで」

華菜「キャプテン……キャプテン…」グスッ

美穂子「華菜…」ギュッ


咲「…」

久「お帰りー」

照「お疲れ様。悪くない結果だね」

まこ「依然として6万差じゃのう」

和「…咲さん?」

京太郎「さっきから喋んないんですよ。これは、多分アレだな…」

優希「じょ?」


咲「ふ…ふええええええ!!どうしよう!あの人すごく強いよ!風越をトビ寸前にしてもケロッとしてるし!なんかまだ本気じゃないっぽいし!!!」ウルウル


照「ああ、これか…」

京太郎「普段クールぶってるけど、テンパるとこうなるんだよな」

優希「マジか……咲ちゃんのイメージが…」

和「…猫を被ってましたか」


咲「どうしようお姉ちゃん!?勝てないよぉ…」グスン

照「大丈夫大丈夫、行ける行ける」ポンポン

咲「無理だよ、あの人怖いよぉ…」グスグス

照「いざとなったらお姉ちゃんが何とかするから」ナデナデ

咲「ふええええん…」


和「さて、どうしましょう?後半戦が始まるまで20分しかありませんが…」

照「多分、少ししたら収まるから大丈夫」

京太郎「俺、道に迷う以外の理由でコレ見るの初めてですよ」


咲「…さて、現状を再確認しようか」

京太郎「何事もなかったかのように話を進め始めたぞ」

咲「…何事もなかったでしょ?」

優希「咲ちゃん、それは少し苦しいじょ」

咲「次打つ時、優希ちゃんを100連続で狙うよ?」

優希「私は何も見てないじぇ! 咲ちゃん、今帰って来たみたいだけど、どこに行ってたんだじぇ!?」

咲「ちょっとお花を摘みにね」

久「私と照にはその脅しは効かないわけだけど…」

咲「」ゴゴゴ

久「…だから、脅しは効かないわよ」ゴゴゴ

照「アホなことやってないで話を進めよう」

咲「あ、うん」


咲「で、打ってみた感じだけど、多分あの人にはプラマイゼロを破られるね」

照「6万差あるけど、それでもダメ?」

咲「風越と鶴賀からある程度回収して、最後に風越を飛ばしながらのツモで余裕の射程圏内だからね。危ないかな…」

久「天江衣相手だから多少のリスクは仕方ないけど、安全策のプラマイゼロでリスクを負うぐらいなら連続和了で風越を飛ばしてほしいわね」

和「と言っても、風越も通常の原点と大差ない24100点を持っていますが…」

咲「役満一発で飛ぶでしょ?」

まこ「おんしが言うと洒落に聞こえんの…」

咲「今回は本気で狙いますよ。それが一番安全ですし」

久「安全を求めると手が縮むわ。天江衣相手にノーリスクなんて出来るのは照だけ。私が言ったのは、リスク覚悟で行くなら風越を飛ばす方を選びたいってだけよ」

咲「…でも、勝たないと…」

照「てゆうか、私でもノーリスクで勝つのは無理だから」


久「点差なんて気にしちゃダメよ。そうね、こう考えましょう」

和「…あの、この時点で変な情報を吹き込むのは…」

久「半荘ごとの順位点のみでポイントをつけて行って、最終的にポイントが同点の場合のみそこまでの点差を考慮して勝敗を決める。
  着順や30000点を超えているかどうかが重要な基準になる、着順勝負のルールね」

照「団体戦って感じのルールだね。チーム全体がトビ終了することもないし」

久「ここまでの経過は忘れてもらって、現在、1ポイント差で有利。けど、1ポイント差だからトップを取られたら確実に逆転負け。事実上半荘一回勝負、あなたがトップを取ればうちの勝ち」

咲「…半荘一回の着順勝負、トップを取った方が勝ち…」

久「トップを取って来なさい。そしたら誰も文句を言えない、うちの優勝よ!」

咲「でも、あの子が相手じゃ…」

久「出来るわ、あなたは宮永咲。宮永照の妹なのだから」

咲「……はいっ!」


照「…咲まで私を過大評価してるようにしか思えないのだけど…」

和「私には過大評価とは思えないのですが」

照「原村さんまで……敵がどんどん増えていく…」


京太郎「あ、俺は麻雀に関する限り、照さんに何が出来ても驚かないんで」

まこ「同じく」

優希「同上だじぇ」


照「馬鹿な、味方がいない……だと?」

久「私はどんな時でもあなたの味方よ?」

照「この件に関する限り、最大の敵は竹井さん」


起家 咲「よろしくお願いします」ゴゴゴ

北家 衣「ほう、今回は本気か?先ほどは舐めた真似をしてくれたな」

咲「様子見とかいう舐めた真似したのはそっちでしょ?」

衣「それもそうか……だが、少々おイタが過ぎたぞ、清澄の」

咲「…」

南家 華菜「…おい、あたしを無視すんな。たったの14万差で勝ったと思うなよ」

西家 ゆみ「そう、うちもたった6万の差で追いかけていることを忘れないでほしいな」

咲「…」

衣「ふん、有象無象に用はない」


咲「じゃあ、サイコロ回しますね」


カラカラカラ…


衣「さて、貴様の本気がどれほどの物か…確かめさせてもらう」


ゴオッ!!!


咲「…」


咲手牌

4赤57s3344p234m南北東 ツモ:9m

打:3p


久「…へ? 第一打から何やってんのあの子?」

照「咲がやるんだから、多分、ああしないと和了れないんだよ」

和「どう考えてもツモ切りかオタ風の南か北を切る手ですが……咲さんがやるなら正しいのでしょう」

照「咲の照魔鏡もどきは、私と違って深いところまでは見えないかわりにすぐ見えるからね。一局の中での対応だと咲の方が信頼できる」

久「照魔鏡もどきって……あんたら、連続和了といいプラマイゼロといい、お互いが出来ること全部出来るってわけ?」

照「それぐらいじゃないと二人プラマイゼロを続けるなんて不可能だよ。二人プラマイゼロに要求される精度だと、相方の打ち方もほぼ完全にコピーできるレベルで分からないといけない」

和「現に二人プラマイゼロをやっているということは、互いの打ち方をコピーできると?」

照「打ち方を理解するのはともかくコピーするとなると難しいけど、麻雀を覚えた頃から一緒に打ってる上に血のつながった相手だから」

久「で、お互いがお互いのコピーではあるけど、地力の差の分だけあなたの方が強いと」

照「また買いかぶる……咲に出来なければ私にも無理だから」

久「なら、照に出来なければ咲にも無理?」

照「うん」

和「その発言に矛盾する事実が複数ありますが……今はそれどころではありませんね」


照「……咲が聴牌したね」

まこ「鶴賀と風越が10巡以上一向聴で止まっとるのう……咲もあの筒子を抱えた形のままじゃったらハマっとる」

京太郎「あいつ、これを読んで筒子切ったんですかね?」

優希「他に理由がないじぇ」

まこ「何巡先まで見通してたら第一打であれが切れるんじゃ……」

照「あれは、山とかを見たんじゃなくてそういう能力だと察して対応したんだと思う。槓材以外はそんなに先まで見えないはず」


咲手牌

34赤577s234789m北東 ツモ:7s

咲「リーチ」

打:北


衣(リーチだと!? 聴牌したというのか? 予想以上に楽しめそうだ、手加減は無用か)

ゆみ(依然としてイーシャンテン……三十四種の牌がある中、待ち牌が四種で10巡程度手が進まないのは普通のことと言える。
   しかし、宮永のリーチに対する天江の反応を見るに、おそらく偶然ではないのだろうな。
   直撃を避けつつ、手が進まなくなる何らかの干渉を潜り抜けて、6万差を逆転する……更にハードルが上がったか)

華菜(手が進まないし……配牌でドラ3二向聴の手が3巡目からずっと動かないまま、とうとう先制リーチかけられたし…)

咲「…槓」

暗槓:7777s

咲「ツモ」パタン


34赤5s234789m東 暗槓:7777s 嶺上牌:東 


咲「リーチ・面前ツモ・嶺上開花・ドラ1…4000オール」


衣「どこまでも楽しませてくれる、衣は嬉しいぞ、清澄」

咲「…まだ、楽しむ余裕があるんだね」

衣「当然だ。たかが7万程度の差、無に等しい。とはいえ、残りの局数で相手が貴様となると、そろそろ遊んでばかりではいられないか」ゴゴゴゴゴ

咲「」ゾクッ

衣「貴様の一本場だな、賽を振るが良い」


東一局 一本場


咲(聴牌…高目で三色。次にツモる6萬で槓出来る。タンヤオ嶺上開花ツモに三色がついて…嶺上牌は赤5索だから跳満)


咲手牌
1345p34s3334566m ツモ:6m


咲(さっきのプレッシャーがこけおどしじゃないなら素直に和了らせてくれるとは思えないけど……どうなるかな?)

打:1p


衣「槓」

咲「えっ!?」

衣「…ツモ」パタン


2345s赤567p789m 明槓:1111p 嶺上牌:赤5s


衣「嶺上開花ドラドラ。5200の一本場は5500」


咲「…オイタが過ぎるとか、どの口が言ったのかな?」ゴゴゴ

衣「随分余裕があるように見えたのでな。自らの領分を冒されれば本気になるかと思って、嶺上牌を使わせてもらった」

咲「…」

衣「続けるぞ」


久「なにあの子?嶺上牌が見えるわけ?」

照「それはないだろうね。咲の嶺上開花とか連槓での和了りで驚いてたから」

和「では、あの和了りは偶然ですか?嶺上開花に失敗すれば役なしになる愚策を、一か八かで?」

まこ「それよりは天江が化け物って方がまだ納得できるのう」

照「あの和了り自体は狙っていたと思う。けど、天江さんが嶺上開花を狙って出来る条件はかなり限られる。だから、偶然と言ってもいい」

京太郎「えっと…限られるって、具体的な条件は?」


照「咲と同卓していて、咲の手が最終形になった時に捨て牌で槓できること、咲の和了牌が自分の和了牌に全て含まれていること」


久「咲と同卓、これは当然満たしているわね。この条件が意味するのは……咲の手から、咲が認識している嶺上牌を推測しているということかしら?」

照「咲の和了り牌が嶺上牌というのはかなり高い確率だからね。もちろん、連槓前提で二枚目が和了牌というケースもあるけど、
  捨て牌を見る限り順子手っぽいから、今回はそれはないと読んだんじゃないかな」

和「最終形になった時の捨て牌で槓出来る、これは偶然と言っていい程度に低い確率ですね」

照「そう、だから偶然と言ってもいい。そして、咲の和了牌全てが自分の和了牌に含まれていることが必要」

久「そりゃそうよね。咲が2-5索待ちだとして、自分が5-8索待ちだとしたら、嶺上牌が2索だったら空振りだもの」

和「天江さんに咲さんの和了牌が分かるのが大前提なのが癪ですが、嶺上牌が分からなくてもあの和了りは可能なのですね」

久「なにより大事なのは、和了った後で狙い通りって顔をすることよね。ハッタリの基本だわ」

照「多分、今言った程度のことは咲には分かってるから無駄だけどね」

久「他二人には牽制になるでしょ。四人で打つゲームで二人に効果があるならやるべきよ」


まこ「天江が化け物ってことでいいかのう?」

京太郎「いいと思いますよ」

優希「他家の和了り牌が分かるって、手牌覗いてるのと変わんないじぇ…」


貴子「大明槓直後の嶺上開花による責任払いやら、搶槓やら、一生お目にかかれない奴もいるようなレア物がポンポン出るな」

美穂子「異常過ぎます…華菜は、対子場の偏りや色の偏りぐらいなら、いわゆる『流れに乗る』ような打ち方が出来る打ち手ですが…」

星夏「先鋒もそうでしたけど、槓子がこんなに気軽にポンポン出来るだけでもおかしいですよ…」

未春「どうなってるんですか、これ…悪い夢でも見ているみたいです」

美穂子「…けど、現実よ。そして、今日暴れた7人の魔物のうち、5人は来年も出てくる。引退するのは清澄の先鋒と中堅の二人だけ」

貴子「来年に向けてよーく見とけ。次は化け物だから仕方ねえなんて言って甘くしたりしねえ、こいつらをどうにかできるように鍛えてやる」

星夏「…」

貴子「返事は!?」

「「「は、はいっ!!」」」


『ロン、16000』


美穂子「ああっ!?華菜…」

未春「親番が…よりにもよって直撃で流れた…華菜ちゃん…」

貴子「しかもまた倍満か…池田に恨みでもあるのかこいつは?」

純代「…残り、4100点」

貴子「この面子だ、飛んだら飛んだで仕方ねえ。が、鶴賀も龍門淵も今うちを飛ばしたら負けが決まる。清澄は狙ってくるかもしれねえが、龍門淵の化け物が勝手に抑えてくれるだろ」


智美「いやいや、これは相当ヤバいんじゃないかー?」

睦月「化け物二人が好き勝手やってますからね。いくら加治木先輩でも対応するのには限度があります」

モモ「いやいや、非常識っすねえ…私は消えると言っても打ち方自体は完全にデジタルなんであの場じゃ何も出来ないっす」

佳織「みんな上手そうだから、真正面から行ってもさっきの沢村さんたちみたいにいなされちゃいそうだなあ…」


『ツモ、2000・4000』


智美「また天江……直撃喰らった風越よりはましだが、親かぶりかー」

睦月「厳しいですね……手も足もでない…」


モモ「…そうっすかね?」


智美「モモ、どういうことだー?」

モモ「…本当に手も足も出ないなら、直撃を喰らってるはずなんすよ。前半のラスト2局、覚えてるっすか?」

佳織「跳満の直撃と……清澄が切らなかったら手が進んだ時に出してた可能性が高い1筒…」

智美「風越から取ると手が縛られる、清澄からは取れない……だからうちを直撃する、か…」

モモ「けど、そうなってない。さっきの直撃は風越だし、今のはツモっす」

睦月「うむ……ということは…」

モモ「…先輩は、奴の目論見を外してるっす。風越に直撃するぐらいだから、天江さんも意外と苦しいんじゃないっすかね?」

智美「さっすがゆみちん、化け物どもの宴に馴染んでるってことか」

モモ「異常な偏りの場で、手牌を覗いても難しいような精度で狙い撃ち…そんな中でも、毎回高い手を作ってるっす。苦しいって言っても、勝負の形にはなってるっすよ」


東4局 親:衣


ゆみ手牌

1133667788m西北中 ツモ:西

ゆみ(…さて、躱してばかりでは勝ち目はない。天江は前の二局で私を直撃できなかった、迷彩が功を奏しているのだと思いたい)

ゆみ(ここが勝負どころ…)

ゆみ「リーチ」

打:北


――リーチ棒は要らないよ。


ゆみ「」ゾクッ


衣「ロン、対対三暗刻。12000。ようやく網にかかったか」パタン


111444s666p北北中中


衣「一本場」

ゆみ(どちらを切っても掴まっている、か……今回は掌の上だったということだな。
   だが、ツモればその場で逆転優勝の手を潰したとも言える。
   ようやく網にかかったということは、先ほどまでは私を捕えられなかったということ、まだ戦える)



一「清澄が二枚抱えていてあれを見逃すと純カラだったから、さっき四暗刻を狙わなかったのはいいとして…」

純「…衣のやつ、今度はわざと手を安くしたぞ?」

透華「今度の手は鶴賀を直撃できなそうですから、ツモる気なのでしょう。満貫をツモればそこで敗退、手を下げるのは必然ですわ」

一「てゆうか、これ…」

智紀「故意か、偶然か…」


『ツモ。2000オールの一本場は2100オール』


透華「これはこれは……前半で100点残した清澄との格の違いを見せるかのようですわね」


東4局一本場終了

清澄  169200(+ 2400)
龍門淵 148000(+43800)
風越       0(-24100)
鶴賀   82800(-22100)


アナウンサー「風越女子が再び瀕死になった―――!!!」

靖子「しかし、前半のトビ寸前とは状況が違う」

アナウンサー「といいますと?」

靖子「龍門淵と清澄の点差が21200まで詰まった。親の天江は跳満以上ならツモ和了りが出来る」

アナウンサー「前半の状況だと役満をツモっても逆転できませんから完全にツモを封じられていました。
       しかし、今度は親である上に点差が縮んだので、一定の条件、具体的には跳満以上であればツモ和了りが出来ると。なるほど」

靖子「ついでに言うと、常識的には跳満は勝負手だが、天江なら跳満は安手の部類だ。天江にとっての跳満ツモは比較的緩い条件と言える」


東4局 二本場


咲(跳満ツモなら、そこで逆転終了。風越のトビで今度はこっちが苦しむ番)

華菜(けど、跳満以下ならあたしからの出和了りは出来ない。勝つためには押していくしかない!)

ゆみ(蚊帳の外だな……しかし、ここで天江がうち狙いからツモ狙いに切り替えたはず。これで潮目が変わってくれるといいんだが……)

衣(手こずらせてくれたな、清澄。しかし、それもここまでだ!)


衣手牌

11p12s7888999m白白 ツモ:3s 


衣「リーチ」

打:7m



アナウンサー「おおっと、天江選手がツモり三暗刻を聴牌! ドラ二枚使いでリーチをかけて、ツモれば跳満確定だー」

靖子「白とドラの1筒、どちらで和了っても1翻つく。ツモればダマでも跳満確定だが…」

アナウンサー「だが…なんですか?」

靖子「リーチをかければ出和了りで三暗刻が消えても親満確定。親満直撃なら清澄を逆転できるし、鶴賀から和了らない理由もない。
   風越から1筒や白がこぼれない限り、リーチは正解だろう。風越から出ない限り、な……」

アナウンサー「えっと…?」

靖子「見てれば分かる。今から起きることを、相手の手牌も覗かずに平然とやってのけるのが、『牌に愛された子』って連中だ」


衣「さあ、どうする清澄?もはや風越は衣を縛る枷ではない。トビ終了で貴様にトドメを刺す刃へと姿を変えた。
  貴様の手はまだ張ってすらいないはずだ、更に、差し込みで凌ごうにも他家は聴牌していない」


咲手牌

456p568s111m西西西 ツモ:8p


咲「…私一人の打牌で切り抜けるのは不可能な状況。あなたにとっては、この状況は詰みなんだろうね……けど」

打:6p

衣(…聴牌から遠ざかったように感じる……面子を崩したか? 何のために?)


華菜「ち、チーだし!!」

チー:4赤5(6)p


華菜手牌

122233366p西西 チー:4赤5(6)p

打:1p


衣「ぐぬっ!?」

衣(…してやられた……一発も消えている。裏ドラは、ツモる予定の白。裏ドラが白では跳満止まり……ここでこやつを飛ばしても清澄に届かん)

ゆみ「ドラが通るのか、ありがたいな」

打:1p

衣(フリテンで鶴賀からも和了れん。しかも、衣の和了り牌が清澄に……リーチをかけているせいで山越しも出来ない)タン


咲「…何が、枷にならないって言ったっけ?」タン

打:白


衣「清澄、貴様……猪口才な真似を…」

咲「この卓に居るのは、私だけじゃない。最初に言ったはずだよ」


華菜「ツモだし!混一色・西・三暗刻・ドラ1!3200・6200!!」


【風越控室】


貴子「よくやったぞ池田アアアアアアアア!!!!!!」

美穂子「華菜…」

貴子「見ろ、あの天江の悔しそうな面!お前らの大将がやったんだぞ!」

未春「華菜ちゃん…やった…!」


星夏「でも、流石に、あと南場だけしか残ってない状況では…」

美穂子「…言ってはダメよ、文堂さん。いつも厳しいコーチが、あんなに無理して私たちを励ましてくれてるのだから」

純代「」コクン


貴子「来年に向けて、せめて一発食らわせておいてやらねえとな。これなら次打つ時は勝負になるだろ! なあ吉留?」

未春「はいっ! 華菜ちゃんなら、きっと…」


星夏「…分かってたんですかね、優しくし始めたあたりから」

美穂子「…コーチはプロも数多く輩出した風越のOG会が認めるぐらいの優れた指導者よ。多分、私が負けた時点で、この結果は分かっていたと思うわ」

星夏「…ごめんなさい、キャプテン……私たちがふがいないせいで…」グスッ

美穂子「いいのよ、私自身も歯が立たなかったのだもの。諦めがつくというものだわ」

星夏「キャプテン…キャプテン…」グスッ


貴子「おらっ、何泣いてんだ文堂! まだ終わってねえぞ、一矢報いたぐらいで感動してんじゃねえ!!! その細い目ぇ開いて最後までしっかり見とけ!!!」


純「おい、やべえぞ…」

一「どうしたのさ、純くん?」

純「今ので、流れが清澄に行った。衣は和了れた手を逃して流れを失った上に、清澄は衣をきっちり嵌めて親を迎えたんだ、当然っちゃ当然だな」

智紀「…衣相手に流れは関係ない。どれだけ流れを引き寄せても、衣の桁外れの力にあっさり押しつぶされる――と、私は純から聞いた」

純「そりゃ俺たちレベルの話だ。同格の相手が打つなら、流れは勝負の行方に大きく影響する」

透華「…清澄の大将は、衣と同格だと?」

純「そりゃそうだろ。見てみろ、衣のあの顔……あんな悔しそうにしてるの初めて見たぜ」

一「ちょっ!? 待って、衣……それは……」


『それ、槓――ツモ。嶺上開花・ドラ3。12000』


透華「衣が……振り込んだ?」

智紀「大明槓の責任払いを振り込みと呼ぶかはともかく、和了れる手で跳満の親かぶりを喰らった直後に親満の直撃……たしかに、悪い流れのように思える」

純「衣は流れなんて関係なく勝って来たから、流れの扱い方を知らねえ……本格的に不味いぞ」

一「普通の人は流れを扱えるかのような誤解を招きかねない言い方はやめてね。そんなの分かるの純くんだけだから」


まこ「大明槓の責任払いが二度目か……なんなんじゃこの場は」

久「親満直撃、点差は再び安全圏の49200」

照「そして、ここで、忘れちゃいけない人が来る」

和「…咲さんはオリましたね」


『さて、お前たちだけに好き勝手にやらせるほど私は大人ではない。ツモだ。清一色ツモドラ1。4100、8100』


久「引退がかかった夏、あの卓に居る唯一の三年……後半開始からずっと勝負手を作り続けていた勝負師の、執念の和了りね」

照「いくら引退がかかっても、普通の三年はあの卓では何も出来ないと思う。解説の人も言ってるけど、あの人はかなり上手い」

久「解説の人って……多分これからも何度か会うから名前覚えてあげなさい。藤田よ、藤田靖子」


南二局


衣(風越は清澄の助けで和了れただけなのに勢いづいている。鶴賀は、清澄に気を取られた隙をついて倍満を和了ってみせた)

衣(こやつら、点差と清澄に助けられて少しばかり生きながらえた程度で調子に乗って! 生猪口才!!!)

衣(これを和了ればまた風越が危うくなるが、飛ばす時に勝っていればいいだけのこと! 
  奴は今、9500の点棒を持っている。風越が親とはいえ、倍満ツモの8000までは削って良いのだ!!!)


234赤5678999p白白発 ツモ:白

衣「リーチだ!!!」ダンッ

打:発

衣(面前混一色・白・ドラ1で5翻。リーチ一発ツモに一気通貫がついても倍満。見えている限り、この手に裏は乗らない)

衣(次のツモは5筒だ。この手をツモれば清澄との差は25200、次の局は風越に差し込むなり鶴賀から取るなりして、最後の親があれば容易くまくれる)


咲「…槓」


111p35789s西西西東東 ツモ:1p

暗槓:1111p 槓ドラ:白


衣「…清澄! また貴様か! 今度は何が狙いだ!?」ギリッ

咲「私一人じゃないよ、さっきも言ったと思うけど、他に二人いる」

衣「何を言うか! 全て貴様の仕業だろうが!!!」

咲「…もう一個、槓」


35789s西西西東東 暗槓:1111p 嶺上牌:西

暗槓:西西西西 槓ドラ2:白 


衣「貴様……!!!」

咲「あなた達にとってはお姉ちゃんがやってるイメージが強いだろうけど―――これ、もともと私の打ち方なんだ」タン

ツモ切り:3m


華菜「二人でなんかやってるとこ悪いけど……槓裏が増えたなら行ってみようか! リーチ!」


222s23337p66677m ツモ:6p

打:2p


衣「ぐぬっ!?」


照「…決まったね」

久「あなたがそう言うなら決まったんでしょうけど、この局に限った話なのか試合の話なのか、どっち?」

照「試合の方。この局は言うまでもなく完全に詰み」

和「風越を見逃したことで天江さんはフリテン……ツモ和了り以外は封じられました」

照「いや、ツモ和了りもできない」

久「ツモったら確定13翻だもの、風越が飛ぶ。そして、45200点差は子の役満ツモではまくれない。
  この局に関しては、天江さんの和了る道はもうない。聴牌流局を祈るしか、彼女に出来ることはないわ」

まこ「じゃが、ここは凌いでも、まだ天江の親番がある。試合が決まったっちゅうのは気が早いじゃろ?」

久「私もそう思うけど……照が言うんだから決まったんでしょ」


『和了ってるのに……くそおおおおお!!!!』


照「天江さんが自分の和了り牌の5筒をツモ切りした。そして、これが…」


『ロンだし!! リーチ一発タンヤオ三暗刻……裏9! 48000!!!』


照「親の池田さんのリーチに刺さる」

和「…これで点差は9万を超えました。しかし、それでもまだ終わったわけではありません。決まったとはどのような根拠があって…」

照「正直、数え役満は予想外だった。決まったというのは点差の問題じゃない、見てれば分かる」


純「完全にしてやられたな……頭に血が上ってリーチかけたのが敗着だ。オリるなり回るなり出来れば、衣ならまだわからなかったが……この流れは流石に…」

透華「まだ……まだ終わってはいません!! 最後まで衣を信じて応援を…」


『ツモ、2100、4100』


一「…清澄が満貫ツモ。あと二局で、10万点差…」

智紀「…衣なら、親番一回あれば10万点稼ぐことは可能」

純「万全で、相手が流れを完全につかんだ化け物じゃなければ、衣は逆転すると思うぜ」

透華「なら、最後まで応援しなさい!!!」

純「流れが完全に清澄に向いた状態で、冷静さも失って、相手が自分と同等の化け物だ。流石に衣でも…」

透華「お黙りなさい!!!! 衣は、衣は負けませんわ……絶対に、負けない…」


『ツモ。4000、8000』


貴子「おー、これが噂の連続和了か……無駄ヅモなしかよ…」

美穂子「…終わりましたかね?」

貴子「そうだな、見極めは大事だ。『この状況なら何とかなる』ってのを見誤って踏みとどまるべき線を超えると、そこで勝負が終わる。無理な状況になる前に手を打て」

美穂子「どこで手を打てば良かったのでしょうか?」

貴子「今年に関して言えば、大会が始まった時点では手遅れだったな。あのレベルの伏兵が二校も出て来たらお手上げだ。
   龍門淵を躱しながら雑魚を仕留めればなんとかなるつもりだったが、完全に当てが外れた」

美穂子「…お役に立てず、申し訳ありません」

貴子「気にすんな、戦力を読み違えたのはコーチであるあたしの責任だ。駒は駒らしく、なんも考えずに目の前の卓での勝利だけ目指してろ」

星夏「ぐすっ…うあ…うああああ…」

貴子「……もう泣いていいぞ。良く頑張ったな、お前ら」


智美「あー……最後は完全に持っていかれたなー」

モモ「ここまで大差で勝ってもらえれば諦めがつくっすよ。私たちの代表には景気よく勝ってもらって全国で頑張ってもらうっす」

佳織「凄いなあ……まるで、牌があの子を和了らせるために集まってるみたい」

睦月「うむ、我々や風越、龍門淵を倒して全国に行くに相応しい打ち手だ」

智美「ワハハ……で、最後の決め手はこれか」

モモ「こんだけ暴れたんすから、最後は役満以外じゃカッコつかないっすよ」


『ツモ。国士無双。8000、16000』


アナウンサー「決着―――――!!!!!最後の決め手は国士無双!その役の名の通り、最強の高校が、今、決まりました―――!!」

靖子「…三校とも、最後の瞬間まであきらめずに打っていたがな。
   流れ、というものが存在するなら、あの南二局の二度の槓で宮永がそのすべてを持って行ったのだろう」

アナウンサー「南二局が、勝負の分かれ目ですか?」

靖子「そうだ。互角の力を持った二人の勝負が最後の一局までもつれるなんてことは、実際にはほとんどない。
   東4局二本場、あるいは南二局……いずれかを天江が制していたなら、勝敗は逆になっていただろう」

アナウンサー「互角だったら最後までもつれるのでは?」

靖子「高いレベルだからこそ、僅かなミスで大きな差がつく。互角だからこそ、形勢にはっきり差がついたら覆せない」

アナウンサー「そういうものですか…」

靖子「敗着は、リーチをかけたことだろうな。東4局二本場と、南2局。いずれも自らのリーチが天江を敗北の道に縛りつけた」

アナウンサー「リーチは麻雀において非情に重要かつ強力な役ですが、それが敗着になると?」

靖子「そういうこともある。あとは……風越がトビに近かったことが勝負を分ける最後の局面まで龍門淵の枷になったな。
   この大会のルールでは、トビ終了はそこで試合を終わらせる、リードしている側の最強の盾にして剣だ。
   逆転した瞬間に飛ばせば追う側の武器にもなるが、それは諸刃の剣。その扱いにおいて清澄が一枚上手だった」


大将戦後半終了

清澄  226200(+59400)
龍門淵  53600(-50600)
風越   42400(+18300)
鶴賀   77800(-27100)


全国高等学校麻雀選手権大会団体戦 長野県予選


【優勝】 

清澄高校

【準優勝】

鶴賀学園


【各区間最多獲得点数(大会通算)】 


【先鋒】

福路美穂子(風越女子)

総獲得点数 52300

【次鋒】

妹尾佳織(鶴賀学園)

総獲得点数 163400

【中堅】

竹井久(清澄高校)

総獲得点数 206900

【副将】

龍門淵透華(龍門淵高校)

総獲得点数 104000

【大将】

宮永咲(清澄高校)

総獲得点数 266300


【MVP】

宮永咲(清澄高校)


【役満和了者】

宮永咲(清澄高校)  決勝戦 国士無双 一回戦 数え役満(リーチ一発清一色三暗刻ドラ3)

津山睦月(鶴賀学園) 決勝戦 国士無双

池田華菜(風越女子) 決勝戦 数え役満(リーチ一発タンヤオ三暗刻ドラ9)

妹尾佳織(鶴賀学園) 二回戦 四暗刻

田中舞(今宮女子)  一回戦 大三元 

永森和子(東福寺)  一回戦 数え役満(タンヤオ対対ドラ10)

パッと見圧勝に見える点差にしないと全国編で闘牌書くときに詰むので大差になりました。
一回戦あたりまで書き溜めてますが、詰んで大幅削除の展開が見えるのでしばらく更新頻度が落ちます。
次回は一週間後の予定です。

実はかじゅが熱い人って言う感じのやつ大好き、いや実際そうなんだろうけど
本当に面白かった、乙
ところでもんぶちの「ぶち」は渕っていうツッコミは野暮?

>>505
おっしゃる通り渕ですね。多分今まで書いたの全作間違ってます、これは恥ずかしい。

…辞書登録してきます。


咲「…ありがとうございました」


言葉が届くかどうかはわからないけど、この戦いはこのメンバー、この状況だからできた。
この戦いは、多分、今までの人生で一番楽しい戦いだったから、心からの感謝の言葉を述べる。

私が、勝つために全力を尽くしたのはいつ以来だろう?
それも、負ける見込みが強い相手に対して知恵と力の限りを尽くすなんていうのは…

それこそ、麻雀を打ち始めた頃
まだ、お母さんやお父さんに勝てなかった頃
それ以来、こんなに必死に打ったことはなかったように思う


ゆみ「ふっ…楽しかったよ。最後にいい思い出が出来た、力も出し尽くしたつもりだ。悔いはない」

咲「南一局の一本場、流れが変わった途端に倍満を和了るのはあなただからできたことだと思います。あなたが居なかったら、きっと負けていました」

ゆみ「そうかもしれないな。南二局、あれを和了っていたら天江が勝っていたように思う。と言っても、数え役満に仕立てたのだから、私の倍満は不要だっただろう?」

咲「必要ですよ。あれが無かったら、天江さんはリーチなんてかけませんから」

ゆみ「…そうか。なら、私はお前たちの勝負に割って入れるだけの打ち手ということだな。自信になるよ」


長野県団体戦二位、鶴賀学園の大将。
彼女が背負うその肩書きの価値は、これから自分が全国でどれだけ活躍するかで大きく変わる。

この素晴らしい打ち手に勝った自分は、これから先の戦いでも勝たなければならない。

でなければ、自分だけでなくこの人の評価まで貶めてしまうのだから。


華菜「…あたしも楽しかったし」

咲「…池田さん?」

華菜「あんたらが化け物だってことも、あたしのトビを巡って戦術の道具にされたことも分かってる」


それが分かっていて、それでも楽しかったなんて言葉が出てくるのか…

強い人だな。

素直に、そう思う。


華菜「自分の力が全く通じないぐらいの相手に全力でぶつかって行くなんて、弱くなきゃ出来ないからな! 今しか出来ない楽しみ方だし!!」

咲「ふふっ…そうですね」

華菜「あ、勘違いすんなよ! 来年にはスーパー華菜ちゃんになってお前らに同じ楽しみを味わわせてやるからな!!!」

咲「…楽しみにしてます、また、打ちましょうね」ニコッ

華菜「おうっ!!」


衣「…お前は、勝っても人に囲まれたままなのだな」

咲「天江さん…」

衣「衣以上の力を持ち、勝って失うものもなく…それが衣から見ればどれほど羨ましいことか」

咲「…」

衣「…なあ、都合のいい頼みかもしれないが…また衣と、麻雀を打ってくれるか?」

咲「…何言ってるの? そんなの―――」

衣「そうか…当然だな、ダメに決まって…」


――――当たり前だろう?(だしっ!)


衣「なっ!? お前たち!?」

ゆみ「再戦するならお前もセットだ。それとも、私たちに三麻でも打てというのか?」

華菜「清澄とまた打つって言ってるんだからお前とも打つに決まってるだろ! てゆうか勝ち逃げとか許さないし!!」

咲「…ですね。先に言われちゃった」


衣「い、いいのか? 衣と、また打ってくれるのか?」

華菜「むしろ打たなかったらぶん殴るし」

ゆみ「お前たちはどうせ来年の大会で打つだろうから良いが、私は三年だから別の機会を設けて打ってもらわないと困る。むしろ打て」


咲「…だ、そうですよ。私は忙しいんですけどね」


華菜「はあ!? おいこら宮永! 一番逃げちゃいけない奴が逃げんなし!!」

ゆみ「五人で交代で打つ時ですら二位抜けが普通だろう? トップが勝ち逃げを許されるわけはない」

衣「……そうだぞ! 大体! 貴様が勝てたのは風越のトビと副将までで稼いだ点差を利用したからだろうが! 正々堂々と25000持ちで再戦を受けろ!」

ゆみ「そもそもお前が前半で池田に倍満を直撃したからだろうが! 開き直るな!!」

華菜「うっさい鶴賀! 悪夢を思い出させんなし!!!」


衣・ゆみ「「置物は黙ってろ!!!」」


華菜「置物言うなし!! 華菜ちゃんだって必死に打ってたんだし! てゆうか親役満ぶち当てたし!」

ゆみ「それが二位じゃなくトップにぶちあててたなら評価も変わるだろうなああああ!!」

咲「池田さんがあれを見逃して自力でツモってたら、流れがどうなるかわからなかったんですけどね。直撃で楽になりました」

衣「うむ、衣はリーチをかけていたから切るしかなかったが、貴様は見逃しが出来ただろう? トップを楽にさせてどうするのだ、このうつけが!」

華菜「うっさいうっさい! いい加減にしないと泣くぞ!? 華菜ちゃん泣くぞマジで!!」


久「随分楽しそうね、あの子たち。私たちも行きましょうか」

照「そうだね」

和「私も龍門渕さんに再戦を申し込みたいです」

久「あの星のタトゥーの子、真正面から挑んでみたそうにしてたのよねえ…受けてあげようかしら?」

まこ「わしはあんな化け物二度とごめんじゃけえ…」

久「全国ではあれぐらいの相手を抑えてもらわないといけなくなるかもしれないし、まこはあれと再戦決定ね」

まこ「勘弁してくれ……って、おい、なんで真顔なんじゃ? え? まさかマジで言っとるんか?」

優希「…レギュラーに選ばれなくて良かったのかもしれないと思えてきたじぇ…」

京太郎「つーか、咲の奴がどんどん人間離れしてくな…俺の中ではクールぶってるポンコツのはずだったんだが…」


貴子「ま、今日ぐらいは休ませてやるか。お前ら、ホテル連泊にしといたから、休むなり牌譜検討するなり勝手にしろ。福路、就寝前に点呼報告だけは忘れんな」

美穂子「はい……ありがとうございます」

貴子「明日から特訓だ。来年はアレに勝たなきゃいけねえんだから覚悟決めろよお前ら」

星夏「はいっ!!!」

貴子「しかし、いくらなんでも来週の個人戦には間に合いそうにねえなあ…」

未春「…え?」

貴子「なんでもねえよ! 明日からの特訓に耐えられない奴は今日のうちに退部届を出せ!」

バタン


星夏「個人なんかどうでもいい、チームのために、団体のためにっていつも言ってるのに…」

美穂子「…あれが本音よ、コーチは本当は優しい方だから。厳しく指導するためにああいうふうに振る舞っているけどね」

未春「…コーチのこと、誤解してました」

美穂子「本人がわざと誤解されるようにしてるんだもの、騙されていてあげて。その方がやりやすいでしょうから」


透華「そんな、衣が……衣が負けるなんて…」

一「…そこまでショックを受けなくても。むしろ、ずっと探してた『衣と互角に打てる相手』が見つかったんだから喜ぼうよ」

智紀「はじめの言うとおり」

透華「でも、私たちのことすら本心から受け入れていない今のあの子には、麻雀の強さしか拠り所がない…それが負けてしまったら…」

純「大丈夫だろ、見てみろよ。『本気でやりあって、喧嘩の後はお友達』っていう、どこの漫画だってぐらいベタな展開みたいだぜ」

一「決勝の相手が……大将があの人達で良かったね。多分、優勝するよりずっと良かったと思うよ」

智紀「…優勝してああなるのがベスト」

透華「…ですわね。ふざけた打牌をお説教しませんと。特に前半の風越への倍満、あんなもの言語道断ですわー!!!」



智美「おやおや、戻って来ないゆみちんを迎えに来たら……大盛況だなこの部屋はー」ワハハ

モモ「これだけにぎやかだと、私とか部屋に入った瞬間に消えそうっすね」

睦月「うむ、どこも考えることは同じか」

佳織「あ、龍門淵と清澄の次鋒さん! 麻雀打ちましょう! どうやったらズラされたりしたときでも和了れるか教えてください!」

?「げっ、妹尾!? …逃げるぞ沢村!」

?「…あなたとは意見が合うらしい。ここは戦略的撤退が最善」

佳織「あっ! 待って下さいー!! 独学だから上手い人に教わりたいんです―!!」

?「おんしらの部長にでも教わりんさい!!」

?「あの大将は部長ではない、部長は中堅」

?「マジか!?」


智美「どいつもこいつも…私をなんだと思ってるんだ…」

久「でも、実際部長には見えないわよね。というか、加治木さんがあまりにも部長っぽくて」

モモ「むしろなんで蒲原先輩が部長なのか問い詰めたいレベルっす」

智美「清澄の、どっから出て来た?…って、次鋒が居るんだから居るか。私が作った部なんだから私が部長なのは当たり前だろー」

久「作った……か。そっちも大変だったのねえ……で、練習試合の申し込み先はあなたで良いのかしら?」

智美「そういう話はゆみちんに頼む。小難しい手続きとかはさっぱりだー」ワハハ

久「なんで部長なのよあんた…変な人ね」クスッ


一「確かに変な人だけど、あなたの待ちほど変ではないね」

久「あら、言ってくれるわね? 何の用かしら?」

一「再戦の申し込みを。三人がかりで抑え込むなんて小細工をしないで、真っ向勝負がしたい」

久「どうせなら練習試合をしたいわね。こっちの先鋒をそっちのエースにぶつけてみたいのよ」

一「それぐらいならお安い御用だよ。衣もあの大将と打ちたがってるし、先鋒も同等なら、うちにとってこんなにいい話はない」


?「おい、沢村! そっちは行き止まりじゃ!」

?「大丈夫、抜け道がある」

?「まってくださいよぉー!!」

?「なんで私まで追われてるの!? 助けて華菜ちゃーん!!」


一「次鋒同士も仲が良いみたいだしね」


靖子「参加校同士の仲がいいのは良いことだ」

久「あ、靖子。お疲れ様」

靖子「人前では藤田プロと呼べって…まあいいか」

智美「解説プロがわざわざこんなところにおいでかー」

靖子「会場を片づけるからさっさと出てけと言いに来たんだよ。天江は普通の人間の言うことなんか聞かないから私が来た」

久「あら残念。私たちはずっとこの余韻に浸っていたいのに」

靖子「余韻に浸ってばかりでも困る、特にお前たち清澄にはな」

久「…そうね。個人戦もあるけど、それ以上に…」

靖子「大阪などの試合数の多い激戦区を除いて、普通の二日制の地区はもう決まっただろう。お前らには頑張ってもらわないとな」

久「…そうね、でも、今は――――」



――――もう少しだけ、この甘い余韻に浸っていたいわ。













靖子「だからダメだって言ってんだろ。撤収だ撤収。おーい! 会場の使用期限10分前だぞ!! さっさと出ろ!」

久「…空気読んでよ、締まらないじゃない」


【同日16時20分 西東京】


『決着―――!!! 西東京代表は三年連続で白糸台高校――!!!』

『圧勝!』プンスコ

『二軍でも県代表クラスと言われる白糸台ですが、この一軍――』

『チーム虎姫!』プンスコ

『――は、まさに別格の一軍!! 優勝した昨年に続き、今年も圧倒的な強さで勝ちあがってまいりました!!』

『強い!』プンスコ

『率いるは、昨年新星のごとく現れた、高校生一万人の頂点!!』

『インタ―ハイと言えば彼女!』プンスコ

『昨年度インターハイチャンピオン!! 荒川憩!!!』

『第一歩!』プンスコ

『連覇へと向けて、最強の王者がその歩みを全国へと進めて行きます!!!』


【埼玉】


『八木原景子が最後に跳満を決めて終わらせた―!!! 県予選はこれにて決着!埼玉県代表校は―――』

『―――四度目の代表となります!! 越谷女子に決まりました――!!!』

『今年はエースの新井ソフィアだけでなく、大将の八木原、副将の宇津木なども力をつけています。期待していいでしょう』

『是非とも頑張って欲しい! そして、埼玉県に悲願の優勝旗を持ち帰ってほしい!』

『期待させるだけの闘牌を見せてくれたと思います。全国での戦いぶりを見守りたいですね』


【福岡】


『役満直撃―――!!!! 今年も福岡代表はこの高校!!!』

『九州最強!!! 過去には数度のインハイ優勝経験もあります!! 新道寺女子!!!!』

『決めたのはこの人! 白水哩とのダブルエース!!! 鶴田姫子―――!!!』

『先ほどの和了りで今大会の獲得点数が20万点を超えました。20万点というのは過去にも滅多に例がなく、全国屈指の高火力の証明になります。
  また、白水選手を力の出しやすい副将に起用したこともあって、副将まで繋ぎさえすればどんな状況からでもひっくり返す驚異のオーダーになっています
  それに加えて、次鋒の安河内は変幻自在な打ち回しも出来る県内屈指のデジタル派、中堅の江崎もかなりの高火力選手です。
  そもそも副将までに不利な状況で回ることがなさそうに思えますね』

『今年も【九州最強】はその名に恥じない強力な選手を揃えて来た!!! 全国でも期待がかかります!!』

『やっぱり新道寺を【九州最強】と呼べると、地元出身としては嬉しいですね。
 永水女子を下して第三シードを獲得した春季大会から大きくオーダーを変えましたが、上手く機能していると思います』

『インターハイ第三シードを用意された九州の王が、県予選を制覇して全国に殴り込みをかけるー!!! 目指すは優勝だああああー!』


【奈良】


『圧勝―!!!!』

『まさかまさかの【王者】晩成高校の初戦敗退から始まった大荒れの奈良県予選!!!』

『制したのは、一回戦で王者を破った阿知賀女子!!! その勝利が決してまぐれではないことを県下に示しました』

『決勝では全半荘でトップを獲得する、まさに完全勝利!!』

『指導者としてチーム率いるのは、これまたかつて王者晩成を倒した世代の阿知賀女子のエースとして名を馳せた―――』

『――阿知賀のレジェンド、赤土晴絵ええええ!!!!! 伝説は世代を超えて受け継がれるうううう!!!!』

『奈良県で晩成高校が代表を逃したのは、創部以来二度……その二度に、どちらも彼女が関わっています』

『新世代の伝説はどこまで行くのか!? 県民悲願のインターハイ決勝卓、そして優勝旗!! 期待はどこまでも広がります!!』


その日、各地で全国への切符を手にした猛者が勝ち名乗りを上げていった

危なげなく歩を進める王者、王者を脅かす刺客、群雄割拠の激戦区を勝ち抜いた強豪に、無名の伏兵

それぞれがそれぞれの想いを胸に秘め、掴みとった全国への切符を握りしめる


第71回全国高等学校麻雀選手権大会、通称、インターハイ


その本選は、二か月後

激戦を勝ち抜いた52校の中に、二か月という時を無為に過ごすものが居るはずもない

二か月後に始まる更なる激戦に向けて、強者たちが動き出す


【後日 阿知賀女子麻雀部室】


晴絵「長野は清澄が上がって来たみたいだよ」

穏乃「清澄……和のいるところだ! やっぱり上がって来た!」

憧「うわ、去年の全国ベスト8メンバーが全員残ってる龍門淵に圧勝じゃん……にしても、何このベスト5? 先鋒以外どいつもこいつも獲得点数が10万超えてるんだけど…」

宥「20万点稼いだらあったかいかなあ? 清澄高校は20万点超えが二人いるからあったかそう…」

穏乃「20万って……奈良県ぶっちぎりトップでMVPの玄さんでも14万ですよね? 奈良の10万超えは玄さんしかいないし」

灼「役満も6人和了ってるし、長野は試合数が多いんだとおも…」

玄「対局数が多い激戦区の大阪とか兵庫でも10万超えはそうそういないけど……半荘何回でこの数字なのかな?」

宥「えっと……あれ? 玄ちゃん、参加校は多いけど、奈良と同じで三回戦しかないよ?」

憧「は? いやいや、あり得ないでしょ、ちゃんと見てよ宥姉。てゆうかあたしが見る」


憧「……マジだ……しかも龍門淵と風越ってシードじゃん!?決勝は半荘二回だとしても、半荘三回でこの数字なの!?」


晴絵「そゆこと。ついでに、MVPの宮永も二回戦は出てない。二回戦は中堅で竹井が飛ばしたからね」

憧「あ、これ、得点だけ足して失点を引いてないとか…」

晴絵「地区ごとに表記が違うわけないだろ、ちゃんと得失点で計算されてるよ。
  牌譜を読み込んでみると、個の力も各チームの総合力も地区大会としては異常なほどにレベルが高い。
  昨年度ベスト8にしてインハイ最多獲得点数記録保持者の天江衣を擁する龍門淵ですら予選で落ちることもあるのが、長野ってところだ」

玄「…」ゴクリ


晴絵「で、長野のレベルの高さを認識してもらった上で確認するけど……最初の練習試合の相手、長野の二位で本当に良いんだな?」

今回は以上です。
新道寺のところで違和感あるでしょうが、照がいないので昨年以前の戦績は変わるという考えでシード校を原作と変えてます。

次回も一週間後になります。


…あのちっこい生き物は高いところが好きだ。

だから、居なくなったときは居なくなったあたりから見える一番高い場所を探せば大体見つかる。

今回もその例に漏れず、一番高いところにいた。

なんとかと煙は高いところが好きって言うが、あれもそうなのかもしれねえな。


純「おーい、衣!」


下から大声で呼びかけてみる。

探してる他の連中への『衣発見』の報告代わりだ。

当の本人は物思いにでも耽っているのか、気付く様子はない。

さて、迎えに行くか。


純「…衣」

衣「む…純か、どうした?昼餉にはまだ早かろう?」


いつものウサミミカチューシャがピクッと動いてこちらの気配を察知し、衣が振り返る。

…カチューシャだよな、アレ? 耳とかじゃないよな? こないだ引っ張った時になんか頭から直接生えてるような違和感があったんだが…


純「急にいなくなったから透華が心配してたんだよ。で、探して来いとさ」


事実をありのままに告げる。

嘘をつく理由もないし、嘘をついても衣相手じゃ一発でバレる。

逆に、このお子様が気付いてないふりしても、俺や国広くんならこいつが気付いてることぐらいは分かる。

嘘を見抜くのが上手い奴でも、自分が嘘をつくのは得意とは限らねえ。逆に、バレバレの嘘しかつけないこいつでも、嘘を見抜くのは上手いってこともある。


衣「…心配? 別に、衣の失跡癖は今に始まったことではなかろうに、大げさな」

純「ま、その通りなんだが…昨日は特別なことがあったから、いつもより気にかけてるんだろうさ」

衣「…特別と言っても、悪いことは一つもなかっただろうに。やはり透華は過保護だ」

純「いや、少なくとも一個はあるだろ。麻雀で負けた」

衣「…なるほど、確かに、そう捉える事も出来るか」


手すりに腰かけていた衣が、こちら側に向き直ってから床に足をつける。

透華なら注意するだろうが、「危ないから手すりに座るのはやめろ」なんてことをこいつに言うのは野暮だろ。


衣「だが、衣は、それも『良いこと』の一つに数えている」

純「…はあ? おまえ、俺らが必死こいて打って負けたのを良いことに数えんなよ…」

衣「おっと、不謹慎だったか? だが、衣にとってはそうなのだ」

純「まあ、俺らは衣のために集まったみたいなもんだし、お前が気にしないなら大会で負けたことなんかはどうでもいいっちゃいいんだが…」


にしても、負けたのが良いこと、ねえ? そういうこともあるかもしれねえが、勝つにこしたことはないと思うんだがなあ…


智紀「衣、居た」

透華「衣ー! 勝手にいなくならないでくださいましー!」

一「まあまあ、純くんの言った通り何ともなかったんだからいいじゃない」

透華「それも気に入りませんわね……従姉妹である私より衣のことが分かっているようなあたりが」

智紀「純は衣研究の第一人者だから、仕方ない」

一「何その設定……ボク初耳だよ」

透華「うーむ、研究者では仕方ありませんか…」

純「…何の話だ?」


どうせ、透華が無茶言って、国広君がなだめて、智紀が適当に誤魔化す、っていういつもの流れなんだろうが、内容自体は気になる。

放置すると後で全くわけのわからないままにこっちに火の粉が飛んでくることがあるからな、こいつらの会話は。


衣「なんだ、みんなで衣を探していたのか? 本当に大げさな……ハギヨシか純のどちらか一人で十分だろう」

透華「今日に限っては万が一がありますもの! 大ごとにもしますわ!」

衣「…ちょうどその話をしていたところだ。皆にも聞いてもらおうか」

透華「…私が話す話題すら先取りしていたとは……研究者は伊達ではありませんのね」

純「研究……何の話だ?」


絶対なんか面倒事になる予感がするぞこれ。

おい、智紀、説明しろ。という意思を込めて智紀を見つめる。

智紀はこちらに気付いて頷きかえすと、端正な顔を真剣な表情に作り替えてから、おもむろに口を開き――


智紀「で、衣の話とは?」


――俺の視線をガン無視する意思を明確に示した。


衣「…昨日は、友が出来、衣と麻雀を打っても人が離れないことがあると分かり、敗北することも出来た、良いことづくめの日だったという話を、純とした」

透華「…『敗北することが出来た』? それは、良いことですの?」

衣「…衣は、敗北を知らない特別な存在だった。フジタや透華ですら、今まで衣を打ち負かすことは出来なかった」

智紀「…特別であることは、悪いこと?」

衣「…特別であるがゆえに、衣は孤独だったと、そう思っている」

一「…」

衣「清澄が、衣を『特別』から解放してくれた。ゆえに、衣は、人並みに友を作ることが出来るようになったと、そう思う」


純「…これだからこいつは……わかってねえ、全然分かってねえぞ衣」


衣「…純?」

純「俺たちは、今まで友達じゃなかったって言うのかお前は? 流石の俺も怒るぞ?」

衣「…でも、純達は、透華が集めた友達で…」

純「自分で作った友達の方が、今まで一緒に居た俺たちより大事だってか?」

衣「い、いや、そうではないが……純達はもちろん大事な友人で…」

純「なら、そういうことだ。別に、昨日の負けなんか関係なく、お前はその前から友達を作れたんだよ。気付いてなかっただけだ」

衣「で、でも……それは透華が集めてくれたからであって…」

一「出会いはともかく、その後で友達になるのは、透華に言われたからって『はい、わかりました』ってなるものじゃないよ」

智紀「全く持ってそのとおり。ないがしろにされたようで不快。衣に対して謝罪と反省を要求する」

透華「ですわね。全く、この子は本当にもう…」

衣「お前たち…」

一「ボクは、みんなのこと家族だと思ってるよ……ダメかな?」


衣「だ、ダメじゃない! 衣はみんなのことを大事な妹だと思ってるぞ!」


透華「信頼して任せたのに風越に倍満を直撃させて勝利を手放すようなダメ姉は要りません、妹に格下げですわ」

智紀「私が衣に繋ぐためにどれだけ必死に鶴賀を抑え込んだことか……その私の信頼を裏切った罰として妹に格下げする」

一「ボクも、真っ向勝負したいのを我慢して衣に繋いだのにな……これは姉としては認められないね」

純「俺は何も言える立場じゃねえが、身長差で俺が姉ってことにしとこう」


衣「…うむ? お前たち、何を言っているのだ?」


透華「というわけで、衣は私たち五姉妹の末っ子に大決定ですわ! お姉さんの言うことをちゃんと聞くんですのよ!?」

純「可愛い妹を撫でてやろう、ほれほれ」ナデナデ

衣「ふみゅうう……なんなのみんな? 純、なでるなー…」ビクッ

智紀「何かあったらお姉さんに相談すること」

一「衣が末っ子として、下から二番目がボクかな? 一番年が近いんだから、気軽になんでも話してね」

衣「ふみゅうう……衣が一番誕生日が早くて年上なのに……なでるなー…」

純「…いいから、遠慮せず甘えとけ。末っ子」ナデナデ


衣「ふみゅううう……」シオシオ


清澄には、感謝している。

こいつを、『特別』から解き放ってくれたのは事実だ。

俺が否定したのは、『特別だったから友達が出来ない』ってところだけ。

『特別』から解放されたこいつが自分から友達を作れるようになったのは、こいつが言うとおり、良いことなんだと思う。


長野県個人戦結果

【初日(東風20回戦)】

1位 宮永咲    +920
2位 竹井久    +720
3位 妹尾佳織  +618
4位 原村和    +572
5位 片岡優希  +372

(中略)

38位 宮永照  +100



【本選(東南10回戦)】

1位 宮永咲    +596
2位 竹井久    +492
3位 妹尾佳織  +466

4位 原村和    +411

(中略)

12位 宮永照  +0


*予選は25000持ち25000返し

*本選は25000持ち30000返し


久「……個人戦では見たことのない数字が並んでるわね。よくもまあここまで暴れたものだわ」

まこ「おんしには言われとうないわ」

咲「部長とかに当らなければ平均8万には出来たと思うんですけど……」

京太郎「平均素点7万で全対局でトップとか、お前は何になる気だ?」

咲「……麻雀って、楽しいよね?」

京太郎「答えになってねえぞ」

優希「上位が点棒を独占するから、下が悲惨なことになったじぇ……」

和「主に咲さんのせいだと思うのですが…」

照「どの口が言うのやら……原村さんも相当酷かった」

まこ「50人居るのにプラマイゼロで12位ってのもおかしな話じゃな」

照「まあ、上がおかしかったから」

久「事実上の1位が12位に居る方がおかしいと思うのだけど…」

照「また買いかぶる……」

久「照の強さを順位に反映できるルールが欲しいわね」

照「そもそも強くないから。この12位が私の実力」

咲「長野の上位陣は、全員が『お姉ちゃん最強説』の支持者だよ」

照「味方がいないどころか、敵は外にも増えつつあるらしい……」

まこ「あれだけ派手に暴れたらそうなるじゃろ」

京太郎「役満見逃しとか親役満への差し込みとか、やりたい放題ですからね」

優希「私が東風でも一位になれないとか、本当にどうなってるんだじぇ…」

京太郎「お前の記録も十分すげえよ、自信持て」

優希「うん……ありがとだじょ」


数絵「…おかしい。あいつらとの対局は南場に入ることすら出来なかった。おかしい」

優希「激しく同情するじぇ……部長の親番を止めるとか不可能だじょ」

智紀「一はよくあれの連荘を止めたものだと、心の底から思う」

一「ともきーも、染谷さんと組んだとはいえ、よくあんなの止めたね……」

智紀「火事場の馬鹿力というのは実際にあるらしい。同じことをもう一度やれと言われても出来る気はしない」

華菜「あいつら人間じゃないし……ヒトじゃない何かだし」

未春「私は宮永さんのお姉さんが一番怖かったよぉ……」

透華「この私を差し置いて個人戦の歴代最高記録を叩き出すとは、生意気ですわ――!!」

一「透華は6位だったんだから良いじゃないか。ボクなんかトータルマイナスだよ」

衣「個人戦、なかなか愉快な催しだったようだな。出ておけば良かったか…」

ゆみ「そうしたら本当に地獄絵図だな。10位あたりでプラマイゼロになるぞ。私やモモもプラスで終われるかどうか…」

美穂子「その卓には入りたくないわね。竹井さんといい、宮永さんといい、私が手も足も出ないなんてどうかしてるわ。妹尾さんも凌ぐのがやっとだし」

ゆみ「妹尾はあれからまた腕を上げたよ。今度、他県の代表校相手に長野のレベルの高さを見せつける機会が出来たから指導にも力が入るというものだ」

美穂子「他県に長野のレベルの高さを見せつける、それ自体は歓迎なのだけど……妹尾さんはまだ伸びるのね、末恐ろしいわ」

ゆみ「来年は天江や宮永と五分に渡り合ってもらわなければならないからな、他の人間にはあいつらの相手は荷が重い。
  私があいつの運を使いこなしてようやく五分と言ったところだろうから、私のすべてを伝えるつもりだ」

華菜「上等!! 来年は化け物三人まとめてぶち抜いてやるから覚悟しとけし!」


貴子「池田アアアアアア!!! てめえ入賞すら出来なかったくせに、なに油売ってやがんだアアアアアア!!!!」


華菜「ひいっ!?」ビクッ

美穂子「あらあら……大会が全て終わって、コーチも平常運転ね」クスッ


【夜 宮永家】


咲「…お姉ちゃん」

照「…言いたいことは分かるけど、あれが本気だって」

咲「…私は、お姉ちゃんは私より強いと思ってるよ」

照「同じぐらいか、咲の方が強いぐらいだと思うけど…」

咲「でも、藤田プロでもお姉ちゃんのプラマイゼロは崩せなかった。私は崩されたのに」

照「…」

咲「…もう寝るね」

照「…優勝おめでとう、咲」

咲「ありがとう。お休み、お姉ちゃん」

照「うん、お休み、咲」


【同時刻 竹井家】


久「……なにこれ?」


部員たちの個人戦のデータをまとめる作業もひと段落。
来年以降に強敵となるであろう相手のデータも後でまとめるつもりだけど、とりあえず今日は部員の分だけでいいわよね?

データをまとめたら、当然、中身が気になる。
そんなわけで内容を詳しく見ていたら、妙なことに気付いた。

自分が真っ先にチェックするのは当然のように宮永照のデータである。

そこに、誰が見ても明らかな異常があった。


【本選のすべての対局で、同卓者の誰かが飛ばされて終わっている】


宮永照に注目すれば必ず気付く、異常。

しかし、意図がわからない。
飛ばされた相手は、同じ部に所属する優希とまこ、風越の吉留さんと深堀さん、鶴賀の蒲原さんに……特に共通点はない組み合わせに思える。
適当に相手を選んで飛ばしていたということだろうか?


久「……何考えてんの、あの子?」


飛ばされた相手をリストアップ。
共通点は、大会の最終結果を見ればすぐに分かった。

最終結果が、プラマイゼロ付近になっている。

最終結果がプラマイゼロ付近ということは、照に飛ばされなければプラス、つまり、照より上位だったということだ。


久「ライバルになりそうな相手を、引きずり降ろしていた……ってこと? そんなことしなくても、普通に勝てばいいのに」


照はああ見えて相当な負けず嫌いだ。
やる気になってくれなければ棄権すればいいと思って勝手にエントリーしたけど、出た以上は勝ちに行くと思っていた。

私は、照のことにかけては、血の繋がった妹である咲の次ぐらいには理解しているつもりだ。
私が『照ならこうする』と思ったなら、大抵の場合、照はその通りに動く。

そこで、一つの仮説が浮かび上がってくる。

この結果は、【勝ちに行った結果】なのではないか?
プラマイゼロしか出来ない制約の中で必死に上位を目指した結果が、【順位で競り合う同卓者を飛ばして終了させる】という歪な事象なのではないか?


久「…落ち着いてもう一度考えましょう、ちょっと信じたくないわ」


プルルルルルル

考え事をしたいときに限って予定外の着信、相手は……靖子?


久「もしもし、なんの用?」

久「今、ちょっと考え事したいのよ、大した用じゃないなら後にして」

久「は?」

久「……そうね、悪い話じゃなさそうだわ」

久「交渉成立ね。じゃあ、日程とかは後で詰めましょう」


衣と咲、あとは靖子か私で何とかなるかしら?

……それだけじゃ不安ね、保険は多くかけておきましょう。

久「確か、和の中学時代の牌譜を調べた時、面白そうな子が居たわよね。気休め程度にはなりそうだわ」

基本的に漫画原作のみで進めていますので、漫画に描写のない個人戦は大幅にカットさせていただきました。
次回は木曜の予定です。


【鶴賀学園】


晴絵「着いたぞー」

憧「長野に入ってから長かったよね? ハルエ、迷った?」

晴絵「ナビ通りに進んだっての。県境から距離があっただけ」

灼「鶴賀は長野でも北の方だから……」

穏乃「ここが、長野県の準優勝校……」

宥「昨年ベスト8の龍門渕を抑えて準優勝した、鶴賀学園」

玄「相手にとって不足なしだね!」


ゆみ「阿知賀女子の皆さんとお見受けしますが、間違いないでしょうか?」

晴絵「ああ、あなたは鶴賀学園の部長の加治木さんか?」

智美「……部長は私なんだがなー」ワハハ

晴絵「マジで!? ……コホン、失礼した」

ゆみ「……もう少し部長らしく振る舞った方が良いんじゃないか?」

智美「久も言っていたが、ゆみちんが部長っぽいのが悪いと思うんだ」

ゆみ「それはすまないな」


穏乃「今日はよろしくお願いします!」

ゆみ「こちらこそ、奈良県の代表と手合せできるのはありがたい。よろしく頼む」

智美「よろしくなー」ワハハ

憧(うん、やっぱり加治木さんの方が部長っぽいわ)

玄(あれが部長の風格ってやつだね)

灼(私も加治木さんを見習いたいと思……)



ゆみ「最初に軽く自己紹介をしておこうか、先鋒から順に行こう」

睦月「うむ、先鋒の津山睦月だ。趣味はプロ麻雀カードの収集」

佳織「せ、妹尾佳織です!よろしくお願いします!」

智美「部長の蒲原智美だー。今日はよろしくお願いするぞー」ワハハ





ゆみ「……で、私が大将の加治木ゆみだ。よろしく頼む」


晴絵「(副将はどこに行った? ……遅刻かな?)じゃあ、こっちも先鋒から」

玄「松実玄です! 実家は旅館を経営しています!」

宥「ま、松実宥です、玄ちゃんのお姉さんです……あったかいのが好きです」

憧「新子憧、一年。実家は神社よ」

灼「鷺森灼、実家はボウリング場を経営してる」

晴絵「いや、実家の生業以外に言うことないのかお前ら?」

穏乃「高鴨穏乃! ラーメン食べたい!」


ゆみ「ふふっ、終わったらこのあたりのおすすめのラーメン屋を紹介するよ。では、始めようか」

晴絵「二校の対戦だから、それぞれ二人ずつ出して始めよう。こっちからは先鋒の玄と……憧でいいか?」

憧「りょーかい」

ゆみ「では、こちらは先鋒の津山と……最初は私が入ろう」


【練習試合中】


ゆみ(…やはり、ドラが姿を見せない。練習試合の申し込みを受けて奈良県大会の牌譜を見たが…推測は正しかったか)

ゆみ(これに対局中に気付くとは、晩成の先鋒も大したものだ。当ったのが一回戦だったのが不運だったな)

ゆみ(奈良県予選は32校。二回戦は二校が勝ち抜けになる…この異常に、他家の手を見ず対局中に気付いたほどの打ち手なら、二回目は負けなかっただろう)

ゆみ「ツモ。混一色・ツモ、2000・4000」


1236778899m西西西 ドラ:4m ツモ:9m


憧(……おかしい、直前に5萬を切ってその待ちってどういうこと?)

玄「そ、その手…なんで5萬落としてるんですか!?西切りなら一気通貫の目も残る上に一盃口が確定で……」

ゆみ「…4萬はドラだろう?ツモれないことぐらい分かるさ。4萬がツモれないことを考慮すれば、こちらの方が待ちは多い」

玄「」ビクッ

憧「…玄の能力が、バレてるってこと?」

ゆみ「当たり前だ。ドラが八枚あるルールで、半荘4回打ってドラが他家の手に一度も来ないなどという異常を偶然と思ってくれるとでも?」

玄「で、でも、奈良ではそれでも通用して…」

睦月「…『奈良』では通用したかもしれない」

憧「」ゾクッ

智美「ここは長野、しかも、他県とはいえ県代表を相手にするのにのほほんと待ってるわけないだろー」ワハハ

ゆみ「研究されてないなどと思ってもらっては困る。研究されてなお通用すると思われるのはなおさら困るな」


穏乃「そんな…奈良県MVPの玄さんが、焼き鳥…?」

晴絵「流石、長野の準優勝校。玄の能力の分析、それへの対処、完璧だな」

智美「ぶっちゃけゆみちん一人のおかげだけどなー」ワハハ

玄「ふ…ふええ…」グスッ

宥「だ、大丈夫だよ玄ちゃん…私が取り返すから」ブルブル


ゆみ「では、打ち子も変えるか…中堅と連続になるが、蒲原」

智美「中堅ではむっきーが入って、副将でまた私、大将でまたむっきーだな」

ゆみ「そうすると三連続だな。忙しくなるが、他に適当なものもいない。頼む」

灼「…他に二人居るし、加治木さんも大将以外は入れるはず、なんで入れな…」


晴絵「―――入れたら勝負にならないから」


穏乃「えっ!?」ビクッ

晴絵「…だろ?」

ゆみ「…こちらから面と向かってそれを口にするのは気が引けるが…そう考えている」

憧「な、何言ってんの?玄を焼き鳥にした加治木さんはともかく、変なオーダーじゃなければ、次鋒と副将は4・5番手でしょ?むしろ勝つために強い人を出してるんじゃないの?」

睦月「次鋒と副将はエースと元エースだ。うちのオーダーはセオリーから外れている」

「副将がエースだった期間が一週間もないっすけどね」

灼「信じられな…そもそも、副将はどこ…」

「ここに居るんすけどね…気付かないっすか?」

智美「気付かないみたいだな。モモ、大声で頼む」


モモ「わ―――――!!!」ジタバタ


「「「「「「いきなり現れた!?」」」」」」ビクッ


モモ「最初からいたんすけどねえ…」

ゆみ「彼女がこちらの副将、東横桃子だ。一応、始める前に自己紹介もしたと思ったが…」

穏乃「…中堅の蒲原さんのあと、しばらく間が空いて大将の加治木さんが名乗りはじめましたけど…」

憧「まさか、あの時の間は…」

モモ「私がしゃべってたっすよ。私の姿は見えない、声も聞こえない。私のリーチはダマと同じ、私がアタリ牌を切っても相手がフリテンになるだけっす」

玄「み、見えないとか、そんなオカルト…」

モモ「今見たものが事実っす。タネも仕掛けもないっすよ?」


ゆみ「これが、うちの元エースだ。我々は慣れてるからある程度認識できる。そちらが入れても構わないと言うなら入れるが…」


玄「…勘弁して下さい」

智美「だろうなー」ワハハ

憧「ちょ、ちょっと待った!?東横さんが【元エース】って、じゃあ、今のエースは?」

佳織「あ、私…みたいです」

晴絵「長野県予選団体戦ベスト5の一角…長野県最強の次鋒にして、個人戦三位。長野でもトップクラスの打ち手だな」

灼「とてもそうはみえな…」

ゆみ「まあ、そうだろうな。妹尾が見た目からして強そうだったら、我々も流石に次鋒にはしていない」

智美「打ってみてのお楽しみだぞー。そっちも打ち子出してくれー」


【練習試合終了】


宥「…うそ…」ブルブル

灼「…麻雀を打った気がしな…」


穏乃「東3局の親連荘で…飛んだ? 宥さんと灼さんが、10万点持ちで?」


晴絵「…実際打ってみると数字以上だねこれは…むしろなんで長野の決勝は中堅に繋げたのかがわかんないな。半荘二回もあったら確実にどこか飛ぶだろ?」

佳織「染谷さんと沢村さんと吉留さんは本当に強かったんですよ!全然和了れませんでした!」

智美「6万稼いでおいて全然和了れなかったとか、うちのエースは言うことが違うなー」ワハハ

憧「宥姉たちが東場すら凌げなかったこの人相手に半荘二回凌げる人が、ゴロゴロ居るって言うの?」

穏乃「これが、長野……」

ゆみ「今年は特におかしいよ。うちだって妹尾の力を知った時は県大会ぐらいは優勝できると確信していた。蓋を開けたら清澄と龍門渕には手も足も出なかったがな」

玄「…え? 手も足も出なかったって、準優勝したんじゃ…?」

ゆみ「大将戦の牌譜は見たか? 化け物同士の食い合いで食われた方が凹んで、波風を立てなかった三位が浮上しただけだ」

睦月「うむ、エースを避けた次鋒の妹尾と、怪物二人の隙間を切り抜けた大将の加治木先輩以外は、文字通り手も足も出なかった。私なんかは掌の上で踊らされていただけ」


ゆみ「準優勝はうちだが、長野の二強は清澄と龍門渕だよ。悔しいが、現時点での総合力を見ると、上の二校には敵わない…特に清澄は格が違う」


憧「うそでしょ…? うちが次鋒で飛ばされるほど強い鶴賀が、格が違うって言い切るほどの相手が居るの?」

智美「居るぞー、何なら龍門渕と打つかー? あいつらなら活きのいい獲物が居るって言えば飛んでくるぞ」ワハハ


晴絵(…力の違いを知るために長野に来たが、これ以上は危険だな。全国の前に心が折れかねない)


穏乃「是非!!! そんなに強い人が居るなら! もっと打ちたい!!!」

晴絵「おいっ!?」

穏乃「いや、だって、その人たちがどれだけ強いかわからないと、どれだけ強くなれば勝てるのかわからないじゃないですか?」

晴絵「…とりあえず、目の前に居る相手と打ってからだろ。まだお前は誰とも打ってないし、東横さんの力もまだ見せてもらってない」

穏乃「あ、そうか!」

憧「…あんた見てたら何とかなる気がするわ、うん。多分現状じゃどうにもならないんだろうけど、まだ時間はあるしね」

玄「なのです」

晴絵(…危険かもしれないが…穏乃ならきっと大丈夫。そんな気がする)


晴絵「ところで、加治木さん……長野のMVP、宮永咲だっけ? あれと妹尾さんがやったらどっちが勝つと思う?」

ゆみ「宮永ですね。妹尾が更に上達すれば分かりませんが、現時点では天和でも来ない限りほぼ間違いなく宮永が勝つと思います。実際、先週の個人戦での直接対決は完敗でした」

晴絵「…あれと比べてそこまで上に見られるほどの打ち手が居るのか……長野ってのはとんでもないな…」

ゆみ「明日は、どうなされますか? うちともう一日打つか、龍門渕に行くか」

晴絵「そうだな、今夜のみんなの様子次第になるけど……そうなると明日いきなり押しかけることになる。それは迷惑だろうし、明日はもう一日付き合って頂ければと思ってる」

ゆみ(多分アポなしで行っても大丈夫だがな、あいつら暇そうだし)


【翌日 夕刻 龍門渕家】


透華「で、原村和の旧友がいるという阿知賀女子、どうでしたの?」

『現時点では、清澄どころかうちにとってすら全く脅威にはならないな。全員が特殊な打ち手ではあるが、癖のある能力を生かし切れていない』

透華「…癖のある能力、使いこなせていない……まるでわたくしのようですわね」

『力の強さも使いこなせていない度合いもお前ほどじゃない。ただ、あくまで現時点では、だ。鍛えようによっては化ける。劇的な変化はないだろうが、私からも軽くアドバイスをしておいた』

透華「敵に塩を送るとは、お人よしですわね」

『機会があればお前たちにも挑むと言っていたからな、お前たちは相手が強い方がいいだろう?』

透華「気が利くではありませんか。とはいえ鶴賀に後れを取る程度の輩、多少化けたところで相手になるかは疑問ですが」

『言ってくれるな、県三位』

透華「だまらっしゃい、タナボタ準優勝」

『ふっ…で、例の話の日程はどうなった?』

透華「風越はそもそもコーチが企画者ですから問題なし。清澄は暇人の集まりだから問題ナッシング。うちは無理やりにでも空けます。後はあなた達次第ですわ」


『すまないな。蒲原の成績が芳しくなくて、補習が入りそうなんだ、夏休みに入ってすぐは難しいと思う』


透華「…補習が入りそうな科目の担任に圧力をかけてもよろしくてよ?」

『おいおい、冗談はよせ………まさか本気か?』

透華「ロンオブモチ」

『…本人には言うなよ、絶対に飛びつく。蒲原の学力は深刻な状態にあるから本人のためにならない』

透華「私にとっては衣の遊び相手の確保の方が優先……とはいえ、あなたの機嫌を損ねては元も子もない」

『理解が早くて助かる』

透華「ではこうしましょう、蒲原さんに家庭教師を送ります。人選はお任せあれ、費用もこちらで負担いたしますわ」

『…助かるが、いいのか?』

透華「衣の遊び相手はそこらのプロでは務まりませんもの。上位のプロを呼ぶ費用を思えば、家庭教師の一人や二人雇ってあなた達を呼べるなら安いものですわ」

『ならお願いしよう。蒲原の補習さえクリアできればこちらもほとんどフリーだ』


【後日 鶴賀学園】


智紀「残念ながら、一年生どころか中学生の基礎問題からやり直す必要があると判断されたので、当面は私で十分という結論に達した」

ゆみ「……そんな予感はしていた。しかし、三年生の家庭教師に二年生を送って来るとは、龍門渕のやつ…」

智美「先生、よろしく頼むぞー」ワハハ

智紀「学力の向上が目的のはずなので、追試までに間に合わなかったら教師に圧力をかける方針で行く」

ゆみ「…ここまでしてもらってダメだともいえないな。仕方ない、それで行こう」

本日分はここまでです。
次回は日曜日の予定です。


咲「うーん…暑いなあ…」


お気に入りの木陰に寝転んで本を読んでいるが、流石にこの時期は暑くて外での読書は厳しい。
午前中ならまだしも、日が高く昇ってからは読書に集中できる環境ではない。

と言っても、図書室もあんまり行きたくない。
さて、どうしたものか。


照「…咲、暑い。図書室に行こう」

咲「…まあ、お姉ちゃんが一緒ならいいか」


インターハイ以来、姉だけでなく私本人の人気までうなぎ上りらしい。
今では、人気のない場所で本を読む理由が「悪意を避けるため」から180度変わってしまっていた。
私がクラスメイトからもみくちゃにされる日が来るとは思わなかったな。大抵、お姉ちゃんに近づくためにこっそりって感じだったから。

それでも、お姉ちゃんが居れば人はお姉ちゃんの方に流れる。
どこまで行っても、私は「宮永照の妹」という認識のされ方なのだ。


咲「……」

照「咲? どうしたの?」

咲「ん? 何も。もみくちゃにされるのと暑いの、どっちがマシかなって考えてただけだよ」

照「…それならいいけど……」


というわけで、お姉ちゃんが一緒なら図書室でも問題ない。
日が昇ってしまって、暑さで読書に適さなくなった木陰を去り、図書室に向かうことにする。

しかし、立ちあがった私の足が動き出すことはなかった。


照「どうしたの? 行くなら早く行こう」

咲「…それはそうなんだけどね、お姉ちゃん……校舎、どっちだっけ?」

照「…あれ?」


こうなると、私たち二人という組み合わせで打てる手はない。
仕方なく、私はこういう時にいつも頼っている麻雀部唯一の男子を呼び出すことにした。


京太郎「…なんであいつらは学校の敷地内で迷子になるんだよ……いくら広いとはいえ」


呼び出しを受けた男子は、同級生と憧れの先輩のあまりのポンコツぶりに驚愕する。
流石に大人びた美人というイメージは瓦解し、妹同様、猫を被ったポンコツという評価に落ち着いた。

いくら美人でも、中身がこれだけポンコツだと幻滅もするというものだ。
妹の方も、最初は可愛い子がクラスで浮いているから近づこうという下心があったような気がするが、今ではペットみたいな感覚である。

あんなポンコツどもが麻雀を打たせたら全国でも類を見ない怪物というのだから世の中は分からないものだ。


京太郎「あいつらの世話をするよりは和とキャッキャウフフしたいんだが……」


ゲスッ


京太郎「いってえええええええ!?なにしやがるこのタコスチビ!!」


脛に走る激痛。
すぐさま、手の届く距離に居たちんちくりんを捕まえる。
手が届く距離に居る人間はこいつ一人、つまり、犯人はこいつしかいない。


優希「私じゃないじぇ! 鶴賀のモモちゃんが来てたんだじぇ!」

京太郎「バレバレの嘘をつくんじゃねえ!」


確かに、東横桃子ならば俺に認識されずに脛を蹴るなど造作もない。

しかし、東横桃子が鶴賀からここに来る理由はない。ましてや、俺の脛を蹴る動機など皆無だ。

こいつにも動機らしい動機はないが、東横さんがここにきて理由もなく蹴るというのよりは、こいつがふざけ半分で蹴ったという方が1000倍はあり得る。

ということで、こいつの悪質な言い逃れは無視することにした。


久「相変わらず仲良いわね、あの二人」

和「そうですね。ところで、須賀君は咲さんからの呼び出しを受けていたみたいですが…」

久「…ああ、多分迷ったんでしょ。この時間なら例の場所だと思うから、私が行ってくるわ」

和「どうせなら部室に連れてきて下さい」

久「もうすぐ合宿もあるんだし、今そんなに打っても仕方ないでしょ。夏休み前だし、のんびりしましょう」


咲「…暑い」ペラ

照「…遅い」ペラ


文句を言いながら、迎えが来るまでページをめくり続ける。

須賀君に頼んだのが失敗だった。
竹井さんに連絡していれば、もっと早く迎えに来てくれただろうに。


咲「むー……いつもならもう来てる頃なのに」

照「何か用事でもあったのかな?」

咲「用事があるならそう言ってくれるはずだよ」

照「旧校舎に居なかったとか……?」

咲「うーん……だとしてもちょっと遅い気がする」

照「やはり、ここは竹井さんに助けを求めた方が……」


久「はーい、お待たせ。迷子のお子様はこちらのお二人様かしら?」


照「助かった、これで帰れる…」

咲「……部長? 京ちゃんは?」

久「須賀君は優希に捕まったわ。だから代わりに来たのよ」

照「あの役立たずめ…」

咲「優希ちゃん……人の命がかかってる時に救助隊の妨害をするのはどうかと思うよ」

久「校内で迷子になったぐらいで死なないでよ……」


咲「……暑くなってきたね」

照「うん、期末も終わったし、いよいよって感じだね」

久「頼りにしてるわよ、あなた達」


夏休みに入るとすぐに、長野県決勝の四校による五日間の合同合宿がある。

それが終われば、すぐに八月――全国の強豪たちが一堂に会するインターハイが幕を開ける。

しばしの平穏はまもなく終わり、私たちは再び激戦の渦中に身を投じることになる。


咲「インターハイ、か……」

照「ん? 咲、何か言った?」

咲「ううん、なんでもないよ。独り言」


私がインターハイに出る理由。
麻雀をまた始めた理由。


咲「――――お母さん」


ポツリと漏れた呟きは、誰の耳に入ることもなく消えていった。

今回はここまでです。次回は木曜日の予定です。


ギャリギャリギャリ!!

モモ「きゃー! 揺れるっすー!」

揺れる、という言葉で済ませていいのだろうか?
曲がり切れるギリギリの速度でのコーナーへの侵入と三車線を目いっぱい使ったアウトインアウトのコーナリング。
あえて言おう、人を乗せた状態で許される運転ではない。

ゆみ「合宿所はまだなのか蒲原ああああああああ!?」

智美「うちは四校で一番北だからなああああああ!」

ギャリギャリギャリ!!

ゆみ「てゆうか、これ危険運転で捕まるぞ!? もう少し速度を落とせ!!!」

智美「喋ってると舌噛むぞおおおおお!!! 寝坊したから急がないとなああああ!!」

睦月「う、うむ……」クラクラ

ゆみ「津山!? しっかりしろ津山ああああああ!?」

佳織「智美ちゃん! ホントに免許持ってるの!?」

智美「当たり前だろ―!!!! ワッハハハ―――!!!!」

ゆみ「このスピードでアクセルを踏むなああああああ―――!!」

ヒイイイイイ!! ギャリギャリギャリ!! ワハハハハ----!!


酷い目に遭った……妹尾の強運が無ければ確実に事故を起こしていたぞ、蒲原のやつ…


ゆみ「まあ……何はともあれ……無事に……たどり着いた……か」フラフラ

モモ「一応みんな無事っすね……むっきー先輩が帰りの心配をしてるっすけど」

睦月「うむ……途中から記憶がないが、不安すぎる」

ゆみ「……帰りは、電車で帰ろう。車には……妹尾と……蒲原だけが……乗ればいい」

モモ「先輩も大分キテるっすね……」

智美「それはあんまりだぞゆみちん…」

佳織「智美ちゃん、せめて前だけは見て運転してね」


?「お疲れ様」


智美「あ、先生。寝坊したから飛ばして来たぞー」

智紀「スピードの出しすぎは危険。今回に限れば、遅刻しても咎める人は居ないから安全運転をするように」

智美「わかりましたー」ワハハ

智紀「まったく、どれだけ理解しているのやら…そもそも寝坊して時間前につくなんて、どれだけ飛ばして…」

智美「ところで、他はもうついてるのか?」

智紀「清澄が遅れている。というか、まだ時間には早い。とりあえず中で休んでほしい」

智美「分かったぞー。みんなー、入ってくれー」


久「今回は四校合同合宿にお集まりいただきまして、誠にありがとうございます」

貴子「移動の疲れもあるだろうし、今日は各校自由行動にしたいと思うんだが…」

ゆみ「合宿メニューに縛られる前に天江や宮永と打っておきたいのだが、卓は使えるか?」

透華「当然、麻雀に関しては最善の環境を整えていましてよ」

ゆみ「ならば異議なし」

久「では、本日は自由行動ということで」


華菜「自由行動ならお風呂に直行だし! 一番乗りだし!」

貴子「おいこらどこ行く気だ池田アアアアア! お前は特打ちだアアアアア!!」

華菜「ひいっ!?」

衣「おい、その猫は我々が貰い受けるのだ、勝手に予定を決めるな」

ゆみ「差が広がってもいいならそちらで打てばいい。だが、目ぼしい面子はこちらで確保させてもらったぞ」

和「…正直、気が進まないのですが。照さん、咲さん、衣さん……勝てる気がしません」

咲「そう? 楽しそうだけど」

照「相手が誰でも、私がやることは同じ」モグモグ

久「今日こそあんたのプラマイゼロを破るから覚悟しなさい」

照「竹井さんには期待してる」モグモグ

久「いや、期待されると自信ないんだけど」

照「竹井さんなら行ける」

久「100回やって全部返り討ちにしたくせにどの口が言うのよ」

照「……」

靖子「初日からこの面子で卓を立てるのか、元気なことだ」

貴子「安心しろ化け物ども、こっちもそのつもりだよ。次のインハイまで一年もねえのに、この大事な合宿でエースを遊ばせてられるか」

華菜「横暴だし……みはるんとお風呂入る約束が…」シクシク


華菜「リーチ一発ツモタンヤオ三色平和ドラ1! 裏ドラはめくらないでおいてやる!」

久「久保コーチが居る卓だと元気ねあなた……久保コーチ、池田さんに気付かれないように援護するのやめてくれませんか?」

華菜「はあ!? 言いがかりつけんなし! 実力だし!」

純「竹井さんを止めなきゃなんねえから見逃してたが、明らかに流れが不自然だったぜ。そこのコーチぐらいしか心当たりがねえな」

貴子(半荘一回で気付くのかよ……本当に高校生かこいつら?)

華菜「せっかくトップ取ったのにケチつけんなし!」

貴子「(池田にバレても面倒だし、話題を逸らすか……)一回勝ったぐらいで調子乗んな池田アアアア!! 通算だと今この部屋で打ってる面子で最下位だろうが!!!」

華菜「ひうっ!?」


靖子「あいつら、化け物の世話を私に押し付けやがって…」

照「ツモ。3000・6000。これでプラマイゼロ」

咲「むー……衣ちゃんでも崩せないか、お姉ちゃんはやっぱり凄いね」

衣「ただ勝つのとはやり方が違いすぎて勝手がわからん。下手に削っても最後にまくりやすい点数になるだけか…」

咲「むしろ、浮かせておいた方が崩す分には楽だよ……多分それでも崩れないけど。その辺の対策は原村さんが色々まとめてたから聞いてみて」

衣「む、ノノカが?」

咲「私のプラマイゼロを崩すために色々研究してたから。『プラマイゼロの崩し方』なんてのをまとめてるのは、お母さんを除けば原村さんぐらいじゃないかな?」

衣「聞いてくるぞ!」ピュー


咲「あ、行っちゃった」

靖子「卓が欠けたな、少し休むか」

久「あ、空いたの? なら私が入るわ」

靖子「…化け物三人の状況に変化なし、か」

久「あんたも十分化け物でしょうが。咲のプラマイゼロを崩したんでしょ?」

靖子「最近、衣にも宮永姉妹にも負けたせいで自信が無くなっててな…」

久「何言ってんの、佐久フェレッターズの大黒柱。あなたを私より強い打ち手だと思ってるから、咲や照にぶつけたのよ?」

靖子「おまえ、良い奴だな、久」


【翌日】


貴子「で、どうでした?」

靖子「宮永姉妹と天江はあらゆる面で飛びぬけている。竹井も他と比べると全体的に頭一つ抜けているな。この四人は確定で良いだろう」

貴子「妹尾と原村は?」

靖子「雑魚相手なら妹尾の方が大きく勝つが、原村の方が上位相手でも安定する。私が監督なら使い分けたい」

貴子「福路……は昨日は打ってませんでしたね。あれは風越の歴代エースの中でも見劣りしない逸材です」

靖子「分かった、あとで直に打って確かめる。あとは池田と龍門渕、井上あたりも試しておきたいな。普通なら染谷や沢村、国広なんかも欲しいところだが、贅沢なことに枠がない」

貴子「加治木は?」

靖子「あらゆる面で非常に優れた選手だ、あれで麻雀歴が二年足らずだというし、将来性も期待できる。指導者も合ってそうだな」

貴子「ですね。本人に麻雀関係の進路を選ぶ気があるかが問題ですが」

靖子「あとは、実績はないが、加治木が自分より強いと言っている東横を見ておくとして…」

貴子「……U-18代表が長野県からのメンバーだけで埋まってもおかしくないですね」

靖子「全国には荒川が居るんだからそれはないだろう。が、昨年個人準優勝の辻垣内、昨年四位で実質現役三位の銘苅あたりでも、久より確実に上かと言われると怪しい。長野が相当の割合を占めそうだな」

貴子「酷い年に当たったもんですよ。風越だって例年以上の戦力だったと思ってるんですが」

靖子「あとは目ぼしい選手は……白糸台には活きのいい一年がいるんだったか?」

貴子「千里山にも、三年で頭角を現したエースが出てきてますね」

靖子「去年が一番の当たり年だと思っていたが、今年のための布石に過ぎなかったのかもしれないな」

貴子「……今年のインハイは、荒れますかね?」

靖子「少なくとも、下馬評通りの結果にはならないだろうな。去年の龍門渕以上の馬鹿でかい台風が、根こそぎ薙ぎ倒すだろう」


【更に翌日】


優希「リーチだじょ!」

純「こいつ……チーだ!!」

優希「…む、ズラしたか。少しは出来るようだな、ノッポ」

睦月「うむ、決勝は相手が悪すぎたが、井上は全国でエース区間の先鋒を切り抜けてきた打ち手だ」

純代「…」

優希「だがしかし!咲ちゃんや照さんを相手に修行を積んだ私の敵ではない!一発ツモ……れなかったじょ」

純「ズラしたのに簡単に和了られてたまるかっての。ほれ、ツモだ。タンヤオのみ、300・500」

優希「ぐぬぬ……東場の私のリーチをかわすとは……」

純「ま、安いけどな」

優希「ふん、まだ東場は終わってないじぇ!」

純「さっさと流して南場で毟ってやるよ」

優希「出来るもんならやってみろ!」

純代「……」ポチ

カラカラカラ……


美穂子「…最後の夏、勝てませんでしたけど、いい思い出になりました」

久「ちょっと、過去形にしないでよ。私の夏はまだ終わってないんだから」

ゆみ「そうだな。私たちに勝ったんだ、全国優勝を祈っているぞ。ポン」

久「おっと、気を抜いたらサクッと刺されるわね。集中集中…」

照「…槓」ゴゴゴ

美穂子「ひっ!?」ビクッ

久「照、美穂子が怯えるからあんまり槓しないで。この子、責任感が強いから決勝がトラウマになってるみたい」

照「これが私のスタイルだから」ゴゴゴ

久「もう……なんで不機嫌になってるのよ?」

照「…なんのことかしら?」ニコッ

美穂子「ひいっ…」ガタガタ


【四日目】


衣「奇幻な手合いや手ごわい猛者がたくさんで嬉しいぞ!より取り見取りだ!」

咲「私たちの卓にはみんな入りたがらないけどね……」

衣「さあ、次は誰が衣の相手をしてくれるのだ!?」

優希「勘弁してくれだじょ…」

衣「ユーキが入るなら東風でも構わんぞ」

優希「東風!? やるじょ!」

純「…東風でも勝ち目ねえだろ。衣と咲だぞ?」

優希「はっ!? 東風という言葉に釣られてしまったじょ…」

和「親友を見捨てるわけにもいきませんし、四人目は私が入りましょう」

優希「のどちゃん、気持ちは嬉しいけど、ノッポの方が三位の可能性がある分ましだじぇ……」


?「こんにちわです!」


久「あ、来た来た」

まこ「…誰じゃ?」

和「マホ!? 何故ここに?」

優希「マホムロコンビだじぇ! どうしたんだじょ?」

靖子「……ほう」

マホ「お呼びがかかったので来ちゃいました!」


久「私が呼んだのよ、和の中学時代の牌譜を見てたら面白そうなのが居たからね」


衣「…増えた」

照「…まだこんな子が……長野はどうなってるの?」

咲「お姉ちゃんがそれを言うの?」

透華「高遠原中学の制服……原村和の後輩ですの?」

マホ「はわわ!? 和先輩に勝ってた龍門渕さんが居ます! 緊張します!」

ムロ「おい、マホ、ちゃんとあいさつしろ」

マホ「は、はい! 高遠原中学二年、夢乃マホです! よろしくお願いします!」

ムロ「同じく高遠原中学三年の室橋裕子です」ペコリ

靖子「良く来た、歓迎するぞ」


久「それにしても遅かったわね、来ないかと思ったわよ?」

マホ「うっ……それは」

ムロ「……マホが期末で赤点取って、昨日まで補習受けてたので」

智美「ワハハ、勉強はちゃんとしないとダメだぞー」

ゆみ「お前だけは言ってはいけないセリフだな、蒲原」

智紀「……室橋さんの方が学力が高いのではないかと思う」

智美「それは流石に……ないとも言い切れないなー」ワハハ

智紀「笑い事ではない。合宿が終わったらすぐに勉強を始める」

智美「トホホ……」


靖子「じゃあ、さっそく打ってもらおうか」

マホ「は、はいっ!」

咲「面子は?」

靖子「…お前ら三人、宮永姉妹と天江で打ってもらう」

衣「…ほう?」

久「やりすぎじゃない?」

靖子「別に、やりすぎだったとしても飛ぶだけだろ? 早く底を知りたい」

照「…まあ、誰が相手でもやることは同じだけど」

久「じゃ、始めて。頑張ってね、マホちゃん」

マホ「わわわ! 憧れの宮永咲さんと天江衣さんです!!! お姉さんの方も、槓して手牌にドラ乗せるのすごくかっこよかったです!」

照「ありがとう、あなたも頑張ればできるようになるよ」ニコッ


まこ「頑張って出来るもんか、あれ?」

咲「普通は無理ですね。あの子は分かりませんけど」

優希「照さんが適当に言ってるのか、それともマホが実は凄いのか…」


マホ「…リーチ一発海底ツモドラドラ! 6000オールです!」パタン


123p白白57789s444m ドラ:白 ツモ:6s 


衣「…衣の手が一向聴で止まっていた。これは、まさか?」

咲「様子見は危険かな? 練習で良かった…」

照「」ゴゴゴゴゴ


ゴオオオオオオオ


マホ「ひうっ!?」ビクッ


照「なるほど……これは、凄いけど強くはない」

咲「強くないの?」

照「うん。多分強いのは最初だけだと思う。少なくとも今の彼女は」

衣「…なら、様子見したのは惜しいことをしたな。強いという最初のうちに遊んでおかねばならんのに、みすみす一局フイにしてしまった」

マホ「い、今、何か凄いことされた気がします…」ビクビク


東二局


マホ「さっきの凄いの! やってみます」

照「…は?」

咲「…いや、いくらなんでも照魔鏡は無理でしょ? 妹の私でも使えないのに…」

衣「そうとも限らん。衣の海底をさらっていくような奴だぞ?」

ーー

マホ「…ノーテンです」パタン

咲・衣・照「聴牌」パタン

マホ「」ゴゴゴゴゴ


ゴオオオオオ


咲「これ、うそ……そんな……」

衣「……とんでもないのが紛れ込んで来たものだな」

照「…」


マホ「ふむふむ。皆さんの打ち方、勉強になります……って、あれ?」

久「どうしたの?」

マホ「これは……マホ、驚きです!」

照「…」


【翌朝】

智美「今出れば9時には鶴賀に戻れるぞー」

智紀「…来た時に、安全運転をするように言ったはず」

智美「先生、細かいこと言うもんじゃないぞー」

佳織「というか、沢村さん、なんで居るんですか?」

智紀「…着いたら勉強。どうせなら一緒に帰った方がいい」

智美「…着くのは10時ぐらいになるかもしれない気がしてきたぞー」ワハハ

ゆみ「むしろそうしてくれ」

モモ「沢村さんに感謝するっすよ…」

睦月「うむ」

智紀「…?」


マホ「結局一度も勝てませんでした…」ズーン

まこ「そりゃあ、相手も悪かったからの……わしとかを相手にしてりゃあ、一回ぐらいはトップとれたじゃろうに」

咲「私とか部長とかと常に同卓してたからね。藤田プロも意地悪だよね」

久「いい線行ってたわよー」ナデナデ

和「そうですね、チョンボが無ければ私相手にトップを取れていた半荘もありましたし」

マホ「うう…」

ムロ「まほっち、タコスぢから、嶺上、槓ドラ、豪運、海底、治水、悪待ち、オーラスのまくり……本当になんでもありだなマホは」

久「相手が悪いとはいえ、それだけ使えてトップ取れないのもね……一日に一回しか使えないのが痛いのかしら?」

マホ「ぐすん…」

優希「そもそもチョンボをするからな、マホは。精進が足りないじぇ」



照「咲、忘れ物はない?」

咲「ないと思うよ」

和「……部屋に携帯が置きっぱなしでしたが?」

咲「あっ!?」

照「やれやれ……」

優希「あ、照さん、本置きっぱなしだったからもってきたじぇ」

照「ぐっ……不覚……」

和「ちなみに、咲さんの携帯もちゃんと回収してます」

咲「ありがとう、原村さん」

まこ「さて、これで本当に大丈夫そうじゃな」


透華「では、我々も出発いたしますわ」

純「楽しかったぜ、お前ら」

一「またね。近いうちに会うと思うけど」

衣「また衣と遊んでほしいぞ!」

咲「うん、またね!」

照「気を付けて」

優希「ノッポ! 次こそ決着をつけるじょ!」

まこ「沢村がおらんのう?」

透華「智紀なら鶴賀の車に乗って行きましたわ」

マホ「鶴賀の車にですか?」

純「……いろいろな事情があるんだ。お前も、もしかしたら分かる日が来るかもしれねえが」

マホ「……?」キョトン

裕子「ああ……なんとなく分かりました。沢村さん頭良さそうですもんね」

透華「概ね正解ですわ」

ハギヨシ「では皆様、お元気で」


華菜「うがー! チビのくせに調子乗んなし!」

照「……道路で遊ぶと危ない」

未春「そうだよ華菜ちゃん」

純代「…」コクリ


久「…合宿も終わりね。駅に着いたら、後はそれぞれ最寄駅で降りて家に帰るだけ」

美穂子「五日も過ごすと名残惜しいですね。でも、また会えますよ、きっと」

久「そうね。妹尾さんは個人戦でインハイ会場でも会うだろうし、龍門渕は衣の遊び相手を求めてうちに来るだろうし…」

美穂子「…うちだって、清澄とは練習試合を組みますよ。最大のライバルですから」

久「…そうね、これからも、会えるのよね」

美穂子「…応援しています。私たち風越からは誰もインターハイに行けなかったけど……その分だけ、清澄に頑張ってもらえるように」

久「…ありがとう、美穂子。月並みだけど、あなた達の分まで頑張るわ」

美穂子「はい、信じていますよ、あなた達が勝つと」

ワハハを全力で強化してみました。今回はここまでです。
次回は日曜の予定です。日曜無理だったら木曜日に更新します。
無理そうなら日曜昼にその旨報告します。



近くの景色は、飛ぶように消えていく。

遠くの景色も、少し時間が経つと全く違うものに変わっている。

新幹線というものが高速で移動していることを実感する。

しかし、景色が流れるのを見るのもほどなく飽き、私は手元の本に視線を落とす。

内容は、よくある恋愛小説。

高校に入って出会った二人が、衝突を繰り返しながらもお互いを認め合い、ついには結ばれるというあらすじだ。

よほど自分と似ている境遇でもない限り自分と縁遠い設定の方が読んでいて素直に感情移入できるという理由で、私は、自分には縁のない恋愛というものを綴った小説を好んで読んでいる。

……本当に縁がないんだよなあ、と、溜め息をつく。

隣に座る悪友はそれに気づいたようだ。


久「なによ、これから東京に乗り込もうって時に溜め息なんかついて」

照「恋愛小説を読んでたら、あまりに遠い世界の出来事に打ちひしがれた」

久「いやいや、あんた学生議会長の私と人気を二分する学校のアイドルじゃない。何言ってんの?」

照「…竹井さんは男女問わず人気なのに、私はなぜか女子にしか人気がない。不公平」

久「いきなり何言い出すのよあんたは。ついでに言っとくと、男子の人気はあんたの方が高いわよ?」

照「疑わしい。竹井さんは男女問わず話しかけられてるけど、私は県大会で優勝するまでに男子から話しかけられたことは数えるほどしかない」

久「ファンクラブの連中は抜け駆け禁止の紳士協定を結んでるらしいからねえ……」

照「この本みたいな恋愛がしたい……」

久「このポンコツ乙女は……」


私たちは今、東京へ向かう電車に乗っている。

長野駅で新幹線に乗り換えたら東京駅まで一時間ちょっと、寝るには少し微妙な長さ。

寝るには微妙。だからこうして他愛もない話に花を咲かせている。


久「まあいいけど、東京駅で迷わないでね。迷子になったら流石に見つける自信ないわ」

照「大丈夫、手を繋げばはぐれない」

久「ま、そうなんだけど、いいの?」

照「試合の度に手を繋いで対局室に行ってたのになにを今更」

久「ふふ、それもそうね」


とりあえず、東京駅で迷子になる心配だけはしなくていいらしい。

でも、あんまり連れまわすわけにもいかないし、旅館に着いたら部屋で読書かな。


【白糸台高校】


憩「かーんーとーくー、何見てるんですかー?」

監督「各県の代表の牌譜、よ。集中したいから話しかけないでほしいわね」

憩「監督が一人の牌譜を見るのに10分もかけるなんて珍しいから、ついつい話しかけてしまいましたわー。堪忍ですー」

監督「…人のこと良く見てるわね、あなた」

憩「患者の状態を把握するのはナースの基本ですから」ニコニコ

監督「…今年のインターハイは、荒れるわよ」

憩「監督が言うとホンマに荒れそうだからやめてくださいよー…マジですか?」


ケイトウチタイー! ケイドコイッタノー! ケイー!


菫「憩、淡がゴネ始めたからなだめてくれ。すみません監督、憩を借ります」

憩「菫さん、今は大事なお話し中なんですよー。淡ちゃんには好きにさせときましょう」

監督「…大星さんを注意するついでにミーティングをするわ、弘世さん、一軍を集めておいて」

菫「分かりました。憩、行くぞ」グイッ

憩「そんな引っ張らんでもちゃんとついていきますよーぅ。ほな、監督、またあとでー」


淡「あー! ケイ、どこ行ってたの!? 逃げたかと思ったよー!」

憩「小鍛治プロとかならまだしも、淡ちゃん相手に逃げるわけないやん」

淡「むー! そうやって余裕かましてられるのも今のうちだけだよ! 今日こそケイに勝つんだからー!」

憩「頑張ってなー。二年後のエース」

淡「二年後じゃないもん! 来年にはケイに勝ってエースになるんだもん!!」

誠子「大星。今年は勝てないって認めてるようなもんだぞ、それ」

尭深「淡ちゃんは勢いだけでしゃべってるから…」

淡「タカミ、セーコ、うっさい! とにかく勝負だよケイ!」

憩「今からミーティングするから、終わってからなー」

淡「えー? 今更なにを話すのー?」

菫「シード校やインハイ常連校についてはあらかた検討し終わったな。となると、個人か、あるいは……」

淡「個人はどうせ私とケイの一騎打ちだし、まだ検討してない無名校とかどうでもいいじゃん! それよりケイと打ってた方がいいって!」

?「それがそうでもないのよね」

淡「むっ!? 誰、ここは一軍の部屋だよ!?」


監督「残念ながら、連覇が危うくなるような強敵が出て来たわ」

淡「あ、監督だ」

憩「うちと淡ちゃんがおっても連覇が危ういって、マジですか監督?」

菫「…長野と奈良ですか?」

誠子「ああ、晩成と龍門渕、そういえば前回までのミーティングで名前が出ませんでしたね」

尭深「どっちも県予選で敗退したんだよ、誠子ちゃん」

淡「ん~? そこ強いの?」

誠子「晩成は県内ではともかく全国ではそこまで強豪って感じではないが、龍門渕は去年のベスト8メンバーが全員残ってるからな」

淡「ベスト8ぉ~?」

監督「ベスト8といっても、他校のトビで終わっただけ。エースが出る前に終わってしまったけど、エースに回っていれば臨海をまくっていたと思うわ」

淡「臨海より強いのかー……それなら少しは手ごわいかも?」

憩「衣ちゃんはえらい化け物じみてましたなー。半荘数が二回少ないのに、うちより稼いでMVPやったし」

淡「へ? それってケイより強いってこと?」

菫「数字の上ではな、実際打ったらどうなりそうだ?」

憩「ん~? あれは流石に打ってみないとわかりませんわ」

誠子「いつもだったら『白糸台のエースが負けると思います?』って返すのに…」

尭深「誠子ちゃん、憩ちゃんの真似上手いね…」


淡「なにそれ! そんなの居るの!? そう言うのはもっと早く教えてよ!」キラキラ

憩「うーわ、めっちゃ目ぇキラキラさせとる…」

監督「で、その天江さんが半荘で10万差をつけられて負けた相手が居るわけだけど…」

憩「…監督、その言い方やと淡ちゃん勝ち目ないですやん。事実ですけど、言葉はえらびましょ」

監督「なんだ、調べたの?」

憩「衣ちゃんが負けるってのはうちにとっては大ニュースですから、それぐらいは調べますわ」

監督「憩がビビッて取り乱す様が見れるかと思って、一番強そうに聞こえる表現を選んだのに…」

憩「そんなことのためにあんな必死に牌譜見とったんですか…」

監督「じゃあ、奈良代表と長野代表の分析と対策をするわよ。無名校だからデータが無くて時間がかかったの」

……

…………

………………

監督「阿知賀はこんなところね。先鋒は初見だと辛いけど分かってしまえば対応は簡単。他は対応が難しいけど、その分、卓に与える影響もそれほど大きくないわ」

憩「つまり、地力で押しつぶせってことですな」

監督「そうなるわね。まあ、こっちはあなた達なら大丈夫でしょう」

菫「こっちは……ということは、本命はもう一校ですか」

誠子「でも、憩と淡が居て勝てない相手なんてそうそう居るものじゃ…」

監督「とりあえず、長野の団体戦ベスト5を見てもらおうかしら」


尭深「…なんですかこれ、獲得点数20万超えが二人?」

誠子「いやいや、憩とか神代じゃないんですから……しかも一チームに二人!?」

菫「中堅と大将……しかも、大将は天江を相手にしてなおこの数字か…」

淡「獲得点数負けてるー! くやしいー!」

憩「試合数考えたらぼろ負けやな。確か、宮永咲ちゃんは半荘三回しか出とらんよ」

監督「と言っても、一回戦は雑魚を殲滅しただけ、決勝もトビ寸前の風越を使って上手く立ち回っただけ……牌譜を見た限り、地力では天江さんが勝っているように見えるわ」

菫「それでも天江に競り勝ったというのは脅威ですね。上手く立ち回ったというのも勝負強さの証でもある……これは大星でも厳しそうだ」


監督「実際厳しいけど……本当の脅威はそっちじゃないわ。先鋒の照よ」


尭深「決勝では半荘二回でプラス1万1000点……大将と比べたらそれほど脅威ではないように思えますが?」

監督「その、半荘一回でプラス5500という数字を、意図的に狙ったとしたら?
 福路美穂子や井上純を相手にして、100点の誤差すらなく正確にその点数を狙ってみせたとしたら?」

憩「…化け物ですわ。うちでもそれは多分無理です」

菫「…いくらなんでも偶然でしょう?」

誠子「ですよね?」

淡「ところで監督、この宮永って監督と同じ苗字だよねー!? 親戚か何かだったり?」


監督「偶然じゃない。それは、誰よりも多く照のプラマイゼロに挑んできた私が保証する」


憩「(誰よりも多く挑んだって、分かりやすいなあ)苗字見た時から怪しいと思ってたんですわ。テルって言うのも、たまに監督から聞いてた名前やし」

菫「普通に考えたら偶然だ……牌譜を見れば印象が変わるかもしれないが、他の目立つ記録に埋もれて目をつけようとも思わない」

誠子「牌譜までチェックするのは時間の都合で難しいですよね。全国の代表をチェックしている中だと、目立たない数字は見逃しがちです」

尭深「多分、最初から目をつけてチェックしないと、プラマイゼロを狙ってるなんて気付くのは無理じゃないかな?」

憩「いやいや、個人戦の記録見たら一発で気づきますよーぅ?」


監督「白糸台高校の二連覇を阻む最大の敵は、全国二位の臨海女子でも神代小蒔を擁する永水女子でもない」

監督「清澄高校、その中でも宮永照と宮永咲。この姉妹よ。そのつもりで、今から言う対策を聞いてちょうだい」


監督「…対策は以上よ、何か質問はある?」

憩「はいはい、監督、一つええですか?」

監督「…なに?」

憩「最初に聞こうかと思ったんですけど、てゆうか淡ちゃんが聞いてたと思うんですけど…」

監督「もったいぶらずに早く言いなさい」


憩「この二人、姉妹なん?」


監督「…は?」

菫「珍しい苗字にしたって、そういう苗字ほど同じ地域に固まっているからな。苗字が同じだからと言って姉妹とは限らない」

尭深「監督は確信をもって姉妹だって言ってるけど、どこにもそんな情報はないですし…」

淡「てゆうか、監督と同じ苗字でしょ? 親戚じゃないのー?」

憩「牌譜からだと分からんことまで知っとるみたいやし、ご家族だったりするんですか?」


監督「…私に娘はいない、あの子達を、もはや自分の娘だとは思わない」


憩(別に娘だなんて言っとらんのやけど…)

菫(確定だな、監督の娘か)

誠子(結婚してたのか、このひと…)

尭深(…監督って、家事出来るの?)

淡(娘じゃないってことは親戚かなー? どっちにしろ知り合いってことだよね。監督がライバルの情報を持ってるなんてラッキーだね)


監督「今は、血を分けた娘であろうと全力で倒すのみみょっ!!!」


憩「のみみょ?」

菫「噛んだな」

誠子「噛みましたね」

尭深「これ以上ないぐらい勢いよく噛みましたね。あと、娘だって自分で言い切りましたね」

淡「おー! 清澄を倒して二連覇だー!」


監督(噛んだ…はずかしい…)


【清澄高校宿泊施設】


久「じゃあ、今日は移動の疲れを取るために自由行動にしましょうか」

まこ「そんなんでええんか?」

照「…ちゃんと休んで実力を出し切る方が大事」

久「さすが照、わかってるじゃない」

優希「自由行動なら、私はお風呂に入ってくるじぇ!」

和「あ、優希、まずは避難経路の確認をしてから…」

咲「真面目だね、原村さん。私も一応見ておこうかな」

京太郎「断言するが、お前は避難経路見ても無駄だ」

照「あ、須賀君……」

まこ「京太郎は相部屋なんか? 流石に不味いじゃろ」

京太郎「いや、隣ですけど、この後の予定を聞きに来ました」

久「自由行動よー。出来れば咲のお守りをお願いしたいけど、お風呂らしいから流石に無理ね」


優希「タコスー♪ タコスの皮ーは全てを包む―♪」

和「優希、他の方も居るのですから静かに…」

咲「優希ちゃんって、お風呂好きだよね」

優希「おうっ! タコスほどじゃないけどな!」ガラッ


?「相変わらずうるせえな、タコス娘。気分よく浸かってたのが台無しだ」


優希「む!? 龍門渕のノッポ!? なぜ貴様が女湯に…」

純「俺は女だっての!!」


和「なぜ、井上さんがここに…?」

純「お前らの応援をするって言って聞かねえ奴が居てな、ついて来た」

咲「えっと、それって…?」


?「純! 余計なことを言わないでくださいまし! 元々インターハイに来る予定で昨年から予約を取っておいたホテルが無駄にならないようにしただけですわ!」

?「おお、もうついていたのか咲!」

咲・和「ええっ!?」


美穂子「本当に泊まってしまって良いんですか?」

ハギヨシ「そのように仰せつかっております。お嬢様は清澄と同じ旅館に移られましたので、ご自由にお使いください」

星夏「私まで…」

美穂子「でも、キャンセルすればいくらかでもお金が戻るのでは…?」

ハギヨシ「あなた方との親交を深める対価としては安い、とのことです」

一「池田さんは妹さんの世話があるから来れないんだっけ?」

美穂子「え? は、はい……吉留さんも華菜について長野に残ったから、私と文堂さんと深堀さん、後はコーチだけです」

一「ハギヨシさんは透華のところに行っちゃうけど、ボクは久保コーチと一緒に隣の部屋にいるから、何かあれば呼んでね」

貴子「悪いな、あたしはもともとこっちに用があったから自費でも良かったんだが…」


智紀「…重ねて言う。安全運転で」

智美「とは言っても門仲のばーちゃんが急かしてくるからなー」

智紀「一分一秒を争うほどではない」

智美「ま、そりゃそうかー」

智紀「あと、あなたには対局がないから、向こうに着いたら勉強を再開する」

智美「悪いなばーちゃん、そっちに行くのは遅れそうだ―」ワハハ

ゆみ「沢村には感謝してもしきれないな」

佳織「はい……智美ちゃんが安全運転してくれるなんて…」

睦月「この間のキャンプにも来てくれれば…」

モモ「流石にキャンプで勉強はしないから、それは居ても無駄だったと思うっす」

智紀「…?」

佳織「智美ちゃんの本当の運転を知らないんだよね、沢村さん」

ゆみ「知らないから乗ってくれるんだ。わざわざ言う必要はない」


まこ「は? 龍門渕と風越も来とるって?」

照「…なぜ?」

久「応援、らしいわよ。今、ゆみから連絡が来たわ」

まこ「あいつらもあいつらでのんびりしとるのう。個人の代表しかおらんとはいえ、まだ長野に居るんか」

久「…七月の終わりにやった合同合宿のメンバーが大体集まるみたいね。思ったより早い再会になりそう」


バタバタ


衣「ヒサ! 照! 麻雀するぞ!」

照「…落ち着いて本も読めない」パタン

久「全くね。風呂に行った三人と打ってなさいよ」

まこ「…ちゅうか、あいつらはどこ行ったんじゃ?」

衣「咲たちはもう少しお風呂に入ると言っていたぞ! 咲が来るまでマコが入れ!」

まこ「マジかい……しんどいのお」

宮永母をここで出すか迷ってて遅くなりました。本日はここまでです。
次回は一週間後の予定です。

すみません、ちょっと体調崩してて頭働いてないので更新は明日か、長引くようなら明後日に延期します。
申し訳ありません。


【龍門渕高校】


透華「お待ちしておりましたわ、阿知賀女子の皆様」

純「こいつらが奈良代表?」

一「こいつらとか失礼だよ、純くん」

智紀「……」ペコリ


晴絵「本日はお忙しい中練習試合の申し出を受けて頂きありがとうございます。よろしくお願いしたします」


透華「鶴賀から、阿知賀女子は面白い選手の集まりだと聞いております。皆様との対局を心待ちにしておりました」

穏乃「よろしくお願いしますっ!!」


【対局中】


宥「…リーチ」


宥手牌

222345678m5s中中中 ツモ 9m

打:5s


純「ポン!」

打:1p

玄(お姉ちゃんのリーチがかかってる、まだ二向聴だし、ベタオリかなあ……)

打:東

透華「……リーチですわ」

打:3p

宥「ふえっ!?」


灼「龍門渕の先鋒は、鳴きで流れを操るって……」

憧「龍門渕さんに有効牌が入った。さっきのはただの一発消しじゃなくて、これを狙った鳴きだったの? そうか、流れを操るって、仲間のサポートにも使えるのか……」

晴絵「…多分、それだけじゃないな」

憧「え?」

晴絵「完全に嵌められたらしい。鳴き一つでここまで状況が変わるのか……」

灼「ハルちゃん、どういうこと……?」

晴絵「流れっていうのは、ゼロサムゲームだ。誰かに流れが行ったら、その分だけ誰かの流れが失われる。卓上の流れを数値化した場合、全員の流れを足したらゼロになるんだ」

憧「流れとか言うオカルトが存在して、それがハルエの言うとおりの物だと仮定するけど……じゃあ、龍門渕さんに流れが行ったってことは……」

晴絵「……奪われたのは、誰の流れだろうな?」

灼「まさか……」

晴絵「……多分、間違いない。龍門渕は鶴賀より格上って話、嘘じゃないみたいだ」


純(阿知賀のモコモコがツモる予定だった一発目は1萬か。てことは萬子はやべえかな、透華に任せるか)

打:西

玄(私と井上さんはベタオリ……お姉ちゃんと龍門渕さんのめくり合いだね。おねーちゃん、ツモっちゃえ!)

宥「あ……」

純(ズラしたのにツモられてたまるかっての、清澄の先鋒じゃあるまいし)

宥「つ、冷たい牌……」ブルブル

打:6s

透華「ロン」パタン


678m23478s22678p ロン:6s


透華「リーチ一発タンヤオ三色平和……あなた相手に裏をめくる必要はありませんわね。12000」

純「お見事」

透華「当然ですわ」


憧「これが、昨年度ベスト8、龍門渕高校……」

穏乃「井上さんの鳴きも凄いけど、龍門渕さんもドラなしであっさり跳満を和了った」

晴絵「こっちの手の内もしっかりバレてるみたいだな。油断するなよ、うちらは格下の鶴賀にも飛ばされたんだ。下手打つとその時点であっさり飛ばされるぞ」


【二時間後】


穏乃「か……」


衣「また衣の勝ちだー♪」


穏乃(……勝てないっ!!)


憧「天江さん以外も強いけど、天江さんは格が違いすぎる……どうしろってのよこんなの?」

灼「何も出来ないまま点棒が消えてく……」

純「そりゃそうだ。衣相手に流れも運も関係ねえ、出来るのは点棒を差し出すことだけだ」

宥「で、でも……清澄の大将は……」

一「あれは、ねえ?」

智紀「そもそも満月の夜に衣と『勝負』が出来る時点でおかしい」

穏乃「ど、どういうことですか?」

透華「……あなた方は、奈良県の代表でしたわね?」

憧「う、うん……そうだけど」

透華「であれば、皆の期待や負けた者から託された想い、そういったものを背負っているでしょうから、これを告げるのは心苦しいのですが……」

晴絵「……」


透華「今のあなた達では、清澄には絶対に勝てませんわ」


【夏休み直前】


晴絵「…鶴賀と龍門渕以外には全勝か。まあまあの仕上がりだね」

穏乃「でも、その鶴賀と龍門渕が……特に妹尾さんと天江さんには誰も……」

晴絵「そりゃなあ……妹尾は実績こそないが、間違いなく全国でもトップクラス、天江は昨年度全国大会MVPで大会記録保持者、歴史上最強の高校生だ」

玄「それにみんなが勝てるようなら、簡単に全国優勝出来ちゃうね」

穏乃「でも、勝てないようだと…」

晴絵「総合力で勝てばいい。と、言いたいところだが…」

憧「その総合力でも、個人の力でも、長野最強が清澄なんだよね…」

晴絵「妹尾に勝ち越す奴が二人、妹尾と互角に打てる和と、絶対にプラマイゼロにしてくる先鋒……妹尾を抑えたっていう次鋒が最大の穴か…」

宥「あの人を抑えられような人が穴だなんて……私と灼ちゃんは二人がかりでも何も出来なかったのに……」ブルブル

晴絵「まあ、出過ぎた杭は打たれるもんさ。勝ち進んでその強さがわかれば他校も清澄を徹底的にマークするだろうから、それを徹底的に利用して、最後に出し抜く!」

憧「予選の成績だけでも十分警戒されるレベルだから、三対一の状況はあり得ないことじゃないよね」

灼「麻雀は四人で打つもの、三対一の状況が続くなら勝機はあると思……」

玄「一人で試合を終わらせることが出来るジョーカー……それが、清澄には4枚ある。そのことが知られればマークは必然なのです」

晴絵「慢心はダメだが、お前たちは激戦区と言われる大阪の二位を南北ともに退けたんだ、全国でも上位の力がある。自信を持とう」

宥「慢心なんかしようがないよね……私たちが歯が立たないぐらい強い二校が敵わなかった相手を、倒さなくちゃいけないんだもん」

穏乃「けど、まだ時間はある! 私たちはもっと強くなれる! 周りも、清澄を警戒する! なら、チャンスはきっとある!」

晴絵「そういうこと。じゃ、これからの予定の確認だ」


玄「明後日から、夏休みが始まります」

灼「…合宿所の使用申請は出してある。ハルちゃんの人徳ですんなり通った…」

憧「ハルエの人徳ってよりは、奈良県の期待を背負ってるのが大きいでしょ。晩成に勝っちゃったんだし」

晴絵「そこから10日間の合宿で、各自の底上げ……晩成のOGや小走なんかも来てくれるらしい」

穏乃「小走さん……晩成の先鋒の人ですよね」

晴絵「ああ、あいつは対局中、自分から見える情報だけで玄の能力を見抜いていた。私ですら気付いてないお前たちの弱点も、見破ってくれるかもしれない」

穏乃「そうしたら、もっと強くなれる…!」

玄「そして、合宿の後、数日は疲れを取るために休養」

晴絵「やることをやりきったら、最大の力を出し切るために体調を整える。これは大事なことだ」

灼「その休養が明けたら――――」


―――インターハイへ、出陣だ


憧「と言っても、前日入りして、初日は開会式と抽選だけなんだけどね。最も遅い場合、最初の試合は大会四日目、東京入りから6日目になる」

晴絵「憧、その情報、後でいい……締まらない」


【合宿にて】


やえ「…なあ、松実妹?」

玄「は、はいっ!?」ビクッ

やえ「私に勝っておいて、貴様……何だこの腑抜けた闘牌は!? 大体、貴様は本当に自分の能力が分かっているのか!?」

玄「ひうっ!? ど、ドラを集める力です!」

やえ「この馬鹿は……よかろう、貴様の対策も兼ねていくつか試したいことがある。ちなみに、ドラを切った場合のペナルティはなんだ?」

玄「き、切ると、それからしばらくドラが来なくなって…」

やえ「ちっ…面倒だな、なら、実験に失敗してドラを切らざるを得なくなったら山を崩してチョンボで凌げ。今だけは私が許す」

玄「ひいいっ!?」

やえ「ちなみに拒否権はない。貴様の成績いかんによっては私の面子が潰れるんだ。次の半荘、全て私の指示通り打て」

玄「うう……なんかとんでもないことに…」

由華「先輩にしては珍しくスパルタですねー?」

紀子「時間があまりないから。やえ、面子は私たちでいい?」

由華「あ、丸瀬先輩。次鋒はもういいんですか?」

紀子「……暑いから、休憩」

由華「……ああ、なるほど」

やえ「私は後ろで松実に指示を出すから、もうひとり必要だな。岡橋!」

初瀬「はいっ!」シュタッ

やえ「卓につけ。松実の能力を検証する」

初瀬「了解しました」


憧「この面子……きつくない? なんか二人ともテレビで見たことあるんだけど」

晩成OG1「安心しろガキンチョ、あんたは眼中にない」

OG2「こいつには10年前の借りがあってな」

晴絵「いやー、あの時はお世話になりまして……」

OG1「団体戦の準決でボコボコにされたぐらいで約束反故にしやがってこいつは…」

晴絵「えっと、約束?」

OG1「次は絶対勝つから来年も出て来いって言っただろうが! エントリーすらせずに勝ち逃げしやがって!!!」

OG2「個人であたしの分まで勝ってこいって言っただろ!? なに棄権してんのあんた!?」

晴絵「ごめんなさい、トラウマ抱えてそれどころじゃなかったんで」

OG1・2「よし、血祭りだ」ゴゴゴ


憧「ハルエにも色々あるんだなあ……当たり前なんだけどさ」


晴絵「憧は知ってるみたいだけど、この人らプロだから。あたしも負ける気無いけど、憧はラス引かないように頑張れ」

憧「マジで? プロ級三人相手にラス引くなってあんた…」

OG1・2「飛んで邪魔したらお前から殺す」ゴゴゴ

憧「キッツいわー…」


玄「凄い……私の力にこんな使い方が…」

やえ「本当に気付いてなかったのか……ちっ、松実が気付いていないことにあの時気付いていれば他の手もあったというのに。今更言っても遅いが」

紀子「…非常識な力だけど、まあ、そういうこともある、ということにしておこう」

由華「これは……警戒されても止められないでしょうけど、決勝まで温存した方が良いですかね?」

やえ「温存の必要はないだろう。先鋒は化け物の見本市、特に荒川と神代……松実の能力を考慮しても、最優先で警戒されるのは奴らだ」

玄「え……自分で言うのも変ですけど、私のこの力、相当非常識だと思うんですが……チャンピオンって、そんなに強いんですか?」

やえ「奴ら相手に警戒しすぎということはない。だから、こう言っておこう」

玄「……」ゴクリ


やえ「荒川憩は、そして神代小蒔は、ヒトじゃない」


望「やってるかー! ……って、なんか初日なのにやつれてるね憧」

憧「誰か代わって……この卓、キツイ……」

望「んー、穏乃ちゃんあたり呼んでこようか?」


OG1「ダメだ、変な能力持ちが居るとツモがおかしくなるからお前が入れ。そして赤土をシメさせろ」

OG2「あんたらの特訓にわざわざ付き合ってあげてるんだから文句言わずに打つ。そして赤土は殺す」

晴絵「だそうだ、頑張れ憧。あと、シメるのはともかく殺すのは勘弁して」

望「あー……ごめん、私もこの人達を敵には回したくない。頑張れ憧」

憧「たーすーけーてー……」ガクッ


【八月某日】


合宿を終えて更に数日、ついに、全国大会の舞台の東京へ向かう日が来た。

この日のためにレンタカーを借りて、阿知賀こども麻雀クラブのみんなに見送られて、私たちは奈良を後にする。

みんなが手作りしたであろう横断幕には『目指せ全国制覇』の文字。

そう、『全国制覇』、それが私たちの目標。

そのために、とんでもなくでっかい障害があることを、私たちは知っている。

けど、それを乗り越えるための策も、力も、今の私たちにはあると信じてる。

『うおおおおお!! 燃えて来た―――!! 絶対勝つぞ―――!!』

大声で叫びながらみんなに手を振るシズに便乗して、私もみんなに向かって叫ぶ。


『絶対勝つから! 応援してて――!!!』


『あこちゃあああああああん! 頑張れー!!!!』


シズの大声と自分たちが出してる大声の中でも、誰かが私の声を聞きとったらしい。

名指しで頑張れって言われちゃったら、頑張るしかないよね。


【浜名湖PA】


穏乃「休憩――!!!」ノビー


思いっきり伸びをするシズに便乗して、私も軽く体を伸ばす。

私の後に降りて来た玄は大して疲れてないらしく、伸びをするそぶりは見せない。

私は車の中で寝ちゃったから、起きてた玄より体が凝ってるのかもしれない。


憧「長いこと乗ってると流石に疲れるねー」


私のすぐ後に玄、晴絵が大分遅れてついてきて、それに灼がくっついて歩く。


穏乃「東京まであとどれぐらい!?」

玄「三時間はかかるって」

穏乃「うわー、とおいー」


多分私が寝てる間に話してたんだろうな。

シズの質問に答えるのは大体私の役割なのに、今回は玄に先を越された。

むー……って、なんか違和感。なんだろ……あ、わかった。


憧「あれ、宥姉は?」

玄「まだ寝てる」


なんだ、宥姉も寝てたのか。

PAに着いてから起こされて、玄が降りる時に邪魔になるから慌てて降りたんだよね。

だから周りの状況を把握する余裕がなかった。


晴絵「おーい、うちら売店行くけどなんかいる?」


「ら」っていうのは灼か。

必要なものは…少しのどが渇いたかな、暑いから熱中症には気をつけないとね。

お腹は…まだ空いてない。オッケー。


憧「飲み物があれば他は特に…」

晴絵「おっけ、じゃあ、しばらく自由行動で」

玄「はい」

憧「シズー、なんか食べ物とか飲み物とかリクエストあるー!?」


あの落ち着きのないお猿さんは、大声出さないと聞こえないぐらいの距離をふらふらしている。


穏乃「憧! あれ見てあれ! あれおいしそう!」

憧「…ホットドッグ、ねえ? まあいいけど、飲み物は?」

穏乃「飲む!」

憧「ハルエー、飲み物一つ追加ー」

晴絵「あいよー」


憧「あづー…」ダル

玄「ちょっと曇ってて良かったね」

憧「これ晴れてたら超暑いよ、死んじゃうよ」

穏乃「」ハムハム

穏乃「ん? あれ……?」

憧「どうしたの?」


シズの視線を負うと、その先には湖畔に佇む制服の女子が居た。


穏乃「制服の子が居る……」


今は夏休み、しかも、ここは高速道路のPAなわけで……制服の子が普通に居るような場所でも時期でもない。


玄「私たちみたいだね」


…私たちみたい?

…私たちみたいに、部活の全国大会で、東京に向かう途中…?


穏乃「んわっ!? 倒れた!」

憧「熱中症!?」

穏乃「大丈夫ですか!?」


シズが飛び出す。

それに遅れまいと私も駆け出す。

あの人が誰だろうと、とりあえず助けるのが先決!


?「怜っ!」


私は、野生児のシズをも上回る速さで倒れた少女に駆け寄る、一つの影を認識した。

先に駆け出したシズと、その影が目標にたどり着いたのはほぼ同時。


?「だいじょうぶ!?」

穏乃「ふぉ!?」


自分の後ろから自分以上の速さで駆けつける存在が居るとは思ってもいなかったであろうシズが、驚きを声に出す。

倒れた少女は、知り合いだからか、それとも先にたどり着いたからか、シズではなく謎の影の方に振り返った。


?「竜華…また、ごめんな…」ハアハア


とりあえず、意識もあるし、しゃべる余裕もあるみたいだ。

それを確認して、竜華と呼ばれた少女も落ち着いたらしい。

休める場所を探そうとしたのだろうか、彼女は周囲を見渡した。

そして、私たちに気付く。


竜華?「あ………」


なんとなく気まずい。

まあ、知り合いが助けたなら、赤の他人は退散しましょうかね…ん?


?「」ジー


倒れた少女が、なんか見てる?

視線の先は…


穏乃「?」モグ


―――シズの、ホットドッグ?


結局、ホットドッグの売店まで付き添った。

で、一緒にホットドッグを食べている。

ちなみに、倒れた方は園城寺怜、助けた方は清水谷竜華という名前らしい。

……何故か聞き覚えがある気がする。

私たち三人も名前を名乗って、これで、私たち五人は立派な知り合いとなった


怜「おいしいな」

竜華「うん」


なんとなく二人の世界が作られている気がする。


穏乃「もう体調の方は…」モキュモキュ

憧「食べながら喋るなってーの」

竜華「ああ、お騒がしてごめんな」

怜「ウチ、ちょっと病弱で…」

竜華「そのアピールやめ…っ」


大したことがないなら、それにこしたことはない。


玄「そういえば、なんで制服なんですか?」

竜華「ああこれ? 学校の部活で移動中やから。そっちこそ制服やん?」


学校の部活で移動中―――それは予想通り。

ただ、病弱な人間が出られる部活となると、運動部ではなさそう。

関西弁なので、おそらく大阪代表。

大阪代表が浜名湖PAを利用するなら、多分、行き先は東京…

夏、東京、高校生の部活の大会で…文化系。

九分九厘、間違いない。


憧「え……まさか……」


私の「まさか」は、疑問の形をしながらも確信を伴って口から出て行く


?「トキー、バスモウスグデルデー」ブンブン


こちらに向かって「怜」、と呼びかけた男性の胸には、千里山の文字。

聞き覚えのある名前のはずだわ。


清水谷竜華


平均獲得素点は関西随一。

順位点がない今年の団体戦ルールにおいて、関西最強のプレイヤー。

北大阪のMVP。


竜華「いかんと…楽しかったで」スッ

怜「ほな」フラー


…まあ、トーナメントで当たるまでは、敵じゃないからね。

シズや玄と一緒に笑顔でお別れをする。


晴絵「こんなところに居たのか」

玄「赤土さん」


…なぜかハルエにくっついてる灼がドヤ顔してるけど、車で寝てる宥姉以外の全員が集合した。


晴絵「ん? あれ、千里山じゃないか?」

穏乃「千里山?」


制服で分かるのか。晴絵って意外とすごい?


灼「向こうの方にバス4台あって、あの制服でいっぱいだった」


……前言撤回。


灼「全国ランキング、第3位」

憧「インターハイは、残念ながら姫松とともにノーシード」

晴絵「だが、激戦区大阪を代表する双璧、北の雄。春季大会では姫松に勝っている」

玄「あれが、千里山女子……」

晴絵「そう、関西最強の高校だ」


千里山と出会った。

だからと言って、何が変わるわけでもない。

関西最強と言われる打ち手も、普通の優しくて面倒見がいい女の子だってことが分かっただけ。

ホテルに着く少し前に、宥姉が起きた。


宥「……むにゃ?」

憧「宥姉、おはよ。そろそろ着くみたいだよ」

宥「…高いビルがいっぱいだね」

玄「なのです」


ホテルに到着。

着いたと同時に、10日間の滞在を前提とした重たい荷物をドスンと音を立てて放り投げる。

部屋は、思ったより狭かった。

てゆうか、ベッドも二つしかない。

これから10日間過ごす部屋なんだから、もうちょっといい部屋取ろうよハルエ…


晴絵「デラックスツインを3部屋取ってある」フフン

憧「うわ、贅沢!!」


え、マジで!?

これ、二人部屋!?

てっきり六人で泊まるもんだと思ったわ。

ちょっと我慢すれば普通に6人泊まれる広さだし。

ヤバい、テンション上がるわ。


晴絵「部屋割り決めてちゃっちゃと休みましょう」

「「「「「はーい」」」」」


まあ、灼はハルエにべったりだし、玄と宥姉は確実に相部屋を希望するし……

そしたら当然こうなるよね。


穏乃「憧、よろしく!」


ま、シズのお守りはあたしの役目か。


お風呂に入って、部屋を見て回って、後は寝るだけ。

シズは思いっきりベッドに飛び込んで、寝る体制に入った。


寝る前に、少しだけ、話でもしておこう。


憧「ついに来たね、東京…全国大会」

穏乃「うん…」


眠いのか、それとも、私の言葉を噛みしめているのか。

シズにしては珍しく、声が小さい。


憧「和に……会いに行く?」

穏乃「いや、向こうが来ないならこっちも行かない」


理由は、多分なんも考えてないんだろうな。聞くだけ無駄か。


憧「まず、清澄と戦ってみたいね―――」


【翌日】


六人並んで会場に向かう

今日は開会式と抽選だけとはいえ、インターハイが始まると思うと気合が入る


晴絵「じゃあ灼、抽選お願いね」

灼「はい」


穏乃・憧「ぶちかませー!!」

玄「灼ちゃん、ファイト!」


灼「ただの抽選に大げさな…」


宥「そういえば、なんで灼ちゃんが部長なんですか?」

晴絵「お? 唯一の三年生としては不満か?」

宥「いえ、むしろ私は壇上で抽選とか無理なのでありがたいですけど…」

晴絵「チームで一番しっかりしてるのが灼だからね」


宥「…………」ナットク


晴絵「じゃあ、うちらは観客席に行こう」


穏乃「なー。もしぐーぜん和に会っちゃったらどーする?」

憧「それはもう仕方ないんじゃない?」

穏乃「うーん…会っちゃうかもなー」

憧「ホントは早く会いたいからね」


晴絵「!」


咲「…多分こっち」

照「私の直感もこっちだと言っている」

和「麻雀以外では照さんと咲さんの勘は信用できないのですが……」

優希「照さんと咲ちゃんを探して私たちまで迷うとは……不覚だじょ」

和「案内板さえ……いえ、手段は何でもいいので現在地さえわかれば、後は何とかなります。何としても、部長の順番までには観客席に戻らないと……」


ゾ ワ ッ 


穏乃「え…何…ひっ!?」ビクッ

憧「なにこれ……冗談でしょ?」ガクガク

晴絵「…」ガタガタ

玄「あ…う…」パクパク



咲「……抽選よりも、乙女の貞操の方が大事だよ」ゴゴゴ

照「……全くもってその通り」ゴゴゴ

和「あまり周囲を威圧しないでください……現在地さえわかればお手洗いも何とかなります。とにかく早く戻らないと……」ゴゴゴ

優希「のどちゃんも迷子でイライラしてるみたいだじょ……」



穏乃「あの制服……清澄……」

憧「なんなのよ、あれ…ていうか、もしかしなくてもさっきの、和…」

玄「そ、それどころじゃありませんでした……息が出来なかった」

宥「……」ブルブル

晴絵「…」タラリ

穏乃「清澄高校……」

晴絵「和のやつも、とんでもない化け物に育ったもんだ。先生と呼ばれるのが辛いなこれは」


玄「あれが、宮永照――――」

穏乃「宮永……そうだ、宮永咲――――」


『――――私の、倒すべき相手』


更新が遅れて申し訳ありませんでした、今回はここまでです。
次回は五日後、日曜日の予定です。


もしかして咲の逆行SS書いたことある?

>>761 ないです。SSは1スレを除いてすべてこの酉で書いてます。

今週分投下します。


まこ「おう、ようやく来たか」

和「すみません。当てもなくこの広い会場を探していたら流石に迷ってしまって…」

優希「のどちゃんが居なかったらミイラ取りがミイラだったじょ」

咲「ごめんなさい」

照「…会場が悪い。もっとシンプルな構造にすべき」

京太郎「いや、あんたらが離れなければいいだけだから…トイレに行くときは誰かを呼べって部長に言われたでしょう?」

照「私は咲を呼んだ」

咲「私はお姉ちゃんを呼んだ」

まこ「それに何の意味があるんじゃダアホ!」

照「三人寄れば文殊の知恵」

和「せめて三人揃えてから言ってください」

まこ「もう抽選は始まっとるから、座っときんさい」


『南大阪姫松高校、38番!!!これは―――!!』


ザワザワ…マジカヨ

ザワザワ…モッタイネエ

ザワザワ…ウチラ サイアクノ ブロック ジャン


『33番の千里山高校と同ブロックに、南大阪の姫松高校!!!大阪の両雄が、二回戦で早くも激突だー!!!!』


京太郎「凄い騒がれようですね…」

まこ「そりゃあのう、姫松やら千里山がノーシードっちゅうのがまずおかしいんじゃ」

咲「激戦区大阪を毎年制覇してくる関西の双璧、でしたっけ?」

まこ「そうじゃ。去年は白糸台と永水が大活躍しちょったけえ今年はシードから漏れよったが、例年なら姫松と千里山と臨海の三校はシード確定。残り一枠も大抵は新道寺じゃの」

咲「例年ならシードになる三校が、同じブロックに固まった……」

照「三校が固まったけど、麻雀は四人で打つもの。そして団体戦は四校で打つもの」

咲「……まだ空いてるね、27から39までの13個の枠で一つだけ、29が残ってる」

まこ「引くところはご愁傷様じゃの。ここからは、誰もがあそこだけは引かんように祈りながら抽選くじを引くじゃろ」

照「普通なら嫌だろうね。誰もが、かどうかは知らないけど」

優希「次はいよいよ部長の番だじぇ!」

和「ギリギリでしたね。間に合って良かった……」


『さあ、第3シードの新道寺と大阪の両雄が二回戦で激突する激戦のブロックが出来上がりましたが、まだまだ抽選は続きます!!』


咲「うわ、すっごく悪そうな笑顔」

まこ「あいつまさか……引くなよ、絶対に引くなよ!?」

照「それは、引けってこと?」

和「まあ、どこが相手だろうと関係ないですが……くじなんて狙って引けるものでもないですし」

優希「決めたみたいだじぇ!」

京太郎「掲げる前にめっちゃ見てる、嫌な予感しかしねえ…」


『29番―――――!!!!! 激戦の第三ブロック、最後の一枚は長野代表、清澄高校が引き当てた―――!!!!』


久「二回戦、よろしくね」

洋榎「…えらい自信やな? あんたんとこ、一回戦にも真嘉比とかおるで?」

久「いやー、引けて良かったわ。アタリが一枚しかないとかケチ臭いわよね」

竜華「引きたかったん? わざわざ二回戦負けしに来るなんて物好きやな」

洋榎「いやいや、どうせ負けるなら名門姫松に負けて終わりたいって、その気持ちは分かるでー」

久「ちょっと違うわね。どうせ優勝するんだから、道中は豪華な方がいいじゃない」

洋榎「ほお……?」ピク

竜華「ええ度胸やな、口だけじゃなきゃええけど」

久「一回戦で、口だけかどうかぐらいは見せられると思うわ。清澄高校、名前ぐらいは覚えておいてね」


まこ「おい、なんか壇上でやっとるぞ?」

咲「多分、二回戦の挨拶をしに行ったんですね」

照「挨拶っていうか、喧嘩売ってるんだと思うけど。竹井さん、浮かれすぎ……」

和「誰が相手でも、やることは同じです。むしろ二回戦の相手が予想しやすい分だけ、やりやすいですね」

京太郎「姫松が引いたとき並みのざわめきですね…」

まこ「そりゃ、誰もあんなブロック引きたくないからの。貧乏くじ引いてくれたらざわつきもするわ」

優希「次のところはちっともざわつきが起きないじょ」


透華「あら羨ましい。目立ちまくりですわね」

ゆみ「悪目立ちだと思うが……しかし、狙っていた節があるな」

智美「狙ってたに決まってるだろー。久だぞー?」

美穂子「壇上で姫松と千里山に話しかけてますね」

純「喧嘩売りに行ったんだろ」

一「愛宕さんと清水谷さんの雰囲気が変わったし、間違いないね」

ゆみ「あの馬鹿……これで負けたら大恥だぞ」

衣「どうやって負けると言うのだ。清澄だぞ?」

モモ「反論できないっすね」

智紀「次鋒で飛ばすしかない。ただし、出来るチームがあるとは思えない」

星夏「あるとしたら鶴賀ですね」

佳織「む、無理ですよぉ……先鋒でヘコんでれば分かりませんけど」

透華「先鋒は……どんな強力なエースを置いていても、あのエース殺しが先鋒ですからね」

美穂子「エース殺し……言い得て妙ですね」

睦月「うむ」

純「荒川とか神代ならどうにか出来るかもしれねえけど、それは決勝までお預けだしなあ……」


『予選を勝ち抜いた52校のうち、去年のインハイや春季大会の成績から選ばれた上位四校がシードになるんだよねい』

『どれほど強豪と言われようと、シードから漏れれば抽選によってブロックが決まります。今回はシードを逃した強豪が一つのブロックに偏りました』

『偏った……言われてみれば真嘉比も第三ブロックだねい。しかし、姫松と千里山が二回戦でねー』

『そうですね……厳しいブロックになりました』

『新道寺、姫松、千里山、番狂わせはあるかもしれねーけど、順当に行くとこの中から一校か……』

『いずれも優勝の期待もかかる強豪です。くじとは恐ろしいですね』

『ま、それはそれとして、Aブロックだけど…』

『第一シードの白糸台と第四シードの永水女子は当然として、他に注目校はどこでしょう?』

『ん~、伏兵が出てくる予感がするけど、よくわかんねー』


【翌日 インターハイ二日目 阿知賀、レジェンド・灼部屋】


晴絵「もう見てると思うけど……昨日の抽選の結果」


バサッと音を立てて、六枚の紙がテーブルに投げ置かれる
もちろん私は目を通しているし、多分玄も既に目を通しているだろう。
灼も流石に見てるよね?
となると、見てなさそうなのはシズと宥姉ぐらいか。

にしても、宥姉を見てると今が真夏だって忘れそうになる。
なんで25度を超えてる室内で防寒具フル装備で毛布にくるまってるのだろうか?

いやまあ、宥姉だからそれが当たり前なんだけど。


穏乃「これ―――清澄って完全に逆側!」


こいつは…やっぱり見てなかったのか。
まあ、シズだから仕方ない。
宥姉が室温30度に設定した部屋で毛布にくるまってるのと同じで、仕方ないことなのだ。

ちなみに宥姉、さりげなくエアコンの設定温度上げたの、気付いてるからね?


憧「そうだよ、だから決勝まで行かないとねって言ったでしょ?」

穏乃「でも、これじゃ、和のチームと戦う前に……とんでもないのとあたる――――!!!」

晴絵「白糸台高校、下馬評では日本で一番強い高校だな」

憧「下馬評で言ったら、どうせ決勝までに四番以内のどこかに勝たなきゃいけないんだけどね」

灼「むしろ、決勝まで行くつもりなら一番と四番が居るこっち側の方が、倒すのが四番目でいい分マシだと思……」

晴絵「下馬評関係なく、目下最有力候補と目される清澄が逆側で、千里山や姫松まで引き受けてくれるんだからこっち側は楽な方さ」

玄「でも、永水女子と白糸台が居ます」

灼「あの天江さんと同格と言われる、荒川憩と神代小蒔…」

穏乃「うちらが誰も勝てなかった天江さん……それと同じぐらい強い人に勝たないといけない…」

宥「」ガクガクガク


晴絵「ま、暗くなってもしょうがない。気持ちで負けたら来る牌まで弱くなる」

灼「はるちゃんの言うとおり…」

晴絵「まずは、最初のタスク一つずつ!一回戦の相手の地区予選の映像を見るよ」


――

『変だけど、これで』

『彼女は、理想の牌譜を、卓上に描き出す―――』

『シロ達が作ったリード、大切に守らないとね』

『そこで磔になっているがいいさ、副将戦が終わるまでね』

『追っかけるけどー』

――

咲「…今日一回戦を打った12校の中で、宮守だけ頭一つ抜けてるね」

久「そうねえ……ここが上がって来るなら、私が一番動きやすいかしら?」

照「先鋒は手ごわい、副将は……原村さんには関係ないんじゃないかな?」

京太郎「大将のあれは能力なのか? 後手リーチで必ず先手リーチに自らの和了牌を掴ませる……リーチしてるからどうしようもねえし」

咲「それだけならリーチしなければ大丈夫だけど、多分それだけじゃないね。決勝までには残りの手札も見せてくれると思うけど」

優希「次鋒は大丈夫なのか?」

咲・照・久「多分まこ(染谷先輩・染谷さん)とは相性が良いから大丈夫」

まこ「えらい信頼されようじゃの。ま、あんたらがそういうなら大丈夫か」

和「それにしても、上がって来るかもわからない相手までチェックするんですか?」

咲「宮守は準決勝までは確実に上がって来るだろうからね。これ相手にどういう立ち回りをするかを見られるから、見ておけば必ず決勝の相手の参考になるよ」

照「明日も、これぐらい図抜けたチームがあると良いけど」

久「そうあってほしいわね。上がってくる見込みのないところを観戦しても無駄だもの」


和「…明日の組み合わせを見る限り、注目校はありますか?」

久「個人で昨年14位の寺崎さんが居る射水総合と、激戦区兵庫の代表の剱谷ぐらいかしら」

咲「射水総合の相手……阿知賀と讃甘と裏磐梯は、どんな高校ですか?」

久「聞いたことないわね、無名校よ。無名でも鶴賀みたいなのも居るから油断は出来ないけどね」

和「ん?」

優希「どうした、のどちゃん?」

和「……奈良代表で、阿知賀?」

照「そう書いてあるね。何かあるの?」

和「まさか……いえ、阿知賀に麻雀部はないはず、だとすると、作ったとしか…」

咲「原村さん?」

和「阿知賀のメンバーは!?」

久「あらあら、なにかあるのかしら? えーっと、あったあった、先鋒から順に読み上げるわよー」

和「お願いします」

久「松実玄、松実宥、新子憧、鷺森灼、高鴨穏乃…補欠はいないわね」

和「やっぱり穏乃……」

咲「知り合い、かな?」

照「だろうね」

和「私の、奈良に居た頃の友人です……阿知賀は中高一貫で、私も通っていました。麻雀部は廃部になっていたはずなのに……」

まこ「奈良っちゅうと、晩成が有名じゃのう。少なくともあそこには勝ったんか」

久「麻雀部すらなかったところが、例年代表になっている名門を退けたってことか……で、和の知り合い? 期待できそうね」


【翌日 インターハイ三日目】


晴絵「さあ、出陣だ!新生阿知賀の全国初お披露目、派手にかましてくれ!」

穏乃「頑張って下さい!」

灼「気合で」

宥「わわ…玄ちゃん頑張って」

憧「ま、下手打ってもあたしらが取り返すから、気楽にね」


玄「お任せあれ!!」


【清澄宿舎】


久「んー、流石個人14位、面白いように手が伸びるわね」

咲「団体戦にしか出てない衣ちゃんみたいな人も居ますけど、そういうのを考慮しなければ全国で14番目の打ち手ですからね」

まこ「去年の14位じゃけえ、上位の三年が引退したから今の順位は一桁じゃろ」

咲「そうなると、福路さんぐらいかな?」

照「全国で一桁なんだから、もう少し上でしょ?」

久「長野を基準にしちゃダメよ。長野の五位を全国大会に出したら四位ってことがあり得るもの」

咲「長野の12位が全国1位なのは揺るぎない事実ですからね」

久「全く持ってその通り」

照「また二人して買いかぶる…」

咲「長野の12位が全国1位なのは私が証明するから安心して」

照「全く安心できない。咲は本当に優勝しそうだからむしろ不安」


『ツモ、16000オール』


咲「…え?」

照「うわ、寺崎さんに気をとられてる間にこんな手に……」

久「…和、あんたの知り合い、とんでもないわね。何よこれ?」

和「確かにそういう傾向はありましたけど、こども麻雀クラブの頃はここまで酷くなかったと思うのですが……」


【同時刻 永水女子宿泊施設】


霞「阿知賀女子、ねえ」

初美「あの晩成を倒して来たところですよー」

春「小走やえ…」

巴「ああ、あのドリル髪の…」

初美「なかなかでしたねー、二度寝で神様が変わったのに即座に対応したのは敵ながら見事でしたよー」

巴「あれが抑えられなかったのがこの先鋒だとすると、この三校じゃ厳しいかな…」

春「なぜ?」

初美「射水総合の寺崎は去年の個人14位ですよー、大抵のものはどうにかするはずですー」

巴「…あのドリル髪は、当たりが悪くなければもっと上に行けたはずだから。
  姫様が最強の神様を降ろしてる上に二度寝した時に同卓したり、荒川と辻垣内の斬り合いに巻き込まれたりしてた。
  銘苅と当った時も他二人が完全デジタルで打つだけで実質銘苅のサポート要員だった、あれはくじ運がないだけで実力は全国でもトップクラス」

初美「それが抑えられなかったなら、寺崎には無理と…そう考えると確かに厳しいですかねー」


小蒔「人の可能性を侮ってはいけませんよ」


巴「姫様…」

小蒔「たとえ力が及ばない相手でも、他家と手を組み、工夫を凝らせば勝機はあります。鹿児島で、私たちはそうして苦しめられたのではありませんか?」

霞「その通りね、人は予想を超えてくる。一度しかないインターハイの舞台なら、なおさら」

小蒔「きっと、どんな相手でも諦めずに勝機を探れば打つ手はあります。全国では私たちもまた挑戦者、力の差がそのまま勝敗にはならないと信じましょう」


『ロン! 24600です!』


巴「…でも、先鋒で裏磐梯が飛びそうだけど」

霞「巴、空気を読みなさい?」ニッコリ


久「向こうの準決勝のカードは大体決まったわね。白糸台、宮守、阿知賀、永水。二回戦に番狂わせの要素はないでしょ」

照「じゃあ、明日の私たちの相手のチェックに移ろうか」

咲「注目は、昨年度個人四位の銘苅さんが居る真嘉比だっけ?」

久「副将ね。先鋒なら照をぶつけられるのに」

和「副将ということは、私の相手ですか」

久「ん? 和と当たることはないわよ」

咲「…せめて中堅の相手を見てから言いましょうよ、そういうセリフは」

まこ「いや、副将なら和とあたるじゃろ?」

照「……中堅で飛ばせば当らない」

優希「いやいや、10万点持ちで飛ばすとか、照さんと咲ちゃんと部長と龍門渕の大将と鶴賀の次鋒ぐらいしか出来ないじょ」

京太郎「出来る奴で1チーム組めたな」

まこ「しかもそのうち三人がうちにおるな」

照「これだから長野は…」

まこ「出来る奴の筆頭が何を言うか!?」


和「…本気ですか?」

久「二回戦の相手に挨拶したときに、口だけかどうか一回戦の結果で見せてあげるって言っちゃったもの」

照「浮かれすぎ。まったくもう」

久「いやー、照が味方だと怖いもんなしよね。全国MVPの衣ですら負けを認めたぐらいだもの」

照「あれは……まあいいや、この話題で竹井さんに何を言っても無駄だし」

咲「うーん、どの高校も中堅は普通ですね……これは本当に私たちの出番ないかも」


【翌日 インターハイ四日目】


久「さ、出陣よ。万に一つも負けはないけど、気を緩め過ぎないでね」

咲「その発言が一番気が緩んでると思いますけど…」

透華「全くですわ」

まこ「おんしらはどこまでついてくる気じゃ、宿舎からここまでずっとついて来おって」

衣「無論、行けるところまでだ!」

照「高らかに宣言されても…」

ゆみ「やあ、にぎやかだな」

優希「あ、鶴賀だじぇ」

和「わざわざ見送りに?」

智美「見送りというか、観戦だなー。来ないわけがないだろ」

佳織「みなさん、頑張ってください!」

モモ「っす」

咲「部長によると、私たちの出番はないらしいけどね」

睦月「うむ?」

智紀「それはまた強気な…」

ゆみ「おいおい、長野中の人間が応援してるんだから、あんまり早く終わらせるなよ」

久「…へ?」


ゆみ「県予選の会場ではお前たちの試合を中継して応援するイベントが催されるし、街頭スクリーンにも大勢集まってるそうだ」

智美「現地に残った池田からの情報だぞー」

久「あらあら、大人気ねえ」

照「…緊張する」

咲「これは、宣言通り私の出番までに終わらせてもらわないと」

プルルルルル

まこ「なんか鳴っちょるぞ」

久「あら? 緊急用の携帯の方ね、何かしら? もしもしー、緊急じゃなきゃ怒るわよー?」

『あ、会長。えーっとですね……メール送ったんで、見てください。それじゃ』

久「切られちゃった……何かしら? 夏休みだし学生議会の話じゃないと思うんだけど」

ゆみ「じゃあ、私たちは観客席に行くよ」

衣「ゆみ! また後でな!」

智紀「衣、私たちも観客席に行く」

衣「ふえっ? ちょっと待てともき、衣はまだ一緒に…」

ゆみ「アホか、ここから先は関係者以外立ち入り禁止だ。行くぞ」

純「じゃあな、頑張れよ」

優希「おうっ! ノッポはせいぜい気合を入れて応援するがいいじぇ!」

純「お前は控えだろうが…」


京太郎「軽食と飲み物用意しました、足りなかったら言って下さい」

優希「タコスがないじぇ」

照「お菓子が少ない」

まこ「おんしらは……真っ先にそれかい。ありがとな京太郎」

京太郎「いえいえ、お安いご用ですって。お菓子はかさばるから先鋒戦の間に買って来る予定でした」

久「先鋒戦までの間に食べる量ぐらいはあるわね。ありがと、須賀君」

照「あ、そっか……私、先鋒だっけ。ごめん」

咲「…バナナが多いね」

京太郎「部長が対局前にバナナ食べるって言ってたからな」

咲「むー……私の好物は知ってるよね京ちゃん?」

京太郎「ちゃんとあるぞ」

咲「ホント!?」

京太郎「お前用に別の入れ物に入れて来た。俺に感謝しながら食え」

咲「……ありがとう」


久「あら、さっきの電話で言ってたやつ、動画だわ」


まこ「動画? なんじゃろうな」

久「さて、何かしら?みんなで見てくださいって書いてあるからモニターに繋ぐわね」


【少し前 清澄高校体育館前】


一太「準備は出来たかい?」

裕子「オーケーです」カメラモッテル

マホ「では、撮影開始です!」


一太「あー…実はですね、会長は応援団とか壮行会とか苦手って言ってましたけど」

マホ「もっとハキハキしゃべってください!」

一太「県予選の後、うちの生徒の父兄やOB・OG、地元の皆さんに清澄高校麻雀部のファンが増えてきてまして」

一太「清澄高校体育館を使って応援イベントをやることに決まりました。手続きは会長が東京に行ってから急いでやりました」

マホ「その後半の情報いらないです! カットで!」

裕子「なんでマホが仕切ってんのさ……編集してる時間ないからカットとかしないぞ」


一太「えー、中の様子はこんな感じです。現時点で約50名、試合開始までに倍以上に増えると思います」

マホ「カメラ引いて、全体を映してください」

裕子「やってるっての」

一太「では、集まっている方からの応援メッセージを頂戴したいと思います」

マホ「はーい、選手たちに応援メッセージを送りたい方、順番にこちらにどうぞー!」


ササヒナ「片岡さん、頑張ってね!」


おばちゃん「一つ勝つごとにおにぎり一個サービスね! 頑張るんだよー」


親父「次来たらタコスラーメンっての作っちゃるからな!」


マホ「マホ達もしゃべります! 副会長さん、カメラ代わって下さい」


裕子「あんた、こんだけ画面外からギャーギャー言っといて…まあ、私もしゃべりたいとは思ってたけど」

一太「はい、どうぞ」

マホ「みなさん頑張ってくださいです! マホ、応援してます!」

裕子「頑張ってください! 皆さんなら勝てると信じてます!」


【インハイ会場 清澄控室】


『みなさん頑張ってくださいです! マホ、応援してます!』


優希「ムロが完全に背景だじぇ…」

咲「マホちゃんしか映す気無いよねこれ……二人組なのにマホちゃんセンターでアップだし」

まこ「副会長のロリコン疑惑はマジじゃったか…」

久「……業が深いわね、内木君。優希、あなたも気をつけなさい」

優希「じょ?」


【清澄高校体育館】


モブA「宮永さん、頑張って下さい!」

モブB「妹さんも頑張ってねー!」

一太「ちなみに、男子の宮永さんファンクラブの面々は別会場で何かしてるみたいです」

マホ「というわけです! みんなで応援してますから頑張ってくださいです!」

一太「以上です。これ、緊急案件でいいですよね? 今からメールして電話かけます」


一太「最後に僕からも、会長、宮永さん、染谷さん、原村さん、妹さん、頑張ってください」


久「…ったく、負けられない理由はとっくに足りてるってのに」

まこ「照れ隠しなんかせんで素直に喜びゃええのに」

照「…負けられないね」

咲「負ける気は最初からないけどね」

和「…こんなにたくさんの方が、私たちの勝利を祝ってくれるんですね」

優希「のどちゃんまで勝ったつもりでいるじょ…」

和「あ、いえ、そういうわけでは…ただ、部の仲間以外に応援とか祝福をされるということが今までなかったので」

咲「……原村さん?」

和「勝ちましょう、絶対に」

久「当たり前でしょ。照が入ってくれた時から、私は優勝しか狙ってないのよ」


【数時間後 一回戦第8試合会場】


セーラ「ったく、ちまちまと千点や二千点を稼いで楽しいか?」

モブ「……南2局まで焼き鳥でいるよりは楽しいですよ」

セーラ「そっか、まあ、そらそうやな」

モブ(トラッシュトークに乗せられちゃダメ……今は、少しずつでも確実に差を詰めなきゃ)

セーラ「リーチ」

モブ「」ビクッ

モブ(親リーが入った、オリなきゃ……捨て牌からしてチャンタ系。タンヤオで手を進めてる以上、現物はいくらでもある) 

セーラ「ま、どう打とうと自由やけど、3900ぐらいならともかく、1000や2000を何回か和了ったところで――――」


――――18000和了られたら、一発でオジャンやで?


モブ「ひっ…!?」

セーラ「ツモ」パタン


112233s11999m東東 ツモ:東


セーラ「リーチ一発ツモ・チャンタ・東・一盃口。あ、すまん、18000って言うたけど裏乗ってもうたわ、8000オールや」

モブ「あ…ああ…」


【千里山女子 控室】


怜「おー、さっすがセーラ。親倍を和了ってから勢いに乗って、結局ぶっちぎりのトップや」ゴロゴロ

泉「園城寺先輩が作ったリードがどんどん広がりますね」

浩子「泉もきっちりリード広げてくれたしな。一年が仕事しとんのに元エースが差を詰められたら切腹もんや」

竜華「ま、セーラの心配はしとらんよ、それより……」


ダダダッ


セーラ「洋榎の奴の獲得点数は!?」

怜「まだ終わっとらんけど、いまんとこセーラの48600よりは多いなー」

セーラ「なんやて!? くそっ! 洋榎のやつ、振り込め! 振り込んでまえ!」

竜華「ちまちま鳴く奴が居て稼ぎにくかったから仕方ないやん。48600でも相当やで?」

セーラ「それでもあいつには負けたくないんや!」

浩子「ライバルがおるのはええことです。ただ、次はそうも言ってられませんわ」

セーラ「いやいや、次こそ直接対決やん!?」


浩子「ライバルとの勝負、とか言うてられんかもしれんってことです」


セーラ「……は?」

竜華「抽選で喧嘩売られたって話したやろ?」

セーラ「そんなこと言っとったな」

怜「その清澄なんやけどな、今、中堅だけで13万稼いどる。洋榎さんとセーラの点数を合わせたのより多いわ」

浩子「長野予選のデータから、清澄が強いのは分かってたんですけどね。ここまでとは…」


『直撃――――!!! 20400という珍しい点数での決着となりました! 激戦の第三ブロック、最初に二回戦に名乗りを上げたのは長野代表、清澄高校!!』

『清澄高校は、県予選では昨年度ベスト8の龍門渕に20万点近い大差をつけています。もしかしたら、二回戦第三試合で最も有力なのはこの清澄かもしれません』

『エースの原村と、予選で昨年度MVPの天江を大差で下した大将の宮永の二名を温存しての中堅での飛び終了―――!!! 清澄高校、その実力は未だ未知数―――――!!!!』


竜華「口だけじゃないってことやな。気合入れんと、ホンマに二回戦で消えることになりそうや」

今回はここまでです。次回は一週間後の予定です。

明日書き込む時間なさそうなので今日投下します。



穏乃「清澄……やっぱり強い」

憧「インターミドルチャンピオンの和と、妹尾さんがまず勝てないっていう大将、二人を温存して強豪真嘉比を飛ばすって、とんでもないわね」

玄「大将の宮永さんは、天江さんにも大差で勝ってます。やっぱり、まともにやって勝てる相手じゃ…」

宥「で、でも、清澄の対策より、今は…」

晴絵「そうだな、第四シードの永水女子だけじゃなく、埼玉代表の越谷女子、激戦区兵庫の代表 剱谷、いずれも強豪だ」

灼「まずは、目の前のタスク一つずつ…」

宥「次の相手の研究と対策、だね」


【インターハイ5日目】


恒子「さあ、さあさあ! ついにミスインターハイの登場だあああああ!!!! お前ら見逃すなああああ!!!」

健夜「今日から二回戦。シードの四校のうち二校が、ついに姿を見せることになります」

恒子「もちろん、うちの局は二回戦第一試合! 第一シードの白糸台を独占中継だあああああ!!!」

健夜「独占じゃないよ!? 理沙ちゃんのところでもやってるからね!?」

恒子「あれ? そうだっけ? てゆうか、他局の宣伝ですか小鍛治プロ?」

健夜「はっ!? しまった……って、こーこちゃんのせいでしょ!?」


【二回戦第二試合】


起家 小蒔「……よろしくお願いします」

南家 玄「よろしくお願いします」

西家 美幸「よろしくお願いするのよもー」

北家 ソフィア「よろしく」


東一局 ドラ:4m


玄(さて、この手…一つ前のツモが5索だったから…)


玄手牌

4444m5666s赤5赤5678p ツモ:6s


玄「うん、行けるはず…槓」

暗槓:4444m


ソフィア「げっ!?」

美幸「ドラ槓子!? 何なのそれもー!?」


56666s赤5赤5678p 暗槓:4444m 嶺上牌:赤5s 槓ドラ:6s


玄「…もう一つ槓」

暗槓:6666s


ソフィア(手の中の槓子にモロ乗りだと!?)

美幸(これ、一回戦と同じ……一回戦のあれはバカヅキじゃなくて実力ってこと? そんなの反則よもー!)


5赤5s赤5赤5678p 暗槓:6666s 4444m 嶺上牌:5s 槓ドラ2:5s


玄「嶺上開花、タンヤオ・三暗刻・ドラ14。8000、16000」

ソフィア(東パツから役満とかマジかよ、きちー……てゆうか、親かぶり喰らうのに役満を和了らせるとか、神代はなにやってんだ?)

小蒔「…」


東2局


玄(幸先良く役満スタート。けど、神代さんに動きが見えないのが怖い…)

小蒔「…」

美幸(阿知賀も化け物だけど、神代のマークは絶対はずせないのよもー)

ソフィア(くそっ、本当にドラが全部あいつのとこに行くのかよ……最悪だこの卓、下手すりゃ第三ブロックの方がマシだぞ!?)


小蒔「…ツモ。700・1300」パタン

2345678s456m東東東 ツモ:5s


玄(安い……けど、点差を気にせず安上がりというのは逆に怖い。何かを狙ってるに違いない……)


【同時刻 姫松宿舎】


漫「先輩、さっきの数え役満……」

恭子「予想通りやな。嶺上開花は偶然やと思いたいが、あの松実、手が窮屈そうやけど、それを苦にせんらしい」

絹恵「えっと……どういうことですか?」

洋榎「ドラ槓子も、手の中の槓子に槓ドラが乗ったのも偶然やない……ってことやろ?」

由子「手牌にドラが集まるって頭おかしいのよー」

恭子「今打ってるのも含めてデータがあるのが半荘7回、赤入りでこれだけ打って一度もドラが他家に入ってません。松実妹に『ドラ独占』の能力があるのは間違いないでしょう」

洋榎「で、それは槓ドラにも適用されるってことやな?」

郁乃「自分がドラ四枚集めて槓したら~、普通なら槓ドラが河の捨て牌とか他家の手牌とかに乗ってまうやん~? そしたら『独占』が崩れてまうけど~」

恭子「しかし、河に見えてない牌を集めておけば?」

由子「まさか、その牌が槓子になってモロ乗りするってことなのー?」

洋榎「奈良ではやってなかった打ち方やけど、全国来てから使い始めおったな」

絹恵「全国までの短い期間に成長したってことですか?」

恭子「無名の新設麻雀部。怖いのは、経験不足ゆえに成長も著しいということです。この分だと、上がって来たとしたらですけど、決勝までには、もう一つ二つ化けるかもしれませんね」

漫「うち、こんなん相手するの嫌ですよ…」


【晩成高校宿舎】


やえ「そう、今あるドラだけではなく、将来的にドラになる牌も奴に集まる」

紀子「つまり、後から対子や刻子になるように集まって来た牌や配牌で刻子になってる牌は、槓でドラになる可能性が高い」

由華「今までは、牌効率を気にして槓ドラになる牌を切ってしまっていたんですよね」

やえ「そうすると、手牌に四枚目のドラが来ない。来ても455556みたいな、絶対に槓しない形で来る」

良子「なんでだ?」

紀子「槓したら、捨てた牌に槓ドラが乗ってしまうから。槓をさせないように牌が集まる」

日菜「もう言ってることが無茶苦茶だよね。実際そうなるんだから仕方ないけど」

やえ「窮屈な手でも、奴ならドラである限り確実に槓子にしてツモれるから関係ない。ミスをしなければ奴の手は高確率で三暗刻以上の対子手になる」

良子「それにドラ4だのドラ8だのが乗るんだろ? 最悪すぎる…」

やえ「実験では、赤抜きだと最低でも三暗刻三槓子のドラ12にはなったな。赤ドラは、奴にとっては邪魔者になる」

由華「ドラを集める能力だからドラが増えた方が有利かと思いましたけど、ドラが少ない方が強いっていうのは意外な結果でしたね」

やえ「潜在的な槓ドラまで集めるからな、赤まで入ると手牌に収まりきらないんだ」

紀子「松実さんにとっての最善はドラだけで構成された四暗刻四槓子。赤ドラを使うと赤を使った順子の分だけ手が窮屈になる」

良子「なにその青天井でやったら絶対勝ちそうな悪魔」

紀子「実際、赤無しの青天井ルールであれに勝つのは困難。小鍛治健夜や三尋木咏みたいな松実に火力で対抗しうる化け物でもない限り、焼き鳥にする以外に勝ち方はない」

やえ「といっても、今打ってるのは通常のルールな上に松実に不利な赤入りだ。そして、あの場には赤無し青天井でも松実に対抗しうるカードがある」


小蒔「ツモ、面前ツモ・タンヤオ・一盃口。2000オール」


445566m333s2366p ツモ:4p


美幸(止めらんないのよもー!)

ソフィア(無理に止めようとして場を長引かせたら阿知賀の方が暴れ出す…本当に最悪だ、この卓)

玄(うう…リードがじわじわと削られていく……やっぱり、強い。けど、妹尾さんや天江さんに比べたら、噂ほどじゃ…)


霞「今降ろしているのは、何番目だったかしら?」

巴「6番目です。今が6、準決勝で7、決勝で8、どこかで二度寝したら9番目の神様が出ます」

初美「今日は二度寝しないでほしいですねー、二試合で二度寝すると一周してしまいますよー」

春「流石に二回戦で使いたくはない」ポリポリ

霞「阿知賀の子、勘違いしなければいいけど」

巴「勘違い?」

霞「神代小蒔、噂ほどではない……なんて考えたら、準決勝で出てくる7番目の神様の餌食になるだけだもの。あの子の能力だと特にね」

初美「そうですねー。見たところ相当強力な能力ですが所詮人間、神様に勝てるはずがないんですよー」

巴「確か、七番目の神様は……」

霞「ふふ、どんな顔するかしら? 楽しみねえ…」


美幸「な、なんとか終わったのよもー」

ソフィア「しんどいなんてもんじゃねー……」

玄「ありがとうございました」ペコリ

小蒔「…はっ!? すみません、眠ってしまっていました。お疲れ様でした!」


先鋒戦終了

永水女子  132600
阿知賀女子 158200
越谷女子   59000
剱谷     50200


【阿知賀控室】


晴絵「宥、分かってると思うけど…」

宥「は、はい!」

晴絵「最初は永水の出方を探る、向こうが乗ってきそうなら協力して流すが、こちらを脅威と見てここで潰しに来るかもしれないからな」

憧「越谷と剱谷はもう既に高い手狙わないといけない苦しい点差になってる。当然狙ってくるだろうから警戒してね」

晴絵「と言ってもこの点差だ、無茶をしなければ滅多なことはない。気負いすぎないように」

灼「宥さんなら問題ないと思……がんば」

穏乃「景気よくぶちかまして来てください!」

晴絵「頼むぞ、宥」

宥「はいっ!」


【同時刻 二回戦第一試合会場】


憩「小瀬川さん、面白い麻雀打ちますね。また打ちましょ、うち、小瀬川さんの麻雀好きですわ」

白望「準決でどうせ打つ、荒川さんとまた打つとか、だるい…」

憩「次はちゃんと本気で打ってもらいますよーぅ? 手の内隠しとるんは分かってますから」

白望「買いかぶられても困るなあ……次は神代さんもいるだろうし、本当にだる……」

憩「あー、それは分かりますわ。あの人と打つんは楽しみやけど、それ以上にしんどいからなあ……」


菫「憩、お疲れ」

憩「あ、菫さん。きっちり『エースの仕事』しましたよーぅ」

白望「エースの仕事、半荘一回につき二位と五万点差ってやつか……だる……」


先鋒戦終了

白糸台 213800
宮守  105100
苅安賀  47400
鬼籠野  33700


【新道寺宿舎】


哩「向こうの準決のカード、大体決まりやね」

美子「どっちも先鋒終わった時点で二位と三位の差が取り返しのつかんことになっちょるばい」

仁美「阿知賀の先鋒が暴れよったね、神代に勝つっちゅうのはなかなかばい」

姫子「というか、神代が大人しすぎっと。あいつはあんなもんじゃなか」

哩「阿知賀の値踏みをしたんやろ。なんかあっても後ろに薄墨や石戸もおるけん」

美子「一回戦から目立っちょったね、阿知賀は。先鋒で飛ばしたから次鋒以降のデータも地区大会の分しかなかけん、探りを入れたい気持ちはわかる」

仁美「先鋒は全国に来てから打ち方が進化しちょるから、次鋒以降も地区大会のデータは当てに出来んけんね」

姫子「そんなもんですか…」

哩「ま、当るのは決勝やけん、今から神経質になってもしかたなか。しかし……」

仁美「二試合とも先鋒で勝負が決まりよったし、先鋒の責任重大やね」


煌「はて、果たしてご期待に添えられるかどうか……何はともあれ、明日の二回戦ですね」


姫子「千里山……シード常連で、うちと同格以上と目される強豪やね」

美子「姫松も例年ならシードを争う強豪やね。うちの二回戦ば決勝っちゃ言われてもみんな信じよるぐらいの好カードばい」

哩「そして、それ以上に気をつけんといけんのは……龍門渕を退けて出て来た――」

煌「――清澄高校。いやはや、和もとんでもないところに入ってくれたものです」


『決まった―――!!!!! 弘世菫が満貫直撃で鬼籠野を飛ばしたああああああ!!!』

『昨年に続き、荒川・弘世のコンビは健在ですね。荒川選手が盤石なトップを築き、弘世選手が最下位を徹底的に狙う』

『安全圏から弱ったものをいたぶる行為に小鍛治プロのダメ出しが入りました!!!』

『ダメ出しじゃないよ!? そうやって盤石なトップとトビが近い最下位に手を縛られると他校が非常に打ちにくい、とても良いコンビです』

『それはまたなんで?』

『最下位のトビが見えると、迂闊にツモ和了りが出来ませんからね。三位は言わずもがな、二位も、三位との点差次第では自分の首を絞めかねない』

『トバしながら逆転でジ・エンドってこともあるからね。で、四位は?』

『徹底的に狙われて大差をつけられているので、高い手を狙うしかなくなります。本人たちが打ちにくいのはもちろんですが、二位・三位はそれも警戒して立ち回らなければなりません』

『あ、そうか、大きいの狙ってるところに振り込んだりして一発もらったら、いきなり奈落の底ってわけだ』

『そう。特に三位は、二位との点差が開くと二位と白糸台が協力して四位を狙う展開もあり得るので、万が一にも高い手の直撃は受けられない。
  次鋒が終わった時点の順位がそれ以降の各区間の結果や最終結果と一致してしまうほどに、それぞれの打ち方に制限が付きます』

『聞けば聞くほど嫌な展開……』

『それを、去年の白糸台はやってみせました。だからこそ、今年はほとんどのチームがその展開を避けるためにエースを先鋒にオーダーしています。
  それまではエースを大将に据えるオーダーもかなりありましたが、今年は軒並みエースを先鋒で起用しています。
  そうでないのは、52校のうちでは、姫松、新道寺、真嘉比の三校ぐらいでしょう。昨年の大会で、彼女たちはそれだけの猛威を振るいました』

『うっは、全国のオーダーを変えちゃうぐらいの影響力?』

『はい。あのコンビは、それほどの脅威です。この全国大会の二回戦でも、その力を存分に見せつけました』


晴絵「全く、向こうは派手に暴れてるみたいだな、第一試合、もう終わったってよ」

憧「はあ!? まだ昼休憩前だよ!? 次鋒で飛ばしたってこと!?」

灼「妹尾さんでもない限りそんなの無理だと思……」

玄「妹尾さんに出来るなら出来るのです。妹尾さんどころか、天江さん並みと言われる怪物が居ますから」

穏乃「……そうか、白糸台高校―――!!」

憧「――荒川憩と弘世菫か。と言っても、弘世菫にはそこまでの得点力はなかったはず。てことは、先鋒が終わった時点で最下位がトビ寸前だったのかな?」


『ツモ、8000オール』


晴絵「人のことは言えないな。この分だと、こっちも次鋒で終わりか」

玄「高目をツモってしまったら仕方ないのです。二位でいいと思ってるのか、永水も止める気がなさそうですし」

憧「あたしの全国デビューはいつになるのよ? 全国来てから玄と宥姉しか打ってないじゃん」


【夕刻】


「「「「「ベスト8おめでとー!!!」」」」」


憧「オトナの味だねー!」

灼「麦茶だけど…」

穏乃「夏の冷えた一杯は格別!!」

玄「はい、おねーちゃんはホットなのです」

宥「ありがとー玄ちゃん」

穏乃「永水女子相手にまさかのトップ通過ですね!! さっすが玄さんと宥さん!」

玄「うん、神代さんも思ったよりはなんとかなる感じだったし、これなら荒川さんもなんとかなっちゃうかも!!」

宥「玄ちゃんは凄いねー、私も鼻が高いよぉ」


『浮かれるのもほどほどにしないと、明後日が辛いよ』


玄「」ビクッ

晴絵「お前たち、今、鶴賀とやったら勝てるか? 龍門渕は? 二校同時なら?」

憧「…キツイね。先鋒で玄が飛ばしてくれるのが唯一の勝ちパターンかな」

灼「井上さん相手じゃそれは無理だと思……」


晴絵「忘れるな、荒川はあの天江衣と同格と言われる選手だ。神代も、今日は明らかに手加減していた」

穏乃「で、でも、玄さんと互角に渡り合ってましたよ!?」

憧「そうだよ、あれで手加減してるって? 多少は余力を残してるかもしれないけど……」

晴絵「手加減した天江が、玄と互角に渡り合えないと思うか? 小走でも玄相手にあれぐらいの立ち回りは出来るだろ?」

玄「あ……」

憧「確か……やえは、荒川憩と神代小蒔はヒトじゃないって……」

晴絵「そういうことだ。もう一度聞くが、今のお前たちに、妹尾に勝てる奴はいるか?」

宥「…」フルフル


晴絵「永水と白糸台は龍門渕より格上と言われている。だとすれば、鶴賀と龍門渕を同時に相手にするより厳しい戦いになる。真正面からぶつかれば良くて絶望的……はっきり言えば―――【論外】」


憧「…」

晴絵「派手な勝ち方をしたせいで、うちらを侮ってくれる可能性も薄まった。状況はかなり悪い」

穏乃「…」

晴絵「私は少し用事があって外に出てくる、みんなはルームサービスでもとってしっかり休んでおくこと」


憧「ハルエ、なんっかピリピリこいてたね……」

宥「うう……私が調子に乗って次鋒で飛ばしちゃったから警戒されちゃったのかな……それで怒ってる?」

灼「過ぎたことは言ってもしかたな……」

玄「次は、『準決勝』だから、赤土先生がピリピリするのは仕方ないよ……それに、そんなこと言ったらおねえちゃんより私の方が……」

穏乃「うぅ~……」

玄「穏乃ちゃん?」

穏乃「ラーメン食べたい! ラーメン!!!」


憧「…は?」

穏乃「赤土先生ルームサービスとれって言ってたじゃん! ラーメン食べたい!!」

玄「メニューにはないね」

宥「もしあっても、ホテルのラーメンは穏乃ちゃんの食べたがってるラーメンとは違うと思う……」

憧「……暗くなってても仕方ないからね、食べに行こうか?」

灼「でも、ハルちゃんはルームサービスとれって……」

憧「『ルームサービスでも取ってしっかり休め』って言ってたでしょ、限定されてるわけじゃないし、ラーメン食べた方が休めるやつがいるんだからいいんじゃない?」

灼「……確かに」

玄「じゃあ、外に食べに行こうか」

穏乃「やったー! ラーメンだ――!!!」


【とある屋台】


智紀「…北海道でラーメンを主食としていた私を満足させるとは、なかなか」

親父「おうよ! どんなもんだい!」

智美「ばーちゃんのおすすめだぞー、うまいだろー」ワハハ

ゆみ「……これは美味いな。臭みがない、だが淡白な味でもない、濃厚かつ複雑な……」

佳織「チャーシューもとろけるみたいな触感で、すごく美味しいよ智美ちゃん!」

睦月「うむ! うむ!」ズルズル

桃子「これは大当たりっすね。屋台でこのレベルの当たりを引けるとは思わなかったっす」


『ここが通のみぞ知る名店らしいよ』

『おおー! すごくおいしそうなにおいがする!』

『これは期待できるね』

『屋台、あったかそう…』

『確かにいい匂…』


ゆみ「…聞き覚えのある声だな」

智紀「わたしの記憶にも、こんな声としゃべり方の五人組が居る」

智美「人の顔と名前を覚えるのは得意なんだ、これは忘れないなー」

智紀「その記憶力を英単語を覚えるのに使ってほしい」

睦月「うむ」

智美「むっきーにまで言われるとはなー」トホホ

佳織「あ、入って来たよ」


憧「うわ、先客が5人もいる……穴場じゃなかったの?」

穏乃「待ってもいいから食べたい!……って、ええっ!?」

玄「うそ、なんでこんなところに…?」

宥「どうしたの玄ちゃん? あ……」

灼「鶴賀と、龍門渕の……」


ゆみ「……縁とは数奇なものだな。二か月ぶりか?」


親父「おう、突っ立ってねえで入んな。席は……足りねえな」

智美「ああ、私は食べ終ったからどくぞー」

智紀「御馳走様でした」


ゆみ「こんなところでまた会うとはな」

佳織「私たちは、私が代表になって部費が出たから、今日は少し贅沢したんだよね」

睦月「うむ」

玄「その節はお世話になりました」

ゆみ「…準決勝進出おめでとう。ずいぶんと腕を上げたな、あの打ち方は考えつかなかった」

玄「長野に鶴賀や龍門渕がいるように、奈良にも代表以外の強豪がいるんですよ」

ゆみ「…あの打ち方を授けたのは晩成の先鋒か。見込んだ通り、ただものではなかったらしい」

宥「先鋒だけじゃないですよ。今思えば、なんであの頃の私たちが晩成に勝てたのか不思議です」

智美「麻雀は運の要素が強いからなー。強豪晩成でも、一回勝負じゃ勝てるとは限らないってことだなー」ワハハ

穏乃「おじさん! チャーシューメン大盛り!!!」

憧「はあ……こいつは本当に緊張感がないんだから」

佳織「ふふ、いいんですよ。食事に来たんでしょう?」

睦月「うむ、気にせず注文をしてくれ」


玄「……」ジー

憧「……」ジー

佳織「あ、あの……私、何かしました?」

玄「……妹尾さん、一つ、お願いがあるんですけど、聞いていただけませんか?」

佳織「へ? 私に、ですか?」

ゆみ「…腕試しがしたい、か?」

憧「加治木さんには分かっちゃうか。……ダメかな?」

智紀「……」

穏乃「ふえ? 何の話?」

灼「清澄には、妹尾さんに勝てる選手が4人居る。妹尾さん相手に、今の私たちがどれだけやれるかを知りたい」

ゆみ「…対価は?」

宥「ふえっ!?」

ゆみ「妹尾も個人戦を控えた選手だし、我々は清澄の応援に来ている立場だ。何の対価もなしとは言うまい?」

玄「そ、そんなこと言われても……」


憧「…情報」


ゆみ「ほう?」ニヤリ


憧「私たちは、県予選の頃とは比較にならないぐらい強くなった自信がある。少なくとも、全国の舞台で手の内を見せずに準決勝まで行けるぐらいには強い」

ゆみ「確かに、中堅以降は未だに手の内を見せていないな」

憧「あの頃の私たちは妹尾さんに手も足も出ずに飛ばされたけど……その妹尾さんに挑もうと思う程度には腕を上げたよ」

ゆみ「私たちが肩入れする清澄にとっても、その情報は価値があると、そういうことだな?」

憧「足りないかな?」

ゆみ「正直、妹尾に勝てるかもしれない、ぐらいの認識の奴らに清澄が負けるとは思えなくてな。もう一声ほしい」

憧「……ここの支払い、まだだよね?」

智美「おー、それは助かるなー」

佳織「あの、私は別に……」

睦月「妹尾、ここは吹っかけておこう」

佳織「あ、はい…」

ゆみ「交渉成立だな。妹尾にも特殊な打ち手相手に経験を積ませたいと思っていたところだ。モモは居るものの、私たちにはツモ自体を偏らせるような打ち手が居なくてな」

宥「えっと…?」

ゆみ「もう一つサービスだ。長野県の名目上の三位に加えて、実質二位か三位の奴もつけよう。他にもおまけが来るかもしれないな」

智紀「衣には『面白い獲物が網にかかった』と連絡をした。すぐ来ると思う」

玄「……いつの間に?」

智紀「松実さんが『一つお願いがある』と言い出した時点で、加治木さんが吹っかけつつ結局引き受けるここまでの展開は予想できた」

ゆみ「さすが、よくわかっているな」

智紀「問題児の対処で連携をとる必要があるから、アイコンタクトで意思疎通が出来る程度には理解しているつもり」

智美「ワハハ……これが私に勉強をさせるために使われるコンビネーションだ」

佳織「それでもたまに二人の隙をついて逃げるからね、智美ちゃん」

ゆみ「なにせ、勉強以外の能力は無駄に高いからな」

睦月「うむ」

灼「ハルちゃんはしっかり休めって……それに、部費を勝手に」

憧「二杯食べてもあのホテルのルームサービスよりは安いでしょ。問題ないって」

ゆみ「もちろん私も混ぜてもらうぞ。松実と妹尾と天江の卓……楽しみだ」

今回はここまでです。次回は八日後の日曜日の予定です。

補足

姫様の能力は、自分の解釈だと原作では各神様に強い順に番号を付けた場合、146785932→14……みたいな順にローテする(原作二回戦はこのローテの9の位置)イメージなんですが、このSSでは987654321と順調にランクアップしていって上がりきったら最弱にることになってます。

まだ二回戦書き終わってないから後で修正入るかもしれません。多分大丈夫だと思いますが。


【蒲原祖母邸にて】


衣「少しは出来るようになったが、まだまだだな」

玄「うう……槓で潜在的なドラを持っていかれたのです……」

憧「ミスがなければ嶺上牌がほぼ100%の確率で槓ドラってのも酷い話だけど、それが他家に渡ったらドラにならないようになっちゃうんんだね」

玄「小走さんの検証では、私が卓についてる時に槓できる人がいなかったので確認してませんでした……小走さんはこうなると予想してましたが」

衣「『ドラの独占』か、強力な力だが、他者に渡った牌がドラにならぬように自らの手すら縛る、御し難い力だな」

ゆみ「これを狙って出来る奴はそうそういないだろうが……残念ながら天江の他に二人ほど心当たりがあるな」

佳織「宮永さんなら、ドラ爆する前に和了ることも出来るし、槓で手を封じることも出来ますね」

衣「そういった搦め手は衣よりも咲や照の方が……特に槓を絡めるなら間違いなく奴らの方が上手だな。衣に出来るのだから、咲や照にも出来ると思って構わん」

玄「うう……」

憧「なに落ち込んでんの? 凄いじゃん、妹尾さんと天江さん相手に半荘一回生き延びたんだよ!?」

宥「荒川さんと神代さん相手でも、希望が出て来たね」

穏乃「次! 私、私が打ちたい!!」

ゆみ「ふふっ、手が空いているなら手積みでモモ達と打っていてもいいぞ。イカサマをする者はいないだろう?」

憧「あ、じゃあ私も……」

智紀「よろしく」

モモ「全力でいくっすよ」


【阿知賀 ホテル前】


穏乃「すみません、わざわざ送っていただいて…」

智美「いやいや、あんまり相手出来なくてごめんなー」

佳織「加治木先輩が、明日は清澄の応援をするから早く休みたいと言いだしちゃいましたからね」

憧「それが本来の目的なんだから仕方ないですよ」

智美「衣と佳織は明日一日付き合ってくれるみたいだから、それで勘弁してくれー」ワハハ

佳織「『清澄の二回戦の相手を見たが、あのような俗物どもを蹂躙するのを眺めるよりはお前たちと打つ方が楽しそうだ』でしたっけ?」

智美「佳織はツモが偏る異常な場に対応できるように経験を積めってゆみちんの命令だぞー」

玄「明日一日、天江さんと妹尾さん相手に練習が出来る……」

宥「これってすごいことだよね。全国でも最強クラスのコーチが二人もついてくれるってことだもん」

灼「明後日の準決勝……本気の永水女子と、それより強い白糸台高校……」

憧「出来ることは全てやっておきたい。永水や白糸台相手に、やり過ぎってことはないはず」

穏乃「よし! やるぞ――!!」

「「「「おー!!」」」」


【翌日】


『本日はインターハイ二回戦、第三試合と第四試合が行われます!』

『シード校は第三シードの新道寺女子と第二シードの臨海女子が初登場になりますね』

『なかでも注目は第三試合! どこが勝つのか予想もつかない超好カードだああああ!!』

『シード校の新道寺はもちろんですが、姫松高校も千里山女子も、シードの新道寺に決して劣らない力を持っています。そして、もう一校―――』

『昨年度個人戦4位の銘苅選手に回させることなく一回戦を終わらせた脅威の伏兵、長野県代表、清澄高校――!!』

『インターミドルチャンピオンの原村和選手を擁していますが、雑誌のインタビューでは原村選手は自分は四番手と答えています』

『うっは、なにそれ、インターミドルチャンプより強いのが三人居るって? マジで?』

『記録を見た限りでは、少なくとも二人は原村選手以上の実績を残しています。個人戦でも原村選手を抑えて地区予選を1・2位で通過していますね』

『これは本気で期待できるぞー!! 名門どもの鼻っ柱を叩き折ってやれー!!!』

『アナウンサーがそういうこと言っちゃダメ―!!!』

『さあ、選手の入場だ――!!』

『誤魔化した!?』

『最初に入場するのは南大阪代表 姫松高校! 先鋒を務めるのは昨年副将を務めました上重漫選手です!!』

『順位点を考慮しない場合の平均素点は名門姫松高校でもトップを争うとのことです、順位点のない今年の団体戦ルールでは非常に強力な選手ですね』

『続きますは北大阪代表 千里山女子!! 先鋒を務めるのは春から抜擢された三年生!! 園城寺怜―――!!』

『千里山で三年生になってから抜擢されるのは珍しいですね、大抵は、監督が一・二年生のうちに才能を見出して大会等に出場させるんですが……』

『小鍛治プロが指導者の目が節穴だと言い始めたぞ――!! 千里山の皆さん、聞きましたか――!?』

『言ってないよ! 三年生になってから抜擢されるのは珍しいっていう事実を述べただけだよ!!』


煌「さて、名門姫松高校で一年生時からレギュラーを任される天才や、名門で三年目にしてエースの座を手にしたシンデレラガールと比べると、私には華がありませんね」

煌「一番注目されるべきシード校であるにも関わらず、取材陣もまばらです」

煌「まあ、それもそのはずです、私の成績は地区大会からずっとマイナス。何故先鋒に抜擢されたかを疑問視する声がそこかしこで上がっても不思議ではありません」

煌「……しかし、今回は、その理由を教えて差し上げられる相手かもしれません」


照「……流石に迷ったりはしない、一人で行ける」

久「一人で行けることと、一人で行かせることは別よ。私が一緒に居たいの。ダメかしら?」

照「……ダメじゃない」

久「ふふっ、じゃあ、行きましょうか」

記者A「あ、すみませーん、試合前に一言だけ抱負を……」

照「はい?」スマイル

記者B「あ、いえ、お時間も迫ってますし、今回は結構です」

記者A「え?」

照(助かった……)


記者B(馬鹿、長野は原村和だけでいいんだよ)ヒソヒソ

記者A(いや、デスクが長野代表の、特に先鋒は要注意って…)

記者B(あんなパッとしない成績の選手なんかどうでもいーの。去年の龍門渕のベスト8も天江衣が素人みたいな打ち方でバカヅキしてただけだし、長野のレベルが落ちてるんだって)

記者A(お前、一回戦見てないのか?)

記者B(バカヅキしてただけだろ? 牌効率も分かってない素人の集団が代表とか、長野も落ちたよなー。風越は二回戦常連の名門だったってのに)


照「へえ……」ゴゴゴゴゴ

久「長野のレベルが落ちてる、ねえ?」ゴゴゴゴゴ

久・照「」ゴゴゴゴゴ


起家 怜「うっ!?」

西家 漫「……どないしました、園城寺さん?」

北家 煌「は、はは……どうしたことでしょう、震えが止まりません……」カタカタ


南家 照「……よろしくお願いします」ゴゴゴゴゴ


【姫松控室】


恭子「先鋒で注意するべきは、清澄の宮永です」

洋榎「千里山の園城寺やないんか?」

恭子「もちろん園城寺も警戒せないかん相手ですけど、こいつはそんなもんじゃありません」

絹恵「でも、戦績は大したことないですよ?」

恭子「数字だけ見ればな。でも、映像で試合を見るととんでもない化け物だって分かるんや」

由子「どういうことなのよー?」

恭子「見た方が早いです……これを」

洋榎「地区予選の映像か」


『……槓』


由子「…槓した後、何もしないのよー?」

恭子「しかも暗槓です。常識的には搶槓もあり得ませんから、問答無用で槓ドラめくって嶺上牌をツモるもんですけど…」

洋榎「てゆうか、この時点では普通に勝ってるやん。トップ独走中や」

絹恵「……何やこいつ、手牌でも見えとるんか?」

恭子「絹ちゃんは気付いたか。そう、今槓した1筒が対戦相手の鶴賀の国士のアタリ牌。国士だから暗槓を搶槓出来るんや」

洋榎「搶槓されるのが分かってたから動かなかったって言うんか? 手牌が見えるんやったら振り込まなければええやん」

恭子「そう、それや。アタリ牌と分かってるなら、普通に考えたら振り込まん方がいいに決まってる。で、理由を探したら簡単に見つかったわ」

由子「それはなんなのー?」

恭子「地区大会通して、宮永照の一試合の得点は+4600から+5500の間に収まってるんや」

洋榎「…プラマイゼロってか? 偶然やろ、たった半荘4回やし……」

恭子「いいえ、地区大会通して、です。個人戦初日の東風20戦と二日目の半荘10回も、その範囲に収まってるんですよ」

洋榎「……は?」

恭子「偶然で済ませられる確率じゃありません。宮永照は、半荘の収支をプラマイゼロにする能力がある」

洋榎「けったいな能力やな。でも、プラマイゼロにするだけやろ?」

恭子「それを前提として団体戦を見ると……おそらく、削る相手や点数状況まで任意に操作できると考えられます」

絹恵「……はあ!?」

恭子「強豪を削って、無名校をサポートする。三試合の四半荘全てがそんな感じの結果になってます」

由子「それがホントなら、宮永照が卓につく限り、他の三人は誰が打っても結果は同じってことなのー?」

恭子「この試合では、無名校の鶴賀を太らせて、昨年度優勝の龍門渕をマイナス3万、名門の風越をマイナス1万、自分はプラマイゼロの上限の11000…」

由子「この時の役満差し込みは、鶴賀を太らせて、その分他校を削るため?」

洋榎「なんやそれ、化け物やないか」

恭子「せやから、一番注意せなあかんのは宮永やって言うてるんです」

絹恵「このこと、漫ちゃんには……」

恭子「当然伝えてあります。あとは無事に帰って来ることを祈るのみですわ」


【千里山控室】


浩子「ということなんで、エース殺しもここまで来ると笑うしかないですわ」

セーラ「怜に伝えた対策は?」

浩子「『どうにか出来そうなら頑張ってください』、以上ですわ」

竜華「どうにもならんことが前提な上に何の対策にもなってないやん」

浩子「龍門渕の井上と風越の福路の、全国でも一線級の連中二人がかりで何も出来んのやからお手上げですわ」

泉「その二人はそんなに強いんですか?」

セーラ「去年の試合見ただけやけど、井上はかなりやるで。福路も個人でいいとこまで行ってたな」

浩子「ツモをおかしくするような妙な力が無い人間に限れば、そういう連中の対策にかけては全国トップクラスの二人です」

竜華「あー……怜の力は先が見えるだけでツモを変えられるわけやないしなー」

浩子「いくら園城寺先輩でも、あの二人にどうにも出来ないもんがどうにか出来るとは思えません。一巡先が見えてるから何かできる場合もあるでしょうけど、期待薄ですわ」

泉「まあ、しかし、なんもなければ一万プラス作られて、その分ちょっと削られて二万差で済むんですよね?」

浩子「なんもなければ、な」

泉「なんかありそうな言い方やめてくださいよ……」


東一局 


怜「リーチ」

照「……」

漫(げっ!?)

煌(千里山のエース、園城寺怜……その代名詞とも呼べる特徴。それは、驚異的なリーチ一発率)


怜「リーチ一発ツモドラ1。4000オール」


2455赤5s345m234p東東 ツモ:3s


煌(リーチをかけたらズラさない限り必ずツモる、やはり、間違いないようで……)


ゴオオオオオオ


煌「ん?」

怜「」ビクッ

漫(どうしたんや、二人とも急に後ろ振り返って……?)


照「……」


煌(…今のは、一体……?)

怜(マジで普通の手合いじゃなさそうやな……フナQ、これはどうにもならんかもしれん)

漫(園城寺に早速親満ツモられた……取り返さんと。へこまされたら宮永に狙われるかもしれん)


東一局 一本場


***

照「ツモ、400・600」

照手牌

34s33345688p西西西 ツモ:2s

***


怜(今の……嘘やろ? 2巡目で? 1巡目で張ってるならダブリーせえや……)

怜(まあ、手牌が見えたから振り込むことはない。あの手なら、ここをズラせば染めに行くやろうからチャンスはある……この辺でどうや?)

打:中

煌「ポン!」

煌(園城寺怜の下家とはいえ、翻牌は鳴いて良いでしょう。逃げてばかりで半荘二回は耐えられません、ここは攻める)

怜(助かった……で、これがアタリ牌やな。抱えとこ)

照「ツモ、800・1400」

34s33345688p西西西 ツモ:赤5s


怜「なっ!?」

煌(動揺している……予想外のことが起きたということでしょうか?)

漫(確か、園城寺は中を切る前に小考しとったな? 末原先輩も注意しろって言ってたけど……園城寺が手を打ってもその更に上を行かれたってことか?)

怜(ずらしても和了る……それどころか高くなった。おいフナQ、対策適当過ぎやろ、こんなんどうやってどうにかせえって言うんや?)

照「私の親……だね」ゴゴゴ


東二局


照「ロン、2900」

煌「はやっ!?」

怜(すまんな、どうにも出来んわ)

漫(早すぎやろ……さっきも2巡で終わって、今度は4巡)

煌(あれれ? まさか、この場で警戒しなくてはいけないのは、園城寺さんではない?)


照「一本場」


久「飛ばしてるわねー」

咲「思いっきり新道寺を狙ってますけど、どんな指示したんですか?」

久「なにも。あれはあの子の意志ね」

和「その割には、何やら納得してるような様子ですが……」

優希「照さんのロン和了りは珍しいんだったか?」

まこ「県予選でそんなこと言うとったのお」

京太郎「もったいぶらずに説明してくださいよ、何があったんですか?」

久「聞かない方が良いと思うわよ? 聞きたい?」


咲「一応」

和「もったいぶらずに早く説明してください」

まこ「そうじゃそうじゃ」

久「いやね、対局室に向かう途中に記者が居るじゃない?」

和「居ますね」

久「で、コメントを求められたのよ」

咲「それだけなら別に変わったことではないですね」

久「けど、その記者の相方に止められて、コメントは要らないってことになったのよ」

まこ「……新道寺を狙うことにどうつながるのかわからんの」

久「で、記者同士でコメントを要らないって言った理由を話してるのが聞こえちゃったのね」

優希「それが新道寺を狙う理由……?」

京太郎「『どうせ新道寺が勝つ』みたいなこと言われて怒ったってことですか? あんまりそういうので怒るイメージないですけど」

咲「そんなんじゃ怒らないと思うよ。少なくとも、それぐらいでわざわざ狙ったりはしないと思う」

京太郎「だよなあ……何言われたんですか?」


久「『長野のレベルが下がってるだけだから清澄のコメントなんかどうでもいい』らしいわよ」


咲「……へえ?」ゴゴゴゴゴ

優希「それはどこの記者だ?」ゴゴゴゴゴ

和「是非とも知りたいですね」ゴゴゴゴゴ

まこ「おい、やめろおんしら、落ち着け」

京太郎「優希、お前はこっち側だろ。化け物側に行くな」

優希「だって! 私だけならともかく、長野のみんなを馬鹿にされたみたいで悔しいじょ!!」

咲「……私の出番、残してくださいね?」ゴゴゴゴゴ

和「全国の舞台に慣れておく必要がありますからね」ゴゴゴゴゴ

久「中堅の相手は江口セーラと愛宕洋榎よ? 終わらせる方が難しいわ」


まこ「で、照さんが怒ってるのは分かったが、なんでまた新道寺なんじゃ?」


京太郎「あ、確かに」

久「本人に聞かないと確実なことは言えないけど……一つ問題を出すわ、あの三校で一番格上はどこ?」

まこ「……どれも甲乙つけがたい名門じゃが、一応、シードの新道寺かの?」

久「そういうことよ。あの中で一番格上の新道寺を、徹底的にヘコませるつもりなんじゃないかしら?」

咲「…プラマイゼロの範囲内だと、出来るのはそれぐらいかな?」

和「そうですね。普通にトップを取っても二位に二万差程度で、強さを示すというのは難しいですし」


優希「のどちゃんが、ついに任意の相手を直撃できることに突っ込まなくなったじぇ……」

京太郎「あいつもあっち側だからな」

まこ「照さんと久に挟まれると見せ場がないから辛いのう……」

優希「まこ先輩、頑張るじょ!」

まこ「おう、おんしの分ぐらいは頑張らんとな。 言われっぱなしにしとくわけにもいかんしの」


東二局 3本場


怜(おいフナQ、話が違うやん!? 前半戦はでかい手で荒っぽい点数調整をするんやないんかい!?)

煌(……いやはや、四連続直撃、自信が無くなりますね)

漫(末原先輩、話が違いますやん!? 下手するとこれ、この親番で終わりますよ?)

照「」ゴゴゴゴゴ


怜(と言っても狙いは新道寺らしいし、全部直撃やから、このまま行けばうちは二位抜け出来るんやけど……)チラッ


漫捨て牌

4m 3s 6p 6p 西


怜(姫松の先鋒は爆発すると手牌が上に偏る、ついでに相手が強ければ強いほど爆発しやすいってフナQが言ってたな……この化けもん相手なら、そろそろ来とるんやないか?)

漫(なんとか止めんと……県予選全てプラマイゼロにして終わってるのも、そう思わせてどっかで出し抜くための布石かもしれん。こいつがプラマイゼロの調整のために振り込むなんて保証はあらへん)

漫手牌

789s7788999m789p


怜(このまま行けば、一巡先が見えてて振り込みをほとんどせん私が姫松や新道寺より多く失点することはない。今うちが二位やから、確実に二位で抜けられる。けど、千里山の目標に二位はない)

打:6m

漫「ろ、ロン!! 3900は4800!」

怜(だから、なるべく少ない被害で次につなぐ。ここは差し込んででも流す)


照「……」


久「おかしいわね」

咲「はい、あり得ません」

和「えっと……なにがですか? 照さんが本気ということを考慮すれば、姫松がリーチをかけなかったことも千里山の差し込みも不自然ではないと思いますが」

まこ「上手く差し込んで親を流したように見えたが、なにかおかしいかのう?」

京太郎「照さんにしてはあっさり終わったように見えますけど……」

優希「自分の親を流すたびに派手な真似されたらたまらないじょ……」

久「それよ須賀君」

咲「京ちゃん、いいところに目をつけたね」

京太郎「いや、言ってはみたけど、優希も言ってるが、たまにはあっさり終わってもいいだろ?」

咲「良くないよ、お姉ちゃんは全力で新道寺を削ろうとしてるんだから」

久「ここは、連荘が止まるなら照が姫松に9萬で振り込むところよ。それで稼ぐ余裕を作って更に新道寺を削る、照が本気なら必ずそうなるわ」

咲「そもそも、まだ連荘を止める局面じゃない。本気のお姉ちゃんなら、もう一回か二回和了ってから役満あたりに差し込むところだよ」

久「同感ね。何が起きてるのかしら?」


【姫松控室】


恭子「最悪のケースは回避しましたね」

洋榎「最悪のケース? なんやそれ」

絹恵「あ、そっか、ホンマに点数を自在に調節できるとしたら、一位にこだわらなければ……」

恭子「流石やな絹ちゃん、それで正解や。新道寺には頭が上がらんわ」

由子「あ、そうか、一位を狙わなけれは昨日の第一試合みたいな点差に出来るのよー」

洋榎「第一試合って言うと…白糸台と宮守が勝った方か。確か白糸台が20万超えて、宮守が10万ぐらいで先鋒が終わったんやったな」

恭子「二校を大きく凹ませて、一校を押し上げる。それどころか、場合によってはそのまま先鋒で飛ばして終わらせる。宮永照にはそれが出来るはずや」

絹恵「準決勝や決勝に連れてく相手を自由に選べるわけですね」

由子「なんでそうしないのよー?」

恭子「新道寺の先鋒のおかげです」

洋榎「ああ、あのなんで先鋒なのかわからん奴か。アレもけったいな能力持っとるんか?」

恭子「はい、あの先鋒は……」


郁乃「絶対に飛ばない、やろ~?」


恭子「…代行」

郁乃「あの子、ほとんどの試合で失点して終わってるけど、失点が半荘でマイナス25000を超えたことが一度もなくて~、そういう能力なんやないかって~、末原ちゃんと話したんよ~」

洋榎「マイナス25000以上になるのはそうそうないやろ。偶然ちゃうか?」

恭子「地区予選で一度、東一局で花田がリーチして、二順後に親倍に振り込んだ対局がありました」

由子「それはご愁傷様なのよー」

恭子「その後、花田が得点することはなかったんですが、この半荘のその後の牌譜がおかしいんです」

絹恵「どういう風に?」

郁乃「その後、ロン和了りと全員ノーテン以外で場が進んでないんよ~」


洋榎「それは……まあ、なくはないけど、おかしいな」

恭子「ついでに、その時の同卓者。親倍を和了った奴ですけど、福岡の個人戦三位です」

郁乃「自風牌を鳴くと風に乗って手が伸びる能力があるんやけど~、鳴いても全然和了れとらん~」

洋榎「それを先に言えや。確定やん」

絹恵「気付きにくい能力ですけど、間違いなさそうですね」

恭子「おそらく、荒川や神代への対策で先鋒に起用したんやろ。あいつらを相手にして確実に5万以上残して次鋒に繋げるのは大きい」

由子「新道寺は後半で逆転するオーダーにしてるのよー」

絹恵「公式戦の放銃率ほぼゼロの園城寺はまず振り込まない、新道寺は飛ばせない……そうなると……」

恭子「先鋒で終わらせに来た場合、狙われるのはうちや。それが最悪のケース」

郁乃「だから、手を進める時は宮永照の現物を絶対に残すように、更にリーチは厳禁って指示を出したんよ~」

恭子「宮永を最大限に警戒して振り込まんようにすれば、いくらなんでもトブまで削られることはない」

洋榎「で、振り込みをせん園城寺と警戒して守りが固いうちを諦めて、新道寺の絶対飛ばんっちゅー能力を破りに行ったけどダメだったと、そういうわけか?」

由子「能力さえ破ってしまえば地力的には一番下が新道寺の先鋒なのねー」

恭子「そうや。そして、おそらく破り損ねた。地区大会の牌譜なんかを見ると、宮永があんなにあっさり親を流されるとは思えん」

郁乃「更に、この半荘に限れば、宮永に削られたおかげで新道寺の絶対飛ばん能力が発動して園城寺の一発ツモなんかも封じられるはず~」

絹恵「うちにとっては楽な展開になりそうやな」

恭子「漫ちゃんは言いつけ守って現物も切らさんようにしてるし、リーチもかけてない。後半もこの調子で行けば……」


照「ツモ、2300、4500」

怜「……ありがとうございました」

漫「ありがとうございました」

煌「ありがとうございました。皆様、すばらな試合運びでした」

照「……ありがとうございました」


先鋒戦終了

新道寺  82900(-17100)
清澄  109200(+ 9200)
姫松  102200(+ 2200)
千里山 105700(+ 5700)


【白糸台高校】


憩「……ん~? 思ったより大人しい麻雀打ちますな、このひと」

菫「そうだな、監督があそこまで言うほどの打ち手には見えない」

淡「そーかな? 淡ちゃんのセンサーにはヤバそうな気配がビンビン伝わってきたけど」

誠子「一番当てにならない奴のセンサーに引っかかってもなあ……」

憩「いや、うちもヤバいとは感じてますよーぅ? ただ、ヤバいはずなのにそのヤバさが目に見えんって言うか……」

誠子「憩が言うならまあ……」

尭深「憩ちゃんが言うならそうなんだろうけど……」

淡「ぶーぶー! なんでケイが言うと態度が変わるのー!? 差別だー!」

菫「普段の言動の積み重ねだな」

淡「うー、納得いかない……」

誠子「で、どうにかなりそうなのか憩?」

憩「これは直接やってみんとなんとも言えませんわ。どれぐらい強いのか見当もつきません」

淡「ケイなら余裕でしょ! 私より強いんだし!」

尭深「そういう言動が淡ちゃんの信用を削ってるんだと思う」

菫「全くだ。お前より強い憩が『やってみないと分からん』と言っているんだから、軽々しく断定するな」

淡「ケイなら勝てるって! てゆうか、ケイが勝てない相手なんて居ないもん!」

憩「信頼されるのは嬉しいんやけど、宮永さんな、あれ淡ちゃんより強いよ?」

尭深「関西最強のエース園城寺怜、それに姫松で平均素点一位の上重さんも今回は好調でした……終わってみればその二人を抑えてのトップ」

誠子「それでいて、おそらくまだ余力を残している」

憩「あの人が本気でうちを抑えに来たとして、ちゃんと稼げるかどうか……」

淡「絶対大丈夫だって! ケイが負けるはずないじゃん!」

菫「……淡と同じで何の根拠もないが、私も憩を信じているぞ」

誠子「お前が負けたのは見たことないしな、私も信じる」

尭深「任せたよ、憩ちゃん」

憩「みんなしてホンマに無責任なんやから……ま、白糸台のエースが無様は晒せませんし、やるだけやりますわ」


洋榎「で、次鋒はゆーこと千里山のクソ生意気なガキと安河内か」

漫「トップと三万差以内、デコの落書きは免れたで……」

郁乃「爆発したのにトップ取れないとか~、許してええの~?」

恭子「仕方ないでしょう。相手が悪すぎます」

絹恵「清澄、次鋒は大したことないはずやけど……」

恭子「由子なら大丈夫やろ、問題は……本来なら一番安心して見てられるはずの中堅やな」

洋榎「心配せんでええって、うちに任しとき!」


怜「泉なら大丈夫やろ、問題はセーラやな」

竜華「怜が二位で帰って来たんやから、ちゃんと凌いで帰って来んと怒るで?」

セーラ「トップで帰って来たるわ。任しとけ!」

浩子「あ、それは期待してないんで大丈夫です」

セーラ「おい!?」

雅恵「あれは相当な化け物や、無理はするな」

セーラ「監督まで……」


煌「申し訳ありません、一人沈みで……」

哩「よか、花田の仕事は5万点持って美子に繋ぐことばい」

姫子「そしたら、先輩たちと私らで何とでもすっと」

仁美「それが八万残して帰って来ちゅー、大戦果やね」

煌「ありがとうございます」

哩「後は私らが引き受けた。準決でもこの調子で頼む」

煌「……はいっ!」


起家 泉「よろしくお願いします」

南家 美子「よろしく」

西家 まこ「よろしく」

北家 由子「よろしくなのよー」


東一局


まこ「……長野のレベルが落ちとるだけ、じゃったか? あの場ではあいつらに気圧されたが、わしだってそれなりに頭に来とるんじゃ」

由子「のよー?」

まこ(うちのレギュラーで一番弱いのは間違いなくわしじゃ。なら、そのわしが、名門中の名門の次鋒三人をボッコボコにしたら、ふざけた評価も変わるかのう)

まこ配牌

12s3赤5899m69p西西白白

まこ(まあまあの配牌じゃ。挨拶代りにでかいのぶちかましちゃる)


【数巡後】


泉(この面子だと変な打ち方する奴が居ないから、純粋な地力の勝負やって船久保先輩が言っとったな)

由子(一年には負けられないのよー)

美子(……)

まこ「ツモ! 3000・6000!」


34赤567899m白白白西西 ツモ:西 


由子(って、清澄!? 『唯一の穴』じゃなかったのー?)

泉(……船久保先輩、次鋒は他と比べたらパッとせんとか言いましたよね?)

美子(リーチせんってことは、一通まで狙っとったってことやね。思ったよかやりよるかもしれん)

泉(つーか親かぶりやん……出鼻くじかれてもうたな)


東二局


由子(生牌だけど、いらないから切るのよー)

打:東

美子(……)

美子手牌

23344赤56777p東東

美子(清澄の次鋒が本物かどうか……一局で判断するのは早か、けど、悠長にしてたらチャンスが無くなりよる。巡目的にも面前で聴牌出来るか怪しかとこやし、ここは行く)

美子「ポン!」

打:3p

まこ(おっと、この顔はいかんの……この辺か?)

打:発

泉「ポン!」

泉手牌

1233s34567m西西 ポン:発発発

打:3s

美子(…6索、無駄ヅモばい)

打:6s

まこ(さて、この辺じゃろうな)

打:2m

泉「ロン! 発のみ、1000点です!」

美子(……鳴かせて差し込み。こいは、流されたんかね?)


照「好調だね」

和「なにを根拠に読んでいるのか分かりませんが、差し込みや鳴かせるタイミングが絶好ですね」

照「運が味方すれば和了るし、そうじゃない時でも上手く被害を抑えて凌ぐ。染谷さんは安定して強い」

久「当然よ。ツモを偏らせたり、初心者だったり、ルールが違ったり、異常な豪運だったり、そういうイレギュラーが無ければまこに勝てる人なんてそうそういないわ」

咲「新道寺が打ち方を色々変えて抵抗してますね」

久「無駄よ。まこは河を表情として認識し、膨大な記憶の中から対応を引き出して自分に有利な展開にするんだもの」

照「打ち方が変わっても、それが染谷さんの記憶にあるパターンに一致すれば、染谷さんの有利は揺るがない」

咲「私やお姉ちゃんみたいに相手の打ち方を把握して対応してるわけじゃなくて、あくまで場の状況に対応してるんだっけ?」

久「そうよ、だから、色んな打ち方をしてみたところで、それが一般的な打ち方、状況の範疇ならまこの記憶の範疇に収まる」

照「この次鋒戦の面子は、染谷さんに対抗する手段を持ってない。よほどの不運が続かない限り、染谷さんはトップで帰って来るはず」


京太郎「……なあ、この部、実は俺めちゃくちゃ場違いじゃねえか?」

優希「……否定してやりたいが、残念ながら染谷先輩も大概だじょ」

京太郎「お前も、東場だけだったら相当な化け物だったよな?」

優希「それも否定できないけど、あそこの三人とは一緒にしないでほしいじぇ」

京太郎「俺に安住の地はないのか……」



次鋒戦終了

新道寺  78900(- 4000)
清澄  127900(+18700)
姫松   96300(- 5900)
千里山  96900(- 8800)


まこ「お疲れさん」

由子「一人浮きにさせちゃったのよー、お疲れ様なのー」

泉「(差し込みっぽい和了り以外なんもしとらん、清澄にいいように使われてもうたかも)……お疲れ様でした」

美子「お疲れ様でした」

次鋒戦はどうせ染谷先輩がいる限りキンクリ確定なので下手に期待させるよりはサクッと投下した方が良いと思いました。
照が新道寺を狙う理由が苦しいとは自分でも思っています。
次回も一週間後の予定です。

>>916
美子少牌してない?
3p切ったってことは1p書き忘れ?

本文以外では酉外してます、>>1です。

>>935
やらかしてますね。何が消えてるか自分でもわかりません。
聴牌できるか怪しいってことは良形ではないつもりで書いてるはずなんですが…今月入ってから別のSSにかかりきりだったものでこっちの記憶が怪しいです

今日の投下は8時過ぎになると思います。

 

恒子「さあさあ! 最高のカードとなりました二回戦第三試合! 次は大注目の中堅戦だー!!」

健夜「江口選手、愛宕選手、竹井選手はいずれもチームの柱と言える選手です。また、一回戦の獲得点数は三人合わせて二十万点をゆうに超えています。この中堅戦は、今大会の全対局の中でも屈指の好カードですね」

恒子「更に更に、新道寺の江崎仁美も九州屈指の高火力プレイヤー! ド派手な大技の応酬が期待できるぞ――!!」

健夜「竹井さんは高火力という印象はないから、大技の応酬はちょっと見られないかも……」

恒子「へ? 一回戦で15万点稼いでなかった?」

健夜「そうなんだけど、大きな和了りはほとんどないんだよ。一番高いのが八本場で親ッパネを和了った最後の20400」

恒子「十分高いっしょ!?」

健夜「高いと言えば高いけど、やっぱりコツコツ小さな和了りを重ねてくイメージが強いかな」

恒子「それで15万稼ぐとかマジで?」

健夜「う、うん……満貫でも10回和了れば8万点だから……親なら12万点」

恒子「はい、サラッと満貫を安手と言ってくれた小鍛治プロの傲慢さを皆さんの心に刻んだところで、行ってみようか、選手紹介だああああああ!!!!」

健夜「悪質な印象操作っ!? って、ホントに始めたし!」


『まずはこの人! 南大阪代表姫松高校の伝統のエースポジションを務めます、愛宕洋榎ええええ!!!』

『攻守ともにバランスよく、場の状況に応じて柔軟な対応が出来る選手です。よほどのことがなければ大きく崩れることはないでしょう』


絹恵「小鍛治プロのべた褒めとか珍しいな。さっすがお姉ちゃん」

恭子「また調子に乗るから、これは聞かせられんな」

由子「なのよー」

漫「それより、恒子ちゃんが姫松のエースポジションが中堅やって知ってたことが驚きですわ」

恭子「一回戦の時に『あんなデコがエースのわけないやろ、姫松のエースは中堅や』って苦情が殺到したらしいで」

漫「……マジですか?」

郁乃「確かに苦情は入れたけど~、そこまでは言っとらんよ~?」

恭子「……え?」

郁乃「でもでも~、苦情の電話したの解散した後なのに~、末原ちゃんはなんで知っとるん~? うちの後を尾行してたり~?」

恭子「あの……冗談やったんですけど……」

郁乃「……へ?」

漫「」ホッ

由子「代行、まさか……?」

郁乃「……う、うちも冗談やで~、ほら~、緊張した空気を解そうと思って~」

絹恵(いや、マジで苦情入れたやろこの人)

恭子(触れたらアカン、絹ちゃん)


『続いてはこちら、関西を代表するもう一つの名門千里山で、昨年度はエースを務めました! 江口セーラ選手です!』

『千里山はエースをセオリー通り先鋒に置きますから、この対戦が団体戦で実現する可能性は低かったのですが。関西を代表する二校の両エースの激突、注目のカードです』


怜「せやなあ……なんでセーラが中堅なんやろ?」

泉「いやいや、100%園城寺先輩のせいですって」

竜華「本人も中堅って聞いたとき嬉しそうやったしな。一番熱心に怜を先鋒に推してたのセーラやし」

浩子「中学時代からの因縁ですからね。流石にそれだけじゃないでしょうけど」

雅恵「ま、あいつらなら大丈夫やろ。あの二人でどうにもならんかったら誰出しても止められん」

泉「あ、監督」

怜「お疲れ様です~」

雅恵「園城寺、体調は?」

怜「見ての通りですわ~」ゴロゴロ

雅恵「清水谷に膝枕されてる状態で『見ての通り』って言われてもな」

浩子「いつものことですわ」

怜「監督もフナQも堅物やな、もっとビシッと突っ込んでくれんと」

泉「てゆうかシャンとしてくださいよ、監督も居るんですし」

竜華「せやな、怜、起きよか」

怜「ん~……もうちょいこのままで」ゴロン

雅恵「こいつは……まあ、構わん。あれと打った後だから、多少は大目にみよう」

怜「おおきに~」


『大注目のシード校 新道寺女子からは県内屈指の面前派、江崎仁美が登場だあああ!!』

『白水選手や鶴田選手に埋もれがちですが、面前の高火力麻雀を得意としていて守備面も優れています。名門新道寺の中堅として相応しい実力の持ち主ですね』


煌「すばらっ! 良くわかっていらっしゃる!」

哩「まあ、ダメなときはとことんダメやけん、期待しすぎっと馬鹿見るがな」

美子「仁美ちゃん、鳴かんのじゃなく鳴けんのよね。不器用で」

姫子「龍門渕の井上の牌譜ば、すっごく嫌そうに見ちょりましたね」

哩「鳴かれると弱かとこがあっけど、格下相手ならそれでも地力でねじ伏せよる」

美子「この面子だとそれは厳しか。けど……」

煌「そもそも鳴きを多用する面子ではないですからね」

哩「実力的にも、仁美ばマークして普段せんような鳴きを入れるっちゅーことはないやろ。そこそこやれるはず」

美子「ここさえ凌げば……」

姫子「次は部長ばい、どうにでもなっとね」


『そして、今大会のダークホース 清澄からは一回戦で15万点を稼いで試合を終わらせた注目の選手が登場だあああ!!』

『……なぜこの選手が個人で出てくることなく三年目を迎えているのか分かりません。今すぐプロで打っても十分に通用する実力があります』

『てことは、小鍛冶プロとも勝負になる?』

『それはやってみないと……でも、この卓は彼女をどう抑えるかの勝負になると思うよ』


咲「……」

和「……」

照「……」


京太郎「え、なにこの沈黙?」

まこ「わしに聞くな」

優希「三人とも、どうしたんだじょ?」


咲「今回ばかりは、出番がないと嫌だなって」

和「咲さんに繋がなければいけない関係で、部長が稼ぎ過ぎると私が稼げないなと思いまして」

照「また飛ばして勝ったとして、竹井さんがインタビューとか受けると私が無駄に持ち上げられるから不安」

咲照和「「「だから、今回は勝たれると困る(ります)」」」


京太郎「応援する気が全くないだと……」

まこ「こいつらは……勝つことを心配するとかわけがわからんわい」

優希「負ける心配を一切してないじぇ」


起家 久「真打は後から登場するってね」

南家 仁美「この面子相手に真打か、いい度胸やね」

西家 洋榎「言っとけ、目にもの見したる」 

北家 セーラ「ま、口だけじゃないのは見してもらったからな。今度はこっちが教えたるわ」


東一局

仁美(さて、早上がりが持ち味の竹井と、高火力の江口、バランスよく柔軟な対応をする愛宕……どうなっかね?)

セーラ(鳴かんとはいえ、一回戦とかを見る限り、こいつのスピードは化け物じみとったしなあ。配牌もいまいちやし、東一局は様子見や)

洋榎(とりあえず普通に打って、お手並み拝見やな。なんとなくやけど行ける気がすんねん)

久「……」

135s245567p36m東東東

打:5s

仁美(いきなりど真ん中……妙なことしとるね)


咲「なるほど」

照「まあ、そうなるか」

和「あの、さっぱりわからないのですが?」

まこ「同じく」

京太郎「親でダブ東もあるんだから打点も十分だし、無理してまで染めたりする必要もないだろ? 何が狙いなんだ?」

咲「多分だけど、様子見。安牌候補を確保するために危険牌になりやすい真ん中から捨ててるんだね。和了る気はほとんどないんじゃないかな?」

和「それは、何のために?」

照「原村さんと咲に出番を回すため」

咲「ここで出番が無かったらこの後の士気に関わるからね。部長自身は抑え気味に行く気じゃないかな」

京太郎「ああ、なるほど」


洋榎(うーん……清澄が妙なことやってるみたいやけど、張ってもうた)


洋榎手牌

23456m345p赤55689s ツモ:7s


洋榎(ピンフ赤1の三面張、4ー7萬ならタンヤオもつく。この手でリーチせん理由はないわな。覚悟決めて行くしかないやろ)

洋榎「なんかやっとるみたいやけど、そんなこけおどしが通じる相手と思ってもらっちゃ困るわ。こちとら天下の愛宕洋榎様や」

セーラ「お? リーチか? リーチやな? 絶対リーチするわこいつ」

洋榎「うっさいわ! お察しの通りリーチや!」

打:9s

仁美(さて、これで清澄がどう動くか……)

セーラ(さて、流石にオリとくか。現物)

打:北

久「……」

打:東

仁美(あれは配牌から持ってた牌やけん、オリよったかね? 何考えとーと清澄は?)

打:1p

洋榎「一発ツモ……ならずや!」

打:5s


恭子「主将の無茶が良い方に転がりましたね。三人ともオリましたし、あの待ちなら和了るでしょう」

由子「清澄は何してるのー?」

恭子「様子見やろな、天江とか荒川とかもそうやけど、ああいう化け物は様子見をすることが多い。一回戦は東一局から和了りまくっとったけど、流石に主将や江口相手には力押しはして来んらしい」

絹恵「流石お姉ちゃんやな」

漫「あ、ツモりました。2000・4000ですね」

恭子「化け物が様子見してる間に稼ぐ、基本やな。最悪、二回戦は二位でもええんや。千里山と新道寺相手に10000点の違いは大きい」


東二局


仁美(さて、親でこの配牌……どうすっと?)


仁美手牌

1469p258s11566m西

仁美(正真正銘、まごうことなきクソ配牌やね。哩なら縛らんで諦める、和了らるっ気のせん配牌)

仁美(親やけど店じまいやね。安牌抱えて七対子でも狙いながら、危ないと感じたら即オリ)


煌「これはすばらくない……」

哩「まあ、来てしまった配牌は仕方なか。半荘は最低でも八局あっから、腐らず打てばチャンスは来るはずばい」

美子「……やったらいいけど」

姫子「先輩?」

美子「いや、なんでもなかよ。そんなはずなか」

哩「……プロを呼んで打った時の私らと同じ、か?」

煌「部長も、飛ばされたんでしたっけ?」

哩「ああ、どうしようもなかった」

姫子「あたしも……」

煌「差支えなければ、どういうことなのか教えて頂けると助かります」

哩「花田はプロ相手でもトバんかった、これは、とんでもなかことなんよ」

姫子「監督がプロの中でも上位の面子を呼びよったからね」

煌「えっと……?」

美子「プロでも上位の打ち手、その豪運は常識はずれやった」

哩「それが三人集まると、残り一人にしわ寄せがくるんよ。絶対和了れないような不運が押し寄せて来よる」

姫子「今、江崎先輩に来たみたいな配牌しかこんようになる。ツモもバラバラ。あの卓ではプロしか和了れんようになっとった」

煌「それは……私の時はそんなことはなかったと思うのですが……」

哩「やけん、花田をレギュラーに抜擢したんよ。あれを相手にトバずに打ち切れる花田なら、荒川だって抑えられるっちゅーてな」

煌「ま、待って下さい!? だとすると、いまのあの卓は……」

美子「勘違いやって。プロ相手ならいざ知らず、同じ高校生相手でそんなはずなか!」


『ツモ! 2000・4000!』


怜「さっすがセーラやな。しかし、清澄がまた様子見しとったけど……」

竜華「随分長い様子見やな? 狙いはなんやフナQ?」

浩子「なんでうちに聞くんですか? 流石にまだわかりませんって」

泉「いや、船久保先輩なら『おそらくやけど……』とか言いながら答えてくれそうですし」

怜「せやな」

浩子「『せやな』やあらへん! どんだけ便利な参謀やねんうちは!?」

怜「でも、なんかあるんやろ?」

浩子「……おそらくやけど、先鋒や次鋒の打ち方から、清澄は実力を誇示しようとしてるんやないかと思われます」

竜華「それはまたなんで?」

浩子「理由は不明ですが、推測の根拠はあります。長野予選の宮永照のロン和了りの確率、一桁台なんですわ。面子にもよりますが、通常は和了全体の4~7割はロン和了りになりますから、これは異常です」

怜「ふむふむ……でも、普通にロンしとったな。新道寺から」

浩子「普通なら、狙うにしても園城寺先輩です。園城寺先輩は一巡先が見えますが、振り込みを予期して手を変えるとおよそ二巡の間、先が見えなくなります」

怜「せやな」

浩子「宮永照なら、その二巡の隙をついて園城寺先輩を徹底的に削ることは可能やったと思われます。けど、実際には新道寺を狙った」

雅恵「一応三校で一番格上の新道寺を直撃し続ける……あいつは最終的にプラマイゼロにしか出来んから、実力を誇示するなら強者を叩くしかないと、そういうことか」

浩子「はい。まあ、宮永がそうしたのは他の理由かもしれませんけど、ひとまずそれが実力を誇示するためにやったことだと仮定します」


怜「いよいよ本題やな」

浩子「実力を誇示するつもりなら、うちと姫松はまだしも、新道寺には大将に出てきてもらわんといかんわけです」

竜華「あ、そっか……」

雅恵「地区大会獲得点数二十万点超え……全国区の怪物の一人、鶴田姫子」

浩子「これを、宮永妹をぶつけて叩き潰す気でいる。うちはそう推測します」

泉「そのために、手を抜いているってことですか?」

怜「でも、うちと姫松だって中堅はエースが出とるやん?」

浩子「……長い様子見をしても、勝つことは出来るってことでしょう」

泉「は?」

浩子「手加減してほどほどに勝つ。本気でやったら鶴田の出番が来ない。そういうことです」

雅恵「ホンマに舐めくさりおってからに……江口! そこや! 叩き潰せ!」

怜「お、話し込んでる間に南入しとるな」

竜華「東三局と四局はセーラと洋榎さんが跳満ツモを被せあって、竹井と江崎は焼き鳥……一騎打ちって感じやな」


南一局


久「……焼き鳥じゃ、流石にカッコつかないわよね」

洋榎「」ピク

セーラ「……」

仁美(さっきから配牌もツモも全然ばい。これはあれやね、プロとやった時のアレ……こうなると、後のことは哩と姫子に任せて、私は振り込みを避けて凌ぐしかなか)

久「リーチ」

打:8m

洋榎(……三巡目でリーチかい。早すぎやろ)

セーラ(おいおい、化けもんが……せっかく洋榎との勝負が盛り上がってきたとこなんやからもう少し空気読めや)


照「満貫の親かぶりが一回と、満貫ツモが一回、跳満ツモが二回……マイナス12000」

和「全部ツモですか……固い面子ですね」

まこ「そりゃのう。大阪の去年の二大エースと新道寺のレギュラーじゃ、そうそう直撃なんかとれやせん」

咲「しかし、あの手であのリーチかあ……」

照「非常に竹井さんらしい」

咲「和了るのは間違いないとして、誰か振り込むかな?」

京太郎「……俺があそこなら一発目で振り込む自信がある」

優希「同じく、てゆうかどっちでも切るじょ」

照「ああ、確かに手牌見た限りだと出そう」


洋榎手牌

345s346p2345m北北西 ツモ:北


洋榎(……)

打:6p

久「あら、強いわね」

洋榎「こういう時はな、自分の勘を信じるんや。通るもんは通る」

久「まあ、通るんだけど。へえ……なるほどね」


セーラ手牌

2246s3344p3赤57m南南西 ツモ:5s


セーラ(いや、こんなん西しか切るもんないやろ?……と言いたいけど、嫌な予感がするなあ……場風の対子やから勿体ないけど、リーチもかかってるから安全第一や)

打:南


久「……あなたも固いわねえ」

セーラ「当たり前や。振ったらその局では和了れんやろ、俺は高い手和了るのが好きやねん」

久「和了る、じゃなくて、高い手を和了るのが好きなのね……贅沢だこと」

久「…っと、ツモだわ。直撃取れると思ったんだけどね」パタン


345678m東東東白白白西 ツモ:西


久「リーチ一発ツモ・混一色・東・白。8000オール」


照「実に竹井さんらしい和了り」

咲「なんで三面張を単騎にするかなあ……部長だから当たり前だけど」

和「照さん、嬉しそうですね」

照「無理に私に張り合って早和了りするより、あの方が竹井さんらしい」

咲「個人的には早和了がりする方が安心して見てられるんだけど……」

和「どうでもいいですが、出番を残してもらわないと」

まこ「珍しく攻撃的じゃのう」

和「……私だって怒ることはあります」

優希「お弁当をつまみ食いされても怒らないのどちゃんがここまで怒るなんて……」

京太郎「お前の怒りの琴線は食い物だけなのか……」

優希「うむ」

京太郎「『うむ』、じゃねえよ!?」


『おーい、すこやん?』

『なに、こーこちゃん?』

『ここまで竹井さん全然目立たなかった上に、東一局からここまで派手な和了りのオンパレードなんだけど?』

『うっ……そ、そういうこともあるんじゃないかな?』

『じとー……』

『……ごめんなさい』

『で、ここからの展開は?』

『うーん……相変わらず竹井さんの動きが鍵だと思うんだけど、何考えてるかわからないからちょっと読めないかな』

『と言いますと?』

『そうですね、おそらくここまでは様子見だったと思うのですが、事前に牌譜なども見ているはずなので、16局しかないうちの4局を様子見に費やすというのは不自然です。
  なんらかの意図があるはずですが、それがなんなのか? この中堅戦で効果が出ることなのか、大将までの試合全体を見通したものなのか、あるいは大会全体を見たものか……』

『うーん……よくわからん!! こっからド派手な大技とか、果てしなく続く連荘地獄とかそういうのはないの!?』

『出来ない選手ではないと思うけど……また様子見に戻ったみたいだし、江口選手と愛宕選手の実力は拮抗してるから連荘地獄はないかな』

『ド派手な大技は!?』

『竹井さんが動かないなら、ビハインドを背負った面前派三人で派手な手の応酬になる可能性はあるかも……』

『おっしゃあああああ! 聞いたかテレビの前のみんなー! ド派手な応酬が期待できるぞ――!!』

『早速、江口選手が雀頭の2筒を落として萬子に染めましたね。呼応するように愛宕選手も萬子の面子を崩して索子の清一色を目指しています』

『ここにきて大阪の両雄の大物手が激突!! さあ、和了りを掴むのはどっちだー―!!?』


純「……なんで様子見なんかしてんのかね、竹井さんは?」

透華「新道寺の鶴田を咲に叩き潰させてチーム全体が目立つために決まってますわ!!」

一「目立つためかはともかく、原村さんと咲ちゃんに出番を与えておくつもりなんじゃないかな? 出番ないまま決勝ってのも良くないだろうし」

智紀「二人とも、精神的に安定しているとはいえ一年生。 場慣れさせないとイレギュラーが起きることも考えられる」

ゆみ「しかし、新道寺の手牌がさっきから酷いな……」

純「ああ、そりゃ、あの卓じゃしょうがねえだろ」

睦月「うむ?」

純「卓上で、三人がツイてたら、残り一人はどうなる?」

ゆみ「……まさか。そんなことが起きるのか?」

純「常識的には起きねえんだけどな。自分の手が酷くなるんじゃなく、せいぜい相手に常に先を越される感じになる」

一「じゃあ、あれは?」

純「新道寺も新道寺で運が太いんだよ。けど、周りの三人が強すぎる。だからああなる」

ゆみ「……なるほど、半ヅキよりまし、ということか」

純「ああ。半端に勝負できる手が来て勝てない勝負をして振り込むより、バラバラの手が来て話にもならないでオリてる方が安全だ」

智美「けど、ここまで全部ツモだぞー? 運が良いのにそうなるのかー?」

純「ああ、全部ツモだな。けど、全部振り込むよりマシだろ? あの三人相手じゃ『ツモで済んだ』と思わなきゃいけねえ」

透華「純の言っていることが正しいとして、竹井さんは分かりますが、あの二人もそこまでの強者ですの?」

純「少なくとも、今のあいつらは乗りに乗ってる感じだな」

ゆみ「あの二人はライバルという話だ、この大舞台でお互いを意識して普段以上の力を出しているのかもしれないな」


洋榎「さて、リーチや」


洋榎手牌

123444567799s4m ツモ:9s

打:4m


セーラ「随分待たせるやん。こっちはとっくに張っとるで? お、来た来た、俺もリーチや」


セーラ手牌

2345678m北北北南南南 ツモ:9m

打:北


久「……」

打:白

仁美(蚊帳の外ばい……しかし、どうしようもなか。幸い、安牌だけはいくらでもあるったい)

打:1p


洋榎「さて、そろそろケリつけようか、セーラ」

セーラ「ああ、さっさとツモって振り込めや、洋榎」

洋榎「うちの振り込みなんか待たんで自力でツモらんかい」

セーラ「席順考えろや。そっから海底まで俺の和了り牌しか山に残ってないんやで? どう考えてもお前が俺のアタリ牌ツモって切るのが先やん」

洋榎「うちの和了り牌どこにあんねん!? てゆうか何面待ちやねんそれ!?」

セーラ「知らんのか? 現物以外は全て和了り牌……単騎の江口とは俺のことや」

洋榎「くっ……お前があの……って、誰やねんおまえ!? 全国大会でサマ使うなや!」


久「いいからさっさとツモりなさい、これ全国放送なのよ?」


セーラ「だからテレビ映えするように決め台詞の応酬をやな……」

洋榎「なあ?」

仁美「こっちに振らんでくれるか? さっさとツモれ」

洋榎「はいはい……残念、ツモれずや」

打:6m

セーラ「……残念、こっちも一発ならずや」

打:2s