友紀「……やめようかな」 幸子「えっ」 (28)

シアイシュウリョー!10-0デキャッツノショウリデス!

友紀「おっしゃー! 今日もキャッツは快勝! さすが強豪!」

友紀「これは優勝待ったなしだね! 明日の試合も楽しみだ!」ケラケラ

幸子「……よくラジオだけで、そこまで応援出来ますね」

幸子「あんまり事務所で騒いでたら、またちひろさんに怒られますよ?」

楓「けど、そこまで夢中になれるというのも素敵です。このステッキくらいに」ドヤッ

幸子「友紀さん、あまり浮かれすぎないでくださいね。2週間後にはボクたちのライブがあるんですから」

楓「……ぐすん」


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友紀「大丈夫大丈夫。レッスンだって真面目にやってるってば」

幸子「それは知ってますけど……明日の担当はマストレさんですよ? 今までと比べ物にならないくらいにキツイですよ」

友紀「そんなに?」

幸子「それはもう……」

楓「……幸子ちゃんが、終わった後こっそり泣いちゃうくらいにはキツかったです」

幸子「ええ……って何で知ってるんですか!?」

楓「『ボクはやれば出来る子ですから! これから出来るようになるからいいんです!』」

楓「そう強がっても、プロデューサーさんに抱きしめられると、涙が溢れていき……」

幸子「そこまでされてませんから! ちょっと励ましてもらっただけですよ!」

友紀「いやぁ、幸子ちゃんは可愛いなー」ニヤニヤ

幸子「今言われても嬉しくないですよ!」

楓「とまあ、それくらいキツイので覚悟は必要ですね」

幸子「急に真面目になるのやめましょうよ……」

幸子「……ともかく、言葉と体験で自分の未熟さを痛感するのは、かなり来るということです」

幸子「それをするということは、今の友紀さんなら大丈夫だとプロデューサーさんは考えているんでしょう」

幸子「だから、友紀さんも挫けたりせず――」

友紀「あ、そうだ! ライブ終わったら皆でキャッツの応援にいかない?」

幸子「人の話聞いてました!?」

友紀「心配し過ぎだって! ここまで来て挫けたりしないってば!」ケラケラ

楓「そうですよ幸子ちゃん。もう少し楽に考えないとラックが逃げますよ?」フフッ

幸子「……これで心配しないというのが難しいですよ」ズーン

友紀「そんな顔しないで! お姉さん達を信じなって!」

幸子「色んな意味で年上に思えないです……」

楓「でも、終わった後を考える余裕を持つのも大切ですよ?」

楓「ライブはゴールではなく、中間点なのですから。そこで燃え尽きないためにも、後のことも考えましょう」

幸子「それは、そうですけど」

友紀「んじゃ決まり! ライブの後は皆でキャッツの応援だね!」

楓「私、野球の応援は初めてですね。グローブは用意したほうがいいんでしょうか」

幸子「……はぁ、わかりました。応援に行くのは構いませんが、ライブの成功っていう前提があってのことですからね」

友紀「もちろん! いいライブにしようね!お姉さんとの約束だ!」

幸子「誰に言ってるんですか、そんなの当然のことです」フフン

楓「はい、誓いましょう」ススッ

幸子(……誓いと近いをかけたんでしょうか)

~~次の日~~

幸子「ふう……、今日のレッスンも疲れました」

幸子「けど、ライブも近いですし、怠けてはいらないですからね」

幸子「……友紀さん、大丈夫かな」

幸子「……ドリンクでも差し入れに行きましょうか。ボクは優しいですからね!」

幸子「友紀さんのレッスンは、確かこっちで……」

友紀「…………」トボトボ

幸子「あ、友紀さん。お疲れ――」

友紀「…………」

幸子「さま、です……」

友紀「……ん、お疲れ様」

幸子「ゆ、友紀さん? 何かありましたか?」

友紀「いや、大したことじゃないよ……ごめん、着替えてくるから」

幸子「は、はい……」

幸子(大したことないって……そんな風には見えません)

幸子(レッスンで何かあったんでしょうか……)

幸子「ゆ、友紀さん。あまり気を落とさないで――」

友紀「……やめようかな」ボソッ

幸子「えっ?」

友紀「……はぁ」トボトボ

幸子「…………今、やめるって」

~~事務所~~

幸子(『やめようかな』。確かにそう聞こえました)

幸子(何をやめるっていうんですか? ライブに出ること?)

幸子(もしかして、アイドル自体をやめようと……)

幸子(……友紀さん)

ちひろ「幸子ちゃん? ぼうっとしてるけど、大丈夫?」

幸子「あっ、すいません、ちょっと考え事をしていて……」

ちひろ「ちょっと外に出てくるから、プロデューサーさんか私が戻るまで留守番お願いできる?」

幸子「はい、大丈夫です」

ちひろ「じゃあ、お願い。それと、友紀ちゃんの忘れ物のラジオが届いていたから、戻ってきたら渡してあげてね」コトッ

幸子「わかりました」

ちひろ「それじゃあ、行ってきます」

バタン

幸子「……昨日は、子どもみたいにはしゃいで応援していたのに」

ガチャ

幸子「ッ!」

友紀「……お疲れ様。楓さんは?」

幸子「もう少し自主練する、と言っていました」

友紀「そっか……」

幸子「……あの、ボク達も自主練していきませんか? 友紀さんが良ければですが……」

友紀「ごめん……今はそんな気になれないや……」

幸子「そ、そうですか……」

友紀「……」

幸子「……」

友紀「……」

幸子(空気が重い……)

友紀「……ごめんね、幸子ちゃん」

幸子「ふぇ、な、何がですか?」

友紀「気を使わせちゃって。こんなんじゃ駄目だとは思ってるんだけど、すぐには切り替えられなくて……」

幸子「……」グッ

幸子「……やめるというのは、本気、ですか?」

友紀「……私、そう言ってた?」

幸子「……」コクン

友紀「……本気、かは自分でもわからない。けど、口に出るくらいには考えてたんだと思う」

友紀「自分一人が頑張っても、何も意味が無いんじゃないかって、思っちゃった」

友紀「いちいちこんなに落ち込んで、馬鹿みたいだよね……」

幸子「……そんなこと、ありません」

幸子「それだけ、夢中になって、真剣だったってことなんです」

友紀「幸子ちゃん……?」

幸子「だから……ぐすっ、やめるなんて……言わないで……」

幸子「自分一人で頑張ったなんて言わないでください……3人で頑張ったじゃないですか……」

幸子「3人で……ぐしゅ、約束したばかりじゃないですか……」

幸子「ボクは……友紀さんに、やめてほしくないです……」

幸子「無邪気に応援する友紀さんが……好きなんです……」

幸子「だから、一緒に……!」ボロボロ

友紀「幸子ちゃん……そうだったんだ、気がつかなかったよ……」

友紀「……うん、わかった。簡単にやめるなんて言ってごめん」ギュッ

幸子「友紀さん……」

友紀「大丈夫、私はやめない。人間だもの、どんな選手もエラーはする」

友紀「だから、エラーしないことじゃなくて、それを、どうやって取り替えしていくかが大事なんだよね!」

幸子「……はい!」

友紀「うん! これから、何があっても私はやめない!」

幸子「……はい!」



友紀「キャッツのファンを!」



幸子「…………はい?」

友紀「いやぁ、それにしても幸子ちゃんと楓さんが既にキャッツファンだとは気がつかなかったよ」

幸子「ちょ、ちょっと待って下さい!アイドルをやめるかどうかについて話していたんですよね!?」

友紀「え? 私がキャッツのファンやめようかな、って話じゃなかったの?」

幸子「いったいどこからそんな話に!?」

友紀「……最初から、私はそのつもりだったんだけど」

幸子「ええええええ!?」

友紀「むしろ、なんでアイドルをやめる話が出てきたの?」

幸子「そ、それは……マストレさんのレッスンの後でひどく落ち込んでいたから……キツイことを言われたのかと思って……」

友紀「あー……。レッスン終わった後にラジオで中継を聴いてたんだよね」

友紀「その試合がエラー連発のひっどい試合でさ。キツイレッスンの後の楽しみだったから、余計に応えちゃって」

友紀「それで落ち込んでるとこに幸子ちゃんが来て……無意識に口に出ちゃったんだね」

幸子「……それじゃあ、友紀さん解釈のさっきの会話は」

幸子『……(キャッツファンを)やめるというのは、本気、ですか?』
 
友紀『自分一人が頑張って(応援して)も、何も意味が無いんじゃないかって、思っちゃった』

幸子『それだけ、(野球に)夢中になって、真剣だったってことなんです』

幸子『自分一人で(応援)頑張ったなんて言わないでください……3人で(応援)頑張ったじゃないですか……』

幸子『3人で……ぐしゅ、(キャッツの応援に行くって)約束したばかりじゃないですか……』

幸子『ボクは……友紀さんに、(キャッツのファン)やめてほしくないです……』

幸子『だから、一緒に(キャッツの応援しましょう)……!』ボロボロ

幸子「…………ボクの心配は、無駄だった……?」

友紀「いや……ごめん……ごめんなさい……」

幸子「いいんです……ボクが勘違いしたのがいけなかったんですから……」

友紀「私も野球脳でごめん……」

幸子「……」

友紀「……」

幸子「……はあ、友紀さんはホントに野球のことばっかですね」

友紀「し、しょうがないじゃん、好きなんだから」

幸子「……アイドルも、ですか?」

友紀「……うん、今は野球と同じくらい好き」

幸子「じゃあ、今度のライブで証明してくださいね。それで、今日のことはお互い様です」

友紀「もっちろん! 任せてよ!」

幸子「それじゃあ、3人で自主練していきましょう」

友紀「うん、レッスンにレッスンゴー!」

幸子「それは楓さんの持ちネタですってば」

友紀「それと幸子ちゃん」

幸子「何ですか?」

友紀「私も幸子ちゃんのこと好きだよ!」

幸子「……だから、勘違いされそうなこと言わないでくださいってば」


おわり

ユッキって(残念な)お姉さんだと思う(こなみ

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