勇者「産まれた時からハエを手で握り潰そうとした結果」 (16)



勇者(俺は産まれた時から、よく目の前に来るハエを手で追っていたらしい)

勇者(俺の産まれた家はとても貧乏だった、お世辞にも雨風がまともに凌げるとは言えない程に)

勇者(故に、よく家の中にはハエがいた)



勇者(俺はずっとハエを手で追っていた)


勇者(光すらまともに捉えられない目で、必死に)

勇者(だからか、捕まえられたのは三歳になってからだった)

勇者(半ば偶然に目の前で飛び回っていたハエを手で捕まえたのだ)


勇者(僅か三歳にして、俺は快感に打ち震えた)

勇者(この手で、決して追い付けぬ相手を握り潰した快感に、俺は興奮したのだ)



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勇者(それからは毎日のように、いやこれは元々そうなのだが)

勇者(俺はそれまで以上にハエを握り潰す事に夢中になった)

勇者(外で遊ぶ他の子供達を無視して、俺は家の中のハエを潰す事だけに時間を費やした)

勇者(1日に、三匹)

勇者(それが五歳迄の俺が潰せるハエの平均的な数だ)



勇者(そして六歳になってから、俺は外でスライムを倒してから得る経験値でレベルアップが可能な事に気づいた)



勇者(そして俺はスライムを乱獲してからレベルを上げ、家の中のハエを握り潰す事に専念した)

勇者(1日にハエを七匹、俺は潰せるようになっていた)

勇者(しかしそこが当時の俺の限界)

勇者(ハエの機動力、そして特殊な軌道に無闇に手を素早く振っていてはそこが限界だったのだ)

勇者(そして齢十一にして、俺は更なる高みに辿り着いた)




勇者(ハエと、同じ軌道を自らも描けば良いことに気がついたのだ)





勇者(奴等の描く軌道は不規則な様で規則的)

勇者(そしてその速度は回避に回ったその時こそが、最大の速度となる)

勇者(俺はハエを目と体で追った)

勇者(捕まえられる数こそ減ったが、満足の行く狩りが出来た)

勇者(それを約半年続けていき、俺は遠くの外にいるスライムより強大なモンスターを乱獲してレベルを上げた)

勇者(あらゆるステータスは素早さと筋力、そして技量にのみ回した)

勇者(システム的に魔翌力が上がってしまった事もあったが、気合いで筋力にステータスを振り分けした)



勇者(半年後、俺はハエを追い回してから潰す事で効率的な狩りが行える様になった)



勇者(視界に入ったハエは最終的には潰せるようになっていたのだ)

勇者(一日に入ってくるハエ、その数十四匹)

勇者(俺はその全てを潰した)


勇者(日に日にハエを潰す快感を覚える強さと、そして速さが増していく)

勇者(だが齢十三で俺は、再び新たな壁にぶつかる事となった)




勇者(ハエを遂に一時間で殲滅出来る様になり、遂に俺はハエを握り潰す快感にありつけなくなったのだ)




勇者(俺は苦悩し、そして決意した)

勇者(毎朝生ゴミを天井裏に隠し続けたのだ)

勇者(そして大量に増していくハエを、俺は隠しきれない興奮と共に握り潰していった)

勇者(家中に溢れる腐臭とハエ、そして手に汗握り蛆ごと蝿を握り潰す毎日)

勇者(いつしか両親は俺を家に置いて引っ越してしまった)


勇者(そこから俺の戦いは始まった)



勇者(食料を確保する為に山に籠った俺は、数日してとあるハエを見つけた)

勇者(齢十五にして、ハエ型のモンスターに出会ったのだ)

勇者(魔法を使いながら、巧みに俺の棍棒を避けるその動き)

勇者(紛れもないハエだった)


勇者(俺は初めて自分に危害を加えてくるハエを、握り潰す事を目標にした)


勇者(そして遂に俺はレベルが限界に達した、99になってから上がらなくなったのだ)

勇者(システムがこれ以上は上がらないと言ったが、俺は気合いで経験値を力に変えた)

勇者(岩だけでなく、ブルーメタルやオリハルコンをも握り潰す事が出来る)

勇者(俺は遂にモンスターをも握り潰す事が出来る様になった)





勇者(齢十九、俺は一日にハエを五十匹握り潰す様になっていた)




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