Love A-RISE (22)

過去に一度書いていましたが、自己都合で放置してしまったので、再度載せようと思います。今回は書き貯めといいますか、一応区切りはついていますので、今日中にHTML(←あってるか不安)依頼までやります。

SSというよりは、スマホ小説に近いです。

また、作者がにわかのラブライブファンであり、設定の多くは作者オリジナルとなっております。
タイトルの通り、アライズの物語であり、ミューズは一切出て来ません。
綺羅つばさちゃんの年齢は穂乃果のひとつ上で、絵里ちゃんと同じということにしています。
なるだけキャラクター崩壊はしないようにしてはおりますが、念のためお伝えはしておきます。

それでは駄文めはありますが、どうぞよろしくお願いします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1430875673

 真新しい白の制服に身を包み、一人の少女は目を伏せて、静かにその時を待っていた。

 やれるだけのことはやった。それは胸を張って宣言したっていい。そう思えるくらいに、彼女は自らの全てを出しきった。

 番号と共に名を呼ばれていくのは合格の資格を得た者たちだ。

 UTX学院芸能科が企画したスクール・アイドル・プロジェクト――在学中に学院の全面バックアップの元で実際にアイドルとして活動が出来るという企画ではあるが、その内容はかなり過酷なものだ。

 高校生という身分でありながら、そこは完全な実力社会が敷かれ、実力の無いものは容赦なく淘汰されていく。

「117番 綺羅つばさ」

 自らの名を呼ばれ、彼女は静かに立ち上がり返事をする。

 広々とした室内にどよめきが生まれ、向けられた好奇の視線を受け止めながらも、彼女――綺羅つばさは、微塵も動じたりはしなかった。

 さも当然のように、湛えた笑みを崩す事もなく、毅然とした足取りで合格者が集まる壇上へと向かう。

「128番 統堂 英玲奈」

 立ち上がったのはすらりとした長身の女性。凛とした顔立ちと紫の長い髪が相まって、かわいいというよりは、かっこいいという感じの印象を受ける。
 小柄なつばさと比べると、二つほど歳上に見えるような大人びた雰囲気を纏って、英玲奈と呼ばれた女性はしなやかな足取りで壇上へと歩き出す。

 再びどよめく室内を職員が制して、合格者の発表は終わりを迎えた。

 壇上へと並んだのは総勢十名の合格者。そのほとんどが三年生であり現役のスクールアイドルだ。
 このオーディションは新入生の実力を計り、現役スクールアイドルの実力を身をもって知ってもらうために行われる、言わば腕試しのようなものだ。

 だが、今年は少し様子が違っていた。

 壇上へと並ぶ十名の中に、入学して間もない生徒が二名混じっていたからだ。

 一人目は綺羅つばさ。薄茶色のショートヘアに碧色の瞳。小柄な体格ながら柔軟な身体を使ったキレのあるダンスを武器に見事、合格の資格を勝ち取った。

 二人目は統堂英玲奈。長身と長い四肢を使ったダンスは見るものを惹き付け、 他者を寄せ付けない大人びた雰囲気は、佇むだけで絵になるようだ。

 司会を務める職員が合格者全員を一通り紹介した後で、勝者を称える言葉を、選ばれなかった者たちが全員で声にする。

『おめでとう』

 様々な思いが詰まった言葉を受けて、合格者はそれぞれに決意する。

 つばさもまた、合格者として現役スクールアイドルと肩を並べて立っている事に感慨を覚えながら、改めてここがスタート地点なのだと思い直す。

(まだ、始まったばかり……)

 そう考えて、まだ何も始まっていないのだと自分を戒める。

 ちらりと自分とはとても同じ歳に見えない女性へと目をやってみるが、その視線に気づいて尚、固めた表情が動く事はなかった。

(まぁ、当然よね)

 ここに居る者は同じ学院に通っているだけで、決して仲間ではない。例え同じユニットを組んだとしても、それはあくまでもロール<役割>である。

 誰がセンターに立つか、誰もが常に虎視眈々とその場所を奪おうとしている世界なのだ。

 そういう環境を作る事で、このUTX学院の生徒は常に高みを目指し、学院を出ても尚、活躍出来るのだと謳<うた>っている。


 自らを知り、自らの長所を武器として高みを目指す。それぞれがスタンドアローンたるアイドルであり、何よりも自分の実力がものを言う。

 それがUTX学院のスタイルだ。

 つばさが選ばれたのはまだあくまで候補生に過ぎなかった。ここからは、限られたイスを巡った、この十名との戦いが始まるのだ。

「今日のところはこれで解散です。各自、明日からレッスンに臨めるようにしておいて下さい」

 職員から今後のスケジュール表を受け取って、つばさは荷物を取りに行くために一度、教室へと戻った。

 誰もいない教室は、がらんとしていて何となく物悲しく思えてくる。まるでそれは、今まさに自分が置かれている状況のようで、言いようのない不安が混み上がって来るのを抑えきれなかった。

 伏せた視界が歪んでいく。
 このままではいけないと、まるで逃げるように、つばさは駆け出した。
 アイドルに憧れて、踊るのも歌うのも大好きで、これは自らが選んだ道なのだと自分に言い聞かせながら、つばさは走った。

 不安も迷いも、教室に忘れてきてしまえばいいと必死に走る。
 走り続ける。

 これだけ走ったのはいつ以来だろうかと、上がった息を整えながら、つばさは足りない酸素を求めて呼吸を繰り返す。長く走った所為か、涙はもう止まっていた。

(大丈夫。まだ走れる)

 心はまだ動いている。だからまだ走れるのだと、つばさは顔を上げる。額を汗が伝い、地面に落ちた。
 端の方が赤みを帯びてきた空を眺めていると、不思議と心が軽くなるような気がして、つばさはいつの間にか笑っていた。

    †

 レッスンは直ぐに始まった。
 合同レッスンや個別のレッスンは毎日続いたが、十名も候補生がいながら、ほとんど会話はなく、互いの事などほとんど知りもしないのは変わることはなかった。

 想像とは違いすぎる高校生活に最初の1ヶ月はとても辛かった。
 幾度となく不安や寂しさに打ちひしがれそうになったかわからない。だが、その度につばさは、好きな空を眺めるように上を向いて歩いて来た。

 2ヶ月が過ぎた頃にはもう、ほとんどそんな事もなくなり、それが日常として
定着化しつつあることに、つばさは驚いた。

 3ヶ月も経てば、もう考える事もなくなっていて、それが普通なのだと言える程になっていた。
 ただ、自分の心がすり減っていくのが分かることが何よりも辛かった。日を追うごとに、それまで感じていた不安や寂しさが次第に薄れていくのが分かり、孤独に鈍感になっていくのがはっきりと感じられた。

 だが、何も悪いことばかりではなかった。

 芸能科とは言え、いち高校生である以上、一般教養は誰しも学ばねばならない。その為、基本教科は所属する科を問わず合同で行われる。

 一年生にして代表候補生ともなれば注目を集めるのは必然だったが、つばさはそんな優越感を感じさせない気さくな振る舞いもあって、 一般教養科の友人も数人出来た。

 初めて応援の言葉を貰った時は、思わず涙ぐんでしまうほどに嬉しく、友人に笑われたほどだ。

 応援してくれる人がいる。それはつばさにとって何よりも励みになった。だからこそ、つばさは本当に心を失わずに済んだのかもしれない。

 そんなある日、つばさに思わぬチャンスが訪れる。

 日曜日の午前中、つばさは休日にも関わらず、職員から呼び出しを受け登校していた。
 案内されたのは職員が使う会議室。
 広い室内には楕円形の大きなテーブルが置かれ、正面には大きなモニターが備え付けられている。

「私が学院の紹介映像に……」

「来年度の新入生向けに配布するディスクだが、今注目されている新入生として君にこの学院を案内してもらいたい」

 メインイベントは三年生が務めるのだろうが、ディスクの内容には、つばさのダンスパートもしっかりと盛り込まれていた。

「やります。やらせて下さい!」

 職員を真っ直ぐに見つめて、つばさははっきりと言った。

「新入生向けの品ということもあり、現新入生である君の意見も積極的に取り入れていきたいそうだ」

 だから、どういう紹介をするか考えておいて欲しいと言われて、つばさは真っ先に屋上にあるステージを思い浮かべた。

 打ち合わせを終えて、つばさは直ぐに行動を始めた。

「やっぱりここは外せないよね」

 独白を開けた空へと溶かして、つばさは吹き抜けていく風を肌で受けながら、夏の日差しが照りつける屋上を一人で歩き、先ほど引き受けたディスクをどういった内容にしようかと思案を巡らせる。

「それにしても……」

 やはり暑いと思い。一度、戻ろうかと踵を返す。戻りの道を歩きながら、つばさは屋上に堂々と設置された大きな屋外ステージへと視線を向ける。

「いつかあそこに立てるのかな?」

 返事などないと分かっている。そして、その答えは自ら勝ち取る他にないということも。

 このステージに立てるのは学院に認められたスクールアイドルだけなのだ。

 今回の事も、純粋に嬉しく、そして誇らしくも感じながら、それでもつばさは決して舞い上がったりはしていない。
 今に流されることなく、常に高みを目指していくのはこれからも変わらない。

「でも、少しだけ」

 そう言って、つばさはスマートフォンを取り出して、友達へとメールを送る。少しでも認められたという嬉しさがちょっとでも伝わればと、タッチパネルに指先を走らせる。
 送信してから驚くほど早く、返事は届いた。

『やったじゃん!』

『おめでとう!』

『大変かもだけど、がんば!』

 友人からの返事を読みながら、思わず表情が緩んでしまう。自分の事のように喜んでくれる友達に、感謝の気持ちを込めて「ありがとう」という返事を送信する。

「よし、決めた」

 呟いて、つばさは次の場所へと向かった。
 アイドルにとって歌はダンスと等しく評価される重要なものだ。
 UTX学院は豊富な資金をふんだんに使った最新の設備もウリの一つとしている。中でもやはり、音響機材は他の芸能科を持つ学校の中でも群を抜いていた。
 完全な防音設備の整えられたボイストレーニングルームの重たい扉を押し開けて、つばさは室内へと進んだ。

「あれ?」

 ダンスほどではないが、つばさも歌にはそれなりの自信を持っている。だが、そんなつばさの耳朶を打ったのは、穏やかでありながら、しっかりと響き渡る力強さのある歌声だった。
 靴を脱いで、一瞬スリッパへと手が伸びる。が、つばさは足音を立てないようにと、靴下のまま奥へと進んだ。
 昨晩見たスパイ映画の影響か、若干それっぽい動きでつばさは扉を少し開けて、中の様子を伺った。

 奏でているのは一人の少女。
 レコーディングなど、特殊な機材を使ったりしないなら、トレーニングルームは基本的に自由に使うことができるようになっている。機材の置かれている部屋はしっかりと施錠されているためこっそり使うような真似も出来ない。
 少女が歌い終わるのを待って、つばさは声をかける。

「素敵な歌声ね」

「っ!?」

 びくっ、と肩を震わせて少女が振り向いた。栗色の髪がふわりと揺れて、桜色の瞳がつばさへと向けられた。
 おっとりとした雰囲気を纏う彼女はどこかのお嬢様を思わせる。

「驚かせてごめんなさい。私は……」

「綺羅つばささんですよね」

 先に名前を言われて、つばさはそれはそうかと内心で納得する。

「私の事、知ってるのね」

「もちろんです。一年生にして代表候補生で、ダンスも歌も上手くて、本当に凄いです」

「ありがとう。でも、あなたの歌もとても上手かったわ」

「私なんてそんな……」

「確か優木あんじゅさんだっけ?」

「えっ?」

 突然名前を言い当てられて、びっくりしたように目をしばたたかせた。

「同学年の芸能科の生徒のことは一通り記憶しているの」

 驚くあんじゅに告げて、つばさは笑って見せる。

「嬉しいです。覚えていてもらって」

「そう?」

「はい。私はその……綺羅さんのことずっと見ていましたから」

 頬を朱に染めて、あんじゅは恥ずかしそうに少し下を向いた。

「ホントに? 嬉しいな!」

 同じ芸能科の生徒からそう言って貰えるのは初めての事だから、なおのこと嬉しく思える。

「でも、どうして私なの?」

 確かに一年生ではつばさは飛び抜けているが、三年生と比べればやはり、場数が違う分、インパクトに欠けている感がある。

「綺羅さんは私と同じ年なのに堂々としていて、いつも自信に満ちていて、それに……とても楽しそうだったから」

「そんなことないと思うけど……って、過去形?」

「えっ!? あっ、いや何でもないんです、その……ごめんなさい」

「別に気にしてないから大丈夫よ」

 単なる言葉のあやだろうと、つばさは深くも考えずに微笑んで見せた。

「ねぇ、優木さん?」

「はい?」

「私、あなたの歌がとても気に入ったって言ったらどうする?」

 悪戯な笑みを湛えて、つばさは首を傾けて見せた。

「また聞かせて貰えるかしら?」

「私なんかの歌なんて……」

「そんなことないわ。さっき初めて聞いたけど、正直言ってこんなに上手い子がいたなんて知らなかった。それだけの実力があってどうして候補生じゃないのか不思議なくらいね」

「違うんですよ。私は全然違うんです……」

「違う?」

「ダメなんです私。練習では出来るのに、本番になると、途端に声が出なくなって……」

 うつ向いてあんじゅは、桜色の瞳いっぱいに滴を蓄えた。

「ならこの歌声は私が独占しちゃってもいいのかな?」

 優しく告げて、つばさはぎゅっとあんじゅを抱き締めた。

「っ!?」

「大丈夫。上手く言葉では言えないけれど、あなたの歌は本当に素敵だった。私にはあなたの問題を解決してあげることは出来ないけれど、手助けくらいなら出来るかもしれないし、何よりもあなたの歌を私は聞きたいの」

「我が儘ですね」

「駄目かしら?」

 腕をほどいて、つばさはあんじゅの涙を拭って笑う。

「ダメじゃないです」

 はにかむように笑って、あんじゅは頬を染めた。

「ね、あんじゅって呼んでもいい?」

「え、はい」

 きょとんとするあんじゅに、私の事もつばさって呼んでね、と耳打ちしてつばさはあんじゅの掌に紙切れを握らせてからぱっと離れた。

「それ、私の番号とアドレス」

 どこか嬉しそうにつばさはそう言って、それじゃあと手を上げる。

「私はこのあとまだやることがあるから、後で連絡ちょうだいね」

 失念しそうになっていたが、つばさはいま新入生向けの紹介ディスクの内容を考えていたのだ。それに午後からは、つばさが担当するダンスパートのレッスンもある。
 思わぬ出会いに浮かれていたが、やるべき事はやらねばならない。

「必ずだよ!」

「はい!」

 あんじゅが笑顔で答えて、去っていくつばさへと手を振った。

 つばさが居なくなり静寂に包まれた室内で、これは夢ではないのかと確かめるようにあんじゅは自分の頬を引っ張った。

「よかった」

 夢ではないと証明されて、あんじゅは渡された紙を抱き締めるように胸の前でぎゅっと握り、今日という日の幸運を噛み締めるように微笑んだ。

     †

 入学して5か月。長いようで短い時間はあっという間に過ぎていた。

「これが製品になる最終的な状態のものだ」

 渡されたのは、以前につばさが頼まれた学院紹介の映像を収めたディスクだった。
 自ら出演したものが、初めて形になった物を手にするというのは、今までに味わったことのない達成感があった。

 友人たちにディスクを受け取ったとメールで伝えると、二つ返事で全員から「見よう!」と言われた。
 どこで見るかと瞬巡して、ふと、あんじゅを他の友人たちにまだ紹介していなかったことを思い出し、それならばとつばさは視聴覚室に全員を集めることにした。

 いつかはと思っていたが、これは良い機会だとつばさは思った。
 出会ってからというもの、つばさはあんじゅとの交流を深めていた。
 よく一緒にお茶をしては、いろいろな会話に華を咲かせた。
 殺伐とした芸能科に所属する二人にとって、その時間は気を許せる数少ないものだった。

「あんじゅってどこかのお嬢様?」

「どうしてです?」

 お茶の最中、つばさは感じていた疑問をぶつけてみた。いろいろな会話をしたが、プライベートな質問はなんとなく避けてきた。

「何て言うかさ、あんじゅって気品みたいなのがあるからさ」

 お茶を飲む仕草や言葉遣いに、自分にはない上品なものを感じていた。

「てっきりもうお気づきだと思っていました」

「どういうこと?」

「優木というお名前に心当たりはありませんか?」

 問われて、つばさは記憶を辿る。

(優木……ゆうき……ユウキ……yuuki)

「もしかしてユウキ・コーポレーション!?」

「はい」

 その会社は大手も大手、誰もが絶対に利用しているだろうし、その名を知らない者はいないだろう。
 ユウキ・コーポレーションを示すY・Cのロゴがあまりにも定着していて、直ぐには思い浮かばなかったほどだ。

「でもどうして?」

 世界有数の大企業のご令嬢がわざわざアイドルを目指す理由が思い当たらなかった。

「聞いちゃ不味かったかな……?」

 ふと自分の言葉を思い返して、つばさは気まずそうにあんじゅへと目を向けた。

「いえ、構いません」

 微笑んで答えるあんじゅはどこか寂しそうに見えた。

「このようなことを聞かせてしまうのは心苦しいですが……」

「何かあるなら話して欲しい。もしそれが歌えなくなる事に関係があるのなら、なおのことね」

 つばさはあんじゅが本番で歌えなくなるのは、単に緊張しているからではないと思っていた。

「実は上手くいってないんです」

「家族と?」

「正確には父と、ですね」

 伏し目がちにあんじゅは告げた。

「うちの会社は私が生まれる前から大きくはありましたが、それでも父は私の歌をよく聞いてくれました。でも、会社が大きくなっていくうちに、家族の時間は減っていきました」

 そしていつの日かほとんど会話もしなくなり、父が家に帰る事自体が少なくなった。あんじゅが父を訪ねて話をしても、返事は素っ気ないものになっていた。

「ある日、私はお友達と一緒に行ったライブを見て、アイドルを目指そうと思いました。歌は小さい頃から好きでしたし、母の薦めで音楽の勉強もしていました。それに何より父にもう一度聞いて欲しかった」

「それをお父さんに話したの?」

「はい。ですが、返事はやはり素っ気ないものでした」

 つばさはなんとなくその光景を想像してしまう。
 おどおどしながら夢を打ち明けるあんじゅに勝手にしろと告げる男の姿。

「違う……」

 無意識につばさは呟いた。

「どうしてでしょう?」

 聞こえたのかあんじゅが不思議そうに首を傾げて見せた。

「ごめんね。確証はないのだけれど、多分あなたのお父さんはきっとあなたの事を嫌ったりしているわけではないと思うの」

「理由をお聞きしても?」

「小さい頃はよく話をしていて、忙しくなってから会話が減ったのよね?」

「ええ」

「でも、あなたが行くと会ってくれたのよね?」

「会議や出張でなければですが」

「忙しくて家族との時間も作れないのに、あなたが訪ねると話を聞いてくれるなんて、以外に時間余ってると思わない?」

「そんなはずは……」

 言いかけて、あんじゅはハッとした。
 以前に父のスケジュールを聞いたことがあったが、とても時間に余裕があるようには見えなかったのだ。
 それこそ、ご飯を食べるのもスケジュールとして管理されていて、自由な時間などなかったように思える。

「私もさ、そういう時期があって喧嘩した事があったんだけどね。父親ってさ、娘との距離感がわからないらしいのよね。どう話して良いのかわからなくて、それで適当な感じになってしまうって聞いたわ」

 つばさがアイドルを目指すと決めて直ぐの頃は、つばさも父親とは沢山喧嘩した。
 今から考えれば父は父なりにつばさの将来を心配していたのだろうが、夢を追うつばさに負けたのか、ある日ゆっくりと話をしてくれた事があった。
 普段はあまり多くを語らない父が、口下手ながらに色々な事を話してくれたことは今でも忘れていない。
 
 きっとあんじゅの父もどう応援すればいいのか、分からないのだろう。
 なれるか分からないアイドルよりもとも考えて、かといって娘の夢を摘み取る事もできず。だがそれでも、娘が会いたいと言えば断る事が出来なかったのだろうと、つばさは言った。

「直ぐには難しいかも知れないけど、一度ゆっくり話してみるのも良いかもしれないと思うわ」

「そう……ですね。そうしようと思います」

「部外者が偉そうにごめんなさい。これはあくまで私の感想というか、経験談というか、参考程度で構わないからね」

「いえ、本当にありがとうございます。つばささんに話して良かったです。少しだけ、父の気持ちが理解できたように思えました」

「そう言って貰えると私も嬉しいな。これからもさ、どんな事でも話してくれれば私なりに力になるからね」

「ありがとうございます」

 微笑むあんじゅの顔に、むず痒さを覚えながらホッと息をついて、照れたような笑みを返した。

 そんなあんじゅの顔を思い出しながら、つばさは誘いのメールを送る。返事はすぐに届き、つばさの友人全員の参加が決まった。

 一足早く視聴覚室へと向かい、友人たちの到着を待つ。つばさの他に誰もいない視聴覚室は、しんと静まりかえっている。
 そんな中にいると、どうしても不安や期待が込み上げてきて、つばさはディスクケースの角を立ててくるくると回しながら思案を巡らせた。

 10分程が経過した頃、こんこんというノックの音と共にあんじゅが部屋へと入って来た。

「お待たせしました」

「気にしないで、急に誘ったのはこっちだしね」

「他の方はまだなのですね」

「もう少しだと思うわ」

 どこか緊張した様子のあんじゅに、つばさは「大丈夫」と言って自分の隣の椅子を引いた。

「ありがとうございます」

 腰を降ろすあんじゅはまだ緊張しているようだが、つばさはそれほど心配はしていなかった。

(大丈夫)

 きっと直ぐに仲良くなることだろうと、広がっていく友人の輪に期待を馳せながらつばさは他の友人たちを待った。

 あんじゅから遅れること10分足らず。

「ごめんね~」

「この子が中々手間取ってね」

「人の所為にするなし~」

 と、三者三様の言葉を口にしながら、つばさより一列前の席に陣取った。

「これ差し入れね~」

 そう言って取り出したのは袋に入ったお菓子だ。

「どんだけ買ってるのよ」

 呆れ気味につばさは言って、そもそも視聴覚室は飲食禁止なんだけどと付け足した。

「いーじゃんかー」

「今日だけだからさー」

 ぶーぶーと抗議しながら、既成事実を作らんと彼女たちはスナック菓子の封を切った。

「あぁ、もう……」

 もう何を言っても無駄だと悟ったつばさは、絶対に散らかさないようにと言いつけてから、スナック菓子へと手を伸ばした。

「それじゃあ、始める前に紹介しておくね」

 告げてからつばさは、あんじゅの事を他の友人たちへと話した。
 あまり先入観を抱かせても良くないので、歌がとても上手いことやお嬢様であること、それ以外にも普段つばさが感じた事をかいつまんで話す。

 友人たちは口々に可愛いと言って、想像上のお嬢様にありそうなことを尋ねた。

「やっぱメイドさんとかいるの?」

「専属の執事さんとかもいそうだよね~」

「ねぇ? セバスチャン?」

 あはは、と少女たちの笑い声が部屋に響き、あんじゅはまるで異世界にでも迷い込んだような顔で、無限に広がっていく彼女たちの会話にただただ圧倒されていた。

「それじゃあ、そろそろ始めようかしら」

 このままではただの談笑会で終わってしまうと思い、つばさは話を切って、照明を落とした。

「お~暗~い」

「ちょっ、へんなトコ触んなし!」

「よいではないか~よいではないか~」

 どうやら、暗闇の方がテンションが上がるらしく、つばさは無言のまま、リモコンの再生ボタンを押した。
 映像が始まると、流石の彼女たちも静かになり、ようやく談笑会は観賞会の様相へと変わった。

 およそ30分ある紹介映像の前半は学院の様々な設備の紹介からはじまり、レッスンの様子などが紹介されていく。
 一般教養科の彼女たちは、自分たちとは縁のない設備の数々に感心した様子で騒ぎ立てていた。

 そして、いよいよ後半のパートへと進み、つばさを中心とした数名によるダンスパートが開始された。

「お? あんじゅも出てるじゃんか~」

「つばさっち絶賛の歌声が早くも聞けようとは……」

「衣装可愛い~」

 画面に登場したのは3人。
 中央にはつばさ、向かって左には隠しきれない緊張を面<おもて>に張り付けたあんじゅ。
 そして、向かって右には石膏でかためられた仮面のような表情を浮かべた統堂英里奈の姿もあった。

 一年生にして候補生として選ばれた二人。そして、候補生ではないが、同じ一年生としては高い歌唱力をもつあんじゅを、つばさは直談判してメンバーへと加えさせた。
 最初こそ渋られたが、つばさの提案で緊張させないように録ったあんじゅのデモテープを聞かせた瞬間、手のひらを返したように話は進んでいった。

「知らないの? 最近のカラオケって自分のディスク作れるのよ?」

 突然、メンバーに選ばれた事をあんじゅに、つばさはしてやったりの顔で告げた。
 ポカンとしているあんじゅが程なくして状況を理解すると、泣きそうな顔で抗議の声を上げた。

「いいじゃない、一緒に頑張ろうよ、ね?」

 しばらくの間、問答は続いたものの、やがて観念したかのように承諾した。

 こうして、一年生3人による限定ユニットが誕生し、これから入学を考える子にとってインパクトのあるものには確かに仕上がった。
 入学して半年程度でこれだけのパフォーマンスが出来るのだと知れば、"私にも"と、入学したいと思う者も多いだろう。

「うわぁ~3人ともすごーい」

「あんなのよく出来るよねぇ」

「あんじゅちゃんの歌、すっごく上手い!」

 と、3人の友人にも好評な様子だ。

「こんなの見たら入学したくなるよねぇ」

「なんか、私にもって錯覚しちゃいそう」

「私はムリだけどね~」

 けらけらと笑いながら、3人は思い思いの感想を述べていく。
 そんな中、スクリーンに映る自らのパフォーマンスを眺めながら、愕然とした表情を浮かべていたのは、他ならないつばさ自身だった。

「あれ、どったの?」

 そんなつばさを見た友人の1人から声をかけられて、つばさはハッと我に帰った。

「ごめんなさい、なんか自分をこうして見るのは初めてだったから」

「そりゃそうか~」

 納得した様子の友人に、内心でほっとしながらも、つばさの目はスクリーンに映る自らの表情を的確に捉えていた。

(私はいつから……)

 そして、映像が終わり、暫くの間談笑した後に鑑賞会はお開きとなった。

「またね~♪」

「つばさ~頑張ってね!」

「あんじゅちゃん、今度は一緒にカラオケいこーね!」

 それぞれに別れを告げて、友人たちを見送ったつばさとあんじゅは視聴覚室へと戻っていった。

「いつから?」

「えっ?」

「あんじゅは気づいていたのよね? 私の変化に」

 唐突な問いかけに、あんじゅは返答に詰まる。
 つばさが言っているのはステージで踊る自分自身の表情、そして記憶の事だった。
 流石に記憶の事まではあんじゅには分からなかったが、つばさが何を言わんとしているのかは理解出来た。

「そう……ですね。私が気づいたのは、たしか、3ヶ月ほと前の定期ライブの時でした」

それは丁度、つばさがあんじゅと出会う少し前の事だ。

 候補生は日々の成果を定期的にライブという形で一般にも含めて公開するのが決まりになっている。
 学院の顔ともなるスクールアイドルの候補生である以上、常に見てくれる人を楽しませる努力は絶対に必要だからである。
 それはただ決められた演目を忠実に再現すれば良いというものではない。

「分かっているつもりだった……」

 そうなりたくないと思いながらつばさはこれまで練習に励んで来た。小さい頃に見たアイドルに憧れたその日から、ステージで見せる表情とダンスは真実であるべきだと思い描いて来た。
 たとえそれが偶像<アイドル>だったとしても、ステージに立つ間だけでも1人の人間でありたいと願っていた。

「ごめんなさい。もっと早くお伝えするべきでした」

 あんじゅが震えた声でそう言った。

「いいえ、私が……自分自身が気づくべきだったの。だから、あんじゅがそんな顔をする必要はないわ」

 苦しそうな表情を浮かべているあんじゅの横髪にそっと触れて、つばさは静かな口調で告げる。

「それでも私は伝えるべきでした。自分では見えないものも、見つけて教えて上げたかった。私と父の問題につばささんが気づいてくれたように、今度は私が助けたかった……」

「ありがとう。その言葉を聞けただけで十分うれしい。今の言葉だけで、私はまた歩くことが出来るよ」

 間違いに気づいたならば正せば良いのだ。それは自分の事であっても、友達の事であっても変わらない。
 人は常に正しい道に進み続けることはできないのだ。
 互いに道を示しあって進んで行く事が出来るのだ。

「また私が道に迷ったら、教えてくれる?」

「ええ。必ず」

「なら、あんじゅが迷ったら私が教えてあげるから」

「はい、お願いします」

 互いに手を取り合って、二人は頷き合った。
 はっきりと口にしなくても互いの意図は理解出来た。

「伝えて、あげなきゃだよね」

「はい。私もそう思います」

 違う道を歩いていても、同じ場所を目指しているのは変わらない。それに何より、同じ過ちへと進ませるなんて絶対に許せなかった。
 だが次の日、つばさ達の予想は大きく狂わされた。
 抜き打ちの選抜試験が行われたのだ。
 その結果、

「本日を以て統堂 英玲奈以下2名は候補生から外れて貰う」

 その言葉に一番驚いたのは、もしかしたらつばさだったのかも知れない。
 当の本人は普段と全く変わらない鉄のような面<おもて>のまま現実を受け止めているようにも見えたが、つばさは受けた衝撃を隠しきれずに、震える手を太股の下に無理やり押し込めて、ぎゅっと唇を噛み締めた。

 その日のレッスンの事はよく覚えていない。
 減った人数よりも室内は広く感じられたことだけは記憶として微かに残っている。
 同じ一年生で候補生だった彼女。言葉を交わした事は殆ど無かったが、考えている以上に親しみを感じていたのかもしれないし、そうなっていたのが自分であったかもという恐怖によるものなのかもしれない。
 
 だがそれでも、つばさは逃げなかった。

「何の用?」

 人気のないロッカールームに英玲奈の棘のある声が響く。その言葉の先には、神妙な面持ちのつばさの姿があった。

「笑いに来たの?」

「まさか」

 沈黙。

「用がないなら帰ってもらえないかしら。女同士とはいえ、着替えを見られる趣味もないから」

「話があるの、少し時間あるかしら?」

「お断りするわ」

 即答されて、つばさは思わず声を上げそうになったが、ぐっと堪えて冷静に話を進めていく。

「ならせめて、着替えている間だけでも時間をくれないかしら」

 その提案に英玲奈は無言のまま着替え始めた。それを肯定の意と認識したつばさは、せめてもの配慮として直接着替えが見えないように英玲奈の裏側の通路へと移動して話を始める。

「あなたもあのディスクは見たよね」

 英玲奈からの返事はなく、布の擦れる音だけが静かな更衣室に広がっては消えていく。

「私はいつの間にか自分自身を見失っていたの。等身大の自分を見せたかったはずなのに、気づいたら偽りの自分がそこにいた」

「何が言いたいの?」

 苛立ちを滲ませた返事が響き、つばさは小さくガッツポーズを決める。わずかにでも興味を抱かせてしまえば、まだ可能性は大いにある。

「私は例え偶像<アイドル>になったとしても、ステージの上でだけは本当の自分でいたい。だから、思ったの……英玲奈さん、『あなたは何を目指しているの?』って」

 布の擦れる音は止んでいた。

「あんじゅ……覚えているかな、あの紹介ディスクで一緒にステージに踊った子の事。あの子が言ってた。私たちはまだ生まれてもいない卵。だから、殻の色をどれだけ変えたって意味はない。大事なのは、どんな雛になりたいかだってね」

 畳み掛けるようにつばさは言う。言い続ける。

「あなたのダンスは完璧。決められた動きを忠実にこなしている。でも、あのディスクに映るあなたの顔は全然楽しそうじゃなかった。見かけは笑っていても、心が笑っていない。そんな……」

「もう黙って!」

 ロッカーを叩く音と共に、英玲奈の声が更衣室を震わせた。

「あなたに私の何がわかるの……常に最高のパフォーマンスの何が悪いの……見てくれる人に最高のものを届ける、自分が楽しいかなんてどうだって……」

「見て貰う私たちが楽しくないのに、見ている人が、楽しめる? 私は小さい頃に見たアイドルの楽しそうな笑顔に憧れてこの世界を目指したの。だから、信じたい。私が目指したあの人たちは好きであそこに立っているって、決して仕事だからとかではなくて、歌もダンスも楽しいからステージに立っているってね」

「そんな事を言うのはあなたがまだ候補生だから?」

「いいえ、これは私の、綺羅つばさとしての意見よ。でもそうね、確かに私はまだ候補生で、そういう風に思われるのも仕方ないか」

「分かったなら、もう今後私に関わらないで、放っておいて」

「嫌よ」

「……っ」

 英玲奈がぐっと奥歯を噛み締める。

「だってようやく本当のあなたに会えたんだから」

「何を言って……」

「今のあなたの顔には今まで見たことがないくらいの感情が現れてる」

 笑いながらつばさはロッカーの陰から姿を現した。
 ブラインドの隙間から差し込む夕日の光を背に受けながら、つばさは挑戦的な眼差しで言った。


 その言葉に英玲奈はハッとしたように顔へと手を伸ばす。

「私は……なんで……」

 個人の感情なんていらないと思っていた。アイドルはただ演目に沿って、完璧に役割を演じればそれでいいのだ。だから英玲奈はこれまでそうしてきた。
 だというのに、

「なんで私はこんなにもイライラしているの……」

 この感情は一体何だ?

「こんなの知らない……」

 こんなのいらない……。
 ずっと前にそう決めたはずだ。
 だというのに、どうして今さらこんなにも昂るのは何故だろうか。

「本当に分からない?」

 つばさが問う。
 こんなものは知らないと理性は言う。だが、心は覚えている。
 始めてステージに立ったときの興奮を、始めて失敗した日の悔しさを、そして、ダンスというものの楽しさを……。

「私は明日候補生から辞退するわ」

 迷いなく、真っ直ぐにつばさが言った。それは限りなく間違った選択のように思える。その道は棘の……いや闇の道か。だというのに、彼女の目には確かな光があった。
 それはとても小さくて、しかしとても強い光だ。

「ねぇ、私と一緒に踊らない?」

 差し出された右手と言葉に、どくんと英玲奈の心臓が鼓動する。
 この選択はきっと間違っている。だが、まるでその瞳に吸い込まれるかのように、英玲奈は足を踏み出してしまう。

「私は……」

 今までの自分がガラガラと音を立てて崩れていく。それは偽りの自分であり、弱い自分自身だ。
 失敗を恐れるあまり、ただ演目に忠実な人形になっていた臆病な自分だ。

「私はつばさ、綺羅つばさ。あなたは?」

「英玲奈。統堂英玲奈」

 握りしめた手と手に伝わる互いの鼓動。それは不安や緊張なんかではないと、互いが知っている。

「それが本当の貴女なのね」

「おかしいだろうか?」

「いいえ、とても素敵な笑顔だと思うわ」

 微笑むつばさの前には、ぎこちなく……だが、とても自然な笑顔を湛える英玲奈の姿があった。

 †

「それで、一体何を考えているんだ?」

 英玲奈の問いかけが滞っていた空気を一瞬で変化させた。
 つばさ、あんじゅ、英玲奈の三人はUTX学院のカフェテリアに集まっていた。
 二人を集めたのはつばさだ。
 だというのに、つばさは肝心の話ではなく、関係があるとは思えない他愛もない話題ばかり振っては、核心に触れようともしなかった。
 そんなつばさの態度に業を煮やして、英玲奈がその口火を切ったと言うわけだ。

「思ったよりせっかちなのね」

 苛立ちを露にした英玲奈の視線を涼しげに受け止めながら、つばさは残っていた紅茶を飲み干した。

「お茶くらいゆっくり飲みたかったのに」

 さして残念そうでもなくそう言ってから、つばさは一呼吸置いてから口を開いた。

「ちょっと、ここのシステムをぶっ壊そうと思ってね」

 満面の笑みで告げられた一言は、英玲奈とあんじゅにとっては衝撃的なものであった。

「それぞれが与えられた役割を演じるだけの、スタンドアローンなアイドルを育成する。私はこのシステムを根本から変えようと思うの」

 ぽかんとする二人などお構い無しに、つばさは言葉を紡いでいく。

「アイドルなんて所詮は偶像。人が描いた理想だってことは知ってる。でも、私達は人形じゃない。一人一人感情だってあるし、なにより個性がある。同じ色ばかりじゃ、つまらない。違う?」

 無茶苦茶な事を言っているという自覚はあった。だが、それが間違っているとも思わなかった。

「言っている意味は分かるが、一体どうやってルールを変える。まさか理事会を説得するとでも言うつもりじゃないよな?」

 UTXの教育方針は理事会によって決定されている。
 つまり根本のルールを変えるにはその理事会を動かさなければならないという事に他ならない。

「ここのシステムは基本みんな嫌いだけど、一つだけ好きなものがあるの」

 つばさはイタズラな笑みを浮かべながら告げる。

「ようは勝てばいいのよ」

 そう、UTXは絶対的な実力主義なのだ。
 つまり、この学院で頂点に立つことが出来れば、それは今後の教育方針に対して大きな影響を与えることが出来ると言うことだ。

「でも、そんな事簡単には……」

「でも、やらなければ何も変わらない。誰かが、石を投げなければ水面ずっと同じ模様を写し続けるだけ」

「それにこのやり方では、実力主義という考え方は変わらないだろう。仮に方針転換があっても、実力主義では少なからず脱落していく者が生まれるだけだ」

 英玲奈の言葉は至極最もだった。
 個性を認め、それぞれの色を目指したとしても、実力主義となれば必ず敗者が生まれるということになる。
 それは今のUTXとどれ程の違いがあるというのだ。

「全然違うわ」

 はっきりとつばさは言う。

「私達はアイドルよ? 実力主義なんて当たり前。全員平等になんてあり得ないし、そんなことをしてもなんの価値もないわ」

 勝者がいて敗者がいる。
 それは世界の心理だ。つばさは何もそんな場所から変えようとは思っていない。

「どんな形であれ全力でやって負けたのならそれが実力。そこでおしまい。だから勝つために頑張れる。でも、今のシステムじゃあそれが出来ない。UTXが選び、UTXが敷いたレールを走るだけで、個人なんてものはそこにはないわ」

「だが、選ばれる為に皆努力しているだろう? それがつばさの言う色じゃないのか?」

「確かに努力はしてる。でも、その努力は自分を殺す努力。個性を殺し、UTXが目指す形へと自分を作り変えているだけよ」

 言われて、英玲奈ははっとした。
 英玲奈自身、確かにそうしていたからだ。
 ただ演目に忠実な人形。それがUTXの求める理想。アイドルという理想を形にした偶像を盲目に目指していた。
 それはあんじゅも同じだ。
 大好きだった歌だけでは選ばれる事はない。だから、あんじゅもまた自分自身に嘘をついたのだ。
 苦手なダンスへと意識を向ければ向けるほど、得意なものから意識が離れていく。だから余計に歌えないし、踊れない。
 その所為で自信をなくし、更なる悪循環へと陥っていく。 

「誰かになるんじゃなくて、自分自身が勝つために努力出来る場所を私は作りたい。精一杯やって、たとえ負けてたとしても、後悔しないで済むようなそんな場所にしたい」

「だがそれは何よりも難しい道だ」

「とても一人じゃ出来ませんね」

「でも、私達三人なら出来るかも知れないでしょ?」

 英玲奈は思う。なんとまぁ、無理難題を言い出したのだろうと。
 あんじゅは気づく。自信持てない自分がいつのまにか居なくなっている事に。
 二人は想う。つばさという友人に出会えた意味を。
 そして、三人は誓う。たとえ失敗しようと、最後までやり遂げようと。

「始めましょう。私達のライブを!」

 重ねた手を互いに握り締めた。
 ぎゅっと固く、刻むように……。

To be continued

今はここまでです。
貴重なお時間を割き、読んで頂きありがとうございます。
アライズの結成秘話的なお話しを想像しました。読み返しましたが、板だとなんか読みづらいですね。
もう少し改行増やそうかな~と思いつつ、当然のように次回予告をば!

UTXの方針へと異を唱えるべく立ち上がった三人。

しかし、学院を動かすには相応の力が必要だった。苦悩する三人に浴びせられる非難の声がつばさ達をなお追い込む。

次回 Love A-RISE 最終話 第0回ラブライブ! 開催!!

更新未定ですが、お楽しみに!

という感じて、今回はここまでです。
ここまで読んでくださった方ありがとうございました!

個人的には反省点だらけですが、次回で直せたらと思います。

それではHTML化依頼出してきます。

いつかまたお会いできる日まで!
(^o^)/~~


スピンオフでコミカライズできるんじゃねってくらいのクオリティだった

A-RISEを掘り下げた話も良いね
続きが楽しみや


A-RISEももっと設定が細かいとSSとかも増えるんだろうけど
主人公にするには>>1がそうしたようにオリジナルの要素を取り入れないといけないから皆書きたがらないよなあ

読んでくださった方、レスありがとうございます!

いや、ホントにもっとアライズの設定欲しいです><

続きのほうも、出来る限り頑張って書きたいと思います!

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