魔女「流れ星に願うこと」 (98)

>魔王城

魔王「よくぞ来たな、勇者よ!!」

勇者「魔王…!お前を倒さないことには、人間達に平和はやってこない!!」

魔王「フ…できるのか、お前に?」

勇者「やってやる…!!覚悟、魔王ォ!」

ガキンガキン

ドゴオオォォォン

魔王(くっ…この剣技)

勇者(魔王…流石の魔力だ)

勇者・魔王((油断したら、やられる!!))


「うるさい」


勇者・魔王「!?」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1428916904

最終決戦を繰り広げる両者の間に割って入ったのは、女の声。
2人はその声に驚き、戦いを止め振り返る。

「そうだ、そのまま両者争いをやめろ。ろくなことにならんぞ」

するといつの間にか、すぐ側に妖艶な女が立っていた。

勇者と魔王が驚くのも無理はない。
この実力者2人をもってしても、この女が部屋に足を踏み入れたことに、声をかけられるまで気がつかなかったのだから。

魔王「何者だ、貴様は」

魔女「魔女――と呼ばれている」

魔王「魔女だと!?」

魔王の威圧的な声にも、魔女はその芸術品のように整った顔を歪ませることはなかった。
グラマラスな肉体を惜しみなく露出させた衣装は一見娼婦を連想させるが、彼女自身から溢れる強気と自信が妖艶さを上回っていた。

勇者「今は最終決戦の時なんだ、邪魔しないでくれ」

魔女「先に私の邪魔をしたのはお前達だ」フゥ

魔王「何…?」

魔女「お前達のように力の大きな者同士が争うと、世界に流れる「気」が乱れるんだよ。そうするとだな――」

そして女は予告なく、いつの間にかその手に貯めていた力を放った――

ズドグォオオォォォォン

見習い「うわぁ…魔王城が崩壊した…」

魔法の鏡に映し出された映像を見て、私は思った。やりすぎだ、と。

魔女「ただいま、戻ったぞ」

見習い「お、お帰りなさい師匠。どうでした?」

魔女「ん?あぁ、両成敗してきた。全く、うるさいったらありゃしない」

見習い「でもいいんですか?勇者と魔王の最終決戦を邪魔してきて…」

魔女「私の知ったことじゃないな。そんなことより、あいつらのせいで気が散って仕方なかった。だがこれでようやく昼寝に集中できる…」フワァ

見習い(ひっどい理由…)

誰の目から見ても美しい容姿を持つ師匠だけど、残念ながら性格は破綻している。

だが師匠が常識に囚われないのも、その実力からしてみれば当然なのかもしれない。

何故なら師匠が本当に誇っているのはその美しさよりも、「世界一の魔法の使い手」と言われる程の実力なのだから。
魔王と勇者の戦いも師匠にとっては、頭上で蚊が飛び回っている程度の煩わしさでしかない。

魔女「ふわぁ…おはよう」

見習い「おはようの時間じゃありませんよ師匠。はい、目覚ましのコーヒーです」

魔女「ありがとう。お前はよく気がつく、いい奥さんになれるぞ」

見習い「そ、そんなことありませんよ」アワワ

魔女「よく買い出しで街に行っているだろう。誰かいい男はいないのか?」

見習い「…いえ」

この綺麗な師匠の側にいるのが恥ずかしい位、私なんて地味で冴えない女の子だし…。

見習い「男の人、苦手で…」

魔女「そうか」

見習い「師匠は恋愛をしたことがあるんですか?」

魔女「…」

愚問だったかもしれない。どんな男から見ても高嶺の花である師匠。それに私の知る限り師匠には、恋にうつつを抜かすような乙女心は存在していない。

魔女「忘れたな」

見習い「忘れた…んですか」

魔女「駄目だな、もうろくした。年齢が年齢だからな」

恋愛の思い出を忘れることなんてあるんだろうか。
だけど師匠は見た目こそ若いけれど、魔法の効力で既に500年以上生きているのだ。

見習い(女性に年齢の話は厳禁だけどね…)

魔女「あぁ、いい風呂だった」

見習い「師匠、裸でうろつかないで下さい…」

魔女「どうせ女2人暮らしだ、これ位気にするな。熱魔法のお陰で体も冷えん」

見習い「気にしますよ…。はいバスローブです」バサァ

魔女「ありがとう」

見習い「いえ…」

倫理的な問題もあったけれど、自分が卑屈になってしまうのもあった。
きめ細かい滑らかな肌、整ったスタイル…同じ女として、どうしても差を感じてしまう。

けれど師匠は別に自分の体を見せつけたくてそうしているわけじゃない。
単純に、服を着るのが面倒なのだ。この人は、そういう人だ。

魔女「それにしても…おい見ろ」

けれど、そんな良くも悪くも女らしくない師匠には1つだけ、ロマンチックな趣向があった。

魔女「今日の夜空は美しいな。星の輝きが夜を明るくしている」

見習い「えぇ…」

師匠は夜になると、星空の鑑賞をする。
いい加減な性格の師匠だけれど、これだけは毎晩の日課になっていて、500年間1度も欠かしたことはないという。


魔女『流れ星を見たことはあるか?』


以前、師匠がそう言ったことがあった。
いいえ、見たことはありません。私がそう答えると、師匠は「そうか」と一言呟いた。
師匠は勿論ありますよね――そう言うと師匠はふっと笑みをもらした。

魔女『あぁ、何十回も見てきた。だが――』

師匠は星空を見上げる。光に照らされた師匠の顔は、その時何だか寂しく見えた。

魔女『流れるのはいつも一瞬。願い事を言う前に消えてしまう――私はまだ、願いを聞き届けてくれる流れ星に出会ったことがない』

何だか可笑しな発言に思えて、私はすぐ返した。
師匠程の力があれば流れ星にお願いしなくても、自分で叶えられるじゃありませんか、と。

だけど師匠は首を横に振った。

魔女『自分じゃ叶えられないからこそ、願い事になるんだよ』

願い事――師匠でも叶えられない願い…私には想像がつかなかった。

そんなことを思い返している時だった。

キラッ

見習い「あら?」

視界の端で光るものが動いた。
あれはまさか――流れ星?

見習い「師匠、今の流れ星じゃ――」

魔女「いや」

師匠は一歩前に出る。
それでようやく私も気付いた。光るものは猛スピードでこちらに接近してきている。あれは流れ星じゃない。だけど、何?

魔女「赤と、黒――」

見習い「え?」

かき消えそうな位小さな声で師匠は言った。
だけど師匠は接近してくる光に目を奪われたかのように、そこから視線を動かさない。

そして接近してきたそれは、

「コンバンハァ、そしてサヨウナラアアアァァ!!!」

私が赤と黒を認識したと同時、光る鎌を持って師匠に飛び込んでいった。

魔女「全く…何だ?」

だけどそんな急襲に動じず、師匠はそこから動かなかった。
師匠は魔法で壁を作っていて、襲いかかってきた鎌を弾いたのだ。

「流石、世界一の魔法の使い手…人間から恐れられているだけあるな、魔女さんよ」

鎌を持った彼は、後ろに跳んで距離を取る。
赤と黒の衣装をラフに着こなした若い男。ボサボサな前髪から覗く目は鋭く、口は尖った歯を見せている。

魔女「一応私も人間なんだが…」フゥ

「それだけの力を持って500年以上も生きりゃ、もう人間辞めてるも同然だろォ?」

魔女「ま、それもそうだな。所でお前は何者だ?」

死神「死神」

死神は名を名乗り、得意げに笑った。

死神「地獄の主の命令により、お前の命を奪いに来た」

魔女「ほう?」

師匠は動じずに笑いを浮かべた。

死神「テメェみてぇに、人間を超越したヤローは世界のバランスを崩してんだよ。勇者と魔王のバトルだって、ありゃこの世界にとって必要なイベントだったわけよ。テメーはこのウン百年間、そういうイベントをことごとく握りつぶしてくれたなオイ?」

魔女「ほう、それは知らなかったな。今度から考えて行動するから、見逃してはくれんか」

死神「駄目だ。テメェは人間や魔物にとって、存在するだけで影響を与える伝説のような存在になってる。力を使うな目立つなつっても、今更無理だろそりゃあ」

魔女「十分、潜んでいたつもりだったが」

死神「とにかく神々もテメェを疎ましく思っているんだよ。だから大人しく、この世界から排除されろや」

魔女「ふむ…理不尽だと思うのは私だけか?」

死神「さぁな!!」

気付けば死神の鎌に膨大な魔力が集中していた。

魔女「あれは鎌自身が放つ魔力か…死神の鎌だけあって凶々しいな」

見習い(あわわ…)

私はというとただオロオロするばかりで、動くどころか、言葉を発することすらできずにいた。

死神「その首貰ったああああぁぁッ!!」

見習い「あぁっ!?」

死神の鎌は一瞬で師匠の首に食い込み――

死神「ぼぶっッファアアアァァ!?」

そして死神は、そこから吹っ飛ばされた。
地面に倒れ込んだ死神は、わけがわからないといった顔で師匠を見上げていた。

魔女「で?どうやって私の首を取るんだ?」

死神「馬鹿な…確かに今、鎌が首に…ってえぇ!?」

鎌で切られたはずの師匠の首には、かすり傷1つ出来ていなかった。

死神「どういうことだよ!?そ、それに…人間の攻撃が死神に効くはずも…」

魔女「どういうこと、か…まぁ、説明するとだな」

師匠は少し考えた後、頷いて死神に向き直った。

魔女「そういう魔法だ」

死神「…」

死神「どういう魔法だあああぁぁ!?」

見習い「師匠は常識外れですから」

死神「チキショウ話が違うじゃねーかよォ!地獄の主が「お前にしかあの魔女の命は奪えん」って言うから来たのにっ!あの嘘つき薄毛野郎!」

魔女「お前、下っ端か?」

死神「あー?死神ん中じゃ100歳ちょいの若造だが、超がつくイケメンスーパールーキーだぜ」

魔女「よし、死ね」

死神「フヌァ!?」

死神は咄嗟に立ち上がってのけぞった。
けれど師匠はゆっくり、死神との距離を詰める。

魔女「理屈はわからんが、地獄の主がお前なら私の命を奪えると判断したのだろう。なら奪われる前に奪ってやろう」

死神「ちょ、タンマ、タンマ!!ちったぁ慈悲を!」ササササッ

魔女「安心しろ。お前は見目がいいから、快感になる死に方を与えてやる」

死神「わーい嬉しいなー…ってなるか!!命だけはああぁぁ」ガタガタブルブル

見習い(この手のひら返し…)

あまりに見事な手のひら返しに、何だかこの死神が哀れに思えてきた。

今日はここまで。200レス以内で収まる話になると思います。

たまに漫画とかも載せていきます。自分は作業が早いので、漫画のせいで更新が遅れることはないと思います。

見習い「師匠、見逃してあげませんか…?」

魔女「何だ見習い。この滑稽な男に仏心でも芽生えたか?」

見習い「いえ、そういうわけでは…師匠が彼に遅れを取るなんて今後もありえないと思いますし…」

魔女「お前もなかなか失礼な奴だな」

見習い「あっ」

しまった、そんなつもりはなかったのだが…。
私はそんなつもりはない、と言うつもりで死神の方を振り返ったが…。

死神「そうそうそう♪俺のような下っ端じゃー無理無理無理ィ♪」

見習い「…」

魔女「殺そう。見苦しい」

死神「ぎゃああぁ!?」

確かに、見苦しいのは間違いなかった。失礼だけど。

死神「クッソォ…殺されるなら仕方ねぇ…!!」ゴオォ

見習い「!?」

死神は全身から魔力を放出する。
さっきの鎌の魔力よりは小さいが…何だろう、危険な感じがする。

死神「こうなりゃやるっきゃねぇな…自爆技をよォ!!」

見習い「ええぇ!?」

まずい、殺すという言葉が彼を追い詰めてしまった。
私は慌てて師匠を見るが――

魔女「この魔力は――」

見習い「えっ?」

魔女「…そうか」

師匠は少し呆然としていたけれど、やがて納得したように微笑んだ。
それから小声で呟く――


魔女「お前を待っていたぞ――ずっとな」


それはどういうことですか――尋ねようとした瞬間だった。

魔女「覇ッ」

師匠が手をかざしたと同時、

死神「!?」

死神の魔力が一瞬にしてかき消えた。
自分の意思に反して魔力が消えたことに驚いたのか、死神は挙動不審になっている。

死神「お、お前、俺に何をした!?」

魔女「そういう魔法だ」

死神「何でもそれで済まそうとしてねぇ!?」

その後死神は何とか魔力を放出しようとしているのか「うぎぎ」と唸っていたけれど、師匠の力の前に徒労に終わったようだった。

死神「何なんだよテメーは…」グッタリ

魔女「まぁそう死に急ぐな」

死神「殺すとか言ったのは誰だよ!?」

魔女「私だが?」

言い争いでも完全劣勢のようで、喚く死神さんは師匠にからかわれる。
まぁ100歳位の「若造」では、師匠にとってはお子様同然だろう。

魔女「前言撤回だ、殺すのはやめておこう」

死神「マジすか!?」

手放しで喜ぶ死神に師匠は「だが」と加えた。

魔女「薄毛な地獄の主とやらの命令で、お前はまた私の命を奪いに来るのだろう」

死神「ナ、ナナナ何ノ話デスカネー」汗ダラダラ

見習い(図星だって丸分かり…)

もう2度と自分の命を奪いに来れないよう、師匠が死神にそれなりの対処をする…そういうことだと思った。
それを死神も恐れているのだ。師匠の力なら、死神の肉体をどうとでもできるだろうから。

魔女「一々来るのは大変だろう」

死神「は?」

見習い「え?」

だから師匠の口から出た言葉は予想外で。

魔女「うちに住んだらどうだ?命を奪う隙くらいはあるかもしれんぞ?」

そのとんでもない発想に、勿論理解は追いつかなかった。

見習い「な、なな何考えているんですか師匠!?」

魔女「死神との同居生活だ、そういう経験をするのも悪くはない」

見習い「いやいやいや!?」

良いか悪いかで言ったら悪いに決まっている。
そりゃあこの死神さんは色々抜けている感じはするけれど、一応師匠の命を狙う敵なのだ。

死神「急に思いついたのか?」

魔女「うん?」

だけど死神はさっきまでとうって変わって、案外冷静だった。

死神「さっきまで殺そうとか言ってたのに、どういう心境の変化だァ?」

死神の目は猜疑心一杯だった。師匠の突飛な提案が、かえって彼の警戒心を強めたようで。

魔女「別に」

だけど師匠は意に介さずに言った。

魔女「どうやらお前は、私が待ち続けた者らしい」

死神「あ…?」

見習い「え…?」

師匠はまた、理解できない言葉を口にした。

魔女「それよりも私はもう眠いんだ。見習い、死神に空き室を案内してやってくれ」スタスタ

見習い「えっ、師匠!?」

こうして理解が追いつかないまま、師匠は私達を置き去りにした。

取り残された私も死神も、少しの間呆然としていた。

死神「…案内してくれよ、空き室」

見習い「えっ!?あ、は、はい!」

私は勿論納得はしていないけれど、師匠が言ったのだからそれに従うしかない。
なので早い所案内してしまおうと思ったけど。

死神「さっきはありがとうな」

見習い「え、えっ!?」

死神は私の前に回ってくる。

死神「ほら、さっき俺を庇ってくれたろ。ありがとな~?」

見習い「え、あ、そ、そのっ」アワワ

距離が近い。男の人は苦手なのに…

死神「どうかした?」

見習い「」ビクッ

死神「~?」

見習い「ご、ごめんなさい…い、今案内しますからっ!」スタタタ

死神「…」

死神(魔女と正反対じゃん。可愛い)

今日はここまで。

漫画2枚目です
漫画だと下品ネタばかり思いつく(´・ω・`)

魔女さん素敵乙
漫画、アップロード期限過ぎたら見れなくならない?

部屋に戻った魔女は空を眺めていた。
ぐるぐる回る世界で、自分は何度今日の空と対面してきただろうか。

魔女「500年、か――」

今夜も星は流れない。

魔女「だが、ようやく…」

感慨深い気持ちで見つめる空。
見上げながら思い返すのは、懐かしい声。


『いつかまた、お前に会いに来るから――』


魔女「…遅すぎだ、全く」

口では文句を言いつつ、顔には笑みが浮かんでいた。

>翌日

見習い「ふわぁ」

眠い目をこすってエプロンを着る。
この家での家事はほぼ全て、私の仕事である。

見習い(そうだ、今日から死神さんもいるからご飯は3人分だ)

いつも師匠に合わせてメニューを組み立てていて、この家では毎朝パンである。
理由は「フォークを使うのが面倒臭い」という、ひどくだらけたものである。
ちなみに手を使うのすら面倒臭い事もあり、そういう時は魔法でパンを浮かせて食べたりしている。

見習い(でも男の人はパンだけじゃ物足りないかなぁ。保存庫にあるもので、適当に…)

ジュウゥ

見習い「ん?」

台所の方から人の気配が…。

見習い「だ、誰ですか…?」ソー

魔女「よぉ、おはよう見習い」

見習い「し、師匠ォ!?」

魔女「今日は早起きしてみたぞ」

見習い「そ、それより、その格好…」

魔女「あぁ…似合うか?」

師匠は薄着にエプロンという刺激的な格好で台所に立っていた。
私はその姿だけで頭がぶっとびそうになった。格好がどうとかの問題じゃなくて。

見習い「どうして師匠が台所に!?」

このだらけた師匠が早起きという事自体驚きなのに、エプロン姿で台所に立つなんて頭でも打ったのだろうか…。

魔女「それよりもどうだ、朝食を作ってみたぞ」

見習い「これは…」

香ばしいフレンチトースト。形の整った卵焼き。綺麗に盛り付けられたサラダ。いい感じに焼けたソーセージ。

見習い「師匠…魔法を使われました?」

魔女「いや、私の手料理だが」

見習い「師匠…料理できたんですか」

魔女「ん?どうした沈んだ声を出して」

見習い(知らなかった…有能すぎるでしょ師匠…)ズーン

少なくとも私の知る師匠は怠惰でマイペースでだらしなくて、美麗な外見を台無しにする性格の持ち主だ。

それが…

魔女「どうだ、美味いか」

死神「おう、美味い」

魔女「そうか、作った甲斐があったな」フフッ

見習い(師匠が料理を褒められて喜んでいる!?)

魔女「死神、お前の好きなものは何だ?」

死神「俺か…俺は甘いもんが好きだな、ケーキとか」

魔女「果物やクリームたっぷりのか」

死神「お。何でわかるんだ?」

魔女「そういう魔法だ。その内食わせてやるよ」フフ

見習い(ま、まさか作るの師匠!?)

死神「見習いちゃんはお菓子作りとか上手そうだよな」

魔女「む。菓子作り位私でもできるぞ。確かに見習いは家庭的な奴だが、やれば私も負けん」

見習い(しかも張り合ってきた!?)

初めて見る師匠の色んな一面に、私は食事をとる手が止まっていた。

魔女「さぁ今日1日私に張り付いて隙を伺うがいい。いつでも相手してやるぞ?」

死神「チッ、やりにくいこと言ってくれるぜ」

見習い(師匠…何か楽しそうなんだけど)

心なしか声色も表情も明るい。
いつも私といる時は、こんな一面見せなかったのに。

見習い(そりゃそうよねー…師匠だって男の人といれば気分が若返るわよね)

見習い(私みたいな地味なのといてもつまらないだろうしねー…)

見習い(死神さんといる方が楽しいんだ)イジイジ

考えれば考える程卑屈になってしまいそうなので、掃除に集中することにした。
そういえば棚の上はしばらく掃除していないので、ホコリがたまっているだろう。

見習い「よいしょっと」

私は台座に椅子を引っ張ってきて、棚の上を拭く。
棚は案外範囲が広くて、手を伸ばさないと全体を拭けない。

見習い「うー…んっ」

と、苦しみながら手を伸ばした、その時。

グラッ

見習い「えっ」

私はバランスを崩し、椅子ごと傾いた。
落ちる――!

死神「…っぶねええぇぇっ!!」ドサッ

見習い「きゃっ!?」

床に転げ落ちるかと思いきや、そうなる前に受け止められた。
椅子だけが転び、ガランという音が鳴る。

死神「横着しねーで一旦椅子動かしてから掃除しろって…あぁ良かった」

見習い「」アワワ

死神「あ?」

死神さんと体が密着して――

見習い「あ、あぅ、あ、あぅあぁぁぁ」

死神「???」

頭が真っ白になった後――

見習い「ご、ごめんにゃさあぁいっ!」バッ

死神「!?」

私は慌てて死神さんから離れ、後ろに跳んだ。

見習い「す、すびばせっ、ありがとござっ」ワタワタ

死神「おい?どうし…」

見習い「――っ!」

死神さんが一歩、私に近づく。

見習い「…ぃ、えぅ…」ポロポロ

死神「!?」

見習い「ご、ごべんなさ…ち、違うんですぅ…」ポロポロポロ

死神「どしたー?」

見習い「うぇぅ…」グスッ

ちゃんと言わなきゃ。
私は涙を拭って、鼻をすすった。

見習い「男の人が苦手で…死神さんのせいじゃないんです…」

死神「そうか」

死神さんはあっさり答えた。

死神「まぁ、何となくそんな気はしてたけどなァ。ずっと俺の方見ようともしないし」

見習い「し、失礼しましたっ!自分ではそんなつもりは…」

死神「…でもそういう子ほどいじめたくなっちゃうよな~イッヒッヒ」ジリジリ

見習い「」ビクゥ

死神「はっはっは、わりわり。あ、でも落ちたの受け止めたのはセクハラじゃねーから許せよ」

見習い「ゆ、許すなんて!とんでもないです、ありがとうございました!」

死神「見習いちゃん背ぇちっちゃいんだし、高い所の掃除苦手だろ。俺が代わりにやってやるよ」

見習い「い、いえ、そんな悪いです!」

死神「居候なんだからこれ位やるって。それに俺、浮けるし」フワッ

見習い「おぉー」

死神「ほら貸しな」

見習い「あっ」

死神さんは私の手から雑巾を取ると、高い所を拭き始めた。
手つきは掃除し慣れていない感じがするけれど、それでも十分にありがたい。

死神「他の部屋もあるんじゃねーのか?」

見習い「あ、まぁ…」

死神「だーいじょうぶ、俺見習いちゃんに指一本触れねーから。じゃあ他の部屋も案内してくれ」

見習い「は、はい」

見習い「と、ところで死神さん」

死神「ん?」

掃除をして、一緒にいることに少し慣れた頃、私は疑問があって声をかけた。

見習い「師匠の命を狙うんじゃありませんか?」

死神「いや、あのヤロー隙がねぇ。このまま張り付いていても隙なんて見せないだろ」

見習い「そうでしょうねぇ…」

死神「それに見習いちゃん危なっかしいから、今日は掃除だ掃除」

見習い「ふ、普段はあんなことありませんから~」

死神「それにしてもこの家の家具は背が高いなぁ」

見習い「えぇ、師匠の好みで」

死神「あれ、でも魔女も見習いちゃんと身長同じくらいじゃん?高い所の物取るの大変じゃねーのか」

見習い「師匠は高い所の物は魔法で浮かせて取るので」

死神「なるほどね」

死神「見習いちゃんも魔法使えるなら、魔法で掃除すりゃ楽なんじゃねぇ?」

見習い「わ、私は…」

死神「?」

言葉で説明するのも難しいので、実演することにした。
雑巾を床に置く。魔法をかける。
すると雑巾はイモムシのようにのろのろと床を這い始めた。

見習い「この通り…魔法、苦手なんです」

死神「へー。でも魔法で掃除するのを続けていれば、苦手なの克服できんじゃね」

見習い「わ、私はいいんです…。魔法の腕が上がらなくても、師匠のお側に居られれば…」

死神「そうか。でも何であれ、苦手なもん克服するのっていい事だぞ」

見習い「そう…ですか」

苦手なもの。男の人、魔法、お酒の匂い、人が沢山いる場所、大きい生き物…

見習い「私には無理です…」

死神「やる前から諦めんなよ」

見習い「師匠みたく、苦手なものが無くなればいいんですけれど…」

死神「あれは特殊、人間の限界を超えてるんだから。ああなれる奴まずいねーから」

見習い「死神さんは…苦手なものあるんですか?」

死神「あるわ、沢山あるわ!」

死神さんはそう言ってから、軽く頷いた。

死神「じゃ、今からそれを克服してみせる」

見習い「本当に大丈夫ですか…?」

死神「お、おう」

死神さんに言われて、庭に生えている1本の木に案内した。
この木には毛虫が沢山住んでいて、払うのが毎回大変なのだ。

見習い「もうちょっと難易度低い所から行きませんか…?」

死神「だ、だだだ大丈夫だ、む、む、む、虫なんてよおぉ」ガタガタ

見習い(大丈夫じゃなさそう…)

死神さんは虫が苦手なそうだ。
私も得意じゃないから馬鹿にする気は無いけど、こういう所は人間らしいというか。

死神「じゃ、行くぞー…」

ポトッ

死神「のわああああぁぁっ!?」

目の前に毛虫が落ちてきて、死神さんは持っていたホウキをぶん投げてのけぞった。

見習い「やっぱり無理はいけないかと」

死神「い、いや、言いだしっぺだし!克服~克服~」スーハー

ポトッ

死神「いぎゃあああぁぁ!?」

見習い(そこまで苦手なら克服しなくても…)

死神「じゃ、いくぞー」ブルブル

死神さんはガチガチになりながら、ホウキで木の枝を払い始めた。
ポトポトと毛虫は落ちてくる。

死神「ほ、ほらー 克服はできるんだぞー(棒」

見習い「え、えぇ」

かな~…り無理しているのがわかるので、見ている方も辛い。
それでも死神さんは頑張っていると思う。

死神「虫なんて コワクナーイ コワクナーイ…」

ポトッ

見習い「あ」

死神「へ?」

死神さんの頭上。丁度そこにいた毛虫が、死神さんめがけて落ちてくる。
このままでは――

見習い「死神さん、避けてええぇ――っ!」

死神「――っ!?」

死神「あ、ひいぃ…」

自分に迫ってきた毛虫を認識すると同時、死神さんは腰を抜かしてそこに座り込んでいた。
だけど毛虫は死神さんに直撃することなく、宙にふわふわ浮いていた。

魔女「――ったく、やれやれ」

見習い「師匠!」

庭に出てきた師匠による魔法だとすぐわかった。
師匠は死神さんを見て、仕方ないな、といった笑みを浮かべた。

魔女「おい立て。全く、苦手なら無理する必要はないのだぞ?」

死神「い、いや…苦手を克服しなきゃよぅ…」

魔女「お前の虫嫌いは根強いものだ、そう簡単に克服はできん」

死神「何でお前にそんなことがわかるんだよ」

魔女「そういう魔法だ」

そう言って師匠が手をかざすと、木の枝に乗っていた毛虫たちが宙に浮き、遠くの地面に降り立った。
その毛虫が集まった光景を見て、死神さんはブルッと震え上がる。

魔女「ほら、これで解決だ。この敷地内に虫を立ち入らせないようにする、それでいいだろう?」

師匠はそう言うと家の中に入っていった。
死神さんはまだ、震えていた。

見習い「し、死神さん?」

死神「…たつ」

見習い「え?」

死神「あぁもう腹たつー!!克服できねぇだと、ナメやがってええぇ!!」

見習い「ひぃ!?」ビクッ

死神「あ、ごめん」

死神さんは手を合わせて私にペコリと頭を下げる。

死神「でもさ、あそこまで言う必要無くねぇ?俺、結構いい所まで行ってたよな?」

見習い「えぇ…とても頑張っていたと思います」

死神「だろ?よーし見返してやる、絶対克服してやるぞ!!」

見習い「そこまで頑張らなくても…」

死神「いや、やると決めたから。今日は遅くなってきたし、明日から始めようぜ見習いちゃん」

見習い「え?何をですか…?」

死神「周辺の森で虫を探すんだよ。で、俺が虫嫌い克服するから、見習いちゃんも魔法苦手なのを克服するぞ!!」

見習い「え、ええぇ!?」

魔女「ほう、苦手を克服するか」

死神「おう、絶対見返してやっからな!」

夕食の席で早速その話になった。
同居生活1日目だというのに、師匠と死神さんは既に物凄く打ち解けている。

魔女「確かに見習いは苦手なものが多いからな。死神の姿を見て克服する気になるかもしれんな」

見習い「わ、私は…」

魔女「羨ましいぞ見習い、美男子に世話を焼いてもらえるとはな」

死神「そりゃお前は苦手なもの無いだろ」

魔女「我慢が苦手だ~。誰か何とかしてくれ~」

死神「知るか」

魔女「あぁ脱ぎたい…我慢できん」ペロッ

死神「!?」ブーッ

見習い「師匠ォ!?」

今日はここまで。
皆さん乙レスありがとうございます。

今回の漫画です。
画力が追いついていませんが、魔女や悪魔は設定上美形キャラなので脳内補完を…(´・ω|壁

>>25
アップロード期限は1週間になります。
漫画は完結後にpixivに投稿予定です。
もしアップロード期限を過ぎた後に読んで下さる方で、万が一漫画の内容が気になる方がいればpixivで検索お願いします…と、完結後に言おうと思ってましたが最初に言うべきでした(´・ω|壁

それから次の日も

死神「いぎゃあああぁぁ!!」

見習い「蜘蛛は私も苦手です~…」ブルブル


また次の日も

死神「う、おぅおぉっ」

見習い(ちょうちょは…大丈夫だけど)


そのまた次の日も

死神「どぅわああぁぁ!?」

見習い(…クワガタ?)


死神さんは毎日森に出かけ、虫に近付いていこうと頑張っていた。
私はそれに付き合って、死神さんの修行を見届ける。


死神「見習いちゃん見た!?昨日より虫との距離が5センチ縮まったぜ、5センチ!!」

見習い「凄い…ですねぇ?」(よくわからない…)

魔女「毎日ご苦労だな」

死神「ケーキ美味ええぇぇ!!俺の好みピンポイントだ!!」ガツガツ

魔女「そういう魔法だ」

死神「魔法スゲエェ!!ところでゴフっ!?」ゲホゲホッ

急いで食べていた死神さんはむせた後、水を飲む。

死神「フゥ。で、見習いちゃんの魔法修行はどんな感じ?」

魔女「雑巾を操ったら、水を絞りきれずに床がビショビショだ」

見習い「うぅ~…」

死神「気にすんな~、魔法使えるってだけで一般人からすりゃ凄いんだし」

魔女「お前、見習いにばかり優しいな?妬くぞ」

死神「俺はオッサンには優しくしねー主義なの」

魔女「善良なオッサンには思いやりを持て」

見習い「まずオッサンを否定して下さい師匠…」


そんな感じであっという間に一週間経ち…

死神「お、お…」ブルブル

ソォ~…

死神「や、やややややや」

見習い「おぉぉ…やりましたね」

死神さんが遂に虫に触れた。
アリだけど。

死神「」ブルブル

見習い「死神さん?」

歓喜で震えているのかと思ったら。

死神「」ガタガタ

見習い(あ、鳥肌立ってる)

あまりのおぞましさに震えているのだった。

死神「や、やり、やりまひたよ…」ガクブル

見習い「え、えぇ」

ようやく達成したことだというのに、その瞬間の死神さんは格好がついていなかった。

見習い「だけど最初と全然違いますね。素晴らしいです、死神さん」

死神「だから言ったろー、苦手は克服できるッ!!」ビシッ

見習い「…苦手は苦手ですよね?」

死神「ヤメテエエェェ!!虫一杯の部屋でワーイワーイと戯れる蟲使いになるのは勘弁してええぇぇ!!」

見習い「そんなこと言ってませんよ!?」

死神「まぁ、苦手は苦手だけどもマシにすることはできるわけだ。苦手だからって簡単に諦めるなってこと言いたいわけ」

見習い「はい…」ションボリ

死神「どうした、ションボリして」

見習い「死神さんは凄いなぁって…。私あれから魔法の腕、全然上がってなくて…」

死神「ほう」

何だか差を感じる。
駄目な奴は努力しても駄目なままだ、それを思い知らされて。

死神「でも俺、見習いちゃんも大分苦手を克服できてると思うぞ」

見習い「全然ですよ~…」

死神「だって男と普通に話せるようになったじゃん」

見習い「………あ」

そう言えば最初は目を合わせることもできなかったけど、今では言葉を詰まらせることなく話すことができている。

見習い「で、でも話せるのは死神さんだけで~…男の人が苦手なのを克服したわけじゃあ」

死神「俺と話せるようになっただけで十分な進歩じゃん?」

見習い「…ありがとうございます」

死神「いや俺は何もしてねーし」

見習い「いえ。死神さんが優しく接して下さったので」

死神「俺が特別優しいわけじゃないぞ~。何?男に嫌な思い出でもある?」

見習い「…何も無いんです」

死神「え?」

見習い「過去の記憶が、無いんです」

死神「……記憶が?」

見習い「あ、私記憶喪失で…」

私の1古い記憶は、この家で目を覚まして師匠と顔を合わせた所から。
師匠曰く「倒れていた所を拾った」そうだ。拾われた私は、自分の名前も素性も、何も思い出せなかった。

見習い「それで、思い出せるまで師匠の元に厄介になることになって…もう3年になります。ですから、魔法使いになりたくて弟子入りしたわけではないんです」

死神「なるほどー…でもあの魔女なら見習いちゃんの素性調べられるんじゃないのか?魔法で」

見習い「それはできないと言っていました」

死神「へぇー…あいつにもできないことあるのか。意外」

見習い「こんなこと言うのも何ですが死神さん」

死神「ん?」

見習い「師匠の命を狙うのは、勘弁して頂けませんか?」

死神さんの返答はわかりきっている。

死神「そりゃできねぇな」

やっぱり。

死神「あの魔女はもう世界のバランスを崩しちまってる。自然の摂理に反する存在ってーの…?本人が悪人でなくても、生かしておいたら危険な存在なんだ」

見習い「死神さん、真面目だったんですね」

死神「おりゃ死神だぞ!?」

私は思わず笑いを漏らす。
そうだ、この人は死神なんだ。虫を怖がってる部分ばかり見てたせいで、その意識が薄くなっていた。

見習い「…でも、それなら違う死神に来てほしいです」

死神「あ?何で?」

見習い「貴方を憎みたくありませんから」

死神さんはもう、私にとって心許せる人になっていた。

死神「俺ももうあんなスゲェ奴と戦うのは勘弁してーけど、地獄の主の命令にゃ逆らえねーよ。それに何故だか俺にしかできねーことだって言うしよー」

見習い「死神さんも、流れ星にお願いする必要がありそうですね」

死神「流れ星?」

見習い「あ、ほら。師匠って毎晩星空を鑑賞しているでしょう」

死神「知らん」

この無関心ぶり…本当に命を取る気があるのだろうか。

見習い「師匠には願い事があって、毎晩流れ星を待っているんです」

死神「あの魔女が願うことって何だァ?」

見習い「さぁ…」

死神「聞いたりしねーの?」

見習い「多分聞いてもはぐらかされますから。師匠はそういう人です」

死神「俺は気になってきたー…!!1回聞いてみてくれよ」

見習い「聞けませんよー…」

死神「何で?」

見習い「嫌われるの嫌ですし」

死神「あ?嫌われる?」

見習い「師匠って気さくに見えて、結構本音を隠しているじゃないですか」

死神「そうか?」

見習い「私には…冗談めかした態度で本音を隠しているように見えます」

死神「まぁ、そう言われりゃそうかもな。で、嫌われるって何で?」

見習い「本音を隠してる人は本音を探られるの、嫌じゃないかなって…」

死神「………考えすぎだろ」

死神さんは呆れたように言った。

死神「つーか、それ聞いただけで嫌われるような関係じゃねーだろ?3年間も、ずっと2人で暮らしてきたんだから」

見習い「でも私、師匠のこと全然わかっていませんよ」

死神「そりゃ家族のことだって理解するのは難しいんだし、ましてや他人なんて…」

見習い「そういうことじゃないんです」

理解できないんじゃない――

見習い「理解しようとしてこなかったんです。…踏み込んで、嫌われるのが怖かったから」

死神「…」

死神「だあああああぁぁぁっ!!」

見習い「!?」ビクゥ

死神「見習いちゃんてウジウジしてるよなー。見習いちゃんのそういうとこ嫌いだわー」アハハハ

見習い「そんな面と向かって言わなくても」シクシク

死神「でも今の話で、ヒントが得られたかもしれん」

見習い「え?」

死神「魔女を討つ方法だよ」

死神さんはくるっと振り返る。

死神「多分、面と向かって挑んでもあいつは殺せねー。けどその願い事さえ叶えば、もしかしてこの世への未練が少しは吹っ切れるかもしれねぇ」

見習い「あ…」

思ってもみなかった。

死神「そうと決まれば探ってみるに越したことはねーな。わりーけど先に帰るぞ!」

師匠が500年も流れ星に託そうとしてきた願い事、それが叶えば師匠は――

見習い(だけど…)

私はどっちを望めばいいのだろう。
師匠の願い事が叶ってこの世への未練が吹っ切れることか。
師匠はこれから先も願い事を抱えて生きていくことか。

今日はここまで。
今日は漫画なしです。
今作は戦闘シーンが全然無いから書きやすry

魔女「フーッ」

今日の星も流れない。
片手にはワイン…のグラスに入った蒲萄ジュース。酒はあまり好きではない。

死神「毎晩、星空観察ご苦労さんだな」

魔女「おや死神。珍しいな、お前から私を訪ねてくるなど」

死神「流れ星を待ってるんだってな」

魔女「見習いから聞いたのか?あの人見知りから話を聞き出すとは、なかなかやるな色男」

死神「口説いちゃいねーよ。それよりキャラに似合わずロマンチックな趣味じゃねーか」

魔女「お前はどうだ。星空は好きか?」

死神「俺か…じっくり見る趣味はないが、嫌いではないな」

魔女「そうか、予想が外れた」フッ

死神「で?世界一の魔法使いであるテメーが流れ星に頼るのは、どんな願いよ?」

魔女「単刀直入な尋ね方だな。もっと上手く探りを入れられないのか」

死神「そういうのは苦手なんだよ」

魔女「まぁ、だろうな」フフッ

死神「で、教える気はねーのかよ?」

魔女「そうだなぁ…」

何と言えばいいものか。
だけど考えるのはやめた。自分も死神同様、遠まわしな物言いは苦手だ。

魔女「教える気はないな、諦めろ」

死神「バッサリだな」

魔女「お前、それが叶えば私が命をくれてやるとでも思っているのか」

死神「何でわかった。…そういう魔法か?」

魔女「いや、ただの勘だ。それとお前の企み、間違ってはいないぞ」

死神「そうかよ。なら俺、願い事に協力できるかもしんねーぞ」

魔女「言ってどうにかなる話ではない、もう1度言うが、教える気はない」

死神「くっそ」

死神は困ったように頭を掻く。

死神「活路が見えたと思ったんだけどなー…このまま手ぶらでは帰れねーし」

魔女「ならここで暮らせばどうだ」

死神「冗談じゃねぇ」

魔女「バッサリだな」

死神「このままお前が生き続けたら、世界のバランスが崩壊して色んなイレギュラーが発生する。イレギュラーが続けば神はこの世界を見捨てる。神に見捨てられた世界を想像してみろ」

魔女「怖いな」

死神「だろ。だから受け入れて死にやがれ」

魔女「お前、案外真面目だよな」

死神「見習いちゃんにも同じこと言われたぞ」

魔女「あいつと同じか…ふふ、そうか」

何が可笑しいのか、死神には理解できなかった。

魔女「まぁ、神に見捨てられるまでこの世界に居座り続けるつもりはない」

死神「あ?」

魔女「それに」

魔女は死神をじっと見る。
じっと見つめられると、どんな顔をしていいのかわからない。

魔女「願いはもう半分叶ったようなものだ」

死神「あ…?」

魔女「完全に叶わなくても、ある程度満足すれば命を差し出してやるよ」

魔女はグラスに入ったジュースを一気に飲み干した。

魔女「ある程度満足すれば、私はこの世に一切の未練はない」

魔女は真っ直ぐな目をしてそう言った。

死神「…一切の未練は、ねぇ」ハァー

魔女「どうした、不満そうだな」

死神「いや死神としちゃ満足な回答だけどよ」

どうもスッキリはしなかった。

死神「死ぬ前に、残される方にもフォローはしとけよ」

魔女「残される方?」

死神「見習いちゃんだよ」

魔女「ああ、あいつか」

死神「見習いちゃんはお前のこと慕ってんだから。あんま秘密を作ってやるな」

魔女「お前、やけにあいつに優しいな?私にも分けてほしいぞ、その優しさ」

死神「アホか」

死神は呆れてため息をついた。

魔女「見習いは放っておけないタイプか?ふふ、そうかそうか」

死神「何でお前が嬉しそうなんだよ…見習いちゃんも勘違いしてるけど、俺は決していい奴じゃねーからな」

死神は標的を殺す使命を負った者。生きている者にとっては厄でしかない存在。
人間のような善の心を持てば死神なんて続けられない。自分が見習いに構うのは、決して善だからではなく――

死神「…可愛い女の子には構いたくなるんだよ」

苦し紛れに出た言葉だった。
だけど。

魔女「可愛い――見習いがか?」

魔女の顔は呆気に取られていて。

死神「お、おう?」

魔女「なぁ…どこが可愛い?」

予想外な質問を投げかけてきた。

死神「えーと、内気でモジモジしてる所だろ。あと人畜無害そうな所に、一生懸命働く所と…あぁ、顔も地味系だけど可愛いと思うな」

魔女「そうか。ふ、ふふふっ」

魔女はそれを聞くと――

魔女「そうかそうか!見習いを可愛いと言ってくれるか、ふふっ、はははっ」

その笑いは、心底嬉しそうだった。…意味がわからない。

魔女「まぁ、お前の言い分はわかった。そうだな…あいつも遠慮してるから、私の方からあいつとの距離を詰めてやらんとな」

死神「それを聞いて安心した。いつ死んでも後悔の残らないようにしろよ」

魔女「そうだな…その代わりと言っては何だが」

死神「ん?」

魔女「見習いを、宜しく頼んだぞ」

見習い「あの…お呼びでしょうか?」

その日の内に私は師匠に呼ばれた。
死神さんが師匠に何かを言ったのだろうか。

魔女「まぁそう固くなるな。とりあえず適当に何か飲め」

見習い「あ、それじゃあジュースを」

魔女「ふふ、お前とは好みが合うな」

師匠にグラスを差し出され、ひとまず乾杯をする。

魔女「お前には色々と秘密を作ったなぁ…すまなかった」

見習い「い、いえっ!?気にしないで下さい、誰しも秘密はあると思いますしっ!」

魔女「こちらはお前の秘密を全て把握しているのにか?」

見習い「え…ええええぇっ!!?」

頭がパニクった。秘密にしてきたつもりのあんなことやこんなことも、まさか師匠は…。

魔女「死ぬ前に、お前に言い残しておくことがあってな」

見習い「え…死ぬ前にって、師匠…!?」

パニクった頭が今度は急激に冷えていく感覚がした。

魔女「そう遠くない未来だ、覚悟はしておけ」

師匠はまるで恐れていないといった様子でそう言った。
少し前まで死ぬことに抵抗していたのに、死神さんとの間に何があったのか…。

魔女「だが、今すぐ死ぬわけではない。とりあえずフランクな話でもしよう」

見習い「フランクな話…ですか?」

魔女「あぁ。私の初恋話なんてどうだ?」

見習い「」ブッ

あまりにもフランクすぎる。
というか…師匠に初恋!?

魔女「何だ、聞きたくないか?」

見習い「いえいえ、聞きたいです、とても!」(色んな意味で!)

魔女「あぁ、そうだなぁ…あれは私は10代後半の頃か」

フランクな話をフランクに始めた師匠から、次の瞬間、予想外の言葉が飛び出した。

魔女「私はな…とっても地味で冴えない少女だったんだよ」

見習い「師匠がぁ!?」

魔女「あぁ。身寄りもなく、故郷では邪険にされていた」

見習い(師匠が…)

にわかには信じられなかった。だけどわざわざ嘘をつく必要もないと思うので、本当なのだろう。

魔女「ある日、森の方に木の実拾いに行ってなぁ…」

普段、人があまり足を踏み入れない森だった。遭難者が多い為、近隣の者に危険視されていたからだ。
だけど身寄りのない私には、森に足を踏み入れた所で咎める者もいなかった。だから私は、その森を恐れていなかった。

村娘(昔の魔女)「今日はあまり集まらないなぁ…」

村娘(この森穴場なんだけどな~。うーん、鳥に食べられたかな?)キョロキョロ

村娘「…あ!」

その時私は遠くに、実が沢山なっている木を発見した。
私は急いでその木に駆け寄って行った。

だが――

ゴオォ

村娘「…え?」

ドガアアァァァン

村娘「―――っ!?」

全身に激しい痛みを感じた。その次の瞬間には、私は気を失っていた。

村娘「う…」

「あっ!」

最初に目に入った光景は、殺風景な木造りの天井だった。

「お、おい、大丈夫か!?俺の声聞こえるか!?」

村娘「え…?」

そして私に懸命に声をかけているのは…。

「良かった、良かった…!本当に悪かった!全力で償わせてもらうから!!」

村娘「貴方は…?」

魔道士「俺は魔道士…君は俺の魔法実験の巻き添えを喰らったんだ」

そう言われて思い出した。さっき受けた激しい痛み。
それから気がついた。私は頭から足のつま先まで、全身にぐるぐる包帯を巻いていた。

血の気が引いた。私の体は全身がボロボロになってしまって――

魔道士「痛みを感じなくする処置は施したし、治す方法もある――ただ」

村娘「ただ…?」

魔道士「俺は、君の元の顔を知らない」

それから魔道士は本を開いて私に見せた。

魔道士「一応容姿を変化させる魔法ってのは存在するんだ。それを君に教えるから」

村娘「魔法を…?」

魔道士「うん…習得するまで時間はかかると思うけど、他に方法がない」

魔道士は心底申し訳なさそうに言うと、私に頭を下げた。

魔道士「そういう形でしか俺に償う方法はないんだ!だからお願い、償わせて!」

村娘「…」

正直、急な話で理解が追いつかなかった。
だけどこの魔道士の誠実な態度に私は――

村娘「…はい」

彼にボロボロにされたというのに、全く悪い感情を抱けなかった。

魔女「魔道士は少々ガサツな所はあったが、優しくてな」

~~~~~~~~~~~~~
魔道士「村娘ちゃん、こんな綺麗な花が咲いてたぞ」

村娘「まぁ」

毎日屋内にこもっている私を、退屈させないようにしてくれたり。


魔道士「魔力ってのはな、こう息をするのと同じ感覚で外に出すんだよ」

村娘「…うぅ~、難しいです」

魔道士「そう、難しいんだ。だから焦りは禁物だ」

覚えが悪い私に根気よく魔法を教えてくれたり。


魔道士「うっま!ひっさびさにマトモなもん食ったよ、村娘ちゃんの料理俺好き!」

私が何かすると、大きな反応で褒めてくれたり。
~~~~~~~~~~~~~


魔女「今思えば私に優しくしてくれる男は魔道士が初めてでな」

見習い「それで…恋に落ちたと?」

魔女「そういう事だ」

魔女「物覚えの悪い私だったが、根気よく教わっている内に魔法のコツも掴めてきてな」

~~~~~~~~~~~~~

村娘(なるほど…で、こうすればこの魔法は成功するのね)

魔道士「どうだ村娘ちゃん、わかってきたか?」

村娘「えぇ、成功が見えてきました」

魔道士「あぁ良かった~…女の子の顔と体を傷つけるなんて万死に値するからな。でも、元に戻るなら良かった!」

村娘「…」

元の私。地味で冴えなくて、男の人から優しくしてもらったことなんてなかった。
鏡を見ながら何度も思った。私が可愛らしい容姿をしていれば、もっと誰かに優しくしてもらえたのではないか。

村娘(そんな元の姿をこの人に見せるなんて…)

そう思うともはや、ろくなことは考えない。

村娘(…魔道士さんは、私の元の姿を知らないんだから――)
~~~~~~~~~~~~~~

魔女「つまり私のこの容姿は作り物だ」

見習い「そ、そうだったんですか…」

魔女「魔道士は元の私の容姿を知らんからな。美しくなった私を見て、元に戻って良かったなと泣いていたぞ」

見習い「そ、それでその後その魔道士さんとは…」

魔女「弟子入りした。どうせ身寄りも無かったし、魔法にも興味が沸いてな」

見習い「積極的ですねぇ」

~~~~~~~~~~~~~~
村娘「魔道士さん、夕飯冷めますよ」

魔道士「ん?あぁごめん…村娘のせっかくの料理を冷ましたら罰当たりだよな」

村娘「毎晩見てらっしゃるんですね…星空」

魔道士「うん。お前はどうだ?」

村娘「私ですか…?うーん、考えたことないですね」

魔道士「もったいない。こういうロマンチックな趣味は俺よりも、女の子に似合うのにな」

村娘「私なんか…」

容姿が美しくなっても、中身はまだ冴えない少女のままだった。
だからそういうロマンチックな趣味は自分に不釣り合いに思えていた。

村娘「でも魔道士さんも、随分ロマンチックなんですね」

魔道士「俺はずっと、流れ星を待ってるんだ」

魔道士は無邪気に笑う。

魔道士「ワクワクするじゃん、願いを叶えてくれる流れ星ってのはさぁ」

村娘「何かお願い事でも?」

魔道士「願い事…思いつかんな」

村娘「えー」

魔道士「願いとかじゃないんだよもう。ロマン、ロマン」

村娘「へぇ~」

ちょっと変わった趣味だなと思ったけれど、流れ星のことを語る魔道士はとても楽しそうで。

村娘「なら私も魔道士さんと一緒に鑑賞をしたいです」

魔道士「おう、大歓迎!趣味を共有できる相手がいるともっと楽しくなりそうだな」

村娘「でもどうして室内で鑑賞しているんですか?外の方がよく見えるのでは」

魔道士「星空の光に虫が集まるんだよ…」ブルッ

村娘「あらら。まぁ、とりあえず夕飯食べながら鑑賞しましょう。あと、おやつにケーキも作ってありますよ」

魔道士「俺の好きなやつ!?」

村娘「えぇ、果物とクリームたっぷりのです」

魔道士「ヨッシャア!そりゃがっつくしかないじゃん!!」
~~~~~~~~~~~~~~

魔女「これといって進展のない仲だったが…あの時が1番幸せだったな」

見習い「…」

師匠の顔は何というか、素直なものだった。
今まで師匠に感じていた、おふざけ感とか、胡散臭さとかは、一切伺えない。

見習い(本当に好きだったんだなぁ…魔道士さんのこと)

魔女「だが――そんな日々も長くは続かなかった」

見習い「え?」

魔女「魔道士は罪人にされた――奴が作った魔道具で、戦争で大量の死人を出したということで」

見習い「えっ…」

~~~~~~~~~~~~~
村娘「納得いきません!魔道士さんは魔物退治の為と国王に依頼されただけなのに!」

魔道士「だが国王は大量の死人を出した挙句、敗北した…戦争の敗者側についた者は悪者扱いされるもんだ」

村娘「逃げましょう魔道士さん…魔法で容姿を変えて、遠くで暮らすんです!」

魔道士「できねーよ、そんなこと。俺は出頭するぜ」

村娘「どうして…!」

魔道士「俺のせいで大量の死人が出たことは事実だ。なら償わないと、夢見が悪そうでよ」

村娘「でも…」

魔道士「償うのに何年かかるかわかんねーけど…」

村娘「あっ…」

魔道士はそう言うと、私の体を柔らかく抱いた。
知り合ってからこの時、初めて触れ合うことができた。

魔道士「いつかまた――」



いつかまた、お前に会いに来るから――


そう言い残して、魔道士は私の元からいなくなった。









その3日後、私は魔道士が処刑されたことを知った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今日はここまで。
終わりが近いです。
漫画のネタはどうも思いつきません(´・ω・`)

見習い「そんなの、ひどすぎますっ!!」

師匠の話を聞いた私は涙を堪えるのに必死だった。
どうしてだか、自分が体験したかのように感情移入してしまって、心に刺さって。

魔女「歴史は苦手か?魔道士の名はばっちり、500年前の極悪人として名が残されているぞ」

見習い「あまりにも理不尽です…」グスッ

魔女「そうだな――私もそう思ったな」フッ

師匠は皮肉な笑みを浮かべる。

魔女「それをバネに、私も理不尽な力を得てやった。だがその頃には、魔道士を死に追いやった奴らには寿命がきてたしな。復讐もできなかった」

魔女「理不尽な力を得ても、死んだ者を蘇らせることもできん。死んだ者の魂は死の世界へ行ってしまうからな」

魔女「なら私ができることは1つ――長く生きることだ」

見習い「つまり…」

魔女「転生した魔道士に会うこと――それが私の生きる目的であり、願いだった」

師匠はそう言って星空を見上げた。

魔女「まぁ、その願い自体は叶ってしまったのだがな」

見習い「!?」

一瞬何のことだかわからなかった。
だけど――ここ数日の師匠の様子を見て、すぐに何のことだかわかった。

見習い「もしかして…死神さんが?」

魔女「正解。優秀だな」パチパチ

見習い「死神さんには言いました!?」

魔女「何故だ?」

見習い「何故って…だって死神さんは師匠の気持ちに気付いていないんじゃ」

魔女「私が一方的に、あいつの中にある魔道士の面影を追いかけているだけだ。それを死神に押し付けることはできん」

師匠はすっぱり言い切った。

魔女「だからあいつが自然と私を好きになってくれれば理想的だったんだが、そう上手くはいかんなぁ」フフ

師匠はここ数日、死神さんにちょっかいをかけたり、手料理を振舞っていた。
それが魔道士さんへの想いから来る行動だったのなら――

見習い「そうとわかれば協力します!時間はたっぷりあるんです、2人が添い遂げることだって…」

魔女「いや、それはもういいんだ」

見習い「どうして…」

魔女「私と死神が添い遂げるよりも、私にとって嬉しいことが起こりそうだからな」

見習い「え…?」

魔女「さて、話はここまでだ」

師匠はすっと立ち上がった。
その動作はあまりにもいつも通りで、堂々としていて――

見習い「師匠、どちらに…」

魔女「死神に命を渡してくる」

見習い「!?」

とても、これから死のうとしている姿には見えなかった。

見習い「師匠、う、嘘でしょう…」

魔女「私がお前に嘘をついたことがあったか?…あぁ、2、3回あったかなぁ」

見習い「嫌です、師匠…」

魔女「何故だ?お前は魔法を取得したいわけでもあるまい、私がいなくても大丈夫だろう?」

見習い「それは…」

答えられない。
記憶がないから?身寄りがないから?
師匠しか頼れる人がいないから?

――違う。

見習い「必要なんです――私、師匠のこと大好きなんです!」

ただそれだけの、簡単な理由。

魔女「――ふっ」

師匠は困ったように肩をすくめた。

魔女「お前に好かれているとは思わなかったよ。こんな秘密ばかり作る師匠で、すまなかったな」

見習い「それは…私が師匠に歩み寄らなかったせいです。私は本当に、師匠に幸せになってほしいんです!」

魔女「幸せだよ、私は」

師匠は優しく微笑むと、私の頭に手を乗せた。

魔女「お前に好きと言ってもらえたことが。魔道士がいなくなってからこの500年の中で、1番幸せだよ」

見習い「う、えうっ、師匠…っ」

魔女「お前なら大丈夫だから」

師匠は手を放して、私に背を向ける。

魔女「星空を見ているんだ、見習い」

見習い「星空を…?」グスッ

魔女「今の星空は綺麗だな。披露するのはこんな空の時に限る」

師匠は足早にそこから立ち去り、言った。

魔女「今日は全世界にとっての記念日になる」

死神「…本当にいいのか」

魔女「構わん。早くやれ」

魔女は表で待たせていた死神に、無防備な立ち姿で一言、殺せと言った。
死神は正直、戸惑いを隠せない。

死神「何で急に死ぬ気になった?マジで意味わかんねぇ…俺を殺す殺さないの選択の時もそうだった」

魔女「深く考えるな、誰にも私は理解できんよ」

死神「…もう未練はないのか」

魔女「あぁ。見習いにも言いたいことは言い残してきた。あとは私が死んだら発動するように、仕掛けをしておいた」

死神「仕掛けだと…!?」

魔女「そう焦るな、お前に危害を加えるものではない」

しかし教える気はない――この意地悪な笑みは、そういう笑みだ。

魔女「躊躇するな、お前の役割だろう」

死神「あぁ」

死神は鎌を構える。それを見ても魔女は、全く顔色を変えない。

死神「個人的には悪くなかったぜ、テメーと過ごした数日間」

魔女「私もだ」

死神「…来世で会えりゃいいな――」

そして死神は、躊躇なく鎌を振り下ろした――

見習い「うぅっ、えうっ」

私は星空の下、溢れ出る涙を止めることができなかった。
師匠は受け入れようとしている。なのに感情は割り切ることができない。

3年。とても短かった。もっと早く師匠と打ち解けるべきだった。もっと師匠と一緒に過ごしたかった。

見習い「うぅっ、師匠…」

その時だった。

見習い「…っ!?」

地面が照らされ、すぐに異変に気付く。
私はぱっと空を見上げた。

見習い「これは――」

空を明るくしているのは、空一杯の流れ星だった。
師匠が待ち続けていた星の群れは、まるで人々の願いを運ぶかのように流れていた。

その、あまりにも幻想的な輝きに、私は目を奪われる。

見習い「師匠…」

呟くのは大事な人の名前。

だけれど、何故か急に苦しくなって。

見習い「死神…さん…」

どうしてか、死神さんの顔が頭に浮かび、胸を締め付けた。

それと似たようなことが、死神にも起こっていた。

死神「何だよ、これは…」

流れ星が流れたのは、自分の仕事が終わったと同時の事。
魔女が言っていた仕掛けとは、この事か――

だけど流れ星を見て、頭の中を色んな言葉が巡る。



『そういう形でしか俺に償う方法はないんだ!だからお願い、償わせて!』

『ワクワクするじゃん、願いを叶えてくれる流れ星ってのはさぁ』

『いつかまた、お前に会いに来るから――』



死神「何で…」

昂った感情に体が震える。
あいつ、どんな魔法をかけたんだ――だけど頭からそれを振り払おうとすればする程、鼻の奥がツンとして。

死神(何だよこの気持ち…!?)

一方、その頃――

魔女「…ん?」

気付けば知らない場所にいた。

地獄の主「ようやく来たか」

魔女「…おぉ、その薄毛。お前が地獄の主とやらか。ということは、ここは地獄だな」

地獄の主「薄毛は余計だ。しかし、あいつを送ったのは正解だったようだな」

魔女「あぁ、確かにあいつでないと命を差し出してやろうという気にはなれなかっただろうな。全く、お前の策士ぶりには感心する」

地獄の主「お前こそ。最後の最後で策士ぶりを発揮したな」

魔女「何のことだ?」

地獄の主「とぼけるな。あの流れ星は、お前の中にあった魔道士の記憶を運んだ。それを見たら死神は、断片的にだが前世の記憶が引き出されるだろう」

魔女「そんなことをして何になる?あいつが思い出したところで、私が死んでは何の意味もあるまい」

地獄の主「俺が知らないと思うのか、お前の弟子の娘のことを」

魔女「…」

地獄の主「記憶を引き出されたのは死神だけではない。村娘時代のお前をモデルに造られた、お前の弟子もだ」

魔女「ふ、ふふふ…」

見習いは村娘時代の自分。
ほんの気まぐれで造ったクローンだった。だというのに。

魔女「死神の奴、冴えない頃の私を「可愛い」と言ったのだぞ。これはもう、後押ししてやらねばなぁ?」

地獄の主「…その言葉が、お前に命を捨てさせる決心をさせたのか。わからないものだな」

魔女「私は過去の自分に負けた。理想通りの容姿と力を手に入れて、自信もついたというのに」

500年の年月で、性格の方はすっかり変わってしまった。
もし死神が魔道士のままだったとしても、変わってしまった自分よりも見習いを選んだかもしれない。

魔女「それに私ももう、恋愛という年齢でもないしなぁ」

死神の魔力を感じるまで魔道士の生まれ変わりだと全くわからなかったのが、もうろくした証拠だ。
500年前の自分ならもっと早くに察知した――魔道士の好みと同じ、赤と黒の衣装を見た時から。

魔女「まぁ、私は双方の記憶をほんの少し刺激しただけだ。あとどうなるかは、見守っていきたい所だが…」

地獄の主「見守れると思うな。お前は散々イレギュラーを起こしてきた罪人。これから地獄での洗礼が待っている」

魔女「あの世もこの世も、理不尽なことは変わらんなぁ」

魔女はやれやれと、皮肉めいた笑みでため息をもらした。

魔女「いいだろう、受けてやるよ――地獄というからには、私を退屈はさせまいな?」

死神が地獄に戻ってきたのは、それから少し経ってからだった。

地獄の主「ご苦労だったな」

死神「いや別に。これが仕事だからよ」

死神の顔には達成感というものが浮かんでいない。
むしろ――

地獄の主「…何か不満そうだな?」

死神「別に…」

しかし死神の顔は明らかに複雑だった。

地獄の主「…まぁいい」

きっと前世の記憶を少しだけ引き出されたせいで混乱しているのだろう。
だがそれを説明してやる必要もないので、それ以上追及するのはやめておいた。

地獄の主「ところでお前に褒美をとらせよう」

死神「褒美?」

地獄の主「あぁ。神ですら疎ましく思っていたあの魔女を討ったのだからな。褒美に、お前の願いを叶えよう」

死神「願い…」

願いという言葉で魔女の願い事やらを思い出す。
最後まで聞き出せなかったけど、あの魔女は満足したのだろうか。

地獄「どうした、今すぐは思いつかんか」

死神「いや――」




見習い「…ふぅ」

そろそろ寒くなってきた時期、洗濯する手が冷えて仕方がない。
とはいっても、自分1人分だけの洗濯はそんなに大変ではないのだけれど。

見習い(すぐ終わっちゃったなぁ)

師匠がいなくなってからも、身寄りのない私はこの家に住み続けていた。
あの流れ星が流れ終わった後、私は懸命に師匠を探した。だけど見つからなかった。どこかにあるはずの、亡骸自体も。

見習い(頭ではわかってるんだけどね…待っていても無駄だって)

だけど待っていたかった。
ここを離れてしまえば、もう会うことができないような気がして。

待つ――誰を?

見習い(帰ってこないかなぁ、何事も無かったかのように。なんて無理な話か…)




「ただいま」



見習い「!?」

「よっ」


見習い「あ――」

振り返るとそこに、見慣れた人物が立っていた。
だけどその出で立ちには、どこか違和感があって――。

見習い「死神――さん?」

死神?「そうだけど…」

ラフに着こなした赤黒の衣装も、ボサボサの髪型も、鋭い目つきも、死神さんのものに違いはない。
なのに、雰囲気が違うというか…。

死神?「死神をやめてきた」

見習い「はい…?」

死神?「だから――」




死神『魔女を討った褒美として俺を――』




青年(元死神)「地獄の主に頼んで、人間にしてもらった」

見習い「本気…ですか?」

青年「本気だよ」

見習い「何でですか…?」

青年「何でだろうな」ポリポリ

理由ならあった。
あの流れ星を見た後、記憶にはない少女のことが頭の中に何度も浮かんでは消えた。
その少女は何だか、見習いに似ているような気がした。
そのせいか。見習いをこのまま1人にしておくのは、心が痛んでしまって。

青年(自分でもわけわからねー…言えるか、こんなわけわかんねぇ理由)

見習い「…でも」

青年「ん?」

見習い「会いたかったです…死神さん」

青年「…そっか」

師匠のことは聞かない。きっと帰ってこないことは変わりないだろうから。
だけど死神さん――もう1人、私が待っていた人は来てくれた。

青年「何か腹減ったなー。なぁ、何か作ってくれない?」

見習い「えぇ、構いませんよ」

私は急いで台所に向かう。
その時気付いた。死神さんに私の料理を振舞うのは、これが初めてかもしれない。

見習い「師匠の料理より味が落ちるかもしれませんが」

青年「そんなことないって」

死神さんはすぐに首を横に振った。

青年「俺、見習いちゃんの料理好きだよ…何か、そんな気がする」

見習い「…何だか私も、そんな気がします」

青年「人間になりたてで行く所もないし、しばらく世話になっていいか?」

見習い「えぇ、いいですよ」


どうしてだろう。私はとても長いこと、こうなる日を待っていたような気がする。
どうして――でもいいか、これからも死神さんが一緒にいてくれるなら。

見習い「何がいいですか?」

青年「そうだなー…」


空に流れた星は、昼間のせいか誰の目にもとまらなかった。
だけど500年前に交わした約束を見守るように、ひっそりと輝きを放っていた。



『いつかまた、お前に会いに来るから――』


Fin

読んで下さりありがとうございました。
自分のssは恋愛描写に力が入りがちなんですが、死神見習いカップルよりも魔道士魔女カップルの方に思い入れがあったりします。
複雑めな話だったので、わからなかったことや質問あればどうぞです(´∀`)

追伸、漫画です。
魔女のこんなポーズが描けて満足じゃあ…!!
このスレにあげた漫画は全部アップロード期限1週間です。
pixivでスレタイで検索すれば見れるようにしておきます。

乙です。魔女さんと見習いちゃんの身長が同じくらいだったり
漫画だと髪や瞳の色が似ているのは伏線だったんだなあ

レスありがとうございまーす( ´∀`)

>>96
漫画の方の伏線に気付いて下さった方がいたことに感動してます(´;ω;`)

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