女騎士「あなたはやはり天使だった」 (158)

・シリアスです。くっ殺要素はないです。
・ある映画の影響をモロに受けてます。何か分かるかな?

「はぁっ…!はぁっ…!」

「くっ…!」バシャ

「はっ…はっ…」ズズ…

『いたか!』

『いえ!こちらには…』

『ええい!早く探せ!俺はこっちを探す!お前はあっちだ!』

(終わりか…)

(もう…これで…)

「こっち!こっち!」

(?)

「早く!」

(っ…)ズズ

『おのれクソガキ…!見つけたら殺してやる…!』

ガタン

(…!)

『なんだ?』

ザッ

「大丈夫…この抜け穴は私以外知らないから」ヒソ

(…)

『…気のせいか』

ザッ ザッ ザッ…

「もう丈夫そうね…」

「ねえ?あなたどうしたの?そんなボロボロで…」

「…君は?」

「私?私は少女!ここで暮らしてるの!」

「こんなところで…?」

「あ、正しくはこの上のお城で!」

「お城…!?君は…貴族?」

「んー?パパたちがよくきぞくって言葉使ってるし、そーなのかな?」

「来るなっ…!」

「あっ…そっちは…」

ドボォン

「ブハッ!」

「大丈夫!?ここは暗いからあまり動いちゃダメだよぉ」

「はぁ…はぁ…」

「来るな…」

「え?どうして?」

「お前も…!お前も俺を捕らえるつもりだろ…!」

「そんなことしないよ?」

「…?」ザバッ…

「そんな傷だらけの人を放っておけないよぉ」

「それに捕まえるなら助けないじゃない」

「お兄さん私より大きいし、まだ6歳の私にそんなこと出来ないよ」クスクス

「あ…」

「ふふ…変な人。早くあがりなよ、風邪、ひいちゃうよ?」ニパッ

「…」

「それより…その変な被り物、とらないの?」

「!い…いや、 ダメだ!」

「え?」

「ダメだ…俺のこの顔は…」

「とにかく、取れないんだ…」

「そうなんだぁ…じゃあしょうがないなぁ…」

「ね、あなた、これからどうするの?」

「…わからない…」

「じゃあ、ここにいていいよ!」

「え!?いや…そんなあっさり…」

「大丈夫だよ!ここは私以外誰も来ないし、誰も近づかないし」

「ごはんとか服とか寝るところは私が用意してあげる!」

「それに…私は友達が少ないし…」モジ

「だから…私とお友だちになろ!」ニコッ

「…あぁ…」

「…あぁ…!」

~とある豪邸・寝室~
-朝-

女「ん…」

女「朝か…」

女「…」ボー

女「はっ、もうこんな時間!」

金色の髪をかきあげ、すぐにベットから離れる。
なびいた髪は朝日を反射し、輝きを増す。

クローゼットから綺麗にアイロンがかけられた着替えを身に付け、髪をとかし、最後に愛用の剣を腰へさす。

10分も立たないうちに女の部屋は音を立てなくなった。

~食堂~

女「おはよう」

メイド「おはようございます、お嬢様。既にお父様は席につかれておりますよ。」

メイドはそう言って綺麗に磨かれた椅子をひく。

女「ありがとう」

白いクロスのかけられたテーブルの上に朝食―――向かいには、父。

女「…お父様、おはようございます」

父「ああ、おはよう」

埃一つない白い礼装に身を包む父は、いつも女の目を癒す。瞳の色にも曇りはなく、見るものに安心感を与えていた。

女が座ってから、少しの、間。女は一瞬、その間に何かを言いたげな表情をする。

父「…その礼儀正しすぎる口調は、いつからなんだろうねぇ」

なんだ、そんなことか、と安堵する。しかし表情には出さず、答えた。

女「お父様が私を正しく育ててくれたお陰です」

父「いやいや、僕は何もしてないさ」

父「さ、食べよう」

フォークとナイフを持ち、まずは野菜を口に含む。

父「…今日は騎士として、就任する日だね」

女「…はい」

父「…本当に、大丈夫かい?」

女「大丈夫…とは」

父「不安じゃあ、ないかい?」

女「…お言葉ですがお父様。私は…師によって強くなりました。体も、心も。」

女「騎士になる者として、不安という心の乱れは恥。ですから、そのようなことは決してありません」

女の強い意思のこもった言葉が、広すぎるほどの食堂に響く。窓の外に見える鳥が木の実をついばんでいた。

父「…騎士団長の彼には感謝しなければね。君をここまで強くしてくれたのだから。」

――――――――――――――――――――――――――――――――――
騎士団長「立て!立つんだ!」

少女「くっ…もう…私には無理です…」

騎士団長「馬鹿野郎!そこで諦めるな!」

騎士団長「お前は騎士になりたいんだろ!?」

騎士団長「俺は感動した!性別なんて関係ない!」

騎士団長「強くなりたい!騎士になりたいと言ったお前に!」

騎士団長「あの時のお前は…どこへ言ったんだ!」

少女「!」ガーン

少女「私…やります!きっと騎士になります!」

父(少女…頑張れよ…)ウルウル
――――――――――――――――――――――――――――――――――

父「あの時は…見ていて辛かったなぁ…」

女「…お恥ずかしいです」

その話は昨日の夕食にしてほしかった。顔が赤いのがばれてしまう。
そう思いながら、肉料理を口に運ぶ。

父「…今の君なら、きっと大丈夫だね」

父「余計な心配をしてしまってすまない」

父「けど…これだけは言わせてほしい」

父「きっと、帰ってきてくれ」

女は真っ直ぐこちらを見つめる父の瞳から、色んな感情を受け取った。安心、信頼、祝福――――

女「…はい!」

女「ではそろそろ、向かいます」

女はいつの間にか朝食を食べ終わっていた。先ほど急いで肉料理を食べたのが要因だろう。
肉料理ほど食を進ませるものはない。

父「いいのかい?まだ時間はあるけど…」

女「早く行くことに越したことはないので。それに…お母様にも…」

父「そうか…じゃあ、いっておいで」

女「失礼します」

女は一礼して、食堂から去った。

父「ふふ…大きくなったものだ」

メイド「お父様…本当によろしかったのですか?」

食べ終わった料理の皿を片付けながら、メイドが尋ねる。

父「何がだい?」

メイド「あ、いえ、お嬢様が旅に行かれるのを反対するわけではありませんが…」

メイド「ただ、お嬢様は齢18。危険な旅になるでしょう…普通は反対なさるものかと…」

メイドが言ったことは間違っていない。
世間一般論で言えば、たった一人の愛娘を旅に出すというのは、普通の家庭なら無理やりにでもひき止める。

ただそれは、世間一般論の話だ。

父「…娘が決めたことだ。僕は口出ししないよ。それに…」

父「信頼、してるから。」

メイド「…そうですね。失礼いたしました。」

父「ところで…君も、会いにいったら?旅の前に少しくらい話しても罰は当たらないよ」

メイド「私のようなものが…」

父「そう?でも、何だか寂しそうな顔をしているよ?」

メイドはギクリ、という表情をする。やはり主人には敵わないものだ―――

メイド「!…失礼、します」

父「ふふ…」

~礼拝堂~

女「神よ…我が御身を護り力を与えたまえ…」スッ

胸の前で十字架を切ると、また更に祈りを捧げる。この世界では、神という存在は人間にとって強い心の拠り所なのだ。

女「…」

女「お母様…」

『あぁ…素晴らしき君よ…ついに…』

「声」が聞こえる。だが、聞き慣れている声だった。優しく語りかける、男性の声。

女「『視えぬ天使』よ…いらっしゃるので…」

メイド「お嬢様…」

女「あ…メイド…」

「声」は、聞こえなくなっていた。

メイド「礼拝中に…申し訳ありません…ただ…旅立たれてしまう前に話しておきたくて…」

女「…おいで」スッ

メイドは引き寄せられるように…その胸に包まれた。天使の抱擁。優しく肌を撫でる羽毛の心地…

メイド「あっ」

女「本当は、不安なんだ」

女の抱擁に鼓動が高まる。

メイド「お、お嬢様」

女「ふふ…情けないな…不安はないなど大口を叩いておきながら…」

女「メイド…お前の髪はいい匂いがするな…私は小さい頃からこの匂いに癒されてきた…」

メイド「いえ、そんな…///」

女「思い出すな…孤児であったお前をメイドとして招き入れてきた頃を…」

女「友達の少なかった私を慰め…共にいてくれた…」

女「でもそれも…今日で最後か」

メイド「最後ではありません!」

女「え?」

メイド「だって、帰ってきますから。きっと」

メイドの目から少しずつ、涙が溢れる。それは不安や悲しみの涙でなく、愛情の涙だった。女にはそう感じられた。

メイド「最後だなんて、言わないで…」

女「…ふふ」

また、強く抱き締める。

女「愛しているよ、メイド」

メイド「お嬢様…!」

メイドも思わず、強く抱き締め返す。

女「!」

女「いや!ち、違うぞ!私はあくまでその…そっちの方としてではなく…」

気恥ずかしさから、顔が赤くなる。そっちの方、とは言わずとも分かるだろう。

メイド「分かってますよ!」

女「そ、そうか///」

離れた女の胸元に、ペンダントを見る。メイドは長いこと仕えているが、初めて見るものだ。

メイド「!お嬢様…このペンダントは…」

女「…お母様のだ」

女が手に取ると、綺麗な金属音が響く。まだ錆びていない証拠だ。

女「…お母様は私が3つの時に亡くなられてしまった。これは亡くなる前に…私にくれたものだ」

女「お母様は言っていた…『あなたの信じた道を貫いて…そして生きて…あの人のように』と」

メイド「あの人?」

女「それが誰かは分からない…そう言った直後息を引き取ったから…」

メイド「そう…なんですか」

女「きっと大切な友人か何かなのだろう…」

女「…私はその時から強くなろうと決意した。信じた道を貫くために…」

女「でも…不安がある私はまだまだのようだ」

メイド「お母様が教えてくれた歌が…お嬢様の不安を拭って下さいますよ」

女「な、何故それを!?皆が寝静まったころに歌っていたのに」

彼女は今、墓穴を掘ったことに気づいていない。知られたくないなら隠しとおせばいい。
しかしここで知らぬふりをしてしまえばメイドの機嫌を損ねかねないので、そういう意味では賢明と言える。

メイド「ふふ…天使の歌声には誰もが目覚めますよ」

その代償として、顔を赤らめることになってしまったが。

女「て、天使の…い、いや、それはどうでもいいが、歌を教えてくれたのはお母様ではない」

メイド「え?」

思わぬ訂正に、メイドは目を見開く。

女「確かにお母様はオペラが好きだった。私も興味はあったが…何せ小さい頃だ、歌を歌うことはなかった」

メイド「では…どなたが?」

女「…お父様にも話していなかったが…お前には話そう。けど、誰にも言うなよ?」

メイドは軽く頷き、承諾した。

女「私が10歳の時だ。夜中に眼が覚めると、頭の中に声が響いた」

女「男性の声だ…私はその時…『天使』だと感じた。ふふ。変だろう?」

メイドは内心、少し違和感を覚えた。天使と言えば、もっと優雅な…もしくは無垢の子供のような姿をしたイメージを持つ。
メイドの否定を遮るように女は話を続けた。

女「私は夜中にいつも歌の稽古を『天使』につけてもらっていた。不思議と…心が洗われるようで…」

女「けど…姿を表してくれはしなかった」

女「歌の稽古が終わった後に姿を見せてほしい、と尋ねても消えてしまう…」

女「『視えぬ天使』と…私は名付けた」

女「…この言い方だと、何だか幽霊みたいだな」

二人はクスリ、と笑う。
蝋燭の炎が、揺れた。

女「…こんなところだ。信じてもらわなくても構わない。…最近は、現れていないしな」

メイド「いえ、信じます。お嬢様が嘘をおっしゃるとは…思いません」

メイド「…『音楽の天使』」

女「え?」

メイド「どうせなら、そのような名前をつけてみてはいかがでしょう?」

女「『音楽の天使』…か。いいな。また現れたら、そう名付けよう」

女「…結局、早く行くつもりが丁度いい時間に着きそうだ」

メイド「あ…申し訳ありません。時間をとらせてしまって…」

女「いや…楽しかった。こうして話せたのだから」

女「さ、行こう。蝋燭の火は残しておいてくれ」

メイド「はい」

そうして二人は礼拝堂から去る。

蝋燭の炎は―――――全て消えた。

~玄関口~

女「それでは、行って参ります」

父「ああ。頑張ってね」

「気を付けてね」ではなく、「頑張って」…という言葉は、女にとって、心強く感じられた。

メイド「お嬢様…どうかお気を付けて」

メイドの言葉は、やはりメイドらしい。けれど女にとっては、二種類の言葉があった方が良い。

メイド「それと…近々不審な者がいると噂があるので…」

女「噂?」

メイド「えぇ…特に目立ったことはしていませんが…」

女「大丈夫さ。その時は私が退治する」

自慢気に、腰の剣に手をのせる。
愛用してきた剣は一心同体。女にとっては相棒のようなものだ。

父「…頬に口づけ、してもいいかい?」

女「はい。お父様」

父「…お父さん、って、呼んでほしいな」

何だか今日の父は、やけに積極的だ。いや、当たり前だ。いつまた戻れるか分からないのだから。

女「…お父さん…」

父が頬に口づける。女も、父の頬に口づける。
そして、メイドにも。

女「ん…」

女「…行ってきます!」

背を伸ばし、真っ直ぐ前を見つめて進む彼女を、父とメイドは見送る。
地平線の彼方に、消えるまで。

父「…さて、それでは僕らも式へ向かう準備をしようか」

メイド「今、馬車を用意します」

~スミスア国城・大広間~

スミスア国―――かつての勇者はこの地から生まれた。
他六つの国を牛耳っていた魔物を討伐し、奈落の地に復活した魔王を撃ち破った。
勇者とスミスア国はその功績を称えられ、現在ではそれぞれの国の中心となり、治めている。
奴隷制度の廃止や、芸術、学術、宗教の拡散。
国々は歓喜に満ち溢れ、平和を取り戻した。
しかし、魔族の残党は根絶されてはおらず、むしろ力を取り戻しつつあるという。
故に、それを抑止するための六人の騎士が選ばれた。

甲冑騎士、魔剣騎士、弓騎士、大槍騎士、双剣騎士、そして女騎士。

各々、18歳。若いながら、素晴らしい実力を持っている。

女「ついに、か――」

大きな天井を見上げる。
想いを馳せるかのように見つめ、右手を小さく握る。

兵士「女様。」

女「はい!」

扉が、開かれる。

扉の向こうには、多くの観衆。
祝福の拍手が贈られる中、玉座の前へつく。


父「はぁ…はぁ…」

メイド「間に合いましたね…」

メイド「あ!お嬢様…!」

父「…ふふ、いい表情をしているじゃないか。」


女「…」

玉座の前へ、ひざまずく。
王が、右手をあげると拍手が止む。

王「集いし騎士よ!」

王「そなたらは、滅魔の騎士として今!ここにいる!」

王「平和を取り戻さんと立ち上がってくれた皆を祝福し、感謝する!」

王「ではまず、甲冑騎士!」

甲冑騎士「はっ!」

王「続いて―――」

『…』

『女…いや、女騎士』

『…』

『今こそ、我がもとへ…』

王「そして、女騎士!」

女騎士「はいっ!」

誰よりも大きな返事で、皆を圧倒させた。
この瞬間、彼女への信頼は絶大なものになった。

「彼女、すごいな。確か試験でトップの成績だったんだって?」
「いやー…この国はまだまだ安泰だな」

メイド「…お父様、顔がにやけております」

父「おっと…失礼」


王「以上、六名!」

王「存じてはいるであろうが、そなたらは各々、六つの国々へと向かい、魔族の残党を排除していただきたい!」

王「ただし、各国の民には極力魔族の存在を勘づかれぬよう、気を付けていただきたい!」

難題。騎士全員が思った。
確かに魔族の残党による被害の報告は出てはいないが…
全く気づかれないまま、というのは無理がある。恐らく気づいている者も既にいる。
国王の気遣い。そう解釈するしかないのだ。
報酬は騎士団の団長に報奨金等不満があるわけではないが―――
正直、地味である。

しかし、放置しておけば後々被害は大きくなる。地味だなんだとは言えないのもまた事実だ―――

王「滅魔の騎士達よ!誓いを神前に!」

全員、またひざまずく。

「我らが神よ」

「我らは善き世界を見据えんとし」

「今、ここに集う」

「我らが神よ」

「我らは強く、正しく、清らかに」

「己が力を使うことを誓おう」

「我らが神よ」

「今こそ、我らが御身を護り」

「力を与えたまえ」

頭上から光が降り注ぐ。
光は騎士達を包み、各々の武器を進化させた。

女騎士「これは…!」

王「神の天啓、神託をそなたらに」

王「そなたらに、幸運があらんことを」

王は静かに、十字架を切る。

女騎士「これが…私の剣」

王「行くのだ!希望を紡ぎし騎士よ!今こそ、世界に平和を!」

~スミスア国・南門~

女騎士「ふう…馬に乗るのは3日ぶりだ…」

そう言って馬を撫でる。上機嫌そうに、いなないた。

騎士団長「女騎士」

女騎士「騎士団長!」

騎士団長「ああ、馬に乗ったままでいい。ふっ…まさか本当になってしまうとは…」

女騎士「これも、騎士団長のお陰です。父上も感謝しておられます」

騎士団長「バカ言うな。お前の努力のお陰さ」

女騎士「しかし、私一人では何も出来ませんでした。…どうかこの感謝をお受け取りください」

騎士団長「ふっ…ならありがたく」

騎士団長「よし!てめぇら!盛大にこいつを見送ってやんなぁ!」

兵士「おぉー!」

女騎士「な、なんだか照れるな…」

兵士達が剣を縦に構える。
これが一つの作法のようなものだ。

女騎士「…いってくる!」

馬が走り出すと、女騎士は見えなくなっていった。

兵士の中には、泣き出す者もいた。

騎士団長「バカ野郎…泣く奴があるか…」

そういった騎士団長の頬には、一筋の涙が伝った。

騎士団長(必ず帰ってこい…女騎士!)

今回はここまでです。

見てくれた方、ありがとうございます。

因みに冒頭のは女騎士じゃないです。
一人称注目!(`・ω・´)

何かご意見があればお願いします。
見やすくなるように改善します♪

ではでは…

少しだけ投下する

女騎士は南へと馬を進めていく。
蹄の音が響く度、草原の草が揺れる。

女騎士「ふふっ、なかなかいい風だ。」

女騎士は、馬が好きだった。5歳になる頃には、大人の馬に跨がっていた。
騎士としての才能は、備わっていたと思われる。

女騎士「さて、後もう少しだな…」

これから向かう地は、「ガルニ王国」。芸術が最も盛んな地であり、多くの芸術家が憧れるといわれている。

女騎士(奴隷制度の廃止以前は、荒れていたというが…信じられないな)

女騎士「ふぅ…少し休むか」

女騎士「周りの小虫を潰してからな!」

剣を一降り。その瞬間、周囲の地面が焼け焦げたように切り裂かれる。
流石に女騎士も動揺する。

女騎士「いや…これほどとは…」

女騎士「『草原狩人』か…不意打ちとはこざかしい…私に通じるかそんなもの」

決して余裕の言葉ではない。
騎士の誇りからくる絶対的な自信だ。

女騎士「…魔族の残党がここまで来てるということか。どうやら悠長にはしていられないようだ」

女騎士「よし、急ごう!頑張ってくれよ!」

馬を再び走らせ、その場を後にする。
その跡に、一人、立つ。

『…ガルニ』

『忌まわくも愛しき場所』

『…いや、知っていた。だからこそ導いたのだ』

『さあ、女騎士よ。その歌声を聞かせてくれ』

~ガルニ国・地下水道~

僅かな灯りはカンテラのみ―――
灯された水面が揺れる。

それぞれの騎士は正面から向かうと目立ってしまうが故に、抜け道を使い城へ向かうことを言伝てされていた。
女騎士の城への抜け道は、水道。

女騎士「かつてガルニの地下にあった水脈をそのまま水道に利用…か。まあよくある手法だな」

女騎士「しかし…やけに霧か?靄のようなものがかかっているな。水位が低いから危険はあまりないと思うが…」

女騎士「…」

気配を察する。
二人…いや、三人。
臨戦態勢に入れるよう、剣に手を添えておく。

女騎士(…何者だ?盗賊?…可能性はあるな。広い水道だ。アジトの一つや二つはあるだろう)

女騎士(だが最初は警告程度に止めておくか)

女騎士「私はスミスア国より参りし女騎士だ!私は極力殺生は行いたくない!」

女騎士「武器を捨てよ!そうすれば私も戦闘意思は解こう!」

「き、騎士?」

「何だ、そう言ってくださいよ」

女騎士「何?」

自警兵「私たちはガルニの自警兵です。てっきり侵入者かと…」

女騎士「自警兵…?」

自警兵、いわゆる警察のようなものだ。銃を所持し、黒いマントを身に付け、胸元に、証である紋章を貼り付けてある。

自警兵「国王様より聞いております、スミスア国から遣わされた者だと…」

女騎士「こちらこそ申し訳ない。抜け道を使わなければならないと伺っていたため、こうせざるを得ないのだ」

自警兵「城への道はこちらです。案内します」

女騎士「すまない、よろしく頼む」

力の入った肩の力を抜く。
ひとまずは大丈夫であろう。

そう、この場では――――

『…舞台は整った』

『幕は直にあがろう』

『そして、私のもとへ来るのだ』

『そう、私のもとへ…』

~ガルニ国城・会議室~

女騎士(ようやく着いたが…)

女騎士(どうも落ち着かない部屋だ…)

会議室の内装は、流石芸術の国…とでも言うのだろうか。
様々な絵画や彫刻、壁面にまで彩飾が施してある。

目の前には用意された紅茶と菓子があるが、手はつけない。
毒の警戒。騎士の基本知識だ。

しかし流石に喉が乾いた。
何より、彼女は騎士とはいえど女子。やはり甘いものには興味が沸く。
少しくらいなら―――
そう思った時。

「失礼します」

「いやはや、お待たせしてすまない。少し他の客との面会が…」

「…すごい…背筋伸びてますね…」

女騎士「騎士としては当然です」キリッ

「…はぁ…」

側近「あ、申し遅れました。私、側近と申します」

側近「王は、まだ執務が残っております故…どうかお許しを」

女騎士「いえ…お構い無く」

執務が残っている…恐らく口実だ。
当然だ。いくら遣わされた者とはいえ、偽者の可能性もある。そう、暗殺の危惧だ。
内装はハッキリ言って賢くないが、どうやらバカというわけでもなさそうだ。と、女騎士は思う。

側近「用件などは全て把握しておりますので、ご安心ください」

女騎士は小さく頷く。

こうして、会議は始まった。

側近「――――ですので、こちらの方角に集中しているかと」

女騎士「なるほど。…しかし、残党とはいえ領域の発生が早い。国の住人は、既に気づいているのでは?」

側近「いえ、壁のお陰で侵入は免れています。魔物もそう簡単には侵入は出来ません。何より、領域が広い。」

女騎士「壁?」

直後、察した。
この国に奴隷制度が残っていた頃の名残だ。「商品」が逃げ出さないための、大きな壁。

側近「ええ、壁です。大砲でも壊れぬ。」

女騎士「…それだけ頑丈なら、安心です」

…皮肉は通じたのだろうか。そんなことを考えながら、再び地図に目を通す。

側近「さて、そろそろお開きとしましょう。お疲れでしょう?宿泊施設を案内します。費用はこちらで負担ですのでご心配なく…」

皮肉で返された。そんなにお金に困ってはいない。むしろもて余しているほとだ。

女騎士(…まあ確かに支給された旅費というか経費は…うん…)

どちらにせよ、皮肉はするものじゃない。そう心に決めた。

~宿~

側近「こちらです」

女騎士「武具は部屋に置けるか?」

側近「ええ。一応、グレードの高い部屋を選びましたから」

女騎士「そうか」

馬車で運んでくれたのは安心した。
着替えはしたが、武具を持っていては折角抜け道を通ってきたのに目立ってしまう…
かといって城に置いてくるのも無用心だ。

女騎士「…羽振りはいいようだ」

側近「何か?」

女騎士「いえ」

…聞こえてない、筈。


~宿・部屋(V.I.P.ルーム)~

女騎士「広いな」

側近「ありがたきお言葉です」

女騎士(…これ、経費だよな?まさかこの人の自費とかじゃ…いや…ありえる…)

側近「それでは私は城へ戻ります。また何かございましたら、お手数ですが城へお越しください。あ、馬車はこの宿に備えがありますので…馬の小屋は一階を出て~」

側近が色々と説明をしているが、大体は耳に入らない。
女騎士はこれからの動向を考えていた。
補助に入るガルニの兵士との動き等も考えなければならない。
残党の討伐は二週間後…それまでに色々と練らなければならないからだ。

側近「それと、今日明日で街を回ってみてはいかがでしょう?特にオペラはお勧めで…」

オペラという単語で、一瞬、思考が止まる。いや、正確には切り替わる。

女騎士(オペラ?オペラか…お母様も好きだったな…)

女騎士「それ、どこでやっているんだ?」

側近「オペラでしたら、ガルニ座という場所で公演しております。今でしたら、『百合姫』という演目の最中ですね。」

女騎士「…ありがとう。検討しておく。」

女騎士(…聞いたことあるな)

側近「それでは、また三日後の会議で。」

そう言って側近は部屋を後にした。
部屋の中には、彼女一人。静寂がしばらく部屋中を包む。

女騎士「…部屋の中を見てみるか」

女騎士「…無駄に広い…」

女騎士「ん、これは…あぁ、『百合姫』か。そういえば、これは『音楽の天使』から教えられたんだっけ…」

女騎士「…よし、まずは風呂に入ってから、それから…」

ふと、母の面影を思い出す。
オペラ…母の愛した芸術。
女騎士もまた、好いていた。
それは母が好きだから自分も好き、という漠然としたものだが、それでも好きだった事実としては変わらない。
だが…何故か悲しくなってしまう。

女騎士(お母様が今…生きていたら私はきっとオペラ歌手になって…いたのか?)

女騎士(…お母様)

結んだ金色の髪をほどく。
相変わらず、なびく度に輝いていた。

ここまでです(・Д・)

多分この時間帯に見ている人はいないと思われるwwwwww

結構不定期になりそうなので、暇なときにでも読んでください(* ̄∇ ̄)ノ

よし、投下しますかね

~ガルニ座~

~♪

歌声が響く―――

鳥は逃げ、花はつぼみに戻り、掃除のババアは耳を塞ぐ。

プリマドンナ「~♪」

支配人「いやぁ、素晴らしい!あなたの歌声は!」

プリマドンナ「ありがとう。支配人。けど、ドレスの丈が長いわ。直すよう言ってちょうだい」

支配人「ああ、そんなことより、紹介したい方がいるんだ。来てくれたまえ」

男「はい」

「あの人イケメンよ」
「素敵ね」

男「初めまして、マダムプリマドンナ」

プリマドンナ「初めまして」

支配人「紹介しましょう。彼は私の跡を継ぐことになった、男君だ」

支配人「私が引退することはもうみんなご存じだろう」

支配人「しかし支配人がいないことにはこのガルニ座は成り立たない…故に誰を新支配人とするか悩んでいたんだが…彼が継いでくれるとのことだ」

支配人「彼ならきっと、ここをより良い方向に導いてくれる。何より、貴族だ。融資の面も問題ない」

男「お力になれれば…光栄です」

男に暖かい拍手が贈られる。
支配人からも、マエストロからも、掃除のババアからも、プリマドンナからも。

支配人「リハーサル中にすまなかった。ではマエストロ、続けて下さい」

マエストロ「あぁ、はい。では、えーアリアを」

マエストロが指揮棒を降り始めると、曲が始まる。
それに合わせて、プリマドンナが歌い始める。
アリア――独唱を意味する言葉。
ソプラノの声が会場に響く…が、プリマドンナ彼女の声はどうも太い、というかもう正直言うと聞き苦しいものだった。

しかし彼女は貴族であるが故、無下には出来ない。何より元々は絶世のプリマドンナと称された時もあったのだ。

支配人(…集客率はいいけども…)

聴衆からの評判は良くもなく悪くもなく、否…徐々に悪評の方へ傾いている。

支配人「すまない…男君…」

そして――――

プリマドンナ「ぎゃぁぁぁ!」

会場全体が旋律する。プリマドンナの女性とは思えない叫び声、にではなく、その惨状に。
天井から滑車で吊るしておいた背景の装飾が、プリマドンナの上に落ちてきたのだ。

不運…いや、幸運なことに、装飾は重量がなく、大怪我には至らなかった。

支配人「上の作業員!何をしているんだ!」

作業員「分かりやせん!俺がいなくなった隙に…いや…もしかしたら…」

『…』

男「…?」

立ち尽くす男の足元に、手紙が落ちる。
髑髏を模した蝋で止めた手紙が―――

男「これは…!」

支配人「男君!君も手伝っ…!それは!」

髑髏の蝋…それを意味するものはすぐに分かった。
「怪人」だ。

支配人「怪人だ!怪人が現れた!」

作業員「はー…またか」

男「…これが、噂に聞く…」

手紙を開けると、以下のような文が書かれていた。

『ガルニ座の諸君
私はプリマドンナの声は聞きあきたと忠告したが、それを守らなかった
。乱暴ではあるが、制裁を加えさせていただいた。恐らくその状態では舞台に上がれないだろう。だが私も悪魔ではない。同封した住所の部屋の中にいる女性を連れてきたまえ。彼女なら今回の演目を歌えるはず。賢明な諸君らなら、私の満足がいくものを見せられると、期待している』

支配人「な、舐めおって…!大体見ず知らずの女性を、使えるわけなかろう!何を考えているんだ!」

男「…この宿は、街の中でも有数の高級宿…しかもこの部屋番号からしてV.I.P.ルームか…何か…特別な人でも…」

プリマドンナ「冗談じゃない!やってられないわ!」

プリマドンナ「こんな呪われた舞台で演じてたら死んでしまうわ!」

支配人「そ、それはそうなんですがプリマドンナ。何せ五年も続いておりますから…」

プリマドンナ「それを何とかするのも支配人の仕事でなくて!?」

ガルニ座では五年前から不可解な事件が頻発している。
といっても、死人が出るなどのものではなく、舞台装置の故障や役者の怪我など、さらにそれをリハーサル中にという、大事にはならない程度のものだった。

「怪人」の目的は分からない。
それどころか、正体も、居場所も…

プリマドンナ「とにかく!私は今回の演目は出ません!こんなところで死ぬのはごめんよ!」

支配人「そ、そんなぁ…!そんなこと言わずに、どうか…。男君も何とか…あでっ、あ!ちょ、プリマドンナ!」

男「…マエストロ、どうしますか?」

マエストロ「…彼女は一度こうなると引き戻すのは難しいと思う…何せ、周りから褒められて生きてきたそうだから、プライドが傷つくと…なるとね」

男「…怪人の目的は?」

マエストロ「さあ」

「…」

男「…とにかく、開演まで後五時間、幸い宿までは近い」

支配人「しかし満席なんだぞ!もしその女性が歌えなかったら、チケット全部払い戻しだぞ!」

男「…確かにそのリスクもあります。けど…」

男「どうも…上手くいく気がするんです」

支配人「っ…!ええい!仕方ない!馬車をまわせ!」

~宿・V.I.P.ルーム~

女騎士「…さて、そろそろ行くか」

いつも身に付けている武具とは違う、私服に着替えて部屋を出る。
手には部屋に置かれていた「百合姫」の演目のフライヤー。
出た瞬間、数人の男達。

女騎士「へ?」

支配人「あっ…えー、突然ですまないが、ガルニ座へ来ていただけないかね?」

女騎士「え…あの…今から行くところで…」

支配人「何!?それは好都合だ!よし!今すぐ出発だ!」

支配人が女騎士の腕を掴み、馬車の元へ向かうと、彼女は投げられるように中に放り込まれる。

支配人「よし!出発だ!」

女騎士「ちょ!?ちょ!?え!?あの、よく分からないんですけど!?」

支配人「本当に突然で申し訳ない!けど君しかいないんだ!『百合姫』の公演に出ていただきたい!」

女騎士「ゆ、百合姫に…」

支配人「いや、歌えないなら結構!だが、君が歌えると聞いて―――」

何なのだろう、この老人は。
人をいきなり馬車に放り込み、それで来いと言ったり来るなと言ったり…
流石に失礼ではないか。
だが女騎士の思考は、まず支配人への回答が優先された。

女騎士「いや、歌えますけど…」

支配人「…今何と?」

女騎士「いやだから歌えると」

支配人「決まりだ!馬車!全速前進だっー!!」

女騎士「ちょぉぉぉ!もうなんなのおおおおお!!!」

今回はここまでです。
眠い(´д⊂)‥

オペラ好きな人とかいるのかしら(*゚∀゚*)
「百合姫」は「椿姫」を元にしてます。
…なんか、レズ向けのソープの名前みたいwwww

それでは皆さんおやすみなさいませ(^.^)(-.-)(__)

>>58
ねーよ
態度悪くなけりゃむしろ好感持つわ

>>60

まあ…そういう方もいるということで…( ´△`)
不快にさせない程度にします(ノ´∀`*)

そろそろ投下しますが、調整するのでもうしばらくお待ちをm(_ _)m

~ガルニ座・劇場~

女騎士「…」

支配人「皆!集まってくれ!」

舞台上の者が注目する。
その視線は主に、女騎士へ。

「…綺麗な人…」

支配人「今回の主役であるプリマドンナがいなくなってしまったが―――」

支配人「しかし彼女が来たことによって公演中止は免れそうだ!」

誰もが予想だにしていなかった言葉に、全員が驚愕する。
もちろん、女騎士自信も。

女騎士「ま、待って下さい!私は何も事情を聞いていない…。いきなり歌えと言われましても…」

支配人「頼む!この劇場の命運がかかっているんだ!このガルニ座は世界でも有数のオペラ劇場故に、潰すことが出来ないんだ!」

支配人「プリマドンナが不慮の事故で降りてしまった今、君が頼みの綱なんだ!」

女騎士(さ、さっきは「歌えないなら結構」なんて言ってたくせに…)

満場一致での呆れ。本当に支配人なのかこの人は、とすら思えてくる。
しかし、支配人と同じような事を思う者も中にはいないわけではない。

女騎士「…何故、私なのです?」

支配人は言葉を詰まらせる。「怪人」の存在を公にするわけにはいかない。
何か良い言い訳を探すも浮かばず、立ち尽くす。

沈黙の後、溜め息が流れる。女騎士だ。

女騎士「今日…だけなら」

俯いていた支配人は目を見開いて顔を上げる。

支配人「ええ!今日だけでいいですとも!ええ!」

突然の大声に女騎士は少し体をひくが、続けて言う。

女騎士「ただ、ゲネラルプローベ…いわゆるリハーサルはしっかりさせて下さい。『百合姫』は歌えますが、何せしばらく歌ってないもので…」

支配人「もちろんですとも!ま、まずは衣装の用意をさせますので!発生練習でもしておいてください!」

支配人「あ!申し遅れました!私は支配人です!どうぞよろしく!というか男はどこへ行った!?」

「男さんなら、内部の視察ですよ。そう言ってたじゃないですか。」

その場から慌ただしく支配人が去る。女騎士はしばらく見送るように支配人の方を見ていた。
勿論、見送るためではないが…

「あの…本当に大丈夫なの?」

自分の右肩の方を見ると、そこには衣装に身を包んだ金髪の少女がいた。

「あ…ごめんなさい、疑うわけじゃなくて、単に支配人に振り回されて嫌じゃないかと…」

女騎士「あなたは?」

金髪少女「私は金髪少女。ガルニ座のコーラスガールよ。ごめんなさい、名前も名乗らずに…」

女騎士「…私は女騎…」

そこでハッとした。
女騎士の任務はガルニ国の住民に魔属の残党の存在を気づかれないように討伐すること。
隠密任務に近いものだ。当然、自分が騎士だと気づかれてはいけない。

女騎士「…女。そう、呼んで」

口調も極力女性らしくしなければいけないのでやや喋り苦しい。

マエストロ「あ、あの…マエストロです。よろしく」

女騎士「あぁ、マエストロ様…女と申し…です。どうかお見知りおきを…あ」

思わず堅苦しい口調が出てしまった。マエストロは気づいていない。その間にスコアのページを探していたからだ。

マエストロ「えー…三幕のアリア…歌えますか?」

女騎士(アリア…独唱か…いつもしていたから歌詞は分かる。声は自信がない…)

女騎士(やるしか…ないな)

女騎士「――――――――…

純白のドレスに身を包まれた女騎士の、ソプラノの声が響く。
席に座る貴族達は、まるで子守唄を聞く赤子の様に聞き入る。

スタンディングオベーションが起こったのは、歌い終わった数秒後だった。

素晴らしい舞台には歓声が起こると言われているが、最高の舞台には一瞬、静寂すると言われている。

彼女の舞台はまさに、「最高の舞台」だったのだ。

男「あれは…女…!?」

男「…あの時の…」

男「そうだ…!彼女は…確かに女だ!」

男「幼い夏の日に恋人同士だった…大切な人!」

女騎士「…これが、オペラ」

女騎士「…ふふ」

女騎士の口元が上がる。
今この時、彼女にとって、至福の時だった。

聴衆からは色とりどりの花が舞台に贈られる。

劇場の中心に吊るされるシャンデリアが、彼女の声に呼応するかのように煌めきを増す。

~ガルニ座・舞台裏~

支配人「女君!」

握手を交わす。何度も何度も上下に振られ、手がしびれてしまった。

支配人「いやはや!大成功だった!素晴らしい!素晴らしい!」

また調子の良いことを―――とは思う暇もなく、周りからは絶賛の嵐が贈られる。

女騎士「いえ、私など全然…」

支配人「何を言うんだ!君は素晴らしい逸材だ!いやまさか君のような原石が眠っていたとは…」

支配人「どうかね…ここで、所属してみないか!?寄宿するという形で…」

支配人「勿論、給料も出そう!いずれプリマドンナがまた戻ってきてしまうから今回のようにいきなり主役からというわけにはいかないだろうが…」

一瞬、迷う。
お母様の愛したオペラの世界に私が入ることで、天国のお母様が喜ばれるのでは、と。
だが当然、拒否しなければならない。あくまで自分は女騎士。祖国にもいずれ戻ることも約束されている。

女騎士「ごめんなさい。私はいずれ戻らなければならないのです。」

女騎士「それに…私はただの一般人。貴族の多い中で目立っては…」

支配人「ん?君はあの宿の最高ランクの部屋にいたじゃないか。君も貴族なのだろう?」

…しまった。墓穴を掘った。

女騎士「と、とにかく…せめて考える時間を」

支配人「…それもそうだ。いや申し訳ない。もうすぐ支配人として引退するもので」

女騎士「礼拝堂があると聞いていますが」

支配人「案内しましょう」

~ガルニ座・礼拝堂~

女騎士の住んでいた豪邸にも礼拝堂はあったが、ガルニ座の礼拝堂はそれより狭く、石造りの落ち着いた空間。
その小さな空間がむしろ、心をより深く清めてくれる。

女騎士「…」

『ブラボー…ブラボー…』

『素晴らしい舞台だった』

天上から男性の声が響く。まるで心の中に語りかけるように…

『私の音楽の天使よ…聞こえるか…』

『お前は導かれたのだ…そう』

『導かれたのだ…』

金髪少女「女さん…いますか?」

女騎士「金髪少女…さん」

『…』

金髪少女「金髪少女でいいわ。敬語も使わなくていい。…素晴らしかった」

女騎士「ありがとう」

金髪少女「あなた一体、どんな方が先生についたの?」

女騎士「それは…分からないの…」

金髪少女「分からない?」

金髪少女は首をかしげる。普通の反応だ。自分の師の顔を知らないなどあり得ない。

女騎士(どうせ今日限り…話してしまっても良いだろう…)

女騎士は「音楽の天使」について話した。分かる限りのこと全てを―――

金髪少女は驚いてはいなかった。
しかし、信じたわけでもなかった。

金髪少女「信じているの…?」

女騎士「…バカな話だと思うでしょう?」

金髪少女「正直…言うとね」

女騎士「でも…本当なの。私は…私はこれが亡くなった母からの使者だと」

女騎士「きっと…」

金髪少女「…信じがたいわ。頭ごなしに否定はしないけど…でも、天使は見えないもの。夢を見ているんだわ」

金髪少女が女騎士の手をとると、彼女もそれに着いていく。

女騎士「どこへ?」

金髪少女「楽屋へ。そこならここより静かだし、一人きりになれるわ。…きっと疲れているのよ」

女騎士「…うん」

金髪少女「だから…ね?そんな夢物語は話すのはもう…」

金髪少女「余計に疲れてしまうわ」

初対面だと言うのに、これだけ気を遣ってくれる人は初めてだ。
けれど、複雑な気持ちだった。

蝋燭が一つ、燃え尽きた。

~ガルニ座・楽屋~

「ダメです!彼女は疲れているのよ!空気を読みなさい!」

「はぁ…全く男どもは…」

女騎士「すいません…わざわざこんな部屋を用意をしていただいて」

「気にしないで。今日の主役なんだから、当然」

金髪母「ああ、挨拶していなかったわね。私は金髪母。金髪少女の母よ」

女騎士「金髪少女…さんのお母様ですか?」

金髪母「…その丁寧な口調、あなたやっぱり貴族ね」

金髪母はクスリと笑う。
金髪母はガルニ座の寄宿舎で教育係をしている。厳しそうだが、優しそうな雰囲気も持っていた。

金髪母「長居しては悪いわ。ここには近寄らないように言っておくから」

女騎士「ありがとうございます」

そう言い残して、部屋には女騎士一人になった。
外の煩さが嘘かのように静まり返る。

女騎士「…花が一杯だ」

ようやくだ、というかのように口調を戻す。
ある意味では、二重の休息時間だ。

女騎士「…少し暗すぎるな。蝋燭の火を着けよう。燭台は…あった」

机の上に置かれている蝋燭の火を着ける。
明るさはほんの少しだけだが、これくらいが一人になるには落ち着くのだ。

女騎士「緊張したな…しばらく歌ってなかったからな」

女騎士「私の声は…人を感動させられただろうか」

男「少なくとも、ここに一人」

女騎士「!」

男「別れはいつか来るけれど」

歌詞のフレーズような言葉を発する。
女騎士はすぐに返した。

女騎士「心はいつもあなたの中に」

男「誓うよ、忘れないと」

女騎士「誓うよ、思い出すと」

男・女騎士「君の(あなたの)ことを…きっと」

歌い終わると、女騎士は男の手を握っていた。

女騎士「どうしてここに?」

男「ここの支配人になるんだ。といっても、今の支配人が引退する一年後だけど」

女騎士「若いのに…すごいんだな」

男「思い出すね…11歳の頃…君は10歳だったかな。夏の日に一度だけ会ったあの時を」

女騎士「ああ。小さな恋人同士、毎日のように。このガルニの外れの方の別荘で…」

男「雰囲気はだいぶ変わったけど、舞台での君を見て分かったよ…それにしてもまさかあの時部屋にいたのが君だなんて」

女騎士「!ということは一緒の馬車にいたのか」

男「その時は急いでいたから気づかなかったけどね」

男「…」

会話が突然切れて戸惑う。
女騎士は何か機嫌を損ねてしまったのかと、慌てて聞く。

女騎士「ど、どうしたんだ?」

男「いや…とても綺麗だと思って」

女騎士はこれまでにないくらい顔を紅潮させる。
綺麗だ、なんて同い年の異性に久しぶりに言われたのだから、当たり前だ。

女騎士「…お、男もカッコよくなった、とても!」

男「ありがとう」

瞬間、胸が高鳴る。
男の笑顔はとても爽やかで、いかにも好青年というか、純粋で。

男「嬉しいよ。女。会えて、本当に…」

次にはもう、抱き締められていた。
女騎士もすかさず抱き締め返した。
幼い頃の感覚が、甦るようだった。

男「ところで女は今何を?」

女騎士「!」

女騎士「…」

女騎士「実は―――」

男「き、騎士を…!?それも、魔族の残党を討伐するための…?」

女騎士は小さく頷く。
内心、ひかれたかもしれないと思った。容姿は綺麗だが、口調や性格は男勝りな彼女だ。
しかも、口調を男口調にしてしまっていることも今気がついた。

しかし彼の反応は違った。

男「すごいじゃないか!国に期待された騎士だなんて…しかも、勇者の生まれた国で…」

男「なるほど、口調もそういうことか。昔とは違うから驚いたけど…納得したよ!」

男「…君は、僕なんかより立派になっているじゃないか」

やはり、話して良かったようだ。
けれど気恥ずかしさもあった。

男「じゃあ、これからは女騎士って呼ぼう」

少し笑って言う。

女騎士「あ、でも周りには秘密にしてほしいんだ…一応、隠密活動に近いから…」

男「!そうなのか、すまない、配慮が足りなくて」

女騎士「いや、逆に男なら話して大丈夫だと思っているから」

男「ふふ。それは嬉しいね」

男「そうだ、食事にでも行こう。実は馬車を待たせているんだ」

女騎士「え、いや…しかし」

男「あまり待たせ過ぎてはよくない。馬が機嫌を損ねてしまうからね」

女騎士「あ、男!」

男「二分で着替えて。入口で待っている」

女騎士「男!待って…」

再び、部屋は彼女一人になる。

女騎士「あ…」

…少し積極的すぎではないだろうか。
いや、彼は昔からそうだったか。

女騎士「…やれやれ」

口元を緩めながら言う。

『…』

スッ…カチャ…

チャッ…

『…』

金髪母「…」

女騎士「…仕方ない。準備を…」

『宝に手をつける泥棒はいなくなった』

女騎士「!」

『全く、不躾な犬だ!』

『犬は従順に、縄に繋がれているべきなのだ』

『だがこれで、お前を私の元へ連れて行ける…』

女騎士「『音楽の天使』!どこに…」

『音楽の天使…光栄だ。』

『そしてお前もまた栄華に酔うのだ』

『お前もまた、音楽の天使だ』

女騎士「ああ、『音楽の天使』。どうか私の前へ…」

女騎士「一目見たいのです…」

女騎士「どうか…」

『鏡を見よ』

女騎士「鏡を…」

『見つめよ。鏡を。鏡の中のお前を』

『そこに――――――』

『私はいる!』

女騎士「『音楽の天使』…私を連れていって…」

女騎士「『音楽の天使』…私を導いて…」

女騎士「あなたの元へ…」

『おいで…私の天使…』

『おいで…今すぐ…』

『おいで…私の元へ…』

男「…鍵が…」

男「…!?誰の声だ!」

男「女!女!!」

女騎士「『音楽の天使』…」

『おいで…私の』

『音楽の天使…』

すいません、このあと予定があるので今日はここまでです(;>_<;)
元気があれば夜にまた投下します!

では!

あ、一つだけ捕捉します。
女騎士、という名前ですがあくまで
「騎士」という役職に「女」の名前がついている、と解釈しています。

>男「じゃあ、これからは女騎士って呼ぼう」

少し笑って言う。

女騎士「あ、でも周りには秘密にしてほしいんだ…一応、隠密活動に近いから…」

男「!そうなのか、すまない、配慮が足りなくて」


秘密にしてほしい、というのは「女騎士」と言われると自分が騎士とばれてしまう、ということなんですね。
(男自身は、冗談混じりで言ったのですが。)

これ以上事細かに説明するとややこしくなってしまうので簡潔にいいますと、
「女」と「女騎士」は使い分けていると解釈してください。

それでは失礼します。

例)ナージャ→ナージャ騎士
みたいな感じか
もっとやれください

>>87
もっとやれだなんて…
投下せざるを得ないじゃないですかやだー

23:00ちょっと前?くらいには投下します

遅れてしまいました汗
調整しつつなのでマターリ投下します。

手が重なる―――

…夢を見ているのだろうか、そう錯覚してしまうほど、眩しい。
狭い通路を、紳士的に、導くように歩いていく。

いや、私が彼を追っているのか―――
分からないけど、安心している。
何も不安がない。

顔の半分を覆う仮面の隙間から、私を何度も見つめる。
その眼が覗く度、心が洗われていく。

いつの間にか、あの水道に着いた。
舟がある…私はこれに乗ってどこへ連れていかれてしまうのか。
でも、逃げようとは思わない。
どこまでも行こう。導かれるままに。

『さあ…今こそ溶け合うのだ…』

『二人は唄い、重なる…』

『そして生まれる―――』

『新たなる夜の調べを…!』

彼女が答えるかのように、叫ぶ。
透き通ったソプラノが、周りに響き渡る。
二人を迎える門が開く。

『歌え…!』

『私のために…』

『美しき…』

『私の音楽の天使よ…!』

『今こそ…!』

『歌え…!歌え…!歌うのだ!』

鉄格子のような水門を越えると、そこは別世界。
とても水道とは思えない。
こういうのを隠れ家とでも言ったら良いのだろうか。

蝋燭…壁一面のスコア…オルガン…幕…?

『お前はようやくここに来た。』

女騎士は何も言えない。
目の前に広がる世界に魅了されてしまっているのだ。

『驚いているのか?いや、何も言うまい』

『こここそ、音楽の王国にして、私の玉座』

目の前で語りかける、天使の声。

『何故ここに連れてきたか、分かるか?女…』

手をとられる。
黒い革の手袋の感触。男性の力強い手。

『ここは私の闇を広げるのだ…』

『闇は想像力と感性を引き立たせる。』

『故に、ここに玉座を築いた。』

不可解な言葉―――だが、何を語っているのかは分かる気がした。

『目を…閉じて…』

言われるがまま。

『魂を…感じて…』

『そして…飛び立つように…』

優しい声が音だけの世界に響く。
浮くような…感覚。

『もう…お前は私の者だ』

女「あなたは…天使なの?」

『そうだ…』

女「夢にまで見た…あなたが…」

『今は夢ではない…現に私はいる』

女「ぁ―――」

抱き締められているのか―――

『私を感じるのだ…』

触れる。ただ、感じる。
今の女騎士は、女騎士ではない。ただの「女」だ。

『青い瞳…美しい…金の髪…白く細い腕…柔らかい唇…』

『お前の美しさはヴェヌスをも凌駕する…』

『そして私はそれに惹かれし天使…』

触れる、肌に。肩に。腕に。
感じる、鼓動を。吐息を。魂を。

女「音楽の天使…あなたは一体、誰なの…?」

女「その仮面の下には何が眠るの…?」

女「一体、何が見えているの…?」

仮面に、触れ―――――

『――――ハッ!』

『何をする!』

女「!」

『おのれ!詮索好きのパンドラめ!』

『お前も、これを見るか!』

『仮面の下は地獄で焼かれた悪魔!』

『お前は見たとき、後悔する!』

『災いが、降りかかる…!!』

『地獄へ…落ちろ…!』

『はあっ…はっ…』

女騎士「っ…」

女騎士はその瞬間、何かが途切れる。
まだ夢と現実の境目―――
渡した仮面には、微かに生暖かさが残っていた。

彼は無言で仮面をつけ直す。
そして口を開いた。

『…お前にあるか、これを見る勇気が』

『これを見た時、お前の音楽は終焉を迎える。』

『…覚えておけ』

女騎士「…」

疲れか、はたまた意識の途切れか。
女騎士は眠りにつく。
その顔は、とても美しかった。

『天使』は見つめた後、優しく彼女を抱き抱え、隠れ家の奥へと消えていく。

――――――――――――――――――――――――――――――――――
『今日で――――も、20歳なのだな』

「うん」

『おめでとう』

「ありがとう!あなたに祝福されるのが一番嬉しいわ。」

『…君に渡したいものがある』スッ

「…ペンダント?」

『旨く作れたか、分からないが…』

「あなたが作ったの…!?すごいわ!」

『…君に救われた私の礼だ。私は…感謝している』

「私は何も…ただ、あなたと友達になりたかっただけ」

「ずっと…いていいのよ」

『…』

「そうだ、私も渡したいものがあったの」ゴソ

『…仮面?』

「流石に手作りは無理だったけど…でも、これで…そんな布被らなくても
暮らせる。」

「見せられなくても…それなら息苦しくないでしょう?」

『…』

バサッ…

「―――――!」

『…恐れているか?私を』

『私は悪魔の落とし子…』

『この顔に誰もが戦き、畏怖する』

「…いいえ、違うわ」

「あなたは悪魔の落とし子じゃない」

『何故そう思う?』

「だって、私は恐れていないもの」

『…』

スッ…

「似合うわ、とても」

『私は…私はこの仮面を大切にする。永遠に…』

「ふふ。嬉しい。じゃあ私もあなたの手作りのペンダント、大切にする」

「あら、お友達といるの?」

「お姉様」

『…』サッ

「大丈夫よ。仮面をつけていれば、分からない」ヒソ

『…』

「あら、その仮面…妹が?」

『…ああ』

「似合っているわ。…そのペンダントは彼が?」

「うん。手作りなんだって!すごいわ。彼は天才よ」

「良かったわね。…ねえ、あなたはずっとここにいるの?」

『…私はそうしたい』

「…そう。…少し、大事な話があるの」

――――――――――――――――――――――――――――――――――

~ガルニ座・楽屋~

金髪少女「女さん…?」

部屋を見渡すが、女騎士の姿は見えない。
今この場にいないのだから当然だ。

金髪少女「いない…」

蝋燭の火は燃え付きそうになっていた。
後で変えなければ、と思いつつ奥の方へ足を進める。

金髪少女「…これは」

いつもはただの姿見である鏡が引き戸になっているのを見つける。
鏡の向こうにはまるで古い城のような通路が続いていた。
とある国では要塞は石造りだと聞いているが、まさにその様な造りだった。

通路の奥は目を凝らしても見えず、無限に続いているのではないか、とすら思えた。

引き込まれるように歩いていくと―――――

肩を掴まれた。

金髪少女「!」

金髪母「…」

金髪少女「お母さん…?」

金髪母は無言で金髪少女を連れ戻す。
金髪母は金髪少女を特に怒りはしなかったが、何も言わなかった。

金髪少女の振り返り際に見た母の顔は、悲しそうに見えた。

結局何も聞けないまま、寄宿舎のベッドで眠りについた。

~ガルニ座・隠れ家~

女騎士「…ん」

視界がまだ少し曇り、二十秒ほどしてようやくハッキリと目が覚める。

女騎士「…夢、じゃない」

女騎士「靄がかかっていた…心を優しく包まれるような感覚を感じて…」

女騎士「ここは…どこなのだろう」

道に沿って歩いていくと、赤い幕が見える。興味本意かどうかは分からないが、その幕を捲る。

そこには―――――

女騎士「私…?」

鏡ではない。鏡にしては立体的すぎる…。
でも確かにそこには見慣れた顔に、金色の髪。

思わず、身を退いてしまい、気絶しそうになる。

女騎士「あ…」

『よく出来ているだろう』

倒れかれた女騎士を助けたのは彼だった。
彼女を導いた、『音楽の天使』。
この時、これは夢ではないと確信した。

女騎士の手をとり、彼が歩き始める。
来た時よりも、空間が大きく見える。

女騎士(これが…『天使』の隠れ家…)

『ああ…私の天使…』

包むように、後ろから抱き締められる。
優しく、強く。
吐息一つ一つに、鼓動と呼吸が乱れる。

天にも昇る気持ちはまさにこのことだろう。

『しかし…戻らなければならない』

女騎士「え…?」

『愚か者どもが探しはじめてしまう』

女騎士は上目遣いで見つめる。
まだ離れたくないと言葉に出したいのに、出せない。
そんな自分を悔やんだ。

『…だが安心しろ。私はまたお前を連れ戻す』

『行こう。道化師の小僧達が目を開く前に』

今回はここまでです。
>>104は無視していただけるとありがたいです( ノД`)…

スマホから打ってるんですが、まさか空白は一マスしか出来ないなんて…

勉強不足でした、申し訳ありません。

レス削除送信しました。
読みづらくしてしまい、申し訳ありません。

それでは皆さま、お休みなさい(-_-)

おもろい。
なんか書き物してたのかな。

てかある映画の影響うけてるって書いてあるけどもしかしてオペラ座の怪人?

くっ殺せかと思ったら

まあこのタイトルは違うわなww

エロは期待出来ない模様

もうちょいで投下するんで待っててくださいねー

よっしゃ、やりましょ

-翌日-
~ガルニ座・エントランス~

支配人の元に、髑髏を模した蝋で封をされた手紙が届く。『怪人』からだ。

『支配人殿
先日の「百合姫」は、素晴らしい出来だった。君たちの賢明な判断は称賛に値しよう。ただし、五番のボックス席、月給2万ヘイムの未納に関しては非常に残念極まりない。次からは気を付けてくれたまえ。これはガルニ座をより名高いものにするための命令だ。覚えておくといい』

支配人「こ、この…バカにしおって…!」

顔を紅潮させて紙を引き裂く。
文章の後半、「月給2万ヘイム」。後援による資金があるとはいえ、かなり大きい額である。『怪人』が現れてから今まで支払ってきたか、いかんせん腹立たしい。

『五番のボックス席』に関しては、つい最近になってから命令が下された。舞台に一番近いボックス席は、後援者や支配人が座ることができる特別な席。
『怪人』はさも当たり前かのように座ろうとしているのだ。

まるで、「自分がこのガルニ座を作り替えているのだ」というかのようにーーーー。

男「支配人!」

男が大理石の床の上を走ってくる。
紙を口に含んだ支配人を見て、足を止めた。

支配人「ほぉ!ほほほふん!」

男「…何をしているんですか。それより、この手紙は…あなたが?」

男が手に持っていたのはやはり『怪人』からの手紙ーーーー。

支配人「ぶはっ…何をバカなことを。何と書いてあるんだ?」

男は手紙を広げ、支配人に見せる。
内容は、支配人宛のものとは違っていた。

『男殿
時期支配人の就任、私から祝わせていただこう。真の支配人である私からの祝いの言葉を、光栄に思うといい。君には次期支配人としての仕事を覚えていただきたい。ガルニ座の名誉のために、精進したまえ。
さて、君もご存知の通り、「百合姫」で女は大変な活躍をなされた。君は彼女を気に入っているようだが、妙な気持ちは起こさぬよう。彼女はすでに、私の虜なのだから』

支配人「何ということだ…ついに君も目をつけられたか…!」

男「一体、『怪人』は何者なのです?何故、ガルニ座にこんなことを?」

支配人「…今から五年前のことだ。ガルニ座は長い時を経て、ようやく軌道に乗ってきた時期だった」

支配人「プリマドンナが、大役に抜擢されてきてから、突如『怪人』によるそれは起きた…最初は衣装の採寸数値を二倍にするというものだった」

男「…ドレスが長くなりすぎて、演技に影響が出てしまいますね」

支配人「何かの間違いかと思ったが、手紙が届いてからはそれが確信に変わった。命令を無視したこともあるが、その度に客の見えないところで執拗な嫌がらせを…」

支配人「先日の背景装置もそうだ。プリマドンナの配役に不満があったのだろう…」

男「私怨、といったところでしょうか」

支配人「うーん、確かに彼女は何かしら恨みを買ってそうだが」

プリマドンナ「誰が恨みを買いやすいですって?」
 
支配人「プ、プリマドンナ!?」

プリマドンナ「これはあなたが?支配人?それとも男さん?」

支配人の顔に紙を叩きつける。
やはりそれも、『怪人』からの手紙だった。

『マダムプリマドンナ
先日の不幸、心中お察しする。が、あの程度のことで降りてしまうのは感心しない。アマチュアとプロの違いは私も心得ているが、君はどうやらアマチュアのようだ。アマチュアどころか素人の女に劣るとは、役者として恥ではないかと…。
君のこれからの活躍を願っている。ただし、女より目立たないところで、だが。』

支配人「女君を差し向けたのはどこの誰だ…!」

プリマドンナ「そんなことを言うのなら、あなたも女さんにずいぶんと感心していたようだけど?」

怪人「いえ、決してそんなことは…!」

男「言い争いをしている場合じゃない。問題は、これ以上被害を増やさないことだ」

プリマドンナ「つまり、私に主役を降りろ、と?」

男「いえ、そんなことは一言も申してません。『怪人』の愚行を止める、つまり奴自信をどうにかしなければならないということです!」

男の強い口調に、二人は身をひく。
言い争いも「怪人」による策略だと気付くのは遅くなかった。
三人の間に静寂が流れる。

金髪母「まだ手紙は終わりではないわ」

男「金髪少女さんのお母様」

金髪母「金髪母、でいいわ。それよりも、この手紙。女さんの無事を知らせる手紙よ」

金髪少女「…」

男「!見せてくれ!」

支配人「わ、私にも!」

プリマドンナ「もしかして、無事じゃない!?」

金髪少女は一瞬、プリマドンナを睨み付けるが、母によって制止される。
「こういう人だと割りきれ」ということなのだろう。

『ガルニ座の諸君
君らの元に、手紙が届いただろう。これが最後の手紙だ。よく目を通しておくように。始めに、彼女は無事に戻しておいた。また、舞台に上がってもらえるようにね。
さて、本日公演を予定されている「フェル・スタッファ」だが、プリマドンナは伯爵夫人から、下ろしーーーー酒屋の手伝いに。そして、我らがスターである女を、伯爵夫人に。
酒屋の手伝いは無言の配役。プリマドンナの声を聞きあきた客たちにとっては、理想的な配役だ。君たちが賢明であることを再度確認出来るよう、期待している』

「フェル・スタッファ」…オペラでは珍しいオペラ・ブッファの喜劇だ。
手紙に目を通し終わった後、三人はそれぞれの感情を抱いた。

男「女はどこに」

金髪母「彼女は宿に帰しました」

男「会いたい」

金髪少女「休ませてあげて。…お願い」

男「…分かりました」

支配人(何てことだ…こんなことを書けば…)

プリマドンナ「…」

支配人(ご立腹だ!)

プリマドンナ「もう限界だわ」

支配人「え」

プリマドンナ「さようなら」

手紙を叩きつけて、その場から去る。
男と金髪母、金髪少女はその様子を見ていた。何を思ったかは、知るよしもない…。

支配人「どうかお待ちを!プリマドンナ!」

プリマドンナ「私より!」

支配人「ぐえっ!」

プリマドンナ「女さんが…向いているんでしょう?」

支配人「そんなことありません!彼女なんかより、あなたの方がよほど」

プリマドンナ「安っぽい言葉は聞きあきたわ!私はどうせアマチュアよ!」

プリマドンナ「精々後悔するといいわ!私が消えたガルニ座が陥落していくことをね!」

支配人「待ってください!私はあなたには消えてほしくない!」

プリマドンナ「何故!?」

支配人「私はあなたが初めて大役に抜擢され、その歌声を披露した時、魅了されました。これは世辞でも何でもない、私以外も思っています」

プリマドンナ「…」

支配人「多くのファンが待っているのです。ですから、機嫌をお直しください」

プリマドンナ「…」

裏口の扉を開けるとーーーーそこには花を持った貴族たちが押し掛けるように群がっていた。

支配人「…ね?」

プリマドンナは支配人の方を見て、微笑む。久しぶりに見せた、心からの笑顔だった。

「これを女さんに!」
「あ!おい!ズルいぞ!私が先だ!」
「何を…あ!ちょ、女さんに!女さ…」

支配人「…」

プリマドンナ「…」

支配人「…あはは」

~宿・部屋(V.I.P. ルーム)~

女騎士「…」

あれからどれくらい経っただろうか。
宿に帰ってきてから、女騎士は食事にも手をつけず、ひたすら天井を見ていた。

女騎士「…」

女騎士(あの時の、感触…)

手を少しだけ伸ばし、開く。こうしていれば、また彼は現れてくれるのではないかと、微かな希望を抱いていた。
しかし、何もない。ただ、空気を手を撫でるだけだった。

女騎士「あそこに、行けば…」

女騎士は着替えて、飛び出すように部屋を去った。

~ガルニ座~

女騎士「あの…席はまだありますか?」

受付「立ち見になってしまいますが、よろしいですか?」

女騎士「構いません」

受付「お一人様ですね?番号順にお呼びいたします。あちらに並んでお待ちください」

女騎士「…よし」

受付「はい?」

女騎士「あ!いや!何でもないです!」

女騎士は列に並ぶ。
列は貴族達が埋め尽くしている。
恐らく、中には女騎士のファンもいるであろう。

その女騎士が列後方にいることは、劇場に入るまで誰も気が付かなかった。

-第三幕-

女騎士(あっという間…だったな)

女騎士(しかしあのプリマドンナ殿、伯爵婦人の役が結構合っているな。まあ…喜劇だし、役柄が喜劇向きなのかもしれないな)

舞台上では演技が披露されている。
バリトンとプリマドンナが歌い終わるーーーー次の場はバレエだ。
ダンサー達が舞台上に上がる、その瞬間だった。

『要求を忘れたのか』

劇場の観客達がざわめく。
声の正体に気が付いたのは、男に、支配人、プリマドンナ、そして女騎士。

『五番のボックス席を開けておけ…と言ったはずだ』

プリマドンナ「お黙りなさい、不眠症の鶏さん?」
 
支配人「…!」

プリマドンナの一言で、観客から笑いが起きる。観客にとっては、良い余興となったようである。

たった、数人を除いて。

女騎士(…挑発しない方が良いんじゃないか)
 
支配人「ま、まあこれで黙らせることが出来るなら…しかし…あー…不安だ」

『…この私に鶏、だと…?』

男「…」

マエストロが再び指揮棒を振る。
ダンサー達は曲に合わせ、優雅に舞う。

~舞台天井~

作業員「少し、様子を見てくる」

「…気を付けろよ?」

作業員「何、すぐ仮面をひっぺがしてやるさ。奴のいたずらも、今日で終わりさ」

そう言って作業員は、やや不安定な足場に足を踏み入れる。

舞台天井には足場があり、複雑なロープや滑車の装置が並んでいる。
中には、シャンデリアを吊るしておく装置と繋がっているものもある。

薄暗い中を、目を凝らして『怪人』を探す。
たくわえた髯をボリボリと掻く。
それがーーーー良くなかった。

作業員「うっ!?」

『…』

作業員「お、あ…」

左胸から、血が数滴。

作業員「お、…ぁえは、か…はぅ!?」

『怪人』は紐を首にかけ締める。
仮面の下から目が睨む。

旋律が加速していく。
ダンサーの舞いも激しいものになり、クレシェンドーーーー。

「きゃぁぁぁぁ!?」

作業員「…」 

息絶えた作業員が天井から現れ、劇場全体が戦慄する。

支配人「なっ…ああぁ!?」

プリマドンナ「キュー…」

男「やられた…!」

『ハァーッハッハッ!ハァーッハッハッハッ!ハハハハハ!ハァーッハッ!』

怪人の高笑いが響く。
女騎士は、走り出していた。

支配人「皆様!落ち着いて!これはただの事故です!そのまま席に着いて…落ち着いて!落ち着いて!」

阿鼻叫喚、今の状況にふさわしいといえる言葉だ。

男「やっ!」

しかし、男は冷静だった。
剣で作業員を吊るす紐を切り、下に布を待機。そして下手(しもて)に捌ける。
わずか十秒。

男「皆様、どうか落ち着いてください!今、下手に外に出ると命を狙われる可能性があります!ですがそれは、この場に犯人はいないということです!警備の者が誘導するまでしばしお待ちを!」

支配人「お、男君…」

男「支配人、話は後です。私は彼を追います。まずはお客様の安全を優先してください。役者は裏で待機。出来るだけ高いところへ避難させ、かつ混乱の起きないよう。」

男は一目散に走り出す。

男(外には警備兵…天井裏から逃げることも難しいはず…ということは…)

女騎士「男!」

男「女!?何故ここに!いや、それよりも逃げるんだ!奴は君を狙っている!」

女騎士「奴の目を見たんだ」

男「…!」

女騎士「あの目は千の悪魔すら殺す力を持っている!」

男「一体何故君を狙うんだ!彼は本当に人外だとでも!?」

女騎士「分からない!」

男「…あれが、君の憧れた『視えぬ天使』だ。幼い頃僕に話した、『視えぬ天使』…!」

男「いるわけがないんだ。怪人も、天使も…!」

女騎士「っ…!」

男「結局は、君を拐かすため…近づくためにすぎなかった」

走り続けて、たどり着いた場所は、屋上。
石像が鎮座し、星々が見下ろす。

雪が、降り始めていた…。

女騎士「はっ…はっ…」

男「…」

『…』

女騎士「…夢を見ていた」

女騎士「靄がかかる暗闇で」

男「…」

女騎士「その中で彼は輝いていた。…闇の中に佇む光だった」

『…』

男「…人を殺める者が、光だとでも?」

女騎士「未だに彼を追い続けている私がいるんだ」

女騎士「闇に捕らわれようと、なお惹かれている私が…」

女騎士「水を掴むように、風を手におさめるように」

男「…」

女騎士「私は、私は…」

女騎士「この先どうすればいいんだ」 

女騎士「これから進む先に見据えるは地獄か、それとも…」

『…』

男「…女」

女騎士「おとこ…っ!?」
 
男に、後ろから抱き締められる。
あの時抱き締めた時よりも、強く感じられた。

男「すまない、そんな想いを…させてしまって」

男「彼を野放しにしてしまった…僕の責任だ」

女騎士「そんな、男のせいじゃない…!」

男の方を向く。鼻が少しだけ赤くなっていた。

男「だけど、女のせいでもない」

男「…これから先に見据えるは地獄…か」

男「そんなことはさせない」

男「…僕が、君と歩くから。前でもなく、後ろでもなく、横で」

『…』

女騎士はすぐにその意味を理解した。
男の精一杯の、プロポーズ。

女騎士に、迷いはなかった。

女騎士「…私」

男は再び、強く抱き締める。
「言葉はいらない」
そう、耳元で囁いた。

女騎士も、抱き締める。

そして、口づけをした。

女騎士「…ん」

男「…ん」

何回も、何回も。お互いの存在を確かめるように。
それは、幼い頃とはまた違った感覚。

男「はっ…」

女騎士「んぅ…っ」

『…』

男「…ふふっ」

女騎士「…ふふっ」

男「…これからを分かち合おう」

女騎士「巡り来る朝を」

男「巡り来る夜を」

男・女騎士「最愛の日々をーーーー」

幼い頃の感覚。
無邪気に歌い合い、心を通わせる。

男「…行こう。みんなが待っている」

女騎士「…うん」

男「愛しているよ。女…」

女騎士「私も…愛してる」

再び口づけ、雪の積もったその場から去る。

残ったのは、『彼』一人。

『…』

『私は、お前に与えた』

『…だが、お前はどうだ?』

『私を求めたか?』

『どころか私を…捨て行くだと?』

結ばれた二人の声が聞こえる。
幻聴か、はたまた現実か。

耳を塞ぐ。

『…』

口を震わせ

『…』

目は睨み付け

『…!』

愛は、憎しみへーーーー

『後悔するがいい!私を受け入れず、拒んだ今日という日を!』

『お前は…怨むこととなるであろう!』

天に、悪魔の咆哮が上がった。

-しばらくして-

男「それじゃあ、気を付けて」

女騎士「大丈夫さ。魔族とはいっても残党。負けはしない」

男「頼もしいね。…これは、浮気出来ないね」

女騎士「そうならないように、私もより魅力的になってみせるさ」

男「ん…」

女騎士「ん…」

男「…行っておいで。愛してるよ」

女騎士「私も愛してる。男」

~ガルニ国城・玉座の間~

ガルニ王「よくおいでなさった。そなたの力添え、まことに感謝する」

女騎士「恐縮です」

ガルニ王「それにしても…ふむ」

女騎士「?」

側近「国王、変な気持ちは起こさぬよう」

ガルニ王「わ、分かっておる」

見とれているのは、国王だけではなく、兵士や側近も同じだった。
恋をすると女は魅力を増すというが、彼女はその言葉を形容していた。

ガルニ王「さて、諸君。君らに頼みたいのは他でもない、ガルニの周囲に潜む魔族の残党の殲滅!」 

ガルニ王「諸君らには尽力し、国を護るために、その剣を、魔法を、力を存分に発揮していただきたい!」

ガルニ王「立ち上がるのだ!ガルニの戦士達よ!」

「オォォォォォー!」

側近「では、途中まで先導をいたします。まずは女騎士殿を先頭として、次にーーーー」

~ガルニ国外・「深淵の森」~

女騎士「…」

鎧の音を立て、行進する。
長いこと歩いたが、その列は乱れない。

わずかな魔力を追って、拠点の方へ進み続ける。

女騎士「全体、止まれ!」

女騎士の号令で、列が止まる。
兵の何人かが、女騎士の方を覗くように見、何人かは戦闘態勢へ。

女騎士「…魔導士」

魔導士「はっ」

女騎士「少し…魔力の探知を強めにしてはくれまいか」

魔導士「…?」

女騎士「頼む」

魔導士「…承知いたしました」

魔導士は呪文を唱えると、気を放つ。
体から流れた気は様々な方向へと向かう。

気を放つのを止めると、魔導士は口を開いた。

魔導士「…これはおかしいですね」

女騎士「やはり…か」

その場の全員が疑問を頭に浮かべる。

女騎士「拠点はこっちで合っているはずだが」

魔導士「しかし、移動していたとしても探知を強めに放てば結局は分かってしまいますからね…これで探知出来る魔力が全方位変化なしということは…」

「何かいるぞ!」

女騎士「!」

兵の一言。
全員が戦闘態勢に入る。

草むらから、気配ーーーー
飛び出てきたのは魔物だった。

女騎士「『緑獣の一族』!」

深緑の体に、縦と槍を持った獣のような魔物が、兵を睨み付ける。

単体とはいえ、油断は出来ない。
女騎士は隙をうかがっていた。

だが…

魔物「…」

得物を捨て、地に伏した。

女騎士「!」

魔導士「ど、どうしますか?」

女騎士「いや待て…様子がおかしい」

その様子、とは、体の震えだった。
まるで何かを恐れるかのように、動かなくなってしまっていた。

女騎士「…」

「!危険です!」

女騎士は手で言葉を抑止する。
一歩一歩、魔物の方へと近づく。

女騎士「…何が、あった?」

魔物に優しく語りかける。
魔物は一瞬、女騎士の方を見るが、また伏せてしまう。

女騎士「…ああ」

察するかのように、剣を鞘に収める。
戦闘の意思はない、という表れだ。

兵全員にも、戦闘意思を解くように手で合図する。

しかし何人かは解いていなかった。が、甘くはない。

女騎士「…戦闘兵十二番、二四番、三十番。魔導補助兵五番。戦闘意思を解け。…分からなかったか?」

ぞくり。
番号を言われた兵はすぐさま戦闘意思を解く。

完全に意思を断ったことを確認すると、魔物に言葉をかける。

女騎士「安心しろ…私はお前を殺さない。もちろん、捕らえもしない。…ただ、教えてほしい。何が、あったのか」

魔物「…」

震える足をゆっくり立たせ、女騎士の方を見ると歩き出す。

女騎士「…行くぞ」

薄暗い森の中を、再び歩き始める。

…十分は歩いただろうか。
魔物が歩みを止める。

そこには岩の広場に、洞窟。

地図の通りだった。
ズレこそあるものの…拠点の場所としてはほとんど合っている。

魔物が口笛をすると、約十体、『緑獣の一族』が現れる。

兵は反射的に戦闘体勢に入るが、女騎士は制止する。

女騎士「…全員、子供じゃないか」

その言葉の意味ーーーー。
集団で拠点を築く種族は、基本的に成体がいなければ成り立たない。幼体は成体から狩り等を教えられ、やがて幼体は成体へ成長し…と、世代が続いていく。

つまりこの場にこれだけの幼体がいて成体がいないというのは、おかしいのだ。

女騎士「これは…」

洞窟の壁面にこびりついた血痕…
成体が殺害された…ということを意味していた。

女騎士「…」

女騎士は頭を抱える。
想定外のことは予想してはいたものの、あまりにも想定外すぎた。

幼体の『緑獣の一族』を見て、思った。

これが、本当に正しいことなのか。
魔族は人間にとって脅威なのは確かだが、それは目を凝らして見ると人間と同じように生活を持ち、集団を成しているのもまた確かな事実…
分かっている、これは任務、あくまで任務だ…だが…

余計に、抱え込んでしまった。
そして、自分の無知を嘆く…

魔導士「…いかがいたしますか。彼らは子供…殺すのは後味が悪いというか…」

女騎士「…お前も、同じ考えか」

女騎士「…せめて、彼らを安全な場所に」

ハッと、気が付く。

女騎士「…一つだけ」

魔導士「!」

女騎士「一つだけ、方法はある」

女騎士「魔導士。『神の聖』は…何巻まである?」

『神の聖』。魔導書の一つだ。魔導書の中でも上位種であり、認められた者しか使うことを許されない、まさに神の魔導書である。

魔導士「一応、魔導書は持てるものは全てありますが」

空間魔法で『神の聖』を取り出す。
第一の巻から終の巻まで。

女騎士「…」

一つ一つ、速読の要領で捲る。
第二の巻で、その動きを止める。

女騎士「…あった」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

女騎士「…」

精神統一。
陣を周りに描き、魔導士を主として準備を始める。

魔物達は、固唾を飲んで見守る。

女騎士「ふー…」

女騎士「…よし!やるぞ!」

女騎士は魔導書を開くと呪文を唱え、気を放ち始める。

そして魔導士、魔導補助兵、微量でも魔力を持つ者が、呪文を唱える。

陣の端々から光が収束し、女騎士が掲げた剣に降り注ぐ。

女騎士「ぐっ!?」

女騎士(何て魔力…!)

女騎士(体が…吸いとられるようだ!)

五分経過。
呪文は途切れず唱えられ、光の塊も巨大化していく。

女騎士「ハアッ…ハアッ…!」

だが、女騎士の体力も、限界が近づいていた。

ついに、片膝をついてしまう。

魔導士「!女騎…」

女騎士「詠唱を止めるな!」

女騎士「私は…大丈夫だから」

魔導士「…!」

女騎士を見て、詠唱が続行される。

そしてーーーー

女騎士「はっ…はっ…」

女騎士「…やった」

巨大な光の塊は、小さなピクシーのような光の玉になっていた。

魔導士「私も…初めて見ました。」

女騎士「あぁ…『神の聖』第二の巻、『ニケの聖導』。」

女騎士「加護を受けたものは、その身を絶対的に護ってくれる地へと導く…」

女騎士「莫大な魔力からこれだけの小ささは…些か納得がいかないがな。」

光の加護が魔物に降り注ぐ。そして、光の玉は筋を浮かべて飛び立つ。

魔物はその光の方へと、導かれていった。

魔導士「たった今…魔力探知しましたが、特に大きな魔力は無し。」

魔導士「拠点として築ける場所はここだけなので…」

女騎士「…終わったぁぁぁ!」

歓喜と喚起。
抱き合う者、叫ぶ者、安堵する者。

色々と、気掛かりなこともあるがーーーー

これで、終わったのだ。

~ガルニ国城・玉座の間~

ガルニ王「よくぞやってくれた!女騎士殿!」

固く握手を交わす。

女騎士「…私だけの力ではありません。皆が…力を貸してくれたからです」

側近「しかも不殺によって解決とは…いやはや、大したものです。報酬は弾まなければなりませんね。まずは騎士団長への任命、それから…」

女騎士「…それなんですが…辞退、させてください」

一同が驚く。
今回、最もな活躍を見せた女騎士が騎士団長への任命辞退ーーーー

側近「な、何故です!?」

女騎士「それは…」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
-数日前-

男「え、騎士を止める?」

女騎士「うん…男は、支配人としての役目があるから…私が騎士の仕事を続けてしまうとなると…」

女騎士「私は、二人の時間を大切にしたいから」

男「…君の決めたことだ。何も言わないさ」

女騎士「ありがとう…ん」

男「んっ…」

女騎士「…今日何回目かな」

男「さあ、…どうせ数えるのが面倒なら、もっとしてしまおう」

女騎士「きゃー♪」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

女騎士「えへへ…」

側近「あの…大丈夫ですか?」

女騎士「はっ…!と、とにかく、詳しいことは言えないが、騎士は止めるから、騎士団長の任命は辞退させていただきたい!」

側近「や、止めるってそんな簡単に…はぁ…分かりました。任命は辞退ということで…」

側近「あ、でも何かしら報酬は払わせてくださいね?こればかりは嫌だと言っても無理やり受け取らせます。じゃないと怒られるんで」

女騎士(この人以外と頑固だな…まあ、当たり前と言えば当たり前か)

女騎士「あっ、そうだ…それならーーーー」

今日はここまでです!

うわぁ…見返してみるとやっぱり誤字がある( ノД`)…

誤字の方、もうしないよう頑張ります。
ここからがクライマックスなので…(´・ω・`)

>>117
書き物は趣味で書いてたりはしますね。
酷い文章ですけど…
そうです!オペラ座の怪人です!

>>118
エロ文書くの苦手で…
最初こっそりと「くっ殺せ」の台詞は入れようかなと思ってたんですけど、完全シリアスにしたかったんでやめましたwww

次の投下で最後かな。

結構長くなってしまいましたね…
まあ、暇な時にでも読んでくださ…あれなんかデジャヴ

直せそうなところは改善しますので、ご意見の方お願いします!

ではみなさんさよーならー(^_^)/~~

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom