上条(5歳)「…………学園都市?」 (107)


俺は、きっと不幸の塊のような人間なんだ

生まれてまだたったの5年しか経っていないけれど、それでも、それだけは分かっていた

常に他人から避けられ、嫌われている俺は、一体何のために生まれてきたんだろう?

人から避けられるために生まれてきたのか?それとも、他人の不幸の捌け口にされるため?

……たぶん、どっちもだ

父さんや母さんは、人は幸せになるために生まれてくるんだと教えてくれたけれど

俺には、俺が幸せに過ごせている未来を全然想像できない

一ミリだって、想像できないんだ

……あんまりにも情けなくて、涙がこぼれそうになってしまった

それでも、きっといつかは幸せになれるはずだって、そう信じることにしてる

だって、そうでもしなければ、俺は…………


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いつだって、どこだって、俺は人から避けられていた

道を歩けば人混みは真っ二つ。時には石やゴミを投げつけられたりもする

投げられたものが当たると、当然痛い。ものすごく、痛い

最初の内は泣いていた。でも、悲しいことに、もう慣れてしまったんだ

物を投げつけられる痛みに。そして、心の痛みに

そんな俺の姿に、同情の眼差しを向ける大人もいるにはいる

だけど、それだけだ。助けてはくれない。ただ、遠くから、俺を見下ろしているだけだ



ふざけるなよ



俺は、そんな目で見られるために生まれてきたわけじゃない

俺は、俺は……いつか、幸せになるために―――



その時、人混みから飛び出してきた石が頭にぶち当たって、目の前が真っ赤に染まった


―――――――

―――


詩菜「……大丈夫なの?痛くないの?」

上条「…………うん、大丈夫」


あれから、よろよろと家に帰ったら、母さんはとても悲しそうな顔で手当てをしてくれた

5歳でここまで傷の多い子供は珍しいだろうと自分でも思う


詩菜「…………ごめんなさい」

上条「どうして、母さんが、謝るの……」

詩菜「……ごめんなさい…………」グスッ


その『ごめんなさい』は、一体どういう意味?

『産んでしまってごめんなさい』って意味?






やっぱり、俺は、生まれちゃいけない人間だったのか?

――――――――

―――――

―――


…………体が動かせない。あまりの激痛で顔が引きつる。普段は決して泣かないと決めているけれど、今回ばっかりは顔をくしゃくしゃにして泣いた

どうして俺が冷たいアスファルトの上で這いつくばっているかというと、答えは簡単

見知らぬ男から、包丁で刺されたからだ


上条(……痛い……冷たい……怖い……)ポロポロ


薄れゆく意識の中で俺が耳にしたのは、俺を刺した男の狂ったような高笑いだった




そうして、俺は、確信した




ああ、やっぱり、俺が幸せになるなんて不可能だったんだ、と



―――――――――

―――――

―――


目が覚めると、まず視界に入ったのは、真っ白な天井だった


上条「……あ」


ぼんやりとだが、思い出してきた。確か俺は刺されて、泣いて、それで―――


上条(…………みとめて、しまったんだ)

上条(俺は幸せにはなれないって、認めてしまったんだ)

上条(……もう、なんか、どうでもよくなってきたなぁ……)

上条(生きてても辛い事ばっかだ……俺は、一生このまま不幸なのかな……)

上条(だとしたら、もう、生きてる意味なんてないじゃないか。不幸ばっかの人生だって分かってて、それでも生きていけるほど、俺は強くない……)

上条「いっそ……刺されたとき、殺されていればよかったんだ……そうすれば……」


その時、病室に父さんが入ってきた。そうして、目を覚ました俺を見てパッと顔を輝かせて、そっと俺の肩を抱いた


刀夜「当麻……目が覚めたんだな……良かった……」ギュッ

上条(目が覚めたって、別にいい事なんてこれっぽっちもないよ、父さん。俺はもう、幸せにはなれないんだから。生きててもしょうがないんだから。だから、もう…………)




刀夜「当麻……ありがとう。生きていてくれて、ありがとう……」ギュウ




上条(………………!!?!?)


…………なん、でだよ……

なんで、そんな言葉が出てくるんだよ……

父さんは、俺みたいな子供がいるせいで、世間から嫌な目で見られているじゃないか!!近所からたくさん嫌がらせをされているじゃないか!!!!

本当は、心の底では、俺のことが憎いんだろう!?死んでほしくてたまらないんだろ!?



刀夜「……本当に良かった…………お前が刺されたって聞いた時は、どうしようかと……」グスッ



……どうしてそんな言葉を言えるんだよ?父さん……

父さんにとって、俺は、お荷物でしかないってのに……それなのに……




刀夜「当麻……お前は、私にとって、世界の何よりも大切な存在なんだよ」




上条「………………とう……さん」ポロポロ

上条「父さん……俺は……俺は、幸せになってみたいんだ…………」ポロポロ


刀夜「ああ、なれる」


上条「こんなに痛くて……苦しくても、なれるかなぁ……」


刀夜「なれるさ。当麻なら、なれる」


上条「俺は、生きていても、いいの……父さん……」


刀夜「良いに決まっているじゃないか。一体誰がどんな権利で、お前の人生を奪えるというんだ」


上条「うぐっ……うわああぁぁぁん……うえええぇぇん……」


刀夜「今は苦しくても、きっといつか、お前は幸せになれるよ………だから、生きよう……」


俺は、大多数の人間から死んでほしいと思われている


それでも、俺は、生きようと思った


きっと、世間的に見れば俺の意志は間違っている


死ぬべき人間だと思われている


けれど、それでも俺は生きようと思う


俺のことを心の底から大切に思ってくれている人がいるから


だから、この先の未来に幸せがあることを信じて、俺は生きる


―――――――――

―――――

―――


俺は退院し、久々に家に戻っていた

そして、父さんから相談を持ちかけられることになる


刀夜「当麻。卒園したら、学園都市に行ってみないか?」

上条「…………学園都市?」

刀夜「ああ。そこは科学の最先端の街でね。あそこなら、きっと当麻に酷いことをする人たちはいないはずだよ」


科学の、最先端……つまり、『疫病神』といったオカルトちっくなものをまったく信じない、ということらしい


上条(…………本当かな)


半信半疑だったが、それでも、少しでも可能性があるのなら……


上条「……分かった。俺、学園都市に行くよ」


学園都市に行けば、きっと何かが変わる

辛かった生活が終わる

俺は、ただひたすらに、それだけを願っていた


詩菜「……当麻さん」

上条「どうしたの?」

詩菜「……学園都市に行ったら、友達いっぱい作るのよ?」

上条「……うん、分かってる」


学園都市に行けば、俺にとって初めての『友達』ができるかもしれない

いや、絶対に作ってみせる

俺に幸せになって欲しいと思ってくれている、父さんや母さんのためにも


―――――――――――

――――――

―――


今日は学園都市にある小学校の入学式だ

クラスメイトと仲良くなれるだろうか

以前のように、避けられたり嫌われたりするだけなんじゃ……


上条(いやいや、悪い方向に考えるなよ!ここは学園都市なんだぞ!)


そんな事を考えながら通学路を歩いていると、背後からトントンと肩を叩かれた

驚きながら振り返ると、きょとんとした表情の、綺麗な黒髪の女の子が佇んでいた


「君、小学校に行きたいのかな?見たところ新入生の様だけど」

上条「あ、そ、そうです……」

「小学校は反対の道だけど」

上条「え!?あ、えと、ありがとうございます!」

「はは、そうかしこまることはないよ新入生。当然のことをしたまでだ」


黒髪の女の子はそう言って笑いながら、くるりと踵を返した


「さぁ、案内しよう。私もあの小学校の生徒だから」

上条「あ、ありがとうございます……本当にすみません……」

「…………君、年の割に子供らしさに欠けるな。私が言えることでもないけど」

上条「…………あはは」

「…………ふむ」


女の子はスッと目を細めて、俺の顔にじっと視線を注いだ

まるで、俺の対応が実に気に食わない、といった様子で


「君、名前は?」

上条「か、上条当麻です」

「私の名前は雲川芹亜。一応、君の先輩にあたるんだけど」

上条(せ、先輩……!)


先輩という言葉を聞いた瞬間、体に緊張が迸った

俺はそういった上下関係にまったく免疫がないのだから

俺の気持ちを知ってか知らずか、雲川芹亜という少女は柔らかな表情で、ぐっと俺の顔に近づいてきて、そっと言葉を紡いだ




雲川「私が、君のその世界の闇を分かってるかのような目を浄化させてやる。普通の子供にしてやる」




上条「え……?」

雲川「分かったら返事!」

上条「は、はい!先輩!」

雲川「うんうん、元気があって結構だ」ニコニコ


ニコニコと満足そうに頷く、この雲川芹亜という少女は、俺の手を取って歩き出した

何故かはわからないが、この人となら本当の友達になれそうだと、漠然とそう思った

続きます

投下します

―――――――――――

――――――

―――


「えー、入学された生徒の皆さんには、ぜひとも……」



壇上に立って校長が長話をしていたが、俺にはそんなの頭に入ってこなかった

これから始まる、学校生活への不安と期待で胸がいっぱいなのだ


上条(友達ってどうやって作るんだろう……)


情けないことに、「そこ」から始めなくてはならないからなおさらだ

友達と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、今朝出会った雲川芹亜という先輩の顔だ

だが今はまだ友達と呼べるような関係ではなく、ただ道を案内してもらっただけだが……


上条(………今は、まだ)


友達になれるかどうかは、自分の頑張り次第だ

それに、友達になりたいのは何も先輩だけじゃない。クラスメイトの皆とも仲良くなりたいんだ


上条(……ならなきゃ。絶対に……)


デカイ幸せはいらない。人として普通の生活が送れるのなら、俺にとってそれは十二分に『幸せ』なことだ


上条(……頑張ろう)


俺が決意を固めるのと同じくらいに、校長の話が終わった

―――――――――――

――――――

―――


上条「はぁ……」トボトボ


ダメだった……まったくもって駄目だった……


上条(あーちくしょう!どうして、こう、言葉が出ねえかなぁ!?)


クラスメイトに話しかけようと努力はしたのだが、いざという時に言葉が出てこない

自分でももどかしくてイライラする……


上条「あ、先輩!」

雲川「おお、今朝振り。中々いい学校だったろう?」


とぼとぼと帰り道を歩く俺の前に、先輩がにこやかな笑みを浮かべながら立っていた


上条「は、はい……いい学校でした……」

雲川「……ふふん、どうやら友達は作れなかったみたいだけど?」

上条「うぐっ……!!」

雲川「図星か」

上条「うう……はい……」


上条「どうして分かったんですか?もしかして、心を覗く能力……?」

雲川「いやいや、私はそんな能力は持ち合わせていないんだけど」

上条「じゃあ、どうやって……」

雲川「君の顔にそっくりそのまま書いてあったからさ。こんなの、私じゃなくても、誰にだって気付かれるよ」

上条「…………/////」


顔がトマトのように真っ赤になるのが分かった。自分の未熟さと恥ずかしさで今にも頭から湯気が立ちのぼりそうなほどだ


雲川「ふむ。よし、少し話が長くなりそうだから、私の部屋に来なさい」

上条「はい?先輩の部屋に?」

雲川「ああ」

上条「ここじゃ出来ない話なんですか?」

雲川「まぁ、こんな道端でするような話ではないけど」

上条「そ、そうですか……」


一体先輩の話とは何なんだろう?

俺は首をひねらせつつも、先輩に手を引かれるまま家へと向かった

―――――――――

―――――

―――


雲川「さぁ、入りなさい」

上条(お、『お邪魔します』……って言えばいいんだよな?)

上条「おじゃま……しま……」オロオロ




雲川「………………」




雲川「…もう、いいけど。着いてきてくれ」

上条「え、あ、はい……」スタスタ

雲川「少し散らかってるけど、まぁ好きな所に座って」

上条(少しってレベルじゃねえ!!なんだこの部屋!!)


正直、絶句した

あんまりにも散らかり放題な部屋は、俺の先輩への印象に大きな変化をもたらした


上条「先輩って、すごく大人っぽくて凄そうな人だと思ってましたけど、これは……」

雲川「おいおい、何だその目は。ここに来るまでと百八十度違うんだけど」


少し焦ったような表情の先輩がなんだか新鮮で、俺は思わず笑みを浮かべていた

先輩はそんな俺をじっと見つめて、ゆっくりと口を開く





雲川「初めてだな。君の笑顔を見るのは」




ハッとした俺は思わず両手で顔を隠して、そのまま俯く

すると先輩は俺の隣に寄り添い、驚くほど優しい声で、そっと囁いてきた


雲川「……どうして、隠すんだ?」


無意識に隠してしまった

俺は笑ってはいけない

俺の笑顔は他人を不愉快な気持ちにさせる

俺の笑顔を見た人間は、決まって俺を酷い目に合わせるんだ―――


雲川「君の過去に何があったか、私は知らないけど」


先輩は先程と全く同じく、優しくて安心させられるような声色で続けた




雲川「でも、私は君の笑顔、嫌いじゃないぞ」




その言葉に

その声色に

俺は、目を開いた

顔を覆う両手をどけ、ゆっくりと顔を上げると、先輩の顔が驚くほど目の前にあった

そうして、先輩はにっこりと微笑んで、俺の頭をくしゃくしゃと撫でると、




雲川「君さえよければ、私を友達にしてくれないか?」




そう言った

そう言ってくれた


上条「とも……だち?俺の……?」


信じられない、という表情の俺の額に軽くデコピンをお見舞いした先輩は、堂々と言い放つ


雲川「ああ。私は、君の友達になりたいんだけど」


…………そっか


上条(父さん…母さん…、友達が出来るって、こういう気持ちになれることなんだな―――)


無意識に、ほろりと涙が頬を伝った

心の中が、とても、とても温かい―――






上条「…………もちろん……です……俺と……友達になって…ください……」ポロポロ





先輩に先を越されてしまったけれど、なんとか自分の想いを言葉にすることができた

とても小さな、だが、確かな進歩だと思う

先輩は温かな笑顔を浮かべながら、再度俺の頭を撫でまわす


雲川「こらこら、泣くな。友達ってのは泣きながら作るものじゃないけど」

上条「すみません……でも、嬉しくて……」グスグス

雲川「はぁ……ほんと、世話が焼けるなぁ」クスッ


不幸が充満していた俺の世界に、柔らかな光が射し込んできた

その光で、体中がぽかぽかと不思議な気持ちになるのを、俺は確かに感じたんだ

雲川(きっと、こいつは過去に相当辛いことがあったんだろうけど)

雲川(そのせいで、こいつはまだまだ幼いくせに、あんな態度を当たり前のことのように思ってる)

雲川(それが無性にムカつく。もっと普通の子供らしく振舞えってぶっ飛ばしたくなる)

雲川(だから私が先輩として、友達として、こいつをしっかり矯正してやる!)


ようやく涙を拭って先輩の方を見てみると、なにやら真剣な表情で俺を見つめていた

怒っているようにも見えるが……


上条「せ、先輩……?どうしたんですか、そんな仏頂面して」

雲川「……なんでもないけど」

上条「?」

雲川「なぁ」

上条「はい?」

雲川「お前、まずは敬語使うのやめたらどうなんだ」

上条「え?いや、だって先輩相手ですし……」

雲川「敬語を使ってたのは本当に私だけか?クラスの連中には?」

上条「………………あっ」

雲川「ほれみろ。その歳で同級生相手に敬語を使うやつなんて、私はあまり良い印象を抱かないけど」

上条「は、はい……」

雲川「歩幅はゆっくりで構わないんだ。少しずつ変わっていこう。当座の目標は、まず敬語をやめること」

上条「わかりました」

雲川「…………道のりは厳しそうだけど」ハァ

続きます

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年01月02日 (金) 22:39:02   ID: -1HRKc7r

続き期待。

2 :  SS好きの774さん   2015年01月03日 (土) 13:17:44   ID: RQ2-CaUH

過去に食蜂SSやオティヌスSSを書いた作者か…
どうりで書き方が上手いわけだ

3 :  SS好きの774さん   2015年02月10日 (火) 19:02:17   ID: MGIYCI3P

あ、あれ…結構期待してたのにエタりそう?

4 :  SS好きの774さん   2016年10月18日 (火) 09:03:45   ID: I3dwQtST

続きます(続くとは言ってない)

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