魔女「ねぇ勇者さん、経験値ってどこに溜まってると思います?」 (26)

魔女「王国で鍛錬を積み、数多の魔物たちを倒した勇者さんなら───当然、知ってますよね?」

勇者「……………」

魔女「知らないんですか?」

勇者「……………っ……」

魔女「答えてくださいよ。それとも無理やりに答えさせられたいんですか?『さっき』みたいに」

勇者「ひッ……………こ、答える、答えるよ………………し、知らない」

魔女「はい、正直に言えましたね」

魔女「でも、まだ教えてあげません。答えはもう少し後のお楽しみです。まだまだ聞きたいことはありますから」

魔女「次の質問です」

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魔女「先日、見事90レベルを達成した勇者さんですが、今まで何匹もの敵を倒してきたか、覚えていますか?」

勇者「……………」

魔女「あ、言い忘れてました。別にパスしてもかまいませんけど、パス一回につき指一本頂きます」

勇者「ッあ……………き、きっと、5000匹くらいは…………」

魔女「5000匹『くらい』、ですか?」スッ

勇者「~~~~~ッッ!!ま、待ってくれッ!!ちゃ、ちゃんと答えただろう!?」

魔女「命の数を概数にしないでください。それとも100匹や200匹なんて四捨五入してしまってもいいとお考えですか?」

勇者「そ、そんなつもりじゃ…………」

魔女「気に入りませんねぇ。今のはわりと頭にきましたよ」

魔女「ということで、『さっき』と同じように」

勇者「や、やめッ………」




魔女「指に針のアクセサリー追加のお時間です」ニコリ

勇者「い、いやだ、やめてくれ…………なあ、頼むよ………」

魔女「さっきは説明しませんでしたけど………この針、何で出来てると思います?」

勇者「なッ、何かの骨、だろう………?」

魔女「はい、それもドラゴンの牙です。絶対に折れないとまで称されるほど頑丈な」

勇者「そ、そんなもの、一体どこで…………」

魔女「アナタが殺したんですよ」

勇者「………俺が………?」

魔女「山に住んでいただけのドラゴンを、『危害を加えそうだから』───なんて理由で殺したの、アナタでしょう?」

勇者「………………」

魔女「じゃ、そろそろいきましょうか。『さっき』は人差し指に刺したのでー、次は中指でしょうか?」グッ

勇者「やめて………くれ………」

魔女「そんなセリフ、倒した魔物からいくらでも聞いたでしょう?」プツッ

勇者「っ────!!」

魔女「さっきはすぐにブスッといっちゃいましたからね。多分骨の横辺りの肉を貫通しただけだと思いますよ。……でも」

魔女「今回はゆっくりいっちゃいます」ズッ

勇者「~~あッ……が……」

魔女「鈍~い痛み、辛いでしょう?」ズブッ ズッ

勇者「うあッ、ぎっ」

魔女「でも、ホントに痛くて辛いのはここからです」コツッ

魔女「お察しはついてると思いますけど、今、針でつっついてるのはあなたの指の骨です」

魔女「レベル90にもなった勇者さんの骨は、きっと並大抵の針では貫けないでしょう…………しかし、ドラゴンの牙製の針なら、どうでしょうねぇ?」ググッ

勇者「ひ………あッ!もっ、もうッ、やめてくれッ!!」

魔女「ダーメです」グッ ピキッ

勇者「あ、がッ、んぐ………いッッ!!?」

魔女「それっ」グッ ベキィッ!

勇者「あああああがあああああああぁぁぁぁぁぁ─────ッッッ!!!」

魔女「ふぅ、さすがに勇者さんともなると、ドラゴンの牙を使っているといっても少し骨が折れますね。まあ折れてるのは勇者さんの指の骨なんですけど」ズドッ

勇者「ああ……ッ、かあっはッ、う、ぎご………」

魔女「う~ん、なかなかステキなアクセですね」

魔女「じゃ、次の質問です」

魔女「王国が、ある程度の種類の魔物の、倒した際に手に入る経験値の具体的な数値を公表しているのはもちろんご存知ですね?」

勇者「う、あ…………ああ…………」

魔女「もちろん経験値が高くて生息数が高いモンスターを狩りにいくのは、とても効率的なことですので、その情報はきっと役立っているのでしょう」

魔女「でも、どうやってそれ、調べてるんだと思います?」

勇者「………………わ、わから、ない」

魔女「お、だいぶすばやく答えられるようになってきましたね。そう、わからないんですか」

魔女「じゃあ教えてあげます───と言いたいところなんですが、さっきの答え不明のままの質問の回答と併せて、後ほどお答えしましょう」

魔女「それでは次───っと、質問の前にひとつ見せたいものがありますから、少々お待ちを」スタスタ

勇者「う…………ぐ、………はっ………」

勇者(骨折した箇所の痛みは───まだ完全に引いちゃいないが大分マシになってきたな………)

勇者(それにしてもなんなんだあの女!?か、完全にイカれてんじゃねえか!)

勇者(タダで泊めてくれるっつーから泊まって………)

勇者(気付いたら椅子に縛り付けられてやがる。くそっ、どうなってんだッ)

魔女「お待たせしました~♪ご覧ください」ファサッ

勇者「………帽子………?」

勇者「……────!!ど、どうしてそれをッ!?」

魔女「やはり見覚えがあるみたいですね。ま、そりゃそうですか、なんたって記念すべき90レベルを達成した時に倒した魔物───いえ、魔女は」

魔女「この帽子の、持ち主ですからね」

勇者「ま、まさかお前…………あの魔女の娘か…………」

魔女「いいえ?私と彼女には血縁関係は全くありませんでしたよ」

勇者「………なら、なぜこんなこ

魔女「だけど」

魔女「あのひとは────『師匠』は」

魔女「私にとって母親のような存在だったんです」

魔女「そして、彼女も私を娘のように愛してくれました」

勇者「……………いッ、忌々しい…………ッ!!」

魔女「忌々しい……?」

勇者「人外の分際で………なにが愛だ!ヒトでもない種族が愛を語るなッ!!」

魔女「私は、ヒトですよ。師匠だってそうでした。ただ、魔法が使えるだけの、ただのヒトです」

勇者「その魔法でどれだけの人間を傷つけてきた!?お前たちなどヒトじゃない!!」

魔女「………本当に、なぁーんにも知らないんですね。哀れなヒト」

勇者「………なんだと?」

魔女「質問です」

魔女「現在の王国が設立されて、はや500年余りが過ぎましたが、その間に『魔女狩り』は何度行われたでしょう?」

勇者「……………52回。建国から、10年に1度行われてきた…………」

魔女「はい、ようやく答えが言えましたね。では続いて質問です」




魔女「私たち魔女が、あなたたちの王国に攻め入ったことは、建国後に一度でもありましたか?」




勇者「………………………」

勇者「………………な、無い。少なくとも、文献の中には──」

魔女「ですよね?」

魔女「私たち、どうして『狩られ』なければならないんですか?」

魔女「見慣れないチカラを──魔法を持っていただけで、[ピーーー]んですか?捕らえるんですか?」

魔女「ねぇ」

魔女「おかしいって、思いませんか?」

勇者「……………なら、なぜ王国は魔女狩りをする?お前らが、実ははるかに危険な種族だという可能性があるんじゃないのか」

魔女「わかってないですねぇ」

魔女「『魔女狩り』の本当の目的は魔女の殲滅なんかじゃないんですよ」

勇者「……………では一体何が」

魔女「魔女の捕獲───いえ、『いらないヒトを集めること』です」

勇者「……何を言っているのか……わからない」

魔女「んんー、そうですね。そろそろお教えしておかないと話がこんがらがるかもしれないので」

魔女「そろそろお答えしましょう。最初の質問の答えを」

魔女「経験値というものは─────」スッ



勇者「……………!!」



魔女「頭の中(ここ)に」トンッ



魔女「溜まってるんですよ」

勇者「の、脳………だとでも言いたいのか」

魔女「ええ、まあ厳密には脳ではないのですが」

魔女「私たち人類は───太古の時代、それはそれはもう気が遠くなるほど昔に、神様がかけた加護、あるいは呪いともいえるものを、ずーっと引き継いできてるんです」

魔女「それは、人類の遺伝子にひとつの追加プログラムを刻みました」

魔女「その遺伝子は、大脳の中のわずかな隙間にとある器官を生み出し」

魔女「その器官は、戦いをする人間にさらなるチカラを与えました」

魔女「すなわち、経験値によって強くなる人間の完成です」

魔女「尤も、王国のかたがたはとっくに知っていたみたいですけどね」

勇者「…………それが、どうしたというんだ。確かにそのことは知らなかった。しかし、まだわからないことが多すぎる」

魔女「まあ焦らないでくださいよ。順を追って説明しますから」

魔女「ええと、次の質問は確か────ああ、どのように王国が、経験値の量を調べているのか、でしたっけ?」

魔女「カンタンな話です。例えば、倒した際の経験値量がわからない魔物Aがいたとしましょう」

魔女「王国は魔物Aを捕獲、拘束等によって無力化したのち、実験体の人間Aさんにその魔物を殺させます」

魔女「ちなみにAさんは、魔法によって経験値をすべて奪い取られたあとに実験に使われています」

魔女「するとこの時点で、Aさんの経験値を溜める器官───まあ、経験器とでも仮称しておきましょう。それに、魔物Aの経験値だけが入っている状態ができました」

魔女「そのあとどうすると思います?」

勇者「……………まさか」

魔女「さすがに察しますよね。そうです、Aさんを殺します。そして頭を開いて、経験器を取り出し───そこからの分析の過程はさすがによく知りませんが、そこまでくれば簡単なものなようです」

魔女「ここまでの流れで、1匹の魔物の経験値量が判明します」

勇者「………それは、本当の話なのか?………」

魔女「ええ」

魔女「そして、王国が『魔女狩り』をする本当の理由。『いらないヒトを集めること』とは、つまり実験体を集めることなのです」

魔女「多くの、とても多くの仲間たちが、あなたたち王国の研究者によって殺され、脳を弄ばれ、ゴミのように捨てられてきました」

勇者「……………す……………すまない……………」

魔女「謝るんですか?今までさんざん私たちの仲間を殺しておいて?」

勇者「知らなかったんだ…………王国には、事情を話して、即刻魔女狩りをやめさせるように言う。だから、頼む………許してくれ、助けてくれ」

魔女「ふーむ、なかなかのビップ待遇っぷりですねぇ」

魔女「まあ、でも」

魔女「許しませんけど」

勇者「す、すまなかった…………本当に謝る、なんだったら国王にだって謝らせる、だから………っ!」

魔女「そうそう、王国の方がつかっている、経験値を吸い取る魔法───って言っても、そういえばその事は国民に公表していないんでしたね」

魔女「ま。魔法を使う魔女を[ピーーー]と言っても、自分たちだって魔法使ってるんですよ。便利だから」

魔女「で、その経験値を吸い取る魔法なんですけど、元々は魔女の魔法なんですよ」

魔女「まあ、今王国で使われているのは劣化の劣化の劣化バージョンみたいなもんですがね」

魔女「魔女は、そんなことはしなくてもいいんです」

魔女「そもそも、経験値を奪うのに魔法を使う必要もないんです」

魔女「………最後の質問になりそうですね。ではどうやって経験値を奪い取るか、わかりますか?」

勇者「………………いや………わからない」

魔女「じゃあ実践しながら説明していきましょうか」

魔女「これを見てください。例のドラゴンの牙から作った、ナイフです」シャッ

勇者「───!!」

魔女「これを────想像ついてるでしょう?あなたの頭に突き立てます」スッ

勇者「ま、待て…………待ってくれ、頼む、何でも言うことを聞く、だから、なあ、たのむ」

魔女「魔女の経験値吸収方法はですねぇ」ニコ

勇者「い、いやだ、いやだ、助けてくれ………たすけて………くだ、さい………あ、あッ!」



魔女「経験器を『食べる』ことなんですよぉ」ズブッ



勇者「いッッ、いやだあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ───────っ!!!」


魔女「五月蝿い」ズンッ


勇者「ぁぁぁあ゛ッ…………」


勇者「…………………………」カクンッ


魔女「………さて、さっさと『吸収』するとしましょう」ズグッ ザクッ

魔女「ああ、あったあった」ズッ ブヂッ

魔女「うーん、話には聞いてましたけど、さすがに初めて見ると少しえぐいですねぇ……」

魔女「まあいいや。いただきます」パクッ

魔女「ん~~……」モグ グチッ ブツッ プチッ グチャッ

魔女「ん」ゴクン

魔女「………あんまり美味しいものじゃないですね」

魔女「さて………」

魔女「………師匠、一度だけこの杖、お借りします」カランッ

魔女「………あなたの仇の血を以て、私たち一族の仇を討ってきます」



魔女「────『王国最強』とまで謳われた勇者の経験値、はてさて王国相手にどこまで通用するもんですかねぇ」



魔女「……師匠、魔女の歴史に『王国侵攻』の文字を残してしまうことをどうかお許しください」

その日───王国の門前に現れた一人の魔女は、古びた杖を振るって王国へと侵攻していった。

彼女の力は圧倒的だった。

あまりにも強大すぎる魔法の前に、兵たちは成す術も無く、ただただ勇者の到着を待った。

目の前の魔女が、その勇者の力を全て奪ったとも知らずに。

いつか勇者という希望が現れると信じて、兵たちは戦い続けた。

しかし、その勇気をあざ笑うかのように、翌日の朝、朝日は燃え尽きた王国を照らした。

黒こげになった門から立ち去る魔女を遠目に見た、とある旅人は後に語る───


魔女「………………」ザッ ザッ ザッ


旅人「な、なんだ、この有様……は───!!?」


魔女「…………………………」ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ


旅人「あ、あの、尋常じゃない殺気………溢れ出す魔翌力の流れ………ま、まるで………」



「悪魔のようだ」と。

終わりです。特に長く続ける気もなかったのでこれくらいで終われて丁度よかったかなと思います。
sagaについては後で気付きました。申し訳ない。

>>22
溢れ出す魔翌力 が 溢れ出す魔翌翌翌力 になってました。
今度こそ終わりです。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年12月05日 (金) 22:00:18   ID: QDlzbmWm

意味不明すぎ

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