兄「…従妹におしっこを飲ませる?」(511)

医師「それが彼女を救う唯一の方法なのです」

兄「…どういうことですか?」

医師「貴方は吸血鬼という存在をご存知でしょうか」

兄「ええ、人並みには」

医師「貴方の従妹さんは、彼らと同じ病気なのです」

兄「?」

医師「特定体液依存症候群という、臨床では極めて珍しい病気です」

兄「聞いたことありませんが?」

医師「…今までに国内で発症したケースは無く、海外でも数件のみ確認されただけですからご存知無くても仕方ありません」

兄「…なるほど」

2さん、ありがとうございます。

医師「しかしまあ、伝説上の吸血鬼は少々誇張が過ぎますがね」

兄「具体的にはどのように?」

医師「…吸血鬼は名前の通り血液を食物にすると思われがちなのですが、実は異なります」

兄「特定体液?」

医師「そうです、彼らは生活する上で、特定の人間の体液を必要とする病人なのです」

兄「ならば別におしっこではなくとも良いのでは?」

医師「…量が問題なのです」


兄「量、ですか?」

医師「欧州の症例では、毎日500ccの血液を患者に与えることで症状の進行を抑えることで決着したようです」

兄「なら俺だって!」

医師「…毎日一人の人間から500cc採血することは不可能です」

兄「しかし!」

医師「言ったはずです、特定の人間の体液だと。報告書のケースではたまたま近親者に同じ血液型の人間が複数存在していたために可能だったのです」

兄「…………」

医師「もちろん体液ですから、分泌されるのは血液には限りません」


兄「唾液、涙…」

医師「残念ながら、唾液ではあまり抑制作用が無かったとありますから、私個人としてはオススメしません」

兄「ならば」

医師「…リンパ液、腸液その他諸々ありますが、現段階で唯一可能な手段が貴方の御小水なのです」

兄「…病気の進行は?」

医師「第一に、思考の鈍化。軽いうつや認知症患者の様に認患者自身の識能力に障碍が生じます」

兄「…………」

医師「次の段階が、妄想妄言。かなり言動が暴力的になり、身の回りの全てに拒否反応を示す様になります」

兄「…最後には?」

医師「個人差はあるようですが、最終的には廃人になる点で共通しています」

(-.-)ノ⌒④

兄「完治の見込みは?」

医師「現状、飲尿させるより手だてがありません」

兄「…………」

師「そして、それさえも姑息療法でしかなく、もって余命10年と私個人は申し上げさせて頂きます」

8さん、ありがとう!


兄「…従妹はこのことを?」

医師「はい、既に伝えています。患者の認可なしでは守秘義務違反ですから」

兄「そうでしたか…」

医師「毎日500ccの尿を彼女に投与するのを、御協力頂けませんか?」

兄「…神は、俺にこの手を汚せというのか?」

(翌日)


チュンチュン

兄「…………」

兄「…結局朝になっちまったか」

母「ご飯よー」コンコン

兄「今行く!」

パクパクモグモグ

父「どうした兄、随分顔色が悪いな?」

兄「…なんでもないよ父さん。ちょいと遅めの思春期さ」

父「? 良く分からんがほどほどにしとけよ?」

兄「ああうん、まあ…」

母「そんなことより、今日から従妹ちゃんが泊まりに来るんですって?」

父「ああ、何でも病院通いする必要があるらしくてな、距離的にこっちの方が便利だとさ」

母「久しぶりね�・、何年ぶりかしら」

父「だいたい10年振りか? 小さかった頃のイメージしかないな」

母「…もうそんなに経つのね」

父「兄貴も義姉さんも忙しいらしいしな。…兄、悪いが迎えを頼まれてくれるか?」

兄「…あいよ」ゴチソウサマ

キーンコーンカーンコーン
…ワイワイガヤガヤ…

友「よう、知ってるか?」

兄「何をだよ?」

友「近々女の子の転校生が来るらしい!」

兄「…ふーん」

友「どうしたよ? ノリが悪いぞ?」

兄「その転校生様情報に、何度期待して何度騙されたと思う?」

友「返す言葉も無いな」

兄「だろ? 一人目は男女を間違え、二人目は学年を間違え…」

友「皆まで言うな」

兄「…掃除のおばちゃんの契約更新と、転校生を間違えるのは人としてどうなんだ?」

友「面目次第もない」

兄「で、四度目の正直で面目躍如か?」

友「そうそう、それそれ」

兄「…名前分かるか?」

友「従妹、って言うらしい」

兄「…………」

友「直接書類を確認したからな、今回ばかりはばっちりだ」

兄「…どんな感じの奴だ」

友「お、気になるかね」

兄「…まあ人並みには、な」

友「学年は俺らの一つ下、誕生日は分からんが結構可愛い風な感じだ」

兄「何だよ、含みがあるな」

友「いやな? 可愛いのは可愛いんだが、今一つ写真に生気を感じないって言うかさ?」

兄「…………」

友「病弱薄幸オーラとかじゃなく、本当に元気がないんだわ」

兄「…ふーん」

友「ま、しょせんは証明写真だし、そんなもんかも?」

兄「情報ありがとよ、昼飯奢るよ」

友「さっすが分かってる�・」

兄「あんま高いのはタカるなよ?」

友「いっひっひ、…そいつはどうかな?」

兄「勘弁してくれ」

友「げへへ、ほどほどに勘弁してやる」

兄「あいよ」ヨッコラセ

兄(…元気がない、か)

キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン…


先生「放課後だ! お務めご苦労!寄り道すんな!歯を磨け!そして寝ろ!」

兄「…結局授業に集中できなかったか」

女「やほ�・、兄くん帰らない?」

兄「女か? 彼氏はどうした?」

女「友? ああうん委員会だってさ」

兄「さすがは風紀委員長。根は真面目だな」

女「そりゃ私自慢の彼氏だもの」

兄「…はいはいご馳走ご馳走」


女「で、どうする?一人寂しく帰る?」

兄「うんにゃ、今日は少し待ち人がいてな」

女「…君にも遅い春が来たのかね」

兄「まさか、従妹が来るんだよ」

女「従妹ちゃん? 懐かしい名前だね、本人?」

兄「ああ、今日からウチに来るんだとさ」


女「私も会っても良い感じ?」

兄「あーいや…」ポリポリ

女「昔馴染みの古馴染み、同じ町内会の仲じゃん」

兄「…まあ、行けば分かるか」

女「? どーしたのよ、早く早く」ハリーハリーハリー

兄「わかったわかった」

テクテクテクテク

女「しっかし10年振りの再開か�・、私もよく覚えてたな�・

兄「関西関東の距離は伊達じゃないからな」

女「可愛くなってるかな�・、女の子してるのかな�・」

兄「さてな」

女「あ、でもでも従妹ちゃんがこっちに戻って来るなら、伯父さん伯母さんも来るんでしょ?賑やかしくなるな�・」

兄「…そのことだがな」

女「?」

兄「従妹がこっちに来るのは通院目的だ」

女「…え?」

兄「俺も詳しくは話せないが、結構厄介な難病らしくてな」

女「…『知らない』じゃなくて『話せない』?」

兄「そうだ、『話せない』」

女「そっか、そうなんだ…」ショボン

兄「…でもまあ、今はそれなりに平気らしいし、何かあったらお前の助けが必要なんだわ」

女「ん、了解」

兄「すまんな、御近所さん」

女「いいよ、普段が平気なら私は構わないし、兄君が待ち合わせしてるぐらいだから人に伝染るものじゃないんでしょ?」

兄「伝染りはしないらしい」

女「ならオールオッケー! さて、待ち合わせ場所に急ごう!」

ガタンゴトン…
…ガタンゴトン…

《まもなく終点なんとか�・なんとか�・お降りのお客様はウンタラカンタラ…》


従妹「…………」

運転手「お客様、終点です」ユサユサ

従妹「…………」ボー

運転手「目が覚めたのなら降りて下さい、当列車は車庫に入ります」

従妹「………………?」ボー

運転手「ん、日本語が通じないのか?ココ終点 get out here」

従妹「…………」フラフラ

運転手「…なんだあの娘?」


兄「…遅いな、従妹」

女「…遅いねー」

兄「電車遅れてんのか?」

女「んーん、そんなことないみたいだけど」カチカチ

男「乗り間違えたとか」

女「かもねー、連絡とかメールとかは?」

男「…さっぱりだ」

女「…さっぱりか�・」

すまそ、
男「」→兄「」です。


兄「一応伯父さんにメールを…」カチカチ

女「参ったなあ」

ピンポンパンポーン
『…兄様兄様、お客様の中に兄様という方はいらっしゃいますか、いらっしゃれば当駅迷子センターにいらして下さい。お連れ様がお待ちです。繰り返します…』

女「…うわ!迷子!?」

兄「取り敢えず急ごう!」

【迷子センター】

従妹「…………」ボー

係員「君、名前は?」

従妹「?」ボー

係員2「駄目なんです、先程から何も答えてくれなくて…」

係員「やっぱり病院呼ぶか?」

係員2「…今しがた駅内放送でこの緊急連絡の相手を呼びました」

係員「分かった、下手に事を荒立てても仕方ないか」

係員2「ええ」

コンコン

係員2「はいよ!迷子センターだ、入ってくれ」

兄「…失礼します、兄です」

女「…どもー」

係員2「おお、噂をすれば何とやら」

兄「…従妹はどちらに?」

係員「こっちだ、…ちょっと様子がおかしいが平気なのか?」

係員2「救急車が必要なら言って下さい。直ぐに呼びますから」

従妹「…………」ポケー

係員「…我々が発見した時からずっとこの調子でな」

兄「ご迷惑をおかけしました」

係員「いや、これも俺らの仕事だ。それに酔っ払いに比べりゃ幾分も楽だ」ハハハ

係員2「具合は?」

兄(…そう言われても)

ブルル…

兄「はい、もしもし…」

伯父『…娘は?』

兄「…意識はありますが反応がありません」

伯父『医者から娘の病状について聞いているそうだが…』

兄「…ええ」

伯父『…娘を頼む、あの子の幸せだけが、我々夫婦の生き甲斐なんだ』

兄「その言葉の意味を…」

伯父『…知っている、私も大人だからな』

兄「…汚しますよ?」

伯父『……ああ、しかし必要なことだ』

兄「………………」

伯父『…君にはすまないと思っている』

兄「…伯父さん」

伯父『なんだね?』

兄「…また連絡します」

プッツーツーツー…


兄「すいません、トイレを借ります」

ガチャガチャ…ボロン…

兄「うわー緊張する」

従妹「…………」ポケー

兄「口を開けさせて顎を固定して」

女「あのー…」

兄「どうした?」

女「なにやってんの?」

兄「…見て分かるだろ?俺のナニをくわえさせようとしてんだよ」


女「うっわーさいてー、無抵抗の女の子に乱暴するのが趣味ですか」

兄「だから説明しただろ?…医療行為かつ緊急避難だ。見てないで手伝ってくれ」

女「やってることは、レイプそのものだけどね」

兄「良いから早く、時は一刻を争う」

女「…はいはい」


兄「ほら、女は便座に座って従妹の頭を持ってくれ」

女「…こう?」

兄「そうそう、うまいうまい」

女「そりゃどーも」

兄「…それじゃいくぞ?」


ジョボボボボ…

女「はい、兄君ストップストップ」

兄「どうした?」ジョロロ…

女「…駄目だこの子、全然飲んでない」

兄「本当か?」

女「本当本当、ほら見てみて」

従妹「………………」ダバダバ

兄「…ヤバイな」


女「うん、器官の方に流れても困るし…」

兄「ペットボトルとか有るか?」

女「残念ながら用意してないよ」

兄「今から買いに…」

女「三人で、君のおしっこまみれのまま駅構内を?」

兄「…………」

女「仕方ないか…」アーン

兄「馬鹿!おまっ」

女「ひひょうほうひひひょうほうひ」モゴモゴ

兄「ちょ!先っぽ舐めるな!」

女「何だよー、兄君の医療行為を手伝ってるのに文句あるのかよー」カポッ

兄「…ありまくりだろ」

女「時は一刻を争うんでしょ? ここで諦めたら一生ヘタレと呼ぶよ?」

兄「お前なあ…」

女「ちょ!? 何で大きくしてんの!」

兄「…当たり前だろうが」

女「え?私って、兄君から女として見られてたの?」アセアセ

兄「…ノーコメント」ハァ

女「そ、そうだね、今は従妹ちゃん優先だよね」

兄「少し待ってろ、隣の個室で一発抜いてくる」

女「やっぱり…」

兄「…硬くなると出なくなるんだよ」

女「うーん、ごめん」

クイクイ…

女「…兄君兄君、ちょっと待って」

兄「どうした?」

女「精子も体液だよね?」

兄「…………」

女「わ、私の言ってること分かるよね///」カァァ

兄「お、おう」

女「…なら早くこっち向いて!///」

兄(友、マジですまん!)

―20分後―


従妹「………ゲホッゲホッ」

兄「…ん、目が覚めたか?」

従妹「…兄、さん?」

兄「おう、久し振り」

従妹「…あの、ここ何処?」

兄「ああ、今日からお前が使う部屋だ」

従妹「…………」

従妹「」

ごめんよー、そろそろ仕事の時間です。
また時間が空いたら。

乗っ取り歓迎です、

従妹「…ええと?」

兄「思い出せないのか?」

従妹「…………」コクリ

兄「駅で意識を失っていたのを、ここまで連れてきたんだ」

従妹「意識を?」

兄「ああ、人形みたいな顔してさ。ずっとボンヤリ」

従妹「…………」


兄「本当に覚えてないんだな」

従妹「でも、私は今こうして?」

兄「つまりはアレを無理矢理飲ませた。緊急時だったとは言え、反省してる」

従妹「……///」ボフッ

ガチャ

女「兄君、お風呂沸いたよー」


従妹「???」

女「お、従妹ちゃんお早う、気分はどう?」

兄「女だ。…すまん、そいつも現場に居合わせていてな」

女「色々と驚かせて貰いました」アハハ…

従妹「…あの、その///」


兄「積もる話もあるだろ、悪いが先に二人で入ってくれ」

女「言われなくてもそーする。ほら行くよー」

従妹「…ええと、兄さんまた後で///」

兄「おう、着替えは姉貴のでも用意しとくよ」

女「念入りに手を洗ってから届けてよー」

兄「分かってる分かってる!」

ドタドタ…
…バタバタ…

兄「やれやれ、慌ただしい奴め」ピポパポ

プルルルル…

受付『はい、こちら山ノ上病院』

兄「あ、俺は兄と申し…」

受付『はい、兄様ですね。お話は既に伺っています。少々お待ち下さい』

兄「…………」

医師『…御電話換わりました、医師です』

兄「先生、実は!」

医師『慌てなくても大丈夫です。今は農繁期ですから、来院する患者さんも少ないので、ゆっくりとお話を伺います』

兄「…すいません」

医師『いえ、私もお気持ちは分かるつもりです』

兄「その、…先生に言われた通り、従妹にアレを飲ませたところ、意識を取り戻しました」

医師『…文献通りで助かりました』フゥ


兄「…………」

医師『けれども、貴方が私に連絡したのはソレだけでは無いでしょう?』

兄「はい」

医師『…伺いましょう』


兄「…あいつ今、幾つなんですか?」

チャポーーン…

女「やっぱりお風呂は良いものだねー」

従妹「…………」

女「兄君の家はお風呂が大きいから羨ましいよねー」ノビノビ

従妹「…………」

女「ほら、昔みたいに背中洗いっこしよーかー」

従妹「あの…、女さん」


女「どしたの? 昔みたいに女ちゃんで良いよ?

従妹「いえ、あのその…」

女「…大丈夫、言いたくないなら聞かない、私だって女の端くれ。まして身体的特徴を安易に口にするのは馬鹿だって知ってる」

従妹「…………」ジワリ

女「ほら、泣かないの。こっち来て、背中洗うから」

従妹「…はい」コクコク


女「ほらほら都会の話を聞かせてよー、田舎は情報に飢えてんだい」

従妹「…はいっ!」


ワイワイガヤガヤ……


医師『年齢は貴方もご存知の通りですが』

兄「いえ、俺が言いたいのは…!」

医師『現段階では症候群の一つの症状として、身体の低成長が推測されるとしか此方も申し上げられません』

兄「低成長…」


医師『私達が確認している他の症状としては、基礎体力の低下、免疫力の低下、メラニン産生細胞の活動低下等が分かっています」

兄「メラニ…」

医師『皮膚の色を造る細胞です。日光に含まれる有害な紫外線から、私達の身体を守ってくれる物質を生み出す働きを担っています』

兄「…従妹は」

医師『以前もお伝えした通り、彼女には全てを伝えています

兄「…………」

医師『そちらの生活が落ち着いたら、またいらして下さい


兄「先生、一つお伺いしても?」

医師『はい、何でもとは行きませんが…』

兄「従妹の向こうでの生活は…」

医師『…患者のプライバシーに関わります。私の口からは』

兄「…………」

医師『しかし、彼女が長袖長ズボンの理由が、決して紫外線予防の為だけではないとだけはお伝えします』


兄「…先生は名医ですね」

医師『いいえ、全ての患者が幸せになれば良いと考える、しがない一人の人間です』

兄「…………」

医師『それでは、また』

兄「はい!全力で守ってみせます!」

プッ,ツーツーツー…

女「兄君、そろそろ着替え�・!」

兄「あいよっ!」

(翌日、6月12日)


ジリリリリ…

兄「…うーん」

従妹「兄さん起きて」ユサユサ

兄「んんん…」

従妹「兄さん、朝です」ユサユサ

兄「分かった、後五分…」

従妹「早くして下さい、皆が起きる前じゃないと困るんです!///」ヒソヒソ

兄「ふぁぁ、お早うござい…」

従妹「…兄さん、相変わらず朝弱いんですね」


兄「…あれ? 普段より一時間も早いじゃん?」ネボケー

従妹「兄さん、お早うございます」

兄「ん、んんん?」

従妹「…完全に寝ぼけてますね、ほら早く準備して下さい」

兄「準備?」

従妹「お、おしっこです!おしっこ!///」

ヌガセヌガセ

兄「…ああ、状況を理解した」

従妹「ふぉら兄さん、ふぁやふふぁして下さい///」パクリ

兄「………///」


ショロロロロ……

従妹「…………///」ンクンク

―換気中―

兄「…案外匂いって残るのな」

従妹「ですね、少し考えものです」

兄「そしてお前は存外平気なんだな」

従妹「…私にとっては薬ですから」

兄「そっかそうだな、すまん」

従妹「いいえ、謝らなくても良いです。…兄さんにご迷惑を掛けているのは、私の方ですから」ニコリ

兄「……」

従妹「それじゃあ、また後で」トタトタ…

兄「…笑顔が辛いっ!」

キーンコーンカーンコーン…


兄「…………」

友「おお、今日も黄昏てんな」

兄「友か、よう」

友「なーに考えてるか知らんが、昨日の転校生の追加情報だ」

兄「ん、ああ間に合ってる」

友「?」

兄「…転校生、俺の従妹なんだよ」


カクカクシカジカ…

友「…なるほど、病気で転校か」

兄「…悪いな、あんまり病気の詳しい説明が出来なくて」

友「気にすんな、言われても多分何も出来ん」

兄「…………」

友「で、いつから学校に来るんだよ?」

兄「来週ぐらいだそうだ」

友「そっかー、楽しみだな」ワクワク


兄「楽しみ?」

友「不謹慎かも知れんが、病弱の可愛い女の子と知り合いになるのって男のロマンだろ?」

兄「お前、彼女持ちだろ?」ハア

友「ロマンと現実は違うもんだ」

兄「そんなもんか?」

友「そんなもんよ、兄は分かって無いな�・」

兄「ふーん」

友「それよりさ、女の様子が朝からおかしんだよ」

兄「女がか?」

友「そうそう、今朝挨拶したら俺の顔を見るなり顔真っ赤にして逃げやがってさ」

兄「…………」ブホッ

友「いきなり吹き出すな、汚ないだろ」

兄「す、すまん」

友「俺、何かやらかしたっけ?」

兄「さ、さて…」

友「ま、いいや、美味いもん食わせて仲直りさせてくらあ」

タッタッタッ

兄「…原因は昨日のアレだな」アーメン

ピーンポーン


従妹「はーい」ガチャ

女「よっ、従妹ちゃん!」

従妹「あれ? 女さん学校は? …というよりその格好」

女「説明あとあと、少し匿って」アハハ

従妹「? どうぞ」

女「おっじゃましまーす!」


トタトタ

女「…持つべきは良き友人とは正にこのこと。助かった助かった」フゥ

従妹「大丈夫なの?」

女「いやー、ちょっと手違いで今学校に行き辛くって。ウチにはお母さん居るし、他に避難場所も無くて」

従妹「?」

女「まあまあ。ん? 妹ちゃん昨日と雰囲気違わない?」


従妹「…露骨に話を反らしましたね」

女「ナンノコトヤラ」

従妹「別に聞きませんから安心して下さい」

女「うーん、従妹ちゃんは良い女だね」

従妹「茶化さないで下さい」

女「…でも、雰囲気が違うのは本当だよ?」

従妹「恐らくカラーコンタクトのせいだと思います」


女「カラコン? 目が悪いの?」

従妹「…ウサギの目がどうして赤いか、女さんは知っていますか?」

女「ん、それ以上の説明は大丈夫。ありがとう」

従妹「はい、私の裸を見た女さんだからこそお話しました」

女「ふっふっふ、信頼されてて嬉しいよ」

従妹「本来は自己防衛のためだったんですけれど、最近はこれが無いと眩しくて」

女「なるほどねー」


キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン


先生「放課後だ!お勤めご苦労!風邪引くなよ!」

兄「…また集中出来なかったか」

友「すまん! 兄はいるか!」

兄「…喧しい」ベシベシ

友「痛っ、ふざけてる場合か!」

兄「…どうした、何かあったのか?」


友「女がいない!」

兄「早引きしたのか?」

友「違う! 朝から教室の奴、誰も女を見てないらしい!」

兄「…友は見たんだよな?」

友「おう!両の眼でしっかと!」

兄「携帯は?」

友「風紀委員の長が校則に反するものを持つわけには…」

兄「もしもーし」

友「おまっ! 校内通話は禁則事項だ!」

兄「…あいよ、すぐに行く」

友「…………」

兄「ほら行くぞ、愛しの彼女さんがシュークリームをご所望だ」


ピーンポーン
…ガチャ

女「おかえりー」

兄「お前の家じゃないだろ?」

女「固いこと言いっこなしなし」ケラケラ

友「全く心配させやがって、ほらお土産だ」

女「…うう、ごめんよー」ペコリ

友「無事で何よりだ、…それよりそっちの子が噂の転校生?」

従妹「?」オズオズ

兄「ああ、俺のイトコの従妹だ」

従妹「…初めまして、従妹です」ペコリ


兄「で、こいつが俺の友人、友だ」

友「ういさ、お初に。女の現役彼氏も次いでにやってる友だ。転校生の先輩として何でも聞いてくれ」

兄「基本的には悪い奴じゃないから安心していい」

従妹「…うん」

女「立ち話もなんだし、ほら中にどうぞ�・」

兄「だから、お前の家じゃないって」

女「良いの良いの�・」


クイクイ

従妹「…兄さん兄さん」

兄「ん?」

従妹「…今、『お薬』出して貰っても?」

兄「…気分は?」

従妹「ん、我慢出来ない程じゃないけど、『無理はしないように』ってお医者さんが」

兄「分かった。…悪いだが、二人は俺の部屋でくつろいでてくれ」

女「ん、りょうかーい。お茶入れて待ってるよー」

兄「…うし、行くか」

従妹「…うん」

…トタトタ…

-兄の部屋-


女「んー、やっぱりシュークリームは神戸屋だねー」モグモグ

友「…先に食うなよ」

女「あんたも食べる?」

友「いや、お前の笑顔で充分だ」

女「………///」モグモグ

友「…照れんな、こっちも恥ずくなる///」

女「なら言うなよぉ///」モゴモゴ

友「でも、お前が朝からこの家に居たってことは、前からあの従妹って子と知り合いだったのか?」

女「知り合いってか、幼馴染みだよ」

友「なら、詳しいことも聞いてるんだな?」

女「…不用意に女性の秘密を暴こうとすると嫌われるよ?」

友「アホ違ぇよ。…万が一の際、あの子の助けになる人間は多い方が良いだろ?」


女「…………」モグモグ

友「それにほら、兄ってシッカリ者に見えて抜けてるし、朴念仁つーかなんつーか…」

女「…いや、兄君も男の子だよ///」ボソリ

友「?」

女「んーん、要するに女性側からのアプローチの有無の話?」

友「それだそれ」

女「任せなさい、あの子は可愛い妹分だもの」エッヘン

友「ま、お前が居れば安心だわな」

女「ふっふっふ」

友「あー、安心したらトイレ行きたくなった。…ちょっと行ってくるわ」


-1fトイレ-


従妹「………」アーン

兄「………」

従妹「………」アーン

兄「………」

従妹「兄さん、早くして下さい」

兄「お、おう」


-再び 2f 兄の部屋-


友「どうした? いきなり袖口掴みやがって」

女「…フシャー!」ガッシリ

友「? 俺は猫派より犬派だぞ?」

女「ワオンワオン!」

友「いや、離してくれないとトイレに行けない」

女「いやいや、トイレに行けなくとも死にはしない」

友「…いやいやいや、この世には膀胱炎という病気があってだな」

女「…私の彼氏はトイレに行かない」

友「いつから俺は人外に?」

女「うーん?」

友「ほら、冗談はここまでだ、行ってくる

ガチャ…タッタッタッ…

女「…兄君、ごめん!」


-再び 1f トイレ内-


従妹「…兄さん、出ませんか?」アーン

兄「すまん、もう少しで出そうなんだが…」

従妹「何か刺激が必要ですか?」

兄「…………」

兄(…マズイ、鼻息でも勃ちそうだ)

従妹「兄さん、聞いていますか?」フンス

兄「…お、おう」

兄(今、勃ったならば確実に別のものを飲ませることになる)

従妹「早くしないと、上の友さんに怪しまれます」


兄「精神集中、一球入魂」

従妹「………」アーン

兄「…まーかーはんにゃーはーらーみーたー」

従妹「………」パクリ

兄「う、うふぁあ?!」

従妹「…へ、変な声出さないで下さい///」

兄「ん、すまん///」

従妹「…それよりまだですか?」

兄「分かってる、今出す!」

友「…いやいや、二人とも何やってんの?」


二人「「!!!」」

ジョバババババ………

…ってな所で、いったん仕事に行ってきます。
ではでは。

………………
………………………


友「…従妹ちゃん、悪かった!」ドゲザ!

従妹「頭を上げて下さい、友さん」アセアセ

友「ついに兄の野郎が禁断のロリペドスカトロジーに足を踏み入れたのかと!」

兄「…『遂に』だと?」

友「頭を下げて許されることじゃないと理解しているが。これぐらいしか思い付かん!」フカブカ

従妹「…兄さん、どうすれば」アセアセ

兄「…頭を踏んでやれ」

従妹「え、ええと」


女「兄君、お茶入れたからまあ飲みなよ」ドウゾ

兄「ん、サンキュー」ドウモ

友「………………」ヒラニヒラニ

従妹「…兄さん、いじめすぎです」

兄「だとさ、良かったな」

友「ううう、しかしだなあ…」

女「確かに納得しかねるよね�・、従妹ちゃんの薬が兄君の体液なんてさ。私も主治医さんから話を聞くまでは気が狂ってるのかと思ったよ�・」

友「…だろだろ」

兄「その意見には俺も同意するが、実際に効果があるみたいだからな」

従妹「…きっと昔の人も、同じ苦労をされていたんでしょうね」


友「しっかしそんな奇病、よく日本の医者が知ってたな?」

兄「…だな、不幸中の幸いだ」

女「やっぱりお医者さんネットワークとかかな? 日本奇病学界とか?」

友「でも、それならこんな病院しかない田舎町より、情報の入りやすい都会に兄が呼び出される方が自然だろ?」

従妹「…あ、それ私も思いました」

兄「この町独特の何かがある?」ズズズ

友「多分な、…そしてそれが完治までの近道と判断されたと考えるべきだ」

女「…でも言っちゃ悪いけどこの町だよ?」

友「う�・ん」


従妹「…患者の心理的安定のため?」

友「良い機会だから言っとくが、田舎の人間の仲間意識は半端じゃないぞ?」

兄「お前溶け込む苦労した口か?」

友「…へへん、地元民に余所者の苦労は分からんさ」

女「まあまあ、今となっては良い思い出だよ」

兄「従妹は昔ここで暮らしていたけど、…10年前だから」

従妹「幼稚園の年長組か、小学校始まりぐらいです」

兄「…帰郷効果は微妙だな」


友「ま、下手の考え休むに似たり、ってな」

兄「そうだな、明日は休みだしそこら辺も医者に聞いてくる」

女「ならなら�・、難しく考えるの止めて、今から買い出しに行って細やかだけど妹ちゃんの歓迎会やらない?」

友「お! ナイスなアイデアだな!」

女「うふふ! 任せんしゃい!」

従妹「それなら私達も…」

女「ダメダメ�・、主賓は兄君と待ってて」

友「ああ、従妹ちゃんは、俺達が外に出てる間に兄に茶を腐るほど飲ませてやってくれ」

女「で、『薬』を補給してくれたまへ」

友「んじゃな、行ってくら�・」

女「では、行って来まーす」


ドタドタ…
…バタバタ…


従妹「…………」フゥ

兄「どうした? ため息ついて?」

従妹「兄さんは、優しい人達に恵まれてます」

兄「…悪友と腐れ縁の間違いだろ?」

従妹「ふふっ」クスクス


(翌日 6月13日)


医師「こんにちは」

従妹「…こ、こんにちは」オズオズ

医師「緊張なさらなくても平気です。まずは深呼吸をどうぞ」

従妹「………」スーハー

医師「昨日一昨日と、この町に来てから体調にお変わりはありませんでしたか?」

従妹「はい、…むしろ、向こうより意識がハッキリしているように感じています」

医師「それは結構」ニコリ

兄「…昨日の朝と夕方アレを飲ませてから、俺が見る限り、初日の様な変化も無さそうです」

医師「文献通りで正解だったと、私も胸を撫で下ろしています」


従妹「…あの、先生」

医師「はい、何でしょう?」

従妹「先生の仰られる『文献』とは一体何なのでしょうか?」

医師「特定体液依存症候群についての、ですか?」

従妹「…先日、向こうの病院でお会いした時に、聞きそびれてしまって」

兄「初めて聞く病気ですし、咄嗟の対処法や、どれぐらいまで分かっているかを教えて頂けませんか?」

医師「…道理ですね」


兄「………………」ドキドキ
従妹「」ドキドキ

医師「しかし、残念ながら私も多くは知りません」

兄「は?」
従妹「え?」

医師「もう一度言います。私もよく分かりません」メガネクイクイッ

従妹「あの?

医師「現状、医療者が知り得る情報は、貴方方と然程変わりないと言っています」

兄「しかし…」グッ

医師「…この回答にご不満なのは理解しています」

従妹「では何故、私はこの町に?」


医師「ふむ」

プルルル…

医師「ああ、私です。内線4番を」

医師「………………」

医師「…はい、私です。彼は来ていますか?

医師「そうですか、分かりました」ガチャリ

医師「…さて、3fの歯科の患者さん相談室に行って下さい」

兄&従妹「???」クビカシゲ

医師「何分偏屈な男でして、…エレベーターは右手奥です」


兄「…あの? どなただったんです?」

医師「ああ、そうですね。大切なことを忘れていました」


医師「…只の『症候群の名付け親』ですよ」

訂正

医師「只の『�・』」

医師「…只の名付け親ですよ」


―3f 相談室―


歯科医「…すまん、お待たせを」ヨッコラセ

兄「いえ、特に」

従妹「……………」

歯科医「やあ、君が噂の患者か」ジロリ

兄「ええ、ここに来れば全て教えて頂けると聞きました」

歯科医「…ああ、良いとも。幾らでも」


兄「まず、この症候群の原因は?」

歯科医「現状不明だな、遺伝性とも突発性とも言える」

兄「では何故、俺の体液だけが効果があるのかも?

歯科医「原因不明だから、作用機序も当然分からん」オテアゲ

兄「だとすれば」

従妹「…どうやって私の病気の特定が出来たのですか?」

歯科医「単純な話だよ」

パサリ

歯科医「これが我々の手元にある文献の全てだ」


兄&従妹「?」ヨメナイ

歯科医「君達、マジャル語は?」

従妹「…………」フルフル

兄「いえ、さっぱりです」

歯科医「む、そうかそうだな」ショボン

従妹「…何が書いてあるかは読めませんが、随分古そうな資料ですね」

歯科医「ああ、凡そ400年前の殴り書きさ」


兄「…エクセリ……バソリー…」

歯科医「バートリ・エルジェーベト」ヤレヤレ

従妹「!」

歯科医「そう、ハンガリーが誇る吸血淑女」

従妹「…エリザベート・バートリ」ボソリ

歯科医「君達を救う可能性を秘める、この世に唯一の尋問録だよ」

103訂正

兄「…エクセリ…バソ…」

歯科医「バートリ・エルジェーベト」ヤレヤレ

従妹「!」

歯科医「聞いたことあるみたいだな?」

従妹「…ハンガリーの吸血夫人」コクリ

歯科医「そう、日本ではエリザベート・バートリの名前で一般大衆に認知されている



従妹「悪名高い魔女と、私に何の関係が?」

歯科医「…君の同類」ビシッ

従妹「……………」ゴクリ

歯科医「正確には、これらは彼女の自伝にして尋問録」

パラパラ…

歯科医「見たまえ、この訳文を」

【1596/6/13 投与……血液:グラス3杯】
【 結果 → 良好】


歯科医「おや、奇しくも416年前の今日の日付だな?」クスクス

兄「……………」

歯科医「まだ全訳を終えていないが、我々が君達に提示した治療法は彼女の闘病生活に遵守して行って貰っている」

歯科医「…ということは分かるだろ?」

歯科医「…我々が従妹君をこの地に呼んだのは、最悪の事態に備えた『隔離』が目的なんだよ」


歯科医「御理解頂けたかね?」


―同日夜 自宅2f兄の部屋―


コンコン…

兄「入るぞー」

従妹「…うんどうぞ」

兄「お前の部屋のベッド、シーツ替えといたからな」

従妹「………うん」モクモク

兄「…生返事だな」

従妹「………………」ペラッ

兄「読書も良いが卓上ライト付けろよ。目を悪くするぞ?」

従妹「…付けないでっ!」

兄「!」ビクッ

失礼しました

付ける→点ける、です。


従妹「…あ、兄さん、大声出してご免なさい」シュン

兄「…お、おう、気にすんな」

従妹「そ、それで兄さん、どうしたの?」

兄「いや、単に寝具の用意が出来たから、声を掛けたんだが」

従妹「ん、ご免なさい」

兄「だから気にすんな、それよりその資料役に立ちそうか?」

従妹「…微妙かな?」


兄「微妙?」

従妹「解読が冒頭の2割程度、兄さんも一緒に読む?」

兄「いやいや、俺は文学と相性が悪くてだな…」

従妹「…残念」ションボリ

兄「まあ、寝る前では付き合っても良いけどな

従妹「うん、さすがに一人だと心細くて…」

兄「お前、その吸血女の歴史に詳しいのか?」

従妹「何年か前のフランス映画で」

兄「…どんな奴だったんだ?」


従妹「…すっごく端的に説明しますが、エリザベート・バートリは54歳に亡くなるまでに少なくとも80人の若い女性を拷問死させた大悪女です」

兄「少なくともってことは?」

従妹「記録によって異なりますが、伝説上では650人以上を殺害、当時の教会からは300人以上を殺したと…」

兄「…まさに吸血淑女だな」

従妹「はい、けれどこの資料を読むと、実際は映画以上に複雑怪奇な運命を辿ったみたいですね」

兄「悪いが、手短に頼む」

従妹「…はいはい」クスクス


従妹「エリザベート・バートリは、1560年にハンガリー王国の貴族として生まれました」

従妹「…彼女は容姿端麗、数ヵ国語を話す才女だったのですが、とてもヒステリックや一面も持っていた様です」

従妹「彼女の発病はよく分かりませんが、症状に気付いたのは20歳少し越えたくらい」

従妹「…ある日ふと気が付くと、…そのあの」ゴニョゴニョ

兄「?」

従妹「…ええと、お尻に痛みを感じ、誰のものか分からない体液が垂れていたそうです!///」

兄「…………」

従妹「最初は戸惑っていた彼女でしたが、やがてその犯行が自分が意識を失っている間にだけ行われている点から、身内の犯行と知り得た様です///」


兄「…結婚はしてたのか?」

従妹「…はい確か14、5歳で、年上の軍人さんと」

兄「…旦那さん複雑だな」

従妹「…いいえ、彼女が気づく前に、旦那さんは彼女の異変に気付いていて、同時に、いつ彼女が正気に戻るかも分かっていたため、あえて彼女の親族に襲わせていたみたいです」

兄「…相手は?」

従妹「記録では、兄と叔父」

兄「…………」

114訂正

兄「…エリザベートは結婚していたのか?」

従妹「…していて、実の夫の指示で行われていたようです」

兄「…えーと?」ゲンナリ

従妹「ほら見て下さい、従者の愚痴がメモしてあります

【いかに旦那様と言えど、あの行為だけは…】
【…まして、大人しく従う御実兄も御実兄だ!】

兄「…読んでていたたまれん」

従妹「そして当時は戦時中でしたから、夫不在のあいだに、エリザベート自身も、ほとんど答えに近い答えに行き着いたようです」


兄「…………」

従妹「自らを被験者にした実験は一応の成功を見ます」

従妹「彼女は日常において、普通の意識レベルを保てるようになりました」

従妹「…自らを汚し続けることによって」


従妹「一見すれば、妻の淫奔な生活」

従妹「…その噂は悪評となって、戦地の夫のもとにも届けられます」

従妹「…彼の苦悩は凄まじく、悩み抜いた末にある一つの決心を固めます」

従妹「『敵兵捕虜を用いた人体実験』」

従妹「…後世、その残虐さから『黒騎士』と呼ばれる彼は、その実、ただ自らの妻に愛を捧げただけに過ぎません」


従妹「…と、いった場面で訳文は終わっています」ペラリ

兄「これを書いた人間は誰なんだ?」

従妹「解りません、…けれど、筆跡は一つではないことだけは分かります」

兄「…悪女、か」

従妹「…………」

兄「映画だと、どんな感じで描かれているんだ?」


従妹「…ええと、お恥ずかしいのですが///」

兄「?」

従妹「当時は私も子供でしたから、エッチでキラキラ、何か痛そうという曖昧な記憶しかありません」

兄「…そっか叔父さん、そういう映画を子供に見せそうにないしな」

従妹「昔気質のお堅い人ですから」クスクス


兄「…で、その後のエリザベートはどうなるんだ?」

従妹「覚えている限りで良いですか?」

兄「おう、さっぱりこっちは前知識が無いから新鮮だよ」

従妹「…ええと」


従妹「…確か、彼女の夫が死んでしまう頃から魔女は残忍な本性を現し、村娘を自分の城に誘拐して殺すに飽きたらず、下級貴族すら毒牙にかけたと」

兄「…はー、とんでも無いな」

従妹「どんな事情があるにしろ、彼女が殺人を犯したのは史実です」ハァ…

兄「…淋しそうに笑うなよ」ポンポン

従妹「…頭叩かないで下さい、もう子供じゃありません」ペチペチ


兄「何にせよ、病気が早めに見つかったんだ。お前はきっとツイてるぜ?」ポンポン

従妹「…だと良いのですが」ハァ

兄「ほーらー、わーらーえー」ホッペヒッパリー

従妹「…ひひひゃん、ひはひてふー」

兄「うし! 難しい話は明日にしよう!」

従妹「…はい、お休みなさい兄さん」クスクス


―深夜の居酒屋-


医師「…貴方は患者にもっと優しい口調で…」グチグチ

歯科医「…………」ウッゼー

医師「聞いていますか」グチグチ

歯科医「…あー、きーてるきーてる」ウンザリ

医師「まったく…」グチグチ


(6月14日)


兄「…おはよー」アフアフ

従妹「お早うございます!」シャキ!

母「あらお早う、珍しいわね、兄が早起きなんて 」

父「従妹ちゃんのお陰だろ。…ウチのグータラを起こしてくれて、どうもありがとな」

従妹「いえ、兄さんを起こすのは私の役目でしたから」ニコリ

父「そうか、そうだったな」ウンウン

母「ああ、確かに懐かしいわね。じゃあ兄のことを『にいさん』って呼んでるのも?」

従妹「…昔の癖です。兄さんは兄さんです///」

父「良かったな果報者」

兄「うるさいよ父親」

母「…あらあら」ウフフ


ピンポーン

母「どなたかしら? こんな時間に?」

兄「…多分友と女。従妹の制服姿が見たいんだと」ヤレヤレ

従妹「でしたら私、玄関を開けてきます」

パタパタ…

父「…おい兄よ」

兄「何だよ父親」

父「あの子の病気について、向こうから聞いてるか?」

兄「…ああそれが?」


父「とやかくは聞かん。何かあったら大人を頼れ、分かったな?」

母「お父さん、心配し過ぎです」ウフフ

兄「…分かってるさ」

パタパタパタパタ…

従妹「ただいまです、とりあえず玄関框で待って貰いました」

父「いい子だ、卵焼きを進呈しよう」ヒョイッ

従妹「いただきます」パクリ

母「お行儀悪いですよ、ほらほら座って座って」

父「ということだ、くれぐれも頼んだぞ?」ムシャムシャ

兄「…あいよ」モグモグ

従妹「?」


キーンコーンカーンコーン…
…ワイワイガヤガヤ…

-1f 第一学年教室-


従妹「…皆さん初めまして、従妹と申します」

クラスメイト
「うわっ!アルビノ!初めて見た!」
「白っ!それ地毛!?」
「可愛い!ってか、小さい!

従妹「…ええと、これから宜しくお願い…」

クラスメイト
「写メ撮れ!写メ!」
「…パンツ何色!」
「触って良い!…いやいやお持ち帰りして良い!?」


担任「お前ら落ち着け�・、黙らないと腹マイトすんぞ�・」

クラス一同
「「「……………………」」」ピタリ!

担任「お�・し、質問は右の列から順に一人一個までだ」

従妹「???」

担任「転校生も質問返しは一人一個までだ」

従妹「……?」

担任「転校生、分かったら返事をしろ」

従妹「…は、はい」オソルオソル

担任「ほいじゃいくぞ�・!」

……………………
…………

従妹「…ということが在りまして」ビクビク

友「そりゃ腹マイトだな」
兄「ああ、腹マイトだな」
女「うん、腹マイトだろうね」

従妹「はらまいと?」

兄「ウチの名物教師の一人で、二言目には『腹マイト』」

女「…物腰は、割りと柔らかい方なんだけどね�・」アハハ

友「因みに、腹マイトってのは腹にダイナマイトを括りつけた状態を挿す」

従妹「不思議な先生ということは分かりました」


兄「…で、どうしてお前が俺達の教室に?」ハテ?

従妹「…ええと、その///」

友「分かるぞ�・、転校生の運命とはいえ、人見知りにパンダ役は辛いもんだ」

女「そっか、パンダか�・」

従妹「…はい、今朝からずっと質問責めで」フニャー

友「なら今は兄の背中に甘えとけ、放課後はもっと辛いぞ�・ 」

兄「…………」ナルホド!

従妹「うううううぅ」フラフラ


後輩「あ! 従妹ちゃん見っけ!」ドタドタ

従妹「…ひぃぃぃい」ヘニャー

友「お、後輩じゃん。今日も元気だな」

後輩「友先輩! 女先輩!兄先輩!ちわっす!」ペコリ

女「後輩ちゃん、もしかして従妹ちゃんを?」

後輩「そうなんですよ! これから一緒に昼御飯食べる予定です!」フンスフンス!

兄「そっか、ウチの従妹と仲良くしてやってくれ」オシダシオシダシ

従妹「…兄さん!鬼!悪魔!」フンバリフンバリ!


後輩「…それじゃあ先輩方、失礼しました」カツギアゲカツギアゲ!

従妹「……………………」←諦めた

兄「ああ、宜しく頼む」ニコニコ

後輩「お任せ下さい!!!」ニッコリ


ダダダダダダダ…………


兄「…ふっ、ミッションコンプリート」アセフキ

友「…お前ドs?」

女「…弩級のドsだよ」

キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン


先生「放課後だ!お勤めご苦労!生水飲むな!水道飲め!あばよ!」

兄「…さて、そろそろ時間だな」イソイソ

友「兄�・、風紀委員として逃がさねぇぞ�・」ガシッ

女「そうだよ�・、同じ町内会としても昼休みの非道は許せないよ�・」ガシッ

兄「逃げも隠れもせんから早く支度してくれ」ハァ…

友&女「?」

兄「…不思議そうな顔すんなよ」

女「え? 」
友「ほえ?」

兄「ほら、ウチの可愛い妹分を向かえに行くぞ」

友&女「???」


-1f 保健室-


兄「ちーっす、従妹を迎えに来ました」ペコリ

保険医「…遅かったじゃないか」ハハハ

兄「従妹は?」

保険医「見世物生活に絶えきれず、奥のベッドで世を儚んでるさ」

兄「ありがとうございます」ニコリ

保険医「なーに、これも大人の役目さ」

兄「では、失礼します」テクテク

保険医「ほらほら、廊下の二人も早く入ってくれ。通行の邪魔になる」

友&女「………?」テクテク


兄「よ、お疲れ様」ナデナデ

従妹「…兄さん遅いです」プンスカ

兄「悪い悪い、後ろの二人がわからず屋でな」ナデナデ

友&女「…………」ポカーン

兄「どうだった? しっかり見られてきたか?」ナデナデ

従妹「…はい、バッチリだと思います」チョットションボリ

兄「お前は強いな、俺の自慢の従妹だ」ナデナデ

従妹「そうでしょうか」

兄「そうだとも」


女「…えーと、男君?」

友「説明を要求したいのだが?」

兄「…あ、いやこれはだな」

保険医「シナリオと脚本が兄君、主演女優を従妹君。踊らされる観客abがあの二人かね? 」

兄「ええ、まあ」ポリポリ


従妹「すいません、女さん友さん」ペコリ

兄「…今朝、急にウチの親から聞かされた作戦でな、説明しなかったのは謝る」ペコリ

友&女「?」

保険医「分かりやすく言えば、君達二人は従妹君が衣替えをしている時期に長袖をする理由を理解しているかね?」

女「ええ」コクリ

友「…なんとなく」コクリ

保険医「ん、なら後の説明は兄君と従妹君の役目だな?」

兄「………」コクリ

従妹「…すいません、私の我が儘が原因です」


ヌギヌギ…

従妹「…ほら友さん、見てください」スッ

友「…………」

保険医「実に見事なケロイドだ。…苛めが原因かね?」

従妹「…………」コクリ

兄「…沸騰したお湯をな、こう、右肩から腰にかけてぶっかけられたらしい」

友「…………」

兄「情けないが、…俺も実際に目にしたのは初めてだ」

保険医「ご苦労、服を着たまえ」

従妹「…………」コクリ


従妹「私の姿は只でさえ目立つのに、こんなのがあったら気味悪がられても仕方ないじゃないですか…」

女「…兄君はいつ傷のことを?」

兄「初日、お前らがウチの風呂に入ってる時に」

女「…なあんだ、最初から知ってたのか。気を張って損したよ」

兄「すまんな、知ってて策を練ってた」

女「…おし! その件は後でデコピン3回で許そう!」


友「で、お前らの策ってのは?」

従妹「…何事も第一印象が大切」

兄「初日恒例の行事のイニシアチブを取り、ここぞという時にチラリズムを発揮させる」

保険医「…クラスメイトの度肝を抜いて、友人を篩にかけたか、この悪童め」ニヤニヤ

兄「ぶっちゃければ、見た目だけで全てを選ぶ様な人間に、こいつの友人を任せられない兄馬鹿なんですが」

友「…………」


従妹「…ごめんなさい、友さん」フカブカ

兄「逆に、これぐらいの壁を越えてくる友人であれば、こいつも心を開き易かろうと」ナデナデ

従妹「…明日が来るのが怖いです」

兄「なーに、一人か二人の物好きはいるもんさ」ナデナデ

保険医「あっはっは、それは策士の行動というより博徒の仕様じゃないか?」ゲラゲラ

兄「…反論はしませんよ」ナデナデ


保険医「…そして賭けは君達の勝ちだな、ほら入って来い!」ケラケラ

従妹「?」ナデラレナデラレ

クラスメイト
「………」
「……………」
「……………………」ゾロゾロゾロ…

保険医「全く揃いも揃って湿気た面しやがって!」

保険医「ほらほら! てめぇら言いたい事は口にしろ!」

保険医「全く全く! この学校てヤツは!」

保険医「…揃いも揃って、気の良い連中の集まりだぜ!!!」

訂正

全く全く!この学校てヤツは!

全く全く!この学校の奴等ってのは!

-同日 夜-
―自宅2f 兄の部屋―


ショボボボボ…………

従妹「…………」ゴクゴク

兄「今日は楽しかったか?」ショロロロ…

従妹「…………」コクリ

兄「友達、一杯出来ると良いな」ショロロロ…

従妹「…………」コクリ

兄「っと、そろそろ口を離してくれ」

従妹「…………」ズズッ

兄「…ううっ!?」ゾクゾクッ

従妹「…………」ペロペロ


兄「…ん、何か丁寧だな?」

従妹「お掃除完了です。…兄さん、耳を貸して頂けますか」クイクイ

兄「おう、別にいいぞ?」スッ

従妹「…」チュッ

兄「…………」

従妹「…それじゃ兄さん、また明日///」


トテトテ…バダン!

兄「…………」ホオニテヲアテ

兄「…小便臭い」


(6月15日)
―早朝―


ザアアアア…

兄「…今日は雨か」

従妹「兄さん、入りますよ」コンコン

兄「ん、どうぞ」

従妹「…失礼します」ガチャ

兄「…お前は礼儀正しいのな」アフアフ

従妹「?」

兄「…いや、別に悪いことじゃないんだがな」

従妹「兄さん、では今日の分を」アーン

兄「…ああ背徳的」

ジョロロロ…………

従妹「いただきます」ンクンク


キーンコーンカーンコーン…

友「…で、医者の資料コピーは何処まで読めたんだ?」

兄「従妹いわく、全体の2割だそうだ」

友「 ? …400年間でたった2割か?」

兄「…あくまで邦訳が2割。現地語版で約5割だとさ」

友「5割?」

兄「…途中からエリザベートが悪魔信仰に走ったらしくてな、筆記者も秘密文字を用いてやがる」

友「電波と邪気眼全開、魔女の本領発揮だな」

兄「しかも隠語も使ってるから何が何やら」


友「難儀そうなら手伝うぞ?」

兄「ありがたい、今日の昼飯は好きに頼んで良いぞ」

友「くっくっく、ならば片端から注文しよう」

兄「…やれやれ」ハハハ

ザアアアアアア…………

兄「…雨は憂鬱だな」


キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン…

先生「放課後だ!初夏だ!梅雨だ!食中毒だ!あばよ!」

兄「…いかん寝てたな」アフアフ

女「おーい兄君、従妹が来てるよ�・」

従妹「どうもです兄さん」エッチラオッチラ

兄「あいよ、…って凄い荷物だな?」

従妹「新しい教科書一式です」ドッサリ

兄「ほら、貸せ貸せ」ヒョイッ

従妹「…あっ」

兄「その代わりに傘を頼む。濡れ鼠は勘弁だ」

従妹「任せて下さい兄さん」ニコニコ


女「えらくご機嫌だね?」

従妹「はい、この荷物を兄さん達の教室に持ってくるのを、手伝ってくれたクラスメイトが居てくれたんです」

友「おー、おめでとう。その調子だな」パチパチ

従妹「はい!」ニコニコ

兄「その子にお礼言わないとな。何処だ?」

従妹「…先程まで一緒だったのですが?」クビカシゲ

友「先輩の教室だから遠慮したのかもな」

兄「何にせよ、良い傾向だな」オシ!


―同日夕方―
―自宅 2f 従妹の部屋―


兄「ここまでで良いか?」ヨイショ

従妹「ありがとうです兄さん」ヨッコイショ

兄「…引っ越しの荷物はまだ届かないのか?」

従妹「はい、きっと荷造りに手間取っているんだと思います」クスクス

兄「お前の部屋なのに、私物がpc一台だけなのは寂しいもんな」

従妹「今日からは、この教科書も仲間入りです」

兄「そうだな」ナデナデ

従妹「ふふっ。…あら、メールランプが?」


兄「誰からだ?」

従妹「…歯科医さんからですね」

兄「あのイケ好かない歯科医か…」ヤレヤレ

従妹「翻訳文の続きと他の患者さんのデータを送信したいそうです」

兄「俺の部屋のpcを使うか?」

従妹「いえ、兄さんとは直接お話ししたいそうなので、私の方に送って貰います」

兄「えー」

従妹「露骨に嫌そうな顔しないで下さい」クスクス

兄「分かってる、後で転送しておいてくれ」


従妹「これが歯科医さんの番号です」

兄「…ううう」


プルルルル…………

歯科医『…誰だ、間違いなら切るぞ?』

兄「…兄と申します、歯科医さんの番号でしょうか?」

歯科医『いかにも歯科医だ』

兄「先程、従妹がメールを頂きまして」

歯科医『…その場に従妹君は?』

兄「…居ますが代わりましょうか」チラッ

従妹「?」

歯科医『結構だ』


兄「………」

歯科医『外は雨が降っているかね?』

兄「小雨ですが」

歯科医『ならば、雨水を所望したい』

兄「え? 雨水を汲んでくれば良いんですか?」

歯科医『早くしたまえ』

従妹「………?」

兄「…すまんが雨水を汲んでくる」

従妹「…行ってらっしゃいです?」エート?

兄「…おう、行ってくる」ハァ

ガチャリ


―5分後―
―近くの公園―


プルルルル…………

歯科医『…ふむ、近くに従妹君は?』

兄「自宅で資料を読んでいます」

歯科医『ああ、それでいい』

兄「…そんなところだと思いました」ハァ

歯科医『察しが良いのは此方としても助かるな』

兄「お話しというのは?」

歯科医『…まず最初に、君と従妹君の関係を聞かせてくれ』

兄「? …親戚ですよ、叔父の娘です」


歯科医『いや、男女関係の方を聞きたい』

兄「………?!」ブッ!

歯科医『どうしたのかね?』

兄「いえ、別に…」ゴホゴホ

歯科医『それで、二人はどの様な関係なのだね?』

兄「…それは治療に関係が?」

歯科医『関係無ければ誰も聞かんだろう?』

兄「…………」


歯科医『別に君達を責める気はない。意味を履き違えるな』

兄「…昔馴染みの親類だと」

歯科医『彼女に女としての魅力を?』

兄「まあその、多少…」ゴニョゴニョ

歯科医『そうか、まあ性的嗜好は人それぞれだが…』

兄「…………」コノヤロウ

歯科医『従妹君がこの先子供を作れない身体だとしたら君はどう答えるかね?』

訂正


歯科医『�・作れない身体だとしたら君はどうかね?』

歯科医『�・作れない身体だとしたら、君はどうかね?』

ヤバい!

どうかね?→どう答えるかね?、です。


ザアアアアアア…………

兄「…え?」

歯科医『おや、雨足が強まったようだね』

兄「…ええと?」オロオロ

歯科医『落ち着きたまえ、まだ可能性の話だ』

兄「可能性、ですか?」

歯科医『先刻従妹君に送った患者データは眉唾物も含めて6人分あるのだが、そのいずれの症例に関しても、発症後に患者の成長が鈍くなる傾向がある』

兄「…は、はい。それは以前医師さんも」

歯科医『だか、それらの例は全て、完全に二次成長を終えた人間の症例だ」

兄「………」

歯科医『現在、従妹君はまだ初潮前の段階にあることは、君も彼女の外見から推察出来るはずだ』

兄「…はい」


歯科医『そして私の手元には、7人目のデータがある』

兄「…………」

歯科医『1972年の旧ソ連、現在のウクライナ』

兄「…………」

歯科医『発症したのは、当時まだ5歳の女の子だったそうだ』

兄「…………」

歯科医『彼女の写真は以降8年間、彼女が発狂死するまで一切の変化が認められない』

兄「…………」

歯科医『…この事実、どう従妹君に伝えれば良いのかね?』


―再び 2f 従妹の部屋―


従妹「あ、兄さんお帰りです」

兄「…おう」

従妹「ふふっ、何か言われたみたいですね」クスクス

兄「いや、何でもない」ブンブン

従妹「でしたら、こちらにどうぞ」

兄「…ん、資料の方はどうだ?」

従妹「なかなか興味深いものばかりです」カチカチ

(資料1)

発症場所…………1745年フランス
患者…………15歳少年
経緯…………パリ近郊に住む農夫が修道院に持ち込む。
経過…………病状安定せず。
最後…………まもなく死亡。
死因…………衰弱死(資料に治療の痕跡なし)


(資料2)
発症場所…………1844年イギリス
患者…………23歳女性。
経緯…………カーディフに住む近隣主婦の密告により発覚。
経過…………夫の監禁から救助後、まもなく死亡。
最後…………衰弱死(資料に治療の痕跡なし)


(資料3)
発症場所…………1923年アメリカ
患者…………41歳男性
経緯…………不明。
経過…………不明。
最後…………自殺(暴行による他殺の可能性あり)

(資料4)

発症場所…………1968年西ドイツ
患者…………33歳女性
経緯…………ボン市内の入院患者
経過…………病状安定せず。
死因…………衰弱死(治療の痕跡あり)

(資料5)
………………………………
……………………
…………

従妹「患者の部分をクリックすれば当時の記録が閲覧可能みたいです」

兄「…よく集めたもんだな」

従妹「ええ、確かに。現在の治療法が見つかったのは、1981年のルーマニアの患者です」

兄「…ええと」カチカチ

従妹「荒れた環境で、日常的に飲尿行為が行われていたケースです」

兄「…………」

従妹「偶然とはいえ、その女性は12年間正常を保ち続けました」


兄「…12年間」

従妹「彼女の記録によって、1997年オランダの少女も発症後7年正常を保ちました」

兄「…………」ギリッ

従妹「そして現在7人目の私ですが、既に発症後2年が過ぎています」

カチカチ

従妹「…あと何年正常か、まだ誰にも分かりません」


兄「しかし、今は」

従妹「…未解読ですが『恐らく完治したのだろう女性』の記録があります」

兄「頼みの綱、希望はまだあるか」

従妹「ふふっ、まだまだ希望も時間も充分ありますよ」

兄「ははっ、病人に言われちゃ世話ないな」

従妹「そうですその意気ですよ、兄さん!」ニコリ!

―同日夜―
―2f 妹の部屋―


兄「…で、大した成果は無し」アフアフ

従妹「わ、もうこんな時間ですね」

兄「ずっとpc見てたから、目が…」ショボショボ

従妹「目薬使いますか?」

兄「さすが従妹、抜かりがない」アリガトー

従妹「どういたしまして」ニコリ


兄「…晩飯どうするかな?」

従妹「母さんは?」

兄「今夜は泊まり。看護師の仕事が大変らしい」

従妹「…この部屋の主は?」ビクビク

兄「安心しろ、姉貴は大学。帰ってくるのは夏休みだ」

従妹「…」ホッ


兄「父さんも遅いし、どっか食べに行くか」

従妹「もう少し早ければ、私が準備出来たのですが」ショボン

兄「…そりゃ残念」ナデナデ

従妹「………///」

兄「お、雨上がってたのか…」ナデナデ

(一週間後…6月22日)


兄「…従妹が可愛すぎて、生きるのが辛い」

友「今日は随分ぶっ飛んでるな?」

兄「…友か」ギンギン

友「どーしたよ? 寝てないのか?」

兄「…no」

友「従妹ちゃんと喧嘩ってことないんだろ?」

兄「…yes」

友「あと考えられそうなのは?」エート?

女「…オナ禁でしょ?」ヒョコッ

友「ああ、そっか」ナットク!

兄「///」ギンギン

―昼休み―
―学校 屋上―


友「…おい俺の彼女、今何を口走った?」

女「だからオナ禁…?」

友「少しは恥じらいを持てと言っとるのだ」ヤレヤレ

女「それで、今日で何日目かね?」ワクワク

兄「…二週間」ギラギラ

女「あっはっは、お兄ちゃんとしては実に天晴れだね」

女「」


従妹「あ、兄さん見つけました!」

後輩「ちっす!先輩方!今日も宜しくっす!」

友「よう! 従妹ちゃんに後輩ちゃん」

従妹「兄さん、今朝玄関にお弁当忘れてましたよ。寝ぼけグセは相変わらずですか?」ドーゾ

兄「…すまん」ドウモ

女「ほら、皆揃ったしご飯にしよう!」

…ワイワイガヤガヤ…

兄「………」ギラギラ

友「こりゃ重症だな」ハァ…

すまそ訂正171


二週間 → 10日目
末尾の『女「」』→削除、度々すいません。

-同日 放課後-
-図書館-


兄「…アルビノ、アルビノ」ペラペラ

兄「あったあった」

兄「…アルビノは、正式名称を先天性白皮症等と呼ばれる遺伝子的疾患である」

兄「…特徴的な外見の他、多くの場合、患者は眼症状を伴う 」

兄「…これは体色素メラニンの生成が出来ず、光が眼球内において乱反射してしまうために起きる現象で、光量の調節が出来ない患者にとっては不可避の現象である」

兄(…あいつ、小さい頃は色があったよな?)

兄「なら、後天性白皮症か?」ペラペラ

兄「…後天性白皮症は、現在難病認定されている特定疾患である」

兄「主に脳腫瘍、腎疾患、精神的身体的劣成長が見られる」


兄「…附記、この物語の作者は、こうした事情に考慮しているため、情報を小出しにする手法でしか表現出来なかったことを慎んでお詫び申し上げる」

兄「実際のアルビノ患者は、病状として、特定の人間の体液を求めることはありません」

兄「…なんだこりゃ?」

ガラガラ…

従妹「あ、兄さん。兄さんも調べものですか?」

兄「おう、写経の代わりに文字の海に手を出してみた」

従妹「…写経、ですか?」

兄(…こいつ今、普通に文字を読んでるよな?)


従妹「ああ、なるほど。私の身体の心配をして下さっていたんですか」

兄「…………」

従妹「大丈夫です。私の場合、単に色素が作られない点では実際のアルビノさん達とは共通していますが、身体の他の部分に異常は見つかっていません」

兄「…なら、その目は?」

従妹「はい、少し強い度入りのカラコンで視力矯正の効く範囲内です」ニッコリ

兄「…そっか、そうなのか」ホッ

従妹「まったく、兄さんは気を使いすぎです。禿げちゃいますよ?」クスクス


兄「…お前はどうして図書館に?」

従妹「はい、独日語辞典をお借りしようかと」

兄「ドイツ語辞典を?」

従妹「ええ、先日の資料にドイツ語での記述があったので、自力で翻訳してみようと思ったんです」

兄「…なるほど」

従妹「と、いうわけで、隣の席に座っても良いですか兄さん?」チャッカリ

兄「…………」

従妹「�・♪」イソイソ

兄(…くそっ! 静まれ俺の性欲っ!)ムラムラ

-同日 夜-
-自宅 2f 兄の部屋-


兄「…と、いうことがあってだな」

友『つーか、俺に電話で愚痴るぐらいなら大人しくオナニーしろよ』

兄「…その液体が付いたブツを、あいつは口に含むことになるんだぞ?」

友『…あー、何となく把握した』

兄「あいつは生きるために仕方なく…」

友「それに対して、お前の場合は単なる欲望の捌け口だもんな」

兄「…………」


友『…自分を慕ってくれる可愛い妹分は、ミステリアスな外見とアンバランスな精神年齢。しかも毎日お前のブツを口に含んでは、早く出せとおねだりをする…』

兄「…最近はアレを溢さないようにと、自発的にブツを喉奥まで呑み込む始末』

友『なん、だと?』

兄「…保護欲と征服欲、それに背徳的な快感がない交ぜになる中、『ありがとう兄さん』と言って、ご丁寧にお掃除までしてくれる」

友『想像以上に壮絶な生殺しだな?』


兄「…生殺しが半端ない」

友『でも、女の話だと、初日に精子飲ませたらしいじゃん』

兄「…ああ」

友『今さらと言う気もするぞ?』

兄「…お前は、無抵抗の女の子の口に無理矢理精液を流し込むシチュエーションと聞いて、何を思い浮かべる?」

友『そりゃレイプだ。婦女暴行』

兄「だろ?俺もそう思う」

友『…まさかお前、その事を従妹ちゃんに話したのか?』


兄「話さん理由が無いだろう。…土下座して謝ったさ」

友『…………』

兄「そしたら、申し訳なさそうに笑って、『…しょうがないですよ兄さん』なんて言う始末。このシチュエーションどうしろと?」

友『…きつ過ぎる』

兄「で、その後も懸命に飲み続ける姿を見たら…」

友『…日本男子として紳士になるしかない』

兄「それが当然の帰結だろ?」

友『俺、普通の女の子が彼女で良かったわ…』シミジミ

兄「共感頂けて良かったよ、我が友よ」

友『それで肝心の従妹ちゃんは?』

兄「…今、病院で健康診断を受けているらしい」モンモン

友『…お前の健闘を、心から応援させて貰う』

(翌日 6月23日)

-早朝-
-自宅 2f 従妹の部屋-


従妹「…………」パチリ

従妹「…142cm、33kg」

従妹「…朝起きても、やはりこの記録は変わりませんか」

従妹「…………」

従妹「…どこの小学生5年生ですか私は」ボソリ

従妹「…ゴミ箱ゴミ箱」

クシャクシャポイ

従妹「…………」

従妹「…さて、兄さんの寝顔を見に行きましょう」

キーンコーンカーンコーン

従妹「…女さん女さん」クイクイ

女「お、従妹ちゃんお早う。お昼休みはまだだよ?」

従妹「いえ、お聞きしたいことがあります」

女「?」

従妹「今朝、いつもの時間に起きたのですが…」

女「うん」

従妹「兄の部屋がもぬけの殻でした」

女「? …兄君にしては珍しいね」


従妹「はい、兄さんは基本お寝坊です」

女「それでそれで?」

従妹「…下の階に降りると、お風呂場の方から物音が」

女「兄君、朝風呂派だっけ?」

従妹「いえ、良くてシャワーまでです」

女「それでどうしたの?」

従妹「…はい、ドアを開けました」

女「うんうん」

従妹「そこには兄さんが居て…」

女「」←嫌な予感

従妹「…洗面所で、泣きながら下着を手で洗っていました」

女「……」

従妹「この不可解な兄さんの行動を、女さんはどうお思い…?」

女「っ知らない知らないっ!///」


キーンコーンカ-ンコーンキーンコーンカーンコーン…


先生「放課後だ!青春だ!部活だ!暴発だ!あばよ!」

兄「…今日は帰りたくない」

友「よう、女から聞いたぜ?」ニヤニヤ

兄「…何をだよ?」

友「お前の抵抗が終わったこと、と言われて心当たりは?」

兄「」


友「 青 春 大 爆 発 ッ!」ドドーン!

兄「うるせえやい」ボソボソ

友「まあ�・↑、お前の場合�・↑、青臭い汁だけどな→!」ババーン!

兄「…ぐぬぬ」ギリギリ

友「存分に歯噛みしたまえよ」

兄「………」ギリギリ

友「あれだけ親身に親友に大言壮語を吐いたんだ。反省しろ」

兄「すまん、友」ゲンナリ


友「敗因は?」キョウミシンシン

兄「その…、余計に意識し過ぎたのが敗因かと…」

友「肝心の、夢の中のお相手は?」ニヤニヤ

兄「…すまん覚えてない」

友「なんだツマラン」チッ

兄「悪いが、今は放っておいてくれ…」

友「あ、従妹ちゃんいらっしゃい☆」

兄「!!?」ビクッ!

友「…冗談、焦りすぎだバカ」ベシベシ

兄「危うく心臓が口から出かかった…」ドキドキ

友「安心しろ、あの子は今頃、2年前に受けるはずだった補講の真っ最中だ」ヤレヤレ

―同時刻―
―視聴覚室(貸切り)―


女「…以上、男女の仕組み講座でした。分かりましたか?」

後輩「つまりッ!体育会系の私はッ!好きな人ができたらッ!真っ先にッ!上と下の口でッ!しっかりくわえ込めとッ!」

女「絶対に違います。あと体育会系ナメすぎです」

後輩「しかし!本番で舐める行為は間違いではない!」ビシッ!

女「…」アタマイタイ

後輩「ではッ!女先輩ッ!勉強になりましたッ!」ガタッ!

ダダダダダダダダ…………

女「………」ポツーン

女「…どっか行っちゃったし」ナンナノアノコ?


女「それで従妹ちゃんはどう? 分かってくれた?」

従妹「…ええと、つまり兄さんのモノが暴発したと?」

女「いっぐざくとり�・」コクコク

従妹「…私は今日まで、他人のおしっこを飲む行為を恥じ、他人に汚いものを飲ませる行為に兄さんを巻き込んだことを恥じていました」

女「その認識は合ってるよ」ウンウン

従妹「…けれど、その行為が兄さんを苦しめていたなんて…」

女「…あれ?」

従妹「私、兄さんに謝らないと…」ガタッ

タッタッタッ…

女「…おーい、どうして話がそっちに飛ぶんだよ�・↓」ガックリ

―同日 夕刻―
―自宅 2f 兄の部屋―


プルルル…

兄「…くそう、結局一人で帰ってきちまった」

プルルル…

兄「叔父さん早く出てくれ!」

ガチャリ

叔父『…やあ兄君。久しぶりだ…』

兄「久しぶりです叔父さん! 俺、叔父さんに聞きたいことがっ…!」

叔父『その前に1つだけ…、…私の方から質問をさせてくれないだろうか?』

兄「?」エット?

叔父『…この二週間に、娘は何か一つでも君におねだりをしただろうか?』

兄「……」

叔父「お願いだ兄君。…どうか答えを聞かせてくれないだろうか?」


兄「おねだり、ですか?」

叔父『…何だって良い。美味しいものが食べたい、綺麗な服が着たい、《お金》なんて生々しいものだって構わない。…あの年頃の女の子が欲しがる普通のことを、だ…』

兄「……」エート

叔父『…無いなら無いで、…今は構わない…』

兄「あ、1つだけ」

叔父『…本当かッ!なんだ!娘は何を求めた!』

兄「《皆から嫌われたくない》、ただそれだけを」

叔父『』

兄「…最初、こちらも新しい学校に対し、転校生特有の不安から来る当り前の言葉だと捉えて『いました』」

叔父『……』


兄「今朝になって、やっとあいつの異常に気付いてやれましたよ」

叔父『……』

兄「あいつ、前の学校で何がありました?」

叔父『………』

兄「…俺は、夢精後、精液まみれになった男の性器を、『何故、あの年頃の女の子が臆面なく口に含むことが出来るのか?』と聞いています」

叔父『…………』

兄「…これ以上の沈黙は罪ですよ、叔父さん」

―同日 同時刻―
―山ノ上病院 5f 資料室―


医師「…調子は如何ですか?」

歯科医「悪くはないが、暗号解読はさっぱりだ」

医師「…そうですか」

歯科医「まあこれのお陰で、堂々と仕事をサボれるのは嬉しい限りだがね」

医師「…これを期に、民俗学に転向してみては?」

歯科医「歯科医改め、歴史家医に?」

医師「…誰が上手いことを言えと」

歯科医「こっちはボチボチ、ならそっちは?」

医師「…現在も修復中です」

歯科医「医師はこの家族と長いんだっけか?」

医師「…もう2年に」

歯科医「なら聞かせろ、きっとモチベーションが上がる」

医師「…良いでしょう」


医師「まずこちらを」パラリ

……………………
診療録


患者名…………従妹
診療日時……平成xx年x月x日
主訴……………娘が暴行を受けた。

……………………


歯科医「おい、これ?」

医師「…紙媒体で失礼。どうにも電子カルテはハイカラ過ぎて慣れません」

歯科医「…………」

医師「それが、この2年間の彼女の全てです」


歯科医「…いやいや、これはおかしいだろう?」

医師「…確かに主訴『暴行 』で、『意識がない』ではありませんね」

歯科医「………」パラッ

医師「…しかし彼女の初診は紛れもなく平成xx年x月x日です」

歯科医「…診断、全身大火傷及び…」

医師「より正確には、全身大火傷のまま不衛生な公園のトイレに一昼夜放置されたために、傷口が膿み始めていましたね」

歯科医「…全身打撲」

医師「…服を剥ぎ取られ、誰のものかも分からないナプキンを口に捻じ込まれ、火傷の上から汚水を頭から浴びせられたという報告も、私は知っています」


歯科医「その口振りなら病院に運び込んだのは…」

医師「…巡回中の婦警です。残念ながら、あの子の両親ではありません」

歯科医「……犯人は?」

医師「…彼女の同級生3名です。少なくとも症候群発症までは、友人と呼ばれて然る関係にあったと聞き及んでいます」

歯科医「…おい? 近頃の餓鬼は、やって良いことと悪いことの区別も分からないのか?」

医師「『医療行為』」

歯科医「…は?」

医師「彼女に対しての暴行は『医療行為』として、日常的かつ頻繁に行われていたようです」

歯科医「…ちょっと待て」

医師「『症候群によって意識を失った級友』に対し、『外部刺激』を与えることで『覚醒を促す』という『医療行為』だそうです」

歯科医「…え、おい、まさか?」

医師「事実、意識を取り戻すこともあったようです」


歯科医「……」

医師「事件は、『医療行為』がエスカレートした結果、コンビニから持ち出された熱湯を浴びせるに至っただけのこと」

歯科医「…汚水は」

医師「火傷の水ぶくれを見て掃除用バケツで便器の汚水をかけた『医療行為』」

歯科医「…ナプキンは」

医師「びっくりして飛び起きた際、彼女が舌を噛まないための『医療行為』」

歯科医「…酷いことを」

医師「冗談に聞こえますが、これらは全て実際に『犯人達の両親』の口から放たれた言葉です」


歯科医「…モンスターペアレント」

医師「私達も日々モンスターペイシェントを相手にしますから、あまり他人事ではないでしょう」

歯科医「…なら話は見えたな。そのクズ親共は向こうの有力者だな?」

医師「はい、一部、利権者もいましたがね」

歯科医「…従妹君の両親は?」

医師「事件後、彼女の両親には雀の涙ほどの口止め料が受け渡され、示談として扱われ、裁判沙汰には派生しませんでした」


歯科医「…記録だと」パラパラ

医師「6ヶ月の入院生活にリハビリが1ヶ月。、それからは自宅療養」

歯科医「…全ての担当医が『医師』の判子だな」

医師「お陰で、彼女のデータ収集のための時間には困りませんでした」

歯科医「…………」

医師「意識混濁を繰り返すにしろ、彼女の身体は健常者のそれと変わりありません」

歯科医「…そうか」

医師「その後は、貴方という奇特な知識を持つ医療者と知り合い、兄君という得難い協力者を得るに至る

歯科医「…………」

医師「…ただそれだけ、たったそれだけの2年間です」


歯科医「それだけか」

医師「ええ、それだけですよ」

歯科医「…やっぱり尊敬に値する」

医師「いえいえ、私は全ての『私の』患者が幸せになって欲しいだけの利己的な人間です」

歯科医「よし!また作業に…」パタン!

医師「あ、その前に1つだけ」

歯科医「なんだ?」

医師「…事件発覚までの約半年間の記憶を、飛び飛びながらも覚えていました」

歯科医「それが?」

医師「…事件後、虐待の経緯からか、彼女は自分の身体を『汚いもの』として認識しているそうです」

歯科医「…潔癖症の真逆の強迫観念」

医師「それの名付け親になって下さい。私はネーミングセンスが無いらしいので」メガネクイッ!

【キタナラシス(kitar-ra-sis)】

説明…………
強迫観念の一つ。

病状…………
極端な幸せ域値の低下。
自己卑下的思考。

原因…………
慢性的虐待、暴行などを受けた人間が『あの頃と比べればマシ』という現実逃避観念から陥りやすいとされる。

治療法…………
特になし。

その他…………
対義→シンデレラ投影
(自己を悲劇のヒロインとして扱うよう、周囲にも強要を強いる強迫観念)


備考…………
メイド従属症(maid-lo-sis)などと混同されやすい。

診断方…………
基本は問診が一般的だが、アンケート形式の質問表などを用いることもある。

(翌日 6月24日)

―早朝―
―自宅 2f 兄の部屋―


チュンチュン…

兄「…もう朝か」

兄「……」

兄「暴行事件の被害者…」ポツリ

兄「…娘の異変に気付かず、事件後も犯人は権力に守られたまま…」

兄「…残されたのは、真実を知らされず、意識の限り感謝を伝えようとする奇病の娘と、僅かばかりの見舞金…」

兄「『…私達夫婦は、あの素直な視線に耐えられない』」

兄「……」

兄「…分かりますよ、叔父さん」


トタトタトタ………

従妹「…起きてますか兄さん」コンコン

兄「ん、入って良いぞ」

従妹「…失礼します」ガチャリ

兄「………」ジー

従妹「? …寝癖付いてますか?」

兄「いや、言葉を選んでる」

従妹「? …変な兄さん」モゾモゾ

キーンコーンカーンコーン…


兄「…………」

女「おはやう兄君!」

兄「ん、女か」

女「ああ女だとも」エッヘン!

兄「…昨日、従妹の性教育ありがとな」サンキュー

女「どもども、それで効果あった?」

兄「…コンマミクロン単位?」チョッピリ

女「わーお微妙だね。何があったか聞かせてよ」


兄「…昨日の晩、『あの行為』を行う前に謝ったんだ」

女「当然だね。知識不足のあの子を良いように利用したんだもの」

兄「そしたら、謝り合戦に発展して…」ハア

女「なぬ?」

兄「『男の邪な欲望』vs『私のような欠陥人間』戦争勃発」

女「………」アチャー

兄「…昨日、叔父さんを問い詰め、前の学校の出来事を聞き出しただけに、俺も一歩も譲れなくてだな」ヤレヤレ

女「…さらりとc4級の爆弾発言だね」キョウミシンシン

兄「期待しても内容は教えんぞ?」


女「…『信じてた友人』にやられたんでしょ?」

兄「………」ノーコメント

女「…鎌かけ失敗か�・」チェー

兄「………」ポーカーフェイス

女「でも、当たらずと言えども遠からずと思って、今後も行動させて貰うよ!」

兄「…その根拠は?」

女「簡単簡単。従妹ちゃん、都会での生活を何一つ口に出さないんだもん♪」ビシッ!

兄「………」ナルホド

女「…ふふん、女同士のシンパシーを馬鹿にしたらいかんぜよ?」ザッパーン!

キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン…

先生「えー、放課後だ、えー、試験準備期間は来週からだ、…あばよ」


兄「今日も集中出来なかった」

ブーン…

兄「ん、メールか」カチカチ

従妹『兄さん、今日は買い出しに行きませんか?』

兄「最近外食続きだったからな、…『了解!』と」カチカチ

ブーン…

従妹『ありがとうございます。では10分後に校門で』

兄「ん? 直接来れば良いだろうに」

―10分後―
―学校 正門前―


兄「おまたせ」

従妹「いえいえ、待ってなどいませんよ兄さん」クスクス

兄「あれ? あの騒がしい子は?」

従妹「後輩さんは部活です。兄さんの方もいつものお二人は?」

兄「友は風紀委員の仕事、女なら手芸部の雑務」

従妹「…女さん、意外なご趣味です」

兄「言ってやるな、本人が一番分かっている」

従妹「分かりました」クスクス


兄「じゃあ、取り敢えず商店街に向かうか」

テクテク…

従妹「あの、兄さん…」

兄「どうした?」

従妹「恐らく郊外のスーパーに行けば、一度の買い物で済むと思うのですが…」

兄「正論だが正解じゃない」

従妹「…不正解ですか?」ショボン

兄「いや、betterやbestの話だから△だ」ナデナデ

従妹「?」

兄「何故この2週間、俺達が外食を続けてきたと思う?」

従妹「兄さんのご両親が忙しかった?」

兄「ん、それも△」


従妹「???」

兄「正解は、行けば分かる」

従妹「…分かりますか?」キョトン

兄「おう、田舎の商店街の真骨頂を教えてやる!」

従妹「…兄さんが頼もしい」キラキラ

兄「それで晩飯はどうする? 案内する場所が変わるぞ?」ワキワキ

従妹「では、魚を」クスクス

兄「よし!着いてこい! 」

訂正
魚を→お魚を

―同日 夜―
―自宅 1f 台所―


ガチャガチャ…

従妹「兄さん金網用意出来ました」ワクワク

兄「ご苦労ご苦労」

従妹「…鮎の天然物なんて初めてです」

兄「全部塩焼きでいいか? 今ならフライにも出来るぞ?」

従妹「…悩み中です」ウーン

兄「こらこら、そう言いつつ近寄るな」

従妹「…ダメ、ですか?」キョトン

兄「魚臭くなるぞ?」

従妹「?」

兄「ほれ、次はお皿の準備を」

従妹「はい分かりました」パタパタ


兄「で、どうだった? 買い物の方は?」

従妹「…不思議でした」ガチャガチャ

兄「品揃えがか?」シオフリシオフリ

従妹「いえ、そうではなく…」ウーン

兄「食料品店の店主さんは?」フフフ

従妹「元気な方でした。よく10年前の私を覚えているな、と」

兄「そうだな」ウンウン

従妹「それから、オマケをしてくれました」

兄「うんうん」

従妹「…魚の目利きや美味しい調理法も」

兄「個人経営の足回りの良さだな。大手スーパーが真似しにくい、きめ細やかなサービスだ」


従妹「…それと何となくですが、出戻りの私の情報も知っていらっしゃた様にも…」

兄「ん、よく気がついたな?」タケグシタケグシ

従妹「私の姿を見て、驚かれたりせず、何も聞かずに普通に接して下さるのは明らかにおかしいですから」

兄「ま、そうだろう」

従妹「兄さんが事前に言って回ったんですか?」

兄「いや、俺はしなくていい苦労はしない主義だぞ?」

従妹「?」クビカシゲ

兄「この2週間、あの商店街の洋食屋に出入りするのを、あの人達はずっと見ていただけさ」

従妹「見ていた?」

兄「そそそ、変化の乏しい田舎は常に情報に飢えている」

従妹「…?」


兄「…最初俺達があの商店街の洋食屋に行った時、マスターがお前を外国人の子だと勘違いしたらしく、ちょっとした騒ぎがあったらしい」

従妹「外国人ですか?」カチャカチャ

兄「ああ、それで皆が興味津々で色々噂が飛び交っていたそうだ」

従妹「…噂」ピクッ

兄「一応言っとくが、『俺の』名誉が著しく低下する内容だったらしい」

従妹「…『兄さんの』名誉ですか」ポツリ

兄「ん?」ナンカイッタ?

従妹「いえそれで噂は?」

兄「…同じ町内会の親しい幼馴染み一家が、近所のおばさまネットワークを駆使してくれたお蔭でことなきを得たよ」

従妹「女さん?」

兄「俺達はあいつに足を向けて眠れないのかもな」


従妹「…では、今日の買い物で私が感じたことは…」

兄「…多分勘違いじゃないはずだ」

従妹「………」

兄「俺の噂を払拭する時に、皆にお前との距離感も話たんだと思う」

従妹「……」

兄「…だから変な遠慮はすんな。俺に話せないことは、あいつに話してやれ。きっとその方があいつも喜ぶ」アミヤキアミヤキ

従妹「…兄さん」

兄「さて、後は味噌汁を…」

カチャカチャ…


従妹「…兄さんの周りは温かい人で一杯です」グスッ

………………………………
……………………


兄「…それ位が、この2週間の出来事です」

医師『結構です』カキカキ

兄「一応地元に溶け込ませるように最善を尽くしたと…」

医師『…貴方がたは、良くやって下さっている思います』

兄「………」ウシ!

医師『…貴方は、従妹君の過去を知っているのですね?』

兄「はい、叔父の方から」ハッキリ

医師「…………」

兄「けれど、今も昔も従妹は従妹です。それは何があっても変わりません」

医師『…理想的な答えだと思います』


兄「…では、また2週間後に連絡を」

医師『その週はテスト期間に当たりますが?』

兄「あ、そうでした」イケネェ!

医師『…学生の本分は学ぶことにあります』

兄「では、夏休み前、あいつの定期検診の時にでもそちらに伺います」

医師『…分かりました。そろそろ貴方の検査を始めたいと思っていたところです」

兄「それでは夏休み前に」

医師『はい、お大事にどうぞ』


プッツーツーツー…………

医師「…お聞かせしたいものも有りますから」


《第一章・俺にこの手を汚せというのか 了》

ありがとうございます。
c、承りました(^^)

第二章・
思い通りにいかないのが世の中なんて
割り切れるわけがないから


【7月11日(火)】

―放課後―
―山ノ上病院―


兄「…は?」

医師「失踪です」

兄「…ええと、もう一度お願いします」


医師「ですから、従妹君の御両親は失踪されました」

―少し時間を遡る―
―6f 特別検査室―


従妹「お疲れ様です兄さん」ニコニコ

兄「…待っててくれたのか」

従妹「はい、私の検査はいつも代わり映えしませんから、私も先生も慣れてらっしゃいます」

兄「身長、体重、ct、mri…」

従妹「血液検査に、必要に応じて組織検査」

兄「…検査費用だけで毎月諭吉先生が…」

従妹「難病認定を受けてますから、私の場合は金銭面では心配要りません」ブイッ

兄「…そっか、なら安心した」

従妹「初検査いかがでしたか?」

兄「…あのctっての、案外怖いのな」ナデナデ

従妹「兄さん閉所恐怖症ですか?」クスクス


兄「…身体を縛られて筒の中に…」

従妹「ctにしろmriにしろ、慣れてくると、だんだん退屈を紛らわす方法を思い付いてきますよ?」

兄「…今度から素数を数えることにするさ」ハァ…

従妹「兄さん、ため息ため息」クスクス

兄「…検査結果は?」

従妹「いつもなら週末にお電話を」

兄「…分かった」

従妹「兄さん、この後のご予定は?」

兄「俺は医師さんに呼ばれてるから面談室に向かおうかと」

従妹「…そうでしたか」ションボリ


兄「すまんな、今日の検査結果のこともあるから、規則で他の人には聞かせられないらしい」ナデナデ

従妹「仕方ありません、兄さんのプライベートです」ニコリ

兄「んな大層なもんじゃない」カラカラ

従妹「分かりました。お先に失礼します」ペコリ

兄「…あ、そうそう、ナースステーションの母さんに声掛けると家まで乗せてくれるぞ?」

従妹「今日は夕方までの日でしたか」

兄「…ついでに、夕飯はカレーが良い伝えてくれるとかなり嬉しい」

従妹「ふふふっ、任せて下さい!」ニッコリ


ー再び 面談室ー


兄「…え?失踪って」

医師「? 人が特定の場所から姿を消すことですが?」

兄「先生、冗談を言っている場合では…!」

医師「ならば、落ち着いて下さい。我々が冷静さを欠くべきではありません」

兄「叔父さんはいつ居なくなったんですか?」

医師「恐らく、貴方に従妹君の過去を話した直後だと思います」

パサリ

《兄君に娘の全てを託す》


兄「…叔父の文字です」

医師「これは彼のベッドの裏側に、隠すように張り付けられていたそうです」

兄「………」

医師「元同僚から、あの夫婦が遠く離れた病院の精神科に通っているとは聞いていましたが、お二人が失踪するほど追い詰められていたとは予想外でした」

兄「…叔父さん達が、追い詰められていた?」

医師「はい、元加害者側から」

兄「…警察は?」

医師「相手の権力を甘く見てはいけません」メガネクイッ


兄「しかし!」ギリッ

医師「…人は、自分の物差しでしか物事を測れません。世間一般では狂った物差しも、ある特定の場所に於ては絶対的な基準になることもあります」

兄「…先生は!」

医師「許せるかと聞かれれば確実にノーですが、私の物差しには、今ここに居ない人間の心配よりもだここに居る人間を優先させるべきという絶対的基準があります」

兄「………」

医師「精神的苦痛を考慮し、従妹君にはまだ伝えていません」

兄「…先生」


医師「…貴方の御助言がどうしても必要なのです」

(同日 夜)
―自宅 2f 兄の部屋―


ショロロロロロ………


兄(…結局『失踪』は、『他の医者を探すため』に言葉を変えて、従妹に聞かれるまでは話題に出さないなんて結論に落ち着いたけど…)

兄(こいつ、叔父さんのことも知らされず、俺が過去の事件も知ってることも知らず……)

兄「……」ジー

従妹「…ご馳走さまでした」ペロペロ

兄「………」ハァ…

従妹「?」

兄「…いや、対して気にするな。一寸考え事だ」

従妹「? 病院で何か言われましたか?」


兄「………」

従妹「…夕御飯のカレーもあまり食べられていませんでしたし、帰りに歯科医さんに会われたとかですか?」

兄「そんなところだ」クチモトフキフキ

従妹「っ…兄さん、自分で出来ますから!」

兄「…まあそう言うな」フキフキ

従妹「それで兄さん、今日もお口でしましょうか?」

兄「………」

従妹「いつも『お薬』を下さるお礼です」フキフキ


兄(…来たよ、この曇りの無い眼差し…)グサリ

従妹「兄さん?」キョトン

兄「きょ、今日はやめて明日に…」シセンソラシ…

従妹「…昨日もそう言って逃げました」ジトー

兄「………」

従妹「…男性は定期的に出さないと身体に悪いと女さんも仰ていましたし、あの日の朝以降、下着の中に出したモノを舐めることを禁止したのは兄さんです」

兄「そ、それはそうだが…」

従妹「兄さんのものは私のお薬です」

兄「…………」

従妹「…私では兄さんを…」…シュン


兄「…オ、オネガイシマス」

―15分後―


従妹「…お待たせしました」

兄「…お前、やっぱり律儀だわ」ヤレヤレ

従妹「? 歯磨きをしてきただけですよ?」

兄「…そんなものなのか?」カチャカチャ

従妹「ふふっ」ペロペロ

兄「………」ナデナデ

従妹「…」カプリ

兄「…!」

従妹「………」パクレロリ…


兄「…悪戯するなよ」ナデナデ

従妹「…ふふっ、ごめんなさい」レロレロ

兄「…いつも思うんだが…」

従妹「…何でしょう兄さん」ピチャピチャ

兄「…いつも口にくわえられる時、お前の口の中が、やけにスースーするのは何故なんだ?」ナデナデ

従妹「…ええと、リステリンです」アムアム

兄「…リステリン?」ピタリ

従妹「…リシュテン博士の作った粘膜殺菌剤です…」クチュクチュ

訂正
リシュテン博士 → リシュター博士


兄「…そういや薬局で買ってたな」

従妹「…私には必須の品です」モゴモゴ

兄「…お前さ」

従妹「はい?」

兄「…その、ソレを舐めるの好きなのか?」ナデナデ

従妹「兄さんのですか?」エート

兄「…お、おう。いつも丁寧にしてくれるし…」ナデナデ

従妹「………」ンー

兄「…ど、どうした?」

従妹「…すいません兄さん、よく分かりません」パクリ

兄「…分から、ない…?」

従妹「はい、好き嫌いという高尚なものを、私はよく分かりません」テヘヘ…


兄「………」

従妹「ですが、兄さんのものに触れていると、自分が落ち着いた気持ちになるのが分かるんです」

兄「………」

従妹「この感情をただ好きか嫌いかという言葉だけで一括りにすることが私にはどうしても出来ません」

兄「………」フクザツ

従妹「身長142cm体重33kg」

兄「?」

従妹「身長142cm体重33kg。小学校5年生の平均しかない私が、今兄さんにお答え出来る解答なんてそれくらいなんです」ニコッ

兄「そっか」ポンポン


従妹「ですから兄さん、あまりお気になさらずに…」チュッ

【7月12日(水)】


キーンコーンカーンコーン

―午前―
―学校 3f渡り廊下―


友「…そりゃ宗教だ」

兄「宗教?」ハァ?

友「…お前と従妹ちゃんの関係は、間違いなくある種の宗教だと思う」

兄「人聞きが悪いな」

友「言ってみりゃ、お前のチンポ教。教祖はお前で御本尊はお前の股間だ」

兄「………」

友「毎日健気に男のナニをくわえ、お前の性欲の捌け口となる」

兄「…否、あいつの場合、自分の命に関わる問題だろ? 最近までそのナニをただの排泄器官としか知らなかったんだぜ?」

友「でも、お前の話を聞く分には、正しい知識を知り得た後これまでにナニを大切に扱ってくれるんだろ?」」

訂正
友「…これまでに…」→「…これまで以上に…」


兄「…だけど」

友「あのな? 百歩譲ってお前らの行動を『医療行為』だと仮定しても、心の安定は無いだろ?」

兄「………」

友「…しかも、好き嫌いの感情論をぶっ飛ばして、笑顔で『お気にならさず』なんてオナホ宣言もいいところだ…」

兄「オ、オナ…!」バカヤロウ!


友「んで事が済めば、『お疲れ様でした兄さん』で自分の部屋に引き上げる」サゲスミ

兄「…視線が痛い」ズキズキ

友「お前、従妹ちゃんの身体には何かしたりは?」

兄「んなこと出来るか!」コノヤロウ!

友「…完全な犠牲的献身愛。やっぱどう考えても宗教の範疇だろ?」

兄「…ぐぬぬ」

友「従妹ちゃんがどんな経験を積んできたか知らんが、悪いことは言わん。あんまり変なら医者に相談しとけ」

兄「…おう」


友「さて始業ベルの時間だ、急ごうぜ」


キーンコーンカーンコーン…

―昼休み―
―1f 手芸部部室―


女「…誰もいないね」コソコソ

女「……さて、お昼ご飯お昼ご飯」

コンコン…

女「! は、はい!無断で使ってすいませ…!」

兄「安心しろ、俺だ」ガラリ

女「…なんだ、驚かせないでよ」フニャリ

兄「…悪い、なんか今日、朝から友に近寄りにくくてな」

女「………」

兄「…少し話したんだが、普段の毒舌が5割増し…」ヤレヤレ

女「…あ�・、う�・」アセアセ

兄「その様子だと原因はお前か?」


女「………」

兄「…いつもの痴話喧嘩か?」

女「全然違う」ムスッ

兄「?」

女「兄君は鳥籠の中の鳥をどう思う?」

兄「…質問の意図が分からん」

女「いいから答えて」

兄「? 可愛いなあ?」

女「…ごめん、質問が悪かったね。鳥籠の中の鳥は自由に空を飛ぶべきだと思う?」

兄「時と場合によりけり?」

女「うん、私もそう思う」


兄「その例えなら、鳥はウチの従妹だろ?」

女「…」コクリ

兄「あいつが何かしでかしたのか?」

女「…うん、口は悪いけど正義感が強いのがウチの彼氏の売りなんだけどさ…」

兄「おう、基本的には良いヤツだ」

女「でもその正義感が変な風に爆発しちゃって…」

兄「?」

女「兄君、snsとか分かる人?」

兄「…social network service、俺はあまり利用しないけどな」


女「私はよく分からないけど、遠く離れた全然知らない人と友達になる機能もあるとかで…」

兄「ああ」

女「…従妹ちゃん、向こうでの出来事を何も話さないじゃない?」

兄「…まさか」


女「…うん、友君は従妹ちゃんを守るのが目的とは言え、土足であの子の過去に踏み入ろうとしたんだよ」

【訂正】

兄「…まさか?」

女「…うん、友君は従妹ちゃんの過去に土足で踏み入ろうとした」

兄「…………」


女「兄君、それは許される行為かな?」


キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン…

―放課後―
―学校 正門前―


兄(…夏休みが近いのに気分は最悪だ)

兄「……」

従妹「お待たせです兄さん」

兄「ああ、お疲れ」

従妹「? 兄さんお一人ですか?」

兄「…友と女なら委員会と部活が忙しいらしい」

従妹「なるほど、夏休み前ですからね」


兄(…しかし、あの友が野次馬根性だけで?)ウーン?

従妹「兄さん?」クビカシゲ

兄「…すまんすまん、夏休みの心配をしていただけだ」

従妹「夏休みの心配ですか?」エエト?

兄「ほら、あれだ、あの…」ワタワタ

従妹「…もしかして兄さん、歴史がお嫌いですか?」クスクス

兄「…そう、それそれ!あの魔女の記録意味不明だろ?これからあの資料の山に向き合わにゃならんと思うと…」

従妹「……」

兄「……」ギクリ


従妹「いえ、…確かにエリザベート関連の資料は気が滅入りますね…」ニコリ

兄「」ホッ

従妹「…只でさえ読み辛いのに、ほぼ全文が人間の持つ暗い部分のみとあっては、翻訳側もピュロスの勝利です」

兄「ピュロス?」

従妹「労多くして益少なし、という海外の諺だそうです」エヘン!

兄「…なるほどな」

従妹「…秘密文字に神秘文字、隠語のアナグラム…」

兄「どれぐらいまで読めた?」

従妹「残念ながら、歯科医さんの邦訳文が難解で、テスト期間も挟みましたから…」


兄「…ほとんど進展なしか」

従妹「申し訳ありません兄さん」ションボリ

兄「…お前が謝ることじゃないさ。本当なら、年長者の俺がバシッと決めるべきなんだけどな…」ナデナデ

従妹「…い、いえそんな!」

兄「ま、不甲斐ない兄が出来ることは、夕飯のリクエストに応えるぐらいかもな」ハハハ…

従妹「………」


兄「さて、帰ろうぜ。夏の日差しは乙女に優しくないらしいぞ?」


―深夜―
―自宅 2f 従妹の部屋―


従妹「……」カチカチカチ

従妹「…駄目です」

従妹「…スラングが多すぎて翻訳サイトが当てになりません…」

従妹「…やはり地道に辞書を…」チラッ

従妹「…………」

従妹「…兄さん、ちゃんと寝られているでしょうか?」

従妹「…兄さんは嘘が下手過ぎます」

【7月13日(木)】


―朝―
―自宅 2f 従妹の部屋―


兄「……」

従妹「……」ケホケホ

兄「…で、資料を抱えて寝てしまったと」

従妹「…すいません兄さん」ビクビク

兄「…全く無理すんなよ」フゥ…

ピピピピピ…………

従妹「」チラリ

兄「…37.5℃、完全に寝冷えだな」


従妹「ううう」グスグス

兄「…今日は学校休んで大人しく寝てろ」ダキアゲ!

従妹「わっ兄さん?!」ジタバタ

兄「こら暴れるな。ベッドに連れてくだけだ」

従妹「…は、はい///」ギュッ

兄「それから、もうすぐ女が看病に来てくれるらしい」

従妹「?…女さんがですか?」ケホケホ


兄「ああ、今日は学校に行きたくないんだとさ」


キーンコーンカーンコーン…

―午前―
―学校 体育館裏―


兄「…と言うわけで、何故お前がここに呼び出されたかという説明は要るか?」シュッシュッ

友「…必要ない」ギロリ

兄「良い心掛けだ、さすがは風紀委員長」

友「…言い訳はせんし、先走ったのは俺のミス。…殴りたいだけ殴れよ、お前にはその権利がある」

兄「それは開き直りか?」ン?

友「…どうとでも取れ」ケッ


友「…但しお前の気が済んだら、今度はこっちの話に必ず付き合って貰うぞ」


キーンコーンカーンコーン…

―午前―
―学校 体育館裏―


兄「…と言うわけで、何故お前がここに呼び出されたかという説明は要るか?」シュッシュッ

友「…必要ない」ギロリ

兄「良い心掛けだ、さすがは風紀委員長」

友「…言い訳はせんし、先走ったのは俺のミス。…殴りたいだけ殴れよ、お前にはその権利がある」

兄「それは開き直りか?」ン?

友「…どうとでも取れ」ケッ


友「…但しお前の気が済んだら、今度はこっちの話に必ず付き合って貰うぞ」

連投すまそ


キーンコーンカーンコーン…

―昼休み―
―学校 3f 風紀委員会会議室―


友「…真面目に殴られるとは…」イテテ…

兄「ん、儀式みたいなもんだ。その面なら女も許してくれるさ」

友「過酷な儀式だな」ヒデェ

兄「…それで話ってのは?」

友「ちょっと待て、鍵を閉める」ガチャガチャ…

兄「?」

友「…今から見せるのは部外秘だから絶対に人に言うなよ?」

兄「お、おう」

………………………………
《○○高校掲示板part42》


99:田んぼのななし

マイトの授業ヒマス、はよ帰りたい。


100:田んぼのななし

早弁スキー

101:田んぼのななし

英語のみさちゃん、おっぱいおっぱい!


102:田んぼのななし

》101
だが男だ。


103:田んぼのななし

…………………………………


兄「なんだこれ?」

友「…どこの学校にもある掲示板だ、結構な数の人間が利用してるぞ」カチカチ

兄「てか、こいつら授業中に打ち込んでるのか?」

友「まあ、宜しくはない行為だな」カチカチ…

兄「お前の話はこれか?」

友「…否、こっちは表の掲示板。要件は裏掲示板の方だ」click!

兄「…………え?」


兄「白ブラ?」カチカチ…

友「…『白いブラコン』と『白豚』を掛けてんだと」

兄「…《【速報】白ブラの主食はナプキン!》、《【速報》白ブラのすみか発覚!》、おいおいこれ何だ?」

友「そこクリックすると写真も見れるぜ?」

兄「…そうじゃねぇ、そうじゃねぇよ」ガクガク

友「よく見てくれ」カチカチ…

兄「…………」

友「…申し訳程度にモザイク入ってるけど、これ従妹ちゃんだろ?」

兄「」カチカチ…


友「多分、探せばモザイク無しの奴もあったはずだぜ?」

兄「…止めろよ」

友「あったあった、ご丁寧にリンク先まで貼られてる」カチカチ…

兄「止めてくれ!」

友「…これは、全裸に首輪を付けられ犬用の鎖で繋がれた写真、こっちはそのままホースで水を浴びせられてる写真…」カチカチ…

兄「お願いだ、友!」

友「…便器にキスさせられた写真に、これは何だ? ゴミ食わされてんのか?」カチカチ…

兄「…………」


友「…よく目に焼き付けとけよ? 詳しい説明は放課後にしてやるさ」

スマホの練習用なのでidがコロコロです。
φ(..)

【訂正280】


兄「…白ブラ?」

友「『白いブラコン』の略称。ほら、気にせず読み進めてみろよ」

兄「?」カチカチ…

………………………………

黒うさぎ『…白ブラと兄貴とデキてんの?』

ナナシ433『しらね』

ナナシ436『夢のなかで三回したった』

ナナシ440『》436氏ね』

黒うさぎ『もういい、また来るノシ』

ナナシ462『》黒うさぎ様ノシ』

………………………………

【訂正続き、…というより280、281削除です】


兄「…この黒うさぎって誰だ?」

友「…知らん」フンッ

兄「要件はこれだけか?」

友「否、問題は過去ログだ」カチカチ…

………………………………

黒うさぎ『転校生新情報』

黒うさぎ『【速報】転校生はイジメられっこ!』

黒うさぎ『【速報】転校生の実態!』

黒うさぎ『【速報』転校生、衝撃の新事実!

………………………………


兄「なんだこりゃ?」

友「裏掲示板ってのは、言ってみりゃその学校の悪意の塊だ」

兄「おいおい、ならこの転校生ってのは?」

友「ああ、従妹ちゃんだよ」

兄「………」

友「『白ブラ』も、『アルビノ』でいつも『にーさんにーさん』とお前を呼ぶあの子と白ブタを捩った揶揄らしい」

兄「…………」カチカチ…

友「その黒うさぎってのが、テスト明け位から昔の従妹ちゃんの写真を上げ続けていてな」

………………………………
黒うさぎ『【速報】転校生は白ブタだった?!』
黒うさぎ『【速報】白ブラのすみか』
黒うさぎ『【速報】白ブラの生態』
………………………………

兄「…7月7日から白ブラ呼ばわりか」

友「写真の内容も、その日を境に、落書きされた教科書なんかから従妹ちゃん自身が写されたものが大半を占め始める…」

兄「…開けていいか?」ゴクリ

友「胸くそ悪くなること受け合いだから、吐き気を感じたらさっさと閉じろよ?」click!

兄「?!?!」

友「…全裸で首輪を繋がれた写真…」
友「…鎖で引き摺られながら水を浴びせられる写真…」
友「…便器に顔を突っ込まれる写真…」
友「…バットで殴られる写真…」
友「…ゴミを食べさせられる写真…」


兄「…やめろ」

友「…ライターの火で焼かれる写真…」click
友「…カッターで切られる写真…」click
友「…掃除用具入れに投げられる写真…」click
友「…全身に落書きされる写真…」click
友「…服を剥ぎ取られ、校庭に放置された写真…」click

兄「…やめろよ、…あいつを穢すなよ…」ムナグラ!

友「…裸で授業を受ける写真…」click!
友「…幼い性器を揶揄する写真…」click!
友「…踏まれて椅子にされる写真…」click!
友「…糞尿を口に流し込まれる写真…」click!

友「…最後の一枚は、『泣きながら笑わされる写真』」


兄「……………………」

友「…分かったろ? 俺が先走った『理由』」

兄「…消せよ! 全部消してくれ!」

友「無駄だな。直ぐに復活しやがる」

兄「…なら、アクセスを止めれば!」

友「どんなの権限か知らんが、それは出来ん」チッ

兄「……!」

友「…本当なら夏休みまでに解決したかったが、恐らく時間切れだ」

兄「時間切れ?」

友「夏季休講中は校舎の立ち入りが御法度。事実上、この掲示板は野放し状態になる」

兄「……………」ヘタン


友「おい兄、この『糞うさぎ様』って何者だ?」

(放課後)

―駅前 商店街―


友「…悪いな、嫌なもんばかり見せちまったな」

兄「…逆だ、すまん友」

友「なら、クレープ奢れ。それでチャラしようや」ナハハ

兄「あいよ」フッ

prrrrr……

兄「ん、女から?」pi

女『…兄君ッ?!』

兄「どうした兄だ」

女『…お願い、早く来て!私じゃ駄目なの!』

兄「すまん、話が見えない」

女『…早く!とにかく来れば分かるから!』

プッツーツーツーツー…

兄「? 」


―自宅前 玄関前―


女「兄君!」

兄「…悪い、商店街に行ってた!」

女「いい!早く従妹ちゃんの部屋に…!」アセアセ

兄「…落ち着けッ!!」

女「!」ビクッ

兄「…まずは状況を教えてくれ。じゃないと、俺も何していいか分からん」

女「う、うん、取り乱してごめん」グスッ

兄「泣くなよ、お前には感謝してるんだ」ヨシヨシ


女「…先刻、従妹ちゃんが目を覚ましたの」

兄「…うん」

女「…そしたら、傍にいた私を見ていきなり怯え出して…」ジワッ

兄「…うん」

女「…とってもとっても怖いもの見る目で、私を見て…」グスッ

兄「…うん」

女「…『にいさんはどこ?にいさんはどこ?』って何度も呟いて…」グッ


女「あの子今、『私が誰か』分からず泣いてるの…!」


―自宅 2f 私室前廊下―


コンコン…

兄「…………」シーン

兄「…すまん、従妹入るぞ?」ガチャ

兄「……誰もいない?」

パタン…

兄「何処に消えた?」


……シーーーーーーン……

兄「…物音一つしない?」

兄「…………」ギシリ

…コトン…

兄(? 俺の部屋から?)

兄「従妹、俺の部屋にいるのか?」

兄「…………」ガチャリ

兄(鍵が閉まってやがる)

兄「従妹、すまん開けてくれ」

兄「…………」シーン

兄「従妹、俺だ兄だ。悪いが中に入れてくれ!」


トッ…トッ…トッ…

従妹『…にいさん?』

兄「おう、部屋に入りたいんだ。鍵を開けてくれ」

従妹『…にいさん、そこにこわいひといませんか?』

兄「ん、誰もいないぞ?」

従妹『…うそです、またみんなして、わたしをだますつもりです…』

兄「…従妹?」

従妹『…もういたいのいやです、くらいのいやです、あついのも、つめたいのも…』

従妹『…また、そうじようぐばこですか? はだかをばかにされるんですか…?』
従妹『…いぬのまねをして、おしっこをのむんですか…?』

従妹『…わらえばよいのですか? なけばまんでくですか…?』
従妹『…おこるのふかいですか? かなしむのがきにさわりですか…?』

兄「………」

従妹『…にいさんからもらったけしごむ、かえしてください…』
従妹『…にいさんのおしゃしん、やぶかないでください…』
従妹『…にいさんとのおもいで、よごさないでください…』


従妹『…にいさん、にいさんはどこにいますか…?』

従妹『…にいさんは、なまえをよんでくれます…』
従妹『…にいさんは、あたまをなでてくれます…』
従妹『…にいさんは、わたしのたいせつなひとです…』


従妹『…にいさん、にいさんは、まだそこにいてくださいますか…?』

【訂正297】

かなしむのがおきにさわりですか…?

かなしむのがおきにさわるのですか…?

さらに訂正

なけばまんでく → なけばまんぞく、でした。


(真夜中)
―自宅 2f 兄の部屋前―


医師「…今、寝息を確認しました。従妹君は扉の前で眠ってしまった様です」

兄「すいません、こんな夜遅くまで」

医師「否、彼女は私の患者です」

兄「聴診器をお借りしても?」

医師「…どうぞ、彼女の音を聞いてあげて下さい」スッ


兄「……………」

医師「聞こえますか?」

兄「…はい、従妹の寝息だと思います」

医師「そうですか、ならば肩の力を抜いて下さい」

兄「……」フゥ

医師「…事態の経過は概ね理解しているつもりです 」

兄「…先生、従妹の変貌はやはり…」

医師「早合点は禁物です。精査せねば正しい診断結果は下せません」

兄「…そう、ですか」


医師「しかし、貴方がこのドアを無理にこじ開けなかったのは、好判断だったと思います」

兄「好判断?」

医師「貴方の判断が正しかったのだ、と言っています」

兄「…それは偶然です」

医師「偶然、ですか?」

兄「…何となく、開けちゃいけない気がしたんです」

医師「貴方が彼女の変化に戸惑ったからではなく?」

兄「…それもあります」タハハ…

医師「いえ、続きを」

兄「あいつ、混乱するまでは、自分の部屋で寝ていたそうです」

医師「はい、そう伺っています」


兄「…でも、女の姿見て、泣き出して…」

医師「…過去のフラッシュバックではないかと推定されます…」

兄「…そしたら、自分の部屋に閉じ籠ってれば良いのに、わざわざ怖い思いしてまで、俺なんかの部屋に逃げ込んで…」

医師「……」

兄「…今のあいつの中の『幸せ』は、小さな頃、この家で過ごした時の記憶しかない…」

医師「…幸せな記憶…」

兄「…そう思うと、軽々しく俺があいつの『幸せ』に踏みいるのは…」

医師「無粋な行い、ですね」

兄「……」コクン


医師「なるほど」

兄「…言ってみれば、この部屋はあいつの聖域です」

医師「…彼女の赦し無しには立ち入れない、彼女の安息の地ですか?」

兄「それもあります」

医師「…?」

兄「…それもありますが、ここはあいつが向こうで闘う理由になり続けた、あいつが帰るべき、あいつの場所なんです」


医師「分かりました」スッ

兄「先生?」

医師「どうぞ、もう一度彼女の音を聞いてあげて下さい」

兄「……………」

医師「どうですか?」

兄「…先刻と同じ、あいつの寝息が聞こえます」

医師「ええ、先程と同じで、安定した呼吸音が一定の間隔で伝わってくるはずです」

兄「………」


医師「従妹君、そろそろ狸寝入りを止めて出てきてくれませんか?」

【7月14日(金)】

(明け方近く)
―自宅 2f 兄の部屋―

カチャッ

兄「…いつから聞いてた?」

従妹「…………」

医師「全て初めからですよね?」

従妹「……」コクン

医師「次に私を欺く時は、不自然ではない範囲の不定期な呼吸音をお薦めします」

兄「………」エート


従妹「…にいさんは、にいさんですか?」

兄「ああ、にいさんだ」ニッ

従妹「…にいさん?…」

兄「…今も昔も、俺はお前の兄さんを辞めたつもりは無いぞ?」ナデナデ

従妹「…にいさん、わたし、いたいのつらかった」

兄「そっか…」ナデナデ

従妹「…にいさん、わたし、くらいのこわかった」

兄「そっか…」ナデナデ

従妹「…にいさん、わたし、あついのも、つめたいのも、くるしいのも、はずかしいのも、いやだった」

兄「そっか…」ナデナデ

従妹「…なかいいひとも、わるいひとも、せんせいも、おとうさんも、おかあさんもみんなみんな、わたしのこえがきこえなかった…」

兄「そっか…」ナデナデ


従妹「…みんなみんな、わたしがみえなかった…」

兄「………」ナデナデ

従妹「…みんなみんな、わたしじゃないわたしをみてて…」

従妹「…みんなみんな、わたしじゃないわたしをたのしんで…」

従妹「…でも、やっぱりわたしはわたしで…」

従妹「にいさん、わたしは…?」

兄「お前賢いのに、時々馬鹿だよな」ポコン…

従妹「?」

兄「…いや、それを言い始めたら大馬鹿は俺なんだけどさ」ナデナデ


従妹「………」

兄「他に聞かせろよ。痛かった辛かっただけじゃなく、どう感じてどう思ったのか、あれがしたいこれがしたいとか、この際何だっていい」

従妹「…にいさん?」

兄「俺は『従妹の声』で、『従妹の言葉』が聞きたいんだ」

従妹「………」

兄「ん、他の人に話を聞かれるのが嫌なら、勿論部屋の中で聞くぞ?」

医師「……」コホン


従妹「…にいさん、わたしのすがたみえてますか…?」

兄「ん、寝癖がついてるな」

従妹「…にいさん、わたしのこえきこえてますか…?」

兄「ん、風邪治って良かったな」

従妹「…にいさん、わたしのおようふくやぶれてませんか…?」

兄「ん、姉貴のお古じゃダボダボだな」

従妹「…にいさん、わたしのからだきたなくないですか…?」

兄「ん、少し汗の匂いがするな」


従妹「…にいさん…」

兄「……?」

従妹「…ちかくに『わたし』がいたら、『にいさん』はごふかいになりますか…?」

兄「ならない、ならないから…」ダキシメ

従妹「…? にいさん?」


兄「…だから早く帰ってこいよ、従妹」

【7月16日(日)】

(午前)
―自宅 2f 兄の部屋―


ショロロロロロ…………

兄「………」

従妹「…………」ンクンク

兄(…従妹がパニックを起こして2日)

従妹「…にいさん、飲みましたよ」ケホケホ

兄「悪いな、こんなことさせて…」フキフキ

従妹「…いいえ、にいさんに間違いはありませんから」ニコッ


兄(…フラッシュバックからの一時的退行。相変わらず、従妹の中の俺は『にいさん』であって、以前の『兄さん』とは認識されてない)

従妹「にいさん、次は歯みがきお願いします」ニコニコ

兄「…おう、待ってろ何味にする?」

従妹「にいさんのお好みを」ウーン

兄(…同音異義語とまでは言わずとも、距離感の変化がわかる程度には『 以前の従妹』との関係は構築出来ていたらしい)

従妹「…にいさん?」シンパイゲ

兄「いや、最近の歯磨き粉って色んな味があるんだな」

従妹「はい、たくさんあります」

兄(現在の従妹は、無防備、無用心、無警戒の3点セット)

従妹「にいさん、早く早く!」ニコニコ


兄「ほーれ、まずぶくぶく洗いして、口の中のおしっこを洗い流せ」

従妹「……」クチュクチュ

兄「この空ペットボトルに出せ」

従妹「……」ペー

兄「よーし、口の中がさっぱりところで歯を磨くぞ」

従妹「はいっ」ニコニコ


兄「……………」シャカシャカ

従妹「……………」

兄「…………… 」シャカシャカシャカシャカ

従妹「……………………!」ケホ

兄「…すまん、歯茎にぶつけた」

従妹「……いふぁいれふ、ひいさん」フルフル

兄(認識障碍にしろ、従妹の中の『俺』の急激な変化に、当の俺自身がついていけないのが実情で…)

従妹「……………」ムスー

兄「悪かった、うがいして喋れ」

従妹「……………」グチュグチュグチュ

兄(従妹と周りの環境は刻一刻と悪化していて…)

従妹「……………」ペー


兄(こいつの治療計画は目処すら立っていない)

従妹「…痛いです、にいさん」ジトー

兄「悪かった悪かったよ」ナデナデ

従妹「�・♪」


兄「…それでも、思い通りに行かないのが世の中なんて割り切れるわけがないからな」ポツリ

訂正

兄(…それでも、思い通りに行かないのが世の中なんて割り切れるわけがないからな)

(正午頃)
―山ノ上病院 5f 資料室―


歯科医「…コーヒー入れるか?」

医師「お願いします」

歯科医「ふーん、退行ね」コポポポ…

医師「良い香りですね」

歯科医「…独身貴族の細やかな楽しみさ」

医師「風雅な趣味ですね」

歯科医「…それで今日は? 非番だっただろ?」ホラヨ

医師「貴方の方にも兄君から連絡があったと聞きまして」ドウモ


歯科医「…昨日の朝、泣きながら歯磨きの仕方を」

医師「従妹君の歯磨きですか?」

歯科医「ああ、本人にやらせると、口腔内が血まみれになるんだと」

医師「は? 血まみれ?」

歯科医「妙なものを口に入れられた記憶に急かされ、歯ブラシを口の中で力任せに無茶苦茶…」

医師「…………」ズズズ

歯科医「咄嗟に兄が気付き、事なきを得たそうだ」

医師「…苦労が絶えませんね」

歯科医「多分、風呂やトイレなんかも同じだろう。…ともかく役得と言える事態ではないな」

医師「なるほど」


歯科医「で、パニックの原因は分かったのか?」

医師「…ええ、恐らく髪の毛です」

歯科医「髪の毛?」

医師「寝起きの際、兄君の学友が枕元にいたそうです」

歯科医「それが?」

医師「通常、コンタクト入れたまま眠りにつく人間はいません」

歯科医「ああ、そういうことか」

医師「…両親が家を空ける環境にあった従妹君にとって、通常目覚めの瞬間は一人です」

歯科医「逆に、誰かが傍らに居る時は…」

医師「向こうに確認しましたが、偶然にも、暴行犯リーダー格の当時の髪型が、その御学友の方と同一のものだったそうです」


歯科医「…アイヒマンのあれだ、スタンフォード監獄実験」

医師「途中で中断された実験例を持ち出しますか」

歯科医「…たった六日間の体験がその後の十年以上を縛り続けた、嫌な意味での好例だ」

医師「彼女の場合、より過酷な環境で何倍もの時間を過ごています」

歯科医「向こうで見抜けなかったのか?」

医師「残念ながら、多くの医療機関は衛生面の観点から、一部の髪型を制限しています」

歯科医「制度上の問題か…」


医師「正論が必ずしも正義ではありませんから」


歯科医「メリットデメリット、まあ一般患者の方が優先されて然るべき事態ではあるわな」

医師「…状況はどうあれ、私の測可能な範囲内でした」

歯科医「加害者の顔なんざ誰も見たかない」

医師「被害者側として当然の心理です」

歯科医「…症状は安定してるのか?」

医師「誰かの目があれば、ほぼ日常生活には問題ありません」

歯科医「監視無しには危ない状態か」

医師「幸いにも、今は兄君の言葉には素直に従ってくれています」

歯科医「そういや『にいさんにいさん』ってのが聞こえてたな」


医師「ええ、やっと『にいさん』が迎えに来てくれたのだと、この病院のカウンセラーにも話していたそうです」

歯科医「長いこと待ち焦がれた相手との再会、後はこっちの努力と、あっちの自宅療養でハッピーエンドか?」

医師「否、世界は甘くありません」ゴソ

歯科医「珍しい、アナログ派の人間がスマートフォンとは」

医師「気まぐれです」

歯科医「?」

医師「…この部屋にはインターネットがありましたね?」

歯科医「資料解析用のが、現在進行形で目の前に」

医師「ならば、今からメールを送りますから、付記されたurlを早急に開けて下さい」


(同日 午後)
―友の家 2f 友の部屋―


友「………orn」ドゲザ

女「さて申し開きを要求します」

友「あ、あの女さん?」オソルオソル

女「…下手な言い訳や虚偽の報告があった場合、当法廷は割りとリアルに警察に通報する可能性があります」

友「…んぐっ」

女「でもまあ、その前に私にも教えてよ、『裏サイト』」


友「おまっ何処で!?」

女「当たり前だけど拒否権と黙秘権無いよ。私すっごい怒ってるもの」

友「…あうあう」

女「秒読み開始、5…4…3…2」

友「分かった!分かったから携帯から手を離せ!」

女「それで良いのよ」スチャッ

友「…ちょっと待ってろ、今繋ぐから…」

女「はやく!」

友「……………………」カタカタ…

女「……」イライライラ…

友「…ほらよ、これがお前の見たがってる裏サイトだ」タンッ

女「どきなさいッ」click!

友「…また書き込みが増えてるな」


女「!」

友「見ての通り、従妹ちゃんの『過去』」

女「……」click click…

友「写真3枚更新、か」

女「……」click click…

友「この『黒うさぎ』が、あの子の敵」

女「……」click click…

友「最近は不定期に訪れて、こちらの近況と引き換えに、向こうの過去を切り売りしてる」

女「…嫌らしい奴だね」click…


友「ああ、最高に嫌らしい奴さ」

女「酷い…、これって犯罪じゃないの?」click…

友「立派な犯罪、間違いなく刑事罰の対象になるレベル」

女「ならどうして!」

友「…俺も初めはそう思ったよ」カチカチ

女「これ?」

友「今までの写真をまとめて、魚拓とって…」

女「……」コクン

友「でも、その内ふと気付いた」

女「?」

友「何度削除しても張り付けてきて、何度アク禁にしても乗り越えてくる相手っての、一体どんな奴なんだろうってな?」


女「正体掴んだの?」

友「…今から危険球投げるぞ?」

click

女「?…なにゴミ屋敷?」

友「いんや、従妹ちゃんのオウチ」

女「…………」

友「これ一週間前、sns仲間から送られてきた」

女「…嘘だ…」

友「で、兄に問い詰めたら、あの子の両親が一ヶ月くらい前に『医者探しの旅』に出かけたなんて言う」

女「…医者、探し?」

友「つまり方便、十中八九失踪か蒸発」


女「…………」

友「噂の域を出ないが、相手側が一方的に寄越した示談を蹴って、独自に弁護士を探していたのがバレたらしい」

女「…和解じゃなく示談…」

友「ああ、だからこその見せしめ」

女「……」

友「今の従妹ちゃん自身の脆さは、お前が一番知ってるだろ?」

女「…うん」コクン

友「裁判しようにも訴訟人は姿を消して、従妹ちゃん本人は耐えきれない」

女「…代理裁判にも相当のリスクを伴う」

友「んでネット上なら、ホストの俺以上の上位権限を持ってる化け物」


女「…あんた、こんなのと…」パタン

友「通報しても多分揉み消されるか、取れてトカゲの尻尾一本二本」

女「…………」

友「相手側の絶対優位は揺るがず、俺達が守勢にまわれば、今度は俺達の家族にも危害が及ぶ可能性がある」

女「…最終手段、サイト閉鎖は?」

友「却下」

女「どうして? ホストなら可能でしょ?」

友「出来るけど無理」

女「?」イミワカンナイ

友「…というか、考えうる最悪の選択肢だ」


女「どういう事なの?」スチャッ

友「…落ち着いて携帯を閉まって下さい」

女「説明を要求する」ハリーハリー

友「システムについて聞いてないのか?」

女「?」

友「一般的な交流系サイトは、他のpcからでもホストログイン可能なのが主流だろ?」

女「…ん」コクリ

友「ところがここのホストは、特定の場所、特定のpcからのみしかログイン出来ないのが仕様だ」

女「? それが?」

友「特定の場所ってのは、風紀委員会会議室」
友「特定のpcってのは、会長専用のpc」

友「…んで、俺らはこれを『バンブーシステム』って呼んでる」


(同日 夕刻)
-自宅 2f 兄の部屋-


歯科医『…bamboo? 竹か?』

兄「そうです」バンブー

歯科医『…そのバンブーシステムってのが、学校の裏掲示板やら裏サイトやらを支配してるのか?』

兄「支配よりも、統括に近いと思います」


歯科医「可能なのか?」

兄「否、全てのサイトを把握することは実質不可能です」

歯科医「そうだろう、裏サイトの成り立ち自体、仲間内での何気ないサークル活動から始まるケースが殆どだからな」

兄「友人の言葉を借りれば、ネットの海の離れ小島」

歯科医「幾らでも湧き続ける厄介な代物だな」

兄「…その状況に 、どの学校も頭を悩ませていたらしいです」

歯科医「ああ、分かる。今も昔も人間の抱える闇は深いもんだ」


兄「この学校も、ネット黎明期から職員会議の議題なっていたそうです」

歯科医『んで?』

兄「…事態に苦慮する中、何代か前に、非常に優秀な先輩が風紀委員長になりました」

歯科医『そいつがシステムを?』

兄「そうです」

歯科医『…バンブーなんて大層な名前だ、そいつは離れ小島に根っこでも生やしたか?』

兄「……」

歯科医『どうした?』

兄「否、その通りです」

歯科医『竹って植物は、地上では別々でも地下で全部が繋がってるからな』


兄「その先輩は、当時最大規模の利用者数だった掲示板の管理者を説得し、裏まとめサイトを立ち上げることから始めました』

歯科医『小規模サークルの話題提供のためか?』

兄「はい、まとめサイトの噂を聞きつけ、サークルからの来訪者を期待するためです」

歯科医『…………』フム

兄「そして次に、先輩は彼らに溶け込み、横の繋がりの拡大に手を出しました」

歯科医『…同じ趣味の人間が集まれば、そりゃ気も合う奴等も居て当然だな」

兄「そして、他のサイトとの交流に紛れ込み…」

歯科医『…システムは次第に輪を広げ、最終的に学校側の監視下に置いていく』

兄「……」コクリ

歯科医『…その先輩は大物だな』


兄「先輩卒業後、システム管理を風紀委員が担うことになり、管理者は代々の委員長が引き継いでいます」

歯科医『…校内最大の裏サイトが学校公認のお墨付きってのは、正直頂けん話だな』

兄「けれど、これのお陰で!」

歯科医『今のところ『黒うさぎ』が出没するのは、このシステムの管轄内だけか?」

兄「…俺の知る限りでは」コクリ

歯科医『なるほど』

兄「本当なら、今すぐにでも閉鎖してやりたいんですが…」

歯科医『…ま、自殺行為だわな』ヤメトケ

兄「システムの繋がりを断てば、『黒うさぎ』が何処で何を仕出すか」

歯科医『完全に闇に姿を消す、か』

兄「笑えない冗談ですね」


歯科医『…状況は分かった』

兄「何か手だては?」

歯科医『お前らの情報を相手が欲しがってる以上、しばらくあの子と身を隠せ』

兄「…………」ギリッ

歯科医『少し早い夏休みだと思えばいい。落ち着いた環境があの子に必要なのは分かるだろ?』

兄「…はい」

歯科医『よし、場所はこちらで用意させて貰う。他に質問は?』

兄「…あ、一つだけ良いですか?」

歯科医『? 何だ?』

兄「以前の電話の時と、先生の口調に落差が…」

歯科医『? …あっちのは営業用だが、それがどうした?』アアン?


兄「なんでもありません! 宜しくお願いします!」

【7月17日(月)】

(早朝)
-自宅 1f 玄関前-


ミーンミーンミーン…

兄「ほら、日焼け止め持ったか?」

従妹「はいにいさん」ニコニコ

兄「携帯、財布、着替えに下着…」

従妹「歯ブラシ、石鹸、ドライヤー…」

兄「ん、準備は一通り揃ってるみたいだな」ヨシヨシ

従妹「にいさんとご旅行�・♪」




従妹「」

346訂正
一番下の従妹「」を削除


兄「慌てるとコケるぞ?」

従妹「いいえ、平気です」

ピンポーン…

従妹「お客さんですか、にいさん」

兄「…迎えにしては少し早い気もするが?」

ガチャッ

女「…お、おはよ///」ヨッ!

兄「え? お前女か?」

女「うるさいやい! こちとら小学生以来の短髪だい!」ザックリ

従妹「…にいさん、この人」ギュッ

兄「御近所さんの女、お前覚えてないか?」


従妹「?」

兄「…あー、ガサツだけど優しい人だ」

女「忘れちゃったかな?」ショゲン

従妹「…………」トテトテ

女「お? どう思い出した?」

従妹「…………」クンクン

女「///」

従妹「….にいさん、この人パンの甘い匂いがします」

兄「ん、この人はパン屋さんの人だ」ナデナデ

従妹「ええと、パン屋さんたのんでませんよ?」

兄「家が近くだから、お前に会いに来てくれたんだ」


従妹「そうでしたか、パン屋さん、いつもおいしいパンありがとうございます」ペコリ

女「…ど、どうも?」アレ ?

従妹「にいさん、にいさんは今日、どんなパンが食べたいですか?」ニコニコ

兄「違う、パン屋の人は友達になりたいそうだ」ナデナデ

従妹「? パン屋さんはお友だちですか?」クビカシゲ

兄「…このパン屋さんは友達だ」

従妹「? パン屋さんがお友だちですか?」エート ?

兄「このパン屋さんが友達だ」


女「…ど、ども�・!」ニカイメ !

従妹「??」ウーン ?

女「い、従妹ちゃん?」

兄「…………」

従妹「にいさんにいさん」クイクイ


従妹「にいさんは今日、どんなパンが食べたいですか?」ニコニコ


(同日 昼)
-近畿地方 某ドライブイン-


友「…何しょげてんだ?」

女「…私、パン屋さんだって」

友「俺はパン屋の旦那だが?」

女「私の家、パン屋ちゃうよ?」

友「ホームベーカリーの腕前はなかなかだぞ?」


女「こんな時によせやい///」フィッ

友「お前のイメチェンにも驚いたが、従妹ちゃんの変化はもっとヤバいな」

女「あの子、車の中でも『にいさんにいさん』」

友「世界の全てが『にいさん』で、それ以外はその他大勢有象無象」

女「…知ってる人から知らないモノを見る目を向けられるのって、精神的にめっちゃ堪えるね」

友「しかもとびきりの笑顔付き」フゥ…

女「…あかん、へこんできた」


友「ま、甘いもんでも食って元気出せ…」スッ

女「懐かしい、御座◯だ�・」

友「え? 回転焼きじゃないのかコレ?」

女「ちゃうちゃう、御◯候で◯ざそーろー。姫路近辺で回転焼きとか今川焼とか呼ぶと、即座にリアルファイト突入よ?」

友「マヂかよ、◯ざそうろう恐るべし」

女「…因みに姫路を『しめじ』みたいに発音すると、翌日には不死鳥に連れ去られ、播磨灘で玉筋魚(イカナゴ)のエサになるわ」

友「…お前、兵庫県に恨みがあるのか?」

女「いえ? 北を山側、南を海側と呼んでる生粋の兵庫県人よ?」

友「ステマ&自己紹介乙」


女「みんな、兵庫県人の魂おっとってか�・」


(同日 夕方)
-某所 自然公園-


歯科医「…到着、ロッジは二人で一つだ」

女「歯科医さんは?」

歯科医「管理人小屋を利用させて貰う。風呂やネット環境はあそこにしかないからな」

友「無線lanですか?」

歯科医「ああ、山の中にしては好条件だろ?」


兄「食事やリネン関係は? 」

歯科医「…ちょっと待ってろ」

コンコンコン

管理人「はーい!どなたですか?」

女「わ、美人…」

管理人「あら、歯科医? 久しぶりじゃない」

歯科医「今日からまた世話になる」

管理人「ええ、こちらこそ」ニッコリ

歯科医「ほら、お前らも早く挨拶しろ」

兄&友&女「…は、はい!よろしくお願いします」

管理人「はい、よろしく。この公園の宿泊施設を管理している管理人です」


歯科医「もう一人、この背中で寝てるのが例の子だ」

従妹「………zzz」クークー

兄「すいません、車の中で寝てしまって…」

管理人「気にしないで、良い寝顔じゃない?」

歯科医「…管理人、施設内の案内を」

管理人「はいはい」ヤレヤレ

女「あの、歯科医さんとはどういったご関係なんですか?」

管理人「なに? 気になる?」

女「はい、同じ女として」

管理人「……」フム


管理人「同じ歴史愛好家で、元妻です」

訂正
元妻です → 元恋人です。


(同日 夜)
-自然公園 ロッジ102-


友「ただいま…」

女「おかえり、晩御飯出来てるよ�・」

友「…水一杯貰っていいか?」

女「はい、どうぞ」

友「…………」ゴクゴク


女「結局今日一日、移動と運び込みだけで終わっちゃったね」

友「…従妹ちゃんのサングラス新調が長引いたからな」

女「ほら、料理並べるから座って座って」

友「…ありがと、あの二人は?」

女「うーん、従妹ちゃんなかなか起きなくて」コトコト

友「そっか、兄のヤツは付きっきりか」

女「起きたら食べるって言うから、作りおきを」

友「ま、仕方ないか…」

女「何だかお疲れだけど、友君の方は?」

友「黒うさぎは今日も営業中、学校に二人が来てない理由を探り回ってる」


女「新しい写真は?」

友「今日は無し、黒うさぎを満足させる情報が無かったらしい」

女「狡い相手だね」

友「…推論なら今も続いてるが、どれも根拠が無くてな…」

女「なるほど、時間の無駄だ」

友「ああ、無駄だ」

女「でも、念のためご飯食べたら一度確認しに行ってみて良い?」

友「…絶対止めとけ」

女「なんでさ?」


友「お前、不思議に思わないか?」

女「何をさ?」

友「外、凄く静かだろ?」

女「うん、川のせせらぎと虫の声がバッチリ」

友「ロッジの灯りは?」

女「…あれ?お隣のロッジ以外全部真っ暗…」

友「他の宿泊客がいなくて、シーズン間近なのに、管理人が一人なんてあり得んだろ?」

女「…うん」


友「気になって、管理人室のpcをこっそり立ち上げてみるとさ…」

女「…立ち上げてみると?」

友「俺らの宿泊期間内の、全てのお客さんが『移転』で、他の管理人が全員『休暇』」

女「…え、何それ?」

友「そしたら、いつの間にか俺の真横に、メイド服姿の管理人さんが笑顔で立ってて…」

女「……」ゴクリ

友「…口止め料代わりに、『これ』を差し出されて…」スッ

女「…コ、コンドーム?」

友「よく触ってみろ、袋の上から無数の穴が開けられてるだろ?」

女「…う、うわー↑」


友「…今頃、歯科医さん食われてんぜ…」


-同時刻-
-ロッジ101-


モゾモゾ…

従「………」パチリ

兄「…お、目が覚めたか従妹」

従「…………」クンクン

兄「や、やめろ、擽ったいぞ?」

従「…にいさん?」

兄「おはよう、よく眠れたか?


従「? ここはどこですか?」

兄「ここは自然公園、今は兄さんと旅行中だ」

従「…」グー

兄「お、腹が減ったのか?」

従「? にいさんはペコペコですか?」

兄「ああ、兄さんもペコペコだ」

従「なにかお作りしましょうか?」

兄「大丈夫、兄さん達の分は用意して貰ってある」


従「……………」ポケー

兄「ほれ、寝ぼすけ従妹、眠気覚ましに風呂に行かないか?」

従「? お寝ぼうさんはにいさんですよ?」

兄「…要らんことを…」ナデナデ

従「? にいさんはおふろ行きますか?」

兄「おう、兄さんはお風呂に行きたいぞ?」

従「にいさん、いっしょに行ってもいいですか?」

兄(お、思考が定まって来てるな)

兄「勿論だ、一緒にお風呂に入ろうな」


従「はい、にいさんと一緒にです」

【7月18日(火)】

(早朝)
-自然公園 管理人小屋前-


ジリッジリッジリッジリリリリリリ…………

管理人
「…あら、もう蝉が鳴く時間?」

歯科医
「…………」ビクンビクン

管「…歯科医、そろそろ起きて」

歯「…………」

管「…もう一戦する?」ポソッ

歯「�・!�・!
モガモガ


-自然公園 ロッジ102-


友「…よう、眠れたか?」

女「…あんた眠れた?」

友&女「…………」フッ

友「先刻までのアレ、管理人さんの声だよな?」

女「間違いなく管理人さんの声」

友「始まったの何時くらいか分かるか?」

女「…確認しなかったの?」

友「否、俺は途中で起こされた口だから…」

女「私の時計で午前二時十五分」

友「都合、約三時間か」


-自然公園 ロッジ101-


兄「………」

従「にいさん」

兄「…ドウシタ?」

従「しかさん、いってしまいましたか?」

兄「アア、高イ声ガ聞コエナイナ」

従「ざんねんです」ションボリ

兄「野生ノ鹿ハトテモ臆病ダカラナ。イツカ宮島カ奈良公園ニ行コウナ」

従「しかさん、会えますか?」

兄「煎餅ヲ掲ゲルト、オ辞儀シテクレルヨ」


従「しかさん、撫でてあげたいです」ニコッ

(午前)
-自然公園 公園内-


従「にいさん、釣れませんか?」

兄「…釣れないなあ」

従「私の方にもお魚さんは来てくれません」

兄「ほら、もっと日陰に入れ。日焼けするぞ?」


従「水面キラキラ、風はそよそよ…」チャプチャプ

兄「後は、魚が食いついてくれれば絶好の釣り日和だな」

ザッ…ザッ…ザッ……

管「釣果は如何です?」

兄「ああ、残念ながらボウズです」

従「……」ジー

管「? あら、お楽しみの最中でしたか?」

兄「管理人さんほどじゃないですよ…」

従「にいさん、にいさん」クイクイ

兄「ああ、この人は管理人さん、俺たちに竿を貸してくれた人だ」

管「そろそろ陽も高くなって来ますので、従妹さんにビーチパラソルをと思いまして」スチャッ

兄「あ、助かります」

管「いえいえ、私の方こそあの人を連れてきて頂いて…」

兄「/////」


従「にいさん、管理人さんは鹿の人ですか?」ニコッ

管「…ええ、歯科医の恋人(ひと)です」ニコッ

従「にいさん、当たりました」ニコニコ

兄「…何とも反応に困る」

管「さてと、パラソル立てますが椅子はお使いに?」

兄「…魚の匂いが移りませんか?」

管「洗えば何とでも」

兄「従妹、椅子に座るか?」

従「私はにいさんとお揃いが良いです」

管「…二人分、後でお持ちしますね」クスクス


兄「管理人さんは、歯科医さんとは長いんですか?」

管「過去を聞くのはマナー違反だけど、貴女に免じて」

従「?」

管「…長さだけなら相当、適当にはぐらかされ続けて七年くらい?」

兄「それで昨晩は…アンナコトニ…」

管「兄さんは、十八の女と書いて何と読むかを?」

兄「否、分かりません」

管「十八女(さかり)、つまり女盛りは十八歳なの」

兄「ええと…?」

管「昨日のアレは私の青春時代を捧げた分」

兄「…つまり」エート ?


管「…お楽しみは、これからだ?」ヤンデーレ


-管理人小屋 私室-


女「…ここがネット部屋?」

友「凄まじい部屋だろ? 足の踏み場が無い」

歯「………」グデーン

友「歯科医さん、臨界突破?」

女「朝方まで休みなしだったし、テクノブレイク?」

友「…サイトの方は?」

女「授業中だし、今は落ち着いてるみたい」カタカタ…

友「昨夜の議論もただの悪口の言い合いになったみたいだな」


女「…うわ�・、この人達、仲間内でも言い争いを始めてる…」

友「まともに文章を読むなよ? ある程度の距離を置かないはと精神的に汚染されるぞ」

女「汚染て」

友「…悪意や嫉妬を最優先させる人間の思考は、それだけ影響力を持つってこと」

女「おっけー、朱に交われば何とやら。気を付ける」

友「…お、黒うさぎ批判もある」

女「『ケチな奴』とか、語彙に乏しいね」

友「貧弱貧弱ぅ」

女「…従妹ちゃん養護コメントも多少あるけど、やっぱり黒うさぎ派が圧倒的か�・」

友「他の版からは、特に出没情報は無し」カタカタ…


女「…あのさ」

友「どした?」

女「昨日の夜、眠れ無さ過ぎたからずっと考えてたんだけどさ」

友「ああ」

女「…あんた、黒うさぎの目的が何だと思う?」

友「目的? 従妹ちゃんへの嫌がらせだろ?」

女「うん、それも一つ」

友「?」

女「相手の新しい居場所を壊してほくそ笑む、私の一番嫌いなタイプの楽しみ方が一つ」

友「違うのか?」

女「うーん、私も山勘に近いよ?」カチカチ…

友「お、黒うさぎコメント集」

女「見て見て、れも冷静な対応をしてるでしょ?」


友「…批判コメは完璧スルー、有益な情報が無いならさっさと立ち去る…」

女「これ冷静過ぎない?」

友「?」

女「…勝手な先入観だけど、この種の楽しみをする人間って、自分達が批判にされる側に立つのを極端に嫌ってると思ってるの」

友「まあ、自己顕示欲は強いだろうな」

女「『こんなこと知ってるよ�・』、『こんなことやってました�・』の世界でしょ?」

友「ああ、その通り」コクン

女「なら批判があれば、少しは反応があるのが自然じゃない?」

友「…そう言われれば、信者コメに潰されてばかりで、当の黒うさぎ本人からの発言が一切無いな…」カタカタ…

女「スルースキルが高いのか、目的達成以外が視界に入らないのか」

友「…本人が鈍感とか?」

女「茶化さないで」

友「悪い悪い」カタカタ…


女「んで、もう一点が写真」

友「写真?」

女「確か七夕だっけ? あの子の酷い写真が増えてきたの? 」

友「ああ、それまでは写真一枚ずつ張ってたのが、ファイル形式で配布するようになって一気に情報量が増えたな」カチカチ…

女「今、全部で何枚くらい?」

友「合計五十枚くらいか?」

女「その中に、暴力を奮ったヤツの顔が写り込んだのは?」

友「…枚も無いな」

女「授業中に服を脱がされてた写真は?」

友「…従妹ちゃん以外は念入りに加工してある」


女「うん、やっぱりね」カチカチ…

友「? それが?」

女「…あのね、友君、黒うさぎってすっごいお化けでしょ?」

友「お前の話をまとめると、黒うさぎ自身もかなり優秀な人間なんだろうな」

女「でも、どうして黒うさぎは、こんな危険な行動を取ってるのかな?」

友「危険?」

女「刑事罰の適用は、義務教育を離れる『満十六歳以上』から」

友「…当時のイジメの主犯格は恐らく元同級生…」

女「つまり、現在はあの子と同じ高校一年生と考えるのが普通でしょ?」


友「…黒うさぎの頭が回るなら、その程度の常識を知り得ていて当然ということか?」

女「そう、そうなの」

友「……」

女「勿論、まだ十六歳の誕生日が来てない可能性もあるけど」

友「…ただ『居場所を奪う』ためだけに、通常『隠蔽が行われる』過去を持ち出すのは不自然だと?」

女「うん、メリットより、デメリットが明らかに大き過ぎる」

友「しかし、黒うさぎの思考回路が正常なら分かるが、世の中には近寄らない方がいい世界の住人もいるぜ?」

女「…やたらと自分の権利を叫ぶのに、相手側の権利に全く理解を示さない人達のことね」

友「言葉が通じても、彼らとは会話が出来ないだろ?」


女「だからこそ、『法律』なんて絶対的な法規(law)が存在してるわけだし」

友「…不完全だけど、基準が無くなれば混沌(chaos)だもんな」

女「うん」コクン

友「…そう考えれば、リスクを知りながら法規を乱す行為を止めない理由ってのが、さっぱり分からなくなってくるな…」

女「それに、権力があるにしても、やってる行為体が稚拙過ぎるのも不自然でしょ?」

友「権力の乱用も良いところだ」コクリ

女「…で、考えてる内に、この黒うさぎの目的がどんどん分かんなくなってきて…」

友「そうだなあ」ヨシヨシ


女「…友君、私達が出来ることって何だろう?」


(午後)

―自然公園 河原―


従「にいさーん釣れますかー」

管「ふふふ、七匹目です」

兄「管理人さんを味方につけるのはズルいぞー」

従「ズルくありませんー♪」ニコニコ

兄「やれやれ、まだこっちは三匹か…」


管「ほら、従妹さん、今度はあの流れが緩やかな部分を…」

従「はい! 傘の方、お願いします」

管「ええ、お任せを」

兄(…すっかり仲良くなってるな、あの二人)

従「�・♪」

管「足場に注意して下さい」

従「…わ、わわわ」ワタワタ

管「ふふっ、従妹さんはお転婆さんですね」

従「にいさーん、見ててくださーい!」

兄「おーう、見てるぞー」

従「…えいっ!」チャプン

管「お上手お上手」

従「えへへ…」テレテレ


―管理人小屋 1f ロビー―


歯「…よう」

医『何かありましたか? 随分お疲れの様ですが?』

歯「…頭の奥が痺れているだけだ」

医『痺れる?』

歯「…性ホルモンの乱発、…前に居酒屋で話した女のところだ…」

医『同好の歴史趣味の方と伺っていますが?』


歯「……」

医『そちらの様子は?』

歯「…黒うさぎの意図すら分からん状態のままだ…」

医『意図、ですか?』

歯「優秀な人間にしてはお粗末な手口ってのが、あの子の学友二人の見解だ」

医『…なるほど』

歯「ただ、あまりに情報が少なくてな」

医『写真公開が今月五日、その後九日以降は不定期に情報を小出しし続けている』

歯「そして現在まで、黒うさぎ自身が、自分の情報を語った形跡はない」

医『学友二人は?』

歯「…黒うさぎ本人から情報を引き出そうと、朝からpc前に張り付いてる状態だ…」


医『従妹君の様子は?』

歯「…容態は安定、今は兄貴と一緒に近くの川原で釣りをしている筈だ…」

医『釣りですか?』

歯「…ああ、森林浴とも兼ねさせている…」

医『森林浴の効果が、自律神経や精神安定にも良いのは理解しています』

歯「安心してくれ、追跡された形跡はない。万が一に備え、管理人も現地に留まっている」

医『…管理人の方を?』

歯「ああ、俺も驚いてる」

医『兄君以外の他人がいても、従妹君の病状が安定している?』


歯「その通り、仲良く釣りを楽しんでるらしい」

医『…認識機能の回復?』

歯「まだ何とも言えん。独特の雰囲気を漂わせる管理人だからこそ、特異的に反応したのかも知らん」

医『…子供特有の感性ですか』

歯「一瞬で相手を判別しちまう謎機能」

医『…子供はみんなニュータイプ…』

歯「…それらを追々検証していくのが、こちらの現在の方針となりつつある…」

医師『わかりました』


歯「そっちに動きは?」

医『こちらは何も。いつもの診療ですが、先月より患者数が若干増加した程度でしょう』

歯「…向こうの人間からは?」

医『そちらも連絡がありません』

歯「モンスターの動きも?」

医『あくまで私の耳にする範囲で、ですが」

歯「…君子危うきに近寄らず、悪くない判断だ」

医『絶対に勝てない相手との戦いは、基本的になるべく避け…』

歯「…有利な条件を整え、『交渉』に持ち込む」

医『それが現時点で考えられる、唯一実現可能な結末でしょう』

歯「…分かった…」フラッ


歯「…で、亜鉛を豊富に含む食材って何だ…?」

【7月19日(水)】


(午前)
―管理人小屋 私室―

女「…………」カチカチ

友「…食い付いてこないな…」

女「昨日一日で、黒うさぎの出現は計三回」

友「どれも適当にあしらわれるか…」チラッ

女「…悪かったわ、id番号っての知らなくて…」

友「見事な『自演乙』コメント」

女「…ううう、ごめん」


友「良いって、気にするな」ヨシヨシ

女「この部屋のpcに、私達の携帯が二台。掲示板に書き込めるのは計三台」

友「…id番号は一日経てば変更になるから、気を付けてれば、もう自演乙』とはならないから安心しろ」

女「でも、警戒されちゃったかも?」

友「そればっかりは仕方ない」

黒うさぎ
『ぐもにもー☆』

女「…あ、来た来た」

黒『なんか話題あるひと�・?』

友「…信者の反応が六件」

女「私達のことも書かれてるね」

友「察しのいい奴等なら、周りの俺達にも気付いて当然だろ」

女「…確かに」

友「『日曜に近所の呉服店で水着買ってた』って、兄のヤツ見られてんじゃねえよ!」

女「友君、落ち着いて」


黒『水着? 海かしら?』

女「あ、黒うさぎが勘違いしてる」

友「訂正するか?」

女「冗談でしょ?」

黒『ま、進展なしならご褒美な�・し。んじゃね☆ノシ』

女「…『☆ノシ』なんて、微妙にウチの生徒と馴染んでるのが腹立つ」

友「概ね同意」

女「黒うさぎの接続時間は、だいたい十分間」

友「それは変化なしか…」カチカチ…

女「…ま�・た信者会議が始まってる。あんたら、まだ授業中でしょうに…」ブツクサ

友「俺らも他人のこと言えんがな」

女「こっちは良いの!」


友「こっちのコメには完璧なスルースキルを発動」

女「…尻尾を掴ませる気はなさそうね」

友「質問のバリエーションを増やしてみるか?」

女「うーん、でも、同じidで何度も質問し続けるだけってのは怖いかも?」

友「…それはあるな」

女「適当に崇め奉って、さり気な�・く質問?」

友「無難第一」コクン


女「あ�・もう! 黒うさぎのバカやろ�・!」


―自然公園 bbq会場―


兄「こんにちは、歯科医さん」

歯「……」グデーン

兄「ゆうべはおたのしみでしたね」

歯「…楽しいと思うか?」

兄「取り敢えず、頼まれていた亜鉛錠と赤マムシを」

歯「…すまねぇ…」


兄「…その、お二人が、そういった御関係なのは分かりますが、あまり夜中に…」

歯「………」グビグビ

兄「ええと、一応俺達もその…」

歯「…悪いがそれは聞けない相談だ」ゴッソーサン

兄「?」

歯「…夏休みの掻き入れ時に、こっちが無理を言って、この場所を借り切りにして貰っている…」

兄「交換条件は、歯科医さんを自由にする権利?」

歯「…正確には、『夜の』俺の時間全てだな…」

兄「それで明け方まで」

歯「…どうした? 眠れなかったのか…?」


兄「…『にいさん、だいしゅきホールドって何ですか?』、『にいさん、あへがおダブルピースって何ですか?』と夜明けまで質問攻めに…」

歯「…ご愁傷さん」クックック

兄「笑い事になりませんよ?」

歯「確かに、あの純真な瞳で質問されるのは、なかなか破壊力が強いそうだな」

兄「同じベッドの上なので逃げ場もなく…」

歯「『にいさん』は大変だな」

兄「そりゃあもう…」

歯「管理人は管理人で、本人がやってる事はドsだが、俺に求める事はドmというのも問題だな」

兄「…管理人さん、プレイの内容を一々実況しますから…」


歯「…あの実況、お前らに聞かせるためにしてるんだぜ…?」

兄「でしょうね、あの声量は間違いなく確信犯ですよ」

歯「…で、当の管理人は今何処にいる?」

兄「起き上がってくれれば、隣の調理場で昼飯を作ってるのが見えますよ」

歯「…あの子も一緒か?」

兄「ええ、昨日からやけに管理人さんに懐いて…」

歯「ふーん、同病相憐れむか?」

兄「同病? 管理人さんも特定体液を?」

歯「…いや、そっちじゃない」

兄「なら、虐待を?」

歯「まあ、お前らに対しては、放っておいても喋るだろうから教えるぞ?」

兄「…」コクン


歯「管理人の父親、今、何してると思う?」

兄「? 分かりません」

歯「…何年か前に実刑食らって、その後もストーカー規制法によって、あの娘の半径数kmの立ち入りが禁じられている」

兄「…ストーカー?」

歯「ああ、娘の盗撮が『趣味』とかいう変態親父」チッ

兄「…男として最低ですね」

歯「で、二次成長期を向かえ、いよいよ危険が迫ったため、管理人は家出を決意…」

兄「…その家出先が、歯科医さんの家」

歯「…なんで、こんな奇人変人の類いを逃亡先に選んだのかは、さすがの俺も知らんけどさ…」コクリ

兄「自分で言ってたら世話ないですね」ハハッ


歯「…ともかく、あの娘もかつて『居場所』失った子だったのさ」


―同 調理場―


管「…お恥ずかしい話だけど、最初は『お財布』が目的だったの///」

従「お財布ですか?」

管「そうそう、あ、ジャガイモ取って下さい」

従「はい、管理人さん」ドウゾ

管「…近所で評判の、歴史好きの変な人」ドウモ

従「それが歯科医さん?」

管「そう、歴史と仕事以外にまるで興味無し、という評判の歯科医師。…お金もツテも無い小娘が逃げ込むには、まず絶好の場所だと思ったの」


従「…?」

管「平たく言えば、私が一番『傷かない場所』だと」

従「……」コクン

管「…駆け込んだ時は、すっごい嫌そうな顔していたクセに、案の定、私に温かいご飯と、安心して眠れる場所を提供してくれて…」

従「歯科医さん、にいさんみたいです」ニコニコ

管「うん、そうですね」クスクス

従「それで、どうなったんですか?」

管「…私の父親が捕まった後、特に気にせずそのまま置いてくれて、私の日常は平穏無事に過ぎていって…」

従「……」フンフン

管「けれど、ある時気付いたの」

従「?」

管「あれ? この人、実は私が『見えてない』のかな?って」

従「…『見えてない』、ですか?」


管「切っ掛けは、いつもの様に歴史書を抱えて眠っていたあの人の寝顔を見てた時だったの」

従「……」コクン

管「…この人の目には、私がどんな風に映ってるんだろう? どうしてこの人は、私を自分の領域に立ち入らせたんだろう…?」

従「…不思議ですね」

管「自分の父親は盗撮していただけに、気になって確かめてみたの」

従「確かめる?」

管「…髪を切ってみたり、お洒落の仕方を変えてみたり?」

従「成果はどうでしたか?」

管「それが全然。毎日一緒に生活しているのに、あの人は全く興味を示さない」クスクス

従「…寂しいですね」シュン

管「うん、私も躍起になって振り向かせようと努力したけど、やっぱり結果は同じ」

従「…………」


管「…その内、だんだん怖くなって…」

従「怖く?」

管「そう、怖く」

従「?」

管「従妹さんには難しいかも知れないけれど、私は『自分の居場所』が分からなくなって来たの」

従「…『自分の居場所』」

管「…あの人から見れば、今まで私が『居場所』だと信じていた空間は、実は何の価値も無くて、その場所を拠り所にしている私自身も何の必要価値が無い…」

従「…必要価値…」


管「…必要価値が無いなら、きっとそのうち捨てられる」

従「捨て、られる?」

管「そう、実際に、あの人には何件かお見合いの話もあったの」

従「…それで?」

管「気になりますか?」クスクス

従「続きをお願いします、管理人さん」

管「…私は『居場所』を守るために戦ったの」

従「………」

管「あの人が読んでる歴史書読んだり、あれこり質問したり…」

従「……」コクコク


管「あの人の専攻は欧州関連なんだけど、当時は英国を調べていて…」

従「メイドさん?」

管「そう、そうなの!」ニコッ

従「……?」

管「…当時『メイド』と聞いて、安直にアキバメイドのコスチュームを取り寄せた私に、『…そいつはメイドじゃねェ』と一喝してくれたの!」

従「…」コクリ

管「…その一言で、やっとあの人が『私』を見てくれた気がして、嬉しくて!」

従「………」コクコク

管「それから、あの人とメイドの歴史を調べて、ビクトリア王朝時代のクラシックメイド形式の衣装を取り扱う店を探して…」

従「『居場所』を…」


管「それで今は、あの人から『自然公園の管理人』という新しい『居場所』を貰って、あの人が『私』を迎えに来てくれるのを、ずっとずっと待ってたの」クスクス

従「………」パチパチパチ…

管「だから、あの人が『私』を頼ってくれた時、嬉しくて嬉しくて…」

従「?」


管「…もう絶対に離さないって、決めたのよ」ニッコリ


(昼食後)
―同 洗い場―


歯「…おいこら」

管「? 歯科医?」ジャブジャブ

歯「あの子に何を吹き込んだ」

管「何も?」

歯「嘘つけ、大方、昔話でも聞かせたんだろ?」


管「…聞きたそうにしてたから?」クスクス

歯「荒療治のつもりか? 一般人は緊急時以外の医療行為は認められていないが?」

管「怒らないでよ」

歯「…なら怒らせる真似をするな」

管「歯科医は偏屈なのに、あの子の形が解らないの?」

歯「かたち?」

管「…従妹さん、昨日私と初めて会った時、私を貴方の伴侶と知っていたの」

歯「は、伴侶?」

管「躊躇いなく、『しかのひと』ですかって聞いてきたの」

歯「? 」

管「一昨日、管理人小屋前で見たときは熟睡していたにも関わらず、従妹さんは初見で人を判別する能力を持っている」

歯「…或いは、類似した洞察力に秀でている?」


管「そう、その可能性が高いの」カチャカチャ

歯「…しかし、兄の話では…」

管「従妹さんが思考を閉ざしているのは、『寝起き』と『周囲に他人が居る時』」

歯「…だから、こんな貸し切りなんて荒業が必要だった…」

管「けれど、私は従妹さんと普通に会話して、意志の疎通も出来る」

歯「そのロジックは何だ?」

管「分からない」

歯「…似たような過去を持つからじゃないのか?」

管「そうとも言えるし、そうじゃないとも言える」ウーン

歯「曖昧だな?」

管「情報が少ないもの、シンパシーだけじゃ論拠にならない」


歯「しかし、何があの子の中では、現実的に『管理人』と『兄』を受け入れている」

管「カウンセラーや病院の人には?」

歯「…元気に挨拶していたそうだ」

管「ご学友は? 喧嘩したとか?」

歯「朝は一緒に登校、昼は皆で集まって昼飯…」

管「…学生してるな�・」

歯「その共感は俺には理解出来んぞ?」

管「歯科医はそれで良いの、寧ろそこが良いの 」

歯「?」


管「車内での様子は?」

歯「…『にいさんにいさん』の世界。他の二人もあまり手を焼いていたな」

管「…ルサルカの魔女…?」ポツリ

歯「? ロシアの水の妖精がどうした?」

管「ううん、なんとなく従妹さんを見てて…」

歯「愛しい男の名前を呼び、水中に引き摺り込んで溺死させる川縁の魔女」

管「…見栄え的に、従妹さんはロシア南部のルサルカ?」

歯「ドヴォルザークに謝っとけ、…あの子はハンガリーの魔女と同系列だ」

管「……」コクン


歯「…見栄え既にハンガリーは独立、ロシアの同類なんかじゃねぇよ」

(同日 夜)
―同 大浴場(男湯)―


兄「…痒いところがあったら言えよ?」

従「………」ジー

兄「ほら、髪洗うからイスに座れって」

従「…あの、にいさん」

兄「? なんだ、シャワー熱かったか?」

従「いいえ、先に『いつもの』頂いても?」

兄「…調子が悪いのか?」

従「頂いても宜しいですか?」


兄「今日は丁寧だな」ナデナデ

従「…にいさん、お願いします」

兄「ほら、顔を向けてくれ」

従「………」カポッ

兄「くわえたら、後の人に迷惑が掛からないように溢すなよ?」

従「……」コクン


ショロロロロロ…………


従「………」ンクンク

………………………………
……………………

兄「…?」

従「………」

兄「…従妹? 口を放しても構わないぞ?」

従「………」フルフル

兄「嫌なのか?」

従「…」コクン

兄「身体冷えるぞ?」

従「…………」

兄「また風邪引くぞ?」

従「…………」シュン


兄(? 今日は甘えたい日なのか?)ヨシヨシ

418(良い歯)さんのコメントが読めない。


奥山に 紅葉ふみわけ 鳴く鹿の
声聞くときぞ 秋は悲しき

なんて猿丸大夫の和歌なんて知らない。

idを、『そう!日本の小学生、らめぇ!』
なんて読んだなんて言えない�・!///。


【7月20日(木)】

(午前)
―ロッジ102―


友「…飯届けてきたぞ�・」

女「おかえり、兄君の様子は?」

友「普通の風邪。…昨日の夜に、ちょいと長風呂し過ぎたんだとさ」

女「…さすがは避暑地、私達の田舎より涼しい朝…」

友「んで、従妹ちゃんは添い寝係」

女「お�・、兄君は贅沢だ」


友「まあ、熱も高くなさそうだったし、一日安静にしてれば無問題」

女「ん、分かった。やれやれだね」

友「それより喜べ! 今日から俺達には強力な助っ人が来てくれるぞ!」

女「? 助っ人?」

友「実際、俺もダメ元で頼んでたんだけど…」

女「?」

友「…なんと、例の先輩とのコンタクトに成功した!」

女「ええと?」

友「バンブーシステムの創設者、偉大な我が風紀委員の『先輩』!」

女「…え、嘘?」

友「マジもマジも大マジ!こちらの事情を話したら、快く協力して下さるそうだ!」

女「!」

友「さっさと飯食って、管理人小屋に!」

女「ラジャー!」


―管理人小屋 私室―


友&女「…………」ドキドキ

pc「…………」

友「先輩、先輩、聞こえますか」

先《初めまして》

友「初めまして、現行委員長の友とこっちは友人の女です」

女「お、おはようございます」

先《畏まらなくて平気だよ、もっと気楽に》

友「では、早速で悪いのですが今後の…」

先《その前に、君達に少し聞きたいことがあるんだが構わないだろうか?》

女「は、はい!も、勿論れひゅ!」

先《では、一つ目。君達は敵について何処までの知識を?》


友「…snsを通じて情報を集めていますが、戒厳令を敷かれているのか、あまり結果は芳しく在りません」

女「黒うさぎ本人からも追加情報を引き出そうにも…」

先《…そうでしたか。無理からぬ話です》

友「先輩はご存知なのですか?」

先《はい、事前に僕も人を使って…》

友「…どんな人達でしたか?」

先《こちらの調べでは主な暴行犯は三名。何れも女生徒で、両親が権力者という共通点が挙げられます》

女「…女生徒? 犯人女なの!?」

先《そうです、気付きませんでしたか?》

友「否、全く」


先《黒うさぎと暴行犯が同一とは限りませんが、写真当時、被害者に暴力を働いていたのは全員女生徒です》

友「…………」

先《…今までに掲載された写真一覧を見て下さい。これら総てが許されざる行為ですが、男性から性的暴行を加えられている写真は存在しません…》

女「…あ、本当だ」click

先《心理学的には、思春期の女性は性的なものに興味を覚えると同時に、自己神聖化や男性に恐怖を感じるものとされています》

女「いわいる、『パパ嫌い!』の時期…」

友「…お前にもあったのか?」

女「お恥ずかしながら、やたらと父親を意識してた…」

先《…男性恐怖症の大半が、この二次成長期において、充分な性的な精神成育を受けられない環境にあった、という研究報告も出ています》


女「言われてみれば、女子校出身の人達って一種独特の雰囲気あるよね?」

男「あれは環境と教育。…大学生や社会人になれば、あの独特の気色悪さが分かるって、この前兄貴が溜め息付いてたさ…」

先《…お話を続けても?》ゴホン

友&女「失礼しました」

先《三人の両親は、それぞれ政治家、大企業の役員、某宗教団体の幹部とあり、どれも一筋縄では無い面々です》

女「…極力お関わりしたくない面子…」

友「ルサンチマンの鑑だな」

先《…この内、政治家は財界にも顔が利く大物、大企業の役員はit関連の重鎮、宗教団体は海外でカルト認定を受けるほどの危険思想集団…》

友「…先輩は、どの勢力に『黒うさぎ』が居ると?」

先《僕個人としては、大企業の馬鹿娘の仕業程度であって欲しいと思ってる》


女「相手の顔は見えても…」

友「先輩、他に分かっていることは?」

先《質問その二、今までに何度向こうの人間と連絡を?》

友「? 五回ほどですが?」

先《…微妙なラインですか…》

友「不味かったですか?」

先《現在そちらに追跡やストーカーなどの被害は?》

友「ありません、可能な限り注意したつもりです」

先《…危ない橋ですからね、なるべく接触は少な目にお願いします。こちらの動きに勘付かれると、後々まで面倒なことになりますから》

女「? 面倒?」

先《宗教、集団ストーカーでググれば分かります。あれを個人で解決するのは骨が折れますから》


友「宗教関連の光と影というヤツさ」

女「? 分かった」コクン

先《最後の質問は、この問題をどの様に解決して行きたいか、です》

友「…ベストなのは、何処にも角が立たず円満に解決すること」

女「ベターなのは、取り敢えずの安全が確認されること」

先《分かりました》


友「今更ですが、この物語はフィクションであり、実在の人物や団体、その他の方々の思想等を傷付けたり、貶めたりすることを目的とはしていません」

女「…万が一、お気に障る様であれば、そのまま『戻る』ボタンを押したり、ブラウザバックをして頂ければ幸いです」

友「それから、特定の政治団体に肩入れしたりする意図もありません」

女「宜しくお願い致します」

先《あくまでフィクションです》


友「…と、筆者の必死の命乞いを受信した」

女「すっごいメタな発言ね」

先《では、僕が宗教による集団ストーカーの歴史を、古代ローマ時代から順に並べて…》

友「…先輩、それはリアルに人が死ぬ歴史です…」

女「…素人が簡単に触れたらあかん…」フルフル

先《分かった。では、今回の顔見せはここまでにしよう」

友「はい、また夜にでも連絡致します」


-管理人小屋 ロビー-


友「…っと、自販機自販機」チャリンチャリン

ピッ……ガシャッ…

友「眠気覚まし眠気覚まし�・」

歯「…缶コーヒーは邪道だぞ…」

友「あれ歯科医さん、ここで何を?」

歯「…ソファーで寝転びながら、勝利の喜びに静かに浸っているだけだ…」

友「勝利?」

歯「…管理人の姿が無いだろ…?」


友「明け方に管理人さんの声が途絶えたのは、もしや?」

歯「」フッ

友「…参考までに勝利の秘訣は?」

歯「…尻尾プラグと、aed…」

友「…それはまた随分と激しっすね」プシッ

歯「…為せば成る…、…そっちこそ彼女さんとは…?」

友「全然」ゴクゴク…

歯「…若い癖に溜まらんのか…?」

友「不純異性交遊に引っ掛からないよう可能な範囲で処理してますから」


歯「…傲岸不遜だな、おい…」

友「なら、少しは大人の威厳を保って下さい。あまりに生臭過ぎます」

歯「…違いないけどな…。頼みの先輩の具合だ?」クックック

友「まだ何も…。ただ、こちらが行き詰まっているんで、先輩の横の繋がりに期待を」

歯「…敵の本丸は見えたのか…?」

友「とてもとても…。逆に、迂闊に動かないように釘を刺されましたよ」

歯「…相手は…?」

友「各界の超大物三人。三頭体制の可能性も視野に」

歯「…難儀なことだ…」

友「慎重かつ確実、そして、事件をやんわりと不時着させる策…」


歯「…無茶振りも良いところだ…」

友「それが必要な相手ですから。歯科医さんの案は?」

歯「…匿名掲示板ってのは誰でも利用出来るのか…?」

友「可能です」

歯「…乗っ取りは…?」

友「黒うさぎ名義の乗っ取りは限定的に可能です」

歯「…限定的…?」

友「本物が出現して過去の写真を挙げられれば、偽物だと一発でバレてしまいます」

歯「…期間限定黒うさぎ…」

友「仮に黒うさぎになったとして、どんな情報を流しますか?」


歯「…もう飽きた宣言…?」

友「気勢を削ぐ意味で、少しは効果があるやも…」フムフム

歯「…若しくは、偽写真作戦なんてのは…?」

友「究極には、密かにウィルスを忍ばせる?」

歯「…やれやれ、とても風紀委員の台詞じゃないな…」クックック

友「四の五の言ってられる場合ではないですからね 」


友「…さて、昼飯でも作ってやるか」

(正午頃)
-自然公園 ロッジ101-


友「�・♪」フンフーン

兄「…………」

友「お粥で良かったか? 希望があれば他に用意するが?」

兄「何故、お前なんだ?」ゴホゴホ

友「可愛い女の子からの手厚い看護…、男のロマンだな?」

兄「否定はしない」


友「だが、現実はそれほど甘くない。お前は従妹ちゃんの添い寝だけで我慢しろ」ニヤニヤ

従「………zzz」クークー

兄「…昨日の夜から離してくれなくてな」ナデナデ

友「愛されてんのさ。貴重だぞ?」

兄「まーた涎垂らしてら…」

友「調子は結構良さげだな?」

兄「悪かない、そっちの方は?」

友「反撃手段の模索中」

兄「女は?」

友「…管理人さんの介護。今朝方に電気ショックを受けて、現在管理人さんの部屋は男子禁制…」

兄「…涎以上に色々垂れてるのか?」

友「知らんし知りたくない」


従「…………」スピー

友「従妹ちゃん幸せそうに寝てるな。お前の腹枕はそんなに寝心地が?」

兄「男に抱きつかれて喜ぶ趣味は無い」

友「ははっ、俺もないな」

兄「…抱き枕ならぬ、抱きつかれ枕」

友「冬場に売れそうな発想だな。従妹ちゃんの絵柄付きか?」

兄「お前は彼女に抱きついて貰え…」ヤレヤレ

友「女はシャイだからな�・、多分無理だろ?」

兄「お? まだ童貞か?」

友「…え? まさかお前、女に手を出したのか?」


兄「否、幼馴染みとして、昔のトラウマを知ってるだけだ」

友「トラウマ?」

兄「女のヤツ、口ではセクハラしたがる癖に、妙な所で貞操観念が高いだろ?」

友「…まあ、な」ボソ…

兄「…お前らの夜の営みにまで踏み込まんが、俺的には、絶対に下腹部の結合を許さないというイメージがある」

友「昔のトラウマが原因か?」

兄「…ああ」コクリ

友「そこまで話したんだ、続けろよ?」

兄「…俺には姉貴がいるだろ?」

友「直接会ったことは無いが、お姉さんがどうしたよ?」


兄「…二つ上の姉貴は、ウチの町内会のガキ大将ポジションでな、よく俺や女を引き連れて暴れまわってたんだ」

友「? それで?」

兄「…ところが、ある事件をきっかけに、姉貴はこの町を去ることになった」

友「ふむ」

兄「…中学生の時ってさ、『オトナ』に対して変な憧れを持つ時期だろ?」

友「ああ、俗にいう中二病だな。ブラックコーヒー、高足シューズetc…」コクリ

兄「姉貴もその類いでな…」

友「ほうほう」

兄「…何処からかエロ本を拾ってきては、これがオトナの恋愛だと俺達に自慢して回ってたんだ」

友「…それはまた、当人以外には微笑ましいエピソードだな」


兄「やがて、見せるだけに飽き足らず…」

友「……」ゴクリ

兄「姉貴は俺を使って…」

友「…まさか実演したのか?」

兄「ああ、女の見てる前でな」コクン

友「…………」

兄「中学生のエロ知識なんてのは、まあ大半が実際とは異なるわけで…」

友「…」

兄「ろくに前戯もせず、俺に股がるといきなり…」

友「…ズブリ?」

兄「ああ、ズブリ」コクン

友「その後は?」

兄「…姉貴は下半身血だらけで泣きわめき、それを見た女が絶叫。俺も痛いやら何やらでギャーギャー言ってたらしい…」

友「…そりゃトラウマになるわけだ」

兄「…ああ、でっかいトラウマだ」

どもです。

否は、『いや』と発音させています。

また、
従妹は兄を『にいさん』
管理人は兄を『あに(個人名)さん』と呼んでいるようです。

読みにくくて申し訳ありません。


友「…………」

兄「そんな経緯で、あいつは内心で男性が苦手だったりする」

友「…セクハラはその裏返し、か」

兄「多分な」

友「だが、どうして今この話題を?」

兄「勿論、友人へのアドバイスが理由の一つだが…」

友「?」


兄「鏡見て来い。…そのしかめっ面は、従妹が泣き出しかねん」

(午後)
-管理人小屋 私室-


先《…ウィルス、ですか》

友「そうです。俺達が黒うさぎに偽装し、ウィルスファイルを貼り付けます」

女「騙された人達には悪いけど、pcごとデータを破壊させて貰う…」

友「…かなり強引な手段ですが、最小限の被害で事件を終息させる為に、どうかご協力を!」

先《…ふうむ》

友「…先輩?」


女「やはり無理ですか?」

先《…無理、とは言えませんが…》

友「?」

先《少なくとも技術的には可能です》

女「それなら?」

先《技術的には可能ですが、明らかに違法行為です》

友「…………」

先《…それでは失礼。まだ会議が残っていますので》

友「あ、すいません。お仕事中に…」ペコリ

女「ありがとうございました」ペコリ

先《…お気に為さらず。では》

プツン

友「…………」
女「…………」

友「…うーん、ウィルス作戦は困難か…」


女「技術的には出来ても、ウィルス作成の罪に問われる…」

友「…先輩の口振り、それを見越してたな」

女「ズルくない? 相手側が違法なのに、こっちだけ合法で戦わなきゃいけないの?」

友「…ズルいが、こちらがルールを守らにゃ正当性を主張出来ん」

女「ずっこい!」ブーブー

友「…シュークリーム食うか?」

女「う…、やっぱり、地道に弁護士さん探しかなあ?」モグモグ

友「相手の顔が分からないと、それも危ういだろ?」

女「うー!うー!」


友「違法性の無い攻撃手段、か」

女「…あのさ、」モシャモシャ

友「?」

女「先輩さんの職業って何なん? 言葉使い丁寧やし、腰も低そうやし」

友「まあ、会社員だし」

女「…え、サラリーマンなの?」

友「紹介してくれた人によると、敏腕の営業職だと」

女「…一寸びっくり。てっきりスパイとか情報屋だと思ってた…」マクマク

友「横の繋がりが広い先輩だから、裏の顔があっても不思議じゃないけどな?」


女「うー! 友君、膝借りるよ!」

…ボフッ!

友「疲れたんなら、ロッジに戻っても良いぞ?」

女「いいの。 少しは彼女に甘えさせろ」

友「…なんだ、お前も甘えたい時期か?」ヨシヨシ

女「…………」ハムハム

友「寝ながら食うな、行儀悪いぞ」

女「良いじゃん別に」

友「従妹ちゃんの小動物っぷりとは大違いだ」

女「…他の子の話題すんなよ」ボスボス

友「痛いからボディは止めれ」

【7月21日(金)】

(早朝)
―ロッジ101―


兄「…………」カチカチカチ

従「…おはようございます、にいさん」アフゥ…

兄「おはよう。悪い、起こしたか?」

従「…いいえ、だいじょうぶですよぉ…」アフアフ

兄「そっか」

従「…にいさんは何を?」

兄「携帯の調子が悪くてな、色々試してるんだが…」


従「…そうですか…」モゾモゾ

兄「従妹、寒いならエアコン付けるぞ?」

従「…いいえ、にいさんのそばに…」ギュッ

兄「ちょっ…! 従妹…?」

従「…ふふっ」マフマフ

兄「やれやれ、敵わんな」ナデナデ

従「………zzz」スースー

兄「? 寝惚けてたのか?」


兄「今日から夏休みだぞ、従妹」

(午前)
―管理人小屋 ロビー―


女「あ、兄君だ。おはよ�・」

兄「おはようさん、昨日はありがとよ」

女「うん、別に良いよ�・。兄君がここに来るなんて珍しいね?」

兄「ん、少し電話を借りにな」

女「電話なら右に曲がったとこに。充電器壊れたんなら貸すよ?」

兄「…否、壊れたのは携帯本体でな」カチカチ

女「うわ、本当だ。全然動かないね」

兄「…夏の最新作だったから、ある程度の不具合を覚悟してんだが…」


女「う�・ん、参ったね」

兄「…保障期間内だし、取り替え自体は簡単なんだが…」

女「この場所がバレる危険性があるわけだ」

兄「本人確認の為に身分証明が必要だからな。…で、面倒だがこの事件が終わるまでは、ここの電話を利用しようかと」

女「ごめんね。私達の携帯、貸せたら良かったんだけど…」

兄「ん、黒うさぎ対策に要るんだろ?」

女「う�・、進展無いんだけどね」

兄「分かってる、得体の知れない相手だしな」ワシワシ

女「か�・み�・が�・み�・だ�・れ�・る�・」

兄「悪い悪い」ハハハ


女「…従妹ちゃんは?」

兄「管理人さん達とトランプ中。気分転換するなら混じって来るか?」

女「あり? そんなに?」

兄「おう、醒時までの間も短くなってるし、今朝は歯科医さんのことも思い出したみたいだったぞ」

女「う�・ん、悩み所だ」

兄「…やっぱりショックは大きかったか」

女「…そりゃね。私パン屋ちゃうもん」

兄「あいつに悪気は無いんだ…、許してやって欲しい」

女「ふふっ知ってる。私の中のあの子は、ずっと素直で優しい幼馴染みのままだよ」

兄「…そっか、ありがとな」

女「うん、どういたしまして」クスクス


兄「さて、そろそろ定時連絡の時間だな。お前はどうする?」

女「ん、下手の考え休むに似たり。後で友君誘って行ってみるよ」

兄「…そっか」

女「おうともさ、目指せパン屋卒業!」

兄「卒業か」ハハッ

女「…でさでさ、その前に一つ質問があるのさ」

兄「? なんだ?」

女「…あの子と再会した日の話なんだけど、」

兄「おう、あの日か」


女「…私って、『どのタイミングで』あの子の部屋に入ったっけ?」


―同 ロビー―


医師『…失礼しました。急患に呼ばれてまして』

兄「否、こちらこそお忙しい時に」

医師『…しかし興味深い矛盾です。パニック以前に、寝覚めたばかりの従妹君と女君が会っていたとは…』

兄「俺も指摘されるまで…」

医師『他に、お気付きになられたことは?』

兄「…初日、コンタクト無しの従妹は俺のことを認識していました」

医師『認識?』

兄「俺を『兄さん』なのかと」


―同 ロビー―


医師『…失礼しました。急患に呼ばれてまして』

兄「否、こちらこそお忙しい時に」

医師『…しかし興味深い矛盾です。パニック以前に、寝覚めたばかりの従妹君と女君が会っていたとは…』

兄「俺も指摘されるまで…」

医師『他に、お気付きになられたことは?』

兄「…初日、コンタクト無しの従妹は俺のことを認識していました」

医師『認識?』

兄「俺を『兄さん』なのかと」

連投すまそです。


医『…………』

兄「何年も顔を会わさなかった人間を、すぐに俺だと判別していたんです」

医『…十年間のブランク…』

兄「…そうです。背格好だけでなく、変声期で声も変わったにも関わらずです」

医『…………』

兄「…暴行犯と女を髪型で勘違いしてしまう視力なら、裸眼の従妹が他人を見分ける方法は…」

医『…視覚以外…?』

兄「はい。中でも嗅覚を主に」

医『…嗅覚ですか…』

兄「…従妹は初対面の人間を匂いで判断し、個人の情報として記憶しています」


医『…』

兄「おかげで、料理好きの友人が『パン屋さん』と呼ばれて参ってしまって…」タハハ

医『…………』

兄「それから、最近はスキンシップが増えた様に感じます」

医『?…スキンシップ、ですか?」

兄「ここの管理人さんに何を吹き込まれたのか、四六時中べったりと離してくれず、トイレにもなかなか…」ハァ…

医「…………」

兄「…ええと、こちらの変化はそれぐらいです。医師さんの方はどうですか?」

医「こちらは先輩と名乗られる方から連絡がありまして、少々お話をさせて頂きました」

兄「内容を伺っても?」

医「いいえ、残念ながら貴方にお話出来る様な代物ではありませんでした」


兄「…?」

医『言葉通り、既に《お話出来る内容を通り過ぎていた》のです』

兄「…医師さん?」

医『貴方の疑問はもっともです。しかし、私達の予想よりも遥かに相手の方が上手です』

兄「…………」

医『…即刻裏サイト関連の調べものを破棄し、貴方がたは従妹君の療養に専念して下さい』

兄「…!」

医「納得出来ないことを百も承知でお願いしますが、今回の騒動からは手を引いて下さい」

兄「…しかし!」

医『そうでなければ、今度は貴方がたの命の保証が出来なくなります』


兄「……」ゴクリ

医『…私は自分の患者を守ることを信条とする人間ですが、自ら危険に飛び込む者まで救うわけではありません』

兄「……」

医『。』


医『ですから、これは脅しではなく善意の警告です』

兄「………」

医『…事件が終われば、明かせる範囲での情報開示を行います。ですので、今この場は大人に任せて、貴方がたは引き下がって下さい』

兄「……分かり、ました」

医『賢明な判断です』

兄「友人の分もデータの削除を?」

医『…申し訳ありませんが、全ての破棄をお願いします』

兄「…………」

医『ただ消す前に、御学友さんには私が大変感謝していたとお伝え下さい』

兄「感謝?」

医『…先輩という人物の件、ネット上の従妹君の写真の件、彼には何れ菓子折を持って行く予定です』


兄「……」

医『では、そろそろ初診当番の時間ですので失礼を』

兄「…あ、はい。ありがとうございました」

医『? 御礼を申し上げるのはこちらの方ですが?』

兄「…否、なんでもないです」

医『それでは、くれぐれもデータ破棄をお忘れなく』

兄「…ええ、わかりました。それでは失礼しました」

ガチャッ
…ツー…ツー…ツー…


兄「…、事実上の戦力外通告、か」


ー管理者小屋 私室ー


…コンコン

兄「友、鍵を開けてくれ」

友『兄?近くに従妹ちゃんは?』

兄「…安心してくれ、管理者さん達に従妹を引き受けて貰ってる。それより医師さんから伝言を頼まれたんだ。内容が内容だけに立ち話じゃ済みそうに無くてな…」

友『ちょっと待ってろ』ゴソゴソ

カチャッ

友「よ、一人とは珍しいな」

兄「…ああ、そうだな」


友「まあ、大方予想はついてるんだけどな」

兄「?」

友「…先刻、先輩からメールが届いてさ」

兄「…」

友「『直接交渉する機会を得ましたから、手出し無用でお願いします。データは破棄して下さい』」

兄「!」

友「…狐につままれた気分というか何と言うか…、昨日の今日でこれだぞ?」

兄「…………」

友「先輩が優秀なのか、或いは…」

兄「最初から、俺達が先輩を頼ることを読まれていた?」

友「…微妙なところだ」

兄「………」

友「ほら、呆っと立たず、早く中に入ってくれ」

兄「…ああ、すまん」


友「…」


兄「…凄まじい部屋だな」

友「まあな、そこの空いてるスペースにでも座ってくれ」

兄「………」ドッコラショ

友「で、医師さんからの伝言は?」

兄「…お前にお礼を伝えるよう言われた以外、ほぼ同じ内容で驚いてる…」

友「それからもう一つ… 」

カチカチ…

兄「!」

友「…な?以前あれほど削除依頼を出しても消されなかった写真が、一枚残らず板上から消去されてるだろ?」

兄「お前がやったのか?」

友「いいや、前にシステムの説明をしただろ?今、この板をイジれるのは純粋に運営会社の人間だ」

兄「削除されたのは、いつからだ?」

友「本当につい先刻。メールが届くのとほぼ同時に一斉に消されたよ」


兄「手回しが早すぎる。…どう読めば良い?」

友「素直に従った方が身のためだ、とか?」

兄「………」

友「そうじゃなきゃ、相手から譲歩を引き出すことに成功した、とか?」

兄「先輩にメールは?」

友「もう何通も送ってる。返信はなしのつぶて」

兄「…直接交渉、と言われても…」

友「な、怪しいだろ?」

兄「お前、データ削除の件はどうするつもりなんだ?」

友「…せっかくの証拠だしな。自宅pcにデータを纏めて送っておく」

兄「? 消さないのか?」

友「全ては交渉の成果次第。いざと言う時には切り札になるだろ?」


兄「…分かった。なら任せるぞ?」

友「ああ、これぐらいしか出来ないから任せてくれ」

兄「…自虐んなよ。裏がどうであれ、お前のお陰で事が進んだことには変わらないんだ」

友「…ははっ、そう言ってくれると助かる。正直相手が漠然とし過ぎて、自分の無力感に打ちひしがれてたんだわ」カチカチ…

兄「…そっか、すまんな」

友「それから、一応監視の目を光らせておくけど、十中八九もう黒うさぎも姿を現さないと思うぞ?」

兄「…ああ、だろうな」

友「結局この事件、誰が勝者で誰が敗者だったのか…」


兄「…全ては黒うさぎの思い通りってことか…」


………………………………
……………………

《都内 某所》


?「…いやいや、一時はどうなることかと思いましたな」

医「…………」

?「…で?これで良かったのだろう?」

医「ええ、寛大な処置痛み入ります」

?「…くくく、そう身構えてくれるな。我々知らぬ仲では在るまい。私とて君には随分世話になった身だ。取って喰いはせんさ…」

医「……」


?「…だが勘違いはするなよ?これは配下の暴走に対する謝罪だが、同時に我々の温情でもあるのだ。…本来、我々の制約を蔑ろにしたあの一家を許すなどという道理は無いのだ…」

医「…はい、心得ています」

?「さて、我々は義理を果たしたのだ。今度は君らの誠意はどうなっている?」

医「?…総ての過去データの破棄が条件では?」

?「君が仕事中毒なのは知っている。言葉を変えよう」

?「…『それでは足りん』と言っているのだ」チッ


医「…………」

?「…考えてもみたまえ。我々が君程度の小者の呼び掛けに応じ、こうして直接出向いているのだ。むしろ感謝して然るべきだろう?」

?「…我々も事後処理には随分と骨を折らされた」クックック

?「なんなら、今度は我々が『黒うさぎ』を演じて見せようか?」

?「それは傑作。どんな結果となろうな?」

医「……貴方方という人間は…」

?「おや、何か問題があるかね?」

?「我々は譲歩しているのだ。黙って受け入れたまえ」

?「それとも楯突いて見せるか。それも一興ではあるが?」クックック


医「……伺いましょう…」

?「良し、ならばまず、被験体が完治した場合、臨床報告の際には、こちらの指定した学者を共同研究者に含めることを求める」

?「…これは当然だろう?資料の取り寄せや、資金面において多少の便宜をはかったのだ。よもや文句などあるまい?」

?「古の吸血鬼伝説に終止符を打つ行為は、宗教界としても実に意義深い…。我々も発言権を強めよう」

医「……妥当な、御意見です…」

?「さて次に、治療が失敗した場合だが…」

?「被験体を『剥製』にしたまえ」クックック

?「…医療研究用なり、標本作製なり、君ならそれなりのお題目は用意出来るだろう?」


?「…あの娘の亡骸を、町場の火葬屋よりも有用に『使って』みせよう」

?「置物として愛でるにしろ、またと無い一品だろう」

?「悪くない、悪くないな」クックック

医「………」

?「…そう睨んでくれるなよ。あくまでも仮に完治させねば、の話だ」

?「そう、君が治せば解決する話さ」クックック

?「医者は医者であれば良い。患者にとっても、我々にとっても…」

?「…以上の二点を支払ってくれるならば、我々も君に対してはそれ以上多くを望まん」

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