「蒼太、好きよ」 「-義姉さん、俺は・・・」 (27)

ー小学二年生のある時、お母さんがいなくなった。

お父さんは、「お母さんとは、離婚したんだ。蒼太は、これからはお父さんと2人で暮らすんだ」と言った。それ以外くわしく教えてくれなかったけど、なんとなく、うわきかなあ、と思った。よくテレビで聞くし。

それに健太くんや、ともきくん、さやかちゃんのお母さんたちも、みんなで、そんなことを言ってたし。

小さな商店がいの中の通路で、小学校から帰ってきたぼくに気がつくと、お母さんの話をしてた人たちは、何でか知らないけど、みんなしてあわてたようにおかしをくれたり、「蒼太くん、こまったことがあったら、何でも言うのよ?」と言って、まるでかくしごとをしてるみたいにさっさと帰ってしまう。

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ぼくは、知っている人たちが知らない人になってしまったように感じて、こわくて、よく泣いてしまった。そんなとき、友だちの中で1番近くに住んでいて、1番仲よしだったさやかちゃんが、よくぼくをはげましてくれた。「大丈夫! あたしがいるから。そうちゃんはあたしが守ってあげるからね!」って言ってくれた。でも、はげます時にせ中を強くたたくのはやめてほしかった。でも、やっぱりうれしかった。

お父さんも、お仕事でいそがしいはずなのに、たくさんぼくと遊んでくれた。ぼくがさみしくならないように。お父さんと2人だけでも、悲しくならないように、色んな所につれて行ってくれた。だからぼくは、お母さんがいなくても、お父さんがいたから、さみしくなかった。

ーそれから、三年後。五年生になった年の夏休み。今までと同じだと思っていた夏休みのある日。お父さんが、新しい家族を連れてきた。

お昼の少し前。宿題をしていたオレに、お父さんは大事な話があると、リビングに座らせ、少しそわそわしながら、となりの和室に声をかけた。「おい、入っていいぞ!」

すると、ふすまを開けて、和室から人が入ってきた。お父さんよりも少し若い女の人。薄茶色の短い髪の人で、にこにこと優しそうな人だった。

それから、オレより、少し年上くらいの女の子。黒く長い髪で、すらっとしていて、背が高くて、かっこよく見えた。そしてそれぞれがリビングに入ってきて、オレと父さんと、テーブルを挟んで反対側にそろって座る。

新しい家族は、2人だった。

お父さんは、ぽかんとするオレを笑いながら、
「蒼太。優子さんと、成美ちゃんだ。今日から、俺達の家族だ。仲良くしろよ」

と言った。すると、お父さんより少し若い女の人が、

「こんにちは、蒼太くん。初めまして、音羽優子、って言います。すぐには無理かもしれないけれど、ゆっくりとでも、蒼太くんと仲良くなれるように頑張るから、よろしくね」

そう言って、女の人-優子さんは優しく笑った。そして、となりの女の子をひじでつついて、「ほら、成美も挨拶して」

成美、と呼ばれた子は、少し緊張した様子で、

「こ、こんにちは、蒼太くん。私、音羽成美って言います。今、中学二年だから、三歳年上です。仲良くしてね?」

と挨拶してくれた。

でも、立て続けに自己紹介されても、オレは、「は、はい」とか、「こちらこそ」しか言えなかった。

お父さんは、そんなオレを見てまた笑って、

「ほら、次は蒼太の番だぞ」

と言った。

「ぁ・・・その・・・、」

まだよく分からない状況で、知らない人と話すことに少しだけはずかしさを感じながら、

「椎名蒼太です。五年生です。よろしくお願いします・・・」

とだけ言った。多分、声が小さくて、ボソボソしゃべってるようにしか聞こえなかったと思うけど、2人とも、にこりと笑ってくれた。

お父さんは、それを満足げに見て、

「よし! まあ、お互いに色々聞きたいことや話したいこともあるだろうが、それは昼ご飯を食べながらにしよう」

と言って、立ち上がった。対面に座る優子さんも立ち上がって、

「あ、それなら私が作りますよ」

「お、そうか? なら、手伝いをお願いしてもいいか?」

「ええ、もちろん。蒼太くん、成美の面倒見ててくれる?」

優子さんに言われて、何て返したらいいのか分からなくて、取り敢えず笑ってた。そうしたら成美さんが、

「お母さん! 変なこと言わないでよ!」

って、赤くなりながら言っていた。

そんなやりとりを見てたお父さんは、

「ははは! 成美ちゃんなら大丈夫だろう。蒼太、お前も面倒掛けるなよ? ちゃんと成美ちゃんの言うこと聞いて、いい子にしてろよ?」

「わ、分かってるよ!」

「あら、蒼太くんはしっかりしてるから大丈夫よ。それより、成美はまだまだ子どもっぽくて・・・」

「いやいや、蒼太もまだまだ子どもだから・・・」

なんて、子ども達にとって恥ずかしいことを言いながら、大人2人はキッチンに入ってしまった。

リビングに残されたオレと、成美さんは、少し気まずい空気だった。

何となく居心地が悪くて、俯いていると、

「えっと、蒼太くん」

と、成美さんに声を掛けられた。

「あ、な、なんですか?」

ちょっと焦って、少し変な声が出てしまった。また恥ずかしくなっていると、成美さんはくすくすと笑って、

「ふふ、敬語じゃなくていいよ。普通にお父さんと話すように話していいから、ね?」

「は、はい」

「はい、じゃなくて?」

「あ、う、うん」

「うん、おっけー」

そういって、指で輪っかを作ってにこりと笑った成美さんに、少し、ほんの少しだけ! ドキリとした。そういえば、年上の女の子、ましてや中学生の女の子と話したことなんてなかった。中学生っていうだけで、三個しか違わないのにけっこう大人っぽく見えるから不思議だ。

と、成美さんは、少し申し訳なさそうな顔になると、

「ごめんね、蒼太くん。いきなりでびっくりしたでしょ?」

「あ、そんなことないで・・・、ないよ。前から、そんなことを聞いてたから」

「え? そうなの?」

「うん」

これは、嘘じゃなかった。前から時々、夕飯の時とかに、「もうすぐ、新しい家族が出来る」とは言っていた。でも、

「さすがに、いきなり一緒に暮らすことになるとは思ってなかったけど」

「あ、あはは、そうだよね」

普通、こういうことは事前に話しておくべきだと思った。

「確かに、いきなりこういうことされたら、驚いちゃうよねえ」

成美さんはそう言って、腕を組んで、うんうんと頷いていた。

なんでも、優子さんと成美さんは、前からこうなることは知っていたらしい。だけど、お父さんが、オレには内緒にしておこうと言って、こういうことになったとか。 

ふと、気になったことを、成美さんに聞いてみた。

「お父さんと優子さん、再婚? するのかな」

成美さんは、んー、と少しだけ考えると、

「まだ、確定ではないみたい。本人達はその気らしいんだけど、私や蒼太くんもいるし、実際に皆で一緒に生活してみて、大丈夫だと思ったら、その時に正式に再婚するみたい。今は丁度夏休みだし、いい機会だから一緒に暮らしてみようって、宏明さんが」

と教えてくれた。お父さんの下の名前を呼ばれるのは、少しだけ不思議な感じがした。

「ふーん。そうなんだ・・・」

オレはそれだけ答えて、また俯いた。

お母さんは、浮気をして出て行った。それは、お母さんが悪いし、お父さんが可哀想だと思ってた。それに、その後もお父さんは、オレのことを一生懸命に育ててくれた。仕事で忙しくても、洗濯や料理や掃除をいつもやってくれていた。オレも手伝ったけど、まだまだ子どもで、足を引っ張ることの方が全然多かった。それでも、笑って、「手伝ってくれて有り難うな! 助かるよ!」と、いつも褒めてくれた。そんなお父さんが、もう一度結婚して、幸せになるなら、オレは絶対に応援できるだろうと、そう思っていた。

だけど、実際にお父さんが知らない女の人を連れてきたとき、うまく言えないけど、心がもやっとした。優子さんも成美さんも、いい人なんだろうな、とは思う。だけど、何となく、お母さんや、お姉ちゃんというような、“家族”になるのは、嫌だった。

確かに、お母さんは悪い。もうお母さんなんて許してやるもんかと思ったこともある。でも、浮気はしたけれど、お母さんはお母さんだ。いい思い出だって、沢山ある。いきなり、新しいお母さんと言われても、納得は難しいな、と思った。

ああ、ドラマでよくある考え方って、こういう考え方なのかな、って、どこか他人事のように思った。

「蒼太くん? どうかした?」

「あ、いや。何でもないです」

「そうですか? ならいいですけど」

そういう成美さんは、何故かちょっとだけ不機嫌そう。少しだけ理由を考えて、すぐに気付く。

「あ、えっと・・・」

「どうしましたか?」

「な、何でもないよ」

「そうっ。なら良かった」

そして、またにこりと笑ってくれた。

また、ドキリとした。少しだけ、少しだけだけど。

まだかね?

それから少しすると、キッチンからお父さんと優子さんが出てきた。それぞれ二枚ずつお皿を持っていた。

「お待ちどうさま、2人とも。ほら、お昼ご飯出来たわよ」

そう言って、優子さんとお父さんがオレたちの前にお皿を置いた。

「今日の昼ご飯はサラダうどんだ!」

お父さんはそう言って、オレの隣にどかっと腰を下ろした。言われてお皿の中を見たら、瑞々しいトマトやキュウリ、レタス。それから、ベーコンに玉子。沢山の具が乗せてあって、その下によく冷えたうどんが入っていた。すごく美味しそうだった。

等分に切られたトマトを、船みたいだと思って眺めていると、優子さんも成美さんの隣に腰を下ろして、箸を持った。

「さ、それじゃあ頂きましょうか」

そして、皆で手を合わせて、

『いただきます!』

優子さんと成美さんと、初めて食べる食事は、緊張も少しだけあったけど、楽しかった。

2人の色々な話を聞いて、オレとお父さんも、色々な話をした。流石に、お互いの今までの家庭のことなんかは聞かなかったけど。

食事が終わる頃には、互いに大抵のことは質問し終えていた。

今回の食事で分かったこと。

優子さんは、若く見えて、実はお父さんと同い年だと言うこと。(本人は秘密にしたがっていたけど、40歳だそうだ。全然そうは見えない。)

それから、優子さんは普段、ウチから電車で三駅ほど行った町にあるデパートの雑貨屋さんで働いているらしい。店長だいこう? って言っていたけど、よく分からなかった。多分、すごいんだと思う。

成美さんは、優子さんが働いているデパートがある町の中学校に通っている、って言っていた。元々住んでいた家が、その町にあるらしい。

中学校では陸上部に入っていて、短距離走の選手だそうだ。元々走るのが好きで、陸上部を選んだらしい。去年は、一年生ながらも県大会に出場していて、今年こそは全国大会に行くんだと、楽しそうに話していた。

夏休みも練習はあるから、休み中はこの家で暮らしながらも、練習には電車を使って行くって。

正式に再婚が決まったら、この町の中学校に転校することも考えているらしい。(これは、成美さんがこっそりと教えてくれた。お父さんと優子さんは、向こうにこのまま通わせようかと考えているらしい。)

この町の中学校に通うなら、一緒の学校になるのかな、と一瞬考えたけど、すぐに成美さんは三つ上なのだと思い出した。どう頑張っても、同じ学校に通うのは不可能だった。少し残念・・・残念違う。残念とかじゃなくて、心配。もし本当に転校してくるのなら、知らない人たちばかりだろうけど、もしオレが一緒に通っていたら、少なくともオレ1人分は不安が和らぐと思う。そう、それだけ。ただ心配なだけ。

そうやって、聞いた情報をまとめていると、優子さんがお皿を持ちながら立ち上がって、

「あ、そうだ。ねえ蒼太くん。良かったら、成美にこの辺を案内してあげてくれる? 私は何回か来てるけど、この子は初めてだから」

と言った。お父さんも、

「ああ、そうだな。これから約一月生活するんだ。コンビニとか本屋がどこにあるのかとか、駅の場所とか、知っておいた方が楽だろう。蒼太、案内してやれよ」

と言った。

「うん、分かった。それじゃあ、行こうか」
と、成美さんに声を掛けると、

「え、すぐ!?」

と、驚かれた。こういうことは、すぐに終わらせた方が後々楽だと思うんだけど。

「すぐだと、まずい? 何か用事でもある?」

と訊くと、

「あ、ううん! そうじゃないの。でも、えっとね? 一応、着替えたりしたいから、少し待っててくれないかな・・・?」

と言われた。今着てる服ではダメなのだろうか。普通の服に見えるけど。

すると、お皿を器用にまとめて抱えた優子さんが笑いながら、

「あら、成美もそういう年頃かしら?」

「お、お母さん! 茶化さないでよ! そんなんじゃないもん!」

「あら、いいじゃない照れなくても。少しはいい格好しないとね? せっかく2人でお出掛けなんだから」

「だから、違うってば!」

楽しそうにからかう優子さんと、真っ赤になって否定する成美さんを見ていて、ぽかんとしていると、後ろからお父さんに肩を叩かれ、

「蒼太、女の子は色々と準備があるんだから、しっかりその時間を作ってあげないとダメだぞ?」

と言われた。

「よく、解らないんだけど」

と言うと、

「はは、まだ早いか。まあ、成美ちゃんくらいの年になれば解るだろ」

と、頭をくしゃくしゃと撫でられた。

そうこうしていると、優子さんと成美さんのケンカ(?)は終わったらしく、

「それじゃあ蒼太くん、少し待っててね! すぐ戻るから!」

と言って、成美さんが和室に引っ込んだ。優子さんも、オレに一言、よろしくね、と言うと、キッチンに行ってしまった。

お父さんと2人になったところで、ふと気になったことをお父さんに訊いた。

「ねえ、優子さんと成美さん、部屋は?」

「ああ、優子さんは一階の、客間。どうせ客なんてろくに来ないしな。あの部屋を使って貰う。成美ちゃんは、二階のお前の隣の部屋な。あそこも、物置みたいになってるし、丁度いいだろ」

「そっか。でも、まだあの部屋、荷物いっぱいあったと思うけど」

「ああ、あれは全部お父さんの部屋に移す。そんなに多くはないしな。何とかなるだろ」
それでも、あれを全部運ぶのは大変だと思うけど。

「手伝うよ?」

「ははっ、いいよいいよ。お父さんがちゃんとやるから。お前の仕事は、成美ちゃんにしっかりとこの辺りを案内することだ。それを、まずはしっかりとやれよ」

「分かった」

頷くと、よし、と言って、また頭を撫でられた。

お父さんが片付けの為に二階に上がると、入れ替わるようにして、和室から成美さんが出てきた。白いスカートに、青のしましまが入ったTシャツを着ている。

「ど、どうかな? 変じゃない?」

と、言われても、中学生の服装、ましてや、女の子の服装なんて分かるわけがない。

でも、黙っていると、成美さんは少しずつ不安そうな顔になってくる。慌てて、何かを言わなきゃと思い、でも、可愛いとか言うのは恥ずかしくて、

「に、似合ってる!」

と、何とかそれだけを言った。それだけでも恥ずかしかったけど。

でも、成美さんはそれだけの言葉でもよかったらしく、

「そ、そっか! よかったあ・・・」

と、安心したような顔をした。

キッチンの方から、優子さんがくすくすと笑う声が聞こえたような気がした。

「それじゃあ、行ってきます」

二階にいるお父さんと、見送りに玄関まで来てくれた優子さんに声を掛ける。

二階から、扉を開ける音と、足音がして、

「ああ、蒼太。暗くなる前には帰って来いよ」

「うん、分かってる」

優子さんも、成美さんの前に立って、

「成美、蒼太くんからはぐれないようにね」

「そこまで子どもじゃないですよーだ」

と、そんなやりとりをしていた。

それから、優子さんはオレの方を見て、

「それじゃあ蒼太くん。成美のこと、お願いね」

「はい。行ってきます」

「行ってきまーす」

「はい、行ってらっしゃい。気を付けてね」

そう言って、優子さんはひらひらと手を振ってくれた。その姿に、ほんの一瞬だけお母さんを思い出した。

町を案内すると言っても、どちらかと言えば田舎なこの町は、特に案内が必要になるような場所は少ない。 取り敢えず、家からしばらく歩いたところにある駅、駅前にある商店街。この二カ所だけで、この町で必要な情報はほとんどだ。他には山か住宅街しかない。
商店街の中のお店を一通り案内して、喫茶店で一息着くことにした。成美さんが、食べたいケーキがあるらしく、一休みに、と、入ることにした。

通りに面した窓際の席に座って、チョコドーナツを食べていると、向かいの席に座った成美さんが、アイスティーにミルクを入れて混ぜながら、

「ねえ、蒼太くん。次は、蒼太くんの通ってる小学校と、この町の中学校がみたいな」

「え? 学校? 誰もいないと思うけど」

部活をやってる人たちはいるかも知れないけれど、基本的に午前中で練習は終わるはずだったと思う。

それを説明すると、

「いいのいいの。ほら、私、中学校はこっちに通いたいし、蒼太くんの学校も、一度行ってみたいの」

中学校は分かるけど、オレの小学校は面白くも何ともないと思うんだけど。

「小学校見て、どうするの?」

「いいからいいから。ね、お願い!」

と、手を合わせてお願いされてしまった

>>14

コメント、ありがとうございます。お待たせしました。遅筆ですが、がんばります。

今後とも、よろしくお願いします

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